(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038091
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】アレルギーの抗原およびそのエピトープ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240312BHJP
C07K 14/415 20060101ALN20240312BHJP
C12Q 1/6895 20180101ALN20240312BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20240312BHJP
【FI】
G01N33/53 Q
C07K14/415
C12Q1/6895 Z
C12Q1/6851 Z
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218050
(22)【出願日】2023-12-25
(62)【分割の表示】P 2019110700の分割
【原出願日】2019-06-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(71)【出願人】
【識別番号】000113274
【氏名又は名称】ホーユー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】松永 佳世子
(72)【発明者】
【氏名】矢上 晶子
(72)【発明者】
【氏名】青木 祐治
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英里香
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智美
(57)【要約】 (修正有)
【課題】小麦に対するアレルギーの新規抗原、小麦に対するアレルギーの診断方法および診断キット、当該抗原を含む組成物、当該抗原が除去された小麦または小麦加工品、ならびに対象物における小麦抗原の有無を判定するためのテスター組成物を提供する。
【解決手段】アレルギー(例えば、小麦に対するアレルギー)の新規抗原としてタンパク質抗原のエピトープを含む新規ポリペプチドの抗原を提供することができる。
また、アレルギー(例えば、小麦に対するアレルギー)の高感度な診断キット、診断用組成物、及び診断方法、当該ポリペプチドを含む組成物、対象物における当該ポリペプチドを含む抗原の有無を判定するためのテスター組成物、並びに当該ポリペプチドが除去若しくは低減された原料又は加工品、及び原料又は加工品の製造方法を提供することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(E1)-(E50)のポリペプチドの少なくとも一つを含む、アレルギーの診断キット。
(E1)配列番号29-130及び2880のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E2)配列番号131-137、139-190のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E3)配列番号191-280(227,259,269及び273を除く)及び2881のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E4)配列番号281-341、343-345のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E5)配列番号346-398、400-413及び2882のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E6)配列番号414-492、2883及び2884のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E7)配列番号493-561のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E8)配列番号562-639のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E9)配列番号640-705及び2885-2888のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E10)配列番号706-775及び2889-2891のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E11)配列番号776-898及び2892のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E12)配列番号899-973、2893及び2895のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E13)配列番号974-1009のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E14)配列番号1010-1088及び2896-2899のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E15)配列番号1089-1141のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E16)配列番号1142-1165及び2900のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E17)配列番号1166-1208のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E18)配列番号1209-1256のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E19)配列番号1257-1296のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E20)配列番号1297-1366のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E21)配列番号1367-1402のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E22)配列番号1403-1507のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E23)配列番号1508-1565及び2901のアミノ酸配列から選択される少
なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E24)配列番号1566-1597のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E25)配列番号1598-1607のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E26)配列番号1608-1684、2902及び2903のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E27)配列番号1685-1752、2904及び2905のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E28)配列番1753-1788、2906及び2907のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E29)配列番号1789-1835、2908及び2909のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E30)配列番号1836-1894、2910及び2911のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E31)配列番号1895-1976、2912及び2913のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E32)配列番号1977-2003のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E33)配列番号2004-2026のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E34)配列番号2027-2067及び2914のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E35)配列番号2068-2153、2915及び2916のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E36)配列番号2154-2216のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E37)配列番号2217-2264及び2917-2921のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E38)配列番号2265-2308及び2922-2925のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E39)配列番号2309-2341のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E40)配列番号2342-2418のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E41)配列番号2419-2490のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E42)配列番号2491-2544、2926及び2927のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E43)配列番号2545-2612のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E44)配列番号2613-2630のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E45)配列番号2631-2673のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E46)配列番号2674-2700及び2928のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E47)配列番号2701-2773及び2929のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E48)配列番号2774-2808、2930及び2931のアミノ酸配列から選
択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E49)配列番号2809-2829のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;あるいは
(E50)配列番号2830-2879及び2932のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド
【請求項2】
アレルギーの診断用組成物であって、請求項1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドの少なくとも1つを含む、前記診断用組成物。
【請求項3】
対象のアレルギーを診断するための指標を提供する方法であって、以下の工程:
(i)対象から得られた試料を抗原に接触させる、ここで当該試料はIgE抗体が含まれる溶液である;
(ii)対象から得られた試料中のIgE抗体と当該抗原との結合を検出する;
(iii)対象のIgE抗体と当該抗原との結合が検出された場合、対象がアレルギーであることの指標が提供される;
を含み、ここで当該抗原は、請求項1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドの少なくとも一つである、前記方法。
【請求項4】
請求項1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドの少なくとも一つであり、そして、アレルギーの原因となる、前記抗原。
【請求項5】
請求項4に記載の抗原の少なくとも一つを含む組成物。
【請求項6】
アレルギーを治療するための、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドの少なくとも一つと結合する抗体を含む、対象における抗原の有無を判定するためのテスター組成物。
【請求項8】
請求項1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチド、をコードする核酸の塩基配列の一部及び/またはその相補鎖の一部を含むプライマー、を少なくとも1つ含む、対象物における抗原の有無を判定するためのテスター組成物。
【請求項9】
請求項1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドを含む、対象におけるIgE抗体の有無を判定するためのテスター組成物。
【請求項10】
請求項1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドの原料・加工品中の有無を判定する方法であって、前記原料・加工品中に請求項1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドを検出する、ことを含む、前記方法。
【請求項11】
抗原が除去又は低減されている、原料または加工品であって、当該抗原は請求項1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドの少なくとも一つである、前記原料または加工品。
【請求項12】
抗原が除去若しくは低減されている原料または加工品の製造方法であって、当該加工品の製造過程で抗原が除去若しくは低減されていることを確認するステップを有し、ここで当該抗原は請求項1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドドの少なくとも一つである、前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦等に対するアレルギーの新規抗原に関する。本発明はまた、小麦等に対するアレルギーの診断キット、診断用組成物、及び診断方法に関する。本発明はまた、当該抗原を含む組成物、及び当該抗原が除去又は低減された原料または加工品に関する。本発明はさらに、対象物における小麦抗原の有無を判定するためのテスター組成物に関する。
【0002】
本発明はまた、エピトープを含むポリペプチドの抗原に関する。本発明はまた、当該ポリペプチドを含むアレルギーの診断キット、診断用組成物、及び診断方法に関する。本発明はまた、対象のアレルギーを診断するための指標を提供する方法に関する。本発明はまた、当該ポリペプチドを含む組成物、及び当該ポリペプチドが除去若しくは低減された原料又は加工品に関する。本発明はさらに、当該ポリペプチドが除去若しくは低減された原料または加工品の製造方法に関する。本発明はさらにまた、対象物における当該ポリペプチドを含む抗原の有無を判定するためのテスター組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
アレルギー患者の血清及び組織中では、特定の抗原(以下、アレルゲンともいう)に特異的なIgE抗体が産生される。このIgE抗体と特定の抗原の相互作用により生じた生理学的結果によりアレルギー反応が惹起される。抗原とは、広義にはアレルギー症状を引き起こす食品・食材等を示し、狭義には特異的なIgE抗体が結合する、食品・食材等に含まれるタンパク質(以下、アレルゲンコンポーネントともいう)をいう。
【0004】
従来のアレルギー検査薬においては、単にアレルゲン候補の食品・食材等をすりつぶして抗原試薬を作成していることが多い(特許文献1)。このため、従来の抗原試薬中に含まれる多数のアレルゲンコンポーネントの中で、IgE抗体との結合について陽性反応が判定可能な閾値を超える含有量であった場合にのみ、アレルギー検査における陽性反応を検出することが可能であり、診断効率は十分に高いとはいえない状態であった。
【0005】
アレルゲン候補の食品・食材において、いくつかのアレルゲンコンポーネントが示唆され、検査キットとして商品化もされている。アレルギー検査の信頼度を高めるためには、アレルゲンコンポーネントを網羅的に特定する必要があるところ、上記アレルゲンコンポーネントの測定による患者検出率はまだまだ不十分である。小麦の新規アレルゲンを同定することは、診断薬の精度を高めるだけでなく、低アレルゲン食品、低アレルゲン食材や治療薬のターゲットとしても非常に重要である。
【0006】
一方、タンパク質の分離・精製に関しては、近年、少量のサンプルから多様なタンパク質を分離精製する方法として、1次元目に等電点電気泳動を行い、2次元目にSDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム―ポリアクリルアミドゲル電気泳動)を行う2次元電気泳動法が用いられている。出願人らはこれまでに、分離能が高い2次元電気泳動法を開発してきた(特許文献2~5)。
【0007】
アレルゲン特異的IgE抗体はアレルゲンコンポーネント中の特定のアミノ酸配列であるエピトープを認識して結合する。しかしながら、アレルゲンコンポーネントについてエピトープまで解析されている例は若干数あるものの(非特許文献1)、極めて少ないのが現状である。また、エピトープを含むポリペプチドを利用したアレルギーの診断キットも現時点では市場に存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-286716
【特許文献2】特開2011-33544
【特許文献3】特開2011-33546
【特許文献4】特開2011-33547
【特許文献5】特開2011-33548
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Matsuo, H., et al., J. Biol. Chem., (2004), Vol.279, No.13, pp.12135-12140
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、タンパク質であるアレルギーの新規抗原を提供する。本発明はまた、当該抗原を含むアレルギーの診断方法及び診断キットを提供する。本発明はまた、当該抗原を含む組成物、及び当該抗原が除去又は低減された原料または加工品を提供する。本発明はさらに、対象物における抗原の有無を判定するためのテスター組成物を提供する。
【0011】
本発明はまた、エピトープを含むポリペプチドの抗原を提供する。本発明はまた、当該ポリペプチドを含むアレルギーの診断キット、診断用組成物、及び診断方法を提供する。本発明はまた、対象のアレルギーを診断するための指標を提供する方法を提供する。本発明はまた、当該ポリペプチドを含む組成物、及び当該ポリペプチドを含む抗原が除去若しくは低減された原料又は加工品を提供する。本発明はさらに、当該抗原が除去若しくは低減された原料または加工品の製造方法に関する。本発明はさらにまた、対象物における当該ポリペプチドを含む抗原の有無を判定するためのテスター組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために小麦に対するアレルギーの原因抗原特定について鋭意研究を行った。その結果、小麦アレルギーを有する患者の血清中のIgE抗体が特異的に結合するタンパク質の新規な抗原を特定することに成功した。
【0013】
また、エピトープは比較的短いアミノ酸配列を有するものであるため、異なるアレルゲンコンポーネントにも同一のアミノ酸配列が存在すれば、当該IgE抗体は、複数のアレルゲンコンポーネントに結合可能である。異なるアレルゲンコンポーネントに共通するエピトープが存在する結果、両者にアレルギー患者のIgE抗体が結合するため、その抗原は交差性を有する。したがって、本発明により特定されたエピトープは、交差性を含めたアレルギーの診断や治療、および当該エピトープを含む複数のアレルゲンコンポーネントの検出等を可能にするものである。
