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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037781
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】繊維構造体およびその用途
(51)【国際特許分類】
   D04H 5/03 20120101AFI20240312BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20240312BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20240312BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20240312BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
D04H5/03
D04H1/4382
D04H3/16
B01D39/16 A
A41D13/11 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023204378
(22)【出願日】2023-12-04
(62)【分割の表示】P 2020563077の分割
【原出願日】2019-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2018247780
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018247781
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】307046545
【氏名又は名称】クラレクラフレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】中山 和之
(72)【発明者】
【氏名】落合 徹
(72)【発明者】
【氏名】小畑 創一
(57)【要約】      (修正有)
【課題】極細繊維層と基材層とが深層複合された繊維構造体を提供する。
【解決手段】面方向に広がる極細繊維層(10)と、前記極細繊維層に隣接する基材層(20)と、を含む繊維構造体であって、極細繊維層(10)は、単繊維の数平均繊維径5μm以下の極細繊維で構成され、基材層(20)は、単繊維の数平均繊維径7μm以上の非極細繊維で構成される。繊維構造体の厚さ方向の切断面において、基材層(20)には極細繊維が非極細繊維間に押し込まれて幅方向に広がる混在部(12)が存在するとともに、極細繊維層から押し込まれた極細繊維の少なくとも一部(14)が、基材層(20)を前記極細繊維層側から順に近領域(P)、中央領域(C)および遠領域(D)と三等分した場合の遠領域(D)に到達している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面方向に広がる極細繊維層と、前記極細繊維層に隣接する基材層と、を含む繊維構造体であって、
前記極細繊維層は、単繊維の数平均繊維径5μm以下の極細繊維で構成され、
前記基材層は、単繊維の数平均繊維径7μm以上の非極細繊維で構成され、
前記繊維構造体の厚さ方向の切断面において、前記基材層には、極細繊維が非極細繊維間に押し込まれて幅方向に広がる混在部が存在するとともに、極細繊維層から押し込まれた極細繊維の少なくとも一部が、基材層を前記極細繊維層側から順に近領域、中央領域および遠領域と三等分した場合の遠領域に到達している、繊維構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維構造体であって、前記繊維構造体は、耐熱性の極細繊維層と耐熱性の基材層とを含み、前記極細繊維層は耐熱性の極細繊維で構成され、前記基材層は、耐熱性の非極細繊維で構成されている、繊維構造体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の繊維構造体であって、繊維構造体の厚さ方向の切断面において、中央領域と遠領域との境界線と交わる前記混在部の幅Wの平均値が、120μm以上である、繊維構造体。
【請求項4】
請求項3に記載の繊維構造体であって、繊維構造体の切断面において、極細繊維の遠領域における存在率が、1~20%である、繊維構造体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の繊維構造体であって、非極細繊維を除いた極細繊維からなる密度が0.1g/cm以下である、繊維構造体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の繊維構造体であって、
前記極細繊維で形成された1または複数の極細繊維層と、前記非極細繊維で形成された1または複数の非極細繊維層との積層絡合物である、繊維構造体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の繊維構造体であって、極細繊維層がメルトブローン不織布であり、基材層がスパンレース不織布である、繊維構造体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の繊維構造体であって、目付が20~180g/mである、繊維構造体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の繊維構造体であって、200℃で3時間加熱した後に繊維が溶融していない、繊維構造体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の繊維構造体であって、帯電処理されている、繊維構造体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の繊維構造体であって、捕集効率が70%以上である、繊維構造体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の繊維構造体であって、捕集効率および圧力損失により下記式に従って算出されるQF値が0.21以上である、繊維構造体。
QF値=-ln(1-捕集効率(%)/100)/圧力損失(Pa)
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の繊維構造体であって、100℃で48時間加熱した後の捕集効率が70%以上である、繊維構造体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の繊維構造体を備えるフィルター。
【請求項15】
請求項14に記載のフィルターを備えるマスク。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、日本国で2018年12月28日に出願した特願2018-247780、および日本国で2018年12月28日に出願した特願2018-247781の優先権を主張するものであり、それらの全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、極細繊維層と基材層とが深層複合された繊維構造体に関し、特に、耐熱性の極細繊維層と耐熱性の基材層とが深層複合された耐熱性の繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0003】
従来から、エアフィルターの濾材として不織布が用いられている。中でもメルトブロー法で形成された極細繊維からなる不織布は、気体中の花粉や塵等のミクロダストの捕集能力が高い。
【0004】
また塵埃捕集効率を高めるために、不織布をエレクトレット化し、物理的作用に加えて静電気的作用を利用することにより、高捕集効率を発揮する試みが行われている。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2003-003367号公報)には、繊維シートの表裏両面に正極性と負極性の両電荷が混在するように帯電し、該帯電部分の片面当たりの合計面積が表裏両面とも各面の全面積に対し50%以上であるエレクトレット繊維シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-003367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、高塵埃捕集効率を達成できる一方で、エレクトレット繊維シートを形成する素材に関してはメルトブローン不織布が好ましい旨が記載されているに過ぎない。しかしながら、メルトブローン不織布は細繊度の単繊維で構成されるため、ミクロダストの捕集能力が高い一方、細繊度に由来して不織布内部の繊維密度が増加し、気体が通過する際の圧力損失が高くなるという問題がある。
【0008】
圧力損失が低い繊維構造体を得るためには、構成繊維の単繊維が太繊度であることが適しているが、その一方で、単繊維を太繊度化すると不織布内の繊維表面積が減少してしまい、捕集効率が低下するという問題がある。このように、高捕集効率を有することと、低圧力損失を有することは相反する関係にある。
【0009】
したがって、本発明の目的は、高捕集効率を有することとともに、低圧力損失を有することを両立できる繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、繊維径が小さく捕集効率を高める極細繊維層と、繊維径が大きく低圧力損失に貢献する基材層とを用いることで双方を両立できると考えた。そして、驚くべきことに、単に双方を重ね合わせるだけでは圧力損失を低減させることはできないが、(i)捕集の役目をする極細繊維層自体が面方向に広がる状態でありつつも、(ii)極細繊維層を構成する極細繊維の一部を物理的に基材層の厚さ方向に押し込むとともに、押し込まれた極細繊維を基材層の厚さ方向および幅方向へ広げて基材層に対して複合化する(深層複合)ことによって、これまでにない低圧力損失下で、高捕集効率を達成することが可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
面方向に広がる(好ましくは面方向に連続して広がる)極細繊維層と、前記極細繊維層に隣接する基材層と、を含む繊維構造体であって、
前記極細繊維層は、単繊維の数平均繊維径5μm以下の極細繊維で構成され、
前記基材層は、単繊維の数平均繊維径7μm以上の非極細繊維で構成され、
前記繊維構造体の厚さ方向の切断面において、前記基材層には、極細繊維が非極細繊維間に押し込まれて幅方向に広がる混在部が存在するとともに、極細繊維層から押し込まれた極細繊維の少なくとも一部が、基材層を前記極細繊維層側から順に近領域、中央領域および遠領域と三等分した場合の遠領域に到達している、繊維構造体。
〔態様2〕
態様1に記載の繊維構造体であって、前記繊維構造体は、耐熱性の極細繊維層と耐熱性の基材層とを含み、前記極細繊維層は耐熱性の極細繊維で構成され、前記基材層は、耐熱性の非極細繊維で構成されている、繊維構造体。
〔態様3〕
態様1または2に記載の繊維構造体であって、繊維構造体の厚さ方向の切断面において、中央領域と遠領域との境界線と交わる前記混在部の幅Wの平均値が、120μm以上である、繊維構造体。
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の繊維構造体であって、繊維構造体の切断面において、極細繊維の遠領域における存在率が、1~20%である、繊維構造体。
〔態様5〕
態様1~4のいずれか一態様に記載の繊維構造体であって、非極細繊維を除いた極細繊維からなる密度が0.1g/cm以下である、繊維構造体。
〔態様6〕
態様1~5のいずれか一態様に記載の繊維構造体であって、
前記極細繊維で形成された1または複数の極細繊維層と、前記非極細繊維で形成された1または複数の非極細繊維層との積層絡合物である、繊維構造体。
〔態様7〕
態様1~6のいずれか一態様に記載の繊維構造体であって、極細繊維層がメルトブローン不織布であり、基材層がスパンレース不織布である、繊維構造体。
〔態様8〕
