(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037928
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善するための方法,装置,および抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤,抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤のスクリーニング方法,抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制美容処置の評価方法,並びに光老化及び/又は真皮色素沈着度の評価方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/44 20060101AFI20240312BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240312BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20240312BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240312BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20240312BHJP
【FI】
A61K8/44
G01N33/50 Q
A61Q19/02
A61Q19/08
A61K8/9789
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212456
(22)【出願日】2023-12-15
(62)【分割の表示】P 2021514255の分割
【原出願日】2020-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2019080490
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019108944
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019158985
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】堀場 聡
(72)【発明者】
【氏名】細井 純一
(72)【発明者】
【氏名】高木 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】松浦 有宇子
(72)【発明者】
【氏名】加治屋 健太朗
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善するための薬剤および方法を提供する。
【解決手段】M1マクロファージに対するM2マクロファージの比率を上昇させることにより光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善するための抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤とする。M1マクロファージに対するM2マクロファージの比率を上昇させることにより光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善するための美容方法であって,前記美容方法は,医師や医療従事者による治療を含まず,M1マクロファージに対するM2マクロファージの比率を上昇させることは,トラネキサム酸メチルアミド,オトギリソウ抽出物,タイム抽出物,オウバク,及び/又はユーカリ抽出物を含む,抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤を含む化粧品を皮膚に適用することにより達成される,美容方法である。
【選択図】
図1d
【特許請求の範囲】
【請求項1】
M1/M2バランスを調整することにより光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善するための美容方法。
【請求項2】
M1/M2バランスを調整することは,M1に対するM2の比率を上昇させることである,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
M1/M2バランスを調整することは,皮膚に対して微弱な物理刺激を適用する工程を含み,ここで当該工程は,例えば
(a)対象の皮膚を0.1%以上50.0%以下の伸展率まで伸展すること;及び
(b)伸展状態から回復すること;
並びに/又は,
(a-1)前記対象の皮膚を1μm~1000μm押圧すること;及び
(b-1)前記対象の皮膚を押圧状態から回復させること;
を含むサイクルを60Hz以下の振動数で行う物理刺激を対象の皮膚に与えることにより達成される,
ここで,伸展率は,
【数1】
(式中,定点AおよびBは,表皮または表皮が接着しているマトリックス上の任意の位置であり,ここで定点AとBを通る直線が伸展方向と平行である)
で算出される,請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
M1/M2バランスを調整することにより光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善するための美容装置であって,
前記装置は,
物理刺激を生ずる刺激発生部と,
刺激発生部で発生した物理刺激を皮膚に付与する刺激付与部とを備え,
ここで,当該装置は,皮膚に対して微弱な物理刺激を適用する工程を行うための装置であり,ここで当該工程は,例えば,
(a)皮膚を0.1%以上50.0%以下の伸展率まで伸展すること;及び
(b)伸展状態から回復すること;
並びに/又は,
(a-1)前記対象の皮膚を1μm~1000μm押圧すること;及び
(b-1)前記対象の皮膚を押圧状態から回復させること;
を含むサイクルを60Hz以下の振動数で行うことであり,
ここで,伸展率は,上記式1により算出される,前記美容装置。
【請求項5】
抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤のスクリーニング方法であって,
生体試料に候補薬剤を施すこと;
候補薬剤を施した前後の生体試料におけるM1/M2バランスを測定すること;及び
前記候補薬剤を施した生体試料におけるM1/M2バランスが該薬剤を施す前と比較して改善する場合,前記薬剤に抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制作用があると評価すること;
を含む,前記方法。
【請求項6】
抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制美容処置の評価方法であって,
皮膚試料に美容処置を施すこと;
美容処置を施した前後の皮膚試料におけるM1/M2バランスを測定すること;及び
前記美容処置を施した皮膚試料におけるM1/M2バランスが該処置を施す前と比較して改善する場合,前記処置に抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制作用があると評価すること;
を含む,前記方法。
【請求項7】
1又は複数のコンピュータにより実行される光老化及び/又は真皮色素沈着度の評価方法であって,
あらかじめ設定した皮膚のM1/M2バランスの基準値に関するデータを取得する手順;
対象の皮膚のM1/M2バランスに関するデータを取得する手順;
前記基準値を参照し,前記対象の皮膚のM1/M2バランスに関するデータと比較して計算する手順;
前記計算手順による計算結果に基づいて前記皮膚の光老化及び/又は真皮色素沈着抑制度を評価する手順;及び
前記評価手順による評価結果を表示する手順;を有する,前記方法。
【請求項8】
光老化及び/又は真皮色素沈着度を評価するシステムであって,
あらかじめ設定した皮膚のM1/M2バランスの基準値に関するデータを記憶するデータベース部;
対象の皮膚のM1/M2バランスに関するデータを入力するデータ入力部;
前記データベース部で記憶されている基準値を参照し,前記データ入力部により入力された前記対象の皮膚のM1/M2バランスに関するデータと比較して計算する計算部;
前記計算部による計算結果に基づいて前記皮膚の光老化及び/又は真皮色素沈着度を評価する評価部;及び
前記評価部による評価結果を表示する表示部を有する,前記システム。
【請求項9】
M1/M2バランスを測定するための薬剤を含む,抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤のスクリーニングキット。
【請求項10】
)M1/M2バランスを調整することにより光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善するための抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤。
【請求項11】
以下の:
【化1】
{式中,R
1およびR
2は同一または異なり,水素原子,炭素数1~18の直鎖状または分岐状アルキル基,炭素数5~8のシクロアルキル基,ベンジル基または下記式:
【化2】
(但し,Xは低級アルキル基,低級アルコキシ基,ヒドロキシ基,アミノ基,ハロゲン原子を示し,n=0~3である)をそれぞれ示す}
で表される化合物,又はその塩,
オトギリソウ抽出物,タイム抽出物,オウバク,及び/又はユーカリ抽出物を含む,請求項10に記載の抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤。
【請求項12】
以下の:
【化3】
{式中,R
1およびR
2は同一または異なり,水素原子,炭素数1~18の直鎖状または分岐状アルキル基,炭素数5~8のシクロアルキル基,ベンジル基または下記式:
【化4】
(但し,Xは低級アルキル基,低級アルコキシ基,ヒドロキシ基,アミノ基,ハロゲン原子を示し,n=0~3である)をそれぞれ示す}
で表される化合物,又はその塩,
オトギリソウ抽出物,タイム抽出物,オウバク,及び/又はユーカリ抽出物を含む,M1/M2バランス調整/改善剤。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載の薬剤を含む組成物。
【請求項14】
M1/M2バランスを調整することは,請求項10~12のいずれか1項に記載の薬剤を投与することにより達成される,請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はM1/M2バランスを調整することにより光老化及び/又は真皮色素沈着を予防又は改善するための方法,装置,および抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤,並びにM1/M2バランスを指標とする抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤のスクリーニング方法,抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制美容処置の評価方法,及び光老化及び/又は真皮色素沈着度の評価方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト皮膚の老化現象は大きく「自然老化」と「光老化」に分けられる。光老化は露光する部位特異的に認められる現象で,皮膚特異的である。光老化では,UVなどの影響で活性酸素の産生や,細胞のDNAの損傷などが誘発され,皮膚線維組織が損傷し,しわやたるみといった表現型が現れる原因と考えられている。例えば,皮膚光老化によりコラーゲンからなる膠原線維の減少やエラスチンからなる弾性線維の変性といった現象がみられる。また,メラノサイトもダメージを受け,メラニン色素が多く作られてしまい,しみ等を引き起こす原因となる。
【0003】
また,しみやくすみをはじめとする色素沈着は,表皮の基底層にあるメラノサイトで作り出されるメラニンが蓄積することにより起こる。メラニンは通常表皮や基底層に存在するが,表皮は比較的早いサイクルでターンオーバーするため,このようなメラニンは排出されやすい。一方,メラニンが基底膜の隙間から真皮に落ちこんでしまう等の理由によりメラニンが真皮層に存在する場合がある。真皮細胞のターンオーバーのサイクルは表皮に比べて非常に遅いため,このようなメラニンは排出されずに蓄積されてしまうことが多い。このような理由により,真皮の色素沈着の改善は非常に困難である。
【0004】
抗光老化美容法として,例えば,特許文献1では,白血球エラスターゼの阻害を予防することによる皮膚光老化の予防又は抑制剤を開示する。特許文献2では,コラーゲン合成促進作用を有するヒユ科パフィア属の植物抽出物と動物由来コラーゲンペプチドとを含有することを特徴とする光老化抑制剤組成物を開示する。
【0005】
真皮における色素沈着を改善するための美容法として,非特許文献13では,基底膜を強化することによりメラニンの真皮への落ちこみを防止することを提案する。
【0006】
また,皮膚の光老化現象において炎症が一因となることも示唆されており,抗炎症剤も多く開発されている。特許文献3では,アディポネクチン発現増加とともにオートファジー活性化を誘導する化合物を含む抗老化用化粧料組成物を開示する。真皮の色素沈着を改善するにはマクロファージによる貪食作用を利用することも示唆されており,特許文献15では,真皮へ落ち込んだメラニンを取り込んだ線維芽細胞にマクロファージを誘引し貪食させることによる真皮シミ予防・改善剤を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5657723号公報
【特許文献2】特開2017-203004号公報
【特許文献3】特開2018-177805号公報
【特許文献4】特表2014-504629号公報
【特許文献5】特開2015-140334号公報
【特許文献6】特許第6178088号公報
【特許文献7】特許第6273304号公報
【特許文献8】特許第5744409号公報
【特許文献9】特開2018-140953号公報
【特許文献10】特開2019-043855号公報
【特許文献11】特開2013-053130号公報
【特許文献12】特開平09-187248号公報
【特許文献13】特開2003-261455号公報
【特許文献14】特開平09-227367号公報
【特許文献15】特開2018-072098号公報
【特許文献16】特許第6535146号公報
【特許文献17】特開2019-031482号公報
【特許文献18】特開2007-063192号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of the American College of Cardiology, Vol. 62, No. 20, 2013, November 12, 2013:1890-901
【非特許文献2】Experimental & Molecular Medicine (2014) 46, e70; doi:10.1038/emm.2013.135
【非特許文献3】NATURE, VOL495, 28 MARCH 2013, pp524-530, doi:10.1038/nature11930
【非特許文献4】Journal of Investigative Dermatology, 2009 April; 129(4):1016-25. Epub 2008 Oct 9.
