(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037637
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】積層体製造装置、積層体製造用成膜材料組成物、及びその製造装置用成膜材料組成物
(51)【国際特許分類】
C23C 16/50 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
C23C16/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142604
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】504119424
【氏名又は名称】株式会社魁半導体
(72)【発明者】
【氏名】山原 基裕
(72)【発明者】
【氏名】登尾 一幸
(72)【発明者】
【氏名】田口 貢士
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA09
4K030AA16
4K030BA29
4K030BA36
4K030BA42
4K030BA44
4K030CA04
4K030CA06
4K030CA07
4K030CA12
4K030FA01
4K030JA09
4K030JA16
4K030JA18
4K030KA30
(57)【要約】
【課題】簡便なドライプロセスであり複雑な液体原料のガス化が不要で、且つ安定的にプラズマCVD膜を形成することが可能であり、液体原料をガス化する手段を有しないプラズマCVD薄膜の積層体製造装置を提供する。
【解決手段】プラズマによるCVD膜を形成する積層体製造装置であって、真空チャンバー内に、少なくともプラズマCVD膜の液体原料と揮発性が低い液体を含有する成膜材料組成物を配置する構造を有し、且つ、前記成膜材料組成物に含有するCVD膜原料を上記真空チャンバー内でガス化し、前記CVD膜原料のプラズマにより、基板上にプラズマCVD膜を形成することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマによるCVD(Cemical Vaper Deposition;化学気相成長)膜を形成する積層体製造装置であって、
真空チャンバー内に、前記プラズマCVD膜の液体原料を含有する成膜材料組成物を配置する構造を有し、
且つ、前記成膜材料組成物に含有するCVD膜原料を上記真空チャンバー内でガス化し、上記CVD膜原料のプラズマにより、基板上にプラズマCVD膜を形成することを特徴とする積層体製造装置。
【請求項2】
前記プラズマCVD膜の液体原料を含有する成膜材料組成物を配置する構造が、溝形状であることを特徴とする請求項1に記載の積層体製造装置。
【請求項3】
前記プラズマCVD膜の液体原料を含有する成膜材料組成物を配置する構造が、少なくとも1個以上の容器であることを特徴とする請求項1に記載の積層体製造装置。
【請求項4】
プラズマによるCVD膜を形成するための成膜材料組成物であって、
低圧のチャンバー内に前記組成物を配置することにより、前記CVD膜が成膜される前記成膜材料組成物が、
少なくとも前記プラズマCVD膜の液体原料と揮発性の低い液体を含有することを特徴とする積層体製造用成膜材料組成物。
【請求項5】
前記揮発性の低い液体が、
二価アルコール(ジオール)以上のポリオールであることを特徴する請求項4に記載の積層体製造用成膜材料組成物。
【請求項6】
プラズマによる膜を形成する装置の真空チャンバー内に、前記プラズマCVD膜の液体原料を含有する成膜材料組成物を配置する構造を有する積層体製造装置用成膜材料組成物であって、
少なくとも前記プラズマCVD膜の液体原料と揮発性の低い液体を含有することを特徴とする積層体製造装置用成膜材料組成物。
【請求項7】
前記揮発性の低い液体が、
