(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037693
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】鉱石の脱リン方法
(51)【国際特許分類】
C21B 5/00 20060101AFI20240312BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C21B5/00 301
C22B1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139561
(22)【出願日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2022142083
(32)【優先日】2022-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】石山 理
【テーマコード(参考)】
4K001
4K012
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001CA16
4K012BA01
(57)【要約】
【課題】鉱石に含まれるリンを離脱させる脱リン方法を提供する。
【解決手段】本発明である鉱石の脱リン方法では、加熱炉内において、鉱石を100[℃]以上の所定温度で加熱しながら、鉱石の流動に伴う物理的衝撃を鉱石に与えることにより、リンを含有する微粉を鉱石から分離する。加熱炉としては、キルン式又は流動層式の加熱炉を用いることができる。加熱炉から排出された鉱石に対して、リンを含有する微粉を取り除くための分級処理を行うことができる。この分級処理では、篩目が0.25[mm]である篩機を用いることができる。また、加熱炉内に還元性ガスを供給することにより、加熱炉内の雰囲気を還元性雰囲気とすることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉内において、鉱石を100℃以上の所定温度で加熱しながら、鉱石の流動に伴う物理的衝撃を鉱石に与えることにより、リンを含有する微粉を鉱石から分離することを特徴とする鉱石の脱リン方法。
【請求項2】
前記加熱炉内に還元性ガスを供給することにより、前記加熱炉内の雰囲気を還元性雰囲気とすることを特徴とする請求項1に記載の鉱石の脱リン方法。
【請求項3】
前記加熱炉は、第1の加熱炉と第2の加熱炉で構成され、
非還元性雰囲気の前記第1の加熱炉に鉱石を供給して加熱し、還元性雰囲気の前記第2の加熱炉に、前記第1の加熱炉で加熱した前記鉱石を供給して加熱することを特徴とする請求項2に記載の鉱石の脱リン方法。
【請求項4】
前記加熱炉は、キルン式又は流動層式の加熱炉であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の鉱石の脱リン方法。
【請求項5】
前記加熱炉から排出された鉱石に対して、前記微粉を取り除くための分級処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の鉱石の脱リン方法。
【請求項6】
前記第2の加熱炉から排出された鉱石に対して、前記微粉を取り除くための分級処理を行うことを特徴とする請求項3に記載の鉱石の脱リン方法。
【請求項7】
前記分級処理において、篩目が0.25mmである篩機を用いることを特徴とする請求項5または6に記載の鉱石の脱リン方法。
【請求項8】
前記第1の加熱炉で加熱した前記鉱石に対して中間分級処理を行い、前記中間分級処理によって得られた粗粒部を前記第2の加熱炉に供給することを特徴とする請求項3に記載の鉱石の脱リン方法。
【請求項9】
前記第2の加熱炉から排出された鉱石に対して、前記微粉を取り除くための分級処理を行うことを特徴とする請求項8に記載の鉱石の脱リン方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱石に含まれるリンを離脱させる脱リン方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉用原料としての焼結鉱に含まれるリンは、高炉で生成される溶銑の品質管理を行う上で重要な成分の一つである。リンは鉄との親和力が大きいため、焼結鉱から溶銑を経て鋼材を製造したとき、鋼材中にリンが残存しやすい。鋼材中に残存したリンは、鋼材の低温脆性破壊の要因となり、鋼材の品質を損なうことがある。
