(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037754
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】血圧を制御するシステム
(51)【国際特許分類】
A61N 1/362 20060101AFI20240312BHJP
A61B 5/0215 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
A61N1/362
A61B5/0215 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201290
(22)【出願日】2023-11-29
(62)【分割の表示】P 2022054216の分割
【原出願日】2017-04-21
(31)【優先権主張番号】62/326,215
(32)【優先日】2016-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/492,802
(32)【優先日】2017-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】515163678
【氏名又は名称】バックビート メディカル,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミカ,ユヴァル
(72)【発明者】
【氏名】シャーマン,ダレン
(72)【発明者】
【氏名】シュワルツ,ロバート,エス.
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン タッセル,ロバート,エイ.
(72)【発明者】
【氏名】バークホフ,ダニエル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】好ましいAV遅延量を決定することのできる、患者の心臓に血圧低下電気刺激を伝達するシステムを提供する。
【解決手段】心房をペーシングし、所与の(任意の)遅延で心室をペーシングし、所望の血圧変化を得る。次に、心房を検知し、心室をペーシングし、血圧変化を観察し、生じる血圧変化をペーシングされた心房-ペーシングされた心室の所望の血圧変化と比較する。血圧変化が実質的に等しくない場合、比較に基づいて、検知された心房-ペーシングされた心室の刺激タイミングを調整し、新たに変更された結果として生じる血圧変化を観察し、変更された血圧変化をペーシングされた心房-ペーシングされた心室の所望の血圧変化と比較する。検知された心房-ペーシングされた心室の刺激タイミングによって、ペーシングされた心房-ペーシングされた心室の刺激の所望の血圧変化と同じ血圧変化が達成されるまで、調整および観察を繰り返してもよい。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心臓に血圧低下電気刺激を伝達するシステムであって、
患者の心臓の少なくとも1つのチャンバに刺激パルスを伝達するように構成された刺激回路と、
前記心臓の興奮を検知するように構成された少なくとも1つのセンサと、
少なくとも1つのコントローラであって、
前記心臓の第1チャンバをペーシングし、第1の遅延後、前記心臓の第2チャンバをペーシングして所望の血圧変化を得、
前記少なくとも1つのセンサから、前記第1チャンバの固有の興奮を示す第1の信号を受信し、第2の遅延後、前記第2チャンバをペーシングし、
前記第2の遅延から生じた第1の血圧変化を測定し、
前記第1の血圧変化を前記所望の血圧変化と比較し、
前記第2の遅延を、前記第1の血圧変化が前記所望の血圧変化に近くなるように調整するように意図された第3の遅延へと調整し、
前記少なくとも1つのセンサから、前記第1チャンバの固有の興奮を示す第2の信号を受信し、前記第3の遅延後、前記第2チャンバ:をペーシングし、
前記第3の遅延から生じた第2の血圧変化を決定し、
前記第2の血圧変化が前記所望の血圧変化に実質的に等しいことを判定し、
前記第1チャンバの固有の興奮の検知と前記第2チャンバへの刺激パルスの伝達との間の前記第3の遅延を有するパルスを含む刺激パターンを前記心臓に伝達するように構成された、前記少なくとも1つのコントローラと、
を備える、システム。
【請求項2】
前記第1チャンバは心房であり、前記第2チャンバは心室である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第2の遅延時間は前記第1の遅延時間より短く、かつ0msecよりも長い、請求項1または請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記少なくとも1つのセンサから、前記第1チャンバの固有の興奮を示す第1の信号を受信するステップにおいて、前記第1の信号は、当該心周期で発生した固有の興奮を示す信号とされる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つのセンサから、前記第1チャンバの固有の興奮を示す第1の信号を受信するステップにおいて、前記第1の信号は、1つ前の心周期で発生した固有の興奮を示す信号とされる、請求項1または請求項2に記載のシステム。
【請求項6】
メモリをさらに有し、前記第1の遅延時間と前記第3の遅延時間との差が前記メモリに記憶され、この差は、別の実験的測定を行う代わりに、他の所望の血圧変化を得るために他のAV遅延値が選択されたときに他の差を設定するために使用される、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充満および収縮を含む心機能を制御することによって高血圧を治療する分野に関するものである。本発明の特定の実施形態は、心臓に対する局所的な電気刺激の適用を含む。
【背景技術】
【0002】
血圧の変動は、通常、例えば活動の増加(これは通常、血圧を上げる)または著しい失血(これは血圧の低減を引き起こす傾向がある)のために起きることが知られている。しかし、血圧は通常、例えば体の圧反射(baroreflex)ゆえに、制限された範囲内に維持され、それにより、上がったまたは下がった血圧は、フィードバックループにより、心臓の機能および心臓血管系の特徴に影響する。このようなフィードバック制御は、神経系および内分泌系(例えばナトリウム利尿ペプチド)により実現されている。高血圧の人では、圧反射は機能しているものの、血圧は上がった状態に維持されている。
【0003】
高血圧(例えば140/90mmHg以上の血圧)は、多くの人に影響を与えている深刻な健康問題である。例えば、年齢が20歳以上で米国に住む約7450万人の人が高血圧である。高血圧は、脳卒中、心臓発作および/または鬱血性心不全などの命にかかわる症状につながる場
合がある。高血圧であって最新の治療を受けている人々の約44.1%は、自分自身の高血圧を満足な仕方でコントロールしている。これに対応して、同じ人々の55.9%がうまくコントロールできていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/0215272号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2011/0172731号明細書
【特許文献3】米国特許継続出願第13/688,978号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2012/0041502号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
伝統的に、高血圧の治療は、投薬および生活習慣の変化を含んできた。これらの2種類
の治療は、すべての患者にとって有効なわけではない。くわえて、副作用により、特定の患者は投薬を受けられない場合がある。ゆえに、血圧を低下させるための追加の技術の必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は血圧を低減するための方法およびシステムを開示する。
【0007】
本発明は、それぞれ血圧を異なる程度まで下げるように構成された少なくとも2つの異なる刺激パターンを含む、心臓への焦点電気刺激を適用する。心臓刺激は、患者のニーズに基づいて刺激パターンを交互に行ってもよく、例えば、24時間周期の一部分(例えば、昼間またはその一部)の間のある程度の血圧低下と、24時間の別の部分(例えば、夜間またはその一部)の間の別の異なる程度の血圧低下とを交互に行う。別の例として、心臓刺激は、患者による激しい活動の期間中に第1の程度の血圧低下を提供する第1の刺激パターンと、患者による軽い活動の期間中に第2の異なる程度の血圧低下を提供する第2の刺激パターンとを交互に行ってもよい。
【0008】
いくつかの実施形態では、薬学的に高血圧を治療することに代えて、またはそれに加えて、機械的に高血圧を治療する。いくつかの実施形態では、ペースメーカー、または、パルス発生器を有する他の種類の装置などの、電気的な刺激装置を使用して患者の心臓を刺激し、血圧を低減してもよい。血圧を低減するために、一貫した仕方で心臓を刺激すると、心臓血管系がやがて刺激に適応して、より高い血圧へと戻る場合がある。ゆえに、いくつかの実施形態では、心臓血管系の適応応答(adaptation response)が低減される、ま
たは防止さえされるよう、圧反射を調節することができるように刺激パターンを構成してもよい。
【0009】
いくつかの実施形態は、治療が中止または減少された後に起こる遅い圧反射反応を利用してもよい。このような状況下では、血圧レベルが治療前の値に戻るまでに長い時間がかかる可能性があり、長期間治療を中断または減少してもよい。その後、血圧レベルが治療前の値に達する前に、長期間治療が中断または減少される前に適用された治療レベルで治療が再開されてもよい。
【0010】
いくつかの実施形態では、電気的な刺激装置を使用して患者の心臓を刺激し、房室弁が閉じられた状態で、心房収縮の少なくとも一部が引き起こされるようにしてもよい。このような心房収縮では、心房収縮中に房室弁が開いているときよりも、対応する心室へ入る血液が少なくなる場合があり、それは血圧のすみやかな低下を実現する。
【0011】
いくつかの実施形態において、心房の心房収縮により生じる心房内圧は、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合い、それによって心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせであって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなる心房の心房内圧を提供するように、電気刺激装置を使用して患者の心臓を刺激してもよい。このことにより、心房拡張の増大を引き起こし、それによってホルモン経路および/またはニューロン経路を通して血圧を下げてもよい。この血圧の低下は、現れるまでにいくらかの時間がかかってもよく、その時間はホルモン経路および/またはニューロン経路に依存する。
【0012】
心房収縮により生じる心房内圧は、心房収縮により生じる最高心房内圧に達してもよい。心房の受動内圧上昇は、心房の最高受動内圧上昇に達してもよい。あるいは、またはそれに加えて、心房の心房収縮により生じる心房内圧と、心房の受動内圧上昇との時間が重なり合うことは、心房収縮により生じる最高心房内圧および最高受動内圧上昇の時間が重なり合うことを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、上述の最高心房内圧および最高受動内圧上昇が重なり合うことにより、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高い(心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との)複合心房内圧をもたらしてもよい。
【0013】
いくつかの実施形態において、電気刺激装置を使用して、患者の心臓を刺激し、房室弁を閉鎖したままで単一の心周期内で少なくとも一部の心房収縮を引き起こしてもよく、および/または心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合い、それによって心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなる心房の心房内圧を提供するように、患者の心臓を刺激してもよい。
【0014】
いくつかの実施形態では、高血圧の治療の際に人工弁を使用してもよい。1つまたは複
数の房室(Atrioventicular:AV)弁が機能不全となっている、いくつかの医学的状態に
おいては、弁が人工(人工装具の)弁の埋め込みにより置換されてもよい。これらの人工弁は通常、天然の弁と同様、心房と心室との間の内圧差に応じて、受動的に開閉するように構成されていてもよい。受動的な人工弁は通常、その機械的な構造に基づいて、ケージ型ボール弁、傾斜式ディスク弁、および二葉弁の3つの種類に分類される。別の方法とし
て、いくつかの実施形態では、能動的に開閉するように構成されている能動的な人工弁を使用してもよい。
【0015】
本発明の一態様では、治療前の血圧を有する患者で、血圧を低減するためのシステムの実施形態が提供される。このシステムは、患者の心臓のチャンバ(chamber of a heart)の少なくとも1つを刺激パルスにより刺激するために、少なくとも1つの刺激電極を備えていてもよい。このシステムは、心臓の少なくとも1つのチャンバに、刺激パルスの刺激パ
ターンを施すよう構成された少なくとも1つの制御器を備えていてもよい。刺激パターン
は、第1の刺激設定、および、第1の刺激設定と異なる第2の刺激設定を含んでいてもよい
。第1の刺激設定および第2の刺激設定の少なくとも一方が、心房キック(atrial kick)
を低減または防止するように、および/または心房内圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するように構成されていてもよい。
【0016】
本発明の一態様では、血圧を低減するためのシステムの実施形態が提供される。このシステムは、患者の心臓の少なくとも1つのチャンバを刺激するために、少なくとも1つの刺激電極を備えていてもよい。このシステムは、複数の刺激パルスを備えた刺激パターンを施すよう構成された少なくとも1つの制御器を含んでいてもよい。複数の刺激パルスの少
なくとも1つの刺激パルスが、少なくとも1つの心室で心房キックを低減するよう構成された第1の刺激設定を有していてもよい。複数の刺激パルスの少なくとも1つの刺激パルスが、刺激パルスの間に起こる血圧値の増加を所定の値または値の範囲に制限するよう、心房キックの低減に対する圧反射反応を低減するよう構成された第2の刺激設定を有していて
もよい。
【0017】
本発明の別の態様では、治療前の血圧および治療前の心室充満量(ventricle filling volume)を有する患者の血圧を低減するための装置の実施形態が提供される。この装置は、心房および心室の少なくとも一方に刺激パルスを伝達するよう構成された刺激回路を備えている。この装置は、刺激回路に、かつ好ましくは検知回路にも結合されたプロセッサ回路を備えていてもよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、装置プロセッサ回路は、装置がAV遅延を制御する、作動モードで作動するよう構成されていてもよい。AV遅延は、本明細書での使用では、心室興奮(ventricle excitation)および/または収縮と心房興奮(atrial excitation)および/ま
たは収縮との間の単一の鼓動で起きる遅延を意味するものと理解してもよい。くわえて、本明細書では、システムまたは方法におけるAV遅延は、1つの鼓動内での、心室への少な
くとも1つの興奮性の刺激(excitatory stimulus)の伝達と、心房興奮の開始の検知、心房興奮の予想される開始のタイミング、および、心房への少なくとも1つの興奮性の刺激
の伝達のうちの1つとの間の時間遅延を意味するものと理解してもよい。
【0019】
このAV遅延は、少なくとも1つの刺激パルスを、少なくとも1つの心房および少なくとも1つの心室の両方に伝達することにより設定されてもよい。この刺激は好ましくは、心臓
の自然な活動よりも高い度合いで行われる。このような度合いは例えば、心臓(例えば刺激のないときの右心房での自然な活動を検知するための少なくとも1つの検知電極を使用
し、かつ、それに従って刺激パルス伝達度合いを調整して設定してもよい。
【0020】
好ましくは、1つ以上の刺激パルスの心房への伝達前に開始するよう、心室興奮が時間
調節されている場合、心臓への刺激パルスの伝達は、1つ以上の興奮性のパルスが、心房
興奮の、予想される次の自然な開始よりも早い時間に、心房へ伝達されるように、時間調節される。
【0021】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの刺激パルスを、心房ではなく、1つ以上の心
室へと伝達することにより、AV遅延を設定してもよい。このような場合、1つ以上の心房
の自然な活動が検知されてもよく、心室興奮および/または収縮タイミングが、検知され
た心房活動度合いに基づいて、その自然な予期されるタイミングに先行するように設定されてもよい。
【0022】
いくつかの実施形態では、プロセッサ回路は、少なくとも1つの心房における心房興奮
の開始の約0ミリ秒(ms)~約50ms前に、心室興奮が開始されて、それにより、心室充満
量が治療前の心室充満量から低減され、かつ、患者の血圧が治療前の血圧から低減されるよう、心室を刺激する作動モードで作動するよう構成されていてもよい。このような実施形態では、心房興奮が検知されて、心房興奮の開始を判断してもよい。例えば、プロセッサ回路は、次の心房興奮が起きると予想される約0ms~約50ms前に、1つ以上の興奮性のパルスを心室に伝達する作動モードで作動するよう構成されていてもよい。心房興奮の開始と心房興奮が検知される瞬間との間の時間間隔は公知であっても推定されていてもよく、心房興奮の開始のタイミングを算定するのに使用されてもよい。例えば、心房興奮の開始の5ms後に心房興奮が検知されることが知られており、または推定され、心房興奮の開始
の20ms前に心室が刺激されることになる場合、心室は、心房興奮の予想される次の検知の25ms前に、刺激されることになる。
【0023】
他の実施形態では、プロセッサ回路は、心房が刺激されて、少なくとも1つの心室にお
ける心室興奮の開始の約0ms~約50ms後に、心房興奮が開始されて、それにより、心室充
満量が治療前の心室充満量から低減され、かつ、患者の血圧が治療前の血圧から低減される、作動モードで作動するよう構成されていてもよい。例えば、プロセッサ回路は、1つ
以上の興奮性のパルスが患者の心室に供給されてから約0ms~約50ms後に、1つ以上の興奮性のパルスが心房に伝達される、作動モードで作動するよう構成されていてもよい。このような実施形態では、ペーシング(ペース合わせ)は、心房興奮を検知することに依存せずに、時間調節されてもよい。好ましくは、このような実施形態では、自然な興奮が起きる前に1つ以上の興奮性のパルスが心房に伝達されることを確実にするために、心房興奮
が検知される。好ましくは、本来の心房興奮率が本来の心室興奮率よりも低いときに、心房興奮は、心室興奮の開始の約0ms~約50ms後に開始するよう設定される。
【0024】
いくつかの実施形態では、患者のためのチャンバの電気的な興奮に関する機械的な収縮のタイミングは、例えば、心房および心室の圧力の変化を検知すること、超音波を使用して壁運動(例えば心エコー検査または心エコー)を、当該技術で公知の埋め込みおよび/
または外部のセンサを使用して、インピーダンスの変化または心臓弁の開閉を検知することにより、決定されてもよい。このようなセンサには例えば、圧力センサ、インピーダンス、超音波センサ、および/または1つ以上の音声センサおよび/または1つ以上の血流センサが含まれる。
【0025】
1つ以上の興奮性のパルスが、所望のパターンの収縮を生成することになるタイミング
で心臓に伝達されるよう、患者のためのチャンバの電気的な興奮に関する機械的な収縮のタイミングが考慮され、プロセッサ回路がそれに応じて構成されていてもよい。これは、1つ以上の埋め込みのセンサを使用して閉ループモードで行われてもよく、かつ/または、例えば外部の測定装置を有するインタフェースを使用して、ときおり(例えば、装置の埋め込み時および/もしくは検査時に)行われてもよい。
【0026】
作動モードは、心室を刺激して、少なくとも1つの心房の収縮の開始前に、心室に収縮
を開始させることを含んでいてもよい。
【0027】
作動モードは、心室を刺激して、少なくとも1つの心房の収縮の終わる前に、心室に収
縮を開始させて、それにより、少なくとも1つの心房の収縮の少なくとも一部の間にAV弁
が閉じられるようにすることを含んでいてもよい。
【0028】
作動モードは、心室を刺激して、少なくとも1つの心房の収縮の開始後100ms未満内に、心室に収縮を開始させることを含んでいてもよい。
【0029】
所望により、心室収縮がピーク内圧に達する前に心房収縮が確実に開始されるよう注意が払われる。心房収縮は通常は心室収縮よりも速いため、心房収縮の開始前に心室収縮が開始されていることになる場合であっても、これは可能である。したがって、以下の設定の1つを選択してもよい。
【0030】
a.作動モードは、心室を刺激して、心房収縮中であるが心房が心房収縮によってその最高内圧に達する前のいずれかの時点で、心室に収縮を開始させることを含んでいてもよい。
【0031】
b.作動モードは、心室を刺激して、心房収縮中であるが心房が心房収縮によってその最高内圧に達した後のいずれかの時点で、心室に収縮を開始させることを含んでいてもよい。
【0032】
c.作動モードは、心房および心室の両方において本質的に同じ時点(たとえば、互いに対して5ms以下)で収縮が開始されるタイミングで、心室を刺激することを含んでいて
もよい。
【0033】
d.作動モードは、心室を刺激して、心室が最高拡張に近いかまたは最高拡張しているときにピークの心房収縮が起こることになり、そのため心室の等容性期および急速駆出期に関して以下でさらに詳述される心房壁の拡張の増大が引き起こされるタイミングで、心室に収縮を開始させることを含んでいてもよい。
【0034】
作動モードは、心室を刺激して、少なくとも1つの心房の収縮の開始前に、心室を少な
くとも部分的に収縮させて、それにより、少なくとも1つの心房の収縮の開始中に、AV弁
が閉じられるようにすることを含んでいてもよい。
【0035】
好ましくは、プロセッサ回路は、1つ以上の興奮性のパルスが患者の心室に伝達されて
から約0ms~約50msの間に、1つ以上の興奮性のパルスが心房に伝達される、作動モードで作動するよう構成されていてもよい。
【0036】
別の態様では、治療前の血圧および治療前の心室充満量を有する患者の血圧を低減するための方法の実施形態が提供される。この方法は、刺激回路からの刺激パルスを、心房および心室の少なくとも一方へ伝達することと、少なくとも1つの心房における心房興奮の
開始の約0ms~約50ms前に心室興奮が開始されるように心室を刺激して、それにより、心
室充満量を治療前の心室充満量から低減し、かつ、患者の血圧を治療前の血圧から低減する、作動モードで作動するよう、刺激回路に結合されたプロセッサ回路を作動することとを含んでいてもよい。
【0037】
このような実施形態では、心房興奮の開始を判断するために、心房興奮を検知してもよい。例えば、この方法は、次の心房興奮が起きると予想される約0ms~約50ms前に、1つ以上の興奮性のパルスを心室に伝達することを含んでいてもよい。心房興奮の開始と心房興奮が検知される瞬間との間の時間間隔は公知であってもよく、心房興奮の開始のタイミングを算定するのに使用されてもよい。例えば、心房興奮の開始の5ms後に心房興奮が検知
されることが公知であり、または推定され、心房興奮の開始の20ms前に心室が刺激されることになる場合、心室は、心房興奮の、予想される次の検知の25ms前に刺激されることに
なる。
【0038】
他の実施形態では、この方法は、心房を刺激して、少なくとも1つの心室における心室
興奮の開始後約0ms~約50msの間に心房興奮を開始させて、それにより、心室充満量を治
療前の心室充満量から低減し、かつ、患者の血圧を治療前の血圧から低減する、作動モードで作動するよう、刺激回路に結合されたプロセッサ回路を作動することを含んでいてもよい。例えば、この方法は、1つ以上の興奮性のパルスが患者の心室に供給されてから約0ms~約50msの間に、1つ以上の興奮性のパルスを心房に伝達することを含んでいてもよい
。このような実施形態では、ペーシングは、心房興奮を検知することに依存せずに、時間調節されてもよい。好ましくは、このような実施形態は、自然な興奮が起きる前に1つ以
上の興奮性のパルスが心房に伝達されることを確実にするために、心房興奮が検知されることを含んでいる。好ましくは、本来の心房興奮率が本来の心室興奮率よりも低いときに、心房興奮は、心室興奮の開始後約0ms~約50msの間に開始するよう設定される。
【0039】
いくつかの実施形態では、患者のためのチャンバの電気的な興奮に関する機械的な収縮のタイミングは、例えば超音波(例えば心エコー検査もしくは心エコー)または他の公知の手段を使用して評価されてもよい。所望のパターンの収縮を生成するよう、患者のためのチャンバの電気的な興奮に関する機械的な収縮のタイミングが考慮されていてもよく、1つ以上の興奮性のパルスが心臓に伝達されるタイミングが選択されていてもよい。
【0040】
作動モードは、心室を刺激して、少なくとも1つの心房が収縮を開始する前に、心室を
収縮させることを含んでいてもよい。
【0041】
作動モードは、心室を刺激して、少なくとも1つの心房が収縮を開始する前に、心室を
収縮させて、それにより、少なくとも1つの心房の収縮の少なくとも一部の間にAV弁が閉
じられるようにすることを含んでいてもよい。
【0042】
作動モードは、心室を刺激して、少なくとも1つの心房が収縮を終了する前に、心室を
収縮させて、それにより、少なくとも1つの心房の収縮の開始中にAV弁が閉じられるよう
にすることを含んでいてもよい。
【0043】
好ましくは、この方法は、1つ以上の興奮性のパルスが患者の心室に伝達されてから約0ms~約50msの間に、1つ以上の興奮性のパルスを心房に伝達することを含んでいてもよい
。
【0044】
別の態様では、治療前の血圧および治療前の心室充満量を有する患者の血圧を低減するための装置の実施形態が提供される。この装置は、患者の心臓の少なくとも1つの心臓チ
ャンバ(cardiac chamber)に刺激パルスを伝達するよう構成された刺激回路を備えてい
てもよい。この装置は、刺激回路に結合されたプロセッサ回路を備えていてもよい。プロセッサ回路は、心房に関連する房室弁が閉じられたときに約40%の心房収縮と約100%の
心房収縮との間で引き起こして、それにより、心室充満量を治療前の心室充満量から低減し、かつ、患者の血圧を治療前の血圧から低減するよう、少なくとも1つの心臓チャンバ
を刺激する作動モードで作動するよう構成されていてもよい。これは、例えば、AV弁の閉鎖よりも約60ms以下前に心房に収縮を開始させることにより実現することができる。好ましくは、このタイミングは、外部のセンサからのデータに基づき、かつ/または、1つ以上の埋め込みのセンサを使用した閉ループとして、周期的に(例えば埋め込み時に)設定されてもよい。
【0045】
別の態様では、治療前の血圧および治療前の心室充満量を有する患者の血圧を低減するための装置の実施形態が提供される。この装置は、少なくとも1つの心臓チャンバに刺激
パルスを伝達するよう構成された刺激回路を備えていてもよい。この装置は、刺激回路に結合されたプロセッサ回路を備えていてもよい。プロセッサ回路は、心室収縮(ventricular systole)中に心房収縮の約50%~約95%が引き起こされて、それにより、心室充満
量が治療前の心室充満量から低減され、かつ、患者の血圧が治療前の血圧から低減されるよう、少なくとも1つの心臓チャンバをペーシングする作動モードで作動するよう構成さ
れていてもよい。これは、例えば、心室収縮の開始よりも約50ms~5ms前に心房に収縮を
開始させることにより実現することができる。好ましくは、心室収縮の開始のタイミングは、AV弁の閉鎖のタイミングに従って設定されてもよい。好ましくは、このタイミングは、外部のセンサからのデータに基づき、かつ/または、1つ以上の埋め込みのセンサを使用した閉ループとして、周期的に(例えば埋め込み時に)設定されてもよい。
【0046】
別の態様において、一つの実施形態は、治療前の血圧を有する患者の血圧障害を治療するために、患者の心臓と関連付けられた埋め込み型心筋刺激装置を用いて実施される方法を提供する。本方法は、収縮により心室が膨張され、心室の膨張によって患者の血圧が治療前の血圧よりも低下するように、心房に関連する心臓弁が閉じたままで、その心房を収縮させるように心臓を刺激することを含んでいてもよい。これは、たとえば、心房収縮の活性力が、関連する心室の収縮により生じる最高の受動内圧および拡張を超えて心房内圧および心房拡張を増加させることになるよう、心室の内圧が最高になる時点で心房を収縮させることにより、実現することができる。このような場合、心房の最高の収縮のタイミングは、等容性期(isovolumic period)の終了と一致していなければならないか、また
は、心室の急速駆出期中でなければならない。所望により、このタイミングは、外部のセンサからのデータに基づき、および/または、1つまたは複数の埋め込み型センサを使用
した閉ループとして、定期的に(たとえば埋め込み時に)設定されてもよい。
【0047】
別の態様では、一つの実施形態は、心房内圧および心房拡張を制御することによって患者の血圧を低下させるためのシステムを提供する。本システムは、患者の心臓の少なくとも1つの心臓チャンバに刺激パルスを伝達するように構成された刺激回路と、少なくとも1つの心臓チャンバへの1つまたは複数の刺激パターンの刺激パルスの伝達を実行するよう
に構成された少なくとも1つのコントローラとを備えてもよい。刺激パルスのうちの少な
くとも1つは、心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇と時間が重
なり合うことによって、刺激により生じる心房の心房内圧が、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように、かつ患者の血圧が下がるように、心臓を刺激してもよい。
【0048】
刺激により生じる心房の心房内圧は、ホルモン経路および/または神経経路を通して血圧を下げる心房の心房拡張の増大を引き起こしてもよい。
【0049】
心房収縮により生じる心房内圧は、心房収縮により生じる最高心房内圧に達してもよい。心房の受動内圧上昇は、心房の最高受動内圧上昇に達してもよい。あるいは、または加えて、心房の心房収縮により生じる心房内圧と、心房の受動内圧上昇との時間が重なり合うことは、心房収縮により生じる最高心房内圧および最高受動内圧上昇の両方の時間が重なり合うことを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、上述の最高心房内圧および最高受動内圧上昇が重なり合うことにより、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高い(心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との)複合心房内圧をもたらしてもよい。
【0050】
刺激パルスのうちの少なくとも1つは、心臓の心房を刺激することを含んでいてもよい
。刺激パルスのうちの少なくとも1つは、心臓の心室を刺激することを含んでいてもよい
。刺激パルスのうちの少なくとも1つは、さらに、所望により実質的に等しい速度で心房
および心室をペーシングすること、または心室がペーシングされる速度よりも速い速度で
心房をペーシングすることを含んでいてもよい。
【0051】
刺激パルスのうちの少なくとも1つは、たとえば、単一の心周期中に心房を2回刺激するか、または単一の心周期中に心房を1回刺激することによって、単一の心周期中に心房が2回収縮するように心房を刺激することを含んでいてもよい。
【0052】
所望により、刺激パルスのうちの少なくとも1つは、単一の心周期中に心房が1回のみ収縮するように心房を刺激することを含んでいてもよい。
【0053】
刺激パルスのうちの少なくとも1つは、房性刺激を低減または防止するように心臓を刺
激することをさらに含んでいてもよい。
【0054】
1つまたは複数の刺激パターンは、房性刺激を低減または防止するように心臓を刺激す
ることをさらに含んでいてもよい。刺激パターンのうちの少なくとも1つは、複数の鼓動
において心臓を刺激することを含んでいてもよく、刺激パルスのうちの少なくとも一部は、心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合うことによって、刺激により生じる心房の心房内圧が、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように心臓を刺激し、刺激パルスの少なくとも一部は、房性刺激を低減または防止するように構成されている。
【0055】
単一の鼓動において両方の房性刺激が低減または防止され、心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合うことによって、刺激により生じる心房の心房内圧が、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように、刺激パルスが提供されてもよい。
【0056】
少なくとも1つの刺激パターンは、刺激により生じる心房の心房内圧が、心房収縮によ
り生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように、単一の鼓動において、房室弁が開いているときに開始し、房室弁が閉鎖した後に終わるような第1の心房収縮を有し、心房の心房収縮により生じる心
房内圧が心房の受動内圧上昇と時間が重なり合う第2の心房収縮を誘発するように設定さ
れた少なくとも1つの刺激パルスを含んでいてもよい。第1の心房収縮は検知されてもよく、第2の心房収縮はペーシングされてもよい。あるいは、第1の心房収縮および第2の心房
収縮はペーシングされてもよい。
【0057】
あるいは、少なくとも1つの刺激パターンは、刺激により生じる心房の心房内圧が、心
房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように、単一の鼓動において、房室弁が開いているときに開始し、房室弁が閉鎖する前に終わるような第1の心房収縮を有し、心房の心房収縮によ
り生じる心房内圧が心房の受動内圧上昇と時間が重なり合う第2の心房収縮を誘発するよ
うに設定された少なくとも1つの刺激パルスを含んでいてもよい。第1の心房収縮は検知されてもよく、第2の心房収縮はペーシングされてもよい。あるいは、第1の心房収縮および第2の心房収縮はペーシングされてもよい。
【0058】
