(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037762
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】アンチピリングメリノウール生地、それを含む衣服、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/568 20060101AFI20240312BHJP
A41D 31/04 20190101ALI20240312BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20240312BHJP
【FI】
D06M15/568
A41D31/04 C
A41D31/00 503D
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023202336
(22)【出願日】2023-11-30
(62)【分割の表示】P 2021180129の分割
【原出願日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】17/391019
(32)【優先日】2021-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514284958
【氏名又は名称】ナノ アンド アドヴァンスト マテリアルズ インスティテュート リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Nano and Advanced Materials Institute Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100163991
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 慎司
(72)【発明者】
【氏名】ウィング ニエン ウィリー オー
(72)【発明者】
【氏名】ツィー ヒン ユイ
(72)【発明者】
【氏名】カ イム ユン
(72)【発明者】
【氏名】チ イン リョン
(72)【発明者】
【氏名】チェンヒ ドン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ピリング耐性及び生地表面からの繊維損失に対する耐性を有するコーティングを有するアンチピリングウール生地を提供する。
【解決手段】コーティングは、少なくとも2つのジイソシアネート、少なくとも2つの触媒、水分散剤、バッファ、及び水を含んだ被覆配合物によって形成されている。このコーティングは、ウール生地のポリペプチド上の相対的に反応性の低い基に対して反応性のポリカルボジイミド架橋剤を提供し、ウール生地のポリペプチド間の架橋を比較的穏やかな処理条件下で促進して、ウール生地の機械的強度を高める一方で、メリノウール生地及び/又は衣類の元の仕上げ、並びに、生地表面からの繊維損失への有意な効果は、ウール生地上の従来の処理方法と比較して観察されない。対応する被覆配合物及びアンチピリングウール生地を製造する方法も提供される。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS L1076 ICI法によるピリング耐性が4以上で、洗濯ネットを使用しない15サイクルの家庭用洗濯で0.2%w/w未満の繊維損失を伴うアンチピリングメリノウール生地であって、前記アンチピリングメリノウール生地は、配合物によって被覆されており、前記配合物は、
水中で約8~30%w/wのポリマーバインダと;
水中で約70~92%w/wのバッファと、
を含み、
前記ポリマーバインダは、
少なくとも2つのジイソシアネートと;
少なくとも2つの触媒と;
水分散剤と、
を含んでいる、
アンチピリングメリノウール生地。
【請求項2】
前記少なくとも2つのジイソシアネートは、イソホロンジイソシアネート及び1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートを含んでいる、請求項1に記載のアンチピリングメリノウール生地。
【請求項3】
前記少なくとも2つの触媒は、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1オキシド及びジラウリン酸ジブチルスズ(IV)を含んでいる、請求項1に記載のアンチピリングメリノウール生地。
【請求項4】
前記水分散剤は、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル350及びポリエチレングリコールモノメチルエーテル550の一方又は両方である、請求項1に記載のアンチピリングメリノウール生地。
【請求項5】
前記バッファは、リン酸塩又はホウ酸塩から選択され、pHが約8.0に調整されている、請求項1に記載のアンチピリングメリノウール生地。
【請求項6】