二価アルコール(ジオール)以上のポリオールであることを特徴する請求項6に記載の積層体製造用成膜材料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体製造装置、積層体製造用成膜材料組成物、及びその製造装置用成膜材料組成物である。
【背景技術】
【0002】
現在、機能性コート用薄膜は様々な用途で使用されている。コンパクトディスク(CD)、ブルーレイディスク等の記録媒体や、ハードコート、反射防止(AR)コート、防眩性(AG)コート、防汚コート、透明導電性コート等の光学フィルムや光学レンズ、光沢のあるコート紙、光沢を抑えたマット紙等の紙へのコーティング等への用途に用いられている。
【0003】
機能性コート薄膜の作製方法としては、ウェットプロセスとドライプロセスに大別できる。前者には有機溶媒などの溶剤に薄膜化する有機材料を溶かした溶液を基板上に薄く展開した後に、溶剤を蒸発させて薄膜固化するキャスト法が汎用性の高い手法として挙げられる。さらに、有機無機ハイブリッド系の薄膜に於いては、基板上に塗布した後、加水分解重縮合反応により、グラフト化や架橋、或いは重合させて固化させる方法がとられる。
【0004】
しかし、塗布材料として溶剤に可溶であり、粘度が高くゲル状にならないことが制約条件となる。また、溶剤分子を完全に除去し切るのも困難であり、影響が残る。この範疇に溶液の粘性の調整で膜厚制御が可能なスピンコーティング法があるが、対応できる有機材料が限られている。さらに電解重合法やラングミュア-ブロジェット法が知られているが、薄膜化させる原理に則った官能基を有機分子が有していることが前提となる。他の塗布方法として、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法等が用いられる。
【0005】
これに対して前記ドライプロセスは真空技術や放電技術を基礎とするものであり、作製される薄膜の純度、基板との密着性、膜厚の制御性などに関してウェットプロセスと比較して多くの利点を有している。代表的なものとしてプラズマCVD(Cemical Vaper Deposition;化学気相成長)法、真空蒸着法とスパッタ法が挙げられる。
【0006】
従来のプラズマCVD法は、反応性ガスをチャンバーに供給しつつ、プラズマ状態にし、活性なラジカルやイオンを生成して、対象となる基板上で化学反応を起こし、堆積させて薄膜を形成する方法を使用してきた。例えば、特許文献1には、プラズマの活性さを利用したプラズマCVD法を活用し、ペロブスカイト型酸化物であるチタン酸バリウム薄膜を製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1等で開示されている従来のプラズマCVDは、形成する薄膜原料が液体の場合はガス化し、反応性ガスとしてチャンバーに供給する必要性がある。液体をガス化するには、温度を上げて蒸気を発生させる場合や、酸素や希ガスを用いてバブリングすることによって蒸気をチャンバーに供給することになる。従って、液体のガス化には時間やエネルギーを掛けることになる。
【0009】
近年、さまざまな機能性を有するドライプロセスによるコーティング膜の要望が高まっているが、有機化合物や無機化合物の薄膜だけではなく、有機無機ハイブリッド化合物薄膜の要望もあり、薄膜原料がガス状の物質である種類が少なく、制限されているため、揮発性のある液体原料を活用する必要がある。
【0010】
しかしながら、CVD膜の原料が液体の場合、液体原料を気化する装置を必要としないCVD装置は、未だ見出されていない。
【0011】
本発明の目的は、簡便なドライプロセスであり複雑な液体原料のガス化が不要で、且つ安定的にプラズマCVD膜を形成することが可能であり、液体原料をガス化する手段を有しないプラズマCVD薄膜の積層体製造装置を提供することである。
また、本発明の目的は、プラズマCVDの積層体製造装置のチャンバー内にCVD膜原料を含有する組成物を設置することにより、プラズマCVD膜を形成することができる積層体製造用成膜材料組成物を提供することができる。