【0003】
鉄鉱石に含まれるリンを低減する方法として、非特許文献1では、リンを含有する鉄鉱石に対して水素-水蒸気混合ガスを供給して還元することにより、リンを気体として除去している。また、特許文献1では、高燐鉄鉱石に対して酸化鉄及び五酸化二燐のCOガス還元平衡図、酸化鉄及び五酸化二燐のH2ガス還元平衡図、及び/又は、酸化鉄及び五酸化二燐のCO-H2混合ガス還元平衡図のP2ガス平衡領域とFeO平衡領域にあるガスを供給して還元することにより、燐化合物を還元、気化して除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「高リン鉄鉱石からの直接脱リン」、鉄と鋼、Vol.100(2014)No.2、第325~330頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、鉱石を加熱しながら鉱石に物理的な衝撃を加えることにより、鉱石からリンを含有する微粉を分離できることを見いだし、本発明を完成するに至った。本発明の目的は、鉱石に含まれるリンを離脱させる脱リン方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明である鉱石の脱リン方法では、加熱炉内において、鉱石を100℃以上の所定温度で加熱しながら、鉱石の流動に伴う物理的衝撃を鉱石に与えることにより、リンを含有する微粉を鉱石から分離する。加熱炉としては、キルン式又は流動層式の加熱炉を用いることができる。
【0008】
加熱炉から排出された鉱石に対して、リンを含有する微粉を取り除くための分級処理を行うことができる。この分級処理では、篩目が0.25[mm]である篩機を用いることができる。また、加熱炉内に還元性ガスを供給することにより、加熱炉内の雰囲気を還元性雰囲気とすることができる。また、加熱炉を第1の加熱炉と第2の加熱炉で構成し、非還元性雰囲気の第1の加熱炉に鉱石を供給して加熱し、還元性雰囲気の第2の加熱炉に、第1の加熱炉で加熱した鉱石を供給して加熱することができる。また、第2の加熱炉から排出された鉱石に対して、微粉を取り除くための分級処理を行うことができる。
【0009】
また、第1の加熱炉で加熱した鉱石に対して中間分級処理を行い、中間分級処理によって得られた粗粒部を第2の加熱炉に供給することができる。また、中間分級処理によって得られた粗粒部を第2の加熱炉に供給した場合に、第2の加熱炉から排出された鉱石に対して、微粉を取り除くための分級処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉱石に含まれるリンを微粉として鉱石から離脱させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】脱リン方法を実施する設備の一例を説明する図である。
【
図2】脱リン方法を実施する設備の別の一例を説明する図である。
【
図3】脱リン方法を実施する設備の別の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態である脱リン方法は、加熱炉内において、鉱石を100[℃]以上の温度で加熱しながら、鉱石に物理的な衝撃を与えることにより、リンを含有する微粉を鉱石から分離するものである。リンを含有する微粉を鉱石から物理的に分離することにより、鉱石からリンを離脱させることができる。ここで、物理的な衝撃とは、鉱石を流動させることにより、鉱石に与えられる衝撃である。以下、本実施形態の脱リン方法について、具体的に説明する。
【0013】
加熱炉としては、鉱石を100[℃]以上の所定温度まで加熱することができるとともに、鉱石に対して物理的な衝撃を与えることができるものであればよい。具体的には、加熱炉として、キルン式又は流動層式の加熱炉を用いることができる。
【0014】
キルン式の加熱炉としては、燃焼ガスを加熱炉の内部に直接入れる方式(内燃式)と、加熱炉の外部から熱を加える方式(外燃式)とがある。流動層式の加熱炉としては、加熱炉内の鉱石に熱を直接与える方式(直接加熱式)と、加熱炉内の鉱石に間接的に熱を与える方式(間接加熱式)とがある。また、流動層は、循環させる方式であってもよい。
【0015】
