(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037611
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 25/04 20060101AFI20240312BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20240312BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20240312BHJP
C08K 5/101 20060101ALI20240312BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C08L25/04
C08L51/04
C08L91/00
C08K5/101
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142559
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】岩本 大和
(72)【発明者】
【氏名】中川 優
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002AE05X
4J002BC04W
4J002BC07W
4J002BN06Y
4J002BN14Y
4J002BN15Y
4J002EH106
4J002FD026
4J002GQ00
4J200AA04
4J200BA07
4J200CA01
4J200DA28
4J200EA21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】バイオマス原料を用いることで環境負荷を低減し、かつ優れた機械的強度を有する、低温成形が可能なスチレン系樹脂組成物及びその成形体を提供する。
【解決手段】スチレン系単量体単位を含むスチレン系樹脂(A)30~84.9質量%と、バイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)15質量%超70質量%以下と、を含有するスチレン系樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系単量体単位を含むスチレン系樹脂(A)30~84.9質量%と、
バイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)15質量%超70質量%以下と、を含有するスチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
ビカット軟化温度は65℃以下である、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂温度180℃、せん断速度1000/secで測定した溶融粘度が140(Pa・sec)以下である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂温度180℃、せん断速度40/secで測定した溶融粘度が1200(Pa・sec)以下である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記スチレン系樹脂(A)は、前記スチレン系単量体単位を含むスチレン系重合体(a-1)を構成成分とするポリマーマトリックス相及びゴム状重合体粒子(a-2)を含有するゴム変性スチレン系樹脂であり、
前記スチレン系重合体(a-1)のSP値と前記バイオマス可塑剤(B)のSP値との差の絶対値が、2.5(cal/cm3)1/2未満である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記バイオマス可塑剤(B)のSP値が、7.4~10.5(cal/cm3)1/2である、請求項1又は2のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
前記スチレン系樹脂(A)は、前記スチレン系単量体単位を含むスチレン系重合体(a-1)を構成成分とするポリマーマトリックス相及びゴム状重合体粒子(a-2)を含有するゴム変性スチレン系樹脂であり、
かつ前記ゴム状重合体粒子(a-2)の含有量が前記スチレン系樹脂(A)の総量(100質量%)に対して2~40質量%であり、前記ゴム状重合体粒子(a-2)の平均粒子径が0.3~7.0μmである、請求項1又は2のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項8】
前記スチレン系樹脂(A)に含まれる前記スチレン系単量体単位の含有量が、前記スチレン系樹脂(A)の総量(100質量%)に対して50質量%以上である、請求項1又は2のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1又は2のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物を射出成形してなる射出成形体。
【請求項10】
請求項1又は2のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物からなるシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂組成物及び該スチレン系樹脂からなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂はその成形性・機械的強度から雑貨用品や家電用品など多用途に使用されている。また、低炭素社会及び循環型社会の実現の観点からバイオマス材料が注目されており、スチレン系樹脂材料と、天然由来のバイオマス材料との複合材料が検討されている。
例えば、特許文献1には、ゴム変性ポリスチレンとポリ乳酸とスチレン単量体単位含有熱可塑性エラストマーとを含むスチレン系樹脂組成物が開示されている。特許文献2にはバイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上のバイオマス可塑剤が0.1~15質量%含有したスチレン系樹脂組成物が開示されている。
【0003】
スチレン系樹脂は、他の熱可塑性樹脂に比べて溶融温度範囲が広く、樹脂の粘度や成形品形状に応じて成形温度を設定することが可能である。しかし、成形温度を高くすると樹脂から揮発成分が発生しやすくなり、射出成形時に金型汚れ、シート成形時には目ヤニが発生しやすくなる。また、成形温度が高い場合、成形機シリンダー内で樹脂が焼け、黄色味が強くなりやすい。さらに、工業的なスケールで成形した際、成形温度が低い場合に比べ、成形温度が高くなると消費電力が多大になるため、経済的及び環境配慮の観点で好ましくない。そのため、低温で成形が可能な樹脂が求められる。例えば特許文献3には、低温成形性に優れたスチレン系樹脂組成物が開示されている。また、特許文献4では、シート成形後、低温成形での二次加工が可能なシート成形用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-199652号公報
【特許文献2】国際公開2022/114221号公報
【特許文献3】特開2009-256502号公報
【特許文献4】特開平11-228777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術は、スチレン系樹脂と植物由来の生分解性ポリマーの中では比較的高い融点、強靭性及び透明性を備えたポリ乳酸とのポリマーアロイを検討しているが、スチレン系樹脂に対するポリ乳酸の相溶性は非常に低いため、市場において要求される耐衝撃性又は伸縮性を満足する製品設計を行うことが難しいという問題がある。また、ポリ乳酸はスチレン系樹脂と非相溶であるため、破材のリサイクルを行うのが困難という問題もある。さらにポリ乳酸は可塑剤ではないため、スチレン系樹脂の流動性を向上させる効果に乏しい。そのため、ポリ乳酸とスチレン系樹脂のアロイは流動性が低く、低温で成形するのは困難である。
【0006】
上記特許文献2の技術では、バイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上のバイオマス可塑剤が0.1~15質量%含有したスチレン系樹脂組成物を検討しているが、含有量が0.1~15質量%の場合、成形温度を大きく下げることは困難なので成形機シリンダー内や押出機での溶融混錬時に樹脂焼けによって黄色味が増す問題がある。また、成形時の揮発成分によって金型汚れやシート目ヤニが発生する場合がある。
【0007】
上記特許文献3の技術では、スチレン系樹脂と難燃剤とを含有した200℃でのメルトマスフローレートが4.0~10.0g/minであるスチレン系樹脂組成物を検討されているが、メルトマスフローレートが一般的なスチレン系樹脂の範囲であるため、低温成形性が不十分であると考えられる。また環境負荷低減を考慮したバイオマス素材は含有されていない。
【0008】
上記特許文献4の技術では、ゴム変性スチレン系樹脂に流動パラフィンを添加したシート成形用樹脂組成物を検討されている。しかし、流動パラフィンはスチレン系樹脂との相溶性が悪く、高含有させるとブリードアウトが問題となる。また、流動パラフィンでは、射出成形やシート成形時に流動パラフィンが揮発し、射出成形機の金型汚れの悪化や、シート目ヤニの発生が懸念される。また、環境負荷低減を考慮したバイオマス素材は含有されていない。
そのため、上記特許文献1~4では環境負荷を低減し、機械的強度に優れ、低温成形が可能なバイオマス原料を用いたスチレン系樹脂については検討していない。
そこで、本開示は、バイオマス原料を用いることで、環境負荷を低減し、かつ優れた機械的強度を有する低温成形が可能なスチレン系樹脂組成物及びその成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記問題点に鑑み、鋭意研究し、実験を重ねた結果、スチレン系樹脂(A)と、高沸点を有するバイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)とを特定の比率で混合したスチレン系樹脂組成物を用いることにより、上記の課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
[バイオマス可塑剤(B)含有量による形態の変化]
特に、バイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)とスチレン系樹脂(A)との相溶性が低いと、スチレン系樹脂組成物全体におけるバイオマス可塑剤(B)の含有量を上げた場合、組成物においてブリードアウト等が顕著になり、生産することが困難になるケースが確認された。そこで、バイオマス可塑剤(B)の各含有量におけるスチレン系樹脂組成物の物性(形態、せん断粘度)の変化を以下の通り検討した。
バイオマス可塑剤(B)の含有量が15質量%を超えると、スチレン系樹脂(A)とバイオマス可塑剤(B)とが完全に相溶しづらくなり、モルフォロジーが変化すると考えられる。その結果、バイオマス可塑剤(B)の含有量が15質量%以下では、含有量の低下に伴い耐熱性を示すビカット軟化温度が直線的に低下するが、15質量%を超えると、バイオマス可塑剤(B)の含有量を増やしてもビカット軟化温度の低下幅が少なくなることが確認されている。一方で、同じ温度における剪断粘度(180℃、1000/sec)はバイオマス可塑剤(B)の含有量に伴い、低下することが確認されている。そのため、15質量%を超えてバイオマス可塑剤(B)の含有量が増大すると、組成物全体の耐熱性は維持されながら、より低温での成形加工が可能になる。バイオマス可塑剤(B)の含有量に対する剪断粘度(180℃、1000/sec)とビカット軟化温度との関係を表1に示す。
組成物全体の耐熱性を維持させることで、輸送中や着色乾燥工程等において熱によって成形品が収縮、変形することなく形状の維持が可能となる。
【表1】
上記表1の検討の結果を踏まえて、スチレン系樹脂組成物のブリードアウト・熱による成形品の収縮、変形等が顕著になる現象が生じた場合、当該バイオマス可塑剤(B)のSP値とスチレン系樹脂(A)のSP値とを特定の範囲内に制御することがより好ましい。
当該バイオマス可塑剤(B)のSP値とスチレン系樹脂(A)のSP値とが特定の範囲であると、両者の相溶性が高まり、バイオマス可塑剤(B)の含有量を上げてもブリードアウトが起こらず生産可能であることを見出した。
【0011】
本発明は以下の通りである。
(1)本開示は、スチレン系単量体単位を含むスチレン系樹脂(A)30~84.9質量%と、バイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)15質量%超70質量%以下と、を含有するスチレン系樹脂組成物である。
【0012】
(2)本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、前記スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度は65℃以下であることが好ましい。
【0013】
