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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038025
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】癌療法のためのコンジュゲートの塩
(51)【国際特許分類】
   C07H 19/09 20060101AFI20240312BHJP
   A61K 31/7072 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20240312BHJP
【FI】
C07H19/09 CSP
A61K31/7072
A61P35/00
A61P35/04
A61P35/02
A61P37/06
A61K47/54
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216190
(22)【出願日】2023-12-21
(62)【分割の表示】P 2021156634の分割
【原出願日】2016-12-01
(31)【優先権主張番号】62/262,428
(32)【優先日】2015-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PCT/IL2016/050077
(32)【優先日】2016-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(31)【優先権主張番号】62/370,257
(32)【優先日】2016-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】518181121
【氏名又は名称】バイオサイト リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ジェングリノビッチ,ステラ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ターゲット細胞によって容易に取り込まれ、化学療法薬剤によって誘導される副作用を減少させる、化学療法薬剤およびアミノ酸またはその誘導体を含むコンジュゲートの薬学的に許容されうる塩を提供する。
【解決手段】シチジン類似体薬剤およびアスパラギン酸またはグルタミン酸およびその類似体を含むコンジュゲートの薬学的に許容されうる塩、これらのコンジュゲートを含む薬学的組成物、ならびに癌または前癌状態または障害の治療のためのその使用を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
の構造によって示され、Yは、塩酸(HCl)、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸(TFA)、硫酸(HSO)、リン酸(HPO)または硫酸水素ナトリウム(NaHSO)から選択される、薬学的に許容されうる有機または無機酸または酸の残基である、薬学的に許容されうる塩。
【請求項2】
Yが塩酸(HCl)であり、以下の構造で表される、請求項1に記載の薬学的に許容されうる塩。
【化2】
【請求項3】
Yがメタンスルホン酸であり、以下の構造で表される、請求項1に記載の薬学的に許容されうる塩。
【化3】
【請求項4】
Yがトリフルオロ酢酸(TFA)であり、以下の構造で表される、請求項1に記載の薬学的に許容されうる塩。
【化4】
【請求項5】
Yが硫酸(HSO)であり、以下の構造で表される、請求項1に記載の薬学的に許容されうる塩。
【化5】
【請求項6】
Yがリン酸(HPO)であり、以下の構造で表される、請求項1に記載の薬学的に許容されうる塩。
【化6】
【請求項7】
Yが硫酸水素ナトリウム(NaHSO)であり、以下の構造で表される、請求項1に記載の薬学的に許容されうる塩。
【化7】
【請求項8】
請求項1に記載の薬学的に許容されうる塩および薬学的に許容されうる賦形剤を含む、薬学的組成物。
【請求項9】
癌または前癌状態または障害の治療に使用するための、請求項1に記載の薬学的に許容されうる塩。
【請求項10】
前記癌が転移癌である、請求項9に記載の薬学的に許容されうる塩。
【請求項11】
前記癌が、非固形腫瘍または固形腫瘍またはその組み合わせである、請求項9に記載の薬学的に許容されうる塩。
【請求項12】
前記非固形腫瘍が、白血病、リンパ腫、および多発性骨髄腫を含む、請求項11に記載の薬学的に許容されうる塩。
【請求項13】
前記白血病が、急性骨髄性白血病(AML)および急性リンパ芽球性白血病(ALL)を含む、請求項12に記載の薬学的に許容されうる塩。
【請求項14】
前記固形腫瘍が、中枢神経系(CNS)の腫瘍、肝臓癌、結腸直腸癌、乳癌、胃癌、膵臓癌、膀胱癌、子宮頸癌、頭頸部腫瘍、外陰部癌、皮膚科学的新生物を含む、請求項11に記載の薬学的に許容されうる塩。
【請求項15】
前記皮膚科学的新生物が、黒色腫、扁平上皮癌および基底細胞癌を含む、請求項14に記載の薬学的に許容されうる塩。
【請求項16】
前記癌が、血液学的癌である、請求項9に記載の薬学的に許容されうる塩。
【請求項17】
前記血液学的癌が、白血病、リンパ腫および骨髄腫である、請求項16に記載の薬学的に許容されうる塩。
【請求項18】
前記癌が、骨髄性白血病、リンパ性白血病、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、またはワルデンストレームのマクログロブリン血症である、請求項17に記載の薬学的に許容されうる塩。
【請求項19】
前記前癌状態または障害が、骨髄異形成症候群(MDS)である、請求項9に記載の薬学的に許容されうる塩。
【請求項20】
被験体がヒトである、請求項9に記載の薬学的に許容されうる塩。
【請求項21】
骨髄移植の候補者である個体の治療に使用するための、請求項1に記載の薬学的に許容されうる塩。
【請求項22】
免疫学的疾患または障害を有する対象の腫瘍性疾患の治療に使用するための、請求項1に記載の薬学的に許容されうる塩。
【請求項23】
臓器機能障害を有する被験者の腫瘍性疾患の治療に使用するための、請求項1に記載の薬学的に許容されうる塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌細胞によって容易に取り込まれる、化学療法薬剤およびアミノ酸またはその誘導体を含むコンジュゲートの薬学的に許容されうる塩に関する。特に、本発明は、シチジン類似体薬剤およびアスパラギン酸またはグルタミン酸およびその類似体のコンジュゲートの薬学的に許容されうる塩、これらのコンジュゲートを含む薬学的組成物、ならびに癌または前癌状態または障害の治療のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
抗増殖薬剤
抗増殖薬剤は、代謝拮抗剤、抗新生物剤および共有DNA結合薬剤としても知られ、必須の代謝経路を阻害することによって作用し、悪性疾患の治療に一般的に用いられる。しかし、正常細胞に高い毒性を持ち、重度の副作用を示すことから、療法剤としての使用は限定されている。望ましくない副作用には、迅速に分裂している正常細胞、例えば骨髄中の幹細胞、腸管の上皮細胞、毛包細胞等に対して細胞傷害性の影響を有することによる、貧血、嘔吐および禿髪が含まれる。
【0003】
抗増殖薬剤の別の主な問題は、薬剤に対する、腫瘍の生得的耐性または獲得耐性である。例えば、急性リンパ芽球性白血病(ALL)患者において、L-アスパラギナーゼでの治療後の最初の寛解率はかなり高いが、再発および関連薬剤耐性は大きな臨床的問題を課す。研究によって、アスパラギナーゼ耐性細胞において、アスパラギンシンテターゼ(AS)発現増加が立証されており、これはAS活性上昇が、悪性細胞の薬剤耐性生存を可能にするという仮説につながる。
【0004】
ヌクレオチド/ヌクレオシド類似体
ヌクレオシド類似体は、核酸内への取り込みに関して、生理学的対応物と競合し、急性白血病の治療において重要な位置を占めている。これらのうち最も重要なものは、アラビノースヌクレオシドであり;これは元来、海綿(Cryptothethya crypta)から単離されたが、現在では合成産生されている、代謝拮抗剤のユニークなクラスである。これらは、シトシンおよびアラビノシド糖の間のN-グリコシル結合に対して、シス立体配置の2’-OH基が存在する点が生理学的デオキシリボヌクレオシドとは異なる。いくつかのアラビノースヌクレオシドは、有用な抗腫瘍および抗ウイルス効果を有する。このクラスの最も活性である細胞傷害性剤は、シトシンアラビノシド(シタラビン)である。関連するヌクレオシド、アデニンアラビノシドもまた、抗腫瘍活性を示し、その類似体、リン酸フルダラビン(2-フルオロ-アラ-アデノシン一リン酸)は、リンパ腫および慢性リンパ球性白血病において、強い抗腫瘍活性を有する(Warrell & Berman、1986)。グループの別のメンバーは、合成類似体の、アラビノシル-5-アザシチジンであり、これはクリニックでは失敗した(Dalalら、1986)。
【0005】
シチジン代謝拮抗剤の分野における類似体開発の1つの目的は、ara-Cの阻害活性を保持するが、脱アミン化に耐性である化合物を見出すことであった。シクロ-シチジン(Ho DHW、1974)およびN-ベヘノイルara-C(Kodamaら、1989)を含むいくつかのデアミナーゼ耐性類似体が開発されてきており、これらはいくつかの臨床試験において抗白血病活性を示したが、望ましくない副作用を有した(Woodcockら、1980)。他の代表的な化合物は、N-パルミトイル-ara、2’-アジド-2’-デオキシara-C、ara-Cの5’-(コルチゾン21-ホスホリル)エステル、ara-Cの5’-アシルエステル(例えば5’-パルミチン酸エステル)、Nベヘノイル-ara-C、ポリ-H(2-ヒドロキシエチル)-L-グルタミンとのAra-Cコンジュゲート、ジヒドロ-5-アザシチジン、5-アザ-アラビノシルシトシン、5-アザ2’-デオキシシチジンおよび2’-2’-ジフルオロデオキシシチジン(Hartelら、1990およびHeinemanら、1988)である。
【0006】
ゲムシタビン(2,2-ジフルオロデオキシシチジン、dFdC)は、ara-C以来の臨床試験に進行する最も重要なシチジン類似体である。これは、膵臓癌、肺癌、および膀胱の移行細胞癌患者の標準的な最初の療法に取り込まれるようになってきている。
【0007】
ヌクレオチド類似体はまた、非癌適用にも用いられてきている。例えば、フッ素化シトシン類似体、フルシトシンは、抗真菌剤として用いられている。
【0008】
アミノ酸および増殖性疾患
アスパラギンは、迅速に増殖している細胞に必要とされる非必須アミノ酸である。哺乳動物細胞は、ATP依存性酵素、アスパラギンシンテターゼ(CE 6.3.5.4)を用いて、アスパラギン酸からアスパラギンを合成可能であり、該酵素は:グルタミン+アスパラギン酸+ATP+HO=グルタミン酸+アスパラギン+AMP+PPiと示されうる反応において、グルタミンのアミドからアスパラギン酸のβ-カルボキシルにアミノ基をトランスファーする。
【0009】
アスパラギンシンテターゼ不全は、特定の腫瘍において起こり、こうした腫瘍を、他の供給源、例えば血清からのアスパラギンの外部供給に頼るようにする。この観察は、化学療法剤としての酵素L-アスパラギナーゼ(CE-2型、CE 3.5.1.1)の開発につながった。L-アスパラギナーゼは、L-アスパラギンをアスパラギン酸およびアンモニアに加水分解し、したがって、血清からL-アスパラギンを枯渇させ、そして腫瘍増殖を阻害する。L-アスパラギナーゼは、主に、急性リンパ芽球性白血病(ALL)の治療に用いられ、そして急性非リンパ球性白血病を含む他の血液学的癌に対してある程度の活性を示す。
【0010】
クリニックで用いられるL-アスパラギナーゼは、細菌供給源から精製される2つの非変形(天然)型、およびPEG化化合物としてのもので入手可能である。米国特許第4,179,337号は、PEG化L-アスパラギナーゼを解説し、この中で、該酵素は、約500~20,000ダルトンの分子量を有するPEGにカップリングされる。
【0011】
アスパラギンシンテターゼのin vivo下方制御は、腫瘍増殖を阻害するための効率的な機構を提供可能である。しかし、細胞は、アスパラギンシンテターゼ遺伝子の転写制御を伴う、アスパラギンシンテターゼmRNA、タンパク質、および酵素活性の協調した増加によって、アミノ酸枯渇に反応する。
【0012】
代謝アプローチは、まず、L-アスパラギンおよびL-アスパラギン酸類似体の生成によって、アスパラギンシンテターゼ活性を阻害するために用いられた。5-カルボキシアミド-4-アミノ-3-イソキサゾリドン(Stammerら、1978)ならびにN-置換スルホンアミドおよびN’-置換スルホニルヒドラジドを含む類似体が、L-アスパラギンのイオウ類似体として調製されてきている(Brynes Sら、1978a;Brynes Sら、1978b)。米国特許第4,348,522号は、抗腫瘍活性を示すことが知られており、現在、結腸直腸癌および膵臓癌の併用化学療法として臨床試験中である、PALA、N-ホスホンアセチル-L-アスパラギン酸の塩を解説する。
【0013】
CD4陽性細胞をターゲティングするためのペプチドT Ara-Cコンジュゲートのさらなる合成のため、Ara-Cのアスパラギン酸類似体が原材料として用いられた(Manfrediniら、2000)。
【0014】
生物学的利用能増加または部位特異性増加などの所望の特性を与えるためのプロドラッグの使用は、薬剤開発業においてよく知られる概念である。例えば、抗体への薬剤の直接または間接的コンジュゲート化は、薬剤の最小限の解離で、ターゲット部位に到達可能な、安定なコンジュゲートを生成する。薬剤ターゲティングは、最大強度のため、薬剤の選択的放出の機構と組み合わされることも可能である。
【0015】
米国特許第4,296,105号は、アミノ酸残基のヒドロキシ基で、場合によって置換されたアミノ酸に連結されるドキソルビシン誘導体を記載し、これは、in vitroで、ドキソルビシンよりも、より高い抗腫瘍活性およびより低い毒性を所持する。
【0016】
米国特許第5,962,216号は、ターゲット細胞によって分泌される単数または複数の因子によって切断されるまで、細胞に進入不能である、腫瘍活性化プロドラッグを解説する。
【0017】
米国特許第5,650,386号は、少なくとも1つの活性剤、および活性剤のキャリアーとして作用する少なくとも1つの変形非アルファアミノ酸またはポリアミノ酸を含む組成物を解説する。アミノ酸変形には、少なくとも1つの未結合アミン基のアシル化またはスルホン化が含まれる。
【0018】
米国特許第6,623,731号、6,428,780号、および6,344,213号は、生物学的活性剤のキャリアーとして変形アミノ酸を含む非共有混合物を解説する。
【0019】
米国特許第5,106,951号は、オリゴペプチド上の2つの芳香族側鎖の間に非共有的に挿入された芳香族薬剤、および癌細胞にターゲティングするため、オリゴペプチドに共有結合した抗体または抗体断片を含むコンジュゲートを開示する。
【0020】
米国特許第6,617,306号は、キャリアーおよび療法剤がジスルフィド結合によって連結されている、療法剤のin vivo送達のためのキャリアーを解説する。この特許において、キャリアーは、チオール化合物のチオール基および療法剤のチオール基がジスルフィド結合を形成するように、ポリマー、およびポリマーにコンジュゲート化された少なくとも1つのチオール化合物を含む。
【0021】
国際特許出願公報第WO 00/33888号は、ターゲット細胞に進入可能な療法剤、オリゴペプチド、安定化基および場合によるリンカーを含む、切断可能な抗腫瘍および抗炎症化合物を解説する。
【0022】
本発明の発明者らの何人かに対する、国際特許出願公報第WO 2005/072061号および米国特許第7,989,188号は、新生物細胞に薬剤をターゲティングするために有用な官能基を含む側鎖を通じて、アミノ酸に共有結合した薬剤を含む化合物を記載する。
【0023】
薬学的塩
薬剤の最適な薬学的塩の選択は、有効性を増加させ、薬剤の薬剤送達を改善することができる。こうした活性薬剤塩の確立は、ささいなことではなく、こうした塩の開発および分析においてユニークな方法を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
腫瘍をターゲティングしつつ、正常な組織への細胞傷害性の損傷を除去することが可能な化合物および組成物には、なお満たされていない医学的な必要性がある。
【0025】
本発明の目的は、悪性および前悪性細胞に薬剤をターゲティングする一方、現在の薬剤療法に関連する副作用を減少させることである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、第二の化学部分に共有結合した第一の化学部分を含むコンジュゲートの薬学的に許容されうる塩であって、第一の化学部分が、側鎖上に、アミノ基、カルボキシル基、スルフィドリル基およびヒドロキシル基からなる群より選択される、少なくとも1つの官能基を含むアミノ酸であり、そして第二の化学部分が、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤および化学療法剤からなる群より選択される抗癌薬剤である、前記塩を提供する。抗癌薬剤は、アミノ酸側鎖官能基を通じて、アミノ酸に付着される。アミノ酸は、好ましくは、抗癌薬剤、好ましくはヌクレオチド/ヌクレオシド類似体、例えばシタラビンまたはゲムシタビンに共有結合した、アスパラギン酸またはグルタミン酸あるいはその誘導体または類似体である。薬学的に許容されうる塩は、好ましくは、有機または無機酸または酸の残基(すなわちそのコンジュゲート塩基)より選択される。本発明はさらに、コンジュゲート塩を含む薬学的組成物、ならびに癌および前癌状態または障害を治療するためのその使用を提供する。本発明はさらに、本発明のコンジュゲートの塩型を調製するための、特に適切な塩を形成する、酸と保護前駆体化合物を反応させるための方法を提供する。
【0027】
本発明の塩型は、薬剤が癌細胞による迅速な取り込みを経る、薬剤またはプロドラッグの送達ビヒクルとして働きうる。塩型はまた、コンジュゲートの安定性および可溶性を増加させるようにも働きうる。
【0028】
本発明のコンジュゲートは、典型的には、感受性部分、例えばアミンまたはカルボン酸上に、1またはそれより多い保護基を含有する、前駆体から調製される。例えば、アミノ酸のアミノ基は、典型的には、t-ブトキシカルボニル(BOC)基によって保護される。BOC基が、典型的には、酸媒体中でアミノ基から除去されることが周知であり、トリフルオロ酢酸(TFA)が最も一般的に用いられる脱保護剤である。TFAが除去困難であり、したがって、脱保護アミンは、通常、TFAの残留量を含有することがさらに知られる。その毒性の影響から、TFAを欠く化合物が薬学的使用に必要である。いくつかの態様において、本発明は、脱保護剤としてTFAを用いる必要性を回避する。現在、予期せぬことに、本発明のコンジュゲートの塩は、最終的に塩を形成するものと同じ試薬を用いて、BOC基を脱保護することによって調製可能であることが発見されている。現在、特定の薬学的に許容されうる酸は、一工程で、保護基(単数または複数)を除去し、同時に、本発明のコンジュゲートの塩を生成可能であり、それによって塩形成前のTFAによる脱保護の中間工程を省略可能であることが開示されている。したがって、特定の態様において、本発明のコンジュゲートは、脱保護のため、TFAに曝露されず、したがって、本発明のコンジュゲート塩はTFA残留を含まない。生じる塩は、したがって、毒性TFAを欠くことにより好適であり、したがって、薬学的使用に適している。
【0029】
第一の側面によれば、本発明は、化合物の薬学的に許容されうる塩であって、式(I)
A-D・Y (I)
式中、
Aは、側鎖上に、カルボキシル基、アミノ基、スルフィドリル基およびヒドロキシル基からなる群より選択される、少なくとも1つの官能基を含むアミノ酸を示し;
Dは、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤および化学療法剤からなる群より選択される薬剤の残基を示し、ここでDは、Aの側鎖官能基を通じてAに付着され;そして
Yは、塩酸、酢酸、メタンスルホン酸、リン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、ホウ酸、安息香酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、アスコルビン酸、硫酸、マレイン酸、ギ酸、マロン酸、ニコチン酸およびシュウ酸からなる群より選択される、薬学的に許容されうる有機または無機酸または酸の残基(すなわち、前記酸のコンジュゲート塩基)である
の構造によって示される、前記塩を提供し、薬学的に許容されうる塩は、不純物として、0.1%またはそれ未満のトリフルオロ酢酸(TFA)を含有する。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0030】