鉱石を加熱する所定温度の上限は、特に制限されるものではないが、例えば、加熱炉の耐久性や、後述する実施例で説明するリンの離脱効率などを考慮すれば、1000[℃]以下が好ましい。また、詳しくは実施例で説明するが、加熱温度が750[℃]を超える範囲では、その温度範囲で温度を上昇させた場合の脱リン率の上昇率が、750[℃]以下の場合よりも加熱炉の雰囲気(非還元性又は還元性)によらず低下する。つまり750[℃]超では加熱温度の上昇に対するリン除去効果の向上が750[℃]以下の場合に比べて限定的となるため、より好ましくは、加熱温度は750[℃]以下とすることができる。さらに、後述のように100[℃]~500[℃]程度の範囲でも加熱炉の雰囲気によらず、脱リン効果が得られるので、加熱炉におけるエネルギーコスト等を考慮して、100[℃]以上500[℃]以下の範囲、あるいは、100[℃]以上300[℃]以下の範囲で加熱を行ってもよい。
【0016】
鉱石を所定温度まで加熱するときの昇温速度は、適宜決めることができる。所定温度で鉱石を加熱する時間(すなわち、所定温度を維持する時間)は、特に制限されるものではないが、後述するように、鉱石に含まれる結晶水を十分に蒸発できる時間であることが好ましい。この時間は、例えば、5[min]以上とすることができる。
【0017】
キルン式の加熱炉では、加熱炉が回転して加熱炉内の鉱石を流動させることにより、鉱石に物理的な衝撃が与えられる。この物理的な衝撃には、鉱石が加熱炉の内壁面に衝突したときの衝撃や、鉱石の粒子同士が互いに衝突したときの衝撃がある。流動層式の加熱炉では、加熱炉内で鉱石を流動させることにより、鉱石に物理的な衝撃が与えられる。この物理的な衝撃には、鉱石が加熱炉の内壁面に衝突したときの衝撃や、鉱石の粒子同士が互いに衝突したときの衝撃がある。
【0018】
加熱炉内の雰囲気は、適宜決めることができるが、例えば、非還元性雰囲気又は還元性雰囲気とすることができる。非還元性雰囲気は、酸化性雰囲気及び不活性雰囲気である。例えば、酸化性ガスである酸素ガスを含むガスや大気を加熱炉内に供給することにより、加熱炉内の雰囲気を酸化性雰囲気とすることができる。また、不活性ガスである窒素ガスやアルゴンガスを加熱炉内に供給することにより、加熱炉内の雰囲気を不活性雰囲気とすることができる。また、還元性ガスである水素ガスを含むガスや一酸化炭素を含むガスを加熱炉内に供給することにより、加熱炉内の雰囲気を還元性雰囲気とすることができる。ここで、加熱炉内の雰囲気を還元性雰囲気とすることにより、本実施形態の脱リン方法によるリンの離脱(すなわち、鉱石の加熱及び鉱石に与える物理的な衝撃に伴うリンの離脱)に加えて、非特許文献1に記載のリンの離脱(鉱石からリンを気体として除去すること)を行うことができる。
【0019】
鉱石を100[℃]以上の所定温度まで加熱することにより、鉱石に水で付着している微粉を離脱できる。乾燥した状態で鉱石に物理的な衝撃を与えることにより離脱する微粉部分には高濃度のリンが含まれやすいため、微粉を鉱石から物理的に分離させることにより、鉱石からリンを離脱させることができる。
【0020】
鉱石を300[℃]以上の所定温度まで加熱することにより、さらに、鉱石に含まれる結晶水を蒸発させて、結晶水を含む部分(ゲーサイト部)を脆化させることができるので好ましい。結晶水を含む部分が脆化した状態において、鉱石に物理的な衝撃を与えることにより、脆化した部分を粉化させることができ、鉱石から微粉を分離させることができる。結晶水を含む部分には高濃度のリンが含まれやすいため、上述したように粉化させた微粉には高濃度のリンが含まれやすい。したがって、粉化させた微粉を鉱石から物理的に分離させることにより、鉱石からリンを離脱させることができる。
【0021】
加熱炉の内部でガスを流動させれば、鉱石から分離された微粉をガスと共に移動(気流搬送)させることができ、鉱石から微粉を取り除くことができる。また、加熱炉から排出された鉱石に対して分級処理を行うことにより、鉱石から分離された微粉と鉱石とを分けることができ、鉱石から分離された微粉を取り除くことができる。分級処理としては、例えば、篩機を用いることができる。篩機の篩目は、鉱石から分離される微粉の粒径を考慮して適宜決めることができ、例えば、篩目を0.125[mm]~0.25[mm]とすることができる。
【0022】
次に、本実施形態である脱リン方法を実施する設備(一例)について、
