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特開2024-3768透湿防水積層布、その製造方法及びこれを用いた衣服
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003768
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】透湿防水積層布、その製造方法及びこれを用いた衣服
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/04 20060101AFI20240105BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20240105BHJP
   A41D 31/102 20190101ALI20240105BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20240105BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20240105BHJP
   D06M 17/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B32B5/04
A41D31/00 502P
A41D31/102
B32B5/26
D06M15/564
D06M17/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096343
(22)【出願日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2022102787
(32)【優先日】2022-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517008858
【氏名又は名称】株式会社ナフィアス
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 大樹
(72)【発明者】
【氏名】白石 篤史
(72)【発明者】
【氏名】西山 茉里
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 圭
(72)【発明者】
【氏名】大澤 道
【テーマコード(参考)】
4F100
4L032
4L033
【Fターム(参考)】
4F100BA03
4F100BA04
4F100CC10B
4F100DG11A
4F100DG11D
4F100DG15C
4F100EC182
4F100EC18G
4F100EH462
4F100EH46B
4F100EH762
4F100EH76B
4F100GB72
4F100JB06B
4F100JD04
4F100JD05
4L032AA04
4L032AA07
4L032AB02
4L032AB04
4L032AC01
4L032BA00
4L033AB07
4L033AC03
4L033CA50
(57)【要約】
【課題】着用中の雨及び汗によっても透湿膜が持つ通気性及び透湿性を発揮し続けることができる透湿防水積層布、その製造方法及び衣服を提供する。
【解決手段】表生地層2の一面にナノファイバー不織布層3が積層された透湿防水積層布9であって、ナノファイバー不織布層3の少なくとも片面は撥水層5であり、表生地層2とナノファイバー不織布層3は接着剤4により部分的に接着されている。この製造方法は、ナノファイバー不織布層3の少なくとも片面に撥水剤を付与して固定し、撥水層5とし、ナノファイバー不織布層3と表生地層2を接着剤4により部分的に接着する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表生地層の一面にナノファイバー不織布層が積層された透湿防水積層布であって、
前記ナノファイバー不織布層の少なくとも片面は撥水層であり、
前記表生地層とナノファイバー不織布層は部分的接着部で接着されていることを特徴とする透湿防水積層布。
【請求項2】
前記撥水層はナノファイバー不織布層の表生地層側に形成されている請求項1に記載の透湿防水積層布。
【請求項3】
前記ナノファイバー不織布層の裏面には、さらに裏生地層が積層されており、
前記ナノファイバー不織布層と前記裏生地層とは部分的接着部で接着されている請求項1に記載の透湿防水積層布。
【請求項4】
前記撥水層は、ナノファイバー不織布の撥水加工を施す面の繊維表面面積を100%としたとき、面積比で10~100%である請求項1に記載の透湿防水積層布。
【請求項5】
前記表生地層と前記ナノファイバー不織布層との部分的接着部、又は前記裏生地層と前記ナノファイバー不織布層との部分的接着部は、面積比で10~80%の範囲である請求項1に記載の透湿防水積層布。
【請求項6】
前記撥水層は、前記ナノファイバー不織布層の少なくとも片面が非フッ素系撥水剤により撥水加工されている請求項1に記載の透湿防水積層布。
【請求項7】
前記ナノファイバー不織布層は、熱可塑性ポリウレタンで形成された平均繊維径1nm~1,000nmのナノファイバーで構成されている請求項1に記載の透湿防水積層布。
【請求項8】
前記透湿防水積層布は、水で湿潤させた状態で、通気抵抗値が0~277.5kPa・s/mである請求項1に記載の透湿防水積層布。
【請求項9】
前記透湿防水積層布は、乾燥状態でJIS L1099 A-1法による透湿性が5000~20000g/m2・24h、JIS L1099 B-1法による透湿性が10000~100000g/m2・24hである請求項1に記載の透湿防水積層布。
【請求項10】
前記透湿防水積層布は、JIS L1099による洗濯前の耐水圧が7000~30000mmであり、20回洗濯処理後の耐水圧は、5000~25000mmである請求項1に記載の透湿防水積層布。
【請求項11】
前記透湿防水積層布は、JIS L1096フラジール法による通気度が0.01~2cc/m2・秒である請求項1に記載の透湿防水積層布。
【請求項12】
前記表生地は撥水処理されている請求項1に記載の透湿防水積層布。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の透湿防水層布の製造方法であって、
ナノファイバー不織布層の少なくとも片面に撥水剤を付与して固定し、撥水層とし、
前記ナノファイバー不織布層と表生地層を接着剤により部分的に接着することを特徴とする透湿防水積層布の製造方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の透湿防水層布を使用した衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透湿性、防水性の高い透湿防水積層布、その製造方法及びこれを用いた衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から透湿防水素材は多くの提案があり、押出延伸技術により成膜する多孔質素材(ポリテトラフルオロエチレン:PTFE)、湿式凝固法により成膜する多孔質素材(ポリウレタン:PU)、乾式凝固法により成膜される無孔質素材(PU)などが主に使用されている。これらの素材は、耐水圧、透湿性では高い数値が出ているが、着用時の蒸れ感を解消するには至っていない。また、乾式凝固法により成膜される無孔質膜は親水性の性質を持っており、発汗や降雨により湿潤すると性能が低下するだけでなく、膜膨潤による品位低下にもつながる。
