(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037922
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】急性放射線症候群を予防又は処置するための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/23 20060101AFI20240312BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240312BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240312BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
A61K31/23
A61K45/00
A61P1/04
A61P7/00
A61P17/00
A61P25/00
A61P43/00 105
A61K38/19
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023212178
(22)【出願日】2023-12-15
(62)【分割の表示】P 2020529508の分割
【原出願日】2018-11-30
(31)【優先権主張番号】10-2017-0162404
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】62/691,604
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】516343099
【氏名又は名称】エンジーケム ライフサイエンシーズ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】ENZYCHEM LIFESCIENCES CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン,キ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ユン,スン ヨン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】急性放射線症候群のための新しい治療法を提供する。
【解決手段】治療有効量の1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)を対象に投与することを含む、対象における急性放射線症候群を処置又は予防するための方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量の1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)を対象に投与することを含む、対象における急性放射線症候群を処置又は予防するための方法。
【請求項2】
治療有効量の1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)を対象に投与することを含む、有害な電離放射線に曝露した対象を処置するための方法。
【請求項3】
電離放射線がガンマ放射線を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
治療有効量の1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)を対象に投与することを含む、急性放射線症候群の1つ以上の亜症候群を処置又は予防するための方法。
【請求項5】
1つ以上の亜症候群が、造血性、胃腸性、皮膚性、神経血管性、及びこれらの組合せである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
対象が0.7Gy~50Gyの放射線に曝露している、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
対象が1Gy~8Gyの放射線に曝露している、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
対象が、造血系の急性放射線症候群、放射線によって誘発される凝固障害、胃腸性急性放射線症候群、心血管性急性放射線症候群、若しくは中枢神経系(CNS)性急性放射線症候群、又はこれらの組合せに罹患している又は罹患しやすい、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
PLAGの投与が対象の生存率を増大させる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
PLAGが、放射線曝露後72時間以内に対象に初回投与される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
PLAGが、放射線曝露後48時間以内に対象に初回投与される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
PLAGが、放射線曝露後36時間以内に対象に初回投与される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
PLAGが、放射線曝露後24時間以内に対象に初回投与される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
PLAGが、放射線曝露後12時間以内に対象に初回投与される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
PLAGが、放射線曝露後6時間以内に対象に初回投与される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
PLAGが、放射線曝露後3時間以内に対象に初回投与される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
PLAGが、放射線曝露後24~72時間の間に対象に初回投与される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
PLAGが、放射線曝露後24~48時間の間に対象に初回投与される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
PLAGがG-CSFと共に投与される、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
PLAGが、鎮痛剤、抗潰瘍剤、下痢止め、抗生物質、解熱剤、栄養補助食品、及び抗酸化剤からなる群から選択される1つ以上と共に投与される、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
対象の急性放射線症候群(ARS)を処置又は予防するための、1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)を含む医薬組成物。
【請求項22】
有害な電離放射線への曝露を処置又は予防するための、1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)を含む医薬組成物。
【請求項23】
急性放射線症候群の1つ以上の亜症候群を処置又は予防するための、1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)を含む医薬組成物。
【請求項24】
ARSが、造血系の急性放射線症候群、放射線によって誘発される凝固障害、胃腸性急性放射線症候群、心血管性急性放射線症候群、若しくは中枢神経系(CNS)性急性放射線症候群、又はこれらの組合せからなる群から選択される1つ以上である、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項25】
ARS又は有害な電離放射線が、0.7Gy~50Gyの放射線によって生じるか又は誘発される、請求項21から24のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
ARS又は有害な電離放射線が、1Gy~8Gyの放射線によって生じるか又は誘発される、請求項21又は24に記載の医薬組成物。
【請求項27】
ARS又は有害な電離放射線が、対象の全身への放射線によって生じるか又は誘発される、請求項21又は24に記載の医薬組成物。
【請求項28】
対象の生存率を増大させる、請求項21から27のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項29】
放射線後48時間以内に対象に初回投与される、請求項21から28のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
G-CSFと共に投与される、請求項21から29のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項31】
鎮痛剤、抗潰瘍剤、下痢止め、抗生物質、解熱剤、栄養補助食品、及び抗酸化剤からなる群から選択される1つ以上と共に投与される、請求項21から30のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項32】
鎮痛剤、抗潰瘍剤、下痢止め、抗生物質、解熱剤、栄養補助食品、及び抗酸化剤からなる群から選択される1つ以上と共に投与される請求項21から31のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項33】
(a)1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)、
(b)対象の急性放射線症候群(ARS)を処置又は予防するためにPLAGを使用するための指示を含むキット。
【請求項34】
(a)1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)、
(b)過剰な電離放射線への曝露を処置又は予防するためにPLAGを使用するための指示
を含むキット。
【請求項35】
(a)1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)、
(b)急性放射線症候群の1つ以上の亜症候群を処置又は予防するためにPLAGを使用するための指示
を含むキット。
【請求項36】
治療有効量のPLAGを含む、請求項33から35のいずれか一項に記載のキット。
【請求項37】
PLAGの使用のための文書の指示を含む、請求項33から36のいずれか一項に記載のキット。
【請求項38】
指示が製品ラベルである、請求項33から37のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、その全体が全ての目的で本明細書に組み込まれる、2018年6月28日に出願された米国仮特許出願第62/691,604号及び2017年11月30日に出願された韓国特許出願第10-2017-0162404号の利益を主張する。
【0002】
一態様において、急性放射線症候群(ARS)を予防する、処置する、調節する、又は緩和するための、PLAG(1-パルミトイル-3-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)を含む方法及び組成物が提供される。
【背景技術】
【0003】
急性放射線症候群(ARS)は、ヒトの身体の大部分が放射線に曝露すると生じる疾患である。これは、免疫系、造血系、神経系、及び/又は胃腸系を破壊することによって最終的には死をもたらす、命に関わる疾患である。核爆発及び原子力事故は、急性放射線症候群を生じさせ得る放射線曝露を生じさせ得る。
【0004】
放射線に曝露した患者のための主な処置は、感染を予防及び管理することである。臨床的に、アジュバント療法、例えばサイトカイン、抗生物質投与、及び輸血が、放射線曝露後の早い段階で行われ、患者における好中球減少症の期間が長くなれば、二次感染のリスクも増大する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、急性放射線症候群のための新しい治療法を見出すことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様において、本発明者らは、ここで、PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)を含む、急性放射線症候群を処置及び予防するための新しい治療法を提供する。
【0007】
別の態様において、有効量のPLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)を対象に投与することを含む、電離放射線に曝露した対象(特に、有害な曝露、例えば、意図しない及び/若しくは非治療的な曝露、並びに/又はガンマ放射線を含む過剰な電離放射線への曝露)を処置するための新しい治療法が提供される。
【0008】
なおさらなる態様において、PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)の使用を含む、急性放射線症候群の1つ以上の亜症候群を処置及び予防するための治療法が提供される。ARS亜症候群としては、造血性、胃腸性、皮膚性、及び/又は神経血管性のものが含まれる。
【0009】
なおさらなる態様において、造血性(骨髄性)急性放射線症候群、胃腸性急性放射線症候群、皮膚性急性放射線症候群、心血管性急性放射線症候群、及び/又は中枢神経系性(CNS)急性放射線症候群を処置及び予防するための治療法が提供される。
【0010】
さらなる態様において、放射線によって誘発される凝固障害を処置及び予防するための治療法が提供される。
【0011】
PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)は、放射線曝露による、免疫細胞、例えば、白血球、好中球、及びリンパ球の低減を軽減させ得、予防し得、及び/又は処置し得、口腔粘膜炎のような炎症性疾患を軽減させ得、さらに、放射線に曝露した対象の生存率を増大させ得る。
【0012】
PLAGは、対象が傷害性の放射線、例えばガンマ放射線に曝露した時から長期間が経過した後であっても、対象に有利に初回投与され得る。つまり、対象は、このような遅れた処置の後であっても、生存期間の延長を含む治療利益を受けることができる。例えば、以下の実施例で示されるインビボでの結果を参照されたい。このことは、放射線曝露を受けた対象の最初の処置が遅れ得ることが多いため、重要である。
【0013】
