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特開2024-37557無機物溶液の製造方法、及び無機物溶液の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037557
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】無機物溶液の製造方法、及び無機物溶液の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20240312BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240312BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20240312BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20240312BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20240312BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20240312BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B7/00 B
C22B3/04
C22B3/22
C22B3/08
C22B3/10
C22B3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142482
(22)【出願日】2022-09-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・配布場所1 マイクロ波化学株式会社東京オフィス 大手町フィナンシャルシティグランキューブ3階Global Business Hub Tokyo(東京都千代田区大手町1-9-2 大手町フィナンシャルシティグランキューブ3階Global Business Hub Tokyo) 配布場所2 オンライン(https://https://jpn01.safelinks.protection.outlook.com/?url=http%3A%2F%2Fwww.gbh-tokyo.or.jp%2Faccess&;data=04%7C01%7Cnakamichi.masaru%40qst.go.jp%7C4cfbfdf7f1d345da408508d9d5870421%7C6ca85328a4904ba08df9d0b978df06cd%7C0%7C0%7C637775598133475192%7CUnknown%7CTWFpbGZsb3d8eyJWIjoiMC4wLjAwMDAiLCJQIjoiV2luMzIiLCJBTiI6Ik1haWwiLCJXVCI6Mn0%3D%7C3000&sdata=N1DDaS9J5nw5UQWOPWJoZeRDVodLcNh9F%2FwycYZpN8Q%3D&reserved=0) 配布日 令和4年1月17日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・発表場所 マイクロ波化学株式会社東京オフィス 大手町フィナンシャルシティグランキューブ3階Global Business Hub Tokyo(東京都千代田区大手町1-9-2 大手町フィナンシャルシティグランキューブ3階Global Business Hub Tokyo) 発表日 令和4年1月20日 ・ウェブサイトのアドレス https://www.qst.go.jp/site/press/20220120.html 掲載日 令和4年1月20日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・研究集会名 共創の場形成支援プログラム 革新的精製技術が駆動する有限鉱物資源循環システム共創拠点シンポジウム 開催場所 オンライン開催(https://jpn01.safelinks.protection.outlook.com/?url=https%3A%2F%2Fus02web.zoom.us%2Fw%2F81109826831%3Ftk%3DwbUFlcAtZO_s0xcqflpQvQB161YoFpTALjgCaFinVis.DQMAAAAS4oW9DxZCZWZRRjRVT1RtNmpfazVpRWlfMzF3AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA%26pwd%3DTWxESHZtSHJWUjlScU1JZjRGT29PQT09&data=04%7C01%7Cnakano.suguru%40qst.go.jp%7C7db28e3ba3d94668561408da02f433cb%7C6ca85328a4904ba08df9d0b978df06cd%7C0%7C0%7C637825545110378123%7CUnknown%7CTWFpbGZsb3d8eyJWIjoiMC4wLjAwMDAiLCJQIjoiV2luMzIiLCJBTiI6Ik1haWwiLCJXVCI6Mn0%3D%7C3000&sdata=Yfl7WtM%2B3qLAcJsEu4djLcAaOoRkdj65F1GRcjVpYD4%3D&reserved=0) 開催日 令和4年3月14日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・研究集会名 第9回メタルジャパン 高機能金属展 開催場所 インテックス大阪(大阪府大阪市住之江区南港北1-5-102) 開催日 令和4年5月11日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・ウェブサイトのアドレス http://www.jspf.or.jp/14rengo/yokou.html 掲載日 令和4年6月28日 ・研究集会名 第14回核融合エネルギー連合講演会 開催場所 オンライン開催(https://us02web.zoom.us/j/89642141334?pwd=xxjAxx-XTmEbb1fjojvwWxw0eQ_olX.1#success) 開催日 令和4年7月7日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・研究集会名 日本保全学会第18回学術講演会 開催場所 京都大学吉田キャンパス(京都府京都市左京区吉田本町)及びオンライン開催(https://jpn01.safelinks.protection.outlook.com/?url=https%3A%2F%2Fzoom.us%2Fj%2F93122909623%3Fpwd%3DU24xVk9Dd3FpVGxNU3paeEM3L2hyQT09&amp;data=05%7C01%7Cnakamichi.masaru%40qst.go.jp%7C513c6f5b0cf14c892d5d08da653d8dfb%7C6ca85328a4904ba08df9d0b978df06cd%7C0%7C0%7C637933612300133460%7CUnknown%7CTWFpbGZsb3d8eyJWIjoiMC4wLjAwMDAiLCJQIjoiV2luMzIiLCJBTiI6Ik1haWwiLCJXVCI6Mn0%3D%7C3000%7C%7C%7C&amp;sdata=85fZqdMUjulZGTenK%2BH1DDIRzihFkErK1KZhGKzUHb0%3D&amp;reserved=0) 開催日 令和4年7月13日 ・ウェブサイトのアドレス https://www.jsm.or.jp/pub_t/15140.html 掲載日 令和4年7月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・刊行物名 化学装置,第64巻,第9号,第36~41頁 発行日 令和4年9月1日 発行所 株式会社工業通信
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】323001683
【氏名又は名称】アサヒプリテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】中道 勝
(72)【発明者】
【氏名】中野 優
(72)【発明者】
【氏名】赤津 孔明
(72)【発明者】
【氏名】金 宰煥
(72)【発明者】
【氏名】黄 泰現
(72)【発明者】
【氏名】杉本 有隆
(72)【発明者】
【氏名】橋野 治
(72)【発明者】
【氏名】竹田 玲奈
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA41
4K001BA01
4K001BA22
4K001CA01
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB06
4K001DB07
4K001DB16
(57)【要約】
【課題】酸化物及び白金族金属を含む出発原料から、例えば白金族金属のように塩基性溶液及び酸性溶液の何れに対しても溶解しにくい無機物の溶液を製造する製造方法であって、エネルギー効率が高い新規な製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る無機物溶液の製造方法は、酸化物及び白金族金属を含む出発原料の粉末と、水酸化物とを混合した粉末状混合物を加熱することによって、前記出発原料を含む液状混合物を得る加熱工程を含んでいる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物及び白金族金属を含む出発原料の粉末と、水酸化物とを混合した粉末状混合物を加熱することによって、前記出発原料を含む液状混合物を得る加熱工程を含んでいる、
ことを特徴とする無機物溶液の製造方法。
【請求項2】
前記加熱は、誘電加熱である、
ことを特徴とする請求項1に記載の無機物溶液の製造方法。
【請求項3】
前記出発原料は、セリアと、ロジウムとを含んでいる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の無機物溶液の製造方法。
【請求項4】
前記水酸化物は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも何れかである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の無機物溶液の製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程において得られた前記液状混合物を酸溶液又は水に溶解させることによって、前記白金族金属の酸溶液を得る第1の溶解工程を更に含んでいる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の無機物溶液の製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程の前に実施する第2の溶解工程であって、酸化物及び白金族金属を含む粉末を酸溶液又は水に溶解させる第2の溶解工程と、
前記第2の溶解工程により得られた溶液を濾過し、得られた固相を前記出発原料の粉末とする濾過工程と、を更に含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の無機物溶液の製造方法。
【請求項7】
前記酸溶液は、過酸化水素を含んでいる、
