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特開2024-37534工作機械の温度上昇値推定方法、熱変位量推定方法、軸受冷却装置制御方法、及び工作機械
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  • 特開-工作機械の温度上昇値推定方法、熱変位量推定方法、軸受冷却装置制御方法、及び工作機械 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037534
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】工作機械の温度上昇値推定方法、熱変位量推定方法、軸受冷却装置制御方法、及び工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/18 20060101AFI20240312BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20240312BHJP
   B23Q 11/14 20060101ALI20240312BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B23Q15/18
B23Q17/00 A
B23Q11/14
G05B19/404 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142451
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】肥田 美咲
(72)【発明者】
【氏名】神戸 礼士
【テーマコード(参考)】
3C001
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA05
3C001KB04
3C001KB09
3C001TA02
3C001TB09
3C001TB10
3C001TC05
3C029EE01
3C269AB05
3C269AB31
3C269BB03
3C269BB12
3C269EF10
3C269MN27
3C269MN28
(57)【要約】
【課題】冷却装置を備える工作機械において、発熱箇所の状態に応じて、当該発熱箇所の温度上昇値を正確に推定する方法と、当該発熱箇所の熱変位を推定する方法と、工作機械の発熱箇所を冷却するための冷却装置の制御方法と、当該温度上昇値の推定方法を実行可能な工作機械とを提供する。
【解決手段】主軸冷却装置7を備える工作機械において、機体温度と、主軸3の温度とを測定可能な温度センサ13,14を備え、主軸冷却装置7の運転状態を判定すると共に、主軸冷却装置7の運転又は停止を基点に計測された時間が予め設定された遅れ時間を経過したかを判定することで主軸3の冷却状態を判定し、主軸3の異なる冷却状態に対応する複数の推定モデルA~Dから主軸3の冷却状態に対応する適切な推定モデルを選択し、推定モデルと、温度センサ13,14により取得される測定値から導かれる温度データとに基づいて主軸3の推定温度上昇値を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械の運転により発熱する所定部位を冷却可能な冷却装置を備える工作機械において、
少なくとも機体温度を測定可能な位置と、前記所定部位の温度を測定可能な位置とを含む任意の位置に配置される複数の温度センサを備え、
前記冷却装置が運転状態か停止状態かを判定すると共に、前記冷却装置の運転又は停止を基点に計測された時間が、予め設定された遅れ時間を経過したか否かを判定することで、前記所定部位の冷却状態を判定し、
前記所定部位の異なる前記冷却状態に対応するよう予め設定された複数の推定モデルから、判定された前記所定部位の前記冷却状態に対応する適切な前記推定モデルを選択し、
選択された前記推定モデルと、複数の前記温度センサにより取得される測定値から導かれる温度データとに基づいて、前記所定部位の推定温度上昇値を算出することを特徴とする工作機械の温度上昇値推定方法。
【請求項2】
前記所定部位の前記冷却状態が、前記冷却装置を運転させてから前記遅れ時間が経過するまでの降温過渡状態と、前記冷却装置を停止させてから前記遅れ時間が経過するまでの昇温過渡状態と、前記冷却装置を運転させて前記遅れ時間が経過した後の冷却安定状態と、前記冷却装置を停止させて前記遅れ時間が経過した後の加熱安定状態と、の少なくとも4つの状態のいずれであるかを判定することを特徴とする請求項1に記載の工作機械の温度上昇値推定方法。
【請求項3】
前記遅れ時間は、所定の関数を用いて、前記所定箇所の動作に基づいて得られる値から算出されることを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械の温度上昇値推定方法。
【請求項4】
前記遅れ時間は、前記温度データと、前記所定箇所の前記推定温度上昇値と、の少なくとも1つに関して、時間あたりの変化量を算出し、算出された時間あたりの変化量が予め設定した閾値よりも大きくなるまでの時間とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械の温度上昇値推定方法。
