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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037679
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】継手
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
E01D19/12
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117146
(22)【出願日】2023-07-18
(62)【分割の表示】P 2023092795の分割
【原出願日】2023-05-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2022142601
(32)【優先日】2022-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】510202167
【氏名又は名称】Next Innovation合同会社
(72)【発明者】
【氏名】道脇 裕
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】道路橋床版同士の位置決め作業性を向上させ、また道路橋床版に内在する寸法、相対位置等の誤差や接合現場における現場誤差等を大きく吸収することが可能で、施工性が良好で且つ作業効率が良く、よって省人化を図ることを可能としながらも、道路橋床版同士の接合の作業時間を短縮可能とする手段を提供する。
【解決手段】道路橋床版に配される受部材と、受部材同士を連結する架設部材とを有して一対の上記道路橋床版を連結する継手であって、上記受部材は、有底の収容部と、上記収容部に挿設される架設部材に係合する係合部とを有し、上記架設部材は、上記収容部に挿設される一対の挿設部と、該挿設部間を繋ぐ架橋部とを有し、上記収容部と上記挿設部との間に、積極隙間を有する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路橋床版に配される受部材と、受部材同士を連結する架設部材とを有して一対の上記道路橋床版を連結する継手であって、
上記受部材は、有底の収容部と、上記収容部に挿設される架設部材に係合する係合部とを有し、
上記架設部材は、上記収容部に挿設される一対の挿設部と、該挿設部間を繋ぐ架橋部とを有し、
上記収容部と上記挿設部との間に、積極隙間を有することを特徴とする継手。
【請求項2】
前記積極隙間に硬化性流動体を注入し、前記受部材と前記挿設部とを固定し得ることを特徴とする請求項1記載の継手。
【請求項3】
前記挿設部は、固定ボルトを挿通させる貫通孔を有し、
前記受部材は、上記固定ボルトに螺合する雌ねじ孔を有し、
上記貫通孔は、上記固定ボルトの軸部を囲繞し該軸部の外径よりも大きい内径の第一内周面と、前記固定ボルトの頭部を囲繞し該頭部の外径よりも大きい内径の第二内周面とを有することを特徴とする請求項1記載の継手。
【請求項4】
前記貫通孔は、前記固定ボルトの軸部を囲繞する内周面と該軸部の外周面との間に、誤差吸収用の隙間を有し、
当該誤差吸収用の隙間は、前記積極隙間よりも狭いことを特徴とする請求項3記載の継手。
【請求項5】
前記挿設部は、前記貫通孔内に上記固定ボルトに対し軸方向に直接的又は間接的に係合し得る支持面を有することを特徴とする請求項3記載の継手。
【請求項6】
前記固定ボルトの頭部を支持し、当該頭部が前記第一内周面に進入するのを防止する隙調ワッシャを配することを特徴とする請求項3記載の継手。
【請求項7】
前記隙調ワッシャは、内径が前記固定ボルトの軸径よりも大きく、外径が前記第一内周面の内径よりも十分に大きいことを特徴とする請求項6記載の継手。
【請求項8】
前記収容部の内底部に配置可能な段調ワッシャを有し、
上記段調ワッシャにより、前記収容部内での前記挿設部の収容深さを規制することを特徴とする請求項1に記載の継手。
【請求項9】
前記挿設部と前記架橋部の端面が略面一であることを特徴とする請求項1記載の継手。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の道路橋床版を連結させる継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、道路橋を構成するために床版同士の接合が行われている。道路橋のプレキャストRC床版同士の接合方法としては、床版同士を接合する面に凸部と凹部を予め設けて一方の床版の凸部を他方の床版の凹部内に配置させ、床版間(凸部と凹部)の隙間に充填材を充填して床版同士を接合する方法(例えば、特許文献1参照)が知られている。
また、道路橋の道路床版の更新においては、道路床版を道路幅員方向(橋軸直角方向)を複数の領域に分割し、領域毎にプレキャストRC床版と取り替える分割施工を行っており、走行車線として供用している既設床版の側方にプレキャストRC床版を設置し、既設床版とプレキャストRC床版の対向する端部の間にコンクリートを充填して間詰部を形成する床版接合方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。この床版接合方法では、接合する二つのプレキャストRC床版の対向する端部にはそれぞれ鉄筋継手がその一部が外部に露出するように埋設され、各鉄筋継手の当該露出部を間詰部内に突出させる。間詰部内では、これら鉄筋継手の櫛状の突出部分が突出直交方向視において干渉し、平面視において互い違いに配位するように配置され、両プレキャストRC床版の端部同士を固定した状態で型枠を設置して当該端部間にコンクリートが打設されることで床版間を接合する。
また、他の床版同士を接合する方法としては、一対の床版の各々の対抗配置される側面からC型継手金具を突出させて、当該C型継手金具の被嵌合凹部内に、H型継手金具の挿嵌部を配置させて床版同士を接合する所謂コッタ継手(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5879452号
【特許文献2】特開2021-147884
【特許文献3】特許第5787965号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された方法では、床版同士は充填材を介して付着されるものの、現場毎の設計図面からの寸法ズレや位置ズレ、主桁の変形等やプレキャストコンクリート床版の歪みや捩れ等に対して現場合わせによる対応が非常に困難である。例えば床版が捻れてしまっている場合には内的な強制力を発生させる為の機構が無いことから、複数台の重機等による外部からの強制力を導入しながら床版同士を所定位置まで接近させる外力の導入が必要となり得、非常に困難な接合作業が強いられ作業効率の大幅な低下を引き起こし得るという問題がある。また、こうした接合作業の末の接合状態が得られたとしても、床版同士を互いに引き付け合って互いを定位置に保持する保持力を発生させる機構が無く、接合状態を長期間に亘って安定して得ることができないという問題がある。例えば、主桁間における床版同士の境界部直上付近を大型車両等が通過した際には、橋軸方向及び橋軸直交方向に対する湾曲を生じるような多軸の曲げ荷重が発生するが、床版同士の接合部の境界面の断面形状からも鉛直下向きにより大きく略扇形状に目開くような変形を来し得て、且つ、これによって床版同士を橋軸方向に引き離すような分力が生じるが、これを抑制する機構が無く、長期間にわたる安定性を得られないという懸念がある。
また、床版同士の境界部となる凹部と凸部は、脚台形状を有しており、床版の厚さ方向に対して傾斜部分を含んでおり、当該境界部に掛かる厚さ方向(鉛直方向)の荷重が該傾斜部分によって床版同士を引き離す方向の分力になり、これによっても床版同士を橋軸方向に引き離し得る要因になるという問題がある。
【0005】
また、特許文献3に記載された方法では、一対の床版同士が所定位置に配置されているときにのみ、各C型継手金具の被嵌合凹部内にH型継手金具の挿嵌部の嵌合が可能となり、これによって初めてボルトでC型継手金具とH型継手金具とを固定することが可能となる。従って、床版同士が所定位置から外れていると、H型継手金具の挿嵌部を両C型継手金具の被嵌合凹部内に嵌合させてボルトで固定するという作業を行うことができないという問題がある。また、コッタ継手では、C型継手金具に対するH型継手金具の嵌合操作による床版同士の位置決め動作をさせることが出来ない為、床版同士の接合作業の際には、設置誤差の極めて小さくなるように、床版同士の配置作業を行うことが必要となる。なお、ここでの床版が橋梁に用いるプレキャストRC床版等である場合は、後配置の床版をクレーンで概ねの位置(事前に配置された床版の隣接位置辺り)に配置した後、複数のチェーンブロックを床版に掛けて橋梁の橋軸に沿った方向、橋軸に直交する方向、高さ方向の位置合わせや、橋面に対する傾斜の修正等の姿勢の調整作業を多くの作業員によって行うが、現場にはつきものの現場誤差が孕んでいることも有って、その作業は非常に困難であって且つ作業時間が長く掛かり、作業性が非常に悪く、また省人化も出来ないという問題がある。
【0006】
また、仮にH型継手金具の両挿嵌部とC型継手金具とを締結するボルトの締結力を利用して、床版同士の位置決め作業を行った場合、即ち、床版同士の位置が僅かにずれ且つC型継手金具の嵌合凹部にH型継手金具の挿嵌部が中途位置まで入った状態で、強引に各ボルトを締付け挿嵌部が嵌合凹部内に嵌るようにH型継手金具をボルトの軸力で押し込みながら、C型継手金具と共に床版の位置合わせを行おうとした場合、ボルトを正確に、最後まで締付けることが出来なくなること、詰まりこれは、適切なトルク管理が出来なくなることを意味している。即ち、ボルトの適切なトルク導入に基づく締付けによる、適切な軸力導入に基づく締結状態を得ることが出来ないという問題がある。
【0007】
換言すれば、各ボルトを同時に同程度の速度(又はトルク)で締付けて行くことは極めて困難で、実際には片側ずつ徐々に締めている。ところが、この作業は容易ではなく作業者の感覚や技能による影響が非常に大きくなり、作業者によって固定状態が変わってしまうという問題になる。より具体的には、ボルトを片側ずつ締めると、H型継手金具は締めた側が沈み込み、その反対側が相対的に浮き上がった様になって傾斜することになる。その結果、H型継手金具は、本来のあるべき位置で、あるべき姿勢で固定すべきところ、異なる位置において傾斜姿勢で固定されることに為り得る。
【0008】
これは、締結力に異常を来たす上、疲労強度をも低下させ、目地圧縮力に対しても意図しない不具合をもたらし得ることになる。このことからも察せられる通り、H型継手金具は、常にその水平の姿勢が傾かないように設置されて固定されることが望まれる。しかしながら、建設現場等では、現場誤差が大なり小なり孕んでいるということからもそのような理想的な状態は少なく、更にはプレキャストRC床版に内在する捻れや各部の相対的な位置ずれ等がある為、大きな誤差吸収機能や性能が求められる。
【0009】
上述の通り、特許文献1~3に記載された方法においては、多くの人手や重機を要する上、膨大な作業時間が必要となっている。例えば、床版の運搬や所定位置への配列では運搬用のトレーラやオールテレーンクレーン等の重機や多大な人員が必要となり、生コンクリートの充填にはコンクリートポンプ車、間詰工員、型枠工員等、様々な作業ごとに多数の設備や工員が必要となる。現状の床版の設置や接合では、位置決め作業に多くの時間を要する為、一日に10枚程度(或いはそれ以下)しか配設、接合することが出来ない。しかも生コンクリートの養生期間を必要とする為、施工時間が延び工期が著しく長くなるという問題がある。例えば、多数の設備や人員を投入しても一つの現場で床版を配列する作業だけでも床版1枚当たり実働40分間以上を要するというのが現状となっている。