ことを特徴とする請求項5に記載の無機物溶液の製造方法。
【請求項8】
前記加熱工程は、常圧下において前記粉末状混合物を誘電加熱する工程である、
ことを特徴とする請求項1に記載の無機物溶液の製造方法。
【請求項9】
酸化物及び白金族金属を含む出発原料の粉末と、水酸化物とを混合することによって、出発原料及び水酸化物の粉末状混合物を得る混合部と、
前記粉末状混合物を収容する容器と、
誘電加熱するための電磁波を発生させる電磁波発生部と、を備えている、
ことを特徴とする無機物溶液の製造装置。
【請求項10】
前記出発原料は、セリアと、ロジウムとを含んでいる、
ことを特徴とする請求項9に記載の無機物溶液の製造装置。
【請求項11】
前記水酸化物は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも何れかである、
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の無機物溶液の製造装置。
【請求項12】
前記電磁波発生部と前記容器との間に介在し、前記電磁波を前記電磁波発生部から前記容器に導波する導波管と、
前記導波管の中途区間に設けられたアイソレータであって、前記容器から前記電磁波発生部に向かって伝搬する電磁波を吸収するアイソレータと、を更に備えている、
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の無機物溶液の製造装置。
【請求項13】
前記容器に酸溶液又は水を供給する液体供給部を更に備えている、
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の無機物溶液の製造装置。
【請求項14】
前記酸溶液は、過酸化水素を含んでいる、
ことを特徴とする請求項13に記載の無機物溶液の製造装置。
【請求項15】
排ガス処理用の触媒を粉砕することにより、出発原料の粉末を得る粉砕工程と、
前記出発原料の粉末と、水酸化物とを混合した粉末状混合物を加熱することによって、前記出発原料を含む液状混合物を得る加熱工程と、を含んでいる、
ことを特徴とする無機物溶液の製造方法。
【請求項16】
前記加熱工程において得られた前記液状混合物を、王水、硝酸、塩酸、及び硫酸のうち少なくとも1種と、過酸化水素と、の混合溶液に溶解させ、200℃未満で加熱することによって、白金族金属の酸溶液を得る溶解工程を更に含んでいる、
ことを特徴とする請求項15に記載の無機物溶液の製造方法。
【請求項17】
前記加熱は、誘電加熱である、
ことを特徴とする請求項15又は16に記載の無機物溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機物溶液の製造方法、及び無機物溶液の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガスを浄化するための触媒は、ハニカム状のセラミックス製基板の上に、多孔質な触媒層が塗装された構造を有する。一般的に、このようなセラミックス製基材の素材には、コージェライト(Mg-Al-Si-O)が用いられ、触媒層には、セリア、ジルコニア、アルミナ、シリカ、チタニア、及びこれらの複合酸化物又は物理的な混合物が用いられている。さらに、触媒層には、白金族金属が表面積層されている。このように構成された触媒は、自動車が走行することに伴い高温の排ガスに晒される。触媒層の表面に設けられた白金属金属は、排ガスの熱エネルギーにより、触媒層の内部に分散しやすい。
【0003】
自動車の排ガスを浄化するための触媒から白金族金属を回収する場合、触媒を溶媒に溶解させることにより抽出する。しかしながら、白金族金属を溶媒に溶解させることは容易ではない。金属を溶かしやすい溶媒としては、酸性溶液が知られているが、白金族金属は、酸性溶液に対しても溶解しにくい。
【0004】
そのため、従来は、金属とコークスなどの還元剤と共に、触媒に1300~1600℃の高温処理を施すことによって、白金族金属を溶媒に効率よく溶解させる方法が用いられている(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、白金族金属以外にも、溶媒に溶解しにくい元素、化合物、及び合金が存在する。このような成分を含む原料を溶媒に溶解する方法として、例えば、特許文献2に、マイクロ波を用いて誘電加熱することによって、ベリリウム鉱石を溶媒に溶解させることができると記載されている。
【0006】
マイクロ波を照射するための装置としては、例えば、特許文献3に記載の処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平04―317423号公報
【特許文献2】PCT/JP2022/010643号
【特許文献3】特開2018-196879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の、触媒に高温処理を施す前処理には、とても大きなエネルギーを要する。また、還元剤としてコークスを使用するため、環境負荷が大きい。そのため、自動車の排ガスを浄化するための触媒から白金族金属を回収するための新規な技術が望まれている。
【0009】
本発明の一態様に係る発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、例えば白金族金属のように塩基性溶液及び酸性溶液の何れに対しても溶解しにくい無機物の溶液を製造する製造方法であって、エネルギー効率が高い新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る無機物溶液の製造方法は、酸化物及び白金族金属を含む出発原料の粉末と、水酸化物とを混合した粉末状混合物を加熱することによって、前記出発原料を含む液状混合物を得る加熱工程を含んでいる。
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る無機物溶液の製造装置は、酸化物及び白金族金属を含む出発原料の粉末と、水酸化物とを混合することによって、出発原料及び水酸化物の粉末状混合物を得る混合部と、前記粉末状混合物を収容する容器と、誘電加熱するための電磁波を発生させる電磁波発生部と、を備えている。
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る無機物溶液の製造方法は、排ガス処理用の触媒を粉砕することにより、出発原料の粉末を得る粉砕工程と、前記出発原料の粉末と、水酸化物とを混合した粉末状混合物を加熱することによって、前記出発原料を含む液状混合物を得る加熱工程と、を含んでいる。
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る無機物溶液の製造方法は、排ガス処理用の触媒を粉砕することにより、出発原料の粉末を得る粉砕工程と、前記出発原料の粉末と、水酸化物とを混合した粉末状混合物を誘電加熱することによって、前記出発原料を含む液状混合物を得る加熱工程と、前記加熱工程において得られた前記液状混合物を、王水、硝酸、塩酸、及び硫酸のうち少なくとも1種と、過酸化水素と、の混合溶液に溶解させ、200℃未満で加熱することによって、前記白金族金属の酸溶液を得る溶解工程と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、例えば白金族金属のように塩基性溶液及び酸性溶液の何れに対しても溶解しにくい無機物の溶液を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施形態に係る無機物溶液の製造方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の第2の実施形態に係る無機物溶液の製造方法を示すフローチャートである。
図3】本発明の第3の実施形態に係る無機物溶液の製造方法を示すフローチャートである。
図4】本発明の第4の実施形態に係る誘電加熱装置の概略図である。
図5図4に示した誘電加熱装置が備えているアイソレータの斜視図である。
図6】本発明の第5の実施形態に係る無機物の製造システムが備えている無機物溶液の製造装置の概略図である。
図7】本発明の第6の実施形態に係る無機物の製造システムが備えている無機物溶液の製造装置の概略図である。
図8】第1の実施例において得られた無機物溶液の固相中に含まれる無機物の重量割合を示すグラフである。
図9】第2の実施例において得られた無機物溶液の固相中に含まれる無機物の重量割合を示すグラフである。
図10】第2の実施例において得られた無機物溶液の固相中に含まれる無機物のX線回析(XRD)試験の結果を示すグラフである。
図11】第3の実施例において得られた無機物溶液の固相中に含まれる無機物の重量割合を示すグラフである。
図12】第3の実施例において得られた無機物溶液の固相中に含まれる無機物のXRD試験の結果を示すグラフである。
図13】第4の実施例における第2の溶解工程S23における溶解の様子を示した図である。
図14】第4の実施例において得られた無機物溶液の固相中に含まれる無機物のXRD試験の結果を示すグラフである。
図15】参考例において得られた無機物溶液の固相中に含まれる無機物のXRD試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1の実施形態〕
(無機物溶液の製造方法)
本発明の第1の実施形態に係る無機物溶液の製造方法M10について、図1を参照して説明する。図1は、無機物溶液の製造方法M10のフローチャートである。なお、以下においては、無機物溶液の製造方法M10のことを単に製造方法M10とも称する。以下において、無機物溶液とは、出発原料に含まれる無機物が溶解された溶液を意味する。また、無機物は、無機化合物及び金属の総称である。無機化合物は、有機物あるいは有機化合物以外の化合物、すなわち炭素を含まない化合物を指す。無機物溶液は、白金族金属(PGM)を含んでいることが好ましい。白金族金属には、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)が含まれる。
【0017】
本実施形態においては、製造方法M10において用いる出発原料として、使用済みの自動車の排ガスを浄化するための触媒(以下、「自動車廃触媒」と称する)を採用している。ただし、製造方法M10において用いる出発原料は、使用済みの自動車廃触媒に限定されず、酸化物及び白金族金属を含む出発原料から適宜選択することができる。酸化物及び白金族金属を含む出発原料としては、産業廃棄物ガス処理用触媒、化学合成用触媒、白金族(PGM)鉱石、耐熱坩堝、電子部品などが挙げられる。また、酸化物及び白金族金属を含む出発原料には、1種の白金族金属が含まれていてもよく、複数種類の白金族金属が含まれていてもよい。また、酸化物及び白金族金属を含む出発原料は、白金族金属以外の金属を含んでいてもよい。
【0018】
図1に示すように、製造方法M10は、取り出し工程S11と、粉砕・混合工程S12と、加熱工程S13と、第1の溶解工程S14と、を含む。
【0019】
(取り出し工程)
取り出し工程S11は、自動車の内部に備えられている自動車の排ガスを浄化するための触媒であって、使用済みの自動車の排ガスを浄化するための触媒を、自動車から取り出す工程である。製造方法M10においては、自動車廃触媒を出発原料として用いる。
【0020】
