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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037523
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   B61F 9/00 20060101AFI20240312BHJP
   B61F 5/22 20060101ALI20240312BHJP
   B61F 5/02 20060101ALI20240312BHJP
   B61F 5/24 20060101ALI20240312BHJP
   B60T 7/16 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B61F9/00
B61F5/22 C
B61F5/02 Z
B61F5/24 A
B60T7/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142436
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】下川 嘉之
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246AA17
3D246BA03
3D246EA17
3D246GA01
3D246GC16
(57)【要約】
【課題】地震による脱線を抑制することができ、地震が収まれば通常走行に移行することができる鉄道車両を提供する。
【解決手段】鉄道車両は、台車と、台車に支持された車体とを備える。台車は、台車枠と、輪軸と、軸箱と、空気ばねと、ブレーキ装置とを備える。空気ばねは、台車枠上で左右にそれぞれ配置され、各々は車体を支持する。鉄道車両は、受信機と、制御装置と、を備える。制御装置は、受信機が早期地震検知警報システムから地震発生の信号を受信したとき、ブレーキ装置により鉄道車両を緊急停止させる緊急停止処理(#10)と、空気ばねから空気を排出する空気ばね排気処理(#20)と、を実行するように構成され、その後に地震が収まったとき、ブレーキ装置による緊急停止を解除する緊急停止解除処理(#30)と、空気ばねに空気を導入する空気ばね給気処理(#40)と、を実行するように構成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車と、台車に支持された車体と、を備える鉄道車両であって、
前記台車は、
台車枠と、
前記台車枠の前後にそれぞれ配置された輪軸であって、各々の左右にそれぞれ車輪を有する前記輪軸と、
前記輪軸の左右にそれぞれ配置された軸箱であって、各々が前記台車枠を支持する前記軸箱と、
前記台車枠上で左右にそれぞれ配置された空気ばねであって、各々が前記車体を支持する空気ばねと、
ブレーキ装置と、を備え、
前記鉄道車両は、
早期地震検知警報システムから信号を受信する受信機と、
前記鉄道車両全体の動作を司る制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記受信機が前記早期地震検知警報システムから地震発生の信号を受信したとき、前記ブレーキ装置により前記鉄道車両を緊急停止させる緊急停止処理と、前記空気ばねから空気を排出する空気ばね排気処理と、を実行するように構成され、
その後に地震が収まったとき、前記ブレーキ装置による緊急停止を解除する緊急停止解除処理と、前記空気ばねに空気を導入する空気ばね給気処理と、を実行するように構成される、鉄道車両。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両であって、
さらに、前記台車に対する前記車体の傾斜を調整する車体傾斜装置であって、前記空気ばねに対して空気の給排気量を調節する電磁弁を含む前記車体傾斜装置を備え、
前記空気ばね排気処理及び前記空気ばね給気処理が、前記電磁弁によって行われる、鉄道車両。
【請求項3】
請求項1に記載の鉄道車両であって、
前記台車枠は、さらに、左右にそれぞれ配置されたストッパであって、前記空気ばねから空気が排出されたときに各々が前記車体と接触する前記ストッパを備え、
前記ストッパの左右の間隔は、前記車輪のバックゲージ間隔よりも小さい、鉄道車両。
【請求項4】
請求項2に記載の鉄道車両であって、
