(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037634
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】シール構造
(51)【国際特許分類】
F16D 3/84 20060101AFI20240312BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20240312BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
F16D3/84 U
F16J3/04 C
F16J15/52 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142598
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】向井 崇貴
【テーマコード(参考)】
3J043
3J045
【Fターム(参考)】
3J043AA03
3J043CB13
3J043DA06
3J043DA09
3J043FA04
3J043FA20
3J043FB04
3J045AA10
3J045AA14
3J045CB16
3J045CB30
3J045EA03
(57)【要約】
【課題】外部からの異物の侵入を抑制しつつプロペラシャフトに容易に組み付けることが可能な等速ジョイントのシール構造を提供する。
【解決手段】等速ジョイント3のシール構造1であり、プロペラシャフト2の外周側を覆うブーツ10を備え、ブーツ10は、バンド締結部15と、ブーツリップ部20と、バンド締結部15及びブーツリップ部20に対して軸線方向の中間に形成された中間部25と、等速ジョイント3の内部と外部とを連通する通気部30とを備える。通気部30は、バンド締結部15に形成されたバンド締結部側通気路31と、中間部25に形成された中間部通気路32と、ブーツリップ部20に形成されたブーツリップ部側通気路33とを備え、バンド締結部側通気路15とブーツリップ部側通気路33とが、プロペラシャフト2の周方向に異なる角度で配されていることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラシャフトに用いられる等速ジョイントのシール構造であって、
前記プロペラシャフトの外周側を覆うブーツを備え、
前記ブーツは、
外周側から締め付けることにより前記プロペラシャフトと締結するバンド締結部と、
前記プロペラシャフトの軸線方向に沿って延びるように形成されると共に、前記プロペラシャフトの外周側を覆うブーツリップ部と、
前記バンド締結部及び前記ブーツリップ部に対して前記軸線方向の中間に形成された中間部と、
前記等速ジョイントの内部と外部とを連通する通気部と、
を備え、
前記通気部は、
前記バンド締結部が設けられた位置において、前記プロペラシャフトの軸線方向に沿って形成されたバンド締結部側通気路と、
前記中間部が設けられた位置に形成された中間部通気路と、
前記ブーツリップ部が設けられた位置において、前記プロペラシャフトの軸線方向に沿って形成されたブーツリップ部側通気路と、
を備え、
前記バンド締結部側通気路と前記ブーツリップ部側通気路とが、前記プロペラシャフトの周方向に異なる角度で配されていること、を特徴とするシール構造。
【請求項2】
前記ブーツリップ部側通気路は、
前記中間部通気路に向けて開口した内部側開口端と、
前記ブーツリップ部の外部側に向けて開口した外部側開口端と、
を有しており、
断面視において、前記内部側開口端から前記外部側開口端に向かうにつれ縮径されていること、を特徴とする請求項1に記載のシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール構造に関する。さらに詳しくは、プロペラシャフトに用いられる等速ジョイントのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の車両にプロペラシャフトが用いられている。前記プロペラシャフトは、FR(Front engine Rear drive)方式の後輪駆動車や、フルタイム4WDやパートタイム4WD等の四輪駆動車等に用いられている。前記プロペラシャフトは、例えば前方側のエンジン等からの駆動力を後方側の駆動輪(後輪)に伝達するものとして利用されている。ここで、前記プロペラシャフトは、エンジンから駆動輪に亘ってシャフトが到達するように複数のシャフトを等速ジョイントで連結することで延長されている。また、等速ジョイントは、シャフト間の相対的な移動を吸収するものとされている(例えば、特許文献1)。
