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特開2024-3803リサイクルモノマー、リサイクルモノマーの製造方法、およびリサイクルモノマーの製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003803
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】リサイクルモノマー、リサイクルモノマーの製造方法、およびリサイクルモノマーの製造装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/89 20060101AFI20240105BHJP
   C08J 11/14 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
C08G63/89
C08J11/14 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】51
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023181532
(22)【出願日】2023-10-23
(62)【分割の表示】P 2023547572の分割
【原出願日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2022102942
(32)【優先日】2022-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022200393
(32)【優先日】2022-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022200394
(32)【優先日】2022-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023060578
(32)【優先日】2023-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023072973
(32)【優先日】2023-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 美帆子
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩平
(72)【発明者】
【氏名】永原 崇志
(72)【発明者】
【氏名】吉冨 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉川 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】加藤 公哉
(72)【発明者】
【氏名】歌崎 憲一
【テーマコード(参考)】
4F401
4J029
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401AA24
4F401BA06
4F401CA08
4F401CA67
4F401CA68
4F401CA75
4F401EA46
4F401FA01Y
4F401FA06Y
4F401FA07Y
4F401FA20Y
4J029AA03
4J029AE01
4J029BA03
4J029CB06A
4J029KH01
(57)【要約】
【課題】
本発明のリサイクルモノマー、およびその製造方法は、高温高圧水の利点を生かしつつ、解重合により得られる生成物の過反応を抑制し、高収率でジカルボン酸やジオールなどのリサイクルモノマーを生成させることが可能な方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
上記目的を達するための本発明のリサイクルモノマーの製造方法の好適な一態様は、ポリマーが熱可塑性ポリエステル(A)であり、示差走査熱量計で測定した熱可塑性ポリエステル(A)の融点をMp℃、反応温度をX℃、反応時間をY分、水と熱可塑性ポリエステル(A)の質量比をZ:1とした場合、XおよびXとYとZの積X・Y・Zが、下記(I)および(II)を同時に満たす。
(I) Mp≦X<300
(II)2000≦X・Y・Z≦20000
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを含む組成物を亜臨界水と接触させて製造されるリサイクルモノマーであって、ポリマーを含む組成物において、示差走査熱量計で測定したポリマーの融点をMp℃、反応温度をX℃、反応時間をY分、水とポリマーの質量比をZ:1とした場合、XおよびXとYとZの積X・Y・Zが、下記(I)および(II)を同時に満たす条件で製造されるリサイクルモノマー。
(I) Mp≦X<300
(II)2000≦X・Y・Z≦20000
【請求項2】
ポリマーが熱可塑性ポリエステル、または熱可塑性ポリアミドである請求項1に記載のリサイクルモノマー。
【請求項3】
請求項1に記載のリサイクルモノマーを再重合して得られるリサイクルポリマー。
【請求項4】
請求項3に記載のリサイクルポリマーを用いてなる衣料用繊維、産業用繊維、フィルム、シート、自動車部品、または電気・電子部品。
【請求項5】
ポリマーを含む組成物を亜臨界水と接触させる工程を含むリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項6】
ポリマーが熱可塑性ポリエステル(A)であり、示差走査熱量計で測定した熱可塑性ポリエステル(A)の融点をMp℃、反応温度をX℃、反応時間をY分、水と熱可塑性ポリエステル(A)の質量比をZ:1とした場合、XおよびXとYとZの積X・Y・Zが、下記(I)および(II)を同時に満たす請求項5に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
(I) Mp≦X<300
(II)2000≦X・Y・Z≦20000
【請求項7】
熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物を亜臨界水と接触させ、熱可塑性ポリエステル(A)を加水分解して得られる反応混合物中の熱可塑性ポリエステル(A)由来のジオールの濃度が4.9質量%以上である請求項6に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項8】
熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物を亜臨界水と接触させ、熱可塑性ポリエステル(A)を加水分解して得られる反応混合物中の熱可塑性ポリエステル(A)由来の環状エーテルの濃度が3.0質量%以上である請求項6に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項9】
熱可塑性ポリエステル(A)に対する亜臨界水の質量比Zが6未満である請求項6に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項10】
熱可塑性ポリエステル(A)がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、およびポリブチレンテレフタレート、およびそれらの共重合体から選ばれる少なくとも1種を主成分とする請求項6に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項11】
熱可塑性ポリエステル(A)が、少なくともポリエステルを含有する廃棄物である請求項6に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項12】
リサイクルモノマーがジカルボン酸および/またはジオールである請求項6に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項13】
請求項12の製造方法によって得られるジカルボン酸および/またはジオールを原料とした熱可塑性ポリエステルの製造方法。
【請求項14】
請求項12に記載の製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルを原料に用いて繊維、フィルムまたは成形品の熱可塑性ポリエステルを含む製品を製造する、熱可塑性ポリエステル製品の製造方法。
【請求項15】
請求項12に記載の製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルを含む組成物を原料に用いて繊維、フィルムまたは成形品の熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製品を製造する、熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製品の製造方法。
【請求項16】
ポリマーが熱可塑性ポリエステル(A)であり、熱可塑性ポリエステル(A)100重量部に対し、0.01~4.0重量部のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を配合する、請求項5に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項17】
熱可塑性ポリエステル(A)100重量部に対し、亜臨界水を100~1000重量部配合する、請求項16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項18】
亜臨界水と接触させる工程の温度が250~350℃である、請求項16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項19】
亜臨界水と接触させる工程の圧力が3~30MPaである、請求項16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項20】
アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩が金属水酸化物および/または金属炭酸塩である、請求項16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項21】
熱可塑性ポリエステル(A)が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびそれらの共重合体から選ばれる少なくとも1種である、請求項16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項22】
熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物が、酸化防止剤、耐熱剤、耐候剤、離型剤および結晶核剤から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項23】
熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物が廃棄物である、請求項16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項24】
リサイクルモノマーがジカルボン酸および/またはジオールである請求項16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項25】
請求項24に記載の製造方法で得られるジカルボン酸および/またはジオールを原料とした熱可塑性ポリエステルの製造方法。
【請求項26】
請求項25に記載の製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルに酸化防止剤、耐候剤、離型剤および結晶核剤から選ばれる少なくとも1種を配合する、熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製造方法。
【請求項27】
請求項25に記載の製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルを原料に用いて繊維、フィルムまたは成形品の熱可塑性ポリエステルを含む製品を製造する、熱可塑性ポリエステル製品の製造方法。
【請求項28】
請求項26に記載の製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルを含む組成物を原料に用いて繊維、フィルムまたは成形品の熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製品を製造する、熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製品の製造方法。
【請求項29】
ポリマーを含む組成物が、ポリマーIとポリマーIIを含み、
ポリマーIが熱可塑性ポリエステル(A)であり、
ポリマーIIが熱可塑性ポリエステル(A)とは異なる融点の熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートおよびポリウレタンからなる群から選ばれる1種のポリマーまたはそれらポリマーの組合せであり、
組成物中におけるポリマーIIの含有量(熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートおよびポリウレタンの含有量の合計)が、ポリマーI100重量部に対して、1~100重量部であり、
組成物中におけるポリマーIとポリマーIIを同時に、250~350℃の亜臨界水と接触させる工程を有する請求項5に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項30】
ポリマーを含む組成物が、ポリマーIとポリマーIIを含み、
ポリマーIが熱可塑性ポリエステル(A)であり、
ポリマーIIが熱可塑性ポリエステル(A)とは異なる融点の熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートおよびポリウレタンからなる群から選ばれる1種のポリマーまたはそれらポリマーの組合せであり、
組成物中におけるポリマーIIの含有量(熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートおよびポリウレタンの含有量の合計)が、ポリマーI100重量部に対して、1~100重量部であり、
組成物中におけるポリマーIとポリマーIIを、アルカリ性成分を配合した条件下、200~350℃の亜臨界水と接触させて同時に加水分解する工程を有する請求項5に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項31】
前記ポリマーを含む組成物が、ポリマーIとポリマーIIを含有する組成物、および/または、ポリマーIを含有する組成物とポリマーIIを含有する組成物との混合物を含む、請求項29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項32】
前記ポリマーを含む組成物中のポリマー成分100重量部に対して、水を100~900重量部配合する、請求項29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項33】
亜臨界水と接触させる工程における圧力が4.0MPa~30MPaである、請求項29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項34】
前記ポリマーを含む組成物に、さらにアルカリ性成分を配合する、請求項29に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項35】
熱可塑性ポリエステル(A)がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびそれらの共重合体から選ばれる、請求項29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項36】
熱可塑性ポリエステル(B)がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびそれらの共重合体から選ばれる少なくとも1種であって、ポリエステル(A)とは異なる融点の熱可塑性ポリエステルである、請求項29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項37】
熱可塑性ポリエステル(A)と熱可塑性ポリエステル(B)の融点の差が10℃以上である、請求項29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項38】
前記ポリマーを含む組成物が廃棄物である、請求項29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項39】
リサイクルモノマーがテレフタル酸および/またはジオールである請求項29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
【請求項40】
請求項29または30に記載の製造方法で得られるジカルボン酸および/またはジオールを重合原料に用いて熱可塑性ポリエステルを製造する、熱可塑性ポリエステルの製造方法。
【請求項41】
請求項40に記載の製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルを原料に用いて繊維、フィルムまたは成形品の熱可塑性ポリエステル製品を製造する、熱可塑性ポリエステル製品の製造方法。
【請求項42】
請求項40に記載の製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルを含む組成物を原料に用いて繊維、フィルムまたは成形品の熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製品を製造する、熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製品の製造方法。
【請求項43】
ポリマーを含む組成物を加熱および加圧し供給する手段(L)と、亜臨界水を生成し供給する手段(M)と、前記手段(L)から供給された前記熱可塑性ポリマーを含む組成物と前記手段(M)から供給された前記亜臨界水を混合する手段(N)と、ポリマーの加水分解を行う連続反応器(O)を有する、
リサイクルモノマーの製造装置。
【請求項44】
前記連続反応器(O)の上流部および下流部の内部温度をモニタリングする装置(P)と、前記連続反応器(O)を加熱および/または冷却する温度調整機構(Q)を有し、
前記装置(P)に基づき前記温度調整機構(Q)を動作させ、前記連続反応器(O)の内部温度を制御する、
請求項43に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
【請求項45】
前記温度調整機構(Q)が複数個設置されており、
前記装置(P)に基づき複数個の前記温度調整機構(Q)を動作させる、
請求項43に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
【請求項46】
前記連続反応器(O)の上流部の内部温度に対して下流部の内部温度を10℃以上低い状態とするように前記温度調整機構(Q)を制御する、
請求項44または45に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
【請求項47】
前記連続反応器(O)が管型連続反応器である、
請求項44または45に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
【請求項48】
前記手段(L)が押出機である、
請求項44または45に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
【請求項49】
前記手段(N)がスタティックミキサーである、
請求項44または45に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
【請求項50】
前記ポリマーを含む組成物が樹脂成形体の廃棄物である、
請求項44または45に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
【請求項51】
前記ポリマーが熱可塑性ポリアミドまたは熱可塑性ポリエステルである、
請求項44または45に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、資源循環利用と地球温暖化ガス排出量低減を両立する、ポリマーのケミカルリサイクル技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋プラスチック問題をトリガーに地球環境問題に対する関心が高まり、持続可能な社会の構築が必要であるとの認識が広まってきている。地球環境問題には、地球温暖化をはじめ、資源枯渇、水不足などがあるが、その多くは産業革命以降の化石燃料の使用と工業の急速な発展による、資源消費量と地球温暖化ガス排出量の増大が原因である。そのため、持続可能な社会構築のためには、プラスチックなどの化石資源循環利用、および地球温暖化ガス排出量低減に関する技術がますます重要となる。
【0003】
繊維、フィルム、ボトル、成形品、エンジニアリングプラスチックなど各分野で多量に使用されている熱可塑性ポリエステルを解重合し、単量体まで戻して再資源化する技術としては、酢酸亜鉛などの触媒存在下にメタノールを反応させてメチルエステル体モノマーを回収するメタノリシス法、炭酸ナトリウムなどの触媒存在下にエチレングリコールを反応させてオリゴマーを回収するグルコリシス法などの技術が知られており、すでにこれらの技術によりポリエステルの解重合を行う商業設備が稼働している。
【0004】
また、メタノールやエチレングリコールといった有機溶媒を用いずに熱可塑性ポリエステルの解重合を行う方法としては、ポリエステルと高温高圧水とを接触させて原料モノマーであるジオールとジカルボン酸を回収する方法が開示されている(例えば特許文献1~3参照)。水のみによって解重合を行う方法は、触媒が不要であり、さらに石油由来の有機溶媒を利用しないことから、グリーンな再資源化方法であるという利点がある。
【0005】
この高温高圧水による解重合において、水にアルカリを添加し、原料モノマーであるジカルボン酸の回収率を向上させる方法が開示されている(例えば特許文献4~7)。ただし、解重合に長時間が必要である、または解重合温度を極めて高くすることが必要であった。
【0006】
さらに、プラスチックは、用途に応じて必要な特性を付与するために、複数ポリマーで構成された素材が多く、単一ポリマーで構成された素材は限られている。複数ポリマーで構成された素材をリサイクルするためには、解重合する前に、単一ポリマーに分別した後に、各々のポリマー毎に解重合してモノマーを再生する検討がなされている。ただし、分別が困難である素材に対しては、そのリサイクル技術の開発が望まれていた。
【0007】
上記の背景から、複数ポリマーを同時に解重合する方法を確立することができれば、前処理工程が不要となる上、これまで単一ポリマーに分別することが不可能であった複数ポリマーから構成される素材のリサイクルプロセスを構築することが可能となる。
【0008】
特許文献8には、ポリエステル、ポリアミドおよびポリカーボネートから選ばれる材料を加水分解する解重合方法が記載されている。しかしながら、複数ポリマーを同時に解重合することについては言及されていない。
【0009】
非特許文献1には、PC(ポリカーボネート)/PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PC/PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT/PETの加水分解について言及されているが、反応温度が高く、リサイクルモノマーを高収率で得ることは困難であった。
【0010】
一方、プラスチック再資源化装置としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂成形品と亜臨界水をバッチ処理により、不飽和ポリエステル樹脂成形品と亜臨界水の重量比を1:6から1:9の範囲で、180℃から250℃の温度で接触させてモノマーを製造する装置が開示されている(特許文献9参照)。
【0011】
