(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037641
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】微粒子の凝集反応または凝集阻害反応を用いたウイルスの力価の判定方法、およびウイルス分離株の抗原性解析法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/569 20060101AFI20240312BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240312BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
G01N33/569 L
G01N33/543 581A
C12M1/34 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022153084
(22)【出願日】2022-09-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度~令和5年度、厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「新型及び季節性インフルエンザに係る流行株の予測等に資するサーベイランス及びゲノム解析に関する研究」研究代表者長谷川秀樹、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(72)【発明者】
【氏名】中村 一哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 淳
(72)【発明者】
【氏名】松山 州徳
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB13
4B029FA09
4B029GA03
(57)【要約】
【課題】 ウイルス力価と抗体価とを、生細胞を用いずに簡単な器具と操作によって短期間に定量できる方法を提供すること。
【解決手段】 判定対象のウイルスの受容体分子を表面に担持した微粒子と、検体とを混合し、凝集反応または凝集阻害反応により力価を判定する方法による。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
判定対象のウイルスの受容体分子を表面に担持した微粒子と、検体とを混合し、凝集反応または凝集阻害反応により力価を判定する方法。
【請求項2】
ウイルスが、SARS-CoV-2であり、受容体分子が、アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドであり、微粒子が、ポリスチレンの微粒子である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドが、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)またはB38-CAPであり、ポリスチレンの微粒子が、ラテックスビーズである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記微粒子と、前記検体とを、試験プレートのウェル内で混合し、凝集の陽性と陰性の状態を観察し、ウイルスの力価を判定する方法であって、
前記試験プレートの列のn個のウェルに、緩衝液でan毎(an=2n、nは1以上の整数である。)に希釈した検体を入れ、さらに微粒子を含有する溶液を加えて混合し、少なくとも1時間静置し、凝集させ、凝集の陽性と陰性の状態を観察することで、ウイルスの力価を判定する請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記微粒子と、前記検体とを、試験プレートのウェル内で混合し、凝集の陽性と陰性の状態を観察し、抗体の力価を判定する方法であって、
前記試験プレートの列のn個のウェルに、緩衝液でan毎(an=10×2n-1、nは1以上の整数である。)に希釈した検体を入れ、ウイルスを含有する溶液を一定量加えて混合し、少なくとも1時間静置し、微粒子を含有する溶液を加えて混合し、室温で静置し、凝集させ、凝集阻止の陽性と陰性の状態を観察することで、抗体の力価を判定する請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスの表面タンパク質に結合するリガンド(受容体分子)を担持させた微粒子、および該微粒子を用いた凝集反応によるウイルス力価(ウイルス量)の判定方法に関する。また本発明は、抗ウイルス抗体による凝集阻害効果を使用した抗体価(中和抗体量と同意であり、抗体の力価ともいう。)の判定方法、さらにこれを利用したウイルス分離株の抗原性解析法に関する。