態様1~7のいずれか一態様に記載の繊維構造体であって、目付が20~180g/mである、繊維構造体。
〔態様9〕
態様1~8のいずれか一態様に記載の繊維構造体であって、200℃で3時間加熱した後に繊維が溶融していない(繊維形状が保持されている)、繊維構造体。
〔態様10〕
態様1~9のいずれか一態様に記載の繊維構造体であって、帯電処理されている、繊維構造体。
〔態様11〕
態様1~10のいずれか一態様に記載の繊維構造体であって、捕集効率が70%以上である、繊維構造体。
〔態様12〕
態様1~11のいずれか一態様に記載の繊維構造体であって、捕集効率および圧力損失により下記式に従って算出されるQF値が0.21以上である、繊維構造体。
QF値=-ln(1-捕集効率(%)/100)/圧力損失(Pa)
〔態様13〕
態様1~12のいずれか一態様に記載の繊維構造体であって、100℃で48時間加熱した後の捕集効率が70%以上である、繊維構造体。
〔態様14〕
態様1~13のいずれか一態様に記載の繊維構造体を備えるフィルター。
〔態様15〕
態様14に記載のフィルターを備えるマスク。
【0012】
なお、請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の繊維構造体によれば、極細繊維が基材層の非極細繊維間に押し込まれて深層複合するため、高い捕集効率を達成すると同時に、低い圧力損失を達成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明から、より明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施例および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。
図1】本発明の一実施形態に係る繊維構造体の厚さ方向断面を示す拡大写真である。
図2】本発明の一実施形態に係る繊維構造体の一部をこの繊維構造体の厚さ方向に切断して見た断面を概念的に示す参考断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の繊維構造体は、面方向に広がる(好ましくは連続して広がる)極細繊維層と、前記極細繊維層に隣接する基材層と、を含む繊維構造体である。前記繊維構造体は、耐熱性の極細繊維層と耐熱性の基材層とを含み、前記極細繊維層は耐熱性の極細繊維で構成され、前記基材層は、耐熱性の非極細繊維で構成されていてもよい。
【0016】
[繊維構造体の製造方法]
本発明の繊維構造体の製造方法は、特定の極細繊維層用繊維シートと基材層用繊維シートとの積層物を準備する工程と、前記積層物に対して絡合処理を行う工程と、を少なくとも備えている。このような積層物を絡合処理することにより、基材層を構成する非極細繊維間に極細繊維が押し込まれ、押し込まれた極細繊維が基材層の厚さ方向および幅方向へと広がって、極細繊維層を基材層に対して深層複合させることができる。
【0017】
(準備工程)
準備工程では、特定の極細繊維層用繊維シートと基材層用繊維シートとの積層物が準備される。積層物を構成する基材層用繊維シートおよび極細繊維層用繊維シートは、それぞれ別に準備され、重ね合わせることにより積層物としてもよいし、一方の繊維シート(例えば基材層用繊維シート)の上に直接他方の繊維シート(例えば極細繊維層用繊維シート)が形成されて積層物としてもよい。素材のバリエーションを高める観点からは、基材層用繊維シートおよび極細繊維層用繊維シートをそれぞれ別に準備して重ね合わせた積層物であるのが好ましい。積層物は、両者が予め接着した状態であってもよく、接着されずに単に重ね合わせられた状態であってもよい。通気性の観点やバインダーフリーとする観点からは、単なる重ね合わせ物であるのが好ましい。
【0018】
(基材層用繊維シート)
基材層用繊維シートは非極細繊維で形成され、絡合により非極細繊維間に押し込まれた極細繊維がさらに幅方向にも広がることを可能にする限り特に限定されず、織物、編物、不織布、ウェブなどが挙げられる。極細繊維層用シートとの絡合性の観点から、乾式不織布、紡糸直結型不織布(例えばスパンボンド不織布)などが好ましく用いられる。基材層用繊維シートは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0019】
乾式不織布を構成する繊維の繊維長は15~70mm程度、好ましくは20~65mm程度であってもよく、より好ましくは30~60mm程度であり、さらに好ましくは35~55mm程度であってもよい。このような繊維長により乾式不織布を、湿式不織布(通常、繊維長は10mm以下)と区別することが可能である。
【0020】
例えば、乾式不織布では、所定の繊維集合体から、カード法またはエアレイド法により、ウェブが形成される。得られたウェブは、次いで、実用的な強度を付与するために、繊維同士を結合させる。結合方法としては、化学的結合(例えば、ケミカルボンド法)、熱的結合(例えば、サーマルボンド法、スチームジェット法)、機械的結合(例えば、スパンレース法、ニードルパンチ法)を利用することができるが、簡便性の観点から、水流絡合処理により交絡させるスパンレース法を用いることが好ましい。
【0021】
具体的には、不織布としては、ケミカルボンド不織布、サーマルボンド不織布、スパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、エアレイド不織布、スチームジェット不織布、スパンボンド不織布などが挙げられる。これらのうち、極細繊維を幅方向に広げやすい観点から、スパンレース不織布、スチームジェット不織布が好ましい。
【0022】
基材層用繊維シートを構成する繊維は、用途に応じて選択でき、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維のいずれも用いることができる。具体的には、コットン、麻、羊毛、パルプ等の天然繊維;レーヨン、ポリノジック、キュプラ等の再生繊維;アセテート、トリアセテート等の半合成繊維;ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂から形成されるポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂から形成されるポリエステル系繊維、アクリル系樹脂から形成されるアクリル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリウレタン系繊維、各種耐熱性繊維等の合成繊維が挙げられる。これらの繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0023】
また、基材層用繊維シートを構成する繊維は、捕集性能向上の観点から、疎水性繊維の含有量が好ましくは90質量%以上であってもよく、より好ましくは95質量%以上であってもよく、さらに好ましくは99質量%以上であってもよく、特に好ましくは実質的に疎水性繊維のみからなる構成であってもよい。なお、ここで疎水性繊維とは、吸湿性の小さい繊維を意味している。
これらの繊維のうち、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、耐熱性繊維、およびこれらの複合繊維が好ましく用いられる。
【0024】
基材層用繊維シートを構成する耐熱性繊維は、ポリマーの分子内に、芳香族、複素環、含硫黄、含窒素などの構造を有する単位を有する耐熱性ポリマーで構成される繊維であってもよく、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維、ポリエーテルケトン(PEK)繊維、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)繊維、ポリフェニレンスルフィド(PPS)繊維、芳香族ポリアミド繊維(例えば脂肪族ジアミン単位と芳香族ジカルボン酸単位とで構成されるポリアミド繊維)、アラミド繊維(パラアラミド繊維、メタアラミド繊維)、ポリイミド(PI)系繊維、ポリエーテルイミド(PEI)繊維、ポリアミドイミド繊維、非晶性ポリアリレート繊維、液晶性ポリエステル繊維、ポリベンゾオキサゾール(PBO)繊維、ポリベンゾイミダゾール(PBI)繊維、ポリベンゾチアゾール繊維、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)繊維、メラミン繊維、ノボロイド繊維などが挙げられる。これらの繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0025】
これらの繊維のうち、溶融紡糸性および耐熱性の観点から、液晶性ポリエステル繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、半芳香族ポリアミド繊維(例えば、ジカルボン酸単位が、テレフタル酸単位を含み、ジアミン単位が、1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位を含む半芳香族ポリアミド繊維)などが好ましく用いられる。
【0026】
(液晶性ポリエステル繊維)
液晶性ポリエステル繊維(ポリアリレート系液晶樹脂繊維と称する場合がある)は、液晶性ポリマー(LCP)から得られる繊維であり、例えば、液晶性ポリエステルを溶融紡糸することにより得ることができる。液晶性ポリエステルとしては、例えば芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等に由来する反復構成単位からなり、本発明の効果を損なわない限り、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位は、その化学的構成については特に限定されるものではない。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、液晶性ポリエステルは、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸に由来する構成単位を含んでいてもよい。例えば、好ましい構成単位としては、表1に示す例が挙げられる。
【0027】
【表1】
【0028】
Yは、1~芳香族環において置換可能な最大数の範囲において、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基などの炭素数1から4のアルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基など)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基など)、アラルキル基[ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)など]、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)などが挙げられる。
【0029】
より好ましい構成単位としては、下記表2、表3および表4に示す例(1)~(18)に記載される構成単位が挙げられる。なお、式中の構成単位が、複数の構造を示しうる構成単位である場合、そのような構成単位を二種以上組み合わせて、ポリマーを構成する構成単位として使用してもよい。
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
【表4】
【0033】
表2、表3および表4の構成単位において、nは1または2の整数で、それぞれの構成単位n=1、n=2は、単独でまたは組み合わせて存在してもよく、;Y1およびY2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基などの炭素数1から4のアルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基など)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基など)、アラルキル基[ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)など]、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)などであってもよい。これらのうち、好ましいYとしては、水素原子、塩素原子、臭素原子、またはメチル基が挙げられる。
