(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038077
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】光吸収層用組成物、光学フィルタ、及び光吸収層用組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
G02B5/22
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217715
(22)【出願日】2023-12-25
(62)【分割の表示】P 2020090868の分割
【原出願日】2019-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2018189851
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】久保 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】今井 寿雄
(57)【要約】 (修正有)
【課題】所定の厚み以下の厚みを有するものの所望の透過率特性を有し、光学フィルタの製造工程を簡素にするのに有利な光吸収層を備えた光学フィルタを提供する。
【解決手段】光学フィルタ(1a)は、120μm以下の厚みを有し、下記(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)の条件を満たす。(i)波長450nm~600nmにおける平均透過率は74%以上である。(ii)波長750nm~1080nmにおける最大透過率は1%以下である。(iii)波長550nm~700nmの範囲において50%の分光透過率を示す波長である赤外側カットオフ波長が600nm~680nmの範囲にある。(iv)波長350nm~500nmの範囲において50%の分光透過率を示す波長である紫外側カットオフ波長が350nm~420nmの範囲にある。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
120μm以下の厚みを有し、下記(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)の条件を満たす光吸収層を備えた、光学フィルタ。
(i)波長450nm~600nmにおける平均透過率は74%以上である。
(ii)波長750nm~1080nmにおける最大透過率は1%以下である。
(iii)波長550nm~700nmの範囲において50%の分光透過率を示す波長である赤外側カットオフ波長が600nm~680nmの範囲にある。
(iv)波長350nm~500nmの範囲において50%の分光透過率を示す波長である紫外側カットオフ波長が350nm~420nmの範囲にある。
【請求項2】
80μm以下の厚みを有し、下記(I)、(II)、(III)、及び(IV)の条件を満たす光吸収層を備えた、光学フィルタ。
(I)波長450nm~600nmにおける平均透過率は74%以上である。
(II)波長750nm~1080nmにおける最大透過率は5%以下である。
(III)波長550nm~700nmの範囲において50%の分光透過率を示す波長である赤外側カットオフ波長が600nm~680nmの範囲にある。
(IV)波長350nm~500nmの範囲において50%の分光透過率を示す波長である紫外側カットオフ波長が350nm~420nmの範囲にある。
【請求項3】
前記光吸収層は、ホスホン酸銅及び有機色素を含有しており、
前記有機色素の吸収極大波長は、720nm~780nmである、
請求項1又は2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
波長650nm~1000nmにおける前記光吸収層の吸収極大波長は、700nm~900nmである、請求項3に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
ホスホン酸銅と、有機溶媒とを含有しており、
前記ホスホン酸銅の生成における副生物である酸の濃度が1.0質量%以下である、
光吸収性組成物。
【請求項6】
20~25℃の大気圧環境で72時間保管された後に、100mPa・s以下の粘度を有する、請求項5に記載の光吸収性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルタ及び光吸収性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
CCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子を用いた撮像装置において、良好な色再現性を有する画像を得るために様々な光学フィルタが固体撮像素子の前面に配置されている。一般的に、固体撮像素子は紫外線領域から赤外線領域に至る広い波長範囲で分光感度を有する。一方、人間の視感度は可視光の領域にのみに存在する。このため、撮像装置における固体撮像素子の分光感度を人間の視感度に近づけるために、固体撮像素子の前面に赤外線又は紫外線を遮蔽する光学フィルタを配置する技術が知られている。
【0003】
従来、そのような光学フィルタとしては、誘電体多層膜による光反射を利用して赤外線又は紫外線を遮蔽するものが一般的であった。一方、近年、光吸収剤を含有する光吸収層を備えた光学フィルタが注目されている。光吸収層を備えた光学フィルタの透過率特性は入射角の影響を受けにくいので、撮像装置において光学フィルタに斜めに光が入射する場合でも色味の変化が少ない良好な画像を得ることができる。加えて、光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタは、撮像装置の小型化及び薄型化の点でも有利である。
【0004】
例えば、特許文献1には、赤外線及び紫外線を吸収可能なUV‐IR吸収層を備えた光学フィルタを備え、所定の透過率特性を有する光学フィルタが記載されている。UV‐IR吸収層は、例えば、ホスホン酸と銅イオンとによって形成されたUV‐IR吸収剤を含んでいる。
【0005】
また、特許文献2には、所定の有機色素を含有している有機色素含有層と、ホスホン酸銅の微粒子を含有しているホスホン酸銅含有層とを備えた、赤外線カットフィルタが記載されている。
【0006】