1つまたは複数の刺激パターンは、(1)心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合うことによって、刺激により生じる心房の心房内圧が、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように、心臓を刺激する第1の刺激パルスと、(2)房性刺激が低減または防止されるように心臓を刺激する第2の刺激パルスとを異なる比で有す
る複数の刺激パターンを交互に行うことを含んでいてもよい。所望により、1つまたは複
数の刺激パターンは、房性刺激を低減または防止し、心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合うことによって、刺激により生じる心房の心房内圧が、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との(両方とも単一の心周期における)組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように心臓を刺激するように構成された少なくとも1つの刺激パルスを含んでいてもよい。
【0059】
1つまたは複数の刺激パターンは、(1)心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合うことによって、刺激により生じる心房の心房内圧が、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように、心臓を刺激する第1の刺激パルスと、(2)心房の受動内圧上昇と時間が重なり合う心房の心房収縮により生じる心房内圧を提供しない第2の刺激パルスとを異なる比で有する複数の刺激パターンを交互に行うことを含んでいて
もよい。
【0060】
少なくとも1つの刺激パルスは、興奮の相対的タイミングが約2msの房室遅延に対応するように、心臓の心房および心臓の心室のうちの少なくとも1つをペーシングすることを含
んでいてもよい。
【0061】
少なくとも1つの刺激パルスは、興奮の相対的タイミングが約30ms~約0ms、またはさらには10ms~0msの房室遅延に対応するように、心臓の心房および心臓の心室のうちの少な
くとも1つをペーシングすることを含んでいてもよい。
【0062】
別の態様では、一つの実施形態は、心房内圧および心房拡張を制御することによって患者の血圧を下げるための方法を提供する。本方法は、患者の心臓と関連付けられた埋め込み型心筋刺激装置を用いて実施されてもよい。本方法は、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇とが重なり合うことにより、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激なしの場合の心房の心房内圧よりも高い心房内圧を誘発するように、かつ患者の血圧が下がるように、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合う心房収縮により生じる心房内圧を提供するために心臓を刺激することを含んでいてもよい。
【0063】
刺激により生じる心房の心房内圧は、ホルモン経路またはニューロン経路を通して血圧を下げる心房の心房拡張の増大を引き起こしてもよい。
【0064】
心房収縮により生じる心房内圧は、心房収縮により生じる最高心房内圧に達してもよい。心房の受動内圧上昇は、心房の最高受動内圧上昇に達してもよい。あるいは、または加えて、心房の心房収縮により生じる心房内圧と、心房の受動内圧上昇との時間が重なり合うことは、心房収縮により生じる最高心房内圧および最高受動内圧上昇の両方の時間が重なり合うことを含んでもよい。いくつかの実施形態において、上述の最高心房内圧および最高受動内圧上昇が重なり合うことにより、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高い(心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との)複合心房内圧をもたらしてもよい。したがって、本方法は、心房の心房収縮により生じる心房内圧の最高値が、心房の最高受動内圧上昇と時間が重なり合うように、心臓を刺激することを含んでいてもよい。
【0065】
本方法は、心臓の心房を刺激することを含んでいてもよい。本方法は、加えてまたはあるいは、心臓の心室を刺激することを含んでいてもよい。本方法は、さらに、実質的に等しい速度で心房および心室をペーシングすること、または心室がペーシングされるか収縮する速度よりも速い速度で心房をペーシングすることを含んでもよい。
【0066】
本方法は、たとえば、単一の心周期中に心房を2回刺激するか、または単一の心周期中
に心房を1回刺激することによって、単一の心周期中に心房が2回収縮するように心房を刺激することをさらに含んでいてもよい。
【0067】
所望により、本方法は、心房が単一の心周期中に1回だけ収縮するように心房を刺激す
ることを含んでいてもよい。
【0068】
本方法は、房性刺激を低減または防止するように心臓を刺激することをさらに含んでいてもよい。心臓を刺激することは、複数の鼓動において刺激パターンを心臓に伝達することを含んでいてもよく、刺激パターンのうちの少なくとも一部の刺激パルスは、心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合うことによって、刺激により生じる心房の心房内圧が、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように心臓を刺激し、刺激パルスの少なくとも一部は、房性刺激を低減または防止するように構成されている。単一の鼓動において両方の房性刺激が低減または防止され、心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合うことにより、刺激により生じる心房の心房内圧が、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように、刺激パルスが提供されてもよい。
【0069】
心臓を刺激することは、刺激により生じる心房の心房内圧が、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように、単一の鼓動において、房室弁が開いているときに開始し、房室弁が閉鎖した後に終わるような第1の心房収縮を有し、心房の心房収縮により生じる心房内圧が心
房の受動内圧上昇と時間が重なり合う第2の心房収縮を誘発するように設定された少なく
とも1つの刺激パルスを伝達することを含んでいてもよい。第1の心房収縮は検知されてもよく、第2の心房収縮はペーシングされてもよい。あるいは、第1の心房収縮および第2の
心房収縮はペーシングされてもよい。
【0070】
あるいは、心臓を刺激することは、刺激により生じる心房の心房内圧が、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように、単一の鼓動において、房室弁が開いているときに開始し、房室弁が閉鎖する前に終わるような第1の心房収縮を有し、心房の心房収縮により生じる心
房内圧が心房の受動内圧上昇と時間が重なり合う第2の心房収縮を誘発するように設定さ
れた少なくとも1つの刺激パルスを伝達することを含んでいてもよい。第1の心房収縮は検知されてもよく、第2の心房収縮はペーシングされてもよい。あるいは、第1の心房収縮および第2の心房収縮はペーシングされてもよい。
【0071】
本方法は、(1)心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇と時間
が重なり合うことによって、刺激により生じる心房の心房内圧が、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように、心臓を刺激する第1の刺激パルスと、(2)房性刺激が低減または防止されるように心臓を刺激する第2の刺激パルスとを異なる比で有する複数の刺激パターン
を交互に行うことをさらに含んでいてもよい。所望により、1つまたは複数の刺激パター
ンは、房性刺激を低減または防止し、心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合うことによって、刺激により生じる心房の心房内圧が、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との(両方とも単一の心周期における)組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように心臓を刺激するように構成された少なくとも1つの刺激パルスを含んでいてもよい。
【0072】
本方法は、(1)心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇と時間
が重なり合うことによって、刺激により生じる心房の心房内圧が、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように、心臓を刺激する第1の刺激パルスと、(2)心房の受動内圧上昇と時間が重なり合う心房の心房収縮により生じる心房内圧を提供しない第2の刺激パルスとを異
なる比で有する複数の刺激パターンを交互に行うことをさらに含んでいてもよい。
【0073】
本方法は、興奮の相対的タイミングが約2msの房室遅延に対応するように、心臓の心房
および心臓の心室のうちの少なくとも1つをペーシングすることをさらに含んでいてもよ
い。
【0074】
本方法は、興奮の相対的タイミングが約30ms~約0msの房室遅延に対応するように、心
臓の心房および心臓の心室のうちの少なくとも1つをペーシングすることをさらに含んで
いてもよい。
【0075】
別の態様では、一つの実施形態は、患者の血圧を下げるための方法を提供する。該方法は、患者の心臓と関連付けられた埋め込み型心筋刺激装置を用いて実施されてもよい。本方法は、1つまたは複数の刺激パターンの刺激パルスを患者の心臓の少なくとも1つの心臓チャンバに伝達することを含んでいてもよい。刺激パルスのうちの少なくとも1つは、第1の刺激設定を有していてもよく、刺激パルスのうちの少なくとも1つは、第1の刺激設定とは異なる第2の刺激設定を有していてもよい。第1の刺激設定および第2の刺激設定のうち
の少なくとも1つは、房性刺激を低減または防止するように構成されてもよい。房性刺激
を低減または防止するように構成された刺激設定を有する刺激パルスは、必要に応じて伝達されてもよい。
【0076】
必要に応じた刺激パルスの伝達は、以下のうち1つまたは複数を含んでいてもよい。
【0077】
a. 治療を必要時に限定する、たとえば、房性刺激を低減または防止するように構成さ
れた刺激設定の伝達を患者の血圧が異常に高くなると分かっているかまたは予測されるときに限定する。このことは、1つまたは複数の血圧関連パラメータのリアルタイムフィー
ドバック測定を使用すること、または必要とされる予測パターンを同じ患者の過去の測定に基づくことを含んでいてもよい。たとえば、患者によっては、BPは1日24時間高くなり
うるのに対して、患者によっては、24時間の一部(たとえば、昼間または夜間)のみBPが高くなってもよい。
【0078】
b. 高いBPが必要とされる場合は治療しないようにする、たとえば、BPの上昇が健康で
あり、したがって、所望の状態であってもよいようなときには、房性刺激を低減または防止するように構成された刺激設定の伝達をしないようにする。たとえば、BPは、活動中は増加することが知られており、活動が少なくなると再び下がる(たとえば、当然ながらBPの上昇と関連する運動時または肉体作業を行っているとき)。
【0079】
房性刺激を低減または防止するように構成された刺激設定を有する刺激パルスは、夜間もしくはその一部であってもよく、または日中もしくはその一部であってもよい、24時間の一部のみ提供されてもよい。
【0080】
房性刺激を低減または防止するように構成された刺激設定を有する刺激パルスは、心拍数が所定の閾値未満のときのみ提供されてもよい。所定の閾値は90bpmのような絶対値で
あってもよい。所定の閾値は患者の平均心拍数に関連する値に設定されてもよい。たとえば、所定の閾値は、平均心拍数を30回超える心拍数および心拍数の第80百分位数超のうちの少なくとも1つであってもよい。
【0081】
房性刺激を低減または防止するように構成された刺激設定を有する刺激パルスは、患者が安静時または所定の閾値未満の活動レベルのときのみ、提供されてもよい。本方法は、動作、姿勢、呼吸数、および心拍数のうちの少なくとも1つを検知することによって、患
者が安静にしているかまたは所定の閾値未満の活動レベルであるかを判断することをさらに含んでいてもよい。
【0082】
所望により、患者は、患者の活動が少ないときに「安静にしている」かまたは「低い活動レベルである」とみなされてもよい。たとえば、心拍数が所定の閾値を超えないか、または低い活動のみが検知される限り(たとえば、中程度および/もしくはゆっくりとした動作、ならびに/またはゆっくりとした姿勢の変化、ならびに/または呼吸が有意に増加しないこと等を特徴とする)、患者は「安静にしている」かまたは「低い活動レベルである」と考えられてもよい。たとえば、読書中もしくは談話中のような座っている活動、または家の周りもしくはオフィスにおける動作は、十分に低い活動レベルであるとみなされてもよいため、房性刺激を低減または防止するように構成された刺激設定を有する刺激パルスの伝達を可能にする。
【0083】
1つまたは複数の刺激パターンは、測定された血圧パラメータを基準にして選択されて
もよい。本方法は、圧反射が検知されるときに1つまたは複数の刺激パターンを変更する
ことをさらに含んでいてもよい。
【0084】
別の態様では、一つの実施形態は、患者の心臓の少なくとも1つの心臓チャンバに1つまたは複数の刺激パターンの刺激パルスを伝達するように構成された刺激回路と、少なくとも1つの心臓チャンバへの1つまたは複数の刺激パターンの刺激パルスの伝達を実行するように構成された少なくとも1つのコントローラとを備えた、患者の血圧を下げるためのシ
ステムを提供する。刺激パルスのうちの少なくとも1つは、第1の刺激設定を有していてもよく、刺激パルスのうちの少なくとも1つは、第1の刺激設定とは異なる第2の刺激設定を
有していてもよい。第1の刺激設定および第2の刺激設定のうちの少なくとも1つは、房性
刺激を低減または防止するように構成されてよい。房性刺激を低減または防止するように構成された刺激設定を有する刺激パルスは、必要に応じて伝達されてもよい。
【0085】
少なくとも1つのコントローラは、24時間の一部の間だけ、房性刺激を低減または防止
するように構成された刺激設定を有する刺激パルスを伝達するように構成されてもよい。24時間の一部とは、夜間もしくはその一部であってもよく、または昼間もしくはその一部であってもよい。
【0086】
少なくとも1つのコントローラは、心拍数が所定の閾値未満のときだけ、房性刺激を低
減または防止するように構成された刺激設定を有する刺激パルスを伝達するように構成されてもよい。所定の閾値は90bpmのような絶対値であってもよい。所定の閾値は患者の平
均心拍数に関連する値に設定されてもよい。たとえば、所定の閾値は、平均心拍数を30回超える心拍数および心拍数の第80百分位数超のうちの少なくとも1つであってもよい。
【0087】
少なくとも1つのコントローラは、患者が安静にしているかまたは低い活動レベルであ
るときだけ、房性刺激を低減または防止するように構成された刺激設定を有する刺激パルスを伝達するように構成されてもよい。本システムは、動作、姿勢、呼吸数、および心拍数のうちの少なくとも1つを検知することによって、患者が安静にしているかまたは低い
活動レベルであるかを判断するように構成されてもよい。
【0088】
少なくとも1つのコントローラは、測定された血圧パラメータに基づいて1つまたは複数の刺激パターンを選択するように構成されてもよい。少なくとも1つのコントローラは、
圧反射が検知された場合に1つまたは複数の刺激パターンを変更するように構成されても
よい。
【0089】
別の態様では、一つの実施形態は、血圧を制御するためのシステムのパルス設定を調整する方法を提供してもよい。本方法は、少なくとも1回の心周期中の患者の心臓の心房と
関連する心房内圧データを受信することを含んでいてもよい。心房内圧データは、システムが第1のパルス設定を有する刺激パルスを心臓に伝達することから生じてもよい。本方
法は、心房内圧データを分析することと、この分析に従って調整された、第1のパルス設
定とは異なる第2のパルス設定を提供することとをさらに含んでいてもよい。分析するこ
とは、心房内圧データを分析して、心房収縮により生じる心房内圧と心房の受動内圧上昇との時間の重なり合いを推定することを含んでいてもよい。分析することは、心房内圧データを分析して、心房収縮により生じる最高心房内圧と心房の最高受動内圧上昇との時間の重なり合いを推定することをさらに含んでいてもよい。分析することは、心房内圧データを分析して、刺激パルスが伝達された心周期で得られる第1の心房内圧(または最高心
房内圧)と、刺激がない場合の心房の第2の心房内圧とを比較することを含んでいてもよ
い。分析することは、心房内圧データをプロットすること、および/または心房内圧データを数学的に分析することをさらに含んでいてもよい。
【0090】
別の態様では、一つの実施形態は、血圧を下げるためのシステムを提供してもよい。本システムは、心臓の少なくとも1回の心周期中の心房における内圧変動についての情報を
提供する手段、刺激パルスを生成する手段、および刺激パルスを少なくとも1つの心臓チ
ャンバに印加する手段を備えていてもよい。刺激パルスを生成する手段は、心房の内圧変動についての情報に従って単一の心周期中の心室収縮のタイミングに対する心房収縮のタイミングを制御するように、刺激パルスを生成するように構成されてもよい。
【0091】
心房における内圧変動についての情報は、心房収縮の発生についての情報および/または心室収縮の発生についての情報を含んでいてもよい。刺激パルスを生成する手段は、少なくとも1回の心周期のために、心房収縮を生じさせる少なくとも1つの心房刺激パルスおよび/または心室収縮を生じさせる少なくとも1つの心室刺激パルスを生成するように構
成されてもよい。刺激パルスを生成する手段は、心房収縮の発生および/もしくは心室収縮の発生に対してタイミングを合わせるような関係で、心房収縮の発生についての情報および/もしくは心室収縮の発生についての情報に基づいて少なくとも1つの心房刺激パル
スを生成し、ならびに/または、心室収縮の発生および/もしくは心房収縮の発生に対してタイミングを合わせるような関係で、心室収縮の発生についての情報および/もしくは心房収縮の発生についての情報に基づいて少なくとも1つの心室刺激パルスを生成するよ
うに構成されてもよい。心房収縮の発生についての情報は、心周期の自然な刺激パターンにおけるP波パターンの発生についての情報を含んでいてもよい。心室収縮の発生につい
ての情報は、心周期の自然な刺激パターンにおけるQRS群の発生についての情報を含んで
いてもよい。
【0092】
別の態様では、一つの実施形態は、血圧を下げるためのシステムを提供してもよい。本システムは、1つまたは複数の心臓活動イベントのタイミングについての情報を提供する
手段、刺激パルスを生成する手段、および刺激パルスを少なくとも1つの心臓チャンバに
印加する手段を備えていてもよい。1つまたは複数の心臓活動イベントのタイミングにつ
いての情報は、心房の心房収縮の発生、心室の心室収縮の発生、房室弁の開放、房室弁の閉鎖、心房の電気活動、心室の電気活動、血流量、心房の心房内圧、心房の心房内圧の変化、および心拍数のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。刺激パルスを生成する手
段は、情報に基づいて心室収縮に対する心房収縮のタイミングを設定するように、刺激パルスを生成するように構成されてもよい。
【0093】
心室収縮に対する心房収縮のタイミングは、約30ms~約0msの範囲内のAV遅延に対応し
ていてもよい。刺激パルスを生成する手段は、心室興奮が起こる約30ms~約0ms前の範囲
内に興奮性刺激を心房に提供し、心房興奮が起こってから約30ms~約0ms後の範囲内に興
奮性刺激を心室に提供し、および/または興奮性刺激を心房に提供し、その後、約30ms~約0ms後の範囲内で興奮性刺激を心室に提供するように、刺激パルスを生成するように構
成されてもよい。
【0094】
1つまたは複数の心臓活動イベントのタイミングについての情報は、単一の心周期にお
ける2つまたはそれ以上の心臓活動イベント間のタイミングについての情報を含んでいて
もよい。
【0095】
刺激パルスを生成する手段は、少なくとも1回の心周期のために、心房収縮を生じさせ
る少なくとも1つの心房刺激パルスおよび/または心室収縮を生じさせる少なくとも1つの心室刺激パルスを生成するように構成されてもよい。刺激パルスを生成する手段は、心房収縮の発生および/もしくは心室収縮の発生に対してタイミングを合わせるような関係で、心房収縮の発生についての情報および/もしくは心室収縮の発生についての情報に基づいて少なくとも1つの心房刺激パルスを生成し、ならびに/または、心室収縮の発生およ
び/もしくは心房収縮の発生に対してタイミングを合わせるような関係で、心室収縮の発生についての情報および/もしくは心房収縮の発生についての情報に基づいて少なくとも1つの心室刺激パルスを生成するように構成されてもよい。心房収縮の発生についての情
報は、心周期の自然な刺激パターンにおけるP波パターンの発生についての情報を含んで
いてもよい。心室収縮の発生についての情報は、心周期の自然な刺激パターンにおけるQRS群の発生についての情報を含んでいてもよい。
【0096】
別の態様では、一つの実施形態は、心房内圧および心房拡張を制御することによって患者の血圧を下げるための別の方法を提供する。本方法は、患者の心臓と関連付けられた埋め込み型心筋刺激装置を用いて実施されてもよい。本方法は、1つまたは複数の刺激パタ
ーンの刺激パルスを少なくとも1つの心臓チャンバに伝達することであって、刺激パルス
のうちの少なくとも1つは、第1の刺激設定を有し、刺激パルスのうちの少なくとも1つは
、第1の刺激設定とは異なる第2の刺激設定を有し、第1の刺激設定および第2の刺激設定のうちの少なくとも1つは、心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇
と時間が重なり合うように心房を収縮させるように構成されている、伝達することと、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との重なり合いにより、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高い心房の心房内圧を提供し、それにより、ホルモン経路またはニューロン経路を通して血圧を下げる心房の心房拡張の増大を引き起こすこととを含んでいてもよい。
【0097】
所望により、第1の刺激設定および第2の刺激設定のうちの少なくとも1つは、心房収縮
により生じる最高心房内圧が、心房の最高受動内圧上昇と時間が重なり合うような心房収縮を有するように構成されてもよく、本方法は、心房収縮により生じる最高心房内圧および最高受動内圧上昇の重なり合いにより、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高い心房の心房内圧を提供し、それにより、ホルモン経路またはニューロン経路を通して血圧を下げる心房の心房拡張の増大を引き起こすことを含んでいてもよい。
【0098】
別の態様では、一つの実施形態は、心房内圧および心房拡張を制御することによって患者の血圧を下げるためのシステムを提供する。本システムは、1つまたは複数の刺激パタ
ーンの刺激パルスを少なくとも1つの心臓チャンバに伝達するように構成された刺激回路
と、少なくとも1つの心臓チャンバへの1つまたは複数の刺激パターンの刺激パルスの伝達を実行するように構成された少なくとも1つのコントローラとを備えてもよい。刺激パル
スのうちの少なくとも1つは、第1の刺激設定を有していてもよく、刺激パルスのうちの少なくとも1つは、第1の刺激設定とは異なる第2の刺激設定を有していてもよい。第1の刺激
設定および第2の刺激設定のうちの少なくとも1つは、心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合うことによって、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高い心房の心房内圧を提供し、それにより、ホルモン経路またはニューロン経路を通して血圧を下げる心房の心房拡張の増大を引き起こすように、心臓の心房を収縮させるように構成されてもよい。所望により、第1の刺激設定および第2の刺激設定のうちの少なくとも1
つは、心房収縮により生じる最高心房内圧が、心房の最高受動内圧上昇と時間が重なり合うように心臓の心房を収縮させ、それによって刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高い心房の心房内圧を提供し、ホルモン経路またはニューロン経路を通して血圧を下げる心房の心房拡張の増大を引き起こすように構成されてもよい。
【0099】
別の態様では、一つの実施形態は、心房内圧および心房拡張を制御することによって患者の血圧障害を治療するための方法を提供する。本方法は、治療前の血圧を有する患者の心臓と関連付けられた埋め込み型心筋刺激装置を用いて実施されてもよい。本方法は、心臓を刺激して、収縮により心房が膨脹するように心房と関連する心臓弁が閉鎖されている間にその心房を収縮させることを含んでいてもよく、心房を膨張させることによって、好ましくは、心房収縮の能動的な力が、心室の収縮により引き起こされる最高受動内圧および拡張を超えた心房の内圧および拡張を増大するように、心室の内圧が最高であるときに心房を収縮させることによって、治療前の血圧からの患者の血圧の低下をもたらす。
【0100】
別の態様では、血圧を低減するためのシステムの実施形態が提供される。このシステムは、患者の心臓の少なくとも1つのチャンバを、少なくとも1つの刺激パルスを備える刺激パターンにより刺激するために、少なくとも1つの刺激電極を備えていてもよい。このシ
ステムは、患者の血圧に関連する入力を受信し、かつ、上記血圧に基づいて刺激パターンを調整するよう構成された少なくとも1つの制御器を含んでいてもよい。例えば、入力は
、1つ以上のセンサ(埋め込みもしくは外部の)により検知されたデータを受信すること
、および/または、ユーザにより供給されたデータを受信することを含んでいてもよい。
例えば、埋め込みおよび/または周期的な確認中に、ユーザは、測定された血圧に関する
データを供給してもよい。
【0101】
好ましくは、このシステムは、測定センサおよび/またはユーザインタフェースから、
有線通信および/または無線通信でこの入力を受信するための入力ポートを含んでいる。
入力は、血圧(BP)、またはBPの変化に関連するデータを備えていてもよく、BPの変化は、収縮期BP(SysBP)、拡張期BP、平均動脈BPおよび/または他の関連するBPパラメータとして測定されてもよい。例えば、少なくとも1つのセンサが、1つ以上の心臓チャンバ内の圧力または圧力の変化を検知し、圧力または圧力の変化に基づいて刺激パターンを調整してもよい。別の実施形態では、センサは、1つよりも多いチャンバ内の圧力を検知し、2つのチャンバの圧力波形の関係に基づいて刺激を調整してもよい。
【0102】
制御器は、少なくとも1つの刺激パルスの少なくとも1つの第1の刺激設定のパラメータ
を調整することを含む調整処理を行うことにより、刺激パターンを調整するよう構成されていてもよい。
【0103】
第1の刺激設定は、少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止するよう構成されていてもよい。
【0104】
パラメータは、AV遅延の調整を含んでいてもよい。たとえば、自然なAV遅延は、自然に(すなわち、心臓への刺激の伝達なしに)起きるにせよ、または、心房および心室のうちの1つまたは複数への刺激の伝達のタイミングを設定するにせよ、心房興奮の開始から心
室興奮の開始までは120~200msの範囲であってもよい。所望により、AV遅延を調整するこ
とは、それを、(たとえば120msの)通常のAV遅延から、より短いAV遅延(たとえば、心
房興奮の開始から心室興奮の開始まで0~70ms、または、心房興奮の前に心室興奮が起き
る、0~-50msのAV遅延)へと調整することを意味している。一つの実施形態では、-50ms
~70ms、好ましくは-40ms~60ms、より好ましくは-50ms~0ms、または0~70ms、好ましくは>0~70msの間のAV遅延を有する刺激設定が、房性刺激を低減または防止するために選
択される。
【0105】
房性刺激を低減させるように構成された刺激パターンは、心臓への電気の印加から約3
秒以内に、少なくとも所定の量だけ血圧の低下を生じさせ、かつ、少なくとも1分の時間
間隔の間、血圧の低下を維持するよう構成されていてもよい。たとえば、刺激パターンは、1つまたは複数の検知されたBPパラメータに関連するフィードバックに基づき、選択お
よび/または調整されていてもよい。
【0106】
時間間隔は、少なくとも5分であってもよい。
【0107】
血圧低減の所定の量は、8mmHg以下であってもよい。
【0108】
血圧低減の所定の量は、患者の治療前の血圧の少なくとも4%であってもよい。
【0109】
患者の血圧は、該時間間隔中に、所定の程度を上回って所定の平均値を超えなくてもよい。所定の程度とは、約8mmHg以下の差であってもよい。いくつかの実施形態において、
患者の血圧は、いくつかの鼓動については所定の平均値を超えていてもよいが、患者の平均血圧は所定の平均値を超えなくてもよい。
【0110】
制御器は、複数の刺激パターンを施し、刺激中に、患者の血圧に関連する対応する入力データを、各刺激パターンについて受信するよう構成されていてもよい。制御器は、複数の刺激パターンのそれぞれについて、入力データに関連する少なくとも1つの血圧変動パ
ラメータを算定するよう構成されていてもよい。制御器は、血圧変動パラメータに応じて刺激パターンを調整するよう構成されていてもよい。
【0111】
制御器は、刺激パターンを、最良の血圧変動パラメータを有するものとなるように調整するよう構成されていてもよい。
【0112】
最良の血圧変動パラメータは、本明細書に詳述する最低の程度の圧反射または最低の程度もしくは度合いの適応を示すものであってもよい。
【0113】
最良の血圧変動パラメータは、本明細書に詳述する所定の範囲内の圧反射または適応の程度を示すものであってもよい。
【0114】
複数の刺激パターンのうちの少なくとも2つの刺激パターンはそれぞれ、少なくとも1つの心室で房性刺激を低減もしくは防止し、ならびに/または心房内圧および/もしくは拡張を制御するように構成された刺激設定を有する少なくとも1つの刺激パルスを含んでい
てもよい。少なくとも2つの刺激パターンは、少なくとも1つの刺激パルスが連続して供給される回数または時間の長さが互いに異なっていてもよい。
【0115】
複数の刺激パターンは、所定のAV遅延を連続して引き出すようにシステムが構成されている時間の数または時間の長さだけ、異なっていてもよい。
【0116】
複数の刺激パターンの少なくとも2つの刺激パターンは、少なくとも2つの刺激パターンのそれぞれの内に含まれる1つ以上の刺激設定により、他と異なっていてもよい。
【0117】
複数の刺激パターンは、第1の刺激設定、および、第1の刺激設定後に施される第2の刺
激設定を含んでいてもよい。第2の刺激設定は、第1の刺激設定の入力データに関連する血圧変動パラメータを使用するアルゴリズムに基づいて設定された、少なくとも1つの刺激
設定を有していてもよい。
【0118】
システムは、患者の血圧に関連する入力データを提供するための血圧センサを備えていてもよい。
【0119】
血圧センサは埋め込み可能であってもよい。
【0120】
血圧センサおよび制御器は、少なくとも部分的に閉ループとして作動するよう構成されていてもよい。
【0121】
別の態様では、血圧を低減するためのシステムの実施形態が提供される。このシステムは、患者の心臓の少なくとも1つのチャンバを刺激パルスで刺激するために、少なくとも1つの刺激電極を備えていてもよい。このシステムは、制御器を備えていてもよい。制御器は、第1の時間間隔の間、少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止し、かつ、上記第1の時間間隔中に患者の血圧に関連する第1の入力データを受信するよう構成された少なくとも1つの刺激設定を備える第1の刺激パターンを提供するよう構成されていてもよい。制御器は、第1の入力データに関連する少なくとも1つの血圧変動パラメータを算定するよう構成されていてもよい。制御器は、少なくとも1つの心室で心房キックを低減また
は防止するよう構成された第2の刺激設定を備える第2の刺激パターンの少なくとも1つの
パラメータを調整するよう構成されていてもよい。第2の刺激設定は、少なくとも1つの血圧変動パラメータに基づいていてもよい。制御器は、第2の時間間隔の間、第2の刺激パターンを供給するよう構成されていてもよい。
【0122】
別の態様では、血圧を低減するためのシステムの実施形態が提供される。このシステムは、患者の心臓の少なくとも1つのチャンバを刺激パルスで刺激するために、少なくとも1つの刺激電極を備えていてもよい。このシステムは、少なくとも1つの心室で心房キック
を低減または防止するよう構成された少なくとも1つの刺激設定を備える刺激パターンを
施すよう構成された少なくとも1つの制御器を備えていてもよい。刺激パターンは、最初
の圧力値から、低減された圧力値への、血圧の即時の低減を引き起こし、かつ、安静時の患者の平均の血圧を、最初の圧力より少なくとも8mmHg低く維持するよう選択されていて
もよい。
【0123】
低減された血圧値は、少なくとも1分の時間間隔の間、維持されてもよい。
【0124】
別の態様では、血圧を低減するためのキットの実施形態が提供される。このキットは、血圧を低減するための刺激パターンを設定するための少なくとも1つの装置を備えている
。この装置は、少なくとも1つの刺激電極を備えていてもよい。この装置は、調整可能な
刺激パターンを設定するための制御器と、患者の血圧に関連する入力に基づいて刺激パターンを調整するための命令のセットとを備えていてもよい。
【0125】
別の態様では、一つの実施形態は、血圧を下げるためのシステムを提供する。本システムは、患者の心臓の少なくとも1つのチャンバを刺激する少なくとも1つの刺激電極を備えていてもよい。本システムは、少なくとも1つの心室における房性刺激を低減または防止
するように構成された少なくとも1つの刺激設定を有する少なくとも1つの刺激パルスを含む刺激パターンを実行するように構成された少なくとも1つのコントローラを備えていて
もよい。少なくとも1つの刺激設定は、最高の心房拡張が、刺激を受けていないときの同
じ心臓の最高の心房拡張にほぼ等しい、またはそれより低い値となるように構成されていてもよい。
【0126】
