(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038062
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】胸腺組織に由来する制御性T細胞を入手する方法および免疫系障害における細胞免疫療法としての前記細胞の使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20240312BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240312BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240312BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20240312BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240312BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240312BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240312BHJP
A61K 35/26 20150101ALI20240312BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C12N5/0783
C12N1/00 B
C12N5/10
C12N1/04
A61P37/02
A61P29/00
A61P37/08
A61P37/06
A61K35/26
A61K45/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023217326
(22)【出願日】2023-12-22
(62)【分割の表示】P 2020545645の分割
【原出願日】2019-03-01
(31)【優先権主張番号】P201830197
(32)【優先日】2018-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(71)【出願人】
【識別番号】518454450
【氏名又は名称】フンダシオン パラ ラ インベスティガシオン ビオメディカ デル オスピタル グレゴリオ マラニョン
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コレア ロシャ ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】ピオン マージョリー
(72)【発明者】
【氏名】ベルナルド デ キロス プラーサ エステル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】単一胸腺から100億個超の細胞を入手することを可能にする、胸腺組織から制御性T細胞を入手および精製するインビトロ方法を提供する。
【解決手段】以下の工程:a.胸腺組織を機械的に脱凝集させる工程と;b.工程aの後に得られた生成物を濾過し、胸腺細胞を含む沈殿物を培養培地に再懸濁する工程と;c.工程bの後に得られた生成物からCD25+細胞を単離する工程と;d.工程cの後に得られた細胞集団を、T細胞アクチベーターおよびIL-2の存在下、培養培地中で培養し、好ましくは、前記T細胞アクチベーターは少なくともCD3およびCD28アゴニストを含む工程と;e.工程dの培養培地から前記T細胞アクチベーターを除去する工程と;を含み、但し、工程(d)の前に、前記細胞集団がCD8+細胞を枯渇していない、単離された胸腺組織から制御性T細胞集団を入手するインビトロ方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
a.胸腺組織を機械的に脱凝集させる工程と;
b.工程(a)の後に得られた生成物を濾過し、胸腺細胞を含む沈殿物を培養培地に再懸濁する工程と;
c.工程(b)の後に得られた生成物からCD25+細胞を単離する工程と;
d.工程(c)の後に得られた細胞集団を、T細胞アクチベーターおよびIL-2の存在下、培養培地中で培養し、好ましくは、前記T細胞アクチベーターは少なくともCD3およびCD28アゴニストを含む工程と;
e.工程(d)の前記培養培地から前記T細胞アクチベーターを除去する工程と;
f.場合により、制御性T細胞を、IL-2の存在下、培養培地中でさらに培養する工程と;
を含み、
但し、工程(d)の前に、前記細胞集団がCD8+細胞を枯渇していない、
単離された胸腺組織から制御性T(Treg)細胞集団を入手するインビトロ方法。
【請求項2】
工程a)が、培養培地の存在下で、酵素を使用せずに前記胸腺組織を機械的に脱凝集させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程c)におけるCD25+細胞の単離が、CD25に対する抗体にコンジュゲートされた磁気ビーズの使用を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(d)の前記T細胞アクチベーターがCD3およびCD28アゴニストを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(d)の前記T細胞アクチベーターが、ヒト化CD3およびCD28アゴニストとコンジュゲートしたコロイド状ポリマーナノマトリックスである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が、工程(d)で、少なくとも2または3日間、好ましくは少なくとも3日間培養される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞が、工程(d)で、ラパマイシンの非存在下で培養される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(e)の前記除去が遠心分離によって行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程f)で、前記制御性T細胞が、IL-2の存在下でさらに1~7日間、好ましくはさらに4日間培養される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞が、工程(f)で、ラパマイシンの非存在下で培養される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記培養培地がGMP培養培地である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記培養培地が抗生物質、好ましくは5%の抗生物質をさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記得られたTreg細胞集団が、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%のCD4+、CD25+およびFoxp3+細胞を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記胸腺組織がヒトに由来する、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記胸腺組織が、0~16歳のヒト、好ましくは生後0~24ヶ月のヒトに由来する、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
得られた前記制御性T細胞の凍結保存を含む追加の工程(g)をさらに含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の方法によって得られた制御性T(Treg)細胞またはTreg細胞集団。
【請求項18】
前記細胞が遺伝子改変されている、請求項17に記載のTreg細胞またはTreg細胞集団。
【請求項19】
前記細胞が、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含む、請求項18に記載のTreg細胞またはTreg細胞集団。
【請求項20】
前記抗原が免疫系のエフェクター細胞に存在する抗原である、請求項19に記載のTreg細胞またはTreg細胞集団。
【請求項21】
請求項17から20のいずれか一項に記載のTreg細胞またはTreg細胞集団を含む医薬組成物であって、賦形剤および/または薬学的に許容される担体をさらに含む、医薬組成物。
【請求項22】
医薬として使用するための、請求項17から20のいずれか一項に記載のTreg細胞もしくはTreg細胞集団、または請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
移植された個体の自己免疫疾患、炎症過程、アレルギー、移植片対宿主病および/または免疫拒絶反応からなる群より選択される病的状態を処置および/または予防する方法への自家または同種使用のための、請求項17から20のいずれか一項に記載のTreg細胞もしくはTreg細胞集団、または請求項21に記載の医薬組成物
【請求項24】
前記病的状態を有する個体がヒトである、請求項23に記載の方法に使用するための、請求項17から20のいずれか一項に記載のTreg細胞もしくはTreg細胞集団、または請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項25】
移植された対象の免疫拒絶反応の処置および/または予防における、請求項23または24に記載の使用のためのTreg細胞またはTreg細胞集団。
【請求項26】
少なくとも1つの免疫抑制薬と組み合わせて投与される、請求項23から25のいずれか一項に記載の使用のためのTreg細胞またはTreg細胞集団。
【請求項27】
免疫抑制薬を使用する前の療法が完了したら投与される、請求項23から26のいずれか一項に記載の使用のためのTreg細胞またはTreg細胞集団。
【請求項28】
Treg細胞またはTreg細胞集団の前記使用が同種使用である、請求項23から27のいずれか一項に記載の使用のためのTreg細胞またはTreg細胞集団。
【請求項29】
請求項17から20のいずれかに記載のthyTreg細胞もしくはthyTreg細胞集団、または請求項21に記載の医薬組成物と;個体に細胞を投与するための適切な医療機器とを備えるキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床免疫学および細胞免疫療法の分野、具体的には、例えば、移植された個体または自己免疫過程を患っている個体で、免疫寛容を誘導する目的で細胞療法において患者に後で移植され得る制御性T細胞(Treg)を入手および精製するためのプロトコルに入る。
【背景技術】
【0002】
免疫系に長く帰属している主な機能は、病原体から生物を防御することである。しかしながら、今では免疫系が腫瘍細胞の排除およびがんの発生の予防も担当しており、また、自己免疫過程、アレルギーまたは移植拒絶反応の出現から生じる不適切な反応を引き起こす可能性もあることが分かっている。免疫系が適切に機能することは、そこに十分なバランスまたは恒常性が存在する場合にのみ可能であり、結果として過剰な応答はアレルギーまたは拒絶反応などの病態を引き起こし、不十分な応答は感染症およびがんの進行を可能にする。
【0003】
近年、腫瘍に対する特異的免疫応答を誘導または回復させ、これらの病態の原因である患者の免疫不全を補償しようとする、がんの処置における免疫細胞を用いた画期的な細胞療法の出現が目撃されている。このことは、患者の免疫細胞を遺伝子改変して、特異的方法で腫瘍を攻撃する「CAR T細胞」技術にも当てはまる。NovartisまたはGileadなどの企業が、B型白血病を処置するためにこの細胞療法を開発し、およそ80%の寛解を達成し、この療法は、近年FDAおよびEMAによっても承認され、がんの処置における真正な革命となっている(Maude S.L.ら、2014、N Engl J Med.、371(16):1507-17;Lee D.W.ら、2015、Lancet、385(9967):517-528)。
【0004】
しかしながら、反対の意味で同様の有効性を有する、すなわち自己免疫疾患または同種移植片拒絶反応を予防または治療するために免疫寛容を誘導する細胞療法は開発されていない。明確に成功して、過度の免疫応答を減少させ、免疫寛容を回復させる免疫療法はまだ開発されていない。自己免疫疾患および免疫拒絶反応は現在、免疫抑制薬で処置されている。1960年代にこれらの薬物が登場して以来、移植の実施が実行可能となったが、これらの薬物の改善にもかかわらず、拒絶反応に対する決定的な解決策はまだ提供されておらず、患者の臨床発展における決定因子である副作用を引き起こし続けている。具体的には、長期的な免疫抑制は、慢性毒性を引き起こし、これが患者の生活の質に有意な影響を及ぼすことに加えて、処置の達成、全体的な成功率、ならびに患者および移植片の生存にも影響を及ぼす。ほとんどの免疫抑制剤は非選択的な方法で作用するため、系全体が抑制および/または調節解除され、感染症もしくは腫瘍細胞の増殖から宿主を防御する能力が失われる、または移植された臓器の不全を引き起こす血管損傷が生じる。さらに、小児期には、免疫抑制剤の一定の投与により、正常な発達および、その期間中に起こる免疫系の適切な成熟が妨げられ、患者の免疫能力の変化で生涯にわたる結果をもたらすおそれがある。これらの免疫抑制薬は今後も改善を続け、拒絶率をさらに低下させる可能性があるが、この戦略のマイナス面は常に、免疫系に引き起こされる悪化および慢性損傷である。移植片拒絶反応をよりよく予防しても、感染症、がんおよび自己免疫疾患などの免疫系の悪化に関連する障害が、免疫抑制薬を受けている移植患者の長期生存を制限し続けるだろう。
【0005】
このために、何百万もの人々に影響を及ぼす拒絶反応または自己免疫疾患を無期限に回
避する免疫寛容を達成することが、現代医学の主要な課題となっている。
【0006】
科学界の現在の見解は、移植レシピエントの免疫応答を再教育することを伴うただ1つの免疫寛容誘導が、移植片の無期限の生存を可能にする、または自己免疫過程を予防および治療するというものである。この寛容誘導は、薬理学的免疫抑制を必要とすることなく移植された臓器を寛容することを可能にし、それによってこれらの療法の毒性効果および免疫系に対するそれらの損傷効果を排除するだろう。