前記台車枠は、さらに、左右にそれぞれ配置されたストッパであって、前記空気ばねから空気が排出されたときに各々が前記車体と接触する前記ストッパを備え、
前記ストッパの左右の間隔は、前記車輪のバックゲージ間隔よりも小さい、鉄道車両。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の鉄道車両であって、
さらに、左右方向に延びるねじり棒であって前記台車枠に対して軸回りに回転可能に支持されたねじり棒と、前記ねじり棒の2つの端部にそれぞれ固定された腕と、前記腕と前記車体をつなぐ連接棒と、を含む、アンチローリング装置を備え、
前記連接棒は、前記車体のローリングによる前記ねじり棒の回転に伴って前記腕と接触するストッパを備える、鉄道車両。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の鉄道車両であって、
さらに、左右方向に延びるねじり棒であって前記台車枠に対して軸回りに回転可能に支持されたねじり棒と、前記ねじり棒の2つの端部にそれぞれ固定された腕と、前記腕と前記車体をつなぐ連接棒と、を含む、アンチローリング装置を備え、
前記腕は、前記車体のローリングによる前記ねじり棒の回転に伴って前記連接棒と接触するストッパを備える、鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、台車と、台車に支持された車体と、を備え、レール上を走行する。鉄道車両の走行中に地震が発生し、地震の揺れにより鉄道車両が脱線すると、重大な事故につながる可能性がある。したがって、地震による脱線を抑制するための技術は、極めて重要である。例えば、特開2003-25992号公報(特許文献1)、及び特開2006-182111号公報(特許文献2)には、地震による脱線を抑制することに着目した技術が開示されている。
【0003】
特許文献1の技術では、地震等の非常時に、台車枠に取り付けられた電磁石を作動して吸引力を生じさせることで、電磁石がレール上をガイドする。さらに、電磁石の吸引力で輪重が増加する。これにより、脱線係数を小さくすることができる、と特許文献1には記載されている。
【0004】
特許文献2の技術では、車体と台車との間に、台車に対する車体の左右方向の変移を規制する規制機構が設けられている。規制機構はクラッシャブル部材を含み、地震などによって鉄道車両に大きな振動エネルギが与えられたとき、その振動エネルギがクラッシャブル部材のクラッシュ変形によって吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-25992号公報
【特許文献2】特開2006-182111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
旧来、脱線を抑制するための技術は、上記特許文献1及び2の技術を含め、様々提案されている。しかしながら、近年に起こった地震で脱線が生じた事例があり、脱線を抑制するための技術の開発は、依然、強く求められている。さらに、近年では、地震が収まれば通常走行に移行できることも求められている。
【0007】
本開示の目的は、地震による脱線を抑制することができ、地震が収まれば通常走行に移行することができる鉄道車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る鉄道車両は、台車と、台車に支持された車体と、を備える。台車は、台車枠と、台車枠の前後にそれぞれ配置された輪軸と、輪軸の左右にそれぞれ配置された軸箱と、台車枠上で左右にそれぞれ配置された空気ばねと、ブレーキ装置と、を備える。輪軸は、各々の左右にそれぞれ車輪を有する。軸箱の各々は台車枠を支持する。空気ばねの各々は車体を支持する。鉄道車両は、受信機と、鉄道車両全体の動作を制御する制御装置と、を備える。受信機は、早期地震検知警報システムから信号を受信する。制御装置は、受信機が早期地震検知警報システムから地震発生の信号を受信したとき、緊急停止処理と、空気ばね排気処理と、を実行するように構成され、その後に地震が収まったとき、緊急停止解除処理と、空気ばね給気処理と、を実行するように構成される。緊急停止処理は、ブレーキ装置により鉄道車両を緊急停止させる。空気ばね排気処理は、空気ばねから空気を排出する。緊急停止解除処理は、ブレーキ装置による緊急停止を解除する。空気ばね給気処理は、空気ばねに空気を導入する。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る鉄道車両によれば、地震による脱線を抑制することができ、地震が収まれば通常走行に移行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態の鉄道車両の構成例を示す模式図である。