特許文献3には、銅塩微粒子分散樹脂の製造方法が記載されている。この製造方法は、工程A、工程B、及び工程Cを含む。工程Aは、近赤外線吸収性銅塩微粒子と分散剤とを含む混合物を、溶媒で洗浄した後、銅塩微粒子を沈降させ、上澄み液を除去し、銅塩微粒子を得る工程である。工程Bは、工程Aで得られた銅塩微粒子を分散媒中に分散し、分散液を得る工程である。工程Cは、分散液を樹脂と混合し、銅塩微粒子分散樹脂を得る工程である。近赤外線吸収性銅塩微粒子の少なくとも一部は、所定のアルキルホスホン酸銅塩である。
【0007】
特許文献4には、近赤外線吸収剤を含む分散液の製造方法が記載されている。この製造方法において、ホスホン酸化合物と、所定のリン酸エステル化合物と、銅塩とを溶媒中で混合して近赤外吸収剤を含む反応混合物が得られている。反応混合物中の固形分を沈降させ、上澄みが除去される。固形分を乾燥させることにより精製された近赤外線吸収剤が得られる。精製された近赤外線吸収剤は分散媒中に分散されている。
【0008】
特許文献5には、高い可視光線透過率を有し、かつ、850~950nmの波長域において高い近赤外線光のカット効率を有する、フタロシアニン化合物が記載されている。
【0009】
特許文献6には、所定のホスホン酸銅化合物と、樹脂とを含有している赤外吸収材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第6232161号公報
【特許文献2】特許第6281023号公報
【特許文献3】特許第5738031号公報
【特許文献4】特許第5738014号公報
【特許文献5】特開2007-056105号公報
【特許文献6】国際公開第2009/123016号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の実施例によれば、UV‐IR吸収層の厚みは、概ね130~220μmの範囲にある。特許文献1には、76μmの厚みを有するUV‐IR吸収層を備えた光学フィルタも記載されているが、この光学フィルタは、赤外線ガラス吸収基板を備えており、UV‐IR吸収層と赤外線ガラス吸収基板との組み合わせにより所定の透過率特性が得られている。
【0012】
特許文献2に記載の技術では、有機色素含有層と、ホスホン酸銅含有層とを別々に形成しなければならず、赤外線カットフィルタの製造工程が煩雑になりやすい。
【0013】
特許文献3に記載の銅塩微粒子分散樹脂を用いて近赤外線吸収層を形成した場合に、その近赤外線吸収層がどのような透過率特性を有するのか不明である。加えて、特許文献4に記載の近赤外線吸収剤を含む分散液を用いて近赤外線吸収層を形成した場合、その近赤外線吸収層がどのような透過率特性を有するのか不明である。
【0014】
特許文献5に記載のフタロシアニン化合物は、高い可視光線透過率を有し、かつ、850~950nmの波長域において高い近赤外線光のカット効率を有する。一方で、このフタロシアニン化合物を用いて近赤外線吸収層を形成した場合、その近赤外線吸収層がどのような透過率特性を有するのか不明である。
【0015】
特許文献6によれば、所定のホスホン酸銅化合物と樹脂とを含有している赤外吸収材料によって形成された0.76mmの厚みのシートを2枚のスライドガラスで挟んで得られた合わせガラスの分光透過率が測定されている。この合わせガラスの波長750nm~1080nmにおける最大透過率は比較的高い。
【0016】
そこで、本発明は、所定の厚み以下(例えば、120μm以下又は80μm以下)の厚みを有するものの所望の透過率特性を有し、光学フィルタの製造工程を簡素にするのに有利な光吸収層を備えた光学フィルタを提供する。また、本発明は、このような光学フィルタの光吸収層を形成するのに適した光吸収性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、
120μm以下の厚みを有し、下記(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)の条件を満たす光吸収層を備えた、光学フィルタを提供する。
(i)波長450nm~600nmにおける平均透過率は74%以上である。
(ii)波長750nm~1080nmにおける最大透過率は1%以下である。
(iii)波長550nm~700nmの範囲において50%の分光透過率を示す波長である赤外側カットオフ波長が600nm~680nmの範囲にある。
(iv)波長350nm~500nmの範囲において50%の分光透過率を示す波長である紫外側カットオフ波長が350nm~420nmの範囲にある。
【0018】
また、本発明は、
80μm以下の厚みを有し、下記(I)、(II)、(III)、及び(IV)の条件を満たす光吸収層を備えた、光学フィルタを提供する。
(I)波長450nm~600nmにおける平均透過率は74%以上である。
(II)波長750nm~1080nmにおける最大透過率は5%以下である。
(III)波長550nm~700nmの範囲において50%の分光透過率を示す波長である赤外側カットオフ波長が600nm~680nmの範囲にある。
(IV)波長350nm~500nmの範囲において50%の分光透過率を示す波長である紫外側カットオフ波長が350nm~420nmの範囲にある。
【0019】
さらに、本発明は、
ホスホン酸銅と、有機溶媒とを含有しており、
前記ホスホン酸銅の生成における副生物である酸の濃度が1.0質量%以下である、
光吸収性組成物を提供する。
【発明の効果】
【0020】
上記の光学フィルタにおける光吸収層は、所定の厚み以下の厚みを有するものの所望の分光透過率を有し、光学フィルタの製造工程を簡素にするのに有利である。加えて、上記の光吸収性組成物は、上記の光学フィルタの光吸収層を形成するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施形態の一例に係る光学フィルタの断面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の実施形態の別の一例に係る光学フィルタの断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態の一例に係る光学フィルタを備えた撮像光学系を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図4】
図4は、実施例2に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図5】