【背景技術】
【0002】
SARS-CoV-2は、出現してから変異を繰り返し、間欠的な流行拡大を起こしている。そのため、今後も定期流行を引き起こす主要呼吸器感染症ウイルスとして存在し続ける可能性が危惧されている。
【0003】
そこで、将来的にワクチン株の選定や更新が必要となった場合に野外流行株の抗原性評価が有用であり、また、ワクチンの事後評価には相応の検体数スループットに対応できる抗体価の判定方法が有用である。さらにウイルス感染症の診断や治療のために、ウイルス力価および抗体価を容易に判定できる方法が有用であることから、これらの判定方法が検討されている。
【0004】
例えば、コウモリに由来する細胞であって、SV40,(Simian virus 40)ラージT抗原遺伝子を導入した長期継代可能な細胞株を用い、該細胞株とウイルスとを共培養し、細胞変性効果を指標に行うことでウイルス力価を判定する方法が開示されている。さらに該細胞株とウイルス含有血清とを共培養し、細胞変性効果を指標に行うことでウイルスに対する抗体価を判定する方法が開示されている(例えば特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、この方法ではラージT抗原遺伝子を導入したコウモリ由来の生細胞が必要であり、また細胞を培養する必要があることから、簡単な器具と操作によってウイルス力価や抗体価は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ウイルス力価と抗体価とを、生細胞を用いずに簡単な器具と操作によって短期間に判定でき、さらにウイルス分離株の抗原性解析法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、これらの課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、ウイルスの受容体分子を担持させた微粒子を用いることで、生細胞を用いずにウイルスの存否を判定することができ、ウイルス感染細胞におけるウイルスの増殖性に影響されずに、短期間に、ウイルス価、抗体価を判定できる手法を見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の構成は以下の通りである。
[1]判定対象のウイルスの受容体分子を表面に担持した微粒子と、検体とを混合し、凝集反応または凝集阻害反応により力価を判定する方法。
[2]ウイルスが、SARS-CoV-2であり、受容体分子が、アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドであり、微粒子が、ポリスチレンの微粒子である前記[1]に記載の方法。
[3]アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドが、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)またはB38-CAPであり、ポリスチレンの微粒子が、ラテックスビーズである前記[2]に記載の方法。
[4]前記微粒子と、前記検体とを、試験プレートのウェル内で混合し、凝集の陽性と陰性の状態を観察し、ウイルスの力価を判定する方法であって、
前記試験プレートの列のn個のウェルに、緩衝液でan毎(an=2n、nは1以上の整数である。)に希釈した検体を入れ、さらに微粒子を含有する溶液を加えて混合し、少なくとも1時間静置し、凝集させ、凝集の陽性と陰性の状態を観察することで、ウイルスの力価を判定する前記[1]に記載の方法。
[5]前記微粒子と、前記検体とを、試験プレートのウェル内で混合し、凝集の陽性と陰性の状態を観察し、抗体の力価を判定する方法であって、
前記試験プレートの列のn個のウェルに、緩衝液でan毎(an=10×2n-1、nは1以上の整数である。)に希釈した検体を入れ、ウイルスを含有する溶液を一定量加えて混合し、少なくとも1時間静置し、微粒子を含有する溶液を加えて混合し、室温で静置し、凝集させ、凝集阻止の陽性と陰性の状態を観察することで、抗体の力価を判定する前記[1]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の微粒子を用いた凝集反応の試験を行うことによって、生細胞を用いずにウイルス存否の判定や、ウイルス力価を判定することができる。
また本発明の微粒子を用いた凝集阻止反応の試験を行うことによって、生細胞を用いずに抗体価を判定することができる。
また本発明のウイルス分離株の抗原性解析法を用いることで、コントロールとした参照株と目的とするウイルス分離株とが、抗原的に乖離しているのか、類似しているのかを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】 凝集反応用の微粒子の製造と微粒子の凝集反応の概念図