自動車廃触媒の例としては、例えば、三元触媒、ディーゼル触媒などが挙げられる。このような触媒は、ハニカム状のセラミックス製基材、又はハニカム状のメタル製基材の上に多孔質な触媒層が担持された構造を有する。セラミックス製基材を構成する材料の例としては、コージェライト(Mg-Al-Si-O)、炭化ケイ素、ゼオライトなどが挙げられる。メタル製基材を構成する材料の例としては、耐熱性ステンレス(Fe-Cr-Al)などが挙げられる。また、多孔質な触媒層を構成する材料の例としては、セリア、ジルコニア、アルミナ、シリカ、チタニア、及びこれらの複合酸化物又は物理的な混合物が用いられている。さらに、触媒層には、白金族金属が表面積層されており、触媒を使用することにより、白金族金属が触媒層の内部に分散担持される。近年、白金族金属のなかでもロジウムの価格が高騰している。ロジウムは、自動車廃触媒に含まれているため、自動車廃触媒からロジウムを回収することが強く望まれている。製造方法M10においては、コージェライト(Mg-Al-Si-O)を含むセラミックス製基材と、セリア、ジルコニア、アルミナ、シリカ、チタニア、及びこれらの複合酸化物又は物理的な混合物を含む触媒層と、この触媒層に担持されている白金族金属と、を含む自動車廃触媒を用いる。ここで、白金族金属は、パラジウム、白金、及びロジウムを含む。
【0021】
製造方法M10において用いられる出発原料は、自動車廃触媒に限定されない。酸化物及び白金族金属を含む出発原料であってもよい。例えば、産業廃棄物ガス処理用触媒を出発原料として使用する場合、取り出し工程S11において、産業廃棄物ガス処理用触媒をガス処理設備から取り出せばよく、PGM鉱石を出発原料として使用する場合、取り出し工程S11において、PGM鉱石を鉱山から取り出せばよく、耐熱性坩堝を出発原料として使用する場合、取り出し工程S11において、耐熱性坩堝を炉内から取り出せばよく、電子部品を出発原料として使用する場合、取り出し工程S11において、機器から電子部品を取り出せばよい。
【0022】
(粉砕・混合工程)
粉砕・混合工程S12は、取り出し工程S11の後に実施する工程である。粉砕・混合工程S12では、まず、出発原料を粉砕することにより、出発原料の粉末を得る。出発原料を粉砕することによって、出発原料を機械的に破壊して粒径を小さくすることで、自動車廃触媒の触媒層の内部に取り込まれている白金族金属を露出させるとともに、水酸化物との化学反応の効率を向上させる工程である。出発原料を粉砕するために用いる技術は、限定されるものではなく、既存の技術から適宜選択することができ、例えば、ジョークラッシャーやボールミルが挙げられる。
【0023】
また、粉砕・混合工程S12では、水酸化ナトリウム(NaOH)を粉砕することにより、水酸化ナトリウムの粉末を得る。ただし、粉末状の水酸化ナトリウムを購入して用いる場合には、粉砕・混合工程S12において水酸化ナトリウムを粉砕する工程を省略してもよい。また、粉砕・混合工程S12において用いる水酸化ナトリウムが顆粒状又はフレーク状である場合には、粉砕・混合工程S12における水酸化ナトリウムの粉砕を省略することができる。粉砕・混合工程S12において用いられる水酸化ナトリウムの形状は、限定されない。なお、水酸化ナトリウムは、水酸化物の一例である。製造方法M10において用いる水酸化物は、水酸化ナトリウムに限定されず、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、及び水酸化ストロンチウム(Sr(OH))のうち少なくとも何れかであってもよい。
【0024】
そのうえで、粉砕・混合工程S12では、出発原料の粉末と、水酸化ナトリウム(本実施形態では水酸化ナトリウムの粉末)とを混合することによって、出発原料及び水酸化ナトリウムの粉末状混合物を得る。以下において、出発原料及び水酸化ナトリウムの粉末状混合物のことを単に粉末状混合物とも記載する。
【0025】
(加熱工程)
加熱工程S13は、粉砕・混合工程S12の後に、粉末状混合物を誘電加熱することによって、出発原料及び水酸化ナトリウムを融解させる工程である。加熱工程S13を実施することにより、水酸化ナトリウムが後述する電磁波のエネルギーを熱に変換し、その結果、出発原料及び水酸化ナトリウムを含む液状混合物が得られる。以下において、出発原料及び水酸化ナトリウムの液状混合物のことを単に液状混合物とも記載する。出発原料及び水酸化ナトリウムは、水分を含まないため、粉末状混合物又は液状混交物の温度が100℃を超えた場合であっても水分の沸騰を考慮する必要がない。したがって、加熱工程S13においては、常圧下において粉末状混合物を誘電加熱することができる。加熱工程S13により得られた液状混合物は、乳液状であり、その温度の低下にともなって、少なくともその一部が乳液状から固体状に変化する場合もある。
【0026】
誘電加熱は、所定の周波数を有する電磁波を対象物に印加することによって対象物を加熱する技術の総称であり、印加する電磁波の帯域に応じて、高周波加熱と呼んだり、マイクロ波加熱と呼んだりする。例えば、高周波加熱は、3MHz以上300MHz未満の帯域に含まれる電磁波(いわゆる短波又は超短波)を対象物に印加し、マイクロ波加熱は、300MHz以上30GHz未満の帯域に含まれる電磁波(いわゆるマイクロ波)を対象物に印加する。家庭にも普及している電子レンジは、マイクロ波加熱を実施可能な装置の一例である。
【0027】
本実施形態では、加熱工程S13において、粉末状混合物に周波数が2.45GHzである電磁波を印加する。なお、粉末状混合物に電磁波を印加する装置の構成については、図4あるいは図6を参照して後述する。
【0028】
誘電加熱を利用して粉末状混合物を加熱することにより、従来よりも高いエネルギー効率で出発原料及び水酸化ナトリウムを、酸性溶液に溶解可能な液状混合物に変化させることができる。後述するように、液状混合物は、酸(本実施形態では塩酸)溶液に対して容易に溶解するので、無機物が溶解した塩酸溶液を得ることができる。したがって、製造方法M10は、エネルギー効率が高い新規な製造方法を提供することができる。ただし、加熱工程S13における加熱は、誘電加熱でなく、外部加熱であってもよい。
【0029】
また、本実施形態における、加熱工程S13での加熱温度は、350℃である。加熱温度を350℃以上にすることによって、無機物溶液中の無機物の溶解濃度を上げることができる。また、加熱温度を上げることにより、出発原料に含まれるCeOの溶出率が向上し、CeOに浸透拡散している無機物が溶出し易くなる。そのため、加熱温度を上げることによって、特に、効果的にRhを溶出することができる。なお、加熱工程S13における加熱温度は、適宜設定することができる。ただし、加熱工程S13における加熱温度は、粉末状混合物を収容する容器(例えば、図4に示す第4の実施形態に記載の容器D14)の耐熱温度以下であることが好ましい。例えば、該容器が容器D14のようにポリテトラフルオロエチレン製である場合、加熱工程S13における加熱温度は、250℃以下であることが好ましい。加熱温度の一例としては、220℃が挙げられる。容器を構成する材料が酸性溶液に対する耐食性を有し、且つ、耐熱温度が250℃を上回る場合、加熱工程S13における加熱温度は、250℃を上回ってもよい。耐熱温度が250℃を上回る材料の例としては、アルミナ(Al)や窒化ホウ素(BN)などが挙げられる。アルミナや窒化ホウ素などにより構成された容器を採用する場合、加熱工程S13における加熱温度は、250℃を上回ってもよい。このような容器を用いる場合の加熱温度の一例としては、300℃や350℃が挙げられる。加熱工程S13における加熱温度を高められることによって、加熱工程S13に要する時間を短縮できる可能性が高い。また、加熱工程S13における加熱時間も適宜設定することができる。加熱時間の一例としては、8分が挙げられる。
【0030】
なお、加熱工程S13の一変形例では、粉末状混合物を誘電加熱する前に粉末状混合物に対して少量の水を添加してもよい。水は、誘電加熱において粉末状混合物に印加されるマイクロ波を効率良く吸収し、熱に変換することができる。したがって、粉末状混合物に対して少量の水を添加しておくことによって、粉末状混合物の温度を早く所望の温度(例えば250℃)まで加熱することができる。なお、粉末状混合物に対して添加する水の量は限定されないが、粉末状混合物の質量を基準にして5wt%以上であることが好ましい。
【0031】
(第1の溶解工程)
第1の溶解工程S14は、加熱工程S13の後に実施する工程であり、加熱工程S13において得られた液状混合物を、酸(本実施形態では塩酸(HCl))溶液に溶解させることによって、出発原料に含まれていた無機物の塩酸溶液を得る工程である。本実施形態では、アルミニウム(Al)、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)が溶解した塩酸溶液が得られる。第1の溶解工程S14において用いる酸溶液は、塩酸溶液に限定されず、硝酸(HNO)溶液、硫酸(HSO)溶液、フッ化水素酸溶液、臭化水素酸溶液、及びヨウ化水素酸溶液であってもよいし、これらの酸溶液のうち複数の酸溶液を混合することに得られる混合酸溶液であってもよい。このような混合酸溶液の例としては、濃塩酸と濃硝酸とを混合することにより得られる王水が挙げられる。また、第1の溶解工程S14で用いる酸溶液は、上述したような酸溶液と過酸化水素の混合溶液であってもよい。過酸化水素は、CeO等の四価のCeを、三価のCeに還元する。そのため、CeOが分解され、触媒層の内部に浸透拡散されている白金族金属を、容易に溶解することができる。このような混合溶液としては、例えば、過酸化水素:塩酸が1:1の割合で含まれている酸溶液が挙げられる。また、第1の溶解工程S14においては、加熱工程S13において得られた液状混合物を溶解させる液体として、水を用いることもできる。得られた液状混合物を溶解させる液体は、目的の無機物によって適宜選択してもよい。
【0032】
第1の溶解工程S14において、液状混合物は、常温且つ常圧下にある塩酸溶液中であっても溶解するが、塩酸溶液の温度を高めることによって液状混合物の塩酸溶液に対する溶解を促進することができる。塩酸溶液を加熱する手段としては、加熱工程S13において用いる電磁波を印加する装置が好適である。酸溶液の温度は、安全性の観点から沸点未満であることが好ましく、常圧処理の観点から、250℃未満であることが好ましい。なお、第1の溶解工程S14においては、塩酸溶液の沸騰を抑制するために、塩酸溶液の温度を100度未満に設定することが好ましい。これにより、塩酸溶液の加圧が不要であり、常圧下において第1の溶解工程S14を実施することができる。また、第1の溶解工程S14において、塩酸溶液を加熱して還流を行ってもよい。酸溶液を還流することにより、出発原料中の酸化セリウムの分解が促進し、酸化セリウムに担持されている白金族金属の溶解を促進することができる。還流は、例えば、塩酸溶液を100℃で1時間加熱して実施することができ、酸溶液により適宜調整することができる。
【0033】
〔第2の実施形態〕
(無機物溶液の製造方法M20)
本発明の第2の実施形態に係る無機物溶液の製造方法M20について、図2を参照して説明する。図2は、無機物溶液の製造方法M20のフローチャートである。なお、以下においては、無機物溶液の製造方法M20のことを単に製造方法M20とも称する。
【0034】
図2に示すように、製造方法M20は、図1に示した製造方法M10が含む取り出し工程S11、粉砕・混合工程S12、及び加熱工程S13と、第1の溶解工程S21と、濾過工程S22と、第3の溶解工程S23と、を含んでいる。以下において、取り出し工程S11、粉砕・混合工程S12、及び加熱工程S13のことを、単に、各工程S11~S13とも称する。
【0035】