図5は、実施例3に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図6】
図6は、実施例4に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図7】
図7は、実施例5に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図8】
図8は、実施例6に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図9】
図9は、実施例7に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図10】
図10は、実施例8に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図11】
図11は、実施例9に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図12】
図12は、比較例1に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図13】
図13は、比較例2に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図14】
図14は、比較例3に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図15】
図15は、比較例4に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図16】
図16は、比較例5に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図17】
図17は、透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の透過率スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は、本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0023】
図1Aに示す通り、光学フィルタ1aは、光吸収層10を備えている。光吸収層10は、例えば、120μm以下の厚みを有する。加えて、光吸収層10は、例えば、下記(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)の条件を満たす。
(i)波長450nm~600nmにおける平均透過率は74%以上である。
(ii)波長750nm~1080nmにおける最大透過率は1%以下である。
(iii)波長550nm~700nmの範囲において50%の分光透過率を示す波長である赤外側カットオフ波長が600nm~680nmの範囲にある。
(iv)波長350nm~500nmの範囲において50%の分光透過率を示す波長である紫外側カットオフ波長が350nm~420nmの範囲にある。
【0024】
光吸収層10が(i)の条件を満たすことにより、光学フィルタ1aが可視光領域において十分に高い透過率を有しやすい。このため、光学フィルタ1aが固体撮像素子とともに用いられたときに固体撮像素子に十分な明るさで可視光が入射しやすい。
【0025】
光吸収層10が(ii)の条件を満たすことにより、光学フィルタ1aが光吸収層10以外の光吸収層及び近赤外線反射層を備えていなくても、光学フィルタ1aは波長750nm~1080nmにおいて十分に低い透過率を有しやすい。このため、光学フィルタ1aは、近赤外線領域において良好な光遮蔽性を有しやすいので、光学フィルタ1aが固体撮像素子とともに用いられたときに、人間の視覚では感知できない近赤外線領域の光をカットできる。その結果、光学フィルタ1aの特性が人間の視感度に適合しやすい。
【0026】
光吸収層10が(iii)及び(iv)の条件を満たすことにより、光学フィルタ1aの特性が、人間の視感度に適合しやすい。
【0027】
光吸収層10が(i)~(iv)の条件を満たす場合、光吸収層10の厚みの下限は特に限定されないが、例えば、70μm以上である。
【0028】
光吸収層10は、80μm以下の厚みを有していてもよい。この場合、光吸収層10は、例えば、下記(I)、(II)、(III)、及び(IV)の条件を満たす。
(I)波長450nm~600nmにおける平均透過率は74%以上である。
(II)波長750nm~1080nmにおける最大透過率は5%以下である。
(III)波長550nm~700nmの範囲において50%の分光透過率を示す波長である赤外側カットオフ波長が600nm~680nmの範囲にある。
(IV)波長350nm~500nmの範囲において50%の分光透過率を示す波長である紫外側カットオフ波長が350nm~420nmの範囲にある。
【0029】
光吸収層10が(II)を満たすことにより、光学フィルタ1aが近赤外線領域において十分な光遮蔽性を有しやすい。
【0030】
光吸収層10が(I)~(IV)の条件を満たす場合、光吸収層10の厚みの下限は特に限定されないが、例えば、40μm以上である。
【0031】
波長700nmにおける光吸収層10の透過率は、例えば、15%以下である。この場合、光学フィルタ1aは、近赤外線領域において高い光遮蔽性を有しやすい。その結果、光学フィルタ1aの特性が、人間の視感度により適合しやすい。波長700nmにおける光吸収層10の透過率は、望ましくは12%以下であり、より望ましくは10%以下であり、さらに望ましくは5%以下である。
【0032】
光吸収層10は、例えば、ホスホン酸銅及び有機色素を含有している。有機色素の吸収極大波長は、典型的には、720nm~780nmである。有機色素の吸収極大波長は、例えば、メタノールを溶媒とする有機色素の溶液の吸光スペクトルから決定できる。
【0033】