【0007】
移植患者の平均余命を延ばすための最も有望な代替案の1つは、細胞免疫療法によって免疫寛容を誘導することであり、これにより、免疫抑制処置に関連する罹患なしに移植片の無期限の生存が可能になるだろう(Sicard A.ら、2015、Front Immunol;6:149)。このアプローチは、長期的な薬理学的抑制を排除または有意に低減し、それによって適切な免疫系を維持しながら、移植片に対する特異的免疫応答を計画的に低減することに焦点を当てている。免疫寛容は免疫系の本質的な特徴であり、この寛容を誘導することができる抑制能力を有するリンパ球のサブセットの発見は、臨床領域で広範な熱意を生み出している。制御性T細胞(Treg)と呼ばれるこれらの細胞は、免疫系の必須部分を構成し、移植片拒絶反応または自己免疫疾患の予防および患者に有益な免疫恒常性の維持において重要な役割を果たす可能性がある。Tregは、T CD4+およびCD8+、NK細胞、B細胞、マクロファージおよび樹状細胞を含む、広範囲の細胞のエフェクター機能を抑制することができる(Sakaguchi S.ら、2008、Cell;133:775-87)。結果として、Treg細胞は自己免疫、アレルギーおよびまた移植の興味深い研究分野となっている。
【0008】
したがって、Tregによる細胞療法は、自己免疫過程(Bluestone J.A.ら、2015、Expert Opin.Ther.Targets;19:1091-103)、骨髄移植患者における移植片対宿主病(Brunstein C.G.ら、2016、Blood;127:1044-51)または移植拒絶反応(Safinia
N.ら、2015、Front Immunol;6:438)などの免疫系の過剰なもしくは不十分な応答によって媒介される疾患の処置おける大きな希望になると想定されている。
【0009】
移植におけるTregの基本的な役割は、皮膚および心臓移植の動物モデルでのさまざまな研究によって確認されており、移植時に容器に存在するTregが、移植片に対する寛容の誘導および維持に重要であることを実証している(Wood K.J.、Sakaguchi S.、2003、Nat.Rev.Immunol.;3:199-210)。これらのTreg細胞は、細胞拒絶反応の原因であるエフェクターT細胞の活性化および増殖を妨げる。さらに、Tregは、心臓異種移植モデルで既に実証されているように(Ma Y.ら、2008、Xenotransplantation;15:56-63)、B細胞の死を誘導し、体液性拒絶反応を予防することもできる。
【0010】
現場での現在の知識は、移植患者または自己免疫過程での免疫寛容が、エフェクターT細胞に対するTreg細胞のバランスによって決定されるという仮説を示している。したがって、より多数の循環Tregが、これらの疾患を誘因するエフェクター細胞の活性化および増殖を予防することができると予想される。
【0011】
したがって、拒絶反応の予防または自己免疫過程の処置において優れた結果を提供することができる治療戦略は、循環中のそれらの数を実質的に増加させ、したがって移植された臓器または自身の組織に対する容器におけるレシピエントの固有の寛容機序を増強するために、Treg細胞移植を通して細胞療法を行うことであるだろう。患者への自家Tregの移植は、患者から血液を採取し、前記血液中に存在するTregを精製し、これら
のTregをエキソビボで増殖して適切な数を得て、増殖した自家Tregを患者に戻し入れることによって達成される。以下で議論されるように、他のグループが、動物モデルにおける拒絶反応の予防におけるそれらの有効性を実証しており、ヒトでのそれらの治療的使用を確認する臨床試験が他の疾患でさえ実施されている。
【0012】
ヒトにおけるTreg療法の安全性および潜在的有効性は、既に実施された最初の第I/II相試験に反映されている。Tregを使用したほとんどの臨床試験は、血液腫瘍のある患者の骨髄移植の状況内で実施されており、これらの患者にTregを注入すると、移植片対宿主病(GvHD)が減少するまたは予防されることが示されている(Brunstein CG.ら、2016、Blood.127(8):1044-51;Di Ianni M.ら、2011、Blood.117(14):3921-8)。GvHDの最大のリスクは最初の3ヶ月で発生し、この短期間のTreg療法を通した免疫抑制が、長期的な寛容を提供するのに十分であることが証明されている。しかしながら、固形臓器移植または自己免疫疾患の場合、リスクは患者または移植片の生涯を通じて持続し、不十分な免疫応答を確実に予防するために、Tregの保護効果が一定時間持続する必要がある。
【0013】
The One Studyと呼ばれる国際的なコンソーシアムがあり、成人での肝臓および腎臓移植に関連して、エキソビボ増殖Tregの注入の安全性および潜在的有効性に関する多施設共同第I/II相試験を行っている。しかしながら、このコンソーシアムの予備試験結果は有望であるが、表現型がより分化しているため、末梢血から高品質のTregを入手することが困難であり、成人患者に存在するTregの生存および有効性が限られていることを証明している(Safinia N.ら、2015、Front Immunol.、6:438)。小児での試験を含む、I型糖尿病などの他の疾患でのTreg移植試験もある(Marek-Trzonowska N.ら、2012、Diabetes Care;35:1817-20)。しかし、この治療代替によって近年生み出された大きな関心および期待にもかかわらず、Treg細胞による処置は、ヒトにおける固形臓器拒絶反応の予防において決定的な結果を提供することには依然として失敗している。
【0014】
これまでに行われた戦略および試験のほとんどは、末梢血から得られたTreg細胞を使用しており、これらが、その後エキソビボで増殖され、細胞療法として患者に戻し入れられる。末梢血におけるTregの頻度が非常に低い(全T CD4+リンパ球の4~10%)ため、最大の制限は十分な数のTregを達成することであり、そのため、細胞を患者に戻し入れることができるようになる前に大量のエキソビボTreg増殖プロトコルを適用することが不可欠である。Wiesingerら、2017、Frontiers
in Immunology、8:1371は、末梢血から単離されたエキソビボで増殖したTreg細胞のGMPに準拠した産生を記載している。この方法は、CD3/CD28刺激前のCD8+細胞枯渇を含む。
【0015】
別の重要な制限は、成人の末梢血に存在するTreg細胞が分化した細胞であり、高度の老化を有し得ることである。これらのより分化した細胞は、生存期間が数ヶ月に制限され、抑制能力が低下しており、表現型が不安定であり、その機能および抑制能力を決定するFoxp3分子の発現が失われ、炎症性エフェクターT細胞に分化するおそれさえある(Miyara M.ら、2009、Immunity;1-13)。これらの細胞を培養で増殖する場合も、制御性細胞能力がさらに低下する(Hoffmann P.ら、2009、Eur.J.Immunol.;39:1088-97)。
したがって、エキソビボTreg細胞増殖プロトコルには、ヒト臨床試験で成功して、安全に使用できる機能細胞を入手するための有用性を制限するさまざまな課題がある:
【0016】
a.ほとんどの増殖プロトコルは、ヒトでの免疫療法で使用するために得られる細胞の必須GMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準(Good Manufacturing Practice))要件を満たしていない。
【0017】
b.初期Treg表現型に応じて、エキソビボ増殖がその抑制能力の喪失をもたらし得ることが実証されている。インビトロ刺激メモリー表現型を有するTreg細胞は、Foxp3発現(その抑制能力を担う)およびTreg表現型を喪失している一方、ナイーブ表現型を有するTregは、Foxp3発現、したがって繰り返しの刺激および増殖後の抑制能力を維持することができる。この事実はさまざまな著者によって確認されており、その割合が成人では少数であるナイーブTreg細胞の集団が増殖に最も適切であり、その抑制特性を保持していることを示している。
【0018】
c.分化したTreg細胞またはメモリー表現型を有するTreg細胞のインビトロ増殖は、その抑制表現型の喪失につながり、IL-17またはIL-4などの炎症性サイトカイン表現型を獲得し、臓器拒絶反応過程を悪化または助長する可能性さえある。
【0019】
すなわち、現在の戦略を使用してTregの適切な量および品質を得るために遭遇する困難が、この療法の臨床的有用性を制限する。したがって、Treg移植を通して寛容を誘導するための進行中のヒト試験は、十分な、短期的および長期的に明確な治療効果を得るのに必要な抑制能力を備えた細胞を産生することにおいて大きな困難に直面している。
【0020】
今日まで、ヒトにおける固形臓器拒絶反応を予防するためのTreg療法の使用は、決定的な臨床結果をもたらしていない。精製され得る末梢血中のTregの限られた数が、成人から得られたTregの低い生存および限られた抑制能力と合わせて、おそらくこの治療戦略の成功を危うくしている。
【0021】
近年公開された「概念証明」は、末梢血の代替としてのヒト胸腺組織が、最適な表現型を有する細胞の入手を可能にするTreg細胞の潜在的な供給源であることを実証している(Dijke I.E.ら、2016、American Journal of Transplantation、16:58-71;およびMacDonald K.ら
2017、Wolters Kluwer、Canadian national transplant research program、S9頁;https://journals.lww.com/transplantjournal/Fulltext/2017/05003)。胸腺組織をTregの供給源として使用することを提案するこの試験は、この組織から得られた細胞の品質、その抑制能力、および細胞の供給源としての末梢血の使用に関して利用可能な細胞の数が多数であることを確認している。しかしながら、これは動物モデルを使用するインビトロ研究試験であるため、その一部が、ヒトでの免疫療法としての得られた細胞の後の使用に適合していない、ウシ血清の使用、酵素処理、補体媒介性溶解を使用したCD8の枯渇、ラパマイシン、Tregアクチベーターとしての非ヒト抗CD3および抗CD28抗体でコーティングされた粒子等の使用を含む、研究で一般的に使用されるTreg精製プロトコルを適用している。さらに、この方法を使用して得られたTreg細胞の数は、ヒトに適切な処置を実施するにはまだ不十分である。
【0022】
前記に基づいて、ヒトでの免疫療法でのその後の使用のために適切で十分な数の細胞に加えて、表現型、純度、保存された抑制能力、生存および生存率に関して改善した品質を有する細胞を入手することを可能にする、Treg細胞を入手および精製する最適化された方法を開発することが必要である。また、前記方法は、ヒトでの細胞免疫療法でのその使用のために臨床的観点から安全な細胞を提供しなければならない。前記強化された方法によって得られたTreg細胞の治療的使用は、慢性免疫拒絶反応を予防することを可能
にし、それによって長期の移植生存を達成するだろう。
【発明の概要】
【0023】
上記のように、Tregベースの細胞療法に対する最大の制限の1つは、十分な数のTregを達成することである。今日まで、末梢血からTregを精製するためのプロトコルでは、入手する細胞が2000万個未満の収量であるため、さまざまな試薬の使用を伴い、細胞の品質を有意に低下させる大量の増殖プロトコルを要する。
【0024】
本発明者らは、CD3/CD28刺激の前にCD8+細胞が枯渇しないTreg細胞を入手するためのプロトコルを初めて提供する。これは、本発明者らによって、最終生成物中にFoxp3+TregのCD4+CD8+集団の存在をもたらすことが示されている(およそ41%、
図4B、
図4C)。胸腺組織に存在する胸腺細胞の約80%がCD4およびCD8マーカーを発現する細胞であることを考慮すると(
図4A)、他のプロトコルで使用される以前のCD8枯渇は、これらのCD4+CD8+Treg細胞のほとんどを破棄するだろう。
【0025】
好ましい実施形態では、ヒト化CD3およびCD28アゴニストとコンジュゲートしたコロイド状ポリマーナノマトリックスがCD3/CD28活性化に使用され、これはCD3/CD28ビーズを使用して得られるものに匹敵するTreg細胞活性化および増殖のレベルを提供する革新的なアプローチでありながら(
図6)、T細胞アクチベーターを培養培地から容易に除去できるようにして、この工程でのTreg細胞の損失を最小限に抑える。
【0026】
実施例に示されるように、単離された胸腺組織からTreg細胞を入手するための本発明のプロトコルにより、純度95%超(
図1Cおよび
図4B)、生存率80%超(
図1B)および非常に高い抑制能力(
図2および
図3)を有する130億個超のthyTregを入手することが可能になった。このような数の細胞は、1歳未満の患者に対して1000回超の用量、およびより年長の小児または成人において使用される場合、数百回の用量の細胞療法を調製することを可能にするだろう。thyTreg細胞の入手でのこれらの収量は、前代未聞である。
【0027】
したがって、第1の局面では、本発明は、以下の工程:
a.胸腺組織を機械的に脱凝集させる工程と;
b.工程(a)の後に得られた生成物を濾過し、胸腺細胞を含む沈殿物を培養培地に再懸濁する工程と;
c.工程(b)の後に得られた生成物からCD25+細胞を単離する工程と;
d.工程(c)の後に得られた細胞集団を、T細胞アクチベーターおよびIL-2またはTGFβ(好ましくはIL-2)の存在下、培養培地中で培養し、好ましくは、前記T細胞アクチベーターは少なくともCD3およびCD28アゴニストを含む工程と;
e.工程(d)の培養培地からT細胞アクチベーターを除去する工程と;
f.場合により、制御性T細胞を、IL-2またはTGFβ(好ましくはIL-2)の存在下、培養培地中でさらに培養する工程と;
を含み、
但し、工程(d)の前に、細胞集団がCD8+細胞を枯渇していない、
単離された胸腺組織から制御性T(Treg)細胞集団を入手するインビトロ方法に関する。
【0028】
本発明の別の局面は、本発明の方法を通して入手された、または入手可能な制御性T細胞または制御性T細胞の集団に関する。
【0029】
