(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037540
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】記憶装置及び記憶装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20240312BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20240312BHJP
【FI】
H01L27/105 447
H01L43/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142460
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 英二
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA15
4M119AA17
4M119BB01
4M119DD01
4M119DD24
4M119DD39
4M119DD42
4M119EE22
4M119EE27
4M119GG01
4M119JJ03
4M119JJ04
4M119JJ12
4M119JJ13
4M119JJ14
5F092AA05
5F092AA15
5F092AB07
5F092AC11
5F092BB23
5F092BB36
5F092BB43
5F092BC04
5F092BE03
5F092CA02
5F092CA03
5F092CA08
5F092CA09
5F092EA07
(57)【要約】
【課題】 データを正しく読み出すことができる記憶装置を提供する。
【解決手段】 一実施形態による記憶装置は、第1強磁性層と、第1強磁性層上の第1絶縁層と、第1絶縁層上の第2強磁性層と、第1強磁性層の側面上、第1絶縁層の側面上、及び第2強磁性層の側面上に亘って広がる第1酸化物と、第1強磁性層、第1絶縁層、及び第2強磁性層を覆い、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化シリコン、又はアルカリ土類金属酸化物を備える第2酸化物と、第2酸化物上のシリコン窒化物とを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1強磁性層と、
前記第1強磁性層上の第1絶縁層と、
前記第1絶縁層上の第2強磁性層と、
前記第1強磁性層の側面上、前記第1絶縁層の側面上、及び前記第2強磁性層の側面上に亘って広がる第1酸化物と、
前記第1強磁性層、前記第1絶縁層、及び前記第2強磁性層を覆い、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化シリコン、又はアルカリ土類金属酸化物を備える第2酸化物と、
前記第2酸化物上のシリコン窒化物と、
を備える記憶装置。
【請求項2】
前記第2酸化物は、1nm以下の厚さを有する、
請求項1に記載の記憶装置。
【請求項3】
前記第1酸化物は、前記第1強磁性層、前記第1絶縁層、及び前記第2強磁性層の少なくとも1つに含まれる少なくとも1つの原子の酸化物を含む、
請求項1に記載の記憶装置。
【請求項4】
前記第2酸化物は、前記第1酸化物の前記第1強磁性層、前記第1絶縁層、及び前記第2強磁性層と面する面と対向する面上に位置する、
請求項1に記載の記憶装置。
【請求項5】
第1方向に沿って前記第1強磁性層と並び、前記第1強磁性層上に位置する導電体と、
前記第1方向と交わる第2方向に沿って前記導電体と並ぶ絶縁体と、
前記絶縁体上に設けられ、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化シリコン、又はアルカリ土類金属酸化物を備える第3酸化物と、
をさらに備える、
請求項1に記載の記憶装置。
【請求項6】
第1方向に沿って前記第1強磁性層と並び、前記第1強磁性層と接する導電体と、
前記導電体上に設けられ、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化シリコン、又はアルカリ土類金属酸化物を備える第3酸化物と、
をさらに備える、
請求項1に記載の記憶装置。
【請求項7】
第1強磁性層と、
前記第1強磁性層上の第1絶縁層と、
前記第1絶縁層上の第2強磁性層と、
前記第1強磁性層の側面上、前記第1絶縁層の側面上、及び前記第2強磁性層の側面上に亘って広がる第1酸化物と、
前記第1酸化物上に設けられ、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化シリコン、又はアルカリ土類金属酸化物を備える第2酸化物と、
前記第2酸化物上のシリコン窒化物と、
を備え、
前記第1絶縁層の前記第2酸化物と面する部分の酸素濃度は、前記第1絶縁層の中央の部分の酸素濃度より高い、
記憶装置。
【請求項8】
前記第1酸化物は、前記第1強磁性層、前記第1絶縁層、及び前記第2強磁性層の少なくとも1つに含まれる少なくとも1つの原子の酸化物を含む、
請求項7に記載の記憶装置。
【請求項9】
前記第2酸化物は、前記第1酸化物の前記第1強磁性層、前記第1絶縁層、及び前記第2強磁性層と面する面と対向する面上に位置する、
請求項7に記載の記憶装置。
【請求項10】
第1方向に沿って前記第1強磁性層と並び、前記第1強磁性層上に位置する導電体と、
前記第1方向と交わる第2方向に沿って前記導電体と並ぶ絶縁体と、
前記絶縁体上に設けられ、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化シリコン、又はアルカリ土類金属酸化物を備える第3酸化物と、
をさらに備える、
請求項7に記載の記憶装置。
【請求項11】
第1方向に沿って前記第1強磁性層と並び、前記第1強磁性層と接する導電体と、
前記導電体上に設けられ、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化シリコン、又はアルカリ土類金属酸化物を備える第3酸化物と、
をさらに備える、
請求項7に記載の記憶装置。
【請求項12】
第1積層体に対して第1イオンビームを用いる第1エッチングを行って、第2積層体を形成することと、
前記第2積層体の側面を含む第1領域を酸化することと、
前記第2積層体の側面上に、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化シリコン、又はアルカリ土類金属酸化物を備える第2酸化物を形成することと、
前記第2酸化物に対して、第2イオンビームを用いる第2エッチングを行うことと、
を備える、
記憶装置の製造方法。
【請求項13】
前記第2エッチングは、前記第1領域を部分的に除去する、
請求項12に記載の記憶装置の製造方法。
【請求項14】
