(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037905
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】心筋細胞を生成及び増殖させるためのWNTアゴニスト、並びに生理活性脂質を用いた試薬及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20240312BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20240312BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20240312BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240312BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240312BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240312BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240312BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20240312BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20240312BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20240312BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C12N5/077
C12N5/0775
C12N5/0735
C12N5/10
C12Q1/02
A61P9/00
A61P9/10
A61K45/00
A61K35/545
A61K35/28
A61K35/34
A61P39/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023211427
(22)【出願日】2023-12-14
(62)【分割の表示】P 2020549020の分割
【原出願日】2019-03-15
(31)【優先権主張番号】62/644,091
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウー ショーン エム.
(72)【発明者】
【氏名】ブイケマ ジャン ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】シャルマ アルン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】拍動心筋細胞を増殖させる方法を提供する。
【解決手段】拍動心筋細胞を1種以上のWNTアゴニスト、1種以上の生理活性脂質、又は1種以上のWNTアゴニストと1種以上の生理活性脂質との組み合わせで処理することを含む、拍動心筋細胞を増殖させる方法。iPS細胞を1種以上のWNTアゴニストと1種以上の生理活性脂質との組み合わせで処理することを含む、iPS細胞を含む幹細胞を拍動心筋細胞へと分化させる方法。拍動心筋細胞と1種以上のWntアゴニストと1種以上の生理活性脂質とを含む、再生医療用の組成物及びキット。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
拍動心筋細胞を増殖させる方法であって、前記拍動心筋細胞をWNTアゴニスト、生理活性脂質、及び/又は前記WNTアゴニストと前記生理活性脂質との組み合わせで処理することを含む、方法。
【請求項2】
前記拍動心筋細胞は、ヒト心筋細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理は、in vitroで行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記拍動心筋細胞を処理する工程の前に、多能性幹細胞を前記拍動心筋細胞へと分化させる工程を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記多能性幹細胞は、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、心筋細胞前駆細胞、及び/又は人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記WNTアゴニストは、GSK3β阻害剤である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記生理活性脂質は、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)及び/又はリゾホスファチジン酸(LPA)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記WNTアゴニストは、CHIR99021である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記WNTアゴニストは、CHIR99021、BIO、Wnt3A、Wnt3A+R-スポンジン、Wnt代替物のScFv-DKK1c、ScFv-DKK1c+R-スポンジン、及び/又はそれらの任意の組み合わせである、請求項1~5又は請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記拍動心筋細胞を1日~120日の期間の間処理する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記WNTアゴニスト及び/又は前記生体脂質を組織培養培地に前記生理活性脂質のそれぞれについては1μM~50μMの最終濃度で、CHIR99021又はBIOについては1μM~50μMで、そして前記組換えWNTアゴニストのWnt3A、Wnt3A+R-スポンジン、Wnt代替物のScFv-DKK1c、ScFv-DKK1c+R-スポンジン、及び/又はそれらの任意の組み合わせを1ng/mL~500ng/mLで添加することによって、前記拍動心筋細胞を処理する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
多能性幹細胞から拍動心筋細胞を産生する方法であって、
前記多能性幹細胞を少なくとも1種の生理活性脂質及び少なくとも1種のWNTアゴニストで処理すること、
を含む、方法。
【請求項13】
前記多能性幹細胞は、ヒト細胞である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記多能性幹細胞は、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、心筋細胞前駆細胞、及び/又は人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記WNTアゴニストは、GSK3β阻害剤である、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記生理活性脂質は、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)及び/又はリゾホスファチジン酸(LPA)である、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記WNTアゴニストは、CHIR99021である、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記WNTアゴニストは、CHIR99021、BIO、Wnt3A、Wnt3A+R-スポンジン、Wnt代替物のScFv-DKK1c、ScFv-DKK1c+R-スポンジン、及び/又はそれらの任意の組み合わせである、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記多能性幹細胞を1時間~10日の期間の間処理する、請求項12~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
S1P及びLPAを組織培養培地にそれぞれ1μM~50μMの最終濃度で、CHIR99021又はBIOについては1μM~50μMで、そして前記組換えWNTアゴニストのWnt3A、Wnt3A+R-スポンジン、Wnt代替物のScFv-DKK1c、ScFv-DKK1c+R-スポンジン、及び/又はそれらの任意の組み合わせを1ng/mL~500ng/mLで添加することによって、前記多能性幹細胞を処理する、請求項12~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
ヒト心筋細胞を得る方法であって、
hiPS細胞をプロトコルの第1段階の間の任意の時点で少なくとも1種のWntアゴニスト及び少なくとも1種の生理活性脂質で処理し、前記細胞をプロトコルの第2段階の間に少なくとも1種のWntアンタゴニストで更に処理する2段階のWntシグナル伝達プロトコルを介して、hiPS細胞を拍動心筋細胞へと分化させることにより、前記拍動心筋細胞を得ることと、
前記拍動心筋細胞を少なくとも1種の生理活性脂質、少なくとも1種のWntアゴニスト及びそれらの任意の組み合わせで処理することによって、前記拍動心筋細胞を増殖させることと、
を含む、方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法により産生されるヒト拍動心筋細胞。
【請求項23】
薬物スクリーニングの方法であって、請求項22に記載のヒト心筋細胞を薬物と接触させることと、前記薬物の前記心筋細胞に対する効果をモニタリングすることとを含む、方法。
【請求項24】
患者を心疾患から治療する方法であって、前記患者の心臓に請求項1~21のいずれか一項に記載の方法により得られる心筋細胞を直接投与することを含む、方法。
【請求項25】
前記心疾患は、先天性心疾患、心筋梗塞、癌療法のためのアントラサイクリン、チロシンキナーゼ阻害剤及び免疫チェックポイント阻害剤等の心毒性剤、アルコール、シャーガス病若しくはライム病を引き起こす細菌等の細菌、心筋炎を引き起こすウイルス等の環境曝露、又は遺伝的/遺伝性心筋症からの心不全である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記患者の心臓に適用されるパッチを介して前記心筋細胞を前記患者に投与する、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
患者を心疾患から治療する方法であって、前記患者に少なくとも1種のWntアゴニスト、Wnt代替物、生理活性脂質、及び/又はそれらの組み合わせを投与することを含む、方法。
【請求項28】
患者を心疾患又は血管疾患から治療する方法であって、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法により得られる心筋細胞を含む組織工学血液ポンプを投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[連邦政府資金]
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与された助成金番号LM012179及びU01HL099776による政府の支援を一部受けてなされたものである。合衆国政府は本発明における一定の権利を有する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年3月16日付けで出願された米国仮特許出願第62/644,091号に対する優先権の利益を主張するものである。この出願の全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0003】
本発明は、拍動心筋細胞を増殖させる試薬、組成物及び方法に関する。本発明はまた、iPS細胞を含む様々な幹細胞から心筋細胞を産生する組成物及び方法に関する。本発明はまた、これらの心筋細胞が使用され得る心疾患の治療及びハイスループット薬物スクリーニング、心疾患モデリング、高精度医療、及び再生医療を含む様々な用途に関する。
【背景技術】
【0004】
心筋梗塞(MI)の後に、ヒトの心臓は10億個ほどの心筋細胞(CM)が失われ得ることにより、急性心機能不全が引き起こされ、患者は慢性心不全の発症の危険にさらされる。成体哺乳動物の心臓は自己再生する能力には限界があり、hiPSC-CMの注入又は人工心臓組織を使用した心臓パッチの作製を含む現在の治療アプローチは、移植後の細胞死及び細胞レシピエントの不整脈によって妨害されることが実証されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。成体CMとは異なり、胎児CMは増殖性であり、大規模な有糸分裂を起こすことから、胚発生の間の指数関数的な心筋成長が説明される(非特許文献4、非特許文献5)。新生児の心臓は様々な形の傷害後に再生する能力を備えているが、この能力は出生直後に失われ、その結果、成体期に損傷を受けると心筋質量は大幅にかつ永続的に失われる(非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)。
【0005】
成人の心臓の年間のCMターンオーバーは2%未満であると計算されるため、ヒトの心臓は一般的に分裂終了臓器とみなされる(非特許文献10、非特許文献11、非特許文献3)。胎児CMの大規模な自己複製特性は、成熟の進行に伴って徐々に低下する(非特許文献12、非特許文献13)。一貫して、この生物学はin vitroでhiPSC-CMにより再現される。心筋細胞前駆細胞は容易に増殖し得るが、CM系譜に拘束されると、たちまちその増殖能力を失い、サルコメア組織化が増加する(非特許文献14、非特許文献15、非特許文献16、非特許文献17、非特許文献18)。多能性幹細胞の心臓分化には多くの胚経路が関係している(非特許文献19、非特許文献20、非特許文献21、非特許文献22、非特許文献23)。特にWntシグナル伝達は、心筋細胞発生の多くの異なる段階で極めて重要な役割を担い、心臓の特異化、成長及び分化に必要である。初期段階で、中胚葉が心臓前駆細胞に特異化するために、Wntシグナル伝達の阻害が必要とされる(非特許文献24、非特許文献25)。特異化に続いて、多能性の二次心臓領域の前駆細胞は、Wntシグナル伝達経路が刺激されると自己複製し、その後にWntシグナル伝達が停止すると心臓の3つの心血管系譜へと分化する(非特許文献26、非特許文献27、非特許文献28、非特許文献29)。最終的に、心臓が形成されると、緻密心筋層ではWntシグナル伝達は大部分が活性なままであり、こうして心筋成長が促進される(非特許文献30、非特許文献31)。これらのin vivoでの初期発生研究から
得られた知識は、in vitroで多能性幹細胞起源からCMを効果的に生成するための再現的な方法につながった。現在のhiPSC向けの分化プロトコルには、初期段階でのWntシグナル伝達の小分子に媒介される活性化に続いて後期段階のWnt阻害の後に高純度のCMを誘導するための簡略化された形のWnt調節が含まれる(非特許文献32、非特許文献33、非特許文献34、非特許文献21)。しかしながら、この分野での多数の制限により、拘束されたCMを効果的に増殖及び継代させて、組織工学又は真の再生アプローチに必要な数を生成することはできていない。
【0006】
成体哺乳動物の心筋細胞は、細胞分裂の能力に限界がある(非特許文献35)。放射性炭素年代測定研究により、成人の心臓では、年間の細胞ターンオーバーがベースラインで0.5%未満であることが示唆されている(非特許文献10)。したがって、哺乳動物の成体の心臓再生は、心筋梗塞等の心傷害後に心筋細胞の大規模な損失を補うことができないことから、不利な心臓リモデリングにつながる。ヒトの心臓のこの限られた再生能力のため、心筋細胞を新たに作製すると共に、最終分化した心筋細胞に増殖を誘導するための新しい方法論の開発に大きな関心が集められている。
【0007】
ヒト多能性幹細胞研究での主要な目標は、再生医療における細胞療法に適した心筋細胞を大量に提供することである(非特許文献36、非特許文献7、非特許文献37、非特許文献38)。ヒト多能性幹細胞の心臓分化のためのプロトコルは10年前と比べて大幅に改善されている。現在のプロトコルは、分化の間に90%以上の純粋な心筋細胞を得た後に、CRISPR/Cas9遺伝子編集を使用して、選択可能なマーカーをhiPSCへと導入することによって更に強化することができる代謝選択を行うことができる(非特許文献33、非特許文献39)。最新の方略では、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)から直接的に心臓分化させるために、2段階のWnt/β-カテニン調節が使用される(非特許文献32、非特許文献34)。in vivoでの中胚葉誘導に必要とされる発生Wntシグナルを模するために、hiPSCは、最初に非選択的グリコーゲンキナーゼ3β(GSK3β)阻害剤であるCHIR99021(CHIR)で処理され、続いてWnt/β-カテニン阻害剤で処理されて、心臓細胞分化が促進される。
