(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037613
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】空間除染方法及び空間除染装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/20 20060101AFI20240312BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20240312BHJP
A61L 9/12 20060101ALI20240312BHJP
A61L 101/22 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
A61L2/20
A61L9/01 B
A61L9/01 J
A61L9/12
A61L101:22
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142562
(22)【出願日】2022-09-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】391030620
【氏名又は名称】日本空調サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153981
【弁理士】
【氏名又は名称】衛藤 寛啓
(74)【代理人】
【識別番号】100129492
【弁理士】
【氏名又は名称】毛利 大介
(72)【発明者】
【氏名】中司 等
(72)【発明者】
【氏名】中島 勇一
【テーマコード(参考)】
4C058
4C180
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058BB07
4C058DD03
4C058JJ16
4C180AA07
4C180AA10
4C180CB01
4C180EA53X
4C180EB05X
4C180KK02
4C180KK04
4C180LL06
4C180LL20
(57)【要約】
【課題】空間の湿度を抑制しつつ、除染の効果が高い空間除染方法及び空間除染装置を提供すること。
【解決手段】空間除染方法では、過酢酸及び過酸化水素を含む溶液の中に空気を送気してバブリングすることで、空気及び過酢酸を含む混合ガスを生成する。また、前記混合ガスを空間に供給する。また、過酸化水素を含む水溶液を用いて前記空間を加湿する。空間除染装置は、混合ガス供給ユニットと、加湿ユニットとを備える。混合ガス供給ユニットは、過酢酸及び過酸化水素を含む溶液の中に空気を送気してバブリングすることで、空気及び過酢酸を含む混合ガスを生成し、前記混合ガスを空間に供給する。加湿ユニットは、過酸化水素を含む水溶液を用いて前記空間を加湿する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酢酸及び過酸化水素を含む溶液の中に空気を送気してバブリングすることで、空気及び過酢酸を含む混合ガスを生成し、
前記混合ガスを空間に供給し、
過酸化水素を含む水溶液を用いて前記空間を加湿する、
空間除染方法。
【請求項2】
請求項1に記載の空間除染方法であって、
空間除染方法を行っているとき、前記空間の湿度が60%RH以上80%RH以下である、
空間除染方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の空間除染方法であって、
空間除染方法を行っているとき、前記空間における前記過酢酸の濃度が5ppm以上50ppm以下である、
空間除染方法。
【請求項4】
過酢酸及び過酸化水素を含む溶液の中に空気を送気してバブリングすることで、空気及び過酢酸を含む混合ガスを生成し、前記混合ガスを空間に供給するように構成された混合ガス供給ユニットと、
過酸化水素を含む水溶液を用いて前記空間を加湿するように構成された加湿ユニットと、
を備える空間除染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空間除染方法及び空間除染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品製造所、バイオハザード施設、細胞培養加工施設等には、除染を行う必要がある空間が存在する。除染の方法は、特許文献1に開示されている。除染の方法として、過酢酸と過酸化水素とを含む溶液を、噴霧装置を用いて空間に噴霧する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
過酢酸と過酸化水素とを含む溶液を空間に噴霧する方法において、除染の効果を高めるために噴霧量を多くした場合、空間の湿度が高くなる。空間の湿度が高くなると、空間に設置された機器等で結露が生じ、機器等が腐食するおそれがある。
