(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037674
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】インク組成物及び筆記具
(51)【国際特許分類】
C09D 11/17 20140101AFI20240312BHJP
B43K 7/01 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C09D11/17
B43K7/01
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071402
(22)【出願日】2023-04-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2022133805
(32)【優先日】2022-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】522338872
【氏名又は名称】未来創造開発センター合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002022
【氏名又は名称】弁理士法人コスモ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 爽香
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 瞳
(72)【発明者】
【氏名】山内 隆司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直樹
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350HA08
2C350KF05
4J039AD11
4J039AD15
4J039BC09
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE23
4J039CA07
4J039EA29
4J039EA48
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】十分な筆跡濃度、適度な吐出性、及び良好な消去性を有するインク組成物及びそのようなインク組成物を備える筆記具を提供する。
【解決手段】インク組成物30は、消去性を有するインク組成物30であって、平均粒子径が5~15μmの着色樹脂粒子と、バインダー樹脂と、溶媒とを少なくとも含み、着色樹脂粒子の比重と前記着色樹脂粒子以外の成分の比重との差が0.06以上0.7以下であり、吐出される紙面上に、バインダー樹脂が着色樹脂粒子を包み込んでなる皮膜を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消去性を有するインク組成物であって、
平均粒子径が5~15μmの着色樹脂粒子と、バインダー樹脂と、溶媒とを少なくとも含み、
前記着色樹脂粒子の比重と前記着色樹脂粒子以外の成分の比重との差が0.06以上0.7以下であり、
吐出される紙面上に、前記バインダー樹脂が前記着色樹脂粒子を包み込んでなる皮膜を形成する、
インク組成物。
【請求項2】
前記着色樹脂粒子の比重と前記着色樹脂粒子以外の成分の比重との差が0.25以下である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
吐出される紙面上に対して定着性を有する皮膜を形成する、請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記皮膜の厚みが1~100μmの範囲内である、請求項3に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記バインダー樹脂がアクリロニトリルブタジエンゴムである、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記アクリロニトリルブタジエンゴムを19~26重量部含む、請求項4に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記着色樹脂粒子がアクリル系樹脂粒子又はウレタン系樹脂粒子である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項8】
前記着色樹脂粒子の添加量が10~20重量%であり、添加量が0.4重量%以下の増粘剤を含む、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のインク組成物が充填された筆記具。
【請求項10】
消去性を有するインク組成物であって、
平均粒子径が5μm未満の着色樹脂粒子と、バインダー樹脂と、溶媒とを少なくとも含み、
前記着色樹脂粒子の比重と前記着色樹脂粒子以外の成分の比重との差が0.05以下であり、
吐出される紙面上に、前記バインダー樹脂が前記着色樹脂粒子を包み込んでなる皮膜を形成する、
インク組成物。
【請求項11】
吐出される紙面上に対して定着性を有する皮膜を形成する、請求項10に記載のインク組成物。
【請求項12】
前記皮膜の厚みが1~100μmの範囲内である、請求項11に記載のインク組成物。
【請求項13】
前記バインダー樹脂がアクリロニトリルブタジエンゴムである、請求項10に記載のインク組成物。
【請求項14】