【0014】
本明細書において、「抗原」は、特に明示しない限り、タンパク質である狭義の抗原とタンパク質に由来する「エピトープ」の双方を含む意味で使用する。明示されている場合、「抗原」は、タンパク質またはタンパク質に由来するエピトープのいずれかの意味で使用する。
【0015】
上記知見に基づいて、本発明は完成された。非限定的に、本発明は以下の態様を含む。[態様1]
以下の(E1)-(E50)のポリペプチドの少なくとも一つを含む、アレルギーの診断キット。
【0016】
(E1)配列番号29-130及び2880のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E2)配列番号131-137、139-190のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E3)配列番号191-280(227,259,269及び273を除く)及び2881のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E4)配列番号281-341、343-345のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E5)配列番号346-398、400-413及び2882のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E6)配列番号414-492、2883及び2884のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E7)配列番号493-561のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E8)配列番号562-639のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E9)配列番号640-705及び2885-2888のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E10)配列番号706-775及び2889-2891のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E11)配列番号776-898及び2892のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E12)配列番号899-973、2893及び2895のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E13)配列番号974-1009のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E14)配列番号1010-1088及び2896-2899のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E15)配列番号1089-1141のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E16)配列番号1142-1165及び2900のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E17)配列番号1166-1208のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E18)配列番号1209-1256のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E19)配列番号1257-1296のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E20)配列番号1297-1366のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E21)配列番号1367-1402のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E22)配列番号1403-1507のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E23)配列番号1508-1565及び2901のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E24)配列番号1566-1597のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E25)配列番号1598-1607のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つ
のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E26)配列番号1608-1684、2902及び2903のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E27)配列番号1685-1752、2904及び2905のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E28)配列番1753-1788、2906及び2907のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E29)配列番号1789-1835、2908及び2909のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E30)配列番号1836-1894、2910及び2911のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E31)配列番号1895-1976、2912及び2913のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E32)配列番号1977-2003のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E33)配列番号2004-2026のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E34)配列番号2027-2067及び2914のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E35)配列番号2068-2153、2915及び2916のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E36)配列番号2154-2216のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E37)配列番号2217-2264及び2917-2921のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E38)配列番号2265-2308及び2922-2925のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E39)配列番号2309-2341のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E40)配列番号2342-2418のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E41)配列番号2419-2490のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E42)配列番号2491-2544、2926及び2927のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E43)配列番号2545-2612のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E44)配列番号2613-2630のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E45)配列番号2631-2673のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E46)配列番号2674-2700及び2928のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E47)配列番号2701-2773及び2929のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E48)配列番号2774-2808、2930及び2931のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E49)配列番号2809-2829のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;あるいは
(E50)配列番号2830-2879及び2932のアミノ酸配列から選択される少
なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド
[態様2]
アレルギーの診断用組成物であって、態様1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドの少なくとも1つを含む、前記診断用組成物。
[態様3]
対象のアレルギーを診断するための指標を提供する方法であって、以下の工程:
(i)対象から得られた試料を抗原に接触させる、ここで当該試料はIgE抗体が含まれる溶液である;
(ii)対象から得られた試料中のIgE抗体と当該抗原との結合を検出する;
(iii)対象のIgE抗体と当該抗原との結合が検出された場合、対象がアレルギーであることの指標が提供される;
を含み、ここで当該抗原は、態様1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドの少なくとも一つである、前記方法。
[態様4]
態様1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドの少なくとも一つであり、そして、アレルギーの原因となる、前記抗原。
[態様5]
態様4に記載の抗原の少なくとも一つを含む組成物。
[態様6]
アレルギーを治療するための、態様5に記載の組成物。
[態様7]
態様1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドの少なくとも一つと結合する抗体を含む、対象における抗原の有無を判定するためのテスター組成物。
[態様8]
態様1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチド、をコードする核酸の塩基配列の一部及び/またはその相補鎖の一部を含むプライマー、を少なくとも1つ含む、対象物における抗原の有無を判定するためのテスター組成物。
[態様9]
態様1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドを含む、対象におけるIgE抗体の有無を判定するためのテスター組成物。
[態様10]
態様1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドの原料・加工品中の有無を判定する方法であって、前記原料・加工品中に態様1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドを検出する、ことを含む、前記方法。
[態様11]
抗原が除去又は低減されている、原料または加工品であって、当該抗原は態様1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドの少なくとも一つである、前記原料または加工品。
[態様12]
抗原が除去若しくは低減されている原料または加工品の製造方法であって、当該加工品の製造過程で抗原が除去若しくは低減されていることを確認するステップを有し、ここで当該抗原は態様1において(E1)~(E50)として特定されるポリペプチドドの少なくとも一つである、前記製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、アレルギー(例えば、小麦に対するアレルギー)の新規抗原を提供することができる。本発明においてアレルギーを引き起こす新規なアレルゲンコンポーネントが同定されたことから、アレルギーの高感度な診断方法及び診断キット、当該抗原を含む組成物、当該抗原が除去又は低減された原料または加工品、および対象物における抗原の有無を判定するためのテスター組成物を提供することができる。
【0018】
また、本発明により、タンパク質抗原のエピトープを含む新規ポリペプチドの抗原を提供することができる。本発明のポリペプチドを利用することにより、アレルギー(例えば、小麦に対するアレルギー)の高感度な診断キット、診断用組成物、及び診断方法、当該ポリペプチドを含む組成物、対象物における当該ポリペプチドを含む抗原の有無を判定するためのテスター組成物、並びに当該ポリペプチドが除去若しくは低減された原料又は加工品、及び原料又は加工品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、小麦に含まれるタンパク質について、2次元電気泳動によるタンパク質の泳動パターンを示すゲルの写真である。写真の左側のバンドは分子量マーカーのバンドであり、写真の左側の数値は各分子量マーカーの分子量(KDa)である。写真上部の数値は、等電点を表す。
【
図2】
図2は、小麦に含まれるタンパク質の二次元電気泳動パターンに対して、小麦アレルギー患者の血清を用いたイムノブロットの写真である。健常者と比較して小麦アレルギー患者の血清中のIgE抗体が特異的に反応したスポット1~16を、それぞれ白枠で囲って示した。小麦アレルギー患者において、WDEIA症例はP2~36と表し、発症に運動を必要としない一般的な小麦による即時型アレルギー症例の小児はP50~57、成人はG1~9と表した。
【
図3】
図3は、各エピトープのアミノ酸配列を有するペプチドに対して、小麦に対するアレルギーを併発している患者の血清を用いて、ELISAにより交差反応性を調べた結果である。
【
図4】
図4は、各エピトープのアミノ酸配列を有するペプチドに対して、小麦に対するアレルギーを併発している患者の血清を用いて、ELISAにより交差反応性を調べた結果である。
【
図5】
図5は、各エピトープのアミノ酸配列を有するペプチドに対して、小麦に対するアレルギーを併発している患者の血清を用いて、ELISAにより交差反応性を調べた結果である。
【
図6】
図6は、各エピトープのアミノ酸配列を有するペプチドに対して、小麦に対するアレルギーを併発している患者の血清を用いて、ELISAにより交差反応性を調べた結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語及び技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。
【0022】
本明細書においてアレルギーとは、ある抗原に感作されている生体に、再びその抗原が入った場合に起こる、生体に不都合な過敏反応を示す状態をいう。抗原と接触した場合、あるいは当該抗原を摂取した場合に、アレルギー反応を生じ得る。ここで接触は物体に触れることをいい、特に人体に対しては皮膚、粘膜(眼、口唇等)等に付着することをいう。また、摂取は体内に取り込むことをいい、吸入、経口等の手段で取り込むことをいう。一般的に食物を摂取した場合に生じるアレルギー反応を特に食物アレルギーという。好ましい態様においてアレルギーは食物アレルギーであってもよい。食物におけるアレルギー疾患の多くにおいて、血液および組織で抗原に特異的なIgE抗体が産生される。IgE抗体は、肥満細胞または好塩基球と結合する。当該IgE抗体に特異的な抗原が再びアレルギー疾患患者の体内に入ると、当該抗原は肥満細胞または好塩基球と結合したIgE抗体と組み合わさり、IgE抗体-抗原相互作用の生理学的効果を生ずる。これらの生理学的効果として、ヒスタミン、セロトニン、ヘパリン、好酸球遊走因子または各種ロイコト
リエン等の放出が挙げられる。これらの放出物質は、IgE抗体と特定の抗原の組み合わせにより起こるアレルギー反応を惹起する。詳しくはIgE抗体は、特定の抗原中の特定のアミノ酸配列であるエピトープを認識して結合し、当該抗原によるアレルギー反応は、上記の経路を通じて現れる。
【0023】
本発明が対象とするアレルギーは、使用するエピトープを含むアレルゲン(抗原)に対するアレルギーである限り、特に限定されない。一態様として、アレルゲンは、生体(特にヒト)が摂取する、穀物、魚介類、フルーツ、野菜、ナッツ類(種実類)、食用草、魚介類、畜肉、乳汁、乳製品など、あるいは、生体(特にヒト)に寄生する寄生虫等などが含まれる。
【0024】
穀物とは、植物から得られる食材の総称の1つで澱粉質を主体とする種子を食用とするものである。穀物は、狭義にはイネ科作物の種子(禾穀類)のみを指し、広義にはこれにマメ科作物の種子(菽穀類)や他科の作物の種子を含む。広義の穀物のうち、禾穀類の種子(単子葉植物であるイネ科作物の種子)と似ていることから穀物として利用される双子葉植物の種子をまとめて擬禾穀類あるいは擬似穀類(疑似穀類、Pseudocereals)と呼ぶ
。擬似穀類には、ソバ(タデ科)、アマランサス(ヒユ科)、キヌア(キノア、アカザ科)などが含まれる。
【0025】
本発明において、非限定的に、イネ科の穀物は、パンコムギ(Triticum aestivum)、
大麦、ライ麦、カラスムギ、オオアワガエリ、カモガヤ、ハルガヤ、キビ、アワ、ヒエ、トウモロコシ、ハトムギ等を含む。タデ科の穀物は、例えば、タデ科ソバ属のソバ(Fagopyrum esculentum)を含む。一態様において、抗原(アレルゲン)は、穀物に由来する。一態様においてアレルゲンはイネ科の穀物に由来する。一態様において、アレルゲンは小麦に由来する。
【0026】
非限定的に、魚介類としては、十脚目(エビ目)に属するエビ、カニ等が含まれる。一般に「甲殻類」として認識されているものは、ほとんど十脚目(エビ目)に含まれる。非限定的に、魚介類はまた、ツツイカ目、タコ目に属するイカ。タコを含む。魚介類はさらに、サバ科、タラ科、に属する魚を含む。魚介類はさらにまた、マルスダレガイ科の貝類を含む。
【0027】
非限定的に、フルーツとしては、例えば、マタタビ科、パイナップル科、ウルシ科、ウリ科、バショウ科、ミカン科、バラ科に属するフルーツを含む。野菜としては、例えば、ナス科、ウリ科、クスノキ科に属するフルーツを含む。ナッツ類(種実類)としては、例えば、ウルシ科、バラ科、クルミ科に属するナッツ類(種実類)を含む。食用草としては、例えば、キク科に属する食用草を含む。穀物としては、例えば、イネ科、タデ科の属する穀物を含む。
【0028】
畜肉の種類は特に限定されない。一態様において、鳥類(鶏肉、鴨肉等)の肉、豚肉、牛肉、羊肉等を含む。一態様において、鳥類の肉である。一態様においてニワトリ(Gallus gallus)の肉である。
【0029】
乳汁(ミルク)の由来は特に限定されない。一態様においてウシ、ヤギ、ヒツジ等由来の乳汁を含む。一態様において、牛乳(Bos Taurus)である。乳製品は、乳汁の加工品である。非限定的に、バター、生クリーム、チーズ、ヨーグルト、アイスクリームを含む。
【0030】
寄生虫は、非限定的に、例えば、アニサキス科の寄生虫である。アニサキス科の寄生虫は、アニサキス(Anisakis simplex)を含む。
【0031】
本明細書においてアレルギーとは、原料または加工品(例えば、小麦または小麦加工品))に含まれるタンパク質等を抗原として生じるアレルギー反応を有する状態をいう。アレルギーは、原料または加工品(例えば、小麦または小麦加工品))に含まれる抗原と接触した場合、あるいは当該抗原を摂取した場合に、アレルギー反応を生じ得る。一般的に食物を摂取した場合に生じるアレルギー反応を特に食物アレルギーという。小麦に対するアレルギーは食物アレルギーであってもよい。
【0032】
本明細書において抗原とは、アレルギー反応を惹起させる物質である。食材等の原材料中に含まれるタンパク質である場合は、アレルゲンコンポーネントとも称される。抗原は好ましくはタンパク質である。
【0033】