ホスホン酸銅による光吸収は、銅錯体のd軌道間における遷移に基づいており、本来禁制遷移であるものが対称性の乱れによって遷移が生じている。このため、ホスホン酸銅による光吸収に起因する吸光度は低い。このため、ホスホン酸銅の光吸収によって光学フィルタの光吸収性能を高めるためには、光吸収層におけるホスホン酸銅の含有量を増やす必要がある。しかし、特定の体積の樹脂に含ませることができるホスホン酸銅の量には限りがあり、光学フィルタの光吸収性能を高めるためには光吸収層の厚みを大きくする必要がある。一方で、光学フィルタの薄型化が強く要求されている。そこで、本発明者らは、吸収波長域が狭いものの高い吸光度を発揮できる有機色素と、高い吸光度を発揮しにくいものの吸収波長域が広いホスホン酸銅とを含有する単一の光吸収層の作製を試みた。しかし、単一の光吸収層においてホスホン酸銅と有機色素とが共存していると有機色素が本来有する光吸収性能を十分に発揮できない可能性があることが分かった。本発明者らは、ホスホン酸銅の生成における副生物の影響により有機色素が本来有する光吸収性能を十分に発揮できないのではないかと考えた。そこで、本発明者らは、多大な試行錯誤を重ねた結果、光吸収層を形成するための光吸収性組成物においてホスホン酸銅の生成における副生物を適切に除去できる方法を開発した。光吸収層10は、ホスホン酸銅及び有機色素を含有していても有機色素が適切な光吸収性能を発揮でき、所望の透過率特性を有する。
【0034】
光吸収層10がホスホン酸銅及び有機色素を含有している場合、例えば、波長650nm~1000nmにおける光吸収層10の吸収極大波長は、700nm~900nmである。
【0035】
ホスホン酸銅は、ホスホン酸と銅イオンとによって形成されている。ホスホン酸は、特に限定されない。ホスホン酸は、例えば、アルキル基又はアリール基を有するホスホン酸である。アルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。アルキル基における炭素原子の数は、例えば、2~10である。ホスホン酸は、例えば、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、ペンチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、ヘプチルホスホン酸、及びオクチルホスホン酸からなる群より選ばれる少なくとも1つである。ホスホン酸銅を形成するために、1種類のホスホン酸が使用されてもよいし、複数種類のホスホン酸が使用されてもよい。
【0036】
有機色素は、その吸収極大波長が720nm~780nmである限り特に限定されない。有機色素は、例えば、フタロシアニン系化合物、シアニン系化合物、スクアリリウム系化合物、ジインモニウム系化合物、ナフタロシアニン系化合物、及びクロコニウム系化合物からなる群より選択される少なくとも1つである。光吸収層10は、1種類の有機色素を含有していてもよいし、複数種類の有機色素を含有していてもよい。
【0037】
光吸収層10は、例えば、樹脂をさらに含有している。光吸収層10において、ホスホン酸銅及び有機色素は例えば、樹脂によって含まれている。樹脂は、例えば、ホスホン酸銅及び有機色素を含むことができ、かつ、所望の耐久性を有する限り、特定の樹脂に限定されない。樹脂は、例えば、ポリビニルアセタール樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びノルボルネン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つである。中でも、光吸収層10に含有される樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール樹脂を望ましく使用できる。
【0038】
図1Aに示す通り、光学フィルタ1aは、透明基板20をさらに備えていてもよい。光吸収層10は、例えば、透明基板20の一方の主面を覆っている。光吸収層10は、例えば、透明基板20の一方の主面に接触していてもよい。透明基板20は、波長400nm~700nmの範囲において、例えば80%以上の透過率を有し、望ましくは85%以上の透過率を有し、より望ましくは90%以上の透過率を有する。
【0039】
透明基板20の材料は、特定の材料に制限されないが、例えば、所定のガラス又は樹脂である。透明基板20の材料がガラスである場合、透明基板20は、例えば、ソーダ石灰ガラス及びホウケイ酸ガラスなどのケイ酸塩ガラスでできている。透明基板20の材料は、赤外線カットガラスであってもよい。赤外線カットガラスは、例えば、CuOを含むリン酸塩ガラス又はフツリン酸塩ガラスでありうる。
【0040】
透明基板20の材料が樹脂である場合、その樹脂は、例えば、ノルボルネン系樹脂等の環状オレフィン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はシリコーン樹脂である。
【0041】
光吸収層10は、例えば、光吸収層用組成物を塗布して形成した塗膜を硬化させることによって形成できる。光吸収層用組成物は、光吸収性のホスホン酸銅が分散された光吸収性組成物と、有機色素を含有している液と、及び樹脂とを混合することによって調製できる。有機色素を含有している液は、例えば、シクロペンタノン等の所定の溶媒に有機色素を加えて所定時間撹拌することによって調製できる。樹脂は、光吸収層10に含有される樹脂として例示された樹脂である。樹脂は、予めシクロペンタノン等の所定の溶媒に溶解させた状態で提供されてもよい。
【0042】
光吸収性組成物は、例えば、分散状態の上記のホスホン酸銅と、有機溶媒とを含有している。ホスホン酸銅は、例えば、上記のホスホン酸と銅イオンとが反応して生成されたホスホン酸銅化合物(ホスホン酸銅塩)でありうる。銅イオンは、例えば、銅塩によって供給される。この場合、ホスホン酸銅の生成に伴い副生物として銅塩に由来する酸が生成する。光吸収性組成物において、ホスホン酸銅の生成における副生物である酸の濃度が1.0質量%以下である。これにより、光吸収性組成物を用いて形成された光吸収層10において有機色素が良好な光吸収性能を発揮でき、光吸収層10が所望の透過率特性を有する。加えて、光吸収性組成物に含まれる不純物の含有量が少なくなる。また、ホスホン酸銅が凝集しにくく、光吸収性組成物の粘性が低く保たれやすい。光吸収性組成物における副生物である酸の濃度を特定する方法は、特に限定されない。その方法は、例えば、キャピラリー電気泳動、液体クロマトグラフ法、又はイオンクロマトグラフ法でありうる。
【0043】
光吸収性組成物において、ホスホン酸銅の生成における副生物である酸の濃度は、1.0質量%以下であってもよく、0.7質量%以下であってもよい。
【0044】
有機色素を含有していない光吸収性組成物と上記の樹脂との混合物を塗布して塗膜を形成し、その塗膜を硬化させて得られたホスホン酸銅含有層は、典型的には、波長780nm~1080nmにおいて十分に低い平均透過率を有する。その平均透過率は、望ましくは5%以下であり、より望ましくは1%以下である。
