(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037682
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】マイクロ波の照射方法及び照射装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/72 20060101AFI20240312BHJP
H05B 6/74 20060101ALI20240312BHJP
H05B 6/78 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
H05B6/72 C
H05B6/74 E
H05B6/78 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118288
(22)【出願日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2022142103
(32)【優先日】2022-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 真司
(72)【発明者】
【氏名】丸山 友樹
【テーマコード(参考)】
3K090
【Fターム(参考)】
3K090AA01
3K090AB01
3K090DA19
3K090EA03
3K090NA01
3K090PA01
(57)【要約】
【課題】マイクロ波照射による加熱において加熱むらを抑制する。
【解決手段】マイクロ波の照射方法は、給電器具を介した導通により発振器から指向性のアンテナに給電し、前記アンテナの照射源から指向性照射軸に沿ってマイクロ波を放射させることと、前記指向性照射軸と交わらないように対象物を配置して、前記対象物に前記マイクロ波を照射することとを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電器具を介した導通により発振器から指向性のアンテナに給電し、前記アンテナの照射源から指向性照射軸に沿ってマイクロ波を放射させることと、
前記指向性照射軸と交わらないように対象物を配置して、前記対象物に前記マイクロ波を照射することと
を含むマイクロ波の照射方法。
【請求項2】
前記指向性照射軸に対して垂直な方向のうち、前記アンテナによって形成される電界のより高い強度が得られる方向を拡散照射軸としたときに、前記対象物に前記マイクロ波を照射することは、前記指向性照射軸から前記拡散照射軸と平行な軸の方向にずれた位置に前記対象物を配置することを含む、請求項1に記載の照射方法。
【請求項3】
前記アンテナは、ループアンテナである、請求項1に記載の照射方法。
【請求項4】
前記対象物に前記マイクロ波を照射することは、前記指向性照射軸に沿って前記対象物を搬送することを含む、
請求項1又は3に記載の照射方法。
【請求項5】
前記アンテナの給電点と前記照射源とを通る軸を拡散照射軸としたときに、前記対象物に前記マイクロ波を照射することは、前記指向性照射軸から前記拡散照射軸と平行な軸の方向にずれた位置に前記対象物を配置することを含む、請求項3に記載の照射方法。
【請求項6】
前記対象物に前記マイクロ波を照射することは、前記対象物に関する2つの薄肉方向形成面を前記拡散照射軸と平行な軸が貫通するように前記対象物を配置することを含む、請求項2又は5に記載の照射方法。
【請求項7】
前記薄肉方向形成面と前記拡散照射軸と平行な軸とは直交する、請求項6に記載の照射方法。
【請求項8】
前記対象物に前記マイクロ波を照射することは、前記指向性照射軸に沿って前記対象物を搬送することを含み、
前記搬送の途中で前記対象物が前記拡散照射軸と交わることがある、
請求項5に記載の照射方法。
【請求項9】
前記搬送の途中で前記対象物に関する2つの薄肉方向形成面を前記拡散照射軸が貫通することがある、請求項8に記載の照射方法。
【請求項10】
前記薄肉方向形成面と前記拡散照射軸とは直交する、請求項9に記載の照射方法。
【請求項11】
前記アンテナは、互いの前記指向性照射軸に沿って配置された複数のループアンテナを含む、請求項2、3、5、8、9、又は10に記載の照射方法。
【請求項12】
前記ループアンテナは、前記ループアンテナの照射面において、前記ループアンテナの給電点と前記照射源とを通る拡散照射軸に沿った長さが、前記拡散照射軸と直交する軸に沿った長さよりも長い、請求項3、5、8、9、又は10に記載の照射方法。
【請求項13】
給電器具を介した導通により発振器からループアンテナに給電し、前記ループアンテナの照射源から指向性照射軸に沿ってマイクロ波を放射させることと、
対象物に前記マイクロ波を照射することと
を含み、
前記ループアンテナは、前記ループアンテナの照射面において、前記ループアンテナの給電点と前記照射源とを通る拡散照射軸に沿った長さが、前記拡散照射軸と直交する軸に沿った長さよりも長く、
前記拡散照射軸と平行な軸が前記対象物を貫通する、
マイクロ波の照射方法。
【請求項14】
請求項1、2、3、5、8、9、10又は13に記載のマイクロ波の照射方法によって前記対象物に前記マイクロ波を照射して、前記対象物を加熱することを含む、加熱方法。
【請求項15】
請求項14に記載の加熱方法によって、食品である前記対象物を加熱することを含む、食品の製造方法。
【請求項16】
被照射物を保持するように構成された保持具と、
発振器と導通するように構成された給電器具と、
前記給電器具を介した導通による給電によって、照射源から指向性照射軸に沿ってマイクロ波を放射するように構成された少なくとも1つの指向性のアンテナと
を備え、
前記保持具は、前記被照射物に含まれる対象物と前記指向性照射軸とが交わらないように前記被照射物を保持するように構成されており、
前記指向性照射軸に対して垂直な方向のうち、前記アンテナによって形成される電界のより高い強度が得られる方向を拡散照射軸としたときに、前記保持具は、前記指向性照射軸から前記拡散照射軸と平行な軸の方向にずれた位置に前記被照射物を配置することで、前記対象物に前記マイクロ波が照射されるように構成されている、
マイクロ波照射装置。
【請求項17】
前記アンテナは、ループアンテナであり、