(3)本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、前記スチレン系樹脂組成物を樹脂温度180℃、せん断速度1000/secで測定した溶融粘度が140(Pa・sec)以下であることが好ましい。
【0014】
(4)本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、前記スチレン系樹脂組成物を樹脂温度180℃、せん断速度40/secで測定した溶融粘度が1200(Pa・sec)以下であることが好ましい。
【0015】
(5)本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、前記スチレン系樹脂(A)は、前記スチレン系単量体単位を含むスチレン系重合体(a-1)を構成成分とするポリマーマトリックス相及びゴム状重合体粒子(a-2)を含有するゴム変性スチレン系樹脂であり、
前記スチレン系重合体(a-1)のSP値と前記バイオマス可塑剤(B)のSP値との差の絶対値が、2.5(cal/cm3)1/2未満であることが好ましい。
【0016】
(6)本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、前記バイオマス可塑剤(B)のSP値が、7.4~10.5(cal/cm3)1/2であることが好ましい。
【0017】
(7)本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、スチレン系重合体(a―1)のSP値が、7.0~11.0(cal/cm3)1/2であることが好ましい。
【0018】
(8)本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、前記スチレン系樹脂(A)は、スチレン系重合体(a-1)を構成成分とするポリマーマトリックス相及びゴム状重合体粒子(a-2)を含有するゴム変性スチレン系樹脂であり、
かつ前記ゴム状重合体粒子(a-2)の含有量が前記スチレン系樹脂(A)の総量(100質量%)に対して2~40質量%であり、前記ゴム状重合体粒子(a-2)の平均粒子径が0.3~7.0μmであることが好ましい。
【0019】
(9)本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、前記スチレン系重合体(a-1)に含まれる前記スチレン系単量体単位の含有量が、前記スチレン系重合体(a-1)の総量(100質量%)に対して50質量%以上であることが好ましい。
【0020】
(10)本実施形態は、上記(1)~(9)のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物を射出成形してなる射出成形体である。
【0021】
(11)本実施形態は、上記(1)~(9)のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物からなるシートである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、バイオマス原料を用いることで、環境負荷を低減し、かつ高い機械的強度を維持する低温成形が可能なスチレン系樹脂組成物及びその成形体を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0024】
[スチレン系樹脂組成物]
本実施形態にかかるスチレン系樹脂組成物は、スチレン系単量体単位を含むスチレン系樹脂(A)30~84.9質量%と、バイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)15質量%超~70質量%と、を含有する。
これにより、環境負荷の低減、及び成形時における高い機械的強度を有する低温成形が可能なスチレン系樹脂組成物を提供できる。
使用用途に応じて、スチレン系樹脂組成物に対してさらに特性を付与してもよい。例えば、本実施形態のスチレン系樹脂組成物の好ましい態様の一つは、高い機械的強度を重視する場合、スチレン系樹脂組成物はゴム状重合体の粒子(以下、ゴム状重合体粒子(a-2)と称する。)を含有しうる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物がゴム状重合体粒子(a-2)を含有する場合、いわゆるMBS樹脂粒子などのゴム状重合体粒子(a-2)を、スチレン系樹脂(A)としてさらに含有する態様、あるいはスチレン系樹脂(A)として、ポリマーマトリックス相としてのスチレン系単量体単位を含むスチレン系重合体(a-1)中にゴム状重合体粒子(a-2)が分散したゴム変性スチレン系樹脂を使用する態様が挙げられる。
【0025】
「ゴム状重合体粒子(a-2)を含む形態」
本開示の好ましいスチレン系樹脂組成物は、スチレン系単量体単位を含むスチレン系樹脂(A)30~84.9質量%と、バイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)15質量%超~70質量%と、を含有し、前記スチレン系樹脂(A)は、前記スチレン系単量体単位を含むスチレン系重合体(a-1)を構成成分とするポリマーマトリックス相及びゴム状重合体粒子(a-2)を含有するゴム変性スチレン系樹脂でありうる。
換言すると、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、当該スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、ゴム変性スチレン系樹脂30~84.9質量%及びバイオマス可塑剤(B)15質量%超~70質量%を含有し、前記ゴム変性スチレン系樹脂はスチレン系単量体単位を含むスチレン系重合体(a-1)を構成成分として有するポリマーマトリックス相及びゴム状重合体粒子(a-2)を含有しうる。
これにより、環境負荷の低減、より高い機械的強度と優れたスチレン系樹脂組成物を提供できる。
【0026】
<ゴム変性スチレン系樹脂>
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、ゴム変性スチレン系樹脂を含有してもよい。そして、本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、30~84.9質量%であり、下限値は35質量%以上が好ましく、より好ましくは40質量%以上、さらにより好ましくは45質量%以上、さらにより好ましくは47.5質量%以上、さらにより好ましくは50質量%以上、さらにより好ましくは52.5質量%以上、さらにより好ましくは55質量%以上、さらにより好ましくは57.5質量%以上、さらにより好ましくは60質量%以上である。上限値は82.5質量%以下が好ましく、より好ましくは80質量%以下、さらにより好ましくは78質量%以下、さらにより好ましくは76質量%以下である。当該含有量を30質量%以上とすることにより、耐衝撃性を向上する。一方、当該含有量を84.9質量%以下とすることにより、流動性が向上し、低温成形性を向上させることができる。
【0027】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂とは、ポリマーマトリックス相としてのスチレン系単量体単位を含むスチレン系重合体(a-1)中にゴム状重合体粒子(a-2)が分散したものであり、ゴム状重合体の存在下でスチレン系単量体を重合させることにより製造することができる。
【0028】
-ポリマーマトリックス相-
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂のポリマーマトリックス相は、スチレン系単量体単位を含むスチレン系重合体(a-1)から構成されることが好ましい。本実施形態のスチレン系重合体(a-1)を構成する単量体単位としては、スチレン系単量体単位を必須に含有し、必要により前記スチレン系単量体単位と共重合可能なビニル系単量体単位(i)を含有することが好ましい。したがって、前記スチレン系重合体(a-1)は、ポリスチレン及びスチレン系共重合樹脂からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。当該スチレン系共重合樹脂としては、後述の通り、例えば、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。
なお、「構成される」とは、ポリマーマトリックス相の総量の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上をスチレン系重合体(a-1)により占有されることをいう。
本実施形態のスチレン系重合体(a-1)を構成する単量体単位のうち、スチレン系単量体単位の含有量は、スチレン系重合体(a-1)の全体に対して50~100質量%が好ましく、より好ましくは60~100質量%、さらに好ましくは70~100質量%、さらにより好ましくは80~100質量%、よりさらに好ましくは90~100質量%である。スチレン系重合体(a-1)中のスチレン系単量体単位及び当該スチレン系単量体単位以外のスチレン系単量体と共重合可能なビニル系単量体単位(i)の含有量は、それぞれ、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から求めることができる。
本実施形態におけるスチレン系単量体としては、スチレンの他に、例えば、α-メチルスチレン、α-メチルp-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特に、スチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種又は2種以上使用することができる。
【0029】
本実施形態において、上記ビニル系単量体(i)としては、不飽和カルボン酸単量体及び不飽和カルボン酸エステル単量体単位からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましく、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。これらの単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、用語「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を含む。
【0030】
--ポリスチレン--
本実施形態において、ポリスチレンとはスチレン系単量体を重合した単独重合体であり、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。ポリスチレンを構成するスチレン系単量体としては、上記スチレン系単量体と同様であり、スチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特に工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種又は2種以上使用することができる。ポリスチレンは本発明の効果を損なわない範囲で、上記のスチレン系単量体単位以外の単量体単位をさらに含有することを排除しないが、典型的にはスチレン系単量体単位からなる。
【0031】
--スチレン系共重合樹脂--
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂とは、スチレン系単量体単位及びビニル系単量体単位(i)を含む樹脂であることが好ましく、スチレン系単量体単位と、不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル単量体単位からなる群から選択される1種又は2種以上の単量体単位と、を含む樹脂であることがより好ましく、スチレン系単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル単量体単位を含む樹脂であることがさらに好ましい。
本発明におけるスチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位の含有量は51~98質量%であることが好ましく、より好ましくは54~96質量%であり、より好ましくは57~93質量%さらに好ましくは60~90質量%の範囲である。当該含有量を51質量%以上とすることにより、スチレン系樹脂(A)の屈折率を向上させることができる。一方、当該含有量を98質量%以下とすることにより、不飽和カルボン酸エステル単量体単位を所望量存在させにくくなる。
また別の態様では、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位の好ましい含有量の範囲は、69~98質量%、74~96質量%、77~92質量%でありうる。
また、本発明におけるスチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有量は2~49質量%であることが好ましく、より好ましくは4~46質量%であり、より好ましくは7~43質量%であり、さらに好ましくは10~40質量%の範囲である。また別の態様では、スチレン系単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸エステル単量体単位の好ましい含有量の範囲は、2~31質量%、4~26質量%、8~23質量%でありうる。
