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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037500
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】薬液注入方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
E02D3/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142402
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片桐 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】河野 貴穂
(72)【発明者】
【氏名】西家 翔
(72)【発明者】
【氏名】金光 桂
(72)【発明者】
【氏名】大西 直宏
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 陽平
(72)【発明者】
【氏名】小谷 忠宏
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AA04
2D040AB01
2D040CA01
2D040CA02
2D040CB03
2D040DA16
2D040DC02
(57)【要約】
【課題】地盤に薬液を多く注入させる方向を設定する。
【解決手段】薬液の注入方法は、地盤Gを削孔してケーシングパイプ50を建て込むケーシングパイプ工程と、ケーシングパイプ50内にグラウト材54を充填する充填工程と、ケーシングパイプ50に注入管100を建て込む注入管工程と、グラウト材54を充填後ケーシングパイプ50を引き抜く引抜工程と、注入管100に注入パッカー150を挿入し注入管100における注入パッカー150の上下のパッカー材152の間の噴出孔112から薬液を噴出しグラウト材54が硬化して形成されたグラウト部180の一方側を破砕して薬液90を地盤Gに注入する注入工程と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を削孔してケーシングパイプを建て込むケーシングパイプ工程と、
前記ケーシングパイプ内にグラウト材を充填する充填工程と、
前記ケーシングパイプに注入管を建て込む注入管工程と、
前記グラウト材を充填後、前記ケーシングパイプを引き抜く引抜工程と、
前記注入管に注入パッカーを挿入し、前記注入管における前記注入パッカーを構成する上下のパッカー材の間の噴出孔から薬液を噴出し、前記グラウト材が硬化して形成されたグラウト部の一方側を破砕して前記薬液を前記地盤に注入する注入工程と、
を備える薬液注入方法。
【請求項2】
前記注入工程では、前記注入管における上下の前記パッカー材の間の一方側にのみ設けられた前記噴出孔から前記薬液を噴出する、
請求項1に記載の薬液注入方法。
【請求項3】
地下外壁の壁面と平行に前記注入管を直列に建て込むと共に前記グラウト部の一方側を前記壁面側にして遮水壁を構築する、
請求項1又は請求項2に記載の薬液注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
引用文献1には、敷設された軌道の下方に構造物を構築する際に、軌道の変状を防止するための地盤改良工法や、地盤改良工法を実施してから地下構造物を構築するアンダーパス工法に関する技術が開示されている。この先行技術では、上部に軌道が構築されている地盤を改良する。改良対象地盤が粘性土の場合、粘性土用鋼管を、改良対象地盤に所定間隔を隔てて略水平方向に挿入して地盤改良し、改良対象地盤が砂質土の場合、周方向における所定範囲に対して改良用薬液を注入可能な注入孔を備えた指向性注入用鋼管を、改良対象地盤に所定間隔を隔てて略水平方向に挿入し、注入孔が、所望の注入方向となるように指向性注入用鋼管の向きを調整し、指向性注入用鋼管内部から改良対象地盤に改良用薬液を注入する。
【0003】
引用文献2には、改良するべき地盤に地盤注入材料(注入薬液、セメントミルク等)を注入して地盤改良を行う技術が開示されている。この先行技術では、地盤注入装置は、注入管と、その外周部を被覆する弾性型材と、弾性型材の外周部に被覆された熱収縮性部材を備えている。注入管には貫通孔が設けられており、弾性型材は注入管の両端の各々から被せられており且つ貫通孔を被覆しており、弾性型材の外周部には長手方向に延在する溝が形成されており、熱収縮性部材にはスリットが形成されている。