近年、上記の方法以外で形成される新たな透湿膜が提案されている。具体的には、エレクトロスピニング法で紡糸されるナノファイバーを積層した提案がある(特許文献1及び2)。また、従来の透湿膜においては、油汚れのコンタミ防止の観点や、洗濯による耐水圧低下を防ぐ目的から、ポリウレタン膜中に疎水性原料を混ぜている素材も提案されている(特許文献3)。同様の観点から、ナノファイバー透湿膜においても、ナノファイバーに疎水性の加工を施す加工も提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-136970号公報
【特許文献2】特開2008-213391号公報
【特許文献3】特開2010-255132号公報
【特許文献4】特開2010-030289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来技術は、耐久性は向上しているが、着用中の雨及び汗により透湿膜自体が湿潤してしまい、透湿膜が持つ通気性及び透湿性が発揮されなくなってしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、乾燥状態だけでなく、着用中の雨及び汗によっても透湿膜が持つ通気性及び透湿性を発揮し続けることができる透湿防水積層布、その製造方法及び衣服を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の透湿防水積層布は、表生地層の一面にナノファイバー不織布層が積層された透湿防水積層布であって、前記ナノファイバー不織布層の少なくとも片面は撥水層であり、前記表生地層とナノファイバー不織布層は接着剤により部分的に接着されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の透湿防水積層布の製造方法は、表生地層の一面にナノファイバー不織布層が積層された透湿防水積層布の製造方法であって、前記ナノファイバー不織布層の少なくとも片面に撥水剤を付与して固定し、撥水層とし、前記ナノファイバー不織布層と表生地層を接着剤により部分的に接着することを特徴とする。
【0008】
本発明の衣服は、前記透湿防水積層布を使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の透湿防水積層布及び衣服は、表生地層の一面にナノファイバー不織布層が積層され、ナノファイバー不織布層の少なくとも片面は撥水層であり、表生地層とナノファイバー不織布層は接着剤により部分的に接着されていることにより、乾燥状態だけでなく、着用中の雨及び汗によっても透湿膜が持つ通気性及び透湿性を発揮し続けることができる。すなわち、透湿防水積層布の外気側からの雨水はナノファイバー不織布表面の撥水層により防ぎ、身体側からの汗(湿気の汗:気体)は、表生地層の糸の間や編織組織の隙間やナノファイバー不織布層内の空隙を通して外気側に放散するため、着用中の雨及び汗によってもナノファイバー不織布(透湿膜)が持つ通気性及び透湿性を発揮し続けることができる。その結果、着用中の透湿性・耐水圧の低下を防ぎ、蒸れ感がなく、快適な衣服内環境を維持することができる。また、本発明の透湿防水積層布の製造方法は、前記透湿防水積層布を効率よく合理的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の一実施形態の2層構造の透湿防水積層布の模式的断面図である。
図2図2は本発明の一実施形態の2.5層構造の透湿防水積層布の模式的断面図である。
図3図3は本発明の一実施形態の3層構造の透湿防水積層布の模式的断面図である。
図4図4A-Eは本発明の一実施形態の3層構造の透湿防水積層布の製法を示す模式的断面工程図である。
図5図5は本発明の一実施形態のナノファイバー不織布層と表生地層との接着状態を示す模式的断面図である。
図6図6は本発明の一実施形態のナノファイバー不織布の平面写真(SEM、倍率10000倍)である。
図7図7は本発明の一実施形態のナノファイバー不織布の平面写真(SEM、倍率2000倍)である。
図8図8Aは本発明の実施例で用いる透湿性測定装置(オリジナル法)を示す模式的展開図、図8Bは同、組立斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、表生地層の一面にナノファイバー不織布層が積層され、ナノファイバー不織布層の少なくとも片面は撥水層(撥水面)であり、表生地層とナノファイバー不織布層は接着剤により部分的に接着されている。表生地層とは、積層布の状態で衣服にしたときに外側に来る側にある生地層のことである。すなわち、雨天時に着用すると直接雨があたる生地層のことである。また、表生地層には撥水加工をしていてもよいが、耐水性や防水性があるものである必要はない。表生地層に撥水加工が施されていれば少量の雨水ははじくが、長時間雨にあたると生地に雨水が浸透してしまう。表生地層の内側(肌側)に透湿防水層を付与することで表生地層から浸透した雨水が衣服内へ入ることを防ぐことができる。しかし透湿防水膜が無孔質膜の場合には、膜が吸水する性質をもつため、表生地層から浸透した雨水を透湿防水膜が吸水し衣服内に入り込み着衣および肌を濡らし体温の低下につながってしまう。そのため、透湿防水膜の少なくとも片面に撥水加工層を設けることで、表生地層が濡れた場合でも衣服内への浸水を防ぐことができる。また、ナノファイバー不織布の表生地層側に撥水加工層を施すことがより好ましい。これにより表生地層から浸透した雨水が透湿防水膜内で吸水することをより効果的に防ぐことができる。本明細書において「少なくとも片面」とは、表面、裏面、両面のいずれかを示す。
【0012】
ナノファイバー不織布層に施す撥水加工層は、加工する面の全面が撥水面であってもよく、部分的に撥水面となっていてもよい。全面が撥水面とは、ナノファイバー不織布層に施す撥水加工層は、加工する面を構成するナノファイバー表面積の100%が撥水加工を施されている状態を指す。部分的な撥水面とは、ナノファイバー不織布層に施す撥水加工層は、加工する面を構成するナノファイバー表面積の一部分が撥水加工を施されている状態を指す。全面が撥水面であっても、ナノファイバー不織布層の厚み方向は繊維間の隙間があり、通気性は良く、身体側からの汗(湿気の汗:気体)は、表生地層の糸の間や編織組織の隙間やナノファイバー不織布層内の空隙を通して外気側に放散することができる。また、ナノファイバー不織布の少なくとも片面は撥水層となっているため、外気側からの雨水はナノファイバー不織布表面の撥水層により防ぎ、着用中着用時の蒸れ感がなく、雨及び汗によっても透湿膜が持つ通気性及び透湿性を発揮し続けることができる。本明細書において、撥水層を有するナノファイバー不織布を「透湿膜」又は「ナノメンブレン」ともいう。
【0013】
撥水層の厚みは、ナノファイバー不織布層の厚みの10~100%が好ましく、より好ましくは20~70%であり、さらに好ましくは30~50%である。これにより、撥水層によってナノファイバー不織布の湿潤時の機能低下を十分抑制できるだけでなく、保水した水分を非撥水面からナノファイバー不織布層外へ排出することができる。
撥水層(撥水面)の面積割合は、ナノファイバー不織布層表面の繊維表面面積を100%としたとき、面積比で10~100%が好ましく、より好ましくは面積比で20~95%の部分的撥水面であり、さらに好ましくは30~90%の部分的撥水面である。これにより、撥水剤はナノファイバー不織布(透湿膜)の細孔を塞ぐことがなく、かつ水の侵入を防ぐことができる。ここで、ナノファイバー不織布層表面とは、撥水加工を施すナノファイバー不織布面のことを示す。
【0014】