【0034】
また、Zとしては、下記式で表される置換基が挙げられる。
【0035】
【化1】
【0036】
好ましい液晶性ポリエステルは、好ましくは、ナフタレン骨格を構成単位として有する組み合わせであってもよい。特に好ましくは、ヒドロキシ安息香酸由来の構成単位(A)と、ヒドロキシナフトエ酸由来の構成単位(B)の両方を含んでいる。例えば、構成単位(A)としては下記式(A)が挙げられ、構成単位(B)としては下記式(B)が挙げられ、溶融紡糸性を向上する観点から、構成単位(A)と構成単位(B)の比率は、好ましくは9/1~1/1、より好ましくは7/1~1/1、さらに好ましくは5/1~1/1の範囲であってもよい。
【0037】
【化2】
【0038】
【化3】
【0039】
また、(A)の構成単位と(B)の構成単位の合計は、例えば、全構成単位に対して65モル%以上であってもよく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上であってもよい。ポリマー中、特に(B)の構成単位が4~45モル%である液晶性ポリエステルが好ましい。
【0040】
さらに、液晶性ポリエステル繊維を形成する液晶性ポリエステル(ポリアリレート系液晶樹脂)の構成としては、パラヒドロキシ安息香酸と2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸が主成分となる構成、又は、パラヒドロキシ安息香酸と2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸とテレフタル酸とビフェノールが主成分となる構成が好ましい。
【0041】
液晶性ポリエステルとしては、重合時のオリゴマー発生が少なく、細繊度化も容易である観点から、310℃での溶融粘度が20Pa・s以下であることが好ましい。また、繊維化容易性の観点から、310℃での溶融粘度が5Pa・s以上であることが好ましい。
【0042】
本発明で好適に用いられる液晶性ポリエステルの融点は250~360℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは260~320℃である。なお、ここでいう融点とは、JIS K7121試験法に準拠し、示差走差熱量計(DSC;メトラー社製「TA3000」)で測定し、観察される主吸収ピーク温度である。具体的には、前記DSC装置に、サンプルを10~20mgをとりアルミ製パンへ封入した後、キャリヤーガスとして窒素を100cc/分流し、20℃/分で昇温したときの吸熱ピークを測定する。ポリマーの種類によってはDSC測定において1st runで明確なピークが現れない場合は、50℃/分の昇温速度で予想される流れ温度よりも50℃高い温度まで昇温し、その温度で3分間完全に溶融した後、-80℃/分の降温速度で50℃まで冷却し、しかる後に20℃/分の昇温速度で吸熱ピークを測定するとよい。
【0043】
液晶性ポリエステルとしては、例えば、パラヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸との共重合物からなる溶融液晶形成性全芳香族ポリエステル(ポリプラスチックス株式会社製、べクトラ-Lタイプ)が使用される。
【0044】
(ポリエーテルイミド繊維)
ポリエーテルイミド繊維は、ポリエーテルイミド(PEI)を溶融紡糸することにより得ることができる。ポリエーテルイミドとは、脂肪族、脂環族または芳香族系のエーテル単位と環状イミドとを反復構成単位とし、本発明の効果を損なわない限り、ポリエーテルイミドの主鎖に環状イミド、エーテル結合以外の構造単位、例えば脂肪族、脂環族または芳香族エステル単位、オキシカルボニル単位等が含有されていてもよい。ポリエーテルイミドは、結晶性または非晶性のいずれでもよいが、非晶性樹脂であることが好ましい。
【0045】
具体的なポリエーテルイミドとしては、下記一般式で示されるユニットを有するポリマーが好適に使用される。但し、式中R1は、6~30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基であり;R2は、6~30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、2~20個の炭素原子を有するアルキレン基、2~20個の炭素原子を有するシクロアルキレン基、および2~8個の炭素原子を有するアルキレン基で連鎖停止されたポリジオルガノシロキサン基からなる群より選択された2価の有機基である。
【0046】
【化4】
【0047】
上記R1、R2としては、例えば、下記式群に示される芳香族残基やアルキレン基(例えば、m=2~10)を有するものが好ましく使用される。
【0048】
【化5】
【0049】
本発明では、溶融紡糸性、コストの観点から、下記式で示される構造単位を主として有する、2,2-ビス[4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm-フェニレンジアミンとの縮合物が好ましく使用される。このようなポリエーテルイミドは、「ウルテム」の商標でサービックイノベイティブプラスチックス社から市販されている。
【0050】
【化6】
【0051】
ポリエーテルイミド繊維を構成する樹脂は、上記一般式で示されるユニットを有するポリマーを樹脂中に少なくとも50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことがとくに好ましい。
【0052】
ポリエーテルイミドとしては、東洋精機キャピログラフ1B型を用いて、温度330℃、せん断速度1200sec-1での溶融粘度が900Pa・sである非晶性ポリエーテルイミドが使用されるのが好ましい。
【0053】
(ポリフェニレンサルファイド繊維)
ポリフェニレンサルファイド繊維は、ポリアリーレンサルファイドを溶融紡糸することにより得ることができる。ポリアリーレンサルファイドは、-Ar-S-(Arはアリーレン基)で表されるアリーレンサルファイドを反復構成単位とし、アリーレン基としては、p-フェニレン、m-フェニレン、ナフチレン基などが挙げられる。耐熱性の観点から、反復構成単位がp-フェニレンサルファイドであるのが好ましい。
【0054】
ポリフェニレンサルファイド繊維を構成する樹脂は、アリーレンサルファイドを反復構成単位とするポリマーを樹脂中に少なくとも50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0055】
また、前記繊維は非複合繊維であってもよいし、複合繊維(芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維など)であってもよい。複合繊維の場合、例えば、低融点樹脂を一方の成分(例えば、鞘成分、海成分など)とし、高融点樹脂を他の成分(例えば、芯成分、島成分)とする複合繊維が好ましい。低融点樹脂および高融点樹脂は、サーマルボンドでの処理温度に応じて、上述した繊維を形成する樹脂などから適宜選択することができる。
【0056】
基材層用繊維シートの目付(単層についての目付)は、取扱い性の観点から、例えば、10~150g/m程度であってもよく、好ましくは12~130g/m程度、より好ましくは15~100g/m程度であってもよい。基材層用繊維シートの目付は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0057】
基材層用繊維シートの見かけ密度(単層についての見かけ密度)は、例えば、0.05~0.35g/cm程度であってもよく、好ましくは0.06~0.25g/cm程度、より好ましくは0.07~0.20g/cm程度であってもよい。基材層用繊維シートの見かけ密度は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0058】
基材層用繊維シートの厚さ(単層についての厚さ)は、例えば、0.20~1.00mm程度であってもよく、好ましくは0.25~0.90mm程度、より好ましくは0.30~0.80mm程度であってもよい。基材層用繊維シートの厚さは、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0059】
(極細繊維層用繊維シート)
極細繊維層用繊維シートは、極細繊維で構成され、見かけ密度が0.05~0.35g/cmを有している。このような見かけ密度を有する極細繊維層用繊維シートを基材層用繊維シートと積層して絡合処理を行うことにより、極細繊維を基材層に対して、厚さ方向と共に幅方向にも複合化することができ、その結果、極細繊維層と基材層とを深層複合化することが可能となる。極細繊維層用繊維シートの見かけ密度は、好ましくは0.06~0.30g/cmであってもよく、より好ましくは0.07~0.25g/cmであってもよい。極細繊維層用繊維シートの見かけ密度は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0060】
極細繊維層用繊維シートは、取扱い性を有しつつ、深層複合化を達成する観点から、極細繊維層用繊維シートの目付(g/m)当たりの10%伸長時強力(N/5cm)が、例えば0.10~1.00(N/5cm)程度であってもよく、好ましくは0.12~0.90(N/5cm)程度であってもよく、より好ましくは0.15~0.70(N/5cm)程度であってもよい。極細繊維層用繊維シートの目付当たりの10%伸長時強力は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0061】
極細繊維層用繊維シートとしては、深層複合化を行う観点から、特定の見かけ密度を有する限り特に限定されないが、極細繊維の取扱い性の観点から不織布が好ましく用いられる。
【0062】
極細繊維層用繊維シートとしては、メルトブローン不織布、エレクトロスピニング不織布、分割繊維からなる布帛(異なる成分の束からなる繊維から一旦布帛を形成し、この繊維を異なる成分の界面から分割させて得られた極細繊維布帛)、海島繊維からなる不織布(海島繊維で形成された布帛の海部分を溶出して得られた極細繊維布帛)、フィブリル繊維からなる不織布(一旦形成された布帛に対して物理的衝撃を与え、繊維をフィブリル化させることにより得られた極細繊維布帛)などを用いることができ、取扱い性の観点から、メルトブローン不織布が好ましく用いられる。
【0063】
メルトブローン不織布は、紡糸口金から押し出された溶融熱可塑性ポリマーを、熱風噴射することにより繊維状に細化し、得られた繊維の自己融着特性を利用して繊維ウェブとして形成させるメルトブロー法により得ることができる。
【0064】
極細繊維層用繊維シートを構成する繊維は、製法に応じて適宜選択できるが、合成繊維が好ましく用いられる。合成繊維を構成する樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、上述した基材層で用いられる耐熱性繊維を構成する樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0065】
耐熱性樹脂としては、メルトブローン不織布を形成する場合、溶融紡糸性および耐熱性の観点から、液晶性ポリエステル、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、半芳香族ポリアミド(例えば、ジカルボン酸単位が、テレフタル酸単位を含み、ジアミン単位が、1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位を含む半芳香族ポリアミド)などの樹脂が好ましく用いられる。
【0066】
極細繊維層用繊維シートの目付(単層についての目付)は、取扱い性の観点から、例えば、4.0~30g/m程度であってもよく、好ましくは4.5~25g/m程度、より好ましくは5.0~20g/m程度であってもよい。極細繊維層用繊維シートの目付は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0067】
