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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037787
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】抗体を精製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/22 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
C07K1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023204927
(22)【出願日】2023-12-04
(62)【分割の表示】P 2021213474の分割
【原出願日】2017-09-06
(31)【優先権主張番号】62/384,240
(32)【優先日】2016-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】513032275
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン、インテレクチュアル、プロパティー、ディベロップメント、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GLAXOSMITHKLINE INTELLECTUAL PROPERTY DEVELOPMENT LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ、セ.デュメッツ
(72)【発明者】
【氏名】ケント、イー.ゴクレン
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス、イー.レビー
(72)【発明者】
【氏名】ジェシカ、レイチェル、モレック
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー、エス.トムソン
(72)【発明者】
【氏名】ケネス、ジー.ヤンシー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】固相支持体に固定化されたタンパク質A、タンパク質G、またはタンパク質Lなどのスーパー抗原を用いるタンパク質精製方法を提供する。
【解決手段】宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b)スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、カプリル酸塩およびアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること、ならびに(c)スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約50mMを超えるカプリル酸塩および約0.5Mを超えるアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること、ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる、方法。
【請求項2】
前記カプリル酸塩がカプリル酸ナトリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記洗浄バッファーが約75mM~約300mMのカプリル酸塩を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記洗浄バッファーが約0.75M~約1.5Mのアルギニンを含んでなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記洗浄バッファーが約0.5M~約1Mのリシンをさらに含んでなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
溶出された組換えポリペプチドが約2%未満の断片化された組換えポリペプチドを含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記HCPが哺乳動物細胞に由来する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記HCPがホスホリパーゼB様2タンパク質である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記HCPがカテプシンLである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
カテプシンLからの前記組換えポリペプチドの精製が、工程(c)の溶出液中の低下したカテプシンL活性によって評価される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記洗浄バッファーのpHが、pH7~pH9、またはpH7.5~pH8.5である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記組換えポリペプチドがモノクローナル抗体(mAb)である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記mAbが、IgG1またはIgG4である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記洗浄バッファーが塩化ナトリウムを含有しない、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記スーパー抗原がタンパク質A、タンパク質G、およびタンパク質Lからなる群から選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程(c)の後、HCPの量が約200ng HCP/生成物mg未満である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b1)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約50mMを超えるカプリル酸塩を含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること、(b2)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約0.5Mを超えるアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること、ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる、方法。
【請求項18】
宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b1)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約0.5Mを超えるアルギニンアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること、(b2)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約50mMを超えるカプリル酸塩を含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること、ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる、方法。
【請求項19】
ホスホリパーゼB様2タンパク質から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約100mMのカプリル酸塩および約1.1Mのアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること、ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる、方法。
【請求項20】
カテプシンLから組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約150mMのカプリル酸塩および約1.1Mのアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること、ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる、方法。
【請求項21】
宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、カプリル酸塩が約250mMを超える濃度で含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること、ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相支持体に固定化されたタンパク質A、タンパク質G、またはタンパク質Lなどのスーパー抗原を用いるタンパク質精製の分野に関する。特に、本発明は、所望のタンパク質生成物の損失を最小限にしつつ洗浄工程中に宿主細胞不純物を除去するための洗浄バッファー成分およびその洗浄バッファーの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
宿主細胞タンパク質(HCP)不純物(FDAにより「工程由来(process-related)」不純物として分類される)は、生物薬剤学的下流処理において十分に低レベルまで除去されなければならない。HCPの十分なクリアランスは、典型的な下流処理中においては、いくつかのモノクローナル抗体(mAb)生成物に関しては特に難しい場合がある。mAb下流工程の大部分は「プラットフォーム」アプローチを使用し、典型的なmAb下流プラットフォームは、タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィー捕捉とその後の1~3回の非アフィニティーポリッシング工程からなる。タンパク質Aアフィニティー捕捉工程は、プラットフォームの主力であり、HCPクリアランスの大部分を提供する。続いてのポリッシング工程は一般に、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィーまたはマルチモードクロマトグラフィーである。
【0003】
多くのmAb生成物で、HCP濃度は、最初のポリッシングクロマトグラフィー工程の後に十分に低いものである。しかしながら、さらなるHCPを除去するために第2のポリッシングクロマトグラフィー工程が特に実施されるmAbも多くあり、これは多大な工程開発努力を必要とする可能性があり、工程がますます複雑となる。従前の研究では、mAb生成物分子との引力相互作用を有するHCP不純物の亜集団が同定されている(Levy et al., (2014) Biotechnol. Bioeng. 111(5):904-912; Aboulaich et al., (2014) Biotechnol. Prog. 30(5):1114-1124)。タンパク質A工程を経たクリアランスから逃れるHCPの大部分は、共溶出またはタンパク質Aリガンドもしくはベースマトリックスへの吸着よりもむしろ生成物会合によるものである。除去が困難なHCPの集団は、細胞培養中に存在するHCPの多様な集団に比べて比較的小さく、種々のmAb生成物では類似している。
【0004】
困難なHCP不純物の集団は総てのmAb生成物でたいてい同一であるが、HCP-mAb相互作用の程度の違いがタンパク質A工程による総HCPクリアランスに大きな影響を及ぼす場合があり、mAb生成物のアミノ酸配列に対する極めて小さな変化がタンパク質A工程およびポリッシング工程におけるHCP-mAb相互作用に影響を及ぼし得る。HCP-mAb会合能に明らかな影響を持つタンパク質AカラムにロードされたHCPの集団は、細胞齢、採取方法および条件によって影響を受けることがあり、異なる宿主細胞系統間で細かい違いが見られた。生成物会合の他、ほとんどのタンパク質A樹脂では、ベースマトリックスに結合し、生成物と共溶出する低レベルのHCP不純物が存在する。CPG(controlled pore glass)樹脂は、ベースマトリックスに結合した、はるかに高いレベルのHCPを有する。
【0005】