イソホロンジイソシアネート及び1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートは、モル比が4:1である、請求項2に記載のアンチピリングメリノウール生地。
【請求項7】
3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1オキシドは、前記少なくとも2つのジイソシアネートに対して、約0.2~1.0%のモル濃度である、請求項3に記載のアンチピリングメリノウール生地。
【請求項8】
ジラウリン酸ジブチルスズ(IV)は、水分散剤に対して、約0.01%w/wの濃度である、請求項3に記載のアンチピリングメリノウール生地。
【請求項9】
請求項1に記載のアンチピリングメリノウール生地を含んだ衣服。
【請求項10】
請求項1に記載のメリノウール生地を製造する方法であって、
メリノウール生地を提供することと;
被覆配合物を調製することであって、前記被覆配合物の調製は、
第1のジイソシアネートと第2のジイソシアネートとを第1のモル比で、第1の触媒を前記第1及び第2のジイソシアネートに対して第2のモル比で混合して、第1の溶液を形成することと、
前記第1及び第2のジイソシアネートの総質量に対して、水分散剤を第1の質量パーセントで、第2の触媒を第2の質量パーセントで、前記第1の溶液に加えて、第2の溶液を形成することと、
前記第2の溶液に水を加えた後、均質な溶液が形成されるまで混合して、水中のポリマーバインダとしての第3の溶液を形成することと、
pH8.0の水中のバッファを含んだ第4の溶液を調製することと、
前記第4の溶液を前記第3の溶液に加えた後、均質な溶液が形成されるまで混合して、前記被覆配合物を得ることと、
を含んでいることと;
前記メリノウール生地に前記被覆配合物を適用することと;
前記メリノウール生地から過剰な前記被覆配合物を取り除いた後、乾燥させることと、
を含んでいる、メリノウール生地を製造する方法。
【請求項11】
前記第1のジイソシアネートはイソホロンジイソシアネートから選択され、前記第2のジイソシアネートは1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のジイソシアネートと前記第2のジイソシアネートとの間の前記第1のモル比は4:1である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の触媒は、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1オキシドから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第1及び第2のジイソシアネートに対する前記第1の触媒の前記第2のモル比は、約0.2%~1%である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記水分散剤は、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル350及びポリエチレングリコールモノメチルエーテル550の一方又は両方である、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記水分散剤の前記第1の質量パーセントは、前記第1及び第2のジイソシアネートの総質量に対して、約126%である、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の触媒は、ジラウリン酸ジブチルスズ(IV)から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記第2の触媒の前記第2の質量パーセントは、前記水分散剤の質量に対して、約0.01%である、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記第1及び第2のジイソシアネートをクリアな溶液が得られるまで撹拌することにより混合した後、混合物を160℃まで約35~50分間加熱し、次いで前記混合物を約120度まで冷却して、前記第1の溶液を得る、請求項10に記載の方法。
【請求項20】
前記第2の溶液は、前記第2の触媒と前記水分散剤とを均質な溶液が形成されるまで初めに混合した後、前記均質な溶液を前記第1の溶液に加えて、約120℃で約2時間に亘って撹拌することによって得られる、請求項10に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の溶液が80℃まで冷却された後、クリアで均質な溶液が得られるまで水が前記第2の溶液に撹拌しながら滴下され、ポリマーバインダ中の水の含有量が約63%w/wに到達する、請求項10に記載の方法。
【請求項22】