【0004】
引用文献3には、薬液注入装置およびそれを用いた地盤強化方法に関する技術が開示されている。この先行技術では、薬液注入装置は、軸方向に間隔をおいて削孔径よりも大きく膨出する複数の透水性の袋体を備えた注入外管と、この注入外管に挿入可能な注入内管とで構成され、この注入内管から固化材を袋体内に充填して袋体を膨張させ周辺地盤を圧密するとともにパッカーを形成し、このパッカー間に固化材を注入して所定領域を注入固化する。また、隣接袋体間で注入外管に形成した注入口を、縦状のスリットを設けた可撓性スリーブで被覆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-256611号公報
【特許文献2】特開2014-234671号公報
【特許文献3】特開2005-314938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
薬液の地盤への注入は、地盤の不均質性等に左右され、均一に広がるとは限らない。よって、例えば、地盤改良したい所望の一方側とは反対の他方側の地盤に多く薬液が浸透した場合、一方側の薬液の注入量が少なくなり、同方向側の地盤が十分に地盤改良されない虞がある。したがって、例えば、一方向側への薬液の注入量を確実に確保するためには、薬液の注入量を必要以上に多くする等して対応する必要がある。
【0007】
本発明は、上記事実を鑑み、地盤に薬液を多く注入させる方向を設定することができる薬液注入方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一態様は、地盤を削孔してケーシングパイプを建て込むケーシングパイプ工程と、前記ケーシングパイプ内にグラウト材を充填する充填工程と、前記ケーシングパイプに注入管を建て込む注入管工程と、前記グラウト材を充填後、前記ケーシングパイプを引き抜く引抜工程と、前記注入管に注入パッカーを挿入し、前記注入管における前記注入パッカーを構成する上下のパッカー材の間の噴出孔から薬液を噴出し、前記グラウト材が硬化して形成されたグラウト部の一方側を破砕して前記薬液を前記地盤に注入する注入工程と、を備える薬液注入方法である。
【0009】
第一態様の薬液注入方法では、グラウト材が硬化して形成されたグラウト部の一方側を破砕して薬液を地盤に注入するので、一方側に薬液が多く注入される。
【0010】
第二態様は、前記注入工程では、前記注入管における上下の前記パッカー材の間の一方側にのみ設けられた前記噴出孔から前記薬液を噴出する、第一態様に記載の地盤改良方法である。
【0011】
第二態様の薬液注入方法では、注入管における注入パッカーを構成する上下のパッカー材の間の一方側にのみ設けられた噴出孔から薬液を噴出することで、グラウト部の一方側が破砕されて薬液が注入される。
【0012】
第三態様は、地下外壁の壁面と平行に前記注入管を直列に建て込むと共に前記グラウト部の一方側を前記壁面側にして遮水壁を構築する、第一態様又は第二態様に記載の地盤改良方法である。
【0013】
第三態様の薬液注入方法では、地下躯体側に薬液が多く注入されるので、遮水壁と地下外壁との間に隙間が形成されることが防止又は抑制される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、地盤に薬液を多く注入させる方向を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】薬液の注入工程を示す工程図である。
図2図1(E)のグラウト材が硬化してグラウト部が構築された状態を模式的に示す縦断面図である。
図3】第一実施形態の要部を模式的に示す(A)は軸方向に沿った縦断面図であり、(B)は軸方向と直交する水平断面図である。
図4】ゴム材の固定方法を説明するための縦断面図である。
図5】第二実施形態の要部を模式的に示す図3(A)に対応する軸方向に沿った縦断面図である。
図6】第一実施例の遮水壁の構築を模式的に示す水平断面図である。
図7】第二実施例の遮水壁の構築を模式的に示す水平断面図である。
図8】第三実施例の遮水壁の構築を模式的に示す水平断面図である。
図9】第四実施例の既存遮水壁と新設遮水壁との取り合い部を埋める方法を模式的に示す水平断面図である。
図10】(A)は第五実施例の遮水壁の構築を模式的に示す水平断面図であり、(B)は縦断面図である。
図11】(A)は第六実施例の遮水壁の構築を模式的に示す水平断面図であり、(B)は縦断面図である。
図12】(A)は第七実施例の遮水壁の構築を模式的に示す縦断面図であり、(B)は(A)の12B-12B線に沿った水平断面図であり、(C)は(A)の12C-12C線に沿った水平断面図である。