また、本発明の目的は、上記積層体製造装置に使用する成膜材料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、下記の[1]~[7]のいずれかに記載の積層体製造装置、積層体製造用成膜材料組成物、及び前記積層体製造装置用成膜材料組成物を提供するものである。
【0013】
[1]プラズマによるCVD膜を形成する積層体製造装置であって、真空チャンバー内に、前記プラズマCVD膜の液体原料を含有する成膜材料組成物を配置する構造を有し、且つ、上記成膜材料組成物に含有するCVD膜原料を上記真空チャンバー内でガス化し、前記CVD膜原料のプラズマにより、基板上にプラズマCVD膜を形成することである。
[2]前記プラズマCVD膜の液体原料を含有する成膜材料組成物を配置する構造が、溝形状である。
[3]前記プラズマCVD膜の液体原料を含有する成膜材料組成物を配置する構造が、少なくとも1個以上の容器である。
[4]プラズマによるCVD膜を形成するための成膜材料組成物であって、低圧のチャンバー内に前記組成物を配置することにより、前記CVD膜が成膜される前記成膜材料組成物が、少なくとも前記プラズマCVD膜の液体原料と揮発性の低い液体を含有することである。
[5]前記揮発性の低い液体が、二価アルコール(ジオール)以上のポリオールである。
[6]プラズマによるCVD膜を形成する装置の真空チャンバー内に、前記プラズマCVD膜の液体原料を含有する成膜材料組成物を配置する構造を有する積層体製造装置用成膜材料組成物であって、少なくとも前記プラズマCVD膜の液体原料と揮発性の低い液体を含有することである。
[7]前記揮発性の低い液体が、二価アルコール(ジオール)以上のポリオールである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液体原料をチャンバー内に供給する前にガス化することなく、液体のままで、安定的に有機化合物、無機化合物、有機無機ハイブリッド化合物のプラズマCVD膜を形成することができ、液体原料のガス化装置を必要としないため、製造コストを低減することができるプラズマCVD膜の製造装置を提供することができる。
また、本発明によれば、プラズマCVD装置のチャンバー内に配置し、成膜工程を実行することにより、プラズマCVD膜が成膜される、液体のCVD膜原料を含有する積層体製造用組成物を提供することができる。
さらに、本発明によれば、真空チャンバー内に、プラズマCVD膜の液体原料を含有する成膜材料組成物を配置する構造を有する積層体製造装置用の成膜材料組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る積層体製造を実施するための積層体製造装置の全体構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る積層体製造を実施するための積層体製造装置の(a)真空チャンバーの断面図と(b)真空チャンバー内の上面図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係る積層体製造を実施するための積層体製造装置の(a)真空チャンバーの断面図と(b)真空チャンバー内の上面図である。
【
図4】実施例1に於けるtert-ブタノールの積層体製造用組成物から成膜された炭化水素プラズマCVD膜のFT-IRスペクトル。
【
図5】実施例2に於けるTEOSの積層体製造用組成物から成膜されたSiO
2プラズマCVD膜のFT-IRスペクトル。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態を
図1から
図3により説明する。
図1は、実施形態に係る積層体製造装置の全体構成を示す模式図である。
図2および
図3は、それぞれ第1実施形態および第2実施形態に係る積層体製造装置の真空チャンバーの断面図である。
【0017】
本実施形態に係る膜形成装置1は、基板の膜形成面にCVDスパッタ膜の形成を実施するための装置である。
【0018】