前記第3の溶液に対して少なくとも約70%w/wの水中のバッファを含んだ前記第4の溶液が、前記第3の溶液に加えられて、その後、均質な溶液が前記被覆配合物として形成されるまで混合される、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチピリングメリノウール生地を提供する。特に、本発明は、JIS L1076 ICI法によるピリング耐性が4以上であり、洗濯ネットを使用せずに15サイクルの家庭洗濯で0.2%w/w未満の繊維損失を有するアンチピリングメリノウール生地を提供する。関連する製造方法及びそれを含む衣服も提供される。
【背景技術】
【0002】
メリノウールなどの動物性繊維は、ポリエステルなどの合成繊維と比較して引張強度が比較的弱く、繊維破断を起こしやすい。ウール繊維を含む生地は、毛羽立ちを形成するために、着用又は洗濯中に生地表面から繊維が失われやすい。加えて、メリノウール繊維表面上のキューティクルスケールの存在は、繊維間の摩擦係数の差を更にもたらす。ウール生地表面への洗浄、擦り及び摩耗を含む機械的作用の存在は、繊維の方向性運動を生じさせ、毛羽立ちが毛玉に絡み合うことを可能にし、凝集した毛玉は最終的にメリノウール生地表面から摩耗する。
【0003】
メリノウール生地の表面からの繊維の損失及びピリングを軽減するために、従来の解決策は、主に、繊維の損失及び毛羽の絡まり並びにピルの凝集を減少させ、繊維間の摩擦を減少させて、繊維の機械的強度を増加させることを含んでいる。特に、これらの方法には、織物表面から小さくて短い遊離繊維を除去するための酵素処理、繊維間摩擦を減少させるためのプラズマ処理、及び表面からの繊維損失を減少させるためにウール繊維の機械的強度を増加させるためのウール繊維上のポリアクリレート系コーティングの使用が含まれる。しかしながら、これらの方法には、多くの場合、欠点がある。例えば、ポリアクリレート系コーティングの使用は、完成したメリノウール生地又は衣類には適用できず、元の仕上げの著しい変色をもたらし得る。酵素処理は、生地表面の遊離繊維のみに選択的ではないので、潜在的により多くの繊維損失をもたらし得る。プラズマ処理には、工業化において障害があることが分かっている。
【0004】
したがって、ピリングや表面からの繊維の損失を回避しつつ、機械的特性が改善された被覆繊維を含む新しいメリノウール生地が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
したがって、本発明の一態様は、ピリング耐性が4以上で、洗濯ネットを使用しない15サイクルの家庭用洗濯で0.2%w/w未満の繊維損失を伴うアンチピリングメリノウール生地であって、配合物によって被覆されているアンチピリングメリノウール生地を提供する。この配合物は、水中で約8~30%w/wのポリマーバインダと;水中で約70~92%w/wバッファと、を含み、前記ポリマーバインダは、少なくとも2つのジイソシアネート、少なくとも2つの触媒、及び水分散剤を含んでいる。
【0006】
好ましい実施形態では、本ウール生地のピリング耐性は、JIS L1076 ICI法に従って決定される。
【0007】
本発明の第1側面に係る態様では、前記少なくとも2つのジイソシアネートは、イソホロンジイソシアネート及び1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートを含んでいる。
【0008】
特定の実施形態において、イソホロンジイソシアネートと1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートとは、モル比が4:1である。
【0009】
本発明の第1側面に係る態様では、前記少なくとも2つの触媒は、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1オキシド及びジラウリン酸ジブチルスズ(IV)を含んでいる。
【0010】
特定の実施形態において、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1オキシドは、前記少なくとも2つのジイソシアネートに対して、約0.2~1.0%のモル濃度である。
【0011】
別の特定の実施形態において、ジラウリン酸ジブチルスズ(IV)は、水分散剤に対して、約0.01%w/wの濃度である。
【0012】
一実施形態において、前記水分散剤は、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル350及びポリエチレングリコールモノメチルエーテル550の一方又は両方である。
【0013】
一実施形態において、バッファはリン酸塩又はホウ酸塩から選択され;バッファはpHが約8.0に調整される。
【0014】
本配合物は、メリノウール生地の繊維上に存在する反応性のより低いカルボキシル基にポリカルボジイミド架橋剤を導入する。前記架橋剤のポリカルボジイミドポリマー鎖は、異なるモノマーの比率、添加された触媒、及び/又は反応条件を調節することによっても調整可能であり、これにより、配合物のフレキシビリティが増大する。本配合物は、室温で48時間以内に完全に硬化することができ、既存のメリノウール生地にコーティングを形成するのが容易である。