また、廃ポリエチレンテレフタレート(PET)を溶融状態で高温高圧水と接触させ連続的に加水分解し、原料モノマーを回収する装置および方法が開示されている(特許文献10参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000-309663号公報
【特許文献2】特開2007-332361号公報
【特許文献3】特開平6-72922号公報
【特許文献4】特表平11-502870号公報
【特許文献5】特開平8-302061号公報
【特許文献6】国際公開第2007/148353号
【特許文献7】国際公開第2004/041917号
【特許文献8】米国特許第4605762号明細書
【特許文献9】特開2012-106244号公報
【特許文献10】特開平9-77905号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Waste Management,68(2017)24-31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に開示された熱可塑性ポリエステルの解重合方法によれば、エチレングリコール収率92%、テレフタル酸収率96%と高収率で得られる。しかしながら、開示されているポリエステルの解重合方法は、300℃~350℃の高温で、比熱容量が4.2kJ/kg・K、気化熱が2,250kJ/kgと非常に高い水を熱可塑性ポリエステルに対して約6倍量用いて反応を行っており、解重合反応ならびに低濃度のエチレングリコール水溶液からのエチレングリコールの回収におけるエネルギーコストが高い。
【0015】
また、特許文献2ではポリエチレンテレフタレートの加水分解時にテレフタル酸を添加し、300℃、10分でエチレングリコールおよびテレフタル酸を収率100%で得ている。しかしながら、反応温度を265℃に変更するとエチレングリコールおよびテレフタル酸の収率は56%まで低下し、テレフタル酸の添加なしではさらに収率は低下する。さらに、水を熱可塑性ポリエステルに対して約9倍量と多量に使用するため、エネルギーコストが高いという問題を有している。
【0016】
一方、特許文献3に開示されたポリエチレンテレフタレートの解重合方法は水のみ、反応温度280℃と比較的低温でありながら、エチレングリコール収率90%、テレフタル酸収率96%と解重合物を高収率で得られるものの、解重合反応に6時間を要し、効率的とは言えない。さらに、特許文献3では、精製除去が困難な不飽和結合を有する着色性不純物による色調悪化を改善するため、廃PETに対して1重量%のパラジウム/カーボン触媒を用いて水素添加処理を施している。実際、本発明者らがポリエチレンテレフタレートを原料に、特許文献3記載の方法から水素添加処理を施さない以外は同条件、類似条件で解重合実験を行った場合、反応混合物は薄橙色に着色した。
【0017】
上記従来技術を踏まえ、本発明のリサイクルモノマー、リサイクルモノマーの製造方法、並びに後述の本発明の第1および第2の好ましい態様は、高温高圧水の利点を生かしつつ、解重合により得られる生成物の過反応を抑制し、高収率でジカルボン酸やジオールなどのリサイクルモノマーを生成させることが可能な方法を提供することを目的とする。
【0018】
また、後述の本発明の第3の好ましい態様は、これまでケミカルリサイクルが困難であった複数ポリマーから構成される素材から、高収率でリサイクルモノマー、特にジカルボン酸、ジオールを製造することが可能な方法を提供することを目的とする。
【0019】
一方、プラスチック再資源化装置として、特許文献9に開示された解重合装置は、反応器がバッチ式であるため、大量に処理を行う場合、仕込み、排出のサイクル時間の影響で反応器の容積が増大してしまうことになり、リサイクルモノマーを製造する装置のコストの増大につながり十分な効率が得られなかった。一方、樹脂成形品に添加する亜臨界水量を低下させた場合には、樹脂成形品の処理量が増加するため効率が向上するが、十分なリサイクルモノマー収率を得ることができなかった。
【0020】
また、特許文献10に開示された廃PETの加水分解を行う方法及び装置は、連続式のため、バッチ式のような反応器容積の増大を防ぐことができ、バッチ式の場合より高効率でリサイクルモノマーを製造することができる。一方で、上記同様、廃PETに添加する高温高圧水量を低下させた場合、十分なリサイクルモノマー収率を得ることはできなかった。
【0021】
そこで、本発明のリサイクルモノマーの製造装置は、連続反応器を用いて、高効率、かつ高収率でリサイクルモノマーを製造することができるリサイクルモノマーの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
1.ポリマーを含む組成物を亜臨界水と接触させて製造されるリサイクルモノマーであって、ポリマーを含む組成物において、示差走査熱量計で測定したポリマーの融点をMp℃、反応温度をX℃、反応時間をY分、水とポリマーの質量比をZ:1とした場合、XおよびXとYとZの積X・Y・Zが、下記(I)および(II)を同時に満たす条件で製造されるリサイクルモノマー。
(I) Mp≦X<300
(II)2000≦X・Y・Z≦20000
2.ポリマーが熱可塑性ポリエステル、または熱可塑性ポリアミドである上記1に記載のリサイクルモノマー。
3.上記1に記載のリサイクルモノマーを再重合して得られるリサイクルポリマー。
4.上記3に記載のリサイクルポリマーを用いてなる衣料用繊維、産業用繊維、フィルム、シート、自動車部品、または電気・電子部品。
5.ポリマーを含む組成物を亜臨界水と接触させる工程を含むリサイクルモノマーの製造方法。
6.ポリマーが熱可塑性ポリエステル(A)であり、示差走査熱量計で測定した熱可塑性ポリエステル(A)の融点をMp℃、反応温度をX℃、反応時間をY分、水と熱可塑性ポリエステル(A)の質量比をZ:1とした場合、XおよびXとYとZの積X・Y・Zが、下記(I)および(II)を同時に満たす上記5に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
(I) Mp≦X<300
(II)2000≦X・Y・Z≦20000
7.熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物を亜臨界水と接触させ、熱可塑性ポリエステル(A)を加水分解して得られる反応混合物中の熱可塑性ポリエステル(A)由来のジオールの濃度が4.9質量%以上である上記6に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
8.熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物を亜臨界水と接触させ、熱可塑性ポリエステル(A)を加水分解して得られる反応混合物中の熱可塑性ポリエステル(A)由来の環状エーテルの濃度が3.0質量%以上である上記6に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
9.熱可塑性ポリエステル(A)に対する亜臨界水の質量比Zが6未満である上記6に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
10.熱可塑性ポリエステル(A)がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、およびポリブチレンテレフタレート、およびそれらの共重合体から選ばれる少なくとも1種を主成分とする上記6に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
11.熱可塑性ポリエステル(A)が、少なくともポリエステルを含有する廃棄物である上記6に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
12.リサイクルモノマーがジカルボン酸および/またはジオールである上記6に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
13.上記12の製造方法によって得られるジカルボン酸および/またはジオールを原料とした熱可塑性ポリエステルの製造方法。
14.上記12に記載の製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルを原料に用いて繊維、フィルムまたは成形品の熱可塑性ポリエステルを含む製品を製造する、熱可塑性ポリエステル製品の製造方法。
15.上記12に記載の製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルを含む組成物を原料に用いて繊維、フィルムまたは成形品の熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製品を製造する、熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製品の製造方法。
16.ポリマーが熱可塑性ポリエステル(A)であり、熱可塑性ポリエステル(A)100重量部に対し、0.01~4.0重量部のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を配合する、上記5に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
17.熱可塑性ポリエステル(A)100重量部に対し、亜臨界水を100~1000重量部配合する、上記16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
18.亜臨界水と接触させる工程の温度が250~350℃である、上記16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
19.亜臨界水と接触させる工程の圧力が3~30MPaである、上記16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
20.アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩が金属水酸化物および/または金属炭酸塩である、上記16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
21.熱可塑性ポリエステル(A)が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびそれらの共重合体から選ばれる少なくとも1種である、上記16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
22.熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物が、酸化防止剤、耐熱剤、耐候剤、離型剤および結晶核剤から選ばれる少なくとも1種を含む、上記16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
23.熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物が廃棄物である、上記16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
24.リサイクルモノマーがジカルボン酸および/またはジオールである上記16に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
25.上記24に記載の製造方法で得られるジカルボン酸および/またはジオールを原料とした熱可塑性ポリエステルの製造方法。
26.上記25に記載の製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルに酸化防止剤、耐候剤、離型剤および結晶核剤から選ばれる少なくとも1種を配合する、熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製造方法。
27.上記25に記載の製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルを原料に用いて繊維、フィルムまたは成形品の熱可塑性ポリエステルを含む製品を製造する、熱可塑性ポリエステル製品の製造方法。
28.上記26に記載の製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルを含む組成物を原料に用いて繊維、フィルムまたは成形品の熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製品を製造する、熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製品の製造方法。
29.ポリマーを含む組成物が、ポリマーIとポリマーIIを含み、
ポリマーIが熱可塑性ポリエステル(A)であり、
ポリマーIIが熱可塑性ポリエステル(A)とは異なる融点の熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートおよびポリウレタンからなる群から選ばれる1種のポリマーまたはそれらポリマーの組合せであり、
組成物中におけるポリマーIIの含有量(熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートおよびポリウレタンの含有量の合計)が、ポリマーI100重量部に対して、1~100重量部であり、
組成物中におけるポリマーIとポリマーIIを同時に、250~350℃の亜臨界水と接触させる工程を有する上記5に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
30.ポリマーを含む組成物が、ポリマーIとポリマーIIを含み、
ポリマーIが熱可塑性ポリエステル(A)であり、
ポリマーIIが熱可塑性ポリエステル(A)とは異なる融点の熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートおよびポリウレタンからなる群から選ばれる1種のポリマーまたはそれらポリマーの組合せであり、
組成物中におけるポリマーIIの含有量(熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートおよびポリウレタンの含有量の合計)が、ポリマーI100重量部に対して、1~100重量部であり、
組成物中におけるポリマーIとポリマーIIを、アルカリ性成分を配合した条件下、200~350℃の亜臨界水と接触させて同時に加水分解する工程を有する上記5に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
31.前記ポリマーを含む組成物が、ポリマーIとポリマーIIを含有する組成物、および/または、ポリマーIを含有する組成物とポリマーIIを含有する組成物との混合物を含む、上記29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
32.前記ポリマーを含む組成物中のポリマー成分100重量部に対して、水を100~900重量部配合する、上記29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
33.亜臨界水と接触させる工程における圧力が4.0MPa~30MPaである、上記29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
34.前記ポリマーを含む組成物に、さらにアルカリ性成分を配合する、上記29に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
35.熱可塑性ポリエステル(A)がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびそれらの共重合体から選ばれる、上記29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
36.熱可塑性ポリエステル(B)がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびそれらの共重合体から選ばれる少なくとも1種であって、ポリエステル(A)とは異なる融点の熱可塑性ポリエステルである、上記29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
37.熱可塑性ポリエステル(A)と熱可塑性ポリエステル(B)の融点の差が10℃以上である、上記29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
38.前記ポリマーを含む組成物が廃棄物である、上記29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
39.リサイクルモノマーがテレフタル酸および/またはジオールである上記29または30に記載のリサイクルモノマーの製造方法。
40.上記29または30に記載の製造方法で得られるジカルボン酸および/またはジオールを重合原料に用いて熱可塑性ポリエステルを製造する、熱可塑性ポリエステルの製造方法。
41.上記40に記載の製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルを原料に用いて繊維、フィルムまたは成形品の熱可塑性ポリエステル製品を製造する、熱可塑性ポリエステル製品の製造方法。
42.上記40に記載の製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルを含む組成物を原料に用いて繊維、フィルムまたは成形品の熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製品を製造する、熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製品の製造方法。
43.ポリマーを含む組成物を加熱および加圧し供給する手段(L)と、亜臨界水を生成し供給する手段(M)と、前記手段(L)から供給された前記熱可塑性ポリマーを含む組成物と前記手段(M)から供給された前記亜臨界水を混合する手段(N)と、ポリマーの加水分解を行う連続反応器(O)を有する、
リサイクルモノマーの製造装置。
44.前記連続反応器(O)の上流部および下流部の内部温度をモニタリングする装置(P)と、前記連続反応器(O)を加熱および/または冷却する温度調整機構(Q)を有し、
前記装置(P)に基づき前記温度調整機構(Q)を動作させ、前記連続反応器(O)の内部温度を制御する、
上記43に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
45.前記温度調整機構(Q)が複数個設置されており、
前記装置(P)に基づき複数個の前記温度調整機構(Q)を動作させる、
上記43に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
46.前記連続反応器(O)の上流部の内部温度に対して下流部の内部温度を10℃以上低い状態とするように前記温度調整機構(Q)を制御する、
上記44または45に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
47.前記連続反応器(O)が管型連続反応器である、
上記44または45に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
48.前記手段(L)が押出機である、
上記44または45に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
49.前記手段(N)がスタティックミキサーである、
上記44または45に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
50.前記ポリマーを含む組成物が樹脂成形体の廃棄物である、
上記44または45に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
51.前記ポリマーが熱可塑性ポリアミドまたは熱可塑性ポリエステルである、
上記44または45に記載のリサイクルモノマーの製造装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明のリサイクルモノマー、リサイクルモノマーの製造方法、および後述の本発明の第1の好ましい態様は、特に熱可塑性ポリエステルを含む組成物の解重合において、少量の水で短時間処理するだけでも高効率で熱可塑性ポリエステルを解重合でき、ジオールおよびジカルボン酸を高濃度に含有する反応混合物が得られることから、解重合反応および蒸留精製に要するエネルギー消費量が少ない方法を提供できる。さらに、解重合反応条件が低温かつ短時間であることでジオールおよびジカルボン酸の二次反応が抑制され、高い収率で着色のないジオールおよびジカルボン酸が得られる。
【0024】
また、後述の本発明の第2の好ましい態様は、特定量のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を添加して、熱可塑性ポリエステルを含む組成物を加水分解することで、生成物の過反応を抑制し、高収率でジカルボン酸および/またはジオールを生成させることができる。
【0025】
さらに、後述の本発明の第3の好ましい態様は、これまでケミカルリサイクルが困難であった複数ポリマーから構成される素材を同時に加水分解し、高収率でリサイクルモノマーを製造する方法を提供できる。特に、熱可塑性ポリエステル(A)からなるポリマーIと、熱可塑性ポリエステル(A)とは異なる融点の熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートおよびポリウレタンから選ばれる少なくとも1種からなるポリマーIIを、それぞれ特定の量含有する組成物を、特定の温度範囲の亜臨界水で同時に加水分解する工程を有することにより、高収率でジカルボン酸および/またはジオールを製造することができる。
【0026】
加えて、本発明のリサイクルモノマーの製造装置は、連続反応器を用いて、連続反応器上流部および連続反応器下流部の反応温度の精密制御を実施することにより、高効率、かつ高収率でリサイクルモノマーを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明のリサイクルモノマーの製造装置の一実施形態を示す模式図である。
図2】本発明のリサイクルモノマーの製造装置の別の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0029】
[1]リサイクルモノマー、リサイクルポリマー、及びリサイクルモノマーを用いてなる各種製品
本発明のリサイクルモノマーは、ポリマーを含む組成物を亜臨界水と接触させて製造されるリサイクルモノマーであって、ポリマーを含む組成物において、示差走査熱量計で測定したポリマーの融点をMp℃、反応温度をX℃、反応時間をY分、水とポリマーの質量比をZ:1とした場合、XおよびXとYとZの積X・Y・Zが、下記(I)および(II)を同時に満たす条件で製造される。
(I) Mp≦X<300
(II)2000≦X・Y・Z≦20000。
【0030】
上記リサイクルモノマーとしては、製造量が多く、リサイクルの必要性が高いポリマーを解重合して得られるモノマーが好ましい。具体的には、熱可塑性ポリエステルのモノマー、熱可塑性ポリアミドのモノマーが好ましい。前者モノマーとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、1,4-アントラセンジカルボン酸、1,5-アントラセンジカルボン酸、1,8-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなどの炭素数2~20の脂肪族または脂環式グリコール、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの分子量200~100,000の長鎖グリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどの芳香族ジオキシ化合物およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0031】