図13】二つの注入管が交差して建て込まれている状態を説明する説明図である。
図14】肉薄部が形成されたグラウト部の水平断面図である。
図15】一般的な注入管を用いた場合の(A)は縦断面図であり、(B)は(A)の水平断面図である。
図16】グラウト部の一方側を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態の薬液注入方法について説明する。
【0017】
[注入管]
本実施形態の注入管の構造について説明する。なお、注入管は、後述する噴出孔が設けられている部位以外は、市販されている一般的な注入管と同様の構成である。
【0018】
図3(A)及び図3(B)に示すように、注入管100(図1(C)~図1(G)及び図2も参照)は、周壁110に複数の噴出孔112が設けられている。噴出孔112は、軸方向に見た場合に一方側(図の左側)にのみ設けられている。
【0019】
具体的には、図3(B)に示すように、軸方向と直交する断面において、約90°の角度で噴出孔112が二つ設けられている。また、図3(A)に示すように、噴出孔112は、軸方向に間隔をあけて複数並んで設けられている。なお、図3(A)では二か所であるが、実際には軸方向に所定の間隔をあけて三以上の噴出孔112が形成されている。
【0020】
注入管100における周壁110における噴出孔112が設けられた部位の外側には、筒状のゴム材120が巻かれている。ゴム材120は、周壁110から脱落しないように取り付けられている。ゴム材120を周壁110に取り付ける取付構造は、一般的な注入管と同様の構造である。本実施形態では、図4に示すように、周壁110に形成した溝111にゴム材120を嵌め込んで取り付ける構造であるが、これに限定されるものではない。図示は省略するが、例えば、周壁110におけるゴム材120の上下に接合したリング材でずれを防止して取り付ける構造やリング材でゴム材120の上限端部を挟んで取り付ける構造であってもよい。
【0021】
ここで、図15(A)及び図15(B)に示すように、市販されている一般的な注入管900の周壁110には、軸方向と直交する断面において、4つの噴出孔112が90°の等間隔で設けられている。
【0022】
これに対して図3(B)に示すように、本実施形態の注入管100は、前述したように、約90°の角度で噴出孔112が二つ設けられている。本実施形態では、図15(B)に示す市販されている一般的な注入管900の周壁110に形成された四つの噴出孔112のうち、隣り合う二つ(本例では図の右側の二つ)を、図3(B)に示すように、栓部材115で塞いだ構成になっているが、これに限定されるものではない。例えば、初めから噴出孔112が二つしか形成されていない構造であってもよい。
【0023】
本実施形態の注入管100では、二つの噴出孔112の合計の開口面積は、注入管900の四つの噴出孔112の合計の開口面積と同じなるように調整されているが、これに限定されるものではない。
【0024】
前述したように、図3に示す本実施形態の注入管100は、一方側(図の左側)にのみ噴出孔112が設けられている。なお、「一方側」とは、図16に示すように、軸方向と直交する断面における中心線CのA側又はB側の半円部分である。
【0025】
[薬液注入方法]
次に、本実施形態の薬液注入方法の一例について説明する。なお、必ずしも下記順番通りに施工する必要はない。状況等に応じて適宜修正してもよい。
【0026】
図1(A)に示すように、削孔装置10で、地盤Gにケーシングパイプ50を建て込みながら地盤Gを削孔する。なお、符号20は、削孔された孔である。図1(B)に示すように、ケーシングパイプ50内にセメントベントナイト材等のグラウト材54(図2参照)を注入する。
【0027】
図1(C)に示すように、グラウト材54(図2参照)が充填されたケーシングパイプ50内に注入管100(図2及び図3も参照)を建て込む。図1(D)に示すように、グラウト材54の硬化が完了する前に注入管100を残置しながらケーシングパイプ50を引き抜く。
【0028】
図1(E)に示すように、グラウト材54が硬化したのち、注入管100に注入パッカー150を挿入する。なお、グラウト材54が硬化して筒状になった状態をグラウト部180とする(図2及び図3も参照)。
【0029】