また、床版の配置、接合においては、多大な人員と設備を投入している現状で膨大な作業時間が掛かっている為、これ以上の省人化を図ることが非常に困難となっているという問題がある。また、近年急速に進んでいる労働人口の減少に伴う現場作業者の確保の困難性によって、工期遅延や施工開始不能な状態に陥るとい問題もある。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みて本発明者の鋭意研究により成されたものであり、簡易な構造によって、道路橋床版同士の位置決め作業性を向上させ、また道路橋床版に内在する寸法、相対位置等の誤差や接合現場における現場誤差等を大きく吸収することが可能で、施工性が良好で且つ作業効率が良く、よって省人化を図ることを可能としながらも、道路橋床版同士の接合の作業時間を短縮可能とする手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の継手は、道路橋床版に配される受部材と、受部材同士を連結する架設部材とを有して一対の上記道路橋床版を連結する継手であって、上記受部材は、有底の収容部と、上記収容部に挿設される架設部材に係合する係合部とを有し、上記架設部材は、上記収容部に挿設される一対の挿設部と、該挿設部間を繋ぐ架橋部とを有し、上記収容部と上記挿設部との間に、積極隙間を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の継手は、前記積極隙間に硬化性流動体を注入し、前記受部材と前記挿設部とを固定し得ることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の継手は、前記挿設部が、固定ボルトを挿通させる貫通孔を有し、前記受部材は、上記固定ボルトに螺合する雌ねじ孔を有し、上記貫通孔は、上記固定ボルトの軸部を囲繞し該軸部の外径よりも大きい内径の第一内周面と、前記固定ボルトの頭部を囲繞し該頭部の外径よりも大きい内径の第二内周面とを有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の継手は、前記貫通孔が、前記固定ボルトの軸部を囲繞する内周面と該軸部の外周面との間に、誤差吸収用の隙間を有し、当該誤差吸収用の隙間は、前記積極隙間よりも狭いことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の継手は、前記挿設部が、前記貫通孔内に上記固定ボルトに対し軸方向に直接的又は間接的に係合し得る支持面を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の継手は、前記固定ボルトの頭部を支持し、当該頭部が前記第一内周面に進入するのを防止する隙調ワッシャを配することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の継手は、前記隙調ワッシャが、内径が前記固定ボルトの軸径よりも大きく、外径が前記第一内周面の内径よりも十分に大きいことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の継手は、前記収容部の内底部に配置可能な段調ワッシャを有し、上記段調ワッシャにより、前記収容部内での前記挿設部の収容深さを規制することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の継手は、前記挿設部と前記架橋部の端面が略面一であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の継手を用いた道路橋床版連結施工方法によれば、その簡易な仕組みによって、道路橋床版同士の橋軸方向、橋軸直交方向、鉛直方向の位置決めの作業性を向上させ、接合作業を実施する現場毎の設計図面からの寸法ズレや位置ズレ、変形等や道路橋床版の歪みや捩れ等に伴う誤差が大きなものであっても、接合作業を行う現場における所謂現場合わせによって、それらの誤差を吸収可能で、柔軟に対応可能で、自由度の高い施工を可能とすると共に、施工性を著しく向上させ、道路橋床版同士の接合作業時間を大幅に短縮することが可能であって、同時に省人化、工期短縮化、高強度化、高耐久化を実現することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係る継手を適用したプレキャストRC床版を示す平面図である。
図2】本実施形態に係る継手の位置調整架設部材を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
図3】本実施形態に係る継手の受部材を示し、(a)は斜視図、(b)は正面図である。
図4】受部材を示し、(a)は上面図、(b)はA-A断面図、(c)はB-B断面図である。
図5】受部材同士の位置決め時の位置調整架設部材の位置を示す図である。
図6】受部材及び位置調整架設部材の変位を示す図である
図7】Y方向にズレた受部材の位置合わせを示す図である。
図8】継手を示す断面図である。
図9】雄ねじ体及び雌ねじ体を除去している継手を示す断面図である。
図10】連結部材を示し、(a)は上面図、(b)はA-A断面図、(c)はB-B断面図である。
図11】連結部材の引き抜きを示す図である。
図12】連結部材を配した継手を示す断面図である。
図13】受部材同士の段差を調整して位置決めする場合の手順を示す図である。
図14】位置調整架設部材に固定される受部材を示す断面図である。
図15】段調ワッシャを用いた位置決めの例を示す図である。
図16】挿嵌部と受部材とのボルトによる固定を示す図である。
図17】抜去手段を有する位置調整架設部材の例を示す図である。
図18】抜去手段を有する位置調整架設部材の例を示す図である。
図19】位置調整架設部材によるプレキャストRC床版の連結施工方法を示すフローチャートである。
図20】位置調整架設部材と連結部材とによるプレキャストRC床版の連結施工方法を示すフローチャートである。
図21】プレキャストRC床版の連結施工方法の一例を示すフローチャートである。
図22】位置調整架設部材の抜去の工程の一例を示すフローチャートである。
図23】抜去手段を設けた位置調整架設部材を示す断面図である。
図24】抜去手段を設けた位置調整架設部材を示す断面図である。
図25】道路橋にプレキャストRC床版を連結する際の施工開始位置と施工の進行向きの例を示す図である。
図26】抜去手段を設けた位置調整架設部材の一例を示す断面図である。
図27】連結された受部材間に硬化性流動体を注入したときの状態例を示す断面図である。
図28】受部材間の相対位置の誤差を吸収して挿設された連結部材を示す断面図である。
図29】他の抜去手段の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の道路橋床版連結施工方法に使用する継手について、図面を参照して説明する。本発明の継手は、高架道路、高速道路、橋梁(道路橋)等を構成するためのプレキャストRC床版、合成床版(鋼コンクリート合成床版)、プレキャストPC床版等のプレキャストコンクリート床版の道路橋床版を連結するものである。なお、ここでは橋脚上で道路橋床版としてのプレキャストRC床版同士を連結する場合を例に説明する。
【0023】
図1は、本実施形態に係る継手10を適用したプレキャストRC床版1を示す平面図である。プレキャストRC床版1は、橋軸直交方向に並べて設置された複数の主桁(不図示)上に架け渡されて固定される。またプレキャストRC床版1は、連結方向として、橋軸方向に沿って隣り合うように配設される。継手10は、隣り合うプレキャストRC床版1、1同士を連結するものである。
なお、ここでは橋軸方向に平行な方向について一般にX方向、橋軸直交方向に平行な方向について一般にY方向、XY平面に直交する方向を一般にZ方向とする。例えば、XY平面が水平面と平行な面である場合、Z方向は鉛直方向である。
【0024】
継手10は、所謂コッタ式継手構造を構成するものである。即ち、継手10は、位置調整架設部材20、受部材30a、30bを有し、隣接するプレキャストRC床版1、1に取り付けられて対峙する二つの受部材30a、30bに位置調整架設部材20が挿嵌しつつ、位置決めと架設を同時に成し得る様に構成される。受部材30a、30bは、互いに略同一形状とすることが出来るが、少なくとも位置調整架設部材20を挿嵌可能な形状であれば、同一形状に限定されるものはなく互いに異なる形状であってもよい。
【0025】
図2は、本実施形態に係る継手10の位置調整架設部材20を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図、(c)は平面図である。位置調整架設部材20は、平面視略ダンベル形状を成し、受部材30a、30bにそれぞれ挿嵌し得る一対の挿設部22、22と、一対の挿設部22、22に接続される架橋部24等を有する。
【0026】
挿設部22は、全体として、笠部を下側に配置させた状態、即ちきのこを逆さにした様な略逆きのこ様の形態を成し、上側に略円筒形状を成す挿嵌逃げ部22aを有し、この下部に、比較的大径に設定される円筒状を成す挿嵌部22bを有し、更にこの下部に、下端に向かって漸次縮径して成る誘導部22cを有して構成される。
【0027】
ここで、挿嵌逃げ部22aは、略円筒形状を成す設定とされているが、必ずしも外形が円筒面状を成していなければならないというものではなく、挿嵌部22bの成す外形寸法よりも径方向に小さく収まっていればよく、多角形状、楕円形状等所望の外形を採り得る。
【0028】
挿設部22の内、最大外径部を成す挿嵌部22bは、その最大外径部分が受部材30a、30bの収容部32(後述する)の内径に略相当する外径を有する。(但し、挿嵌部22bの外径としては、収容部32の内径に対して若干縮径させた設定とすることが、挿入性や抜去性を向上させる意味では好ましい。)よって、挿嵌部22bの最大外径部分は、収容部32の内周面に少なくとも部分的或いは全体的に略密着した状態で受部材30a、30bに嵌り得る。
【0029】
また、挿設部22は、挿嵌逃げ部22aと、挿嵌部22b及び誘導部22cの軸方向長さ(Z方向長さ)を適宜設定し得る。ここでは挿嵌逃げ部22aに比して挿嵌部22b及び誘導部22cの軸方向長さを短く設定する。誘導部22cは、下端に向かって漸次縮径される形状に設定されているが、略逆円錐台形状に設定することが出来る。勿論、この誘導部22cの漸次の縮径形態は、略逆円錐台形状に限らず、半球面状、その他の曲面形状やそれらの組み合わせによって構成されるものであってもよい。なお、誘導部22cの下端部は、受部材30a、30bの収容部32の内定面と合致する様に構成される。また、誘導部22cの下端部の下面は、架橋部24の下端面と略面一に連なるように構成することが出来、こうすることで、挿設部22、22間にわたる架橋部24の中央部にZ方向の荷重が加えられた際に、誘導部22cの下端部と架橋部24の下端面との境界部に分布する応力を緩和し、この境界部に生じる得る引裂を防止することが可能と成る。
【0030】
挿設部22は、Z方向にボルト50(図9参照)を挿通させる貫通孔40を有する。貫通孔40は、ボルト50の軸部分を囲繞する第一内周面42と、第一内周面42よりも拡径してボルト50の頭部54(図9参照)を囲繞する第二内周面44と、支持面46を有する。支持面46は、ボルト50の頭部54の座面を後述の隙調ワッシャ56を介して支持し得る。