後者のモノマーとしては、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカンジアミン、ウンデカンジアミン、ドデカンジアミン、トリデカンジアミン、テトラデカンジアミン、ペンタデカンジアミン、ヘキサデカンジアミン、ヘプタデカンジアミン、オクタデカンジアミン、ノナデカンジアミン、エイコサンジアミン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタンなどの脂肪族ジアミン、シュウ酸、スクシン酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、これらジカルボン酸のジアルキルエステル、ジクロリドなどが挙げられる。
【0032】
本発明のリサイクルモノマーにおいて、前記ポリマーが熱可塑性ポリエステル、または熱可塑性ポリアミドであることが好ましい。熱可塑性ポリエステルとしては、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を重縮合して得られる単独重合体または共重合体が好ましく、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリプロピレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/サクシネート、ポリプロピレンテレフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/アジペート、ポリプロピレンテレフタレート/セバケート、ポリブチレンテレフタレート/セバケート、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/サクシネート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/セバケートなどの芳香族ポリエステル樹脂などが挙げられ、2種以上の混合物であってもよい。
【0033】
一方、熱可塑性ポリアミドとしては、アミノ酸、ラクタムあるいはジカルボン酸とジアミンを重縮合して得られる単独重合体または共重合体が好ましく、具体的には、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリペンタメチレンアジパミド(ポリアミド56)、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリペンタメチレンセバカミド(ポリアミド510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)およびこれらの共重合体などが挙げられ、2種以上の混合物であってもよい。製造量が多く、より多くのリサイクル原資を確保できる観点から、前記ポリマーが、熱可塑性ポリエステルであることがより好ましい。
【0034】
本発明のリサイクルポリマーは、本発明のリサイクルモノマーを再重合して得られる。本発明のリサイクルモノマーを再重合してリサイクルポリマーとすることで、プラスチック材料として使用することができ、資源循環に貢献できる。
【0035】
本発明の衣料用繊維、産業用繊維、フィルム、シート、自動車部品、または電気・電子部品は、本発明のリサイクルポリマーを用いてなる。前記製品は、環境配慮型という付加価値を有する。
【0036】
[2]リサイクルモノマーの製造方法
本発明のリサイクルモノマーの製造方法は、ポリマーを含む組成物を亜臨界水と接触させる工程を含む。本発明のリサイクルモノマーの製造方法は、以下の4つの好ましい態様を含む。本明細書において、本発明のリサイクルモノマーの製造方法の3つの好ましい態様を、それぞれ単に「本発明の第1の好ましい態様」、「本発明の第2の好ましい態様」、「本発明の第3の好ましい態様」という場合がある。また、後述の「[3]リサイクルモノマーの製造装置」の項目に記載のリサイクルモノマーの製造方法を、単に「本発明の第4の好ましい態様」という場合がある。
【0037】
[2-1]本発明の第1の好ましい態様
第1の好ましい態様は、熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物を亜臨界水と接触させる工程を含み、示差走査熱量計で測定した熱可塑性ポリエステル(A)の融点をMp℃、反応温度をX℃、反応時間をY分、水と熱可塑性ポリエステル(A)の質量比をZ:1とした場合、XおよびXとYとZの積X・Y・Zが、下記(I)および(II)を同時に満たすリサイクルモノマーの製造方法である。
(I) Mp≦X<300
(II)2000≦X・Y・Z≦20000。
【0038】
熱可塑性ポリエステル(A)と亜臨界水を接触させて加水分解することで、熱可塑性ポリエステル(A)を構成するジオールおよび/またはジカルボン酸に解重合できる。
【0039】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステル(A)は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主原料として重縮合して得られる、単独重合体または共重合体である。ここで、主原料とは、ポリマー中のジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体の構成単位が50モル%以上であることを示す。好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0040】
上記のジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、1,4-アントラセンジカルボン酸、1,5-アントラセンジカルボン酸、1,8-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0041】
ここで言うエステル形成性誘導体とは、先に述べたジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、酸ハロゲン化物等である。ジカルボン酸の低級アルキルエステルとして、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステル、ヒドロキシブチルエステル等が好ましく用いられる。ジカルボン酸の酸無水物として、ジカルボン酸同士の無水物、ジカルボン酸と酢酸との無水物等が好ましく用いられる。ジカルボン酸のハロゲン化物として、酸塩化物、酸臭化物、酸ヨウ化物等が好ましく用いられる。
【0042】
上記のジオールまたはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなどの炭素数2~20の脂肪族または脂環式グリコール、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの分子量200~100,000の長鎖グリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどの芳香族ジオキシ化合物およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0043】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を構造単位とする単独重合体または共重合体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリプロピレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/サクシネート、ポリプロピレンテレフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/アジペート、ポリプロピレンテレフタレート/セバケート、ポリブチレンテレフタレート/セバケート、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/サクシネート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/セバケートなどの芳香族ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0044】
ここで、「/」は共重合体を表す。これらの単独重合体および共重合体は、単独で用いても2種以上を任意の含有量で混合して用いてもよい。中でも、熱可塑性ポリエステル(A)を再資源化し、化石資源循環利用を推進する目的から、生産量および消費量が多い芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主原料とする単独重合体または共重合体が好ましい。前記好ましい重合体の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体から選ばれた少なくとも1種と、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、および1,4-ブタンジオールまたはそれらのエステル形成性誘導体から選ばれた少なくとも1種を重縮合して得られる単独重合体または共重合体が挙げられ、中でもポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびその共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種が特に好ましく用いられる。
【0045】
本発明の熱可塑性ポリエステル(A)は、本発明の目的を損なわない範囲で、重合触媒、熱可塑性ポリエステル以外の熱可塑性樹脂、染料、各種添加剤、繊維状充填材、繊維状充填材以外の充填剤などを配合したものであってもよい。ここでの繊維状充填材は、繊維状の形状を有するいずれの充填材でもよい。繊維状充填材以外の充填剤としては、有機充填剤、無機充填剤のいずれでもよいし、例えば非繊維状充填材が挙げられる。これらを2種以上配合したものでもよい。
【0046】
本発明の熱可塑性ポリエステル(A)は、少なくとも熱可塑性ポリエステルを含有する樹脂成形体の廃棄物であっても良い。熱可塑性ポリエステルを含有する樹脂成形体の廃棄物としては、熱可塑性ポリエステル製品、熱可塑性ポリエステル製品の製造過程で発生する産業廃棄物、あるいは熱可塑性ポリエステル製品の使用済み廃棄物などを含む。熱可塑性ポリエステル製品としては、例えば飲料用ボトル、調味料用ボトルなどの容器、食品用トレイ、ブリスターパック、食品用中仕切り、工業用トレイなどのシート製品、包装フィルム、光学用機能性フィルム、磁気テープおよび絶縁材料などのフィルム製品、古着、ユニホーム、スポーツウエアおよびインナーウエアなどの衣料用繊維構造物、カーテン、カーペット、網、ベルトおよびシートなどの産業用繊維構造物、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、日用品、生活雑貨および衛生用品などの成形品、などが挙げられる。さらに、これらの生産工程で発生する製品屑、ペレット屑、塊状屑なども廃棄物の対象となる。熱可塑性ポリエステルを含有する樹脂成形体の廃棄物は、本発明の効果を損なわない範囲で、熱可塑性ポリエステル(A)以外からなる製品とともに本発明の解重合方法に供してもよい。
【0047】
本発明の第1の好ましい態様における熱可塑性ポリエステル(A)の解重合方法は、熱可塑性ポリエステルを亜臨界水と接触させる工程を含み、少なくとも熱可塑性ポリエステル(A)および水を加熱混合する際、熱可塑性ポリエステルの融点がMp℃であるとき、反応温度をX℃、反応時間をY分、水と熱可塑性ポリエステルの質量比をZ:1とした場合、XおよびXとYとZの積X・Y・Zが、(i)Mp≦X<300および(ii)2000≦X・Y・Z≦20000を同時に満たすことを特徴とする。
【0048】
ここでいう、本発明における熱可塑性ポリエステル(A)の融点は、TAインスツルメント社製示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、熱可塑性ポリエステル(A)を、溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で融点+40℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度である。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とする。熱可塑性ポリエステルの融点に特に制限はないが、好ましい融点の範囲として、50℃超300℃未満が例示できる。融点が50℃超であると、熱可塑性ポリエステルが常温で固体となるため、取り扱い性に優れる。また、融点が300℃未満であることで、解重合生成物の転化反応を抑制可能な温度領域において、融液状態で水と混合できるため、反応効率を向上でき、好ましい。
【0049】
ここで用いられる水に特に制限はないが、水道水、イオン交換水、蒸留水、井戸水など、どのような水を用いても良いが、共存する塩の影響による副反応を抑制する観点からはイオン交換水や蒸留水が好ましく用いられる。
【0050】
水としては、熱可塑性ポリエステル(A)と反応させる際に、熱可塑性ポリエステル(A)の融点Mp℃以上300℃未満に加熱されていればよい。水は圧力22.1MPa、温度374.2℃まで上げると液体でも気体でもない状態を示す。この点を水の臨界点と言い、臨界点よりやや低い温度および圧力の臨界点の近傍領域の熱水を亜臨界水と言う。本発明に用いる水は300℃未満であり亜臨界水に該当する。この亜臨界水は水であるにも関わらず、(i)誘電率が低い、(ii)イオン積が高いといった特徴があり、亜臨界水の誘電率、イオン積は温度や水の分圧に依存し、制御することが可能である。誘電率が低くなることにより、水でありながらも有機化合物の優れた溶媒となり、イオン積が高くなることにより水素イオンおよび水酸化物イオン濃度が高くなることから優れた加水分解作用を有する。
【0051】
また、水の圧力としては飽和蒸気圧よりも高いことが好ましく例示できる。水としては、液体状態でも水蒸気のような気体状態でも、その両者を用いても良いが、反応場としては、気体状態よりも液体状態の方が反応は進みやすいため水の圧力としては飽和蒸気圧よりも高いことが好ましい。また、水の圧力の上限としては特に制限はないが、30MPaであることが好ましい。水の圧力の上限は、25MPaがより好ましく、22MPaがさらに好ましい。このような圧力範囲にあることにより、上記した水のイオン積が高くなる傾向にあるため好ましい。水をこのような圧力範囲とする方法としては、圧力容器内部を加圧して密閉する方法が挙げられる。圧力容器内部を加圧するには、水に加え気体を封入する方法が挙げられる。このような気体としては、空気、アルゴン、窒素などが挙げることができる。酸化反応などの副反応を抑制するとの観点から、封入する気体は窒素、アルゴンを用いることが好ましい。また、高圧水を導入することによっても圧力容器内部を加圧することができる。高圧水を用いる場合は、圧力容器内に気体が無い状態とすることもできる。気体や高圧水による加圧の程度としては、目的の圧力となるように設定するため特に限定はされないが、0.3MPa以上が好ましい。
【0052】
本発明の第1の好ましい態様における熱可塑性ポリエステル樹脂(A)の解重合方法における反応温度は、熱可塑性ポリエステル(A)の融点がMp℃であるとき、М℃以上300℃未満である。ここでいう反応温度は、温度が制御された反応容器内において熱可塑性ポリエステル(A)と水を一定時間反応させる間の温度のことをいい、一定温度であっても、経時的に変動させた温度であってもよい。なお、反応温度に到達するまでの昇温過程や反応温度で反応させたのちの冷却過程における温度については、反応温度を超えない限り特に制限はない。反応温度が熱可塑性ポリエステルの融点以上であることにより、熱可塑性ポリエステル(A)は反応時に融液状となり、水と混合された際、液滴状に分散し界面積が増大するので反応効率を向上させることができる。一方、反応温度が300℃未満であることで、ジオールの転化反応(過反応)に触媒的に作用するジカルボン酸の熱水溶解性を調節でき、ジオールの転化反応を抑制できる。着色低減の目的から290℃以下が好ましく、ジオール高収率化の目的から280℃以下が特に好ましい。
【0053】
反応温度Xが前記好ましい範囲にあるとき、水と熱可塑性ポリエステルの質量比をZ:1とした場合、Zは6未満とすることが好ましい。ジオールは水溶解性が大きく室温から反応温度Xを含めた温度域でよく水と混和する一方、ジカルボン酸の水溶解性は室温では小さく熱水で大きくなる傾向を有することが知られている。例えば、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートの加水分解により生成するジカルボン酸であるテレフタル酸は、常温(20℃)では15mg/Lとほとんど水に溶けないが、温度が高くなるほど水溶解性が向上し、250℃では10質量%、300℃では44質量%のテレフタル酸水溶液となる。反応温度Xが好ましくとりうる温度領域においてジカルボン酸の熱水溶解性を調節し、Zを6未満とすることでジカルボン酸のジオールに対する濃度を相対的に低くすることができ、ジオールおよびジカルボン酸を高収率で得ることができる。処理効率を向上させ、設備の大型化を避けられる利点から、Zは5以下がさらに好ましく、4以下が特に好ましい。
【0054】
本発明の第1の好ましい態様における熱可塑性ポリエステル(A)の解重合方法は、反応温度をX℃、反応時間をY分、水と熱可塑性ポリエステルの質量比をZ:1とした場合、XとYとZの積X・Y・Zが、2000≦X・Y・Z≦20000となる条件で接触させることを特徴とする。ここでいう反応時間Yは、反応温度Xに制御された反応容器内で熱可塑性ポリエステル(A)と水を混合する時間のことをいう。反応温度Xに到達するまでの加熱時間や反応温度Xで反応させたのちの冷却時間は、Yには含まない。Yの値は前記XとYとZの積の範囲を満たす限り特に制限されず、XとZに対応して設定することができる。XとYとZの積は17,500以下であることが好ましく、15,000以下がさらに好ましく、12,500以下が特に好ましい。また、XとYとZの積は好ましくは2,200以上、より好ましくは2,400以上、特に好ましくは2,600以上の条件とすることが例示できる。なお、反応は複数の温度で実施してもよいが、その場合の積X・Y・Zは、各反応温度での積X・Y・Zを合計したものとする。本発明は化石資源の循環利用と地球温暖化ガス排出量低減の両立を目的とした省エネルギーの解重合方法に関するものである。水の比熱容量は4.3kJ/kg・K、気化熱が2,250kJ/kgと、他の有機溶剤と比べると非常に高いため、水の使用量を減らすことが重要であり、XとYとZの積をこれら条件範囲とすることによりジカルボン酸およびジオールの生成効率と省エネルギーを両立することができる。
【0055】
さらに、ジオール回収、精製時の省エネルギーを達成するため、反応混合物中に含まれる熱可塑性ポリエステル(A)由来のジオールの濃度は、4.9質量%以上であることが好ましい。前記ジオールの濃度は、6.0重量%以上がより好ましく、7.0重量%以上がさらに好ましい。反応混合物中に含まれるジオールの濃度が前記好ましい範囲であることによって、ジオール1kgを回収するために処理する反応混合物の量を低減できるので、設備を小型化でき、さらに回収時の水の加熱に要するエネルギーを削減できる。ここでいう、反応混合物中に含まれる熱可塑性ポリエステル(A)由来のジオールの濃度は、島津製作所製ガスクロマトグラフィーGC-2010を用いて、絶対検量線法によって求めることができる。なお、ここでいうジオールは、熱可塑性ポリエステル(A)の解重合によって製造されるジオールであって、反応の前および/または後に添加されたものではない。反応混合物中に含まれる熱可塑性ポリエステル(A)由来のジオールの濃度を前記好ましい範囲にする方法としては、水の熱可塑性ポリエステル(A)に対する質量比Zを前記好ましい範囲として、熱可塑性ポリエステル(A)を本発明によって解重合することが例示できる。
【0056】
熱可塑性ポリエステル(A)として、ポリブチレンテレフタレートを用いた場合には、その解重合により、原料であるブタンジオールと、ブタンジオールが脱水反応した環状エーテル(テトラヒドロフラン)を生成し、後者の環状エーテルの生成量が多くなる。熱可塑性ポリエステル(A)として、ポリブチレンテレフタレートを用いた場合には、反応混合物中の熱可塑性ポリエステル(A)由来の環状エーテルの濃度が3.0質量%以上であることが好ましい。5.0重量%以上がより好ましく、6.0重量部以上がさらに好ましい。前記好まし範囲であることによって、環状エーテル回収、精製時のエネルギー消費を抑制できる。
【0057】
熱可塑性ポリエステルと水との反応によるジオールおよびジカルボン酸の生成反応、ジカルボン酸の熱水溶解性、およびジオールの転化反応について検討した結果、上述したポリブチレンテレフタレート以外の熱可塑性ポリエステルに関しては、X、ならびにXとYとZの積、さらにZを上記範囲とすることでジオールの転化反応を抑制し、熱可塑性ポリエステルを構成するジカルボン酸およびジオール、特にジオールの収量を大幅に向上させることができる。
【0058】
さらにアルカリ性成分を配合することで、生成モノマーの収率を向上させることができる。アルカリ性成分としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、アンモニウムなどの水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、またはアミンなどが挙げられる。特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムから選ばれる少なくとも1種が好ましい。アルカリ性成分の配合量は、熱可塑性ポリエステル(A)100重量部に対して、0.01重量部以上、50重量部以下が好ましい。20重量部以上がより好ましく、30重量部以上がさらに好ましい。一方、45重量部以下がより好ましく、42重量以下がさらに好ましい。アルカリ性成分を配合した場合には、熱可塑性ポリエステルの加水分解によってジカルボン酸塩が生成する。ジカルボン酸塩は酸性水溶液で処理することにより、熱可塑性ポリエステル原料であるジカルボン酸に変換できる。
【0059】
本発明の第1の好ましい態様における熱可塑性ポリエステルの解重合には、バッチ式および連続方法など公知の各種反応方式を採用することができる。例えばバッチ式であれば、いずれも撹拌機と加熱機能を備えたオートクレーブ、縦型・横型反応器、撹拌機と加熱機能に加えてシリンダー等の圧縮機構を備えた縦型・横型反応器などが挙げられる。連続式であれば、いずれも加熱機能を備えた押出機、管型反応器、バッフルなどの混合機構を備えた管型反応器、ラインミキサー、縦型・横型反応器、撹拌機を備えた縦型・横型反応器、塔などが挙げられる。また、製造における雰囲気は非酸化性雰囲気下が望ましく、窒素、ヘリウム、およびアルゴンなどの不活性雰囲気下で行うことが好ましく、経済性および取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気下が好ましい。
【0060】
本発明の第1の好ましい態様における熱可塑性ポリエステルの解重合方法により生成したジオールとジカルボン酸の回収方法には特に制限はなく、何れの方法も採用できる。例えば、解重合反応をバッチ式で行う場合は、解重合反応が終了してから水とともに留出させ固体のジカルボン酸が分散および/または析出したジオール水溶液として反応混合物(C)を得ることができる。また、解重合反応を連続式で行う場合には、反応の進行とともに固体のジカルボン酸が分散したジオール水溶液として、反応混合物(C)を得ることができる。得られた反応混合物(C)は固液分離などの公知の方法により固体のジカルボン酸を分離し、蒸留分離によりジオールを水と分離することで純度の高いジオールおよびジカルボン酸を回収することができる。また、反応混合物中に水に不溶の成分があれば、ジカルボン酸が溶解する条件において固液分離などの公知の方法により分離し、ジオールとジカルボン酸の回収工程に供することもできる。
【0061】
さらに高純度のジオールを得る方法としては、回収したジオールを精密蒸留する方法、微量の水酸化ナトリウムを添加して減圧蒸留する方法、活性炭処理する方法、イオン交換処理する方法、再結晶する方法等の精製方法と組み合わせることができる。これら方法により、蒸留分離では分離困難な不純物も効率的に除去することができる。
【0062】
本発明の第1の好ましい態様に記載の熱可塑性ポリエステルの解重合方法では純度の高いジオールおよびジカルボン酸を得ることができることから、石油由来の原料から製造したジオールおよびカルボン酸と同様に、熱可塑性ポリエステルの重合原料として用いることができる。熱可塑性ポリエステルは、ジオール、およびジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を、通常公知の重縮合反応に供することで熱可塑性ポリエステル(リサイクルポリマー)を製造することができる。