本明細書において、タンパク質は、天然のアミノ酸がペプチド結合により連結された構造を有する分子である。タンパク質に含まれるアミノ酸の数は特に限定されない。本明細書において「ポリペプチド」の用語もまた、天然のアミノ酸がペプチド結合により連結された構造を有する分子を意味する。ポリペプチドに含まれるアミノ酸の数は特に限定されない。「ポリペプチド」は、「タンパク質」を含む概念である。また、2~50個程度のアミノ酸がペプチド結合により連結されたポリペプチドを、特にペプチドと呼ぶことがある。
【0034】
アミノ酸に関して光学異性体があり得る場合は、特に明示しなければL体を示す。本明細書で用いるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドのアミノ酸配列の表記法は、標準的用法及び当業界で慣用されている表記法に基づき、アミノ酸の一文字表記で表され、左方向はアミノ末端方向であり、そして右方向はカルボキシ末端方向である。なお、アミノ酸の一文字表記においてXは、両端のアミノ酸と結合できるアミノ基およびカルボキシル基を有する物質であればいずれでもよく、特に20種類の天然のアミノ酸のいずれかであってもよいことを表す。
【0035】
アラニンスキャン法(又は「アラニングリシンスキャン」法)は、タンパク質中の残基を1つ1つアラニン(元のアミノ酸がアラニンの場合はグリシン)に変異させた変異体を作製し、タンパク質の構造や機能にとって重要な残基を部位特異的に同定する方法である。アラニン(元のアミノ酸がアラニンの場合はグリシン)に変異しても患者のIgE抗体との結合性が残存する場合には、その残基がIgE抗体との結合性に重要でなく、他のアミノ酸に変更しても結合性は残存する。IgE抗体の結合性とは、対象のエピトープとIgE抗体が結合及び反応が検出されることをいう。本出願の配列表において、Xで表される残基は、実施例4に示すアラニングリシンスキャンにより、アラニン(元のアミノ酸がアラニンの場合はグリシン)に置換してもアレルギー患者のIgE抗体への結合性が残存する部位のアミノ酸残基である。このような部位については、他のいずれかのアミノ酸に置換した場合も当該IgE抗体への結合性が残存する蓋然性が高いことは、当業者に周知である。即ち、アラニン、グリシンのみでなく、アラニン以外の任意のアミノ酸残基に置換可能である残基である。
【0036】
IgEと抗原(エピトープ)の結合・維持がその後のアレルギー反応に重要であるが、この結合・維持は、エピトープの電荷、疎水結合、水素結合、芳香族性相互作用が担っている。アラニン、グリシンに変えることでこれらを失っても結合・維持できるということは、そのアミノ酸は重要ではないことを意味する。
【0037】
抗原の特定
小麦(パンコムギ(Triticum aestivum))に含まれるタンパク質を下記の条件で2次
元電気泳動に供し、小麦に対するアレルギーの抗原の特定を行った。
【0038】
1次元目の電気泳動は、等電点電気泳動用ゲルとして、ゲル長が5~10cmの範囲内であって、ゲルのpH範囲が3~10であり、泳動方向に対するゲルのpH勾配が、ゲルの全長を1とし、pH5までのゲル長をa、pH5~7のゲル長をb、pH7以上のゲル長をcとした場合において、aが0.15~0.3の範囲内、bが0.4~0.7の範囲内、cが0.15~0.3の範囲内であるゲルを用いて、具体的には、GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社(以下、GE社と省略する)製のIPGゲルImmobiline Drystrip (pH3-10NL)を用いて等電点泳動を行った。電気泳動機器は、GE社製のIPGphorを用い
た。電気泳動機器の電流値の上限をゲル1本当たり75μAに設定し、電圧プログラムを、(1)300V定電圧で750Vhrまで定電圧工程を行い(当該工程終了前の泳動30分間の電流変化幅が5μAであった)、(2)300Vhrかけて1000Vまで徐々に電圧を上昇させ、(3)更に4500Vhrかけて5000Vまで徐々に電圧を上昇させ、(4)その後5000V定電圧で総Vhrが12000になるまで、1次元目の等電点電気泳動を行った。
【0039】
2次元目の電気泳動は、泳動方向基端部のゲル濃度が3~6%に設定され、泳動方向先端側の部分のゲル濃度が泳動方向基端部のゲル濃度よりも高く設定されたポリアクリルアミドゲルを用いて、具体的にはlife technologies社製のNuPAGE 4-12% Bis-Tris Gels IPG well mini 1mmを用いてSDS-PAGEを行った。電気泳動機器は、life technologies社製のXCell SureLock Mini-Cellを用いた。泳動緩衝液として50mM MOPS、50mM Tris塩基、0.1%(w/v)SDS、1mM EDTAを用い、200V定電圧で約45分間泳動を行った。
【0040】
その結果、小麦のタンパク質について上記の条件で2次元電気泳動を行った際のゲルにおいて、以下のスポット1~16の抗原が、小麦に対するアレルギー患者のIgE抗体に特異的に結合することを明らかにした(
図2)。
【0041】
抗原(タンパク質)
各スポットについて質量分析による配列同定を行った。質量分析装置から得られた質量データをUniprotのタンパク質データと照合して解析した。その結果、スポット1~16の各スポットが公知の配列と一致することが判明した。
各スポットの情報を以下の表1にまとめた
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【表1-14】
スポット11と12及びスポット15と16は同じタンパク質に由来し、(1)-(14)の計14種類のタンパク質が小麦由来の新規抗原として同定された。
【0056】
非限定的に、本発明においてスポット1の抗原は、以下(1-a)~(1-f)のいずれかであってよい。
【0057】
(1-a)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(1-b)配列番号2において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(1-c)配列番号2で示されるアミノ酸配列と同一性が70%以上のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(1-d)配列番号1において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(1-e)配列番号1で示される塩基配列と同一性が70%以上の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;又は
(1-f)配列番号1で示される塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるアミノ酸配列を含む
タンパク質。
【0058】
(2-a)配列番号4のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(2-b)配列番号4において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(2-c)配列番号4で示されるアミノ酸配列と同一性が70%以上のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(2-d)配列番号3において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(2-e)配列番号3で示される塩基配列と同一性が70%以上の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;又は
(2-f)配列番号3で示される塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質。
【0059】
(3-a)配列番号6のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(3-b)配列番号6において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(3-c)配列番号6で示されるアミノ酸配列と同一性が70%以上のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(3-d)配列番号5において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(3-e)配列番号5で示される塩基配列と同一性が70%以上の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;又は
(3-f)配列番号5で示される塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質。
【0060】
(4-a)配列番号8のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(4-b)配列番号8において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(4-c)配列番号8で示されるアミノ酸配列と同一性が70%以上のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(4-d)配列番号9において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(4-e)配列番号9で示される塩基配列と同一性が70%以上の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;又は
(4-f)配列番号9で示される塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質。
【0061】
(5-a)配列番号10のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(5-b)配列番号10において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(5-c)配列番号10で示されるアミノ酸配列と同一性が70%以上のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(5-d)配列番号9において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(5-e)配列番号9で示される塩基配列と同一性が70%以上の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;又は
(5-f)配列番号9で示される塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質。
【0062】
(6-a)配列番号12のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(6-b)配列番号12において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(6-c)配列番号12で示されるアミノ酸配列と同一性が70%以上のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(6-d)配列番号11において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(6-e)配列番号11で示される塩基配列と同一性が70%以上の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;又は
(6-f)配列番号11で示される塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質。
【0063】
(7-a)配列番号14のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(7-b)配列番号14において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(7-c)配列番号14で示されるアミノ酸配列と同一性が70%以上のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(7-d)配列番号13において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(7-e)配列番号13で示される塩基配列と同一性が70%以上の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;又は
(7-f)配列番号13で示される塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質。
【0064】
(8-a)配列番号16のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(8-b)配列番号16において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(8-c)配列番号16で示されるアミノ酸配列と同一性が70%以上のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(8-d)配列番号15において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(8-e)配列番号15示される塩基配列と同一性が70%以上の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;又は
(8-f)配列番号15示される塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質。
【0065】
(9-a)配列番号18のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(9-b)配列番号18において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(9-c)配列番号18で示されるアミノ酸配列と同一性が70%以上のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(9-d)配列番号17において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(9-e)配列番号17示される塩基配列と同一性が70%以上の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;又は
(9-f)配列番号17で示される塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質。
【0066】
(10-a)配列番号20のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(10-b)配列番号20において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(10-c)配列番号20で示されるアミノ酸配列と同一性が70%以上のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(10-d)配列番号19において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(10-e)配列番号19で示される塩基配列と同一性が70%以上の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;又は
(10-f)配列番号19で示される塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質。
【0067】
(11-a)配列番号22のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(11-b)配列番号22において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(11-c)配列番号22で示されるアミノ酸配列と同一性が70%以上のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(11-d)配列番号21において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(11-e)配列番号21で示される塩基配列と同一性が70%以上の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;又は
(11-f)配列番号21で示される塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質。
【0068】
(12-a)配列番号24のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(12-b)配列番号24において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(12-c)配列番号24で示されるアミノ酸配列と同一性が70%以上のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(12-d)配列番号23において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(12-e)配列番号23で示される塩基配列と同一性が70%以上の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;又は
(12-f)配列番号23で示される塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質。
【0069】
(13a)配列番号26のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(13-b)配列番号26において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(13-c)配列番号26で示されるアミノ酸配列と同一性が70%以上のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(13-d)配列番号25において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(13-e)配列番号25で示される塩基配列と同一性が70%以上の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;又は
(13-f)配列番号25で示される塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質。
【0070】
(14a)配列番号28のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(14-b)配列番号28において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(14-c)配列番号28で示されるアミノ酸配列と同一性が70%以上のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(14-d)配列番号27において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(14-e)配列番号27で示される塩基配列と同一性が70%以上の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質;又は
(14-f)配列番号27で示される塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質。
【0071】
上記(1)~(14)の抗原であるタンパク質及び後述する(E1)-(E50)のポリペプチドには、リン酸化や糖鎖修飾、アミノアシル化、開環、脱アミノ化などにより、当該タンパク質またはポリペプチドのアミノ酸残基が修飾を受けている態様もまた含まれる。
【0072】
好ましくは、上記(1)~(14)の抗原であるタンパク質及び後述する(E1)-(E50)のポリペプチドは、アレルギーの抗原である。
【0073】