アミノ酸(A)は、α-アミノ酸(DまたはL)、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、δ-アミノ酸またはε-アミノ酸でありうる。1つの現在好ましい態様において、アミノ酸(A)は、α-アミノ酸(DまたはL)である。いくつかの態様において、アミノ酸(A)は、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、α-アミノアジピン酸(Aad)、α-アミノピメリン酸、γ-カルボキシ-グルタミン酸、γ-ヒドロキシ-グルタミン酸、アミノグリシン、アミノイソ酪酸(Aib)、アルギニン(Arg)、シトルリン(Cit)、システイン(Cys)、シスチン、ジアミノブタン酸、ジアミノ酪酸(Dab)、ジアミノプロピオン酸(Dpr)、ジヒドロキシフェニルアラニン、ジメチルアルギニン、ピログルタミン酸(p-Glu)、ヒスチジン(His)、1-メチル-ヒスチジン、3-メチル-ヒスチジン、ホモセリン(Hse)、ホモシトルリン、ヒドロキシプロリン(Hyp)、リジン(Lys)、メチル-リジン、ジメチルリジン、トリメチルリジン、アジドリジン、メチオニン(Met)、メチオニンスルホキシド、メチオニンスルホン、オルニチン(Orn)、ザルコシン(Sar)、セレノシステイン(Sec)、セリン(Ser)、ホスホル-セリン、メチル-セリン、アミノセリン(Ams)、チエニルアラニン(Thi)、スレオニン(Thr)、ホスホ-スレオニン、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、メチル-チロシン、ホスホル-チロシン、スルホ-チロシン、α-アミノスベリン酸、3,5-ジヨードチロシン、ペニシラミン(Pen)、4-エチルアミンフェニルグリシン、4-アミノフェニルグリシン、4-スルホフェニルアラニン、4-アミノフェニルアラニンおよび2-アミノ-4[4-(2-アミノ)-ピリミジニル]ブタン酸、3-アミノプロピオン酸、6-アミノヘキサン酸(ε-Ahx)、p-アミノ安息香酸、イソニペコチン酸、スタチン(Sta)、2-アミノ酪酸(Abu)、および4-アミノ酪酸、ならびにその誘導体および類似体からなる群より選択される。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0031】
いくつかの態様において、アミノ酸(A)は、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、ならびにその誘導体および類似体からなる群より選択される。1つの現在好ましい態様において、アミノ酸(A)はアスパラギン酸である。別の現在好ましい態様において、アミノ酸(A)はグルタミン酸である。
【0032】
基(D)は、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤および化学療法剤からなる群より選択される任意の薬剤由来でありうる。いくつかの態様において、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dは、ピリミジン類似体、プリン類似体、葉酸代謝拮抗剤、ヒドロキシ尿素、微小管阻害剤、アルキル化剤、抗腫瘍抗生物質、トポイソメラーゼターゲティング剤、代謝拮抗剤、DNA結合剤およびDNAアンタゴニストからなる群より選択される薬剤の残基である。
【0033】
いくつかの態様において、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dは、シトシンアラビノシド(ara-C、シタラビン)、ゲムシタビン、フルオロウラシル、5-フルオロデオキシウリジン(5-FUDR)、フトラフール(ftorafure)、カペシタビン、カルモフール、BOF-A2、5-クロロ-2,4-ジヒドロキシピリジン、デシタビン、レフルノミド、トリフルリジン、ヨードクスウリジン、ジドブジン、テルビブジン、トリメトプリム、フルオロシトシン、デオキシチミジンおよび5-アミノ-6-ニトロウラシルより選択されるピリミジン類似体の残基である。各々の可能性は本発明の別個の態様に相当する。1つの現在好ましい態様において、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dは、シタラビンの残基である。別の現在好ましい態様において、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dは、ゲムシタビンの残基である。
【0034】
他の態様において、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dは、クロファラビン、デカルバジン、クラドリビン、メルカプトプリン、ネララビン、ペントスタチン、チオグアニン、ゲフィチニブ、アザチオプリン、8-アザグアニン、イミュシリン-G、2-フルオロ-2’-デオキシアデノシン、9-ベータ-D-キシロフラノシル-アデニン、3-デオキシ(dexoxy)グアニン、6-メチル-ホルミシンA、2-フルオロアデノシン、1-デアザ-アデノシン、N-エチル-5-カルボキシアミド-アデノシン、3’-オキソ-アデノシン、2-アミノ-アデノシン、6-O-シクロメチル-グアニン、フルダラビン、および8-ヨード-グアニンより選択されるプリン類似体の残基である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0035】
他の態様において、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dは、2,4-ジオキソ-5-フルオロピリミジン(5-FU)、アザシチジン(5-AZC)、6-メルカプトプリン(6-MP)、6-チオグアニン(6-TG)、クロロデオキシアデノシン(2-CDA)およびペントスタチン(dCF)からなる群より選択される薬剤の残基である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0036】
いくつかの態様において、式(I)の塩は、実質的に純粋な型で調製される。用語「実質的に純粋な」は、HPLCによって決定した際の少なくとも95%の純度、好ましくは少なくとも約97%の純度、より好ましくは少なくとも98%の純度、そして最も好ましくは少なくとも99%の純度を指す。
【0037】
上述のように、本発明のコンジュゲートにおいて、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dは、(A)の側鎖官能基を通じて、アミノ酸(A)に付着する。こうしたコンジュゲートのいくつかの限定されない態様を以下に記載する。いくつかの態様によれば、アミノ酸(A)は、アスパラギン酸およびグルタミン酸からなる群より選択され、そして化合物は式(II)または(III):
【化1】
式中、DおよびYは上に定義する通りである
の構造によって示される。
【0038】
式(II)の特定の態様において、Aはアスパラギン酸であり、Dはシタラビンの残基である。この態様において、化合物は、式(1):
【化2】
の構造によって示される塩である。
【0039】
式(1)の1つの態様において、化合物は、式(IA):
【化3】
の構造によって示される、酢酸との塩(すなわち酢酸塩)である。
【0040】
式(1)の別の態様において、化合物は、式(IB):
【化4】
の構造によって示される、塩酸との塩(すなわち塩酸塩)である。
【0041】
式(II)の別の特定の態様において、Aはアスパラギン酸であり、Dはゲムシタビンの残基であり、そして化合物は式(2):
【化5】
の構造によって示される。
【0042】
式(III)の特定の態様において、Aはグルタミン酸であり、Dはシタラビンの残基であり、そして化合物は、式(3):
【化6】
の構造によって示される。
【0043】
式(III)の別の特定の態様において、Aはグルタミン酸であり、Dはゲムシタビンの残基であり、そして化合物は、式(4):
【化7】
の構造によって示される。
【0044】
式(I)、(II)、(III)、(1)、(2)、(3)および(4)の前述の化合物のいずれにおいても、Yは、酢酸、塩酸、メタンスルホン酸、リン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、ホウ酸、安息香酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、アスコルビン酸、硫酸、マレイン酸、ギ酸、マロン酸、ニコチン酸およびシュウ酸からなる群より選択される、薬学的に許容されうる酸である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0045】
1つの現在好ましい態様において、薬学的に許容されうる酸Yは、酢酸、すなわち有機酸である。別の現在好ましい態様において、薬学的に許容されうる酸Yは、塩酸(HCl)、すなわち無機酸である。
【0046】
当業者には、上述の薬学的に許容されうる酸の任意の1つが、本発明の化合物と薬学的に許容されうる塩を形成可能であることが理解される。いくつかの態様において、薬学的に許容されうる塩は:酢酸塩、塩酸塩、メタンスルホン酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、トルエンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、アスコルビン酸塩、硫酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、マロン酸塩、ニコチン酸塩およびシュウ酸塩からなる群より選択される。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0047】
1つの現在好ましい態様において、薬学的に許容されうる酸は、酢酸(CHCOOH)である。この態様において、塩は酢酸塩である。別の好ましい態様において、薬学的に許容されうる塩は塩酸(HCl)塩である。この態様において、塩は塩酸塩である。
【0048】
別の側面において、本発明は、活性成分として、本明細書に記載するような式(I)の塩、またはこうした式によって含まれる任意の化合物、例えば化合物(II)、(III)、(1)、(1A)、(1B)、(2)、(3)または(4)、および薬学的に許容されうるキャリアーまたは希釈剤を含む、薬学的組成物を提供する。
【0049】
別の側面において、本発明は、転移を含む癌を治療する方法であって、治療が必要な被験体に、療法的に有効な量の本明細書に記載するような式(I)の塩、またはこうした式によって含まれる任意の化合物、例えば化合物(II)、(III)、(1)、(1A)、(1B)、(2)、(3)または(4)を投与する工程を含む、前記方法を提供する。別の側面において、本発明は、転移を含む癌の治療に使用するための、本明細書に記載するような式(I)の塩、またはこうした式によって含まれる任意の化合物、例えば化合物(II)、(III)、(1)、(1A)、(1B)、(2)、(3)または(4)を提供する。いくつかの態様において、癌は、非固形腫瘍または固形腫瘍またはその組み合わせによって特徴付けられる。
【0050】
他の態様において、癌は血液学的癌である。他の特定の態様において、血液学的癌は、白血病、リンパ腫および多発性骨髄腫からなる群より選択される。いくつかの態様において、白血病は、急性骨髄性白血病(AML)および急性リンパ芽球性白血病(ALL)からなる群より選択される。いくつかの態様において、白血病は、再発性/難治性白血病である。他の態様において、白血病は、新規に診断された白血病である。
【0051】
いくつかの特定の態様において、固形腫瘍によって特徴付けられる癌は、中枢神経系(CNS)の腫瘍、肝臓癌、結腸直腸癌、乳癌、胃癌、膵臓癌、膀胱癌、子宮頸癌、頭頸部腫瘍、外陰部癌、ならびに黒色腫、扁平上皮癌および基底細胞癌を含む皮膚科学的新生物からなる群より選択される。
【0052】
別の側面において、本発明は、前癌状態または障害を治療する方法であって、治療が必要な被験体に、療法的に有効な量の本明細書に記載するような式(I)の塩、またはこうした式によって含まれる任意の化合物、例えば化合物(II)、(III)、(1)、(1A)、(1B)、(2)、(3)または(4)を投与する工程を含む、前記方法を提供する。
【0053】
別の側面において、本発明は、前癌状態または障害の治療に使用するための、本明細書に記載するような式(I)の塩、またはこうした式によって含まれる任意の化合物、例えば化合物(II)、(III)、(1)、(1A)、(1B)、(2)、(3)または(4)を提供する。
【0054】
いくつかの態様において、前癌状態または障害は、骨髄異形成症候群(MDS)である。
【0055】
他の態様において、本発明は、骨髄移植の候補者である個体を治療する方法であって、移植の前に、前記個体を、本明細書に記載するような式(I)の塩、またはこうした式によって含まれる任意の化合物、例えば化合物(II)、(III)、(1)、(1A)、(1B)、(2)、(3)または(4)で前治療する工程を含む、前記方法にも関する。
【0056】
他の態様において、本発明は、骨髄移植前の前治療に使用するための、本明細書に記載するような式(I)の塩、またはこうした式によって含まれる任意の化合物、例えば化合物(II)、(III)、(1)、(1A)、(1B)、(2)、(3)または(4)を提供する。
【0057】
本発明の塩型は、任意の哺乳動物、好ましくはヒトを治療するために使用可能である。
【0058】
本発明の式(I)によって示される化合物の薬学的に許容されうる塩を調製するための方法であって
(a)式(IV):
(A-D)-(P) (IV)
式中、
AおよびDは上に定義する通りであり;
nは1~6の整数であり;そして
各Pは、各出現に際して、独立に、保護基であり;各Pは、アミノ酸(A)、薬剤残基(D)またはアミノ酸(A)および薬剤残基(D)の両方の保護のため、利用可能な任意の官能基に付着する
の化合物と
保護基(単数または複数)Pを除去可能な試薬を反応させる工程;および
(b)式:
A-D・Y (I)
式中、Yは上に定義する通りである
によって示される塩が生成されるように、基Yを導入可能な試薬を添加する工程
を含む、前記方法をさらに開示する。
【0059】
1つの態様において、現在、予期せぬことに、本発明の塩は、最終的に塩を形成するものと同じ薬学的に許容されうる酸を用いて、前駆体化合物を脱保護することによって調製可能であることが発見されている。したがって、本発明の原理によれば、基Yを導入可能な薬学的に許容されうる酸Yは、一工程で、保護基(単数または複数)Pを除去し、同時に、式(I)の塩を生成可能であり、それによって塩形成前の脱保護の中間工程を省略可能である。この方式で、塩産物の純度レベルは、脱保護剤(すなわち不純物)の残留量が回避されるために、改善される。例えば、保護基、例えばt-ブトキシカルボニル(BOC)は、典型的には、酸媒体中で、例えばトリフルオロ酢酸(TFA)で除去される。しかし、TFAは除去困難であり、そしてしたがって、脱保護産物にはこの酸の残留量が含まれる。これは、不可避的に、最終塩型におけるTFA不純物レベルの増加を導き、これは薬剤開発の観点からは許容されえない。本発明は、最終的に塩を形成するものと同じ試薬(例えば酸)を用いて合成の最終工程を実行することによって、この問題に対する解決策を提供する。
【0060】
したがって、1つの態様において、本発明のプロセスは、保護基(単数または複数)Pを除去し、同時に基Y、例えば酸を導入することが可能な試薬の使用を伴う。この態様によれば、一工程で、保護基(単数または複数)Pは除去され、そして基Yが導入される。
【0061】
いくつかの態様によれば、本発明のコンジュゲートの薬学的に許容されうる塩は、約5%またはそれ未満の残留TFAを含有する。さらなる態様によれば、本発明のコンジュゲートの薬学的に許容されうる塩は、約1%またはそれ未満の残留TFAを含有する。さらなる態様によれば、本発明のコンジュゲートの薬学的に許容されうる塩は、約0.1%またはそれ未満の残留TFAを含有する。特定の態様によれば、本発明のコンジュゲートの薬学的に許容されうる塩は、実質的に、不純物としてのTFAを含まない。別の態様によれば、本発明のコンジュゲートの薬学的に許容されうる塩は、完全に、不純物としてのTFAを含まない。
【0062】
式(I)の化合物は、一般的に、薬剤部分とアミノ酸を、好ましくはカップリング剤の存在下でカップリングし、そして上述のプロセスによれば、塩型に変換することによって、調製可能である。このプロセスは、本明細書において、式(II)および(III)の化合物に関して例示される。
【0063】
いくつかの態様において、本発明は、式(II)の化合物を調製するためのプロセスであって:
(a)式(i)の化合物を、式Dの薬剤と、または式D-(Pのその保護された誘導体と、カップリング試薬の存在下でカップリングして、式(ii)の中間体を得る工程;および
(b)式(II)によって示される塩が生成されるように、保護基P、PおよびP(存在する場合)を、酸(Y)で、または脱保護剤の後、酸(Y)で、除去する工程
【化8】
式中、Pはカルボキシ保護基であり、Pはアミノ保護基であり、Pは薬剤D上の1またはそれより多い官能基上に位置する保護基であり、そしてnは0、1、2または3である
を含む、前記プロセスを提供する。
【0064】
他の態様において、本発明は、式(III)の化合物を調製するためのプロセスであって:
(a)式(iii)の化合物を、式Dの薬剤と、または式D-(Pのその保護された誘導体と、カップリング試薬の存在下でカップリングして、式(iv)の中間体を得る工程;および
(b)式(II)によって示される塩が生成されるように、保護基P、PおよびP(存在する場合)を、酸(Y)で、または脱保護剤の後、酸(Y)で、除去する工程
【化9】
式中、Pはカルボキシ保護基であり、Pはアミノ保護基であり、Pは薬剤D上の1またはそれより多い官能基上に位置する保護基であり、そしてnは0、1、2または3である
を含む、前記プロセスを提供する。
【0065】
1つの態様において、薬剤はシタラビンである。他の態様において、薬剤は、2’、3’および/または5’ヒドロキシル部分上に保護基を含む保護シタラビン、例えばトリフェニルメチル-シタラビン(CAS 7075-13-0)、ベンゾイル-シタラビン(CAS 34270-10-5)、アドマントイル-シタラビン(CAS 23113-01-1)、およびトリメチルシリル-シタラビンである。他の態様において、薬剤はゲムシタビンである。他の態様において、薬剤は、3’および/または5’ヒドロキシル部分上に保護基を含む保護ゲムシタビン、例えばトリフェニルメチル-ゲムシタビン(CAS 1642862-24-5)である。
【0066】
いくつかの態様において、保護基は、保護基を除去し、基Yを導入可能な酸を用いて、基Yの導入と同時に除去される。
【0067】
本発明のこれらのおよび他の態様は、続く図、説明および請求項と組み合わせて明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】Asp(シタラビン)・酢酸塩(Y=CHCOOH)の質量分析。
図2】Asp(シタラビン)・メタンスルホン酸塩(Y=CHSOH)の質量分析。
図3】Asp(シタラビン)・ベンゼンスルホン酸塩(Y=CSOH)の質量分析。
図4】精製BOC-Asp-OtBu-(シタラビン)のH-NMR。
図5】Asp(シタラビン)・HClのH-NMR。
【発明を実施するための形態】
【0069】
本発明は、療法剤に共有結合したアミノ酸のコンジュゲートの薬学的に許容されうる塩型を提供する。特に、本発明は、シチジン類似体薬剤およびアスパラギン酸またはグルタミン酸およびその類似体を含むコンジュゲートの薬学的に許容されうる塩、これらのコンジュゲートを含む薬学的組成物、ならびに癌または前癌状態または障害の治療のためのこれらの使用に関する。
【0070】
当該技術分野は、直接転換法を用い、側鎖官能基を通じて、アミノ酸に共有結合した薬剤の酸付加塩型を生成するための方法を解説も示唆もしていない。本発明は、薬学的塩型を生成するために用いたものと同じ化合物(例えば酸)によって除去可能な保護基を有する薬剤コンジュゲートの前駆体から、薬学的塩が生成可能であることを開示する。
【0071】
コンジュゲート
本発明のコンジュゲートは、癌細胞の増殖の阻害剤として、生物学的に活性である、コンジュゲートの薬学的に許容されうる塩型として提供される。塩型は、式(I):
A-D・Y (I)
式中、
Aは、側鎖上に、カルボキシル基、アミノ基、スルフィドリル基およびヒドロキシル基からなる群より選択される、少なくとも1つの官能基を含むアミノ酸を示し;
Dは、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤および化学療法剤からなる群より選択される薬剤の残基を示し、ここでDは、Aの側鎖官能基を通じてAに付着され;そして
Yは:薬学的に許容されうる有機または無機酸または酸の残基(すなわち前記酸のコンジュゲート塩基)、薬学的に許容されうる無機カチオン、薬学的に許容されうる有機アミン;およびアミノ酸からなる群より選択される
の構造によって示される。
【0072】
薬学的塩
本明細書で用いられる用語「薬学的塩」は、IUPAC慣例によれば、薬剤物質の「薬学的に許容されうる塩」を指す。薬学的塩は、薬剤と組み合わされた塩型の不活性成分である。本明細書で用いられる用語「薬学的に許容されうる塩」は、一般式(I)、式(II)および式(III)の化合物、例えば化合物(1)、(1A)、(1B)、(2)、(3)または(4)の塩、あるいは一般式に含まれる任意の他の塩型であって、実質的に生存生物に非毒性である、前記塩を指す。典型的な薬学的に許容されうる塩には、本発明の化合物と、本明細書に記載するような薬学的に許容されうるミネラル、塩基、酸または塩の反応によって調製される塩が含まれる。酸塩はまた、酸付加塩としても公知である。