前記拡散照射軸は、前記ループアンテナの給電点と前記照射源とを通る軸である、
請求項16に記載のマイクロ波照射装置。
【請求項18】
前記ループアンテナは、互いの前記指向性照射軸に沿って複数配置されている、請求項17に記載のマイクロ波照射装置。
【請求項19】
前記保持具は、前記指向性照射軸に沿って前記被照射物を搬送するように構成されている、請求項16に記載のマイクロ波照射装置。
【請求項20】
前記保持具は、前記拡散照射軸と交差するように配置されている、請求項16乃至19の何れかに記載のマイクロ波照射装置。
【請求項21】
前記ループアンテナは、前記ループアンテナの照射面において、前記拡散照射軸に沿った長さが、前記拡散照射軸と直交する軸に沿った長さよりも長い、請求項17又は18に記載のマイクロ波照射装置。
【請求項22】
被照射物を保持するように構成された保持具と、
発振器と導通するように構成された給電器具と、
前記給電器具を介した導通による給電によって、照射源から指向性照射軸に沿ってマイクロ波を放射するように構成された少なくとも1つのループアンテナと
を備え、
前記ループアンテナは、前記ループアンテナの照射面において、前記ループアンテナの給電点と前記照射源とを通る拡散照射軸に沿った長さが、前記拡散照射軸と直交する軸に沿った長さよりも長い、
マイクロ波照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波の照射方法及び照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、被照射物にマイクロ波を照射することで被照射物を誘電加熱する加熱装置が知られている。誘電加熱では、種々の理由により均等に被照射物が加熱されないことがある。そこで均等な加熱のための工夫が様々行われている。
【0003】
例えば特許文献1には、導電性格納容器内に、被照射物が入れられるマイクロ波反応容器が配置され、マイクロ波反応容器を囲むように複数のダイポールアンテナが均等に配置されたマイクロ波加熱装置について開示されている。このマイクロ波加熱装置では、各アンテナと導電性格納庫の内壁との距離が、マイクロ波反応容器から各ダイポールアンテナを見る方向では、照射されるマイクロ波の波長のほぼ1/4となるように、各部が配置されている。このような配置によって、ダイポールアンテナから放射されるマイクロ波がマイクロ波反応容器の方向を指向する。その結果、マイクロ波反応容器内の被照射物が、均等に加熱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記は一例であり、誘電加熱における加熱むらの抑制方法は種々あり得る。本発明は、マイクロ波照射による加熱において加熱むらを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、マイクロ波の照射方法は、給電器具を介した導通により発振器から指向性のアンテナに給電し、前記アンテナの照射源から指向性照射軸に沿ってマイクロ波を放射させることと、前記指向性照射軸と交わらないように対象物を配置して、前記対象物に前記マイクロ波を照射することとを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、マイクロ波照射による加熱において加熱むらを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るマイクロ波照射装置の構成例の概略を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、ループアンテナについて説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、ループアンテナによって形成される電界の強度の解析結果の一例を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、被照射物と対象物の薄肉方向について説明するための図である。
【
図4B】
図4Bは、被照射物と対象物の薄肉方向について説明するための図である。
【
図4C】
図4Cは、被照射物と対象物の薄肉方向について説明するための図である。
【
図4D】
図4Dは、被照射物と対象物の薄肉方向について説明するための図である。
【
図5】
図5は、被照射物の搬送方向に対して側方から見た第1ループアンテナ、第2ループアンテナ、ベルト、被照射物の位置関係を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、実験例に係る試験装置の構成の概略を示す図である。
【
図7】
図7は、実験例に係る試験装置の構成について説明するための図である。
【
図8】
図8は、実験例に係る試験装置のアンテナに係る構成について説明するための図である。
【
図9】
図9は、実験例の結果の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、変形例に係るマイクロ波照射装置の構成例の概略を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
一実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態は、マイクロ波照射装置及びそれを用いたマイクロ波照射方法に関する。本実施形態のマイクロ波照射装置は、被照射物に対してマイクロ波を照射して、被照射物を内部加熱するように構成されている。特に、このマイクロ波照射装置では、指向性アンテナが用いられている。本実施形態のマイクロ波照射装置は、被照射物の加熱むらを低減するように構成されている。このため、マイクロ波照射装置は、指向性アンテナの指向性照射軸が被照射物と交わらないように構成されている。また、マイクロ波照射装置は、後述する拡散照射軸が被照射物と交わるように構成されている。被照射物は、これに限らないが、例えば食品である。したがって、このマイクロ波照射装置やそれを用いたマイクロ波の照射方法は、例えば包装食品を含む食品の製造に用いられ得る。
【0010】
〈マイクロ波照射装置の基本構成〉