図2図2は、本実施形態の鉄道車両における処理を説明するフローチャートである。
図3A図3Aは、第1実施形態の鉄道車両における通常走行時の様子を示す模式図である。
図3B図3Bは、第1実施形態の鉄道車両で緊急停止処理及び空気ばね排気処理が実行された後の様子を示す模式図である。
図3C図3Cは、第1実施形態の鉄道車両がローリングした様子を示す模式図である。
図3D図3Dは、第1実施形態の鉄道車両で緊急停止解除処理及び空気ばね給気処理が実行された後の様子を示す模式図である。
図4A図4Aは、第2実施形態の鉄道車両における通常走行時の様子を示す模式図である。
図4B図4Bは、第2実施形態の鉄道車両で緊急停止処理及び空気ばね排気処理が実行された後の様子を示す模式図である。
図4C図4Cは、第2実施形態の鉄道車両がローリングした様子を示す模式図である。
図5A図5Aは、第3実施形態の鉄道車両における通常走行時の様子を示す模式図である。
図5B図5Bは、第3実施形態の鉄道車両で緊急停止処理及び空気ばね排気処理が実行された後の様子を示す模式図である。
図5C図5Cは、第3実施形態の鉄道車両がローリングした様子を示す模式図である。
図6A図6Aは、第3実施形態の鉄道車両における通常走行時の様子を示す模式図である。
図6B図6Bは、第3実施形態の鉄道車両で緊急停止処理及び空気ばね排気処理が実行された後の様子を示す模式図である。
図6C図6Cは、第3実施形態の鉄道車両がローリングした様子を示す模式図である。
図7A図7Aは、第4実施形態の鉄道車両における通常走行時の様子を示す模式図である。
図7B図7Bは、第4実施形態の鉄道車両で緊急停止処理及び空気ばね排気処理が実行された後の様子を示す模式図である。
図7C図7Cは、第4実施形態の鉄道車両がローリングした様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明者は鋭意検討を重ねた。その結果、以下に示す知見を得た。
【0012】
地震による脱線を抑制するには、鉄道車両が地震で揺れ始める前に、鉄道車両を可能な限り安定した状態にする必要がある。このため、先ず、地震が来ることを早期に察知して、走行中の鉄道車両を緊急停止させればよい。
【0013】
台車上に配置された左右に一組の空気ばねによって車体が支持されている場合、緊急停止した鉄道車両が地震で揺れると、車体がローリング共振する。ローリング共振が著しくなれば、車輪がレールから浮き上がり、脱線につながる可能性がある。したがって、ローリング共振を抑える必要がある。ローリング共振を抑えるには、ローリングの共振周波数を通常の状態から大きくずらせばよい。このため、空気ばねをパンクさせればよい。
【0014】
本開示に係る鉄道車両は、上記知見に基づいて完成されたものである。以下、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、本開示の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明において特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本開示はそれらの例示に限定されない。
【0015】
本開示の実施形態に係る鉄道車両は、台車と、台車に支持された車体と、を備える。台車は、台車枠と、台車枠の前後にそれぞれ配置された輪軸と、輪軸の左右にそれぞれ配置された軸箱と、台車枠上で左右にそれぞれ配置された空気ばねと、ブレーキ装置と、を備える。輪軸は、各々の左右にそれぞれ車輪を有する。軸箱の各々は台車枠を支持する。空気ばねの各々は車体を支持する。鉄道車両は、受信機と、鉄道車両全体の動作を制御する制御装置と、を備える。受信機は、早期地震検知警報システムから信号を受信する。制御装置は、受信機が早期地震検知警報システムから地震発生の信号を受信したとき、緊急停止処理と、空気ばね排気処理と、を実行するように構成され、その後に地震が収まったとき、緊急停止解除処理と、空気ばね給気処理と、を実行するように構成される。緊急停止処理は、ブレーキ装置により鉄道車両を緊急停止させる。空気ばね排気処理は、空気ばねから空気を排出する。緊急停止解除処理は、ブレーキ装置による緊急停止を解除する。空気ばね給気処理は、空気ばねに空気を導入する(第1の構成)。