【0073】
当該技術分野に公知のもの等の薬学的塩(その内容が本明細書にその全体が援用される、StahlおよびWermuth,2011,Handbook of pharmaceutical salts,第2版)は、いくつかの限定されない態様において、本明細書に以下に例示される。
【0074】
本発明の化合物において、基Yは塩型を示す。Yは、任意の薬学的に許容されうる有機または無機酸または塩基であることも可能であり(またはそれに由来することも可能であり)、その限定されない例を以下に提供する:
【0075】
(i)酸付加塩:
1つの態様において、Yは、酢酸、塩酸、メタンスルホン酸、リン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、ホウ酸、安息香酸、2-(4-ヒドロキシベンゾイル)-安息香酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、アスコルビン酸、硫酸、マレイン酸、ギ酸、マロン酸、ニコチン酸、シュウ酸、カンファースルホン酸、シクラミン酸、2,2-ジクロロ-酢酸、ジ(t-ブチル)-ナフタレンスルホン酸、ジ(t-ブチル)-ナフタレンジスルホン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、ガラクタル(ムチン)酸、ゲンチジン酸、グルカル酸、グルコン酸、グリセロリン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、2-ヒドロキシ-エタンスルホン(イセチオン)酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、メドロン(ビスホスホン)酸、メタリン酸、メチルボロン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、硝酸、オロト酸、2-オキソ-グルタル(ケトグルタル)酸、パモ(エンボン)酸、ピルビン酸、サッカリン酸、サリチル酸、4-アミノ-サリチル酸、およびチオシアン酸からなる群より選択される、薬学的に許容されうる有機または無機酸または酸の残基である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0076】
いくつかの現在好ましい態様において、Yは、酢酸、塩酸、メタンスルホン酸、リン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、ホウ酸、安息香酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、アスコルビン酸、硫酸、マレイン酸、ギ酸、マロン酸、ニコチン酸およびシュウ酸からなる群より選択される薬学的に許容されうる酸である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0077】
薬学的酸塩型の他の態様は、アセツル酸、4-アセトアミド-安息香酸、アジピン酸、アミノ馬尿酸、4-アミノ-サリチル酸、アルギン酸、アスパラギン酸、ホウ酸、酪酸、カプリン(デカン)酸、カプロイン(ヘキサン)酸、カルボン酸、カンフル酸、カンファースルホン酸、カプリル(オクタン)酸、シクラミン酸、桂皮酸、2,2-ジクロロ-酢酸、ジ(t-ブチル)-ナフタレンスルホン酸、ジ(t-ブチル)-ナフタレンジスルホン酸、デヒドロ酢酸、ジアトリゾ酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エデト酸、エタンスルホン酸、2-エチル-ヘキサン酸、エリソルビン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル(ムチン)酸、ゲンチジン酸、グルコヘプタン酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、グリセロリン酸、グリコール酸、馬尿酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、2-(4-ヒドロキシベンゾイル)-安息香酸、2-ヒドロキシ-エタンスルホン(イセチオン)酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、イソ酪酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリン酸、ヨードキサム酸、イソステアリン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メドロン酸、メタンスルホン酸、メタリン酸、メチルボロン酸、ミリスチン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ニコチン酸、オレイン酸、シュウ酸、パルミチン酸、ペンテト酸、プロピオン酸、プロパン酸、ピログルタミン酸、ピルビン酸、リン酸、セバシン酸、ソルビン酸、ステアリン(オクタデカン)酸、スベリン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、チアゾキシム酸(thiazoximic)、チオシアン酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸およびウンデシレン(ウンデカ-10-エン)酸を含む酸から生成可能である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0078】
(ii)塩基付加塩:
1つの態様において、Yは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、亜鉛およびアンモニウムからなる群より選択される、薬学的に許容されうる有機または無機塩基または塩基の残基である。
【0079】
いくつかの現在好ましい態様において、Yは、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛およびアンモニウムからなる群より選択される薬学的に許容されうる無機カチオンである。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0080】
他の現在好ましい態様において、Yは、アンモニウム、一級アミン、二級アミン、三級アミン、四級アンモニウム化合物、アミノアルコールおよびアミノ糖からなる群より選択される薬学的に許容されうる有機アミンである。いくつかの現在好ましい態様において、Yは、ベネタミン、ベンザチン、ベタイン、t-ブチルアミン(エルブミン)、デアノール、ジシクロヘキシルアミン、ジエチルアミン、2-ジエチルアミノ-エタノール、ジエタノールアミン、エタノールアミン、エチレンジアミン、ヒドラバミン、モルホリン、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、1-(2-ヒドロキシエチル)-ピロリジン(エポラミン)、イミダゾール、N-メチルグルカミン(メグルミン)、4-フェニルシクロヘキシルアミン、ピペラジン、およびトロメタミンからなる群より選択される有機アミン塩基である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0081】
他の塩基性薬学的塩型は、水酸化アルミニウム、アンモニア、アルギニン、ベネタミン、ベンザチン、ベタイン、t-ブチルアミン(エルブミン)、水酸化カルシウム、水酸化コリン、デアノール、ジエチルアミン、2-ジエチルアミノ-エタノール、ジエタノールアミン、エタノールアミン、エチレンジアミン、ヒドラバミン、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、1-(2-ヒドロキシエチル)-ピロリジン(エポラミン)、イミダゾール、水酸化リチウム、リジン、N-メチルグルカミン(メグルミン)、水酸化マグネシウム、4-フェニルシクロヘキシラミン、ピペラジン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、トロメタミン、および水酸化亜鉛を含む塩基から生成可能である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0082】
当業者に理解されるように、前述の酸は、アミノ酸-薬剤コンジュゲート上の塩基性部分(例えばアミノ基)と反応して塩を形成することが可能である。例えば、酸がカルボン酸であり、そしてコンジュゲートが塩基性アミン部分を含む場合、塩は、構造R-COO・R’-NH によって示されうる。類似の酸-塩基反応産物は、本明細書に記載する他の酸のいずれで形成することも可能である。
【0083】
(iii)アミノ酸との塩
他の現在好ましい態様において、Yは、塩型を形成可能なアミノ酸、例えばアルギニンまたはリジンである。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0084】
(iv)他の塩
他の薬学的塩型は、酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、グルセプト酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ヨウ素、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、クエン酸カリウム、メタ重亜硫酸カリウム、リン酸カリウム、ソルビン酸カリウム、酢酸ナトリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、アミノ安息香酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、重硫酸ナトリウム、重硫酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、カラゲニン酸(carragenate)ナトリウム、塩素酸ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ジチオン酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、乳酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、チオグリコール酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、塩化スズ、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、および硫酸亜鉛を含む塩から生成可能である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0085】
アミノ酸(A)
1つの態様によれば、アミノ酸(A)は、L立体配置、D立体配置またはその混合物である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0086】
アミノ酸Aは、α-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、δ-アミノ酸またはε-アミノ酸であってもよく、各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。現在好ましいアミノ酸はα-アミノ酸である。
【0087】
いくつかの態様において、アミノ酸(A)は、アミノイソ酪酸(Aib)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、シトルリン(Cit)、システイン(Cys)、シスチン、ジアミノブタン酸、ジアミノ酪酸(Dab)、ジアミノプロピオン酸(Dpr)、ジヒドロキシフェニルアラニン、ジメチルアルギニン、グルタミン酸(Glu)、ピログルタミン酸(p-Glu)、グルタミン(Gln)、ヒスチジン(His)、1-メチル-ヒスチジン、3-メチル-ヒスチジン、ホモセリン(Hse)、ホモシトルリン、ヒドロキシプロリン(Hyp)、リジン(Lys)、メチル-リジン、ジメチルリジン、トリメチルリジン、アジドリジン、メチオニン(Met)、メチオニンスルホキシド、メチオニンスルホン、オルニチン(Orn)、ザルコシン(Sar)、セレノシステイン(Sec)、セリン(Ser)、ホスホル-セリン、メチル-セリン、アミノセリン(Ams)、チエニルアラニン(Thi)、スレオニン(Thr)、ホスホ-スレオニン、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、メチル-チロシン、ホスホル-チロシン、スルホ-チロシン、α-アミノスベリン酸、3,5-ジヨードチロシン、ペニシラミン(Pen)、4-エチルアミンフェニルグリシン、4-アミノフェニルグリシン、4-スルホフェニルアラニン、4-アミノフェニルアラニンおよび2-アミノ-4[4-(2-アミノ)-ピリミジニル]ブタン酸、3-アミノプロピオン酸、6-アミノヘキサン酸(ε-Ahx)、p-アミノ安息香酸、イソニペコチン酸、スタチン(Sta)、2-アミノ酪酸(Abu)および4-アミノ酪酸、α-アミノアジピン酸(Aad)、α-アミノピメリン酸、γ-カルボキシ-グルタミン酸、γ-ヒドロキシ-グルタミン酸、アミノグリシン、ならびにその誘導体および類似体からなる群より選択される。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0088】
いくつかの態様において、アミノ酸(A)は、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、ならびにその誘導体および類似体からなる群より選択される。1つの現在好ましい態様において、アミノ酸(A)はグルタミン酸である。別の現在好ましい態様において、アミノ酸(A)はアスパラギン酸である。
【0089】
薬剤(D)
基Dは、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤および化学療法剤からなる群より選択される任意の薬剤由来でありうる。いくつかの態様において、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dは、ピリミジン類似体、プリン類似体、葉酸代謝拮抗剤、ヒドロキシ尿素、微小管阻害剤、アルキル化剤、抗腫瘍抗生物質、トポイソメラーゼターゲティング剤、代謝拮抗剤、DNA結合剤およびDNAアンタゴニストからなる群より選択される任意の薬剤の残基である。
【0090】
いくつかの態様において、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dは、シトシンアラビノシド(ara-C、シタラビン)、ゲムシタビン、フルオロウラシル、5-フルオロデオキシウリジン、フトラフール、カペシタビン、カルモフール、BOF-A2、5-クロロ-2,4-ジヒドロキシピリジン、デシタビン、レフルノミド、トリフルリジン、ヨードクスウリジン、ジドブジン、テルビブジン、トリメトプリム、フルオロシトシン、デオキシチミジンおよび5-アミノ-6-ニトロウラシルからなる群より選択されるピリミジン類似体の残基である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0091】
他の態様において、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dは、クロファラビン、デカルバジン、クラドリビン、メルカプトプリン、ネララビン、ペントスタチン、チオグアニン、ゲフィチニブ、アザチオプリン、8-アザグアニン、イミュシリン-G、2-フルオロ-2’-デオキシアデノシン、9-ベータ-D-キシロフラノシル-アデニン、3-デオキシグアニン、6-メチル-ホルミシンA、2-フルオロアデノシン、1-デアザ-アデノシン、N-エチル-5-カルボキシアミド-アデノシン、3’-オキソ-アデノシン、2-アミノ-アデノシン、6-O-シクロメチル-グアニン、フルダラビン、および8-ヨード-グアニンより選択されるプリン類似体の残基である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0092】
他の態様において、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dは、2,4-ジオキソ-5-フルオロピリミジン(5-FU)、フルオロデオキシウリジン(5-FUDR)、アザシチジン(5-AZC)、6-メルカプトプリン(6-MP)、6-チオグアニン(6-TG)、クロロデオキシアデノシン(2-CDA)およびペントスタチン(dCF)からなる群より選択される抗癌薬剤の残基である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0093】
1つの現在好ましい態様において、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dは、シタラビンの残基である。別の現在好ましい態様において、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dは、ゲムシタビンの残基である。
【0094】
本発明はまた、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤薬剤Dが代謝拮抗剤であり、アスパラギンの代謝に関与する酵素を阻害可能な、アスパラギン-薬剤コンジュゲートにも関する。アスパラギン-薬剤コンジュゲートによって阻害されることが可能な1つの重要な酵素は、アスパラギンシンテターゼであり、該酵素は、哺乳動物細胞におけるアスパラギン合成に必須である。糖タンパク質の代謝に関与する他の酵素、特に限定されるわけではないが、グルコシダーゼI、グルコシダーゼII、カルネクシン、およびアルファ-グルコシルトランスフェラーゼを含むタンパク質中のアスパラギンアミノ酸に連結されたN-連結糖を有するものが、潜在的に、アスパラギン-薬剤コンジュゲートによって阻害されうる。N-グリカンタンパク質におけるN-グリコシル化は、コンセンサス配列Asn-X-Ser/Thrのアスパラギン上で起こり、グリコシル化代謝への干渉は、糖タンパク質のフォールディングおよび分泌を妨害する。必須糖タンパク質のグリコシル化の阻害は、細胞停止および細胞死を引き起こすであろう。
【0095】
アスパラギン-薬剤コンジュゲートはまた、オルニチンなどの他のアミノ酸の代謝に影響を及ぼす可能性もあり、これはアスパラギンが、オルニチン脱カルボキシラーゼ誘導における膜Na+/H+対向輸送に関与することが示されているためである(FongおよびLaw、1988)。
【0096】
アスパラギン-薬剤コンジュゲートは、アスパラギン酸およびグルタミン酸輸送体による迅速な取り込みを経ることが可能であり、これは、血液脳関門(BBB)を通じたグルタミン酸/グルタミンおよびアスパラギン酸/アスパラギンアミノ酸の送達を仲介し、そして効率的な薬剤送達系として適用されて、化学療法薬剤を輸送して、CNSの腫瘍を治療することも可能である。アスパラギンの脳脊髄液(CSF)および血漿レベルは、中枢神経系(CNS)の原発性および続発性腫瘍の患者において、有意により低いことが示されてきている(Piekら、1987)。
【0097】
肝腫瘍癌細胞は、グルタミン輸送体を発現することが示されており、該輸送体は、ヒト肝腫瘍細胞において、はるかにより高いグルタミン取り込み速度を示し、そして正常肝細胞では示さず、したがって、グルタミン-薬剤コンジュゲートが肝臓癌治療に使用可能であることを示す。
【0098】
上述のように、本発明のコンジュゲートにおいて、薬剤残基(D)は、(A)の側鎖官能基を通じて、アミノ酸(A)に付着される。こうしたコンジュゲートのいくつかの限定されない態様を以下に記載する。
【0099】
特定の態様において、化合物は、プリン類似体およびピリミジン類似体からなる群より選択される薬剤にコンジュゲート化されたアミノ酸、アスパラギン酸またはグルタミン酸残基を含む。特定の態様において、薬剤は、シタラビンおよびゲムシタビンより選択される。特定の態様において、アミノ酸-薬剤コンジュゲートの塩型は、酢酸および塩酸より選択される酸塩型である。
【0100】
理論に束縛されることは望ましくないが、本発明のアミノ酸コンジュゲート塩は、アミノ酸輸送体を通じて細胞内に輸送され、それによって、多剤耐性(MDR)機構をバイパスし、内部から細胞増殖を停止するかまたは細胞を殺す。
【0101】
いくつかの態様によれば、アミノ酸(A)は、アスパラギン酸およびグルタミン酸からなる群より選択され、そして化合物は式(II)または(III)
【化10】
式中、DおよびYは上に定義する通りである
の構造によって示される。
【0102】
式(II)の特定の態様において、Aはアスパラギン酸であり、Dはシタラビンの残基であり、化合物は、式(1):
【化11】
の構造によって示される。
【0103】
式(1)の1つの態様において、化合物は、式(IA):
【化12】
の構造によって示される、酢酸との塩(すなわち酢酸塩)である。
【0104】
式(1)の別の態様において、化合物は、式(IB):
【化13】