【0063】
また、このようにして得られた熱可塑性ポリエステルは、石油由来の原料から製造した熱可塑性ポリエステルと同様に、衣料用繊維、産業用繊維、フィルム、シート、ボトル、射出成形品等各種製品に加工して利用することができる。これらの製品は、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品、自動車用部品、電気・電子部品またはその他の用途として有用である。
【0064】
[2-2]本発明の第2の好ましい態様
本発明の第2の好ましい態様は、熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物を亜臨界水と接触させる工程を含み、熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物中の熱可塑性ポリエステル(A)100重量部に対して、0.01~4.0重量部のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を配合するリサイクルモノマーの製造方法である。熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物は、添加剤などの他成分が熱可塑性ポリエステル(A)の解重合に影響を及ぼす。本発明の第2の好ましい態様では、アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を配合することで解重合により得られるリサイクルモノマー収率を向上させることができるとともに、その配合量を微量とすることで、アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩由来の地球温暖化ガス排出量の増加を抑制することができる。
【0065】
本発明の第2の好ましい態様に用いられる熱可塑性ポリエステル(A)は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主原料として重縮合して得られる、単独重合体または共重合体である。ここで、主原料とは、ポリマー中のジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体の構成単位が50モル%以上であることを示す。より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0066】
上記ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、1,4-アントラセンジカルボン酸、1,5-アントラセンジカルボン酸、1,8-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0067】
ここで言うエステル形成性誘導体とは、先に述べたジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、酸ハロゲン化物等である。ジカルボン酸の低級アルキルエステルとして、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステル、ヒドロキシブチルエステル等が好ましく用いられる。ジカルボン酸の酸無水物として、ジカルボン酸同士の無水物、ジカルボン酸と酢酸との無水物等が好ましく用いられる。ジカルボン酸のハロゲン化物として、酸塩化物、酸臭化物、酸ヨウ化物等が好ましく用いられる。
【0068】
上記ジオールまたはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなどの炭素数2~20の脂肪族または脂環式グリコール、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの分子量200~100,000の長鎖グリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどの芳香族ジオキシ化合物およびこれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0069】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を構造単位とする単独重合体または共重合体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリエチレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート/サクシネート、ポリプロピレンテレフタレート//サクシネート、ポリブチレンテレフタレート/サクシネート、ポリエチレンテレフタレート/アジペート、ポリプロピレンテレフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/アジペート、ポリエチレンテレフタレート/セバケート、ポリプロピレンテレフタレート/セバケート、ポリブチレンテレフタレート/セバケートなどの芳香族ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0070】
ここで、「/」は共重合体を表す。これらの単独重合体および共重合体は、単独で用いても2種以上を任意の含有量で混合して用いてもよい。中でも、熱可塑性ポリエステルを再資源化し、化石資源循環利用を推進する目的から、生産量および消費量が多い芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主原料とする単独重合体または共重合体が好ましい。前記好ましい重合体の例としては、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体から選ばれた少なくとも1種と、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、および1,4-ブタンジオールまたはそれらのエステル形成性誘導体から選ばれた少なくとも1種を重縮合して得られる単独重合体または共重合体が挙げられ、中でも熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物中の熱可塑性ポリエステル(A)が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびその共重合体から選ばれる少なくとも1種が特に好ましく用いられる。
【0071】
アルカリ金属塩としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸セシウム、リン酸水素ニリチウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二セシウム、リン酸一水素リチウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸一水素セシウム、ホウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸セシウム、クエン酸リチウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸セシウム、ギ酸リチウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、ギ酸セシウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、シュウ酸リチウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸セシウム、マレイン酸リチウム、マレイン酸カリウム、マレイン酸セシウム等が挙げられる。この中で、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウムがより好ましい。
【0072】
アルカリ土類金属塩としては水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸バリウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素バリウム、リン酸水素二マグネシウム、リン酸水素二カルシウム、リン酸水素二バリウム、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム、クエン酸マグネシウム、クエン酸カルシウム、クエン酸バリウム、ギ酸マグネシウム、ギ酸カルシウム、ギ酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム、シュウ酸マグネシウム、シュウ酸カルシウム、シュウ酸バリウム、マレイン酸マグネシウム、マレイン酸カルシウム、マレイン酸バリウム等が挙げられる。この中で、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムがより好ましい。
【0073】
熱可塑性ポリエステル(A)100重量部に対して、0.01~4.0重量部のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を配合して、解重合による生成物の過反応を抑制し、高収率でポリエステルモノマーを得ることができる。アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の配合量は、より好ましくは0.05重量部以上、さらに好ましくは0.25重量部以上である。一方、より好ましくは2.5重量部以下、さらに好ましくは1.0重量部以下である。
【0074】
本発明の第2の好ましい態様では、熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物中の熱可塑性ポリエステル(A)100重量部に対し、水を100~1000重量部配合することが好ましい。水を100~1000重量部配合することで、水を加熱するエネルギーの消費を抑制することで環境負荷を抑制しつつ、高収率でポリエステルモノマーを得ることができる。水の配合量は、より好ましくは150重量部以上、さらに好ましくは200重量部以上である。一方、より好ましくは800重量部以下、さらに好ましくは600重量部以下である。
【0075】
本発明の第2の好ましい態様では、熱可塑性ポリエステル(A)に対し、アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を配合して解重合する工程(工程1)の温度を250~350℃にすることが好ましい。この温度範囲とすることで、解重合が促進されるとともに、生成物の過反応を抑制し、ポリエステルモノマーを高収率で得ることができる。より好ましくは260℃以上、さらに好ましくは270℃以上である。一方、より好ましくは320℃以下、さらに好ましくは300℃以下である。
【0076】
本発明の第2の好ましい態様では、熱可塑性ポリエステル(A)に対し、アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を配合して解重合する工程(工程1)の圧力を3~30MPaにすることが好ましい。この圧力範囲とすることで水のイオン濃度が上がるため、熱可塑性ポリエステル(A)を効率的に解重合できる可能性がある。より好ましくは4.5MPa以上、さらに好ましくは6.0MPa以上である。一方、より好ましくは25MPa以下、さらに好ましくは20MPa以下である。
【0077】
本発明の第2の好ましい態様では、熱可塑性ポリエステル(A)に、染料、各種添加剤、繊維状充填材、繊維状充填材以外の有機充填材や無機充填材などを配合した熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物を用いてもよい。添加剤としては、酸化防止剤、耐候剤、離型剤、結晶核剤等が挙げられる。
【0078】
上記酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
【0079】
フェノール系酸化防止剤としては、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-ジ-t-ブチルフェニル)ブタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート] ]、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナミド)、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルフォスフォネート-ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-イソシアヌレート、2,4-ビス[(オクチルチオ)メチル]-o-クレゾール、またはイソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられる。
【0080】
リン系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、トリイソデシルホスファイト、イソデシルジフェニルホスファイト、2-エチルへキシルジフェニルホスファイト、4,4’-イソプロピリデンジフェノールアルキル(C12~C15)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト(アデカスタブ1178)、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジーt-ブチルフェニル)2-エチルへキシルホスファイト、3,9-ビス(2,6-ジーt-ブチルー4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサー3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン等が挙げられる。
【0081】
硫黄系酸化防止剤としては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトール(3-ラウリルチオプロピオネート)、または2-メルカプトベンゾイミダゾール等が挙げられる。
【0082】
これら酸化防止剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせると相乗的な効果が得られることがあるので、多種を併用して使用してもよい。
【0083】
耐候剤としては、紫外線吸収剤や光安定剤等が挙げられる。紫外線吸収剤の具体例としては、2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノンなどに代表されるベンゾフェノン系紫外線吸収剤、4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)-2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α’-ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール、2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-t-ブチル-4-メチルフェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノール、メチル-3-[3-tert-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート-ポリエチレングリコールとの縮合物に代表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-へキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジンに代表されるトリアジン系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0084】
また、光安定剤の具体例として、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)イミノ]}、ポリメチルプロピル3-オキシ-[4-(2,2,6,6-テトラメチル)ピペリジニル]シロキサン、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と 1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノール及び3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンとの混合エステル化物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と 2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノール及び3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンとの混合エステル化物、ビス(1-ウンデカンオキシー2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)カーボネート、1,2,2,6,6-ペンタメチルー4-ピペリジルメタクリレート)、2,2,6,6-テトラメチルー4-ピペリジルメタクリレートなどに代表されるヒンダードアミン系の光安定剤が挙げられる。
【0085】
前記離型剤の具体例としては、脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、変成シリコーン等が挙げられる。
【0086】
その中で脂肪酸エステル系離型剤としては、3~6価の脂肪族アルコールと脂肪酸とから構成され、3~6価の脂肪族アルコールとしては、例えば、グリセロール、ジグリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、トリグリセロール、ジペンタエリスリトール、テトラグリセロール等が挙げられる。
【0087】
また、脂肪酸系離型剤としては、炭素数5以上30以下の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪酸が挙げられ、例えば、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が挙げられる。
上記結晶核剤の具体例としては、無機系結晶核剤として、合成マイカ、タルク(商品名ハイトロン等)、クレー、ゼオライト、酸化マグネシウム、硫化カルシウム、窒化ホウ素、酸化ネオジウム等が挙げられる。
【0088】
また、有機系結晶核剤として、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ-ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩、p-トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩、ソルビトール系化合物、フェニルホスホネートの金属塩、ナトリウム-2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートなどのリン化合物金属塩等が挙げられる。
【0089】
上記添加剤は、熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物中の熱可塑性ポリエステル(A)100重量部に対して、0.01~3.0重量部であることが好ましい。この範囲にすることで、添加剤による効果を維持し、熱可塑性ポリエステル(A)と溶融混練する場合の添加剤の熱分解を抑制することができる。添加剤の配合量は、より好ましくは、0.05重量部以上、さらに好ましくは0.1重量部以上である。一方、2.0重量部以下がより好ましく、1.0重量部以下がさらに好ましい。
【0090】
上記添加剤を配合した熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物を解重合する場合には、生成物の過反応が進行し易く、ポリエステルモノマーの生成収率が低下する課題がある。本発明の第2の好ましい態様では、アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を配合することで、過反応を抑制し、高収率でポリエステルモノマーを製造することができる。
【0091】
本発明の第2の好ましい態様における熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物の解重合には、バッチ式および連続方法など公知の各種反応方式を採用することができる。例えばバッチ式であれば、いずれも撹拌機と加熱機能を備えたオートクレーブ、縦型・横型反応器、撹拌機と加熱機能に加えてシリンダー等の圧縮機構を備えた縦型・横型反応器等が挙げられる。連続式であれば、いずれも加熱機能を備えた押出機、管型反応器、バッフルなどの混合機構を備えた管型反応器、ラインミキサー、縦型・横型反応器、撹拌機を備えた縦型・横型反応器、塔等が挙げられる。また、製造における雰囲気は非酸化性雰囲気下が望ましく、窒素、ヘリウム、およびアルゴンなどの不活性雰囲気下で行うことが好ましく、経済性および取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気下が好ましい。
【0092】
本発明の第2の好ましい態様における熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物の解重合法により生成したジオールとジカルボン酸の回収方法には特に制限はない。例えば、解重合反応をバッチ式で行う場合は、解重合反応が終了してから水とともに留出させ固体のジカルボン酸が分散および/または析出したジオール水溶液として反応混合物を得ることができる。また、解重合反応を連続式で行う場合には、反応の進行とともに固体のジカルボン酸が分散したジオール水溶液として、反応混合物を得ることができる。得られた反応混合物は固液分離などの公知の方法により固体のジカルボン酸を分離し、蒸留分離によりジオールを水と分離することで純度の高いジオールおよびジカルボン酸を回収することができる。また、反応混合物中に水に不溶の成分があれば、ジカルボン酸が溶解する条件において固液分離などの公知の方法により分離し、ジオールとジカルボン酸の回収工程に供することもできる。
【0093】
さらに高純度のジオールを得る方法としては、回収したジオールを精密蒸留する方法、微量の水酸化ナトリウムを添加して減圧蒸留する方法、活性炭処理する方法、イオン交換処理する方法、再結晶する方法等の精製方法と組み合わせることができる。これら方法により、蒸留分離では分離困難な不純物も効率的に除去することができる。
【0094】
さらに高純度のジカルボン酸を得る方法としては、ジカルボン酸が溶解する溶媒に溶解して再結晶する方法、ジカルボン酸をエステル化してジカルボン酸ジアルキルに変換して蒸留精製した後、再度ジカルボン酸に変換する方法などを挙げることができる。
【0095】
本発明の第2の好ましい態様における熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物の解重合方法では石油由来の原料から製造したジオールおよびカルボン酸と同様に、熱可塑性ポリエステル(A)の重合原料として用いることができる。熱可塑性ポリエステル(A)は、ジオールおよび/またはジカルボン酸をそのまま、またはそのエステル形成性誘導体を、通常公知のエステル化反応またはエステル交換反応を経由し、重縮合反応することにより製造することができる。本発明の第2の好ましい態様により、使用済み廃棄熱可塑性ポリエステル(A)を含む組成物をケミカルリサイクルすることができる。
【0096】
また、このようにして得られたポリエステルは、石油由来の原料から製造した熱可塑性ポリエステル(A)と同様に、繊維、フィルム、ボトル、射出成形品等各種製品に加工して利用することができる。これらの製品は、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品、自動車用部品、電気・電子部品またはその他の用途として有用である。
【0097】
[2-3]本発明の第3の好ましい態様