【0031】
貫通孔40は、挿通されたボルト50の径方向の変位を許容する内径を有する設定とすることが好ましい。即ち、第一内周面42は、ボルト50の外径より大きい内径に設定することが好ましい。例えば、ボルト50の軸の半径をa、頭部54の半径をb、第一内周面の半径をcとした場合、a<b<c、或いは、a<c≦bが成立するように各長さ等を設定する。また、第二内周面44の内径dは、ボルト50が径方向に変位するのを妨げないように、頭部54の半径bに、第一内周面の内径cから軸の半径aを差し引いた差(c-a)を加えた長さと同等以上の長さに設定される。即ち、b+(c-a)≦dを満たす様に各部の長さが設定することが出来る。
【0032】
なお、ボルト50の規格によっては、頭部54の外径が第一内周面42の内径以下となる場合があり得る為、そのような場合には、頭部54が第一内周面42内に脱落し得るのを防止する為、十分な外径と厚み、強度を有する隙調ワッシャ56(例えば、図8参照)を支持面46との間に配するとよい。
【0033】
架橋部24は、X方向及びY方向の略中央部にZ方向に貫通する孔に雄ねじ体100を挿通させ得る。雄ねじ体100は、架橋部24に挿通する軸部102と、軸部102の一端部に設けられた頭部としての押圧部104を有する。雄ねじ体100は、押圧部104を誘導部22cが存する側(図2の下部側)に位置する向きで使用される。従って、雌ねじ体110は架橋部24の上方に配される。
【0034】
軸部102は、外周面に雄ねじ螺旋溝が形成される。なお雄ねじ螺旋溝が形成される範囲は、軸部102全域であってもよいが、軸部102の先端から中途部までであってもよい。
また、軸部102の中途部には、周方向にV溝を刻設した易断部102aを形成してもよい。易断部102aは、その断面積が軸部102において最も小さく設定されることで、所定以上のトルク或いは軸力の印加によって、軸部102で最初に破断し得る部位とし得る。
【0035】
押圧部104は、平面視略矩形状であって架橋部24に係合し得る大きさに形成される。即ち、押圧部104は、一対の短辺部分104aと一対の長辺部分104bとを有することが出来る。短辺部分104aは、連結時の受部材30a、30b間の隙間未満の長さに設定される。長辺部分104bは、連結時の受部材30a、30b間の隙間を超える長さに設定される。
【0036】
従って、短辺部分104aをX方向に平行な向きにした押圧部104は、両受部材30a、30bに対して非接触とすることが出来る。また長辺部分104bをX方向に平行な向きにした押圧部104は、受部材30a、30bの両方に当接(干渉)可能な状態と成る。
【0037】
なお、押圧部104は、短辺部分104aと長辺部分104bの各々に相当する部分をそれぞれ有するものであれば、平面視矩形状に限定するものでは無く、例えば平面視略楕円形状、平面視略長円形状、平面視多角形状等の形状であってもよい。
【0038】
図3は、本実施形態に係る受部材30(受部材30a、30b)を示し、(a)は斜視図、(b)は位置調整架設部材20に対向する面を正面側とした正面図である。図4は、受部材30を示し、(a)は上面図、(b)はA-A断面図、(c)はB-B断面図である。
【0039】
受部材30は、挿設部22を受容するC字形を成す継手金具様の部材である。受部材30は、それぞれC字形金具としたが、プレキャストRC床版同士の連結において十分な強度を有していれば、金属材料であることに限定するものではない。
【0040】
受部材30は、プレキャストRC床版1のX方向の側面部に予め埋設される。具体的に受部材30は、プレキャストRC床版1のXY平面上で位置決め部20を挿嵌し得るように埋設される。
【0041】
受部材30は、アンカ取付孔31、収容部32、傾斜案内面34、雌ねじ孔36、一対の係止部38、規制凹部60等を有する。アンカ取付孔31は、プレキャストRC床版1内に配するアンカ(不図示)を取付け、固定する為のねじ孔等である。
【0042】
収容部32は、受部材30のXY平面を開口させて挿設部22を挿嵌し得る内部空間を画成する。傾斜案内面34は、収容部32における開口部の内周面を成し、収容部32に進入する挿設部22が収容部32の中央部へと向かうように、挿設部22の下端側に設けられる略逆円錐台形状を成す誘導部22cと摺接しながら挿設部22を案内する。即ち、傾斜案内面34は、収容部32内から開口端に向かって徐々に径方向外向きに傾斜することで、収容部32において開口部を拡開させて挿設部22の挿嵌向きに沿って徐々に開口を狭める。
【0043】
また、収容部32の内径は、挿設部22の最大外径部を成す挿嵌部22bの外径よりも若干大きめに設定されていることから、収容部32の内周面には挿嵌部22bの外周面が摺動しながら挿嵌される。そして、収容部32はその内周面が挿嵌逃げ部22aの外径に比して大径の内径を有することから、収容部32に挿設部22が挿嵌されたとき、収容部32と挿嵌逃げ部22aとの間には、後述する硬化性流動体を積極的に注入可能な積極隙間が存在し得る。
【0044】
雌ねじ孔36は、収容部32の底部に形成される。雌ねじ孔36は、挿設部22に挿嵌される挿設部22の貫通孔40と連通し、貫通孔40に挿通しているボルト50と螺合可能に構成される。
【0045】
係止部38、38は、Y方向に平行で且つ受部材30、30同士が対向する、受部材30の一側面と、収容部32とを連通して成り、且つ、この連通部を画成し、Z方向に沿った略V切欠き状のスリットを構成する一対の対向壁面であり、受部材30の連通部には、架橋部24が挿入される際に、係止部38と架橋部24とが摺接しながら案内され、収容部32に挿嵌された挿設部22のY方向の位置や変位を規制する。
【0046】
また、係止部38は、図3(b)に示す向き(正面向きという。)において、受部材30の上部から下部に向かってY方向に沿った内向き(中央寄り)に傾斜する。即ち、係止部38の間のスリットに相当する空間は、架橋部24の挿入向き沿って徐々に狭まる。
【0047】
規制凹部60は、図3(b)に示す受部材30の下端面(裏面)に凹設され、押圧部104の長辺部分104bに係合し得る。即ち、規制凹部60は、押圧部104の回転を規制する第一規制部62及び第二規制部64を有する。第一規制部62は、締結方向に回転する押圧部104の長辺部分104bに係合するように、規制凹部60内でZ方向に延在する。
【0048】
第二規制部64は、第一規制部62に対向し、規制凹部60内でZ方向に延在する。また第二規制部64は、第一規制部62に比してZ方向の長さが短く設定することが出来る。従って、第二規制部64は、規制凹部60内で受部材30の下端面に当接しているときに、押圧部104に対し当接し得、緩み方向の回転を規制することが可能となる。
【0049】
次に、X方向に沿ってプレキャストRC床版1a、1b(図5参照)を連結する際の受部材30の位置決め工程について説明する。なお、受部材30の内、プレキャストRC床版1aには配されるものを受部材30a、プレキャストRC床版1bに配される物を受部材30bとする。
【0050】
プレキャストRC床版1a、1bは、互いの受部材30a、30bを対向させるようにX方向に沿って並べて隣接配置される。また、プレキャストRC床版1a、1bの内、一方のプレキャストRC床版1aは橋梁の一方の始端部分等において、Y方向に所定間隔で併設される複数の主桁上に固定され、他方のプレキャストRC床版1bは吊り込み等によってプレキャストRC床版1aに近接位置の複数の主桁上にわたって変位可能に架設配置される。
Y方向に沿って互いに略平行に且つX方向に隣接配置されたプレキャストRC床版1a、1bは、位置調整架設部材20を受部材30aと受部材30bのそれぞれに跨がって架設するように、受部材30aの収容部32、受部材30bの収容32に対して挿設部22、22を挿入して行くすることによって、プレキャストRC床版1b(受部材30b)を変位させ、そのプレキャストRC床版1a(受部材30a)に対する位置決めを行う。
【0051】
図5は、受部材30a、30b同士の位置決め時の位置調整架設部材20を含めた相対位置関係を示す図である。図6は、位置調整架設部材20の強制変位による受部材30bの受部材30aに対する変位を示す図である。また図5、6では、受部材30a、30b内部での挿設部22の位置を明確にする為、受部材30a、30bを断面形状で示す。また受部材30a、30bのアンカ取付孔31に挿通されアンカを省略する。
【0052】
雄ねじ体100は、上端に雌ねじ体110を螺合させ、受部材30a、30bに干渉しない様に予め押圧部104の向きを、短辺部分104aがX方向と平行になるように位相を定め、受部材30a、30bに対して跨がる様に位置調整架設部材20を上方に配置させる。次に、図5(a)の矢印に示すように、位置調整架設部材20を下降させて挿設部22をそれぞれ受部材30a、30bに挿嵌する。
【0053】
このとき、挿設部22の下端に設けられている誘導部22cが、受部材30a、30bのそれぞれの収容部32の上端開口付近に設けられている傾斜案内面34に当接すると共に、軸部102が受部材30a、30b間(プレキャストRC床版1a、1b間)の隙間に進入する。押圧部104は、受部材30a、30bの規制凹部60内に進入し得る鉛直位置或いは規制凹部60よりも下方まで降下して位置し得る。
【0054】
プレキャストRC床版1a、1bが適正な連結位置よりも離間している場合、図5(b)に示すように挿設部22の誘導部22cが、収容部32の上端開口付近の傾斜案内面34に当接して、係止され得る。
【0055】
次に、手動のスパナや電動のナットランナ等の締結器具によって、雌ねじ体110に締結方向のトルクを印加する。雌ねじ体110が締結方向に回転したとき、押圧部104は、規制凹部60内に進入するように回動して収まる。
具体的には、押圧部104が規制凹部60の下方に位置している場合は、長辺部分104bがプレキャストRC床版1a、1bに当接するので、回転する雌ねじ体110に対して雄ねじ体100の回転が規制される。従って、雄ねじ体100は、雌ねじ体110に対して相対回転して上向きに変位する。これによって押圧部104は、規制凹部60に進入し得る位置まで上昇変位する。
【0056】
押圧部104が規制凹部60に進入し得る位置に在るとき、雄ねじ体100は、雌ねじ体110の回転に伴って回動する。従って、押圧部104が図5(c)に示すように略90°回動して長辺部分104bが規制凹部60に進入し、第一規制部62に当接して回転が規制される。
【0057】
更に、雌ねじ体110に締結方向のトルクが印加されると、押圧部104は、受部材30a、30bの下端面を押圧する。また雌ねじ体110は、位置調整架設部材20を受部材30a、30b側に押圧する。従って、雌ねじ体110と押圧部104は、受部材30a、30b及び連結部20を互いに接近させる方向に押圧する。
【0058】
受部材30bは、傾斜案内面34に当接している誘導部22cからの押圧によって、X方向内向きに変位する。即ち、連結部20をZ方向マイナス向き(鉛直下向き)に押圧する力は、誘導部22cが傾斜案内面34に当接して摺動させ、これによって、受部材30bをX方向内向き(図6(a)参照)に押圧する力として作用し、受部材30bを介してプレキャストRC床版1bを、X方向に沿って、受部材30a及びプレキャストRC床版1aに向かって相対距離を縮める様に変位させる。
【0059】