極細繊維層用繊維シートの見かけ密度(単層についての見かけ密度)は、例えば、0.05~0.35g/cm程度であってもよく、好ましくは0.07~0.25g/cm程度、より好ましくは0.08~0.20g/cm程度であってもよい。極細繊維層用繊維シートの見かけ密度は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0068】
極細繊維層用繊維シートの厚さ(単層についての厚さ)は、例えば、0.05~0.30mm程度であってもよく、好ましくは0.06~0.25mm程度、より好ましくは0.07~0.20mm程度であってもよい。極細繊維層用繊維シートの厚さは、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0069】
(絡合工程)
絡合処理としては、極細繊維層を破壊することなく深層絡合することができる限り特に限定されないが、スパンレース法、ニードルパンチ法などを利用することが可能であり、極細繊維層の表層を面方向に連続した状態に保ちつつ、極細繊維層と基材層との深層複合化を効率よく行う観点からは、スパンレース法が好ましく用いられる。
【0070】
例えば、スパンレース法では、極細繊維層と基材層とを重ね合わせた繊維シートを載置した多孔質支持体に対して、微細な孔をあけたノズルから高圧の水流をジェット噴射し、繊維シートを貫通した水流が支持体に対して反射し、そのエネルギーで繊維を絡合させることができる。
【0071】
すなわち、本発明では、従来では利用を想定し得ない程小さな見かけ密度を有する極細繊維層用シートを用いて基材層と絡合処理により一体化するためか、絡合処理により、極細繊維用シートを構成する極細繊維が基材層を構成する繊維間において、単に基材層の厚さ方向に向かって押し込まれるだけでなく、基材層の幅方向(または面方向)に向かっても入り込むことが可能となる。その結果、従来では想定し得なかった、極細繊維層と基材層との深層複合を行うことが可能となり、圧力損失を抑えつつ、捕集効率を高めることができる。
【0072】
多孔質支持体は、ドラム型、プレート型のいずれであってもよく、これらを組み合わせて行われてもよいが、プレート型の多孔質支持体を用いるのが好ましい。多孔質支持体の開口率は、例えば、10~50%、好ましくは15~40%、さらに好ましくは20~30%程度であってもよい。また、多孔質支持体の孔径は、例えば、0.01~5.0mm、好ましくは0.05~3.0mm、より好ましくは0.1~1.0mm程度であってもよい。
【0073】
水流の水圧は、繊維構造体の厚みなどに応じて適宜設定することができるが、例えば、1.6~10MPa、好ましくは2~9.5MPa、さらに好ましくは3~9MPa程度であってもよい。
【0074】
水流の噴射に用いるノズルの径は、例えば0.05~0.2mm程度であってもよい。ノズルにおける微細な孔の間隔は、例えば、0.3~5.0mm、好ましくは0.4~3.0mm、さらに好ましくは0.5~2.0mm程度であってもよい。ノズルの配列数は、例えば、1~2列であり、極細繊維層と基材層との深層複合度合いを最適化し、より一層圧力損失を抑えつつ、捕集効率を高めることができる観点から、1列が好ましい。
【0075】
極細繊維層と基材層との深層複合に際しては、上記多孔質支持体上に極細繊維層と基材層とを重ね合わせた繊維シートを載置し、一定の速度で繊維シートを多孔質支持体と共に繊維長手方向に連続的に移送しながら、上記の条件で絡合処理を施すことが好ましい。繊維シートの移送速度は、例えば、1.0~10.0m/分、好ましくは2.0~9.0m/分、より好ましくは3.0~8.0m/分程度であってもよい。繊維シートの移送速度を上記範囲とすることで、極細繊維層と基材層との深層複合度合いを最適化し、得られる繊維構造体の圧力損失を抑えつつ、捕集効率をより一層高めることができる。
【0076】
絡合処理が行われた繊維構造体は、必要に応じて、さらに熱的結合などを行って、不織布の強度を高めてもよい。
【0077】
さらに、繊維構造体に対してエレクトレット処理を行って、捕集効率を高めてもよい。エレクトレット処理は、絡合処理前の繊維シートに行われてもよいし、絡合処理が行われた繊維構造体に対して行われてもよい。また、熱的結合が行われた繊維構造体に対して行われてもよい。
【0078】
エレクトレット処理は、帯電可能である限り特に限定されず、例えば、コロナ放電処理、ハイドロチャージ処理などが挙げられる。ハイドロチャージ処理としては、水の噴流もしくは水滴流を繊維シート内部まで水が浸透するのに十分な圧力にて噴霧する方法や、水を付与した後もしくは付与しながら繊維シートの片側から吸引して繊維シート内に水を浸透させる方法、およびイソプロピルアルコール、エチルアルコールおよびアセトンなどの水溶性有機溶剤と水との混合溶液に繊維シートを浸漬させて水を繊維シート内部まで浸透させる方法等が挙げられる。
【0079】
[繊維構造体]
本発明の繊維構造体は、面方向に広がる極細繊維層と、前記極細繊維層に隣接する基材層と、を含む繊維構造体であって、前記極細繊維層は、単繊維の数平均繊維径5μm以下の極細繊維で構成され、前記基材層は、単繊維の数平均繊維径7μm以上の非極細繊維で構成され、前記繊維構造体の厚さ方向の切断面において、前記基材層には、極細繊維が非極細繊維間に押し込まれて幅方向に広がる混在部が存在するとともに、極細繊維層から押し込まれた極細繊維の少なくとも一部が、基材層を前記極細繊維層側から順に近領域、中央領域および遠領域と三等分した場合の遠領域に到達している。捕集効率を高める観点から、極細繊維層は基材層に隣接して連続して面方向に広がるのが好ましい。
【0080】
図1は、本発明の一実施形態に係る繊維構造体の厚さ方向の切断面を示す拡大写真である。図1に示すように、一実施形態に係る繊維構造体は、単繊維の数平均繊維径5μm以下の極細繊維層10と、単繊維の数平均繊維径7μm以上の非極細繊維で構成される基材層20とで構成されている。図1では、極細繊維層10が面方向に広がって配設され、極細繊維層10に基材層20が隣接している。図1からは、基材層20の上に極細繊維層10が配設され、極細繊維層10は、基材層20に隣接した状態で途切れることなく連続して広がる様子が確認できる。
なお、本発明において、極細繊維層を構成する極細繊維と、基材層を構成する非極細繊維は、図1に示すように繊維構造体の切断面において容易に区別することが可能であるが、単繊維の繊維径が6μm未満の繊維は極細繊維と判断し、単繊維の繊維径が6μm以上の繊維は非極細繊維と判断してもよい。
【0081】
図1において、基材層の厚さ方向は、矢印Yで示され、基材層の幅方向は、矢印Xで示されている。そして、基材層20を構成する非極細繊維のうち最上端にある非極細繊維22と、最下端にある非極細繊維24とのY方向の位置をそれぞれ基材層20の上端および下端とした場合、図1において、基材層20は、Y方向において、上端から下端までの範囲において厚さを有しており、前記厚さは、極細繊維層10側から順に、近領域P、中央領域Cおよび遠領域Dに三等分されている。
【0082】
なお、基材層の厚さを決定する際に、基材層の上端および下端は、基材層の切断面における非極細繊維の切断面および/または非極細繊維の撓み部の上端および下端を用いて決定することができる。例えば、図1では、非極細繊維22の切断面により基材層20のY方向における上端が決定され、非極細繊維24の撓み部の下側により基材層20のY方向における下端が決定されている。
【0083】
そして、図1および図2にしめすように、極細繊維14の少なくとも一部は、基材層20を構成する非極細繊維間に押し込まれている。この場合、押し込まれた極細繊維14は、押し込まれない極細繊維14とは独立して、非極細繊維間に押し込まれている。また、押し込まれた極細繊維14は、束状に連なる部分を含んでいてもよい。そのため、混在部12は、極細繊維層10から基材層20に対して押し込まれた極細繊維14が束状に存在する束状部を含んでいてもよい。なお、混在部12は、束状部からさらに延出する極細繊維14を広がりとして含んでいてもよい。
【0084】
例えば、図1では、少なくとも中央領域Cにおいて、極細繊維14が混在部12として存在し、混在部12は、基材層20において幅方向(X方向)に広がっている。混在部12を形成する極細繊維14は、略Y方向に束状に広がる部分16とともに、略X方向に束状に広がる部分17を有している。ここで、略Y方向および略X方向とは、それぞれの方向において±30°の範囲が含まれる方向であってもよい。
【0085】
図1では極細繊維14による混在部12は、中央領域Cと遠領域Dとの境界線Lと、幅方向(X方向)において、幅Wで交わっている。換言すれば、極細繊維14による混在部12は、少なくとも境界線Lにおいては、幅方向(X方向)に沿って後述する幅Wの範囲に渡って設けられている。さらに、混在部12は、束状の部分から派生して、さらに単数または少数(2~10本程度)で基材層20の遠領域Dに到達する極細繊維(例えば、複数の極細繊維14)を有している。押し込まれた極細繊維14の少なくとも一部(例えば極細繊維14)は、厚さ方向(Y方向)において、基材層20の遠領域Dに到達している。すなわち、極細繊維層10から押し込まれた極細繊維14は、基材層20において、厚さ方向(Y方向)だけでなく幅方向(X方向)にも広がることにより、基材層20に対して深く絡み合い、深層複合化することが可能である。なお、例えば、図1では、近領域Pにおいて「混在部」が存在しない。近領域Pでは、極細繊維14は存在するが、この極細繊維14が所定の幅方向(X方向)存在しないため「混在部」の定義から外れるためである。但し、近領域Pにおいて「混在部」が存在してもよい。
【0086】
本発明の繊維構造体では、混在部12は、近領域P、中央領域C、遠領域Dのいずれに存在していてもよい。特に、混在部12は、中央領域Cおよび遠領域Dの少なくとも一方に存在するのが好ましい。
【0087】
また、混在部12は、混在部の極細繊維14を構成する繊維のうち、中央領域Cと遠領域Dとの境界線Lと交わる最も広い範囲の繊維間距離を混在部の幅Wとした場合、幅Wの平均値は、例えば、120μm以上であってもよく、好ましくは120~500μm程度、より好ましくは150~400μm程度、さらに好ましくは160~350μm程度であってもよい。ここで、幅Wの平均値は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0088】
また、押し込まれた極細繊維14の少なくとも一部は、基材層20の遠領域Dに到達している。このような極細繊維14は、例えば、混在部12に由来する極細繊維14が遠領域Dに到達してもよいし、混在部12に由来することなく直接極細繊維層10から極細繊維14が遠領域Dに到達してもよい。深層複合の観点からは、混在部12に由来する極細繊維14が遠領域Dに到達するのが好ましい。
【0089】
また、極細繊維14は、近領域P、中央領域C、および遠領域Dにおいて、遠領域Dに、例えば1~20%存在していてもよく、好ましくは2~18%存在していてもよい。また、中央領域には、例えば1~40%存在していてもよく、好ましくは2~35%存在していてもよい。
【0090】
特に好ましい態様としては、極細繊維14が、遠領域Dに、例えば1~20%(好ましくは2~18%)存在し、かつ、繊維幅Wが150~400μm(好ましくは160~350μm)程度である場合に、圧力損失を抑えつつ、捕集効率を高めることができて好ましい。
【0091】
なお、図1および図2では、一層の極細繊維層10と一層の基材層20との積層絡合物が示されているが、本発明の繊維構造体は、一または複数層の極細繊維層と一または複数層の基材層との積層絡合物であってもよい。この場合、極細繊維層と基材層とは、互い違いに積層されてもよい。
【0092】
例えば極細繊維層が基材層の上下に配設されている場合、上側および/または下側の極細繊維が、基材層において混在部を形成していればよく、少なくとも一方の極細繊維層から押し込まれた極細繊維が、基材層において当該極細繊維層に対して遠領域に到達していればよい。または基材層が極細繊維層の上下に配設されている場合、極細繊維は、いずれかの基材層において混在部を形成していればよい。