本明細書において、アミノ酸配列について「1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加された」という場合は、対象となるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失しているか、他のアミノ酸に置換されているか、他のアミノ酸が挿入されているか、および/または他のアミノ酸が付加されているアミノ酸配列をいう。「数個のアミノ酸」とは、非限定的に、200個以内、100個以内、50個以内、30個以内、20個以内、15個以内、12個以内、10個以内、8個以内、6個以内、4個以内、3個以内のアミノ酸を意味する。あるいは、数個のアミノ酸とは、アミノ酸配列の全長に対して30%、好ましくは25%、20%、15%、10%、5%、3%、2%または1%のアミノ酸を意味する。
【0074】
上記のうち、置換は、好ましくは保存的置換である。保存的置換とは、特定のアミノ酸残基を類似の物理化学的特徴を有する残基で置き換えることであるが、もとの配列の構造に関する特徴を実質的に変化させなければいかなる置換であってもよく、例えば、置換アミノ酸が、もとの配列に存在するらせんを破壊したり、もとの配列を特徴付ける他の種類の二次構造を破壊したりしなければいかなる置換であってもよい。以下に、アミノ酸残基の保存的置換について置換可能な残基ごとに分類して例示するが、置換可能なアミノ酸残基は以下に記載されているものに限定されるものではない。
A群:ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン、メチオニン、グリシン、システイン、プロリン
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸
C群:アスパラギン、グルタミン
D群:リジン、アルギニン、
E群:セリン、スレオニン
F群:フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン
非保存的置換の場合は、上記種類のうち、ある1つのメンバーと他の種類のメンバーとを交換することができる。例えば、不用意な糖鎖修飾を排除するために上記のB、D、E群のアミノ酸をそれ以外の群のアミノ酸に置換してもよい。または、3次構造でタンパク質中に折りたたまれることを防ぐためにシステインを欠失させるか、他のアミノ酸に置換してもよい。あるいは、親水性/疎水性のバランスが保たれるように、または合成を容易にするために親水度を上げるように、アミノ酸に関する疎水性/親水性の指標であるアミノ酸のハイドロパシー指数(J. Kyte 及びR. Doolittle, J. Mol. Biol., Vol.157, p.105-132, 1982)を考慮して、アミノ酸を置換してもよい。
【0075】
別の態様として、元のアミノ酸よりも立体障害の少ないアミノ酸への置換、例えばF群からA、B、C、D、E群への置換;電荷を持つアミノ酸から電荷を持たないアミノ酸への置換、例えばB群からC群への置換、をしてもよい。そうすることで、IgE抗体との結合性が向上することがある。
【0076】
本明細書において、2つのアミノ酸配列の同一性%は、視覚的検査及び数学的計算によって決定することができる。また、コンピュータープログラムを用いて同一性%を決定することもできる。そのようなコンピュータープログラムとしては、例えば、BLAST及びClustalW等があげられる。特に、BLASTプログラムによる同一性検索の各種条件(パラメーター)は、Altschulら(Nucl. Acids. Res., 25, p.3389-3402, 1997)に記載されたもので、NCBIやDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のウェブサイトから公的に入手することができる(BLASTマニュアル、Altschulら NCB/NLM/NIH Bethesda, MD 20894;Altschulら)。また、遺伝情報処理ソフトウエアGENETYX Ver.7(ゼネティックス)、DNASIS Pro(日立ソフト)、Vector NTI(Infomax)等のプログラムを用いて
決定することもできる。
【0077】
本明細書において、塩基配列について「1もしくは数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入もしくは付加された」という場合は、対象となる塩基配列において、1個もしくは数個のヌクレオチドが欠失しているか、他のヌクレオチドに置換されているか、他のヌクレオチドが挿入されているか、および/または他のヌクレオチドが付加されている塩基配列をいう。「数個のヌクレオチド」とは、非限定的に、600個以内、300個以内、150個以内、100個以内、50個以内、30個以内、20個以内、15個以内、12個以内、10個以内、8個以内、6個以内、4個以内、3個以内のヌクレオチド酸を意味する。あるいは、数個のヌクレオチドとは、塩基配列の全長に対して30%、好ましくは25%、20%、15%、10%、5%、3%、2%または1%のヌクレオチドを意味する。上記ヌクレオチドの欠失、置換、挿入もしくは付加により、アミノ酸をコードする配列にフレームシフトを生じないことが好ましい。
【0078】
本明細書において、2つの塩基配列の同一性%は、視覚的検査及び数学的計算によって決定することができる。また、コンピュータープログラムを用いて同一性%を決定することもできる。そのような配列比較コンピュータープログラムとしては、例えば、米国国立医学ライブラリーのウェブサイト:https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiから利用できるBLASTNプログラム(Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215: 403-10):バージョン2.2.7、又はWU-BLAST2.0アルゴリズム等があげられる。WU-BLAST2.0についての標準
的なデフォルトパラメーターの設定は、以下のインターネットサイト:http://blast.wustl.eduに記載されているものを用いることができる。
【0079】
本明細書における「ストリンジェントな条件下」とは、中程度又は高度にストリンジェ
ントな条件においてハイブリダイズすることを意味する。具体的には、中程度にストリンジェントな条件としては、例えば、DNAの長さに基づき、一般の技術を有する当業者によって、容易に決定することが可能である。基本的な条件は、Sambrookら,Molecular Cloning: A Laboratory Manual,第3版,第6-7章,Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001に示されている。好ましくは、中程度にストリンジェントな条件は、ハイブリ
ダイゼーション条件として、1×SSC~6×SSC、42℃~55℃の条件、より好ましくは、1×SSC~3×SSC、45℃~50℃の条件、最も好ましくは、2×SSC、50℃の条件があげられる。ハイブリダイゼーション溶液中に、例えば、約50%のホルムアミドを含む場合には、上記温度よりも5ないし15℃低い温度を採用する。洗浄条件としては、0.5×SSC~6×SSC、40℃~60℃があげられる。ハイブリダイゼーション及び洗浄時には、一般に、0.05%~0.2%、好ましくは約0.1%SDSを加えてもよい。高度にストリンジェントな条件もまた、例えばDNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することが可能である。一般に、高度にストリンジェント(ハイストリンジェント)な条件としては、中程度にストリンジェントな条件よりも高い温度及び/又は低い塩濃度でのハイブリダイゼーション及び/又は洗浄を含む。例えば、ハイブリダイゼーション条件として、0.1×SSC~2×SSC、55℃~65℃の条件、より好ましくは、0.1×SSC~1×SSC、60℃~65℃の条件、最も好ましくは、0.2×SSC、63℃の条件があげられる。洗浄条件として、0.2×SSC~2×SSC、50℃~68℃、より好ましくは、0.2×SSC、60~65℃が挙げられる。
【0080】
非限定的に、上記(1)-(14)の(b)-(f)の項目に相当する変異体において、後述するエピトープ(変異体)のアミノ酸配列を含むことが好ましい。含まれるエピトープのアミノ酸配列は1つに限定されず、好ましくは各タンパク質に各々由来するエピトープの配列を全て含む。例えば、タンパク質(1)に由来するエピトープは(E9)、(E31)、(E11)、(E36)及び(E43)である。(1-b)-(1-f)は、好ましくは、(E9)、(E31)、(E11)、(E36)又は(E43)エピトープのアミノ酸配列(変異体を含む)を1つ以上含む。
【0081】
抗原は、小麦から当業者に周知のタンパク質精製方法を組み合わせて分離・精製することによって得てもよい。または、抗原は、当業者に周知の遺伝子組換え技術により抗原を組換えタンパク質として発現させ、そして当業者に周知のタンパク質精製方法により分離・精製することによって得てもよい。
【0082】
タンパク質の精製方法としては、例えば、塩析、溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、SDS-PAGEなど分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーやヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。
【0083】
遺伝子組換え技術によるタンパク質の調製は、抗原をコードする核酸を含む発現ベクターを調製し、当該発現ベクターを適切な宿主細胞中に遺伝子導入または形質転換により導入し、当該宿主細胞を組換えタンパク質の発現に適する条件下で培養し、そして当該宿主細胞中で発現された組換えタンパク質を回収することにより行う。
【0084】
「ベクター」は、それに連結させた核酸を宿主細胞内に導入するために用いることが可能な核酸であり、「発現ベクター」はベクターにより導入された核酸がコードするタンパク質の発現を導くことが可能なベクターである。ベクターには、プラスミドベクター、ウイルスベクター等が含まれる。当業者は、使用する宿主細胞の種類に応じて、組換えタン
パク質の発現に適切な発現ベクターを選択することができる。
【0085】
「宿主細胞」は、ベクターにより遺伝子導入または形質転換を受ける細胞である。宿主細胞は、使用するベクターに応じて当業者が適切に選択することができる。宿主細胞は、例えば、大腸菌(E. coli)などの原核生物由来であることが可能である。大腸菌のよう
な原核細胞を宿主として使用する場合、本発明の抗原は、原核細胞内での組換えタンパク質の発現を容易にするためにN末端メチオニン残基を含むようにしてもよい。このN末端メチオニンは、発現後に組換えタンパク質から切り離すこともできる。あるいは、酵母などの単細胞真核生物、植物細胞、動物細胞(例えば、ヒト細胞、サル細胞、ハムスター細胞、ラット細胞、マウス細胞または昆虫細胞)などの、真核生物由来の細胞やカイコであることが可能である。
【0086】
発現ベクターの宿主細胞への遺伝子導入または形質転換は、当業者に公知の手法により適宜行うことができる。また、当業者は、宿主細胞の種類に応じて組換えタンパク質の発現に適する条件を適宜選択し、宿主細胞を培養することにより組換えタンパク質を発現させることができる。そして、組換えタンパク質を発現した宿主細胞をホモジナイズし、得られたホモジネートから上述したタンパク質の精製方法を適宜組み合わせて行うことにより、組換えタンパク質として発現された抗原を分離・精製することができる。上記発現ベクター若しくは合成した二本鎖DNA、またはそれらから転写したmRNAを無細胞タンパク質合成系に導入して発現し、発現されたタンパク質を分離・精製することによっても抗原を調製することができる。
【0087】
本発明の抗原は、好ましくは、アレルギー患者のIgE抗体に特異的に結合する。
【0088】
診断キット・診断方法(1)
本発明は、対象のアレルギーを診断するための指標を提供する方法であって、以下の工程:
(i)対象から得られた試料を抗原に接触させる、ここで当該試料はIgE抗体が含まれる溶液である;
(ii)対象から得られた試料中のIgE抗体と当該抗原との結合を検出する;
(iii)対象のIgE抗体と当該抗原との結合が検出された場合、対象がアレルギーであることの指標が提供される;
を含み、ここで当該抗原は上記(1)~(14)の抗原として特定されるタンパク質の少なくとも一つである、前記方法を提供する。
【0089】
「アレルギー」は、非限定的に、一態様において、穀物に対するアレルギー、好ましくはイネ科の穀物に対するアレルギー、小麦に対するアレルギーである。
【0090】
本明細書において「診断」とは、一般的に医師による(確定的な)診断以外に、可能性を含めた単なる「検出」も含む。本明細書において「診断」「検出」は、一態様において、in vivo、in vitro又はex vivoの「診断」「検出」である。好ましくは、in vitroの「診断」「検出」である。
【0091】
対象から得られた試料とは、対象から採取されたIgE抗体、が含まれる溶液である。そのような溶液には、例えば、血液、唾液、痰、鼻水、尿、汗、涙が含まれる。対象から得られた試料は、抗原に接触させる前に、試料中のIgE抗体濃度を高めるための前処理が施されていてもよい。試料の前処理としては、例えば血液から血清、血しょうを得ることが含まれてもよい。またさらに、抗原との結合部分であるFab部分を精製してもよい。特に好ましい態様において、上記工程(i)は、対象から得られた血清中のIgE抗体と抗原を接触させることにより行われる。
【0092】
IgE抗体は、IgE抗体そのものであってもよく、IgE抗体が結合した肥満細胞等であってもよい。
【0093】
対象から得られた試料と抗原との接触およびその結合の検出は、既知の方法により行うことが可能である。そのような方法には、例えば、ELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)、サンドイッチ免疫測定法、イムノブロット法、免疫沈降法、イムノクロ
マト法による検出を用いることができる。これらはいずれも、抗原に対象のIgE抗体を接触させて結合させ、抗原に特異的に結合したIgE抗体に対して酵素標識した二次抗体を作用させ、酵素の基質(通常は、発色あるいは発光試薬)を加えて酵素反応の生成物を検出することにより、抗原と対象のIgE抗体の結合を検出する手法である。もしくは、蛍光標識した二次抗体を検出する方法である。あるいは、表面プラズモン共鳴(SPR)等
の、抗原とIgE抗体の結合を評価可能な測定方法による検出を用いることもできる。複数種の抗原特異的IgE抗体が混合されていてもよい。
【0094】
抗原は、単離された抗原が担体に固定されている状態であってもよい。この場合は上記工程(i)および(ii)においてELISA、サンドイッチ免疫測定法、イムノクロマト法、表面プラズモン共鳴等が利用でき、また、上記工程(i)では、対象から得られた試料を、抗原を固定した面に接触させることにより行う。単離された抗原は、対象(原料、加工品等)から当業者に周知のタンパク質精製方法を組み合わせて分離・精製することによって、または遺伝子組換え技術により調製することによって得てもよい。また、抗体が貼り付けられたものであってもよい。
【0095】
抗原は担体に固定されていない状態であってもよい。この場合は、上記工程(i)および(ii)において、フローサイトメトリー等が利用でき、レーザー光により抗体が結合した抗原の存在を確認できる。例えば、好塩基球活性化試験(BAT)等が挙げられる。また、抗原を試料中の血球にさらに接触させることにより、ヒスタミンを遊離するかどうかを調べるヒスタミン遊離試験(HRT)も挙げられる。
【0096】
また、抗原は2次元電気泳動により分離した状態から転写してイムノブロット法による検出を行ってもよい。2次元電気泳動は、1次元目に等電点電気泳動、2次元目にSDS-PAGEを行うことで、タンパク質試料を分離する手法である。この場合、2次元電気泳動の条件は、本発明の抗原が分離できる条件であれば特に限定されない。例えば、上記「抗原の特定」の項目において記載した2次元電気泳動の条件を利用できる。あるいは、上述の特許文献1~4の記載を参考にして電気泳動の条件を定めることもでき、例えば、以下:
(A)1次元目の等電点電気泳動ゲルとして、ゲル長が5~10cmの範囲内であって、ゲルのpH範囲が3~10であり、泳動方向に対するゲルのpH勾配が、pH5までのゲル長をa、pH5~7のゲル長をb、pH7以上のゲル長をcとした場合において、「a<b]及び「b>c」の関係を満たす;
(B)(A)の場合であって、ゲルの全長を1とした場合、aが0.15~0.3の範囲内、bが0.4~0.7の範囲内、cが0.15~0.3の範囲内である;
(C)1次元目の等電点電気泳動において、検体を含むゲル1本につき100V~600Vの範囲内の値の定電圧の印加による定電圧工程を行い、泳動30分あたりの泳動変化幅が5μAの範囲内となった後に前記定電圧から電圧を上昇させる電圧上昇行程を始める;
(D)(C)の場合に、電圧上昇工程の最終電圧を3000V~6000Vの範囲内とする;
(E)1次元目の等電点電気泳動ゲルの長手方向のゲル長が5~10cmであって、2次元目電気泳動ゲルの泳動方向基端部のゲル濃度を3~6%とする;および
(F)(E)の場合に、2次元目電気泳動ゲルの泳動方向先端側の部分のゲル濃度が、泳動方向基端部のゲル濃度よりも高く設定する;
からなる群より選択される少なくとも一つを満たす条件で2次元電気泳動を行うことができる。
【0097】
上記(1)~(14)の抗原は、アレルギーの患者(例えば、小麦に対するアレルギーの患者)のIgE抗体と特異的に結合する抗原である。したがって、対象のIgE抗体と当該抗原との結合が検出された場合、対象がアレルギーを有することの指標が提供される。
【0098】
本発明はまた、上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つを含むアレルギーの診断キットを提供する。本発明の診断キットは、上記のアレルギーを診断するための指標を提供する方法、または下記の診断方法に用いてもよい。本発明の診断キットは、上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つを含むほか、酵素標識された抗IgE抗体および当該酵素の基質となる発色基質または発光基質を含んでいてもよい。また、蛍光標識された抗IgE抗体を用いてもよい。本発明の診断キットにおいて、抗原は担体に固定化された状態で提供されてもよい。本発明の診断キットはまた、診断のための手順についての説明書や当該説明を含むパッケージと共に提供されてもよい。
【0099】
別の態様において、上記の診断キットは、アレルギーについてのコンパニオン診断薬を含む。コンパニオン診断薬とは、医薬品の効果が期待される患者の特定または医薬品の重篤な副作用リスクを有する患者の特定、あるいは医薬品を用いた治療の最適化のために当該医薬品の反応性を検討するために用いるものである。ここで治療の最適化とは、例えば、用法容量の決定や投与中止の判断、どのアレルゲンコンポーネントを使って免疫寛容するかの確認等が含まれる。
【0100】
本発明はまた、上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つを含むアレルギーの診断用組成物を提供する。本発明の診断用組成物は、下記の診断方法に用いることができる。本発明の診断用組成物は、必要に応じて本発明の抗原とともに一般的に用いられる、薬学的に許容される担体や添加剤を含んでいてもよい。
【0101】
一態様において、本発明は、対象のアレルギーを診断する方法であって、以下の工程:
(i)対象から得られた試料を抗原に接触させる;
(ii)対象から得られた試料中のIgE抗体と当該抗原との結合を検出する;
(iii)対象のIgE抗体と当該抗原との結合が検出された場合、対象がアレルギーであると判断する;
ことを含み、ここで当該抗原は上記(1)~(14)の抗原として特定されるタンパク質の少なくとも一つである、前記方法を提供する。ここにおいて(i)および(ii)の各工程は、アレルギーを診断するための指標を提供する方法の各工程について説明したとおりに行われる。
【0102】