【非特許文献5】Stem Cell Research & Therapy (2018) 9:88,https://doi.org/10.1186/s13287-018-0821-5
【非特許文献6】Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology 2011 European Academy of Dermatology and Venereology,2012, 26, 1577-1580
【非特許文献7】British Journal of Dermatology, 2005, 153, pp733-739
【非特許文献8】Pigment Cell Melanoma Research, Vol. 27, Issue 3, pp502-504
【非特許文献9】Ann Dermatol Vol. 28, No. 3, pp279-289, 2016
【非特許文献10】Endocrinology, 2011. 152(10): pp3779-90
【非特許文献11】British Journal of Dermatology, 2005. 153 Suppl 2: pp37-46
【非特許文献12】Experimental Dermatology, 2011. 20(11): pp953-5
【非特許文献13】Fujifilm Research & Development (No.55-2010):pp33-37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は,光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善するための方法,装置,および抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤,抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤のスクリーニング方法,抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制美容処置の評価方法,並びに光老化及び/又は真皮色素沈着度の評価方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは光老化と真皮色素沈着の抑制効果について鋭意研究の結果,マクロファージのM1/M2バランスの不均衡が光老化及び真皮色素沈着に関連することを見出した。かかる発見に基づき,光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善するための抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤,並びに抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制美容処置の評価方法を確立した。このような方法により,抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制作用を奏する新規な美容方法,装置,および抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤も開発した。
以下の発明を完成するに至った:
(1)M1/M2バランスを調整することにより光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善するための美容方法。
(2)M1/M2バランスを調整することは,M1に対するM2の比率を上昇させることである,(1)に記載の方法。
(3)M1/M2バランスを調整することは,皮膚に対して微弱な物理刺激を適用する工程を含み,ここで当該工程は,例えば
(a)対象の皮膚を0.1%以上50.0%以下の伸展率まで伸展すること;及び
(b)伸展状態から回復すること;
並びに/又は,
(a-1)前記対象の皮膚を1μm~1000μm押圧すること;及び
(b-1)前記対象の皮膚を押圧状態から回復させること;
を含むサイクルを60Hz以下の振動数で行う物理刺激を対象の皮膚に与えることにより達成される,
ここで,伸展率は,
【数1】
(式中,定点AおよびBは,表皮または表皮が接着しているマトリックス上の任意の位置であり,ここで定点AとBを通る直線が伸展方向と平行である)
で算出される,(1)又は(2)に記載の方法。
(4)M1/M2バランスを調整することにより光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善するための美容装置であって,
前記装置は,
物理刺激を生ずる刺激発生部と,
刺激発生部で発生した物理刺激を皮膚に付与する刺激付与部とを備え,
ここで,当該装置は,皮膚に対して微弱な物理刺激を適用する工程を行うための装置であり,ここで当該工程は,例えば,
(a)皮膚を0.1%以上50.0%以下の伸展率まで伸展すること;及び
(b)伸展状態から回復すること;
並びに/又は,
(a-1)前記対象の皮膚を1μm~1000μm押圧すること;及び
(b-1)前記対象の皮膚を押圧状態から回復させること;
を含むサイクルを60Hz以下の振動数で行うことであり,
ここで,伸展率は,上記式1により算出される,前記美容装置。
(5)抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤のスクリーニング方法であって,
生体試料に候補薬剤を施すこと;
候補薬剤を施した前後の生体試料におけるM1/M2バランスを測定すること;及び
前記候補薬剤を施した生体試料におけるM1/M2バランスが該薬剤を施す前と比較して改善する場合,前記薬剤に抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制作用があると評価すること;
を含む,前記方法。
(6)抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制美容処置の評価方法であって,
皮膚試料に美容処置を施すこと;
美容処置を施した前後の皮膚試料におけるM1/M2バランスを測定すること;及び
前記美容処置を施した皮膚試料におけるM1/M2バランスが該処置を施す前と比較して改善する場合,前記処置に抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制作用があると評価すること;
を含む,前記方法。
(7)1又は複数のコンピュータにより実行される光老化及び/又は真皮色素沈着度の評価方法であって,
あらかじめ設定した皮膚のM1/M2バランスの基準値に関するデータを取得する手順;
対象の皮膚のM1/M2バランスに関するデータを取得する手順;
前記基準値を参照し,前記対象の皮膚のM1/M2バランスに関するデータと比較して計算する手順;
前記計算手順による計算結果に基づいて前記皮膚の光老化及び/又は真皮色素沈着抑制度を評価する手順;及び
前記評価手順による評価結果を表示する手順;を有する,前記方法。
(8)光老化及び/又は真皮色素沈着度を評価するシステムであって,
あらかじめ設定した皮膚のM1/M2バランスの基準値に関するデータを記憶するデータベース部;
対象の皮膚のM1/M2バランスに関するデータを入力するデータ入力部;
前記データベース部で記憶されている基準値を参照し,前記データ入力部により入力された前記対象の皮膚のM1/M2バランスに関するデータと比較して計算する計算部;
前記計算部による計算結果に基づいて前記皮膚の光老化及び/又は真皮色素沈着度を評価する評価部;及び
前記評価部による評価結果を表示する表示部を有する,前記システム。
(9)M1/M2バランスを測定するための薬剤を含む,抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤のスクリーニングキット。
(10)M1/M2バランスを調整することにより光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善するための抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤。
(11)以下の:
【化1】
{式中,R
1およびR
2は同一または異なり,水素原子,炭素数1~18の直鎖状または分岐状アルキル基,炭素数5~8のシクロアルキル基,ベンジル基または下記式:
【化2】
(但し,Xは低級アルキル基,低級アルコキシ基,ヒドロキシ基,アミノ基,ハロゲン原子を示し,n=0~3である)をそれぞれ示す}
で表される化合物,又はその塩,
オトギリソウ抽出物,タイム抽出物,オウバク,及び/又はユーカリ抽出物を含む,(10)に記載の抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤。
(12)以下の:
【化3】
{式中,R
1およびR
2は同一または異なり,水素原子,炭素数1~18の直鎖状または分岐状アルキル基,炭素数5~8のシクロアルキル基,ベンジル基または下記式:
【化4】
(但し,Xは低級アルキル基,低級アルコキシ基,ヒドロキシ基,アミノ基,ハロゲン原子を示し,n=0~3である)をそれぞれ示す}
で表される化合物,又はその塩,
オトギリソウ抽出物,タイム抽出物,オウバク,及び/又はユーカリ抽出物を含む,M1/M2バランス調整/改善剤。
(13)(10)~(12)のいずれか1項に記載の薬剤を含む組成物。
(14)M1/M2バランスを調整することは,(10)~(12)のいずれか1項に記載の薬剤を投与することにより達成される,(1)又は(2)に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法,装置,および薬剤により,M1/M2バランスを調整することにより光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善することができる。また,M1/M2バランスを指標とすることで,光老化及び/又は真皮色素沈着度を客観的に評価することが可能になり,このような方法に基づいて光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善するための薬剤や美容処置が探索可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1a】
図1aは,実験1で使用したマクロファージのマーカーの種類,並びに被験者の年齢,スキンタイプ,及び性別を示す。
【
図1b】
図1bは,若齢者及び高齢者の皮膚組織における,マクロファージ(CD11b:赤)及びM1マクロファージ(CD86:緑)を示す顕微鏡写真である。
【
図1c】
図1cは,若齢者及び高齢者の皮膚組織における,マクロファージ(CD11b:赤)及びM2マクロファージ(CD206:緑)を示す顕微鏡写真である。
【
図1d】
図1dは,若齢者及び高齢者の皮膚組織における,M1,M2マクロファージ数及び全マクロファージの総数を示すグラフである(cells/mm
2)。
【
図1e】
図1e左図は,若齢者及び高齢者の皮膚組織における,M1マクロファージ(CD86:赤)又はM2マクロファージ(CD206:赤)及びプロコラーゲン(緑)の共染色を示す顕微鏡写真である。左図の4つの各パネル内に存在する長方形は,特徴的な部位を拡大したものである。
図1e右図は,M1,M2,線維芽細胞,コラーゲン産生/破壊の関係を模式化した図である。
【
図2b】
