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特開2024-3798単一分子ペプチド配列決定のための手段および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003798
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】単一分子ペプチド配列決定のための手段および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/64 20060101AFI20240105BHJP
   C12N 9/52 20060101ALN20240105BHJP
   C12N 15/57 20060101ALN20240105BHJP
【FI】
C12N9/64 Z
C12N9/52 ZNA
C12N15/57
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023124712
(22)【出願日】2023-07-31
(62)【分割の表示】P 2020518073の分割
【原出願日】2018-09-28
(31)【優先権主張番号】1715684.5
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】514185600
【氏名又は名称】ブイアイビー ブイゼットダブリュ
【氏名又は名称原語表記】VIB VZW
【住所又は居所原語表記】Rijvisschestraat 120, B-9052 Gent, Belgium
(71)【出願人】
【識別番号】514185611
【氏名又は名称】ユニベルシテイト ゲント
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITEIT GENT
【住所又は居所原語表記】Sint-Pietersnieuwstraat 25, B-9000 Gent, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カルヴェルト,ニコ
(72)【発明者】
【氏名】アイッカーマン,スヴェン
(72)【発明者】
【氏名】デヴォス,サイモン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】タンパク質配列決定に、具体的には単一分子ペプチド配列決定に関する触媒活性アミノペプチダーゼを提供する。
【解決手段】ポリペプチドに作用する、改変された触媒活性アミノペプチダーゼであって、ここで該ポリペプチドが、そのC末端を介してか、または該ポリペプチドのC末~第1ペプチド結合のペプチド部分を介して、表面上に固定化されており、ここで該アミノペプチダーゼが、該ポリペプチドのN末アミノ酸を切断し、およびここで該N末アミノ酸を切断するまでの該アミノペプチダーゼの滞留時間が、該N末アミノ酸を同定するか、またはカテゴライズする、前記アミノペプチダーゼを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドに作用する、改変された触媒活性アミノペプチダーゼであって、
ここで該ポリペプチドが、そのC末端を介してか、または該ポリペプチドのC末~第1ペプチド結合のペプチド部分を介して、表面上に固定化されており、
ここで該アミノペプチダーゼが、該ポリペプチドのN末アミノ酸を切断し、および
ここで該N末アミノ酸を切断するまでの該アミノペプチダーゼの滞留時間が、該N末アミノ酸を同定するか、またはカテゴライズする、前記アミノペプチダーゼ。
【請求項2】
該N末アミノ酸が、誘導体化されたN末アミノ酸であり、および
該アミノペプチダーゼが、該誘導体化されたN末アミノ酸に結合し、かつこれを切断する、請求項1に記載のアミノペプチダーゼ。
【請求項3】
該N末アミノ酸が、イソチオシアナートまたはイソチオシアナート類似体で誘導体化されたN末アミノ酸である、請求項2に記載のアミノペプチダーゼ。
【請求項4】
該N末アミノ酸が、CITCまたはSPITCで誘導体化され、ならびに
該アミノペプチダーゼが、配列番号1または配列番号2に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつ位置25にてグリシン残基、位置65にてセリン残基、位置138にてシステイン残基、および位置208にてヒスチジン残基を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のアミノペプチダーゼ。
【請求項5】
配列番号3または配列番号4に描かれるとおりのアミノ酸配列を含む、請求項4に記載のアミノペプチダーゼ。
【請求項6】
該アミノペプチダーゼが、配列番号7に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、
システイン残基が、位置1でのメチオニン残基と位置2でのアラニン残基との間に挿入されている、請求項1に記載のアミノペプチダーゼ。
【請求項7】
配列番号8を含むか、またはこれからなる、請求項6に記載のアミノペプチダーゼ。
【請求項8】
該アミノペプチダーゼが、光学標識、電気標識、もしくはプラズモン標識をさらに含むか、または光学的に、電気的に、もしくはプラズモンにより検出される、請求項1~7のいずれか一項に記載のアミノペプチダーゼ。
【請求項9】
該アミノペプチダーゼが、好熱性および/または耐溶剤性である、請求項1~8のいずれか一項に記載のアミノペプチダーゼ。
【請求項10】
ポリペプチドの配列情報を得るための切断誘導剤の使用であって、ここで該ポリペプチドが、そのC末端を介してか、または該ポリペプチドのC末~第1ペプチド結合のペプチド部分を介して、表面上に固定化されており、
ここで該ポリペプチドのN末アミノ酸上の該切断誘導剤の滞留時間が、該N末アミノ酸を同定するか、またはカテゴライズする、前記使用。
【請求項11】
該切断誘導剤が、触媒活性アミノペプチダーゼ、イソチオシアナート、またはイソチオシアナート類似体である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
該触媒活性アミノペプチダーゼが、請求項1および6~9のいずれか一項に記載のアミノペプチダーゼであり、ならびに
該N末アミノ酸が、Leu、Met、Tyr、Arg、Pro、Gly、Lys、Ala、およびValからなるリストから選択される、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
該触媒活性アミノペプチダーゼが、請求項2に記載のアミノペプチダーゼであり、および
ここで該誘導体化された末端のアミノ酸が、誘導体化されたN末アミノ酸である、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
該誘導体化されたN末アミノ酸が、CITCまたはSPITCで誘導体化されており、ならびに
該アミノペプチダーゼが、請求項4、5、8および9のいずれか一項に記載のアミノペプチダーゼである、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
該配列情報が、該ポリペプチドから単一分子レベルで得られる、請求項10~14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
ポリペプチドのN末アミノ酸を同定するか、またはカテゴライズする方法であって、ここで該ポリペプチドが、そのC末端を介してか、または該ポリペプチドのC末~第1ペプチド結合のペプチド部分を介して、表面上に固定化されており、
該方法が、該N末アミノ酸を同定するか、またはカテゴライズするために、以下:
a)該表面に固定化されたポリペプチドを切断誘導剤に接触させること、ここで該切断誘導剤が、N末アミノ酸に結合し、かつ該ポリペプチドからこれを切断する;
b)該N末アミノ酸上の該切断誘導剤の滞留時間を測定すること;
c)該測定された滞留時間を、該切断誘導剤および一連のN末アミノ酸に特徴的な一連の滞留時間参照値と比較すること
を含む、前記方法。
【請求項17】
ポリペプチドの配列情報を得る方法であって、ここで該ポリペプチドが、そのC末端を介して表面上に固定化されており、該方法が、以下:
a)該表面に固定化されたポリペプチドを切断誘導剤に接触させること、ここで該剤が、N末アミノ酸に結合し、かつ該ポリペプチドからこれを切断する;
b)該表面に固定化されたポリペプチドのN末アミノ酸上の該切断誘導剤の滞留時間を測定すること;
c)該切断誘導剤に、該N末アミノ酸を切り離せるようにすること;
d)該測定された滞留時間を、該切断誘導剤および一連のN末アミノ酸に特徴的な一連の滞留時間参照値と比較することによって、該N末アミノ酸を同定するか、またはカテゴライズすること;
e)ステップa)~d)を1回以上繰り返すか、またはステップb)~d)を1回以上繰り返すこと
を含む、前記方法。
【請求項18】
該切断誘導剤が、イソチオシアナートまたはイソチオシアナート類似体であり、
該滞留時間が、該N末アミノ酸が除去されるまでに掛かる時間であり、
該N末アミノ酸が、該掛かる時間を種々のアミノ酸に係る一連の参照値と比較することによって同定される、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
該切断誘導剤が、アミノペプチダーゼであり、および
該アミノペプチダーゼの滞留時間が、該アミノペプチダーゼの該N末アミノ酸への結合事象ごとに測定される、請求項16または17に記載の方法。
【請求項20】
表面に固定化されたポリペプチドの光学的シグナル、電気的シグナル、またはプラズモンシグナルを測定することによって、該N末アミノ酸の切断を決定するというステップを加えて包含し、
ここで光学的シグナル、電気的シグナル、またはプラズモンシグナルにおける差が、該N末アミノ酸の切断を表す、請求項16~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
加えて、該表面に固定化されたポリペプチドが、1以上のN末アミノ酸結合タンパク質に接触させられ、
ここで該1以上の結合タンパク質の該N末アミノ酸への結合事象の速度論が、該N末アミノ酸を同定するか、またはこれに関してさらに情報提供する、請求項16~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ポリペプチド変性の第1ステップを包含するか、またはポリペプチド変性状態が、請求項16~21のいずれか一項における1以上のステップの最中に存在し、
該触媒活性アミノペプチダーゼが、好熱性および/または耐溶剤性のアミノペプチダーゼであるか、および/または、該切断誘導剤が、イソチオシアナートもしくはイソチオシアナート類似体である、請求項16~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
該N末アミノ酸が、誘導体化されている、請求項16~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
該アミノペプチダーゼが、請求項1および6~9のいずれか一項に記載のアミノペプチダーゼであり、ならびに
該N末アミノ酸が、Leu、Met、Tyr、Arg、Pro、Gly、Lys、Ala、およびValからなるリストから選択される、請求項16、17および19~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
該誘導体化された末端のアミノ酸が、誘導体化されたN末アミノ酸であり、および
該剤が、請求項2に記載のアミノペプチダーゼである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
該誘導体化されたN末アミノ酸が、CITCまたはSPITCで誘導体化され、および
該アミノペプチダーゼが、請求項4、5、8および9のいずれか一項に記載のアミノペプチダーゼである、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
該N末アミノ酸が、同定されるか、または
該表面に固定化されたポリペプチドが、単一分子レベルで配列決定される、請求項16~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
該滞留時間が、光学的に、電気的に、またはプラズモンにより測定される、請求項16~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
該ポリペプチドが、能動的検知表面上に固定化されている、請求項16~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
該能動的検知表面が、該ポリペプチドが化学的にカップリングされている金表面、またはアミド-、カルボキシル-、チオール-、もしくはアジド官能基化表面のいずれかである、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、生化学の分野に、より具体的にはプロテオミクスに、より具体的にはタンパク質配列決定に、さらにいっそう具体的には単一分子ペプチド配列決定に関する。本発明は、切断誘導剤を使用する単一分子タンパク質配列決定および/またはアミノ酸同定のための手段ならびに方法を開示する。該切断誘導剤は、具体的な1つのアミノ酸に特異的なものではなく、ポリペプチドをN末端から先へステップ・バイ・ステップで切断し、かつ該切断誘導剤とポリペプチドとの間のかみ合わせ(engagement)の速度論に基づく切断されたアミノ酸の同一性に関する情報、または該ポリペプチド切断反応の速度論に関する情報を提供する。
【背景技術】
【0002】
背景
生体分子(DNA、RNA、タンパク質)の大量処理(high throughput)配列決定(sequencing)のための技術は急速に発展してきており、現代の科学および医学にとって不可欠なものである。とりわけ、DNAのための配列決定技術は大きく飛躍しており、今や次世代アプローチから単一分子レベルで作動する第3世代アプローチへ移行しつつある(例として、Pacific Biosciences, Oxford Nanopores; Ambardar et al. 2016 Indian J Microbiol 56:394-404)。DNAの一様な性質および入手可能な分子ツールの多様さ(broad panel of)が真に、この分野を前へ推し進めている。対照的に、タンパク質/ペプチド配列決定は後れを取っており、その大部分が液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)ベースの技術に依存している。
【0003】
LC-MS器械使用(instrumentation)は、スピード、感度、および分解能の観点から大幅に進展したが、機械を操作および維持するには高度に複雑かつ高価である。その上、MSベースのプロテオミクスは今もなお、検出するためにおよそ106コピーのタンパク質/ペプチドを要する。単一のタンパク質/ペプチド配列決定は目下、実行不可能であり、したがって単細胞プロテオミクスなどの適用は手に負えるものではない。その上、タンパク質は、DNAが増幅され得るようには増幅され得ないところ、単一分子配列決定は概念上、より相性が良く、さらにまたデジタル式のタンパク質定量化を可能にするであろう。
【0004】
次世代のタンパク質配列決定の概念は、すでに生まれてはいるが、大きな課題に直面している。第1に、区別すべきアミノ酸は(たった4種のヌクレオチドと比較して)20種あり、アミノ酸ごとに厳密に同定するための測定可能な単一のパラメータを得ることは、ありえそうにない。しかしながら、あるアミノ酸カテゴリーを、確率的なやり方であっても、各配列の位置に帰することができるのは、(LC-MSデータではなされているとおり)データベースからの制約に基づくペプチド同定を用いるプロファイリングで既に充分なこともある(Swaminathan et al. 2015 PLoS Comput Biol. 11:e1004080)。
【0005】
第2に、タンパク質は、生理化学的特性の観点から極度に不均一である。これは、ボトムアップ(bottom-up)プロテオミクスアプローチ、すなわちプロテオームをペプチドにするプロテアーゼ媒介消化を適用することによってある程度は低下させられる。数桁のダイナミックレンジをもつペプチドのかかる複雑な混合物の並列配列決定は、計り知れない技術的困難性にいや応なく直面するであろう。複雑性は、ペプチドプールからサブセットの(プロテオタイプの)ペプチドを精製することによってさらに低下させられる。(固体状態の)ナノ細孔に通すペプチドの配列決定は目下、最も人気を博す研究中のプラットホームである。大規模調査は、ペプチドを転位置させ(translocate)、かつ配列に従って(along)アミノ酸同士またはアミノ酸カテゴリー同士を区別することができるナノ細孔の改変に対してなされている(Kennedy et al. 2016 Nat Nanotechnol 11:968-976;Wilson et al. 2016 Adv Funct Mater 26:4830-4838)。
【0006】
高感度(sensitive)かつ定量的なやり方のタンパク質分析のためのもう1つの有望な技術がMitraらによって開発された(WO 2010/065531)。この技術は、End配列決定またはDAPESによるデジタル式タンパク質分析と称され、単一分子タンパク質分析のための方法を特色とする。DAPESを実施するには、大量のタンパク質を変性かつ切断して、ペプチドにする。これらのペプチドは、顕微鏡スライドグラス(microscope slide)の表面に塗られた(applied)ナノゲル表面上に固定化されて、それらのアミノ酸配列が、エドマン分解に関する方法を使用し並行して決定される。フェニルイソチオシアナート(PITC)が、そのスライドへ加えられて、各ペプチドのN末アミノ酸と反応することで、安定したフェニルチオ尿素誘導体が形成される。次に、N末アミノ酸誘導体の同一性が、例えば20ラウンドの、PITCで誘導体化された各N末アミノ酸に特異的な抗体での抗体結合、検出、およびストリッピング(stripping)を実施することによって決定される。
【0007】