本発明のさらなる局面は、医薬として使用するための、本明細書に記載される本発明のthyTreg細胞およびthyTreg細胞集団に関する。
【0030】
本発明のさらなる局面は、本明細書に記載される本発明のthyTreg細胞およびthyTreg細胞集団を含む医薬組成物であって、賦形剤および/または薬学的に許容される担体をさらに含む、医薬組成物に関する。
【0031】
本発明の別の局面は、本明細書に記載される本発明の方法を行うために必要な全ての試薬、培地および手段を含むキット(以下、「本発明の第1のキット」)に関する。
【0032】
本発明のなおさらなる局面は、本明細書に記載される本発明のthyTreg細胞もしくはthyTreg細胞集団、または本明細書に記載される本発明の医薬組成物と、個体に細胞を投与、好ましくは注射するための適切な医療機器とを備えるキット(以下、「本発明の第2キット」)に関する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】胸腺由来thyTreg細胞を精製および濃縮した結果を示す図である。胸腺組織は生後5ヶ月の小児から採取した。これは、精製プロトコル前の全胸腺細胞におけるTreg細胞の頻度(A)、ならびに本発明の方法で得られた最終生成物におけるCD25+Foxp3+Treg細胞の生存率(B)および純度(C)を示す。
【
図2】胸腺由来thyTreg細胞の抑制能力を示す図である。PBMC細胞をCFSEで染色し、活性化し、単独でまたは胸腺由来thyTregと共培養した。レスポンダーT細胞の増殖を、CFSE染色の蛍光強度の低下として測定する。活性化TCD4+およびTCD8+は単独で、培養下3日後に87%超増殖する。thyTregの存在は、活性化CD4+細胞とCD8+T細胞の両方の増殖を75%超減少させる。
【
図3】同種CD4+およびCD8+T細胞の増殖を抑制するthyTregの有効性を示す図である。非活性化(NA)T細胞は、3日間の培養後も増殖しない(白色);活性化CD4+およびCD8+T細胞の80%超が増殖し、分裂のいくつかのサイクル(ピーク)(灰色領域)が観察される;しかしながら、thyTregの存在により、これらの同種T細胞の増殖が80%超妨げられる(縞模様領域);産生されたthyTreg集団は、同種CD8+およびCD4+T細胞に対して、さまざまなTreg対レスポンダー細胞比で抑制能力を示す(B)。
【
図4】胸腺組織から得られた全胸腺細胞の表現型(A);thyTregの最終生成物におけるCD25+Foxp3+細胞の純度(B);thyTregの最終生成物におけるCD4およびCD8発現に関するthyTreg細胞の分布(C)を示す図である。
【
図5】ラパマイシンを使用する(+ラパマイシン)またはラパマイシンを使用しない(-ラパマイシン)同じプロトコル間の、CD25+Foxp3+細胞の純度の差(A)および増殖倍率の差(B)を示す図である。
【
図6】細胞アクチベーターとしてDynabeadsまたはTransActを使用した同じプロトコル間の、CD25+Foxp3+細胞の純度の差(A-B)、機能的Tregマーカーの発現の差(C)、および増殖倍率の差(D)を示す図である。
【
図7】本発明者らのプロトコルで産生されたThyTreg(濃灰色)は、成人末梢血から得られた従来のCD4+T細胞(灰色)よりも免疫原性マーカーの発現が低いことを示す図である。アイソタイプ対照を薄灰色領域として表す。
【
図8】本発明者らのプロトコルで産生されたThyTregは、標準的な培養条件と比較して、炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNFα;炎症条件)の存在下で、Foxp3の安定な発現(A)およびIL-10産生能力(B)を維持することを示す図である。
【0034】
[発明の詳細な説明]
第一の局面では、本発明は、胸腺組織から得られるTreg細胞の新たなサブタイプを入手および精製するインビトロ方法を提供する。別の局面では、本発明は、本明細書に記載される方法に従って得られ、本発明で「thyTreg」と呼ばれる、Treg細胞またはTreg細胞集団に関する。
【0035】
本発明の方法によって得られるthyTregは、血液中に存在するまたは他の方法によって得られるTregとは対照的に、細胞療法におけるそれらの臨床使用にとってそれらを最適にする異なる特徴を示すことが示されている。例えば、これらは、免疫系のエフェクター細胞を抑制する高い能力、未分化表現型(胸腺に含有される細胞は外来抗原にまださらされていないため)、高い生存率、ならびにFoxp3の安定な発現(
図8A)、安定なIL-10産生(
図8B)、ならびにCTLA-4およびCD39などの機能マーカーの適切な発現(
図6C)を有する。さらに、本明細書で開発されたthyTregを入手、精製および処理するためのプロトコルにより、純度95%超で、単一胸腺から100億(1x10
10)個超のthyTreg(例えば、130億個超のthyTregが得られる実施例1を参照)を産生することが可能となる。これらの数値は、細胞の供給源としての末梢血(Safinia N.ら、2015、Front Immunol.、6:438)からであろうと胸腺組織(Dijke I.E.ら、2016、American Journal of Transplantation、16:58-71)からであろうと、他の方法を使用して単一個体から入手することができるものよりも非常に優れている。
【0036】
成人の治療試験で一般的に使用されるTregの用量は、患者の体重1kg当たり約1~10×106個のTregである。したがって、本明細書に記載されるプロトコルの収量により、例えば生後6ヶ月の小児患者(6~8kg)の単一胸腺から1800回超の用量のthyTreg細胞を産生することが可能となる。これにより、大量の細胞増殖を必要とすることなく処置を行うことが可能になるだけでなく、拒絶反応の任意の徴候が現れた場合に患者への将来の再注入に使用することができる、または他の患者(同種)に使用するための数回の凍結用量を保存するのに十分な数の細胞が依然として存在するだろう。
【0037】
前に説明されるように、本発明のプロトコルで大量のthyTreg細胞が得られ、前記方法は、得られた細胞をヒトの療法としてその後に使用するために必要なGMP条件にも適合する。さらに、本発明で得られるthyTregは、純度95%超ならびに非常に高い抑制能力、生存および生存率を有し得る。前記Treg細胞集団および収量は、これらをヒトでのその後の臨床的使用に適合しなくする製品も方法も使用することなく得られた。したがって、この治療的アプローチは、病理学的過程の初期段階だけでなく、長期的に免疫恒常性を調節することを可能にする。したがって、本発明の方法で得られたthyTreg細胞の患者への移植は、無期限の免疫寛容誘導を、すなわち、移植片の生涯を通して達成することができる。
【0038】
好ましくは小児心臓移植患者から摘出した、胸腺組織を細胞の供給源として使用して、それらの品質を変えるような大量のエキソビボ増殖プロトコルを必要とすることなく、最適な表現型、高い抑制能力および長い平均寿命を有する大量のthyTreg細胞が得られる具体的なプロトコルが開発された。このようにして得られた細胞を、移植患者、好ましくは固形移植患者、より好ましくは小児心臓移植患者などの患者への自家または同種移植に使用することができる。このようにして、免疫寛容の固有の機序が活性化される。得られた結果は、免疫抑制薬の投与およびそれに関連する毒性のその後の減少または完全な排除により、この細胞免疫療法が移植片の免疫拒絶反応を決定的に予防することができることを示している。また、前記治療戦略は、自己免疫過程などの、免疫系に関連する他の種類の障害の処置に新分野を開く。
【0039】
したがって、本発明は、ヒトでの、好ましくは固形臓器移植の状況内での、Treg細胞による治療の成功を制限している、現在までに存在している障壁を克服することを可能にし、好ましくは一定時間持続する増強したサプレッサー表現型、増強した純度、保存されたサプレッサー能力、高い生存および生存率を有する、ヒトでの細胞免疫療法で後に使用するために適切で十分な数の臨床的観点から安全な細胞を入手することを可能にする、Treg細胞を入手および精製する最適化された方法を提供する必要性への解決策を提供する。
【0040】
したがって、本発明の方法およびそれを通して得られるthyTreg細胞の最も顕著な利点のいくつかは、以下の通りである:
【0041】
-好ましい実施形態では、記載される方法が、培養培地に細胞のその後の臨床的使用を不可能にするウシまたはヒト血清を補充する、先行技術に記載される他の同様のプロトコルと対照的に、いかなる種類の酵素消化も実施せず、得られた細胞のその後の治療的使用に適合しない試薬も、動物血清も、製品も使用しない。細胞を活性化するためにTreg培養培地で抗CD3および抗CD28抗体でコーティングされた粒子を使用することも、先行技術で一般的である(例えば、Dijke I.E.ら、2016、American
Journal of Transplantation、16:58-71参照)。しかしながら、この種の試薬の存在は、細胞を患者に移植する前に前記粒子を完全に排除するための複雑な追加の方法を必要とする。逆に、本発明の方法の好ましい実施形態は、それが100%適合性であり、安全であるために、治療的使用のための細胞の産生において許容される試薬のみを使用し、それによって細胞の臨床的および治療的使用を可能にする。
【0042】
-この方法は、先行技術の方法、特に末梢血を細胞の供給源として使用する方法、またはわずかおよそ3億個の細胞しか入手されない(臨床的観点から不十分)、Dijke I.E.ら、2016、American Journal of Transplantation、16:58-71に記載される方法と比較して、より大量のTreg細胞(単一胸腺から100憶個超のthyTreg細胞)を入手することを可能にする。これは、異なる時間間隔で患者に投与することができる、または将来の自家もしくは同種投与のために保存することができるさまざまな用量を調製する可能性を提供する。
【0043】
-この方法は大量のエキソビボ細胞増殖を必要としないので、結果として細胞の品質および抑制能力(持続的Foxp3発現)を担う表現型が維持される。
【0044】
-この方法により、未成熟Treg細胞(Foxp3の発現が低い)を安定な、望ましいFoxp3+Tregに分化させることができる。
【0045】
-thyTreg細胞は、95%の純度で、抑制能力を有さないだけでなく、拒絶反応または炎症反応を誘導することさえできるエフェクターT細胞の存在なしに産生することができる。Treg細胞は通常、Treg中に存在する分子であるCD25抗体を使用して単離されるが、T CD4+エフェクター細胞も発現する。したがって、現在の方法では、精製された集団が、抑制能力を有さず、炎症効果を有する汚染エフェクター細胞を含有する。本発明の方法の利点は、胸腺に含有される細胞が外来抗原にさらされていないため、エフェクター細胞がなく、したがって、CD25を発現するので、全ての精製細胞がthyTreg細胞になることである。
【0046】
-得られたthyTreg細胞は、生存が高く(平均寿命よりも長い)、生存率が80%超、90%でさえある(
図1B)。
【0047】
-得られたthyTreg細胞は、Foxp3発現が持続しているため、70%超の優れた抑制能力を有する。これは、これらの細胞の移植後に患者で誘導される免疫寛容が一定時間持続し、適切であり、免疫拒絶反応に対する無期限の保護(移植の長期免疫寛容)を提供することに関連している。
【0048】
-得られたthyTreg細胞は、末梢血から得られたTreg細胞に対して増強された最適な抑制表現型を有する(Dijke I.E.ら、2016、American Journal of Transplantation、16:58-71)。
【0049】
さらに、本発明のこのプロトコルは、末梢血の代わりに細胞の供給源として、Treg細胞が産生される胸腺組織を使用する。この組織から得られたthyTreg細胞の主な利点は、末梢に移動したことがない場合、これらが全てナイーブで未分化の表現型を有し、それにより生存率が高く、繰り返しの刺激および増殖後に、Foxp3発現およびその抑制能力を維持することができることである。したがって、成人では割合が少数派であるナイーブTreg細胞は、抑制能力を維持しながら、細胞療法で使用するのに最適である。この点で、本発明の発明者らによって行われた分析は、本明細書に記載されるプロトコルで得られたthyTregが、
a.末梢血から得られた成人Treg細胞の最大10倍高い生存を有し、
b.優れた抑制能力を有し、TCD4およびTCD8エフェクター細胞の増殖を70%超、75%さえ抑制し(以下に示される本発明の実施例参照)、
c.インビトロ活性化後にFoxp3発現および安定な抑制表現型を維持し、
d.通常はTreg表現型をTh17細胞に切り替えることができるサイトカイン(IL-1β、IL-6、TNFα)の存在下でさえも、Foxp3発現およびIL-10産生能力を維持する(
図8)
ことを実証している。
【0050】
本発明の方法によって表される別の利点は、先天性心疾患を緩和するための心臓移植または異なる手術などの心臓手術中に通常摘出され、廃棄される胸腺組織を、好ましくは自家使用であるが、同様に同種使用のために、Tregの供給源として容易に入手可能であることである。
【0051】
さらに、本発明の方法で得られたthyTreg細胞の投与は、免疫系全体を抑制する非特異的活性のために、感染症の発症、腫瘍過程または自己免疫疾患などの関連する慢性毒性および副作用を有する免疫抑制薬の使用を低減または完全に排除することを可能にする。
【0052】
さらに、患者自身の細胞を使用する可能性(thyTregの自家投与)により、同種細胞の治療的使用から生じる潜在的な副作用が有意に減少する。さらに、この戦略は、比較的短期間で患者の自由に配置できる低コスト療法である。
【0053】
要約すると、本明細書に記載される治療戦略は、移植拒絶反応を予防し、移植片の無期限の生存を可能にし、特に小児において、移植患者にとってより長い平均余命を有することを可能にする。さらに、これは、好ましくは心臓手術で廃棄された、胸腺組織から本発明の方法で得られた、thyTreg細胞のバイオバンクを実行する可能性を開き、免疫寛容を誘導することによって、自己免疫障害または移植片対宿主病などのさまざまな免疫関連疾患を処置するための同種thyTregによる細胞療法を開発することを可能にするだろう。