別の態様において、本発明は、対象のアレルギーを診断する方法であって、上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つを対象に投与することを含む、前記方法を提供する。当該方法は、皮膚に抗原を適用することを特徴とする皮膚テストの形式で行ってもよい。皮膚テストには、皮膚上に診断用組成物を適用した後に、出血しない程度に微少な傷をつけることで皮膚に抗原を浸透させて皮膚反応を観察するプリックテスト、診断用組成物を適用した上に皮膚を少し引っ掻いて反応を観察するスクラッチテスト、クリームや軟膏などの形態の診断用組成物を皮膚に適用して反応を観察するパッチテスト、抗原を皮内に投与して反応を観察する皮内テスト、などの形態が含まれる。抗原を適用した部分の皮膚に腫れなどの皮膚反応が生じた場合、その対象はアレルギーを有すると診断する。ここで、
皮膚に適用する抗原の量は、例えば、1回あたり100μg以下の用量であってよい。
【0103】
アレルギーの診断においては、抗原の特定を目的とした負荷試験がしばしば行われている。上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つは、アレルギーであることを診断するための負荷試験の有効成分として用いることができる。ここで、負荷試験に用いる抗原タンパク質としては、発現精製したタンパク質であってもよく、例えば、イネにスギ花粉抗原の遺伝子を形質転換し、その抗原タンパク質を米内に発現させた花粉米のように、原料・加工品において発現させたものであってもよい。
【0104】
一態様において、上記の診断用組成物、診断キットは、プリックテスト、スクラッチテスト、パッチテスト、皮内テスト等のために使用することが可能である。
【0105】
また別の態様において、本発明はアレルギーの診断に使用するための上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つを提供する。ここで、上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つを、既知の抗原と混合して提供することも含む。
【0106】
さらなる別の態様において、本発明はアレルギーの診断用組成物の製造における上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つの使用を提供する。
【0107】
組成物・治療方法(1)
本発明は、上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つを含む組成物を提供する。
【0108】
一態様において、本発明の組成物は医薬組成物である。一態様において、本発明の組成物は医薬部外組成物、医薬用でない組成物(例えば化粧用組成物、食品組成物)である。
【0109】
一態様において、上記の組成物は、アレルギー(例えば、小麦に対するアレルギー)を治療するために用いられる。本明細書において、「アレルギーの治療」とは、体内に取り込んでも発症しない抗原の限界量を増やすことであり、最終的には通常の抗原の摂取量では発症しない状態(寛解)を目指すものである。
【0110】
本発明はまた、アレルギーの治療を必要とする患者に対して、上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つを投与することを含む、アレルギーを治療する方法を提供する。
【0111】
別の態様において、本発明はアレルギーの治療に使用するための上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つを提供する。さらに別の態様において本発明は、アレルギーの治療薬の製造のための上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つの使用を提供する。
【0112】
アレルギーの治療においては、患者に抗原を投与することで免疫寛容へと誘導することを目標とした、減感作療法がしばしば行われている。上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つは、アレルギーに対する減感作療法のための有効成分として用いることができる。ここで、減感作療法に用いる抗原タンパク質としては、発現精製したタンパク質であってもよく、例えば、イネにスギ花粉抗原の遺伝子を形質転換し、その抗原タンパク質を米内に発現させた花粉米のように、原料・加工品において発現させたものであってもよい。
【0113】
本発明の組成物は、通常の投与経路により投与することができる。通常の投与経路には例えば、経口、舌下、経皮、皮内、皮下、血液内、鼻腔内、筋肉内、腹腔内、直腸内の投与が含まれる。
【0114】
本発明の組成物は、必要に応じて本発明の抗原と共に、一般的に用いられる薬学的に許
容されるアジュバント、賦形剤、または各種の添加剤(例えば安定剤、溶解補助剤、乳濁化剤、緩衝剤、保存剤、着色剤等)を常法により添加した組成物として用いることができる。組成物の剤型は、投与経路に応じて当業者が適宜選択することができる。例えば、錠剤、カプセル剤、トローチ、舌下錠、注射剤、鼻腔内噴霧剤、パップ剤、液剤、クリーム剤、ローション剤、坐剤等の形態であってよい。本発明の組成物の投与量、投与回数および/または投与期間は、投与経路、症状、年齢や体重などの患者の特性等に応じて医師が適宜選択することができる。例えば、成人の場合、1回あたり100μg以下の用量で投与してもよい。投与間隔は、例えば、毎日、毎週1回、月に2回、又は3ヶ月に1回程度であってよい。投与期間は例えば、数週間から数年であってよい。投与期間内において、投与量を段階的に増加させる投与方法であってもよい。
【0115】
テスター組成物(1)
本発明は、上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つに対する抗体を含むテスター組成物を提供する。
【0116】
当該抗体は、常法により作製することができる。例えば、ウサギなどの哺乳動物を上記(1)~(14)の抗原で免疫することにより作製してもよい。当該抗体は、Ig抗体、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、またはそれらの抗原結合フラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2、Fab’)であってもよい。
【0117】
また、上記のテスター組成物において、当該抗体は担体に結合した形で提供されていてもよい。担体は、抗体と抗原の結合の検出に利用可能な担体であれば特に限定されない。当業者に公知の任意の担体が利用できる。
【0118】
抗原含有の有無を調べる方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
・作製したIg抗体を含むテスター組成物を原料・加工品等から得られた試料に接触させて、例えばELISA等を用いて当該Ig抗体と試料中の抗原との結合を検出し、当該Ig抗体と抗原との結合が検出された場合に、対象原料・加工品等に当該抗原が含まれると判断する方法。
・ろ紙などに原料・加工品をしみこませ、そこに含まれる抗原を検出するように、抗体溶液を反応させる方法。
【0119】
本発明の別の態様において、配列番号配列番号1、3,5、7,9,11,13,15,17、19、21、23、25または27で示される塩基配列の少なくとも1つの一部と相補的な塩基配列を有するプライマーを含むことを特徴とする、対象物におけるアレルギーの抗原の有無を判定するためのテスター組成物を含む。非限定的に、上記プライマーは例えば、配列番号1、3,5、7,9,11,13,15,17、19、21、23、25または27で示される塩基配列の少なくとも1つの配列の一部の3’末端の部分または中央部分の配列の、好ましくは、12残基、15塩基、20塩基、25塩基と相補的な塩基配列を有する。特にmRNAを対象とする場合は、ポリAテールの相補プライマーを有する。好ましい態様において、上記のプライマーを含むテスター組成物は、さらに配列番号配列番号1、3,5、7,9,11,13,15,17、19、21、23、25または27で示される塩基配列の少なくとも1つの配列の5’末端の部分の塩基配列、好ましくは12塩基、15塩基、20塩基、25塩基からなる塩基配列を含むプライマーを含んでもよい。
【0120】
例えば、小麦から得られたDNAまたはmRNAを鋳型として、前記相補的なプライマーを用い、RT-PCR(Reverse Transcription-Polymerase Chain Reaction)を含む
PCR(Polymerase Chain Reaction)でcDNAを増幅し、増幅されたcDNAの配列
を配列番号1、3,5、7,9,11,13,15,17、19、21、23、25また
は27と比較することで、抗原の有無を判断する。PCRで増幅する方法は、RACE(Rapid Amplification of cDNA End)法等が例示できる。この時、増幅されたcDNAと配
列番号1、3,5、7,9,11,13,15,17、19、21、23、25または27との比較において、同じアミノ酸をコードする点変異が存在する場合、または、増幅されたcDNAの塩基配列において、配列番号1、3,5、7,9,11,13,15,17、19、21、23、25または27の塩基配列に対する塩基の挿入、欠失、置換もしくは付加が存在しても、当該cDNAコードするアミノ酸配列が配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22,24または28のアミノ酸配列に対して同一性が70%以上、好ましくは80、90、95、98、99%以上となる場合は、抗原が存在すると判断する。
【0121】
一態様において、上記のテスター組成物は、例えば、食材(小麦)または食品製造ライン中などの対象物中の抗原含有の有無を調べるために用いられる。上記テスター組成物は、製造業者による製造ラインおよび出荷前製品の品質検査用として用いてもよく、喫食者自身による対象原料・加工品の抗原含有の有無のチェック用として用いてもよい。また質量分析装置による該当タンパク質のピークの増減による抗原含有のチェック用として用いてもよい。
【0122】
抗原の有無の判定方法(1)
本発明は、上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つに対する抗体を、原料・加工品(液体を含む)とを接触させることを含む、上記(1)~(14)の抗原の対象物質中の有無を判定する方法を含む。
【0123】
原料は食材であってもよく、化粧品原料、医薬品原料等であってもよい。加工品は食用加工品であってもよく、化粧品、医薬品等であってもよい。
【0124】
当該抗体、抗体の作製方法、抗体と原料・加工品とを接触させる方法、抗体と抗原との結合等については、「テスター組成物(1)」で上述した通りである。
【0125】
抗原除去食品等(1)
本発明は、上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つが除去又は低減されていることを特徴とする原料または加工品を提供する。一態様において、「原料または加工品」は、「小麦または小麦加工品」である。
【0126】
原料または加工品において、本発明の抗原を除去又は低減する方法は限定されない。抗原の除去又は低減は、本発明の抗原が除去又は低減される限り、いかなる方法によって行われてもよい。
【0127】
例えば、本発明の抗原が除去又は低減された原料(例えば、小麦)は、遺伝子改変技術を用いて、本発明の抗原の発現が改変された原料を調製してもよい。
【0128】
遺伝子改変技術は、当業者に公知の手法のいずれかを用いることができる。例えば、 Oishi, et al.(Scientific Reports, Vol.6, Article number: 23980, 2016, doi:10.1038/srep23980)は、ゲノム編集技術であるCRISPER/Cas9をニワトリの始原生殖細胞に適用
して、オボムコイド遺伝子欠失個体を得ることを記載している。同様の手法を利用して、本発明の抗原が除去された原料を得てもよい。
【0129】
また、抗原を含有しないまたは含有量の少ない原料(例えば、小麦)との人工授精による交配により、本発明の抗原が低減された小麦を得てもよい。原料の人工交配は例えば、食品の品種改良を目的とした、選択品種同士の受粉の方法等、常法により行うことができ
る。例えば選択品種としては抗原欠損小麦として低アレルゲン化小麦1BS-18ホクシンを選択することができる。
【0130】
本発明の抗原が除去又は低減された加工品は、本発明の抗原が除去又は低減された原料を材料とした加工品であってもよい。通常の原料を材料とする場合は、加工品の調製前または調製後に本発明の抗原を除去又は低減する処理を行う。通常の原料を材料とした加工品において本発明の抗原を除去又は低減する方法として、高圧処理および中性塩溶液による溶出や、高温スチーム等の、原料・加工品中のタンパク質成分を除去する方法や、熱処理および酸処理による加水分解・変性・アミノ酸変化(側鎖の化学修飾・脱離等)する方法が挙げられる。
【0131】
抗原が除去または低減されている原料または加工品の製造方法(1)
本発明は、抗原が除去または低減されている原料または加工品の製造方法であって、当該加工品の製造過程で抗原が除去又は低減されていることを確認するステップを有する、ここで当該抗原は上記(1)~(14)の抗原の少なくとも一つである、前記製造方法を提供する。
【0132】
抗原が除去または低減されている原料または加工品の製造過程で抗原が除去又は低減されていることを確認するステップは、上記「テスター組成物(1)」の項目において記載した方法により抗原の含有の有無を確認することにより行ってもよい。
【0133】
また、抗原が除去または低減されている小麦または小麦加工品の製造は、上記「抗原除去食品等」の項目において記載した方法により行ってもよい。
【0134】
エピトープ
実施例1-3に示すとおり特定した抗原ついて、実施例4に示すとおり、エピトープおよびそのエピトープ内でアレルギー患者のIgE抗体との結合性に重要なアミノ酸を特定した。
【0135】
結果を表2にまとめた。
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
【0181】
【0182】
【0183】
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
【0197】
【表2-62】
表2において、小麦アレルギー患者において、WDEIA症例はP2~36と表し、発症に運動を必要としない一般的な小麦による即時型アレルギー症例の小児はP50~57、成人はG1~9と表した。
【0198】
本発明は、アレルギー患者のIgE抗体に特異的に結合するアミノ酸配列を含むポリペプチドとして後述の表2に記載の配列番号29-2932(但し、配列番号138、227、259、269、273、342、399、2894を除く)の各アミノ酸配列を含む、または各アミノ酸配列からなる、(E1)~(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供する。(E1)~(E50)は、各々表2の「由来」に記載したタンパク質に由来するIgE抗体と結合するアミノ酸配列である(以下、「エピトープ」と呼称する場合がある)。
【0199】
(1)アルファ/ベータ-グリアジン MM1(alpha/beta-gliadin MM1)タンパク質由来:(E9)、(E31)、(E11)、(E36)、(E43);
(2)LMW-m グルテニン サブユニット8(LMW-m glutenin subunit 8)タンパク質由来:(E2)、(E13)、(E21);
(3)ガンマ-グリアジン P08453(Gamma-gliadin P08453)タンパク質由来:(E14)、(E24)、(E5)、(E25);
(4)フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼ(Fructose-bisphosphate aldola
se)タンパク質由来:(E33)、(E20)、(E34)、(E10)、(E15)、(E6)、(E16)、(E40)、(E30)、(E41);
(5)アルファ-グリアジン Gli2-LM2-12(Alpha-gliadin Gli2-LM2-12)タンパク質由来:(E9)、(E31)、(E11)、(E17)、(E7)、(E
22)、(E42);
(6)アルファ-グリアジン(断片) A0A0E3Z522(Alpha-gliadin (Fragment) A0A0E3Z522)タンパク質由来:(E9)、(E31)、(E11)、(E36)
、(E35);
(7)ガンマ-グリアジン A1(Gamma-gliadin A1)タンパク質由来:(E4)、(E19);
(8)アルファ/ベータ-グリアジン I0IT53(Alpha/beta-gliadin I0IT53)タンパク質由来:(E23)、(E12)
(9)LMW-D8(LMW-GS)タンパク質由来:(E8)、(E1)、(E18)、(E3)、(E39);
(10)グロブリン 1-S アリル(Globulin 1-S allele1)タンパク質由来:(E49)、(E50);
(11)グロブリンン3(Globulin 3)タンパク質由来:(E49)、(E50)
;
(12)伸長因子1-アルファ(Elongation factor 1-alpha)タンパク質由来:(
E38)、(E45)、(E28)、(E26)、(E46)、(E47)、(E27)、(E29)、(E48)、(E32);
(13)アルファ-グリアジン(断片)A0A0E3UR64(Alpha-gliadin (Fragment) A0A0E3UR64)タンパク質由来:(E23)、(E11)、(E36)
(14)ガンマ-グリアジン I7KM78(Gamma-gliadin1 I7KM78)タンパク質
由来
(E9)と(E31)は同一配列である。(E9)と(E31)は、(1)、(5)及び(6)の3種類のタンパク質中に存在する。(E11)は、(1)、(5)、(6)及び(13)の4種類のタンパク質中に存在する。(E23)は、(8)及び(13)の2種類のタンパク質中に存在する。(E36)は、(1)、(6)及び(13)の3種類のタンパク質中に存在する。
【0200】
非限定的に、本発明のエピトープ抗原は、好ましくは以下のポリペプチドの少なくとも1つを含む。
【0201】
(E1)配列番号29-130及び2880のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E2)配列番号131-137、139-190のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E3)配列番号191-280(227,259,269及び273を除く)及び2881のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E4)配列番号281-341、343-345のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E5)配列番号346-398、400-413及び2882のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E6)配列番号414-492、2883及び2884のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E7)配列番号493-561のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E8)配列番号562-639のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミ
ノ酸配列を含むポリペプチド;