【0015】
本発明の第2の側面は、第1の側面に係るメリノウール生地を製造する方法を提供する。この方法は、メリノウール生地を提供することと;被覆配合物を調製することであって、前記被覆配合物の調製は、第1のジイソシアネートと第2のジイソシアネートとを第1のモル比で、第1の触媒を前記第1及び第2のジイソシアネートに対して第2のモル比で混合して、第1の溶液を形成することと、前記第1及び第2のジイソシアネートの総質量に対して、水分散剤を第1の質量パーセントで、第2の触媒を第2の質量パーセントで、前記第1の溶液に加えて、第2の溶液を形成することと、前記第2の溶液に水を加えた後、均質な溶液が形成されるまで混合して、水中のポリマーバインダとしての第3の溶液を形成することと、pH8.0の水中のバッファを含んだ第4の溶液を調製することと、前記第4の溶液を前記第3の溶液に加えた後、均質な溶液が形成されるまで混合して、前記被覆配合物を得ることと、を含んでいることと;前記メリノウール生地に前記被覆配合物を適用することと;前記メリノウール生地から過剰な前記被覆配合物を取り除いた後、乾燥させることと、を含んでいる。
【0016】
一実施形態において、前記第1のジイソシアネートはイソホロンジイソシアネートから選択され、前記第2のジイソシアネートは1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートから選択される。
【0017】
特定の実施形態において、前記第1のジイソシアネートと前記第2のジイソシアネートとの間の前記第1のモル比は4:1である。
【0018】
別の特定の実施形態において、前記第1の触媒は、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1オキシドから選択される。
【0019】
より具体的には、前記第1及び第2のジイソシアネートに対する前記第1の触媒の前記第2のモル比は、約0.2%~1%である。
【0020】
一実施形態において、前記水分散剤は、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル350及びポリエチレングリコールモノメチルエーテル550の一方又は両方である。
【0021】
特定の実施形態において、前記水分散剤の前記第1の質量パーセントは、前記第1及び第2のジイソシアネートの総質量に対して、約126%である。
【0022】
一実施形態において、前記第2の触媒は、ジラウリン酸ジブチルスズ(IV)から選択される。
【0023】
特定の実施形態において、前記第2の触媒の前記第2の質量パーセントは、前記水分散剤の質量に対して、約0.01%である。
【0024】
一実施形態において、バッファはリン酸塩又はホウ酸塩から選択される。
【0025】
一実施形態において、前記第1及び第2のジイソシアネートをクリアな溶液が得られるまで撹拌することにより混合した後、混合物を160℃まで約35~50分間加熱し、次いで前記混合物を約120度まで冷却して、前記第1の溶液を得る。
【0026】
一実施形態において、前記第2の溶液は、前記第2の触媒と前記水分散剤とを均質な溶液が形成されるまで初めに混合した後、前記均質な溶液を前記第1の溶液に加えて、約120℃で約2時間に亘って撹拌することによって得られる。
【0027】
一実施形態において、前記第2の溶液が80℃まで冷却された後、クリアで均質な溶液が得られるまで水が前記第2の溶液に撹拌しながら滴下され、ポリマーバインダ中の水の含有量が約63%w/wに到達する。
【0028】
一実施形態において、前記第3の溶液に対して少なくとも約70%w/wの水中のバッファを含んだ前記第4の溶液が、前記第3の溶液に加えられて、その後、均質な溶液が前記被覆配合物として形成されるまで混合される。
【0029】
本発明の1つ又は複数の側面において、本明細書に記載の被覆配合物でコーティングされ及び/又は本明細書に記載の方法に従って製造される本明細書に記載のウール生地は、既に着色剤、及び/又は染料、及び/又は反応性染料で染色されている仕上げ済のウール生地(finished wool fabric)であってもよい。
【0030】
本発明の態様の何れかに記載され及び/又は本発明の態様の何れかに係る方法によって調製されたメリノウール生地を含む衣服も提供され、それは、リブニット、シャツ、ドレス、セーターなどを含むが、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本開示は、以下に例示のみの目的で示す詳細な説明から、より完全に理解されるようになるが、以下は、本開示を限定するものではない。
【0032】
【
図1A】
図1Aは、完成したメリノウール生地及び/又は衣類上に反応染料が存在しているときにウール繊維を架橋する技術的課題を概略的に示している。
【0033】
【
図1B】
図1Bは、本発明が、
図1Aに示す従来技術における技術的課題にどのように取り組むかを概略的に示している。
【0034】