図1を用いて説明する。
【0023】
貯留槽1には、脱リンの対象となる鉱石が貯留されており、貯留槽1から払い出された鉱石は、キルン式の加熱炉2に搬送される。鉱石は、加熱炉2の一端に位置する供給口2aから加熱炉2の内部に供給された後、所定温度(100[℃]以上)で加熱されるとともに、加熱炉2の回転によって転動作用を受けて物理的な衝撃が与えられる。加熱炉2の内部では、上述した結晶水の蒸発及び粉化によって、鉱石から微粉が分離される。鉱石は、加熱炉2の供給口2aから、加熱炉2の他端に位置する排出口2bに向かって移動し、排出口2bから排出される。
【0024】
ガス供給機3は、加熱炉2の内部にガス(非還元性ガス又は還元性ガス)を供給する。ガス供給機3からのガスは、加熱炉2の排出口2bから加熱炉2の内部に供給され、加熱炉2の回転軸方向に沿って移動した後、加熱炉2の供給口2aから排出される。ガスが加熱炉2の内部を流動することにより、上述したように鉱石から分離した微粉がガスと共に移動する。加熱炉2から排出されたガス(排出ガス)及び微粉は集塵機4に導かれるが、集塵機4において、加熱炉2から排出された微粉が捕集される。なお、
図1に示す設備では、排出口2bから供給口2aに向かってガスを流動させているが、供給口2aから排出口2bに向かってガスを流動させることもできる。
【0025】
加熱炉2の排出口2bから排出された鉱石は、分級のため、篩機5に搬送されてもよい。篩機5は、所定サイズ(例えば、0.25[mm])の篩目を有しており、篩機5に搬送された鉱石のうち、所定サイズ以下の微粉を鉱石から除去する。篩機5の篩上の鉱石は、リンが離脱されたものであり、高炉に装入される鉄原料である焼結鉱やペレットの製造に用いられる。
【0026】
以上の加熱炉2は、上述の通り流動層式の加熱炉であってもよく、供給されるガスが鉱石を流動させることで、鉱石に物理的衝撃を与えることができ、キルン式の場合と同様に鉱石から微粉を分離して脱リン可能である。
【0027】
なお、上記の実施形態では、加熱炉における鉱石の加熱を非還元性雰囲気下及び還元性雰囲気下のいずれかで一度行うとしたが、これに限られない。非還元性雰囲気下での加熱の後、還元性雰囲気下での加熱を行ってもよい。非還元性雰囲気下での加熱と還元性雰囲気下での加熱とはそれぞれ別の加熱炉で行ってもよく、非還元性雰囲気下での加熱及び還元性雰囲気下での加熱を同じ加熱炉で行ってもよい。
【0028】
非還元性雰囲気下での加熱と還元性雰囲気下での加熱とを別の加熱炉で行う場合について、
図2を用いて説明する。
図2に示す設備では、加熱炉が第1の加熱炉21と第2の加熱炉22の2基で構成され、直列に接続される。以下の説明において
図1の場合と重複する部分は説明を省略する。また、一例として第1の加熱炉21及び第2の加熱炉22がキルン式であるものとして説明するが、いずれか一方又は両方が流動層式の加熱炉であってもよい。
【0029】
まず、鉱石が貯留槽1から第1の加熱炉21に供給される。第1の加熱炉21において鉱石は所定温度(100[℃]以上)で加熱される。第1の加熱炉21には、非還元性ガス供給機31から非還元性ガスが供給され、鉱石は非還元性雰囲気下で加熱される。そして第1の加熱炉21の回転によって転動作用を受けて物理的な衝撃が与えられ、鉱石から微粉が分離される。微粉はガス(排出ガス)と共に排出されて集塵機41に捕集される。これにより、鉱石に含まれるリンの一部が離脱する。なお、
図2において非還元性ガスは排出口21bから供給口21aに向かって流動させているが、供給口21aから排出口21bに向かってガスを流動させてもよい。
【0030】
第1の加熱炉21の排出口21bから排出された鉱石は、第2の加熱炉22の一端に位置する供給口22aから第2の加熱炉22の内部に供給された後、所定温度(100[℃]以上)で、還元性雰囲気で加熱されるとともに、第2の加熱炉22の回転によって転動作用を受け、物理的衝撃が与えられる。鉱石は、第2の加熱炉22の内部で供給口22aから他端に位置する排出口22bに向かって移動し、排出口22bから排出される。
【0031】
還元性ガス供給機32は、第2の加熱炉22の内部に還元性ガスを供給する。還元性ガス供給機32からの還元性ガスは、第2の加熱炉22の排出口22bから第2の加熱炉22の内部に供給され、第2の加熱炉22の回転軸方向に沿って移動した後、供給口22aから排出される。ガスが第2の加熱炉22の内部を流動することにより、上述したように鉱石から分離した微粉がガスと共に移動する。第2の加熱炉22から排出されたガス(排出ガス)及び微粉は集塵機42に導かれ、微粉が捕集される。なお、