図2bは,実験2により誘導されたM0,M1及びM2マクロファージの顕微鏡写真である。
【
図2c】
図2cの上図は,実験2により誘導されたM0,M1及びM2マクロファージが産出するサイトカイン(IL-1beta,TNF-alpha,IL-10)の遺伝子発現量を示すグラフである。
図2cの下図は,M1及びM2マクロファージの細胞表面マーカー(M1:CD86,M2:CD206)のmRNAの発現量を示すグラフである。GAPDHのmRNA発現量で補正し,M0の場合を100%とした相対値(%)として示す。
【
図3b】
図3bは,実験3に従いM1及びM2マクロファージの上清を添加した線維芽細胞におけるプロコラーゲン量(μg/well)を示す。
【
図3c】
図3cは,実験3に従いM1及びM2マクロファージの上清を添加した線維芽細胞におけるコラーゲン(赤)及びヒアルロン酸(緑)を示す顕微鏡写真である。
【
図3d】
図3dは,実験3に従いM1及びM2マクロファージの上清を添加した線維芽細胞におけるβ-ガラクトシダーゼ(β-Gal)を示す顕微鏡写真である。
【
図3e】
図3eは,実験3に従いM1及びM2マクロファージの上清を添加した線維芽細胞における,老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA β-Gal)アッセイの結果(左図:DAPI陽性細胞の総数に対するSA β-gal陽性細胞の割合(%)),及びウェルあたりのDAPI陽性細胞の総数(右図)を示すグラフである。
【
図3f】
図3fは,実験3に従いM1及びM2マクロファージの上清を添加した線維芽細胞における,各メラノジェネシス亢進因子(HGF,ET1,bFGF,IL-1alpha,SCF)並びにメラノジェネシス抑制因子(clusterin,DKK1)のmRNA発現量を示すグラフである。
【
図4a】
図4aは,実験4に従いM1及びM2マクロファージの上清を添加した若齢及び老齢線維芽細胞におけるβ-Galを示す顕微鏡写真である。
【
図4b】
図4bは,実験4に従いM1及びM2マクロファージの上清を添加した若齢(上)及び老齢線維芽細胞(下)における,SA β-Galアッセイの結果(DAPI陽性細胞の総数に対するSA β-gal陽性細胞の割合(%))及びウェルあたりのDAPI陽性細胞の総数を示すグラフである。
【
図4c】
図4cは,実験4に従いM1及びM2マクロファージの上清を添加した若齢及び老齢線維芽細胞におけるプロコラーゲン量(μg/well)を示す。
【
図4d】
図4dは,実験3に従いM1及びM2マクロファージの上清を添加した若齢及び老齢線維芽細胞におけるコラーゲン(赤)及びDAPIにより染色した核(青)を示す顕微鏡写真である。
【
図5】
図5は,実験5に従いM1及びM2マクロファージの上清を添加した新生児包皮由来線維芽細胞における,I型コラーゲン(赤)及びマクロファージ(CD68:緑)を示す顕微鏡写真である。左上の写真はマクロファージの上清を添加せず培養した線維芽細胞を示す。
【
図6】
図6は,実験6に従い作成した3Dモデルにおけるマクロファージ(CD68:赤)およびM1マクロファージ(CD86:緑)又はM2マクロファージ(CD206:緑)を示す顕微鏡写真である。三角で示す部分は,CD68およびCD86,又はCD68およびCD206が二重染色されている部分を示す。
【
図7】
図7は,実験6に従い作成した3Dモデルにおけるp21(赤)及びDAPIにより染色した核(青)を示す顕微鏡写真である。
【
図8】
図8は,実験6に従い作成した3Dモデルの各層(左:上層=表皮細胞層,右:下層=線維芽細胞層)における全細胞数に対するp21陽性細胞数の割合(%)を示すグラフである。
【
図9】
図9は,実験7に従いソーラーシュミレーターを照射したex vivo皮膚モデルにおけるマクロファージ全体,M1及びM2マクロファージの数を示すグラフである。照射を行わない場合の各マクロファージの細胞数を100%とし(左側のバー:照射(-)),それに対する照射を行った各マクロファージの細胞数の相対値(%)を右側のバー(照射(+))に示す。
【
図11】
図11は,実験8で使用した装置および皮膚試料を示す。
【
図12】
図12は,実験8に従いex vivo皮膚モデルに伸展刺激を与えた場合(stretch)と与えない場合(control)における,M1,M2マクロファージ数及び全マクロファージの総数の比較を示す。左図は,皮膚試料1mm
2あたりのマクロファージ数(cells/1mm
2)を示すグラフである。右図は,全マクロファージの総数に対する各マクロファージ(M1,M2)の割合(%)を示すグラフである。
【
図13】
図13は,実験9で行ったスクリーニングの結果を示す。バーはそれぞれ各濃度のオトギリソウ抽出物(0.1%),タイム抽出物(0.1%),トラネキサム酸メチルアミド(0.03%,0.06%)を添加した場合のCD86発現量(CD86/GAPDH値)を,対照(cont)を100%としたとき相対値(%)で示すグラフである。
【
図15】
図15は,実験10で行ったスクリーニングの結果を示す。バーはそれぞれ各濃度のオウバク抽出物(0.01%),ユーカリ抽出物(0.1%)を添加した場合のCD86発現量(CD86/GAPDH値)を,対照(cont)を100%としたとき相対値(%)で示すグラフである。
【
図16a】
図16aは,実験11に従いM1及びM2マクロファージの上清を添加した線維芽細胞における各コラーゲン分解酵素(MMP-1,MMP-2)および炎症性サイトカイン(IL-1β)のmRNA発現量を,M1での結果を100%としたとき相対値(%)で示すグラフである。
【
図16b】
図16bは,実験11に従いM1及びM2マクロファージの上清を添加した線維芽細胞における各コラーゲン産生・成熟化因子(COL1A1,COL1A2,HSP47,およびADAMTS-2)のmRNA発現量を,M1での結果を100%としたとき相対値(%)で示すグラフである。
【
図17a】
図17aは,実験12におけるサンプルを取得した各被験者の年齢を若齢者及び高齢者群ごとに示す。
【
図17b】
図17bは,実験12における若齢者及び高齢者の皮膚組織(基底膜直下から50μm)における,M1,M2マクロファージ数を示すグラフである(cells/mm
2)。
【
図17c】
図17cは,実験12における若齢者及び高齢者の皮膚組織(基底膜直下から200μm)における,M1,M2マクロファージ数を示すグラフである(cells/mm
2)。
【
図17d】
図17dは,実験12における若齢者及び高齢者の皮膚組織における3/4コラーゲン陽性を示すCD68陰性細胞,M1,M2マクロファージ数を示すグラフである(cells/mm
2)。
【
図18a】
図18aは,実験13において,メラニン添加から24時間後の線維芽細胞,M1マクロファージ,およびM2マクロファージの様子を示す。メラニンを貪食している細胞は右図で示すような円状の形態をとる。
【
図18b】
図18bは,実験13において,メラニン添加から24時間後の線維芽細胞,M1マクロファージ,M2マクロファージが取り込んだ細胞あたりのメラニン量(melanin/almar blue)を示す。
【
図18c】
図18cは,実験13において,メラニン添加から5日後のM1マクロファージとM2マクロファージの様子を示す。
【
図19】
図19上は,実験14に従いカウントした真皮層におけるメラニン貪食M1マクロファージとM2マクロファージの数を各年齢ごとに示すグラフである。
図19下は,メラニン貪食M1マクロファージとM2マクロファージの数を全被験者における平均として示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
マクロファージは,体内の様々な組織に局在し,異物や病原体に対する免疫応答を惹起する細胞であり,炎症にも関与することが知られている。マクロファージは,未分化状態のM0マクロファージ(以下M0とする略記することがある)からM1タイプとM2タイプに分化する。M1マクロファージ(以下M1と略記することがある)は炎症型として,M2マクロファージ(以下M2とする略記することがある)はリペア型(抗炎症型)として知られている。M1マクロファージとM2マクロファージのバランスの不均衡は,肥満,2型糖尿病,動脈硬化といった疾患と関連することが報告されている(特許文献4~6,非特許文献1~5)。しかしながら,皮膚光老化や色素沈着とM1/M2バランスとの関係については不明であった。
【0014】
本発明者らは,光のあたった皮膚や色素沈着が起こる部位では特異的にこれらM1マクロファージとM2マクロファージのバランス(M1/M2バランス)が乱れることを発見し,M1/M2バランスを調整することが,光老化や色素沈着の予防改善においてとりわけ重要であることを発見した。さらに,本発明者らは,M1/M2バランスを皮膚光老化や色素沈着の指標とし,特定の物理刺激を対象の皮膚に与えると好ましい効果が奏されることも発見した。より具体的には,光老化した皮膚や色素沈着が起こっている皮膚であっても,特定の伸展率で,例えば1Hz以下,10Hz以下といった60Hz以下の振動数で行う物理刺激を与えると,M1/M2バランスが調整/改善されることがわかった。また,本発明者らは,M1/M2バランスを皮膚光老化や色素沈着の指標とし,各種物質をスクリーニングした結果,オトギリソウ抽出物,トラネキサム酸メチルアミドをはじめとする本発明の化合物,タイム抽出物,オウバク,及びユーカリ抽出物にM1/M2バランスを調整/改善する効果があり,抗光老化剤や抗色素沈着剤として機能することも発見した。オトギリソウ抽出物には,I型コラーゲン産生促進作用や育毛作用等が報告されている(特許文献9,10)。トラネキサム酸メチルアミドをはじめとする本発明の化合物には,肌荒れ改善作用,美白作用,抗アレルギー作用等が報告されている(特許文献11,14等)。タイム抽出物には,抗アレルギー作用や抗菌作用等が報告されている(特許文献12,13)。オウバクは,止瀉薬,胃薬,胃弱や食欲不振に対する内服薬,あるいは打ち身,捻挫に対する外用薬としても用いられ,抗菌,抗酸化,皮膚バリア機能改善効果,色素細胞活性化効果等も報告されている(特許文献16,17)。ユーカリ抽出物は,抗菌,抗酸化作用などが報告されている(特許文献18)。しかしながら,これらの物質が,M1/M2バランスを調整/改善作用を有することは,本発明者らによって今回初めて見出された。
【0015】
よって,本発明は,M1/M2バランスを調整することにより光老化及び/又は色素沈着を予防及び/又は改善するための方法,装置,および抗光老化及び/又は色素沈着抑制剤を提供する。本発明の方法は,美容を目的とする方法であり,医師や医療従事者による治療ではない場合がある。
【0016】
本明細書において,色素沈着は,真皮および表皮におけるメラニン等の色素の沈着を指す。本発明は,真皮および表皮のいずれにも有効であるが,とりわけ,メラノファージによる貪食以外に改善方法が限られているという意味で真皮の色素沈着に対する対策として大きく期待される。本発明の剤の適用により,色素沈着によるしみ,くすみ,くま等が改善され。また,真皮層に色素を注入するため一旦色素を入れてしまうと消すのが困難である入れ墨やタトゥーなどの色消しにも有効である。
【0017】