したがって、ある特定の態様において、PLAGは、対象が放射線への傷害性の曝露(ガンマ放射線曝露を含む)を受けた後、3、6、12、18、24、36、48、60、又は72時間以内に初回投与される(対象への初回用量)。特定の態様において、PLAGは、対象が放射線への傷害性の曝露(ガンマ放射線曝露を含む)を受けた後、3~12時間、18時間、48時間、若しくは72時間の間、又は6~18時間、24時間、若しくは48時間の間に初回投与される(対象への初回用量)。ある特定の態様において、放射線への傷害性の曝露は、1Gy~8Gy以上の電離放射線、例えばガンマ放射線に1秒~30秒、60秒、又は120秒間以上の曝露であり得る。
【0014】
さらなる態様において、急性放射線症候群を予防又は処置するための、PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)を含む医薬組成物が提供される。
【0015】
電離放射線に曝露した対象、特に、過剰な電離放射線に曝露した対象を予防又は処置するための、PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)を含む医薬組成物もまた提供される。
【0016】
別の態様において、急性放射線症候群を予防する又は寛解させるための、PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)を活性成分として含む健康機能性食品又は栄養補助食品が提供される。
【0017】
なおさらなる態様において、急性放射線症候群を処置若しくは予防するため、又は過剰な電離放射線への曝露を処置若しくは予防するために使用するためのキットが提供される。
【0018】
本発明のキットは、適切には、1)1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)、及び2)対象の急性放射線症候群(ARS)を処置若しくは予防するため、又は過剰な電離放射線への曝露を処置若しくは予防するためにPLAGを使用するための指示を含み得る。好ましくは、キットは、治療有効量のPLAGを含む。指示は、適切には、製品ラベルとしてのものを含む、文書形態であり得る。
【0019】
用語PLAG、EC-18、及び1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロールは、本明細書において区別せずに使用され、本明細書において同一の化合物を指す。
【0020】
さらなる態様において、以下で示される式1の化合物は、特に、急性放射線症候群に罹患している対象又は有害な電離放射線に曝露している対象を処置するために、本発明の方法、組成物、及びキットにおいて用いられ得る。
【0021】
他の態様を下に開示する。
【0022】
本特許又は出願のファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラーの図面を伴うこの特許公開又は特許出願公開のコピーは、請求及び必要な費用の支払いに応じて、特許庁によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】動物モデルにおける、放射線によって誘発される急性放射線症候群に関する実験設計の概略図である。
【
図2A】急性放射線症候群の動物モデルにおける、PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)投与後の、血中の白血球(
図2A)、好中球(
図2B)、及びリンパ球(
図2C)の数のレベルを示す図である。
【
図2B】急性放射線症候群の動物モデルにおける、PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)投与後の、血中の白血球(
図2A)、好中球(
図2B)、及びリンパ球(
図2C)の数のレベルを示す図である。
【
図2C】急性放射線症候群の動物モデルにおける、PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)投与後の、血中の白血球(
図2A)、好中球(
図2B)、及びリンパ球(
図2C)の数のレベルを示す図である。
【
図3】口腔粘膜炎を伴う急性放射線症候群を有する動物モデルにおける、PLAG投与での生存率を示す図である。
【
図4】急性放射線症候群の動物モデルにおける、PLAG投与後の粘膜炎の状態を示す図である。
【
図5】口腔粘膜炎を伴う急性放射線症候群の動物モデルの、PLAG(EC-18)で処置された動物及び未処置の動物における、計算された粘膜炎スコアを示す図である。
【
図6A】7日後(
図6A)及び10日後(
図6B)の、口腔粘膜炎を伴う急性放射線症候群の動物モデルにおける、PLAG投与後の血中好中球数のレベルを示す図である。
【
図6B】7日後(
図6A)及び10日後(
図6B)の、口腔粘膜炎を伴う急性放射線症候群の動物モデルにおける、PLAG投与後の血中好中球数のレベルを示す図である。
【
図7】
図7Aは、放射線によって誘発される発急性放射線症候群の動物モデルにおけるEC-18処置(30日間)の概略図である。
図7Bは、全身照射(6.5Gy)を受けた、EC-18を投与された(250mg/kg/日 PO)又は投与されていないマウス(BALB/c、11週齢)の生存率を示す図である。EC-18を投与されたマウスにおける生存率は、未処置(EC-18なしの)マウスと比較して改善している。
【
図8】
図7Aの図に従った、全身照射(6.5Gy)を受けた、EC-18を投与された(250mg/kg/日 PO)(n=20)又は投与されていない(n=20)マウス(BALB/c、9週齢)の生存率を示す図である。EC-18で処置されたマウスの生存率は、未処置(EC-18なしの)マウスと比較して改善している。
【
図9】
図7Aの図に従った、全身照射(2、4、及び6Gy)を受けた、EC-18処置を受けていないマウス(BALB/c、9週齢)、及び6Gyで全身照射を受けた、EC-18処置を受けた(250mg/kg/日 PO)マウスの生存曲線を示す図である。
【
図10】
図10Aは、放射線によって誘発される急性放射線症候群の動物モデルにおけるEC-18処置(17日間)の概略図である。
図10Bは、致死線量の全身照射(7Gy)を受けた、EC-18を投与された(250mg/kg/日 PO)又は投与されていないマウス(BALB/c、9週齢)の生存率を示す図である。致死線量の照射を受けた、EC-18を投与されたマウスの生存率は、未処置(EC-18なし)のマウスと比較して、約15日目まで改善している。
【
図11】致死線量の全身照射(8Gy)を受けた、EC-18を投与された(250mg/kg/日 PO)又は投与されていないマウス(BALB/c、9週齢)の生存率を示す図である。
図10Aの図に従った、照射を受けた、EC-18を投与されたマウスの生存率は、未処置(EC-18なし)のマウスと比較して、約14日目まで改善している。
【
図12】
図12Aは、放射線によって誘発される急性放射線症候群の動物モデルにおける、EC-18処置(12日間)の概略図である。
図12Bは、致死線量の全身照射(10Gy)を受けた、EC-18を投与された(250mg/kg/日 PO)又は投与されていないマウス(BALB/c、9週齢)の生存率を示す図である。
図12Aの図に従った、照射を受けた、EC-18を投与されたマウスの生存率は、未処置(EC-18なし)のマウスと比較して約9日目まで改善している。
【
図13】
図13Aは、放射線によって誘発される急性放射線症候群の動物モデルにおける、EC-18処置(17日間)の概略図である。
図13Bは、致死線量の全身照射(8Gy)を受けた、EC-18を投与された(250mg/kg/日 PO)及び投与されていないマウス(BALB/c、9週齢)における皮膚紅斑を示す図である。
【
図14】
図14Aは、放射線によって誘発される急性放射線症候群の動物モデルにおける、EC-18処置(30日間)の概略図である。
図14Bは、全身照射(6.5Gy)を受けた、EC-18を投与された(250mg/kg/日 PO)又は投与されていないマウス(BALB/c、9週齢)における皮膚紅斑を示す図である。
【
図15】
図14Aの図に従った、全身照射(6.5Gy)を受けた、EC-18を投与された(250mg/kg/日 PO)又は投与されていないマウス(BALB/c、11週齢)における、皮膚紅斑を示す図である。
【
図16】放射線によって誘発される好中球減少症(RIN)におけるEC-18の作用のメカニズム図であり、これは、EC-18が短期間でのDAMPの除去を促進し、血管からの好中球の連続放出を阻害することを示している。
【
図17A】HaCaT細胞における抗アポトーシスに対するEC-18の効果の試験についての概略図である。5-FU及びγ線によって誘発されるHaCaTの損傷。
【
図17B】5-FUの用量、放射線、及びPLAG(EC-18)での処置に従った、
図17Aで示される実験における細胞数を示す図である。
【
図17C】5-FUの量、放射線、及びPLAG(EC-18)での処置に従った、
図17Aで示される実験における初期アポトーシス率(%)を示す図である。
【
図17D】放射線及びPLAG(EC-18)での処置に従った、1ng/mLの5-FU量での、
図17Aで示される実験における初期アポトーシス率(%)を示す図である。
【
図17E】放射線及びPLAG(EC-18)での処置に従った、10ng/mLの5-FU量での、
図17Aで示される実験における初期アポトーシス率(%)を示す図である。
【
図17F】放射線及びPLAG(EC-18)での処置に従った、100ng/mLの5-FU量での、
図17Aで示される実験における初期アポトーシス率(%)を示す図である。
【
図18A】5-FUの量、放射線、及びPLAG(EC-18)での処置に従った、
図17Aで示される実験における後期アポトーシス率(%)を示す図である。
【
図18B】放射線及びPLAG(EC-18)での処置に従った、1ng/mLの5-FU量での、
図17Aで示される実験における後期アポトーシス率(%)を示す図である。
【
図18C】放射線及びPLAG(EC-18)での処置に従った、10ng/mLの5-FU量での、
図17Aで示される実験における後期アポトーシス率(%)を示す図である。
【
図18D】放射線及びPLAG(EC-18)での処置に従った、100ng/mLの5-FU量での、
図17Aで示される実験における後期アポトーシス率(%)を示す図である。
【
図19A】HaCaT細胞における細胞内ROS発現に対するEC-18の効果の試験の概略図である。5-FU及びγ線によって誘発されるHaCaTの損傷。
【
図19B】照射後にEC-18で処置した後の、又は処置しなかった場合の、7Gyのγ放射線に曝露したHaCaT細胞におけるROSの測定値を示す図である。
【
図19C】細胞が7Gyのγ放射線に曝露した場合の、照射後にEC-18で処置した後の、又は処置しなかった場合の、ROSの発現に対するHaCaT細胞の細胞数を示す図である(上:曝露の6時間後、下:曝露の24時間後)。
【
図20】6.5Gyのγ放射線によって誘発される急性放射線症候群の動物モデル(マウス、BALB/c、11週齢)に対するEC-18(PLAG)処置の生存率を試験するための典型的な実験についての図である。
【
図21】全身放射線に曝露していない(コントロール)、6.5Gyのγ放射線に曝露して(全身、処置なし)、EC-18での処置を1日目(放射線曝露の24時間後)に開始された、又はEC-18での処置を2日目(放射線曝露の48時間後)に開始されたマウスBalb/c(群当たりn=20)についての生存曲線を示す図である。
【
図22】曝露していない、6.5Gyのγ放射線に曝露した、及び6.5Gyのγ放射線(全身)に曝露し、照射の24又は48時間後にEC-18で処置されたBalb/cマウスの体重を示す図である。
【
図23】マウスモデルにおいて、放射線によって誘発される凝固障害を試験するための典型的な実験についての図である。
【
図24】5-FU(100mg/kg)によって誘発される好中球減少症における好中球の経時動態を確認するための3つの群(5-FUのみ、5-FU+PLAG 125mg/kg、5-FU+PLAG 250mg/kg)を含む典型的な実験についての図である。
【
図25】ウェスタンブロットによってEC-18の効果をG-CSFと比較するインビトロでの実験を示す図である。
【
図26】EC-18とG-CSFとの比較を示す表である。
【
図27】放射線に曝露した患者及び様々なARS亜症候群の生存期間についての図である。
【
図28】
図28Aは、30日間の観察にわたる、各γ放射線量で照射されたマウスの生存可能性を示す図である。
図28Bは、様々な線量のγ放射線に曝露したBALB/cマウスの、プロビットモデルを使用する、放射線量関係(DRR)を示す図である。
【
図29】様々な線量のγ放射線に曝露した照射されたマウスの、正規化された体重変化を示す図である。
【
図30A】γ放射線によって誘発されるARSにおけるEC-18投与の治療効果を示す図である。
図30Aは生存率を示し、
図30Bは、6.11Gyの線量のγ放射線を照射されたマウスの体重減少を示す。6.11Gy対6.11Gy+EC-18 250mg/kgで、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
【
図30B】γ放射線によって誘発されるARSにおけるEC-18投与の治療効果を示す図である。
図30Aは生存率を示し、
図30Bは、6.11Gyの線量のγ放射線を照射されたマウスの体重減少を示す。6.11Gy対6.11Gy+EC-18 250mg/kgで、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
【
図31A】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータを示す図である。
図31A~31Fは、それぞれ、白血球(WBC、
図31A)、好中球絶対数(ANC、
図31B)、単球(
図31C)、リンパ球絶対数(ALC、
図31D)、血小板数(PLT、
図31E)、及び赤血球数(RBC、
図31F)を示す。n=5マウス/コホート。
【
図31B】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータを示す図である。
図31A~31Fは、それぞれ、白血球(WBC、
図31A)、好中球絶対数(ANC、
図31B)、単球(
図31C)、リンパ球絶対数(ALC、
図31D)、血小板数(PLT、
図31E)、及び赤血球数(RBC、
図31F)を示す。n=5マウス/コホート。
【
図31C】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータを示す図である。
図31A~31Fは、それぞれ、白血球(WBC、
図31A)、好中球絶対数(ANC、
図31B)、単球(
図31C)、リンパ球絶対数(ALC、
図31D)、血小板数(PLT、
図31E)、及び赤血球数(RBC、
図31F)を示す。n=5マウス/コホート。
【
図31D】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータを示す図である。
図31A~31Fは、それぞれ、白血球(WBC、