1つの特定の洗浄添加剤、カプリル酸ナトリウムは、HCP-mAb会合の崩壊が最も成功し、タンパク質A溶出液中で低いHCP濃度が得られるものであることがこれまでに確認されている。カプリル酸ナトリウム(オクタン酸ナトリウムとしても知られる)は、臨界ミセル濃度およそ360mMで、マウスにおいて非毒性であることが判明している8炭素飽和脂肪酸である。従前の研究では、HCPクリアランスを改善するために、50mMのカプリル酸ナトリウム(Aboulaich et al., (2014) Biotechnol. Prog. 30(5):1114-1124)、種々のNaClおよびpHで40mMのカプリル酸ナトリウム(Chollangi et al., (2015) Biotechnol. Bioeng. 112(11):2292-2304)、および最大80mMのカプリル酸ナトリウム(Herzer et al., (2015) Biotechnol. Bioeng. 112(7):1417-1428))、ならびに総HCPクリアランスとタンパク質分解性のHCP不純物の除去の両方のために、高pHでNaClを伴った50mMのカプリル酸ナトリウム(Bee et al., (2015) Biotechnol. Prog. 31(5):1360-1369)が使用された。これまでに、最大100mMのカプリル酸ナトリウムを含有するタンパク質A洗浄液に関する特許出願が提出されている(WO2014/141150;WO2014/186350)。加えて、カプリル酸は、タンパク質A捕捉工程の前後の非クロマトグラフィー工程で宿主細胞タンパク質不純物の沈降のために使用されてきた(Brodsky et al., (2012) Biotechnol. Bioeng. 109(10): 2589-2598; Zheng et al., (2015) Biotechnol. Prog. 31(6):1515-1525; Herzer et al., (2015) Biotechnol. Bioeng. 112(7):1417-1428)。
【0006】
当技術分野では、宿主細胞タンパク質からタンパク質、特に、抗体を精製する改良法を提供する必要がある。
【0007】
発明の概要
本発明は、宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約50mMを超えるカプリル酸塩および約0.5Mを超えるアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法を提供する。
【0008】
別の実施形態では、カプリル酸塩は、カプリル酸ナトリウムである。さらに別の実施形態では、洗浄バッファーは、約75mM~約300mMのカプリル酸塩を含んでなる。
【0009】
本発明の別の側面では、洗浄バッファーは、約0.75M~約1.5Mのアルギニンを含んでなる。
【0010】
本発明の別の側面では、洗浄バッファーは、約0.5M~約1Mのリシンをさらに含んでなる。
【0011】
本発明の一つの実施形態では、溶出された組換えポリペプチドは、約2%未満の断片化された組換えポリペプチドを含有する。
【0012】
本発明の一つの側面では、HCPは、哺乳動物細胞に由来し、例えば、HCPは、ホスホリパーゼB様2タンパク質および/またはカテプシンLである。本発明のさらに別の側面では、カテプシンLからの組換えポリペプチドの精製は、工程(c)の溶出液中の低下したカテプシンL活性によって評価される。
【0013】
一つの実施形態では、洗浄バッファーのpHは、pH7~pH9;またはpH7.5~pH8.5である。
【0014】
本発明の別の実施形態では、組換えポリペプチドは、モノクローナル抗体(mAb)、例えば、IgG1、またはIgG4である。
【0015】
さらに別の実施形態では、洗浄バッファーは、塩化ナトリウムを含有しない。
【0016】
本発明の一つの側面では、スーパー抗原は、タンパク質A、タンパク質G、およびタンパク質Lからなる群から選択される。
【0017】
本発明の別の側面では、工程(c)後、HCPの量は、約200ng HCP/mg生成物未満である。
【0018】
本発明は、宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること;(b1)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約50mMを超えるカプリル酸塩を含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;(b2)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約0.5Mを超えるアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法を提供する。
【0019】
本発明はまた、宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること;(b1)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約0.5Mを超えるアルギニンアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;(b2)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約50mMを超えるカプリル酸塩を含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法を提供する。
【0020】
別の実施形態では、本発明は、ホスホリパーゼB様2タンパク質から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約100mMのカプリル酸塩および約1.1Mのアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法を提供する。
【0021】
さらに別の実施形態では、本発明は、カテプシンLから組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約150mMのカプリル酸塩および約1.1Mのアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法を提供する。
【0022】
一つの側面において、本発明は、宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること;(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、カプリル酸塩が約250mMを超える濃度で含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法を提供する。
【0023】
別の側面では、本発明は、宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること;(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約150mM~約850mMのカプリル酸塩を含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法を提供する。
【0024】
さらに別の側面では、本発明は、宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること;b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約100mM~約850mMのカプリル酸塩および約0.25M~約1.5Mのアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】モデルとしてmAb1を用い、洗浄液中のカプリル酸ナトリウムの濃度を変えた場合のタンパク質A溶出液中の収率パーセント(三角、▲)およびHCP濃度(四角、黒四角)。
図2】洗浄バッファー中、5濃度のカプリル酸ナトリウムに関する、溶出画分、ストリップ画分、および洗浄画分中の、ロードしたmAb1のパーセント。
図3】カプリル酸ナトリウム濃度が異なる溶液におけるMabSelect SuRe樹脂へのmAb1吸着に関するラングミュア等温式への当てはめ。
図4】100mMおよび250mMのカプリル酸ナトリウム洗浄バッファーを用いた場合の5種類のmAbに関するタンパク質A溶出液のHCP濃度。
図5】種々のpHで、異なる濃度のカプリル酸ナトリウムおよびアルギニンを含有する洗浄バッファーを用いた場合の、mAb2に関するタンパク質A溶出液のHCP濃度。注:総ての洗浄バッファーが300mMの酢酸ナトリウムを含有する。
図6】種々のpHで、異なる濃度のカプリル酸ナトリウムおよびアルギニンを含有する洗浄バッファーを用いた場合の、2つの異なるmAb1供給流に関するタンパク質A溶出液のHCP濃度。注)総ての洗浄バッファーが300mMの酢酸ナトリウムを含有する。
図7】種々のpHで、異なる濃度のカプリル酸ナトリウムおよびアルギニンを含有する洗浄バッファーを用いた場合の、mAb5供給流に関するタンパク質A溶出液のPLBL2濃度。
図8】種々のpHで、異なる濃度のカプリル酸ナトリウムおよびアルギニンを含有する洗浄バッファーを用いた場合の、mAb5供給流に関するタンパク質A溶出液のHCP濃度。
図9】種々のpHで、異なる濃度のカプリル酸ナトリウムおよびアルギニンを含有する洗浄バッファーを用いた場合の、mAb5供給流に関するタンパク質A工程収率。
図10】カプリル酸ナトリウムおよびアルギニンまたはリシンを含有する洗浄液に関する、mAb3タンパク質A溶出液中のカテプシンL活性。
図11】モノクローナル抗体工程中間体に関する抗体断片化パーセント。
図12】カプリル酸塩単独洗浄バッファーとカプリル酸塩およびアルギニン洗浄バッファーを用いた場合のHCP濃度。
図13】最大10日間、25Cで保持したモノクローナル抗体原薬に関する抗体断片化パーセント。
【0026】
詳細な説明
本発明は特定の方法、試薬、化合物、組成物、または生物系に限定されず、当然のことながら変更可能であることが理解されるべきである。また、本明細書で使用される技術用語は特定の実施形態を記載することを目的とするに過ぎず、限定を意図しないことも理解されるべきである。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈がそうではないことを明示しない限り、複数の指示対象を含む。よって、例えば、「ポリペプチド」という場合には、2以上のポリペプチドの組合せを含むなどである。
【0027】
用語「含んでなる(comprising)」は、「含む(including)」または「からなる(consisting)」を包含し、例えば、Xを「含んでなる」組成物は、排他的にXからなる場合もあり、または何らかの付加、例えば、X+Yを含む場合もある。用語「から本質的になる(consisting essentially of」は、特徴の範囲を、指定の材料または工程および特許請求される特徴の基本的特性に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。用語「からなる」は、いずれの付加的成分の存在も排除する。
【0028】
「約」は、本発明で使用する場合、量および持続期間などの測定可能な値に関して、指定の値からの±5%、±1%、および±0.1%を含む、±20%または±10%の変動を包含することを意味し、従って、変動は、開示される方法を実施するために適当である。
【0029】
そうではないことが定義されない限り、本明細書で使用される総ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の熟練者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または等価のいずれの方法および材料も、本発明の試験のための実施に使用可能であるが、本明細書には好ましい材料および方法が記載される。本発明を記載および特許請求するにあたって、以下の技術用語を使用する。
