(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037934
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】細菌感染症を治療するための手段と方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20240312BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240312BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240312BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240312BHJP
A61K 31/546 20060101ALI20240312BHJP
A61K 31/431 20060101ALI20240312BHJP
A61K 31/43 20060101ALI20240312BHJP
A61K 31/7036 20060101ALI20240312BHJP
A61K 31/407 20060101ALI20240312BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20240312BHJP
A61K 31/65 20060101ALI20240312BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20240312BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20240312BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20240312BHJP
C07K 7/08 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P17/00 101
A61P17/02
A61P31/04
A61P43/00 121
A61K31/546
A61K31/431
A61K31/43
A61K31/7036
A61K31/407
A61K31/496
A61K31/65
A61K31/7048
A61K38/10
A61K38/12
C07K7/08 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023212744
(22)【出願日】2023-12-18
(62)【分割の表示】P 2018562409の分割
【原出願日】2017-02-16
(31)【優先権主張番号】16156556.9
(32)【優先日】2016-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】518294465
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム ボルシュテル ライプニッツツェントルム フュール メディツィン ウント ビオヴィッセンシャフテン
(71)【出願人】
【識別番号】518294476
【氏名又は名称】フライエ ウニヴェルジテート ベルリン
(71)【出願人】
【識別番号】518294487
【氏名又は名称】ウニヴェルジテート ツー リューベック
(71)【出願人】
【識別番号】518294498
【氏名又は名称】ライニッシェ ヴェストフェリシェ テヒニシェ ホッホシューレ (エルヴェーテーハー) アーヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ブランデンブルク クラウス
(72)【発明者】
【氏名】ハインボッケル レーナ
(72)【発明者】
【氏名】ライリング ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス デ テハダ ギリェルモ
(72)【発明者】
【氏名】シュールホルツ トビアス
(72)【発明者】
【氏名】マウス カール
(72)【発明者】
【氏名】ヴァインドル ギュンター
(57)【要約】 (修正有)
【課題】相乗的な抗菌活性を示す、医薬の組合せを提供する。
【解決手段】(a)特定の配列で表される、2またはそれ以上のペプチドの組み合わせ、又は(b)特定の配列で表される1またはそれ以上のペプチドと、セフトリアキソン(ceftriaxone)、オキサシリン、アモキシシリン、アミカシン、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、イミペネム、テトラサイクリン、ダプトマイシンおよびバンコマイシンから選択される、1種以上の抗生物質との組み合わせを含むか、または、それからなる、医薬組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の配列を含むか、または、それからなるペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のペプチドを含むか、または、それからなる医薬組成物。
【請求項3】
17~23個のアミノ酸からなるか、または、それを含むペプチドであって、
N末端から数えて、1~23位のアミノ酸が、
(1)G、Sまたは欠失;
(2)Cまたは欠失;
(3)KまたはR;
(4)KまたはR;
(5)Y、WまたはF;
(6)KまたはR;
(7)KまたはR;
(8)F、WまたはL;
(9)KまたはR;
(10)KまたはLまたは欠失;
(11)W、LまたはF;
(12)KまたはR;
(13)F、YまたはC;
(14)KまたはR;
(15)GまたはQ;
(16)KまたはR;
(17)F、LまたはW;
(18)FまたはW;
(19)F、LまたはW;
(20)WまたはF;
(21)Cまたは欠失;
(22)FまたはGまたは欠失;
(23)Gまたは欠失;
であり、
(a)皮膚の細菌感染を、治療、改善または阻止する;
(b)細菌性創傷感染症の、治療、改善または阻止する;および/または、
(c)創傷治癒を促進する;
方法で使用するためのペプチド。
【請求項4】
請求項3に記載の使用のためのペプチドであって、
(a)前記ペプチドが、
(i)請求項1に記載のペプチドであり;または、
(ii)配列番号2の配列を含むか、または、それからなり;および/または、
(b)前記使用は局所的である、ペプチド。
【請求項5】
前記皮膚の細菌感染、または前記細菌創傷感染が、グラム陽性および/またはグラム陰性菌、好ましくは、
MRSAを含む、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のようなストレプトコッカス属(Streptococcus);
化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)のようなA群レンサ球菌を含む、β-溶連菌(hemolytic Streptococcus);
パルビモナス・マイクラ(Parvimonas micra)を含む、パルビモナス属Parvimonas);
MDRPAを含む、シュードモナス・アエルギノーザ(緑膿菌、Pseudomonas aeruginosa)のようなシュードモナス属(Pseudomonas);
ヘモフィラス インフルエンザ(Haemophilus influenza)を含む、ヘモフィラス(Haemophilus)属;
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)を含む、クロストリジウム属(Clostridium);
バンコマイシン-耐性腸球菌(vancomycin-resistant Enterococcus)(VRE)を含む、エンテロコッカス属(Enterococcus);
ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)を含む、ポルフィロモナス属(Porphyromonas);
プロピオニバクテリウム・アクネ(Propionibacterium acne)を含む、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium);および
アシネトバクター・バウマーニ(Acinetobacter baumannii)を含む、アシネトバクター属Acinetobacterの一つ以上による感染である、請求項3または4に記載の使用のためのペプチド。
【請求項6】
前記皮膚の細菌感染症または前記細菌創傷感染が、丹毒(erysipelas)、伝染性膿痂疹(impetigo)、毛嚢炎(folliculitis)、膿瘍炎症性の腫れ物(boil)、蜂巣炎(cellulitis)および皮下組織に生じる急性化膿性炎症(Carbuncle)から選択される、請求項3~5のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項7】
以下の組合せを含むか、または、それからなる、医薬組成物。
(a)2またはそれ以上のペプチド。各ペプチドは、17~23個のアミノ酸からなるか、または、それを含むペプチドであって、
N末端から数えて、1~23位のアミノ酸が、以下のとおりであり、
(1)G、Sまたは欠失;
(2)Cまたは欠失;
(3)KまたはR;
(4)KまたはR;
(5)Y、WまたはF;
(6)KまたはR;
(7)KまたはR;
(8)F、WまたはL;
(9)KまたはR;
(10)KまたはLまたは欠失;
(11)W、LまたはF;
(12)KまたはR;
(13)F、YまたはC;
(14)KまたはR;
(15)GまたはQ;
(16)KまたはR;
(17)F、LまたはW;
(18)FまたはW;
(19)F、LまたはW;
(20)WまたはF;
(21)Cまたは欠失;
(22)FまたはGまたは欠失;
(23)Gまたは欠失、
または、
(b)1またはそれ以上のペプチド。各ペプチドは、17~23個のアミノ酸からなるか、または、それを含むペプチドであって、
N末端から数えて、1~23位のアミノ酸が、以下のとおりであり、
(1)G、Sまたは欠失;
(2)Cまたは欠失;
(3)KまたはR;
(4)KまたはR;
(5)Y、WまたはF;
(6)KまたはR;
(7)KまたはR;
(8)F、WまたはL;