【
図2】 微粒子の凝集反応を用いたSARS-CoV-2のウイルス力価を判定する方法の概念図
【
図3】 微粒子の凝集阻止反応を用いた抗SARS-CoV-2の抗体価を判定する方法の概念図
【
図4】 微粒子の凝集阻止試験のSARS-CoV-2分離株の抗原性解析への応用への概念図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、判定対象のウイルスの受容体分子を表面に担持した微粒子と、検体とを、混合し、凝集反応または凝集阻害反応により力価を判定する方法である。
【0014】
<ウイルス>
空気、水、土、ヒト、ヒト以外の動物に潜んでいる病原体が体内に侵入することによって引き起こされる病気が感染症である。本発明の力価の判定対象となるウイルスは、この感染症を引き起こすウイルスである。具体的には、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、コロナウイルスなどである。
【0015】
<インフルエンザウイルス>
インフルエンザウイルスは、オルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)に属し,A,B,Cの3型がある。流行的な広がりを見せるのはA型とB型である。A型とB型ウイルス粒子表面には、赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白があり、これらが感染防御免疫の標的抗原となっている。とくにA型では、HAには15種類、NAには9種類の抗原性の異なる亜型が存在し、これらの様々な組み合わせを持つウイルスが、ヒト以外にもブタやトリなどその他の宿主に広く分布している。
【0016】
<ノロウイルス>
ノロウイルス(NoV)はカリシウイルス科ノロウイルス属に属する急性胃腸炎の原因となるウイルスである。ウイルスの粒子は、直径約38nmの二十面体対称でエンベロープはない。ゲノムは線状非分節型プラス一本鎖RNA約7,500塩基長でORF1~ORF3を含む。ORF1はNS1/2とNS3~NS7,ORF2は、VP1、ORF3はVP2をコードしている。VP1はSドメインとPドメインからなり抗原性を決定する。
【0017】
<コロナウイルス>
コロナウイルスは、ウイルス学的にはニドウイルス目・コロナウイルス亜科・コロナウイルス科に分類される。脂質二重膜のエンベロープの中にヌクレオカプシドタンパク質に巻き付いたプラス鎖の一本鎖RNAのゲノムがあり、エンベロープ表面には、スパイクタンパク質、エンベロープタンパク質、膜タンパク質が配置されている。ウイルスゲノムの大きさは、RNAウイルスの中では最大サイズの30kbである。遺伝学的特徴からα、β、γ、δのグループに分類される。HCoV-229EとHCoV-NL63はαコロナウイルスに、MERS-CoV、SARS-CoV、SARS-CoV-2、HCoV-OC43、HCoV-HKU1はβコロナウイルスに分類されている。
【0018】
<<ウイルスの受容体分子(レセプター)>>
ウイルスは、ヒトの細胞表面にある特定の構造を持つ受容体分子に結合することで、ヒトに感染することができる。
【0019】
<インフルエンザウイルスの受容体分子>
インフルエンザウイルスの受容体分子は、シアリルラクトサミン構造を有する糖鎖からなる分子である。すなわち,A,B型インフルエンザウイルスHAが認識する受容体糖鎖は,シアル酸を非還元末端に持つシアリルラクト系II[Siaα2-6(3)Galβ1-4GlcNAcβ1-]糖鎖を基本とし、Siaα2-3(6)Galβ1-3GalNAcβ1-,Siaα2-3(6)Galβ1-4Glcβ1-等の骨格にも結合する。
【0020】
<ノロウイルスの受容体分子>
ノロウイルスの受容体分子は、ウイルスの遺伝子型によって異なる分子との結合活性が様々報告されている。代表的なものとしては組織血液型抗原上に存在するフコース、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミンといった糖鎖分子である。
【0021】
<コロナウイルスの受容体分子>