M1マクロファージは,CD86,CD80,iNOS等のマーカーで測定できる。M2マクロファージは,CD206,CD163,Agr1,等のマーカーで測定できる。M1とM2を含むマクロファージ全体のマーカーとしては,CD11b,CD68などが挙げられる。追加的又は代替的に,IL-1beta,TNF-alphaといったM1特異的なサイトカインやIL-10といったM2特異的なサイトカインを定量することによって測定してもよい。しかしながら,M1/M2バランスを測定可能なマーカーであれば,上記マーカーに限定されない。
【0018】
本明細書において,M1/M2バランスとは,M1マクロファージの数とM2マクロファージの数の比率を指すものであってもよく,M1マクロファージのマーカー(例えば,CD86,CD80,iNOS等)のmRNA量とM2マクロファージのマーカー(例えば,CD206,CD163,Agr1等)のmRNA量の比率を指すものであってもよい。光老化状態の皮膚ではM1の比率が高くM2の比率が低くなり,またメラニン貪食作用が高いのはM2であることから,M1/M2バランスの調整/改善は,M1に対するM2の比率(M2の数/M1の数,及び/又はM2マーカーのmRNA量/M1マーカーのmRNA量)を上昇させることであってもよい。上昇は,例えば,有意水準を5%とした統計学的有意差(例えばスチューデントのt検定)を有する上昇であってもよく,及び/又は,例えば1%以上,5%以上,10%以上,20%以上,30%以上,40%以上,50%以上,60%以上,70%以上,80%以上,90%以上,100%以上の上昇であってもよい。あるいは,M1/M2バランスの調整/改善は,M1に対するM2の比率(M2の数/M1の数,及び/又はM2マーカーのmRNA量/M1マーカーのmRNA量)を一定の範囲内,例えば,約4/6~約9/1,約5/5~約8/2,約5/5~約7/3等にすることであってもよく,上記範囲に近づけることであってもよく,上記範囲内に維持することであってもよく,上記範囲を中心に恒常性を保つことであってもよい。
【0019】
M1/M2バランスの調整/改善は,伸展刺激,押下刺激,マッサージ等の物理刺激を皮膚に与えることによって達成されてもよい。M1/M2バランスの調整/改善は皮膚に対して微弱な物理刺激を適用する工程を含み,本発明の装置は皮膚に対して微弱な物理刺激を適用する工程を行うための装置であり,ここで当該工程は,例えば,(a)皮膚を0.1%以上50.0%以下の伸展率まで伸展すること;及び(b)伸展状態から回復すること;を含むサイクルを60Hz以下の振動数で行うことであってもよい。
【0020】
伸展率は,上記式1により算出される。物理刺激は,0.001%以上80.0以下,0.01%以上60.0%以下,0.1%以上50.0%以下,好ましくは,0.1%以上50.0%以下の伸展率で行ってもよい。例えば,0.1%以上1.0%以下,0.1%以上5.0%以下,0.1%以上10.0%以下,0.1%以上20.0%以下,0.1%以上30.0%以下,1.0%以上5.0%以下,1.0%以上10.0%以下,1.0%以上20.0%以下,1.0%以上30.0%以下,1.0%以上50.0%以下,10.0%以上20.0%以下,10.0%以上30.0%以下,等任意の範囲の伸展率が採用できる。
【0021】
伸展速度は,1サイクル中で最大伸展率(%)に達するまでの速度(%/s)を指す。回復速度は,最大伸展率から非伸展状態に戻る速度(%/s)を指す。伸展速度・回復速度は,0.010%/s~40%/s,0.05%/s~30%/s,0.10%/s~20%/s,0.2%/s~15%/s,0.3%/s~10%/sなど任意の速度で行ってもよい。伸展速度と回復速度は同じでも異なっていてもよい。
【0022】
M1/M2バランスの調整/改善は,皮膚に対して微弱な物理刺激を適用する工程を含み,,本発明の装置は皮膚に対して微弱な物理刺激を適用する工程を行うための装置であり,ここで当該工程は,例えば,(a-1)前記対象の皮膚を1μm~1000μm押圧すること;及び(b-1)前記対象の皮膚を押圧状態から回復させること;を含むサイクルを60Hz以下の振動数で行うことであってもよい。
【0023】
「皮膚を1μm~1000μm押圧する」とは,皮膚の最表面から1μm~1000μmの深度まで皮膚を押圧することを指す。押圧の深度は,皮膚の最表面から1μm~1000μm,10μm~1000μm,10μm~300μm,10μm~100μm等任意に設定可能である。
【0024】
振動数は,伸展又は押圧開始から非伸展又は非押圧状態まで回復するサイクルを1サイクルとした場合の1秒あたりのサイクル数を指す。1サイクルには,一定の時間,伸展又は押圧状態を維持すること及び/又は非伸展又は非押圧状態で休止することを含めてもよい。例えば,1サイクル中に,(a’)(a)の後かつ(b)の前に,あるいは(a-1)の後かつ(b-1)の前に,0秒~30分間,1秒~20分間,5秒~10分間,又は10秒~5分間伸展又は押圧状態を保持すること;及び/又は(b’)(b)の後かつ次のサイクルの(a)の前に,あるいは(a-1)の後かつ(b-1)の前に,0秒~30秒間,0秒~20秒間,0秒~10秒間,1秒~10秒間,1秒~20秒間,1秒~10秒間非伸展又は非押圧状態で休止すること,を更に含んでもよい。振動数は,例えば,0.0000001Hz以上10kHz以下,0.000001Hz以上1kHz以下,0.00001Hz以上100Hz以下,好ましくは,0.0001Hz以上60Hz以下,0.0001Hz以上10Hz以下であってもよい。例えば,0.001Hz以上60Hz以下,0.01Hz以上60Hz以下,0.001Hz以上10Hz以下,0.01Hz以上10Hz以下,0.1Hz以上60Hz以下,0.1Hz以上10Hz以下,0.5Hz以上60Hz以下,0.5Hz以上50Hz以下,0.5Hz以上10Hz以下,0.5Hz以上5Hz以下,0.5Hz以上1Hz以下,0.001Hz以上0.01Hz以下,0.001Hz以上0.1Hz以下,0.001Hz以上1Hz以下,0.01Hz以上1Hz以下,0.1Hz以上1Hz以下,1Hz以上60Hz以下,1Hz以上10Hz以下,1Hz以上5Hz以下,等任意の範囲の振動数が採用できる。
【0025】
市販の美顔器,マッサージ機器等には,RF波といった0.3~300MHz程度の周波数を有する電磁波を用いるものや,1MHzから7MHz程度の周波数を有する超音波を用いるものなどがある。これらの周波数/振動数と比べ,本発明の方法/装置が採用する振動数は極めて低い。従来の美顔器等のように皮膚に強い振動数を与えると皮膚に赤み,圧力痕,傷,痛み,炎症といった悪影響を与えるリスクがあるが,本発明のような振動数を採用すると上述のリスクが低く非侵襲的な物理刺激が可能になる。本発明者らにより,伸展率および振動数が高すぎると刺激が強すぎるため,これらの値を適正値に調節することにより皮膚を優しく刺激するほうが好ましいことが発見されたためである。
【0026】
また,従来,当該分野において一般的に利用されているモーター等の機構を利用する美容機器類ではそのモーターの機械的機構から60Hzを超える振動数しか選択できないことが当業者の技術常識であった。従来技術における美容機器類の限界である「60Hz」以下の振動数,例えば,60Hz以下,10Hz以下,1Hz以下といった本発明のような振動数を採用するには,特別な機械を作成する必要性が求められていた。更には,このような低い振動数では,本発明の効果を奏するには「弱すぎる」という固定概念もあり,これまで検討がほとんどされていなかった。しかしながら,本発明者らは,従来の技術常識から考えると非常に低い振動数を用いて実際に皮膚に物理刺激を与えてみたところ,驚くべきことに,このような低い振動数の優しい刺激でも良好な効果が奏された。
【0027】
EMS機器等では低中周波の装置も市販されているものの,これらは特に筋肉や皮下脂肪等の深い層で作用させるように設計されており,本願発明のような皮膚表層に対する影響は不明である。また,このような装置は周波数が低くても電流を流す際にビリビリとした刺激を伴うこともあり,皮膚に優しい刺激を与える本願発明とは異なる。一方,本発明は,超音波や電流,磁場といったエネルギーを加えず,直接皮膚に伸展刺激を与えるという簡便な方法による美容法が可能である。更に,このような振動数を有する伸展刺激は,優しい刺激でありながら,実施例に記載のようにM1/M2バランスの調整/改善作用を奏する。よって,本発明の方法/装置を使用すると,皮膚に悪影響を与えず,光老化及び/又は色素沈着の予防及び/又は改善効果が期待される。
【0028】
物理刺激は,美顔器などの器具,実験的な装置,ヒトの手や器具を用いたマッサージ,顔面のエクササイズによるものであってもよく,接触又は非接触により達成されるものであってもよい。一態様では,物理刺激を生ずる刺激発生部と,物理刺激を接触又は非接触により付与する刺激付与部を備えた機器を用いて,皮膚に対して機械的に発生された物理刺激を付与することができる。物理刺激は,例えば,皮膚を引張,押圧,叩く,揉む,吸引するといった接触によって達成されてもよく,及び/又は,例えば,超音波や空気圧または水圧のようなもので皮膚に衝撃波をあたえることで変位させるといった非接触により達成されてもよい。顔面のエクササイズとしては,頬を膨らませることや,目を見開くことなどが行うことができる。マッサージとしては,施術を受ける対象自身又は美容部員などの施術者による手やローラー等の器具を用いたマッサージが挙げられる。しかしながら,本発明の物理刺激の範囲内であれば限定されない。
【0029】
本発明の装置として,例えば,使用者の皮膚に接触し本発明の物理刺激を付与する皮膚接触部を備える美容装置が挙げられる。例えば,把持部及び皮膚伸展部又は皮膚押圧部から構成されるものであってもよい。例えば,
図14左に記載の装置は,皮膚接触部が皮膚に触れることにより,皮膚を特定の振動数および伸展率にて伸展するように設計されている。
【0030】
また,例えば,本発明の装置は,電源と,刺激発生部と,皮膚刺激部を備え,電源は電気信号を発生し,刺激発生部は,電源からの電気信号を物理的な刺激に変換して物理刺激を発生し,皮膚刺激部は,刺激発生部で発生された物理刺激を受け取り使用者の皮膚に物理刺激を与えるものであってもよい。
【0031】
例えば,
図14左に示す装置は,把持部と,電源と,物理的な刺激を制御する制御部と,刺激発生部と,皮膚刺激部と皮膚固定部を含む皮膚接触部とを備える。使用者が把持部を持って皮膚接触部を皮膚に当て,皮膚固定部により皮膚を固定するようにし,制御部を操作することにより電源からの電気的な信号が刺激発生部により物理的な刺激に変換され,物理刺激が皮膚刺激部に伝わり,皮膚が皮膚固定部に固定されつつ皮膚刺激部により特定の振動数および伸展率にて伸展されるように設計されている。例えば,刺激発生部はモーターなどにより駆動され電気信号を物理刺激に変換するものであってもよい。また,
図14左に記載の皮膚刺激部は,皮膚に伸展刺激を与えるものであるが,例えば,皮膚に押圧刺激を与えるものであってもよい。
【0032】
あるいは,本発明の装置は,電源と,物理的な刺激を制御する制御部と,刺激発生部と,シート状の材料からなる皮膚接触面を含む皮膚接触部とを備える美容装置であってもよい。例として,
図14右にこのような美容装置の皮膚接触部を示す。シート状の材料は,電流を流すことが可能で,電源からの電気的な信号を物理的な刺激に変換するものであってもよい。そのようなシート状の材料としては,誘電エラストマーアクチュエータ(DEA),導電ポリマー,IPMC,PVCゲル,Mckinnen型などが挙げられる。
【0033】
本発明の装置の電源は,内部電源又は外部電源であってもよく,充電式であってもよい。また,本発明の装置は,例えば,携帯電話やクラウドなどに保存されているデータを用いるものであっても,ワイヤレスでリモート操作されるものであってもよい。
