(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037751
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】エピトープを同定するための方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/37 20060101AFI20240312BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240312BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240312BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20240312BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240312BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240312BHJP
G01N 33/573 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C12Q1/37 ZNA
C07K16/00
C07K16/28
C07K14/705
C12Q1/02
G01N33/53 N
G01N33/53 D
G01N33/573 A
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023200922
(22)【出願日】2023-11-28
(62)【分割の表示】P 2021193435の分割
【原出願日】2017-09-01
(31)【優先権主張番号】1614884.3
(32)【優先日】2016-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】517344169
【氏名又は名称】オブリーク セラピューティクス アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オーヴァル, オーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】トルクリア, カロリーナ
(72)【発明者】
【氏名】デビッドソン, マックス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定する方法を提供する。
【解決手段】抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定する方法であって、
(i)前記タンパク質が1つ以上のプロテアーゼによる限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解された後、1つ以上のプロテアーゼが前記タンパク質を切断する部位を同定すること、及び
(ii)前記切断部位間にある、切断部位と重なる、又は切断部位に隣接する領域にある前記タンパク質上の複数のエピトープを、前記エピトープに対する抗体で探索し、それによって抗体と結合しうる1つ以上のエピトープを同定すること
を含む方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定する方法であって、
(i)前記タンパク質が1つ以上のプロテアーゼによる限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解された後、1つ以上のプロテアーゼが前記タンパク質を切断する部位を同定すること、及び
(ii)前記切断部位間にある、切断部位と重なる、又は切断部位に隣接する領域にある前記タンパク質上の複数のエピトープを、前記エピトープに対する抗体で探索し、それによって抗体と結合しうる1つ以上のエピトープを同定すること
を含む方法。
【請求項2】
単一のプロテアーゼが使用される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数のプロテアーゼが使用される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プロテアーゼが、トリプシン、Arg-Cプロテイナーゼ、Asp-Nエンドペプチダーゼ、クロストリパイン、グルタミルエンドペプチダーゼ、Lys-C、Lys-N、キモトリプシン、プロテイナーゼK、テルモリシン、ペプシン、カスパーゼ1、カスパーゼ2、カスパーゼ3、カスパーゼ4、カスパーゼ5、カスパーゼ6、カスパーゼ7、カスパーゼ8、カスパーゼ9、カスパーゼ10、エンテロキナーゼ、第Xa因子、グランザイムB、好中球エラスターゼ、プロリン-エンドペプチダーゼ、ブドウ球菌ペプチダーゼI、及びトロンビンからなる群より選択される請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記プロテアーゼが、トリプシン、Asp-Nエンドペプチダーゼ、キモトリプシン、ペプシン、及びプロテイナーゼKからなる群より選択される請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質が、細胞に由来するプロテオリポソームに存在する膜タンパク質である請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記プロテオリポソームが膜タンパク質の固定相を構成するためにフローセルに固定化された、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
1つ以上のプロテアーゼが前記タンパク質を切断する前記部位が、質量分析で同定される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記切断部位間にある、切断部位と重なる、又は切断部位に隣接する領域にある前記タンパク質上の複数のエピトープに相同する配列を有する複数の単離されたエピトープを生成し、前記単離されたエピトープに結合する抗体を生成し、前記タンパク質上の前記複数のエピトープを探索するためにステップ(ii)において前記抗体を使用することを、ステップ(ii)より前にさらに含んでなる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記エピトープが前記切断部位の20個のアミノ酸の範囲内にある請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記複数のエピトープがエピトープのセットであり、前記セットの各エピトープの配列が、前記セットの別のエピトープに対して、1個、2個、又は3個のアミノ酸をオフセットしている、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、請求項1~11のいずれか一項によって同定されたエピトープに対する抗体を作製するステップをさらに含んでなる請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法によって同定されるエピトープ。
【請求項14】
請求項13に記載のエピトープに結合する抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、限定されないが、抗体(例えば、機能性抗体)産生に利用される、標的タンパク質のエピトープを選択するためのいくつかの新しい方法に関する。よって本発明はいくつかの態様において抗体を産生する方法に関する。そのような方法は典型的に、抗原性エピトープの同定及びその抗原性エピトープに対する抗体の産生を含む。また本発明は、抗原性エピトープ及びそのような抗原性エピトープに結合する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかのモノクローナル抗体(mAb)療法、例えば、ヒュミラ、アバスチン、ハーセプチン、並びにアリロクマブ及びエボロクマブなどの、有望なPCSK9を標的にする新しいコレステロール降下mAb治療で臨床的成果がみられることに大きく起因して、抗体治療薬が急成長している。しかし、現在市場にあるすべての抗体及び臨床開発の進んだ段階にあるすべての抗体は、概して細胞外の標的を対象としており、それらの抗体は概してアフィニティー又は結合強度に重点を置いたスクリーニングプラットホームを用いて発見及び開発されている。しかし、細胞内で作用する抗体及び「難しい標的」、すなわち、従来の抗体発見方法が不成功に終ってきた標的に対する抗体の開発は困難な課題であり、有効な抗体を発見及び開発するための新しい技術の進歩が必要である。細胞内で作用する抗体には、適切な標的臓器の細胞に抗体が内在化するための新しい手段もまた必要である。さらに、現在の抗体発見及び開発プラットフォームは、疾患などの所与の生体系における特定の抗体の働きを予測できる機能的、薬理学的、及び作用機序を関連づけることを、通常、欠いている。
【0003】
今日、成功している抗体治療薬の開発及び発見に向けた方策はフルサイズモノクローナル抗体に限定されない。タンパク質工学の進歩により、この20年間に幅広い種類の改変抗体断片が産生されてきた。例えば、Fab断片、ScFv断片、ダイアボディ(diabodies)、テトラボディ(tetrabodies)、タンパク質複合体で機能化された抗体断片、及び2つの抗原に結合する二重特異性断片が挙げられる。これらの新しい構築物は、高い特異性及びアフィニティー、深い組織浸透、高い安定性、並びに低い毒性をもつ抗体及び抗体由来生物製剤に開発を試みる際に、かなり大きいツールボックスを提供する。しかし、抗体療法に伴う主要な障害の1つは依然として残る。抗体療法が一般的に細胞外の標的に限定されることである。抗体は大きすぎて、且つ極性がありすぎて細胞膜を通って入ることができない。くわえて、抗体は一般に細胞質基質の還元性環境中で不安定である。細胞内の標的にアクセスするためにいくつかの技術が開発されてきており、例えば、さまざまな輸送媒介物、例えば、トランスフェクション試薬及びタンパク質形質導入ドメイン(PTD)を用いて細胞膜を横切る抗体の輸送、並びに標的細胞内への直接的な抗体の発現、いわゆる細胞内抗体がある。抗体に対しては低分子及び遺伝物質ほど広くはないが、エレクトロポレーション技術もまた使用されてきた。細胞内抗体は、細胞内抗体の遺伝子配列を細胞内輸送シグナルと融合することによってさまざまな細胞コンパートメントを標的にするように構築することができる。それでもなお、細胞内抗体をコードする遺伝子材料は標的細胞への送達に依然として必要であるので、効率のよい送達ベクターの必要性は細胞内抗体治療の極めて重要なステップである。
【0004】
ハイブリドーマ技術によるモノクローナル抗体の作製は1975年に初めて開発された。簡単に説明すると、哺乳類に対象の抗原を注入して、その免疫応答を誘発する。次いで動物の脾臓から脾細胞を取り出し、その後不死化骨髄腫細胞と融合させる。細胞は単一細胞にまで希釈されて、マルチウェルプレートに分けられる。1個の細胞が各々独立したコロニーを生じるので、単一ウェル中に作製された抗体はモノクローナルであることになる。次のステップは、抗原に結合する最良の候補について、相異なるウェルのすべてをスクリーニングすることである。
【0005】
フルサイズ抗体と比較した小さい抗体断片の大きな利点は、それらの抗体断片はさまざまな発現系、例えば、大腸菌、酵母、及び哺乳類細胞で作製でき、もはやハイブリドーマ技術を用いた作製に限定されない。これにより、低コストで大量の作製が可能になり、遺伝子的に抗体の特性を改変できる可能性が大きくなる。抗体断片は繊維状ファージの表面にディスプレイすることができ、いわゆるファージディスプレイすることができる。該ディスプレイは所望の抗原に対してスクリーニングされる大きな抗体ライブラリーの作製に使用可能である。スクリーニング手順が抗原に結合する抗体候補を評価する。最初のサイクルでは非特異的に結合するため、数サイクル繰り返されることが多い。ある特定の環境に対して最も好適な候補を見つけるためにスクリーニングサイクルの間の条件は変えることができ、例えば、より安定した抗体は条件の厳しい環境を用いることによって選択することができる。アフィニティーが非常に高い抗体を選択する別の方法は、非常に低い濃度の抗原を用いてスクリーニングを行うことであり、結果としてそのような条件の間に結合できる抗体のみが残る。数社がその会社独自のスクリーニング技術を開発してきており、多くの場合大きな抗体ライブラリーをもっている。例えば、Regeneron社(regeneron.com)又はAlligatorbioscience社(alligatorscience.se)を参照されたい。
【発明の概要】
【0006】
1つの態様では、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープを産生することにより、前記タンパク質の抗原性エピトープを同定すること、及び
(ii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。
【0007】
別の態様では、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供すること、及び
(ii)前記ペプチドが前記限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に前記タンパク質から切断若しくは除去された際に前記タンパク質の生物学的機能の欠如又は著しい変化をもたらす前記タンパク質中の領域にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、又はバイオインフォマティクス及び/又は前記タンパク質の生物学的機能の既知データに基づいて前記タンパク質内の少なくとも1つの標的領域を選択し、前記少なくとも1つの標的領域にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドのうちで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、及び
(iii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。
【0008】
別の態様では、本発明は抗原性エピトープを同定する方法を提供し、その方法は、
(i)前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供すること、及び
(ii)前記ペプチドが前記限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に前記タンパク質から切断若しくは除去された際に前記タンパク質の生物学的機能の欠如又は著しい変化をもたらす前記タンパク質中の領域にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、又は
バイオインフォマティクス及び/又は前記タンパク質の生物学的機能の既知データに基づいて前記タンパク質内の少なくとも1つの標的領域を選択し、前記少なくとも1つの標的領域内にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定することを含む。
【0009】
本発明はタンパク質のアミノ酸配列を検出及び同定する方法に関し、前記アミノ酸配列は良好に露出され、且つ機能的に関連し、少なくともそれらのアミノ酸配列は良好に露出される。よって、我々が「ホットスポット」と呼ぶこれらのアミノ酸配列は、抗体ターゲティング、発見、開発を導く抗原性エピトープとして利用されうる。さらに、これらのアミノ酸配列はタンパク質分解消化後のその出現に基づいて、且つバイオインフォマティクスのデータ又は機能/薬理学的試験から既に既知の機能的な関連に基づいてランク付けることができる。よって、タンパク質分解消化から生じる数個のアミノ酸配列のリストから、(機能及び構造的アーギュメント(arguments)に基づく)最適なアミノ酸配列を抗原性エピトープ発見及び開発のために選ぶことができる。タンパク質分解消化は、限定条件下で行われる。すなわち、ほんの1個又数個の表面露出ペプチドだけが標的タンパク質から一度に切断される程度でプロテアーゼ又はいくつかのプロテアーゼの活性は非常に低い。すなわち、プロテアーゼは標的タンパク質に結合する抗体についてのドラッガビリティープローブとして使用される。
【0010】
ある実施形態では、抗体は薬理学的に活性である。別の実施形態では、抗体は薬理学的に活性であり、治療利用に開発される。より具体的に、そのような方法は、標的タンパク質のホットスポットエピトープを明らかにするプロテオミクスツールを含む。
【0011】
本発明の態様では、タンパク質はプロテアーゼ作用を通して消化、分解、及び/又はトランケートされ、良好に露出されたアミノ酸配列はすべて抗原性エピトープ産生に使用され、前記抗原性エピトープに基づいて開発された抗体は、製薬業界で用いられる抗体発見の慣用として、効力、有効性、薬理学的プロフィリング、及び他の試験が試される。
【0012】
本発明の態様では、タンパク質はプロテアーゼ作用を通して消化、分解、及び/又はトランケートされ、並行して同時に消化、分解、及び/又はトランケートされたタンパク質に関する機能的なアッセイによって精査され、タンパク質の機能的に重要である領域を明らかにする。関連タンパク質は本明細書において時として標的タンパク質を意味する。
【0013】
ある実施形態では、標的タンパク質の消化、分解及び/又はトランケーションは並行して同時に行われ、抗体産生ためのエピトープ選択を導く標的タンパク質の機能的に重要である領域を明らかにする。
【0014】
ある実施形態では、消化、分解、及び/又はトランケーとされたタンパク質並びに天然の標的タンパク質の消化、分解、及び/又はトランケーション、並びに機能的なアッセイは、タンパク質機能に関する他のバイオインフォマティクスによる事実及び別な方法では既知の事実と組み合わせて、抗体産生ためのエピトープ選択を導く標的タンパク質の機能的に重要である領域を明らかにする。
【0015】
ある実施形態では、単一のプロテアーゼが標的タンパク質を消化、分解、及び/又はトランケートするのに使用されうる。別の実施形態では、複数のプロテアーゼが標的タンパク質を1個ずつ順番に又は並行して同時に消化、分解、及び/又はトランケートするのに使用されうる。そのようなプロテアーゼとしては、Arg-Cプロテイナーゼ、Asp-Nエンドペプチダーゼ、クロストリパイン、グルタミルエンドペプチダーゼ、Lys-C、Lys-N、トリプシン、キモトリプシン、プロテイナーゼK、及びテルモリシンが例となるが、これらに限定されない。いくつかのプロテアーゼによって容易に消化される領域はタンパク質の露出領域であるはずで、単一のプロテアーゼによってのみ消化される領域は恐らく、より隠れた領域に位置する。代替的に、プロテアーゼは独特の切断特異性又は/及び物理化学的特性又は/及び構造的特徴をもち、他のプロテアーゼが識別できない標的タンパク質の表面露出ペプチドを識別することができる。よって、複数のプロテアーゼの使用が好ましく、各々の異なるプロテアーゼは、抗原性エピトープとしての表面露出ペプチド適性に関する補完的又は独特の情報を生み出すことができる。
【0016】
実施形態は、薬理学的研究に使用できる、薬理学的に活性がある抗体の迅速で且つ的確な開発のための新しい方法論/技術を可能にし、例えば、それらの抗体は、例えば、細胞での方法又はインビトロアッセイにおいて生体化合物を検出するツールとして使用することができる。さらに重要なことには、前記抗体はヒト及び動物の疾患を治療するのに使用しうる。実施形態は、可溶性又は膜結合、細胞外又は細胞内のすべてのタンパク質に適用することができる。さらに実施形態は、タンパク質機能の新らたな基本的理解を生むのに利用することができる。
【0017】
また本発明は、本発明の方法によって産生される抗体を提供する。
【0018】
また本発明は、本発明の方法によって同定される抗原性エピトープを提供する。
【0019】
また本発明は、本発明の抗原性エピトープに対する抗体を提供する。
【0020】
他の本発明の特徴及び利点は以下の詳細な説明から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
添付図面と共に以下の説明を参照することによって実施形態並びにさらなる目的及び利点が良く理解されるであろう。
【
図1】5μg/mlトリプシンを用いた室温での限定タンパク質分解後にTRPV1から検出されたペプチド、n=6。A:TRPV1の3Dモデルに示された検出されたペプチドの位置。ペプチドは0.5分(マゼンタ)、5分(オレンジ)、及び15分(青)後に検出された。B:TRPV1の略図に示された検出されたペプチドの位置。ペプチドは0.5分(マゼンタ)、5分(オレンジ)、及び15分(青)後に検出された。C:5μg/mlトリプシンを用いた限定タンパク質分解後にTRPV1から消化され、検出されたペプチドのバープロット、どの時点でそれらのペプチドが確認されたかを示している。
【
図2】5μg/ml、20μg/ml、又は40μg/mlトリプシン(Tr)への5分間露出後の、TRPV1から消化されたペプチド及びそれらを除去した後の電流応答の変化。A~C:TRPV1の消化されたペプチドの位置。フローセル内で消化されたペプチド(シアン)及びフローセル内で消化された後に一晩完全消化されたペプチド(黄)を示す。D:1μM カプサイシン(Cap)で活性化された後にバッファー又はトリプシンのいずれかに5分間供され、カプサイシンでさらに活性化された際のTRPV1のインサイド-アウト記録の代表的なトレース。上段から下段に:それぞれ5μg/ml、20μg/ml、及び40μg/mlトリプシンに5分間供した。図での提示のみを目的として、トレースは100Hzでデジタル方式フィルター処理を施されている。
【
図3】バッファーn=11又は抗体n=6のいずれかで処理した後、カプサイシンでの第1の活性化に関する積分の%割合として計算された、カプサイシンでの第2の活性化に関する電流トレース時間積分を示すTRPV1機能の電気生理学パッチクランプ記録。データは平均値±SEMとして提示されている。
【
図4】hTRPV1の表面モデルにおける可視化されたOTV1の抗原決定基(赤)、ペプチドaa96~117の位置。A:各単量体が青色と紫色とで交互に色付けされているTRPV1の側面図。B:各単量体が青色と紫色とで交互に色付けされているTRPV1の上面図。
【
図5】hTRPV1の表面モデルにおける可視化されたOTV2の抗原決定基(赤)、ペプチドaa785~799の位置。A:見やすいように、2個の単量体が省かれているTRPV1の側面図。B:各単量体が青色と紫色とで交互に色付けされているTRPV1の底面図。
【
図6】TRPV1の発現が有る(A)及び発現が無い(B)の固定細胞でのOTV1(左)及びOTV2(右)の局在。OTV1及びOTV2はヤギ抗ウサギAlexa488二次抗体を用いて可視化された。細胞を横切る線分(黒)に沿った強度値が各画像の下に与えられている。異なるレーザー設定がOTV1とOTV2とに使用され、それら抗体間の比較はなされるべきではない。
【
図7】抗体での処理した後のTRPV1機能の電気生理学パッチクランプ記録。A:バッファー(n=11)又はOTV1(n=6)のいずれかで処理した後、カプサイシンでの第1の活性化に関する積分の%割合として計算された、カプサイシンでの第2の活性化に関する電流トレース時間積分。B:カルモジュリンのみ(n=11)又はカルモジュリン及びOTV2のいずれかで処理した後、カプサイシンでの第1の活性化に関する積分の%割合として計算された、カルモジュリン(CaM)及びOTV2の存在下におけるカプサイシンでの第2の活性化に関する電流トレース時間積分。OTV2での処理は、チップ超音波処理の15分以内の測定(n=4)とチップ超音波処理チップ超音波処理の30分以内の測定(n=7)とに分けられている。データは平均値±SEMとして提示されている。
【
図8】A:カルシウムを含まないリン酸緩衝生理食塩水中のOTV1でエレクトロポレーション後のTRPV1媒介YO-PRO取り込み。上段:OTV1の蛍光強度(n=11)及び対照(n=11)。下段:OTV1及び対照の対応蛍光強度率。B:50μM Ca
2+の存在下においてOTV2でエレクトロポレーションした後のTRPV1媒介YO-PRO取り込み。上段:OTV2の蛍光強度(n=9)及び対照(n=7)。下段:OTV2(緑)及び対照(赤)の対応蛍光強度率。データは平均値±SEMとして提示されている。
【
図9】蛍光を用いた、エレクトロポレーションによる抗体の内在化の検証。細胞は、エレクトロポレーション、固定、透過処理し、且つヤギ抗ウサギAlexa488二次抗体とインキュベーションした。蛍光強度は共焦点顕微鏡法で測定した。OTV1又はOTV2のいずれかに供した、エレクトロポレーションした細胞とエレクトロポレーションしなかった細胞、及び二次抗体にのみ供した細胞との間で強度を比較した。異なるレーザー設定がOTV1とOTV2とに使用され、強度値の比較はなされるべきではない。データは平均値±SEMとして提示されている。
【
図10】トリプシンを用いた限定タンパク質分解後のTRPV1の検出されたペプチド。TRPV1の3Dモデルに示された検出されたペプチドの位置。実験の詳細は実施例3に与えられている。最初に消化されたペプチドは黒で示される。のちに遅れて消化されたペプチドは灰色で示される。
【
図11】Asp-Nを用いた限定タンパク質分解後のTRPV1の検出されたペプチド。TRPV1の3Dモデルに示された検出されたペプチドの位置。実験の詳細は実施例3に与えられている。最初に消化されたペプチドは黒で示される。のちに遅れて消化されたペプチドは灰色で示される。
【
図12】キモトリプシンを用いた限定タンパク質分解後のTRPV1の検出されたペプチド。TRPV1の3Dモデルに示された検出されたペプチドの位置。実験の詳細は実施例3に与えられている。最初に消化されたペプチドは黒で示される。のちに遅れて消化されたペプチドは灰色で示される。
【
図13】ペプシンを用いた限定タンパク質分解後のTRPV1の検出されたペプチド。TRPV1の3Dモデルに示された検出されたペプチドの位置。実験の詳細は実施例3に与えられている。最初に消化されたペプチドは黒で示される。のちに遅れて消化されたペプチドは灰色で示される。
【
図14】プロテイナーゼKを用いた限定タンパク質分解後のTRPV1の検出されたペプチド。TRPV1の3Dモデルに示された検出されたペプチドの位置。実験の詳細は実施例3に与えられている。最初に消化されたペプチドは黒で示される。のちに遅れて消化されたペプチドは灰色で示される。
【
図15】この図は、プロテアーゼ及び抗体Fab領域の類似した全体寸法を示す。上のパネル:パラトープ含有領域が赤色Rで強調表示されている、HMM5 Fabの結晶構造(PDB:5I8O)の一部。下のパネル:活性ポケットを含む領域を赤色Rで強調表示されているウシトリプシンの結晶構造(PDB:1MCT)。バー=10オングストローム。
【
図16】この図は、プロテアーゼのアクセス可能/切断部位を同定するためのワークフローを例示的に示した。しかし、インシリコにおけるモデリング、Fab-プロテアーゼホモロジー結合、及びマイクロ流体マルチプロテアーゼ消化/MS-MS検出に基づくエピトープの遊離はない。(a)インシリコにおける消化はタンパク質ホモロジーモデリング及びFab-プロテアーゼドッキングと組み合わされて天然タンパク質構造上のプロテアーゼ切断部位を予測する。(b)天然タンパク質を含有するプロテオリポソームを固定化し、マイクロ流体プラットフォームを使用してプロテアーゼのセットで消化し、得られたペプチドをLC-MS/MSによって同定する。これによってプロテアーゼのアクセス可能な切断部位のマッピングが可能になる。プロテアーゼ1ペプチドは赤(R)でマークされ、プロテアーゼ2ペプチドは青(B)でマークされ、プロテアーゼ3ペプチドは緑(G)でマークされている。(c)実験的に決定された切断部位をインシリコにおける予測部位と比較して、予測されなかった見逃された切断を決定する。(d)見逃された切断部位を調べるには、好適な領域(例えば切断部位の周囲の-20~+20個のアミノ酸)を範囲に含めるためにフレームシフト法(frame shift approach)を用いて、見逃された切断部位を含む7~8アミノ酸長の配列に対する抗体を作製する。抗体をスクリーニングして最良の結合剤を見つける。(e)最良の結合抗体を使用して、構造情報について天然の及び部分的に消化されたタンパク質を探索する。例えば、抗体が天然タンパク質上の見逃された切断部位に結合する場合、これはプロテアーゼが結合するが、何らかの理由で切断しないことを示しうる。抗体はまた、例えばプロテアーゼ作用によって引き起こされる、ドメインにおけるペプチド切断、トランケーション、又は局所構造の喪失について探索するために使用することができる。さらに、リガンド-又はタンパク質-タンパク質相互作用によって引き起こされる構造的再配置の検出にも妥当である。
【
図17】この図は、エピトープ候補を同定するための例示的なマルチプロテアーゼ消化プラットフォームを示す。(a)標的を含有するプロテオリポソームが細胞から抽出され、並行していくつかのプロテアーゼによる限定タンパク質分解に供される。さまざまな反応パラメーターが使用される(期間、酵素濃度)。各反応の消化されたペプチドは溶出され、LC-MS/MSを使用して同定される。(b)表面アクセス性(accessibility)は、反応パラメーター、例えば速度に従ってランク付けされ、最も遅いキネティックス(kinetics)を用いて消化されたペプチドは表面に露出した領域に位置し、結果として高いランクが与えられる。(c)ペプチドは、どのタイプの効果が望ましいか(アゴニズム、アンタゴニズム、又は単純結合)に応じて、バイオインフォマティックと実験データを用いて機能的関連性によってさらにランク付けされる。抗体開発に適したエピトープは、良好なアクセス性及び関連機能を有する。(d)エピトープは、インシリコにおいて、例えば、Fabフラグメントを用いたエピトープに対するドッキングシミュレーションによって、最適化され、検証される。最後に、エピトープは動物抗体生産用の免疫原として使用される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書で提供される説明及び方法論に関連して本発明の前述及び他の態様をより詳細に記載する。本発明はさまざまな形で具体化され、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきはないことが理解されるべきである。むしろ、これらの実施形態は本開示が徹底的且つ完全であり、本発明の範囲を当業者に十分に伝えることになるように提供される。
【0023】
別に定義されない限り、本明細書で使われる専門用語及び科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているのと同じ意味をもつ。明細書では、単数形は文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り複数形も含む。本明細書に記載のものと同様又は等価な方法及び材料が本発明の実行又は試験に使用できるが、好適な方法及び材料が下に記載される。本明細書で言及される刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照により組み込まれる。本明細書で引用される参考文献は、特許請求された発明に対する先行技術であることを認めない。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が優先することになる。くわえて、材料、方法、及び例は説明のためだけであり、限定することを意図されていない。
