(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037867
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】一価選択性カチオン交換膜
(51)【国際特許分類】
C08J 5/22 20060101AFI20240312BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240312BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240312BHJP
C02F 1/469 20230101ALI20240312BHJP
B01D 61/46 20060101ALI20240312BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20240312BHJP
【FI】
C08J5/22 101
C08J5/22 CEY
B01D69/00
B01D69/02
C02F1/469
B01D61/46 500
C02F1/44 A
C02F1/44 D
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023209988
(22)【出願日】2023-12-13
(62)【分割の表示】P 2021512229の分割
【原出願日】2019-09-25
(31)【優先権主張番号】62/736,176
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/737,373
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/861,608
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】513180152
【氏名又は名称】エヴォクア ウォーター テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Evoqua Water Technologies LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ グ
(72)【発明者】
【氏名】サヴァス ハジキリアコウ
(72)【発明者】
【氏名】サイモン ピー デュークス
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ジェイ ショー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】一価選択性カチオン交換膜を製造する方法、一価選択性イオン交換膜、および水処理システムを提供する。
【解決手段】一価選択性カチオン交換膜を製造する方法は、クロロスルホン化メタクリレート基を備えるアクリル中間層をポリマー微孔性基板の表面上の架橋イオン移動ポリマー層に化学的に吸着させることと、クロロスルホン化メタクリレート基をアミノ化してアミン基層を付着させることと、アミン基層を荷電化合物層で官能化してカチオン交換膜を製造することを含み得る。一価選択性カチオン交換膜を含む水処理システム、および一価選択性カチオン交換膜を提供することを含む水処理を容易にする方法も開示されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一価選択性カチオン交換膜を製造する方法であって、
クロロスルホン化メタクリレート基を備えるアクリル中間層を、ポリマー微孔性基板の
表面上の架橋イオン移動ポリマー層に化学的に吸着させるステップと、
前記クロロスルホン化メタクリレート基をアミノ化して、アミン基層を前記ポリマー微
孔性基板の表面に付着させるステップと、
前記アミン基層を荷電化合物層で官能化して、一価選択性カチオン交換膜を生成するス
テップと、
を含む、方法。
【請求項2】
紫外線への曝露によって前記アクリル中間層を重合することを含む、請求項1に記載の
方法。
【請求項3】
ポリマー微孔性基板の表面上の前記架橋イオン移動ポリマー層に2-(メタクリロイル
オキシ)-エチルスルホニルクロリドを化学的に吸着することを含む、請求項1に記載の
方法。
【請求項4】
前記2-(メタクリロイルオキシ)-エチルスルホニルクロリドをPEIでアミノ化す
ることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも600g/molの分子量を有する分岐PEIで前記2-(メタクリロイル
オキシ)-エチルスルホニルクロリドをアミノ化することを含む、請求項3に記載の方法
。
【請求項6】
前記アミン基層を正に帯電した基で官能化することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記アミン基層を正に帯電したアンモニウムで官能化することを含む、請求項6に記載
の方法。
【請求項8】
前記ポリマー微孔性基板を、イオン生成モノマー、多官能性モノマー、および重合開始
剤を含む溶液に浸漬して、前記架橋イオン移動ポリマー層を生成することをさらに含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ポリマー微孔性基板と、
前記基板の表面上の架橋イオン移動ポリマー層と、
アクリル基によって前記架橋イオン移動ポリマー層に共有結合した荷電官能化層と、
を備える、一価選択性イオン交換膜。
【請求項10】
前記膜は、約20μm~約155μmの総厚を有する、請求項9に記載の一価選択性イ
オン交換膜。
【請求項11】
前記膜は、約25μm~約55μmの総厚を有する、請求項10に記載の一価選択性イ
オン交換膜。
【請求項12】
前記アクリル基は、メタクリレート基である、請求項9に記載の一価選択性イオン交換
膜。
【請求項13】
前記帯電した官能化層は正に帯電した官能化層であるカチオン交換膜である、請求項9
に記載の一価選択性イオン交換膜。
【請求項14】
前記正に帯電した官能化層は、スルホン酸基、カルボン酸基、第四級アンモニウム基、
および正に帯電したアンモニウムに加水分解された第三級アミン基のうちの少なくとも1
つを備える、請求項13に記載の一価選択性イオン交換膜。
【請求項15】
前記帯電した官能化層は負に帯電した官能化層であるアニオン交換膜である、請求項9
に記載の一価選択性イオン交換膜。
【請求項16】
少なくとも100%の対イオン選択透過性を有する、請求項9に記載の一価選択性イオ
ン交換膜。
【請求項17】
約5Ω-cm2未満の抵抗率を有する、請求項9に記載の一価選択性イオン交換膜。
【請求項18】
ポリマー微孔性基板と、
前記基板の表面上の架橋イオン移動ポリマー層と、
表面アミン基を備えアクリル基によって前記架橋イオン移動ポリマー層に共有結合して
いる中間層と、
を備える、一価選択性カチオン交換膜支持体。
【請求項19】
前記アクリル基は、メタクリレート基である、請求項18に記載の一価選択性カチオン
交換膜支持体。
【請求項20】
前記メタクリレート基は、2-(メタクリロイルオキシ)-エチルスルホニルクロリド
である、請求項19に記載の一価選択性カチオン交換膜。
【請求項21】
前記表面アミン基は、第一級アミン基または第二級アミン基である、請求項18に記載
の一価選択性カチオン交換膜支持体。
【請求項22】
前記中間層は、ポリエチレンイミン(PEI)を備える、請求項21に記載の一価選択
性カチオン交換膜支持体。
【請求項23】
前記中間層は、少なくとも600g/molの分子量を有する分岐PEIを備える、請
求項21に記載の一価選択性カチオン交換膜支持体。
【請求項24】
処理される水源と、
前記処理される水源に流体的に接続されアクリル基によってカチオン交換膜の表面に共
有結合された荷電官能化層を有する少なくとも1つの一価選択性カチオン交換膜を備える
電気化学的分離装置と、
前記電気化学的分離装置に流体接続された処理水出口と、
を備える水処理システム。
【請求項25】
前記処理される水源は、Ca2+およびMg2+から選択される少なくとも1つの硬度
イオンを備える、請求項24に記載の水処理システム。
【請求項26】
前記帯電した官能化層は、スルホン酸基、カルボン酸基、第四級アンモニウム基、およ
び正に帯電したアンモニウムに加水分解された第三級アミン基のうちの少なくとも1つを
含む正に帯電した官能化層である、請求項24に記載の水処理システム。
【請求項27】
前記帯電した官能化層は、化学的に吸着された分岐PEI層によって前記カチオン交換
膜の前記表面に共有結合している、請求項26に記載の水処理システム。
【請求項28】
アクリル基によって前記カチオン交換膜の表面に共有結合した荷電官能化層を有する一
価選択性カチオン交換膜を提供するステップと、
前記電気化学的分離装置に前記一価選択性カチオン交換膜を取り付けるようにユーザに
指示するステップと、
を含む、電気化学的分離装置を用いて水処理を容易にする方法。
【請求項29】
前記電気化学的分離装置をCa2+およびMg2+から選択される少なくとも1つの硬
度イオンを含む処理される水源に流体接続するように前記ユーザに指示することを含む、
請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記一価選択性カチオン交換膜を提供することは、
アクリル基によってポリマー微孔性基板の表面に共有結合したアミン基層を有する高分
子微孔性基板を有する一価選択性カチオン交換膜支持体を提供するステップと、
前記アミン基層を荷電化合物層で官能化してカチオン交換膜を生成するようにユーザに
指示するステップと、
を含む、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許法第119条(e)の下で、2018年9月27日に出願された“
Monovalent selective cation exchange mem
brane”と題する米国仮特許出願第62/737,373号と、2018年9月25
日に出願された“Cation Exchange Membrane Through
UV Initiated Polymerization”と題する米国仮特許出願
第62/736,176号と、2019年6月14日に出願された“Exchange
Membrane Preparation by UV Light Polymer
ization”と題する米国仮特許出願第62/736,176号と、に基づく優先権
を主張し、これらのそれぞれは、すべての目的のためにその全体が参照により本明細書に
援用される。
【技術分野】
【0002】
本明細書に開示される態様および実施形態は、一般に、イオン交換膜、より具体的には
、一価選択性イオン交換膜に関連している。
【発明の概要】
【0003】
一態様によれば、一価選択性カチオン交換膜を製造する方法が提供される。この方法は
、クロロスルホン化メタクリレート基を備えるアクリル中間層を、ポリマー微孔性基板の
表面上の架橋イオン移動ポリマー層に化学的に吸着させることを含み得る。この方法は、
クロロスルホン化メタクリレート基をアミノ化して、アミン基層をポリマー微孔性基板の
表面に付着させることを含み得る。この方法は、アミン基層を荷電化合物層で官能化して
、一価選択性カチオン交換膜を生成することを含み得る。
【0004】
この方法は、紫外線(UV)光への曝露によってアクリル中間層を重合することを含み