【0030】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は本明細書において、アミノ酸残基のポリマーを指して互換的に使用される。ポリペプチドは、天然起源の(組織由来の)、原核細胞もしくは真核細胞調製物由来の組換え発現もしくは天然発現、または合成法により化学的に生産されるものであり得る。これらの用語は、1以上のアミノ酸残基が、対応する天然アミノ酸の人工的な化学模倣物であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然アミノ酸ポリマーおよび非天然アミノ酸ポリマーに当てはまる。アミノ酸模倣物は、アミノ酸の一般的化学構造とは異なる構造を有するが天然アミノ酸と同様に機能する化学化合物を指す。非天然残基は、科学文献および特許文献において十分に記載され、天然アミノ酸残基の模倣物として有用な少数の例示的非天然成分および指針を以下に記載する。芳香族アミノ酸の模倣物は、例えば、D-またはL-ナフィルアラニン(naphylalanine);D-またはL-フェニルグリシン;D-またはL-2チエネイルアラニン(thieneylalanine);D-またはL-1、-2,3-または4-ピレネイルアラニン(pyreneylalanine);D-またはL-3チエネイルアラニン(thieneylalanine);D-またはL-(2-ピリジニル)-アラニン;D-またはL-(3-ピリジニル)-アラニン;D-またはL-(2-ピラジニル)-アラニン;D-またはL-(4-イソプロピル)-フェニルグリシン:D-(トリフルオロメチル)-フェニルグリシン;D-(トリフルオロメチル)-フェニルアラニン:D-p-フルオロ-フェニルアラニン;D-またはL-p-ビフェニルフェニルアラニン;K-またはL-p-メトキシ-ビフェニルフェニルアラニン;D-またはL-2インドール(アルキル)アラニン;およびD-またはL-アルキルアイニン(alkylalanine)によって置換することによって作製することができ、ここで、アルキルは置換または非置換メチル、エチル、プロピル、ヘキシル、ブチル、ペンチル、イソプロピル、イソブチル、sec-イソチル(isotyl)、イソペンチル、または非酸性アミノ酸であり得る。非天然アミノ酸の芳香環として、例えば、チアゾイル、チオフェニル、ピラゾリル、ベンズイミダゾリル、ナフチル、フラニル、ピロリル、およびピリジル芳香環が含まれる。
【0031】
「ペプチド」は、本明細書で使用する場合、本発明において具体的に例示されるペプチドの保存的変異であるペプチドを含む。「保存的変異」は、本明細書で使用する場合、アミノ酸残基の別の生物学的に類似する残基による置換を表す。保存的変異の例としては、限定されるものではないが、イソロイシン、バリン、ロイシン、アラニン、システイン、グリシン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、チロシン、ノルロイシン、またはメチオニンなどのある疎水性残基の別の疎水性残基での置換、またはある極性残基の別の極性残基での置換、例えば、アルギニンのリシンでの置換、グルタミン酸のアスパラギン酸での置換、もしくはグルタミンのアスパラギンでの置換などが含まれる。互いに置換可能である中性親水性アミノ酸としては、アスパラギン、グルタミン、セリン、およびトレオニンが含まれる。
【0032】
「保存的変異」はまた、その置換ポリペプチドに対して産生された抗体が非置換ポリペプチドとも免疫反応を起こす限り、非置換の親アミノ酸の代わりに置換アミノ酸を用いることも含む。そのような保存的置換は、本明細書に記載のペプチドのクラスの定義の範囲内である。
【0033】
「カチオン性」とは、本明細書で使用する場合、pH7.4で正味の正電荷を有するいずれのペプチドも指す。ペプチドの生物活性は、当業者に公知であり、本明細書に記載される標準的な方法によって決定することができる。
【0034】
「組換え」とは、タンパク質に関して使用する場合、そのタンパク質が異種核酸もしくはタンパク質の導入によって、または天然核酸もしくはタンパク質の変更によって修飾されていることを示す。
【0035】
本明細書で使用する場合、「治療タンパク質」は、哺乳動物に投与されて、例えば研究者または医師が求めている組織、系、動物、またはヒトの生物学的または医学的応答を惹起することができるいずれのタンパク質および/またはポリペプチドも指す。治療タンパク質は、2つ以上の生物学的または医学的応答を惹起する場合がある。さらに、用語「治療上有効な量」は、そのような量を受容していない対応する対象と比較して、限定されるものではないが、疾患、障害、もしくは副作用の治癒、予防、もしくは寛解、または疾患もしくは障害の進行速度の低下をもたらす、いずれの量も意味する。この用語はまた、正常な生理学的機能の向上に有効な量、ならびに第2の医薬剤の治療効果を向上または補助する患者の生理学的機能を引き起こすのに有効な量もその範囲内に含む。
【0036】
本明細書において特定される総ての「アミノ酸」残基は、天然のL配置である。標準的なポリペプチド命名法に従い、アミノ酸残基に対する省略形を下表に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
総てのアミノ酸残基配列は、本明細書において、その左から右への配向が慣例的なアミノ末端からカルボキシ末端への方向である定則によって表されることに留意されたい。
【0039】
精製方法
一つの側面において、本発明は、宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること;(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、カプリル酸塩およびアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法を対象とする。
【0040】
一つの側面において、本発明は、宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること;(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約50mMを超えるカプリル酸塩および約0.5Mを超えるアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法を対象とする。
【0041】
一つの側面において、本発明は、宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること;(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、カプリル酸塩を250mMを超える濃度で含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法を対象とする。
【0042】
一つの側面において、本発明は、宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること;(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約150mM~約850mMのカプリル酸塩を含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法を対象とする。
【0043】
別の側面では、本発明は、宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること;(b1)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、カプリル酸塩を含んでなる第1の洗浄バッファーで洗浄すること;(b2)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、アルギニンを含んでなる第2の洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法を対象とする。
【0044】
別の側面では、本発明は、宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること;(b1)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、アルギニンを含んでなる第1の洗浄バッファーで洗浄すること;(b2)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、カプリル酸塩を含んでなる第2の洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法を対象とする。
【0045】
工程(a)で、溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用(またはロード)した後、組換えポリペプチドは、固相支持体上に固定化されているスーパー抗原に吸着される。次に、吸着された組換えポリペプチドを含有する固定化スーパー抗原を、本明細書に記載されるような洗浄バッファーと接触させることによってHCP不純物が除去され得る。
【0046】
「スーパー抗原」は、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーと、これらのタンパク質の標的リガンド結合部位とは異なる部位で相互作用する一般リガンドを指す。ブドウ球菌内毒素は、T細胞受容体と相互作用するスーパー抗原の例である。抗体と結合するスーパー抗原としては、限定されるものではないが、IgG定常領域と結合するタンパク質G(Bjorck and Kronvall (1984) J. Immunol., 133:969);IgG定常領域およびVHドメインと結合するタンパク質A(Forsgren and Sjoquist, (1966) J. Immunol., 97:822);およびVLドメインと結合するタンパク質L(Bjorck, (1988) J. Immunol., 140:1194)が含まれる。従って、一つの実施形態では、スーパー抗原は、タンパク質A、タンパク質G、およびタンパク質Lからなる群から選択される。
【0047】
本明細書で使用する場合、用語「タンパク質A」は、その天然源(例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の細胞壁)から回収されたタンパク質A、合成的に(例えば、ペプチド合成によってまたは組換え技術によって)生産されたタンパク質A、およびC2/C3領域を有するタンパク質と結合する能力を保持するその変異体を包含する。タンパク質Aは、例えば、RepligenまたはPharmaciaから商業的に購入することができる。
【0048】
本明細書で使用する場合、「アフィニティークロマトグラフィー」は、クロマトグラフィー分離を達成するために、等電点、疎水性、またはサイズなどの生体分子の一般特性ではなく、生体分子間の特定の可逆的相互作用を利用するクロマトグラフィー法である。「タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィー」または「タンパク質Aクロマトグラフィー」は、免疫グロブリン分子のFc部分に対するタンパク質AのIgG結合ドメインの親和性を利用する特定のアフィニティークロマトグラフィー法を指す。このFc部分は、ヒトもしくは動物免疫グロブリン定常ドメインC2およびC3またはこれらと実質的に類似する免疫グロブリンドメインを含んでなる。実際には、タンパク質Aクロマトグラフィーは、固相支持体に固定化されたタンパク質Aを使用することを含む。Gagnon, Protein A Affinity Chromatography, Purification Tools for Monoclonal Antibodies, pp. 155-198, Validated Biosystems, (1996)参照。タンパク質Gおよびタンパク質Lもまた、アフィニティークロマトグラフィーに使用可能である。固相支持体は、タンパク質Aが接着する非水性マトリックス(例えば、カラム、樹脂、マトリックス、ビーズ、ゲルなど)である。このような支持体としては、アガロース、セファロース、ガラス、シリカ、ポリスチレン、コロジオンチャコール、砂、ポリメタクリレート、架橋ポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)、およびアガロースとデキストランとのサーフェスエクステンダーおよび任意の他の好適な材料が含まれる。このような材料は当技術分野で周知である。任意の好適な方法を、スーパー抗原を固相支持体に固定するために使用することができる。タンパク質を好適な固相支持体に固定するための方法は当技術分野で周知である。例えば、Ostrove, in Guide to Protein Purification, Methods in Enzymology, (1990) 182: 357-371参照。固定化されたタンパク質Aまたはタンパク質Lを有する、および有さないこのような固相支持体は、Vector Laboratory(バーリンゲーム、カリフォルニア州)、Santa Cruz Biotechnology(サンタクルーズ、カリフォルニア州)、BioRad(ハーキュリーズ、カリフォルニア州)、Amersham Biosciences(GE Healthcareの部門、ウプサラ、スウェーデン)およびMillipore(ビルリカ、マサチューセッツ州)などの多くの商業的供給者から容易に入手可能である。
