(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037929
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】多能性幹細胞を所望の細胞型へ効率的に分化する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0793 20100101AFI20240312BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20240312BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240312BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20240312BHJP
【FI】
C12N5/0793
C12N5/077
C12N5/071
C12N5/078
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212588
(22)【出願日】2023-12-16
(62)【分割の表示】P 2018034004の分割
【原出願日】2018-02-27
(31)【優先権主張番号】62/465,188
(32)【優先日】2017-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/523,324
(32)【優先日】2017-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】516148173
【氏名又は名称】エリクサジェン,エルエルシー.
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(72)【発明者】
【氏名】洪 実
(57)【要約】 (修正有)
【課題】短時間・高効率に所望の細胞型への分化誘導を行う方法を提供する。
【解決手段】以下の1)~2)の工程を含む多能性幹細胞を運動ニューロンへ分化させる方法であって、1)運動ニューロンへの分化誘導に必要な転写因子であるNEUROG3を含む温度感受性センダイウイルスベクターを、細胞培地中の多能性幹細胞に添加する工程、及び、2)該多能性幹細胞を培養して、運動ニューロンへ分化させる工程、ここで、該1)の工程において、該細胞培地の温度が30~36℃であり、並びに、該2)の工程において、該多能性幹細胞を37~38℃で培養することを特徴とする、分化させる方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の1)~2)の工程を含む多能性幹細胞を運動ニューロンへ分化させる方法、
1)運動ニューロンへの分化誘導に必要な転写因子であるNEUROG3を含む温度感受性センダイウイルスベクターを、細胞培地中の多能性幹細胞に添加する工程、及び、
2)該多能性幹細胞を培養して、運動ニューロンへ分化させる工程、
ここで、該1)の工程において、該細胞培地の温度が30~36℃であり、並びに、該2)の工程において、該多能性幹細胞を37~38℃で培養することを特徴とする、
分化させる方法。
【請求項2】
以下の1)~2)の工程を含む多能性幹細胞を運動ニューロンへ分化させる方法、
1)運動ニューロンへの分化誘導に必要な転写因子であるNEUROG3を含む温度感受性センダイウイルスベクターを、細胞培地中の多能性幹細胞に添加する工程、及び、
2)該多能性幹細胞を培養して、運動ニューロンへ分化させる工程、
ここで、該1)の工程において、該細胞培地の温度が30~36℃であり、該2)の工程において、該多能性幹細胞を37~38℃で培養すること、並びに、該運動ニューロンの分化効率は約90%であることを特徴とする、
分化させる方法。
【請求項3】
以下の1)~2)の工程を含む多能性幹細胞を運動ニューロンへ分化させる方法、
1)運動ニューロンへの分化誘導に必要な転写因子であるNEUROG3を含む温度感受性センダイウイルスベクターを、細胞培地中の多能性幹細胞に添加する工程、及び、
2)該多能性幹細胞を培養して、運動ニューロンへ分化させる工程、
ここで、該1)の工程において、該細胞培地の温度が30~36℃であり、該2)の工程において、該多能性幹細胞を37~38℃で培養し、該運動ニューロンの分化効率は約90%でであり、並びに、1種類の基礎細胞培養培地を使用することを特徴とする、
分化させる方法。
【請求項4】
前記1)の工程において、前記多能性幹細胞は、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた多能性幹細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
さらに、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物をコードする遺伝子を前記多能性幹細胞に添加する工程を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物をコードする遺伝子は、POU5F1に対するsiRNAである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
以下の1)~2)の工程を含む多能性幹細胞を骨格筋細胞へ分化させる方法、
1)骨格筋細胞への分化誘導に必要な転写因子であるMYOD1を含む温度感受性センダイウイルスベクターを、細胞培地中の多能性幹細胞に添加する工程、及び、
2)該多能性幹細胞を培養して、骨格筋細胞へ分化させる工程、
ここで、該1)の工程において、該細胞培地の温度が30~36℃であり、並びに、該2)の工程において、該多能性幹細胞を37~38℃で培養することを特徴とする、
分化させる方法。
【請求項8】
以下の1)~2)の工程を含む多能性幹細胞を骨格筋細胞へ分化させる方法、
1)骨格筋細胞への分化誘導に必要な転写因子であるMYOD1を含む温度感受性センダイウイルスベクターを、細胞培地中の多能性幹細胞に添加する工程、及び、
2)該多能性幹細胞を培養して、骨格筋細胞へ分化させる工程、
ここで、該1)の工程において、該細胞培地の温度が30~36℃であり、該2)の工程において、該多能性幹細胞を37~38℃で培養し、並びに、該骨格筋細胞の分化効率は75%以上であることを特徴とする、
分化させる方法。
【請求項9】
以下の1)~2)の工程を含む多能性幹細胞を肝細胞へ分化させる方法、
1)肝細胞への分化誘導に必要な転写因子であるFOXA1及びHNF1Aを含む温度感受性センダイウイルスベクターを、細胞培地中の多能性幹細胞に添加する工程、及び、
2)該多能性幹細胞を培養して、肝細胞へ分化させる工程、
ここで、該1)の工程において、該細胞培地の温度が30~36℃であり、並びに、該2)の工程において、該多能性幹細胞を37~38℃で培養することを特徴とする、
分化させる方法。
【請求項10】
以下の1)~2)の工程を含む多能性幹細胞を肝細胞へ分化させる方法、
1)肝細胞への分化誘導に必要な転写因子であるFOXA1及びHNF1Aを含む温度感受性センダイウイルスベクターを、細胞培地中の多能性幹細胞に添加する工程、及び、
2)該多能性幹細胞を培養して、肝細胞へ分化させる工程
ここで、該1)の工程において、該細胞培地の温度が30~36℃であり、該2)の工程において、該多能性幹細胞を37~38℃で培養し、並びに、該1)及び2)の全培養日数が8日間であり、かつ2種類の基礎細胞培養培地を使用することを特徴とする、
分化させる方法。
【請求項11】
以下の1)~2)の工程を含む多能性幹細胞を造血細胞へ分化させる方法、
1)造血細胞への分化誘導に必要な転写因子であるSPI1を含む温度感受性センダイウイルスベクターを、細胞培地中の多能性幹細胞に添加する工程、及び、
2)該多能性幹細胞を培養して、造血細胞へ分化させる工程、