【0024】
本明細書で本発明の記載に使用される術語は、特定の実施形態を記載する目的のためであり、本発明を限定することを意図されていない。本発明の実施形態の記載に使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、複数形も包含することが意図される。また、本明細書では「及び/又は(and/or)」は、1つ以上の関連列挙事項のあらゆる考えられる組み合わせを指し、且つ包含する。さらに、本明細書で「約」という用語は、化合物の量、投与量、時間、温度などの測定可能な値に言及するとき、指定された量の20%、10%、5%、1%、0.5%、又はひいては0.1%の変動を包含することを意味する。範囲(例えば、x~yの範囲)が用いられる場合、測定可能な値が約x~約yの範囲又は約x1~約y1などのその中のいずれかの範囲を意味する。さらに、本明細書で使用される場合、「含む(comprises)」及び/又は「含む(comprising)」という用語は、規定された特徴、整数、ステップ、操作、要素、及び/又は構成要素の存在を特定するが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、構成要素、及び/又はその群の存在又は追加を排除しないことが理解されるであろう。別に定義されない限り、本明細書で使われる専門用語及び科学用語を含む用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているのと同じ意味をもつ。
【0025】
1つの態様では、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープを産生することにより、前記タンパク質の抗原性エピトープを同定すること、及び
(ii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。
【0026】
別の態様では、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供すること、及び
(ii)前記ペプチドが前記限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に前記タンパク質から切断若しくは除去された際に前記タンパク質の生物学的機能の欠如又は著しい変化をもたらす前記タンパク質中の領域にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、又は
バイオインフォマティクス及び/又は前記タンパク質の生物学的機能の既知データに基づいて前記タンパク質内の少なくとも1つの標的領域を選択し、前記少なくとも1つの標的領域内にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、並びに
(iii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。
【0027】
代替的に見ると、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供すること、及び
(ii)前記タンパク質にとって機能的に重要であるか、又はそうであると予測されるアミノ酸配列を有する切断された表面露出ペプチドを同定することによって抗原性エピトープを同定し、そのような表面露出ペプチドに基づいて抗原性エピトープを産生すること、並びに
(iii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。
【0028】
別の態様では、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つのペプチドを形成することによって、前記タンパク質の表面露出ペプチドを同定すること、並びに
(ii)少なくとも1つの表面露出ペプチドに基づいて線状又は立体構造抗原性エピトープを構築すること、並びに
(iii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。
【0029】
別の態様では、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成することによって、前記タンパク質の表面露出ペプチドを同定すること、及び
(ii)限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に、タンパク質から切断又は除去され、前記タンパク質の生物学的機能において、欠如又は著しい変化をもたらす、表面露出ペプチドを同定すること、又は前記表面露出ペプチドのバイオインフォマティクス及び/若しくはタンパク質の生物学的機能の既知データとの関連付けに基づいて、少なくとも1つの同定された(i)の表面露出ペプチドを選択すること、並びに
(iii)少なくとも1つの表面露出ペプチドに基づいて線状又は立体構造抗原性エピトープを構築すること、並びに
(iv)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。
【0030】
別の態様では、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成することによって、前記タンパク質の抗原性エピトープを同定すること、及び
(ii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。
【0031】
本発明による抗体を産生する方法は、別の態様では代替的に、タンパク質に特異的に結合する抗体を作製する方法として見られうる。また、本明細書に記載の抗体を産生する方法の例示的且つ好ましい実施形態は、変更すべきところは変更して、タンパク質に特異的に結合する抗体を作製する方法に適用される。
【0032】
別の態様では、本発明は抗原性エピトープを同定する方法を提供し、その方法は、
(i)前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供すること、及び
(ii)前記ペプチドが前記限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に前記タンパク質から切断若しくは除去された際に前記タンパク質の生物学的機能の欠如又は著しい変化をもたらす前記タンパク質中の領域にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、又は
バイオインフォマティクス及び/又は前記タンパク質の生物学的機能の既知データに基づいて前記タンパク質内の少なくとも1つの標的領域を選択し、前記少なくとも1つの標的領域内にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定することを含む。
任意選択で、本発明の方法は前記抗原性エピトープに対する抗体を産生するステップをさらに含む。
【0033】
代替的に見ると、本発明は抗原性エピトープを同定する方法を提供し、その方法は、
(i)前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供すること、及び
(ii)前記タンパク質にとって機能的に重要であるか、又はそうであると予測されるアミノ酸配列を有する切断された表面露出ペプチドを同定することによって抗原性エピトープを同定し、そのような表面露出ペプチドに基づいて抗原性エピトープを産生することを含む。
任意選択で、本発明の方法は前記抗原性エピトープに対する抗体を産生するステップをさらに含む。
【0034】
タンパク質内の表面に露出された機能的に活性なエピトープに関する詳細な知見は、有効な抗体の開発の助けとなり、抗体候補の量を減らすことによって複雑なスクリーニング手順の必要性を減少させうる。タンパク質の表面トポロジーを評価するのに可能な方法は、限定及び制御されたタンパク質分解を行うことによってプロテアーゼの活性を制限して、タンパク質の最も柔軟性で且つ表面に露出された部分のみを消化することである。このアイデアは、ペプチドが1つずつ又は一度に最大で数個切断される程度でプロテアーゼ活性のキネティックスを落とすことである。次いで、切断されたペプチドはプロテアーゼに供された後に出現する順序に基づいてランク付けすることができる。最初にタンパク質から切断されるペプチドはタンパク質によって良好に露出され、容易にプロテアーゼによってアクセスすることができる。我々はこれらのペプチドに高いランクを与え、我々は、容易にプロテアーゼによって切断されるペプチドはまた、容易に抗体によって認識されるという仮説をたてた。後に遅れた切断されるペプチドに我々は低いランクを与え、その間のすべてのペプチドに、プロテアーゼに供された後の時間を単位とする出現に基づいて高いスコアから低いスコアを与える。よって、該方法はアミノ酸配列に基づき、配列は我々に既知であるので、抗体が前記標的タンパク質のどこに結合するかが具体的に分かる。第2のステップでは、タンパク質中で標的にされる具体的なアミノ酸配列を知っているので、我々は既報のデータ若しくは既知の他のバイオインフォマティクスデータ又はトランケートされたタンパク質の薬理学的研究から、前記アミノ酸配列の機能的意義を調べることができる。アミノ酸配列が機能的重要性、例えば結合部位、調節部位、構造的に重要な部位、チャネル領域などをもつ既知のアミノ酸配列と一致又は関連又は重複する場合、前記ペプチドは高いスコアを与えられ、抗原性エピトープ及び後の抗体開発の良好な候補と判断される。具体的には、例えば、低い温度、低い濃度、及び/又は短い消化時間を用いてプロテアーゼの活性を制御することによって、これは達成することができる。限定タンパク質分解が既知の構造をもつタンパク質で行われる場合、主に3つの構造決定因子がどこでタンパク質分解活性が起こるかに影響を及ぼすと理解されている。それらは柔軟性、表面露出、及び局所相互作用の数を含む。ペプチド鎖がプロテアーゼ内の活性部位に入るために、柔軟性及びタンパク質が局所的に折り畳み構造をほどく能力が必要とされる。表面における領域はより容易に折り畳み構造がほどけ、且つ立体障害がより少ないという事実に起因して、表面露出はタンパク質分解のための切断部位を与える可能性が高い。水素結合及びジスルフィド架橋の点で局所相互作用の量も重要である。局所相互作用が少ないほうがタンパク質分解に都合がよい。これらの3つの構造決定因子はすべて、通常タンパク質内で互いに関連する。したがって、限定タンパク質分解は、前記タンパク質鎖は局所的に折り畳み構造がほどけうるものとして、主に表面露出領域を切断することになる。限定タンパク質分解は詳細構造が未知のタンパク質の表面露出領域を決定する方法として使用されてきた。
【0035】
脂質に基づいたタンパク質固定(LPI)技術により、柔軟性のある化学を膜タンパク質上で行うことができる。細胞からプロテオリポソームを得て、それをフローセル内に固定することによって、膜タンパク質の固定相が作り出され、それは一連の溶液に数回供され、且つ例えば、酵素によるさまざまなタイプの化学修飾に供することができる。プロテオリポソームの段階的な酵素消化から生じるペプチドを液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析法(LC-MS/MS)とで分析するプロテオミクスによる特徴付け用の逐次連続トリプシン消化プロトコールが開発されている[1~3]。
【0036】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、タンパク質は、プロテオリポソーム(例えば、細胞、例えば、ヒト細胞由来のプロテオリポソーム)中に(例えば、プロテオリポソームの脂質二重層中に)存在するタンパク質(例えば、膜タンパク質)である。したがって、いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解はプロテオリポソームで行われる。プロテオリポソームはタンパク質を含む脂質小胞である。プロテオリポソームは精製された膜タンパク質及び脂質から再構築することができるか、又は細胞膜から(例えば、小胞形成を通して)若しくは細胞の溶解を通して直接的に得ることができる。好ましくは、プロテオリポソームは溶解した細胞の細胞膜から得られる(から調製される)。プロテオリポソームはどの対象の細胞タイプからでも得られうる。簡便な細胞タイプはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0037】
プロテオリポソームを調製する方法は当該技術分野において公知であり、それらのいずれを使用してもよい(例えば、Jansson et al.Anal.Chem.,2012, 84:5582-5588に記載の方法)。プロテオリポソームを調製する例示的且つ好ましい方法は本明細書で実施例に記載されている。典型的には、直径が約50nm~約150nmのプロテオリポソームが好ましい。
【0038】
溶解細胞の細胞膜から生じた(調製された)プロテオリポソームを使用することは、(例えば、実施例で言及される方法を用いて)そのようなやり方で調製されたプロテオリポソームは、プロテオリポソームの外側の膜タンパク質の細胞内の部分(又はドメイン)に存在しうるので、そうでなければプロテアーゼにアクセスできないタンパク質のいくつかの部分を蛋白質分解切断(及び結果として抗原性エピトープ同定)に利用可能にするので好ましい。
【0039】
1つの態様では、我々は、LPIマイクロフルイディクスプラットフォーム[1、4]を利用して潜在的なエピトープ候補を産生することによって標的抗体技術を開発してきた。これはスクリーニングに基づくよりもむしろ機構に基づいた方法論である。簡単に説明すると、LPI技術は限定タンパク質分解などの柔軟性のある化学が膜タンパク質で行わることを可能にする。細胞からプロテオリポソームを得て、フローセル内に固定することによって、膜タンパク質の固定相を作り出す。プロテオリポソームの段階的な酵素消化から生じるペプチドをLC-MS/MSで分析するプロテオミクスによる特徴付け用の逐次連続消化プロトコールが開発されている。そのようなペプチドは、LPIフローセル内で速度論的に制御された消化から産生され、標的タンパク質内に露出され且つアクセス可能な領域、抗体結合に利用しされやすい潜在性をもつ領域を明らかにする。さらにこれらの潜在的なエピトープは、優れた結合特性及び生物学的効率をもつ抗体をもたらすことになるエピトープを見出すために既知の機能データに対して関連付けられる。最後に、選ばれたエピトープ/ペプチドは、抗体を作製するためにホスト動物を免疫するのに使用しうることが言及されるべきである。限定タンパク質分解消化を行う他の方法及び技術は当技術分野において公知であり、例えば、可溶性タンパク質に使用されうる。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態では、前記タンパク質(例えば、膜タンパク質)は限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の前に(例えば、固体担体上に)固定化されてタンパク質の固定相を作り出す。よって、いくつかの実施形態では、タンパク質は表面に結合している。
【0041】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質(例えば、膜タンパク質)はプロテオリポソーム(例えば、細胞由来のプロテオリポソーム)中に存在し、前記プロテオリポソームは、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の前に(例えば、固体担体上に)固定化されてタンパク質の固定相を作り出す。
【0042】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、タンパク質は細胞由来のプロテオリポソームに存在する膜タンパク質であり、前記プロテオリポソームはフローセルに固定化されて膜タンパク質の固定相を作り出す。好適なフローセルは当技術分野において公知であり、例えば、Janssonら(Anal.Chem.,2012, 84:5582-5588)によって記述されたフローセルがある。
【0043】
いくつかの実施形態では、タンパク質(例えば、膜タンパク質)はプロテオリポソーム(例えば、細胞由来のプロテオリポソーム)中に存在し(又はプロテオリポソーム上に存在し)、前記プロテオリポソームは懸濁液中にある(例えば、溶液に懸濁されている)。
【0044】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、表面に結合しているか、又は懸濁液中にある(例えば、溶液に懸濁されている)タンパク質含有脂質小胞中にある(又はタンパク質含有脂質小胞上に存在する)。
【0045】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、その機能的又は天然コンフォメーションが保存されるように、いずれの適切なエンティティの一部であるか、又はいずれの適切なエンティティ上に存在し、例えば、脂質二重層若しくは膜の一部であるか、又はスキャホールド若しくは粒子上に存在する。
【0046】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、表面に結合しているか、又は懸濁液中にある(例えば、溶液に懸濁されている)ナノ粒子又は他のコロイド粒子などの粒子中にある(又は粒子上に存在する)。
【0047】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質、表面に結合しているか、又は懸濁液中にある(例えば、溶液に懸濁されている)スキャホールド又はケージ化化合物などの他の化学エンティティにある(又はその上に存在する)。
【0048】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質、表面に結合しているか、又は懸濁液中にある(例えば、溶液に懸濁されている)無傷細胞(生体細胞、例えば、ヒト細胞)中にある(又は無傷細胞上に存在する)。
【0049】
プロテオリポソーム中のタンパク質に関連して、小胞又は無傷細胞を含有するタンパク質は、プロテオリポソーム、脂質小胞又は細胞を含有するタンパク質の外側に延びる(且つ結果として外側に露出される)タンパク質を包含する。
【0050】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質は溶液中にある。溶液は、精製されたタンパク質の溶液であってもよく、タンパク質の混合物を含んでもよい。
【0051】
いくつかの実施形態では、細胞(例えば、CHO細胞)は、例えば、制御可能な(例えば、テトラサイクリンで制御可能な)発現系を介してタンパク質を過剰発現する。いくつかの実施形態では、そのような細胞に由来するプロテオリポソームが使用される。
【0052】
我々は、一過性受容体電位バニロイド1(TRPV1)イオンチャネルの機能を変化させる能力を有する生物学的に活性のある抗体を開発するための潜在的なエピトープを見出すことを目的として、このイオンチャネルの限定タンパク質分解から産生されたペプチドを調べた。TRPV1は2つの異なるプロテアーゼでの限定タンパク質分解に供され、消化されたペプチドは機能データと関連付けされた。我々はこの情報を使って、ヒトTRPV1(hTRPV1)イオンチャネルの細胞内側で作用する2つのポリクローナル抗体、OTV1及びOTV2を開発した。両抗体は薬理学的に活性があり、それらの標的エピトープ領域は、それらの消化されやすさ(又は表面露出(限定タンパク質分解後に高くランク付けされたペプチド))及び機能的な重要性に基づいて選ばれた。作動剤カプサイシンで刺激したとき、OTV1はタンパク質に対して強い阻害作用を示す。OTV2は、TRPV1を通したカルシウム流入によって誘発される過程であるTRPV1のカルモジュリン/Ca2+依存脱感作を妨害する。OTV1及びOTV2の有効性は、TRPV1の細胞内側を抗体溶液に曝露できるインサイド-アウトパッチクランプ及び抗体が生細胞内にエレクトロポレーションされた後のTRPV1媒介蛍光取り込みアッセイの両方で調べた。
【0053】
パッチクランプ実験に適した迅速な溶液交換のため、LPIフローセルとオープンボリュリームマイクロフルイディクスフローセルとを併用する方法が以前から報告されてきている。この長所は細胞膜を裏返しにでき、イオンチャネルの細胞内ドメインを直接調べられることができることである。この方法では、限定タンパク質分解及び制御タンパク質分解を用いて関連する構造及び機能データを得ることができる。TRPV1は侵害受容一次感覚ニューロンに発現する陽イオンチャネルである。全長タンパク質については詳細な結晶構造は得られていないが、N末端のアンキリンリピートドメイン(ARD)は結晶化がラットTRPV1で成功している。TRPV1で限定タンパク質分解を行った際に短い時間で消化されたペプチドが、既知の機能的に活性がある領域に比較されている。検出されたペプチドの3分の1が、機能的に重要であると示唆される残基を含んだ。
【0054】
技術分野の概説(the survey of the field)に記載されているTRPV1表面トポロジーのスクリーニングを、TRPV1を含むプロテオリポソームをフローセルに固定し、さらにそれを限定トリプシンタンパク質分解に曝露することによって行った[1、4]。トリプシンの活性は室温でさまざまな消化時間を用いることによって制御した。累積インキュベーション時間と逐次プロトコールが使用され、消化されたペプチドはLC-MS/MSで検出された。ペプチド数の増加が時間とともに検知され、アクセス可能で容易に消化されるタンパク質の領域及び堅い領域を明らかにした。これは
図1に示されている。LPIフローセルでのTRPV1の限定タンパク質分解後に、切断されたペプチドとしてLC-MS/MSで見られた数個の領域が、カルモジュリン、ATP、及びPIP2に関する既知の相互作用部位と関連する。
【0055】
また、我々はトリプシン消化でさまざまな構造セグメントを取り除いた後に、TRPV1の機能性を調べた[4]。TRPV1イオンチャネルの活性はインサイド-アウトパッチクランプ記録及びフローセル消化に続いて、化学的なトランケーションの構造的効果を評価するプロテオミクス解析で調査した。我々はインサイド-アウトパッチクランプ記録構成を使用し、それによりTRPV1の細胞内の部分をトリプシンに曝露でき、トリプシン濃度の増加に伴う電流応答の減少を測定することができる(
図2)。
【0056】
我々は、イオンチャネルTRPV1は同一の実験条件下で2つの異なるマイクロフルイディクスフローセル中で限定トリプシンタンパク質分解及び制御トリプシンタンパク質分解に曝露できることを示す。1つの例では、パッチクランプ記録は薬理学的研究のために行われ、オープンボリュリームマイクロフルイディクス装置でチャネル機能動態に関する情報を得た。この設計により、パッチクランプピペット及び細胞パッチが灌流チャネルにアクセスを得ることが可能になる。別の例では、同等のクローズドボリュリームフローセルを用いて試料が薄まることなくイオンチャネルのペプチドを消化した。切断されたペプチドはLC-MS/MSで同定された。次いで、2つの実験からのデータが比較されて、構造機能関係が評価することができた。我々はこの方法論的アプローチを使って、柔軟性が高いTRPV1の領域及びその作動剤カプサイシンで活性化された間に機能的チャネル特性に影響を及ぼす極めて重要な領域を同定した。
【0057】
また、このタイプの方法論は他のタンパク質(すなわち、TRPV1ではないタンパク質)にも使用することができる。
【0058】
hTRPV1のアミノ酸配列を下に示す(配列番号1)。MKKWSSTDLGAAADPLQKDTCPDPLDGDPNSRPPPAKPQLSTAKSRTRLFGKGDSEEAFPVDCPHEEGELDSCPTITVSPVITIQRPGDGPTGARLLSQDSVAASTEKTLRLYDRRSIFEAVAQNNCQDLESLLLFLQKSKKHLTDNEFKDPETGKTCLLKAMLNLHDGQNTTIPLLLEIARQTDSLKELVNASYTDSYYKGQTALHIAIERRNMALVTLLVENGADVQAAAHGDFFKKTKGRPGFYFGELPLSLAACTNQLGIVKFLLQNSWQTADISARDSVGNTVLHALVEVADNTADNTKFVTSMYNEILMLGAKLHPTLKLEELTNKKGMTPLALAAGTGKIGVLAYILQREIQEPECRHLSRKFTEWAYGPVHSSLYDLSCIDTCEKNSVLEVIAYSSSETPNRHDMLLVEPLNRLLQDKWDRFVKRIFYFNFLVYCLYMIIFTMAAYYRPVDGLPPFKMEKTGDYFRVTGEILSVLGGVYFFFRGIQYFLQRRPSMKTLFVDSYSEMLFFLQSLFMLATVVLYFSHLKEYVASMVFSLALGWTNMLYYTRGFQQMGIYAVMIEKMILRDLCRFMFVYIVFLFGFSTAVVTLIEDGKNDSLPSESTSHRWRGPACRPPDSSYNSLYSTCLELFKFTIGMGDLEFTENYDFKAVFIILLLAYVILTYILLLNMLIALMGETVNKIAQESKNIWKLQRAITILDTEKSFLKCMRKAFRSGKLLQVGYTPDGKDDYRWCFRVDEVNWTTWNTNVGIINEDPGNCEGVKRTLSFSLRSSRVSGRHWKNFALVPLLREASARDRQSAQPEEVYLRQFSGSLKPEDAEVFKSPAASGEK
【0059】
したがって本発明は、その天然の脂質環境に存在する標的膜タンパク質に関して、具体的なエピトープの機能的研究又は新規抗体の推定結合部位の評価を可能にする。
【0060】
本発明においては、抗原性エピトープは典型的に、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間にタンパク質からの切断された表面露出ペプチドに基づく。代替的に見ると、表面露出ペプチドは典型的に抗原性エピトープを産生するのに使用される。
【0061】
これに関して、抗原性エピトープは表面露出ペプチドのアミノ酸配列又はそれらに実質的に相同な配列を含みうる。抗原性エピトープは表面露出ペプチドのアミノ酸配列又はそれらに実質的に相同な配列から成りうる。抗原性エピトープは表面露出ペプチドのアミノ酸配列又はそれらに実質的に相同な配列とオーバーラップしうる。
【0062】
表面露出ペプチドに「実質的に相同な」アミノ酸配列としては、所与の表面露出ペプチドのアミノ酸配列と比較して、1個、2個、又は3個のアミノ酸置換(好ましくは、1個又は2個、より好ましくは1個)をもつ配列を有する又は含む配列が挙げられる。
【0063】
表面露出ペプチドに「実質的に相同な」アミノ酸配列としては、表面露出ペプチドの少なくとも5個若しくは少なくとも6個の連続したアミノ酸含む(又はから成る)(又は表面露出ペプチドの少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、若しくは少なくとも25個)連続したアミノ酸を含む若しくはから成る)配列が挙げられる。6個のアミノ酸が、抗体によって認識又は結合されるペプチド/タンパク質配列の典型的な長さである。
【0064】
表面露出ペプチドに「実質的に相同な」アミノ酸配列としては、所与の表面露出ペプチド配列に対して、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも98%の配列相同性をもつ配列を有する又は含む配列が挙げられる。少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも98%の配列相同性が好ましい。
【0065】
抗原性エピトープは、表面露出ペプチドの伸長型、又は表面露出ペプチドに実質的に相同なアミノ酸配列の伸長型を含みうる(又はから成りうる)。例えば、1つ以上のさらなるアミノ酸(例えば、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも15個、又は少なくとも20個のアミノ酸)が、表面露出ペプチド配列(又はそれらに実質的に相同な配列)の一端又は両端に存在してよい。いくつかの実施形態では、最大で2個、最大で3個、最大で4個、最大で5個、最大で6個、最大で7個、最大で8個、最大で9個、最大で10個、最大で15個、又は最大で20個のアミノ酸が、表面露出ペプチド配列(又はそれらに実質的に相同な配列)の一端又は両端に存在してよい。
【0066】
抗原性エピトープは、表面露出ペプチドのトランケート型、又は表面露出ペプチドに実質的に相同なアミノ酸配列のトランケート型を含みうる(又はから成りうる)。例えば、1個以上のアミノ酸(例えば、少なくとも2個、少なくとも個3、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、又は少なくとも10個)が、表面露出ペプチド配列(又はそれらに実質的に相同な配列)の一端又は両端になくてもよい。いくつかの実施形態では、最大で2個、最大で3個、最大で4個、最大で5個、最大で6個、最大で7個、最大で8個、最大で9個、最大で10個、最大で15個、又は最大で20個のアミノ酸が、表面露出ペプチド配列(又はそれらに実質的に相同な配列)の一端又は両端になくてもよい。
【0067】
表面露出ペプチドが空間的に互いに接近して配置される場合、抗原性エピトープは、例えば、1個又は数個の表面露出ペプチドに実質的に相同な環状ペプチドでありうる。
【0068】
抗原性エピトープは長さが、少なくとも5個、又は少なくとも6個、又は少なくとも7個のアミノ酸、例えば、長さが6~10個、6~12個、6~15個、6~20個、6~25個、6~30個、6~40個、6~50個、6~60個、又は6~75個のアミノ酸でありうる。抗原性エピトープは長さが、例えば、最大で7個、最大で8個、最大で9個、最大で10個、最大で15個、最大で20個、最大で25個、又は最大で30個のアミノ酸でありうる。抗原性エピトープは長さが、例えば、5~30個、6~30個、7~30個、5~25個、6~25個、又は7~25個のアミノ酸でありうる。抗原性エピトープは長さが、例えば、5~7個、又は5~8個、又は5~9個(例えば、7~9個のアミノ酸)でありうる。誤解を避けるために、より長いタンパク質又はポリペプチド、例えば、長さが100個のアミノ酸を超えるものは、本発明においてはエピトープとは見なされない。
【0069】