前記アクリロニトリルブタジエンゴムを19~26重量部含む、請求項12に記載のインク組成物。
【請求項15】
前記着色樹脂粒子がポリスチレン系樹脂粒子である、請求項10に記載のインク組成物。
【請求項16】
前記着色樹脂粒子の添加量が10~20重量%であり、添加量が0.4重量%以下の増粘剤を含む、請求項10に記載のインク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物及び筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消しゴム等により筆跡等を消去することができる消去性を有するインク組成物が提案されている。例えば特許文献1には、2~30μmの範囲の平均粒子径を有する顔料粒子(着色樹脂粒子)を着色剤として用いる筆記具消しゴム消去性水性インキ組成物が開示されている。このインキ組成物は、高分子凝集剤を添加することにより、顔料粒子間で橋架け構造を発現させ、顔料粒子の紙面への沈降、分離を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のインキ組成物では、着色樹脂粒子の沈降、分離を抑えるために橋架け構造を作る高分子凝集剤を比較的多く添加するため、粘度が高くなる傾向があった。また、着色樹脂粒子の添加量を増やすと、インキ組成物の粘度がさらに高くなり吐出性が悪くなるため、十分な筆跡濃度を得ることが困難であった。一方で、良好な吐出性や十分な筆跡濃度を得るために添加する顔料粒子の粒子径をなるべく小さくすると、紙面に顔料粒子が入り込み、消字性能が低下する虞があった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みて創作されたものであり、十分な筆跡濃度、適度な吐出性、及び良好な消去性を有するインク組成物及びそのようなインク組成物を備える筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意研究を行った結果、インク組成物に含まれる着色樹脂粒子と着色樹脂粒子以外の成分が所定の関係性を満たすことにより、吐出されたインクの紙面への沈降を抑制できること、及び紙面に吐出されたインクが所定の皮膜を形成するとともに優れた消去性を示すことを見出した。
【0007】
即ち、本発明のインク組成物は、消去性を有するインク組成物であって、平均粒子径が5~15μmの着色樹脂粒子と、バインダー樹脂と、溶媒とを少なくとも含み、前記着色樹脂粒子の比重と前記着色樹脂粒子以外の成分の比重との差が0.06以上0.7以下であり、吐出される紙面上に、前記バインダー樹脂が前記着色樹脂粒子を包み込んでなる皮膜を形成する。
【0008】
また、本発明の筆記具は、上記のインク組成物が充填されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、十分な筆跡濃度、適度な吐出性、及び良好な消去性を有するインク組成物及びそのようなインク組成物を備える筆記具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係るボールペンの外観を示す模式図であり、(a)はキャップを付けた状態を示し、(b)はキャップを外した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係るインク組成物について説明する。本実施形態に係るインク組成物は、着色樹脂粒子、バインダー樹脂、及び溶媒を少なくとも含んでいる。紙面上に吐出されたインク組成物は、紙面に沈降することなく(換言すれば、紙の繊維の間に入り込むことなく)、インク組成物による筆跡が紙面上に皮膜を構成する。本実施形態に係るインク組成物は、吐出された紙面上に所定の皮膜を形成し、一般的な消しゴム等を用いることにより優れた消去性を示す。換言すれば、本実施形態のインク組成物により紙面上に形成された皮膜からなる筆跡は、消しゴム等により擦り?されることで消し屑(皮膜の?し屑)を発生させつつ効果的に消去される。
【0012】
本実施形態に係るインク組成物は、例えばボールペンの内部に充填されて使用される。
図1(a)及び(b)は、実施形態に係るインク組成物30を備えるキャップ式のボールペン10の外観を示す模式図である。
図1(a)、(b)に示すように、インク組成物30は、ボールペン10におけるケース12の内部に収納されるリフィール(不図示)のインクタンクに充填されている。インク組成物30は、キャップ14に収容されるボールペン10のペン先10aから吐出されるようになっている。
【0013】
また、ボールペン10のうちペン先10aとは反対側のペン端部10bのケース12には、インク組成物30により紙面上に記載された筆跡を消去するための字消し20が固定されている。字消し20は、ケース12に固定されることにより、擦過操作の際にケース12から外れないようになっている。なお、字消し20は、ケース12に固定されるだけでなく、ケース12に装着、又は被覆されていてもよい。また、ボールペン10において字消し20が取り付けられる部位はケース12に限定されず、ボールペン10の外部に露出する外装部材であればよい。ここでいう外装部材には、例えばキャップ、先部材(先金)、筒軸(ケース)、尾栓、把持部材(グリップ部)、操作部材(ノック部)が挙げられる。
【0014】