【0008】
近年、多くの機能を有する生理活性脂質の総称であるリゾリン脂質を、in vitroでの幹細胞分化及びin vivoでの心血管発生の重要な調節因子として裏付ける証拠が増えてきている(非特許文献40)。これらの生理活性脂質のうち、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)及びリゾホスファチジン酸(LPA)が主要な構成員である(非特許文献40)。
【0009】
in vivoの研究では、マウスでの正常な心臓発生における心筋細胞中のS1P受容体を介したS1Pシグナル伝達の必須の役割が実証された(非特許文献41)。in vitroの研究では、これらのシグナル伝達分子がヒト胚性幹細胞における多能性及び細胞周期活性を調節可能であることが示された(非特許文献42、非特許文献43)。
【0010】
生理活性脂質は、それらがMAPK/ERK経路、Hippo経路、及びWnt/β-カテニンシグナル伝達経路等の重要な細胞シグナル伝達経路を刺激する能力を介して、上皮細胞、線維芽細胞、及び様々な癌細胞系統における細胞増殖に関与することも報告されている(非特許文献44、非特許文献45、非特許文献46、非特許文献47)。
【0011】
特許文献1及び特許文献2は、培養で心筋細胞を産生する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第9,074,188号
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0244262号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Beltrami et al., 2001
【非特許文献2】Chong et al., 2014
【非特許文献3】Senyo et al., 2013
【非特許文献4】de Boer et al., 2012
【非特許文献5】Risebro et al., 2015
【非特許文献6】Foglia and Poss, 2016
【非特許文献7】Laflamme and Murry, 2011
【非特許文献8】Porrello et al., 2011
【非特許文献9】Uygur and Lee, 2016
【非特許文献10】Bergmann et al., 2009
【非特許文献11】Goldstein et al., 1974
【非特許文献12】Bruneau, 2013
【非特許文献13】Srivastava, 2006
【非特許文献14】Birket et al., 2015
【非特許文献15】Burridge et al., 2012
【非特許文献16】Mauritz et al., 2008
【非特許文献17】Zhang et al., 2009
【非特許文献18】Zhang et al., 2016
【非特許文献19】Kattman et al., 2011
【非特許文献20】Lee et al., 2017
【非特許文献21】Paige et al., 2010
【非特許文献22】Protze et al., 2017
【非特許文献23】Yang et al., 2008
【非特許文献24】Foley and Mercola, 2005
【非特許文献25】Schneider and Mercola, 2001
【非特許文献26】Cohen et al., 2007
【非特許文献27】Kwon et al., 2009
【非特許文献28】Lin et al., 2007
【非特許文献29】Qyang et al., 2007
【非特許文献30】Buikema et al., 2013
【非特許文献31】Ye et al., 2015
【非特許文献32】Burridge et al., 2014
【非特許文献33】Lian et al., 2012
【非特許文献34】Lian et al., 2013
【非特許文献35】Sharma et al. 2015
【非特許文献36】Chuang et al. 2011
【非特許文献37】Serpooshan et al. 2017
【非特許文献38】Li et al. 2016
【非特許文献39】Sharma et al. 2018
【非特許文献40】Kleger et al. 2011
【非特許文献41】Clay et al. 2016
【非特許文献42】Avery et al. 2008
【非特許文献43】Garcia-Gonzalo et al. 2008
【非特許文献44】Harvey et al. 2013
【非特許文献45】Marinissen et al. 2001
【非特許文献46】Oskouian et al. 2007
【非特許文献47】Yang et al. 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、最近の進展にもかかわらず、異なるhiPSC系統では、たとえ同じ個体に由来するものであっても、心筋細胞を再現的に生成する能力が様々であり得るため、相変わらず分化効率にはかなりのバッチ間変動が見られる。したがって、一貫して高い効率を有するin vitroのhiPSC-CM生成プロトコルが依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一態様では、本開示は、拍動心筋細胞を増殖させる方法であって、前記拍動心筋細胞をWNTアゴニスト、生理活性脂質、及び/又は前記WNTアゴニストと前記生理活性脂質との組み合わせで処理することを含む、方法を提供する。前記拍動心筋細胞は、ヒト心筋細胞であり得る。前記処理は、in vitroで行うことができる。前記拍動心筋細胞を処理する工程の前に、多能性幹細胞を前記拍動心筋細胞へと分化させる工程を更に含むことができる。前記多能性幹細胞には、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、心筋細胞前駆細胞、及び/又は人工多能性幹(iPS)細胞が含まれる。前記WNTアゴニストには、GSK3β阻害剤が含まれる。1つの好ましいGSK3β阻害剤はCHIR99021である。好ましい生理活性脂質には、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)及び/又はリゾホスファチジン酸(LPA)が含まれる。拍動心筋細胞を増殖させる本方法は、CHIR99021、BIO、Wnt3A、Wnt3A+R-スポンジン、Wnt代替物のScFv-DKK1c、ScFv-DKK1c+R-スポンジン、及び/又はそれらの任意の組み合わせによる拍動心筋細胞の処理を含み得る。前記拍動心筋細胞を1日~120日の期間の間処理することができる。
【0016】
幾つかの実施の形態では、拍動心筋細胞を増殖させる方法は、前記WNTアゴニスト及び/又は前記生体脂質を組織培養培地に前記生理活性脂質のそれぞれについては1μM~50μMの最終濃度で、CHIR99021又はBIOについては1μM~50μMで、そして前記組換えWNTアゴニストのWnt3A、Wnt3A+R-スポンジン、Wnt代替物のScFv-DKK1c、ScFv-DKK1c+R-スポンジン、及び/又はそれらの任意の組み合わせを1ng/mL~500ng/mLで添加することによって、前記拍動心筋細胞を処理することを含む。
【0017】
本開示の別の態様は、多能性幹細胞から拍動心筋細胞を産生する方法を含む。この方法は、前記多能性幹細胞を少なくとも1種の生理活性脂質及び少なくとも1種のWNTアゴニストで処理することを含む。前記多能性幹細胞は、ヒト細胞であり得る。前記多能性幹細胞は、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、心筋細胞前駆細胞、及び/又は人工多能性幹(iPS)細胞であり得る。前記WNTアゴニストは、GSK3β阻害剤であり得る。好ましい生理活性脂質の幾つかは、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)、リゾホスファチジン酸(LPA)、及びそれらの組み合わせである。好ましいWNTアゴニストには、CHIR99021、BIO、Wnt3A、Wnt3A+R-スポンジン、Wnt代替物のScFv-DKK1c、ScFv-DKK1c+R-スポンジン、及び/又はそれらの任意の組み合わせが含まれる。前記多能性幹細胞を1時間~10日の期間の間処理することができる。
【0018】
多能性幹細胞から拍動心筋細胞を生成する本方法の1つの好ましい実施の形態では、S1P及びLPAを、組織培養培地にそれぞれ1μM~50μMの最終濃度で、CHIR99021又はBIOについては1μM~50μMで、そして組換えWNTアゴニストのWnt3A、Wnt3A+R-スポンジン、Wnt代替物のScFv-DKK1c、ScFv-DKK1c+R-スポンジン、及び/又はそれらの任意の組み合わせを1ng/mL
~500ng/mLで添加することによって、多能性幹細胞が処理される。
【0019】
本開示はまた、ヒト心筋細胞を得る方法であって、hiPS細胞をプロトコルの第1段階の間の任意の時点で少なくとも1種のWntアゴニスト及び少なくとも1種の生理活性脂質で処理し、前記細胞をプロトコルの第2段階の間に少なくとも1種のWntアンタゴニストで更に処理する2段階のWntシグナル伝達プロトコルを介して、hiPS細胞を拍動心筋細胞へと分化させることにより、前記拍動心筋細胞を得ることと、前記拍動心筋細胞を少なくとも1種の生理活性脂質、少なくとも1種のWntアゴニスト及びそれらの任意の組み合わせで処理することによって、前記拍動心筋細胞を増殖させることとを含む、方法を提供する。
【0020】
他の態様は、本方法のいずれかによって産生されたヒト拍動心筋細胞及びヒト心筋細胞を薬物と接触させた後に、薬物のヒト心筋細胞に対する効果をモニタリングする薬物スクリーニングの方法を含む。
【0021】
更なる態様は、患者を心疾患から治療する方法を含む。本方法は、前記患者の心臓に本方法により得られる心筋細胞を直接投与することを含む。前記心疾患には、先天性心疾患、心筋梗塞、癌療法のためのアントラサイクリン、チロシンキナーゼ阻害剤及び免疫チェックポイント阻害剤等の心毒性剤、アルコール、シャーガス病若しくはライム病を引き起こす細菌等の細菌、心筋炎を引き起こすウイルス等の環境曝露、又は遺伝的/遺伝性心筋症からの心不全が含まれる。治療方法において、前記患者の心臓に適用されるパッチを介して前記心筋細胞を前記患者に投与することができる。
【0022】
さらに、患者を心疾患から治療する方法は、前記患者に少なくとも1種のWntアゴニスト、Wnt代替物、生理活性脂質、及び/又はそれらの組み合わせを投与することを含む方法を含む。
【0023】
他の態様は、患者を心疾患又は血管疾患から治療する方法であって、本方法により得られる心筋細胞を含む組織工学血液ポンプを投与することを含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A-1I】Wntシグナル伝達が、拍動hiPSC-CMの大量増殖及び長期継代を刺激することを示す図である。(A)hiPSC-CM増殖及び継代の図式的タイムライン。(B)0継代目(P0)の初期の10cm
2のコンフルエントな皿から後続の継代での複数のコンフルエントT-175cm
2細胞培養フラスコまでのhiPSC-CM増殖の代表的な画像。(C)各継代でのhiPSC-CMによる総表面積(cm
2)被覆。(D)各継代でのCHIR又はDMSO(CTR)の存在下でのコンフルエントなhiPSC-CMの代表的な明視野画像。両方の処理条件に同じ希釈率を適用した。(E)P0からP5までの細胞の総数の定量。(F)DMSO(CTR)又はCHIRで処理されたhiPSC-CMについてのP3でのTnT発現に関する免疫蛍光分析。(G)各継代でのCHIR処理された細胞対DMSO処理された細胞におけるTnT陽性細胞の増加倍率。(H)CHIR処理された細胞におけるTnT発現の代表的なフローサイトメトリープロット。(I)(H)でのフローサイトメトリー分析からのTnT陽性細胞のパーセンテージの定量。スケールバーは100μmを表し、データは平均(n=3~5)±エラーバー(標準偏差を示す)であり、
*はp<0.05である。
【
図2A-2K】Wntシグナル伝達によるhiPSC-CM増殖ウィンドウの拡張を報告する図である。(A)分化12日目(P0)から開始する各継代でのhiPSC-CMの免疫蛍光顕微鏡画像。心臓トロポニンT(TnT)。(B)CHIR又はDMSO(CTR)で処理した後のTnT陽性細胞における細胞周期指標であるki67の発現。(C)CHIR処理又はCTR処理されたTnT陽性細胞における増殖指標であるpHH3の発現。(D)種々の有糸分裂期でのCHIR処理されたhiPSC-CMの代表的な共焦点顕微鏡画像。(E)(D)とは異なる有糸分裂期での増殖性hiPSC-CMの定量。(F)細胞質分裂を経ているTnT陽性細胞におけるAurora Bキナーゼ発現の免疫蛍光画像。(G)二核化されたhiPSC-CMのパーセンテージの定量(総CMの%として)及び(H)CHIR処理した後に更に6日間にわたりCTR、CHIR又はC59のいずれかで処理されたP3細胞についてのki67発現。(I)CTR、CHIR又はC59で24時間(24h)処理されたP0のhiPSC-CMの免疫蛍光画像。(J)(I)に記載された実験からの総hiPSC-CMのパーセンテージとしてのki67発現(すなわち、細胞周期指標)の定量。(K)(I)に記載された実験からのhiPSC-CMにおけるTOPFlashルシフェラーゼレポーターを使用したTCF/LEFを介した古典的Wntシグナル伝達の評価。CHIRの存在下でのTCF/LEF活性の劇的な増加に留意されたい。スケールバーは100μmを表し、データは平均(n=3~5)±エラーバー(標準偏差を示す)であり、
*はp<0.05である。
【
図3A-3M】Wnt刺激後のhiPSC-CMの表現型評価を報告する図である。(A)DMSO(CTR)、CHIR(2.0μm)又はCHIRに続くC59(CHIR>C59)のいずれかで処理し、トロポニンT(TnT)及びα-サルコメアアクチン(α-SA)の発現について免疫染色されたマイクロパターン化された表面上のP3のhiPSC-CMの共焦点顕微鏡画像。(B)サルコメア線維配列の自動的定量。縦軸はゼロ度と規定される。(C)示された角度で配向されたサルコメア領域のパーセンテージが定量される。(D)(A)で処理された細胞における収縮性測定。(E)hiPSC-CMの代表的な活動電位のトレーシング。データは28日目(D28)のhiPSC-CMにおける膜電位[Em]の変化を表す。(F)90%再分極における活動電位持続時間(APD)(ADP
90)及び28日目での各群についての最大拡張期電位(MDP)を表すグラフ。(G)28日目でのhiPSC-CMにおけるベースラインに対して表されるCa
2+トランジェント(Fluo-4AM)蛍光[F/F0]。(H)各群についての減衰タウを表すグラフ。D28、D35、D42及びD49での増殖性CMについてのサルコメア遺伝子(I)発現、電気生理学的遺伝子(J)発現及び代謝遺伝子(K)発現の増加倍率。D28の後に、細胞をCHIRで処理し続けるか、中止するか、又はC59で処理する。(L)CHIR、CTR及びCHIR>C59で処理されたP3のCMにおけるMLC2V及びTnTについての免疫組織化学。(M)MLC2V及びTnT陽性細胞のパーセント。スケールバーは100μmを表す。データは平均(n=3~5)±エラーバー(D、E、G及びHではSEMを示し、J及びLでは標準偏差を示す)であり、
*はp<0.05である。
【
図4A-4K】Wntシグナルの増減に続くhiPSC-CMの単一細胞RNAシーケンシング分析を報告する図である。(A)DMSO CTR(灰色)、CHIR(黄色)又はC59(黒色)で24時間処理された12日目のhiPSC-CMのt-SNEプロット。(B)(A)の3つの群と発現に有意差がある遺伝子のヒートマップ。(C)Wnt標的遺伝子の発現。(D及びE)増殖遺伝子の発現。CHIR処理された細胞における増殖遺伝子発現の増加に留意されたい。(F)(A)からの単一のhiPSC-CMの教師なしクラスタリングを表すt-SNEプロット。(G)教師なしクラスターにおける発現が異なる遺伝子のヒートマップ。(H)経路濃縮分析に使用されるクラスター当たりの遺伝子。(I)単一のhiPSC-CMにおける心室マーカーの発現。(J)心房マーカー細胞の発現。(K)心室成熟マーカーの発現。示される全てのパネルについて、遺伝子はp<0.01を表す。
【