前記第2エッチングの後、前記第2酸化物上に、シリコン窒化物を形成することをさらに備える、
請求項12に記載の記憶装置の製造方法。
【請求項15】
前記第1エッチングの開始から前記第2酸化物の形成の開始まで前記第2積層体は処理装置内に維持され、前記第2積層体は前記第2酸化物の堆積前に前記処理装置内で酸素を用いた自然酸化により酸化される、
請求項12に記載の記憶装置の製造方法。
【請求項16】
前記第2積層体は、第1強磁性層と、前記第1強磁性層上の第1絶縁層と、前記第1絶縁層上の第2強磁性層と、を含む、
請求項12に記載の記憶装置の製造方法。
【請求項17】
前記第1領域は、前記第1強磁性層、前記第1絶縁層、及び前記第2強磁性層の少なくとも1つに含まれる少なくとも1つの原子を含む、
請求項16に記載の記憶装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、概して記憶装置及び記憶装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動的に可変な抵抗を有する素子を用いてデータを記憶する記憶装置が知られている。記憶装置は、データを正しく記憶すること及び読み出すことを求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
データを正しく読み出すことができる記憶装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態による記憶装置は、第1強磁性層と、上記第1強磁性層上の第1絶縁層と、上記第1絶縁層上の第2強磁性層と、上記第1強磁性層の側面上、上記第1絶縁層の側面上、及び上記第2強磁性層の側面上に亘って広がる第1酸化物と、上記第1強磁性層、上記第1絶縁層、及び上記第2強磁性層を覆い、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化シリコン、又はアルカリ土類金属酸化物を備える第2酸化物と、上記第2酸化物上のシリコン窒化物とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態の記憶装置の機能ブロックを示す図。
【
図3】第1実施形態のメモリセルアレイの一部の斜視図。
【
図4】第1実施形態のメモリセルの構造の例の断面を示す図。
【
図5】第1実施形態の記憶装置の製造工程の間の状態を示す図。
【
図6】第1実施形態の記憶装置の製造工程の間の状態を示す図。
【
図7】第1実施形態の記憶装置の製造工程の間の状態を示す図。
【
図8】第1実施形態の記憶装置の製造工程の間の状態を示す図。
【
図9】第1実施形態の記憶装置の製造工程の間の状態を示す図。
【
図10】第1実施形態の記憶装置の製造工程の間の状態を拡大して示す図。
【
図11】第1実施形態の酸化物の厚さとシャント不良率の関係を示す図。
【
図12】参考用の記憶装置の一部の製造工程の間の状態を示す図。
【
図13】参考用のMTJ素子中の酸素原子の分布を示す図。
【
図14】第1実施形態のMTJ素子中の酸素原子の分布を示す図。
【
図15】第1実施形態の酸化物の厚さとMTJ素子の最小の抵抗の関係を示す図。
【
図16】第1実施形態の第1変形例の記憶装置の機能ブロックを示す図。
【
図17】第1実施形態の第1変形例のメモリセルの回路構成を示す図。
【
図18】第1実施形態の第1変形例のメモリセルの構造の例の断面を示す図。
【
図19】第1実施形態の第2変形例のメモリセルの構造の例の断面を示す図。
【
図20】第1実施形態の第2変形例のメモリセルの構造の例の断面を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に実施形態が図面を参照して記述される。或る実施形態又は相違する実施形態での略同一の機能及び構成を有する複数の構成要素は、互いに区別されるために、参照符号の末尾にさらなる数字又は文字が付加される場合がある。或る記述済みの実施形態に後続する実施形態では、記述済みの実施形態と異なる点が主に記述される。或る実施形態についての記述は全て、明示的に又は自明的に排除されない限り、別の実施形態の記述としても当てはまる。
【0008】
図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なり得る。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれ得る。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において、或る第1要素が別の第2要素に「接続されている」とは、第1要素が直接的又は常時或いは選択的に導電性となる要素を介して第2要素に接続されていることを含む。
【0010】
以下、実施形態の記述に、xyz直交座標系が用いられる。以下の記述において、「下」との記述及びその派生語並びに関連語は、z軸上のより小さい座標の位置を指し、「上」との記述及びその派生語並びに関連語は、z軸上のより大きい座標の位置を指す。
【0011】
1.第1実施形態
1.1.構造(構成)
1.1.1.全体の構成
図1は、第1実施形態の磁気記憶装置の機能ブロックを示す。記憶装置1は、データを記憶する装置である。記憶装置1は、可変な抵抗を示す磁性体の積層体を用いてデータを記憶する。
図1に示されているように、記憶装置1は、メモリセルアレイ11、入出力回路12、制御回路13、ロウ選択回路14、カラム選択回路15、書込み回路16、及び読出し回路17を含む。
【0012】
メモリセルアレイ11は、配列された複数のメモリセルMCの集合である。メモリセルMCは、データを不揮発に記憶することができる。メモリセルアレイ11中には、複数のワード線WL、及び複数のビット線BLが位置している。各メモリセルMCは、1つのワード線WL及び1つのビット線BLと接続されている。ワード線WLは行(ロウ)と関連付けられている。ビット線BLは列(カラム)と関連付けられている。1つの行の選択及び1つの列の選択により、1つのメモリセルMCが特定される。
【0013】
入出力回路12は、データ及び信号の入出力を行う回路である。入出力回路12は、記憶装置1の外部から、例えばメモリコントローラから、制御信号CNT、コマンドCMD、アドレス情報ADD、及びデータDATを受け取る。入出力回路12は、データDATを出力する。データDATは、記憶装置1でのデータ書込みの場合は、書込みデータである。データDATは、記憶装置1からのデータ読出しの場合は、読出しデータである。
【0014】
制御回路13は、記憶装置1の動作を制御する回路である。制御回路13は、入出力回路12から制御信号CNT及びコマンドCMDを受け取る。制御回路13は、制御信号CNTによって指示される制御及びコマンドCMDに基づいて、書込み回路16及び読出し回路17を制御する。具体的には、制御回路13は、メモリセルアレイ11へのデータの書込みの間に、データ書込みに使用される電圧を書込み回路16に供給する。また、制御回路13は、メモリセルアレイ11からのデータの読出しの間に、データ読出しに使用される電圧を読出し回路17に供給する。