【0045】
光吸収性組成物は、例えば、20~25℃の大気圧環境で72時間保管された後に、100mPa・s以下の粘度を有する。このように、光吸収性組成物は、良好な保存性を有しうる。
【0046】
光吸収性組成物におけるホスホン酸銅の平均粒子径は、例えば5nm~200nmであり、10nm~150nmであってもよく、15nm~125nmでありうる。光吸収性組成物におけるホスホン酸銅の平均粒子径は、例えば、動的光散乱法によって決定できる。
【0047】
光吸収性組成物は、必要に応じて、リン酸エステル化合物を含有していてもよい。これにより、光吸収性組成物においてホスホン酸銅が凝集しにくい。リン酸エステル化合物は、特に限定されないが、例えば、下記式(c1)で表されるリン酸ジエステル及び下記式(c2)で表されるリン酸モノエステルの少なくとも一方を含む。下記式(c1)及び下記式(c2)において、R
21、R
22、及びR
3は、それぞれ、-(CH
2CH
2O)
nR
4で表される1価の官能基であり、nは、1~25の整数であり、R
4は、炭素数6~25のアルキル基を示す。R
21、R
22、及びR
3は、互いに同一又は異なる種類の官能基である。
【化1】
【0048】
光吸収性組成物の調製方法の一例について説明する。まず、銅塩をテトラヒドロフラン(THF)などの所定の溶媒に添加して撹拌し、必要に応じてろ過処理して、銅塩の溶液を得る。銅塩は、例えば、酢酸銅又は酢酸銅の水和物である。銅塩は、塩化銅、ギ酸銅、ステアリン酸銅、安息香酸銅、ピロリン酸銅、ナフテン酸銅、及びクエン酸銅の無水物又は水和物であってもよい。例えば、酢酸銅一水和物は、Cu(CH3COO)2・H2Oと表され、1モルの酢酸銅一水和物によって1モルの銅イオンと、副生物として2モルの酢酸とが供給される。銅塩として、塩化銅、ギ酸銅、ステアリン酸銅、安息香酸銅、ピロリン酸銅、ナフテン酸銅、及びクエン酸銅の無水物又は水和物を用いた場合、それぞれ、塩酸、ギ酸、ステアリン酸、安息香酸、ピロリン酸、ナフテン酸、及びクエン酸が副生物の酸として生成される。
【0049】
次に、この銅塩の溶液に、式(c1)で表されるリン酸ジエステル及び式(c2)で表されるリン酸モノエステルなどのリン酸エステル化合物を加えて撹拌し、A液を調製する。また上記のホスホン酸をエタノール及びメタノール等のアルコール又はテトラヒドロフラン等の所定の溶媒に加えて撹拌し、B液を調製する。次に、A液を撹拌しながら、A液にB液を加えて所定時間撹拌し、ホスホン酸銅を生成させ、C液を得る。C液に対し吸引ろ過を行い、ホスホン酸銅の固形物を得る。得られたホスホン酸銅の固形物をエタノール等の所定の溶媒に加えて撹拌し、吸引ろ過を行って、精製されたホスホン酸銅の固形物を得る。その後、精製されたホスホン酸銅をトルエン、ヘキサン、及びキシレン等の所定の溶媒に加えて撹拌し、D液を得る。次に、エバポレータを用いてD液を加温しながら所定時間脱溶媒処理を行う。これにより、光吸収性組成物を得ることができる。脱溶媒処理は、D液の環境を減圧した状態で実施してもよい。この場合、脱溶媒処理の温度を低く設定できる。
【0050】
光学フィルタ1aは、様々な観点から変更可能である。例えば、光学フィルタ1aは、
図1Bに示す光学フィルタ1bのように変更されてもよい。光学フィルタ1bは、特に説明をする場合除き、光学フィルタ1aと同様に構成されている。光学フィルタ1aに関する説明は、技術的に矛盾しない限り光学フィルタ1bにも当てはまる。
【0051】
図1Bに示す通り、光学フィルタ1bは、光吸収層10のみによって構成されている。これにより、光学フィルタ1bの厚みが薄くなりやすい。光学フィルタ1bは、例えば、所定の基板上に上記の光吸収層用組成物を塗布して塗膜を形成し、その塗膜を硬化させて得られた光吸収層10を基板から剥離することによって作製できる。基板は、ガラス基板、樹脂基板、金属基板、又はセラミック基板でありうる。基板は、望ましくは、表面がフッ素コーティングされた基板である。この場合、光吸収層10を基板から剥離しやすい。
【0052】
光学フィルタ1a又は1bは、必要に応じて、光吸収層10以外の光吸収層、赤外線反射膜、及び反射防止膜からなる群より選ばれる少なくとも1つをさらに備えていてもよい。赤外線反射膜は、例えば、異なる屈折率を有する複数の材料が代わる代わる積層された膜である。赤外線反射膜を形成する材料は、例えば、SiO2、TiO2、及びMgF2などの無機材料又はフッ素樹脂などの有機材料である。反射防止膜は、光学フィルタと空気との界面をなすように形成され、例えば、可視光領域の光の反射を低減するための膜である。反射防止膜は、例えば、樹脂、酸化物、及びフッ化物等の誘電体によって形成されうる。反射防止膜は、屈折率の異なる二種類以上の誘電体を積層して形成された多層膜であってもよい。特に、反射防止膜は、SiO2等の低屈折率材料とTiO2又はTa2O5等の高屈折率材料とからなる誘電体多層膜であってもよい。この場合、光学フィルタと空気との界面におけるフレネル反射が低減され、光学フィルタの可視光領域の光量を増大させることができる。
【0053】
図2に示す通り、例えば、光学フィルタ1aを用いて、撮像光学系100を提供できる。撮像光学系100は、光学フィルタ1aに加え、例えば、撮像レンズ3をさらに備えている。撮像光学系100は、デジタルカメラなどの撮像装置において、撮像素子2の前方に配置されている。撮像素子2は、例えば、CCD又はCMOS等の固体撮像素子である。
図2に示す通り、被写体からの光は、撮像レンズ3によって集光され、光学フィルタ1aによって紫外線及び赤外線がカットされた後、撮像素子2に入射する。このため、撮像素子2の分光感度が人間の視感度に近く、色再現性の高い良好な画像を得ることができる。撮像光学系100は、光学フィルタ1aに代えて、又は、光学フィルタ1aとともに、光学フィルタ1bを備えていてもよい。
【実施例0054】
<実施例1>
(光吸収性組成物の調製)