本実施形態では、薄膜形成のサンプル基板として、少なくとも2つの面を有する基板Sが使用される。基板Sを構成する材料は、特に限定されず、例えば、SiO2(ガラス)、Si、アルミナ、セラミック、サファイア等の無機材料、プラスチック、フィルム等の有機材料等が挙げられる。基板Sは、WET洗浄処理が施された基板であってもよい。
【0019】
図1に示すように積層体形成装置1は、基板Sを収容するチャンバー2と、チャンバー2内に下部電極3と、下部電極3に対向する基板Sを配置するサンプルステージを兼ねる上部電極4を有し、下部電極3には、プラズマ生成用電源7が接続されている。
図1においては、上部電極4がサンプルステージを兼ねているが、下部電極5がサンプルステージを兼ねても良いし、下部電極3と上部電極4の両方がサンプルステージを兼ねても良い。また、プラズマ生成用電源7は、低周波電源を用いても良いし、高周波電源を用いても良い。さらに、チャンバー2内の圧力を監視する圧力ゲージ5と、アース6と、真空ポンプ9とがチャンバー2に接続されている。その上、プラズマ処理に使用するガス導入口10から導入するプラズマ処理に使用するガスはガスボンベ(図示せず)から供給され、流量調整バルブ/マスフローコントローラ11を介してチャンバー2に導入される。
本実施の形態の場合、上記ガス導入口10から導入されるガスは、主にプラズマによる上記チャンバー2内を洗浄する為のガスが供給されるが、他の目的用のガスも供給することができる。
(第1の実施形態)
【0020】
図2(a)に示すように本実施形態におけるチャンバー2は、上部チャンバー30と、下部チャンバー31とを有し、前記下部チャンバー31にO-リング29を有する。
【0021】
本実施形態において、前記上部チャンバー30と、前記下部チャンバー31は電気的に接地された電気伝導体で構成されており、前記チャンバー2の内壁面全体は、電位が接地となっている接地電位面となっている。前記上部チャンバー30と、前記下部チャンバー31を構成する電気導電体は、例えば、銅、ニッケル、チタン等の遷移金属、これらの合金、ステンレス鋼、モリブデン、タングステン等の高融点金属等で構成される金属材料である。
【0022】
本実施形態では、前記上部チャンバー30の上部にガス導入部21を有し、主に前記チャンバー2内の洗浄等のプラズマ処理に使用する前記ガス導入口10からの配管が前記ガス導入部21に接続される。
【0023】
本実施形態では、前記下部電極3は、電流導入端子22と電極ステージ23から構成されており、前記電流導入端子22の周囲と前記電極ステージ23の下部に絶縁部材26を配置している。また、前記電流導入端子22は前記高周波電源7と接続されている。前記下部電極3に対向している前記上部電極4はガスシャワー板24を兼ねている構造を有している。
【0024】
本実施の形態において、CVD膜を形成するサンプル基板を配置するサンプルステージは、前記下部電極3の前記電極ステージ23にサンプルホルダーを配置しても良いし、前記上部電極4の前記ガスシャワー板24にサンプルホルダーを配置しても良い。
【0025】
本実施形態では、前記下部チャンバー32には、前記電極ステージ23を囲む形態でアースリング25が設けられている構造を有する。前記電極ステージ23と前期アースリング25の高さの差は略0mmとなることが好ましく、前記電極ステージ23より前記アースリング25の方が高い方がよい。前記アースリング25は前記電極ステージ23との間隔が1mm以上5mm以下となるように形成されている。前記間隔を形成することにより、ガスの流れを制御し、プラズマの均一な領域を可能な限り広げることが可能となる。
【0026】
前記アースリング25と前記電極ステージ23との間隔が1mm未満の場合、真空ポンプでガスを引く時に間隔が狭すぎて充分にガスを引くことができず、その上、異常放電が起こることにより、所望のプラズマを発生させることができない。また、前記アースリング25と前記電極ステージ23との間隔が5mmより大きくなると、前記電極ステージ23と前記アースリング25との間で異常放電が起こり、所望の均一なプラズマを発生させることができない。
【0027】
更に、前記アースリング25には、液体であるCVD膜原料を配置する溝27を有する。