相同性(例えば、配列相同性)はいずれの簡便な方法でも評価されうる。しかし、配列間の相同性(例えば、同一性)の度合いを決定するには、複数の配列のアラインメントを作成するコンピュータプログラムが有用であり、例えば、クラスタルダブル(Clustal W)(Thompson, Higgins, Gibson, Nucleic Acids Res.,22:4673-4680, 1994)がある。所望の場合、クラスタルダブル(Clustal W)アルゴリズムは、BLOSUM62スコア行列(Henikoff and Henikoff, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 89:10915-10919, 1992)並びにギャップ開始ペナルティーを10及びギャップ伸長ペナルティーを0.1として使用することができ、結果として、最上位の一致が2つの配列間で得られ、配列の1つの全長の少なくとも50%がアラインメントに含まれる。配列をアラインメントするのに使用されうる他の方法は、Smith及びWaterman(Smith and Waterman, Adv.Appl.Math.,2:482, 1981)によって改変されたNeedleman及びWunschのアラインメント方法(Needleman and Wunsch, J.Mol.Biol.,48:443,1970)であり、最上位のマッチが2つの配列間で得られ、同一アミノ酸の数が2つの配列間で決定される。2つのアミノ酸配列間の同一性の%率を計算する他の方法は一般に当該技術分野において認識されており、例えば、Carillo及びLipton(Carillo and Lipton, SIAM J.Applied Math.,48:1073, 1988)によって記載のもの及びComputational Molecular Biology, Lesk, e.d.Oxford University Press, New York, 1988, Biocomputing: Informatics and Genomics Projectsに記載にものが挙げられる。
【0070】
一般に、そのような計算にはコンピュータプログラムが採用されることになる。ALIGN(Myers and Miller, CABIOS, 4:11-17, 1988)、FASTA(Pearson and Lipman, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 85:2444-2448, 1988; Pearson, Methods in Enzymology, 183:63-98, 1990)、及びギャップBLAST(Altschul et al.,Nucleic Acids Res.,25:3389-3402, 1997)、BLASTP、BLASTN、又はGCG(Devereux, Haeberli, Smithies, Nucleic Acids Res.,12:387, 1984)といった、一対の配列を比較及びアラインメントするプログラムもこの目的のために有用である。さらに、欧州バイオインフォマティクス研究所のDaliサーバーはタンパク質配列の構造に基づいたアラインメントを提供する(Holm, Trends in Biochemical Sciences, 20:478-480, 1995; Holm, J.Mol.Biol.,233:123-38, 1993; Holm, Nucleic Acid Res.,26:316-9, 1998)。
【0071】
本発明による抗原性エピトープは、線状エピトープ又は立体構造エピトープでありうる。
【0072】
いくつかの実施形態では、本発明による抗原性エピトープは環化されたエピトープでありうる。
【0073】
免疫に使用される線状抗原性エピトープを調製するのに用いられる一般的な手法はFmoc SPPS(ペプチド固相合成)である。SPPSでは、その上にペプチド鎖が洗浄-カップリング-洗浄の反復サイクルを用いて構築できる小さな多孔性ビーズが官能性リンカーで処理される。次いで合成されたペプチドは化学開裂を用いてビーズから切り離される。環状ペプチドの合成については、一般的な方法は、ジスルフィド架橋(架橋が2つのシステインによって形成された架橋である)の形成によって又は架橋が典型的なペプチド結合から成る「頭-尾(head-to-tail)」架橋の形成によって環化を利用する。環状ペプチドは固体担体上で形成することができる。一般的には、立体構造エピトープに対する抗体はタンパク質全体又はタンパク質の大部分を用いて産生される。
【0074】
限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は、完了まで進まないタンパク質のタンパク質分解性の消化を含む。よって、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を介して、所与のタンパク質は単に部分的に消化される(又は部分的に分解される又は部分的にトランケートされる)だけでありうる。限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は部分的タンパク質分解とみなされてよい。限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解下で、所与のタンパク質が、あるいくつかの数の所与のプロテアーゼに対する潜在的な切断点(すなわち、切断のために所与のプロテアーゼによって認識可能な部位)をもつ場合、そのプロテアーゼはそれらの切断部位の一部でのみ切断しうる。
【0075】
また、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は、プロテアーゼ活性のキネティックスがタンパク質からペプチドが1個ずつ又は一度に最大で数個切断される程度に落とされる限定条件下で行われるタンパク質分解を含む。いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つのプロテアーゼの速度論的活性は、前記表面露出ペプチドが、1個ずつ又は一度に最大で数個、例えば、一度に最大で8個(1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、若しくは8個)(例えば、本明細書において別のところに記載されているように、例えば、試料中の最大で8個のペプチド又は最大で8個の独特のペプチド)、又は一度に最大で7個(1個、2個、3個、4個、5個、6個、若しくは7個)(例えば、本明細書において別のところに記載されているように、例えば、試料中の最大で7個のペプチド又は最大で7個の独特のペプチド)、又は一度に最大で5個(1個、2個、3個、4個、若しくは5個)(例えば、本明細書において別のところに記載されているように、例えば、試料中の最大で5個のペプチド又は最大で5個の独特のペプチド)切断される程度に落とされる。そのような実施形態のいくつかでは、前記タンパク質が所与のプロテアーゼによって切断できるペプチドが使い尽くされるようにタンパク質分解反応は完了まで進みうる。
【0076】
本明細書において別のところに記載されているように、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は典型的に、前記タンパク質の最も柔軟性がある部分及び/又は表面露出部分のみがプロテアーゼによって切断されるという結果になる。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態では、前記少なくとも1つのプロテアーゼは、最大で8個の表面露出ペプチド(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、又は8個の表面露出ペプチド)(例えば、本明細書において別のところに記載されているように、例えば、試料中の最大で8個のペプチド又は最大で8個の独特のペプチド)が前記プロテアーゼの作用によってタンパク質から切断されるという結果になる条件下で使用される。
【0078】
好ましい実施形態では、前記少なくとも1つのプロテアーゼは、最大で7個の表面露出ペプチド(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、若しくは7個の表面露出ペプチド)又は最大で5個の表面露出ペプチド(例えば、1個、2個、3個、4個、若しくは5個の表面露出ペプチド)(例えば、本明細書において別のところに記載されているように、例えば、試料中の最大で7個若しくは最大で5個のペプチド又は最大で7個若しくは最大で5個の独特のペプチド)が前記プロテアーゼの作用によってタンパク質から切断されるという結果になる条件下で使用される。
【0079】
本発明による限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は典型的に、例えば、プロテアーゼ活性のキネティックスを、前記タンパク質からペプチドが1個ずつ又は一度に最大で数個切断される程度に落とすことによって達成することができる。いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つのプロテアーゼの速度論的活性は、前記表面露出ペプチドが、1個ずつ又は一度に最大で数個、例えば、上記のように、一度に最大で8個(1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、若しくは8個)、又は一度に最大で7個(1個、2個、3個、4個、5個、6個、若しくは7個)、又は一度に最大で5個(1個、2個、3個、4個、若しくは5個)切断される程度に落とされる。
【0080】
前記タンパク質の最も柔軟性がある及び/又は表面露出部分のみがプロテアーゼによって切断されるという結果、例えば、最大で8個の表面露出ペプチド、又は最大で7個の表面露出ペプチド、又は最大で5個の表面露出ペプチドがプロテアーゼによって切断されるという結果になるために、どの好適な条件を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に用いてもよい。限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を導く条件は、消化反応の温度及び/又はプロテアーゼの濃度及び/又は消化反応の時間及び/又はバッファー条件に変化をもたせることによって確定しうる。特定の条件下でペプチドから切断されるペプチドの数は(例えば、質量分析又はタンパク質化学又は生化学に基づいて)当業者によって決定することができる。また、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に適切な条件を確立する好適な方法は本明細書において別のところに記載されている。適切な限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解条件は、さまざまなタンパク質又はさまざまなプロテアーゼ又は使用されるタンパク質及びプロテアーゼの特定の組み合わせについて確立することができる。限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に特に好ましい条件は本明細書の実施例に記載されている。典型的には、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に用いられる条件は前記タンパク質の天然の構成(天然型)を変えない(又は著しく変えない)。前記タンパク質の補因子は、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に存在してもよいが、必ずしも存在する必要はない。
【0081】
限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に適切な条件はプロテアーゼ及び/又はタンパク質に依存して異なりうるが、一般には、当該プロテアーゼに対する最適以下の条件、例えば、プロテアーゼ活性のキネティックスが著しく遅くなるか減じられる程度の条件である。
【0082】
低い(例えば、最適タンパク質分解活性より低いか、著しく低い)プロテアーゼのタンパク質分解活性を与える(又はもたらす)条件が一般に用いられる。そのような条件としては、プロテアーゼの低い濃度及び/又は当該プロテアーゼにとって最適以下である作業温度及び/又は当該プロテアーゼに標準的ではないバッファー若しくは最適以下のバッファー及び/又はプロテアーゼのタンパク質との短い接触(インキュベーション)時間を用いることが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解(例えば、トリプシンを用いて、又は例えば、37℃以上の最適作業温度のプロテアーゼを用いて)は室温(例えば、約20℃又は17~23℃)で行われた。
【0084】
いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は、使用プロテアーゼの最適作業温度より少なくとも2℃、少なくとも5℃、少なくとも10℃、又は少なくとも20℃高い若しくは低い、又は著しく高い若しくは低い、(好ましくは低い)温度で行われる。いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は、使用プロテアーゼの最適作業温度より2℃~5℃、2℃~10℃、2℃~20℃、2℃~30℃、5℃~10℃、5℃~20℃、5℃~30℃、10℃~20℃、10℃~30℃、20℃~30℃高い又は低い、(好ましくは低い)温度で行われる。
【0085】
いくつかの実施形態では、最大で5μg/mlのプロテアーゼ(例えば、トリプシン)の濃度が限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に用いられる。いくつかの実施形態では、最大で0.5μg/ml、最大で1μg/ml、最大で2μg/ml、最大で10μg/ml、又は最大で20μg/mlのプロテアーゼの濃度が限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に用いられる。いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解反応は、5分間、10分間、15分間、30分間、1時間、又は5時間以下で進めることができ、短いインキュベーション時間のほうが一般に好ましい。例えば、いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解反応は、5分間、10分間、15分間、又は30分間以下で進めることができる。そのような実施形態のいくつかでは、限定タンパク質分解は室温で行われる。よって、いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解は、最大で5μg/mlプロテアーゼ(例えば、約5μg/mlプロテアーゼ)の濃度で室温にて最大で約5分間(例えば、約5分間)行われる。
【0086】
いくつかの実施形態では、タンパク質分解消化反応はギ酸又はアンモニア水を用いて止められうる。例えば、トリプシン、Asp-N、プロテイナーゼK、及びキモトリプシンはギ酸を用いて止められうる。ペプシンはアンモニア水を用いて止められうる。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態では、切断された表面露出ペプチドは、前記少なくとも1つのプロテアーゼと接触した後に出現する順序に基づいてランク付けられ、最初に(又は早期に)切断され、且つ最初の(又は早期の)サンプリングポイントで検出される表面露出ペプチドは高いランクが与えられ、後に遅れて切断され、後のサンプリングポイントで検出される表面露出ペプチドは低いランクが与えられる。短時間で標的タンパク質から外れ、機能的な重要性も有する、高くランク付けられたペプチドが典型的に、エピトープ開発、免疫、及び後に続く抗体産生に使用されうる。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に記載されているように低い(過酷ではない)タンパク質分解活性の条件下で切断される表面露出ペプチド(例えば、低い(より低い)プロテアーゼ濃度、低い(より低い)インキュベーション温度、及び/又は短い(より短い)インキュベーション時間、概して容易に消化されたペプチド)は高いランクが与えられ、本明細書に記載されているように高い(より過酷な)タンパク質分解活性の条件下で切断される表面露出ペプチド(例えば、高い(より高い)プロテアーゼ濃度、高い(より高い)インキュベーション温度、及び/又は長い(より長い)インキュベーション時間、概して容易には消化されないペプチド)は低いランクが与えられる。
【0089】
いくつかの実施形態では、タンパク質分解消化材料(若しくはタンパク質分解消化反応からの溶離液)の複数の試料が、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解反応(例えば、順次)の間に採取されてよく、及び/又は複数の試料(例えば、複数の限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解反応)が別々に進行(若しくは処理)されうる(例えば、並行して同時に進行(若しくは処理)されうる)。
【0090】
いくつかの実施形態では、タンパク質分解消化材料(又はタンパク質分解消化反応からの溶離液)の複数の試料は、タンパク質の限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に時間間隔(例えば、1分、2.5分、または5分間隔)で採取されうる(又は得られうる)。そのような実施形態のいくつかでは、プロテアーゼと接触(又はインキュベーション)の時間(又は期間)に基づいて試料が変動すると共に、プロテアーゼ及び/又は(典型的には「及び」)プロテアーゼ濃度(及び/又は本明細書において別のところに記載されているようにタンパク質分解をもたらす他の条件)は、試料各々について(又は試料各々において)一定でありうる。そのような実施形態のいくつかでは、試料は順番に得られうる(連続消化)。
【0091】
いくつかの実施形態では、複数の試料(例えば、複数の限定消化反応又は制限的消化反応)は別々に進行(又は処理)され、各試料はタンパク質の限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解のための相異なるタンパク質分解条件又はタンパク質分解活性をもち、例えば、本明細書において別のところで論じられているように、例えば、相異なるプロテアーゼ及び/又は相異なるプロテアーゼ濃度及び/又は相異なる温度及び/又は相異なるインキュベーション時間が相異なる試料に使用されうる。そのような実施形態のいくつかでは、プロテアーゼとの接触(又はインキュベーション)の時間(又は期間)は典型的には(及び好ましくは)、試料各々について(又は試料各々において)一定である。そのような実施形態のいくつかでは、試料は並行して同時にプロセス(若しくは処理)されうる。
【0092】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、前記プロテアーゼの作用によってタンパク質から切断される表面露出ペプチドの数は一定のプロテアーゼ濃度で時間によって調節され、いくつかの試料が時間とともに採取されるか、又は前記プロテアーゼの作用によってタンパク質から切断される表面露出ペプチドの数は一定の時間でプロテアーゼの濃度によって調節され、いくつかの試料がプロテアーゼのいくつかの相異なる濃度で採取(又は処理)できるか、又は前記プロテアーゼの作用によってタンパク質から切断される表面露出ペプチドの数は時間と前記プロテアーゼの濃度との両方によって調節される。
【0093】
各試料(又は好ましい試料)は、タンパク質から切断された1個又は数個のペプチド(例えば、最大8個のペプチド若しくは最大8個の独特のペプチド)を好ましくは含む。よって、タンパク質から切断された1個又は数個のペプチド(例えば、最大8個のペプチド若しくは最大8個の独特のペプチド)は各試料で検出されうる。独特のペプチドは、前試料に存在しないか、又はより弱い(若しくは厳しさを抑えた)タンパク質分解条件で試料に存在しない(例えば、前試料に存在するか、又はより弱いタンパク質分解条件で試料に存在するペプチドと異なる又は違った)ペプチドである。したがって、最大8個の独特なペプチドを含有する試料は8個を超える相異なるペプチドを含みうるが、これらのペプチドの1つ以上は前試料又はより弱いタンパク質分解条件で試料中に検出されうる(よって、これらのペプチドの1つ以上は独特でないペプチドでありうる)。
【0094】
理想的且つ好ましくは、各試料は単一の切断されたペプチドのみを含むことになる。例えば、単一の切断されたペプチドは最初の試料(又はサンプリングポイント)で検出されうる。単一の切断されたペプチドは1つ以上の後の試料(又はサンプリングポイント)で検出されうる。他の例では、複数の切断されたペプチド(例えば、最大8個のペプチド又は最大で8個の独特のペプチド)は、最初及び/又は後の試料(サンプリングポイント)で検出されうる。1つの試料につき1個又は数個の切断されたペプチド(例えば、1つの試料につき最大8個のペプチド又は最大で8個の独特のペプチド)を生じさせる条件は、短いサンプリング間隔、さまざまなプロテアーゼ濃度、さまざまなバッファー組成、さまざまな温度、さまざまな塩濃度、又はプロテアーゼ阻害剤(又はそれらの組み合わせ)を用いることによって確立することができる。切断されたペプチドは、それらのペプチドが出現する試料(サンプリングポイント)に基づいてランク付けされうる。例えば、サンプリングポイント当たり1個のペプチドのみが検出されるという結果になる条件下で、最初に採取された試料のペプチドは最高のランクが与えられ、2番目に採取された試料のペプチドはランク2が与えられるなどである。各サンプリングポイントで単一の切断されたペプチドのみが検出される条件を用いて、個々のペプチドをランク付けすることが可能である。各サンプリングポイントで複数の切断されたペプチドのみが検出される条件を用いて、ペプチド群をランク付けすることが可能である。
【0095】
いくつかの実施形態では、より高いランクの表面露出ペプチド(切断されたペプチド)が好ましい。いくつかの実施形態では、本発明による表面露出ペプチド(例えば、高いランクのペプチド)は、最初に採取された試料で検出される(又は存在する)切断されたペプチドである。いくつかの実施形態では、本発明による表面露出ペプチド(例えば、高いランクのペプチド)は、タンパク質の限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に採取された試料に出現する順序の点から、ランク上位8個のペプチド(例えば、ランク上位8個の独特のペプチド)の1個であるか、又はランク上位8個ペプチド(例えば、ランク上位7個若しくはランク上位5個のペプチド)(例えば、上位8個、上位7個、若しくは上位5個の独特のペプチド)の1個を含有する試料に存在する切断されたペプチドである。そのようなペプチドは最初に採取された試料中に検出される(又は存在する)こともあり、1つ以上のその後に採取された試料に存在することもある。
【0096】
最初に(又は早期に)タンパク質から切断されるペプチド(例えば、上記のように最初(最初のサンプリングポイント)に採取された試料中のもの又は上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいてランク上位8個のペプチド(例えば、ランク上位8個の独特のペプチド)にランク付けされるもの))は典型的に、良好に露出され(例えば、表面に露出され)、よってプロテアーゼによって容易にアクセスされるものである。そのような最初に(又は早期に)消化されたペプチドは、高いランクが与えられる(例えば、最初に出現するペプチドはランク1が与えられ、2番目に出現するペプチドはランク2が与えられるなどである)。後に遅れて(例えば、早期ペプチドより後のサンプリングポイントで)タンパク質から消化されたペプチドは典型的に、良好に露出されておらず、よってプロテアーゼによって容易にアクセスされないものである。そのような後に遅れて消化されたペプチドはより低いランクが与えられる。本発明では、高いランクをもつペプチドが典型的に好まれる。
【0097】
いくつかの実施形態では、タンパク質の表面で最も露出されているアミノ酸配列を有する切断されたペプチド(表面露出ペプチド)が抗原性エピトープ開発に好ましい。
【0098】
いくつかの実施形態では、ペプチド(切断されたペプチド)は、タンパク質とってのそのペプチドの機能的重要性又は予測される機能的重要性に基づいてランク付けされうる。典型的には、タンパク質にとって機能的に重要である又は機能的に重要であると予測されるアミノ酸配列を有するペプチドは、機能的に重要でない又は機能的に重要でないと予測されるものと比べてより高いランクが与えられる。いくつかの実施形態では、より高いランクのペプチドが好ましい。
【0099】
いくつかの実施形態では、タンパク質にとって機能的に重要であるか又は機能的に重要であると予測されるアミノ酸配列をもち(例えば、機能的重要性に関して高いランクをもち)、くわえて、表面露出に基づく高いランクをもつ(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)ペプチド又は上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド))が、抗原性エピトープ開発に好ましい(又は言い換えれば、抗原性エピトープの基礎となる好ましいペプチドである)。
【0100】
いくつかの実施形態では、タンパク質にとって機能的に重要であるか又は機能的に重要であると予測されるアミノ酸配列をもつ(例えば、機能的重要性に関して高いランクをもつ)が、くわえて表面露出に基づく高いランクをもつ(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)ペプチドでもなく、上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド)でもないペプチドが、抗原性エピトープ開発に使用されうる。
【0101】
いくつかの実施形態では、タンパク質にとって機能的に重要でないか又は機能的に重要でないと予測されるアミノ酸配列をもつ(例えば、機能的重要性に関して低いランクをもつ)が、表面露出に基づく高いランクをもつ(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)のペプチド又は上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド))が、抗原性エピトープ開発に使用されうる。
【0102】
いくつかの実施形態では、抗原性エピトープは、切断されたペプチドのアミノ酸配列の機能的重要性又は予測される機能的重要性に関係なく、上記のように最初に(又は早期に)前記タンパク質から切断された表面露出ペプチド(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)のペプチド、又は上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドにランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド))に基づく。
【0103】
いくつかの実施形態では、抗原性エピトープは、タンパク質にとって機能的に重要である、又は機能的に重要であると予測されるアミノ酸配列をくわえてもつペプチドの、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドにランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド)に基づく。これらのペプチドは(上記のように)出現する順序のみに基づいて絶対的に上位にランク付けされた8個のペプチドのセットと必ずしも同じである必要はない(が同じでありうる)。
【0104】
いくつかの実施形態では、タンパク質にとって機能的に重要であるか、又はそうであると予測されるタンパク質上の対象の領域が特定又は選択され、且つ抗原性エピトープは、前記対象の領域から切断されたアミノ酸配列をくわえて有するペプチドの、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド)にランク付けされた表面露出ペプチドに基づく。これらのペプチドは(上記のように)出現する順序のみに基づいて絶対的に上位にランク付けされた8個のペプチドのセットと必ずしも同じである必要はない(が同じでありうる)。
【0105】
いくつかの実施形態では、抗体産生のための抗原性エピトープは、限定タンパク質分解の間にプロテアーゼの作用によって前記タンパク質から最初に(又は早期に)切断され、よって高いランクをもつペプチド(表面露出ペプチド)(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)のペプチド又は上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドにランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド))のアミノ酸配列に基づく。
【0106】
よって、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、抗原性エピトープ開発のために高いランクをもつ表面露出ペプチド(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)のペプチド又は上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドにランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド))を選ぶこと、並びに前記表面露出ペプチドに基づく(又は前記表面露出ペプチドから開発された)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。
【0107】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、高いランクをもつ表面露出ペプチド(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)のペプチド又は上位8個のペプチドにランク付けされたペプチド(例えば、上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個にランク付けされた独特のペプチド))を選ぶこと、前記表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープを構築すること、並びに前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。
【0108】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、高いランクをもつ表面露出ペプチド(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)のペプチド又は上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドにランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド))を選び、それをタンパク質の定義された生物学的特性(又は生物学的機能)と関連付けること、前記表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープを構築すること、並びに前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。タンパク質の定義された生物学的特性(又は機能)と関連するアミノ酸配列をもつペプチドが典型的に好ましい。
【0109】