の構造によって示される、塩酸との塩(すなわち塩酸塩)である。
【0105】
式(II)の別の特定の態様において、Aはアスパラギン酸であり、Dはゲムシタビンの残基であり、そして化合物は式(2):
【化14】
の構造によって示される。
【0106】
式(III)の特定の態様において、Aはグルタミン酸であり、Dはシタラビンの残基であり、そして化合物は、式(3):
【化15】
の構造によって示される。
【0107】
式(III)の別の特定の態様において、Aはグルタミン酸であり、Dはゲムシタビンの残基であり、そして化合物は、式(4):
【化16】
の構造によって示される。
【0108】
式(1)、(2)、(3)および(4)の前述の化合物のいずれにおいても、Yは、上述の選択肢のいずれであってもよく、好ましくは、酢酸、塩酸、メタンスルホン酸、リン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、ホウ酸、安息香酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、アスコルビン酸、硫酸、マレイン酸、ギ酸、マロン酸、ニコチン酸およびシュウ酸からなる群より選択される、薬学的に許容されうる酸でありうる。
【0109】
定義
便宜および明確性のため、本明細書、実施例および請求項で使用する特定の用語をここに記載する。
【0110】
用語「薬剤の残基」は、アミノ酸-薬剤コンジュゲートA-Dを形成する際、アミノ酸に付着させるために用いた官能基を除く、薬剤を指す。
【0111】
用語「酸の残基」は、その酸のコンジュゲート塩基を指す。例えば、塩酸(HCl)のコンジュゲート塩基はクロライド(Cl)である。酢酸(CHCOOH)のコンジュゲート塩基はアセテート(CHCOO)である。
【0112】
用語「薬剤」は、過剰増殖細胞の細胞増殖を停止させるか、または細胞死を誘導することが可能な任意の薬理学的活性剤を示し、この中には、本明細書において、上に例示するような、当該技術分野に公知であるものなどの既知の細胞傷害性、細胞分裂停止、抗増殖薬剤が存在し、含まれる。本明細書において、薬剤の分類は、便宜のためにのみ行われ、列挙する特定の単数または複数の適用にいかなる構成要素も限定することも意図されない。
【0113】
本明細書で用いられる用語「細胞傷害性剤」は、細胞、例えば癌細胞に対して毒性であり、損傷を与え、そして/またはこれを破壊する剤を指す。化学療法薬剤による化学療法は、細胞傷害性療法の1つの形である。
【0114】
本明細書で用いられる用語「細胞分裂停止薬剤」は、細胞増殖および分裂を阻害する任意の物質を指す。
【0115】
本明細書で用いられる用語「化学療法剤」は、化学療法に用いられる薬剤を指す。
【0116】
本明細書で用いられるような、過剰増殖細胞、例えば新生物細胞の「細胞増殖を停止させる」および「細胞死を誘導する」は、増殖および転移を遅延させるか、中断させるか、停止させるかまたは止めることを指し、そして必ずしも新生物性増殖の完全な排除を示すわけではない。
【0117】
本発明で用いるアミノ酸は、商業的に入手可能であるかまたはルーチンの合成法によって入手可能であるものである。天然にコードされるアミノ酸およびその誘導体は、IUPAC慣例にしたがった3文字コードによって表される。示さない場合、LまたはD異性体のいずれを用いることも可能である。D異性体は、残基略語の前の「D」によって示される。
【0118】
本明細書で用いられる用語「立体異性体」は、同じ結合によって結合されるが、異なる三次元構造を有する、同じ原子で作製される化合物を指し、これらは交換可能ではない。三次元構造は、立体配置と呼ばれる。本明細書で用いられる用語「鏡像異性体」は、その分子が互いに重ね合わせ不能である鏡像である、2つの立体異性体を指す。用語「キラル中心」は、4つの異なる基が付着する炭素原子を指す。本明細書で用いられる用語「ジアステレオマー」は、鏡像異性体ではない立体異性体を指す。さらに、1つのキラル中心のみで異なる立体配置を有する2つのジアステレオマーは、本明細書において、「エピマー」と称される。用語「ラセミ体」、「ラセミ混合物」または「ラセミ変形」は、鏡像異性体の等部の混合物を指す。本発明には、一般式(I)、(II)および(III)を有する化合物、ならびに本明細書記載の特定の化合物の鏡像異性体が含まれる。
【0119】
合成法
本発明によるコンジュゲートにおいて、薬剤は、アミノ酸またはアミノ酸類似体に共有結合している。当業者は、化合物内の適切な連結および薬剤部分の位置を最適化することが可能であろう。多様な懸念を考慮に入れて、当業者がこの決定を行う指針とすべきであり、これには、特定の薬剤の選択、誘導体の選択、薬剤種への付着の位置の選択、および薬剤活性化のための宿主細胞内酵素に関する必要性などがある。
【0120】
したがって、別の側面によれば、本発明は、式Iの構造によって示される薬学的に許容されうる塩を調製するための方法であって
(a)式(IV):
(A-D)-(P) (IV)
式中、AおよびDは上に定義する通りであり;
nは1~6の整数であり;そして
各Pは、各出現に際して、独立に、保護基であり;各Pは、アミノ酸(A)、薬剤残基(D)またはアミノ酸(A)および薬剤残基(D)の両方の保護のため、利用可能な任意の官能基に付着する
の化合物と
保護基(単数または複数)Pを除去可能な試薬を反応させる工程;および
(b)式:
A-D・Y (I)
式中、Yは上に定義する通りである
によって示される塩が生成されるように、基Yを導入可能な試薬を添加する工程
を含む、前記方法を提供する。
【0121】
上述のように、現在、予期せぬことに、本発明の塩は、最終的に塩を形成するものと同じ試薬を用いて、1またはそれより多い保護基(P)を含有する前駆体化合物を脱保護することによって調製可能であることが発見されている。したがって、本発明の原理によれば、基Yを導入可能な試薬は、一工程で、保護基(単数または複数)Pを除去し、同時に、式(I)の塩を生成可能であり、それによって塩形成前の脱保護の中間工程を省略可能であり、最終的により高い純度の薬学的産物を導く。特に、BOCの脱保護のためのTFAの使用が回避され、その塩が、毒性TFAを欠くかまたは含まない、式Iに示される本発明のコンジュゲートの塩の生成を導く。このプロセスの特定の態様を、本明細書において、以下に記載する。本明細書記載の化合物は、アミノ酸あるいはアミノ酸の誘導体または類似体にコンジュゲート化された抗癌薬剤の薬学的塩型を含む。本発明の化合物は、当業者に周知の方法によって、アミノ酸から容易に調製可能である。例えば、コンジュゲートまたはその前駆体は、その内容が本明細書に援用される、国際特許出願公報第WO 2005/072061号および米国特許第7,989,188号に開示される方法によって調製可能である。次いで、コンジュゲート(またはその保護された前駆体)は、式(I)の化合物を形成するように、基Yを導入可能な試薬(例えば試薬は酸または塩基である)と反応することも可能である。本発明の化合物を調製するために有用なさらなる方法は、とりわけ、例えば国際特許出願公報第WO96/30036号およびWO97/36480号、ならびに米国特許第5,643,957号および5,650,386号に記載される方法である。例えば、化合物は、単一のアミノ酸を、適切な触媒剤と反応させて、該触媒剤がアミノ酸中に存在する未結合部分と反応し、そしてこれを薬剤上の未結合部分にコンジュゲート化して、エステルまたはアミドを形成することによって、調製可能である。当業者に公知であるように、保護基を用いて、望ましくない副反応を回避することも可能である。上記参考文献の各々の内容は、本明細書に援用される。
【0122】
例えば、例示のためで限定ではなく、式(II)のコンジュゲート(アスパラギン酸-薬剤コンジュゲート)または式(III)のコンジュゲート(グルタミン酸-薬剤コンジュゲート)は、アミンおよびアルファカルボキシル上で保護されたアスパラギン酸またはグルタミン酸(スキーム1Aおよび1B中の化合物(i)および(iii))を、薬剤または活性化されそして/または保護されたその誘導体と、カップリング試薬の存在下で反応させ、その後、脱保護することによって調製可能である。薬剤(D)は、本明細書記載の保護基の任意の1つで、任意の利用可能な官能基(例えばOH、NH、SH、カルボキシル等)で脱保護または保護されることも可能である。例示的なプロセスを、スキーム1Aおよび1Bに示す:
【化17】
式中、Pはカルボキシ保護基であり、Pはアミノ保護基であり、Pは薬剤D上の1またはそれより多い官能基上に位置する保護基であり、そしてnは0、1、2または3である。薬剤上の官能基の数に応じて、nはまた4、5、6等でありうる。
【0123】
1つの態様において、薬剤はシタラビンである。他の態様において、薬剤は、2’、3’および/または5’ヒドロキシル部分上に保護基を含む保護シタラビン、例えばトリフェニルメチル-シタラビン(CAS 7075-13-0)、ベンゾイル-シタラビン(CAS 34270-10-5)、アドマントイル-シタラビン(CAS 23113-01-1)、およびトリメチルシリル-シタラビンである。他の態様において、薬剤はゲムシタビンである。他の態様において、薬剤は、3’および/または5’ヒドロキシル部分上に保護基を含む保護ゲムシタビン、例えばトリフェニルメチル-ゲムシタビン(CAS 1642862-24-5)である。
【0124】
保護された薬剤の限定されない例は、保護されたシタラビンであり、2’、3’または5’ヒドロキシルの少なくとも1つが、上に定義するような基Pで保護されている。例示の目的のため、以下に示す1つの限定されない態様において、化合物は、式Eによって示され、式中、2’、3’または5’ヒドロキシルの各々は、基Pで保護される。
【化18】
【0125】
他の態様において、5’-OH基のみが保護される一方、2’および3’ヒドロキシルは保護されない。
【0126】
保護された薬剤の別の限定されない例は、保護されたゲムシタビンであり、3’または5’ヒドロキシルの少なくとも1つが、上に定義するような基Pで保護されている。例示の目的のため、以下に示す1つの限定されない態様において、化合物は、式Fによって示され、式中、3’または5’ヒドロキシルの各々は、基Pで保護される。
【化19】
【0127】
他の態様において、5’-OHのみが保護される一方、3’ヒドロキシルは保護されない。
【0128】
1つの態様において、本明細書において「経路A」と示される脱保護工程は、トリフルオロ酢酸(TFA)の存在下で行われ、その後、酸と反応させて、基Yが導入される。この態様によれば、本発明は、好ましくは残留不純物として約5%未満のTFA、好ましくは約1%未満のTFA、より好ましくは約0.1%未満のTFAを含む、薬学的に許容されうる塩を提供する。最も好ましくは、本発明の塩は、不純物として、TFAを実質的に含まない。
【0129】
別の態様において、本明細書において「経路B」と示される脱保護工程は、基Yを導入可能な試薬(すなわち酸)で直接実行されて、本発明の塩を直接提供する。この態様によれば、保護基は、基Yの導入と同時に除去され、そして生じた薬学的に許容されうる塩は、不純物として、TFAを完全に含まない。
【0130】
保護基(P)
化合物(I)の前駆体には、1またはそれより多い保護基(P)が含まれることも可能であり、これらは上記にP、P、およびPと例示され、当業者に公知である任意の保護基でありうる。用語「保護基」は、化学合成中に反応部位をブロックし、多官能化合物中の1つの反応部位で化学反応が選択的に実行されることを可能にし、他の反応部位が一時的にブロックされなければならない場合に用いられる化学残基を指す。これらの反応部位をブロックするために用いられる残基を保護基と呼ぶ。
【0131】
保護基は、ヒドロキシル保護基、アミノ保護基、カルボキシ保護基等でありうる。本明細書で用いられる用語「OH保護基」または「ヒドロキシ保護基」は、ヒドロキシル基に結合した容易に切断可能な基を指す。本明細書で用いられる用語「NH保護基」または「アミノ保護基」は、アミノ基に結合した容易に切断可能な基を指す。本明細書で用いられる用語「カルボキシ保護基」は、カルボキシ基に結合した容易に切断可能な基を指す。
【0132】
1つの態様によれば、保護基Pは、アセトアミドメチル(Acm)、アセチル(Ac)、アセトニド、アダマンチルオキシ(AdaO)、アルファ-アリル(OAll)、アロック、ベンゾイル(Bz)、ベンジル(Bzl)、ベンジルオキシ(BzlO)、ベンジルオキシカルボニル(Z)、ベンジルオキシメチル(Bom)、ビス-ジメチルアミノ(NMe)、2-ブロモベンジルオキシカルボニル(2-Br-Z)、t-ブトキシ(tBuO)、t-ブトキシカルボニル(Boc)、t-ブトキシメチル(Bum)、t-ブチル(tBu)、t-ブチルチオ(tButhio)、2-クロロベンジルオキシカルボニル(2-Cl-Z)、2-クロロトリチル(2-Cl-Trt)、シクロヘキシルオキシ(cHxO)、1-シクロプロピル-1-メチル-エチル(Dmcp)、2,6-ジクロロベンジル、4,4’-ジメトキシベンズヒドリル(Mbh)、1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソ-シクロへキシリデン)-3-メチルブチル(ivDde)、4{N-[1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソ-シクロへキシリデン)-3-メチルブチル]-アミノ}ベンジルオキシ(ODmab)、2,4-ジニトロフェニル(Dnp)、フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)、ホルミル(For)、メシチレン-2-スルホニル(Mts)、4-メトキシベンジル、4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル(Mtr)、4-メトキシトリチル(Mmt)、4-メチル(methy)ベンジル(MeBzl)、3-メチルペンタ-3-イル(Mpe)、1-メチル-1-フェニル-エチル(PhiPr)、メチル、4-メチルトリチル(Mtt)、3-ニトロ-2-ピリジンスルフェニル(Npys)、2,2,4,6,7-ペンタメチル-ジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル(Pbf)、2,2,5,6,8-ペンタメチル-クロマン-6-スルホニル(Pmc)、トシル(Tos)、トリフルオロアセチル(Tfa)、トリメチルアセトアミドメチル(Tacm)、トリフェニルメチル(トリチル、Trt)およびキサンチル(Xan)の群より選択される。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0133】
ヒドロキシル保護基の限定されない例は、アシル基(COR、式中、R=アルキル、アリール等)である。現在好ましいアシル基はアセチル基(すなわちOR’=アセテート、OAc)である。ヒドロキシ保護基の別の例はシリル基であり、これはアルキル(トリアルキルシリル)、アリール(トリアリールシリル)、またはその組み合わせ(例えばジアルキルフェニルシリル)で置換可能である。シリル保護基の好ましい例は、トリメチルシリル(TMS)またはジ-t-ブチルジメチルシリル(TBDMS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、トリエチルシリル(TES)である。ヒドロキシ保護基の他の例には、例えば、C-Cアルキル、-CO-(C-Cアルキル)、-SO-(C-Cアルキル)、-SO-アリール、-CO-Ar、式中、Arは上に定義するようなアリール基である、および-CO-(C-Cアルキル)Ar(例えばカルボキシベンジル(Bz)基)が含まれる。
【0134】
アミノ保護基の例には、t-ブトキシカルボニル(BOC)、ベンジルオキシカルボニル、アセチル、フェニルカルボニル、あるいはシリル基であって、アルキル(トリアルキルシリル)、アリール(トリアリールシリル)、またはその組み合わせ(例えばジアルキルフェニルシリル)で置換可能なシリル基、例えばトリメチルシリル(TMS)またはt-ブチルジメチルシリル(TBDMS)が含まれる。ヒドロキシ保護基の他の例には、例えば、C-Cアルキル(例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル等)、-CHPh(ベンジルまたはbzl)、アリル(All)、(アリル)-CO-(C-Cアルキル)、-SO-(C-Cアルキル)、-SO-アリール、-CO-Ar、式中、Arは上に定義するようなアリール基である、および-CO-(C-Cアルキル)Ar(例えばカルボキシベンジル(Bz)基)が含まれる。ヒドロキシ保護基の他の例には、酸感受性保護基、例えばテトラヒドロピラニル(THP)、メトキシメチル(MOM)、トリフェニルメチル(トリチル)およびジメトキシトリチル(DMT)が含まれる。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0135】
代表的なカルボキシ保護基には、限定されるわけではないが、メチル、エチル、t-ブチル、ベンジル(Bn)、p-メトキシベンジル(PMB)、9-フルオレニルメチル(Fm)、トリメチルシリル(TMS)、t-ブチルジメチルシリル(TBDMS)、ジフェニルメチル(ベンズヒドリル、DPM)等が含まれる。保護基は、本発明の原理によれば、好ましくは薬学的塩部分と同じ脱保護剤によって除去可能である。特定の態様において、酸感受性保護基の除去に適した薬学的酸は:酢酸、アセツル酸、4-アセトアミド-安息香酸、アジピン酸、アミノ馬尿酸、4-アミノ-サリチル酸、アスコルビン酸、アルギン酸、アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、ホウ酸、酪酸、カプリン(デカン)酸、カプロイン(ヘキサン)酸、カルボン酸、クエン酸、カンフル酸、カンファースルホン酸、カプリル(オクタン)酸、シクラミン酸、桂皮酸、2,2-ジクロロ-酢酸、ジ(t-ブチル)-ナフタレンスルホン酸、ジ(t-ブチル)-ナフタレンジスルホン酸、デヒドロ酢酸、ジアトリゾ酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エデト酸、エタンスルホン酸、2-エチル-ヘキサン酸、エリソルビン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル(ムチン)酸、ゲンチジン酸、グルカル酸、グルコヘプタン酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、グリセロリン酸、グリコール酸、馬尿酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、2-(4-ヒドロキシベンゾイル)-安息香酸、2-ヒドロキシ-エタンスルホン(イセチオン)酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、イソ酪酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリン酸、ヨードキサム酸、イソステアリン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メドロン酸、メタンスルホン酸、メタリン酸、メチルボロン酸、ミリスチン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、オロト酸、シュウ酸、2-オキソ-グルタル(ケトグルタル)酸、パルミチン酸、パモ(エンボン)酸、ペンテト酸、プロピオン酸、プロパン酸、ピログルタミン酸、ピルビン酸、リン酸、サッカリン酸、サリチル酸、セバシン酸、ソルビン酸、ステアリン(オクタデカン)酸、スベリン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、チアゾキシム酸、チオシアン酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸およびウンデシレン(ウンデカ-10-エン)酸である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0136】
特定の態様において、式(IV)の前駆体化合物と反応し、保護基を除去する薬学的に許容されうる酸は、酢酸、メタンスルホン酸、塩酸、リン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、ホウ酸、安息香酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、アスコルビン酸、硫酸、マレイン酸、ギ酸、マロン酸、ニコチン酸およびシュウ酸からなる群より選択される。こうした態様によれば、生じる塩は、酢酸塩、塩酸塩、メタンスルホン酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、トルエンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、アスコルビン酸塩、硫酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、マロン酸塩、ニコチン酸塩およびシュウ酸塩からなる群より選択される。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0137】