本明細書に記載される実施形態のいずれにおいても、心房拡張を当技術分野において既知のとおり、測定、計算、および/または推定してもよい。心房収縮は、心房内圧および心房拡張に影響を与えることが知られている。心房の内圧および拡張は、心房容積に依存する。心房容積は、心房内部の血液量と、筋肉の収縮により生じる能動的な力とに依存する。健康な心臓では、心房が収縮すると心房内圧が上昇する。心房内圧は、心房収縮が停止して心房から血液が流れ出、心室が充満されるときに低下する。次に心室が収縮すると、AV弁は閉じ、心房が再び充満し始めるが、これは、静脈系から心房への血液の流れを防止する弁がないからである。心室内で生じる内圧はさらに、種々の機構(そのうち1つは
、AV弁の心房内への膨らみに関連する)を介して心房内圧を上昇させる。閉鎖されたAV弁に対して起こる心房内圧の増加により、心房容積および心房内圧に関連する心房拡張も増大する。AV弁が閉鎖されているときの心房の収縮により、心房内圧が上昇し、かつ心房拡張が増大するが、これは閉鎖された弁が容積の低減を防止するからである。心房拡張の増大は、心房壁に存在する圧受容器(伸張受容器としても知られている)を刺激する。これらの圧受容器は、ホルモンおよび/またはニューロンによる血圧の低下に関係する。
【0127】
したがって、いくつかの実施形態では、心房拡張の測定は、心房内圧を測定することを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、心房拡張測定は、心房の大きさ(たとえば、直径、サイズ、または円周)を測定することまたは推定することを含んでいてもよい。場合によっては、単回の心房収縮が心周期毎に起こる場合、心房内の血液の量は、単一の心周期中に心房が2回収縮する場合よりも多くなると予測される。したがって、心房
収縮が心周期当たり1回行われ、心房収縮が閉鎖された弁に対して完全に抗する場合、心
房内圧および/または心房拡張は、心房が心周期当たり2回収縮する場合よりも大きくな
ってもよい。しかし、心房が閉鎖された弁に抗してのみ収縮する場合、房性刺激はなく、いくつかの実施形態では、心房内圧(および心房拡張)および房性刺激に設定された値間のバランスが取られてもよい(心周期当たりおよび/またはペーシングパターン当たり)。
【0128】
少なくとも1つの刺激設定は、AV弁が開いているときに心房を最大の収縮にならせるよ
う構成されていてもよい。
【0129】
少なくとも1つの刺激設定は、少なくとも1つの心房収縮の仕組みが、先行する自然な心房収縮の仕組みと異なるように、少なくとも1つの心房収縮の仕組みを変更するよう構成
されていてもよい。心房収縮の仕組みを、例えば超音波(例えば心エコー検査または心エコー)を含む公知の技術を使用して評価してもよい。
【0130】
少なくとも1つの刺激設定は、少なくとも1つの心房収縮の力を低減するよう構成されていてもよい。心房収縮の力を、例えば心房痙攣(atrial spasm)または心房粗動(atrial
flutter)を一時的に生成することにより、低減してもよい。一例が、急速な刺激パルスの突発を心房へ、所定の時間の短い期間、伝達することである。心房収縮の力は、公知の手段を使用して、心房圧力および/または壁運動もしくは壁流などのその派生物の検知よ
り、算定することができる。このような検知を、閉ループのフィードバックとして、ならびに/または、ときおり(例えば、埋め込みおよび/もしくは検査時に)使用してもよい。
【0131】
少なくとも1つの刺激設定は、少なくとも1つの心房収縮を防止するよう構成されていてもよい。心房収縮を、例えば、心房痙攣または心房粗動を一時的に生成することにより、防止してもよい。一例が、急速な刺激パルスの突発を心房へ、所定の時間の短い期間、伝達することである。
【0132】
別の態様では、血圧を低減するためのシステムの実施形態が提供される。このシステムは、患者の心臓の少なくとも1つのチャンバを刺激するために、少なくとも1つの刺激電極を備えていてもよい。少なくとも1つの制御器は、患者の心臓に、刺激パルスの刺激パタ
ーンを施すよう構成されていてもよい。少なくとも1つの制御器は、患者のAV弁の状態に
関連する入力を受信するよう構成されていてもよい。この入力は、有線通信または無線通信で、埋め込みもしくは外部の音響センサもしくは血流センサから、および/または、ユ
ーザインタフェースを介して、供給されてもよい。少なくとも1つの制御器は、上記弁状
態に基づき、少なくとも1つの刺激パターンを調整するよう構成されていてもよい。
【0133】
患者のAV弁の状態に関連する入力は、AV弁の閉鎖のタイミングを示唆していてもよい。
【0134】
患者のAV弁の状態に関連する入力は、心音センサに基づいて提供されてもよい。
【0135】
患者のAV弁の状態に関連する入力は、血流センサに基づいて提供されてもよい。
【0136】
血流センサは、埋め込みのセンサを含んでいてもよい。
【0137】
血流センサは、AV弁を通る血流を検知するための超音波センサを含んでいてもよい。
【0138】
血流センサおよび制御器は、少なくとも部分的に閉ループとして作動するよう構成されていてもよい。
【0139】
刺激パターンは、少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止するよう構成さ
れた少なくとも1つの刺激パルスを備えていてもよい。
【0140】
少なくとも1つの刺激パターンを調整するステップは、少なくとも1つの刺激パルスのAV遅延を調整することを含んでいてもよい。
【0141】
別の態様では、治療前の心室充満量を有する患者で、心室充満量を低減するためのシステムの実施形態が提供される。このシステムは、少なくとも1つの心臓チャンバに刺激パ
ルスを伝達するよう構成された刺激回路を備えていてもよい。このシステムは、少なくとも1つの心臓チャンバに刺激パルスの1つ以上の刺激パターンの伝達を施すよう構成された、少なくとも1つの制御器を備えていてもよい。刺激パルスの少なくとも1つは、第1の刺
激設定を有していてもよく、刺激パルスの少なくとも1つは、第1の刺激設定と異なる第2
の刺激設定を有していてもよい。第1の刺激設定および第2の刺激設定の少なくとも一方は、心房キックを低減または防止して、それにより、心室充満量を治療前の心室充満量から低減するよう構成されていてもよい。
【0142】
第1の刺激設定および第2の刺激設定は、心房キックを低減または防止するよう構成されていてもよい。
【0143】
第1の刺激設定は、第2の刺激設定のAV遅延と異なるAV遅延を有していてもよい。
【0144】
1つ以上の刺激パターンの少なくとも1つが、1時間の期間に少なくとも2度繰り返されてもよい。
【0145】
少なくとも1つの制御器は、10分以上継続する時間間隔の間連続して、1つ以上の刺激パターンを施すよう構成されていてもよい。第1の刺激設定は、時間間隔の少なくとも50%
の間、少なくとも1つの心室で、心房キックを低減または防止するよう構成されていても
よい。
【0146】
第2の刺激設定は、第1の刺激設定よりも長いAV遅延を有していてもよい。
【0147】
第2の刺激設定は、第1の刺激設定よりも長いAV遅延を有している。
【0148】
1つ以上の連続した刺激パターンは、時間間隔の少なくとも約85%の間、第1の刺激設定を有している、少なくとも1つの刺激パルスを備えていてもよい。
【0149】
時間間隔は、少なくとも30分の長さであってもよい。時間間隔は、少なくとも1時間の
長さであってもよい。
【0150】
時間間隔は、少なくとも24時間の長さであってもよい。
【0151】
1つ以上の連続した刺激パターンは、第1の刺激設定および第2の刺激設定と異なる第3の刺激設定を有し、かつ、少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止するよう構
成された、少なくとも1つの刺激パルスを備えていてもよい。
【0152】
1つ以上の連続した刺激パターンは、第1の刺激設定および第2の刺激設定と異なる第3の刺激設定を有し、かつ、時間間隔の約50%未満の間、少なくとも1つの心室で心房キック
を低減または防止しないよう構成された、少なくとも1つの刺激パルスを備えていてもよ
い。
【0153】
1つ以上の連続した刺激パターンは、時間間隔の約20%以下の間、少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止しないよう構成された、第3の刺激を備えていてもよい。
【0154】
1つ以上の連続した刺激パターンは、第1の刺激設定を有する10~60個の刺激パルスのシーケンスを備えていてもよい。第1の刺激設定は、少なくとも1つの心室で心房キックを、および、10~60個の刺激パルス内に埋め込まれた1~10個の鼓動のシーケンスを、低減ま
たは防止するよう構成されていてもよい。1~10個の鼓動のシーケンスは、第1の刺激設定よりも長いAV遅延を有していてもよい。
【0155】
1~10個の鼓動のシーケンスは、少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止するよう構成された第1の刺激設定を有する、少なくとも1つの刺激パルスを含んでいてもよい。
【0156】
1~10個の鼓動のシーケンスは、第2の刺激設定を有する少なくとも1つの刺激パルスを
含んでいてもよい。
【0157】
1~10個の鼓動のシーケンスは、自然なAV遅延を含んでいてもよい。
【0158】
1~10個の鼓動のシーケンスの少なくとも1つの鼓動は、刺激なしに起きてもよい。
【0159】
刺激パルスの間に起きる血圧値の増加が所定の値に制限されるよう、第1の刺激設定は
、少なくとも1つの心室で心房キックを低減するよう構成されていてもよく、かつ、第2の刺激設定は、圧反射反応または心房キックの低減に対する適応を低減するよう構成されていてもよい。
【0160】
第2の刺激設定は、約1つの鼓動~5つの鼓動の間、血圧の増加を許容するよう構成され
ていてもよい。
【0161】
刺激パターンは、第1の刺激設定を有する複数の刺激パルスを含んでいてもよい。
【0162】
刺激パターンは、第2の刺激設定を有する複数の刺激パルスを含んでいてもよい。
【0163】
刺激パターンの複数の刺激パルスの約1%と複数の刺激パルスの約40%との間で、第2の刺激設定を有していてもよい。
【0164】
刺激パターンは、血圧の増加および減少に対する反応の時定数の比率に対応する第2の
刺激設定を有する刺激パルスに対して、第1の刺激設定を有する刺激パルスの比率を含ん
でいてもよい。
【0165】
第1の刺激設定は第1のAV遅延を含んでいてもよく、第2の刺激設定は第2のAV遅延を含んでいてもよい。第1のAV遅延は、第2のAV遅延より短くてもよい。
【0166】
刺激パターンは、第1の刺激設定を有する複数の刺激パルスを含んでいてもよい。
【0167】
刺激パターンは、第2の刺激設定を有する複数の刺激パルスを含んでいてもよい。
【0168】
刺激パターンの複数の刺激パルスの約1%と複数の刺激パルスの約40%との間で、第2の刺激設定を有していてもよい。
【0169】
刺激パターンは、血圧の増加および減少に対する反応の時定数の比率に対応する第2の
刺激設定を有する刺激パルスに対して、第1の刺激設定を有する刺激パルスの比率を含ん
でいてもよい。
【0170】
刺激パターンは、第2の刺激設定を有する約2個~約5個の刺激パルスに対して、第1の刺激設定を有する約8個~約13個の刺激パルスの比率を含んでいてもよい。
【0171】
第1の刺激設定および第2の刺激設定の一方が、患者の体からホルモン応答(hormonal response)を引き起こすよう構成されていてもよい。
【0172】
別の態様では、治療前の心室充満量を有する患者の心室充満量を低減するためのシステムの実施形態が提供される。このシステムは、少なくとも1つの心臓チャンバに刺激パル
スを伝達するよう構成された刺激回路を備えていてもよい。このシステムは、少なくとも1つの心臓チャンバに、刺激パルスの1つ以上の刺激パターンの伝達を施すよう構成された、少なくとも1つの制御器を備えていてもよい。刺激パルスの少なくとも1つは、心房興奮の開始の約0ms~約70ms後に心室興奮が開始されて、それにより、心室充満量を治療前の
心室充満量から低減するよう構成された設定を含んでいてもよい。例えば、プロセッサ回路は、少なくとも1つの心房で心室興奮の開始が起きてから約0ms~約70msの間に、または、1つ以上の興奮性のパルスが心房に伝達されてから約0ms~約70msの間に、1つ以上の興
奮性のパルスが心室に伝達される作動モードで作動するよう構成されていてもよい。
【0173】
いくつかの実施形態では、検知された心房興奮のタイミングが、興奮の実際の開始とその設定との間の遅延を考慮に入れることにより決定されてもよい。例えば、検知の遅延が20~40msであると推定され、刺激パルスが、心房興奮の開始の0~70ms後に伝達されるも
のであった場合、システムが、次の予想される検知事象の40ms前~次の予想される検知事象の30ms後または次の検知事象の30ms後の間にパルスを伝達するよう設定されていてもよい。同様に、刺激パルスが、心房興奮の開始の0~50ms前に心室に伝達されるものであり
、同じ20~40msの検知遅延が想定される場合、システムが、次の予想される検知事象の40
ms前~次の予想される検知事象の90ms前の間にパルスを伝達するよう設定されていてもよい。検知遅延は、興奮の開始の場所と検知電極との間の距離、電気信号の水準、検知回路の特徴、および、検知事象の閾値セットの1つ以上のためである場合がある。遅延は例え
ば、興奮の起源から電極位置への信号伝播の持続、検知回路の周波数応答に関連する持続、および/または、信号伝播エネルギーが、検知回路により検知可能な水準に達するのに
必要な持続を含んでいてもよい。遅延は有意であってもよく、例えば約5ms~約100msの間の範囲であってもよい。遅延を推定する1つの手法は、心房および心室の両方が検知され
たときに測定されたAV遅延と、心房がペーシングされ、心室が検知されたときのAV遅延との間の時間差を使用することである。他の手法では、設定された閾値、信号強度および周波数成分に基づく増幅器応答時間の算定を使用してもよい。他の手法は、血圧に対する効果が、所望のAV遅延で心房および心室の両方をペーシングすることにより得られる効果と同じになるまで、心房検知とともに使用する遅延を修正することを含んでいてもよい。
【0174】
別の態様では、治療前の心室充満量を有する患者で心室充満量を低減するためのシステムの実施形態が提供される。このシステムは、少なくとも1つの心臓チャンバに刺激パル
スを伝達するよう構成された刺激回路を含んでいてもよい。少なくとも1つの制御器が、10分以上継続する時間間隔の間、少なくとも1つの心臓チャンバに、刺激パルスの1つ以上
の刺激パターンの伝達を施すよう構成されていてもよい。刺激パルスの少なくとも1つが
、時間間隔のうちの少なくとも5分の間、少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止するよう構成された第1の刺激設定を有していてもよく、刺激パルスの少なくとも1つが、第1の刺激設定と異なる第2の刺激設定を有していて、それにより、心室充満量を治療前の心室充満量から低減する。
【0175】
別の態様では、治療前の心室充満量を有する患者で心室充満を低減するための方法が提供される。この方法は、10分以上継続する時間間隔の間、少なくとも1つの心臓チャンバ
に、刺激パルスの1つ以上の刺激パターンを伝達するステップを含んでいてもよい。刺激
パルスの少なくとも1つが、時間間隔のうちの少なくとも5分の間、少なくとも1つの心室
で心房キックを低減または防止するよう構成された第1の刺激設定を有していてもよく、
刺激パルスの少なくとも1つが、第1の刺激設定と異なる第2の刺激設定を有している。
【0176】
本発明の他のシステム、方法、特徴および利点は、以下の図面および詳細な説明を検討することで、当業者に明らかであり、または明らかとなるであろう。このような追加のシステム、方法、特徴および利点はすべて、この説明およびこの要約に含まれ、本発明の範囲内にあり、かつ以下の特許請求の範囲により保護されるよう意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【
図1】時間に対してプロットした、刺激信号を受けた高血圧の患者の収縮期血圧を示すグラフである。
【
図2】
図1の破線の長方形Aで示した部分の拡大図である。
【
図3A】
図2の時点aと点a’との間の部分の拡大図である。
【
図3B】
図1の破線の長方形A’で示した部分の拡大図である。
【
図4】
図1の破線の長方形Bで示した部分の拡大図である。
【
図5A】
図1の破線の長方形Cで示した部分の拡大図である。
【
図5B】
図5Aの時点cと点c’との間の部分の拡大図である。
【
図6】時間に対してプロットした、刺激信号を受けた高血圧の患者の収縮期血圧を示すグラフである。
【
図7】時間に対してプロットした、刺激信号を受けた高血圧の患者の収縮期血圧を示すグラフである。
【
図8】刺激パターンを設定および/または選択するための方法を示すフローチャートである。
【
図9】血圧を低減するためのシステムを示す模式図である。
【
図10A】健康な犬の心臓の心電図、大動脈圧および左心室圧の時間プロットである。
【
図10B】健康な犬の心臓の心電図、大動脈圧および左心室圧の時間プロットである。
【
図11A】右心房圧、右心室圧の拡大した拡張期の部分、右心室圧および心電図を示す、高血圧の犬の心臓の時間プロットである。
【
図11B】右心房圧、右心室圧の拡大した拡張期の部分、右心室圧および心電図を示す、高血圧の犬の心臓の時間プロットである。
【
図12】高血圧の犬の心臓の右心房圧、右心室圧の拡大した拡張期の部分、右心室圧、左心室圧、ならびに、同じグラフで大動脈圧および心電図を示すグラフである。
【
図13】血圧を下げるための方法を示すフローチャートである。
【
図14】
図13および
図23の方法のような本明細書に記載される方法の1つまたは複数を実行する、血圧を下げるためのデバイスを示すフローチャートである。
【
図15】本発明の一つの実施形態に係る人工弁を示す模式図である。
【
図16】時間に対してプロットした、刺激信号を受けた高血圧の患者の収縮期血圧を示すグラフである。
【
図17】時間に対してプロットされ、単一の心周期の等容性期および急速駆出期を強調した、心室容積、心室内圧、心房内圧、および心電図(ECG)を示すグラフである。
【
図18】刺激が洞調律(sinus rhythm)から、2msのAV遅延での心房および心室のペーシングへと変化する期間をトレースした心電図(ECG)、右心室内圧(RV内圧)、右心房内圧(RA内圧)、大動脈圧(Ao圧)、および左心室内圧(LV内圧)を示す一組のグラフであり、心房内圧の顕著な増加を示している。
【
図19】刺激が洞調律から、40msのAV遅延での心房および心室のペーシングへと変化する期間をトレースした心電図(ECG)、右心室内圧(RV内圧)、右心房内圧(RA内圧)、大動脈圧(A0圧)、および左心室内圧(LV内圧)を示す一組のグラフであり、心房内圧の顕著な増加は示されていない。
【
図20A】ある期間の心房内圧を示すグラフであり、心房において心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇とが異なる間隔で重なり合う異なる度合いを示しており、心房において心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇とが重なり合わない例を示す。
【
図20B】ある期間の心房内圧を示すグラフであり、心房において心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇とが異なる間隔で重なり合う異なる度合いを示しており、心房において心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇とが、それぞれの開始の間に30msの遅延をおいて組み合わせられる例を示す。
【
図20C】ある期間の心房内圧を示すグラフであり、心房において心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇とが異なる間隔で重なり合う異なる度合いを示しており、0ms、10ms、20ms、30ms、40ms、50ms、および60msの遅延による異なる度合いの重なり合いを比較して示す。
【
図21】24時間の患者の平均血圧をプロットしたグラフである。
【
図22】治療していない場合および一つの実施形態に従って治療した場合の24時間の患者の平均血圧をプロットしたグラフである。
【
図23】一つの実施形態による、心房内圧および心房拡張を制御するための例示的方法を示すフローチャートである。
【
図24】特定の患者のAV遅延と収縮期血圧の低下との関係を示すグラフである。
【
図25】特定の外来患者についての24時間にわたる収縮期血圧を示すグラフである。
【
図26】
図25の患者とは異なる、別の特定の外来患者についての24時間にわたる収縮期血圧を示すグラフである。
【
図27】本明細書に開示されるイヌの血圧低下治療の効果を示すグラフであり、収縮期血圧(mmHg)の経時変化(日)をプロットしている。
【発明を実施するための形態】
【0178】
本発明は、以下の図面および説明を参照することにより、よりよく理解することができる。図中の部品は必ずしも縮尺に従って描かれておらず、本発明の原理を示す際に強調が施されている。さらに、図では、類似の参照番号が、異なる図を通じて、対応する部品を示す。
【0179】
人間の心臓は2つの心房および2つの心室を備えている。通常の心臓サイクルでは、心収縮は心房収縮で始まり、心房収縮に心室の収縮が続く。
【0180】
心収縮の機械的なプロセスは、心臓での電気の伝導により制御されている。各鼓動中に、減極の波が洞房結節で、細胞により誘発される。減極は心房内で、房室(AV; atrioventricular)結節(node)へ、次いで心室へと伝播する。健康な心臓では、房室遅延(AV遅延; atrioventricular delay)、すなわち、心房興奮の開始と心室興奮の開始との間の遅延時間が通常、120ミリ秒(ms)と200msとの間である。心房収縮および心室収縮の相対的なタイミングはとりわけ、各チャンバの興奮の相対的なタイミングにより、かつ、(サイズ、伝播の速さ、ミオサイト特性における相違などに依存する)電気的活性化の結果としての機械的な収縮を生成するためにチャンバが必要とする時間により、影響を受ける。
【0181】
収縮前に、心筋は弛緩し、血液が心房から心室へと、それらの間の弁を通って自由に流れる。この期間は急速流入期(rapid filling phase)と緩徐流入期(slow filling phase)とに分けることができる。急速流入期は、静脈系および心房からの血液が急速に心室
を満たす、心室の弛緩の直後に開始される。急速流入期は約110msの間継続し、心房の収
縮の始まりまで継続する緩徐流入期が続く。緩徐流入期の持続は心拍数に依存している。その後、心房が収縮すると、圧力が心房内で増加し、血液をより急速に心室へと流れさせる。心室充満に対する心房収縮のこの貢献は、「心房キック(atrial kick)」として知
られている。心房キックは通常、心室充満の約10%~30%を担っている。
【0182】
図17は、単一の心周期におけるある期間の心室容積、心室内圧、心房内圧、および心臓電気活動の変化を示す。本明細書で使用する場合、心周期とは、心室の2回の弛緩の間の
期間であり、この心室が2回弛緩する間に心房の収縮が1回だけ起こる。心周期の持続時間は、心拍数に反比例するため、心拍数が低下すると心周期持続時間は増加し、心拍数が増加すると心周期持続時間は減少する。典型的なヒトの75拍/分の速さでは、1回の心周期
は約0.8秒の長さである。
【0183】
図17を参照すると、心周期は、ECGでP波を観察した場合、心房興奮の開始時に始まると言ってもよい。次いで、その後約50~70msしてから、心房は約70~110msの間収縮し始め
る。心房が収縮するにつれ、心房の内圧は上昇し、最高値に達する。その後、心房は弛緩し始め、内圧が低下する。最高値は
図17では点1701で表される。その一方で、電気刺激は心室に伝播し、その後約120~200msのAV遅延をもって心室興奮が開始される(AV遅延は、一部の不健康な個体では約250msまたはそれ以上になりうる)。この心室の興奮は、ECGではQRS群として現れる。心室が収縮するにつれて、心室内で内圧が上昇し、各心房と対応
する心室との間の弁(AV弁)を受動的に閉じ、それにより、心房から心室内への血液の流れを止め、逆流を防止する。
【0184】
心室収縮の次の期間の間、すなわち約50ms持続する等容性収縮期、または等容性期として知られている期間中、等容性期を区分する縦線1703および縦線1704内の心室内圧線および心室容積線によって
図17に示されるように、心室の弁はすべて閉じ、容積は顕著に変化しないまま心室の内圧は急速に上昇する。
【0185】
心室内圧がさらに上昇すると、
図17の線1704により示す時点で、心室と動脈との間の弁が開き、血液が心室から駆出され、心臓から離れる。この心室収縮期は、急速駆出期および緩徐駆出期に分けられる。急速駆出期は約90~110ms持続し、その間に1回拍出量の約2
/3が駆出される。急速駆出期は
図17において、線1704と線1705との間の期間として表さ
れる。
【0186】
等容性期の間、および急速駆出期の始まりにおいて、心室の収縮によって典型的には、心房内圧の受動的な増加が引き起こされる。この心房内圧の増加は、関連する心房に対する心室の収縮の機械的効果に起因すると考えられる。たとえば、この心房内圧の増加は、心房がはるかに大きい心室と密接に関係していることによるものであってもよい。大きな心室筋が収縮すると、結合している心房に影響が及ぶ。心房内圧の増加は、弁が心房内へと後方に膨らむことによるものでもあってもよいが、この弁の膨らみは、心室における内圧の増加によるものであってもよい。心房の受動的充満は、心房と脈管系との間に弁がないため、心周期(点1701と点1702との間を含む)中ずっと継続する。心室収縮の機械的効果による内圧増加と連動するこの連続的な受動的充満は、心房内圧の増加の一因となってもよい。
【0187】
したがって、
図17において点1702により表すように、等容性期の後半(すなわち、等容性期開始後約25~35ms)と急速駆出期の始まり(たとえば、急速駆出期の最初の約10ms以内)との間のある時点で受動心房内圧増加はピークに達する。
図17において、点1701の低い心房内圧に対する点1702の高い心房内圧によって示すように、受動心房内圧上昇は、心房収縮による最高心房内圧よりも高くなってもよい。
【0188】
急速駆出期の後に、約130~140ms継続する緩徐駆出期が続く。その後、すべての弁が再び閉じて、心室が等容性弛緩状態で約60~80msの間弛緩し、その間に、心室の内圧は低下する。このとき、心室と心房との間の弁が再度開いて血液を心室内へと自由に流れさせ、その後、新たな心周期が開始されてもよい。
【0189】
〈心房内圧および心房拡張の制御〉
本開示において、心臓刺激を使用して、心房内圧および拡張を増大させることができ、それにより血圧(Blood Pressure:BP)を下げてもよい。心臓刺激によって、心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合うことにより、刺激により生じる心房の心房内圧が、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように心臓を刺激することによって、心房内圧の増加を達成してもよい。
【0190】
実施形態では、心房内圧において最高受動増加が重なり合う期間に最大心房収縮を引き起こすことによって、最高心房内圧に達してもよい。たとえば、心臓刺激を使用して、等容性期の開始後約25~35msから等容性期終了後約10msまでの間に心房収縮により生じる最高心房内圧に達してもよい。心房内圧の増加(心房収縮により生じる心房内圧が、心房内圧の受動増加と重なり合うことによる)により、心房拡張が増大するが、このことはホルモン経路および/またはニューロン経路を通して血圧に影響を与えることが知られている。たとえば、心房拡張の増大によって、心房性ナトリウム利尿ホルモンまたは心房性ナトリウム利尿ペプチドの分泌を引き起こしてもよく、これによって血圧を下げてもよい。
【0191】
実施形態では、心房内圧および心房拡張を増大させ、心房性ナトリウム利尿ホルモンまたは心房性ナトリウム利尿ペプチドの分泌を引き起こすために、長期的にまたは一時的に心臓刺激を適用してもよい。心臓刺激の長期適用は必要ではなく、一時的な刺激が、心房内圧および心房拡張を増大させ、ホルモン分泌を引き起こし、血圧を低下させるのに十分
な場合がある。心房拡張の変化は、圧力プロットにおいて観察されるように一時的なものであってもよく、一時的な拡張は、心房性ナトリウム利尿ホルモンまたは心房性ナトリウム利尿ペプチドの放出を引き起こし、血圧を低下させる際に長期的な拡張よりもいっそうより効果的であってもよい。実施形態では、有益には、心房内圧の一時的な上昇は、心房内圧の長期的な上昇をもたらさない場合がある。
【0192】
いくつかの実施形態において、心房収縮により生じる最高心房内圧が、心房内圧の最高受動増加と完全に、または少なくとも部分的に一致する場合、心房収縮により生じる最高心房内圧は、心房内圧の最高受動増加と重なり合う期間に生じたと考えられる。たとえば、最大心房収縮が、予測される心房内圧の最高受動増加の前または後約20ms以内に生じると予測される場合、心房収縮により生じる最高心房内圧は、心房内圧の最高受動増加と重なり合う期間に生じたと考えられる。
【0193】
いくつかの実施形態において、最高心房内圧とは、収縮または受動内圧増加の最も高い部分を意味し、残りの心房の内圧値よりも少なくとも約25%高い内圧値を有する。所望により、心房収縮および受動内圧増加から内圧に1つのみのピークが観察される場合、また
は2つのピークが観察される場合、心房収縮により生じる最高心房内圧は、心房内圧の最
高受動増加と重なり合う期間に生じたと考えられ、心房収縮により生じる最高心房内圧および心房内圧の最高受動増加は約30ms以下しか離れていない。所望により、時間の重なり合いは、測定値を分析することにより、および/または視覚的に、たとえば、ある期間の心房内圧またはある期間の心房内圧変化をプロットすることによって、数学的に検出可能である。
【0194】
BPまたはBPの変化は、収縮期BP(SysBP)、拡張期BP、平均動脈BP、1つまたは複数のチャンバのBP、および/または、任意の他の関連するBPパラメータとして測定されてもよい。いくつかの実施形態では、ペースメーカまたはパルス発生器を有する他の種類のデバイス等の電気刺激装置を使用して、患者の心臓を刺激し、血圧を下げてもよい。電気刺激装置に有線または無線の接続で電気的に接続された電極が、心臓チャンバに隣接して配置されていてもよい。電気刺激装置は、電極を介して心臓チャンバにパルスを伝達するよう作動されてもよい。
【0195】
いくつかの実施形態において、心房が、心房内圧の(好ましくは、最高)受動内圧増加と重なり合う期間において心房収縮により生じる増加した(好ましくは、最高)心房内圧に達するように心臓を刺激することは、結果として血圧を下げてもよい。簡略さを期して、以下の記述において、このような刺激は、「AC(心房収縮)刺激」と呼んでもよい。AC刺激は、心房が等容性期の後半から急速駆出期の最初の約10msまでの期間に心房収縮により生じる最高心房内圧に到達するように、少なくとも1つの刺激パルスを心臓の少なくと
も1つのチャンバに伝達することを含んでいてもよい。このような刺激パルスは、本明細
書において「AC刺激パルス」または「ACパルス」と呼ぶ。
【0196】
本発明で使用する場合、「刺激パルス」は、単一の鼓動(単一の鼓動が、心室の2回の
弛緩の間の期間であり、この心室が2回弛緩する間に心房の収縮が1回だけ起こる期間として定義される場合)の時間枠内において心臓の1つまたは複数のチャンバに伝達される1つまたは複数の興奮性電気パルス(または刺激パルス)のシーケンスを含んでいてもよい。所望により、このような興奮性電気パルス(または刺激パルス)はさらに、ペーシングパルスと呼ぶ。たとえば、いくつかの実施形態では、刺激パルスは、心室の1つまたは複数
の箇所に伝達される1つまたは複数の電気パルス、および/または心房の1つまたは複数の箇所に伝達される1つまたは複数の電気パルスを含んでいてもよい。このように、いくつ
かの実施形態では、刺激パルスは、心房へ伝達される第1の電気パルスと、対応する心室
へ伝達される第2の電気パルスとを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、刺
激パルスは、心房に伝達される第1の電気パルス、対応する心室に伝達される第2の電気パルス、および第1のパルスに関連する不応期を終えた後に心房に伝達される第3の電気パルスを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、刺激パルスは、心臓の1つまたは複数
のチャンバの複数の箇所に伝達されている単一のパルスを含んでいてもよい。
【0197】
いくつかの実施形態において、ACパルスは、刺激により生じる心房の心房内圧は、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなるように、心周期に対して、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合う心房の心房収縮により生じる心房内圧を有するようなタイミングで伝達されてもよい。好ましくは、ACパルスは、心周期に対して、心房の最高受動内圧増加と重なり合う時点で心房を心房収縮により生じる最高心房内圧に到達させるように伝達されてもよい。所望により、このACパルスの伝達のタイミングは、1つまたは複数の検知イベント、たとえ
ば、心周期に関連するイベントに従って設定される。
【0198】
たとえば、心房および/または心室興奮を検知してもよく、またそれに従ってACパルスを心房および/または心室に伝達してもよい。たとえば、ペーシングパルスは、心室の検知またはペーシングから約-20~30ms、および心房の不応期の終わりから少なくとも約20
ミリ秒以内であると予測されるようなタイミングで心房に伝達してもよい。所望により、心拍数および心室興奮または収縮を検知してもよく、次の心室収縮または興奮のタイミングを推定してもよく、ACパルスは、後々の鼓動における心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧増加と時間が重なり合うように伝達してもよい。所望により、ACパルスは、後々の鼓動における心房収縮が、心房の最高受動内圧増加と時間が重なり合う時点で心房収縮により生じる最高心房内圧に達するように、伝達してもよい。たとえば、ACパルスは、予測される心室興奮の約30~0ms前、または予測される心室収縮開始の約50~120ms前に心房に伝達される刺激を含んでいてもよい。
【0199】
いくつかの実施形態において、刺激パルスは、検知またはペーシングされる第1の心房
興奮、対応する心室に伝達される電気パルス、および心房が第1の興奮に関連する不応期
を終えた後に心房に伝達される別の電気パルスを含んでいてもよい。たとえば、第1の心