【0003】
前記等速ジョイントは、内部のグリスが外部に漏れることを抑制しつつ、外部からの異物の侵入を抑制するために、シール部材としてのブーツが設けられている。ここで、前記ブーツは、気密性を高めた場合、等速ジョイントをプロペラシャフトに組み付ける際に、等速ジョイント内部の内圧が高まって抵抗となり組み付けが困難となる問題があった。
【0004】
また、前記ブーツは、プロペラシャフトの回転に伴って等速ジョイントの内圧が高まることで変形する問題があった。そのため、上記特許文献1に記載の等速ジョイントは、等速ジョイントの内圧の高まりを抑制するため、等速ジョイント内部の膨張した空気を外部に漏洩させる通気路が形成されている。前記通気路は、ブーツにおける締付バンドの締結部(装着部に相当)の内壁に通気溝として形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の等速ジョイントは、通気路が等速ジョイントの外部と直線的に連通しているため、等速ジョイント内部のグリスが外部に漏れ出したり、等速ジョイントの内部に異物(水を含む)等を吸い込んだりする問題があった。その結果、上記特許文献1に記載の等速ジョイントは、寿命が低下する懸念があった。また、上記特許文献1に記載の等速ジョイントは、ブーツリップを採用した場合に、ブーツリップの締め代によって、気密性が高まるため、内圧の高まりを抑制できなくなる懸念があった。
【0007】
また、上記に代えて、ジョイントカップの底等に通気孔を設けた場合は、グリスが等速ジョイントから漏れる懸念があった。そのため、等速ジョイントや等速ジョイントに近接する部材(ダイナミックダンパー等)の寿命が低下する懸念があった。さらに、プロペラシャフトに通気孔を形成した場合は、プロペラシャフトの強度が低下する懸念があった。また、プロペラシャフトが細い場合は、加工が困難となる懸念があった。
【0008】
そこで、本発明は、外部からの異物の侵入を抑制しつつプロペラシャフトに容易に組み付けることが可能な等速ジョイントのシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上述した課題を解決すべく提供される本発明のシール構造は、プロペラシャフトに用いられる等速ジョイントのシール構造であって、前記プロペラシャフトの外周側を覆うブーツを備え、前記ブーツは、外周側から締め付けることにより前記プロペラシャフトと締結するバンド締結部と、前記プロペラシャフトの軸線方向に沿って延びるように形成されると共に、前記プロペラシャフトの外周側を覆うブーツリップ部と、前記バンド締結部及び前記ブーツリップ部に対して前記軸線方向の中間に形成された中間部と、前記等速ジョイントの内部と外部とを連通する通気部と、を備え、前記通気部は、前記バンド締結部が設けられた位置において、前記プロペラシャフトの軸線方向に沿って形成されたバンド締結部側通気路と、前記中間部が設けられた位置に形成された中間部通気路と、前記ブーツリップ部が設けられた位置において、前記プロペラシャフトの軸線方向に沿って形成されたブーツリップ部側通気路と、を備え、前記バンド締結部側通気路と前記ブーツリップ部側通気路とが、前記プロペラシャフトの周方向に異なる角度で配されていること、を特徴とするものである。
【0010】
上述したシール構造は、通気部が、バンド締結部側通気路、中間部通気路、及びブーツリップ側通気路の3つの通気路に分けて形成されており、各通気路が一方向に沿って直線状とならないよう(例えば、各通気路が迷路状に配されたラビリンス構造)に配されている。すなわち、上述したシール構造は、等速ジョイントの内部側からの空気の抜けを確保した上で、等速ジョイントの外部側から内部側までの距離を長く設定できる。従って、等速ジョイントの内部側の圧力が高まることを抑制しつつ、等速ジョイントの外部側からの異物(水を含む)等の侵入を効果的に抑制できる。これにより、上述したシール構造は、等速ジョイントをプロペラシャフト等の軸に組み付ける際の等速ジョイント内の内圧の高まりを抑制できるので、組み付け時の作業性を向上できる。また、上述したシール構造は、等速ジョイントの外部側からの異物等の侵入を抑制できるので、等速ジョイントやプロペラシャフトの破損を抑制できる。
【0011】
ここで、バンド締結部側通気路は、バンドによりブーツをプロペラシャフトに締結した際に、等速ジョイントの外部と連通する程度の径に形成するとよい。これにより、バンドにより締め付けた場合であっても、バンド締結部側通気路による通気が確保できる。
【0012】