字消し20は、材質が所定のエラストマーからなっており、インク組成物30に対してインク消去性を有する粘弾性体とされる。字消し20は、後述するインク組成物30に含まれるバインダー樹脂とのSP(Solubility Parameter)値(溶解パラメータ)((cal/cm3)1/2)の差が0.1以上となるような材質で形成されていることが好ましい。ここでいうSP値は、1cm3の液体が蒸発するために必要な蒸発熱の平方根から算出される。上記SP値の差が0.1以上であれば、字消し20とインク組成物30に配合されているバインダー樹脂との間の親和性が低くなり(溶解し難くなり)、紙面に記載されたインク組成物による筆跡を擦り?して消去する際、バインダー樹脂が紙面上に伸びることが抑制される。
【0015】
また、字消し20は、その表面に対してインク組成物30を滴下したときの接触角が60°未満であるような材質で形成されていることが好ましい。ここでいう接触角は、静的接触角をいい、例えばθ/2法により測定される。上記接触角が60°未満であれば、筆跡を消去する際、字消し20とインク組成物30による筆跡を構成する皮膜との間が滑りにくくなり(筆跡上を滑り難くなり)、字消し20に筆跡を構成する皮膜が付着し易くなり、筆跡を消去し易くなる。
【0016】
字消し20の材質は、具体的には、一般的な消しゴムの材質として用いられるような天然ゴム、合成ゴム、合成樹脂のいずれかであることが好ましい。合成ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素系ゴム等を挙げることができる。合成樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー(ポリウレタン系、スチレン系、オレフィン系、ポリエチレン系)等を挙げることができる。インク組成物30に配合されるバインダー樹脂とのSP値の差を比較することにより、上記の材質の中から適切な材質を選択することができる。
【0017】
次に、本実施形態に係るインク組成物30について詳述する。インク組成物30は、内部にカーボンブラック等の顔料が内包された平均粒子径が5~15μmの着色樹脂粒子を含んでいる。好ましい着色樹脂粒子の平均粒子径は、6μm程度である。着色樹脂粒子の平均粒子径が5μmより小さければ、紙面上に吐出されたインク組成物30が紙面に沈降し易くなり、紙の繊維の間に入り込み易くなる。一方、着色樹脂粒子の平均粒子径が15μmより大きければ、筆跡濃度が低下する。着色樹脂粒子の平均粒子径が上記範囲内であることにより、インク組成物30により、紙の繊維に入り込むのを防止し、実用的な筆跡濃度とすることができる。なお、着色樹脂粒子の平均粒子径は、着色樹脂粒子を水中に分散し、レーザ回転式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0018】
また、インク組成物30は、着色樹脂粒子間に結着性を持たせるための粘着性を有するバインダー樹脂、及び溶媒を含んでいる。溶媒には、着色樹脂粒子を分散させるための分散剤、インク組成物30にいわゆるキャップオフ性を付与するための高沸点溶剤、増粘剤水溶液中の液体成分、水等、インク組成物30における全ての液体成分が含まれる。
【0019】
また、インク組成物30では、着色樹脂粒子の比重と上記溶媒を含む着色樹脂粒子以外の全ての成分の比重との差が0.06以上0.7以下とされている。上記比重差が0.7より大きいと、インク組成物30が吐出された紙面上において皮膜が形成されるより前に着色樹脂粒子が紙面に沈降し、インク組成物30による筆跡を消去する際に消し残りが発生する。また、上記比重差が0.06より小さい配合とは、分散剤等の比重の大きな他の成分を多く含む組成であり、その結果、インク組成物30の粘度が上昇して吐出性が悪化する。上記比重差が0.06以上0.7以下とされることにより、紙面上において皮膜が形成されるより前に着色樹脂粒子が紙面に沈降することが抑制され、粘着性を有するバインダー樹脂が着色樹脂粒子を包み込みながら、紙面上に皮膜が形成される。即ちインク組成物30は、吐出される紙面上に、バインダー樹脂が着色樹脂粒子を包み込んでなる皮膜を形成する。インク組成物30による筆跡の消去性を良好なものとすることができる。
【0020】
さらに、インク組成物30において着色樹脂粒子の平均粒子径が上記範囲内にあることに加えて着色樹脂粒子と着色樹脂粒子以外の成分との比重差が0.06以上0.7以下とされることにより、実用可能な筆記濃度を担保しつつ、インク組成物30が紙面上に吐出されると、紙の繊維に入り込むのを防止し、さらにバインダー樹脂が着色樹脂粒子を包み込むことで消去性を良好にすることができる。
【0021】
インク組成物30では、着色樹脂粒子と着色樹脂粒子以外の成分との比重差が、0.25以下または0.11以下であることがより一層好ましい。上記比重差が小さくなることにより、着色樹脂粒子の紙面への沈降が一層抑制される。これにより、インク組成物30による筆跡を消去する際に、筆跡の消去性を一層良好なものとすることができる。
【0022】
また、インク組成物30は、吐出される紙面上に対して定着性を有する皮膜を形成することが好ましい。上述したようにインク組成物30により紙面上に皮膜が皮張り状に形成されることにより、皮膜が紙面から剥がれ難くなる。即ち、紙面上に対して定着性を有する皮膜が形成されるため、意図的に消去しない限り、紙面から皮膜が剥がれることはない。このように、定着性を有する皮膜が形成されることにより、皮膜の表面を指等で擦った場合でも皮膜の一部が紙面から剥がれて紙面上を摺動することが防止される。このため、紙面上を汚染しないインク組成物30を実現することができる。
【0023】