【
図1C】
図1Cは、本発明の一実施形態による、反応性染料によるウール生地上の反応性基への架橋を本発明がどのように提供するかを概略的に示している。
【0035】
【
図2】
図2は、被覆配合物の調製を概略的に示している。
【0036】
【
図3A】
図3Aは、JIS L1076 ICI法に従ったそれらの表面形態に関して、シングルジャージニット上での本発明のアンチピリング性能を示している。右上隅の拡大図は、JIS L1076 ICI法による等級別(1.0~5.0)の対応する生地の表面形態の一連の参考写真を示している。
【0037】
【
図3B】
図3Bは、JIS L1076 ICI法に従った表面形態に関して、2×2フライスについての本発明のアンチピリング性能を示している。右上隅の拡大図は、JIS L1076 ICI法による等級別(1.0~5.0)の対応する生地の表面形態の一連の参考写真を示している。定義
【0038】
用語「a」又は「an」は、1つ又は複数のものを含むという意味で使用され、用語「or」は、別段の明記がない限り、非排他的な「又は」を指すために使用される。加えて、本明細書で使用され、他に定義されていない用語は、限定ではなく、説明のみを目的とするものであることを理解されたい。更に、本明細書で言及されている全ての刊行物、特許、及び特許文書は、参照により個別に組み込まれているかのように、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。本明細書と参照によりそのように組み込まれた文書との間に矛盾する用法がある場合、組み込まれた参照における用法は、本明細書の用法を補足するものとみなすべきである。解消できない不一致については、この明細書における使用方法が優先される。
【0039】
本明細書に記載されている製造方法では、時間的又は操作的シーケンスが明示的に記載されている場合を除き、工程は、本発明の原理から逸脱することなく任意の順序で実施することができる。最初の工程が実施され、次いで幾つかの他の工程がその後に実施される旨のクレームにおける記載は、第1の工程が他の工程の何れかの前に実施されるが、他の工程は、他の工程内で更に記載されない限り、任意の適切な順序で実施することができることを意味するものとする。例えば、「工程A、工程B、工程C、工程D、及び工程E」を記載するクレーム要素は、工程Aが最初に実施され、工程Eが最後に実施され、工程B、C及びDが工程Aと工程Eの間の任意の順序で実施され、その順序が依然としてクレームされたプロセスの文言の範囲内にあることを意味すると解釈される。特定の工程又は工程のサブセットを繰り返すこともできる。更に、特定の工程は、明示的なクレーム文言がそれらが別々に実施されることを記載しない限り、同時に実施することができる。例えば、Xを行うとクレームされた工程とYを行うとクレームされた工程は、単一の操作内で同時に行うことができ、結果として生じるプロセスは、クレームされたプロセスの文言の範囲内に含まれる。
【0040】
異なる化合物、分子及び/又は物質間の相互作用に関して本明細書に記載される「結合(association)」又はその変形は、そのような表現または用語が適用される場合、化合物、分子及び/又は物質間の任意の物理的、化学的及び/又は他の可能な結合を指すことができる。
【0041】
本明細書に記載の「水分散剤」は、ポリカルボジイミドポリマーが水に分散するのを助ける薬剤を指す。特に、この薬剤は、水中のポリカルボジイミドポリマーの均質な溶液を生成するために、ポリカルボジイミドポリマーと反応して、ポリマーの両端に「キャップ」を形成する。
【0042】
本開示において、「ポリカルボジイミドポリマー」及び「ポリカルボジイミド架橋剤」は、交換可能に使用されて、例えば、メリノウール生地又は衣服などの仕上げされた(finished)ウール生地又は衣服などの動物繊維上のより反応性の低い基と反応するポリマーを参照する。
【0043】
本書に記載されているウール生地又は衣服のアンチピリング性能は、JIS L1076 ICI法に従って試験され及び等級付けされている。グレード5は優れたアンチピリング性を示し、グレード1は劣ったアンチピリング性を示す。
【0044】
本明細書に記載の仕上げされたウール生地又は衣服の「退色」は、元の仕上げされたウール生地又は衣服に対して、ISO105-A02に従ってグレースケールの等級付けで評価される。グレード5は、生地の元の仕上げに対する退色への影響が最小限であり、グレード1は、生地の元の仕上げに対する退色への影響が大きいことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態及び実施例を図面を付して詳細に説明する。特定の実施形態は、例示的な目的のためにのみ提供され、限定的な方法で解釈されるべきではない。
【0046】
図1Aを参照すると、メリノウール繊維のポリペプチドなどの生地上のウール繊維の典型的なポリペプチドは、反応性官能基を有し、それらの反応性官能基の中で、アミノ基(NH
