(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037661
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】酸水素混合ガス発生装置及び酸水素混合ガス発生方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/044 20210101AFI20240312BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240312BHJP
C25B 15/023 20210101ALI20240312BHJP
C25B 15/02 20210101ALI20240312BHJP
【FI】
C25B1/044
C25B9/00 A
C25B15/023
C25B15/02
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020555
(22)【出願日】2023-02-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2022135269
(32)【優先日】2022-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】593099621
【氏名又は名称】T・D・S株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】岡本 幹男
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BB03
4K021BC02
4K021BC03
4K021BC04
4K021CA06
4K021CA10
4K021CA11
4K021DA04
4K021DC05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】より高効率な酸水素混合ガス発生装置及び酸水素混合ガス発生方法を提供する。
【解決手段】本発明の一観点に係る酸水素混合ガス発生装置1は、アルカリ水溶液から酸水素混合ガスを発生させるための電解セルと、アルカリ水溶液を収容するメインタンクと、酸水素混合ガスに含まれる水分を除去するためのガスフィルタータンクと、電解セル内で生じる酸水素混合ガスを一度メインタンクに戻すための戻し配管を有する。本発明の他の一観点にかかる酸水素混合ガス発生方法は、メインタンクから電解セルにアルカリ水溶液を供給するステップ、電解セルでアルカリ水溶液から酸水素混合ガスを発生させるステップ、酸水素混合ガスを一度メインタンクに戻すステップ、メインタンクからガスフィルタータンクに酸水素混合ガスを供給して酸水素混合ガスから水分を除去するステップ、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ水溶液から酸水素混合ガスを発生させるための電解セルと、
前記電解セルに供給される前記アルカリ水溶液を収容するメインタンクと、
前記酸水素混合ガスに含まれる水分を除去するためのガスフィルタータンクと、
前記電解セル内で生じる前記酸水素混合ガスを一度前記メインタンクに戻すための戻し配管を備える酸水素混合ガス発生装置。
【請求項2】
前記酸水素混合ガスを1分間あたり6.5cc/W/分以上で生成する請求項1記載の酸水素混合ガス発生装置。
【請求項3】
前記酸水素混合ガスを1時間あたり1100リットル以上生成可能であり、かつ連続運転時間が500時間以上可能である請求項1記載の酸水素混合ガス発生装置。
【請求項4】
前記電解セルはドライセルである請求項1記載の酸水素混合ガス発生装置。
【請求項5】
前記電解セルは、一対の電極板と、前記一対の電極板間に配置される複数の導電板を備える請求項1記載の酸水素混合ガス発生装置。
【請求項6】
前記電極板と前記導電板の間、及び、前記導電板同士の間に、枠状の絶縁部材が設けられている請求項5記載の酸水素混合ガス発生装置。
【請求項7】
前記メインタンクは、水位検出装置を備えており、かつ、
前記戻し配管の先端は、前記水位検出装置の検出高さよりも高い位置にある請求項1記載の酸水素混合ガス発生装置。
【請求項8】
前記メインタンクに補充するための前記アルカリ水溶液を収容するサブタンクを備える請求項1記載の酸水素混合ガス発生装置。
【請求項9】
稼働1分当たりの酸水素混合ガス発生量をリアルタイムで表示するための表示部を備える請求項1記載の酸水素混合ガス発生装置。
【請求項10】
前記電解セルに電圧を印加する電圧の極性を、所定の期間ごとに切り替える電源装置を備える請求項1記載の酸水素混合ガス発生装置。
【請求項11】
前記ガスフィルタータンクは、ガスフィルター供給用配管を介して前記メインタンクに接続されており、