【0005】
本開示の1つの局面では、空間の湿度を抑制しつつ、除染の効果が高い空間除染方法及び空間除染装置を提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの局面は、空間除染方法である。空間除染方法では、過酢酸及び過酸化水素を含む溶液の中に空気を送気してバブリングすることで、空気及び過酢酸を含む混合ガスを生成し、前記混合ガスを空間に供給し、過酸化水素を含む水溶液を用いて前記空間を加湿する。
【0007】
本開示の1つの局面である空間除染方法によれば、空間の湿度を抑制しつつ、空間を除染することができる。
本開示の別の局面は、空間除染装置である。空間除染装置は、過酢酸及び過酸化水素を含む溶液の中に空気を送気してバブリングすることで、空気及び過酢酸を含む混合ガスを生成し、前記混合ガスを空間に供給するように構成された混合ガス供給ユニットと、過酸化水素を含む水溶液を用いて前記空間を加湿するように構成された加湿ユニットと、を備える。
【0008】
本開示の別の局面である空間除染装置は、空間の湿度を抑制しつつ、空間を除染することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】混合ガス供給ユニットの構成を表す説明図である。
【
図2】空間除染装置の構成を表すブロック図である。
【
図3】安全キャビネットと空間除染装置とを表す説明図である。
【
図4】安全キャビネットにおける空気の循環経路とBIの設置位置とを表す説明図である。
【
図5】実施例1における過酢酸の濃度と、過酸化水素の濃度と、温度と、湿度との推移を表すグラフである。
【
図6】実施例2における過酢酸の濃度と、過酸化水素の濃度と、温度と、湿度との推移を表すグラフである。
【
図7】実施例3における過酢酸の濃度と、過酸化水素の濃度と、温度と、湿度との推移を表すグラフである。
【
図8】比較例1における過酢酸の濃度と、温度と、湿度との推移を表すグラフである。
【
図9】比較例2における過酢酸の濃度と、温度と、湿度との推移を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
1.空間除染方法
本開示の空間除染方法は、空間を除染する。空間は、例えば、医薬品製造所、バイオハザード施設、細胞培養加工施設等にある空間である。空間は、例えば、安全キャビネット、アイソレータ、アクセス制限バリアシステム(Restricted Access Barrier System)等の内部の空間である。空間は、例えば、清浄区域の空間、無菌操作区域の空間である。空間は、例えば、その空間と他の領域との境界にある壁、床、又は天井を含む。
【0011】
除染とは、空間に存在する微生物を減少させることを意味する。除染とは、例えば、空間に存在する微生物を予め指定された菌数のレベルにまで減少させることを意味する。除染とは、例えば、BIを6log以上減少させることである。BIとは、バイオロジカルインジケータであり、指標菌を意味する。
【0012】
本開示の空間除染方法では、過酢酸及び過酸化水素を含む溶液(以下では第1溶液とする)の中に空気を送気してバブリングすることで、空気及び過酢酸を含む混合ガスを生成する。第1溶液及び混合ガスは、例えば、酢酸をさらに含む。
第1溶液として、例えば、過酢酸と過酸化水素との平衡溶液が挙げられる。過酢酸と過酸化水素との平衡溶液は、過酢酸及び過酸化水素に加えて、酢酸及び水を含む。第1溶液における過酢酸の濃度は、1質量%以上、15質量%以下であることが好ましい。過酢酸の濃度が1質量%以上、15質量%以下である場合、空間を除染する効果が一層高い。
【0013】
混合ガスは、空気及び過酢酸に加えて、水蒸気及び過酸化水素をさらに含んでいてもよい。本開示の空間除染方法では、混合ガスを空間に供給する。混合ガスを生成し、空間に供給する方法として、
図1に示す混合ガス供給ユニット1を使用する方法がある。
【0014】
混合ガス供給ユニット1は、流量計11と、容器13と、トラップ15と、配管17、19、21と、を備える。配管17は、図示しない空気供給源から供給された空気18を、流量計11を経て、容器13の内部に送る。流量計11は、容器13の内部に送られる空気18の流量を計測し、表示する。空気18の流量は、例えば、1L/min以上5L/min以下である。
【0015】
容器13の内部には第1溶液23が収容されている。配管17の先端17Aは第1溶液23の中にある。そのため、先端17Aから出た空気18によりバブリングが生じる。容器13のうち、第1溶液23の液面より上の部分には、混合ガス25が生じる。混合ガス25は、第1溶液23を通過した空気のバブルから成る。混合ガス25は、空気と、過酢酸と、酢酸とを含む。混合ガス25は、微量の水蒸気及び過酸化水素も含む。
【0016】