(9)KまたはR;
(10)KまたはLまたは欠失;
(11)W、LまたはF;
(12)KまたはR;
(13)F、YまたはC;
(14)KまたはR;
(15)GまたはQ;
(16)KまたはR;
(17)F、LまたはW;
(18)FまたはW;
(19)F、LまたはW;
(20)WまたはF;
(21)Cまたは欠失;
(22)FまたはGまたは欠失;
(23)Gまたは欠失、
および、
セフトリアキソン(ceftriaxone)、オキサシリン、アモキシシリン、アミカシン、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、イミペネムおよびテトラサイクリンのような小有機分子抗生物質、および、ダプトマイシンおよびバンコマイシンなどのペプチド系抗生物質から選択される1種以上の抗生物質。
【請求項8】
請求項7に記載の医薬組成物であって、ここで、
(a)前記組合せは相乗的であり、相乗作用は好ましくは抗菌活性に関して生じる。および/または
(b)前記医薬組成物は広域スペクトルの抗生物質である。
【請求項9】
請求項7または8に記載の医薬組成物であって、前記組み合わせが
(a)以下の2成分の組合せ
(i)配列番号1の配列を含むか、またはそれからなるペプチド、および配列番号2の配列を含むかまたはそれからなるペプチド;
(ii)配列番号1の配列を含むかまたはそれからなるペプチドおよび請求項8(b)に記載の抗生物質;または
(iii)配列番号2の配列を含むかまたはそれからなるペプチドおよび請求項8(b)に記載の抗生物質;または
(b)配列番号1の配列を含むかまたはそれからなるペプチド、配列番号2の配列を含むかまたはそれからなるペプチドおよび請求項8(b)に定義される抗生物質の三成分の組み合わせである。
【請求項10】
以下の使用のための、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(a)敗血症、気道の細菌感染症、胃腸管の細菌感染症、泌尿生殖路の細菌感染症、壊死性筋膜炎、火傷の細菌感染症、細菌性創傷感染症、および、皮膚の細菌感染、
から選択される1つ以上の状態を治療、改善または予防する方法;または
(b)創傷治癒を促進する方法。
【請求項11】
請求項10に記載の使用のための医薬組成物であって、
(a)気道の細菌感染が、肺結核、嚢胞性線維症またはCOPDであり;
(b)胃腸管の細菌感染が、クローン病(Morbus Crohn)であり;または
(c)前記状態が、グラム陽性および/またはグラム陰性細菌によって引き起こされ、特に、以下の、1以上で引き起こされる、医薬組成物。
MRSAを含む、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のようなスタフィロコッカス属、
MDRおよびXDR株を含む、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)のようなマイコバクテリウム属(Mycobacterium)、
MDRPA含む緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)などの、シュードモナス属(Pseudomonas)、
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)を含むエンテロコッカス属(Enterococcus)、
ヘモフィルスインフルエンザ(Haemophilus influenzae)を含む、ヘモフィルス属(Haemophilus)、
ESBLを含む大腸菌、
クレブシエラ肺炎(Klebsiella pneumonia,)を含むクレブシエラ(Klebsiella)属、
化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes、ストレプトコッカスパイオゲネス)のようなA群連鎖球菌を含む、β-溶連菌(hemolytic Streptococcus)、および
アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)を含む、アシネトバクター(Acinetobacter)属、
の一つ以上による感染である、請求項3または4に記載の使用のためのペプチド。
【請求項12】
請求項7~9のいずれか1項に記載の医薬組成物または請求項1,3または4のいずれか1項に記載のペプチドの、
・体内使用のデバイス上のまたは病院内の表面上のバイオフィルムの形成を防止または低減するため、および/または
・体内使用のデバイスから、または病院内の表面からバイオフィルムを除去のための、
使用であって、前記デバイスが、人または動物の体内に存在しない、使用。
【請求項13】
請求項7~9のいずれか1項に記載の医薬組成物または請求項1,3または4のいずれか1項に記載のペプチドで、コーティングされたおよび/または負荷された(loaded)された体内デバイスまたは病院内の表面。
【請求項14】
細菌の増殖を制御するための、請求項1に記載のペプチドまたは請求項7~9のいずれか1項に記載の組み合わせの使用。
【請求項15】
前記制御することが、低減、減速、阻害、または無効化を含むか、またはそれらからなる、請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下の(a)または(b)および1種以上の抗生物質の組合せ「を含む」、または、「からなる」、医薬組成物に関する。
(a)2またはそれ以上のペプチド。各ペプチドは、17~23個のアミノ酸からなるか、または、それを含むペプチドであって、
N末端から数えて、1~23位のアミノ酸が、以下のとおりであり、
(1)G、Sまたは欠失;
(2)Cまたは欠失;
(3)KまたはR;
(4)KまたはR;
(5)Y、WまたはF;
(6)KまたはR;
(7)KまたはR;
(8)F、WまたはL;
(9)KまたはR;
(10)KまたはLまたは欠失;
(11)W、LまたはF;
(12)KまたはR;
(13)F、YまたはC;
(14)KまたはR;
(15)GまたはQ;
(16)KまたはR;
(17)F、LまたはW;
(18)FまたはW;
(19)F、LまたはW;
(20)WまたはF;
(21)Cまたは欠失;
(22)FまたはGまたは欠失;
(23)Gまたは欠失、
または、
(b)1またはそれ以上のペプチド。各ペプチドは、17~23個のアミノ酸からなるか、または、それを含むペプチドであって、
N末端から数えて、1~23位のアミノ酸が、以下のとおりであり、
(1)G、Sまたは欠失;
(2)Cまたは欠失;
(3)KまたはR;
(4)KまたはR;
(5)Y、WまたはF;
(6)KまたはR;
(7)KまたはR;
(8)F、WまたはL;
(9)KまたはR;
(10)KまたはLまたは欠失;
(11)W、LまたはF;
(12)KまたはR;
(13)F、YまたはC;
(14)KまたはR;
(15)GまたはQ;
(16)KまたはR;
(17)F、LまたはW;
(18)FまたはW;
(19)F、LまたはW;
(20)WまたはF;
(21)Cまたは欠失;
(22)FまたはGまたは欠失;
(23)Gまたは欠失、
および、
セフトリアキソン(ceftriaxone)、オキサシリン、アモキシシリン、アミカシン、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、イミペネムおよびテトラサイクリンのような小有機分子抗生物質、および、ダプトマイシンおよびバンコマイシンなどのペプチド系抗生物質から選択される1種以上の抗生物質。
【0002】
明細書では、特許出願および製造業者のマニュアルを含む多数の書類が引用されている。これらの文書の開示は、本発明の特許性に関連するとは考えられていないが、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。より具体的には、すべての参照文書は、個々の文書が参照により組み込まれることを具体的かつ個別に指示されているのと同程度に、参照により組み込まれる。
【0003】
重度の細菌感染症は、世界中で絶えず増加する脅威である。これは、一方では、多剤耐性菌の継続的な出現と、他方では、適切な新規抗生物質の欠如によって、事態は悪化する。絶えず、増加する高齢者の患者数のため、治療が困難な細菌感染数が、さらに速いペースで増加する。例えば、ドイツでは、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus))の約150,000の感染があり、その約10%が細菌性敗血症(bacterial sepsis)(ドイツ敗血症ゲゼルシャフト、感染、41,補遺 1,ワイマール敗血症アップデート(Weimar Sepsis Update)、2013年)のために、致死的である。専門家は、耐性菌の感染に起因して、ドイツの病院では、年間約5万人の患者が死亡すると推定している。世界的には、敗血症の致死的症例の年間数は、900万~1000万人と推定されている。さらなる感染、例えば、結核(Mycobacterium tuberculosis)は、長い治療期間と莫大な費用のために、公衆衛生システムにとって深刻な問題となっている。しかも、この感染から、まだ、毎年、約100万人の患者が死亡している。耐性株(例えば、MDRとXDR株など)の継続的な出現は、さらに状況を複雑にしている。
【0004】
他方、非全身性細菌感染症もますます長引く治療を必要とする。このような非全身性の細菌感染による疾病率(Morbidity)が増加し続けている。例としては、丹毒(erysipelas)伝染性膿痂疹(impetigo)、膿瘍(folliculitis)炎症性の腫れ物(boil)、皮下組織に生じる急性化膿性炎症(Carbuncle)が含まれる。後者の感染症は、通常、生命を脅かすものではないが、QOLに大きな影響を与える。公衆衛生システムに特定の課題を提示する他の非全身性細菌感染症は、慢性炎症を引き起こすものである。例としては、慢性閉塞性肺疾患(COPD)が挙げられる。特に、ヘモフィリス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)は、COPDに伴う慢性炎症に関与することが知られている。
【0005】