図5A-5K】GSK3β阻害が、有糸分裂に必要とされるAKTキナーゼのリン酸化を調節することを報告する図である。(A)CHIR処理に対する増加倍率として表されるTnT陽性細胞の細胞数。(B)示された阻害剤での処理の24時間後のTOPFlashルシフェラーゼTCF/LEF分析。(C)示された阻害剤についての遺伝子発現。(D)CHIR(CHIR99021)によるGSK3阻害及びPNU74654による下流の古典的Wntシグナル伝達阻害の概略図。(E)43個のスクリーニングされたリン酸化標的をCHIRで処理した後にリン酸化レベルが有意に変化したキナーゼを表すパネル。(F)CHIRの存在下又は不存在下で100分間培養された細胞におけるpAKT T308についてのウエスタンブロット分析。(G)pAKTタンパク質発現を表すグラフ。(H)示された処理と共に6日間培養された12日目のhiPSC-CMにおけるpAKT T308についての免疫蛍光分析。コントロールに対する倍率として表される、各処理についてのTnT(I)細胞数及びpAKT T 308(J)細胞数の定量。(K)示された処理による処理の24時間後のTOPFlashルシフェラーゼTCF/LEF分析。スケールバーは100μmを表し、データは平均(n=3~5)±エラーバー(標準偏差を示す)であり、
*はp<0.05である。
【
図6A-6E】Wnt受容体リガンドが、CM細胞周期の再活性化を誘導することを報告する図である。(A)細胞周期の研究に使用されるhiPSC-CMの時点の概略図。(B)Wnt3A、scFv-DKK1c+RSPO、又はH
2Oコントロール(CTR)で処理された12日目のCMの代表的な画像。(C)CTRに対する倍率として表されるTnT陽性細胞数の定量。(D)列記された処理についてのD66のCMにおける免疫蛍光分析。(E)66日目での有糸分裂CMにおける増加倍率。スケールバーは100μmを表し、データは平均(n=3~5)±エラーバー(標準偏差を示す)であり、
*はp<0.05である。
【
図7A-7G】Wnt代替物が、心筋の成長を促進することを報告する図である。(A)Wnt代替物処理又はCTRについての12週齢のマウスの代表的な画像。(B)心臓重量と体重との比率を表すグラフ。(C)心室の3つのレベルでのヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色。(D)LV寸法を表すグラフ及び(E)壁厚(μm)を表すグラフ。(F)小麦胚芽凝集素(WGA)及びdapi(DNA)についての免疫蛍光分析。(G)相対細胞数及び細胞サイズ(μm)を表すグラフ。スケールバーはA及びCでは1000μmを表し、Fでは100μmを表し、データは平均(Aではn=3、C及びDではn=6、E~Hではn=4)±エラーバー(標準偏差を示す)であり、
*はp<0.05である。
【
図8A-8C】hiPSCの心臓分化の遺伝子発現分析を報告する図である。(A)hiPSC-CM分化の間の多能性、心臓中胚葉、心臓前駆細胞及び心筋細胞の転写因子発現。破線は12日目から14日目まで2.0μMのCHIRで処理した試料における遺伝子発現を示した。CHIR又はDMSO(CTR)で処理された14日目のhiPSC-CMにおけるISL1(B)発現及びカスパーゼ3(C)発現の免疫蛍光画像が示されている。
【
図9A-9B】Wnt刺激に際してのhiPSC-CM増殖の表現型分析を報告する図である。(A)CHIR又はDMSO(CTR)による処理後の様々な継代でのhiPSC-CMのTnT発現及びpHH3発現の免疫蛍光画像。(B)CTR処理された細胞ではなくCHIR処理された細胞における種々の有糸分裂期での崩壊したサルコメア構造及び複数のhiPSC-CMの存在を裏付ける、マイクロパターン化された基板上での3継代目(P3)のCTR及びCHIRで処理されたhiPSC-CMにおけるTnT pHH3発現の免疫蛍光画像。
【
図10】心臓遺伝子発現のリアルタイム定量的PCR分析を報告する図である。最初の2ヶ月間にわたりCHIRで処理された又は処理されていない3ヶ月齢のhiPSC-CMを心臓遺伝子発現のqPCR分析のために採取した。
【
図11A-11C】CHIR処理されたhiPSC-CMを使用した3D心臓組織の生成を報告する図である。(A)コラーゲンベースのヒドロゲルに封入され、in vitroで7日間培養されたCHIR処理されたhiPSC-CMの明視野画像。(B)(A)の操作された心臓組織における組織化されたサルコメア及びCx43ギャップ結合タンパク質の発現を示す免疫蛍光画像。(C)示された開始数のCHIR処理されたhiPSC-CMにより生成された3D心臓構造物における拍動領域及び収縮速度の量の定量。
【
図12A-12E】機能的な3次元心臓組織を作製するために利用されている事前に増殖されたCMを報告する図である。
【
図13】CHIRを伴って3回継代されたhiPSC-CMにおけるpAKT T308及びTnTについての免疫組織化学を報告する図である。
【
図14A-14B】(A)Wnt代替物のscFv-DKK1c又はビヒクルコントロール(CTR)で処理された8週齢のマウスの心臓の画像、(B)8週齢のマウスの心臓における平滑筋アクチン、DNA及びWGA膜染色の共焦点画像を報告する図である。
【
図15A-15C】Wnt活性化因子CHIR99021と同時に添加した場合の、hiPSC-心筋細胞分化のS1P/LPAに媒介される増大を図解する96ウェル分化を報告する図である。A)この研究で利用された「通常の」化学的に定義された心臓分化プロトコルの図。S1P/LPAを、hiPSC-CM分化の種々の時点で添加した。B)2つの低分化hiPSC系統の心筋細胞への2D単層ベースの化学的に定義された分化の心臓トロポニンT(TnT)(緑色)及び核DNA(青色)についての代表的な96ウェル免疫蛍光画像。8日目の分化後hiPSC-CMに対して96ウェルプレートの形式で染色を実施した。hiPSC-CM分化過程の間の0日目~2日目、4日目~6日目又は6日目~8日目にわたってS1P、LPA又はその両方を添加した。C)S1P、LPA又は両方が添加された各時点についてのTnT陽性細胞のパーセンテージとして表される、合計のTnT陽性細胞数の定量。エラーバーは標準偏差を表す。
*はコントロールに対するp<0.05を示す。2つの異なるhiPSC系統において3回~6回の反復で実験を行った。
【
図16A-16E】生理活性脂質S1P及びLPAが、β-カテニン核内蓄積を増加させ、hiPSCからの初期心臓分化の間にWntシグナル伝達を活性化することを報告する図である。A)DMSO、小分子GSK3β阻害剤/Wnt活性化因子CHIR99021(CHIR)、生理活性脂質S1P+LPA、又はCHIR+生理活性脂質によるhiPSCの2時間の処理後のβ-カテニン(緑色)、多能性マーカーNanog(赤色)及びDAPI(DNA)(青色)についての免疫蛍光。矢印は、特徴的なβ-カテニン核内蓄積を示す細胞を示している。B)DMSOコントロールに対して正規化された処理群の細胞質強度に対する核強度として表されるβ-カテニン染色の定量。C)hiPSCにTOPFlash Wnt経路の活性レポーターをトランスフェクションし、CHIR、S1P/LPA又はその両方で2時間処理した後の、DMSOコントロールに対する増加倍率として表されるルシフェラーゼ発光強度。D)hiPSCの文脈における、生理活性脂質とWnt/β-カテニンシグナル伝達経路とを連係するシグナル伝達カスケードを図解するモデル。hiPSCでのS1P/LPAによる処理はβ-カテニンを接着結合及びE-カドヘリンから解離するため、下流のシグナル伝達及び遺伝子転写のために利用することができる全体的なβ-カテニンプールが増加する。GSK3β阻害剤CHIRでの処理はβ-カテニンを解放し、下流のシグナル伝達及び遺伝子転写のための全体の細胞内β-カテニンプールが増加する。E)生理活性脂質S1P/LPAを伴う又は伴わない小分子GSK3β阻害剤/Wnt活性化因子CHIRによるhiPSCの48時間の処理後の遺伝子発現における主要な変化を示すマイクロアレイ分析。生理活性脂質による処理後の上方調節された遺伝子(赤色)及び下方調節された遺伝子(青色)のリストが示されている。3回又は4回の生物学的反復で実験を行った。
【
図17A-17E】生理活性脂質S1P/LPAが、hiPSCの形態を急速に変化させ、初期心臓分化の間にビメンチン発現を増加させることを報告する図である。A)S1P及びLPAで24時間処理されたhiPSCの免疫蛍光及び位相差像。カルセインAM色素は膜を染色し、細胞体全体を染色する。B)DMSO又はS1PとLPAとの組み合わせで処理されたhiPSCについてのμmで表示される細胞直径の定量。C)24時間にわたるDMSO又はS1P/LPAによる処理後の3つの個別のhiPSC系統の正規化された細胞数。N=3回の生物学的反復実験。エラーバーはSEMを表す。D)DMSO、GSK3β阻害剤のCHIR99021(CHIR)、生理活性脂質のS1P+LPA、又は組み合わせによるhiPSCの48時間の処理後の免疫蛍光染色。中間フィラメントタンパク質のビメンチン(緑色)は上皮間葉転換を表示し、ブラキウリ(赤色)は初期中胚葉を表示する。E)コントロール、CHIR、S1P/LPA、及び組み合わせ処理に関する総細胞のパーセンテージとして表される、ビメンチン(VIM)陽性細胞及びブラキウリT(BRY)陽性細胞の定量。エラーバーは標準偏差を表す。エラーバーは標準偏差を表す。3回の生物学的反復で実験を行った。
*はP<0.05を示す。条件につきN=9の画像で細胞を定量した。
【
図18A-18G】LPA及びS1Pが、hiPSC-CMに対する細胞周期誘導効果を示すことを報告する図である。A)hiPSC-CMを分化の種々の時点でダウンストリームアッセイ用の96ウェル形式へと再プレーティングすることの概略図。B)30日目のhiPSC-CMをDMSO、S1P/LPA単独、CHIR単独、又はCHIRと共にS1P/LPAと一緒に48時間培養した後の、心臓トロポニンT(TnT)(緑色)、細胞周期活性マーカーのki67(赤色)及び核色素(DNA)(青色)を示す代表的な画像。C)各処理の48時間後のki67陽性心筋細胞のパーセンテージ。D)各群についての48時間の処理後のCMの総数に関する正規化された細胞数。E)30日目のhiPSC-CMをDMSO、S1P/LPA単独、CHIR単独、又はCHIR+S1P/LPAと一緒に48時間培養した後の、心臓トロポニンT(TnT)(緑色)、有糸分裂マーカーのリン酸化ヒストンH3(pHH3)(赤色)及び核色素(DNA)(青色)についての免疫蛍光染色。F)様々な処理群間の有糸分裂(pHH3)CMのパーセンテージ。G)示された処理群内の二核化及び多核化されたCMのパーセンテージ。
*はコントロールと比べたP<0.05を示す。N=3回の生物学的反復。エラーバーは標準偏差を表す。
【
図19A-19H】S1P及びLPAによるhiPSC-CMにおける細胞周期の再活性化が、ERKシグナル伝達に依存していることを報告する図である。A)30日目のhiPSC-CMにTOPFlash Wntシグナル伝達経路の活性レポーターをトランスフェクションし、CHIR、S1P/LPA又はその両方で2時間処理した後のルシフェラーゼ発光強度。示されるデータは、DMSOコントロールに対する増加倍率を表す。B)0分、5分、10分及び30分のS1P/LPA処理に応答するhiPSC-CMキノームリン酸化における変化を示すキナーゼアッセイの定量。データは平均±SEMとして表される。
*はP<0.05を示す。C)S1P/LPA(各10μM)を伴って又は伴わずに小分子MEK阻害剤のトラメチニブで処理された及び処理されていない30日目のhiPSC-CMで行った代表的なキナーゼアッセイ。ERKリン酸化及び抗体コントロールに対応するスポットが標識されている。D)MEK阻害剤のトラメチニブの存在下又は不存在下でのS1P及びLPAで処理された30日目のhiPSC-CMにおける心臓トロポニンT(TnT)(緑色)、ki67(赤色)及び核DNA(青色)についての免疫蛍光。E)(D)におけるki67陽性心筋細胞(CM)のパーセンテージの定量。
*はP<0.001を示す。F)5μMのS1P受容体アンタゴニストのVPC23019の存在下又は不存在下での生理活性脂質S1Pで処理された30日目のhiPSC-CMにおける心臓トロポニンT(TnT)(緑色)、ki67(赤色)及び核DNA(青色)についての免疫蛍光。G)5μMのVPC23019を伴う又は伴わないS1P処理後のki67陽性CMのパーセンテージの定量。H)分化したhiPSC-CMにおける生理活性脂質と古典的MAPK/MEK/ERKシグナル伝達経路との間の連係を図解するモデル。N=4。
【
図20A-20B】生理活性脂質S1P及びLPAは、核内β-カテニンを増加させるが、初期中胚葉分化を誘導しないことを報告する図である。A)0時間(hr)後、0.5時間後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、16時間後、及び24時間後の核内β-カテニン蓄積に対する時間経過研究。矢印は、深在性の核内β-カテニンを発現する細胞を示している。B)GSK3β阻害剤のCHIR99021、生理活性脂質のS1P及びLPA、又はDMSOコントロールと一緒に24時間培養されたhiPSCにおける、多能性マーカーのNanog(緑色)、初期中胚葉マーカーのブラキウリ(赤色)及びDAPI(青色)についての免疫蛍光。グラフは、列記された処理についてのブラキウリ(Bry)陽性細胞のパーセンテージの定量を表す。エラーバーはSEMを表す。
*はP<0.05を示す。N.S.=有意でない。N=3。
【
図21A-21B】hiPSC-CMが、最終分化に際して関連のS1P及びLPA受容体を発現し、S1P/PA処理に応答することを報告する図である。A)5つの異なるhiPSC-CM系統からの30日目のhiPSC-CMのトランスクリプトームプロファイリング。高いTNNT2及び低いPECAM1は、それぞれ高い心筋細胞純度及び低い内皮細胞コンタミネーションを示す。IonTorrent Ampliseqトランスクリプトームプロファイルを使用して行われた発現プロファイリング。エラーバーはSEMを表す。B)生理活性脂質LPA及びS1Pは、最終分化の種々の時点でki67発現を誘導する。約20日目及び約50日目のhiPSC-CMにおけるS1P及びLPA、IGF又はDMSOによる48時間の処理後のα-アクチニン(緑色)、ki67(赤色)及びdapi(青色)についての免疫蛍光。
【
図22A-22D】30日目のhiPSC-CMにおける運動由来の収縮性パラメーターを報告する図である。A)高解像度及び高周波数の動画から生成されたDMSO、CHIR99021、又はS1P/LPAで処理した30日目のhiPSC-CMの代表的なヒートマップ(赤色=高運動、青色=低運動)。収縮頻度(拍動/分)B)、収縮変形距離C)、及び収縮速度D)を表すグラフ。データは平均として表される。エラーバーはSEMを示す。
【
図23A-23B】LPAが、hiPSC-CMにおけるYAP核内蓄積を増加させ得ないことを報告する図である。A)DAPI(青色)、総YAP(緑色)及び細胞型特異的マーカー(赤色)(hiPSC用にTra-1-81及びhiPSC-CM用にα-アクチニン)についての、未処理のhiPSC、hiPSC-CM及び非CM中胚葉派生物(黄色のボックスによって示される)における免疫蛍光染色。黄色の矢印により表示された代表的な細胞によって示されるように、YAPはベースラインで全ての3つの細胞型で核に局在化している。B)下流のHippo経路の転写エフェクターYAPについて染色(緑色)された、LPAでの処理あり及び処理なしの純化された10日目又は30日目のhiPSC-CMについてのYAP免疫蛍光。10日目又は30日目のhiPSC-CMに対するLPA処理後に見られたYAPの核内蓄積又はβ-カテニン移行における有意でない(N.S.)増加。条件につきN=9の画像で細胞を定量した。データは平均±STDとして表される。
【
図24】生理活性脂質が、未分化hiPSCにおいてERKリン酸化を変化させないことを報告する図である。5分間のS1P及びLPA(S+L)処理あり及び処理なしで、未分化hiPSCにおいてERK1/2リン酸化が行われた。ERK1/2リン酸化及び抗体コントロールに対応するスポットが標識されている。
【
図25】S1P及びLPAが、hiPSC-CMにおいてMAPK/MEK/ERKシグナル伝達を活性化することを報告する図である。
図19の完全版。S1P/LPA(各10μM)を伴って又は伴わずに、小分子MEK阻害剤トラメチニブで処理された及び処理されていない30日目のhiPSC-CMで行ったキナーゼアッセイ。ERKリン酸化及び抗体コントロールに対応するスポットが標識されている。
【
図26】S1P及びLPAが、hiPSC-CMにおいて成熟又はサブタイプ特異化を変化させないことを報告する図である。S1P/LPA(各10μM)で処理された及び処理されていない30日目のhiPSC-CMで行ったQPCR遺伝子発現分析。心房、心室及び結節のサブタイプに対応する遺伝子並びに成熟マーカーが標識されている。
*はp<0.05を示す。
【
図27】生理活性脂質S1P及びLPAで処理されたhiPSC及びhiPSC-CMにおいてスクリーニングされた種々のリン酸化キナーゼのパネルを示す表S1である。表中、アスタリスク(*)の付いたタンパク質は、S1P/LPA処理後のリン酸化において有意な変化(P<0.05)を示している(