特定の態様において、塩基感受性保護基の除去に適した薬学的塩基は:水酸化アルミニウム、アンモニア、アルギニン、ベネタミン、ベンザチン、ベタイン、t-ブチルアミン(エルブミン)、水酸化カルシウム、水酸化コリン、デアノール、ジエチルアミン、2-ジエチルアミノ-エタノール、ジエタノールアミン、エタノールアミン、エチレンジアミン、ヒドラバミン、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、1-(2-ヒドロキシエチル)-ピロリジン(エポラミン)、イミダゾール、水酸化リチウム、リジン、N-メチルグルカミン(メグルミン)、水酸化マグネシウム、4-フェニルシクロヘキシラミン、ピペラジン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、トロメタミン、および水酸化亜鉛である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0138】
他の態様において、H Pd/Cは、保護基が例えばベンジルである場合、脱保護剤として使用可能である。
【0139】
保護基を含有する前駆体化合物は、一般的に、本明細書上記のスキーム1Aおよび1Bに記載されうる。
【0140】
特定の態様において、前駆体は、Boc-Asp(シタラビン)-OtBu(式A)であり、一方、保護基は酸によって除去可能であり、Asp(シタラビン)・Y(式1)を生じ、一方、Yは薬学的酸の酸塩型である。
【0141】
特定の態様において、前駆体は、Boc-Asp(ゲムシタビン)-OtBu(式B)であり、一方、保護基は酸によって除去可能であり、Asp(ゲムシタビン)・Y(式2)を生じ、一方、Yは薬学的酸の酸塩型である。
【0142】
他の特定の態様において、前駆体は、Boc-Glu(シタラビン)-OtBu(式C)であり、一方、保護基は酸によって除去可能であり、Glu(シタラビン)・Y(式3)を生じ、一方、Yは薬学的酸の酸塩型である。
【0143】
他の特定の態様において、前駆体は、Boc-Glu(ゲムシタビン)-OtBu(式D)であり、一方、保護基は酸によって除去可能であり、Glu(ゲムシタビン)・Y(式4)を生じ、一方、Yは薬学的酸の酸塩型である。他の適切な保護基は、例えばその内容が本明細書に援用されるWutsおよびGreene,2007,”Greene’s protective groups in organic synthesis”,第4版に記載される。
【0144】
保護基が、薬学的塩を生成する化合物によって除去されることが好ましいが、本発明はこうした態様に限定されない。当業者には、保護基が他の脱保護剤によって除去可能であり、そして薬剤の塩型が別個の続く工程において生成可能であることが明らかである。
【0145】
薬剤はそのままで、あるいはその活性化されたまたは保護された誘導体として使用可能である。例えば、本発明の1つの態様には、ジ-アミノ酸-シタラビンまたはジ-アミノ酸-ゲムシタビン副産物(すなわちアラビノース部分の5’-OHに第二のアミノ酸が付着している)の形成を防止するかまたは最小限にするように、糖部分(C2、C3および/またはC5)のヒドロキシル基上で保護されている、シタラビンまたはゲムシタビンの使用が含まれる。糖部分上の保護基は、上述の保護基のいかなる1つであることも可能であり、これらは本明細書に記載するような適切な脱保護剤で除去可能である。
【0146】
有機/アミノ酸付着部位、保護基、および薬学的塩型等の選択に適用される原理を、例示的化合物に関して、本明細書に詳述する。原理は、以下のように一般化可能である:
a)有機酸/アミノ酸またはアミノ酸誘導体または類似体の選択:アスパラギン酸/アスパラギンおよびグルタミン酸/グルタミンならびに悪性または癌細胞による迅速な取り込みを経ることが可能な誘導体または類似体のいずれかが適切であり、薬剤可溶性、安定性、生物学的利用能および患者コンプライアンスを改善する他の有機酸も同様である;
b)有機酸/アミノ酸の保護基の選択:薬学的塩を生成する化合物によって除去可能な、有機酸/アミノ酸上の化学的官能基に適した保護基から、基を選択可能であり、他の除去可能な保護基も同様である;
c)薬剤の選択:薬剤は、抗増殖剤、細胞傷害性剤および細胞分裂停止剤から選択可能である;
d)薬剤の保護基の選択;薬学的塩を生成する化合物によって除去可能な、薬剤上の化学的官能基に適した保護基から、基を選択可能であり、他の除去可能な保護基も同様である;
e)有機酸への薬剤のコンジュゲート化のための反応条件の選択:最適な溶媒、触媒、添加剤、ならびに多様な反応工程の時間および温度。
f)保護基の除去のための条件の選択:薬学的塩または保護基の除去に適した他の化合物および当業者に公知であるスカベンジャー(WutsおよびGreene、2007)による。
g)薬学的塩の選択:塩は、ミネラル、酸付加塩、塩基塩およびその組み合わせより選択可能である。
h)薬学的塩生成のための条件の選択:最適な溶媒/逆溶媒、濃度ならびに反応の時間および温度。
【0147】
コンジュゲート化反応のための化合物および条件を、限定されるわけではないが以下の構成要素によって例示する:
【0148】
溶媒:ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、エタノール、ジエチルエーテル、エチルアセテート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジクロロメタン(DCM)、ジクロロエタン(DCE)、ヘプタン、ヘキサン、ピリジン、2-プロパノール、メタノール、tert-ブチルメチルエーテル、N-メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、トリフルオロエタノール(TFE)、水およびその組み合わせ。
【0149】
触媒/カップリング試薬:BOP(ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス-(ジメチルアミノ)-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、CDI(N,N’-カルボニルジイミダゾール)、COMU(1-[(1-(シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノモルホリノ)]ウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、DCC(N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド)、DIC(N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド)、EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)、DEPBT(3-(ジエトキシ-ホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾ[d]トリアジン-4(3H)-オン)、HATU、HBTU(2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、HCTU(O-(1H-6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、MSNT(1-(メシチレン-2-スルホニル)-3-ニトロ-1H-1,2,4-トリアゾール)、PyBOP(ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス-ピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、PyBroP(ブロモ-トリス-ピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、TBTU(2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルアミニウムテトラフルオロボレート)、TFFH(テトラメチルフルオロホルムアミジニウムヘキサフルオロホスフェート)、TOTU(O-[(エトキシカルボニル)シアノメチレンアミノ]-N,N,N’,N’,-テトラメチルウロニウム)。
【0150】
添加剤:DIPEA(ジイソプロピルエチルアミン)、DMAP(ジメチルアミノピリジン)、ピリジン、トリエチルアミン、HOAt(N-ヒドロキシ-9-アザベンゾトリアゾール)、HOBt(N-ヒドロキシベンゾトリアゾール)、Oxymaピュア、NaclO、LiCl、KSCNおよびTriton。
【0151】
約0℃~約80℃、好ましくは約4℃~約25℃の反応温度。
【0152】
約3分間~約72時間、好ましくは約3~約24時間の反応時間。
【0153】
保護基の除去のための化合物および条件は、限定されるわけではないが、以下の構成要素によって例示される:
【0154】
薬学的塩:薬学的に許容されうるミネラル、塩基、酸または塩を含む;保護基を除去するための好ましい酸および塩はpKa≦3を有し、そして好ましい塩基および塩はpKa>9を有する。
【0155】
pKa≦3を有する保護基を除去するための好ましい酸は:ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、シクラミン酸、2,2-ジクロロ-酢酸、ジ(t-ブチル)-ナフタレンスルホン酸、ジ(t-ブチル)-ナフタレンジスルホン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、ガラクタル(ムチン)酸、ゲンチジン酸、グルカル酸、グルコン酸、グリセロリン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、2-ヒドロキシ-エタンスルホン(イセチオン)酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、マレイン酸、マロン酸、メドロン(ビスホスホン)酸、メタンスルホン酸、メタリン酸、メチルボロン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、硝酸、オロト酸、シュウ酸、2-オキソ-グルタル(ケトグルタル)酸、パモ(エンボン)酸、ピルビン酸、リン酸、サッカリン酸、サリチル酸、硫酸、酒石酸、チオシアン酸、トルエンスルホン酸、およびトリフルオロ酢酸からなる群より選択される。
【0156】
他の保護基除去化合物には、限定されるわけではないが:TMSBr、HBF、HF、ピペリジン、Pd(PhP)、NHNH、I、ならびにTl、Hg、Ag、およびPdの化合物が含まれる。
【0157】
スカベンジャー:HO、TIS、TES、EDT、m-クレゾール、チオアニソール、アニソール、フェノール。
【0158】
-20℃から80℃、好ましくは0℃~25℃の温度。
【0159】
1分間~24時間、好ましくは1~3時間の時間。
【0160】
薬学的塩生成のための化合物および条件は、以下より選択される:
【0161】
薬学的酸で化合物を溶解するための溶媒:HO、ジオキサン、エチルアセテート、メタノール、エタノール、イソプロパノール、DMSO、テトラヒドロホラン(tetrahydroforan)(THF)およびトリフルオロエタノール(TFE)、またはその任意の組み合わせ。1つの現在好ましい態様において、溶媒はHOである。別の現在好ましい態様において、溶媒はジオキサンである。
【0162】
式(I)に示す産物を沈殿させるための逆溶媒:ジエチル-エーテル、t-ブチル-メチル-エーテル(tBME)、ヘキサン、ヘプタン、DCM。
【0163】
1:1~1:30、好ましくは1:1.1~1:3の化合物対薬学的塩のモル比、室温(25℃)で1時間インキュベーション。
【0164】
本発明は、一般式(I)の薬学的に許容されうる塩の水和物をさらに開示する。
【0165】
1つの特定の態様において、薬学的に許容されうる酸はHClであり、使用される溶媒はHOまたはジオキサンである。予期せぬことに、ジオキサン/HClを用いた場合、産物は脱保護反応中に沈殿し、別の沈殿工程の必要がないことが見出されてきている。
【0166】
薬学的組成物
本発明は、本発明の化合物の少なくとも1つおよび1またはそれより多い薬学的に許容されうる賦形剤または希釈剤を含む、薬学的組成物をさらに提供する。
【0167】
本発明の化合物を含む組成物は、選択された生物学的系への活性剤の送達に、そして送達剤を伴わない活性剤の投与に比較して、活性剤の増加したまたは改善された生物学的利用能に有用性を有する。送達は、ある期間に渡ってより多くの活性剤を送達することによって、または特定の期間(例えばより迅速なまたは遅延された送達を達成するため)に、または長期間に渡って(例えば持続送達)、活性剤を送達する際に、改善されうる。
【0168】
本発明の薬学的組成物は、当該技術分野に周知のプロセスによって、例えば従来の混合、溶解、顆粒化、粉砕、微粉砕、ドラジェ作製、湿式粉砕(levigating)、乳化、被包、捕捉または凍結乾燥プロセスによって製造可能である。
【0169】
本明細書で用いられる「薬学的組成物」は、本明細書記載の化合物の1またはそれより多く、あるいはその薬学的に許容されうる塩または溶媒と、他の化学的構成要素、例えば生理学的に適切なキャリアーおよび賦形剤の調製物を指す。薬学的組成物の目的は、被験体への化合物の投与を容易にすることである。
【0170】
本発明の薬学的組成物は、非経口および経口投与経路からなる群より選択される任意の適切な投与経路によって投与可能である。いくつかの態様によれば、投与経路は非経口投与を通じる。多様な態様において、投与経路は、静脈内、動脈内、筋内、皮下、腹腔内、脳内、脳室内、クモ膜下腔内または皮内投与経路である。例えば、薬学的組成物を、全身に、例えば静脈内(i.v.)または腹腔内(i.p.)注射または注入によって投与することも可能である。特定の態様によれば、薬学的組成物を、30分間~2時間、例えば1時間、静脈内注入によって投与する。本発明の組成物を局所投与することも可能であり、該組成物はさらに、さらなる活性剤および/または賦形剤を含むことも可能である。
【0171】
本発明による使用のための薬学的組成物は、したがって、活性化合物を薬学的に使用可能な調製物にプロセシングすることを容易にする、賦形剤および補助剤を含む、1またはそれより多い生理学的に許容されうるキャリアーを用いた従来の方式で、配合可能である。適切な配合物は、選択した投与経路に応じる。
【0172】
注射に関しては、本発明の化合物は、水溶液中、好ましくは生理学的に適合した緩衝剤、例えばハンクスまたはリンゲル溶液あるいは生理学的食塩水緩衝剤中で配合可能である。経粘膜および経皮投与に関しては、バリアに浸透するために適切な浸透剤を配合物中に用いることも可能である。例えばDMSOまたはポリエチレングリコールを含む、こうした浸透剤は、当該技術分野に公知である。
【0173】
経口投与に関しては、活性化合物と、当該技術分野に周知の薬学的に許容されうるキャリアーを合わせることによって、化合物を容易に配合可能である。こうしたキャリアーは、本発明の化合物が、患者による経口摂取のため、錠剤、ピル、ドラジェ、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁物等として配合されることを可能にする。固形賦形剤を用いて、場合によって生じた混合物を粉砕し、そして所望である場合、適切な補助剤を添加した後に、顆粒混合物をプロセシングして、錠剤またはドラジェコアを得て、経口使用のための薬理学的調製物を作製することも可能である。適切な賦形剤は、特に、充填剤、例えばラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含む糖;セルロース調製物、例えばトウモロコシデンプン、小麦デンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボメチルセルロースナトリウム;および/または生理学的に許容されうるポリマー、例えばポリビニルピロリドン(PVP)である。所望である場合、崩壊剤、例えば架橋ポリビニルピロリドン、寒天またはアルギン酸またはその塩、例えばアルギン酸ナトリウムを添加することも可能である。
【0174】
さらに、胃の環境に対する本発明の化合物の曝露を防止することが所望である場合には、溶腸コーティングが有用である。
【0175】
経口的に使用可能な薬学的組成物には、ゼラチン製のプッシュフィットカプセル、ならびにゼラチンおよび可塑化剤、例えばグリセロールまたはソルビトールでできた柔らかい密封カプセルが含まれる。プッシュフィットカプセルは、充填剤、例えばラクトース、結合剤、例えばデンプン、潤滑剤、例えばタルクまたはステアリン酸マグネシウム、および場合によって安定化剤と混合された活性成分を含有することも可能である。
【0176】
柔らかいカプセルにおいて、活性化合物は、適切な液体、例えば脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコール中に溶解しているかまたは懸濁されていることも可能である。さらに、安定化剤を添加可能である。経口投与のためのすべての配合物は、選択した投与経路に適した投薬型であるべきである。
【0177】
頬側投与に関しては、組成物を、従来の方式で配合される錠剤またはロゼンジの形で摂取することも可能である。
【0178】
吸入による投与に関しては、本発明によって使用するための活性化合物は、加圧パックまたはネブライザーから、適切な噴霧剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロ-テトラフルオロエタンまたは二酸化炭素の使用で、エアロゾルスプレー提示の形で好適に送達される。加圧エアロゾルの場合、計測した量を送達するためのバルブを提供することによって、投薬単位を決定可能である。例えば吸入装置または注入装置で使用するためのゼラチンの、カプセルおよびカートリッジを、ペプチドの粉末混合物およびラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基剤を含有して、配合可能である。
【0179】
非経口投与のための薬学的組成物には、水溶型の活性成分の水溶液が含まれる。さらに、活性化合物の懸濁物は、適切な油性注射懸濁物として調製可能である。適切な親油性溶媒またはビヒクルには、脂肪油、例えばゴマ油、または合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチル、トリグリセリドまたはリポソームが含まれる。水性注射懸濁物は、懸濁物の粘性を増加させる物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランを含有することも可能である。場合によって、懸濁物はまた、化合物の可溶性を増加させて、非常に濃縮された溶液の調製を可能にする、適切な安定化剤または剤を含有することも可能である。
【0180】
本発明の活性化合物はまた、例えば従来の座薬基剤、例えばココアバターまたは他のグリセリドを用いて、直腸組成物、例えば座薬または停留浣腸剤に配合されることも可能である。
【0181】
治療しようとする状態の重症度および反応性に応じて、投薬はまた、数日から数週間持続する、あるいは治癒が達成されるかまたは疾患状態の減衰が達成されるまでの治療経過で、緩慢放出組成物の単回投薬でもありうる。投与される組成物の量は、もちろん、治療される被験体、苦痛の重症度、投与方式、処方医の判断を含む多くの要因に依存するであろう。
【0182】
特定の態様によれば、本発明の薬学的に許容されうる塩の配合物は、約300mOsmのモル浸透圧濃度および4~8のpHを有する水性等張溶液として提供される。したがって、本発明の化合物の薬学的に許容されうるキャリアーは、約300mOsmのモル浸透圧濃度および4~8のpHを有する、緩衝生理食塩水溶液、緩衝デキストロース溶液、または緩衝グリセロール溶液であることも可能である。
【0183】
他の態様において、緩衝溶液は、4~8の範囲のイオン化pKを有する、薬学的に許容されうる一イオン性緩衝剤系または多イオン性緩衝剤系であることも可能である。
【0184】