【請求項5】
機械の運転により発熱する所定部位を冷却可能な冷却装置を備える工作機械において、
少なくとも機体温度を測定可能な位置と、前記所定部位の温度を測定可能な位置とを含む任意の位置に配置される複数の温度センサを備え、
前記冷却装置が運転状態か停止状態かを判定すると共に、前記冷却装置の運転又は停止を基点に計測された時間が、予め設定された遅れ時間を経過したか否かを判定することで、前記所定部位の冷却状態を判定し、
前記所定部位の異なる前記冷却状態に対応するよう予め設定された複数の推定モデルから、判定された前記所定部位の前記冷却状態に対応する適切な前記推定モデルを選択し、
選択された前記推定モデルと、複数の前記温度センサにより取得される測定値から導かれる温度データとに基づいて、前記所定部位の推定温度上昇値を算出し、
算出された前記所定部位の前記推定温度上昇値と、選択された前記推定モデルに基づく、前記所定部位の温度上昇値を熱変位量に変換する係数とを用いて、前記所定部位の熱変位量を推定することを特徴とする工作機械の熱変位量推定方法。
【請求項6】
前記所定部位の前記冷却状態が、前記冷却装置を運転させてから前記遅れ時間が経過するまでの降温過渡状態と、前記冷却装置を停止させてから前記遅れ時間が経過するまでの昇温過渡状態と、前記冷却装置を運転させて前記遅れ時間が経過した後の冷却安定状態と、前記冷却装置を停止させて前記遅れ時間が経過した後の加熱安定状態と、の少なくとも4つの状態のいずれであるかを判定することを特徴とする請求項5に記載の工作機械の熱変位量推定方法。
【請求項7】
前記遅れ時間は、所定の関数を用いて、前記所定箇所の動作に基づいて得られる値から算出されることを特徴とする請求項5又は6に記載の工作機械の熱変位量推定方法。
【請求項8】
前記遅れ時間は、前記温度データと、前記所定箇所の前記推定温度上昇値と、の少なくとも1つに関して、時間あたりの変化量を算出し、算出された時間あたりの変化量が予め設定した閾値よりも大きくなるまでの時間とすることを特徴とする請求項5又は6に記載の工作機械の熱変位量推定方法。
【請求項9】
回転軸を備えた工作機械の、少なくとも前記回転軸の軸受の外輪側を冷却する様に経路を設けた冷却装置を備える工作機械において、
少なくとも機体温度を測定可能な位置と、前記軸受の外輪側の温度を測定可能な位置とを含む任意の位置に配置される複数の温度センサを備え、
前記冷却装置が運転状態か停止状態かを判定すると共に、前記冷却装置の運転又は停止を基点に計測された時間が、予め設定された遅れ時間を経過したか否かを判定することで、前記軸受の状態を判定し、
前記軸受の異なる前記冷却状態に対応するよう予め設定された複数の推定モデルから、判定された前記軸受の前記冷却状態に対応する適切な前記推定モデルを選択し、
選択された前記推定モデルに基づく係数と、複数の前記温度センサにより取得される測定値から導かれる温度データとを用いて、前記軸受の内輪側の推定温度上昇値を算出し、
算出された前記軸受の内輪側の前記推定温度上昇値と、前記軸受の外輪側の温度を測定する前記温度センサから取得される測定値から導かれる前記温度データを元に算出される軸受の外輪側の温度上昇値とから、推定内外輪温度差を算出し、
前記推定内外輪温度差が、選択された前記推定モデルに基づく所定の閾値を上回った場合、又は下回った場合に、前記冷却装置を起動、又は停止することを特徴とする工作機械の軸受冷却装置制御方法。
【請求項10】
前記軸受の前記冷却状態が、前記冷却装置を運転させてから前記遅れ時間が経過するまでの降温過渡状態と、前記冷却装置を停止させてから前記遅れ時間が経過するまでの昇温過渡状態と、前記冷却装置を運転させて前記遅れ時間が経過した後の冷却安定状態と、前記冷却装置を停止させて前記遅れ時間が経過した後の加熱安定状態と、の少なくとも4つの状態のいずれであるかを判定することを特徴とする請求項9に記載の工作機械の軸受冷却装置制御方法。
【請求項11】
前記遅れ時間は、所定の関数を用いて、前記回転軸の回転速度から算出されることを特徴とする請求項9又は10に記載の工作機械の軸受冷却装置制御方法。
【請求項12】
前記遅れ時間は、前記温度データと、前記軸受の内輪側の前記推定温度上昇値と、前記推定内外輪温度差と、の少なくとも1つに関して、時間あたりの変化量を算出し、算出された時間あたりの変化量が予め設定した閾値よりも大きくなるまでの時間とすることを特徴とする請求項9又は10に記載の工作機械の軸受冷却装置制御方法。
【請求項13】
機械の運転により発熱する所定部位を冷却可能な冷却装置を備える工作機械であって、
少なくとも機体温度を測定可能な位置と、前記所定部位の温度を測定可能な位置とを含む任意の位置に配置される複数の温度センサを備え、
前記冷却装置が運転状態か停止状態かを判定すると共に、前記冷却装置の運転又は停止を基点に計測された時間が、予め設定された遅れ時間を経過したか否かを判定することで、前記所定部位の状態を判定し、
前記所定部位の異なる前記冷却状態に対応するよう予め設定された複数の推定モデルから、判定された前記所定部位の前記冷却状態に対応する適切な前記推定モデルを選択し、