【0049】
本明細書に記載の方法は、1以上のさらなるクロマトグラフィー工程などの1以上のさらなる精製工程を含んでなり得る。一つの実施形態では、1以上のさらなるクロマトグラフィー工程は、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィーおよび混合モードクロマトグラフィー、特に、陰イオン交換クロマトグラフィーからなる群から選択される。
【0050】
一つの実施形態では、この方法は、本明細書に記載の方法の工程(c)によって生産された溶出液を濾過することをさらに含んでなる。
【0051】
一つの実施形態では、この方法は、工程(c)の後に下記の工程をさらに含んでなる:(d)回収されたタンパク質を含有する溶液を30mMの酢酸、100mMのHClで約pH3.5に滴定すること;(e)工程(d)の溶液を約30~約60分間、約pH3.5に留めること;および(f)工程(e)の溶液のpHを1Mのトリスで約pH7.5に調整すること。一つの実施形態では、この方法は、工程(f)によって生産された溶液を濾過することをさらに含んでなる。
【0052】
一つの実施形態では、工程(a)でカラムに適用される組換えタンパク質の量(すなわち、ロード比)は、35mg/ml以下、例えば、30mg/ml以下、20mg/ml以下、15mg/ml以下または10mg/ml以下である。「ロード比」は、樹脂ミリリットル(ml)当たりのタンパク質(例えば、モノクローナル抗体)のミリグラム(mg)を指すことが理解されるであろう。
【0053】
洗浄バッファー
「バッファー」は、その酸-塩基共役成分の作用によってpHの変化に抵抗する緩衝溶液である。「平衡バッファー」は、クロマトグラフィー用の固相を調製するために使用される溶液を指す。「ローディングバッファー」は、固相(すなわち、クロマトグラフィーマトリックス)上にタンパク質と不純物の混合物をロードするために使用される溶液を指す。平衡バッファーとローディングバッファーは同じであり得る。「洗浄バッファー」は、ローディングが完了した後に固相から不純物を除去するために使用される溶液を指す。「溶出バッファー」は、クロマトグラフィーマトリックスから目的タンパク質を取り出すために使用される。
【0054】
「塩」は、酸および塩基の相互作用によって形成される化合物である。
【0055】
本発明の一つの側面では、洗浄バッファーは、脂肪族カルボン酸塩を含んでなる。脂肪族カルボン酸塩は、直鎖または分岐型であり得る。特定の実施形態では、脂肪族カルボン塩は、脂肪族カルボン酸もしくはその塩であり、または脂肪族カルボン酸塩の供給源は、脂肪族カルボン酸またはその塩である。特定の実施形態では、脂肪族カルボン酸塩は直鎖であり、メタン酸(ギ酸)、エタン酸(酢酸)、プロパン酸(プロピオン酸)、ブタン酸(酪酸)、ペンタン酸(吉草酸)、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸(エナント酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸(ペラルゴン酸)、デカン酸(カプリン酸)、ウンデカン酸(ウンデシル酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、トリデカン酸(トリデシル酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、およびイコサン酸(アラキドン酸)またはそれらの任意の塩からなる群から選択される。よって、脂肪族カルボン酸塩は、1~20炭素の長さの炭素主鎖を含んでなり得る。一つの実施形態では、脂肪族カルボン酸塩は、6~12炭素主鎖を含んでなる。一つの実施形態では、脂肪族カルボン酸塩は、カプロン酸塩、ヘプタン酸塩、カプリル酸塩、デカン酸塩、およびドデカン酸塩からなる群から選択される。さらなる実施形態では、脂肪族カルボン酸塩はカプリル酸塩である。
【0056】
一つの実施形態では、脂肪族カルボン酸塩の供給源は、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸のナトリウム塩、脂肪族カルボン酸のカリウム塩、および脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩からなる群から選択される。一つの実施形態では、脂肪族カルボン酸塩の供給源は、脂肪族カルボン酸のナトリウム塩である。さらなる実施形態では、洗浄バッファーは、カプリル酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム、またはドデカン酸ナトリウム、特に、カプリル酸ナトリウムを含んでなる。
【0057】
一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約50mMを超えるカプリル酸塩を含んでなる。一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約200mMを超えるカプリル酸塩を含んでなる。一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約250mMを超えるカプリル酸塩を含んでなる。さらなる実施形態では、洗浄バッファーは、少なくとも約50mMのカプリル酸塩、例えば、少なくとも約75mM、約100mM、約150mM、約200mM、約250mMまたは約300mMのカプリル酸塩を含んでなる。一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約850mM未満のカプリル酸塩、例えば、約800mM、約750mM、約700mM、約650mM、約600mM、約550mM、約500mM、約450mM、約400mM、約350mM、約300mM未満のカプリル酸塩を含んでなる。別の実施形態では、洗浄バッファーは、約100mM、約125mM、約150mM、約175mM、約200mM、または約250mMのカプリル酸塩を含んでなる。
【0058】
一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約50mMを超えるカプリル酸ナトリウムを含んでなる。一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約200mMを超えるカプリル酸ナトリウムを含んでなる。一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約250mMを超えるカプリル酸ナトリウムを含んでなる。さらなる実施形態では、洗浄バッファーは、少なくとも約50mMのカプリル酸ナトリウム、例えば、少なくとも約75mM、約100mM、約150mM、約200mM、約250mMまたは約300mMのカプリル酸ナトリウムを含んでなる。一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約850mM未満のカプリル酸ナトリウム、例えば、約800mM、約750mM、約700mM、約650mM、約600mM、約550mM、約500mM、約450mM、約400mM、約350mM、約300mM未満のカプリル酸ナトリウムを含んでなる。別の実施形態では、洗浄バッファーは、約100mM、約125mM、約150mM、約175mM、約200mM、または約250mMのカプリル酸ナトリウムを含んでなる。
【0059】
一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約50mM~約750mMのカプリル酸塩;約50mM~約500mMのカプリル酸塩;約75mM~約400mMのカプリル酸塩;約75mM~約350mMのカプリル酸塩;約75mM~約300mMのカプリル酸塩;約75mM~約200mMのカプリル酸塩;約250mM~約750mMを超えるカプリル酸塩;約250mM~約500mMを超えるカプリル酸塩;約250mM~約400mMを超えるカプリル酸塩;約250mM~約350mMを超えるカプリル酸塩;または約250mM~約300mMを超えるカプリル酸塩を含んでなる。
【0060】
一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約50mM~約750mMのカプリル酸ナトリウム;約50mM~約500mMのカプリル酸ナトリウム;約75mM~約400mMのカプリル酸ナトリウム;約75mM~約350mMのカプリル酸ナトリウム;約75mM~約300mMのカプリル酸ナトリウム;約75mM~約200mMのカプリル酸ナトリウム;約250mM~約750mMを超えるカプリル酸ナトリウム;約250mM~約500mMを超えるカプリル酸ナトリウム;約250mM~約400mMを超えるカプリル酸ナトリウム;約250mM~約350mMを超えるカプリル酸ナトリウム;または約250mM~約300mMを超えるカプリル酸ナトリウムを含んでなる。
【0061】
一つの実施形態では、洗浄バッファーは、有機酸、有機酸の共役塩基のアルカリ金属またはアンモニウム塩、および有機塩基を含んでなる。一つの実施形態では、洗浄バッファーは、NaClを添加せずに作製される。
【0062】
一つの実施形態では、有機酸の共役塩基は、有機酸の共役塩基のナトリウム、カリウム、またはアンモニウム塩である。一つの実施形態では、有機酸は酢酸であり、酢酸の共役塩基は、ナトリウム塩(すなわち、酢酸ナトリウム)である。
【0063】
一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約1mM~約500mMの酢酸をさらに含んでなる。一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約45mMの酢酸を含んでなる。一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約1mM~約500mMのトリス塩基をさらに含んでなる。一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約55mMのトリス塩基を含んでなる。一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約1mM~約500mMの酢酸ナトリウムをさらに含んでなる。一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約300mMの酢酸ナトリウムを含んでなる。
【0064】
一つの実施形態では、洗浄バッファーのpHは、約pH7~約pH9、例えば、約pH7.5~約pH8.5である。
【0065】
一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約0.25M~約1.5Mのアルギニンを含んでなる。さらなる実施形態では、洗浄バッファーは、約0.25M~約2Mのアルギニンを含んでなる。さらなる実施形態では、洗浄バッファーは、約0.5M~約2Mのアルギニンを含んでなる。さらに別の実施形態では、洗浄バッファーは、約0.75M~約1.5Mのアルギニンを含んでなる。さらなる実施形態では、洗浄バッファーは、約1M、約1.1M、約1.2M、約1.3M、約1.4M、約1.5M、約1.6M、約1.7M、約1.8M、約1.9M、または約2Mのアルギニンを含んでなる。一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約0.5M~約2Mのアルギニン、特に、約0.75M~約2Mのアルギニンを含んでなる。さらなる実施形態では、洗浄バッファーは、約1Mを超えるアルギニンを含んでなる。
【0066】
「アルギニン」という場合には天然アミノ酸を指すだけでなく、アルギニン誘導体またはそれらの塩、例えば、アルギニンHCl、アセチルアルギニン、アグマチン、アルギニン酸、N-α-ブチロイル-L-アルギニン、またはN-α-ピバロイルアルギニンも包含すると理解される。
【0067】