【0016】
第1の構成の鉄道車両では、受信機が早期地震検知警報システムからの地震発生の信号を受信すると、制御装置が、ブレーキ装置による緊急停止処理と、空気ばね排気処理と、を実行させる。これにより、地震が来ることが早期に察知され、緊急停止処理で鉄道車両が緊急停止し、空気ばね排気処理で空気ばねがパンクする。鉄道車両の緊急停止により、鉄道車両が地震で揺れ始める前に、鉄道車両が安定した状態になる。さらに、空気ばねのパンクにより、ローリングの共振周波数が大きくずれる。このため、緊急停止した鉄道車両が地震で揺れても、ローリング共振が抑えられる。したがって、第1の構成によれば、地震による脱線を抑制することができる。
【0017】
さらに、その後に地震が収まると、制御装置が、緊急停止解除処理と、空気ばね給気処理と、を実行させる。これにより、緊急停止解除処理でブレーキ装置による鉄道車両の緊急停止が解除され、空気ばね給気処理で空気ばねに空気が導入される。したがって、第1の構成によれば、地震が収まれば通常走行に移行することができる。
【0018】
上記鉄道車両は、さらに、台車に対する車体の傾斜を調整する車体傾斜装置を備えることが好ましい。車体傾斜装置は、空気ばねに対して空気の給排気量を調節する電磁弁を含む。この場合、空気ばね排気処理及び空気ばね給気処理が、電磁弁によって行われてもよい(第2の構成)。
【0019】
第2の構成によれば、車体傾斜装置に含まれる電磁弁を空気ばね排気処理及び空気ばね給気処理に利用することができる。
【0020】
第1の構成の鉄道車両において、好ましくは、台車枠は、さらに、左右にそれぞれ配置されたストッパを備える。空気ばねから空気が排出されたときに、ストッパの各々が車体と接触する。この場合、ストッパの左右の間隔は、車輪のバックゲージ間隔よりも小さくてもよい(第3の構成)。第2の構成の鉄道車両に第3の構成を適用してもよい(第4の構成)。
【0021】
第3及び第4の構成のようにストッパの左右の間隔が車輪のバックゲージ間隔よりも小さければ、空気ばねがパンクした状態において、ストッパと車体との接触部同士の間隔が、車輪とレールとの接触部同士の間隔よりも小さい。この場合、緊急停止した鉄道車両が地震で揺れて、ローリング共振が生じたとしても、車輪がレールから浮き上がるよりも先に、車体が台車のストッパから浮き上がるようになる。したがって、第3及び第4の構成によれば、地震による脱線をより抑制することができる。
【0022】
第1の構成から第4の構成のいずれか1つの鉄道車両は、さらに、アンチローリング装置を備えることが好ましい。アンチローリング装置は、左右方向に延びるねじり棒であって台車枠に対して軸回りに回転可能に支持されたねじり棒と、ねじり棒の2つの端部にそれぞれ固定された腕と、腕と車体をつなぐ連接棒と、を含む。この場合、連接棒は、車体のローリングによるねじり棒の回転に伴って腕と接触するストッパを備えてもよい(第5の構成)。これとは逆に、腕は、車体のローリングによるねじり棒の回転に伴って連接棒と接触するストッパを備えてもよい(第6の構成)。
【0023】
第5の構成では、アンチローリング装置の連接棒にストッパが設けられている。ストッパは、車体のローリングによるねじり棒の回転に伴って腕と接触する。この接触により、ねじり棒のねじり回転、ひいては車体のローリングが制限される。この場合、緊急停止した鉄道車両が地震で揺れて、ローリング共振が生じたとき、ストッパにより、過剰なローリングが制限される。このため、車体の転倒を抑制することができる。
【0024】
第6の構成では、アンチローリング装置の腕にストッパが設けられている。ストッパは、車体のローリングによるねじり棒の回転に伴って連接棒と接触する。この接触により、ねじり棒のねじり回転、ひいては車体のローリングが制限される。この場合、緊急停止した鉄道車両が地震で揺れて、ローリング共振が生じたとき、ストッパにより、過剰なローリングが制限される。このため、車体の転倒を抑制することができる。つまり、第6の構成では、上記第5の構成と同様のことが言える。