ここで、該1)の工程において、該細胞培地の温度が30~36℃であり、並びに、該2)の工程において、該多能性幹細胞を37~38℃で培養することを特徴とする、
分化させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞を所望の細胞型へ効率的に分化する方法に関する。
本出願は、参照によりここに援用されるところの米国仮出願番号62/465,188及び米国仮出願番号62/523,324号優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
ヒト胚性幹細胞(hESCs)及びヒト人工多能性幹細胞(hiPSCs)等のヒト多能性幹細胞(hPSCs)は、インビトロでヒト体内の全ての細胞型になる可能性を有する。細胞移植療法及び薬物スクリーニングのためのhPSCsから分化したニューロン、筋肉及び他の細胞型の使用は、過去20年間広く研究され、実用化を検討されてきた。しかしながら、実用化は制限されており、主な障害の1つは、hPSCsをニューロン及び筋肉等の所望の細胞型へ分化させることの困難性である。
【0003】
最も一般に使用されている方法は細胞培養環境の連続的な変化による段階的な分化(step-by-step differentiation)である(非特許文献1)。これらの分化工程は、よく確立され広く使用されてきたが、速度とスケールの両面において根本的な制限を有しており、さらに、プロセスは比較的遅く、所望の細胞型である機能的なニューロンの形成までに数週間かかる。
【0004】
他の方法として、PSCsは、プラスミド、ウイルス及び他のベクターにより転写因子(TFs)を誘導又は過剰発現することにより急速かつ効率的に分化させることができる(非特許文献2)。
【0005】
本発明者らは、TFsをコードする合成mRNAのカクテルのhPSCsへの導入により骨格筋(非特許文献3)、運動ニューロン(非特許文献4)及び涙腺上皮様細胞(非特許文献5)への迅速かつ効率的な分化を報告している。合成mRNAに基づく分化方法は、多くの望ましい特徴を有する。mRNAは、細胞ゲノムへ組込まれず、安全なフットプリントフリーの遺伝子産物の運搬を達成する。しかしながら、この方法は、細胞中への合成mRNAの複数回の導入(トランスフェクション)、典型的には数日間連続で、1日1回又は2回のトランスフェクションを必要とする。このように、当該工程は実験者の負担が大きく、熟練の技術を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Huet al., 2010, PNAS 107, 4335-4340.
【非特許文献2】Busskamp et al., 2014, Molecular Systems Biology 10, 760; Hester etal., Molecular Therapy, 19, 1905-1912; Zhang et al., 2013, Neuron, 78, 785-798.
【非特許文献3】Akiyama et al., 2016, Development 143, 3674.
【非特許文献4】Goparaju et al., 2017, Scientific Reports 7, 42367.
【非特許文献5】Hirayama et al., npj Aging and Mechanisms of Disease 2017, 1.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の多能性幹細胞を所望の細胞型へ分化する方法では、ヒトES/iPS細胞を用いた安定した高効率な分化誘導法は未確立であった。培養条件のコントロールや様々な細胞増殖因子・分化因子などを培養液に加えることによる段階的分化誘導法など多くの試みがなされてきたが、複雑な培養ステップの使用が大きな課題である。また、細胞分化のスピードが遅く、長期間の培養を必要とすること、さらに、分化効率が低いために必要な細胞数を十分量得ることが困難であることなども、大きな問題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、転写因子を発現可能なセンダイウイルスベクターの使用、さらには、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた多能性幹細胞を使用することにより、短時間・高効率に所望の細胞型への分化誘導を行う方法を開発した。
以上により、本発明は完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下からなる。
1.以下の1)~2)の工程を含む多能性幹細胞を所望の細胞型へ分化させる方法、
1)所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターを細胞培地中の多能性幹細胞に添加する工程、及び、
2)該多能性幹細胞を培養して、所望の細胞型へ分化させる工程。
2.さらに、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子を前記多能性幹細胞に添加する工程を含む、前項1に記載の方法。
3.前記POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子は、POU5F1に対するsiRNAである前項2に記載の方法。
4.前記多能性幹細胞は、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた多能性幹細胞である、前項1に記載の方法。
5.前記所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターの添加回数は1回である、前項1~4のいずれか1に記載の方法。
6.前記センダイウイルスベクターは、温度感受性である前項1~5のいずれか1に記載の方法。
7.前記所望の細胞型は骨格筋細胞であり、前記転写因子はMYOD1である、前項1~6のいずれか1に記載の方法。
8.前記骨格筋細胞の分化効率は75%以上である、前項7に記載の方法。
9.前記骨格筋細胞の分化効率は75%以上であり、かつ、1種類の細胞培養培地を使用する、前項7又は8に記載の方法。
10.前記所望の細胞型は運動ニューロンであり、前記転写因子はNEUROG3である、前項1~6のいずれか1に記載の方法。
11.前記運動ニューロンの分化効率は約90%である、前項10に記載の方法。
12.前記運動ニューロンの分化効率は約90%であり、かつ、1種類の細胞培養培地を使用する、前項10又は11に記載の方法。
13.前記所望の細胞型は肝細胞であり、前記転写因子はFOXA1及びHNF1Aである、前項1~6のいずれか1に記載の方法。
14.2種類の細胞培養培地を使用する、前項13に記載の方法。
15.前記所望の細胞型は造血細胞であり、前記転写因子はSPI1である、前項1~6のいずれか1に記載の方法。
16.前記所望の細胞型はドーパミン作動性ニューロンであり、前記転写因子はFOXA1である、前項1~6のいずれか1に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多能性幹細胞を所望の細胞型へ効率的に分化させる方法では、少なくとも以下のいずれか1以上の効果を有する。
(1)多能性幹細胞から細胞分化に要する時間の短縮及び分化誘導効率の向上。
(2)所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を1回のみ添加することにより分化可能である。
(3)所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子の種類を従来の方法と比較して減らすことができる。