製造方法M20が含む、製造方法M10の各工程S11~S13は、第1の実施形態において説明する各工程S11~S13と同様である。したがって、ここでは、各工程S11~S13に関する説明を省略する。すなわち、自動車廃触媒及び水酸化ナトリウムを含む液状混合物が得られているものとして、製造方法M20については、第1の溶解工程S21と、濾過工程S22と、第3の溶解工程S23とについてのみ説明する。
【0036】
(第1の溶解工程)
第1の溶解工程S21は、製造方法M10の各工程S11~S13により得られた自動車廃触媒及び水酸化ナトリウムを含む液状混合物を、水に溶解させることによって、出発原料に含まれていた無機物の水溶液を得る工程である。
【0037】
加熱工程S13により得られる液状混合物は、アルカリ度が高い。第1の溶解工程S21では、得られた液状混合物を水に溶解させることにより、液状混合物のアルカリ度を下げることができる。そのため、液状混合物を酸溶液に溶解させる際に、中和熱が発生することを抑制できる。したがって、より安全に無機物溶液を製造することができる。
【0038】
ただし、第1の溶解工程S21で用いる溶液は、酸溶液であってもよい。酸溶液としては、製造方法M10の第1の溶解工程S14において使用可能な酸溶液を使用することができる。また、第3の溶解工程S23では、酸溶液を加熱してもよい。酸溶液の加熱は、製造方法M10の第1の溶解工程S14に記載の方法にて実施することができる。
【0039】
(濾過工程)
濾過工程S22は、第1の溶解工程S21の後に実施する工程である。濾過工程S22は、第1の溶解工程S21で得られた、無機物溶液中に含まれる固相と液相とを、フィルタを用いて分離する工程である。固相には、水に溶解しなかった無機物が含まれている。本実施形態では、主に、セリウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、及びロジウム(Rh)が含まれている。液相には、水に溶解した無機物が含まれている。本実施形態では、主に、アルミニウム(Al)及びケイ素(Si)が含まれている。
【0040】
濾過工程S22を実施することにより、固相に含まれている無機物と液相に含まれている無機物とを容易に分離することができる。
【0041】
(第3の溶解工程)
第3の溶解工程S23は、濾過工程S22の後に実施する工程である。第3の溶解工程S23は、濾過工程S22により分離された固相を、酸(本実施形態では王水)溶液に溶解させることによって、固相に含まれていた無機物の王水溶液を得る工程である。本実施形態では、主にセリウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、及びロジウム(Rh)が溶解した王水溶液が得られる。第3の溶解工程S23において用いる酸溶液は、王水溶液に限定されず、製造方法M10の第1の溶解工程S14において使用可能な酸溶液を使用することができる。
【0042】
また、第3の溶解工程S23では、酸溶液を加熱してもよい。酸溶液の加熱は、製造方法M10の第1の溶解工程S14に記載の方法にて実施することができる。
【0043】
第1の溶解工程S21及び第3の溶解工程S23を含むことにより、複数種類、且つより多くの量の無機物を得ることができる。第2の実施形態では、第1の溶解工程S21及び第3の溶解工程S23を含むことにより、水に溶解し易い無機物及び酸溶液に溶解し易い無機物を得ることができる。
【0044】
〔第3の実施形態〕
(無機物溶液の製造方法M30)
本発明の第3の実施形態に係る無機物溶液の製造方法M30について、図3を参照して説明する。図3は、無機物溶液の製造方法M30のフローチャートである。なお、以下においては、無機物溶液の製造方法M30のことを単に製造方法M30とも称する。
【0045】
図3に示すように、製造方法M30は、図1に示した製造方法M10が含む取り出し工程S11と、粉砕工程S31と、第2の溶解工程S32と、濾過工程S33と、混合・加熱工程S34と、第1の溶解工程S35と、を含んでいる。
【0046】
製造方法M30が含む取り出し工程S11は、第1の実施形態において説明する取り出し工程S11と同様である。したがって、ここでは、取り出し工程S11に関する説明を省略する。すなわち、自動車廃触媒が得られているものとして、製造方法M30については、粉砕工程S31以降の各工程についてのみ説明する。
【0047】
(粉砕工程)
粉砕工程S31は、取り出し工程S11の後に実施する工程である。粉砕工程S31では、出発原料を粉砕することにより、出発原料の粉末を得る。粉砕方法は、製造方法M10の粉砕・混合工程S12に記載した方法にて実施することができる。
【0048】
(第2の溶解工程)
第2の溶解工程S32は、粉砕工程S31の後に、出発原料の粉末を酸(本実施形態では硫酸)溶液に溶解させることによって、出発原料に含まれていた無機物の水溶液を得る工程である。第2の溶解工程S32に用いる酸溶液は、硫酸溶液に限定されず、製造方法M10の第1の溶解工程S14において使用可能な酸溶液を使用することができる。
【0049】
第2の溶解工程S32では、酸溶液を加熱してもよい。酸溶液の加熱は、製造方法M10の第1の溶解工程S14に記載の方法にて実施することができる。
【0050】
(濾過工程)
濾過工程S33は、第2の溶解工程S32の後に実施する工程である。濾過工程S33は、第2の溶解工程S32で得られた、無機物溶液中に含まれる固相と液相とを、フィルタを用いて分離する工程である。本実施形態で得られた固相には、主に、白金(Pt)が含まれている。液相には、主に、アルミニウム(Al)、セリウム(Ce)、ジルコニア(Zr)、パラジウム(Pd)、及びロジウム(Rh)が含まれている。
【0051】
(混合・加熱工程)
混合・加熱工程S34は、濾過工程S33の後に実施する工程である。混合・加熱工程S34は、まず、濾過工程S33により分離された固相と、粉砕した水酸化ナトリウム(NaOH)と、を混合することによって、固相及び水酸化ナトリウムの粉末状混合物を得る。なお、混合・加熱工程S34においては、粉砕した水酸化ナトリウム以外にも、製造方法M10の粉砕・混合工程S12に記載した水酸化物を使用することができる。
【0052】
次に、混合・加熱工程S34は、固相及び水酸化ナトリウムの粉末状混合物を誘電加熱することによって、固相及び水酸化ナトリウムを融解させる。混合・加熱工程S34を実施することにより、固相に含まれる無機物及び水酸化ナトリウムを含む液状混合物が得られる。粉末状混合物の加熱方法は、製造方法M10の加熱工程S13に記載の方法にて実施することができる。
【0053】
(第1の溶解工程)
第1の溶解工程S35は、混合・加熱工程S34の後に実施する工程であり、混合・加熱工程S34において得られた液状混合物を、酸(本実施形態では王水)溶液に溶解させることによって固相に含まれていた無機物の王水溶液を得る工程である。本実施形態では、主に白金(Pt)が溶解した王水溶液が得られる。第1の溶解工程S35において用いる酸溶液は、王水溶液に限定されず、製造方法M10の第1の溶解工程S14において使用可能な酸溶液を使用することができる。
【0054】
また、第1の溶解工程S35では、酸溶液を加熱してもよい。酸溶液の加熱は、製造方法M10の第1の溶解工程S14に記載の方法にて実施することができる。
【0055】
第3の実施形態によれば、出発原料に含まれる無機物を段階的に、且つ選択的に分離することができる。
【0056】
〔第4の実施形態〕
<無機物溶液の製造装置>
本発明の第4の実施形態に係る誘電加熱装置D10について、図4及び図5を参照して説明する。誘電加熱装置D10は、本発明の一態様に係る無機物溶液の製造装置の一例である。図4は、誘電加熱装置D10の概略図である。誘電加熱装置D10は、図1に示した製造方法M10が含む加熱工程S13を実施する加熱装置である。また、製造方法M10が含む第1の溶解工程S14において塩酸溶液を加熱する場合、その加熱にも誘電加熱装置D10を用いることができる。
【0057】
第1の実施形態において説明したとおり、誘電加熱は、印加する電磁波の帯域に応じて高周波加熱又はマイクロ波加熱の何れかに分類される。誘電加熱装置D10は、対象物に対して、高周波加熱及びマイクロ波加熱のうちマイクロ波加熱を実施する装置である。
【0058】
<誘電加熱装置の構成>
誘電加熱装置D10は、図4に示すように、電磁波発生部D11と、導波管D12と、電磁波印加部D13と、容器D14と、回転テーブルD15と、スターラD16と、温度計D17と、を備えており、図5に示すように、アイソレータD18を更に備えている。また、誘電加熱装置D10は、図4に図示していない制御部を更に備えている。
【0059】
(電磁波発生部)
電磁波発生部D11は、所定の周波数を有する電磁波を発振するように構成されている。所定の周波数は、例えば、マイクロ波の帯域内において適宜選択することができるが、本実施形態では、所定の周波数を2.45GHzとする。2.45GHzという周波数は、家庭用の電子レンジにおいて利用されている電磁波と同じ周波数である。
【0060】
(導波管)
導波管D12は、金属製の筒状部材であり、一方の端部が電磁波発生部D11に接続されており、他方の端部が後述する容器D14を収容する電磁波印加部D13に接続されている。すなわち、導波管D12は、電磁波発生部D11と容器D14との間に介在している。導波管D12は、電磁波発生部D11が発生した電磁波を一方の端部から他方の端部へ導波する。そのうえで、導波管D12は、この電磁波を他方の端部から、容器D14を収容する電磁波印加部D13の内部空間に放射する。すなわち、導波管D12は、電磁波発生部D11が発生した電磁波を電磁波発生部D11から容器D14の方向に導波する。
【0061】
(アイソレータ)
図5に示すように、導波管D12の中途区間には、アイソレータD18が設けられている。アイソレータD18は、サーキュレータD181と、ダミーロードD182と、冷却管D183とを備えている。サーキュレータD181は、導波管D12の中途区間に挿入されている。
【0062】
サーキュレータD181は、磁石(例えばフェライト製)を備えており、図5に示すように3つのポートP1~P3を備えている。ポートP1には、導波管D12の一方の区間を介して電磁波発生部D11が接続されている。ポートP2には、導波管D12の他方の区間を介して電磁波印加部D13が接続されている。ポートP3には、ダミーロードD182が設けられている。
【0063】
磁石が形成する磁場と、サーキュレータD181内を透過する電磁波とが相互作用することにより、ポートP1に入射した電磁波は、ポートP2から出射され、ポートP2に入射した電磁波は、ポートP3から出射される。したがって、サーキュレータD181は、電磁波発生部D11により発生された電磁波を電磁波印加部D13の方向に結合させ、電磁波印加部D13の内部空間において反射された電磁波をダミーロードD182に結合させる。
【0064】
ダミーロードD182は、周波数が2.45GHzである電磁波を吸収する材料により構成されている。したがって、ダミーロードD182は、電磁波印加部D13の内部空間において反射された電磁波を吸収し、そのエネルギーを熱に変換する。
【0065】
ダミーロードD182には、冷却管D183が設けられている。冷却管D183の内部には、冷却された冷媒(例えば、水や空気)が循環するように構成が採用されている。冷却された冷媒がダミーロードD182から熱を奪うことができるので、ダミーロードD182の温度が過剰に上昇することを防ぐことができる。
【0066】