房興奮(たとえば、第1の興奮性パルスの心房への伝達)から別の興奮性パルスの心房へ
の伝達までの期間は、約150~250msであってもよい。
【0200】
いくつかの実施形態では、ACパルスは、心房へ伝達される第1の電気パルスと、対応す
る心室へ伝達される第2の電気パルスとを含む。第1の電気パルスと第2の電気パルスとの
相対的タイミングを制御して、その鼓動における心臓の等容性期の後半から急速駆出期の初期までの期間内のある時点で心房を収縮させる。興奮性パルスの伝達から収縮開始までの時間は、心房よりも心室に対しての方が長いため、第1のパルスおよび第2のパルスの伝達の遅延は、約-20~0ms等の負の値を有していてもよい。
【0201】
この正確なタイミングは、さまざまな患者およびさまざまな条件(たとえば、チャンバへの1つまたは複数の電極の異なる配置)により異なっていてもよい。したがって、いく
つかの実施形態では、ACパルスの設定は、たとえば、デバイスの埋め込み時に、および/または、定期的に、たとえば、定期検査時もしくは使用中に(たとえば、1つまたは複数
の関連するセンサからのフィードバックに基づいて)、調整してもよい。
【0202】
たとえば、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合う心房の心房収縮により生じる所望の心房内圧が検知されるまで、異なる設定を有するACパルスを患者に伝達してもよく、心房内圧を検知してもよい。いくつかの実施形態において、所望の心房内圧は、心房が刺激なしで達するであろう心房内圧を上回る任意の内圧であってもよい。所望により、所望の心房内圧は、異なる設定を有する複数のACパルスにより生じる複数の心房内圧のうち最も高
い内圧(または最も高い内圧のうちの1つ)として選択されてもよい。たとえば、ACパル
スは、検知またはペーシングされた心房収縮とペーシングまたは検知された心室収縮との間に異なるAV遅延を有することにより異なりうる。その結果、所定の患者のためにある期間使用するための1つまたは複数のAVパルス設定を選択してもよい。
【0203】
たとえば、心房収縮により生じる最高心房内圧の最高値と心房の受動内圧上昇の最高値との間に所望の度合いの重なり合いが観察されるまで、異なる設定を有するACパルスを患者に伝達してもよく、心房内圧を検知してもよい。たとえば、ACパルスは、検知またはペーシングされた心房収縮とペーシングまたは検知された心室収縮との間に異なるAV遅延を有することにより異なりうる。その結果、所定の患者のためにある期間使用するための1
つまたは複数のAVパルス設定を選択してもよい。
【0204】
所望により、ACパルスは、パターン内のさまざまなパルスの設定が異なるペーシングパターンの一部として伝達してもよく、1つまたは複数のパターンは、房性刺激を低減また
は防止するように構成されたパルス選択と、前述の内圧の重なり合いとに関連する1つま
たは複数のパラメータに基づいて繰返し使用のために選択してもよい。
【0205】
刺激設定とは、単一の心周期において伝達される1つまたは複数の刺激パルスの1つまたは複数のパラメータを意味する。たとえば、これらのパラメータとしては、出力、単一の刺激パルスに含まれている電気パルス間の時間間隔(たとえば、AV遅延(AV delay)または2つの心房パルス間の遅延)、心臓の自然なリズムに対する伝達周期、刺激パルスまた
はその一部の長さ、ならびに2つ以上のチャンバ間および/または単一のチャンバ内にお
ける伝達部位、のうちの1つまたは複数を含んでいてもよい。AC刺激設定、すなわち「AC
設定」は、1つまたは複数のACパルスの設定を含んでいてもよい。
【0206】
いくつかの実施形態では、検知することは、心臓の1つまたは複数のチャンバの電気活
動、たとえば、心房興奮および/または心室興奮の1つまたは複数を検知することを含ん
でいてもよい。いくつかの実施形態では、検知することは、心周期の音を使用して心臓活動を検出することを含む。たとえば、AV弁の閉鎖は、鼓動の最初の音をもたらす。この閉鎖はさらに、等容性期の開始を意味する。所望により、AV弁の閉鎖のタイミングおよび心拍に基づいて、パルス設定は後々のACパルスのために選択されてもよい。たとえば、刺激パルスは、AV弁の次に予測される閉鎖の約80~10ミリ秒前に心房に提供されてもよい。
【0207】
所望により、心臓チャンバ(たとえば、心房)の不応期は当技術分野において既知のとおり、推測してもよい。ACパルスは、心房収縮を誘発する刺激パルスを心房に伝達することを含んでいてもよい。たとえば、刺激パルスは、不応期の終了後の伝達に時間を合わせてもよく、または関連する不応期の間に伝達される場合は、刺激パルスは、比較的速いタイミングにも関わらず収縮を誘発するような電気的性質を有していてもよい。
【0208】
いくつかの実施形態では、心拍は当技術分野において既知のとおり、たとえば、電気活動、音、圧力、および/または任意の他の手段に基づいて、検知される。
【0209】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数のACパルスは、パルスのシーケンスの一部と
して、または複数の鼓動を包含するペーシングパターンとして提供されてもよい。ペーシングパターンは、異なる設定を有する複数のペーシングパルスを含んでいてもよい。所望により、パルスは、すべてACパルスであってもよいが、一部は他と異なるパルス設定を有していてもよい。所望により、所定のパターンのパルスの一部のみが、等容性期の後半から急速駆出期の初期までの間の期間中に心房が心房収縮により生じる増加した、または最高の心房内圧を生じさせるように構成されてもよい。
【0210】
1つまたは複数のパルス設定(たとえば、検知および/または伝達されるイベント間の
タイミング)は、最適化および/または調整されて、特定の患者および/または患者の心機能の違いに合わせてもよいことにさらに留意されたい。
【0211】
たとえば、患者の心拍数は、活動および時刻を含む多くの理由により変動してもよい。心拍数の変化により、心イベントの相対的タイミングの変化がもたらされてもよい。したがって、次のパラメータの1つまたは複数を検知または使用して、パルス設定を最適化お
よび/または調整してもよい。
【0212】
たとえば、一方または両方の心臓弁の開放と関連する大動脈圧および/もしくは音を使用して、等容性期の開始および/もしくは終了、ならびに/または急速駆出期の開始のタイミングを正確に狙うことができる。このようなタイミングは、所望の収縮のタイミングがより正確に、および/またはさらに繰り返して達成されるように、パルスが伝達され、および/または心イベントが検知される時点と比べてもよい。
【0213】
別の実施例では、興奮性刺激の(心房および/または心室への)伝達または検知から、(収縮または受動内圧上昇による)ピーク圧力が心房で検知される時点までのタイミングを測定してもよい。
【0214】
他の選択肢は、心拍数、患者の活動、姿勢、および/または呼吸数の1つまたは複数に
従ってACパルス設定を調整することであってもよい。
【0215】
実際に、上述の組み合わせは、調整および/または最適化のために使用してもよい。たとえば、心房興奮と心房収縮により生じる最高心房内圧との間のタイミング、心室興奮、最高心房受動内圧、ならびに等容性期および/もしくは急速駆出期のタイミングの1つま
たは複数を測定してもよい。所望により、刺激パルスの伝達により生じる心房内圧を測定してもよく、調整は、測定された生じた内圧に従う刺激設定を選択することを含んでいてもよい。これらの測定値はさらに、さまざまな条件における患者の心拍数と関連していてもよい。患者の特定の測定値を使用して、パルス設定を調整または最適化してもよい。
【0216】
上述のような最適化および/または調整は、たとえば、場合によってはセンサが埋め込み刺激デバイスと関連付けられている閉ループとして、実施されてもよい。あるいは、最適化および/または調整は、開ループとして実施されてもよい。最適化および/もしくは調整は、進行中のプロセスであってもよく(特に、たとえば、心拍数に従ってセンサが埋め込まれている場合)、ならびに/または、患者がデバイスを有している場合の埋め込み中、時には、ならびに/または必要になったときに実施されてもよい。最後に、最適化および/もしくは調整は、自動化されていても、および/または医師が関与してもよい。
【0217】
実施形態は、異なるペーシング技術を実施して、AC刺激、および心房収縮により生じる心房内圧と心房内圧の受動増加との所望の重なり合いを実現してもよい。いくつかの実施形態において、AC刺激は、固有の心室拍動数に実質的に等しい心房拍動数で心房をペーシングすること、または固有の心室拍動数よりも多い心房拍動数で心房をペーシングすることを含んでいてもよい。加えて、異なるペーシング技術を実施して、心房が1回収縮する
かまたは心房が2回収縮する所望のAC刺激を実現してもよい。
【0218】
心房の1回の収縮に関して、所望のAC刺激を実現するペーシング技術は、たとえば、以
下を含んでもよい。
【0219】
a. 心房の検知(所望により、心房活性化を予期することを含む)および心室のペーシ
ング、
b. 予期される心室検知の時間の前に心房のペーシングを行うことを必要としてもよい
、心室の検知および心房のペーシング、または
c. 心房のペーシングおよび心室のペーシング。
【0220】
心房の2回の収縮に関しては、所望のAC刺激を実現するペーシング技術は、たとえば、
以下を含んでもよい。
【0221】
a. 最初に心房活性化を検知し、心室を検知し、同じ心周期で心房をペーシングして2回目の収縮を生じさせる、
b. 心房を検知し、心室をペーシングし、同じ心周期で心房をペーシングして2回目の収縮を生じさせる、
c. 心房をペーシングし、心室を検知して、心房を再びペーシングする、または
d. 心房をペーシングし、心室をペーシングして、心房を再びペーシングする。
【0222】
その他のペーシング技術を利用して、所望のAC刺激、および心房収縮により生じる心房内圧と心房内圧の受動増加との重なり合いを実現してもよい。したがって、本明細書に記載されているペーシング技術と関連する特定のメリットにもかかわらず、本実施形態は、所望のAC刺激および重なり合いを提供する任意のペーシング技術に広く適用可能であると考えるべきである。
【0223】
図18~
図19は、麻酔をかけた健康なイヌの心臓に伝達される2つの異なる刺激パターン
を示すグラフであり、ある期間にわたってトレースされた心電図(ECG)、右心室内圧(RV内圧)、右心房内圧(RA内圧)、大動脈圧(Ao内圧)、および左心室内圧(LV内圧)を
示す。一つの実施形態によると、
図18は、洞調律からの刺激からAV遅延を2msとする心房
および心室のペーシングまでの変化を示し、このペーシングにより、心房収縮による内圧と受動内圧増加による心房内圧との重なり合いがもたらされる。本実施例では、AV遅延2msでのペーシングによって、心房収縮による最高内圧と受動内圧増加による最高心房内圧
との時間の重なり合い、および心房内圧の測定可能な増加が引き起こされ、したがって心房拡張も引き起こされた。比較目的で、
図19は、40msのAV遅延を示すが、これは重なり合いの度合いが小さく、心房内圧の有意な増加を生じなかった。所望により、より大きな度合いの重なり合いは、最高心房内圧の近さの関数として定義してもよく、すなわち、最高部同士が近ければ近いほど、重なり合う度合いが大きくなり、ついには最高部が完全に重なり合い、単一の最高内圧が観察される。所望により、重なり合いの度合いは、検知される最高心房内圧の関数であり、内圧最高値が高くなるほど、より大きな度合いの重なり合いを特徴とする。
【0224】
図18~
図19に関連した実験では、健康なイヌの心臓に、特定のAV遅延でのペーシングを可能にするアルゴリズムを有して構成されたペースメーカを取り付けた。ペースメーカを、1つは右心耳、もう1つは右室心尖部にある2つのペーシング電極を介して心臓に接続し
た。4つのソリッドステート圧力センサを右心房、右心室、左心室、および大動脈に挿入
した。さらに、単極誘導ECGも動物に接続した。センサを増幅器およびデータ収集システ
ム(DAQシステム)に接続し、信号を1kHzのレートでサンプリングし、
図18~
図19に示す
グラフを提供した。図示されるように、グラフは、下から上に、ECG、RV内圧、RA内圧、Ao圧、およびLV内圧のプロットを含む。
【0225】
各実験では、数回の鼓動に関しては、自然な洞調律を使用して心臓を収縮させ、次に、心房および心室の両方で、指定したAV遅延を用いてペーシングした。
【0226】
図18~
図19のそれぞれを参照すると、洞調律1802の期間中、2回の別個の心房内圧の増
加が見られる。最初の心房内圧増加1804は、心房電気活動(P波1806)に続いて起こり、
心房の収縮に対応する。2回目の心房内圧増加1808は、心室の等容性収縮(心室内圧の急
速な増加を特徴とする)の間に起こり、急速駆出期(大動脈圧が上昇し始めるときに開始する)の初期の短い間続く。心室収縮の心房内圧への影響により、2回目の心房内圧増加1808が起こる。
図18~
図19のRA内圧プロットに示されるように、等容性収縮の間に達する
最高心房内圧は、心房収縮中に達する最高心房内圧よりもわずかに高い。
【0227】
上記のように、実施形態は、心房内圧を最高化させ、したがって、心房拡張を最高化させる準備を含んでいてもよい。より詳細には、刺激は、心周期に対して、心房の最高受動内圧増加と重なり合う時点で、心房を心房収縮により生じる最高心房内圧に到達させるようなタイミングで心房に伝達されてもよい。
図18は、心房ペース1810の2ms後に心室ペー
ス1812が続くことにより表されるような、心房および心室が2msのAV遅延にてペーシング
されるタイミングの1つの実施例を示す。
図18は、このペーシングの3つの例を示す。
【0228】
図18の右心房内圧(RA内圧)のプロット部分を参照すると、このペーシングの3つの例
では、心房内圧の有意な増加を、点1814、点1816、および点1818で見ることができる。これらの有意な内圧増加は、心房収縮および心室の収縮による同時またはほぼ同時の心房内圧増加により生じる。すなわち、右心房内圧プロットの洞調律部分1802と、右心房内圧プロットのAV遅延ペーシング部分1803とを比較すると、洞調律部分1802の1回目の心房内圧
増加1804および2回目の心房内圧増加1808は、心房内圧増加1804および心房内圧増加1808
が組み合わせられてより高い心房内圧増加1814、1816、および1818をもたらすように、AV遅延ペーシング部分1803と本質的に重ね合わせられる。
【0229】
所望により、ACパルスは、検知されるかまたはペーシングされる心房興奮とペーシングされるかまたは検知される心室興奮との間に既定のAV遅延を含む設定を有していてもよい。心房収縮により生じる心房内圧および受動心房内圧増加が、本質的に上述のように重なり合うように、かつ心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせである心房の心房内圧が、刺激がない場合の(または異なる刺激を受けた)心房の心房内圧よりも高くなるように、AV遅延を選択してもよい。心房収縮により生じる最高心房内圧および最高受動心房内圧増加が、本質的に上述のように重なり合うように、AV遅延を選択してもよい。この設定は、患者により変わってもよく、時間については、所与の患者について変わりさえしてもよい。それにもかかわらず、ほとんどの場合、約30ms~約0msのAV遅延が
効果的であろうと予想される。患者(たとえば、
図18に示す健康なイヌの心臓により示される実施例のように)によっては、心房興奮と心室興奮との間のAV遅延は、約30ms~約0ms、または約20ms~約0msであってもよい。
【0230】
検知を使用して心イベントを検出し、それに対してAV遅延が設定される場合、以下を所望により考慮に入れてもよい、すなわち、まず第1に、電気的興奮が検知された場合、実
際の興奮とその検出との間には遅延があることに留意されたい。これは、検知電極の場所および検知システムの制限によるものであってもよい。したがって、たとえば、検知された心房興奮からペーシングパルスの心室への伝達までの期間は、所望のAV遅延よりも短くなる。検知が機械的なイベント(たとえば、収縮または弁の閉鎖)に基づく場合、実際の興奮と機械的イベントの発生との間の時間も考慮に入れる必要がある。検知されるイベントとペーシングパルスの伝達の相対的タイミングのいくつかの実施例を本明細書に開示する。加えて、本出願に詳細に記載されているように、設定を調整して、埋め込み時に、および/または定期的に、患者の特有のタイミングに合わせてもよい。
【0231】
心房の心房収縮が心房の受動内圧上昇と時間が重なり合うようにし、それによって、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高くなる(
図18の実施例のように)心房の心房内圧を提供するAV遅延を用いたペーシングによって実現される驚くべき有益な結果とは対照的に、
図19は、通
常のAV遅延(たとえば、イヌの心臓において140ms)と比較して短いAV遅延を示すが、心
房内圧の有意な増加はもたらさない。
図19に示すように、洞調律部分1802の後、心房ペース1910の40ms後に心室ペース1912が続くことにより表されるように、AV遅延ペーシング部分1803の間、40msのAV遅延で心臓をペーシングした。
図19は、このペーシングの2つの例
を示す。ペーシング後短い時間をおいた心房内圧(RA内圧)のトレース部分を参照すると、通常の140ms AV遅延よりも短い40msのAV遅延にもかかわらず、40msのAV遅延は、洞調律部分1802の心房内圧増加1804および1808に対する有意な心房内圧の増加をもたらさなかった。その代わりに、
図19に示すように、40msのAV遅延は2つの別々の心房内圧増加1904お
よび1908をもたらし、これらは前の心房内圧増加1804および1808とおおよそ等しかった。
【0232】
したがって、
図18と
図19との比較によって、有意に増加した心房内圧は、
図18のように、心房の収縮と、心室の等容性収縮の後半または急速駆出期の初期とが同時に、またはほぼ同時に起こったときに生じることが示される。この有意な心房内圧の増加は、血圧を下げるための所望のストレス関連ホルモンの放出をもたらしてもよい。したがって、実施形態は約2msのAV遅延で心房および心室をペーシングする。
【0233】
図20A~
図20Cは、心房収縮による心房内圧および心房の受動内圧上昇を組み合わせるためのいくつかの理論上の実施例を図示する。これらの実施例では、以下で詳述されるように、異なる度合いの重なり合いが示されており、心房収縮および受動内圧上昇による内圧が合計されている。まず、たとえば
図18および
図19の洞調律1802期間に示すように、心房内圧を自然な心周期の間トレースした。このトレースにより、心房収縮1804および受動内圧上昇1804による心房内圧を抽出した。
図20Aでは、心房収縮の開始から受動内圧上昇の
開始までの60msの遅延を仮定して、2つの内圧曲線(
図18の1802および1804に対応する)
を合計した。見てわかるとおり、心房収縮は約60ms継続し、最高内圧はほぼ1.5mmHgに到
達したのに対し、受動内圧上昇は約50ms継続し、2mmHgよりもやや高い最高内圧に到達し
た。心房収縮は約60ms継続したため(これは仮定した遅延とおおよそ同じである)、2回
の内圧増加がこのトレースでは別個の部分として観察され、2つの異なる最高部を有し、
観察される最高内圧は受動内圧上昇1804の最高内圧である。
【0234】
図20Bは、さらに詳細に、心房収縮による心房内圧および心房の受動内圧上昇の理論上
の組み合わせを示す。このトレースにおいて、受動内圧上昇1804の開始(破線)は、図示されるように、心房収縮1802の開始(点線)から30ms後に起こると仮定された。2つのト
レースを合計すると、その合計は内圧トレース204(実線)としてトレースされた。この
実施例に見られるとおり、ある程度の重なり合いのため、組み合わせられた線204は、重
なり合わない受動内圧上昇1804(破線)に観察される最高内圧よりもやや高い最高内圧を有していたが、2つの最高部が依然として見られ、それぞれが、組み合わせられた各々の
トレース1802および1804に対応する。
【0235】
最高部が単一のイベントとして生じるように、心房収縮による最高心房内圧が、最高受動内圧上昇と同時に生じるようなタイミングは、到達しうる最高の心房内圧をもたらしてもよいが、実施形態は、この単一のイベント後のある期間中の心房内圧の有意で有益な増加をもたらしてもよい。換言すれば、心臓を刺激して、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高い心房内圧を得るために、刺激のタイミングによって、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせ(たとえば、合計)が、刺激なしで生じる心房の最高内圧よりも高くなりさえすればよい。心房収縮による最高心房内圧が心房の最高受動内圧上昇と同時に生じる場合、これらの内圧の組み合わせ(たとえば、合計)は、個々の内圧よりも高くなりやすい。しかしながら、個々の内圧の両方よりも高い複合心房内圧を提供することは、最高値を同時に生じる単一のイベントに限られず、以下でより詳細に述べられるように、内圧が互いに重なり合うある範囲の期間にも成り立つ。
【0236】
図20Cでは、心房収縮による内圧および受動内圧上昇は、双方間のさまざまな理論上の
重なり合いの度合いで組み合わせられ、したがって、心房収縮および心室収縮の相対的タイミングをいかに制御するかが複合心房内圧に影響を与えてもよいことを例示している。本実施例では、
図20Bと同様に、心房収縮の開始から受動内圧上昇の開始までの時間遅延
を仮定し、したがって、各時点において、心房収縮による心房内圧は、同じ時点の受動内圧上昇と合計され、したがって、複合内圧を提供する。さまざまな実施例の複合(たとえば、合計された)内圧を
図20Cでトレースする。
【0237】
図20Cのトレース201は、
図20Aに示すトレースと同じであり、心房収縮による内圧の開
始から受動内圧上昇までに60msの遅延がある。他方で、トレース207では、心房収縮によ
る心房内圧および受動内圧上昇は、最高部が接近して重なり合うように組み合わせられ(異なる持続時間により正確には一致していなくてもよい、内圧の2つの変化の開始間の遅
延が0msである)、すなわち、心房収縮による心房内圧および受動内圧上昇は両方、ほぼ
同時に開始したと仮定される。見てわかるとおり、この場合、トレース207は、約3.5mmHgの単一の最高部に到達する内圧の合計を示す。同様に、10msの遅延(トレース206)では
、トレース207よりもわずかに遅れ、トレース207の最高値よりも低い最高値を有する単一の最高部が観察された。時間遅延を増加させるにつれ、トレース205(20msの遅延)では
、トレースは分離し始めるが、依然として単一の最高値(2.5mmHg~3mmHgの間)をもたらす。トレース204(
図20Bに示すトレースと同一の30msの遅延)ははっきりと2つの最高部
を示しているが、依然として十分重なり合っており、心房内圧の合計はトレース201の最
高部よりもやや高い。最後に、より小さい度合いの重なり合いでさえ、トレース203(40msの遅延)およびトレース202(50msの遅延)では、心房収縮による内圧と受動内圧上昇とがいくらか重なり合っているのに対して、各トレースにおいて、2つの最高部は30ms超離
れており、最高内圧は、重なり合いが一切示されないトレース201とほぼ同じである。
【0238】
いくつかの実施形態において、刺激パターンを使用して、1つまたは複数のACパルスを
含むかまたはACパルスからなる刺激パターンをもっぱら断続的に印加することによって、血圧を下げてもよい。たとえば、断続的なACパルスを印加することによって、自然な鼓動は、ACパルスおよび/または心房収縮による心房内圧と受動内圧上昇による心房内圧とが重なり合うように構成されない(またはそれぞれの最高部を重なり合わせない)パルス間で起こってもよく、それにより、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高い心房の心房内圧を提供する。所望により、ACパルスを印加する間の時間は、十分な刺激が伝達されて、本質的に所望の効果を提供するが、過度の刺激を与えないように、ナトリウム利尿ペプチドの分泌および/または吸収の時定数に従って選択されてもよい。このことは、埋め込み型デバイスにより使用される電力を低減するというメリットを有していてもよく、および/または心臓の操作度を低減してもよい。
【0239】
心房内圧を制御する例示的方法230を
図23に概略的に図示する。方法230は、本明細書に記載されるような埋め込み型デバイスによって実行されてもよい。したがって、デバイスは、方法230の任意またはすべてのステップを実行するように構成されてもよい。同様に
、方法230は、デバイスが実行するように構成された任意のステップを含んでいてもよい
。たとえば、方法230は、
図14のデバイス50に関して以下で論じられる機能のいずれを含
んでいてもよい。
【0240】
いくつかの実施形態では、方法230は、ステップ231で示すように、心イベントを検知することを含んでいてもよい。このイベント(単数または複数)は、電気的イベントおよび/または機械的イベントを含んでいてもよく、かつ、当技術分野において既知のとおり、また本明細書においてさらに詳細に記載されるように、検知されてもよい。たとえば、検
知されたイベントは、心房および/もしくは心室の興奮、ならびに/または心臓の機械的活動、たとえば、1つもしくは複数の心臓弁の開放および/もしくは閉鎖のステップのタ
イミングを検知することを含んでいてもよい。検知されたイベントは、心イベント間の相対的タイミングの推測を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、ステップ231は、1つまたは複数の心イベント、たとえば、心房興奮または心室興奮をトリガーすることを含んでいてもよい。所望により、ステップ231は、固有の心拍数を検知することまたは心拍
数を設定することを含んでいてもよい。たとえば、ステップ231は、AV弁の閉鎖を検知す
ることにより、等容性期の開始を規定すること、および/または大動脈弁の開放を検知することにより、急速駆出期が始まる時点を規定することを含んでいてもよい。ステップ231は、心室の活性化または心室の刺激の検知と、等容性期の開始を規定するAV弁の閉鎖と
の時間差を決定することをさらに含んでいてもよい。
【0241】
方法230は、パルス設定が選択されるステップ232を含んでいてもよい。設定することは、心房興奮と心室興奮との間の時間間隔を設定することを含んでいても、または有していてもよい。設定することは、所定の刺激パルスに対する心房興奮と心室興奮との比を選択することを含んでいてもよい。設定することは、標的チャンバの相対不応期における検知されたかまたは推定された興奮性パルスの伝達のタイミングに基づく電力設定を含んでいてもよい。
【0242】
方法230は、所望によりステップ232で設定されていてもよいパルス設定を使用して、少なくとも1つの刺激パルスを伝達するステップ233を含んでいてもよく、このパルス設定は、ステップ231で検知されたイベントのタイミングを基準にして選択されてもよい。いく
つかの実施形態では、興奮性電流を両方の心室に、同時または順番に印加してもよい。両方の心室が順番にペーシングされるいくつかの実施形態では、少なくとも1つの心房(た
とえば、右心房)の興奮の開始からペーシングされる対応する心室(たとえば、右心室)の興奮開始までの時間間隔を測定してもよい。時間間隔を0またはマイナスになるように
設定されたいくつかの実施形態では、ステップ233は、ステップ231の前またはステップ231と同時に実行してもよい。いくつかの実施形態では、時間間隔はミリ秒単位で測定され
てもよい。
【0243】
ステップ232で選択されたパルス設定は、フィードバックを基準にして選択されてもよ
い。かかる場合、方法230は、ステップ234で示すように、心房内圧を検知することを含んでもよい。たとえば、フィードバック情報は、パルス設定のフィードバックおよび調整のための埋め込み型センサを使用することにより、進行中および/または定期的に、たとえば、埋め込み中および/または定期検査中に取得されてもよい。方法230は、心房収縮に
より生じる心房内圧(好ましくは、最高心房内圧)と心房の受動内圧上昇(好ましくは、最高受動内圧上昇)との時間の重なり合いを推定するステップ235を含んでいてもよい。
たとえば、ステップ235の推定することは、心房内圧の最高部の数およびそれらの時間の
長さ、ならびに/または最高部間の時間の距離を検出すること、ならびに/または心房内圧の最高部および最低部の数を検出すること、および最高部と最低部間の時間に基づく収縮の持続時間もしくは内圧の変化を推定すること、ならびに/または刺激がない場合の同じ心臓の心房内圧と比較した心房内圧の最高値を検出することを含んでいてもよい。この比較は、治療開始前に測定された内圧に対応する格納された値を使用して実施されてもよく、および/または方法230に従って刺激パルスを伝達せずに少なくとも1つの鼓動の心房内圧を検知するステップを含んでいてもよい。
【0244】
方法230は、ステップ235で推定した検知された重なり合いに基づいてステップ232で選
択されたパルス設定を調整するステップ236を含んでいてもよい。たとえば、ステップ236は、時間間隔を調整して、複数の設定間で観察される最も大きな度合いの重なり合いを提供することを含んでいてもよい。所望により、より大きな度合いの重なり合いは、最高心
房内圧の近さの関数として定義してもよく、すなわち、最高部同士が近ければ近いほど、重なり合う度合いが大きくなり、ついには最高部が完全に重なり合い、単一の最高内圧が観察される。所望により、重なり合いの度合いは、検知される最高心房内圧の関数であり、内圧が高くなるほど、より大きな度合いの重なり合いを特徴とする。
【0245】
図23においてステップ236からステップ231への矢印に示されるように、ステップ231、
ステップ232、ステップ233、ステップ234、および/またはステップ235は、ステップ236
を実行した後に繰り返されてもよい。いくつかの実施形態において、時間パルス設定は、まずステップ231において第1の値に設定してもよく、ステップ234およびステップ235の間に実行されるフィードバック検知に基づいて、重なり合いの度合いが所与の範囲内(または所与の値超もしくは所与の値未満)になるまでパルス設定をステップ236の間に調整し
てもよい(たとえば、時間間隔を低減または増加させる)。
【0246】
方法230のステップは任意の順序で実行してもよい。たとえば、ステップは
図23に示さ
れる矢印により表示される順序で実行してもよい。別の実施形態では、ステップ232はス
テップ231の前に実行されてもよい。
【0247】
心房収縮、心房興奮、心室収縮、AV弁の閉鎖および/もしくは開放のタイミング、ならびに/または1つもしくは複数の心房からの対応する心室への血液の流れもしくは不足、
ならびに/または血圧は、該技術分野において既知の任意の方法によって検出されてもよく、フィードバック制御として使用されてもよい。いくつかの実施形態において、興奮の開始は、1つまたは複数の心臓チャンバ(たとえば、1つもしくは2つの心室、または心房
および心室)への興奮性刺激の伝達のためのトリガーとして使用してもよい。検知された情報を、デバイスのタイミングの間隔の調整において、追加で、または代わりに使用してもよい。
【0248】
実施形態は、血圧を制御するためのシステムのパルス設定を調整する方法を提供してもよい。本方法は、少なくとも1回の心周期中の患者の心臓の心房と関連する心房内圧デー
タを受信することを含んでいてもよい。心房内圧データは、第1のパルス設定を有する刺
激パルスをシステムが心臓に伝達することから生じてもよい。本方法は、心房内圧データを分析することと、この分析に従って調整された、第1のパルス設定とは異なる第2のパルス設定を提供することとをさらに含んでいてもよい。分析することは、心房内圧データを分析して、心房収縮により生じる心房内圧と心房の受動内圧上昇との時間の重なり合いを推定することを含んでいてもよい。分析することは、心房内圧データをプロットすること、および/または心房内圧データを数学的に分析することをさらに含んでいてもよい。
【0249】
実施形態は、血圧を下げるためのシステムを提供してもよい。該システムは、
図14に示すコンポーネントのようなコンポーネントを備えていてもよい。システムは、心臓の少なくとも1回の心周期中の心房における内圧変動についての情報を提供する手段、刺激パル
スを生成する手段、および刺激パルスを少なくとも1つの心臓チャンバに印加する手段を
備えていてもよい。刺激パルスを生成する手段は、心房の内圧変動についての情報に従って単一の心周期中の心室収縮のタイミングに対する心房収縮のタイミングを制御するように、刺激パルスを生成するように構成されてもよい。一実施態様において、情報を提供する手段は、まず情報(たとえば、内圧および内圧が変化する間の時間)を検知してもよく、また刺激パルスを生成する手段は、その後、この情報に基づいて刺激のタイミングを計ってもよい。
【0250】
心房における内圧変動についての情報は、心房収縮の発生についての情報および/または心室収縮の発生についての情報を含んでいてもよい。情報は、心房収縮により生じる最高心房内圧と心房の最高受動内圧上昇との相対的タイミングについての情報を含んでいて
もよい。情報は、たとえば、心房の収縮、心室の収縮、房室弁の開放、房室弁の閉鎖、心房の電気活動、心室の電気活動、血流量、心房の不応期、および心拍数のうちの1つまた
は複数を含む、本明細書に記載されているような1つまたは複数の心イベントの発生およ
び/またはタイミングに関連する情報を含んでいてもよい。
【0251】
刺激パルスを生成する手段は、少なくとも1回の心周期のために、心房収縮を生じさせ
る少なくとも1つの心房刺激パルスおよび/または心室収縮を生じさせる少なくとも1つの心室刺激パルスを生成するように構成されてもよい。刺激パルスを生成する手段は、心房収縮の発生および/もしくは心室収縮の発生に対してタイミングを合わせるような関係で、心房収縮の発生についての情報および/もしくは心室収縮の発生についての情報に基づいて少なくとも1つの心房刺激パルスを生成し、ならびに/または、心室収縮の発生およ
び/もしくは心房収縮の発生に対してタイミングを合わせるような関係で、心室収縮の発生についての情報および/もしくは心房収縮の発生についての情報に基づいて少なくとも1つの心室刺激パルスを生成するように構成されてもよい。心房収縮の発生についての情
報は、心周期の自然な刺激パターンにおけるP波パターンの発生についての情報を含んで
いてもよい。心室収縮の発生についての情報は、心周期の自然な刺激パターンにおけるQRS群の発生についての情報を含んでいてもよい。
【0252】
心室収縮に対する心房収縮のタイミングは、約30ms~約0msの範囲内のAV遅延に対応し
てもよい。刺激パルスを生成する手段は、心室興奮が起こる約30ms~約0ms前の範囲内に
興奮性刺激を心房に提供し、心房興奮が起こってから約30ms~約0ms後の範囲内に興奮性