図2(b)においては、前記アースリングの中央全周に溝を有する構造を記載しているが、溝の構造は
図2の構造に制限されない。
【0028】
また、
図2(b)においては、前記アースリング25に、液体であるCVD膜原料を配置する溝27を有する構造であるが、前記電極ステージ23上に溝形状の電極の外周形状に近い容器を設置しても構わない。その時の液体であるCVD膜原料を配置する溝27の形状及び材質は、放電時に異常放電せずにプラズマが安定して生成するものであれば制限されない。
【0029】
前記液体であるCVD膜原料を配置する溝27にCVD膜の液体原料を含有する成膜組成物を注入し、チャンバー内を低圧状態にすることにより、CVD膜の液体原料が気化され、チャンバー内にガス化されたCVD膜原料が拡散する。放電することによりプラズマを発生させ、化学反応を促進することにより、CVD膜が形成される。
【0030】
また、前記下部チャンバー32には、前記電流導入端子22と前記アースリング25との間に真空排気口28を有し、前記排気機構9と接続しており、前記排気流量調整バルブ8で真空度を調整する構成を有している。
【0031】
本実施例形態においては、前記ガス導入口10から導入するプラズマ処理に使用するガスはガスボンベ(図示せず)から供給され、流量調整バルブ/マスフローコントローラ11を介してチャンバー2に導入される。主にチャンバーのプラズマ洗浄に使用されるガスとしては、酸素(O2)が選択される。
【0032】
本実施形態においては、前記液体のCVD膜原料と常温で気体のCVD膜原料を混合したCVD膜も成膜することが可能である。その場合、例えば、エチレン(C2H4)、アセチレン(C2H2)等の有機化合物ガスや、従来のCVD膜原料ガスが挙げられる。
その他の目的のガスとして、主に希ガスが選択される。例えば、アルゴン(Ar)やヘリウム(He)、キセノン(Xe)、四フッ化炭素(CF4)等が挙げられ、混合ガス等何ら限定するものではない。
(第2の実施形態)
【0033】
図3(a)に示すように本実施形態におけるチャンバー2は、上部チャンバー50と、下部チャンバー51とを有し、前記下部チャンバー51にO-リング49を有する。
【0034】
本実施形態において、前記上部チャンバー50と、前記下部チャンバー51は電気的に接地された電気伝導体で構成されており、チャンバー2の内壁面全体は、電位が接地となっている接地電位面となっている。前記上部チャンバー50と、前記下部チャンバー51を構成する電気導電体は、例えば、銅、ニッケル、チタン等の遷移金属、これらの合金、ステンレス鋼、モリブデン、タングステン等の高融点金属等で構成される金属材料である。
【0035】
本実施形態では、前記上部チャンバー50の上部にガス導入部41を有し、主に前記チャンバー2内の洗浄等のプラズマ処理に使用する前記ガス導入口10からの配管が前記ガス導入部21に接続される。
【0036】
本実施形態では、前記下部電極3は、電流導入端子42と電極ステージ43から構成されており、前記電流導入端子42の周囲と前記電極ステージ43の下部に絶縁部材46を配置している。また、前記電流導入端子42は前記高周波電源7と接続されている。前記下部電極3に対向している前記上部電極4はガスシャワー板44を兼ねている構造を有している。
【0037】
本実施の形態において、CVD膜を形成するサンプル基板を配置するサンプルステージは、前記下部電極3の前記電極ステージ43にサンプルホルダーを配置しても良いし、前記上部電極4の前記ガスシャワー板44にサンプルホルダーを配置しても良い。
【0038】
本実施形態では、前記下部チャンバー51には、前記電極ステージ43を囲む形態でアースリング45が設けられている構造を有する。前記電極ステージ43と前期アースリング45の高さの差は略0mmとなることが好ましく、前記電極ステージ43より前記アースリング45の方が高い方がよい。前記アースリング45は前記電極ステージ43との間隔が1mm以上5mm以下となるように形成されている。前記間隔を形成することにより、ガスの流れを制御し、プラズマの均一な領域を可能な限り広げることが可能となる。