以上のように構成されたサーキュレータD181は、電磁波発生部D11により発生された電磁波をほとんど損失なく電磁波印加部D13に結合させ、且つ、電磁波印加部D13の内部空間において反射された電磁波を吸収することができる。すなわち、サーキュレータD181は、電磁波発生部D11から容器D14に向かってほとんど損失なく電磁波を伝搬させ、且つ、容器D14から電磁波発生部D11へ向かって伝搬する電磁波を吸収することができる。したがって、電磁波印加部D13の内部空間において反射された電磁波が電磁波発生部D11に戻り、電磁波発生部D11の動作に悪影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0067】
(電磁波印加部)
電磁波印加部D13は、内部空間が中空な、金属製の箱状部材であり、内部空間に容器D14を収容可能なように構成されている。電磁波印加部D13は、導波管D12の他方の端部から照射された電磁波を、容器D14及び容器D14に収容された加熱の対象物に対して印加する。電磁波印加部D13は、電磁波を内部空間に閉じ込め、外部に漏らしにくいように構成されている。
【0068】
(容器)
容器D14は、皿状に成形された容器である。容器D14の形状は、出発原料及び水酸化ナトリウムの粉末状混合物MPを収容可能な形状であれば限定されない。ただし、後述する温度計D17を用いて粉末状混合物MPの温度を測定するために、容器D14は、大きな開口部を有することが好ましい。また、加熱工程S13のあとに、容器D14をそのまま用いて第1の溶解工程S14を実施する場合には、容器D14は、所定の量の塩酸溶液を収容可能な容積を有することが好ましい。
【0069】
なお、乳鉢を用いて出発原料の粉末と水酸化ナトリウムとを混合することによって粉末状混合物を得る場合、乳鉢が混合部として機能する。また、出発原料の粉末と水酸化ナトリウムの粉末とを容器D14にいれ、容器D14において、これらを混合することによって粉末状混合物を得る場合、容器D14が混合部として機能する。
【0070】
容器D14は、電磁波発生部D11が発振する電磁波(本実施形態においては2.45GHz)に対して高い透過率を有する材料により構成されていることが好ましい。また、容器D14は、酸及び塩基に対する耐性が高い材料により構成されていることが好ましい。容器D14が酸及び塩基に対する耐性が高い材料により構成されている場合、加熱工程S13を実施したあとに、容器D14に硝酸溶液を注ぐことにより第1の溶解工程S14を実施することができる。
【0071】
本実施形態において、容器D14は、ポリテトラフルオロエチレンに代表されるフッ素系樹脂により構成されている。ただし、容器D14を構成する材料は、フッ素系樹脂に限定されず、ポリエーテルケトンに代表される芳香族ポリエーテルケトン樹脂であってもよいし、ポリイミド樹脂であってもよいし、アルミナや酸化チタンなどに代表される酸化物であってもよい。
【0072】
(回転テーブル)
回転テーブルD15は、電磁波印加部D13の内部空間の底面に設けられた試料台であり、容器D14を上面に載置可能なように構成されている。回転テーブルD15は、平面視した場合に円形状であり、その中心軸を回転軸として、所定の速度で回転するように構成されている。この構成によれば、回転テーブルD15の上面に載置された容器D14が周期的に回転するため、粉末状混合物MPをより均一に加熱することができる。
【0073】
(スターラ)
スターラD16は、電磁波印加部D13の内部空間の天井面に設けられた金属製の羽状部材であり。羽状部材の中心に結合された支持棒により、上記天井面に対して回転自在な状態で固定されている。スターラD16は、支持棒を回転軸として、所定の速度で回転することにより、電磁波発生部D11が発振した電磁波を反射し、電磁波印加部D13の内部空間に散乱させる。この構成によれば、スターラD16が電磁波を散乱させるため、粉末状混合物MPをより均一に加熱することができる。
【0074】
(温度計)
温度計D17は、粉末状混合物MPが放射する赤外線を検出することにより容器D14の温度を測定する放射温度計である。温度計D17は、その受光部が粉末状混合物MPからの赤外線を検出できるように、電磁波印加部D13の側壁の一部に固定されている。温度計D17は、測定した粉末状混合物MPの温度を表す温度信号を制御部に出力する。
【0075】
(制御部)
制御部は、出力が所定の値になるように電磁波発生部D11の出力を制御してもよいし、温度計D17から受け取った温度信号の温度が予め定められた温度になるように、電磁波発生部D11の出力を制御してもよい。なお、この予め定められた温度は、時間に対して一定であってもよいし、時間に応じて変化してもよい。本実施形態において、制御部は、出力の値を時間に応じて変化させるように電磁波発生部D11の出力を制御する。出力制御のパターンの一例としては、300Wの出力を600秒間に亘って維持し、その後、出力を0Wにするパターンが挙げられる。
【0076】
製造方法M10を例にすれば、このように構成された誘電加熱装置D10を用い、容器D14の内部空間に、粉末状混合物MPを収容することによって、加熱工程S13を実施することができる。また、加熱工程S13を実施したあとの容器D14に塩酸溶液を注ぐことにより第1の溶解工程S14を実施することができる。また、誘電加熱装置D10を用いて第1の溶解工程S14を実施する場合、塩酸溶液を加熱することができるので、液状混合物の塩酸溶液に対する溶解を促進することができる。液状混合物の塩酸溶液は、無機物溶液の一例である。
【0077】
〔第5の実施形態〕
<無機物の製造システム>
本発明の第5の実施形態に係る無機物の製造システム10について、図6を参照して説明する。図6は、無機物の製造システム10の一部を構成する無機物溶液の製造装置10Aの概略図である。なお、以下において、無機物の製造システム10のことを単に製造システム10とも称し、無機物溶液の製造装置10Aのことを単に製造装置10Aとも称する。
【0078】
図6に示すように、製造システム10は、製造装置10Aを備えており、図1に示した製造方法M10を実施するための装置である。より詳しくは、製造装置10Aは、図1に示した製造方法M10の取り出し工程S11を除いた各工程を実施するための装置である。ただし、製造システム10は、製造装置10Aによって得られた無機物溶液から、無機物を単離するための装置を備えていてもよい。このような装置としては、例えば、無機物を晶析するための晶析装置、無機物溶液を無水化するための無水化装置などが挙げられる。
【0079】
なお、本実施形態では、第1の実施形態と同様に、出発原料として自動車廃触媒を用いる。ただし、製造装置10Aにおける出発原料は、第1の実施形態に例示されているように、自動車廃触媒に限定されない。また、本実施形態では、第1の実施形態と同様に、水酸化物として水酸化ナトリウムを用いる。ただし、製造装置10Aにおける水酸化物は、第1の実施形態に例示されているように、水酸化ナトリウムに限定されない。
【0080】
(無機物溶液の製造装置10A)
図6に示すように、製造装置10Aは、粉砕器11aと、フィーダーF1aと、粉砕器11bと、フィーダーF1bと、バルブV1及びV2と、誘電加熱装置12と、熱交換器13と、を備えている。また、製造装置10Aは、図6に図示していない制御部を備えている。制御部は、フィーダーF1a,F1b、バルブV1及びV2、誘電加熱装置12、及び熱交換器13の各々を制御する。
【0081】
粉砕器11aは、投入された出発原料である自動車廃触媒を粉砕し粉末にする。そのうえで、粉砕器11aは、自動車廃触媒の粉末をフィーダーF1aに供給する。粉砕器11aは、既存の粉砕器の中から所望のスペックに応じて適宜選択することができる。したがって、ここでは、粉砕器11aに関する詳しい説明を省略する。粉砕器11aを用いて出発原料を粉砕することによって、出発原料を機械的に破壊して粒径を小さくすることで、自動車廃触媒の触媒層の内部に取り込まれている白金族金属を露出させるとともに、水酸化物との化学反応の効率を向上させることができる。したがって、加熱工程S13において融解する速度を高めることができる。
【0082】
フィーダーF1aは、制御部により制御されており、粉砕器11aから供給された出発原料を後述する誘電加熱装置12の容器12cに供給する。フィーダーF1aは、容器12cに出発原料を供給する原料供給部の一例である。
【0083】
粉砕器11bは、投入された水酸化ナトリウムを粉砕し粉末にする。そのうえで、粉砕器11bは、水酸化ナトリウムの粉末をフィーダーF1bに供給する。粉砕器11bは、既存の粉砕器の中から所望のスペックに応じて適宜選択することができる。したがって、ここでは、粉砕器11bに関する詳しい説明を省略する。粉砕器11bを用いて水酸化ナトリウムを粉砕することによって、水酸化ナトリウムの粒径を所望のサイズにすることができる。なお、上述したように、水酸化ナトリウムの形状は、粉末に限定されない。したがって、製造装置10Aにおいては、粉砕器11bを省略することもできる。
【0084】
フィーダーF1aは、制御部により制御されており、粉砕器11aから供給された出発原料の粉末を後述する誘電加熱装置12の容器12cに供給する。フィーダーF1aは、容器12cに出発原料を供給する原料供給部の一例である。同様に、フィーダーF1bは、制御部により制御されており、粉砕器11bから供給された水酸化ナトリウムの粉末を後述する誘電加熱装置12の容器12cに供給する。フィーダーF1bは、容器12cに水酸化ナトリウムを供給する水酸化物供給部の一例である。
【0085】
誘電加熱装置12は、電磁波発生部12aと、導波管12bと、容器12cと、撹拌機構と、温度計と、を備えている。誘電加熱装置12は、図1に示した製造方法M10の加熱工程S13及び第1の溶解工程S14を実施する。
【0086】
電磁波発生部12aは、制御部により制御されており、所定の周波数を有する電磁波を発生するように構成されている。所定の周波数は、例えば、マイクロ波の帯域内において適宜選択することができるが、本実施形態では、所定の周波数を2.45GHzとする。2.45GHzという周波数は、家庭用の電子レンジにおいて利用されている電磁波と同じ周波数である。
【0087】
導波管12bは、金属製の筒状部材であり、一方の端部が電磁波発生部12aに接続されており、他方の端部が容器12cに接続されている。導波管12bは、電磁波発生部12aが発振した電磁波を一方の端部から他方の端部へ導波し、この電磁波を他方の端部から容器12cの内部空間に放射する。なお、図6には図示していないが、導波管12bの中途区間には、図5に示したアイソレータが設けられている。この場合、図5に示した導波管D12を導波管12bに読み替えればよい。
【0088】
容器12cは、内部空間に出発原料の粉末及び水酸化ナトリウムの粉末を収容する箱状部材である。容器12cは、図4に示した容器D14と同様に、耐酸性を有する材料により構成されている。容器12cには、フィーダーF1aを介して粉砕器11aから供給された出発原料の粉末と、フィーダーF1bを介して粉砕器11bから供給された水酸化ナトリウムの粉末と、が供給される。容器12cの内部には、図6への図示を省略している撹拌機構が設けられている。制御部が撹拌機構を回転させることによって、容器12cの内部空間に供給された出発原料の粉末と水酸化ナトリウムの粉末とは、混合され、粉末状混合物となる。このように、容器12cは、出発原料の粉末と、水酸化ナトリウムの粉末とを混合することによって、粉末状混合物を得る混合部の一例である。なお、容器12cはロータリーキルン炉のような管状且つ軸回りに回転する容器であってもよい。また、ロータリーキルン炉に後述する液体供給部を組み合わせることによって、連続処理を実施可能になる。