【0093】
繊維構造体の極細繊維層を構成する極細繊維は、単繊維の数平均繊維径が5μm以下であればよいが、好ましくは、単繊維の数平均繊維径が4.8μm以下であってもよく、より好ましくは単繊維の数平均繊維径が4.5μm以下であってもよい。単繊維の数平均繊維径の下限値は特に限定されないが、取扱い性の観点から0.5μm程度であってもよい。単繊維の数平均繊維径は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
また、繊維構造体の極細繊維層を構成する極細繊維は、単繊維の繊維径が6μm未満であればよいが、好ましくは、単繊維の繊維径が5.5μm以下であってもよく、より好ましくは単繊維の繊維径が5μm以下であってもよい。単繊維の繊維径の下限値は特に限定されないが、取扱い性の観点から0.1μm程度であってもよい。単繊維の繊維径は、数平均繊維径を測定する際に計測された繊維の繊維径であり、数平均繊維径は後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0094】
一方、繊維構造体の基材層を構成する非極細繊維は、単繊維の数平均繊維径が7μm以上であればよいが、好ましくは、単繊維の数平均繊維径が7μmを超えてもよく、より好ましくは単繊維の数平均繊維径が10μm以上であってもよい。単繊維の数平均繊維径の上限値は特に限定されないが、極細繊維との複合化の観点から40μm程度であってもよい。単繊維の数平均繊維径は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
また、繊維構造体の基材層を構成する非極細繊維は、単繊維の繊維径が6μm以上であればよいが、好ましくは、単繊維の繊維径が7μm以上であってもよく、より好ましくは単繊維の繊維径が8μm以上であってもよい。単繊維の繊維径の上限値は特に限定されないが、取扱い性の観点から50μm程度であってもよい。単繊維の繊維径は、数平均繊維径を測定する際に計測された繊維の繊維径であり、数平均繊維径は後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0095】
また、非極細繊維は、圧力損失を低下させつつ、捕集効率を維持させる観点から、例えば、繊維径が2~15μm程度(好ましくは3~10μm程度)異なる繊維が組み合わされていてもよい。
【0096】
繊維の深層複合化を良好にする観点から、極細繊維層を構成する極細繊維の数平均繊維径と、基材層を構成する非極細繊維の数平均繊維径との比は、(極細繊維)/(非極細繊維)として、例えば0.09~0.30であってもよく、好ましくは0.10~0.28、より好ましくは0.11~0.25であってもよい。
【0097】
なお、繊維構造体において、圧力損失を低減する観点から、非極細繊維を除いた極細繊維からなる密度(極細繊維のみの密度)が0.1g/cm以下であってもよく、好ましくは0.01~0.05g/cm程度、より好ましくは0.015~0.04g/cm程度であってもよい。繊維構造体の極細繊維からなる密度は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0098】
繊維構造体の目付は、用途に応じて適宜設定することが可能であり、例えば20~180g/m程度であってもよく、好ましくは25~150g/m程度、より好ましくは30~120g/m程度であってもよい。
【0099】
繊維構造体は、耐熱性繊維により構成されているため耐熱性を有し、例えば、200℃で3時間加熱した後に繊維が溶融していないものであってもよく、好ましくは200℃で3時間加熱した後に形状が保持されているものであってもよい。
【0100】
また、繊維構造体の捕集効率(加熱前の捕集効率)は、高い程好ましいが、圧力損失を適切な範囲に制御する観点から、繊維構造体の捕集効率は、例えば、70%以上(例えば70%~99.99%)であってもよく、好ましくは75%以上、より好ましくは79%以上であってもよい。ここで、捕集効率は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0101】
本発明の繊維構造体が耐熱性繊維により構成される場合、加熱後(例えば繊維構造体を100℃で48時間加熱した後)の捕集効率(例えば100℃下加熱後捕集効率)も、例えば、70%以上(例えば70%~99.99%)であってもよく、好ましくは75%以上、より好ましくは79%以上であってもよい。
【0102】
また、繊維構造体を加熱する場合、加熱前後の捕集効率の維持率は、例えば、75%以上であってもよく、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上であってもよい。
なお、加熱前後の捕集効率の維持率(%)は、上述した加熱前の捕集効率および加熱後の捕集効率を利用して、以下の式により算出することができる。
(加熱後の捕集効率)/(加熱前の捕集効率)×100
【0103】
繊維構造体の圧力損失は、用途に応じて、例えば、0~30Paの範囲から選択することができるが、繊維構造体の圧力損失は、例えば、0~10Pa程度であってもよく、好ましくは1~9.5Pa程度、より好ましくは2~9Pa程度であってもよい。ここで圧力損失は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0104】
繊維構造体は、捕集効率および圧力損失により下記式に従って算出されるQF値については、例えば0.22以上、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.30以上であってもよい。QF値は高い程好ましく上限は特に限定されないが、例えば0.50程度であってもよい。
QF値=-ln(1-捕集効率(%)/100)/圧力損失(Pa)
【0105】
本発明の繊維構造体が耐熱性繊維により構成される場合、加熱後(例えば繊維構造体を100℃で48時間加熱した後)のQF値は、例えば0.20以上、好ましくは0.22以上、より好ましくは0.24以上であってもよい。QF値は高い程好ましく上限は特に限定されないが、例えば0.50程度であってもよい。
【0106】
このような繊維構造体の用途としては、例えば、フィルター(特にエアフィルター)として好適に用いることができる。フィルターは、例えば、マスク、各種空調用エレメント、空気清浄機、キャビンフィルター、各種装置に用いられるフィルターとして用いることができる。
【0107】
例えば、本発明の繊維構造体はマスクのフィルターシートとして用いられてもよい。繊維構造体は、繊維の材質などに応じて適宜マスク用フィルターシートとして用いられればよい。例えば、繊維構造体は、呼気側シート、表面側シートの間に配設される中間シートとして用いられてもよい。
【0108】
なお、本発明においてマスクとは、人体の口元及び鼻元(特に鼻孔部)の双方もしくはいずれか一方を少なくとも被覆するものを指し、顔に固定するバンド等の固定部の有無を問わない。さらに、マスクは、人体の口元及び鼻元以外の部分を被覆していてもよい。例えば、一変形例としては、本発明のマスクは、睡眠時無呼吸症候群の治療に適するCPAP療法、換気不全に適するNIPPV療法などに使用する睡眠時無呼吸症候群の治療用マスク(例えば、鼻マスク、フルフェイスマスクなど)であってもよい。
【0109】
また、耐熱性繊維構造体の場合、その用途としては、例えば、フィルター(特にエアフィルター、バグフィルター、液体フィルターなど)として好適に用いることができるだけでなく、フィルターは、耐熱性が求められる用途に広く利用することが可能であり、例えば、耐熱マスクに加えて、耐熱性が求められる各種輸送手段、各種空調用エレメント、空気清浄機、キャビンフィルター、各種装置に用いられるフィルターとして用いることができる。
【実施例0110】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0111】
[単繊維の数平均繊維径]
走査型電子顕微鏡を用いて繊維構造を観察した。電子顕微鏡写真より無作為に選択した100本の繊維径を測定し、数平均繊維径を求め、繊維の数平均繊維径とした。ただし、極細繊維は、極細繊維層に存在する繊維について繊維径を測定し、非極細繊維は基材層に存在する繊維であって、極細繊維の混在部には存在しない繊維について繊維径を測定した。
【0112】
[基材層の厚さ]
JIS L 1913「一般不織布試験方法」の6.2に準じて、厚さを測定した。具体的には、繊維構造体または繊維シートの厚さ方向に対して平行に、かつ機械方向(MD)方向に対して垂直となるように、剃刀(「フェザー剃刀S片刃」、フェザー安全剃刀(株)社製)を用いて任意の10カ所を切断し、デジタル顕微鏡にてそれぞれの断面を観察した。そして、基材層の上端および下端を、基材層の切断面における非極細繊維の切断面および/または非極細繊維の撓み部の上端および下端により決定し、基材層の厚さとした。そして各切断面の基材層の厚さを測定し、これらの平均値を算出することにより、厚さ(mm)を求めた。
【0113】
[混在部の幅]
基材層の厚さを測定する際に得た断面について、基材層の中央領域Cと遠領域Dとの境界線Lと交わる最も広い範囲の繊維間距離を混在部の幅Wとし、無作為に選出した10箇所の各断面における混在部の幅を算出し、これらの平均値を算出することにより、混在部の幅(μm)を求めた。
【0114】
[存在率]
基材層中における極細繊維の存在率を、基材層の厚さを測定する際に得た切断面写真を用い、基材層を厚さ方向に3等分し、それぞれの部分の極細繊維部分が占める面積を測定し、それぞれが占める割合を求めた。
【0115】
[目付および見かけ密度]
JIS L 1913「一般不織布試験方法」の6.1に準じて、目付(g/m)を測定した。また、見かけ密度(g/cm)は、目付を厚さで除することにより、算出した。
【0116】
[目付(g/m)当たりの10%伸長時強力]
JIS L1913 6.3.2に準拠して測定し、10%伸長時の応力(N/5cm)を測定した。そして、目付(g/m)当たりの10%伸長時強力は、得られた10%伸長時の応力(N/5cm)を、目付で除することにより算出した。
【0117】
[極細繊維のみの密度]
極細繊維のみの密度(g/cm)は、極細繊維層の目付を繊維構造体の厚さで除することにより算出した。
【0118】
[捕集効率]
濾材評価装置(柴田科学(株)製、AP-6310FP)を用いて、実施例及び比較例で得られた繊維構造体の濾材特性を評価した。まず、試験サンプル(直径110mmの円)を濾過面の直径が85mmの測定セルに装着した。この状態で最大径が2μm以下で、かつ数平均径が0.5μmのシリカダストを試験粉塵に用いて、粉塵濃度30g±5mg/mとなるように調製した粉塵含有空気を、濾材をセットした測定セルに30リットル/分の流量で1分間流し、上流側の粉塵濃度X1、下流側(濾過後)の粉塵濃度X2を、光散乱質量濃度計を用いて測定し、下記の式から捕集効率を求めた。
捕集効率(%)={(X1-X2)/X1}×100
【0119】
[100℃下加熱後捕集効率]
サンプル(15cm×15cm)を100℃に加熱したオーブンに48時間入れて放置し、その後室温まで冷却して、加熱されたサンプルを得た。得られたサンプルについて上述と同様の方法により捕集効率を求めた。
【0120】
[200℃での耐熱性]
サンプル(15cm×15cm)を200℃に加熱したオーブンに3時間入れ、3時間後のサンプルの状態を目視により評価した。
○:サンプルは、繊維の溶融が起こらず、加熱前と同じ形状またはほぼ同じ形状である。×:サンプルが融けてしまい、加熱前と比べて変形している。
【0121】
[圧力損失]
捕集効率の測定において用いた濾材評価装置における測定セルの上流側、下流側間に微差圧計を配置し、流量30リットル/分における差圧(圧力損失(Pa))を測定した。
【0122】
[毛羽立ち性]
得られたシートを15cm×15cmのシートに裁断し、被験者に極細繊維層側の表面をやさしく撫でてもらい、撫でた後の毛羽立ちの状態を以下の5つの判定基準で目視により評価した。なお、被験者の数は10人である。