【0039】
前記アースリング45と前記電極ステージ43との間隔が1mm未満の場合、真空ポンプでガスを引く時に間隔が狭すぎて充分にガスを引くことができず、その上、異常放電が起こることにより、所望のプラズマを発生させることができない。また、前記アースリング45と前記電極ステージ43との間隔が5mmより大きくなると、前記電極ステージ43と前記アースリング45との間で異常放電が起こり、所望の均一なプラズマを発生させることができない。
【0040】
更に、前記アースリング45には、液体であるCVD膜原料を配置する容器47を有する。
図3(b)においては、前記アースリング上に皿状の形状を有する容器を記載しているが、容器の形状は
図3の構造に制限されない。また、液体であるCVD膜原料を配置する皿状の容器47の材質は特に限定はしないが、ステンレス製等の金属やガラス製であることが望ましい。また、
図3において、前記液体であるCVD膜原料を配置する皿状の容器47は、前記アースリング45上に配置されているが、固定されていても良いし、CVD膜の液体原料を含有する液体を注入後、前記液体であるCVD膜原料を配置する容器47を前記電極ステージ43上に移動させても良く、移動させる機構を有していても構わない。その他に、CVD膜の液体原料を含有する液体を注入後、前記液体であるCVD膜原料を配置する容器47は図示しているものとは別に複数用意しておき(図示せず)、チャンバー2の低圧状態を維持しつつ、図示している前記液体であるCVD膜原料を配置する容器47のCVD膜原料が枯れたとき、又は別のCVD材料を積層するときに、前記液体であるCVD膜原料を配置する容器47を交換する機構を有していても構わない。ただ、その時の液体であるCVD膜原料を配置する容器47の形状及び材質は、放電時に異常放電せずにプラズマが安定して生成するものであれば制限されない。
また、
図3(b)においては、前記液体であるCVD膜原料を配置する容器47が4個配置されているが、少なくとも1個以上あれば、何個あっても配置できるだけあれば問題ない。
【0041】
前記液体であるCVD膜原料を配置する容器47にCVD膜の液体原料を含有する成膜材料組成物を注入し、チャンバー内を低圧状態にすることにより、CVD膜の液体原料が気化され、チャンバー内にガス化されたCVD膜原料が拡散する。放電することによりプラズマを発生させ、化学反応を促進することにより、CVD膜が形成される。
【0042】
また、前記下部チャンバー51には、前記電流導入端子42と前記アースリング45との間に真空排気口48を有し、前記排気機構9と接続しており、前記排気流量調整バルブ8で真空度を調整する構成を有している。
【0043】
本実施例形態においては、前記ガス導入口10から導入するプラズマ処理に使用するガスはガスボンベ(図示せず)から供給され、流量調整バルブ/マスフローコントローラ11を介してチャンバー2に導入される。主にチャンバーのプラズマ洗浄に使用されるガスとしては、酸素(O2)が選択される。
【0044】
本実施形態においては、前記液体のCVD膜原料と常温で気体のCVD膜原料を混合したCVD膜も成膜することが可能である。その場合、例えば、エチレン(C2H4)、アセチレン(C2H2)等の有機化合物ガスや、従来のCVD膜原料ガスが挙げられる。
その他の目的のガスとして、主に希ガスが選択される。例えば、アルゴン(Ar)やヘリウム(He)、キセノン(Xe)、四フッ化炭素(CF4)等が挙げられ、混合ガス等何ら限定するものではない。
(成膜材料組成物)
【0045】
本実施形態において、低圧のチャンバー内に液体を配置する容器を設けたプラズマ成膜装置用の成膜材料組成物として、少なくとも液体のCVD膜原料と揮発性の低い液体を含有する複数の液体を混合した組成物を使用する。
第1の実施形態に記載した前記成膜装置において、前記液体であるCVD膜原料を配置する溝27に注入する組成物は、前記積層体製造装置用の成膜材料組成物である。
また、第2の実施形態に記載した前記成膜装置において、前記液体であるCVD膜原料を配置する容器47に注入する組成物は、前記積層体製造装置用の成膜材料組成物である。