【0089】
図6への図示を省略している温度計は、容器12cの内部空間に収容された内容物(この時点では粉末状混合物)の温度を検出し、その温度を表す温度信号を制御部に出力する。温度計は、放射温度計のような非接触式の温度計であってもよいし、熱電対のような接触式の温度計であってもよい。何れの方式の温度計を採用する場合であっても、温度計は、容器12cの内部空間に設けられており、当該内部空間に収容された内容物の温度を直接検出可能なように構成されていることが好ましい。
【0090】
制御部は、出力が所定の値になるように電磁波発生部12aの出力を制御してもよいし、温度計から受け取った温度信号が表す温度が予め定められた温度になるように、電磁波発生部12aの出力を制御してもよい。なお、この予め定められた温度は、時間に対して一定であってもよいし、時間に応じて変化してもよい。本実施形態において、制御部は、温度信号が表す温度が時間に応じて所定のプロファイルで変化するように電磁波発生部12aの出力を制御する。温度の所定のプロファイルの一例としては、5分間かけて室温から250℃まで変化させ、その後、250℃を10分間維持するパターンが挙げられる。
【0091】
このように構成された誘電加熱装置12は、図1に示した製造方法M10の加熱工程S13を実施することにより、出発原料と水酸化ナトリウムとを含む液状混合物が得られる。
【0092】
次に、バルブV1を介してHCl溶液が供給される。このバルブV1を介してHCl溶液を容器12cに供給することによって第1の溶解工程S14が実施される。このバルブV1を介してHCl溶液を容器12cに供給する機構は、液状混合物に対して酸性溶液を供給する液体供給部として機能する。容器12cにおいて、液状混合物は、HCl溶液に対して溶解し、無機物を含むHCl溶液となる。なお、上述のように、出発原料と水酸化ナトリウムとを含む液状混合物を溶解させる液体は、HCl溶液などの酸溶液に限定されず、水であってもよい。この液体として水を用いる場合には、バルブV1を介して水を容器12cに供給することによって第1の溶解工程S14が実施される。また、過酸化水素と酸との混合溶液を用いる場合には、過酸化水素と酸とをバルブV1を介して容器12cに供給してもよく、別のバルブから容器12cに供給してもよい。
【0093】
なお、第1の溶解工程S14を実施している最中、制御部は、出力が所定の値になるように電磁波発生部12aの出力を制御してもよいし、温度計から受け取った温度信号が表す温度が予め定められた温度になるように、電磁波発生部12aの出力を制御してもよい。第1の溶解工程S14を実施している最中にも誘導加熱を実施することにより、液状混合物のHCl溶液に対して溶解が促進される。また、第1の溶解工程S14を実施している最中、制御部は、撹拌機構を動作させ続けてもよい。
【0094】
熱交換器13は、上下にそれぞれ排気管13a及び13bを備えている。排気管13bの別の端部は、容器12cと接続しており、排気管13aの別の端部は、開放されている。第1の溶解工程S14において加熱されてHCl溶液は、気化し、排気管13bを通って熱交換器13に到達する。熱交換器13は、気化したHCl溶液を冷却して液体にする。液体に戻ったHCl溶液は、再び排気管13bを通って容器12cへと戻る。また、排気管13aは、気体を排気する。
【0095】
バルブV2は、容器12cの内部空間と、図示しない回収ラインとの間の経路を開閉する。制御部は、加熱工程S13及び第1の溶解工程S14を実施している間は、バルブV2を閉じておき、加熱工程S13及び第1の溶解工程S14を実施した後にバルブV2を開く。その結果、加熱工程S13及び第1の溶解工程S14により得られた無機物を含む無機物溶液は、容器12cから図示しない回収ラインに回収される。
【0096】
以上のように、製造装置10Aは、図1に示した製造方法M10の粉砕・混合工程S12、加熱工程S13、及び第1の溶解工程S14を実施することができる。
【0097】
〔第6の実施形態〕
<無機物の製造システム>
本発明の第6の実施形態に係る無機物の製造システム20について、図7を参照して説明する。図7は、無機物の製造システム20の一部を構成する無機物溶液の製造装置20Aの概略図である。なお、以下において、無機物の製造システム20のことを単に製造システム20とも称し、無機物溶液の製造装置20Aのことを単に製造装置20Aとも称する。
【0098】
図7に示すように、製造システム20は、製造装置20Aを備えており、図2に示した製造方法M20を実施するための装置である。より詳しくは、製造装置20Aは、図2に示した製造方法M20の取り出し工程S11を除いた各工程を実施するための装置である。ただし、製造システム20は、製造装置20Aによって得られた無機物溶液から、無機物を単離するための装置を備えていてもよい。このような装置としては、例えば、無機物を晶析するための晶析装置、無機物溶液を無水化するための無水化装置などが挙げられる。
【0099】
なお、本実施形態では、第1の実施形態と同様に、出発原料として自動車廃触媒を用いる。ただし、製造装置20Aにおける出発原料は、第1の実施形態に例示されているように、自動車廃触媒に限定されない。
【0100】
(無機物溶液の製造装置20A)
図7に示すように、製造装置20Aは、図6に示した製造装置10Aが含む、粉砕器11a、フィーダーF1a、粉砕器11b、フィーダーF1b、バルブV1及びV2、並びに誘電加熱装置12、と、フィルタ21と、バルブV3~V5と、誘電加熱装置22と、熱交換器23と、を含んでいる。また、製造装置20Aは、図7に図示していない制御部を備えている。制御部は、フィーダーF1a,F1b、バルブV1~V5、誘電加熱装置12、22、及び熱交換器23の各々を制御する。
【0101】
製造装置20Aが含む、製造装置10Aの粉砕器11a、フィーダーF1a、粉砕器11b、フィーダーF1b、バルブV1及びV2、並びに誘電加熱装置12は、第5の実施形態において説明する粉砕器11a、フィーダーF1a、粉砕器11b、フィーダーF1b、バルブV1及びV2、並びに誘電加熱装置12と同様である。したがって、ここでは、これらの構成に関する説明を省略する。ただし、製造装置20Aでは、バルブV1を介して水が供給される。また、バルブV2は、容器12cの内部空間と後述するフィルタ21との間の経路を開閉する。制御部は、加熱工程S13及び第1の溶解工程S21を実施している間は、バルブV2を閉じておき、加熱工程S13及び第1の溶解工程S21を実施した後にバルブV2を開く。その結果、加熱工程S13により得られた無機物を含む水溶液は、容器12cからフィルタ21に供給される。
【0102】
フィルタ21は、無機物を含む水溶液のうち、液相(主にAl及びSiを含む水溶液)を通過させ、固相(主に、Ce、Zr、Pd、Pt、Rhを含む)を濾過するように構成されている。すなわち、フィルタ21は、製造方法M20の濾過工程S22を実施することができる。したがって、ここでは、フィルタ21に関する詳しい説明を省略する。
【0103】
バルブV3は、フィルタ21と、図示しない回収ラインとの間の経路を開閉する。制御部は、少なくとも、フィルタ21に水溶液が供給されている期間中は、バルブV3を開く。その結果、濾過工程S22により得られた水溶液は、フィルタ21から図示しない回収ラインに回収される。また、濾過工程S22により得られた無機物は、後述する容器22cの内部空間に投入される。
【0104】
誘電加熱装置22は、電磁波発生部22aと、導波管22bと、容器22cと、撹拌機構と、温度計と、を備えている。誘電加熱装置22は、第5の実施形態において説明する誘電加熱装置12と同様である。また、熱交換器23は、上下にそれぞれ排気管23a及び23bを備えている。熱交換器23は、第5の実施形態において説明する熱交換器13と同様である。したがって、ここでは、これらの構成に関する説明を省略する。容器22cには、バルブV4を介して王水溶液(濃HCl+濃HNO)が供給される。このバルブV4を介して王水溶液を容器22cに供給することによって第3の溶解工程S23が実施される。このバルブV4を介して王水溶液を容器22cに供給する機構は、無機物に対して酸性溶液を供給する液体供給部として機能する。容器22cにおいて、無機物は、王水溶液に対して溶解し、無機物を含む王水溶液となる。容器22cにおいて、王水溶液は還流される。
【0105】
バルブV5は、容器22cの内部空間と、図示しない回収ラインとの間の経路を開閉する。制御部は、第3の溶解工程S23を実施している間は、バルブV5を閉じておき、第3の溶解工程S23を実施した後にバルブV5を開く。その結果、第3の溶解工程S23により得られた無機物を含む無機物溶液は、容器22cから図示しない回収ラインに回収される。
【0106】
以上のように、製造装置20Aは、図2に示した製造方法M20の粉砕・混合工程S12、加熱工程S13、第1の溶解工程S21、濾過工程S22、及び第3の溶解工程S23を実施することができる。
【0107】
〔実施例群〕
本発明の実施例群について、以下に説明する。以下の実施例群では、出発原料として、自動車廃触媒を用いた。
【0108】
<第1の実施例>
第1の実施例では、図2に示す製造方法M20のうち、粉砕・混合工程S12~第3の溶解工程S23を実施した。本実施例では、粉砕・混合工程S12において混合する水酸化物として、水酸化ナトリウムを用いた。また、本実施例では、第3の溶解工程S23において、酸溶液として王水又は塩酸を用いた。
【0109】
本実施例では、粉砕・混合工程S12において、自動車廃触媒2gを500μm未満に粉砕した。また、粉砕・混合工程S12において混合する自動車廃触媒及び水酸化ナトリウムの重量比を1:10とした。また、加熱工程S13においては、誘電加熱装置D10にて大気雰囲気・常圧下で誘電加熱した。加熱工程S13を実施することにより、粉末状混合物は、誘電加熱に伴って融解し、融解時間経過後には全て乳液状の液状混合物となった。以下では、混合物が粉末状であるか液状であるかを区別しなくてもよい場合には、単に混合物と称する。粉砕・混合工程S12及び加熱工程S13の条件を、表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
本実施例では、第1の溶解工程S21において混合物を溶解させるための液体として水を用いた。濾過工程S22において、第1の溶解工程S21により得られた水溶液を孔径3μmのフィルタを用いて吸引濾過し、固相と液相に分離した。その後、第3の溶解工程S23において、固相を溶解させるための酸溶液として王水を用いた。混合物を王水に溶解して、100℃で4時間還流し、固相を含めて約100mLの無機物溶液を得た。得られた無機物溶液を、孔径0.45μmのフィルタを用いて濾過し、固相と液相に分離した。
【0112】
濾過工程S22によって得られた固相、及び、第3の溶解工程S23によって得られた無機物溶液を濾過して得られた固相の重量を測定し、各試験区の重量割合を算出した。なお、自動車廃触媒の重量2gを100%として計算した。重量割合は、溶液に溶解されなかった無機物の重量割合を示す。したがって、重量割合が低いほど、溶液に無機物が溶解し、回収できる無機物の量が多いことを示す。結果を図8に示す。
【0113】
また、第3の溶解工程S23によって得られた試験区1~5の無機物溶液中の無機物の溶出率は、ICPを用いた定量測定により算出した。Pd、Pt、及びRhの溶出率は、以下の式(1)によって算出した。また、白金族金属以外の各無機物の溶出率は、アルカリ融解法にて対象元素を融解して、ICPを用いた定量測定を行い、以下の式(2)によって算出した。なお、出発原料の元素重量%は、定量分析により算出した。結果を表2に示す。