(4)多能性幹細胞の未分化性維持を低減させる方法及び/又は分化抵抗性を低減させる方法を組み合わせることにより、多能性幹細胞から細胞分化に要する時間の短縮及び分化誘導効率の向上。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】骨格筋への分化。(A) 典型的な実験工程の概略図。1日目にヒトiPS細胞を細胞培養皿に播種した。播種の直後にヒトMYOD1遺伝子をコードするセンダイウイルスベクターを細胞培養培地に添加した。細胞をCO
2インキュベーター中で33℃で培養した。2日目にsiPOU5F1を細胞培養培地に添加した。4日目にCO
2インキュベーターの温度を37℃に変更した。6日目に細胞分化の効率を評価するため、細胞を固定し、免疫染色に使用した。(B) 成熟した骨格筋に特異的な抗ミオシン重鎖(赤色シグナル)で免疫染色された細胞の顕微鏡画像(10×対物レンズ)。細胞は全ての細胞の核を視覚化するためにさらにDAPI(緑色シグナル)で染色した。(C) 成熟した骨格筋に特異的な抗ミオシン重鎖(赤色シグナル)で免疫染色された細胞の顕微鏡画像(20×対物レンズ)。細胞は全ての細胞の核を視覚化するためにさらにDAPI(緑色シグナル)で染色した。
【
図2】コリン作動性及び/又は運動ニューロンへの分化。(A) 典型的な実験工程の概略図。1日目にヒトiPS細胞を細胞培養皿に播種した。播種の直後にヒトNGN3遺伝子をコードするセンダイウイルスベクターを細胞培養培地に添加した。細胞をCO
2インキュベーター中で33℃で培養した。3日目にCO
2インキュベーターの温度を37℃に変更した。4日目に細胞をグラスカバースリップに再プレーティングした。6日目に細胞分化の効率を評価するため、細胞を固定し、免疫染色に使用した。(B) 全ての細胞の核を視覚化するためにDAPI(青色シグナル)で染色した顕微鏡画像(20×対物レンズ)。(C) 成熟したニューロンに特異的な抗TUBB3(β3-チューブリン)(赤色シグナル)で免疫染色された細胞の顕微鏡画像(20×対物レンズ)。(D) 成熟した運動ニューロンに特異的な抗ChAT(コリンアセチルトランスフェラーゼ)(緑色シグナル)で免疫染色された細胞の顕微鏡画像(20×対物レンズ)。(E) (C)及び(D)の合成画像。
【
図3】肝細胞への分化。(A) 典型的な実験工程の概略図。1日目にヒトiPS細胞を細胞培養皿に播種した。播種の直後にヒトFOXA1遺伝子をコードするセンダイウイルスベクター及びヒトHNF1A遺伝子をコードするセンダイウイルスベクターの等量混合物を細胞培養培地に添加した。細胞培養培地は、ROCK-inhibitor (Y27632)含有StemFit(日本登録商標)Basic02(味の素)である。細胞をCO
2インキュベーター中で33℃で培養した。2日目にsiPOU5F1を細胞培養培地に添加した。細胞培養培地を分化培地に切り替えた。5日目にCO
2インキュベーターの温度を37℃に変更した。7日目に細胞培養培地を成熟培地に切り替えた。8日目に細胞分化の効率を評価するため、細胞を固定し、免疫染色に使用した。(B) アルブミンの胎児型であり、胚性肝細胞に特異的な抗α-フェトプロテイン(AFP)(赤色シグナル)で免疫染色された細胞の顕微鏡画像(10×対物レンズ)。(C) 肝細胞に特異的な抗アルブミン(ALB)(緑色シグナル)で免疫染色された細胞の顕微鏡画像(10×対物レンズ)。(D) アルブミンの胎児型であり、胚性肝細胞に特異的な抗αフェトプロテイン(AFP)(赤色シグナル)で免疫染色された細胞の顕微鏡画像(20×対物レンズ)。(E) 肝細胞に特異的な抗アルブミン(ALB)(緑色シグナル)で免疫染色された細胞の顕微鏡画像(20×対物レンズ)。
【0012】
(本発明)
本発明の多能性幹細胞を所望の細胞型へ効率的に分化させる方法(以後、「本発明の方法」と称する場合がある)は、所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を発現可能なセンダイウイルスベクターの使用する方法であれば、特に限定されないが、下記の工程の一部又は全部を含む。
1)所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターを細胞培地中の多能性幹細胞に添加する工程
2)該多能性幹細胞を培養して、所望の細胞型へ分化させる工程。
なお、各種の化合物・転写因子・ベクター等を多能性幹細胞に添加するとは、多能性幹細胞が存在する培地に添加することも含む。
【0013】
(多能性幹細胞)
本発明の方法で使用する多能性幹細胞は、特に限定されないが、哺乳類由来が好ましく、特に好ましくはヒト由来である。例えば、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞、又は、これらの任意の組み合わせであり、特に限定されず、組織や器官由来の組織幹細胞、皮膚の繊維芽細胞、さらには組織や器官に由来するあらゆる種類の細胞を含む。
【0014】
(センダイウイルスベクター)
センダイウイルス (Sendai virus) は、パラミクソウイルス科レスピロウイルス属のウイルスの一種であり、1本鎖RNAを遺伝子として持つ。
本発明の方法で使用するセンダイウイルスベクターは、天然株、野生株、変異株、市販品(例、IDファーマ)を使用可能である。
例えば、M蛋白質にG69E、T116A、及びA183Sの変異、HN蛋白質にA262T、G264R、及びK461Gの変異、P蛋白質にD433A、R434A、K437A、及びL511F変異、そしてL蛋白質にL1361C、L1558I、N1197S、及びK1795E変異を有するF遺伝子欠失型センダイウイルスベクターを例示することができる。
また、本発明の方法で使用するセンダイウイルスベクターは、温度感受性株が好ましい。温度感受性とは、低温(例えば30~36℃)に比べ、通常の細胞培養温度(例えば37~38℃)において有意に活性が低下することである。例えばセンダイウイルスのTS 7(L蛋白質のY942H/L1361C/L1558I変異)、TS 12(P蛋白質のD433A/R434A/K437A変異、TS 13(P蛋白質のD433A/R434A/K437A変異および L蛋白質のL1558I変異、TS 14(P蛋白質のD433A/R434A/K437A変異および L蛋白質のL1361C)、TS 15(P蛋白質のD433A/R434A/K437A変異および L蛋白質のL1361C/L1558I)などの変異は、温度感受性変異であり、本発明で好適に利用することができる。
これらのセンダイウイルスベクターは、再表2015/046229を参照することができる。
【0015】
(所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子)
本発明の方法で使用する「所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子」の形態は、センダイウイルスベクターに担持することができれば、特に限定されないが、例えば、RNA, DNAなどの核酸、合成核酸等を例示することができるが特に限定されない。
また、本発明の方法において、所望の細胞型の例示として、骨格筋(骨格筋細胞)、神経細胞(運動ニューロン、ドーパミン作動性ニューロン)、肝臓(肝細胞)、軟骨細胞、骨細胞、造血細胞を例示することができる。
下記の実施例に記載のように、本発明の方法では、所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を1回のみ添加することにより分化可能である。
さらに、下記の実施例に記載のように、本発明の方法では、所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子をセンダイウイルスベクターに担持することにより、従来の方法と比較して、必要な転写因子の種類の削減に成功している。
また、下記の実施例に記載のように、本発明の方法では、所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子をセンダイウイルスベクターに担持することにより、従来の方法と比較して、分化効率を向上させることに成功している。