あるいは、アルギニンは、最初の洗浄バッファーに含める(すなわち、同時に使用する)こともできる。よって、一つの側面において、本発明は、宿主細胞タンパク質(HCP)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびHCPを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約100mM~約850mMのカプリル酸塩および約0.25M~約1.5Mのアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法を提供する。本明細書に記載の実施例に示されるように、カプリル酸塩とアルギニンの組合せを含んでなるスーパー抗原クロマトグラフィー洗浄液は、特に、除去が特に困難な2つの宿主細胞タンパク質であるPLBL2およびカテプシンLの除去に関して、宿主細胞タンパク質クリアランスの改良という予期しない相乗作用を示した。
【0068】
一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約100mM~約750mMのカプリル酸塩;約100mM~約500mMのカプリル酸塩;約100mM~約400mMのカプリル酸塩;約100mM~約350mMのカプリル酸塩;もしくは約100mM~約300mMのカプリル酸塩;および/または約0.25M~約2Mのアルギニン、約0.5M~約1.5Mのアルギニン;もしくは約0.5M~約1Mのアルギニンを含んでなる。
【0069】
一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約100mM~約750mMのカプリル酸ナトリウム;約100mM~約500mMのカプリル酸ナトリウム;約100mM~約400mMのカプリル酸ナトリウム;約100mM~約350mMのカプリル酸ナトリウム;もしくは約100mM~約300mMのカプリル酸ナトリウム;および/または約0.25M~約2Mのアルギニン;約0.5M~約1.5Mのアルギニン;もしくは約0.5M~約1Mのアルギニンを含んでなる。
【0070】
一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約0.5M~約2Mのアルギニンおよび約50mM~約750mMのカプリル酸ナトリウム;約0.5M~約1.5Mのアルギニンおよび約50mM~約500mMのカプリル酸ナトリウム;または約0.5M~約1.5Mのアルギニンおよび約50mM~約250mMのカプリル酸ナトリウムを含んでなる。
【0071】
一つの実施形態では、洗浄バッファーは、約0.5M~約1Mのリシン、例えば、約0.75Mのリシンをさらに含んでなる。この実施形態では、リシンは、最初の洗浄バッファーに含まれる(すなわち、同時に使用される)。別の実施形態では、リシンは、別の洗浄バッファーに含まれる(すなわち、別個に使用される)。本明細書に提供される実施例に示されるように、リシンの添加は溶出容量を上手く低減することが示された。
【0072】
組換えポリペプチド
一つの実施形態では、ポリペプチドは、抗原結合ポリペプチドである。一つの実施形態では、抗原結合ポリペプチドは、抗体、抗体フラグメント、免疫グロブリン単一可変ドメイン(dAb)、mAbdAb、Fab、F(ab’)、Fv、ジスルフィド結合Fv、scFv、閉鎖立体配座多重特異性抗体、ジスルフィド結合scFv、ダイアボディまたは可溶性受容体からなる群から選択される。さらなる実施形態では、抗原結合タンパク質は、抗体、例えば、モノクローナル抗体(mAb)である。組換えポリペプチド、生成分子およびmAbという用語は、本明細書では互換的に使用される。抗体は、例えば、キメラ、ヒト化またはドメイン抗体であり得る。
【0073】
用語Fv、Fc、Fd、Fab、またはF(ab)は、それらの標準的な意味で使用される(例えば、Harlow et al., Antibodies A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, (1988)参照)。
【0074】
「キメラ抗体」は、ドナー抗体に由来する天然可変領域(軽鎖および重鎖)をアクセプター抗体に由来する軽鎖および重鎖定常領域とともに含有する操作抗体の一種を指す。
【0075】
「ヒト化抗体」は、非ヒトドナー免疫グロブリンに由来するそのCDRを有し、その分子の残りの免疫グロブリン由来部分は1(または複数の)ヒト免疫グロブリンに由来する操作抗体の一種を指す。加えて、フレームワーク支持残基は、結合親和性を保存するために変更されてよい(例えば、Queen et al., (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:10029-10032, Hodgson et al., (1991) Bio/Technology, 9:421参照)。好適なヒトアクセプター抗体は、従来のデータベース、例えば、KABAT.RTM.データベース、Los Alamosデータベース、およびSwiss Proteinデータベースからドナー抗体のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列との相同性によって選択されるものであってよい。ドナー抗体のフレームワーク領域との相同性(アミノ酸に基づく)によって特徴付けられるヒト抗体は、ドナーCDRの挿入のための重鎖定常領域および/または重鎖可変フレームワーク領域を提供するために好適であり得る。軽鎖定常または可変フレームワーク領域を供与することができる好適なアクセプター抗体は、同様にして選択することができる。アクセプター抗体重鎖および軽鎖は同じアクセプター抗体に起源する必要はないことに留意されたい。従来技術は、このようなヒト化抗体を生産するいくつかの方法を記載している-例えば、EP-A-0239400およびEP-A-054951。
【0076】
用語「ドナー抗体」は、変更された免疫グロブリンコード領域を提供してドナー抗体に特徴的な抗原特異性および中和活性を有する変更抗体の発現を生じるために、その可変領域、CDR、またはその他の機能的フラグメントまたはそれらの類似体のアミノ酸配列を第1の免疫グロブリン相手に供与する抗体(モノクローナル、および/または組換え)を指す。用語「アクセプター抗体」は、その重鎖および/もしくは軽鎖フレームワーク領域、ならびに/またはその重鎖および/もしくは軽鎖定常領域をコードするアミノ酸配列の総て(またはいずれかの部分、いくつかの実施形態では、総て)を第1の免疫グロブリン相手に供与する、ドナー抗体とは異種の抗体(モノクローナルおよび/または組換え)を指す。特定の実施形態では、ヒト抗体は、アクセプター抗体である。
【0077】
「CDR」は、免疫グロブリン重鎖および軽鎖の超可変領域である抗体の相補性決定領域アミノ酸配列として定義される。例えば、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第4版, U. S. Department of Health and Human Services, National Institutes of Health (1987)参照。免疫グロブリンの可変部分には3つの重鎖CDRと3つの軽鎖CDR(またはCDR領域)がある。よって、「CDR」は、本発明で使用する場合、3つ総ての重鎖CDR、または3つ総ての軽鎖CDR(または適切な場合、総ての重鎖CDRおよび総ての軽鎖CDRの両方)を指す。抗体の構造およびタンパク質折り畳みは、その他の残基が抗原結合領域の部分と考えられることを意味する可能性があり、当業者によればそのように理解されるであろう(例えば、Chothia et al., (1989) Nature 342:877-883)。
【0078】
本明細書で使用する場合、用語「ドメイン」は、そのタンパク質の残りの部分には依存しない三次構造を有する折り畳まれたタンパク質構造を指す。一般に、ドメインは、タンパク質の別個の機能的特性を担い,多くの場合、タンパク質および/またはドメインの残りの部分の機能の欠失なく、付加、除去または他のタンパク質への移動が可能である。「抗体単一可変ドメイン」は、抗体可変ドメインに特徴的な配列を含んでなる折り畳まれたポリペプチドドメインである。よって、それは完全な抗体可変ドメイン、および修飾可変ドメイン、例えば、1以上のループが抗体可変ドメインに特徴的でない配列によって置換された、あるいは末端切断された、またはN末端伸長またはC末端伸長を含んでなる抗体可変ドメイン、ならびに全長ドメインの少なくとも結合活性および特異性を保持する可変ドメインの折り畳まれた断片を含む。
【0079】
「免疫グロブリン単一可変ドメイン」という句は、異なるV領域またはドメインとは非依存的に抗原またはエピトープに特異的に結合する抗体可変ドメイン(V、VHH、V)を指す。免疫グロブリン単一可変ドメインは、他の領域またはドメインが単一の免疫グロブリン可変ドメインによる抗原結合に必要とされない場合(すなわち、免疫グロブリン単一可変ドメインが付加的な可変ドメインとは非依存的に抗原に結合する場合)に、他の異なる可変領域または可変ドメインを伴う形式(例えば、ホモ多量体またはヘテロ多量体)で存在することができる。「ドメイン抗体」または「dAb」は、この用語が本明細書で使用される場合、抗原に結合し得る「免疫グロブリン単一可変ドメイン」と同じである。免疫グロブリン単一可変ドメインは、ヒト抗体可変ドメインであり得るが、齧歯類(例えば、WO00/29004に開示される通り)、テンジクザメおよびラクダ科動物VHH dAb(ナノボディー)などの他の種に由来する単一抗体可変ドメインも含む。ラクダ科動物VHHは、自然状態で軽鎖を欠いた重鎖抗体を産生するラクダ、ラマ、アルパカ、ヒトコブラクダ、およびグアナコを含む種に由来する免疫グロブリン単一可変ドメインポリペプチドである。このようなVHHドメインは、当技術分野で利用可能な標準的技術に従ってヒト化してもよく、このようなドメインはなお、本発明により「ドメイン抗体」であると見なされる。本明細書で使用する場合、「VHはラクダ科動物VHHドメインを含む」。NARVは、テンジクザメを含む軟骨魚類で同定されている別の種類の免疫グロブリン単一可変ドメインである。これらのドメインはまた、新規な抗原受容体可変領域(一般にV(NAR)またはNARVと略される)としても知られる。さらなる詳細については、Mol. Immunol. (2006) 44, 656-665およびUS2005/0043519を参照。
【0080】
用語「mAbdAb」および「dAbmAb」は、モノクローナル抗体および少なくとも1つのシングルドメイン抗体を含んでなる抗原結合タンパク質を指して本明細書で使用される。これら2つの用語は互換的に使用することができ、本発明で使用する場合、同じ意味を有するものとする。
【0081】
多くの場合、宿主細胞タンパク質からの組換えポリペプチドの精製は、組換えポリペプチドの断片化をもたらす。出願人は、本明細書に記載の精製方法が使用される場合に、組換えポリペプチドの断片化の量が著しく低減されることを見出した。一つの実施形態では、溶出される組換えポリペプチドは、約10%、約9%、約8%、約7%、約6%、約5%、約4%、約3%、約2%、または約1%未満の断片化組換えポリペプチドを含有する。別の実施形態では、組換えポリペプチドは抗体であり、溶出される抗体は約10%、約9%、約8%、約7%、約6%、約5%、約4%、約3%、約2%、または約1%未満の断片化された抗体を含有する。
【0082】
宿主細胞タンパク質
「不純物」は、溶出液における、スーパー抗原クロマトグラフィー前またはスーパー抗原クロマトグラフィー後にロードサンプル中に存在するいずれの外来分子または所望でない分子も指す。「工程不純物」が存在し得る。これらは、目的タンパク質が生産される工程の結果として存在する不純物である。例えば、これらには、宿主細胞タンパク質(HCP)、RNA、およびDNAが含まれる。「HCP」は、細胞内および/または分泌タンパク質を含め、細胞培養または発酵中に宿主細胞により生産される、目的タンパク質に関連のないタンパク質を指す。宿主細胞タンパク質の一例はプロテアーゼであり、これは精製中および精製後になお存在すれば目的タンパク質に損傷を生じる可能性がある。例えば、目的タンパク質を含んでなるサンプル中にプロテアーゼが残存すれば、元は存在しなかった生成物関連物質または不純物を作り出す可能性がある。プロテアーゼの存在は、精製工程中、および/または最終的な処方物中で経時的に目的タンパク質の減衰、例えば、断片化を生じる可能性がある。
【0083】
一つの実施形態では、宿主細胞タンパク質は、哺乳動物細胞または細菌細胞から生産される/に由来する。さらなる実施形態では、哺乳動物細胞は、ヒトまたは齧歯類(例えば、ハムスターまたはマウス)細胞から選択される。なおさらなる実施形態では、ヒト細胞はHEK細胞であり、ハムスター細胞はCHO細胞であり、またはマウス細胞はNS0細胞である。
【0084】