N末アミノ酸が、温度を上昇させるかまたはpHを下げることによって除去され、このサイクルが繰り返されることで、スライドガラス上、各ペプチドから12~20アミノ酸が配列決定される。次いで、原試料中のタンパク質ごとの絶対濃度が、観察される種々のペプチド配列の数に基づき算出され得る。DAPESに使用されるPITC化学は、エドマン分解に使用されるのと同じであり、効率的かつ堅固なものである(>99%効率)。しかしながら、単一のアミノ酸の切断には、無水の強酸か、または代替的に、高温での水性バッファーを要する。これらの厳しい条件のいずれかの間にサイクルを回すこと(Cycling)は、単一分子タンパク質検出(SMD)のために使用される慎重に扱うべき(sensitive)基質に対して複数ラウンドの分析をするのには望ましいものではない。
【0008】
代替のペプチド配列決定方法は、PITCで誘導体化されたN末アミノ酸に結合する抗体の代わりに、N末アミノ酸結合タンパク質(NAABs)を使用する(WO20140273004)。アミノ酸ごとにつき、アミノペプチダーゼまたはtRNAシンテターゼから修飾され得る、かかるNAABが開発される。NAABsは、異なるように標識化され、次いでポリペプチドのN末アミノ酸は、かかるNAABsのインキュベーションおよび洗浄の際にN末アミノ酸へ結合された特定のNAABの蛍光標識を検出することによって同定される。その上、N末アミノ酸の化学的/物理的な除去の代わりに、エドマナーゼ(Edmanase)(エドマン分解にちなんで命名された)と呼ばれる酵素が使用され得る。
【0009】
エドマナーゼは、Mitraらからの欠点を部分的には解決するものの、この方法は、アミノ酸同一性情報を導き出すNAABsの備蓄(arsenal)に頼っている。すべての異なるアミノ酸のためのNAABsは、一緒に存在するべきかまたは連続して加えられるべきものであり、そのため複雑性がこの系へ加わる。その上、単一分子検知に使用されるのに充分な親和性をもつNAABsを開発するできること(ability)は依然として実証されていない。その結果として、試薬の結合親和性のみより、種々の生理学的原理に基づき、より単純かつ洗練されたタンパク質配列決定技術を開発することは、有利なことであろう。
【発明の概要】
【0010】
概要
ここに、代替の単一分子ペプチド配列決定方法、およびこれに関与する改変された分子が記載される。ペプチドの単一分子のN末アミノ酸は、アミノペプチダーゼの触媒性(catalytic properties)および酵素反応の速度論を使用して同定(またはカテゴライズ)される。本出願に記載の方法は、改変されたアミノペプチダーゼの代謝回転数(kcat)とそれが切断するN末アミノ酸との間の相関に基づく。したがって、改変されたアミノペプチダーゼが加えられた際、N末アミノ酸が切り離される前の、ペプチド基質上に存在する時間を測定することによって、N末アミノ酸が同定される。
【0011】
該アミノペプチダーゼはまた、化学的切断誘導剤によっても置き換えられ得る。アミノペプチダーゼを使用して観察されたのと同様に、化学的切断誘導剤の滞留時間は、それが結合するN末アミノ酸の同一性についての読み出し(read-out)である。より正確には、本出願は、以下のステップサイクル:C末~切断しやすい結合のペプチド部分を通して固定化されたペプチドのN末誘導体化、切断誘導剤がN末アミノ酸を切り離すのに掛かる時間を測定すること、固定化表面からN末アミノ酸を放出させること(leading to release)、次のサイクルに備えて系を設定することを含む、タンパク質を配列決定する方法を提供する(図1)。切断誘導剤は、触媒活性アミノペプチダーゼまたはイソチオシアナート様の化学物質であり得る。
【0012】
第1の側面において、ポリペプチドに作用する、改変された触媒活性アミノペプチダーゼが提供され、ここで該ポリペプチドは、そのC末端を介して、または該ポリペプチドのC末~第1ペプチド結合のペプチド部分を介して、表面上に固定化されており、ここで該アミノペプチダーゼは、該ポリペプチドのN末アミノ酸を切断し、およびここで該N末アミノ酸を切断するための該アミノペプチダーゼの滞留時間は、該N末アミノ酸を同定またはカテゴライズする。該N末アミノ酸は、誘導体化されたN末アミノ酸であり得、そうである場合、該アミノペプチダーゼは、該誘導体化されたN末アミノ酸に結合して切断する。
【0013】
該N末アミノ酸は、イソチオシアナートまたはイソチオシアナート類似体で誘導体化されたN末アミノ酸であり得る。より具体的に、上の該アミノペプチダーゼは、配列番号1または配列番号2に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつグリシン残基を位置25にて、セリン残基を位置65にて、システイン残基を位置138にて、およびヒスチジン残基を位置208にて有するアミノペプチダーゼであり、該アミノペプチダーゼは、CITCまたはSPITCで誘導体化されたN末アミノ酸に結合することができる。より具体的に、該アミノペプチダーゼは、配列番号3または配列番号4に描かれるとおりのアミノ酸配列を含む。
【0014】
現出願の該アミノペプチダーゼはまた、配列番号7に対しても、少なくとも80%の配列同一性を有し得、ここでシステイン残基は、位置1でのメチオニン残基と、位置2でのアラニン残基との間に挿入されている。より具体的に、該アミノペプチダーゼは、配列番号8を含むか、またはこれからなる。具体的な態様において、上のアミノペプチダーゼは、光学標識、電気標識、またはプラズモン標識をさらに含み、ゆえに該アミノペプチダーゼは、光学的に、電気的に、またはプラズモンにより(plasmonically)検出され得る。他の具体的な態様において、該アミノペプチダーゼは、好熱性および/または耐溶剤性(solvent resistant)である。
【0015】
第2の側面において、ポリペプチドの配列情報を得るための、切断誘導剤の使用が提供され、ここで前記ポリペプチドは、そのC末端を介して、または該ポリペプチドのC末~第1ペプチド結合のペプチド部分を介して、表面上に固定化されており、ここで該ポリペプチドのN末アミノ酸上の該切断誘導剤の滞留時間は、該N末アミノ酸を同定またはカテゴライズする。該切断誘導剤は、触媒活性アミノペプチダーゼ、イソチオシアナート、またはイソチオシアナート類似体であり得る。より具体的に、該触媒活性アミノペプチダーゼは、原出願に記載のアミノペプチダーゼのいずれかであり得る。具体的な態様において、該N末アミノ酸は、Leu、Met、Tyr、Arg、Pro、Gly、Lys、Ala、およびValからなるリストから選択される。該N末アミノ酸が誘導体化されたN末アミノ酸であり、かつ単一分子レベルで配列情報を得るための上の使用もまた、提供される。
【0016】
第3の側面において、ポリペプチドのN末アミノ酸を同定またはカテゴライズする方法が提供され、ここで前記ポリペプチドは、そのC末端を介して、または該ポリペプチドのC末~第1ペプチド結合のペプチド部分を介して、表面上に固定化されており、該方法は、該表面に固定化されたポリペプチドを切断誘導剤に接触させること、ここで該切断誘導剤は、N末アミノ酸に結合して、該ポリペプチドからこれを切断する;該N末アミノ酸上の該切断誘導剤の滞留時間を測定すること;ならびに、該測定された滞留時間を、該切断誘導剤および一連のN末アミノ酸に特徴的な一連の滞留時間参照値と比較することで、該N末アミノ酸を同定またはカテゴライズすることを含む。
【0017】
同じ並びにおいて(In the same line)、そのC末端を介して表面上に固定化されたポリペプチドの配列情報を得る方法が提供され、該方法は、以下:
a)該表面に固定化されたポリペプチドを切断誘導剤に接触させること、ここで該剤は、N末アミノ酸に結合して、該ポリペプチドからこれを切断する;
b)該表面に固定化されたポリペプチドのN末アミノ酸上の該切断誘導剤の滞留時間を測定すること;
c)該切断誘導剤に、該N末アミノ酸を切り離せるようにすること;
d)該測定された滞留時間を、該切断誘導剤および一連のN末アミノ酸に特徴的な一連の滞留時間参照値と比較することによって、該N末アミノ酸を同定またはカテゴライズすること;
e)ステップa)~d)を1回以上繰り返すか、またはステップb)~d)を1回以上繰り返すこと
を含む。
【0018】
また提供されるのには上の方法もあるが、ここで該切断誘導剤は、イソチオシアナートまたはイソチオシアナート類似体であり、ここで該滞留時間は、該N末アミノ酸が除去されるまでに掛かる時間であり、ここで該N末アミノ酸は、該掛かる時間を種々のアミノ酸に係る一連の参照値と比較することによって同定される。
【0019】
また提供されるのには上の方法もあるが、ここで該切断誘導剤は、アミノペプチダーゼであり、およびここで該アミノペプチダーゼの滞留時間は、該アミノペプチダーゼの該N末アミノ酸への結合事象ごとに測定される。
【0020】
本出願の方法は、加えて、表面に固定化されたポリペプチドの光学的シグナル、電気的シグナル、またはプラズモンシグナルを測定することによって、該N末アミノ酸の切断を決定するというステップを包含し得るが、ここで光学的シグナル、電気的シグナル、またはプラズモンシグナルにおける差は、該N末アミノ酸の切断を表す。上の方法もまた提供されるが、ここで該表面に固定化されたポリペプチドは、加えて、1以上のN末アミノ酸結合タンパク質に接触させられ、ここで該1以上の結合タンパク質の該N末アミノ酸への結合事象の速度論は、該N末アミノ酸を同定するか、または該N末アミノ酸に関してさらに情報提供する。上の方法はまた、ポリペプチド変性という第1ステップをも包含し得るか、あるいは、ポリペプチド変性条件が、該方法の1以上のステップの最中に存在する方法が提供され、ここで該触媒活性アミノペプチダーゼは、好熱性および/または耐溶剤性のアミノペプチダーゼであるか、および/または、ここで該切断誘導剤は、イソチオシアナートもしくはイソチオシアナート類似体である。上の方法もまた提供されるが、ここでN末アミノ酸は、誘導体化されている。上の方法からのアミノペプチダーゼは、本明細書に開示のアミノペプチダーゼのいずれでもあり得る。
【0021】
具体的な態様において、本出願の方法は、単一分子レベルを使用することを想定する。とくにこれらの適用につき、切断誘導剤の滞留時間を光学的に、電気的に、またはプラズモンにより測定することが予見される。これは、該ポリペプチドが能動的検知表面(active sensing surface)上に固定化されているとき、大量処理がなされ得る。該能動的検知表面は、該ポリペプチドが化学的にカップリングされている金表面、またはアミド-、カルボキシル-、チオール-、もしくはアジド官能基化表面のいずれかであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図の簡単な記載
図1図1。酵素分解、より正確には、単一分子ペプチド配列決定のためのN末アミノ酸切断の運動学的なモニタリング。
図2図2。非限定例の、酵素滞留時間の光学的なおよび電位差測定の(potentiometric)読み出しの略図。
図3図3。ガラス表面上のCy5標識化試験ペプチド(pepCy5)の固定化。左、対照;中央、1nMの濃度でのpepCy5;右:良好な(successful)空間分布を示す拡大表示画像(zoom image)。
【0023】
図4図4。表面に固定化されたペプチド(1nM pepCy5)のトリプシン消化(1nM)。A、不動態化剤の不在下で固定化されたpepCy5に対するトリプシン反応。B、不動態化剤dbco-peg8-アミド(1μM)の存在下で固定化されたpepCy5に対するトリプシン処置。シグナルが639nmにて検出された(上方パネル)。背景が、561nmのより低いλEmチャネル(Cy3チャネル)において査定された(下方パネル)。
図5図5。事実上再改変されたエドマナーゼ上のスルホフェニル-イソチオシアナート-Ala-Phe(A)および3-クマリニル-イソチオシアナート-Ala-Phe(B)のコンピュータによる良好なドッキング。
図6図6。E. coli BL21において改変されたT. cruziクルジパイン(A)およびT. aquaticusアミノペプチダーゼT(B)の良好な形質転換。
図7図7。精製されたT. aquaticusアミノペプチダーゼTのSDS-PAGE分析。A、未加工の可溶性画分;B、Ni-NTA精製;C、熱処理;D、Ni-NTA精製+熱処理。
【0024】
図8図8。L-ロイシン-p-ニトロアニリンでのペプチダーゼアッセイ。E、酵素;S、基質。
図9図9。pET24b(+)プラスミドの分子地図。
図10図10。アミノペプチダーゼのアシル化および脱アシル化ステップの構想の呈示(schematic presentation)。ペプチドにつき、本ケースは、XH=RNH2(よってスキーム中、ペプチド結合の存在を生み出す)を保持する。ペプチドのN末部は、赤色の部分によって象徴される一方、ペプチドのC末部は、Xによって象徴される部分である。
図11図11。種々のアミノ酸p-ニトロアニリド基質でのアミノペプチダーゼアッセイ。酵素および基質(1.5mM)は、PBS中40℃または80℃にて2hインキュベートされ、その後に放出されたp-ニトロアニリドは、405nmでの吸光度を測定することによって定量化された。
【0025】
図12図12。T. aquaticus由来アミノペプチダーゼTの有機溶媒耐性(tolerance)。A。アミノペプチダーゼTの活性は、L-ロイシン-p-ニトロアニリド基質で測定された。酵素および基質は、種々の濃度の有機溶媒であるアセトニトリル(ACN)、メタノール(MeOH)、およびエタノール(EtOH)を含有する50mM TrisHCl(pH8)中、40℃にて3hインキュベートされた。B。(10mMリン酸二カリウムバッファー(K2HPO4)中)0%対50% MeOH中のアミノペプチダーゼT2次構造の円二色性分析。C。バッファー(50mM TrisHCl、pH8)中、濃度を変動させたMeOH 対 脱イオン水(MilliQ)における酵素活性。
図13図13。アミノペプチダーゼTの部位特異的蛍光標識化。A。等モラーおよび1×、10×、100×、ならびに1000×モラー過剰のマレイミド-DyLight650でN末システインを標識化した後のアミノペプチダーゼTのSDS-PAGE分析。アミノペプチダーゼTは、蛍光(DyLight650標識)およびクマシー(総タンパク質)で可視化させられた。B。マレイミド-DyLight650で標識化後のL-ロイシン-p-ニトロアニリドでのアミノペプチダーゼT活性チェック。
【0026】
図14図14。酵素-基質結合事象と基質切断事象との組み合わせのモニタリング。単一分子酵素滞留時間は、蛍光的に標識化された固定化ペプチド基質および遊離のアミノペプチダーゼを使用することによってTIRF顕微鏡法でモニタリングされる。
図15図15。エドマン分解機序の略図。エドマン分解は、タンパク質/ペプチドの遊離のN末端上へのフェニルイソチオシアナート(PITC)のカップリング(アルカリ性条件)、これに続きN末アミノ酸のフェニルチオヒダントイン(PTH)誘導体としての放出(酸性条件)を必然的に伴う。次いで、放出されたPTH-アミノ酸は、クロマトグラフィーで同定される。次いで手順を、タンパク質/ペプチド配列情報をもたらすことを継続的に繰り返した(典拠:https://en.wikipedia.org/wiki/Edman_degradation)。
図16図16。種々のアミノ酸p-ニトロアニリド基質の自発的なエドマン分解。A。スルホフェニルイソチオシアナート(SPITC、15mM)および基質(1.5mM)は、50% ACN中300mMトリエタノールアミン中40℃にて30minインキュベートされ、その後に放出されたp-ニトロアニリドは、405nmでの吸光度を測定することによって定量化された。B。SPITC誘導化アミノ酸p-ニトロアニリド基質切断の時間-反応速度(kinetic)測定。
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な記載
定義
本発明は、具体的な態様に関し、ある図面を参照して記載されているであろうが、しかし本発明はこれらには限定されないが、クレームによってのみ限定される。クレームにおけるいずれの引用符号も、本範囲を限定するものとしては解釈されないものとする。記載の図面には概略図しかなく、非限定的である。図面中、いくつかの要素のサイズは、誇張されている場合があり、説明のため縮尺どおりには描画されていないこともある。用語「含む(comprising)」が、本記載およびクレームにおいて使用される場合、これは他の要素またはステップを排除しない。不定冠詞または定冠詞が、単数名詞、例として「a」または「an」、「the」を指すときに使用される場合、これは、何か他のことが具体的に述べられていない限り、その名詞の複数形を包含する。
【0028】
さらにまた、本記載およびクレームにおける第1の、第2の、第3の等の用語は、同様の要素間を識別するために使用され、必ずしも順序または時系列を記載するためには使用されていない。そのように使用される用語が、適切な状況下で交換可能であること、および本明細書に記載の本発明の態様が、本明細書に記載または説明される順番以外の順番で操作することが可能であることは、理解されるべきである。以下の用語または定義はもっぱら、本発明の理解を補助するために提供される。本明細書に具体的に定義されない限り、本明細書に使用されるすべての用語は、本発明の技術分野における当業者にとって意味するのと同じ意味を有する。実践者は、当該技術分野の定義および用語につき、具体的にMichael R. Green and Joseph Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Plainsview, New York (2012);およびAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (Supplement 47), John Wiley & Sons, New York (1999)を対象にする。本明細書に提供される定義は、当業者によって理解される範囲より小さい範囲を有するとは解釈されるべきではない。
【0029】