加えて、下記の実施例に記載のように、本発明の方法では、所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子をセンダイウイルスベクターに担持すること並びにPOU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子を前記多能性幹細胞に添加することにより、従来の方法と比較して、必要な転写因子の種類の削減並びに分化効率を向上させることに成功している。
【0016】
(本発明の多能性幹細胞を所望の細胞型へ効率的に分化誘導する方法)
本発明の方法では、好ましくは、多能性幹細胞の未分化性維持を低減させる方法、さらには、必要に応じて多能性幹細胞の所望の細胞型への分化抵抗性を低減させることができる方法を導入しても良い。以下を例示することができる。
【0017】
(未分化性維持を低減させた多能性幹細胞)
多能性幹細胞では、多能性幹細胞の未分化性維持には、転写因子であるPOU5F1(配列番号1、2:POU domain, class 5, transcription factor 1 isoform 1:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_002692、別名:OCT3、OCT4、OTF3、OTF4、OTF-3、Oct-3、Oct-4、MGC22487)の発現が必須である。POU5F1は、生殖細胞や着床前初期胚といった多能性細胞で特異的に発現している。すなわち、本発明での「多能性幹細胞の未分化性維持を低減させる」とは、多能性幹細胞のPOU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させることを意味する。なお、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させることは、POU5F1の転写・翻訳のいずれかの段階の工程を阻害する及び/又は翻訳されたPOU5F1タンパク質活性を阻害することを含み、特に限定されない。
加えて、多能性幹細胞のPOU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた状態は、該除去又は該低減させてない多能性幹細胞のPOU5F1タンパク質の発現量(又はPOU5F1遺伝子の発現量)の程度と比較することにより、確認できる。例えば、多能性幹細胞のPOU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた状態(程度)は、除去又は低減させてない多能性幹細胞のPOU5F1タンパク質の発現量を100とした場合と比較して、95~1、90~2、85~3、80~4、75~5、70~6、65~7、60~8、50~10、40~15、30~20、約25である。なお、多能性幹細胞のPOU5F1タンパク質の発現量の程度は、市販の抗POU5F1抗体を使用することにより容易に測定することができ、また、POU5F1の遺伝子発現量を自体公知の方法により測定することもできる(参照:国際公報WO2017131238号)。
【0018】
(多能性幹細胞の所望の細胞型への分化抵抗性を低減させる)
多能性幹細胞では、分化に関わる遺伝子群の各プロモーター領域に"Bivalent domain"という特殊なクロマチン構造が形成されており、幹細胞性維持状態では容易に発生・分化に関わる遺伝子群が発現しないように待機状態にある。本発明者らは、「"Bivalent domain"からH3K27me3というヒストンメチル基修飾が取り除かれる又は低減させることにより、所望の細胞型への分化誘導に必要な分化遺伝子の発現が迅速かつ効率的に促進される」ことを確認している(参照:国際公報WO2017073763号)。
すなわち、本発明での「多能性幹細胞の所望の細胞型への分化抵抗性を低減させる」とは、多能性幹細胞のH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させることを意味する。
加えて、多能性幹細胞のH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させた状態は、該除去又は該低減させてない多能性幹細胞のH3K27me3修飾の程度と比較することにより、確認できる。例えば、多能性幹細胞のH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させた状態(程度)は、除去又は低減させてない多能性幹細胞のH3K27me3修飾の程度を100とした場合と比較して、95~1、90~2、85~3、80~4、75~5、70~6、65~7、60~8、50~10、40~20、約30である。なお、多能性幹細胞のH3K27me3修飾の程度は、市販の抗Histone H3K27me3抗体を使用することにより容易に測定することができるし、また、H3K27me3の遺伝子発現量を自体公知の方法により測定することもできる。
【0019】
(標的遺伝子の修飾合成mRNAの使用)
本発明の方法では、好ましくは、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子(POU5F1のsiRNA(small interfering RNA)を発現する遺伝子、POU5F1のshRNAを発現する遺伝子、POU5F1のアンチセンス鎖を発現する遺伝子、抗体遺伝子)を多能性幹細胞に添加(導入)することを含む。
同様に、本発明の方法では、好ましくは、H3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子を多能性幹細胞に添加(導入)することを含む。
なお、本明細書の「遺伝子」とは、二本鎖の核酸だけでなく、それを構成する正鎖(又はセンス鎖)又は相補鎖(又はアンチセンス鎖)などの各一本鎖、線状、環状を含み、さらに、特に言及しない限り、DNA、RNA 、mRNA、cDNA等を含む。
加えて、標的遺伝子とは、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子、及び/又は、H3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子、並びに所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含む意味である。
【0020】
POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子又はH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子を多能性幹細胞に添加(導入)方法は、自体公知の方法を使用することができ、特に限定されない。好ましくは、宿主ゲノムへの遺伝子組込みのないフットプリントフリーな遺伝子強制発現法として、Warren, Rossiらが開発した合成mRNAを用いた遺伝子発現法(参照文献:Cell Stem Cell 7:618-630, 2010.)を使用し、合成mRNAを効率良くヒト多能性幹細胞に導入し分化誘導する方法(参照:国際公報WO2017131238号)を使用する。
なお、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子(又は、H3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子)及び所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターの多能性幹細胞の添加時期は、特に限定されない。好ましくは、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子(又は、H3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子)を所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターの添加後に多能性幹細胞に添加することが好ましい。