コロナウイルスの受容体分子は、ウイルス種によって異なる。例えば、本発明に係るSARS-CoV-2の受容体分子は、アンジオテンシン変換酵素2(以下、ACE2と略記する。)である。レニン-アンジオテンシン系(RAS,renin-angiotensin system)内のI型膜貫通型メタロカルボキシペプチダーゼであり、人間細胞の細胞膜に存在する酵素領域を持つ膜タンパク質である。ACE2は、SARS-CoVのレセプターであることが確認されている。また,ACE2は、2019年に中国で出現した新型SARS-CoV-2コロナウイルスにおいて侵入レセプターとして機能し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因となっている。SARS-CoV-2のスパイクタンパク質のACE2への強力な結合は,II型膜貫通型セリンプロテアーゼ(TMPRSS2)によるタンパク質分解的切断とともに,細胞内へのウイルスの侵入、ウイルスの複製および細胞間の感染を促進する。ACE2は内皮細胞からADAM17(ジシンテグリンおよびメタロプロテアーゼ17)が介在する脱落(shedding)を受け,細胞外ドメインが循環血液中に放出される。この可溶性ACE2はウイルス粒子が表面に結合した完全長ACE2の結合を防ぐことで、SARS-CoV-2や他のコロナウイルスの競合的インターセプターとして機能する可能性がある。また、Paenibacillus sp.B38菌株の遺伝子産物の一つである蛋白構造を持つ酵素B38-CAPが、ヒトACE2と酷似していることから、コロナウイルスの受容体分子として利用できる可能性がある。
【0022】
<微粒子>
微粒子、特に高分子材料からなる微粒子は、臨床血液検査などにおいて特定のタンパク質やウイルスを検出するためのマーカーとして使用されている。微粒子に抗体を担持させ、特定のタンパク質やウイルスを挟み込むことにより、複合体を形成し、凝集物がウェル内部の液中や壁一面に広がった状態となる。検出の対象となるタンパク質やウイルスが存在しない場合には、複合体を形成しないことから凝集は起こらず、ウェル内に沈降する。この方法を用いることでウイルスや抗体の濃度を判定することができる。本発明に用いる微粒子は、液中においてウイルスと特異的に結合する受容体分子をコーティングできることが必要である。微粒子としては、ポリスチレン系高分子からなる微粒子を挙げることができ、具体的にはラテックスビーズが利用できる。
【0023】
本発明で用いられるラテックスビーズは特に制限はないが、例えば、MBLライフサイエンス社製「IMMUTEX(商品名)」(公称直径:0.05~0.46μm)、藤倉化成(株)製ラテックス微粒子(粒子径:100nm、200nm、300nmの3種。)、積水メディカル株式会社製「ナノピア(商品名)」、Sigma-Aldrich社製「ラテックスビーズ」(粒子径:0.8μm)が利用できる。
【0024】
<ウイルスの力価(ウイルス力価)の判定方法>
検体は、ウイルスを含有する溶液である。
微粒子、ウイルスの受容体分子が担持されたラテックス微粒子である。
試験プレートの列のn個のウェルに、緩衝液(具体的にはPBSを使用。)でan毎(an=2n、nは1以上の整数である。具体的にはnが1、2、3、4、5、6、7、及び8に対応するan=2、4、8、16、32、64、128、256)に希釈した検体を入れ、さらに一定量の微粒子を含有する溶液を加えて混合し、1~24時間、好ましくは2~15時間、より好ましくは6~15時間静置し、凝集の状態を観察することで、ウイルス力価を判定することができる(力価判定ライン)。陰性対照はウイルスなしの検体を使用する。
【0025】
<抗体の力価(抗体価)の判定方法>
検体は、血清である。
微粒子は、ウイルスの受容体分子が担持されたラテックス微粒子である。
試験プレートの列のn個のウェルに、緩衝液でan毎(an=10×2n-1、nは1以上の整数である。具体的にはnが1、2、3、4、5、6、7、及び8に対応するan=10、20、40、80、160、320、640、1280)に希釈した検体を入れ、さらに一定量のウイルスを加えて、混合し、室温で1時間程度静置し、さらに一定量の微粒子を含有する溶液を加えて混合し、室温で静置する。静置時間は特に限定されないが、1~24時間程度静置させる。凝集阻止効果の状態を観察し、抗体の力価を判定する。
凝集対照は血清なし、沈降対照はPBSと微粒子を含有する溶液を使用する。
【0026】
<分離株の抗原性解析>
抗原性比較の基準となるコントロール(参照株)を利用する以外は、抗体の力価(抗体価)の判定方法と同様に判定した。参照株のウイルスに対する抗体価(相同抗体価)と、抗原性解析対象のウイルス株に対する抗体価を比較して、お互いに抗原的に近いのか乖離しているのかを評価する。
【実施例0027】
以下、実施例、比較例を用いて、本願発明を詳細に説明する。
【0028】
<<使用器具、試薬、ウイルス>>
・微粒子(ラテックス微粒子):Sigma-Aldrich社製「ラテックスビーズ」(粒子径0.8μm)。
・試験プレート:ビオラモ社製の96ウェルプレート
・血清:国立感染症研究所で作製、入手したSARS-CoV-2感染ハムスター抗血清。
・PBS:塩化ナトリウム8.00(g/L)、リン酸水素2ナトリウム・12水和物 2.89(g/L)、リン酸水素カリウム 0.20(g/L)、塩化カリウム 0.20(g/L)を精製水で1Lにメスアップし、0.22μmフィルターで濾過して使用。