5:毛羽立ちが全く発生しない
4:毛羽立ちがほとんど発生ない
3:毛羽立ちがわずかに認められる
2:毛羽立ちが多く発生する
1:毛羽立ちが非常に多く発生する
【0123】
[マスクとしての官能評価]
表面シートとしてレーヨンを素材としたケミカルボンド不織布を用意し、このケミカルボンド不織布に対して、可能であれば極細繊維層が接するようにして繊維構造体を積層した。その後、折板で機械方向にプリーツ加工を施し、マスクの上下両端に超音波シールを行い、マスクの横を規定長さにカットし、マスクの左右両端に超音波シールを行い、ゴム紐を超音波シールで取り付け、マスクを製造した。製造したマスクを用いて、気温25度、湿度60%の部屋で3時間着用したときの使用感(呼吸のしやすさ)について10人の被験者に、以下の5つの判定基準で官能評価を行った。
5:非常に良い
4:良い
3:普通
2:悪い
1:非常に悪い
【0124】
[実施例1-1]
(1)極細繊維層の作製
ポリプロピレン(MFR=700g/10分)100質量部に、一般的なメルトブローン設備を使用し、紡糸温度215℃、エア温度215℃、エア量0.4MPa、単孔吐出量0.1g/孔・分、捕集距離30cm、口金における紡糸孔数400個、孔間隔0.6mm(1列配置)にてメルトブロー紡糸を行い、極細繊維層用繊維シート(単繊維の数平均繊維径2.5μm、目付10g/m、厚さ0.11mm、見かけ密度0.10g/cm、目付当たりの10%伸長時強力0.40N/5cm)を得た。
【0125】
(2)基材層の作製
原綿として単繊維の数平均繊維径12.5μmのPET繊維(T471、東レ株式会社製)100重量%を用いて、カード法を用いてセミランダムウェブを作製した。次いで、作製されたセミランダムウェブを、開孔率25%、孔径0.3mmのパンチングドラム支持体上に載置し、速度5m/分で長手方向に連続的に移送すると同時に、上方から高圧水流を噴射して絡合処理を行った。これにより、交絡した繊維ウェブ(不織布)を製造した。この絡合処理においては、孔径0.10mmのオリフィスをウェブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル2本を使用し(隣接するノズル間の距離20cm)、1列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を3.0MPa、2列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を5.0MPaとしてスパンレース処理を行い、さらに、裏面にして同様の絡合処理を行い、基材層用繊維シート(目付35g/m、厚さ0.38mm、見かけ密度0.09g/cm)を得た。
【0126】
(3)極細繊維層と基材層との深層複合処理
次いで、(1)で得られた極細繊維層用繊維シートと、(2)で得られた基材層用繊維シートとを重ね合わせて多孔質支持体(開孔率25%、孔径0.3mm)の上に載置し、速度5.0m/分で繊維シートの長手方向に連続的に移送すると同時に、孔径0.10mmのオリフィスを繊維シートの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル1本を使用して、水を極細繊維層用繊維シート側から高圧水流(3.0MPa)を噴射して絡合処理を行った。続いて、純水が供給される水槽の水面に沿って走行させながら、その表面にスリット状の吸引ノズルを当接させて水を吸引することにより、繊維シート全面に水を浸透させ、水切り後に自然乾燥させるハイドロチャージ法により帯電処理を行った。その結果、面方向に連続して極細繊維層が広がるとともに、極細繊維層と基材層とが深層複合された繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表5および6に示す。
【0127】
[実施例1-2]
実施例1-1(1)で得られた極細繊維層用繊維シートと、実施例1-1(2)で得られた基材層用繊維シートとを重ね合わせて実施例1-1で用いた多孔質支持体の上に戴置し、速度5.0m/分で繊維シートの長手方向に連続的に移送すると同時に、孔径0.10mmのオリフィスを繊維シートの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル1本を使用して、水を極細繊維層用繊維シート側から高圧水流(6.0MPa)を噴射して絡合処理を行った。続いて、純水が供給される水槽の水面に沿って走行させながら、その表面にスリット状の吸引ノズルを当接させて水を吸引することにより、繊維シート全面に水を浸透させ、水切り後に自然乾燥させるハイドロチャージ法により帯電処理を行った。その結果、面方向に連続して極細繊維層が広がるとともに、極細繊維層と基材層とが深層複合された繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表5および6に示す。
【0128】
[実施例1-3]
実施例1-1(1)で得られた極細繊維層用繊維シートと、実施例1-1(2)で得られた基材層用繊維シートとを重ね合わせて実施例1-1で用いた多孔質支持体の上に戴置し、速度5.0m/分で繊維シートの長手方向に連続的に移送すると同時に、孔径0.10mmのオリフィスを繊維シートの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル1本を使用して、水を極細繊維層用繊維シート側から高圧水流(9.0MPa)を噴射して絡合処理を行った。続いて、純水が供給される水槽の水面に沿って走行させながら、その表面にスリット状の吸引ノズルを当接させて水を吸引することにより、繊維シート全面に水を浸透させ、水切り後に自然乾燥させるハイドロチャージ法により帯電処理を行った。その結果、面方向に連続して極細繊維層が広がるとともに、極細繊維層と基材層とが深層複合された繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表5および6に示す。
【0129】
[実施例1-4]
(1)基材層繊維シートの作製
基材層繊維シートに用いられる原綿として単繊維の数平均繊維径17.5μmのポリプロピレン繊維(NF、宇部エクシモ株式会社製)100重量%を用いて、カード法を用いてセミランダムウェブを作製した。次いで、作製されたセミランダムウェブを、開孔率25%、孔径0.3mmのパンチングドラム支持体上に載置し、速度5.0m/分で長手方向に連続的に移送すると同時に、上方から高圧水流を噴射して絡合処理を行った。これにより、交絡した繊維ウェブ(不織布)を製造した。この絡合処理においては、孔径0.10mmのオリフィスをウェブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル2本を使用し(隣接するノズル間の距離20cm)、1列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を3.0MPa、2列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を5.0MPaとしてスパンレース処理を行い、基材層用繊維シート(目付35g/m、厚さ0.42mm、見かけ密度0.08g/cm)を得た。
【0130】
(2)極細繊維層と基材層との深層複合処理
次いで、実施例1-1(1)で得られた極細繊維層用繊維シートと、実施例1-4(1)で得られた基材層用繊維シートとを重ね合わせて実施例1-1で用いた多孔質支持体の上に戴置し、速度5.0m/分で繊維シートの長手方向に連続的に移送すると同時に、孔径0.10mmのオリフィスを繊維シートの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル1本を使用して、水を極細繊維層用繊維シート側から高圧水流(6.0MPa)を噴射して絡合処理を行った。続いて、純水が供給される水槽の水面に沿って走行させながら、その表面にスリット状の吸引ノズルを当接させて水を吸引することにより、繊維シート全面に水を浸透させ、水切り後に自然乾燥させるハイドロチャージ法により帯電処理をおこなった。その結果、面方向に連続して極細繊維層が広がるとともに、極細繊維層と基材層とが深層複合された繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表5および6に示す。
【0131】
[実施例1-5]
(1)基材層繊維シートの作製
基材層繊維シートに用いられる原綿として単繊維の数平均繊維径17.5μmのポリプロピレン繊維(NF、宇部エクシモ株式会社製)70重量%および単繊維の数平均繊維径24.6μmのPET繊維(T201、東レ株式会社製)30重量%を用いて、カード法を用いて均一に混合されたセミランダムウェブを作製した。このセミランダムウェブを用いる以外は、実施例1-1と同様にして基材層用繊維シート(単繊維の数平均繊維径19.1μm、目付35g/m、厚さ0.45mm、見かけ密度0.08g/cm)を作製した。
【0132】
(2)極細繊維層と基材層との深層複合処理
次いで、実施例1-1(1)で得られた極細繊維層用繊維シートと、実施例1-5(1)で得られた基材層用繊維シートとを重ね合わせて実施例1-1で用いた多孔質支持体の上に戴置し、速度5.0m/分で繊維シートの長手方向に連続的に移送すると同時に、孔径0.10mmのオリフィスを繊維シートの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル1本を使用して、水を極細繊維層用繊維シート側から高圧水流(6.0MPa)を噴射して絡合処理を行った。続いて、純水が供給される水槽の水面に沿って走行させながら、その表面にスリット状の吸引ノズルを当接させて水を吸引することにより、繊維シート全面に水を浸透させ、水切り後に自然乾燥させハイドロチャージ法により帯電処理を行った。その結果、面方向に連続して極細繊維層が広がるとともに、極細繊維層と基材層とが深層複合された繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表5および6に示す。
【0133】
[実施例1-6]
極細繊維層と基材層との深層複合処理に使用したノズルの間隔を0.6mmから0.75mmへ変更する以外は実施例1-5と同様にして絡合処理及び帯電処理を行い、面方向に連続して極細繊維層が広がるとともに、極細繊維層と基材層とが深層複合された繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表5および6に示す。
【0134】
[実施例1-7]
極細繊維層と基材層との深層複合処理に使用したノズルの間隔を0.6mmから1.0mmへ変更する以外は実施例1-5と同様にして絡合処理及び帯電処理を行い、面方向に連続して極細繊維層が広がるとともに、極細繊維層と基材層とが深層複合された繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表5および6に示す。
【0135】
[実施例1-8]
極細繊維層と基材層との深層複合処理に使用したノズルの間隔を0.6mmから1.5mmへ変更する以外は実施例1-5と同様にして絡合処理及び帯電処理を行い、面方向に連続して極細繊維層が広がるとともに、極細繊維層と基材層とが深層複合された繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表5および6に示す。
【0136】
[実施例1-9]
極細繊維層と基材層との深層複合処理に使用したノズルの間隔を0.6mmから3.0mmへ変更する以外は実施例1-5と同様にして絡合処理及び帯電処理を行い、面方向に連続して極細繊維層が広がるとともに、極細繊維層と基材層とが深層複合された繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表5および6に示す。
【0137】
[比較例1-1]
実施例1-1(1)で得られた極細繊維層用繊維シートのみを用いて実施例1-1と同様にして帯電処理を行い、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表7および8に示す。