混合ガス25は、容器13から、配管19を通り、トラップ15に流れる。トラップ15は空の容器である。トラップ15において、混合ガス25から、突発した水滴が除去される。混合ガス25は、トラップ15から、配管21を通り、空間除染方法の対象である空間105に流れる。
【0017】
本開示の空間除染方法では、過酸化水素を含む水溶液(以下では第2溶液とする)を用いて空間105を加湿する。第2溶液における過酸化水素の濃度は、2質量%以上10質量%以下であることが好ましい。過酸化水素の濃度が2質量%以上である場合、空間105を除染する効果が一層高い。過酸化水素の濃度が10質量%以下である場合、空間除染方法を行うときの安全性が一層向上し、過酸化水素の濃度が6質量%以下である場合、空間除染方法を行うときの安全性が特に向上する。
【0018】
例えば、加湿器を用いて第2溶液を気化させ、空間105を加湿することができる。加湿器として、市販の製品を使用できる。加湿器の形式として、超音波式、スチーム式、気化式、ハイブリッド式等が挙げられる。
【0019】
本開示の空間除染方法を行っているとき、空間105の湿度は、60%RH以上80%RH以下であることが好ましい。空間105の湿度が60%RH以上である場合、空間105を除染する効果が一層高い。空間105の湿度が80%RH以下である場合、結露を一層抑制することができる。
【0020】
本開示の空間除染方法を行っているとき、空間105における過酢酸の濃度は、5ppm以上50ppm以下であることが好ましい。空間105における過酢酸の濃度が5ppm以上である場合、空間105を除染する効果が一層高い。空間105における過酢酸の濃度が50ppm以下である場合、除染後のガス処理が簡便になる。空間105への混合ガス25の供給量が多いほど、空間105における過酢酸の濃度は高くなる。第1溶液23における過酢酸の濃度が高いほど、空間105における過酢酸の濃度は高くなる。
【0021】
空間105における過酢酸の濃度の測定方法は、定電位電解法である。測定には、定電位電解式ポータブルガス検知器を使用する。
本開示の空間除染方法を行っているとき、空間105における過酸化水素の濃度は、10ppm以上50ppm以下であることが好ましい。空間105における過酸化水素の濃度が10ppm以上である場合、空間105を除染する効果が一層高い。空間105における過酸化水素の濃度が50ppm以下である場合、空間除染方法を行うときの安全性が一層向上する。第2溶液における過酸化水素の濃度が高いほど、空間105における過酸化水素の濃度が高くなる。第2溶液を用いた加湿を促進するほど、空間105における過酸化水素の濃度及び湿度が高くなる。
【0022】
空間105における過酸化水素の濃度の測定方法は、定電位電解法である。測定には、定電位電解式ポータブルガス検知器を使用する。
本開示の空間除染方法では、例えば、混合ガス25を空間105に供給すると同時に、第2溶液を用いて空間105を加湿する。この場合、空間105を除染する効果が一層高い。
【0023】
2.空間除染装置101
本開示の空間除染装置101は、例えば、
図2に示す構成を備える。空間除染装置101は、混合ガス供給ユニット1を備える。混合ガス供給ユニット1は、第1溶液23の中に空気18を送気してバブリングすることで、空気及び過酢酸を含む混合ガス25を生成し、混合ガス25を空間105に供給する。
【0024】
混合ガス供給ユニット1として、例えば、
図1に示すものが挙げられる。
図1に示す混合ガス供給ユニット1の構成は、前記「1.空間除染方法」の項で述べたものである。
本開示の空間除染装置101は、例えば、本開示の空間除染方法を行うために使用される。第1溶液23及び混合ガス25は、例えば、前記「1.空間除染方法」の項で述べたものである。
【0025】
空間除染装置101は、加湿ユニット103を備える。加湿ユニット103は、第2溶液を用いて空間105を加湿する。加湿ユニット103は、例えば、加湿器を用いて第2溶液を気化させ、空間105を加湿する。加湿器として、市販の製品を使用できる。加湿器の形式として、超音波式、スチーム式、気化式、ハイブリッド式等が挙げられる。第2溶液は、例えば、前記「1.空間除染方法」の項で述べたものである。
【0026】
空間除染装置101は、例えば、混合ガス供給ユニット1及び加湿ユニット103のうちの少なくとも一方を制御するように構成された制御ユニット107をさらに備える。
制御ユニット107は、CPU107Aと、例えば、RAM又はROM等の半導体メモリ(以下、メモリ107Bとする)と、を有するマイクロコンピュータを備える。
【0027】
制御ユニット107の各機能は、CPU107Aが非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、メモリ107Bが、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。なお、制御ユニット107は、1つのマイクロコンピュータを備えてもよいし、複数のマイクロコンピュータを備えてもよい。