本発明の第3の好ましい態様は、ポリマーIとポリマーIIを含み、ポリマーIが熱可塑性ポリエステル(A)であり、ポリマーIIが熱可塑性ポリエステル(A)とは異なる融点の熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートおよびポリウレタンからなる群から選ばれる1種のポリマーまたはそれらポリマーの組合せであり、組成物中におけるポリマーIIの含有量(熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートおよびポリウレタンの含有量の合計)が、ポリマーI100重量部に対して、1~100重量部であり、組成物中におけるポリマーIとポリマーIIを、250~350℃の亜臨界水と接触させて同時に加水分解する工程を有するリサイクルモノマーの製造方法である。
【0098】
本発明の第3の好ましい態様におけるリサイクルモノマーの製造方法において、リサイクルモノマーがテレフタル酸および/またはジオールであることが好ましい。リサイクルモノマーがテレフタル酸および/またはジオールであることにより、プラスチックとして製造量が多いポリエステルをリサイクルすることができるため、資源循環への貢献が大きいものとなる。
【0099】
本発明の第3の好ましい態様で使用される熱可塑性ポリエステル(A)、熱可塑性ポリエステル(B)としては、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、およびジオールを主原料として重縮合して得られる。ここで、主原料とは、ポリマー中のジカルボン酸、そのエステル形成性誘導体、およびジオールの構成単位が、合計で80モル%以上であることを指す。この構成単位の合計は、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、最も好ましくは100モル%である。
【0100】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、特に限定されないが、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルチオエーテル-4,4’-ジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、またはそれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0101】
ここで言うエステル形成性誘導体とは、先に述べたジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、酸ハロゲン化物等である。ジカルボン酸の低級アルキルエステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステル、ヒドロキシブチルエステル等が好ましく用いられる。ジカルボン酸の酸無水物としては、ジカルボン酸同士の無水物、ジカルボン酸と酢酸との無水物等が好ましく用いられる。ジカルボン酸のハロゲン化物としては、酸塩化物、酸臭化物、酸ヨウ化物等が好ましく用いられる。
【0102】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、繊維、樹脂、フィルムに使用される熱可塑性ポリエステル原料として使用量が多い、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体が好ましい。芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、またはそれらのジメチルエステルがより好ましい。
【0103】
ジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールA-エチレンオキシド付加物等が挙げられ、これらの中でも、得られる熱可塑性ポリエステルの汎用性が高い点で、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールがより好ましい。
【0104】
また、ジカルボン酸、ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、およびジオールをそれぞれ単独で用いてもよく、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0105】
本発明の第3の好ましい態様で使用される熱可塑性ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリエチレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート等が挙げられる。ここで、「/」は共重合体を表す。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが汎用性に優れ、リサイクル原資としての回収量が多いため、より好ましい。
【0106】
本発明の第3の好ましい態様におけるリサイクルモノマーの製造方法において、熱可塑性ポリエステル(A)がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびそれらの共重合体から選ばれることが好ましい。これらの熱可塑性ポリエステルは、製造量が多く、リサイクルのニーズが高い。
【0107】
本発明の第3の好ましい態様におけるリサイクルモノマーの製造方法において、熱可塑性ポリエステル(B)がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびそれらの共重合体から選ばれる少なくとも1種であって、熱可塑性ポリエステル(A)とは異なる融点の熱可塑性ポリエステルであることが好ましい。これらの熱可塑性ポリエステルは、製造量が多く、リサイクルのニーズが高い。
【0108】
本発明の第3の好ましい態様におけるリサイクルモノマーの製造方法において、熱可塑性ポリエステル(A)、熱可塑性ポリエステル(B)の両方がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびそれらの共重合体から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。熱可塑性ポリエステル(A)、熱可塑性ポリエステル(B)の両方が上記熱可塑性ポリエステルであることにより、同時解重合した後のリサイクルモノマーの分離精製が容易となりやすい。
【0109】
本発明の第3の好ましい態様で使用される熱可塑性ポリエステル(A)、熱可塑性ポリエステル(B)の固有粘度は、いずれも0.4~2.0dl/gであることが好ましい。ここで、熱可塑性ポリエステル(A)、熱可塑性ポリエステル(B)の固有粘度は、o-クロロフェノールを溶媒として25℃で測定した値である。本発明の第3の好ましい態様で使用される熱可塑性ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである場合は、固有粘度IVが0.4~1.5dl/gであることが好ましく、0.6~1.3dl/gであることがさらに好ましい。本発明の第3の好ましい態様で使用される熱可塑性ポリエステルがポリプロピレンテレフタレートである場合は、固有粘度が0.6~2.0dl/gであることがより好ましく、0.7~1.6dl/gであることがさらに好ましい。本発明の第3の好ましい態様で使用される熱可塑性ポリエステルがポリブチレンテレフタレートである場合は、固有粘度が0.6~2.0dl/gであることがより好ましく、0.8~1.8dl/gであることがさらに好ましい。
【0110】
本発明の第3の好ましい態様における組成物が、熱可塑性ポリエステル(A)と熱可塑性ポリエステル(B)を含む場合、配合量が多い熱可塑性ポリエステルを熱可塑性ポリエステル(A)と定義する。熱可塑性ポリエステル(A)と熱可塑性ポリステル(B)の配合量が同じ場合には、融点が高い熱可塑性ポリエステルを熱可塑性ポリエステル(A)とする。
【0111】
本発明の第3の好ましい態様で使用されるポリカーボネートとしては、ジヒドロキシ化合物とホスゲンを界面重合させて得られるもの、ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネートを溶融エステル交換反応により重合させて得られるもの、カーボネートプレポリマーを固相エステル交換反応により重合させて得られるもの、または環状カーボネート化合物を開環重合させて得られるものなどが挙げられる。ここで使用されるジヒドロキシ化合物としては、2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、4,4’-ジヒドロキシジフェニルアルカン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2’-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、およびイソソルビド(1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール)などから選択される1種以上が挙げられる。その中で、2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)が好ましい。
【0112】
また、ビスフェノールA以外のその他のジヒドロキシ化合物、例えば4,4’-ジヒドロキシジフェニルアルカン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、またはイソソルビド(1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール)をビスフェノールAと同時に使用することができ、その他のジヒドロキシ化合物の使用量は、ジヒドロキシ化合物の総量に対し、10モル%以下であることが好ましい。
【0113】
これらポリカーボネートの重合度は、特に限定されないが、実用強度に優れ、加水分解が容易となる観点から、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、10000~50000が好ましい。15000以上がより好ましく、18000以上がさらに好ましい。一方、40000以下がより好ましく、35000以下がさらに好ましい。
【0114】
ここで、粘度平均分子量(Mv)とは、溶媒としてジクロロメタンを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、更にSchnellの粘度式、すなわち、[η]=1.23×10-4×(Mv)0.83から算出される値を意味する。ここで、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[c](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
[η]=limηsp/c(c→0)
【0115】
本発明の第3の好ましい態様で使用されるポリウレタンとしては、ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするものであれば任意のものが使用でき、特に限定されない。また、ポリマージオール、ジイソシアネート、および鎖延長剤として低分子量ジアミンからなるポリウレタンウレア、ポリマージオール、ジイソシアネート、および鎖延長剤として低分子量ジオールからなるポリウレタンウレタン、鎖伸長剤として水酸基とアミノ基を分子内に有する化合物を使用したポリウレタンウレアであってもよい。
【0116】
本発明の第3の好ましい態様で使用されるポリマージオールはポリエーテル系ジオール、ポリエステル系ジオール、およびポリカーボネートジオールから選ばれる少なくとも1種が好ましい。特に加水分解後の分離が容易となる観点から、ポリエーテル系ジオールを使用することが好ましい。
【0117】
ポリエーテル系ジオールとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールの誘導体、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略す)、テトラヒドロフラン(以下、THFと略す)および3-メチルテトラヒドロフランの共重合体である変性PTMG、THFおよび2,3-ジメチルTHFの共重合体である変性PTMG、特許第2615131号公報などに開示される側鎖を両側に有するポリオール、THFとエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドが不規則に配列したランダム共重合体等が好ましく使用される。これらポリエーテル系ジオールを1種または2種以上混合もしくは共重合して使用してもよい。
【0118】
また、ブチレンアジペート、ポリカプロラクトンジオール、特開昭61-26612号公報などに開示されている側鎖を有するポリエステルポリオールなどのポリエステル系ジオールや、特公平2-289516号公報などに開示されているポリカーボネートジオール等も使用することができる。
【0119】
上記ポリマージオールは単独で使用してもよいし、2種以上混合もしくは共重合して使用してもよい。
【0120】
本発明の第3の好ましい態様で使用されるポリマージオールの分子量は、実用強度を保持する観点から、数平均分子量が1000以上8000以下のものが好ましく、1800以上6000以下がより好ましい。
【0121】
本発明の第3の好ましい態様で使用されるジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、1,4-ジイソシアネートベンゼン、キシリレンジイソシアネート、2,6-ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,6-ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4-ジイソシアネート、ヘキサヒドロキシリレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート、オクタヒドロ1,5-ナフタレンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネートが挙げられる。脂環族ジイソシアネートは、特にポリウレタン糸の黄変を抑制する際に有効に使用できる。これらのジイソシアネートは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0122】
本発明の第3の好ましい態様において、ポリウレタンの分子量は、実用強度を保持し、解重合を容易にする観点から、数平均分子量として30000以上150000以下の範囲であることが好ましい。なお、分子量はGPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)で測定し、ポリスチレンにより換算したものである。
【0123】
本発明の第3の好ましい態様では、熱可塑性ポリエステル(A)からなるポリマーIと、熱可塑性ポリエステル(A)とは異なる融点の熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートおよびポリウレタンから選ばれる少なくとも1種からなるポリマーIIを同時に解重合することで、熱可塑性ポリエステル(A)のみを解重合するよりも、生成するジカルボン酸の収率が高くなる効果がある。その効果を発現させるためには、熱可塑性ポリエステル(A)100重量部に対して、熱可塑性ポリエステル(B),ポリカーボネートおよびポリウレタンから選ばれる少なくとも1種以上のポリマーが1重量部以上含まれることが必要である。より好ましくは5重量部以上、さらに好ましくは10重量部以上、最も好ましくは20重量部以上である。
【0124】
ポリマーの加水分解においては、ポリマーが溶融するか、またはポリマーが水に溶解することで、加水分解が促進すると推定される。熱可塑性ポリエステル(A)に対して、熱可塑性ポリエステル(A)とは異なる融点の熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートおよびポリウレタンから選ばれる少なくとも1種を、水存在下で同時に加熱することによって、融点が低いポリマー(融点を示さないポリマーはガラス転移温度を融点と定義する)の溶融物または溶解液に、融点が高いポリマーが溶解し、融点が高いポリマーの加水分解も促進されるため、および/または一方のポリマーの解重合物が、もう一方のポリマーの解重合を促進するため、同時に加水分解することにより、生成するモノマーの収率が高くなると考えられる。
【0125】
ここで、融点とは、示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素ガス雰囲気下、ポリマーを溶融状態から20℃/分の降温速度で0℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で融点+40℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度とする。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とする。また、融点を示さないポリマーについては、窒素ガス雰囲気下、ポリマーを溶融状態から20℃/分の降温速度で0℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で昇温した場合に現れる階段状の吸熱ピークの中点の温度をガラス転移温度(本発明の第3の好ましい態様では融点)とする。さらに、ポリウレタンウレアにおいては、その融点が、ポリマーの熱分解温度よりも高いため、DSCで正確な融点を測定することが難しい。その場合には、熱重量分析計(TGA)を用いて、窒素ガス雰囲気下、昇温速度20℃/分の昇温速度で昇温して得られるTGA曲線において、開始重量のベースラインと、熱分解によって重量減少した後のTGA曲線の最大勾配点の接線との交点を分解開始温度(本発明の第3の好ましい態様では融点)と定義する。
【0126】
本発明の第3の好ましい態様では、熱可塑性ポリエステル(A)の融点と、熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートまたはポリウレタンの融点の差が10℃以上であることが好ましく、熱可塑性ポリエステル(A)と熱可塑性ポリエステル(B)の融点の差が10℃以上であることがより好ましい。融点差が大きいポリマーを組み合わせることで、融点が高い方のポリマーが溶解し易くなり、加水分解を促進させることができる。融点の差は、より好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上である。
【0127】
本発明の第3の好ましい態様で使用されるポリマーとしては、熱可塑性ポリエステル、ポリカーボネート、およびポリウレタン以外のポリマーを含んでもよい。例えば、ポリアミド、ポリオレフィン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルケトン、ポリチオエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、四フッ化ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィドなどが挙げられる。これらが2種以上含まれてもよい。熱可塑性ポリエステル、ポリカーボネートおよびポリウレタン以外のポリマーは、本発明の第3の好ましい態様における組成物中のポリマー成分100重量部に対して、50重量部未満が好ましい。より好ましくは40重量部以下、さらに好ましくは30重量部以下である。
【0128】
また、本発明の第3の好ましい態様で使用される組成物には、ポリマー以外に、充填材、造核剤、可塑剤、耐紫外線剤、離型剤、難燃剤、着色剤(例えば、顔料または染料)、潤滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤等の添加剤を含んでもよい。
【0129】
充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石膏繊維、金属繊維、ガラスシート、ウォラストナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、タルク、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、合成雲母、アスベスト、グラファイト、アルミノシリケート、アルミナ、 シリカ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、中空ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化ケイ素または珪灰石などが挙げられる。
【0130】
亜臨界水と接触させることによる加水分解後の分離性の観点から、繊維状充填材としては、ガラス繊維または炭素繊維であることが好ましい。繊維状充填材の断面形状は、特に限定されず、円形状、または扁平状の繊維のいずれかであってもよい。本発明の第3の好ましい態様において、ポリマー組成物中の繊維状充填材の含有量は、組成物中の50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましい。
【0131】
本発明の第3の好ましい態様では、組成物中におけるポリマーIとポリマーIIを、250~350℃の亜臨界水と接触させて同時に加水分解する。水は圧力22.1MPa、温度374.2℃まで上げると液体でも気体でもない状態を示す。この状態にある水を超臨界水という。また、水の臨界点よりやや低い温度および圧力の臨界点の近傍領域の熱水を亜臨界水という。亜臨界水は水であるにも関わらず、(i)誘電率が低い、(ii)イオン積が高いといった特徴がある。亜臨界水の誘電率、イオン積は温度や水の分圧に依存し、制御することが可能である。誘電率が低くなることにより、水でありながらも有機化合物の優れた溶媒となる。また、イオン積が高くなることにより水素イオンおよび水酸化物イオン濃度が高くなる。そのため、亜臨界水は、優れた加水分解作用を有する。
【0132】
亜臨界水の原料となる水に特に制限はなく、水道水、脱イオン水、蒸留水、井戸水など、どのような水を用いてもよい。共存する塩の影響による副反応を抑制する観点からは脱イオン水や蒸留水が好ましく用いられる。
【0133】
本発明の第3の好ましい態様における加水分解は、250℃以上、350℃以下で実施される工程を有することが必要である。この温度範囲とすることで、加水分解が促進されるとともに、生成物の過反応を抑制し、ポリエステルモノマー収率を向上させることができる。本発明の第3の好ましい態様では、350℃より高い温度で加水分解する工程を含まない。260℃以上が好ましく、270℃以上がより好ましく、280℃以上がさらに好ましい。一方、320℃以下が好ましく、310℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。
【0134】
本発明の第3の好ましい態様におけるリサイクルモノマーの製造方法の別の形態は、ポリマーを含む組成物が、ポリマーIとポリマーIIを含み、ポリマーIが熱可塑性ポリエステル(A)であり、ポリマーIIが熱可塑性ポリエステル(A)とは異なる融点の熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートおよびポリウレタンからなる群から選ばれる1種のポリマーまたはそれらポリマーの組合せであり、組成物中におけるポリマーIIの含有量(熱可塑性ポリエステル(B)、ポリカーボネートおよびポリウレタンの含有量の合計)が、ポリマーI100重量部に対して、1~100重量部であり、組成物中におけるポリマーIとポリマーIIを、アルカリ性成分を配合した条件下、200~350℃の亜臨界水と接触させて同時に加水分解する工程を有する。本発明の第3の好ましい態様におけるリサイクルモノマーの製造方法の別の形態では、さらにアルカリ性成分を配合することで、加水分解反応の温度を200~350℃に拡大することができる。すなわち、アルカリ性成分を配合することで、より低温でも加水分解を促進させることができる。アルカリ性成分を配合する場合の加水分解反応の温度は、210℃以上が好ましく、220℃以上がさらに好ましい。一方、アルカリ性成分を配合する場合の加水分解反応の温度は、300℃以下が好ましく、290℃以下がさらに好ましい。
【0135】