EP 2 271 356は、抗菌ペプチドを記載している。この文献は、治癒困難な創傷の細菌感染である特定の医学的適応症の治療における、ペプチドの優れた効能を示唆していない。また、この文書は、二つ以上のペプチドを組み合わせるか、または、既知の抗生物質、典型的には、小有機分子抗生物質と、1つまたは複数のペプチドを組み合わせたときの、抗菌活性に関する相乗効果を、全く示唆しておらず、そして、その代わりに、相加効果を報告する。
【0006】
Heinbockelら(Antimicrobial agents and chemotherapy、57、1480-1487頁(2013年))は、高エンドトキシン中和能力を有する、抗菌性ペプチドを記載している。Heinbockelらの著者の手の中には、上記のペプチド性抗生物質は、小有機分子抗生物質と一緒に使用された場合、使用された最高濃度でさえ、相乗作用を示さなかった。
【0007】
創傷感染および皮膚疾患の治療のための抗菌性ペプチドは、例えば、Duplantierおよびvan Hoek、Frontier in Immunology 4、1-14頁(2013年)、KenshiおよびRichard、Eur.J.Dermatol、18,11-21頁(2008年)およびMangoniら(doi:10.1111/exd.12929)に記載されてきた。斯かる記載されたペプチドは、本発明の薬剤とは、構造において基本的に異なる。
本発明の根底にある技術的課題は、細菌感染、特に、創傷感染、皮膚感染および敗血症を含む多剤耐性細菌による感染の治療のための改善された手段および方法の提供に見ることができる。
この技術的課題は、添付の請求項の主題によって解決されている。
【0008】
第1の態様において、本発明は、配列番号1の配列(GKKYRRFRWKFKGKLFLFG)「を含む」か、または、「からなる」ペプチドに関連する。この配列からなるペプチドはまた、「ペプチド19-4LF」、または、「アスピダセプト(Aspidasept)II」とも呼ばれる。
【0009】
用語「ペプチド」は、一般に、ペプチド結合によって共有結合された、30個までのアミノ酸を含むアミノ酸の直鎖分子鎖を表す。1つ以上のアミノ酸がNおよび/またはC末端で、配列番号1の配列に付加される場合、このペプチドに含まれるアミノ酸の総数は、好ましくは30個まで増加し得る。前記アミノ酸は、ペプチドの官能性に寄与してもしなくてもよい。換言すれば、加えられたアミノ酸は、その抗菌活性または別の機能であるかどうかにかかわらず、ペプチドに相違する機能を付与しても付与しなくてもよい。
【0010】
アミノ酸の数は、本発明のペプチドが、別のペプチドまたはポリペプチドに融合されている場合、さらに増加し得る。融合構築物は、EP 2 271 356に記載されている。ペプチドは、少なくとも二つの同一又は異なる分子からなるオリゴマーを形成することができる。そのような多量体の対応する高次構造は、相応して、ホモ二量体またはヘテロ二量体、ホモまたはヘテロ三量体などと呼ばれる。
【0011】
本発明を通して、アミノ酸を同定するために使用される1文字の略語は、アミノ酸に一般的に使用される略語に対応する。
本発明のペプチドは、合成的に製造することができる。
【0012】
ペプチドの化学合成は、当該技術分野において周知である。固相合成が一般的に使用され、そして、様々な市販の自動合成機が利用可能である(たとえば、Applied Biosystems Inc.、Foster City、CA;ベックマン;または、MultiSyntech、Bochum、ドイツ)。液相合成法を使用することもできる。例えば、ペプチド合成は、N-α-9-フルオレニルエトキシカルボニルアミノ酸および、予め装填されたトリチル樹脂、または、p-カルボキシトリチルアルコールリンカーを有するアミノメチル化ポリスチレン樹脂を用いて行うことができる。カップリングは、N-ヒドロキシベンゾトリアゾールおよび2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスフェートを用いて、ジメチルホルムアミド中で行うことができる。一般に使用される側鎖保護基は、N、Q、SおよびTについては、tert-ブチルであり;Rについては、2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロキシベンゾフラン-5-スルホニル(2,2,4,6,7-pentametyldihydroxybenzofruan-5-sulfonyl);そして、Kについては、ブチルオキシカルボニルである。合成後、そのペプチドは、脱保護され、そして、たとえば、92%トリフルオロ酢酸/4%トリエチルシラン/4%H2Oで処理することにより、ポリマー支持体から解離される。そのペプチドは、tert-ブチルエーテル/ペンタン(8:2)の添加によって沈殿させることができ、そして、逆相HPLCで精製することができる。ペプチドは、一般に、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(matrix-associated laser desorption time-of-flight mass spectrometry)によって分析される。
【0013】
これらの標準的技術を使用することにより、天然のアミノ酸はまた、D-立体異性体などの非天然アミノ酸、および、また、異なる長さまたは官能性を有する側鎖を有するアミノ酸で置換することもできる。小分子、標識部分、ペプチド、またはタンパク質に結合するための官能基は、化学合成中に分子に導入され得る。さらに、小分子および標識部分は、合成プロセス中に付加され得る。好ましくは、官能基の導入および他の分子への融合は、本ペプチドの構造および機能に最小限の影響を及ぼすものである。
【0014】
ペプチドのN末端およびC末端、ならびに末端アミノ酸以外のペプチドに含まれる任意のアミノ酸は、従来の化学合成法を用いて誘導体化することができる。
本発明のペプチドは、アシル基、好ましくは、アセチル基等の、C1~C4アシル基を含んでいてもよい。N-末端の遊離アミノ基をアシル化の方法、および、特に、アセチル化するための方法は、当技術分野で周知である。C末端については、カルボキシル基は、アルコール(好ましくは、C1~C4のアルカノール)とエステル化することによって、修飾、または、アミド化によって、-CONH2またはCONHR(Rは、好ましくは、C1~C4のアルキルである)を形成することができる。エステル化およびアミド化の方法は、当技術分野で周知である。
【0015】
たとえば、組換えおよび合成による製造の組合せによって、本発明のペプチドはまた、半合成で製造することができる。ペプチドの断片が合成的に産生される場合、そのペプチドの残りの部分は、たとえば、組換えにより、他の方法で産生されなければならず、そして、次いで断片に連結されて、本発明のペプチドを形成しなければならない。組換え生産は、EP 2 271 356に記載されている。
【0016】
EP 2 271 356号は、その全体が参照により組み込まれる。
配列番号1の特定の配列は、EP 2 271 356号に開示されたペプチドの属に包含される。しかしながら、この文献は、この特定の配列を個別化することができず、特に顕著な抗生物質特性は、何ら認識されていない。
【0017】
第2の態様において、本発明は、第1の態様によるペプチド「を含む」、または「からなる」医薬組成物を提供する。
本発明によれば、用語「医薬組成物」は、患者、好ましくは、ヒトの患者に投与するための組成物に関する。本発明の医薬組成物は、好ましくは、本発明のペプチドを含む。
本発明の医薬組成物は、所望により、本発明のペプチドの特性を改変し、たとえば、それにより、その機能を安定化、調節および/または活性化することができる更なる分子を含んでいてもよい。前記組成物は、固体、液体または気体の形態であってもよく、とりわけ、粉末、錠剤、溶液またはエアロゾルの形態であって良い。本発明の医薬組成物は、所望により、および追加で、薬学的に許容される担体を含むことができる。
「薬学的に許容される担体」は、任意のタイプの、毒性のない、固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、封入材料または製剤補助剤または賦形剤を意味する。
適切な薬学的担体の例は、当技術分野で周知であり、そして、リン酸緩衝生理食塩水、水、油/水エマルションなどのエマルション、様々なタイプの湿潤剤、滅菌溶液、有機溶液、DMSOを含む有機溶媒が挙げられる。そのような担体を含む組成物は、周知の従来の方法によって製剤化することができる。
【0018】
医薬組成物は、適切な用量で対象に投与することができる。投薬レジメンは、主治医および臨床因子によって決定される。医学分野において周知であるように、いずれかの患者のための投薬量は、患者の体格、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与の時間および経路、一般的な健康状態、および同時に投与されるその他の薬物を含む多くの因子に依存する。
所与の状況における治療有効量は、日常的な実験によって容易に決定され、そして、通常の臨床医または医師の技能および判断の範囲内である。
一般に、医薬組成物の通常の投与としてのレジメンは、1日当たり1μg~5g単位の範囲内であるべきである。しかしながら、より好ましい投与量は、1日あたり0.01mg~100mg、さらにより好ましくは、0.01mg~50mg、および最も好ましくは、0.01mg~10mgの範囲であり得る。
【0019】
本発明の医薬組成物は、全身的に、局所的に、または、非経口的に投与することができる。
本明細書で使用される「非経口的」という用語は、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内(intrasternal)、皮下および関節内(intraarticular)注射および注入を含む、投与様式を指す。局所投与経路には、経皮、経鼻および経鼻吸入が含まれる。
【0020】
第3の局面において、本発明は、(a)皮膚の細菌感染症を、治療、改善または予防;(b)細菌性創傷感染症を治療、改善または予防;および/または(c)創傷治癒を促進、の方法において使用するために、17~23のアミノ酸「からなる」または「を含む」ペプチドを、提供する。ここで、N末端から数えて、1~23位のアミノ酸は以下のとおりである。