選択された前記推定モデルと、複数の前記温度センサにより取得される測定値から導かれる温度データとに基づいて、前記所定部位の推定温度上昇値を算出するための装置を備えることを特徴とする工作機械。
【請求項14】
前記所定部位の前記冷却状態が、前記冷却装置を運転させてから前記遅れ時間が経過するまでの降温過渡状態と、前記冷却装置を停止させてから前記遅れ時間が経過するまでの昇温過渡状態と、前記冷却装置を運転させて前記遅れ時間が経過した後の冷却安定状態と、前記冷却装置を停止させて前記遅れ時間が経過した後の加熱安定状態と、の少なくとも4つの状態のいずれであるかを判定することを特徴とする請求項13に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷却装置を備える工作機械において、発熱箇所の状態に応じて、当該発熱箇所の温度上昇値を正確に推定する方法と、当該発熱箇所の熱変位量を推定する方法と、工作機械の発熱箇所を冷却するための冷却装置の制御方法と、当該温度上昇値の推定方法を実行可能な工作機械とに関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタ等の工作機械での加工において、例えば主軸などの回転軸では、回転軸と軸受との摩擦により発熱し、軸方向への熱変位が生じることがある。熱変位は、加工精度悪化の要因となり得る。そこで、熱変位発生を防止するため、一般的に、軸受外側のハウジング部に流路を設けて冷却油を流し、冷却装置で冷却油の熱を除去する方法が用いられている。
しかし、回転軸の冷却装置の消費電力は、工作機械の周辺機器の中で高い割合を占める。そのため、カーボンニュートラルの観点から、消費電力を抑えるために、冷却装置の運転制御を行うことで、消費電力の低減が行われている。特許文献1では、主軸停止時に、主軸温度上昇値を用いて演算した主軸近傍温度が所定の閾値を満たした場合、冷却装置を運転制御することで、消費電力を低減する方法が開示されている。
一方、熱変位による加工精度への影響を抑えるため、機体温度情報から熱変位量を推定して、位相を補正する方法が用いられる場合もある。例えば、特許文献2では、回転速度と時間、あるいは補正回数とに応じて、熱変位推定演算式の演算係数を変化させて、主軸熱変位を推定する演算方法が開示されている。
【0003】
また、回転軸の回転時に、発熱に加え、軸受の異常や軸受潤滑の不足が起きると、軸受が焼付くといった不具合が発生することがある。そのような不具合を防止するため、特許文献3では、熱流センサで軸受の内外輪温度差を測定し、軸受異常や潤滑異常時の急激な温度上昇を検知する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6445395号公報
【特許文献2】特開平9-225781号公報
【特許文献3】特許第6967495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脱炭素社会の実現に向けた省エネルギー対策の加速に伴い、主軸冷却装置の運転制御による消費電力削減は、特許文献1で開示されたように機械休止時だけ行われるのではなく、機械運転時においても実行されるべきである。しかし、機械運転時に主軸冷却装置の運転を制御した場合、主軸冷却装置運転時と、停止時とで熱変位特性が異なるため、特許文献2で開示された方法では熱変位量を正確に推定することはできない。そのため、熱変位量を正確に推定するためには、発熱箇所の状態に応じた推定モデルの使用が必要となる。
一方、熱変位特性の変動を抑えるために、軸回転時の冷却能力を低下させると、軸受が温度上昇し、焼付きといった不具合が発生する可能性がある。加えて、低下させた冷却能力を復帰させた時に、軸受外輪側が急激に冷やされて内外輪温度差が大きくなることで、焼付きが生じる可能性もある。このため、機械運転時に内外輪温度差を監視しながら冷却装置を運転制御するためには、内輪温度を測定する必要がある。しかし、特許文献3で開示された内外輪温度差の検知方法は、熱流センサを軸受近傍の間座に設置する必要があり、測定手段の取り扱いが難しい。従って、発熱箇所である軸受の状態に応じた推定モデルを用いて、軸受内輪温度に相当する値を正確に推定することができれば、測定手段の取扱困難性を解決できると考えられる。
【0006】
そこで、本開示の目的は、発熱箇所を冷却するための冷却装置の状態と当該発熱箇所の状態に応じて選択される推定モデルと、機体の温度情報とを元に、当該発熱箇所に生じた温度上昇値を正確に推定可能な工作機械の温度上昇値推定方法及び工作機械を提供するものである。
また、本開示の他の目的は、発熱箇所を冷却するための冷却装置の状態と当該発熱箇所の状態に応じて選択される推定モデルと、機体の温度情報とを元に推定された当該発熱箇所の温度上昇値から、当該発熱箇所に生じた熱変位量を正確に推定可能な工作機械の熱変位量推定方法を提供するものである。