図1は、本実施形態に係るマイクロ波照射装置1の基本的な構成例の概略を模式的に示す図である。マイクロ波照射装置1は、搬送装置85によって、搬送される被照射物90を次々と加熱するように構成されている。搬送装置85は、例えばベルトコンベアである。搬送装置85は、その長手方向に移動するベルト86を有する。被照射物90は、ベルト86の上の保持位置に置かれ、ベルト86の長手方向に搬送される。このように、本実施形態では、搬送装置85は、被照射物90を保持位置で保持する保持具として機能する。
【0011】
マイクロ波照射装置1は、搬送装置85によって搬送される被照射物90にマイクロ波を照射するように構成されたアンテナ40を備える。アンテナ40は、指向性のアンテナである。
図1に示す例では、マイクロ波照射装置1は、アンテナ40として、2つのループアンテナ、すなわち、第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42を有する。ループアンテナの数は、適宜に変更され得る。発振器10は、マイクロ波の周波数に応じた高周波電力を出力する。その周波数は、これに限らないが、例えば、200MHz~500MHz、915MHz又は2.45GHzといったものである。第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42には、同軸ケーブル21を介して、発振器10からマイクロ波電力が給電される。
【0012】
アンテナ40について説明する。
図2は、ループアンテナ51の構成例の概略を示す模式図である。ループアンテナ51は、例えば、照射するマイクロ波の一波長分の長さを有して円環形状に形成された導線52を備える。導線52の両端は、給電点53となっている。給電点53には、給電器具20としての例えば同軸ケーブル21が接続されている。同軸ケーブル21は、発振器10とループアンテナ51とを接続して導通させる。発振器10は、同軸ケーブル21を介してマイクロ波電力をループアンテナ51に供給する。給電されると、エレメントとしての導線52に電流が生じ、ループアンテナ51は電波を放射して電界を形成する。
【0013】
円環形状のループアンテナ51では、導線52によって形成された開口面54がマイクロ波の照射面55となり、開口面54の中心がマイクロ波の照射源56となる。照射源56を通り、開口面54に垂直な方向に指向性照射軸57が形成され、指向性照射軸57に沿って両方向にマイクロ波が放射される。
【0014】
なお、導線52が形成する形状は、円環に限らず、四角形、三角形、非対称形など他の形の環状でもよい。ループアンテナは、形状や給電点の位置によって照射源の位置や、指向性照射軸の向きが変わり得る。しかしながら、何れの場合においてもループアンテナでは、給電されたときに電波が放射される源としての照射源が開口面に形成されるという概念が得られる。また、給電されたときに照射源から電波が主として放射される方向を示す指向性照射軸が形成されるという概念が得られる。
【0015】
図1に戻って説明を続ける。マイクロ波照射装置1は、被照射物90が第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42の照射面55である開口面54を通り抜けて搬送されるように構成されている。このため、搬送装置85のベルト86は、第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42の開口面54を貫通するように設けられている。第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42の照射面55は、ベルト86の長手方向に対して垂直に配置されている。すなわち、第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42の指向性照射軸57は、ベルト86の長手方向と平行に配置されている。また、第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42とは、それらの指向性照射軸57が一致するように配置されている。
【0016】
マイクロ波照射装置1は、マイクロ波の遮蔽のため、金属筐体80を備える。すなわち、アンテナ40は、金属筐体80で覆われている。搬送装置85のベルト86は、金属筐体80を通り抜けている。より詳しくは、金属筐体80は、主筐体81を備える。アンテナ40は、主筐体81内に配置されている。主筐体81の両側面には、ベルト86が通り抜ける貫通孔が設けられている。この貫通孔のそれぞれには、ベルト86及びその上に置かれる被照射物90が通る大きさの側筐体82が接続されている。
【0017】
金属筐体80内でループアンテナであるアンテナ40によってマイクロ波を形成するため、マイクロ波の電界振幅方向についての金属筐体80の主筐体81の幅は、次の条件を満たすように構成されている。ここで、円環状のループアンテナから放射されるマイクロ波の電界振幅方向は、指向性照射軸57を通りそれに対して垂直な方向のうち、給電点53と照射源56とを通る直線に対して垂直な面上の方向である。すなわち、
図1に示す例では、マイクロ波の電界振幅方向は、ベルト86の長手方向に対して直交する水平方向である。
【0018】
まず、ループアンテナに所定の周波数のマイクロ波電力が給電されることでループアンテナから放射されるマイクロ波の波長を、給電波長λと定義する。給電波長λは、自由空間波長である。上述のとおり、ループアンテナを構成する円環状の導線52の長さは、給電波長λの整数倍以上であり、そのときの整数値を用いて、例えば1波長ループアンテナ、2波長ループアンテナのように定義される。
【0019】
主筐体81内にループアンテナが配置されているため、ループアンテナの幅の分だけ主筐体81内の実効的な空間が狭まる。主筐体81のマイクロ波の電界振幅方向についての筐体見かけ幅L´は、この方向の主筐体81の幅をLとし、この方向のループアンテナの幅をtとしたときに、L´=L-2tとなる。この筐体見かけ幅L´に基づいて、主筐体81の遮断波長λcを、λc=2L´=2(L-2t)と定義する。さらに、上述のループアンテナの導線52の長さが給電波長λのn倍(nは整数、ループアンテナの導線52の長さを給電波長λで除した値に最も近い整数をnとする)であるときに、アンテナ1波長換算の遮断波長λc´を、λc´=λc/nと定義する。