切断されたペプチド(表面露出ペプチド)を同定するどの手段を採用してもよい。いくつかの実施形態では、切断されたペプチドは質量分析を用いて同定される。いくつかの実施形態では、質量分析と併用して液体クロマトグラフィーが使用される。好ましくは、切断されたペプチド(表面露出ペプチド)はLC-MS/MS(液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法)を用いて特定される。例示的で且つ好ましい質量分析方法論が実施例で記載されている。タンデム質量分析スペクトルは、MASCOT(マトリックスサイエンス社、ロンドン、英国)によって、例えば、実施例に記載の適切なデータベースに対して検索されうる。
【0110】
本明細書でいう消化、分解、又はトランケートされたタンパク質は、プロテアーゼによってその長さに沿って1つ以上の部位で切断されたタンパク質である。そのようなタンパク質切断は、タンパク質から切断された(すなわち、切り離された)1つ以上のペプチド(表面露出ペプチド)をもたらす。よって表面露出ペプチドは、プロテアーゼの作用によってタンパク質から切断されたペプチドである。「表面に露出された」という用語は、通常、全長タンパク質(すなわち、切断されていないタンパク質)に照らして、切断された(切り離された)ペプチド配列に対応するタンパク質の部分が良好に露出され、プロテアーゼにアクセス可能であることを示す。
【0111】
本発明は、治療用抗体発見のための新しい方法及びヒトTRPV1タンパク質に対する新らたな薬理学的に活性のある抗体を提供する。
【0112】
本発明は、良好に露出され、よって抗体ターゲティングのガイドとして利用しうるタンパク質のエピトープを検出する方法に関する。
【0113】
本発明のいくつかの方法は、前記タンパク質にとって機能的に重要(例えば、生物学的重要)であるか、又はそうであると予測されるアミノ酸配列を有する切断された表面露出ペプチドを同定することによって抗原性エピトープを同定し、そのような表面露出ペプチドに基づいて抗原性エピトープを産生するステップを含む。いくつかの実施形態では、抗体はそのような抗原性エピトープに対して産生される。
【0114】
前記タンパク質から切断された表面露出ペプチドが前記タンパク質にとって機能的に重要であるか又は機能的に重要であると予測されるアミノ酸配列を有するか否かを識別することは、いずれの好適な手段によっても行うことができ、当業者であれば容易にそれを実行することができる。
【0115】
例えば、いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に消化、分解、又はトランケートされたタンパク質は機能的なアッセイで調べられ、その機能又機能活性(例えば、生物学的機能)が変化したかどうか評価できる。これは、消化、分解、又はトランケートされたタンパク質の機能活性のレベルを、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供されていないタンパク質の機能活性のレベルと比較することによってなされうる(限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供されていないタンパク質の機能活性のレベルは対照レベルとみなすことができる)。もしタンパク質の生物学的機能が限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の後に(又は間に)変化していたら、これは、切断されたペプチド(表面露出ペプチド)がタンパク質に機能的な関連のある(例えば、生物学的に重要である)タンパク質の領域から切断された(切り離された)ことを示す。したがって、切断された表面露出ペプチドはタンパク質における機能的重要性を評価するための機能的データと関連付けられる。切断されたペプチドは、例えば、並行実験で、本明細書において別のところに記載されているように(例えば、LC-MS/MSによって)同定することができる(例えば、切断されたペプチドの配列を明らかにすることができる)。タンパク質からのペプチド(表面露出ペプチド)の切断がタンパク質の機能活性の変化をもたらした場合、これは、表面露出ペプチドが本発明の抗原性エピトープ産生に特に有用でありうることを示す。代替的に見ると、そのような表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープは抗体産生に特に有用であり好ましい可能性がある。
【0116】
1つの実施形態では、タンパク質はTRPV1であり、TRPV1にとっての切断されたペプチドの機能的重要性を決定するアッセイは本明細書において別のところに記載されているようにインサイド-アウトパッチクランプアッセイである。
【0117】
「変化させた」機能若しくは機能活性、又は機能若しくは機能活性「の変化」は、いずれの測定可能な変化、好ましくは、顕著な変化、より好ましくは、統計的に有意な変化であることができる。「変化させた」機能又は「機能の変化」は機能の増加又は減少でありうる。機能の例示的な変化は、≧2%、≧3%、≧5%、≧10%、≧25%、≧50%、≧75%、≧100%、≧200%、≧300%、≧400%、≧500%、≧600%、≧700%、≧800%、≧900%、≧1000%、≧2000%、≧5000%、又は≧10,000%の変化である。変化は典型的に、適切な対照レベルの機能又は機能活性と比べて、例えば、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供されていない同等のタンパク質の機能又は機能活性と比べて評価される。
【0118】
いくつかの実施形態では、抗原性エピトープは、タンパク質から切断されたときに、タンパク質の機能又は機能活性の変化をもたらす表面露出ペプチドのアミノ酸配列に基づく。
【0119】
いくつかの実施形態では、表面露出ペプチド配列が機能的に重要(例えば、生物学的に重要)であるか否かは、バイオインフォマティクス的手段及び/又はタンパク質の機能的に重要な領域について既に知られている(例えば、学術文献中の)他の情報を利用することによって予測又は決定される。したがって、切断された表面露出ペプチドは、タンパク質の機能的に重要な領域に関する既知データと関連付けてタンパク質にとっての切断されたペプチドの機能的重要性を予測又は決定することができる。表面露出ペプチドのアミノ酸配列が機能的に重要であることが知られている(又は機能的に重要であると予測される)なら、これは、表面露出ペプチドが本発明の抗原性エピトープ産生に特に有用でありうることを示す。代替的に見ると、そのような表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープは抗体産生に特に有用であり好ましい可能性がある。
【0120】
よって、いくつかの実施形態では、抗原性エピトープは、例えば、バイオインフォマティクス分析に基づいて、且つ/又はタンパク質の機能的に重要な領域について既に知られている(例えば、学術文献中の)他の情報に基づいて機能的に重要であることが知られている(又はそうであることが予測される)表面露出ペプチドのアミノ酸配列に基づく。
【0121】
いくつかの実施形態では、抗原性エピトープは、TRPV1のカルモジュリン結合配列又はTRPV1のカプサイシン結合部位と関連する(又は対応する)表面露出ペプチドのアミノ酸配列に基づくTRPV1の抗原性エピトープである。
【0122】
いくつかの実施形態では、バイオインフォマティクス的手段及び/又はタンパク質の機能的に重要な領域について既に知られている(例えば、学術文献中の)他の情報を用いることによって表面露出ペプチドの機能的重要性を予測又は決定することにくわえて、表面露出ペプチドの機能的重要性を決定する機能的なアッセイが行われる。
【0123】
「バイオインフォマティクス的手段」、「バイオインフォマティクス分析」、「バイオインフォマティクスデータ」、及び「バイオインフォマティクス情報」としては、データベース検索(例えば、BLAST検索)、構造モデリング、又は構造生物学、及びそれらによって得られたデータ/情報が挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
機能(例えば、生物学的機能)は、当該タンパク質に関するいずれの生物学的又は生理学的に関連する機能を含むことができる。機能(例えば、生物学的機能)としては、(リガンド又は受容体などの)標的又は他の結合パートナー、例えば、補因子に結合するタンパク質の能力、シグナル伝達活性、タンパク質の酵素活性、イオンチャネル活性、トランスポーター活性、遊離、例えば、インスリン放出、及び取り込み機構などが挙げられるが、これらに限定されない。よって、タンパク質の機能的に関連する領域又は機能的に重要な領域としては、(リガンド又は受容体などの)標的又は他の結合パートナー、例えば、補因子に結合するタンパク質の能力を与える領域、シグナル伝達活性を与える領域、タンパク質の酵素活性を有する領域、イオンチャネル活性を与える領域、トランスポーター活性を与える領域、並びに分子(例えば、インスリン)の放出及び取り込みをもたらす領域が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
1つの実施形態では、本発明の方法はさらに、(例えば、前記1つ以上のプロテアーゼの既知の認識配列に基づいてタンパク質の切断点を同定できるコンピュータプログラムを用いることによって)1つ以上のプロテアーゼによってタンパク質から切断されうる一連の推定ペプチド(例えば、すべての推定ペプチド)をインシリコにおいて産生するステップ、及び任意選択で、前記インシリコにおいて産生された一連の推定ペプチドをフィルターして、(例えば、配列データベース、例えば、BLAST検索又は他の文献において)以前に記載されているペプチドを除外することによって推定ペプチドのフィルターをかけた後のリストを得ること、推定ペプチドのフィルターをかけた後のリストをタンパク質の限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解によって同定されたペプチドのリストと比較すること、前記フィルターをかけた後のリストと前記タンパク質の限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解によって同定されたペプチドのリストとの両方に共通するペプチドを同定すること、両リストに共通するペプチドに基づいた抗原性エピトープを同定(又は構築)すること、及び任意選択で、前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。
【0126】
別の態様では、本発明は抗原性エピトープを同定する方法を提供し、その方法は、
(i)第1のタンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって第1のタンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、前記プロテアーゼの作用によって第1のタンパク質から切断された少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の第1のタンパク質及び少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成すること、
(ii)第1のタンパク質から切断された表面露出ペプチドのアミノ酸配列と同一又は実質的に相同な第2のタンパク質の領域(又は一部又は部分)のアミノ酸配列を同定すること、並びに
(iii)第1のタンパク質から切断された表面露出ペプチドのアミノ酸配列と同一又は実質的に相同な前記第2のタンパク質の前記領域(又は一部又は部分)のアミノ酸配列に基づいて抗原性エピトープを産生すること、並びに任意選択で
(iv)その抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。
【0127】
実質的に相同な配列の例示的な種類は本明細書において別のところで議論されている。そのような方法は、異なるタンパク質(第1のタンパク質)で行われた限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に基づいてタンパク質(第2のタンパク質)の抗原性エピトープ産生を促進することができる。特にこれは、第1のタンパク質及び第2のタンパク質が同じタンパク質ファミリーにあるか、そうでなければ関連する場合に有用でありうる。例えば、TRPV1で行われた限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解からのデータはTRPV2抗原性エピトープを同定するのに使用されうる。第2のタンパク質の実質的に相同なタンパク質を決定(又は同定)することは、いずれの好適な手段(例えば、コンピュータプログラム)を用いても行われうる。当業者ならそれらについて精通しているであろう。単に例として、EMBL-EBIによって提供されているEMBOSS Needleプログラムは好適なコンピュータプログラムである。EMBOSS Needleは、2つのインプット配列を読み込み、Needleman-Wunschアラインメントアルゴリズムを用いてそれらの全長に沿って2つの配列の最適なアラインメント(ギャップを含む)を見出した計算結果である最適グローバル配列アラインメントを書き出す。
【0128】
本発明のいくつかの実施形態では、抗原性エピトープは、他のタンパク質と保存されているアミノ酸配列(例えば、進化的に保存された配列又は表面露出ペプチドのアミノ酸配列に同一若しくは実質的に相同な配列)を有する表面露出ペプチドに基づかない。これにより、そのような抗原性エピトープに対して産生された抗体の交差反応(又は非特異的結合)が最小限になりうる。言い換えれば、独特のアミノ酸配列(又は他のタンパク質に見られない配列)に基づいた抗原性エピトープはいくつかの実施形態で使用することができる。
【0129】
本発明は、機能的に関連があり、よって抗体ターゲティングのための指針として利用されうるタンパク質のエピトープを検出する方法に関する。より具体的に、そのような方法は、標的タンパク質のホットスポットエピトープを明らかにするプロテオミクスツールを含む。抗体の作製における抗原として使用される可能性があるこれらのエピトープは、本明細書において抗原性エピトープを意味する。
【0130】
本発明の態様では、タンパク質はプロテアーゼ作用を通して消化、分解、及び/又はトランケートされ、且つ並行して同時に消化、分解、及び/又はトランケートされたタンパク質に関する1つ以上の機能的なアッセイによって探索してタンパク質の機能的に重要な領域を明らかにする。
【0131】
ある実施形態では、タンパク質の消化、分解、及び/又はトランケーションは機能的なアッセイによって並行して同時に行われ、抗体産生のためのエピトープ選択を導くタンパク質の機能的に重要である領域を明らかにする。
【0132】
ある実施形態では、単一のプロテアーゼが使用されてタンパク質を消化、分解、及び/又はトランケーションしうる。別の実施形態では、複数のプロテアーゼが標的タンパク質を1個ずつ順番に又は並行して同時に消化、分解、及び/又はトランケートするのに使用されうる。そのようなプロテアーゼとしては、Arg-Cプロテイナーゼ、Asp-Nエンドペプチダーゼ、クロストリパイン、グルタミルエンドペプチダーゼ、Lys-C、Lys-N、トリプシン、キモトリプシン、プロテイナーゼK、及びテルモリシンが例となるが、これらに限定されない。いくつかのプロテアーゼによって容易に消化される領域はタンパク質の露出領域であるはずで、単一のプロテアーゼによってのみ消化される領域は恐らく、より隠れた領域に位置する。代替的に、プロテアーゼは独特の切断特異性又は/及び物理化学的特性又は/及び構造的特徴をもち、他のプロテアーゼが識別できない標的タンパク質の表面露出ペプチドを識別することができる。よって、複数のプロテアーゼの使用が好ましく、各々の異なるプロテアーゼは、抗原性エピトープとしての表面露出ペプチド適性に関する補完的又は独特の情報を生み出すことができる。
【0133】
複数のプロテアーゼの連続的な使用とは、さまざまなプロテアーゼがタンパク質と次々とインキュベーションされる、すなわち、1つのプロテアーゼがインキュベーションされ、続いて別のプロテアーゼが後の時点でインキュベーションされ、任意選択で1つ以上の他の異なるプロテアーゼが後の時点でインキュベーションされることを意味する。
【0134】
単一のプロテアーゼの連続な使用とは、同一のプロテアーゼ(例えば、同じ濃度のプロテアーゼ)がタンパク質と、例えば、いくつかの異なる(逐次連続した)時点で数回インキュベーションされるか、又はいくつかの試料がタンパク質分解消化反応から時間とともに採取され、反応で産生された新しい又は独特のペプチドの出現が経時的に検出及び追跡されることを意味する。
【0135】
並行使用とは、複数の別個の単一プロテアーゼ消化反応が行われ、各反応は異なるプロテアーゼで行われるか、又はプロテアーゼは同じであるが相異なるタンパク質分解条件、例えば、本明細書において別のところに記載されているように、例えば、異なるプロテアーゼ濃度及び/若しくは温度及び/若しくは時点で行われることを意味する。
【0136】
複数のプロテアーゼは、オーバーラップしている、補完的である、又は独特である表面露出ペプチドを同定するために使用されうる。これに関連して「オーバーラップしている」とは、1つのプロテアーゼでの限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を介して同定された表面露出ペプチドが、1つ以上の他の(すなわち異なる)プロテアーゼでの限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を介して同定された表面露出ペプチドのアミノ酸配列と(部分的又は完全に)重複するアミノ酸配列を有することを意味する。これに関連して、「補完的である」とは、1つのプロテアーゼを用いた限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を介して同定された表面露出ペプチドが、全タンパク質配列(すなわち、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解前の全タンパク質配列)に照らして、1つ以上の他の(すなわち、相異なる)プロテアーゼを用いた限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を介して同定された表面露出ペプチドのアミノ酸配列に隣接又は近接(又は該アミノ酸配列と部分的にオーバーラップしさえする)アミノ酸配列を有することを意味する。「独特である」表面露出ペプチドとは、試験したプロテアーゼの1個又は数個(少数)を用いて限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解した後にのみ同定される表面露出ペプチドである。
【0137】
理論に拘束されるものではないが、複数のプロテアーゼによって切断されたタンパク質の領域はタンパク質の良好に露出された(例えば、表面露出)領域にある可能性が高い。よって、複数のプロテアーゼによって切断されたタンパク質の領域からの表面露出ペプチドは、抗原性エピトープの基礎となる、特に有用な表面露出ペプチドを表わしうる。
【0138】
複数のプロテアーゼを使用することとしては、限定されないが、2個、3個、4個、5個のプロテアーゼを使用することが挙げられる。
【0139】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、プロテアーゼは、トリプシン、Arg-Cプロテイナーゼ、Asp-Nエンドペプチダーゼ、クロストリパイン、グルタミルエンドペプチダーゼ、Lys-C、Lys-N、キモトリプシン、プロテイナーゼK、テルモリシン、ペプシン、カスパーゼ1、カスパーゼ2、カスパーゼ3、カスパーゼ4、カスパーゼ5、カスパーゼ6、カスパーゼ7、カスパーゼ8、カスパーゼ9、カスパーゼ10、エンテロキナーゼ、第Xa因子、グランザイムB、好中球エラスターゼ、プロリン-エンドペプチダーゼ、ブドウ球菌ペプチダーゼI、及びトロンビンからなる(又は含んでなる)群より選択される。
【0140】
いくつかの好ましい実施形態では、プロテアーゼは、トリプシン、Asp-Nエンドペプチダーゼ、キモトリプシン、ペプシン、及びプロテイナーゼKからなる(又は含んでなる)群より選択される。好ましい実施形態では、プロテアーゼはトリプシンである。
【0141】
本発明のさらに別の態様では、いくつかのプロテアーゼの混合物が、一定濃度又は1つあるいはいくつかのプロテアーゼのさまざまな濃度における単回又は時間間隔を空けた複数回の曝露に使用される。よって、いくつかの実施形態では、複数のプロテアーゼの単一の混合物(混和物)が使用される。
【0142】
複数のプロテアーゼが使用される場合、ランク付けリストが個々のプロテアーゼについて作られる。
【0143】
この方法は、タンパク質機能の新らたな基本的理解並びにヒト及び/又は動物の疾患を治療するのに使用できる薬理学的に活性のある抗体の迅速で且つ的確な開発のための新しい方法論/技術を生むことになる。該方法は、可溶性又は膜結合、細胞外又は細胞内のすべてのタンパク質に汎用することができる。
【0144】
本明細書で提案する方法によって産生されたエピトープのリストは、精選されたバイオインフォマティクスデータ及び機能的なアッセイに対して分類されることが好ましい。該方法は実験及びバイオインフォマティクス情報の両方からの入力データを用いることが好ましい。ある実施形態では、膜タンパク質及び膜結合性タンパク質に着目することになる。そのようなタンパク質としては、ヒト侵害受容器TRPV1、TRPスーパーファミリーの他のイオンチャネル、NMDA受容体を含むいくつかの興奮性アミノ酸受容体、及びGタンパク質が例となるが、これらに限定されない。これらのタンパク質(例えば、イオンチャネル)には、例えば、パッチクランプを用いて詳細にわたって直接的に調べることができるという利点がある。対象のタンパク質の他のクラスは、発がん性低分子量GTPアーゼであるKRAS、NRAS、及びHRASを含む、発がん性タンパク質に関係する。KRASは膵臓癌、結腸癌、及び肺癌を含むいくつかの転移性悪性腫瘍の鍵となるタンパク質である。GTPアーゼ活性は、例えば、GTPを放射性同位体標識した後に、GTPがGDPに加水分解した後の遊離32Pを測定すること、プルダウンアッセイした後にウェスタンブロッティングすることによって調べることができる。さらに、他の興味深いタンパク質クラスは、ほんの数例としてPD1、PDL1、CD40などのがん治療における免疫調節に関与する免疫調節タンパク質である。
【0145】
本発明による「タンパク質」はどんなタンパク質であってもよい。
【0146】
本発明のいくつかの実施形態では、タンパク質は、膜結合タンパク質、可溶性(例えば、循環)タンパク質、細胞外タンパク質、又は細胞内タンパク質である。
【0147】
いくつかの実施形態では、タンパク質は膜タンパク質又は膜結合性タンパク質である。
【0148】
いくつかの実施形態では、タンパク質は、イオンチャネル、例えば、TRPスーパーファミリーのイオンチャネル(例えば、TRPV1又はTRPV2)である。好ましい実施形態では、タンパク質はTRPV1である。
【0149】
いくつかの実施形態では、タンパク質は興奮性アミノ酸受容体である。そのような実施形態のいくつかでは、タンパク質はNMDA受容体又はGタンパク質である。
【0150】
いくつかの実施形態では、タンパク質は発がん性タンパク質である。そのような実施形態のいくつかでは、タンパク質は、KRAS、NRAS、及びHRASからなる群より選択される発がん性低分子量Gタンパク質である。
【0151】
いくつかの実施形態では、タンパク質は免疫調節タンパク質である。そのような実施形態のいくつかでは、タンパク質は、PD1、PDL1、CD40、OX40、VISTA、LAG-3、TIM-3、GITR、及びCD20からなる群より選択される。
【0152】
いくつかの実施形態において、タンパク質は、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター受容体(u-PAR)でも、トランスグルタミナーゼ3(TGase3)でも、ナイセリア髄膜炎菌タンパク質でも、カンナビノイド受容体(例えば、CB1)でもない。
【0153】
いくつかの実施形態では、タンパク質は真核生物タンパク質である。例えば、いくつかの実施形態では、タンパク質は哺乳類タンパク質、好ましくはヒトタンパク質である。
【0154】
いくつかの実施形態では、タンパク質はヒトプロテオームの任意のタンパク質である。言い換えれば、ヒトタンパク質が好ましい。
【0155】
単一又は複数のプロテアーゼの限定消化プロトコールをその標的に使用することは、ホットスポットエピトープに対する新しい抗体の発見につながることになるであろう。相異なるプロテアーゼはさまざまな切断されたペプチドを生じることになる。ある実施形態では、膜タンパク質は分解され、このひとつひとつのトランケーションの効果は、タンパク質機能に対する効果について探索される。ある種のプロテアーゼでのみ見られる稀なスポットも同定されることになる。次いで同定されたデータは、精選されたバイオインフォマティクスのデータ対して解析され、トランケートされたタンパク質の機能的なアッセイからも解析され、当該タンパク質の機能的に重要である領域を認識することになる。
【0156】
実施形態の態様は、タンパク質の抗原性エピトープを同定する方法に関する。該方法は、タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼに接触させることによってタンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型のタンパク質及び少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成することを含む。別の実施形態では、該方法はまた、タンパク質の少なくとも1つの生物学的機能を試験、確認、又は検証する機能的なアッセイにおいて少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型のタンパク質を探索することを含む。さらに該方法は、少なくとも1つの表面露出ペプチドのなかで、機能的なアッセイに基づいて決定されたタンパク質の生物学的機能の発現に関与するタンパク質の領域にある表面露出ペプチドとしてタンパク質の抗原性エピトープを同定することを含む。
【0157】
ある実施形態では、タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に曝露することは、タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼに、i)選ばれた温度若しくは温度範囲にて、ii)少なくとも1つのプロテアーゼの(タンパク質の濃度に相対的な)選ばれた濃度若しくは濃度範囲で、且つ/又はii)選ばれた時間で接触させることを含む。これにより今度は、少なくとも1つのプロテアーゼがタンパク質の表面露出領域を切断するがタンパク質の柔軟な領域及び/又は内部領域は切断しないことが可能になる。
【0158】
タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼに接触させることによってタンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供することは、タンパク質が穏やかなタンパク質分解に供されることを示唆する。結果として、タンパク質の特に表面に露出されている柔軟性のあるペプチド部分が、少なくとも1つのプロテアーゼの作用によってアミノ酸配列から切断されることになる。タンパク質分解に用いられる温度、濃度、及び/又は時間は典型的に、特定のプロテアーゼ及び今般のタンパク質に依存する。よって実施形態では、タンパク質分解条件の候補のセットが、消化に用いられる好適な温度、プロテアーゼの濃度、及び/又は時間、並びにタンパク質を分解又はトランケートして少なくとも1つの表面露出ペプチドを得るバッファー条件を選択又は特定するために最初に試験される。例えば、タンパク質及びプロテアーゼの今般の組み合わせに最も適切なタンパク質分解条件を特定するために、タンパク質分解は、複数の、すなわち少なくとも2つの異なる反応温度にて、複数の相異なるプロテアーゼ濃度(タンパク質の濃度に相対的な)、及び/又は複数の相異なる反応時間、例えば、
図1で示されるようにさまざまなバッファー条件で行うことができる。
【0159】
好適なプロテアーゼ条件は、例えば、タンパク質を1個又は最大でN個の表面露出ペプチドにする消化、分解、又はトランケーションをもたらす温度、濃度、及び/又は時間である。パラメーターNの典型的な値は7であり、好ましくは、6若しくは5、より好ましくは、4若しくは3、又はさらに好ましくは、2若しくは1である。
【0160】
ある実施形態では、機能的なアッセイは、タンパク質の少なくとも1つの生物学的機能を試験、確認、又は検証する。そのような生物学的機能の非限定的な例としては、タンパク質のリガンド又は受容体などの標的に結合する能力、タンパク質の酵素活性、イオンチャネル活性などが挙げられる。
【0161】
ある実施形態では、タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供することは、タンパク質を複数のプロテアーゼに接触させることによってタンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し複数の消化型、分解型、又はトランケート型のタンパク質及び複数の表面露出ペプチドを形成することを含む。特定の実施形態では、タンパク質は複数のプロテアーゼに連続して、すなわち、次から次へと順々に接触する。別の特定の実施形態では、タンパク質は複数のプロテアーゼに並行して同時に接触する。
【0162】
ある実施形態では、抗原性エピトープを同定することは、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間にその領域がタンパク質から切断又は除去された際にタンパク質の生物学的機能の欠如又は著しい改変をもたらす領域にある少なくとも1つの表面露出ペプチドのなかで表面露出エピトープを同定することを含む。
【0163】
ある実施形態では、該方法はまた、バイオインフォマティクス及び/又はタンパク質の生物学的機能の既知データに基づいてタンパク質内の少なくとも1つの標的領域を選択することを含む。そのような場合では、抗原性エピトープを同定することは、少なくとも1つの標的領域の中でタンパク質の領域にある少なくとも1つの表面露出ペプチドのなかで表面露出ペプチドを同定することを含む。
【0164】
この実施形態では、バイオインフォマティクス及び/又は生物学的機能の他の既知データが抗原性エピトープ選択を導くのに使用される。これは、選ばれた標的領域の1つにある表面露出ペプチドのみが抗原性エピトープを同定又は選択する際に候補として使用されることを意味する。したがって、いずれかの生物学的機能を欠くことが知られている領域及び/又はタンパク質の生物学的機能を発現するのに関与しないことが知られている領域にある表面露出ペプチドを除去又は除外することによって候補の数を減らすことができる。
【0165】
実施形態の別の態様は、タンパク質の抗原性エピトープを同定する上記の方法に従って同定された、抗原性エピトープに関する。