得る。
【0005】
いくつかの実施形態では、この方法は、ポリマー微孔性基板の表面上の架橋イオン移動
ポリマー層に2-(メタクリロイルオキシ)-エチルスルホニルクロリドを化学的に吸着
することを含み得る。
【0006】
この方法は、2-(メタクリロイルオキシ)-エチルスルホニルクロリドをPEIでア
ミノ化することを含み得る。
【0007】
この方法は、2-(メタクリロイルオキシ)-エチルスルホニルクロリドを、少なくと
も600g/molの分子量を有する分岐PEIでアミノ化することを含み得る。
【0008】
この方法は、アミン基層を正に帯電した基で官能化することを含み得る。
【0009】
この方法は、正に帯電したアンモニウムでアミン基層を官能化することを含み得る。
【0010】
この方法は、ポリマー微孔性基板をイオン生成モノマー、多官能性モノマー、および重
合開始剤を含む溶液に浸漬して、架橋イオン移動ポリマー層を生成することをさらに含み
得る。
【0011】
別の態様によれば、一価選択性イオン交換膜が提供される。一価選択性イオン交換膜は
、ポリマー微孔性基板を備え得る。一価選択性イオン交換膜は、基板の表面上に架橋イオ
ン移動ポリマー層を備え得る。一価選択性イオン交換膜は、アクリル基によって架橋イオ
ン移動ポリマー層に共有結合された荷電官能化層を備え得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、膜は、約20μm~約155μmの総厚を有し得る。膜の総
厚は約25μm~約55μmであり得る。
【0013】
アクリル基は、メタクリレート基であり得る。
【0014】
一価選択性イオン交換膜は、カチオン交換膜であり得る。帯電した官能化層は、正に帯
電した官能化層であり得る。
【0015】
いくつかの実施形態において、正に帯電した官能化層は、スルホン酸基、カルボン酸基
、第四級アンモニウム基、および正に帯電したアンモニウムに加水分解された第三級アミ
ン基のうちの少なくとも1つを備え得る。
【0016】
一価選択性膜は、アニオン交換膜であり得る。帯電した官能化層は、負に帯電した官能
化層であり得る。
【0017】
一価選択性イオン交換膜は、少なくとも100%の対イオン選択透過性を有し得る。
【0018】
一価選択性膜は、約5Ω-cm2未満の抵抗率を有し得る。
【0019】
別の態様によれば、一価選択性カチオン交換膜支持体が提供される。一価選択性カチオ
ン交換膜支持体は、ポリマー微孔性基板を備え得る。一価選択性カチオン交換膜支持体は
、基板の表面上に架橋イオン移動ポリマー層を備え得る。一価選択性カチオン交換膜支持
体は、アクリル基によって架橋イオン移動ポリマー層に共有結合したアミン基を備える中
間層を備え得る。
【0020】
いくつかの実施形態において、アクリル基は、メタクリレート基であり得る。
【0021】
メタクリレート基は、2-(メタクリロイルオキシ)-エチルスルホニルクロリドであ
り得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、中間層は、第一級アミン基または第二級アミン基を備え得る
。
【0023】
中間層は、ポリエチレンイミン(PEI)を備え得る。
【0024】
中間層は、少なくとも600g/molの分子量を有する分岐PEIを備え得る。
【0025】
別の態様によれば、水処理システムが提供される。水処理システムは、処理される水源
を備え得る。水処理システムは、処理される水源に流体的に接続され、アクリル基によっ
てカチオン交換膜の表面に共有結合された荷電官能化層を有する少なくとも1つの一価選
択性カチオン交換膜を備える、電気化学的分離装置を備え得る。水処理システムは、電気
化学的分離装置に流体的に接続された処理水出口を備え得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、処理される水源は、Ca2+およびMg2+から選択される
少なくとも1つの硬度イオンを含み得る。
【0027】
いくつかの実施形態において、荷電官能化層はスルホン酸基、カルボン酸基、第四級ア
ンモニウム基、および、正に帯電したアンモニウムに加水分解された第三級アミン基のう
ちの少なくとも1つを含む正に帯電した官能化層であり得る。
【0028】
いくつかの実施形態において、荷電官能化層は、化学的に吸着された分岐PEI層によ
ってカチオン交換膜の表面に共有結合され得る。
【0029】
別の態様によれば、電気化学的分離装置を用いて水処理を容易にする方法が提供される
。この方法は、アクリル基によってカチオン交換膜の表面に共有結合した荷電官能化層を
有する一価選択性カチオン交換膜を提供することを含み得る。この方法は、電気化学的分
離装置に一価選択性カチオン交換膜を設置するようにユーザに指示することを含み得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、方法は、電気化学的分離装置をCa2+およびMg2+から
選択される少なくとも1つの硬度イオンを含む処理される水源に流体接続するように、ユ
ーザに指示することを含み得る。
【0031】
この方法は、アクリル基によってポリマー微孔性基板の表面に共有結合したアミン基層
を有するポリマー微孔性基板を有する一価選択性カチオン交換膜支持体を提供することを
含み得る。この方法は、アミン基層を荷電化合物層で官能化してカチオン交換膜を生成す
るようにユーザに指示することをさらに含み得る。
【0032】
本開示は、前述の態様および/または実施形態のいずれか1つ以上のすべての組み合わ
せ、ならびに詳細な説明および任意の例に記載された実施形態のいずれか1つ以上との組
み合わせを企図する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
添付の図面は、原寸に比例して描かれることを意図したものではない。図面では、様々
な図に示されている各同一の構成要素またはほぼ同一の構成要素は、同様の数字で表され
ている。わかりやすくするために、すべての構成要素がすべての図面でラベル付けされて
いなくてもよい。図面の詳細を記す。
【
図1】第一級(-NH
2)、第二級(-NH-)、および第三級アミン基を示すポリエチレンイミン(PEI)分子の化学構造を示す。
【
図2】一実施形態による、PEIの第一級または第二級アミンとカチオン交換膜表面のスルホン酸基との間の物理吸着によるイオン結合の形成を示す。
【
図3】一実施形態による、2段階プロセスとして起こる、PEIの第一級または第二級アミンとクロロスルホン酸(ClSO
3H)との間の化学吸着による共有結合の形成を示す。
【
図4】
図4Aは、従来の膜による水処理のための、時間の経過に伴う希釈流中のCa
2+およびNa
+の濃度のグラフである。
図4Bは、代替の従来の膜を用いた水処理のための、経時的な希釈流中のCa
2+およびNa
+の濃度のグラフである。
【
図5】一実施形態による、一価選択性イオン交換膜を用いた水処理のための、経時的な希釈流中のCa
2+およびNa
+の濃度のグラフである。
【
図6】
図6Aは、一実施形態による、一価選択性イオン交換膜で処理された実験地下水のイオン濃度およびナトリウム吸収率(SAR)値のグラフである。
図6Bは、従来のカチオン交換膜で処理した実験地下水のイオン濃度およびSAR値のグラフである。
【
図7】一実施形態による、一価選択性イオン交換膜で処理された実験用海水中のイオン濃度のグラフである。
【
図8】一実施形態による、一価選択性イオン交換膜による水処理の経時的な一価輸送選択性のグラフである。
【
図10】
図10Aは、一実施形態による、一価選択性カチオン交換膜によって脱塩された希釈流中の対象カチオンの濃度を示すグラフである。
図10Bは、従来のカチオン交換膜によって脱塩された希釈流中の対象カチオンの濃度を示すグラフである。
図10Cは、一実施形態による、一価選択性カチオン交換膜によって生成された希釈流中の対象カチオンの濃度を示すグラフである。
図10Dは、従来のカチオン交換膜によって生成された希釈流中の対象カチオンの濃度を示すグラフである。
【
図11】
図11A~
図11Bは、一実施形態による、300A/m
2の適用密度で海水を処理するための一価選択性アニオン交換膜を使用する濃縮区画内の選択イオンの濃度のグラフである。
【
図12】
図12Aは、一実施形態による、従来の/市販の一価選択性膜および本明細書に開示される一価選択性膜の80°Cでの寿命選択性(安定性)を示すグラフである。
図12Bは、一実施形態による、従来の/市販の一価選択性膜および本明細書に開示される一価選択性膜の室温での寿命選択性(安定性)を示すグラフである。
【
図13】2-(メタクリロイルオキシ)-エチルスルホニルクロリドの化学構造を示す。
【
図14】ビスアシルホスフィノキシド(BAPO)の化学構造を表す。
【
図15】UV照射後の光開始剤2,2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェン(DMPA)の組成を表す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本明細書に開示される実施形態は、イオン交換膜を適用し、それらの製造のためのプロ
セスを提供する。本明細書に記載の電気透析(ED)膜は、一般に、低抵抗と高選択透過
性とを組み合わせ得る。それらの特性は、水の脱塩用途、特に海水脱塩において非常に効
果的であり得る。それらの特性によって、灌漑用水の処理、特にナトリウム吸収率(SA
R)値の調整に非常に効果的となる。本明細書に記載のイオン交換膜は、1つ以上の単官
能性イオン生成モノマー、必要に応じて中性モノマーを少なくとも1つの多官能性モノマ
ーと多孔質基板の細孔内で重合することによって製造することができる。
【0035】
イオン交換膜は、通常、電気的または化学的ポテンシャルの下でカチオンまたはアニオ
ンを輸送するために使用される。イオン交換膜は、膜の大部分を構成するポリマー材料に
付着した負または正に帯電した基を有し得る。各グループの対イオンは、通常、移動可能
なイオンとして機能する。カチオン交換膜は、固定の負電荷および可動性の正電荷のカチ
オンを有し得る。アニオン交換膜は、固定された正に帯電した基および可動性の負に帯電
したアニオンを有し得る。イオン交換膜の特性は、固定されたイオン基の量、種類、およ
び分布を制御することによって操作し得る。これらの膜は、強酸、強塩基、弱酸、または
弱塩基膜として説明され得る。強酸カチオン交換膜は、通常、荷電基としてスルホン酸基
を有する。弱酸膜は通常、固定荷電基を構成するカルボン酸基を有する。第四級および第
三級の正に帯電したアンモニウムは、それぞれ、強塩基および弱塩基のアニオン交換膜に
固定された正に帯電した基を生成し得る。
【0036】
イオン交換膜は、電気透析(ED)による水の脱塩、逆電気透析の発電源、または燃料
電池のセパレーターとして使用し得る。したがって、本明細書に開示される水処理システ
ムは、脱塩システム、発電システム、または逆電気透析システムであり得るか、またはそ
れらを備え得る。その他の用途には、電気めっきおよび金属仕上げ産業での金属イオンの
回収、および食品および飲料産業での用途が含まれる。他の実施形態では、本明細書に開
示される水処理システムは、金属イオン回収システムまたは食品および飲料処理システム
であり得るか、またはそれらを備え得る。
【0037】