また、本開示の他の目的は、軸受冷却装置の状態と軸受の状態に応じて選択される推定モデルと、機体の温度情報機体の温度情報とを元に推定された軸受の温度上昇値を用いて、軸受の内外輪温度差を監視し、機械運転時における軸受冷却装置の運転を制御可能な軸受冷却装置制御方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の第1の構成は、機械の運転により発熱する所定部位を冷却可能な冷却装置を備える工作機械において、少なくとも機体温度を測定可能な位置と、所定部位の温度を測定可能な位置とを含む任意の位置に配置される複数の温度センサを備え、冷却装置が運転状態か停止状態かを判定すると共に、冷却装置の運転又は停止を基点に計測された時間が、予め設定された遅れ時間を経過したか否かを判定することで、所定部位の冷却状態を判定し、所定部位の異なる冷却状態に対応するよう予め設定された複数の推定モデルから、判定された所定部位の冷却状態に対応する適切な推定モデルを選択し、選択された推定モデルと、複数の温度センサにより取得される測定値から導かれる温度データとに基づいて、所定部位の推定温度上昇値を算出することを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の態様は、上記構成において、所定部位の冷却状態が、冷却装置を運転させてから遅れ時間が経過するまでの降温過渡状態と、冷却装置を停止させてから遅れ時間が経過するまでの昇温過渡状態と、冷却装置を運転させて遅れ時間が経過した後の冷却安定状態と、冷却装置を停止させて遅れ時間が経過した後の加熱安定状態と、の少なくとも4つの状態のいずれであるかを判定することを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の態様は、上記構成において、遅れ時間は、所定の関数を用いて、所定箇所の動作に基づいて得られる値から算出されることを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の態様は、上記構成において、遅れ時間は、温度データと、所定箇所の推定温度上昇値と、の少なくとも1つに関して、時間あたりの変化量を算出し、算出された時間あたりの変化量が予め設定した閾値よりも大きくなるまでの時間とすることを特徴とする。
上記目的を達成するために、本開示の第2の構成は、機械の運転により発熱する所定部位を冷却可能な冷却装置を備える工作機械において、少なくとも機体温度を測定可能な位置と、所定部位の温度を測定可能な位置とを含む任意の位置に配置される複数の温度センサを備え、冷却装置が運転状態か停止状態かを判定すると共に、冷却装置の運転又は停止を基点に計測された時間が、予め設定された遅れ時間を経過したか否かを判定することで、所定部位の冷却状態を判定し、所定部位の異なる冷却状態に対応するよう予め設定された複数の推定モデルから、判定された所定部位の冷却状態に対応する適切な推定モデルを選択し、選択された推定モデルと、複数の温度センサにより取得される測定値から導かれる温度データとに基づいて、所定部位の推定温度上昇値を算出し、算出された所定部位の推定温度上昇値と、選択された推定モデルに基づく、所定部位の温度上昇値を熱変位量に変換する係数とを用いて、所定部位の熱変位量を推定することを特徴とする。
本開示の第2の構成の別の態様は、上記構成において、所定部位の冷却状態が、冷却装置を運転させてから遅れ時間が経過するまでの降温過渡状態と、冷却装置を停止させてから遅れ時間が経過するまでの昇温過渡状態と、冷却装置を運転させて遅れ時間が経過した後の冷却安定状態と、冷却装置を停止させて遅れ時間が経過した後の加熱安定状態と、の少なくとも4つの状態のいずれであるかを判定することを特徴とする。
本開示の第2の構成の別の態様は、上記構成において、遅れ時間は、所定の関数を用いて、所定箇所の動作に基づいて得られる値から算出されることを特徴とする。
本開示の第2の構成の別の態様は、上記構成において、遅れ時間は、温度データと、所定箇所の推定温度上昇値と、の少なくとも1つに関して、時間あたりの変化量を算出し、算出された時間あたりの変化量が予め設定した閾値よりも大きくなるまでの時間とすることを特徴とする。
上記目的を達成するために、本開示の第3の構成は、回転軸を備えた工作機械の、少なくとも回転軸の軸受の外輪側を冷却する様に経路を設けた冷却装置を備える工作機械において、少なくとも機体温度を測定可能な位置と、軸受の外輪側の温度を測定可能な位置とを含む任意の位置に配置される複数の温度センサを備え、冷却装置が運転状態か停止状態かを判定すると共に、冷却装置の運転又は停止を基点に計測された時間が、予め設定された遅れ時間を経過したか否かを判定することで、軸受の状態を判定し、軸受の異なる冷却状態に対応するよう予め設定された複数の推定モデルから、判定された軸受の冷却状態に対応する適切な推定モデルを選択し、選択された推定モデルに基づく係数と、複数の温度センサにより取得される測定値から導かれる温度データとを用いて、軸受の内輪側の推定温度上昇値を算出し、算出された軸受の内輪側の推定温度上昇値と、軸受の外輪側の温度を測定する温度センサから取得される測定値から導かれる温度データを元に算出される軸受の外輪側の温度上昇値とから、推定内外輪温度差を算出し、推定内外輪温度差が、選択された推定モデルに基づく所定の閾値を上回った場合、又は下回った場合に、冷却装置を起動、又は停止することを特徴とする。
本開示の第3の構成の別の態様は、上記構成において、軸受の冷却状態が、冷却装置を運転させてから遅れ時間が経過するまでの降温過渡状態と、冷却装置を停止させてから遅れ時間が経過するまでの昇温過渡状態と、冷却装置を運転させて遅れ時間が経過した後の冷却安定状態と、冷却装置を停止させて遅れ時間が経過した後の加熱安定状態と、の少なくとも4つの状態のいずれであるかを判定することを特徴とする。
