(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037644
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】構造物の劣化検知方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240312BHJP
G01M 5/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01M5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022155550
(22)【出願日】2022-09-07
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(72)【発明者】
【氏名】松田 浩
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA22
2G024BA24
2G024CA05
2G024CA27
2G024DA02
2G024FA03
(57)【要約】
【課題】たわみ影響線の変化率を用いる構造物の劣化検知方法において、計測のための荷重移動を動的に行った場合であっても、劣化箇所の正確な特定を可能とする。
【解決手段】健全状態のたわみ影響線と劣化状態のたわみ影響線との変化率を求めて劣化箇所を特定するたわみ影響線変化率法において、荷重移動を動的に行った場合に、たわみ影響線に重畳される振動成分およびノイズ成分を、ローパスフィルタで除去してから、前記変化率を求める。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁等の劣化を評価するための構造物の劣化検知方法であって、
前記構造物に印加する荷重を前記構造物上で移動させ、前記構造物の所定の計測点で計測して得られるたわみ影響線の、健全状態のたわみ影響線と劣化状態のたわみ影響線との変化率を求めて劣化箇所を特定するたわみ影響線変化率法において、
前記荷重の移動を動的に行った場合に、前記たわみ影響線に重畳される振動成分およびノイズ成分を、ローパスフィルタで除去してから、前記変化率を求めることを特徴とする構造物の劣化検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁等の構造物の劣化箇所や劣化度を評価するための劣化検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁の劣化箇所や劣化度を評価する手法の一つとして、たわみ影響線の変化率に着目する方法が知られている。非特許文献1の
図3において、荷重の印加点を(例えば左側1番から右側16番に向かって)順次移動させたときの、ある一つの計測点(MP1、MP2、MP3)におけるたわみ量をプロットして得られるたわみ影響線の、健全状態と劣化状態との変化率を求めるものであり、劣化箇所に荷重が印加されたときに変化率の曲線が大きく変動して凸状の不連続点(変曲点)が現れるため、劣化箇所の特定ができる、というものである。また、非特許文献2の
図10において、劣化箇所(節点2)の劣化の程度が大きいほど変化率曲線全体が大きくなるため、劣化度の推定も可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】土木学会平成28年度全国大会第71年次学術講演会概要集、I-071,2016.9
【非特許文献2】鋼構造年次論文報告集、第26巻、2018.11
【非特許文献3】土木構造・材料論文集、第32号、2016.12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1、2ともに、荷重の移動は静的に行っている。すなわち、荷重の印加点を1点ずつ変えて、そこに静的荷重を印加したときのたわみ影響線を求めている。しかしながら、実際の橋梁の劣化をモニタリングする際は、自動車や列車の通行をできる限り妨げないように、計測のための荷重移動を、自動車や列車の通行と同等の速度で、動的に行うことが想定される。
【0005】
荷重移動を動的に行った場合、移動に伴う加振力によって橋梁が振動するため、計測されるたわみ影響線に、橋梁の固有振動に応じた残留振動成分が重畳される。この重畳される振動成分は、荷重の移動速度によって異なる。たわみ影響線図の横軸は荷重の印加位置になるが、荷重が所定の印加位置に到達する時刻は速度によって異なる。すなわち、速度が速いほど荷重が所定の印加位置に到達する時刻が早いため、振動成分は横軸方向に引き延ばされた形で重畳されることになる。また、非特許文献3の
図7のように、移動速度が速いほど加振力が大きいため、振幅が大きくなる。さらに、橋梁の固有振動数は経年変化によって変動する。したがって、初期に計測した健全状態のたわみ影響線と、運用後に計測される劣化状態のたわみ影響線に重畳される振動成分は必ずしも同一ではなく、両者の差分をとる変化率曲線も何らかの振動成分が重畳されたものとなる。
【0006】
本願の
図7は、それを模式的に示したものである。同図の縦軸はたわみ影響線の変化率、横軸は荷重の印加位置である。破線は静的荷重の場合の曲線であり、劣化箇所に変曲点がある。実線が動的荷重の場合であり、振動成分のせいで、変化率曲線の変曲点があいまいとなり、劣化箇所の特定が不正確になることが有り得る。