更に、従来のプラズマCVD装置のチャンバー内にCVD膜原料含有の液体入り容器を設置する場合においても、前記CVD膜原料含有の液体を積層体製造用組成物として上記積層体製造装置用の成膜材料組成物を使用することができる。
【0046】
前記液体のCVD膜原料として、低圧~常圧において揮発性を有する液体原料が選択される。炭化水素系CVD膜の原料として、例えば、エタノール(C2H5OH)、1-プロパノール(C3H7OH)、2-プロパノール(CH3CH(OH)CH3)等の揮発性液体の一価のアルコールや、窒素含有の炭化水素系CVD膜の原料の例として、2-アミノエタノール(NH2C2H4OH)、1-アミノ―2‐プロパノール(NH2C2H3(OH)CH3)等の揮発性液体のアルカノールアミンや、金属酸化物系CVD膜の原料として、テトラエトキシシラン(TEOS)、チタン酸テトラエチル等、一般式としてM[(OR1)]n(Mは金属、R1はアルキル基)で表せる金属アルコキシドや、トリスジメチルアミノチタンTiH[N(CH3)2]3、テトラキスジメチルアミノチタンTi[N(CH3)2]4、テトラキスジエチルアミノチタンTi[N(C2H5)2]4等、一般式として、M[NR2R3]nと表せるアルキルアミン化合物や、ヘキサメチレンジシラザン(HMDS)等がある。
【0047】
また、2種類以上の前記液体のCVD膜原料を同時に混合しても構わない。
【0048】
前記揮発性の低い液体として、二価アルコール(ジオール)以上のポリオールが好ましい。二価アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングルコール等のグリコール類、三価アルコールとして、グリセロール(グリセリン)等があり、ポリエーテルポリオール等が用いることができる。前記揮発性の低い液体を使用することにより、チャンバー2内の圧力を低圧状態にしたときに、前記液体のCVD膜原料がガス化する速度を遅延させる効果があり、CVD膜を形成する条件に適したスピードでCVD膜原料がガス化する調整役であり、速過ぎることもなく、遅過ぎることもない。
【0049】
また、液体のCVD膜原料と揮発性の低い液体を含有する複数の液体以外に、H2OやCVD膜原料とプラズマ状態で化学反応させることができる液体の薬品を混合させても構わない。
更に、第2の実施形態の積層体装置の場合、前記液体であるCVD膜原料を配置する容器47に、各々の異なった液体のCVD膜原料が混合された前記積層体製造用成膜材料組成物や前記積層体製造装置用成膜材料組成物を注入する、または、目的のCVD膜を成膜するのに必要な種類の前記積層体製造用成膜材料組成物や前記積層体製造装置用成膜材料組成物を容器に分けて注入して使用しても構わない。
【実施例0050】
(比較例1)
図1に示す積層体形成装置1において、サンプルSであるシリコンウエハの比較サンプル基板をチャンバー2の上部電極4のサンプルホルダー部に設置し、
図3に示すチャンバー2内の液体であるCVD膜原料を配置する容器47に比較試料液である1-プロパノールを注入し、上部チャンバー51で蓋をし、下部電極3に対して上部電極4が平行に対向するように設置した。
【0051】
比較サンプルの表面にプラズマCVD膜の炭化水素膜コートの工程を行った。チャンバー2内の雰囲気圧力を100Paに減圧し、プラズマ生成電源7には13.56MHzの高周波電源を用いて、100Wの電力で4分間のプラズマ照射を実施した。放電後しばらくすると、雰囲気圧力が5Pa程度に低下した。
【0052】
プラズマ照射後、チャンバー2を大気解放し、前記液体であるCVD膜原料を配置する容器47の中を確認したところ、空になっていた。そして、比較サンプルのシリコンウエハ基板上に炭化水素膜が成膜しているか確認したところ、炭化水素膜は全く成膜されていないことを確認した。
【0053】
(比較例2)
図1に示す積層体形成装置1において、サンプルSであるシリコンウエハの比較サンプル基板をチャンバー2の上部電極4のサンプルホルダー部に設置し、