図31A)、好中球絶対数(ANC、
図31B)、単球(
図31C)、リンパ球絶対数(ALC、
図31D)、血小板数(PLT、
図31E)、及び赤血球数(RBC、
図31F)を示す。n=5マウス/コホート。
【
図31E】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータを示す図である。
図31A~31Fは、それぞれ、白血球(WBC、
図31A)、好中球絶対数(ANC、
図31B)、単球(
図31C)、リンパ球絶対数(ALC、
図31D)、血小板数(PLT、
図31E)、及び赤血球数(RBC、
図31F)を示す。n=5マウス/コホート。
【
図31F】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータを示す図である。
図31A~31Fは、それぞれ、白血球(WBC、
図31A)、好中球絶対数(ANC、
図31B)、単球(
図31C)、リンパ球絶対数(ALC、
図31D)、血小板数(PLT、
図31E)、及び赤血球数(RBC、
図31F)を示す。n=5マウス/コホート。
【
図32A】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータに対するEC-18投与の治療効果を示す図である。
図32A~32Eは、15日間にわたる、それぞれ白血球数(WBC、
図32A)、好中球絶対数(ANC、
図32B)、リンパ球絶対数(ALC、
図32C)、血小板数(PLT、
図32D)、及び赤血球数(RBC、
図32E)の経時変化を示す。
図32F~
図32Jは、15日目の、それぞれWBC(
図32F)、ANC(
図32G)、ALC(
図32H)、PLT(
図32I)、及びBRC(
図32J)に対するEC-18投与の用量効果を示す。ns;有意ではない、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
【
図32B】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータに対するEC-18投与の治療効果を示す図である。
図32A~32Eは、15日間にわたる、それぞれ白血球数(WBC、
図32A)、好中球絶対数(ANC、
図32B)、リンパ球絶対数(ALC、
図32C)、血小板数(PLT、
図32D)、及び赤血球数(RBC、
図32E)の経時変化を示す。
図32F~
図32Jは、15日目の、それぞれWBC(
図32F)、ANC(
図32G)、ALC(
図32H)、PLT(
図32I)、及びBRC(
図32J)に対するEC-18投与の用量効果を示す。ns;有意ではない、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
【
図32C】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータに対するEC-18投与の治療効果を示す図である。
図32A~32Eは、15日間にわたる、それぞれ白血球数(WBC、
図32A)、好中球絶対数(ANC、
図32B)、リンパ球絶対数(ALC、
図32C)、血小板数(PLT、
図32D)、及び赤血球数(RBC、
図32E)の経時変化を示す。
図32F~
図32Jは、15日目の、それぞれWBC(
図32F)、ANC(
図32G)、ALC(
図32H)、PLT(
図32I)、及びBRC(
図32J)に対するEC-18投与の用量効果を示す。ns;有意ではない、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
【
図32D】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータに対するEC-18投与の治療効果を示す図である。
図32A~32Eは、15日間にわたる、それぞれ白血球数(WBC、
図32A)、好中球絶対数(ANC、
図32B)、リンパ球絶対数(ALC、
図32C)、血小板数(PLT、
図32D)、及び赤血球数(RBC、
図32E)の経時変化を示す。
図32F~
図32Jは、15日目の、それぞれWBC(
図32F)、ANC(
図32G)、ALC(
図32H)、PLT(
図32I)、及びBRC(
図32J)に対するEC-18投与の用量効果を示す。ns;有意ではない、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
【
図32E】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータに対するEC-18投与の治療効果を示す図である。
図32A~32Eは、15日間にわたる、それぞれ白血球数(WBC、
図32A)、好中球絶対数(ANC、
図32B)、リンパ球絶対数(ALC、
図32C)、血小板数(PLT、
図32D)、及び赤血球数(RBC、
図32E)の経時変化を示す。
図32F~
図32Jは、15日目の、それぞれWBC(
図32F)、ANC(
図32G)、ALC(
図32H)、PLT(
図32I)、及びBRC(
図32J)に対するEC-18投与の用量効果を示す。ns;有意ではない、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
【
図32F】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータに対するEC-18投与の治療効果を示す図である。
図32A~32Eは、15日間にわたる、それぞれ白血球数(WBC、
図32A)、好中球絶対数(ANC、
図32B)、リンパ球絶対数(ALC、
図32C)、血小板数(PLT、
図32D)、及び赤血球数(RBC、
図32E)の経時変化を示す。
図32F~
図32Jは、15日目の、それぞれWBC(
図32F)、ANC(
図32G)、ALC(
図32H)、PLT(
図32I)、及びBRC(
図32J)に対するEC-18投与の用量効果を示す。ns;有意ではない、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
【
図32G】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータに対するEC-18投与の治療効果を示す図である。
図32A~32Eは、15日間にわたる、それぞれ白血球数(WBC、
図32A)、好中球絶対数(ANC、
図32B)、リンパ球絶対数(ALC、
図32C)、血小板数(PLT、
図32D)、及び赤血球数(RBC、
図32E)の経時変化を示す。
図32F~
図32Jは、15日目の、それぞれWBC(
図32F)、ANC(
図32G)、ALC(
図32H)、PLT(
図32I)、及びBRC(
図32J)に対するEC-18投与の用量効果を示す。ns;有意ではない、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
【
図32H】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータに対するEC-18投与の治療効果を示す図である。
図32A~32Eは、15日間にわたる、それぞれ白血球数(WBC、
図32A)、好中球絶対数(ANC、
図32B)、リンパ球絶対数(ALC、
図32C)、血小板数(PLT、
図32D)、及び赤血球数(RBC、
図32E)の経時変化を示す。
図32F~
図32Jは、15日目の、それぞれWBC(
図32F)、ANC(
図32G)、ALC(
図32H)、PLT(
図32I)、及びBRC(
図32J)に対するEC-18投与の用量効果を示す。ns;有意ではない、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
【
図32I】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータに対するEC-18投与の治療効果を示す図である。
図32A~32Eは、15日間にわたる、それぞれ白血球数(WBC、
図32A)、好中球絶対数(ANC、
図32B)、リンパ球絶対数(ALC、
図32C)、血小板数(PLT、
図32D)、及び赤血球数(RBC、
図32E)の経時変化を示す。
図32F~
図32Jは、15日目の、それぞれWBC(
図32F)、ANC(
図32G)、ALC(
図32H)、PLT(
図32I)、及びBRC(
図32J)に対するEC-18投与の用量効果を示す。ns;有意ではない、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
【
図32J】6.11Gyのγ放射線に曝露したマウスにおけるCBCパラメータに対するEC-18投与の治療効果を示す図である。
図32A~32Eは、15日間にわたる、それぞれ白血球数(WBC、
図32A)、好中球絶対数(ANC、
図32B)、リンパ球絶対数(ALC、
図32C)、血小板数(PLT、
図32D)、及び赤血球数(RBC、
図32E)の経時変化を示す。
図32F~
図32Jは、15日目の、それぞれWBC(
図32F)、ANC(
図32G)、ALC(
図32H)、PLT(
図32I)、及びBRC(
図32J)に対するEC-18投与の用量効果を示す。ns;有意ではない、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
【発明を実施するための形態】
【0024】
I.定義
本明細書において使用される略記は、化学技術及び生物学技術分野内でのそれらの従来の意味を有する。本明細書において示される化学構造及び式は、化学技術分野において公知の化学的原子価の標準的なルールに従って構築される。
【0025】
本明細書において使用される場合、用語「異性体」は、同じ数及び種類の原子を有し、したがって同じ分子量を有するが、原子の立体配置又は立体構造が異なる、化合物を指す。
【0026】
用語「互変異性体」は、本明細書において使用される場合、平衡して存在し、一方の異性体型から別の異性体型へ容易に変換される、2つ以上の構造異性体のうちの1つを指す。
【0027】
当業者には、本明細書において開示されているある特定の化合物が互変異性体型で存在し得、化合物のこのような互変異性体型の全てが本発明の範囲内であることは明らかであろう。
【0028】
本明細書において使用される場合、用語「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、1つ以上を意味する。例えば、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈から別段のことが明らかに示されない限り、複数形も含むことを意図している。用語「含む(comprise)」、「含む(include)」、「有する(have)」などが、本明細書において使用される場合に、言及された特徴、領域、整数、ステップ、プロセス、操作、要素、及び/又は成分の存在を特定するが、1つ以上の他の特徴、領域、整数、ステップ、プロセス、操作、要素、成分、及び/又はこれらの組合せの存在又は追加を排除するものではないことがさらに理解される。
【0029】
「薬学的に許容可能な賦形剤」及び「薬学的に許容可能な担体」は、対象への活性物質の投与及び対象による活性物質の吸収を助け、患者に対して著しい有害な毒物学的影響を生じさせることなく本発明の組成物に含めることができる、物質を指す。薬学的に許容可能な賦形剤の非限定的な例としては、水、NaCl、生理食塩水、乳酸リンゲル液、規定濃度のショ糖、規定濃度のグルコース、結合剤、充填剤、崩壊剤、潤滑剤、被覆剤、甘味料、香料、塩類溶液(例えば、リンゲル液)、アルコール類、油類、ゼラチン、炭水化物、例えば、ラクトース、アミロース、又はデンプン、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリジン、及び着色料、並びにそれに類するものが含まれる。このような調製物は滅菌することができ、必要に応じて、本発明の化合物と有害な反応をしない補助物質、例えば、潤滑剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧を変えるための塩類、緩衝液、着色剤、及び/又は芳香物質、並びにそれに類するものと混合することができる。当業者には、本発明において有用な他の薬学的賦形剤が認識されよう。
【0030】
本明細書において使用される場合、「処置すること」及び「処置」としては、予防的処置が含まれる。処置方法は、治療有効量の活性物質を対象に投与することを含む。投与ステップは、単回投与からなり得るか、又は一連の投与を含み得る。処置期間の長さは、様々な因子、例えば、状態の重症度、患者の年齢、活性物質の濃度、処置において使用される組成物の活性、又はこれらの組合せに依存する。処置又は予防に使用される作用物質の有効投薬量が、特定の処置又は予防のレジメの過程で増大又は減少し得ることも理解されよう。投薬量は変更され得、この変更は、当技術分野において公知の標準的な診断アッセイによって明らかとなり得る。一部の場合において、長期投与が必要であり得る。例えば、組成物は、患者を処置するために十分な量で、十分な期間にわたり、対象に投与される。用語「処置すること」及びこの活用は、損傷、病態、状態、又は疾患の予防を含み得る。実施形態において、処置は予防である。実施形態において、処置は予防を含まない。
【0031】
用語「予防する」は、患者における疾患症候の発生の減少を指す。上で示したように、予防は、完全(例えば、検出可能な症候がない)であっても部分的であってもよく、部分的である場合、処置がない場合に生じると考えられるものよりも、観察される症候が少なくなる。
【0032】
用語「調節する」は、その明白な通常の意味に従って使用され、1つ以上の特性を変える又は変化させる作用を指す。「調節」は、1つ以上の特性を変える又は変化させるプロセスを指す。例えば、疾患の調節物質は、標的疾患、例えばARS及びその亜症候群の症候、原因、又は特徴を減少させる。
【0033】
「患者」、「対象」、「それを必要とする患者」、及び「それを必要とする対象」は、本明細書において区別せずに使用され、本明細書において提供される医薬組成物の投与によって処置され得る疾患又は状態に罹患している又は罹患しやすい生きた生物を指す。非限定的な例としては、ヒト、他の哺乳動物、ウシ、ラット、マウス、イヌ、サル、ヤギ、ヒツジ、ウシ、シカ、及び他の非哺乳動物が含まれる。一部の実施形態では、患者又は対象はヒトである。
【0034】