特定の例示的な実施形態では、本明細書に開示されるイオン交換膜は、地下水処理およ
び/または農業環境で使用され得る。本明細書に開示される水処理システムは、地下水処
理システムであり得るか、またはそれを備え得る。本明細書に開示される水処理システム
は、農業灌漑流出処理システムであり得るか、またはそれを備え得る。この方法は、地下
水を処理することを含み得る。この方法は、農業用水の流出を処理することを含み得る。
【0038】
電気透析は、一般に、直流電圧の原動力の下で、対のアニオンおよびカチオン選択性膜
を介してイオンおよびいくつかの荷電有機物を移動させることによって水を脱塩する。E
D装置は、セルの対向する壁として配置された導電性で実質的に水不透過性のアニオン選
択性およびカチオン選択性膜を備え得る。隣接するセルは通常、セル対を形成する。膜ス
タックには、多くの、時には数百のセル対が含まれ得る。EDシステムには多くのスタッ
クが含まれ得る。各膜スタックは、通常、スタックの一方の端にDC(直流)アノードを
有し、もう一方の端にDCカソードを有する。DC電圧下では、イオンは反対の電荷の電
極に向かって移動し得る。
【0039】
セル対には、希釈セルと濃縮セルとの2種類のセルが含まれる。各タイプのセルは、対
向する膜によって画定され得る。1つの例示的なセル対は、2つのセルを形成する共通の
カチオン移動膜壁および2つのアニオン移動膜壁を含み得る。すなわち、第1のアニオン
移動膜とカチオン移動膜とが希釈セルを形成し、カチオン移動膜と第2のアニオン移動膜
とが濃縮セルを形成する。希釈セルでは、カチオンは通常、アノードに面するカチオン移
動膜を通過するが、カソードに面する方向における濃縮セルの対のアニオン移動膜によっ
て停止され得る。同様に、アニオンは、カソードに面する希釈セルのアニオン移動膜を通
過し得るが、アノードに面する隣接した対のカチオン移動膜によって停止され得る。この
ようにして、希釈セル内の塩を除去し得る。隣接する濃縮セルでは、カチオンは一方向か
ら入り得、アニオンは反対方向から入り得る。スタック内の流れは、希釈流と濃縮流が別
々に保たれるように配置され得る。したがって、脱塩された水流は、希釈流から生成され
得る。
【0040】
十分な品質の灌漑用水の不足は、作物の収穫量に悪影響を及ぼし、需要の少ない作物種
の選択が必要になり得る。点滴灌漑などの技術を使用して水の使用量を減らす新しい灌漑
方法も、灌漑に使用された水から土壌中に塩分や不純物が蓄積されるため、持続不可能な
状態を引き起こし得る。土壌の塩分は、作物と蒸発とによる水の大部分の利用によって、
灌漑用水よりもはるかに高い濃度に上昇する可能性がある。土壌を浸出させるのに不十分
な水源を有する灌漑条件や土壌、あるいは不十分な降雨は、土壌の塩分を灌漑用水そのも
のよりも4~5倍高くする可能性がある。さらに、土地が比較的浅い非浸透性の地層で構
成されている場合には、灌漑用水が地下水位を上昇させることがある。塩分の高い地下水
が作物の根の高さに達すると、その水は作物の成長に有害となり得る。また、塩分を含む
土壌は、土壌表面からの水の飛沫によって葉の多い作物に被害を与えることがある。また
、農地が塩水で排水されると、セレンやホウ素などの土壌中の微量不純物や、硝酸塩など
の肥料の使用による残留汚染物質が排水を汚染し、安全な排水管理が困難になる可能性が
ある。
【0041】
作物を灌漑する場合、収量は総溶解塩(TDS)濃度の影響を受け得る。TDSは通常
、導電率の値と相関関係がある。例えば、1mS/cmの導電率値は、約500~700
ppmTDSに対応する。さまざまな植物が低TDS灌漑水から恩恵を受けている。例え
ば、豆、ニンジン、イチゴは、導電率が1mS/cm未満の水で灌漑することで恩恵を受
け得る。他の植物は、約5mS/cmの導電率の灌漑用水を許容し得る。さらに、所定の
TDSおよび導電率でのSAR値の制御は、土壌の凝集と効率的な水の浸透とに影響を与
え得る。例えば、1mS/cm未満の導電率を持つ灌漑用水は、土壌構造を維持するため
に3を超えるSAR値の恩恵を受け得る。導電率が2~3mS/cmの灌漑用水は、約1
0のSAR値の恩恵を受け得る。
【0042】
灌漑用水の需要は、人間にとっては飲用水、家畜や野生生物にとっては汚染物質のない
水と競合している。このように、農業地域では、灌漑用水と飲用水とを組み合わせた水源
が必要とされることが一般的である。本明細書に記載の膜は、農業灌漑用水処理に使用さ
れ得る。特に、本明細書に記載の膜は、農業用灌漑用水のTDS、導電率、およびSAR
値を制御するために使用され得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の膜は、1
mS/cm未満の導電率を有する水を提供し得る。本明細書に記載の膜は、2~3mS/
cm、3~5mS/cm、または5mS/cm超(例えば、5~7mS/cm)の導電率
を有する水を提供し得る。本明細書に記載の膜は、3超、例えば、3~5のSAR値を有
する水を提供し得る。本明細書に記載の膜は、5超、例えば5~10のSAR値を有する
水を提供し得る。本明細書に記載の膜は、約10以上、例えば10~12のSAR値を有
する水を提供し得る。
【0043】
一価(univalent)選択性膜または一価(monovalent)選択性膜は
、主に一価イオンを移動させる。一価選択性膜は、電荷および/またはサイズに基づいて
イオンを分離し得る。一価選択性膜は、一価イオンと二価イオンとを区別し得る。一価選
択性カチオン移動膜は、例えば、ナトリウムおよびカリウムなどの+1の電荷を有するイ
オンと、例えば、マグネシウムおよびカルシウムなどのより大きな正電荷を有するイオン
とを区別し得る。
【0044】
したがって、本明細書に記載の一価選択性カチオン交換膜は、カルシウムおよびマグネ
シウムイオンなどの二価イオンの輸送を遮断しながら、ナトリウムおよびカリウムイオン
などの一価イオンを選択的に輸送し得る。同様に、一価選択性アニオン膜は、塩化物、臭
化物、硝酸塩などの-1の電荷を有するイオンを、より大きな負電荷を有するイオンから
分離し得る。したがって、本明細書に記載の一価アニオン交換膜は、硫酸イオンなどの二
価イオンの輸送を遮断しながら、塩化物および硝酸イオンなどの一価イオンを選択的に輸
送し得る。
【0045】
本明細書に開示されるイオン交換膜は、汽水および廃水の脱塩を処理するために使用さ
れ得る。EDは一般に海水の使用にはコストが高すぎると考えられているが、本明細書に
開示されるイオン交換膜は、海水脱塩に効率的に使用することができる。効果的かつ効率
的な海水脱塩は、1Ω-cm2未満、例えば、0.8Ω-cm2未満、または0.5Ω-
cm2未満の膜抵抗で実施され得る。本明細書に開示されるイオン交換膜はまた、90%
を超える、例えば、95%を超える、または98%を超えるイオン選択透過性をも提供し
得る。さらに、本明細書に開示されるイオン交換膜は、同等の従来のイオン交換膜よりも
長い耐用年数、およびより大きな物理的強度および化学的耐久性を有する。最後に、本明
細書に開示されるイオン交換膜は、比較的低コストで製造され得る。
【0046】
結果として、本明細書に開示されるイオン交換膜は、逆電気透析(RED)に使用され
得る。REDは、塩分濃度の異なる2つの水溶液を混合して生成された自由エネルギーを
電力に変換するために使用され得る。一般的に、塩分の差が大きいほど、発電のポテンシ
ャルが高くなる。本明細書に開示される水処理システムは、REDシステムであり得るか
、またはそれを備え得る。本明細書に開示される方法は、電力を生成するために使用され
得る。
【0047】
本明細書に開示されるイオン交換膜は、ポリマー電解質膜(PEM)として使用され得
る。PEMは、電解質とセパレーターとの両方として機能し得、アノードからの水素とカ
ソードに供給される酸素とが直接物理的に混合するのを防ぐタイプのイオン交換膜である
。PEMは、付着したまたはPEMを構成するポリマーの一部として、スルホン酸基など
の負に帯電した基を含有し得る。プロトンは通常、ある固定された負電荷から別の電荷に
ジャンプして膜を透過することにより、膜を介して移行する。
【0048】
本明細書に開示される膜は、一般に、イオン交換膜支持体およびイオン交換膜支持体に
共有結合した荷電官能化層を備え得る。イオン交換膜支持体は、ポリマー微孔性基板およ
び基板の表面上の架橋イオン移動ポリマー層を備え得る。中間製造工程として、膜支持体
は、架橋イオン移動ポリマー層に共有結合されたアミン基層をさらに備え得る。
【0049】
本明細書に記載の膜は、一般に、良好な機械的強度を示し得る。機械的強度は、膜が連
続的な膜製造プロセスの応力に耐えることを可能にするのに十分であり得、操作のある時
間後に現れ得る明白な損傷または隠れた損傷なしに、製造され得、最終的な膜保持装置ま
たはモジュールに密封され得る。さらに、機械的強度は、高い寸法安定性を提供するのに
十分であり得る。膜は、一般に、脱塩装置として機能している間、洗浄、消毒または防汚
期間の間、または輸送中または保管中に、寸法の最小の変動を示し得る。例えば、膜に接
触する流体のイオン含有量または温度の変化に対する高い寸法安定性が提供され得、その
結果、動作中に、電流の非効率につながり得る膜対間の距離の変動が最小限に抑えられる
。拘束された膜に応力を引き起こし膜の欠陥および性能の低下につながり得る電気透析中
の寸法の変化はまた、一般に最小限に抑えられ得る。
【0050】
本明細書に記載の膜は、低い抵抗を示し得る。一般に、低抵抗は、淡水化に必要な電気
エネルギーを削減し、運用コストを削減する。比膜抵抗はしばしばΩ-cmで測定される
。もう1つの工学的尺度はΩ-cm2である。抵抗は、電解質溶液中に既知の面積の2つ
の電極を有するセルを使用する抵抗試験プロセスによって測定され得る。電極には通常、
白金または黒色グラファイトが使用される。次に、電極間の抵抗が測定される。既知の面
積の膜サンプルは、電解質溶液中の電極間に配置され得る。電極は膜に接触しない。次に
、膜を所定の位置に置いた状態で抵抗を再度測定する。次に、膜が所定の位置にある場合
の試験結果から、膜がない場合の電解質抵抗を差し引くことによって、膜抵抗を推定し得
る。
【0051】
抵抗はまた、膜によって分離された2つの十分に攪拌されたチャンバーを有するセル内
の電圧対電流曲線を決定することによっても測定され得る。カロメル電極を使用して、膜
を全体の電圧降下を測定し得る。電圧降下対電流曲線の傾きは、電圧を変化させて電流を
測定することで得られ得る。
【0052】
電気化学的インピーダンスも計算に使用され得る。この方法では、交流電流を膜全体に
印加され得る。単一周波数での測定により、膜の電気化学的特性に関連するデータが得ら
れる。周波数と振幅の変動とを使用することにより、詳細な構造情報を取得され得る。
【0053】
本明細書に記載の膜は、高い対イオン選択透過性を有し得る。選択透過性は、一般に、
電気透析中の対イオンの共イオンへの相対的な輸送を指し得る。理論的に理想のカチオン
交換膜の場合、正に帯電したイオンのみが膜を通過し、1.0または100%の対イオン
選択透過性が得られる。選択透過性は、異なる濃度の一価塩溶液を分離しながら、膜全体
の電圧を測定することによって判明し得る。
【0054】
本明細書に開示されるイオン交換膜は、水の透過が減少し得る。希釈流と濃縮流との間
の浸透圧差の駆動力の下での膜欠陥を介する希釈流の浸透は、効率を低下させ得る。水の