【0054】
第1の局面では、本発明は、以下の工程:
a.胸腺組織を機械的に脱凝集させる工程と;
b.工程(a)の後に得られた生成物を濾過し、胸腺細胞を含む沈殿物を培養培地に再懸濁する工程と;
c.工程(b)の後に得られた生成物からCD25+細胞を単離する工程と;
d.工程(c)の後に得られた細胞集団を、T細胞アクチベーターおよびIL-2またはTGFβ(好ましくはIL-2)の存在下、培養培地中で培養し、好ましくは、前記T細胞アクチベーターは少なくともCD3およびCD28アゴニストを含む工程と;
e.工程(d)の培養培地からT細胞アクチベーターを除去する工程と;
f.場合により、制御性T細胞を、IL-2またはTGFβ(好ましくはIL-2)の存在下、培養培地中でさらに培養する工程と;
を含み、
但し、工程(d)の前に、細胞集団がCD8+細胞を枯渇していない、
単離された胸腺組織から制御性T(Treg)細胞集団を入手するインビトロ方法に関する。
【0055】
CD8+細胞の枯渇は、例えば補体媒介性溶解を使用して行うことができる。好ましい実施形態では、胸腺細胞集団が、CD25+細胞単離工程の前に、CD8+細胞を枯渇していない。
【0056】
本明細書で使用される制御性T(Treg)細胞という用語は、CD4、CD25およびFoxp3細胞表面マーカーを発現することを特徴とする細胞を指し、CD4+CD25+Foxp3+細胞とも呼ばれる。好ましくは、本発明の方法によって得られるTreg細胞集団は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、または99%のCD4+CD25+Foxp3+細胞を含むことを特徴とする。
【0057】
好ましくは、工程a)が、培養培地の存在下で、酵素を使用せずに、例えば以下に記載される組織分散装置(tissue dissociator)を使用することによって、胸腺組織を機械的に脱凝集させることを含む。
【0058】
この方法は、本明細書では「本発明の方法」とも呼ばれる。
【0059】
単離された胸腺組織は、本発明の方法を行う前に、それだけに限らないが、塩化ナトリウムなどの生理食塩水、抗生物質および抗真菌剤を含む無菌容器に保存して見られる。
【0060】
場合により本明細書に記載される特徴または実施形態の1つまたは複数と組み合わせた好ましい実施形態では、本発明の方法が、単離された胸腺組織をより小さな部分または切片、より好ましくは2~3グラムの部分に分割することを含む工程(a)の前の工程を含む。
【0061】
本発明の方法は、好ましくは、最終的に得られる細胞の生物学的安全性を保証する、GMPによって承認された細胞製造装置で行われる。
【0062】
好ましくは、本発明の方法は、ウシ血清もしくはそれに由来するタンパク質、ヒト血清、酵素、抗CD28もしくは抗CD3コーティングビーズまたはラパマイシンなどの試薬の使用を含まない。
【0063】
本発明が関連する「胸腺組織」は、心臓の前および胸骨の後ろに位置する、T細胞またはリンパ球が成熟するリンパ系の腺である胸腺からの任意の組織試料である。胸腺組織は、このような目的を果たす当技術分野で知られている任意の方法、例えば経胸骨、経頚管
的またはビデオスコープ的であり得る胸腺摘出によって摘出することができる。好ましくは、胸腺組織は、本発明の方法を行う前に、より好ましくは、例えば先天性心疾患などの心疾患を処置することを意図した、外科的介入の間に、または心臓移植の間に摘出される。さらにより好ましくは、本発明の胸腺組織は、小児心臓移植中に摘出される。
【0064】
胸腺組織は、ヒトまたは非ヒト哺乳類、例えば、それだけに限らないが、げっ歯類、ブタ、霊長類、反芻動物、ネコまたはイヌに由来し得る。本発明の方法の好ましい実施形態では、胸腺組織が、ヒト、より好ましくは0(新生児)~16歳、さらにより好ましくは0~10歳、特に生後0~24ヶ月のヒトに由来する。
【0065】
別の好ましい実施形態では、胸腺組織が、本発明の方法の終わりに得られるthyTreg細胞がその後細胞免疫療法のために投与される予定である同じ個体に由来する。すなわち、組織が、好ましくは自家性である。
【0066】
本発明において、「小児患者」または「小児」は、0~16歳、好ましくは0~10歳、さらにより好ましくは生後0~24ヶ月のヒトであると理解される。
【0067】
本発明の方法で使用することができる「組織分散装置」は、酵素を使用せずに組織の機械的脱凝集を可能にするものである。先行技術で市販されているものの中の任意の組織分散装置を、本発明の方法の工程(a)で使用することができるだろう。これらの分散装置の例には、それだけに限らないが、Miltenyi Biotec製のgentleMACS DissociatorもしくはgentleMACS Octo Dissociator、Quiagen製のTissueLyser、またはWorthington Biochemical、Sigma-AldrichもしくはRoche Diagnostics製の組織分散装置がある。好ましくは、本発明で使用される組織分散装置は、Miltenyi Biotec製のgentleMACS Octo Dissociatorである。
【0068】
本発明の方法の工程(a)では、前に摘出された胸腺組織を、好ましくは半自動化および標準化された組織分散を可能にし、細胞懸濁液を生じさせる装置である組織分散装置を使用して機械的に脱凝集させることができる。分散した組織の試料を、安全性が高く、汚染のリスクを最小限に抑えることができる、密閉した無菌系で試料を調製し、取り扱うことを可能にする、好ましくは使い捨ての、容器に添加することができる。前記容器はまた、GMP培養培地、および好ましくは抗生物質を、例えば2%~20%、好ましくは2%~10%、より好ましくは5%の抗生物質の濃度で含有することができる。本発明において存在および使用され得る抗生物質の例は、それだけに限らないが、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンまたはこれらの任意の組み合わせである。GMP培養培地は、動物由来の血清および成分を含まず、ヒトおよびマウスT細胞の培養および増殖、ならびに本発明のthyTreg細胞の増殖を可能にする。
【0069】
「GMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準(Good Manufacturing Practice))培養培地」とは、培養培地中の細胞、好ましくはT細胞、より好ましくはヒトT細胞の維持について承認されている任意の細胞培養培地であり、その後ヒトの臨床試験、好ましくは細胞療法で使用される。GMP培養培地は動物由来成分を含まず、無血清であり、GMP要件を満たす。この種の培養培地の例には、それだけに限らないが、X-Vivo(商標)15(Lonza、参照番号BE02-060)、ImmunoCult(商標)-XF T細胞増殖培地(StemCell Technologies、参照番号10981)またはTexMACS GMP培地(Miltenyi Biotic、参照番号170-076-307)がある。好ましくは、本発明の方法で使用されるGMP培養培地は、抗生物質をさらに含む。培養培地中に
通常存在する抗生物質は、例えば、前の段落で引用したものである。より好ましくは、この方法全体で使用されるGMP培養培地は、Miltenyi Biotic社製のTexMACS培地であり、さらにより好ましくは抗生物質を含む。適切な抗生物質および抗生物質濃度の例は本明細書で上に提供される。
【0070】
「TexMACS培養培地」は、塩、アミノ酸、脂肪酸、ビタミン、医薬品グレードのヒトアルブミン(すなわち、GMPまたはヒトでの使用に適したもの)および緩衝液を含む。この培地のpHは、好ましくは6.9~7.3の範囲内に維持され、フェノールレッドを含んでも含まなくてもよい。
【0071】
いったん工程(a)が完了したら、組織脱凝集から得られた生成物を、好ましくは孔径30~40μmのフィルター(より好ましくは、フィルターはナイロンメッシュでできている)を使用して濾過して、組織残遺物および凝集物を取り除き、均一な単細胞懸濁液を得る。その後、得られた生成物を(場合により)遠心分離することができる。最後に、胸腺細胞を含む細胞沈殿物を、好ましくは抗生物質を、例えば2%~20%、好ましくは2%~10%、より好ましくは5%の抗生物質の濃度で含有するGMP培養培地に再懸濁する。得られた胸腺細胞の懸濁液を用いて、当技術分野で既知の方法を使用して細胞品質および生存率制御を場合により実施することができ、典型的には、生存率が80%超で、汚染の徴候がない場合、Treg細胞を精製することからなる本発明の方法の次の工程に進む。そうでない場合、試料を廃棄するだろう。
【0072】
本発明の方法の工程(c)では、(Treg細胞を含む)CD25+細胞を、前の工程で得られた生成物から単離または精製する。この工程(c)の精製は、例えば、それだけに限らないが、その表面で特異的マーカーを発現している細胞のポジティブ選択または単離を可能にする、当技術分野で既知の任意の免疫細胞化学技術を使用して行うことができる。CD25+細胞集団は、例えば、フローサイトメトリーによって、または磁気細胞分離器を使用して単離することができる。規制当局によってまだ承認されていないが、ヒト治療目的で細胞を産生するのに適した単回使用の閉回路セルソーターが開発されている(https://www.miltenyibiotec.com/ES-en/products/macs-flow-cytometry/cell-sorter.html)。好ましい実施形態では、場合により本明細書に記載される特徴または実施形態の1つまたは複数と組み合わせて、工程(c)が、CD25に対する抗体にコンジュゲートされた磁気ビーズの使用を含む。
【0073】
この精製工程は、好ましくはクリーンルーム環境で、ヒトでの細胞療法での使用について認可された細胞精製システムによって、好ましくはCliniMACs(登録商標)機器を使用して、より好ましくは抗生物質またはTexMACS培地などを補充した0.9%の塩化ナトリウムなどの緩衝液、および超常磁性粒子とコンジュゲートした特異的マウスIgG1アイソタイプ抗ヒトCD25モノクローナル抗体、より好ましくはCliniMACs CD25試薬の存在下で行う。すなわち、前の工程で得られた生成物を、精製システム、好ましくはCliniMACs(登録商標)システムに導入する。「CliniMACs(登録商標)」または「CliniMACs plus」機器は、Miltenyi Biotic社から市販されており、自動細胞分離プラットフォームであり、機能的に閉鎖された無菌系である。「CliniMACS(登録商標)CD25試薬」は、超常磁性鉄デキストラン粒子とコンジュゲートした特異的マウスIgG1アイソタイプ抗ヒトCD25モノクローナル抗体からなり、好ましくは非発熱性滅菌溶液に含有される。前記試薬は、Miltenyi Biotic社から市販されており、CliniMACS(登録商標)機器またはシステムと組み合わせて使用すると、不均質なヒト細胞集団からCD25+細胞を濃縮することを可能にする。いったんCD25+細胞(Treg細胞を含む)を本発明の方法で精製したら、例えば、それだけに限らないが、フローサイトメ
トリーを使用して、品質管理を場合により実施して、得られるTreg細胞の生存率、数および純度を検証することができる。
【0074】
「ヒトでの細胞療法での使用について認可された細胞を精製するためのシステム」は、異なる細胞型を含有する異種細胞懸濁液から特定の細胞集団を単離および精製することができる任意の機器である。これらの機器は、分子またはその表面上で発現する特異的細胞マーカーによる、目的の細胞の単離および精製に基づかなければならず、これらの機器が、いったん精製した細胞の生存率および機能的能力を保存することが必須である。さらに、これらの機器は、ヒトでの治療的使用についてGMPに認可されていなければならない。ヒトでの細胞療法での使用について認可されたこれらの細胞精製システムの例には、それだけに限らないが、CliniMACs plus(Miltenyi Biotec)、CliniMACs Prodigy(Miltenyi Biotec)、RoboSep(STEMCELL Technologies)、MACSQuant Tyto(Miltenyi Biotec)またはMoFlo Astrios Sorter(Beckman Coulter)、好ましくはCliniMACs plus(Miltenyi Biotec)がある。
【0075】
工程(c)の終わりに、得られた細胞集団におけるCD25+細胞の細胞生存率および純度を典型的に分析する。好ましくは、細胞生存率が、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、90%、95%、97%、または少なくとも99%である。また、CD25+細胞の純度が、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、または少なくとも99%である。好ましい実施形態では、細胞生存率が少なくとも80%であり、CD25+細胞の純度が少なくとも70%である。
【0076】
本発明の方法の工程(d)では、前の工程で精製されたTreg細胞を、T細胞アクチベーターの存在下で培養する。工程(d)は、1~5日間、好ましくは少なくとも2または3日間、より好ましくは少なくとも3日間行うことができる。
【0077】
「T細胞アクチベーター」は、例えばCD3/CD28を結合することにより、T細胞活性化受容体との相互作用を通して、好ましくはヒトの、T細胞のインビトロ刺激および増殖を可能にする任意の製品である。T細胞の活性化は、例えば、フローサイトメトリーを使用することによって、CD25および/またはCD69の発現を決定することによって決定することができる。好ましくは、Treg細胞の活性化を、CD25および/またはFoxp3の発現を決定することによって評価することができる。好ましくは、前記T細胞アクチベーターは、少なくともCD3およびCD28アゴニストを含む。「アゴニスト」という用語は、本明細書では、受容体に結合し、受容体を活性化するリガンドを指すために使用される。T細胞アクチベーターの例は、それだけに限らないが、本明細書で定義されるコロイド状ポリマーナノマトリックスを含む、MACS GMP T Cell