(2)上述した本発明のシール構造において、前記ブーツリップ部側通気路は、前記中間部通気路に向けて開口した内部側開口端と、前記ブーツリップ部の外部側に向けて開口した外部側開口端と、を有しており、断面視において、前記内部側開口端から前記外部側開口端に向かうにつれ縮径されていること、を特徴とするとよい。
【0013】
上述したシール構造は、かかる構成とすることにより、等速ジョイントの外部側からの異物等の侵入を効果的に抑制でき、等速ジョイントの内部側からの空気の抜けを円滑にすることができる。
【0014】
(3)上述した本発明のシール構造は、前記ブーツリップ部側通気路における外部側開口端に弾性部材が設けられており、前記弾性部材は、前記外部側開口端から前記等速ジョイントの外部側に向けて突出すると共に、断面視において、前記外部側開口端から、前記等速ジョイントの外部方向に向かうにつれ縮径されていること、を特徴とするとよい。
【0015】
上述したシール構造は、かかる構成とすることにより、等速ジョイントの外部側からの異物等の侵入をより一層効果的に抑制でき、等速ジョイントの内部側からの空気の抜けをより一層円滑なものとすることができる。
【0016】
(4)上述した本発明のシール構造において、前記弾性部材は、前記等速ジョイントの内部側から外部側への通気があるときは、開口端側が拡径するように弾性変形するものであり、前記等速ジョイントの内部側から外部側への通気がないときは、開口端側の径が維持又は縮径するように弾性変形するものであること、を特徴とするとよい。
【0017】
上述したシール構造は、等速ジョイントの内部側から外部側への通気があるときは、弾性部材の開口端側が拡径するように弾性変形するので、等速ジョイントの内圧の高まりを効果的に抑制できる。すなわち、上述したシール構造は、前記弾性部材を一方弁のように機能させることができる。これにより、上述したシール構造は、等速ジョイントの組み付け時の作業性を高めることができる。また、上述したシール構造は、等速ジョイントの内部側から外部側への通気がないときは、弾性部材の開口端側の径が維持又は縮径するように弾性変形するので、等速ジョイントの外部側からの異物等の侵入を効果的に抑制できる。
【0018】
(5)上述した本発明のシール構造において、前記弾性部材は、基端側における内面側の剛性が先端側における剛性よりも高くなるように形成されていること、を特徴とするとよい。
【0019】
上述したシール構造は、かかる構成とすることにより、等速ジョイントにおける通気状態に応じて、弾性部材の開口端側の径を確実に拡径、維持、又は縮径させることができる。これにより、上述したシール構造は、等速ジョイントをプロペラシャフト等の軸に組み付ける際の等速ジョイント内の内圧の高まりを抑制できるので、組み付け時の作業性を向上できる。また、上述したシール構造は、等速ジョイントの外部側からの異物等の侵入を抑制できるので、等速ジョイントやプロペラシャフトの破損を抑制できる。
【0020】
(6)上述した本発明のシール構造は、前記中間部の内壁に、前記プロペラシャフトの外周に沿って周溝が形成されており、前記周溝は、前記バンド締結部側通気路及び前記ブーツリップ部側通気路と連通すると共に、前記ブーツリップ部の先端側を、前記周溝を起点に内径方向に弾性変形させるものであること、を特徴とするとよい。
【0021】
上述したシール構造は、かかる構成とすることにより、周溝が中間部通気路として機能する。また、周溝が、中間部の内壁の周方向に沿って形成されているので、中間部通気路がプロペラシャフトの軸線方向に延びることを抑制できる。従って、上述したシール構造によれば、ブーツの小型化が期待できる。また、前記周溝は、ブーツリップ部の先端側を、周溝を起点に内径方向に弾性変形させることができるので、ブーツリップ部の先端側を、プロペラシャフトに当接させることができる。これにより、上述したシール構造は、ブーツリップ部の先端側から、等速ジョイントの内部に異物等が侵入することを効果的に抑制でき、等速ジョイントの内部側から外部にグリスが漏出することを抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、外部からの異物の侵入を抑制しつつプロペラシャフトに容易に組み付けることが可能な等速ジョイントのシール構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシール構造が適用されたプロペラシャフト及び等速ジョイントの一部切欠き全体図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るシール構造の断面図である。