浸透は、純水を除去することにより、現在の効率と精製水の生産性とを低下させ得る。膜
の濃縮物(塩水)側と膜の純水側との間の高い濃度差は、通常、浸透圧駆動力を増加させ
るため、薄膜を用いた海水電気透析では、水分損失が特に深刻になり得る。膜の欠陥は、
高い浸透圧がそのような欠陥を通して純水を強め、水の損失を増加させ、電力消費を増加
させる傾向があるため、操作に特に有害であり得る。
【0055】
本明細書に開示される膜は、一般に、カチオンの高い透過性および低い浸透流を可能に
する構造を有し得る。本明細書で使用される見かけの対イオン選択透過性は、対イオン(
カチオン)と共イオン(アニオン)との輸送速度の比である。従来の測定パラメータは、
対イオン除去率を示していない。特定の実施形態において、本明細書に開示される膜は、
カチオン透過性を制御するように操作され得る。
【0056】
カチオンの透過性は、イオンの構造(分子サイズおよび総電荷)と膜の微細構造の影響
とによって制御され得る。膜が比較的小さい細孔を有するように設計されている場合、膜
の微細構造は対イオン透過性を遅らせ得る。相対的な用語は、対イオンが見かけの直径よ
りわずかに大きいトンネルを通過しているかのように、対イオンが膜を通過する際に膜材
料との相互作用から高い抵抗に遭遇することを意味すると解釈できる。膜は比較的低い含
水量を有し得、対イオン透過性の経路が減少する傾向がある。親水性モノマーの含有量と
対イオン透過性を高めるための架橋モノマーの量と性質とのバランスをとることにより、
膜の含水量と有効細孔径とを操作し得る。架橋性モノマーは、疎水性モノマーまたは親水
性モノマーであるように選択され得る。
【0057】
本明細書に開示される膜は、一般に、イオン交換膜支持体を備え得る。イオン交換膜支
持体は、ポリマー微孔性基板および基板の表面上の架橋イオン移動ポリマー層を備え得る
。膜支持体は、適切な多孔質基板を選択し、基板の表面に架橋イオン移動ポリマー層を組
み込むことを含むプロセスによって生成され得る。
【0058】
微孔性膜基板は、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、または他のポリマーから製
造され得る。基板の1つの例示的な種は、薄いポリオレフィン膜を備える。別の例示的な
種の基板は、高密度ポリエチレン(HDPE)から製造されている。別の例示的な種の基
板は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)から製造される。微孔性基板は、ポリプ
ロピレン、高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、またはポリフッ化ビニリデ
ンの微孔性膜を備え得る。基板は、一般に、約155μm未満、例えば、約55μm未満
または約25μm未満の厚さを有し得る。
【0059】
例示的な微孔性膜材料は、例えば、すべての目的のためにその全体が参照により本明細
書に援用される米国特許第8,703,831号(U.S.Patent No.8,7
03,831)に開示されるように、非常に薄いイオン交換膜を製造するために使用され
得る。例示的なイオン交換膜は、12~100μm、例えば、25~32μmの厚さを有
し得る。薄膜は、膜の大部分を通して効果的な、以下でより詳細に説明される高速クロロ
スルホン化反応を可能にする。例えば、大部分のクロロスルホン化を完了するには、5分
間のクロロスルホン化反応で十分であり得る。したがって、本明細書に記載の方法は、膜
の大部分を約5分でクロロスルホン化するのに有効なクロロスルホン化反応を実施するこ
とを含み得る。
【0060】
さらに、特定の例示的な微孔性膜材料を使用して、攻撃的な化学物質に対する安定性を
提供し得る。例えば、HDPEの膜基板は、一般に、特定の実施形態で使用され得るCl
SO3Hに対して安定である。ポリプロピレンなどの材料は、ClSO3Hに対して十分
に安定していない場合があり得る。
【0061】
基板膜の実施形態は、約45%を超える、例えば、約60%を超える多孔度を有し得る
。特定の実施形態において、基板膜は、約70%を超える多孔性を有し得る。基板膜は、
約0.05μm~約10μm、例えば、約0.1μm~約1.0μm、または約0.1μ
m~約0.2μmの定格孔径を有し得る。
【0062】
膜支持体は、基板の細孔内のモノマー溶液を飽和させることによって生成され得る。モ
ノマー溶液は、官能性モノマー、架橋剤、および細孔内の重合開始剤から重合され得、架
橋荷電ポリマーを形成し得る。特定の実施形態において、官能性モノマーは、イオン生成
モノマー、例えば、単官能性イオン生成モノマー、および多官能性モノマー、例えば、架
橋剤を含み得る。本明細書で使用される場合、イオン生成モノマーという用語は、一般に
、少なくとも1つの荷電基が共有結合しているモノマー種を指し得る。以下でより詳細に
説明するように、帯電した基は、正に帯電していても負に帯電していてもよい。単官能性
モノマーは、一般に、重合反応を進めるための単一の部位を有するモノマーを指し得る。
多官能性モノマーは、一般に、複数の重合反応部位を有しそれによりネットワーク化また
は架橋されたポリマーを形成し得るモノマーを指し得る。
【0063】
基板の細孔内で架橋イオン移動ポリマー層を重合するプロセスは、単官能性イオン生成
モノマー、多官能性モノマー、および重合開始剤を含む溶液で基板を飽和させることを含
み得る。このプロセスは、多孔質体積を溶液で飽和させたままにして重合を開始しながら
、基板の表面から過剰な溶液を除去することを含み得る。重合は、必要に応じて実質的に
すべての酸素が存在しない状態で、熱、紫外線(UV)光、または電離放射線の適用によ
って開始し得る。このプロセスは、基板の細孔を実質的に完全に満たす架橋イオン移動ポ
リマー層を組み込むために実施され得る。
【0064】
したがって、特定の実施形態では、膜支持体は、1つ以上のイオン生成モノマー、中性
モノマー、および適切な架橋剤モノマーの重合によって生成され得る。例示的な中性モノ
マーは、ヒドロキシエチルアクリレートおよびヒドロキシメチルメタクリレートである。
他の中性モノマーは、本開示の範囲内にある。イオン生成モノマーは、カチオン交換膜ま
たはアニオン交換膜を生成するように選択され得る。
【0065】
負に帯電した基を含むモノマーには、代表的な例として、そのような例に限定されない
が、カチオン交換容量を提供するのに適したスルホン化アクリルモノマー、例えば、2-
スルホエチルメタクリレート(2-SEM)、2-プロピルアクリル酸、2-アクリルア
ミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、スルホン化グリシジルメタクリレー
ト、3-スルホプロピルメタクリレート、ナトリウム1-アリルオキシ-2ヒドロキシプ
ロピルスルホネートなどが含まれる。他の例示的なモノマーは、アクリル酸およびメタク
リル酸またはそれらの塩、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸、スルホ
ン化ビニルベンジルクロリドナトリウム1-アリルオキシ-2ヒドロキシプロピルスルホ
ネート、4-ビニル安息香酸、トリクロロアクリル酸、ビニルリン酸およびビニルスルホ
ン酸である。好ましいモノマーは、2-スルホエチルメタクリレート(2-SEM)、ス
チレンスルホン酸およびその塩、および2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホ
ン酸(AMPS)である。
【0066】
本明細書に記載のカチオン交換膜の実施形態は、約1.0Ω-cm2未満、例えば、約
0.5Ω-cm2未満の抵抗率を有し得る。本明細書に記載のカチオン交換膜の特定の実
施形態は、約95%超、例えば、約99%超の選択透過性を有し得る。いくつかの実施形
態では、カチオン交換膜を製造するためのイオン生成モノマーは、2-スルホエチルメタ
クリレート(2-SEMまたは2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(A
MPS))であり得るか、またはそれらを備え得る。1つの例示的な架橋剤は、エチレン
グリコールジメタクリレートである。他のイオン生成モノマーおよび架橋剤は、本開示の
範囲内にある。
【0067】
正に帯電した基を含有するモノマーには、代表的な例として、メタクリルアミドプロピ
ルトリメチルアンモニウムクロリド、トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート、ポ
リアミンおよびビニル芳香族ハロゲン化物の第四級塩、例えば、1,4-ジアザビシクロ
[2,2,2]オクタンジ(ビニルベンジルクロリド)(1,4-ジアザビシクロ[2,
2,2]オクタン(DABCO)およびピペラジンジビニルクロリドの第四級塩)、また
は環状エーテル、ポリアミン、ハロゲン化アルキルの反応によって形成される第四級塩、
例えば、ヨードエチルジメチルエチレンジアミノ2-ヒドロキシルプロピルメタクリレー
ト(グリシジルメタクリレート(GMA)をN,N-ジメチルエチレンジアミンおよびヨ
ウ化エチルと反応させることによって形成される第四級アンモニウム塩)、およびビニル
ベニルトリメチルアンモニウムクロリドが含まれるが、そのような例に限定されない。ア
ニオン交換膜の他の例示的なモノマーには、トリメチルアンモニウムエチルメタクリルク
ロリド、3-(アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、N,N,N
’,N’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンジ(ビニルベンジルクロリド(N
,N,N’,N’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンおよびビニルベンジルク
ロリドの第四級塩)、グリシジルメタクリレート/トリメチルアミン、またはグリシジル
メタクリレート/N,N-ジメチルエチレンジアミン反応生成物が含まれる。
【0068】
本明細書に記載のアニオン交換膜の実施形態は、約1.0Ω-cm2未満、例えば、約
0.5Ω-cm2未満の抵抗率を有し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載のアニ
オン交換膜は、約90%超、例えば、約95%超の選択透過性を有し得る。いくつかの実
施形態では、アニオン交換膜を製造するためのイオン生成モノマーは、エチレングリコー
ルジメタクリレートで架橋されたトリメチルアンモニウムエチルメタクリルクロリド、ま
たはエチレングリコールジメタクリレートで架橋されたグリシジルメタクリレート/N,
N-ジメチルエチレンジアミン反応生成物、およびN,N,N’,N’,N’’-ペンタ
メチルジエチレントリアミンジ(ビニルベンジルクロリド(N,N,N’,N’,N’’
-ペンタメチルジエチレントリアミンおよびビニルベンジルクロリドの第四級塩)または
1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンジ(ビニルベンジルクロリド)(1,4
-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)およびビニルベンジルクロリド