【0166】
1つの実施形態では、本発明は、
LLSQDSVAASTEK(配列番号2)、
LLSQDSVAASTEKTLR(配列番号3)、及び
QFSGSLKPEDAEVFKSPAASGEK(配列番号4)からなる群より選択されるアミノ酸配列又はその配列に実質的に相同な配列を含む(又はから成る)TRPV1の抗原性エピトープを提供する。
【0167】
別の実施形態では、本発明は、
LLSQDSVAASTEKTLRLYDRRS(配列番号5)及び
GRHWKNFALVPLLRE(配列番号6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む(又はから成る)TRPV1の抗原性エピトープを提供する。
【0168】
1つの実施形態では、本発明は、LVENGADVQAAAHGDF(配列番号7)のアミノ酸配列又はそれらに実質的に相同な配列を含む(又はから成る)TRPV1の抗原性エピトープを提供する。
【0169】
別の実施形態では、本発明は、
DGPTGARLLSQ(配列番号8)及び
DAEVFKSPAASGEK(配列番号9)からなる群より選択されるアミノ酸配列、又はその配列に実質的に相同な配列を含む(又はから成る)TRPV1の抗原性エピトープを提供する。
【0170】
別の実施形態では、本発明は、
SQDSVAASTEKTL(配列番号10)及び
SGSLKPEDAEVF(配列番号11)からなる群より選択されるアミノ酸配列又はその配列に実質的に相同な配列を含む(又はから成る)TRPV1の抗原性エピトープを提供する。
【0171】
1つの実施形態では、本発明は、
VSPVITIQRPGD(配列番号12)、
VSPVITIQRPGDGPTGA(配列番号13)、
LNLHDGQNTTIPLLL(配列番号14)、
YTDSYYKGQ(配列番号15)、
SLPSESTSH(配列番号16)、
EDPGNCEGVKR(配列番号17)、
DRQSAQPEEVYLR(配列番号18)、及び
QSAQPEEVYLR(配列番号19)からなる群より選択されたアミノ酸又はそれに実質的に相同な配列を含む(又はから成る)TRPV1の抗原性エピトープを提供する。
【0172】
いくつかの実施形態では、本発明は本明細書の実施例3の表2、表3、表4、表5、及び表6の各表における2番目の見出し項目(二重アスタリスク(**)で印付けされた見出し項目)に提示されているアミノ酸配列を含むTRPV1の抗原性エピトープ又はそれらに実質的に相同な配列を提供する。そのようなペプチドは、より高いタンパク質分解活性(又はより厳しい若しくはより強いタンパク質分解条件)を用いて消化されており、より低いタンパク質分解活性(又は厳しさを抑えた若しくはより弱いタンパク質分解条件)(例えば、1番目の見出し項目(表2、表3、表4、表5、及び表6の各表における単一アスタリスク(*)で印付けされている見出し)に提示されているような、例えば、より短い時間及び/又はより低い濃度)を用いて消化されたペプチドと比べて、一般的には好ましくない。しかし、もしそれらのペプチドが、タンパク質にとって機能的に重要であるか又は機能的に重要であると予測されるなら、特に興味をひくものでありうる。表2、表3、表4、表5、及び表6における2番目の見出し項目(**)に提示されているペプチドは後に遅れて消化されたペプチドとみなされうる。表2、表3、表4、表5、及び表6における1番目の見出し項目(*)に提示されているペプチドは最初に消化されたペプチドとみなされうる。
【0173】
上記TRPV1の抗原性エピトープに関連して、前記実質的に相同な配列は、所与のアミノ酸配列と比較して1個、2個、3個、4個、5個、若しくは6個(好ましくは、1個、2個、若しくは3個)のアミノ酸の置換又は削除を含む配列、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有する配列、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列でありうる。「実質的に相同な」配列の他の例は、表面露出ペプチドに「実質的に相同な」アミノ酸配列と関連して本明細書において別のところで記載されており、それらの「実質的に相同な」配列の例はまた、上述の具体的なペプチド配列にも適用可能である。上述の具体的なペプチド配列は表面露出ペプチド配列である。
【0174】
いくつかの実施形態では、本発明は、伸長型、トランケート型、又は環状型の上述のペプチド配列(又はそれらに実質的に相同な配列)を含む(又はから成る)抗原性エピトープを提供する。伸長型、トランケート型、及び環状型のペプチドは、伸長、トランケート、及び環状表面露出ペプチドに関連して本明細書において別のところで論じられ、その論考は上述のペプチド配列にも適用可能である。上述の具体的なペプチド配列は表面露出ペプチド配列である。
【0175】
1つの実施形態では、本発明は、
FAPQIRVNLNYRKGTG(配列番号20)、
ASQPDPNRFDRDR(配列番号21)、
LNLKDGVNACILPLL(配列番号22)
CTDDYYRGH(配列番号23)、
LVENGANVHARACGRF(配列番号24)、
EDPSGAGVPR(配列番号25)、及び
GASEENYVPVQLLQS(配列番号26)からなる群より選択されたアミノ酸又はそれに実質的に相同な配列を含む(又はから成る)TRPV2の抗原性エピトープを提供する。例示的な実質的に相同な配列は本明細書の別のところで議論されている。
【0176】
実施形態のさらなる態様は、抗体の作製に使用されるように構成された複合体に関する。複合体は、ペプチド担体に結合させるか又はペプチド担体と混ぜられたと定義され、少なくとも1つの抗原性エピトープを含む。
【0177】
よって、1つの態様では、本発明の抗原性エピトープ又は本発明によって同定された(若しくは作製された)抗原性エピトープを含む複合体を本発明は提供する。複合体は、抗原性エピトープ及びいずれの別個のエンティティ(すなわち、抗原性エピトープと異なるいずれのエンティティ)、例えば、標識又はペプチド担体を含みうる。典型的には、複合体は抗原性エピトープ及びペプチド担体を含み、前記抗原性エピトープは前記ペプチド担体に結合させるか、ペプチド担体と混ぜられる。
【0178】
ある実施形態では、ペプチド担体はキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)及びオボアルブミンからなる(又は含んでなる)群より選択される。結合は、例えば、共有結合又はジスルフィド架橋であることができる。1つの実施形態では、キーホールリンペットヘモシアニンが好ましいペプチド担体である。いくつかの実施形態では、抗原性エピトープは、そのN末端又はC末端(好ましくは、N末端)にシステイン残基を備えうる。そのようなシステイン残基は、抗原性エピトープのペプチド担体(例えば、KLH)への結合を容易にしうる。
【0179】
実施形態のさらに別の態様は、タンパク質に特異的に結合する抗体の作製のための抗原性エピトープ及び/又は上記による複合体の使用に関する。
【0180】
実施形態のさらに別の態様は、タンパク質に特異的に結合する抗体を作製する方法に関する。方法は、抗原性エピトープ及び/又は上記による複合体に対する抗体を産生すること、並びにその抗体を単離することを含む。抗体を単離することは、抗体が産生若しくは作製された細胞(例えば、宿主細胞)及び/又は成長培地/上清から抗体を単離することを含みうる。
【0181】
特定の実施形態では、該方法は、タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによってタンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型のタンパク質及び少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成することを含む。また該方法は、タンパク質の少なくとも1つの生物学的機能を試験、確認、又は検証する機能的なアッセイにおいて、少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型のタンパク質を探索することを含む。さらに該方法は、少なくとも1つの表面露出ペプチドのなかで、機能的なアッセイに基づいて決定されたタンパク質の生物学的機能の発現に関与するタンパク質の領域にある表面露出ペプチドとしてタンパク質の抗原性エピトープを同定することを含む。さらに該方法は、その抗原性エピトープに対する抗体を産生すること及びその抗体を単離することを含む。
【0182】
抗原性エピトープに対する抗体を産生することは、本明細書においてすでに記載されているように、ハイブリドーマ技術、ファージディスプレイ技術などを含む当該技術分野において公知である技術に従って行うことができる。
【0183】
実施形態のさらなる態様は、抗原性エピトープ及び/又は上記による複合体に対する抗体に関する。その抗体はそのタンパク質に特異的に結合する。
【0184】
よって1つの態様では、本発明は、本発明の方法によって産生された(又は作製された)抗体を提供する。
【0185】
別の態様では、本発明は本発明の抗原性エピトープに対する抗体を提供する。別の見方では、本発明は本発明の抗原性エピトープに結合する抗体を提供する。別の見方では、本発明は本発明の抗原性エピトープに特異的に結合する抗体を提供する。
【0186】
例として、本発明は、LLSQDSVAASTEKTLRLYDRRS(配列番号5)及びGRHWKNFALVPLLRE(配列番号6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む(又はから成る)抗原性エピトープに対する抗体を提供する。1つの実施形態では、アミノ酸配列LLSQDSVAASTEKTLRLYDRRS(配列番号5)を含む(又はから成る)抗原性エピトープに対する抗体は、TRPV1に対するアンタゴニスト(阻害)抗体であり、好ましくは、実施例の項に記載された抗体OTV1に関する1つ以上の機能的特性を有する。このエピトープはTRPV1のN末端細胞内ドメインに位置するアミノ酸配列にあたる。1つの実施形態では、アミノ酸配列GRHWKNFALVPLLRE(配列番号6)を含む(又はから成る)抗原性エピトープに対する抗体は、TRPV1に対するアゴニスト抗体であり、好ましくは、実施例の項に記載された抗体OTV2に関する1つ以上の機能的特性を有する。このエピトープはTRPV1のC末端細胞内ドメインに位置するアミノ酸配列にあたる。
【0187】
いくつかの実施形態では、抗体は細胞内のTRPV1エピトープ(又はドメイン)に対する場合がある。そのような実施形態のいくつかでは、抗体は細胞内のTRPV1エピトープ(又はドメイン)に対するアンタゴニスト(阻害)抗体でありうる。他のそのような実施形態では、抗体は細胞内のTRPV1エピトープ(又はドメイン)に対するアゴニスト抗体でありうる。
【0188】
ある実施形態では、抗体のタンパク質への結合は、タンパク質の生物学的機能の欠如又は著しい変化をもたらす。
【0189】
よって、抗体は機能性抗体、例えば、アゴニスト抗体又はアンタゴニスト抗体(例えば、TRPV1又はTRPV2に対するアンタゴニスト抗体又はアゴニスト抗体)でありうる。アンタゴニスト抗体は、タンパク質に結合し、タンパク質の機能を阻害するか又は低下させることができる。アゴニスト抗体は、タンパク質に結合し、タンパク質の機能を増強するか又は増加させることができる。TRPV1又はTRPV2(又は他のいずれのイオンチャネル)の場合、関係している機能はイオン輸送活性でありうる。例えば、抗体のカプサイシン又はカルモジュリンとの結合を阻止する(減少させる)又は強化する(増加させる)抗体の能力が評価されうる。そのような能力をもつ抗体は本発明の好ましい実施形態を形成する。
【0190】
実施形態の関連する態様は、上記のような薬剤としての使用に従って、抗体と定義する。
【0191】
抗原性エピトープに対する抗体及び/又は複合体は、実施形態による1つ以上の抗原性エピトープ及び/又は1つ以上の複合体で動物を免疫することによって得られうる。免疫される動物は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ヒト以外の霊長類、ヤギ、ウマ、及び家禽を含む群から選択されうる。
【0192】
実施形態による抗体は、実施形態による1つ以上の抗原性エピトープ及び/又は1つ以上の複合体を用いるインビトロにおける免疫法によっても得られうる。
【0193】
本発明による抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。
【0194】
抗体は、リガンド、Fab(抗原結合性フラグメント)断片、F(ab)'2断片(2つのFabを含有する断片)、ScFv断片(一本鎖可変断片)、二特異性抗体、四特異性抗体などの抗体の1つ以上の断片、又は完全抗体でありうる。
【0195】
本発明の抗体は一般的に、タンパク質の全長型、例えば、(例えば、細胞内又は細胞上の)天然の形態のタンパク質の全長型に対して、結合(例えば、特異的に結合)することができる。
【0196】
いくつかの実施形態では、抗体は、本明細書において別のところに記載されているタンパク質(又はタンパク質の種類)の1つに対する抗体である。
【0197】
抗体及び抗原性エピトープは単離又は精製されてよい。この文脈で使用される「単離された」又は「精製された」という用語は、その自然環境から単離されるか、精製されるか、若しくはその自然環境に関して制約が実質的にない、例えば、(確かにそれらの分子が天然に存在する場合)生物から単離又は精製された場合、そのような分子を指し、又は技術的な方法で作製された場合、そのような分子を指し、つまり、組換え及び合成的に作製された分子を含む。よって、「単離された」又は「精製された」という用語は典型的に、由来する源からの細胞物質又は他のタンパク質を実質的に含まない抗体又は抗原性エピトープを指す。いくつかの実施形態では、そのような単離又は精製された分子は組換え技術で作製される場合には培養培地を実質的に含まず、化学合成される場合には前駆的化学物質又は他の化学物質を実質的に含まない。
【0198】
本発明によって産生された抗体のその標的タンパク質に対する機能的効果は評価されることがあり、当業者なら、例えば、標的タンパク質の性質に基づいて使用する好適なアッセイを容易に決定することができるであろう。例えば、抗体がTRPV1(又は他のいずれのイオンチャネル)に対する抗体である場合、その抗体の機能的効果は、例えば、本明細書において実施例2に記載の電気生理学及び/又はYO-PRO取り込みアッセイを用いて評価しうる。
【0199】
本発明の方法は、多様な下流用途のために単離、作製、又は製造できる抗体を産生するのに使用することができる。よって本発明のさらなる態様は、抗体を作製若しくは製造及び/又は単離する方法を提供する。
【0200】
本発明の方法によって1つ以上の抗体が、産生、作製、選択、同定、単離及び/又は精製されてきた場合、これらの抗体、又はその構成要素、断片、変異体、若しくは誘導体は、所望の場合には、少なくとも1つの薬理学的に許容される担体又は賦形剤と共に製造されうる。製造されたそのような分子、又はその構成要素、断片、変異体、若しくは誘導体もまた本発明によって包含される。代替的に、これらの分子は前記抗体をコードする核酸の形をとってもよく、その核酸は次に適切な発現ベクターに組み込まれてもよく且つ/又は好適な宿主細胞に含まれてもよい。よって、前記抗体をコードする核酸分子又は前記核酸分子を含有する発現ベクターは本発明のさらなる態様を形成する。
【0201】
本発明に即して特定の抗体、又はその構成要素、断片、変異体、若しくは誘導体が産生又は作製されると、抗体をコードする発現ベクターは容易に使用(又は使用に適合)されて、適切な宿主細菌又は系での発現、及び宿主細胞若しくは系、又はその成長培地若しくは上清から抗体を適宜単離することによって充分な量の分子を作製することができる。ポリクローナル抗体については、抗体は免疫した動物の血清から単離又は精製しうる。
【0202】
よって、本発明のさらなる態様は、上記の本発明の方法に従って抗体を産生又は作製するステップ、前記抗体、又はその構成要素、断片、変異体、若しくは誘導体を製造又は作製するステップ、及び前記製造された抗体を少なくとも1つの薬理学的に許容される担体又は賦形剤と任意選択で製剤するステップを含む抗体を作製又は製造する方法を提供する。
【0203】
抗体の前記変異体又は誘導体としては、ペプトイド等価物、非ペプチド性合成骨格をもつ分子、及びポリペプチドが挙げられる。元の同定されたポリペプチドに関連又は由来するポリペプチドにおいて、アミノ酸配列は、例えば、脱グリコシル化又はグリコシル化によって化学的に修飾されたアミノ酸での置換又は付加を、代替的又は付加的には含みうる単一又は複数のアミノ酸置換、付加、及び/又は削除によって改変されている。好都合なことに、そのような誘導体又は変異体は、それらが由来する元のポリペプチドに対して少なくとも60、70、80、90、95、又は99%の配列相同性を有しうる。
【0204】
本発明は抗体の産生に関するので、前記変異体又は誘導体はさらに、抗体分子の1つのフォーマットから別のフォーマットへの変換(例えば、FabからscFvへの変換若しくはその逆の変換、又は本明細書において別のところに記載されている抗体分子のいずれのフォーマットの間での変換、例えば、本明細書において記載されている他のいずれのタイプの抗体断片への変換)、又は抗体分子の特定のクラスへの抗体分子の変換(例えば、特に治療用抗体に適したIgG又はそのサブクラス、例えば、IgG1若しくはIgG3への抗体分子の変換)又はいずれの抗体のヒト化若しくはキメラ型の形成を含む。
【0205】
前記変異体又は誘導体はさらに、例えば、前記抗体の下流用途に有用でありうる、さらなる機能的構成要素を伴う抗体の結合を含む。例えば抗体は、体内の特定の部位に抗体を向かわせる構成要素、又は例えば、イメージング若しくは他の診断用途に有用な検出可能な部分、又は免疫複合体の形で放射性同位体、毒素、又は化学療法剤などのペイロードと結合しうる。
【0206】
明らかに、パートナー分子又は標的エンティティに結合するそのような構成要素、断片、変異体、又は誘導体の主要な要件は、それらが結合能の点で元来の機能活性を保持すること又は機能活性が向上することである。
【0207】
本発明の方法を用いて産生又は作製又は製造された抗体分子は、標的エンティティに特異的な抗体(例えば、特定の抗原に特異的な抗体)が必要とされるいずれの方法にも使用されうる。よって、抗体は分子ツールとして使用でき、本発明のさらなる態様は、本明細書で定義されるそのような抗体を含む試薬を提供する。くわえて、そのような分子は、生体内における治療またはは予防用途、生体内またははインビトロにおける診断若しくはイメージング用途、あるいはインビトロにおけるアッセイに使用することができる。
【0208】
本発明のいくつかの特定の実施形態を以下に記載する。
1.タンパク質に対する抗体を産生する方法であって、
(i)前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープを産生することにより、前記タンパク質の抗原性エピトープを同定すること、及び
(ii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む方法。
【0209】
2.タンパク質に対する抗体を産生する方法であって、
(i)前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供すること、並びに
(ii)前記ペプチドが前記限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に前記タンパク質から切断若しくは除去された際に前記タンパク質の生物学的機能の欠如又は著しい変化をもたらす前記タンパク質中の領域にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、又は
バイオインフォマティクス及び/又は前記タンパク質の生物学的機能の既知データに基づいて前記タンパク質内の少なくとも1つの標的領域を選択し、前記少なくとも1つの標的領域内にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、並びに(iii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む方法。
【0210】
3.前記少なくとも1つのプロテアーゼが、最大で8個又は最大で7個又は最大で5個の表面露出ペプチド、若しくは、最大で8個又は最大で7個又は最大で5個の独特の表面露出ペプチドが、タンパク質分解消化材料の試料中の前記プロテアーゼの作用によって前記タンパク質から切断される結果になる条件下で使用され、任意選択でさまざまな時間及び/又は前記プロテアーゼのさまざまな濃度で複数の試料が任意選択で順次又は並行して同時に採取又は処理される実施形態1又は実施形態2に記載の方法。
【0211】
4.最大で8個又は最大で7個又は最大で5個の表面露出ペプチドが前記プロテアーゼの作用によって前記タンパク質から切断されるという結果になる条件下で、前記少なくとも1つのプロテアーゼが使用される実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
5.前記少なくとも1つのプロテアーゼの動的活性が、試料中で前記表面露出ペプチドが一度に1個又は最大で一度に数個、例えば、一度に最大で8個又は最大で7個、又は最大で5個切断される程度にまで落とされ、任意選択で複数の試料が順次又は並行して同時に採取又は処理される実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0212】
6.前記切断された表面露出ペプチドが前記少なくとも1つのプロテアーゼと接触した後の出現の順に基づいてランク付けされ、最初に切断されるか、又は前記プロテアーゼの最低濃度で切断される前記表面露出ペプチドが高いランクを与えられ、後に遅れて切断されるか、又は前記プロテアーゼの最高濃度で切断される前記表面露出ペプチドが低いランクを与えられ、任意選択で、中間に切断される表面露出ペプチドがその出現の順にランク付けされうる実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法。
7.抗原性エピトープ開発にランクの高い表面露出ペプチドを選ぶこと及び前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む実施形態6の方法。
8.ランクの高い表面露出ペプチドを選ぶこと、前記表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープを構築すること、及び前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む実施形態6の方法。
【0213】
9.ランクの高い表面露出ペプチドを選ぶこと、前記表面露出ペプチドを前記タンパク質の定義されている生物学的特性と互いに関係づけること、前記表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープを構築すること、及び前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む実施形態6の方法。
10.単一のプロテアーゼが、前記タンパク質を消化、分解、及び/又はトランケートするのに使用される実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法。
11.複数のプロテアーゼが、前記タンパク質を消化、分解、及び/又はトランケートするのに使用される実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法。
12.前記複数のプロテアーゼが、1個ずつ順番に使用される、並行して同時に使用される、又は複数のプロテアーゼの単一のカクテル中で使用される実施形態11の方法。
【0214】
13.前記複数のプロテアーゼが、オーバーラップする、補完的な、又は独特の表面露出ペプチドを同定するのに使用される実施形態11又は実施形態12に記載の前記プロテアーゼが、トリプシン、Arg-Cプロテイナーゼ、Asp-Nエンドペプチダーゼ、クロストリパイン、グルタミルエンドペプチダーゼ、Lys-C、Lys-N、キモトリプシン、プロテイナーゼK、テルモリシン、ペプシン、カスパーゼ1、カスパーゼ2、カスパーゼ3、カスパーゼ4、カスパーゼ5、カスパーゼ6、カスパーゼ7、カスパーゼ8、カスパーゼ9、カスパーゼ10、エンテロキナーゼ、第Xa因子、グランザイムB、好中球エラスターゼ、プロリン-エンドペプチダーゼ、ブドウ球菌ペプチダーゼI、及びトロンビンからなる群より選択される実施形態1~13のいずれか1つに記載の方法。
【0215】
15.前記プロテアーゼがトリプシンである実施形態1~14のいずれか1つに記載の方法。
16.前記タンパク質が細胞由来のプロテオリポソームに存在する膜タンパク質である実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
17.前記プロテオリポソームがフローセルに固定されて膜タンパク質の固定相を作る実施形態1~16のいずれか1つに記載の方法。
18.前記タンパク質が、表面に結合しているか、溶液に懸濁されているタンパク質含有脂質小胞にある実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
19.前記タンパク質が、表面に結合しているか、溶液に懸濁されている無傷細胞にある実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0216】
20.前記タンパク質が溶液にある実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
21.前記タンパク質がヒトプロテオームのいずれかのタンパク質である実施形態1~20のいずれか1つに記載の方法。
22.前記タンパク質が、膜結合タンパク質、可溶性タンパク質、細胞外タンパク質、又は細胞内タンパク質である実施形態1~21のいずれか1つに記載の方法。
23.前記タンパク質が、膜タンパク質又は膜結合タンパク質である実施形態1~22のいずれか1つに記載の方法。
【0217】
24.前記タンパク質がTRPスーパーファミリーのイオンチャネルである実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法。
25.前記タンパク質がTRPV1又はTRPV2である実施形態24の方法。
26.前記タンパク質が興奮性アミノ酸受容体である実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法。
27.前記タンパク質がNMDA受容体又はGタンパク質である実施形態26の方法。
28.前記タンパク質が発がん性タンパク質である実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法。
【0218】
29.前記タンパク質が、KRAS、NRAS、及びHRASからなる群より選択される発がん性低分子量GTPアーゼである実施形態28の方法。
30.前記タンパク質が免疫調節タンパク質である実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法。
31.前記タンパク質が、PD1、PDL1、CD40、OX40、VISTA、LAG-3、TIM-3、GITR、及びCD20からなる群より選択される実施形態30の方法。
【0219】
32.前記切断されたペプチドが質量分析を用いて同定される実施形態1~31のいずれか1つに記載の方法。
33.前記切断されたペプチドがLC-MS/MSを用いて同定される実施形態24の方法。
34.前記生物学的機能が、リガンド又は受容体などの標的に結合する前記タンパク質の能力、前記タンパク質の酵素活性、イオンチャネル活性、トランスポーター活性、並びにインスリン放出などの放出及び取り込み機構からなる群より選択される実施形態2~33のいずれか1つに記載の方法。
【0220】
35.抗原性エピトープに対する抗体を産生することが、ハイブリドーマ技術、ファージディスプレイ技術によって、又は動物を前記抗原性エピトープで免疫することによって行われる実施形態1~34のいずれか1つに記載の方法。
36.前記抗体がモノクローナル又はポリクローナルである実施形態1~35のいずれか1つに記載の方法。
37.実施形態1~36のいずれか1つの前記方法によって生成される抗体。
【0221】
38.LLSQDSVAASTEK(配列番号2)、
LLSQDSVAASTEKTLR(配列番号3)、及び
QFSGSLKPEDAEVFKSPAASGEK(配列番号4)からなる群より選択されたアミノ酸配列又はその配列に実質的に相同な配列を含むTRPV1の抗原性エピトープであって、
前記実質的に相同な配列が、所与のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ、または3つのアミノ酸置換又は削除を含む配列、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有する配列、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列である抗原性エピトープ。
【0222】
39.LLSQDSVAASTEKTLRLYDRRS(配列番号5)及び
GRHWKNFALVPLLRE(配列番号6)からなる群より選択されたアミノ酸配列を含むTRPV1の抗原性エピトープ。
40.LVENGADVQAAAHGDF(配列番号7)のアミノ酸配列又はそれに実質的に相同な配列を含むTRPV1の抗原性エピトープであって、
前記実質的に相同な配列が、所与のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ、若しくは3つのアミノ酸置換又は削除を含む配列、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有する配列、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列である抗原性エピトープ。
【0223】
41.DGPTGARLLSQ(配列番号8)及び
DAEVFKSPAASGEK(配列番号9)からなる群より選択されたアミノ酸配列又はその配列に実質的に相同な配列を含むTRPV1の抗原性エピトープであって、
前記実質的に相同な配列が、所与のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ、若しくは3つのアミノ酸置換又は削除を含む配列、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有する配列、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列である抗原性エピトープ。
【0224】
42.SQDSVAASTEKTL(配列番号10)及び
SGSLKPEDAEVF(配列番号11)からなる群より選択されたアミノ酸又はその配列に実質的に相同な配列を含むTRPV1の抗原性エピトープであって、