TransActヒト(Miltenyi Biotec、Ref.170-076-156)、Dynabeads CD3/CD28 CTS(商標)(ThermoFisher,Ref.40203D)と呼ばれる抗CD3でコーティングされた粒子、ならびにMacDonaldら 2017(Wolters Kluwer、Canadian national transplant research program、S9頁;https://journals.lww.com/transplantjournal/Fulltext/2017/05003)によって使用される抗CD3/CD28および抗CD3/CD28/CD2抗体四量体などの抗体複合体である。
【0078】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、免疫グロブリンまたはその抗原結合断片を指し得る。特に指定しない限り、この用語には、それだけに限らないが、ポリクローナ
ル、モノクローナル、単一特異性、多重特異性、ヒト化、ヒト、キメラ、合成、組換え、ハイブリッド、変異、移植、およびインビトロ作製抗体が含まれる。一定の実施形態では、「抗体」という用語はまた、抗体ベースの融合タンパク質などの抗体誘導体、または水溶性ポリマー、例えばポリエチレングリコール(PEG)などの追加の非タンパク質性部分を含有するようにさらに修飾された抗体を指し得る。
【0079】
好ましくは、本発明で使用されるT細胞アクチベーターは、コロイド状ポリマーナノマトリックスを含むT Cell TransActヒト試薬である。前記T細胞アクチベーターは、ヒト化CD3およびCD28アゴニスト、より好ましくはT Cell TransActヒト試薬とコンジュゲートしたコロイド状ポリマーナノマトリックスである。培養のために、Treg細胞を、ヒト細胞を培養するために有用な任意の培養容器に添加することができる。「T Cell TransActヒト」試薬はMiltenyi
Biotec社から市販されており、ヒトT細胞の活性化および増殖に有用である。前記試薬は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)が補充され、ポロキサマー188および組換えヒト血清アルブミンを含有する、CD3およびCD28に対してヒト化されたアゴニストとコンジュゲートしたコロイド状ポリマーナノマトリックスであるナノマトリックスを含む。そのpHは、好ましくは7.3~7.9の範囲内に維持される。このナノマトリックスは、T細胞の生存率を維持しながら、T細胞の効率的な活性化を促進する。CD3/CD28活性化にポリマーナノマトリックスを使用すると、上清を単に交換することによって、または洗浄工程、例えば遠心分離によって、滅菌濾過および過剰な試薬の除去が可能になる。このT細胞TransActヒト試薬は、T細胞を活性化するように設計されているが、本発明では、用量が、Treg細胞の活性化をもたらすように適合されている。よって、好ましくは、本発明の方法のこの工程で使用されるT細胞アクチベーター(例えば、T細胞TransActヒト)の用量は、1.10~1:100に及ぶ。この培養工程では、培養培地(好ましくはGMP培養培地、より好ましくはTexMACS培地)も存在し、前記培地は、好ましくは抗生物質(例えば、5%の抗生物質)を含み、インターロイキン2(IL-2)またはTGFβ、好ましくはIL-2をさらに含む。
【0080】
細胞を、工程(d)で、ラパマイシンの存在下または非存在下で培養することができる。例えば、50ng/mL~200ng/mL、好ましくは約100ng/mLのラパマイシン濃度を使用することができる。好ましい実施形態では、細胞を、工程(d)で、ラパマイシンの非存在下で培養する。
【0081】
本発明の方法の工程(e)では、T細胞アクチベーターを、好ましくは前の工程の培養物を遠心分離することによって除去する。本発明の方法の工程(e)に従って、例えば、それだけに限らないが、遠心分離、カラム分離等によって、好ましくは遠心分離によって、T細胞アクチベーターを除去することができる。前記遠心分離は、より好ましくは、室温で10分間、1500rpmで行われる。
【0082】
この除去後、細胞を場合により少なくともさらに1~7日間、好ましくは少なくともさらに4日間培養下に維持し、抗生物質およびIL-2を含む培養培地を定期的に更新することができる。
【0083】
さらに1日間細胞を増殖すると、最高の純度を得ることができるが、Treg細胞の数は、これらを2、3または4日間増殖した後よりも少なくなる。
【0084】
細胞を、工程(f)で、ラパマイシンの存在下または非存在下で培養することができる。例えば、50ng/mL~200ng/mL、好ましくは約100ng/mLのラパマイシン濃度を使用することができる。好ましくは、細胞を、工程(f)で、ラパマイシンの非存在下で培養する。
【0085】
工程(d)および(f)では、IL-2を、50~2000IU/ml、好ましくは100~1000IU/ml、より好ましくは500~700IU/ml、例えば約500IU/mlまたは600IU/mlの濃度で使用することができる。
【0086】
好ましくは、本発明の方法の培養工程では、前記培養培地がGMP培養培地である。
【0087】
本発明の方法の工程(d)および/または(f)の培養後、細胞品質、無菌性および安全性管理を実施することができる。また、培養された細胞は、貯蔵および/または輸送のために異なる用量で分配することができる。
【0088】
前に説明されるように、本発明のプロトコルで入手することができる多数のthyTreg細胞により、将来の同種または自家投与のための用量を保存することが可能になる。よって、他の好ましい実施形態では、本発明の方法が、工程(f)の培養後または工程(e)の後に得られたthyTreg細胞の全部または一部の貯蔵、より好ましくは凍結保存を含む追加の工程(g)をさらに含む。さらにより好ましくは、この貯蔵は、等しいまたは異なる用量の無菌容器、好ましくはバイアル中で行われる。「凍結保存」は、好ましくは-80℃~-196℃で行うことができる。
【0089】
特定の実施形態では、本発明は、以下の工程:
a.GMP培養培地、好ましくはTexMACS培地の存在下で、組織分散装置、好ましくはgentleMACS Octo Dissociatorを使用して胸腺組織を機械的に脱凝集させる工程と、
b.工程(a)の後に得られた生成物を濾過(および好ましくはその後遠心分離)し、胸腺細胞を含む沈殿物をGMP培養培地、好ましくはTexMACS培地に再懸濁する工程と、
c.工程(b)の後に得られた生成物から、Treg細胞を、ヒトでの細胞療法での使用について認可された細胞精製システムによって、好ましくはCliniMACS plus機器を使用して、より好ましくは超常磁性粒子とコンジュゲートした特異的マウスIgG1アイソタイプ抗ヒトCD25モノクローナル抗体の存在下、さらにより好ましくはCliniMACs CD25試薬の存在下で精製する工程と、
d.少なくとも3日間、工程(c)の後に得られたTreg細胞を、T細胞アクチベーター、GMP培養培地、好ましくはTexMACS培地およびIL-2の存在下で培養し、T細胞アクチベーターは、より好ましくはヒト化CD3およびCD28アゴニストとコンジュゲートしたコロイド状ポリマーナノマトリックスであり、さらにより好ましくは、T細胞アクチベーターはT Cell TransActヒト試薬である、工程と、
e.工程(d)の培養培地、好ましくは工程(d)で使用されたナノマトリックスから、より好ましくは前記培養培地を遠心分離することによって、T細胞アクチベーターを除去する工程と、
f.場合により、得られたthyTreg細胞を培養培地中に少なくともさらに4日間維持する工程と
を含む、単離された胸腺組織から制御性T細胞(またはthyTreg細胞)を入手するためのインビトロ手順、プロトコルまたは方法に関する。
【0090】
本発明の別の局面は、本発明の方法を通して得られたまたは得られる制御性T細胞または制御性T細胞の集団(以下、「本発明の制御性T細胞」、「本発明のthyTreg細胞」または「本発明のthyTreg細胞集団」)に関する。特定の実施形態では、本発明の前記thyTreg細胞が、少なくともマーカーCD4、CD25およびFoxp3を発現する。すなわち、本発明のthyTreg細胞が、CD4+、CD25+およびFoxp3+である。別の実施形態では、本発明の方法によって得られるthyTreg細
胞集団が、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、または99%のCD4+CD25+Foxp3+細胞を含むことを特徴とする。
【0091】
本発明のTreg細胞またはTreg細胞集団はまた、マーカーCTLA-4およびCD39も発現し得る。いくつかの実施形態では、本発明の細胞集団中の細胞の少なくとも30%、40%、50%、60%、70%または少なくとも80%がCD39および/またはCTLA-4を発現する。
【0092】
本発明における「発現」は、タンパク質またはmRNAの発現、好ましくはタンパク質と理解される。
【0093】
本発明のthyTreg細胞は、前記のTreg細胞(CD4+、CD25+およびFoxp3+)に典型的な前記の細胞マーカーを発現する;しかしながら、これはまた、本発明の方法以外の方法を使用して単離、増殖、精製および/または活性化された他のTreg細胞とは異なる機能的および構造的特徴を有する。細胞遺伝子発現プロファイルが、その細胞機能の結果として、それらを培養し、それらをインビトロで刺激または活性化するために使用されるプロトコルに応じて異なることは、当技術分野で周知である。よって、本発明の方法は、遺伝子発現プロファイルおよび最終的に得られるthyTreg細胞の特性に影響を及ぼす特定の培養条件および試薬を使用する。
【0094】
本明細書で前に説明されるように、本発明のこれらの細胞は、i)大きな抑制能力(活性化T CD4+およびT CD8+細胞の増殖の70%超または75%さえ抑制する);ii)経時的に安定なFoxp3の発現;iii)高い生存;iv)IL-10産生細胞の大きな頻度;v)未分化の最適な表現型;vi)他の方法を使用して得られた他のTreg細胞の表現型を切り替えることができる、IL-1β、IL-6またはTNFαなどの炎症性サイトカインの存在下での安定なFoxp3の発現および保存されたIL-10産生、を有し得る。したがって、本発明の前記細胞は、先行技術の他の方法によって得られる他のTreg細胞とは明らかに異なる。
【0095】
好ましい実施形態では、本発明の方法によって得られる細胞集団が、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%または99%の生存率を有する。細胞生存率は、当技術分野で知られている任意の方法によって、例えば、散乱シグナルに基づいて死細胞を除外することによって、および/またはフローサイトメトリー用の固定可能もしくは固定不可能な生存率色素を使用することによって決定され得る。
【0096】
また、好ましい実施形態では、本発明の細胞集団が、活性化T CD4+およびT CD8+細胞の増殖の少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、70%、75%、または好ましくは80%以上の抑制能力を有する。抑制能力は、当技術分野で知られている任意の方法によって、例えば、実施例2に示されるTreg細胞集団の存在下または非存在下でのT細胞活性化を比較することによって決定することができる。
【0097】
本発明のthyTreg細胞はまた、当該分野で知られている任意の方法によって遺伝子改変され得る。例えば、遺伝子編集技術(CRISP/CAS9など)を使用してThyTreg細胞を改変して、免疫原性分子を排除して、「ユニバーサル」ThyTreg細胞を入手することができる。このようなユニバーサルThyTreg細胞は、同種使用に特に有用であるだろう。本発明はまた、CAR thyTreg細胞、すなわちそれらが抗原特異的となるように、キメラ抗原受容体を発現するように遺伝子改変されたthyTreg細胞の世代を開発する可能性を提供する。よって、本発明のthyTreg細胞
を用いて、移植された臓器の抗原または各患者の自己免疫過程を媒介する自己抗原に反応するエフェクター細胞を特異的かつ排他的に抑制する個別化療法を作成することができるだろう。
【0098】
よって、好ましい実施形態では、本発明のthyTreg細胞またはthyTreg細胞の集団が、キメラ抗原受容体をコードおよび発現する組換え核酸配列を含む。以下、この細胞を「本発明のCAR thyTreg」と呼ぶ。前記核酸配列は、既知の分子生物学技術によって組換え方法で細胞に導入することができる。
【0099】
「キメラ抗原受容体」または「CAR」は、遺伝子操作によって本発明のthyTreg細胞に人工的に導入され、発現されるT細胞膜受容体である。前記キメラ受容体は、別の標的細胞、好ましくは抑制されるエフェクターT細胞に存在する所望の抗原に結合される。これらの受容体は、異なる分子の一部で構成されているため、キメラと呼ばれる。キメラ抗原受容体の発現は、例えば、それだけに限らないが、ウイルスベクターの使用を通して、目的の受容体をコードする核酸配列を本発明のthyTreg細胞に移植することによって達成される。
【0100】
キメラ受容体によって認識される「抗原またはエピトープ」は、それだけに限らないが、タンパク質もしくはタンパク質断片、炭水化物または糖脂質であり得る。より好ましくは、この抗原またはエピトープは、免疫系のエフェクター細胞に存在する(すなわち、発現され)、さらにより好ましくは、免疫系のエフェクター細胞によって表面上で発現される分子であり、なおさらに好ましくは、免疫系の前記エフェクター細胞は特異的である、すなわち、宿主生物に移植された臓器に存在するエピトープ、または宿主生物自体の臓器もしくは組織に存在する自己抗原を攻撃する。よって、好ましくは、このように作製された本発明のCAR thyTreg細胞は、移植された臓器に存在するエピトープまたは自己抗原を攻撃している免疫系のエフェクター細胞を認識および抑制する能力を獲得する。
【0101】
「免疫系のエフェクター細胞」は、例えば、それだけに限らないが、T CD4もしくはCD8リンパ球、NK細胞、B細胞、マクロファージ、食細胞、好中球、好塩基球および好酸球、または樹状細胞であると理解される。好ましくは、本発明が関連する免疫系のエフェクター細胞は、T CD4またはT CD8リンパ球である。
【0102】