現出願において、出願人らは、N末アミノ酸が1つずつ同定される複数ステップのアプローチを使用するペプチド配列決定の方法を記載する。より正確には、ポリペプチドを配列決定する方法が提供されるが、ここで該方法は、以下のステップ:a)該ポリペプチドを、切断誘導剤、より具体的には触媒活性アミノペプチダーゼ、イソチオシアナート、またはイソチオシアナート類似体に接触させること;b)該ポリペプチドのN末アミノ酸上の該剤の滞留時間を測定すること、または代替的に該酵素反応のkcat値を測定すること;c)該滞留時間または該kcat値によって、該N末アミノ酸を同定またはカテゴライズすること;ならびに、d)ステップa)~c)を1回以上繰り返すこと、を含む。一態様において、該ポリペプチドは、表面上に固定化されている。該剤が該ポリペプチドからN末アミノ酸を切断するとき、該ポリペプチドが、そのC末端によって表面上に固定化されていることは言うまでもない。逆の場合も同じく、該剤が該ポリペプチドからC末アミノ酸を切断するとき、該ポリペプチドは、そのN末端によって表面上に固定化されている。別の態様において、該方法は、単一分子レベルで表面に固定化されたポリペプチドを配列決定する方法である。
【0030】
記載のペプチド配列決定方法が、N末アミノ酸の逐次的な同定に頼ることを考慮すると、それと同時に(equally)、現出願は、該N末アミノ酸上の切断誘導剤(より具体的には、触媒活性アミノペプチダーゼ、イソチオシアナート、またはイソチオシアナート類似体)の滞留時間を決定することによって、ポリペプチドのN末アミノ酸を同定またはカテゴライズする方法を開示しており、該方法は、該ポリペプチドを該剤に接触させること、および該剤の滞留時間または代替的に該酵素反応のkcat値を測定することを含む。またこのケースにおいても、該方法は、表面に固定化されたペプチドの使用の有無にかかわらず、単一分子レベルで使用され得る。したがって、一態様において、該方法は、単一分子レベルにて、表面に固定化されたポリペプチドのN末アミノ酸を同定またはカテゴライズする。
【0031】
本明細書に使用されるとき、用語「ペプチド」および「ポリペプチド」は、互換的に使用され、ポリマー形態(polymeric form)のいずれの長さのアミノ酸をも指し、これは、コードおよび非コードアミノ酸、天然および非天然のアミノ酸、化学的もしくは生化学的に修飾されたかまたは誘導体化されたアミノ酸、ならびに修飾されたペプチド主鎖を有するポリペプチドを包含し得る。本明細書に使用されるとき、「ペプチド」または「ポリペプチド」は、これらが由来し、かつこれらが例えばトリプシンまたはプロテイナーゼKのタンパク質消化(これらに限定する目的はない)によって形成される、完全長(full-length)タンパク質より短い。具体的な態様において、該ペプチドまたはポリペプチドは、20と500との間、もしくは25と200との間、もしくは30と100との間のアミノ酸長を有するか、または500未満、250未満、200未満、150未満、100未満、もしくは50未満のアミノ酸長を有する。いずれのケースにおいても、「ペプチド」または「ポリペプチド」は、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、または少なくとも20のアミノ酸を含む。
【0032】
「単一分子(Single-molecule)」は、単一分子の様式で、または単一分子レベルにて、または単一分子実験において使用されるとおり、個々の分子の特性の調査を指す。単一分子研究は、分子の個々の挙動が識別され得ず、かつ平均した特徴しか測定され得ない、分子の集合体または一括収集物(bulk collection)に対する測定と対比されることがある。
【0033】
タンパク質は、アミノ酸のポリマーである。タンパク質は、遺伝子中のコドンによってコードされるRNAを「読み」、かつ、翻訳として知られているプロセスにおいて、遺伝的指令から必須のアミノ酸の組み合わせを集めるリボソームによって作られる。次いで、新しく作られたタンパク質鎖(strand)は、追加の原子または分子、例えば銅、亜鉛、または鉄が付加される翻訳後修飾を受ける。この翻訳後修飾プロセスが完了したら、タンパク質は、タンパク質の疎水性要素が内部構造深くに埋もれ、かつ親水性の要素が最後には外側にくるように、折り畳み始め(ときには自発的に、ときには酵素の助けをもって)、それ自体の上に丸まる。タンパク質の最終的な形状または構造は、これがその環境とどのように相互作用しているかで決定される。そのため、タンパク質は、1次構造(すなわち、共有結合のペプチド結合によって一緒に保持されるアミノ酸の配列)、2次構造(すなわち、アルファ-へリックスおよびベータ-プリーツシートなどの規則的な繰り返しパターン)、3次構造(すなわち、システイン基間のジスルフィド架橋などの、アミノ酸側鎖間の共有結合相互作用)、および4次構造(すなわち、互いに相互作用するタンパク質サブユニット)を有する。
【0034】
しかしながら、本出願において開示された方法につき、タンパク質およびそのN末アミノ酸は、本出願のアミノペプチダーゼにとってアクセスしやすいはずであり、好ましくは、タンパク質は、線状の立体配置で(in a linear configration)固定化されている。したがって、様々な態様において、配列決定されることになっているタンパク質は、変性されているべきである。変性は、タンパク質が、それらのネイティブな(native)状態で存在する4次構造、3次構造、および2次構造を喪失するプロセスであるが、しかしアミノ酸間の1次構造のペプチド結合は無傷(intact)のままである。タンパク質変性は、強い酸もしくは塩基、濃縮された無機塩、有機溶媒(例として、アルコールまたはクロロホルム)、放射線、または熱などの外界からのストレスあるいは化合物を適用することによって達成され得る。したがって、本出願の様々な態様において、使用されることになっているアミノペプチダーゼは、好熱性および/または耐溶剤性である(後を参照)。
【0035】
「好熱性(の)」は、本明細書に使用されるとき、「増大した温度耐性(tolerant)」を、より正確には、数ある中でも、40℃と122℃との間の相対的に高い温度にて盛んになるか、またはその活性を維持する生物もしくは酵素を指す。好熱性生物の非限定例は、Thermus aquaticusであり、結果的にそのアミノペプチダーゼTなどのその酵素は高温度にて機能し、よって好熱性である。具体的な態様において、現出願の使用および方法のためのアミノペプチダーゼは、40℃および100℃の、または40℃および80℃の、または50℃および70°の、または60℃および80℃の温度範囲において、最適なペプチダーゼ活性を有する。他の具体的な態様において、本出願のアミノペプチダーゼは、それらの酵素活性を、酢酸、トリクロロ酢酸、スルホサリチル酸、重炭酸ナトリウム、エタノール、アルコールなどの溶媒、ホルムアルデヒドおよびグルタルアルデヒドなどの架橋剤、尿素、塩化グアニジン、または過塩素酸リチウムなどのカオトロピック剤、2-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、またはトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンなどのジスルフィド結合を破壊する剤の存在下で維持する。
【0036】
好熱性および/または耐溶剤性のアミノペプチダーゼの使用は、種々のN末アミノ酸へ結合した際、該アミノペプチダーゼの「オンタイム(on-time)」値を微調整する(fine-tune)のにとくに役立つ。実験(例としてタンパク質配列決定)最中の反応条件を変化させることによって、温度、pH、溶媒、…は、アミノ酸Xの「オンタイム」値とアミノ酸Yの「オンタイム」値との間をより区別するために調整され得る。
【0037】
現出願の方法において、N末アミノ酸は、ポリペプチド基質から切断される。これは、酵素的に、例えば化学的に、またはペプチダーゼ、より具体的にアミノペプチダーゼによって、達成され得る。該切断誘導剤は、該N末アミノ酸へ共有結合的にまたは非共有結合的に結合し得る。
【0038】
化学的切断誘導剤
エドマン分解は、タンパク質のN末配列決定を可能にする化学的技法である。これは、1950年にPehr Edmanによって最初に記載され、1967年に分解反応が完全に(fully)自動化された。この方法は、フェニルイソチオシアナート(PITC)のタンパク質/ペプチドの遊離のN末端上へのカップリング(アルカリ性条件)、これに続くフェニルチオヒダントイン(PTH)誘導体としてのN末アミノ酸の放出(酸性条件)を必然的に伴う(図15)。次いで、放出されたPTH-アミノ酸は、例えばクロマトグラフィーで同定される。次いで、この手順が継続的に繰り返されることで、タンパク質/ペプチド配列情報がもたらされる。
【0039】
現出願において、驚くべきことに、酸性条件にないかまたは加熱されない場合でさえ、PTHは放出される、よってN末アミノ酸はポリペプチド基質から切断されるということが見出された。さらにいっそう驚くべきことに、本発明者らは、イソチオシアナート(または類似体)がN末アミノ酸上に結合してからN末アミノ酸が切断されるまでの時間が、アミノ酸の特徴に依存することを見出した。ゆえに、基本的にはイソチオシアナート(または類似体)のN末アミノ酸上の滞留時間である該掛かる時間を測定することによって、N末アミノ酸が同定され得る。
【0040】
本出願の好ましい一態様において、本出願の使用および方法において触れられる切断誘導剤は、化学剤、より具体的には、イソチオシアナート(ITC)、フェニルイソチオシアナート(PITC)、アジド-PITC、クマリニル-イソチオシアナート(CITC)、およびスルホフェニルイソチオシアナート(SPITC)からなるリストから選択される化学剤である。現出願において、PITC、アジド-PITC、CITC、およびSPITCを、イソチオシアナート類似体と称することとする。ゆえに、現出願の方法が提供されるが、ここで切断誘導剤は、イソチオシアナートまたはイソチオシアナート類似体である。
【0041】
また本明細書に提供されるのには、そのC末端を介して表面上に固定化されたポリペプチドの配列情報を得るための切断誘導剤の使用もあるが、ここで該切断誘導剤の該ポリペプチドのN末アミノ酸上の滞留時間は、該N末アミノ酸を同定する。具体的な態様において、該切断誘導剤は、イソチオシアナートまたはイソチオシアナート類似体であり、該滞留時間は、ITCまたはITC類似体がN末アミノ酸上に結合してから該N末アミノ酸が除去されるまでに掛かる時間である。続いて該N末アミノ酸は、該掛かる時間を、種々のアミノ酸に係るITCまたはITC類似体につき得られた一連の参照値と比較することによって同定され得る。
【0042】
アミノペプチダーゼ
「アミノペプチダーゼ」は、本明細書に使用されるとき、タンパク質またはペプチド基質のアミノ末端(N末端)からのアミノ酸の切断を触媒する酵素を指す。それらは、動植物界にわたって幅広く分布されており、多くの細胞内オルガネラから、サイトゾルから、および膜構成要素として、見出されている。アミノペプチダーゼは、1)基質のアミノ末端から切断されたアミノ酸の数(例として、アミノジペプチダーゼは無傷のアミノ末端のジペプチドを除去し、アミノトリペプチダーゼはアミノ末端のトリペプチドの加水分解を触媒する)、2)細胞中のアミノペプチダーゼの場所、3)ベスタチンによる阻害に対する感受性、4)金属イオン含量および/または当該酵素の金属に結合する残基、5)最大活性が観察されたpH、ならびに6)これが本出願に最も関係のあることだが、残基が除去される相対効率によって分類される(Taylor 1993 FASEB J 7:290-298)。アミノペプチダーゼは、広いかまたは小さい基質特異性を有し得る。本出願において、広い基質特異性のアミノペプチダーゼの開発または使用に焦点を当てているが、しかしながら、重複するかまたは相補的な基質特異性をもつ複数のアミノペプチダーゼの使用もまた、本出願において想定されることである。
【0043】
一般に、具体的な環境条件下での具体的な基質のための酵素の特異性は、特異性定数kcat/Kによって定量化され得る。kcatは、代謝回転数、各酵素部位が単位時間あたりに産物へ変換する基質分子の数、または触媒中心あたりかつ単位時間あたりに反応物を産生する産生能のある基質の数である。Kは、当該技術分野において周知である、妥当な定常状態酵素速度論の測定に要求される条件下でその最大速度の半分に達する酵素に要求される基質濃度として定義される。2つの酵素基質AおよびBを識別するとき、これらの基質の産物への変換率に基づき、このタイプの関係は、以下:
【数1】

を保持しており、vは速度であり、[A]はAの濃度である。
【0044】
その結果として、酵素の種々の基質の同一性に関する情報は、酵素によるこれらの基質の変換速度測定から入手され得る。等しい基質濃度の条件下の相対速度は、kcatおよびKによって決定される。単一の基質分子を観察するとき、酵素が一旦加えられたら、産物分子を形成するのに要求される時間は、kcatによって支配される。ゆえに、単一分子の所見において、基質の同一性に関する情報は、基質上の酵素の「オンタイム」または滞留時間から入手され得るこの情報はさらに、酵素および基質の触媒的に産生能のあるかみ合わせが産生能のないかみ合わせから識別され得るように、基質および/または酵素を改変することによって補完され得る。よって「オンタイム」は、本明細書に使用されるとき、基質上の酵素の滞留時間、酵素溶液の基質との接触時間、またはより具体的には、当該技術分野において周知であるkcatの逆数を指す。今後「オンタイム」および滞留時間は、互換的に使用するものとし、1酵素分子が1ペプチド分子上に作用して切断が生じるまでの時間か、または複数の酵素分子が連続してペプチド分子上に作用して切断が生じるまでに要求される時間を指し得る。
【0045】
基質上の酵素の「オンタイム」が該基質を同定するに使用され得るという所見は、とくにアミノペプチダーゼに当てはまる。ペプチダーゼは一般に、2ステップ機序を通して作動する(図10)。第1に、アシル化反応の最中、ペプチドのN末部分(アミノペプチダーゼにとって)またはペプチドのC末部分(カルボキシペプチダーゼにとって)は、切り離されて、共有結合的にペプチダーゼへ連結される。第2に、脱アシル化反応において、酵素は、切断されたアミノ酸を放出する。
【0046】
アミノペプチダーゼは、数ある中でもN末端の、基質の側鎖(単数または複数)~切断しやすい結合の性質によって左右されるアシル化反応の遷移状態との立体電子的な適合(fit)を通して具体的な(数群の(groups of))アミノ酸に対するその特異性を獲得する(gains)。典型的には、アミノペプチダーゼは、ペプチド部分~切断しやすい結合のC末端との結合相互作用がはるかに小さく、よって反応速度を決定するアシル化または加水分解ステップの際、ペプチドから(またはペプチドが結合していた表面から)急速に解離するであろう。ペプチドが、ペプチダーゼによって切断される、切断しやすいペプチド結合からC末で固定化されているなら、その場合、アシル化反応の際、ペプチドのN末アミノ酸またはアミノ酸誘導体は、セリンまたはシステインペプチダーゼのケースにおける酵素へ共有結合的に連結されるか、あるいは直接加水分解するペプチダーゼのケースにおける酵素へ非共有結合的に結合されるであろうが、C末部分は、ペプチドが固定化された表面上へ抱合されたままであろう(図10)。
【0047】
その結果として、選択されるアミノペプチダーゼにとって、表面に固定化されたペプチド基質上の滞留時間または「オンタイム」は、アシル化または加水分解ステップの速度との相関、ゆえにN末~切断しやすい結合の部分の性質との相関である。アミノペプチダーゼの「オンタイム」は、このケースにおいて、該アミノペプチダーゼを分子標識化することによって容易に決定され得る。そのため、分子標識は、アミノペプチダーゼの「オンタイム」の代理として、よって該アミノペプチダーゼによって切り離されるN末アミノ酸の同一性の代理として働く。本出願の具体的な態様において、該アミノペプチダーゼは、光学的に、蛍光的に、電気的に、またはプラズモンにより(plasmonically)標識化され得る(後を参照)。
【0048】
代替態様において、アミノペプチダーゼ分子の溶液は、ペプチド基質に接触させられて、滞留時間/オンタイムが、N末アミノ酸(またはその誘導体)が切り離されるまで測定される。かかる態様において、酵素の基質と接触する全体的な滞留時間は、かかる切断事象まで測定され、この値は、使用される条件下でのペプチド基質上の具体的なN末アミノ酸(誘導体)に係る酵素のkcatの逆数と相関する。
【0049】
一群のシステインおよびセリンプロテアーゼからのカルボキシペプチダーゼについては、事態は異なる。より正確には、該カルボキシペプチダーゼのケースにおいて、酵素は、C末アミノ酸を切り離した後、固定化されたペプチド部分へ共有結合的に結合されたままである。カルボキシペプチダーゼは、アシル化ステップの際にペプチドから解離しないであろうし、固定化表面上のペプチド上のその「オンタイム」値は、脱アシル化(加水分解)ステップの速度によって決定されるであろう。後者の加水分解ステップは、(アシル化ステップの最中、溶媒中に既に放出された)C末アミノ酸の性質にとって、情報価値がほとんどないか、またはまったくない。しかしながら、カルボキシペプチダーゼ分子の溶液がペプチド基質と接触させられ、かつ滞留時間/オンタイムが、C末アミノ酸(またはその誘導体)が切り離されるまで測定される態様において、この値は、使用される条件下でのペプチド基質上の具体的なC末アミノ酸(誘導体)に係る酵素のkcatの逆数と相関し、かかるカルボキシペプチダーゼは、本発明の範囲において使用され得る。
【0050】
興味深いことに、一群のメタロプロテアーゼからのカルボキシペプチダーゼは、この共有結合を構成させることも、加水分解によってC末アミノ酸を切り離すこともしない。よって該カルボキシ-メタロペプチダーゼの「オンタイム」は、N末アミノ酸に対するアミノペプチダーゼと同じく、それが結合しかつ切断するC末アミノ酸に対しても情報価値がある。よって、カルボキシ-メタロペプチダーゼの使用は、ポリペプチドが次いでそのN末端を通してまたはペプチドの側鎖を通して表面へ固定化されるという重要な差はあるが、現出願に記載の方法においても想定されている。要するに、イソチオシアナートおよび/またはITC類似体の実用性の他に、アミノペプチダーゼまたはカルボキシ-メタロペプチダーゼも、本出願および本明細書に開示の方法にとくに有用である。
【0051】
ゆえに、現出願の様々な具体的な態様において、切断誘導剤は、現出願における方法および使用において触れられたとおり、ペプチダーゼ、具体的にはアミノペプチダーゼまたはカルボキシ-メタロペプチダーゼ、より具体的にはアミノペプチダーゼである。
【0052】