溶出率(%)={(原料中白金族含有量)―(溶解残渣中白金族含有量)}/(原料中白金族含有量)×100(%)・・・(1)
溶出率(%)=(溶液中各元素含有量)/原料中各元素含有量)×100(%)・・・(2)
【0114】
【表2】
【0115】
また、参考例として、加熱工程S13を実施せずに得た無機物溶液中の無機物の溶出率を算出した。つまり、参考例は、粉砕・混合工程S12で得られた混合物を、水に溶解させ(第1の溶解工程S21)、以降の各工程S22及びS23を実施した。以上の結果を表3に示す。
【0116】
【表3】
【0117】
(結果)
図8に示すとおり、水を用いて溶解した場合、溶液に溶解しなかった無機物の重量割合が50%前後であり、王水を用いて溶解した場合、溶液に溶解しなかった無機物の重量割合が25%前後であった。
【0118】
また、表3に示すとおり、試験区1~5のPd及びPtの溶出率は、97.8%以上であり、Rhの溶出率は、80.7%以上であった。特に、試験区4及び5は、Rhの溶出率がそれぞれ98%、99%であり、大幅に向上した。一方、参考例のPd、Pt、及びRhの溶出率は、試験区1~5のPd、Pt、及びRh溶出率より低く、特にRhの溶出率が低く58.2%だった。
【0119】
また、Al及びSiは、加熱工程S13により水に溶出した。出発原料中のAlの内、水に溶出しなかったAlは酸溶液に溶解した。そのため、Al及びSiは、どちらも約100%溶出したと考えられる。
【0120】
また、加熱工程S13における加熱温度を350℃とした試験区4及び5は、Ce及びZrの溶出率が大幅に向上した。試験区4では、それぞれの溶出率が71%、87%であり、試験区5では、それぞれの溶出率が93%、90%であった。
【0121】
実施例1により、加熱工程S13における加熱温度を上げることにより、効果的にRhを溶出できることが明らかになった。
【0122】
<第2の実施例>
第2の実施例では、図1に示す製造方法M10のうち、粉砕・混合工程S12~第1の溶解工程S14を実施した。本実施例では、粉砕・混合工程S12において混合する水酸化物として、水酸化ナトリウムを使用する試験区を試験区6とし、水酸化カリウムを使用する試験区を試験区7とした。また、本実施例では、第1の溶解工程S14において、混合物を溶解する溶液として水を用いた。
【0123】
第1の実施例の試験区4と同様に混合物を得た。
【0124】
本実施例では、第1の溶解工程S14において、加熱工程S13にて得られた混合物を溶解させるための液体として水を用いた。大気雰囲気・常温・常圧下で、混合物を水に溶解し、無機物溶液を得た。
【0125】
第1の溶解工程S14において得られた無機物溶液を濾過し、固相を得て、固相の重量割合を算出した。重量割合は、第1の実施例と同様の方法で算出した。結果を図9に示す。
【0126】
また、固相のX線回析(XRD)試験を行った。結果を図10に示す。
【0127】
(結果)
図9に示すとおり、水酸化物として水酸化ナトリウムを使用した試験区では、重量割合が44.3%であった。したがって、加熱工程S13において加熱温度を高めることによって、無機物が溶解し易くなることが示された。
【0128】
図10に示すとおり、水酸化物として水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのいずれを使用しても、CeO又は(Ce,Zr)Oが溶解せずに固相に残っていた。また、水酸化物として水酸化カリウムを使用した試験区では、無機物溶液中でKMgSiOが生成されたため、重量割合が高くなった。
【0129】
<第3の実施例>
第3の実施例では、図1に示す製造方法M10のうち、粉砕・混合工程S12~第1の溶解工程S14を実施した。本実施例では、粉砕・混合工程S12において混合する水酸化物として水酸化ナトリウムを使用し、加熱工程S13における加熱温度が250℃の試験区を試験区8、350℃の試験区を試験区9とした。また、水酸化カリウムを使用し、加熱温度が350℃の試験区を試験区10とした。第2の実施例と同様に混合物を得た。
【0130】
本実施例では、第1の溶解工程S14において、加熱工程S13にて得られた混合物を溶解させるための液体として塩酸を用いた。大気雰囲気・常圧下で、混合物を塩酸に溶解し、無機物溶液を得た。
【0131】
第1の溶解工程S14において得られた無機物溶液を濾過し、固相と液相に分離した。固相の重量割合とXRDを測定した。重量割合とXRDは、第2の実施例と同様の方法で算出した。それぞれの結果を図11及び図12に示す。
【0132】
得られた液相のAl、Ce、Zr、Pd、Pt、及びRhの溶出率は、ICPを用いた定量測定を行い、以下の式(3)によって算出した。
溶出率(%)=(溶液中各元素含有量)/原料中各元素含有量)×100(%)・・・(3)
【0133】
結果を表4に示す。なお、表4中、分析値は、原料に含まれる無機物の重量%又は含有量を示す。
【0134】
【表4】
【0135】
(結果)
図11に示すように、混合物を塩酸で溶解した場合の重量割合は、約10%前後であった。図12に示すように、固相は、主にCeO、又は(Ce,Zr)Oであると考えられる。
【0136】
表4に示すように、試験区10では、Alが顕著に溶出した。また、試験区9は、試験区8と比較して、Rhの溶出率が増加した。
【0137】
<第4の実施例>
第4の実施例では、図2に示す製造方法M20のうち、粉砕・混合工程S12~第3の溶解工程S23を実施した。本実施例では、粉砕・混合工程S12において混合する水酸化物として、水酸化ナトリウムを使用する試験区と、水酸化カリウムを使用する試験区とを実施した。また、本実施例では、第3の溶解工程S23において、過酸化水素と硝酸とを1:1の割合で含む酸溶液を用いた。
【0138】
粉砕・混合工程S12及び加熱工程S13は、第2の実施例と同様に実施した。
【0139】
第1の溶解工程S21は、第1の実施例と同様に実施し、無機物溶液を得た。水酸化物として水酸化ナトリウムを使用した試験区は試験区11とし、水酸化物として水酸化カリウムを使用した試験区は試験区12とした。次に、得られた無機物溶液を濾過工程S22及び第3の溶解工程S23に供した。第3の溶解工程S23では、過酸化水素と硝酸とを1:1の割合で含む酸溶液を使用して、室温・常圧の環境下で混合物を溶解し、無機物溶液を得た。水酸化物として水酸化ナトリウムを使用した試験区は試験区13とし、水酸化物として水酸化カリウムを使用した試験区は試験区14とした。第3の溶解工程S23における溶解の様子を、図13に示す。
【0140】
濾過工程S22によって得られた固相、及び、第3の溶解工程S23によって得られた無機物溶液を濾過して得られた固相のXRD試験を行った。XRD試験は、第2の実施例と同様の方法で行った。結果を図14に示す。
【0141】
また、濾過工程S22によって得られた液相、及び、第3の溶解工程S23によって得られた無機物溶液を濾過して得られた液相について、Al、Ce、Zr、Pd、Pt、及びRhの溶出率を算出した。溶出率は、第3の実施例と同様の方法で算出した。結果を表5に示す。なお、表5中、分析値は、原料に含まれる無機物の重量%又は含有量を示す。
【0142】
【表5】
【0143】
(結果)
図13に示すとおり、第3の溶解工程S23において、過酸化水素を含む硝酸溶液に混合物を溶解することにより、細かな気泡が発生した。気泡は、過酸化水素が四価のCeを三価のCeに還元することにより発生したと考えられる。
【0144】
図14に示すとおり、試験区13及び14を濾過して得られた固相は、試験区11及び12を濾過して得られた固相と比較して、CeO又は(Ce、Zr)Oを示すピークが弱まった。さらに、表5に示すように、試験区13及び14は、試験区11及び12と比較して、Ceの溶出率が増加した。したがって、過酸化水素を含む酸溶液は、CeO又は(Ce、Zr)Oを溶解する効果を有することが明らかになった。
【0145】
また、図14に示すように、何れの固相においても、水酸化物として水酸化ナトリウムを使用した試験区は、水酸化カリウムを使用した試験区と比較して、CeO又は(Ce、Zr)Oを示すピークが弱かった。
【0146】
<第5の実施例>
第5の実施例では、図1に示す製造方法M10のうち、粉砕・混合工程S12~第1の溶解工程S14を実施した。本実施例では、粉砕・混合工程S12において混合する水酸化物として、水酸化ナトリウムを使用した。粉砕・混合工程S12及び加熱工程S13は、第1の実施例の試験区3と同様に実施して混合物を得た。
【0147】
第1の溶解工程S14において、得られた混合物を含む酸溶液を100℃で1時間還流し、無機物溶液を得た。酸溶液として王水と過酸化水素との混合溶液を使用した試験区を試験区15とし、硝酸と過酸化水素との混合溶液を使用した試験区を試験区16とした。なお、試験区15は、王水:過酸化水素=4:1の混合溶液を使用し、試験区16は、硝酸:過酸化水素=1:1の混合溶液を使用した。
【0148】
得られた無機物溶液を濾過して液相を採取し、Al、Ce、Zr、Pd、Pt、及びRhの溶出率を算出した。溶出率は、第3の実施例と同様の方法で算出した。
【0149】
<第6の実施例>
第6の実施例では、図1に示す製造方法M10のうち、粉砕・混合工程S12~第1の溶解工程S14を実施した。本実施例では、粉砕・混合工程S12において混合する水酸化物として、水酸化ナトリウムを使用した。粉砕・混合工程S12及び加熱工程S13は、第1の実施例の試験区3と同様に実施して混合物を得た。
【0150】
第1の溶解工程S14において、得られた混合物を含む酸溶液を100℃で1時間還流し、無機物溶液を得た。酸溶液として硫酸を使用した試験区を試験区17とし、王水を使用した試験区を試験区18とした。
【0151】
得られた無機物溶液を濾過して液相を採取し、Al、Ce、Zr、Pd、Pt、及びRhの溶出率を算出した。溶出率は、第3の実施例と同様の方法で算出した。
【0152】
第5及び第6の実施例の結果を表6に示す。なお、表6中、分析値は、原料に含まれる無機物の重量%又は含有量を示す。
【0153】
【表6】
【0154】
過酸化水素を添加することにより、Ceの溶出率がわずかに増加した。王水を使用することにより、Ptを効率的に溶出できることが明らかとなった。
【0155】
<第7の実施例>
第7の実施例では、図2に示す製造方法M20のうち、粉砕・混合工程S12~第3の溶解工程S23を実施した。本実施例では、粉砕・混合工程S12において混合する水酸化物として、水酸化ナトリウムを使用し、第1の溶解工程S21において、酸溶液として王水を使用した。粉砕・混合工程S12~第1の溶解工程S21は、第6の実施例の試験区18における粉砕・混合工程S12~第1の溶解工程S14と同様に実施して無機物溶液を得た。
【0156】
得られた無機物溶液を濾過して固相と液相に分離した。第3の溶解工程S23において、濾過工程S22により得られた固相に硫酸を添加し、200℃で1時間還流して無機物溶液を得た。
【0157】
得られた無機物溶液を濾過して液相を採取し、Al、Ce、Zr、Pd、Pt、及びRhの溶出率を算出した。溶出率は、第3の実施例と同様の方法で算出した。結果を表7に示す。表7中、濾過工程S22によって得られた液相を液相1とし、第3の溶解工程S23により得られた無機物溶液を濾過して得た液相を液相2とした。
【0158】
【表7】
【0159】
(結果)