図1(F)及び図1(G)に示すように、注入パッカー150を引き上げながら、図示されていない供給装置から薬液90を供給し、地盤Gへ薬液90を注入する。薬液90は、注入管100における周壁110に設けられた噴出孔112(図3参照)から噴出されることでグラウト部180(図2(D)及び図3参照)を破砕し、地盤Gに注入される。図1(G)の符号92は、薬液90が浸透した領域を表している。なお、注入パッカー150を挿入しながら、薬液90を注入してもよい。
【0030】
本実施形態の薬液90は、地盤Gに注入されたのち固化して地盤改良する注入材であり、具体的には水ガラスなどの薬液系と、セメント・粘土などの非薬液系と、に分類されるグラウトである。なお、以降の説明で「薬液90」と記載しても図面に符号90がふられていない場合がある。言い換えると、符号90を省略している図がある。
【0031】
また、図1(F)が一次注入であり、図1(G)が二次注入である。一次注入では薬液90に加えセメントベントナイト等も注入される場合がある。一般的に地盤は、粒度や透水性等が異なる層で構成されているので、不均質である。したがって、図1(F)の一次注入で、薬液90やベントナイト等を注入することで、地盤の水みちや空隙の粗詰め注入を行う。これにより、図1(G)の二次注入での薬液90の逸走を防止する。
【0032】
本実施形態の注入パッカー150は、既存のものと同様の構造である。注入パッカー150は、薬液90を注入パッカー150の上下のパッカー材152間(図2参照)から地盤Gに注入するダブルパッカー構造のものを使用している。
【0033】
簡単に説明すると、パッカー材152が萎んだ状態とすることで注入管100の内部で移動させることができる。一方、パッカー材152を膨らんだ状態とすることで、パッカー材152が注入管100の内壁100A(図2参照)に密着する。
【0034】
そして、この状態で上下のパッカー材152の間に薬液90を注入することで、図3(A)に示すように、上下のパッカー材152の間にある注入管100の噴出孔112から薬液90が噴出する。このとき矢印K2に示すように、ゴム材120の上下から薬液90が噴出する。なお、図3(A)では、判り易くするため、注入パッカー150はパッカー材152のみを想像線(二点鎖線)で図示している。
【0035】
図3(A)及び図3(B)に示すように、本実施形態の注入管100は、一方側(図の左側)にのみ噴出孔112が設けられている。よって、薬液90は、噴出孔112から噴出してグラウト部180を破砕する際、グラウト部180の一方側(図の左側)が破砕され、主に一方側(図の左側)に薬液90が地盤Gに注入される。つまり、薬液90は、K1方向に多く注入される。
【0036】
図3(B)の符号95が破砕によって形成された亀裂である。図では亀裂95は各噴出孔112に対して一つのみ形成されているが、実際には複数の亀裂95が形成されることが多い。
【0037】
なお、グラウト部180の一方側(図の左側)のみが破砕されたとしても、薬液90が地盤Gに注入され浸透していく過程では、一方側(K1方向)と逆方向にも浸透していく(図6参照)。
【0038】
[作用]
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0039】
前述したように、本実施形態の注入管100は、一方側にのみ噴出孔112が設けられている。よって、薬液90は、注入管100の噴出孔112から噴出してグラウト部180を破砕する際に、グラウト部180の一方側が破砕され、主に一方側に薬液90が地盤に注入される。
【0040】
すなわち、地盤Gに薬液90を多く注入させる方向(矢印K1)を設定することができる。別の観点から説明すると、薬液90の注入に、指向性をもたせることができる。
【0041】
<第二実施形態>
本発明の第二実施形態の薬液注入方法について説明する。なお、第一実施形態と同様の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0042】
[注入管]
本実施形態の注入管の構造について説明する。なお、注入管は、噴出孔が設けられている部位以外は、第一実施形態と同様の構成である。
【0043】
図5に示すように、注入管200の噴出孔112は、軸方向に間隔をあけて複数並んで形成されている。注入管100における噴出孔112が形成された周壁110の外側には、筒状のゴム材120が巻かれている。
【0044】
本実施形態の注入管200は、噴出孔112が一方側(図5の左側)にのみ設けられている部位(図5の下側の噴出孔112が設けられている部位)と、噴出孔112が他方側(図5の右側)にのみ形成される部位(図5の上側の噴出孔112が設けられている部位)とが、軸方向に交互に設けられている。
【0045】
[薬液注入方法]
次に、本実施形態の薬液注入方法の一例について説明する。なお、本実施形態でも図2に示す施工手順で行われるので、要部のみを説明する。