本開示の第3の構成の別の態様は、上記構成において、遅れ時間は、所定の関数を用いて、回転軸の回転速度から算出されることを特徴とする。
本開示の第3の構成の別の態様は、上記構成において、遅れ時間は、温度データと、軸受の内輪側の推定温度上昇値と、推定内外輪温度差と、の少なくとも1つに関して、時間あたりの変化量を算出し、算出された時間あたりの変化量が予め設定した閾値よりも大きくなるまでの時間とすることを特徴とする。
上記目的を達成するために、本開示の第4の構成は、機械の運転により発熱する所定部位を冷却可能な冷却装置を備える工作機械であって、少なくとも機体温度を測定可能な位置と、所定部位の温度を測定可能な位置とを含む任意の位置に配置される複数の温度センサを備え、冷却装置が運転状態か停止状態かを判定すると共に、冷却装置の運転又は停止を基点に計測された時間が、予め設定された遅れ時間を経過したか否かを判定することで、所定部位の状態を判定し、所定部位の異なる冷却状態に対応するよう予め設定された複数の推定モデルから、判定された所定部位の冷却状態に対応する適切な推定モデルを選択し、選択された推定モデルと、複数の温度センサにより取得される測定値から導かれる温度データとに基づいて、所定部位の推定温度上昇値を算出するための装置を備えることを特徴とする。
本開示の第4の構成の別の態様は、上記構成において、所定部位の冷却状態が、冷却装置を運転させてから遅れ時間が経過するまでの降温過渡状態と、冷却装置を停止させてから遅れ時間が経過するまでの昇温過渡状態と、冷却装置を運転させて遅れ時間が経過した後の冷却安定状態と、冷却装置を停止させて遅れ時間が経過した後の加熱安定状態と、の少なくとも4つの状態のいずれであるかを判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1及び4の開示によれば、機械運転中の冷却装置の運転又は停止に起因して冷却対象である所定部位に生じる温度上昇値を推定する際、冷却装置の運転又は停止によって変化する当該部位の冷却状態に対応する推定モデルを選択することで、当該部位の温度上昇値を正確に推定できる。
本発明の第2の開示によれば、機械運転中の冷却装置の運転又は停止に起因して冷却対象である所定部位に生じる熱変位量を推定する際、冷却装置の運転又は停止によって変化する当該部位の冷却状態に対応する推定モデルを選択することで、当該部位に生じた熱変位量を正確に推定できる。そのため、機械運転中に冷却装置を運転又は停止させても、当該部位に生じる熱変位に対する正確な補正が可能となり、加工精度の悪化を防止できる。
本発明の第3の開示によれば、機械運転中の冷却装置の運転又は停止に起因して冷却対象である軸受に生じる内外輪温度差を推定する際、冷却装置の運転又は停止によって変化する軸受の冷却状態に対応する推定モデルを選択することで、軸受に生じた内外輪温度差を正確に推定できる。そのため、推定された内外輪温度差に応じて冷却装置を制御可能となり、運転中の軸受の温度を安定させることで、軸受が焼付くといった不具合を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の工作機械の要部を示す説明図である。
図2】本開示における熱変位量の推定方法を示すフローチャートである。
図3】実施例2の工作機械の要部を示す説明図である。
図4】本開示における冷却装置の制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、実施例1の工作機械の要部を示す説明図である。なお、図1に示す工作機械では、カバー及びその他の設備を省略しているが、実際には、図示を省略したカバー及びその他の設備を備えるものである。
【0011】
実施例1の工作機械は、図1に示すように、ベッド1、コラム2、主軸3、軸受を含む主軸ユニット4、及びテーブル5が設けられたマシニングセンタ6と、主軸冷却装置7と、温度設定装置8と、補正量演算装置9と、NC装置10とを備える。主軸ユニット4は、主軸ハウジング外筒部に、冷却油供給部11と冷却油排出部12とを備えている。マシニングセンタ6と主軸冷却装置7との間には、冷却油が冷却油供給部11に供給され、冷却油排出部12から主軸冷却装置7に戻る冷却回路が設けられている。すなわち、実施例1において、主軸ユニット4が、本開示における機械の運転により発熱する所定部位であり、機械運転中の冷却対象となる。
【0012】
マシニングセンタ6には、コラム2に配置され、基準温度となる機体温度を検出する温度センサ13と、主軸ユニット4に配置され、主軸温度を検出する温度センサ14とが設けられている。温度センサ13,14は、温度設定装置8に接続され、温度センサ13,14によって計測された温度測定値は、温度設定装置8に送信される。
【0013】
NC装置10は、マシニングセンタ6と接続しており、マシニングセンタ6は、NC装置10からの指令を受けて運転が制御される。また、NC装置10は、主軸冷却装置7、温度センサ13,14から取得される温度測定値の数値化処理等を実行可能な温度設定装置8、及び後述する熱変位の推定量から補正量を演算する補正量演算装置9にも接続しており、それぞれの制御を担っている。