さらに、各遺伝子(mRNA)の添加時期及び添加時期は、特に限定されない。本発明の方法では、従来とは異なり、所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子(所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクター)及び、必要に応じてPOU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子を培養中に1回添加することにより、高効率に分化することができる。
【0021】
(転写因子のアミノ酸配列をコードする修飾mRNAの合成)
文献「Warrenet al., Cell Stem Cell, 2010 Nov5;7(5):618-30」に記載の方法を参照して、修飾mRNAを合成する。より詳しくは、mRNAは、所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子のアミノ酸配列をコードするテンプレートDNAを修飾したdNTPsの混合物{(dNTPs:3-0-Me-m7G(5′)ppp(5′)GARCA cap analog,5-methylcytidine triphosphate、及びpseudouridine triphosphate)}を用いて、試験管内での転写により合成する。
【0022】
(所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子をコードするセンダイウイルスベクターの作成)
本発明では、所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子の導入にはセンダイウイルスベクターを使用する。さらに、哺乳類(特に、ヒト)の転写因子を発現するために、好ましくは、ヒト転写因子を発現可能なセンダイウイルスベクターを使用する。特に、Fタンパク質欠損等のセンダイウイルスベクターの変異体は、感染性が無く、操作が容易である(参照:Inoue et al., J Virol. 77: 23238-3246, 2003)。
【0023】
(多能性幹細胞の所望の細胞型への高効率な分化誘導方法)
単一又は2以上の所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子又は転写因子のカクテルを調製する。転写因子の形態は、転写因子(又は複数の転写因子)を組み込んだセンダイウイルスベクターである。
【0024】
(発現ベクターの使用)
本発明の方法の工程において、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子(又は、H3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子)及び/又は所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を導入した自体公知の発現ベクターを使用することができる。本発明に用いる発現ベクターとしては、センダイウイルスベクターを例示することができる。
【0025】
上記発現ベクターを多能性幹細胞に導入する方法としては、特に制限されないが、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAE(ジエチルアミノエチル)デキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法等を例示することができるが、特に好ましくは、リポフェクション法が挙げられる。
【0026】
別方法として、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子(又は、H3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子)は、スペルミン、ホスホスペルミン等を結合させることにより、cationic siRNAとすることができる。 cationic siRNAは、transfectionのための試薬が不要である。
【0027】
(POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物)
本発明のPOU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物は、特に限定されないが、POU5F1のsiRNA、POU5F1のshRNA、POU5F1のアンチセンス鎖、POU5F1タンパク質に特異的に結合する抗体、阻害剤等である。
また、これらの化合物を単一で使用するだけではなく、複数の種類の化合物及び/又は低分子化合物を組み合わせることにより、効率的に「多能性幹細胞の未分化性を低減させる(多能性幹細胞のPOU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる)」ことができる。
【0028】
(H3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物)
本発明のH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物は、特に限定されないが、脱メチル化酵素(特に、H3K27me3のメチル基を取り除く作用を持つ脱メチル化酵素)、H3K27me3に特異的に結合する抗体、H3K27me3の修飾作用を持つポリコームタンパク質群(PcGタンパク質)の抗体、siRNA(特に、cationic siRNA)、阻害剤等である。cationic siRNA は、transfectionのための試薬が不要である。
なお、低分子化合物としては、Valproic acid等のHistone Deaceylase (HDAC)抑制剤を例示することができるが特に限定されない。
【0029】
(JMJD3)
JMJD3は、ヒストンのH3K27me3の脱メチル化酵素(マウスNP_001017426、ヒトNP_001073893)として知られており、完全長(NP_001073893、配列番号3)でも多能性幹細胞のH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させる作用を持つ。本発明者らは、JmjCドメイン{配列番号4、触媒ドメイン:配列番号5(1376-1484番目のアミノ酸)}を持つJMJD3cは、完全長JMJD3と比較して、より強くH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させる作用を持つことを確認している(参照:国際公報WO2017073763号)。
JMJD3の好ましい塩基配列は、配列番号6に記載の塩基配列である。
【0030】
(所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子の種類)
本発明の方法で使用する「所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子」の形態は、センダイウイルスベクターに担持することができれば、特に限定されないが、例えば、RNA、DNAなどの核酸、合成核酸等を例示することができるが特に限定されない。
また、本発明の方法において、所望の細胞型の例示として、骨格筋(骨格筋細胞)、肝臓(肝細胞)、神経細胞(運動ニューロン、ドーパミン作動性ニューロン)、軟骨細胞、骨細胞、造血細胞を例示することができる。
下記の実施例に記載のように、本発明の方法では、所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子をセンダイウイルスベクターに担持することにより、所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子の種類の削減及び/又は高分化効率に成功している。