前記ガスフィルター供給用配管の前記ガスフィルタータンク内の先端に、逆流防止部材を備える請求項1記載の酸水素混合ガス発生装置。
【請求項12】
前記電解セルによって発生した酸水素混合ガスの温度を検出するガス温度検出装置と、
前記ガス温度検出装置に接続され、前記電解セルに印加する電力を調整する制御装置を備える請求項1記載の酸水素混合ガス発生装置。
【請求項13】
メインタンクから電解セルにアルカリ水溶液を供給するステップ、
前記電解セルで前記アルカリ水溶液から酸水素混合ガスを発生させるステップ、
前記酸水素混合ガスを一度前記メインタンクに戻すステップ、
前記メインタンクからガスフィルタータンクに前記酸水素混合ガスを供給して前記酸水素混合ガスから水分を除去するステップ、を備える酸水素混合ガス発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸水素混合ガス発生装置及び酸水素混合ガス発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の原因となる二酸化炭素を発生させないエネルギー源として、水素ガスが一般的に知られているが、水素ガスは酸素やこれを含む空気その他のガスと混合した場合、爆発しやすくなるといったことが知られている。
【0003】
ところで、最も簡単に水素ガスを得る方法として水の電気分解があるが、この方法で取り出された水素ガスをそのままボイラーや焼却炉等の熱源として用いようとすると、着火した瞬間に爆発燃焼を起こしボイラーや焼却炉等を破壊してしまう恐れがあるため、日常的にはこのまま使用することは困難である。
【0004】
これに対し、1980年代前半に、海外で、密閉容器内に電極板となる金属板を数枚、直列に立てて並べ、これに電解液を注入し、両端の電極板に数十ボルトの電圧を印加し、水素成分と酸素成分を2:1の割合で混合したガス(以下「酸水素混合ガス」という。)が創出され、連続燃焼できるようになってきた。
【0005】
そして上記に関し、本件発明者は、上記酸水素混合ガスを発生させる装置として、下記特許文献1に記載の技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
たしかに、上記特許文献1に記載の技術では酸水素混合ガスを発生させることができるが、さらなる効率の向上を図ることが期待されている。
【0008】
以上、本発明は、上記課題に鑑み、より高効率な酸水素混合ガス発生装置及び酸水素混合ガス発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の一観点にかかる酸水素混合ガス発生装置は、アルカリ水溶液から酸水素混合ガスを発生させるための電解セルと、電解セルに供給されるアルカリ水溶液を収容するメインタンクと、酸水素混合ガスに含まれる水分を除去するためのガスフィルタータンクと、電解セル内で生じる酸水素混合ガスを一度メインタンクに戻すための戻し配管を備えるものである。
【0010】
また、本観点において、限定されるわけではないが、酸水素混合ガスを消費電力1W/1分あたり6.5cc以上で生成することが好ましい。
【0011】
また、本観点において、限定されるわけではないが、酸水素混合ガスを1時間あたり1100リットル以上で生成し、かつ連続運転時間が500時間以上であることが好ましい。
【0012】
また、本観点において、限定されるわけではないが、電解セルはドライセルであることが好ましい。
【0013】
また、本観点において、限定されるわけではないが、電解セルは、一対の電極板と、一対の電極板間に配置される複数の導電板を備えることが好ましい。
【0014】
また、本観点において、限定されるわけではないが、電極板と導電板の間、及び、導電板同士の間に、枠状の絶縁部材が設けられていることが好ましい。
【0015】
また、本観点において、限定されるわけではないが、メインタンクは、水位検出装置を備えており、かつ、戻し配管の先端は、水位検出装置の検出高さよりも高い位置にあることが好ましい。
【0016】
また、本観点において、限定されるわけではないが、メインタンクに補充するための水又はアルカリ水溶液を収容するサブタンクを備えることが好ましい。
【0017】
また、本観点において、限定されるわけではないが、稼働1分当たりの酸水素混合ガス発生量をリアルタイムで表示するための表示部を備えることが好ましい。
【0018】
また、本観点において、限定されるわけではないが、電解セルに電圧を印加する電圧の極性を、所定の期間ごとに切り替える電源装置を備えることが好ましい。
【0019】
また、本観点において、限定されるわけではないが、ガスフィルタータンクは、ガスフィルター供給用配管を介してメインタンクに接続されており、
前記ガスフィルター供給用配管のガスフィルタータンク内の先端に、逆流防止部材を備えることが好ましい。
【0020】