従って、雌ねじ体110を締結方向に回転させる毎に、徐々に受部材30bが受部材30a側に向かって変位し、また図6(b)に示すように挿設部22が収容部32の略中央部に向かって挿嵌される。このようにして挿設部22、22が受部材32a、32bの最奥(収容部32、32の内底面)まで挿嵌されたとき、受部材30aに対する受部材30bの位置決めが成される。同時にプレキャストRC床版1a、1b同士が適正な連結位置に位置決めされる。
【0060】
受部材30bは、誘導部22cが傾斜案内面34を押圧することで変位する。従って、受部材30bの変位可能な方向は、傾斜案内面34が形成される平面視略C字形領域に対する挿設部22下端側における略C字形テーパ状表面を有する逆円錐台形状を成す誘導部22cとの平面視における干渉可能な領域の全方位、即ちXY平面内の全方位となる。収容部32に対する挿設部22の挿嵌の際には、挿設部22の下端に設けられている誘導部22c、22cそれぞれが、受部材30a、30bのそれぞれの収容部32の上端開口付近に設けられている傾斜案内面34、34に摺接して案内されながら収容部32内に進入すると共に、受部材30bがXY平面内を移動しつつ、誘導部22cと傾斜案内面34との平面視における干渉を解消しながら、受部材30aに対して適正位置に変位して位置決めされる。
【0061】
例えば、受部材30aに対する受部材30bの位置が、適正な連結位置に対してY方向にズレている場合(図7(a)参照)、上記と同様に受部材30a、30bに挿設部22、22を挿嵌することで、受部材30b及びプレキャストRC床版1bをY方向に変位させることができる。即ち、誘導部22cが、受部材30bの収容部32のY方向の一方に偏った位置で傾斜案内面34に当接した場合には、受部材30bがプレキャストRC床版1と共にY方向に変位する。またこの挿設部22が受部材30bの最奥まで挿嵌されたとき、図7(b)に示すように、受部材30bが受部材30aに対するY方向における適正な連結位置に位置決めされる。
【0062】
プレキャストRC床版1a、1b同士を同じ高さで連結する場合であって、受部材30a、30bが連結前の状態において異なる高さに位置する場合であっても、挿設部22、22それぞれを、受部材30a、30bの収容部32、32それぞれの最奥部まで挿嵌することで、受部材30aに対して受部材30bを同じ高さに位置決めできる。
【0063】
具体的には、挿設部22、22それぞれを、受部材30a、30bの収容部32、32にそれぞれ挿嵌し、雌ねじ体110を締結方向に回転させたとき、受部材30bは、押圧部104又は位置調整架設部材20の何れか一方により軸方向に押圧される。例えば、受部材30bが受部材30aに対して上方に位置している場合、位置調整架設部材20が収容部32の底部を押圧する。また受部材30bが受部材30aに対して下方に位置している場合、押圧部104が受部材30bの下端面を押圧する。これによって、受部材30bは、受部材30aと同じ高さ位置に変位して位置決めされる。
【0064】
以上説明した通り、位置調整架設部材20による受部材30a、30bの位置決めは、X、Y、Zの何れの方向にも有効であり、位置調整架設部材20を受部材30a、30bに挿嵌するだけで、受部材30bを受部材30aに対して適正な連結位置へと相対変位させることが出来る。
勿論、位置調整架設部材20の挿設部22は、受部材30a、30bの最奥まで挿嵌することが望ましいが、受部材30a、30bの位置決めが出来る程度に挿設部22を挿嵌できれば、挿設部22を受部材30a、30bの最奥まで挿嵌することを省略可能である。
【0065】
受部材30a、30bの位置決めの後は、図8の継手10を示す断面図に示すように、挿設部22、22それぞれと、受部材30a、30bとをボルト50、50によって固定する。即ち、各挿設部22、22の貫通孔40、40にボルト50、50を挿通させ、ボルト50、50それぞれの雄ねじ部52、52を、収容部32、32それぞれの底部のねじ孔34b、34bに螺合して締結する。
【0066】
受部材30a、30bを位置調整架設部材20によって連結した後、雄ねじ体100がプレキャストRC床版1の上面よりも突出したまま残るので除去する。この雄ねじ体100の除去にあっては、先ず、雌ねじ体110に所定以上の締結方向のトルクを印加することで雄ねじ体100に所定以上の捻り軸力を作用させ、押圧部104の近傍に予め形成される易断部102aを破断させる。
【0067】
易断部102aを破断させた雄ねじ体100は、図9に示すように、押圧部104と軸部102とが分離していることから、軸部102を位置調整架設部材20から引き抜くことで雌ねじ体110と共に除去することができる。
【0068】
また軸部102から分離した押圧部104は、プレキャストRC床版1a、1b間の下方に、モルタルやグラウト剤等の硬化性流動体を堰き止める為に配設される堰止材(図示省略)等の上に変位して留められるので、これを回収手段(図示省略)により回収する。ここで、回収手段としては、例えば、長尺の柄の下端部に、永久磁石や電磁石等の磁界発生手段を配置した構成とすることが可能で、この様な回収手段を用いることで、易断部102aの破断により、堰止材上に落下した押圧部104を磁界発生手段に対して磁気吸着させて回収する様にしてもよい。
【0069】
なお、上記においては、挿設部22、22と受部材30a、30bとをボルト50、50によって固定した後、雄ねじ体100及び雌ねじ体110の除去等を行うとしたが、雄ねじ体100を破断させて雄ねじ体100及び雌ねじ体110を除去した後に、ボルト50、50による挿設部22と受部材30a、30bとの固定を行ってもよい。また、ボルト50は、下端に押圧部104を有する所謂T字形ボルト状を成すものとし、軸部102の上部に対して雌ねじ体110を螺合する構成としているが、必ずしもこれに限らず、雄ねじ体はその軸部の上端に頭部を有し、下端に略直方体状を成す雌ねじ体を押圧部として用いる構成とすることも可能である。
【0070】
また、上記においては、雄ねじ体100及び雌ねじ体110の除去を行う場合に、雄ねじ体100を破断させたが、この破断は必須の処理ではない。例えば、雌ねじ体110を、雄ねじ体100に対して相対的に緩める向きに回転させて分離させ、雄ねじ体100を位置調整架設部材20から落下させて除去させることも可能である。勿論、雄ねじ体100が受部材30a、30b間に存する状態を維持したい場合には、雄ねじ体100を位置調整架設部材20に挿通させたままにしておいてもよいことは言うまでもない。このとき雌ねじ体110は、雄ねじ体100に螺合させて残してもよく、或いは雄ねじ体100から分離させて除去してもよい。
尚、位置調整架設部材20も受部材30a、30bから抜去する際には、雄ねじ体100を破断させる必要はなく、位置調整架設部材20と共に雄ねじ体100を抜去することも出来る。この際、雌ねじ体110は、雄ねじ体100に螺合したままであってもよい。
【0071】
以上説明したように、本実施形態の継手10によれば、受部材30a、30bが所定位置からX方向、Y方向、Z方向の何れの方向にズレていても、位置調整架設部材20の挿設部22、22それぞれを受部材30a、30bに挿嵌し、ねじ締結という簡便な作業、例えば、雌ねじ体110を締付方向に回転させるという簡易な作業を行うだけで、当該ズレを矯正して位置決めを完了することが出来る。従って、位置決め作業が容易となって床版の適正配置作業時間が短縮し、作業効率を向上させ、作業性を大幅に向上させることが出来る。
【0072】
また、位置調整架設部材20の挿設部22、22が収容部32、32に嵌ることで、受部材30a、30bの位置決めを行うことが出来るので、現場毎の設計図面からの寸法ズレや位置ズレ、変形等やプレキャストRC床版の歪みや捩れ等に対して、柔軟な誤差対応が可能となり、自由度の高い施工が可能で、所謂現場合わせ作業を著しく省力化することが可能となる。即ち、挿設部22の最大外径部分を成す挿嵌部22bが、収容部32内に進入し、誘導部22cの下端部が収容部32の最奥部まで到達させ得れば、プレキャストRC床版1a、1bは、互いに自動的にX、Y,Z方向における位置決めが成されることになる。このとき、挿嵌逃げ部22aは、収容部32の内周面に接触することがないので、挿嵌逃げ部22aの高さを調整することで、挿設部22と収容部32との嵌合性を向上させることが可能となる。
【0073】
従って、挿嵌部22bのZ方向の長さを短く設定することで、プレキャストRC床版の歪みや捩れ等による受部材30a、30bの各収容部32、32の軸が互いに非平行であっても、この平行誤差を吸収しながら強制しつつ、容易に挿設部22、22の収容部32、32に対する挿嵌を行うことが出来る。
【0074】
なお、挿嵌部22bをZ方向に延長して長めに設けてもよい。このようにすれば、挿設部22と収容部32との同軸性を向上させ得るという効果が得られる。
【0075】
また、挿設部22を挿嵌した収容部32内や、孔40内の第二内周面44と頭部54の間等には隙間、特に挿嵌逃げ部22aと収容部32の内周面との間には積極的に設定された積極隙間が在るので、それらの隙間に対して、モルタル、グラウト剤、石膏、生コンクリート、水ガラス、或いは熱硬化性又は熱可塑性の流動状態にある合成樹脂等の硬化性流動体を注入して埋めてもよい(例えば、図27(a)参照)。この様に、挿嵌逃げ部22aと収容部32との隙間に、硬化性流動体を注入して硬化させることで、位置調整架設部材20と受部材30a、30bとをより強固に固定することが出来、且つ、受部材30a、30bと位置調整架設部材20の剛結性を高めると共に、疲労耐性を向上させることが出来る。
【0076】
なお、硬化性流動体は、プレキャストRC床版1a、1b間に存する全ての隙間に対しても注入し得、これによってプレキャストRC床版1a、1b同士を更に強固に連結することも可能である。
【0077】
また、受部材30a、30bと位置調整架設部材20との連結においては、架橋部24の中央部において、雄ねじ体100と雌ねじ体110との間で受部材30a、30bと位置調整架設部材20とを位置決め締結することから、位置調整架設部材20の水平を維持しつつ、挿設部22、22を収容部32、32に対して挿嵌出来る。これによって、位置調整架設部材20がXY平面に対して傾斜した姿勢で受部材30a、30bに挿嵌されることを防止出来、位置決め不良を確実に防止することが可能となる。
【0078】
なお、誘導部22cの形状としては、略逆円錐台形状としたが、勿論これに限定されるものではなく、収容部32への進入を容易とするような先端部がテーパ状を成す略三角錐形状、略四角錐形状等の略多角錐形状、略円錐形状、略多角錐台形状等も採り得る。同様に、収容部32の傾斜案内面34によって囲まれる範囲の内部空間の形状は、略逆円錐台形状の他、略多角錐台形状等も採り得る。
【0079】
次に、位置調整架設部材20とは別の連結部材を用いて受部材30a、30bを連結する場合について説明する。上述の実施形態においては、位置調整架設部材20による受部材30a、30bの位置決め後、ボルト50、50によって挿設部22、22と受部材30a、30bをそれぞれ固定したが、以下では、位置調整架設部材20(第一部材)を位置決めに用い、位置調整架設部材20とは別の固定用部材として、位置決め機能を有さない連結部材(第二部材)によって、受部材30a、30bを連結、固定する。
【0080】
図10は、連結部材70の例を示すものであり、(a)は上面図、(b)は図10(a)におけるA-A断面を示す断面図、(c)は図10(b)におけるB-B´断面を示す断面図である。連結部材70は、図10に示す様に、一対の挿設部72(第二挿設部)、一対の挿設部72を繋ぐ架橋部74等によって構成される。
【0081】