面積比で100%撥水加工した場合、ナノファイバー不織布を構成するナノファイバー不織布層の撥水加工面をすべて撥水剤で覆うことできる。そのため、生地湿潤時においてナノファイバーは吸水・保水することなく、機能性の低下を抑制することができる。また洗濯による洗剤残りを抑制することができるため、洗濯による耐水圧の低下も抑制することができる。
【0015】
面積比で30~90%撥水加工した場合、ナノファイバー不織布を構成するナノファイバー不織布層の撥水加工面の表面積の30~90%を撥水剤で覆うことできる。部分的な撥水加工であれば、撥水剤の付着によるナノファイバー不織布の繊維径が変化するナノファイバーの本数が少なくなるためナノファイバー不織布内の空隙を塞ぐことがなく、乾燥時における通気性や透湿性を高く維持することができる。生地湿潤時においては、ナノファイバーが吸水・保水することを抑制し、機能性の低下を抑制することができ、さらに洗濯による洗剤残りを抑制することができるため、洗濯による耐水圧の低下も抑制することができる。保水した水分は非撥水部分からナノファイバー不織布層外へ排出することができる。ここで、面積比とは、ナノファイバー不織布表層を構成するナノファイバー繊維表面積の総和を100としたときの、ナノファイバー不織布表層に付着した撥水剤の面積の比率である。また、ナノファイバー不織布表層とは、撥水加工面をほどこした側の層のことである。
【0016】
本発明の透湿防水積層布は、表生地の一面にナノファイバー不織布が積層された2層構造、前記ナノファイバー不織布の片面に樹脂層が積層された2.5層構造、前記ナノファイバー不織布の片面には、さらに裏生地が積層されており、ナノファイバー不織布と裏生地とは接着剤により部分的に貼り合わされた3層構造でもよい。好ましくは3層構造である。これによりナノファイバー不織布を両面から保護できる。
【0017】
本発明で使用するナノファイバー不織布は、エレクトロスピンニング(電界紡糸)によって製造でき、不織布を構成する繊維の単繊維の平均直径は1~1000nmが好ましく、より好ましくは10~900nmであり、さらに好ましくは50~800nmである。ナノファイバー不織布層の厚さは0.1~100μmが好ましく、より好ましくは1~90μmであり、さらに好ましくは5~80μmである。単位面積当たりの質量は1~50g/m2が好ましく、より好ましくは2~40g/m2であり、さらに好ましくは3~30g/m2である。
表生地及び/又は裏生地は、織物又は編み物を使用できる。編み物は経編み、丸編み、横編みなどがある。織物は平織り、綾織り、朱子織、その他の変化織などがある。好ましくは経編み又は織物である。これらは身体側からの汗(湿気の汗:気体)が編織組織の隙間を通して外気側に放散しやすい。表生地の好ましい質量は10~150g/m2であり、より好ましくは20~140g/m2であり、さらに好ましくは30~130g/m2である。裏生地の好ましい質量は10~150g/m2であり、より好ましくは2~150g/m2であり、さらに好ましくは3~100g/m2である。
表生地は予め撥水処理しておくことが好ましい。本発明の透湿防水積層布の厚さは0.15~1.0mmが好ましい。また、本発明の透湿防水積層布の質量は50~200g/m2が好ましく、より好ましくは70~160g/m2であり、さらに好ましくは80~140g/m2である。これにより軽量化ができる。
【0018】
表生地とナノファイバー不織布との接着剤による部分的貼り合わせは、ナノファイバー不織布層の厚みに対する接着剤層の厚みの比率(含浸率)が、80%以下が好ましく、より好ましくは20~80%であり、さらに好ましくは25~80%である。これにより、接着剤がナノファイバー不織布や表生地を通じて裏面および表面に染み出ることは無く、良好な品位となる。
【0019】
また、部分的貼り合わせは、面積比で10~80%が好ましく、より好ましくは20~70%であり、さらに好ましくは30~60%である。これにより、身体側からの汗(湿気の汗:気体)は、表生地層の糸や編織組織の隙間やナノファイバー不織布層内の空隙を通して外気側に放散することができるため、着用中の雨及び汗によっても透湿膜が持つ通気性及び透湿性を発揮し続けることができる。
ここで、面積比とは、ナノファイバー不織布を上方から見たときの見かけ繊維表面積と、ナノファイバー間に存在する空隙面積の和に対する、接着剤のナノファイバー不織布層への投影面積の比率のことである。
【0020】
接着剤の塗布量は2~20g/m2が好ましく、より好ましくは3~15g/m2、さらに好ましくは4~12g/m2である。これにより、ナノファイバー不織布と表生地との接着強度が高く、実使用時に剥離が生じず、ナノファイバー不織布の繊維間に存在する空隙を保持し、透湿性や通気性を高く維持でき、良好な風合いを保持できる。
【0021】
接着剤は、ナノファイバー不織布と生地層との接着面に接するナノファイバー繊維の円周方向を包括するように接着剤が含浸し接合していることが好ましい。ナノファイバー不織布の繊維を包括するように接着剤が付着していることで、ナノファイバーと接着剤との接着面積が大きくなり接着強度が高くなる。ナノファイバー不織布の撥水加工層との接着においても同様であり、これは、撥水加工されたナノファイバーも接着剤が覆うため、ナノファイバー不織布表層の撥水剤の脱落を抑制でき、洗濯による耐水圧の低下がおこりにくい。
【0022】
裏生地とナノファイバー不織布との接着剤による部分的貼り合わせにおける接着剤層の厚みの割合は、ナノファイバー不織布層厚みに対する、接着剤層の厚みの比率(含浸率)が、80%以下が好ましく、より好ましくは20~80%であり、さらに好ましくは25~80%である。これにより、接着剤がナノファイバー不織布や裏生地を通じて裏面および表面に染み出すことがなく、良好な品位となる。また、部分的貼り合わせは面積比で10~80%が好ましく、より好ましくは20~70%であり、さらに好ましくは30~60%である。これにより、十分な接着強度が得られ、接着剤がナノファイバー不織布の空隙を埋めることはなく、透湿性や通気性を高く維持でき、良好な風合いを保持できる。
【0023】
表生地とナノファイバー不織布との接着剤による部分的貼り合わせ部、及び裏生地とナノファイバー不織布との接着剤による部分的貼り合わせ部は、接着剤がナノファイバー層の厚み方向へ20~50%含浸しているのが好ましい。これにより、十分な接着強度が得られ、透湿性や通気性を高く維持でき、良好な風合いを保持できる。接着剤は、ナノファイバー不織布の撥水加工とは反対側の面のナノファイバー繊維の円周方向を包括するように接着剤が含浸し接合していることが好ましい。ナノファイバー不織布の繊維を包括するように接着剤が付着していることで、ナノファイバーと接着剤との接着面積が大きくなるため良好な接着強度を得ることができる。
【0024】
接着剤は、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、アクリル系、シリコーン系、無機系などを使用することができ、特に限定されないが、ナノファイバー不織布との相溶性に優れるものが好ましい。例えば、ナノファイバー繊維としてポリウレタンを使用する場合には、ウレタン系の接着剤を使用することが好ましい。さらに、湿気硬化型ウレタンバインダーの場合には、低温で使用できるためナノファイバー不織布の構造を損なうことなく接着できるだけでなく、溶媒を使用せずに接着できるため環境負荷も少ないため、より好ましい。接着剤の塗布量は2~20g/m2が好ましく、より好ましくは3~15g/m2、さらに好ましくは4~12g/m2である。これにより、ナノファイバー不織布と表生地との接着強度が高く維持でき、実使用時に剥離が起こらず、透湿性や通気性を維持し、良好な風合いも保てる。