「有効量」は、化合物が、化合物の不存在と比較して、言及された目的を達成する(例えば、化合物が投与される場合の効果を達成する、疾患を処置する、酵素活性を低減させる、酵素活性を増大させる、分解酵素活性を低減させる、又は疾患若しくは状態の1つ以上の症候を低減させる)ために、十分な量である。「有効量」の例は、「治療有効量」とも呼ばれる、疾患の1つ以上の症候の処置、予防、又は低減に寄与するために十分な量である。1つ以上の症候の「低減」(及びこの表現の文法上の同等物)は、症候の重症度若しくは頻度の減少、又は症候の除去を意味する。薬剤の「予防有効量」は、対象に投与されると、意図した予防効果、例えば、損傷、疾患、病態、又は状態の発病(又は再発)の予防又は遅延、或いは、損傷、疾患、病態、若しくは状態、又はこれらの症候の発病(又は再発)の可能性の低減を有する、薬剤の量である。1用量の投与では完全な予防効果は必ずしも生じず、一連の用量の投与後にのみ生じ得る。したがって、予防有効量は、1回以上の投与で投与され得る。「活性低下量」は、本明細書において使用される場合、アンタゴニストの不存在と比較して酵素の活性を低減させるために必要なアンタゴニストの量を指す。「機能崩壊量」は、本明細書において使用される場合、アンタゴニストの不存在と比較して酵素又はタンパク質の機能を崩壊させるために必要なアンタゴニストの量を指す。正確な量は処置の目的に応じ、公知の技術を使用して当業者によって確認され得る(例えば、Lieberman、Pharmaceutical Dosage Forms(第1~3巻、1992年); Lloyd、The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding(1999年); Pickar、Dosage Calculations(1999年);及びRemington: The Science and Practice of Pharmacy、第20版、2003年、Gennaro編、Lippincott, Williams & Wilkinsを参照されたい)。
【0035】
治療有効量のPLAGは、細胞培養アッセイから最初に決定することができる。標的濃度は、本明細書において記載される又は当技術分野において公知の方法を使用して測定される、本明細書において記載される方法を達成し得る活性化合物の濃度である。
【0036】
当技術分野において周知のように、ヒトにおいて使用するための治療有効量は、動物モデルからも決定することができる。例えば、ヒトへの用量は、動物において効果的であることが分かっている濃度を達成するように製剤化することができる。ヒトにおける投薬量は、上記のように、化合物の有効性をモニタリングし、投薬量を増やす又は減らすように調整することによって、調整することができる。上記の方法及び他の方法に基づいてヒトにおける最大の有効性を達成するように用量を調整することは、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0037】
本明細書において使用される場合、用語「治療有効量」又は「有効量」は、上記のような、障害を寛解させるために十分な治療物質の量を指す。例えば、所与のパラメータでは、治療有効量は、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、40%、50%、60%、75%、80%、90%、又は少なくとも100%の増大又は減少を示す。治療有効性は、「倍の」増大又は減少としても表すことができる。例えば、治療有効量は、コントロールよりも少なくとも1.2倍、1.5倍、2倍、5倍、又はそれを超える効果を有し得る。
【0038】
投薬量は、患者の要求及び用いられている化合物に応じて変化し得る。患者に投与される用量は、本発明の文脈において、経時的に患者において有利な治療応答をもたらすために十分である。用量のサイズはまた、任意の有害な副作用の存在、性質、及び程度によっても決定される。特定の状況のための適正な投薬量の決定は、医師の技術の範囲内である。一般に、処置は、化合物の最適な用量よりも少ない、より小さな投薬量で開始される。その後、投薬量は、状況下で最適な効果が得られるまで、徐々に増やすことによって増大される。投薬の量及び間隔は、処置されている特定の臨床的徴候に効果的な、投与される化合物のレベルをもたらすように、個別に調整することができる。これによって、個体の病状の重症度に見合った治療レジメンが提供される。
【0039】
本明細書において提供される教示を利用して、大きな毒性は生じさせないが、特定の患者によって示される臨床的症候を処置するためになお効果的である、効果的な予防的又は治療的処置レジメンを計画することができる。この計画は、因子、例えば、化合物の効力、相対的な生物学的利用能、患者の体重、有害な副作用の存在及び重症度、好ましい投与機序、及び選択される作用物質の毒性プロファイルを考慮することによって、活性化合物を慎重に選択することを伴う。
【0040】
「薬学的に許容可能な賦形剤」及び「薬学的に許容可能な担体」は、対象への活性物質の投与及び対象による活性物質の吸収を助け、患者に対して著しい有害な毒物学的影響を生じさせることなく本発明の組成物に含めることができる、物質を指す。薬学的に許容可能な賦形剤の非限定的な例としては、水、NaCl、生理食塩水、乳酸リンゲル液、規定濃度のショ糖、規定濃度のグルコース、結合剤、充填剤、崩壊剤、潤滑剤、被覆剤、甘味料、香料、塩類溶液(例えば、リンゲル液)、アルコール類、油類、ゼラチン、炭水化物、例えば、ラクトース、アミロース、又はデンプン、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリジン、及び着色料、並びにそれに類するものが含まれる。このような調製物は滅菌することができ、必要に応じて、本発明の化合物と有害な反応をしない補助物質、例えば、潤滑剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧を変えるための塩類、緩衝液、着色剤、及び/又は芳香物質、並びにそれに類するものと混合することができる。当業者には、本発明において有用な他の薬学的賦形剤が認識されよう。
【0041】
用語「調製物」は、活性化合物と、カプセルを提供する、担体としてのカプセル化材料とを有する製剤を含むものであり、カプセルにおいて、他の担体を伴う又は伴わない活性成分が、担体によって囲まれており、そのため、担体は活性成分と結び付いている。同様に、カシェ及びトローチが含まれる。錠剤、粉末、カプセル、ピル、カシェ、及びトローチは、経口投与に適した固体剤形として使用することができる。
【0042】
本明細書において使用される場合、用語「投与すること」は、対象への経口投与、坐剤としての投与、局所的接触、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、病巣内投与、髄腔内投与、鼻腔内投与、若しくは皮下投与、又は徐放装置、例えば小型の浸透圧ポンプの移植を意味する。投与は、調製物に適合する非経口及び経粘膜(例えば、頬側、舌下、口蓋、歯肉、鼻、膣、直腸、又は経皮)を含む、任意の経路による。非経口投与としては、例えば、静脈内、筋肉内、細動脈内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内、及び頭蓋内が含まれる。他の送達機序としては、限定はしないが、リポソーム製剤、静脈内注入、経皮パッチなどの使用が含まれる。
【0043】
本明細書において開示されている組成物は、局所経路によって経皮的に送達することができ、塗薬スティック、溶液、懸濁液、エマルジョン、ゲル、クリーム、軟膏剤、ペースト、ゼリー、ペイント、粉末、及びエアロゾルとして製剤化することができる。経口調製物としては、患者による摂取に適した、錠剤、ピル、粉末、ドラジェ、カプセル、液体、トローチ、カシェ、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などが含まれる。固体形態の調製物としては、粉末、錠剤、ピル、カプセル、カシェ、坐剤、及び分散性の顆粒が含まれる。液体形態の調製物としては、溶液、懸濁液、及びエマルジョン、例えば、水又は水/プロピレングリコール溶液が含まれる。本発明の組成物は、持続放出及び/又は痛みの減少をもたらすための成分をさらに含み得る。このような成分としては、高分子量の陰イオン性の粘液疑似ポリマー、ゲル化多糖類、及び微粉砕された薬剤担体基質が含まれる。これらの成分は、米国特許第4,911,920号、米国特許第5,403,841号、米国特許第5,212,162号、及び米国特許第4,861,760号においてより詳細に論じられている。これらの特許の全内容は、全ての目的で、参照することによってその全体が本明細書に組み込まれる。本明細書において開示されている組成物はまた、体内での徐放のためにミクロスフェアとして送達することができる。例えば、ミクロスフェアは、皮下に徐放される薬剤含有ミクロスフェアの皮内注射を介して(Rao、J. Biomater Sci. Polym編、7:623~645、1995年を参照されたい)、生分解性で注射可能なゲル製剤として(例えば、Gao Pharm. Res. 12:857~863、1995年を参照されたい)、又は経口投与のためのミクロスフェアとして(例えば、Eyles、J. Pharm. Pharmacol. 49:669~674、1997年を参照されたい)投与することができる。別の実施形態では、本発明の組成物の製剤は、細胞膜と融合する又は細胞内に取り込まれるリポソームを使用することによって、すなわち、細胞の表面の膜タンパク質受容体に結合してエンドサイトーシスを生じさせる、リポソームに付着した受容体リガンドを用いることによって、送達することができる。リポソームを使用することによって、特に、リポソーム表面が標的細胞に特異的な受容体リガンドを有する場合、又は別の方法で特定の器官に対して選択的に向けられている場合、本発明の組成物の送達をインビボで標的細胞に集めることができる(例えば、Al-Muhammed、J. Microencapsul. 13:293~306、1996年;Chonn、Curr. Opin. Biotechnol. 6:698~708、1995年;Ostro、Am. J. Hosp. Pharm. 46:1576~1587、1989年を参照されたい)。組成物はまた、ナノ粒子としても送達することができる。
【0044】
医薬組成物としては、PLAG化合物を治療有効量で、すなわち、その意図された目的を達成するために効果的な量で含有する、組成物が含有され得る。特定の適用にとって効果的な実際の量は、とりわけ、処置されている状態に応じる。疾患を処置するための方法において投与される場合、このような組成物は、所望の結果、例えば、標的分子の活性の調節、及び/又は疾患の症候の低減、排除、若しくは進行の遅延を達成するために効果的な活性成分の量を含有する。
【0045】
哺乳動物に投与される投薬量及び頻度(単回用量又は複数回用量)は、様々な因子、例えば、哺乳動物が別の疾患に罹患しているかどうか、及びその投与経路、レシピエントのサイズ、年齢、性別、健康状態、体重、ボディ・マス・インデックス、及び食餌、処置されている疾患の症候の性質及び程度、現在の処置の種類、処置されている疾患からの合併症、又は他の健康に関する問題に応じて変化し得る。他の治療レジメン又は治療物質を、出願人の発明の方法及び化合物と組み合わせて使用することができる。確立された投薬量(例えば、頻度及び期間)の調整及び操作は、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0046】
「疾患」、「障害」、又は「状態」は、本明細書において提供される化合物若しくは方法で処置されている状態、又は本明細書において提供される化合物若しくは方法で処置され得る患者若しくは対象の健康状態を指す。本明細書において使用される場合、用語「急性放射線症候群」又は「ARS」は、放射線毒性又は放射線障害(例えば、造血性(骨髄性)急性放射線症候群、胃腸性急性放射線症候群、皮膚性急性放射線症候群、心血管性急性放射線症候群、及び/又は中枢神経系性(CNS)急性放射線症候群を含む、急性放射線症候群(ARS))を伴う疾患又は障害を指す。用語「急性放射線症候群」又は「ARS」にはまた、放射線によって誘発される凝固障害も含まれ得る。ある特定の実施形態において、疾患は、急性放射線症候群(ARS)である。ある特定の実施形態において、ARSは、約0.1Gy(又は10ラド)以上、約0.2Gy(又は20ラド)以上、約0.3Gy(又は30ラド)以上、約0.4Gy(又は40ラド)以上、約0.5Gy(又は50ラド)以上、約0.6Gy(又は60ラド)以上、約0.7Gy(又は70ラド)以上、約0.8Gy(又は80ラド)以上、約0.9Gy(又は90ラド)以上、約1Gy(又は100ラド)以上、約2.0Gy(又は200ラド)、約3.0Gy(又は300ラド)、又は約4.0Gy(又は400ラド)以上の放射線に曝露した対象において生じる。
【0047】
ある特定の実施形態において、ARSは、任意の変化する時間、例えば、少なくとも1、2、5、10、30、60、80、120、180、240、又は300秒間にわたり、約1Gy(又は100ラド)~約8Gy(又は800ラド)の放射線(ガンマ放射線を含む)に曝露した対象において生じ得る。
【0048】
ある特定の実施形態において、電離放射線に曝露した(特に、ガンマ放射線を含む、過剰な電離放射線への曝露)対象を処置するための本明細書において開示されている方法及び組成物は、有効量のPLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)を使用すること又は対象に投与することを含み得るものであるが、対象が任意の変化する時間にわたり、例えば、少なくとも1、2、5、10、30、60、80、120、180、240、又は300秒間にわたり、約1Gy(又は100ラド)~約8Gy(又は800ラド)以上の放射線に曝露した場合に、適切に利用される。
【0049】
ある特定の実施形態において、疾患又は障害としては、皮膚の放射線症候群、例えば、皮膚の損傷、紅斑、感覚の変化、痒み、浮腫、水膨れ、剥離、潰瘍、壊死、抜け毛、爪甲剥離、及びそれに類するものが含まれる。ある特定の実施形態において、疾患又は障害としては、好中球、又は白血球の減少による感染が含まれる。ある特定の実施形態において、疾患又は障害としては、大出血が含まれる。ある特定の実施形態において、疾患又は障害としては、下痢が含まれる。ある特定の実施形態において、疾患又は障害としては、脱水又は電解質平衡異常が含まれる。ある特定の実施形態において、疾患又は障害としては、痙攣及び/又は昏睡が含まれる。
【0050】
論じてきたように、ある特定の実施形態において、本明細書において開示されている方法及び組成物は、電離放射線に曝露している対象を処置するために使用される。特定の態様において、放射線曝露は、意図しないもの又は偶発的なものであり得る。さらなる態様において、放射線曝露は治療目的のものではなく、例えば、放射線曝露は、がんの処置又は他の治療法に利用され得る放射線療法ではない。さらなる態様において、対象の少なくとも大部分(例えば、肢及び/若しくは胴体の全体、並びに/又は頭部領域全体)が放射線に曝露し得る。
【0051】
本明細書において言及されるように、このような意図しない、偶発的な、非治療的な、及び/又は身体の大部分の曝露の組合せ及びいずれか1つは、「有害な」放射線曝露と呼ぶことができる。
【0052】
II.組成物