【0138】
[比較例1-2]
実施例1-1(2)で得られた基材層用繊維シートのみを用いて、実施例1-1と同様にして帯電処理を行い、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表7および8に示す。
【0139】
[比較例1-3]
実施例1-4(1)で得られた基材層用繊維シートのみを用いて、実施例1-1と同様にして帯電処理を行い、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表7および8に示す。
【0140】
[比較例1-4]
実施例1-5(1)で得られた基材層用繊維シートのみを用いて、実施例1-1と同様にして帯電処理を行い、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表7および8に示す。
【0141】
[比較例1-5]
実施例1-1(1)で得られた極細繊維層用繊維シートと、実施例1-5(1)で得られた基材層用繊維シートとを重ね合わせ、続いて、純水が供給される水槽の水面に沿って走行させながら、その表面にスリット状の吸引ノズルを当接させて水を吸引することにより、繊維シート全面に水を浸透させ、水切り後に自然乾燥させるハイドロチャージ法により帯電処理を行い、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表7および8に示す。
【0142】
[比較例1-6]
実施例1-1(1)で得られた極細繊維層用繊維シートと、実施例1-1(2)で得られた基材層用繊維シートとを重ね合わせて実施例1-1で用いた多孔質支持体の上に戴置し、速度5.0m/分で繊維シートの長手方向に連続的に移送すると同時に、孔径0.10mmのオリフィスを繊維シートの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル1本を使用して、水を極細繊維層用繊維シート側から高圧水流(1.5MPa)を噴射して絡合処理を行った。続いて、純水が供給される水槽の水面に沿って走行させながら、その表面にスリット状の吸引ノズルを当接させて水を吸引することにより、繊維シート全面に水を浸透させ、水切り後に自然乾燥させるハイドロチャージ法により帯電処理を行った。その結果、面方向に連続して極細繊維層が広がるが、極細繊維層と基材層との深層複合はされていない繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表7および8に示す。
【0143】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【0144】
表7および8に示すように、極細繊維層用繊維シート単独で形成される比較例1-1や、極細繊維層用繊維シートの複合化を行わず、単に極細繊維層用繊維シートと基材層用繊維シートとを重ね合わせただけである比較例1-5では、捕集効率は高いものの、圧力損失が10Pa以上と高く、マスクとした場合の官能評価でも非常に悪いと評価されている。さらに、毛羽立ちが多く、毛羽立ち性も不良である。
【0145】
また、基材層用繊維シート単独で形成される比較例1-2~1-4では、圧力損失は極めて低い値であるものの、フィルターとして利用するには捕集効率が低い値である。
【0146】
さらに、比較例1-6では、極細繊維が遠領域に到達せず、極細繊維層を基材層に対して深層複合させることができないため、圧力損失が11Paと高く、マスクとした場合の官能評価でも非常に悪いと評価されている。さらに、毛羽立ちが多く、毛羽立ち性も不良である。
【0147】
一方、実施例1-1~1-9は、表5に示すように、特定の極細繊維層用シートを用いて特定の条件で深層複合化が行われているため、表6に示すように捕集効率が高いだけではなく、圧力損失も低い値とすることが可能であり、マスク官能評価も比較例1-1や1-5と比べると良好である。さらに、比較例1-1や1-5と比べて毛羽立ちが発生せず、毛羽立ち性が良好である。
【0148】
以下の実施例2-1~2-4、比較例2-1~2-7では、耐熱性繊維構造体について室温での[捕集効率]だけでなく[100℃下加熱後捕集効率]を評価した。さらに[200℃での耐熱性]についても調査した。
【0149】
[実施例2-1]
(1)極細繊維層の作製
330℃での溶融粘度が900Pa・sである非晶性ポリエーテルイミド100質量部に、一般的なメルトブローン設備を使用し、紡糸温度420℃、エア温度420℃、エア量0.4MPa、単孔吐出量0.1g/孔・分、捕集距離30cm、口金における紡糸孔数400個、孔間隔0.6mm(1列配置)にてメルトブロー紡糸を行い、極細繊維層用繊維シート(単繊維の数平均繊維径2.2μm、目付10g/m、厚さ0.12mm、見かけ密度0.08g/cm、目付あたりの10%伸長時強力0.07N/5cm)を得た。
【0150】
(2)基材層の作製
原綿として単繊維の数平均繊維径14.9μmのポリエーテルイミド(PEI)繊維(株式会社クラレ製、「KURAKISSS」(登録商標))100質量%を用いて、カード法を用いてセミランダムウェブを作製した。次いで、作製されたセミランダムウェブを、開孔率25%、穴径0.3mmのパンチングドラム支持体上に載置し、速度5m/分で長手方向に連続的に移送すると同時に、上方から高圧水流を噴射して絡合処理を行った。これにより、交絡した繊維ウェブ(不織布)を製造した。この絡合処理においては、穴径0.10mmのオリフィスをウェブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル2本を使用し(隣接するノズル間の距離20cm)、1列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を3.0MPa、2列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を5.0MPaとしてスパンレース処理を行い、さらに、裏面にして同様の絡合処理を行い、基材層用繊維シート(目付35g/m、厚さ0.43mm、見かけ密度0.08g/cm)を得た。
【0151】
(3)極細繊維層と基材層との深層複合処理
次いで、(1)で得られた極細繊維層用繊維シートと、(2)で得られた基材層用繊維シートとを重ね合わせて多孔質支持体(開孔率25%、穴径0.3mm)の上に載置し、速度5.0m/分で繊維シートの長手方向に連続的に移送すると同時に、穴径0.10mmのオリフィスを繊維シートの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル1本を使用して、水を極細繊維層用繊維シート側から高圧水流(6.0MPa)を噴射して絡合処理を行った。続いて、純水が供給される水槽の水面に沿って走行させながら、その表面にスリット状の吸引ノズルを当接させて水を吸引することにより、繊維シート全面に水を浸透させ、水切り後に自然乾燥させるハイドロチャージ法により帯電処理を行った。その結果、面方向に連続して極細繊維層が広がるとともに、極細繊維層と基材層とが深層複合された繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表9および10に示す。
【0152】
[実施例2-2]
実施例2-1(1)で得られた極細繊維層用繊維シートと、実施例2-1(2)で得られた基材層用繊維シートとを重ね合わせて実施例2-1で用いた多孔質支持体の上に戴置し、速度5.0m/分で繊維シートの長手方向に連続的に移送すると同時に、穴径0.10mmのオリフィスを繊維シートの幅方向に沿って1.0mmの間隔で設けてあるノズル1本を使用して、水を極細繊維層用繊維シート側から高圧水流(6.0MPa)を噴射して絡合処理を行った。続いて、純水が供給される水槽の水面に沿って走行させながら、その表面にスリット状の吸引ノズルを当接させて水を吸引することにより、繊維シート全面に水を浸透させ、水切り後に自然乾燥させるハイドロチャージ法により帯電処理をおこなった。その結果、面方向に連続して極細繊維層が広がるとともに、極細繊維層と基材層とが深層複合された繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表9および10に示す。
【0153】
[実施例2-3]
(1)極細繊維層の作製
パラヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸との共重合物からなり、ガラス転移温度が193℃、融点が300℃、310℃での溶融粘度が15Pa・sである溶融液晶形成性全芳香族ポリエステル(ポリプラスチックス株式会社製のLCP、べクトラ-Lタイプ)100質量部に、一般的なメルトブローン設備を使用し、紡糸温度310℃、エア温度310℃、エア量0.4MPa、単孔吐出量0.1g/孔・分、捕集距離30cm、口金における紡糸孔数400個、孔間隔0.6mm(1列配置)にてメルトブロー紡糸を行い、極細繊維層用繊維シート(単繊維の数平均繊維径2.4μm、目付10g/m、厚さ0.10mm、見かけ密度0.10g/cm、目付あたりの10%伸長時強力0.95N/5cm)を得た。
【0154】
(2)基材層の作製
原綿として単繊維の数平均繊維径15.9μmの溶融液晶形成性全芳香族ポリエステル繊維100質量%を用いて、カード法を用いてセミランダムウェブを作製した。次いで、作製されたセミランダムウェブを、開孔率25%、穴径0.3mmのパンチングドラム支持体上に載置し、速度5m/分で長手方向に連続的に移送すると同時に、上方から高圧水流を噴射して絡合処理を行った。これにより、交絡した繊維ウェブ(不織布)を製造した。この絡合処理においては、穴径0.10mmのオリフィスをウェブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル2本を使用し(隣接するノズル間の距離20cm)、1列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を3.0MPa、2列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を5.0MPaとしてスパンレース処理を行い、さらに、裏面にして同様の絡合処理を行い、基材層用繊維シート(目付35g/m、厚さ0.35mm、見かけ密度0.10g/cm)を得た。
【0155】
(3)極細繊維層と基材層との深層複合処理
次いで、(1)で得られた極細繊維層用繊維シートと、(2)で得られた基材層用繊維シートとを重ね合わせて多孔質支持体(開孔率25%、穴径0.3mm)の上に載置し、速度5.0m/分で繊維シートの長手方向に連続的に移送すると同時に、穴径0.10mmのオリフィスを繊維シートの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル1本を使用して、水を極細繊維層用繊維シート側から高圧水流(6.0MPa)を噴射して絡合処理を行った。続いて、純水が供給される水槽の水面に沿って走行させながら、その表面にスリット状の吸引ノズルを当接させて水を吸引することにより、繊維シート全面に水を浸透させ、水切り後に自然乾燥させるハイドロチャージ法により帯電処理を行った。その結果、面方向に連続して極細繊維層が広がるとともに、極細繊維層と基材層とが深層複合された繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表9および10に示す。
【0156】
[実施例2-4]
実施例2-3(1)で得られた極細繊維層用繊維シートと、実施例2-3(2)で得られた基材層用繊維シートとを重ね合わせて実施例2-1で用いた多孔質支持体の上に戴置し、速度5.0m/分で繊維シートの長手方向に連続的に移送すると同時に、穴径0.10mmのオリフィスを繊維シートの幅方向に沿って1.0mmの間隔で設けてあるノズル1本を使用して、水を極細繊維層用繊維シート側から高圧水流(6.0MPa)を噴射して絡合処理を行った。続いて、純水が供給される水槽の水面に沿って走行させながら、その表面にスリット状の吸引ノズルを当接させて水を吸引することにより、繊維シート全面に水を浸透させ、水切り後に自然乾燥させるハイドロチャージ法により帯電処理を行った。その結果、面方向に連続して極細繊維層が広がるとともに、極細繊維層と基材層とが深層複合された繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表9および10に示す。