【0014】
主軸冷却装置7は、工作機械の機械運転時において、主軸が最高回転速度で運転した場合に温度センサ13により検出される機体温度と、温度センサ14で検出される主軸温度との差が、予め設定した閾値を超過した場合又は下回った場合に、運転及び停止が切換えられるよう設定されている。
【0015】
続いて、本開示における熱変位量の推定方法について説明する。
図2は、本開示における熱変位量の推定方法を示すフローチャートである。
工作機械の機械運転時において、NC装置10は、主軸冷却装置7が運転又は停止されたタイミングを基点とした時間を計測する(S1)。この時間計測は、運転及び停止といった主軸冷却装置7の運転制御に変化が生じたと判定されると(S2)、それまでに計測された時間がリセットされる(S3)。その後、計測時間がリセットされたタイミング、すなわち主軸冷却装置7の運転または停止が切り替わったタイミングを基点として、時間の計測が再開される。なお、以下の説明において実行される判定、演算等は、特別に指定しない限りNC装置10にて実行される。
【0016】
次に、熱変位量推定を実行する時点において、主軸冷却装置7が運転しているか停止しているかの判定が実行される(S4)。
主軸冷却装置7が運転していると判定された場合、熱変位量推定が実行される時点までの計測時間と、予め設定された遅れ時間とが比較される(S5)。
【0017】
計測時間と遅れ時間との比較の結果、計測時間が遅れ時間より長い場合、主軸ユニット4の冷却状態は、主軸冷却装置7を運転させてから遅れ時間以上が経過した後の冷却安定状態であると判定される。そして、熱変位量推定に用いられる推定モデルとして、冷却安定状態に対応するよう予め設定された推定モデルAが設定される(S6)。計測時間が遅れ時間より短い場合、主軸ユニット4の冷却状態は、主軸冷却装置7を運転させてから遅れ時間が経過するまでの降温過渡状態であると判定される。そして、推定モデルとして、降温過渡状態に対応するよう予め設定された推定モデルBが設定される(S7)。
【0018】
一方、S4において、主軸冷却装置7が停止していると判定された場合も、熱変位量推定を実行する時点までに計測された時間と予め設定された遅れ時間とが比較される(S8)。
計測時間と遅れ時間との比較の結果、計測時間が遅れ時間より長い場合、主軸ユニット4の冷却状態は、主軸冷却装置7を停止させてから遅れ時間以上が経過した後の加熱安定状態であると判定される。そして、推定モデルとして、加熱安定状態に対応するよう予め設定された推定モデルCが設定される(S9)。また、計測時間が遅れ時間より短い場合、主軸ユニット4の冷却状態は、主軸冷却装置7を停止させてから遅れ時間が経過するまでの昇温過渡状態であると判定される。そして、推定モデルとして、昇温過渡状態に対応するよう予め設定された推定モデルDが設定される(S10)。
【0019】
S5及びS8で用いられる遅れ時間は、予め実験的に、主軸冷却装置7の運転又停止のタイミングから、主軸ユニット4が所望の温度まで冷却され、当該温度で安定するまでの時間、又は冷却状態から昇温し、一定の温度で安定するまでの時間を計測し、得られた時間を以て決定される。
【0020】
推定モデルA,B,C,Dは、後述する所定部位の温度上昇値、熱変位量等の推定に用いる係数、関数等を含んでいる。推定モデルA,B,C,Dそれぞれの係数、関数等は、予め実験的に、主軸ユニット4の温度上昇値、熱変位量等と、主軸ユニット4の冷却状態とが対応するように導出されたものを以て決定される。
【0021】
S6~7、S9~10において、主軸ユニット4の冷却状態に対応する推定モデルが選択された後、温度センサ13,14で、機体温度及び主軸温度が測定される(S11)。測定された温度は、温度設定装置8に収集され、予め設定された周期によって、公知の方法でアナログ信号からデジタル信号に変換、数値化される。
【0022】
温度設定装置8は、数値化された温度データと、推定モデルごとに予め設定された温度及び熱変位の時間応答を等しくする関数を含む数1を用いて、推定主軸温度上昇値を算出する(S12)。算出された推定主軸温度上昇値は、補正量演算装置9へ送られる。
【0023】
【数1】
【0024】
i=1は、主軸冷却装置の運転状態を運転に切り換え、予め設定した遅れ時間が経過した後の状態、すなわち冷却安定状態の推定モデルAを指す。i=2は、主軸冷却装置の運転状態を運転に切り換え、予め設定した遅れ時間が経過するまでの状態、すなわち降温過渡状態の推定モデルBを指す。i=3は、主軸冷却装置の運転状態を停止に切り換え、予め設定した遅れ時間が経過した後の状態、すなわち加熱安定状態の推定モデルCを指す。i=4は、主軸冷却装置の運転状態を停止に切り換え、予め設定した遅れ時間が経過するまでの状態、すなわち昇温過渡状態の推定モデルDを指す。
【0025】
その後、補正量演算装置9は、温度設定装置8で算出された推定主軸温度上昇値に対し、推定モデルごとに予め設定された主軸温度上昇値から主軸熱変位量への変換係数を含む数2を用いて、推定主軸熱変位量を算出する(S13)。
【0026】
【数2】
【0027】