また、吐出されたインク組成物30により紙面上に形成される皮膜の厚みは、1~100μmの範囲内であることが好ましい。インク組成物30に含まれる着色樹脂粒子の最小粒子径は約1μmであるため、上記皮膜の厚みは少なくとも1μm以上とされる。一方、上記皮膜の厚みが100μmより大きければ、インク組成物30が紙面上に吐出された際にその溶媒成分が紙面に吸収及び大気中に揮発するのに時間を要し、渇きが極度に遅くなり、インク組成物30による筆跡を消去し難くなる。皮膜の厚みが上記範囲内であることにより、皮膜からなる筆跡を字消し20により擦り?して消去する際、消去し易く(擦り?し易く)することができる。なお、インク組成物30にラメ等の粒子径が大きな材料が混入されている場合は、その材料の厚みの分、皮膜の厚みが増加してもよい。
【0024】
また、インク組成物30に含まれるバインダー樹脂は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)であることが好ましい。バインダー樹脂がアクリロニトリルブタジエンゴムであると、吐出されたインク組成物30の紙面への定着性とインク組成物30による筆跡の消しゴムによる消去性との均衡が最適に保たれるためである。つまり、定着性があることで、指で擦っても紙面を汚染せず、皮膜を意図的に消さない限り、紙面に定着している。アクリロニトリルブタジエンゴム以外のバインダー樹脂としては、スチレンブタジエンゴム、ウレタンゴム等を挙げることができる。
【0025】
また、インク組成物30に含まれるバインダー樹脂としてのアクリロニトリルブタジエンゴムは、インク組成物30の全量に対して19~26重量部含まれることが好ましい。アクリロニトリルブタジエンゴムの配合量が19重量部より少ないと、着色樹脂粒子間に結着性が低下し、インク組成物30による筆跡の消去性が低下する。一方、アクリロニトリルブタジエンゴムの配合量が26重量部より多いと、インク組成物30中の固形分濃度が上がるため、インク組成物30の粘度が上がり、吐出性が悪化するためである。アクリロニトリルブタジエンゴムの配合量を上記範囲内とすることにより、インク組成物30による筆跡の消去性を良好なものとすることができる。
【0026】
着色樹脂粒子は、カーボンブラックに代表される各種の顔料を各種樹脂材料に分散配合しているものであり、その製造方法として、顔料成分を樹脂材料に配合し、溶融混練後に粉砕して着色樹脂粒子とする溶融混練法、重合性単量体中に顔料成分を分散配合し水系媒体中で懸濁重合を行なうことにより着色樹脂粒子を製造する懸濁重合法等が挙げられる。或いは、顔料に樹脂材料を被覆させた着色樹脂粒子であっても良い。また、インク組成物30に含まれる着色樹脂粒子に使われる樹脂材料は、アクリル系樹脂粒子又はウレタン系樹脂粒子であることが好ましい。なお、着色樹脂粒子は中空のものであってもよい。
【0027】
樹脂材料に分散配合する顔料は特に限定されないが、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、インジゴ系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、金属錯体顔料、キノフタロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、酸化チタン系顔料等を使用することができる。
【0028】
本実施形態のインク組成物30は、上記の着色樹脂粒子及びバインダー樹脂以外に、着色樹脂粒子を分散させるためのアクリル系等の分散剤、インク組成物30にいわゆるキャップオフ性を付与するための高沸点溶剤、粘度調整のための増粘剤、水等を含んでもよい。分散剤には、着色樹脂粒子に対して親和性を有する各種界面活性剤や水溶性高分子等が用いられる。水の配合量は、インク組成物30の吐出性(粘度)に応じて調整される。インク組成物30の吐出性については、かすれることなく紙面上に吐出され続けることが好ましく、濃薄の区別なく紙面上に吐出され続けることがより好ましい。
【0029】
高沸点溶剤は、添加し過ぎると筆跡の乾燥性が低下するため、他の成分の邪魔をしないような必要最低限の量に留めることが好ましい。高沸点溶剤としては、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等を挙げることができる。本実施形態のインク組成物30では、高沸点溶剤としてエチレングリコールを配合することがより好ましい。エチレングリコールを配合することにより、低温環境下におけるインク組成物30の安定性を良好なものとすることができる。
【0030】
増粘剤としては、アラビアガム、トラガカントガム、キサンタンガム等の多糖類、カゼイン、ゼラチン等の蛋白質、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、エチレン-プロピレン共重合体、ポリビニルアルコール、ベントナイトを挙げることができる。本実施形態のインク組成物30では、増粘剤としてキサンタンガムを配合することがより好ましい。せん断減粘性を付与するものであれば、キサンタンガム以外の増粘剤であってもよい。
【0031】
さらに、本発明では必要に応じて、筆跡の筆記面に対する素早いインキの浸透、筆跡乾燥性を向上するための添加剤として、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ヘキシレングリコール(2-メチルペンタン-2,4-ジオール)、湿潤剤として尿素、エチレン尿素、チオ尿素、防腐剤としてフェノキシエタノール、ベンゾチアゾリン系、オマジン系、また防黴剤、防錆剤、潤滑剤、消泡剤、pH調整剤、光沢付与剤、香料を加えてもよい。