本出願の具体的な態様において、活性ペプチダーゼの使用が提供されるが、その切断速度またはペプチダーゼ活性のその速度論は、ポリペプチドのアミノ酸基質、より具体的には末端のアミノ酸によって特徴があり、よってこれらアミノ酸を同定する。所望されるあるストラテジーは、アミノペプチダーゼ、具体的には1種のユニークなアミノペプチダーゼ、より具体的には、20種の実行可能なN末アミノ酸の各々を認識する触媒活性アミノペプチダーゼを利用することである。しかしながら、異なる群のアミノ酸(例えば、これらに限定する目的はないが、非芳香族アミノ酸から芳香族アミノ酸、または疎水性末端のアミノ酸、正に帯電したアミノ酸、負に帯電したアミノ酸、および小さいアミノ酸)を次いで識別し得る2種、3種、4種、またはそれ以上のアミノペプチダーゼが利用されることもまた想定されている。
【0053】
実験(例としてタンパク質配列決定)最中の反応条件を変化させることによって、特定のN末アミノ酸に係るアミノペプチダーゼの「オンタイム」値が変化し得ることもまた想定されている。これは、使用されるアミノペプチダーゼが、あるN末アミノ酸に係る酷似した「オンタイム」値を有するとき、具体的に望ましい。したがって、ある態様において、数ある中でも温度、pH、溶媒を包含する反応条件は、アミノ酸Xに係る「オンタイム」値とアミノ酸Yに係る「オンタイム」値との間の区別を増大するように調整される。他の態様において、アミノペプチダーゼそれ自体は、ネイティブなアミノペプチダーゼでは同様の滞留時間を有してしまう種々のアミノ酸を識別するよう改変される。「改変された」は、本明細書に使用されるとき、「合成の」、「組み換えの」、「人造の(man-made)」、または「非天然の」と同義語である。
【0054】
非限定例として、T. aquaticus由来(from)アミノペプチダーゼTは、現出願の方法において使用され得る(後を参照)。該アミノペプチダーゼを改変するのに実行可能な残基は、触媒部位における二価金属イオンから半径8オングストローム以内の残基、より正確には、E250、F252、G315、E316、V317、A318、T336、E340、H345、I346、A347、F348、Q350、Y352、N355、H376、V377、D378、および/またはW379である。該残基の位置は、配列番号7に描かれるとおりの野生型アミノペプチダーゼTにおける位置を指す。
【0055】
所望される別のストラテジーは、現出願に記載のアミノペプチダーゼが結合する際、酵素「オンタイム」値が、固定化ポリペプチドのN末アミノ酸を同定するのに使用され得ることである。また本出願において想定されるのには、アミノペプチダーゼ、より具体的には触媒活性アミノペプチダーゼ、それらの使用および方法もあり、ここで該アミノペプチダーゼが使用されるが、その酵素「オンタイム」値が、一群のまたは下位群のアミノ酸にとってためになるかまたは情報価値のあるものである。よって、ある態様において、酵素「オンタイム」値は、一群または下位群のアミノ酸におけるN末アミノ酸をある確率で分類またカテゴライズするであろう。
【0056】
ある態様において、本出願に開示された方法において使用されるアミノペプチダーゼは、アミノジペプチダーゼ、より具体的には触媒活性アミノジペプチダーゼである。アミノジペプチダーゼは、ジアミノペプチダーゼと同義語であり、ポリペプチドの最もN末にある2つのアミノ酸を切り離す酵素を指す。
【0057】
好ましい態様において、現出願に開示された方法において使用されるアミノペプチダーゼまたはアミノペプチダーゼは、触媒活性がある。「触媒活性がある」は、アミノペプチダーゼが完全に(fully)機能的な触媒酵素であることを意味する。これは、例としてWO20140273004における、N末アミノ酸に結合はするが該N末アミノ酸を切断することはないように改変された触媒的に機能しない(dead)アミノペプチダーゼとは対照的である。
【0058】
現出願に記載の使用および方法につき、好熱性アミノペプチダーゼはとくに想定されているものである。現出願に記載の方法に使用され得るかかるアミノペプチダーゼの非限定例は、Thermus aquaticus(AMPT_THEAQ)由来アミノペプチダーゼT、Thermus thermophilus(AMPT_THET8)由来アミノペプチダーゼT、Streptococcus thermophiles(PEPC_STRTR)由来PepC、Streptomyces griseus(APX_STRGG)由来アミノペプチダーゼS、Streptomyces septatus TH-2(Q75V72_9ACTN)由来アミノペプチダーゼ、およびBacillus stearothermophilus(AMP2_GEOSE)由来アミノペプチダーゼ2である。
【0059】
現出願の方法において想定されており、かつ本明細書に開示されている触媒活性アミノペプチダーゼの非限定例は、改変されたTrypanosoma cruziクルジパインまたはクルザイン(cruzain)、およびThermus aquaticusアミノペプチダーゼTである。
【0060】
現出願において、ポリペプチドのいずれのN末アミノ酸またはポリペプチドの異なる一連のN末アミノ酸に対する結合ドメインを含む、改変された触媒活性アミノペプチダーゼが提供されるが、ここで該ポリペプチドは、表面上に固定化されており、ここで該アミノペプチダーゼは、結合の際にN末アミノ酸を切断し、およびここで該アミノペプチダーゼの酵素「オンタイム」は、該N末アミノ酸を同定またはカテゴライズする。また本明細書に提供されるのには、表面に固定化されたポリペプチドに結合する、改変された触媒活性アミノペプチダーゼもあるが、ここで該アミノペプチダーゼは、該ポリペプチドのN末アミノ酸を切断し、およびここで該N末アミノ酸上の該アミノペプチダーゼの滞留時間は、該N末アミノ酸を同定またはカテゴライズする。
【0061】
具体的な態様において、該ポリペプチドは、ペプチドC末~切断しやすい結合の部分を通して該表面上に固定化されている。別の具体的な態様において、該N末アミノ酸は、誘導体化されたN末アミノ酸であり、該アミノペプチダーゼは、該誘導体化されたN末アミノ酸に結合して、これを切断する。より具体的な態様において、該誘導体化されたN末アミノ酸は、ITC、CITC、SPITC、PITC、アジド-PITC、またはアジド-PITCのクリックケミストリーで修飾された産物(これ以降「アジド-PITC」として集合的に称される)で誘導体化されたN末アミノ酸であり、該アミノペプチダーゼは、ITC、CITC、SPITC、PITC、またはアジド-PITCで誘導体化されたN末アミノ酸夫々に結合して切断する。
【0062】
「誘導体化(された)」は、化学に使用される技法、または化学化合物を転換して、誘導体と呼ばれる同様の化学的構造の産物(反応の派生物(derivate))にする生化学の機序を指す「誘導体化」に由来する。一般に、化合物の特定の官能基は誘導体化反応に加わって、産物を転換することで、反応性、可溶性、沸点、融点、凝集状態、化学組成、相互作用、または光学的特徴、電気的特徴、もしくはプラズモン特徴を逸脱した派生物にする。代替態様において、誘導体化されたは、標識化されたを意味する。
【0063】
別の態様において、該N末アミノ酸は、Leu、Met、Tyr、Arg、Pro、Gly、Lys、Ala、およびValからなるリストから選択され、異なる一連のN末アミノ酸に対する該結合ドメイン、またはいずれのN末アミノ酸に対する該結合ドメインは、Leu、Met、Tyr、Arg、Pro、Gly、Lys、Ala、およびValからなるリストから選択されるN末酸に対する結合ドメインである。もう1つの態様において、該N末アミノ酸は、Leu、Met、Tyr、Arg、Pro、Gly、Lys、Ala、またはValであり、いずれのN末アミノ酸に対する該結合ドメインは、Leu、Met、Tyr、Arg、Pro、Gly、Lys、Ala、またはValに対する結合ドメインである。
【0064】
別の具体的な態様において、誘導体化されたかまたは標識化された1以上の異なるポリペプチドのN末アミノ酸に対する結合ドメインを含む、改変された合成または組み換えのアミノペプチダーゼが提供されるが、ここで該アミノペプチダーゼは、該誘導体化または標識化N末アミノ酸へ結合する際、該誘導体化または標識化N末アミノ酸を切断し、およびここで該アミノペプチダーゼの切断速度またはアミノペプチダーゼ活性の速度論は、該N末アミノ酸を同定する。一態様において、該誘導体化または標識化N末アミノ酸は、ITC、CITC、SPITC、PITC、またはアジド-PITCで誘導体化または標識化されたN末アミノ酸である。別の態様において、該誘導体化または標識化N末アミノ酸は、誘導体化もしくは標識化された、Leu、Met、Tyr、Arg、Pro、Gly、Lys、Ala、またはValである。よって該アミノペプチダーゼは触媒活性があり、触媒的に機能しないアミノペプチダーゼではない。
【0065】
一側面において、本出願は、グリシン残基を位置25にて、セリン残基を位置65にて、システイン残基を位置138にて、およびヒスチジン残基を位置208にて有する野生型Trypanosoma cruziクルジパインもしくはクルザインのアミノ酸配列を含む、改変された合成または組み換えのアミノペプチダーゼを提供するが、ここで該アミノペプチダーゼの残存するアミノ酸配列は、配列番号1に描かれる該野生型T. cruziクルジパインもしくは配列番号2に描かれるクルザインのアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む。
【0066】
これは、配列番号1もしくは配列番号2に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する、改変されたアミノペプチダーゼ、ならびにグリシン残基を位置25にて、セリン残基を位置65にて、システイン残基を位置138にて、およびヒスチジン残基を位置208にてを有する、改変されたアミノペプチダーゼが提供されると言うことと同じである。一態様において、システイン残基は、該アミノペプチダーゼの第1メチオニン残基の後に挿入されている。該システインは、該改変されたクルジパインまたはクルザインアミノペプチダーゼを標識化するのに使用される。具体的な態様において、該アミノペプチダーゼは、配列番号3または配列番号4に描かれるとおりのアミノ酸配列を含む。より具体的な態様において、該アミノペプチダーゼは、配列番号5または配列番号6に描かれるとおりのアミノ酸配列からなる。具体的な態様において、上の側面のおよびその態様の該アミノペプチダーゼは、触媒活性アミノペプチダーゼである。
【0067】
T. cruziクルジパインおよびクルザインにおける上に記載の特定の突然変異は、その活性(結合および切断)を、誘導体化されたN末アミノ酸、より具体的にはCITCでまたはSPITCで誘導体化されたN末アミノ酸へ向かわせる。ゆえに、本方法または現出願はまた、誘導体化されたアミノ酸を含むペプチドを配列決定するのにも、または誘導体化されたN末アミノ酸を同定するのにも有用である。具体的な態様において、該誘導体化されたアミノ酸は、ITC、PITC、アジド-PITC、CITC、および/またはSPITCで誘導体化されたアミノ酸、いっそう具体的にはCITCおよび/またはSPITCで誘導体化されたアミノ酸である。
【0068】
現出願に記載の方法において、CITCでまたはSPITCで派生したN末アミノ酸を切断する上に記載の改変されたT. cruziクルジパインおよびクルザインの実用性の他に、該改変されたT. cruziクルジパインおよびクルザインはまた、WO20140273004に記載の方法においても使用され得る。後者の文書において、派生したN末アミノ酸の同定は、一連のN末アミノ酸結合タンパク質によってなされるとすぐに、同定されたN末アミノ酸は、エドマナーゼによって除去される。N末アミノ酸が、CITCまたはSPITCで派生したケースにおいて、現出願に記載の改変されたT. cruziクルジパインおよびクルザインは、エドマナーゼとして使用され得る。
【0069】
次の側面において、配列番号7に描かれるとおりの野生型Thermus aquaticusアミノペプチダーゼTのアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する、改変された合成または組み換えアミノペプチダーゼが提供されるが、ここでシステイン残基は、該野生型アミノペプチダーゼの第1メチオニン残基の後に挿入されている。これは、配列番号7に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する改変されたアミノペプチダーゼが提供されるが、ここでシステイン残基が、位置1でのメチオニン残基と位置2でのアラニン残基との間に挿入されていると言うのと同じである。具体的な態様において、該アミノペプチダーゼTは、配列番号8に描かれるとおりのアミノ酸配列を含む。より具体的な態様において、該アミノペプチダーゼは、配列番号8に描かれるとおりのアミノ酸配列からなる。具体的な態様において、上の側面のおよびその態様の該アミノペプチダーゼは、触媒活性アミノペプチダーゼである。
【0070】
本明細書に使用されるとき、用語「同一の」、「類似性」またはパーセント「同一性」もしくはパーセント「類似性」もしくはパーセント「相同性」は、2以上のポリペプチド配列の文脈において、配列比較アルゴリズムを使用してまたは手動のアライメントおよび目視での検査によって測定されるとおり比較窓(comparison window)または指定された領域にわたって最大限一致するよう比較されかつ配列されたとき、同じ(例として、特定された領域にわたり75%の同一性がある)アミノ酸残基と同じかもしくは特定されたパーセンテージを有する、2以上の配列または部分配列(subsequences)を指す。好ましくは、同一性は、少なくとも約25アミノ酸長の領域にわたって、またはより好ましくは50~100アミノ酸の領域にわたって、さらにいっそう好ましくは100~500アミノ酸長もしくはさらにいっそう長い領域にわたって、存在する。
【0071】
用語「配列同一性」または「配列相同性」は、本明細書に使用されるとき、配列が、比較の窓にわたってアミノ酸ごとに(on an amino acid by amino acid basis)同一である程度を指す。よって、「配列相同性のパーセンテージ」は、比較の窓にわたって最適に配列された2つの配列を比較すること、両配列において同一のアミノ酸が生じた位置の数を決定することでマッチした位置の数をもたらすこと、マッチした位置の数を比較の窓における位置の総数(すなわち、窓のサイズ)で除すること、および結果に100を乗ずることで配列同一性のパーセンテージをもたらすことによって算出される。ギャップ、すなわち、ある残基が一方の配列には存在するが他方の配列には存在しないアライメントにおける位置は、非同一の残基をもつ位置として見なされる。配列相同性のパーセンテージを決定することは、手動で、または当該技術分野において入手可能なコンピュータプログラムを活用することによって、なされる。有用なアルゴリズムの例は、PILEUP(Higgins & Sharp, CABIOS 5:151 (1989))、BLASTおよびBLAST 2.0(Altschul et al. J. Mol. Biol. 215: 403 (1990))。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、the National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通して公的に入手可能である。具体的な態様において、2以上のポリペプチド(アミノペプチダーゼなど)の配列同一性を決定する比較の窓は、完全長(full length)タンパク質配列である。
【0072】
固定化および標識化
「表面上の固定化」は、本明細書に使用されるとき、不活性な不溶性材料、例えばガラス表面への1以上のポリペプチドの付着を指し、該ポリペプチドの可動性の喪失という結果に繋がる。現出願に開示された方法につき、固定化は、ポリペプチドの配列決定または該ポリペプチドのN末アミノ酸を同定もしくはカテゴライズすることを通してずっと、ポリペプチド(単数または複数)が適所に保たれるようにする。よってN末端は自由にアクセス可能なはずであり、ゆえにポリペプチドはそのC末端を通して固定化されるはずである。その上、表面上へ高密度で固定化されるタンパク質は、少量の試料溶液の利用を可能にさせる。多くの固定化技法は、主に以下の3つの機序:物理的な、共有結合的な、および生物親和性の固定化に基づき、この数年で開発された(Rusmini et al 2007 Biomacromolecules 8: 1775-1789;米国特許第6,475,809号;WO2001040310;US7358096;US20100015635;WO1996030409)。本出願において、ポリペプチドは、当該技術分野において入手可能なプロトコル、例としてEeftensら(2015 BMC Biophys 8:9)に従って、アジド-ジベンゾシクロオクチル(DBCO)クリック反応(例1および2を参照)を使用してガラス表面上に固定化されている。
【0073】
現出願の様々な態様において、ポリペプチドは、アミノペプチダーゼとの接触に先立ち、表面上に固定化されてもよい。ペプチドは、いずれの好適な表面上にも固定化されていてもよい(後を参照)。現出願に開示された方法に欠かせないのは、配列決定されることになっているポリペプチドまたはN末アミノ酸が同定またはカテゴライズされることになっているポリペプチドが、ポリペプチドの最もC末である部分を通して、または切断しやすい結合のC末部分を通して、固定化されることである。よってポリペプチドは、そのC末端で、またはペプチドの構造体に沿ったC末~切断しやすい結合の部分で(当該技術分野において周知である、例としてシステインのチオール機能での、例としてマレイミド化学または金-チオール結合(bonding)を通して)本出願の表面へ付着されている。
【0074】
「切断しやすい結合(bond)」は、本明細書に使用されるとき、本出願のアミノペプチダーゼのいずれか1つによって切断されることになっている共有結合の化学的結合を指す。
【0075】
「表面」は、本明細書に使用されるとき、担体または層と同義語である。現出願の表面または層は、分子標識、電気化学的シグナル、電磁シグナル、プラズモンに関する事象の検出における使用に好適である。該分子標識は、光学標識(これらに限定されないが、ルミネセンス標識および蛍光標識を含む)または電気標識(これらに限定されないが、電位差測定の、ボルタンメトリの、電量測定の標識を含む)であり得る。