【0031】
{骨格筋(特に骨格筋に存在する細胞)の分化誘導に必要な転写因子}
骨格筋の分化誘導方法は、以下の通りである。
MYOD1、NRF1、SALL4、ZIC1、KLF9、ZNF281、CTCF、HES1、HOXA2、TBX5、TP73、ERG、MAB21L3、PRDM1、NFIC、CTCFL、FOXP1、HEY1、PITX2、JUNB、KLF4、ESX1、TFAP2C、FOS、TFE3、FOSL1、GRHL2、TBX2、NFIB、IRF4から選択される単独、ないしは、2以上の転写因子を多能性幹細胞に導入する。特に、MYOD1(塩基配列:配列番号7、アミノ酸配列:配列番号8)単独を多能性幹細胞に導入することが好ましい。
【0032】
(神経細胞の分化誘導に必要な転写因子)
神経細胞(特に、運動ニューロン、ドーパミン作動性ニューロン)の分化誘導方法は、以下の通りである。
NEUROG1、NEUROG2、NEUROG3、NEUROD1、NEUROD2及びFOXA1から選択される単独、2、3、4、5又は6の転写因子をヒト多能性幹細胞に導入する。
例えば、運動ニューロン(コリン作動性及び/又は運動ニューロン)は、NEUROG3(NGN3)(塩基配列:配列番号9、アミノ酸配列:配列番号10)単独を多能性幹細胞に導入することが好ましい。
例えば、ドーパミン作動性ニューロンは、FOXA1(アクセッション番号NM_004496)単独を多能性幹細胞に導入することが好ましい。
【0033】
{肝臓(特に肝臓に存在する細胞である肝芽細胞)の分化誘導に必要な転写因子}
肝臓(特に、肝臓、胎児肝臓)の分化誘導方法は、以下の通りである。
肝臓の場合は、HNF1A、TCF-1、SALL4、TGIF1、MAB21L3、ZIC1、EGFLAM、PITX2、HNF4A、NRF1、ZNF281、CTCFL、TP73、TFE3、DLX6、TCF4から選択される単独、ないしは、2以上の転写因子をヒト多能性幹細胞に導入する。
胎児肝臓の場合は、HNF1A、TCF-1、SIX5、HNF4A、SIN3A、ID1、HNF1Aから選択される単独、ないしは、2以上の転写因子をヒト多能性幹細胞に導入する。
特に、FOXA1遺伝子及びHNF1A(塩基配列:配列番号11、アミノ酸配列:配列番号12)を多能性幹細胞に導入することが好ましい。
【0034】
(造血細胞の分化誘導に必要な転写因子)
造血細胞の分化誘導方法は、以下の通りである。
CDYL2、ETS2、SPI1、OVOL2、CDX2、CEBPB及びSALL4から選択される単独、ないしは、2、3、4、5、6又は7の転写因子をヒト多能性幹細胞に導入する。
特に、SPI1(塩基配列:配列番号18、アミノ酸配列:配列番号19)を多能性幹細胞に導入することが好ましい。
【0035】
(標的遺伝子を多能性幹細胞のゲノムに導入する方法)
本発明の方法の工程において、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子(又は、H3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子)を多能性幹細胞のゲノムに導入する方法は、自体公知の方法を使用することができ、特に限定されない。好ましくは、導入する遺伝子が積極的に多能性幹細胞(特に、ヒトES細胞ゲノム)に組み込まれるような仕組みとして、Woltjenらが開発したPiggyBacトランスポゼース認識配列(PB配列)に挟まれた発現カセット(参照文献:Nature 458:766-770, 2009.)を使用することができる。該発現カセットでは、薬剤選別カセットを導入することで、効率良く遺伝子組換え多能性幹細胞株を樹立できる系(参照:国際公報WO2017131238号)である。
【0036】
(標的タンパク質を多能性幹細胞に導入する方法)
本発明の方法の工程において、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物(又は、H3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物)(特に、タンパク質)を多能性幹細胞のゲノムに導入する方法は、自体公知の方法を使用することができ、例えば、タンパク質導入試薬を用いる方法、細胞膜透過ペプチドを付加した融合タンパク質を用いる方法、マイクロインジェクション法などを挙げることができる。
本発明での「細胞膜透過性ペプチド」は、細胞内に移行する性質、より詳しくは、細胞膜を透過する性質、さらに詳しくは、細胞膜又は核膜を透過して細胞質内又は核内に透過する性質を有するペプチドである。該ペプチドのアミノ酸配列は、特に限定されないが、例えば、TAT(GRKKRRQRRRPQ:配列番号13)、r8{rrrrrrrr (D体-R):配列番号14}、MPG-8(βAFLGWLGAWGTMGWSPKKKRK:配列番号15)を例示することができる。
なお、標的タンパク質とは、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物(又は、H3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物)(特に、タンパク質)を含む。
【0037】
(遺伝子ノックアウト法)
上記以外の方法として、遺伝子ノックアウト法がある。遺伝子ノックアウト法により、「POU5F1遺伝子が破壊された多能性幹細胞」を作製することができる。「POU5F1遺伝子が破壊された多能性幹細胞」は、POU5F1遺伝子領域の配列が人為的に改変されたことによって、POU5F1遺伝子の正常な発現が阻害されていること、その結果、POU5F1の発現が抑制され、POU5F1タンパク質が正常に発現していないことを意味する。
また、「POU5F1遺伝子の一部又は全部を改変又は欠損している」における「全部」とは、POU5F1ゲノムDNAのタンパク質コーディング領域をいう。
また、「一部」とは、タンパク質コーディング領域の一部であって、POU5F1遺伝子の正常な発現を阻害するのに必要な長さの領域をいう。
さらに、「改変」とは、単一又は複数のヌクレオチドを置換、欠失、挿入、及び/又は付加させることにより、ゲノムDNA中の対象領域の塩基配列を他の塩基配列に改変することをいう。
【0038】
(多能性幹細胞を所望の細胞型へ高効率に分化誘導するための分化誘導キット)
本発明の多能性幹細胞を所望の細胞型へ効率的に分化誘導するための分化誘導キット(以後、「本発明のキット」と称する場合がある)は、所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子及びセンダイウイルスベクターに加えて、以下の(1)~(5)のいずれか1以上を含む。
【0039】
(1)POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた並びに/又はH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させた多能性幹細胞
POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた並びに/又はH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させた多能性幹細胞
使用者は、上述のように、所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターを、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた並びに/又はH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させた多能性幹細胞に導入することにより、容易に、所望の細胞型へ分化誘導することができる。