(E9)配列番号640-705及び2885-2888のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E10)配列番号706-775及び2889-2891のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E11)配列番号776-898及び2892のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E12)配列番号899-973、2893及び2895のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E13)配列番号974-1009のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E14)配列番号1010-1088及び2896-2899のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E15)配列番号1089-1141のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E16)配列番号1142-1165及び2900のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E17)配列番号1166-1208のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E18)配列番号1209-1256のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E19)配列番号1257-1296のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E20)配列番号1297-1366のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E21)配列番号1367-1402のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E22)配列番号1403-1507のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E23)配列番号1508-1565及び2901のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E24)配列番号1566-1597のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E25)配列番号1598-1607のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E26)配列番号1608-1684、2902及び2903のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E27)配列番号1685-1752、2904及び2905のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E28)配列番1753-1788、2906及び2907のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E29)配列番号1789-1835、2908及び2909のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E30)配列番号1836-1894、2910及び2911のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E31)配列番号1895-1976、2912及び2913のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E32)配列番号1977-2003のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E33)配列番号2004-2026のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つ
のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E34)配列番号2027-2067及び2914のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E35)配列番号2068-2153、2915及び2916のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E36)配列番号2154-2216のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E37)配列番号2217-2264及び2917-2921のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E38)配列番号2265-2308及び2922-2925のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E39)配列番号2309-2341のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E40)配列番号2342-2418のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E41)配列番号2419-2490のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E42)配列番号2491-2544、2926及び2927のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E43)配列番号2545-2612のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E44)配列番号2613-2630のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E45)配列番号2631-2673のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E46)配列番号2674-2700及び2928のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E47)配列番号2701-2773及び2929のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E48)配列番号2774-2808、2930及び2931のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(E49)配列番号2809-2829のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド;あるいは
(E50)配列番号2830-2879及び2932のアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド
好ましい態様として上述した(E1)~(E50)のポリペプチドは、表2に記載の通り、本明細書の実施例においてIgE抗体と結合するエピトープとして同定された具体的な配列である。本発明のエピトープ抗原としては、上述した好ましい態様の(E1)~(E50)のポリペプチド以外も、下記に説明する変異体等も含み得る。以下、本発明のエピトープ抗原に含まれうる態様(変異体)について説明する。
【0202】
表2の「共通15残基配列」に記載の、配列番号29、131、191、281、346、414、493、562、640、706、776、899、974、1010、1089、1142、1166、1209、1257、1297、1367、1403、1508、1566、1598、1608、1685、1753、1789、1836、1895、1977、2004、2027、2068、2154、2217、2265、2309、2342、2419、2491、2545、2613、2631、2674、2701、2774、2809、2830の50種類の各配列は、オーバーラッピングに基づくエピトープマッピングにより、(E1)-(E50)の各エピトープにおいてIgE抗体と結合するエピトープとして同定された共通15アミノ酸残基配列である。本発明は
一態様において、これらのアミノ酸配列を含む、あるいはこれらのアミノ酸配列からなるポリペプチドである。本発明のポリペプチド中に含まれるエピトープ配列は、この共通エピトープ15アミノ酸残基全体、またはその一部でありうる。エピトープ配列は、4アミノ酸残基以上、5アミノ酸残基以上、6アミノ酸残基以上、7アミノ酸残基以上、8アミノ酸残基以上、9アミノ酸残基以上、10アミノ酸残基以上、11アミノ酸残基以上、12アミノ酸残基以上、13アミノ酸残基以上、14アミノ酸残基以上である。
【0203】
本明細書の実施例において、例えば、4アミノ酸残基からなるポリペプチド(例えば、配列番号30、58、61、222,238、345等)が多数において、IgE抗体と結合するエピトープとして同定された。さらに、5アミノ酸残基、それ以上の場合も多数、IgE抗体と結合性が確認された。よって、少なくとも4アミノ酸残基存在すればエピトープ配列として有用である。
【0204】
本発明のポリペプチドの変異体の一態様としては、上記(E1)~(E50)に具体的に記載したアミノ酸配列の4つ以上のアミノ酸残基を含むポリペプチドを含む。例えば、(E1)の変異体として、「配列番号29-130、2880のアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸配列中の4つ以上のアミノ酸残基を含むポリペプチド」を含みうる。好ましくは、配列番号29-130、2880のアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸配列中の、4アミノ酸残基以上、5アミノ酸残基以上、6アミノ酸残基以上、7アミノ酸残基以上、8アミノ酸残基以上、9アミノ酸残基以上、10アミノ酸残基以上、11アミノ酸残基以上、12アミノ酸残基以上、13アミノ酸残基以上、14アミノ酸残基以上を含む。(E2)~(E50)も同様である。
【0205】
非限定的に、本発明の各ポリペプチドの変異体の一態様として以下のアミノ酸残基を含む。
【0206】
E1:ILWYHのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E2:FPQQHQQのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E3:QQPFPのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E5:QSFPQのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、RPFIQのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E6:WRAVLのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、KIGATのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、ATEPSのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E9:VPLVQのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E10:ILFEEのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、QSTKGのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E13:IIILQのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E14:VPQLQのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E15:TKGGKのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、KPFVDIのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E16:TEPSQLのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、SIDQNのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E17:PGQQQQのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、;
E18:PIQQQPのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E19:SMILPRSDCKVのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E20:INVENのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、VEDNRRのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E21:KPWQQのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、;
E22:YLQPQQPのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、SQQQAのうち少なくとも4つのアミノ残残基;
E23:VQQQのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、GQQQのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E24:PFPQTのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、;
E25:AQLEAIRSのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E26:YNPDKVのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、FVPISGのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E27:KEAANFのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、SQVIIMのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E28:SYLKKのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、KVGYNPのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E29:SGKELEのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、LPKFLKNのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E30:YTVRTLQRTのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E31:QVPLVのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E32:PTGAKのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、AKVTKのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、AAIKのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E33:TGTIGのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、KRFASのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E34:PGALQのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、YLSGVILのうち少なくと4つのアミノ酸残基;
E35:CTIAPのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、PFGIFGのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E36:YSQPQQのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、PISQのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、SQQQのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E37:SRLLRのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、IRNYRVのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E38:GIDKRのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、ERFEKのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E39:RAIIYのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E40:HDIDRのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、VTEIVのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E41:KAWSGKTのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E42:SQVSFのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、FQPSQLのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E43:QLVQQのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、QQLCCのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E44:LASLのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、SKRVのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E45:KEAAEのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、NKRSのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E46:KGPTLのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E47:YKIGGのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、PVGRVのうち少なくと4つのアミノ酸残基;
E48:KNGDのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、KMIPTのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E49:SANTHのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、RSKWのうち少なくとも4つのアミノ酸残基;
E50:IVVEGのうち少なくとも4つのアミノ酸残基、及び/又は、GRDGYのうち少なくとも4つのアミノ酸残基。
【0207】
上記配列は表2において示されるように、実施例において各エピトープに関しIgE抗体と結合する具体的な配列に関し、複数の配列に共通する配列として見出されたものである。
【0208】
表2において、「好ましい」配列は、「共通15残基配列」のうちエピトープとして機能し得るより短い部分配列である。「より好ましい」配列とは、IgE抗体との結合性を向上するために、前記の短い部分断片よりも好ましい配列である。「鍵」配列は、「共通15残基配列」または「鍵」配列のうち、特に重要と思われる配列を示す。「鍵」の配列のうち、「X」で示されたアミノ酸配列はアラニングリシンスキャンにより任意のアラニン(元のアミノ酸残基がアラニンの場合にはグリシン)に変更してもIgE抗体への結合性が残存することが確認されたアミノ酸残基である。よって、Xは、任意のアミノ酸残基であり、好ましくはアラニン(又はグリシン)である。なお、「鍵」の配列において「X」で示された配列が含まれないものは、アラニングリシンスキャンでIgE抗体への結合性が残存することが確認されたアミノ酸残基が見出されなかった場合である。