図2に示す設備では、排出口22bから供給口22aに向かってガスを流動させているが、供給口22aから排出口22bに向かってガスを流動させることもできる。
【0032】
第2の加熱炉22の排出口22bから排出された鉱石は、分級のため、篩機5に搬送されてもよい。篩機5は、所定サイズ(例えば、0.25[mm])の篩目を有しており、篩機5に搬送された鉱石のうち、所定サイズ以下の微粉を鉱石から除去する。篩機5の篩上の鉱石は、リンが離脱されたものであり、高炉に装入される鉄原料である焼結鉱やペレットの製造に用いられる。
【0033】
また、第1の加熱炉21と第2の加熱炉22の間において、中間分級処理をさらに行ってもよい。中間分級処理は第1の加熱炉21から排出された鉱石を粗粒部と細粒部とに分ける処理である。
【0034】
図3は、中間分級処理を行う場合の実施形態の脱リン方法の工程を示す工程図である。第1の加熱炉21で加熱され排出された鉱石を分級装置である篩機6に供給して、粗粒部と細粒部とに分級する中間分級処理を行う。そして、第2の加熱炉22に供給する鉱石として篩機6において分級された粗粒部の鉱石を供給し、還元処理する。
【0035】
篩機6の粗粒部と細粒部との境界である分級粒度は、0.5mm以上3.0mm以下の範囲で設定されることが好ましい。設定した分級粒度の粒径以上の粒子が粗粒部であり、分級粒度の粒径未満の粒子が細粒部となる。分級粒度の調整は、篩機6の篩目の大きさで調整できる。中間分級処理の分級粒度は、微粉除去のための分級処理の分級粒度(篩機5の篩目)よりも大きい。中間分級処理を実施する分級装置は篩機に限定されず、他の分級装置を用いてもよい。
【0036】
通常、第1の加熱炉21において加熱された鉱石は、より粒度の小さい鉱石(微粉は除く)の方が、脱リン率が高くなる。そのため、以上の中間分級処理によって、第1の加熱炉21から排出された鉱石のうち、比較的脱リン率の低い粗粒部と、比較的脱リン率の高い細粒部とに分離し、粗粒部のみを優先的に第2の加熱炉22に供することができる。そうすることで、鉄鉱石全体のうち還元によるさらなる脱リン処理が必要な部分、換言すれば、脱リンが進みにくく還元による脱リン処理をより優先して実施すべき部分に絞ってより効果的に脱リン処理することができる。そして、粗粒部のみ第2の加熱炉22で加熱することで、全ての鉱石を第2の加熱炉22で加熱する場合より、全体のエネルギー効率やガス原単位の観点でより効率的な脱リン処理を実施できる。
【0037】
本実施形態における中間分級処理によって分離された細粒部は、十分に脱リン率が高いので、脱リン処理された鉄鉱石としてそのままペレット用、ブリケット用、ないしは焼結用原料等に用いることができる。なお、
図3に示す篩機5による分級処理は、省略してもよい。
【0038】
なお、第1の加熱炉21と第2の加熱炉22の加熱温度は、同じ温度としてもよいし、異なる温度としてもよい。また、同じ一つの加熱炉で非還元性雰囲気と還元性雰囲気で加熱してもよく、その場合もそれぞれの加熱温度は同じ温度でもよいし異なる温度でもよい。ただし、還元性雰囲気下での加熱である2回目の加熱(第2の加熱炉22における加熱又は同じ加熱炉で加熱する場合の2回目の加熱)の際の加熱温度は300[℃]以上とすることが好ましい。すなわち、1回目の加熱温度を100[℃]以上とし、2回目の加熱温度を300[℃]以上とすることが好ましい。2回目の加熱温度を300[℃]以上とすることで、1回目の加熱によってゲーサイト部からリンが一部離脱した鉱石において、残ったリンをより効率よく離脱させることができるためである。
【0039】
また、1回目の加熱(第1の加熱炉21における加熱又は同じ加熱炉で加熱する場合の1回目の加熱)と2回目の加熱(第2の加熱炉22における加熱又は同じ加熱炉で加熱する場合の2回目の加熱)の加熱時間は特に制限されない。また、1回目の加熱時間と2回目の加熱時間は同じでもよいし異なってもよい。
【0040】