本発明におけるスチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸単量体単位の含有量は0~20質量%であることが好ましく、より好ましくは0~15質量%、さらにより好ましくは0~13質量%の範囲である。
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂中の、スチレン単量体単位(例えば、スチレン単量体単位)、不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル単量体単位(例えば、メタクリル酸メチル単量体単位)の含有量は、それぞれ、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から求めることができる。
【0032】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成するスチレン系単量体の具体例としては上記スチレン系単量体と同様であるので省略する。
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成する不飽和カルボン酸エステル単量体としては、特に限定されないが例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、耐熱性低下に対する影響が小さいことから(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。これらの不飽和カルボン酸エステル単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成する不飽和カルボン酸単量体としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0033】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂としては、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸プロパン共重合体、又はスチレン-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル-メタ)アクリル酸ブチル共重合体が好ましい。
【0034】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は100,000~400,000であることが好ましく、より好ましくは120,000~390,000、さらに好ましくは140,000~380,000である。重量平均分子量(Mw)が100,000~400,000である場合、機械的強度と流動性とのバランスにより優れる樹脂が得られ、またゲル物の混入も少ない。また、本実施形態の別の形態において、口部衝撃強度と座屈強度を重視する場合、スチレン系共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は100,000~300,000であることが好ましく、より好ましくは120,000~260,000、さらに好ましくは140,000~240,000、さらに好ましくは150,000~230,000である。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスレン換算で得られる値である。
【0035】
本実施形態におけるスチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体単位を含む樹脂であればよく、2種以上の異なるスチレン系単量体単位を含む樹脂を含有してもよい。例えば、前記スチレン系樹脂(A)は、上記ポリスチレン1種又は2種以上と、上記スチレン系共重合樹脂の1種又は2種以上とをブレンドした混合物であってもよく、上記ポリスチレン1種又は2種以上と、上記ゴム変性スチレン系樹脂の1種又は2種以上と、をブレンドした混合物であってもよい。また、本実施形態におけるスチレン系樹脂(A)は、上記ゴム変性スチレン系樹脂の1種又は2種以上と、スチレン系共重合樹脂の1種又は2種以上とをブレンドした混合物を使用してもよい。その場合、ゴム変性スチレン系樹脂とスチレン系共重合樹脂との混合比は使用目的に応じて適宜変更することができる。例えば、ゴム変性スチレン系樹脂がスチレン系共重合樹脂より多い系においては、スチレン系樹脂(A)の総量(100質量%)に対して、スチレン系共重合樹脂を0.1~30質量%含有することが好ましい。一方、ゴム変性スチレン系樹脂がスチレン系共重合樹脂より少ない系においては、スチレン系樹脂(A)の総量(100質量%)に対して、スチレン系共重合樹脂を70~99.9質量%含有することが好ましい。
【0036】
本実施形態において、スチレン系重合体(a-1)又は本実施形態のスチレン系樹脂組成物中にはアクロニトリル単量体単位、メタクリロニトリル単量体単位等のシアン化ビニル系単量体を実質的に含有しないことが好ましい。具体的には、スチレン系重合体(a-1)又はポリマーマトリックスの総量に対して、シアン化ビニル系単量体が10質量%以下含有することが好ましく、5質量%以下含有することがより好ましく、2質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0037】
本実施形態のスチレン系重合体(a-1)の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、10~82.9質量%が好ましく、より好ましくは15~80質量、 20~75質量%、さらに好ましくは25~70質量%、さらにより好ましくは30~65質量%である。
【0038】
-ゴム状重合体-
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、ゴム状重合体粒子(a-2)はゴム変性スチレン系樹脂の一部としてスチレン系樹脂組成物に含有されてもよく、あるいはスチレン系重合体(a-1)に対して、ゴム変性スチレン系樹脂に含まれるゴム状重合体粒子(a-2)とは別のゴム状重合体粒子(a-2)をさらに配合してスチレン系樹脂組成物に含有されてもよい。
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂に含まれるゴム状重合体粒子(a-2)は、例えば、内側にスチレン系重合体(a-1)を内包してもよく、及び/又は外側にスチレン系重合体(a-1)がグラフトされてもよい。また、本実施形態のゴム状重合体粒子(a-2)は、コアとしてのスチレン系重合体(a-1)と、当該コアを包摂するシェルとしてのゴム状重合体とから構成される、コアシェル構造体だけでなく、複数のコアとしてのスチレン系重合体(a-1)と、当該複数のコアとしてのスチレン系重合体(a-1)を包摂するシェルとしてのゴム状重合体とから構成される、サラミ構造体を含む。
【0039】
本実施形態のゴム状重合体又はゴム状重合体粒子(a-2)又はゴム状重合体の材料としては、例えば、ポリブタジエン、ポリスチレンを内包するポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等を使用できるが、ポリブタジエン又はスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体は1種若しくは2種以上使用することもできる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを使用することもできる。
このようなゴム変性スチレン系樹脂の例としては、HIPS(高衝撃ポリスチレン)、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、AES(アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体)等が挙げられる。
【0040】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体の含有量(ゴム状重合体(例えば、ポリブタジエンなどの共役ジエン系ポリマー)自体の含有量であり、ゴム状重合体粒子(a-2)内に内包されるスチレン系重合体(a-1)は含まれない。)は、ゴム変性スチレン系樹脂の総量(100質量%)に対して、1.0~15質量%がより好ましく、より好ましくは1.2~12質量%、さらに好ましくは1.5~11質量%、よりさらに好ましくは2.0~10質量、またさらに好ましくは3~9.0質量%である。ゴム状重合体の含有量が1.0質量%未満の場合、スチレン系樹脂組成物全体の耐衝撃性が低下する危惧がある。また、ゴム状重合体の含有量が15質量%を超えるとスチレン系樹脂組成物全体の流動性が低下する危惧がある。
なお、本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体の含有量は、実施例の欄に記載の方法を用いて算出される値である。
【0041】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体粒子(a-2)の含有量(ゴム状重合体(例えば、ポリブタジエンなどの共役ジエン系ポリマー)自体の含有量と、ゴム状重合体粒子(a-2)内に内包されるスチレン系重合体(a-1)の含有量とを含む。)は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、2~40質量%が好ましく、3~36質量%がより好ましく、さらに好ましくは4~32質量%、よりさらに好ましくは5~30質量%、さらにより好ましくは6~28質量%であり、よりさらに好ましくは7~26質量%である。
【0042】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体粒子(a-2)の平均粒子径は、好ましくは0.3~7.0μmであり、より好ましくは0.4~5.0μmであり、さらに好ましくは0.5~3.5μmであり、耐衝撃性の観点から好ましくは0.8~3.5μmであり、より好ましくは0.8~3.0μmである。
なお、本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体粒子(a-2)の平均粒子径は、実施例の欄に記載の方法又は以下の方法により算出される値である。
30μm径のアパーチャーチューブを装着したベックマンコールター株式会社製COULTER MULTISIZER III (商品名)にて、ゴム変性スチレン系樹脂ペレット0.05gをジメチルホルムアミド約5ml中に入れ約2~5分間放置した。次にジメチルホルムアミド溶解分を適度の粒子濃度として測定し、体積基準のメジアン径を平均粒子径とした。また、上記ゴム状重合体粒子(a-2)の平均粒子径の測定方法は、スチレン系樹脂組成物全体に含まれるゴム状重合体粒子(a-2)の平均粒子径の測定方法に援用できる。
【0043】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるスチレン系重合体(a-1)の還元粘度(これは、スチレン系重合体(a-1)の分子量の指標となる。)は、0.50~0.85dL/gの範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.55~0.80dL/gの範囲である。スチレン系重合体(a-1)の還元粘度が0.50dL/gより小さいと衝撃強度が低下し、当該還元粘度が0.85dL/gを超えると流動性が低下する。
なお、本開示でスチレン系重合体(a-1)の還元粘度は、トルエン溶液中で30℃、濃度0.5g/dLの条件で測定される値である。
【0044】
本実施形態において、スチレン系樹脂(A)がゴム変性スチレン系樹脂(HIPS系樹脂)である場合、これらのゴム状重合体の中で特に好ましいのは、ポリブタジエン、スチレンブタジエンゴムであり、中でもポリブタジエンがもっとも好ましい。
【0045】
-ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法-
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法は、特に制限されるものではないが、ゴム状重合体の存在下、スチレン系単量体、必要により添加されるビニル系単量体(i)及び必要により添加される溶媒を重合する塊状重合(若しくは溶液重合)、又は反応途中で懸濁重合に移行する塊状―懸濁重合、又はゴム状重合体ラテックスの存在下、スチレン系単量体及び必要により添加されるビニル系単量体(i)を重合する乳化グラフト重合にて製造することができる。塊状重合においては、ゴム状重合体、スチレン系単量体、及び必要により添加されるビニル系単量体(i)並びに必要に応じて有機溶媒、有機過酸化物、及び/又は連鎖移動剤を添加した混合溶液を、完全混合型反応器又は槽型反応器と複数の槽型反応器とを直列に連結し構成される重合装置に連続的に供給することにより製造することができる。