本発明のthyTreg細胞(それに由来する遺伝子改変細胞を含む)、本発明の細胞集団または本発明のCAR thyTreg細胞を、免疫寛容誘導のためなどの医薬としての使用するために個体に直接投与することができる、または細胞療法医薬品として使用するための医薬組成物に添加することができる。
【0103】
したがって、本発明の別の局面は、好ましくは治療上有効数の本発明のthyTreg細胞、CAR thyTreg細胞またはthyTreg細胞の集団を含む医薬組成物(以下、「本発明の組成物」または「本発明の医薬組成物」)に関する。
【0104】
「治療上有効数」という表現は、所望の効果をもたらす本発明の細胞の数を指す。治療上有効数を入手するための用量は、例えば、本発明の組成物が投与される予定である個体の年齢、体重、性別、病的状態または耐性などのさまざまな因子に依存する。好ましくは、本発明の組成物に含まれる本発明の細胞の治療上有効量は、個体の体重1kg当たり100万~2000万個細胞(1~20×106)である。
【0105】
別の好ましい実施形態では、本発明のこの医薬組成物が、賦形剤および/または薬学的に許容される担体をさらに含む。前記医薬組成物は、別の活性成分および/またはアジュ
バントをさらに含むことができる。
【0106】
「賦形剤」という用語は、本発明の組成物の要素の吸収を助け、前記要素を安定化し、例えば、一貫性を与えるという意味で組成物を活性化またはその調製を助ける物質を指す。したがって、賦形剤は、この段落で言及されない他の種類の賦形剤を除外することなく、組成物に含まれる細胞の生存率および/またはその抑制特性等を維持する機能、あるいは例えば、空気および/または湿度から組成物を隔離するなどの組成物の保護機能を有し得るだろ。
【0107】
「薬学的に許容される担体」は、賦形剤と同様に、その中に含まれる本発明の成分のいずれかを一定の体積または重量まで希釈するために組成物に使用される物質である。薬理学的に許容される担体は、不活性物質である、または本発明の要素のいずれかと同様の作用を有する。担体の機能は、他の要素の取り込みを促進し、より良い投薬量および投与を可能にする、または組成物に一貫性および形態を与えることである。提示形態が液体である場合、薬理学的に許容される担体は希釈剤である。本発明で使用することができる薬理学的に許容される担体は、石油、動物、植物または合成起源のものを含む、水、溶媒、油または界面活性剤などの液体であり得る。
【0108】
「アジュバント」という用語は、それ自体は抗原性効果を有さないが、本発明の組成物の効果を刺激することができる薬剤を指す。例えば、それだけに限らないが、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、トール様受容体アゴニスト、サイトカイン、スクアレン、不完全フロイントアジュバントまたは完全フロイントアジュバントなどの、先行技術の多くの既知のアジュバントが存在する。
【0109】
本明細書で使用される場合、「有効成分」、「活性物質」、「医薬活性物質」、「活性成分」または「医薬活性成分」という用語は、疾患もしくは病的状態の治癒、緩和、処置または予防において薬理学的活性を提供する、またはヒトもしくは他の動物の体の構造、代謝もしくは機能に影響を及ぼす任意の成分を意味する。本発明が関連する活性成分は、例えば、それだけに限らないが、1つもしくは複数の免疫抑制薬または1つもしくは複数の抗炎症剤であり得る。活性成分は、自己免疫疾患、移植拒絶反応または移植片対宿主病を処置するために一般的に使用される治療薬、すなわち、それだけに限らないが、カルシニューリン阻害剤(シクロスポリン、タクロリムス)、mTOR阻害剤(シロリムス、エベロリムス)、抗増殖剤(アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸)、モノクローナル抗体(ダクリズマブ、バシリキシマブ)、コルチコステロイド、抗胸腺細胞および抗リンパ球グロブリン、またはこれらの任意の組み合わせなどの「免疫抑制薬」であり得るが、但し、これらの活性成分は医薬組成物に含まれる本発明の細胞の生存および機能性と適合する。
【0110】
本発明の医薬組成物はまた、担体と共に徐放性製剤の形態で提示することもできる。「徐放性」という用語は、一定期間中、組成物に含まれる細胞の徐々の放出を提供し、好ましくは、必ずしもそうではないが、前記期間を通じて比較的一定の放出レベルを提供する、媒体化(vehiculisation)システムを指す。徐放性システムの例示的な例としては、それだけに限らないが、リポソーム、混合リポソーム、オレオソーム、ニオソーム、エトソーム、ミリカプセル、マイクロカプセル、ナノカプセル、スポンジ、シクロデキストリン、小胞、ミセル、混合界面活性剤ミセル、混合リン脂質界面活性剤ミセル、ミリスフェア、ミクロスフェア、ナノスフェア、リポスフェア、マイクロエマルション、ナノエマルション、ミニ粒子、ミリ粒子、マイクロ粒子、ナノ粒子、脂質固体粒子およびナノ構造脂質媒体が挙げられる。
【0111】
本発明の医薬組成物は、それだけに限らないが、非経口、腹腔内、静脈内、皮内、硬膜
外、脊髄内、実質内、関節内、関節滑液嚢内、髄腔内、病巣内、動脈内、心臓内、筋肉内、鼻腔内、頭蓋内、皮下、眼窩内、嚢内、経皮パッチ、経皮、鼻腔スプレー、外科用インプラント、内部外科用塗料、注入ポンプ、カテーテル経由または患者のリンパ節への直接注射を含むさまざまな形態で、哺乳類を含む動物に、好ましくはヒトに投与することができる。好ましくは、本発明の医薬組成物が、その静脈内投与のために製剤化される。
【0112】
本発明の医薬組成物は、免疫寛容誘導のための適切な濃度でそこに含まれる細胞の放出を可能にする医療機器による施用に適合され得る。これらの機器は、患部で作用して、処置が分散するのを防ぐように、組成物の局所投与に適切であり得る。これらの機器は、例えば、それだけに限らないが、本発明の医薬組成物をその内部に有する、または本発明の医薬組成物でコーティングすることができる。これらの機器には、例えば、循環補助、血管内処置および心臓血管手術機器が含まれ、これらの中には、例えば、それだけに限らないが、ステント、弁、リング、縫合糸、パッチまたは血管移植片が含まれる。
【0113】
本発明の別の局面は、前に記載される本発明の方法を行うために必要な全ての試薬、培地および手段を含むキット(以下、「本発明の第1のキット」)に関する。好ましくは、前記キットは以下を含む:(i)GMP培養培地、好ましくはTexMACS培地、より好ましくは、前記の抗生物質も含む;(ii)本発明のthyTreg細胞による表面マーカーの発現、例えばCD4、CD25、Foxp3、CTLA-4および/またはCD39分子に対する1つまたは複数の特異的抗体の反応、好ましくはキットは抗CD25抗体、より好ましくは超常磁性粒子とコンジュゲートした特異的マウスIgG1アイソタイプ抗ヒトCD25モノクローナル抗体を含み、さらにより好ましくはキットはCliniMACS CD25試薬を含む;(iii)T細胞アクチベーター、好ましくはヒト化CD3およびCD28アゴニストを含むコロイド状ポリマーナノマトリックス、より好ましくはT細胞TransActヒト試薬;ならびに場合により(iv)IL-2。別の好ましい実施形態では、前記キットが、好ましくは30~40μmに含まれる孔径を有するフィルターも含み、より好ましくは、前記フィルターがナイロンメッシュでできている。別の好ましい実施形態では、前記キットが、生理食塩水または緩衝液、好ましくは塩化ナトリウム、培養細胞または組織の汚染を予防するための抗生物質、抗真菌剤または任意の他の薬剤、胸腺組織および/または細胞懸濁液を含有する1つまたは複数の滅菌容器、得られたthyTreg細胞の貯蔵および/または凍結保存用の1つまたは複数のバイアル、ならびに/あるいはTreg細胞のインビトロ培養用の1つまたは複数の容器をさらに含む。前記キットは、本発明の方法を行うための説明書も含み得る。
【0114】
本発明の別の局面は、本発明の方法を行うための、本発明のこの第1のキットの使用に関する。
【0115】
本発明の別の局面は、本発明のthyTreg細胞、CAR thyTreg細胞もしくはthyTreg細胞の集団、または本発明の医薬組成物と、個体に細胞を投与、好ましくは注射するための適切な医療機器とを備えるキット(以下、「本発明の第2キット」)に関する。
【0116】
「個体に細胞を注射するための適切な医療機器」は、血流または組織に細胞を注射するために有用であり得る任意の機器または器具である。この種の機器または器具の例は、それだけに限らないが、シリンジ、バイアル、カテーテル、針、カニューレ、または一般に、先行技術で知られているものを含む、細胞療法で使用することができる任意の器具である。
【0117】
本発明の細胞または本発明の医薬組成物は、本発明の第2のキットにおいて、例えば、同じまたは異なる用量のバイアルに封入することができる。また、前記要素は、前記キッ
ト内の任意の種類の媒体にマーキングおよび/または固定化することができる。
【0118】
さらに、本発明の第2のキットは、本発明の細胞または本発明の組成物のインビトロまたはエキソビボでの維持に有用な、培地および/または試薬などの他の要素を含み得る。前記キットは、抗生物質、静菌剤、バクテロイデス、抗真菌剤等などの、中に含まれる細胞の汚染を予防するのに役立つ要素をさらに含んでもよい。
【0119】
一般に、本発明の第2のキットは、本発明により、個体で免疫寛容誘導を実施するために必要な全ての試薬を含む。さらに、この第2のキットは、その起動および最適化に必要な全ての培地および容器を含むことができる。好ましくは、このキットは、本発明の細胞または医薬組成物を個体に注射するための説明書をさらに含む。
【0120】
本発明の別の局面は、薬物を作製するための、本発明のthyTreg細胞、CAR thyTreg細胞もしくはthyTreg細胞の集団または本発明の医薬組成物の使用に関する。あるいは、本発明のこの局面は、医薬として使用するための、本発明のthyTreg細胞、CAR thyTreg細胞もしくはthyTreg細胞の集団、または本発明の医薬組成物に関する。
【0121】
「医薬」という用語は、ヒトおよび動物の疾患または病的状態を予防、緩和、処置または治癒するために使用される任意の物質を指す。本発明が関連する医薬は、ヒトまたは獣医用であり得る。「ヒト用医薬」とは、ヒトの疾患もしくは病的状態を処置もしくは予防するための特性を有するものとして提示される、またはヒトに使用することができる、または生理学的機能、好ましくは免疫系の機能を回復、矯正もしくは修正する、薬理学的、免疫もしくは代謝作用を及ぼす目的でヒトに投与することができる任意の物質または物質の組み合わせである。「獣医用医薬」とは、動物の疾患もしくは病的状態に関して治療的もしくは予防的特性を有するものとして提示される、またはその生理学的機能、好ましくは免疫系の機能を回復、矯正もしくは修正する、薬理学的、免疫もしくは代謝作用を及ぼす目的で動物に投与することができる任意の物質または物質の組み合わせである。
【0122】
「処置」という用語は、以下を含む、患者(好ましくは哺乳類、より好ましくはヒト)の目的の疾患または病的状態の結果として引き起こされる効果と闘うことを指す:
(i)疾患または病的状態を阻害すること、すなわちその発生を停止すること;
(ii)疾患または病的状態を緩和すること、すなわち、疾患または病的状態またはその症状の退行を引き起こすこと;
(iii)疾患または病的状態を安定させること。
【0123】
「予防」という用語は、疾患または病的状態の出現を予防すること、すなわち、特に患者(好ましくは哺乳類、より好ましくはヒト)が病的状態に対する素因を有するが、まだそのように診断されていない場合に、疾患または病的状態が患者で起こるのを予防することからなる。
【0124】
本発明の医薬は、限定として機能しないが、全身レベルでの移植によって、または罹患組織への局所注射によって、投与することができるだろう。
【0125】
本発明のこの局面の好ましい実施形態では、医薬が細胞療法医薬品であり、より好ましくは細胞免疫療法医薬品である。
【0126】
「細胞療法(cell therapy)」または「細胞療法(cytotherapy)」は、本発明の文脈において、本発明の生きているthyTreg細胞である細胞物質または細胞が個体に投与される療法であると理解される。
【0127】
好ましくは、本発明が関連する医薬は、本発明のthyTreg細胞、CAR thyTreg細胞またはthyTreg細胞の集団を個体に養子移植するためのものであり、前記細胞は、前記個体に対して自家または同種起源であり得るが、より好ましくは自家性である。
【0128】
「自家」細胞は、本発明の方法でのそれらの処置または修飾の後にそれらがその後投与されることになっている同じ個体から得られたものであると理解される。したがって、「自家」という用語は、供与者および受容者と同じ個人を意味する。
【0129】
好ましくは、本発明では、本発明の方法で出発物質として使用される胸腺組織が、本発明の薬物または医薬組成物を投与する、細胞免疫療法から後で利益を受ける同じ個体から摘出されている。
【0130】
反対に、「同種」は、受容者個体以外の個体から得られた、一般に細胞、組織、臓器または生物学的試料であると理解される。
【0131】
別の好ましい実施形態では、本発明の医薬が、より好ましくは移植もしくは移植片を受けた、または自己免疫状態もしくは炎症過程、もしくはアレルギーもしくは移植片対宿主病を有する個体で、個体の免疫寛容を誘導または回復することを意図している。一般的に、本発明の医薬は、免疫系の活性を個体で低下または抑制させなければならないあらゆる状況を処置および/または予防することを意図している。
【0132】
別の好ましい実施形態では、本発明の医薬が、免疫系の過剰な応答、望ましくないまたは不十分な応答に関連する病的状態を処置および/または予防することを意図している。より好ましくは、病的状態が、移植された個体の自己免疫疾患、炎症過程、アレルギー、移植片対宿主病および/または免疫拒絶反応からなる群より選択される。あるいは、本発明のこの局面は、移植された個体の自己免疫疾患、炎症過程、アレルギー、移植片対宿主病および/または免疫拒絶反応からなる群より選択される病的状態の処置および/または予防におけるその使用のための、本発明のthyTreg細胞、CAR thyTreg細胞、thyTreg細胞の集団、医薬組成物に関する。特定の実施形態では、病的状態が自己免疫疾患である。
【0133】