【0025】
液体の水が30~80%湿潤した状態の透湿防水積層布の通気抵抗値は0~277.5kPa・s/mが好ましく、より好ましくは55~277.5kPa・s/mである。これにより、湿潤時の通気抵抗を低く維持でき、着用中の透湿性・耐水圧の低下を防ぎ、着用中通して快適な衣服内環境を維持することができる。なお、試験前処理として、透湿防水積層布を水に60秒間浸漬させたのち30秒間吊干しした。計測開始時において、透湿防水積層布の質量100%に対して液体の水を30~80%保水(湿潤)していることを確認してから計測を行った。また、透湿防水積層布の質量100%に対して液体の水を30~80%保水(湿潤)した状態であれば、一定の通気抵抗値を示す。
【0026】
透湿防水積層布は、乾燥状態でJIS L1099:2012 A-1法による透湿性は5000~20000g/m2・24hが好ましく、より好ましくは7000~18000g/m2・24hであり、さらに好ましくは9000~15000g/m2・24hである。また、JIS L1099: 2012 B-1法による透湿性は10000~100000g/m2・24hが好ましく、より好ましくは20000~90000g/m2・24hであり、さらに好ましくは30000~80000g/m2・24hである。また、JIS L1092:2009 による耐水圧は7000mm~30000mmが好ましく、より好ましくは8500mm~30000mmであり、さらに好ましくは10000mm~30000mmである。JIS L 1930:2014 C4M法にて20回洗濯処理後の耐水圧は、5000~25000mmが好ましく、より好ましくは7000~25000mmであり、さらに好ましくは8000~25000mmである。オリジナル法による空間内絶対湿度は乾燥時・湿潤時とも10~17g/m3であることが好ましい。さらに、JIS L1096:2010 フラジール法による通気度は0.01~2cc/m2・秒が好ましく、より好ましくは0.05~1.5cc/m2・秒であり、さらに好ましくは0.1~1cc/m2・秒である。これにより、着用時の快適な衣服内環境を維持することができる。
【0027】
本発明の透湿防水積層布の製造方法は、ナノファイバー不織布の表生地側に撥水剤を付与して固定し、撥水層とし、ナノファイバー不織布の撥水層側と表生地を接着剤により部分的に貼り合わせるか、もしくは、ナノファイバー不織布と表生地を部分的に貼りあわせた後、ナノファイバー不織布の非接着面へ撥水剤を付与して固定する。またあるいは、ナノファイバー不織布と表生地および裏生地を部分的に貼りあわせた後、パッドアンドドライ法などにより撥水剤を付与して固定する。この場合、撥水剤は表生地および裏生地の繊維や組織の空隙を通じてナノファイバー不織布面にも付与される。
【0028】
前記撥水層は、前記ナノファイバー不織布層の少なくとも片面が非フッ素系撥水剤により撥水加工されていることが好ましい。非フッ素系撥水剤の種類は、ウレタン系、炭化水素系、シリコーン系、アクリル系などのものを使用してよい。従来のフッ素系撥水剤は撥水性・耐久性に優れているが環境負荷が大きく使用規制がかかるため、非フッ素撥水剤を使用することが好ましい。さらに、ナノファイバー不織布との親和性が高い非フッ素系撥水剤を使用することがより好ましい。例えば、ナノファイバー不織布にポリウレタン繊維を使用している場合には、ウレタン系の非フッ素撥水剤を使用するとよい。さらに好ましくはアルキルウレタン系の非フッ素撥水剤を使用することが好ましい。従来のフッ素系撥水剤を使用した透湿防水布、あるいはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を使用した透湿防水積層布は、洗濯をすると洗剤の疎水性基と親和性があることから、通気性が低下することである。アルキルウレタン系非フッ素撥水剤を使用した場合、ポリウレタンナノファイバー不織布との親和性が高く、撥水剤がナノファイバー繊維表面に固着しやすくなり、洗濯による耐水圧の低下を効果的に抑制することができる。
【0029】
ナノファイバー不織布に対する撥水剤の塗布量は、2~10%owf(on the weight of fiberの略)が好ましい。前記範囲であれば、撥水剤はナノファイバー不織布の細孔を塞ぐことがなく、かつ水の侵入を防ぐことができる。
【0030】
ナノファイバー不織布の撥水層側と表生地あるいは裏生地の部分的貼り合わせは、表生地あるいは裏生地に対して接着剤を部分的に付与し、ナノファイバー不織布の撥水層側と貼り合わせるのが好ましい。また、ナノファイバー不織布の非撥水層側と表生地あるいは裏生地との接着においても同様に、表生地あるいは裏生地に対して部分的に撥水剤を付与し、ナノファイバー不織布の非撥水層側と貼り合わせるのが好ましい。
【0031】
本発明の好ましい製造方法は、次のとおりである。
A法:3層構造、裏生地とナノファイバー不織布との貼り合わせた後に撥水層を形成
(1)裏生地とナノファイバー不織布との貼り合わせ
裏生地の一面に接着剤を部分的に付与し、裏生地とナノファイバー不織布とを部分的に貼り合わせる。
(2)ナノファイバー不織布の撥水層の形成
次に、ナノファイバー不織布に対して撥水剤を付与し、エージングして固定し、撥水層を形成する。
(3)表生地とナノファイバー不織布との貼り合わせ
次に、表生地の一面に、接着剤を部分的に付与し、表生地とナノファイバー不織布とを部分的に貼り合わせる。なお、表生地は予め撥水処理しておくことが好ましいが、貼り合わせ後に撥水処理しても構わない。これにより、雨水による表生地の濡れを防止できる。表生地に用いる生地は、織物であっても編物であってもかまわず、また使用する繊維はポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、アクリル、ポリウレタンなどの合成繊維の他、綿、麻、絹、ウールなどの天然繊維であってもよく、またこれらの混繊、混紡、交織、交編であってもかまわない。
B法:3層構造、3層積層後にパディング撥水
(1)裏生地とナノファイバー不織布との貼り合わせ
(2)ナノファイバー不織布の撥水層の形成:ナノファイバー不織布の表側に撥水層を形成
(3)表生地とナノファイバー不織布の貼り合わせ
(4)積層布への撥水加工
C法:3層構造、A法の表基布撥水順序違い
(1)裏生地とナノファイバー不織布との貼り合わせ
(2)ナノファイバー不織布の撥水層の形成:ナノファイバー不織布の表側に撥水層を形成
(3)撥水加工済みの表生地とナノファイバー不織布の貼り合わせ
D法:3層構造、表側からラミネート
(1)表生地とナノファイバー不織布との貼り合わせ
(2)ナノファイバー不織布の撥水層の形成
(3)裏生地とナノファイバー不織布の貼り合わせ
(4)表生地の撥水加工
E法:3層構造、表側からラミネート、3層積層後にパディング撥水
(1)表生地とナノファイバー不織布との貼り合わせ
(2)裏生地とナノファイバー不織布の貼り合わせ
(3)積層布への撥水加工
F法:3層構造、表側からラミネート、表生地は先撥水
(1)撥水加工済みの表生地とナノファイバー不織布の貼り合わせ
(2)ナノファイバー不織布の撥水層の形成:
(3)裏生地とナノファイバー不織布の貼り合わせ
(4)表生地の撥水加工
G法:2層構造、裏生地無し
(1)離型紙上のナノファイバー不織布の撥水層形成
(2)表生地とナノファイバー不織布の貼り合わせ
(3)表生地の撥水加工
H法:2層構造、表生地は先撥水
(1)離型紙上のナノファイバー不織布の撥水層形成
(2)撥水加工済みの表生地とナノファイバー不織布の貼り合わせ
I法:2.5層構造
(1)離型紙上のナノファイバー不織布の撥水層形成
(2)表生地とナノファイバー不織布の貼り合わせ