また、本観点において、限定されるわけではないが、電解セルによって発生した酸水素混合ガスの温度を検出するガス温度検出装置と、ガス温度検出装置に接続され、電解セルに印加する電力を調整する制御装置を備えることが好ましい。
【0021】
また、本発明の他の一観点にかかる酸水素混合ガス発生方法は、メインタンクから電解セルにアルカリ水溶液を供給するステップ、電解セルでアルカリ水溶液から酸水素混合ガスを発生させるステップ、酸水素混合ガスを一度メインタンクに戻すステップ、メインタンクからガスフィルタータンクに酸水素混合ガスを供給して酸水素混合ガスから水分を除去するステップ、を備えるものである。
【発明の効果】
【0022】
以上、本発明によって、より高効率な酸水素混合ガス発生装置及び酸水素混合ガス発生方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施形態にかかる酸水素混合ガス発生装置の外観を示す図である。
【
図2】実施形態にかかる酸水素混合ガス発生装置の概略を示す図である。
【
図3】実施形態にかかる酸水素混合ガス発生装置の機能ブロックを示す図である。
【
図4】実施形態にかかる酸水素混合ガス発生装置の電解セルの概略を示す図である。
【
図5】実施形態にかかる酸水素混合ガス発生装置の電解セルの電極板、導電板及び絶縁部材の概略を示す図である。
【
図6】実施形態にかかる酸水素混合ガス発生装置の電解セルの分解斜視を示す図である。
【
図7】実施形態にかかる酸水素混合ガス発生装置の他の例として、ケーシングを備えた電解セルを示す図である。
【
図8】実施形態にかかる酸水素混合ガス発生装置の他の例に係る電解セルのケーシングに配置される絶縁部材の概略を示す図である。
【
図9】実施形態にかかる酸水素混合ガス発生装置の他の例に係る電解セルのケーシングの具体的な配置図である。
【
図10】実施形態にかかる酸水素混合ガス発生装置の他の例に係る電解セルの外観図である。
【
図11】実施形態にかかる酸水素混合ガス発生装置の他の例に係る電解セルの内部断面図である。
【
図12】実施形態にかかる酸水素混合ガス発生装置にガス温度検出装置及び制御装置を備えた場合のイメージ図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、また以下に示す実施形態、実施例において記載される具体的な例示についても適宜変更及び調整が可能であり、これらに限定されるものではない。
【0025】
(酸水素混合ガス発生装置)
図1は、本実施形態にかかる酸水素混合ガス発生装置(以下「本装置」という。)1の外観を示す図であり、
図2は、本装置1の構造の概略を示す図であり、
図3はこの機能ブロック図である。
【0026】
これらの図で示すように、本装置1は、アルカリ水溶液(電解液)から酸水素混合ガスを発生させるための電解セル2と、電解セル2に供給されるアルカリ水溶液を収容するメインタンク3と、酸水素混合ガスに含まれる水分を除去するためのガスフィルタータンク5と、電解セル2内で生じる酸水素混合ガスを一度メインタンク3に戻すための戻し配管91を備えるものである。また、本装置1では、メインタンク3に水又はアルカリ水溶液を供給するためのサブタンク4も備えている。また、これらの図で示すように、本装置1において、電解セル2、メインタンク3、サブタンク4、ガスフィルタータンク5等は筐体8内に収容され、一体になっている。
【0027】
また、本装置1では、上記の各構成部材は、必要な各種配管及び電気配線等によって接続されている。これらについては必要に応じ、別途各構成部材の説明部分において説明する。
【0028】
上記の構造によって、本装置1は、酸水素混合ガスをより高効率で発生させることができることとなる。また当然、この装置により、高効率な酸水素混合ガスの発生方法を実現することができる。
【0029】
限定されるわけではないが、本装置1では、具体的な数値として、酸水素混合ガスを1分、1Wあたり6.5cc以上で生成することが可能である。この結果、2800Whとすれば、酸水素混合ガスを1時間あたり1100リットル以上で生成し、かつ連続運転時間も500時間以上とすることが可能である。
【0030】
本装置1において、電解セル2は、アルカリ水溶液から酸水素混合ガスを発生させるためのものであって、この電解セル2に電流を流すことで、アルカリ水溶液中の水素イオンや水酸化イオンが移動して電極と接触することにより電子の授受が行われ、水素ガス及び酸素ガスが発生することになる。またこの反応において、酸素ガスと水素ガスが原子的に混合され、酸水素混合ガスとなる。
【0031】