特定の実施形態では、宿主細胞は、CHO細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、COS細胞、K562細胞、BHK細胞、PER.C6細胞、およびHEK細胞からなる群から選択される(すなわち、宿主細胞タンパク質はこれらの宿主細胞に由来する)。あるいは、宿主細胞は、大腸菌(E. coli)(例えば、W3110、BL21)、枯草菌(B. subtilis)および/またはその他の好適な細菌からなる群から選択される細菌細胞;糸状菌または酵母細胞など真核細胞の(例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、アスペルギルス(Aspergillus)種、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポムベ(Schizosaccharomyces pombe)、アカパンカビ(Neurospora crassa)であり得る。
【0085】
「溶液」は、細胞培養培地、例えば、細胞培養供給液であり得る。供給液は、濾過されてよい。溶液は、清澄化非処理ブロス(Clarified Unprocessed Broth)(CUB)(または清澄化発酵ブロス/上清)であり得る。CUBはまた、細胞および/または細胞残渣が清澄化により除去されている細胞培養上清としても知られる。溶液は、タンパク質を発現する細胞の溶解調製物であってもよい(例えば、溶液は細胞溶解液である)。
【0086】
工程不純物にはまた、細胞を増殖させるためまたは目的タンパク質の発現を保証するために使用される成分、例えば、溶媒(例えば、酵母細胞を培養するために使用されるメタノール)、抗生物質、メトトレキサート(MTX)、培地成分、凝集剤などが含まれる。また、前工程中にサンプルに浸出するスーパー抗原固相の一部である分子、例えば、タンパク質A、タンパク質G、またはタンパク質Lも含まれる。
【0087】
不純物にはまた、活性は保持するが構造が異なるタンパク質、および構造が異なるために失活したタンパク質を含む「生成物関連変異体」も含まれる。これらの生成物関連変異体には、例えば、高分子量種(HMW)、低分子量種(LMW)、凝集タンパク質、前駆体、分解タンパク質、折り畳みが不適切なタンパク質、低ジスルフィド結合タンパク質、断片、および脱アミド化種が含まれる。
【0088】
洗浄工程が成功したかどうかを確認するために、溶出液におけるこれらの不純物のいずれかの1つの存在を測定することができる。例えば、本発明者らは、生成物mg当たりのHCPのngとして表されるHCPレベルの減少を示した(実施例参照)。あるいは、検出されたHCPは、「100万分の1(parts per million)」または「ppm」として表すこともでき、これはng/mgに等しく、または「ppb」「10億分の1(parts per billion)」として表すこともでき、これはpg/mgに等しい。
【0089】
一つの実施形態では、工程(c)の後に、HCPの量は、約200ng HCP/生成物mg(すなわち、ng/mg)未満;約150ng/mg未満;約100ng/mg未満;約50ng/mg未満;または約20ng/mg未満である。
【0090】
減少は、脂肪族カルボン酸塩を用いない対照洗浄工程と比較した場合、および/または精製前の溶液(例えば、清澄化未処理ブロス)と比較した場合に示され得る。
【0091】
一つの実施形態では、工程(c)の後の、従前に公開されている100mMのカプリル酸塩洗浄(例えば、WO2014/141150参照)と比較したHCPの相対減少倍率は、約2倍~約50倍である。よって、一つの実施形態では、工程(c)の後の、100mMのカプリル酸塩から本質的になる洗浄バッファーと比較したHCPの相対減少倍率は、約2倍~約50倍である。さらなる実施形態では、相対減少倍率は、少なくとも約2倍、5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍、45倍または50倍である。疑念を避けるため、「100mMのカプリル酸塩から本質的になる洗浄バッファー」という場合には、100mMのカプリル酸塩洗浄液の基本的特徴に実質的に影響を及ぼさない付加的成分、例えば、緩衝塩および/または酢酸ナトリウムの存在を排除しない。
【0092】
一つの実施形態では、本発明の洗浄工程後における、溶出液からの目的タンパク質の回収率は、100%~50%の範囲内のいずれの不連続の値も、またはこの範囲内の不連続の値のいずれの対によって定義されるいずれの部分範囲も含め、100%、99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、80%、70%、60%、50%以下である。一つの実施形態では、溶出液からの目的タンパク質の回収率は、70%を超える、例えば、75%、80%、85%、90% 95%または99%を超える。溶出液における回収率パーセント(%)は、溶出液中の目的タンパク質の量を、下式:
回収率パーセンテージ=溶出液中の生成物の量÷カラムに適用された生成物の量×100に従い、カラムに適用された目的タンパク質の量のパーセンテージとして求めることによって計算される。
溶出液中に存在する不純物(すなわち、宿主細胞タンパク質)の量は、ELISA、OCTET、または上記の不純物のうち1以上のレベルを決定するための他の方法によって決定することができる。本明細書に記載の実施例では、ELISA法がサンプル中のHCPのレベルを決定するために使用される。
【0093】
一つの実施形態では、宿主細胞タンパク質は、PLBL2(ホスホリパーゼB様2タンパク質)および/またはカテプシンLから選択される。
【0094】
一つの実施形態では、宿主細胞タンパク質はPLBL2である。よって、本発明の一つの側面では、ホスホリパーゼB様2タンパク質(PLBL2)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびPLBL2を含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約150mM~約850mMのカプリル酸塩を含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法が提供される。
【0095】
本発明の別の側面では、ホスホリパーゼB様2タンパク質(PLBL2)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびPLBL2を含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約55mM~約850mMのカプリル酸塩および約0.25M~約1.5Mのアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法が提供される。
【0096】
本発明の別の側面では、ホスホリパーゼB様2タンパク質(PLBL2)から組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびPLBL2を含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約100mMのカプリル酸塩および約1.1Mのアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法が提供される。
【0097】
PLBL2は、抗体、特に、mAb5(実施例参照)の下流処理中に、生成物分子への明らかな結合のために除去することが困難なHCP不純物であることが見出されている。よって、一つの実施形態では、組換えポリペプチドは、IgG抗体、特に、IgG4抗体などの抗体である。PLBL2量は、ELISA、例えば、本実施例に記載されている、またはWO2015/038884に開示されているPLBL2特異的ELISAなどの当技術分野で公知の方法を用いて測定することができる。
【0098】
カテプシンLプロテアーゼはCHO細胞培養中に生産され、それはmAb3生成物分子などの抗体を潜在的に分解し得る(実施例参照)。よって、一つの実施形態では、組換えポリペプチドは、IgG抗体、特に、IgG1抗体などの抗体である。
【0099】
一つの実施形態では、宿主細胞タンパク質はカテプシンLである。この実施形態では、カテプシンLからの組換えポリペプチドの精製は、工程(c)の溶出液中のカテプシンL活性の減少によって測定することができる(例えば、PromoKine PK-CA577-K142を用いる)。
【0100】
本発明の一つの側面では、カテプシンLから組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびカテプシンLを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約150mM~約850mMのカプリル酸塩を含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法が提供される。
【0101】
本発明の別の側面では、カテプシンLから組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびカテプシンLを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約55mM~約850mMのカプリル酸塩および約0.25M~約1.5Mのアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法が提供される。
【0102】
本発明の別の側面では、カテプシンLから組換えポリペプチドを精製する方法であって、(a)前記組換えポリペプチドおよびカテプシンLを含んでなる溶液をスーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体に適用すること、(b)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体を、約150mMのカプリル酸塩および約1.1Mのアルギニンを含んでなる洗浄バッファーで洗浄すること;ならびに(c)前記スーパー抗原クロマトグラフィー固相支持体から前記組換えポリペプチドを溶出することを含んでなる方法が提供される。
【0103】
本発明の一つの側面では、本明細書で定義される、精製方法のいずれか一つによって得られる精製された組換えポリペプチドが提供される。
【0104】
以下、本発明を以下の限定されない例を参照して説明する。
【0105】
ポリソルベート分解
ポリソルベート20およびポリソルベート80などのポリソルベートは、最終的な処方生成物中でタンパク質医薬品を安定化させるために広く使用されている非イオン性界面活性剤である。ポリソルベートは、医薬品中の残留酵素によって分解される可能性があり、これはその製品の最終的な有効期間に影響を及ぼし得る。理論に縛られるものではないが、本明細書に記載の方法は、最終生成物中の残留宿主細胞タンパク質の量を低減することによって分解されるポリソルベートを低減する。一つの実施形態では、分解されるポリソルベートの量は、約50%、約40%、約30%、約20%、約10%、約5%、約4%、約3%、約2%、または約1%未満である。
【実施例0106】
例1:タンパク質A洗浄液中におけるpHおよびカプリル酸ナトリウム濃度のスクリーニングおよび最適化
緒論
本明細書に記載の研究において、総てのmAb生成物に関して2カラム工程(タンパク質Aの後に陰イオン交換)を用いて十分なHCP除去を達成するためにタンパク質A洗浄液が最適化された。既存のプラットフォームプロセスは、多くの場合、必要とされるHCPレベルを達成するために第2のポリッシング工程を必要とする。クロマトグラフィー工程を無くすことで工程が簡単になり、より迅速なプロセス開発が可能となり、設備適合リスクが軽減できる。洗浄最適化の戦略は、HCP-mAb相互作用を崩壊させることによってHCPクリアランスを改善することであった。種々の洗浄添加剤および洗浄pHをスクリーニングした後、タンパク質A工程の総HCP除去率に関して最適化を行った。
【0107】
材料および方法
n-オクタン酸ナトリウム、氷酢酸、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、ベンジルアルコールおよびトリス塩基(trizma base)は、Sigma-Aldrich Chemical Co.(セントルイス,MO)から購入した。Millipore Milli-Q(商標)システムを用いてさらに精製した水を用いて溶液を作製した。いずれのpH調整も3Mトリス塩基または3M酢酸のいずれかを用いて行った。
【0108】