【0020】
主筐体81の幅Lは、アンテナ1波長換算の遮断波長λc´と給電波長λとが、
λc´>λ
を満たすように、設定される。すなわち、
L´=L-2t>nλ/2
を満たすように、主筐体81の幅Lは設定される。主筐体81内でループアンテナによってマイクロ波を形成するためには、原則としてこの条件を満たさなければならないことは、数値シミュレーションによっても確認されている。この条件を満たさない場合には、電界形成の再現性が低下する。
【0021】
また、主筐体81の筐体見かけ幅L´はnλ/2より大きくなければならないが、更にnλ/2ずつ増加した場合、主筐体81の内部に複数のピーク波形が形成され、主筐体81内でマイクロ波の多重反射が生じ得る。多重反射が生じると、複数の共振周波数が生じ、インピーダンス整合のための共振周波数の検出が難しくなる。そこで、
L´=L-2t<nλ/2+nλ/2=nλ
となるように、主筐体81の幅Lは設計される。
【0022】
以上のように、主筐体81のマイクロ波の電界振幅方向の幅Lは、筐体見かけ幅L´=L-2tが
nλ/2<L´<nλ
を満たすように、設計されている。
【0023】
〈マイクロ波照射装置の動作の概要〉
本実施形態のマイクロ波照射装置1の動作について説明する。発振器10から出力されたマイクロ波電力は、同軸ケーブル21を介して第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42とに供給される。第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42は、この給電に基づいて、マイクロ波を放射する。
【0024】
被照射物90は、搬送装置85によって第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42から放射されたマイクロ波が照射される加熱位置に次々と搬送される。このマイクロ波の照射によって、被照射物90は次々と誘電加熱される。被照射物90が加熱位置で停止するように搬送装置85が間歇的に動かされてもよいし、被照射物90が加熱位置を十分な時間をかけて通過するように搬送装置85が連続的に動かされてもよい。
【0025】
〈マイクロ波照射装置のアンテナの配置〉
ループアンテナ51への給電によって形成される電界に関する電磁解析を行った。
図3は、解析結果を示す。
図3では、濃い部分ほど電界強度が強いことを示している。この場合でも上述のとおり、ループアンテナ51の開口面54の中心の照射源56から指向性照射軸57に沿って電波が放射され、指向性照射軸57に沿って電界強度が強くなっている。また、この解析によると、給電点53と照射源56とを結ぶ軸を拡散照射軸58としたときに、指向性照射軸57に対して垂直な面における電波の拡散は、拡散照射軸58と平行である方向に比較的大きく、拡散照射軸58と直交する方向に比較的小さいことが明らかになった。
【0026】
本実施形態では、マイクロ波照射装置1の構成について、以下を考慮した。被照射物90を指向性照射軸57上に配置すると、電界強度の強さのために部分的に過加熱が生じて加熱むらが生じると考えられた。そこで、被照射物90を指向性照射軸57からずらして配置することとした。被照射物90は、容器とその中に入れられた食品などの加熱すべき対象物とを含むが、対象物が指向性照射軸57と交わらないように配置されるように、マイクロ波照射装置1を構成することとした。
【0027】
また、対象物を指向性照射軸57からずらして配置しても、加熱に必要な十分な電波が対象物に照射されるように、指向性照射軸57に対して垂直な方向のうち、ループアンテナ51によって形成される電界のより高い強度が得られる方向であり、より強い電波が拡散されている方向である拡散照射軸58に沿った方向にずらして被照射物90を配置することとした。
【0028】
また、拡散照射軸58の方向に広がる電波が対象物に入りやすいように、被照射物90を配置することとした。具体的には、対象物の薄肉方向が拡散照射軸58に沿った方向に合わせられるように、マイクロ波照射装置1を構成することとした。
【0029】
薄肉方向について、
図4A乃至
図4Dを参照して説明する。
図4Aに示すように、被照射物90として、容器91の中に加熱されるべき対象物92が収容されているものを考える。対象物92は、例えば食品である。対象物92に着目して、
図4Bに示すように、そのすべての面に対象物92が内接する直方体96を考える。直方体96の3組の対向する面のうち、最も間隔が狭い面を薄肉方向形成面97とし、薄肉方向形成面97と直交する方向を薄肉方向98と定義する。この定義では、例えば、同じ容器91であっても、
図4Cに示すように、容器91の底の方にのみ対象物92が入っている場合には容器91の高さ方向が薄肉方向98となり、
図4Dに示すように、容器91一杯に対象物92が入っている場合には容器91の厚さ方向が薄肉方向98となる。
【0030】
図5は、被照射物90の搬送方向に対して側方から見た第1ループアンテナ41、第2ループアンテナ42、ベルト86、被照射物90の位置関係を模式的に示す図である。上述のとおり、本実施形態では、指向性照射軸57が被照射物90の対象物92内を通らないように、被照射物90が搬送される。このため、搬送装置85のベルト86と第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42との位置関係は調整されている。
【0031】
ここで、被照射物90が、拡散照射軸58に沿った方向に指向性照射軸57から離れて配置されるように、第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42の給電点53は、上側に配置されている。したがって、給電点53及び照射源56を通る拡散照射軸58は、上下方向となる。この例では、ベルト86は、第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42の開口面54において、水平方向には中央部に、鉛直方向には下側に寄せて配置されている。このようにして、
図5の例では、被照射物90は、指向性照射軸57の下側で搬送される。
【0032】