の第四級塩)の重合によって形成された架橋イオン移動ポリマーであり得るか、またはそ
れらを備え得る。
【0069】
1つ以上のイオン性基を含有する多官能性モノマーが使用され得る。実施例に限定され
ることなく、1,4-ジビニルベンゼン-3スルホン酸またはその塩などのモノマーを使
用し得る。架橋の度合は2%~60%の範囲であり得る。負または正に帯電した基を含有
するモノマーとの架橋を提供するのに適した多官能性モノマーには、代表的な例として、
エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,
3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,4
-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエ
リスリトールトリアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ジビニル
ベンゼン、トリメチロールプロパントリアクリレート、イソホロンジイソシアネート、グ
リシジルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシル化(
n)ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(n=1.5,2,4,6,10,30)
、エトキシル化(n)トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(n=3,6,
9,10,15,20)、プロポキシル化(n)トリメチロールプロパントリアクリレー
ト(n=3,6)、ビニルベンジルクロリド、グリシジルメタクリレートなどが含まれる
が、そのような例に限定されない。
【0070】
重合開始剤は、遊離基重合開始剤であり得る。使用できる遊離基重合開始剤には、例え
ば、過酸化ベンゾイル(BPO)、過硫酸アンモニウム、2,2’-アゾビスイソブチロ
ニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオナミジン)ジヒドロク
ロリド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2イル)プロパン]ジヒドロク
ロリド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、および
ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)が含まれ得る。
【0071】
基板の細孔充填または飽和プロセスは、空気の溶解度を下げるために、わずかに高い温
度(例えば、40°C超)で実行され得る。他の実施形態では、基板の細孔または飽和プ
ロセスは、配合溶液に沈められた基板サンプルの穏やかな真空処理の後に行われ得る。基
板サンプルを事前に浸してから、ポリエステルまたは同様のシートに置き、カバーシート
で覆い得る。浸漬されて覆われた基板は、気泡を除去するために平滑にされ得る。いくつ
かの事前に浸した部分を層状にしてから、ポリエステルまたは類似のシート上に配置し、
カバーシートで覆い、平滑にして気泡を除去し得る。
【0072】
浸漬された基板は、完全な重合を開始するのに十分な温度および必要な時間、オーブン
内で加熱され得る。浸漬された基板は、重合を開始および完了するのに十分な温度および
必要な時間、加熱された表面上に置かれ得る。重合反応を開始するための代替方法を使用
し得る。紫外線もしくはガンマ線または電子ビーム放射などの電離放射線を使用して、重
合反応を開始し得る。
【0073】
連続準備試験または製造方法は、多孔質基板を飽和させ、重合を開始および完了させ、
そして現在形成されている膜から非重合種を洗浄または浸出させることを含み得る。膜は
必要に応じて乾燥させ得る。塩溶液によるコンディショニングは、塩溶液のタンクを介し
て、または巻き上げられた膜のロールを浸漬することによって、またはモジュールに製造
した後など、連続浸漬プロセスで実行され得る。
【0074】
モノマー溶液が基板を含浸させる溶媒で配合される場合、プロセスは、基板をロールか
らモノマー配合物のタンクに供給し、そしてそれを通して、過剰な溶液を拭き取ることに
よって開始し得る。浸漬された基板は、ロールから供給されたプラスチックシートの2つ
の層の間に組み立てられ、2つのロールの間に挟まれて、空気を除去し、滑らかな多層ア
センブリを生成し得る。1つの例示的なシート材料は、ポリエチレンテレフタレートフィ
ルムである。他のシート材料を使用し得る。アセンブリは、オーブンを通じて、または加
熱されたロール上で処理され得、重合を開始し、完了する。1つの代替方法は、不活性ガ
スで覆われたオーブンを通して飽和シートを流すことを含み得る。不活性ガスは、高沸点
の溶媒での使用に適し得る。
【0075】
適切な重合開始剤によるUV光開始を使用し得る。この方法は、重合を開始および完了
するのに十分な強度および必要な時間で、アセンブリにUV光を照射することを含み得る
。例えば、記載された3層アセンブリは、ウェブの片側または両側にUV光源を備えた基
板ウェブ用の入口および出口を有するトンネルまたは他のプロセス装置を介して実行され
得る。高沸点配合物を用いて、この方法は、不活性ガス雰囲気中で実施し得る。
【0076】
カバーシートは、重合後に除去され得る。今形成された膜は、洗浄され、必要に応じて
乾燥され得る。
【0077】
有機溶媒は反応物担体として使用され得る。溶媒の1つの有用な種は、双極性非プロト
ン性溶媒である。適切な溶媒のいくつかの例には、ジメチルアセトアミド、ジメチルホル
ムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミドまたは-トリアミド、ア
セトンアセトニトリル、およびアセトンが含まれる。有機溶媒は、イオン性基を含有する
モノマーおよび水溶性ではないモノマーを溶媒和するために使用され得る。1つの例示的
な溶媒は、N-メチルピロリドンである。使用できる他の溶媒は、N-プロパノールおよ
びジプロピレングリコールであり得る。特定の実施形態では、アルコール、例えばイソプ
ロパノール、ブタノール、様々なグリコールなどのジオール、またはグリセリンなどのポ
リオールなどの同様のヒドロキシ含有溶媒を使用し得る。他の溶媒は、本開示の範囲内に
ある。説明した溶媒は、単独で使用することも、組み合わせて使用され得る。一部の溶媒
は、イオン含有有機物の溶解度を高めるために水とともに使用され得る。
【0078】
モノマー混合物は、架橋コポリマーを操作して、所望のバランスの特性を有する膜を生
成するように選択され得る。例えば、水溶性および/または膨潤性イオン生成モノマーを
非水膨潤性コモノマーと組み合わせると、高度のイオン性基および水中での膨潤が低減さ
れたコポリマーが生成され得る。このようなイオン交換膜は、脱塩に使用され得る。特に
、例示的なコポリマーは、水中でより良好な物理的強度を有し、水のイオン含有量の変化
または温度変化のために、使用中の寸法変化が少ない可能性があり得る。したがって、例
示的なイオン交換膜は、例えば、海水電気透析のために、適切な機械的強度、低い電気抵
抗、および高い対イオン選択透過性を示し得る。
【0079】
本明細書に開示されるイオン交換膜は、架橋イオン移動ポリマー層に共有結合された荷
電官能化層を備え得る。
【0080】
多くのイオン交換膜は多価選択性である。多価イオン選択性膜は、多価イオンの輸送を
選択するイオン交換膜を指し得る。例えば、EDに使用される一般的なカチオンイオン交
換膜は、一価イオンよりも高速な多価イオン輸送を可能にする。多価イオンのより速い輸
送は、通常、同じ電界下での移行中に、より大きな電荷数のイオンがより大きな電力によ
って引き付けられるために発生する。
【0081】
本明細書に開示されるイオン交換膜は、一価選択性膜であり得る。イオン交換膜は、表
面枯渇条件、膜疎水性、架橋度、および膜固有電荷条件などの電荷因子を制御することに
よって、多価イオンに対して一価イオンを選択するように設計され得る。例えば、カチオ
ン交換膜の架橋度および親水性の改質は、多価イオンに好ましくない膜内の低水条件を作
り出すことによって、一価イオンに対する多価イオンの有意な遅延をもたらし得る。
【0082】
本明細書に開示される一価選択性膜は、操作された表面修飾を有し得る。イオン交換膜
の表面修飾は、膜の表面に荷電分子を提供して、より高い原子価電荷数でイオン輸送を遅
らせることによって生成され得る。一価選択性カチオンイオン交換膜は、表面に正に帯電
した分子を有し得る。
例えば、強酸カチオン交換膜は、荷電基としてスルホン酸基で官能化され得る。弱酸膜は
、固定荷電基を構成するカルボン酸基で官能化され得る。それぞれ、第四級および第三級
の正に帯電したアンモニウムを使用して、強塩基および弱塩基のアニオン交換膜の正に帯
電した基で膜を官能化し得る。一価選択性アニオンイオン交換膜は、表面に負に帯電した
分子を有し得る。
【0083】
さらに、表面電荷忌避剤の強度は、膜の表面上の電荷分布を制御することによって操作
し得る。電荷忌避剤の強度は、通常、同じ数の荷電分子が表面に提供されている場合の電
荷分布に依存する。簡単に言えば、イオン交換膜の電界強度はdq/dxで定義される。
ここで、qは電荷数または濃度、xはイオン輸送に沿った深さである。
【0084】
したがって、いくつかの実施形態では、膜の表面に形成される荷電官能化層は、多価イ
オンに一価イオンと比較して強い障壁または非常に大きなdq/dx値を提供しながら、
イオン輸送抵抗に実質的に影響を及ぼさない単層であるように選択され得る。加えて、単
層は膜のコンダクタンス全体に大きな影響を与えない場合があり得る。例えば、単分子層
は、イオンによる水分子の輸送に大きな影響を与えない場合があり得る。
【0085】
イオン交換膜支持体の架橋イオン移動ポリマー層は、中間層をポリマー層に共有結合さ
せ、中間層を荷電官能化層と反応させることによって官能化し得る。特定の実施形態にお
いて、中間層は、アミン基を備える分子であり得る。中間反応中に、アミン基は水と交換
して4つの共有結合またはアンモニウムを形成し得る。中間層は、表面吸着ポリエチレン
イミン(PEI)を備え得る。さまざまな第一級、第二級および第三級アミンは、多価イ
オンに有意な選択性を提供し得る。PEI分子構造が
図1に示されている。
【0086】
前述のように、帯電した官能化層は、単層であるように選択され得る。特に、帯電した
官能化層は、イオン交換膜の表面上の単層であり得る。膜の大部分への官能化層の浸透は
、帯電したイオン移動層と反応し得、その結果、膜の選択透過性機能が低下する。したが
って、中間層は、膜の細孔を実質的に貫通することなく、架橋ポリマーでコーティングさ
れた微孔性ポリマー膜の表面に結合するのに十分なサイズを有し得る。例えば、中間層は
、ポリマー基板の微細孔を貫通することを実質的に阻害するのに十分なサイズを有し得る
。
【0087】
中間層は、微孔性ポリマー基板の細孔よりも大きいサイズを有するように選択し得る。
したがって、いくつかの実施形態では、中間層は、少なくとも100g/mol、例えば
、少なくとも600g/molの分子量を有する分子を備え得る。中間層は、少なくとも
1,000g/mol、例えば、少なくとも10,000g/molの分子量を有する分
子を備え得る。中間層は、少なくとも40,000g/mol、例えば、少なくとも50