図19A~
図19Hも参照)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
一態様では、本開示は、ヒト拍動心筋細胞を含む拍動心筋細胞を増殖させる方法を提供する。この方法は、拍動心筋細胞を1種以上のWNTアゴニスト、1種以上の生理活性脂質、又は1種以上のWNTアゴニストと1種以上の生理活性脂質との組み合わせで処理することを含む。
【0026】
本開示では、「拍動心筋細胞」という用語は、心筋細胞、心筋肉細胞、心臓筋肉細胞、筋肉心細胞、及び/又は心臓筋細胞等の他の用語と区別なく使用される。心筋細胞(CM)は、心臓筋肉を構成する細胞である。本開示では、「心筋細胞」は、心臓組織から単離された初代心筋細胞も、例えば幹細胞の分化等の組換え技術によって得られた心筋細胞も指す。
【0027】
本開示では、心筋細胞は、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、心筋細胞前駆細胞及び/又は人工多能性幹(iPS)細胞、又は任意の他の心筋細胞前駆細胞等の多能性幹細胞の分化によって得られるものを含む。本開示では、ヒトiPS(hiPS)細胞を含むiPS細胞は、心筋細胞を得るために特に好ましい。本開示では、iPS細胞に由来する心筋細胞は、iPS由来の心筋細胞又は心筋細胞と区別なく呼称され得る。
【0028】
拍動心筋細胞を1種以上のWNTアゴニスト、1種以上の生理活性脂質、又は1種以上のWNTアゴニストと1種以上の生理活性脂質との組み合わせで処理する本発明によって、初代拍動心筋細胞又は多能性幹細胞に由来するあらゆる拍動心筋細胞を増殖させることができる。本増殖法は、それらの増殖を刺激することにより、拍動心筋細胞の数を効果的に増加させる。拍動心筋細胞は典型的には、組織培養でさえも効果的に増殖しない非分裂細胞であるので、この結果は極めて予想外である。
【0029】
拍動心筋細胞は、in vitroで収縮/弛緩周期を経るその能力を保持する。拍動心筋細胞の収縮性を検出し、高解像度の動画で記録することができる。追加の免疫組織化学試験を実施して、サルコメア配列を定量することができる。他の試験には、拍動心筋細胞の電位を鮮明な電流固定モードで記録する電気生理学的研究が含まれ得る。
【0030】
「Wntアゴニスト」という用語は、単独で又は他の試薬と組み合わせて、細胞内の古典的Wntシグナル伝達経路を活性化する任意の試薬を意味する。古典的Wntシグナル伝達経路の活性化とは、β-カテニンが細胞核に移行するβ-カテニンシグナル伝達の活性化を意味する。本開示の目的で、単独の又は他の試薬と組み合わせた、核内β-カテニンを有する拍動心筋細胞を生成する任意の試薬は、Wntアゴニストと呼称される。
【0031】
Wntアゴニストには、小化合物、ペプチド、タンパク質、抗体及びそのフラグメント、siRNA、並びに代替ポリペプチドが含まれる。WNTアゴニストにはGSK3β阻害剤が含まれる。化合物CHIR99021(Selleckchem社から入手可能なアミノピリ
ミジン誘導体)は、1種の好ましいGSK3β阻害剤である。本開示では、CHIR99021は、CHIRと区別なく呼称され得る。別の好ましいGSK3β阻害剤は、BIO(Sigma-Eldridge社から入手可能な6-ブロモインジルビン-3'-オキシム)である。
【0032】
適切なWntアゴニストには、国際公開第2016040895号に開示されるような、Lrp5/6と共にFrizzled(Fzd)受容体を二量体化する代替ポリペプチドも含まれる。これらの代替ポリペプチドは、1以上のFzdタンパク質に対して少なくとも1×10-7MのKDで特異的親和性を有する結合ドメインと、Lrp5タンパク質及びLrp6タンパク質の少なくとも一方又は両方に対して少なくとも1×10-7MのKDで特異的親和性を有する結合ドメインとを含む。
【0033】
Fzd結合ドメインは、ノーリンタンパク質又はその結合断片であり得る。Fzd結合
ドメインは、抗Fzd抗体の6つのCDR領域を含むscFvであり得る。特に好ましいFzd結合ドメインは、汎特異的Frizzled抗体OMP-18R5の6つのCDR領域を含む。Fzd結合ドメインは、新たに設計されたFzd結合ドメインであり得る。
【0034】
Lrp5/6結合ドメインは、DKKタンパク質の結合部を含み得る。特に、Lrp5/6結合ドメインは、ヒトDKK1のC末端ドメインを含み得る。
【0035】
特に好ましい代替物のWntアゴニストは、国際公開第2016040895号に開示され、リンカーを介してヒトDKK-1のC末端ドメインに連結されたOMP-18R5抗体(Oncomed社から入手可能)のscFvフラグメントを含むScFv-DKK1cで
ある。
【0036】
適切なWntアゴニストには、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3又はR-スポンジン4とも呼ばれるRSPO1、RSPO2、RSPO3及びRSPO4を含むRSPOファミリーのタンパク質リガンドも含まれる。適切なWntアゴニストには、Wnt3(Wntファミリーメンバー3)タンパク質及びWntアゴニストとして機能し得るそれらの任意の誘導体が更に含まれる。適切なアゴニストには、Wnt3A及びWntアゴニストとして機能し得るその任意の誘導体が更に含まれる。
【0037】
WNTアゴニストのいずれか1種を他の任意のWntアゴニストと組み合わせて使用することができる。好ましい組み合わせの幾つかは、Wnt3A及び少なくとも1種のR-スポンジンタンパク質を含み得る。他の組み合わせは、ScFv-DKK1cと少なくとも1種のR-スポンジンタンパク質との組み合わせを含み得る。
【0038】
生理活性脂質は、単独であるか、又はWntアゴニストとの共刺激物質として、細胞シグナル伝達経路を調節する脂質である。生理活性脂質には、多価不飽和脂肪酸及び一不飽和脂肪酸、リン脂質誘導体、並びに3炭素グリセロール骨格上のヒドロキシル基の1つが非エステル化のままである糖リン脂質ファミリーのサブグループであるリゾリン脂質が含まれる。リゾリン脂質は脂肪酸を1種だけ含んでいる。適切な生理活性脂質には、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)、リゾホスファチジン酸(LPA)、及びそれらの2つの化合物の組み合わせが含まれる。任意の他の適切な生理活性脂質には、心筋細胞の分化及び/又は増殖を刺激する又は1種以上のWntアゴニストと一緒に共刺激するあらゆる生体脂質(biolipids)が含まれる。
【0039】
拍動心筋細胞を「処理する」及び/又はその「処理」という用語は広く理解されており、拍動心筋細胞が少なくとも幾つかのWntアゴニスト及び/又は生理活性脂質に曝されるin vitro及び/又はin vivoでのあらゆる処置を含み得る。上記処理は、拍動心筋細胞をWntアゴニスト及び/又は生理活性脂質の少なくとも1種を含む配合物と共にインキュベートすることを含み得る。幾つかの実施形態では、拍動心筋細胞がin vitroでインキュベートされる場合に、Wntアゴニスト及び/又は生理活性脂質の少なくとも1種は溶剤中に溶解されて、組織培養培地に添加され得る。適切な溶剤には、水、バッファー、組織培養培地、有機溶剤及びそれらの任意の組み合わせが含まれ得る。
【0040】
幾つかの実施形態では、上記処理は、Wntアゴニスト及び/又は生理活性脂質の少なくとも幾つかを患者の臓器及び/又は組織に投与することを含み得る。その投与には、静脈内注射若しくは心臓組織への直接注射を含む注射、パッチ及び/又は経口投与が含まれ得る。
【0041】
心筋細胞を増殖させる本方法では、拍動心筋細胞は、in vitroで1種以上のW
NTアゴニスト、1種以上の生理活性脂質、又は1種以上のWNTアゴニストと1種以上の生理活性脂質との組み合わせで処理され得る。処理は1日~120日の期間にわたり施され得る。
【0042】
好ましい一実施形態では、拍動心筋細胞は、少なくとも1種のWntアゴニストと少なくとも1種の生理活性脂質との組み合わせを1日~120日の期間にわたり組織培養培地に添加することによって処理される。生理活性脂質は1μM~50μMの範囲内の最終濃度で添加され得る。GSK3β阻害剤は1μM~50μMの範囲内の最終濃度で添加され得る。Fzdリガンド及びLrp5/6リガンドを含む代替ポリペプチド等の組換えWntアゴニストは、1ng/mL~500ng/mLの範囲内の最終濃度まで添加され得る。
【0043】
好ましい一実施形態では、拍動心筋細胞は、組織培養培地にS1P及びLPAをそれぞれ1μM~50μMの最終濃度で添加することによって処理される。別の好ましい実施形態では、拍動心筋細胞は、1μM~50μMの最終濃度のS1P及びLPAと、これまた1μM~50μMの最終濃度のCHIR99021及びBIOのうちの少なくとも1種とで処理される。更なる実施形態では、拍動心筋細胞は、1μM~50μMの最終濃度のS1P及びLPAと、1ng/mL~500ng/mLの最終濃度の組換えWNTアゴニストのWnt3A、Wnt3A+R-スポンジン、Wnt代替物のScFv-DKK1c又はScFv-DKK1c+R-スポンジンのうちの少なくとも1種とで処理される。更なる実施形態では、拍動心筋細胞は、1μM~50μMの最終濃度のS1P及びLPAと、これまた1μM~50μMの最終濃度のCHIR99021及びBIOのうちの少なくとも1種と、1ng/mL~500ng/mLの最終濃度の組換えWNTアゴニストのWnt3A、Wnt3A+R-スポンジン、Wnt代替物のScFv-DKK1c又はScFv-DKK1c+R-スポンジンのうちの少なくとも1種とで処理される。拍動心筋細胞はまた、心筋細胞を1μM~50μMのCHIR99021及びBIOのうちの少なくとも1種で処理すること、及び/又は1ng/mL~500ng/mLの最終濃度の組換えWNTアゴニストのWnt3A、Wnt3A+R-スポンジン、Wnt代替物のScFv-DKK1c又はScFv-DKK1c+R-スポンジンのうちの1種以上で処理することによって産生され得る。
【0044】
更なる態様は、拍動心筋細胞を1種以上のWntアゴニスト、1種以上の生理活性脂質、又は1種以上のWntアゴニストと1種以上の生理活性脂質との組み合わせで処理することによって得られた心筋細胞を提供する。
【0045】
更なる態様では、本開示は、多能性幹細胞から心筋細胞を産生する方法を提供する。
【0046】
多能性幹細胞には、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、心筋細胞前駆細胞及び人工多能性幹(iPS)細胞が含まれる。他の型の多能性細胞を同様に使用することができる。本開示では、ヒトiPS(hiPS)細胞を含むiPS細胞は、心筋細胞を得るために特に好ましい。ヒトiPS細胞を含むiPS細胞は、リプログラミングによって成体細胞から生成される多能性幹細胞である。iPSは、OCT4、KLF4、SOX2及びMYCを発現するように細胞をリプログラミングすることにより、ケラチノサイト又は血液細胞又は幾つかの他の適切な細胞から得ることができる。
【0047】
本開示は、多能性幹細胞を1種以上の生理活性脂質と1種以上のWNTアゴニストとの組み合わせで処理し、該幹細胞を拍動心筋細胞へと分化させることによって、拍動心筋細胞を生成する方法を提供する。予想外にも、多能性幹細胞から拍動心筋細胞を産生するための本方法では、生理活性脂質とWNTアゴニストとの間に相乗作用がある。これらの方法では、hiPS細胞を含むiPS細胞が特に好ましい。本方法において特に好ましい生
理活性脂質は、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)及びリゾホスファチジン酸(LPA)であり、これらは個別に又は組み合わせて使用することができる。好ましい方法は、S1PとLPAとの組み合わせを含む。同様に、他の生理活性脂質を添加することもできる。
【0048】
多能性幹細胞を拍動心筋細胞へと分化させる本方法では、任意のWNTアゴニストを1種以上の生理活性脂質と組み合わせて使用することができる。そのようなWNTアゴニストにはGSK3β阻害剤が含まれる。CHIR99021及び/又はBIOは、本方法において1種以上の生理活性脂質と組み合わせて使用することができる。また、1種以上の生理活性脂質とCHIR99021、BIO、Wnt3A、Wnt3A+R-スポンジン、Wnt代替物のScFv-DKK1c、ScFv-DKK1c+R-スポンジン、Frdリガンド及びLpr5/6リガンドを含むWnt代替物からの1種以上のWNTアゴニストとを用いて方法を実施することもできる。
【0049】
多能性幹細胞を拍動心筋細胞へと分化させる本方法の幾つかでは、多能性幹細胞は、組織培養において1種以上の生理活性脂質と1種以上のWNTアゴニストとで1時間~10日の期間にわたり処理される。生理活性脂質は、組織培養培地にそれぞれ1μM~50μMの最終濃度で添加される。CHIR99021及び/又はBIOは、組織培養培地にそれぞれ1μM~50μMの最終濃度で添加される。WNTアゴニストのWnt3A、Wnt3A+R-スポンジン、Wnt代替物のScFv-DKK1c、ScFv-DKK1c+R-スポンジン、又はそれらの任意の組み合わせは、組織培養培地にそれぞれ1ng/mL~500ng/mLの最終濃度で添加される。
【0050】
当業者であれば、1種以上の生理活性脂質と1種以上のWntアゴニストとの組み合わせを、任意の多能性幹細胞を拍動心筋細胞に分化させるための任意のプロトコルで使用することができることを理解するであろう。これらの分化プロトコルには、Wntアゴニストを分化の第1段階の間に添加した後に、Wntアンタゴニストを分化の第2段階の間に添加する2段階のWntシグナル伝達プロトコルが含まれる。2段階のWntシグナル伝達プロトコルでは、多能性幹細胞、すなわちiPS細胞は、上記プロトコルの第1段階の間に1種以上の生理活性脂質と1種以上のWntアゴニストとの組み合わせで処理される。
【0051】
本開示の更なる態様は、ヒト心筋細胞を得る方法であって、
1)hiPS細胞をプロトコルの第1段階の間の任意の時点で1種以上のWntアゴニスト及び1種以上の生理活性脂質で処理し、引き続きプロトコルの第2段階の間に1種以上のWntアンタゴニストで処理する2段階のWntシグナル伝達プロトコルを介して、hiPS細胞を拍動心筋細胞へと分化させることと、
2)上記拍動心筋細胞を1種以上の生理活性脂質、1種以上のWntアゴニスト、又は1種以上の生理活性脂質と1種以上のWntアゴニストとの組み合わせで処理することによって、拍動心筋細胞を増殖させることと、
を含む、方法を含む。
【0052】
更なる態様は、1種以上の生理活性脂質と1種以上のWntアゴニストとの組み合わせをプロトコルの第1段階の間に使用する2段階のWntプロトコルを介して、多能性幹細胞、好ましくはhiPS細胞を分化させることにより得られるヒト拍動心筋細胞を含む。hiPS細胞が分化した拍動心筋細胞(hiPSC-CM)を、1種以上の生理活性脂質、1種以上のWntアゴニスト、又は1種以上の生理活性脂質と1種以上のWntアゴニストとの組み合わせで処理することによって、hiPS細胞が分化した拍動心筋細胞を更に増殖させることができる。
【0053】
本方法により提供される技術的利点の1つは、拍動心筋細胞は、典型的には非増殖細胞であるため、以前は達成が困難であった拍動心筋細胞を大量に産生することである。本方法によって産生される拍動心筋細胞は、拍動心筋細胞を薬物と接触させた後に、薬物の心筋細胞に対する効果をモニタリングするハイスループット薬物スクリーニングを含む、多くの用途で使用され得る。多くの薬物は心筋に対して細胞毒性がある。拍動心筋細胞を用いたハイスループット薬物スクリーニング法は、スクリーニングを組織培養で行うことができるので、細胞毒性の可能性がある薬物の迅速な同定を可能にし得る。
【0054】
特に好ましい実施形態は、hiPS細胞からの心筋細胞分化を促進するために生理活性脂質S1P及びLPAを使用する方法を含む。CHIR99021と一緒の、未分化hiPS細胞におけるS1P及びLPAの処理は、核内β-カテニン蓄積及び中胚葉表現型を相乗的に増加させる。hiPSC-CM分化の後期では、S1P及びLPAの処理により、hiPSC-CMにおける細胞周期活性がERK/MAPKシグナル伝達を介して刺激され、細胞増殖が促進される。
【0055】
更なる態様は、心疾患の治療を必要とするヒト患者を治療する方法を含む。患者は、本分化法及び/又は本増殖法によって得られた拍動心筋細胞を患者の心臓に投与することによって治療され得る。上記治療法は、限定されるものではないが、先天性心疾患、心筋梗塞からの変性、癌療法のためのアントラサイクリン、チロシンキナーゼ阻害剤及び/又は免疫チェックポイント阻害剤等の心毒性剤からの変性、アルコール、シャーガス病若しくはライム病を引き起こす細菌等の細菌、心筋炎を引き起こすウイルス等の環境曝露からの変性、又は遺伝的/遺伝性心筋症からの変性を含む、心筋細胞の変性に関連するあらゆる心疾患に対して有益であり得る。
【0056】