上記の通り、本装置1では、電気分解の対象となるのは水、より具体的にはアルカリ水溶液である。ここでアルカリ水溶液とは、水に電解質としてアルカリを溶解させたアルカリ性の水溶液をいい、水に溶解させるアルカリとしては、限定されるわけではないが、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム及びこれらの混合物であることが好ましく、より好ましくは水酸化ナトリウムである。なお、このアルカリ水溶液の範囲としてはpH9以上pH14以下であることが好ましく、より好ましくはpH10以上である。また、電解質の濃度としては、電気分解を行うことができる限りにおいて限定されるわけではないが、0.01重量%以上0.05重量%以下であることが好ましい。
【0032】
また、本装置1において電解セル2は、限定されるわけではないが一対の電極板21を備えたものであって、この間にアルカリ水溶液を充填させて電気を流すことで酸水素混合ガスを発生させることができる。
図4に、電解セル2の概略を、
図5に、電解セル2の電極板21、導電板22及び絶縁部材23の概略を、
図6に電解セル2の分解斜視をそれぞれ示す。
【0033】
電解セル2の一対の電極板21の材質としては特に限定されるわけではないが、電気分解による腐食を避けるため、貴金属、少なくとも伝導性を備える金属の表面に貴金属が被覆されたものであることが好ましい。貴金属としては、金、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム等又はこれらをチタン等の金属に被覆した電極を例示することができるがこれに限定されない。
【0034】
また、このため、電解セル2は、電源装置6に接続されており、電源装置6からは直流電力が供給されることが好ましい。電源装置6は、一般的な家庭交流電源(100V、60Hzまたは50Hz)に接続され、これを直流電力に変換させることができるADコンバータを備えていることが好ましい。直流電力の電圧値及び電流値は、電極の種類及び距離、さらには発生させたい酸水素混合ガスの量に応じて適宜調整可能であるが、電圧値としては5V以上100V以下であることが好ましく、より好ましくは10V以上100V以下の範囲である。また、電流の値としては、1A以上2000A以下であることが好ましく、より好ましくは5A以上1000A以下である。上記の記載から明らかであるが、電力とは、電流及び電圧によって求められる仕事量であるが、電力を調整することはすなわち印加する電圧及び電流の少なくともいずれかを調整することが含まれる。
【0035】
なお、上記の通り、電源装置6によって供給される電力は直流であることが好ましいが、所定の一定期間ごとにその極性を切り替える、具体的には反転させるようになっていることが好ましく、より具体的には、電源装置6に接続され、一定期間ごとに電圧の極性を反転させる自動極性変換回路を設けておくことが好ましい(電源装置に自動極性返還回路が組み込まれている場合を含む。)。本装置1の電解セル2では、一対の電極板21の間に複数の導電板22を備えているため、これらの間に電荷が蓄積されていく。そのため、一定期間で反転させることにより、この電荷の蓄積を解消し、効率的に電気分解することが可能となる。さらに、電荷の蓄積等を均等に解消させることが可能となる結果、装置の寿命を約2倍まで長くすることが可能となる。一般的な装置の寿命が2000時間であるが、この倍に延ばすことが可能である。
【0036】
さらに、本装置1における電解セル2は、限定されるわけではないが、一対の電極板21間に、複数の導電板22が配置されていることが好ましい。一対の電極板21及び複数の導電板22を等間隔となるよう平行に設置することで、電極板21と導電板22の間に電場を生じさせ、この間での電荷の移動を可能とし、酸水素混合ガスが発生する面積を拡大させることができ、効率的な酸水素混合ガスの発生を行うことが可能となる。
【0037】
また、導電板22の材質としても、上記の電極板21と同様であり、電気分解による腐食を避けるため、貴金属、少なくとも伝導性を備える金属の表面に貴金属が被覆されたものであることが好ましい。貴金属としては、金、白金、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム等を例示することができるがこれに限定されない。
【0038】
また、電極板21と導電板22の間隔、導電板22同士の間隔としては、効率的に酸水素混合ガスを発生させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、上記した好ましい電圧及び電流の範囲において、例えば0.5mm以上2mm以下であることが好ましく、より好ましくは1.0mm以上1.5mm以下である。電極の間隔が短いほど印加電圧を小さくすることができ、水溶液の濃度もより薄くすることができ、酸水素混合ガスの発生量が安定し、装置自体をより小型化し、長期間の使用を実現できる観点において好ましいが、この間隔が短すぎるとショートを起こす可能性があるため、1.2mm程度とすることが現実的であり好ましい。
【0039】