論じてきたように、本発明の一態様は、PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)(本明細書においてEC-18とも呼ばれる)を活性成分として含む、急性放射線症候群を予防又は処置するための治療用医薬組成物を提供する。
【0053】
本明細書において言及されるように、用語「急性放射線症候群」は、身体の全体又は大部分の放射線曝露によって生じる急性疾患である。急性放射線症候群は、放射線毒性又は放射線障害としても知られている。放射線は、不安定な核が別の核に変換されるときに放出されるエネルギーである。放射線が身体を通過すると、放射線のエネルギーは組織内で吸収され、イオン化を生じさせ得る。この時、H2Oがイオン化され、対象のDNAを形質転換させ得る。
【0054】
急性放射線症候群の臨床的特徴としては、造血系の症候群、胃腸系の症候群、心血管系の症候群、及び神経血管系の症候群が含まれる。
【0055】
上記のように、急性放射線症候群は、放射線に感受性の系、例えば、免疫系、造血系、及び胃腸系を損傷させ得、死に至らせ得る。したがって、急性放射線症候群に対する予防又は治療効果について考えるための最も重要な因子は、放射線に曝露した対象の生存率の上昇である。本発明において、急性放射線症候群は、造血系の症候群、胃腸系の症候群、心血管系の症候群及び、神経血管系の症候群の症候のいずれかであり得るが、同時に、急性放射線症候群は、上記の症候に限定されない。本発明の組成物は、上記症候の予防、処置、又は緩和において効果的であり、最終的には、放射線に曝露した対象の生存率を改善する。
【0056】
急性放射線症候群は通常、4つの臨床的段階、すなわち、前駆期、潜伏期、発症期、及び回復又は死亡で進行する。吸収された放射線の量に応じて、症候は、数時間から数週間以内に現れ得る。前駆期は通常、放射線曝露の後48時間以内に始まるが、曝露の後、最大6日間継続し得、症候としては、吐き気、嘔吐、疲労、自律神経性の不安、及び意識の消失が含まれ得る。潜伏期は、放射線曝露の量に応じて数日間から数週間継続し得、臨床的な症候は、部分的に現れないことも全く現れないこともある。しかし、この段階では、症候、例えば、リンパ球減少症、顆粒球減少症、及び骨髄性の欠陥が生じ得る。発症期の症候は、数週間遅れて生じ得る。発症期の症候としては、放射線曝露の量に応じて、造血系の症候群、胃腸系の症候群、心血管系の症候群、及び神経血管系の症候群が含まれ得る。極度の量の放射線に曝露した患者は、これらの4つのステップの全てを数時間以内に経験し、短時間で死亡することがある。
【0057】
急性放射線症候群の中でも、造血系の症候群は、約0.7~10Gyの放射線量によって影響され得、誘発され得、又は生じ得、胃腸系の症候群は、約10~30Gyの放射線量によって影響され得、誘発され得、又は生じ得、心血管系/神経血管系の症候群は、約50Gyの放射線量によって影響され得、誘発され得、又は生じ得る。本発明の典型的な実施形態において、急性放射線症候群としては、約0.1~100Gy、約0.1~80Gy、約0.1~70Gy、約0.1~60Gy、約0.1~50Gy、又は約0.7若しくは50Gyの放射線量によって影響され、誘発され、又は生じ、また、約0.1Gy、約0.5Gy、約0.7Gy、約1.0Gy、約2.0Gy、約3.0Gy、又は約4.0Gy以上の放射線量によって影響され得、誘発され得、又は生じ得る症候群が含まれ、これは、非常に曝露した対象においては死亡を生じさせ得る(Reports of Practical Oncology and Radiotherapy、2011年、16(4):123~130)が、これらに限定されない。
【0058】
さらなる典型的な実施形態において、急性放射線症候群としては、任意の変化する時間、例えば、少なくとも1、2、5、10、30、60、80、120、180、240、又は300秒間にわたる、約1Gy(又は100ラド)~約8Gy(又は800ラド)の放射線量によって影響され、誘発され、又は生じる症候群が含まれる。
【0059】
本明細書において使用される用語「予防」は、本明細書において開示されている化合物又は組成物を投与した際の、特定の障害又は疾患、例えば急性放射線症候群の発生、拡大、又は再発を阻害する又は遅延させる任意の作用を意味する。本明細書において使用される用語「処置」は、本明細書において開示されている化合物又は組成物を投与した際の、特定の障害又は疾患、例えば急性放射線症候群の症候を改善する又は軽減する任意の作用を意味する。
【0060】
ある特定の態様において、対象に投与される化合物は、以下の式1のものであり、式中、R1及びR2は、独立して、14~20個の炭素原子からなる脂肪酸残基である。
【0061】
【0062】
上記の式Iのグリセロール誘導体は、本明細書においてモノアセチルジアシルグリセロール(MDAG)と呼ばれることがある。脂肪酸残基は、脂肪酸とアルコールとの反応によるエステル結合の形成から生じるアシル部分を指す。R1及びR2の非限定的な例としては、したがって、パルミトイル、オレオイル、リノレオイル、リノレノイル、ステアロイル、ミリストイル、アラキドノイルなどが含まれる。R1とR2との好ましい組合せ(R1/R2)としては、オレオイル/パルミトイル、パルミトイル/オレオイル、パルミトイル/リノレオイル、パルミトイル/リノレノイル、パルミトイル/アラキドノイル、パルミトイル/ステアロイル、パルミトイル/パルミトイル、オレオイル/ステアロイル、リノレオイル/パルミトイル、リノレオイル/ステアロイル、ステアロイル/リノレオイル、ステアロイル/オレオイル、ミリストイル/リノレオイル、ミリストイル/オレオイルなどが含まれる。光学的に活性であると、式1のモノアセチルジアシルグリセロール誘導体は、(R)型、(S)型、又はラセミ混合物であり得、これらの立体異性体を含み得る。ある特定の態様において、R1及び/又はR2置換基が不飽和脂肪酸残基である化合物において、適切に存在する1つ以上の二重結合は、シス立体構造を有し得る。他の態様において、1つ以上の二重結合において、R1及び/又はR2置換基は、トランス立体構造で存在し得る。ある特定の態様において、このような1つ以上の二重結合は、シス立体構造でのみ存在する。
【0063】
ある特定の好ましい態様において、対象に投与される化合物は、以下の化学式2の構造を有するPLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)である(この化合物はまた、本明細書においてEC-18と呼ばれることもある)。
【0064】
【0065】
さらに、本発明において、PLAGは、上記の化学式2の化合物、及び産業で公知の化学的変換から得られる他の自明の誘導体の全てを含み得る。例えば、化合物の安定性を増大させるための、又は化合物の製剤のための付加及び置換反応を、PLAGの薬理学的効果に影響しない範囲内で行うことができ、これらの化学的誘導体は全て、本発明の範囲内に含まれる。
【0066】
PLAGは、抗がん化学療法によって生じる好中球減少症、血小板減少症、及び粘膜炎に対する治療効果を有することが公知である。しかし、急性放射線症候群の予防又は処置に対するPLAGの有効性は、それが急性放射線症候群を有する個体の生存率を上昇させ得るかどうかを含めて、報告されていない。
【0067】
典型的な実施形態において、PLAGは、放射線曝露を受けた対象の血中の白血球数、好中球数、及びリンパ球数を有意に増大させることが見出され(表1及び
図2)、口腔粘膜炎が化学放射線療法から誘発された重度の急性放射線症候群を有する動物研究モデルの粘膜炎の改善(
図4及び5)、並びに血中の好中球の増大(
図6)が見出され、結果として、PLAGは研究対象の生存率を劇的に増大させた(
図3)。したがって、本発明の組成物は、急性放射線症候群を予防又は処置するための治療用医薬組成物として優れた効果を有する。
【0068】
本発明の治療用医薬組成物は、放射線曝露後1時間以内、2時間以内、3時間以内、4時間以内、5時間以内、6時間以内、7時間以内、8時間以内、9時間以内、10時間以内、12時間以内、16時間以内、20時間以内、30時間以内、40時間以内、又は48時間以内に投与され得るが、上述したように、これに限定されない。
【0069】
同様に、上記の組成物は、個々の治療物質として投与することができるか、又は、急性放射線症候群の処置に対する有効性を有することが公知の別の薬剤と組み合わせて投与することができる。例えば、上記の組成物は、タンパク質、低分子薬剤、核酸、又はそれに類するものを含む治療物質の1つ以上と共に投与することができる。例えば、組成物は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を含む治療物質と共に投与することができるが、投与はそれに限定されない。さらに、上記の組成物は、急性放射線症候群の予防又は処置を助け得る、鎮痛剤、抗潰瘍剤、下痢止め、抗生物質、解熱剤、栄養補助食品、及び抗酸化剤と共に投与することができる。
【0070】
本発明における用語「投与」は、本発明の治療用医薬組成物を任意の適切な方法によって患者に導入することを意味し、本発明の組成物の投与経路は、経口的であっても非経口的であっても、様々な経路を介して投与することができる。本発明の治療用医薬組成物は、投与方法に応じて様々な製剤に製造することができる。
【0071】
本発明の組成物の投与の頻度は特に限定されないが、本発明の組成物は、1日に1回、又は分割された投薬量で1日に数回、投与することができる。
【0072】
本発明の治療用医薬組成物は、単一の医薬品として使用することができ、別の薬剤を含有する組合せ医薬品として使用することができ、薬学的に許容可能な担体、賦形剤、又は希釈剤を使用して製剤化して、単回用量単位又は複数回用量用容器を有する単位を作ることができる。
【0073】
本明細書において言及される用語「医薬組成物」は、疾患を予防又は処置する目的で調製された組成物を指し、通常の方法に従って様々な形態に製剤化することができる。例えば、医薬組成物は、経口投与製剤、例えば、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、懸濁液、エマルジョン、及びシロップに製剤化することができ、また、外用形態、坐剤、及び滅菌注射溶液に製剤化することができる。
【0074】
さらに、本発明の医薬組成物は、各製剤のためのさらなる薬学的に許容可能な担体と共に製造することができる。本明細書において使用される場合、用語「薬学的に許容可能な担体」は、生物を刺激せず、注射される化合物の生物学的活性及び特徴を阻害しない、担体又は希釈剤を指し得る。本発明において使用され得る担体のタイプは特に限定されず、産業領域で従来使用されており薬学的に許容可能な、任意の担体を使用することができる。
【0075】
生理食塩水、滅菌水、IV液、緩衝生理食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノールは、使用可能な担体の非限定的な例である。これらの担体は、単独で又は2つ以上の組合せで使用することができる。担体としては、非天然の担体が含まれ得る。必要であれば、抗酸化剤、緩衝液、及び/又は静菌剤のような他の従来使用されている添加剤を添加及び使用することができる。担体は、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤と共に製剤化して、水溶液、懸濁液、エマルジョンのような注射溶液、及びピル、カプセル、顆粒、又は錠剤などを作ることができる。
【0076】
さらに、本発明の医薬組成物は、薬学的有効量のPLAGを含有し得る。本発明における用語「薬学的有効量」は、医学的処置に適用可能な合理的な損益比で疾患を処置するために十分な量を意味し、通常は、約0.001~5000mg/kg、好ましくは約0.05~1000mg/kgの範囲であり、1日に1回又は分割された投薬量で1日に数回投与され得る。しかし、本発明の目的では、特定の患者のための具体的な治療的有効量は、達成すべき反応の性質及び程度、他の作用物質を使用するか否かを含む特定の組成、患者の年齢、体重、性別、及び食餌、投与の時間、組成物の投与経路及び割合、処置の期間、投与される又は具体的な組成物と同時投与される薬剤、並びに医療産業で周知の類似の化合物に応じる。
【0077】
論じてきたように、キットもまた提供される。例えば、この態様において、PLAG化合物は、例えば、急性放射線障害若しくはその亜症候群に罹患している、又は過剰な電離(例えばガンマ)放射線に曝露した対象を処置するための治療法として使用するための、ラベル付けされた適切な容器に適切にパッケージすることができる。容器は、PLAG化合物又は組成物、並びに、意図した使用に適切な、適切な安定剤、担体分子、及び/又はそれに類するものの1つ以上を含み得る。他の実施形態において、キットは、急性放射線障害若しくはその亜症候群を伴い得る症候若しくは二次感染若しくは障害の一部、又は過剰な電離(例えばガンマ)放射線への曝露を軽減する、1つ以上の治療用試薬をさらに含む。したがって、PLAG化合物及び使用のための指示を含む、パッケージされた製品(例えば、本明細書において記載される組成物の1つ以上を含有し、濃縮された又はすぐに使用できる濃度での保存、運搬、又は販売のためにパッケージされた、無菌容器)及びキットもまた、本発明の範囲内である。製品は、PLAG化合物又は組成物を含有する容器(例えば、バイアル、瓶、ボトル、袋、又はそれに類するもの)を含み得る。製品又はキットの品物はさらに、例えば、パッケージ材料、使用のための指示、シリンジ、予防又は処置が必要な状態を処置又はモニタリングするための送達装置をさらに含み得る。
【0078】
製品はまた、説明書(例えば、印刷されたラベル又は添付文書又は製品の使用について記載する他の媒体(例えば、オーディオ若しくはビデオテープ))も含み得る。説明書は容器と結び付いていてよく(例えば、容器に固定されていてよく)、容器内の組成物を投与する様式(例えば、投与の頻度及び経路)、その適応症、及び他の使用について記載し得る。組成物は、すぐに投与することができる状態であり(例えば、用量に適した単位で存在する)、1つ以上のさらなる薬学的に許容可能なアジュバント、担体、若しくは他の希釈剤、及び/又はさらなる治療物質を含み得る。或いは、組成物は例えば、希釈剤及び希釈のための指示を有する、濃縮された形態で提供され得る。
【0079】
本発明の別の態様は、PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)を活性成分として含む、急性放射線症候群を予防又は寛解させるための栄養補助食品の健康機能性食品組成物である。
【0080】
本発明において、用語「改善」は、処置されている状態に関連する症候の程度を少なくとも低減させる、全ての作用を意味する。本明細書において、健康機能性食品組成物は、急性放射線症候群を予防又は改善するために、疾患の発生の前又は後に、処置のための薬品と同時に又は別個に使用することができる。
【0081】
PLAGは、細胞に対して顕著な毒性を示さず、急性放射線症候群に対して改善効果を示し、したがって、PLAGは、健康機能性食品組成物の形態で製造及び摂取することができる。