そして、補正量演算装置9は、S13において算出された推定主軸熱変位量から、加工精度を保つために必要な補正量を演算により求める。求められた補正量は、NC装置10に送られ、マシニングセンタ6の運転にフィードバックされる。
引き続き、継続して熱変位量の推定を行うか否かについて判定され(S14)、継続する場合は、主軸冷却装置7の運転制御の変化を判定するステップ(S2)から再開される。
【0028】
以上のように、マシニングセンタ6運転中の主軸冷却装置7の運転又は停止に起因して主軸3に生じる熱変位量を推定する際、主軸冷却装置7の運転又は停止によって変化する主軸ユニット4の冷却状態に対応する推定モデルを選択することで、主軸3に生じた熱変位量を正確に推定できる。そのため、マシニングセンタ6運転中に主軸冷却装置7を運転又は停止させても、主軸3に生じる熱変位量に対する正確な補正が可能となり、加工精度の悪化を防止できる。
【0029】
図3は、実施例2の工作機械の要部を示す説明図である。
実施例2の工作機械は、図3に示すように、ベッド1、コラム2、回転軸としての主軸3、軸受を含む主軸ユニット4、及びテーブル5が設けられたマシニングセンタ6と、主軸冷却装置7と、温度設定装置8と、温度差演算装置15と、冷却能力設定装置16と、NC装置10とを備える。主軸ユニット4は、主軸ハウジング外筒部に、冷却油供給部11と冷却油排出部12とを備える。マシニングセンタ6と主軸冷却装置7との間には、冷却油が冷却油供給部11に供給され、冷却油排出部12から主軸冷却装置7に戻る冷却回路が設けられている。すなわち、実施例2において、主軸ユニット4が、本開示における機械の運転により発熱する所定部位であり、機械運転中の冷却対象となる。
【0030】
マシニングセンタ6には、コラム2に配置され、基準温度となる機体温度を検出する温度センサ13と、主軸ユニット4に配置され、主軸温度を検出する温度センサ14とが設けられている。温度センサ13,14は、温度設定装置8に接続され、温度センサ13,14によって計測された温度測定値は、温度設定装置8に送信される。
【0031】
NC装置10は、マシニングセンタ6と接続しており、マシニングセンタ6は、NC装置10からの指令を受けて運転が制御される。また、NC装置10は、主軸冷却装置7、温度センサ13,14から取得される温度測定値の数値化処理等を実行可能な温度設定装置8、後述する主軸の温度上昇の推定値から主軸ユニット4の内外輪温度差の推定量を演算する温度差演算装置15、及び主軸冷却装置7の冷却能力を設定する冷却能力設定装置16にも接続しており、それぞれの制御を担っている。
【0032】
続いて、本開示における冷却装置の制御方法について説明する。
図4は、本開示における冷却装置の制御方法を示すフローチャートである。なお、図4のフローチャートは、初期設定として、主軸冷却装置7が運転状態であり、主軸ユニット4の冷却状態が冷却安定状態である場合を想定したものである。
【0033】
実施例2では、まず、推定モデルが選択される(S21)。推定モデルの選択は、図2に示すS2~S10に沿って実行される。上述の通り、ここでは主軸ユニット4の冷却状態が冷却安定状態であるため、推定モデルAが選択される。
S21で推定モデルが選択されると、温度センサ13,14で各部の温度が測定される(S22)。測定された温度は、温度設定装置8に収集され、予め設定された周期によって、公知の方法でアナログ信号からデジタル信号に変換、数値化される。
【0034】
温度設定装置8は、数値化された温度データから、まず、外輪側温度上昇値Δθb、すなわち機体温度θ1と外輪側温度θ2との差分を算出する(数3)。引き続き、推定モデルごとに予め設定された時間応答に関する係数αを含む数4、及び変化量に関する係数βを含む数5を用いて、推定内輪側温度上昇値Δθaを算出する(S23)。なお、各推定モデルに設定される係数α及びβは、予め試験等により決定される。算出された推定内輪側温度上昇値Δθaは、温度差演算装置15へ送られる。
【0035】
【数3】
【数4】
【数5】
【0036】
温度差演算装置15では、温度設定装置8で算出された外輪側温度上昇値Δθbと推定内輪側温度上昇値Δθaとの差分から、推定内外輪温度差Δθabが算出される(S24)。
算出された推定内外輪温度差Δθabは、予め設定された冷却OFF判定の閾値Aと比較される(S25)。推定内外輪温度差Δθabが閾値Aを上回った場合、主軸ユニット4の冷却状態は、主軸温度が所望の温度に達する等して、さらなる冷却が不要な状態にあると言える。そのため、冷却能力設定装置16は、主軸冷却装置7に対し、停止又は主軸ユニット4を所望の温度で維持できる冷却能力で運転する指令をNC装置10を介して発信する(S26)。
一方、推定内外輪温度差Δθabが閾値Aを下回った場合、引き続き、推定内外輪温度差Δθabは、予め設定された冷却ON判定の閾値Bと比較される(S27)。冷却ON判定の閾値Bを下回った場合、主軸ユニット4の冷却状態は、主軸温度が所望の温度に達しておらず、さらなる冷却が必要な状態にあると言える。そのため、冷却能力設定装置16は、主軸冷却装置7に対し、例えば冷却能力を増強するといった、主軸ユニット4を所望の温度に冷却可能な冷却能力で運転する指令をNC装置10を介して発信する(S28)。