【0034】
物理刺激は,上術のような接触又は非接触による物理的な刺激を与えることにより皮膚の伸展を達成するものであってもよい。物理刺激は,皮膚表面に対し平行方向,すなわち横方向に加えてもよいし,皮膚表面に対し垂直方向,すなわち縦方向に加えてもよいし,あるいは斜め方向,ねじれ方向等任意の方向が採用できる。
【0035】
物理刺激を行うサイクル数は限定されない。例えば,10~500サイクル,20~400サイクル,30~300サイクル,40~200サイクル,50~100サイクルといった任意の数のサイクル行なってもよい。例えば,実施例に記載のように,27サイクル行えば十分な場合もある。
【0036】
さらに,これらの任意の数のサイクルを1セットとし,このセットを任意の数のセット,例えば,1~100セット,2~50セット,又は3~10セット行ってもよい。
【0037】
物理刺激を行う時間も限定されない。例えば,休止時間を設けて又は設けずにサイクルを繰り返し5分~3時間,10分~2時間,30分~1時間といった一定時間行ってもよい。
【0038】
サイクル間又はセット間の時間間隔も限定されない。例えば,伸展又は押圧刺激は,1セット又は複数セットを単独で行うものであってもよく,1又は複数のセットを毎日,2日,3日,4日,5日,6日,7日に1回,1,2,3,4週間に1回等,連続的又は断続的に定期的又は不定期的に行うものであってもよい。
【0039】
しかしながら,皮膚抗光老化及び/又は色素沈着抑制作用を発揮するのに十分な刺激が達成されれば上記のような振動数,伸展率,サイクル数,頻度に限定されない。物理刺激を行う波形も,矩形波,正弦波,三角波,のこぎり波等任意に設定できる。
【0040】
あるいは,M1/M2バランスの調整/改善は,M1/M2バランス調整/改善剤又はそれを含有する組成物を投与することであってもよい。本発明者らにより,本発明の化合物,オトギリソウ抽出物,タイム抽出物,オウバク,及び/又はユーカリ抽出物がこのようなM1/M2バランス調整/改善剤として機能することが発見された。よって,本発明は,本発明の化合物,オトギリソウ抽出物,タイム抽出物,オウバク,及び/又はユーカリ抽出物からなる,あるいは本発明の化合物,オトギリソウ抽出物,タイム抽出物,オウバク,及び/又はユーカリ抽出物を有効成分として含む,M1/M2バランス調整/改善剤,抗光老化剤,色素沈着抑制剤,およびそれらを含有する組成物も提供する。
【0041】
本願明細書において「本発明の化合物」は,下記の式:
【化5】
{式中,R
1およびR
2は同一または異なり,水素原子,炭素数1~18の直鎖状または分岐状アルキル基,炭素数5~8のシクロアルキル基,ベンジル基または下記式:
【化6】
(但し,Xは低級アルキル基,低級アルコキシ基,ヒドロキシ基,アミノ基,ハロゲン原子を示し,n=0~3である)をそれぞれ示す}
で表される化合物,又はその塩を指す。特に好ましくは,本発明の化合物は,N-メチル-トランス-4-(アミノメチル)シクロヘキサンカルボキサミド(トラネキサム酸メチルアミド(C
9H
19C
1N
2O))又はその塩である。上述の化合物は,例えば特許文献14に記載のような方法で合成してもよく,市販品を用いてもよい。
【0042】
オトギリソウ(Hypericum erectum)は,オトギリソウ科オトギリソウ属の多年生植物である。本発明に用いられるオトギリソウの抽出物としては,オトギリソウの地上部の抽出物が好ましいが,種,根等にも有効成分が含まれているので,これらのうちいずれか1又は2以上の抽出物を使用することもできる。オトギリソウの抽出物は,市販品を用いることもできる。
【0043】
タイム(Thymus)は,シソ科イブキジャコウソウ属の多年生植物である。本発明では,コモンタイム(T. vulgaris),シトラスタイム(T. x citriodorus),ワイルドタイム(T. serpyllum)等の各種タイムを用いることができる。本発明に用いられるタイム抽出物としては,タイムの全草の抽出物が好ましいが,種,花,根等にも有効成分が含まれているので,これらのうちいずれか1又は2以上の抽出物を使用することもできる。タイムの抽出物は,市販品を用いることもできる。
【0044】
オウバクは,ミカン科キハダ(Phellodendron amurense)又はシナキハダ(Phellodendron chinense)の樹皮を乾燥させた生薬である。オウバク又はその抽出物は,常法により製造してもよく市販品を用いることもできる。
【0045】
ユーカリは,フトモモ科ユーカリ属(Eucalyptus)の樹木である。本発明に用いられるユーカリ抽出物としては,ユーカリの葉の抽出物が好ましいが,種,花,樹皮,根等にも有効成分が含まれているので,これらのうちいずれか1又は2以上の抽出物を使用することもできる。ユーカリ抽出物は,常法により製造してもよく市販品を用いることもできる。
【0046】
抽出物を用いる場合,抽出方法は特に限定されるものではないが,溶媒を用いた抽出法が好ましい。抽出を行う際には,植物体をそのまま使用することもできるが,顆粒状や粉末状に粉砕して抽出に供した方が,穏和な条件で短時間に高い抽出効率で有効成分の抽出を行うことができる。抽出温度は特に限定されるものではなく,粉砕物の粒径や溶媒の種類等に応じて適宜設定すればよい。通常は,室温から溶媒の沸点までの範囲内で設定される。また,抽出時間も特に限定されるものではなく,粉砕物の粒径,溶媒の種類,抽出温度等に応じて適宜設定すればよい。さらに,抽出時には,撹拌を行ってもよいし,撹拌せず静置してもよいし,超音波を加えてもよい。
【0047】
溶媒の種類は特に限定されるものではないが,水,含水エタノール,エタノール等の低級アルコール,ヘキサン等の有機溶媒,又はヘキサン/エタノールといったこれらの混合溶媒が好ましい。抽出は常温で行ってもよいが,加熱下で(例えば温水や熱水等の加熱した溶媒を用いて)行ってもよい。また,溶媒に酵素を加えて抽出処理を行ってもよい。酵素を加えることによって,植物の細胞組織を崩壊させることができ,これにより抽出効率をより高めることができる。酵素としては,細胞組織崩壊酵素を用いることが好ましい。このような酵素としては,例えば,ペクチナーゼ,セルラーゼ,ヘミセルラーゼ,α-アミラーゼ,フィターゼが挙げられる。これらの酵素は1種類を単独で用いてもよいし,2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
このような抽出操作により,有効成分が抽出され,溶媒に溶け込む。抽出物を含む溶媒は,そのまま使用してもよいが,滅菌,洗浄,濾過,脱色,脱臭等の慣用の精製処理を加えてから使用してもよい。また,必要により濃縮又は希釈してから使用してもよい。さらに,溶媒を全て揮発させて固体状(乾燥物)としてから使用してもよいし,該乾燥物を任意の溶媒に再溶解してから使用してもよい。
【0049】
また,原料の植物を圧搾することにより得られる圧搾液にも抽出物と同様の有効成分が含まれているので,抽出物の代わりに圧搾液を使用することもできる。
【0050】
しかしながら,M1/M2バランス調整/改善剤や組成物は上記物質に限定されず,任意の物質,例えば,特許文献4~7等に記載の物質といったM1/M2バランス調整/改善することが知られている公知の物質を使用してもよい。その投与経路も例えば,経皮投与,経口投与,皮下投与,経粘膜投与,筋肉内投与等任意に選択できるが,光老化は,光が当たった部分の皮膚に特異的にみられる現象であるため,皮膚の特定箇所に投与できる経皮投与が好ましい場合もある。また,表皮や真皮に起こる色素沈着は,皮膚から表皮や真皮に到達できるよう経皮投与が好ましい場合もある。また,M1/M2バランスの調整/改善は,例えば,M2マクロファージに分化誘導することであってもよく,その他任意のM1/M2バランス調整/改善法によるものであってもよい。
【0051】
例えば,本発明の薬剤又は組成物は,M1/M2バランスを調整/改善し,その結果皮膚の光老化及び/又は色素沈着を抑制する。本発明のM1/M2バランス調整/改善剤,抗光老化剤,色素沈着抑制剤(以降これらを総称して「本発明の剤」という場合がある。)は,上記の有効成分の何れか1種を単独で含有してもよく,2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で含有してもよい。
【0052】
本発明の剤は,上記の有効成分を,1種又は2種以上の他の成分,例えば賦形剤,担体及び/又は希釈剤等と組み合わせた組成物とすることもできる。組成物の組成や形態は任意であり,有効成分や用途等の条件に応じて適切に選択すればよい。当該組成物は,その剤形に応じ,賦形剤,担体及び/又は希釈剤等及び他の成分と適宜組み合わせた処方で,常法を用いて製造することができる。
【0053】
本発明の剤は,化粧品等に配合してヒト及び動物に使用し,或いは医薬製剤としてヒト及び動物に投与することができる。また,各種の飲食品,飼料に配合してヒト及び動物に摂取させてもよい。
【0054】
本発明を化粧品,医薬品,医薬部外品等の皮膚外用剤に適用する場合,植物体又はその抽出物の配合量(乾燥質量)は,それらの種類,目的,形態,利用方法などに応じて,適宜決めることができる。例えば,化粧料全量中に,本発明の化合物,オトギリソウ抽出物,タイム抽出物,オウバク抽出物,及び/又はユーカリ抽出物それぞれ0.00001%~50%(抽出物又は生薬の場合,乾燥質量換算)を配合できる。
【0055】
上記成分に加えて,さらに必要により,本発明の効果を損なわない範囲内で,通常化粧品,医薬品,医薬部外品等の皮膚外用剤に用いられる成分,例えば酸化防止剤,油分,紫外線防御剤,界面活性剤,増粘剤,アルコール類,粉末成分,色材,水性成分,水,各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0056】
本発明の皮膚外用剤は,外皮に適用される化粧料,医薬部外品等,特に好適には化粧料として適用可能であり,その剤型も皮膚に適用できるものであれば限定されず,溶液系,可溶化系,乳化系,粉末分散系,水-油二層系,水-油-粉末三層系,軟膏,化粧水,ゲル,エアゾール等,任意の剤型が適用される。
【0057】
本発明の剤を化粧品として用いる場合は,化粧水,乳液,ファンデーション,口紅,リップクリーム,クレンジングクリーム,マッサージクリーム,パック,ハンドクリーム,ハンドパウダー,ボディシャンプー,ボディローション,ボディクリーム,浴用化粧品等の形態として用いてもよい。
【0058】
しかしながら,本発明の剤および組成物の採り得る形態は,上述の剤型や形態に限定されるものではない。また,本発明の剤又は組成物は,本発明の装置又は方法あるいはその他の装置又は方法等と併用してもよい。
【0059】
本発明の方法,装置,剤及び組成物を適用する対象は,皮膚光老化及び/又は色素沈着(例えば,真皮色素沈着)が客観的又は主観的に認められる対象であっても,皮膚光老化及び/又は色素沈着を予防したいと希望する対象であってもよい。例えば,M1/M2バランスが崩れていると判断された対象であってもよい。1実施形態では,皮膚におけるM1/M2バランスを指標として皮膚光老化度及び/又は色素沈着度(例えば,真皮色素沈着度)が高いと判断された対象であってもよい。あるいは,皮膚の光老化に特異的な表現型,例えば,しみ,しわ,たるみ等が気になる対象であってもよいし,表皮や色素沈着,例えば,しみ,くすみ,アザ,入れ墨の跡等が気になる対象であってもよい。しみ,しわ,たるみ,くすみ,アザ,入れ墨の跡等は,視感判定や公知の指標を用いることにより決定することができる。