2)は、ウール生地の仕上げ及び/又は着色を提供するために、通常、1つ又は複数の反応性染料と反応させられる。したがって、表面からの繊維の損失を減少させるためのウール繊維の機械的強度を増加させる方法である、ウール繊維の架橋を行うことは、非常に困難である。この表面は、前記繊維の機械的強度を改善し、生地表面からの繊維の損失及びピリングを低減するために、保護ポリマーコーティングのポリマーと反応及び/又は架橋する反応性官能基を欠いている。この技術的課題に取り組むために、本発明は、反応性の低い官能基でウール生地のポリペプチドと架橋するためのポリマーを提供するが、処理/反応条件が比較的穏やかであり、水中で行うことができる。反応性染料とウール繊維のポリペプチド上のアミノ基との間の共有結合は、無傷のままであり、ウール生地及び/又は衣服の元の仕上げの退色の可能性が低減される(
図1B)。好ましい実施形態では、1つのポリペプチドがポリカルボジイミドポリマーを介して別のポリペプチドと架橋するとき、ウール繊維のポリペプチド上のカルボン酸基と相互作用して、最初にO-アシルイソ尿素基を形成し、続いてN-アシル尿素基を形成する架橋剤として、ポリカルボジイミド架橋剤が提供される(
図1C)。
【0047】
図2を参照すると、本発明におけるポリカルボジイミド架橋剤は、少なくとも2つのモノマー、例えばイソホロンジイソシアネート(IPDI)及び1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)である2つのジイソシアネートを、第1の触媒、例えば3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1オキシド(MPPO)と第1の時間(t
1)に亘って反応させて、第1の反応生成物(200)、即ちポリカルボジイミド重合体を形成することによって得られる。冷却後、ポリカルボジイミドポリマーは、更に、水分散剤、例えばポリエチレングリコールモノメチルエーテル550(MPEG550)、及び第2の触媒、例えばジラウリン酸ジブチルスズ(IV)と、第2の時間(t
2)に亘って反応して、ポリマーバインダを形成し、その後、冷却される。ポリマーバインダ中に水を滴下し、水中でポリマーバインダとして均質な溶液(210)が得られるまで撹拌しながら、温度(T
1)に加熱する。均質溶液(210)は、ウール生地上にコーティングする前に、pH8.0のバッファ溶液と更に混合される。
【0048】
好ましい実施形態では、t1は約50分であり、2つのジイソシアネートと第1の触媒との間の第1の反応は約155~160℃、より好ましくは160℃で行われる。
【0049】
別の好ましい実施形態では、t2は約2時間であり、ポリカルボジイミドポリマー、MPEG 550、及びジラウリン酸ジブチルスズ(IV)との間の第2の反応は、約120℃で行われる。
【0050】
更に別の好ましい実施形態では、T1は約80℃であり、ポリマー結合剤に水を滴下した後に得られる均質な溶液は、約63%w/wの最終含水量を有している。
【0051】
別の好ましい実施形態では、上記の均質な溶液、即ち水中のポリマーバインダは、上記の溶液が総溶液質量の少なくとも8%であるpH8.0の水中のリン酸塩又はホウ酸塩バッファと混合される。
【0052】
実施例
【0053】
例1:メリノウール生地の被覆(コーティング)配合物の調製:
【0054】
以下の表1は、本発明の一実施形態による水中のポリマーバインダ(I)の組成を要約している。
【0055】
【0056】
調製手順:
3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1オキシド(MPPO)(2つのジイソシアネートの総量に対して0.5モル%)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及び1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)(イソホロンジイソシアネートの量に対して25モル%;即ちHDIに対するIPDIのモル比=4:1)を、クリアな溶液が得られるまで撹拌しながら500mLのフラスコに入れた。次いで、この溶液を160℃へと50分間(t1)加熱した。
1)50分後、溶液を120℃に冷却した。ジラウリン酸ジブチルスズ(IV)(MPEG 550に対して0.01%質量%)を、均質な溶液が得られるまで撹拌しながら、MPEG 550(2つのジイソシアネートの総質量に対して126%質量%)に添加した。均質な溶液を、撹拌しながら、上記の冷却した溶液に加えた。反応混合物を120℃で2時間(t2)に亘って撹拌し続けた。
2)2時間撹拌した後、(2)からの反応混合物を80℃(T1)に冷却した。水(加えられた試薬の全質量に対して170%質量%)を、撹拌しながら、クリアで均質な溶液が得られるまで滴下した。最終含水量:63%w/w。
【0057】
例2-ポリマーバインダの組成及び/又は調製条件の変形例:
【0058】