【0028】
空間除染装置101は、例えば、情報取得ユニット109をさらに備える。情報取得ユニット109は、空間105の湿度、空間105の温度、空間105における過酢酸の濃度、及び、空間105における過酸化水素の濃度から成る群から選択される1以上を表す情報(以下では空間情報とする)を取得するように構成されている。情報取得ユニット109は、例えば、空間情報を検出可能なセンサを備える。
【0029】
制御ユニット107は、例えば、情報取得ユニット109が取得した空間情報に基づき、混合ガス供給ユニット1及び加湿ユニット103のうちの少なくとも一方を制御する。
制御ユニット107は、例えば、情報取得ユニット109が取得した空間情報に基づき、加湿ユニット103を制御することで、空間105の湿度を、60%RH以上80%RH以下とする。空間105の湿度が60%RH以上である場合、空間105を除染する効果が一層高い。空間105の湿度が80%RH以下である場合、結露を一層抑制することができ、空間105の湿度が75%RH以下である場合、結露を特に抑制することができる。
【0030】
制御ユニット107は、例えば、情報取得ユニット109が取得した空間情報に基づき、混合ガス供給ユニット1を制御することで、空間105における過酢酸の濃度を、5ppm以上50ppm以下とする。空間105における過酢酸の濃度が5ppm以上である場合、空間105を除染する効果が一層高い。空間105における過酢酸の濃度が50ppm以下である場合、除染後のガス処理が簡便になる。
【0031】
制御ユニット107は、例えば、情報取得ユニット109が取得した空間情報に基づき、加湿ユニット103を制御することで、空間105における過酸化水素の濃度を、10ppm以上50ppm以下とする。空間105における過酸化水素の濃度が10ppm以上である場合、空間105を除染する効果が一層高い。空間105における過酸化水素の濃度が50ppm以下である場合、空間除染方法を行うときの安全性が一層向上する。
【0032】
本開示の空間除染装置101は、例えば、混合ガスを空間105に供給すると同時に、第2溶液を用いて空間105を加湿する。この場合、空間105を除染する効果が一層高い。
3.空間除染方法及び空間除染装置101が奏する効果
空間除染方法及び空間除染装置101を用いれば、空間105の湿度を抑制しつつ、空間105を効果的に除染することができる。その理由は以下のとおりである。混合ガス25は、過酢酸を多く含むが、水蒸気の含有量は少ない。そのため、混合ガス25を空間105に供給することで、空間105の湿度を抑制しつつ、空間105における過酢酸の濃度を高くすることができる。また、第2溶液を用いて空間105を加湿することで、空間105の湿度を適度に高めるとともに、空間105における過酸化水素の濃度を高めることができる。第2溶液を用いる加湿を抑制すると、空間105における過酢酸の濃度を低下させることなく、空間105の湿度を抑制できる。その結果、空間105の湿度を抑制しつつ、過酢酸と過酸化水素との相乗効果により、空間105を効果的に除染することができる。
【0033】
4.実施例
(4-1)実施例1
図3、
図4に示す安全キャビネット201を用意した。安全キャビネット201は、例えば、感染性の高い微生物を取り扱うバイオハザード施設で用いられる。また、安全キャビネット201は、例えば、再生医療等の技術分野において、無菌性を求められる細胞加工等で用いられる。安全キャビネット201は、例えば、6log以上の高い除染レベルが要求される装置である。安全キャビネット201の内部は空間105に対応する。
【0034】
安全キャビネット201は、作業台203を備える。作業台203の上方に作業空間205が存在する。安全キャビネット201は、正面側開口部207を備える。作業空間205は、正面側から見て、正面側開口部207の奥側にある。安全キャビネット201は、ファンルーム209と、天井部排気口211と、HEPA213と、を備える。
【0035】
図3に示すように、安全キャビネット201の外に設置した循環ファン215と、正面側開口部207とをダクト217で接続した。また、天井部排気口211と循環ファン215とをダクト219で接続した。正面側開口部207のうち、ダクト217を接続した部分以外を、養生テープ及び塩ビパネルで密封した。また、天井部排気口211のうち、ダクト219を接続した部分以外を、を養生テープ及び塩ビパネルで密封した。また、安全キャビネット201におけるその他の隙間も養生テープで密封した。
【0036】
循環ファン215を動作させたとき、