4~8のpKを有する多様な緩衝剤が、本発明の薬学的に許容されうる塩を含有する溶液のpHを調整するために使用可能であり、例えば、ACES(N-(アセタミド)-2-アミノエタンスルホン酸);酢酸;N-(2-アセタミド)-2-イミノ二酢酸;BES(N,N-ビス[2-ヒドロキシエチル]-2-アミノエタンスルホン酸);ビシン(2-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)酢酸);Bis-Trisメタン(2-[ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール);Bis-Trisプロパン(1,3-ビス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)プロパン);炭酸;クエン酸;3,3-ジメチルグルタル酸;DIPSO(3-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸);N-エチルモルホリン;グリセロール-2-リン酸;グリシン;グリシン-アミド;HEPBS(N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-4-ブタンスルホン酸);HEPES(N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸);HEPPS(N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(3-プロパンスルホン酸));HEPPSO(N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸));ヒスチジン;ヒドラジン;イミダゾール;マレイン酸;2-メチルイミダゾール;MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸);MOBS(4-(N-モルホリノ)-ブタンスルホン酸);MOPS(3-(N-モルホリノ)-プロパンスルホン酸);MOPSO(3-(N-モルホリノ)-2-ヒドロキシ(hydroy)プロパンスルホン酸);シュウ酸;リン酸;ピペラジン;PIPES(1,4-ピペラジン-ジエタンスルホン酸);POPSO(ピペラジン-N,N’-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸));コハク酸;亜硫酸;TAPS(3-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]プロパン-1-スルホン酸);TAPSO(3-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]-2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸);酒石酸;TES(2-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]エタンスルホン酸);THAM(Tris)(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-プロパン-1,3-ジオール);およびトリシン(N-(2-ヒドロキシ-1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル)グリシン)である。
【0185】
いくつかの態様によれば、緩衝剤は、限定されるわけではないが、ACES、BES、DIPSO、HEPBS、HEPES、HEPPS、HEPPSO、MES、MOBS、MOPS、MOPSO、PIPES、POPSO、亜硫酸、TAPS、TAPSO、およびTES緩衝剤を含む、スルホン酸誘導体緩衝剤である。
【0186】
さらなる態様によれば、緩衝剤は、限定されるわけではないが、酢酸、N-(2-アセトアミド)-2-イミノ二酢酸、2-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)酢酸、炭酸、クエン酸、3,3-ジメチルグルタル酸、乳酸、マレイン酸、シュウ酸、コハク酸、および酒石酸緩衝剤を含む、カルボン酸誘導体緩衝剤である。
【0187】
さらなる態様によれば、緩衝剤は、限定されるわけではないが、ビシン、グリシン、グリシン-アミド、ヒスチジン、およびトリシン緩衝剤を含む、アミノ酸誘導体緩衝剤である。
【0188】
さらにさらなる態様によれば、緩衝剤は、限定されるわけではないが、グリセロール-2-リン酸およびリン酸緩衝剤を含む、リン酸誘導体緩衝剤である。
【0189】
あるいは、緩衝生理食塩水配合物は、例えばハンクス平衡塩溶液、アールの平衡塩溶液、ゲイの平衡塩溶液、HEPES緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、Plasma-lyte、リンゲル溶液、リンゲル酢酸、リンゲル乳酸、クエン酸生理食塩水、またはTris緩衝生理食塩水でありうる。
【0190】
緩衝デキストロース溶液配合物は、例えば、酸-クエン酸-デキストロース溶液またはエリオットのB溶液でありうる。
【0191】
例示的な態様によれば、注射用溶液は、Baxterから購入したPlasma-Lyte Aまたは化合物、乳酸ナトリウムである。
【0192】
療法使用
本発明の化合物は、細胞増殖を停止させるか、または過剰増殖細胞の細胞死を誘導する際に有用であり、該化合物の中には、当該技術分野に公知であるような既知の細胞傷害性、細胞分裂停止、抗増殖薬剤が存在し、これらが含まれる。こうしたものとして、本発明の化合物は、多様な癌の治療および防止、ならびに骨髄移植前の前治療において有用である。
【0193】
したがって、いくつかの態様において、本発明は、転移、あるいは前癌状態または障害を含む癌を治療する方法であって、治療が必要な被験体に、療法的に有効な量の本明細書に記載するような式(I)の塩、またはこうした式によって含まれる任意の化合物、例えば化合物(II)、(III)、(1)、(1A)、(1B)、(2)、(3)または(4)を投与する工程を含む、前記方法を提供する。
【0194】
他の態様において、本発明は、転移、あるいは前癌状態または障害を含む癌の治療に使用するための、本明細書に記載するような式(I)の塩、またはこうした式によって含まれる任意の化合物、例えば化合物(II)、(III)、(1)、(1A)、(1B)、(2)、(3)または(4)を提供する。
【0195】
いくつかの態様において、癌は、非固形または固形腫瘍またはその組み合わせによって特徴付けられる。他の態様において、癌は血液学的癌である。
【0196】
いくつかの特定の態様において、癌は、白血病およびリンパ腫を含む、リンパ増殖性障害より選択される非固形腫瘍によって特徴付けられる。
【0197】
他の特定の態様において、固形腫瘍によって特徴付けられる癌は、中枢神経系(CNS)の腫瘍、肝臓癌、結腸直腸癌、乳癌、胃癌、膵臓癌、膀胱癌、子宮頸癌、頭頸部腫瘍、外陰部癌、ならびに黒色腫、扁平上皮癌および基底細胞癌を含む皮膚科学的新生物からなる群より選択される。
【0198】
本発明の塩型は、任意の哺乳動物、好ましくはヒトを治療するために使用可能である。他の態様において、本発明は、骨髄移植の候補者である個体を治療する方法であって、移植の前に、前記個体を、本明細書に記載するような式(I)の塩、またはこうした式によって含まれる任意の化合物、例えば化合物(II)、(III)、(1)、(1A)、(1B)、(2)、(3)または(4)で前治療する工程を含む、前記方法に関する。他の態様において、本発明は、骨髄移植前の前治療に使用するための、本明細書に記載するような式(I)の塩、またはこうした式によって含まれる任意の化合物、例えば化合物(II)、(III)、(1)、(1A)、(1B)、(2)、(3)または(4)に関する。
【0199】
いくつかの態様において、癌は血液学的癌または非血液学的癌より選択可能である。
【0200】
血液学的癌には、白血病、リンパ腫および骨髄腫が含まれ、限定されるわけではないが、骨髄性白血病、リンパ球性白血病、例えば急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、およびワルデンストレームのマクログロブリン血症が含まれる。血液学的癌は、再発性/難治性癌、または新規に診断された癌でありうる。
【0201】
固形腫瘍としてもまた公知である非血液学的癌には、限定されるわけではないが、肉腫、癌腫、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血液肉腫、内皮肉腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝腫瘍、胆管癌、絨毛癌、セミノーマ、胚癌、ウィルムス腫瘍子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、星状腫、カポジ肉腫、および黒色腫が含まれる。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0202】
非血液学的癌には、臓器の癌が含まれ、ここで臓器の癌には、限定されるわけではないが、乳癌、膀胱癌、結腸癌、直腸癌、子宮内膜癌、腎臓癌、肺癌、子宮頸癌、膵臓癌、前立腺癌、精巣癌、甲状腺癌、卵巣癌、上衣腫、神経膠腫、神経膠芽腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、松果体腫を含む脳癌、聴覚神経腫、血管芽腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫、神経芽腫、網膜芽細胞腫、およびその転移が含まれる。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0203】
別の側面において、本発明は、前癌状態または障害を治療する方法であって、治療が必要な被験体に、療法的に有効な量の本明細書に記載するような式(I)の塩、またはこうした式によって含まれる任意の化合物、例えば化合物(II)、(III)、(1)、(1A)、(1B)、(2)、(3)または(4)を投与する工程を含む、前記方法を提供する。
【0204】
別の側面において、本発明は、前癌状態または障害の治療に使用するための、本明細書に記載するような式(I)の塩、またはこうした式によって含まれる任意の化合物、例えば化合物(II)、(III)、(1)、(1A)、(1B)、(2)、(3)または(4)を提供する。
【0205】
用語、前癌障害または状態には、骨髄異形成症候群(MDS)が含まれる。用語「骨髄異形成症候群」(MDS)は、血球減少症、無効な造血および過剰細胞性骨髄によって特徴付けられる造血性前悪性疾患の不均一な群を指す。MDSは、急性骨髄性白血病(AML)への転換が、症例のおよそ30~40%で起こる、前白血病状態である。同種幹細胞移植が提供可能でない限り、MDSは、一般的に不治の状態と見なされる。
【0206】
本発明はさらに、癌を引き起こすウイルスであるウイルス性病原体によって引き起こされる感染の治療法であって、本明細書に記載するような式(I)の塩、またはこうした式によって含まれる任意の化合物、例えば化合物(II)、(III)、(1)、(1A)、(1B)、(2)、(3)または(4)を投与する工程を含む、前記方法を提供する。したがって、本発明は、ウイルス性癌遺伝子によって引き起こされるウイルス感染の治療法を提供する。こうしたウイルスの限定されない例には、ヒト・パピローマウイルス、B型肝炎、C型肝炎、エプスタイン-バーウイルス、ヒトTリンパ球指向性ウイルス、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス、およびメルケル細胞ポリオーマウイルスが含まれる。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0207】
ウイルス性疾患は、限定されるわけではないが、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、および帯状疱疹ウイルス(VZV)を含む他のウイルスによっても引き起こされうる。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。1つの態様によれば、ウイルス性疾患は、ヘルペスウイルス脳炎である。
【0208】
本発明の方法は、免疫学的疾患または障害を有する被験体において、新生物疾患を治療するために有用でありうる。免疫学的疾患または障害には、限定されるわけではないが、関節リウマチ(RA)、乾癬性関節炎、全身性エリテマトーデス(SLE)、ループス腎炎、炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群、I型糖尿病、免疫血小板減少性紫斑病、多発性硬化症、シェーグレン症候群、橋本甲状腺炎、グレーブス病、原発性胆汁性肝硬変、ウェゲナーの肉芽腫、結核、およびワルデンストレームのマクログロブリン血症が含まれる。
【0209】
本発明の方法は、臓器機能不全、例えば肝機能不全、腎機能不全、膵臓機能不全、骨髄機能不全、および脳機能不全を有する被験体において、新生物疾患を治療するために有用でありうる。
【0210】
用語「肝機能不全」は、肝臓機能が正常状態に比較して減少している状態を指す。一般的に、肝機能不全は、肝臓機能の検査項目の任意の1またはそれより多い測定値(例えば血液AST、ALT、ALP、TTT、ZTT、総ビリルビン、総タンパク質、アルブミン、乳酸デヒドロゲナーゼ、コリンエステラーゼ等のレベル)が、正常値(参照値)の範囲から逸脱していることで特徴付けられる状態である。肝機能不全は、例えば、劇症肝炎、慢性肝炎、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、肝線維症、肝硬変、肝癌、自己免疫性肝炎、薬剤アレルギー性肝疾患、および原発性胆汁性肝硬変などの疾患の特徴である。
【0211】
腎機能不全は、例えば急性腎不全、糸球体腎炎、慢性腎不全、高窒素血症、尿毒症、免疫腎疾患、急性腎炎症候群、迅速進行性腎炎症候群、ネフローゼ症候群、ベルジェ病、慢性腎炎/タンパク尿症候群、尿細管間質性疾患、腎毒性障害、腎梗塞、アテローム塞栓性腎疾患、腎皮質壊死、悪性腎血管硬化症、腎静脈塞栓症、尿細管性アシドーシス、腎性糖尿、腎性尿崩症、バーター症候群、リドル症候群、多発性嚢胞腎、間質性腎炎、急性溶血性尿毒症症候群、髄質嚢胞腎、海綿腎、遺伝性腎炎、および爪膝蓋骨症候群などの疾患の特徴である。
【0212】
膵臓機能不全は、例えば糖尿病、高血糖、グルコース耐性不全、およびインスリン耐性などの疾患の特徴である。
【0213】
骨髄機能不全は、例えば骨髄炎、造血異常、イオン不全性貧血、悪性貧血、巨赤芽球症、溶血性貧血、および再生不良性貧血などの疾患の特徴である。
【0214】
脳機能不全は、例えば筋緊張低下、構音障害、測定障害、反復拮抗運動不全、反射不全、および企図振戦などの運動および神経行動学的障害の特徴である。
【0215】
1つの態様において、被験体は、抗癌剤、例えばシタラビンでの治療に感受性でない、医学的に損なわれた被験体である。医学的に損なわれた被験体は、高齢被験体、肝機能不全を有する被験体、腎機能不全を有する被験体、膵臓機能不全を有する被験体、骨髄機能不全を有する被験体、脳機能不全を有する被験体、免疫学的障害を有する被験体、難治性または再発性血液学的癌を有する被験体、およびその任意の組み合わせからなる群より選択されうる。
【0216】
本明細書記載の化合物の毒性および療法効果は、細胞培養または実験動物において、標準的薬学的方法によって、例えば対象化合物に関するIC50(50%の細胞増殖阻害を提供する濃度)およびMTD(試験動物における最大許容用量)を決定することによって決定可能である。細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータを、ヒト被験体において使用するためのある範囲の投薬量を配合する際に使用することも可能である。投薬量は、使用する投薬型、および利用する投与経路に応じて多様でありうる。正確な配合、投与経路、および投薬量は、患者の状態を考慮して、個々の医師によって選択可能である(例えばFinglら,1975,”The Pharmacological Basis of Therapeutics,”第1章、pp.1を参照されたい)。
【0217】
本発明の組成物中で用いる活性剤の量は、ターゲット徴候に関する特定の活性剤の目的を達成するために有効な量である。組成物中の活性剤の量は、典型的には、療法的、薬理学的、生物学的、または化学的に有効な量である。しかし、量は、組成物を投薬単位型で用いる場合の量よりも少ないことも可能であり、これは投薬単位型が、単一組成物中に、複数の化合物または活性剤を含有することも可能であるし、あるいは分割された薬理学的、生物学的、療法的、または化学的有効量を含有することも可能であるためである。次いで、総有効量を、総合して活性剤の有効量を含有する累積単位で投与することも可能である。
【0218】
本発明の塩を、約0.3g/m~約10g/m被験体表面積の範囲の一日用量で投与することも可能である。いくつかの態様によれば、塩を、約0.5g/m~約5g/m被験体表面積の範囲の一日用量で投与することも可能である。いくつかの態様によれば、塩を、約0.5g/m~約4.5g/m被験体表面積の範囲の一日用量で投与することも可能である。他の態様によれば、塩を、約0.3、0.5、0.8、1、1.5、2、2.3、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10g/m被験体表面積の一日用量で投与する。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0219】
いくつかの態様によれば、本発明の塩を、静脈内注入によって、0.3g/m~4.5g/m被験体表面積の範囲の一日用量で投与する。
【0220】
いくつかの態様によれば、薬学的組成物は、1ヶ月に少なくとも1回投与される。さらなる態様によれば、薬学的組成物は、1ヶ月に少なくとも2回投与される。さらなる態様によれば、薬学的組成物は、1週間に少なくとも1回投与される。さらにさらなる態様によれば、薬学的組成物は、1週間に少なくとも2回投与される。さらにさらなる態様によれば、薬学的組成物は、少なくとも1週間、1日1回投与される。さらなる態様によれば、薬学的組成物は、少なくとも1週間または被験体が治癒するまで、少なくとも1日1回投与される。
【0221】
いくつかの態様によれば、薬学的組成物は、1日1回、少なくとも2、3、4、5、6、8、10、12日間、または少なくとも連続14日間、1ヶ月に1回投与される。あるいは、薬学的組成物は、1日1回、少なくとも2、3、4、5、6、または12日間、月2回投与されるか、さらにあるいは、薬学的組成物は、患者が治癒するまで、毎日または週2回投与される。
【0222】
いくつかの態様において、薬学的組成物を癌の再発の防止に用いる場合、薬学的組成物を、臨床医の指示によって、長期間、定期的に投与可能である。
【0223】
いくつかの場合、多量の初回量を投与した後、定期的に(例えば毎週)維持用量を治療期間に渡って投与することが好適である可能性もある。化合物はまた、緩慢放出送達系、ポンプ、および連続注入のための他の既知の送達系によって送達されることも可能である。投薬措置は、薬物動態学に基づいて、特定の化合物の所望の循環レベルを提供するために、多様でありうる。したがって、用量は、療法剤の所望の循環レベルが維持されるように計算される。
【0224】
典型的には、有効用量は、化合物の活性および有効性、ならびに被験体の状態、ならびに治療される被験体の体重または表面積によって決定される。用量および投薬措置はまた、特定の被験体における、化合物投与に付随する任意の副作用の存在、性質、および度合いによっても決定される。
【0225】
さらなる態様によれば、治療される被験体は、年齢50歳またはそれより高齢、例えば60歳、70歳、75歳またはそれ以上の年齢の被験体である。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。
【0226】
さらなる態様によれば、本発明の化合物は、シタラビン単独の治療用量の最大標準よりも、少なくとも2、3、5、10、15、20、または少なくとも30倍高い1日投薬量で投与される。各々の可能性は、本発明の別個の態様に相当する。以下の実施例は、単に例示とみなされ、まったく限定するものではない。本発明が関連する当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく、多くの変形、並べ替え、および変動が実行可能であることが明らかであろう。
【0227】
実施例
以下の略語を実施例において用いる:
BOC:t-ブチルオキシカルボニル
DCC:N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド
DMF:ジメチルホルムアミド
DCM:ジクロロメタン
DIC:ジイソプロピルカルボジイミド
DIEA;ジイソプロピルエチルアミン
DMAP:ジメチルアミノピリジン
Fmoc:9-フルオレニルメチルオキシカルボニル
HBTU:2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート
HOBt:N-ヒドロキシベンゾトリアゾール
HPLC:高性能液体クロマトグラフィ
MS:質量分析
NMP:N-メチル2-ピロリドン
OtBu:t-ブチルエステル
TFA:トリフルオロ酢酸
【0228】
実施例1:BOC-Asp(シタラビン)-OtBu(A)の合成-塩型Asp(シタラビン)・Y(1)の保護前駆体
BOC-Asp-OtBu(23.7g)、EDC(15.7g)、HOBT(11.1g)およびAra-C(20g)を400ml DMF中に溶解し、室温で24時間混合した。混合物を80℃で蒸発させて、油性残渣を得た。残渣を、300ml酢酸エチルに溶解し、連続して、5% NaHCO、0.1M HCl、5M NaClで抽出した。混合物を完全に蒸発させて、保護前駆体BOC-Asp(シタラビン)-OtBuの固形産物を得た。前駆体を、アセトニトリル/HO 0.1%TFAの勾配で、primesep 100上でHPLC混合様式クロマトグラフィによって分析して、29.6分の保持時間でピークを生じた。産物前駆体の収量は、80~90%であり、オフホワイト結晶で、HPLC純度≧95%であった。
【0229】
【化20】
保護前駆体Boc-Asp(シタラビン)-OtBu(A)をさらに、最終産物Asp(シタラビン)・Y(Y=酸付加塩)の多様な塩型の生成のために用いる:
【化21】
【0230】