【0082】
機能性食品は、特定保健用食品(FoSHU)と同一の用語である。これは、栄養価に加えて生物学的制御機能がより効率的となるように処理されている食品を指す。機能性食品は、皮膚の再生に対して有用な効果を得るために、様々な形態で、例えば、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液体、輪形の形態、及びそれに類するもので調製することができる。
【0083】
そのために、健康機能性食品に含有されるPLAGの含有量レベルは特に制限されないが、健康機能性食品の総重量に基づいて0.01~100重量%、具体的には1~80重量%であり得る。
【0084】
本発明の健康機能性食品組成物はまた、薬学的に許容可能な担体を含有し得る。
【0085】
本発明のPLAGを含む健康機能性食品の種類は特に限定されず、その例としては、飲料、ガム、茶、ビタミン複合体、健康補助食品、及びそれに類するものが含まれる。健康機能性食品に、急性放射線症候群に対する改善効果に干渉しない他の成分を補ってもよく、その種類は特に限定されない。例えば、様々なハーブ抽出物、食品学上許容可能な食品補助物質、又は他の天然の炭水化物を、さらなる成分として添加することができる。
【0086】
上記の食品添加剤は、各製剤の健康機能性食品を生産するために添加され、当業者によって適切に選択及び使用され得る。例えば、様々な栄養添加剤、ビタミン、ミネラル(電解質)、合成香料及び天然香料、発色剤及び充填剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護コロイド増粘剤、pH調整剤、安定剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料などにおいて使用される炭化剤、及びそれに類するものが含まれるが、種類は上記のものに限定されない。
【0087】
さらに、上記の健康機能性食品は、匂い、味、外見などを改善するために食品において一般に使用されるさらなる成分を含有し得る。例えば、ビタミンA、C、D、E、B1、B2、B6、B12、ナイアシン、ビオチン、葉酸、パントテン酸、及びそれに類するものが含まれ得る。さらに、これは、ミネラル、例えば、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、及び銅(Cu)、並びにそれに類するものを含み得る。これはまた、アミノ酸、例えば、リジン、トリプトファン、システイン、バリン、及びそれに類するものを含有し得る。
【0088】
さらに、記載される健康機能性食品は、1つ以上の防腐剤(例えば、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、及びデヒドロ酢酸ナトリウム)、殺菌剤(例えば、ブリーチ粉末及びハイブリーチ粉末、次亜塩素酸ナトリウム)、抗酸化剤(ブチルヒドロキシアニリド(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)など)、着色剤(例えば、タール顔料)、発色剤(例えば、亜硝酸ナトリウム及び酢酸ナトリウム)、ブリーチ剤(亜硫酸ナトリウム)、調味料(例えば、MSG、グルタミン酸ナトリウム)、甘味料(例えば、ズルチン、シクラメート、サッカリン、ナトリウム)、香料(バニリン、ラクトンなど)、膨張剤(ミョウバン、D-酒石酸水素カリウム)、強化剤、乳化剤、増粘剤、カプセル化剤、ガムベース、発泡阻害剤、溶媒、向上剤、並びにそれに類するものを含み得る。上記の添加剤は、食品のタイプに従って選択され、適切な量で使用される。
【0089】
本発明の健康機能性食品組成物は、産業において一般に使用される方法によって調製することができ、産業において従来添加されている原材料及び成分を添加することによって調製することができる。さらに、一般的な内服薬とは異なり、健康機能性食品は、例えば、長期間使用しても副作用がないため、利点を有し得、より良い携帯性を有し得る。
【0090】
医薬組成物は、広範な剤形の製剤で調製し、投与することができる。記載される化合物は、経口的に、直腸に、又は注射によって(例えば、静脈内に、筋肉内に、皮内に、皮下に、十二指腸内に、若しくは腹腔内に)投与することができる。
【0091】
本明細書において記載される化合物から医薬組成物を調製するために、薬学的に許容可能な担体は、固体又は液体であり得る。固体形態の調製物としては、粉末、錠剤、ピル、カプセル、カシェ、坐剤、及び分散性顆粒が含まれる。固体担体は、希釈剤、香料、結合剤、防腐剤、錠剤崩壊剤、又はカプセル化材料としても作用し得る1つ以上の物質であり得る。
【0092】
粉末では、担体は、微粉砕された活性成分を有する混合物中の、微粉砕された固体であり得る。錠剤では、活性成分は、必要な結合特性を有する担体と適切な割合で混合され得、所望の形状及びサイズに圧縮され得る。
【0093】
粉末及び錠剤は、好ましくは5%~70%の活性化合物を含有する。適切な担体は、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、デンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ワックス、ココアバター、及びそれに類するものである。用語「調製物」は、活性化合物と、カプセルを提供する、担体としてのカプセル化材料とを有する製剤を含むものであり、カプセルにおいて、他の担体を伴う又は伴わない活性成分が、担体によって囲まれており、そのため、担体は活性成分と結び付いている。同様に、カシェ及びトローチが含まれる。錠剤、粉末、カプセル、ピル、カシェ、及びトローチは、経口投与に適した固体剤形として使用することができる。
【0094】
坐剤の調製では、低融点ワックス、例えば、脂肪酸グリセリド又はココアバターの混合物を最初に融解し、活性成分を、撹拌しながら、その中に均質に分散させる。融解した均質な混合物を次いで都合の良いサイズの型に流し込み、冷却させ、これによって固化させる。
【0095】
液体形態の調製物としては、溶液、懸濁液、及びエマルジョン、例えば、水又は水/プロピレングリコール溶液が含まれる。非経口注射では、液体調製物は、ポリエチレングリコール水溶液中に溶液で製剤化することができる。
【0096】
経口使用に適した水溶液は、活性成分を水中に溶解させ、必要に応じて、適切な発色剤、香料、安定剤、及び増粘剤を添加することによって、調製することができる。経口使用に適した水性懸濁液は、微粉砕された活性成分を、粘性材料、例えば天然ゴム又は合成ゴム、樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び他の周知の懸濁剤と共に水中に分散させることによって作製することができる。
【0097】
また、経口投与のための液体形態調製物に使用の直前に変換させることを意図した固体形態調製物も含まれる。このような液体形態としては、溶液、懸濁液、及びエマルジョンが含まれる。これらの調製物は、活性成分に加えて、発色剤、香料、安定剤、緩衝液、人工及び天然の甘味料、分散剤、増粘剤、可溶化剤、及びそれに類するものを含有し得る。
【0098】
薬学的調製物は、好ましくは単位剤形である。このような形態では、調製物は、適切な量の活性成分を含有する単位用量にさらに分けられる。単位剤形は、パッケージされた調製物であり得、パッケージは、個別の量の調製物、例えば、包装された錠剤、カプセル、及びバイアル又はアンプル中の粉末を含有する。また、単位剤形は、カプセル、錠剤、カシェ、若しくはトローチ自体であり得るか、又はこれらのうちの適切な数の任意のものがパッケージされた形態であり得る。
【0099】
単位用量調製物中の活性成分の量は、活性成分の特定の適用及び効力に従って、0.1mg~10000mgで変化させる又は調整することができる。組成物は、必要に応じて、他の適合性がある治療物質も含有し得る。
【0100】
一部の化合物は水中での溶解度が限られていることがあり、したがって、組成物中に界面活性剤又は他の適切な共溶媒を要することがある。このような共溶媒としては、ポリソルベート20、60、及び80;プルロニック(登録商標)F-68、F-84、及びP-103;シクロデキストリン;並びにポリオキシル35ヒマシ油が含まれる。このような共溶媒は、典型的には約0.01重量%~約2重量%の間のレベルで用いられる。製剤の分配におけるばらつきを減少させるため、製剤の懸濁液若しくはエマルジョンの成分の物理的分離を減少させるため、及び/又は他の方法で製剤を改善するために、単純な水溶液より大きな粘度が望ましい。このような粘度上昇剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、硫酸コンドロイチン及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、並びに前述のものの組合せが含まれる。このような作用物質は、典型的には、約0.01重量%~約2重量%の間のレベルで用いられる。
【0101】
医薬組成物は、持続放出及び/又は痛みの減少をもたらすための成分をさらに含み得る。このような成分としては、高分子量の陰イオン性の粘液疑似ポリマー、ゲル化多糖、及び微粉砕された薬剤担体基質が含まれる。これらの成分は、米国特許第4,911,920号、米国特許第5,403,841号、米国特許第5,212,162号、及び米国特許第4,861,760号においてより詳細に論じられている。これらの特許の全内容は、全ての目的で、参照することによってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0102】
医薬組成物は、静脈内での使用のためのものであり得る。薬学的に許容可能な賦形剤としては、pHを静脈内での使用のための所望の範囲に調節するための緩衝液が含まれ得る。無機酸の塩、例えば、リン酸塩、ホウ酸塩、及び硫酸塩を含む多くの緩衝液が公知である。
【0103】
有効投薬量
医薬組成物としては、活性成分が治療有効量で含有される、すなわち、その意図された目的を達成するために効果的な量で含有される組成物が含まれ得る。特定の適用に効果的な実際の量は、とりわけ、処置されている状態に応じる。
【0104】
投与される化合物の投薬量及び頻度(単回用量又は複数回用量)は、投与経路、レシピエントのサイズ、年齢、性別、健康状態、体重、ボディ・マス・インデックス、及び食餌、処置されている疾患の症候の性質及び程度、他の疾患又は他の健康に関する問題の存在、現在の処置の種類、並びに何らかの疾患又は処置レジメンからの合併症を含む、様々な因子に応じて変化し得る。他の治療レジメン又は治療物質を、本明細書において開示されている方法及び化合物と組み合わせて使用することができる。
【0105】
投薬量は、対象の要求及び用いられている化合物に応じて変化し得る。対象に投与される用量は、本明細書において提示される医薬組成物の文脈において、経時的に対象において有利な治療応答をもたらすために十分である。用量のサイズはまた、任意の有害な副作用の存在、性質、及び程度によっても決定される。一般に、処置は、化合物の最適な用量よりも少ない、より小さな投薬量で開始される。その後、投薬量は、状況下で最適な効果が得られるまで、徐々に増やすことによって増大される。
【0106】
投薬の量及び間隔は、処置されている特定の臨床的徴候に効果的な、投与される化合物のレベルをもたらすように、個別に調整することができる。これによって、個体の病状の重症度に見合った治療レジメンが提供される。
【0107】
本明細書において提供される教示を利用して、大きな毒性は生じさせないが、特定の患者によって示される臨床的症候を処置するためになお全体的に効果的である、効果的な予防的又は治療的処置レジメンを計画することができる。この計画は、因子、例えば、化合物の効力、相対的な生物学的利用能、患者の体重、有害な副作用の存在及び重症度、好ましい投与機序、及び選択される作用物質の毒性プロファイルを考慮することによって、活性化合物を慎重に選択することを伴う。
【0108】
毒性
特定の化合物についての毒性と治療効果との間の比は、その治療指数であり、LD50(集団の50%において致死的である化合物の量)とED50(集団の50%において効果的である化合物の量)との間の比として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。細胞培養アッセイ及び/又は動物研究から得られた治療指数のデータは、ヒトにおいて使用するための投薬量の範囲の製剤化において使用することができる。このような化合物の投薬量は、好ましくは、毒性がほとんどない又はないED50を含む血漿濃度範囲内にある。投薬量は、用いられる剤形及び利用される投与経路に応じてこの範囲内で変化し得る。例えば、Finglら、THE PHARMACOLOGICAL BASIS OF THERAPEUTICS、第1章、第1頁、1975年を参照されたい。正確な製剤、投与経路、及び投薬量は、患者の状態及び化合物を使用する特定の方法を鑑みて、個別の医師によって選択され得る。
【0109】
非経口適用が必要であるか又は望ましい場合、医薬組成物に含まれる化合物の特に適切な混合剤は、注射可能な無菌溶液、油性又は水性の溶液、及び、懸濁液、エマルジョン、又は坐剤を含むインプラントであり得る。特に、非経口投与のための担体としては、デキストロースの水溶液、生理食塩水、純水、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ピーナッツ油、ゴマ油、ポリオキシエチレンブロックポリマー、及びそれに類するものが含まれる。アンプルは、都合の良い単位投薬量である。本明細書において提示される医薬組成物における使用に適した薬学的混合剤としては、例えばPharmaceutical Sciences(第17版、Mack Pub. Co.、Easton、PA)及びWO96/05309において記載されているものが含まれ得、これら両方の教示は、参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0110】
III.処置の方法
本発明の別の態様は、PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)を対象に投与するステップを含む、急性放射線症候群を予防又は処置するための方法である。
【0111】
PLAG(本明細書においてEC-18とも呼ばれる)及び急性放射線症候群の定義は、上記の通りである。
【0112】
PLAGは急性放射線症候群に対して予防効果及び治療効果を有するため、PLAGを含有する組成物を個体に投与することによって、急性放射線症候群を予防又は処置することが可能である。
【0113】
PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)は、放射線曝露を受けた対象の生存率を増大させることによって、急性放射線症候群の予防及び処置において優れた効果を有する。したがって、PLAGを活性成分として含有する本発明の医薬組成物及び健康機能性食品組成物は、急性放射線症候群を予防する、処置する、又は改善させるために効果的に使用することができる。