前記実質的に相同な配列が、所与のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ、若しくは3つのアミノ酸置換又は削除を含む配列、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有する配列、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列である抗原性エピトープ。
【0225】
43.VSPVITIQRPGD(配列番号12)、
VSPVITIQRPGDGPTGA(配列番号13)、
LNLHDGQNTTIPLLL(配列番号14)、
YTDSYYKGQ(配列番号15)、
SLPSESTSH(配列番号16)、
EDPGNCEGVKR(配列番号17)、
DRQSAQPEEVYLR(配列番号18)、及び
QSAQPEEVYLR(配列番号19)、からなる群より選択されたアミノ酸又はそれに実質的に相同な配列を含むTRPV1の抗原性エピトープであって、
前記実質的に相同な配列が、所与のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ、若しくは3つのアミノ酸置換又は削除を含む配列、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有する配列、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列である抗原性エピトープ。
【0226】
44.FAPQIRVNLNYRKGTG(配列番号20)、
ASQPDPNRFDRDR(配列番号21)、
LNLKDGVNACILPLL(配列番号22)、
CTDDYYRGH(配列番号23)、
LVENGANVHARACGRF(配列番号24)、
EDPSGAGVPR(配列番号25)、及び
GASEENYVPVQLLQS(配列番号26)からなる群より選択されたアミノ酸又はそれに実質的に相同な配列を含むTRPV2の抗原性エピトープであって、
前記実質的に相同な配列が、所与のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ、若しくは3つのアミノ酸置換又は削除を含む配列、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有する配列、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列である抗原性エピトープ。
45.実施形態38~44のいずれか1つの抗原性エピトープに対する抗体。
【0227】
上記で概説したように、我々は、速度論的に(kinetically)制御されたタンパク質分解を用いて薬理学的に活性のある抗体を生じる表面露出抗原性エピトープを同定するための方法論を開発した。理想的には、タンパク質分解のステップは非常にゆっくりと行われるので、プロテアーゼはその時点で単一又は少数のペプチドを切り離す。最初に来るペプチドは表面に露出されており、抗体に容易にアクセス可能であり、したがって、一般にはあとに来るペプチドよりも有利である。次いで、これらのペプチドは、キュレートされたバイオインフォマティックデータ及びトランケート型タンパク質に対して行われた機能的なアッセイを用いて、配列に基づく機能的意義について相互相関させることができる。
【0228】
しかし、本発明はまた、エピトープ設計のさらなる最適化及び/又はさらなる(追加の)エピトープの同定を可能にする上記の方法に対して改良が加えられた方法も提供する。そのような改良法を方法A及び方法Bと呼ぶ。
【0229】
本明細書に記載の他の方法に関して、達成されるエピトープの数を最大にするためにこれらの改良法はいくつかのプロテアーゼを並行して利用することができる。5つのプロテアーゼがイオンチャネルTRPV1でテストされており、指定されたプロテアーゼが異なる切断特異性を有し、天然及び最低限消化されたタンパク質からより多くの独自のペプチドを生じる場合、有用なプロテアーゼの範囲を広げることができる。
【0230】
全体として、これらの改良法は抗体開発を向上し、病気と闘うための新規の治療用の薬理学的に活性な抗体を生じるはずである。細胞内及び細胞外の両方で作用する薬理学的に活性な抗体は、本明細書に記載の方法を用いて作り出すことができる。
【0231】
本発明の方法では、新規抗体を発見するための多くの既知の技術とは異なり、一般に機能性ではなく親和性に重点が最初に置かれるところで盲目的に行われるのではなく、最初から特定の部位に結合して任意選択で特定の機能を果たすように抗体を設計でき、良好な結合特性を示す抗体のサブセットはのちに、薬理学的効果及び生物学的効果について試験される。
【0232】
方法A
したがって、1つの態様では、本発明は抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)前記タンパク質が前記1つ以上のプロテアーゼによる限定又は制限的タンパク質分解に曝された後に、1つ以上のプロテアーゼが前記タンパク質を切断した部位を同定すること、及び
(ii)切断部位間にある、切断部位と重なる、又は切断部位に隣接する領域にある前記タンパク質上の複数のエピトープを、前記エピトープに対する抗体で探索し、それによって抗体によって結合されうる1つ以上のエピトープを同定することを含む。
【0233】
いずれの適切なプロテアーゼも使用することができ、そのような方法において使用できる好適なプロテアーゼは本明細書の他の箇所に記載されている。したがって、本明細書の他の箇所に記載のように、単一又は複数のプロテアーゼを使用することができる。複数のプロテアーゼが使用される場合、いくつかの実施形態においてそれらは、本明細書の他の箇所に記載のように並行して使用することができる。限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解もまた本明細書の他の箇所に記載されている。本明細書に記載の限定又は制限的タンパク質分解条件はいずれも、この態様(方法A)に従って使用することができる。
【0234】
上記方法のパート(i)で同定された部位は、切断部位(プロテアーゼが表面露出ペプチドを切断している部位又は切断して切り離すと予測される部位)と呼ばれることがある。1つ以上のプロテアーゼが前記タンパク質を切断した(又は切断するであろう)部位(切断部位)を同定するために、任意の適切な方法/技術を使用することができる。1つの好適な技術は質量分析法である。限定又は制限的タンパク質分解によってタンパク質から放出される(又は切り離される)ペプチド配列の(例えば質量分析法によって同定される)知見は切断部位の情報を与える。これに関連して、遊離したペプチド(切断されたペプチド)の末端の残基は、タンパク質中の(例えば天然又は完全長タンパク質中の)切断部位の情報を与える。
【0235】
誤解を避けるため、上記の方法(方法A)のステップ(ii)における「切断部位」は、工程(i)に従って切断された(又は切り離された)(又はされるであろう)部位に対応する(ステップ(i)で同定された部位に対応する)、タンパク質(例えば、天然タンパク質又は完全長タンパク質又は野生型タンパク質)のアミノ酸配列中の部位(又は位置)と見なすことができる。したがって、方法Aのステップ(ii)は、典型的には、切断部位間にある、切断部位と重なる、又は切断部位に隣接する領域にある天然タンパク質(又は完全長タンパク質又は野生型タンパク質)上の複数のエピトープを前記エピトープに対する抗体で探索し、それによって抗体によって結合されうる1つ以上のエピトープを同定する。
【0236】
誤解を避けるため、「切断部位間」とは、好ましくは、隣接する切断部位の間を意味する。したがって、「切断部位間」とは、好ましくは、タンパク質(例えば、天然タンパク質又は完全長タンパク質又は野生型タンパク質)のアミノ酸配列中の所与の切断部位と次の(又は前の)切断部位との間を意味する。したがって、「切断部位間」とは、一次アミノ酸配列において互いに隣接する切断部位間を意味する。
【0237】
いくつかの実施形態では、本方法は、切断部位間にある、切断部位と重なる、又は切断部位に隣接する領域にある、前記タンパク質上のエピトープ(又は配列)に対応する配列を有する複数(例えば、2個以上、3個以上、5個以上、10個以上、20個以上、50個以上)の単離されたエピトープを生成(又は合成)し、前記単離エピトープに対する(それに結合する)抗体を生成する(産生させる)ステップを(ステップ(ii)より前に)さらに含みうる。次いで、そのような抗体は、切断部位間、切断部位と重なる、又は切断部位に隣接する領域にある前記タンパク質上(例えば、天然又は完全長タンパク質中)の複数のエピトープを探索するための上記方法のステップ(ii)において使用することができる。(例えば本明細書の他の箇所に記載されているように)単離エピトープを生成するための又は抗体を生成するための任意の適切な方法/技術を使用することができ、当業者ならそれらに精通しているであろう。
【0238】
いくつかの実施形態では、エピトープはさまざまな長さ及び/又は配列を有する。したがって、複数の(又は一群の)エピトープ内に、互いに異なる長さ及び/又は配列を有するエピトープが存在しうる。他の実施形態では、エピトープは同じ(又は類似の)長さ及び通常は異なる配列を有する。したがって、いくつかの実施形態では、複数の(又は一群の)エピトープ内で、エピトープは同じ(又は類似の)長さを有する。
【0239】
エピトープは任意の適切な長さであることができる。いくつかの実施形態では、単離エピトープは長さが7~8アミノ酸であるか、本明細書の他の箇所に記載されているような長さを有する。
【0240】
好ましい実施形態では、エピトープは切断部位と重なる(又はそれを含む若しくは囲む)。
【0241】
典型的には、エピトープ(又は任意の所与のエピトープの少なくとも一部)は、切断部位の50個のアミノ酸の範囲内、すなわち切断部位に対して+50から-50のアミノ酸にあることになる。好ましくは、エピトープ(又は任意の所与のエピトープの少なくとも一部)は、切断部位の20個のアミノ酸の範囲内、すなわち切断部位に対して+20から-20のアミノ酸にあることになり、切断部位の10個のアミノ酸の範囲内、すなわち切断部位に対して+10から-10のアミノ酸にあることになり、切断部位の5個のアミノ酸の範囲内、すなわち切断部位に対して+5から-5のアミノ酸にあることになる。
【0242】
いくつかの実施形態では、複数のエピトープは、エピトープのセット(又は一群)であり、そのセット内の各エピトープの配列は、そのセット内の別のエピトープから1個又は数個(例えば1個、2個、又は3個)のアミノ酸、好ましくは1個のアミノ酸だけオフセットしている。言い換えれば、いくつかの実施形態では、エピトープのセット(複数のエピトープ)では、各エピトープ配列は、そのセットの別のエピトープ配列に対して、1個又は数個の(例えば、1個、2個、又は3個)のアミノ酸、好ましくは1個のアミノ酸だけシフトされている。したがって、複数のエピトープは、例えば
図16dに示されるように入れ子になったエピトープのセットでありうる。典型的には、そのような入れ子になったエピトープのセットは、切断部位に対して(又はそれを囲む)いずれかの方向(又は両方向)でタンパク質配列の最大で約50個のアミノ酸を含むことになる。好ましくは、そのような入れ子になったエピトープのセットは、切断部位に対して(又はそれを囲む)いずれかの方向(又は両方向)でタンパク質配列の最大で約20個又は10個又は5個のアミノ酸を含むことになる。
【0243】
入れ子になったエピトープのセットが使用される場合、好ましい実施形態では、かなりの数のエピトープが切断部位を含み、好ましくは入れ子になったセットの実質的にすべてのエピトープが切断部位を含み、より好ましくは入れ子になったセットのすべてのエピトープが切断部位を含むことになる。
【0244】
いくつかの実施形態では、限定又は制限的タンパク質分解を積極的に実行するステップが行われる。他の実施形態では、限定又は制限的タンパク質分解を実行する積極的なステップは行われず、むしろ1つ以上のプロテアーゼが前記タンパク質を切断した部位の同定は、以前に行われた限定又は制限的タンパク質分解実験からのデータ(例えばアーカイブデータ、例えば以前の限定又は制限的タンパク質分解実験のタンパク質から遊離した遊離したペプチドの配列を含む質量分析データ)に基づいて行われる。限定又は制限的タンパク質分解を実行するための好ましく且つ好適な方法は、やはり本明細書の他の箇所に記載されている。
【0245】
複数のエピトープをプローブするとは、タンパク質(例えば天然又は完全長タンパク質)上の複数(例えば、2個以上、3個以上、5個以上、10個以上、20個以上、50個以上、又は2個以上であるが最大で4個、5個、10個、20個、又は50個まで)のエピトープ(又は潜在的なエピトープ)が、タンパク質上のそのエピトープ(又は潜在的なエピトープ)に対応する単離されたエピトープに対して生成された(又はそれに結合する)抗体によって結合されるそれらの能力に関して分析(又は評価)されることを意味する。
【0246】
上記のように、切断部位間にある、切断部位と重なる、又は切断部位に隣接する領域にあるタンパク質上の複数のエピトープを探索することは、前記エピトープに対する抗体を用いて行うことができる(すなわち、その抗体はプローブとして機能する)。実際には、抗体(例えばFab断片又は他の抗体断片)を用いた探索が好ましい。しかし代替的に、他の結合エンティティをプローブとして使用してもよい(例えば、他のアフィニティープローブを使用してもよい)。アフィボディ(Affibodies)は、使用されうるアフィニティープローブの一例である。
【0247】
好ましいタンパク質は本明細書の他の箇所に記載されている。
【0248】
1つの態様では、本発明は、上記のように抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定する方法(方法A)によって同定されるエピトープ(又は抗原性エピトープ)を提供する。1つの態様では、本発明は、タンパク質上のそのようなエピトープに結合する抗体を提供する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の切断部位の近傍、例えば切断部位の5個、10個、20個、又は50個のアミノ酸の範囲内に結合する抗体が好ましい。当業者は、所与のエピトープに対する抗体を生成するための方法又は技術に精通しており、(例えば、本明細書の他の箇所に記載されるように)任意の適切な方法を使用することができる。好ましいタイプの抗体も本明細書の他の箇所に記載されている。
【0249】
いくつかの実施形態では、方法(方法A)は、方法Aによって同定された(ステップ(ii)で同定された)エピトープに対する(又は結合する)抗体を生成する(又は産生させる又は作製する)ステップをさらに含んでなる。任意選択で、抗体を少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に製剤化するさらなるステップを行ってもよい。
【0250】
したがって、1つの態様では、本発明は、方法Aによって同定された(ステップ(ii)で同定された)エピトープに結合する抗体を作製又は製造する方法を提供する。任意選択で、前記作製又は製造された抗体を少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に製剤化するさらなるステップを行ってもよい。抗体を作製又は製造する方法は本明細書の他の箇所に記載されており、必要な変更を加えて本発明のこの態様に適用される。
【0251】
1つの態様では、本発明は、ペプチド担体と結合させた又は混合した、方法Aによって同定された少なくとも1つのエピトープを含む複合体を提供する。複合体は本明細書の他の箇所に記載されており、その考察は必要な変更を加えて本発明のこの態様に適用される。
【0252】
方法Aによって同定されたエピトープに結合する抗体(又は方法Aによって同定されたエピトープ又はそのようなエピトープを含む複合体)は、治療に使用することができる。
【0253】
タンパク質上の複数のエピトープを標的とする抗体(例えば、1つ以上の抗体、又は抗体の一団若しくは一連の抗体、又は多数の抗体)は、例えば、タンパク質に対するそれらの結合親和力又は(例えば、本明細書の他の箇所に記載されているような)他の機能的効果を評価するために、タンパク質に結合するそれらの能力について試験することができる。したがって、抗体をスクリーニングして最良の結合剤を同定することができる。したがって、特に有用なエピトープ(例えば、抗体によって標的とされるもの)を同定でき、例えば、そのエピトープは、高親和性抗体によって標的化されるのに特に適しているか、又はその標的化が標的タンパク質に対して有意な又は測定可能な機能的効果(例えば、アンタゴニスト効果若しくはアゴニスト効果)をもたらす。したがって、(例えば抗体による標的化のため、例えば治療用途のための)最適なエピトープを同定することができる。したがって、別の見方をすると、本発明は、エピトープ設計を最適化する、又は(例えば、それに対して産生又はそれを標的とする抗体のための)最適なエピトープを選択するための方法を提供する。その方法は、切断部位に対するエピトープの最適な長さ及び位置の決定を可能にしうる。
【0254】
抗体結合のためのアクセス可能な領域を検証するためのツールとして限定タンパク質分解を用いる場合、タンパク質からのペプチドの遊離、すなわち、プロテアーゼが、例えば質量分析による検出に適切なサイズの配列を囲む2つのアクセス可能な部位で切断することに依存する。そのような実験から得られる情報は、消化されてペプチドの遊離を引き起こした2つの切断部位のアクセス性の検証である。しかし、切断部位を囲むアクセス可能領域のサイズ及び位置は未知である場合がある。方法Aは抗体(又は他の結合タンパク質)を使用して切断部位を囲む領域のアクセス性を検証する。例えば、切断部位を囲むエピトープを標的とする抗体を開発し、続いてそれらの結合アフィニティー及び/又は機能を試験することによって、切断部位に対する最適なエピトープの長さ及び位置を決定しうる。この方法は、切断部位に対して異なる長さ及び異なる配列位置のエピトープを標的とする、抗体(2個以上)の一団又は多数の抗体の開発を含みうる。典型的には、各エピトープは互いに対して1個のアミノ酸だけシフトしており、切断部位の周囲の-20~+20のアミノ酸を含むであろう。アクセス可能な切断部位を、限定タンパク質分解を用いて実験的に検証するのに異なるプロテアーゼを並行して使用することができる。異なるプロテアーゼは、切断部位への結合及び消化を可能にするために、より大きい又はより小さいアクセス可能領域を必要としうるので、最適なエピトープ設計は、異なるプロテアーゼで検証された切断部位によって異なる可能性がある。したがって、最適なエピトープ設計は、上記の方法論(方法A)によってそれぞれ検証された切断部位を探索することによって、各タイプのプロテアーゼについて決定することができる。
【0255】
本明細書に記載の他の方法の好ましい特徴は、必要な変更を加えて本発明のこの態様(方法A)に適用することができる。
【0256】
上記のように、いくつかの遊離しないペプチドがあるために、以前の方法では以前の方法ではいくつかの潜在的なAb結合部位を見逃す可能性があるので、我々はさらなる改良法を開発した。これは、例えば、プロテアーゼがある特定のアミノ酸配列を囲む2つの切断部位のうちの1つのみを切断する場合に起こりうる。下記の改良法(方法B)では、インシリコにおいてFab-プロテアーゼホモロジー結合とマルチプロテアーゼ消化データセットの両方に基づいた新しい検索アルゴリズムを開発することによって、独自且つ新規の抗体結合部位を見つけることができ、くわえて天然及び部分消化タンパク質の新しい構造データを生み出す。したがって、この技術は(上記の方法Aと共に)、タンパク質の構造及び機能を探索するための包括的なツールを提供することができる。
【0257】
方法B
別の態様では、本発明は、抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)インシリコにおいて、1つ以上のプロテアーゼを用いて前記タンパク質のプロテアーゼ消化を行い、前記1つ以上のプロテアーゼによって切断されると予測される前記タンパク質上の部位を同定すること、任意選択でタンパク質ホモロジーモデリングを行って、インシリコにおけるプロテアーゼ切断予測部位のうち、どの部位が露出される可能性が高いかを予測すること、及び/又はインシリコにおいて任意選択で抗体断片若しくはプロテアーゼのドッキングを行って、インビトロにおいてどの切断部位が切断される可能性が高いかを予測すること、
(ii)1つ以上のプロテアーゼを用いてインビトロにおいて前記タンパク質のプロテアーゼ消化を行うこと、
(iii)ステップ(ii)のインビトロにおけるプロテアーゼ消化によって前記タンパク質から遊離したペプチドを同定し、それによって切断部位を同定すること、
(iv)ステップ(i)で同定されたインシリコにおける切断予測部位を、ステップ(iii)で同定された切断部位と比較すること
(v)ステップ(i)で同定されたインシリコにおいて予測したプロテアーゼ切断部位であるが、ステップ(iii)で同定された切断部位ではない切断部位を含むか、又はそれに隣接するタンパク質の領域の1つ以上のエピトープを、1つ以上の抗体を用いて探索すること、並びに
(vi)前記1つ以上の抗体が前記1つ以上のエピトープに結合するか否かを明らかにし、それによって抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定することを含む。
【0258】
インシリコにおけるプロテアーゼ消化のステップは上記の方法(方法B)で行われる。しかし、代替的に、タンパク質のプロテアーゼ消化を予測するためのその他の方法又は技術を使用してもよい。例えば、タンパク質のアミノ酸配列を目でチェックし、切断予測部位(すなわち、プロテアーゼによって切断されると予測される部位)を、所与のプロテアーゼの特異性及び規則の知識に基づいて同定できる可能性がある。所与のプロテアーゼの特異性及び規則の知識に基づいて、タンパク質のプロテアーゼ消化を予測するためのいずれの方法又は技術も使用することができる。したがって、本方法のいくつかの実施形態では、コンピュータに基づく方法が好ましいが、コンピュータに基づく予測は必須ではない。
【0259】
任意の適切なプロテアーゼが使用でき、好適なプロテアーゼは本明細書の他の箇所に記載されている。したがって、本明細書の他の箇所に記載されているように、単一又は複数のプロテアーゼを使用することができる。
【0260】
本方法は任意選択でモデリング(例えばインシリコにおけるモデリング)、例えばタンパク質ホモロジーモデリングなどのタンパク質モデリングを行って、インシリコにおけるプロテアーゼ切断予測部位のうち、どの部位が露出(例えば溶媒露出又は表面露出)される可能性が高いかを予測することを含む。
【0261】
本方法は任意選択で、インシリコにおける抗体断片(例えばFab断片若しくは本明細書の他の箇所に記載の他の抗体断片)のドッキング(又は結合)、もしくはインシリコにおけるプロテアーゼの切断予測を行って、インビトロにおいてどの切断部位が切断される可能性が高いかを予測することを含む。当業者ならば、インシリコにおけるそのようなドッキング分析又はモデリングを容易に実行することができるであろう。
【0262】
モデリング(例えばホモロジーモデリング)は、任意の好適な手段、例えば、MOEソフトウェア(Molecular Operating Environment (MOE) 2015. 10. Chemical Computing Group Inc., 1010 Sherbrooke St. West, Suite #910, Montreal, QC, Canada, H3A 2R7. 2016)のホモロジーモデリングエンジンを使用して行うことができる。
【0263】
MOEソフトウェアなどのソフトウェアを使用して、タンパク質モデルを構築及びモデル化し、且つ/又はタンパク質-タンパク質ドッキングモデリング(インシリコにおけるドッキング)を行うことができる。このソフトウェアは、タンパク質-タンパク質結合配置の予測を可能にし、ドッキングしたタンパク質構造を作製することができる。したがって、抗体(又は抗体断片)とドッキング(若しくはそれに結合)したタンパク質のモデル又はプロテアーゼとドッキング(若しくはそれに結合)したタンパク質のモデルを作製することができる。
【0264】
好ましい実施形態では、インビトロにおいて、1つ以上のプロテアーゼによるタンパク質のプロテアーゼ消化は限定又は制限的タンパク質分解である。限定又は制限的タンパク質分解は本明細書の他の箇所に記載されている。
【0265】
複数のプロテアーゼが使用される場合、プロテアーゼは別々に(例えば並行して)使用されることが好ましい。
【0266】
上記方法(方法B)のステップのインビトロにおけるプロテアーゼ消化によって前記タンパク質から遊離したペプチド(ペプチド配列)を同定することは、任意の適切な方法又は技術によって、例えば質量分析法(例えばLC-MS/MS)によって行われうる。前記タンパク質から遊離したペプチド(ペプチド配列)を同定すると、限定又は制限的タンパク質分解によってタンパク質から遊離したペプチド配列の(例えば質量分析法によって同定される)知見は切断部位の情報を与えるので、1つ以上のプロテアーゼが前記タンパク質を切断した部位(切断部位)は容易に同定される。これに関連して、遊離したペプチド(切断されたペプチド)の末端の残基は、タンパク質中の(例えば天然又は完全長タンパク質中の)切断部位の情報を与える。
【0267】
方法Bのステップ(v)は、ステップ(i)で同定されたインシリコにおいて予測されたプロテアーゼ切断部位であるが、ステップ(iii)で同定された切断部位ではない切断部位を含むか、又はそれに隣接するタンパク質の領域にある1つ以上のエピトープを、1つ以上の抗体を用いて探索すること指す。本明細書の他の箇所から明らかであるように、且つ誤解を避けるため、切断部位(1つ以上のエピトープが重なる又は隣接する)は、ステップ(i)で切断されると予測される(同定される)が、ステップ(iii)では同定されない部位に対応する、タンパク質(例えば、天然タンパク質又は全長タンパク質又は野生型タンパク質)のアミノ酸配列中の部位(又は位置)として考えることができる。
【0268】
1つ以上(例えば複数)のエピトープを探索することは、タンパク質(例えば天然又は完全長タンパク質)上の1つ以上のエピトープ(又は潜在的なエピトープ)が、タンパク質上のそのエピトープ(又は潜在的なエピトープ)に対応する単離されたエピトープに対して生成された(又はそれに結合する)抗体によって結合されるそれらの能力に関して分析(又は評価)されることを意味する。好ましい実施形態では、複数(又は一連)のエピトープが探索される。
【0269】
したがって、方法Bのステップ(v)は、典型的には、ステップ(i)で同定されたインシリコにおける予測プロテアーゼ切断部位であるが、ステップ(iii)で同定された切断部位ではない切断部位を含むか、又はそれに隣接する天然(又は完全長又は野生型)タンパク質の領域の1つ以上のエピトープを、1つ以上の抗体を用いて探索することを含む。別の見方をすると、方法Bのステップ(v)は、典型的には、ステップ(i)で同定されたインシリコにおける予測プロテアーゼ切断部位であるが、ステップ(iii)で同定された切断部位ではない切断部位を含むか、又はそれに隣接する前記タンパク質の領域の天然(又は完全長又は野生型)タンパク質を、1つ以上の抗体を用いて探索することを含む。
【0270】
いくつかの実施形態では、本方法は、切断部位(ステップ(i)で同定されたインシリコにおいて予測されたプロテアーゼ切断部位であるが、ステップ(iii)で同定された切断部位ではない切断部位)を含むか、又はそれに隣接するタンパク質の領域にある前記タンパク質上の1つ以上のエピトープ(又は配列)に対応する配列を有する1つ以上(例えば、複数、例えば、2個以上、3個以上、5個以上、10個以上、20個以上、50個以上、例えば、最大で3個、最大で4個、最大で5個、最大で10個、最大で20個、又は最大で50個)の単離されたエピトープを生成(又は合成)し、前記単離されたエピトープに対する(結合する)抗体(例えばポリクローナル抗体)を生成する(産生させる)ステップを(ステップ(v)より前に)さらに含みうる。好ましい実施形態では、複数(又は一連の)のエピトープが生成され、複数(又は一連)の抗体が生成される。次いで、そのような抗体は、前記タンパク質上の(例えば天然又は完全長タンパク質中の)1つ以上のエピトープを探索するための上記方法のステップ(v)で使用されうる。単離されたエピトープを生成するための又は抗体を生成するための(例えば本明細書の他の箇所に記載されているような)任意の適切な方法又は技術も使用することができ、当業者ならばこれらに精通しているであろう。
【0271】
いくつかの実施形態では、エピトープはさまざまな長さ及び/又は配列を有する。したがって、複数の(又は一群の)エピトープ内に、互いに異なる長さ及び/又は配列を有するエピトープが存在しうる。他の実施形態では、エピトープは同じ(又は類似の)長さ及び通常は異なる配列を有する。したがって、いくつかの実施形態では、複数の(又は一群の)エピトープ内で、エピトープは同じ(又は類似の)長さを有する。
【0272】
エピトープは任意の適切な長さであることができる。いくつかの実施形態では、単離エピトープは長さが7~8アミノ酸であるか、本明細書の他の箇所に記載されているような長さを有する。
【0273】
好ましい実施形態では、エピトープは切断部位を含む(又はそれと重なる又はそれを囲む)。
【0274】
典型的には、エピトープ(又は任意の所与のエピトープの少なくとも一部)は、切断部位(ステップ(i)で同定されたインシリコにおいて予測されたプロテアーゼ切断部位であるが、ステップ(iii)で同定された切断部位ではない切断部位)の50個のアミノ酸の範囲内、すなわち切断部位に対して+50から-50のアミノ酸にあることになる。好ましくは、エピトープ(又は任意の所与のエピトープの少なくとも一部)は、切断部位(ステップ(i)で同定されたインシリコにおいて予測されたプロテアーゼ切断部位であるが、ステップ(iii)で同定された切断部位ではない切断部位)の20個のアミノ酸の範囲内、すなわちその切断部位に対して+20から-20のアミノ酸、又は切断部位の10個のアミノ酸の範囲内、すなわちその切断部位に対して+10から-10のアミノ酸、又は切断部位の5個のアミノ酸の範囲内、すなわちその切断部位に対して+5から-5のアミノ酸にことになる。
【0275】
いくつかの実施形態では、複数のエピトープはエピトープのセット(又は一群)のであり、そのセット内の各エピトープの配列は、そのセット内の別のエピトープから1個又は数個(例えば1個、2個、又は3個)のアミノ酸、好ましくは1個のアミノ酸だけオフセットしている。言い換えれば、いくつかの実施形態では、エピトープのセット(複数のエピトープ)では、各エピトープ配列は、そのセットの別のエピトープ配列に対して、1個又は数個の(例えば、1個、2個、又は3個)のアミノ酸、好ましくは1個のアミノ酸だけシフトされている。したがって、複数のエピトープは、例えば