【0007】
そこで、本発明は、たわみ影響線の変化率を用いる構造物の劣化検知方法において、計測のための荷重移動を動的に行った場合であっても、劣化箇所の正確な特定を可能とする劣化検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明は、橋梁等の劣化箇所や劣化度を評価するための構造物の劣化検知方法であって、健全状態のたわみ影響線と劣化状態のたわみ影響線との変化率を求めて劣化箇所を特定するたわみ影響線変化率法において、荷重移動を動的に行った場合に、たわみ影響線に重畳される振動成分およびノイズ成分を、ローパスフィルタで除去してから、前記変化率求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、たわみ影響線の変化率を用いる構造物の劣化検知方法において、計測のための荷重移動を動的に行った場合であっても、劣化箇所の正確な特定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る構造物の劣化検知方法の実施の形態に使用する橋梁モデルの正面図及び側面図である。
【
図2】本発明に係る構造物の劣化検知方法の第1の実施の形態を説明する解析モデルである。
【
図3】本発明に係る構造物の劣化検知方法の第1の実施の形態を説明する処理前のたわみ影響線の1例である。
【
図4】本発明に係る構造物の劣化検知方法の第1の実施の形態を説明する処理後のたわみ影響線の1例である。
【
図5】本発明に係る構造物の劣化検知方法の第2の実施の形態を説明する実験モデルである。
【
図6】本発明に係る構造物の劣化検知方法の第2の実施の形態を説明する処理前のたわみ影響線の1例である。
【
図7】本発明に係る構造物の劣化検知方法の背景を示すたわみ影響線の変化率の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係る構造物の劣化検知方法の実施の形態において使用する橋梁モデルの正面図及び側面図である。幅50mm、高さ50mm、長さ3000mmのH型のアルミ合金を橋梁のモデルとして使用する。
図2は、第1の実施の形態を説明する解析モデルである。荷重P
0を速度v
0で左から右に、すなわち、印加位置0から10に向かって移動させる。
【0012】
図3は、荷重P
0を19.6Nとし、速度v
0を3000mm/sとしたときの、梁中央(印加位置5に相当する位置)の計測点でのたわみ影響線を示す。同図において、横軸の上方の表示は時間目盛りであり、荷重P
0の移動による時刻歴応答を示す。横軸の下方の表示は印加位置であり、縦軸との対で、たわみ影響線図をなす。
【0013】
同図におけるたわみ影響線は、梁中央に対して概略左右対称をなしているが、約18Hzの振動成分が重畳している。
【0014】
図4は、
図3の信号に対して、デジタル平滑化処理すなわちローパスフィルタ処理を施したものである。振動成分が除去され、静的荷重を印加したときのたわみ影響線と同等のものが得られている。
【0015】
したがって、得られたたわみ影響線に対してローパスフィルタ処理を施したものをたわみ影響線とすることで、静的荷重移動と同等のたわみ影響線変化率を得ることができるため、劣化箇所の正確な特定が可能となる。
【0016】
[第2の実施の形態]
図5は、本発明に係る構造物の劣化検知方法の第2の実施の形態を説明する実験モデルである。
図1に示す橋梁モデルを、左端をローラ支持し、右端をピン支持している。荷重としては2kgの重り20を用い、下面にすべり材としてテフロンシートを貼付けて、モータにより一定速度でけん引する。たわみの計測は、梁中央部の変位をレーザ変位計21で計測した。
【0017】
図6は、けん引速度を1000mm/sとしたときの、時刻歴応答の例である。長さ3000mmの橋梁モデルを3秒で通過している。梁中央部である1.5秒位置に対して概略左右対称をなしており、
図3の解析モデルと同様に、約18Hzの梁の固有振動成分が重畳されてことが確認される。しかし同図においては、振動波形が滑らかな正弦曲線ではなく鋭角な波形になっており、高周波のノイズ成分が更に重畳していることを示している。実モデルでは、荷重移動の不均一性、計測ノイズ、梁の不均一性などノイズ成分の混入は避けられない。
【0018】
たわみ影響線は、概略としては橋梁の長さを1/2周期とする正弦波に近い形をなす。実際の橋梁において、自動車等によって動的荷重移動を行う場合、橋梁を通過する時間が10秒だとすると、たわみ影響線の曲線は、1周期が20秒、すなわち0.05Hzの振動波形と等価になる。それに対して、実際の橋梁の固有振動数は、それよりはるかに高い。したがって、実際の橋梁において、動的荷重移動によって、たわみ影響線の変化率による劣化検知を行う場合、たわみ量を計測する計測器の出力信号に対して、十分な低周波のみを通過させるローパスフィルタを介在させることで、振動およびノイズの影響を除去することができる。
【0019】
したがって、たわみ計測信号にローパスフィルタ処理を施してからたわみ影響線を求めることで、静的荷重移動と同等のたわみ影響線変化率を得ることができるため、劣化箇所の正確な特定が可能となる。
【符号の説明】
【0020】
10…橋梁モデル、20…重り、21…レーザ変位計