なお、本装置1において、複数の導電板22は、電源や外部装置等に接続されていない。これにより、アルカリ水溶液を収容する容積を確保しつつ上記複数の電極の間隔を狭く確保することができるといった効果がある。
【0040】
好ましい電極板21及び導電板22の形状についは、上記
図5及び
図6に示すとおりである。電極板21、導電板22はそれぞれ貫通穴211、221が形成されている四角形状であり、後述のように、この貫通穴によって、電極板21と導電板22、導電板22同士の間の空間を接続し、アルカリ水溶液を十分にこれらの間隙に充填させることが可能となる。なお、貫通穴211、221の数としては適宜調整可能であるが、多すぎると電気分解を行うことのできる面積が減少してしまうこととなるため、少なくとも1ヶ所以上、3ヶ所以下であることが好ましく、より好ましくは2ヶ所以下である。
【0041】
また、本装置1における電解セル2では、電極板21と導電板22の間、及び、導電板22同士の間に、枠状の絶縁部材23が設けられていることが好ましい。絶縁部材23の形状については上記
図5に示したとおりである。本図で示すように、絶縁部材23は、電極板21、導電板22の形状の縁に合わせた形状となっている。具体的には電極板21及び導電板22が四角形状であるため、絶縁部材23も四角形状の枠となっていることが好ましい。これにより、一対の電極板21の間に形成される空間にのみアルカリ水溶液を充填させることが可能となり、この空間外にアルカリ水溶液を供給する必要がなくなるため、より少ないアルカリ水溶液で酸水素混合ガスを発生させることが可能となる。
【0042】
また、本装置1における絶縁部材23の材質としては、高い耐圧力性、高い絶縁性、高い耐熱性、高い耐アルカリ性、耐酸性を備えている限りにおいて限定されるわけではないが、柔軟性を備えている樹脂であることが好ましく、例えばシリコーン樹脂であることが好ましい。柔軟性も備えていることで、外部から圧力をかけることでこの厚さを調整することが可能となり、好適な電極板、導電板間を実現し、効率的な酸水素混合ガスを発生させることができる。なお、高い耐圧力性としては、例えば1MPa以上、高い耐熱性としては例えば200℃以上、耐アルカリ性としてはpH13以上、耐酸性としてはpH2以下でも耐えられるものであることが好ましい。
【0043】
また、本装置1における電解セル2では、一対の電極板21、複数の導電板22及び絶縁部材23を締め上げる締付部材24を備えている。締付部材24によって締め付けることで絶縁部材23を圧縮して電極板21と導電板22の間の距離及び導電板22間の距離を適切な調節範囲とすることが可能である。締付部材24の例としては限定されるわけではないが、ボルトとナットであることが好ましい。
【0044】
またここで、締付部材24は、板状部材の組25を介して上記一対の電極板21、複数の導電板22を挟み込むことが好ましい。このようにすることで電極板21等に対して周囲から均等に力を加えることができる。より具体的には、上記一対の電極板21の外側に配置される絶縁板251と補強板252との組であることが好ましい。絶縁板251は、電極板21を押さえつける一方で絶縁性を確保するための板であり、例えば樹脂からなる板であることが好ましく、例えばKナイロン等を例示することができる。また、補強板252は、絶縁板251のさらに外側に配置され、締付部材24による締付力にも十分に耐えることができるものであることが好ましく、例えばステンレス等の金属板であることが好ましい。この絶縁板251と補強板252の組は、電極板21及び導電板22よりも大きくその周囲でこれらを挟み込むことができるように構成されていることが好ましく、この周囲の部分には貫通孔が形成されており、締付部材24を貫通させて締め上げることができる。この場合において締付部材24を複数設けることで、均等に力を分散させることができる。
【0045】
また、本装置1における電解セル2は、上記の構成によって、ドライセルといえる。すなわち「ドライセル」とは、一対の電極間の空間にのみ水が供給される閉じたセルのことをいう。
【0046】
ところで、本装置1においては、電解セル2によって発生した酸水素混合ガスの温度を検出するガス温度検出装置61と、ガス温度検出装置61に接続され、電解セル2に印加する電力を調整する制御装置62を備えることも好ましい。この場合のイメージを
図12に示しておく。本図で示すように、本装置1では、電解セル2から発生する酸水素混合ガス温度を検出する。通常は、室内温度等の外的要因により、当然に電解セル2内の温度も変動する。これはガスの発生量が変動することを意味し、一定量のガスが発生するように調整するためには、適宜メインタンク3内の電解液濃度を調整する必要があった。しかしながら、本図のように、酸水素混合ガスの温度を感知し、その温度に対して絶えず規定された電力が印加されるように制御装置62で制御することで、常時一定量のガスを発生させることができるようになる。この結果、上記のような使用環境に基づき電解液の濃度を調整することが不要となり、より高いメンテナンス性を確保することが可能となる。