【0209】
表2に記載の各エピトープに関し、Xと示されているアミノ酸残基は、変化させてもIgE抗体への結合性が残存することが確認されたアミノ酸残基である。本発明は好ましくは、各「好ましい配列」に対応する「鍵配列」においてXと示されているアミノ酸残基の1つないし複数のアミノ酸残基が任意のアミノ酸残基に置換されていてもよい。例えば、一態様において、好ましい配列である配列番号29において対応する鍵配列は配列番号30、33等複数存在する。以下、(E1)のその他の「好ましい配列、「鍵配列」、(E2)-(E50)において同様である。
【0210】
置換されていても良いアミノ酸残基の数は限定されない、好ましくは、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、1個以下である。以下、(E2)-(E50)において同様である。
【0211】
表2のグラフNoの右の「合成配列」及び/又は「配列番号」の欄に記載の各配列は、実施例5においてエピトープ交差反応が確認された配列である。「エピトープ交差反応性が確認された」とは、各アレルギー患者の血清のIgE抗体が、非アレルギー被験者の血清中のIgE抗体よりもより高い結合性を示した(具体的には、
図7-12において「1」より大きい)ことを意味する。よって、一態様において、本発明のポリペプチドは、これらのアミノ酸配列を含む、または、これらのアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。一態様において、本発明のポリペプチドに対し、各アレルギー患者の血清のIgE抗体は、非アレルギー被験者の血清中のIgE抗体よりも、1.05倍以上、1.10倍以上、1.15倍以上、1.20倍以上、1.25倍以上高い結合性を示す。
【0212】
本明細書において、「(E1)~(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチド」は、好ましい態様として上述した(E1)~(E50)のポリペプチドの各アミノ酸配列を含む、または各アミノ酸配列からなるポリペプチド、並びに、上述したようにアミノ酸残基が置換されている態様(変異体)のいずれをも含む。「配列番号~~の各アミノ酸配列を含む」とは、配列番号~~の各アミノ酸配列(これらの上記置換された態様も含む)とIgE抗体との結合(即ち、これらのエピトープとしての機能)に影響を与えない範囲において、その他の任意のアミノ酸配列を含んで良いことを意味する。
【0213】
ポリペプチド中の、具体的に特定されたのアミノ酸配列以外のアミノ酸残基は、IgE抗体との結合(即ち、これらのエピトープとしての機能)に影響を与えない範囲において任意に選択可能である。非限定的に、好ましくは、各々対応する基となるエピトープの配列、基となるタンパク質の配列から適宜選択されることが望ましい。例えば、配列番号30は「QPIQ」のみ特定しているが、その他のアミノ酸残基付加される場合には、適宜
基となる配列番号29から選択されることが望ましい。そして、(E1)として表2-1に記載されている配列については、基となるタンパク質(9)(スポット(9)に相当)に由来する配列のアミノ酸残基が付加されていることが望ましい。
【0214】
上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、ペプチドの固相合成など化学合成の手法により調製してもよい。または、エピトープを含むポリペプチドは、当業者に周知の遺伝子組換え技術により組換えポリペプチドとして発現させ、そして当業者に周知のタンパク質生成方法により分離・生成することによって得てもよい。ポリペプチドは、2種以上を組み合わせて連結してもよく、1種のエピトープを繰り返し連結させたものであってもよい。その場合一般に、Ig抗体との結合性が向上する。
【0215】
上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの長さは特に限定されない。好ましい態様において、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの長さは、500アミノ酸以下、300アミノ酸以下、200アミノ酸以下、100アミノ酸以下、50アミノ酸以下、30アミノ酸以下、20アミノ酸以下、15アミノ酸以下、10アミノ酸以下、または5アミノ酸以下であってもよい。ポリペプチドが1種以上の上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を1回または2回以上繰り返し連結させたものである場合、好ましい態様において当該アミノ酸配列部分の長さは、1000アミノ酸以下、750アミノ酸以下、500アミノ酸以下、250アミノ酸以下、100アミノ酸以下、75アミノ酸以下、50アミノ酸以下、30アミノ酸以下、15アミノ酸以下、10アミノ酸以下、または5アミノ酸以下であってもよい。上記ポリペプチドの長さとして好ましい態様に記載のアミノ酸残基の数は、スペーサーの前後の(スペーサーを含まない)配列の長さの合計である。
【0216】
本発明の抗原は、好ましくは、アレルギー患者のIgE抗体に特異的に結合する。
【0217】
診断キット・診断方法(2)
本発明は、対象のアレルギーを診断するための指標を提供する方法であって、以下の工程:
(i)対象から得られた試料を抗原に接触させる、ここで当該試料はIgE抗体が含まれる溶液である;
(ii)対象から得られた試料中のIgE抗体と当該抗原との結合を検出する;
(iii)対象のIgE抗体と当該抗原との結合が検出された場合、対象がアレルギーであることの指標が提供される;
を含み、ここで当該抗原は上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つであるポリペプチド、または2以上の上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドがスペーサーを介してもしくは介さずに連結されたポリペプチドである、前記方法を提供する。
【0218】
以下、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つであるポリペプチド、または2以上の上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドがスペーサーを介してもしくは介さずに連結されたポリペプチドを、本明細書において「上記(E1)-(E50)を含む抗原」と記載する場合がある。スペーサーの種類は特に限定されず、複数のペプチドを連結するのに当業者が通常使用するものを利用できる。スペーサーは例えば、Acp(6)-OHなどの炭化水素鎖、アミノ酸鎖等のポ
リペプチドであってもよい。
【0219】
上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドがスペーサーを介してもしくは介さずに連結される場合、連結されるポリペプチドの数は特に限定されない。一態様において、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、8個以上、10個以
上、15個以上である。一態様において、30個以下、20個以下。15個以下。10個以下、8個以下、6個以下、5個以下、3個以下、2個以下である。
【0220】
上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドのうち、同じものが繰り返されるものであっても、別のものが複数連結されたものでもよい。このように複数の上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドが連結された場合でも、本発明のポリペプチドとして、本発明の方法、キット、組成物に適用しうる。
【0221】
対象から得られた試料は、上記「診断キット・診断方法(1)」の項目において記載したとおりである。
【0222】
対象から得られた試料と当該ポリペプチドとの接触およびその結合の検出は、上記「診断キット・診断方法(1)」の項目において記載した既知の方法、例えば、ELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)、サンドイッチ免疫測定法、イムノブロット、免
疫沈降法、イムノクロマト法等により行うことが可能である。
【0223】
上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、担体に固定されている状態であってもよい。この場合は上記工程(i)および(ii)においてELISA、サンドイッチ免疫測定法、イムノクロマト法、表面プラズモン共鳴等が利用でき、上記工程(i)は、対象から得られた試料を、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを固定した面に接触させることにより行う。また、対象のIgE抗体が担体に固定されている状態のものを利用し、上記の手法により上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドとの結合を検出してもよい。担体への結合のため若しくは担体とスペースを設けるため、またはポリペプチドに抗体が接触しやすくするため、ポリペプチドのN末端またはC末端にはスペーサーやビオチン等のタグを付してもよい。ビオチンとの結合の場合、担体にはアビシンを有することが好ましい。
【0224】
上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドは担体に固定されていない状態であってもよい。この場合は、上記工程(i)および(ii)において、フローサイトメトリー等が利用でき、レーザー光によりIgE抗体が結合した上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの存在を確認できる。この方法は例えば、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの接触により好塩基球が活性化したときに現れる表面抗原CD203cを検出する方法である、好塩基球活性化試験(BAT)が挙げられる。また、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを試料中の血球にさらに接触させることにより、ヒスタミンを遊離するかどうかを調べるヒスタミン遊離試験(HRT)も挙げられる。
【0225】
上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、アレルギー患者のIgE抗体と特異的に結合する抗原である。したがって、対象のIgE抗体と当該抗原との結合が検出された場合、交差性まで含めて、対象がアレルギーであることの指標が提供される。上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの合成においては、例えば大腸菌を用いた合成を容易にするため、エピトープの前後に配列を付加し、配列長を長くすることがある。そのような場合も、対象のIgE抗体と上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列との結合が検出されれば、交差性まで含めて、対象がアレルギーであることの指標が提供される。従って、エピトープである上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列の前後に如何なるものが付加されていてもよい。
【0226】
本発明はまた、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つを含むアレルギーの診断キットを提供する。本発明の診断キットは、上記のアレルギーを診断するための指標を提供する方法、または下記の診断方法に用いてもよい。本
発明の診断キットは、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つを含むほか、酵素標識された抗IgE抗体および当該酵素の基質となる発色基質または発光基質を含んでいてもよい。また、蛍光標識された抗IgE抗体を用いてもよい。本発明の診断キットにおいて、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドは担体に固定化された状態で提供されてもよい。本発明の診断キットはまた、診断のための手順についての説明書や当該説明を含むパッケージと共に提供されてもよい。
【0227】
別の態様において、上記の診断キットは、アレルギーについてのコンパニオン診断薬を含む。コンパニオン診断薬とは、医薬品の効果が期待される患者の特定または医薬品の重篤な副作用リスクを有する患者の特定、あるいは医薬品を用いた治療の最適化のために当該医薬品の反応性を検討するために用いるものである。ここで治療の最適化とは、例えば、用法容量の決定や投与中止の判断、どのアレルゲンコンポーネントを使って免疫寛容するかの確認等が含まれる。
【0228】
本発明はまた、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つを含むアレルギーの診断用組成物を提供する。本発明の診断用組成物は、下記の診断方法に用いることができる。本発明の診断用組成物は、必要に応じて本発明のポリペプチドとともに一般的に用いられる、薬学的に許容される担体や添加剤を含んでいてもよい。
【0229】
一態様において、本発明は、対象のアレルギーを診断する方法であって、以下の工程:
(i)対象から得られた試料を抗原に接触させる;
(ii)対象から得られた試料中のIgE抗体と当該抗原との結合を検出する;
(iii)対象のIgE抗体と当該抗原との結合が検出された場合、対象がアレルギーであると判断する;
ことを含み、ここで当該抗原は上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドして特定されるポリペプチドの少なくとも一つである、前記方法を提供する。ここにおいて(i)および(ii)の各工程は、アレルギーを診断するための指標を提供する方法の各工程について説明したとおりに行われる。
【0230】
別の態様において、本発明は、対象のアレルギーを診断する方法であって、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つを対象に投与することを含む、前記方法を提供する。当該方法は、皮膚に上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを適用することを特徴とする皮膚テストの形式で行ってもよい。皮膚テストには、皮膚上に診断用組成物を適用した後に、出血しない程度に微少な傷をつけることで皮膚に上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを浸透させて皮膚反応を観察するプリックテスト、診断用組成物を適用した上に皮膚を少し引っ掻いて反応を観察するスクラッチテスト、クリームや軟膏などの形態の診断用組成物を皮膚に適用して反応を観察するパッチテスト、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを皮内に投与して反応を観察する皮内テスト、などの形態が含まれる。上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを適用した部分の皮膚に腫れなどの皮膚反応が生じた場合、その対象はアレルギーを有すると診断する。ここで、皮膚に適用する上記ポリペプチドの量は、例えば、1回あたり100μg以下の用量であってよい。
【0231】
アレルギーの診断においては、抗原の特定と抗原摂取と症状の程度の検証を目的とした経口負荷試験がしばしば行われている。上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つは、アレルギーであることを診断するための経口負荷試験の有効成分として用いることができる。ここで、経口負荷試験に用いるポリペプチドとし
ては、発現精製したポリペプチドであってもよく、例えば、イネにスギ花粉抗原の遺伝子を形質転換し、そのポリペプチドを米内に発現させた花粉米のように、原料・加工品において発現させたものであってもよい。
【0232】
一態様において、上記の診断用組成物、診断キットは、プリックテスト、スクラッチテスト、パッチテスト、皮内テスト等のために使用することが可能である。
【0233】
また別の態様において、本発明はアレルギーの診断に使用するための上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つを提供する。
【0234】
さらなる別の態様において、本発明はアレルギーの診断薬の製造においての上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つの使用を提供する。
【0235】
本項目において、診断対象となるアレルギーは、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドに対するアレルギーであってよい。すなわち、アレルギーの検出および診断指標の提供を含むアレルギーの診断は、単一の上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドに対するアレルギーのみならず、交差性を含めたアレルギーを診断するものであり得る。
【0236】
組成物・治療方法(2)
本発明は、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つを含む組成物を提供する。
【0237】
一態様において、本発明の組成物は医薬組成物である。一態様において、本発明の組成物は医薬部外組成物、医薬用でない組成物(例えば化粧用組成物、食品組成物)である。
【0238】
一態様において、上記の組成物は、アレルギーを治療するために用いられる。アレルギーの治療とは、体内に取り込んでも発症しないポリペプチドの限界量を増やすことであり、最終的には通常のポリペプチドの摂取量では発症しない状態(寛解)を目指すものである。
【0239】
本発明はまた、アレルギーの治療を必要とする患者に対して、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つを投与することを含む、アレルギーを治療する方法を提供する。
【0240】
別の態様において、本発明はアレルギーの治療に使用するための上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つを提供する。さらに別の態様において本発明は、アレルギーの治療薬の製造のための上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つの使用を提供する。
【0241】
アレルギーの治療においては、患者に抗原を投与することで免疫寛容へと誘導することを目標とした、減感作療法がしばしば行われている。上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つは、アレルギーに対する減感作療法のための有効成分として用いることができる。ここで、減感作療法に用いる抗原としては、発現精製したポリペプチドであってもよく、例えば花粉米のように、原料・加工品において発現させたものであってもよい。
【0242】
本発明の組成物の投与経路、投与量、投与回数および/または投与期間、組成物に含まれる他の成分、ならびに剤型については、上記「組成物・治療方法(1)」の項目において記載したものとすることができる。上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポ
リペプチドを用いる場合の用量は、例えば、成人の場合、1回あたり100μg以下の用量であってもよい。
【0243】
本項目において、治療対象となるアレルギーは、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドに対するアレルギーであってよい。すなわち、アレルギーの治療は、単一の上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドに対するアレルギーのみならず、交差性を含めたアレルギーを治療するものであり得る。
【0244】
テスター組成物(2)
本発明は、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つに対する抗体を含むテスター組成物を提供する。
【0245】