【0060】
また,本発明により,生体試料に候補薬剤を施すこと;候補薬剤を施した前後の生体試料におけるM1/M2バランスを測定すること;前記候補薬剤を施した生体試料におけるM1/M2バランスが該薬剤を施す前と比較して改善する場合,前記薬剤に抗光老化及び/又は色素沈着抑制作用があると評価すること;を含む,抗光老化剤のスクリーニング方法も提供される。皮膚試料に美容処置を施すこと;美容処置を施した前後の皮膚試料におけるM1/M2バランスを測定すること;前記美容処置を施した皮膚試料におけるM1/M2バランスが該処置を施す前と比較して改善する場合,前記処置に抗光老化及び/又は色素沈着抑制作用があると評価すること;を含む,抗光老化及び/又は色素沈着抑制美容処置の評価方法も提供される。本発明の方法により,候補薬剤又は美容処置が抗光老化及び/又は色素沈着抑制効果を有するか否かについてのスクリーニングが可能となり,製品開発や新たな肌ケアの提案が可能になる。つまり,本発明により,M1/M2バランスを調整することにより光老化及び/又は色素沈着を予防及び/又は改善するための抗光老化剤及び/又は色素沈着抑制剤および抗光老化及び/又は色素沈着抑制美容処置が提供される。色素沈着は,真皮色素沈着であってもよい。
【0061】
生体試料は,皮膚試料,免疫細胞試料といった任意の試料を使用できる。皮膚試料は,採取後の皮膚試料,例えば,ヒト等の動物から採取された後のex vivoの状態の皮膚試料であってもよいし,培養皮膚細胞,例えば,単層又は重層培養細胞,培養角化細胞又は培養線維芽細胞といったin vitroの状態であってもよい。あるいは,3D皮膚モデルなどの人工皮膚試料であってもよい。免疫細胞試料は,採取後の皮膚に存在する免疫細胞,皮膚に浸潤する血液を採取した後の血液中の免疫細胞,培養免疫細胞等であってもよい。3D皮膚モデルは限定されないものの,例えば特許文献8,非特許文献10~12に記載の方法により作成しても,M1/M2バランスを測定しやすいようにかかる方法を改変して作成してもよい。生体試料は,M1/M2バランスを測定することができれば限定されない。
【0062】
例えば,抗光老化及び/又は色素沈着抑制剤のスクリーニング法は,THP-1等の免疫細胞をM0に分化させたのち,薬剤を添加し一定時間培養した後の培養上清を回収し,ELISA等の測定法にてIL-10といったM2特異的なサイトカイン等の量を定量することによって達成されてもよい。このようなスクリーニング法において,陽性対照としてIL-4,IL-13等を添加してM2に分化させた細胞を用いてもよく,更に,IL-4,IL-13に候補薬剤を加えたものを比較してもよい。つまり,M2はIL-10産生能が高いため,上清中のIL-10がM0分化後,培地のみで培養した対照(control)と比較して増加していたら,M2へ分化したといえ,このような薬剤を「改善剤」としてもよく,ここで,IL-4,IL-13等の存在下で薬剤の有無を比較してIL-10の量に差が生じるかを評価してもよい。
【0063】
本明細書において候補薬剤とは,抗光老化及び/又は色素沈着抑制効果について調査が行われる薬剤のことをいい,製品として既に販売されている薬剤の他,開発段階の薬剤も含み,さらに化粧料の開発において化粧料用に選択された薬剤であってもよい。
【0064】
美容処置としては,特に限定されないが,例えば本発明の剤又はその他の成分を含む化粧料の塗布などの光老化及び/又は色素沈着抑制に有効と考えられている任意の処置が含まれる。化粧料とは,皮膚に適用される化粧料をいい,例えば化粧水,乳液,美容液,クリーム,ファンデーションなどをいうが,これらに限定されず,皮膚状態の改善を直接の目的とするものではないが,皮膚に塗布されるもの全てを含むことを意図し,例えば,日焼け止め剤なども包含するものとする。あるいは,美容処置は,例えば,伸展刺激,押下刺激,マッサージ等の物理刺激を皮膚に与えることであってもよい。美容処置は,一回の処置であってもよいし,数日から数週間にわたって行われる継続的な処置であってもよい。美容処置は個人的に行われてもよいし,美容室や,化粧品の販売店,エステサロンなどで行われてもよい。
【0065】
また,本発明は,例えば,M1やM2の数を測定可能なCD86,CD206,CD163,等の任意のマーカーを検出する抗体やそれらのマーカーのmRNA量を測定する薬剤といったM1/M2バランスを測定するための薬剤を含む,抗光老化及び/又は色素沈着抑制剤のスクリーニングキットも提供する。更に本発明は,以下の方法,システム,装置も提供する。
【0066】
あらかじめ設定した皮膚のM1/M2バランスの基準値に関するデータを取得する手順;対象の皮膚のM1/M2バランスに関するデータを取得する手順;前記基準値を参照し,前記対象の皮膚のM1/M2バランスに関するデータと比較して計算する手順;前記計算手順により計算された結果に基づいて前記皮膚の光老化及び/又は色素沈着度を評価する手順;並びに,前記評価手順により評価された結果を表示する手順;を有する,1又は複数のコンピュータにより実行される対象の皮膚の光老化及び/又は色素沈着度の評価方法。
【0067】
サーバの分析部が,記憶部に記憶された皮膚のM1/M2バランスと光老化及び/又は色素沈着度に関するデータに基づく教師データを用いたニューラルネットワークによる手法を用いた機械学習により,皮膚のM1/M2バランスと光老化及び/又は色素沈着度との関係を分析する手順;前記サーバの受信部が,対象の皮膚のM1/M2バランスのデータを受信する手順;並びに,前記サーバの評価部が,前記分析した関係に基づいて,前記受信した対象の皮膚のM1/M2バランスを入力として,対象の皮膚の光老化及び/又は色素沈着度を評価して出力する手順;を含む,対象の皮膚の光老化及び/又は色素沈着度の評価方法。
【0068】
あらかじめ設定した皮膚のM1/M2バランスの基準値に関するデータを記憶するデータベース部;対象の皮膚のM1/M2バランスに関するデータを入力するデータ入力部;前記データベース部で記憶されている基準値を参照し,前記データ入力部により入力された前記対象の皮膚のM1/M2バランスに関するデータと比較して計算する,計算部;前記計算部による計算結果に基づいて前記皮膚の光老化及び/又は色素沈着度を評価する評価部;並びに,前記評価部により評価した結果を表示する表示部を有する,対象の皮膚の光老化及び/又は色素沈着度を評価するシステム。
【0069】
対象の皮膚のM1/M2バランスに関するデータを用いて,対象の皮膚の光老化及び/又は色素沈着度を算出する光老化及び/又は色素沈着度算出装置であって,前記装置は,対象の皮膚のM1/M2バランスに関するデータが入力されると,前記対象の光老化及び/又は色素沈着度を算出する算出部を備え,前記算出部は,皮膚のM1/M2バランスに関するデータが入力された際に,推定される光老化及び/又は色素沈着度を算出するように,教師データを用いた機械学習処理が施された学習済みニューラルネットワークを有する,光老化及び/又は色素沈着度算出装置。
【0070】
本発明の方法,システム,装置により,M/M2バランスに基づいた客観的な光老化及び/又は色素沈着度の測定が可能になる。
【実施例0071】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお,本発明はこれにより限定されるものではない。
【0072】
実験1:組織染色
図1aに示す年齢の若齢者(20代~30代)及び光老化が起こっている高齢者(60代~70代)の白人由来の目尻の皮膚を凍結切片にし,薄切後,以下に示すマクロファージのマーカーで染色した。
(1)M1マクロファージの染色:ヤギ由来の抗ヒトCD86抗体(R&D)とウサギ由来の抗ヒトCD11b抗体(abcam)で二重染色を行った(
図1b)。
(2)M2マクロファージの染色:マウス由来の抗ヒトCD206抗体(BD)又はマウス由来抗ヒトCD163抗体(Leica)とウサギ由来の抗ヒトCD11b抗体(abcam)で二重染色を行った(
図1c)。
(3)総マクロファージの染色:マウス由来の抗ヒトCD68抗体(abcam)とウサギ由来の抗ヒトCD11b抗体(abcam)で二重染色を行った。
【0073】
表皮直下200μmまでの(1)~(3)の抗体二重に陽性の細胞を各マクロファージとして計数した(
図1d)。また,M1,M2マクロファージとコラーゲン産生との関わりを検討する目的で,ヤギ由来の抗ヒトCD86抗体(R&D)とラット由来の抗プロコラーゲン抗体(Millipore),又はマウス由来抗ヒトCD206抗体(BD)とラット由来の抗プロコラーゲン抗体(Millipore)で二重染色した(
図1e左)。
【0074】
(1)~(3)の組織染色を
図1b,cに,計数結果のグラフを
図1dに,M1,M2マクロファージ抗体と抗プロコラーゲン抗体で二重染色した結果を
図1e左に示す。
図1b,c,dに示すように,光老化が起こっている高齢者では,M1マクロファージが多く見られる一方,M2マクロファージは減少していた。より具体的には,
図1bに示すように,若齢者では血管周辺のみにM1マクロファージが存在する一方,高齢者では組織全体的に散在していた。また,
図1cに示すように,若齢者ではM2マクロファージが組織全体に存在する一方,高齢者ではその数が減少していた。更に,
図1dに示すように,若齢者と高齢者間で,マクロファージの総数(M1の数+M2の数)は変化せず,M1/M2バランスのみが変化していた。若齢者では,M1に対するM2の比率(M2の数/M1の数)が約5/5~約7/3の範囲内にある一方,高齢者ではM1に対するM2の比率が激しく減少しM1/M2バランスが大きく崩れ,若齢者のものとは著しく異なっていた。
【0075】
更には,
図1e左上の2枚の写真のように,若齢者・高齢者にかかわらず,M1マクロファージとプロコラーゲンとの位置はずれている一方,左下の2枚の写真のようにM2マクロファージとプロコラーゲンでは位置の一致が見られた。このことから,
図1e右図の模式図で示すような,M1がコラーゲンの破壊を促進し,M2がコラーゲン生成を促進するように線維芽細胞に作用している可能性が示唆される。
【0076】
実験2:THP-1のM1,M2分化刺激実験
非特許文献1に記載の方法に従い,ヒト由来の株化細胞であるTHP-1を用いて,M1,M2マクロファージへ分化誘導した。具体的には,
図2aに示す方法で,THP-1をRPMI1640(Nakalai)に1mM Na Pyruvate(Nakalai),2mM L Glutamine(Nakalai),10% FBSを添加して培養した。その後,100nM PMA(abcam)をさらに加えて24時間刺激しマクロファージに分化させた。M1に分化させる際はさらに100ng/mL LPS(sigma)と20ng/mL IFNγ(R&D)を加えて24時間刺激し,M2に分化させる際はさらに20ng/ml IL-4(R&D)と20ng/mL IL13(R&D)を加えて24時間刺激した。顕微鏡で観察し,
図2bに示すように形態が変化したことを確認した。
【0077】
また,それぞれの分化後又は未分化の状態のままの細胞のmRNAを抽出し,IL-1beta,TNF-alpha,IL-10のプローブ(Applied Biosystems)を用いてTaqMan Gene expression assayによるrealtime PCRを行い,発現量を定量した(
図2c上図)。更に,実験1と同じCD86抗体(R&D),CD206抗体(BD)を用い,同様にPCRを行い発現量を定量した(