【0032】
本実施形態のインク組成物30は、着色樹脂粒子の添加量が10~20重量%であることが好ましく、増粘剤の添加量が0.4重量%以下であることが好ましい。着色樹脂粒子の添加量が上記範囲内であることにより、十分な筆跡濃度、適度な吐出性、及び良好な消去性が実現される。また、増粘剤の添加量が上記範囲内であることにより、適度な吐出性が実現される。
【0033】
以上のような構成とされた本実施形態に係るインク組成物30は、消去性を有するインク組成物であって、平均粒子径が5~15μmの着色樹脂粒子と、バインダー樹脂と、溶媒とを少なくとも含み、着色樹脂粒子の比重と着色樹脂粒子以外の成分の比重との差が0.06以上0.7以下であり、吐出される紙面上に、バインダー樹脂が着色樹脂粒子を包み込んでなる皮膜を形成する。
【0034】
即ち、本実施形態のインク組成物30は、着色樹脂粒子と着色樹脂粒子以外の成分が上記の関係性を満たすことにより、着色樹脂粒子の紙面への沈降が抑制され、吐出された紙面上に上記のような態様の定着性を有する皮膜が形成される。このため、紙面上に形成された皮膜からなる筆跡を消しゴム等で擦り剥すことにより、皮膜の剥し屑を発生させつつ、容易に筆跡を消去することができる。このように、着色樹脂粒子の紙面への沈降を抑えながら消去性に優れたインク組成物30を実現することができる。
【0035】
さらに、本実施形態のインク組成物30による筆跡は、上記のような態様の皮膜から構成されることにより、従来の熱変色性インクによる筆跡に比して耐光性や耐温度性に優れており、消去した筆跡が環境温度の変化により復元することがない。また、着色樹脂粒子の紙面への沈降が抑制されることから、従来の熱変色性インクに比して筆跡濃度が濃く、書き心地にも優れている。
【0036】
また、本実施形態のインク組成物30による筆跡は、上記のような態様の皮膜から構成され、紙面上への皮膜の定着性も担保されることから、鉛筆による筆跡に手が触れるなどにより紙面を汚染することがない。また、着色樹脂粒子の紙面への沈降が抑制されることから、鉛筆に比して筆跡濃度が濃く、かつ筆跡幅を一定とすることができる。以上のように本実施形態では、十分な筆跡濃度、適度な吐出性、及び良好な消去性を有し、従来の熱変色性インクによるデメリット及び鉛筆によるデメリットが克服された新規なインク組成物30を提供することができる。
【0037】
また、本実施形態に係るボールペン10は、上記のインク組成物30が充填されている。これにより、インク組成物30を紙面上に吐出して筆跡を記載するための具体的な構成を提供することができる。
【0038】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るインク組成物について説明する。第2実施形態に係るインク組成物は、成分中に含まれる着色樹脂粒子の粒子径、及び着色樹脂粒子の比重と着色樹脂粒子以外の全ての成分の比重との差が第1実施形態のものと異なっている。インク組成物中のその他の成分、着色樹脂粒子の構成及び製造方法等については、第1実施形態のインク組成物30と同様であるためその説明を省略する。
【0039】
本実施形態のインク組成物は、内部にカーボンブラック等の顔料が内包された平均粒子径が5μm未満の着色樹脂粒子を含んでおり、着色樹脂粒子の比重と上記溶媒を含む着色樹脂粒子以外の全ての成分の比重との差が0.05以下とされている。平均粒子径5μm未満であるものの、比重差が0.05より大きい場合、紙面上において皮膜が形成されるより前に着色樹脂粒子が沈降してしまい、消字性が悪化する。また、比重差が0.05以下であるが、着色樹脂粒子の平均粒子径が5μm以上である場合(この場合の配合とは分散剤等の比重の大きな他の成分を多く含む組成である)、比重の大きな他の成分を多く含むことにより、インク組成物の粘度が上昇するため、吐出性が悪化する。
【0040】
以上のことから、着色樹脂粒子の平均粒子径を5μm未満とし、かつ着色樹脂粒子の比重と上記溶媒を含む着色樹脂粒子以外の全ての成分の比重との差を0.05以下とすることにより、紙面上において皮膜が形成されるより前に着色樹脂粒子が紙面に沈降することが抑制され、粘着性を有するバインダー樹脂が着色樹脂粒子を包み込みながら、紙面上に皮膜が形成されて良好な消字性が実現され、さらに適度な吐出性が実現される。なお、本実施形態のインク組成物に含まれる着色樹脂粒子に使われる樹脂材料は、ポリスチレン系樹脂粒子、ポリエチレン系樹脂粒子、ポリプロピレン系樹脂粒子であることが好ましい。
【0041】
このように例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン材等を用いて着色樹脂粒子を作製する、あるいは着色樹脂粒子そのものを中空構造としたものを作製することにより、アクリロニトリルブタジエンゴムを主体とする溶媒中で沈降することがない。さらに、紙面に対してアクリロニトリルブタジエンゴムエマルジョンは粘着層を形成し、その上に樹脂顔料が定着することにより、消去性を維持することができ、さらに粒子径を小さくすることが可能となり、筆跡濃度も維持することができる。
【0042】