【0047】
また、本装置1におけるメインタンク3は、電解セル2に供給されるアルカリ水溶液を収容するものである。メインタンク3は液体を収容することができる限り限定されるわけではないが、金属または樹脂等の水が浸透しない材料で構成されていることが好ましく、より具体的には高い耐食性と耐圧性を備えたステンレスであることが好ましく、さらに好ましくはSUS316Lである。また、このメインタンク3には蓋が設けられ、下記配管が接続される以外は密封可能な状態となっていることが好ましい。
【0048】
また、本装置1においては、メインタンク3及び電解セル2の少なくともいずれかには、冷却装置26が付されていることが好ましい。上記示す図の例では電解セル2に付されているが、メインタンク3に付していてもよい。冷却装置26を付することで、電解セル2に電力を供給して酸水素混合ガスを発生させる際に生じる熱を放出させることが可能となる。特に、本装置1では、後述するように、電解セル2とメインタンク3の間に循環路が形成されるため、非常に効率よく冷却を行うことができるといった利点がある。冷却装置26としてはこの機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えばファン、ペルチェ素子等を例示することができるが、放熱の効率の観点からはペルチェ効果素子であることが好ましい。
【0049】
また、メインタンク3は、サブタンク4と接続され、サブタンク4からの水又はアルカリ水溶液の供給を受けるメインタンク供給用配管92、電解セル2に接続され、電解セル2に水を供給するための電解セル供給用配管93を備えている。なお、電解セル供給用配管93には、水を供給するための動力としてメインポンプ31をその経路中に備えており、また、メインタンク供給用配管92にも、サブタンク4からメインタンク3に水又はアルカリ水溶液を供給するための動力としてサブポンプ41を備えている。
【0050】
また、本装置1では、電解セル2内で生じる酸水素混合ガスをすぐに本装置1外に排出するのではなく、一度メインタンク3に戻すための戻し配管91を備えている。電解セル2内で発生する酸水素混合ガスは水泡として発生することとなるため水が多く含まれ気液混合状態となっている。そのため、一度この戻し配管91によってメインタンク3に戻すことで、水とガスとの一次分離を行うことができ、水又はアルカリ水溶液を廃棄することなく再びメインタンク供給用配管92によって電解セル2内にアルカリ水溶液を投入することが可能となる。これにより、メインタンク3と電解セル2の間に循環路を形成することができ冷却効率を向上させることが可能となるだけでなく、非常に効率的に水を活用することが可能となるといった利点がある。またこの場合において、メインタンク供給用配管92と戻し配管91の経路は重複して設けられていることが好ましい。
【0051】
なお、本装置1では、サブタンク4から水又はアルカリ水溶液の供給を受けることができるが、直接的にメインタンク3に水又はアルカリ水溶液を供給できるように、メインタンク3にメインタンク直接供給配管94を備えていることが好ましい。
【0052】
また、本装置1のメインタンク3は、水位検出装置32を備えていることが好ましい。水位検出装置32を備えることで、所定の水位より下がった場合に、サブタンク4から水又はアルカリ水溶液の供給を受けることができるとともに、後述のように、電解セル2から酸水素混合ガスがメインタンク3に戻される際、酸水素混合ガスがメインタンク3の水中に直接放出されてしまうことを防止することができる。この水中への放出を防止することでガスに余分な水分が含まれてしまうことを防止できるといった効果がある。なお、サブタンク4の材質としては、特に限定されず、例えばポリプロピレン等の樹脂を例示することができるがこれに限定されない。
【0053】
また、この場合において、本装置1のメインタンク3の戻し配管91のメインタンク3内の先端911は、水位検出装置32の検出高さよりも高い位置にあることが好ましい。これにより、電解セル2からメインタンク3に酸水素混合ガスが戻ったとしても、酸水素混合ガスがメインタンク3内のアルカリ水溶液に直接放出されることがないため、液体部分のみメインタンク3の液体部分に戻し、ガスの部分だけガスフィルター部分に送出することが可能になり、効率的な乾燥とアルカリ水溶液の再利用を行うことができるようになるといった利点がある。またこの場合において、後述のガスフィルター供給用配管96の先端961は、上記戻し配管91の先端911よりも高い位置にあることが好ましい。
【0054】