【0015】
ロウ選択回路14は、メモリセルMCの行を選択する回路である。ロウ選択回路14は、入出力回路12からアドレス情報ADDを受け取り、受け取られたアドレス情報ADDにより特定される行と関連付けられた1つのワード線WLを選択された状態にする。
【0016】
カラム選択回路15は、メモリセルMCの列を選択する回路である。カラム選択回路15は、入出力回路12からアドレス情報ADDを受け取り、受け取られたアドレス情報ADDにより特定される列と関連付けられた1又は複数のビット線BLを選択された状態にする。
【0017】
書込み回路16は、入出力回路12から書込みデータDATを受け取り、制御回路13の制御及び書込みデータDATに基づいて、データ書込みに使用される電圧をカラム選択回路15に供給する。
【0018】
読出し回路17は、制御回路13の制御に基づいて、データ読出しに使用される電圧を使用して、メモリセルMCに保持されているデータを決定する。決定されたデータは、読出しデータDATとして、入出力回路12に供給される。読出し回路17は、センスアンプを含む。
【0019】
1.1.2.メモリセルアレイの回路構成
図2は、第1実施形態のメモリセルアレイ11の回路図である。
図2に示されているように、メモリセルアレイ11中には、M+1(Mは自然数)本のワード線WL(WL_0、WL_1、…、WL_M)、及びN+1(Nは自然数)本のビット線BL(BL_0、BL_1、…、BL_N)が位置している。
【0020】
各メモリセルMCは、1つのワード線WL及び1つのビット線BLと接続されている。各メモリセルMCは、1つのMTJ素子MTJ及び1つのスイッチング素子SEを含む。各メモリセルMCにおいて、MTJ素子MTJとスイッチング素子SEは直列に接続されている。各メモリセルMCのスイッチング素子SEは、1つのビット線BLと接続されている。各メモリセルMCのMTJ素子MTJは、1つのワード線WLと接続されている。
【0021】
MTJ素子MTJは、トンネル磁気抵抗効果を示し、例えば、磁気トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction; MTJ)を含む素子である。MTJ素子MTJは、低抵抗の状態と高抵抗の状態との間を切り替わることができる可変抵抗素子である。MTJ素子MTJは、2つの抵抗状態の違いを利用して、1ビットのデータを記憶することができる。例えば、MTJ素子MTJは、低抵抗状態によって“0”データを記憶し、高抵抗状態によって“1”データを記憶する。
【0022】
スイッチング素子SEは、自身の両端の電気的接続又は切断を行う素子である。スイッチング素子SEは、2つの端子を有する。スイッチング素子SEは、2端子間に印加される電圧が或る第1閾値未満の場合、高抵抗状態、例えば電気的に非導通状態(オフ状態)である。2端子間に印加される電圧が上昇して、第1閾値以上になると、スイッチング素子SEは低抵抗状態、例えば電気的に導通状態(オン状態)になる。低抵抗状態のスイッチング素子SEの2端子間に印加される電圧が低下して、第2閾値以下になると、スイッチング素子SEは高抵抗状態になる。スイッチング素子SEは、このような第1方向に印加される電圧の大きさに基づく高抵抗状態及び低抵抗状態の間の切替わりの機能と同じ機能を、第1方向と反対の第2方向についても有する。すなわち、スイッチング素子SEは、双方向スイッチング素子である。スイッチング素子SEのオン又はオフにより、このスイッチング素子SEと接続されたMTJ素子MTJへの電流の供給の有無、すなわちMTJ素子MTJの選択又は非選択が制御されることが可能である。
【0023】
1.1.3.メモリセルアレイの構造
図3は、第1実施形態のメモリセルアレイ11の一部の斜視図である。
図3に示されているように、複数の導電体21及び複数の導電体22が設けられている。
【0024】
導電体21は、x軸に沿って延び、y軸に沿って並ぶ。各導電体21は、1つのワード線WLとして機能する。
【0025】
導電体22は、導電体21の上方に位置する。導電体22は、y軸に沿って延び、x軸に沿って並ぶ。各導電体22は、1つのビット線BLとして機能する。
【0026】
導電体21と導電体22の交点の各々に1つのメモリセルMCが設けられている。メモリセルMCは、xy面に沿って行列状に配列されている。各メモリセルMCは、スイッチング素子SEとして機能する構造と、MTJ素子MTJとして機能する構造を含む。スイッチング素子SEとして機能する構造及びMTJ素子MTJとして機能する構造は、各々、1又は複数の層を含む。例えば、MTJ素子MTJとして機能する構造は、スイッチング素子SEとして機能する構造の上面上に位置する。メモリセルMCの下面は、1つの導電体21の上面と接している。メモリセルMCの上面は、1つの導電体22の下面と接している。
【0027】
1.1.4.メモリセル
図4は、第1実施形態のメモリセルの構造の例の断面を示す。
【0028】
メモリセルMCは、
図3を参照して上記されているように、MTJ素子MTJ及びスイッチング素子SEを含み、さらに、キャップ層39、酸化物41、酸化物42、導電体44、及びシリコン窒化物46を含む。
【0029】
スイッチング素子SEは、可変抵抗材料32を含む。可変抵抗材料32は、動的に可変な抵抗を示す材料であり、例えば、層の形状を有する。可変抵抗材料32は、2端子間スイッチング素子であり、2端子のうちの第1端子は可変抵抗材料32の上面及び下面の一方であり、2端子のうちの第2端子は可変抵抗材料32の上面及び下面の他方である。2端子間に印加される電圧が或る第1閾値未満の場合、可変抵抗材料は高抵抗状態、例えば電気的に非導通状態である。2端子間に印加される電圧が上昇し、第1閾値以上になると、可変抵抗材料は低抵抗状態、例えば電気的に導通状態になる。低抵抗状態の可変抵抗材料32の2端子間に印加される電圧が低下し、第2閾値以下になると、可変抵抗材料は高抵抗状態になる。
【0030】
可変抵抗材料32は、絶縁体と、絶縁体にイオン注入により導入されたドーパントを含む。絶縁体は、例えば、酸化物を含み、SiO2又はSiO2から実質的になる材料を含む。ドーパントは、例えば、ヒ素(As)、及びゲルマニウム(Ge)を含む。本明細書及び特許請求の範囲において、「実質的になる(又は、構成される)」という記載及び同種の記載は、或る材料から「実質的になる」構成要素が意図せぬ不純物を含有することを許容することを意味する。
【0031】
スイッチング素子SEは、下部電極31及び上部電極33をさらに含み得る。