・ウイルス:SARS-CoV-2(国立感染症研究所から入手)。
【0029】
実施例1
(SARS-CoV-2の力価(ウイルス力価)の判定)
検体は、国立感染症研究所から供試されたSARS-CoV-2を含有する溶液を用いた。
ラテックス微粒子(Sigma-Aldrich社製)に、SARS-CoV-2の受容体分子であるヒトACE2を、4℃で24時間程度混合することにより担持させた。
次に1種類の検体毎に、2、4、8、16、32、64、128、256倍になるようにPBSで希釈し、96ウェルプレートの列のウェルに50μl入れ、さらにそれぞれのウェルに50μlの微粒子溶液を加えて混合し、一晩(約12時間)静置し、凝集の状態を目視で確認した(
図2の上図)。11種類の検体を使用し、1つのコントロール(陰性対照:ウイルスなし)を使用した。結果の模式図を
図2の下図に示す。
図2において、「●」が凝集陽性ウェルであり、「◎」が凝集陰性(沈降)ウェルであり、「-」が、力価判定ラインである。また、1~11が検体であり、12がコントロールである。
【0030】
比較例1
(従来のSARS-CoV-2の力価(ウイルス力価)の判定)
BSL3施設において、96ウェル培養プレートに播種されたVeroE6/TMPRSS2細胞に、感染性のあるSARS-CoV-2を緩衝液(具体的には細胞培養用培地Dulbecco’s Modified Eagle Mediumを使用。)でan毎(an=10n、nは1以上の整数である。具体的にはnが1、2、3、4、5、6、7、及び8に対応するan=101~108)に希釈して接種し、感染細胞に誘導されるCPE(細胞変性効果)の出現の有無を顕微鏡下で観察した。その結果、3日経過後にCPEを観察できた。
【0031】
実施例2
(SARS-CoV-2の抗体の力価(抗体価)の判定)
検体は、国立感染症研究所から供試されたSARS-CoV-2の感染ハムスターから得られた血清を用いた。
ラテックス微粒子(Sigma-Aldrich社製)に、SARS-CoV-2の受容体分子であるhACE2を、4℃で24時間程度混合することにより担持させた。
次に1種類の検体である血清毎に、10、20、40、80、160、320、640、1280倍になるようにPBSで希釈し、96ウェルプレートの列のウェルに25μl入れ、さらにそれぞれのウェルに25μlのSARS-CoV-2ウイルスを含む溶液を加えて、混合し、室温で1時間程度静置し、さらに50μlの微粒子溶液を加えて混合し、一晩(約12時間)静置し、凝集阻害の状態を目視で確認した(
図3)。10種類の検体を使用し、1つのコントロール(参照株)を使用した。結果の模式図を
図3の下図に示す。
図3において、「◎」が凝集阻止陽性ウェルであり、「●」が凝集阻止陰性(凝集)ウェルであり、「-」が、力価判定ラインである。また、1~11が検体であり、12が対象列である
凝集対照は血清なし、沈降対照はPBSと微粒子を含有する溶液を使用した。
【0032】
比較例2
(従来のSARS-CoV-2の抗体価(抗体の力価)の判定)
1種類の検体である血清毎に、10、20、40、80、160、320、640、1280倍になるように緩衝液(具体的には細胞培養用培地Dulbecco’s Modified Eagle Mediumを使用。)で希釈したものを96ウェルプレートの列のウェルに50μl入れ、さらにそれぞれのウェルにSARS-CoV-2ウイルスを含む溶液を50μl加えて混合し、室温で1時間程度静置した。この血清希釈液とウイルス液の混合液を別途96ウェル培養プレートに播種されたVeroE6/TMPRSS2細胞に接種し感染細胞に誘導されるCPE(細胞変性効果)の出現の有無を継時的に顕微鏡下で観察した。
その結果、抗体によるウイルス感染阻害が生じなかったウェルでは接種後3日経過後にCPEが出現する一方で、抗体によってウイルス感染が阻害されたウェルでは接種後1週間経過してもCPEが出現しなかった。CPEが出現しなかったウェル列のうち最も大きい血清希釈倍数をもって、その検体の抗体価とした。
【0033】
実施例3
実施例2の結果を用いて、分離株株抗原性解析を行った。
具体的な方法については、
図4を用いて説明する。縦には、参照株と抗原性解析対象供試分離株であるA~J株と対照株が示されている。横には、10~1280の抗体価が示されている。
ここで、例えば、参照株との抗体価(相同抗体価)320に比し、F~J株との抗体価は低値(40以下)であるため、参照株とF~J株とは互いに抗原的に乖離していると判定した。
本発明のウイルスに係る力価を判定する方法を用いることで、生細胞を用いずにウイルス存否の判定が容易にできることから、ウイルスの存否判定の簡易キットとすることが可能である。またウイルス抗原液を併用し抗体価を判定する方法を用いて患者血清中の抗体存否判定のキットとすることが可能である。