本発明の医薬で処置および/または予防することができる「自己免疫疾患」の例には、それだけに限らないが、I型糖尿病、関節炎(例えば、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎または若年性特発性関節炎など)、多発性硬化症、自己免疫起源の腸炎症疾患(クローン病または潰瘍性大腸炎など)、血管炎(ウェゲナー病またはアテローム性動脈硬化症など)、喘息、胆管の炎症性自己免疫疾患(原発性胆汁性肝硬変または原発性硬化性胆管炎など)、自己免疫性甲状腺炎(橋本病)、甲状腺機能亢進症(グレーブス病)、自己免疫性副腎機能不全(アジソン病)、自己免疫性卵巣炎、自己免疫性精巣炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性溶血性貧血、発作性寒冷ヘモグロビン尿症、自己免疫性血小板減少症、自己免疫性好中球減少症、悪性貧血、赤芽球癆、自己免疫性凝固障害、重症筋無力症、自己免疫性多発性神経炎、天疱瘡および他の水疱形成障害、リウマチ性心疾患、グッドパスチャー症候群、心切開術後症候群、エリテマトーデス、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、強皮症、慢性閉塞性肺疾患、慢性炎症性疾患、セリアック病、チャーグ・ストラウス症候群、心血管疾患、皮膚筋炎、敗血症性ショック、鼻炎、乾癬、がん関連悪液質、湿疹、白斑、ライター症候群、川崎病、特発性血小板減少性紫斑病、ギランバレー症候群、抗リン脂質抗体症候群(APS)またはナルコレプシーがある。
【0134】
本発明の文脈において、「アレルギー」という用語は、それだけに限らないが、例えば
牛乳および卵タンパク質に対する食物アレルギー、花粉、ダニ、カビおよび真菌の胞子、動物の毛、虫刺されまたは医薬を含む。
【0135】
さらに、本発明が関連する「移植された(transplantedまたはgrafted)個体」には、臨床的移植患者と、臓器または組織の同種もしくは異種移植(allo-もしくはxenograft)または同種もしくは異種移植(allo-もしくはxenotransplant)を受ける実験で使用される動物モデルの両方が含まれる。
【0136】
本発明が関連する「移植」または「移植片」は、好ましくは、同種または異種であり、移植された細胞および完全な臓器、臓器または組織の一部の両方に関する。
【0137】
「移植片対宿主病」(GvHD)は、骨髄または造血幹細胞の移植後に生じ得る病的免疫状態である。
【0138】
本発明のこの局面の別の好ましい実施形態では、病的状態を有する個体、より好ましくは移植を受けた個体、または自己免疫疾患もしくは状態を有する個体がヒトである。さらにより好ましくは、ヒトが、0~16歳、好ましくは0~10歳、より好ましくは生後0~24ヶ月の年齢の小児または小児患者である。本発明の自家thyTreg細胞を処置に使用する場合、ヒトは好ましくは小児患者である。同種thyTreg細胞を処置に使用する場合、ヒトは、好ましくは成人を含むあらゆる年齢の患者である。
【0139】
別の好ましい実施形態では、本発明の医薬が、移植された個体の免疫拒絶反応を処置および/または予防することを意図している。より好ましくは、移植が固形臓器移植である。
【0140】
「固形臓器移植」は、臓器の移植であって、骨髄または単離細胞などの組織の移植ではないと理解される。固形臓器の例は、それだけに限らないが、心臓、腎臓、肝臓、前立腺、脾臓、肺、膵臓などの腺、皮膚、角膜、骨、消化管等である。より好ましくは、本発明が関連する固形臓器は心臓である。
【0141】
特定の実施形態では、本発明の医薬が、小児心臓(好ましくは心臓)移植患者の免疫拒絶反応を処置および/または予防するために使用され、前記医薬が、自家起源の本発明のthyTreg細胞または本発明のCAR thyTreg細胞を含む。
【0142】
本発明の医薬は、免疫寛容誘導のため、あるいは移植された個体の自己免疫疾患、炎症過程、アレルギー、移植片対宿主病および/または免疫拒絶反応からなる群より選択される病的状態を処置および/または予防するために、単独でと、他の薬物または組成物と組み合わせての両方で使用することができる。本発明の医薬と組み合わせた療法として投与されるこれらの他の医薬または組成物は、同じ組成物の一部を形成することができる、または異なる組成物によって投与することができ、本発明の医薬と同時にもしくは異なる時間に投与することができる。
【0143】
したがって、別の好ましい実施形態では、本発明の医薬が、少なくとも1つの免疫抑制薬および/または少なくとも1つの抗炎症薬、より好ましくは少なくとも1つの免疫抑制薬と組み合わせて投与される。前記投与は、同時であっても順次であってもよい。好ましくは、投与が順次であり、より好ましくは、免疫抑制薬を、最初に経時的に分配された1回または複数用量で投与し、次に、好ましくは免疫抑制薬による処置を開始してから7日後に、本発明の医薬を投与しながら、免疫抑制薬の投与を徐々に減らすまたは完全に排除する。したがって、より好ましい実施形態では、本発明の医薬が、いったん免疫抑制薬による前の療法が完了してから投与される。本発明の医薬を投与する時に、免疫抑制薬の投
与を完全に排除して、本発明の医薬による排他的処置に移行する、または前記免疫抑制薬の用量を、完全に排除するまで徐々に減少させることができる。免疫抑制薬は、好ましくは、本明細書において前に記載されたものである。
【0144】
本発明の別の局面は、個体、より好ましくは移植された個体、または自己免疫状態を有する個体、または炎症過程もしくはアレルギーもしくは移植片対宿主病における免疫寛容を誘導または回復する方法であって、より好ましくは治療上有効数の、本発明のthyTreg細胞、本発明のCAR thyTreg細胞、本発明のthyTreg細胞の集団または本発明の医薬組成物を前記固体に投与する工程を含む方法に関する。
【0145】
本発明の別の局面は、自己免疫疾患、炎症過程、アレルギー、移植片対宿主病および/または移植に対する免疫拒絶反応からなる群より選択される病的状態を処置および/または予防する方法であって、本発明のthyTreg細胞、本発明のCAR thyTreg細胞、本発明のthyTreg細胞の集団または本発明の医薬組成物を、前記病的状態を患っている個体に投与する工程を含む方法に関する。
【0146】
明細書および特許請求の範囲を通して、「含む(comprises)」という単語およびその変形は、他の技術的特徴、添加剤、成分または工程を除外することを意図していない。当業者にとって、本発明の他の目的、利点および特徴は、明細書から部分的に、および本発明の実施から部分的に推測されるものとする。以下の実施例および図面は、例として提供され、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例0147】
本発明は、免疫寛容を誘導することによる細胞免疫療法での後の治療的使用に有用なthyTreg細胞を入手および精製することにおける本発明の方法の有効性を証明する、本発明者らによって実施された試験によって以下に説明される。
【0148】
実施例1.ヒト胸腺組織からthyTreg細胞を入手および精製するためのプロトコル
本明細書に記載されるプロトコルは、心臓手術中に小児患者から摘出された胸腺組織からのTreg細胞(thyTreg細胞)を精製するために、IISGM Immune-Regulation Laboratoryで開発された。プロトコルにより、非常に高純度で最適な表現型を有する大量のthyTreg細胞を入手することができる。プロトコルはGMPにも適合性であり、ヒトでの免疫療法として細胞を後で使用するための要件を満たす。
【0149】
プロトコルの工程は以下の通りである:
【0150】
1.胸腺組織の摘出および輸送.
【0151】
2.組織の脱凝集および胸腺細胞の入手.
【0152】
3.Treg細胞の精製.
【0153】
4.thyTreg細胞の培養および活性化.
【0154】
1.1.胸腺組織の摘出および輸送
胸腺組織は通常、小児心臓移植および他の先天性心疾患の手術中に心臓にアクセスするために摘出される。心臓を完全に覆っている幼児の胸腺のサイズが大きいことを考えると、外科医はそれを摘出して術野を解放せざるを得ず、したがって、通常は廃棄されるこの
組織を、小児心臓移植患者におけるthyTregの供給源として、または他の患者および病態におけるthyTreg細胞による免疫療法の同種使用のために使用することができる。
【0155】
手術室で摘出した胸腺を、0.9%塩化ナトリウムの生理食塩水50mlを含有し、抗生物質および抗真菌剤(Sigma、カタログ番号A5955)が補充された滅菌容器に収集した。密閉され、プラスチック製のバイオセーフ容器内で保護された容器を、その処理についてGMPに認定されたCell Production Unitに輸送した。
【0156】
1.2.組織の脱凝集および胸腺細胞の入手
必要な生物学的安全性プロトコルに従って、細胞のGMP産生に関する具体的な要件を満たして、胸腺組織を容器から取り出し、滅菌培養プレートに移して組織を2~3グラムの小さな部分に分割した。全ての方法は、細胞産生ユニットの「クリーンルーム」内で専門の担当者によって行われ、細胞をヒトでの療法として使用するための全ての要件を満たしていた。
【0157】
組織を機械的に脱凝集させるために、胸腺組織の断片を、組織を脱凝集させるためのブレード(gentleMACS C tubes、Miltenyi Biotic Ref.130-096-334)を含有し、GMP TexMACS培養培地および5%の抗生物質も含有している特定の使い捨て容器に導入した。gentleMACS Octo Dissociator(Miltenyi Biotec)を使用して胸腺組織を脱凝集させた。脱凝集が完了したら、管を遠心分離し、上清を廃棄し、胸腺細胞を含有する細胞沈殿物を、5%の抗生物質を含有する50mlのTex MACS培地に再懸濁し、孔径40μmのフィルターを使用して濾過して、凝集物および組織残遺物を除去した。得られた胸腺細胞懸濁液について、品質および生存率管理を実施した。生存率が80%超で、汚染の徴候がない場合、thyTreg細胞は精製されている。そうでない場合、試料を廃棄するだろう。
【0158】
開発されたプロトコルの革新的な要素は、それが酵素消化を含まず、使用されるヒトでの療法としての細胞のその後の使用に適合しないあらゆる種類の試薬でも、動物血清でも、方法でもないことである。
【0159】
1.3.thyTreg細胞の精製
Treg細胞を、ヒトでの細胞療法で使用するための対応する法律によって承認された、処理装置および磁気細胞分離器を(MACS)を使用してクリーンルーム環境で精製した。この場合、CliniMACS plus機器(Miltenyi Biotec)を使用することにし、そのために、閉回路(CliniMACSチュービングセット、Miltenyi Biotec)およびCliniMACS CD25試薬(Miltenyi Biotec)を使用した。前の工程で単離された胸腺細胞を全て、製造業者の指示に従って処理し、MACSシステムに導入して、Tregを精製した。いったん細胞を精製したら、フローサイトメトリーを使用して品質管理を実施して、thyTreg細胞の生存率、数および純度を検証した。生存率が少なくとも80%で、CD25+細胞の純度が少なくとも70%であれば、精製した細胞を活性化および培養する。そうでない場合、試料を廃棄するだろう。
【0160】
1.4.thyTreg細胞の培養および活性化
精製したCD25+細胞を、TexMACS培地ならびに5%の抗生物質、600U/mlのGMPインターロイキン2(IL-2)およびコロイド状ポリマーナノマトリックス(T Cell TransActヒト、Miltenyi Biotec、カタログ番号130-111-160)を含有する大きな培養容器(フラスコ)に分配して、th
yTreg細胞の含有および活性化を可能する。使用したT細胞TransActヒトの用量は本発明で最適化し、1:10~1:100に及んだ。
【0161】
3日間の培養後、遠心分離によってナノマトリックスを除去し、thyTreg細胞をさらに4日間培養下で維持し、抗生物質およびIL-2を含む培養培地を定期的に更新した。結果は、組織を脱凝集させた後の胸腺細胞全体におけるCD25+Foxp3+Treg細胞の割合がこの実施例では9,10%であり(
図1A)、本発明のプロトコルを適用した後、細胞生存率96%(
図1B)、およびCD25+Foxp3+細胞のthyTreg純度95%超(
図1C)で最終生成物が得られたことを示している(
図1)。CD25+Foxp3+細胞の頻度を、フローサイトメトリー(Gallios、Beckman coulter)によって測定した。Anti-Human Foxp3 Kit(eBioscience)を使用して、Foxp3の細胞内染色のために細胞膜を透過処理した。次いで、蛍光色素と結合したCD25(Beckton Dickinson)およびFoxp3(eBiosciences)抗体で細胞を染色した。染色手順における固定可能な生存率色素を含めて生存率を計算した。この実施例では、胸腺全体26.17グラムを処理して、上記の純度および生存率を有する、13.7 x 10
9個(130億個超)のthyTregを含有する最終生成物を得た。
【0162】
文献に存在する、または細胞の培養/発現に使用されるほとんど全てのプロトコルは、ヒトでの細胞の治療的使用に適合しないウシ血清を培養培地に補充する。また、Tregの培養に抗CD3および抗CD28でコーティングされた粒子(すなわち、Dynabead(商標))などの試薬を使用して、細胞を活性化する、またはラパマイシンを使用して製品のTreg純度を高めることも一般的である。これらの試薬の使用は、得られた細胞の治療的使用を妨げる、または細胞を患者に移植前に前記の粒子を完全に除去するための追加の方法を必要とする。逆に、本明細書に記載されるプロトコルは、ヒトでの細胞の治療的使用に適合しなくするいかなる種類の血清も、薬物も、試薬も使用しない。培養培地とIL-2は共にGMPであり、臨床的治療に使用するための細胞の産生で許される。さらに、このプロトコルを通して、この実施例でthyTreg細胞の活性化のためにthyTreg細胞で使用されるコロイド状ポリマーナノマトリックスが、単純な遠心分離によって完全に除去されるので、細胞の品質および収量に影響を及ぼさず、その後の細胞療法での使用を可能にする。
【0163】
1.5.最終的なthyTreg生成物の入手