【0046】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂のポリマーマトリックス相であるスチレン系重合体(a-1)の重合方法は、特に制限はないが、例えば、ラジカル重合法として、塊状重合法又は溶液重合法を好適に採用できる。重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程とを備える。
【0047】
-スチレン系共重合樹脂の製造方法-
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂の重合方法は、特に制限はないが例えば、ラジカル重合法として、塊状重合法又は溶液重合法を好適に採用できる。重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程とを備える。
以下、本実施形態に用いることができるスチレン系共重合樹脂の重合方法の一例について説明する。
当該スチレン系共重合樹脂を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、典型的には重合開始剤及び連鎖移動剤を含有させる。
スチレン系共重合樹脂の重合に用いられる重合開始剤としては、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン(パーヘキサC)、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド(パーブチルD)、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。分解速度と重合速度との観点から、なかでも、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。単量体の合計量に対して0.005~0.08質量%添加することが好ましい。
スチレン系共重合樹脂の重合に用いられる連鎖移動剤としては、例えば、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等などのメルカプタン類、α-メチルスチレンリニアダイマー、1-フェニルー2-フルオレン、ジベンテン、クロロホルム、テルペン類、ハロゲン化合物、テレピノーレン等のテレピン類等を挙げることができる。この連鎖移動剤の使用量は、特に制限はないが、一般的には単量体に対して、0.005~0.3重量%程度添加することが好ましい。
上記重合開始剤及び連鎖移動剤は、スチレン系共重合樹脂の製造だけでなく、上記ゴム変性スチレン系樹脂の製造でも使用できる。
【0048】
スチレン系共重合樹脂の重合方法としては、必要に応じて、重合溶媒を用いた溶液重合を採用できる。用いられる重合溶媒としては、芳香族炭化水素類、例えば、エチルベンゼン、ジアルキルケトン類、例えば、メチルエチルケトン等が挙げられ、それぞれ、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合生成物の溶解性を低下させない範囲で、他の重合溶媒、例えば脂肪族炭化水素類等を、芳香族炭化水素類にさらに混合することができる。これらの重合溶媒は、全単量体100質量部に対して、25質量部を超えない範囲で使用するのが好ましい。全単量体100質量部に対して重合溶媒が25質量部を超えると、重合速度が著しく低下し、且つ得られる樹脂の機械的強度の低下が大きくなる傾向がある。重合前に、全単量体100質量部に対して5~20質量部の割合で添加しておくことが、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
【0049】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂を得るための重合工程で用いる装置は、特に制限はなく、一般的なスチレン系樹脂の重合方法に従って適宜選択すればよい。例えば、塊状重合を採用する場合には、完全混合型反応器を1基、又は複数基連結した重合装置を用いることができる。また脱揮工程についても特に制限はない。例えば、塊状重合を採用する場合、最終的に未反応モノマーが、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進め、かかる未反応モノマー等の揮発分を除去するために、既知の方法にて脱揮処理する。より詳細には、例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができるが、滞留部の少ない脱揮装置が好ましい。なお、脱揮処理の温度は、通常、190~280℃程度であり、190~260℃がより好ましい。また脱揮処理の圧力は、通常0.13~4.0kPa程度であり、好ましくは0.13~3.0kPaであり、より好ましくは0.13~2.0kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して揮発分を除去する方法、及び揮発分除去の目的に設計された押出機等を通して除去する方法が好ましい。
【0050】
<バイオマス可塑剤(B)(以下、(B)成分とも称する。)>
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、バイオマス可塑剤(B)を含有する。そして、当該バイオマス可塑剤(B)は、バイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上である。バイオマス炭素比率(pMC%)が上記範囲であれば、化石燃料の使用量を削減することができるため、環境負荷を低減しうるスチレン系樹脂組成物を提供できる。
本実施形態の一形態では、バイオマス炭素比率(pMC%)の下限は、好ましくは10%以上、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは50%以上、さらにより好ましくは75%以上である。
また、本明細書における「可塑剤」とは主に分子量が1万未満以下の低分子物質であり、スチレン系樹脂等に添加すると当該樹脂が改質を起こし、流動性や耐衝撃性、伸縮性等を向上させる効果がある化合物群をいう。
【0051】
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、バイオマス可塑剤(B)の含有量は、15質量超~70質量%である。バイオマス可塑剤(B)の含有量の下限は、好ましくは16質量%以上、より好ましくは17質量%以上、より好ましくは18質量%以上、さらに好ましくは19質量%以上である。バイオマス可塑剤(B)の含有量の上限は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、さらにより好ましくは60質量%以下、さらにより好ましくは55質量%以下、さらにより好ましくは52.5質量%以下、さらにより好ましくは50質量%以下、さらにより好ましくは47.5質量%以下、さらにより好ましくは45質量%以下、さらにより好ましくは42.5質量%以下、さらにより好ましくは40質量%以下である。
バイオマス可塑剤(B)の含有量が多すぎるとスチレン系樹脂(A)とバイオマス可塑剤(B)のSP値の差によっては、ブリードアウトしやすくなる傾向を示す。また、成形品が柔らかくなり変形しやすくなる。一方、バイオマス可塑剤(B)の含有量が少なすぎると流動性が低下するため、成形温度が上昇し、金型汚れやシート目ヤニ、樹脂焼けなどの問題が懸念される。
バイオマス可塑剤(B)をスチレン系樹脂組成物中に含有させる方法としては、スチレン系樹脂(A)(例えば、ゴム変性スチレン系樹脂)とバイオマス可塑剤(B)を押出機で混練する方法や、重合原料を重合させる際に、重合原料組成物中に、バイオマス可塑剤(B)を含有させる方法などが挙げられる。
【0052】
本明細書におけるバイオマス炭素比率(pMC%)とは、バイオマス由来成分の炭素濃度(質量比率)を示すものであり、より詳細には、ASTM-D6866に準拠した放射性炭素(14C)測定方法によって得られた14C含有量の値である。当該放射性炭素(14C)測定方法は、化石燃料には14Cを含まず、かつバイオマス(又は生物)由来炭素は成長した時期の大気中14Cを吸収していることを利用して、バイオマス材料(又は生物)に含まれる炭素中の14C比率からバイオマス炭素比率(pMC%)を推定する方法である。
したがって、本実施形態の可塑剤中の全炭素原子中に含まれるC14の割合を測定することにより、バイオマス由来の炭素の割合を算出することができる。本発明においては、後述の実施例の欄で記載する方法を用いて、以下の式(1)により、バイオマス炭素比率(pMC%)を算出する。
式(1):
バイオマス炭素比率(pMC%)=(14C可塑剤/12C可塑剤)/(14C標準物質/12C標準物質)×100
また、標準物質はシュウ酸(SRM4990)を使用し、AMS法により(14C可塑剤/12C可塑剤)/(14C標準物質/12C標準物質)を算出した。
【0053】
本実施形態のバイオマス可塑剤(B)の重量平均分子量(Mw)は、200~7500であることが好ましく、より好ましくは300~5000、さらに好ましくは400~3000である。バイオマス可塑剤(B)の重量平均分子量(Mw)が200~7500である場合、機械的強度と流動性とのバランスにより優れるスチレン系樹脂組成物が得られ、またゲル物の混入も少ない。なお、重量平均分子量(Mw)は、後述の実施例の欄に記載の通り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスチレン換算で得られる値である。
【0054】
本実施形態におけるバイオマス可塑剤(B)とは、バイオマス材料を原料の一部又は全部に使用する可塑剤をいい、バイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上の可塑剤をいう。本実施形態のバイオマス可塑剤(B)は、植物由来のバイオマス材料を少なくとも原料の一部に使用し、かつバイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上の可塑剤であり、植物油、植物油と鉱油との混合物、あるいはポリエステル系可塑剤であることが好ましく、天然植物油、変性植物油、天然植物油と鉱油との混合物、変性植物油と鉱油との混合物、天然植物油と変性植物油と鉱油との混合物、あるいはポリエステル系可塑剤であることがより好ましい。
なお、本明細書における植物油は、植物由来の油脂の総称であり、天然植物油及び変性植物油を含む。
【0055】
本実施形態において、バイオマス可塑剤(B)は変性植物油を用いても良い。変性植物油は植物油を原料とした化合物をいい、より詳細には、植物起源の炭化水素系油の一部を官能基により変性されたものであり、植物油がエポキシ基、アミノ基又はエステル結合により変性されていることが好ましい。当該植物油としては、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル体、植物油にモノアルコールを加え、エステル交換反応により得られた脂肪酸モノエステル、脂肪酸とモノアルコールとをエステル化反応させた脂肪酸モノエステル、及び脂肪酸から誘導されるエーテルを含む。
本実施形態における変性植物油の変性基(エポキシ基、アミノ基又はエステル結合の官能基)は、スチレン系樹脂組成物中、他の成分(スチレン系樹脂(A)も含む)又は変性植物油同士と実質的に重合しないことが好ましい。また、本実施形態において、前記変性植物油1gあたりの前記変性植物油の変性率が、1mmol%~50mmol%であることが好ましい。
上記変性植物油の変性率は、後述の実施例に記載の通り1H-NMR測定法により算出する。
【0056】
上記天然植物油の具体例としては、例えば、綿実油、キリ油、シアオイル、アルファルファ油、ケシ油、カボチャ油、冬カボチャ油、雑穀油、オオムギ油、キノア油、ライ麦油、ククイ油、トケイソウ油、シアバター、アロエベラ油、甘扁桃油、桃核油、大豆油、カシュー油、ピーナッツ油、アボカド油、バオバブ油、ルリヂサ油、ブロッコリー油、キンセンカ油、椿油、キャノーラ油、ニンジン油、サフラワー油、亜麻油、アブラナ種子油、綿実油、ココナツ油、カボチャ種子油、小麦胚芽油、ホホバ油、ユリ油、マカデミア油、コーン油、メドフォーム油、モノイオイル、ヘイゼルナッツ油、杏仁油、クルミ油、オリーブ油、月見草油、パーム油、ブラックカラント種油、キーウィ種子油、グレープシード油、ピスタチオ油、ジャコウバラ油、ゴマ油、ダイズ油、ヒマワリ油、ヒマシ油、スイカ油又はこれら油の混合物が挙げられる。
本実施形態において変性植物油は、上記例示した天然植物油を水素化した油(例えば、水素化ヒマシ油);上記例示した天然植物油をエポキシ化した油(例えば、変性エポキシ化油);上記例示した天然植物油をアミノ化した油(例えば、変性アミノ化油)が挙げられる。当該変性エポキシ化油には、水酸化変性大豆油等に代表されるエポキシ官能基が開環した油、及び予め直接的に水酸化された油、カシュー油ベースのポリオールを含む。
【0057】