図16dに示されるように入れ子になったセットのエピトープでありうる。典型的には、そのような入れ子になったセットのエピトープは、切断部位(ステップ(i)で同定されたインシリコ予測プロテアーゼ切断部位であるが、ステップ(iii)で同定された切断部位ではない切断部位)に対して(又はそれを囲む)いずれかの方向(又は両方向)でタンパク質配列の最大で約50個のアミノ酸を含むことになる。好ましくは、そのような入れ子になったセットのエピトープは、切断部位(ステップ(i)で同定されたインシリコにおいて予測されたプロテアーゼ切断部位であるが、ステップ(iii)で同定された切断部位ではない切断部位)に対して(又はそれを囲む)いずれかの方向(又は両方向)でタンパク質配列の最大で約20個のアミノ酸を含むことになる。いくつかの実施形態では、そのような入れ子になったセットのエピトープは、切断部位(ステップ(i)で同定されたインシリコにおいて予測されたプロテアーゼ切断部位であるが、ステップ(iii)で同定された切断部位ではない切断部位)に対して(又はそれを囲む)いずれかの方向(又は両方向、好ましくは両方向)でタンパク質配列の最大で約6アミノ酸を含むことになる。
【0276】
入れ子になったセットのエピトープが使用される場合、好ましい実施形態では、相当数のエピトープが切断部位を含み、好ましくは入れ子になったセットの実質的にすべてのエピトープが切断部位を含み、より好ましくは入れ子になったセットのすべてのエピトープが切断部位を含むことになる。
【0277】
上記のように、切断部位間にある、切断部位と重なる、又は切断部位に隣接する領域にあるタンパク質上の複数のエピトープを探索することは、前記エピトープに対する抗体を用いて行うことができる(すなわち、その抗体はプローブとして機能する)。実際には、抗体(例えばFab断片又は他の抗体断片)を用いた探索が好ましい。しかし代替的に、他の結合エンティティをプローブとして使用してもよい(例えば、他のアフィニティープローブを使用してもよい)。アフィボディは、使用されうるアフィニティープローブの一例である。
【0278】
好ましいタンパク質は本明細書の他の箇所に記載されている。
【0279】
別の態様では、方法Bのステップ(ii)においてインビトロプロテアーゼ消化を積極的に行う代替法として、タンパク質消化の積極的なステップ(インビトロステップ)は行われず、むしろタンパク質から遊離したペプチドの同定、したがって工程(iii)における切断部位の同定は、以前に行われたタンパク質分解実験からのデータ(例えばアーカイブデータ、例えば以前のタンパク質分解実験のタンパク質から遊離したペプチドの配列を含む質量分析データ)に基づいて行われる。しかし、好ましい方法では、限定又は制限的タンパク質分解を積極的に実行するステップが行われる。
【0280】
1つの態様では、本発明は、上記のように抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定する方法(方法B)によって同定されるエピトープ(又は抗原性エピトープ)、例えば単離されたエピトープを提供する。1つの態様では、本発明は、タンパク質上のそのようなエピトープに結合する抗体を提供する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の切断部位の近傍、例えば切断部位の5個、10個、20個、又は50個のアミノ酸の範囲内に結合する抗体が好ましい。当業者は、エピトープ(例えば、単離されたエピトープ)及び所与のエピトープに対する抗体を生成するための方法又は技術に精通しており、(例えば、本明細書の他の箇所に記載されるように)任意の適切な方法を使用することができる。好ましいタイプの抗体も本明細書の他の箇所に記載されている。
【0281】
1つの態様では、本発明は、インシリコにおいて予測されたプロテアーゼ切断部位であるが、インビトロにおけるタンパク質分解(例えば限定又は制限的タンパク質分解)で同定された切断部位ではない切断部位を含むか、又は隣接する(好ましくは含む)タンパク質上のエピトープに結合する抗体を提供する。
【0282】
タンパク質上のエピトープ(好ましくは複数のエピトープ)を標的とする抗体(例えば、抗体の一団若しくは一連の抗体、又は多数の抗体)は、例えば、タンパク質に対するそれらの結合親和力又は(例えば、本明細書の他の箇所に記載されているような)他の機能的効果を評価するために、タンパク質に結合するそれらの能力について試験することができる。したがって、抗体をスクリーニングして最良の結合剤を同定することができる。したがって、特に有用なエピトープ(例えば、抗体によって標的とされるもの)を同定でき、例えば、そのエピトープは、高親和性抗体によって標的化されるのに特に適しているか、又はその標的化が標的タンパク質に対して有意な又は測定可能な機能的効果(例えば、アンタゴニスト効果若しくはアゴニスト効果)をもたらす。したがって、(例えば抗体による標的化のための)最適なエピトープを同定することができる。したがって、別の見方をすると、本発明は、エピトープ設計を最適化する、又は(例えば、それに対して産生又はそれを標的とする抗体のための)最適なエピトープを選択するための方法を提供する。その方法は、切断部位に対するエピトープの最適な長さ及び位置の決定を可能にしうる。
【0283】
いくつかの実施形態では、本方法(方法B)は、方法Bによって同定された(工程(vi)で同定された)エピトープに対する(又は結合する)抗体を生成する(又は産生させる又は作製する)ステップをさらに含む。任意選択で、抗体を少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に製剤化するさらなるステップを行ってもよい。
【0284】
したがって、1つの態様では、本発明は、方法Bによって同定された(ステップ(vi)で同定された)エピトープに結合する抗体を作製又は製造する方法を提供する。任意選択で、前記作製又は製造された抗体を少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に製剤化するさらなるステップを行ってもよい。抗体を作製又は製造する方法は本明細書の他の箇所に記載されており、必要な変更を加えて本発明のこの態様に適用される。
【0285】
1つの態様では、本発明は、ペプチド担体と結合させた又は混合した、方法Bによって同定された少なくとも1つのエピトープを含む複合体を提供する。複合体は本明細書の他の箇所に記載されており、その考察は必要な変更を加えて本発明のこの態様に適用される。
【0286】
方法Bによって同定されたエピトープに結合する抗体(又は方法Bによって同定されたエピトープ又はそのようなエピトープを含む複合体)は、治療に使用することができる。
【0287】
方法Bは、プロテアーゼがアクセス可能で/切断するが、遊離しないエピトープをタンパク質の表面で同定するために行うことができる。その方法は、タンパク質表面のプロテアーゼ切断部位を予測するために、インシリコにおいてプロテアーゼ消化及びホモロジーモデリング(例えば、標的タンパク質へのFab-プロテアーゼホモロジー結合)に基づく検索アルゴリズムをすることができる。その方法は、任意選択でいくつかのプロテアーゼを(例えば並行して)使用してインビトロプロテアーゼ消化を用いる。その方法は、消化にマイクロ流体プラットフォームを使用することができる。質量分析法(MS)、好ましくはLS-MS/MSを、標的タンパク質からプロテアーゼによって遊離したペプチドを同定するのに使用することができる。実験的に決定された切断部位は、例えばMSにより得られたペプチドマップから解明される。インシリコにおけるタンパク質表面の切断予測部位は、実験的に観察された切断部位と比較することができる。インシリコにおいて実験的に観察されない切断予測部位は、切断部位を包含する配列(例えば、切断部位の周囲の-20~+20のアミノ酸)に対する抗体を用いて探索することができる。抗体は、結合強度(例えばアフィニティー)及び/又は活性(例えば、標的タンパク質に対するアンタゴニスト作用又はアゴニスト作用)によってランク付けすることができる。抗体は、天然タンパク質及び消化されたタンパク質に対する結合について試験することができる。切断部位への抗体の結合が天然タンパク質及び消化されたタンパク質の両方について達成される場合、プロテアーゼはそこで切断しないと結論付けることができる。代わりに、抗体が天然タンパク質に結合するが消化されたタンパク質には結合しない場合、その部位はインビトロにおいて実際にプロテアーゼによって消化されたが、ペプチドの遊離を検出できなかったと結論付けることができる。これは、抗体が切断時に当該配列に結合できないことを前提としている。
【0288】
本方法の目的は、抗体結合部位を同定すること、且つ/又はプロテアーゼがアクセス可能で/切断されるが、遊離しないエピトープを同定するために使用される抗体であって、新規の手順及びアルゴリズムを用いてタンパク質構造を解明することである。その方法は、インシリコにおける消化及び任意選択でタンパク質構造のモデリング、並びに/又は標的タンパク質への抗体断片(例えばFab断片)及び/又はプロテアーゼの模擬ドッキングに基づく。マイクロ流体プロテアーゼ消化(例えば、本明細書の他の箇所に記載されているように並行して使用される複数のプロテアーゼ)をMS-MS検出を伴って使用することができる。この手順は、独自で且つ新規の抗体結合部位の発見を可能にし、天然のタンパク質及び部分的に消化されたタンパク質についての新しい構造データを生み出すことができる。
【0289】
質量分析法を用いるタンパク質分解の評価は、タンパク質からのペプチドの遊離、すなわち、プロテアーゼが質量分析による検出に適切なサイズの配列を囲む2つの部位で切断することに依存する。しかし、タンパク質の目的の領域にはこれらの基準を満たさないものがいくつかありうる。プロテアーゼは1つ部位のみを切断し、切れ込みを作り出すだけでペプチドを遊離しないことがある。ペプチドの遊離には2回の切断が必要である。ペプチドは遊離しないので、結合事象又はタンパク質分解活性のMSに基づいた証拠が得られない。1回の切断は検出されないまま残る。検出されない他の理由としては、ペプチド上のグリコシル化、又はペプチドがイオン結合若しくは共有結合によってタンパク質に結合したままであることが挙げられうる。この問題を回避する1つの方法は、そのような切断部位が存在する配列に対する抗体を作り出すことである。抗体Fab領域とプロテアーゼの間の非常に類似した大きさ(
図1)を考慮すると、プロテアーゼは抗体結合部位について表面を探索するのに有用であり、逆もまた同様である。。
【0290】
抗体結合が天然タンパク質の部位について確認される場合、サイズの類似性に基づいて、プロテアーゼもそこに結合するはずであることを我々は知ることになる。消化されたタンパク質に対して同じ抗体結合試験を行う場合、タンパク質分解後の部位への結合の欠如は、抗体が認識する特異的エピトープがプロテアーゼによって破壊されたため、標的配列が実際に切断されたことを示すことになる。
【0291】
ワークフローは、示現せずに(silent)検出されない切断部位を同定するためのものであり、
図16に概要を示す。
【0292】
我々は、インシリコにおけるタンパク質配列の消化において1つ以上の異なるプロテアーゼを用いる。これは、プロテアーゼの特異性及び規則、例えば、トリプシンがアルギニン又はリジンのC末端位置でのみ切断することを考慮に入れる。消化に関する規則及び例外は、ほとんどのプロテアーゼについて与えられており、例えば、Peptidecutter(Expasy、SIB Swiss Institute of Bioinformatics)を参照されたい。したがって、Peptidecutterなどのコンピュータプログラムを、インシリコにおけるプロテアーゼ消化を行うために使用することができる。任意選択で、モデリング(例えばタンパク質ホモロジーモデリング)を使用して、どの切断部位が溶媒に曝される可能性が高いかを推定し、このステップを、インシリコにおける抗体断片(例えばFab断片)のドッキング又は表面に沿ったプロテアーゼと組み合わせることによって、インビトロにおいてどの切断部位が消化される可能性が高いかを予測することができる(
図16a)。ホモロジーモデルは、MOEソフトウェア(Molecular Operating Environment (MOE) 2015. 10. Chemical Computing Group Inc., 1010 Sherbrooke St. West, Suite #910, Montreal, QC, Canada, H3A 2R7. 2016)の非常に柔軟でわかりやすい相同性モデリングエンジンを使用して生成することができる。例えば、ラットTRPV1(欠失変異体、PDBエントリー3J5P29及び5IRZ30)の低温EM構造を用いて、ヒトTRPV1のホモロジーモデルを構築することができる。これらの構造に基づいて、我々はMOEを使用してヒトTRPV1相同モデルを方法の開発用に構築した。
【0293】
プロテアーゼ消化部位、例えば、表面プロテアーゼ消化部位の予測に続いて、インビトロにおけるタンパク質分解実験が行われる。膜結合タンパク質については、天然タンパク質を含んだプロテオリポソームをマイクロ流体フローセル(LPI、Nanoxis Consulting AB)内で消化することができる。フローセル技術は、限定タンパク質分解などの柔軟な化学的性質(flexible chemistry)を、固定相に含まれる膜タンパク質に対して行うことを可能にし(Jansson ET, Trkulja CL, Olofsson J, et al. Microfluidic flow cell for sequential digestion of immobilized proteoliposomes. Anal Chem. 2012;84(13):5582-5588)、溶液と例えば酵素によるさまざまなタイプの化学的調節との一連の過程に数回(several rounds)供することができる。細胞膜は裏返しにすることができ、膜貫通タンパク質の細胞内ドメインと細胞外ドメインの両方を直接調べることができる。可溶性タンパク質は、標準的な溶液中(in-solution)手法を用いて限定タンパク質分解に供することができる。
【0294】
できるだけ多くの配列を網羅するために、さまざまな特異性をもつ複数のプロテアーゼを並行反応で使用することができる。既に確立された限定条件、例えば2~5μg/mLの範囲のプロテアーゼ濃度及び5分間の消化は、タンパク質分解をタンパク質表面に限定するために使用されうる(
図16b)。他の限定条件(限定又は制限的タンパク質分解条件)は本明細書の他の箇所で論じられており、これらのいずれもこの態様(方法B)に従って使用することができる。遊離したペプチドは、好ましくは高分解能質量分析計(例えば、Q Exactive、Thermo Fisher)及びMascotペプチド/タンパク質同定を使用することによって、質量分析(例えば、LC-MS/MS)で同定することができる。手元にペプチドマップがあれば、我々はどの切断部位がプロテアーゼによって物理的にアクセス可能であるかを決定することができる。
【0295】
プロテアーゼがアクセス可能で/切断されるが、遊離しない部位を特定するために、我々は実験的に確認された切断部位を予測部位のリストと比較し、MSデータから欠けている予測部位を選択する(
図16c)。ポリクローナル抗体(pAb)を作製するために、これらの部位を含む、好ましくは長さが7~8アミノ酸のペプチド配列を合成して用いることができる。その長さを選択する理由は、標的配列を最小にすることによってpAbの多クローン性(polyclonality)を最小限にするが、その配列が免疫原性に乏しくなるほど短くないことである。
【0296】
単一アミノ酸フレームシフトを使用して、切断部位のそれぞれの側の設定距離内にこの長さの直鎖配列を選択することができる(例えば6アミノ酸)。次いで、これらを用いて、一連の配列標的pAbを作製でき、続いて天然の完全な(intact)タンパク質への結合について、例えばELISAを用いてスクリーニングすることができる。
【0297】
確認された結合事象は、その部位が抗体によってアクセス可能であり、それ自体プロテアーゼによってもアクセス可能であるはずであり、且つ逆もまた同様であることを意味する。またこれは、プロテアーゼがその部位で切断されるはずであるが、ペプチドは遊離しないことを示唆する。検証は、消化されたタンパク質に同じ一連の抗体を使用することによって達成でき、切断部位への結合の減少が、タンパク質分解が起こったことを裏付ける(
図16e)。これは、抗体は壊れた配列に結合しないと仮定しているが、一般に抗体はエピトープとして使用されるアミノ酸立体配置に対して非常に特異的である。
【0298】
本方法論は、プロテアーゼ切断を決定するためだけでなく、局所ドメイン構造のトランケーション又は切除及び喪失を検出するためのツールとしても使用される可能性を有する。例えば、遊離した配列がMS検出には短すぎるか又は長すぎるという理由からトランケーションが質量分析を用いて評価できないとき、またペプチドがグリコシル化を含むか、又は1つ以上のイオン結合若しくは共有結合によってタンパク質に結合したままである場合に、トランケーションの検証は有用であることになる。我々はペプチドの切り出しとTRPV1の機能的なアッセイとを相互に関連付けた。さらに、リガンド結合又はタンパク質-タンパク質相互作用によって引き起こされる局所構造の変化はこれらの抗体を用いて探索されうる。この方法によって生成された抗体はまた、治療に使用するための配列標的機能的抗体として使用することもできる。
【0299】
誤解を避けるため、本発明の方法において検索アルゴリズムを使用することは必須ではないが、そのようなアルゴリズムが使用される場合がある。例えば、インシリコにおいて1つ以上データセット(例えば、インシリコにおけるプロテアーゼ消化データ及び/若しくはタンパク質ホモロジーモデリングデータ及び/若しくはコンピューターモデルに含まれる(若しくはそれよって予測される)タンパク質構造及び機能データ)、1つ以上のFab-プロテアーゼホモロジー結合データセット(例えばインシリコにおけるタンパク質-タンパク質ドッキングによって生成されたもの)、1つ以上の他のインシリコにおけるタンパク質-タンパク質ドッキングモデル(タンパク質-抗体ドッキングモデル、タンパク質-抗体断片ドッキングモデル、及び/若しくはタンパク質-プロテアーゼドッキングモデルなど)、並びに/又は1つ以上のプロテアーゼ消化(例えばマルチプロテアーゼ消化)データセット(例えば質量分析データ)を分析(又は処理)するアルゴリズムを使用することができる。抗体によって機能的にアクセス可能であり、且つタンパク質機能に関して機能的に関連性があるタンパク質構造の領域(例えば、その領域における摂動(perturbation)がタンパク質の機能を変えることになる)を見つける(又は予測する)ために、検索アルゴリズムは1つ以上のさまざまなデータセットからの入力を組み合わせて処理することができる。
【0300】
本明細書に記載の他の方法の好ましい特徴は、必要な変更を加えて本発明のこの態様(方法B)に適用することができる。
【0301】
複数のプロテアーゼが使用される実施形態では、適切な例は本明細書の他の箇所に記載されている。いくつかの実施形態では、好ましいプロテアーゼは、トリプシン、Asp-N、キモトリプシン、ペプシン、プロテイナーゼK、Lys-C、Arg-C、クロストリパイン、グルタミルエンドペプチダーゼ、Lys-N、及びテルモリシンからなる(又はそれらを含んでなる)群より選択される1つ以上のものである。
【0302】
本発明の他の特徴及び利点は下記の例から明らかである。提供された例は本発明を実行するのに有用なさまざまな構成要素及び方法論を説明する。それらの例は特許請求された発明を限定しない。本開示に基づいて、当業者は本発明を実行するのに有用な他の構成要素及び方法論を特定して採用することができる。
【実施例0303】
実施例1
この実施例では、我々が提案した発明及び包含する方法に基づいて、ヒトTRPV1イオンチャネルの細胞内側に作用するポリクローナル抗体OTV1の作用の発見及び開発に成功した方法を記載する。抗体は薬理学的に活性があり、作動剤カプサイシンで刺激された際にタンパク質に対する強い阻害作用を示す。我々の知る限りでは、TRPV1の細胞内ドメインを標的にする阻害抗体の最初の発見である。このことから、コンセプトが高い確率で実際に使えることや、仮により豊富な複数のプロテアーゼデータセットに由来するエピトープの出発マトリックスが利用可能であれば、より良好で且つ最適化された抗体が同定されうることが証明される。限定タンパク質分解及びバイオインフォマティクス分析の多くのヒットから抗体が選択された。抗体は最初に選択され、それは有効性の強力な証拠を示した。これは、薬理学的に活性のある抗体によって標的にできる独特のエピトープを直接もたらし、スクリーニングステップが必要ないので、著しい進歩であり、現在の抗体を同定する試みを補完する。
【0304】
標的エピトープ領域は、LPIマイクロフルイディクスプラットフォームの最適化プロトコールを用いて標的タンパク質の限定消化に基づいて選び、さらに最適化した。標的ペプチドエピトープをシステイン残基で修飾し、それをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に結合することによってポリクローナル抗体を産生した。特異的抗体の作製は、特異的なペプチドと結合したKLHの注射を受けて特定の病原体が存在しない(SPF)ウサギを免疫することによって行った。抗体を精製し、標準プロトコールに従ってELISAテストに供した。線状エピトープに対する抗体価をELISAで行い、0.25μg/mlの濃度という結果になった。天然TRPV1に対する抗体の有効性は、TRPV1の細胞内側を抗体溶液に供することができるインサイド-アウトパッチクランプで調べた。パッチクランプ記録用マイクロフルイディクス装置(Dynaflow、Cellectricon AB、ヨーテボリ、スウェーデン)を用いてインサイド-アウト記録を行った。電流振幅は、いくつかのイオンチャネルを含有するパッチを抗体有り無し両方でカプサイシンに供することによって測定した。対照は1μMのカプサイシンに30秒間供した後、バッファーに70秒間、続いて再度1μMカプサイシンに30秒間供した。抗体で処理したパッチは、1μMカプサイシンに30秒間供した後、0.14mg/ml抗体に70秒間、続いて0.14mg/ml抗体と共に1μMカプサイシンに30秒間供した。すべての測定について、脱感作又は増強のいかなる影響も除外するために、抗体有りの活性をバッファーのみに供した後の活性と比較した。電流時間積分面積を計算し、第2及び第1の電流に関する積分面積の比を計算し、処理間で比較した。抗体で処理した細胞に関して、バッファーのみ処理と比較して電流応答の50%減少が見られた(
図3)。統計的有意性はスチューデントのt検定(p>0.05)を用いて計算した。
【0305】
実施例2
治療用モノクローナル抗体市場は急速に成長しており、2020年には約1250億米ドルの価値になると予想されている。新規モノクローナル抗体が次々と当局の承認を得て、PD1阻害剤などの免疫に基づいたモノクローナル抗体はある特定のタイプの難治転移がんの転帰を大きく改善するので、現在それらがかなり話題になっている。しかし、治療目的の新規抗体の発見は主にスクリーニングに依存し、手さぐりで行われている。アフィニティーに着目し、良好な結合特性を示す抗体のサブセットについての生物学的効果をさらに調べる。結合相互作用、抗原決定基、及び作用機序の詳細はわかっていない。
【0306】
マイクロフルイディクス法及び質量分析を用いる限定タンパク質分解のキネティックチャレンジ(kinetic challenge)に基づいて抗原エピトープを選択する方法を我々は提示する。タンパク質分解ステップは、プロテアーゼへ供した後、抗原がその時点で1個又は数個のペプチドを分離させる程度に十分ゆっくりと行う。最初に生じるペプチドは、容易にポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体にアクセス可能あり、したがって、より到達し難いと思われるタンパク質の領域に存在する、あとで遅れて生じるペプチドより好ましい。次いで、これらのペプチドをランク付けし、精選されたバイオインフォマティクスデータを用いて配列に基づいた機能的意義に対して相互に関連付けする。標的タンパク質から短時間で離れ、且つ機能的意義を有し、高いランクを付けられたペプチドが、エピトープ開発、免疫、及びそれに続く抗体産生に使用される。また、トランケートされたタンパク質は薬理学的試験に使用することができる。この方法は、配列に基づいた情報に依存し、抗体発見の薬理学的な作用機序に基づいた方法であり、細胞内標的、循環標的、及び細胞外標的のどれにも使用することができる。我々はこの方法を用いて2つ抗体、カルモジュリン結合配列に対応し活性化するもの、及びヒトTRPV1イオンチャネルの細胞内領域のN末端のカプサイシン結合部位に対応し阻害するものを開発してきた。
【0307】
治療用抗体を開発する際に2つの重要なパラメーターは、結合アフィニティー及び生物学的効率である。抗体は約150kDaの大きなタンパク質であり、タンパク質表面にある抗原性部位に主に結合する。天然タンパク質構造の表面の近くのアミノ酸の位置が、それらの部位の特定及び予測を導くことができる。我々はタンパク質の表面露出及び柔軟性を探索するのに限定タンパク質分解を使用した。限定タンパク質分解は、プロテアーゼの活性を温度、濃度、及び/又は消化時間を制御することによって限定する方法である。局所的に折り畳み構造をほどき、プロテアーゼを収容できる柔軟な領域、表面露出領域、並びに水素結合及びジスルフィド架橋などの局所的な相互作用がほとんどない領域のみが、そのような条件下で消化されることになる。構造に関する情報の取得を最大にするために、我々は数種のプロテアーゼを並行して使用した。数種のプロテアーゼによって簡単に消化される領域は、タンパク質の最も露出され、最もアクセス可能な領域に位置するはずであり、その後の抗体開発に適合性が高いはずである。単一のプロテアーゼによってのみ消化される領域はタンパク質の隠れた領域に位置し、アクセスしにくい可能性が高い。それら領域に達して消化できるプロテアーゼの生理化学的特性は、そのような場合における抗体開発を導く可能性がありうる。我々は、どのパラメーターがタンパク質分解を限定するのに用いられたかに応じた、消化されやすさに基づいて、消化されたペプチドをランク付けした。それは、タンパク質が消化された時点、どの濃度又は温度が使用されたかでありうる。次いで、タンパク質の最もアクセス可能な領域に由来するそれらのペプチドを見出すために、各プロテアーゼから消化されたペプチドを関連付けした。
【0308】
従来の抗体開発の間では、生物学的効率は一般的に明確な結合が抗体と抗原との間で確認された後に調べられる。抗体開発は、可能性のある抗原決定部位をすべて標的する抗体を作り出すよりもむしろ、生物学的活性部位中又はその近くのアクセス可能部位に免疫を集中させることによる早期機序主導の(early mechanistic driven)アプローチのほうに利点があることになると我々は考える。このアプローチは、スクリーニング手順及び生物学的活性部位から離れた領域に高い結合アフィニティーを有する抗体を最適化するリスクを最小限にする。我々は標的タンパク質にとって機能的重要性も有するアクセス可能なエピトープを見つけることを望んだ。それは、タンパク質分解からのランク付けされたペプチドをバイオインフォマティクスデータと比較することによってなされた。
【0309】
我々はヒトTRPV1イオンチャネルをモデルタンパク質として用いて機構主導アプローチを示した。TRPV1は低pH、高温(T>42℃)、カプサイシン、及びいくつかの炎症性メディエーターなどの侵害刺激に感受性が高いイオンチャネルである。TRPV1イオンチャネルは主に末梢神経系の侵害受容ニューロンに位置し、四量体のコンフォメーションに配置される。その4つの単量体の各々は、6回膜貫通領域から成り、そのN末端及びC末端の両方が細胞膜の細胞内側に向いている。ポア領域は5番目と6番目の膜貫通領域に含まれる。TRPV1の細胞内部分は熱活性化、感作、及び脱感作に重要な多くの調節領域を保持する。
【0310】
エピトープ産生
TRPV1を含むプロテオリポソームをCHO細胞から得て、トリプシン及びAsp-Nを別々に用いてLPIフローセル内でタンパク質分解に供した。プロテアーゼの活性は室温及び低濃度を使って数個のペプチドのみが消化される程度に制限した。次いで、消化したペプチドを液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析法(LC-MS/MS)とで検出した。3個のペプチドがトリプシンでのタンパク質分解後に検出され、1個のペプチドがAsp-Nでのタンパク質分解後に検出された。それらのペプチドを既知の機能データに比較して、表1に挙げたようにいくつかのペプチドを機能的に重要な領域と関連付けた。2個のペプチド、aa96~117及びaa785~799をさらなる抗体開発に選び、それぞれOTV1及びOTV2と名付けた。TRPV1構造内でのエピトープを可視化したものを
図4及び5に見ることができる。OTV1のペプチド配列は、カプサイシン又はプロトンでの活性化に重要であることが示されているarg115(rTRPV1についてはarg114)を含む。両プロテアーゼはともにこのアミノ酸に近い領域を消化し、タンパク質三次構造の露出領域である可能性が上がった。OTV2のペプチド配列はカルモジュリン結合部位aa786~aa798(rTRPV1についてaa785~aa797)を含み、トリプシンによってのみ消化された。TRPV1の部分には、Asp及びCysのN末端側を切断するAsp-Nの消化部位はない。aa96~117とaa785~799の合成ペプチドをリンペットヘモシニアン(KLH)に結合して、KLH結合ペプチドの注射を受けたウサギの免疫によってポリクローナル抗体を作製するのにさらに使用した。作製した抗体は凍結したとき及び溶液中で時間とともに凝集する傾向を示す。結果として、新たに融かした抗体は使用前にチップ超音波処理し、すべての実験はチップ超音波処理から30分以内に行った。
【0311】
表1-Asp-N及びトリプシンで消化されたペプチド、及びそれらの生物学的関連性
【0312】
【0313】
免疫細胞化学
TRPV1発現CHO細胞内の抗体分布を可視化するために免疫細胞化学を行った(
図6)。未誘発細胞を非特異的結合の対照とした。細胞を固定し、OTV1又はOTV2のいずれかで染色し、続いてヤギ抗ウサギAlexa488二次抗体で染色した。細胞膜の明らかな染色は誘導細胞のみ見られ、OTV1及びOTV2の両方で観察された。二次抗体の非特異的結合は無視できる程度であった(データ示さず)。
【0314】
電気生理学
カプサイシン誘導TRPV1活性に対するOTV1の機能的効果及びカルモジュリン/Ca
2+依存脱感作に対するOTV2の効果をインサイド-アウトパッチクランプ記録を用いて評価した。いくつかのイオンチャネルを含む膜パッチをCHO細胞から切り取り、抗体がTRPV1の細胞内領域に露出するのを可能にした。OTV1については、TRPV1をカプサイシンで活性化して、次いでOTV1で処理し、続いてOTV1の存在下においてカプサイシンで活性化した。対照はカプサイシンで活性化して、バッファーで処理し、再びカプサイシンで活性化した。OTV1での処理をバッファーのみでの処理と比較すると、カプサイシン媒介電流の50%の減少が見られた(
図7)。カルモジュリン/Ca
2+依存脱感作を妨げるその能力についてOTV2を調べた。TRPV1をカプサイシンで活性化して、次いでカルモジュリン、Ca