以上のような構成とされた本実施形態に係るインク組成物は、消去性を有するインク組成物であって、平均粒子径が5μm未満の着色樹脂粒子と、バインダー樹脂と、溶媒とを少なくとも含み、着色樹脂粒子の比重と着色樹脂粒子以外の成分の比重との差が0.05以下であり、吐出される紙面上に、バインダー樹脂が着色樹脂粒子を包み込んでなる皮膜を形成する。このため、第1実施形態のインク組成物30と同様に、紙面上に形成された皮膜からなる筆跡を消しゴム等で擦り剥すことにより、皮膜の剥し屑を発生させつつ、容易に筆跡を消去することができる。このため、本実施形態においても、十分な筆跡濃度、適度な吐出性、及び良好な消去性を有するインク組成物を実現することができる。
【0043】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば第1実施形態では、インク組成物が充填されたボールペンを例示したが、インク組成物が充填される筆記具については限定されない。例えば、インク組成物が充填された万年筆やマーカーであってもよいし、インク組成物が充填された毛筆であってもよい。
【実施例0044】
(第1実施例)
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。第1実施例では、インク組成物として最適な組成の検討を行った。具体的には、配合される着色樹脂粒子の種類、着色樹脂粒子の平均粒子径、バインダー樹脂の配合量、着色樹脂粒子と着色樹脂粒子以外の成分との比重差を変化させたインク組成物を31サンプル(25種類の実施例サンプルと6種類の比較例サンプル)用意した。31サンプルの各インク組成物について、吐出性、筆跡濃度(実験方法により塗布部濃度と言い換える)、筆跡消去性(実験方法により消去部濃度と言い換える)をそれぞれ評価した。
【0045】
(1)各インク組成物の組成
着色樹脂粒子の平均粒子径については、0.02~18μmの範囲内で平均粒子径が異なる着色樹脂粒子が、固形分含有量を45%としてアクリル系分散剤中に分散された21種類の分散液を用いた。着色樹脂粒子の種類については、アクリル系着色樹脂粒子が分散された11種類の分散液(分散液A~F、H、I、L~N)と、ウレタン系着色樹脂粒子が分散された4種類の分散液(分散液G、J、K、O)と、ポリスチレン系着色樹脂粒子が分散された6種類の分散液(分散液P~U)を用いた。分散液A~Gの組成を下記表1に示し、分散液H~Nの組成を下記表2に示し、分散液O~Uの組成を下記表3に示す。各分散液の組成について配合量の単位は重量%(全量100重量%)である。なお、ここでいう平均粒子径とは、レーザ回折法において体積基準により算出されたD50の値である。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
バインダー樹脂の配合量については、各インク組成物に配合されるバインダー樹脂をアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)とした。具体的には、固形分含有量が48.5%のNBRエマルジョンを用いた。そして、各インク組成物について、アクリロニトリルブタジエンゴムの配合量(以下、「NBR配合量」という。)を19~27重量%の範囲内で変化させた。着色樹脂粒子と着色樹脂粒子以外の成分との比重差については、比重差が0.05、0.07、0.1、0.11、0.13、0.25、0.26、0.7、0.79のインク組成物を用意した。
【0050】
各インク組成物について、着色樹脂粒子(分散液A~G)、及びバインダー樹脂(アクリロニトリルブタジエンゴム)以外の組成については、高沸点溶剤としてエチレングリコール、増粘剤として3%のキサンタンガム水溶液、そして水を配合した。着色樹脂粒子と着色樹脂粒子以外の成分との比重差が0.06以上のサンプルについては、下記表4に実施例1~10の各組成を示し、下記表5に実施例11~20の各組成を示し、下記表6に比較例1~6の各組成を示す。また、着色樹脂粒子と着色樹脂粒子以外の成分との比重差が0.05以下のサンプルについては、下記表6に比較例4、5の各組成を示し、下記表7に実施例21~25の各組成及び比較例6の組成を示す。なお、表4~表7に示す配合量の単位は、重量%(全量100重量%)である。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
配合される着色樹脂粒子の平均粒子径の比較検討については、実施例1~20のインク組成物の各サンプルを、着色樹脂粒子の平均粒子径が6μm、11μm、15μmの分散液C、D、E、G、H、I、J、K、Nでそれぞれ作製し(表4及び表5参照)、実施例21~25のインク組成物の各サンプルを、着色樹脂粒子の平均粒子径が0.02μm、0.1μm、0.3μm、1μm、3μmの分散液P、Q、R、S、Tでそれぞれ作製した(表7参照)。一方、比較例1~5のインク組成物の各サンプルは、着色樹脂粒子の平均粒子径が0.235μm、3μm、6μm、15μm、18μmの分散液A、B、F、L、M、Oでそれぞれ作製し(表6参照)、比較例6のインク組成物のサンプルを、着色樹脂粒子の平均粒子径が6μmの分散液Uで作製した(表7参照)。
【0056】
バインダー樹脂の配合量の比較検討については、実施例17のインク組成物のサンプルは、NBR配合量を1重量%で作製し、実施例6のインク組成物のサンプルは、NBR配合量を17重量%で作製し、実施例1、10、11のインク組成物のサンプルは、NBR配合量を19重量%で作製し、実施例12、13のインク組成物のサンプルは、NBR配合量を21重量%で作製し、実施例20のインク組成物のサンプルは、NBR配合量を22重量%で作製し、実施例18のインク組成物のサンプルは、NBR配合量を23重量%で作製し、実施例2、4、5、8、9、14~16、21~25のインク組成物の各サンプルは、NBR配合量を24重量%で作製し、実施例19のインク組成物のサンプルは、NBR配合量を25重量%で作製し、実施例3のインク組成物のサンプルは、NBR配合量が26重量%で作製し、実施例7のインク組成物のサンプルは、NBR配合量を27重量%で作製した(表6及び表7参照)。