【0025】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、重複する説明を繰り返さない。
【0026】
[第1実施形態]
[鉄道車両の構成]
図1は、本実施形態の鉄道車両1の構成例を示す模式図である。図1には、鉄道車両1を前後方向に沿って見たときの様子が示される。図1を参照して、鉄道車両1は、台車2と、台車2に支持された車体3と、を含む。1つの車体3の前と後ろにそれぞれ台車2が配置されている。台車2は、ボルスタレス台車であってもよいし、ボルスタ付き台車であってもよい。図1には、ボルスタレス台車が示される。鉄道車両1は、レールRA,RB上を走行する。
【0027】
台車2は、台車枠4と、台車枠4の前後にそれぞれ配置された輪軸5と、輪軸5の左右にそれぞれ配置された軸箱7A,7Bと、台車枠4上で左右にそれぞれ配置された空気ばね8A,8Bと、ブレーキ装置9A,9Bと、を備える。台車枠4は、台車2の骨格を構成する。
【0028】
輪軸5は、各々の左右にそれぞれ車輪6A,6Bを有する。軸箱7A,7Bの各々は台車枠4を支持する。各軸箱7A,7Bは、弾性部材を介して台車枠4を弾性的に支持する。空気ばね8A,8Bの各々は車体3を支持する。空気ばね8A,8Bは、実質的に円環体であり、中央に穴を有する。空気ばね8A,8Bの中央穴の位置に、台車枠4から突出するストッパ10A,10Bが設けられている。空気ばね8A,8Bの中央穴の左右の間隔、すなわちストッパ10A,10Bの左右の間隔DSは、車輪6A,6Bのバックゲージ間隔DWBよりも大きい。ブレーキ装置9A,9Bは、ディスクブレーキである。ブレーキ装置9A,9Bは、他のブレーキ装置であってもよく、例えば踏面ブレーキやレールブレーキであってもよい。
【0029】
本実施形態の鉄道車両1は、さらに、台車2に対する車体3の傾斜を調整する車体傾斜装置を備える。空気ばね8A,8Bの高さが調整されることにより、台車2に対する車体3の傾斜が調整される。このため、車体傾斜装置は、空気ばね8A,8Bに対して空気の給排気量を調節する電磁弁を含む。
【0030】
具体的には、車体傾斜装置は、空気溜め11と、空気溜め11と各空気ばね8A,8Bとをつなぐ配管12A,12Bと、を含む。配管12A,12Bには、給気用電磁弁13A,13Bが設けられている。各空気ばね8A,8Bには、排気用電磁弁14A,14Bが設けられている。給気用電磁弁13A,13Bの開閉度合いにより、空気ばね8A,8Bへの空気の導入量が調整される。排気用電磁弁14A,14Bが開かれることにより、空気ばね8A,8Bから空気が排出される。要するに、給気用電磁弁13A,13B及び排気用電磁弁14A,14Bが、空気ばね8A,8Bに対して空気の給排気量を調節する電磁弁として機能する。
【0031】
また、本実施形態の鉄道車両1は、受信機21と、鉄道車両1全体の動作を制御する制御装置20と、を備える。制御装置20には、受信機21が接続されている。制御装置20には、さらに、ブレーキ装置9A,9B、給気用電磁弁13A,13B、及び排気用電磁弁14A,14Bが接続されている。なお、図1において、これらの接続線の図示は省略されている。
【0032】
受信機21は、早期地震検知警報システム(図示略)から信号を受信する。本明細書において、早期地震検知警報システムを「地震報知システム」と言う場合がある。地震報知システムから送信される信号は無線信号であり、受信機21は、無線信号を受信可能な受信機である。地震報知システムは、鉄道車両1が走行する地域を含む広範な領域を網羅する早期地震検知警報システムであれば特に限定されない。地震報知システムとして、公益財団法人鉄道総合技術研究所製の早期地震検知警報システム(通称:ユレダス(UrEDAS;Urgent Earthquake Detection and Alarm System)を適用することができる。
【0033】
本実施形態の鉄道車両1では、受信機21が地震報知システムから地震発生の信号を受信したとき、制御装置20からの指令により、鉄道車両1が独特な動作を行う。以下、図2、及び図3A図3Dを参照して、その様子を詳細に説明する。
【0034】
[鉄道車両の動作]