上記治療法は、患者の心臓に適用されるパッチを介して、拍動心筋細胞を患者に投与することを含み得る。拍動心筋細胞を、同様にパッチに含まれ得る1種以上の生理活性脂質及び1種以上のWntアゴニストと組み合わせて投与することもでき、又はそれらを、例えば静脈内注射を介して又は経口により患者に別々に投与することもできる。
【0057】
更なる態様は、患者を心疾患から治療する方法であって、患者に1種以上のWntアゴニスト、Wnt代替物、生理活性脂質、及び/又はそれらの任意の組み合わせを投与することを含む、方法を提供する。
【0058】
更なる態様では、本開示は、心疾患を治療するためのキットを提供する。上記キットは、本分化法及び/又は本増殖法の1つによって得られた拍動心筋細胞を含む。上記キットは、1種以上の生理活性脂質及び/又は1種以上のWntアゴニストを更に含み得て、例えばパッチとして設計されたマトリックスゲル等の細胞の送達のための媒体を更に含み得る。
【0059】
更なる態様では、本開示は、本分化法及び/又は本増殖法によって得られた拍動心筋細胞から作製された組織工学血液ポンプ(tissue engineered blood pump)を提供する。本開示はまた、心臓疾患又は血管疾患から患者を治療する方法を提供する。上記方法は、組織工学血液ポンプを患者に投与することを含む。
【0060】
本開示は、古典的Wntシグナル伝達刺激が、拍動心筋細胞(CM)の大量の増殖及び多数の継代を可能にする方法を提供する。Wntアゴニストの中止は、急速な細胞周期離脱をもたらし、CMの正常な収縮特性、電気生理学的特性及び細胞特性の回復をもたらす。
【0061】
一態様では、このシステムを使用して、in vitroで増殖されたCMから機能的
な心臓組織を作製し、成体心臓組織内でin vivoで心筋成長を刺激し、これを患者固有の心筋の再生のために使用することができる。
【0062】
心臓再生医療の「究極の目標」は、心筋梗塞後に機能的な心臓組織の回復を維持することである。しかしながら、この目標への大きな障害のため、患者固有の人工心臓組織の生成を可能にするための、或いはまた既存のCMの細胞分裂を増大させるための豊富な数のCMを生成することができずにいた。これまでに、hiPS細胞からのCMの増殖及び多数の継代は、極めて挑戦的であり大抵は上手くいかない課題であった。本開示は、この要求に対処することを目的とし、段階特異的な小分子のGSK3阻害剤処理に連続的に曝された場合に、未成熟なhiPSC-CMが多数の継代にわたり大量に増殖する方法を提供する。これによりCMの純化が高められる(
図1)。
【0063】
GSK3β阻害剤の中止後に、CMは増殖を止め、自発的にin vitroで正常に成熟する能力を保持する(
図2)。前臨床用途の実証として、事前に増殖されたCMを利用して、機能的な3次元心臓組織を作製した(
図12)。さらに、静止期hiPSC-CM及び成体マウス心臓におけるWnt代替物受容体アゴニストによる古典的Wntシグナル伝達経路の刺激は、CMの複製を誘導し、心筋の成長を促進する(
図6及び
図7)。
【0064】
幾つかの以前の研究は、様々なGSK3阻害剤による拍動心筋細胞の一過性の増殖を示しているが、多数の継代は可能ではなかった(非特許文献30、Titmarsh et al., 2016
、Uosaki et al., 2013)。最も可能性が高い理由は、これらの研究では他の種からの多
能性幹細胞由来のCMが使用され、分化の後期の時点で処理が開始され、培養培地がウシ胎児血清を含み、及び/又は解離及び継代の際に失う細胞が多すぎることである。それに対して、本開示は、12日目のhiPSC-CMを化学的に定義された培地及びMatrigelでコーティングされた単層培養で維持した場合に、それらのhiPSC-CMを、継代後に推定90%超の生存率で3回~5回まで継代することができ、それによりCM数の大幅な増加を獲得し得ることを提供する(
図1)。
【0065】
最近の2つの研究では、心血管前駆細胞の増殖に着目し、精製タンパク質、小分子及び/又は癌遺伝子の過剰発現の組み合わせにより、10
7倍及び10
10倍の増殖が示された(非特許文献14、非特許文献18)。心血管前駆細胞の増殖能力は、hiPSC-CMの増殖と比べて高いにもかかわらず、多能性心血管前駆細胞の分化は依然として制御不能なプロセスのままであり、結果として最終分化時には混合された細胞集団が生ずる。本方法は、前駆細胞ではなく拍動hiPSC-CMを増殖させ(
図9A及び
図9B)、再現的な後続の用途のために有益であるように、増殖の間に頑強に95%を上回るTnT純度をもたらす(
図1H及び
図1I及び
図13)。CHIRの中止後に、これらの心筋細胞は正常に成熟し、コントロールと同等のサルコメア組織化、電気生理学及び力発生を示す(
図2)。
【0066】
最終分化CMの独特な特徴は、一生に何十億回もの収縮を伝播するように高度に組織化されたサルコメア構造を含む細胞骨格と一体になってそれらが増殖する可能性には限界があることである。最近の報告では、CM細胞分裂は主に単核二倍体細胞の画分内で生ずるが、四倍体又は多核化されたCMでは生じないこと、そしてサルコメア調節物質のTNNI3kは、心臓のこれらのCM集団間でのこの食い違いと相関していることが示された(Patterson et al., 2017)。
【0067】
図2では、本開示は、増殖性細胞が単核化されていることを示している。
図3では、本開示は、CHIRの中止後に、多核化された細胞が増加し、増殖性細胞が減少したことを示している。本開示で示されるように、単一細胞RNAシーケンシングデータは、古典的Wntシグナル伝達経路の活性化のほとんどがCMの相対的な未成熟状態を維持し、それ
によりそれらの増殖ウィンドウが拡張されることを明らかにしている(
図3)。このデータは、未成熟CM集団が増殖して心筋を再生するという以前のin vivoでの所見と一致している(Kikuchi et al., 2010、Patterson et al., 2017)。
【0068】
様々な研究では、Wntシグナル伝達は心臓の成長及びCMの分裂に関連付けられているが、本開示では、代わりにWnt/β-カテニンシグナル伝達がCMの未成熟性を保持することで、この増殖性CMのサブセットについての増殖ウィンドウが拡張されるという所見が得られている(
図3及び
図4)(非特許文献30、Heallen et al., 2011、Kerkela et al., 2008、Titmarsh et al., 2016、Tseng et al., 2006、Uosaki et al., 2013)。これは概念的に新規であり、成体ではなく幼若マウスにおけるWntシグナル伝達に対する希少なCM増殖応答についての機構的説明を形成する(
図6)。
【0069】
哺乳動物の心臓の生物学は、心臓の損傷に対する応答時にWntシグナル伝達が活性となる再生能力を有する比較的未成熟なゼブラフィッシュの心臓とは全く異なると思われる(Kikuchi et al., 2010、Stoick-Cooper et al., 2007)。最近の哺乳動物の研究により、再生を駆動する既存のCMの希少な集団が単核二倍体細胞であることが実証された(Patterson et al., 2017)。
【0070】
本方法により得られた増殖性CMが心房系譜又は心室系譜に向けてもう運命決定を行ったかどうかは明らかではないが、シーケンシングデータは、SLN及びHEY1の発現によって特徴付けられる心房様集団についての証拠だけでなく、MYL2と未成熟心室マーカーのMYL3及びMYL4とが富化された心室様集団についての証拠も提供する(Josowitz et al., 2014、Kurabayashi et al., 1988、非特許文献22)。興味深いことに、
心房様集団及び心室様集団は両方ともWnt刺激に応答し、CHIR処理された全ての細胞は再び心房様サブクラスター及び心室様サブクラスターと一緒になって異なるクラスターを形成した(
図3)。β-カテニンシグナル伝達とは独立して、本開示は、CHIR/GSK3が細胞質内のAKTのターンオーバーを調節することを示している(
図5)。重要なことに、本開示は、この成分が成熟変化の一部の原因となると共に、
図1に見られるCHIR曝露によって観察された増殖応答の約50%の原因となることを示している。
【0071】
本開示は、最終的に更に成熟する能力を保持する機能的に未成熟なCMの頑強で長期的なin vitroでの増殖を提供し、したがって解明用途での有用性を提供する。本開示は、Wntシグナル伝達がCMの未成熟性を維持し、結果としてhiPSC-CMの段階特異的な増殖を増加させる上で重要な役割を担うという概念的に新規の原理を示している。さらに、本開示は、成体心筋の成長を調節するためのin vivoアプローチも提供する。これらの方法は、様々な個別療法のための患者特異的なCM産生の規模拡大だけでなく、心臓修復のための新規のin vivo再生アプローチにも重要な影響を与える。
【0072】
予想外にも、本開示はまた、S1P及びLPAがGSK3β阻害剤のCHIRと相乗的に作用して、核内β-カテニン蓄積を通じて初期hiPSC中胚葉分化を調節することも示している。後期段階には、S1PとLPAとの組み合わせ処理により、分化したhiPSC-CMにおける細胞周期の活性化といった、ERK/MAPKシグナル伝達により媒介されて、β-カテニンシグナル伝達と相乗作用することで、心筋細胞の増殖が増加する効果をもたらす。生理活性脂質は、hiPS細胞からの心臓分化に対して段階特異的な効果を示す。
【0073】
本開示は、hiPSC-CMの分化の間のS1P/LPAに関する高度に段階特異的な役割を報告している。未分化hiPS細胞に単独で又はCHIRと組み合わせて投与すると、S1P/LPAは、核内β-カテニンレベルを増加させ、中胚葉誘導を高める。心筋
細胞分化の完了後に、S1P/LPAの添加は、MAPK/MEK/ERKシグナル伝達の活性化によりhiPSC-CMにおける細胞周期の再進入を引き起こし、CHIRに誘導される心筋細胞増殖の増加を引き起こす。これらの所見は、ヒト心筋細胞発生に対するシグナル伝達経路の効果を研究するためのhiPS細胞分化プラットフォームの汎用性を説明している。さらに、生理活性脂質の処理により分化したヒト心筋細胞を大量生産する能力は、心疾患モデリングのためのハイスループットアッセイの開発及び将来的な再生用途のための新しい分子の発見に使用することができる。
【0074】
S1P及びLPAが、未分化hiPS細胞における形態変化及び遺伝子発現の変化を急速に誘導する能力は予想外の所見である。S1P/LPA処理の開始から12時間~24時間以内に、hiPS細胞の形態に急速な変化が観察される。これらの変化はまた、hiPS細胞における中間フィラメントタンパク質のビメンチンの発現の増加といった、上皮間葉転換(EMT)の誘導を示唆する所見も伴う。
【0075】
しかしながら、S1P/LPA処理により、処理の24時間後にNanogの発現の低下がもたらされなかったことから、hiPSC心臓分化に対するS1P/LPAの全体的な効果ではなく、より中胚葉特異的な効果が示唆される(
図22B)。EMTの証しとなるのは、接着結合複合体によって通常介在される細胞間接触の喪失である(Lamouille et
al. 2014)。
【0076】
リゾリン脂質は、これらの接着結合を解離し、細胞間接触を劇的に緩め、接着結合により結合されたβ-カテニンを細胞質に放出する能力に関して十分に確立されている(Kam et al. 2009、Burkhalter et al. 40)。重要なことには、β-カテニンはまた、Wnt
シグナル伝達の活性化のための下流の核転写エフェクターとしても機能する(非特許文献33)。
【0077】
S1P/LPAによる処理は、hiPSCにおいてβ-カテニンの細胞質及び核内の蓄積を急速に誘導する。したがって、S1P/LPA処理はCHIRに媒介されるGSK3β阻害と相乗作用して、細胞質β-カテニンの全体的なプールを増大させ、その核内移行を促進する(
図16D)。β-カテニンの細胞質プールの増加を促進すること以外に、S1P/LPA処理は、種々の機構を介してビメンチン発現の増加を誘導するように思われる。それというのも、Wnt阻害剤が存在すると、S1P/LPAがビメンチン発現を模する能力を抑止することができないからである。
【0078】
β-カテニンの核内局在化の増加は、β-カテニンの安定化(すなわち、GSK3βに媒介される分解の防止)又は原形質膜でのE-カドヘリンからのβ-カテニンのより多くの放出が原因である可能性がある。しかしながら、S1P/LPAが、Bry T等の初期中胚葉マーカーを直接誘導することできないことは(
図17D及び
図17E)、β-カテニンの核内移行の促進に加えて、hiPS細胞分化に対するそれらの独立した効果を裏付けている。これは、更にLEF/TCFレポーター発現に対するS1P/LPAの強力な作用が見られないことによって裏付けられ(
図16C、
図19A)、こうしてhiPSCの心筋細胞分化に対するWnt/β-カテニン非依存的な機構の関与が示唆される。S1P/LPAによる中胚葉誘導に関与する追加のシグナル伝達経路の特定は、hiPSC心臓分化を更に改善するのに役立ち得る。
【0079】
S1P/LPA処理が、高分化型hiPSC-CMにおけるMAPK/MEK/ERKシグナル伝達の強力かつ迅速な上方調節を誘導したという所見は予想外である。細胞増殖の既知の調節因子であるERKシグナル伝達を誘導するS1P/LPAの能力は、他の細胞型において説明されている(Hannun et al. 2008)。MAPK/MEK/ERK経路は、MEK阻害剤であるトラメチニブでの処理がこれらの効果を効果的に消失させることを
示すことによって、S1P/LPAに誘導されるERKリン酸化及び細胞周期の再進入のために必要とされる(
図19D及び
図19E)。MEKシグナル伝達の関与は、ERKリン酸化に対抗する以前に報告されたMEKの標的であるHSP27リン酸化のS1P/LPAに誘導される下方調節によって更に裏付けられる(McMullen et al. 2005)。
【0080】
興味深いことに、心筋細胞増殖に関与する既知の経路であるPI3-Akt経路(Lin et al. 2015)は、ベースラインで又はS1P/LPA処理によって活性化されなかった
。これは、これらのhiPSC-CMが表現型的に未成熟であるか又はPI3K-Aktシグナル伝達を刺激するための至適培養条件を欠いていることを理由とし得る。これらの所見は、成体の心筋細胞分裂におけるERK及びYAPのシグナル伝達の関与を裏付ける最近の研究(Bassat et al. 2017)とも一致し、S1P/LPAのin vivoでの送達が心筋細胞分裂も増大し得ることを示唆している。
【0081】
生理活性脂質及び/又はWntアゴニストを用いる本方法はまた、in vivoで胎児又は新生児の心筋細胞にも適用することができる。
【0082】
hiPSC分化及びhiPSC-CM増殖に対する生理活性脂質の段階特異的効果は、心筋細胞へのヒトiPSC分化の増大における生理活性脂質の役割を裏付けている。CMへのhiPS細胞分化の効率は、近年著しく増加しているが、ヒトiPSC系統間及び同じ系統からの異なる分化バッチ間では、依然として大きなばらつきがある。本開示は、心血管生物学における生理活性脂質の役割のより深い理解と、心血管疾患モデリング、薬物スクリーニング及び再生医療における下流の用途に使用することができるhiPSC-CMの産生を高める新規の手段とを提供する。
【実施例0083】
実施例1~実施例7のための材料及び方法
細胞培養:4種のhiPS細胞系統(LMNA、273、202及びHSP8)を、essential8(E8)(Thermo Fisher社)成長因子を補充したDMEM/F12
(Thermo Fisher社)中、Matrigel(Corning社)でコーティング(1:400で24時間)したポリスチレン2D培養システムにおいて維持した。80%~90%のコンフルエンシーになったら、0.5%のEDTAを含むPBS中、37度で5分間~10分間にわたって細胞を解離させた。解離を穏やかなピペッティングで行うことで、hiPS細胞の小さな集塊を得た。1:15~20の分割比で継代を実施することで、4日間~5日間以内に完全なコンフルエンシーに達した。最初の24時間には、10μMのROCK阻害剤のY-27632(Selleckchem社)をhiPSC維持培地中に含めた。
【0084】
CMの産生を、インスリンを除いたB27(Invitrogen社)を含むRPMI 1640(Thermo Fisher社)分化培地における上記の古典的Wnt刺激及び阻害により行った。
0日目~2日目の間に、CHIR99021(Seleckchem社)濃度の勾配(3.0μM、4.0μM、5.0μM、6.0μM、7.0μM、8.0μM)を使用した。3日目~5日目に、Wnt-C59(Selleckchem社)を分化培地に添加した。7日目に、インス