【
図3】(a)は、本発明に係るシール構造の概略断面図であり、(b)は、(a)のA-A方向矢視図である。
【
図4】(a)は、本発明のシール構造を構成する弾性部材及びブーツリップ側通気路の概略断面図であり、(b)は、C-C方向断面矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係るシール構造1の一実施形態について、
図1~
図4を参照しながら以下に詳細を説明する。本実施形態では、シール構造1が、プロペラシャフト2に用いられる等速ジョイント3に適用される場合を例として説明する。なお、各図において、実際の大きさと異なる場合があることに留意されたい。また、
図1においては、プロペラシャフト2に接続されるトランスファや駆動輪等は、省略していることに留意されたい。また、
図2及び
図3(a)においては、弾性部材34を省略していることに留意されたい。
【0025】
図1に示すように、プロペラシャフト2は、トランスファ側の第1プロペラシャフト2A(インタミディエイトシャフト2Aとも称する)と、駆動輪側の第2プロペラシャフト2Bとに分割形成されている。第1プロペラシャフト2Aは、第2ジョイント3(等速ジョイント3とも称する)を介して第2プロペラシャフト2Bと接続されている。なお、第1プロペラシャフト2A及び第2プロペラシャフト2Bは、プロペラシャフト2と総称することがある。
【0026】
第1プロペラシャフト2Aは、第1ジョイント4を介してトランスファに接続されている。第1ジョイント4は、トランスファから出力される動力を第1プロペラシャフト2Aに伝達するものとされている。従って、トランスファから出力された動力は、第1ジョイント4を介して第1プロペラシャフト2Aに伝達される。
【0027】
等速ジョイント3は、後述する本発明のシール構造1を含むものとされている。等速ジョイント3は、第1プロペラシャフト2Aに伝達された動力を等速でプロペラシャフト2に伝達するものとされている。従って、第1プロペラシャフト2Aに伝達された動力は、等速ジョイント3を介して第2プロペラシャフト2Bに伝達される。また、等速ジョイント3は、第1プロペラシャフト2Aと第2プロペラシャフト2Bとの相対的な移動(角度変化)を吸収するものとされている。等速ジョイント3は、後端側にジョイントカップ40(
図2参照)を備えている。
【0028】
ジョイントカップ40には、第2プロペラシャフト2Bが接続されている。ジョイントカップ40は、前端側に第1プロペラシャフト2Aが接続され、後端側に第2プロペラシャフト2Bが接続されている。
【0029】
第2プロペラシャフト2Bには、等速ジョイント3を介して第1プロペラシャフト2Aの動力(回転)が伝達される。第2プロペラシャフト2Bには、ダイナミックダンパ43が設けられている。ダイナミックダンパ43は、第2プロペラシャフト2Bの共振を抑制するものとされている。また、第2プロペラシャフト2Bは、後端側に第3ジョイント5が接続されている。
【0030】
第3ジョイント5は、駆動輪(後輪)のデファレンシャルギヤ(図示せず)に接続されている。従って、第2プロペラシャフト2Bに伝達された動力は、第3ジョイント5及びデファレンシャルギアを介して駆動輪に伝達される。
【0031】
シール構造1は、
図2及び
図3(a)に示すように、等速ジョイント3に配されており、ブーツ10を備えている。ブーツ10は、例えば、ゴム等の弾性を有する部材で略円筒状に形成されており、中心に第1プロペラシャフト2A(プロペラシャフト2)が挿し通されている。言い換えると、第1プロペラシャフト2Aの外周側を覆うようにブーツ10が設けられている。ブーツ10は、バンド締結部15、ブーツリップ部20、中間部25、及び通気部30等を備えている。
【0032】
バンド締結部15は、ブーツ10における後端側(基端側)に位置している。バンド締結部15は、バンド42でブーツ10を外周側から締め付けることによりプロペラシャフト2と締結することができる。ここで、バンド42は、例えば、樹脂や金属を素材として円環状に形成されており、かしめ若しくはネジ等で締め付けることにより、縮径されるものとされている。
【0033】
また、バンド締結部15は、
図2に示すように、後端側にテーパ状に拡径されたブーツ内筒部16を備えている。ブーツ内筒部16の後端側には、前方側に向けて屈曲された屈曲部17が形成されている。屈曲部17は、ジョイントカップ40の前面に位置している。また、屈曲部17で前方側に折り返された前端側(先端側)には、ブーツ外筒部18が形成されている。ブーツ外筒部18は、ジョイントカップ40の外筒に係止されている。これにより、ブーツ10は、第1プロペラシャフト2A(プロペラシャフト2)と、等速ジョイント3の内部との間のグリスが、外部に漏れ出すことを抑制している。