2+、及びOTV2で処理し、続いてカルモジュリン、Ca
2+、及びOTV2の存在下においてカプサイシンで活性化した。対照はカプサイシンで活性化し、カルモジュリン及びCa
2+で処理し、カルモジュリン及びCa
2+の存在下においてカプサイシンで活性化した。カルモジュリンはカルシウムの存在下でTRPV1を脱感作する。OTV2での処理はこの効果を45%減少させた(
図7)。
【0315】
TRPV1媒介YO-PRO取り込みアッセイ
全細胞内の抗体の有効性を、エレクトロポレーションを送達法として用いた後、TRPV1媒介YO-PRO取り込みをレーザー走査共焦点顕微鏡法で測定して調べた。OTV1、OTV2、又はバッファーのいずれかの存在下でネオントランスフェクションシステム(ライフテクノロジーズ)を用いて細胞をエレクトロポレーションした。OTV1又はバッファーでエレクトロポレーションした細胞を、カルシウムキレート剤を含有するリン酸緩衝生理食塩水中のカプサイシン及びYO-PROに供した。それに続いてTRPV1媒介YO-PRO取り込みに起因した細胞内の蛍光の増加をモニターした。OTV1で処理した細胞の取り込み率において60%の減少が活性化の最初の12秒間観察できた。最も高い取り込み率は、対照の8秒後に対してOTV1で処理した細胞では20秒後に見られた(
図8)。OTV2又はバッファーでエレクトロポレーションした細胞を、カルシウムを含有リン酸緩衝生理食塩水中のカプサイシン及びYO-PROに供し、加えたカルシウムによって誘発された内在性カルモジュリンを通して脱感作をした。取り込み率において80%の増加がOTV2で処理した細胞の活性化の15秒後に観察できた。免疫細胞化学を用いてエレクトロポレーションでの抗体のインターナリゼーションを確認した(
図9)。
【0316】
我々は、標的タンパク質の機能的に重要な領域の中及び/又は近くの、露出されてアクセス可能な抗原決定部位の位置を特定する抗体産生のためのマイクロフルイディクス法を開発した。アクセス可能な領域はLPIフローセル内の速度論的に制限されたタンパク質分解を用いて精査される。例えば、補因子が存在することを許容することによってその環境の複雑さが注意深く調節される間に標的タンパク質はその天然の状態で保たれる。これにより、精製タンパク質を用いる結合アッセイと比較して、抗原決定部位へのアクセスしやすさがより良好なものとなる。本方法は、別な方法では界面活性剤なしで精製して結合アッセイに使用するのが難しい膜貫通標的に良好に適している。この方法を用いて細胞内ドメイン及び細胞外ドメインの両方を標的にすることができる。
【0317】
抗原決定部位の位置及びその生物学的機能に関する知見は、他のタンパク質との非特異的結合及び交差反応性の予測及び評価に非常に重要である。交差反応性を最小限にするために、非常によく保存された領域にあるエピトープは潜在的なエピトープ候補の分析から除外されうる。
【0318】
本明細書で開発された抗体は、全タンパク質での免疫から生じてはいないが、ポリクローナルである。我々の方法は、ハイブリドーマ及びそれに続くスクリーニング手順を用いるモノクローナル抗体の作製のための従来のプロトコールに匹敵する。最初のステップとして、ポリクローナル抗体を使用していくつかの有望なエピトープ候補から生物学的効率を実験的に検証した後に、最良のエピトープ/エピトープ(複数)を用いてモノクローナル抗体を作製し、そして高い結合アフィニティーによってスクリーニング手順が続くことで、両方の良いところを合わせている。
【0319】
抗体インターナリゼーションの検証
エレクトロポレーションを用いた抗体のインターナリゼーションは、エレクトロポレーションの24時間後に免疫細胞化学で検証した。リン酸緩衝生理食塩水中で0.14mg/ml OTV1又は0.27mg/ml OTV2の存在下で細胞をエレクトロポレーションした。次いでエレクトロポレーションした細胞をガラス底ディッシュ(Willco Wells)で24時間培養した。2つの異なる対照を作製した。1つのセットはエレクトロポレーションせず、それ以外は同様に処理して同じ抗体溶液に供した。もう1つのセットはOTV1及びOTV2に供さなかった。後者は二次抗体の非特異的結合を定量するために使用した。24時間培養後、細胞を注意深くリン酸緩衝生理食塩水で洗い、固定の間に細胞に入りうる残存抗体を除去した。次いで細胞を固定し、Image-iT(登録商標)固定/透過処理キット(インビトロジェン)を用いて透過処理した。固定し、透過処理した細胞をヤギ抗ウサギAlexa488二次抗体(インビトロジェン)と室温で30分間インキュベーションした。最終の洗浄ステップの後に細胞を可視化し、蛍光強度をエレクトロポレーションした細胞、エレクトロポレーションしなかった細胞、及び二次抗体にのみに供した細胞、で比較した(
図9)。強度値の明らかな違いがエレクトロポレーションした細胞とエレクトロポレーションしなかった細胞との間で見られた。統計解析はスチューデントのt検定を用いて行い、p<0.05を統計的に有意であるとした。低いレベルの一次抗体がエレクトロポレーションしなかった細胞で見られ、恐らく固定及び透過処理中に入った残存抗体である可能性が高い。
【0320】
我々は本明細書において、マイクロフルイディクスと限定タンパク質分解とを組み合わせて活用することによって、アフィニティーが高く、生物学的に活性のある抗体を産生する方法を提示した。ヒトTRPV1イオンチャネルを用いてその方法を実証し、2つの抗体を開発した。両抗体はそれぞれのエピトープの領域の機能的重要性に基づき、TRPV1応答において予測された変化を引き起こした。
【0321】
材料と方法試薬
細胞培養培地(グルタミンを含むDMEM/Ham's F12)、ウシ胎仔血清、及びアクターゼはPAAから購入した。ゼオシン、Na4BAPTA、K4BAPTA、及びヤギ抗ウサギAlexa488二次抗体はインビトロジェンから購入した。シークエンシンググレード修飾化トリプシン及びシークエンシンググレードAsp-Nはプロメガから購入した。他の化学薬品はすべてシグマから購入した。次のバッファーを使用した。A:300mM NaCl、10mMトリス、pH8.0、B:20mM NH4HCO3、pH8.0、C:140mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl2、10mM
HEPES、10mM D-ブドウ糖、10mM Na4BAPTA pH7.4、D:140mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na2HPO4、10mMK4BAPTA pH7.2、E:140mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na2HPO4、pH7.2、F:140mM NaCl、2.7mM KCl、10mM
Na2HPO4、pH7.4、G:120mM KCl、2mM MgCl2、10mM
HEPES、10mM K4BAPTA pH8.0
【0322】
細胞培養
テトラサイクリン制御発現系(T-REx)をもつ付着性チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、10%ウシ胎仔血清、ゼオシン(350μg/ml)とブラストサイジン(5μg/ml)とを補充した培地(グルタミンを含むDMEM/F12)中にてガラススライド有り無し両方で、培養フラスコ又は培養ディッシュ(Nunc)で培養した。使用前18~24時間、ヒトTRPV1の発現を誘導するために、細胞を10%ウシ胎仔血清とドキシサイクリン(1μg/ml)を加えた培地(グルタミンを含むDMEM/F12)で培養した。細胞株は常にマイコプラズマ感染の検査をした。
【0323】
プロテオリポソーム調製
プロテオリポソームは既に参考文献[1]に記載されている通りにバッファーA中で調製した。各プロテオリポソーム調製物はいくつかの相異なる培養フラスコに由来した。
【0324】
消化プロトコール
フローセル内での単一消化は参考文献[1]に記載の通りに行った。5μg/mlトリプシン及び5μg/ml Asp-NをそれぞれバッファーG及びBに溶かした。各プロテアーゼでのフローセル内消化を室温で5分間行った。ギ酸を最終濃度で12%加えることによって溶離液中でのさらなる消化を阻害した。
【0325】
液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析
CHO-プロテオリポソームの消化由来のペプチド試料は、ヨーテボリ大学にあるプロテオミクスコア施設(ヨーテボリ、スウェーデン)で、参考文献[1]に記載の方法で分析した。すべてのタンデムマススペクトルはUniProtKBを参照したMASCOT(マトリックスサイエンス、ロンドン、英国)で検索した。UniProtKBの参照については、トリプシンでの消化は、リリース2013_04(ヒト、[ホモサピエンス])、Asp-Nでの消化は、リリース2015_06(ヒト、[ホモサピエンス])とした。ペプチドとタンパク質の同定に基づいてMS/MSを確認するためにThermo Proteome Discovererバージョン1.3(サーモサイエンティフィック)を使用した。ペプチドレベルで0.01の誤発見率を使用し、リバースドデータベース(reversed database)を検索することによって決定した。
【0326】
抗体開発
hTRPV1のアミノ酸配列を参照してaa96~117及びaa785~799の合成ペプチドを、N末端側の追加のシステイン残基を含めて合成し精製した。次いで、ペプチドをシステイン残基によってキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に結合させた後、KLH結合ペプチドの注入に伴い、特定の病原体が存在しない(SPF)ウサギを免疫することによってポリクローナル抗体を産生した。抗体を精製し、ELISAテストに供した。両合成ペプチド及びポリクローナル抗体の産生はInnovagen AB(ルンド、スウェーデン)によって行われた。
【0327】
抗体は、チップ超音波処理から30分以内の新しい抗体を使用した。抗体はSonics & Materials Inc.(ニュータウン、コネチカット州、アメリカ合衆国)のVibra Cell VCX600を用いて14%振幅で1分の休止を間に挟んで3回超音波処理した。総超音波処理時間は40秒で、パルス時間は0.5秒で、プローブによる加熱を減らすために休止時間は0.5秒であった。
【0328】
電気生理学
インサイド-アウト記録は、パッチクランプ記録用マイクロフルイディクス装置(Dynaflow、Cellectricon AB、ヨーテボリ、スウェーデン)をHEKA EPC10(Heka Elektronik、ドイツ)パッチクランプアンプと共に用いて行った。槽及びピペット溶液はバッファーCを含んでいた。パッチを+60mVに保ち、電流シグナルを20kHzのサンプリング周波数及び5kHzのローパスフィルターで記録した。
【0329】
OTV1については、いくつかのイオンチャネルを含まれるパッチを、抗体有り無しの両方でカプサイシンに供することによって電流振幅を測定した。対照はバッファーD中の1μMカプサイシンに30秒間供した後、バッファーDに70秒間、次いでバッファーD中の1μMカプサイシンに30秒供した。OTV1で処理したパッチはバッファーD中の1μMカプサイシンに30秒間供した後、バッファーD中の0.14mg/ml抗体に70秒間、続いてバッファーD中の0.14mg/ml抗体と共に1μMカプサイシンに30秒間供した。OTV2については、抗体とカルモジュリン/Ca2+の有り無し両方でパッチをカプサイシンに供することによって電流振幅を測定した。対照はバッファーE中の1μMカプサイシンに30秒間供した後、バッファーE中の0.5μMカルモジュリン及び50μM Ca2+に70秒間、続いて再びバッファーE中の1μMカプサイシンに30秒間供した。抗体で処理したパッチはバッファーE中の1μMカプサイシンに30秒間供した後、バッファーE中の0.14mg/ml抗体、0.5μMカルモジュリン、及び50μM Ca2+に70秒間、次いでバッファーE中の0.14mg/ml抗体、0.5μMカルモジュリン、及び50μM Ca2+と共に1μMカプサイシンに30秒間供した。処理後にシール抵抗(seal resistance)の大きなシフトがある測定はさらなる分析から除外した。
【0330】
データ解析電気生理学
測定すべてに関して、反復する活性化に起因する脱感作又は増強のいかなる影響も排除するために、抗体処理の活性をバッファーのみに供した後の活性と比較した。電流トレースを含むデータに関して、Fitmaster(HEKA Elektronik、ドイツ)及びMatlab(Mathworks、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)を用いて、OTV1については添加と除去との間、及びOTV2については完全活性化(10秒後)と除去との間の電流-時間積分面積をカプサイシンでの活性化について各々計算した。第2及び第1の電流の積分面積の比を計算し、処理間で比較した。OTV2に関して、効果が時間依存的に減少したので、データ点を2つのカテゴリー(チップ超音波処理の<15分及びチップ超音波処理後の<30分)にグループ分けした。
【0331】
統計解析は、一元配置分散分析と、適用対象となる場合はダネットの事後検定とスチューデントのt検定とを併用して行う。p<0.05を統計的に有意とみなした。データは平均値±SEMとして提示されている。
【0332】
エレクトロポレーション
細胞基質の抗体送達はネオントランスフェクションシステム(ライフテクノロジーズ)を用いて行った。アクターゼを用いて付着性CHO細胞を剥離し、バッファーFで洗浄した。105個の細胞をペレット化し、バッファーF、バッファーF中の0.14mg/ml OTV1、又はバッファーF中の0.27mg/ml OTV2のいずれかに再懸濁した。ネオンピペットチップを用いて10μlの細胞/抗体懸濁液を移し、そのシステムのピペットステーションでエレクトロポレーションに供した。細胞を1550Vに10ミリ秒間、3回のパルスに曝露する抗体送達用に最適化されたプロトコール[5]を使用した。エレクトロポレーションした細胞をガラス底ディッシュ(Willco Wells)に移した。
【0333】
イメージング
免疫細胞化学による抗体局在及びTRPV1媒介YO-PRO取り込みは蛍光顕微鏡写真から関心領域(ROI)測定を用いて測定した。顕微鏡写真は、ThorImageLSソフトウェアに記録するGalvo:Resonantスキャナー及び高感度GaAsP PMTを備えたThorlabs CLSシステム(Thorlabs Inc.、ニュージャージー州、アメリカ合衆国)を用いて形成した。スキャナーユニットを油浸オイル63×A 1.47 ライカHCX PL APO対物レンズをつけたライカDMIRB顕微鏡に取り付けた。蛍光検出は、Coherent Sapphire 488 LPレーザー(Coherent Inc.、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を用いて488nmで励起して単一細胞から測定した。発光は500~550nmで集めた。ROIデータはImage J及びMatlab(Mathworks、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)を用いて解析した。
【0334】
免疫細胞化学
細胞をガラス底ディッシュ(Willco Wells)で培養し、いくつかのディッシュではTRPV1発現を使用の18~24時間前に誘導した。TRPV1を発現する細胞の入ったディッシュ及び誘導しなかった細胞の入ったディッシュはともに、Image-iT(登録商標)固定/透過処理キット(インビトロジェン)を用いてバッファーFで洗浄、固定、及び透過処理した。固定及び透過処理した細胞をバッファーF中の25μg/ml抗体に37℃で30分間供し、次いでバッファーFで洗浄した後、ヤギ抗ウサギAlexa488二次抗体と室温で30分間インキュベーションした。最後の洗浄ステップの後に細胞を可視化し、抗体分布を誘導した細胞と誘導しなかった細胞との間で比較した。
【0335】
TRPV1媒介YO-PRO取り込み
10μlのエレクトロポレーションした細胞の入ったガラス底ディッシュを顕微鏡にセットした。記録は0.5Hzのレートで初期化した。OTV1については、バッファーF中にカプサイシン、YO-PRO、及びK4BAPTAを含む20μlの液滴を、剥離を最小限にするために注意深くピペットを用いて、エレクトロポレーションした細胞の上に移した。最終濃度がカプサイシンは1μM、YO-PROは1μM、及びK4BAPTAは10mMとなった。OTV2については、バッファーF中にカプサイシン、YO-PRO、及びCa2+を含む20μlの液滴を、エレクトロポレーションした細胞の上に同様にピペットで移した。最終濃度がカプサイシンは1μM、YO-PROは1μM、及びCa2+は50μMとなった。
【0336】
上記実施形態は本発明の少数の例示実施例として理解されるべきである。さまざまな変形、組み合わせ、及び変更が本発明の範囲から逸脱することなく実施形態になされうることを当業者なら理解するであろう。特に、相異なる実施形態における相異なる部分的解決は、技術的に可能であるならば、他の構成と組み合わせることができる。
【0337】
参考文献1 Jansson, E. T.; et. al., Anal. Chem. 2012, 84: 5582-55882 国際公開第2006/068619号3 欧州特許出願第2174908号(EP 2174908)4 Trkulja, C. L., et al., J. Am. Chem. Soc. 2014, 136: 14875-148825 Freund, G. et al., MAbs, 2013, 5: 518-522
【0338】
実施例3
複数のプロテアーゼを用いた、CHO細胞に発現したイオンチャネルTRPV1の限定消化及び質量分析によるペプチド同定この実施例は、TRPV1由来のペプチドのプロテアーゼ特異的なセットを同定するために、並行した複数のプロテアーゼの使用について記す。この実施例で使用したプロテアーゼは、トリプシン、Asp-N、ペプシン、プロテイナーゼK、及びキモトリプシンである。相互に比較したとき、ペプチドのプロテアーゼ特異的なセットはオーバーラップしている可能性、補完的である可能性、又は独特である可能性がある。さまざまなタンパク質分解活性が、さまざまなプロテアーゼ濃度を用いることによって、少数の例ではさまざまなインキュベーション時間を用いることによって得られた。
【0339】
材料と方法細胞培養
簡単に説明すると、CHO細胞をTrkuljaら(J.Am.Chem.Soc.2014, 136, 14875-14882)の通りに培養した。簡単に説明すると、テトラサイクリン制御発現系(T-REx)をもつ付着性チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、T175若しくはT500培養フラスコ(Nunc)中又はガラスディッシュ上で、10%FBS、ゼオシン(350μg/mL)、及びブラストサイジン(5μg/mL)を添加した培地(グルタミンを含むDMEM/F12)で培養した。使用前(18~24時間)、ヒトTRPV1の発現を誘導するために、10%FBSとドキシサイクリン(1μg/mL)を添加した培地(グルタミンを含むDMEM/F12)中で、細胞を培養した。細胞株は常にマイコプラズマ感染の検査をした。細胞を採集した後、細胞を凍結し、-80度で保存した。細胞をさらに下記のように処理した。
【0340】
細胞溶解及びホモジナイゼーション
細胞懸濁液を580xgで3分間遠心分離した。上清を破棄し、4mlの氷冷リン酸緩衝生理食塩水をチューブに注いだ。細胞ペレットを注意深く懸濁し、次いでチューブを氷冷リン酸緩衝生理食塩水で14mlにした。再び細胞懸濁液を580xgで3分間遠心分離し、その手順を2回繰り返した。
【0341】
細胞ペレット(体積~800μl)を約6mlの溶解バッファー(10mM NaHCO3、pH7.4)に懸濁し、氷上で10分間保持した。
【0342】
次いで、溶解バッファー中の細胞を、各細胞懸濁液に対して1つのDounceホモジナイザー(7ml)に移した。次いで、隙間の狭いペストルを用いて20ストロークで細胞をホモジナイゼーションに供した。ホモジナイゼーション後、溶解した細胞を580xgで3分間の遠心分離した。上清を集め、細胞ペレットは破棄した。上清を580xgで3分間の2回目の遠心分離ステップに供し、細胞ペレット(少量)は破棄した。
【0343】
上清を集め、ベックマン遠心分離チューブ(50ml)に移し、溶解バッファーを20mlになるまで加えた。上清を7300xgで10分間遠心分離してミトコンドリア及び細胞残屑を除去した。上清を2本のファルコンチューブ(各10ml)に分け、さらなる処理のために-80度の冷凍庫で凍結した。
【0344】
超遠心分離
上清を氷上で融かし、2本のベックマン透明超遠心分離チューブ(ベックマン・コールター、品目番号344057)に移した。チューブを氷冷バッファー(10mMトリス、300mM NaCl、pH8)で満たし、注意深くバランスをとった後、SW55 Tiローター(ベックマン・コールター)を用いて100,000xg(32900rpm)で45分間遠心分離した。上清を破棄し、ペレットを氷冷バッファー(10mMトリス、300mM NaCl、pH8)に懸濁し、再びチューブを同じ氷冷バッファーで満たした。注意深くバランスをとり、100,000xg(32900rpm)で45分間遠心分離した後、上清を捨て、ペレット当たり約800μlで氷冷バッファー(10mMトリス、300mM NaCl、pH8)にペレットを懸濁した。合計で約1.6mlの膜調製物を集め、-80度で凍結した。
【0345】
チップ超音波処理
凍結した膜調製物を氷上で融かして合わせ後、ソニケーター(Vibracell)を用いて氷冷コニカルバイアル中で超音波処理した。最初に膜調製物を氷冷バッファー(10mMトリス、300mM NaCl、pH8)で4mlに希釈し、15%振幅、0.5秒パルス/休止サイクルを用いる30秒の超音波処理に供した。次いで、コニカルバイアル及び膜調製物を氷上で数分間冷やし、その後、膜調製物をさらに15%振幅、0.5秒パルス/休止サイクルを用いる30秒間のサイクルに供し、これを再度繰り返した。結果として生じた膜調製物(プロテオリポソーム)を310μlに分注して-80度で凍結した。
【0346】
プロテアーゼ
プロテアーゼはすべてプロメガから購入した。溶液はすべて、フィッシャーサイエンティフィックのLC-MSグレード水を用いて作製した。
カタログ番号V1621
Asp-N、シークエンシンググレード、2μg
カタログ番号V1959
ペプシン、250mg
カタログ番号V3021
プロテイナーゼK、100mg
カタログ番号V1062
キモトリプシン、シークエンシンググレード、25μg
カタログ番号V5111
シークエンシンググレード修飾化トリプシン、20μgトリプシン
トリプシンを100mM炭酸水素アンモニウム、Ambicに溶かした。pH8Asp-N
Asp-Nを100mM炭酸水素アンモニウム、Ambicに溶かした。pH8ペプシン
ペプシンを100mM炭酸水素アンモニウム、Ambicに溶かした。pH8プロテイナーゼK
プロテイナーゼKを100mM炭酸水素アンモニウム、Ambicに溶かした。pH8キモトリプシン
キモトリプシンを100mMトリス-HCl、10mM CaCl2に溶かした。pH8
【0347】
LPIプロセス
実験は消化用LPI HexaLaneチップを用いて行った。各チップ内で1つのレーンを1つの消化に使用した。簡単に説明すると、分注したプロテオリポソームを室温に融かし、100μlピペットを用いて手作業でレーンに注入し、1時間固定した。
【0348】
レーンの洗浄も100μlピペットを用いて手作業で行った。各々のウェルを200μlの洗浄バッファーで洗浄した。(ペプシン消化プロトコール以外の消化バッファーと同じバッファー。ペプシン消化プロトコールでは100mM Ambic pH8を洗浄バッファーとして使用した。これはフローセルを長時間、低pHにすることを避けるためである)。次いで、100μlピペットを用いて4×100μlの洗浄バッファーでレーンを洗浄した。
【0349】
次に、プロテアーゼをレーンに注入し、下記明細に従って培養した。インキュベーション(消化)は室温で行った。消化後、200μlの消化バッファー(2×100μl)を用いてレーンからペプチドを溶出させた。4μlのギ酸を加えて、酸性化することでプロテアーゼ活性を止めた。結果としてペプチド溶液は約pH2となった。この操作をペプシン以外のすべての試料で行った。ペプシンでは溶液を塩基性(pH9)にするため16μlのアンモニア溶液(25%)を代わりに加えた。
【0350】
以下の消化条件を各レーンに1つ実行した。
トリプシン
0.5μg/ml 2.5分間
0.5μg/ml 5分間
2μg/ml 5分間
5μg/ml 5分間
10μg/ml 5分間
20μg/ml 5分間
Asp-N
20μg/ml 5分間
2μg/ml 24時間
キモトリプシン
5μg/ml 5分間
10μg/ml 5分間
20μg/ml 5分間
プロテイナーゼ-K
5μg/ml 5分間
10μg/ml 5分間
20μg/ml 5分間
ペプシン
2μg/ml 5分間
5μg/ml 5分間
10μg/ml 5分間
20μg/ml 5分間
【0351】
試料にラベルをして-80℃で凍結した。
【0352】
MS分析
製造業者のガイドラインに従ってPepClean C18スピンカラム(サーモフィッシャーサイエンティフィック、ウォルサム、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)でトリプシンペプチドを脱塩し、乾燥して、0.1%ギ酸(シグマアルドリッチ、セントルイス、ミズーリ州)を15μl含む3%グラジエントグレードアセトニトリル(メルク KGaA、ダルムシュタット、ドイツ)で再溶解した。Easy-nLCオートサンプラー(サーモフィッシャーサイエンティフィック、ウォルサム、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)で試料を2μl注入し、インターフェースQ Exactiveハイブリッド質量分析計(サーモフィッシャーサイエンティフィック)で分析した。ペプチドはプレカラム(45×内径0.075mm)に通してから、室内で充填した逆相カラム、200×0.075mm、3μm Reprosil-Pur C18-AQ粒子(Dr.Maisch、アンマーブーフ、ドイツ)で分離した。ナノLC(液体クロマトグラフィー)グラジエントは200nl/分とし、0.2%のギ酸を含む7%アセトニトリル(ACN)から開始し、25分間で27%ACNに上げ、次いで5分間で40%に上げ、そして最後に5分間で80%ACNにし、80%ACNを10分間保持した。
【0353】
データ依存的陽イオンモード分析では、1.8kVの電圧と摂氏320度のキャピラリー温度下でイオンを作り出し、質量分析計に噴霧している。オービトラップでは、m/z400-1,600の範囲、2~6の電荷範囲で、分解能70,000、最大値250msの場合、1e6のAGC標的値をフルスキャン(MS1)スペクトルで得た。MS/MSスペクトルは、m/z110から30%での高エネルギー衝突解離(HCD)を用いて得られ、110msの注入時間の間、1e5のAGC標的値まで2Daのプリカーサー単離質量幅を用いて、分解能35,000の場合において、上位10個の最も存在量の多い親イオンについてスペクトルを得た。MS/MS選択後30秒間のダイナミックエクスクルージョンにより、可能な限り多くのプリカーサーの検出が可能であった。
【0354】
結果のまとめ
図10は、トリプシンによる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドのTRPV1の3Dモデルにおける位置を示す。トリプシンよる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドの配列を下記の表2に示す。0.5μg/mlトリプシンで2.5分間消化したペプチドを最初に示す。0.5μg/mlトリプシンで5分間、2μg/mlトリプシンで5分間、5μg/mlトリプシンで5分間、10μg/mlトリプシンで5分間、及び20μg/mlトリプシンで5分間、それぞれ消化したペプチドを提示のために集め、その次に示す。
【0355】
【0356】
図11は、Asp-Nによる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドのTRPV1の3Dモデルにおける位置を示す。Asp-Nよる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドの配列を下記の表3に示す。20μg/ml Asp-Nで5分間消化したペプチドを最初に示す。2μg/ml Asp-Nで24時間消化したペプチドをその次に示す。
【0357】
【0358】
図12は、キモトリプシンによる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドのTRPV1の3Dモデルにおける位置を示す。キモトリプシンよる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドの配列を下記の表4に示す。5μg/mlキモトリプシンで5分間消化したペプチドを最初に示す。10μg/mlキモトリプシンで5分間、及び20μg/mlキモトリプシンで5分間、それぞれ消化したペプチドを提示のために集め、その次に示す。
【0359】
【0360】
図13は、ペプシンによる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドのTRPV1の3Dモデルにおける位置を示す。ペプシンよる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドの配列を下記の表5に示す。5μg/mlキモトリプシンで2分間消化したペプチドを最初に示す。5μg/mlペプシンで5分間、10μg/mlペプシンで5分間、及び20μg/mlペプシンで5分間、それぞれ消化したペプチドを提示のために集め、その次に示す。
【0361】
【0362】
図14は、プロテイナーゼKによる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドのTRPV1の3Dモデルにおける位置を示す。プロテイナーゼKよる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドの配列を下記の表6に示す。5μg/mlプロテイナーゼKで5分間消化したペプチドを最初に示す。10μg/mlプロテイナーゼKで5分間、及び20μg/mlプロテイナーゼKで5分間、それぞれ消化したペプチドを提示のために集め、その次に示す。
【0363】
【0364】
表2、表3、表4、表5、及び表6では、「始点」及び「終点」という用語はTRPV1配列におけるアミノ酸残基の位置を指す。
【0365】
データの評価は、Results Filters(ペプチド)下でMascotでの有意な閾値を0.01に設定して行った。
【0366】
トリプシンはペプチド数の増加をもたらし、プロテアーゼ濃度の増加とともに信頼度の増加をもたらした。
【0367】
ペプシン及びキモトリプシンはともに低濃度でもより高い濃度でも多くのペプチドを生じた。