【0157】
[比較例2-1]
実施例2-1(1)で得られた極細繊維層用繊維シートのみを用いて、実施例2-1と同様にして帯電処理を行い、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表9および10に示す。
【0158】
[比較例2-2]
実施例2-3(1)で得られた極細繊維層用繊維シートのみを用いて、実施例2-3と同様にして帯電処理を行い、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表9および10に示す。
【0159】
[比較例2-3]
実施例2-1(2)で得られた基材層用繊維シートのみを用いて、実施例2-1と同様にして帯電処理を行い、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表9および10に示す。
【0160】
[比較例2-4]
実施例2-3(2)で得られた基材層用繊維シートのみを用いて、実施例2-3と同様にして帯電処理を行い、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表9および10に示す。
【0161】
[比較例2-5]
(1)極細繊維層の作製
ポリプロピレン(MFR=700g/10分)100質量部に、一般的なメルトブローン設備を使用し、紡糸温度215℃、エア温度215℃、エア量0.4MPa、単孔吐出量0.1g/孔・分、捕集距離30cm、口金における紡糸孔数400個、孔間隔0.6mm(1列配置)にてメルトブロー紡糸を行い、極細繊維層用繊維シート(単繊維の数平均繊維径2.5μm、目付10g/m、厚さ0.11mm、見かけ密度0.10g/cm、目付あたりの10%伸長時強力0.40N/5cm)を得た。
得られた極細繊維層用繊維シートのみを用いて、実施例2-1と同様にして帯電処理を行い、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表9および10に示す。
【0162】
[比較例2-6]
(1)基材層の作製
原綿として単繊維の数平均繊維径17.5μmのポリプロピレン(PP)繊維(NF、宇部エクシモ株式会社製)100質量%を用いて、カード法を用いてセミランダムウェブを作製した。次いで、作製されたセミランダムウェブを、開孔率25%、孔径0.3mmのパンチングドラム支持体上に載置し、速度5.0m/分で長手方向に連続的に移送すると同時に、上方から高圧水流を噴射して絡合処理を行った。これにより、交絡した繊維ウェブ(不織布)を製造した。この絡合処理においては、孔径0.10mmのオリフィスをウェブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル2本を使用し(隣接するノズル間の距離20cm)、1列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を3.0MPa、2列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を5.0MPaとしてスパンレース処理を行い、基材層用繊維シート(目付35g/m、厚さ0.42mm、見かけ密度0.08g/cm)を得た。
得られた基材層用繊維シートのみを用いて、実施例2-1と同様にして帯電処理を行い、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表9および10に示す。
【0163】
[比較例2-7]
実施例2-1(1)で得られた極細繊維層用繊維シートと、実施例2-1(2)で得られた基材層用繊維シートとを重ね合わせて実施例1で用いた多孔質支持体の上に戴置し、速度5.0m/分で繊維シートの長手方向に連続的に移送すると同時に、孔径0.10mmのオリフィスを繊維シートの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル1本を使用して、水を極細繊維層用繊維シート側から高圧水流(1.5MPa)を噴射して絡合処理を行なった。続いて、純水が供給される水槽の水面に沿って走行させながら、その表面にスリット状の吸引ノズルを当接させて水を吸引することにより、繊維シート全面に水を浸透させ、水切り後に自然乾燥させるハイドロチャージ法により帯電処理を行った。その結果、面方向に連続して極細繊維層が広がるが、極細繊維層と基材層との深層複合はされていない繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表9および10に示す。
【0164】
【表9】
【表10】
【0165】
表9および10に示すように、極細繊維層用繊維シート単独で形成される比較例2-1および2-2では、捕集効率は高いものの、圧力損失が10Pa以上と高く、マスクとした場合の官能評価でも非常に悪いと評価されている。さらに、毛羽立ち性も不良である。
【0166】
また、基材層用繊維シート単独で形成される比較例2-3および2-4では、圧力損失は極めて低い値であるものの、フィルターとして利用するには捕集効率が低い値である。
さらに、繊維構造体を構成する樹脂が耐熱性樹脂ではない場合、比較例2-5および2-6のように200℃での環境下に3時間耐えることはできず、繊維が融けてしまう。
【0167】
さらに、比較例2-7では絡合するための水圧が低いため、極細繊維が遠領域に到達せず、極細繊維層を基材層に対して深層複合させることができない。そのため、圧力損失が10Paと高く、マスクとした場合の官能評価でも非常に悪いと評価されている。さらに、毛羽立ちが多く、毛羽立ち性も不良である。
【0168】
一方、実施例2-1~2-4は、表9に示すように、耐熱性繊維で形成され、特定の極細繊維層用シートを用いていずれも深層複合化が行われているため、表10に示すように、耐熱性に優れ、捕集効率が高いだけではなく、圧力損失も低い値とすることが可能であり、さらに毛羽立ちが発生せず、比較例2-5と比べる毛羽立ち性が良好である。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明の繊維構造体は、捕集効率が高いだけでなく、圧力損失を低く抑えることができるため、各種フィルター(特にエアフィルター、バグフィルター、液体フィルター)などとして好適に用いることができ、例えば、マスク(耐熱マスクも含む)、耐熱性が求められる各種輸送手段、各種空調用エレメント、空気清浄機、キャビンフィルター、各種装置に用いられるフィルターとして用いることができる。
【0170】
以上のとおり、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0171】
10・・・極細繊維層
20・・・基材層
12・・・混在部
P・・・近領域
C・・・中央領域
D・・・遠領域
W・・・混在部の幅
Y・・・厚さ方向
X・・・幅方向
L・・・中央領域と遠領域との間の境界線
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-12-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面方向に広がる極細繊維層と、前記極細繊維層に隣接する基材層と、を含む繊維構造体であって、
前記極細繊維層は、単繊維の数平均繊維径5μm以下の極細繊維で構成され、
前記基材層は、単繊維の数平均繊維径7μm以上の非極細繊維で構成され、
前記繊維構造体の厚さ方向の切断面において、前記基材層には、極細繊維が非極細繊維間に押し込まれて幅方向に広がる混在部が存在するとともに、極細繊維層から押し込まれた極細繊維の少なくとも一部が、基材層を前記極細繊維層側から順に近領域、中央領域および遠領域と三等分した場合の遠領域に到達している、繊維構造体。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0075
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0075】
極細繊維層と基材層との深層複合に際しては、上記多孔質支持体上に極細繊維層と基材層とを重ね合わせた繊維シートを載置し、一定の速度で繊維シートを多孔質支持体と共に繊維シート長手方向に連続的に移送しながら、上記の条件で絡合処理を施すことが好ましい。繊維シートの移送速度は、例えば、1.0~10.0m/分、好ましくは2.0~9.0m/分、より好ましくは3.0~8.0m/分程度であってもよい。繊維シートの移送速度を上記範囲とすることで、極細繊維層と基材層との深層複合度合いを最適化し、得られる繊維構造体の圧力損失を抑えつつ、捕集効率をより一層高めることができる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0122
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0122】
[毛羽立ち性]
得られたシートを15cm×15cmのシートに裁断し、被験者に極細繊維層側の表面をやさしく撫でてもらい、撫でた後の毛羽立ちの状態を以下の5つの判定基準で目視により評価した。なお、被験者の数は10人である。
5:毛羽立ちが全く発生しない
4:毛羽立ちがほとんど発生ない
3:毛羽立ちがわずかに認められる
2:毛羽立ちが多く発生する
1:毛羽立ちが非常に多く発生する
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0143
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0143】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0163
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0163】
[比較例2-7]
実施例2-1(1)で得られた極細繊維層用繊維シートと、実施例2-1(2)で得られた基材層用繊維シートとを重ね合わせて実施例2-1で用いた多孔質支持体の上に戴置し、速度5.0m/分で繊維シートの長手方向に連続的に移送すると同時に、孔径0.10mmのオリフィスを繊維シートの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル1本を使用して、水を極細繊維層用繊維シート側から高圧水流(1.5MPa)を噴射して絡合処理を行なった。続いて、純水が供給される水槽の水面に沿って走行させながら、その表面にスリット状の吸引ノズルを当接させて水を吸引することにより、繊維シート全面に水を浸透させ、水切り後に自然乾燥させるハイドロチャージ法により帯電処理を行った。その結果、面方向に連続して極細繊維層が広がるが、極細繊維層と基材層との深層複合はされていない繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の各種評価結果を表9および10に示す。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0164
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0164】
【表9】
【表10】
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0168
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0168】
一方、実施例2-1~2-4は、表9に示すように、耐熱性繊維で形成され、特定の極細繊維層用シートを用いていずれも深層複合化が行われているため、表10に示すように、耐熱性に優れ、捕集効率が高いだけではなく、圧力損失も低い値とすることが可能であり、さらに毛羽立ちが発生せず、比較例2-5と比べる毛羽立ち性が良好である。