また、ドキシサイクリン等で誘導可能な遺伝子構築物がゲノムに挿入されていることで、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子、脱メチル化酵素等を一時的に強制発現することができる多能性幹細胞も対象である。
(2)本発明のキット用POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子及び/又は脱メチル化酵素遺伝子
使用者は、キット用POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子及び/又は脱メチル化酵素遺伝子を多能性幹細胞に添加することにより、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた並びに/又はH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させた多能性幹細胞を容易に作製可能である。
キット用抗POU5F1抗体遺伝子は、市販の抗体遺伝子等を例示することができるが、特に限定されない。
キット用脱メチル化酵素遺伝子は、脱メチル化酵素遺伝子(例えば、JMJD3c)のmRNA、DNA、タンパク質等を例示することができるが、特に限定されない。
(3)本発明のキット用POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子及び/又は脱メチル化酵素遺伝子並びに所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクター
使用者は、キット用POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子及び/又は脱メチル化酵素遺伝子並びに所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターを多能性幹細胞に添加することにより、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた並びに/又はH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させた多能性幹細胞を容易に作製し、さらに所望の細胞型へ高効率に分化誘導させることができる。
なお、これらの遺伝子は、1つの遺伝子上に存在していても良いし、別の遺伝子上でも良い。別の遺伝子上であれば、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子(又は、脱メチル化酵素遺伝子)と所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターを同時又は別の時期に多能性幹細胞に添加することができる。
(4)本発明のキット用POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物及び/又は脱メチル化酵素
使用者は、キット用POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物及び/又は脱メチル化酵素を多能性幹細胞に添加することにより、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた並びに/又はH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させた多能性幹細胞を容易に作製可能である。
(5)POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子及び/又は脱メチル化酵素遺伝子を担持した遺伝子構築物
使用者は、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子及び/又は脱メチル化酵素遺伝子を担持した遺伝子構築物を多能性幹細胞のゲノムに導入することにより、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた並びに/又はH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させた多能性幹細胞を容易に作製可能である。
なお、遺伝子構築物には、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子及び/又は脱メチル化酵素遺伝子だけでなく、プロモーター配列、遺伝子発現向上配列、マーカー遺伝子、レポーター配列、薬剤耐性遺伝子等を必要に応じて含んでもよい。
【0040】
本発明の方法では、下記の(1)~(8)のいずれか1に記載の工程を含むことを例示することができるが、特に限定されない。
(1)POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子及び所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターを多能性幹細胞に添加する工程。
(2)POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子を担持した遺伝子構築物及び所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターを多能性幹細胞のゲノムに挿入する工程。
(3)所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターを、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた多能性幹細胞に添加する工程。(4)所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターを、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物を強制発現させた多能性幹細胞に添加する工程。
(5)POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物及び所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターを多能性幹細胞に添加する工程。
(6)所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターを、POU5F1遺伝子が破壊された多能性幹細胞に添加する工程。
(7)POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子、脱メチル化酵素遺伝子並びに所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターを多能性幹細胞に添加する工程。
(8)所望の細胞型への分化誘導に必要な転写因子を含むセンダイウイルスベクターを、POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた並びにH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させたヒストンを有する多能性幹細胞に添加する工程。
【0041】
本発明の方法では、以下のいずれか1の所望の細胞型分化用多能性幹細胞も使用可能である。
(1)POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた、所望の細胞型分化用多能性幹細胞。
(2)POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子を強制発現させた、所望の細胞型分化用多能性幹細胞。
(3)POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させる作用を持つ化合物の遺伝子を担持した遺伝子構築物がゲノムに挿入されている、所望の細胞型分化用多能性幹細胞。