本実施形態のバイオマス可塑剤(B)の具体例としては、例えば、パーム油、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、オレイン酸エステル又はラウリン酸エステルが挙げられ、DIC株式会社製の「ポリサイザーW-1810-BIO」、「エポサイザー」;日油株式会社製の「ニューサイザー510R」、「ニューサイザー512」、;竹本油脂株式会社製の「パイオニンDシリーズ」;日清オイリオグループ株式会社製の「マルチエース20(S)」、「精製パーム油(S)」、伊藤製油株式会社製の「ヒマシ硬化油」が挙げられる。
【0058】
本実施形態において、植物油(天然植物油及び変性植物油を含む。)の粘度は、25℃で1000mPa・s以下であることが好ましく、20~1000mPa.sであることがより好ましく、50~1000mPa.sであることがさらに好ましく、100~800mPa.sであることがよりさらにより好ましい。
【0059】
本実施形態におけるバイオマス可塑剤(B)は、エポキシ基、アミノ基又はエステル結合により変性された、変性植物油であってもよい。この場合、本実施形態におけるバイオマス可塑剤(B)中の変性基(エポキシ基、アミノ基又はエステル結合の官能基)は、スチレン系樹脂組成物中、他の成分(スチレン系樹脂(A)も含む)又は変性植物油同士と実質的に重合しない。
本実施形態におけるバイオマス可塑剤(B)の融点は、-30~80℃であることが好ましく、より好ましくは-25~77℃、さらに好ましくは-22℃~74℃、よりさらに好ましくは-18℃~70℃、さらにより好ましくは-15℃~67℃、さらにより好ましくは―10℃~64℃、さらにより好ましくは-8℃~61℃、さらにより好ましくは-5℃~58℃、さらにより好ましくは-3℃~55℃、特に好ましくは-1℃~52℃である。バイオマス可塑剤(B)の融点が80℃超であると、バイオマス可塑剤(B)がスチレン系樹脂(A)に対して溶融しにくく、添加又は混合操作が困難になる。一方、バイオマス可塑剤(B)の融点が-30℃未満であると、使用可能なバイオマス可塑剤(B)の種類として不飽和結合を多く含有する化合物を使用する必要があるため、酸化劣化しやすく物性低下しやすい。なお、一般的には天然植物油の二重結合部は全てシス型であるため、二重結合が多いほど、分子間力低下し、融点が低下する傾向を示すと考えられる。
【0060】
本実施形態において、スチレン系重合体(a-1)のSP値とバイオマス可塑剤(B)のSP値((cal/cm3)1/2)との差は好ましくは±2.5未満、より好ましくは2.4未満、より好ましくは±2.3未満、より好ましくは2.2未満、より好ましくは2.1未満、より好ましくは2.0未満、より好ましくは1.9未満、より好ましくは1.8未満、より好ましくは1.7未満、より好ましくは1.6未満、より好ましくは1.5未満、より好ましくは1.4未満、より好ましくは1.3未満、より好ましくは1.2未満、さらに好ましく±1.1未満、よりさらに好ましくは±1.0未満、さらにより好ましくは±0.9未満、よりさらにより好ましくは±0.8未満である。
スチレン系重合体(a-1)のSP値とバイオマス可塑剤(B)のSP値との差が、±2.5以上であると両者がより相容しにくくなる。その結果、スチレン系重合体(a-1)のSP値とバイオマス可塑剤(B)のSP値との差が大きい、あるいはバイオマス可塑剤(B)の含有量が多くなると、スチレン系樹脂組成物中からバイオマス可塑剤(B)がブリードアウトしやすくなる傾向を示す。そのため、スチレン系樹脂(A)とバイオマス可塑剤(B)が混ざりにくくなり、生産が困難となる。
また、本実施形態におけるスチレン系重合体(a-1)のSP値は、7~11((cal/cm3)1/2)であることが好ましく、より好ましくは7.5~10.5((cal/cm3)1/2)、さらに好ましくは7.8~10.2((cal/cm3)1/2)、よりさらに好ましくは8.0~10.0((cal/cm3)1/2)であり、さらにより好ましくは8.0~9.8((cal/cm3)1/2)、さらに好ましくは8.0~9.6((cal/cm3)1/2)、さらにより好ましくは8.0~9.4((cal/cm3)1/2)、さらにより好ましくは8.0~9.2((cal/cm3)1/2)、さらにより好ましくは8.0~9.0((cal/cm3)1/2)である。
また、本実施形態におけるバイオマス可塑剤(B)のSP値の下限は7.4((cal/cm3)1/2)以上であることがより好ましく、より好ましくは7.5((cal/cm3)1/2)以上、より好ましくは7.6((cal/cm3)1/2)、より好ましくは7.7((cal/cm3)1/2)以上、さらにより好ましくは7.8((cal/cm3)1/2)以上である。当該SP値の上限は10.5((cal/cm3)以下であることが好ましく、より好ましくは10.4((cal/cm3)以下、より好ましくは10.3((cal/cm3)以下、より好ましくは10.2((cal/cm3)1/2)以下、より好ましくは10.1((cal/cm3)1/2)以下、より好ましくは10.0((cal/cm3)1/2)以下、より好ましくは9.8((cal/cm3)1/2)以下、より好ましくは9.6((cal/cm3)1/2)以下、より好ましくは9.4((cal/cm3)1/2)以下、より好ましくは9.2((cal/cm3)以下、より好ましくは9.0((cal/cm3)以下、さらにより好ましくは8.8((cal/cm3)1/2)以下である。また、本実施形態における、スチレン系重合体(a-1)、スチレン系重合体(a-3)及びバイオマス可塑剤(B)のSP値の好ましい範囲は、上記SP値の上限と、上記SP値の下限とを任意に組み合わせした範囲でありうる。
本実施形態において規定する溶解度パラメータ(SP値)は、下式に示す凝集エネルギー密度の関数を用いて算出している。
SP値((cal/cm3)1/2)=(△E/V)1/2 式(2)
(△Eは、分子間凝集エネルギー(蒸発熱)を示し、Vは、混合液の全体積を示し、△E/Vは、凝集エネルギー密度を示す。)
また、混合による熱量変化△Hmは、SP値を用いて次の式で示される。
△Hm=V(δ1-δ2)・Φ1・Φ2 ・・・式(3)
(δ1は、溶媒のSP値を示し、δ2は、溶質のSP値を示し、Φ1は、溶媒の体積分率を示し、Φ2は、溶質の体積分率を示す。)
上記の式(2)及び(3)より、δ1及びδ2の値が近いほど、△Hmは小さくなり、ギムスの自由エネルギーが小さくなるため、SP値の差が小さいもの同士は親和性が高くなる。
本明細書におけるSP値を求める方法としては、SP値が既知の各種溶剤との樹脂の溶解性を比較することで、最も良く相溶する溶剤のSP値から未知の樹脂のSP値を算出しており、具体的には、実施例の欄に記載の濁度滴定法を用いて算出した。本実施形態では、主にモノマー組成から計算により求めた値を用いる。
本実施形態のバイオマス可塑剤(B)が高沸点であると成形時に発生するガスの量が少なくなるため、金型汚れ低減には有利に働く観点から、比較的高沸点(例えば、インジェクションブローの成形温度である260℃以上)であることが好ましい。バイオマス可塑剤(B)のSP値が上記範囲であると、分子間凝集エネルギー、つまり蒸発熱が所定範囲内に制御できるため、成形時に発生するガスの量を低減できる程度の高沸点になる傾向を示す 。
【0061】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、必要により、上述したように、植物油と鉱油との混合物として、バイオマス可塑剤(B)とは別に鉱油を配合してもよい。
なお、バイオマス可塑剤(B)が植物油と鉱油との混合物である場合、混合物全体としてバイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上であればよい。また、バイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)が混合物である場合の含有量は、植物油と鉱油との混合物の合計量をいう。
本実施形態における鉱油としては、例えば、パラフィン系原油(流動パラフィンを含む。)、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱蝋、接触脱蝋、水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる鉱油;フィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス)を異性化することで得られる鉱油等が挙げられる。これらの鉱油は、単独で又は2種以上を併用してもよい。
本実施形態において、バイオマス可塑剤(B)として植物油と鉱油とを混合して使用する場合、バイオマス可塑剤(B)全体のバイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上であれば特に制限されることはないが、例えば、植物油100質量部に対して、10~100質量部混合することが好ましく、10~50質量部混合することがより好ましい。
本実施形態において、バイオマス可塑剤(B)として植物油と鉱油とを混合して使用する場合、バイオマス可塑剤(B)全体のバイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上であれば特に制限されることはない。
【0062】
<任意の添加成分>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、上記(A)及び(B)成分以外、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて公知の添加剤、加工助剤等の任意の添加成分を添加することができる。これら添加成分としては、離型剤、難燃剤、分散剤、酸化防止剤、耐候剤、帯電防止剤、充填剤、ブロッキング防止剤、着色剤、ブルーイング剤、表面処理剤、抗菌剤、目ヤニ防止剤(特開2009-120717号公報に記載のシリコーンオイル、高級脂肪族カルボン酸のモノアミド化合物、及び高級脂肪族カルボン酸と1価~3価のアルコール化合物とを反応させてなるモノエステル化合物等の目やに防止剤)等を添加してもよい。
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物は公知の難燃剤(リン系難燃剤、ブロム系などのハロゲン系難燃剤)を含有してもよい。しかし、スチレン系樹脂組成物中に含有されるバイオマス可塑剤(B)との反応により臭化水素などのガスの生成が危惧される観点から、ハロゲン系難燃剤の含有量は、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、3質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましい。
【0063】
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、不可避的不純物を除き、金属元素を含有しないほうが好ましく、より具体的には、金属元素の含有量は、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、3質量%未満であることが好ましく、1質量%未満、さらに好ましくは0.5質量%未満であることがより好ましい。スチレン系樹脂組成物に金属元素、特に金属粒子を含有すると、成形時に使用する金型が損傷されるだけではなく、金型の金属粉がスチレン系樹脂組成物に混入する虞が生じやすくなる。
上記金属元素とは、元素周期表の2族~12族の元素と、水素原子以外の1族と、ホウ素原子以外の13族と、Ge、As、Sn、Pb、As、Sb、Bi、Se、Te、Po及びAtの元素と、をいう。これら金属元素は、単独又は二種類以上の合金、混合物の形として使用することができる。
【0064】
本実施形態において、分散剤としては、脂肪酸エステル系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、テルペン系化合物、ロジン系化合物、脂肪酸アミド、脂肪酸系化合物、又は脂肪酸金属塩系等を用いることができる。
上記離型剤としては、脂肪酸系化合物、又は脂肪酸金属塩系等を用いることができる。
上記酸化防止剤としては、フェノール系化合物、リン系化合物、チオエーテル系化合物等が挙げられる。
上記任意添加成分の合計含有量は、スチレン系樹脂組成物全体に対して、0.05~5質量%としてよい。
【0065】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、実質的に(A)成分、(B)成分及び任意添加成分のみからなっていてもよい。また、(A)成分及び(B)成分のみ、又は(A)成分及び(B)成分及び任意添加成分のみからなっていてもよい。