図4は、そのような例を示す。可変抵抗材料32は下部電極31の上面上に位置し、上部電極33は可変抵抗材料32の上面上に位置する。下部電極31及び上部電極33は、窒化チタン(TiN)を含むか、窒化チタンから実質的になる。
【0032】
MTJ素子MTJは、強磁性層35、絶縁層36、及び強磁性層37を含む。
【0033】
強磁性層35は、強磁性を示す材料の層である。強磁性層35は、スイッチング素子SEの上面上に位置する。強磁性層35は、例えば、コバルト鉄ボロン(CoFeB)又はホウ化鉄(FeB)を含み、コバルト鉄ボロン又はホウ化鉄の層を含む。強磁性層35は、複数の層を含んでいてもよい。そのような層は、金属などの導電体の層を含む。金属の例は、プラチナ(Pt)及びルテニウム(Ru)を含む。
【0034】
強磁性層35は、強磁性層35、絶縁層36、及び強磁性層37の界面を貫く方向に沿った磁化容易軸を有し、例えば、界面に対して45°以上90°以下の角度の磁化容易軸を有し、例えば、界面と直交する方向に沿う磁化容易軸を有する。強磁性層35の磁化の向きはメモリセルMCでのデータの読出し及び書込みによっても不変であることを意図されている。強磁性層35は、いわゆる参照層(RL)として機能することができる。以下、強磁性層35は、参照層35と称される場合がある。強磁性層35は、例えば、円錐台の形状を有する。
【0035】
絶縁層36は、絶縁体の層である。絶縁層36は、強磁性層35の上面上に位置する。絶縁層36は、例えば、酸化マグネシウム(MgO)を含むか、酸化マグネシウムから実質的になり、いわゆるトンネルバリア(TB)として機能する。以下、絶縁層36は、トンネルバリア層と称される場合がある。絶縁層36は、例えば、円錐台の形状を有する。
【0036】
強磁性層37は、強磁性を示す材料の層である。強磁性層37は、例えば、コバルト鉄ボロン(CoFeB)又はホウ化鉄(FeB)を含むか、コバルト鉄ボロン又はホウ化鉄から実質的になる。強磁性層37は、強磁性層35、絶縁層36、及び強磁性層37の界面を貫く方向に沿う磁化容易軸を有し、例えば、界面に対して45°以上90°以下の角度の磁化容易軸を有し、例えば、界面と直交する方向に沿う磁化容易軸を有する。強磁性層37の磁化の向きはメモリセルMCへのデータ書込みによって可変であり、強磁性層37は、いわゆる記憶層(SL)として機能することができる。以下、強磁性層37は、記憶層37と称される場合がある。強磁性層37は、例えば、円錐台の形状を有する。
【0037】
記憶層37の磁化の向きが参照層35の磁化の向きと平行であると、MTJ素子MTJは、或る低い抵抗を有する。記憶層37の磁化の向きが参照層35の磁化の向きと反平行であると、MTJ素子MTJは、記憶層37の磁化の向きと参照層35の磁化の向きが平行である場合の抵抗よりも高い抵抗を有する。
【0038】
記憶層37から参照層35に向かって或る大きさの書込み電流Iwpが流れると、記憶層37の磁化の向きは参照層35の磁化の向きと平行になる。参照層35から記憶層37に向かって或る大きさの書込み電流Iwapが流れると、記憶層37の磁化の向きは参照層35の磁化の向きと反平行になる。
【0039】
酸化物41は、参照層35の側面、トンネルバリア層36の側面、及び記憶層37の側面上に位置する。酸化物41は、参照層35の側面、トンネルバリア層36の側面、及び記憶層37の側面上に亘って広がっている。酸化物41は、少なくとも、トンネルバリア層36の側面を覆い、且つ、MTJ素子MTJの側面のうち、トンネルバリア層36と参照層35の界面を含む部分、及びトンネルバリア層36と記憶層37の界面を含む部分を覆う。酸化物41は、例えば、参照層35の側面の全体、トンネルバリア層36の側面の全体、及び記憶層37の側面の全体を覆う。
【0040】
酸化物41は、参照層35に含まれる元素の酸化物、及び(又は)記憶層37に含まれる元素の酸化物を含むか、参照層35に含まれる元素の酸化物、及び(又は)記憶層37に含まれる元素の酸化物から実質的になる。酸化物41は、さらに、上部電極33に含まれる元素の酸化物を含み得る。
【0041】
キャップ層39は、記憶層37の上面及び酸化物41の上面上に位置する。キャップ層39は、例えば、記憶層37及び酸化物41の上面を覆う。キャップ層39は、遷移金属を含む層及び(又は)酸化物の層を含む。遷移金属の例は、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、及びロジウム(Rh)を含む。酸化物の例は、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、及び酸化ガドリニウムを含む。
【0042】
導電体44は、キャップ層39の上面上に位置する。導電体44は、例えば、キャップ層39の上面を覆う。導電体44は、窒化チタンを含むか、窒化チタンから実質的になる。
【0043】
酸化物42は、酸化物41の側面(MTJ素子と反対側の表面)上に位置する。酸化物42は、少なくとも、酸化物41の側面のうちの、トンネルバリア層36と参照層35の界面の高さの位置から、トンネルバリア層36と記憶層37の界面の高さの位置に亘って延びている。酸化物42は、酸化物41の側面のうちの、記憶層37の上面の高さの位置から、参照層35の下面の高さの位置に亘って延びている。酸化物42は、例えば、酸化物41の側面の全体を覆う。酸化物42は、さらに、キャップ層39及び導電体44の側面を覆っていてもよい。
【0044】
酸化物42は、以下の酸化物を含むか、以下の酸化物から実質的になる。酸化物42の酸化されている元素として、酸化されやすい、酸化物が安定しているために窒化されにくい、及び(又は)窒化された状態でも絶縁性を維持する元素が使用される。さらに、酸化物42として、後述の第1IBE(Ion Beam Etching)でのイオンビームに対して遅いレートを有する、すなわち、第1IBEに対して高い耐性を有していて、第1IBEで削られにくい酸化物が使用される。酸化物の例は、アルカリ土類金属(カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、及びラジウム(Ra))の酸化物、酸化マグネシウム、及び酸化アルミニウムを含む。アルカリ土類金属、マグネシウム、及びアルミニウムは酸化されやすく、アルカリ土類金属酸化物、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムは安定しているため、アルカリ土類金属、マグネシウム、及びアルミニウムは窒化されにくい。さらに、アルカリ土類金属酸化物、酸化マグネシウム、及び酸化アルミニウムは、酸化物の一部が窒化されても絶縁性を維持する。具体的には、酸化物42は、アルカリ土類金属酸化物、すなわち酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、及び(又は)酸化ラジウム、酸化マグネシウム、並びに(或いは)酸化アルミニウムを含むか、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ラジウム、酸化マグネシウム、及び(又は)酸化アルミニウムから実質的になる。酸化物42は、酸化シリコンを含むか、酸化シリコンから実質的になっていてもよい。