以上のように、初めに非還元性雰囲気で加熱し、次に還元性雰囲気で加熱する方法で鉱石に含まれるリンを離脱してもよく、非還元性雰囲気又は還元性雰囲気のいずれかによる1度の加熱の場合に比べて鉱石からリンをより多く離脱させることができる。また、まずは一般的に還元性雰囲気よりも安価な非還元性雰囲気での加熱を行って、大方のリンが存在するゲーサイトの加熱分解によってリンを除去し、それでも除去できずに残ったリンやリン酸化物に対して還元性雰囲気での加熱による除去を行うことで、コストのより高い還元性ガスの使用を最小限に抑えつつ、より効率よくリンの除去を行うことができる。よって、上記のように2度加熱を行う実施形態の方法によれば、1度の加熱の場合に比べて更なる省エネルギー且つ省コストも実現できる。
【0041】
また、還元性雰囲気での加熱の場合、鉱石における酸化鉄の還元も起こり得る。還元で生じた金属鉄はリンと結合するので、かえって脱リン率が低下する場合がある。そのため、加熱過程全体の一部を非還元性雰囲気とすることで、脱リン率の低下につながる金属鉄への還元反応を抑制し、脱リン反応だけを効率よく進行させることができるというメリットも得られる。
【実施例0042】
(鉱石)
後述する比較例及び実施例1~5では、下記表1に示す成分を有する鉱石を用いた。比較例では、2[kg]の鉱石を後述する加熱炉(バッチ式)に充填し、実施例1~5では、300[kg/h]の供給速度(一定)で鉱石を後述する加熱炉(キルン式)に供給した。
【0043】
【0044】
(加熱炉)
比較例では、加熱炉として、鉱石を流動させずに加熱だけを行うバッチ式の箱型炉(300[mm]×300[mm]×300[mm])を用いた。実施例1~5では、加熱炉として、外燃式のキルンを用いた。キルンは、直径が0.90[m]であり、長さが2.0[m]である。また、キルンの回転数は2.0[rpm]とした。
【0045】
(加熱条件)
比較例及び実施例1,2では、空気(N2及び21%のO2)を15[Nm3/h]の流量で加熱炉内に供給し、加熱炉内の雰囲気を酸化性(非還元性)雰囲気とした。実施例3では、還元性ガス(N2及び33%のH2)を15[Nm3/h]の流量で加熱炉内に供給し、加熱炉内の雰囲気を還元性雰囲気とした。実施例4~5では、実施例1の条件にて非還元性雰囲気で加熱処理後、室温までの冷却を経て実施例3の条件にて還元性雰囲気で加熱処理を実施した。なお、実施例5は非還元性雰囲気の加熱処理の後に中間分級処理を行い、その粗粒部について還元性雰囲気で加熱処理を実施した。実施例4~5では非還元性雰囲気での加熱温度と還元性雰囲気での加熱温度は同じ温度で行った。鉱石を加熱する温度としては、複数の温度を設定した。具体的には、加熱炉において、100[℃]、300[℃]、500[℃]、750[℃]、1000[℃]及び1100[℃]のそれぞれの温度まで昇温した後、この温度を維持した。実施例1~3の加熱、および実施例4~5の非還元性雰囲気での加熱及び還元性雰囲気での加熱の各過程では、加熱炉内における鉱石の滞留時間の合計を120[min]とした。実施例4~5においては、非還元性雰囲気での加熱を60[min]、還元性雰囲気での加熱を60[min]行った。また、比較例では、加熱炉での加熱時間を120[min]とした。
【0046】
(分級処理)
実施例2では、加熱炉から排出された鉱石に対して、篩機(篩目:0.25[mm])を用いて分級処理を行った。なお、比較例及び実施例1,3,4,5については、分級処理を行わなかった。
【0047】
実施例5では、非還元性雰囲気で加熱処理後、加熱炉から鉱石を排出し、篩機(篩目:3.0mm)を用いて中間分級処理を行った。中間分級処理で細粒部と粗粒部に分け、粗粒部だけを加熱炉に投入し還元性雰囲気で加熱処理を実施した。なお、比較例及び実施例1~4については、中間分級処理を行わなかった。
【0048】
下記表2は、上述した試験条件をまとめたものである。
【0049】
【0050】
(脱リン率の測定)
加熱炉で加熱処理が行われた鉱石に対して脱リン率の測定を行った。ここで、比較例及び実施例1,3,4では、加熱炉から排出された鉱石に対して脱リン率の測定を行い、実施例2では、篩機における篩上の鉱石に対して脱リン率の測定を行った。また、実施例5の脱リン率は、非還元性雰囲気の加熱後の中間分級処理で得られた細粒部の脱リン率と、中間分級処理の粗粒部を還元性雰囲気で加熱して得られたものの脱リン率を求め、両者から実施例5の全体の脱リン率を求めた。全体の脱リン率は、粗粒部と細粒部のそれぞれの質量の割合と各脱リン率を掛け合わせた値の合計で求めた。脱リン率は、下記式(1)によって表される。