刺激を心室に提供し、および/または興奮性刺激を心房に提供し、その後、約30ms~約0ms後の範囲内で興奮性刺激を心室に提供するように、刺激パルスを生成するように構成さ
れてもよい。
【0253】
その他の実施形態は、血圧を下げるための別のシステムを提供してもよい。該システムは、
図14に示すコンポーネントのようなコンポーネントを備えていてもよい。これらのその他の実施形態において、血圧を下げるためのシステムは、1つまたは複数の心臓活動イ
ベントのタイミングについての情報を提供する手段、刺激パルスを生成する手段、および刺激パルスを少なくとも1つの心臓チャンバに印加する手段を備えていてもよい。1つまたは複数の心臓活動イベントのタイミングについての情報は、心房の心房収縮の発生、心室の心室収縮の発生、房室弁の開放、房室弁の閉鎖、心房の電気活動、心室の電気活動、血流量、心房の心房内圧、心房の心房内圧の変化、心房の不応期、および心拍数のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。刺激パルスを生成する手段は、情報に基づいて心室収
縮に対する心房収縮のタイミングを設定するように、刺激パルスを生成するように構成されてもよい。
【0254】
心室収縮に対する心房収縮のタイミングは、約30ms~約0msの範囲内のAV遅延に対応し
てもよい。刺激パルスを生成する手段は、心室興奮が起こる約30ms~約0ms前の範囲内に
興奮性刺激を心房に提供し、心房興奮が起こってから約30ms~約0ms後の範囲内に興奮性
刺激を心室に提供し、および/または興奮性刺激を心房に提供し、その後、約30ms~約0ms後の範囲内で興奮性刺激を心室に提供するように、刺激パルスを生成するように構成さ
れてもよい。
【0255】
1つまたは複数の心臓活動イベントのタイミングについての情報は、単一の心周期にお
ける2つまたはそれ以上の心臓活動イベント間のタイミングについての情報を含んでいて
もよい。
【0256】
刺激パルスを生成する手段は、少なくとも1回の心周期のために、心房収縮を生じさせ
る少なくとも1つの心房刺激パルスおよび/または心室収縮を生じさせる少なくとも1つの
心室刺激パルスを生成するように構成されてもよい。刺激パルスを生成する手段は、心房収縮の発生および/もしくは心室収縮の発生に対してタイミングを合わせるような関係で、心房収縮の発生についての情報および/もしくは心室収縮の発生についての情報に基づいて少なくとも1つの心房刺激パルスを生成し、ならびに/または、心室収縮の発生およ
び/もしくは心房収縮の発生に対してタイミングを合わせるような関係で、心室収縮の発生についての情報および/もしくは心房収縮の発生についての情報に基づいて少なくとも1つの心室刺激パルスを生成するように構成されてもよい。心房収縮の発生についての情
報は、心周期の自然な刺激パターンにおけるP波パターンの発生についての情報を含んで
いてもよい。心室収縮の発生についての情報は、心周期の自然な刺激パターンにおけるQRS群の発生についての情報を含んでいてもよい。
【0257】
〈房性刺激の制御〉
いくつかの実施形態では、心室の充満に対する心房収縮の寄与(房性刺激)が低減されるか、または防止すらされるように心臓を刺激することで、拡張期の終わりに心臓充満が低減され、その結果、血圧が低下する。簡略さを期して、以下の説明では、このような刺激を「BPR(Blood Pressure Reducing:血圧低減)刺激」と呼ぶ。BPR刺激は、房性刺激
が低減されるか、または防止すらされるように、心臓の少なくとも1つのチャンバに少な
くとも1つの刺激パルスを伝達することを含んでいてもよい。このようなパルスを本明細
書で「BPR刺激パルス」または「BPRパルス」と呼ぶ。上述のように、「刺激パルス」とは、単一の鼓動または心周期の時間枠内で心臓の1つまたは複数のチャンバに伝達される、1つまたは複数の電気パルスのシーケンスを含んでいてもよい。たとえば、いくつかの実施形態では、刺激パルスは、心室の1つまたは複数の箇所に伝達される1つまたは複数の電気パルス、および/または心房の1つまたは複数の箇所に伝達される1つまたは複数の電気パルスを含んでいてもよい。このように、いくつかの実施形態では、刺激パルスは、心房へ伝達される第1の電気パルスと、対応する心室へ伝達される第2の電気パルスとを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、刺激パルスは、心臓の1つまたは複数のチャンバの
複数の箇所に伝達されている単一のパルスを含んでいてもよい。
【0258】
刺激設定(stimulation setting)とは、単一の心周期において伝達される1つ以上の刺激パルスの1つ以上のパラメータを意味している。例えば、これらのパラメータは、電力
(power)、単一の刺激パルスに含まれる電気的なパルスの間の時間間隔(例えばAV遅延
)、心臓の自然な律動に対する伝達の期間、刺激パルスまたはその一部の長さ、ならびに、2つ以上のチャンバの間および/または単一のチャンバ内の伝達の場所のうちの、1つ以
上を含んでいてもよい。BPR刺激設定すなわち「BPR設定」は、1つ以上のBPRパルスの設定を含んでいてもよい。
【0259】
刺激パターンは、同一の刺激設定を有する一連のパルスを含んでいてもよく、または、刺激パターンは、それぞれが異なる刺激設定を有する複数のパルスを含んでいてもよい。例えば、刺激パターンは、第1の設定を有する1つ以上のパルスと、第1の設定と異なる第2の設定を有する1つ以上のパルスとを有していてもよい。刺激パターンがある設定を有し
ているという場合、これは、刺激パターンが、この設定を有する少なくとも1つの刺激パ
ルスを含んでいてもよいことを意味すると理解される。いくつかの実施形態では、刺激パルスが伝達されない1つ以上の心周期を、刺激パターンが含んでいてもよいとも理解され
、その場合、パルスはゼロ出力(zero power)で伝達されているとみなすことができる。刺激パターンは、複数の同一のパルスまたは2つ以上の異なる設定を含むパルスのシーケ
ンスを含んでいてもよい。1つのパターンにおける2つの刺激シーケンスは、1つの設定内
で提供されるパルスの順序において異なっていてもよい。2つ以上の刺激シーケンスは、
好ましくは、その長さにおいて(鼓動の時間および/または数において)異なっていても
よい。いくつかの実施形態では、刺激パターンは、BPR設定を有するパルスを含んでいて
もよい。いくつかの実施形態では、刺激パターンは、BPR設定を有さないパルスを含んで
いてもよい。
【0260】
少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止するよう構成された刺激設定の例
は、治療前の心室充満量からの、患者の心室充満量の低減を引き起こすよう構成された、本明細書に開示する刺激設定を含んでいてもよい。これは、閉じられたAV弁に対して、少なくとも一部の心房収縮が起きるようにすることにより、引き起こされてもよい。このような例のいくつかは、以下を含んでいてもよい。
【0261】
a. 患者の心房における興奮が開始される0~50ms前に、1つ以上の刺激パルスを患者の
心室に伝達すること。好ましくは、この遅延は、心房興奮の設定に基づき設定される。好ましくは、これは、心室への刺激パルスの伝達の0~50ms後に、1つ以上の刺激パルスを心房に伝達することを含んでいる。好ましくは、これは、患者の自然な心拍数よりもわずかに高い数で行われる。
【0262】
b. 患者の心房における興奮が開始されて0~70ms後に、1つ以上の刺激パルスを患者の
心室に伝達すること。好ましくは、この遅延は、心房興奮の検知に基づき設定される。好ましくは、これは、心室への刺激パルスの伝達の0~70ms前に、1つ以上の刺激パルスを心房に伝達することを含んでいる。好ましくは、これは、患者の自然な心拍数よりもわずかに高い数で行われる。
【0263】
いくつかの実施形態は、検知された自然な心拍数または自然な興奮に基づき、自然な心拍数よりも高い数で刺激を伝達するよう構成された、血圧を低減するためのシステムを提供してもよい。例えば、このシステムは、刺激パルスの伝達の間の自然な興奮を検知するよう構成されていてもよく、自然な活動が検知された場合、このシステムは、チャンバへの刺激パルスの伝達を抑止するよう構成されていてもよい。所与の時間枠内に、検知された活性化(activation)の量が閾値を超えると、自然な心拍数が、刺激パルスの伝達の数よりも高いとみなされることがあり、その場合、伝達の数が増加されて、例えば患者の増加した心拍数を収容する(accommodate)ことがある。他方、所与の時間枠内に、検知さ
れた活性化の量が閾値(この閾値は0であってもよい)よりも低いと、自然な鼓動が、刺
激パルスの伝達の数よりも低いとみなされることがあり、その場合、伝達の数が低減されて、例えば患者の心臓の過剰な興奮を回避することがある。
【0264】
この効果を実現するために、一つの実施形態によれば、血圧を低減するためのシステムが、患者の心臓の心房および心室の少なくとも一方の興奮率(excitation rate)を検知
するためのセンサと、心房および心室へ刺激パルスを伝達するよう構成された刺激回路と、刺激回路に結合されたプロセッサ回路とを含んでいてもよい。好ましくは、心房および心室の少なくとも一方の興奮率を検知するためのセンサは、心房興奮を検知するための電極を備えていてもよい。プロセッサ回路は、検知に基づき患者の心拍数を検出し、かつ、刺激パルスが心房および心室の少なくとも一方のそれぞれに供給される作動モードで作動するよう構成されていてもよい。刺激パルスは、検知された興奮率よりも高い率で伝達されてもよく、心房の刺激の約50ms前~約70ms後の間の時間に心室を刺激するよう構成されていてもよい。
【0265】
心房キックを低減することには血圧に対する即時の効果がある場合があるが、ホルモンを介在する機構(hormone mediated mechanism)は、より長い期間がかかる場合がある。いくつかの装置は、即時のおよびホルモンを介在する効果の両方を有するよう構成されていてもよいが、好ましくは、BPR設定および/または刺激パターンのいくつかが、心房拡張の著しい増加なしに、心房キックを低減または防止するよう構成されていてもよい。例えば、心房収縮がピーク圧力の時点で、またはその後に、AV弁が閉じると、弁の早過ぎる閉鎖のため、心房拡張が増加しない。
【0266】
このように、いくつかの実施形態では、装置が、少なくとも40msの長さまたは少なくとも50msの長さのAV遅延に比較できる心房興奮および心室興奮の相対的なタイミングを生じさせるよう構成されていてもよい。心房拡張は、当該技術で公知の仕方で、測定、算定および/または推定されてもよい。いくつかの実施形態では、心房拡張算出(atrial stretch determination)は、心房圧力を測定することを含んでいてもよい。いくつかの実施形
態では、心房拡張算出は、心房の寸法(例えば、直径、サイズまたは円周)を測定または推定することを含んでいてもよい。
【0267】
いくつかの実施形態では、AV弁が開いているときに心周期の心房収縮が不完全となるようBPR刺激設定が設定されていることがあるために、心房キックが低減されてもよい。い
くつかの実施形態では、心房収縮は、閉じられたAV弁に対して、完全にまたは部分的に起きてもよい。いくつかの実施形態では、心房収縮が圧力および/または力において有効に防止または低減されていてもよい。
【0268】
いくつかの実施形態では、1つ以上の心室のみが刺激されてもよく、刺激パルスは、異
常なAV遅延(例えば、心房興奮の50ms前~120ms後)を有するよう時間調節されていても
よい。いくつかの実施形態では、BPR刺激設定は、1つ以上の心房への少なくとも1つの電
気的なパルスまたは刺激の伝達を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、この少なくとも1つの心房刺激は心房収縮を引き起こしてもよい。いくつかの実施形態では、少な
くとも1つの心房刺激は心房収縮に干渉する場合がある。いくつかの実施形態では、少な
くとも1つの心房パルスが、心房痙攣または他の種類の非効率な心房収縮を引き起こす場
合がある。
【0269】
BPR刺激から来る血圧の低減は、刺激信号の適用時に(例えば、1もしくは3秒内または1、3もしくは5個の鼓動内に)事実上ただちに観察されてもよく、刺激の開始から5つの鼓
動未満内に最小の血圧値に達してもよい。
【0270】
BPR刺激の設定を制御することにより、BPが低減される程度を制御してもよい。この程
度はある場合、患者に特有であり、かつ/または、心臓内もしくは心臓上の1つ以上の刺激および/もしくは検知電極の正確な位置に関連する。
【0271】
BPR刺激の設定を制御することによって、BPが低下する程度を制御してもよい。この程
度は、時には患者固有であり、ならびに/または心臓内もしくは心臓への1つまたは複数
の刺激電極および/または検知電極の正確な配置に関連する。BPが変化する程度は、例えば、AV遅延の関数であり得るため、この関数関係はBPにおける所望の変化を提供するAV遅延を選択するために使用してもよく、またはその逆も可能である。この関数関係の例は、さらに詳細に後述される
図24に示す。
【0272】
〈適応〉
a. 本願発明者は、刺激が維持されている間、血圧は、ある時間ののち血圧が増加する
適応パターン(そのいくらかはしばしば、5分未満の、または1分未満でさえある短い時間のうちに起きる)を示すことがあり、(場合によっては少なくとも圧反射ゆえ)刺激前の血圧値近く、または、より高くにさえ達することを発見した。適応は、少なくとも一部が、総末梢抵抗(total peripheral resistance)の増加などの、心臓血管系の特性の変化
に起因していてもよい。本願発明者はさらに、刺激の終了により、刺激前の値に、または、より高い値にさえ、血圧が速やかに戻る結果になること、およびその後、心臓が、それほど刺激されなかった心臓に類似した程度で、血圧低減刺激信号に反応するようになることを発見した。くわえて、複数のBPR刺激設定を備える異なる刺激パターンが、異なる血
圧適応パターンにつながることが発見された。
【0273】
b. 刺激パターンは例えば、少なくとも1つの第1の刺激設定と、第1の刺激設定と異なる第2の刺激設定とを備えていてもよく、第1の刺激設定および第2の刺激設定は、心房キッ
クを低減または防止するように、および/または心房内圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するよう構成されている。刺激パターンは、2つより多い異なる刺激設定
をさえ備えていてもよい。いくつかの実施形態での第2の設定は、第1の設定よりも長いAV遅延(例えば、約80ms~約160ms)を有している。いくつかの実施形態での第2の設定は、心房キックを低減し、および/または心房内圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するよう構成されていなくてもよい。
【0274】
図1で、刺激信号を受ける高血圧の患者の収縮期血圧が、時間に対してプロットされて
いる。プロットされた線に沿った交差(cross)は、各鼓動についてのピークの収縮期血
圧を示している。おおよそ最初のプロットされた2分間に、刺激信号は伝達されなかった
。ご覧のように、患者の最初の血圧は、平均で150mmHgを超えていた。血圧の振幅(約±10mmHg)は、当該技術で公知のように、呼吸周期に起因する。
【0275】
次いで、第1の刺激パターンが時間間隔a-a’中に印加され、第2の刺激パターンが時間
間隔b-b’中に印加され、第3の刺激パターンが時間間隔c-c’中に印加された。刺激パタ
ーンの中間および第3の刺激パターン後に、心臓は刺激されなかった。
【0276】
ここで、破線の長方形Aで示した
図1の部分の拡大部分を示す、
図2に注目する。
図1の時間間隔a-a’に対応する、
図2の破線の長方形で示した時間中に、刺激が始まり、患者の右心房および右心室に伝達され、その結果、心房が、心室の2ms前にBPR刺激信号(パルス)を受けた。刺激は、
図1および
図2においてa’で示される時間に終わった。時間間隔a-a’の間に、患者の収縮期圧は最初に110mmHg未満の最小値まで低減し、次いで、最初の血圧
と実現された最小値との間の中間値へと次第に増加した。点a’で、刺激が停止し、170mmHgを超える値への、血圧の即時の行き過ぎが観察された。約1ダースの鼓動内に、血圧は
その最初の範囲に戻った。
【0277】
図1および
図2に示す血圧の変化は、少なくとも一部が、圧反射(baroreflex)として知られる、血圧の変化に対する心臓血管系の反応を示している。圧反射は、心臓血管の特徴(例えば末梢抵抗および/または心筋収縮能)を変化させることにより、血圧をその刺激
前の水準へと回復させるよう働く。心室充満の低減の結果として生じた血圧の低減が、刺激前の血圧の回復へと向けられた圧反射反応を誘発したと想定される場合がある。心臓血管系に対する圧反射の効果は、例えば
図2の点a’において明らかである。この点において、心室充満に影響した刺激が後退され、血圧がただちに刺激前の血圧を超えた。これは、心臓血管系に対する圧反射変化(例えば、末梢抵抗が増加し、収縮能が増加した)を指すとみなされる場合がある。刺激が停止し血圧がピークとなった点a’において、この場合
、変化前の水準へと血圧を低下させるために、圧反射は、心臓血管系の1つ以上の特徴を
再び変化させることにより、血圧の増加に反応した。明瞭に理解できるように、血圧の増加及び減少に対する圧反射フィードバックの反応は、血圧の増加に対する反応が、血圧の減少に対する反応よりも、はるかに速いという点で非対称である。いくつかの実施形態では、低減された充満ゆえの血圧の低減の適応を低減する、または防止さえするために、例えば、本明細書に詳述するように、刺激パターンをそれに応じて制御することにより、圧反射のこの非対称を利用してもよい。
【0278】
図3Aは、時点aと点a’との間の
図1のカーブの拡大図を示している。
図3Aでは、指数関
数を、適応応答(adaptation response)を示すプロットされたカーブに当てはめた。関
数は、時間とSysBPとの間の関係を説明しており、以下の式を有している。
【0279】
P=Pi+DP(1-e-t/k)
式中、(mmHgでの)Pは収縮期血圧を表しており、Pi(mmHg)は、BPR刺激の開始時の第1の平均の低減された血圧であり、DP(mmHg)は、新たな定常状態水準への最初の下落後
の、圧力の増加の量を表す定数であり、k(秒)は応答時間定数であり、eは、自然対数の底(base)である数学定数であり、t(秒)は時間である。
【0280】
図3Aにおいて、マッチング関数は以下の通りであった。
【0281】
P=115+23(1-e-t/15.5)
式中、Piは115mmHgであることが分かった。DPは23mmHgであった。Kは15.5秒であった。
【0282】
図3Bは、破線の長方形A’で示した
図1の部分の拡大図を示している。
図3Bでは、指数関数を、BPR刺激の伝達の終了に対する適応応答を示すプロットされたカーブに当てはめた
。ご覧のように、血圧の低減に現れたこの応答は、BPR刺激に対する応答よりも速かった
。
【0283】
図3Bにおいて、マッチング関数は以下の通りであった。
【0284】
P=190-35(1-e-t/4.946)
式中、Piは190mmHgであることが分かった。DPは-35mmHgであった。Kは4.946秒であった。
【0285】
上述したように、血圧の低減に対する圧反射反応は、血圧の増加に対する圧反射反応よりも、はるかに緩やかである。これは、血圧の増加に対してはるかに速い反応に対する、上述した時定数k(約15秒~約5秒)の比率として示される。圧反射反応の速さにおけるこの非対称により、平均の血圧の低減および適応の低減またはさらには防止を生成する刺激パターンを設計する手段を提供してもよい。例えば、好ましい実施形態では、重み付けされた反応が、血圧の増加により引き起こされる心臓血管系の変化に好都合な仕方で、刺激パターンが2つの刺激設定の間で交替してもよい。この実施形態では、心室充満を低減し
それにより血圧を低減するよう設計された第1の設定と、通常の心室充満または少なくと
も第1の設定のものよりも高い心室充満を有するよう設計された第2の設定との2つの刺激
設定を有する刺激パターンを使用して、心臓を刺激してもよい。この刺激パターンは、血圧の減少に対する圧反射反応の時定数よりも短い期間の間伝達される第1の設定(BPR)を有するパルスを含んでいてもよい。そのような場合、適応が明らかになり始めてもよく、かつ、血圧が、低減された水準から増加されてもよいが、その刺激前の水準には達しないかもしれない。
【0286】
刺激パターンは、血圧の増加に対する圧反射反応の時定数よりも長い期間の間伝達される第2の設定(例えば、自然なAV遅延)を有するパルスをも備えていてもよい。この場合
、圧反射により引き起こされた血圧の低減を十分利利用できる場合があり、血圧が、刺激パターンがこの第2の設定に切り替わったよりも前のその水準に戻る場合さえある。この
ようなパターンにおける圧反射の重み付けされた反応は適応を低減または防止してもよいが、平均の圧力は刺激前の水準より低くてもよい。異なる設定を有するパルスの伝達に割り当てられた、時定数および期間の間の関係が、全刺激パターンの間に効果を現す圧反射反応の水準を決定してもよい。所与の刺激設定について、伝達の期間が反応の時定数よりも短くなるよう選択されていると、圧反射は、刺激前の水準へ戻るよう心臓血管系を変化させることができない場合があり、選択された期間が時定数よりも大きいと、圧反射効果が、より顕著になる場合がある。
【0287】
図1から分かるように、点bと点b’との間の間隔で、第2の刺激パターンが伝達された。
図4は、(
図1で破線の長方形Bにより示された)
図1のこの部分の拡大版を示している。第2の刺激パターンでは、12個のBPRパルスのシーケンスが、2msのAV遅延で、心房および対
応する心室の両方へと伝達され、その後、心房刺激のみが人工的に伝達され、かつ心室刺激が伝達されなかった3つの鼓動が続いた。これらの最後の3つの鼓動の間、心室興奮が、~180msのAV遅延という結果となるAV結節(node)を通る自然なコンダクタンスにより起
きた。この第2の刺激パターンは、既出の時間間隔が持続する間、繰り返された。
図4では、カーブに適合する指数関数が、以下であると分かった。
【0288】
P=112+30(1-e
-t/25.5)
ご覧のように、Piは、かつDPも、第1の刺激パターンの対応する値(
図3Aのa-a’)と比較可能であった。しかし、第2のパターンのkは、第1の刺激パターンの時定数の2倍近くであった。この時間間隔において、適応は
図3Aにおいてよりも、より遅い比率で起きたが、パターンが刺激パルスの間で切り替わったときに、血圧は、
図3Aにおいてよりも、急上昇した。この結果は、交替する刺激設定を有する刺激パターンの使用が適応を低減することを証明している。
【0289】
第3の刺激パターンが、
図1に見られるように、点cと点c’との間で、同様に伝達された。
図5Aは、点cと点c’との間のカーブの部分を含む、破線の長方形Cで示した
図1の部分の拡大図を示している。第3の刺激パターンでは、12個のBPRパルスのシーケンスが、2msのAV遅延で伝達され、それぞれが120msのAV遅延を有する3つのBPRパルスが続いた。これは、既出の時間間隔が持続する間、繰り返された。
【0290】
破線の長方形で示した
図5Aのカーブの部分を、
図5Bにおいてプロットしている。
図5Bでは、それぞれが120msのAV遅延を有する3つのBPRパルスが続く、2msのAV遅延で伝達された12個のBPRパルスの刺激パターンの伝達に対する適応応答を示すプロットされたカーブに
、指数関数を当てはめた。
【0291】
【0292】
P=109.7+22.3(1
-e
-t/45.4)
式中、Piは109.7mmHgであることが分かった。DPは22.3mmHgであった。Kは45.4秒であった。ご覧のように、血圧の最初の低減は
図3Aに示すもの(Pi=115または109.5)と比較可能であったが、適応時定数(k)はもっと高かった(45.4秒対15.5秒)。これは、
図3Aよ
りも約3倍大きな期間の間、低い血圧が維持されたことを意味している。
【0293】
ここで、
図6に注目する。
図6では、2msのAV遅延で伝達された12個のBPRパルスのシーケンスを有する刺激パターンで、高血圧の患者の心臓が刺激され、それぞれが80msのAV遅延を有する3つのBPRパルスが続いた。
【0294】
ご覧のように、この場合、適応率は非常に低く、割り当てられた時間間隔でほとんど検出できなかった。指数関数型公式(exponential formula)は適合させることができなか
ったが、これは、適応が極端に遅かったこと、または存在しなかったことを示唆している。
【0295】
図7では、2msのAV遅延で伝達された12個のBPRパルスのシーケンスを有する刺激パター
ンで、高血圧の患者の心臓が刺激され、それぞれが40msのAV遅延を有する3つのBPRパルスが続いた。刺激は点t
1で開始され、点t
2で終わった。測定された適応応答はなく、当てはまるカーブは実際に直線であり、時間間隔t
1-t
2の直前および直後の血圧よりも約31mmHg
低い約112mmHgの固定された平均の低減された血圧を有していた。
【0296】
上述した異なる刺激パターンから明らかなように、少なくとも1つのBPR刺激を備える刺激パターンを、1つ以上の目標に少なくとも接近するように、設定することができる。例
えば、いくつかの実施形態では、刺激パターンは、所定の閾値を超えることになる、または所定の範囲内にあることになる血圧の最初の低減(収縮期および/または拡張期の)を
引き起こすよう設定されていてもよい。より詳しい実施形態では、血圧は、少なくとも所与のパーセンテージにより、もしくは少なくとも所与の度量(measure)(例えば、10も
しくは20mmHgまたは30mmHgでさえ)により低減されてもよく、または、血圧は、所与の範囲(例えば、90~130mmHgのSysBP)内もしくは所与の目標(例えば、130mmHg以下のSysBP)未満となるよう低減されてもよい。いくつかの実施形態では、目標は、延長された期間の間、低減された血圧を、低減された平均の範囲内に維持することを含んでいてもよい。例えば、所定の血圧は、ある期間または多数の鼓動の間、所定の平均の血圧に低減されてもよい。
【0297】
別の実施形態では、目標は、鼓動の所与のパーセンテージを、低減された範囲/閾値の
状態とすることを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、目標は、刺激パルスの間の急上昇の水準をも低減しながら、血圧を低減することを含んでいてもよい。例えば、刺激パターンを、所定の時間間隔の間、血圧を一定の血圧へと低下させるために使用してもよい。いくつかの実施形態では、刺激パターンを、心拍出量(cardiac output)に著しい影響を与えずに、血圧を低下するために使用してもよい。例えば、断続的なBPRパルスを
印加することにより、より高い(または十分でさえある)心房キックを有するパルスがBPRパルスの間に起きるようにする場合がある。より高い(または十分でさえある)心房キ
ックを有するパルスは、BPRパルスが著しく心拍出量を低下させるのを防ぐことができる
。
【0298】
別の実施形態では、血圧(後負荷)の低減とともに、全末梢抵抗を低下させることに関連する適応を低減することで、血管系を介して流れに影響を与えることにより、心拍出量に動的に影響を与えることができる。さらに別の実施形態では、患者の自然な律動よりも高い比率でペーシングすることにより、より低い一回拍出量に関連付けられる場合のある心拍出量に対する負の影響を回避することができる。
【0299】
1つまたは複数の標的に近づくように刺激パターンを設定する際に、異なる値の血圧低
下を提供することは、AV遅延に影響を及ぼす刺激パラメータを調整することを含んでもよい。例えば、より短いAV遅延を提供する刺激パラメータは、より長いAV遅延を提供する刺激パラメータよりも大きな程度血圧を低下させることができる。実施形態では、房性刺激を低減する刺激設定は、約5ms~約30msで変動する(例えば、昼間と夜間との間、または
激しい活動と軽い活動との間)AV遅延を提供してもよく、AV遅延が短いほど血圧を大きく低下させる。
【0300】
異なる値の血圧低下を提供することは、短いAV遅延期間以外の刺激パラメータを変化させることを含んでいてもよい。例えば、ある実施形態では、短いAV遅延とより長いAV遅延との比率を調整してもよい。別の例として、短いAV遅延を有するパルスが、より長いAV遅延を有する心拍数と比較しながら伝達される他の実施形態が、心拍数を調整してもよい。
【0301】
いくつかの実施形態では、所与のパターンの血圧の変化の時定数が算定されてもよく、算定された時定数の特定のパーセンテージとして設定される鼓動の時間または数の量について、1つ以上のBPR刺激パラメータを有するよう、刺激パターンを設定してもよい。例えば、
図3Aおよび
図3Bでは、kは、BPRパルスの伝達中の血圧の上昇率について約15秒と測定され、BPRパルスの伝達の終了に対する適応の率について約4.9秒と測定された。いくつかの実施形態では、血圧が所与の値を超えて増加するのを防止することが望ましいことがあり、その場合、BPRパルスの伝達の期間は、kよりも著しく小さくなる(例えばkの30%~6
0%)よう選択されてもよい。この実施形態では、間隔が、15秒未満となるよう選択され
てもよい。このような間隔は、心拍数が1分につき約80個の鼓動となる約6~10秒または8
~14個の鼓動を含んでいてもよい。
【0302】
好ましくは、BPRパルスの後退に対する適応応答を利用することが望ましい。そのよう
な場合、kの、より大きな部分が適用されてもよい。例えば、
図3Bに基づき、3~5個の鼓
動の期間が選択されてもよい(その際、kは約4.9秒となる)。このようにして、例えば、
図3Aおよび
図3Bに基づき、本願発明者は
図4の刺激パターンを印加した。
【0303】
刺激パターンは、例えば、複数の刺激パターンの最良物(すなわち、設定された目標パラメータに最も近いもの)となるよう設定されてもよく、かつ/または、設定された目標
に一致する第1の試験済みの刺激パターンとして選択されてもよい。
【0304】
〈遅い圧反射応答に基づく実施形態〉
イヌを用いた実験では、本発明者は、数日間の治療後に治療を終了した場合、血圧がその治療前の値に戻るのに比較的長い時間がかかり得ることを見出した。この遅い圧反射応答を利用することができる。特に、実施形態では、長期間にわたる治療(例えば、通常のペーシングまたはまったくペーシングしない)を中断することができ、これによって刺激装置のバッテリ電力の節約およびより長い耐用年数を可能にすることができる。
【0305】
遅い圧反射応答の一例として、
図27を参照する。同図は、本明細書に開示されるイヌの血圧低下治療の効果を示すグラフであり、収縮期血圧(mmHg)の経時変化(日)をプロットしている。グラフに示すように、治療前の血圧値は、菱形のデータポイントで印がつけられたベースライン(「BL」)によって示され、治療期間中の値は、正方形のデータポイントで印がつけられた治療ラインによって示され、治療後の値は三角形のデータポイントで印がつけられた装置オフ(「Dev Off」)ラインによって示される。この実験では、収
縮期血圧をレシーバに送信する埋め込み型センサを用いて、24時間にわたって継続的に収縮期血圧を測定した。グラフ上の各データポイントは、24時間にわたる測定値の平均値を表す。
【0306】
イヌの被験体は、
図27のベースラインによって示されるように、約210mmHgの血圧を示
した。本開示全体を通して開示されている血圧低下治療を適用するとすぐに、イヌの血圧は、
図27の治療ラインに示すように、約170mmHgまで低下した。治療期間中、イヌの血圧
は約150mmHg~約175mmHgの間で変動した(すなわち、治療前の値よりも約35~60mmHg低い)。この治療は30日間適用した。
【0307】
治療を停止した(イヌの心臓にペーシングが適用されなくなった)時点で、イヌの血圧は、
図27の装置オフラインによって示されるように約180mmHgまでやや上昇した。この値
は、治療前の血圧よりも有意に、約30mmHg低かった。イヌの血圧は、約20日間、その血圧付近に留まり、その後、徐々に上昇してほぼ治療前の値まで戻り始めた。
【0308】
図27に例示される応答のような、遅い圧反射応答のメカニズムを考慮すると、実施形態は、血圧を低下させるように構成された第1の刺激パターン(すなわち、治療刺激パター
ン)と、血圧低下の程度がより小さくなるように構成された第2の刺激パターン(すなわ
ち、「休止」刺激パターン)とを交互を行うことを含む高血圧の治療方法を提供してもよく、この2つのパターンはそれぞれ、数日、数週間、またはそれ以上の期間にわたって適
用される。実施形態では、2つのパターンはそれぞれ、少なくとも1週間適用されてもよく、週単位の時間スケールにわたる治療を提供してもよい。休止刺激パターンは、刺激を伴っていても、まったく刺激を伴っていなくてもよい。
【0309】
実施形態において、第1の刺激および第2の刺激パターンの期間は同じであっても異なっていてもよい。
【0310】
例えば、休止刺激パターンの期間は、治療刺激パターンの期間より短くてもよく、例えば、その25%~90%、または場合によっては50%~80%である。一実施態様では、休止刺激パターンの期間は、治療刺激パターンの期間の約2/3であってもよい。
【0311】
休止刺激パターンの期間は、治療刺激パターンによる血圧の低下の程度に依存していてもよく、またはそれに比例していてもよい。例えば、治療刺激パターンが少なくとも血圧を50mmHg低下させるように構成されている場合、休止刺激パターンは、治療刺激パターンが血圧を30mmHgだけ低下させるように構成されている場合よりも長く続いてもよい。
【0312】
所望により、休止刺激期の期間は、治療刺激パターンの期間にかかわらず、2週間~1ヶ月(例えば、14~31日)以下であってもよい。
【0313】
各刺激パターンは複数の刺激パターンを含んでもよく、複数の刺激パターンの少なくともいくつかは、例えば本開示に記載されたパターンのうちの1つまたは複数に従って1つまたは複数の房性刺激低減パルス設定を含むことができる。例えば、治療刺激パターン期の間、治療は、必要に応じた変動を含んでいてもよい(例えば、昼間と夜間との設定を交互に行う)。
【0314】
実施形態において、休止刺激パターンは、(1)ペーシングの適用なし、(2)房性刺激低減を行わないペーシング、ならびに(3)治療刺激パターンよりも全体的および/または平均
房性刺激の低減が小幅なペーシングから選択されてもよい。所望により、休止刺激パターンは、ある休止刺激パターンから別の休止刺激パターンへの切り替えを含んでいてもよい。休止刺激パターンは必ずしも完全に血圧低下を停止させる必要はない場合があり、例えば、極めて少ない(例えば、20分間の期間に10パルス以下の頻度での)房性刺激低減パルスの適用、またはある血圧低下の程度と別の異なる血圧低下の程度とを交互に行うことを含んでいてもよい。
【0315】