【0045】
酸化物42は、1nm以下の厚さを有する。酸化物42の厚さについては、後に詳述される。
【0046】
シリコン窒化物46は、酸化物42の側面(MTJ素子と反対側の表面)上に位置する。シリコン窒化物46は、例えば、酸化物42の側面を覆う。
【0047】
1.2.製造方法
図5乃至
図9は、第1実施形態の記憶装置の製造工程の間の状態を順に示す。
図5乃至
図8は、
図4に示される領域と同じ領域を示す。
図9は、
図4の一部とその近傍の領域を示し、具体的には、
図4に示されるメモリセルMCと、その隣のメモリセルMCの一部を示す。
【0048】
図5に示されているように、導電体31A、可変抵抗材料32A、導電体33A、強磁性体35A、絶縁体36A、強磁性体37A、導電体39A、及び導電体44Aが、この順で堆積される。導電体31A、可変抵抗材料32A、導電体33A、強磁性体35A、絶縁体36A、強磁性体37A、導電体39A、及び導電体44Aは、それぞれ、後の工程によって、下部電極31、可変抵抗材料32、上部電極33、強磁性層35、絶縁層36、強磁性層37、及びキャップ層39に成形される要素である。導電体44Aは、後の工程によって、導電体44になる要素である。堆積の方法の例は、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition; CVD)及びスパッタリングを含む。
【0049】
導電体44Aは、メモリセルMCが形成される予定の領域の直上において残存し、その他の領域において開口44A1を有する。
【0050】
図6に示されているように、ここまでの工程によって得られる構造が、IBEにより、部分的に除去される。
図6のIBEは、第1IBEと称される場合がある。第1IBEは、導電体44Aをマスクとして用いて行われる。イオンビームは、開口44A1中を進行し、開口44A1の中の要素を削る。第1IBEにより、導電体39A、強磁性体37A、絶縁体36A、及び強磁性体35Aは、それぞれ、キャップ層39、強磁性層37、絶縁層36、及び強磁性層35へと成形される。第1IBEにより導電体44Aの上面は低下するとともに部分的に削られて、導電体44になる。また、導電体33Aの上面のうち、開口44A1中の部分が露出する。導電体33Aの上面のうちの露出している部分は第1IBEにより削られて、削られた部分の表面の位置が低下する。
【0051】
IBEは、イオンビームが衝突した物体の状態を変化させ得る。このため、第1IBEの実行の結果、強磁性層37、絶縁層36、及び強磁性層35の側面の状態が変化し得る。すなわち、IBEは、イオンビームが衝突した物体にカスケード効果を起こす。カスケード効果によって、イオンビームが衝突した物体の表面の原子が周囲に移動する。このため、強磁性層37、絶縁層36、及び強磁性層35の側面に、強磁性層37、絶縁層36、及び強磁性層35のそれぞれに含まれる原子が混ざり合った混合領域51が形成される。強磁性体35A、絶縁体36A、及び強磁性体37Aは、
図4を参照して上記されている原子を含み、含まれている原子のいくつかは金属である。よって、混合領域51は、導電性を有する。
【0052】
また、IBEによるイオンビームが衝突した物体から除去された原子が周りの物体に堆積し、再堆積層52が形成される。そのような原子は、導電体44A、導電体39A、強磁性体37A、絶縁体36A、強磁性体35A、及び導電体33Aから削られた原子を含む。再堆積層52は、強磁性層37の側面上、絶縁層36の側面上、及び強磁性層35の側面上に亘って広がり、具体的には、混合領域51の表面上に亘って広がる。強磁性体35A、強磁性体37A、導電体39A、及び導電体44Aは、
図4を参照して上記されている原子を含み、含まれている原子のいくつかは金属である。よって、再堆積層52は、導電性を有する。
【0053】
図7に示されているように、混合領域51及び再堆積層52が、酸化されて酸化物41になる。酸化は、混合領域51及び再堆積層52が酸化される強度でよく、混合領域51及び再堆積層52以外の部分、例えば、強磁性層37及び(又は)及び強磁性層35の一部などが酸化されることは必要ではない。また、混合領域51及び再堆積層52は極薄い。このため、酸化は、非常に弱い強度で行われる。例えば、酸化は、酸化のための特別及び(又は)専用の工程を経ることなく行われることが可能である。具体的には、酸化の方法は、第1IBEを行うIBE装置のチャンバー内での酸素を用いた酸化(in-situ自然酸化)と、第1IBE後の大気への暴露による大気酸化を含む。大気酸化は、in-situ自然酸化より強い。in-situ自然酸化は、
図6に示されている工程の開始から後述の
図8に示されている工程の開始までの間、製造中のメモリセルMCを
図6及び
図8に示されている工程を行うための装置内に維持したまま装置内に酸素を流すことで形成される。このため、
図6に示される工程の開始から後述の
図8に示されている工程の開始までの間、製造中のメモリセルMCは大気に晒されない。
【0054】
図8に示されているように、ここまでの工程によって得られる構造の全体に酸化物42Aが堆積される。酸化物42Aは、後の工程によって酸化物42に成形される要素である。酸化物42Aは、酸化物41及びキャップ層39の側面を覆い、導電体44の上面及び側面を覆う。また、酸化物42Aは、導電体33Aの上面のうち、強磁性層35及び酸化物41により覆われていない部分を覆う。酸化物42Aは、酸化物42の厚さと同等の厚さを有する。
【0055】
図9に示されているように、酸化物42Aが、IBEにより部分的に除去される。
図9のIBEは、第2IBEと称される場合がある。第2IBEによって、酸化物42Aから酸化物42が形成される。すなわち、第2IBEは、各メモリセルMCの導電体44の上面上の部分を除去する。また、第2IBEは、酸化物42Aのうち、各メモリセルMCの側面上の部分の一部を薄くする。
【0056】
第2IBEの条件、特に、エネルギーと、酸化物42(酸化物42A)の厚さは互いに関係する。第2IBEの条件は、少なくとも、第2IBEの結果、酸化物42が残存する条件である。酸化物42Aが非常に薄いことに起因して、イオンビームの一部は、酸化物42Aを通過して、酸化物41に到達すると考えられる。このため、第2IBEによって、酸化物41が部分的に削られ、酸化物41は薄くなる。第2IBEは、このように酸化物41を薄くすることを目的の1つとして行われる。このため、第2IBEのエネルギーの下限は、酸化物42Aの厚さに基づいて、イオンビームが酸化物42Aを通過して酸化物41を部分的に除去できる大きさを有する。一方、イオンビームのエネルギーが高過ぎると、イオンビームは、酸化物41も通過し得る。酸化物41を通過したイオンビームは、強磁性層37、絶縁層36、及び(又は)強磁性層35に到達し、強磁性層37、絶縁層36、及び(又は)強磁性層35の結晶構造を破壊し得る。このことは、MTJ素子MTJの磁気特性を劣化させる。よって、第2IBEのエネルギーの上限は、第2IBEによるイオンビームが、MTJ素子MTJに求められる磁気特性を下回るほどに強磁性層37、絶縁層36、及び強磁性層35の結晶構造を破壊しない大きさを有する。