リンを含むB27を分化培地に添加した。11日目に、視覚的評価により80%を超える拍動細胞を含むウェルを、TrypLE Select Enzyme 10X(Invitrogen社)と共に37度で20分間~40分間インキュベートした。10分ごとに穏やかな揺動を実施した。細胞は穏やかなピペッティングでさえ解離し、これを、洗浄バッファー(20%のFBSを含むPBS)を含む15mL容のコニカルチューブに移した。細胞を1000RPMで3分間遠沈し、10%のKnock Out Serum Replacement(Gibco社)及びチアゾビビン1.0μM(Selleckchem社)を含むRPMI
1640+B27中に1:10~15の分割比で再プレーティングした。12日目に、hiPSC-CMを、ダウンストリームアッセイのために2.0μM~4.0μMのCH
IR99021(Selleckchem社)を補充した分化培地中で更に培養した。継代後の最初
の24時間にわたって、10%のKnock Out Serum Replacement及びチオゾビビン1.0μMを分化培地に添加した。
【0085】
小分子/成長因子:PNU74654、MK2206、CHIR99021及びWnt-C59をSelleckchem社から入手した。ScFV-DKK1c及びRSPOは、ガルシ
ア研究所(スタンフォード大学)において組換え細胞系統で生産された。精製Wnt3Aタンパク質はR&D systems社から購入した。
【0086】
タンパク質発現分析:免疫組織化学は、一次抗体を一晩インキュベートした後に、様々なAlexa蛍光コンジュゲート二次抗体と共に2時間インキュベートすることで行った。共焦点顕微鏡検査(Zeiss社のLSM 710)又は通常の免疫蛍光顕微鏡検査(Leica社のDM IL LED)を用いて画像生成した。この研究で使用された主要材料は、心臓トロポニンT(MS-295、Fisher社)、Ki67(ab15580、Abcam社)、
pHH3(番号9701、Cell Signaling社)、aurora B(ab2254、Abcam社)、α-サルコメアアクチニン(A7811、Sigma-Aldrich社)、MLC2V(ab48003、Abcam社)、phospho AKT T318(番号9275、Cell Signaling社)であった。
【0087】
43種のヒトキナーゼと2つの総量のタンパク質とを含むProteome Profiler Human Phospho-Kinase Array Kit(R&D Systems社)で、キナーゼリン酸化レベルをスクリーニングした。通常のウエスタンブロッテ
ィングで検証を行った。総タンパク質発現をゲル撮影装置(Biorad社)で測定し、ピクセル強度ソフトウェア(Biorad社)で処理した。
【0088】
ルシフェラーゼアッセイ:12日目に、Lipofectamine 3000(Invitrogen社)を使用して、hiPSC-CMにTCFレポータープラスミド(TOPflash M50、Addgene社)又は突然変異レポータープラスミド(TOPflash M
51、Addgene社)を48時間トランスフェクションさせた。トランスフェクションの7
2時間後に、細胞を様々な小分子で24時間処理した。細胞を溶解させ、ルシフェラーゼ基質(Promega社)と混合し、96ウェルマイクロプレートリーダー(Fisher社)でホタ
ルルシフェラーゼ発現を測定した。
【0089】
リアルタイムPCR発現分析:遺伝子発現の定量分析のために、溶解バッファー(Qiagen社)を用いて、hiPSC-CMからRNAを抽出し、-80℃で貯蔵した。各試料からのトータルRNAを、RNA精製キット(Qiagen社)を使用して細胞溶解物から精製した。cDNAは、iScript cDNA合成キット(BioRad社)を使用して作製した。定量的PCRは、96ウェルサーモサイクラーシステム(Biorad社)と共にSYBR Green基質(Affymetrix社)を使用して40サイクルで行った。全てのプライマー配列は、PrimerBank(マサチューセッツ総合病院/ハーバード大学医学部)オンラインデータベースから取得した。オリゴはスタンフォード大学で合成された。
【0090】
単一細胞遺伝子発現分析:単一細胞遺伝子発現のために、再プレーティングされたhiPSC-CMを、12日目にDMSO、CHIR99021又はC59で24時間処理した。13日目に、細胞をTrypLE Select Enzymeで約5分間消化し、穏やかなピペッティングで解離させた。試料を洗浄して、B27サプリメントを含む氷冷RPMI 1640中に懸濁して、10x Genomics社の単一細胞捕捉用プラットフォームに供した。cDNAライブラリーを作成し、Illumina社のHiSeqシーケンシングに使用することで、細胞当たり平均93.522個のリードが得られた。単一細胞分析は、Loupe Cell Browserソフトウェアにより実施した。
【0091】
フローサイトメトリー:分離されたばかりのhiPSC-CMをPFA(4%)中で5分間固定し、TnT(MS-295、Fisher社)について室温で1時間染色した。複数回洗浄した後に、Alexa488マウス二次抗体を30分間適用した。FACSCalibur(商標)(BD Biosciences社)を使用したフローサイトメトリーにより、試料を分析した。フローサイトメトリーデータ及び細胞周期データを、FACSCalibur(商標)(BD Biosciences社)フローサイトメーターで取得し、FlowJoソフトウェア(Treestar社)で処理した。
【0092】
増殖性hiPSC-CMの電気生理学的研究:電気生理学的研究の前に、RPMI 1640+B27サプリメント+CHIR99021中で3回継代された増殖性HiPSC-CM及びRPMI 1640+B27サプリメント中で同日数にわたり保持したコントロールを、Matrigelでコーティングされた8mmカバースリップ上にまばらに播種した。140mMのNaCl、2.8mMのKCl、2mMのCaCl2、2mMのMgCl2、10mMのHEPES及び10mMのグルコースを含むpH7.4の細胞外溶液中に、カバースリップ上の細胞を浸した。pH7.3で140mMのグルコン酸カリウム、10mMのNaCl、2mMのMgCl2、10mMのHEPES、1mMのEGTA、4mMのMg-ATP、及び0.3mMのNa-GTPを含むため、約2MΩから5MΩの抵抗が得られる細胞内溶液でパッチ電極を満たした。CMの自発活動電位を、室温で鮮明な電流固定モードで記録した。
【0093】
単一細胞のパターン形成及び収縮:マイクロパターン化されたタンパク質を上部に有する軟質基材上に細胞をプレーティングした。培養の3日~6日後に、1群当たり少なくとも10個の個別の細胞について高解像度の動画(Sony社の検鏡法)を記録し、運動速度分析をデジタル処理した。記録後に細胞を固定し、免疫組織化学及び共焦点イメージングのために使用した。サルコメア配列をImage Jソフトウェアで定量した。
【0094】
マウスにおけるin vivo研究:C57/BL6マウス(Jackson Laboratory社、メイン州、バーハーバー)に、生後4週目及び8週目に可溶性scFv-DKK1c Wntタンパク質を週2回注射した。第一にイソフルラン(吸入、100%の酸素中2%、温かいパッドの上に新生児を置いた)によりマウスを鎮静させた後に、第二に頸椎脱臼を行うことによって安楽死を行った。安楽死後で処分前に死亡を確認した。全ての動物実験は、スタンフォード大学の実験動物委員会(animal care and use committee)(APL
AC)によって承認された。全ての実験は、スタンフォード大学の関連のガイドライン及び規則に準じて実施した。体重及び心臓重量は盲目観察者によって測定された。分離されたばかりの成体心臓をマウスの胸腔から摘出し、PBS中で洗浄して余分な血液を除去した。生後の心臓をリン酸緩衝液(PBS)中の30%スクロース中で一晩インキュベートし、引き続き、凍結切片化のためにPBS中で勾配濃度のOCTと一緒に段階的にインキュベートした。凍結保存後に、心臓を10μmの切片に切断し、PBS中の4%パラホルムアルデヒド中で軽く固定してから免疫染色を行った。組織切片のヘマトキシリン及びエオシン染色は、製造元が提案するプロトコルに従って実施した。組織切片の全ての定量分析は、データ分析における主観バイアスを防ぐために、数値コード化された動物に対して観察者盲検様式で行われた。
【0095】
データ解析:数値データは平均±標準偏差又はSEMとして表される。統計的有意性は、等分散で対応のある両側t検定を使用して実施された。p<0.05の値を統計学的に
有意であるとみなした。
【0096】
実施例1.Wnt刺激は、連続継代に際して拍動hiPSC-CMの大量増殖をもたらす
hiPS細胞の心臓分化の間に、拍動hiPSC-CMの分裂能力は急速に低下し、サ
ルコメア組織化及び収縮力発生の増加を伴い、in vivoでの新生児心筋細胞の成熟過程を模する。後期胚発生の間のWnt活性化はマウスにおいてCM増殖を増加させるように見えるが(非特許文献30、Titmarsh et al., 2016、Uosaki et al., 2013)、拍動hiPSC-CMがin vitroで同様に応答し得るかどうかと共に、連続継代後に達成され得る増殖の程度は不確かである。
【0097】
これに対処するために、事前に検証された4つの野生型hiPS細胞系統を、確立された2段階のWntシグナル伝達プロトコルを使用して分化させて、分化11日目までに約85%のCM純度が生じた(非特許文献32、非特許文献34)。これらの細胞は、多能性幹細胞(NANOG)、中胚葉(MESP1)及び心臓前駆細胞(Isl1)の段階特異的な遺伝子を発現した後に、心筋形成系譜に拘束される(
図8A及び
図8B)。
【0098】
これらのhiPSC-CMは分化7日目に拍動を開始し、12日目に、古典的Wntシグナル伝達を活性化するGSK3β阻害剤である2.0μMのCHIR99021(CHIR)で処理して又は処理せず、連続継代した。注目すべきことに、CHIRの存在下で、hiPSC-CMは目立った細胞死を伴わずに分裂を続け(
図8C)、最大5回継代することができるのに対して、コントロールのジメチルスルホキシド(DMSO)処理された細胞は、最初の継代後に増殖を停止する(
図1A~
図1C)。興味深いことに、CHIR処理された初期継代hiPSC-CMは、活発に分裂しながら拍動し続け(補足動画1)、継代後5日~7日以内にコンフルエンスに達し(
図1D)、結果として、総細胞数(
図1E)及びCM数(
図1F及び
図1G)は100倍を超えて増加した。
【0099】
典型的には、200万個の12日目のhiPSC-CMを準備すると、3億個~9億個のhiPSC-CMが生成される。さらに、CHIR処理は、非筋細胞の過剰成長を原因とする可能性が最も高い各継代でCM純度が低下したコントロールのDMSO処理されたhiPSC-CM(
図1H及び
図1I)とは対照的に、わずかな富化ではないとしても、CM純度を維持するように見える。まとめると、これらのデータは、GSK3β阻害を介したWntシグナル伝達活性化及び連続継代がin vitroでの拍動hiPSC-CMの大量増殖を達成する能力を裏付けている。
【0100】
実施例2.Wntシグナル伝達によるhiPSC-CM増殖ウィンドウの拡張
CHIR処理による拍動hiPSC-CMの大量増殖は、iPSC-CMの分裂の増加の原因となる機構に関して興味深い問題を提起する。これを調べるために、CHIR又はDMSO(CTR)で処理した後に、各継代で細胞周期マーカーki67又は有糸分裂マーカーのリン酸化ヒストンH3(pHH3)を発現するトロポニンT(TnT)陽性のhiPSC-CMのパーセンテージを求めた(
図2A~
図2C)。
【0101】
興味深いことに、CTRのhiPSC-CMは、各継代でそれらのki67及びpHH3発現に急速な低下を示し、2継代目(P2)以降には少数の有糸分裂細胞しか観察することができないのに対して、CHIR処理は、増殖ウィンドウの大幅な拡張(最大5継代)をもたらした(
図2C及び
図9A)。増殖性CMの特性を更に解明するために、単一細胞のマイクロパターンに対して有糸分裂CMの共焦点イメージングを実施した(Ribeiro et al., 2015)。CHIRの存在下で、有糸分裂CMは、特にサルコメア構造の崩壊を伴う後期及び終期に豊富に存在していた(
図2D及び
図2E及び
図9B)。CHIRで処理されたhiPSC-CMのAurora Bキナーゼ染色により、hiPSC-CMが細胞質分裂を起こして細胞分裂を完了し得ることが示された(
図2F)。さらに、CHIR処理されたhiPSC-CMは、CTR又はC59で処理された細胞と比べてより少ない二核形成を示す(
図2G及び
図2H)。
【0102】
コントロールのDMSO処理と比べてhiPSC-CM増殖を増加させるCHIRの能
力は、CMの増殖/分裂の速度を直接増加させることによるか、CMの成熟及び細胞周期停止を防ぐことによるか、又はその両方により達成され得る。短期間(24時間)の変化を、Wntシグナル伝達の特異的阻害剤であるCHIR-、CTR-又はC59による処理後の12日目のhiPSC-CM(P0)の増殖速度で評価した(
図2I及び
図2J)。
【0103】
CHIR処理とCTR/C59処理との間のhiPSC-CMにおいてki67発現に有意差が見られた。しかしながら、hiPSC-CMの増殖頻度は、CHIR処理されたhiPSC-CMの間で開始時のhiPSC-CM集団(0時間でのCTR)から変化しないことが認められた(
図2I及び
図2J)。hiPSC-CM増殖の直接的な刺激に対するCHIRのこの比較的控えめな効果は、CHIR処理がhiPSC-CMの成熟及び細胞周期停止を防ぎ、長時間にわたる細胞数の大量増殖を達成する可能性を高める(
図1)。さらに、これらのhiPSC-CMにおけるWntシグナル伝達活性のごくわずかなベースラインレベル(
図2K)は、C59による処理がCTR処理と比べてhiPSC-CM増殖速度の低下をもたらさなかった理由を説明している(
図2I及び
図2J)。
【0104】
これらの結果は、細胞周期活性を維持し、二核形成を防ぐことにより、CHIRがhiPSC-CMの増殖ウィンドウを大幅に拡張する能力を実証している。さらに、本免疫染色データは、hiPSC-CMが活発な有糸分裂の間にそれらのサルコメア配列を崩壊するといった、Wntシグナル伝達によるhiPSC-CM成熟の抑制を示唆する所見を裏付けている。
【0105】
実施例3.Wnt刺激後のhiPSC-CMの表現型評価
CM成熟は、高度に構造化されたサルコメアの形成、二核形成又は多核形成、及び細胞周期離脱を伴う(Bassat et al., 2017、Bersell et al., 2009、Senyo et al., 2014、
非特許文献9)。Wnt刺激後の拍動hiPSC-CMの観察された大量増殖は、成熟停止がそれらの増殖能力の保持を伴う可能性を高める。これに対処するために、DMSO(CTR)を含む培地に曝された同齢のhiPSC-CMを、CM機能の様々な表現型アッセイを使用して2.0μMのCHIRを含む培地中で3回継代を行ったものと比較した。サルコメア配列を評価するために、CHIR及びCTRのhiPSC-CMを7:1のアスペクト比のマイクロパターン(Ribeiro et al., 2015)上で培養し、TnT抗体及びサルコメアアクチニン抗体で免疫染色した。
【0106】
CTR処理されたhiPSC-CMは、高度に組織化され配列されたサルコメアを示したのに対して、CHIR処理されたhiPSC-CMは、マイクロパターン上で活発に分裂したが、サルコメアの配列及び組織化の著しい低下を示す(
図3A)。サルコメア線維配列のこの違いを、サルコメア線維の垂直(0度と定義)からのずれの角度の自動イメージング評価によって定量したところ(
図3B及び
図3C)、CHIR処理されたhiPSC-CMで観察されたサルコメアの崩壊が確認された。
【0107】
興味深いことに、事前にCHIRで処理された細胞にC59を添加した場合に(CHIR>C59)、これらの細胞はまず分裂した後に、それらのサルコメアはCHIR処理を受けていない同齢のコントロールhiPSC-CMと同様の状態に再組織化された(
図3A~
図3C)。
【0108】
CTR及びCHIRで処理された細胞の収縮特性の評価は、CHIR処理された細胞における力発生の減少を裏付けている(
図3D及び補足動画2~4)。同齢のCHIR及びCTRで処理されたhiPSC-CMの単一細胞電気生理学的研究は、同様の自発活動電位(
図3E及び
図3F)及びカルシウムイメージング(
図3G及び
図3H)を示した。全体的に、これらのデータは、Wntシグナル伝達活性化によるCM成熟の阻害といった、
Wnt刺激に際して二次心臓領域由来の心臓前駆細胞及び他の細胞型でも観察されている現象を強く裏付けている(Qyang et al., 2009、Sato et al., 2004、Yin et al., 2014
)。
【0109】
転写レベルでの成熟停止表現型を確認するために、分化12日目~28日目のCHIR含有培地で処理されたiPSC-CMを、CHIR(2.0μM)、DMSO(CTR)又はC59のいずれかの存在下で更に3週間培養し、RNA精製及びリアルタイム定量的PCR分析のために採取した。CHIRで処理されたhiPSC-CMと比較して、DMSO又はC59で処理されたhiPSC-CMは、心筋細胞成熟(MYL2、TNNI3、MYOM2)、興奮(GJA1)、収縮(RYR2)及び代謝(COX6A2、CKMT)に関連するマーカーの上方調節を示した(