,000g/molまたは少なくとも60,000g/molの分子量を有する分子を備
え得る。中間層は、少なくとも70,000g/mol、少なくとも80,000g/m
olの分子量を有する分子を備え得る。中間層は、60,000g/mol~120,0
00g/molの分子量を有する分子を備え得る。例示的な実施形態では、中間層は、分
岐PEIを備え得る。分岐PEIは、本明細書に記載されるような分子量を有し得る。
【0088】
従来、PEIは物理吸着によってカチオン交換分子の表面にコーティングされ得る。簡
単に言えば、物理吸着は、
図2に示されるように、架橋ポリマー層上にPEIのイオン結
合をもたらす物理吸着反応である。しかしながら、イオン結合は一般に安定していないた
め、表面に帯電した分子が水に溶解して選択性が失われ得る。
【0089】
本明細書に開示される方法は、化学吸着によって、架橋イオン移動ポリマー層に中間層
を付着させることを含み得る。化学吸着は、一般に、中間層が共有結合によって結合され
るように、中間層をポリマー層に化学吸着させることを含み得る。したがって、本明細書
に開示されるイオン交換膜支持体は、共有結合によって結合された中間層を有し得る。共
有結合は、イオン交換膜の表面安定性を向上させ得る。結果として、共有結合は、より長
い寿命において膜の選択性を高め得る。いくつかの実施形態では、イオン交換膜は、15
0日を超える動作寿命、例えば、室温での使用で400日を超える動作寿命を有し得る。
イオン交換膜は、室温での使用において2年以上または3年以上の動作寿命を有し得る。
加えて、イオン交換膜は、80oCでの使用において30日を超えるの動作寿命を有し得
る。
【0090】
中間層は、中間層を架橋イオン移動ポリマー層に共有結合するように構成された付着基
を有し得る。付着基は、安定性を高めるために選択され得る。例えば、付着基は、使用中
に処理される水中の有機化合物に耐えるのに十分に安定である結合を提供するように選択
され得る。特に、付着基は、使用中に長期間ベンザイン、トルエン、エチルベンゼン、お
よびキシレンなどの有機汚染物質に耐えるのに十分に安定し得る。したがって、本明細書
に開示されるイオン交換膜は、生成水、地下水、汽水、塩水、および海水などの有機汚染
物質を含む廃水を処理するために使用され得る。廃水は、例えば、約100~1000p
pmのTDSを備え得る。特定の実施形態では、廃水は、例えば、約100~400pp
mのTDS、約400~600ppmのTDS、または約600~1000ppmのTD
Sを備え得る。
【0091】
本明細書に開示される一価選択性カチオン交換膜は、少なくとも1つの硬度イオンを含
む水を処理するために使用され得る。例えば、処理される水は、少なくとも1つの正に帯
電した二価イオンを備え得る。特定の実施形態では、処理される水は、Ca2+およびM
g2+から選択される少なくとも1つの硬度イオンを含み得る。さらに、本明細書に開示
される一価選択性カチオン交換膜は、高ナトリウム含有量の水を使用すると土壌に損傷を
与える可能性があるが、マグネシウムおよびカルシウムが有益である、農業用水処理に使
用し得る。
【0092】
例示的な一実施形態では、付着基はスチレン基であり得る。アミン中間層をイオン架橋
ポリマー層に化学吸着することは、アミン中間層を表面にプラズマグラフト化することを
含み得る。
【0093】
中間層の化学吸着は、多段階法で実施され得る。1つの例示的な実施形態では、
図3に
示されるように、アミン基は、塩化スルホニルと反応して、一連の反応において安定な固
定化アミン基を形成し得る。簡単に言えば、イオン交換膜を製造する方法は、スチレン層
を架橋ポリマー層に共有結合させて、第1の中間層を形成することを含み得る。スチレン
層は、塩化スルホニル基を備え得る。反応は、スチレン層を基板の大部分に結合するのに
十分な時間実施し得る。例えば、反応は、スチレン層が基板の細孔に浸透するのに十分な
時間実施され得る。十分な時間は、特に基板が約155μm未満、例えば約25μm未満
の厚さを有する実施形態では、数時間の程度であり得る。例えば、反応は、約10時間未
満で実施され得る。反応は、約1~2時間、約2~5時間、約3~6時間、または約4~
7時間で実施し得る。
【0094】
例示的な実施形態では、スチレン層は、ジビニルベンゼン(DVB)を備え得る。その
ような実施形態では、この方法は、塩化スルホニル基をDVBスチレン層に付着させるこ
とをさらに含み得る。塩化スルホニル基をDVBスチレン層に付着させるために、この方
法は、DVBを重合およびクロロスルホン化することを含み得る。例示的な実施形態では
、クロロスルホン化は、DVB上で濃硫酸またはクロロスルホン酸(ClSO3H)を発
煙させることによって実施され得る。クロロスルホン酸は苛性溶液で加水分解され得る。
そのような例示的な実施形態では、クロロスルホン化反応は、ClSO2基をDVBに付
着させる。
【0095】
クロロスルホン化反応は、基板の大部分に浸透するのに十分な時間実施され得る。クロ
ロスルホン化反応に十分な時間は、数時間の程度であり得る。例えば、クロロスルホン化
反応は、約10時間未満で実施され得る。クロロスルホン化反応は、約1~2時間、約2
~5時間、約3~6時間、または約4~7時間で実施され得る。
【0096】
別の例示的な実施形態において、付着基は、アクリル基であり得る。アクリル基は、ス
ルホン化工程の必要性を除きながら、スルホン化された第1の中間層の付着を可能にし得
る。アクリル基は、生成されたイオン交換膜がメタクリレート共有結合を有するように、
クロロスルホン化メタクリレート基を備え得る。例示的な一実施形態では、アクリル基は
、
図13に示されるように、2-(メタクリロイルオキシ)-エチルスルホニルクロリド
を含み得る。
【0097】
スルホン化工程の必要性を取り除くことに加えて、アクリル基の第1の中間層は、重合
開始がUV光で実行されることを可能にし得る。したがって、アクリル基は、一般に、表
面スルホニル基を有し、UV光によって光重合可能な任意のアクリル基化合物を備え得る
。特に、光重合の開始は、連続プロセスとして実行し得、製造時間を大幅に短縮する。光
重合は、
図15に示されるように2,2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェン(D
MPA)、または
図14に示されるようにビスアシルホスフィノキシド(BAPO)など
のUV開始剤を用いて実施され得る。他のUV開始剤は、本開示の範囲内にある。DMP
Aによる光重合は室温で行われ得る。
【0098】
イオン交換膜を製造する方法は、第1の中間層の塩化スルホニル基をアミン基層でアミ
ノ化して、膜支持体の表面上に化学的に固定化されたアミン含有基を製造することを含み
得る。アミン基は、第一級または第二級アミンを備え得る。化学的に固定化されたアミン
基は、一般に、官能化可能なアミンを備え得る。官能化可能なアミンは、設計された荷電
分子に基づいて選択され得る。さらに、アミン基は、基板の細孔を貫通することを実質的
に阻害されながら、基板の外面を結合するのに十分なサイズを有し得る。アミノ化反応は
一晩行われ得る。例えば、アミノ化反応は、約10~18時間の間実施され得る。化学的
に固定化されたアミン含有基は、前述のように、PEIまたは分岐PEIであり得る。
【0099】
この方法は、表面中間層を帯電した官能化層と反応させることによって、イオン交換膜
支持体を官能化することを含み得る。例えば、この方法は、帯電した官能基を化学的に固
定化されたアミン層に結合させることを含み得る。上記の荷電官能化分子のいずれかを膜
支持体に付着させ得る。特定の実施形態において、例えば、カチオン交換膜を生成するた
めに、この方法は、PEIをスルホン酸基、例えば、スルホニルヒドロキシドで加水分解
することを含み得る。生成されたカチオン交換膜は、一般に、イオン交換膜支持体に共有
結合した荷電官能化層を有するであろう。共有結合は、前述のように、使用中のイオン交
換膜のより優れた選択性と安定性とを提供し得る。
【0100】
本明細書に開示される一価選択性イオン交換膜は、少なくとも100%の対イオン選択
透過性を有し得る。例えば、本明細書に開示される一価選択性イオン交換膜は、約100
%~105%または約100%~103%の間の対イオン選択透過性を有し得る。本明細
書に開示される一価選択性イオン交換膜は、室温で8~12倍のNa/Ca(ppm)の
初期選択性を有し得る。本明細書に開示される一価選択膜は、約7Ω-cm2未満、例え
ば、約5Ω-cm2未満、約2~7Ω-cm2、または約3~5Ω-cm2の抵抗率を有
し得る。
【0101】
これらおよび他の実施形態の機能および利点は、以下の実施例からよりよく理解するこ
とができる。これらの例は、本質的に例示を意図したものであり、本発明の範囲を限定す
るとは見なされない。
【実施例0102】
(実施例1:カチオン交換膜テストクーポンの作成)
次の実験方法を使用して、抵抗率および対イオン選択透過性テスト用の小さなクーポン
を作成することにより、配合およびプロセスの影響を調査した。多孔質膜基板の直径43
mmのクーポンをダイカットした。また、透明なポリエステルシートのやや大きなディス
ク(直径50mmまたは100mm)をもダイカットした。クーポンのセットを保持する
ために、105mmのアルミニウム製計量ボートを使用した。クーポンを2枚のポリエス
テルフィルムディスクの間に挟んだ。
【0103】
まず、基板クーポンをモノマー溶液で完全に濡らしてテンプレートを作成した。これは
、配合された溶液をアルミニウムボートに加え、多孔質支持体が飽和するように、基板ク
ーポンがその上に層状にされたポリエステルフィルムディスクを溶液に浸すことによって
行った。次に、飽和支持体をモノマー溶液から除去し、一片のポリエステルフィルム上に
置いた。気泡は、例えば、小さなガラス棒などの便利な工具を使用してクーポンを平滑に
するかまたは圧搾することによって、または手で、クーポンから除去された。次に、第2
のポリエステルディスクを第1のクーポンの頂部上に層状にし、クーポンと下部および上
部ポリエステルフィルム層との間の完全な表面接触を有するように平滑化した。次に、第
2の多孔質基板を上部ポリエステルフィルム上に層状にし、ポリエステルフィルムの上層
の飽和、平滑化および追加を繰り返して、2つのクーポンおよび3つの保護ポリエステル
フィルム層の多層サンドイッチを得た。
典型的な実験の実行においては、10個以上の飽和した基板クーポン層の多層サンドイッ
チを有するであろう。必要に応じて、アルミボートの縁を圧着してディスク/クーポンア
センブリを保持した。
【0104】
ボートとクーポンアセンブリとを含有するサンプルを80oCのオーブンに最大30分
間入れた。次にバッグを取り外して冷却し、反応したカチオン交換膜クーポンを40oC
~50oCの0.5N NaCl溶液に少なくとも30分間置き、十分であると判明した
最大18時間のNaCl浸漬を行った。
【0105】
記載した方法は、カチオン交換膜試験クーポンを調製するのに適していた。
【0106】
(実施例2:カチオン交換膜の一価選択性)
一価イオンと多価イオンとの間の選択性を評価するために、0.15 M NaClと
0.15 CaCl2とを含有する溶液を使用して希釈区画に供給した。濃縮物および2
つの電極には0.30M KNO3溶液を供給した。希釈流は、総容積約75mlを有す