図2c下図)。それぞれの値はGAPDHのmRNA発現量で補正した。
【0078】
図2cに示すように,実験2に記載の方法により分化させたマクロファージがそれぞれ,M1に特徴的な炎症性サイトカイン(IL-1beta,TNF-alpha)及びM2に特徴的な抗炎症性サイトカイン(IL-10)を産生することが示された。更に,これらの分化誘導マクロファージがそれぞれM1,M2マクロファージの表面マーカーであるCD86,CD206発現の増加を示した。これらの結果より,分化誘導が成功したことが確認された。よって,実験2の方法で分化させたM1,M2マクロファージ及び未分化のM0マクロファージを以下の実験3,4で用いた。
【0079】
実験3:M1,M2マクロファージ上清の線維芽細胞への添加実験
図3aに示すように,実験2と同様の方法でTHP-1をM1,M2に分化後又はM0の未分化の状態のまま,上清を除き,PBSで1度洗浄した後,培地を加えて48時間培養した。炎症性・抗炎症性サイトカインといったM1,M2の分泌物を含むそれらの上清を新生児由来線維芽細胞に添加した。対照(control)としてRPMI1640(Nakalai)を添加した細胞を用いた。上清の添加後,線維芽細胞を72時間培養し,上清中のプロコラーゲン量をPIP ELISA kit(TAKARA)で定量した(
図3b)。細胞画分はウサギ由来の抗ヒトコラーゲン抗体(CEDERLANE)とビオチン化ヒアルロン酸結合タンパク(HOKUDO)で染色した(
図3c)。さらに,β-galを老化指標として用い,細胞の核をDAPIで染めた後,細胞内のβ-galをSenescence Detection Kit(abcam)を用いて染色し(
図3d),β-gal陽性細胞及びDAPI陽性細胞の数を計数した(
図3e)。
【0080】
更に,M1マクロファージ,M2マクロファージのメラニン産生への寄与度を検討するために,上記と同様にそれぞれのマクロファージの上清を線維芽細胞に添加して培養した。その後,線維芽細胞を回収してmRNAを回収し,HGF,ET1,bFGF,IL-1alpha,SCF,clusterinのプローブを用いてreal time PCRを行いそれぞれのmRNA発現量を定量した(
図3f)。
【0081】
結果を
図3b~3fに示す。
図3bは,各マクロファージ(M1,M2)の上清を線維芽細胞に添加して72時間培養した後のプロコラーゲン量を示す。
図3cは,各マクロファージ(M1,M2)の上清を添加して72時間培養した後の線維芽細胞におけるコラーゲン及びヒアルロン酸の局在を示す。
図3b,cより,M1は顕著にコラーゲン産生を抑制することがわかる。
図3dは,各マクロファージ(M1,M2)の上清を添加して72時間培養した後の線維芽細胞における細胞内β-galを示す。
図3dより,M1ではβ-gal陽性細胞が増え老化を促進する一方,M2は老化を抑制することが示唆される。
図3eは,β-gal陽性細胞及びDAPI陽性細胞の数を計数したグラフを示す。右図はウェルあたりのDAPI陽性細胞の総数を示す。
図3e右図より,M2は細胞の老化を抑制するのみならず,細胞の増殖を促進することが示唆される。
図3e左図は,DAPI陽性細胞総数あたりのβ-gal陽性細胞の数の割合(%)を示し,M1は老化及び細胞死促進作用がある一方,M2は老化抑制及び細胞増殖作用があることが示唆される。更に,
図3fに示すように,メラノジェネシス関連因子のmRNA発現はM1によりメラニン産生を増加する方向に作用する一方,M2によりメラニン産生を抑制する方向に作用したこともわかった。非特許文献6に報告されるように,線維芽細胞は,UV等の光刺激によりSCF,HGF等の因子を分泌し細胞死を引き起こすことが知られている。また,非特許文献7~9に報告されるように,線維芽細胞は,光刺激によりHGF,ET1,bFGF,SCF,clusterin等の因子を分泌することによりメラノサイトに直接的又は間接的に作用してメラニンを産生する。よって,光刺激による細胞死やメラニン産生は,M1/M2のバランスの崩れによるものであることが示唆される。
【0082】
実験4:M1,M2マクロファージ上清の若齢及び老齢線維芽細胞への添加実験
次に,M2マクロファージの抗老化効果が老化した線維芽細胞にも有用か,つまり,若返り効果があるか,を確認する目的で,M1,M2マクロファージ上清を若齢及び老齢細胞に添加し,線維芽細胞の年齢の違いによるマクロファージ上清の効果の違いを検討した。
【0083】
具体的には,実験3と同じ方法で収集したそれぞれのマクロファージ上清を,新生児ヒト包皮由来線維芽細胞(若齢由来線維芽細胞)と68歳ヒト由来線維芽細胞(老齢由来線維芽細胞)に添加し,72時間培養した。その後,実験3と同様の方法でβ-gal及びDAPI染色を行い,β-gal陽性細胞及びDAPI陽性細胞の数を計数した(
図4a,4b)。更に,実験3と同様にM1,M2の上清を若齢および老齢由来線維芽細胞に添加し,線維芽細胞を72時間培養し,上清中のプロコラーゲン量をPIP ELISA kit(TAKARA)で定量し(
図4c),ウサギ由来抗ヒトコラーゲン抗体(CEDERLANE)とDAPIで染色した(
図4d)。
【0084】
図4aは,β-galの染色図を示す。
図4bは若齢由来線維芽細胞および老齢由来線維芽細胞のβ-gal陽性細胞数及びウェルあたりの細胞総数の結果をグラフ化したものを示す。
図4a下図より,老齢細胞であっても,M2上清を添加することによりβ-gal陽性細胞が著しく減少し老化が抑制されたことがわかった。また,
図4bより,年齢にかかわらず,M1により老化が促進され,M2により老化が抑制されることもわかった。このことは,
図4c,dに示されるように,年齢にかかわらず,M1上清を添加した細胞では,M2上清に比べて顕著にコラーゲン産生量が低いという結果によっても支持される。
【0085】
実験5:M1マクロファージ,M2マクロファージと新生児包皮由来線維芽細胞との共培養実験
新生児包皮由来芽細胞と同数のM1又はM2マクロファージ(実験2の方法で作成)をRPMI1640(Nakalai)で培養した時と新生児包皮由来線維芽細胞とその半分の数のM1又はM2マクロファージをRPMIで培養した時に産生されるコラーゲン量をウサギ由来抗ヒトコラーゲン抗体(CEDERLANE)で染色し比較した。同時にマウス由来抗ヒトCD68抗体(abcam)でも染色し,マクロファージを可視化した。
【0086】
結果を
図5に示す。新生児包皮由来芽細胞でも,M1上清を添加するとコラーゲンが減少される一方,M2を添加するとコラーゲンが多く見られた。つまり,若齢細胞であっても,M1/M2バランスが崩れるとコラーゲンに影響を及ぼすことがわかった。
【0087】
実験6:3D皮膚モデルを用いたM1/M2バランスの崩れによる影響
M1/M2マクロファージが表皮細胞や線維芽細胞へ及ぼす影響を検討するために,以下の表に記載のような3層構造からなる三種類の3D皮膚モデルを作成した。
【表1】
【0088】
3D皮膚モデルの作成は次のように行った。セルカルチャーインサート(φ12mm,多孔膜の平均孔径:0.4μm)にヒト真皮線維芽細胞(0.2×106個)を播種し,200μM アスコルビン酸―2-リン酸マグネシウム(APM),10%FBS-DMEMを用いて2日に1回培地交換して1週間培養した。その上に,対照モデルにはヒト真皮線維芽細胞を含んだ0.5%I型コラーゲン-10%FBS-DMEM溶液,M1モデル,M2モデルにはさらに実験2の方法で分化させたM1マクロファージ,M2マクロファージをそれぞれ30,000細胞添加したものをそれぞれ分注して,ヒト真皮線維芽細胞の上にコラーゲンゲルを作製し,1~5日間培養した。
【0089】
さらにHumedia-KG2(クラボウ)培地中に分散した表皮角化細胞を5×105個/ウェルとなるようにコラーゲンゲルの上に播種し,インサート外にHumedia-KG2と10%FBS-DMEMを1:1で混合し200μM APMを添加した培地を内側と同じ液面高さまで添加して3日間培養した。
【0090】
その後,インサートまたはガラスリング内の培地を取り除き,外側に皮膚モデル用培地(10%FBS-DMEMとHumedia-KG2 EGF(-)を1:1で混合してCa 1.8mMに調製)に200μM APM,10μM N-ヒドロキシ-2-[[(4-メトキシフェニル)スルホニル]3-ピコリル)アミノ]-3-メチルブタンアミド塩酸塩(CGS27023A(MMP阻害剤)),10μM BIPBIPU(ヘパラナーゼ阻害剤)をインサートの底面の高さまで添加して,インサート内部を空気に曝した状態で気液境界培養を行った。2~3日に1回培地交換して2週間培養した。
【0091】
培養を終えた皮膚モデルを4% PFA/PBS(Nakarai)で固定後,実験1と同様の方法で抗CD206抗体(abcam),抗CD68抗体(abcam),抗CD86抗体(abcam)で染色し,M1,M2マクロファージの存在を確認した(
図6)。その後,抗p21抗体(abcam),DAPI(VECTOR)で染色し,表皮細胞層および線維芽細胞層それぞれにおいてDAPIで染色された細胞の数を全細胞数とし,そのうち抗p21抗体にも染色された細胞の数をp21陽性細胞数として計数した。全細胞数に対するp21陽性細胞数の割合を以下の式により求めた。
【数2】
【0092】
結果を
図7,8に示す。これらの図に示すように,中間層に接している上層の表皮細胞層および下層の線維芽細胞層のいずれでも対照モデル(cont)に対し,M1モデル(M1)ではp21陽性細胞が増加し,一方M2モデル(M2)では減少していた。この傾向は,単層培養物を用いた実験3と一致していた。従って,ヒト皮膚により近い3D皮膚モデルにおいても,M1マクロファージは老化及び細胞死促進作用がある一方,M2マクロファージは老化及び細胞死抑制作用があることが示唆される。
【0093】
実験7:ヒト皮膚を用いたex vivoモデルへの太陽光照射実験
Genoskin社製NativeSkin(38歳女性から採取後の皮膚)を到着後付属の培養液で1日培養した。翌日にOriel社製1000Wソーラーシミュレーターに光学フィルターを入れて,UVAとUVBのみを11.5 J/cm2照射し,付属の培養液で培養を続けた(照射(+))。対照として照射を行わない試料を用いた(照射(-))。照射5日後サンプルを回収し,実験1と同様にM1マクロファージ,M2マクロファージ,総マクロファージを染色し,その数を数えてグラフとした。
【0094】
結果を
図9に示す。ソーラーシミュレーターを照射すると,M1数は最も増加した。一方,M2数の増加はM1の場合に比べて非常に小さかった。つまり,光刺激により,M1/M2のバランスが崩れM1の比率が増加することがわかった。
【0095】
実験8:ヒト皮膚を用いたex vivoモデルへの伸展刺激実験
次に,M1/M2バランスを調整又は改善する方法について検討した。
試料:Genoskin社製NativeSkin(38歳女性から採取後の皮膚)(6well size,直径約2~2.5cm)を使用した。
伸展条件:
図11に示すようなウェル内の皮膚の両端を把持する把持部を有し,把持部を引っ張ることにより皮膚を伸展させる伸展器具を作成した。上記組織片が入ったウェルを水平に設置し,把持部を操作して両端から皮膚を伸展させ