【0057】
一方、比較例4、5のインク組成物の各サンプルは、NBR配合量を19重量%で作製し、比較例1~3、6のインク組成物の各サンプルは、いずれもNBR配合量を24重量%で作製した(表6及び表7参照)。
【0058】
着色樹脂粒子と着色樹脂粒子以外の成分との比重差の比較検討は、実施例1~7、14~16のインク組成物の各サンプルについて比重差が0.11となるように、実施例8のインク組成物のサンプルについて比重差が0.25となるように、実施例9のインク組成物のサンプルについて比重差が0.26となるように、実施例10、11のインク組成物のサンプルについて比重差が0.07となるように、実施例12、13のインク組成物のサンプルについて比重差が0.7となるように、実施例17のインク組成物のサンプルについて比重差が0.1となるように、実施例18~20のインク組成物の各サンプルについて比重差が0.13となるように、実施例21~25のインク組成物の各サンプルについて比重差が0.05となるように、それぞれ調整して作製した(表4、表5、及び表7参照)。
【0059】
一方、比較例1、2のインク組成物のサンプルについて比重差が0.11となるように、比較例3のインク組成物のサンプルについて比重差が0.79となるように、比較例4、5、6のインク組成物の各サンプルについて比重差が0.05となるように、それぞれ調整して作製した(表6及び表7参照)。
【0060】
(2)各インク組成物の評価
各インク組成物の吐出性の評価については、ボールペンに充填させた各インク組成物を紙面(JIS-S-5504に準拠した中身原紙)上に吐出して筆跡を記載し、濃薄の区別なく紙面上に吐出され続けたものを◎評価とし、吐出される間にややかすれが生じるが、筆跡に全く影響がなかったものを〇評価とし、吐出される間にややかすれが生じるが、筆跡は記載できたものを△評価とし、かすれて紙面上に筆跡を記載できなかったものを×評価とした。
【0061】
各インク組成物の塗布部濃度の評価については、各インク組成物を、バーコーター(井元製作所製:No.7)を用いて上記紙面上に吐出し、紙面上に一定の厚みの皮膜を形成した。そして、紙面上に形成した皮膜について、蛍光分光濃度計(コニカミノルタ社製:FD-5)を用いてその光学濃度を測定した。測定結果について、1.0以上であったものを◎と評価し、1.0未満、0.9以上であったものを〇と評価し、0.9未満、0.8以上であったものを△と評価し、0.8未満であったものを×と評価した。
【0062】
各インク組成物の消去部濃度の評価については、塗布部濃度の評価に用いた各皮膜を一般的な消しゴム(塩ビ剤:30~40%、可塑剤:40~50%、その他:10~30%)で荷重1kgの条件で擦り?して消去し、上記の蛍光分光濃度計を用いてその光学濃度を測定した。測定結果について、0.012以下であったものを◎と評価し、0.12よりも大きく、0.18以下であったものを〇と評価し、0.18よりも大きく、0.02以下であったものを△、0.02より大きかったものを×と評価した。
【0063】
(3)評価結果
各インク組成物についての吐出性、塗布部濃度、消去部濃度の評価結果を、実施例1~20及び比較例1~5については下記表8に示し、実施例21~25及び比較例6については下記表9に示す。
【0064】
【0065】
【0066】
まず、実施例1~20及び比較例1~6の評価結果について検討する。表8に示すように、吐出性の比較検討については、実施例1~20の全ての実施例と比較例1、3のインク組成物が◎評価、〇評価又は△評価であることが確認できた。塗布部濃度の比較検討については、実施例1~20の全ての実施例と比較例1~6のうち比較例2を除く全ての比較例のインク組成物が◎評価、〇評価又は△評価であることが確認できた。消去部濃度の比較検討については、実施例1~20の全ての実施例と比較例1~5のうち比較例1、3を除く全ての比較例のインク組成物が◎評価、〇評価又は△評価であることが確認できた。
【0067】
吐出性、塗布部濃度、消去部濃度の全ての評価項目について△評価以上とすることで、実用可能な筆記濃度を担保しつつ、インク組成物30が紙面上に吐出された際にインクが紙の繊維に入り込むのを防止し、さらにバインダー樹脂が着色樹脂粒子を包み込むことで消去性を良好にすることができる。
【0068】
実施例1~20及び比較例1~6の評価検討では、比較例1~6は、少なくとも一つの評価項目が×評価であった。一方、実施例1~20のうち全ての評価項目が〇評価以上となる、より良好な評価結果であった実施例1~8、10、11、14~16、19は、着色顔料粒子と着色樹脂粒子以外の成分との比重差が0.25以下であることが分かった。更により一層良好な評価結果であった実施例1~5、8、10、11、14、16のインク組成物は、アクリル系着色樹脂粒子又はウレタン系着色樹脂粒子で、その平均粒子径が5~15μmの範囲内の分散液が配合されており、かつNBR配合量が19~26重量%の範囲内で配合されており、さらに着色樹脂粒子と着色樹脂粒子以外の成分との比重差が0.25以下であることが分かった。