図2は、本実施形態の鉄道車両1における制御装置20からの指令による処理を説明するフローチャートである。図2を参照して、制御装置20からの指令による処理は、緊急停止処理(#10)と、空気ばね排気処理(#20)と、緊急停止解除処理(#30)と、空気ばね給気処理(40)と、を含む。これらの処理は、制御装置20からの指令によって実行される。緊急停止処理(#10)及び空気ばね排気処理(#20)は、鉄道車両1の走行中、受信機21が地震報知システムから地震発生の信号を受信したときに実行される。緊急停止解除処理(#30)及び空気ばね給気処理(#40)は、その後に地震が収まったときに実行される。
【0035】
図3A図3Dは、第1実施形態の鉄道車両1の様子を示す模式図である。図3A図3Dには、図1に示される各要素のうちの一部の要素が示される。図3Aは、通常走行時の様子を示す。図3Bは、受信機が地震報知システムから地震発生の信号を受信して、緊急停止処理(#10)及び空気ばね排気処理(#20)が実行された後の様子を示す。図3Cは、地震によって鉄道車両1がローリングした様子を示す。図3Dは、地震が収まって、緊急停止解除処理(#30)及び空気ばね給気処理(#40)が実行された後の様子を示す。
【0036】
図3Aを参照して、鉄道車両1の走行中、受信機が地震報知システムから地震発生の信号を受信する。このとき、地震の揺れは走行中の鉄道車両1に到達していない。
【0037】
受信機が地震発生の信号を受信すると、制御装置から指令が発せられ、緊急停止処理(#10)及び空気ばね排気処理(#20)が実行される。緊急停止処理(#10)では、制御装置からの指令により、ブレーキ装置9A,9Bが作動する。ブレーキ装置9A,9Bの作動により、鉄道車両1を緊急停止させる。空気ばね排気処理(#20)では、制御装置からの指令により、空気ばね8A,8Bに設けられた排気用電磁弁が作動する。排気用電磁弁の作動により、空気ばね8A,8Bから空気を排出する。
【0038】
このような緊急停止処理(#10)及び空気ばね排気処理(#20)により、鉄道車両1が地震で揺れ始める前に、鉄道車両1が緊急停止するとともに、空気ばね8A,8Bがパンクし、その結果、鉄道車両1が安定した状態になる(図3B参照)。空気ばね8A,8Bがパンクすると、ストッパ10A,10Bの各々が車体3と接触し、鉄道車両1がさらに安定した状態になる。このように、空気ばね8A,8Bのパンクにより、ローリングの共振周波数が、空気ばね8A,8Bがパンクしていない通常の状態から大きくずれる。
【0039】
そして、緊急停止して空気ばね8A,8Bがパンクした鉄道車両1に地震の揺れが到達する。すると、鉄道車両1が揺れて、ローリングする(図3C参照)。このときのローリングは、一方の車輪6Aと他方の車輪6Bとを交互に支点するように発生する。しかしながら、ローリングの共振周波数が、空気ばね8A,8Bがパンクしていない通常の状態から大きくずれているため、ローリング共振が抑えられる。このため、車輪6A,6BがレールRA,RBから浮き上がっても、レールRA,RBを乗り越えるまでには至らない。したがって、地震による脱線は抑制される。
【0040】
その後、地震が収まると、制御装置から指令が発せられ、緊急停止解除処理(#30)及び空気ばね給気処理(#40)が実行される。制御装置からの指令の発信は、鉄道車両1の運行を監視する中央管理室からの指令があったときに行われる。緊急停止解除処理(#30)では、制御装置からの指令により、ブレーキ装置9A,9Bの作動が解除される。ブレーキ装置9A,9Bの作動解除により、鉄道車両1の緊急停止を解除する。空気ばね給気処理(#40)では、制御装置からの指令により、空気ばね8A,8Bにつながる配管に設けられた給気用電磁弁が作動する。給気用電磁弁の作動により、空気ばね8A,8Bに空気を導入する。
【0041】
このような緊急停止解除処理(#30)及び空気ばね給気処理(#40)により、鉄道車両1の緊急停止が解除されるとともに、空気ばね8A,8Bに空気が導入されて、空気ばね8A,8Bがパンクしていない通常の状態に戻る(図3D参照)。したがって、直ちに通常走行に移行することができる。
【0042】
[効果]
本実施形態の鉄道車両1では、早期地震検知警報システムからの地震発生の信号が受信機21で受信されると、制御装置20が、ブレーキ装置9A,9Bによる緊急停止処理(#10)と、空気ばね排気処理(#20)と、を実行させる。これにより、地震が来ることが早期に察知され、緊急停止処理(#10)で鉄道車両1が緊急停止し、空気ばね排気処理(#20)で空気ばね8A,8Bがパンクする。鉄道車両1の緊急停止により、鉄道車両1が地震で揺れ始める前に、鉄道車両1が安定した状態になる。さらに、空気ばね8A,8Bのパンクにより、ローリングの共振周波数が大きくずれる。このため、緊急停止した鉄道車両が地震で揺れても、ローリング共振が抑えられる。したがって、地震による脱線を抑制することができる。