挿設部72は、挿入方向に直交する横断面形状が略一様の略円筒形状であって、外径が収容部32の内径未満、好ましくは床版の設置誤差や床版自体の寸法誤差、捻れや反り等の製造誤差を吸収する為に必要十分なクリアランスを有する様に、その外径が設定される。従って、挿設部72と収容部32との間には、硬化性流動体を積極的に注入可能な積極隙間が存在する。
【0082】
また、挿設部72には、Z方向にボルト50を挿設する為の上下に貫通した孔80が形成される。孔80は、ボルト50の軸部分を囲繞し得る領域80aと、ボルト50の頭部54を囲繞する領域80bとを有する。更に孔80は、領域80a、80bの境界部分を成し、且つ、隙調ワッシャ56を配設可能とし、この隙調ワッシャ56の下面側の座面を支持する為の支持面82を有する。
【0083】
孔80は、挿通されたボルト50が径方向に相対変位し、十分に誤差吸収し得るように、内部空間の大きさを設定する。具体的に領域80aは、ボルト50の軸部分の径よりも十分に大きく設定される。なお、領域80aは、頭部54の外寸よりも小さめの内径に設定しても、或いは大きめの内径に設定してもよいが、十分な面積と厚み、強度を有する隙調ワッシャ56を介することで、頭部54が領域80aに落ち込まない或いは陥没しないように設定することが出来る。領域80bは、頭部54及び/又は隙調ワッシャ56が、領域80bの内部で径方向に相対変位し、十分に誤差吸収し得るように、頭部54及び隙調ワッシャ56の外寸よりも十分に大きい内径に設定される。
【0084】
連結部材70による受部材30a、30bの連結は、位置調整架設部材20による受部材30a、30の位置決め後に行う。プレキャストRC床版において床版の幅員にわって所定間隔で埋設対向配置される複数の受部材30a、30bの内の一部又は全部の受部材30a、30bの対に対して、位置調整架設部材20を用いて、対向配置されるプレキャストRC床版同士を位置決め連結させておきつつ、残りの受部材30a、30bに対しては、連結部材70を挿入して連結する。位置調整架設部材20を用いて位置決め連結した箇所においては、当該位置調整架設部材20と連結部材70とを差替えて、受部材30a、30bを連結させる様にしてもよい。
【0085】
その為、先ずは、挿設部22を収容部32に挿嵌して雌ねじ体110に締結方向のトルクを印加し、受部材30a、30bの位置決めを行う。次に、残りの受部材30a、30bに対して連結部材70を挿入して連結し、その後、位置決めに用いた位置調整架設部材20を受部材30a、30bから抜去する。この際、位置調整架設部材20を締結していた雌ねじ体110を緩み方向に回転させ、雄ねじ体100を第二規制部64による回転規制を解除し、軸方向に相対変位可能とする。
【0086】
押圧部104が第二規制部64に干渉しない位置まで変位したとき、雄ねじ体100は、雌ねじ体110と供回りするなどして、規制凹部60から離脱し、略90°回動し得る。この90°の回動によって、押圧部104は、図11(a)に示すように短辺部分104aがX方向に略平行な向きになる。このとき位置調整架設部材20は、受部材30a、30bから抜去し得る。
【0087】
位置調整架設部材20を抜去する方法としては、特に限定するものでは無いが、例えば、雄ねじ体100を引き上げて位置調整架設部材20を引き抜くことができる。即ち、雄ねじ体100を引き上げたとき、図11(b)に示すように押圧部104が位置調整架設部材20(架橋部24)の下端面に引っ掛かるので、位置調整架設部材20を持ち上げることで受部材30a、30bから抜去し得る。
【0088】
位置調整架設部材20を受部材30a、30bから抜去した後、連結部材70を受部材30a、30bに挿設する。即ち、挿設部72を受部材30a、30bの収容部32に挿入する。また、図12に示すように、ボルト50を隙調ワッシャ56を介して、孔80に挿通させて雄ねじ部52を雌ねじ孔36に螺合して締結する。これによって、連結部材70と受部材30a、30bとが固定され、連結部材70によって受部材30a、30b及びプレキャストRC床版1a、1b同士が連結される。この際、ボルト50と、このボルト50の雄ねじ部52を囲繞し得る領域80aとの間の積極隙間と、収容部32の内周面と挿設部72の外周面との間の積極隙間の存在によって、受部材30aと受部材30bとの相対位置や両者の軸の平行性に関する誤差を十分に吸収することが可能となる。
【0089】
例えば、受部材30aと受部材30bとの相対位置に所定間隔よりも誤差の範囲内で近接している場合、図28に示すように、受部材30a、30bの各収容部32内のX方向外向きに偏った箇所に挿設部72が位置する。更に、このとき受部材30a、30bの各孔80に挿通させた両ボルト50は、各領域80aでX方向内向きに偏った箇所に位置し、雌ねじ孔36に螺合して締結する。従って、ボルト50の雄ねじ部52と領域80aとの間の積極隙間、及び、収容部32の内周面と挿設部72の外周面との間の積極隙間の存在によって、受部材30a、30b間の誤差を吸収し、連結部材70を挿設することが出来るので、接合対象部材に内在する寸法、相対位置等の誤差や接合現場における現場誤差等を大きく吸収することが可能で、施工性及び作業効率を向上させることができる。
【0090】
その上、連結部材70によって受部材30a、30b同士を連結した後、孔40内の第二内周面44と頭部54との隙間や、挿設部72、72と収容部32、32との隙間には、硬化性流動体を注入し、この硬化性流動体を硬化させ得る(例えば、図27(b)参照)。これにより、これらの積極隙間に対して硬化性流動体を注入した際には、連結部材70と受部材30a、30bとがより強固に連結され、プレキャストRC床版1、1同士の接合強度を向上させることが可能となる。また、挿設部72と収容部32との間の隙間が収容部32の深さ方向の全域に存するため、連結部材70によって受部材30a、30bを連結させたとき、硬化性流動体を収容部32の隙間を全て埋める様に注入することも可能であり、挿設部22を収容部32に挿嵌させた状態と比べてより強固に固定することが出来る。
【0091】
なお、本発明の継手は、プレキャストRC床版1a、1bを異なる高さで連結する場合にも利用できる。そのような場合には、介在部材としての段調ワッシャ90を用いて段差調整を行う。即ち、受部材30a、30bの内、低位に位置される方の収容部32の内底部に、段差を調整する為の段調ワッシャ90(図13参照)を配置する。この際、プレキャストRC床版1a、1b同士の高さ位置の段差に合わせた厚みとなるように段調ワッシャ90の厚みを設定することで、受部材30a、30b同士のZ方向の段差を調整した位置決めを行うことが可能となる。なお、この厚みの設定としては、段調ワッシャ90一枚の厚みを段差に合わせて調整してもよく、或いは、複数の段調ワッシャ90を重ねることで総合的な厚みを段差に合わせるように構成してもよい。なお、以下では位置調整架設部材20を用いて段調ワッシャ90の構成と役割を説明するが、位置調整架設部材20を連結部材70と読み替えることが可能で、この場合、段差調整機構は受部材30a、30bと連結部材70との段差調整についての説明と理解してよい。
【0092】
段調ワッシャ90は、略環状を成す座金状の部材であって中央部に軸部102を挿通させる孔を有する。また段調ワッシャ90は、その厚みによって挿設部22の収容部32への進入深さを規制する。
【0093】
図13は、受部材30a、30b同士の段差を調整して位置決めする場合の手順を示す図であり、位置調整架設部材20及び受部材30a、30bの相対位置関係の構成を断面図で示している。ここでは、受部材30aに対し、受部材30bを高さHの段差で連結するものとし、且つ、図13(a)に示すように、段調事前においては、受部材30bが受部材30aに対し高さHよりも更に下方の高さh(h>H)の位置に位置しているものとする。
【0094】
受部材30bの収容部32の内底部には、予め段調ワッシャ90が配置される。このときの段調ワッシャ90は、位置決めによる段差に対応する厚みを作出するものを用いる。即ち、段調ワッシャ90は、高さHに相当する厚みのものを用いる。なお、段調ワッシャ90は、一枚に限定するものではなく、その厚みの合計が高さHとなるまで収容部32内で重なる様に複数枚配してもよい。
【0095】
位置調整架設部材20によって受部材30a、30bの位置決めを行うとき、図13(b)に示すように受部材30a、30bに挿設部22を挿嵌させる。
受部材30aでは収容部32の内底部に挿設部22の下端面が当接する。また、受容部30bでは、収容部32の途中の段調ワッシャ90挟み込んだ位置にて挿設部22の進入が規制された状態となる。
【0096】
この状態で、雌ねじ体110に対して締結方向のトルクを印加する。このとき、雄ねじ体100は、図13(b)に示す押圧部104の長辺部分104bが受部材30bの規制凹部60内で回動が規制される。従って、雄ねじ体100は、雌ねじ体110に対して軸方向に相対変位し、押圧部104が受部材30bの下端面を押圧する。
【0097】
これによって、受部材30bは、押圧部104から押圧されて軸方向に変位する。受部材30bが軸方向に変位して、受部材30bの収容部32の内底部に配置された段調ワッシャ90に挿設部22(誘導部22c)の下端面が当接する。
【0098】
従って、図13(c)に示すように位置調整架設部材20は、一方の挿設部22が受部材30aの収容部32の内底部に当接し、他方の挿設部22が受部材30bの収容部32に配された段調ワッシャ90に当接する。よって、受部材30bは、受部材30aに対して段調ワッシャ90の厚みの分だけ低位置に位置決めされる。
【0099】
位置決めの後は、雌ねじ体110に締結方向のトルクを追加的に印加することで、易断部102aを破断させて雄ねじ体100を架橋部24から除去し、ボルト50、50によって挿設部22、22と受部材30a、30bをそれぞれ固定する。勿論、上述したように、位置調整架設部材20を抜去して、連結部材70を受部材30a、30bに挿設し、ボルト50、50によって受部材30a、30bと挿設部72、72とをそれぞれ固定する様にしてもよい。
【0100】
なお、位置調整架設部材20によって受部材30a、30bを連結させる場合、図14に示すように、雄ねじ体100を架橋部24から引き抜いた後、挿設部22、22の貫通孔40、40にボルト50、50を挿通させ、雄ねじ部52、52を雌ねじ孔36、36に螺合して締結することで受部材30a、30bと位置調整架設部材20とを固定することが出来る。勿論、位置調整架設部材20によって、受部材30a、30bを連結した後、プレキャストRC床版1a、1bとの間、及び、挿設部22、22を挿設させた収容部32、32の間の積極隙間等の隙間が存する箇所に硬化性流動体を流入して硬化させることが出来る。
【0101】
段調ワッシャ90を用いた高さ方向の位置決めは、図15(a)に示す受部材30aの上方に在る受部材30bを、最終的に受部材30aの下方に位置決めする場合にも有効である。この場合にも受部材30bの収容部32に予め段調ワッシャ90を配置し、受部材30a、30bの収容部32に挿設部22、22をそれぞれ挿嵌させる。図15(b)に示すように、受部材30bに挿嵌された挿設部22の下端部は、段調ワッシャ90の上面に当接する。このとき、受部材30aの収容部32内の挿設部22は、受部材30aの収容部32の深さ方向の途中まで進入した状態となる。
【0102】
この状態から雌ねじ体110に締結方向のトルクを印加したとき、押圧部104は、図15(b)に示すように長辺部分104bが受部材30aの規制凹部60内で第一規制部62に当接して回転が規制される。従って、雄ねじ体100は、雌ねじ体110に対して軸方向に相対変位し、押圧部104が受部材30aの下端面を押圧する。一方で、雌ねじ体110は、位置調整架設部材20を押圧しており、位置調整架設部材20が受部材30bと共に受部材30aに対して相対的に下降する。