より詳細には、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)、バイオマス可塑剤(B)及び添加成分を含有し、かつ前記スチレン系樹脂(A)、前記バイオマス可塑剤(B)及び前記添加成分の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、85~100質量%であることが好ましく、より好ましくは90~100質量%、さらにより好ましくは95~100質量%、さらに好ましくは98~100質量%、さらにより好ましくは99~100質量%である。また、前記添加成分は、鉱油、離型剤、難燃剤、分散剤、酸化防止剤、耐候剤、帯電防止剤、充填剤、ブロッキング防止剤、着色剤、ブルーミング剤、表面処理剤、抗菌剤及び目ヤニ防止剤からなる群から選択される1種又は2種以上を含有することが好ましい。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)、バイオマス可塑剤(B)及び添加成分を含有し、かつ前記スチレン系樹脂(A)、前記バイオマス可塑剤(B)の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、85~100質量%であることが好ましく、より好ましくは90~100質量%、さらにより好ましくは95~100質量%、さらに好ましくは98~100質量%、さらにより好ましくは99~100質量%である。また、前記添加成分は、鉱油、離型剤、難燃剤、分散剤、酸化防止剤、耐候剤、帯電防止剤、充填剤、ブロッキング防止剤、着色剤、ブルーミング剤、表面処理剤、抗菌剤及び目ヤニ防止剤からなる群から選択される1種又は2種以上を含有することが好ましい。
「実質的に(A)成分、(B)成分及び添加成分のみからなる」とは、スチレン系樹脂組成物の総量に対して、好ましくは85~100質量%、より好ましくは90~100質量%、さらに好ましくは95~100質量%、よりさらに好ましくは98~100質量%、より好ましくは99~100質量%が(A)成分及び(B)成分であるか、又は(A)成分、(B)成分及び任意添加成分であることを意味する。
なお、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で(A)成分、(B)成分及び添加成分の他に不可避不純物を含んでいてもよい。
【0066】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物に含有されるバイオマス可塑剤(B)として変性植物油を使用する場合、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、水酸基含有化合物の含有量が3質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましい。本実施形態の水酸基含有化合物とは、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フタル酸、といった水酸基をポリマー中に有する化合物をいう。水酸基含有化合物が3質量%以上では変性植物油と反応し、ゲル化が起こるため成形性が低下する、あるいは射出成形体の外観が悪化するという悪影響を及ぼす。スチレン系樹脂組成物に含有されるバイオマス可塑剤として、天然植物油を使用する場合は、水酸基含有化合物の量は規定しない。
【0067】
「スチレン系樹脂組成物の物性」
以下、本実施形態にかかるスチレン系樹脂組成物についてそれぞれの好ましい物性について説明する。
【0068】
<溶融粘度>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物のMalvern Instruments社製、型式RH10のツインキャピラリーレオメータを用いて、樹脂温度180℃、せん断速度1000(1/s)で測定した溶融粘度(剪断粘度)は140(Pa・sec)以下が好ましく、より好ましくは130(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは120(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは115(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは110(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは105(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは100(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは95(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは90(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは85(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは80(Pa・sec)、さらにより好ましくは75(Pa・sec)以下である。
樹脂温度180℃、せん断速度1000(1/s)で測定した溶融粘度が、140(Pa・sec)以下であると、特に射出成形において低温でも成形しやすくなるという効果を奏する。
また、樹脂温度180℃、せん断速度40(1/s)で測定した溶融粘度(剪断粘度)は1200(Pa・sec)以下が好ましく、より好ましくは1100(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは1000(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは950(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは900(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは850(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは800(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは750(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは700(Pa・sec)以下、さらにより好ましくは650(Pa・sec)、さらにより好ましくは600(Pa・sec)以下である。
樹脂温度180℃、せん断速度40(1/s)で測定した溶融粘度が、1200(Pa・sec)以下であると、特にシート成形において低温でも成形しやすくなるという効果を奏する。
なお、本実施形態のスチレン系樹脂組成物中のバイオマス可塑剤(B)の含有量が増えるほど、スチレン系樹脂組成物全体の溶融粘度を低下させる効果を示す傾向がある。ただし、スチレン系樹脂(A)及びバイオマス可塑剤(B)との相溶性が低い場合、すなわちスチレン系樹脂(A)及びバイオマス可塑剤(B)のSP値が規定の範囲ではない場合、スチレン系樹脂組成物の製造時又は当該組成物から成形品の生産時にブリードアウト等の問題が起こりやすくなるため、スチレン系樹脂組成物中のバイオマス可塑剤(B)の含有量を単純に上げることが困難になることが分かった。またその結果、スチレン系樹脂(A)及びバイオマス可塑剤(B)のSP値が規定の範囲にない場合、スチレン系樹脂組成物の溶融粘度が前述の範囲まで下げることが困難になる。
【0069】
<ビカット軟化温度>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度は、30℃~65℃であることが好ましく、より好ましくは31℃~60℃、より好ましくは32℃~58℃、より好ましくは33℃~56℃であり、より好ましくは34℃~55℃であり、さらにより好ましくは35℃~54℃である。スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度が60℃より高いと流動性が落ち、成形温度を大幅に下げて成形することが困難となる。また、スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度が低くなると熱によって成形品が収縮、変形しやすくなる傾向を示す。
なお、本開示におけるビカット軟化温度(℃)はいずれもISO 306に準拠して荷重49Nで測定した。
【0070】
<膨潤指数>
本実施形態において、ゴム状重合体粒子(a-2)を含有するスチレン系樹脂組成物の膨潤指数は、衝撃強度の観点から8.5~14であることが好ましく、より好ましくは9.0~13である。また、別の形態では、本発明のゴム状重合体粒子(a-2)の膨潤指数は、衝撃強度の観点から7.0~14であることが好ましく、より好ましくは7.5~13.5、さらに好ましくは8.0~13である。膨潤指数はゴム粒子の架橋度を表す指標である。膨潤指数を上記範囲とすることで、本発明のスチレン系樹脂組成物は衝撃特性に優れるものとなる。なお、本開示で、スチレン系樹脂組成物の膨潤指数は実施例の欄に記載の方法を用いて算出される値である。
【0071】
〔ベストモード〕
本実施形態のスチレン系樹脂組成物の特に好ましい形態は、スチレン系樹脂(A)を含むポリマーマトリックス相及び当該ポリマーマトリックス相に分散されるゴム状重合体を含有するゴム変性スチレン系樹脂50~80質量%と、バイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)20質量%超~50質量%と、を含有し、
(メタ)アクリロニトリル単量体単位の含有量が前記ポリマーマトリックス相全体に対して10質量%以下であり、前記ポリマーマトリックス相のSP値が8.0~9.0であり、
前記バイオマス可塑剤(B)のSP値が7.5~8.8であり、
前記ポリマーマトリックス相のSP値と前記バイオマス可塑剤(B)のSP値との絶対値の差が0.8以下であり、ハロゲン系難燃剤の含有量が1質量%未満である、スチレン系樹脂組成物である。
これにより、バイオマス原料を用いることにより環境負荷を低減し、成形時に高い機械的強度を有し、かつ低温成形が可能なスチレン系樹脂組成物を提供することができる。
なお、前記ポリマーマトリックス相のSP値は、前記ポリマーマトリックス相を構成するスチレン系重合体(a-1)のSP値でありうる。また、前記ゴム状重合体はゴム状重合体粒子でありうる。
【0072】
[スチレン系樹脂組成物の製造方法]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、各成分を重合原材料として直接重合工程、脱揮工程に添加して製造する方法、または各成分を任意の方法で溶融混練することによって製造することができる。例えば、ヘンシェルミキサーに代表される高速撹拌機、バンバリーミキサーに代表されるバッチ式混練機、単軸又は二軸の連続混練機、ロールミキサー等を単独で、又は組み合わせて用いる方法が挙げられる。混練の際の加熱温度は、通常、120~250℃の範囲で選択される。
【0073】
[成形体]
本発明の成形体は、上記のスチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、上記の溶融混練成形機により、或いは、得られたスチレン系樹脂組成物のペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により、成形体を製造することができる。
【0074】
本実施形態の成形体は、上記の実施形態のスチレン系樹脂組成物を成形して得ることができる。本実施形態の成形体は、上記の本発明に係るスチレン系樹脂組成物を成形して得たものであれば特に限定されないが、当該成形体が厚さ1mm以下の部分を有することが好ましい。厚さ1mm以下の部分を有する成形体において、上記のスチレン系樹脂組成物を好適に用いることができる。
また、本実施形態の成形体は、容器又はシートであってもよい。本実施形態の容器は、スチレン系樹脂組成物より直接製造(成形)してもよく、又はスチレン系樹脂組成物を成形して得たシートをさらに成形することにより製造してもよい。また、本実施形態のシートは、容器だけでなく他の成形体を製造(成形)するために用いることができる。
【0075】
本実施形態のシートは、非発泡の押出シートであり、厚さは、特に限定されないが例えば、1.0mm以下とすることができ、好ましくは、0.2~0.8mmである。
本実施形態のシートは、ポリスチレン樹脂等の一般的なスチレン系樹脂等と多層化して用いてもよく、また、当該スチレン系樹脂等の層に加えて、又は代えて、該スチレン系樹脂以外の樹脂と多層化して用いてもよい。スチレン系樹脂以外の樹脂としては、PP樹脂、PP/PS系樹脂、PET樹脂、ナイロン樹脂等が挙げられる。
【0076】
「射出成形体]
本開示は、上記スチレン系樹脂組成物を含む射出成形体である。そして、本実施形態のスチレン系樹脂組成物を原料として用いた射出成形体の製造方法としては、通常知られている方法を用いることができる。成形機の温度は好ましくは110℃~250℃、より好ましくは110℃~230℃、さらに好ましくは110℃~220℃、さらにより好ましくは110℃~200℃、さらにより好ましくは110℃~190℃である。
成形機の温度が250℃より高いとスチレン系樹脂組成物が熱分解を起こすため好ましくない。一方、110℃より低いと高粘度のため成形することができないので好ましくない。