(3)表生地の撥水加工
(4)ナノファイバー不織布裏面へ樹脂加工
J法:2.5層構造、表生地は先撥水
(1)離型紙上のナノファイバー不織布の撥水層形成
(2)撥水加工済みの表生地とナノファイバー不織布の貼り合わせ
(3)ナノファイバー不織布裏面へ樹脂加工
【0032】
本発明で用いるナノファイバー不織布は、溶融したポリマーを熱風でブローしてナノサイズのファイバーを得るメルトブロー法や海島構造の複合糸の海成分を溶解して得る複合溶融紡糸法などがあるが、ナノファイバーを制御しやすく安定して製造できるためエレクトロスピニング法によって紡糸・積層するのが好ましい。ナノファイバー不織布の製造に用いる材料は、ポリウレタン、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、再生ポリエステル、ポリ乳酸、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、架橋ポリビニルアルコールなどの高分子材料を用いることができるが、柔軟性やストレッチ性の観点から熱可塑性ポリウレタンを用いることが好ましい。熱可塑性ポリウレタンとしては、ポリエステル系ポリウレタン:例えばBASF社製、商品名"エラストラン、ET680-15MS"、ポリエーテル系ポリウレタン:例えばBASF社製、商品名"エラストラン、ET385"等がある。ナノファイバー原料を溶解する溶媒は特に限定されず、ナノファイバー原料の高分子材料を溶解するのに適した溶媒を選択して使用することができる。ナノファイバーを製造する際に、蓄熱剤、抗菌剤、制菌剤、撥水剤、静電防止剤などの添加剤を高分子材料とともに使用し紡糸しても良い。ナノファイバーの平均繊維径は1nm~1,000nm、より好ましくは10nm~900nmであり、更に好ましくは50nm~800nmである。ナノファイバー不織布層の厚さは、0.1μm~100μm、より好ましくは1μm~90μm、更に好ましくは5μm~80μmである。また、ナノファイバー不織布層の単位面積当たりの質量は1g/m2~50g/m2、よりが好ましくは2g/m2~40g/m2、更に好ましくは3g/m2~30g/m2である。ナノファイバー不織布層を構成する繊維はエレクトロスピニング(電界紡糸)によって得られた繊維であるのが好ましい。
【0033】
ナノファイバー不織布の少なくとも片面への撥水加工に用いる撥水剤としては、いわゆるC6撥水剤であってもC0撥水剤であってもかまわない。近年の環境配慮の観点からは、C0撥水剤を用いる方が好ましい。また、撥水剤の主成分はシリコーン系、ウレタン系、アクリル系、炭化水素系などあるが、これらのどれを使用してもかまわない。ナノファイバー不織布の少なくとも片面へ直接撥水加工する手法としては、パッド処理、ロールスクリーン、フラットスクリーン、スプレーによる塗布などの手法があげられるが、いずれを使用しても構わない。ナノファイバー不織布の表層を撥水剤で100%覆うためにはパッド処理が好ましく、部分的撥水とするにはロールスクリーンやフラットスクリーン、スプレーによる加工が好ましい。また、表生地や裏生地と貼り合わせたのちに撥水加工をしてもナノファイバー不織布面にも撥水加工を施すことができる。例えば表生地とナノファイバー不織布を貼り合わせた後に撥水加工をした場合には、表生地の繊維間の空隙や組織の空隙から撥水剤がナノファイバー不織布の表生地層側にも到達する。裏生地とナノファイバー不織布を貼り合わせた後に、裏生地側から撥水加工をする場合においても、裏生地の繊維間の空隙や組織の空隙から撥水剤がナノファイバー不織布の裏生地層側にも到達する。裏生地としてメッシュ素材を使用する場合には、裏生地を抜けてナノファイバー不織布の裏生地層へ到達する撥水剤の量が多くなり、撥水剤はナノファイバー不織布の表生地層側まで到達することができる。表生地と裏生地の両方をナノファイバー不織布と貼り合わせた後の撥水加工においても同様である。表生地や裏生地、あるいはその両方とナノファイバー不織布を貼り合わせた後の撥水加工の手法としては、パッド処理、ロールスクリーン、フラットスクリーン、スプレーによる塗布などの手法があげられるが、いずれを使用しても構わない。
表生地において、通気性(JIS L 1096)が5cc/cm 2/sec以上である事が好ましい。それにより、表生地の繊維間の空隙や組織の空隙から撥水剤が効率的に浸透し、ナノファイバー不織布層表面に達し、撥水剤がナノファイバー不織布層表面に付与される。
裏生地とナノファイバー不織布を貼り合わせた後に、裏生地側から撥水加工をする場合において、ナノファイバー不織布が熱可塑性ポリウレタンであり、撥水剤の主成分がシリコーン系、ウレタン系であると、ナノファイバー不織布と撥水剤の親和性が高く、より効率的にナノファイバー不織布の表生地層側まで到達する。
【0034】
ナノファイバー不織布と表生地との接合にあたっては、生地へ直接ナノファイバーを積層してもよく、離型紙上へ紡糸積層したナノファイバーを接着剤により生地と接合しても良い。性能安定性の観点からは、離型紙上に紡糸積層し、接着剤で接合することが好ましい。ナノファイバー不織布と表生地の接合に使用する接着剤には、ウレタン系、エポキシ系、メラミン系、ナイロン系など、また、一液型、二液型であってもよく、他の接着剤を用いることもできる。ナノファイバー不織布と表生地との接着方式には、ナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、スプレーなどの加工方法により接着剤を表生地に塗布することができる。接着剤がナノファイバー不織布表面を完全に覆うように塗布してしまうと、風合いが硬化するほか、透湿性能や通気性能が阻害されるため、部分的に接着することが好ましい。部分的に接着剤を塗布し、ナノファイバー不織布と表生地とが接合できればナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、スプレーなどのいずれの接着方式を使用することができる。
【0035】
透湿防水積層布の裏側は、加工を施さずに使用しても良いし、樹脂加工を施しても良く、あるいはもう1層生地を接着させても良い。加工せずに使用する際には、ナノファイバー繊維の破壊が懸念されるため、ダウンウェアや中綿ジャケットの表地として使用するなど、積層布の裏側が見えないような使い方をすることが好ましい。また、樹脂加工を施す場合には、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂などの樹脂を用いることができる。また、樹脂加工を施す方法として、グラビアロールを用いて部分的な柄状に塗布しても良く、ナイフコーターにて樹脂を全面に塗ってもよい。
【0036】
透湿防水積層布の裏側へ、1層生地を接着させる場合、裏生地にはトリコット生地を使用しても良いし、丸編み生地を使用しても良いし、織物生地を使用してもよい。また、使用する繊維はポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、アクリル、ポリウレタンなどの合成繊維の他、綿、麻、絹、ウールなどの天然繊維であってもよく、またこれらの混繊、混紡、交織、交編であってもかまわない。この中でも裏生地は、ナイロンマルチフィラメント糸を用いたハーフトリコット経編みが好ましい。
表生地に用いる生地は、織物であっても編物であってもかまわず、また使用する繊維はポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、アクリル、ポリウレタンなどの合成繊維の他、綿、麻、絹、ウールなどの天然繊維であってもよく、またこれらの混繊、混紡、交織、交編であってもかまわない。この中でも表生地は、ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸を用いたトリコット経編みが好ましい。