【0103】
その結果、図15(c)に示すように受部材30bは、下端面が押圧部104に当接する位置まで下降し、受部材30a、30bが略同じ高さに並ぶ。
【0104】
次に、位置調整架設部材20或いは連結部材70と受部材30a、30bとをボルト50、50によって締結固定する。例えば、位置調整架設部材20を抜去して連結部材70を挿設した場合、図16(a)に示すように、連結部材70の挿設部72の内、受部材30aの収容部32内に進入している方は、その下端部が収容部32の内底面から離れている。
【0105】
ボルト50、50によって連結部材70と受部材30a、30bの固定を行う為には、挿設部72、72の孔80、80にボルト50、50を挿通させ、雄ねじ部52、52と雌ねじ孔36、36とをそれぞれ螺合し締結する。受部材30aの雌ねじ孔36とボルト50との螺合によって、連結部材70及び受部材30bが一体的に、受部材30aに対して相対的に下降し、図16(b)に示すように、受部材30aの収容部32の内底面と挿設部72の下端部とが当接する。これは、ボルト50の螺進によって、連結部材70が受部材30aの収容部32の内底面側に引き寄せられる為である。
【0106】
これにより、受部材30bが受部材30aに対して段調ワッシャ90の厚みHだけ下方に位置し、連結部材70によって受部材30a、30bが連結される。
【0107】
このように、段調ワッシャ90を用いることで、受部材30bが、受部材30aよりも上方に位置していても、位置調整架設部材20による位置決めと、ボルト50、50による雌ねじ孔36、36への螺合によって、受部材30a、30bを適切な段差で位置させ連結することが可能となる。
【0108】
なお、段調ワッシャ90の形状は、少なくともボルト50が挿通且つ挿設部を支持し得る形状であればよく、例えば、平ワッシャ形状、スプリングワッシャ形状、皿ばね座金形状、歯付座金形状、球面座金形状等も採り得る。
【0109】
なお、位置調整架設部材を、抜去することを目的に使用する場合には、図17に示すように、位置調整架設部材に対して、不図示の引上げ手段を接続し得る抜去手段130を設けた位置調整架設部材120であってもよい。位置調整架設部材120は、抜去手段130を設けた点の他、挿設部22、22に貫通孔を設けていない点等が位置調整架設部材20と相違する。
【0110】
抜去手段130は、例えば、作業者が掴み易い形状や、フックや吊金具等が引っ掛かる形状であり、引掛り部分を含むアーチ形状や環形状等を有する。抜去手段130は、引上げによって受部材30a、30bから抜去し易い箇所に配される。例えば位置調整架設部材120のX方向の中心に対して対称な二箇所として位置調整架設部材120の各挿設部22の上端面等に配設することが出来る。なお、抜去手段130は、架橋部24の上端面に設けてもよい。勿論、抜去手段130の位置は、必ずしも二箇所に限定するものでは無く、一箇所であっても、三箇所以上であってもよく、挿設部22、22と架橋部24にそれぞれ設けることも可能である。
【0111】
また、抜去手段は、位置調整架設部材20の挿設部22、22に着脱可能に構成してもよい。例えば、図18に示すように、挿設部22、22の貫通孔40、40に対して螺合し得る様に抜去手段140を構成し、着脱可能に設けることも出来る。即ち、抜去手段140は、貫通孔40に固定される雄ねじ型の軸体142と、軸体142の一端に形成された環形状等の引掛り部144等を有して構成することが出来る。
【0112】
また、抜去手段140を螺合固定を可能とする為、貫通孔40の第一内周面42には、軸体142に螺合し得る雌ねじ螺旋溝を設けて構成してもよい。軸体142の雄ねじ及び第一内周面42の雌ねじは、軸体142が貫通孔40の外側まで延在し得るように、その形成される範囲が設定される。また軸体142は、第一内周面42に螺合するので、雌ねじ孔36に螺合し得ないように構成されるものであり、例えば、それは雌ねじ孔36よりも軸体142の雄ねじ部の径が十分に大きく設定することで実現可能である。
【0113】
また、プレキャストRC床版に配する受部材30の数は、特に限定するものではなく、プレキャストRC床版のサイズ等によって適宜設定し得る。また、複数の継手10でプレキャストRC床版の位置決めを行うときの位置決めの順番等は適宜設定し得、例えば、プレキャストRC床版の一端側から他端側に向かって順に位置決めを行ってもよく、また中間位置から端に向かって順に位置決めを行ってもよく、その他の適宜の部位のみを位置決めする様に構成してもよい。また、両端から略同時或いは交互に中間位置に向かって位置決めを行ってもよい。
【0114】
次に、位置調整架設部材20のみを用いたプレキャストRC床版1a、1bの連結施工方法について、図19に示すフローチャートを参照して説明する。なお、プレキャストRC床版1aとプレキャストRC床版1bとが予め対向配置された状態で連結施工を開始する。また上述したように、プレキャストRC床版1aは固定されたものであり、プレキャストRC床版1bは変位可能なものとする。
位置調整架設部材20によって受部材30a、30bを連結する前に、プレキャストRC床版1a、1bを段差有りの状態で連結するか否かを確認する(ステップS1)。
確認の結果として、段差有りの状態で連結する場合(ステップS1、Yes)は、段差による下位側に配置される受部材30の収容部32底面に段調ワッシャ90を配置し(ステップS2)、次のステップS3に進む。また、確認の結果として、段差無しの状態で連結する場合(ステップS1、No)は、段調ワッシャ90を配置することなく次のステップS3に進む。
【0115】
次に、位置調整架設部材20の配置を行う(ステップS3)。即ち、位置調整架設部材20を受部材30a、30b間の上方に位置させ、挿設部22を受部材30a、30bに挿嵌させる。
【0116】
その後、雄ねじ体100と雌ねじ体110とを締結させて受部材30b及びプレキャストRC床版1bの位置決めを行う(ステップS4)。即ち、雌ねじ体110に締付方向のトルクを印加し、押圧部104と雌ねじ体110との間で受部材30a、30b及び連結部20を押圧して締め付ける。
この締付けによる力は、受部材30bをZ方向に変位させる様に作用する他、誘導部22cを介して傾斜案内面34に伝達し、X方向及び/又はY方向の力に変換されて受部材30bをX方向及び/又はY方向に変位させる様に作用する。これにより、受部材30b及びプレキャストRC床版1bの位置決めを行う。
【0117】
次いで、雄ねじ体100及び雌ねじ体110の除去を行う(ステップS5)。即ち、雌ねじ体110に所定以上のトルクを印加して雄ねじ体100に軸力を作用させることで、易断部102aを破断させて軸部102を分断する。雄ねじ体100の内、雌ねじ体110が螺合している軸部102を位置調整架設部材20から引き抜いて除去すると共に、破断した軸部102の断片及び押圧部104については、プレキャストRC床版1a、1b間の下方に配設される堰止手段上から回収手段によって回収する。
【0118】
次いで、位置調整架設部材20と受部材30a、30bとの固定を行う(ステップS6)。即ち、各挿設部22、22の貫通孔40、40にボルト50、50を挿通させ、雄ねじ部52、52を雌ねじ孔36、36にそれぞれ螺合させる。これによって位置調整架設部材20(挿設部22、22)と受部材30a、30bとが固定される。
【0119】
そして、全ての受部材30a、30b同士が位置調整架設部材20によって連結されたか否かを確認する(ステップS7)。受部材30a、30b間に位置調整架設部材を配設していない箇所があって、連結されていないことを確認したとき(ステップS7、No)、ステップS1に移行して、他の受部材30a、30bを連結する為に、ステップS1からS6に示す段差有無に応じた段調ワッシャ90の配置、位置調整架設部材20の配置、受部材30b及びプレキャストRC床版1bの位置決め、雄ねじ体100及び雌ねじ体110の除去、位置調整架設部材20と受部材30a、30bの固定等の工程を行う。
【0120】
その後、全ての受部材30a、30b同士が位置調整架設部材20によって連結されたことを確認した後(ステップS7、Yes)、挿設部22と受部材30との隙間、プレキャストRC床版1a、1b間の隙間等に、硬化性流動体を注入する(ステップS8)。そして各隙間内で硬化性流動体を硬化させ、位置調整架設部材20のみを用いてプレキャストRC床版1a、1bを連結する施工を終了する。
【0121】
次に、位置調整架設部材20と、連結部材70とによるプレキャストRC床版1a、1bの連結施工方法を、図20に示すフローチャートを参照して説明する。ここでは、プレキャストRC床版1aとプレキャストRC床版1bとを並べたときに、対向する受部材30a、30bの間隔に連結部材70が挿設し得るときは、連結部材70を挿設し、連結部材70が挿設し得ない箇所には位置調整架設部材20を挿嵌させる。
【0122】
先ず、プレキャストRC床版1a、1bを段差有りの状態で連結するか否かを確認する(ステップSA1)。その確認の結果として、段差有りの状態で連結する場合(ステップSA1、Yes)は、段差によって下位側に位置する受部材30の収容部32底面に段調ワッシャ90を配し(ステップSA2)、次のステップSA3に進む。また、その確認の結果として、段差無しの状態で連結する場合(ステップSA1、No)は、段調ワッシャ90を配置することなく、次のステップSA3に進む。
【0123】
そして、固定用の連結部材70が挿設し得る間隔で受部材30a、30bが対向配置されているか否かを確認し(ステップSA3)、連結部材70が挿設し得ないとき(ステップSA3、No)、位置調整架設部材20の配置を行う(ステップSA4)。即ち、位置調整架設部材20を受部材30a、30b間の上方に位置させ、挿設部22、22を受部材30a、30bにそれぞれ挿嵌させる。
【0124】
次いで、雄ねじ体100と雌ねじ体110とを締結することで、受部材30b及びプレキャストRC床版1bの位置決めを行う(ステップSA5)。即ち、雌ねじ体110に締付方向のトルクを印加し、押圧部104と雌ねじ体110との間で受部材30a、30b及び連結部20を押圧して締付ける。これにより、受部材30bをX方向、Y方向及び/又はZ方向に変位させて受部材30b及びプレキャストRC床版1bの位置決めを行う。
【0125】
次いで、雄ねじ体100及び雌ねじ体110の除去を行う(ステップSA6)。即ち、雌ねじ体110に所定以上のトルクを印加し、易断部102aを破断させる。雌ねじ体110が螺合している軸部102を位置調整架設部材20から引き抜いて除去し、破断した軸部102の断片及び押圧部104は、プレキャストRC床版1a、1b間の下方に配設される堰止手段上から回収手段によって回収する。
【0126】
次に、位置調整架設部材20と受部材30a、30bとの固定を行う(ステップSA7)。即ち、各挿設部22、22の貫通孔40、40にボルト50、50を挿通させ、雄ねじ部52、52を雌ねじ孔36、36にそれぞれ螺合し締結する。従って、位置調整架設部材20(挿設部22)と受部材30a、30bとが固定される。
【0127】
次いで、上記ステップSA3において、連結部材70を挿設し得るとき(ステップSA3、Yes)、連結部材70の配置を行う(ステップSA8)。即ち、連結部材70を受部材30a、30bの上方から挿入し、挿設部72、72を受部材30a、30bにそれぞれ挿設する。