本実施形態の射出成形体に適したスチレン樹脂組成物は、前記スチレン樹脂組成物全体に対して、スチレン系重合体(a-1)10~82.9質量%と、バイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)15質量%超~70質量%と、を含有し、
ゴム状重合体粒子をスチレン樹脂組成物全体の2~40質量%含有し、前記バイオマス可塑剤(B)のSP値が7.4~10.5であることが好ましい。
【0077】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物を含む成形体、特に射出成形体(射出圧縮を含む)、シート体は、食品包装容器、複写機、ファックス、パソコン、プリンター、情報端末機、冷蔵庫、掃除機、電子レンジ等のOA機器、家庭電化製品、電気・電子機器のハウジングや各種部品、自動車の内装や外装部材、建設材料、発泡断熱材、絶縁フィルム等に好適に用いられる。
【実施例0078】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明の実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0079】
「1.測定及び評価方法」
各実施例及び比較例で得られたスチレン系樹脂組成物、押出しシート、射出成形体の物性測定及び評価は、次の方法に基づいて行った。
【0080】
(1)実施例及び比較例で使用したスチレン系樹脂(A)(ゴム変性スチレン系樹脂、スチレン系重合体(a-1)及びを包含する。以下同様)、バイオマス可塑剤(B)及びスチレン系樹脂組成物の重量平均分子量の測定
スチレン系樹脂(A)及びバイオマス可塑剤(B)の重量平均分子量を、下記の条件や手順で測定した。
・試料調製:測定試料5mgを10mLのテトラヒドロフランに溶解し、0.45μmのフィルターでろ過を行った。
・測定条件
機器:TOSOH HLC-8220GPC
(ゲルパーミエイション・クロマトグラフィー)
カラム :SHODEX GPC KF―606Mを直列に2本接続
ガードカラム :SHODEX GPC KF―G 4A
温度 :40℃
キャリア :THF 0.50mL/min
検出器 :RI、UV:254nm
検量線 :検量線の作成には東ソー社製のTSK標準ポリスチレン11種類(F-850、F-450、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000)を用いた。3次直線の近似式を用いて検量線を作成した。
【0081】
(2)樹脂組成物の溶融粘度の測定
実施例及び比較例で使用したスチレン系樹脂組成物をMalvern Instruments社製、型式RH10のツインキャピラリーレオメータを用いて、樹脂温度180℃、せん断速度40(1/s)および1000(1/s)で溶融粘度を測定した。
【0082】
(3)ビカット軟化温度(℃)の測定
本実施例及び比較例で使用したスチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度(℃)を、ISO 306に準拠して、荷重49Nで測定した。
【0083】
(4)ゴム状重合体粒子(a-2)の含有率及び膨潤指数の測定
ゴム変性スチレン系樹脂又はスチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体粒子(a-2)の含有量(質量%)、膨潤指数を以下のように測定した。沈澱管にゴム変性スチレン系樹脂又はスチレン系樹脂組成物1.00gを精秤し(この質量をW1とする)、トルエン20ミリリットルを加え23℃で1時間振とう後、遠心分離機(佐久間製作所社製、SS-2050A ローター:6B-N6L)にて温度4℃、回転数20000rpm、遠心加速度45100×Gで60分間遠心分離した。沈澱管を約45度にゆっくり傾け、上澄み液をデカンテーションして取り除いた。トルエンを含んだ不溶分の質量を精秤し(この質量をW2とする)、引き続き、160℃、3kPa以下の条件で1時間真空乾燥し、デシケータ内で室温まで冷却後、トルエン不溶分の質量を精秤した(この質量をW3とする)。
下記式により、スチレン系樹脂(A)又はスチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体粒子(a-2)の含有量及び膨潤指数、即ち、スチレン系樹脂(A)又はスチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体粒子(a-2)の含有量及び膨潤指数を求めた。
ゴム状重合体粒子(a-2)の含有量=W3/W1×100
ゴム状重合体粒子(a-2)の膨潤指数=W2/W3
【0084】
(5)平均粒径の測定
実施例及び比較例で使用したスチレン系樹脂(A)又はスチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体粒子(a-2)の平均粒径(μm)の測定は、以下の方法で測定した。
30μm径のアパーチャーチューブを装着したベックマンコールター株式会社製COULTER MULTISIZER III (商品名)にて、スチレン系樹脂(A)のペレット又はスチレン系樹脂組成物のペレット0.05gをジメチルホルムアミド約5ml中に入れ約2~5分間放置した。次にジメチルホルムアミド溶解分を適度の粒子濃度として測定し、体積基準のメジアン径を求めた。
【0085】
(6)ゴム状重合体の含有量の測定
実施例及び比較例で使用したスチレン系樹脂(A)又はスチレン系樹脂組成物0.25gをクロロホルム50mLに溶解し、一塩化ヨウ素を加えてゴム成分中の二重結合を反応させた後、ヨウ化カリウムを加え、残存する一塩化ヨウ素をヨウ素に変え、チオ硫酸ナトリウムで逆滴定した(一塩化ヨウ素法)。この方法により、スチレン系樹脂(A)又はスチレン系樹脂組成物中に含まれるゴムの質量(この質量をW4とする)を測定し、この値とスチレン系樹脂(A)又はスチレン系樹脂組成物の質量(この質量をW1とする)とから、スチレン系樹脂(A)又はスチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体の含有量(質量%)を、次式により求めた。
スチレン系樹脂(A)又はスチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体の含有量(質量%)=W4/W1×100
【0086】
(7)バイオマス炭素比率(pMC%)の測定方法
バイオマス可塑剤(B)のバイオマス炭素比率(pMC%)は、ASTM-D6866に準拠した放射性炭素(14C)測定方法によって以下の式(1)を用いてAMS法により(14C可塑剤/12C可塑剤)/(14C標準物質/12C標準物質)を算出した。
式(1):
バイオマス炭素比率(pMC%)=(14C可塑剤/12C可塑剤)/(14C標準物質/12C標準物質)×100
また、標準物質はシュウ酸(SRM4990)を使用した。
スチレン系樹脂組成物中のバイオマス炭素比率も上記と同様に算出した。
【0087】
(8)バイオマス可塑剤(B)の含有量の定量
実施例及び比較例で使用したスチレン系樹脂組成物中におけるバイオマス可塑剤(B)の含有量の定量では、以下の(8-1)又は(8-2)いずれかの手順を用いて行った。なお、(8-1)の手順で求めた値と(8-2)の手順から求めた値とを比較しても同等の数値が得られた。
(8-1)NMRを用いた分析
2-ジメトキシエタンを内部標準物質として含んだ重水素化クロロホルム(1%TMS入り)に、植物油(グリセリン脂肪酸エステル)を溶解し、1H-NMR測定を行った。TMSのピークを0ppmの基準とすると、δ4.0~4.4ppmに植物油のエステル基に隣接した炭素に結合するプロトン由来のピークと3.4~3.6ppmに1,2-ジメトキシメタン由来のピークが検出される。1,2-ジメトキシメタン由来のピーク面積を1とした際の植物油由来のピーク面積を算出している。この操作を植物油の濃度を変化させて行うことで、植物油濃度の検量線を作成した。
実施例又は比較例で得られたペレット状のスチレン系樹脂組成物を重水素化クロロホルム(1%TMS入り)に溶解し、1H-NMR測定を行い、上記の検量線を用いることで、スチレン系樹脂組成物中の植物油含有量を定量した。
上記の方法では、他のピークが内部標準物質のピークと被り、定量するのが困難である場合、適宜、内部標準物質は適当な物質を使用してもよい。また、植物油は5.0~5.5ppmに検出されるトリグリセリド由来のピークでも定量することが可能である。
(8-2)メタノール可溶分からの算出
実施例又は比較例で得られたペレット状のスチレン系樹脂組成物1.0g(この重さをW11とする)を20mL容量のスクリュー瓶に取り、メチルエチルケトンを10mL加えた。そして、振とう機で前記ペレットを完全に溶解させた後、メタノールを5mL加え、スチレン系重合体を不溶物として析出させ、遠心機を用いて2000Gで10分間遠心し、不溶物を遠心沈降させた。次いで、沈降した不溶分を140℃に昇温した乾燥機で、40分間予備乾燥させた後、同温度で20分間真空乾燥し、溶媒を完全に揮発させた。乾燥後の不溶分の質量を測定し、この質量をW12とした。測定した質量W11とW12とを用いてメタノール可溶分(W13)を下記の通り、定義した。
メタノール可溶分(W13)=W11-W12とした。
また、本操作において、遠心機で遠心沈降させた後の上澄み液をGC-MS測定し、スチレン系オリゴマー、残存モノマー、残存溶媒、その他メタノールに可溶な可塑剤以外の低分子物質の含有量を定量し、スチレン系樹脂組成物1.0g中に含有されている質量(W14)を算出した。算出した質量W13、W14を用いてスチレン系樹脂組成物中におけるバイオマス可塑剤(B)の含有量を下記の通り求めた。
バイオマス可塑剤(B)の含有量=W13―W14
【0088】
(9)SP値の算出
実施例・比較例において使用した各材料のSP値は、Hilderbrand法(Hansen法を含む)を用いたSP値であり、文献値(「バイオマテリアルの基礎」 「石塚一彦・塙隆夫・前田瑞夫編」 日本医学館出版)又は「J.Appl.Polym.Sci.,12,2359(1968)」を参照して濁度滴定法により算出した。
なお、実施例・比較例のスチレン系樹脂組成物では、当該組成物中に配合される各成分が既知であるため、上記方法により容易にSP値を算出することができる。一方、未知のスチレン系樹脂組成物中に含まれるスチレン系ポリマー又は可塑剤の詳細が不明の場合、以下の手順(i)~(iv)によりSP値を算出できる。手順(i):スチレン系樹脂組成物から回収又は分離された対象となる試料(スチレン系ポリマー又は可塑剤)を、SP値が既知の溶媒に添加して、SP値が既知の溶媒に前記試料が溶解したか否かを判別する溶解試験を行う。手順(ii):次いで、手順(i)の溶解試験を行った溶媒のSP値を三次元プロットする。手順(iii):手順(i)及び手順(ii)の操作を溶媒15~20種類で実施する。手順(iv):前記試料が溶解した溶媒の座標を含み、かつ溶解しなかった溶媒の座標は含まない球を算出することにより、当該球の中心座標がHansenのSP値を表し、原点からの距離がHildebrandのSP値を表すことにより、Hildebrand法(Hansen法を含む)を用いた溶解度パラメーターを算出する。
上記手順(i)~(iv)により算出されたSP値は、上記文献値又は濁度滴定法により算出したSP値と概ね一致している。
また、SP値が既知の溶媒に試料が溶解したか、不溶であるかは、目視で確認する。具体的には、不溶の場合は、前記試料を前記溶媒へ溶かした際、白濁する、あるいは液滴となり前記試料と前記溶媒とが分離する。一方、溶解の場合は、前記試料を前記溶媒へ溶かした際、透明のまま均一に混ざる。
さらには、バイオマス可塑剤(B)が低分子であると、濁度滴定法により算出できない場合がある。その場合、上記濁度測定法の代わりに、Fedorsの推算法又はHoyの計算方法を採用する(例えば、「塗料の研究(添加剤の溶解性パラメータに関する考察) No.152 Oct. 2010」を参照)。
【0089】
(10)引張破断呼び歪
実施例及び比較例で得られたスチレン系樹脂組成物を220℃でJIS K 7152に従って射出成形片を作成し、JIS K 7161に従って引っ張り破断呼び歪を測定した。
【0090】
(11)2mm厚みプレート成形可能最低温度
実施例及び比較例で得られたスチレン系樹脂組成物を、射出成形機東芝機械株式会社製、EC60Nを用いて金型温度45℃、射出圧力40Mpaで、2mmのプレートを成形した際、ショートショットにならずに成形品が得られる最低温度を測定した。
最低成形可能温度が低くなるほど、成形品の黄変が進みにくくなる。また、低温の方が樹脂から揮発成分が出にくくなり、金型汚れが発生しにくくなる。
【0091】
(12)金型汚れ発生回数
実施例及び比較例で得られたスチレン系樹脂組成物を(11)で示した成形可能最低温度で2mm厚みプレートを連続成形後に、金型に付着物が確認されるまでのショット数を指標として金型汚れの評価を行った。金型付着物が確認されるまでのショット数が100未満であると金型の清掃頻度が上がり、生産性が落ちるため100以上を合格とした。
【0092】
(13)加熱収縮率