(1)G、Sまたは欠失;
(2)Cまたは欠失;
(3)KまたはR;
(4)KまたはR;
(5)Y、WまたはF;
(6)KまたはR;
(7)KまたはR;
(8)F、WまたはL;
(9)KまたはR;
(10)KまたはLまたは欠失;
(11)W、LまたはF;
(12)KまたはR;
(13)F、YまたはC;
(14)KまたはR;
(15)GまたはQ;
(16)KまたはR;
(17)F、LまたはW;
(18)FまたはW;
(19)F、LまたはW;
(20)WまたはF;
(21)Cまたは欠失;
(22)FまたはGまたは欠失;
(23)Gまたは欠失、
第3の態様によるペプチドの定義は、第1の態様による特定のペプチド配列を包含する。反対であることが明示的に示されなければ、本発明の任意の態様によるペプチドは、直鎖状および非環状である。
【0021】
本発明は、初めて、項目(a)、(b)および(c)に応じた、特定の適応症、即ち、皮膚の細菌感染、細菌性創傷感染症、そして、さらに創傷治癒を促進する目的に利用可能な、ペプチドの上記のクラスを製造した。これは、本発明者らの驚くべき発見に基づく。
すなわち、配列番号2のペプチドを含む(以下にさらに開示されるように)、第三の態様のペプチドは、確立された抗生物質療法の多数の試みが失敗した、酷い閉鎖創傷(badly closing wound)の細菌感染に対抗することができたのである。
したがって、先行技術は、第3の態様による目的のための、第3の態様によるペプチドの有用性について沈黙するだけでなく、さらに、前記ペプチドは、顕著な特性を特徴とするである。上述の酷く治癒している創傷の、他の抗生物質治療が失敗したという事実を考慮して、第3の態様によるペプチドは、以前に、治療選択肢の点で利用可能であったものと比較して、実際にユニークであると結論づけられなければならない。特に、その点で、実施例5を参照する。
【0022】
第3の態様の以下の好ましい実施形態は、好ましいペプチド、好ましい細菌、好ましい医学的適応症、および想定される基礎となる機作に関する。
【0023】
したがって、好ましい実施形態では、
(a)前記ペプチド(i)は、第1の態様によるペプチドであり;または
(ii)配列番号:2(GCKKYRRFRWKFKGKFWFWG)の配列「を含む」か「からなり」;および/または(b)前記使用は局所的である。
【0024】
配列番号2の配列からなるペプチドは、「ペプチド19-2.5」または「Aspidasept(登録商標)」としても知られている。
【0025】
「局所的」という用語は、当業界で確立された意味を有し、そして、細菌感染によって影響される領域および/または創傷治癒が促進される領域、および/または、その領域の近くでの、第3の態様による、ペプチドの投与を指す。
局所適用のための適切な製剤には、軟膏、溶液およびスプレーが含まれる。これらの製剤のそれぞれは、1つ以上の薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含み得る。担体、希釈剤および賦形剤として適切な化合物および組成物は、上記のように、当業者に周知であり、そして、様々な製造業者から入手可能である。
【0026】
さらに、局所適用のための製剤は、送達促進剤(deliver enhancer)を含んでもよい。送達促進剤(deliver enhancer)は、当該分野で公知である。たとえば、WO2011/064316を参照されたい。
さらに好ましい実施形態では、
前記皮膚の細菌感染、または前記細菌創傷感染が、グラム陽性および/またはグラム陰性菌、好ましくは、
MRSAを含む、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のようなストレプトコッカス属(Streptococcus);
化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)のようなA群レンサ球菌を含む、β-溶連菌(hemolytic Streptococcus);
パルビモナス マイクラ(Parvimonas micra)を含む、パルビモナス属(Parvimonas);
MDRPAを含む、シュードモナス・アエルギノーザ(緑膿菌、Pseudomonas aeruginosa)のようなシュードモナス属(Pseudomonas);
ヘモフィラス・インフルエンザ(Haemophilus influenza)を含む、ヘモフィラス属(Haemophilus);
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)を含む、クロストリジウム属(Clostridium);
バンコマイシン-耐性腸球菌(vancomycin-resistant Enterococcus)(VRE)を含む、エンテロコッカス属(Enterococcus);
ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)を含む、ポルフィロモナス属(Porphyromonas);
プロピオニバクテリウム・アクネ(Propionibacterium acne)を含む、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium);および
アシネトバクター・バウマーニーイ(Acinetobacter baumannii)を含む、アシネトバクター属Acinetobacter、
の一つ以上による感染である。
【0027】
本発明のペプチドは、耐性機構の種類とは無関係に、特に多重抵抗性菌株との戦いに関して有用である(実施例1,2および4参照)。
【0028】
さらに好ましい実施形態では、前記皮膚の細菌感染症または前記細菌性創傷感染症は、丹毒(erysipelas)、伝染性膿痂疹(impetigo)、膿瘍(folliculitis)炎症性の腫れ物(boil)、蜂巣織炎(cellulitis)、皮下組織に生じる急性化膿性炎症(Carbuncle)および/または院内感染(nosocomial)から選択される。
【0029】
上記の特定の適応症は、当技術分野で公知である。手短に言えば、丹毒は、皮膚の急性感染であり、主に上皮および表在リンパ管に影響する。
典型的な細菌は、A群連鎖球菌であり、特に連鎖球菌(Streptococcus pyogenes.)である。
非A群連鎖球菌もまた、原因物質であり、M.fortuitum、chelonae-abscessus群などの急速に増殖するマイコバクテリアでもありうる。たとえば、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)は、非A群連鎖球菌属である。
細菌感染症である蜂巣織炎(cellulitis)もまた、皮膚の内側の層、特に真皮と皮下脂肪に影響をあたる。
典型的な細菌は黄色ブドウ球菌である。特に、懸念されるのは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus)(MRSA)のような、その抗生物質耐性形態である。
【0030】
毛包炎(folliculitis)は、毛包の感染である。関連する細菌種は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)や緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が含まれる。
伝染性膿痂疹(impetigo)、特に、とびひ(impetigo contagiosa)は、主に小児および新生児に起こる皮膚の高い感染症である。典型的な細菌は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)および連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)である。
メカニズムに関しては、前記ペプチドが、
(a)前記感染を引き起こす細菌を不活性化し;
(b)前記感染を引き起こす細菌によって産生された毒素に結合および/または不活性化し;および/または
(c)抗炎症作用を発揮する、ことが想定されている。
【0031】
細菌の不活性化には、細菌増殖の減速、細菌の成長の阻害、細菌の生存率の低下、細菌の部分的死滅、および細菌の完全死滅が含まれる。
本発明によるペプチドは、合成抗リポ多糖ペプチド(SALP)である。リポ多糖類(LPS)は、グラム陰性菌の外膜に含まれる。それらは抗原として機能する。細菌が死ぬと、その崩壊生成物が放出される。これらの崩壊生成物はまた、エンドトキシンとしても知られている。エンドトキシンは、細菌感染症の症状に寄与する。本発明による、SALPは、LPSおよび内毒素に高親和性で結合する。これは、ペプチドの有益な効果に有意に寄与する。換言すれば、エンドトキシンの効果は、本発明のペプチドによって中和される。
【0032】
第4の態様では、本発明は、
本発明は、以下の(a)または(b)および1種以上の抗生物質の組合せ「を含む」、または、「からなる」、医薬組成物に関する。
(a)2またはそれ以上のペプチド。各ペプチドは、17~23個のアミノ酸からなるか、または、それを含むペプチドであって、
N末端から数えて、1~23位のアミノ酸が、以下のとおりであり、
(1)G、Sまたは欠失;
(2)Cまたは欠失;
(3)KまたはR;
(4)KまたはR;
(5)Y、WまたはF;
(6)KまたはR;
(7)KまたはR;
(8)F、WまたはL;
(9)KまたはR;
(10)KまたはLまたは欠失;
(11)W、LまたはF;
(12)KまたはR;
(13)F、YまたはC;
(14)KまたはR;
(15)GまたはQ;
(16)KまたはR;
(17)F、LまたはW;
(18)FまたはW;
(19)F、LまたはW;
(20)WまたはF;
(21)Cまたは欠失;
(22)FまたはGまたは欠失;
(23)Gまたは欠失、
または、
(b)1またはそれ以上のペプチド。各ペプチドは、17~23個のアミノ酸からなるか、または、それを含むペプチドであって、
N末端から数えて、1~23位のアミノ酸が、以下のとおりであり、
(1)G、Sまたは欠失;
(2)Cまたは欠失;
(3)KまたはR;
(4)KまたはR;
(5)Y、WまたはF;
(6)KまたはR;
(7)KまたはR;
(8)F、WまたはL;
(9)KまたはR;