【0128】
そして、連結部材70と受部材30a、30bとの固定を行う(ステップSA9)。即ち、各挿設部72、72の貫通孔80、80にボルト50、50を挿通させ、雄ねじ部52、52を雌ねじ孔36、36にそれぞれ螺合させ、連結部材70(挿設部72)と受部材30a、30bとを固定する。
【0129】
次に、ステップSA7による位置調整架設部材20と受部材30a、30bの固定後、或いは連結部材70と受部材30a、30との固定後、全ての受部材30a、30b同士が連結されたか否かを確認する(ステップSA10)。未連結の受部材30a、30bが存するとき(ステップSA10、No)、ステップSA1に移行する。
【0130】
全ての受部材30a、30b同士が位置調整架設部材20又は連結部材70によって連結されたことを確認したとき(ステップSA10、Yes)、挿設部22と受部材30との隙間、プレキャストRC床版1a、1b間の隙間等に、硬化性流動体を注入する(ステップSA11)。そして、各隙間内で硬化性流動体を硬化させて位置調整架設部材20又は連結部材70を用いたプレキャストRC床版1a、1bを連結する施工を終了する。
【0131】
次に、プレキャストRC床版1a、1bの連結において、位置調整架設部材20による位置決め後、位置調整架設部材20を引き抜いて連結部材70によって連結する連結施工方法を図21に示すフローチャートを参照して説明する。
【0132】
先ず、プレキャストRC床版1a、1bを段差有りの状態で連結するか否かを確認する(ステップSB1)。その確認の結果が、段差有りの状態で連結する場合(ステップSB1、Yes)は、段差によって下位側に位置する受部材30の収容部32底面に段調ワッシャ90を配置し(ステップSB2)、次のステップSB3に進む。また、その確認の結果として、段差無しの状態で連結する場合(ステップSB1、No)は、段調ワッシャ90を配置することなく次のステップSB3に進む。
【0133】
次いで、連結させる受部材30a、30bに対して位置決め用の位置調整架設部材20を要するか否かを判断する(ステップSB3)。例えば、受部材30aに対する受部材30bの相対位置が適正な位置からズレているとき等は、位置調整架設部材20が必要と判断し(ステップSB3、Yes)、位置調整架設部材20の配置を行う(ステップSB4)。即ち、位置調整架設部材20を受部材30a、30b間の上方に位置させ、挿設部22、22を受部材30a、30bにそれぞれ挿嵌させる。
【0134】
次に、雄ねじ体100と雌ねじ体110とを締結させて、受部材30b及びプレキャストRC床版1bの位置決めを行う(ステップSB5)。即ち、雌ねじ体110に締付方向のトルクを印加し、押圧部104と雌ねじ体110との間で受部材30a、30b及び位置調整架設部材20を押圧して締め付ける。これにより受部材30bをX方向、Y方向及び/又はZ方向に変位させて受部材30b及びプレキャストRC床版1bの位置決めを行う。
【0135】
次いで、位置調整架設部材20から連結部材70へと差替えを行う(ステップSB6)。即ち、位置調整架設部材20を抜去して、その箇所に連結部材70を挿設する。なお位置調整架設部材20の抜去については後述する。
【0136】
そして、連結部材70と受部材30a、30bとの固定を行う(ステップSB7)。即ち、各挿設部72、72の貫通孔80、80にボルト50、50を挿通させ、雄ねじ部52、52を雌ねじ孔36、36に螺合し締結する。従って、連結部材70と受部材30a、30bとが固定される。
【0137】
他方、上記ステップSB3において、位置決め用の位置調整架設部材120が不要であると判断したとき(ステップSB3、No)、連結部材70の挿設部72、72を受部材30a、30bの収容部32、32に挿入して受部材30a、30bに挿設する(ステップSB8)。
【0138】
連結部材70を受部材30a、30bに挿設した後、ステップSB7に移行して連結部材70と受部材30a、30bとを固定する。
【0139】
ステップSB7による連結部材70と受部材30a、30bの固定後、全ての受部材30a、30b同士の連結が完了したか否かを確認する(ステップSB9)。連結していない受部材30a、30bがあるとき(ステップSB9、No)、ステップSB1に戻って受部材30a、30b同士を連結するための各工程を行う。
【0140】
全ての受部材30a、30b同士が連結部材70によって連結されたことを確認したとき(ステップSB9、Yes)、挿設部22と受部材30との隙間、プレキャストRC床版1a、1b間の隙間等に、硬化性流動体を注入する(ステップSB10)。そして、各隙間内で硬化性流動体を硬化させて連結部材70を用いたプレキャストRC床版1a、1bを連結する施工を終了する。
【0141】
上記位置調整架設部材20の抜去の工程の一例について、図22のフローチャートを参照して説明する。位置調整架設部材20を受部材30a、30bから抜去するため、雌ねじ体110を雄ねじ体100に対して緩める(ステップSC1)。即ち、雌ねじ体110に緩み方向のトルクを印加し、雄ねじ体100を軸方向に変位させ、押圧部104を第二規制部64に干渉しない位置に変位させる。
【0142】
次いで、雌ねじ体110を緩み方向に回転させ、押圧部104を受部材30a、30bに干渉しない向きになるように回動させる(ステップSC2)。即ち、押圧部104が第二規制部64に干渉しない位置に在るとき、雄ねじ体100が雌ねじ体110と共に回るので、押圧部104は略90°回動して規制凹部60から離脱する。その結果、押圧部104は、図11(a)に示すように短辺部分104aが架橋部24と略平行な向きになって回転が規制される。
【0143】
次に、雄ねじ体100を引き上げる(ステップSC3)。これによって位置調整架設部材20が受部材30a、30bの外側まで持ち上がって受部材30a、30bから抜けたとき(ステップSC4、Yes)、位置調整架設部材20の抜去を終了する。
【0144】
一方で、受部材30a、30bに引掛って位置調整架設部材20が持ち上がらない等、受部材30a、30bから抜けないとき(ステップSC4、No)、各挿設部22、22に抜去手段140を取付ける(ステップSC5)。
具体的には、各挿設部22の貫通孔40の第一内周面42に対して軸体142を螺合させ、位置調整架設部材20の両貫通孔40に対して軸体142を交互に且つ徐々に螺入させて、例えば、図23に示すように貫通孔40に抜去手段140を取付ける。勿論、両貫通孔40に抜去手段140を取付るときは、抜去手段140を交互に且つ徐々に螺入させる方法に限定されるものではなく、両貫通孔40に対して軸体142を同時に螺入させてもよいことは言うまでもない。
【0145】
抜去手段140を第一内周面42に対して螺進させることで、その先端部を、受部材30a、30bの内底面に押し込んで、その反力によって位置調整架設部材20を上方に変位させる(ステップSC6)。即ち、抜去手段140の引掛り部144を回転させることで貫通孔40に軸体142をねじ込み、貫通孔40から収容部32の内底部側に対して軸体142の下端部を突出させる。これによって、図24に示すように、軸体142が収容部32の内底部を押圧して位置調整架設部材20を持ち上げ、結果、位置調整架設部材20が受部材30に対して相対的に上方に変位する。
なお、ステップSC6における抜去手段140を第一内周面42に対して螺進させるとき、両抜去手段140を交互に且つ徐々に螺進させてもよいが、両抜去手段140を同時に螺進させるようにしてもよい。
【0146】
位置調整架設部材20を上方に変位させた後、雄ねじ体100を引き上げたり、引掛り部144に吊金具等を掛けて位置調整架設部材20を持ち上げたりすることで、受部部材30a、30bから位置調整架設部材20を引き抜き(ステップSC7)、位置調整架設部材20の抜去を終了する。
【0147】
上記のように、抜去手段140を設置することで、位置調整架設部材20が抜去し易くなる。即ち、雄ねじ体100を引き上げても位置調整架設部材20が受部材30a、30bから抜けない場合には、抜去手段140の軸体142を第一内周面42に対してねじ込むことによって挿設部22が収容部32内で相対的に持ち上がるので、抜去し易くなる。更に、抜去手段140の引掛り部144には、吊金具等が引掛け得るので、ウインチ等の引上げ手段によって引き上げることも可能となる。
【0148】
なお、抜去手段140の軸体142は、挿嵌部22bを収容部32の内周面に対して摺動し得ない箇所まで上昇変位させるように、ねじ長さ等を設定することが望ましい。即ち、図26に示すように、軸体142を第一内周面42に対してねじ込んだとき、挿嵌部22bが収容部32の傾斜案内面34の高さ位置まで持ち上がるように、軸体142のねじ長さ等を設定する。例えば、軸体142のねじ長さは、挿嵌部22bが収容部32の内周面に摺動し得る範囲のZ方向の距離に相当する長さ等に設定することが出来る。
【0149】
なお、孔40内の第二内周面44と頭部54との隙間に硬化性流動体を注入するが、雄ねじ部52と第一内周面42との間には硬化性流動体が流入し得ない。そのため隙調ワッシャ56に孔を設けて該孔を介して雄ねじ部52と第一内周面42との間に硬化性流動体を流入させるようにしてもよい。このように、隙間が存する箇所を硬化性流動体で埋めれば、受部材30a、30b同士を連結している強度及び、プレキャストRC床版1a、1b同士の接合強度等を向上させることが出来る。
【0150】
また、本発明の継手によって道路橋にプレキャストRC床版を配置、連結する場合の施工開始位置と施工の進行向き等は、適宜設定し得る。例えば、図25(a)に示すように道路橋の一端部を施工開始位置とし、施工開始位置から他端部に向かう方向を施工の進行向きとして設定してもよい。その概要としては、先ず、道路橋の一端部にプレキャストRC床版を固定する。次に、該プレキャストRC床版に対して他端側で隣接する他のプレキャストRC床版を配置し、本発明の継手により両プレキャストRC床版を連結して固定する。このように道路橋の一端部にプレキャストRC床版を固定し、他端部に向かって順次新たなプレキャストRC床版を配置、固定する様に施工を行ってもよい。
【0151】
また、図25(b)に示すように道路橋の両端部をそれぞれ施工開始位置とし、施工開始位置から中央側に向かう方向を施工の進行向きとして設定してもよい。その概要としては、先ず、道路橋の両端部にそれぞれプレキャストRC床版を固定する。次に、一端側に固定されたプレキャストRC床版に対して中央側で隣接する位置に他のプレキャストRC床版を配置し、本発明の継手により両プレキャストRC床版を連結、固定する。同様の処理を他端部においても実行する。このように道路橋の両端部にそれぞれプレキャストRC床版を固定し、一端部及び他端部から中央側に向かって順次新たなプレキャストRC床版を配置、固定するように施工を行ってもよい。
【0152】
また、図25(c)に示す道路橋の中央部を施工開始位置とし、施工開始位置から両端部に向かう方向を施工の進行向きとすることも出来る。その概要としては、先ず、道路橋の中央部にプレキャストRC床版を固定する。次に、固定されたプレキャストRC床版に対し、一端側で隣接する様に他のプレキャストRC床版を配置し、本発明の継手により両プレキャストRC床版を連結、固定する。同様に、中央部に固定されたプレキャストRC床版に対し、他端側で隣接するように他のプレキャストRC床版を配置し、本発明の継手により両プレキャストRC床版を連結、固定する。このように道路橋の中央部にプレキャストRC床版を固定し、中央部から両端部に向かって順次新たなプレキャストRC床版を配置、固定してもよい。