酢酸銅一水和物(関東化学社製)5.86gと、エタノール(関東化学社製、電子工業用ELグレード)234.14gとを混合して、1時間撹拌後、フィルタ(メルクミリポア社製、商品名:マイレックス、型番:SLLHH25NS、孔径:0.45μm、直径:25mm)によってろ過して、酢酸銅溶液を得た。次に、200gの酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物(第一工業製薬社製、製品名:プライサーフA208N)を2.572g加えて30分間撹拌し、A液を得た。n-ブチルホスホン酸(城北化学工業社製)2.886gに40gのエタノールを加えて10分間撹拌し、B液を得た。次にA液を撹拌しながらA液にB液を加え、室温で15分間撹拌して反応させてC液を得た。C液には、ホスホン酸と銅イオンを含み、反応により生成されたと考えられる固形物(以下、ホスホン酸銅の固形物をいう)が沈降していた。このC液に対して吸引ろ過を行ってホスホン酸銅の固形物を得た。得られたホスホン酸銅の固形物を、200gのエタノールに加えて、室温で10分間撹拌を行ったうえで、再度吸引ろ過を行い、精製されたホスホン酸銅の固形物を得た。さらにこの精製されたホスホン酸銅を、トルエン140gに加えて、室温で1分間撹拌することでD液を得た。D液においては、ホスホン酸銅の固形物は視認できず、ホスホン酸銅が分散している状態となっていた。このことからホスホン酸銅の固形物には分散作用のあるリン酸エステルも一定量含まれており、トルエン中のホスホン酸銅の分散にリン酸エステルが寄与していると考えられる。D液をフラスコに入れて105℃に温度設定されたオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1110SF)を用いて脱溶媒処理を行った。その結果、光吸収性組成物として、94.606gの光吸収性銅錯体であるブチルホスホン酸銅の分散液を得た。このプロセスにおいて、酢酸銅の使用により、ホスホン酸銅の生成に伴い副生物として酢酸が生成したと考えられる。しかし、得られたホスホン酸銅及びホスホン酸銅の分散液には、酢酸特有の匂いは感じられず、酢酸が十分に除去されていたことが示唆された。
【0055】
(光吸収性組成物の評価)
調製直後の光吸収性組成物に純水を加えて液液抽出を行い、水層を採取してキャピラリー電気泳動(CE)用の測定試料を調製した。CE装置(アジレントテクノロジー社製、製品名:Agilent 1600)を用いて、CE用の測定試料に対し、間接吸光法に従ってキャピラリー電気泳動を実施した。ここで、2,6-ピリジンジカルボン酸系の泳動液(pH:12)を用い、かつ、フューズドシリカ製のキャピラリーを用いた。その結果、調製直後の光吸収性組成物における酢酸の濃度は0.20質量%であった。
【0056】
回転式粘度計(セコニック社製、製品名:PR-10-L/VM-10A)を用いて、調製直後の光吸収性組成物の粘度を測定した。その結果、その粘度は、0.89mPa・sであった。粒径測定システム(大塚電子社製、製品名:ELSZ-2000)を用いて、調製直後の光吸収性組成物におけるホスホン酸銅の平均粒子径を動的光散乱法に従って測定した。その結果、その平均粒子径は29nmであった。調製後に20~25℃の大気圧環境で27日間保管された光吸収性組成物の粘度及びホスホン酸銅の平均粒子径を同様に測定した。その結果、その粘度は1.54mPa・sであり、ホスホン酸銅の平均粒子径は105nmであった。調製後に20~25℃の大気圧環境で27日間保管された光吸収性組成物においてホスホン酸銅の沈殿及び凝集は全く確認されず、その光吸収性組成物が光学フィルタを形成するために何ら問題のない品質を保っていたことが確認された。一方、ホスホン酸銅の分散液であるC液の一部をそのまま0~25℃の大気圧環境で保管したところ、保管開始から4日経過後に高粘度のゼリー状の物質が得られた。このゼリー状の物質を攪拌しても当初の液状態には戻らなかった。なお、保管開始直後のC液では、上記の光吸収性組成物と比べて外観上の相違は見受けられなかった。C液では副生物の酢酸の除去が完全ではなく、ホスホン酸銅の凝集が発生してC液がゼリー状の物質に変化したと考えられる。
【0057】
(有機色素含有液の調製)
有機色素(QCR Solutions社製、製品名:NIR768A、吸収極大波長:768nm)を0.1g秤量し、シクロペンタノン20gを添加して、30分間撹拌し、「有機色素含有液<1>」を得た。なお、有機色素の種類及びシクロペンタノンの添加量を表1に示す通りに調整した以外は、有機色素含有液<1>と同様にして、有機色素含有液<2>~<6>を調製した。なお、NIR740Cは、QCR Solutions社製の有機色素であり、DLS740D、DLS740E、DLS744A、及びDLS745Bは、Crysta-Lyn Chemical社製の有機色素である。各有機色素の吸収極大波長は、有機色素のメタノール溶液の吸光スペクトルから決定した。
【0058】
(光吸収層用組成物の調製)
3gのポリビニルブチラール樹脂(積水化学社製、製品名:エスレックKS-10)と、30gのシクロペンタノンとを混合して8時間撹拌し、「PVB溶解液」を得た。0.2gのPVB溶解液と、0.2gの有機色素含有液<1>と、2gのシクロペンタノンと、1.5gのトルエンとを混合して得た混合液を30分間撹拌した。その後、6.15gの上記の光吸収性組成物をその混合液に添加し、さらに10分間撹拌して、実施例1に係る光吸収層用組成物を得た。表2に、実施例1に係る光吸収層用組成物における各成分の含有量を示す。実施例1に係る光吸収層用組成物において、有機色素の含有量に対する銅の含有量に対する比(銅の含有量/有機色素の含有量)は質量基準で102であった。実施例1に係る光吸収層用組成物において、有機色素の含有量に対するホスホン酸の含有量に対する比(ホスホン酸の含有量/有機色素の含有量)は質量基準で189であった。
【0059】
(光学フィルタの作製)
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の30×30mmの範囲にディスペンサによって、実施例1に係る光吸収層用組成物を塗布して塗膜を形成し、加熱オーブン内で、45℃で2時間、次に85℃で0.5時間の条件で塗膜の焼成を行い、光吸収層用組成物を硬化させて、光吸収層を有する実施例1に係る光学フィルタを得た。実施例1に係る光学フィルタにおける光吸収層の厚みは81μmであった。光吸収層の厚みは、キーエンス社製レーザー変位計LK-H008を用いて、光吸収層の表面と光吸収層とガラス基板との界面との距離を計測して求めた。
【0060】
<実施例2>
光吸収層用組成物の調製において、PVB溶解液の添加量を0.40gに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る光吸収層用組成物を得た。
【0061】