【0057】
また、第2IBEは、強磁性層37、絶縁層36、及び強磁性層35の界面に垂直な軸に対して10°程度の角度で進行するイオンビームを使用する。
【0058】
第2IBEはこのようなエネルギー条件及び角度を使用して行われ、さらに、酸化物42Aは、第2IBEに対して高い耐性、すなわち高い硬度を有する。よって、酸化物42Aのうち導電体33Aの上面上の部分、すなわち、隣合うメモリセルMCの間の部分は、第2IBEによっても削られ切れずに残存する。
【0059】
図9を使用して記述されている第2IBEの後、
図4に示されているように、酸化物42の表面(MTJ素子MTJと反対側の表面)上に、シリコン窒化物46が形成される。次に、エッチングによって、酸化物42Aが除去されるとともに、導電体33A、可変抵抗材料32A、及び導電体31Aが、それぞれ、上部電極33、可変抵抗材料32、及び下部電極31に成形される。エッチングの例は、RIE(Reactive Ion Etching)及びIBEを含む。こうして、
図4に示される構造が完成する。
【0060】
【0061】
図6を参照して上記されているとともに
図10の部分(a)に示されているように、第1IBEによって、混合領域51及び再堆積層52が形成される。製造工程のうちの
図10の部分(a)に示される段階(
図6に示される段階)では、混合領域51及び再堆積層52は、導電性を有している。
図10では、混合領域51及び再堆積層52中の矢印によって、混合領域51及び再堆積層52の導電性が表現されている。
【0062】
図7を参照して上記されているとともに
図10の部分(b)に示されているように、混合領域51及び再堆積層52が酸化されることにより、酸化物41が形成される。混合領域51及び再堆積層52であった部分は、酸化により導電性を失っている。
【0063】
図8を参照して上記されているとともに
図10の部分(c)に示されているように、酸化物41の表面上に、酸化物42Aが形成される。
【0064】
図9を参照して上記されているとともに
図10の部分(d)に示されているように、第2IBEにより酸化物42Aが部分的に除去され、酸化物42が形成される。第2IBEのイオンビームの一部は、酸化物42Aを介して酸化物41に到達し、酸化物41を部分的に除去する。この結果、
図10の部分(d)に示されているように、酸化物41の厚さは、第2IBEが行われる前の厚さから減少する。
【0065】
図4を参照して上記されているとともに
図10の部分(e)に示されているように、シリコン窒化物46が形成される。
【0066】
1.3.酸化物42の厚さ
酸化物42は、以下に記述されているように、1nm以下の厚さを有する。厚さは、例えば、酸化物42の酸化物41と面する面と、酸化物42のシリコン窒化物46と面する面の間の距離である。酸化物42の厚さは、例えば、酸化物42の種々の位置での厚さのうちの最大の厚さである。
【0067】
図11は、第1実施形態の酸化物42の厚さとシャント不良率の関係を示す。シャント不良は、トンネルバリア層36の側面上の導電性の物質によって、参照層35と記憶層37が導通する不良を指す。シャント不良率は、或る数のMTJ素子のうち、或る条件に基づいてシャント不良が起こっていると判断されたMTJ素子の割合を指す。条件は、例えば、MTJ素子の抵抗値及び(又は)磁気抵抗比(MR比)に基づく。すなわち、複数のMTJ素子の抵抗値及び(又は)MR比の正規分布よりも或る範囲以上に小さい抵抗値及び(又は)MR比を有するMTJ素子においてシャント不良が起こっていると判断される。MR比は、或るMTJ素子の高抵抗状態のときの抵抗と低抵抗状態のときの抵抗の比である。
【0068】
図11は、縦軸において、シャント不良率を任意単位で示す。
図11は、酸化物42の形成の方法の2つのパターンについて示す。製造方法の記述において述べられているように、酸化物42は、酸化物42の位置に位置する導電性の物質を酸化することによって形成される。シャント不良の抑制のために、導電性物質を強く酸化することが考えられる。一方、シャント不良が抑制できるのであれば、導電性物質の酸化は、弱くても済む。酸化の方法は、第1IBEを行うIBE装置内でのin-situ自然酸化及び第1IBE後に大気への暴露による大気酸化を含む。
【0069】
図11は、酸化物42が酸化アルミニウムである例を示す。
【0070】
図11から明らかなように、いずれのパターンにおいても、酸化物42の厚さが1nm以下であると、1nm超である場合と比べて顕著にシャント不良率が低い。特に、in-situ自然酸化を使用した場合に、1nmでのシャント不良率の低下が顕著である。
図7を参照して上記されているように、酸化物42の酸化は、弱い酸化でよい。酸化物42の厚さが1nm以下であると、in-situ自然酸化のような非常に弱い酸化であっても、大気酸化と同程度の低いシャント不良率を達成できる。よって、酸化物42は、1nm以下の厚さを有する。
【0071】
1.4.利点(効果)
第1実施形態によれば、以下に記述されているように、シャント不良の発生を抑制されているとともに抑制された抵抗を有するMTJ素子が提供されることが可能である。
【0072】
一般に、MTJ素子へと加工される材料を個別の複数のMTJ素子へと成形するためのIBE(例えば、上記の第1IBE)によって、混合領域51及び再堆積層52のような混合領域及び再堆積層が不可避的に形成される。混合領域及び再堆積層は、導電性の原子を含むため、酸化によって絶縁体にされる。これらの導電性原子は、酸化されにくい原子を含み得る。酸化されにくい原子を酸化するために、参考用の記憶装置の製造方法として、混合領域及び再堆積層は強く酸化される。この強い酸化により、混合領域及び再堆積層以外の部分も酸化され得る。
図12は、参考用の記憶装置の一部の製造工程の間の状態を示す。
【0073】
図12は、参考用の記憶装置のMTJ素子MTJrを示し、第1実施形態の
図10と同様の領域を示す。MTJ素子MTJrは、参照層35r、トンネルバリア層36r、及び記憶層37rを含む。
図12の部分(a)は、第1実施形態の
図10の部分(a)と同様であり、混合領域51r及び再堆積層52rが形成されていることを示す。
【0074】
図12の部分(b)に示されているように、第1実施形態の