第3の溶解工程S23により、液相1で溶け残っていたCe、Zr、及びRhが溶解し、合計の溶出率が増加した。したがって、第1の溶解工程及び第3の溶解工程を実施することにより、無機物の溶出率が増加することが明らかとなった。
【0160】
<参考例>
参考例では、自動車廃触媒0.2gを500μm未満に粉砕し、硫酸溶液に溶解した。溶解は、第4の実施形態の誘電加熱装置D10を使用して、自動車廃触媒の粉末を溶解した硫酸溶液を加熱し、還流を行った。加熱は、190℃で1時間行った。その後、無機物溶液を濾過し、固相と液相に分離した。
【0161】
得られた固相の重量割合を算出した。重量割合は、第1の実施例と同様の方法で算出した。また、得られた固相のXRD試験を行った。XRD試験は、第2の実施例と同様の方法で行った。XRD試験の結果を図15に示す。
【0162】
また、得られた液相のAl、Ce、Zr、Pd、Pt、及びRhの溶出率を算出した。溶出率は、第3の実施例と同様の方法で算出した。結果を表8に示す。なお、表8中、分析値は、原料に含まれる無機物の重量%又は含有量を示す。
【0163】
【表8】
【0164】
(結果)
得られた固相の重量割合は、41.6%だった。
【0165】
図15に示すとおり、固相中にCeO又は(Ce、Zr)Oを示すピークは確認されなかった。また、表8に示すとおり、液相中のCeの溶出率が85%であり、Rhの溶出率が78%であった。
【0166】
第2~第7の実施例及び参考例における溶出率の結果を、表9にまとめる。
【0167】
【表9】
【0168】
〔まとめ〕
本発明の第1の態様に係る無機物溶液の製造方法は、酸化物及び白金族金属を含む出発原料の粉末と、水酸化物とを混合した粉末状混合物を加熱することによって、前記出発原料を含む液状混合物を得る加熱工程を含んでいる。なお、本製造方法において、水酸化物の形状は、限定されない。
【0169】
また、加熱工程においては、特許文献1に記載されている高温処理のように高温(例えば、1300℃~1600℃)における処理が不要であり、粉末状混合物に対して加熱を実施するだけで液状混合物を得ることができる。したがって、本製造方法は、特許文献1に記載の製造方法と比較して、エネルギー効率が高い。
【0170】
以上のように、本製造方法は、例えば白金族金属のように塩基性溶液及び酸性溶液の何れに対しても溶解しにくい無機物の溶液を製造する製造方法であって、エネルギー効率が高い新規な製造方法を提供することができる。
【0171】
また、本発明の第2の態様に係る無機物溶液の製造方法においては、上述した第1の態様に係る製造方法の構成に加えて、前記加熱は、誘電加熱である、構成が採用されている。
【0172】
水酸化物が含む水酸基は、誘電加熱に用いられる電磁波を吸収することによって、電磁波のエネルギーを自身の熱エネルギーに変換する。本製造方法の加熱工程においては、酸化物及び白金族金属を含む出発原料の粉末と水酸化物の粉末とが混合されているため、水酸化物の熱エネルギーは、出発原料にも効率よく供給される。その結果、酸化物及び白金族金属を含む出発原料と水酸化物とが融解した液状混合物を得ることができる。この液状混合物は、酸溶液に対して容易に溶解する。したがって、この液状混合物を用いることによって、無機物溶液を製造することができる。
【0173】
また、本発明の第3の態様に係る無機物溶液の製造方法においては、上述した第1の態様又は第2の態様に係る製造方法の構成に加えて、前記出発原料は、セリアと、ロジウムとを含んでいる、構成が採用されている。
【0174】
このように、出発原料の一例としては、セリアと、ロジウムとを含んでいる出発原料が挙げられる。
【0175】
また、本発明の第4の態様に係る無機物溶液の製造方法においては、上述した第1の態様~第3の態様の何れか一態様に係る製造方法の構成に加えて、前記水酸化物は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも何れかである、構成が採用されている。
【0176】
このように、水酸化物の一例としては水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが挙げられる。なお、水酸化物として、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとの混合物を用いてもよい。
【0177】
また、本発明の第5の態様に係る無機物溶液の製造方法においては、上述した第1の態様~第4の態様の何れか一態様に係る無機物溶液の製造方法の構成に加えて、前記加熱工程において得られた前記液状混合物を酸溶液又は水に溶解させることによって、前記白金族金属の酸溶液を得る第1の溶解工程を更に含んでいる、構成が採用されている。
【0178】
上記の構成によれば、無機物溶液を確実に得ることができる。
【0179】
また、本発明の第6の態様に係る無機物溶液の製造方法においては、上述した第1の態様~第5の態様の何れか一態様に係る無機物溶液の製造方法の構成に加えて、前記加熱工程の前に実施する第2の溶解工程であって、酸化物及び白金族金属を含む粉末を酸溶液又は水に溶解させる第2の溶解工程と、前記第2の溶解工程により得られた溶液を濾過し、得られた固相を前記出発原料の粉末とする濾過工程と、を更に含む、構成が採用されている。
【0180】
このような構成によれば、出発原料に含まれる特定の元素を段階的に分離することができる。
【0181】
また、本発明の第7の態様に係る無機物溶液の製造方法においては、上述した第1の態様~第6の態様の何れか一態様に係る無機物溶液の製造方法の構成に加えて、前記酸溶液は、過酸化水素を含んでいる、構成が採用されている。
【0182】
過酸化水素は、四価のCeを三価のCeに還元する。これにより、CeOが分解されるため、触媒層の内部に浸透拡散されている白金族金属を、容易に溶解することができる。
【0183】
また、本発明の第8の態様に係る無機物溶液の製造方法においては、上述した第1の態様~第7の態様の何れか一態様に係る無機物溶液の製造方法の構成に加えて、前記加熱工程は、常圧下において前記粉末状混合物を誘電加熱する工程である、構成が採用されている。
【0184】
このように、本製造方法の加熱工程においては、粉末状混合物を加圧しながら誘電加熱しなくても液状混合物を得ることができる。したがって、本製造方法を実施する製造装置を簡易に構成することができるし、製造装置を設置するプラントの認可を得るための労力を削減することができる。
【0185】
本発明の第9の態様に係る無機物溶液の製造装置は、酸化物及び白金族金属を含む出発原料の粉末と、水酸化物とを混合することによって、出発原料及び水酸化物の粉末状混合物を得る混合部と、前記粉末状混合物を収容する容器と、誘電加熱するための電磁波を発生させる電磁波発生部と、を備えている。
【0186】
上記の構成によれば、上述した第1の態様及び第2の態様に係る無機物溶液の製造方法と同様の効果を奏する。なお、本製造装置の混合部において酸化物及び白金族金属を含む出発原料の粉末と混合される水酸化物の形状は、限定されない。
【0187】
また、本発明の第10の態様に係る無機物溶液の製造装置においては、上述した第9の態様に係る無機物溶液の製造装置の構成に加えて、前記出発原料は、セリアと、ロジウムとを含んでいる、構成が採用されている。
【0188】
上記の構成によれば、上述した第3の態様に係る無機物溶液の製造方法と同様の効果を奏する。
【0189】
また、本発明の第11の態様に係る無機物溶液の製造装置においては、上述した第9の態様又は第10の態様に係る無機物溶液の製造装置の構成に加えて、前記水酸化物は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも何れかである、構成が採用されている。
【0190】
上記の構成によれば、上述した第4の態様に係る無機物溶液の製造方法と同様の効果を奏する。なお、水酸化物として、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとの混合物を用いてもよい。
【0191】
また、本発明の第12の態様に係る無機物溶液の製造装置においては、上述した第9の態様~第11の態様の何れか一態様に係る無機物溶液の製造装置の構成に加えて、前記電磁波発生部と前記容器との間に介在し、前記電磁波を前記電磁波発生部から前記容器に導波する導波管と、前記導波管の中途区間に設けられたアイソレータであって、前記容器から前記電磁波発生部に向かって伝搬する電磁波を吸収するアイソレータと、を更に備えている、構成が採用されている。
【0192】
上記の構成によれば、電磁波発生部が発生させた電磁波の一部が容器から電磁波発生部の方向に戻ってくる場合であっても、そのような電磁波をアイソレータが吸収することができる。したがって、電磁波発生部の動作に悪影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0193】
また、本発明の第13の態様に係る無機物溶液の製造装置においては、上述した第9の態様~第12の態様の何れか一態様に係る無機物溶液の製造装置の構成に加えて、前記容器に酸溶液又は水を供給する液体供給部を更に備えている、構成が採用されている。
【0194】
上記の構成によれば、上述した第5の態様に係る無機物溶液の製造方法と同様の効果を奏する。
【0195】
また、本発明の第14の態様に係る無機物溶液の製造装置においては、上述した第14の態様に係る無機物溶液の製造装置の構成に加えて、前記酸溶液は、過酸化水素を含んでいる、構成が採用されている。
【0196】
上記の構成によれば、上述した第7の態様に係る無機物溶液の製造方法と同様の効果を奏する。
【0197】
また、本発明の第15の態様に係る無機物溶液の製造方法は、排ガス処理用の触媒を粉砕することにより、出発原料の粉末を得る粉砕工程と、前記出発原料の粉末と、水酸化物とを混合した粉末状混合物を加熱することによって、前記出発原料を含む液状混合物を得る加熱工程と、を含んでいる。
【0198】
このように、排ガス処理用の触媒を粉砕して出発原料の粉末とすることにより、触媒中に含まれる白金族金属等の無機物を回収することができる。
【0199】
また、本発明の第16の態様に係る無機物溶液の製造方法は、上述した第15の態様に係る無機物溶液の製造方法の構成に加えて、前記加熱工程において得られた前記液状混合物を、王水、硝酸、塩酸、及び硫酸のうち少なくとも1種と、過酸化水素と、の混合溶液に溶解させ、200℃未満で加熱することによって、白金族金属の酸溶液を得る溶解工程を更に含んでいる、構成が採用されている。
【0200】
このように、溶解工程において混合溶液に溶解させた液状混合物を200℃未満で加熱することにより、無機物溶液中に含まれる無機物の溶出率を向上させることができる。
【0201】
また、本発明の第17の態様に係る無機物溶液の製造方法は、上述した第15の態様又は第16の態様に係る無機物溶液の製造方法の構成に加えて、前記加熱は、誘電加熱である、構成が採用されている。
【0202】
上記の構成によれば、第2の態様に係る無機物溶液の製造方法と同様の効果を奏する。
【0203】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0204】
M10 製造方法(無機物溶液の製造方法)
S13 加熱工程
S14 第1の溶解工程
D10,12 誘電加熱装置(無機物溶液の製造装置)
D11,12a 電磁波発生部
D12,12b 導波管
D14,12c 容器
D18 アイソレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15