第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42の給電点53が指向性照射軸57の下側に配置されていても拡散照射軸58が上下方向となるので、給電点53が下側に配置されていても同様である。また、ベルト86は、マイクロ波を透過する樹脂素材であれば第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42の開口面54の上側に寄せて配置されていてもよい。すなわち、被照射物90が指向性照射軸57よりも上側で搬送されてもよい。
【0033】
また、第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42から放射される電波は、拡散照射軸58と平行な軸59の方向に特に広がる。そこで、拡散照射軸58と平行な軸59に沿って被照射物90の対象物92に電波が浸透しやすいように、対象物92の薄肉方向98が拡散照射軸58の方向に合わせられるように、被照射物90は配置されている。すなわち、被照射物90は、対象物92の薄肉方向98方向が上下方向となり、薄肉方向形成面97が上面及び下面となるように、ベルト86上に載置されている。
【0034】
〈ループアンテナの形状〉
図3に一例を示したような電界強度の分布は、ループアンテナの形状によっても変化する。例えば、ループアンテナの開口面54における形状について、ループアンテナの給電点53と照射源56とを結ぶ拡散照射軸58に沿う方向の長さが、拡散照射軸58と直交する軸に沿う方向の長さよりも長いとき、すなわち、拡散照射軸58に沿う方向の長さに対する拡散照射軸58と直交する軸に沿う方向の長さの比であるアスペクト比が大きいとき、拡散照射軸58に沿って強い電界が広がることが期待される。被照射物を指向性照射軸から拡散照射軸に沿う方向にずらして配置する場合、拡散照射軸に沿って強い電界が広がっている方が、効率よく均一に加熱されることが期待される。したがって、拡散照射軸58に沿う方向の長さが、拡散照射軸58と直交する軸に沿う方向の長さよりも長い形状を有するループアンテナを用いることで、より効率よく均一に対象物92が加熱されることが期待される。
【0035】
[実験例]
上述の実施形態のアンテナ40及び被照射物90の配置と、加熱後の被照射物90の温度との関係を実験により評価した。
【0036】
〈方法〉
図6は、本実験例に係る試験装置100の構成の概略を示す図である。試験装置100では、被照射物190が水平方向に搬送されるように構成されている。試験装置100は、電磁波を遮蔽する金属筐体181を備える。金属筐体181は、アルミニウム材で形成した。金属筐体181の寸法は、搬送方向に沿う長さを666 mm、搬送方向に直交する幅を400 mm、高さを400 mmとした。金属筐体181内を通るように、幅140 mmの樹脂製のコンベアベルト186を設けた。
【0037】
金属筐体181内には、コンベアベルト186が貫通するように、第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142を設けた。第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142として、後述する3種類のループアンテナを用意して実験を行った。各実験において、第1ループアンテナ141と第2ループアンテナ142とには、同じループアンテナを一対として使用した。
【0038】
第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142は、それぞれアルミニウム材で形成し、その厚みは2 mmとした。第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142は、互いに対向し、コンベアベルト186に対して同一高さになるように配置した。放射されるマイクロ波の指向性照射軸が、コンベアベルト186の載置面に対して平行であり、金属筐体181の高さ寸法中央になるように、第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142を設置した。第1ループアンテナ141と第2ループアンテナ142との間隔は、380 mmとした。
【0039】
第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142に図示しない同軸ケーブルを介して、図示しない発振器を接続した。発振器の出力電力の周波数は450 MHzとした。発振器の出力電力を、同軸ケーブルを介して第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142に並列かつ同相で給電した。一つの発振器から途中分岐し、並列に各アンテナに給電することによって、一方のアンテナからの出力を他方のアンテナが反射として誤認識することなく同時照射が可能である。
【0040】
第1ループアンテナ141への給電によって、第1ループアンテナ141の中心に照射源156aが形成される。また、照射源156aから開口面154aに対して法線方向に指向性照射軸157aが形成される。また、照射源156aと給電点153aを結ぶ方向に拡散照射軸158aが形成される。同様に、第2ループアンテナ142への給電によって、第2ループアンテナ142の中心に照射源156bが形成される。また、照射源156bから開口面154bに対して法線方向に指向性照射軸157bが形成される。また、照射源156bと給電点153bを結ぶ方向に拡散照射軸158bが形成される。第1ループアンテナ141と第2ループアンテナ142との間隔は、上述のとおり380 mmであり、これは、出力波長λ = 666 mmの1/2波長分よりやや長い。
【0041】
ポリプロピレン(PP)製のトレー(150×115×30 mm)にポテトサラダ140 gを充填し、充填後シールしない試料を被照射物190とした。被照射物190をコンベアベルト186上に配置し、コンベアベルト186による搬送速度を1 mm/秒とし、出力を150 Wとし、6分間加熱した。金属筐体181の出口に設置したサーモグラフィーカメラを用いて加熱後のポテトサラダの表面温度を測定した。搬送方向に沿って3等分したそれぞれの平均温度を画像解析ソフトにより算出した。
【0042】