mAb生産のためのチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞培養
清澄化非濾過培養液(Clarified unfiltered broth)(CUB)は、mAb1(IgG1、pI=8.7、MW=149kDa)、mAb2(IgG1、pI=8.3、MW=149kDa)、mAb3(IgG1、pI=7.9、MW=149kDa)、mAb4(IgG1、pI=8.6、MW=148kDa)、またはmAb5(IgG4、pI=7.1、MW=145kDa)などのいくつかのGSK mAb生成物のうち1つを含んでいた。本試験で使用される総てのmAbを生産および採取するために同様の方法を用いた。例えば、mAb1は、2リットルの反応槽に生細胞数1.23~1.24mM/mLおよび生存率約93.8%の、mAb1発現DG44細胞を播種することによって作製した。次に、培養物を約34℃、pH約6.9、および6g/Lのグルコースで16日間維持した。振盪速度は約300rpmで維持した。培養後、非清澄化細胞およびmAbを含有する培養液に10,000gで20分間バッチ遠心分離を行った。その後、Nalgeneからの0.45μMおよび0.2μM SFCAフィルターで培養液を真空濾過した。
【0109】
タンパク質A精製
GE HealthcareからのMabSelect SuRe(商標)(MSS)タンパク質A樹脂を0.5cm径のカラムに最終ベッド高25cmまで充填した。樹脂は、AKTA Avant 25を用いて2時間、475cm/時の線形流量で0.4MのNaCl中、重力沈降後に流動充填した。充填品質は、非対称を確認するための2M NaCl 100μLの注入によって評価したところ、1.0+/-0.2および少なくとも1000プレート/メートルであった。総てのタンパク質A試験で、35mg mAb/mL樹脂のロード比を用い、総てのプロセス流量は300cm/時の線形速度に相当した。タンパク質Aクロマトグラフィー法およびバッファーを表2に記載する。
【0110】
【表2】
【0111】
洗浄の最適化
従前の研究で、除去が困難な多くのHCP不純物はmAbと直接会合していることが示された(Levy et al., (2014) Biotechnol. Bioeng. 111(5):904-912; Aboulaich et al., (2014) Biotechnol. Prog. 30(5):1114-1124);HCP-mAb相互作用を崩壊させる溶液条件は、タンパク質A洗浄工程の際に改善されたHCPクリアランスを提供する可能性があり、この研究では、種々の洗浄溶液をスクリーニングし、この目的で最適化した。具体的には、異なる濃度のカプリル酸ナトリウムを種々のpHで含有する洗浄溶液を、サンプルロード後、溶出前に、タンパク質Aに吸着されたmAbからHCPを除去するために使用した。各洗浄液のHCP除去の有効性を評価および定量するために、以下のELISA法の節に記載したように、HCP ELISAを所内で開発した。カプリル酸ナトリウムをタンパク質A洗浄液中に使用した場合に、ロバストなHCPクリアランスを提供することが従前に見出されている。しかしながら、従前の研究では、100mM未満のカプリル酸ナトリウム濃度およびpH7.5に限定され、初期のスコーピング試験の後に濃度およびpHの範囲にわたるカプリル酸ナトリウムタンパク質A洗浄液の挙動の特徴評価を行うための曲面中心複合計画試験(spherical central composite design study)が行われた。これらの計画は、以下の表3および4に示される。統計モデリングは以下の統計分析法の節に従って完成させた。
【0112】
分析
タンパク質A収率
タンパク質A収率は、Nanodrop 2000c(Thermo Scientific)を用いて溶出液中のmAb濃度を測定することによって決定した。3つの溶出液サンプルのNanodropの読み取り値の平均を取ってタンパク質濃度を決定し、タンパク質A溶出液中の総mAb含量を、mAb濃度に溶出液容量(クロマトグラムから決定)を掛けることによって計算した。ロード中のmAb濃度を、Agilent 1100シリーズHPLCにてPOROS(商標)A 20μMカラムを用いて決定した。分析用タンパク質Aでの各CUBサンプルの生データを各mAbについて既知濃度を有する標品と比較して力価を決定した。総ロード容量に測定された力価を掛けてロードされたmAbの総量を計算し、溶出液中の総mAbをロード中の総mAbで割ることによって収率を計算した。
【0113】
宿主細胞タンパク質(HCP)濃度の測定:HCP ELISA
CHO由来生成物サンプル中の免疫原性HCPの総量を定量するために、HCP ELISAを用いた宿主細胞タンパク質分析法を所内で開発した(Mihara et al., (2015) J. Pharm. Sci. 104: 3991-3996)。このHCP ELISAは、特注のヤギ抗CHO HCPポリクローナル抗体と、CHO由来生成物にわたる多製品用の所内生産したHCP参照標品を用いて開発した。
【0114】
統計分析
HCPクリアランスおよび収率に関して洗浄性能を分析するために、スコーピング実験および中心複合計画試験を行った。これらの因子は両方とも-1,1単位スケールとし、これらのデータに一般線形モデルを当てはめた。各応答に別のモデルを当てはめた。最終的なモデルが選択されたところで、残差に対するモデル仮定を評価し、適当であれば変換を行った。全モデル項を5%有意水準に対して評価し、総ての二次因子項を含む全モデルで始めて、変数減少法(backwards elimination)を実施した。
【0115】
MabSelect SuReの平衡等温線測定
MabSelect SuRe(商標)樹脂をDI水にバッファー交換して約50%スラリーを作製した。このスラリーをResiQuotに適用し、家庭用真空ラインで乾燥させ、20.8μLの樹脂プラグを96ディープウェルプレートに分配した。別の96ウェルプレートで、100、250および500mMのカプリル酸ナトリウムを含む0~10mg/mLのタンパク質溶液を作製した。各溶液に関してタンパク質濃度を測定した後、各樹脂プラグに1mLを加えた。この樹脂-タンパク質混合物を振盪しながら一晩平衡化した。樹脂を濾過により直接UV96ウェルプレート中に取り出し、終濃度を測定した。吸着されたタンパク質濃度qは下式を用いて計算した。
【0116】
【数1】
【0117】
結果および考察
本節に示される結果は、高濃度のカプリル酸ナトリウム(>100mM)は、タンパク質Aクロマトグラフィー中に、従前に公開されているカプリル酸ナトリウムベースのタンパク質A洗浄バッファーよりも有意に多い宿主細胞タンパク質(HCP)を除去することを実証する。このことは、モデルとして、比較的高いHCPレベルを有するいくつかのmAbを用いて実証され、統計的実験計画によって確認され、試験したmAbに関するCUB(タンパク質Aロード)は、10および10ng/mgのHCP濃度を有した。
【0118】
本試験の主要な目的は、タンパク質Aクロマトグラフィー工程のHCPクリアランスに及ぼす洗浄バッファーのカプリル酸ナトリウム濃度およびpHの影響を評価することであった。主要な目的は二要素であった。第一には、カプリル酸ナトリウム濃度およびpHの全試験範囲でHCPに及ぼす影響を理解することであった。両パラメーターの全範囲を探究するためにスコーピング計画を用い(表3)、最大カプリル酸ナトリウム濃度は1Mであり、pH範囲は7~9であった。第二の目的は、許容可能な工程収率を維持しながらHCPクリアランスに関してカプリル酸ナトリウム濃度およびpHを最適化することであった。この最適化のために曲面中心複合計画(spherical Central Composite Design)(CCD、表4)を用いた。スコーピングおよびCCDの両試験では、モデルmAbとしてmAb1を使用した。これらの初期試験からの所見をさらなるmAbに関して検討した。スコーピングおよびCCDの両方からの結果を以下に示す。
【0119】
【表3】
【0120】
【表4】
【0121】
CCD試験から得られた結果を表5に示す。全体的に見れば、タンパク質A洗浄バッファーのpHがHCPクリアランスに及ぼす影響は最小であった。500mMまたは750mMのカプリル酸ナトリウムを含有する洗浄液は、試験した全pH範囲でほぼ同一のHCPレベルを有した。統計分析は方法の節に記載のとおりに行った。簡単に述べれば、各応答(収率およびHCP)に別のモデルを当てはめ、モデル項を、F検定を用いて5%有意水準に対して評価した。F検定により、洗浄pHがHCP濃度に対して統計的に有意な効果を持たなかったことが確認された。また、同様の統計分析によってpHが収率%に関して有意な因子ではないことも確認された。
【0122】
【表5】
【0123】
CCD結果の統計分析により、カプリル酸ナトリウム濃度は、HCPクリアランスおよび収率%の両方に関して、線形項および二次項の両方を有する有意な因子であることが確認された。HCP濃度(ng/mg)は、カプリル酸ナトリウム濃度が0から1Mに殖えると2桁減少した(図1-収率%(三角、▲)およびHCP濃度(四角、黒四角))。しかしながら、カプリル酸ナトリウム濃度が250mMを超えると、収率は90%超から70%に低下する(図1)。カプリル酸ナトリウムの濃度が250mMを超える場合のこの工程収率の大きな低下は、カプリル酸塩ミセルの形成による可能性がある。タンパク質A洗浄バッファーにおけるカプリル酸塩の臨界ミセル濃度(CMC)は、実験的に340mMであると決定された。カプリル酸ナトリウムの濃度が250mMから500mMに引き上げられた場合、収率には15%の低下が見られ、HCPには2.8%の低減が見られるにすぎなかった。このことは、遊離型のカプリル酸ナトリウムがHCP除去のために活性な形態であるが、CMCを超える濃度は、カプリル酸塩ミセルが収率低下をもたらすために減収を示すことを示し得る。
【0124】
例2:収率低下および可能性のある軽減戦略の検討
CMCを超える場合の収率%の低下は、遊離型のカプリル酸塩ではなくカプリル酸塩ミセルがタンパク質A工程の収率を低下し得ることを示唆する。この収率低下の性質を決定するために、種々のカプリル酸ナトリウム洗浄液を用い、タンパク質Aプロセスの溶出液、ストリップ、および洗浄画分においてmAb濃度を測定した(図2)。この結果は、高いカプリル酸ナトリウム濃度での収率低下が洗浄工程中の脱着によるものであったことを実証する。
【0125】
高カプリル酸ナトリウム洗浄中の収率低下をさらに特徴付けるために、高カプリル酸ナトリウム濃度でのmAb能の低下を調べる目的で平衡結合等温線を測定した(図3)。従前に公開されている、100mMのカプリル酸ナトリウムを含有するカプリル酸塩洗浄液は、ラングミュア等温式に当てはめた場合、最大結合能57g/Lを有した。250mMのカプリル酸ナトリウムでは、吸着等温式は同様であったが、500mMのカプリル酸ナトリウムでは、ラングミュア等温式の適合は不十分であった。この結果により、高濃度のカプリル酸ナトリウム洗浄液はタンパク質A樹脂の結合能を低下させ、収率低下を招くことが確認された。
【0126】
収率低下の原因を決定した後、収率低下を軽減する方法を検討した。検討した2つの戦略は、洗浄容量の引き下げとロード比の引き下げであった。250mMのカプリル酸ナトリウム洗浄液を4、6、および8CVで試験した。洗浄長を8CVから4CVに短縮すると、わずか2%の収率増大を示し(表6)、HCP濃度は31.0ng/mgから35.8ng/mgに増加するにすぎなかった。このことは、高カプリル酸ナトリウム洗浄液が初期のスコーピング試験およびCCD試験で試験されたものよりも少容量で許容可能なHCPレベルを達成できることを示し、また、洗浄容量を少なくしても高カプリル酸ナトリウム濃度による結合の低下を補償しないことも示された。
【0127】
【表6】
【0128】
タンパク質A捕捉中のロード比の低下もまた、高濃度カプリル酸ナトリウム洗浄中の収率低下の軽減策として検討した(表7)。ロード比を30mg/mlから10mg/mlに引き下げると、収率は、250mMおよび500mMのカプリル酸ナトリウム洗浄液に関してそれぞれ4.7%および7.7%増大した。ロード比がタンパク質A溶出液中のHCP濃度に及ぼす影響は最小であった。
【0129】
【表7】
【0130】
例3:さらなるmAbを用いた場合の改良された洗浄の性能