【実施例0114】
IV.実施例
これまでの節は、明確な理解を目的として、説明及び例によってある程度詳細に記載してきたが、当業者には、上記の教示に照らして、ある特定のわずかな変更及び修正が行われることが明らかである。したがって、説明及び例は、本明細書において記載されるいずれの発明の範囲も限定するものではないと解釈される。
【0115】
特許出願及び特許公開を含む、本明細書において引用される全ての参考文献は、参照することによってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0116】
[実施例1]
急性放射線症候群(ARS)の動物モデルの血中における免疫細胞レベルの低減に対する、PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)の効果
Balb/cマウス(9週齢のオス)をKoatech(Pyeongtaek、大韓民国)から購入し、特定の病原体を有さない(SPF)環境で維持して、急性放射線症候群の動物モデルを確立させた。放射線による免疫細胞の低減に対するPLAGの影響を評価するために、以下の3つの群をこの研究のために構築した。(1)正常なコントロール群(ポジティブコントロール)、(2)放射線療法-放射線によって誘発される白血球減少症(RIL)群(ネガティブコントロール群)、及び(3)RIL+PLAG処置群(実験群)。
【0117】
具体的には、RILで処置されたマウス及びRIL+PLGAで処置されたマウスを、1Gy(100ラド=1.06分)で全身放射線曝露させた。RIL+PLAG処置群では、50mg/kg/日のPLAG(Enzychem Lifesciences Co.、Daejeon、大韓民国)を、1日に1回、照射後連続4日間、経口投与した。正常なコントロールは放射線に曝露させなかった。照射後5日目に、血液サンプルを回収し、次いで、全血球計算(CBC)を、Mindray BC-5300自動血液アナライザー(Shenzhen Mindray Bio-medical Electronics、中国)を使用して測定して、血中の白血球、好中球、及びリンパ球の数を計数した(
図1)。
【0118】
その結果、RIL+PLAG処置群において、白血球、好中球、及びリンパ球数の血中レベルは、63%(2.18±0.31対3.56±0.84)、34%(0.87±0.04対1.17±0.35)、及び85%(±0.25対2.2±0.42)であり(表1及び
図2)、統計的に有意な様式で増大した。
【0119】
【0120】
したがって、上記の結果から、PLAGが、ARS研究モデルにおいて、放射線処置によって低減した様々な免疫細胞レベルの増大を誘発する効果を示すことが分かる。
【0121】
[実施例2]
急性放射線症候群(ARS)動物モデルにおける生存率に対するPLAGの効果
急性放射線症候群に対するPLAGの効果をさらに確認するために、放射線によって誘発される口腔粘膜炎の動物モデルを準備し、急性放射線症候群の動物モデルとして、上記の実施例1よりも過酷な条件で試験した。まず、Balb/cマウス(8週齢のメス)をKoatech(大韓民国)から購入し、特定の病原体を有さない(SPF)環境で維持して、放射線によって誘発される口腔粘膜炎モデルを確立した。この実施例において、口腔粘膜炎誘発群(ネガティブコントロール)である第1の群を、口腔粘膜炎が誘発された動物にPLAGを経口投与した第2の群と比較した。
【0122】
具体的には、マウスを1Gyの全身ガンマ放射線に曝露させ、マウスの舌の上の0.2cmの瘢痕を、0日目、7日目、10日目、及び16日目に、18ゲージの針を使用して、同じ力及び深さでかき取った。照射後2日目に、5-フルオロウラシル(50mg/kg/日)を腹腔内投与し、PLAGを250mg/kg/日で18日間、経口投与した(表2)。
【0123】
【0124】
その結果、口腔粘膜炎誘発群において、生存率は18日目でわずか28%(2/7、72%)であり、その一方で、85%(6/7、15%)(
図3)の生存率がOM誘発+PLAG投与群で報告された。これらの結果は、ガンマ線曝露及び5-フルオロウラシル処置によって造血細胞が低減しており、舌のかき取りでの経口創傷によって生じる感染のリスクが増大しているにもかかわらず、PLAG処置がマウスの生存率を有意に増大させたことを示唆する。これはさらに、PLAGが優れた予防及び治療効果を示すことを示唆する。
【0125】
[実施例3]
急性放射線症候群の動物モデルにおける生存率に影響する各症候に対するPLAGの効果
上記の実施例2で使用した動物モデルで、口腔粘膜炎のレベル及び血中の好中球数を判定した。
【0126】
口腔粘膜炎のレベルを、舌の潰瘍形成及び浮腫並びに創傷萎縮の発生を計数すること、並びに全部で5人の盲検観測者が口腔粘膜炎のスコアを計算することによって、判定した。7日目及び10日目に、実験群の血液を回収し、Mindray BC-5300自動血液アナライザー(Shenzhen Mindray Bio-medical Electronics、中国)を使用して全血球計算(CBC)を測定することによって、血中の好中球数を測定した。
【0127】
その結果、視覚的に確認された口腔粘膜炎レベルは、非PLAG処置群と比較してPLAG処置群において有意に低減しており、舌の潰瘍形成及び浮腫がより少なく、創傷萎縮の発生がより少なかった(
図4)。口腔粘膜炎スコアも有意に減少した(
図5)。7日目及び10日目に、血中の好中球数が、放射線によって誘発される口腔粘膜炎の動物群の血液において10日目におよそ95%減少したが、PLAGを1日に1回投与した群では、好中球数は有意に増大した(
図6)。
【0128】
[実施例4]
生存率の改善
放射線に曝露した動物モデルの生存率に対するPLAGの効果を評価するために、以下の試験群を表3に示すように構築し、結果を
図7B及び
図8~12に示す。上記の実施例において論じてきたように、放射線後のARS誘発マウスの未処置群(ネガティブコントロール)である第1の群を、放射線後にPLAGを投与されたARS誘発マウスの処置群である第2の群と比較した。
【0129】
【0130】
[実施例5]
紅斑の処置
放射線に曝露した動物モデルの皮膚損傷の回復に対するPLAGの効果を評価するために、以下の試験群を表4に示すように構築し、結果を
図13~15に示す。上記の実施例において論じてきたように、放射線後のマウスの未処置群(ネガティブコントロール)である第1の群を、放射線後にPLAGを投与されたマウスの処置群である第2の群と比較した。
【0131】
【0132】
[実施例6]
HaCaT細胞の抗アポトーシスに対する効果
放射線に曝露したHaCaT細胞に対するPLAGの効果を評価するために、試験群を以下のように構築し、結果を
図17B~18Dに示す。
【0133】
- HaCaT:ヒトケラチン生成細胞
- PLAG:1時間の前処理に100μg/mL
- 5-FU:1、10、100ng/mL
- ガンマ放射線:7Gy
- 24時間後のアポトーシスの確認
- トリパンブルー染色後の細胞計数
- アポトーシス(アネキシンV+7AAD)
【0134】
[実施例7]
HaCaT細胞の活性酸素種(ROS)に対する効果
放射線に曝露したHaCaT細胞に対するPLAGの効果を評価するために、試験群を実施例6におけるように構築し、結果を
図19A~19Cに示す。
【0135】
[実施例8]
生存率の改善
図20は、6.5Gyのγ放射線によって誘発される急性放射線症候群の動物モデル(マウス、BALB/c、11週齢)に対する処置の生存率の試験についての、典型的な図である。
図21は、照射後の1日に1回のEC-18処置における、6.5Gyのγ放射線に曝露したBalb/cマウスについての生存曲線の結果を示す。NCは、放射線を曝露していない未処理コントロールに相当し、6.5Gyは、6.5Gyのγ放射線を照射されたマウスの生存率であり、6.5Gy+PLAG(+1日)は、6.5Gyのγ放射線を照射されPLAGで1日間処置されたマウスの生存率であり、6.5Gy+PLAG(+2日)は、6.5Gyのγ放射線を照射されPLAGで2日間処置されたマウスの生存率である。
図22は、
図21におけるBalb/cマウスの体重の変化を示す。
【0136】
動物モデルに対するγ放射線後の生存率を測定するための様々な試験を設定することができる。例えば、
図23は、マウスモデルにおける生存率を試験するための典型的な実験についての典型的な図を示す。
図24は、5-FU(100mg/kg)によって誘発される好中球減少症における好中球の経時動態を確認するための3つの群(5-FUのみ、5-FU+PLAG 125mg/kg、5-FU+PLAG 250mg/kg)を含む典型的な実験についての典型的な図を示す。
【0137】
[実施例9]
インビトロで測定されたPLAGの効果(ウェスタンブロット)
γ放射線後の細胞に対する、G-CSFと比較したEC-18の効果を、ウェスタンブロットによって測定した(
図25)。この実験は、i)TAN環境におけるEGFR活性と乳がん細胞の異常な成長及び転移の誘発との間の相関を示し得、ii)この条件におけるPLAG処置による阻害効果のメカニズムを確認し得る。実際、好中球又はG-CSFで活性化された好中球で刺激された群においてEGFR活性が増大したことが確認されたが、EGFRの活性(EGFRのリン酸化)は、PLAGで処置された群においては減少した。
図26は、G-CSFと比較した、PLAGの効果を示し得る。
【0138】
[実施例10]
様々な放射線症候群の生存期間
図27は、放射線に曝露し、様々なARSを有する患者の生存期間の図を示す。
【0139】
[実施例11]
急性放射線症候群を処置するためのEC-18
本発明者らは、IRによって誘発される死亡率及び罹患率を分析することによって、急性放射線症候群(ARS)に対する医学的対策の開発のためのEC-18の有効性を調べた。
【0140】
材料及び方法
動物
特定の病原体を有さないオス及びメスのBALB/cマウス(10週齢)をKoatech Co.(Pyongtaek、大韓民国)から入手した。受け取ったら、マウスを、特定の病原体を有さない施設内でケージ当たり5匹で収用し、一定温度及び正常な光サイクルの条件下で1週間馴化させた。全ての動物に、標準的なマウス飼料と水を自由摂取で与えた。全ての実験手順は、韓国生命工学研究院の動物実験委員会によって承認されており、実験動物の飼育及び使用については米国国立衛生研究所のガイドライン、及び動物福祉については韓国国内法に従って行った。
【0141】
全身のγ放射線(TBI)の致死線量(LD)の決定
動物の全身照射を、60Co線源(曝露線量率0.833Gy/分)で、ガンマ線照射器(J. L. Shepherd & Associates、San Fernando、USA)で行った。γ放射線後の生存率を判定するための実験のために、マウスを、処置コホート、すなわち6.0Gyに曝露のコホート、6.2Gyに曝露のコホート、6.4Gyに曝露のコホート、及び6.5Gyに曝露のコホートごとに20匹(10匹のオス及び10匹のメス)の群にした。動物の生存及び体重を、1日に1回、30日間記録した。
【0142】
γ放射線によって誘発される急性放射線症候群(ARS)のマウスモデルの確立
LD70/30の放射線量である6.11Gyのγ放射線照射(TBI、60Co、0.833Gy分-1)後の生存率を判定するための実験のために、マウスを、処置コホート、すなわち、γ放射線のみのコホート(ポジティブコントロール)、γ放射線及びEC-18 10mg/kgのコホート、γ放射線及びEC-18 50mg/kgのコホート、並びにγ放射線及びEC-18 250mg/kgのコホートごとに20匹(10匹のオス及び10匹のメス)の群にした。EC-18(Enzychem Lifesciences、Jaecheon、大韓民国)をPBS中に懸濁し、照射の1日後から開始して1日に1回経口投与した。ポジティブコントロール群にはPBSを投与した。動物の生存及び体重を、1日に1回、30日間記録した。
【0143】
造血系のARS(H-ARS)の経時変化の分析のために、メスのマウスを、処置コホート、すなわち、γ放射線のみのコホート(ポジティブコントロール)並びにγ放射線及びEC-18 250mg/kgのコホートごとに5匹の群にした。H-ARSに対するEC-18投与の用量効果の分析のために、マウスを、処置コホート、すなわち、γ放射線のみのコホート(ポジティブコントロール)、γ放射線及びEC-18 50mg/kgのコホート、γ放射線及びEC-18 100mg/kgのコホート、γ放射線及びEC-18 250mg/kgのコホート、並びにγ放射線及びEC-18 100mg/kgのコホートごとに8匹(5匹のオス及び3匹のメス)の群にした。全血を、EDTAを含まない毛細管(Kimble Chase Life Science and Research Products LLC、FL、USA)及びK3E-K3EDTA(Greiner Bio-One International、Kremsmunster、オーストラリア)を含有するコレクションチューブを使用して、眼窩静脈叢から回収した。血球を計数し、Mindray BC-5000自動血液アナライザー(Shenzhen Mindray Biomedical Electronics、Guangdong Sheng、中国)を使用する全血球計算(CBC)分析によって分類した。動物の血球の値を、1日に1回、30日間記録した。
【0144】
統計分析
全てのデータは、平均±標準偏差(SD)で表されている。生存曲線の対応のあるログランク(Mantel-Cox)検定を適用して、コントロールコホートとEC-18処置コホートとの間の生存率の有意差を推定し、好中球減少症の期間を比較した。平均寿命を、全てのマウスの寿命の合計/マウスの総数として計算した。3つ以上の群の統計差を比較するために、一元配置ANOVA検定を使用した。全ての他の統計分析を、対応のあるステューデントt検定を使用して行い、p値<0.05を統計的に有意であるとみなした。
【0145】
結果
放射線量反応関係(DRR)及びLDXX/30
放射線量は、線量を増大させた場合の死亡率及び罹患率の重要な予測因子である。
図28Aは、様々な線量の
60Co γ放射線に曝露したBALB/cマウスの生存率を示す。6.0、6.2、6.4、及び6.5Gyの線量で、30日間の観察の後に、それぞれ60、80、100、及び100%の死亡率となった。
図28Bは、プロビットモデルを使用した放射線量関係(DRR)を示す。各放射線量コホートで死亡したマウスの平均生存期間は、それぞれ15.30±4.98、13.69±3.26、14.15±3.48、及び15.85±4.42日であった(表5)。各放射線量での30日間の生存を計算し、Y軸で死亡率パーセントとして示す。プロビットモデルに基づいて、本発明者らは、各線量の95%信頼区間で、LD30/30、LD50/30、LD70/30、及びLD95/30を判定した(表6)。LD70/30は6.11Gyであると判定され、その後の研究においていくつかの生物学的指標(例えば、生存可能性、体重の低減、及び造血細胞の低減)を評価するために使用した。