図7の工程と同様、混合領域51r及び再堆積層52rが酸化される。酸化は、第1実施形態の
図7の工程と異なり、強く行われる。強い酸化により、混合領域51r及び再堆積層52rが酸化物41rへと変換されるだけでなく、参照層35rのうちのトンネルバリア層36rと面する部分及び記憶層37rのうちのトンネルバリア層36rと面する部分が不可避的に酸化される。この結果、参照層35rのうちのトンネルバリア層36rと面する部分に酸化領域351が形成され、記憶層37rのうちのトンネルバリア層36rと面する部分に酸化領域371が形成される。酸化領域351及び371は、それぞれ、これらの領域が酸化されていない状態での抵抗より高い抵抗を有する。このため、MTJ素子MTJrに書込み回路16を使用して書込み電流を供給しようとすると、MTJ素子MTJrに必要な書込み電流Iwp及びIwapが供給されない。このため、シャント不良を抑制する目的で製造途中のMTJ素子MTJrを強く酸化すると、MTJ素子MTJrに十分な大きさの書込み電流Iwp及びIwapが流れず、MTJ素子MTJrに対するデータ書込み不良が生じ得る。または、高抵抗のMTJ素子MTJrに十分な大きさの書込み電流Iwp及びIwapを供給するために高い電圧を印加できる書込み回路を使用すると、トンネルバリア層36が破壊される場合がある。よって、MTJ素子MTJrに、より高電圧を印加することもできない。このように、シャント不良率とデータ書込み不良はトレードオフの関係を有する。
【0075】
図12の部分(c)に示されているように、酸化物41r上にシリコン窒化物46rが堆積される。シリコン窒化物46r中の窒素は酸化物41rへと拡散する。窒素は、酸化物41r中で、酸素原子を置換し得る。このため、酸化物41r中の或る金属、例えば鉄は、酸化している状態では絶縁性であるものの、窒化している状態では導電性を有する。このような金属と結合している酸素原子がシリコン窒化物46rから拡散してきた窒素原子と置換される結果、酸化物41rが導電体61に変化し得る。導電体61は、MTJ素子MTJrのシャント不良率を上げ得る。
【0076】
第1実施形態によれば、MTJ素子MTJの側面上に酸化物41が位置し、酸化物41上に1nm以下の厚さの酸化物42が設けられ、酸化物42上にシリコン窒化物46が設けられる。酸化物42は、酸化されやすい元素の酸化物であり、酸化されている状態が安定しているゆえに窒化されにくく、窒化されても絶縁性を有する。よって、酸化物42は、接触するシリコン窒化物46から拡散してきた窒素によって窒化物へと変化しづらい。このため、酸化物42が窒化物となって絶縁性を減じてシャント不良率を上げることが抑制されることが可能である。また、酸化物42の酸化されている元素は、窒化された状態であっても高い絶縁性を有するため、酸化物42の一部が窒化しても、酸化物42は高い絶縁性を保ってシャント不良を抑制できる。
【0077】
また、酸化物42によって、酸化物41とシリコン窒化物46は接触していない。このことによって、シリコン窒化物46から拡散してきた窒素原子が酸化物41に到達し難い。よって、酸化物41中の金属酸化物が金属窒化物に変わって酸化物41の絶縁性を減じることが抑制されることが可能である。このことは、シャント不良を抑制できる。
【0078】
また、酸化物42は、1nm以下の厚さを有する。このため、イオンビームが酸化物42を通過しやすい。このことは、酸化物42よりも内側に位置する酸化物41を、酸化物42を通過するイオンビームによって部分的に除去することを可能にする。すなわち、酸化物41の部分的な除去が可能であることによって、酸化物41によるシャント不良の発生に対する寄与が減じられる。実際、
図12に示されているとともに上記されているように、酸化物42が1nm以下であると、顕著にシャント不良率が低い。
【0079】
酸化物41によるシャント不良の発生に対する寄与が小さいため、酸化物41の酸化の程度が低くても、シャント不良が起こり難い。このため、混合領域51及び再堆積層52の酸化が参考用のMTJ素子MTJrでの混合領域51r及び再堆積層52rの酸化より弱くても、MTJ素子MTJのシャント不良は、MTJ素子MTJrでのシャント不良よりも起こり難い。よって、
図7に示されている工程による混合領域51及び再堆積層52の酸化は弱く行われることが可能である。このことは、参照層35のうちのトンネルバリア層36と面する部分が酸化領域351のように酸化されたり、記憶層37のうちのトンネルバリア層36と面する部分が酸化領域371のように酸化されることを抑制する。よって、MTJ素子MTJに、MTJ素子MTJrと異なり、十分な大きさの書込み電流Iwp及びIwapが供給されることが可能である。よって、MTJ素子MTJに対する書込み不良がMTJ素子MTJrに対する書込み不良よりも起こり難い。
【0080】
図13は、参考用のMTJ素子中の酸素原子の分布を示す。
図14は、第1実施形態のMTJ素子中の酸素原子の分布を示す。
図12を参照して上記されているとともに
図13に示されているようにMTJ素子MTJrの側面の領域ASrの酸素濃度は低く、他方、
図14に示されているようにMTJ素子MTJの側面の領域ASの酸素濃度は、領域ASrの酸素濃度より高い。このことに少なくとも部分的に基づいて、MTJ素子MTJのシャント不良率は、発明者らの実験によると、MTJ素子MTJrのシャント不良率の18.7%である。また、
図12を参照して上記されているとともに
図13に示されているようにトンネルバリア層36r及びその上下の領域を含む領域AMrの酸素濃度は高く、他方、
図14に示されているようにMTJ素子MTJのトンネルバリア層36及びその上下の領域を含む領域AMの酸素濃度は領域AMrの酸素濃度より低い。
【0081】
このような酸素濃度の分布により、MTJ素子MTJの領域ATの酸素濃度分布及びMTJ素子MTJrの領域ATrの酸素濃度分布は以下のようになっている。
【0082】
領域ATは、トンネルバリア層36、及びMTJ素子MTJのうちのトンネルバリア層36の脇の領域からなる。トンネルバリア層36の脇の領域は、トンネルバリア層36とx軸に沿って並ぶ部分(酸化物41及び酸化物42の一部)である。
【0083】
領域ATrは、トンネルバリア層36r、及びMTJ素子MTJrのうちのトンネルバリア層36rの脇の領域からなる。トンネルバリア層36rの脇の領域は、トンネルバリア層36rとx軸に沿って並ぶ部分(酸化物41r)である。
【0084】
図13に示されているように、MTJ素子MTJrの領域ATrでは、トンネルバリア層36rの部分の酸素濃度は高く、脇の領域の酸素濃度は、トンネルバリア層36rの部分の酸素濃度より低い。一方、MTJ素子MTJの領域ATでは、トンネルバリア層36の部分の酸素濃度は低く、脇の領域の酸素濃度は、トンネルバリア層36の部分の酸素濃度より高い。特に、領域ATでは、脇の領域の酸素濃度は、トンネルバリア層36の中央での酸素濃度より高い。