(10)KまたはLまたは欠失;
(11)W、LまたはF;
(12)KまたはR;
(13)F、YまたはC;
(14)KまたはR;
(15)GまたはQ;
(16)KまたはR;
(17)F、LまたはW;
(18)FまたはW;
(19)F、LまたはW;
(20)WまたはF;
(21)Cまたは欠失;
(22)FまたはGまたは欠失;
(23)Gまたは欠失、
および、
1種以上の抗生物質は、セフトリアキソン(ceftriaxone)、オキサシリン、アモキシシリン、アミカシン、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、イミペネムおよびテトラサイクリンのような小有機分子抗生物質、および、ダプトマイシンおよびバンコマイシンなどのペプチド系抗生物質から選択される。
【0033】
本発明のこの態様は、ペプチド同志またはペプチドと既知の抗生物質との、2成分、3成分またはそれ以上の組み合わせに関する。
【0034】
第4の態様の項目(a)において提供される一般的定義および第4の態様の項目(b)の第2の部分に記載される抗生物質の用語に該当する特定のペプチドが知られていることに留意されたい。
しかし、予期せぬことは、第4の態様に従って定義された組合せによって与えられる性能である。本明細書に包含される実施例は、第4の態様の用語に合致する複数の組み合わせに対して非常に良好な性能の証拠を含む。組合せ剤と個々の薬剤との違いは、その技術分野で確立された測定によって、証明された相乗効果の定量的な意味で驚異的であるだけでなく、定性的にも驚くべきものである。たとえば、個々の薬剤は単に細菌増殖を減少させるが、第4の態様による組み合わせは細菌増殖を完全になくすことができる。
【0035】
第4の態様の好ましい実施形態では、
(a)前記組合せは相乗的であり、そして、相乗作用は、好ましくは、抗菌活性に関して生じ、および/または
(b)前記医薬組成物は、広域スペクトルの抗生物質である。
【0036】
抗菌活性は、当技術分野で確立された方法のいずれかによって決定することができる。例えば、細菌の増殖および懸濁については、測光定量を使用することができる。これは、たとえば、実施例2においてなされている。また、抗菌活性は、栄養素中のコロニー形成単位(CFU)の数を介して決定され得る。
【0037】
第1の態様による組み合わせは、顕著な性能および高度な程度の相乗活性によって特徴付けられるだけでなく、多数の細菌に対して活性であるという点でさらに特徴付けられる。
その意味として、第4の態様による組み合わせは、広域スペクトルの抗生物質である。結果として、第4の態様による組合せは、特に、たとえば、どの細菌が所与の感染の原因であるかを決定する診断が、面倒であるか、または長く時間がかかる場合においては、第1の選択肢である。これは、たとえば、敗血症に当てはまる。
【0038】
本明細書に包含される実施例は、複数の非常に問題の多い細菌に対する、本発明の組合せの活性についての証拠を含む。
特に、証拠は、実施例1に示す、多剤耐性大腸菌ESBL(拡張スペクトル β-ラクタマーゼ)、実施例2に示す、多剤耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)および多剤耐性緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)PS-4に関する。
【0039】
ペプチド間の相乗効果を評価するために、各組み合わせのFICインデックス(Fractional Inhibitory Concentration)が、以下の式に従って計算された。
[(A)/MICA]+[(P)/MICP]=FICA+FICP=FICインデックス、
ここで、MICAおよびMICPは、別々に決定された2つの薬剤のMICである。同様のことが、3成分またはそれ以上の組み合わせについても同様に適用される。1未満の値は相乗作用を示し、1の値は相加性を示し、そして、1より大きい値は拮抗作用を示す。
【0040】
驚くべきことに、本発明に従ったペプチドの阻害濃度以下のペプチドでさえ、ゲンタマイシン、レボフロキサシンまたはオキサシリンのような、技術が確立された抗生物質との相乗効果を提供することが見出された。
【0041】
特定の理論に縛られることを望むものではないが、前記阻害濃度以下(より高い濃度も同様に)は、抗生物質の細菌細胞への大量の侵入を誘導すると考えられる。
【0042】
第4の態様のさらに好ましい実施形態では、前記組合わせは、
(a)以下の2成分の組合せ、
(i)配列番号1の配列を含むかまたはそれからなるペプチドと、配列番号2の配列を含むまたはそれからなるペプチド:
(ii)配列番号1の配列を含むかまたはそれからなるペプチドおよび第4の態様に従って定義される抗生物質;または、
(iii)配列番号2の配列を含むかまたはそれからなるペプチドおよび第4の態様に従って定義される抗生物質;または、
(b)配列番号1の配列を含むか、またはそれからなるペプチド、配列番号2の配列を含むかまたはそれからなるペプチド、および第4の態様に従って定義される抗生物質の3成分の組み合わせである。
【0043】
本発明によるペプチドと組み合わせることができる抗生物質の中でも、セフトリアキソンおよびオキサシリンが特に好ましい。
【0044】
配列番号1および2の配列をそれぞれ含むまたはからなるペプチドは、本発明による特に好ましい薬剤である。
【0045】
さらに好ましい実施形態では、
(a)前記医薬組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含み、および/または
(b)記載された薬学的に活性な薬剤は、前記医薬組成物に含まれる唯一の薬学的に活性な薬剤である。
【0046】
当該技術分野で一般的であるように、本発明による医薬組成物は、薬学的に活性な薬剤に加えて、また、担体、希釈剤および/または賦形剤を含む医薬的に不活性な薬剤も含み得る。例示的な担体、希釈剤および賦形剤は、本明細書において上記のとおりである。
さらに、明示的に記載されている以外の他の薬学的に活性な薬剤が、医薬組成物中に存在しないことが好ましい。そうはいっても、明示的に言及されていない薬学的に活性な薬剤がさらに存在することも想定される。さらに明示的に言及されていない薬剤の中には、好ましい抗生物質がある。
【0047】
第5の態様では、本発明は、以下において使用される、先行するクレームのいずれかの医薬組成物を提供する。
(a)敗血症、気道の細菌感染症、胃腸管の細菌感染症、泌尿生殖路の細菌感染症、壊死性筋膜炎、火傷の細菌感染症、細菌性創傷感染症、および、皮膚の細菌感染、
または
(b)創傷治癒を促進する方法。
【0048】
上記のように、敗血症は、本発明における特に好ましい適応症である。この組み合わせは、細菌に対する広範囲の高い抗生物質活性のために、そうでなければ制御不能になるであろう、迅速な処置が必要な疾患に対して、第1の選択肢である。このように、本発明の組み合わせは、全身感染症の、治療に有用である。そうは言っても、非全身性疾患も治療に適した適応症の1つです。
【0049】
前項(b)による、創傷治癒の促進に関して、本発明のペプチドは、細菌またはその毒素の存在とは無関係に、ADAMなどのメタロプロテイナーゼを刺激することができるであり、そして、表皮成長因子EGFのような成長因子を採用することが可能であることに留意されたい。
【0050】
第5の態様の好ましい実施形態において、
(a)気道の細菌感染症が、結核、嚢胞性線維症(cystic fibrosis)またはCOPDであり;
(b)胃腸管の細菌感染は、クローン病(Morbus Crohn)であり;または
(c)前記の条件は、グラム陽性および/またはグラム陰性菌によって引き起こされる。特に、以下の、1以上で引き起こされる。
MRSAを含む、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のようなスタフィロコッカス属、
MDRおよびXDR株を含む、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)のようなマイコバクテリウム属(Mycobacterium)、
MDRPA含む緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)などの、シュードモナス属(Pseudomonas)、
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)を含むエンテロコッカス属(Enterococcus)、
ヘモフィルスインフルエンザ(Haemophilus influenzae)を含む、ヘモフィルス属(Haemophilus)、
ESBLを含む大腸菌、
クレブシエラ肺炎(Klebsiella pneumonia,)を含むクレブシエラ(Klebsiella)属、
化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes、ストレプトコッカスパイオゲネス)のようなA群連鎖球菌を含む、β-溶連菌(hemolytic Streptococcus)、および
アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)を含む、アシネトバクター(Acinetobacter)属。
【0051】
以下に記載する本発明によるさらなる態様は、本発明による個々のペプチドおよび組み合わせが、バイオフィルムに対する有用な薬剤であるという知見に関する。バイオフィルムは、様々なタイプの表面、特に、細菌の層が非常に望ましくない、病院および/またはデバイス上の細菌の層である。これに含まれる例は、本発明による薬剤が、バイオフィルムを有意に減少させることができるという証拠を含む。
【0052】
したがって、さらなる態様において、本発明は、体内使用のためのデバイスまたは病院内の表面の上のバイオフィルムの形成を防止または低減する方法、および/または、体内使用のためのデバイスまたは病院内の表面からバイオフィルムを除去する方法を提供する。前記デバイスは、ヒトまたは動物の体には存在せず、前記の方法は、前記デバイスまたは表面を、上記定義の医薬組成物または上記定義のペプチドと接触させることを含む。
【0053】