本発明の第3の好ましい態様におけるリサイクルモノマーの製造方法において、組成物が、ポリマーIとポリマーIIを含有する組成物、および/または、ポリマーIを含有する組成物とポリマーIIを含有する組成物との混合物を含んでもよい。すなわち、本発明の第3の好ましい態様において、加水分解される組成物は、ポリマーIとポリマーIIを含有する組成物、ポリマーIを含有する組成物とポリマーIIを含有する組成物との混合物のいずれを含む組成物であってもよく、それらの両方を含む組成物であってもよい。ここで、「ポリマーIとポリマーIIを含有する組成物」とは、例えば、ポリマーIとポリマーII(これらポリマーIまたは/およびポリマーIIが任意の他の成分を含有する場合を含む)を、いずれかのポリマーの融点以上(融点が無いポリマーはガラス転移温度以上)で混練して得られるものを指す。また、「ポリマーIを含有する組成物とポリマーIIを含有する組成物との混合物」とは、例えば、ポリマーI(任意の他の成分を含有する場合を含む)を含有する組成物(例えば、ペレット)と、ポリマーII(任意の他の成分を含有する場合を含む)を含有する組成物(例えば、ペレット)とを、両ポリマーの融点未満(融点が無いポリマーはガラス転移温度未満)の固体状態で混合して得られるものを指す。
【0136】
また、本発明の第3の好ましい態様における加水分解においては、組成物中のポリマー成分100重量部に対して、水を100重量部以上、900重量部以下配合することが好ましい。この範囲とすることで、加水分解が促進されるとともに、水を加熱するためのエネルギー消費量を抑制することができる。水の配合量は150重量部以上がより好ましく、200重量部以上がさらに好ましい。一方、水の配合量は500重量部以下がより好ましく、350重量部以下がさらに好ましい。
【0137】
さらに、本発明の第3の好ましい態様では、250~350℃の亜臨界水と接触させて同時に加水分解する工程における圧力が水の飽和蒸気圧以上が好ましく、具体的には4.0MPa~30MPaであることが好ましい。この範囲にすることで、水のイオン濃度を増加させ、加水分解を促進することができる。5.0MPa以上がより好ましく、6.0MPa以上がさらに好ましい。一方、25MPa以下がより好ましく、22MPa以下がさらに好ましい。上記圧力範囲とするためには、圧力容器内部を加圧する方法が挙げられる。圧力容器内部を加圧するには、水に加え気体を封入する方法、高圧水を導入する方法が挙げられる。このような気体としては、空気、アルゴン、窒素などが挙げることができるが、酸化反応などの副反応を抑制する観点から、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを用いることが好ましい。気体または高圧水による加圧の程度としては、目的の圧力となるように設定するため特に限定はされないが、0.3MPa以上が好ましい。高圧水で加圧する場合には、圧力容器内部に気体が無い状態とすることも可能である。
【0138】
本発明の第3の好ましい態様においては、前記工程において、さらにアルカリ性成分を配合することが好ましい。アルカリ性成分を配合することで、加水分解による生成物の過反応を抑制し、モノマー収率を向上させることができる。アルカリ性成分としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、アンモニウムなどの水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、またはアミンなどが挙げられる。特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムから選ばれる少なくとも1種が好ましい。アルカリ性成分の配合量は、組成物中のポリマー成分100重量部に対して、0.01重量部以上、50重量部以下が好ましい。20重量部以上がより好ましく、30重量部以上がさらに好ましい。一方、45重量部以下がより好ましく、40重量以下がさらに好ましい。アルカリ性成分を配合した場合には、熱可塑性ポリエステルの加水分解によってジカルボン酸塩が生成する。ジカルボン酸塩は酸性水溶液で処理することにより、熱可塑性ポリエステル原料であるジカルボン酸に変換できる。
【0139】
本発明の第3の好ましい態様におけるポリマーを含む組成物の加水分解には、バッチ式および連続方法など公知の各種反応方式を採用することができる。例えばバッチ式であれば、いずれも撹拌機と加熱機能を備えたオートクレーブ、縦型・横型反応器、撹拌機と加熱機能に加えてシリンダー等の圧縮機構を備えた縦型・横型反応器等が挙げられる。連続式であれば、いずれも加熱機能を備えた押出機、管型反応器、バッフルなどの混合機構を備えた管型反応器、ラインミキサー、縦型・横型反応器、撹拌機を備えた縦型・横型反応器、塔等が挙げられる。また、製造における雰囲気は非酸化性雰囲気下が望ましく、窒素、ヘリウム、およびアルゴンなどの不活性雰囲気下で行うことが好ましく、経済性および取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気下が好ましい。
【0140】
本発明の第3の好ましい態様における組成物の加水分解により生成したジオールとジカルボン酸の回収方法には特に制限はない。例えば、熱可塑性ポリエステルの原料としてテレフタル酸が使用されている場合、加水分解反応後、固体のテレフタル酸が水中に分散および/または析出した反応混合物として得ることができる。得られた反応混合物を固液分離することにより固体のテレフタル酸を分離することができる。さらに高純度のテレフタル酸を得る方法としては、テレフタル酸が溶解する溶媒に溶解して再結晶する方法、テレフタル酸をエステル化してテレフタル酸ジアルキルに変換して蒸留精製した後、再度テレフタル酸に変換する方法などを挙げることができる。また、熱可塑性ポリエステルの原料として水溶性のジオールが使用されている場合、加水分解反応後、水溶液を蒸留分離することにより、ジオールと水を分離することができる。さらに高純度のジオールを得る方法としては、回収したジオールを精密蒸留する方法、微量の水酸化ナトリウムを添加して減圧蒸留する方法、活性炭処理する方法、イオン交換処理する方法、再結晶する方法等の精製方法と組み合わせることができる。これら方法により、蒸留分離では分離困難な不純物も効率的に除去することができる。
【0141】
本発明の第3の好ましい態様においては、熱可塑性ポリエステルの加水分解物に加えて、ポリカーボネート、ポリウレタンの加水分解物も生成し得る。具体的には、熱可塑性ポリエステル、ポリカーボネートの加水分解により、それぞれ、ジオールとジカルボン酸、ジヒドロキシ化合物が生成するため、ポリマー原料として再利用できる。一方、ポリウレタンの加水分解においては、ジアミン、ポリマージオールなどが生成する。ジアミンについてはイソシアネートに変換することで、ポリウレタンの原料として再利用できる。また、ポリマージオールはポリウレタンの原料として再利用できる。
【0142】
本発明の第3の好ましい態様における熱可塑性ポリエステルの製造方法において、本発明の第3の好ましい態様におけるリサイクルモノマーの製造方法で得られるジカルボン酸および/またはジオールを重合原料に用いて熱可塑性ポリエステルを製造する。本発明の第3の好ましい態様におけるリサイクルモノマーの製造方法で得られるジカルボン酸および/またはジオールは、熱可塑性ポリエステル(A)および/または熱可塑性ポリエステル(B)の加水分解より得られるジカルボン酸および/またはジオールであることが好ましい。例えば、ジカルボン酸とジオールとのエステル化反応からなる第1工程と、それに続く重縮合反応の第2工程を通して、熱可塑性ポリエステルを製造することができる。また、ジカルボン酸を化学変換して得られるジカルボン酸ジアルキルとジオールとのエステル交換反応からなる第1工程と、それに続く重縮合反応の第2工程を通して、熱可塑性ポリエステルを製造することもできる。
【0143】
本発明の第3の好ましい態様におけるリサイクルモノマーの製造方法において、組成物が廃棄物であることが好ましい。使用済みの廃棄物を特定の条件で加水分解することによりモノマーを再生し、再重合することで熱可塑性ポリエステルとして再利用することができる。
【0144】
さらに、再生した熱可塑性ポリエステルに、染料、各種添加剤、繊維状充填材、非繊維状充填材、その他のポリマーなどを配合した熱可塑性ポリエステルを含む組成物を製造することができる。添加剤としては、酸化防止剤、耐候剤、離型剤、結晶核剤等が挙げられる。
【0145】
本発明の第3の好ましい態様における熱可塑性ポリエステルの製造方法により得られる熱可塑性ポリエステル、熱可塑性ポリエステルを含む組成物は、溶融紡糸、溶融製膜、溶融押出成形などにより得られる繊維、フィルム、ボトルや、射出成形、ブロー成形、押出成形などにより得られる成形品等の各種熱可塑性ポリエステル製品、各種可塑性ポリエステルを含む組成物の製品の製造に利用することができる。これらの製品は、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、工業用フィルム、シート、文具、医療用品、衣料品、自動車用部品、電気・電子部品またはその他の用途として有用である。
【0146】
本発明の第3の好ましい態様における熱可塑性ポリエステル製品の製造方法において、本発明の第3の好ましい態様における熱可塑性ポリエステルの製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルを原料に用いて繊維、フィルムまたは成形品の熱可塑性ポリエステル製品を製造する。また、本発明の第3の好ましい態様における熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製品の製造方法においては、本発明の第3の好ましい態様における熱可塑性ポリエステルの製造方法で得られる熱可塑性ポリエステルを含む組成物の製品を製造する。熱可塑性ポリエステル製品、および熱可塑性ポリエステルを含む製品の例、及び熱可塑性ポリエステル製品、および熱可塑性ポリエステルを含む製品を製造する方法の例は、上述のとおりである。
【0147】
[3]リサイクルモノマーの製造装置
本発明のリサイクルモノマーの製造装置は、熱可塑性ポリマーを含む組成物を加熱および加圧し供給する手段(L)と、亜臨界水を生成し供給する手段(M)と、前記手段(L)から供給された前記熱可塑性ポリマーを含む組成物と前記手段(M)から供給された前記亜臨界水を混合する手段(N)と、熱可塑性ポリマーの加水分解を行う連続反応器(O)を有する。以下、各構成要素について説明する。
【0148】
(1)熱可塑性ポリマーを含む組成物
本発明のリサイクルモノマー製造装置における熱可塑性ポリマーを含む組成物は、加水分解することが可能なポリマーが含まれていれば種類を問わない。加水分解することが可能なポリマーとして、例えば、熱可塑性ポリアミド、熱可塑性ポリエステルなどが挙げられる。熱可塑性ポリアミドの例として、ポリアミド6、ポリアミド66などが挙げられる。熱可塑性ポリエステルの例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられる。熱可塑性ポリアミドはエンジニアリングプラスチックや繊維製品として広範に使用されている。また、熱可塑性ポリエステルは汎用プラスチックやボトル、繊維製品として広範に使用されている。そのため、これらの加水分解することが可能なポリマーは、原資回収の容易性および加水分解の容易性の点で好ましい。
【0149】
本発明のリサイクルモノマー製造装置において、熱可塑性ポリマーを含む組成物は樹脂成形体の廃棄物であっても良い。
【0150】
熱可塑性ポリマーが熱可塑性ポリアミドである場合の熱可塑性ポリアミドを含有する樹脂成形体の廃棄物としては、ポリアミド製品、ポリアミド製品製造過程で発生する産業廃棄物、あるいはポリアミド製品使用済み廃棄物などを含む。ポリアミド製品としては、例えば古着、ユニホーム、スポーツウエアおよびインナーウエアなどの衣料用繊維構造物、カーテン、カーペット、ロープ、網、ベルト、シート、エアバッグなどの産業用繊維構造物、自動車部品、住宅建材用成形部品、電気電子成形部品、航空機部品、産業用機械部品、フィルム製品、押出成形品、現場重合成形品、RIM成形品などが挙げられる。さらに、これらの生産工程で発生する製品屑、ペレット屑、塊状屑、切削加工時の切り屑なども廃棄物の対象となる。
【0151】
熱可塑性ポリマーが熱可塑性ポリエステルである場合の熱可塑性ポリエステルを含有する樹脂成形体の廃棄物としては、熱可塑性ポリエステル製品、熱可塑性ポリエステル製品製造過程で発生する産業廃棄物、あるいは熱可塑性ポリエステル製品使用済み廃棄物などが挙げられる。熱可塑性ポリエステル製品としては、例えば飲料用ボトル、調味料用ボトルなどの容器、食品用トレイ、ブリスターパック、食品用中仕切り、工業用トレイなどのシート製品、包装フィルム、光学用機能性フィルム、磁気テープおよび絶縁材料などのフィルム製品、古着、ユニホーム、スポーツウエアおよびインナーウエアなどの衣料用繊維構造物、カーテン、カーペット、網、ベルトおよびシートなどの産業用繊維構造物、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、日用品、生活雑貨および衛生用品などの成形品、などが挙げられる。さらに、これらの生産工程で発生する製品屑、ペレット屑、塊状屑なども廃棄物の対象となる。
【0152】
本発明のリサイクルモノマー製造装置における熱可塑性ポリマーを含む組成物には繊維状充填材を含んでいても良い。ここでの繊維状充填材は、繊維状の形状を有するいずれの充填材でもよい。具体的には、ガラス繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、ワラステナイト、アルミナシリケートなどの繊維状、ウィスカー状充填材、ニッケル、銅、コバルト、銀、アルミニウム、鉄およびこれらの合金からなる群より選ばれる1種以上の金属で被覆されたガラス繊維、炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリエステル繊維などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。繊維状充填材の含有量は、主成分とされる熱可塑性ポリマー100質量部に対し、1~200質量部であることが好ましい。
【0153】
本発明のリサイクルモノマー製造装置における熱可塑性ポリマーを含む組成物には、本発明のリサイクルモノマー製造装置の発明の目的を損なわない範囲で、さらに繊維状充填材以外の充填材、各種添加剤などを含有することができる。繊維状充填材以外の充填材、すなわち非繊維状充填材としては、有機充填材、無機充填材のいずれでもよいし、これらを2種以上含有しても良い。非繊維状充填材としては、例えば、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート、珪酸カルシウムなどの非膨潤性珪酸塩、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母の膨潤性雲母などの膨潤性層状珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、シリカ、珪藻土、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化アンチモンなどの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドロマイト、ハイドロタルサイトなどの金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、アルカリ性炭酸マグネシウムなどの金属水酸化物、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウムなどの各種粘土鉱物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、セラミックビーズ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化珪素、燐酸カルシウム、カーボンブラック、黒鉛などが挙げられる。上記の膨潤性層状珪酸塩は、層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換されていてもよい。有機オニウムイオンとしては、例えば、アンモニウムイオンやホスホニウムイオン、スルホニウムイオンなどが挙げられる。
【0154】
各種添加剤の具体例としては、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、ホスフィン酸金属塩などのリン系難燃剤、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)などを挙げることができる。これら添加剤を含有する場合、その含有量は、主成分とされる熱可塑性ポリマー成分を100質量部とした場合、10質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましい。
【0155】
(2)熱可塑性ポリマーを含む組成物を加熱および加圧し供給する手段(L)
本発明のリサイクルモノマー製造装置におけるリサイクルモノマーの製造装置は、熱可塑性ポリマーを含む組成物を加熱および加圧し供給する手段(L)(本発明において、単に「手段(L)」という場合がある)を有する。手段(L)としては、例えば、電気ヒーターにより加熱溶融してギアポンプにより加圧する装置、押出機により加熱と加圧を同時に行う装置、押出機とギアポンプを組み合わせた装置、押出機から排出された熱可塑性ポリマーをさらに電気ヒーターによって加熱する装置などが挙げられる。中でも、手段(L)が押出機を用いる装置であることが好ましい。手段(L)が押出機を用いる装置であることにより、熱可塑性ポリマーを押し出す圧力が安定しやすくなる。
【0156】
熱可塑性ポリマーを含む組成物を加熱する温度としては、熱可塑性ポリマーを含む組成物が溶融する温度まで加熱することが好ましい。熱可塑性ポリマーを含む組成物が溶融する温度まで加熱することにより、亜臨界水との接触面積を増やすことができ、速やかに反応させることができる。
【0157】
(3)亜臨界水を生成し供給する手段(M)
本発明のリサイクルモノマーの製造装置は、亜臨界水を生成し供給する手段(M)(本発明のリサイクルモノマー製造装置において、単に「手段(M)」という場合がある)を有する。水は圧力22.1MPa、温度374.2℃まで上げると液体でも気体でもない状態を示す。この状態にある水を超臨界水という。また、水の臨界点よりやや低い温度および圧力の臨界点の近傍領域の熱水を亜臨界水という。亜臨界水は水であるにも関わらず、(i)誘電率が低い、(ii)イオン積が高いといった特徴がある。亜臨界水の誘電率、イオン積は温度や水の分圧に依存し、制御することが可能である。誘電率が低くなることにより、水でありながらも有機化合物の優れた溶媒となる。また、イオン積が高くなることにより水素イオンおよび水酸化物イオン濃度が高くなる。そのため、亜臨界水は、優れた加水分解作用を有する。
【0158】
亜臨界水の原料となる水に特に制限はなく、水道水、脱イオン水、蒸留水、井戸水など、どのような水を用いてもよい。共存する塩の影響による副反応を抑制する観点からは脱イオン水や蒸留水が好ましく用いられる。
【0159】
手段(M)としては、例えば、水をダイヤフラムポンプやモーノポンプ、ギアポンプ、プランジャーポンプなどで高圧設備内に加圧導入後、熱交換器、電気ヒーター、加熱炉などを用いて所定の温度まで加熱する装置が挙げられるが、ここに例示されていない装置を用いても良い。
【0160】
本発明のリサイクルモノマー製造装置における亜臨界水は、熱可塑性ポリマーを含む組成物の融点以上に加熱されることが好ましい。亜臨界水が熱可塑性ポリマーを含む組成物の融点以上に加熱されることにより、熱可塑性ポリマーを含む組成物が液滴状に分散し、界面積が増大するので反応効率を向上させることができる。亜臨界水が熱可塑性ポリマーを含む組成物と接触した後、その加水分解反応の吸発熱により、反応系の温度が上下するため、使用する熱可塑性ポリマーを含む組成物に応じて、亜臨界水の温度を制御することが好ましい。反応系の温度が低くなると、加水分解反応が不十分となり、反応系の温度が高くなると、過反応が進行し易いため、いずれも、リサイクルモノマーの収率低下につながる。加水分解反応時の吸発熱の程度を考慮すると、亜臨界水の供給温度は、連続反応器(O)の入口部における温度に対して±20℃未満であることが好ましく、±10℃未満であることがより好ましく、±5℃未満であることがさらに好ましい。
【0161】
亜臨界水の供給圧力について、連続反応器(O)内では、亜臨界水は液体として保持されるようにすることが好ましいため、亜臨界水の最高温度における水の飽和蒸気圧よりも高い圧力であることが好ましく例示できる。水の蒸気圧として、例えば280℃の場合は6.4MPa、300℃の場合は8.6MPa、320℃の場合は11.3MPa、350℃の場合は16.5MPaであるため、液体として保持されるようにするにはそれ以上の圧力を加える必要がある。
【0162】
(4)熱可塑性ポリマーを含む組成物と亜臨界水を混合する手段(N)
本発明のリサイクルモノマーの製造装置は、前記手段(L)から供給された前記熱可塑性ポリマーを含む組成物と前記手段(M)から供給された前記亜臨界水を混合する手段(N)(本発明のリサイクルモノマー製造装置において、単に「手段(N)」という場合がある)を有する。手段(N)としては、例えば、混合槽、スクリュー付流路、噴流混合器、ホモジナイザー、スタティックミキサーなどが挙げられる。特に、可動部がなく、圧力損失も小さい点から、手段(N)がスタティックミキサーであることが好ましい。
【0163】
本発明のリサイクルモノマーの製造装置の特徴として、予め加圧および加熱された亜臨界水と熱可塑性ポリマーを含む組成物を速やかに混合させることが挙げられる。従来の水と熱可塑性ポリマーを含む組成物を予め仕込んだ反応槽を昇温しながら反応させるバッチ式反応器を備えたリサイクルモノマーを製造する装置や、水中に分散させた熱可塑性ポリマーを含む組成物のスラリーを加圧、昇温しながら反応させる連続式のリサイクルモノマーの製造装置に対して、本発明のリサイクルモノマーの製造装置では熱可塑性ポリマーを含む組成物と亜臨界水の接触時の温度を制御することが出来るため、反応開始温度を精密に制御することができる。その結果、モノマーの過分解を抑制しつつ、短時間のうちに熱可塑性ポリマーの解重合反応を進行させることができるため、モノマー収率を高めることができる。また、瞬時に反応を開始することができるため、連続反応器(O)内での滞留時間を減らすことができる。その結果、連続反応器(O)の容積を減少させることができるため装置コストの低減につながる。
【0164】
(5)連続反応器(O)、連続反応器(O)の上流部および下流部の内部温度をモニタリングする装置(P)、連続反応器(O)を加熱および/または冷却する温度調整機構(Q)
本発明のリサイクルモノマーの製造装置は、前記連続反応器(O)の上流部および下流部の内部温度をモニタリングする装置(P)(本発明のリサイクルモノマー製造装置において、単に「装置(P)」という場合がある)と、前記連続反応器(O)を加熱および/または冷却する温度調整機構(Q)(本発明のリサイクルモノマー製造装置において、単に「温度調整機構(Q)」という場合がある)を有し、前記装置(P)に基づき前記温度調整機構(Q)を動作させ、前記連続反応器(O)の内部温度を制御することが好ましい。
【0165】
本発明のリサイクルモノマーの製造装置は、熱可塑性ポリマーの加水分解処理を行う連続反応器(O)を有する。連続反応器(O)は、熱可塑性ポリマーを含む組成物を連続的に処理することができるので、バッチ処理で必要な仕込みおよび払出の時間を削減することができ、連続反応器(O)の容積を低減することができる。
【0166】
連続反応器(O)としては、例えば、管型、塔型、多段混合槽型等を挙げることができる。連続反応器(O)内に攪拌機を設けても良い。連続反応器(O)は複数の容器を多段に配置しても良く、多管型連続反応器のように複数の流路を並列で配置しても良い。中でも、連続反応器(O)が管型連続反応器であることが好ましい。管型連続反応器は可動部がなくシンプルであり、熱可塑性ポリマーを含む組成物の亜臨界水による解重合処理で重要である反応温度の制御が容易である。
【0167】