図3I~
図3K)。これらの所見は、CHIR処理された細胞と比較したDMSO処理及びC59処理されたhiPSC-CMにおけるMYL2についての免疫蛍光染色の増加によって、タンパク質レベルで裏付けられた(
図3L及び
図3M)。
【0110】
Wntシグナル伝達が細胞系譜の運命拘束及び分化を調節する多様な役割を考慮すると、CHIRへの長期の曝露は、適切な成熟を妨げるhiPSC-CM表現型変換又は発癌性形質転換といった、細胞療法又は創薬用途でのそれらの使用を著しく妨げることとなる所見につながる可能性がある。12日目のhiPSC-CMをCHIR中、連続継代で2ヶ月間連続的に培養し、その後に、更に1ヶ月間にわたりCHIRを中止した。
【0111】
3ヶ月の終わりに、CM遺伝子発現を測定し、12日目以降にCHIRに曝されていないそれらの同齢のコントロールhiPSC-CMと比較した(
図10)。成熟マーカー(例えば、MYL2、TNNI3)の発現は、CHIRで2ヶ月間処理された細胞においてわずかな増加ではないとしても同様であることから、長期のWnt刺激後のhiPSC-CMにおいて異常な表現型変換がないことが裏付けられた。CHIR処理されたhiPSC-CMが拍動3D心臓組織を生成することができたという機能的な観点からも、この所見は確認された(
図11)。まとめると、これらのデータは、GSK3β阻害によるWnt刺激はhiPSC-CMの成熟を妨げるが、Wnt刺激を中止すると、これらの細胞は成熟を受けることが可能となることを裏付けている。
【0112】
実施例4.Wntシグナル伝達の増減に続くhiPSC-CMの単一細胞RNAシーケンシング分析
Wntシグナル伝達の増減に応答するhiPSC-CMの全体的な転写変化を調査するために、DMSO(CTR)、CHIR又はC59のいずれかで24時間処理された12日目のhiPSC-CMにおいて単一細胞RNAシーケンシングを実施した。合計8381個の細胞が捕捉され、細胞当たり93552回の平均読み取りが行われ、細胞当たり1297個の中央値の遺伝子リードが得られた(
図4)。
【0113】
単一細胞の遺伝子発現データを、最初にt分布型確率的近傍埋め込み法(tSNE)アルゴリズムを使用して分析して、本発明者らの3つの処理試料で次元削減を実施した(
図4A)。成熟した心臓遺伝子は劇的に下方調節されたのに対して、Wntシグナル伝達標的遺伝子及び心原性転写因子は、CTR又はC59で処理されたhiPSC-CMに比べて、CHIRで処理されたhiPSC-CMの方が高度に上方調節されていた(
図4B)。具体的には、Wnt標的遺伝子AXIN2、LEF1、BMP4、DOK4は、CHIRで処理されたほとんど全ての細胞で上昇したが(
図4C及び
図4D)、CCND2、MKI67及びKIAA0101等の細胞周期活性化に関連する遺伝子は、CHIR処理後のhiPSC-CMのサブセットにおいてのみ上方調節された(
図4D及び
図4E)。重要なことには、Wntシグナル伝達を刺激しても、心臓前駆細胞マーカーのIsl1及びMESP1/2の発現の増加がもたらされなかったことから、CHIRによるhiPSC
-CMの増殖は、残りの心臓中胚葉又は二次心臓領域前駆細胞の希少な集団の増殖につながらないことが示唆された(
図12C)(Wu et al., 2008)。
【0114】
Wntシグナル伝達の存在下又は不存在下でのhiPSC-CMの異なる亜集団を更に調査するために、全ての細胞の教師なしクラスタリングを実施することで、合計5つのクラスターが得られた(
図4F)。心房CM対心室CMについてのそれらの遺伝子発現シグネチャーに基づいて(
図4G及び
図4H)、これらのクラスターを、心室CM1~3についてはV1~3として再割り当てし、そして心房CM1又は2についてはA1又は2として再割り当てした。これらの割り当ては、MYL2及び早期胎児心室マーカーMYL3及びMYL4等の心室遺伝子のV1~3クラスター特異的発現(
図4I)と、HEY1及びSLN等の心房マーカーのA1又は2クラスター特異的発現(
図4J)とによって確認された。
【0115】
MYH7、TNNI3、TNNC1、ACTN2及びMYOM1等の成熟心室遺伝子の発現を、心室クラスターV3(すなわち、CHIR処理された心室iPSC-CM)とV1又は2(CTR及びC59で処理された心室iPSC-CM)との間で比較したところ、V1又は2クラスター細胞と比べて、V3クラスター細胞の方で成熟マーカーの発現の劇的な低下が検出された(
図4K)。これらのデータは、Wntシグナル伝達によりiPSC-CM成熟が抑制された結果、増殖ウィンドウが拡張し、hiPSC-CMが大量増殖することを更に裏付けている。
【0116】
実施例5.Wnt/β-カテニンシグナル伝達非依存性のhiPSC-CM増殖におけるAKTキナーゼリン酸化の必要性
CHIRに媒介されるWnt/β-カテニンシグナル伝達はGSK3β阻害を介して生ずるが、GSK3βは、古典的Wntシグナル伝達のその阻害に加えて、複数の細胞プロセスに関与していることが知られている。非β-カテニン媒介性の事象がhiPSC-CM増殖に関与しているかどうかを調べるために、細胞を特定のTCF/LEFβ-カテニンシグナル伝達遮断薬であるPNU74654(Trosset et al., 2006)の存在下で、CHIRで処理し、CHIR単独で処理された細胞と比べてhiPSC-CM増殖の変化を評価する。
【0117】
興味深いことに、CHIRに媒介されるhiPSC-CM増殖は約50%減少したが(
図5A)、TCF/LEFルシフェラーゼレポーターのCHIRに媒介される活性化は消失した(
図5B)。これは、非β-カテニン媒介性のシグナル伝達が、CHIR処理により観察される増殖活性の半分に寄与していることを示唆している。
【0118】
リアルタイム定量的PCRにより、hiPSC-CMにおいてCHIR処理後にWntシグナル伝達の標的遺伝子発現(例えば、Axin2、LEF及びCCND2)が誘導されること(
図5C)及びPNU74654処理がこの増加を消失させ得ることが確認された。hiPSC-CM成熟のマーカー(MYL2、MYH7、MYOM1)の発現は、CHIR処理によって下方調節され、PNU746554との同時処理により完全に回復した(
図5C)。これらの結果は、β-カテニン依存性シグナル伝達がhiPSC-CMの成熟を強力に調節する一方で、GSK3βに媒介されるが、β-カテニン非依存性のシグナル伝達がhiPSC-CMによる細胞周期を駆動することを裏付けている。
【0119】
CHIRに媒介されるhiPSC-CMの増殖に関与する1種以上の下流のキナーゼを特定するために、43種類のキナーゼのライブラリーを既知の機能でスクリーニングし(
図5E及び
図12)、AKTの活性化及び細胞分裂に必要とされる残基である残基T308でのAKT1/2/3リン酸化の有意な上方調節が見られた(
図5E)(Liu et al., 2014)。
【0120】
さらに、AKT結合タンパク質HSP27のリン酸化の増加も見られ、下流のAKT標的p70S6Kだけでなく、成長抑制因子P27のリン酸化の微妙な増加も見られた(
図5E)(Conejo et al., 2002、Song et al., 2005)。リン酸化AKT(pAKT)のT308残基に対する抗体を使用すると、DMSO処理されたコントロールに対して細胞培養物にCHIRを添加した後に、AKTの活性型が急速に増加することが確認された(
図5F~
図5G)。
【0121】
CM内のpAKTの局在化を調査するために、12日目のhiPSC-CMをDMSO(CTR)中で又はCHIRと一緒に6日間培養したところ、有糸分裂CMの細胞質中にT308 pAKTが豊富に発現していることが判明した(
図5H、左の2つのパネル及び
図12A)。一貫して、胎児マウスの心臓内で活発に増殖しているCMも同様に細胞質のpAKTの増加を示した(
図13)。
【0122】
有糸分裂CMにおけるT308 pAKTの役割を、以前に記載された非常に選択的なAKTリン酸化阻害剤MK2206(Lindsley et al., 2007)を使用することにより確
かめた。細胞をCHIR及びMK2206で処理した場合に、CMの複製はCHIR処理単独と比べて減少し、pAKTを発現する有糸分裂細胞ははるかに少なく観察された(
図5H~
図5J)。全ての処理条件についてTCF/LEFルシフェラーゼ活性を調査すると、MK2206により観察されたhiPSC-CM増殖の低下は、下流のβ-カテニンシグナル伝達の下方調節が原因ではなく、むしろそれは、増殖の低下につながるpAktの阻害が原因であることが裏付けられた(
図5K)。これらのデータにより、AKT経路の活性化におけるCHIRの役割が裏付けられ、成熟及び増殖の変化の調節におけるWntシグナル伝達の役割が確認される。
【0123】
実施例6.Wnt受容体リガンドはCM細胞周期の再活性化を誘導する
Wntシグナル伝達の再活性化は、単に既存の増殖を維持するのではなく、非増殖性の加齢CMにおける増殖を促進することができる(
図6A)。最初に、確立されたWnt受容体リガンドの有効性を12日目の増殖性hiPSC-CMで試験したところ、実際にWnt3A及びWnt代替物のScFv-DKK1cがCM増殖を促進することが判明した(
図6B及び
図6C)。次に、hiPSC-CMを60日間分化させ、Wnt代替物のScFv-DKK1cで処理した。小さいが大幅に増加したCMの画分が有糸分裂になることが観察された(
図6D及び
図6E)。これらの結果は、Wnt活性化がCMの小さなサブセットにおいて細胞周期を再活性化して細胞増殖をもたらすのに十分であることを裏付けている。
【0124】
実施例7.Wnt代替物は成体の心筋成長を促進する
Wntシグナル伝達は、in vivoで成体の心筋層においてCM増殖を促進するのに十分であり得る。Wnt3Aを含む多数のWntがマウス胎児の心臓に存在することが知られているが(Mazzotta et al., 2016)、その溶解性のためin vivoでの用途
にはあまり適していない。最近開発されたWnt代替物のScFv-DKK1cは完全に水溶性であるため、これらのin vivo試験で使用された(Janda et al., 2017)。8週齢の成体マウスを、Wnt代替物又は担体コントロール(H
2O)で4週間連続して処理した。4週間の処理後に、Wnt代替物で処理されたマウスからの心臓が、担体コントロールで処理されたマウスよりも大きく見えることが観察された(
図7A及び
図13A)。この観察は、心臓重量と体重との比率(
図7B)及びLV直径(
図7D)の増加によって裏付けられた。H&E染色により、寸法が増加した全体的に正常な心臓が示された(
図7C~
図7E)。細胞分析により、相対的なCMサイズがWnt代替物で処理された又は処理されていないマウスで同等であることが明らかとなったことから(
図7F及び
図7G)、Wnt代替物処理が成体の心筋成長を促進したことが示される。
【0125】
実施例8~実施例12のための実験手順
hiPSC-CMの化学的に定義された分化:多能性幹細胞からヒト心筋細胞を産生するために、hiPSCを、化学的に定義された心筋細胞分化プロトコルでhiPSC-CMへと分化させた。これらのhiPSC-CMを、組換えヒトアルブミン及びアスコルビン酸(CDM3)を補充したRPMI 1640培地中で維持した(10)。簡潔には、hiPSCを最初にGSK3βシグナル伝達の小分子阻害剤のCHIR99021で処理して、Wntシグナル伝達経路を活性化した。2日後に、細胞を4日目までWntシグナル伝達阻害剤のWnt-C59で処理した。その後に、小分子を一切含まないCDM3培地を2日ごとに交換した。心筋細胞を純化するために、細胞集団をグルコース飢餓状態にし、5mMのDL-乳酸ナトリウムを2日間~4日間補充して、hiPSC-CMを代謝的に選択した(44)。hiPSC-CMを再プレーティングしたら、細胞をTrypLE Express(Life Technologies社)で解離させ、Matrigelでコーティ
ングされたプレートに再播種した。
【0126】
96ウェルの分化、イメージング及び定量的生存率アッセイ:96ウェルのhiPSC-CM分化アッセイのために、hiPSCをMatrigelでコーティングされた96ウェルプレートにおいて1ウェル当たり1000個の細胞でプレーティングし、4日間かけて接着させた。引き続き、hiPSCを示された濃度及び期間で生理活性脂質によって処理し、化学的に定義されたhiPSC-CM分化プロトコルの8日目以降に評価した。以前に公開されたプロトコルを使用した免疫染色を行って、細胞生存率及び心筋細胞分化効率を定性的に評価した(Sharma et al. 2014)。ImageJソフトウェアを使用して、蛍光強度及び細胞数を定量した。定量的生存率測定のために、細胞をCellTiter-Glo 2.0 Viability Assay(Promega社)又はPresto
Blue試薬(Life Technologies社)で製造業者が推奨する手順に従って処理した。9
6ウェルのイメージング及び生存率アッセイを、Cytation 5プレートリーダー/撮影装置(BioTek Instruments社)を使用して実施した。グラフ生成及び統計分析のためにPrism(GraphPad社)を利用した。共焦点イメージングは、Zenソフトウェアを用いてZeiss LSM 510Meta顕微鏡(Carl Zeiss社)を使用して行った。
【0127】
小分子:S1P及びLPAをSigma Aldrich社から入手し、水中に1mM及び10mM
のストック溶液で溶解させた。特段の指定がない限り、S1P及びLPAは10μMの最終濃度で適用した。C59及びCHIR99021をTocris Bioscience社から入手し、
DMSO中に10mMストック濃度で溶解させた。S1PアンタゴニストのVPC 23019をTocris Bioscience社から入手し、酸性化されたDMSO中に溶解させた。
【0128】
キナーゼリン酸化プロファイリング:ヒトキナーゼ及び他のリンタンパク質のリン酸化(表S1)を、Human Phospho-Receptor Tyrosine Kinase(RTK)Array又はHuman Phospho-Kinase Antibody Array(R&D Systems社)を使用して確かめた。示された濃度及び期
間で細胞を生理活性脂質で処理した。RTK又はホスホキナーゼのパネルを10mgの細胞タンパク質溶解物と一緒に一晩インキュベートし、引き続き、抗ホスホチロシン-西洋ワサビペルオキシダーゼ抗体と一緒に一晩インキュベートして、リン酸化を評価した。Gel Doc XR(BioRad社)を使用してブロットを現像した。ImageJソフトウェアを使用してリン酸化強度を測定した。
【0129】
ルシフェラーゼ発光測定:HiPSC及び30日目のhiPSC-CMを96ウェルプレートに再プレーティングし、2日間~3日間培養した後に、リポフェクタミン(Invitrogen社)及びTOPFlash(TCF/LEF)ルシフェラーゼWntシグナル伝達レ
ポータープラスミド(M50、Addgene社)を100ng/ウェルでトランスフェクションした。48時間後に、培地を交換し、細胞を2時間にわたり種々の処理に供した後に、溶解させて、ルシフェラーゼ(Promega社)発光を標準的な発光プレートリーダーで測定し
た。
【0130】
遺伝子発現:定量的リアルタイムPCRを使用して、生理活性脂質処理後の対象の特定の遺伝子の遺伝子発現レベルを評価した。RNAをRNeasy Plusキット(QIAGEN社)を使用して単離し、cDNAをHigh-Capacity RNA-to-cDNAキット(Applied Biosystems社)を使用して生成した。リアルタイムPCRを、CFX(商標)Connect Real-Time System(BIO-RAD)でUSB(商標)HotStart-IT(商標)SYBR(商標)Green qPCR Master Mix(2X)(Affymetrix社)を使用して実施した。qPCR反応を2回の反復で実施し、参照遺伝子GAPDHに対して正規化し、比較Ct法(Schmittgen et al. 2008)を使用して評価した。生理活性脂質処理後のhiPSCのより包括的なトランスクリプトーム分析のために、GeneChip(商標)Human Gene 1.0 ST DNA Microarrayを使用した(Affymetrix社)。
【0131】
統計学的方法:特段の指定がない限り、データは平均±標準偏差として表される。特段の指定がない限り、スチューデントのt検定によってP<0.05により規定される有意差(*)で比較を行った。マイクロアレイの場合に、Affymetrix Transcriptome Analysis Console 2.0ソフトウェアを使用して、被験者間の一元配置ANOVA(P<0.05)を使用してP値の多重比較を行った。
【0132】