「バイオフィルム」という用語は、当該技術分野において公知であり、そして、微生物が埋め込まれた粘液層を指す。バイオフィルムは、表面に、微生物によって形成され、そして、表面に付着する。換言すれば、バイオフィルムは、多細胞表面結合凝集体(multicellular surface bound aggregate)とも呼ばれ得る。微生物は、1つの種または複数の種の細菌を含むかまたはそれらからなることができる。
【0054】
バイオフィルムの形成の防止または低減、およびバイオフィルムの除去は、場合によって、化粧または医療用途であってもよい。予防、軽減または除去の任意の方法は、スクラビングなどのさらなる措置を含み得る。
【0055】
さらなる態様において、本発明は、体内デバイスまたは病院内の表面を調整する(preparing)方法を提供する。前記方法は、前記デバイスまたは表面を、前記医薬組成物または前記ペプチドと接触させる方法を含む。ここで、前記デバイスは、ヒトまたは動物の体内に存在しない。
本発明のこの態様に関連して使用される用語「調整する(preparing)」は、製造方法とは対照的に、それぞれ、体内デバイスまたは表面の調整(conditioning)または処理(processing)に関する。これは、「接触させる(bringing into contact)」ステップの以下の説明からも明らかである。
上述の「接触させる(bringing into contact)」とは、上記定義のペプチドまたは医薬組成物が、体内使用のためのデバイスまたは表面によって吸着または吸収されるように行うことができるようにすると、効果的である。
体内デバイスが、ヒトまたは動物の体内に存在しないという上記の要求は、ヒトまたは動物の体の治療方法が、本発明のそれぞれの態様の範囲内にないことを保証する。ヒトまたは動物の身体の治療的処置の方法が特許性から排除されない限り、この否定的な特徴は必要ない。
【0056】
さらなる態様では、本発明は、上で定義した医薬組成物または前記ペプチドを、体内使用のためのデバイスまたは病院内の表面上のバイオフィルムの形成を防止または低減するため、および/または体内使用のためのデバイスまたは病院内の表面から、バイオフィルムを除去するための、使用を提供する。ここで、前記デバイスは、ヒトまたは動物の体内に存在しない。
【0057】
さらなる態様において、本発明は、上記に定義した医薬組成物または上記で義定されたペプチドで、コーティングされた及び/又はで装填された(loaded)、体内デバイス、または病院の表面を提供する。
【0058】
「コーティングされた」という用語は、体内デバイスの表面または病院の表面上の層を意味し、本発明に係る1以上のペプチドおよび/または医薬組成物を含むまたは、からなる。前記層は、表面または体内デバイスの全部または一部を覆うことができる。
「装填された(loaded)」という用語は、前記デバイスまたは表面のその全体または一部が、本明細書中で上に定義されるような1つまたは複数のペプチドおよび/または医薬組成物を含む材料で作製されている、体内のデバイスまたは表面を指す。
【0059】
バイオフィルムの制御に関する本発明の好ましい実施形態では、
(a)前記体内使用のためのデバイスは、カテーテル、インプラント、内視鏡、排液器、コンタクトレンズおよび補聴器から選択される。または
(b)病院の前記表面は、接続器具(fitting)である。
さらに好ましい実施形態では、前記バイオフィルムは、グラム陽性またはグラム陰性菌、好ましくは、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)または、MRSAを含む、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、をふくむ、または、からなる。
【0060】
さらなる態様において、本発明は、配列番号1の配列を含むかまたはそれからなるペプチドをコードする核酸を提供する。
用語「核酸」は、本発明に従って、用語「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用され、そして、cDNA又はゲノムDNA、およびRNAのようなDNAを含む。さらに、DNAまたはRNAおよび混合ポリマーの合成 半合成誘導体のような、当該分野で公知の核酸模倣分子が含まれる。
【0061】
本発明のこのような核酸模倣分子または核酸誘導体には、ホスホロチオテート(phosphorothiotate)核酸、ホスホルアミデート核酸、2’-O-メトキシエチルリボ核酸、モルホリノ核酸、ヘキシトール核酸(HNA)およびロックド核酸(locked nucleic acid、LNA)が含まれる。(Braasch およびCorey, Chem. Biol.、2001年、8:1)。LNAは、リボース環が、2’-酸素と4’-炭素の間のメチレン結合によって束縛されている(constrained)RNA誘導体である。
【0062】
それらは、当業者によって容易に理解されるように、さらなる非天然または誘導体ヌクレオチド塩基を含有し得る。本発明の目的のために、ペプチド核酸(PNA)も使用することができる。ペプチド核酸は、ペプチド結合によって連結された、反復N-(2-アミノエチル)-グリシン単位からなる骨格を有する。プリンおよびピリミジン塩基は、メチレンカルボニル結合によって骨格に結合している。
好ましい実施形態では、核酸分子はDNAである。
当業者であれば、複数の核酸が、遺伝コードの縮重のために、本発明のペプチドをコードし得ることは容易に理解されるであろう。4塩基からなるトリプレット塩基コードは、20種類のタンパク原性アミノ酸と終止コドンをそれぞれ指定するため、縮重が生じる。トリプレットにおける可能な43の可能性は、64の可能なコドンを与え、いくつかの縮重が存在しなければならないことを意味する。結果として、いくつかのアミノ酸は、1つ以上のトリプレット、すなわち最大6つのトリプレットによってコードされる。縮重は、主に三つ組の第3位の変化から生じる。これは、異なる配列を有するが、同じポリペプチドを依然としてコードする核酸分子が本発明の範囲内にあることを意味する。
【0063】
さらなる態様において、本発明は、上記の核酸を含むベクターを提供する。
好ましくは、ベクターはプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、または、例えば、遺伝子工学において従来から使用されている他のベクターである。
好ましくは、ベクターは発現ベクターである。
本発明による発現ベクターは、本発明の核酸分子およびそれによってコードされるペプチドの複製および発現を指向することができる。適切な発現ベクターは上記に記載されている。
【0064】
さらなる態様において、本発明は、細菌の増殖を制御するインビトロでの方法を提供し、ここで、前記方法は、上記で定義したペプチドまたは上記の組合せと前記細菌を接触させることを含む。
さらなる態様において、本発明は、細菌の増殖を制御するための、上で定義したペプチドまたは上記で定義した組み合わせを提供する。
好ましい実施形態では、前記制御は、還元、減速、阻害または無効を含むか、またはそれらからなる。
図は次のとおりです。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】
図1は、本発明の薬剤の存在下および非存在下における細菌の増殖を示す。
【
図2】
図2は、GFP-標識細菌を用いた、緑膿菌からのバイオフィルムの不活化(GFP:緑色蛍光タンパク質)を示す。生きている細菌は、白色、不活性化した細菌は暗色である。
【
図3A】
図3(A)は、ペプチド19-2.5/ペプチド9-4LF/レボフロキサシンであり、(B)は、ペプチド19-2.5/ペプチド9-4LF/レボフロキサシンを示す。曲線下面積(AUC)は、薬物の抗菌効果の尺度であり、最も低い値が最も強い効果を示す。
【
図3B】
図3(A)は、ペプチド19-2.5/ペプチド9-4LF/レボフロキサシンであり、(B)は、ペプチド19-2.5/ペプチド9-4LF/レボフロキサシンを示す。曲線下面積(AUC)は、薬物の抗菌効果の尺度であり、最も低い値が最も強い効果を示す。
【
図3C】
図3(A)は、ペプチド19-2.5/ペプチド9-4LF/レボフロキサシンであり、(B)は、ペプチド19-2.5/ペプチド9-4LF/レボフロキサシンを示す。曲線下面積(AUC)は、薬物の抗菌効果の尺度であり、最も低い値が最も強い効果を示す。
【
図4】
図4は、tが、0ヶ月、3ヶ月および6ヶ月での、日々の治療の前後の創傷を示す。
【
図5】
図5は、ペプチド19-2.5によるヒト末梢血単核細胞の、ヒト結核菌誘導TNF形成の用量依存性阻害を示す。イソニアジド処理結核菌の上清(0.1μg/ml;72時間)を、未処理のまま放置するか、または示された濃度で、ペプチドX、Y、Zと共に30分間インキュベートした。次いで、等量を、ヒトPBMC(1×10
6/ml)に添加し、さらに24時間インキュベートした。TNFの形成は、ELISA(R&D Systems)によって測定した。
【
図6】
図6は、Aspidasept(登録商標)は、MoDCの成熟および遊走を阻害するのを示す。
【
図7】
図7は、:Aspidasept(登録商標)とAspisasept IIは、TLR2/6活性化ケラチノサイトにおける、IL-8の放出を減少させるのを示す。
【
図9】
図9は、レボフロキサシンと本発明のペプチドとの組み合わせの相乗効果を示す。データは、フィンランドのヘルシンキにある、LabsystemのBioscreen C、を用いて、37℃で連続的に振盪しながら、Mueller-Hinton(カチオン調整した)での増殖実験から得た。一度、Fractional Inhibitory Concentrations(FIC)を計算して、濃度を、チェッカーボード分析後(checkerboard analysis)、調整した。全ての事例は、FICインデックス<0.5であり、相乗効果を示した。結果は、3つの独立した実験の平均を示す。
【
図10A】
図10は、ゲンタマイシン(A)およびオキサシリン(B)の組み合わせの、それぞれ、本発明のペプチドとの組み合わせの相乗効果を示す。
【
図10B】
図10は、ゲンタマイシン(A)およびオキサシリン(B)の組み合わせの、それぞれ、本発明のペプチドとの組み合わせの相乗効果を示す。