ダイキン工業社製のオプツールDSX(有効成分濃度:20%)0.1gと、3M社製のノベック7100(ハイドロフルオロエーテル)19.9gと、を混合して5分間撹拌し、フッ素処理剤(有効成分濃度:0.1%)を作製した。76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)に、回転数3000rpm(revolutions per minute)の条件のスピンコーティングによりそのフッ素処理剤を塗布し、その後室温で塗膜を24時間放置し、フッ素膜付き基板を得た。
【0062】
上記のフッ素膜付き基板上に、実施例2に係る光吸収層用組成物を塗布して塗膜を形成し、加熱オーブン内で、45℃で2時間、次に85℃で0.5時間の条件で塗膜の焼成を行い、光吸収層用組成物を硬化させ、光吸収層を得た。その後、フッ素膜付き基板から光吸収層を引き剥がして光吸収層のみからなる実施例2に係る光学フィルタを得た。実施例2に係る光学フィルタの光吸収層の厚みは119μmであった。
【0063】
<実施例3~8>
光吸収層用組成物の調製において、有機色素含有液の種類及び各成分の含有量を、表1及び表2に示す通りに調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例3~8に係る光吸収層用組成物を得た。
【0064】
光学フィルタの作製において、実施例1に係る光吸収層用組成物の代わりに、実施例3~8に係る光吸収層用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、それぞれ、実施例3~8に係る光学フィルタを得た。
【0065】
<実施例9>
(光吸収性組成物の調製)
酢酸銅一水和物5.86gと、エタノール234.14gとを混合して、1時間撹拌後、フィルタ(メルクミリポア社製、商品名:マイレックス、型番:SLLHH25NS、孔径:0.45μm、直径:25mm)によってろ過して、酢酸銅溶液を得た。次に、200gの酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物(第一工業製薬社製、製品名:プライサーフA208N)を2.572g加えて30分間撹拌し、A液を得た。エチルホスホン酸(ジョンソン・マッセイ社製)2.296gに40gのエタノールを加えて10分間撹拌し、B液を得た。次にA液を撹拌しながらA液にB液を加え、室温で15分間撹拌して反応させてC液を得た。C液にはホスホン酸と銅イオンを含み、反応して生成したと考えられるホスホン酸銅の固形物が沈降していた。このC液に対して吸引ろ過を行ってホスホン酸銅の固形物を得た。得られたホスホン酸銅の固形物を、200gのエタノールに加えて、室温で10分間撹拌を行ったうえで、再度吸引ろ過を行い、精製されたホスホン酸銅の固形物を得た。さらにこの精製されたホスホン酸銅を、トルエン90gに加えて、室温で1分間撹拌することでD液を得た。D液においては、ホスホン酸銅の固形物は視認できず、ホスホン酸銅が分散している状態となっていた。このことからホスホン酸銅の固形物には分散作用のあるリン酸エステルも一定量含まれており、トルエン中のホスホン酸銅の分散にリン酸エステルが寄与していると考えられる。D液をフラスコに入れて105℃に温度設定されたオイルバスで加温しながら、ロータリーエバポレータを用いて脱溶媒処理を行った。その結果、光吸収性組成物として、82.080gの光吸収性銅錯体であるエチルホスホン酸銅の分散液を得た。実施例1に係るホスホン酸銅及びホスホン酸銅の分散液のときと同様に、実施例9に係るホスホン酸銅及びホスホン酸銅の分散液には酢酸特有の匂いは感じられず、酢酸が十分に除去されていたことが示唆された。実施例9に係るホスホン酸銅分散液の粘度は0.84mPa・sであった。
【0066】
(光吸収層用組成物の調製)
3gのポリビニルブチラール樹脂(エスレックKS-10)と、30gのシクロペンタノンとを混合して8時間撹拌し、「PVB溶解液」を得た。0.2gのPVB溶解液と、0.2gの有機色素含有液<1>と、2gのシクロペンタノンと、1.5gのトルエンとを混合して得た混合液を30分間撹拌した。その後、5.34gの上記の光吸収性組成物をその混合液に添加し、さらに10分間撹拌して、実施例9に係る光吸収層用組成物を得た。表2に、実施例9に係る光吸収層用組成物における各成分の含有量を示す。実施例9に係る光吸収層用組成物において、有機色素の含有量に対する銅の含有量に対する比(銅の含有量/有機色素の含有量)は質量基準で102であった。実施例1に係る光吸収層用組成物において、有機色素の含有量に対するホスホン酸の含有量に対する比(ホスホン酸の含有量/有機色素の含有量)は質量基準で150であった。
【0067】
(光学フィルタの作製)
実施例1に係る光吸収層用組成物の代わりに、実施例9に係る光吸収層用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例9に係る光学フィルタを得た。
【0068】
<比較例1>
光吸収層用組成物の調製において、ホスホン酸銅の分散液である光吸収性組成物及びトルエンを加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る光吸収層用組成物を調製した。光学フィルタの作製において、実施例1に係る光吸収層用組成物の代わりに、比較例1に係る光吸収層用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る光学フィルタを得た。
【0069】
<比較例2>
光吸収層用組成物の調製において、有機色素含有液<1>を加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る光吸収層用組成物を調製した。光学フィルタの作製において、実施例1に係る光吸収層用組成物の代わりに、比較例2に係る光吸収層用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る光学フィルタを得た。比較例2に係る光学フィルタの光吸収層の厚みは130μmであった。
【0070】
<比較例3>
光吸収層用組成物の調製において、有機色素含有液<1>を加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係る光吸収層用組成物を調製した。光学フィルタの作製において、実施例1に係る光吸収層用組成物の代わりに、比較例3に係る光吸収層用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係る光学フィルタを得た。比較例3に係る光学フィルタの光吸収層の厚みは96μmであった。