動画S1:グルコース除去による純化後のhiPSC-CM。分化後に、hiPSC-CMは、心臓の分化が開始した後の約8日目~10日目に自発的に収縮し始める。グルコース除去後に、細胞シートには、より純粋なhiPSC-CMの集団が含まれていた。10倍の倍率の動画。
【0133】
ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)の派生:この研究の全てのプロトコルは、スタンフォード大学治験審査委員会によって承認された。以前に公開されたプロトコル(Churko
et al 2013)に従ってリプログラミングを実施した。まとめると、同意を得た個人から
標準的な採血を行うことによって末梢血単核細胞(PBMC)を取得し、Ficoll勾配分離を使用して分離した。製造業者により提供されるプロトコルに従って、OCT4、KLF4、SOX2及びMYC(OKSM)を発現するセンダイウイルスベクター(Life
Technologies社)を使用して、PBMCをリプログラミングした。リプログラミングの
約1ヶ月後に、hiPSCクローンを分離し、成長因子低減Matrigel(Corning
社)でコーティングされた6ウェル組織培養皿(Greiner社)上でE8多能性幹細胞培養
培地(Life Technologies社)において培養した。
【0134】
遺伝子発現:Ion AmpliSeq(Life Technologies社)を使用して、hiP
SC-CMにおける生理活性脂質受容体の発現を測定した。RNeasy Microキット(Qiagen社)でRNAを抽出した。Ion AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expressionキットを使用して、cDNAライブラリーを合成した。ライブラリーをIon PIチップに加え、テンプレート調製のためにIon Chef機器に入れた。Ion Protonシーケンシングシステム(Life Technologies社)でトランスクリプトームシーケンシングを行った。脂質処理後の
hiPSC-CMの発現分析のために、GeneChip(商標)Human Gene
1.0 ST DNA Microarrayを使用した(Affymetrix社)、又はqPCR発現分析を実施した(BioRad社)。
【0135】
実施例8.生理活性脂質はhiPSCからの心臓分化を段階特異的に増大させる
山中因子(OCT4、SOX2、KLF4及びc-MYC)を発現するウイルスベクターを導入することにより5人の個人からの体組織をリプログラミングすることによって、5つのhiPSC系統を生成した。引き続き、化学的に定義されたプロトコルを使用して全てのhiPS細胞系統を分化させ、心筋細胞を生成した(非特許文献32、Churko et al. 2013)。hiPSC系統3、hiPSC系統4及びhiPSC系統5は、生理活性脂質を添加せずに拍動心筋細胞に適切に分化したので、心筋細胞へと分化する能力の低下を示したhiPS細胞系統1及びhiPS細胞系統2に対するS1P/LPAの効果を調査した。
【0136】
S1P及びLPAの処理がこれらの2つの分化困難なhiPS細胞系統における心筋細胞分化を改善することができるかどうかを調べた。生理活性脂質による処理の際のCM分化の効率を評価する96ウェル分化プラットフォームを確立した(
図15A)。このプラットフォームを使用して、化学的に定義された分化プロトコルでの0日目~2日目にCHIRと同時にS1P及び/又はLPAを添加すると、8日目に心臓トロポニンT(TnT)発現により評価されるように、hiPSC-CM生成がコントロールと比べて2倍~3倍高まることが確かめられた(非特許文献32、Churko et al. 2013)(
図15B及び
図15C)。分化の4日目~6日目の間又は6日目~8日目の間にS1P/LPAを添加すると、hiPSC-CM分化の有意な増大は検出されなかった(
図15C)。これらの結果は、これらのそうでなければ低分化型のhiPS細胞系統で心臓分化及び心筋細胞生成を高めるにあたり、生理活性脂質が早期の役割を担うことを示している。
【0137】
実施例9.生理活性脂質は、hiPS細胞においてWnt/β-カテニンと相乗作用して、中胚葉分化を誘導する
これらの研究の残りの部分を、心臓分化の正常な能力を示した3つの独立したhiPS細胞系統で行った。Wnt/β-カテニンシグナル伝達の誘導物質による未分化hiPSCの処理は、中胚葉分化を効果的に増大させることが以前に示されている(非特許文献32)。生理活性脂質を早期に投与するとhiPSC-CMの分化が増大することが判明したので、観察されたhiPSC-CM形成の増加は、S1P/LPAによる核内β-カテニンのレベルの増加に起因する可能性があると仮定した。他の細胞系統での以前の研究では、生理活性脂質は接着結合でのE-カドヘリンからのβ-カテニンの解離を増大させ、核内の下流のシグナル伝達のために利用可能な細胞質β-カテニンが増加することが示された(Kam et al. 2009)。未分化hiPS細胞のS1P/LPA処理が、単独で又はC
HIRと組み合わせて核内β-カテニンのレベルを増加させ得るかどうかを研究した。まず、S1P/LPA処理単独が、hiPS細胞においてβ-カテニンの有意な核内蓄積を誘導したことが認められた(
図16A及び
図16B)。さらに、種々の時点でのβ-カテニンの連続免疫染色により、この効果は早ければ処理後2時間以内に観察され得ることが明らかになった(
図20A)。CHIRと組み合わせると、S1P及びLPAはβ-カテニンの核内蓄積を更に促進したことから、これらの化合物間の相乗効果が示唆された(
図16A及び
図16B)。核内β-カテニンレベルの増加が転写レベルでWntシグナル伝達の活性化をもたらすかどうかを調べるために、hiPSCに前述のTOPFlashルシフェラーゼレポータープラスミド
(23)(Veeman et al. 2003)をトランスフェクションした。このシステムは、生物発光を使用してWnt転写活性の相応の可視化を提供する。引き続き、これらの細胞をジメチルスルホキシド(DMSO)、CHIR、S1P/LPA、又はS1P/LPAとCHIRとの組み合わせで処理した。興味深いことに、DMSOコントロール群と比べると、S1P/LPA単独での処理はTCF/LEF-ルシフェラーゼ活性をわずかしか高めないのに対して(約1.25倍)(
図16C)、CHIR単独での処理はTCF/LEF-ルシフェラーゼ活性の非常に大きな約40倍の増加をもたらした。S1P/LPAをCHIRと組み合わせると、TCF/LEF-ルシフェラーゼ活性は、DMSOコントロールと比べて60倍超まで更に増加した(
図16C)。し
たがって、S1P/LPA処理単独はLEF/TCFレポーターをわずかしか活性化しなかったのに対して、生理活性脂質はCHIRと相乗作用して、β-カテニンシグナル伝達を更に高めた(
図16D)。
【0138】
S1P/LPA処理後の遺伝子発現の重要な変化を明らかにするために、分化の2日目にhiPS細胞に対してゲノムワイドなマイクロアレイ発現分析を実施した。興味深いことに、幹細胞の発生及び分化を制御することが良く知られているWnt阻害剤であるDKK4及びDKK1(
図16E)の有意な下方調節が見られた(非特許文献21)。さらに、本発明者らのマイクロアレイデータは、COL12A1及びビメンチン(VIM)(後者は、発生の間の上皮間葉転換に関連している)等の細胞骨格及び細胞外マトリックス遺伝子の発現の増加も明らかにした。
【0139】
まとめると、これらの結果は、生理活性脂質S1P及びLPAがGSK3β阻害剤CHIRと相乗的に作用して、ともすれば膜関連E-カドヘリンからのβ-カテニン放出の増大によって、hiPSC分化の間のWntシグナル伝達/β-カテニン核内蓄積を増加させることを示唆している(
図16D)。S1P及びLPAの処理はまた、DKK1/4等のWnt阻害剤の発現を抑制し、細胞骨格/細胞外マトリックス遺伝子の発現を増加させる。
【0140】
実施例10.生理活性脂質はhiPSC分化の間に細胞形態及び遺伝子発現の変化を誘導する
このマイクロアレイデータは、S1P/LPA処理により誘導される細胞骨格及び細胞外マトリックス遺伝子(例えば、COL12A1及びVIM)の上方調節を示したことから、それらの生物学的表現型の変化が示唆される(
図16E)。さらに、S1P/LPA処理の24時間以内に、細胞形態の劇的な変化と細胞サイズの2倍の増加とが認められた(
図17A及び
図17B)。興味深いことに、これには細胞数の増加はほとんど伴わないか、全く伴わなかった(
図17C)。
【0141】
生理活性脂質又はCHIRによる処理後に免疫染色及び定量的PCR分析によるマイクロアレイ研究から、遺伝子発現の変化を検証した(
図17D及び
図17E)。興味深いことに、CHIR処理だけでVIM及びブラキウリT(Bry T)発現の両方を高めることができるのに対して(Menez et al. 2010)、S1P/LPA処理はBry Tの発現
に影響を与えずにVIMの発現のみを高めることが判明した(
図17D及び
図17E)。結論として、これらの結果は、心臓の分化を増大させるhiPSCのWntシグナル伝達に媒介される中胚葉分化に対する、生理活性脂質の相乗的であるが機構的に独立した効果を裏付けている。
【0142】
実施例11.最終分化hiPSC-CMにおける細胞周期活性を誘導する生理活性脂質及びWnt/β-カテニン活性化の相乗効果
以前の研究により、β-カテニン活性化はマウス胎児心臓及びヒト胚性幹細胞由来心筋細胞において心室心筋細胞増殖のために必要であることと、hiPSC-CM細胞周期停止の代謝調節はβ-カテニンシグナル伝達の活性化により逆転させることができることとが示された(非特許文献30、Mills et al. 2017)。生理活性脂質とWnt/β-カテ
ニンシグナル伝達との間の中胚葉分化を促進する相乗効果を考慮して(
図16、
図17)、生理活性脂質がWnt/β-カテニンシグナル伝達と相乗作用してhiPSC-CMの増殖も誘導し得るかどうかを調べた。
【0143】
これに対処するために、化学的に定義されたプロトコル(非特許文献32、Churko et al. 2013、非特許文献35)(動画S1)を使用して、高分化型hiPSC-CMを生成し(例えば、30日目以降)、それらをS1P/LPA若しくはCHIR又はその両方で
処理した(
図18A)。最初に、これらの細胞におけるS1P/LPA受容体の存在を検証した(
図21)。次に、心筋トロポニンT(TnT)陽性細胞において、細胞周期活性のマーカーであるki67及び有糸分裂マーカーであるリン酸化ヒストンH3(pHH3)について免疫蛍光染色を行った。S1P/LPA単独での処理は、未成熟(約20日目~30日目)hiPSC-CMだけでなく、高分化型(約50日目)hiPSC-CMにおいても、よく知られた有糸分裂促進剤(Titmarsh et al. 2016)であるCHIR単独での処理と同様のレベルまでki67発現を誘導し得ることが判明した(
図18B及び
図18C、
図21)。しかしながら、ki67発現の増加にかかわらず、S1P/LPA処理はhiPSC-CM数の増加をもたらさなかったことから、細胞(
図18D)及び核(
図18E及び
図18F)の分裂が不完全であったことが示唆される。それにもかかわらず、CHIR単独で処理すると細胞数の増加がもたらされ、CHIRにS1P/LPAを加えると、細胞数及びpHH3発現の両方の増加により裏付けられるように、CHIRにより媒介されるhiPSC-CMの増殖が更に高められた(
図18D~
図18F)。S1P/LPA若しくはCHIR又はその両方で2日間処理しても、二核化又は多核化された心筋細胞の数は増加しなかった(
図18G)。
【0144】
S1P/LPA又はCHIRで処理された30日目のhiPSC-CMの追加の機能的分析では、コントロールの高分化型hiPSC-CMと比べて、拍動周波数又は収縮力発生に有意差は見られない(
図22)。これらの研究は、S1P/LPAが高分化型hiPSC-CMにおける細胞周期活性を調節し、β-カテニンシグナル伝達と相乗作用してhiPSC-CM増殖を高める追加の役割を説明している。
【0145】
実施例12.生理活性脂質はhiPSC-CMにおけるERKシグナル伝達を活性化する
S1P/LPAがhiPSC-CMにおける細胞周期活性を調節する機構を確かめるために、TOPFlash(TCF/LEF-ルシフェラーゼ)レポーターを使用して、S1P及びLPAの処理が30日目の心筋細胞におけるWnt/β-カテニンシグナル伝達を直接刺激し得るかどうかを評価した。本開示は、TOPFlashレポーターによって測定されるように古典的Wntシグナル伝達がCHIR単独の存在下で活性化されたのに対して、S1P/LPAでの処理がTCF/LEF-ルシフェラーゼ活性を高めることができなかったことを報告しており(
図19A)、生理活性脂質の効果はhiPSC-CMでのWntシグナル伝達により直接媒介されないことが示唆される。
【0146】
心筋細胞及び非筋細胞の増殖及び再生の調節におけるHippo/Yapシグナル伝達のよく知られた役割を考慮して(Yusuf et al. 2012、Heallen et al. 2011、Morikawa et al. 2017、Leach et al. 2017、von Gise et al. 2012)、生理活性脂質がYapの核
内蓄積を促進する能力を評価した(
図23)。驚くべきことに、hiPSC-CM並びに未分化hiPSC及びhiPSC由来の非筋細胞を含む他の多くの細胞型において、ベースラインで強力な核内YAP局在化(計数された全ての核の85%超から90%まで)が見出された(
図23A)。したがって、生理活性脂質処理後に核内YAP蓄積の増加は観察されなかった(
図23B)。
【0147】
S1P/LPAがhiPSC-CMにおける細胞周期活性を調節する機構を更に解明するために、S1P/LPAでの処理後の30日目のhiPSC-CMにおいて広範なキナーゼリン酸化パネルのスクリーニングを実施した(表S1)。
【0148】
特に、S1P/LPA処理後の細胞周期活性の既知の調節因子であるERK1/2のリン酸化においては、急速な上方調節が観察された(
図19B)(Zang et al. 2002)。S1P/LPAでの処理の5分以内に、HSP27のリン酸化の下方調節も、GSK3β及びJNKのリン酸化における微妙な変化も観察された(
図19B)。古典的Wnt/β-カテニンシグナル伝達に対するS1P/LPAの直接的な効果がないことと一致して、S
1P/LPAによる処理後にもβ-カテニンのレベルは変化しなかった。心臓分化を経ているhiPSCにおけるS1P/LPA処理の分析により、CHIRに誘導される中胚葉誘導に対するS1P/LPAの効果(
図16)にもかかわらず、ERK1/2リン酸化は0日目の未分化hiPSCにおいて活性ではないことが明らかになった(
図24)。
【0149】
S1P/LPAがMAPK/MEK/ERKシグナル伝達カスケードの刺激を通じてhiPSC-CMにおけるERK1/2リン酸化を促進するかどうかに対処するために、hiPSC-CMを、ERKの上流のMEKシグナル伝達の小分子阻害剤であるトラメチニブ(Kim et al. 2013)の存在下又は不存在下でS1P/LPAにより処理した。本開示
は、S1P/LPAがhiPSC-CMにおけるERKリン酸化を活性化する能力が、トラメチニブの存在下で消失したことを報告していることから、S1P/LPAに誘導されるERKリン酸化が、MAPK/MEK/ERKシグナル伝達によって媒介されることが確認される(
図19C、
図25)。
【0150】
トラメチニブの存在下及び不存在下でhiPSC-CMをS1P/LPAで処理することによって、S1P/LPAに誘導される細胞周期活性に対するMAPK/MEK/ERKシグナル伝達の必要性を調べ、hiPSC-CMにおけるki67の発現を評価した(
図19D及び
図19E)。本開示は、トラメチニブ処理がki67のS1P/LPAに誘導される上方調節を消失させたことを報告している。これにより、hiPSC-CMにおけるS1P/LPAに媒介される細胞周期の活性化におけるMAP/MEK/ERKシグナル伝達の役割が確認される。
【0151】
S1P受容体シグナル伝達がS1Pに媒介されるhiPSC-CM細胞周期の活性化に関与するかどうかを評価するために、hiPSC-CMをS1P単独又はその受容体アンタゴニストのVPC23019(Davis et al. 2005)と共に培養した。S1P処理され
たhiPSC-CMにおけるki67の発現は、VPC23019の存在下で減少することが判明した(
図19F及び
図19G)。これは、S1P受容体が生理活性脂質に誘導されるhiPSC-CM細胞周期の活性化を媒介する役割を裏付けている(
図19H)。最後に、S1P/LPA処理に応答してhiPSC-CMにおいて細胞周期活性の増加が観察されたが、S1P/LPA処理後にhiPSC-CMの成熟状態又はサブタイプの個性の変化は観察されなかった(
図26)。
【0152】
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