【0069】
実施例1~20のうち吐出性、塗布部濃度、消去部濃度の全ての評価項目において◎評価であり、最も優れた評価結果を示した実施例1、2、10のインク組成物は、着色樹脂粒子の平均粒子径が6μm、NBR配合量が19~24重量%、着色樹脂粒子と溶媒との比重差が0.06以上0.11以下であることが確認され、平均粒子径が5~15μmの着色樹脂粒子を含むインク組成物では、これがインク組成物として最適な組成であることが分かった。
【0070】
次に、実施例21~25及び比較例6の評価結果について検討する。表9に示すように、吐出性の比較検討については、実施例21~25及び比較例7の全てのインク組成物が◎評価であることが確認できた。塗布部濃度の比較検討については、比較例7のみ×評価であり、実施例21~25は◎評価又は〇評価であることが確認できた。消去部濃度の比較検討については、実施例21~25及び比較例7の全てのインク組成物が◎評価、〇評価又は△評価であることが確認できた。
【0071】
実施例21~25及び比較例7の評価検討では、全ての評価項目が〇評価以上となる、より良好な評価結果であった実施例24、25は、着色顔料粒子と着色樹脂粒子以外の成分との比重差が0.05であることが分かった。更により一層良好な評価結果であった実施例25のインク組成物は、ポリスチレン系着色樹脂粒子で、その平均粒子径が3μmの分散液が配合されており、かつNBR配合量が24重量%で配合されており、さらに着色樹脂粒子と着色樹脂粒子以外の成分との比重差が0.05であることが確認され、平均粒子径が5μm未満の着色樹脂粒子を含むインク組成物では、これがインク組成物として最適な組成であることが分かった。
【0072】
(第2実施例)
第2実施例では、紙面上に吐出したインク組成物により形成される皮膜の膜厚を測定した。測定に用いるインク組成物は、上記表2に示す実施例2のインク組成物を用いた。また、インク組成物はボールペンに充填されたものを吐出し、インク組成物を吐出する紙面は、JIS-S-5504に準拠した中身原紙とした。
【0073】
具体的には、以下のように膜厚の測定を行った。まず、紙面上にインク組成物を吐出して5本の直線を記載した。次に、第1実施例で用いた一般的な消しゴムにより各直線の中央部近傍を消去した。次に、各直線についてインク組成物が消去されていない箇所とインク組成物が消去された箇所の厚みをそれぞれ測定した。そして、インク組成物が消去されていない箇所とインク組成物が消去された箇所との差を算出し、これを膜厚とした。これにより、筆圧による紙面の凹みの影響を排除した。
【0074】
なお、膜厚の測定には、段差計(キーエンス製:VR-3000)を用い、1つの直線につき2箇所(1箇所につき、インク組成物が消去されていない箇所とインク組成物が消去された箇所の膜厚を測定)測定し、計10箇所の領域(領域1~領域10)を測定した。下記表10に測定結果を示す。
【0075】
【0076】
表10に示すように、紙面上に吐出したインク組成物により形成される皮膜の膜厚は、16~56μmの範囲内であることが確認できた。また、インク組成物に配合される着色樹脂粒子の最小粒子径が1μm程度であること、及びラメ等(平均粒子径100μm)の着色樹脂粒子以外の粒子が混入されている場合もあることを考慮すると、インク組成物により形成される皮膜は、1~100μmの範囲内の膜厚となることが推測できた。
字消し20は、材質が所定のエラストマーからなっており、インク組成物30に対してインク消去性を有する粘弾性体とされる。字消し20は、後述するインク組成物30に含まれるバインダー樹脂とのSP(Solubility Parameter)値(溶解パラメータ)((cal/cm3)1/2)の差が0.1以上となるような材質で形成されていることが好ましい。ここでいうSP値は、1cm3の液体が蒸発するために必要な蒸発熱の平方根から算出される。上記SP値の差が0.1以上であれば、字消し20とインク組成物30に配合されているバインダー樹脂との間の親和性が低くなり(溶解し難くなり)、紙面に記載されたインク組成物による筆跡を擦り剥して消去する際、バインダー樹脂が紙面上に伸びることが抑制される。
また、吐出されたインク組成物30により紙面上に形成される皮膜の厚みは、1~100μmの範囲内であることが好ましい。インク組成物30に含まれる着色樹脂粒子の最小粒子径は約1μmであるため、上記皮膜の厚みは少なくとも1μm以上とされる。一方、上記皮膜の厚みが100μmより大きければ、インク組成物30が紙面上に吐出された際にその溶媒成分が紙面に吸収及び大気中に揮発するのに時間を要し、渇きが極度に遅くなり、インク組成物30による筆跡を消去し難くなる。皮膜の厚みが上記範囲内であることにより、皮膜からなる筆跡を字消し20により擦り剥して消去する際、消去し易く(擦り剥し易く)することができる。なお、インク組成物30にラメ等の粒子径が大きな材料が混入されている場合は、その材料の厚みの分、皮膜の厚みが増加してもよい。
各インク組成物の消去部濃度の評価については、塗布部濃度の評価に用いた各皮膜を一般的な消しゴム(塩ビ剤:30~40%、可塑剤:40~50%、その他:10~30%)で荷重1kgの条件で擦り剥して消去し、上記の蛍光分光濃度計を用いてその光学濃度を測定した。測定結果について、0.012以下であったものを◎と評価し、0.12よりも大きく、0.18以下であったものを〇と評価し、0.18よりも大きく、0.02以下であったものを△、0.02より大きかったものを×と評価した。