【0034】
ブーツリップ部20は、ブーツ10として一体的に形成されている。ブーツリップ部20は、第1プロペラシャフト2A(プロペラシャフト2)の軸線方向に沿って延びるように形成されると共に、第1プロペラシャフト2Aの外周側を覆うものとされている。ブーツリップ部20は、先端側がリップ状に形成されており、適度な弾性により、内径方向に弾性変形し、内周面が、第1プロペラシャフト2Aに当接するものとされている。これにより、ブーツ10によるシール性(気密性)が高められる。
【0035】
中間部25は、
図2及び
図3(a)に示すように、ブーツ10として一体的に形成されている。中間部25は、プロペラシャフト2の軸線方向に沿って形成されると共に、バンド締結部15及びブーツリップ部20に対して前記軸線方向の中間に形成されている。詳細は後述するが、中間部25の内壁には、第1プロペラシャフト2Aの外周に沿って周溝32Aが形成されている。
【0036】
通気部30は、等速ジョイント3の内部と外部とを連通させている。通気部30は、バンド締結部側通気路31、中間部通気路32、及びブーツリップ部側通気路33の3つの通気路で形成されている。
【0037】
バンド締結部側通気路31は、バンド締結部15が設けられた位置において、第1プロペラシャフト2Aの軸線方向に沿って形成されている。バンド締結部側通気路31における開口部は、
図3(b)に示すように、第1プロペラシャフト2A側を中心として、上方側に向けて半楕円形状となるように形成されている。バンド締結部側通気路31は、バンド42でバンド締結部15を締め付けた場合において、通気が可能な程度(例えば、2mm径)に縮径される。また、バンド締結部側通気路31は、バンド締結部15の周方向において所定角度(本実施形態では、上方側90度方向)に配されている。なお、バンド締結部側通気路31は、バンド42により締め付けた際に、等速ジョイント3の外部と連通する程度の径に形成すればよい。これにより、バンド42により締め付けた場合であっても、バンド締結部側通気路31による通気が確保できる。
【0038】
中間部通気路32は、中間部25が設けられた位置に形成されている。中間部通気路32は、周溝32Aとして、中間部25の内壁に、第1プロペラシャフト2Aの外周に沿って形成されている。すなわち、中間部通気路32は、第1プロペラシャフト2Aの外周周りに円環状に形成されている。
【0039】
周溝32Aは、バンド締結部側通気路31及びブーツリップ部側通気路33と連通している。従って、周溝32Aは、中間部通気路32として機能する。また、周溝32Aは、中間部25における径方向の厚みを薄くすることにより、中間部25の剛性を下げるものとされている。これにより、周溝32Aは、ブーツリップ部20の先端側を、周溝32Aを起点に内径方向に弾性変形させることができる。
【0040】
このように、本実施形態では、周溝32Aが、中間部25の内壁の周方向に沿って形成されているので、中間部通気路32がプロペラシャフト2の軸線方向に延びることを抑制できる。従って、上述したシール構造1によれば、ブーツ10の小型化が期待できる。また、周溝32Aは、ブーツリップ部20の先端側を、周溝32Aを起点に内径方向に弾性変形させることができるので、ブーツリップ部20の先端側を、第1プロペラシャフト2Aに当接させることができる。これにより、上述したシール構造1は、ブーツリップ部20の先端側から、等速ジョイント3の内部に異物等が侵入することを効果的に抑制でき、等速ジョイント3の内部側から外部にグリスが漏出することを抑制できる。
【0041】
ブーツリップ部側通気路33は、ブーツリップ部20が設けられた位置において、第1プロペラシャフト2Aの軸線方向に沿って形成されている。また、ブーツリップ部側通気路33は、バンド締結部側通気路31に対して、プロペラシャフト2の周方向に異なる角度で配されている(位相が異なっている)。また、ブーツリップ部側通気路33は、中間部通気路32に向けて開口した内部側開口端33Aと、ブーツリップ部20の外部側に向けて開口した外部側開口端33Bと、を有している。すなわち、本実施形態では、通気部30が、バンド締結部側通気路31、中間部通気路32、及びブーツリップ部側通気路33の3つの通気路で形成されており、各通気路が一方向に沿って直線状とならないよう(例えば、各通気路が迷路状に配されたラビリンス構造)に配されている。
【0042】