以上の条件は、各実験で共通の条件とした。以下の条件を変更し、複数条件で実験を行った。
【0043】
図7に示すように、2種類の搬送位置で実験を行った。すなわち、第1の構成では、被照射物190が指向性照射軸157と交差するように、コンベアベルト186の高さを設定した。第2の構成では、第1の構成と比較してコンベアベルト186の高さが40 mm下方位置となるように、コンベアベルト186の高さを設定した。第2の構成では、被照射物190が指向性照射軸157と交差しない。
【0044】
図8に模式的に示すように、第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142には、3種類のループアンテナを用いた。すなわち、
図8(a)に示すように内径232 mmの円形のループアンテナ146と、
図8(b)に示すように内径258 mmの円形のループアンテナ147と、
図8(c)及び(d)に示すように高さ内寸258 mm、横幅内寸220 mmの略長方形のループアンテナ148とを用いた。
【0045】
図8(a)、(b)及び(c)に示す3つの場合では、第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142の給電点153は、コンベアベルト186の載置面に対して鉛直上方位置に設けた。
図8(d)に示す場合では、
図8(c)に示す場合に対して、指向性照射軸157を回転軸として、12°回転させて、第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142を設けた。
【0046】
なお、何れの場合も、指向性照射軸157の位置は互いに同一であり、拡散照射軸158は、被照射物190の対象物を薄肉方向に、すなわち、対向する2つの薄肉方向形成面を貫通する。
【0047】
図8(a)、(b)及び(c)に示す3つのアンテナ構成において、被照射物190が指向性照射軸157と交差する第1の構成で加熱及び温度測定を行った。
図8(b)、(c)及び(d)に示す3つのアンテナ構成において、被照射物190が指向性照射軸157と交差しない第2の構成で加熱及び温度測定を行った。
【0048】
また、第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142から放射されるマイクロ波の波長と金属筐体181の大きさとの関係についても別途に検討を行った。この検討では、2種類の金属筐体181を用意した。一方の金属筐体181は、上述の金属筐体181と同様にその幅を400 mmとした。他方の金属筐体181は、その幅を350 mmとした。
【0049】
アンテナ等の配置については、
図8(a)に示す構成とした。すなわち、第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142には、内径232 mmの円形のループアンテナ146を用いた。この円形のループアンテナ146の外径は256 mmであり、その幅は12 mmである。また、被照射物190が指向性照射軸157と交差する第1の構成で加熱及び温度測定を行った。
【0050】
また、発振器の出力電力の周波数も2種類とした。すなわち、2種類の金属筐体181を用いて、それぞれ、発振器の出力電力の周波数を450 MHzとした場合と、915 MHzとした場合との2通りの給電周波数で実験を行った。その他の実験条件は、
図8(a)に示す場合と同様にした。
【0051】
〈結果及び考察〉
実験結果を
図9に示す。アンテナ(a)-(d)は、それぞれ、
図8(a)-(d)に示すアンテナ構成を用いた場合の結果を示す。上段は、被照射物190が指向性照射軸157と交差する第1の構成を用いた場合の結果を示し、下段は、被照射物190が指向性照射軸157と交差しない第2の構成を用いた場合の結果を示す。それぞれ、サーモグラフィーで得られた画像と、この画像中に示すA-Cの領域のそれぞれの平均温度と、これら各領域の温度のうち最高温度から最低温度を引いた最大温度差とを示す。第1の構成のアンテナ(d)の欄に各例で共通する寸法及びサーモグラフィー画像の温度スケールを示している。
【0052】
第1の構成で丸形の比較的小径の(a)のアンテナ構成を用いた場合、対象物の中央部が十分に温められず、温度が低く、加熱むらが生じた。これに対して、第1の構成で丸形の比較的大径の(b)のアンテナ構成を用いた場合、やや温度は上昇した。しかしながら、この場合でも、発熱する範囲は十分ではなく、同様に加熱むらが生じた。
【0053】
(b)(c)のアンテナ構成について、被照射物190の対象物が指向性照射軸157と交差する第1の構成を用いた場合と、対象物が指向性照射軸157よりも40 mm下方に位置するように搬送する、対象物と指向性照射軸157とが交差しない第2の構成を用いた場合とで、加熱の均一性について評価した。第2の構成を用いた場合は、第1の構成を用いた場合よりも、アンテナの構成に関わらず、加熱の均一性が改善された。第1の構成では、電界強度が強い指向性照射軸上に対象物があり、局所的に加熱されたと考えられる。これに対して、第2の構成では、指向性照射軸を避け、かつ、比較的強い電界強度の領域が広く分布している拡散照射軸と平行な軸上に対象物があることで、対象物の広範囲が均一に加熱されたと考えられる。
【0054】
特に、拡散照射軸の方向にアスペクト比が大きい略長方形のループアンテナを用いた場合((c)に示すアンテナ構成の場合)、加熱の均一性が大きく改善された。これは、次のような理由によると考えられる。長方形ループアンテナの照射面における寸法について、拡散照射軸に沿った縦方向の寸法の方が、拡散照射軸と直交する横方向の寸法よりも大きい。このため、縦方向寸法と横方向寸法とが同じ円形ループアンテナの場合と比較して、発振器の出力が同一であっても出力の分配としては、長方形ループアンテナでは縦方向の方が横方向よりも相対的に大きくなる。対象物にエネルギーが入りやすい対象物の薄肉方向がこの縦方向と一致しているため、対象物がより効率よく加熱されたと考えられる。
【0055】
第1の構成の(b)(c)のアンテナ構成の比較から、拡散照射軸が被照射物と交差する場合であっても、アンテナのアスペクト比を大きくするだけで、加熱の均一性に対して効果があることが明らかになった。