【0071】
<比較例4>
得られたホスホン酸銅の固形物を200gのエタノールに加えて室温で10分間撹拌を行うことと、吸引ろ過を行うことを省略した以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係る光吸収性組成物を調製した。調製直後の、比較例4に係る光吸収性組成物の酢酸の濃度を実施例1に係る光吸収性組成物と同様にしてキャピラリー電気泳動によって求めた。その結果、比較例4に係る光吸収性組成物の酢酸濃度は、3.20質量%であった。その後、実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに比較例4に係る光吸収性組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係る光学フィルタを得た。比較例4に係る光学フィルタの厚みは118μmであった。
【0072】
<比較例5>
光吸収層用組成物の調製において、0.2gの有機色素含有液<1>の代わりに、表2に記載の添加量の有機色素含有液<7>を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5に係る光吸収層用組成物を調製した。光学フィルタの作製において、実施例1に係る光吸収層用組成物の代わりに、比較例5に係る光吸収層用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例5に係る光学フィルタを得た。比較例5に係る光学フィルタの光吸収層の厚みは77μmであった。S2084は、FEWケミカルズ社製の有機色素である。
【0073】
(光学フィルタの光学特性)
紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製、製品名:V670)を用いて、0°の入射角における、各実施例及び各比較例に係る光学フィルタの透過率スペクトルを測定した。実施例1~9に係る光学フィルタにおいて、波長750~1080nmの範囲における最大の透過率は5%以下であり、波長800~950nmの範囲における最大の透過率は5%以下であり、波長800~1000nmの範囲における最大の透過率は5%以下であった。加えて、実施例1~9に係る光学フィルタにおいて、波長1000~1100nmの範囲における最大の透過率は4.28%以下であり、波長1100~1200nmの範囲における最大の透過率は11.44%以下であった。さらに、実施例1~9に係る光学フィルタにおいて、IRカットオフ波長は611~644nmであり、UVカットオフ波長は362~394nmであった。光吸収層の吸収極大波長は、750~780nmであった。実施例1~9に係る光学フィルタの透過率スペクトルをそれぞれ
図3~11に示す。加えて、比較例1~5に係る光学フィルタの透過率スペクトルをそれぞれ
図12~16に示す。
図3~16に示す透過率スペクトルから看取できる特性値を表3に示す。実施例1及び2に係る光学フィルタは上記要件(i)~(iv)を満足する良好な光学特性を有しており、光吸収性の光学フィルタとして使用した場合に良好な特性を発揮することが示唆された。なお、表4に上記の透明ガラス基板のみの分光透過率を示し、
図17に上記の透明ガラス基板の透過率スペクトルを示す。実施例1において、透明ガラス基板のみの透過率スペクトルを踏まえると、実施例1に係る光学フィルタにおける光吸収層が上記要件(i)~(iv)を満たすことが示唆された。実施例3~9に係る光学フィルタは、上記要件(I)~(IV)を満足する良好な光学特性を有しており、光吸収性の光学フィルタとして使用した場合に良好な特性を発揮することが示唆された。なお、実施例3~9において、透明ガラス基板のみの透過率スペクトルを踏まえると、実施例3~9に係る光学フィルタにおける光吸収層が上記要件(I)~(IV)を満たすことが示唆された。
【0074】
比較例1に係る光学フィルタは、その光吸収層が光吸収剤としてホスホン酸銅を含有せず有機色素のみを含有しているので、広波長域の赤外線が十分に吸収されず、上記要件(ii)及び(iv)を満足できなかった。比較例2に係る光学フィルタは、その光吸収層が光吸収剤としてホスホン酸銅のみを含有しているので、130μmの厚みを有しているものの、波長600nm~780nmにおける赤外線を十分に吸収できず、上記要件(ii)を満足できなかった。比較例3に係る光学フィルタは、その光吸収層がホスホン酸銅のみを含有しているため、96μmの厚みを有しているものの、波長600~780nmにおける赤外線を十分に吸収できず、上記要件(ii)を満足できなかった。比較例5に係る光学フィルタは、波長720nm~780nmの範囲以外に、その吸収極大波長(669nm)を有する有機色素を含んでいるため、上記要件(iii)を満足できなかった。
【0075】
実施例1に係る光吸収性組成物の酢酸濃度と、比較例4に係る光吸収性組成物の酢酸濃度との対比によれば、ホスホン酸銅の固形物へのエタノールの添加とろ過とを組み合わせた精製処理により、副生物である酢酸を効果的に除去できることが示唆された。加えて、比較例4に係る光学フィルタは、上記要件(i)を満足できなかった。これは、光吸収層用組成物の作製過程もしくは基板への塗布後の熱処理過程において、比較例4に係る光吸収性組成物に残存していた酢酸の影響により、有機色素の官能基の一部が分解し又はその結合状態が変化することによって、可視域に吸収を持つような状態に有機色素が変化したためであると推察された。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
前記光吸収層用組成物が形成する光吸収層の透過スペクトルは、以下の(Ia)、(IIa)、(IIIa)、及び(IVa)の条件を満たす、請求項1又は2に記載の光吸収層用組成物。
(Ia)波長450nm~600nmの範囲内における透過率の平均値が74%以上である。
(IIa)波長750nm~1080nmの範囲内における透過率の最大値が5%以下である。
(IIIa)波長550nm~700nmの範囲内において、透過率が50%となる第一波長が、600nm~680nmの範囲内にある。
(IVa)波長350nm~500nmの範囲内において、透過率が50%となる第二波長が、350nm~420nmの範囲内にある。