【0037】
次に、前回処理時と比較して、主軸冷却装置7の運転制御に変化が生じたか否かが判定される(S29)。主軸冷却装置7の運転制御に変化が生じたと判定されると、それまでに計測された時間がリセットされ、計測時間がリセットされたタイミングを基点として、時間の計測が再開される(S30)。
【0038】
引き続き、主軸冷却装置7が運転しているか停止しているかの判定が実行される(S31)。
主軸冷却装置7が運転していると判定された場合、それまでに計測された時間と、予め設定された遅れ時間とが比較される(S32)。
【0039】
計測時間と遅れ時間との比較の結果、計測時間が遅れ時間より長い場合、主軸ユニット4の冷却状態は、主軸冷却装置7を運転させてから遅れ時間以上が経過した後の冷却安定状態であると判定される。そして、推定モデルとして、冷却安定状態に対応するよう予め設定された推定モデルAが設定される(S33)。計測時間が遅れ時間より短い場合、主軸ユニット4の冷却状態は、主軸冷却装置7を運転させてから遅れ時間が経過するまでの降温過渡状態であると判定される。そして、推定モデルとして、降温過渡状態に対応するよう予め設定された推定モデルBが設定される(S34)。
【0040】
一方、S31において、主軸冷却装置7が停止していると判定された場合も、それまでに計測された時間と、予め設定された遅れ時間とが比較される(S35)。
計測時間と遅れ時間との比較の結果、計測時間が遅れ時間より長い場合、主軸ユニット4の冷却状態は、主軸冷却装置7を停止させてから遅れ時間以上が経過した後の加熱安定状態であると判定される。そして、推定モデルとして、加熱安定状態に対応するよう予め設定された推定モデルCが設定される(S36)。また、計測時間が遅れ時間より短い場合、主軸ユニット4の冷却状態は、主軸冷却装置7を停止させてから遅れ時間が経過するまでの昇温過渡状態であると判定される。そして、推定モデルとして、昇温過渡状態に対応するよう予め設定された推定モデルDが設定される(S37)。
【0041】
推定モデルが設定された後、引き続き、継続して主軸冷却装置の運転制御を行うか否かについて判定され(S38)、継続する場合は、温度センサ13,14による温度計測(S22)から再開される。
以上の処理が、予め設定された時間間隔tで行われる。
【0042】
以上のように、マシニングセンタ6運転中の主軸冷却装置7の運転又は停止に起因して冷却対象である主軸ユニット4に生じる内外輪温度差Δθabを推定する際、主軸冷却装置7の運転又は停止によって変化する主軸ユニット4の冷却状態に対応する推定モデルを選択することで、主軸ユニット4に生じた内外輪温度差Δθabを正確に推定できる。そのため、推定された内外輪温度差Δθabに応じて主軸冷却装置7を制御可能となり、運転中の主軸ユニット4の温度を安定させることで、主軸ユニット4が焼付くといった不具合を防止できる。
【0043】
以上は、本発明を図示例に基づいて説明したものであり、その技術範囲はこれに限定されるものではない。例えば、温度上昇を推定し、熱変位補正を行ったり、当該箇所を冷却する冷却装置を制御したりする対象となる所定箇所としては、主軸ユニット、主軸以外にも、他の回転軸、コラム等、機械運転により発熱し、熱変位の補正や冷却が必要となる箇所であれば、任意の箇所を設定して良い。
また、温度設定装置、補正量演算装置、温度差演算装置、冷却能力設定装置は、別体として設けられても良いし、NC装置の機能の一部として存在していても良い。
また、推定モデルに含まれる係数、関数は、所定箇所の種類、冷却状態に応じて、適当な温度データから所定部位の推定温度上昇値が算出できるよう任意に設定される。推定温度上昇値の算出についても、取得された温度データから所定箇所の正確な温度上昇値が推定できれば、任意の演算手法を選択可能である。
また、推定モデルの選択時に用いられる遅れ時間は、試験等により決定されるもの以外にも、計算により算出され、決定されても良い。例えば、回転軸に関連する推定モデルの選択時に用いられる遅れ時間は、遅れ時間をT、軸回転速度をN、係数をP,Qとした場合にT=P+QNと表されるような任意の関数を用いて、回転軸の回転速度から算出されるものを用いても良い。さらに、外輪側温度上昇値Δθbの前回処理時との差の絶対値|Δθb-Δθabn-1|が、予め試験等により決定される閾値より大きくなるまでの時間を遅れ時間としても良い。さらにまた、外輪側温度上昇値に代わり、内輪側の推定温度上昇値、又は推定内外輪温度差について、それぞれ前回処理時との差の絶対値を算出し、算出された絶対値が閾値より大きくなるまでの時間を遅れ時間としても良い。
また、冷却能力設定装置が冷却装置に対し、どのような指令を発信するかの判定は、推定内外輪温度差と閾値との比較以外にも、外輪側温度上昇値と予め設定された閾値との比較により判定されても良い。さらに、例えば、主軸のモータ近傍に温度センサを設けてモータ温度を測定し、モータ温度上昇Δθcと予め設定された閾値との比較により判定されても良い。さらにまた、複数の比較結果の組み合わせにより判定されても良い。
【符号の説明】
【0044】
3・・主軸、4・・主軸ユニット(所定箇所、軸受)、7・・主軸冷却装置(冷却装置)、13,14・・温度センサ。
図1
図2
図3
図4