【0037】
以下図面を用いて説明する以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1は本発明の一実施形態の2層構造の透湿防水積層布の模式的断面図である。この透湿防水積層布1は、表生地層2の一面にナノファイバー不織布層3が積層され、表生地層2とナノファイバー不織布層3は部分的接着部4で貼り合わされている。また、ナノファイバー不織布層3の表生地層2側の面は撥水層5となっている。
図2は本発明の一実施形態の2.5層構造の透湿防水積層布6の模式的断面図である。図1と異なる点は、ナノファイバー不織布層3の背面にプリント層7が形成されていることである。
図3は本発明の一実施形態の3層構造の透湿防水積層布9の模式的断面図である。図1と異なる点は、ナノファイバー不織布層3の背面に裏生地層10が形成されており、ナノファイバー不織布層3と裏生地層10は部分的接着部8で貼り合わされている。
【0038】
図4A-Eは本発明の一実施形態の3層構造の透湿防水積層布の製法を示す模式的断面工程図である。まず、図4Aに示すように、裏生地層10の一面に接着剤を部分的に付与し、裏生地10とナノファイバー不織布3とを部分的接着部8で貼り合わせる。これにより図4Bの状態となる。次に図4Cに示すように、ナノファイバー不織布層3に対して撥水剤を部分的に付与し、エージングして固定し、撥水層5を形成する。次に図4Dに示すように、表生地層2の一面に接着剤を部分的に付与し、表生地層2とナノファイバー不織布層3とを部分的接着部4で貼り合わせる。これにより図4Eの状態となり、透湿防水積層布9が得られる。
【0039】
図5は本発明の一実施形態のナノファイバー不織布層と表生地層との接着状態を示す模式的断面図である。この部分的接着部11は、表生地層の繊維12とナノファイバー不織布層の繊維14との間に接着剤13が存在し、接着剤13は表生地層の繊維12とナノファイバー不織布層の繊維14のそれぞれの繊維を包括するように含侵している。これにより接着強度を高くできる。接着剤は、ナノファイバー不織布の撥水加工層側のナノファイバー繊維の円周方向を包括するように接着剤が含浸し接合していることが好ましい。ナノファイバー不織布の繊維を包括するように接着剤が付着していることで、ナノファイバーと接着剤との接着面積が大きくなるため良好な接着強度を得ることができる。
【0040】
図6は本発明の一実施形態のナノファイバー不織布の平面写真(走査電子顕微鏡:SEM、倍率10000倍)である。図7は本発明の一実施形態のナノファイバー不織布の平面写真(SEM、倍率2000倍)である。
【実施例0041】
以下実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
評価方法は次のとおりである。
<単位面積当たりの質量>
JIS L1096:2010 A法に準拠して測定した。
<耐水圧>
JIS L1092:2009 B法に準拠して測定した。
<透湿度>
以下の3つの方法で測定した。
・JIS L1099:2012 A-1法
・JIS L1099:2012 B-1法
・オリジナル法
図8A-Bの透湿性測定装置15に示すように、35℃に制御した熱板16の上に直径6.4cmのガラスシャーレ17を設置する。シャーレ17内には約15gの水を入れる。シャーレ17および熱板16を覆うように、ポリプロピレン製のBOX18(タテ15cm、ヨコ15cm、高さ3.5cm)を設置する。BOX18の上部は10cm×10cmの開口部を設けており、この開口部を覆うようにして生地20(15cm×15cm大にカット)を貼付する。生地20の上方から矢印に示すように0.3m/secの風21を当てる。BOX18の内壁には温湿度センサー19(ハイグロクロン、株式会社KNラボラトリーズ)を貼付しており、熱板16とBOX18と生地20で構成される空間内の温度・相対湿度を計測する。計測した温度・相対湿度から、絶対湿度を下記式にて算出した。計測は温度20℃、相対湿度65%R.H.に調温調湿した部屋にて実施した。
絶対湿度(g/m3)=217×6.1078×10(7.5×T/(T+237.3))/(T+273.15)×RH/100
但し、T:温度(℃)、RH:相対湿度(%)
また、本試験方法は乾燥状態と湿潤状態の2条件で実施した。乾燥状態では、生地を温度20℃、相対湿度65%R.H.に制御した部屋に24時間以上試験試料を置き、調温調湿した状態で上記試験を実施した。湿潤状態では、生地をイオン交換水に1時間浸漬させ、その後1分間吊干しし生地上の水滴を除去した状態で試験を実施した。
<通気抵抗>
測定には通気抵抗試験機KS-F8(カトーテック社製)を用いた。この測定は、大気中へ空気を放出・吸引し、放出・吸引時の圧力を検知し、通気抵抗Rを算出することにより行った。
通気量:0.4cc/cm2/sec(通気量一定方式)
通気穴面積:2πcm2
乾燥時の通気抵抗は、生地を乾燥させた状態で温度20℃、相対湿度65%R.H.の条件で測定した。湿潤時の通気抵抗は生地質量100%に対して、30~80%の水分を湿潤させた状態で、空気の放出・吸引方向を地面と平行で測定した。温度と湿度は前記と同じである。湿潤時試験の前処理として、透湿防水積層布をイオン交換水に60秒間浸漬させたのち30秒間吊干しした。計測開始時において、透湿防水積層布の質量100%に対して液体の水を30~80%保水していることを確認してから計測を行った。また、透湿防水積層布の質量100%に対して液体の水を30~80%保水(湿潤)した状態であれば、一定の通気抵抗値を示すことも確認した。測定方法は次のとおりである。
(1)生地が地面に対して垂直の状態となるようにして水槽の中に浸漬させ、その後試料を取り出し、試験機に生地を設置した。
(2)KESの試験マニュアルに準拠した方法で測定した。
<通気度>
生地の通気度は、JIS L1096:2010(フラジール法)で測定した。
【0042】
(実施例1)
(1)表生地
22decitex,24フィラメントのポリエステルマルチフィラメント糸を使用し、40ゲージ経編機(トリコット編機)を使用し、編み立てた。その後、精錬・プレセット・染色・撥水加工・ヒートセットを行い、これを表生地として使用した。表生地の質量は73g/m2であった。
(2)裏生地
22decitex,12フィラメントのナイロン糸を使用し、トリコット編機を使用し、編み組織:ハーフトリコットを編み立てた。その後、染色整理加工を行い、裏生地を得た。裏生地の質量は22g/m2であった。
(3)ナノファイバー不織布
ナノファイバー不織布はエレクトロスピニング法にて作製した。ナノファイバーの材料は熱可塑性ポリウレタン(ポリエステル系ポリウレタン)を使用し、溶媒にはポリウレタンが溶解可能な有機溶剤およびエレクトロスピニングに好適な極性溶媒(ジメチルホルムアミドおよびメチルエチルケトンの混合溶媒)を用いた。ポリウレタンナノファイバー不織布を構成する単繊維の平均繊維直径は250nmであった。この不織布の膜厚は19μm、単位面積当たりの質量は7.5g/m2であった。
(4)裏生地とナノファイバー不織布の接着
裏生地へポリアミド系ホットメルト接着剤をドット状に塗布し、接着剤の塗布された面にナノファイバー不織布を重ねた状態で温度110℃の熱ロールを通してプレス接着し巻き取った。裏生地とナノファイバー不織布の接着面積は、全体を100%としたとき、40%であった。また接着剤の厚み方向への含浸率は、30%であった。
(5)ナノファイバー不織布表層への撥水加工