【0066】
実施例は、本発明を説明する。
【0067】
実施例1
【0068】
セフトリアキソンと本発明のペプチドとの組合せの存在下での、エシェリヒア・コリ ESBL(CUN E20)の増殖
抗生物質に対する細菌の感作を誘導するペプチドの能力は、96ウェルのポリスチレン マイクロタイタープレートで、標準交差力価測定(standard checkerboard titration)によって決定した[Eliopoulos GM、Moellering、RC:抗菌組合せ、研究室医薬における抗生物質、第4版。編集者:ロリアン V.ボルティモア(Lorian V. Baltimore)編:ウィリアムズ アンド ウィルキンズ社、1996年:330-396頁]。
この目的のために、2つの抗菌剤の連続希釈物を、各列が一定量の1つの薬剤および他の薬剤の増加する量を含有するように、マイクロタイタープレートで、一緒に混合した。接種物(Inocula)は、Mueller-Hinton(MH)培地(Difco Laboratories、Sparks、MD、USA)中、おおよそ、1×105CFU/mLからなる。
ペプチド間の相乗効果を評価するために、各組み合わせのFIC(Fractional Inhibitory Concentration)インデックスは、[(A)/MICA]+[(P)/MICP]=FICA+FICP=FICインデックスにより、算出した。
ここで、MICAおよびMICPは、別々に決定された2つの薬剤のMICであり、そして、(A)および(P)は、組合わせて決定された場合の薬剤のMICである。
所定のペプチド-ペプチドの組み合わせは、そのFICインデックスが、≦0.5である場合、相乗的であるとみなされた。試験した最大濃度(250μg/mL)より高いMIC値を有するペプチドは、500μg/mLのMIC値をアサインした。
【0069】
【0070】
個々の薬剤のMIC値は、以下の通り。
ペプチド19-4LF(Peptide 19-4LF):16μg/ml、
ペプチド19-2.5(Peptide 19-2.5):128μg/ml、
セフトリアキソン(Ceftriaxon):16μg/ml。
相乗効果の尺度として、Fractioned Inhibitory Concentration(FIC)インデックスを使用する。以下の組合せについて、それぞれ、2成分および3成分の相乗作用が見出された:
【0071】
2成分の組み合わせ
セフトリアキソン(Cef)+ペプチド19-2.5:FIC 0.375;
2成分の組み合わせ
セフトリアキソン+ペプチド19-4LF:FIC 0.5;
2成分の組み合わせ
ペプチド19-4LF+ペプチド19-2.5:FIC 0.5;そして、
3成分の組み合わせ
セフトリアキソン+ペプチド19-2.5+ペプチド19-4LF:FIC 0.375。
【0072】
実施例2
【0073】
MRSAの増殖に対する相乗効果
Pep19-2.5(8μg/mL)、Pep19-4LF(2μg/mL)およびオキサシリン(4μg/mL)の組み合わせに、時間0で、暴露した、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌ATCC 43300(MRSA)の増殖曲線を、
図1に示す。
組み合わせの阻害活性は、培養物の吸光度を、定期的に測定する、自動濁度(turbidimetric)測定システム(Bioscreen C、Labsystem、Helsinki、Finland)によって測定した。
アッセイは、Bioscreenポリスチレン ハニカム 100-ウェル プレートを使用して、MH培地で行った。接種物は、ほぼ、Mueller-Hinton(MH)培地(Difco Laboratories、Sparks、MD、USA)の1×10
5CFU/mL、からなっていた。細胞懸濁液を、振盪しながら、37℃で増殖させ(「中程度のrpm」位置に設定)、そして、吸光度を少なくとも48時間、15分ごとに測定した。
培養液の吸光度は、自動化されたバイオスクリーン C システムを使用して、15分ごとに測定した。
【0074】
実施例3
【0075】
バイオフィルムの不活性化
図2に示すデータは、短時間の処理(1時間)後、直ぐに、ほとんどの細菌が不活性化されていることを示している。
図2に示される代表的なデータは、ペプチド19-4LFの添加後短期で(1時間)、ほとんどの細菌が不活性化されていることを示す。
顕微鏡写真は、表面のわずかな部分のみが、未処理のもの(A)と比較して、1時間後にバイオフィルムを形成する生細菌によって覆われていることを示した(B)。
生きた細菌の減少の程度は非常に明白であり、ペプチド19-4LFが、短時間の後に、細胞外ポリマー物質(EPS)マトリックスに浸透して、細菌を殺すことができることを示唆している。
図8に示されるデータは、疾病管理(CDC)バイオフィルムリアクター(CBR)センターを用いて、実施された実験で得られたものである。この場合、臨床菌株Pseudomonas aeruginosa PS4を、TSB中で、連続振とう下に24時間インキュベートし、続いて、希釈TSBの流れで、さらに24時間増殖させた。サンプルは、さらに、リン酸緩衝液に溶解し、37℃で、さらに24時間、処理された。
プレート化及び計数に先立ち、バイオフィルムをこすり落とし、連続的に希釈した。共焦点顕微鏡検査のために、生存/死 BacLight(Life technologies、Carlsbad、California、USA)を用いて、バイオフィルムを染色した。結果は、2つの独立した実験の平均を示す。
【0076】
実施例4
【0077】
阻害の相乗作用の動態:レボフロキサシンと組み合わせた、本発明の抗生ペプチド
ペプチド19-2.5およびペプチド19-4LFと、抗生物質レボフロキサシン(フルオロキノロン群からの第三世代の薬剤)の組合せ、および、ペプチド19-2.5およびペプチド19-4LFのみの組み合わせを、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)PS4由来の多剤耐性細菌で、試験した。
具体的には、組合せの阻害活性は、自動化された比濁(turbidimetric)ベースのシステム(バイオスクリーン C、Labsystem、ヘルシンキ、フィンランド)によって決定された。これは、一定間隔で培養物の吸光度を測定した。アッセイは、Bioscreen ポリスチレン ハニカム 100-ウェル プレートを使用して、MH培地で行った。接種物は、ほぼMueller-Hinton(MH)培地(Difco Laboratories、Sparks、MD、USA)の、約1×10
5CFU/mL、からなっていた。
細胞懸濁液を振盪しながら、37℃で増殖させ(「中程度のrpm」位置に設定)、そして、吸光度を、少なくとも48時間、15分ごとに測定した。各実験を独立して3回繰り返し、そして、結果を、Prismプログラムで分析した。この目的のために、まず、曲線の下の領域(AUC)が、各triplicateについて得られた。そして、各平均結果を、一対比較のため、Kruskal Wallis検定で補完されたノンパラメトリックなマン-ホイットニー U検定を用いて統計的に分析した。
図3及び9において、細菌の増殖(光学的に光学濃度測定)細菌の増殖は、時間(時間)に対してプロットされた。
ペプチドと、抗生物質とペプチド単独、の両方の組み合わせは、強力な相乗的組合せであり、0.5(
図9で、FIC=0.31)未満のFIC値によって証明された。
ペプチド単独ならびに抗生物質(レボフロキサシンの他にゲンタマイシンも)と共に、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)ならびにアシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)由来の多剤耐性株に対して相乗的に作用した。
阻害的相乗作用の動力学:ゲンタマイシンおよびオキサシリンそれぞれと組み合わせた本発明の抗生物質ペプチド。
図10に示すデータは、Bioscreen C(Labsystem、フィンランド、ヘルシンキ)を使用して、37℃で、連続的に振盪しながら、Mueller-Hinton(カチオン調整)での増殖実験で得た。一旦、Fractional Inhibitory Concentrations(FIC)を計算して、チェッカーボード分析後、濃度は調整された。
全ての事例は、FIC指数<0.5であり、相乗効果を示した。結果は3つの独立した実験の平均を示す。
【0078】
実施例5
【0079】
承認されていない薬剤を使用した、ドイツ薬事法(German Arzneimittelgesetz) §4bによる治癒の試み。
男性患者(78歳)は、背中の治療した腫瘍のために、開いた創傷を有していた(t=0の画像参照)。放射線療法後の軟部組織の状態が悪いため、術後のリハビリを行うことが決定されたが、成功しなかった。したがって、保存的創傷治療が開始された。創傷の局所化は、毎日のケアを引き継いだ通院介護サービスの関与が必要であった。それにもかかわらず、散発的な間隔で、創傷感染が起こり、治癒プロセスが阻害された。微生物学的分析により、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、パルビウモラス マイクラ(Parvimonas micra)、β-溶血ストレプトコッカス(s-hemolysing Streptococcus)、および緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の発生が示された。
6年以上にわたり、異なる抗生物質および局所的に適用された製剤を用いた、すべての治療アプローチは失敗した。2014年11月、患者が同意した治癒の試みの可能性について知らされた。治療は、軟膏(salve)中、0.1%のPep19-2.5(Aspidasept(登録商標))(薬剤師からDACベースのクリームに、BACHEM ロット1053821)を用いて、開始されたが、効果を示さなかった。濃度を1%まで増加させた後でのみ、有意な効果が観察され(下記の写真のt=2015年2月のt=3か月を参照)、創傷の治癒の増加と関連した。既に2ヶ月後に、創傷の直径は50%縮小し、そして、6ヶ月後には完全に治癒した。