従って、上述したシール構造1は、等速ジョイント3の内部側からの空気の抜けを確保した上で、等速ジョイント3の外部側から内部側までの距離を長く設定できる。これにより、上述したシール構造1は、等速ジョイント3の内部側の圧力が高まることを抑制しつつ、等速ジョイント3の外部側からの水や異物等の侵入を効果的に抑制できる。また、上述したシール構造1は、等速ジョイント3をプロペラシャフト2等の軸に組み付ける際の等速ジョイント3内の内圧の高まりを抑制できるので、組み付け時の作業性を向上できる。これにより、作業工数の低減によるコスト低減が期待できる。また、上述したシール構造1は、等速ジョイント3の外部側からの異物等の侵入を抑制できるので、等速ジョイント3やプロペラシャフト2の破損を抑制できる。
【0043】
ブーツリップ部側通気路33は、
図4(a)に示すように、プロペラシャフト2の軸線方向(図示B-B方向,
図3参照)に沿った断面視において、内部側開口端33Aから外部側開口端33Bに向かうにつれ縮径されている。言い換えれば、ブーツリップ部側通気路33は、プロペラシャフト2の軸線方向に沿った断面視において、内部側開口端33Aから外部側開口端33Bに亘って縮径されるようテーパ状に形成されている。ここで、内部側開口端33Aにおける開口径は、例えば2mm径に形成され、外部側開口端33Bにおける開口径は、例えば1mm径に形成されている。従って、上述したシール構造1は、等速ジョイント3の外部側からの異物等の侵入を効果的に抑制でき、等速ジョイント3の内部側からの空気の抜けを円滑にすることができる。なお、内部側開口端33A及び外部側開口端33Bの開口径は、使用する形態に応じて、各種の径に変更することができる。
【0044】
図4(a)に示すように、外部側開口端33Bには、弾性部材34が設けられている。弾性部材34は、例えば、ゴムを素材として形成されている。弾性部材34は、ブーツリップ部20と一体的に形成されていてもよい。例えば、弾性部材34が、ブーツリップ部20のバリ等を利用して形成されていてもよい。弾性部材34は、外部側開口端33Bから等速ジョイント3の外部側に向けて突出するように形成されている。
【0045】
また、弾性部材34は、プロペラシャフト2の軸線方向に沿った断面視(図示B-B方向,
図3参照)において、外部側開口端33Bから、等速ジョイント3の外部方向に向かうにつれ縮径されている。具体的には、弾性部材34における内部側(ブーツリップ部20側)の開口径は、例えば、1mm径に形成され、弾性部材34における開口端34Aの開口径は、1mmより小さい径に形成されている。従って、上述したシール構造1は、等速ジョイント3の外部側からの異物等の侵入をより一層効果的に抑制でき、等速ジョイント3の内部側からの空気の抜けをより一層円滑なものとすることができる。
【0046】
また、弾性部材34は、等速ジョイント3の内部側から外部側への通気があるときは、開口端34A側が拡径するように弾性変形するものであり、等速ジョイント3の内部側から外部側への通気がないときは、開口端34A側の径が維持又は縮径するように弾性変形するものとされている。すなわち、上述したシール構造1は、弾性部材34を一方弁のように機能させることができる。
【0047】
このように、等速ジョイント3の内部側から外部側への通気があるときは、弾性部材34の開口端34A側が拡径するように弾性変形するので、等速ジョイント3の内圧の高まりを効果的に抑制できる。これにより、上述したシール構造1は、等速ジョイント3の組み付け時の作業性を高めることができる。また、上述したシール構造1は、等速ジョイント3の内部側から外部側への通気がないときは、弾性部材34の開口端34A側の径が維持又は縮径するように弾性変形するので、等速ジョイント3の外部側からの異物等の侵入を効果的に抑制できる。
【0048】
また、弾性部材34は、基端側における内面側の剛性が先端側における剛性よりも高くなるように形成されているとよい。上述したシール構造1は、かかる構成とすることにより、等速ジョイント3における通気状態に応じて、弾性部材34の開口端34A側の径を確実に拡径、維持、又は縮径させることができる。これにより、上述したシール構造1は、等速ジョイント3をプロペラシャフト2等の軸に組み付ける際の等速ジョイント3内の内圧の高まりを抑制できるので、組み付け時の作業性を向上できる。また、上述したシール構造1は、等速ジョイント3の外部側からの異物等の侵入を抑制できるので、等速ジョイント3やプロペラシャフト2の破損を抑制できる。
【0049】
以上が、本発明の一実施形態に係るシール構造1の構成及び作用効果であるが、本発明のシール構造1は、上述した実施形態には限定されず、各種の変形を行うことができる。