以下の表2は、実施例1に記載した水中のポリマーバインダの組成物(I)とは別に、3つの他の実施例、即ち、水中のポリマーバインダの組成物(II)、(III)及び(IV)を要約している:
【0059】
【0060】
例3-ポリマーバインダ製造のその他の変形例
【0061】
以下の表3は、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル350(MPEG 350)を含むポリマーバインダの製造における他の変形例を要約している。
【0062】
【0063】
例4-コーティング処方の異なるメリノウール生地のピリング耐性
【0064】
この実施例では、実施例1及び2からの水中ポリマーバインダ(I)~(IV)中の約8%w/wのポリマーバインダ組成物に、pH8.0で約92%w/wのリン酸塩バッファ又はホウ酸塩バッファを添加してから、2×2のフライス編みのメリノウール生地を各被覆配合物に浸漬した。
【0065】
実験室条件下で、前記メリノウール生地を、350mLの被覆配合物中に、室温又は25℃で、30分間、洗濯堅牢度試験機中で撹拌しながら浸漬した。次に、各生地に実験室用の絞り(約10ポンド)を入れて過剰な溶液を除去した後、80℃で30分間タンブル乾燥した。その後、各生地を周囲条件で48時間に亘ってライン乾燥し、試験前にアイロンをかけた。
【0066】
以下の表4は、JIS L1076 ICI法によるピリング耐性の結果を要約している。
【0067】
【0068】
表4から、水中のポリマーバインダ(I)、(II)、(III)及び(IV)の何れかの組成物、及びリン酸塩又はホウ酸塩のpH8バッファを含むコーティング配合物を有する2×2フライスのコーティングされたメリノウール生地のピリング耐性の結果は、コーティングされていないメリノウール生地と比較して優れている。
【0069】
例5-水中のポリマーバインダと水中のバッファの比率の変形例:
【0070】
以下の表5は、耐法による2×2のフライス編み上のコーティングされたメリノウール生地の、バッファ溶液(リン酸塩又はホウ酸塩)に対する水中のポリマーバインダの2つの異なる比率 (表1)及びそれらのピリング耐性を提供する。黒色2×2フライスへのコーティング形成の条件及び手順は、実施例4の説明に従う。
【0071】
【0072】
表5から、より高いポリマーバインダ比率を有する被覆配合物でコーティングされた2×2フライスの黒色メリノウール生地は、より低いポリマーバインダ比率(又はより高いバッファ部分)を有する被覆配合物でコーティングされたものより低いピリング耐性を有していた。
【0073】
例6-洗濯ネットを使用しない15サイクルの家庭洗濯時の毛羽立ち防止、元の仕上げの退色、及び繊維の損失に対する異なる生地構造及び/又は色の影響
【0074】
以下の表6は、実施例5の項目1に従った被覆配合物で被覆された異なる色(白、黒、緑、青、赤)の2×2フライスに対するシングルジャージニットのJIS L1076 ICI法によるピリング耐性を要約している。メリノウール生地の元の仕上げに対する退色グレースケール等級付けの結果をISO105-A02に従って評価した。
【0075】
JIS L0217の方法103による家庭洗濯サイクルに対する繊維損失評価のために、洗濯ネットを使用せずに、メリノウール衣服を、ECE基準洗剤を使用して上記試験基準に従って指定された洗濯機で5分間洗浄し、2分間すすいだ後、更に2分間すすいだ。上記のサイクルを15回繰り返した。次に、洗浄した衣服を平らに置いて乾かした。洗濯機のホースから排出された繊維と洗浄マッシングに残っている繊維をすべて回収した。重量を測定する前に、それらを乾燥させ、湿度を標準状態に調整した。繊維損失率は、繊維損失量(g)をテスト前の衣服の重量(g)で割ったものとして定義される。
【0076】
【0077】
図3A及び3Bは、それぞれ、実施例5の項目1に従った被覆配合物でコーティングされた、異なる色の単一ジャージニット及び2×2フライスニットについて、コーティングされていないニットと比較したピリング耐性等級の結果を示している。
【0078】
表6から、上述したように、実施例5の項目1の被覆配合物でコーティングされたシングルジャージのニット及び2×2フライスのニットの両方は、色にかかわらず優れたピリング耐性(4.0以上の格付け)をもたらし、元の仕上げに対する退色が最小であった(ISO 105-A02によるメリノウール生地の元の仕上げに対するグレースケール等級による)。シングルジャージと2×2フライスの両方のニット上のコーティング形成は、洗濯ネットを使用しない15サイクルの家庭洗濯でのコーティング及び仕上げメリノウール衣服の繊維損失に有意な影響を与えない。本発明の被覆配合物でコーティングされたメリノウール生地は、その構成方法又は色にかかわらず、優れたピリング耐性を有し、元の仕上げに対する退色が最小限であり、洗濯ネットを使用せずに15サイクルの家庭洗濯による著しい繊維損失がない。
【0079】
例7-水中のポリマーバインダの組成の比較例(V)