図3に示すチャンバー2内の液体であるCVD膜原料を配置する容器47に比較試料液であるグリセロールを注入し、上部チャンバー51で蓋をし、下部電極3に対して上部電極4が平行に対向するように設置した。
【0054】
比較サンプルの表面にプラズマCVD膜の炭化水素膜コートの工程を行った。チャンバー2内の雰囲気圧力を100Paに減圧し、プラズマ生成電源7には13.56MHzの高周波電源を用いて、100Wの電力で4分間のプラズマ照射を実施した。放電後すぐにと、雰囲気圧力が5Pa程度に低下した。
【0055】
プラズマ照射後、チャンバー2を大気解放し、前記液体であるCVD膜原料を配置する容器47の中を確認したところ、グリセロールが残っており、重量を測定したところ、プラズマ照射前と照射後でほぼ同じであり、減少していなかった。そして、比較サンプルのシリコンウエハ基板上に炭化水素膜が成膜しているか確認したところ、炭化水素膜は全く成膜されていないことを確認した。
【0056】
[実施例1]
図1に示す積層体形成装置1において、サンプルSであるシリコンウエハのサンプル基板をチャンバー2の上部電極4のサンプルホルダー部に設置し、
図3に示すチャンバー2内の液体であるCVD膜原料を配置する容器47に積層体製造用組成物を注入した。前記積層体製造用組成物として、揮発性の低い液体であるグリセロール100重量部に、液体のCVD膜原料としtert-ブタノールを12重量部混合した組成物を注入し、上部チャンバー51で蓋をし、下部電極3に対して上部電極4が平行に対向するように設置した。
【0057】
サンプルの表面にプラズマCVD膜の炭化水素膜コートの工程を行った。チャンバー2内の雰囲気圧力を100Paに減圧し、プラズマ生成電源7には13.56MHzの高周波電源を用いて、100Wの電力で4分間のプラズマ照射を実施した。
【0058】
プラズマ照射後、チャンバー2を大気解放し、前記液体であるCVD膜原料を配置する容器47の中を確認したところ、サンプルのシリコンウエハ基板上に炭化水素膜が成膜しているか確認したところ、成膜されており、FT-IR(島津製作所社製 IR Affinity-IS)を用いて、IRスペクトル測定を行った。
図4に示したIRスペクトルから3級炭素(1350cm
-1付近の吸収)等を有する炭化水素膜が成膜されていることを確認した。
【0059】
[実施例2]
図1に示す積層体形成装置1において、サンプルSであるシリコンウエハのサンプル基板をチャンバー2の上部電極4のサンプルホルダー部に設置し、
図3に示すチャンバー2内の液体であるCVD膜原料を配置する容器47に積層体製造用組成物を注入した。前記積層体製造用組成物として、揮発性の低い液体であるグリセロール100重量部に、液体のCVD膜原料としてTEOSを18重量部混合した組成物を注入し、上部チャンバー51で蓋をし、下部電極3に対して上部電極4が平行に対向するように設置した。
【0060】
サンプルの表面にプラズマCVD膜のSiO2コートの工程を行った。チャンバー2内の雰囲気圧力を100Paに減圧し、プラズマ生成電源7には13.56MHzの高周波電源を用いて、100Wの電力で4分間のプラズマ照射を実施した。
【0061】
プラズマ照射後、チャンバー2を大気解放し、前記液体であるCVD膜原料を配置する容器47の中を確認したところ、サンプルのシリコンウエハ基板上にSiO
2を主とする膜が成膜しているか確認したところ、成膜されており、FT-IR(島津製作所社製 IR Affinity-IS)を用いて、IRスペクトル測定を行った。
図5に示したIRスペクトルからSi-O-Si(1050cm
-1付近の吸収)等を有する炭化水素膜が成膜されていることを確認した。
【0062】
以上の結果から、真空チャンバー内に、プラズマCVD膜の液体原料を含有する成膜材料組成物を配置する構造を有するプラズマCVDの積層体製造装置に積層体製造用成膜材料組成物を使用し、積層体製造用成膜材料組成物に含有するCVD膜原料を上記真空チャンバー内でガス化し、基板上にプラズマCVD膜を形成した積層体を作製せることができる。