る150mlのサンプルリザーバーであった。濃縮流(0.3M KNO3)は、100
0mlの溶液であり、ごくわずかな濃度上昇を確実にした。通常、3時間の実験時間を経
た7cm2の膜サンプルについて、70mAで25%の塩除去が達成され得る。
【0107】
電流密度は100A/m2であった。3つの流はすべて、それぞれ200ml/min
の公称ポンプ速度を有する3つの蠕動ポンプによって循環された。希釈流は、イオンクロ
マトグラフィー(IC)分析のためにサンプリングされた。採取した各サンプルは100
.0μlで、分析のために50mlに希釈した。通常、各膜実験を通して4~6検体のサ
ンプルを採取した。サンプルの除去は、希釈流の総量に影響を与えなかった。ほとんどの
場合、濃縮流と希釈流の間のわずかな濃度差のために、水の損失はわずかであった。IC
分析サンプルでは体積調整の必要はなかった。
【0108】
(従来のカチオン交換膜)
図4A~4Bは、上記の実験手順に記載されているように、2つの従来の膜を使用した
脱塩の経時的な希釈流中のCa
2+およびNa
+イオンのモル量(mol/L)のグラフ
である。グラフは、Ca/Na(mol/L)の選択性を示す。Ca
2+とNa
+の間の
モル輸送比は、従来のカチオン交換膜では約2であった。結果は主に電荷効果によるもの
である。Ca
2+は、イオンの電荷がより大きいため、Na
+よりも速く膜を通って電界
内を移動する。しかしながら、線の傾きが示すように、Ca
2+イオンとNa
+イオンと
の両方が着実に除去された。
【0109】
(一価選択性カチオン交換膜)
本明細書に開示される方法によって(例えば、以下の実施例5に記載されるように)調
製した、分子量600g/molのPEIを有する一価選択性カチオン交換膜を、上記の
ように試験した。結果を
図5のグラフに示す。簡潔に言うと、Ca
2+/Na
+の選択透
過性は11であった。したがって、Ca
2+は、上記の未改質の従来の膜と比較して、輸
送が22倍抑制される。したがって、本明細書に記載の一価選択性カチオン交換膜は、従
来のカチオン交換膜と比較して、増加した選択透過性を提供する。
【0110】
(実施例3:膜テストクーポンの作成)
多孔質ポリエチレン(PE)フィルム(厚さ24または34μm)をスチレン(ST)
/ジビニルベンゼン(DVB)/N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液に0.01
~4時間浸漬して、膜を作成した。混合物に重合開始剤を添加し、ST:DVB:NMP
の組成を7:1:2(質量比)にした。PEフィルムを溶液で飽和させ、2枚のマイラー
シートの間に配置した。マイラーシート間の気泡を取り除いた。長時間の曝露後の溶液の
蒸発による「白い領域」を回避するために、さらに溶液を追加した。膜を約80~90°
Cに1~4時間加熱した。このような実験の一般的な膜の寸法は4x15インチである。
【0111】
そのように調製された膜を、1.5インチのディスククーポンにカットした。クーポン
を、ClSO3H:CH3Clの組成が1:2(体積比)のClSO3H/CH3Cl溶
液に、4oCの温度で24時間浸漬した。膜を溶液から除去し、NMPおよびメタノール
ですすいだ。次に、すすいだ膜をナプキンで乾燥させ、その後の処理および試験の準備が
できていると見なした。
【0112】
このような膜の抵抗は通常2500Ω-cm2であり、選択透過性はない。報告された
抵抗は、機器の測定を超えていた。
【0113】
(実施例4:実施例3の膜試験クーポンからのカチオン交換膜の調製)
実施例3の膜試験クーポンを処理して、カチオン交換膜試験クーポンを生成した。
【0114】
ナプキンで乾燥させた後、膜を1N NaOH溶液に約15分間配置した。膜をNaO
H溶液から取り出し、水ですすぎ、0.5M NaCl溶液でコンディショニングした。
【0115】
膜の抵抗は1.8~3Ω-cm2で、対イオン選択透過性は101%~104%であっ
た。
【0116】
(実施例5:実施例4のカチオン交換膜試験クーポンの表面修飾)
実施例4のカチオン交換膜試験クーポンを官能化して、一価および多価選択性カチオン交
換膜試験クーポンを調製した。
【0117】
ナプキンで乾燥させた後、膜をPEI水溶液に一晩(約15時間)置いた。PEI溶液
のpHは8~12.6であることが試験された。膜をPEI溶液から取り出し、水ですす
いだ。膜を1NNaOH溶液に15~22分間浸漬し、基板の大部分のSO2Cl基がS
O3Naに完全に変換されたことを確認した。
【0118】
膜表面はPEIポリマー分子で修飾され、さまざまなテストが行われた。膜の抵抗は2
.8~7Ω-cm2で、対イオン選択透過性は100%~103%であった。
【0119】
(実施例6:地下水の改質)
代表的な地下水として、800ppmのNa+、250ppmのCa2+、50ppm
のMg2+を含有するサンプル水を準備した。実際には、地下水は3つのカチオンの大き
なバリエーションを有する。本明細書において試験された組成は平均値であった。
【0120】
サンプル地下水を、実施例5に記載された一価選択性カチオン交換膜および実施例3に
記載された従来のカチオン交換膜で処理した。結果を
図6A~6Bのグラフに示す。Na
+、Ca
2+、Mg
2+イオンの濃度を測定した。ナトリウム吸着率(SAR)をも測定
した。SARは、灌漑用水の水の硬度要件の重要な指標である。
【0121】
簡単に言えば、結果は、実施例5の一価選択膜が処理水のSAR値を3に低減できるこ
とを示している。比較すると、実施例3のカチオン交換膜はすべてのイオンを除去し、多
価イオンの除去によりSAR値が増加する。したがって、本明細書に記載の一価選択膜は
、処理された地下水のSAR値を低下させ得る。
【0122】
(実施例7:海水の処理)
実施例5に記載のような一価選択性カチオン交換膜を使用して、硬度を除去するために
海水を処理した。海水中の硬度の除去は、次亜塩素酸塩の生成、油の抽出、食卓塩の製造
などの多くのプロセスにとって重要であり得る。結果を
図7に示す。具体的には、希釈流
中のMg
2+、Ca
2+、およびNa
+イオンの濃度の経時変化を
図7のグラフに示す。
簡単に説明すると、Mg
2+とCa
2+との濃度は比較的一定のままであるが、Na
+イ
オンの濃度は低下する。したがって、本明細書に記載の一価選択膜を使用して、海水中の
Na
+イオン濃度を低下させ得る。
【0123】
(一価選択性カチオン交換膜の安定性)
実施例5の一価選択性カチオン交換膜を、室温で0.5M NaCl溶液に浸漬した。
物理吸着されたPEIを有する従来のカチオン交換膜をも試験した。
図8は、時間経過後
の膜選択透過性の変化のグラフである。簡単に言えば、150日間の浸漬後、一価選択膜
はNa
+イオン対Ca
2+イオンについて9超の選択透過性を示す。一価選択性膜は、市
販の従来の製品よりも高い選択性を有し、また、経時的に有意な安定性をも示す。したが
って、一価選択膜は、従来の膜よりも優れた選択性と長寿命を有し、長期間の使用後も安
定した状態を維持する。
【0124】
(実施例9:一価選択性カチオン膜性能研究)
一価選択性カチオン膜の性能を、7cm
2の表面積を有する膜クーポンを使用して実験
室条件下で調査した。選択性は、希釈および濃縮区画を含有する実験室EDモジュール(
図9に示す)を使用して決定した。これらの区画内の溶液は、アノードポンプとカソード
区画とを循環するK
2SO
4電解質および、蠕動ポンプを介して独立して循環された。希
釈流は約75mlの総量を有し、そのイオン成分をイオンクロマトグラフィー(IC)に
よってモニターした。試験に使用されたカチオン交換膜およびアニオン交換膜はどちらも
、対イオンの98%の優先的輸送を伴う高い共イオン排他性を有していた。電流密度は、
制限電流を超えて動作することを避けるために選択された。
【0125】
合成地下水組成物(800ppm Na
+、260ppm Ca
2+、76ppm M
g
2+)を使用して、30A/m
2の電流密度で一価選択性カチオン交換膜の選択性をテ
ストした。
図10Aおよび10Bは、経時的な希釈区画内の対象カチオンの濃度を示して
いる。
図10Bは、非選択性膜を通過することによって減少するすべてのカチオン濃度を
示すが、
図10Aは、一価選択性カチオン交換膜によって希釈されているNa
+のみを示
している。
図10Cおよび10Dは、時間の経過に伴う希釈区画内の対象カチオンの濃度
をmol/Lで示している。
【0126】
海塩の回収もまた実験で実証されている。希釈区画には、500ppmのTDSに希釈
された海水の主要イオン(17000ppm Cl-、2800ppm SO
4
2-、9
000ppm Na+、1200ppm Mg
2+、および300ppm Ca
2+)を
有する初期溶液が含有されている。
図11Aおよび11Bは、300A/m
2の印加電流
密度を有する一価選択性アニオン交換膜および一価選択性カチオン交換膜を使用した、濃
縮区画内の選択イオンの濃度を示す。青色の四角アイコンは、未処理の海水中の主要イオ
ンの濃度を表している。
【0127】
グラフは、経時的な濃縮区画内の硫酸塩に対する塩化物(
図11A)およびカルシウム
に対するナトリウム(
図11B)の濃度の増加を明確に示している。一価選択性アニオン
およびカチオン交換膜の組み合わせは、両方の膜を有するEDプロセスを使用して海水か
ら海塩を回収するための適用性を示している。さらに、非選択性および一価選択性膜セル
対を組み合わせて、EDR生成水中に特異的に対象化されたイオン組成物を生成し得る。
【0128】
従来の/市販の一価選択膜と本明細書に開示される一価選択膜との初期選択性および寿
命選択性(安定性)の比較を
図12A~12Bに示す。
図12Aおよび12Bの選択性は
、百万分率(ppm)またはモル(M)濃度スケールでの、カルシウムイオン濃度に対す
るナトリウムイオン濃度の変化倍率で表される。
【0129】
従来の/市販の膜は、PEIの物理吸着を含む方法によって製造された。
図12Aは、
80°Cの温度での0.5M NaCl溶液への浸漬時間にわたる膜選択性を示している
。結果は、2.5/10°Cの傾きを有するアレニウスプロットでの実験から以前に導出
された温度補正を使用して推定された。加速試験に示されるように、本明細書に開示され
る一価カチオン選択性膜による選択性の喪失は、従来の膜と比較して、時間とともにかな
り減少する。さらに、(
図12Bに示されるように)高温から通常の動作温度までの寿命
を外挿することにより、本明細書に開示される一価選択性カチオン交換膜の許容寿命は、
二価カチオンに対する一価カチオンの高い選択性で決定される。
【0130】
(実施例:一価選択性カチオン交換膜の使用)
本明細書に開示される一価選択性カチオン交換膜が水処理システムにおいてどのように
使用され得るかの例は、以下の実施例に記載されている。EDR生成物と不合格水の水質
を、一価選択性カチオン交換膜用の社内有限要素解析(FEA)予測ソフトウェアを使用
してモデル化した。不合格水のスケーリング指数(SI)は、PHREEQCソフトウェ
ア(さまざまな水性地球化学計算を実行するように設計されたC++プログラミング言語
で記述されたコンピュータープログラム)を使用して、さまざまな瞬間のEDR回収率で
計算された。結果は、非選択性EDR取付およびFEAモデルからのフィールドデータと
比較された。