図4において矢印で示す経路に沿った空気の循環が生じる。作業空間205内の空気は、正面側開口部207から、ダクト217、循環ファン215、ダクト219、及び天井部排気口211を順次通り、ファンルーム209に入る。ファンルーム209内の空気の一部は、HEPA213を通り、作業空間205に入る。ファンルーム209内の空気の一部は、奥側通路221を通り、作業台203の奥側から作業空間205に入る。
【0037】
図3に示すように、混合ガス供給ユニット1で生成した混合ガス25を、作業空間205に供給した。混合ガス供給ユニット1はエアーポンプ223を備えていた。エアーポンプ223は、作業空間205から空気18を取り入れ、取り入れた空気18を流量計11に供給する。空気18の流量は5L/minであった。第1溶液23は、過酢酸除染剤(商品名:MinncareTM)の原液であり、第1溶液23の量は約33mlであった。第1溶液23における過酢酸の濃度は5.6質量%であった。第1溶液23における過酸化水素の濃度は23.3質量%であった。
図3に示すように、作業台203の上にサーキュレータファン225を設置した。混合ガス25を供給する位置は、サーキュレータファン225の前方であった。混合ガス供給ユニット1により供給された混合ガス25は、サーキュレータファン225が発生させる風により拡散され、ダクト217に送られた。
【0038】
図3に示すように、加湿ユニット103を作業台203の上に置き、加湿ユニット103により作業空間205を加湿した。第2溶液は、濃度が3質量%である過酸化水素の水溶液であった。本実施例では、情報取得ユニット109は温湿度センサであった。情報取得ユニット109は、天井部排気口211における空気の温度と湿度とを検出し、検出結果を制御ユニット107に送った。制御ユニット107は、温度と湿度との測定結果に基づき、加湿ユニット103を制御した。
【0039】
図4に示すP1~P8の場所にBIを設置した。P1~P3は、ファンルーム209の内部であった。P4は、奥側通路221の内部であった。P5は、天井部排気口211に設けられたパンチングメタルの位置であった。P6は、作業台203の下部であった。P7は、作業空間205のうち、HEPA213の側の位置であった。P8は、作業台203の上であった。BIは、Geobacillus stearothermophilus (ATCC#12980)であった。BIの菌数は2.4×10
6以上であった。
【0040】
安全キャビネット201において
図4に示す空気の循環が生じている状態で、除染を開始した。除染とは、混合ガス供給ユニット1により混合ガス25を供給し、加湿ユニット103により加湿することである。除染の開始時以降の、安全キャビネット201内の過酢酸の濃度と、過酸化水素の濃度と、温度と、湿度との推移を
図5に示す。
【0041】
除染の開始時から12分が経過すると、安全キャビネット201内の湿度が75%RHに達した。その後、制御ユニット107は、情報取得ユニット109が検出した湿度の測定結果に基づき、加湿ユニット103のオン/オフを切り替えることで、安全キャビネット201内の湿度を75%RH付近に維持した。
【0042】
除染の開始時から経過した時間を経過時間とした。経過時間が10分の時点から、経過時間が160分の時点までの時間帯をT1とした。時間帯T1において、安全キャビネット201内の湿度は、75%RH付近に維持されており、平均湿度は74%RHであった。時間帯T1において、安全キャビネット201内の温度は、26℃付近に維持されており、平均温度は26℃であった。時間帯T1において、安全キャビネット201内の過酢酸の濃度の平均値は13ppmであった。時間帯T1において、安全キャビネット201内の過酸化水素の濃度の平均値は10ppmであった。
【0043】
時間帯T1において、BIを安全キャビネット201内の空気に暴露した。次に、専用培地にて適正温度の下でBIを7日間培養し、陰性であるか陽性であるかを確認した。陰性とはBIが死滅していることである。陽性とは、BIが死滅していないことである。P1~P8の全て場所のBIが陰性であった。この結果から、除染により、P1~P8の全ての場所で6log以上の除染レベルを達成できることが確認できた。
(4-2)実施例2
基本的には実施例1と同様に除染を行った。ただし、実施例2では、第1溶液23は、以下のものであった。市販されている食品添加物用の過酢酸製剤を用意した。この過酢酸製剤の原液は、15質量%の過酢酸と、5.5質量%の過酸化水素と、45質量%の酢酸とを含んでいた。原液を50%希釈した溶液を第1溶液23とした。第1溶液23の量は40mlであった。
【0044】
また、実施例2では、
図4に示すP6の位置に8個のBIを設置した。そして、除染の開始時から60分経過時、70分経過時、80分経過時、90分経過時、100分経過時、110分経過時、120分経過時、及び130分経過時に、それぞれ、1つのBIをP6の位置から取り出した。なお、位置P6は、安全キャビネット201内の空気の循環経路において、混合ガス25の供給位置から最も遠い位置である。また、BIの菌数は、1.6×10