実施例及び比較例で得られたスチレン系樹脂組成物を射出成形機東芝機械株式会社製、EC60Nを用い、(11)で示した成形可能最低温度で、ISО 3167に準拠したダンベル試験片を作成し、50℃で1時間放置した後の成形収縮率を測定した。成形収縮率は、成形後、23℃で12時間以上状態調節したダンベル試験片の長さをL1とし、状態調節後のダンベル試験片を50℃で30分間放置した後のダンベル試験片の長さをL2とすると、(成形収縮率)=(L1-L2)/L1で定義した。0.1%以下を合格とした。
【0093】
(14)成形機30分滞留後ΔYI
実施例及び比較例で得られたスチレン系樹脂組成物を(11)で示した成形可能最低温度で、成形機シリンダー内に30分間滞留させた後に成形した成形品のYI値と、滞留させずに成形した成形品のYI値の差を測定した
【0094】
(14)シート成形可能最低温度
創研社製の25mmφ単軸シート押出機において、スクリュー回転数80rpmで厚さ0.3mmのシートを作製した際、スクリュー部でのトルクオーバーやベントアップが起きずにシート成形が可能な最低成形温度を測定とした。
最低成形可能温度が低くなるほど、シート成形品にできる目ヤニ(汚れ)が低減し、シート外観が優れる。
【0095】
(15)シート引張破断呼び歪
実施例1~11及び比較例1~4で作製した押出シートのシート引張破断呼びひずみを測定した。具体的には、前記押出シートの押出(MD)方向から、JIS K6251-3号ダンベルを打抜き加工し、試験速度50mm/min、つかみ具間距離60mmの条件で引張試験を実施し、引張破断呼びひずみを測定した。た
【0096】
(16)シート外観(汚れの個数)の評価
実施例及び比較例で得られた押出シート作製時に、シート表面を目視で確認し、10mあたり長径が1.0mm以上である汚れの個数を測定した。
【0097】
「2.原材料」
実施例及び比較例で用いた各材料は下記の通りである。
[スチレン系樹脂(A)]
・スチレン系樹脂(A)として、以下の製造方法で得られたゴム変性スチレン系樹脂(1)を使用した。
(ゴム変性スチレン系樹脂(1)の製造方法)
スチレン84.8質量%、エチルベンゼン8.0質量%、ポリブタジエンゴム(UBEエラストマー株式会社製BR15HB)7.0質量%、流動パラフィン製品名「PS350S」(三光化学工業株式会社製)0.2%を混合溶解した重合液を、撹拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2リットルの層流型反応器-1に3.24リットル/Hrで連続的に仕込み、温度を123℃/128℃/132℃に調整した。撹拌機の回転数は毎分70回転とした。反応器出口の反応率は33%であった。
続いて層流型反応器-1と直列に接続された撹拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2リットルの層流型反応器-2に反応液を送った。撹拌機の撹拌数は毎分40回転とし、温度は141℃/146℃/151℃に設定した。続いて撹拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2リットルの層流型反応器-3に反応液を送った。撹拌機の回転数は毎分10回転とし、温度は156℃/160℃/165℃に設定した。
重合反応器(層流型反応器-3)から連続して排出される重合体溶液を230℃に加熱した真空ベント付き押し出し機で、0.8kPaの減圧下、脱揮後ペレタイズしてペレット上状のゴム変性スチレン系樹脂(1)を作製した。
・スチレン系樹脂(A)として、以下の製造方法で得られたゴム変性スチレン系樹脂(2)を使用した。
(ゴム変性スチレン系樹脂(2)の製造方法)
スチレン88.7質量%、エチルベンゼン6.5質量%、ポリブタジエンゴム(旭化成ケミカルズ社製ジエン55)4.8質量%を混合溶解した重合液を、撹拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2リットルの層流型反応器-1に3.24リットル/Hrで連続的に仕込み、温度を125℃/130℃/135℃に調整した。撹拌機の回転数は毎分70回転とした。反応器出口の反応率は30%であった。
続いて層流型反応器-1と直列に接続された撹拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2リットルの層流型反応器-2に反応液を送った。撹拌機の撹拌数は毎分40回転とし、温度は139℃/142℃/145℃に設定した。続いて撹拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2リットルの層流型反応器-3に反応液を送った。撹拌機の回転数は毎分10回転とし、温度は144℃/151℃/152℃に設定した。
重合反応器(層流型反応器-3)から連続して排出される重合体溶液を230℃に加熱した真空ベント付き押し出し機で、0.8kPaの減圧下、脱揮後ペレタイズしてペレット上状のゴム変性スチレン系樹脂(2)を作製した。
(ブタジエンゴム)
・ポリブタジエンゴム(旭化成ケミカルズ社製ジエン55)、ポリブタジエンラバーUBEPOL BR(UBEエラストマー株式会社製BR15HB)
[バイオマス可塑剤(B)]
(変性植物油)
・エポキシ化大豆油(製品名「ニューサイザー510R」(日油株式会社製)、重量平均分子量(Mw=1500)、バイオマス炭素比率(pMC%)100%、融点:5℃、SP値(Hansen法による計算値であり、分散力項(δD)、極性項(δP)及び水素結合項(δH)の3成分座標における原点からの距離):9.0((cal/cm3)1/2)、エポキシ変性率:1gあたり5mmol
(天然植物油)
・パーム油(製品名「マルチエース20(S)」(日清オイリオグループ株式会社)、重量平均分子量(Mw=1000)、バイオマス炭素比率(pMC%)100%、融点:22℃、SP値(Hansen法による計算値であり、分散力項(δD)、極性項(δP)及び水素結合項(δH)の3成分座標における原点からの距離):8.2((cal/cm3)1/2))
・大豆油(製品名「大豆白絞油(S)」(日清オイリオグループ株式会社)重量平均分子量(Mw=1000)、バイオマス炭素比率(pMC%)100%、融点-8℃、SP値(Hansen法による計算値であり、分散力項(δD)、極性項(δP)及び水素結合項(δH)の3成分座標における原点からの距離):8.2((cal/cm3)1/2))
【0098】
[その他]
(流動パラフィン)
・流動パラフィン、製品名「PS350S」(三光化学工業株式会社製)、重量平均分子量(Mw=250)、バイオマス炭素比率(pMC%)0%、流動点:-12.5℃、SP値(文献値):7.3(cal/cm3)1/2
(ポリ乳酸)
・ポリ乳酸、製品名「LX175」(Total Corbinion PLA製)、バイオマス炭素比率(pMC%)100%、融点:155℃、SP値(文献値):10.3(cal/cm3)1/2
【0099】
「3.実施例及び比較例」
[実施例1~6、比較例1~2]
(スチレン系樹脂組成物(PS-1)~(PS-6)、(PS-12)、(PS-13)の製造方法)
スチレン系樹脂組成物(PS-1)は、ゴム変性スチレン系樹脂(1)を二軸混錬押出機(東芝機械株式会社製 TEM-26SS-12)を用いてシリンダー温度220℃の条件で溶融混錬させた後、前記ゴム変性スチレン系樹脂(1)中にパーム油が17質量%含有されるようにパーム油を液添し、溶融混錬して製造した。パーム油を液添した後のシリンダー温度は190℃とした。スチレン系樹脂組成物(PS-2)~(PS-6)、(PS-12)、(PS-13)もスチレン系樹脂組成物(PS-1)と、パーム油の添加量以外は同様に、ゴム変性スチレン系樹脂(1)を220℃で溶融混錬させた後、パーム油を液添して製造した。パーム油の液添量、液添後のシリンダー温度及び生産可否(生産可能〇、生産不可×)は表2に示した。得られたスチレン系樹脂組成物(PS-1)~(PS-6)、(PS-12)、(PS-13)について、表3に示すスチレン系樹脂組成物の物性を上記の「1.測定及び評価方法」の欄に記載の方法で測定した。
【0100】
[実施例7]
(スチレン系樹脂組成物(PS-7)の製造方法)
スチレン系樹脂組成物(PS-7)は、ゴム変性スチレン系樹脂(2)を二軸混錬押出機(東芝機械株式会社製 TEM-26SS-12)を用いてシリンダー温度220℃の条件で溶融混錬させた後、前記ゴム変性スチレン系樹脂(2)中にパーム油が30質量%含有されるようにパーム油を液添し、溶融混錬して製造した。パーム油を液添した後のシリンダー温度は170℃とした。また、生産可否(生産可能〇、生産不可×)は表2に示した。得られたスチレン系樹脂組成物(PS-7)について、表3に示すスチレン系樹脂組成物の物性を上記の「1.測定及び評価方法」の欄に記載の方法で測定した。
【0101】
[実施例8]
(スチレン系樹脂組成物(PS-8)の製造方法)
スチレン系樹脂組成物(PS-8)は、ゴム変性スチレン系樹脂(1)を二軸混錬押出機(東芝機械株式会社製 TEM-26SS-12)を用いてシリンダー温度220℃の条件で溶融混錬させた後、前記ゴム変性スチレン系樹脂(1)中に大豆油が30質量%含有されるように大豆油を液添し、溶融混錬して製造した。大豆油を液添した後のシリンダー温度は170℃とした。また、生産可否(生産可能〇、生産不可×)は表2に示した。得られたスチレン系樹脂組成物(PS-8)について、表3に示すスチレン系樹脂組成物の物性を上記の「1.測定及び評価方法」の欄に記載の方法で測定した。
【0102】
[実施例9、比較例3]
(スチレン系樹脂組成物(PS-9)、(PS-14)の製造方法)
スチレン系樹脂組成物(PS-9)は、ゴム変性スチレン系樹脂(1)を二軸混錬押出機(東芝機械株式会社製 TEM-26SS-12)を用いてシリンダー温度220℃の条件で溶融混錬させた後、前記ゴム変性スチレン系樹脂(1)中にエポキシ化大豆油が16質量%含有されるようにエポキシ化大豆油を液添し、溶融混錬して製造した。エポキシ化大豆油を液添した後のシリンダー温度は190℃とした。スチレン系樹脂組成物(PS-14)もスチレン系樹脂組成物(PS-9)と、エポキシ化大豆油の添加量以外は同様に、ゴム変性スチレン系樹脂(1)を220℃で溶融混錬させた後、エポキシ化大豆油を液添して製造した。エポキシ化大豆油の液添量、液添後のシリンダー温度及び生産可否(生産可能〇、生産不可×)は表2に示した。得られたスチレン系樹脂組成物(PS-9)及び(PS-14)について、表3に示すスチレン系樹脂組成物の物性を上記の「1.測定及び評価方法」の欄に記載の方法で測定した。
【0103】
[実施例10]
スチレン系樹脂組成物(PS-10)は、ゴム変性スチレン系樹脂(1)を二軸混錬押出機(東芝機械株式会社製 TEM-26SS-12)を用いてシリンダー温度220℃の条件で溶融混錬させた後、前記ゴム変性スチレン系樹脂(1)中にパーム油が16質量%、流動パラフィンが4質量%含有されるようにパーム油及び流動パラフィンを液添し、溶融混錬して製造した。パーム油を液添した後のシリンダー温度は185℃とした。また、生産可否(生産可能〇、生産不可×)は表2に示した。得られたスチレン系樹脂組成物(PS-10)について、表3に示すスチレン系樹脂組成物の物性を上記の「1.測定及び評価方法」の欄に記載の方法で測定した。
【0104】
[実施例11]
スチレン系樹脂組成物(PS-11)は、ゴム変性スチレン系樹脂(1)を二軸混錬押出機(東芝機械株式会社製 TEM-26SS-12)を用いてシリンダー温度220℃の条件で溶融混錬させた後、前記ゴム変性スチレン系樹脂(1)中にパーム油が12質量%、流動パラフィンが5質量%含有されるようにパーム油及び流動パラフィンを液添し、溶融混錬して製造した。パーム油を液添した後のシリンダー温度は190℃とした。また、生産可否(生産可能〇、生産不可×)は表2に示した。得られたスチレン系樹脂組成物(PS-11)について、表3に示すスチレン系樹脂組成物の物性を上記の「1.測定及び評価方法」の欄に記載の方法で測定した。
【0105】
[比較例4]
(スチレン系樹脂組成物(PS-15)の製造方法)
スチレン系樹脂組成物(PS-15)は、ゴム変性スチレン系樹脂(1)80質量%と、ポリ乳酸20質量%と、を二軸混錬押出機(東芝機械株式会社製 TEM-26SS-12)を用いてシリンダー温度220℃の条件で溶融混錬させて製造した。また、生産可否(生産可能〇、生産不可×)は表2に示した。得られたスチレン系樹脂組成物(PS-15)について、表3に示すスチレン系樹脂組成物の物性を上記の「1.測定及び評価方法」の欄に記載の方法で測定した。
【0106】
[比較例5]
(スチレン系樹脂組成物(PS-16)の製造方法)
スチレン系樹脂組成物(PS-16)は、ゴム変性スチレン系樹脂(1)を二軸混錬押出機(東芝機械株式会社製 TEM-26SS-12)を用いてシリンダー温度220℃の条件で溶融混錬させた後、前記ゴム変性スチレン系樹脂(1)中に流動パラフィンが17質量%含有されるように流動パラフィンを液添し、溶融混錬して製造したが、スチレン系樹脂と流動パラフィンの相溶性が悪く、ブリードアウトが顕著に見られたため生産は不可能と判断した。尚、流動パラフィンを液添した後のシリンダー温度は190℃とした。
【0107】
【0108】