他の実施形態では、治療刺激期および休止期のうちの1つまたは複数に3つ以上の刺激パターンを使用してもよい。例えば、2msのAV遅延を提供する第1の刺激パターンを第1週に
適用し、続いて、1週間ペーシングは行わず、次に1ヶ月間の約0~20msのAV遅延を提供す
る刺激パターン(刺激パターンを交互に行う)、その後3週間または6週間、約140msのAV
遅延を提供する刺激パターンを行ってもよいが、ただしその3週間または6週間の間に1日1回、約30msのAV遅延の刺激期を提供する。
【0316】
そのような刺激アプローチは、所望の長期血圧レベルを維持しながらも、心臓に適用される電気刺激の期間および程度を最小化してもよい。
〈刺激パターンを設定および/または選択するための方法の実施形態〉
刺激パターンを設定および/または選択するための方法600を、
図8に模式的に示す。方
法600は、BPRおよび/またはAC刺激を行うための装置の埋め込み中に、および/または、
装置作動パラメータを調整するために周期的に、および/または、作動中に継続的に、行
われてもよい。方法600は、以下に説明するシステム700により行われてもよい。したがって、システム700は、方法600のステップを行うよう構成されていてもよい。同様に、方法600は、システム700が行うよう構成されたステップを含んでいてもよい。例えば、方法600は、システム700について以下に説明する機能を含んでいてもよい。くわえて、方法600
は、以下
図14を参照して説明する装置50により行われてもよい。方法600は、装置50が行
うよう構成されたステップを含んでいてもよい。
【0317】
本開示全体を通じて、「第1の」、「第2の」および「第3の」という用語は、事象の順
序を示唆することを常に意味するわけではない。いくつかの場合、これらの用語は、順序に言及せずに、個々の事象を互いに区別するために使用される。
【0318】
いくつかの実施形態では、ステップ601が、目標血圧値を設定することを含んでいても
よい。この目標は、絶対血圧値(例えば、目標血圧範囲、急上昇値の目標閾値、および/
または、所与の時間枠内での急上昇の数もしくは部分)、相対値(例えば、患者の治療前の血圧と比較された、または、複数の試験済みの刺激パターンの間の比較としての)、またはその両方であってもよい。目標血圧値は、血圧値(例えばmmHgで測定された)、および/または、刺激パターンの血圧測定などに適合するよう算定された式と関連付けられた
値であってもよい。この目標血圧値は、他の方法ステップの前、間および/または後に設
定されてもよく、例えば、試験済みの刺激パターンにより到達されない場合は、補正されてもよい。
【0319】
ステップ602は、患者の心臓の1つ以上のチャンバへの、第1の刺激パターンを含む1つ以上の刺激パターンの伝達を含んでいてもよい。第1の刺激パターンは包括的な(generic)刺激パターンであってもよく、または、第1の刺激パターンは、(例えば、置換装置を埋
め込んだときに)所与の患者に適合するよう、すでに選択されていてもよい。第1の刺激
パターンは、第1の時間間隔の間、少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止するように、および/または心房内圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するように構成された、少なくとも1つの刺激パターンを含んでいてもよい。
【0320】
ステップ603は、1つまたは複数の刺激パターンのそれぞれの伝達(ステップ602)の前
、間、および/または後に、1つまたは複数のパラメータを検知することを含んでいても
よい。検知されたパラメータは、収縮による心房内圧の最高値と心室収縮による心房内圧の最高値との重なり合いを評価するために心房内圧を検知することを含んでいてもよい。検知されたパラメータは、1つまたは複数の刺激パターンのそれぞれの伝達(ステップ602)の結果として心房内圧を検知して、刺激により得られる内圧を評価し、所望により、この内圧と、異なる刺激によってまたは刺激なしで得られる内圧の1つまたは複数とを比較
することを含んでいてもよい。所望により、パラメータは、血圧値または血圧に関連するパラメータ(たとえば血圧の変化)を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、検知されたパラメータは、AV弁の閉鎖および/または開放のタイミングおよび/または程度に関連する情報を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、検知されたパラメータは、心臓の心房と心室との間の血流のタイミングおよび/または流量に関連する情報を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、検知されたパラメータは、心臓チャンバ(たとえば、心房および/または心室)の内圧を検知することを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、患者のAV弁の状態または位置(すなわち、開いているか、または閉じている)の検知は、たとえば音声センサを使用して、心音を検知することを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、患者のAV弁の状態の検知は、心臓の動きのドップラー検知および/または撮像を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、患者のAV弁の状態は、血流センサにより検知されてもよい。
【0321】
いくつかの実施形態では、血流の検知は、1つ以上の心臓チャンバ内の1つ以上の埋め込みのセンサにより行われてもよい。例えば、1つ以上の圧力センサを右心室に配置しても
よい。いくつかの実施形態では、複数の圧力センサを複数のチャンバに配置してもよい。好ましくは、複数のセンサの測定を組み合わせてもよい。好ましくは、圧力変化、圧力変化の傾向、および/または、圧力変化パターンを使用して、血流に関連する情報を提供し
てもよい。いくつかの実施形態では、異なるチャンバ内での2つ以上のセンサの間の相対
変化を比較することを使用してもよい。
【0322】
刺激パターンが心臓に伝達されると(ステップ602)、刺激パターンの伝達中に少なく
とも一度、または複数回、または継続的にさえ、1つ以上のパラメータが測定されてもよ
い。各刺激パターンは1回よりも多く伝達されてもよい。
【0323】
ステップ604は、検知されたパラメータを分析することを含んでいてもよい。いくつか
の実施形態では、少なくとも1つの刺激パターンが伝達され、対応するパラメータが検知
されると、分析が行われてもよい(604)。複数のパラメータが検知される実施形態では
、検知されたパラメータ値を目標と比較すること、検知されたパラメータを2つ以上の刺
激パターンの間で比較すること、2つ以上の刺激パターンに関連する算定された値(例え
ばk定数)を比較すること、および、追加の検知されたパラメータを2つ以上の刺激パターンの間で比較することを、ステップ604が含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、
この最後の関数が実行されて、どの刺激パターンが、より高い駆出率、一回拍出量、心拍出量、および/または、より低いバッテリ使用量を生み出すかを決定及び選択してもよい
。
【0324】
ステップ605は、ペーシング(刺激)パターンを設定することを含んでいてもよい。1つより多いパラメータが検知されると、複数のパラメータ、複数の目標値および/または複
数の目標範囲に基づき、ステップ605で使用される刺激パターンが選択されてもよい。
【0325】
いくつかの実施形態では、
図8に示すステップは、
図8の矢印により示す順序で行われてもよい。別の実施形態では、ステップは別の順序で行われてもよい。例えば、ステップ602は、ステップ601に従って目標血圧値を設定する前に行われてもよい。いくつかの実施形態では、刺激パターンは、不明確に行われるよう設定されていてもよい。いくつかの実施形態では、刺激パターンは、所定の期間行われるよう設定されていてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、ステップ605の間に設定された刺激パターンが所定の期間行われ
てもよく、次いで、ステップ602、ステップ603およびステップ604が繰り返されて、別の
刺激パターンが患者の血圧にどのように影響するかを判断してもよい。次いで、ステップ604で行われた分析に基づき、ステップ605も繰り返されてもよい。
【0326】
いくつかの実施形態では、方法600は、第1の刺激パターンを調整し、そのようにして第1の刺激パターンを第2の刺激パターンに形成していくステップを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、刺激パターンを設定するステップ605は、刺激パターンを調整する
ことを含んでいてもよい。例えば、ステップ605は、第1の刺激設定のパラメータ(例えばステップ602からの時間間隔)を調整することを含んでいてもよい。別の実施形態では、
ステップ605は、少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止するように、および/または心房内圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するように構成された第1の刺激設定のパラメータを調整することを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では
、ステップ605は、第1の刺激設定を、少なくとも所定の量で血圧の低減を引き起こすよう構成された第2の刺激設定となるよう調整することを含んでいてもよい。いくつかの実施
形態では、この所定の量は、例えば約8mmHg~約30mmHgを含んでいてもよい。いくつかの
実施形態では、この所定の量は、患者の治療前の血圧の約4%であってもよい。例えば、
この所定の量は、患者の治療前の血圧の約4%~患者の治療前の血圧の約30%であっても
よい。
【0327】
いくつかの実施形態では、ステップ605は、刺激パターンを、少なくとも所定の量だけ
血圧の即時の低減を引き起こすよう構成された刺激パターンとなるよう調整することを含んでいてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、ステップ605は、刺激パターンを、
心臓への電流の印加から約3秒以内に少なくとも所定の量だけ血圧の低減を引き起こすよ
う構成された刺激パターンとなるよう調整することを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、ステップ605は、刺激パターンを、印加された電流の少なくとも5つの鼓動以内
に少なくとも所定の量だけ血圧の低減を引き起こすよう構成された刺激パターンとなるよう調整することを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、ステップ605の間に設定
された刺激パターンの結果として生じる血圧の低減は、心臓への電流の印加の1~3秒以内、または、心臓への電流の印加の1つ、3つまたは5つの鼓動以内に起きてもよい。
【0328】
いくつかの実施形態では、ステップ605の間に設定された刺激パターンの結果として生
じる血圧の低減は、安静時の患者の平均の血圧が、安静時の患者の最初の血圧よりも少なくとも8mmHg低くなるようにされていてもよい。いくつかの実施形態では、ステップ605の間に設定された刺激パターンの結果として生じる血圧の低減は、少なくとも1分間維持さ
れてもよい。いくつかの実施形態では、ステップ605の間に設定された刺激パターンの結
果として生じる血圧の低減は、少なくとも5分間維持されてもよい。いくつかの実施形態
では、血圧は、刺激の開始から5つ未満の鼓動内に、最小の血圧値に達してもよい。例え
ば、ステップ605は、第1の刺激パターンを、血圧の低減を引き起こすよう構成された第2
の刺激パターンとなるよう調整することを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、ステップ605は、第1の刺激パターンを、所定の時間間隔の間血圧の低減を引き起こすよう構成された第2の刺激パターンに調整することを含んでいてもよい。例えば、所定の時間
間隔は、少なくとも1分または少なくとも5分を含んでいてもよい。
【0329】
いくつかの実施形態では、第2の刺激パターンは、所定の間隔の間、所定の程度を超え
るだけ、所定の平均値を超えないよう血圧を維持するよう構成されていてもよい。例えば、この所定の程度は、約20mmHg以下の相違であってもよい。いくつかの実施形態では、この所定の程度は、約1mmHg~約8mmHgの相違であってもよい。いくつかの実施形態において、患者の血圧は、いくつかの鼓動については所定の平均値を超えていてもよいが、患者の平均血圧は所定の平均値を超えなくてもよい。
【0330】
いくつかの実施形態では、第2の刺激パターンは、少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止するように、および/または心房内圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するように構成された第2の刺激設定を含んでいてもよい。第2の刺激設定は、第1の刺激パターンの適用中に検知された入力データから算定された少なくとも1つの血圧変動パラメータに基づいていてもよい。
【0331】
いくつかの実施形態では、第2の刺激パターンは、刺激パターンの間の血圧の急上昇の
大きさを低減または制限するよう構成されていてもよい。いくつかの実施形態では、刺激パルスの間の血圧の急上昇は、基礎血圧値のパーセンテージへと低減されてもよい。例えば、第2の刺激パターンは、パルスの間で、血圧が約80%を超えて増加することを防止す
るよう構成されていてもよい。すなわち、第2の刺激パターンは、血圧がパルスの間で約80%を超えて急上昇することを防止するよう構成されていてもよい。いくつかの実施形態
では、第2の刺激パターンは、パルスの間で、血圧における約40%を超える増加を防止す
るよう構成されていてもよい。いくつかの実施形態では、第2の刺激パターンは、パルス
の間で、約10mmHg超~約30mmHgの血圧の急上昇を防止するよう構成されていてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、第2の刺激パターンは、パルスの間で、約20mmHgを超え
る血圧の急上昇を防止するよう構成されていてもよい。
【0332】
いくつかの実施形態では、第2の刺激パターンは、複数の刺激パルスを備えていてもよ
い。複数の刺激パルスの少なくとも1つの刺激パルスが、少なくとも1つの心室で心房キックを低減するように、および/または心房内圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するように構成された第1の刺激設定を有していてもよい。複数の刺激パルスの少な
くとも1つの刺激パルスが、刺激パルスの間で起きる血圧値の増加が所定の値に制限され
るよう、心房キックの低減または心房拡張の制御に対する圧反射反応を低減するよう構成された、第2の刺激設定を有していてもよい。いくつかの実施形態では、第2の刺激パター
ンは、約1つの鼓動~5つの鼓動の間、血圧を増加させて、圧反射反応を引き起こすよう構成されていてもよい。いくつかの実施形態では、第2の刺激パターンは、第1の刺激設定を有する複数の刺激パルスと、第2の刺激設定を有する複数の刺激パルスとを含んでいても
よい。いくつかの実施形態では、刺激パターンの複数の刺激パルスの約1%~複数の刺激
パルスの約40%の間で、第2の刺激設定を有していてもよい。いくつかの実施形態では、
第2の刺激パターンは、第1の刺激設定を有する複数の刺激パルスと、第2の刺激設定を有
する複数の刺激パルスとを含んでいてもよい。このような実施形態では、刺激パターンの複数の刺激パルスの約1%~複数の刺激パルスの約40%の間で、第2の刺激設定を有していてもよい。
【0333】
いくつかの実施形態では、刺激パターンは、血圧の増加および減少に対する反応の時定数の比率に基づく第2の刺激設定を有する刺激パルスに対して、第1の刺激設定を有する刺激パルスの比率を含んでいてもよい。例えば、第2の刺激設定を有する刺激パルスに対す
る、第1の刺激設定を有する刺激パルスの比率は、第1の設定および第2の設定のそれぞれ
の結果として生じる血圧の変化の時定数の比率に基づいていてもよい。いくつかの実施形態では、第1の刺激設定は第1のAV遅延を含んでいてもよく、第2の刺激設定は第2のAV遅延を含んでいてもよく、第1のAV遅延は、第2のAV遅延より短くされている。いくつかの実施形態では、第2の刺激パターンは、第1の刺激設定を有する複数の刺激パルスと、第2の刺
激設定を有する1つ以上の刺激パルスとを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、
第2の刺激パターンは、第2の設定を有する約2個~約5個の刺激パルスに対して、第1の設
定を有する約8個~約13個の比率の刺激パルスを含んでいてもよい。いくつかの実施形態
では、第2の刺激パターンは、患者の体からホルモン応答を引き起こすよう構成された刺
激設定を有する少なくとも1つの刺激パルスを含んでいてもよい。いくつかの実施形態で
は、第1の刺激パターンは、患者の体からホルモン応答を引き起こさないよう構成された
刺激設定を有する少なくとも1つの刺激パルスを含んでいてもよい。いくつかの実施形態
では、刺激パターンの所与のシーケンスにおける第1の刺激パターンの前に、第2の刺激パターンが適用されてもよい。
【0334】
いくつかの実施形態では、方法600は、2つ以上の刺激パターンの間で交替することを含んでいてもよい。例えば、方法600は、2個~10個の刺激パターンの間で交替することを含んでいてもよい。
【0335】
いくつかの実施形態では、血圧センサおよび制御器が、少なくとも部分的に閉ループとして作動するよう構成されていてもよい。
【0336】
いくつかの実施形態では、方法600は、複数の刺激パターンを施し、かつ、刺激中に、
患者の血圧に関連する対応する入力データを、刺激パターンのそれぞれについて受信するよう構成された制御器を含んでいてもよい。複数の刺激パターンは、少なくとも1つの心
室で心房キックを低減または防止するように、および/または心房内圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するように構成された刺激設定を有する少なくとも1つの刺
激パルスをそれぞれ備える少なくとも2つの刺激パターンを含んでいてもよい。少なくと
も2つの刺激パターンは、少なくとも1つの刺激パルスが連続して供給される時間の数または時間の長さだけ、互いに異なっていてもよい。少なくとも2つの刺激パターンは、所定
のAV遅延が連続して起きる時間の数または時間の長さだけ、互いに異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、刺激設定は、少なくとも2つの刺激パターンのそれぞれにおい
て、同一であってもよい。いくつかの実施形態では、刺激設定は、少なくとも2つの刺激
パターンのそれぞれについて、同一のAV遅延を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、少なくとも2つの刺激パターンは、少なくとも2つの刺激パターンのそれぞれ内に含まれる1つ以上の刺激設定により、互いに異なっていてもよい。
【0337】
いくつかの実施形態では、方法600は、複数の刺激パターンのそれぞれについて、入力
データに関連する少なくとも1つの血圧変動パラメータを算定する制御器を含んでいても
よい。方法600は、血圧変動パラメータに従って刺激パターンを調整する制御器を含んで
いてもよい。いくつかの実施形態では、方法600は、最良の血圧変動パラメータを有する
刺激パターンとなるよう、刺激パターンを調整する制御器を含んでいてもよい。例えば、最良の血圧変動パラメータは、最低の程度の圧反射を示す血圧変動パラメータを含んでいてもよい。最良の血圧変動パラメータは、所定の範囲内の圧反射を示す血圧変動パラメータを含んでいてもよい。
【0338】
いくつかの実施形態では、第2の刺激パターンは、患者の体からホルモン応答を引き起
こすよう構成された刺激設定を有する少なくとも1つの刺激パルスを含んでいてもよいが
、いくつかの実施形態では、第1の刺激パターンは、患者の体からホルモン応答を引き起
こさないよう構成された刺激設定を有する少なくとも1つの刺激パルスを含んでいてもよ
い。
【0339】
いくつかの実施形態では、複数の刺激パターンは、第1の刺激パターンと、第1の刺激パターンのあとで施される第2の刺激パターンとを含んでいてもよい。第2の刺激パターンは、第1の刺激設定の入力データに関連する血圧変動パラメータを使用するアルゴリズムに
基づいて設定された、少なくとも1つの刺激設定を有していてもよい。
【0340】
〈血圧を低減するためのシステム〉
図9は、いくつかの実施形態に係る、血圧を低減するためのシステム700を模式的に示している。システム700は、1つの装置であってもよく、または、好ましくは有線または無線通信により関連付けられた、複数の装置を備えていてもよい。装置は、ハウジング内に配置された、かつ/または、電気的におよび/もしくはワイヤでハウジングに接続された、複数の部品を有していてもよい。
図9に示すように、心臓701が、1つ以上の刺激電極702により、システム700に接続されている。刺激電極は、患者の心臓の少なくとも1つのチャンバを、刺激パルスで刺激するよう構成されていてもよい。
【0341】
いくつかの実施形態では、複数の電極702のそれぞれが、心臓の異なるチャンバに配置
されていてもよい。例えば、1つの電極が心房に配置されていてもよく、別の電極が心室
に配置されていてもよい。いくつかの実施形態では、複数の電極702が、単一のチャンバ
に配置されていてもよい。例えば、2つの電極が心房に配置されていてもよく、かつ/または、2つの電極が心室に配置されていてもよい。いくつかの実施形態では、1つの電極が第1のチャンバに配置されていてもよく、かつ、複数の電極が第2のチャンバに配置されていてもよい。
【0342】
本実施形態では、電極702は、Medtronic Capsure(登録商標)ペーシングリードなどの、一般的な心臓ペースメーカーリードを含んでいてもよい。これらのリードは、心臓701
をシステム700に接続するのに使用される。ペーシングリードは、一端にある業界標準IS-1 B1コネクタ(参照基準ISO 5148-3:2013)と、他端にある電極と、それらの間の絶縁さ
れた導体システムとで構成されていてもよい。いくつかの実施形態では、IS-1 B1コネク
タが、ステンレス鋼を2つの電極接点について使用し、かつ、シリコンを絶縁材料として
使用して構成されている。いくつかの実施形態は、絶縁材料としてポリウレタンを使用していてもよい。
【0343】
1つ以上の心臓チャンバの刺激は、上述した心房または心室心臓ペーシングリードの2つの電極の間に電圧を置くことにより達成されてもよい。刺激回路はトランジスタのネットワーク(例えばMOSFET)を使用して、2.0Vなどの特定のプログラム可能な電圧にコンデンサを変化させ、次いで、0.5msなどの固定された期間のプログラム可能な時間の間、電極
への、その接続を制御する。同一のネットワークが、刺激が完了した後に電極に蓄積されてもよい残留電荷の放電をも管理してもよい。同一のネットワークが、双極性(2つの電
極の間)または単極性(1つの電極と刺激装置ハウジングとの間)など、印加される刺激
の種類を制御してもよい。
【0344】
当該技術で公知のように、1つ以上の電極が、1つもしくは両方の心室および/または1つもしくは両方の心房に接触して配置されていてもよい。このような電極を使用して、それぞれの心臓チャンバを検知し、かつ/または、それぞれの心臓チャンバに刺激を伝達して
もよい。例えば、1つの電極を右心室に埋め込み、追加の電極を冠状静脈洞を通じて左心
室に配置した状態、かつ、心室刺激により引き起こされる非同期性(dyssynchrony)を低減するために、システム700が両方の心室の両心室刺激を生成する手段を含んだ状態で、
ペーシング電極を両方の心室に導入することができる。
【0345】
システム700は制御器703を含んでいる。システム700は、電源704(例えば、電気的な刺激装置の分野で公知のバッテリ)を含む電気的な刺激装置であってもよい。制御器703お
よび/または電極702は、電源704から電力を引き出してもよい。
【0346】
好ましくは、システム700の電気的な刺激装置は、密封されたハウジングおよびヘッダ
で構成されていてもよい。ハウジングは、チタンまたは他の生体適合性材料で形成されていてもよく、電源704、電子機器、および、外部の装置との通信用のテレメータコイル(telemetry coil)または通信モジュール707を含んでいてもよい。電源704は埋め込み可能
な傾斜し密封された一次電池であってもよい。バッテリ化学(battery chemistry)はヨ
ウ化リチウム(lithium-iodine)であってもよい。他の実施形態では、より大きな、または、より小さなバッテリを使用していてもよい。他の実施形態では、Liイオン充電式バッテリなどの充電式バッテリを使用していてもよい。いくつかの実施形態の電子機器は、標準の既製の電子機器(例えばトランジスタおよびダイオード)ならびに/または特注の電
子機器(例えばASIC)で構成されていてもよい。
【0347】
心房興奮および/または心室興奮の開始を検出するために、1つ以上の検知電極を、心臓内の対象となる場所またはその近くに埋め込んでもよい。これらの検知電極は、心臓にパルスを伝達するために使用されるのと同じ電極であっても、または専用の検知電極であってもよい。電気的活性は、プログラム可能なカットオフ周波数により、望ましくないノイズを除去するためにバンドパスフィルタにかけられてもよく、心臓ペースメーカー用の国際規格(参照EN45502-2-1:2003)に準拠していてもよい。心臓チャンバの伝播する活性化により生成された電気信号を増幅するため、および、電気信号が例えば所定の閾値の横断といった特定の基準を満たしたときに活性化の開始を決定するために、電気回路を使用してもよい。信号は例えば、プログラム可能なゲインにより増幅され、次いで、0.2mV(心
房)および0.4mV(心室)のステップでプログラム可能な検出閾値で、閾値検出のために
比較器に渡されてもよい。興奮を検出するこれらの手段は、チャンバでの活性化の実際の開始とその検出との間に、遅延を導入してもよい。これは、検出電極が興奮の起点から離れている場合があり、信号が検出基準を満たすまでにかかる時間が無視できないものである場合があり、5~50msの範囲にある、または、より多い場合があるからである。このよ
うな場合、興奮の開始のタイミングが、検知された興奮のタイミングに基づいて推定されることがあり、刺激パルスの伝達が、この遅延を相殺するために算定されるであろう。
【0348】
好ましくは、制御器703は、患者の活動水準を測定するために、加速度計に連係されて
いる。この患者の活動水準を使用して、患者の必要に基づき、ペーシング度合いおよび/
またはBPR設定および/または刺激パターンを調整してもよい。活動水準を、血圧に対する所望の水準の効果を制御するためにも使用してもよい。例えば、血圧の低減を、高い活動水準で低減して、血圧の増加が必要なときに、よりよい成績を可能にしてもよい。好まし
くは、患者が活動していないとき(例えば寝ているとき)血圧は自然に低減してもよく、その場合、所望の閾値未満に血圧を低減することを避けるため、ペーシングを調整してもよい。活動水準は、必要な場合に、よりよい反応を可能にするよう、圧反射に基づき設定を調整するためにも使用してもよい。センサは例えば圧電センサであってもよい。他の実施形態では、MEMSベースの加速度計センサを使用してもよい。他の実施形態では、好ましくは加速度計と組み合わせて、微細な換気センサを使用してもよい。
【0349】
コントローラ703は、1つまたは複数の電極702を介して、心臓701に電流を伝達するよう構成されていてもよい。コントローラ703は、本開示の任意の実施形態による刺激パルス
の刺激パターンを実行するよう構成されていてもよい。いくつかの実施形態では、刺激パルスは、心臓の少なくとも心室に伝達されてもよい。いくつかの実施形態では、刺激パターンは、第1の刺激設定、および第1の刺激設定とは異なる第2の刺激設定を含んでいても
よく、第1の刺激設定および第2の刺激設定は房性刺激を低減もしくは防止し、ならびに/または心房の内圧および/もしくは拡張を制御するように構成されている。いくつかの実施形態では、第1の刺激設定は、第2の刺激設定と異なるAV遅延を有する。いくつかの実施形態において、第1の刺激設定および/または第2の刺激設定は、心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧上昇と時間が重なり合い、それにより、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高い心房の心房内圧を提供するように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、第1の刺激設定および/または第2の刺激設定は、最高の心房拡張が、刺激を受けていないときの同じ心臓の最高の心房拡張にほぼ等しいか、またはそれより低い値となるように構成されていてもよい。いくつかの実施形態では、第1の刺激設定および/または第2の刺激設定は、AV弁が開いているときに、心房の収縮力が最高になるように構成されている。いくつかの実施形態では、第1の刺激設定および/または第2の刺激設定は、少なくとも1回の心房収縮の仕組みが、先行する自然な心房収縮の仕組みと異なっているように、少
なくとも1回の心房収縮の仕組みを変更するよう構成されている。いくつかの実施形態で
は、第1の刺激設定および/または第2の刺激設定は、少なくとも1つの心房収縮の力を低
減するように構成されている。いくつかの実施形態では、第1の刺激設定および/または
第2の刺激設定は、少なくとも1回の心房収縮を防止するよう構成されている。
【0350】
いくつかの実施形態では、制御器703は、さまざまな異なるAV遅延を伝達するよう構成
されていてもよい。制御器703は、(本明細書に記載のように)心房収縮または興奮が起
きたときに検知し、次いで、心室刺激を一定の間隔で、その後に、または将来の予想される心房興奮または収縮の前に伝達するよう構成されていてもよい。この間隔はプログラム可能であってもよい。制御器703はまた、心房を刺激し、次いで、心室刺激を、これもプ
ログラム可能であってもよい固定された間隔で、その後に伝達するよう構成されていてもよい。プログラム可能な間隔は例えば、所望の治療効果を供給する(accommodate)ため
、または、最大-50msの負のAV遅延を与えるためにさえ、2ms~70msの間で変更されてもよい。
【0351】
いくつかの実施形態では、制御器703は、刺激パターンを複数回繰り返すよう構成され
ていてもよい。例えば、制御器703は刺激パターンを2回繰り返してもよい。別の実施形態では、制御器703は、1時間の期間に、刺激パターンを少なくとも2回繰り返すよう構成さ
れていてもよい。制御器703により繰り返される刺激パターンは、あらゆる種類の刺激パ
ターンを含んでいてもよい。例えば、刺激パターンは、少なくとも1つの心室で心房キッ
クを低減または防止するように、および/または心房内圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するように構成された刺激設定を含んでいてもよい。別の実施形態では、刺激パターンは、少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止するように、およ
び/または心房内圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するようにそれぞれが構成された、2つの異なる刺激設定を含んでいてもよい。これらの2つの刺激設定は、例え
ばAV遅延により、1つ以上のパラメータによって異なっていてもよい。
【0352】
いくつかの実施形態では、制御器703は、所定の時間間隔の間、1つ以上の連続した刺激パターンを施すよう構成されていてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、時間間隔は10分以上であってもよい。別の実施形態では、時間間隔は30分以上、1時間以上または24時間以上であってもよい。いくつかの実施形態では、時間間隔は、1か月~1年などの月
間であってもよい。いくつかの実施形態では、時間間隔は1年以上であってもよい。
【0353】
いくつかの実施形態では、1つ以上の連続した刺激パターンは、時間間隔の一部の間、
少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止するように、および/または心房内
圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するように構成された第1の刺激設定を
含んでいてもよい。例えば、1つ以上の連続した刺激パターンは、時間間隔の約50%~時
間間隔の約100%の間、少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止するように、および/または心房内圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するように構成された第1の刺激設定を含んでいてもよい。別の実施形態では、1つ以上の連続した刺激パターンは、時間間隔の約50%~時間間隔の約85%の間、少なくとも1つの心室で心房キック
を低減または防止するように、および/または心房内圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するように構成された第1の刺激設定を含んでいてもよい。いくつかの実施
形態では、1つ以上の連続した刺激パターンは、時間間隔中の少なくとも1つの鼓動の間、第1の刺激設定よりも長いAV遅延を有する第2の刺激設定を含んでいてもよい。
【0354】
別の実施形態では、1つ以上の連続した刺激パターンは、第2の刺激設定および/または
第3の刺激設定を含んでいてもよい。第2の刺激設定および/または第3の刺激設定はそれぞれ、第1の刺激設定と異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、第2の刺激設定および/または第3の刺激設定はそれぞれ、少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防
止するように、および/または心房内圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するように構成されていてもよい。いくつかの実施形態では、第2の刺激設定および/または第3の刺激設定はそれぞれ、少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止しないように、および/または心房内圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御しないように構成されていてもよい。いくつかの実施形態では、第2の刺激設定および/または第3の