6であった。
【0045】
それぞれのBIについて、実施例1と同様にして、陰性であるか陽性であるかを確認した。除染の開始時から90分経過時以降に取り出したBIは陰性であった。この結果から、安全キャビネット201において、90分間以上の除染により、6log以上の除染レベルを達成できることが確認できた。
【0046】
除染の開始時以降の、安全キャビネット201内の過酢酸の濃度と、過酸化水素の濃度と、温度と、湿度との推移を
図6に示す。除染の開始時から13分が経過すると、安全キャビネット201内の湿度が75%RHに達した。その後、制御ユニット107は、情報取得ユニット109が検出した湿度の測定結果に基づき、加湿ユニット103のオン/オフを切り替えることで、安全キャビネット201内の湿度を75%RH付近に維持した。
【0047】
経過時間が10分の時点から、経過時間が100分の時点までの時間帯をT2とした。時間帯T2において、安全キャビネット201内の湿度は、75%RH付近に維持されており、平均湿度は74%RHであった。時間帯T2において、安全キャビネット201内の温度は、26℃付近に維持されており、平均温度は26℃であった。時間帯T2において、安全キャビネット201内の過酢酸の濃度の平均値は15ppmであった。時間帯T2において、安全キャビネット201内の過酸化水素の濃度の平均値は19ppmであった。
(4-3)実施例3
基本的には実施例1と同様に除染を行った。ただし、実施例3では、安全キャビネット201ではなく、密閉度の高い小型ブース内を除染した。小型ブースの内容積は約1m3であった。小型ブースの内部は空間105に対応する。第1溶液23における過酢酸の濃度は1.5質量%であった。第1溶液23における過酸化水素の濃度は0.6質量%であった。第1溶液23の量は40mlであった。
【0048】
除染の開始時以降の、小型ブース内の過酢酸の濃度と、過酸化水素の濃度と、温度と、湿度との推移を
図7に示す。
図7に示すように、経過時間が3分の時点から、経過時間が93分の時点までの時間帯をT3とした。時間帯T3においてBIを小型ブース内の空気に暴露した。
【0049】
次に、BIを取り出し、実施例1と同様にして、陰性であるか陽性であるかを確認した。BIは陰性であった。この結果から、小型ブースにおいて、6log以上の除染レベルを達成できることが確認できた。
【0050】
時間帯T3において、小型ブース内の湿度は、75%RH付近に維持されており、平均湿度は75%RHであった。時間帯T3において、小型ブース内の温度は31℃付近に維持されており、平均温度は31℃であった。時間帯T3において、小型ブース内の過酢酸の濃度の平均値は34ppmであった。時間帯T3において、小型ブース内の過酸化水素の濃度の平均値は28ppmであった。
(4-4)比較例1
基本的には実施例3と同様に除染を行った。ただし、比較例1では、加湿ユニット103を使用しなかった。また、第1溶液23における過酢酸の濃度は3.8質量%であった。第1溶液23における過酸化水素の濃度は1.4質量%であった。第1溶液23の量は40mlであった。
除染の開始時以降の、小型ブース内の過酢酸の濃度と、温度と、湿度との推移を
図8に示す。なお、過酸化水素の濃度は常に0ppmであった。
図8に示すように、経過時間が83分の時点から、経過時間が143分の時点までの時間帯をRT1とした。時間帯RT1においてBIを小型ブース内の空気に暴露した。次に、BIを取り出し、実施例1と同様にして、陰性であるか陽性であるかを確認した。BIは陽性であった。
【0051】
時間帯RT1において、小型ブース内の湿度は、62%RH付近であり、平均湿度は62%RHであった。時間帯RT1において、小型ブース内の温度は30℃付近に維持されており、平均温度は30℃であった。時間帯RT1において、小型ブース内の過酢酸の濃度は時間の経過とともに増加しており、平均値は183ppmであった。
(4-5)比較例2
基本的には実施例3と同様に除染を行った。ただし、比較例2では、加湿ユニット103は、過酸化水素の水溶液ではなく、水を用いて加湿を行った。第1溶液23における過酢酸の濃度は1.5質量%であった。第1溶液23における過酸化水素の濃度は0.6質量%であった。第1溶液23の量は40mlであった。
【0052】
除染の開始時以降の、小型ブース内の過酢酸の濃度と、温度と、湿度との推移を
図9に示す。なお、過酸化水素の濃度は常に0ppmであった。
図9に示すように、経過時間が3分の時点から、経過時間が123分の時点までの時間帯をRT2とした。時間帯RT2においてBIを小型ブース内の空気に暴露した。次に、BIを取り出し、実施例1と同様にして、陰性であるか陽性であるかを確認した。BIは陽性であった。
【0053】