【0056】
また、第2の構成の(c)(d)のアンテナ構成の比較から、長方形のループアンテナを面内で多少(12°)回転させても((d)に示すアンテナ構成の場合であっても)、拡散照射軸は対象物を薄肉方向に貫通しているため、この場合も加熱の均一性の改善効果が得られることが明らかになった。ただし、拡散照射軸が薄肉方向形成面と直交する(c)のアンテナ構成の方が、より加熱の均一性が高く、より好ましいことが明らかになった。
【0057】
また、幅が異なる2種類の金属筐体181を有する試験装置100を用いて、2種類の給電周波数を用いた実験結果は次のようになった。すなわち、加熱後の加熱対象物の中央領域の温度を比較すると、給電周波数が450 MHz及び915 MHzの何れの場合においても、金属筐体181の幅が350 mmの場合は、加熱対象物の中央部で発熱不足が生じ、中央領域の温度が低かった。これに対して、金属筐体181の幅が400 mmの場合は、加熱対象物の中央部で発熱不足が改善し、中央領域も含めて、比較的均一な加熱結果が得られた。
【0058】
この結果は次の理由によると考えられる。まず、給電周波数が450 MHzのとき、給電波長λは、667 mmとなる。第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142は、1波長分のループ長さを有している。給電周波数が915 MHzのとき、給電波長λは、328 mmとなる。第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142は、2波長分のループ長さを有している。
【0059】
図6及び
図8(a)に示すように、本実験において、第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142の給電点は、鉛直上側に設けられている。このようなループアンテナの配置の場合、ループアンテナから放射されるマイクロ波の電界振幅方向は、指向性照射軸157に対して垂直で水平な方向になる。2種類の金属筐体181では、この水平な方向の幅Lが異なる。
【0060】
また、金属筐体181内に設置された第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142の幅tは12 mmである。したがって、幅Lが350 mmの金属筐体181の筐体見かけ幅L´は、L´=350 mm-12 mm×2=326 mmである。したがって、幅が350 mmの金属筐体181の遮断波長λcは、λc=326 mm×2=652 mmである。また、幅Lが400 mmの金属筐体181の筐体見かけ幅L´は、L´=400 mm-12 mm×2=376 mmである。したがって、幅が400 mmの金属筐体181の遮断波長λcは、λc=376 mm×2=752 mmである。
【0061】
給電周波数が450 MHzであり、給電波長λが667 mmであるとき、第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142は1波長分のループ長さを有しているので、幅が350 mmの金属筐体181のアンテナ1波長換算の遮断波長λc´は、λc´=652 mmである。すなわち、このとき、λc´<λであり、金属筐体181内で、第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142により、マイクロ波が適切に形成されなかったと考えられる。このため、加熱対象物の中央領域の温度が低くなったと考えられる。
【0062】
一方、幅が400 mmの金属筐体181のアンテナ1波長換算の遮断波長λc´は、λc´=752 mmである。すなわち、このとき、λc´>λであり、金属筐体181内で、第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142により、マイクロ波が適切に形成されたと考えられる。このため、加熱対象物の中央領域の温度が比較的高くなったと考えられる。
【0063】
給電周波数が915 MHzであり、給電波長λが328 mmであるとき、第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142は2波長分のループ長さを有しているので、幅が350 mmの金属筐体181のアンテナ1波長換算の遮断波長λc´は、λc´=λc/2=326 mmである。すなわち、このとき、λc´<λであり、金属筐体181内で、第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142により、マイクロ波が適切に形成されなかったと考えられる。このため、加熱対象物の中央領域の温度が低くなったと考えられる。
【0064】
一方、幅が400 mmの金属筐体181のアンテナ1波長換算の遮断波長λc´は、λc´=λc/2=376 mmである。すなわち、このとき、λc´>λであり、金属筐体181内で、第1ループアンテナ141及び第2ループアンテナ142により、マイクロ波が適切に形成されたと考えられる。このため、加熱対象物の中央領域の温度が比較的高くなったと考えられる。
【0065】
以上の関係をまとめると次の表1の通りとなる。
【表1】
【0066】
[変形例]
上述の実施形態では、搬送装置85のベルト86がループアンテナをくぐるように設けられている例を示したが、これに限らない。
図10に示すように、ベルト86の脇にループアンテナ43が設けられており、被照射物90がループアンテナ43の前を通過するように、マイクロ波照射装置は構成されていてもよい。この場合も、指向性照射軸57は、被照射物90の対象物92と交差しないように、ループアンテナ43と、ベルト86との位置関係は、指向性照射軸57に対してベルト86が低く設定されている。また、拡散照射軸58と平行な軸が対象物92と交差するように、給電点53は、上側に配置されている。このような構成によっても、対象物92の高い加熱均一性が得られる。同様に、給電点53が下側に配置されていても、ベルト86が指向性照射軸57よりも高い位置に配置されていてもよい。ループアンテナ43は、ベルト86の両脇に設けられていてもよい。
【0067】
また、