【0046】
薬液90は、注入管200の噴出孔112から噴出してグラウト部180(図2(D)及び図3参照)を破砕する際に、グラウト部180が破砕され、薬液90が地盤Gに注入される。
【0047】
このとき、注入パッカー150の上下のパッカー材152の間を注入管200の噴出孔112が一方側(図5の左側)にのみ形成されている部位に位置にすることで、グラウト部180の一方側が破砕され、主に一方側に薬液90が地盤Gに注入される。
【0048】
また、注入パッカー150の上下のパッカー材152の間を注入管200の噴出孔112が他方側にのみ形成されている部位に位置にすることで、グラウト部180の他方側が破砕され、主に他方側に薬液90が地盤Gに注入される。
【0049】
よって、注入パッカー150の深度を調整することで、一方側への薬液90の注入と他方側への薬液90の注入とを選択することができる。
【0050】
[作用]
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0051】
本実施形態の注入管200は、一方側にのみ噴出孔112が形成されている部位と他方側にのみ噴出孔112が形成されている部位とを両方を有しているので、グラウト部180を破砕して薬液90を注入する方向を、一方側と他方側とを選択して地盤Gに注入することができる。
【0052】
すなわち、地盤Gに薬液90を多く注入させる方向(矢印K1)を選択することができる。別の観点から説明すると、指向性をもたせる方向を選択することができる。
【0053】
ここで、本実施形態では、判り易くするため便宜上、「一方側」と「他方側」と記載して説明した。しかし、「他方側」の場合も「注入管における上下のパッカー材の間の噴出孔から薬液を噴出してグラウト部の一方側を破砕して薬液を地盤に注入する注入工程」である。
【0054】
<実施例>
次に、第一実施形態の薬液注入方法又は第二実施形態の薬液注入方法によって、地盤Gに薬液90を多く注入させる方向を設定して施工する実施例について説明する。なお、後述する第一実施例、第二実施例、第三実施例及び第四実施例では、第一実施形態の注入方法の注入管100と第二実施形態の注入方法の注入管200とのどちらを用いてもよいが、便宜上の第一実施形態の注入管100を用いて記載する。
【0055】
また、後から説明する実施例は、先に説明した実施例と同一のものには同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0056】
[第一実施例]
地盤に間隔をあけて薬液を注入して遮水壁を構築する第一実施例について説明する。
【0057】
図6に示すように、直列に建て込んだ注入管900と、直列に建て込んだ第一実施形態の薬液注入方法の注入管100と、からそれぞれ薬液90を注入して硬化させることで遮水壁500を構築する。なお、注入管900の列を列400とし、注入管100の列を300とする。また、図6では、注入管100及び注入管900以外の部材、例えばグラウト部180等の図示は省略している。
【0058】
平面視において、列400の注入管900と、列300の注入管100と、は互い違いに配置されている。そして、列300の注入管100から薬液90が多く注入されるK1方向は、列400の注入管900と注入管900との間に向いている。
【0059】
列400では、地盤Gの不均一性のため、薬液90の注入範囲92はランダムにバラツキが生じる怖れがある。よって、図7の例では、隙間503が生じている。なお、図7及び後述する図8における薬液90が浸透した領域92で注入管900から延びる太線は、地盤Gにおける薬液90が浸透しやすい部位を表している。
【0060】
本実施例では、列300の第一実施形態の薬液注入方法は、薬液90が多く注入されるK1方向が、列400の注入管900と注入管900との間に向いている。よって、隙間503に薬液90が注入される。
【0061】
したがって、薬液90が注入される範囲92に隙間が生じない又は生じにくい、つまり構築された遮水壁500には隙間が形成されない又は隙間が形成されにくい。
【0062】
ここで、注入管900のみで遮水壁を構築する場合、隙間503を形成されないように、或いは隙間503を埋めるためには、薬液90を多く注入する必要がある。しかし、前述したように第一実施形態の薬液注入方法を用いることで、薬液90の注入量を削減しつつ、遮水壁500を構築することができる。
【0063】
[第二実施例]
地盤に間隔をあけて薬液を注入して遮水壁を構築する第二実施例について説明する。