図4を参照してください。この治療効果は、他の全てのパラメーターが変更されていないため、Aspidasept(登録商標)軟膏の使用によってのみ説明することができる。現在、創傷は完全に閉鎖されている。
【0080】
実施例6
【0081】
Mycobacterium tuberculosisの細胞壁化合物によって誘導される炎症応答の阻害
結核菌は、抗Mtbのファーストライン抗生物質である、イソニアジド(INH)またはリファンピシン(RIF)で、37℃で、3日間、治療された。続いて、ペプチドPep19-2.5、Pep19-12およびPep19-2.5 アシル(ヘキサン酸残基)の非存在下または存在下で、ヒト単核細胞(5×10
5細胞/ml)に細菌細胞の上清を添加した。炎症反応は、ELISAにおいて腫瘍壊死因子α(TNFα)形成を測定することによってモニターした。これは、Pep19-2.5の化合物が最も強い抗TNFα活性を示すが観察され、既に、10μg/mlのかなり低い濃度で、TNFαの形成は、50%以上抑制されていた(図の左側)。配列変異を有する他のペプチドは、より弱い阻害活性を示した。
対照として、LPS誘導性TNFα産生の不活性化は、図の右側にある3つの検討したペプチドについて示された。それは、T.Gutsmannら。(Gutsmannら、エンドトキシン介在のショックに対して保護する、新規の殺菌ペプチド、AAC54、3817~3824頁(2010年))によって、以前に開示されたような、極めて有効な阻害であった。
図5を参照。
【0082】
実施例7
【0083】
Aspidasept(登録商標)は、MoDCの成熟と移動を阻害する
未成熟樹状細胞の成熟および移動は、病原体に対する適応免疫の開始の重要なステップである。しかしながら、活性化されたT細胞によって媒介される持続的かつ過剰な炎症反応は、慢性炎症および創傷治癒の遅延に寄与し得る。
単球由来樹状細胞(MoDC)において、Pep19-2.5は、成熟マーカーCD83および共刺激分子CD80を、ペプチドLPSの1000:1の重量比で、LPS媒介性アップレギュレーションを阻害する。
さらに、MoDCのLPS誘導性移動はおよびCCR7遺伝子発現が、Pep19-2.5によって完全にブロックされた。
図6を参照してください。
【0084】
実施例8
【0085】
Aspisasept(登録商標)およびAspisasept IIは、TLR2/6活性化ケラチノサイトにおけるIL-8放出を低下させる。
明らかに、TLR4受容体の欠如および皮膚由来の大部分の細菌はグラム陽性起源であるという事実から、ヒト皮膚由来のケラチノサイトはグラム陰性エンドトキシン(LPS)に反応しないことが示され得る。したがって、毒素(病原性因子)FSL-1(線維芽細胞刺激性リポペプチド)すなわち、TLR-2/6活性化化合物、に対する、Pep19-2.5およびPep19-4LFの効果を調べた。
FSL-1のIL-8誘発活性は、すでに10:1の重量比のペプチドの添加によってかなり減少していたが、2つのペプチドのC末端を欠いていたコントロールペプチドPep19-2.5gekは、完全に不活性であった。
図7を参照してください。
【0086】
実施例9
【0087】
皮膚細胞における炎症反応の抑制およびケラチノサイトの移動の促進
Pep19-2.5および構造的に関連する化合物Pep19-4LFの活性は、細菌性皮膚感染におけるそれらの治療的適用について研究されてきた。
初代のヒトケラチノサイトは、IL-8産生の増加によって、TLR4(LPS)ではなく、TLR2(FSL-1)の活性化に応答し、これは、ELISAで測定された。
両方のSALPは、NF-kB p65およびp38 MAPKのFSL-1誘導性リン酸化を阻害し、そして、IL-8放出およびIL-1β、CCL2(MCP-1)およびhBD-2の遺伝子発現を有意に低下させた。
細胞内タンパク質のリン酸化を検出するために、ウエスタンブロットを行った。遺伝子発現は、定量的リアルタイムPCRによって評価された。MTT試験において、10μg/ml未満のSALP濃度で細胞傷害性を観察した。
LPS刺激単球由来樹状細胞において、ペプチドは、IL-6分泌を遮断し、フローサイトメトリーで検出された成熟マーカーCD83およびCD86の発現を下方制御し、そして、CCR7依存性移動能を阻害した。
同様に、単球由来のランゲルハンス様細胞は、LPSで活性化され、そして、前炎症性サイトカインは、SALPの存在下でIL-6レベルおよびCD83/CD86発現の低下を示した。急性炎症に加えて、細菌感染はしばしば創傷治癒の障害をもたらす。再上皮化は創傷修復の重要な段階であるので、我々はPep19-2.5がケラチノサイトの移動に影響を及ぼすかどうかを試験した。スクラッチアッセイにおいて、ペプチドは、細胞遊走を顕著に促進し、そして、1ng/mlという低い濃度で人工創傷閉鎖を加速し、そして、TGF-βと等価であった。
【0088】
実施例10
【0089】
さらなる細菌における本発明の2つのペプチドの相乗作用
図11は、フィンランドのヘルシンキにある、Labsystemの、Bioscreen Cを使用して、37℃で連続的に振盪しながら、Mueller-Hinton(カチオン調整)での、増殖実験で得られたデータを示す。
濃度は、チェッカーボード分析後、一旦、Fractional Inhibitory Concentrations(FIC)を計算した後調整した。全ての症例は、FICインデックス<0.5であり、相乗効果を示した。結果は、3つの独立した実験の平均を示す。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-01-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組合せを含むか、または、それからなる、医薬組成物;
(a)2またはそれ以上のペプチドの組み合わせ:各ペプチドは、配列番号1の配列または配列番号2の配列、または、18~22個のアミノ酸からなり、
ここで、上記アミノ酸は、N末端から数えて、1~22位のアミノ酸が、以下のとおりであり、
( 1位)G;
( 2位)Cまたは欠失;
( 3位)K;
( 4位)K;
( 5位)YまたはF;
( 6位)R;
( 7位)R;
( 8位)F;
( 9位)KまたはR;
(10位)W;
(11位)K;
(12位)F;
(13位)KまたはR;
(14位)G;
(15位)K;
(16位)F、LまたはW;
(17位)FまたはW;
(18位)F、LまたはW;
(19位)WまたはF;
(20位)Cまたは欠失;
(21位)F、Gまたは欠失;
(22位)Gまたは欠失;
または、
(b)1またはそれ以上のペプチドと1種以上の抗生物質との組み合わせ:
各ペプチドは、配列番号1の配列または配列番号2の配列、または、18~22個のアミノ酸からなり、
ここで、上記アミノ酸は、N末端から数えて、1~22位のアミノ酸が、以下のとおりであり、
( 1位)G;
( 2位)Cまたは欠失;
( 3位)K;
( 4位)K;
( 5位)YまたはF;
( 6位)R;
( 7位)R;
( 8位)F;
( 9位)KまたはR;
(10位)W;
(11位)K;
(12位)F;
(13位)KまたはR;
(14位)G;
(15位)K;
(16位)F、LまたはW;
(17位)FまたはW;
(18位)F、LまたはW;
(19位)WまたはF;
(20位)Cまたは欠失;
(21位)F、Gまたは欠失;
(22位)Gまたは欠失;
前記1種以上の抗生物質はセフトリアキソン(ceftriaxone)、オキサシリン、アモキシシリン、アミカシン、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、イミペネム、テトラサイクリン、ダプトマイシンおよびバンコマイシンから選択される。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬組成物であって、ここで、
(a)前記組合せは相乗的であり、相乗作用は抗菌活性に関して生じる。および/または
(b)前記医薬組成物は広域スペクトルの抗生物質である、医薬組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の医薬組成物であって、前記組み合わせが、
(a)以下の2成分の組合せ
(i)配列番号1の配列からなるペプチド、および配列番号2の配列からなるペプチド;
(ii)配列番号1の配列からなるペプチドおよび請求項1(b)に記載の抗生物質;または
(iii)配列番号2の配列からなるペプチドおよび請求項1(b)に記載の抗生物質;
または
(b)配列番号1の配列からなるペプチド、配列番号2の配列からなるペプチドおよび請求項1(b)に記載の抗生物質の3成分の組み合わせである、医薬組成物。
【請求項4】
以下の使用のための、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(a)敗血症、気道の細菌感染症、胃腸管の細菌感染症、泌尿生殖路の細菌感染症、壊死性筋膜炎、火傷の細菌感染症、細菌性創傷感染症、および、皮膚の細菌感染、から選択される1つ以上の状態を治療、改善または予防する方法;または
(b)創傷治癒を促進する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の使用のための医薬組成物であって、
(a)気道の細菌感染症が、肺結核、嚢胞性線維症またはCOPDであり;
(b)胃腸管の細菌感染症が、クローン病(Morbus Crohn)であり;または
(c)前記状態が、グラム陽性および/またはグラム陰性細菌によって引き起こされる、医薬組成物。
【請求項6】
グラム陽性および/またはグラム陰性細菌が、
スタフィロコッカス属、
マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、
シュードモナス属(Pseudomonas)、
エンテロコッカス属(Enterococcus)、
ヘモフィルス属(Haemophilus)、
大腸菌、
クレブシエラ属(Klebsiella)、
β-溶連菌(β-hemolytic Streptococcus)、および
アシネトバクター属(Acinetobacter)、
の一つ以上である、請求項5に記載の医薬組成物。
【外国語明細書】