【0076】
該層はまた、多層、すなわち数層を含む層であってもよい。多層のケースにおいて、少なくとも1層は、該分子標識、または該電気化学的な、電磁気的な、もしくはプラズモンに関する事象の好適な検出を可能にさせるはずである。したがって、具体的な態様に従うと、表面は、能動的検知表面である。ゆえに、単一分子レベルで表面に固定化されたポリペプチドを配列決する該方法の表面に固定化されたポリペプチドは、能動的検知表面上に固定化されたポリペプチドである。より具体的な態様において、該能動的検知表面は、該方法のポリペプチドが化学的にカップリングされている金表面、またはアミド-、カルボキシル-、チオール-、もしくはアジド官能基化表面のいずれかである。他の具体的な態様において、該担体は、ナノ粒子、ナノディスク(nanodisk)、ナノ構造体、チップである。最も具体的な態様において、該表面は、自己組織化単分子膜(SAM)である。
【0077】
「オンタイム」値または滞留時間を検出するためには、2つの標識化選択肢が選択され得る。第1に、配列決定されることになっているポリペプチドは、例えばそれらのN末アミノ酸を通して、標識化され得る。代替的にまたは加えて、内側のアミノ酸は、例えば図14に示されるように標識化され得る。
【0078】
ポリペプチドの標識化は、これらに限定されないが、フルオレサミン、o-フタルアルデヒド、塩化ダンシル、およびクマリニルイソチオシアナート(CITC)などの蛍光プローブを使用してなされ得る。具体的な態様において、本出願の固定化されたポリペプチドのN末アミノ酸は、CITCで誘導体化されているか、または代替的に言い換えれば、CITCで標識化されている。ポリペプチドはまた、電気的にも標識化され得る。電気分析的な方法は、アナライト、ペプチド、酵素、…の存在が、アナライト、ペプチド、酵素、…上の電気標識の電位(potential)(ボルト)および/または電流(アンペア)を測定することによって決定され得る技法の類である。これらの方法は、標識に応じて数カテゴリーに分けられ(broken down into)得る。3つのメインカテゴリーは、電位差測定(電極電位差が測定される)、電量測定(電流が経時的に測定される)、およびボルタンメトリ(電位が能動的に変更される間に電流が測定される)である。
【0079】
電量測定の技法には基本的な2つのカテゴリーがある。定電位の電量測定は、ポテンシオスタットを使用する反応の最中、電圧(electric potential)を一定に保持することを伴う。他方、いわゆる電量測定滴定(coulometric titration)または定電流の(amperostatic)電量測定は、アンペロスタットを使用して電流(アンペアで測定される)を一定に保つ。電気標識の非限定例は、スルホフェニルイソチオシアナート(SPITC)である。SPITCは、N末フラグメントのイオンを中和するためのMS de novoペプチド配列決定において使用されるフェニルイソチオシアナート(PITC)プローブの負に帯電した変異体(variant)である(Samyn et al. 2004 J Am Soc Mass Spectrom 15:1838-1852)。具体的な態様において、電気的に標識化することは、電位差測定的に、電流測定的に、またはボルタンメトリ的に標識化することであり得る。
【0080】
固定化されたポリペプチドのN末アミノ酸上のまたは固定化されたポリペプチドのが切り離されるまでの本出願のアミノペプチダーゼの「オンタイム」値または滞留時間を検出および測定するために(上を参照)、該アミノペプチダーゼが検出される必要がある。アミノペプチダーゼは、N末アミノ酸が切り離されるまでに測定された滞留時間内で基質と、切断-産生的に(cleavage-productively)、または切断-非産生的に(cleavage non-productively)、相互作用し得る。両相互作用タイプのうち、それらの長さ、長さの和、および平均の長さは、これらのパラメータすべてが、アミノペプチダーゼがN末アミノ酸を切り離すまでにどのくらい掛かるかに関する情報を提供する測定の一部であるところ、本発明に関係がある測定された滞留時間の一部であり得る。検出のたぐいは、アミノペプチダーゼの酵素「オンタイム」または滞留時間が検出され得る限り、本発明にとっては欠かせないものではない。本出願のある態様において、アミノペプチダーゼの「オンタイム」は、光学的に、電気的に、またはプラズモンにより検出される。本出願のアミノペプチダーゼの検出の仕方の1つは、これを分子標識に融合させ、これに続き、分子標識を検出することによる。上と同様に、アミノペプチダーゼは、光学的に、電気的にまたはプラズモンにより標識化され得る。
【0081】
光学的検出は光学標識を要し、これらに限定されないがルミネセンス検出および蛍光的検出を包含する。よって標識は、フルオロフォアであり得る。商業上、これらに限定されないが、Cy3、Cy5、クマリン、Alexa fluor標識、GFP、YFP、RFP、…を包含する、入手可能な光学標識の広範なカタログはある。ある態様において、アミノペプチダーゼの標識は、固定化されたポリペプチドの、または該ポリペプチドのN末アミノ酸の、または固定化表面の標識と相互作用する。該標識は、例として、フルオロフォアであり得る。別の態様において、少なくとも1つの分子は、標識化分子の1番目の基と2番目の基との間が共通する。一態様において、検出ステップは、画像、例として、蛍光画像(例として、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、全内部反射蛍光(TIRF)、またはゼロモード導波路(ZMW)を使用して取得された)を産生する。別の態様において、画像の編集によって、デジタル式プロファイル、例として、固定化されたポリペプチドまたはそのN末アミノ酸を同定するデジタル式プロファイルが構成される。具体的な態様において、光学的標識化は、蛍光的標識化である。さらにいっそう具体的な態様において、蛍光標識は、TIRF顕微鏡法を通して測定または検出される。
【0082】
固定化されたタンパク質のN末アミノ酸上のアミノペプチダーゼの結合、ひいてはアミノペプチダーゼの滞留時間または「オンタイム」の測定結果はまた、分子標識の必要がない場合も検出され得る。標識フリーの電気的検出の非限定例は、電界効果トランジスタベースのバイオセンサまたはBioFETの使用である。BioFETは、分子の結合(すなわち、固定化されたポリペプチドのN末アミノ酸上のアミノペプチダーゼ結合)によって誘導される表面電位の変化によって開閉される(gated)電界効果トランジスタである。大抵は誘電材料であるSPITC標識化アミノペプチダーゼなどの帯電した分子がFETゲートへ結合したとき、これらは、FETチャネルのコンダクタンスに変化をもたらす下層の(underlying)半導体材料の電荷分布を変化させ得る。BioFETは、2つのメイン区画からなる:一方は生物学的な認識をする要素であり、他方は電界効果トランジスタ(FET)である。
【0083】
BioFETは単に、ゲートを修飾するか、またはそれを種々の生物学的な認識をする要素(受容体)とカップリングさせることによって、イオン感応電界効果トランジスタ(ISFET)、シリコンナノワイヤ(SiNW)、EIS容量センサ、および光アドレス型(light-addressable)電位差測定センサ(LAPS)から構築され得る(Poghossian and Schoening 2014 Electroanalysis 26: 1197-1213)。これらは、複雑な様々な生体分子種(例として、酵素、抗体、抗原、タンパク質、ペプチド、もしくはDNA)、または生きている生体系(例として、細胞、組織切片、無傷の器官、もしくは全生物)のいずれかを包含する。本出願につき、生物学的な認識をする系全体は、検出されることになっているアミノペプチダーゼ-ポリペプチド結合、またはITC-ポリペプチド結合、またはITC類似体-ポリペプチド結合を選択的に認識し、(生体-)化学的情報を翻訳して化学的または物理的なシグナルにする。生物学的な認識から変換器部への情報転送における最も不可欠な点は、これら2つのドメイン間の界面である。BioFEDにおいて、電位効果(または荷電効果)は、これらの認識現象を変換するのに使用される。
【0084】
一般に、BioFEDは、ゲート絶縁体/電解質界面にてまたはその近くで分子間相互作用によって生成されるあらゆる種類の荷電変化または電位変化に対して、極めて感度が高い。帯電した種のゲート絶縁体への結合は、追加の電圧(voltage)をゲートへ印可する効果に類似する。したがって、ゲート表面上の帯電した生体分子の吸着または結合が、絶縁体/半導体界面にてケイ素の空間電荷領域をモジュレートするであろうことは予想され得る。これは、ISFETのドレイン電流、SiNWFETのコンダクタンスもしくは電流、EISセンサの静電容量、またはLAPSの光電流のモジュレーションをもたらす。その結果として、FETのドレイン電流、SiNWのコンダクタンス、EISセンサの静電容量、またはLAPSの光電流の変化を測定することによって、アミノペプチダーゼ、ITCまたはITC類似体「オンタイム」値が定量的に決定され得る。様々な態様において、固定化されたポリペプチドへのアミノペプチダーゼ結合の検出は、BioFETまたは電界効果トランジスタに関する技法を使用して実施される。
【0085】
また、プラズモンによる(plasmonic)読み出しも、本出願のアミノペプチダーゼの、またはITCもしくはITC類似体の「オンタイム」を検出するために使用され得る。物理学において、プラズモンは、大抵(貴)金属と誘電体との間の界面での自由電子の集団振動に係る量子として定義され得る。プラズモンという用語は、電磁放射線の影響を受ける金属中の自由電子のプラズマ様挙動を指す。表面プラズモンは、誘電関数の実数部が界面(例として空気中の金属シートなどの金属-誘電体界面)を越える記号(sign)を変化させるいずれか2つの材料間での界面にて存在するコヒーレント非局在化電子振動である。電磁スペクトルの可視範囲にある光で極めて効率的になされ得る表面プラズモンの励起は、表面プラズモン共鳴(SPR)として知られている実験的技法において頻繁に使用される。
【0086】
SPRにおいて、表面プラズモンの最大励起は、入射角または波長の関数としてプリズム結合器からの反射電力をモニタリングすることによって検出される。この技法は、厚さのナノメートルでの変化、密度の揺らぎ、または分子吸収を観察するのに使用され得、かつタンパク質結合事象をスクリーニングおよび定量化するために使用される。これらの原理に従い動作する商品化された器械(instruments)は入手可能である。したがって、具体的な態様において、本出願のアミノペプチダーゼまたはITCもしくはITC類似体の「オンタイム」は、表面プラズモン共鳴によって決定される。
【0087】
アミノペプチダーゼのまたはITCもしくはITC類似体の「オンタイム」が測定され得る別の例は、ポリメラーゼDNA相互作用について実証されたとおり、プラズモンにより増強された、囁きの回廊(whispering gallery)微小共振器(microcavity)センサである(Kim et al 2017 Sci Adv 3:e1603044)。
【0088】
しかしながら、上の記載があったとしても、標識化のたぐい、その結果としての検出は、切断誘導剤の「オンタイム」または滞留時間が検出され得る限り、本発明にとっては欠かせないものではないことは明確なことに違いない。
【0089】
切断誘導剤の使用
現出願の別の側面において、表面に固定化されたポリペプチドの配列情報を得るための切断誘導剤の使用が提供されるが、ここで該ポリペプチドの末端のアミノ酸上の該切断誘導剤の滞留時間は、該末端のアミノ酸を同定する。一態様において、該末端のアミノ酸は、誘導体化されている。別の態様において、該切断誘導剤は、イソチオシアナートもしくはイソチオシアナート類似体、またはペプチダーゼである。より具体的に、該イソチオシアナート類似体は、ITC、CITC、PITC、CITC、およびアジド-PITCからなるリストから選択される。該ペプチダーゼは、触媒活性ペプチダーゼ、より具体的には触媒活性アミノペプチダーゼである。
【0090】
もう1つの態様において、ポリペプチドのN末アミノ酸を切断するための本出願に記載のアミノペプチダーゼのいずれかの使用が提供される。一態様において、該ポリペプチドは表面に固定化されている。別の態様において、該ポリペプチドのN末アミノ酸を切断することは、単一分子レベルにて実施される。具体的な態様において、野生型Trypanosoma cruziクルジパインまたはクルザインのグリシン残基を位置25にて、セリン残基を位置65にて、システイン残基を位置138にて、およびヒスチジン残基を位置208にてを有するアミノ酸配列を含む、改変された合成または組み換えアミノペプチダーゼ(ここで該アミノペプチダーゼの残存するアミノ酸配列は、配列番号1に描かれる該野生型T. cruziクルジパインまたは配列番号2に描かれるクルザインのアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む)の使用が、ポリペプチドのN末アミノ酸を切断するために提供される。さらにいっそう具体的には、ポリペプチドのN末アミノ酸を切断するために提供される該アミノペプチダーゼは、野生型T. cruziクルジパインまたはクルザインの第1メチオニン残基の後に挿入されたシステイン残基を有する。さらにいっそう具体的には、ポリペプチドのN末アミノ酸を切断するために提供される該アミノペプチダーゼは、配列番号3にもしくは配列番号4に描かれるとおりのアミノ酸配列を含むか、または配列番号5にもしくは配列番号6に描かれるとおりのアミノ酸配列からなる。最も具体的には、該切断することは単一分子レベルにて実施され、かつ該ポリペプチドは表面に固定化されており、より具体的には該ポリペプチドのC末端を通して表面に固定化されている。
【0091】
別の具体的な態様において、配列番号7に描かれるとおりの野生型Thermus aquaticusアミノペプチダーゼTのアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する、改変された合成または組み換えアミノペプチダーゼ(ここでシステイン残基は、該野生型アミノペプチダーゼの第1メチオニン残基の後に挿入されている)の使用が、ポリペプチドのN末アミノ酸を切断するために提供される。より具体的な態様において、ポリペプチドのN末アミノ酸を切断するために提供される該アミノペプチダーゼTは、配列番号8に描かれるとおりのアミノ酸配列を含むか、またはこれからなる。最も具体的には、該切断することは単一分子レベルにて実施され、かつ該ポリペプチドは表面に固定化されている。他の態様において、該アミノペプチダーゼは、触媒活性アミノペプチダーゼである。また、表面に固定化されたポリペプチドからN末アミノ酸を切断または同定するための本明細書に開示のT. aquaticusアミノペプチダーゼTの使用も提供されるが、ここで該N末アミノ酸は、Leu、Met、Tyr、Arg、Pro、Gly、Lys、Ala、およびValからなるリストから選択される。
【0092】
もう1つの側面において、ポリペプチドのN末アミノ酸を同定もしくはカテゴライズするための、またはポリペプチドを配列決定するためのアミノペプチダーゼ、より具体的には触媒活性アミノペプチダーゼの使用が提供される。具体的な態様において、該同定すること、カテゴライズすること、または配列決定することは、単一分子レベルにてなされる。さらにいっそう具体的には、該ポリペプチドは、そのC末端を通して表面に固定化されている。一態様において、該アミノペプチダーゼは、標識化されているか、具体的には光学標識、電気標識、もしくはプラズモン標識で標識化されているか、または該アミノペプチダーゼは、光学的に、電気的に、もしくはプラズモンにより検出される。具体的な態様において、野生型Trypanosoma cruziクルジパインまたはクルザインのグリシン残基を位置25にて、セリン残基を位置65にて、システイン残基を位置138にて、およびヒスチジン残基を位置208にて有するアミノ酸配列を含む改変された合成または組み換えアミノペプチダーゼ(ここで該アミノペプチダーゼの残存するアミノ酸配列は、配列番号1に描かれる該野生型T. cruziクルジパインまたは配列番号2に描かれるクルザインのアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む)の使用が、ポリペプチドのN末アミノ酸を同定するためか、またはポリペプチドを配列決定するために提供される。
【0093】
さらにいっそう具体的には、ポリペプチドのN末アミノ酸を同定するか、またはポリペプチドを配列決定するために提供される該アミノペプチダーゼは、野生型T. cruziクルジパインまたはクルザインの第1メチオニン残基の後に挿入されているシステイン残基を有する。さらにいっそう具体的には、ポリペプチドのN末アミノ酸を同定するか、またはポリペプチドを配列決定するために提供される該アミノペプチダーゼは、配列番号3もしくは配列番号4に描かれるとおりのアミノ酸配列を含むか、または配列番号5もしくは配列番号6に描かれるとおりのアミノ酸配列からなる。具体的な態様において、該同定すること、カテゴライズすること、または配列決定することは、単一分子レベルにてなされる。さらにいっそう具体的には、該ポリペプチドはそのC末端を通して表面に固定化されている。
【0094】
別の具体的な態様において、配列番号7に描かれるとおりの野生型Thermus aquaticusアミノペプチダーゼTのアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する改変された合成または組み換えアミノペプチダーゼ(ここでシステイン残基は、該野生型アミノペプチダーゼの第1メチオニン残基の後に挿入されている)の使用が、ポリペプチドのN末アミノ酸を同定するために、またはポリペプチドを配列決定するために提供される。
【0095】