【0064】
図7に示すように、注入管900の列400の両側にそれぞれ第一実施形態の薬液注入方法の注入管100の列300が配置される。
【0065】
列400の注入管900と、列300の注入管100と、は互い違いに配置されている。また、列300の注入管100から薬液90が多く注入されるK1方向は、列400の注入管900と注入管900との間に向いている。
【0066】
したがって、第一実施例よりも薬液90が注入される範囲に隙間が生じない又は生じにくい、つまり構築された遮水壁510には、隙間が形成されない又は隙間が形成されにくい。
【0067】
[第三実施例]
地盤に間隔をあけて薬液を注入して遮水壁を構築する第三実施例について説明する。
【0068】
図8に示すように、第一実施形態の薬液注入方法の注入管100の列302の一列で遮水壁520を構築する。注入管100の薬液90が多く注入されるK1方向は、隣の注入管100に向けて且つ同方向となっている。
【0069】
したがって、薬液90が注入される範囲92に隙間が生じない又は生じにくい、つまり構築された遮水壁520には隙間が形成されない又は隙間が形成されにくい。別の観点から説明すると、薬液90の注入量を削減しつつ、遮水壁520を構築できる。
【0070】
[第四実施例]
地下躯体に隣接して構築された既存遮水壁と増築した新設遮水壁との取合い部に薬液を注入する実施例について説明する。
【0071】
図9に示すように、地下躯体600の地下外壁602に隣接して構築された既存遮水壁700と増築した新設遮水壁702は、ソイルセメント柱列式連続壁工法によって構築されている。なお、符号710はH型鋼である、符号712はソイルセメント柱712である。
【0072】
第一実施形態の薬液注入方法の注入管100を既存遮水壁700と新設遮水壁702との取り合い部分704の外側に建て込み、取り合い部分704を向けて薬液90を注入する。したがって、両者の取り合い部分704に薬液90が効果的に注入されて埋められる。別の観点から説明すると、薬液90の注入量を削減しつつ、両者の取り合い部分704を埋めることができる。
【0073】
[第五実施例]
地下躯体の地下外壁に隣接して遮水壁を構築する第五実施例について説明する。
【0074】
図10(A)に示すように、第二実施形態の薬液注入方法の注入管200を地下躯体600の地下外壁602の壁面602Aと平行に直列に建て込み遮水壁530を構築する。
【0075】
図10(B)に示すように、注入管200の下端部は、地盤Gにおける粘土層等の難通水層GAに根入れするように建て込む。注入管200の下側では、一方側(図の左側)と他方側(図の右側)との両方に薬液90を地盤Gに注入する。なお、符号Sは地下水位を示している。
【0076】
そして、注入管200における地下躯体600の底盤部604の近傍から上側は、他方側(図の右側)にのみ薬液90を地盤Gに注入する。このように注入することで、地下外壁602と遮水壁530との隙間が形成されない又は隙間が形成されにくい。別の観点から説明すると、薬液90の注入量を削減しつつ、地下外壁602との間を埋める遮水壁530を構築できる。
【0077】
[第六実施例]
地下躯体の地下外壁及び底盤部の下側に遮水壁を構築する第六実施例について説明する。
【0078】
図11(A)及び図11(B)に示すように、第二実施形態の薬液注入方法の注入管200を地下躯体600の地下外壁602と平行に直列に建て込んだ列300と、底盤部604に形成した挿入孔603から挿入して建て込んだ列302と、で遮水壁632を構築する。なお、符号Lは、地下外壁602から所定の距離離れた平行線である。
【0079】
各注入管200の下端部は、粘土層等の難通水層GAに根入れするように建て込む。そして、列300の注入管200からは他方側(図の右側)に薬液90を地盤Gに注入し、列302の注入管100からは一方側(図の左側)に薬液90を地盤Gに注入する。
【0080】
このように注入することで、遮水壁632には隙間が形成されない又は形成されにくいと共に地下躯体600と遮水壁632との隙間が形成されない又は隙間が形成されにくい。別の観点から説明すると、薬液90の注入量を削減しつつ、地下躯体600との間を埋める遮水壁532を構築できる。
【0081】
[第七実施例]
地盤に間隔をあけて薬液を注入して遮水壁を構築する第七実施例について説明する。
【0082】
図12に示すように、注入管900で構築する列400と、第二実施形態の薬液注入方法の注入管200の列300と、から、それぞれ薬液90を注入して硬化させることで遮水壁502を構築する。
【0083】