裏生地とナノファイバー不織布を接着したのち、ナノファイバー不織布表面に撥水加工を施した。撥水剤として、アルキルウレタンを主成分とする非フッ素系撥水剤(ON Water Repellent NF、オージー長瀬カラーケミカル社製)の100倍希釈溶液を作成し、4%owf(on the weight of fiber)となるよう、スプレーを使用してナノファイバー不織布表層の表面に撥水剤を付与した。撥水剤の付与後、110℃で1分間乾燥させた。ナノファイバー不織布表面に形成された撥水層の厚みは、ナノファイバー不織布表層から30%であった。撥水剤の塗布面積比は、全体を100%としたとき80%であった。
(6)表生地の接着
表層に撥水加工を施したナノファイバー不織布を、表生地と貼り合わせた。接着剤として、湿気硬化型ウレタンバインダーを使用し、10g/m2となるようスプレーにて接着剤を塗布した。塗布後、110℃、20m/minの速度でヒートロールに通し、接着剤を固着させ積層布帛を得た。表生地とナノファイバー不織布の接着面積は、全体を100%としたとき、40%であった。また接着剤の厚み方向への含浸率は、30%であった。
このようにして得られた透湿防水積層布の厚さは静置状態で0.44mmであった。
【0043】
(実施例2)
表生地として22decitex,24フィラメントのポリエステル糸を使用し、ゲージ経編機を使用し、トリコットメッシュ編地を編み立てた。その後、精錬・プレセット・染色・撥水加工・ヒートセットを行い、これを表生地とした。表生地の質量は53g/m2であった。そのほかは実施例1と同様に実施した。
このようにして得られた透湿防水積層布の厚さは静置状態で0.50mmであった。
【0044】
(実施例3)
ポリウレタンナノファイバーの平均繊維径:250nm、ナノファイバー不織布層の膜厚:12μm、ナノファイバー不織布層の質量:6g/m2とした。裏生地へ湿気硬化ポリウレタン系ホットメルト接着剤を10g/m2となるようスプレー状に塗布し、接着剤の塗布された面にナノファイバー不織布を重ねた状態で熱ロールを通してプレス接着し巻き取った。熱プレスの温度は110℃、巻き取り速度は20m/minとした。それ以外は実施例1と同様に加工をおこなった。
裏生地とナノファイバー不織布との接着において、接着面積は、全体を100%としたとき、45%であった。また接着剤の厚み方向への含浸率は、40%であった。
ナノファイバー不織布表層の撥水加工の撥水層厚みは、ナノファイバー不織布表層から40%であり、撥水剤の塗布面積比は、全体を100%としたとき85%であった。
表生地と撥水加工を施したナノファイバー不織布との接着面積は全体を100%としたとき、45%であり、接着剤の厚み方向への含浸率は、40%であった。
このようにして得られた透湿防水積層布の厚さは静置状態で0.52mmであった。
【0045】
(実施例4)
裏生地とナノファイバー不織布の接着工程で、裏生地へ湿気硬化ポリウレタン系ホットメルト接着剤を7g/m2となるようスプレー状に塗布し、接着剤の塗布された面にナノファイバー不織布を重ねた状態で熱ロールを通してプレス接着し巻き取った。熱プレスの温度は110℃、巻き取り速度は20m/minとした。それ以外は実施例3と同様に実施した。
このようにして得られた透湿防水積層布の厚さは静置状態で0.52mmであった。
【0046】
(実施例5)
(1)表生地
44decitex,36フィラメントのナイロンマルチフィラメント糸を使用し、密度がタテ150本/インチ、よこ100本/インチと仕上がるように製織・精錬・プレセット・染色・撥水加工・ヒートセットを行い、これを表生地として使用した。表生地の質量は43g/m2であった。
(2)裏生地
実施例1に記載の裏生地を使用した。
(3)ナノファイバー不織布
実施例3に記載のナノファイバー不織布を使用した。
(4)裏生地とナノファイバー不織布の接着
裏生地へ湿気硬化ポリウレタン系ホットメルト接着剤を6g/m2となるようドット状に塗布し、接着剤の塗布された面にナノファイバー不織布を重ね、熱ロールを通してプレス接着し巻き取った。
裏生地とナノファイバー不織布との接着において、接着面積は、全体を100%としたとき、55%であった。また接着剤の厚み方向への含浸率は、28%であった。
(5)ナノファイバー不織布表層への撥水加工
裏生地とナノファイバー不織布を接着したのち、ナノファイバー不織布表面に撥水加工を施した。撥水剤として、アルキルウレタンを主成分とする非フッ素系撥水剤(ON Water Repellent NF、オージー長瀬カラーケミカル社製)の100倍希釈溶液を作成し、4%owf(on the weight of fiber)にて、スプレーにてナノファイバー不織布表面へ撥水剤を付与した。撥水剤の付与後、110℃で1分間乾燥させた。ナノファイバー不織布表面に形成された撥水層の厚みは、ナノファイバー不織布表層から30%であった。撥水剤の塗布面積比は、全体を100%としたとき80%であった。
(6)表生地の接着
表層に撥水加工を施したナノファイバー不織布を、表生地と貼り合わせた。接着剤として、湿気硬化型ポリウレタン系ホットメルト接着剤を、9g/m2となるよう表生地へドット状に塗布し、接着剤の塗布された面にナノファイバー不織布を重ねた状態で熱ロールを通してプレス接着し巻き取り、接着剤を固着させ積層布帛を得た。表生地とナノファイバー不織布の接着面積は、全体を100%としたとき、60%であった。また接着剤の厚み方向への含浸率は、35%であった。
このようにして得られた透湿防水積層布の厚さは静置状態で0.37mmであった。
【0047】
(実施例6)
(1)表生地
実施例2に記載の表生地を使用した。
(2)裏生地
実施例1に記載の裏生地を使用した。
(3)ナノファイバー不織布
実施例3に記載のナノファイバー不織布を使用した。
(4)表生地とナノファイバー不織布の接着
表生地へ湿気硬化ポリウレタン系ホットメルト接着剤を12g/m2となるようドット状に塗布し、接着剤の塗布された面にナノファイバー不織布を重ねた状態で熱ロールを通してプレス接着し巻き取った。
表生地とナノファイバー不織布との接着において、接着面積は、全体を100%としたとき、60%であった。また接着剤の厚み方向への含浸率は、40%であった。
(5)裏生地の接着
ナノファイバー不織布の、表生地と接着した面とは反対側の面に裏生地を接着した。接着剤として、湿気硬化型ウレタンバインダーを使用し、10g/m2となるようグラビアロールにてドット状に接着剤を塗布し、接着剤を固着させ積層布帛を得た。裏生地とナノファイバー不織布の接着面積は、全体を100%としたとき、35%であった。また接着剤の厚み方向への含浸率は、40%であった。
(6)積層布帛の撥水加工
上記で製造した積層布帛に対し、アルキルウレタンを主成分とする非フッ素系撥水剤を5%owfとなるようにパッドアンドドライ法にて撥水剤を付与した。撥水剤の付与後、150℃で90秒間乾燥させた。ナノファイバー不織布に形成された撥水層の厚みは、表生地層側で20%、裏生地層側で30%であった。撥水剤の塗布面積比は、表生地層側が60%、裏生地層側が80%であった。
このようにして得られた透湿防水積層布の厚さは静置状態で0.60mmであった。
【0048】
(実施例7)
(1)表生地
実施例2に記載の表生地を使用した。
(2)裏生地
実施例1に記載の裏生地を使用した。
(3)ナノファイバー不織布
実施例3に記載のナノファイバー不織布を使用した。
(4)表生地とナノファイバー不織布の接着
実施例6と同様に実施した。
(5)裏生地の接着
実施例5と同様に実施した。
(6)積層布帛の表生地側からの撥水加工