また本装置1では、水又はアルカリ水溶液を収容し、メインタンク3に水又はアルカリ水溶液を供給または補充するためのサブタンク4も備えている。なお、サブタンク4は、上記の通りメインタンク3においてアルカリ水溶液を収容させることができればよいため、サブタンク4にはアルカリ水溶液を充填させておくことが好ましいが水を収容するものであってもよい。サブタンク4に収容するのが水の場合、メインタンク3においてアルカリを加えることで所望の範囲のアルカリ水溶液とすることができる。
【0055】
また、本装置1のガスフィルタータンク5は、酸水素混合ガスに含まれる水分を除去するためのものである。またガスフィルタータンク5とメインタンク3とは、これらを接続し、メインタンク3からガスフィルタータンク5に酸水素混合ガスを供給するためのガスフィルター供給用配管96を有していることが好ましいがこれに限定されない。また、ガスフィルタータンク5には、外部にガスを供給するガス排出口51を備えていることが好ましい。なお、ガスフィルタータンク5の材質としては、上記メインタンク3と同様の材質を採用することができるがこれに限定されない。なお、本装置1でガスフィルタータンク5を設けており、更にその前段にメインタンク3を備えている。上記の通り、メインタンク3において水とガスの一時分離を行い、このガスフィルタータンク5によってもう一段の分離作業が行われる。この結果、本装置1外に排出される水は殆どなくなるようにできる。この結果、ガスの発生量が1500cc/分の装置における水の消費量は25cc/1時間程度となり、一般的な装置の比較に比べ4分の1以下の水消費量となる。またこの結果、この酸水素混合ガス中に含まれる水素及び酸素の含有率は99.5%以上となる。
【0056】
また、本装置1において、ガスフィルタータンク5は、ガスフィルター供給用配管96を介してメインタンク3に接続されており、ガスフィルター供給用配管96のガスフィルタータンク5内の先端961に、逆流防止部材962を備えていることが好ましい。
【0057】
本装置1では、ガス排出口51から酸水素混合ガスが排出されるが、その使用形態として、この排出口51に酸素マスク等を取り付けて排出されたガスを吸引することがあるが、この場合注意しなければならないことがある。これは、本装置1の運転を停止させたときこのガスフィルター5内に水が溜まっていた場合に、この水が逆流することによってメインタンク3内の電解液濃度を低くしてしまうことである。この防止策として、本図で示すように、逆流防止部材962を設けることで逆流を防止することができる。
【0058】
また逆流防止部材962は、上記のとおり逆流を防止することができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば、噴射ノズルを備えたチェックバルブを例示することができるがこれに限定されない。
【0059】
また、本装置1においては、稼働1分当たりの酸水素混合ガス発生量をリアルタイムで表示するための表示部7を備えることが好ましい。表示部7を設けることでユーザーは自身で使用しようとする酸水素混合ガス発生量を随時確認しながら使用できるようになる。なお表示部7は、本装置1が使用する使用電力量、より具体的には電荷量に比例するため、電源装置や自動極性変換回路等に接続されていることが好ましい。
【0060】
(酸水素混合ガス発生方法)
上記の通り、本装置1を用いることで効率的に酸水素発生ガスを発生させることができ、本装置1を用いた酸水素混合ガス発生方法(以下「本方法」という。)は、具体的には下記となる。すなわち本方法は、(S1)メインタンクから電解セルにアルカリ水溶液を供給するステップ、(S2)電解セルでアルカリ水溶液から酸水素混合ガスを発生させるステップ、(S3)酸水素混合ガスを一度メインタンクに戻すステップ、(S4)メインタンクからガスフィルタータンクに酸水素混合ガスを供給して酸水素混合ガスから水分を除去するステップ、を備えるものである。
【0061】
なお、本装置1における具体的な構成については上記
図4乃至
図6に記載したとおりであるが、他の構成についても当然に考えられる。たとえば電解セル2は他の形態を採用することが可能であり、
図7乃至
図11で示すような電解セルの他の例(以下「他の例」という。)が考えられる。
【0062】
他の例に係る電解セル2は、例えば、ケーシング27を備え、ケーシング27内に、電極板21、複数の導電板22を間隔をあけて並列に配置した構成となっている。またこの場合でも、上記と同様、これら一対の電極板21と導電板22の間、導電板22同士の間には、絶縁部材23が配置されている。すなわち、他の例では、上記
図4等の例と一対の電極板21及び導電板22を間隔をおいて配置する点においては同様であるが、その間隔を維持するための構造が少し異なる。
【0063】
まず、