時間帯RT2において、小型ブース内の湿度は、75%RH付近であり、平均湿度は75%RHであった。時間帯RT2において、小型ブース内の温度は31℃付近に維持されており、平均温度は31℃であった。時間帯RT2において、小型ブース内の過酢酸の濃度は時間の経過とともに増加しており、平均値は42ppmであった。
【0054】
5.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0055】
(1)上記実施例では、安全キャビネット内の空間を除染したが、これに限定されるものではない。例えば、アイソレータ、アクセス制限バリアシステム等の内部の空間を除染してもよい。
(2)除染する空間の容積が小さい場合は、循環ファンを使用せず、サーキュレータを使用してもよい。
【0056】
(3)第2溶液における過酸化水素の濃度は3質量%より高くてもよく、例えば、10質量%とすることができる。
(4)本開示に記載の制御ユニット107及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御ユニット107及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御ユニット107及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。制御ユニット107に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0057】
(5)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0058】
(6)上述した空間除染装置101の他、当該空間除染装置101を構成要素とするシステム、制御ユニット107としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、空間除染装置の製造方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0059】
1…混合ガス供給ユニット、13…容器、15…トラップ、17、19、21…配管、17A…先端、18…空気、23…第1溶液、25…混合ガス、101…空間除染装置、103…加湿ユニット、105…空間、107…制御ユニット、107A…CPU、107B…メモリ、109…情報取得ユニット、201…安全キャビネット、203…作業台、205…作業空間、207…正面側開口部、209…ファンルーム、211…天井部排気口、215…循環ファン、217、219…ダクト、221…奥側通路、223…エアーポンプ、225…サーキュレータファン
【手続補正書】
【提出日】2022-12-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酢酸及び過酸化水素を含む溶液の中に空気を送気してバブリングすることで、空気及び過酢酸を含む混合ガスを生成し、
前記混合ガスを空間に供給し、
過酸化水素を含み、過酢酸を含まない水溶液を用いて前記空間を加湿し、
空間除染方法を行っているとき、前記空間における前記過酸化水素の濃度が10ppm以上50ppm以下であり、前記空間における前記過酢酸の濃度が5ppm以上50ppm以下である、
空間除染方法。
【請求項2】
過酢酸及び過酸化水素を含む溶液の中に空気を送気してバブリングすることで、空気及び過酢酸を含む混合ガスを生成し、
前記混合ガスを空間に供給し、
超音波式、スチーム式、気化式、又はハイブリッド式の加湿器を用いて、過酸化水素を含む水溶液を気化させることで前記空間を加湿し、
空間除染方法を行っているとき、前記空間における前記過酸化水素の濃度が10ppm以上50ppm以下であり、前記空間における前記過酢酸の濃度が5ppm以上50ppm以下である、
空間除染方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の空間除染方法であって、
空間除染方法を行っているとき、前記空間の湿度が60%RH以上80%RH以下である、
空間除染方法。
【請求項4】
過酢酸及び過酸化水素を含む溶液の中に空気を送気してバブリングすることで、空気及び過酢酸を含む混合ガスを生成し、前記混合ガスを空間に供給するように構成された混合ガス供給ユニットと、
過酸化水素を含み、過酢酸を含まない水溶液を用いて前記空間を加湿するように構成された加湿ユニットと、
を備える空間除染装置。
【請求項5】
過酢酸及び過酸化水素を含む溶液の中に空気を送気してバブリングすることで、空気及び過酢酸を含む混合ガスを生成し、前記混合ガスを空間に供給するように構成された混合ガス供給ユニットと、
超音波式、スチーム式、気化式、又はハイブリッド式の加湿器を用いて、過酸化水素を含む水溶液を気化させることで前記空間を加湿するように構成された加湿ユニットと、
を備える空間除染装置。