まず、注入管900及び注入管200のそれぞれの傾斜を計測する。傾斜の計測方法は、どのような方法であってもよい。例えば、注入管100、900を建て込む前のケーシングパイプ50の傾斜を傾斜計により計測する方法や注入管200、900の傾斜を地磁気計におり計測する方法等がある。
【0084】
本例では、図13に示すように、注入管900が斜めに建て込まれ、注入管100は鉛直に建て込まれ、注入管900と注入管200とが交差しているとする。「交差」とは、列300、302の列方向に側面視した場合である。また、両者が交差する部位を交差部910とする。図の例では、注入管200における交差部910の下側では注入管900は図の左側にあり、交差部910の上側では注入管900は図の右側にある。
【0085】
したがって、図12(A)及び図12(C)に示すように、注入管200の下側では図の左側に向けて薬液90を注入し、注入管100の上側では図の注入管200の右側に向けて薬液90を注入する。なお、交差部910近傍の深度では、左側と右側とを交互に薬液90を噴出してもよい。
【0086】
注入管900と注入管200とが交差する交差部910の深度、つまり指向性を持たせる方向を切り替える深度を求める方法は、どのような方法であってもよい。例えば、注入管900及び注入管200の傾斜角度から注入管900と注入管200の芯ずれ量と深度との関係を求め、この芯ずれ量が0となる部位を交差部910とすればよい。
【0087】
このように注入することで、注入管900と注入管200とが交差していても、薬液90が注入される範囲92に隙間が生じない又は生じにくい、つまり構築された遮水壁502には隙間が形成されない又は隙間が形成されにくい。別の観点から説明すると、薬液90の注入量を削減しつつ、遮水壁502を構築できる。
【0088】
<その他>
本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。
【0089】
例えば、上記実施形態では、注入管100、200における注入パッカー150の上下のパッカー材152の間の一方側にのみ設けられた噴出孔112から薬液90を噴出することで、グラウト材54が硬化して形成されたグラウト部180の一方側を破砕して薬液90を地盤Gに注入したが、これに限定されるものではない。
【0090】
例えば、図14に示すように、ケーシングパイプ50(図1参照)と注入管900とを接近させた状態でグラウト材54を硬化させてグラウト部180に肉薄部182と肉厚部184とを形成することで、肉薄部182側(一方側)が破砕されて薬液90が地盤Gに注入されるようにしてもよい。なお、この場合、ケーシングパイプ50内にグラウト材54を充填する前に、注入管900を建て込んでもよい。
【0091】
また、例えば、上記第二実施形態では、指向性をもって薬液90を注入することが可能な二方向は、軸方向に交互に設けたが、これに限定されるものではない。例えば、注入管の上側半分と下側半分とで薬液90が注入される方向を変えてもよい。
【0092】
また、例えば、上記第二実施形態では、指向性をもって薬液90を注入することが可能な二方向は、互いに逆方向、つまり二方向の間の角度は180°であったが、これに限定されるものではない。例えば、指向性をもって薬液90を注入することが可能な二方向の間の角度が90°であってもよい。具体的には、図15(B)の左側の二つの噴出孔112のみをあけている部位と、図の上側の二つの噴出孔112のみをあけている部位とを設けてもよい。
【0093】
また、例えば、上記実施形態では、注入管100、200における上下のパッカー材152の間の噴出孔112は、二つであったが、これに限定されるものではない。噴出孔112は、上下のパッカー材152の間に2以上あいていてもよいし、1でもよい。
【0094】
また、例えば、上記実施例では、遮水壁500、502、510、520、530、532の構築又は取り合い部分704への薬液90の充填に適用したが、これらに限定されるものではない。例えば、本発明は、山留壁のひび割れ部分の遮水補強にも適用することができる。
【符号の説明】
【0095】
50 ケーシングパイプ
54 グラウト材
90 薬液
100 注入管
112 噴出孔
150 注入パッカー
152 パッカー材
180 グラウト部
200 注入管
602 地下外壁
602A 壁面
530 遮水壁
900 注入管
G 地盤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図11
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図16