刺激設定は、時間間隔の約0%~時間間隔の約50%を含んでいてもよい。いくつかの実施
形態では、第2の刺激設定および/または第3の刺激設定は、時間間隔の約0%~時間間隔の約30%を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、第2の刺激設定および/または第3
の刺激設定は、時間間隔の約0%~時間間隔の約20%を含んでいてもよい。いくつかの実
施形態では、第2の刺激設定および/または第3の刺激設定は、時間間隔の約5%~時間間隔の約20%を含んでいてもよい。
【0355】
血圧は、24時間周期で変動することが知られており、場合によっては、異常に高い血圧が、24時間のうち一部(たとえば、夜間または昼間またはその一部)の間のみ、または24時間のほとんどにおいて優勢である。加えて、血圧は身体活動に従って変動することが知られており、活動中の人は、安静時よりも血圧が高い。したがって、場合によっては、たとえば、血圧を下げるために治療パラメータを変更することによって、または心刺激の伝達を与えさえしないことによって、必要に応じて治療の伝達を制御することが所望されてもよい。換言すると、一日のうちの異なる時間帯で、および/または患者が活動中であるかもしくは安静であるときに、心刺激を変化させて、刺激のパラメータを調整してもよく、または単にオン/オフにしてもよい。所望により、このような刺激の伝達は、時刻に従って制御されてもよく、また患者の24時間周期のBPリズムに合わせて調整されてもよい。
【0356】
実施例1
図21は、24時間モニタリングした未治療患者の心収縮期のBPを示す。時間平均が表され
る。図示されるように、患者のBPは日中(およそ午前10時から午後6時)異常に高かった
。このようなタイプの場合において、BPが異常に高くなることが予想される時間帯(すなわち、必要がある場合、または必要性が予想される場合)の間だけ、房性刺激を低減するように構成されたパルスを伝達し、および/または、AC刺激を提供するようにデバイスを設定することが好ましくてもよい。
【0357】
実施例2
別の実施例を
図22に示す。ここで、患者の未治療の血圧(
図22において、「x」のデー
タ点を有する線により表す)は、夜間(午後2時から午前7時まで)異常に高いことが分かった。日中のBPの上昇は、正常範囲内であり、患者の活動の増加に起因していてもよい。所望により、この患者は、夜間だけ治療の必要があると仮定されてもよく、デバイスはそれに従って刺激を伝達するように設定されてもよい。所望により、この患者は、日中は治療の必要がないと仮定されてもよく、デバイスは、血圧の上昇が日中に測定されても、このような上昇は血圧を下げる治療の伝達を誘発すべきではないように設定されてもよい。所望により、デバイスは日中の血圧を測定しないように設定されてもよい。
【0358】
図22に示す実施例では、患者はその後、鼓動10回分に対しては15msのAV遅延で心房および心室の両方をペーシングし、次に、鼓動3回分に対して40msのAV遅延で心房および心室
をペーシングするという設定を有する血圧低減パルスを用いて治療された。治療の伝達は、毎日午後3時に開始され、13時間継続される。結果として得られるBPをプロットしたが
(
図22において丸いデータ点を有する線で表される)、見て分かるように、BPは本質的に1日中正常範囲内にあり、治療前よりもはるかに小さい変動が表されている(治療下では
、BPは約30mmHg以下しか変動しなかったが、未治療のBP範囲は、40mmHg超変動した)。
【0359】
いくつかの実施形態において、患者固有の(刺激がない場合の)血圧プロファイルをまず決定し、その固有のプロファイルに基づいて、所望の血圧低下を生じさせる刺激パラメータをその後決定する。
図22は、このようなアプローチの1つの実施例を示す。いくつか
の実施形態では、血圧はデバイスの作動中に連続的または断続的に測定され、それに応じて、所望の血圧低下を生じさせる刺激パラメータをその後決定する。
【0360】
図21および
図22の実施例1および実施例2の例示的なアプローチに関して論じられるように、心臓刺激期間と心臓刺激のない期間とを交互に行うのではなく、他のアプローチでは、刺激パラメータを調整して、ある時間間隔の2つ以上の期間のそれぞれにおいて異なる
値の血圧低下をもたらしてもよい。これらの期間は、24時間の時間間隔にわたって数分間または数時間であってもよい。各期間における異なる値の血圧低下は、例えば、血圧検知フィードバック、時刻、患者の活動、または特定の患者固有の血圧パターン等のニーズに基づいてもよい。各期間の刺激パラメータは、その特定の期間中のニーズに基づいて、異なる程度の血圧低下を達成するように選択されてもよい。
【0361】
例えば、第1の刺激設定は、昼間により高い程度の血圧低下を達成してもよく、続いて
第1の刺激設定よりも低い程度の血圧低下を達成することができる夜間の第2の刺激設定を行い、さらに刺激が適用されない場合の血圧レベルから血圧を低下させる。別の例として、第1の刺激設定は、患者の低活動度中により高い程度の血圧低下を達成してもよく、続
いて第1の刺激設定よりも低い程度の血圧低下を達成することができる患者の高活動度中
の第2の刺激設定を行い、さらに刺激が適用されない場合の血圧レベルから血圧を低下さ
せる。
【0362】
異なる刺激設定の期間を交互に行う際、実施形態では、血圧変化の程度に影響を及ぼすパラメータに対する一時的な増分調整により、または連続的な調整により、血圧変化の程度を徐々に調整してもよい。例えば、第1の刺激設定が30msのAV遅延を使用し、第2の刺激
設定が60msのAV遅延を使用する場合、第1の刺激設定から第2の刺激設定に切り替える際に、AV遅延は、30msのAV遅延の第1の刺激設定から60msのAV遅延の第2の刺激設定まで5ms増
分(例えば、35msまで、次いで40msまで等)で徐々に調整されてもよい。同様の増分調整は、第2の刺激設定から第1の刺激設定に戻る切り替えに使用してもよい。他の実施形態では、この調整は、第1の刺激設定から第2の刺激設定に切り替える際に血圧に影響を及ぼすパラメータ(例えば、AV遅延)の変化率が一定であるという点で連続的であってもよい。
【0363】
上述のように、異なる値の血圧低下を提供することは、AV遅延に影響を及ぼす刺激パラメータを調整することを含んでいてもよく、この調整は、刺激設定を切り替えるために使用してもよい。例えば、より短いAV遅延を提供する刺激パラメータは、より長いAV遅延を提供する刺激パラメータよりも大きな程度血圧を低下させてもよい。実施形態では、房性刺激を低減する刺激設定は、約5ms~約30msで変動する(例えば、昼間と夜間との間、ま
たは激しい活動と軽い活動との間)AV遅延を提供してもよく、AV遅延が短いほど血圧を大きく下げる。
【0364】
図24は、特定の患者のAV遅延(本実施例では、100ms以下)と収縮期血圧の低下との関
係の実施形態を示すグラフである。図示されるように、所望の収縮期血圧の低下を生じるAV遅延を達成する刺激パラメータが選択されてもよい。したがって、AV遅延と血圧低下との関係に基づいて、血圧低下療法は、以下の2つの実施例に示すように、ある時間間隔の
特定の期間(例えば、1日の時間間隔にわたって数分間または数時間の期間)中に患者の
ニーズに基づいて所望の血圧低下を達成するように調整されてもよい。
【0365】
実施例3
図25は、特定の外来患者についての24時間にわたる収縮期血圧のグラフである。図示されるように、
図25の患者は、1日の初めには非常に高い血圧(およそ午前6時からおよそ午後2時までは約140~160mmHg)、夜間の後半には非常に低い血圧(およそ真夜中~およそ
午前2時の間は100mmHg未満)、その合間では中間の血圧値(およそ午後3時~およそ午後11時までは約120~140mmHg)を有している。
【0366】
図25の患者のタイプに関しては、一日中、異なるセットの刺激パラメータを用いた療法を適用することが有用であってもよい。例えば、一実施態様では、血圧を有意に低下させる第1のセットの刺激パラメータは、(相対的に非常に短いAV遅延で)およそ午前6時からおよそ午後2時まで適用されてもよく、依然として血圧をやや低下させる第2のセットの刺激パラメータは、およそ午後2時からおよそ真夜中まで適用されてもよく、より長いAV遅
延を提供するが、第3のセットの刺激パラメータ(例えば、刺激なしまたは通常のAV遅延
を提供する刺激)は、およそ真夜中からおよそ午前6時まで適用されてもよい。このよう
に、異なる刺激パラメータは、この時間間隔中の異なる期間の患者のニーズに応じて、房性刺激を低減または防止し、血圧を低下させ、患者に対して全体的により正常化され制御された血圧を提供する。
【0367】
実施例4
図26は、
図25の患者とは異なる、別の特定の外来患者についての24時間にわたる収縮期血圧のグラフである。
図26の患者は、夜間には高い血圧(およそ真夜中からおよそ午前7
時までは140mmHg超)、昼間には不安定な血圧を示す。
【0368】
図26の患者のタイプは、
図25の患者のタイプとは異なるセットの刺激パラメータの利益を享受してもよい。例えば、夜間には、長いAV遅延を適用してもよい。その後、AV遅延を周期的に増加させてもよく、およそ午前9時からおよそ午後2時まで(血圧が120mmHg以下
のほぼ正常値内になったとき)正常値に達する。その後、およそ午後9時からおよそ真夜
中まではAV遅延のさらなる増加(または増加のセット)により、より長いAV遅延(夜間に
適用されたものと同じかまたはそれよりもやや短い)が適用されてもよい。
【0369】
上記実施例の刺激パターンはすべて、フィードバックループを含んでいてもよく、および/または患者の既知の24時間周期の血圧変動に基づいて予めプログラムされてもよい。
【0370】
いくつかの実施形態では、制御器703は、少なくとも1つの心室で心房キックを低減または防止するように、および/または心房内圧、心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するように構成された第1の刺激設定を有する10個~60個の刺激パルスのシーケンスを
含む1つ以上の連続した刺激パターンを施すよう構成されていてもよい。いくつかの実施
形態では、制御器703は、10個~60個の刺激パルス内に埋め込まれた1個~10個の鼓動のシーケンスを含む1つ以上の連続した刺激パターンを施すよう構成されていてもよく、1個~10個の鼓動のシーケンスは、第1の刺激設定よりも長いAV遅延を有していてもよい。例え
ば、10個~60個の刺激パルスは、第1の刺激設定を有する5つの刺激パルスと、それに続く、第1の刺激設定よりも長いAV遅延を有する1つの鼓動と、それに続く、第1の刺激設定を
有する50個の刺激パルスとを含んでいてもよい。1個~10個の鼓動のシーケンスは、少な
くとも1つの心室で心房キックを低減または防止するように、および/または心房内圧、
心房拡張のいずれか一方もしくは双方を制御するように構成された第1の刺激設定を有す
る、少なくとも1つの刺激パルスを含んでいてもよい。1個~10個の鼓動のシーケンスは、自然なAV遅延を含んでいてもよい。1個~10個の鼓動のシーケンスは、刺激なしに起きて
もよい。
【0371】
システム700は、1つ以上のセンサ705をさらに備えていてもよい。いくつかの実施形態
では、このようなセンサ705は、心臓の電気的活性を検知するための1つ以上の検知電極を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、1つ以上の検知電極は、1つ以上の刺激電極702を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、センサ705は、1つ以上のセンサ(埋
め込みもしくは外部の)を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、1つ以上のセン
サ705は、心臓に(例えば心房および/または心室に)埋め込まれた1つ以上の圧力センサ
を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、センサ705は、1つ以上の血流センサ(埋め込みもしくは外部の)を含んでいてもよい。例えば、1つ以上のセンサ705は、AV弁を通る血流の超音波検知を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、センサ705は、AV弁
の閉鎖のタイミングを監視するよう構成された1つ以上のセンサを含んでいてもよい。こ
れらのセンサの1つ以上が、制御器とともに閉ループとして作動するよう構成されていて
もよい。
【0372】
センサ705からの情報が、有線通信および/または無線通信を含む何らかの形態の通信により、制御器703に供給されてもよい。好ましくは、システム700は、システム部品の間で、および/または、システムに対して外部にある装置に対して、情報を受信および/または送信するための、1つ以上の通信モジュール707を備えていてもよい。いくつかの実施形態では、制御器703は、患者の血圧に関連する入力データを受信するよう構成されていても
よい。例えば、患者の血圧に関連する入力データは、1つ以上の時点で測定されたBPを示
す、もしくはBPの変動(例えば、変化の程度および/もしくは変化の比率もしくは経時的
な血圧の変化を表す関数)を示すデータ、ならびに/または、BPもしくはBPの変動、最大
および/もしくは最小のBP値に関連する統計的なデータを含んでいてもよい。
【0373】
好ましくは、システム700は、情報を提供するための、かつ/または、情報の入力を可能にするための1つ以上のユーザインターフェース708を備えていてもよい。情報を提供することは例えば、システムに関連する作動情報の表示、および/または、作動中にシステム
により記録された、かつ/またはシステムにより受信されたデータの表示を含んでいても
よい。これは、検知されたパラメータ、ならびに/または、検知されたパラメータと作動
情報(刺激パターン設定、および/もしくは、所与のペースと検知された情報との間の相
対的なタイミングなど)との間の関係を含んでいてもよい。
【0374】
好ましくは、ユーザインターフェース708は、ソフトウェアアプリケーションを実行す
る市販のラップトップコンピュータ(例えばWindows(登録商標)ベースのコンピュータ
)を備えていてもよい。ソフトウェアアプリケーションは、埋め込み可能な刺激装置との通信用にテレメータ回路(telemetry circuit)を含む手で持てるワンド(棒)に接続さ
れたインターフェースに伝達されることになる命令を生成するために機能してもよい。ワンドに送られる命令は、刺激パラメータを設定するため、かつ/または、装置の診断メッ
セージ、装置のデータ、心臓のデータおよびリアルタイムの心臓検知を回収するために使用されてもよい。インターフェースは、3リードECGの接続をも可能にし、このデータは、ソフトウェアアプリケーションにより、ラップトップコンピュータスクリーンに表示される。他の実施形態では、3リードECG電子回路が含まれていなくてもよく、または、12リードECG電子回路が含まれていてもよい。他の実施形態では、ワンド、インターフェースお
よびラップトップコンピュータの機能性を、3つの機能すべてを果たすハードウェアの専
用部品に組み込んでもよい。他の実施形態では、また、印刷能力をユーザインターフェース708に追加してもよい。
【0375】
いくつかの実施形態では、インターフェース708は、ユーザ(例えば医師)が、システ
ムに対する制御命令のセット(例えば目標値および/もしくは範囲、ならびに/または、他の制限もしくは命令)を供給できるように構成されていてもよい。好ましくは、インターフェース708は、ユーザが、1つ以上のセンサ705からのデータ(例えば、手動の血圧測定
の結果および/または超音波監視の結果)を入力することを可能にしてもよい。
【0376】
好ましくは、1つ以上のユーザインターフェース708は、ユーザが刺激パターンを(例えば、システム700に保存された刺激パターンのセットから)選択すること、または、刺激
パターンの設定および/もしくは選択に拘束を加えることを可能にしてもよい。
【0377】
好ましくは、システム700は1つ以上のプロセッサ706を備えていてもよい。プロセッサ
は、センサ705からの検知されたパラメータおよび/またはインターフェース708からの入
力データを処理して、システム700による伝達用に刺激パターンを選択するよう構成され
ていてもよい。好ましくは、プロセッサ706は、検知されたパラメータを分析するよう、
かつ、刺激パターンの選択および/または評価に使用されることになる情報および/または式定数(formula constant)を抽出するよう構成されていてもよい。
【0378】
システム700の1つ以上の部品またはそのような部品の一部が、患者に埋め込まれていてもよいが、システム700のいくつかの部品またはそのような部品の一部は、患者の外部に
あってもよい。いくつかの部品(またはその一部)が埋め込まれ、他が埋め込まれていないとき、部品の間の通信は、本質的に当該技術で公知の有線および/または無線の手段に
より行われてもよい。例えば、制御器703および/またはプロセッサ706の両方の、いくつ
かまたは全ての機能が、体の外側で行われてもよい。システム700のいくつかの部品を患
者の体の外部に置くことで、埋め込みの装置の寸法および/もしくはエネルギー必要量の
低減を、ならびに/または、システムの計算能力の向上を支援してもよい。
【0379】
システム700は、心臓の機能および心臓血管系の全体的な能力に関連する追加の機能を
含んでいてもよい。例えば、システム700は、両心室ペーシングまたは心臓再同期療法(resynchronization therapy)を可能にして、心室刺激により引き起こされることのある非同期性を低減する、1つ以上のアルゴリズムおよび/または電極を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、システム700は、心拍出量の、起こり得る低減を相殺するための1つ以上のアルゴリズムを含んでいてもよい。このようなアルゴリズムは、心拍出量を増加させるために、または、心拍出量を制御するための、当該技術で公知の他の方法を実施する
ために、心拍数を変化させてもよい。いくつかの実施形態では、システム700は、特定の
状況への反応として、心拍数の変化に影響するレート応答(rate response)アルゴリズ
ムを含んでいてもよい。例えば、システム700は、運動、換気活動および/または酸素消費量の水準の変化に対する反応として、心拍数の変化に影響するレート応答アルゴリズムを含んでいてもよい。
【0380】
いくつかの実施形態では、システム700は、活動を検知するセンサを含んでいてもよく
、患者が運動していて患者の血圧が低減されていない状態で、アルゴリズムは刺激をオフにしてもよい。いくつかの実施形態では、システム700は、リアルタイムのクロック(時
計)を含んでいてもよい。このようなクロックは、刺激のタイミングを制御するのに使用されてもよい。例えば、システム700は、一日の時間に応じて刺激をオンおよびオフにす
るアルゴリズムを含んでいてもよい。この種のアルゴリズムは、患者が眠っている夜の間に、低血圧を防止するために使用されてもよい。
【0381】
いくつかの実施形態では、システム700の1つ以上の部品を含むキット、および、患者の血圧に関連する入力に基づいて刺激パターンを調整するための命令のセットが提供されてもよい。
【0382】
いくつかの実施形態では、検知された自然な心拍数または自然な興奮に基づき、自然な心拍数よりも高い数で刺激を伝達するよう構成された、血圧を低減するためのシステムを提供してもよい。例えば、このシステムは、刺激パルスの伝達の間の自然な興奮を検知するよう構成されていてもよく、自然な活動が検知された場合、システムは、チャンバへの刺激パルスの伝達を抑止するよう構成されていてもよい。所与の時間枠内に、検知された活性化の量が閾値を超えると、自然な心拍数は、刺激パルスの伝達率よりも高いとみなされることがあり、その場合、例えば、患者の増加した心拍数を受け入れるよう、伝達率が増加されることがある。他方、所与の時間枠内で、検知された活性化の量が閾値よりも低い(この閾値は0であってもよい)と、自然な心拍数が、刺激パルスの伝達率よりも低い
とみなされ、その場合、例えば、患者の心臓の過度の興奮を避けるため、伝達率が低減されることがある。
【0383】
この効果を実現するために、一つの実施形態によれば、血圧を下げるためのシステムが、患者の心臓の心房および心室の少なくとも1つの興奮率を検知するためのセンサと、心
房および心室に刺激パルスを伝達するよう構成された刺激回路と、刺激回路に結合されたプロセッサ回路とを含んでいてもよい。プロセッサ回路は、検知に基づき患者の心拍数を検出し、かつ、心房および心室の少なくとも一方のそれぞれに刺激パルスが供給される作動モードで作動するよう構成されていてもよい。刺激パルスは、検知された興奮率よりも高い率で伝達されてもよく、心房の刺激の約50ms前~約70ms後の間の時間に、心室を刺激するよう構成されていてもよい。
【0384】
いくつかの実施形態では、予測された次の心房収縮に基づき血圧を低減するためのシステムが提供されてもよい。例えば、血圧を低減するためのシステムは、心房および心室の少なくとも一方の興奮率を検知するためのセンサと、心房および心室の少なくとも一方に刺激パルスを伝達するよう構成された刺激回路と、刺激回路に結合されたプロセッサ回路とを含んでいてもよい。プロセッサ回路は、次の心房興奮のタイミングが、先行する心房興奮の検知された興奮率に基づき予測され、少なくとも1つの心室が、予測された次の心
房興奮の約50ms前~約10ms後の間の時間に刺激される、作動モードで作動するよう構成されていてもよい。予測されたタイミングは、2つの先行する検知された心房興奮の間の時
間間隔と、心房興奮の間の、先行して検知された時間間隔に基づくことになる関数とに基づいていてもよい。この関数は、時間間隔の変化、時間間隔の変化率、および/または、
時間間隔の周期的な変動の検出(例えば、呼吸による周期的な変動)を含んでいてもよい
。
【0385】
好ましくは、心房および心室の少なくとも一方の興奮率を検知するためのセンサが、心房興奮を検知するための電極を備えていてもよい。
【0386】
さらなる態様では、次の心房興奮の予測が、間隔および周期的な変動の変化率を含む、先行する検知された興奮の関数に基づいていてもよい。
【0387】
さらなる態様では、予測された次の心房興奮のタイミングは、心房興奮と心房興奮の検知との間の遅延を反映するよう調整されていてもよい。
【0388】
さらなる態様では、このシステムは、心臓の活動に関連するパラメータを検知するため、かつ、心室がそれに従って刺激される時間を調節するための追加のセンサをさらに備えていてもよい。パラメータは、血圧、血流、AV弁の状態、および、心臓またはその一部の壁運動に関連するデータからなる群の1つであってもよい。追加のセンサが、圧力センサ
、インピーダンスセンサ、超音波センサ、および/または1つ以上の音声センサ、および/
または1つ以上の血流センサからなる群から選択されていてもよい。追加のセンサは埋め
込み可能であってもよい。
【0389】
〈心房キックの低減〉
いくつかの実施形態は、血圧は、心房興奮の少なくとも一部の間に、少なくとも1つのAV弁の閉鎖を引き起こすにより低減することができるという、発明者の理解に由来してい
る。これは心室の充満に対する心房の収縮の貢献を低減し、または防止しさえし、その結果、閉鎖の終わりに心臓充満を低減し、その結果、血圧を低減することになる。
【0390】
いくつかの実施形態では、心房収縮の少なくとも一部が、閉じられたAV弁に対して起きてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、心房収縮の40%以上が、閉じられたAV弁に対して起きてもよい。いくつかの実施形態では、心房収縮の80%以上が、閉じられたAV弁に対して起きてもよい。例えば、収縮は、心室の収縮前約20ms以内に開始してもよく、心房の興奮は、心室の収縮前20ms以内に起きてもよい。いくつかの実施形態では、心房収縮の100%が、閉じられたAV弁に対して起きてもよく、その場合、心室興奮は、心室収縮が
心房収縮の開始前に始まることになるよう、時間調節される。これは、心房興奮の開始前に心室を興奮させることを含んでいてもよい。AV弁が閉じられた状態で起きる心房興奮のパーセンテージが高くなると、心房キックは、より多く低減される。心房および心室の両方の刺激により、閉じられた弁に対して起きる心房収縮のパーセンテージの、よりよい制御が提供されてもよい。
【0391】
心房収縮の少なくとも一部を、閉じられた弁に対して引き起こすよう、さまざまな実施形態を実施してもよい。例えば、AV弁は、心房の機械的な収縮の開始後70ms以内に、または心房の機械的な収縮の開始後40ms以内に、または心房の機械的な収縮の開始後5もしく
は10ms以内にさえ、閉じられてもよい。いくつかの実施形態では、AV弁は、心房の機械的な収縮の開始前に閉じられてもよい。例えば、AV弁は、心房の機械的な収縮の開始前5ms
以内に閉じられてもよい。いくつかの実施形態では、AV弁は、機械的な収縮の開始と同時に閉じられてもよい。いくつかの実施形態では、AV弁は、心房の機械的な収縮の開始後に閉じられてもよい。例えば、AV弁は、心房の機械的な収縮の開始後5ms以内に閉じられて
もよい。
【0392】
いくつかの実施形態では、チャンバの収縮の開始を検知してもよく、刺激パルスを、検知された収縮の開始に対して時間調節してもよい。チャンバにおける収縮の開始は、チャンバにおける収縮力の能動的な生成の開始である。収縮の開始は、チャンバへの血液の流
れに関連しない、圧力の急激な変化により検知することができる。収縮の開始はまた、超音波を使用して、心臓チャンバの壁の動きを測定することにより、または、チャンバの容積の低減を測定することにより、検知されてもよい。収縮の開始を検知するこれらの方法は、収縮の実際の開始と収縮の開始の検知との間の遅延を有していてもよい。
【0393】
いくつかの実施形態では、AV弁は、少なくとも1つの心房の収縮の開始後に閉じられて
もよい。例えば、AV弁は、少なくとも1つの心房の収縮の開始後、約0ms~約70ms閉じられてもよい。いくつかの実施形態では、AV弁は、少なくとも1つの心房の収縮の開始後、約0ms~約40ms閉じられてもよい。いくつかの実施形態では、AV弁は、少なくとも1つの心房
の収縮の開始後、約0ms~約10ms閉じられてもよい。いくつかの実施形態では、AV弁は、
少なくとも1つの心房の収縮の開始後、約0ms~約5ms閉じられてもよい。
【0394】
通常、心房収縮は、心房興奮の開始の約40ms~約100ms後に開始されてもよい。いくつ
かの実施形態では、AV弁は、心房興奮の開始後に閉じられてもよい。例えば、AV弁は、心房興奮の開始後、約40ms~約170ms閉じられてもよい。例えば、AV弁は、心房興奮の開始
後、約40ms~約110ms閉じられてもよい。別の実施形態では、心房興奮の開始後、約40ms
~約80ms閉じられてもよい。例えば、AV弁は、心房興奮の開始後、約40ms~約75ms閉じられてもよい。例えば、AV弁は、心房興奮の開始後、約40ms~約50ms閉じられてもよい。
【0395】
いくつかの実施形態では、チャンバにおける興奮の開始が検知されてもよく、刺激パルスが、検知された興奮の開始に対して時間調節されていてもよい。興奮の開始は、チャンバを通じた伝播する活動電位の開始である。興奮の開始は、増幅器に接続された検知電極を使用して、チャンバの局所的な電気的活性を検知することにより検知されてもよい。興奮の開始は、心電図記録法によって検知することもできる。
【0396】
いくつかの実施形態では、興奮の開始を検知する方法が、興奮の実際の開始と興奮の開始の検知との間の遅延を有していてもよい。検知された心房興奮のタイミングは、興奮の実際の開始と、その検知との間の遅延を考慮に入れることにより判断されてもよい。例えば、検知遅延が20~40msであると推定され、刺激パルスが、心房興奮の開始の0~70ms後
に伝達されることになる場合、システムが、次の予想される検知事象の40ms前~次の予想される検知事象の30ms後または次の予想される検知事象の30mms後の間に、パルスを伝達
するよう設定されてもよい。同様に、刺激パルスが、心房興奮の開始の0~50ms前に、心
室に伝達されることになり、同じ20~40msの検知遅延が想定される場合、システムが、次の予想される検知事象の40ms前~次の予想される検知事象の90ms前の間に、パルスを伝達するよう設定されてもよい。検知遅延は、興奮の開始の場所と検知電極との間の距離、電気信号の水準、検知回路の特徴、および検知事象の閾値セットの1つ以上のためであって
もよい。遅延は、例えば、興奮の起点から電極位置への信号伝播の持続、検知回路の周波数応答に関連する持続、および/または、信号伝播エネルギーが検知回路により検出可能
な水準に達するのに必要な持続を含んでいてもよい。遅延は有意であってもよく、かつ、例えば約5ms~約100msの間で変動してもよい。
【0397】
遅延を推定する1つの手法は、心房および心室の両方が検知されたときに測定されたAV
遅延と、心房がペーシングされ心室が検知されたときのAV遅延との間の時差を使用することである。別の手法では、設定された閾値、信号強度および周波数成分に基づく増幅器応答時間の算定を使用してもよい。
【0398】
他の実施形態では、心房の活性化と活性化の検知との間の遅延が所望のAV遅延よりも長い(例えば、検知遅延が50msであり、所望のAV遅延が40msである)場合、心房および心室は両方とも所望のAV遅延を達成するようにペーシングされてもよい。
【0399】
他の実施形態ではまた、アルゴリズムを使用して固有のリズムを追跡してもよい。例えば、固有のリズムを追跡するためには、まず心房の固有の速度を検知してもよい。次に、ベース速度は、検知速度より数鼓動高く設定されてもよい。検知事象がある場合、ベース速度は新たに検知された速度を超える速度まで増加されてもよい。一定数のペーシングされた鼓動の後に検知事象がない場合、ベース速度は、検知事象が検出されるか、またはその速度が最小限許容されるベース速度に達するまで段階的に減少されてもよい。このアプローチは、常にペーシングを生成してもよい。
【0400】
他のアプローチは、血圧への影響が、心房および心室の両方を所望のAV遅延でペーシングすることによって得られる効果と同じになるまで、心房検知とともに使用される遅延を変更することを含んでいてもよい。これらの実験的アプローチでは、AV遅延を推定するのではなく、施術者は、得られた血圧に対するペーシングの影響を観察し、所望の血圧が得られるまでAV遅延を調整することによって、好ましいAV遅延を決定してもよい。例えば、これらのアプローチによれば、施術者は、最初に心房をペーシングし、所与の(任意で所定の)遅延で心室をペーシングして、所望の血圧変化を得てもよい。次に、施術者は、心房を検知し、心室をペーシングし、結果として生じる血圧変化を観察し、結果として生じる血圧変化をペーシングされた心房-ペーシングされた心室の所望の血圧変化と比較してもよい。これらの血圧変化が実質的に等しくない場合、この比較に基づいて、施術者は、検知された心房-ペーシングされた心室の刺激タイミングを調整し、新たに変更された結果として生じる血圧変化を観察し、その変更された血圧変化をペーシングされた心房-ペーシングされた心室の所望の血圧変化と比較してもよい。次に、必要であれば、施術者は、検知された心房-ペーシングされた心室の刺激タイミングによって、ペーシングされた心房-ペーシングされた心室の刺激の所望の血圧変化と同じ血圧変化が達成されるまで、調整および観察を繰り返してもよい。
【0401】
いくつかの実施形態は、検知される心房とペーシングされる心室との間のAV遅延が0ms
であっても、心房の活性化と心房の検知との遅延は長すぎるため、血圧低下は十分でない場合がある。これらの場合、実施形態は、所望の血圧低下を生じさせるために、心房の前の検知からの遅延に基づいて心室をペーシングしてもよい。これらの場合、遅延は、予想されるA-A間隔(2回の心房収縮間の間隔)よりも短くなる。
【0402】
他の実施形態では、同じ血圧低下をもたらす、検知された心房-ペーシングされた心室のAV遅延と、ペーシングされた心房-ペーシングされた心室のAV遅延との差は、別の実験的測定を行う代わりに他の値のAV遅延が選択される場合の差を設定するために使用されてもよい。他の実施形態では、速度に基づきAV遅延を変更するペースメーカの標準アルゴリズムを用いて、速度に基づいて差を補正してもよい。
【0403】
典型的には、心房興奮の検知と心室のペーシングとの間の遅延は、(例えば、
図24に基づいて予想され得るように)患者のより低い血圧を誘発するように低減される。しかし、場合によっては、変更を行い、結果として生じる血圧変化を観察し、それに応じてさらなる調整を行うことによって、調整の間に相関関係を導き出してもよい。
【0404】
いくつかの実施形態では、AV弁は、少なくとも1つの心房の興奮または収縮の開始前に
閉じられてもよい。例えば、AV弁は、少なくとも1つの心房の興奮または収縮の開始の約0ms~約5ms前以内に閉じられてもよい。いくつかの実施形態では、AV弁は、少なくとも1つの心房の興奮または収縮の開始と同時に閉じられてもよい。
【0405】
いくつかの実施形態では、AV弁閉鎖の直接の機械的な制御が行われてもよい。このような実施形態では、機械的な装置またはその一部が患者に埋め込まれて、心房と心室との間の弁の閉鎖を引き起こすよう作動されていてもよい。例えば、人工弁が患者の心臓に埋め
込まれて、いくつかの実施形態に従って機械的に閉じられるよう作動されてもよい。このような実施形態では、刺激パターンを供給することに代えて、またはそれに加えて、AV弁の上記閉鎖が、埋め込まれた弁の機能を制御することにより達成されてもよい。
【0406】
いくつかの実施形態では、短縮された、または負でさえある、心房興奮の開始と心室興奮との間の時間間隔を用いて心臓充満を低減し、それにより血圧を低減する。本明細書での使用では、心房興奮の開始と心室興奮との間の負の時間間隔とは、単一の心周期において、少なくとも1つの心室についての興奮の開始が、心房興奮の開始前に起きることを意
味している。この場合、心房収縮は少なくとも部分的に、閉じられたAV弁に対して起きてもよい。これは、心室において生成された圧力が、心房内の圧力よりも大きくなる場合があるためである。心室収縮の開始後の短い時間に、心室の圧力は心房の圧力を超えてもよく、弁の受動的な閉鎖につながってもよい。この弁の閉鎖は、心房キックを低減し、または消去さえしてもよく、次いで心室充満を低減してもよい。結果として、心室収縮の力が低減されてもよく、血圧が降下してもよい。
【0407】
各心臓チャンバにおける興奮の開始と機械的な収縮の開始との間の時間は固定されていない。ゆえに、興奮のタイミングは、収縮の間のタイミングに対する同じ効果を保証しない。しかし、いくつかの実施形態では、興奮の間のタイミングは、実際的な理由で、準拠枠(frame of reference)として使用される。興奮のタイミングを制御する究極の目的は、収縮のタイミングを制御することにある。