【0043】
さらに、その後に地震が収まると、制御装置20が、緊急停止解除処理(#30)と、空気ばね給気処理(#40)と、を実行させる。これにより、緊急停止解除処理(#30)でブレーキ装置9A,9Bによる鉄道車両の緊急停止が解除され、空気ばね給気処理(#40)で空気ばね8A,8Bに空気が導入される。したがって、地震が収まれば通常走行に移行することができる。
【0044】
また、本実施形態の鉄道車両1は、車体傾斜装置を備える。車体傾斜装置は、給気用電磁弁13A,13B及び排気用電磁弁14A,14Bを含む。このため、排気用電磁弁14A,14Bを空気ばね排気処理(#20)に利用し、給気用電磁弁13A,13Bを空気ばね給気処理(#40)に利用することができる。ただし、鉄道車両1は、車体傾斜装置を備えなくてもよい。この場合、給気用電磁弁13A,13B及び排気用電磁弁14A,14Bに類する要素が、鉄道車両1に設けられていればよい。
【0045】
[第2実施形態]
図4A図4Cは、第2実施形態の鉄道車両1Aの様子を示す模式図である。第2実施形態の鉄道車両1Aは、ストッパ10AA,10BAの構成において第1実施形態の鉄道車両1と異なる。図4Aは、通常走行時の様子を示す。図4Bは、受信機が地震報知システムから地震発生の信号を受信して、緊急停止処理(#10)及び空気ばね排気処理(#20)が実行された後の様子を示す。図4Cは、地震によって鉄道車両1Aがローリングした様子を示す。
【0046】
図4Aを参照して、本実施形態の鉄道車両1Aでは、台車枠4はストッパ10AA,10BAを備え、ストッパ10AA,10BAは、空気ばね8A,8B同士の間に設けられている。ストッパ10AA,10BAは、台車枠4の左右にそれぞれ配置されている。空気ばね8A,8Bから空気が排出されたときに、ストッパ10AA,10BAの各々が車体3と接触する(図4B参照)。ストッパ10AA,10BAの左右の間隔DSは、車輪6A,6Bのバックゲージ間隔DWBよりも小さい。
【0047】
図4Bを参照して、本実施形態の鉄道車両1Aでは、ストッパ10AA,10BAの左右の間隔DSが車輪6A,6Bのバックゲージ間隔DWBよりも小さいため、空気ばね8A,8Bがパンクした状態において、ストッパ10AA,10BAと車体3との接触部同士の間隔が、車輪6A,6BとレールRA,RBとの接触部同士の間隔よりも小さい。この場合、緊急停止した鉄道車両1Aが地震で揺れて、ローリングすると、このときのローリングは、一方のストッパ10AAと他方のストッパ10BAとを交互に支点するように発生する。このため、ローリング共振が生じたとしても、車輪6A,6BがレールRA,RBから浮き上がるよりも先に、車体3が台車2のストッパ10AA,10BAから浮き上がるようになる。したがって、地震による脱線をより抑制することができる。
【0048】
[第3実施形態]
図5A図5Cは、第3実施形態の鉄道車両1Bの様子を示す模式図である。図6A図6Cは、第3実施形態の鉄道車両1Bを側方から見たときの様子を示す模式図である。第3実施形態の鉄道車両1Bは、アンチローリング装置30を備える点で第2実施形態の鉄道車両1Aと異なる。図5A及び図6Aは、通常走行時の様子を示す。図5B及び図6Bは、受信機が地震報知システムから地震発生の信号を受信して、緊急停止処理(#10)及び空気ばね排気処理(#20)が実行された後の様子を示す。図5C及び図6Cは、地震によって鉄道車両1Bがローリングした様子を示す。
【0049】
図5Aを参照して、本実施形態の鉄道車両1Bは、アンチローリング装置30を備える。アンチローリング装置30は、左右方向に延びるねじり棒31を含む。ねじり棒31は、台車枠4に対して軸回りに回転可能に支持されている。つまり、ねじり棒31は、台車枠4と一体化されている。ただし、ねじり棒31の軸回りの回転は許容されている。ねじり棒31の2つの端部にそれぞれ腕32A,32Bが取り付けられている。つまり、腕32A,32Bは、ねじり棒31に固定されている。図6Aを参照して、腕32A,32Bは、それぞれ連接棒33A,33Bを介して、車体3と連結されている。つまり、連接棒33A,33Bは、それぞれ腕32A,32Bと車体3とをつないでいる。典型的な例では、腕32A,32Bは、前後方向に延びていて、連接棒33A,33Bは、上下方向に延びている。