より具体的な態様において、ポリペプチドのN末アミノ酸を同定もしくはカテゴライズするために、またはポリペプチドを配列決定するために提供される該アミノペプチダーゼTは、配列番号8に描かれるとおりのアミノ酸配列を含むか、またはこれからなる。具体的な態様において、該同定すること、カテゴライズすること、または配列決定することは、単一分子レベルにてなされる。さらにいっそう具体的には、該ポリペプチドは、そのC末端を通して表面に固定化されている。他の態様において、該アミノペプチダーゼは触媒活性アミノペプチダーゼである。最も具体的な態様において、該T. aquaticusアミノペプチダーゼTを使用して同定される該N末アミノ酸は、Leu、Met、Tyr、Arg、Pro、Gly、Lys、Ala、およびValからなるリストから選択される。
【0096】
本出願の方法
現出願に記載の本発明は、下に開示される数種の方法が根底にある。一側面において、表面に固定化されたポリペプチドの末端のアミノ酸を同定またはカテゴライズする方法が提供され、該方法は、該末端のアミノ酸を同定またはカテゴライズするために、以下:
a)該表面に固定化されたポリペプチドを切断誘導剤に接触させること、ここで該切断誘導剤は、末端のアミノ酸に結合して、該ポリペプチドからこれを切断する;
b)該末端のアミノ酸上の該切断誘導剤の滞留時間を測定すること;
c)該測定された滞留時間を、該切断誘導剤および一連の末端のアミノ酸に特徴的な一連の滞留時間参照値と比較すること
を含む。
【0097】
また、表面に固定化されたポリペプチドの配列情報を得る方法も提供され、該方法は、以下:
a)該表面に固定化されたポリペプチドを切断誘導剤に接触させること、ここで該剤は、末端のアミノ酸に結合して、該ポリペプチドからこれを切断する;
b)該表面に固定化されたポリペプチドの末端のアミノ酸上の該切断誘導剤の滞留時間を測定すること;
c)該測定された滞留時間を、該切断誘導剤および一連の末端のアミノ酸に特徴的な一連の滞留時間参照値と比較することによって、該末端のアミノ酸を同定またはカテゴライズすること;
d)該切断誘導剤に、該末端のアミノ酸を切り離せるようにする;
e)ステップa)~d)を1回以上繰り返すこと
を含む。
【0098】
該方法において、該滞留時間は、光学的に、電気的に、またはプラズモンにより測定される。具体的な態様において、該一連の末端のアミノ酸は、Leu、Met、Tyr、Arg、Pro、Gly、Lys、Ala、およびValを含むか、またはこれらからなる。
【0099】
様々な態様において、該方法における該切断誘導剤は、PITC、CITC、SPITC、およびアジド-PITCからなるリストから選択されるイソチオシアナートまたはITC類似体である。かかるケースにおいて、該滞留時間は、該末端のアミノ酸が除去されるまで掛かる時間であり、該末端のアミノ酸は、該掛かる時間を種々のアミノ酸に係る一連の参照値と比較することによって同定される。
【0100】
他の態様において、該方法における該切断誘導剤は、ペプチダーゼ、より具体的には触媒活性ペプチダーゼ、さらにいっそう具体的には触媒活性アミノペプチダーゼである。アミノペプチダーゼが現出願の方法において使用されるとき、該ポリペプチドは、そのC末端を通して表面に固定化されている。特定の態様において、上の方法における該末端のアミノ酸上の該切断誘導剤の滞留時間を測定する該ステップは、該表面に固定化されたポリペプチドの末端のアミノ酸が切断されるまでの、末端のアミノ酸上の該切断誘導剤の滞留時間を測定することである。
【0101】
現出願を通してずっと、該切断誘導剤は、アミノペプチダーゼ、ITCまたはITC類似体であり得る。本明細書において既に論じられたとおり、表面上に固定化されたポリペプチドは、化学的切断または酵素的切断のためではあるが該切断の立体障害または干渉を回避するためにもN末端が自由にアクセスされやすいように(ポリペプチドが、そのC末端を通して固定化されているケースにおいて)、変性されているはずである。したがって、ポリペプチド変性の第1ステップを包含する現出願の方法もまた提供される。かかる変性条件において、使用されることになっている触媒活性アミノペプチダーゼは、変性条件に耐える(withstand)はずである。よって、これらのケースにおいて、該アミノペプチダーゼは、好熱性および/または耐溶剤性のアミノペプチダーゼであることが好ましい。
【0102】
様々な態様において、本明細書に記載の方法が提供されるが、ここで該アミノペプチダーゼは、本出願に開示されたアミノペプチダーゼのいずれか、より正確にはT. cruzi由来のクルザインおよびクルジパインペプチダーゼのいずれか、本明細書に記載のまたは本明細書に記載のとおりのT. aquaticus由来アミノペプチダーゼTのいずれかである。具体的な態様において、該方法が提供されるが、ここで該N末アミノ酸は、Leu、Met、Tyr、Arg、Pro、Gly、Lys、Ala、およびValからなるリストから選択される。
【0103】
他の態様において、本明細書に記載の方法が提供されるが、ここで該N末アミノ酸は誘導体化されており、およびここで該切断誘導剤は、誘導体化N末アミノ酸を切断することができるアミノペプチダーゼである。より具体的な態様において、該N末アミノ酸は、CITCまたはSPITCで誘導体化されており、該切断誘導剤は、本明細書に開示の改変された、T. cruzi由来のクルザインまたはクルジパインのいずれかである。
【0104】
本出願の様々な態様において、C末により固定化されたポリペプチドからのN末アミノ酸を同定もしくはカテゴライズするためのまたは該ポリペプチドから配列情報を得るための本明細書に記載の方法は、単一分子レベルで遂行される方法である。
【0105】
単一分子測定につき、ポリペプチドは、現出願の方法から、能動的検知表面上に固定化されることが想定されている。具体的な態様において、該能動的検知表面は、該ポリペプチドが化学的にカップリングされている金表面、またはアミド-、カルボキシル-、チオール-、もしくはアジド官能基化表面のいずれかである。
【0106】
滞留時間の複数の測定および切断しない結合剤との併用
代替態様において、該出願の方法において使用されるアミノペプチダーゼは、N末アミノ酸の結合および解離の数ラウンド後にしかN末アミノ酸を切断しないアミノペプチダーゼであり得る。該アミノペプチダーゼの滞留時間ごとに、N末アミノ酸が切り離されるまでの滞留時間を決定するための情報価値があるであろうし、N末アミノ酸を同定するのに役立つこともある。アミノペプチダーゼによってN末アミノ酸の同一性が変化する時点を検出するために、かつ単一分子機構(set-up)においてN末アミノ酸をより的確に予測するために、N末アミノ酸ごとに複数の測定を有することが推奨される。このことは、実際の切断が生じるであろう前に数回、N末アミノ酸へドッキングし(結合(association))、かつそのドッキングを解除する(undock)(解離)であろうアミノペプチダーゼを使用することによって達成され得る。
【0107】
よって、本出願の方法における触媒活性アミノペプチダーゼの滞留時間を測定するステップが、該アミノペプチダーゼがN末アミノ酸を切断する前に、該アミノペプチダーゼの複数の滞留時間を測定することを暗示することもまた、想定されている。代替的に言い換えると、本出願の方法が提供されるが、ここで該触媒活性アミノペプチダーゼの滞留時間は、該アミノペプチダーゼの該N末アミノ酸への結合事象ごとに測定される。上記は、例13および図14において実証されている。
【0108】
具体的な態様において、現出願に開示された方法が提供されるが、ここでN末アミノ酸の酵素的切断に使用されるアミノペプチダーゼは、該アミノペプチダーゼがN末アミノ酸を切断するのに要する時間窓(time window)中、平均すると、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも20、または少なくとも50の結合(association)/解離サイクルを有する。これは、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも20、または少なくとも50の切断-産生能のない結合/解離サイクルが、切断-産生能のあるサイクルの間に生じることを意味する。
【0109】
また提供されるのには現出願の方法もあるが、ここで該表面に固定化されたポリペプチドは、加えて、1以上の末端のアミノ酸に結合するタンパク質に接触させられ、ここで該1以上の結合タンパク質の該末端のアミノ酸への結合事象の速度論は、該末端のアミノ酸を同定する。基質の情報を収集するためにN末アミノ酸に結合するタンパク質の結合特異性を使用する実現性は、理論上Rodriquesらによって実証されている(2018, bioRxiv, doi: http://dx.doi.org/10.1101/352310)。現出願の方法における該切断不能な結合剤(触媒活性アミノペプチダーゼは別にして)の追加の使用は、単一分子実験においてN末アミノ酸をより高い的確さをもって予測または同定するために、追加の情報を提供し得る。具体的な態様において、該切断不能な結合剤は、切断誘導剤が該N末アミノ酸を切断するのに要する時間窓中、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも20、または少なくとも50の、N末アミノ酸との結合/解離サイクルを有する。該切断誘導剤は、アミノペプチダーゼまたはITCもしくはITC類似体であり、より具体的には該アミノペプチダーゼは、現出願に記載のアミノペプチダーゼの1つである。
【0110】
切断の検出
本出願の方法の追加部分の1つは、末端のアミノ酸の切断が、検出または確認されるべきであることである。ゆえに、また本明細書に提供されるのには、表面に固定化されたポリペプチドの光学シグナル、電気シグナル、またはプラズモンによるシグナルを測定することによる該末端のアミノ酸の切断を決定するステップを加えて包含する現出願の方法もあるが、ここで光学シグナル、電気シグナル、またはプラズモンシグナルにおける差は、該末端のアミノ酸の切断を表す。実に、遊離のN末端をもつ固定化ペプチドは、N末アミノ酸が本発明の切断誘導剤によっていつ切り離されるかを決定するために利用される数種の特性を有する。
【0111】
第1の例において、遊離のN末アミン基は、広い範囲のpHの下で正電荷を帯びている。ペプチドのこの正電荷とアンカー点(これを通してペプチドが固定化されている)との間隔は、ペプチドが、好適に設計された検出器要素(カーボンナノチューブ、電界効果トランジスタなどのナノメートルスケールトランジスタ、とりわけフィン形(fin-shaped)電界効果トランジスタ、ゲートオールアラウンド(gate all-around)電界効果トランジスタ、ナノリボン(nanoribbon)電界効果トランジスタ等)上に固定化されているとき、例として電位差測定の検出においてランダムテレグラフノイズ(random telegraph noise)(Sorgenfrei et al 2011 Nano Lett 11:3739-3743)を測定することによって測定され得る。
【0112】
本発明の切断誘導試薬によってN末アミノ酸が切断された際、正に帯電したN末アミノ基は、ペプチドのアンカー点へ、ひいては検出器表面へ近づく。完全に伸ばされた(fully stretched out)ペプチドにおいて、この電荷とアンカー点との間隔が短くなった長さは、ペプチド主鎖中の共有結合の配置(geometry)によって拘束されるように、約3.8オングストローム(輪郭長)である。ゆえに、ペプチド2次構造が崩れる環境条件下(高温度、有機(共)溶媒曝露等々)、アミノ末の電荷とペプチドアンカー点との間の長さ測定の分布の最大値(maximum)は、ペプチド主鎖中の共有結合の配置によって拘束される上限を有する。切断誘導剤が存在する最中のペプチドのアミノ末電荷の繰り返される所見によるこの最大長の変化の測定は、実に切断誘導剤がN末アミノ酸を切り離した時点を明らかにする。
【0113】
第2の例において、アミノ末のアミノ酸は、末端のアミノ基上の正電荷が排除されたか、1以上の負電荷を帯びるアミノ酸誘導体へ変換されたか、または単一の正電荷から複合的に正に帯電したアミノ酸誘導体へ増大させられたアミノ酸誘導体が形成されるように、試薬と反応させられ得る。これは、例えば、固定化されたペプチドを、電荷を帯びていないかまたは1以上の正電荷もしくは1以上の負電荷を帯びている好適に選出されたN-ヒドロキシスクシニミジル試薬に接触させることで達成され得る。
【0114】
代替的に、電荷調整(charge-modulating)試薬は、固定化されたペプチドの末端アミノ基が、好適に選出されたイソチオシアナート試薬(PITC、CITC、SPITC(4-スルホフェニルイソチオシアナート)、またはアジドフェニルイソチオシアナートなど)と反応させられるケースと同様に、切断誘導試薬それ自体であり得る。前記イソチオシアナート試薬における後者は、この剤の固定化されたペプチドとの接触に先立つか、固定化されたペプチドとの接触の最中、またはその後のいずれかで、アジド基上のクリックケミストリーを通してさらに修飾され得る。このように、アミノ酸誘導体を担持するペプチドと、N末アミノ酸誘導体が切り離された後のこのペプチドとの間の電荷差は、2進法で動く(rendered binary)(中性~正の変換、負~正の変換、または複数正電荷~単一正電荷の変換)か、もしくは増強されるか、またはその両方である。例1と同様の検出技術を使用して、切断誘導剤が有効にアミノ酸切断に至る時点が、この電荷変化の検出を使用して測定され得る。
【0115】
第3の例において、N末アミノ酸のアミノ基またはその側鎖は、蛍光定量法、ラマン分光法、プラズモン共鳴等々の分光法を使用して検出され得るN末アミノ酸誘導体が生成されるように、分光学的に識別可能な特性を付与する剤と反応させられ得る。とりわけ、全内部反射蛍光(TIRF)顕微鏡法を使用する単一分子検出は、ペプチドが固定化され得る反射表面(例としてガラス)に対して並列した薄層から蛍光を検出するよう設計されていることから、好ましい方法である。
【0116】
切断誘導剤(これは、例として、アミノペプチダーゼ、エドマナーゼ、またはイソチオシアナートを含有する分子であり得る)を接触させる際、切断が生じる時点は、固定化されたペプチドの観測的時系列における分光学的特性の変化によって検出され得る(例えば、蛍光標識化N末アミノ酸誘導体の切り離しに起因する蛍光シグナルの喪失)。
【0117】
代替的に、フェルスター共鳴エネルギー転移(FRET)シグナルの喪失は、固定化されたペプチドが、好適なFRETドナーまたはアクセプターを含有するときに、N末アミノ酸誘導体が、マッチングするFRETアクセプターまたはドナーを含有するときに、観測され得る。もう1つの態様において、N末アミノ酸は、分光学的に識別可能な標識(例として、フルオロフォア)を担持する結合剤(例として、ストレプトアビジンまたはニュートラアビジンなどのアビジン)が誘導体化N末アミノ酸に結合し得るように、(例えばビオチン化イソチオシアナートを使用して、例としてビオチンで)誘導体化される。次いで、N末アミノ酸が切断されるまでの時間は、固定化されたペプチドの該結合剤への結合能の観測的時系列において変化が生じた時点として測定され得る。
【0118】
結合能は、ペプチドの結合剤へ結合するかもしくは結合しない能力、または、結合親和性、kon、koffなどのかかる結合の特徴である。検出は、例としてTIRFを使用してなされ得る。もう1つの態様において、N末アミノ酸は変換されて(例として、イソチオシアナートを含有する分子に対する反応による)、分光学的に識別可能な標識(例としてフルオロフォア)を担持する結合剤(例として、触媒活性があるかまたは不活性なアミノペプチダーゼ)が結合し得ない誘導体になる。次いで、切断誘導剤による切断の際に、かかる結合剤は、固定化ペプチドへ結合し得、再び、N末アミノ酸が切断されるまでの時間は次いで、固定化されたペプチドの該結合剤への結合能の観測的時系列における変化が生じた時点として測定され得る。
【0119】
もう1つの態様において、切断誘導剤によって切断されるまでの時間は、ペプチド結合剤(例として、触媒活性があるかもしくは不活性なアミノペプチダーゼまたはエドマナーゼ)の固定化ペプチドに対する結合親和性または結合速度論の変化を検出することによって検出され得る。例えば、ペプチド結合剤の滞留時間(結合(association)と解離との間の時間)は、上に記載の技法のいずれを使用しても測定され得る。ペプチド結合剤の結合および解離のかかる数サイクルは測定され得るし、平均滞留時間の変化はN末アミノ酸の切断の際に検出され得る。
【0120】
具体的な例において、検出に使用されるペプチド結合剤は、ペプチド結合剤の固定化されたペプチドへの結合/解離の複数測定点が典型的にはN末アミノ酸の2つの切断事象の間に観測可能であるように、切断誘導剤がN末アミノ酸の切断を誘導するのに要する時間より早い結合/解離速度論を有する。具体的な例において、ペプチド結合剤は、切断誘導剤と同じである。例として、触媒活性アミノペプチダーゼは、切断-産生能のある結合/解離サイクルと、切断-産生能のない結合/解離サイクルとの両方を有する。切断-産生能のないペプチド結合事象の最中、アミノペプチダーゼの結合/解離の親和性、とりわけ速度論を経時的に測定することによって、N末アミノ酸が切り離され、ゆえにアミノペプチダーゼと相互作用するために新しいN末アミノ酸が表に出されるとき、これらの特性の変化が観察される。
【0121】
具体的な態様において、アミノペプチダーゼの固定化ペプチドへの結合の結合/解離事象のほとんどが切断-産生能のないものであるように、かつこれらの結合事象の時系列におけるこれらの事象の速度論の変化が、アミノペプチダーゼがN末アミノ酸を切り離した時点に関して情報提供するために使用されるように、アミノペプチダーゼは、酵素の触媒反応速度のための最適な条件から程遠い条件下で使用される。
【0122】
もう1つの他の側面において、そのC末端を通して表面へ固定化されたポリペプチドのN末アミノ酸を、該N末アミノ酸上のアミノペプチダーゼの「オンタイム」値または滞留時間を決定することによって単一分子レベルで同定またはカテゴライズする方法が提供されるが、該方法は、該表面に固定化されたポリペプチドをアミノペプチダーゼに接触させること、および該アミノペプチダーゼの「オンタイム」値または滞留時間を測定することを含む。
【0123】