本発明のリサイクルモノマー製造装置における一形態では、連続反応器(O)の上流部および下流部の内部温度をモニタリングする装置(P)を有することが好ましい。内部温度をモニタリングする装置の例としては、熱電対、白金測温抵抗体、バイメタル温度計、放射温度計、サーモグラフィ、サーミスタ等が挙げられる。連続反応器(O)の上流部とは、連続反応器(O)の総反応体積の上流側の1/2以下の位置を意味する。連続反応器(O)の上流部は、連続反応器(O)の総反応体積の上流側の1/3以下の位置が好ましく、上流側の1/4以下の位置がより好ましく、上流側の1/5以下の位置がさらに好ましい。また、連続反応器(O)の下流部とは、連続反応器の総反応体積の下流側の1/2以下の位置を意味する。連続反応器(O)の下流部は、連続反応器の総反応体積の下流側の1/3以下の位置が好ましく、下流側の1/4以下の位置がより好ましく、下流側の1/5以下の位置がさらに好ましい。内部温度をモニタリングする装置は反応器内に複数個設置しても良い。総反応体積とは、連続反応器(O)の入口から出口までの反応容積の合計を意味する。なお、連続反応器(O)として、複数の容器が多段に配置されている場合の総反応体積は複数の容器の合計の体積となる。
【0168】
連続反応器(O)の上流部の内部温度に基づき、前記手段(L)、前記手段(M)の温度を制御しても良い。連続反応器(O)の上流部の内部温度に基づいた供給装置の制御を行うことにより、連続反応器上流部の温度を精密に制御することができる。そのため、反応初期における過昇温によるモノマーの過分解や昇温不足による解重合反応速度の低下を防ぐことができる。
【0169】
本発明のリサイクルモノマーの製造装置は、前記連続反応器(O)を加熱および/または冷却する温度調整機構(Q)を有し、前記装置(P)に基づき前記温度調整機構(Q)を動作させ、連続反応器(O)の内部温度を制御することが好ましい。このように連続反応器(O)の上流部および下流部の内部温度に基づいた連続反応器の温度制御を行うことにより、連続反応器(O)の温度を精密に制御することができる。そのため、特に反応後期における過昇温によるモノマーの過分解や再重合によるオリゴマー生成、昇温不足による解重合反応速度の低下を防ぐことができる。
【0170】
本発明のリサイクルモノマーの製造装置において、前記温度調整機構(Q)が複数個設置されており、前記装置(P)に基づき複数個の前記温度調整機構(Q)を動作させることが好ましい。温度調整機構(Q)を複数設置することにより、連続反応器(O)の上流部および下流部の加水分解の反応進行度に応じて、より細やかな温度制御を実現することができる。
【0171】
本発明のリサイクルモノマーの製造装置において、前記連続反応器(O)の上流部の内部温度に対して下流部の内部温度を10℃以上低い状態とするように前記温度調整機構(Q)を制御することが好ましい。かかる構成を採用することにより、熱可塑性ポリマーを加水分解する反応において、反応後期よりも反応初期の温度を高い状態とすることにより、反応初期の反応溶液内に多く含まれる熱可塑性ポリマーの加水分解を促進しやすくなる。一方、反応後期の反応溶液内には加水分解されたリサイクルモノマーが多く含まれるため、反応初期よりも温度が低い状態とすることにより、リサイクルモノマーの再重合を抑制しやすくすることができる。すなわち、かかる構成を採用することにより、熱可塑性ポリマーの加水分解を高効率で行うことと、リサイクルモノマーを高収率で得ることを両立しやすくすることができる。前記連続反応器(O)の上流部の内部温度に対する下流部の内部温度は、20℃以上低い状態であることがより好ましく、30℃以上低い状態であることがさらに好ましい。また、前記連続反応器(O)の上流部の内部温度に対する下流部の内部温度は、特に限定されないが、熱可塑性ポリマーを加水分解する反応の反応速度を保つという観点から、通常、100℃以下低い状態であり、80℃以下低い状態であることが好ましく、60℃以下低い状態であることがより好ましい。
【0172】
解重合させる熱可塑性ポリマーを含む組成物が廃棄物である場合、通常、廃棄物の品質を一定にすることは困難である。そして、廃棄物の組成が変わると外乱になり、反応器内の温度に影響を与える場合がある。そういった場合においても、本発明に記載のように、連続反応器(O)の内部温度に基づき、連続反応器(O)を加熱および/または冷却して反応温度を制御することにより、熱可塑性ポリマーを含む組成物の組成に変動が生じるなどの外乱が起きても瞬時に反応温度を制御することができる。
【0173】
連続反応器(O)を加熱する手段としては、特に制限はないが、連続反応器(O)にジャケットやシェルを装着しスチームなどの熱媒により加熱する方法、電気ヒーターにより加熱する方法などが挙げられる。連続反応器(O)を冷却する方法としては、特に制限はないが、連続反応器(O)にジャケットやシェルを装着し連続反応器(O)の内部温度よりも低い温度の熱媒/冷媒により冷却する方法、連続反応器(O)表面に空気を通気することにより冷却する方法などが挙げられる。
【0174】
連続反応器(O)が管型連続反応器の場合、管型連続反応器の内径が大きいほど、管型連続反応器の表面積当たりに処理できる流量を増加させることができるが、伝熱面積が減少するため、軸方向や半径方向に温度分布を生じやすい。そのため、本発明に記載の連続反応器の内部温度をモニタリングする装置、連続反応器(O)を加熱および/または冷却する温度制御装置を設置する重要性が高くなる。管型連続反応器の内径は1cm以上が好ましく、2cm以上がより好ましい。
【0175】
亜臨界水と、熱可塑性ポリマーを含む組成物中の熱可塑性ポリマー成分の質量流量比をX:1とすると、Xは6未満であることが好ましい。水の比熱容量は4.3kJ/kg・K、気化熱が2250kJ/kgと、他の有機溶剤と比べると非常に高いため、Xを6未満とし、水の使用量を減らすことが省エネルギーの観点から好ましい。また、Xを6未満とすることにより、熱可塑性ポリマーを含む組成物の解重合反応の反応熱による連続反応器(O)内の温度変化が大きくなるため、本発明に記載のように、連続反応器(O)の内部温度に基づいた温度制御を行う重要性が高まり好ましい。さらに、Xを6未満とすることにより、連続反応器(O)の単位体積当たりの熱可塑性ポリマーを含む組成物の処理量を増加させることができるので、装置コストの低減にもつながる。加えて、Xを6未満とすることにより、連続反応器(O)の下流部においてリサイクルモノマーの濃度が上昇するため、リサイクルモノマーの再重合が促進されることになり、本発明に記載のように、連続反応器(O)の内部温度に基づいた温度制御を行う重要性が高まり好ましい。
【0176】
加水分解を行う連続反応器(O)の上流部および下流部の内部温度をモニタリングする装置(P)の指示値の最高温度をY℃とした場合、XとYの積を2000以下になるように制御することが好ましい。なお、最高温度Y℃とは、上流部の内部温度の指示値の最高温度と下流部の内部温度の指示値の最高温度のうち、高い方の温度をいう。XとYの積は1600以下の条件とすることがより好ましく、1300以下の条件とすることがさらに好ましく、1200以下の条件とすることが特に好ましい。また、XとYの積の下限に特に制限はないが、好ましくは300、より好ましくは320、特に好ましくは340である。XとYの積をこれら条件範囲とすることにより熱可塑性ポリマーを含む組成物の解重合処理効率と省エネルギーを両立しやすくすることができる。
【0177】
また、連続反応器(O)での熱可塑性ポリマーを含む組成物と亜臨界水との混合物の平均滞留時間をZ分とした場合、XとYとZの積を60000以下とするように制御することが好ましい。なお、平均滞留時間とは、「連続反応器(O)の容積」を、「熱可塑性ポリマーを含む組成物と亜臨界水との混合物の体積流量」で割った値である。XとYとZの積は、より好ましくは40000以下、さらに好ましくは30000以下とすることを挙げることができる。また、XとYとZの積の下限に特に制限はないが、5000が好ましく、8000がより好ましく、9000が特に好ましい。XとYとZの積をこのような好ましい条件範囲とすることで、熱可塑性ポリマーを含む組成物の解重合処理効率と省エネルギーを両立しやすくすることができる。
【0178】
(6)冷却器、背圧弁
連続反応器(O)から排出された反応溶液は、加水分解反応を停止させる装置に導入されることが好ましい。加水分解反応を停止させる装置の例としては、冷却器やフラッシュ槽などが挙げられる。中でも、加水分解反応を停止させる装置が、冷却器であることが好ましい。冷却器の例としては、熱交換器などの公知の手段が挙げられる。冷却器を出た後の反応溶液は、通常、圧力が高い状態であることが多いため、背圧弁などの公知の手段により放圧されることが好ましい。
【0179】
(7)モノマー精製装置
反応停止後の反応溶液は、精製されることが好ましい。精製の方法の例としては、蒸留、晶析などの公知の方法が挙げられる。
【0180】
精製されたモノマーは、再重合されて、熱可塑性ポリマーを含む組成物として再利用されることが好ましい。再重合の方法としては、公知の重合方法を用いることができる。
【0181】
(8)リサイクルモノマーの製造方法(本発明の第4の好ましい態様)
本発明の第4の好ましい態様は、熱可塑性ポリマーを含む組成物を亜臨界水と接触させ、前記熱可塑性ポリマーを加水分解する工程を有するリサイクルモノマーの製造方法である。熱可塑性ポリマーを含む組成物および亜臨界水の定義や例示、好適な態様については上記のとおりである。また、加水分解する工程の反応条件、すなわち、好適な混合比や温度、圧力等については上記のとおりである。
【0182】
本発明の第4の好ましい態様において、前記熱可塑性ポリマーが熱可塑性ポリエステル、または熱可塑性ポリアミドであることが好ましい。熱可塑性ポリマーが熱可塑性ポリエステル、または熱可塑性ポリアミドであることにより、加水分解により重合前のモノマーを回収することが容易となりやすい。
【0183】
本発明の第4の好ましい態様における、熱可塑性ポリマーを加水分解する工程において、加水分解反応初期の反応温度に対して加水分解反応後期の反応温度が10℃以上低いことが好ましい。加水分解反応初期の温度を加水分解反応後期よりも高い状態とすることにより、反応初期の反応溶液内に多く含まれる熱可塑性ポリマーの加水分解を促進しやすくなる。一方、反応後期の反応溶液内には加水分解されたリサイクルモノマーが多く含まれるため、反応初期よりも温度が低い状態とすることにより、リサイクルモノマーの再重合を抑制しやすくすることができる。すなわち、熱可塑性ポリマーの加水分解を高効率で行うことと、リサイクルモノマーを高収率で得ることを両立しやすくすることができる。加水分解反応初期の反応温度に対して加水分解反応後期の反応温度は、20℃以上低い状態であることがより好ましく、30℃以上低い状態であることがさらに好ましい。また、加水分解反応初期の反応温度に対して加水分解反応後期の反応温度は、特に限定されないが、熱可塑性ポリマーを加水分解する反応の反応速度を保つという観点から、通常、100℃以下低い状態であり、80℃以下低い状態であることが好ましく、60℃以下低い状態であることがより好ましい。
【実施例0184】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0185】
本発明の第1~第4の好ましい態様、およびリサイクルモノマーの製造装置の実施例には、それぞれ下記原料を用いた。
【0186】
[第1の好ましい態様の説明で使用した原料]
熱可塑性ポリエステル(A-1):市販のポリエチレンテレフタレート樹脂ペレット、融点254℃
熱可塑性ポリエステル(A-2):洗浄、乾燥済みのペットボトルフレーク、融点255℃
熱可塑性ポリエステル(A-3):市販のポリブチレンテレフタレート樹脂ペレット、融点224℃
【0187】
ここで、融点は、示差走査型熱量計を用いて、窒素ガス雰囲気下、各樹脂成形体を溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で融点+40℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度とした。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とした。
【0188】
[第2の好ましい態様の説明で使用した原料]
PET:東レ(株)製のポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.62dl/g)
PBT1:東レ(株)製のポリブチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.85dl/g)
PBT2:PBT1(100重量部)に対して、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF社製Irganox1010[商品名])(0.5重量部)を配合して、250℃で溶融混練して得られたポリエステル樹脂組成物
PBT3:PBT1(100重量部)に対して、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール](アデカスタブ LA-31G)(0.5重量部)を配合して、250℃で溶融混練して得られたポリエステル樹脂組成物
PBT4:PBT1(100重量部)に対して、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(アデカスタブ PEP-36)(0.5重量部)を配合して、250℃で溶融混練して得られたポリエステル樹脂組成物
PBT5:PBT1(100重量部)に対して、BASF社製Irganox1010[商品名](0.5重量部)、アデカスタブ LA-31G(0.5重量部)、アデカスタブ PEP-36(0.5重量部)を配合して、250℃で溶融混練して得られたポリエステル樹脂組成物
【0189】
[第3の好ましい態様の説明で使用した原料]
ポリエチレンテレフタレート[PET](東レ株式会社製、固有粘度0.62dl/g、融点254℃)
ポリブチレンテレフタレート[PBT](東レ株式会社製、固有粘度0.85dl/g、融点224℃)
ポリカーボネート[PC](出光興産株式会社製“タフロン”(登録商標)A2200、粘度平均分子量22000、融点なし、ガラス転移温度150℃)
ポリウレタン[PU](分子量1800のPTMG、ジフェニルメタンジイソシアネート、エチレンジアミンおよび末端封鎖剤としてジエチルアミンからなるポリウレタンウレア、熱分解開始温度277℃)。
【0190】
[リサイクルモノマーの製造装置、および第4の好ましい態様の説明で使用した原料]
ポリエチレンテレフタレート(PET-A)]
市販のポリエチレンテレフタレート樹脂ペレット(PET-A):融点254℃
ポリエチレンテレフタレート樹脂の廃棄物(PET-B):洗浄、乾燥済みのペットボトルフレーク、融点255℃。
【0191】
ここで、融点は、示差走査型熱量計を用いて、窒素ガス雰囲気下、熱可塑性ポリエステルを溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で融点+40℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度とした。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とした。
【0192】
≪評価方法≫
[ジオールの収率(GC)]
本発明のジオール収率(GC)の算出はガスクロマトグラフィー測定により実施した。測定条件を下記する。
装置:島津製作所製 GC-2010
カラム:アジレントテクノロジー社製 DB-5 0.32mm×30m(0.25μm)
キャリアーガス:ヘリウム 検出器 :水素炎イオン化検出器(FID)
サンプル:反応混合物を約1.2g量取り、約5gのメタノールで希釈、濾過によりメタノールに不溶な成分を分離除去することによりガスクロマトグラフィー測定サンプルを調製した。
ジオールの定量:絶対検量線法によりジオール量を定量した。
【0193】
[ジカルボン酸の収率(HPLC)]
本発明のジカルボン酸収率(HPLC)の算出は高速液体クロマトグラフィー測定により実施した。測定条件を下記する。
装置:島津株式会社製 LC-10Avpシリーズ
カラム:Mightysil RP-18GP150-4.6
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(UV=254nm)
流速:1mL/min
カラム温度:40℃
移動相:0.1%酢酸水溶液/アセトニトリル
サンプル:反応混合物を約0.1g量取り、約10gのジメチルホルムアミドで希釈、濾過によりジメチルホルムアミドに不溶な成分を分離除去することにより高速液体クロマトグラフィー測定サンプルを調製した。
ジカルボン酸の定量:絶対検量線法によりジカルボン酸量を定量した(ただし、実施例9、12~25、35、36、比較例8~10については、テレフタル酸二ナトリウム塩またはテレフタル酸二アンモウム塩が生成するが、移動相に含まれる酸によりテレフタル酸に変換される)。
【0194】
[第1の好ましい態様の実施例、比較例]
[実施例1]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、熱可塑性ポリエステル(A-1)20.0g、脱イオン水60.0gを仕込んだ。水と熱可塑性ポリエステルの質量比(Z:1)は3:1である。
【0195】
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら260℃で15分間保持し反応を行った。反応時、系内の圧力は4.5MPaであった。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。反応温度X℃は260℃、反応温度260℃での滞留時間が15分であることから、XとYとZの積は11,700である。
【0196】
回収した反応混合物ガスクロマトグラフィー測定により算出したジオール収率は95%、高速液体クロマトグラフィー測定により算出したジカルボン酸収率は83%であり、反応混合物中のジオール濃度は7.63質量%であった。また、反応混合物は白色であった。
【0197】
[実施例2~7、比較例1~5]
原料に熱可塑性ポリエステル(A-1)を用い、熱可塑性ポリエステルに対する水の量、反応温度、反応時間を変更して実施例1と同様の方法にて解重合を行った。反応条件およびジオール収率、ジカルボン酸収率、反応混合物の色調を表1、2に示す。
【0198】
[実施例8]
原料に熱可塑性ポリエステル(A-2)を用いた以外は実施例1と同様の方法にて解重合を行った。ジオール収率、ジカルボン酸収率、反応混合物の色調を表1に示す。
【0199】
[実施例9]
さらに水酸化ナトリウムを添加する以外は実施例1と同様の方法にて解重合を行った。ジオール収率、ジカルボン酸収率、反応混合物の色調を表1に示す。
【0200】
[実施例10]
原料に熱可塑性ポリエステル(A-3)を用いた以外は実施例2と同様の方法にて解重合を行った。ジオール収率、環状エーテル収率、ジカルボン酸収率、反応混合物の色調を表1に示す。
【0201】
【表1】
【0202】
【表2】
【0203】
実施例1~8よりXを熱可塑性ポリエステル(A-1)および熱可塑性ポリエステル廃棄物(A-2)の融点以上300℃未満、かつXとYとZの積を2,000以上20,000以下とすることにより熱可塑性ポリエステルの解重合に要するエネルギー量を大幅に抑制しつつ、高収率でジオールおよびジカルボン酸を得られ、さらにジオールの濃度が高められた着色のない反応混合物として得られることが分かる。
【0204】
熱可塑性ポリエステル(A-1)の融点254℃より低い240℃で反応を行った比較例1は、反応温度以外同一の条件で実施した実施例1と比較して、ジオールおよびジカルボン酸収率が半分未満と著しく低下した。これは解重合反応が固体状の熱可塑性ポリエステル(A-1)表面に限定され、反応不十分となったためと考えられる。X、Zが好ましい範囲にあるものの反応時間が短いためにXとYとZの積が2,000未満である比較例3もまた、反応の進行が不十分でありジオールおよびジカルボン酸収率は実施例1と比較して低下した。このように、XまたはXとYとZの積の少なくともいずれか一方が好ましい範囲に満たない場合、熱可塑性ポリエステルおよび/またはオリゴマーが残存し、残渣として廃棄される量が増加するため、好ましくない。
【0205】
300℃で反応を行った比較例2は、比熱容量の大きい水の加熱により大きなエネルギー量を要したにもかかわらず、実施例1と比較してジオール収率が低い上、着色性不純物などの過反応物量を多く含んだ反応混合物となった。XとYとZの積が20,000を超える比較例4は、X,Zが好ましい範囲であるが、長時間加熱したことで、比較例2と同様にジオール収率の低下と反応混合物の着色がみられた。このように、XまたはXとYとZの積の少なくともいずれか一方が好ましい範囲を超える場合、生成したジオールが(例えば、エチレングリコールの場合、アセトアルデヒドやジエチレングリコール、着色性不純物など)過反応物に変化するため、収率が低下する。特に、過反応物の一種であるアセトアルデヒドは、蒸留による重質分除去によってのみでは除去できず、水素添加などの追加の処理が必要になり、回収工程における設備が複雑化するとともに処理のためにさらにエネルギーを要することから、解重合反応において過反応を抑えられる条件で行うことが望ましい。
【0206】
熱可塑性ポリエステル(A-1)に対する水の量が好ましい範囲を超える比較例5では、実施例1と比較して収率が低い。熱可塑性ポリエステルに対する水の量が好ましい範囲を超えることで、解重合反応の際に比熱容量が大きい水の加熱に要するエネルギー量が増える上、解重合反応に用いる設備が大型化するため、好ましくない。
【0207】
実施例1と実施例9の比較により、反応温度が260℃の場合には、アルカリ性成分を配合することで、収率が向上することがわかる。
【0208】
実施例10から、熱可塑性ポリエステルとして、ポリブチレンテレフタレートの場合においても、高収率でテレフタル酸を得ることができる。
【0209】
[参考例1]
テレフタル酸ジメチル(関東化学社製)とエチレングリコール(日本触媒社製)のエステル交換反応により予め製造しておいたビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート123質量部を仕込んだ、温度250℃、圧力1.2×10Paに保持されたエステル化反応器に、高純度テレフタル酸(三井化学社製)100質量部とエチレングリコール(日本触媒社製)45質量部のスラリーを、4時間かけて順次供給した。供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、エステル化反応生成物を得た。
【0210】
得られたエステル化反応生成物から100質量部を計量して重縮合反応器に仕込み、温度250℃で溶融、撹拌し、重縮合後に得られるポリエステル理論収量に対して、テトライソプロピルチタンをチタン原子換算で15ppmとなるように添加し、30rpmで攪拌しながら、反応系を250℃から285℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし常圧に戻し重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。
【0211】
[実施例11]
実施例1と同様にして得た反応混合物を室温まで冷却し析出した再生テレフタル酸をろ別した。一方、上記再生テレフタル酸ろ別後のろ液から水を減圧下に除去した後、蒸留することにより再生エチレングリコールを得た。このようにして得られた再生エチレングリコールと再生テレフタル酸をエステル化反応原料として用いた以外は参考例1と同様にして、再生モノマーを55質量%含むポリエチレンテレフタレートを製造した。再生ポリエチレンテレフタレートの融点は256℃であり、色調も参考例1で得られたポリエチレンテレフタレートと同様であった。
【0212】
[比較例6]
比較例2と同様にして得た再生テレフタル酸および再生エチレングリコールを用いた以外は、参考例1と同様にして再生ポリエチレンテレフタレートを製造した。得られた再生ポリエチレンテレフタレートの融点は256℃であり、淡橙色であった。
【0213】
したがって、実施例9、比較例6より、本発明の解重合反応によれば着色のない高純度のジオールおよびジカルボン酸を得ることができるため、市販のジオールおよびジカルボン酸を原料に用いた場合と同等の熱可塑性ポリエステルを製造できる。
【0214】
[第2の好ましい態様の実施例、比較例]