実施例2:Asp(シタラビン)・アセテート(Y=CHCOOH)、(式IV)の合成-脱保護のためのTFAを用いた経路A
保護前駆体BOC-Asp(シタラビン)-OtBu(実施例1由来)をTFAによる切断に供した。保護基(BOC、OtBu)の切断を、400ml TFA+2.5%H2O中、2.5時間行った。産物沈殿のため、溶液を1.6L tBMEに移した。沈殿物を乾燥させて、Asp(シタラビン)・TFAのオフホワイト結晶を得た。TFA塩型(M.W.=472g/mol)。完全に溶解するまで、Asp(シタラビン)・TFAを濃酢酸中にさらに溶解した。産物をtBMEで沈殿させ、乾燥させてAsp(シタラビン)・アセテートを得た。産物の収率は75~85%、白色結晶であった。未精製産物を、240nmで、アセトニトリル/HO 0.1%TFAの勾配で、primesep 100上でHPLC混合様式クロマトグラフィによって分析して、9.2分の保持時間、85.3%の純度でピークを生じた。MS結果はM.W.=359g/mol(MS+1H)を示す。MS結果を図1に提示する。213、245および298nmの光学密度。NMR結果:H NMR(600MHz,DMSO-d)δ ppm 2.98(dd,1H),3.08(dd,1H),3.61(d,1H),3.84(ddd,1H),3.93(td,1H),4.06(td,1H),4.23(dtd,1H),5.50(s,1H),6.05(d,1H),7.12(d,1H),8.09(d,1H),11.10(s,1H)。13C NMR(151MHz,DMSO-d)δ ppm 36.61(s,1C),48.23(s,1C),61.02(s,1C),74.57(s,1C),76.15(s,1C),85.82(s,1C),87.06(s,1C),94.30(s,1C),147.01(s,1C),154.33(s,1C),161.84(s,1C),170.00(s,1C),170.04(s,1C)。NMR結果は、予期された構造を確認する。
【0231】
95~100%までのAsp(シタラビン)・アセテートの精製を以下のように行った:7gの未精製産物(85.3%)を15ml HOに溶解し、表1に記載するような調製用HPLC上で、分離した。溶液A-水に溶解した0.1% TFAまたは1%酢酸。溶液B-アセトニトリル/水=9/1に溶解した0.1% TFAまたは1%酢酸。注入体積:15ml、波長:220nm、流速:40ml/分、カラム:primesep 100、寸法:60x300mm、粒子サイズ:10μm 100A、分画収集体積:30ml。18~36分で収集した分画はAsp(シタラビン)・アセテートの≧95%の純度を示す。分画を凍結乾燥して、精製Asp(シタラビン)・アセテートの粉末を得て、収量は3.18gであった。
【表1】
【0232】
実施例3:酸置換によるAsp(シタラビン)・メタンスルホネートの合成-脱保護にTFAを用いた経路A
2グラムの保護前駆体BOC-Asp(シタラビン)-OtBuを、実施例1に記載するように、TFAによる切断に供した。完全に溶解するまで、1g Asp(シタラビン)・TFAをHO中の70%メタンスルホン酸に溶解した。産物Asp(シタラビン)・メタンスルホネートをイソプロパノール/tBMEで沈殿させ、ペレットを乾燥させた。産物の収率は51%であり、白色結晶であった。産物を、実施例2に記載するように、HPLCおよびMSによって分析した。産物は10.6分の保持時間でピークを生じ、80.6%の純度であった。
【0233】
95~100%までのAsp(シタラビン)・メタンスルホネートの精製を適宜行った:20gのG-10樹脂を、100ml HO中で1時間膨張させた。膨張後、G-10を焼結ガラスに移し、HO中の20%エタノール(x3カラム体積)、HO、およびHO中の0.1%メタンスルホン酸で洗浄した。1グラムのAsp(シタラビン)・メタンスルホネート未精製粉末(80.6%)を、5ml HOに溶解した。溶液をG-10樹脂上に装填し、HO中の0.1%メタンスルホン酸で抽出した。5mlの分画を収集した。精製Asp(シタラビン)・メタンスルホネート分画は、95%を超える純度を示す。
【0234】
実施例4:酸置換による塩型のAsp(シタラビン)・Y変種の合成
経路Aは、実施例2および3に記載するものと同じ方法によって、TFAを他の酸に置換することによって、多様な塩型に使用可能である。酸、例えば:ベンゼンスルホン酸、安息香酸、ホウ酸、クエン酸、エタンスルホン酸、ギ酸、塩酸、乳酸、マレイン酸、マロン酸、メタンスルホン酸、メタリン酸、ニコチン酸、シュウ酸、リン酸、サリチル酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、およびトルエンスルホン酸である。選択した濃度および1:1~1:20の比の多様な酸を、置換反応に関して分析した。沈殿後、産物をHPLCおよびMSによって分析した。条件および結果を表2に示す。実施例2および3に記載する精製法を用いて、Asp(シタラビン)・Y産物をさらに精製する。
【表2】
【0235】
実施例5:メタンスルホン酸切断による、Asp(シタラビン)・メタンスルホネート塩型の合成-経路B
0.25gのBOC-Asp(シタラビン)-OtBu前駆体(実施例1由来)を、メタンスルホン酸による切断に供した。0.25g前駆体を、HO中の1mlの70%MSAと共に添加した。2時間切断した後、溶液を10ml tBMEに移し、産物、Asp(シタラビン)・メタンスルホネートの沈降を形成した。産物をtBMEで洗浄し、乾燥した。産物の収率は65%であり、白色結晶であった。産物を、220nmで、アセトニトリル/HO 0.1%TFAの勾配で、primesep 100上でHPLC混合様式クロマトグラフィによって分析して、9.6分の保持時間、56%の純度でピークを生じた。Asp(シタラビン)・メタンスルホネートのMS結果は、M.W.=453および454g/mol(MS±1H)を示す。MS結果を図2に提示する。Asp(シタラビン)・メタンスルホネートを実施例2および3に記載するように精製する。実施例2の精製法を用いる場合、溶液AおよびB内で使用する酸を酸付加塩に置換する。溶液A-水に溶解した0.1%メタンスルホン酸。溶液B-アセトニトリル/水=9/1に溶解した0.1%メタンスルホン酸。
【0236】
実施例6:ベンゼンスルホン酸切断による、Asp(シタラビン)・ベンゼンスルホネート塩型の合成-経路B
Asp(シタラビン)・ベンゼンスルホネート塩型を、実施例5に記載するように、ベンゼンスルホン酸切断によって、BOC-Asp(シタラビン)-OtBu前駆体から合成した。産物の収率は31%であり、白色結晶であった。産物を実施例5に記載するように分析した。HPLC結果は、保持時間9.3および14.7分で2つのピークを示し、それぞれ20および44%の純度であった。Asp(シタラビン)・ベンゼンスルホネートのMS結果は、M.W.=515および516g/mol(MS±1H)を示す。MS結果を図3に提示する。Asp(シタラビン)・ベンゼンスルホネートを実施例2、3および5に記載するように精製する。
【0237】
実施例7:リン酸切断によるAsp(シタラビン)・ホスフェート塩型の合成-経路B
Asp(シタラビン)・ホスフェート塩型を、実施例5に記載するように、濃リン酸切断によって、BOC-Asp(シタラビン)-OtBu前駆体から合成した。産物収率は34%であり、白色結晶であった。産物を実施例5に記載するように分析した。HPLC結果は、9.0分の保持時間でピークを示し、84.3%の純度であった。Asp(シタラビン)・ホスフェートのMS結果は、M.W.=455および456g/mol(MS±1H)を示す。Asp(シタラビン)・ホスフェートを実施例2、3および5に記載するように精製する。
【0238】
実施例8:硫酸切断によるAsp(シタラビン)・サルフェート塩型の合成-経路B
Asp(シタラビン)・ホスフェート塩型を、実施例5に記載するように、濃硫酸切断によって、BOC-Asp(シタラビン)-OtBu前駆体から合成した。産物収率は77%であり、白色結晶、M.W.=456g/molであった。産物を実施例5に記載するように分析した。HPLC結果は、9.3分の保持時間でピークを示し、53%の純度であった。Asp(シタラビン)・サルフェートのMS結果は、M.W.=455および456g/mol(MS±1H)を示す。Asp(シタラビン)・サルフェートを実施例2、3および5に記載するように精製する。
【0239】
実施例9:塩酸切断によるAsp(シタラビン)・ヒドロクロリド塩型の合成-経路C
1gのBOC-Asp(シタラビン)-OtBu前駆体(実施例1由来)を、HClによる切断に供した。3mlの37%HCl/HOを前駆体に添加し、BOCおよびOtBu保護基の除去、ならびに塩型形成のため、1時間インキュベーションした。溶液を1N NaOHで、pH=5~6に滴定した。滴定中、白色沈降が形成された。生じた沈降物を乾燥させ、2ml HO中に溶解し、凍結乾燥した。産物を実施例5に記載するように分析した。HPLC結果は、9.46分の保持時間でピークを示し、75.9%の純度であった。Asp(シタラビン)・ヒドロクロリドを実施例2、3および5に記載するように精製する。
【0240】
実施例10:酸切断による塩型のAsp(シタラビン)・Y変種の合成
実施例5および9に記載するものと同じ方法によって、塩型を生じる、酸での切断によって、多様な塩型形成に、経路BおよびCを用いることも可能である。保護基除去および塩型形成の両方に好ましい酸は、pKa≦3を有し、1:1~30:1(酸:前駆体)の比である。例えば、酸は、例えば:ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、シクラミン酸、2,2-ジクロロ-酢酸、ジ(t-ブチル)-ナフタレンスルホン酸、ジ(t-ブチル)-ナフタレンジスルホン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチジン酸、グルカル酸、グルコン酸、グリセロリン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、2-ヒドロキシ-エタンスルホン(イセチオン)酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、マレイン酸、マロン酸、メドロン(ビスホスホン)酸、メタンスルホン酸、メタリン酸、メチルボロン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、硝酸、オロト酸、シュウ酸、2-オキソ-グルタル(ケトグルタル)酸、パモ(エンボン)酸、ピルビン酸、リン酸、サッカリン酸、サリチル酸、硫酸、酒石酸、チオシアン酸、トルエンスルホン酸およびトリフルオロ酢酸等である。10%~100%(濃酸)の選択した濃度の多様な酸を、保護基除去および塩型形成のため、BOC-Asp(シタラビン)-OtBu前駆体の切断に用いた。産物をさらに、HPLCおよびMSによって分析した。条件および結果を表3に示す。Asp(シタラビン)・Y産物を、実施例2、3および5に記載するように精製する。
【表3】
【0241】
実施例11:塩(例えばNaHPO)を用いたAsp(シタラビン)・Yの付加塩の調製
BOC-Asp(シタラビン)-OtBu保護前駆体を実施例1に記載するように合成した。Asp(シタラビン)・TFAを実施例2に記載するように合成した。完全に溶解するまで、0.25gのAsp(シタラビン)・TFAを1mlの1M NaHPOにさらに溶解した。産物をtBMEで沈殿させ、乾燥させて、Asp(シタラビン)・ホスフェート産物を得た。
【0242】
この反応を例えば、KHPO等の他の塩でも使用可能である。
【0243】
実施例12:BOC-Asp(ゲムシタビン)-OtBu(B)の合成-塩型Asp(ゲムシタビン)・Y(2)の保護前駆体
BOC-Asp(ゲムシタビン)-OtBu保護前駆体を実施例1に記載するように合成した。
【化22】
【0244】
保護前駆体を、最終産物Asp(ゲムシタビン)・Y(Y=酸付加塩)(2)の多様な塩型の生成にもさらに用いる。
【化23】
【0245】
実施例13:Asp(ゲムシタビン)・アセテート塩型の合成
Asp(ゲムシタビン)・アセテート塩型(Y=CHCOOH)を、実施例2に記載するような酸置換によって、前駆体Bから合成した。
【0246】
実施例14:Asp(ゲムシタビン)・メタンスルホネート塩型の合成
Asp(ゲムシタビン)・メタンスルホネート塩型(Y=CHSOH)を、実施例5に記載するようなメタンスルホン酸での切断によって、前駆体Bから合成した。
【0247】
実施例15:BOC-Glu(シタラビン)-OtBu(C)の合成-塩型Glu(シタラビン)・Y(3)の保護前駆体
BOC-Glu(シタラビン)-OtBu保護前駆体を実施例1に記載するように合成した。
【化24】
【0248】
保護前駆体を、最終産物Glu(シタラビン)・Y(Y=酸付加塩)(3)の多様な塩型の生成にもさらに用いる。
【化25】
【0249】
実施例16:Glu(シタラビン)・アセテート塩型の合成
Glu(シタラビン)・アセテート塩型(Y=CHCOOH)を、実施例2に記載するような酸置換によって、前駆体Cから合成した。
【0250】
実施例17:Glu(シタラビン)・メタンスルホネート塩型の合成
Glu(シタラビン)・メタンスルホネート塩型(Y=CHSOH)を、実施例5に記載するようにメタンスルホン酸での切断によって、前駆体Cから合成した。
【0251】
実施例18:BOC-Glu(ゲムシタビン)-OtBu(D)の合成-塩型Glu(ゲムシタビン)・Y(4)の保護前駆体
BOC-Glu(ゲムシタビン)-OtBu保護前駆体を実施例1に記載するように合成した。
【化26】
【0252】
保護前駆体BOC-Glu(ゲムシタビン)-OtBu(D)を、最終産物Glu(ゲムシタビン)(4)・Y(Y=酸付加塩)の多様な塩型の生成にさらに用いる。
【化27】
【0253】
実施例19:Glu(ゲムシタビン)・アセテート塩型の合成
Glu(ゲムシタビン)・アセテート塩(Y=CHCOOH)型を、実施例2に記載するような酸置換によって、前駆体Dから合成した。
【0254】
実施例20:Glu(ゲムシタビン)・メタンスルホネート塩型の合成
Glu(ゲムシタビン)・メタンスルホネート塩型(Y=CHSOH)を、実施例5に記載するようにメタンスルホン酸での切断によって、前駆体Dから合成した。
【0255】
実施例21:Asp(シタラビン)・HCl塩型(Y=HCl)の合成
段階1:Boc-Asp(シタラビン)-OtBuの合成
【化28】
【0256】
シタラビン(0.50g、2.1mmol)を5mL乾燥DMF中に懸濁した。透明な溶液が得られるまで、混合物を70℃に加熱した。Boc-Asp-OtBu(0.40g、1.4mmol)を室温で5mL乾燥DMF中に溶解した。HOBt(0.22g、1.5mmol)を添加し、溶解した後、EDC(0.28g、1.5mmol)を添加した。溶液を室温で30分間攪拌する。
【0257】
45℃で、活性化アミノ酸をシタラビン溶液に2時間に渡って1滴ずつ添加して、次いで45℃で一晩攪拌した。
【0258】
溶媒を減圧下、60℃で蒸発させた。油性残渣を酢酸エチル(55mL)に溶解し、3x5%NaHCO、3x0.1M HClおよび3xブラインで洗浄した(各洗浄15mL)。硫酸ナトリウム上での乾燥およびろ過後、溶媒を蒸発させ、泡状固体として未精製産物を得た。未精製産物は、~5-15%(Boc-Asp-OtBu)-(シタラビン)不純物を含有する。
【0259】
段階2:Boc-Asp(シタラビン)-OtBuの精製
Biotage Isolera(登録商標)精製系を用いて、未精製産物を精製する。以下の勾配を用い、40mL/分の流速で、SNAPカートリッジ、KP-SIL 100gシリカカラムを用いて(254nmで監視)、3.97gの未精製産物(1%未満の(Boc-Asp-OtBu)-シタラビン不純物を含有する)を精製した。
【表4】
産物分画を合わせ、乾燥するまで蒸発させて、3.78gの精製産物を得た。精製Boc-Asp-OtBu-(シタラビン)のH-NMRスペクトル(MeOD)を図4に示す。
【0260】
段階3:Asp(シタラビン)・HClの合成
【化29】
Boc-Asp-OtBu-(シタラビン)(3.6g、7.0mmol)を8.8mL乾燥ジオキサンに溶解した。透明な溶液が得られた後、ジオキサン中のHCl(4M、17.5mL、70mmol)を添加し、混合物を室温で一晩攪拌した(1分後、白色固体が形成される)。HO(0.26mL、7.0mmol)を1滴ずつ添加し、攪拌を3時間続ける。沈殿物をろ過し(焼結ガラスフィルター、por.4)、乾燥ジオキサン(2x25mL)で洗浄した。得られた白色固体を、真空中、室温で乾燥させて、白色粉末(3.34g)を得た。Asp(シタラビン)・HClのH-NMRスペクトル(MeOD)を図5に示す。
【0261】
実施例22:保護シタラビンからのAsp(シタラビン)・HCl塩型(Y=HCl)の合成
段階1:シタラビンの保護
2.44gシタラビンおよび1.5g t-ブチルジメチルシリルクロリド(TBDMS-Cl)を20mlピリジンに溶解し、反応を10時間混合した。溶液を蒸発させ、ペレットを水および酢酸エチルで洗浄して、TBDMS-シタラビン(5’-OH保護)の白色固体を得た。
【0262】
段階2:Boc-Asp(TBDMS-シタラビン)-OtBuの合成
1グラムのTBDMS-シタラビンを10mL DMFに溶解した。0.8g Boc-Asp-OtBuを5mL DMFに溶解した。0.44g HOBtを添加し、溶解した後、0.56g EDCを添加した。溶液を室温で30分間攪拌する。活性化アミノ酸を、TBDMS-シタラビン溶液に一滴ずつ添加し、次いで一晩攪拌した。溶媒を、減圧下、60℃で蒸発させた。油性残渣を酢酸エチルに溶解し、5%NaHCO3、0.1M HClおよびブラインで洗浄した。溶媒の2/3を蒸発させ、未精製産物をヘキサンで沈殿させて、白色固体を得た。未精製産物は(Boc-Asp-OtBu)-(TBDMS-シタラビン)不純物を含有せず、カラム精製は不要であった。
【0263】
段階3:Asp(シタラビン)・HClの合成
実施例22の段階3に記載するものと同じプロセスを用いて、Boc-Asp(TBDMS-シタラビン)-OtBuをAsp(シタラビン)・HClの合成に用いた。
【0264】
実施例23:Asp(シタラビン)・Y塩型の生物学的活性、白血病癌細胞の増殖に対する影響
L1210白血病癌細胞を、10%ドナーウマ血清、1%グルタミン、1%非必須アミノ酸、0.1%アンホテリシン、および0.1%ゲンタマイシンを含むDMEM培地中で増殖させた。細胞を希釈し、96ウェルプレート内に、ウェルあたり0.2mlの体積中、2000細胞/ml、400細胞/ウェルで植え付けた。プレートを37℃で180分間インキュベーションした。インキュベーション後、試験物質を、各6複製物で、生理食塩水中で配合した1μMから100nMの増加する濃度で添加した。試験物質は、Asp(シタラビン)・アセテート塩型、Asp(シタラビン)・ヒドロクロリド塩型、Asp(シタラビン)・メタンスルホネート塩型、Asp(シタラビン)・ベンゼンスルホネート塩型およびAsp(シタラビン)・ホスフェート塩型であった。試験プレートにはまた、対照として、生理食塩水の6複製ウェルも含まれた。プレートを分析前に37℃で72時間インキュベーションした。曝露期間の終了時に、MTT[3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド]アッセイを行った。各試験ウェルに、5mg/mlの濃度のMTTを0.02ml体積中で添加した。プレートを37℃で3時間インキュベーションし、次いで3500rpmで6分間遠心分離し、上清を吸引した。MTT結晶を含有するペレットを各0.2ml DMSOに溶解した。570nmの波長でELISA読み取り装置を用いて、吸光度を決定した。得たIC50値を表4に要約する。
【表5】
【0265】
実施例24:Asp(シタラビン)・アセテート塩型の生物学的活性、多様な細胞株の増殖に対する影響
多様なヒト白血病癌細胞を、10%ウシ胎児血清、1%グルタミン、0.1%アンホテリシン、および0.1%ゲンタマイシンを含むRPMI培地中で増殖させた。細胞を希釈し、実施例23に記載するように植え付けた。Asp(シタラビン)・アセテート塩型を、各3複製物で、生理食塩水中で配合した1μMから100nMの増加する濃度で添加した。実施例23に記載するように、MTTアッセイを行った。得たIC50値を表5に要約する。
【表6】
【0266】
当業者には、本発明が、本明細書の上記に特に示し、記載するものによって限定されないことが認識される。むしろ、本発明の範囲には、本明細書の上記の多様な特徴の組み合わせおよびサブコンビネーションの両方、ならびに変更および変形が含まれる。したがって、本発明は、特に記載する態様に制限されるとは見なされず、本発明の範囲および概念は、続く請求項を参照することによって、より容易に理解されるであろう。
【0267】
参考文献
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Woodcock TM,Chou TC,Tan CTC,et al.1980.Biochemical,pharmacological,and phase I clinical evaluation of pseudoisocytidine.Cancer Res.;40:4242.