【0050】
本実施形態の鉄道車両1Bでは、図6Aに示すように、連接棒33Aは、上下に一組のストッパ33Aa,33Abを備える。ストッパ33Aa,33Abは、各々の間に腕32Aが配置されるように、連接棒33Aから腕32A側に突出している。これと同様に、連接棒33Aとは反対側に位置する連接棒33Bも、上下に一組のストッパ33Ba,33Bbを備える。
【0051】
図5Cを参照して、緊急停止した鉄道車両1Bが地震で揺れて、車体3がローリングすると、車体3が、例えば、台車枠4の一方のストッパ10AAを支点にして、他方のストッパ10BAから浮き上がる。このローリングにより、台車枠4に対して、支点側のストッパ10AAに近い連接棒33Aは降下し、浮き上がり側のストッパ10BAに近い連接棒33Bは上昇する。これにより、ねじり棒31が捩じられる。この場合、図6B及び図6Cを参照して、腕32A,32Bと連接棒33A,33Bとの成す角度が変化する。このため、上昇した連接棒33Bのストッパ33Bbが腕32Bと接触する。
【0052】
ストッパ33Bbが腕32Bと接触すると、それ以上のねじり棒31のねじり回転、ひいては車体3のローリングが制限される。この場合、緊急停止した鉄道車両1Bが地震で揺れて、ローリング共振が生じたとき、連接棒33Bのストッパ33Ba,33Bbにより、過剰なローリングが制限される。このため、車体3の転倒を抑制することができる。
【0053】
したがって、本実施形態の鉄道車両1Bによれば、第2実施形態の鉄道車両1Aと同様の効果が得られ、しかも、車体3の転倒を抑制することができる。ただし、本実施形態のアンチローリング装置30は、第1実施形態の鉄道車両1に適用しても構わない。
【0054】
[第4実施形態]
図7A図7Cは、第4実施形態の鉄道車両1Cを側方から見たときの様子を示す模式図である。第4実施形態の鉄道車両1Cは、アンチローリング装置30を備える点で第3実施形態の鉄道車両1Bと共通し、ストッパ32Aa,32Ab,32Ba,32Bbの構成において第3実施形態の鉄道車両1Bと異なる。図7Aは、通常走行時の様子を示す。図7Bは、受信機が地震報知システムから地震発生の信号を受信して、緊急停止処理(#10)及び空気ばね排気処理(#20)が実行された後の様子を示す。図7Cは、地震によって鉄道車両1Cがローリングした様子を示す。
【0055】
本実施形態の鉄道車両1Cでは、図7Aに示すように、腕32Aは、上下に一組のストッパ32Aa,32Abを備える。ストッパ32Aa,32Abは、腕32Aの上部と下部から突出している。これと同様に、腕32Aとは反対側に位置する腕32Bも、上下に一組のストッパ32Ba,32Bbを備える。
【0056】
図7Cを参照して、緊急停止した鉄道車両1Cが地震で揺れて、車体3がローリングすると、車体3が、例えば、台車枠4の一方のストッパ10AAを支点にして、他方のストッパ10BAから浮き上がる。このローリングにより、台車枠4に対して、浮き上がり側のストッパ10BAに近い連接棒33Bは上昇する。これにより、ねじり棒31が捩じられる。この場合、連接棒33Bの上昇に伴い、腕32Bのストッパ32Bbが連接棒33Bと接触する(図7C参照)。
【0057】
ストッパ32Bbが連接棒33Bと接触すると、それ以上のねじり棒31のねじり回転、ひいては車体3のローリングが制限される。この場合、緊急停止した鉄道車両1Cが地震で揺れて、ローリング共振が生じたとき、腕32Bのストッパ32Ba,32Bbにより、過剰なローリングが制限される。このため、車体3の転倒を抑制することができる。
【0058】
したがって、本実施形態の鉄道車両1Cによれば、第3実施形態の鉄道車両1Bと同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0059】
1,1A,1B.1C:鉄道車両
2:台車
3:車体
4:台車枠
5:輪軸
6A,6B:車輪
7A,7B:軸箱
8A,8B:空気ばね
9A,9B:ブレーキ装置
10A,10B,10AA,10BA:ストッパ
20:制御装置
21:受信機
RA,RB:レール
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C