先行するタンパク質A洗浄最適化試験は、モデル生成物としてmAb1のみを用いて行った。CCD試験により、pHはHCP除去に関して有意な因子ではないことが確認された。統計分析およびその後の収率検討で、400mMまでのカプリル酸ナトリウム濃度が最適であることが示された。250mMのカプリル酸ナトリウム洗浄液のHCP除去がこれまでに開発された100mMのカプリル酸ナトリウム洗浄液よりも改良されていることを確認するために、この節ではさらなるmAbを試験した。5種類のmAbに関してタンパク質A溶出液中のHCP濃度を、100mMまたは250mMのいずれかのカプリル酸ナトリウムを含有する洗浄液で比較した(図4)。1つのmAb(mAb3)は、より高レベルのHCPを伴う高細胞密度法と他の供試分子に匹敵する標準法の2つの別個の上流工程を起源とした。
【0131】
mAb2を除き、ここで試験した総てのmAbが、250mMのカプリル酸ナトリウム洗浄液を用いた場合にタンパク質A溶出液中に100ng/mg未満を有した。ほとんどの場合、HCP濃度は、単に洗浄液中のカプリル酸ナトリウム濃度を高めることによっておよそ一桁改善した。加えて、これらのmAbは、カプリル酸ナトリウム濃度が上昇しても、許容可能な工程収率と生成物品質を有した。
【0132】
例4:カプリル酸ナトリウムベースのタンパク質A洗浄液に対するアルギニンの添加 アミノ酸であるアルギニンは、脂肪酸であるカプリル酸ナトリウムに比べて、極めて異なる物理的および化学的特性を有する。これらの2つの添加物間の構造的な違いが次元の異なるHCP除去機構をもたらし得る、すなわち、アルギニンとカプリル酸塩の混合物が単一成分だけを含有する洗浄液よりも良好なHCP除去を示し得るとの仮説を立てた。カプリル酸塩/アルギニン混合物に関して総HCP除去および特定のHCP除去の両方を評価するために以下の試験を行った。
【0133】
カプリル酸塩/アルギニンタンパク質A洗浄バッファーを用いた場合の総HCPクリアランス
カプリル酸ナトリウムとアルギニンの組合せを含有するタンパク質A洗浄バッファーを、mAb1およびmAb2を用いて試験した。mAb2に関する結果を図5に示す。100mMのカプリル酸ナトリウムまたは750mMのアルギニン単独を含有するタンパク質A洗浄バッファーでは、700~1300ng/mgのHCP濃度となった。カプリル酸ナトリウム濃度を250mMに引き上げると、HCPクリアランスに、上述の「高カプリル酸ナトリウム」結果と一致する大きな改善がもたらされた。250mMのカプリル酸ナトリウムを含有するpH8.5の洗浄液では、タンパク質A溶出液中に273ng/mgHCPという結果になった。カプリル酸塩ベースのタンパク質A洗浄液にアルギニンを添加すると、HCP除去がさらに改善され、pH7.5または8.5のいずれかの、750mMアルギニンを含む250mMのカプリル酸ナトリウムは、それぞれ209および144ng/mgのHCP濃度という結果となった。
【0134】
同様のカプリル酸塩/アルギニン試験を、mAb1を用いて行った。mAb1は、「標準的」流加バイオリアクターと高細胞密度法の2つの別個の上流プロセスを起源とした。高細胞密度法は、より高い生成物力価およびHCP濃度をもたらした。これは「最悪の場合」の供給材料として本試験に含められた。結果を図6に示す。
【0135】
全体的に見れば、mAb1の結果は、図5に示されたmAb2所見と同様である。標準的mAb1供給流および高密度材料の両方に関して、カプリル酸ナトリウムを100mMから250mMに引き上げることによりHCPクリアランスの改善が見られた。加えて、500mMのアルギニンは、いずれかのカプリル酸ナトリウム単独洗浄液よりも良好なHCPクリアランスを示した。しかしながら、混合物としてまたは逐次的洗浄を適用することによる、カプリル酸ナトリウムおよびアルギニンの両方による洗浄は、個々のいずれかの成分を超えるHCPクリアランスの改善を示した。最高性能は、250mMのカプリル酸ナトリウムと750mMのアルギニンを含有するpH8.5の洗浄液であった。高カプリル酸ナトリウムとアルギニンのこの組合せは、高密度および標準mAb1に関してそれぞれ113および67ng/mgのタンパク質A溶出液をもたらした。
【0136】
例5:PLBL2を除去するためのカプリル酸塩/アルギニンタンパク質A洗浄液する PLBL2は、生成物分子への明らかな結合のために、IgG4であるmAb5の下流処理では除去が困難な特定のHCP不純物である。この特定のHCP不純物は、下流処理中にIgG4生成物と結合することが従前に判明している。PLBL2はまた、HCP ELISA分析中に「希釈性の非線形性」を生じる。高カプリル酸ナトリウム濃度および/またはアルギニンを含有するタンパク質A洗浄液を、mAb5に対して、タンパク質A工程中のPLBL2除去に関して試験した。
【0137】
洗浄液は、pH7.5~8.5にて750mMまでのカプリル酸ナトリウム濃度および1Mまでのアルギニン濃度で試験した。各タンパク質A洗浄試験に関して、総PLBL2濃度(図7、PLBL2特異的ELISAを用いて測定)を、総HCP(図8)、および工程収率(図9)とともに報告した。
【0138】
PLBL2濃度は、種々の試験洗浄液に関してほぼ1~600ng/mgと変動があった。アルギニン不含で100mM未満のカプリル酸ナトリウムを含有する洗浄液の性能は最悪であり、およそ600ng/mg PLBL2を含むタンパク質A溶出液をもたらした。カプリル酸ナトリウム濃度を250mMに引き上げると、PLBL2は約100ng/mgに低減され、250mMを超えるカプリル酸ナトリウム濃度は、PLBL2を約50ng/mgまで低減し続けただけでなく、収率の低下ももたらした。総HCPもまた、カプリル酸ナトリウムの増大に伴って一般に低下した。
【0139】
アルギニンを含有するタンパク質A洗浄液は、PLBL2クリアランスという点で最も成功し、それらはまた総HCPの良好な除去も示した。カプリル酸ナトリウム不含の1000mMのアルギニンは、約10ng/mgのPLBL2および62ng/mgのHCPをもたらした。高濃度のアルギニンは有意な収率低下を招かなかった。
【0140】
カプリル酸ナトリウムとアルギニンの組合せは、mAb5に関して、最も有効な洗浄液であった。具体的には、1Mのアルギニンを含む250mMのカプリル酸ナトリウム、pH7.5または8.5は、約90%の工程収率を維持しながら、2~3ng/mgのPLBL2および約20~30ng/mgのHCPをもたらした。1Mのアルギニンおよび100mMのカプリル酸ナトリウムを含有する洗浄液もまた成功したが、やや高いPLBL2およびHCP濃度をもたらした。
【0141】
例6:カテプシンL活性の低減のためのカプリル酸塩/アルギニン洗浄液
カプリル酸ナトリウムおよびアルギニンを含有するタンパク質A洗浄液を、mAb3を用い、カテプシンLクリアランス能に関して試験した。カテプシンLプロテアーゼは、CHO細胞培養中に生産され、mAb3生成物分子を分解する可能性がある。カテプシンLはタンパク質A工程中にmAb3から除去されないことが示されている。100mMのカプリル酸ナトリウム、250mMのカプリル酸ナトリウム、1000mMのアルギニンを伴う100mMのカプリル酸ナトリウム、および750mMのリシンを伴う100mMの カプリル酸ナトリウムを含有する洗浄液を試験した。
【0142】
この特定の生成物に対する、250mMのカプリル酸ナトリウムを含有する洗浄液は、予期しないタンパク質A溶出挙動をもたらし、通常、約2カラム容量で行われる低pH溶出が、10カラム容量にわたって拡大された。加えて、250mMのカプリル酸ナトリウム洗浄液を試験した場合、mAb3タンパク質A溶出液は、極めて高い凝集物を含んでいた(SECにより測定)。この挙動は、高カプリル酸ナトリウム洗浄液を用いて試験した他のいずれの生成物にも見られなかった。
【0143】
アルギニンまたはリシンを含有するタンパク質A洗浄液は、250mMのカプリル酸ナトリウム単独を用いた場合に見られた拡大溶出挙動を示さなかった。3種類の異なる洗浄液(100mMのカプリル酸塩(「プラットフォームmsss溶出液」);250mMのカプリル酸塩、1Mのアルギニン(「cap/arg msss溶出液」);250mMのカプリル酸塩、750mMのリシン(「cap/lys msss溶出液」))に関して、タンパク質A溶出液中で測定されたカテプシンL活性を図10に報告し、タンパク質A溶出容量を表8に示す。測定された活性は、100mMのカプリル酸ナトリウム、1000mMのアルギニン洗浄液を用いた場合に有意に低減され、続いての安定性試験で、100mMのカプリル酸ナトリウム洗浄液に比べてこの洗浄液を用いて調製された材料では、断片化が減少したことが示された。アルギニンよりもむしろ750mMのリシンの添加が大きな溶出容量を首尾良く低減したが、カテプシンL活性は有意に低減しなかった。カプリル酸ナトリウムと1000mMのアルギニンの組合せは、妥当な溶出容量および許容可能な生成物品質属性を維持しながらカテプシンLおよび総HCPクリアランスの改善をもたらす。
【0144】
【表8】
【0145】
例7:HCPを除去するためのカプリル酸塩/アルギニンタンパク質A洗浄液
カプリル酸ナトリウムおよびアルギニンを含有するタンパク質A洗浄液を、mAb3を用い、HCPクリアランス能に関して試験した。洗浄バッファー濃度および結果として得られたHCP濃度の概略を下表9に示す。アルギニン/カプリル酸塩洗浄液は、mAb3に関してカプリル酸塩単独洗浄液に匹敵した。
【0146】
150mMのカプリル酸塩洗浄液は、100mMのカプリル酸塩洗浄液よりも有意に高いHCPクリアランスをもたらす。1.1Mのアルギニンと150mMのカプリル酸塩の組合せは、有意な因子によってHCPクリアランスをさらに改善する。タンパク質A工程中のHCPクリアランスの改善は、カプリル酸塩単独工程において必要とされた最終ポリッシングクロマトグラフィー工程の除去を可能にした。
【0147】
【表9】
【0148】
例8:mAb3の断片化の低減
カプリル酸ナトリウムおよびアルギニンを含有する洗浄液を用いたmAb3のタンパク質A精製を、精製中の抗体の断片化に関して試験した。100mMのカプリル酸塩洗浄液を含有する3バッチの洗浄バッファー、および150Mのカプリル酸塩と1.1Mのアルギニンを含有する2バッチの洗浄バッファーを含めてデータを取得した(図11~13)。
【0149】
図11は、全下流工程中の抗体の断片化パーセント(SEC HPLCを用いて測定)を示す。図12は、工程中のHCP濃度を示す。カプリル酸塩/アルギニンバッチは、工程中に有意な抗体断片化の生成を示さないが、カプリル酸塩単独バッチは、第3のポリッシング工程(カプリル酸塩/アルギニン洗浄液では不要)後に有意な抗体断片化の生成を示す。
【0150】
加えて、両工程(カプリル酸塩単独およびカプリル酸塩+アルギニン)によって生産された原薬の安定性を比較した。カプリル酸塩+アルギニン工程から得られた原薬は、摂氏25度にて10日以内に抗体の断片化を生じず、カプリル酸塩単独工程から得られた原薬は、摂氏25度にて10日で有意な抗体の断片化を生じる(図13)。
【0151】
洗浄バッファーにおけるカプリル酸塩とアルギニンの組合せは、カテプシンLのクリアランスを改善するため、下流工程で抗体の断片化の生成を有意に低減する。
【0152】
結論
タンパク質A工程中のHCPクリアランスは、HCP-mAb相互作用を最小化するために洗浄バッファーを修正することによって最適化された。初期スクリーニング試験では、タンパク質A洗浄バッファーのpH(7~9で変動)は、HCPクリアランスまたは工程収率に有意に影響を及ぼさないと結論付けられた。カプリル酸ナトリウム濃度は、工程収率およびHCP除去の両方に強い効果を有する。極めて高いカプリル酸ナトリウム濃度(CMCを超える)では、HCPクリアランスは最適であるが、工程収率は極めて低い。この試験では、250mMのカプリル酸ナトリウムを含有するタンパク質A洗浄液の使用が、許容可能な工程収率を維持しながら、これまでに使用された100mMのカプリル酸ナトリウム洗浄液に比べてHCPクリアランスの大きな改善をもたらすことが見出された。この試験ではまた、250mMのカプリル酸ナトリウムと500~1000mMのアルギニンの組合せを含有するタンパク質A洗浄液が、カプリル酸ナトリウム単独を含有する洗浄液に比べて高いHCPクリアランスを有することが見出された。カプリル酸ナトリウムおよびアルギニンを含有するタンパク質A洗浄液は、それぞれmAb3およびmAb5からカテプシンLおよびPLBL2(2つは特に除去が困難な不純物である)を首尾良く除去することが見出された。
【0153】
本明細書に記載された実施形態は、本発明の総ての側面に適用可能であると理解される。さらに、限定されるものではないが、特許および特許出願を含め、本明細書に引用されている総ての刊行物は、全内容が示されている場合と同じく、引用することにより本明細書の一部とされる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【外国語明細書】