【0080】
以下の表7は、実施例1に記載した(I)に関して、水中のポリマーバインダ(V)の比較組成を要約している。
【0081】
【0082】
組成(V)と(I)の主な違いは、水分散剤の選択にある。組成物(I)で使用されたポリエチレングリコールモノメチルエーテル(MPEG)の代わりに、トリエチレングリコールモノメチルエーテルが組成物(V)で使用された。組成物(V)の残りの成分及び反応条件は、(I)で使用されたものと実質的に同じである。この組成物は、水中でポリマーバインダの均質な溶液を形成しないので、アンチピリングメリノウール生地を提供するための被覆配合物の成分としては適用できない。
【0083】
例8-水中のポリマーバインダの組成の比較例(VI)
以下の表8は、実施例1に記載した(I)に関して、水中のポリマーバインダ(VI)の比較組成を要約している。
【0084】
【表8】
組成物(I)で使用されたポリエチレングリコールモノメチルエーテル550(MPEG 550)の代わりに、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル1000(MPEG 1000)が組成物(VI)で使用された。組成物(VI)の残りの成分及び反応条件は、(I)で使用されたものと実質的に同じである。この組成物は、水中でポリマーバインダの均質な溶液を形成しないので、アンチピリングメリノウール生地を提供するための被覆配合物の成分としては適用できない。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、メリノウール生地、特に、仕上げウール生地又は仕上げ衣服を含むウール生地に適用可能であり、洗濯時の退色及び繊維の損失を防止しつつ、ある規格に従って少なくとも4のピリング耐性を付与する。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチピリングメリノウール生地であって、
前記アンチピリングメリノウール生地は、メリノウール生地上に被覆されたポリカルボジイミド架橋剤を有しており、
前記ポリカルボジイミド架橋剤は、前記メリノウール生地のポリペプチド上のカルボキシル基と相互作用するように構成されており、
前記ポリカルボジイミド架橋剤は、被覆配合物から形成され、
前記被覆配合物は、
水中で8~30%w/wのポリマーバインダであって、前記ポリマーバインダは、少なくとも2つのジイソシアネートを少なくとも2つの触媒及び水分散剤と反応させることによって形成される反応生成物である、ポリマーバインダと;
水中で70~92%w/wのバッファと、
を含み、
前記被覆配合物は、前記メリノウール生地に適用され、過剰な前記被覆配合物が取り除かれ、被覆された前記メリノウール生地が乾燥されることにより、前記メリノウール生地上に前記ポリカルボジイミド架橋剤が残存するように構成されている、
アンチピリングメリノウール生地。
【請求項2】
前記少なくとも2つのジイソシアネートは、イソホロンジイソシアネート及び1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートを含んでおり、前記アンチピリングメリノウール生地は、JIS L1076 ICI法によるピリング耐性が4以上で、洗濯ネットを使用しない15サイクルの家庭用洗濯で0.2%w/w未満の繊維損失を伴う、請求項1に記載のアンチピリングメリノウール生地。
【請求項3】
前記少なくとも2つの触媒は、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1オキシド及びジラウリン酸ジブチルスズ(IV)を含んでいる、請求項1に記載のアンチピリングメリノウール生地。
【請求項4】
前記水分散剤は、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル350及びポリエチレングリコールモノメチルエーテル550の一方又は両方である、請求項1に記載のアンチピリングメリノウール生地。
【請求項5】
前記バッファは、リン酸塩又はホウ酸塩から選択され、pHが8.0に調整されている、請求項1に記載のアンチピリングメリノウール生地。
【請求項6】
イソホロンジイソシアネート及び1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートは、モル比が4:1である、請求項2に記載のアンチピリングメリノウール生地。
【請求項7】
3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1オキシドは、前記少なくとも2つのジイソシアネートに対して、0.2~1.0%のモル濃度である、請求項3に記載のアンチピリングメリノウール生地。
【請求項8】
ジラウリン酸ジブチルスズ(IV)は、水分散剤に対して、0.01%w/wの濃度である、請求項3に記載のアンチピリングメリノウール生地。
【請求項9】
請求項1に記載のアンチピリングメリノウール生地を含んだ衣服。