【0153】
また、図25(d)に示す道路橋の中央部及び両端部をそれぞれ施工開始位置とし、中央部からは両端部に向かう向きを施工の進行向きとし、両端部からは中央部に向かう向きを施工の進行向きとすることもできる。その概要としては、先ず、道路橋の中央部と両端部にそれぞれプレキャストRC床版を固定する。次に、中央部で固定されたプレキャストRC床版に対しては、隣接するようにその両端側に他のプレキャストRC床版をそれぞれ配置し、各プレキャストRC床版を固定されているプレキャストRC床版に連結、固定する。また、一端側に固定されたプレキャストRC床版に中央側で隣接する他のプレキャストRC床版を配置し、固定されているプレキャストRC床版に連結、固定する。同様の処理を他端側に固定されたプレキャストRC床版にも行う。このように道路橋の中央部と両端側にそれぞれプレキャストRC床版を固定し、中央部に固定したプレキャストRC床版に対しては、一端部及び他端部で順次新たなプレキャストRC床版を配置、固定し、また両端部で固定した各プレキャストRC床版に対しては、中央部に向かって順次新たなプレキャストRC床版を配置、固定してもよい。
【0154】
なお、プレキャストRC床版1における受部材30の位置によっては、連結部20で二つの受部材30を連結させたとき、隣り合うプレキャストRC床版1、1同士の間詰め幅を極めて小さく設定することが出来る。即ち、受部材30をプレキャストRC床版1の側端面よりもX方向に沿った内側に配してプレキャストRC床版1a、1b間の空隙を狭めることが出来る。
【0155】
例えば、受部材30が当該側面部からX方向に沿って架橋部24のX方向長さの略半分に相当する長さ分内側にずらした位置に配した場合、プレキャストRC床版1a、1bは、互いの端面が略重なり合いながらも、受部材30a、30b間に架橋部24が収まり得る空間を作出することが出来る。
【0156】
また、本発明の継手は、一方が固定され、他方が変位する道路橋床版同士の位置決めに利用が限定されるものではなく、道路橋床版が両方とも変位し得る場合であっても同様に利用することができる。即ち、位置調整架設部材の挿設部を挿設したとき、両受部材が変位し得る場合も有り得る。
【0157】
また、抜去手段として、雄ねじ型の軸体142の一端に環形状等の引掛り部144を設けたものを例に説明したが、少なくとも、抜去手段は、軸体142にトルクを伝達することができれば、引掛り部144に代えてレンチ等の締結工具と周方向に係合し得る形状の頭部を設けたものであってもよい。
【0158】
図29は、他の抜去手段150の例を示す斜視図である。抜去手段150は、所謂ボルト様の部材であって雄ねじ螺旋溝を刻設した軸体152と、六角頭等の頭部154を有するものがあり得る。軸体152は、上記軸体142と同様に第一内周面42の雌ねじに螺合し、雌ねじ孔36に螺合し得ないように構成されているものである。頭部154は、軸体152よりも径方向に拡張させた外径形状を有し、締結工具から付与されたトルクを軸体142に伝達する。
【0159】
このような抜去手段150によれば、雄ねじ体100を引き上げようとしても位置調整架設部材20が受部材30a、30bから抜けない場合に、抜去手段140を用いた場合と同様に、軸体152を第一内周面42に対してねじ込むことによって挿設部22が収容部32内で相対的に持ち上がって抜去し易くなる。
【0160】
具体的には、締結工具によって頭部154に対してトルクを付加したとき、抜去手段150が第一内周面42に対して螺進する。即ち、頭部154が回転して貫通孔40に軸体152をねじ込み、貫通孔40から収容部32の内底部側に対して軸体152の下端部を突出させる。
軸体152が収容部32の内底部を押圧し、その反力によって位置調整架設部材20を受部材30に対して相対的に上方に変位させる。
【0161】
そして、位置調整架設部材20を上方に変位させた後、雄ねじ体100や抜去手段150を引き上げることで、受部部材30a、30bから位置調整架設部材20を引き抜くことができる。
【0162】
尚、頭部154の形状は、六角頭に限定するものでは無く、平面視で略三角形状や略四角形状等の多角形状の他、略円形状、略楕円形状、略長円形状等もあり得る。また例えば、バインド頭、トラス頭、皿頭、丸皿頭、なべ頭等もあり得る。更に頭部の頂面に三角形状、四角形状、六角形状等の多角形状の穴、星型の穴、すりわり、プラスマイナス穴等を形成することもあり得る。
【0163】
尚、位置調整架設部材20によって二つの受部材30a、30bの位置決めと架設を同時に成すものとして説明したが、これに限定されるものではなく、位置調整架設部材20による位置決めを行うことなく、連結部材70を二つの受部材30a、30bに挿嵌することで、受部材30a、30b同士の架設を成すこともあり得る。その場合、受部材30a、30bの収容部32に挿設部72を挿嵌したとき、積極隙間が在るように収容部32と挿設部72の寸法や相対位置等を調整する。
【0164】
上記のような構成によっても、道路橋床版同士の架設の作業性を向上させ、接合作業を実施する現場毎の設計図面からの寸法ズレや位置ズレ、変形等や道路橋床版の歪みや捩れ等に伴う誤差が大きなものであっても、接合作業を行う現場における所謂現場合わせによって、それらの誤差を吸収可能で、柔軟に対応可能で、自由度の高い施工を可能とすると共に、施工性を著しく向上させ、道路橋床版同士の接合作業時間を大幅に短縮することが可能であって、同時に省人化、工期短縮化、高強度化、高耐久化を実現することを可能とする。
【符号の説明】
【0165】
1…プレキャストRC床版、10…継手、20…位置調整架設部材、22…挿設部、22a・・・挿嵌逃げ部、22b・・・挿嵌部、22c・・・誘導部、24…架橋部、30a,30b…受部材、31…アンカ取付孔、32…収容部、34…傾斜案内面、36…雌ねじ孔、38…係止部、40…孔、42…第一内周面、44…第二内周面、46…支持面、50…ボルト、52…雄ねじ部、54…頭部、60…規制凹部、62…第一規制部、64…第二規制部、70…連結部材、100…雄ねじ体、102…軸部、102a…易断部、104…押圧部、104a…短辺部分、104b…長辺部分、110…雌ねじ体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
【手続補正書】
【提出日】2023-09-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路橋床版に配される受部材と、受部材同士を連結する架設部材とを有して一対の上記道路橋床版を連結する継手であって、
上記受部材は、有底の収容部と、上記収容部に挿設される架設部材に係合する係合部とを有し、
上記架設部材は、上記収容部に挿設される一対の挿設部と、該挿設部間を繋ぐ架橋部とを有し、
上記挿設部の外径が、上記収容部の内径未満であり、
上記挿設部は、固定ボルトを挿通させる貫通孔を有し、
上記受部材は、上記固定ボルトに螺合する雌ねじ孔を有し、
上記貫通孔は、上記固定ボルトの軸部を囲繞し該軸部の外径よりも大きい内径の第一内周面と、前記固定ボルトの頭部を囲繞し該頭部の外径よりも大きい内径の第二内周面とを有し、
前記固定ボルトの頭部を支持し、当該頭部が前記第一内周面に進入するのを防止する隙調ワッシャを配し、
上記隙調ワッシャは、内径が上記固定ボルトの軸径よりも大きく、外径が上記第一内周面の内径よりも十分に大きいことを特徴とする継手。
【請求項2】
道路橋床版に配される受部材と、受部材同士を連結する架設部材とを有して一対の上記道路橋床版を連結する継手であって、
上記受部材は、有底の収容部と、上記収容部に挿設される架設部材に係合する係合部とを有し、
上記架設部材は、上記収容部に挿設される一対の挿設部と、該挿設部間を繋ぐ架橋部とを有し、
上記挿設部は、横断面形状が略一様の筒形状を有し、
上記挿設部の外径が、上記収容部の内径未満であることを特徴とする継手。
【請求項3】
前記挿設部は、固定ボルトを挿通させる貫通孔を有し、
前記受部材は、上記固定ボルトに螺合する雌ねじ孔を有し、
上記貫通孔は、上記固定ボルトの軸部を囲繞し該軸部の外径よりも大きい内径の第一内周面と、前記固定ボルトの頭部を囲繞し該頭部の外径よりも大きい内径の第二内周面とを有することを特徴とする請求項2記載の継手。
【請求項4】
前記貫通孔は、前記固定ボルトの軸部を囲繞する内周面と該軸部の外周面との間に、誤差吸収用の隙間を有し、
当該誤差吸収用の隙間は、前記挿設部の外周と前記収容部の内周との隙間よりも狭いことを特徴とする請求項1又は3記載の継手。
【請求項5】
2から
前記挿設部の外周と前記収容部の内周との隙間に硬化性流動体を注入し、前記受部材と前記挿設部とを固定し得ることを特徴とする請求項1又は2記載の継手。
【請求項6】
5から
前記挿設部は、前記貫通孔内に上記固定ボルトに対し軸方向に直接的又は間接的に係合し得る支持面を有することを特徴とする請求項1又は2記載の継手。
【請求項7】
前記収容部の内底部に配置可能な段調ワッシャを有し、
上記段調ワッシャにより、前記収容部内での前記挿設部の収容深さを規制することを特徴とする請求項1又は2記載の継手。
【請求項8】
前記挿設部と前記架橋部の端面が略面一であることを特徴とする請求項1又は2記載の継手。
【請求項9】
前記固定ボルトの頭部を支持し、当該頭部が前記第一内周面に進入するのを防止する隙調ワッシャを配することを特徴とする請求項3記載の継手。
【請求項10】
前記隙調ワッシャは、内径が前記固定ボルトの軸径よりも大きく、外径が前記第一内周面の内径よりも十分に大きいことを特徴とする請求項10記載の継手。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路橋床版に配される受部材と、受部材同士を連結する架設部材とを有して一対の上記道路橋床版を連結する継手であって、
上記受部材は、有底の収容部と、上記収容部に挿設される架設部材に係合する係合部とを有し、
上記架設部材は、上記収容部に挿設される一対の挿設部と、該挿設部間を繋ぐ架橋部とを有し、
上記挿設部の外径が、上記収容部の内径未満であり、
上記挿設部は、固定ボルトを挿通させる貫通孔を有し、
上記受部材は、上記固定ボルトに螺合する雌ねじ孔を有し、
上記貫通孔は、上記固定ボルトの軸部を囲繞し該軸部の外径よりも大きい内径の第一内周面と、前記固定ボルトの頭部を囲繞し該頭部の外径よりも大きい内径の第二内周面とを有し、
前記固定ボルトの頭部を支持し、当該頭部が前記第一内周面に進入するのを防止する隙調ワッシャを配し、
上記隙調ワッシャは、内径が上記固定ボルトの軸径よりも大きく、外径が上記第一内周面の内径よりも十分に大きいことを特徴とする継手。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記固定ボルトの軸部を囲繞する内周面と該軸部の外周面との間に、誤差吸収用の隙間を有し、
当該誤差吸収用の隙間は、前記挿設部の外周と前記収容部の内周との隙間よりも狭いことを特徴とする請求項記載の継手。
【請求項3】
記挿設部の外周と前記収容部の内周との隙間に硬化性流動体を注入し、前記受部材と前記挿設部とを固定し得ることを特徴とする請求項記載の継手。
【請求項4】
記挿設部は、前記貫通孔内に上記固定ボルトに対し軸方向に直接的又は間接的に係合し得る支持面を有することを特徴とする請求項記載の継手。
【請求項5】
前記収容部の内底部に配置可能な段調ワッシャを有し、
上記段調ワッシャにより、前記収容部内での前記挿設部の収容深さを規制することを特徴とする請求項記載の継手。
【請求項6】
前記挿設部と前記架橋部の端面が略面一であることを特徴とする請求項記載の継手。