図10のような構成によれば、被照射物90がアンテナを貫通する必要がないので、アンテナには、ループアンテナに限らず、例えばマイクロストリップアンテナなどといった、各種の指向性アンテナが用いられ得る。指向性アンテナでは、照射源、指向性照射軸、拡散照射軸等の形成について、ループアンテナと同様の概念が得られるので、何れの場合も上述の実施形態と同様に考えられ得る。例えば、拡散照射軸は、指向性照射軸に対して垂直な方向のうち、アンテナによって形成される電界のより高い強度が得られる方向を示す軸と考えることができる。
【0068】
また、上述の実施形態では、被照射物90が搬送装置85によって水平方向に搬送される例を示したが、指向性照射軸57が被照射物90の対象物92と交差しなければ、これに限らない。被照射物90は、鉛直方向や水平方向に対して斜めの方向に搬送されてもよい。
【0069】
上述の実施形態では、被照射物90が搬送装置85によって順次搬送される例を示したが、これに限らない。例えば、加熱前にロボットハンドや人の手によって被照射物がアンテナの前の保持具に配置され、加熱後にロボットハンドや人の手によって被照射物がアンテナの前の保持具から取り除かれてもよい。この場合も、保持具は、被照射物の加熱すべき対象物がアンテナの指向性照射軸と交わらないように構成されている。また、保持具は、対象物を指向性照射軸から拡散照射軸と平行な軸の方向にずれた位置に保持するように構成されている。
【0070】
例えばループアンテナへの給電によって形成される電界の分布や、系の共振周波数などは、例えば電界内に配置された給電されていないループアンテナ、金属板、金属片などといった導電体の存在によって変化し得る。そこで、例えば電界分布を変化させるために、あるいは、インピーダンス整合のために、マイクロ波照射装置1の例えば金属筐体80内に、適当な導電体が配置されてもよい。
【0071】
[加熱の均一性に貢献する要素について]
上述の各種実施形態に関して、加熱すべき対象物における加熱の均一性に貢献する要素について説明する。
【0072】
(1)対象物が指向性照射軸と交わらないようにすること
指向性アンテナの指向性照射軸上では、電界強度が強いので、加熱むらが生じやすい。そこで、対象物を指向性照射軸と交わらないように配置又は搬送することが、均一な加熱に貢献する。
【0073】
(2)指向性照射軸から拡散照射軸に沿った方向にずれた位置に対象物を配置すること
拡散照射軸に沿った方向に電界強度が比較的高く分布するので、対象物を、指向性照射軸から拡散照射軸に沿った方向にずれた位置に配置し、対象物を拡散照射軸と平行な軸と交差するように配置することが、均一な加熱に貢献する。
【0074】
(3)拡散照射軸と平行な軸が対象物の薄肉方向形成面を貫通すること
対象物の薄肉方向には、マイクロ波が浸透しやすい。したがって、対象物の薄肉方向形成面を、拡散照射軸と平行な軸が貫通するように、対象物を配置することが、均一な加熱に貢献する。さらに、拡散照射軸と平行な軸が、対象物の薄肉方向形成面と直交することが、同理由により、より好ましい。
【0075】
(4)対象物を指向性照射軸に沿って搬送すること
対象物を指向性照射軸に沿って搬送すると、対象物に連続的にマイクロ波が照射されるので、対象物を指向性照射軸に沿って搬送することは、少ない出力であっても高効率かつ均一な加熱に貢献する。
【0076】
(5)ループアンテナの照射面においてループアンテナの形状は、拡散照射軸に沿った長さが、拡散照射軸と直交する軸に沿った長さよりも長いこと
ループアンテナの照射面における形状について、拡散照射軸に沿った長さが拡散照射軸と直交する軸に沿った長さよりも長いとき、拡散照射軸に沿って、電界強度が比較的高くなる。ループアンテナの形状をこのようにし、対象物が拡散照射軸に平行な軸と交わるようにすることは、均一な加熱に貢献する。
【0077】
上述の加熱の均一性に貢献する各要素に関して、一つでも満たせば、加熱の均一性は向上するし、複数の要素を満たせば、より加熱の均一性は向上する。
【0078】
[マイクロ波照射装置の用途]
上述の各実施形態に係るマイクロ波照射装置1は、種々の用途の処理装置に組み込まれたり、適切な態様で構成されたりし得る。例えば、密封包装された食品の加熱殺菌のために用いられる場合には、マイクロ波照射装置1は、密封包装された食品である被照射物90が加圧されたり、殺菌のために必要な時間保温されたりするように構成された装置内に組み込まれることになる。その他、マイクロ波照射装置1は、食品を包装容器に収容し、この包装容器を密閉することで包装容器食品とすることと、マイクロ波照射装置1を用いて、この包装容器食品を加熱することとを含む食品の製造に用いられ得る。
【0079】
また、マイクロ波照射装置1による加熱の対象物92、すなわち、マイクロ波照射装置1がマイクロ波を照射する被照射物90は、殺菌を目的とした食品に限らない。対象物92は、被解凍物としての冷凍食品であり、マイクロ波照射装置1は、冷凍食品の解凍のために用いられてもよい。また、加熱の対象物92は、食品に限らない。例えば、対象物92は、凍結保存された細胞であり、マイクロ波照射装置1は、凍結保存された細胞の解凍のために用いられてもよい。また、対象物92は、加熱によってガス化、合成、分解等される各種反応物質であり、マイクロ波照射装置1は、各種反応物質のガス化、合成、分解等のために用いられてもよい。このように、マイクロ波照射装置1がマイクロ波を照射する被照射物90は種々あり得、どのようなものであってもよいし、マイクロ波照射装置1の用途もそれに応じてどのようなものであってもよい。
【0080】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0081】
1:マイクロ波照射装置
10:発振器、20:給電器具、21:同軸ケーブル、80:金属筐体、81:主筐体、82:側筐体、85:搬送装置、86:ベルト
40:アンテナ、41:第1ループアンテナ、42:第2ループアンテナ、43:ループアンテナ
51:ループアンテナ、52:導線、53:給電点、54:開口面、55:照射面、56:照射源、57:指向性照射軸、58:拡散照射軸、59:拡散照射軸と平行な軸
90:被照射物、91:容器、92:対象物、96:直方体、97:薄肉方向形成面、98:薄肉方向