【0131】
(用途1:工業用塩水の最小化)
多くの産業用途では、逆浸透(RO)を使用して低塩分水を生成する。多くの場合、R
Oシステムは潜在的なスケール形成のために回収率が低く制限されるが、塩水の処分はプ
ロセス全体のコストのかかる部分になる可能性がある。一価選択性カチオン交換膜EDR
は塩水を処理するために使用され、排出制限を達成して、廃棄コストを大幅に削減できる
。
【0132】
ある比較用途部位では、2297mg/Lの不合格流TDSを有する75%の回収率で
ROを運用している。さらなる処理なしでは、総供給流量の25%を塩水廃棄物として処
分する必要がある。非選択性EDRを採用することにより、この塩水を供給流量の5.7
%に減らし得る。一価選択性カチオン交換膜は、CaCO3スケールを沈殿させる危険の
前に、EDRプロセスの回収率を82%から90%に増やすことにより、塩水廃棄物を供
給フローの3.2%にさらに減らすことができる。表1は、フィールドテストと一価選択
性カチオン交換膜モデリングとからの流の主なイオン濃度、および最大EDR回収率での
CaCO3のSIを示している。
【0133】
【0134】
(用途2:生成水の排出)
石油やガスを収穫するために使用されるプロセスは、環境排出の処理が課題となる「生
成水」をも生成し得る。EDRシステムは、脱塩が処理プロセスの主要な構成要素である
生成水施設で試験運用された。サンプル水は、圧力駆動膜回収を制限する高濃度のシリカ
を有する水である。
【0135】
EDRパイロット研究では、2段階プロセスの最初の段階でTDSを8587mg/L
から2107mg/Lに減らしながら、88%の即時回収率を示したが、BaSO4スケ
ールが形成される可能性があるため、より高い回収率を達成することはできなかった。一
価選択性カチオン交換膜からの選択性を適用することにより、98%の期待される回収率
で動作しながら、同じTDS削減を達成し得る。表2は、97%の回収率で予測される生
成物と濃縮物流との分析を示している。
【0136】
【0137】
(用途3:農業淡水化)
農業用途における淡水源への負荷を減らすために、汽水品質の代替供給を検討するべき
である。大麦や綿などの一部の作物は塩水条件に対してより耐性があるが、汽水を絶えず
使用すると、一般的に土壌に塩が蓄積し、淡水の追加を通して適切に浸出することなく、
収量に悪影響を及ぼすであろう。果樹を含む塩分に敏感な作物の場合、さらに注意を払わ
なければならず、多くの場合、脱塩が必要である。
【0138】
全体的な塩分に加えて、カチオン濃度は土壌の構造安定性にさまざまな影響を与え得る
。この効果は、ナトリウム吸着比(SAR)と構造安定性のカチオン比(CROSS)と
で表し得る。これらのパラメータが農業収量に与える影響は特定の作物と塩分に依存する
が、SARまたはCROSS値が低いほど、通常、土壌の安定性が高いことを示す。SA
RとCROSSの式を以下に示す。
【0139】
【0140】
【0141】
一価選択性カチオン交換膜EDRは、カルシウムおよびマグネシウムよりもナトリウム
およびカリウムを選択的に除去し得る。その結果、農業用途のTDSを削減し、低いSA
R値を維持するのに適し得る。特に、一価選択性カチオン交換膜EDRは、多くの作物で
必要とされるように、低エネルギーで追加のプロセスステップなしで生成TDS濃度の範
囲全体で低いSAR値を維持する。
【0142】
サンプルの汽水給水は、同じ生成TDSを有する非選択性EDRおよび一価選択性ED
Rでモデル化された。生成イオン濃度を表3に示す。一価選択性カチオン交換生成水は、
非選択性プロセスの6.59と比較して、0.16のSAR値を有する。
【0143】
【0144】
したがって、本明細書に開示される一価選択性カチオン交換膜は、工業用塩水の最小化
、生成水排出、および農業脱塩などの用途に適している。
【0145】
(実施例11:アクリル基を有する一価選択性カチオン交換膜の調製)
例えば、実施例4に記載されるようなカチオン交換膜は、以下に記載される方法によっ
て官能化され得る。
【0146】
(光重合)
2-(メタクリロイルオキシ)-エチルスルホニルクロリドを含む溶液を使用して、ア
クリル基を膜基板に共有結合させ得る。溶液中の膜は、光開始剤の存在下でUV光に曝露
することによって重合され得る。
【0147】
一般に、2-(メタクリロイルオキシ)-エチルスルホニルクロリドおよびUV光重合
の使用は、クロロスルホン酸およびバッチ式製造方法(製造例5で使用される)の使用を
排除し、コンベヤベルト上での高速UV重合の使用を可能にし得る。製造方法により、短
時間で大量の膜を製造することが可能である。
【0148】
光重合は、熱開始重合の代替プロセスであり、システムから熱開始剤を除去し、UV光
開始剤と置換する。この種の光開始材料は、一般にUV光を吸収し、エネルギー的に励起
され得る。その結果、遊離基に分解され、モノマーが付着して系の開始重合が誘発される
。
【0149】
膜基板は、光開始剤2,2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノン(DMPA)
(Omnirad BDKとして知られ、IGM Resins、Waalwijk、N
etherlandsによって配布されている)の存在下でUV光にさらされた。製剤の
組成を表4に示す。
【0150】
【0151】
混合物を調製し、DMPAを完全に溶解した後、基板を調製物で飽和させ、UV放射を
照射した。飽和膜は(白色の不透明な色から)透明になり、UV光の透過が可能になった
。基板は、片側または両側からUV光を照射し得る。両側からの照射は一般に光開始剤の
分解を増加させ、反応をより効果的にし、ポリマーの収量およびモノマーの変換を増加さ
せる。一般に、基板は、光開始剤の吸収の最大値と一致するUV光の最大放射のランプで
照射され得る。DMPAは約250nmの紫外線を吸収する。
【0152】
反応は
図15に示されている。
図15から、光分解が起こると、化学混合物の重合を開
始するために使用され得るラジカルが生成されることが分かる。重合は室温で行われ得る
。重合は、実質的に酸素を含まない環境、例えば窒素で満たされたチャンバー内で、実施
され得る。重合はまた、例えば、上記の実施例3に記載されているように、気泡なしで、
2枚の透明なシート間で実施され得る。一般に、混合物がUV放射にさらされている限り
、重合は継続する。UV放射を取り除くと、重合が停止する。
【0153】
調製物を重合し、架橋または硬化させて、さらに処理することができる官能性膜を得た
。
【0154】
複数の光開始剤が使用され得る。短波長(例えば、350nm未満または250nm未
満)では、適度な高濃度で使用され得る光開始剤を使用すると、より優れた表面硬化を実
現し得る。より長い波長(例えば、350nm~420nm)では、より良い膜浸透とよ
り良い硬化深さが達成され得る。他の例示的な光開始剤には、
図14に示されるビスアシ
ルホスフィンオキシド(BAPO)(オムニラッド819として知られている)が含まれ
る。
【0155】
(表面官能化)
光重合に続いて表面官能化を行った。表面は、PEIの水溶液と反応することによって
官能化され得る。表面官能化は、約60,000g/molの分子量を有する分岐PEI
を用いて実施された。PEIの分岐により、溶液が粘性になり、水に溶けやすくなり、取
り扱いが容易になる。高分子量は、PEI分子が基板の大部分に浸透するのを防ぐために
用いられた。表面官能化に使用されるPEIの代表的なソリューションを表5に示す。
【0156】
【0157】
基板を溶液で飽和させ、室温で一晩反応させるためにわずかに攪拌させて配置した。翌
日、膜を溶液から除去し、脱イオン水で洗浄して過剰のPEIを除去した。
【0158】
(膜の加水分解および官能化)
この段階では、基板はバルクであり、イオン形態ではない。バルク基板はイオン交換が
不可能である。基板をカチオン交換膜に変換するために、基板を加水分解して、系の大部
分における-SO2Cl基を、非常に強い酸性ですぐにイオン化する-SO3H基に変換
した。具体的には、脱イオン水で洗浄した後、基板を1M NaOH水溶液に10~15
分間入れた。その後、膜を取り除き、脱イオン水で十分に洗浄して過剰のNaOHを除去
した。膜は0.5MNaCl溶液に保存され、化学的および電気化学的両方の特性評価を
準備した。
【0159】
実施例11で製造された膜は、少なくとも表面官能基が類似しているため、実施例5で
製造された膜と同様に機能することが期待される。
【0160】
本書で使用されている表現および用語は、説明を目的としたものであり、限定的なもの
と見なされるべきではない。本明細書で使用される場合、「複数(plurality)
」という用語は、2つ以上のアイテムまたは構成要素を指す。「備える(compris
ing)」、「含む(including)」、「保持する(carrying)」、「
有する(having)」、「含有する(containing)」、および「内包する
(involving)」という用語は、明細書または請求項などのいずれにおいても、
自由形式(オープンエンド)の用語であり、すなわち、「含むがこれらに限定されない」
を意味する。したがって、そのような用語の使用は、その後にリストされる項目、および
その同等物、ならびに追加の項目を包含することを意味する。請求項に関して、「からな
る」および「本質的にからなる」移行句のみが、それぞれ、クローズドのまたはセミクロ
ーズドの移行句である。請求項要素を修飾するための請求項での「第1」、「第2」、「
第3」などの序数の用語の使用は、それ自体では、別の請求項要素に対するある請求項要
素の優先度、優先順位、または順序、もしくは方法の動作が実行される一時的な順序を意
味するものではない。しかし、請求項要素を区別するために、特定の名前を有する1つの
請求項要素を同じ名前(ただし、序数の用語を使用する)を有する別の要素から区別する
ためのラベルとしてのみ使用される。
【0161】
このように少なくとも1つの実施形態のいくつかの態様を説明したので、様々な変更、
修正、および改善が容易に生じることが当業者に理解されるべきである。任意の実施形態
で説明される任意の特徴は、任意の他の実施形態の任意の特徴に含まれるか、またはそれ
らの代わりになり得る。そのような変更、修正、および改善は、本開示の一部であること
が意図されており、本発明の範囲内にあることが意図されている。したがって、前述の説
明および図面は、単なる例にすぎない。
【0162】
当業者は、本明細書に記載のパラメータおよび構成が例示的なものであり、実際のパラ
メータおよび/または構成は、開示された方法および材料が使用される特定の用途に依存
することを理解すべきである。当業者はまた、開示された特定の実施形態と同等のものを
、日常的な実験のみを使用して認識または確認することができるはずである。
【0163】
請求項は添付の通りである。
前記正に帯電した官能化層は、スルホン酸基、カルボン酸基、第四級アンモニウム基、および正に帯電したアンモニウムに加水分解された第三級アミン基のうちの少なくとも1つを備える、請求項5に記載の一価選択性イオン交換膜。
前記帯電した官能化層は、スルホン酸基、カルボン酸基、第四級アンモニウム基、および正に帯電したアンモニウムに加水分解された第三級アミン基のうちの少なくとも1つを含む正に帯電した官能化層である、請求項16に記載の水処理システム。