具体的な態様において、該アミノペプチダーゼは、本出願に記載のアミノペプチダーゼのいずれかである。ゆえに該方法が提供されるが、ここで該アミノペプチダーゼは、野生型Trypanosoma cruziクルジパインまたはクルザインの、グリシン残基を位置25にて、セリン残基を位置65にて、システイン残基を位置138にて、およびヒスチジン残基を位置208にて有するアミノ酸配列を含む、改変された合成または組み換えアミノペプチダーゼであり、ここで該アミノペプチダーゼの残存するアミノ酸配列は、配列番号1に描かれる該野生型T. cruziクルジパインまたは配列番号2に描かれるクルザインのアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%,少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む。
【0124】
さらにいっそう具体的には、該方法のために提供される該アミノペプチダーゼは、野生型 T. cruziクルジパインまたはクルザインの第1メチオニン残基の後に挿入されているシステイン残基を有する。さらにいっそう具体的には、該アミノペプチダーゼは、配列番号3にもしくは配列番号4に描かれるとおりのアミノ酸配列を含むか、または配列番号5にもしくは配列番号6に描かれるとおりのアミノ酸配列からなる。
【0125】
別の具体的な態様において、第6の側面の方法が提供されるが、ここで該アミノペプチダーゼは、配列番号7に描かれるとおりの野生型Thermus aquaticusアミノペプチダーゼTのアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有し、ここでシステイン残基は、該野生型アミノペプチダーゼの第1メチオニン残基の後に挿入されている。より具体的な態様において、該アミノペプチダーゼTは、配列番号8に描かれるとおりのアミノ酸配列を含むか、またはこれからなる。他の態様において、該アミノペプチダーゼは、触媒活性アミノペプチダーゼである。最も具体的な態様において、同定またはカテゴライズされることになっている該N末アミノ酸は、Leu、Met、Tyr、Arg、Pro、Gly、Lys、Ala、およびValからなるリストから選択される。
【0126】
より具体的な態様において、N末アミノ酸は誘導体化されており、該アミノペプチダーゼは、該誘導体化されたN末アミノ酸のための結合ドメインを含み、かつ該誘導体化されたN末アミノ酸を切断するアミノペプチダーゼである。さらにいっそう具体的な態様において、該誘導体化されたN末アミノ酸は、CITC-またはSPITC-誘導体化アミノ酸であり、該アミノペプチダーゼは、該CITC-またはSPITC-誘導体化アミノ酸に結合しかつこれを切断することができる。後者の目的上、該アミノペプチダーゼは、特異的に改変されている。CITC-またはSPITC-誘導体化N末アミノ酸に結合しかつこれを切断するかかる改変アミノペプチダーゼの非限定例は、グリシン残基を位置25にて、セリン残基を位置65にて、システイン残基を位置138にて、およびヒスチジン残基を位置208にて有するように改変された本出願のT. cruziクルジパインまたはクルザインである。
【0127】
もう1つの側面において、表面に固定化されたポリペプチドを単一分子レベルで配列決定する方法が提供されるが、該方法は、a)該表面に固定化されたポリペプチドを、アミノペプチダーゼ、より具体的には触媒活性アミノペプチダーゼに接触させること;b)該アミノペプチダーゼの酵素「オンタイム」値を測定すること;c)該N末アミノ酸を該「オンタイム」値によって同定またはカテゴライズすること;ステップa)~c)を1回以上繰り返すことを含む。具体的な態様において、該アミノペプチダーゼは、本出願に記載のアミノペプチダーゼのいずれかである。
【0128】
ゆえに本出願の方法が提供されるが、ここで該アミノペプチダーゼは、野生型Trypanosoma cruziクルジパインまたはクルザインの、グリシン残基を位置25にて、セリン残基を位置65にて、システイン残基を位置138にて、およびヒスチジン残基を位置208にて有するアミノ酸配列を含む、改変された合成または組み換えアミノペプチダーゼであり、ここで該アミノペプチダーゼの残存するアミノ酸配列は、配列番号1に描かれる該野生型T. cruziクルジパインまたは配列番号2に描かれるクルザインのアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む。さらにいっそう具体的には、該アミノペプチダーゼは、野生型T. cruziクルジパインまたはクルザインの第1メチオニン残基の後に挿入されているシステイン残基を有する。さらにいっそう具体的には、該アミノペプチダーゼは、配列番号3にもしくは配列番号4に描かれるとおりのアミノ酸配列を含むか、または配列番号5にもしくは配列番号6に描かれるとおりのアミノ酸配列からなる。
【0129】
別の具体的な態様において、第7の側面の方法が提供されるが、ここで該アミノペプチダーゼは、配列番号7に描かれるとおりの野生型Thermus aquaticusアミノペプチダーゼTのアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する、改変された合成または組み換えアミノペプチダーゼであり、ここでシステイン残基は、該野生型アミノペプチダーゼの第1メチオニン残基の後に挿入されている。より具体的な態様において、該アミノペプチダーゼTは、配列番号8に描かれるとおりのアミノ酸配列を含むか、またはこれからなる。最も具体的な態様において、該方法からの該N末アミノ酸は、Leu、Met、Tyr、Arg、Pro、Gly、Lys、Ala、およびValからなるリストから選択される。
【0130】
より具体的な態様において、N末アミノ酸は誘導体化されており、該アミノペプチダーゼは、該誘導体化されたN末アミノ酸のための結合ドメインを含み、かつ該誘導体化されたN末アミノ酸を切断するアミノペプチダーゼである。さらにいっそう具体的な態様において、該誘導体化されたN末アミノ酸は、CITC-またはSPITC-誘導体化アミノ酸であり、かつ該アミノペプチダーゼは、該CITC-またはSPITC-誘導体化アミノ酸に結合しこれを切断することができる。他の態様において、該アミノペプチダーゼは、触媒活性アミノペプチダーゼである。
【0131】
別の態様において、表面に固定化されたポリペプチドを単一分子レベルで配列決定する該方法における「オンタイム」値は、光学的に、電気的に、またはプラズモンにより測定される。
【0132】
現出願の最も具体的な態様において、本明細書に記載のとおりの方法は、タンパク質変性条件において実施される。該タンパク質変性条件は、高温度によって、および溶媒の存在によって得られる。具体的な態様において、該高温度は、40℃と120℃との間の、または50°と110℃との間の、または60℃と100℃との間の、または70℃と90℃との間の温度である。具体的な態様において、該溶媒は、酢酸、トリクロロ酢酸、スルホサリチル酸、重炭酸ナトリウム、エタノール、アルコール、ホルムアルデヒドおよびグルタルアルデヒドなどの架橋剤、尿素、塩化グアニジン、過塩素酸リチウムなどのカオトロピック剤、ならびに2-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、またはトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンなどのジスルフィド結合を破壊する剤からなるリストから選択される。最も具体的に、該溶媒は、アセトニトリル、エタノール、またはメタノールである。
【0133】
現出願の他の最も具体的な態様において、該切断誘導剤は、共有結合の切断誘導剤である。現出願の他の最も具体的な態様において、該切断不能な結合剤は、共有結合の切断不能な結合剤である。
【0134】
以下の例は、本発明のさらなる理解を促進することを意図している。本発明は、説明された態様を参照して本明細書に記載されている一方、本発明はこれらに限定さないことも理解されるべきである。当業者および本明細書の教示へアクセス可能な者は、その範囲内の追加の修飾および態様を認識するであろう。したがって、本発明は、本明細書に添付のクレームによってのみ限定される。
【0135】

HavranekおよびBorgoのペプチド配列決定は、触媒的に機能しないアミノペプチダーゼまたはt-RNAシンテターゼであるNAAB’sの使用に頼っている。N末アミノ酸を切断する(cleave of)既存のエドマン分解の代替手段として、エドマナーゼ酵素が生成された(WO2014273004)。Trypanosoma cruzi由来のこのクルザインシステインプロテアーゼを、PITC誘導体化N末アミノ酸に結合(かつ切断)することができるよう4つの位置で修飾した。位置25上にある触媒作用の(catalytic)システインをグリシンに置き換える第1導入点突然変異(C25G)によって、この酵素がPITC-誘導体化ペプチド基質の硫黄原子によってレスキューされない限り、酵素は触媒能を失った(catalytically incompetent)。3つの追加の突然変異、すなわちG65S、A138C、およびL160Yが、PITC-誘導体基質への適応を改善するために必要になった。
【0136】
HavranekおよびBorgoは、アミノ酸同定のために触媒的に機能しないNAAB’sと同定後にN末アミノ酸を切断するためのエドマナーゼとを使用した一方、我々は驚くべきことに、触媒的に機能しないNAABsを必要としない方法を開発した。その方法は、改変されたアミノペプチダーゼに全面的に頼るものであるが、前記アミノペプチダーゼからの滞留時間は、それが結合かつ切断するN末アミノ酸にとって情報価値のあるものである。本明細書に開示された酵素は、N末アミノ酸の同一性を問わず、N末に(誘導体化された)アミノ酸に対する親和性を有する。しかしペプチド配列情報を得るために、酵素は、N末アミノ酸の同一性に応じて、触媒効率および滞留時間の変動性を示す(図1~2)。さらにいっそう驚くべきことに、我々は、該N末アミノ酸上のITCまたはITC類似体の滞留時間にもっぱら相関することを含む、N末アミノ酸を同定する方法を実証する。
【0137】
例1:単一ペプチド検出のためのTIRF顕微鏡法
第1ステップにおいて、表面上で配列決定されることになるペプチドを固定化する系を開発した。アジド官能基化され、オーブンで清浄された(oven-cleaned)ガラスプレートを表面として使用し、DBCO-PEG8基をN末にかつsulfo-Cy5蛍光プローブをC末に付着されたペプチドNNGGNNGGRGNKを試験ペプチドとして使用した。試験ペプチドをアジド-DBCOクリック反応を通して固定化した。アジド官能基化ガラスプレート上に1mlの1nM試験ペプチドを配置し(placed)、暗所で24hインキュベートした。官能基化のため、11-アジド-ウンデシル(トリメトキシ)シランを使用しガラス表面を疎水性にさせ、ガラスに液体を浮かせるようにさせた。24h後にガラスプレートを1ml MSグレード水で3回洗浄した(各30minの洗浄)。対照試料につき、ガラスプレートを水でインキュベートした。顕微鏡法をZeiss TIRF顕微鏡で遂行し、写真をλEm 639nmにて撮った。ペプチドはガラス表面上に良好に固定化され、1nMの濃度にて適正な空間分布が得られた(図3)。
【0138】
例2:表面に固定化されたペプチドのトリプシン消化
次に条件を、表面に固定化されたペプチドの酵素的切断に最適化させた。試験ペプチドDBCO-PEG8-NNGGNNGGRGNK-Cy5を再び使用したが、今回はトリプシンと一緒に使用した。良好な酵素の表面反応が、蛍光プローブを除去するアルギニンでの切断後に検出された。アジド官能基化されオーブンで清浄されたガラスプレート上に1mlの1nM試験ペプチドを配置し、暗所で24hインキュベートした。MSグレード水で3×洗浄した後、ガラスプレートを100nMトリプシン(配列決定グレード、promega)とともに室温にて1hインキュベートした。対照は水とともにインキュベートした。トリプシン処置後、プレートを再び水で3×洗浄した。実験はまた、1μMのDBCO-PEG8-アミド不動態化剤(24hアジド-DBCOクリック反応の最中に試験ペプチドへ加えた)の存在下でも、クラスター化に対するその効果および特異的トリプシン表面相互作用を評価するために繰り返した。
【0139】
不動態化剤不在下でのトリプシン反応は、表面上へのトリプシンの非特異的結合からの高バックグラウンドシグナルに起因して良好ではなかった(図4A)。バックグラウンドを561nmのより低いλEmチャネル(Cy3チャネル)において査定した。不動態化剤が存在していたときバックグラウンドは消失し、スポットにおいて有意な減少が見られたように(図4B)、相当量の固定化ペプチドが切断された。
【0140】
例3:ペプチドN末端反応性プローブ
使用されるアミノペプチダーゼ(すなわち、誘導体化N末アミノ酸に結合するか、または非標識N末アミノ酸に結合する、例4以降(and further)を参照)に応じて、固定化ペプチドを標識化すべきか否かを決める。プローブの選択は、読み出しストラテジーに依存するであろう(図2)。それでもなお、プローブは慎重に選択しなければならない:プローブは、ペプチドN末端への反応性が高いことを必要とし、かつ誘導体化ペプチド基質は、酵素の触媒部位に適合しなければならない(酵素の改変につき例4を参照)。
【0141】
潜在的な蛍光プローブ候補は、フルオレサミン、o-フタルアルデヒド、塩化ダンシル、およびクマリニルイソチオシアナート(CITC)派生物である。帯電したプローブにつき、興味深い候補は、N末フラグメントイオンを中和するためMS de novoペプチド配列決定において使用される、PITCプローブの負に帯電した変異体であるスルホフェニルイソチオシアナート(SPITC)であろう(Samyn et al. 2004 J Am Soc Mass Spectrom 15:1838-1852)。N末一級アミンへの特異性は、慎重にpHを制御することによって増大し得るが(リシン一級ε-アミンとは反対に)、ある程度の特異性は、とくにトリプシン消化による(tryptic)ペプチドを使用するとき、考慮に入れる必要がある。ここで、ペプチドは、CITCでまたはSPITCで誘導体化されている。
【0142】
例4:エドマナーゼの再改変
いずれのペプチドのいずれのN末アミノ酸にも結合し切断することができるアミノペプチダーゼを見出すという探求において、2つの調査ライン(research lines)を並行して探索した:1つはTrypanosoma cruzi由来の再改変されたクルジパイン/クルザインシステインプロテアーゼの使用、もう1つはThermus aquaticusアミノペプチダーゼTの使用にある。
【0143】
我々はまず、Trypanosoma cruzi由来のクルザインおよびクルジパインシステインプロテアーゼを、誘導体化N末アミノ酸に、より正確にはCITC-誘導体化およびSPITC-誘導体化N末アミノ酸へ結合することができるように再改変した。蛍光のまたは帯電したイソチオシアナートプローブの、クルザインまたはクルジパイン酵素および仮想の突然変異体上へのコンピュータによるドッキング(AutoDock-Vina; Trott and Olsen 2010 J Comput Chem 31:455-461)によって、潜在的な再改変の選択肢が数種与えられた。SPITC-Ala-Pheは、Tyr160が再ネイティブ化して(renatived)Leuになったとき、該クルザインおよびクルジパイン上に良好にドッキングした(図5A)。すぐ近くのGlu208は、SPITCのスルファートとの電荷衝突という結果をもたらし得たが、これをHisへ事実上突然変異させることによって回避し得た。そうすることによって、4つの点突然変異(すなわちC25G、G65S、A138C、E208H)を含む再改変T. cruzi クルザインおよびクルジパインを開発し、前記再改変酵素上の蛍光3-CITC-Ala-Phe、ならびにその5-、6-、7-、および8-クマリニル類似体は、活性部位の溝内に、全体的に正しいドッキング態勢をもたらした(図5B)。
【0144】
例5.T. cruziクルジパイン_pET24b(+)でのE. coli BL21(DE3)形質転換
次のステップにおいて、改変クルジパイン(C25G、G65S、A138C、E208H)を組み換えで産生した。再改変クルジパインをコードするコドン最適化DNA配列をpET24b(+)プラスミド(NdeI-BamHI)中へクローニングした。Cysをタンパク質のN末端に付加し、6xHisをC末端に付加した。その完全長タンパク質は±37.5kDaの分子量および5.7の推定pIを有する。その配列は配列番号5に描かれる:
【化1】
【0145】
再改変クルジパインの良好な形質転換が得られた(図6A)。次に、再改変クルジパインの速度論を、合成のSPITC-およびCITC-誘導体化7-アミノ-4-メチルクマリン(AMC)アミノ酸類似体でアッセイした。SPITC-またはCITC-誘導体化N末アミノ酸の除去の際、発蛍光性AMCを放出し検出した。次いでコンピュータシミュレーションを使用して、速度論データを、ペプチドを配列決定するための酵素「オンタイム」値を使用するという実現可能性を査定するために使用する。
【0146】
例6:T. aquaticusアミノペプチダーゼT_pET24b(+)でのE. coli BL21(DE3)形質転換
Thermus aquaticus由来アミノペプチダーゼT(この直後からTaq-APTまたはTaqAPT)をコードするコドン最適化DNA配列を合成した。次いでTaq-APT遺伝子をpET24b(+)プラスミド(NdeI-BamHI)中へクローニングした(図9)。CysをN末端に付加し、6xHisをC末端に付加した。その完全長タンパク質は±45.7kDaの分子量および5.6の推定pIを有する。その配列は配列番号8に描かれる:
【化2】

再改変Taq-APTの良好な形質転換が得られた(図6)。
【0147】
例7:Taq-APT発現および精製
E. coli BL21(DE3)形質転換体中のTaq-APTの組み換え発現を検証し最適化した。ここで、(好熱性)タンパク質の精製を、Ni-NTAスピンカラムもしくは熱処理、またはそれら両方の組み合わせで試験した。BL21(DE3) pET-24b(+)-Taq-APT形質転換細胞のアリコートを5mlのLB+50μg/mlカナマイシンへ加え、37℃にて終夜成長させ、5ml新鮮LB+50μg/mlカナマイシンに100×希釈した。37℃にて2hインキュベーション後に1mM IPTGでの誘導を実施し、その後培養物を28℃にて終夜成長させた。細胞を収集し(10minの4,000×g)、1ml PBS+10mMイミダゾール(pH 7.5~8)に再懸濁し、超音波処理し(1sのオン、1sのオフ、90sec、30%振幅)、フルスピードにて5min遠心分離した。上清を回収し、4つの異なる条件:(A)未加工の可溶性画分、(B)Ni-NTA精製、(C)熱処理、および(D)Ni-NTA精製+熱処理を試験するために4×200μlに分配した。処置後、試料を約50μlの体積になるまで10kDaスピンカラムで濃縮した。これからの10μlを10μl SDS試料バッファーと混合し、試料をSDS-PAGEで分析した(図8)。Ni-NTA精製プロトコルに関する詳細については実験手順を参照のこと。加熱を通した精製は80℃にて30min行った。