【0408】
いくつかの実施形態では、心房興奮の開始と心室興奮との間の短縮された、または負でさえある、時間間隔は、心臓充満を低減し、それにより血圧を低減するために用いられてもよい。この場合、心房の貢献に対する、よりよい制御を得ることができる。これは、心室の収縮の開始が、弁の閉鎖という結果になるためである。
【0409】
いくつかの実施形態では、心房収縮の40%以上が心室収縮中に起きてもよい。例えば、心房収縮は、心室の収縮の約60ms以下前に開始してもよく、または、心房の興奮は、心室の興奮の約60ms以下前に起きてもよい。いくつかの実施形態では、心房収縮の80%以上が心室収縮中に起きてもよい。例えば、収縮は、心室の収縮の約20ms以下前に開始してもよく、または、心房の興奮は、心室の興奮の約20ms以下前に起きてもよい。いくつかの実施形態では、心房収縮の100%が心室収縮中に起きてもよく、この場合、心室興奮は、心室
収縮が心房収縮の開始前に始まるように、時間調節されている。これは、心房興奮の開始前に心室を興奮させることを含んでいてもよい。
【0410】
いくつかの実施形態では、対応する心房の収縮中または前に少なくとも1つの心室が収
縮するよう、心臓の少なくとも1つの心室の収縮を引き起こすための方法が提供される。
この目的を実現する1つの手法は、対応する心房の興奮の開始の約50ms前~約70ms後の間
の時点で心室を興奮させることによっている。いくつかの実施形態では、少なくとも1つ
の心室の興奮の開始と、対応する心房の興奮の開始との間の時間間隔は、ゼロであってもよい。すなわち、少なくとも1つの心室についての興奮の開始は、対応する心房の興奮の
開始と同時に起きてもよい。いくつかの実施形態では、心室の興奮の開始は、心房興奮の開始の約0ms~約50ms前に起きてもよい。いくつかの実施形態では、心室の興奮の開始は
、少なくとも1つの心房の興奮の開始の少なくとも約2ms前~少なくとも約2ms後に起きて
もよい。いくつかの実施形態では、心室の興奮の開始は、少なくとも1つの心房の興奮の
開始の少なくとも約10ms前~少なくとも約10ms後に起きてもよい。いくつかの実施形態では、心室の興奮の開始は、少なくとも1つの心房の興奮の開始の少なくとも約20ms前~少
なくとも約20ms後に起きてもよい。いくつかの実施形態では、心室の興奮の開始は、少なくとも1つの心房の興奮の開始の少なくとも約40ms前~少なくとも約40ms後に起きてもよ
い。
【0411】
いくつかの実施形態では、方法が、刺激回路から心房および心室の少なくとも一方に、刺激パルスを伝達するステップと、心室を刺激して、少なくとも1つの心房での心房興奮
の開始前約0ms~約50msの間に心室興奮を開始させて、それにより、心室充満量を治療前
の心室充満量から低減し、かつ、患者の血圧を治療前の血圧から低減する作動モードで、刺激回路に結合されたプロセッサ回路を作動させるステップとを含んでいてもよい。このような実施形態では、心房興奮が検知されて、心房興奮の開始を判断してもよい。心房興奮の開始と心房興奮が検知された瞬間との間の時間間隔は公知であってもよく、心房興奮の開始のタイミングを算定するのに使用されてもよい。例えば、心房興奮が、心房興奮の開始の20ms後に検知され、心室が、心房興奮の開始の40ms前に刺激されることになるのが公知であれば、心室は、心房興奮の、予想される検知の60ms前に刺激されることになる。
【0412】
他の実施形態では、この方法は、心房を刺激して、少なくとも1つの心室での心室興奮
の開始前約0ms~約50msの間に心房興奮を開始させて、それにより、心室充満量を治療前
の心室充満量から低減し、かつ、患者の血圧を治療前の血圧から低減する作動モードで、刺激回路に結合されたプロセッサ回路を作動させるステップを含んでいてもよい。例えば、プロセッサ回路は、1つ以上の興奮性のパルスが患者の心室に供給される約0ms~約50ms前に、1つ以上の興奮性のパルスが心房に伝達される作動モードで作動するよう構成され
ていてもよい。このような実施形態では、ペーシングは、心房興奮を検知することに依存せずに時間調節されていてもよい。好ましくは、このような実施形態では、自然な興奮が起こる前に1つ以上の興奮性のパルスが確実に心房に伝達されるようにするために、心房
興奮が検知される。好ましくは、本来の心房興奮率が本来の心室興奮率よりも低いときに、心房興奮は、心室興奮の開始後約0ms~約50msの間に開始するよう設定される。
【0413】
いくつかの実施形態では、装置が、心房および心室の少なくとも一方に刺激パルスを伝達するよう構成された刺激回路を備えていてもよい。この装置は、刺激回路に結合されたプロセッサ回路を備えていてもよい。いくつかの実施形態では、プロセッサ回路は、心室を刺激して、少なくとも1つの心房での心房興奮の開始前約0ms~約50msの間に心室興奮を開始させて、それにより、心室充満量を治療前の心室充満量から低減し、かつ、患者の血圧を治療前の血圧から低減する作動モードで、作動するよう構成されていてもよい。このような実施形態では、心房興奮が検知されて、心房興奮の開始を判断してもよい。心房興奮の開始と心房興奮が検知された瞬間との間の時間間隔は公知であってもよく、心房興奮の開始のタイミングを算定するのに使用されてもよい。例えば、心房興奮が、心房興奮の開始の20ms後に検知され、心室が、心房興奮の開始の40ms前に刺激されるものとすることが公知であり、または推定されている場合、心室は、心房興奮の、予想される検知の60ms前に刺激されることになる。
【0414】
他の実施形態では、プロセッサ回路は、心房が刺激されて、少なくとも1つの心室での
心室興奮の開始後約0ms~約50msの間に心房興奮を開始させて、それにより、心室充満量
を治療前の心室充満量から低減し、かつ、患者の血圧を治療前の血圧から低減する作動モードで、作動するよう構成されていてもよい。例えば、プロセッサ回路は、1つ以上の興
奮性のパルスが患者の心室に供給されてから約0ms~約50msの間に、1つ以上の興奮性のパルスが心房に伝達される作動モードで作動するよう構成されていてもよい。このような実施形態では、ペーシングは、心房興奮を検知することに依存せずに時間調節されていてもよい。好ましくは、このような実施形態では、自然な興奮が起こる前に1つ以上の興奮性
のパルスが確実に心房に伝達されるようにするために、心房興奮が検知される。好ましくは、本来の心房興奮率が本来の心室興奮率よりも低いときに、心房興奮は、心室興奮の開始後約0ms~約50msの間に開始するよう設定される。
【0415】
図10Aおよび
図10Bは、麻酔をかけた健康なイヌの心臓を表しており、ある期間にわたっ
てトレースした心電図(ECG)、左心室内圧(LVP)および動脈(血)圧(AP)を示している。
図10Aでは、点101の前で、心臓は自然に拍動でき、ECG、LVPおよびAPがトレースされた。点101で、心室ペーシングが開始された。心室は、心房興奮の開始の2ms後にペーシングされた。このペーシングは、ECGの即時の変化を引き起こし、これにはLVPおよびAPの両方の低下が付随した。ペーシングは、心房収縮の開始と心室ペーシングの開始との間、ペーシングが止まった
図10Bの点103まで、2msの時間間隔で続いた。見てわかるとおり、ペ
ーシングが停止するとただちに、ECG、LVP、およびBPのすべてが、本質的にペーシング前と同じ値に戻った。
【0416】
図11Aおよび
図11Bは、鼓動が自然な状態の(
図11A)、かつ、心房収縮の開始と心室ペ
ーシングの開始との間が、2msの時間間隔でペーシングされたときの(
図11B)、高血圧の犬の心臓を示している。これらの図はそれぞれ、心臓のECG、右心室圧(RVP)、RVPの拡
大部分および右心房圧(RAP)の追跡を示している。
【0417】
図11Aでは、自然な鼓動のP波およびQRSがはっきりと見える。心房収縮の結果としてのP波を追うことで、心房圧の増加が見える。RVP追跡では、ECGに対するQRS複合体を追うこ
とで、RVPの急激な増加が見える。これは心室収縮の現れである。より高い倍率で観察す
ると、心房収縮および血圧の低減と同時に起こり、かつ、血液が心房からチャンバへと移る結果である、より早く、より小さいRVPの増加が、RVPのこの急激な増加に先行する。これが心房キックである。
図11Bでは、ペーシングが2msの時間間隔であり、P波がECGにおいて本質的に注目に値せず、電気的な刺激装置の人為構造が認識可能である。この場合の心房キックは、右心室圧の拡大された追跡上では識別できない。これは、心房収縮が、心室収縮の開始と同時に、またはその少しあとにさえ起きたためである。
【0418】
図12では、高血圧の犬の心臓が、心房のペーシングと心室のペーシング(追跡点105と107)との間が60msの時間間隔で、または、心房および心室ペーシング(追跡点109)の間
の120msの時間間隔で、ペーシングされた。追跡は、心臓のECG、左心室圧(LVP)、右心
室圧(RVP)、RVPの倍率および右心房圧(RAP)を示している。追跡点105および107に対
応して拡大されたRVPの追跡部分に見られるように、60msの時間間隔でのペーシング中の
心房キックは非常にわずかであり、心室の収縮は心房収縮のピークの少しあとに始まる。この場合、心室充満に対する心房キックの貢献は著しく低減されるが、完全に除去されることはなく、他方、心房収縮のピークは閉じられた弁に対して起こらず、心房拡張は増加しない。120msの時間間隔でのペーシング中に、心房キックが明瞭に見られる(拡大され
た追跡RVPにおける部分109)が、心室収縮の開始およびAV弁の閉鎖は心房収縮の完了前に起こり、それによって、心室充満に対する心房キックの貢献がわずかに低減される。
【0419】
図16では、高血圧の患者の心臓が、異なるAV遅延でペーシングされた。この例は、心房の検知されたパルスに基づき心室のみをペーシングすることに対し、心房および対応する心室の両方をペーシングすることにより得られた結果を示している。間隔d-d’中、心房
パルスが検知され、心室パルスが2msのAV遅延でペーシングされた。間隔e-e’中、心房および心室の両方が2msのAV遅延でペーシングされた。間隔f-f’中、心房および心室の両方が40msのAV遅延でペーシングされた。間隔g-g’中、心房および心室の両方が20msのAV遅
延でペーシングされた。間隔h-h’中、心房および心室の両方が80msのAV遅延でペーシン
グされた。この例に示すように、間隔d-d’と間隔e-e’とを比べると、心房活動がまさに検知されたときよりも、心房が間隔e-e’中にペーシングされるときのほうが、血圧が低
減される。この例にさらに示すように、間隔e-e’、間隔f-f’、間隔g-g’および間隔h-h’を比べると、より短いAV遅延のほうが、より長いものよりも、血圧の低減をより多く引き起こした。例えば、間隔g-g’(20msのAV遅延)は、間隔e-e’(2msのAV遅延)よりも
高い血圧を示している。この例の結果から分かるように、血圧の変化は少なくとも一部が、異なるAV遅延により引き起こされてもよく、これは、閉じられた弁に対する、心房収縮
の異なるパーセンテージにつながる。
【0420】
〈心房キックを低減するための方法の実施形態〉
血圧を低減するための方法40を
図13に模式的に示す。方法40は、以下に説明する、
図14の装置50により行われてもよい。したがって、装置50は、方法40のいずれかの、またはすべてのステップを行うよう構成されていてもよい。同様に、方法40は、装置50が行うよう構成されたいずれのステップを含んでいてもよい。例えば、方法40は、装置50に関して上述した機能のいずれかを含んでいてもよい。方法40は、方法600からのいずれのステップ
を含んでいてもよい。同様に、方法600は、方法40からのいずれのステップを含んでいて
もよい。方法40は、システム700が行うよう構成されたいずれのステップを含んでいても
よい。システム700は、方法40のいずれかの、またはすべてのステップを行うよう構成さ
れていてもよい。
【0421】
いくつかの実施形態では、方法40は、心房収縮のステップ41を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、ステップ41は、心房興奮を検知することを含んでいる。例えば、ステップ41は、本来の心房興奮を検知することを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、方法40は、心房興奮を誘発することを含んでいる。方法40は、時間間隔が適用されるステップ42を含んでいてもよい。方法40は、AV弁閉鎖を誘発するステップ43を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、ステップ43を、興奮性電流を少なくとも1つの心室に
印加することにより、かつ/または、少なくとも1つの心房と対応する心室との間で人工弁を駆動して閉じることにより、行ってもよい。いくつかの実施形態では、ステップ43からステップ41へと戻る逆矢印により示すように、ステップ41、ステップ42およびステップ43を繰り返してもよい。いくつかの実施形態では、興奮性電流を、同時にまたは連続して、両方の心室に印加してもよい。両方の心室が連続してペーシングされている、いくつかの実施形態では、少なくとも1つの心房(例えば右心房)の興奮の開始と、ペーシングされ
ることになる対応する心室(例えば右心室)の興奮の開始との間で、時間間隔が測定されてもよい。時間間隔がゼロまたは負に設定されている、いくつかの実施形態では、ステップ43が、ステップ41の前またはステップ41と同時に行われてもよい。いくつかの実施形態では、時間間隔はミリ秒で測定されてもよい。
【0422】
好ましくは、心房および心室の収縮は、両方の収縮を制御することにより(例えば、収縮につながる興奮を制御することにより)、引き起こされてもよい。好ましくは、心房の興奮の開始が検知され、この検知により、所定のタイミング間隔での弁の閉鎖が誘発される。好ましくは、両方の心房がペーシングされる。(例えば、両方の心室が連続してペーシングされたときに)両方のAV弁が連続して閉じられる、いくつかの実施形態では、タイミング間隔は、ペーシングされることになる第1の心房の興奮の開始、および弁閉鎖の開
始、または少なくとも1つの心室の興奮の開始から測定される。好ましくは1つ以上のチャンバの興奮のタイミング(例えば、興奮の開始)は、例えば、1つ以上の先行する心臓サ
イクルにおけるタイミングに基づいて推定され、1つ以上の興奮刺激が、推定されたタイ
ミングの前および/または後に、所望の時間間隔で、同じおよび/または異なるチャンバに伝達される。
【0423】
いくつかの実施形態では、方法40は、各鼓動について繰り返されてもよい。いくつかの実施形態では、方法40は、断続的に行われてもよい。例えば、2、3の鼓動おきに、この方法を適用してもよい。あるいは、方法40を、2、3の鼓動について適用し、1つ以上の鼓動
について停止し、次いで再び適用してもよい。例えば、方法40を、5~15個の鼓動につい
て適用し、2~5個の鼓動について停止し、次いで再開してもよい。いくつかの実施形態では、適用/適用の回避のパターンは、より複雑でもよく、好ましくは、所定のアルゴリズ
ムに基づいていてもよい。例えば、アルゴリズムが、単純に刺激を停止および開始するのではなく、刺激のパラメータを調整してもよい。いくつかの実施形態での方法40の適用に
より、鼓動の間の心室充満が低減され、それにより、駆出概要(ejection profile)が場合により低減される。本明細書での使用では、心臓の駆出概要が、所与の期間に心臓によりポンピングされた血液の全量となっている。いくつかの実施形態では、方法40の断続的な適用が、心臓の駆出概要の低減を打ち消すために適用されてもよい。
【0424】
いくつかの実施形態では、ステップ42で適用される時間間隔は、フィードバックに基づいて選択されていてもよい。このような場合、方法40は、心臓チャンバの1つ以上、その
一部、および/または患者の体からのフィードバックパラメータを検知する、ステップ44
を含んでいてもよい。例えば、心房キックの1つ以上、(例えば動脈での)血圧、心室圧
、および/または心房圧を、直接または間接に監視することにより、フィードバック情報
を取得してもよい。いくつかの実施形態では、フィードバック情報は、追加でまたは代替的に、心房が収縮する時間およびAV弁が閉じる時間および/または心室が収縮する時間の
間の重なりの程度を含んでいてもよい。例えば、心臓の活動の超音波画像診断(ultrasound imaging)により、または心エコー図(echocardiogram)(ECHO)の生成により、心臓の活動を検知するために、例えば、超音波センサを使用してもよい。
【0425】
いくつかの実施形態では、ステップ44は、パルス波または連続波ドップラー超音波を使用して、任意の点で血流(例えば流速)および/または心臓組織の動きを検知するために
、超音波センサを使用することを含んでいてもよい。好ましくは、ステップ44は、左心房の収縮および左心室への血流に対応したA波を検知するために、超音波センサを使用する
ことを含んでいてもよい。
【0426】
方法は、ステップ44からのフィードバック情報に基づき、ステップ42からの時間間隔を調整する、ステップ45を含んでいてもよい。例えば、ステップ45は、検知された血圧に基づいて、時間間隔を調整するステップを含んでいてもよい。
図13でステップ45からステップ41へと向けられた矢印により示すように、ステップ41、ステップ42、ステップ43および/またはステップ44を、ステップ45を行った後に繰り返してもよい。いくつかの実施形態
では、時間間隔は、ステップ41中に、まず第1の値に設定されてもよく、ステップ44中に
行われるフィードバック検知に基づいて、時間間隔は、フィードバック値が所与の範囲内(または所与の値の上または下)になるまで、ステップ45の間、低減または増加されてもよい。例えば、収縮期血圧が100mmHgより上および/もしくは140mmHgより下になり、かつ/または、拡張期血圧が90mmHgより下および/もしくは60mmHgより上になる時間まで、時間
間隔を調整してもよい。
【0427】
いくつかの実施形態では、ステップ44およびステップ45を、方法40の作動中、ステップ43の適用(例えば、心室ペーシング刺激の適用)ごとに行ってもよい。いくつかの実施形態では、代替的にまたは追加で、1つ以上の実施形態に従って患者に装置を(例えば、装
置の埋め込みにより)提供したときに、ステップ44およびステップ45を行ってもよい。調整するステップは、周期的に(例えば、検査中に看護者により)繰り返されてもよく、かつ/または、断続的に(例えば、1時間に一度、もしくは、心室ペーシング刺激の2、3回の適用おきに)繰り返されてもよい。いくつかの実施形態では、1つ以上の検知されたパラ
メータが、所定の期間を超える期間、事前設定した範囲を超えたことを、フィードバック情報が示唆しているときに、ステップ45を行ってもよい。
【0428】
方法40のステップは、どのような順序で行ってもよい。例えば、
図13に示す矢印により示す順序で、ステップを行ってもよい。別の実施形態では、ステップ42がステップ41の前に行われてもよい。
【0429】
心房収縮、心房興奮、心室収縮、AV弁の閉鎖および/もしくは開放のタイミング、ならびに/または、1つもしくは複数の心房からそれぞれの心室への血液の流れもしくは欠如
、ならびに/または血圧を、該技術分野で公知の任意の方法を使用して検出してもよく、またフィードバック制御として使用してもよい。いくつかの実施形態では、興奮の開始を、1つまたは複数の心室への興奮性刺激の伝達のために、トリガーとして使用してもよい
。検知された情報を、デバイスのタイミング間隔の調整において、追加で、または代わりに使用してもよい。
【0430】
好ましくは、フィードバックパラメータは、心臓からの追加のスループットを必要とする条件に対応することを可能にしてもよく、タイミング間隔を調整する代わりに、これらを使用して、短くされた時間間隔で弁の閉鎖を引き起こすことを自動的に停止してもよい。例えば、フィードバックパラメータは、運動中の調整につながってもよい。この例では、心拍数センサを使用して、患者の心拍数に関するフィードバック情報を提供してもよい。心拍数が所与の閾値より上である場合、フィードバックを使用して、装置を停止させてもよい。装置は、例えば、心拍数が所与の閾値より下のとき、かつ/または、所定の期間
が過ぎたのちに、検知されたフィードバック情報に基づいて、再び起動されてもよい。
【0431】
〈血圧を低減するための装置〉
ここで、一つの実施形態に係る装置50を模式的に示す、
図14を参照する。装置50は、本明細書中で説明するいくつかの修正をした状態で、当該技術で本質的に公知の仕方で、構成されていてもよく、かつ、心臓ペースメーカーに類似の部品を有していてもよい。好ましくは、装置は埋め込み可能とされている。好ましくは、装置は、心臓の追加のおよび/
または代替的な電気的治療(例えば除細動)を提供できる部品を備えている。装置50は、好ましくは本明細書中で説明するいくつかの修正をした状態で、埋め込み可能なペースメーカーについて当該技術で本質的に公知な仕方で、患者の体における埋め込み用に構成されていてもよい。装置50は、システム700の部品を含んでいてもよく、システム700は、装置50の部品を含んでいてもよい。
【0432】
デバイス50は、生体適合性本体51、1つまたは複数のコントローラ52、電源53、および
テレメトリユニット56を備えてもよい。本体51は、デバイスの複数のコンポーネントを収容するためのハウジングを備えてもよい。コントローラ52は、デバイスの動作を制御するよう構成されていてもよく、また、本明細書に開示される実施形態および方法のいずれかを実施してもよい。たとえば、コントローラ52は、刺激パルスの伝達を制御してもよい。いくつかの実施形態では、電源53は、バッテリを含んでもよい。たとえば、電源53は、充電式バッテリを含んでもよい。いくつかの実施形態では、電源53は、誘導により充電可能なバッテリを含んでもよい。いくつかの実施形態では、テレメトリユニット56は、1つま
たは複数の他のユニットおよび/またはコンポーネントと通信するよう構成されていてもよい。たとえば、テレメトリユニット56は、外部のプログラマ、および/または作動中にデバイス50に記録されたデータを受信するための受信ユニットと通信するよう構成されていてもよい。
【0433】
いくつかの実施形態では、装置50は、1つ以上の電極および/またはセンサに取り付けられるよう構成されていてもよい。電極および/またはセンサは、装置50中で一体化されて
いても、それに取り付けられていても、および/または、それと接続可能とされていても
よい。いくつかの実施形態では、電極は、少なくとも1つの心室をペーシングするよう構
成された心室電極561を含んでいてもよい。くわえてまたは代替的に、装置は、好ましく
は有線または無線で、少なくとも1つの埋め込みの人工弁562に接続されていてもよい。くわえて、装置50は、1つ以上の心房をペーシングするための1つ以上の心房電極57、および/または、心房興奮の開始を検知するための1つ以上の心房センサ58、および/または、他
のフィードバックパラメータを提供するための1つ以上のセンサ59を備えていてもよい。
【0434】
いくつかの実施形態では、センサ59は、1つ以上の圧力センサ、電気センサ(例えばECG
監視)、流量センサ、心拍数センサ、活動センサおよび/または分量センサ(volume sensor)を備えていてもよい。センサ59は、メカニカルセンサおよび/または電子センサ(例
えば、超音波センサ、電極および/またはRFトランシーバ)を含んでいてもよい。いくつ
かの実施形態では、センサ59は、テレメータを介して、装置50と通信してもよい。
【0435】
いくつかの実施形態では、心室電極561および/または心房電極57は、標準的なペーシング電極であってもよい。心室電極561は、心室ペーシングに関して当該技術で公知の位置
で、心臓に対して位置決めされていてもよい。例えば、心室電極は、心室の1つ以上の内
および/または近くに配置されていてもよい。いくつかの実施形態では、心房電極57は、
心房の1つ以上の内および/または近くに配置されていてもよい。いくつかの実施形態では、心房電極57は、心房興奮または減極の早期の検出を提供するよう選択された1つ以上の
位置で、1つ以上の心房に取り付けられていてもよい。例えば、いくつかの実施形態では
、心房電極57は、洞房(SA)結節の位置に近い右心房に取り付けられていてもよい。
【0436】
心室電極561の1つの位置は、非同期性を低減し、または最小化しさえするために、心臓がペーシングされたときにペーシングがQRSの延長を低減または最小化できるようにされ
ていてもよい。いくつかの実施形態では、この位置は、ヒス束に近い心室中隔(ventricular septum)にある。心室電極561は、追加でまたは代替的に、心臓の心外膜または冠状
静脈(coronary vein)に配置されていてもよい。好ましくは非同期性を低減するために
、1つよりも多い電極を心室に配置して、両心室ペーシングを提供することができる。
【0437】
装置50は、少なくとも1つの心臓チャンバに刺激パルスを伝達するよう構成されたパル
ス発生器または刺激回路を含んでいてもよい。パルス発生器または刺激回路は、従来のペースメーカーのいくつかのまたはすべての標準の性能を含んでいてもよい。制御器52は、パルス発生器または刺激回路を制御するよう構成されていてもよい。心房センサ58(および好ましくは、他の心臓チャンバを検知するよう構成された他の電極センサ)は、心臓の電気的活性を増幅し、かつ、特定のチャンバの活性化のサンプリングおよび検出を可能にする特定の回路を介して、装置50に接続されていてもよい。他の回路は、特定の電極に刺激を伝達して心臓をペーシングし、伝播する電気的活性化を生成するよう構成されていてもよい。
【0438】
いくつかの実施形態では、1つ以上の追加のセンサ59が、心房の1つ以上の内もしくは上に、かつ/または、心室の1つ以上の内もしくは上に、かつ/または、好ましくは心臓に隣
接してもよい1つ以上の他の場所内もしくは上に配置されていてもよい。例えば、1つ以上のセンサが、大静脈上および/もしくは内に、かつ/または、1つ以上の動脈上および/もしくは内に、かつ/または、1つ以上の心臓チャンバ上および/もしくは内に配置されていて
もよい。これらのセンサは、圧力を測定してもよく、または、例えばインピーダンスおよび/もしくは流れなどの他の指標を測定してもよい。
【0439】
いくつかの実施形態では、制御器52は、電源53により給電されるマイクロプロセッサを備えていても、またはマイクロプロセッサであってもよい。いくつかの実施形態では、装置50は、例えば結晶で生成されたクロック54を備えていてもよい。装置50は、内部のメモリ55を備えていてもよく、かつ/または、外部のメモリに接続されていてもよい。例えば
、装置は、テレメータユニット56を介して、外部のメモリに接続されていてもよい。いくつかの実施形態では、テレメータユニット56は、プログラマおよび/またはセンサ59の1つ以上などの外部の装置との通信を可能にするよう構成されていてもよい。いずれかのもしくはすべてのフィードバック情報および/もしくは装置の作動のログは、内部のメモリ55
に保存されてもよく、かつ/または、テレメータユニット56により、外部のメモリユニッ
トに中継されてもよい。
【0440】
いくつかの実施形態では、制御器52は、本明細書に記載した方法の少なくとも1つの実
施形態に従って作動してもよい。
【0441】
いくつかの実施形態では、装置50は、1つ以上のフィードバックパラメータを検知して
、AV遅延の適用および/またはその大きさを制御するための1つ以上のセンサを備えていてもよい。
【0442】
〈人工弁〉
くわえてまたは代替的に、装置50は、少なくとも1つの埋め込みの人工弁562の作動を直接制御するよう構成されていてもよい。ここで、本発明の実施形態に係る人工弁60を模式的に示す
図15に注目する。この例に示す弁60は、人工弁に関する当該技術で本質的に公知のように、二葉とされている。以下の例は二葉弁に関するものであるが、実施形態は、例えばケージ型ボール弁およびディスク弁などの他の人工弁で実施されてもよい。
【0443】
図15に示すように、弁60は、患者の心臓に埋め込まれたときに弁を適所に縫合するためのリング61を備えていてもよい。弁60は、リング61に取り付けられた支柱63を中心に回転する、2つの半円形の弁膜(leaflet)62を含んでいてもよい。この模式的な描写では、他の装置部品が模式的に本体64として示されており、本体64は、
図14に示す本体51に対応している。本体64は、弁60が埋め込まれた心臓65からのフィードバック情報を受信してもよい。
【0444】
弁60は、その閉鎖が装置50によって直接制御されてもよい点で、従来の人工弁と異なっている。弁60は、(例えば、支柱63を回転させることにより、または、1つ以上の弁膜62
の一部を膨らませることにより)弁の閉鎖を動的に引き起こすよう構成された機構(例えば、コイルまたは油圧機構(hydraulic mechanism))を備えていてもよい。この機構は
、あとで弛緩位置に戻されて、弁の開放を可能にし、かつ、必要に応じて、その閉鎖を繰り返し可能にしてもよい。弛緩は、閉鎖後の所定の時間に行われてもよい。くわえてまたは代替的に、弛緩は、心室の活動を読むセンサ(例えば圧力センサ)に応じて、影響を受けてもよい。弁60の制御を、(弁に関連付けられたテレメータユニットを使用して)無線で、または、本体64中の部品との有線通信により行ってもよい。いくつかの実施形態では、弁60は、弁に働く流体圧力から独立して、開閉されるよう構成された弁であってもよい。例えば、弁60はボール弁であってもよい。
【0445】
〈血圧を低減するための実施形態の効果〉
全体として、開示された方法およびシステムの実施形態のいくつかは、少なくとも1つ
の心室の充満を低減し、その結果、血圧を低減するための異なる手法を提供する。血圧を低減するための以前の機械的な方法と異なり、本明細書に記載した実施形態のいくつかは、少なくとも1つの対応する心房内で圧力を増加させることなく、この目標を達成するこ
とができる。心房性ナトリウム利尿ホルモン(atrial natriuretic hormone)または心房性ナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide)の分泌を誘発する心房圧の増加なしに、血圧の低減を機械的に制御することができる。この開示された実施形態は、心拍数への望ましくない影響を防止することができ、かつ、正規の(canon)心房波の可能
性を低減することができる。
【0446】
開示される実施形態のいくつかは、心房拡張を増大させる一方で心房性ナトリウム利尿ペプチドの放出を引き起こして、房性刺激を低減してもよい。たとえば、開示される実施形態は、収縮により心房を膨脹させるように心房と関連する心臓弁を閉鎖させながら、心臓を刺激してその心房を収縮させるステップを含む方法を含んでいてもよい。上述のようないくつかの実施形態は、心房内圧の最高受動増加と重なり合う時間に心房収縮により生じる最高心房内圧に到達する心臓刺激を使用して、上述のように血圧を下げてもよい心房
性ナトリウム利尿ホルモンまたは心房性ナトリウム利尿ペプチドの分泌を引き起こすことによって、心房内圧および心房拡張を増大してもよい。上述のようないくつかの実施形態は、心房の心房収縮により生じる心房内圧が、心房の受動内圧増加と時間が重なり合うように、心房収縮を有するように構成された心臓刺激を使用し、それにより、心房収縮により生じる心房内圧と受動内圧上昇との組み合わせによって、刺激がない場合の心房の心房内圧よりも高い心房の心房内圧を提供し、したがって、ホルモン経路またはニューロン経路を通して血圧を下げる心房の心房拡張の増大を引き起こすことによって、心房内圧および心房拡張を増大してもよい。房性刺激を低減することおよび同時に心房性ナトリウム利尿ペプチドの放出を引き起こすことは、血圧の低下に対する相乗効果を有していてもよい。いくつかの実施形態では、心房収縮に対する弁閉鎖のタイミングの制御は、1つまたは
複数の心房が拡張する量を制御してもよい。
【0447】
血圧を低減するための以前の薬学的または機械的な方法と異なり、開示した実施形態のいくつかは、ただちに血圧を低減するという目標を達成する。例えば、血圧の低減は、電流の印加の1~3秒以内または1、3もしくは5個の鼓動以内に起きてもよく、血圧は、刺激
の開始から5秒未満内に最低の血圧値に達してもよい。
【0448】
上述した例は、機械的な治療と、ニューロンのフィードバックと、適合を引き起こすホルモンの自然な放出とを両立させている。機械的な治療およびホルモンの自然な放出は、添加剤であってもよく、または、相乗的な機構であってさえよい。ホルモンの放出は心臓血管系に影響を与えるが、機械的な治療は心臓そのものに影響を与える。断続的に機械的な治療を施して血圧を低減することで、心臓血管系を制御するニューロンおよびホルモンのフィードバックの両方に影響を与え、適合を低減してもよい。
【0449】
本明細書で使用した見出しは、編集を支援することのみを意図しており、用語を定義しない。
【0450】
本開示は特許文献1~4の出願に関連しており、これらすべては、その全体が参照により組み込まれる。
【0451】
本出願は以下の、(1)米国特許仮出願第61/740,977号 (2012年12月21日出願) およびそ
れに基づく(2)米国特許出願第13/826,215号 (2013年3月14日出願) (現在は米国特許第9,008,769号、2015年4月14日発行)、(3)国際出願第PCT/US2013/076600号 (2013年12月19日出願) (国際公開第2014/100429号、2014年6月26日公開)、(4)国際出願第PCT/US2014/042777号 (2014年6月17日出願) (国際公開第2015/094401号、2015年6月25日公開)、(4)の国内段階である(5)米国特許出願第14/427,478号 (2015年3月11日出願) (米国特許出願公開第2015/0360035号、2015年12月17日公開)、(5)の分割出願である(6)米国特許出願第14/667,931号 (2015年3月25日出願) (米国特許出願公開第2015/0258342号、2015年9月17日公開) の
各出願に関連し、これらのすべてが、参照することにより、本明細書にその全文が組み込まれる。
【0452】
本発明のさまざまな実施形態を説明したが、この説明は限定ではなく例示となることを意図しており、さらに多くの実施形態および実施態様が、本発明の範囲内で可能であることは、当業者にとって明らかであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲およびその均等物に照らしてのみ制限される。また、さまざまな修正および変更を、添付の特許請求の範囲内で行うことができる。
【0453】
本願は、2016年4月22日出願の米国仮出願第62/326,215号の優先権の利益、および2017
年4月20日出願の米国特許出願第15/492,802号の優先権の利益を主張し、これらの全文は
参照することにより本明細書に組み込まれる。