7日間の培養が経過した後、関連する品質、無菌性および安全管理を実施すると(マイクロプラズマの存在および遺伝的安定性)、結果は良好であり、それにより、得られた生成物がヒトでの治療的使用についての全ての要件を満たしていることを確認した。次に、患者での細胞療法に必要なthyTreg細胞の用量を、個体の体重、および各場合で決定された1kg当たりの細胞数の用量を考慮して投与した。残りの細胞は、将来患者に繰り返し投与するため、または他の患者もしくは疾患のために凍結保存した。
【0164】
示唆的に、本発明のプロトコルは、純度95%超、生存率90%超、および非常に高い抑制能力を有する130億個超のthyTregを入手することを可能にした。このような数の細胞は、1歳未満の患者に対して1000回超の用量、およびより年長の小児または成人において使用される場合、数百回の用量の細胞療法を調製することを可能にするだろう。thyTreg細胞の入手でのこれらの収量は、前代未聞である。今日まで、末梢血からTregを精製するためのプロトコルでは、入手する細胞が2000万個未満の収量であるため、さまざまな試薬の使用を要し、細胞の品質を有意に低下させる大量の増殖プロトコルを要する。末梢血には活性化細胞があり、精製過程でTregの汚染物質として保持されるおそれがあるため、他のプロトコルで得られた純度は明らかに劣っている。さらに、末梢血に存在する細胞のより分化したまたは活性化した状態は、得られるTre
g細胞に、本発明のこの胸腺ベースのプロトコルによって得られるものよりも低い生存および低い抑制能力を有させるので、その治療上の有用性が有意に損なわれる。
【0165】
実施例2.実施例1に記載されるプロトコルで得られたthyTreg細胞の抑制能力の分析
前の実施例で産生されたthyTreg細胞の抑制能力を、移植片に対する細胞拒絶反応および自己免疫疾患の主要なメディエーターであるTCD4およびTCD8リンパ球の細胞増殖をインビトロで阻害する能力を測定することによって分析した。このような目的のために、thyTreg細胞を、CFSE(CellTrace(商標)CFSE増殖キット、Invitrogen)で染色した同種末梢血単核細胞(PBMC)とthyTreg:PBMC 1:2の比で共培養した。T CD4+およびT CD8+リンパ球の増殖を誘因するために、PBMCをPMAおよびイオノマイシン(Sigma)で前もって活性化し、これらの細胞の増殖をthyTregが含まれていない培養物と比較した。レスポンダーT細胞の増殖を、CFSE染色の蛍光強度の低下としてフローサイトメトリーによって測定した。特異的表面マーカーに対するCD3、CD4およびCD8標識抗体(Beckman coulter)を使用して、CD4+T細胞とCD8+T細胞を区別した。結果は、thyTregの存在が活性化TCD4およびTCD8細胞の増殖を70%超減少させることを確認した(
図2)。
【0166】
同種CD4+およびCD8+T細胞の増殖の抑制における得られたthyTreg集団の有効性を、異なるthyTreg:レスポンダー細胞比を使用してさらに調査した。thyTregは非常に高い抑制能力を示し、同種エフェクターCD4+およびCD8+T細胞の増殖を、thyTreg:レスポンダー細胞比1:1で、80%超阻害した(
図3A、
図3B)。このデータはさらに、共培養におけるthyTregの割合の減少により、増殖の阻害も減少することを示し、増殖の抑制がthyTregの特定の効果であることを確認した(
図3B)。
【0167】
実施例3.CD8+陽性細胞集団を枯渇させないことにより、高収量のTreg細胞が得られる
胸腺から単離される全胸腺細胞の大部分(80%)が、二重陽性(CD4+CD8+)細胞である(
図4A)。本発明者らは、非常に高い割合のTreg細胞がこのDP画分内にあることを予想外に示した。実際、実施例1に記載されるプロトコル(培養の7日目)に従った場合に最終生成物として得られるthyTreg細胞集団の約41%がDP細胞であることが本発明者らによって示された(
図4B、
図4C)。例えば、Treg細胞の刺激および増殖の前にCD4+CD8-CD25+を選択した、Dijke I.E.ら、2016またはMacDonaldら 2017によって記載される以前のCD8+細胞の枯渇は、DP画分を完全に排除し、結果として、Foxp3+DP集団は最終生成物に存在せず、CD25+Foxp3+細胞の回復は劇的に減少する。さらに、理論によって拘束されることを望まないが、そのあまり分化していない表現型のため、DP画分に含まれるTreg細胞は、より高い生存、可塑性およびその抑制能力の安定性を有する可能性が高い。
【0168】
実施例4.高純度のthyTreg生成物を入手するためにラパマイシンを使用する必要はない
ラパマイシンは、T細胞の活性化を阻害する免疫抑制剤であり、Treg細胞培養で日常的に使用されている。高用量のIL-2がインビトロで存在すると、ラパマイシンはTregの増殖を誘導し、エフェクターT細胞の増殖を阻害する。培養液中の100ng/mLのラパマイシンの有無を比較すると、CD25+Foxp3+の純度に関して同様の結果が得られた(
図5A)。興味深いことに、7日間の培養後のTreg増殖は、ラパマイシンの非存在下ではわずかに高かった(
図5B)。thyTregを産生する方法でラ
パマイシンの使用を回避することは、ヒトでの療法としてこれらの細胞を使用するための政府薬物機関の承認を得ることをおそらく容易にするだろう。よって、ラパマイシンの使用を回避することは、本発明者らの手順においてさらなる利点を伴う。
【0169】
実施例5.thyTreg刺激のためのコロイド状ナノマトリックス(TransAct)とCD3/CD28ビーズの比較
Invitrogen製の「Dynabeads CD3/CD28 CTS(商標)」は、Treg細胞を培養または増殖するプロトコルのほとんどで使用されている。これは、ヒトCD3およびCD28に対するアゴニストモノクローナル抗体にコンジュゲートされた磁気ビーズを含む。これらのビーズは、Treg活性化後、患者への細胞の投与前に、磁気選別を使用して除去する必要があり、Dynabeadsを磁気カラムを通して除去した後、細胞の有意な損失(25%超)を伴う。
【0170】
実施例1に記載されるプロトコルは、dynabeadsを採用する代わりに、T細胞を活性化するコロイド状ポリマーナノマトリックスに存するMACS GMP T Cell TransAct(Miltenyi Biotec)を採用する。本発明者らは、Treg細胞を活性化するためにこの製品を使用することにおいて先駆者であった。
【0171】
活性化の目的でナノマトリックスを使用する利点は、細胞を有意に損失することなく、単純な遠心分離および培地の交換によってこれを容易に除去することができることである。
【0172】
本発明者らは、2つのアクチベーターが純度、機能性マーカーの発現、および培養後のTreg細胞の増殖にどのように影響を及ぼすかを比較した。示されるように、CD25+Foxp3+の純度は、Dynabeads(82%)よりもむしろTransAct(89%)を使用するとわずかに高い(
図6A、
図6B)。活性化マーカーHLA-DRならびに増殖倍率(活性化および増殖の前後のCD25+Foxp3+細胞の数)は同等であるように見えるが、Treg機能に関連するマーカー(CTLA-4およびCD39など)は、Dynabeadsと比較してTransActを使用した場合により高い発現を示した(
図6C、
図6D)。
【0173】
実施例6.本発明のプロトコルで産生されたTreg細胞は、安定なFoxp3発現を有し、IL-10産生能力を維持する
多数の研究により、末梢血から得られたTreg細胞が、炎症性サイトカインの存在下でFoxp3発現および抑制表現型を喪失するおそれがあり、Tregでさえ、Th1、Th17またはTh2サイトカイン分泌細胞の表現型を獲得するこれらの条件でその表現型を切り替えることができることが示された。したがって、Tregベースの療法に対する潜在的な制限は、特に炎症条件下での治療的Tregの不安定性および可塑性である。炎症環境の存在下で最終生成物で得られたthyTregのFoxp3発現の安定性およびIL-10を産生する能力を分析した。そのために、IL-1β、IL-6、TNFαの存在下でthyTregを培養した。結果は、Foxp3の発現(
図8A)およびIL-10を生産する能力(
図8B)が、標準的な培養条件と炎症環境の存在下で同等であったことを示している。
【0174】
実施例7.本発明のプロトコルで産生されたTreg細胞は、低レベルの免疫原性マーカーを発現する
本発明のTreg細胞または細胞集団が、細胞が得られた対象とは異なる患者の自己免疫疾患、GVHDおよび他の免疫障害の処置へのその使用(同種使用)に適していることが本発明者らによってさらに決定された。同種細胞療法としての使用に適するためには、Treg細胞が、レシピエントの免疫系によって認識および破壊されないように、免疫原
性が低くなければならない。さらに、同種Tregは、レシピエントからの免疫細胞を抑制してそれらの抑制機能を発揮する能力を有していなければならない(実施例2に示されるように)。
【0175】
一般的に、MHC分子(HLA-DR)を発現する細胞は、適切な共刺激分子(CD40、CD40L、CD80、CD86…)を有する場合、T細胞を刺激し、T細胞によって認識され得る。本発明者らは、フローサイトメトリーによって、実施例1に記載されるように得られたThyTreg細胞および成人末梢血から得られた従来のCD4+細胞におけるCD40L、CD80、CD86およびHLA-DR(Beckman coulter)の発現を決定した。本発明者らは、本発明のプロトコルにより産生されたthyTregが、末梢血由来の従来のCD4+T細胞と比較して低レベルのこれらの免疫原性マーカーを発現することを実証した(
図7)。得られたThyTreg細胞集団は低レベルの共刺激分子を有するため、これらはおそらく直接的抗原提示によって同種レシピエントで堅牢な免疫応答を誘導することができない、または少なくとも免疫活性化が従来のCD4+T細胞よりも低い程度で起こる。
項
【0176】
1.以下の工程:
a.GMP培養培地の存在下で、組織分散装置を使用して胸腺組織を機械的に脱凝集させる工程と、
b.工程(a)の後に得られた生成物を濾過し、胸腺細胞を含む沈殿物をGMP培養培地に再懸濁する工程と、
c.工程(b)の後に得られた生成物から制御性T細胞を精製する工程と、
d.少なくとも3日間、工程(c)の後に得られた制御性T細胞を、T細胞アクチベーター、GMP培養培地およびIL-2の存在下で培養する工程と、
e.工程(d)の培養培地からT細胞アクチベーターを除去する工程と、
f.場合により、制御性T細胞を培養培地中に少なくともさらに4日間維持する工程と
を含む、単離された胸腺組織から制御性T細胞を入手するインビトロ方法。
【0177】
2.工程(c)の精製が、超常磁性粒子とコンジュゲートした特異的マウスIgG1アイソタイプ抗ヒトCD25モノクローナル抗体の存在下で、CliniMACS plus機器を使用して行われる、項1に記載の方法。
【0178】
3.工程(d)のT細胞アクチベーターが、ヒト化CD3およびCD28アゴニストとコンジュゲートしたコロイド状ポリマーナノマトリックスである、項1または2に記載の方法。
【0179】
4.工程(e)の除去が遠心分離によって行われる、項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【0180】
5.胸腺組織がヒトに由来する、項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【0181】
6.胸腺組織が0~16歳のヒトに由来する、項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【0182】
7.胸腺組織が生後0~24ヶ月のヒトに由来する、項6に記載の方法。
【0183】
8.得られた制御性T細胞の凍結保存を含む追加の工程(g)をさらに含む、項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【0184】
9.少なくともCD3、CD25およびFoxp3マーカーを発現する、項1から8のいずれか一項に記載の方法で得られた制御性T細胞または制御性T細胞の集団。
【0185】
10.前記細胞が、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含む、項9に記載の制御性T細胞または制御性T細胞の集団。
【0186】
11.抗原が免疫系のエフェクター細胞に存在する抗原である、項10に記載の制御性T細胞または制御性T細胞の集団。
【0187】
12.項9から11のいずれか一項に記載の制御性T細胞または制御性T細胞の集団を含む医薬組成物。
【0188】
13.賦形剤および/または薬学的に許容される担体をさらに含む、項12に記載の医薬組成物。
【0189】
14.GMP培養培地、抗CD25抗体、T細胞アクチベーターおよびIL-2を含む、項1から8のいずれ一項に記載の方法を行うためのキット。
【0190】
15.項9から11のいずれか一項に記載の制御性T細胞もしくは制御性T細胞の集団、または項12もしくは13に記載の医薬組成物と、対象に細胞を注射するための適切な医療機器とを備えるキット。
【0191】
16.医薬を製造するための、項9から11のいずれか一項に記載の制御性T細胞もしくは制御性T細胞の集団、または項12もしくは13に記載の医薬組成物の使用。
【0192】
17.医薬が細胞療法医薬品である、項16に記載の使用。
【0193】
18.医薬が、移植された個体の自己免疫疾患、炎症過程、アレルギー、移植片対宿主病および/または免疫拒絶反応からなる群より選択される病的状態を処置および/または予防するためのものである、項16または17に記載の使用。
【0194】
19.病的状態を有する個体がヒトである、項18に記載の使用。
【0195】
20.医薬が、移植された対象の免疫拒絶反応の処置および/または予防に使用される、項18または19に記載の使用。
【0196】
21.移植が固形臓器移植である、項20に記載の使用。
【0197】
22.固形臓器が心臓である、項21に記載の使用。
【0198】
23.医薬が、少なくとも1つの免疫抑制薬と組み合わせて投与される、項16から22のいずれか一項に記載の使用。
【0199】
24.医薬が、免疫抑制薬を使用する前の療法が完了したら投与される、項16から23のいずれか一項に記載の使用。