図7で示す他の例の電解セル2は、上記の通りケーシング27を備えている。より具体的には、底部及び側部によって収容空間を形成するとともに上部は解放されているケーシング本体271を備え、蓋272によって閉じて接合可能となっている。これにより、接続されている配管及び電極を引き出す部分を除き、内部に電極板21、導電板22及び絶縁部材23を密封して収容することができる。これにより、電解セル2外にアルカリ水溶液が漏れ出るおそれはほとんどなくなる。なお、ケーシング27の材質としては樹脂であってもよいが、金属であることが強度の観点から好ましい。なお金属の場合、アルカリ水溶液によって溶け出てしまうことがないよう、ステンレス等で構成されていることが好ましい。
【0064】
また、他の例の電解セル2では、ケーシング27の内部、より具体的には底及び蓋の下部分、更には側壁部分内側に絶縁部材232、233を配置し、これら絶縁部材232、233によって囲まれた領域に電極板21及び導電板22を配置する。
図8に、ケーシング27の底部、及び、配置された電極板21及び導電板22の上に配置される絶縁部材232の概略を示す。
【0065】
本図で示すように、他の例の絶縁部材232は、基板部2321とこの基板部に設けられる複数の突起2322を均等に備えている。この突起2322の間に電極板21又は導電板22を配置することで、絶縁を確保しながら平行かつ均等の間隔で配置することが可能となる。また上記のように、複数の電極板21及び導電板22は、ケーシング27の底に設けた上記絶縁部材232に基づき平行に並ぶことになるため、上側(蓋側)からも同様の形状の絶縁部材232を配置してこの配置を安定化させておく。さらに、上記の通り、絶縁部材232とケーシング27の隙間には板状の絶縁部材233を配置し、ケーシング27と電極板21等との絶縁性を確保しておくことが好ましい。これらの具体的な配置図について
図9に示し、完成した電解セル2の外観を
図10に、その内部の断面を
図11にそれぞれ示しておく。
【0066】
この他の例の電解セル2によると、ケーシング27によって電極板21及び導電板22を確実に覆うことが可能となるため、アルカリ水溶液が漏れ出るおそれが非常に少なくなるといった利点がある。
【0067】
以上、本装置1によって、より高効率な酸水素混合ガス発生装置及び酸水素混合ガス発生方法を提供することができる。
【実施例0068】
ここで、実際に装置の作製を行い、その効果を確認した。以下具体的に示す。
【0069】
まず、チタン板に白金メッキを施した導電板(縦110mm、横60mm、厚さ1.2mm)を9枚準備し、これらの間に中空の四角枠状のシリコーン樹脂(縦110mm、横60mm、厚さ2mm)の枠を8枚挟み込み、さらにこれらにポリプロピレン樹脂(縦150mm、横100mm、厚さ10mm)及びステンレス板(縦150mm、横100mm、厚さ2mm)の組で挟み込み、これらポリプロピレン樹脂及びステンレス板をボルトで貫通させながら締め上げて電解セルとした。なお、この締め上げにおいて、シリコーン樹脂の枠の厚さは1.2mmとなるように締め上げた。また、上記の各導電板には、2個の貫通穴が形成されており、電解セル内の空間は貫通した状態となっており、また、上記ステンレス板にはそれぞれ配管が接続されており、メインタンクと電解セルの間で循環路が形成されるようにした。
【0070】
また、メインタンクとして、SUS304のタンク(容量1.5L)を作製し、アルカリ水溶液を収容できるように構成し、上記電解セルと配管によって接続した。なお、メインタンクには冷却装置としてファンを取り付け、放熱できるようにした。またこの場合において、メインタンクから電解セルへのアルカリ水溶液の送出はメインポンプによって行うこととした。また、メインタンクには、その水位を検出するための水位検出装置を設置した。
【0071】
また、本装置において、電解セルからメインタンクへの戻し配管の先端は、メインタンクの水位検出装置の検出高さよりも高い位置にあることとした。
【0072】
また本装置では、サブタンクとして、ポリプロピレンのタンク(容量1.2L)を作製し、配管によってメインタンクに接続し、サブポンプによってアルカリ水溶液の送出が可能となるようにした。
【0073】
さらに、本装置では、ガスフィルタータンクとして、SUS304のタンク(0.75L)を作製し、メインタンクと配管により接続した。なお、ガスフィルタータンクには、酸水素混合ガスを排出するための排出配管を設けた。この結果、上記
図2で示すような酸水素混合ガス発生装置を作製した。
【0074】
そして、メインタンク及びサブタンクに、0.02%の水酸化ナトリウム水溶液をアルカリ水溶液として充填し、メインポンプ及びサブポンプを駆動させ、電解セルに12Vの電圧で3kWの電力を1時間供給したところ、1260Lの酸水素混合ガスが発生した。これは1分1W当たり7ccのガス発生効率であることが確認でき、非常に効率よくガスが発生していることを確認した。なお、1260Lの熱エネルギーは、ガスの組成から計算すると31,147kcalであることが計算上求められる。この結果、本装置によって非常に効率的な酸水素混合ガス発生装置になっていることが確認できた。