(4)POU5F1遺伝子が破壊された、所望の細胞型分化用多能性幹細胞。
(5)POU5F1タンパク質の発現量を実質的に除去又は低減させた並びにH3K27me3修飾を実質的に除去又は低減させたヒストンを有する、所望の細胞型分化用多能性幹細胞。
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例0043】
(骨格筋への分化)
本実施例では、ヒトMYOD1遺伝子を発現する温度感受性センダイウイルスベクターを使用して、hPSCsを1週間以内に骨格筋に分化させることができることを確認した。さらに、本実施例により多分化能遺伝子POU5F1(OCT4又はOCT3/4としても知られている)の発現を抑制するsiPOU5F1の添加が分化効率をさらに増強することを確認した。
【0044】
(材料と方法)
<細胞培養>
ヒト脂肪幹細胞由来iPSC系(iPSCs-ADSC)は、System Biosciences(Palo Alto)から入手した。細胞は、100 ng/ml FGF2を添加したStemFit basic02(味の素)を用いた標準的なhPSC培養法に従って、未分化多能性細胞として維持した。細胞をlamin-511(iMatrix-511、ニッピ)で被覆した細胞培養皿上で培養した。骨格筋分化のために、5%KSR(Thermo-Fisher)を添加したα-MEM(Thermo-Fisher)を培養培地として使用した。
【0045】
<センダイウイルスベクター>
ヒトMYOD1を発現する温度感受性センダイウイルスベクター(SeV18+hMYOD1/TS15ΔF)をIDファーマに委託しカスタムメイドした。このセンダイウイルスベクターはFタンパク質を欠くため伝染しない(Inoue et al., J Virol. 77: 23238-3246, 2003)。このセンダイウイルスベクターは温度感受性であり、このウイルスは33℃で機能し、37℃で不活性化する(Ban et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2011;108(34):14234-14239)。センダイウイルスベクターのストック溶液を1×104 CIU(細胞感染単位)/μlになるようになるように希釈した。
【0046】
<ホスホスペルミン結合siPOU5F1>
hPSCs中のヒトPOU5F1の発現を抑制するために、ヒトPOU5F1に対する低分子干渉RNAs(siRNAs)を設計して使用した。リポフェクション又は他のカチオン性脂質ベースのトランスフェクション試薬を使用せずにsiRNAsを導入するために、siRNAsをホスホスペルミンと結合させた(Paris et al., Molecular Pharmaceutics 2012. 9: 3464-3475)。使用した配列は、ヒトPOU5F1センス鎖:5’-GCCCGAAAGAGAAAGCGAAdT*dT-3’(配列番号16)及びヒトPOU5F1アンチセンス鎖:5’-UUCGCUUUCUCUUUCGGGCdCdT-3’(配列番号17)である。センス鎖は、19個のRNA塩基及び*で示した箇所に30個のスペルミンを付加した2個のDNA塩基である。アンチセンス鎖は、19個のRNA塩基及び2個のDNA塩基である。センス鎖及びアンチセンス鎖をアニーリングし、100 μMストック溶液として保存した。
【0047】
<手順>
(1)1日目に、ヒトiPSC(iPSCs-ADSC系列)を1ウェルあたり250μlの培地中に1.0×10
5細胞で24ウェルプレート又は4ウェルプレートに播種した。培養培地は、5%KSR(Thermo-Fisher)を添加したα-MEM(Thermo-Fisher)を使用した。播種の直後に、ヒトMYOD1遺伝子をコードするセンダイウイルスベクターを感染多重度(MOI)2.5で細胞培養培地に添加した。ここでは、2.5×10
5 CIUを含有する25μlのセンダイウイルス溶液を、1.0×10
5個の細胞を含む250μlの培地に添加した。センダイウイルスベクターを添加した1時間後、培養液1 mlを加えて全量を1ウェルあたり1.275 mlとした。細胞をCO
2インキュベーターでウイルス複製及び遺伝子発現のための許容温度である33℃で培養した。培養培地(1 ml/ウェル)は毎日交換した。
(2)2日目に、4 μlのホスホスペルミン-siPOU5F1(100 μMストック溶液)を1ウェルあたり1 ml培地に添加し、最終濃度400 nMとした。
(3)4日目に、CO
2インキュベーターの温度をウイルスの複製及び遺伝子発現に許容されない温度である37℃に変更した。
(4)5日目に、骨格筋分化の明確な徴候である紡錘形細胞(spindle-shaped cells)が観察された。
(5)6日目に、細胞を固定し、免疫染色を用いて細胞分化の効率を評価した。免疫染色は、固定細胞を抗ミオシン重鎖(MHC)抗体(R&D systems)を用いて1:400希釈で一晩インキュベートすることによって行った。二次抗体としてAlexa fluor 555ヤギ抗マウスIgGを用いて1:200希釈で1時間インキュベートした。
図1(A)に本発明に係るhPSCから骨格筋への分化方法の典型的な実験手順を示した。
【0048】
(結果)
図1Bに成熟骨格筋に特異的な抗ミオシン重鎖(MHC)(赤色シグナル)で免疫染色された細胞の顕微鏡画像(10×対物レンズ)の例を示す。全ての細胞の核を視覚化するために細胞をDAPI(緑色シグナル)で染色した。細胞の拡大顕微鏡画像(20×対物レンズ)を
図1Cに示す。免疫染色結果の目視検査において高効率の骨格筋細胞の形成を示した。DAPI陽性細胞及びMHC陽性細胞を計5画像で計数することにより、DAPI陽性細胞中のMHC陽性細胞の平均分画(平均分化効率)は84.7%(528細胞/ 623細胞)であった。この平均分化効率は、これまで報告されてきた結果の中で、hPSCsからの骨格筋分化の最も高い効率であった。また、本発明の方法では、90%以上の骨格筋分化の効率を観察した。
以上の結果より、本発明の方法は、迅速に(5日間)、効率的かつ均質的に(培養中の全ての細胞において約最大85%のMHC陽性骨格筋細胞)、簡便に(センダイウイルスベクターでの処理は1回のみ、ホスホスペルミン-siPOU5F1での処理は1回のみ)hPSCsからの骨格筋細胞の分化を達成できた。表1に本発明の方法と従来の方法との比較を示す。
【0049】
【0050】
以上により、本発明の方法は、従来方法と比較して、1種類の培地により、1回の転写因子導入により、約71%以上~約90%以下、約73%以上~約90%以下、約75%以上~約90%以下、約78%以上~約90%以下、約80%以上~約90%以下、約82%以上~約90%以下、約83%以上~約90%以下、約84%以上~約90%以下、約85%~約90%以下、約85%、約90%又は約90%以上の骨格筋細胞分化効率を達成できる方法である。さらに、本発明の方法は、該分化効率は、12日以内、10日以内、9日以内、8日以内、7日以内、6日、又は5日以内に達成できる方法である。
以上の結果より、本発明の方法は、迅速に(5日間)、効率的かつ均質的に(培養中の全ての細胞において最大約90%のTUBB3陽性ニューロン)、簡便に(センダイウイルスベクターでの処理は1回のみ)hPSCsからの運動ニューロンの分化を達成できた。表2に本発明の方法と従来の方法との比較を示す。
以上により、本発明の方法は、従来方法と比較して、1種類の培地により、1回の転写因子導入により、約76%以上~約90%以下、約78%以上~約90%以下、約80%以上~約90%以下、約82%以上~約90%以下、約84%以上~約90%以下、約86%以上~約90%以下、約88%以上~約90%以下、又は、約90%の運動ニューロン分化効率を達成できる方法である。さらに、本発明の方法は、該分化効率は、12日以内、10日以内、9日以内、8日以内、7日以内、6日以内、又は5日以内に達成できる方法である。