【0050】
本実施形態では、シール構造1が、プロペラシャフト2に用いられる等速ジョイント3に採用されているが、本発明のシール構造1は、各種の回転軸や接続部(ジョイント)に利用することができる。また、ブーツ10の形状や大きさは、プロペラシャフト2や等速ジョイント3の形状や大きさに応じて、各種の形状や大きさに変更することができる。また、バンド締結部15、ブーツリップ部20、中間部25、及び通気部30の形状や大きさは、各種のものに変更することができる。
【0051】
また、本実施形態では、バンド締結部側通気路31、中間部通気路32、及びブーツリップ部側通気路33が、それぞれ単数形成されているが、これらは、単数のものだけではなく、必要に応じて複数形成されていてもよい。また、バンド締結部側通気路31及びブーツリップ部側通気路33は、プロペラシャフト2に対して、周方向に異なる角度で配されているものであれば、各種の角度で配することができる。例えば、バンド締結部側通気路31及びブーツリップ部側通気路33が、プロペラシャフト2に対して、周方向に45度や90度異なる位置に配されていてもよい。
【0052】
本実施形態では、ブーツリップ部側通気路33が、断面視において、内部側開口端33Aから外部側開口端33Bに向かうにつれ縮径されているが、ブーツリップ部側通気路33の形状は、これには限定されず、各種の形状・大きさのものが利用できる。例えば、ブーツリップ部側通気路33が、蛇行して形成されているものや直線状に形成されているものなど各種の形状のものが利用できる。また、ブーツリップ部側通気路33の縮径度合いは、上述した実施形態のものだけではなく、各種の度合いで縮径させることができる。
【0053】
本実施形態では、ブーツリップ部側通気路33における外部側開口端33Bに弾性部材34を設けているが、弾性部材34は、必要に応じて設ければよく、弾性部材34を設けない構成とすることも可能である。また、本実施形態では、弾性部材34にゴムを用いているが、弾性部材34は、弾性を有する各種の素材を用いることができる。例えば、弾性部材34が樹脂等で形成されていてもよい。また、本実施形態では、弾性部材34が、ブーツリップ部20と一体的に形成されているものを例示したが、弾性部材34は、ブーツリップ部20と一体的に形成されているものだけではなく、分離形成されていてもよい。また、弾性部材34の形状・大きさは、使用する形態に応じて、各種のものが利用できる。また、本実施形態では、弾性部材34が、外部側開口端33Bから、等速ジョイント3の外部方向に向かうにつれ縮径されているが、縮径の度合いや開口径等は、適宜変更することができる。また、弾性部材34の弾性変形の状態も上述した実施形態に限定されず、各種の変更が可能である。
【0054】
本実施形態では、中間部25の内壁に、中間部通気路32としての周溝32Aが形成されているが、中間部通気路32は、周溝32Aに限定されるものではなく、各種の形状・大きさに形成することができる。また、本実施形態では、ブーツリップ部20の先端側を、周溝32Aを起点に内径方向に弾性変形させるものとしたが、これには限定されず、ブーツリップ部20の先端側は、各種の手段で弾性変形させることができる。例えば、ブーツリップ部20の先端側及び基端側の剛性を、素材の変化で変化させるものや、別部材を用いて変化させるものなど、各種の手段が採用できる。
【0055】
以上が、本発明に係るシール構造の各種の実施形態や変形例であるが、本発明は上述した実施形態や変形例において例示したものに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲でその教示及び精神から他の実施形態があり得ることは当業者に容易に理解できよう。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のシール構造は、車両等に用いられる各種の回転軸(プロペラシャフト等)の接続部に利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 :シール構造
2 :プロペラシャフト
2A:インタミディエイトシャフト(第1プロペラシャフト)
2B:第2プロペラシャフト
3 :等速ジョイント(第2ジョイント)
10 :ブーツ
15 :バンド締結部
16 :ブーツ内筒部
17 :屈曲部
18 :ブーツ外筒部
20 :ブーツリップ部
25 :中間部
30 :通気部
31 :バンド締結部側通気路
32 :中間部通気路
32A:周溝
33 :ブーツリップ部側通気路
40 :ジョイントカップ