【0085】
また、MTJ素子MTJの領域AMでの酸素濃度が低いことに少なくとも部分的に基づいて、
図15に示されているように、MTJ素子MTJの最小の抵抗は低い。
図15は、第1実施形態の酸化物42の厚さとMTJ素子MTJの最小の抵抗の関係を示す。最小の抵抗は、例えば、或る数のMTJ素子が示す最小の抵抗値の平均である。
図15は、縦軸において、最小の抵抗を任意単位で示す。
図15は、酸化物42が酸化アルミニウムである例を示す。
【0086】
図15に示されているように、最小の抵抗は低い。また、
図15から、大気酸化よりもin-situ自然酸化のケースの方が、最小の抵抗が低く、混合領域51及び再堆積層52の酸化が弱いと、MTJ素子MTJの最小の抵抗が低いことが分かる。MTJ素子MTJの最小の抵抗は、発明者らの実験によると、MTJ素子MTJrの最小の抵抗の44.7%である。
【0087】
ここまで記述されているように、第1実施形態によれば、シャント不良の抑制と抵抗上昇の抑制が両立されることが可能である。
【0088】
1.5.変形例
1.5.1.第1変形例
図16は、第1実施形態の第1変形例の記憶装置の機能ブロックを示す。
図16に示されているように、第1変形例の記憶装置1bは、メモリセルアレイ11bを含む。メモリセルアレイ11b中には、複数のビット線 ̄BLがさらに位置している。1つのビット線BLと1つのビット線 ̄BLはビット線対を構成する。各メモリセルMCbは、1つのビット線BLと1つのビット線 ̄BLとの間に接続されており、1つのワード線WLと接続されている。
【0089】
図17は、第1実施形態の第1変形例のメモリセルの回路構成を示す。
図17に示されているように、各メモリセルMCbは、MTJ素子MTJとトランジスタTRを含む。トランジスタTRは、例えば、n型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。MTJ素子MTJは、第1端において、トランジスタTRのソース及びドレインの一方と接続されている。MTJ素子MTJの第2端は、1つのビット線 ̄BLと接続されている。トランジスタTRのソース及びドレインの他方は、ビット線BLと接続されている。トランジスタTRの制御端子(ゲート電極)は、1つのワード線WLと接続されている。
【0090】
図18は、第1実施形態の第1変形例のメモリセルの構造の例の断面を示す。
図18に示されているように、図示せぬ半導体基板の上方に、層間絶縁体64が設けられている。層間絶縁体64中に導電体65が設けられている。各導電体65は、その下端において、基板の表面に形成されたトランジスタTR(図示せず)の1対のソース/ドレイン領域の一方と接続されている。各トランジスタTRの1対のソース/ドレイン領域の他方は、ビット線BLとして機能する導電体と接続されている。
【0091】
層間絶縁体64の上面上に、酸化物42Aが位置している。酸化物42Aは、
図9を参照して上記されている工程の間に形成される酸化物42Aである。すなわち、
図8を参照して上記されているのと同じく、製造途中のメモリセルMCbのそれぞれの導電体44の側面上、それぞれのキャップ層39の側面上、及びそれぞれの酸化物41の表面上に、酸化物42Aが形成される。この工程の段階では、酸化物42Aは、部分的に層間絶縁体64の上面上に位置する。そして、
図9を参照して上記されているのと同じ工程によって酸化物42Aが部分的に除去されるときに、酸化物42Aのうちの層間絶縁体64の上面上の部分が残存する。この後にMTJ素子MTJより下方の構造に対するエッチングが行われることがない。このため、層間絶縁体64の上面上に酸化物42Aが残存する。
【0092】
各導電体65の上面上に1つのメモリセルMCbが位置している。メモリセルMCbは、第1実施形態の基本形態のメモリセルMCに含まれる構成要素の組から、スイッチング素子SEが除かれた構成要素の組を含む。ただし、各窒化シリコン46bは、隣合うメモリセルMCbのそれぞれの酸化物42の表面上に亘る。さらに、各窒化シリコン46bは、酸化物42Aも覆う。
【0093】
1.5.2.第2変形例
スイッチング素子SEとして機能する構造がMTJ素子MTJとして機能する構造の上面上に位置していてもよい。
図19は、そのような例を示し、第1実施形態の第2変形例のメモリセルの構造の例の断面を示す。
【0094】
図19に示されているように、第2変形例の各メモリセルMCcは、その下側の部分においてMTJ素子MTJを含み、その上側の部分においてスイッチング素子SEを含む。MTJ素子MTJは、導電体21の上面上に位置する。スイッチング素子SEは、記憶層37の上面上に位置する。スイッチング素子SEは、可変抵抗材料32cを含み、さらに、下部電極31c及び上部電極33cを含み得る。スイッチング素子SEは、円錐台の形状を有する。導電体44は、スイッチング素子SEの上面上に位置する。酸化物42cは、スイッチング素子SEの側面上にも位置し、例えば、スイッチング素子SEの側面を覆う。
【0095】
導電体21の上面上に、第1変形例と同様に、酸化物42Aが位置している。
図9を参照して上記されている工程の間に形成される酸化物42Aである。すなわち、
図8を参照して上記されているのと同じく、製造途中のメモリセルMCcのそれぞれの導電体44の側面上、それぞれのスイッチング素子SEの側面上、及びそれぞれの酸化物41の表面上に、酸化物42Aが形成される。この工程の段階では、酸化物42Aは、部分的に導電体21の上面上に位置する。そして、
図9を参照して上記されているのと同じ工程によって酸化物42Aが部分的に除去されるときに、酸化物42Aのうちの導電体21の上面上の部分が残存する。この後にMTJ素子MTJより下方の構造に対するエッチングが行われることがない。このため、導電体21の上面上に酸化物42Aが残存する。
【0096】
図20に示されるように、各メモリセルMCcは、電極55を含んでいてもよい。電極55は、記憶層37の上面及び酸化物41の上面上に位置する。電極55は、例えば、記憶層37及び酸化物41の上面を覆う。電極55は、例えば、窒化チタンを含むか、窒化チタンからなる。下部電極31cは、電極55の上面上に位置する。
【0097】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0098】
1…記憶装置、11…メモリセルアレイ、12…入出力回路、13…制御回路、14…ロウ選択回路、15…カラム選択回路、16…書込み回路、17…読出し回路、MC…メモリセル、BL…ビット線、WL…ワード線、MTJ…MTJ素子、SE…スイッチング素子、21…導電体、22…導電体、31…下部電極、32…可変抵抗材料、33…上部電極、35…強磁性層、36…絶縁層、37…強磁性層、41…酸化物、42…酸化物、44…導電体、46…シリコン窒化物、51…混合領域、52…再堆積層