【0268】
本出願は以下の発明を含み得る。
(1)
化合物の薬学的に許容されうる塩であって、式(I)
A-D・Y (I)
式中、
Aは、側鎖上に、カルボキシル基、アミノ基、スルフィドリル基およびヒドロキシル基からなる群より選択される、少なくとも1つの官能基を含むアミノ酸を示し;
Dは、細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤および化学療法剤からなる群より選択される薬剤の残基を示し、ここでDは、Aの側鎖官能基を通じてAに付着され;そして
Yは、酢酸、塩酸、メタンスルホン酸、リン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、ホウ酸、安息香酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、アスコルビン酸、硫酸、マレイン酸、ギ酸、マロン酸、ニコチン酸およびシュウ酸からなる群より選択される、薬学的に許容されうる有機または無機酸または酸の残基である
の構造によって示される、前記塩。
(2)
アミノ酸(A)がα-アミノ酸(DまたはL)、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、δ-アミノ酸またはε-アミノ酸である、(1)記載の薬学的に許容されうる塩。
(3)
アミノ酸(A)が、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、α-アミノアジピン酸(Aad)、α-アミノピメリン酸、γ-カルボキシ-グルタミン酸、γ-ヒドロキシ-グルタミン酸、アミノグリシン、アミノイソ酪酸(Aib)、アルギニン(Arg)、シトルリン(Cit)、システイン(Cys)、シスチン、ジアミノブタン酸、ジアミノ酪酸(Dab)、ジアミノプロピオン酸(Dpr)、ジヒドロキシフェニルアラニン、ジメチルアルギニン、ピログルタミン酸(p-Glu)、ヒスチジン(His)、1-メチル-ヒスチジン、3-メチル-ヒスチジン、ホモセリン(Hse)、ホモシトルリン、ヒドロキシプロリン(Hyp)、リジン(Lys)、メチル-リジン、ジメチルリジン、トリメチルリジン、アジドリジン、メチオニン(Met)、メチオニンスルホキシド、メチオニンスルホン、オルニチン(Orn)、ザルコシン(Sar)、セレノシステイン(Sec)、セリン(Ser)、ホスホル-セリン、メチル-セリン、アミノセリン(Ams)、チエニルアラニン(Thi)、スレオニン(Thr)、ホスホ-スレオニン、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、メチル-チロシン、ホスホル-チロシン、スルホ-チロシン、α-アミノスベリン酸、3,5-ジヨードチロシン、ペニシラミン(Pen)、4-エチルアミンフェニルグリシン、4-アミノフェニルグリシン、4-スルホフェニルアラニン、4-アミノフェニルアラニンおよび2-アミノ-4[4-(2-アミノ)-ピリミジニル]ブタン酸、3-アミノプロピオン酸、6-アミノヘキサン酸(ε-Ahx)、p-アミノ安息香酸、イソニペコチン酸、スタチン(Sta)、2-アミノ酪酸(Abu)および4-アミノ酪酸、ならびにその誘導体および類似体からなる群より選択される、(2)記載の薬学的に許容されうる塩。
(4)
アミノ酸(A)が、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、ならびにその誘導体および類似体からなる群より選択される、(2)記載の薬学的に許容されうる塩。
(5)
アミノ酸(A)がアスパラギン酸である、(4)記載の薬学的に許容されうる塩。
(6)
アミノ酸(A)がグルタミン酸である、(4)記載の薬学的に許容されうる塩。
(7)
細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dが、ピリミジン類似体、プリン類似体、葉酸代謝拮抗剤、ヒドロキシ尿素、微小管阻害剤、アルキル化剤、抗腫瘍抗生物質、トポイソメラーゼターゲティング剤、代謝拮抗剤、DNA結合剤およびDNAアンタゴニストからなる群より選択される薬剤の残基である、(1)記載の薬学的に許容されうる塩。
(8)
細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dが、シトシンアラビノシド(シタラビン)、ゲムシタビン、フルオロウラシル、5-フルオロデオキシウリジン、フトラフール(ftorafure)、カペシタビン、カルモフール、BOF-A2、5-クロロ-2,4-ジヒドロキシピリジン、デシタビン、レフルノミド、トリフルリジン、ヨードクスウリジン、ジドブジン、テルビブジン、トリメトプリム、フルオロシトシン、デオキシチミジンおよび5-アミノ-6-ニトロウラシルからなる群より選択されるピリミジン類似体の残基である、(7)記載の薬学的に許容されうる塩。
(9)
細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dが、シタラビンの残基である、(8)記載の薬学的に許容されうる塩。
(10)
細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dが、ゲムシタビンの残基である、(8)記載の薬学的に許容されうる塩。
(11)
細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dが、クロファラビン、デカルバジン、クラドリビン、メルカプトプリン、ネララビン、ペントスタチン、チオグアニン、ゲフィチニブ、アザチオプリン、ニタゾキサニド、ビダラビン、ノボビオシン、ガンシクロビル、リバビリン、ペンシクロビル、エンテカビル、8-アザグアニン、イミュシリン-G、2-フルオロ-2’-デオキシアデノシン、9-ベータ-D-キシロフラノシル-アデニン、3-デオキシ(dexoxy)グアニン、6-メチル-ホルミシンA、2-フルオロアデノシン、ツベルシジン、1-デアザ-アデノシン、N-エチル-5-カルボキシアミド-アデノシン、3’-オキソ-アデノシン、2-アミノ-アデノシン、6-O-シクロメチル-グアニン、フルダラビン、および8-ヨード-グアニンからなる群より選択されるプリン類似体の残基である、(7)記載の薬学的に許容されうる塩。
(12)
細胞傷害性剤、細胞分裂停止剤または化学療法剤Dが、2,4-ジオキソ-5-フルオロピリミジン(5-FU)、フルオロデオキシウリジン(5-FUDR)、アザシチジン(5-AZC)、6-メルカプトプリン(6-MP)、6-チオグアニン(6-TG)、クロロデオキシアデノシン(2-CDA)およびペントスタチン(dCF)からなる群より選択される薬剤の残基である、(7)記載の薬学的に許容されうる塩。
(13)
アミノ酸(A)がアスパラギン酸およびグルタミン酸からなる群より選択され、化合物が式(II)または(III)
【化30】
式中、DおよびYは(1)に定義される通りである
の構造によって示される、(1)記載の薬学的に許容されうる塩。
(14)
Aがアスパラギン酸であり、Dがシタラビンの残基であり、化合物が式(1):
【化31】
の構造によって示される、(13)記載の薬学的に許容されうる塩。
(15)
式(IA):
【化32】
の構造によって示される、(14)記載の薬学的に許容されうる塩。
(16)
式(IB):
【化33】
の構造によって示される、(14)記載の薬学的に許容されうる塩。
(17)
Aがアスパラギン酸であり、Dがゲムシタビンの残基であり、塩が式(2):
【化34】
の構造によって示される、(13)記載の薬学的に許容されうる塩。
(18)
Aがグルタミン酸であり、Dがシタラビンの残基であり、塩が式(3):
【化35】
の構造によって示される、(13)記載の薬学的に許容されうる塩。
(19)
Aがグルタミン酸であり、Dがゲムシタビンの残基であり、化合物が式(4):
【化36】
の構造によって示される、(13)記載の薬学的に許容されうる塩。
(20)
Yが、酢酸、塩酸、メタンスルホン酸、リン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、ホウ酸、安息香酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、アスコルビン酸、硫酸、マレイン酸、ギ酸、マロン酸、ニコチン酸およびシュウ酸からなる群より選択される薬学的に許容されうる酸である、(1)~(19)のいずれか一項記載の薬学的に許容されうる塩。
(21)
Yが酢酸である、(20)記載の薬学的に許容されうる塩。
(22)
Yが塩酸である、(20)記載の薬学的に許容されうる塩。
(23)
塩が、酢酸塩、塩酸塩、メタンスルホン酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、トルエンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、アスコルビン酸塩、硫酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、マロン酸塩、ニコチン酸塩およびシュウ酸塩からなる群より選択される、(1)~(19)のいずれか一項記載の薬学的に許容されうる塩。
(24)
塩が酢酸塩である、(23)記載の薬学的に許容されうる塩。
(25)
塩が塩酸塩である、(23)記載の薬学的に許容されうる塩。
(26)
不純物として、約5%またはそれ未満、好ましくは約1%またはそれ未満、そしてより好ましくは約0.1%またはそれ未満のトリフルオロ酢酸(TFA)を含有する、先行するいずれか一項記載の薬学的に許容されうる塩。
(27)
不純物として、トリフルオロ酢酸(TFA)を含まない、先行するいずれか一項記載の薬学的に許容されうる塩。
(28)
活性成分として、先行するいずれか一項記載の薬学的に許容されうる塩および薬学的に許容されうる賦形剤を含む、薬学的組成物。
(29)
転移、あるいは前癌状態または障害を含む癌を治療する方法であって、治療が必要な被験体に、療法的に有効な量の(1)~(27)のいずれか一項記載の薬学的に許容されうる塩、または(28)記載の薬学的組成物を投与する工程を含む、前記方法。
(30)
転移、あるいは前癌状態または障害を含む癌の治療に使用するための、(1)~(27)のいずれか一項記載の薬学的に許容されうる塩、または(28)記載の薬学的組成物。
(31)
癌が、非固形腫瘍または固形腫瘍またはその組み合わせによって特徴付けられる、(29)記載の方法、または(30)記載の薬学的に許容されうる塩。
(32)
癌が、白血病、リンパ腫および多発性骨髄腫からなる群より選択される非固形腫瘍によって特徴付けられる、好ましくは、癌が、各々、難治性/再発性でありうるか、または新規に診断されうる、急性骨髄性白血病(AML)および急性リンパ芽球性白血病(ALL)からなる群より選択される白血病である、(29)記載の方法、または(30)記載の薬学的に許容されうる塩。
(33)
癌が血液学的癌である、(29)記載の方法、または(30)記載の薬学的に許容されうる塩。
(34)
癌が、中枢神経系(CNS)の腫瘍、肝臓癌、結腸直腸癌、乳癌、胃癌、膵臓癌、膀胱癌、子宮頸癌、頭頸部腫瘍、外陰部癌、ならびに黒色腫、扁平上皮癌および基底細胞癌を含む皮膚科学的新生物からなる群より選択される固形腫瘍によって特徴付けられる、(29)記載の方法、または(30)記載の薬学的に許容されうる塩。
(35)
前癌状態または障害が、骨髄異形成症候群(MDS)である、(29)記載の方法、または(30)記載の薬学的に許容されうる塩。
(36)
被験体がヒトである、請求項(29)~(35)のいずれか一項記載の方法または薬学的に許容されうる塩。
(37)
骨髄移植の候補者である個体を治療する方法であって、移植の前に、前記個体を、(1)~(27)のいずれか一項記載の薬学的に許容されうる塩、または(28)記載の薬学的組成物で前治療する工程を含む、前記方法。
(38)
骨髄移植前の前治療に使用するための、(1)~(27)のいずれか一項記載の薬学的に許容されうる塩、または(28)記載の薬学的組成物。
(39)
(1)記載の薬学的に許容されうる塩を調製するためのプロセスであって
(a)式(IV):
(A-D)-(P) (IV)
式中、AおよびDは(1)に定義する通りであり;
nは1~6の整数であり;そして
各Pは、各出現に際して、独立に、保護基であり;各Pはアミノ酸(A)、薬剤残基(D)またはアミノ酸(A)および薬剤残基(D)の両方の保護のため、利用可能な任意の官能基に付着する
の化合物と
保護基(単数または複数)Pを除去可能な試薬を反応させる工程;および
(b)式:
A-D・Y (I)
式中、Yは(1)に定義する通りである
によって示される塩が生成されるように、基Yを導入可能な試薬を添加する工程
を含む、前記プロセス。
(40)
一工程で、保護基(単数または複数)Pが除去され、そして基Yが導入されるように、保護基(単数または複数)Pを除去可能な試薬が、基Yを導入可能な試薬と同じである、(39)記載のプロセス。
(41)
一工程で、保護基(単数または複数)Pが除去され、そして基Yが導入されるように、式(IV)の化合物を酸(Y)と反応させる工程を含む、(40)記載のプロセス。
(42)
式(II)の化合物を調製するためのプロセスであって:
(a)式(i)の化合物を、式Dの薬剤と、または式D-(Pのその保護された誘導体と、カップリング試薬の存在下でカップリングして、式(ii)の中間体を得る工程;および
(b)式(II)によって示される塩が生成されるように、保護基P、PおよびP(存在する場合)を、酸(Y)で、または脱保護剤の後、酸(Y)で、除去する工程
【化37】
式中、Pはカルボキシ保護基であり、Pはアミノ保護基であり、Pは薬剤D上の1またはそれより多い官能基上に位置する保護基であり、そしてnは0、1、2または3である
を含む、前記プロセス。
(43)
式(III)の化合物を調製するためのプロセスであって:
(a)式(iii)の化合物を、式Dの薬剤と、または式D-(Pのその保護された誘導体と、カップリング試薬の存在下でカップリングして、式(iv)の中間体を得る工程;および
(b)式(II)によって示される塩が生成されるように、保護基P、PおよびP(存在する場合)を、酸(Y)で、または脱保護基の後、酸(Y)で、除去する工程
【化38】
式中、Pはカルボキシ保護基であり、Pはアミノ保護基であり、Pは薬剤D上の1またはそれより多い官能基上に位置する保護基であり、そしてnは0、1、2または3である
を含む、前記プロセス。
(44)
Dがシタラビンまたはその残基である、(42)または(43)記載のプロセス。
(45)
Dがゲムシタビンまたはその残基である、(42)または(43)記載のプロセス。
(46)
が、シタラビンの2’、3’および/または5’-OH部分上、あるいはゲムシタビンの3’および/または5’-OH部分上に位置するヒドロキシル保護基である、(44)または(45)記載のプロセス。
図1
図2
図3
図4
図5