[実施例12]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)を20.0g、脱イオン水を40.0g、水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)を0.01g加えた。反応容器内の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPaにて密閉下、300℃にて15分間200rpmで攪拌した。反応時、系内の圧力は8.0MPaであった。反応後、室温にまで冷却し、反応物を回収した。反応物を濾過後、固形物を真空ポンプ(80℃)にて乾固した。テレフタル酸を16.2g(収率94%)、安息香酸を0.1g(収率0.8%)得た。結果を表3に示した。
【0215】
[実施例13、14、比較例7、8]
水酸化ナトリウムの添加量を変更する以外は、実施例12と全く同様の方法でポリエチレンテレフタレート樹脂を解重合した。結果を表3に示した。
【0216】
【表3】
【0217】
実施例12~14と比較例7、8の比較により、特定量の水酸化ナトリウムを添加し、PETを解重合することで、安息香酸(テレフタル酸の過反応物)の生成を抑制し、高収率でテレフタル酸が得られることが分かる。
【0218】
[比較例9]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)を20.0g、脱イオン水を40.0g、28%アンモニア水(富士フイルム和光純薬社製)を0.36mL加えた。反応容器内の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPaにて密閉下、300℃にて15分間200rpmで攪拌した。反応時、系内の圧力は8.0MPaであった。反応後、室温にまで冷却し、反応物を回収した。反応物を濾過後、固形物を真空ポンプ(80℃)にて乾固した。テレフタル酸を10.7g(収率62%)、安息香酸を2.3g(収率18%)得た。一方、濾液をGC分析したところ、エチレングルコールの収率は78%であった。結果を実施例2の結果とともに表4に示した。
【0219】
[比較例10]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)を20.0g、脱イオン水を40.0g、水酸化ナトリウムを10.0g加えた。反応容器内の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPaにて密閉下、300℃にて15分間200rpmで攪拌した。反応時、系内の圧力は8.0MPaであった。反応後、室温にまで冷却し、反応物を回収した。反応物を濾過後、固形物を真空ポンプ(80℃)にて乾固した。テレフタル酸を15.6g(収率90%)、安息香酸を0.11g(収率0.9%)得た。一方、濾液をGC分析したところ、エチレングルコールの収率は52%であった。結果を表4に示した。
【0220】
【表4】
【0221】
実施例13と比較例9から、アンモニア添加処方よりも水酸化ナトリウム添加処方の方が安息香酸の収率が低く、テレフタル酸およびエチレングリコールの収率が高いことが分かる。また、実施例13と比較例10から、水酸化ナトリウムの添加量が多い場合、テレフタル酸およびエチレングリコールの収率が低いことが分かる。
【0222】
[実施例15]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT1)を20.0g、脱イオン水を60.0g、水酸化ナトリウムを0.1g加えた。反応容器内の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPaにて密閉下、280℃にて15分間200rpmで攪拌した。反応時、系内の圧力は6.3MPaであった。反応後、室温にまで冷却し、反応物を回収した。反応物を濾過後、固形物を真空ポンプ(80℃)にて乾固した。テレフタル酸を16.9g(収率98%)、安息香酸を0.03g(収率0.2%)得た。結果を表5に示した。
【0223】
[実施例16~21、比較例11~15]
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の種類、水酸化ナトリウムの添加量を変更する以外は、実施例15と全く同様の方法でポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を解重合した。結果を表5に示した。
【0224】
【表5】
【0225】
比較例11と比較例12~15から、PBTに酸化防止剤、耐候剤を配合することで安息香酸の収率が増加し、テレフタル酸の収率が低下することが分かる。また、比較例12~15と実施例16~21から、添加剤を配合したPBTにおいても、水酸化ナトリウムを添加することで、安息香酸の収率が低下し、テレフタル酸の収率が向上することが分かる。
【0226】
[実施例22]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(PBT5)を20.0g、脱イオン水を60.0g、水酸化ナトリウムを0.1g加えた。反応容器内の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPaにて密閉下、260℃にて15分間200rpmで攪拌した。反応時、系内の圧力は5.0MPaであった。反応後、室温にまで冷却し、反応物を回収した。反応物を濾過後、固形物を真空ポンプ(80℃)にて乾固した。テレフタル酸を15.6g(収率90%)、安息香酸を0.03g(収率0.2%)得た。結果を実施例20の結果とともに表6に示した。
【0227】
[実施例23]
温度を変更する以外は、実施例22と全く同様の方法で、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を解重合した。結果を表6に示した。
【0228】
【表6】
【0229】
実施例22と実施例20の比較から、温度を260℃から280℃に上昇することでテレフタル酸の収率が向上することが分かる。実施例20と実施例23の比較から、温度を280から300℃に上昇することで、安息香酸の収率が増加し、テレフタル酸の収率が低下することが分かる。従って、温度が280℃の時、テレフタル酸収率が最も高くなることが分かる。
【0230】
[実施例24]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT5)を20.0g、脱イオン水を40.0g、水酸化ナトリウムを0.1g加えた。反応容器内の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPaにて密閉下、280℃にて15分間200rpmで攪拌した。反応時、系内の圧力は6.3MPaであった。反応後、室温にまで冷却し、反応物を回収した。反応物を濾過後、固形物を真空ポンプ(80℃)にて乾固した。テレフタル酸を14.3g(収率83%)、安息香酸を0.01g(収率0.1%)得た。結果を実施例20の結果とともに表7に示した。
【0231】
[実施例25]
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の配合量、水の配合量を変更する以外は、実施例24と全く同様の方法でポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得た。結果を表7に示した。
【0232】
【表7】
【0233】
実施例24と実施例20の比較により、水の配合量を200重量部から300重量部に増加することで、テレフタル酸の収率が向上することが分かる。実施例20と実施例25の比較から、水の配合量を300重量部から800重量部に増加することで、テレフタル酸の収率が低下することが分かる。従って、水の配合量が300重量部の時、テレフタル酸収率が最も高くなることが分かる。
【0234】
[第3の好ましい態様の実施例、比較例]
[実施例26]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリエチレンテレフタレート10.0g、ポリブチレンテレフタレート10.0gを含むポリエステル混合物と、脱イオン水50.0gを仕込んだ。反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.3MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら260℃で15分間保持し反応を行った。反応時、系内の圧力は4.8MPaであった。反応終了後、室温まで冷却し、白色の析出成分を濾過により回収した。回収した析出成分の高速液体クロマトグラフィー測定により算出したテレフタル酸収率を表8に示した。テレフタル酸収率は90%、エチレングリコール収率は83%であった。
【0235】
[実施例27]
脱イオン水を30.0gに変更する以外は、実施例26と全く同様にポリエステル混合物の加水分解を行った。結果を表8に示した。テレフタル酸収率は88%、エチレングリコール収率は82%であった。
【0236】
[実施例28]
脱イオン水を100gに変更する以外は、実施例26と全く同様にポリエステル混合物の加水分解を行った。結果を表8に示した。テレフタル酸収率は95%、エチレングリコール収率は88%であった。
【0237】
[実施例29]
ポリマーを含む組成物をポリエチレンテレフタレート19.0g、ポリブチレンテレフタレート1.0g含むポリエステル混合物に変更する以外は、実施例26と全く同様に加水分解を行った。結果を表8に示した。テレフタル酸収率は85%、エチレングリコール収率は78%であった。
【0238】
[実施例30]
ポリマーを含む組成物をポリエチレンテレフタレート19.8g、ポリブチレンテレフタレート0.2g含むポリエステル混合物に変更する以外は、実施例26と全く同様に加水分解を行った。結果を表8に示した。テレフタル酸収率は82%、エチレングリコール収率は76%であった。
【0239】
[実施例31]
反応温度を290℃に変更する以外は、実施例26と全く同様にポリエステル混合物の加水分解を行った。結果を表8に示した。テレフタル酸収率は98%、エチレングリコール収率は90%であった。
【0240】
[実施例32]
窒素加圧を8.5MPaに変更する以外は、実施例26と全く同様にポリエステル混合物の加水分解を行った。結果を表8に示した。テレフタル酸収率は97%、エチレングリコール収率は90%であった。
【0241】
[実施例33]
ポリマーを含む組成物をポリブチレンテレフタレート16.0g、ポリカーボネート4.0gを含む混合物、反応温度を250℃に変更する以外は、実施例26と全く同様に加水分解を行った。結果を表8に示した。テレフタル酸収率は85%であった。
【0242】
[実施例34]
ポリマーを含む組成物をポリエチレンテレフタレート18.0g、ポリウレタンウレア2.0gを含む混合物に変更する以外は、実施例26と全く同様に加水分解を行った。結果を表8に示した。テレフタル酸収率は84%、エチレングリコール収率は74%であった。
【0243】
[実施例35]
さらに水酸化ナトリウム7.7gを添加する以外は、実施例34と全く同様に加水分解を行った。得られた加水分解物に脱イオン水を100g添加し、生成したテレフタル酸二ナトリウムを全量溶解させた。これをろ過した後、水溶液に塩酸を添加し、析出したテレフタル酸を回収した。結果を表8に示した。テレフタル酸収率は95%、エチレングリコール収率は93%であった。
【0244】
[実施例36]
反応温度を230℃変更する以外は、実施例35と全く同様に加水分解を行った。結果を表8に示した。テレフタル酸収率は92%、エチレングリコール収率は90%であった。
【0245】
[比較例16]
反応温度を240℃に変更する以外は、実施例26と全く同様にポリエステル混合物の加水分解を行った。結果を表9に示した。テレフタル酸収率は10%、エチレングリコール収率は8%であった。
【0246】
[比較例17]
ポリマーを含む組成物をポリエチレンテレフタレート20.0gのみに変更する以外は、実施例26と全く同様に加水分解を行った。結果を表9に示した。テレフタル酸収率は78%、エチレングリコール収率は72%であった。
【0247】
[比較例18]
ポリマーをポリエチレンテレフタレート20.0gのみ、脱イオン水を30gに変更する以外は、実施例26と全く同様に加水分解を行った。結果を表9に示した。テレフタル酸収率は73%、エチレングリコール収率は68%であった。
【0248】
[比較例19]
ポリマーをポリブチレンテレフタレート20.0gのみ、反応温度を250℃に変更する以外は、実施例26と全く同様に加水分解を行った。結果を表9に示した。テレフタル酸収率は75%であった。
【0249】
[比較例20]
ポリマーを含む組成物をポリエチレンテレフタレート19.92g、ポリブチレンテレフタレート0.08g含むポリエステル混合物に変更する以外は、実施例26と全く同様に加水分解を行った。結果を表9に示した。テレフタル酸収率は79%、エチレングリコール収率は72%であった。
【0250】
【表8】
【0251】
【表9】
【0252】
実施例26、29、30と比較例17との比較、及び実施例27と比較例18との比較から、PETとPBTを同時に加水分解することにより、リサイクルモノマーの収率が向上することがわかる。
【0253】
実施例33と比較例19の比較から、PBTとPCを同時に加水分解することにより、テレフタル酸の収率が向上することがわかる。
【0254】
実施例26、31と比較例16の比較から、反応温度上昇により、リサイクルモノマーの収率が向上することがわかる。
【0255】
実施例26、28の比較から、加水分解における水の配合量を適切に増加することにより、リサイクルモノマーの収率が向上することがわかる。
【0256】
実施例26、32の比較から、加水分解における圧力を適切に増加することにより、リサイクルモノマーの収率が向上することがわかる。
【0257】
比較例17と比較例20の比較から、PET100重量部、PBT0.4重量部のポリマー混合物を同時に加水分解した場合のリサイクルモノマーの収率は、PET単体を加水分解した場合と、ほぼ同等であることがわかる。
【0258】
実施例34と比較例17の比較から、PETとPUを同時に加水分解することにより、リサイクルモノマーの収率が向上することがわかる。
【0259】
実施例34と実施例35の比較から、水酸化ナトリウムを添加して加水分解することにより、高収率でリサイクルモノマーが得られることがわかる。
【0260】
実施例35と実施例36の比較から、アルカリ性成分を配合した場合には、反応温度を低下させても、高収率でリサイクルモノマーが得られることがわかる。
【0261】
[参考例2]
テレフタル酸ジメチル(関東化学社製)とエチレングリコール(日本触媒社製)のエステル交換反応により予め製造しておいたビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート123重量部を仕込んだ。温度250℃、圧力1.2×105Paに保持されたエステル化反応器に、高純度テレフタル酸(三井化学社製)100重量部とエチレングリコール(日本触媒社製)45重量部のスラリーを、4時間かけて順次供給した。供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、エステル化反応生成物を得た。
【0262】
得られたエステル化反応生成物から100重量部を計量して重縮合反応器に仕込み、温度250℃で溶融、撹拌し、重縮合後に得られるポリエステル理論収量に対して、テトライソプロピルチタンをチタン原子換算で15ppmとなるように添加し、30rpmで攪拌しながら、反応系を250℃から285℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし常圧に戻し重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。このポリマーの融点は254℃であった。
【0263】
[実施例37]
実施例1の加水分解後、室温で析出した成分として、テレフタル酸、モノヒドロキシエチルテレフタレート、安息香酸が検出された。モノヒドロキシエチルテレフタレートは、ポリエチレンテレフタレートの重合前駆体なため、重合原料として活用可能である。一方、安息香酸は、重合時に末端封鎖剤として重合阻害する可能性があるため、析出成分を熱エタノール中で3回洗浄し、安息香酸を除去した。この方法で、テレフタル酸とモノヒドロキシエチルテレフタレートの混合物(重量比89:11)を回収した。
【0264】
また、実施例26の加水分解により得られた水溶性成分を蒸留することでエチレングリコールを回収した。
【0265】
テレフタル酸ジメチル(関東化学社製)とエチレングリコール(日本触媒社製)のエステル交換反応により予め製造しておいたビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート123重量部を仕込んだ。温度250℃、圧力1.2×105Paに保持されたエステル化反応器に、上記方法で回収したテレフタル酸とモノヒドロキシエチルテレフタレートの混合物(リサイクルモノマー)102重量部とエチレングリコール(リサイクルモノマー)42重量部のスラリーを、4時間かけて順次供給した。供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、エステル化反応生成物を得た。
【0266】
得られたエステル化反応生成物から100重量部を計量して重縮合反応器に仕込み、温度250℃で溶融、撹拌し、重縮合後に得られるポリエステル理論収量に対して、テトライソプロピルチタンをチタン原子換算で15ppmとなるように添加し、30rpmで攪拌しながら、反応系を250℃から285℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし常圧に戻し重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。このポリマーの融点は254℃であり、参考例2と同じであった。
【0267】
[リサイクルモノマーの製造装置、および第4の好ましい態様の実施例、比較例]
[実施例38]
図1に示したリサイクルモノマーの製造装置を使用した。熱可塑性ポリマーを含む組成物を加熱および加圧して供給する手段(L)として、押出機2を使用した。亜臨界水を生成し供給する手段(M)として、高圧ポンプ4および電気加熱器5を使用した。押出機2および電気加熱器5の加熱温度は押出機・電気加熱器温度制御装置14を用いて設定温度になるように制御した。上記手段(L)から供給された上記熱可塑性ポリマーを含む組成物と上記手段(M)から供給された上記亜臨界水を混合する手段(N)として、スタティックミキサー6を使用した。上記手段(N)に接続された加水分解を行う連続反応器(O)として、外部ジャケットに向流で熱媒を流すことができる管型連続反応器7および管型連続反応器8を直列に配置して使用した。
【0268】
原料の熱可塑性ポリマーを含む組成物として、ポリエチレンテレフタレート(PET-A)を原料ホッパー1に投入し、押出機2を使用してPET-Aを溶融し加圧した。PET-Aの温度は281℃、圧力は20MPa、供給量は13.0g/minとした。水タンク3に脱イオン水を溜めておき、高圧ポンプ4を使用して加圧、電気加熱器5を使用して加熱し亜臨界水とした。亜臨界水の温度は281℃、圧力は20MPa、供給量は39.0g/minとした。亜臨界水と熱可塑性ポリマーを含む組成物中の熱可塑性ポリマー成分の質量流量比(X:1)は3:1であった。加熱溶融し加圧した熱可塑性ポリマーを含む組成物を、亜臨界水の流れと合流させ、エレメント数24のスタティックミキサー6に供給した。スタティックミキサー6から排出された溶液は、内径2.3cm、長さ250cmの管型連続反応器7に供給され、管型連続反応器7から排出された溶液は内径2.3cm、長さ250cmの管型連続反応器8に供給された。
【0269】
管型連続反応器7の入口から5cmの位置に、連続反応器(O)の上流部の温度をモニタリングする連続反応器上流部温度モニタリング装置12が挿入され、管型連続反応器8の出口から5cmの位置に連続反応器(O)の下流部の温度をモニタリングする連続反応器下流部温度モニタリング装置13が挿入された。連続反応器上流部温度モニタリング装置12からの信号を基にして、管型連続反応器7の連続反応器温度調整機構15により管型連続反応器7のジャケットに供給される熱媒の流量および温度が調整された。連続反応器上流部温度モニタリング装置12および連続反応器下流部温度モニタリング装置13からの信号を基にして、管型連続反応器8の連続反応器温度調整機構16により管型連続反応器8のジャケットに供給される熱媒の流量および温度が調整された。連続反応器上流部温度モニタリング装置12の温度は280℃、連続反応器下流部温度モニタリング装置13の温度は240℃となった。
【0270】
また、連続反応器(O)の平均滞留時間Zは30分であった。XとYの積、およびXとYとZの積は、表10のとおりであった。
【0271】
管型連続反応器8から排出された反応溶液は熱交換器9で冷却水と熱交換され40℃まで冷却された。その後、背圧弁10により20MPaから大気圧まで反応溶液が放圧され、反応溶液タンク11に溜められた。
【0272】
反応溶液タンク11に溜められた反応溶液を室温まで冷まし、吸引濾過を実施して固形分(テレフタル酸)を回収し、溶液(エチレングリコール水溶液)と分離した。固形分重量およびHPLC分析結果から、テレフタル酸のモル収率は98%であった。一方、溶液の重量およびGC分析結果から、エチレングリコールのモル収率は80%であった。
【0273】
【表10】
【0274】
[実施例39]
連続反応器下流部温度モニタリング装置13の温度の設定以外は実施例38と同様にしてリサイクルモノマーの製造装置を運転したところ、結果は表10に示すようになった。
【0275】
[実施例40]
連続反応器下流部温度モニタリング装置13の温度の設定以外は実施例38と同様にしてリサイクルモノマーの製造装置を運転したところ、結果は表10に示すようになった。
【0276】
[実施例41]
図2に示したリサイクルモノマーの製造装置を使用した。図2に示す装置は図1に示す装置に対して、管型連続反応器7および連続反応器温度調整機構15が1つであることが特徴である。管型連続反応器7の入口から5cmの位置に、連続反応器(O)の上流部の温度をモニタリングする連続反応器上流部温度モニタリング装置12が挿入され、管型連続反応器7の出口から5cmの位置に連続反応器(O)の下流部の温度をモニタリングする連続反応器下流部温度モニタリング装置13が挿入された。図2に示す装置で管型連続反応器7の上流部および下流部の内部温度をどちらも280℃に保つように連続反応器温度調整機構15を設定し、管型連続反応器8に流す熱媒の流量および温度を制御した。その他の条件は表10に示す通りとし、図2に示すリサイクルモノマーの製造装置を運転したところ、結果は表10に示すようになった。温度を280℃に保って運転することにより、加水分解反応が素早く進むため、実施例38に対して短い滞留時間で処理することが可能であるが、反応後期において、特にテレフタル酸の再重合反応を抑制することが難しいため、テレフタル酸のモル収率が減少したものと推測される。なお、エチレングリコールのモル収率は他の実施例と同程度であった。
【0277】
[実施例42]
図2に示したリサイクルモノマーの製造装置を使用した。図2に示す装置で管型連続反応器7の上流部の温度を280℃近くに保ち、管型連続反応器下流部の温度を240℃となるように連続反応器温度調整機構15を設定した。このとき、管型連続反応器8内に温度勾配が発生するように熱媒流量を減少させるように制御した。その他の条件は表10に示す通りとし、図2に示すリサイクルモノマーの製造装置を運転したところ、結果は表10に示すようになった。温度調整機構がひとつであることにより、最高温度を保つ時間が短くなるため、実施例38に対してテレフタル酸のモル収率が減少したものと推測される。
【0278】
[実施例43]
熱可塑性ポリマー含む組成物をPET-Bとした以外は実施例38と同様にしてリサイクルモノマーの製造装置を運転したところ、結果は表10に示すようになった。対象とする熱可塑性ポリマー含む組成物をポリエチレンテレフタレート樹脂の廃棄物としても、実施例38と同様にリサイクルモノマーを製造することが出来ることが示された。
【符号の説明】
【0279】
1 原料ホッパー
2 押出機
3 水タンク
4 高圧ポンプ
5 電気加熱器
6 スタティックミキサー
7 管型連続反応器
8 管型連続反応器
9 熱交換器
10 背圧弁
11 反応溶液タンク
12 連続反応器上流部温度モニタリング装置
13 連続反応器下流部温度モニタリング装置
14 押出機・電気加熱器温度制御装置
15 連続反応器温度調整機構
16 連続反応器温度調整機構
図1
図2