図10に示すように10%の伸展率となる伸展を10%/sの速度で行い,10%/sの回復速度にて試料を元の非伸展状態に戻した。これを1サイクルとし,合計90サイクルを30分間かけて行った。この90サイクルを1セットとし,セット間に30分~1時間の休止時間を設けて合計3セット(合計270サイクル)を3時間かけて行った。対照として伸展刺激を行わない試料を用いた(control)。
【0096】
観察方法:伸展刺激を与えた又は与えない皮膚試料について,総マクロファージの染色をウサギ由来の抗ヒトCD11b抗体(abcam)のみで染色した以外は実験1と同様の方法で,にM1マクロファージ,M2マクロファージ,総マクロファージを染色し,その数を計数した。全マクロファージの総数に対する各マクロファージ(M1,M2)の割合(%)を求めてグラフとした。
【0097】
結果を
図12に示す。対照に比べ,伸展刺激を与えた試料では,マクロファージの総数とM1の数はあまり変化がなかったが,M2の数は非常に増加した。つまり,伸展刺激により,M1/M2のバランスが改善することがわかった。
【0098】
実験9:M1/M2バランスを調整又は改善することにより光老化及び/又は色素沈着を予防及び/又は改善する抗光老化及び/又は色素沈着剤のスクリーニング
M1/M2バランスを調整又は改善する薬剤のスクリーニングを行った。
スクリーニング対象薬剤として,オトギリソウ抽出物,タイム抽出物,トラネキサム酸メチルアミド(N-メチル-トランス-4-(アミノメチル)シクロヘキサンカルボキサミド)を含む合計19種の成分について検討した。オトギリソウ抽出物は一丸ファルコスより購入したオトギリソウ地上部の抽出物である。タイム抽出物は香栄興業より購入したワイルドタイムの全草の抽出物である。トラネキサム酸メチルアミドは特許文献14に記載の方法で合成した。オトギリソウ抽出物は50%エタノール,タイム抽出物はブチレングリコール,トラネキサム酸メチルアミドはPBSに溶解した。
【0099】
実験2と同じTHP-1細胞をM0の未分化の状態のまま用い,37℃で一晩培養した。上記各スクリーニング対象薬剤を培地に対しオトギリソウ抽出物は0.1%,タイム抽出物は0.1%,トラネキサム酸メチルアミドは0.06%,0.03%となるようにそれぞれ添加し,対照にはこれらの溶媒を同量添加し,37℃で二晩培養した。細胞を回収してRNAを抽出し,CD86とGAPDHの発現量をreal time PCRで定量し,CD86/GAPDHを測定した。対照(cont)より再現性をもってCD86/GAPDH値が低下する薬剤を,M1分化抑制剤として探索した。
【0100】
結果を
図13に示す。
図13より,オトギリソウ抽出物,タイム抽出物,トラネキサム酸メチルアミドを添加するとCD86/GAPDH値が有意に減少し,M1分化抑制作用があることが示され,M1/M2バランス調整/改善剤として使用できることが示唆される。
【0101】
実験10:M1/M2バランスを調整又は改善することにより光老化及び/又は色素沈着を予防及び/又は改善する抗光老化剤のスクリーニング
更に多くの数の薬剤についてスクリーニングを行うために,オウバク抽出物,ユーカリ抽出物を含む合計8種の各種成分について実験9と同様の方法で検討した。オウバク抽出物はミカン科キハダ樹皮の乾燥物,ユーカリ抽出物はユーカリ葉の抽出物を使用した。オウバク抽出物はブチレングリコールに0.01%となるように溶解し,ユーカリ抽出物は50%エタノールに0.1%となるように溶解した。対照にはこれらの溶媒を用いた。
【0102】
実験9と同じ方法で,薬剤の添加,細胞の回収,RNAの抽出,CD86/GAPDHの測定を行い,対照(cont)より再現性をもってCD86/GAPDH値が低下する薬剤を,M1分化抑制剤として探索した。結果を
図15に示す。
図15より,実験9の薬剤に加え,オウバク,ユーカリ抽出物もM1/M2バランス調整/改善剤として使用できることが示唆される。
【0103】
実験11:M1,M2マクロファージ上清のコラーゲンに対する影響
実験3に加えて,M1マクロファージ,M2マクロファージのコラーゲン分解への寄与度を検討するために,実験3と同様の方法でそれぞれのマクロファージの上清を線維芽細胞に添加して培養し,72時間後mRNAを回収した。コラーゲン分解の指標としてMMP-1,MMP-2,およびIL-1βのプローブ(Applied Bioosystems社製Taqman probe)を用いてreal time PCRを行いそれぞれのmRNA発現量を定量した(
図16a)。
【0104】
更に,M1マクロファージ,M2マクロファージのコラーゲン産生・成熟化への寄与度を検討するために,実験3と同様の方法でそれぞれのマクロファージの上清を線維芽細胞に添加して培養し,72時間後mRNAを回収した。コラーゲン産生・成熟化の指標としてCOL1A1,COL1A2,HSP47,およびADAMTS-2のプローブ(Applied Bioosystems社製Taqman probe)を用いてreal time PCRを行いそれぞれのmRNA発現量を定量した(
図16b)。
【0105】
図16a,bより,M1はコラーゲン分解に寄与する一方,M2はコラーゲン産生・成熟化に寄与することが確認された。
【0106】
実験12:若年及び高齢者のヒト皮膚を用いたex vivoモデルにおけるコラーゲンの分解及び産生
図17aに示す年齢の若齢者(20代~30代)と高齢者(60代~80代)の白人由来のこめかみの皮膚を実験1と同様に凍結切片にし,薄切後,3/4側のコラーゲン切断断片を染色する抗プロコラーゲン抗体(millipore),抗断片化コラーゲン(AdipoGen),並びに実験1と同じCD68,CD11b,CD206,CD86抗体を用い,実験1と同様の方法で陽性細胞をカウントした。
【0107】
結果を
図17b,c,dに示す。若年群に比べて高齢群ではM1マクロファージの割合が高くM2マクロファージの割合が低くなっていた。しかしながら,年齢にかかわらず,3/4コラーゲン陽性を示す線維芽細胞に比べて3/4コラーゲン陽性を示すマクロファージの数が多く,さらに3/4コラーゲン陽性を示すM1マクロファージよりも3/4コラーゲン陽性を示すM2マクロファージ数が多い傾向にあった。
【0108】
実験13:真皮におけるメラニンの取り込み能力を示すin vitro実験
実験3と同様の方法でTHP-1細胞を分化させて得たM1マクロファージとM2マクロファージに分化させた。分化したそれぞれのM1マクロファージ,M2マクロファージ,および線維芽細胞(クラボウ社製)にメラニン溶液(Sigma社,Melanin-BioReagent, Synthetic, suitable for cell culture)をPBSに溶解し0.02% W/Vに調整し添加した。24時間後に細胞をPBSで洗浄後,顕微鏡で撮影し,細胞を回収した。回収した細胞の細胞数をアラマーブルー(Life Technologies)で,メラニン量を下記のように計測し,定量した。
【0109】
メラニンの定量:
それぞれの細胞の培地(マクロファージ:RPMI1640, 線維芽細胞:1DMEM)で1:10に調整したアラマーブルーを添加後,37℃で30分間培養した。その後,その上清を100ul/well回収し,excitement/emission:544nm/590nmで蛍光をAscent(Thermo社)で計測した。計測後,PBSで洗浄し,1M NaOHを添加後室温で3時間インキュベートし,完全に融解した。この細胞溶液をOD475にてPOWERSCAN HT(DS PHARMA BIOMEDICAL)を用いて計測した。
【0110】
結果を
図18a~cに示す。図中の単位「melanin/almar blue」は,培養細胞をアラマーブルーで染色し上清を蛍光を544nm/590nmで計測した強度((1))と,その後細胞を溶解しメラニンも溶解させたものを吸光度475nmで計測した強度((2))の相対値((2)/(1))であり,細胞あたりのメラニン含有量を示す。これらの図より,M2が非常に多くのメラニンを貪食していることがわかった。この傾向は24時間後でも既に見られたが,5日後まで細胞の培養を続けて観察したところ,その差はより明確となった(
図18c)。
【0111】
実験14:真皮におけるメラニンの取り込み能力を示すEx vivoの実験
実験13によってM2マクロファージが線維芽細胞やM1マクロファージよりも多くのメラニンを貪食することがわかったため,実験13でカウントしたヒト皮膚の真皮層をLSM880(カールツァイス社製)を用いてex vivoで観察した。高齢でも若齢でも,明視野で観察した時にM2マクロファージはメラニンが黒く一緒に染まるのに対し,M1マクロファージの近くにはメラニンが存在しないことがわかった。これにより,真皮においてM2マクロファージが線維芽細胞やM1マクロファージより多くのメラニンをとりこんでいることがex vivoでわかり,その数をカウントしグラフ化した(
図19)。
【0112】
図19より,老齢でも若年でもメラニンを取り込んでいるM2マクロファージの数がM1マクロファージの数より多く,この傾向には年齢差があまりみられなかった。この結果より,真皮のメラニンを取り込むのはM2マクロファージであるため,M2マクロファージの割合を増やしてM1/M2バランスを整えれば真皮における色素沈着を予防及び/又は改善できることが示唆される。
【0113】
光老化によりM1の割合が増加することが示され(実験7),M2の割合が高いほうが皮膚コラーゲン量が多くなり(実験11,12)色素貪食作用も高くなる(実験13,14)傾向が示されたため,M1分化抑制剤としてスクリーニングされたトラネキサム酸メチルアミド等の本発明の化合物,タイム抽出物,オウバク,及びユーカリ抽出物,並びにM1/M2バランス改善作用のある本発明の物理刺激は抗光老化及び/又は色素沈着抑制効果が高いことが示唆される。
【0114】
以上の結果により,光刺激により,M1/M2のバランスの不均衡が生ずることにより,光のあたった皮膚で光老化が引き起こされたり,真皮では色素が沈着するが,M1/M2のバランスを調整又は改善することにより,光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善できることが示唆される。M1/M2のバランスの調整又は改善は,伸展刺激や押圧刺激を与えることや,トラネキサム酸メチルアミド等の本発明の化合物,オトギリソウ抽出物,タイム抽出物,オウバク,及び/又はユーカリ抽出物等のM1分化抑制作用がある成分をM1/M2バランス調整/改善剤として適用することにより達成され,ひいては光老化及び/又は真皮色素沈着の予防及び/又は改善が期待される。
本発明により,光老化及び/又は真皮色素沈着の予防及び/又は改善,光老化及び/又は真皮色素沈着度の評価,抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤及び抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制美容処置の探索が可能になる。
M1マクロファージに対するM2マクロファージの比率を上昇させることにより光老化及び/又は真皮色素沈着を予防及び/又は改善するための抗光老化及び/又は真皮色素沈着抑制剤。
M1マクロファージに対するM2マクロファージの比率は,M2マクロファージの数/M1マクロファージの数又はM2マクロファージマーカーの量/M1マクロファージマーカーの量である,請求項1に記載の薬剤。
M1マクロファージに対するM2マクロファージの比率は,M2マクロファージの数/M1マクロファージの数又はM2マクロファージマーカーの量/M1マクロファージマーカーの量である,請求項3又は4に記載の美容方法。