上記で製造した積層布帛に対し、アルキルウレタンを主成分とする非フッ素系撥水剤を5%owfとなるようにグラビアロールにて表生地側からにて撥水剤を付与した。撥水剤の付与後、150℃で90秒間乾燥させた。表生地に加工した撥水剤はナノファイバー不織布表層へ含侵し、その撥水層の厚みは38%であった。また、撥水剤の塗布面積比は。全体を100%としたとき78%であった。
このようにして得られた透湿防水積層布の厚さは静置状態で0.61mmであった。
【0049】
(実施例8)
(1)表生地
実施例2に記載の表生地を使用した。
(2)裏生地
実施例1に記載の裏生地を使用した。
(3)ナノファイバー不織布
実施例3に記載のナノファイバー不織布を使用した。
(4)表生地とナノファイバー不織布の接着
表生地へ湿気硬化ポリウレタン系ホットメルト接着剤を12g/m2となるようドット状に塗布し、接着剤の塗布された面にナノファイバー不織布を重ねた状態で熱ロールを通してプレス接着し巻き取った。
表生地とナノファイバー不織布との接着において、接着面積は、全体を100%としたとき、60%であった。また接着剤の厚み方向への含浸率は、40%であった。
(5)ナノファイバー不織布裏生地側への撥水加工
表生地とナノファイバー不織布を接着したのち、ナノファイバー不織布裏生地面に撥水加工を施した。撥水剤としてアルキルウレタンを主成分とする非フッ素系撥水剤を5%owfとなるようにグラビアロールでナノファイバー不織布裏生地側へ撥水剤を付与した。撥水剤の付与後、150℃で90秒間乾燥させた。ナノファイバー不織布表面に形成された撥水層の厚みは、ナノファイバー不織布表層から30%であった。撥水剤の塗布面積比は、全体を100%としたとき80%であった。
(6)裏生地の接着
ナノファイバー不織布の、表生地と接着した面とは反対側の面に裏生地を接着した。接着剤として、湿気硬化型ウレタンバインダーを使用し、10g/m2となるようグラビアロールにてドット状に接着剤を塗布し、接着剤を固着させ積層布帛を得た。裏生地とナノファイバー不織布の接着面積は、全体を100%としたとき、60%であった。また接着剤の厚み方向への含浸率は、40%であった。
(7)積層布帛表生地側からの撥水加工
上記で製造した積層布帛に対し、アルキルウレタンを主成分とする非フッ素系撥水剤を5%owfとなるようにグラビアロールにて表生地側からにて撥水剤を付与した。撥水剤の付与後、150℃で90秒間乾燥させた。表生地に加工した撥水剤はナノファイバー不織布表層へ含侵し、その撥水層の厚みは30%であった。また、撥水剤の塗布面積比は。全体を100%としたとき80%であった。
このようにして得られた透湿防水積層布の厚さは静置状態で0.61mmであった。
【0050】
(比較例1)
表生地はナイロン糸(繊度44decitex,36フィラメント)のリップストップ組織の織物とし、裏生地はナイロン糸使いのトリコット生地とし、ナノファイバー不織布の代わりに、ポリウレタン無孔膜を使用した市販品Aを試験した。
【0051】
(比較例2)
表生地はナイロン糸(繊度44decitex,36フィラメント)のタフタ組織の織物とし、ナノファイバー不織布の代わりに、ポリウレタン無孔膜を使用し、裏生地の代わりにポリウレタン樹脂をドット状に塗布した市販品Bを試験した。
【0052】
(比較例3)
表生地としてナイロンマルチフィラメント糸を経糸、緯糸に使用し、タフタ組織の織物とし、ナノファイバー不織布の代わりに、ポリウレタン無孔膜を使用し、裏生地の代わりにポリウレタン樹脂をドット状に塗布した市販品Cを試験した。
【0053】
(比較例4)
表生地としてナイロン糸を経糸、緯糸に使用し、タフタ組織の織物とし、ナノファイバー不織布の代わりに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を使用した市販品Dを試験した。
【0054】
(比較例5)
表生地としてナイロン糸を経糸、緯糸に使用し、リップストップ組織の織物とし、裏生地としてナイロン糸にて、天竺編みとし、ナノファイバー不織布の代わりに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を使用した市販品Eを試験した。
【0055】
(比較例6)
表生地としてナイロンとポリウレタン糸を経糸、緯糸に使用し、リップストップ組織の織物とし、裏生地としてポリエステル糸にて、天竺編みとし、透湿防水膜としてナノファイバー不織布を使用しているが、ナノファイバー不織布表層への撥水加工はされていない市販品Fを試験した。
【0056】
(比較例7)
表生地及び裏生地としてポリエステル糸を使用し、天竺編みの生地とし、ナノファイバー不織布の代わりに、ポリウレタン無孔膜を使用した市販品Gを試験した。
以上の条件と得られた結果を表1及び表2に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
表1~2から明らかなとおり、本発明の透湿防水積層布は、乾燥状態だけでなく、着用中の雨及び汗によっても透湿膜が持つ通気性及び透湿性を発揮し続けることが確認できた。
【0060】
実施例1及び実施例2の透湿防水積層布を使用してウェアを縫製し、着用試験をした。比較例1及び比較例2は市販品のウェアを使用して着用試験をした。
着用試験の条件は次のとおりである。
温度20℃、相対湿度65%R.H.の試験室において、10km/hrの速度で、トレッドミル上で30分間走行したときの衣服内温度、衣服内相対湿度を温湿度センサー(ハイグロクロン、株式会社KNラボラトリーズ)にて計測。得られた温度、相対湿度から、絶対湿度を下記式にて算出した。
絶対湿度(g/m3)=217×6.1078×10(7.5×T/(T+237.3))/(T+273.15)×RH/100
温湿度センサー貼付は胸部、腹部、背部、腰部の4点に貼付し、評価には走行時間の後半10分間のデータを使用し、各部位の絶対湿度の平均値で比較を行った。その結果を表3に示す。
また、着衣条件は、上衣はポリエステル86%ポリウレタン14%の2wayトリコット編地で作成したアンダーシャツを着用し、その上から計測試料を着用した。下衣にはポリエステル100%の布帛ハーフパンツを着用した。
【0061】
【表3】
【0062】
表3から明らかなとおり、実施例1及び2のウェアは比較例1及び2のウェアに比べて衣服内絶対湿度は低かった。また、実施例1及び2のウェアは、比較例1及び2のウェアに比べて着用中の雨及び汗によっても衣服内空間は蒸れ感がなく、快適な衣服内環境を維持することができた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の透湿防水積層布は、フィッシングや登山衣等のアウトドアウェア、スキー・スノーボードウェア、ウインドブレーカー、アスレチックウェア、ゴルフウェア、テニスウェア、レインウェア、カジュアルウェア、作業衣、手袋や靴、ダウンウェアや中綿ジャケットの表地等の衣料、グローブインサートやブーツインサート等の衣料資材分野、壁紙や屋根防水シート等の建築材料といった非衣料分野においても好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0064】
1,6,9 透湿防水積層布
2 表生地層
3 ナノファイバー不織布層
4,8,11 部分的接着部
5 撥水層
7 プリント層
10 裏生地層
12 表生地層の繊維
13 接着剤
14 ナノファイバー不織布層の繊維
15 透湿性測定装置
16 熱板
17 ガラスシャーレ
18 BOX
19 温湿度センサー
20 生地
21 風
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8