【0146】
【0147】
【0148】
γ放射線はまた、照射されたマウスにおいて体重を大きく低減させた(
図29)。初期段階(0~10日)では放射線量と体重減少との間の厳密な関係を見出すことは困難であったが、より少ない線量のコホート(6.0及び6.2Gy)の体重は、観察期間の最後には正常範囲まで回復した。
【0149】
LD70/30のTBIで照射されたマウスの生存可能性、平均寿命、及び体重に対するEC-18投与の治療効果
本発明者らは次に、30日間の観察期間にわたる、LD70/30(6.11Gy)のTBIで照射されたマウスの生存可能性に対するEC-18の治療効果を調べた。ポジティブコントロールコホートの生存率は20%であり、その一方で、EC-18 10、50、及び250mg/kg処置コホートの生存率は、それぞれ20、40、及び80%であった(
図30A)。さらに、EC-18は、照射されたマウスの平均寿命を線量に依存する様式で有意に増大させた(表7)。EC-18 10、50、及び250mg/kg処置コホートのそれぞれの平均寿命は、ポジティブコントロールコホートが17.9日であったのに対し、19.3、22.3、及び28.2日であった。
【0150】
【0151】
EC-18の投与はまた、γ放射線によって誘発される重度の体重減少を効果的に予防した(
図30B)。特に、EC-18 250mg/kg処置コホートは、照射後18日目から実験の最後にかけて、γ放射線によって誘発される体重減少を、ポジティブコントロールコホートと比較して有意に低減させた。さらに、ベースライン値から20%体重が減少したマウスの数は、EC-18の用量が増大するにつれて急激に減少した(表8)。
【0152】
【0153】
この研究における観察に基づいて、本発明者らは、EC-18が、γ放射線によって誘発されるARSにおいて生存可能性を改善し、体重減少を予防するための、治療可能性を有すると結論付けた。
【0154】
γ放射線によって誘発されるH-ARSに対するEC-18投与の治療効果
γ放射線(6.11Gy)の単回TBIは、好中球絶対数(ANC)、単球、リンパ球絶対数(ALC)、血小板数(PLT)、及び赤血球数(RBC)を含む全ての種類の造血細胞を照射後3日以内に迅速に枯渇させた(
図31)。好中球減少症の平均初日は2.8±0.45日であり、好中球減少状態の期間は、18.0±1.41日間であった。照射されたコホートにおける全ての個体は、重度の好中球減少状態を経験し(ANC<100個細胞/μL)、重度の好中球減少状態の期間は、16±0.00であった。γ放射線照射後のANCの平均底は、0.0±0.00個細胞/μLであり、ANC≧500個細胞/μL又は1000個細胞/μLまでの回復時間は、共に27±1.41日間であった。さらに、γ放射線は、照射後7日以内に、PLTの90%超の低減を誘発し、PLTは、照射の26日後に回復し始めた。RBCは徐々に減少し、照射の22日後に回復し始めた。
【0155】
H-ARSに対するEC-18投与の治療効果を次いで評価した。EC-18の投与は、照射されたマウスにおける白血球数(WBC)、好中球絶対数(ANC)、及びリンパ球絶対数(ALC)の、γ放射線によって誘発される枯渇を、有意に弱めた(
図32A~J)。BALB/cマウスの群(
図32A~
図32Eではn=5、メス、及び
図32F~
図32Jではn=8、5匹のオス、3匹のメス)を6.11Gyのγ放射線に曝露させ、様々な用量のEC-18を1日に1回、15日目まで経口投与したか、又は未処置のままとした。
図32A~32Eは、15日間にわたる、白血球数(WBC、
図32A)、好中球絶対数(ANC、
図32B)、リンパ球絶対数(ALC、
図32C)、血小板数(PLT、
図32D)、及び赤血球数(RBC、
図32E)の経時変化をそれぞれ示す。
図32F~
図32Jは、15日目の、WBC(
図32F)、ANC(
図32G)、ALC(
図32H)、PLT(
図32I)、及びBRC(
図32J)に対するEC-18投与の用量効果をそれぞれ示す。ns:有意ではない、
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.005。
【0156】
EC-18の投与は、γ放射線によって誘発されるANCの低減を実質的に低減させた。コントロールコホート及びEC-18処置コホートの好中球減少症(ANC<500個細胞/μL)の平均初日は、それぞれ1.8±1.09日及び2.2±1.09日(両側P値=0.62)であった。EC-18は、照射されたマウスを重度の好中球減少症から保護しなかったが、重度の好中球減少症の期間を13.0日から7.2±1.79日まで効果的に低減させた。さらに、EC-18は、γ放射線照射後のANCの平均底値を、4.0±5.48個細胞/μLから20.0±10.00個細胞/μLまで有意に増大させた(両側P値=0.035)。EC-18の投与は、単回TBIによって誘発されるPLT及びRBCの低減を弱めた(
図32D、32E、及び
図32I、32J)。この観察に基づいて、本発明者らは、EC-18が、γ-放射線によって誘発されるARSにおける血球の低減を弱めるための治療可能性を有し得ると結論付けた。
【0157】
本明細書において記載される実施例及び実施形態は例示的な目的にすぎないこと、並びにこれらに照らした様々な修正又は変更が当業者に示唆され、本出願の趣旨及び範囲、並びに添付の特許請求の範囲に含まれることが理解される。本明細書において引用される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、全ての目的で、参照することによってその全体が本明細書に組み込まれる。
治療有効量の1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)を対象に投与することを含む、対象における急性放射線症候群を処置又は予防するための方法。
本明細書において記載される実施例及び実施形態は例示的な目的にすぎないこと、並びにこれらに照らした様々な修正又は変更が当業者に示唆され、本出願の趣旨及び範囲、並びに添付の特許請求の範囲に含まれることが理解される。本明細書において引用される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、全ての目的で、参照することによってその全体が本明細書に組み込まれる。
本発明は、以下の実施形態を包含する。
(実施形態1)
治療有効量の1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)を対象に投与することを含む、対象における急性放射線症候群を処置又は予防するための方法。
(実施形態2)
治療有効量の1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)を対象に投与することを含む、有害な電離放射線に曝露した対象を処置するための方法。
(実施形態3)
電離放射線がガンマ放射線を含む、実施形態2に記載の方法。
(実施形態4)
治療有効量の1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)を対象に投与することを含む、急性放射線症候群の1つ以上の亜症候群を処置又は予防するための方法。
(実施形態5)
1つ以上の亜症候群が、造血性、胃腸性、皮膚性、神経血管性、及びこれらの組合せである、実施形態4に記載の方法。
(実施形態6)
対象が0.7Gy~50Gyの放射線に曝露している、実施形態1から5のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態7)
対象が1Gy~8Gyの放射線に曝露している、実施形態1から5のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態8)
対象が、造血系の急性放射線症候群、放射線によって誘発される凝固障害、胃腸性急性放射線症候群、心血管性急性放射線症候群、若しくは中枢神経系(CNS)性急性放射線症候群、又はこれらの組合せに罹患している又は罹患しやすい、実施形態1から7のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態9)
PLAGの投与が対象の生存率を増大させる、実施形態1から8のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態10)
PLAGが、放射線曝露後72時間以内に対象に初回投与される、実施形態1から9のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態11)
PLAGが、放射線曝露後48時間以内に対象に初回投与される、実施形態1から9のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態12)
PLAGが、放射線曝露後36時間以内に対象に初回投与される、実施形態1から9のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態13)
PLAGが、放射線曝露後24時間以内に対象に初回投与される、実施形態1から9のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態14)
PLAGが、放射線曝露後12時間以内に対象に初回投与される、実施形態1から9のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態15)
PLAGが、放射線曝露後6時間以内に対象に初回投与される、実施形態1から9のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態16)
PLAGが、放射線曝露後3時間以内に対象に初回投与される、実施形態1から9のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態17)
PLAGが、放射線曝露後24~72時間の間に対象に初回投与される、実施形態1から9のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態18)
PLAGが、放射線曝露後24~48時間の間に対象に初回投与される、実施形態1から9のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態19)
PLAGがG-CSFと共に投与される、実施形態1から18のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態20)
PLAGが、鎮痛剤、抗潰瘍剤、下痢止め、抗生物質、解熱剤、栄養補助食品、及び抗酸化剤からなる群から選択される1つ以上と共に投与される、実施形態1から19のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態21)
対象の急性放射線症候群(ARS)を処置又は予防するための、1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)を含む医薬組成物。
(実施形態22)
有害な電離放射線への曝露を処置又は予防するための、1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)を含む医薬組成物。
(実施形態23)
急性放射線症候群の1つ以上の亜症候群を処置又は予防するための、1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)を含む医薬組成物。
(実施形態24)
ARSが、造血系の急性放射線症候群、放射線によって誘発される凝固障害、胃腸性急性放射線症候群、心血管性急性放射線症候群、若しくは中枢神経系(CNS)性急性放射線症候群、又はこれらの組合せからなる群から選択される1つ以上である、実施形態21に記載の医薬組成物。
(実施形態25)
ARS又は有害な電離放射線が、0.7Gy~50Gyの放射線によって生じるか又は誘発される、実施形態21から24のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(実施形態26)
ARS又は有害な電離放射線が、1Gy~8Gyの放射線によって生じるか又は誘発される、実施形態21又は24に記載の医薬組成物。
(実施形態27)
ARS又は有害な電離放射線が、対象の全身への放射線によって生じるか又は誘発される、実施形態21又は24に記載の医薬組成物。
(実施形態28)
対象の生存率を増大させる、実施形態21から27のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(実施形態29)
放射線後48時間以内に対象に初回投与される、実施形態21から28のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(実施形態30)
G-CSFと共に投与される、実施形態21から29のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(実施形態31)
鎮痛剤、抗潰瘍剤、下痢止め、抗生物質、解熱剤、栄養補助食品、及び抗酸化剤からなる群から選択される1つ以上と共に投与される、実施形態21から30のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(実施形態32)
鎮痛剤、抗潰瘍剤、下痢止め、抗生物質、解熱剤、栄養補助食品、及び抗酸化剤からなる群から選択される1つ以上と共に投与される実施形態21から31のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(実施形態33)
(a)1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)、
(b)対象の急性放射線症候群(ARS)を処置又は予防するためにPLAGを使用するための指示を含むキット。
(実施形態34)
(a)1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)、
(b)過剰な電離放射線への曝露を処置又は予防するためにPLAGを使用するための指示
を含むキット。
(実施形態35)
(a)1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)、
(b)急性放射線症候群の1つ以上の亜症候群を処置又は予防するためにPLAGを使用するための指示
を含むキット。
(実施形態36)
治療有効量のPLAGを含む、実施形態33から35のいずれか一項に記載のキット。
(実施形態37)
PLAGの使用のための文書の指示を含む、実施形態33から36のいずれか一項に記載のキット。
(実施形態38)
指示が製品ラベルである、実施形態33から37のいずれか一項に記載のキット。