【0148】
Ni-NTAと加熱との組み合わせによって、容認できる程度に(acceptably)純粋なTaq-APT抽出物が結果として生じた(図7)。L-ロイシン-p-ニトロアニリン(140μl PBSバッファー、10μl MeOH中24mM L-ロイシン-p-ニトロアニリン、および10μl 精製Tag-APT)でのペプチダーゼアッセイによって、好熱特性(Taqに最適な70℃での活性)をもつ活性(アミノ)ペプチダーゼの存在が確認された(図8)。
【0149】
例8.T. aquaticusアミノペプチダーゼTの速度論的パラメータの決定
種々のアミノ酸基質を切断するためのT. aquaticusアミノペプチダーゼTからの速度論的パラメータをp-ニトロアニリドアッセイで決定した。基質は、そのC末端へ付着されているp-ニトロアニリドをもつN末アミノ酸からなる。アミノ酸切断の際、遊離のニトロアニリドは、405nmでの吸光度を測定することによってモニタリングし得る。配列番号8に描かれるとおりのT. aquaticusアミノペプチダーゼTを2.0625μM(PBS中)の濃度で、種々の濃度のアミノ酸p-ニトロアニリド基質(PBS中0.0625、0.125、0.25、0.5、1、および2mM)へ加えた。続いてp-ニトロアニリド放出を40℃にてFLUOstar Omegaマイクロプレートリーダー(MBG LabTech)で絶え間なく測定した。各基質濃度での反応の初速度はこれに由来する(v0)。各アミノ酸につきLineweaver-Burkeプロットを生成し、これから反応Vmaxおよび酵素-基質Kを決定した。代謝回転数kcatをVmaxおよび酵素濃度から算出した(kcat=Vmax/[E])。次いで酵素オンタイム値をkcat値から逆数を取ることによって算出した。9種のアミノ酸についての速度論的パラメータを表1に挙げる。「オンタイム」値は表1に示されるとおり1/kcatとして算出され、それ自体は、酵素溶液に必要とされる、触媒作用が生じるまでのペプチド上にある全時間である。
【0150】
表1.9種の異なるアミノ酸に係るT. aquaticusアミノペプチダーゼTのオンタイムを包含する、該9種の異なるアミノ酸を使用するp-ニトロアニリドアッセイの速度論的パラメータ
【表1】
【0151】
酵素の最適温度(temperature optimum)を下回る40℃にてアッセイを実施した。70℃という最適温度により近い温度で動作させると、反応スピード(kcatおよび酵素オンタイム)がスピードアップする。要するに、我々は驚くべきことに、本明細書に記載のとおりのT. aquaticusアミノペプチダーゼTが、9種の異なるアミノ酸に対し、他とは異なる(differential)速度論で結合し切断することができることを見出した。その上、反応の速度論はアミノ酸の同一性に繋がり、さらにいっそう驚くべきことに、種々のアミノ酸のkcat値の幅(spread)によって、種々のアミノ酸同士が区別され、ゆえにこれらアミノ酸が同定され得る。ここに示される結果は、本明細書に開示のとおりのアミノペプチダーゼの実用性を立証するのみならず、現出願に開示される方法および使用をもまた支持かつ具体化する。
【0152】
例9.種々のアミノ酸p-ニトロアニリド基質に対するT. aquaticusアミノペプチダーゼTの40℃および80℃での活性
TaqAPT酵素は、現試験パネル(the current test panel)において、すべてのアミノ酸p-ニトロアニリド基質に対する活性を示す。本明細書に記載のとおり、かつ現出願に記載の本発明を踏まえると、活性は種々のアミノ酸同士で異なる。80℃であると、アミノ酸基質のパネルは大まかに、早く切断される(fast-cleaved)基質(L、M、Y、R、F)と、遅く切断される(slow-cleaved)基質(D、P)とに分けることができる。しかしながら、40℃であると、パネルは、早く切断される(Y、R)基質と、遅く切断される(D、P)基質と、それらの間にある基質(L、M、F)とに分かれるようである。40℃にて、活性は、N末アミノ酸に応じて、大まかに10×~3×の活性低減を示す。
【0153】
最終的に、TaqAPTは、p-ニトロアニリドアッセイのみに活性があるわけではない。より重要なことに、本発明者らは、TaqAPTがペプチド基質をも切断することを実証した。例えば図11において、TaqAPTは、2番目の位置にプロリンがあったとしても、ジペプチドを切断することが示されている。アミノ酸プロリンに隣接するペプチド結合は、ほとんどのペプチダーゼによる切断に耐性があるところ(Iyver et al. 2015 FEBS Open Bio. 2015 Apr 2;5:292-302)、2番目の位置にてプロリンをもつペプチドからのN末アミノ酸は容易には切断されない。Minagawaら(1988 Agricultural and Biological Chemistry 52:1755-1763)において述べられていることとは対照的に、我々はここで、T. aquaticusアミノペプチダーゼTが、プロリンが2番目の位置にあるときでさえ、N末アミノ酸を切断し得ることを示す。この驚くべき知見によって、現出願に開示される方法および使用における、ならびに一般に単一分子ペプチド配列決定におけるTaq-APTの包括的な使用が大いに助長される。
【0154】
例10.T. aquaticus由来アミノペプチダーゼTの有機溶媒耐性(tolerance)
表面に固定化されたポリペプチドの単一ペプチド検出につき、該ポリペプチドが完全に(completely)変性されかつもはやいずれの2次構造をも有さないことは、極めて重要なことである。このことが溶媒(メタノールなど)または高温度によって達成され得ることは、当該技術分野において周知である。これらの厳しい条件が必要とされるとき、使用されるアミノペプチダーゼは、溶媒および/または高温度に耐性があるはずである。次に、TaqAPTが80℃の温度にて活性があることを実証するために、我々はまた、本明細書に記載のT. aquaticus由来アミノペプチダーゼが有機溶媒に対して耐性があるかについても調査した。ここに示されるとおり、T. aquaticus由来アミノペプチダーゼTは、メタノール50%、アセトニトリル33%、およびエタノール33%まで完全に(completely)活性をもったままであり、このことは、酵素が有機溶媒に対して完全に(quite)耐性があることを実証している(図12A)。より高い有機溶媒濃度にもかかわらず、活性は、より低い活性であったとしても検出され得る。0%メタノール対50%メタノール中の円二色性(CD)で酵素を分析すると、構造上の差は観測されなかった(図12B)。さらにまた、酵素は、脱イオン化(MSグレード)水において完全に(fully)活性があるようである。このことも、酵素が超高感度なチップ技術(例として、電界効果トランジスタなどの電気的バイオセンサ)で使用されるであろうときに有利なときがある(図12C)。
【0155】
例11.T. aquaticus由来アミノペプチダーゼTの部位特異的N末標識化
余分にN末システインを含有する組み換えTaqアミノペプチダーゼTを、還元剤TCEP(10mM)の存在下で蛍光マレイミド-DyLight650プローブとともに終夜インキュベートした。マレイミド-DyLight650は、等モル濃度で、ならびに10×、100×、および1000×の過剰モル濃度で加えた。アミノペプチダーゼをSDS-PAGEで分離した後、これをクマシー染色を使用して可視化し、ならびにDyLight650で標識化されたタンパク質を評価するために蛍光を用いた。図13Aは、アミノペプチダーゼがDyLight650で標識化されていることを示す。その上、L-ロイシン-p-ニトロアニリドアッセイは、標識化アミノペプチダーゼがその機能を損なわないことを実証する(図13B)。
【0156】
例12.アミノペプチダーゼの標識化
配列決定ステップの読み出しのため、ひいては酵素「オンタイム」値を検出するため、2つのセンサ選択肢:光学的測定および電位差測定を使用する(図2)。アミノペプチダーゼの光学的標識化を例11に示した。蛍光プローブでの代替的な光学的読み出しストラテジーは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)でオンタイムを測定するために、および良好な切断事象を検出するために、アミノペプチダーゼ上に、ならびにペプチド基質上にあり得る。
【0157】
その概念が単一分子をベースにしていることを考慮すると、酵素の予測可能かつ特異的な標識化を要する。合理的範囲(reasonable coverage)のヒトプロテオームを有するために、最大109の読み取り(reads)を要する(例として、10,000発現されたタンパク質には104のダイナミックレンジで、および豊富にはない(least abundant)タンパク質には少なくとも10の読み取りを要する)(Geiger et al. 2012 Mol Cell Proteomics 11:M111.014050)。単一分子検出は、ゼロモード導波路(ZMW)(RhoadsおよびAuに従う単一分子DNA配列決定において使用されるもの(2015 Genomics Proteomics Bioinformatics 13:278-289)など)で達成し得る。他方、電位差測定の読み出しは、電界効果トランジスタ(FET)の電位に影響を及ぼすものとして帯電プローブを要する。
【0158】
アミノペプチダーゼの部位特異的標識化につき、酵素N末端でのワンステップ化学的修飾を実施する。酵素を、MacDonaldら(2015 Nat Chem Biol 11:326-331)にあるようにピリジンカルボキシアルデヒド派生物で、N末一級アミンにて特異的に修飾する。両アミノペプチダーゼに加えられたシステイン(例5および6を参照)を、他の(表面が露出した)システインが存在しないとき、アルデヒド-プローブで、またはマレイミド-プローブで特異的に修飾する(Gunnoo and Madder 2016 Chembiochem 17:529-553)。電位差測定のオンタイム測定につき、酵素へ電荷を付加する必要性はその等電点(pI)に依存する。必要とあれば、酵素の正味電荷を、(部位特異的)修飾を通して、または正もしくは負に帯電した残基の一方的な中和(例としてリシンのホルミル化)を通して、帯電プローブを導入することによって変更し得る。
【0159】
例13.アミノペプチダーゼ滞留時間を測定することによる単一分子ペプチドN末アミノ酸の同定またはカテゴライズ
T. aquaticus由来アミノペプチダーゼTの使用を、独立した実験的構成(experimental set-up)において、さらに検証した。N末アミノ酸を除いて同一の1次構造をもつ一連の合成ペプチド基質を固定化し、その後T. aquaticusからの標識化アミノペプチダーゼTの滞留時間を、TIRF顕微鏡法を使用して測定する。ペプチド基質は以下の全体構造:X-DGGNNGGK(fluo)GGK(dbco/mal/nhs)を有するが、前記基質中C末リシンは、表面上に基質を固定化するため、その側鎖へ付着されているDBCO基、マレイミド基、またはN-ヒドロキシスクシンイミド基を有する。2番目のリシンは、その表面上の単一分子基質を正確に狙うために、その側鎖へ付着されている蛍光基を有する。N末端は、反応のブレーキとして働くアスパラギン酸残基から続く(proceeded by)、アミノ酸(X)という可変のアミノ酸またはそれらの変動配列(varying sequence)を有するであろう。T. aquaticus由来アミノペプチダーゼTは、アスパラギン酸残基に対しては極めて低活性であると考えられる。
【0160】
ペプチド基質を固定化して視野中の単一分子基質の場所決定した後、蛍光標識化アミノペプチダーゼを加えて、基質場所上の酵素滞留時間を連続的に測定する。酵素-基質結合速度論(K)と基質切断速度論(kcat)とがともにN末アミノ酸の同一性に依存することを考えると、酵素-基質の「オン-オフ(on-off)」事象数および基質が切断されるまでの全時間を測定することによって、N末アミノ酸の同一性が生じ(derived)、またはカテゴライズされる(図14)。基質切断の検証は、切断前後の酵素-基質の「オン-オフ」事象の頻度の測定可能な変化に由来する(図14の下方)。最適温度をはるかに下回る温度にて好熱性アミノペプチダーゼ(例としてT. aquaticusアミノペプチダーゼT)を使用するとき、切断の速度論は有意に低下し、酵素-基質「オン-オフ」事象数の増加をもたらす。
【0161】
現出願の詳細な記載に記載されるとおり、単一のアミノペプチダーゼを、N末アミノ酸上の「オン-オフ」事象の両方を捉えるために、ならびにN末アミノ酸を切断するために使用し得る。代替的に、2つの異なるアミノペプチダーゼ酵素の組み合わせもまた使用し得る。あるいはアミノペプチダーゼと化学的N末アミノ酸結合剤/切断剤(cleaver)との組み合わせも使用し得る(記載を参照)。
【0162】
例14.エドマン分解反応速度論はN末アミノ酸残基に依存する
次に、我々は驚くべきことに、固定化ペプチドの単一分子レベルでの配列決定のためにエドマン分解化学を採用し得ることを見出した。第1に、タンパク質をこれらのC末端を通して表面上に固定化し、その後アミノ酸をエドマン分解化学を介して絶えず切り離す。
【0163】
エドマン試薬のN末カップリングは、N末アミノ酸の同一性とは無関係である一方、切断反応のスピードはこれに依存する。そこでこれに続く(subsequent)各N末アミノ酸上の切断反応時間をモニタリングすることによって、配列情報が得られ得る。N末修飾に係る問題を回避するために、固定化タンパク質を、まず(例えばトリプシンで)タンパク分解し(proteolyzed)、遊離のアクセスしやすいN末をもつC末ポリペプチドを残す。追跡可能なITC剤を使用することによって、それによる化学的反応時間はモニタリングし得る。例えば、スルホフェニルイソチオシアナートは、電気的測定に有用な負電荷を担持する。または、クリックケミストリーを通して標識化され得るアジドフェニルイソチオシアナートを使用し得る(帯電した基、蛍光プローブ)。最終的に、反応は、徹底して構造変性させることができ、かつ反応制御を可能にさせる高有機質の溶媒(high organic solvent)中で実施し得る。
【0164】
種々のアミノ酸p-ニトロアニリド基質上のエドマン試薬4-スルホフェニルイソチオシアナート(SPITC)の自発的な切断活性をチェックするために、5μlの24mMアミノ酸p-ニトロアニリド基質(メタノール中)および240mM SPITC(水中)を、70μl 300mMトリエタノールアミン(50%アセトニトリル中(pH9))へ加え、40℃にて30minインキュベートした。終点活性測定によって、試験されたアミノ酸基質は、早く切断される基質(L、M、Y、R、F)と遅く切断される基質(D、P)とに分けられる(図16A)。
【0165】
時間-反応速度アッセイは、一連の同じ基質の反応速度論の差を示す(図16B)。重要なことには、この自発的な切断活性はまた、古典的なエドマン分解反応の切断ステップの最中には典型的には使用されない条件下でも観測された。古典的なエドマン分解において、ITCカップリングは弱アルカリ性条件下(ピリジン、トリメチルアミン、N-メチルピペリジン)で達成され、アミノ酸切断は酸性条件下(トリフルオロ酢酸)で達成される。ここでは、ITCカップリングとアミノ酸切断との両方が、弱アルカリ性条件下(トリエタノールアミン)で達成される。
【0166】
実験手順
E.coliの形質転換
ケモコンピテント(chemocompetent)E. coli BL21(DE3)細胞(NEB)を氷上で解凍し、100ngプラスミドDNAを加え、氷上に30min保つ。温水浴中42℃にて1.5minインキュベートし、氷上に10min置く。1ml LB培地をバイアルへ加え、シェーカー上にテープで固定し(with tape)37℃にて1h放置する(let it rest)(LAF)。LB-Kan寒天プレート(50μg/mlカナマイシン)上に播種し、37℃にて終夜成長させる。
【0167】
培養物の採集(picking)
プレート(プレートを4℃にて保管)からコロニーを採集し、コロニーを10ml液体TB培地+50μg/ml Kanへ加える。37℃にて終夜成長させ、500μlアリコート(+500μlグリセロール)を調製し、-80℃にて保管する。
【0168】
クローニング
クローニングにつき、pET-24b(+)プラスミドを使用した(図9)。
【0169】
Ni-NTA精製
200μlのライセート(PBS+10mMイミダゾール中)を予め平衡化されたQiagen Ni-NTAスピンカラム上へロードし、100×gにて5min遠心分離する。スピンカラムを500μl PBS+20mMイミダゾールで3×洗浄し、500μl PBS+250mMイミダゾールで溶出する。
【0170】
熱処理
試料を80℃にて30min加熱し、フルスピードにて10min遠心分離する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
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【手続補正書】
【提出日】2023-08-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドに作用する、改変された触媒活性アミノペプチダーゼであって、
ここで該ポリペプチドが、そのC末端を介してか、または該ポリペプチドのC末~第1ペプチド結合のペプチド部分を介して、表面上に固定化されており、
ここで該アミノペプチダーゼが、該ポリペプチドのN末アミノ酸を切断し、および
ここで該N末アミノ酸を切断するまでの該アミノペプチダーゼの滞留時間が、該N末アミノ酸を同定するか、またはカテゴライズする、前記アミノペプチダーゼ。
【外国語明細書】