【0051】
【0052】
上記式(1)において、ηpは脱リン率[質量%]、(Cp)0は脱リン方法を実施する前の鉱石に含まれるリンの濃度[質量%]、(Cp)tは脱リン方法を実施した後の鉱石に含まれるリンの濃度[質量%]である。
【0053】
上記式(1)に示すリン濃度Cpは、下記式(2)によって表される。すなわち、リン濃度Cpは、リンの含有率を鉄分の含有率で規格化した値である。
【0054】
【0055】
上記式(2)において、%Pはリンの含有率(測定値)[質量%]、%T.Feは、鉄分(Fe2+、Fe3+及びM.Fe)の含有率(測定値)[質量%]である。リンの含有率%Pは、JIS M8216の規定に準じて測定した。Fe2+(FeO)の含有率[質量%]は、JIS M8213の規定に準じて測定した。Fe3+(Fe2O3)の含有率[質量%]は、蛍光X線分析法によって測定した。M.Feの含有率[質量%]は、JIS M8212の規定に準じて測定した。
【0056】
脱リン率の測定結果を下記表3に示す。
【0057】
【0058】
加熱温度が100[℃]であるとき、実施例1~3における脱リン率ηpは、比較例における脱リン率ηpよりも高くなった。なお、加熱温度が100[℃]未満であるときには、鉱石の表面が十分に乾燥しないため、リンを含む微粉(粒径が0.25[mm]以下の微粉)が鉱石の表面から分離されにくくなり、脱リンの効果は小さいと推察される。
【0059】
加熱温度が100[℃]よりも高くなるほど、脱リン率ηpが上昇した。ここで、加熱温度が300[℃]であるとき、実施例1~5における脱リン率ηpは、比較例における脱リン率ηpよりも高くなった。これは、300[℃]以上で鉱石中のゲーサイト部の結晶水が蒸発(脱水)して脆化し、物理的衝撃によりリンを含む微粉がさらに分離、除去されたためと推察される。
【0060】
上述したように加熱温度が高いほど、脱リン率ηpが上昇するものの、加熱温度の上昇量に対する脱リン率の上昇率を考慮すると、加熱温度を高くしすぎなくてもよい。下記表4は、上記表3に示す結果に基づいて、加熱温度が10[℃]だけ上昇したときの脱リン率の上昇率Δηp[質量%/10℃]を算出したものである。
【0061】
【0062】
上記表4に示す結果によれば、加熱温度が750[℃]までであれば、上昇率Δηpが高くなるが、加熱温度が750[℃]を超えると上昇率Δηpが低下した。そこで、上昇率を考慮すると、加熱温度の上限を750[℃]とすることができる。一方、以下に説明する点を考慮すると、加熱温度の上限を1000[℃]とすることができる。
【0063】
加熱温度が1000[℃]よりも高い場合には、カールフィッシャー法(JIS M8211)における測定基準となる温度(950[℃])を超えており、上述した結晶水の蒸発に伴う脆化が既に完了していることになる。また、還元性雰囲気で鉱石を加熱する場合において、1000[℃]よりも高い加熱温度では、還元反応が過度に促進して金属鉄の生成が進行することにより、鉱石からのリンの離脱が阻害されやすくなると考えられる。これらの点を考慮すれば、加熱温度の上限を1000[℃]とすることができる。
【0064】
加熱炉内の雰囲気を還元性雰囲気とした実施例3では、実施例1と比べて750[℃]以上の範囲では脱リン率ηpが向上した。また、実施例4も、750[℃]以上の範囲で実施例1に比べて脱リン率ηpが向上し、実施例3に比べても脱リン率ηpが向上した。一方、実施例1,3,4では、加熱温度が100[℃]以上500[℃]以下の温度範囲において、加熱炉の雰囲気によらず同一温度における脱リン率ηpが同等であった。
【0065】
同一の加熱温度において、実施例1~4のうち、実施例2における脱リン率ηpが最も高くなった。このため、加熱炉から排出された鉱石に対して分級処理(篩い分け)を行い、鉱石から分離された微粉(粒径が0.25[mm]以下の粒子)を除去することにより、脱リン率ηpを向上できることが分かった。また、最初の非還元性雰囲気での加熱後に細粒部と粗粒部に分ける中間分級処理を行った実施例5も同様に高い脱リン率となった。
1:貯留槽、2:加熱炉、21:第1の加熱炉、22:第2の加熱炉、2a,21aおよび22a:供給口、2b,21bおよび22b:排出口、3:ガス供給機、31:非還元性ガス供給機、32:還元性ガス供給機、4,41および42:集塵機、5および6:篩機