当該抗体は、常法により作製することができる。例えば、ウサギなどの哺乳動物を、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドで免疫することにより作製してもよい。当該抗体は、Ig抗体、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、またはそれらの抗原結合フラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2、Fab’)であってもよい。
【0246】
また、上記のテスター組成物において、当該抗体は担体に結合した形で提供されていてもよい。担体は、抗体と上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの結合の検出に利用可能な担体であれば特に限定されない。当業者に公知の任意の担体が利用できる。また、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドに対する抗体が、上記「抗原のエピトープ」の項目に記載されたエピトープおよび重要なアミノ酸が同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドに対する抗体であることが好ましい。それにより、交差性を含めて検出できるテスター組成物とすることができる。
【0247】
上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチド含有の有無を調べる方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0248】
・作製した抗体を含むテスター組成物を原料・加工品等から得られた試料に接触させて、例えばELISA等を用いて当該抗体と試料中の上記(E1)-(E50)を含むのアミノ酸配列を含むポリペプチドとの結合を検出し、当該抗体と上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドとの結合が検出された場合に、対象原料・加工品等に当該のアミノ酸配列を含むポリペプチドが含まれると判断する方法。(「ポリペプチド含有の有無を調べる方法」には、当該抗体と上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドとの結合が低下した場合に、ポリペプチドが除去又は低減されている、と判断することを含む。)
・ろ紙などに原料・加工品等をしみこませ、そこに含まれる上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを検出するように、抗体溶液を反応させる方法。
【0249】
本発明の別の態様において、エピトープおよび重要なアミノ酸が同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドに対応するプライマーを含むことを特徴とする、対象物におけるアレルギーの上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの有無を判定するためのテスター組成物を含む。非限定的に、上記プライマーは例えば、上記(E1)-(E50)で特定したアミノ酸配列をコードする核酸の塩基配列の一部またはその相補鎖を含むように設計されたものであってもよい。あるいは、上記プライマーは、上記(E1)-(E50)で特定したアミノ酸配列であるエピトープおよび重要なアミノ酸が同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むタンパク質をコードする核酸において、当該エピトープおよび重要なアミノ酸が同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする部分の上流側の領域の塩基配列またはそのエピトープおよび重要なアミノ酸が同一のアミノ
酸配列を有するポリペプチドをコードする部分の下流側の領域の相補鎖の塩基配列となるように設計されたものであってもよい。そのようなプライマーとして、例えば配列番号1、3,5、7,9,11,13,15,17、19、21、23、25および27からなる群より選択される少なくとも一つの塩基配列の一部であるプライマーおよび/または配列番号1、3,5、7,9,11,13,15,17、19、21、23、25および27からなる群より選択される少なくとも一つの塩基配列と相補的な配列の一部であるプライマーが挙げられる。ここで、抗原の全長配列におけるエピトープの位置は、実施例の結果に基づき表2において特定した通りである。また、特にmRNAを対象とする場合は、ポリAテールの相補プライマーを有していてもよい。
【0250】
例えば、試料から得られたDNAまたはmRNAを鋳型として、前記プライマーを用い、RT-PCRを含むPCR(Polymerase Chain Reaction)でDNAを増幅し、増幅さ
れたDNAの配列において、上記(E1)-(E50)で特定したアミノ酸配列をコードする核酸を含むか否かを判定することで、上記(E1)-(E50)を含む抗原の有無を判断する。mRNAを対象にPCRで増幅する方法は、RACE法等が例示できる。増幅されたDNAにおいて可能な3通りのオープンリーディングフレームがコードするアミノ酸配列の一つが、上記(E1)-(E50)で特定したアミノ酸配列を含む場合、抗原を有すると判断する。DNAが増幅されない場合は、抗原を有しないと判断する。
【0251】
一態様において、上記のテスター組成物は、原料または加工品製造ライン中などの対象物中の上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチド含有の有無を調べるために用いられる。原料は食材であってもよく、化粧品原料、医薬品原料等であってもよい。加工品は食用加工品であってもよく、化粧品、医薬品等であってもよい。上記テスター組成物は、原料として含まれる生物種の探索用として用いてもよく、製造業者による製造ラインおよび出荷前製品の品質検査用として用いてもよく、喫食者または使用者自身による対象原料・加工品の抗原含有の有無のチェック用として用いてもよい。
【0252】
ポリペプチドの有無の判定方法(2)
本発明は、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの原料・加工品中の有無を判定する方法を含む。当該方法は、原料・加工品中に上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドのアミノ酸配列の全体又は部分を有するポリペプチドを検出することを含む。
【0253】
一態様において、本発明の方法は、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つに対する抗体を、原料・加工品(液体を含む)とを接触させることを含む、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの対象物質中の有無を判定する、工程を含む。
【0254】
当該抗体、原料・加工品の定義抗体の作製方法、抗体と原料・加工品とを接触させる方法、抗体と抗原との結合等については、「テスター組成物(2)」で上述した通りである。
【0255】
あるいは、上記抗原の有無を判定する方法は、抗原に含まれる上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドのエピトープの部分を検出する態様も含む。「エプトープの部分」とは、好ましくは、4アミノ酸残基以上、6アミノ酸残基以上、8アミノ酸残基以上である。エピトープの部分の検出は、ポリペプチドの一部分の特定のアミノ酸配列を検出するための公知の方法で行うことが可能である。例えば、対象原料・加工品等(例えば、食材)のタンパク質を抗原除去処理のための消化酵素で切断し、HPLC等で分離し、任意のエピトープペプチドのピークが、抗原除去処理により低下したかどうかを測定する方法等、などが考えられる。あるいは、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配
列を含むポリペプチドの部分を認識する抗体を用いて、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む抗原の対象物質中の有無を判定してもよい。
【0256】
抗原除去原料等(2)
本発明は、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つが除去又は低減されていることを特徴とする原料または加工品を提供する。
【0257】
原料または加工品において本発明の抗原を除去又は低減する方法は限定されない。抗原の除去又は低減は、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドが除去又は低減される限り、いかなる方法によって行われてもよく、例えば上記「抗原除去食品等」の項目に記載した手法を用いてもよい。
【0258】
上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つが除去又は低減されているとは、アミノ酸配列全体が除去または低減されていることにより達成されてもよく、あるいは抗原タンパク質から、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列部分が切断または取り除かれることにより達成されてもよい。「取り除かれる」には、上記(E1)-(E50)で特定する配列部分のすべてまたは一部の欠失および改変を含む。
【0259】
例えば、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドが除去又は低減された原料は、遺伝子改変技術を用いて、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの発現がしなくなった原料を調製してもよい。遺伝子改変ノックアウト技術は、当業者に公知の手法のいずれかを用いることができる。
【0260】
上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドが除去又は低減された加工品は、タンパク質消化物を原料として用いた粉ミルクのように、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドが除去又は低減された原料を用いた加工品であってもよい。通常の原料を用いる場合は、加工品の調製前、調製中または調製後に上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを除去又は低減する処理を行う。「加工品の調製」とは、例えば食品原料(例:小麦)から食品加工品(例:小麦加工品、例えば、パン、パスタ、うどん、ケーキ等)を調製することを意味する。
【0261】
通常の原料を用いた加工品において上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを除去又は低減する方法として、上記「抗原除去食品等」の項目に記載した手法を用いてもよい。上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを切断する方法としては、特定の消化酵素で切断する処理をする方法が挙げられる。
【0262】
抗原が除去または低減されている原料または加工品の製造方法(2)
本発明は、(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つがが除去又は低減されている原料または加工品の製造方法であって、当該加工品の製造過程で抗原が除去又は低減されていることを確認するステップを有する、前記製造方法を提供する。
【0263】
当該製造方法において、(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドが除去又は低減されているとは、上記(E1)-(E50)(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つが除去又は低減されているか、前記抗原から、上記(E1)-(E50)で特定する配列部分が切断または取り除かれていることを意味する。
【0264】
原料または加工品の製造過程でポリペプチドが除去又は低減されていることを確認する
手法は、特に限定されず、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つを検出可能ないかなる手法を用いてもよい。例えば、当該原料または加工品の製造過程で生じる材料を含む試料と、上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つに対する抗体との結合性により、当該原料または加工品中の当該ポリペプチドの存在の有無を確認してもよい。そのような方法の詳細は、上記「診断キット・診断方法(2)」の項目において記載した通りである。すなわち、上記製造方法においては、上記「診断キット・診断方法(2)」の項目における「対象のIgE抗体」を「上記(E1)-(E50)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも一つに対する抗体」と置き換え、上記「診断キット・診断方法(2)」の項目における「抗原」「ポリペプチド」を「加工品の製造過程で生じる材料を含む試料」と置き換えて、上記「診断キット・診断方法(2)」の項目において記載した手法を加工品の製造過程で抗原が除去又は低減されていることを確認するために用いることができる。また、上記「テスター組成物(2)」の項目で記載したテスター組成物を使用することもできる。
【0265】
本発明はまた、アレルギーを診断する方法におけるキットの使用、アレルギーを診断するための、及び/又は、診断のための指標を提供するためのキットの使用、アレルギーを診断する方法に使用するための組成物、アレルギーを診断するための、及び/又は、診断のための指標を提供するための組成物の使用、アレルギーを診断するための、及び/又は、診断のための指標を提供するための方法、対象(ヒト等の生体)から得られた試料中におけるIgE抗体の有無を検出するための方法への抗原の使用(タンパク質抗原又はエピトープ抗原)、アレルギーを治療において使用するための抗原(タンパク質抗原又はエピトープ抗原)、対象(ヒト等の生体)から得られた試料中におけるIgE抗体と抗原(タンパク質抗原又はエピトープ抗原)の間の結合を検出するための、抗原(タンパク質抗原又はエピトープ抗原)を含むキット又は組成物、対象(ヒト等の生体)から得られた試料中におけるIgE抗体と抗原(タンパク質抗原又はエピトープ抗原)の間の結合を検出するための、抗原(タンパク質抗原又はエピトープ抗原)を含むキット又は組成物の使用に関する。「抗原」等の各用語については上述した通りである。
【実施例0266】
以下に本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって限定されない。
実施例1:タンパク質パターンの確認
下記の二次元電気泳動方法を使用して、小麦(Triticum aestivum)に含まれるタンパク質を調べた。
【0267】
タンパク質の抽出
小麦に含まれるタンパク質の抽出及び精製は次のように行った。小麦粉に、mammalian cell lysis kit;MCL1(SIGMA-ALDRICH社製)を加えてタンパク質を抽出した。
mammalian cell lysis kit;MCL1の組成は下記の通りである。
50mM Tris-HCl pH7.5
1mM EDTA
250mM NaCl
0.1%(w/v) SDS
0.5%(w/v) Deoxycholic acid sodium salt
1%(v/v) Igepal CA-630(SIGMA-ALDRICH社製の界面活性剤(Octylphenoxy)polyethoxyethanol)
適量のProtease Inhibitor その後、2D-CleanUPキット(GE社製)を使用して2回の沈殿操作を行った。第1回目の沈殿操作は、回収した上記蛋白質抽出液にTCA(トリクロロ酢酸)を加えて沈殿を行い、当該操作で生じた沈殿(TCA沈殿)を回収した。第2回目の沈殿操作は、回収した前記TCA沈殿にアセトンを加えて沈殿を行い、当該操作で得
られた沈殿(検体)を回収した。
【0268】
検体溶液の調製
得られた検体の一部(タンパク質重量として50μg)を、1次元目等電点電気泳動用ゲルの膨潤用緩衝液であるDeStreak Rehydration Solution(GE社製)150μlに溶
解し、1次元目等電点電気泳動用の検体溶液(膨潤用検体溶液)とした。DeStreak Rehydration Solutionの組成は以下の通りである。
7M チオ尿素
2M 尿素
4%(w/v) CHAPS
0.5%(v/v) IPGバッファー;GE社製
適量のBPB(ブロモフェノールブルー)
1次元目等電点電気泳動用ゲルへの検体の浸透
1次元目等電点電気泳動用ゲル(GE社製:IPGゲルImmobiline Drystrip (pH3-10NL))を前記した1次元目等電点電気泳動用の検体溶液(膨張用検体溶液)140μlに浸漬し、一晩室温にて浸透させた。
【0269】
本実施例においては、電気泳動機器としてGE社製のIPGphorを使用した。
【0270】
泳動トレーにシリコンオイルを満たした。検体を浸透させたゲルの両端に水で湿らせた濾紙を設け、ゲルをシリコンオイルに覆われるよう、泳動トレーにセットし、ゲルとの間に当該濾紙を挟んだ状態で電極をセットした。
【0271】
等電点電気泳動機器の電流値の上限をゲル1本当たり75μAに設定し、電圧プログラムを、(1)300V定電圧で750Vhrまで定電圧工程を行い(当該工程終了前の泳動30分間の電流変化幅が5μAであった)、(2)300Vhrかけて1000Vまで徐々に電圧を上昇させ、(3)更に4500Vhrかけて5000Vまで徐々に電圧を上昇させ、(4)その後5000V定電圧で総Vhrが12000になるまで、1次元目の等電点電気泳動を行った。
【0272】
等電点電気泳動ゲルのSDS平衡化
上記の1次元目の等電点電気泳動を行った後、等電点電気泳動機器からゲルを取り外し、還元剤を含む平衡化緩衝液に当該ゲルを浸漬して、15分・室温にて振とうした。上記還元剤を含む平衡化緩衝液の組成は以下の通りである。
100mM Tris-HCl(pH8.0)
6M 尿素
30%(v/v) グリセロール
2%(w/v) SDS
1%(w/v) DTT
次に、上記還元剤を含む平衡化緩衝液を除き、ゲルをアルキル化剤を含む平衡化緩衝液に浸漬して、15分・室温にて振とうし、SDS平衡化したゲルを得た。上記アルキル化剤を含む平衡化緩衝液の組成は以下の通りである。
100mM Tris-HCl(pH8.0)
6M 尿素
30%(v/v) グリセロール
2%(w/v) SDS
2.5%(w/v) ヨードアセトアミド
2次元目のSDS-PAGE
本実施例においては、電気泳動機器としてlife technologies社製のXCell SureLock Mini-Cellを使用した。2次元目泳動用ゲルはlife technologies社製NuPAGE 4-12% Bis-Tri
s Gelsを使用した。また、以下の組成の泳動用緩衝液を調製し、使用した。
50mM MOPS
50mM Tris塩基
0.1%(w/v) SDS
1mM EDTA
また、本実施例においては泳動用緩衝液に0.5%(w/v)のアガロースS(ニッポンジーン社製)と適量のBPB(ブロモフェノールブルー)を溶解させた接着用アガロース溶液を使用した。
【0273】
SDS-PAGEのウェル中を十分に上記泳動用緩衝液で洗浄した後、当該洗浄に用いた緩衝液を取り除いた。次に、ウェルの中に充分に溶解させた接着用アガロース溶液を添加した。次に、SDS平衡化したゲルをアガロース中に浸漬させ、ピンセットでSDS平衡化したゲルと2次元目泳動用ゲルを密着させた。当該両ゲルが密着した状態でアガロースが充分に固まったのを確認し、200V定電圧で約45分間泳動を行った。
【0274】
ゲルの蛍光染色
SYPRO Ruby(life technologies社製)を用いてゲルの蛍光染色を行った。
【0275】
まず、使用する密閉容器を事前に98%(v/v)のエタノールで十分に洗浄した。SDS-PAGE機器から泳動後の2次元目泳動用ゲルを取り外して、洗浄した密閉容器におき、50%(v/v)メタノール及び7%(v/v)酢酸含有水溶液に30分間浸漬する処理を2回行った。その後、当該水溶液を水に置換し、10分間浸漬した。次に、2次元目泳動用ゲルを40mlのSYPRO Rubyに浸漬し、室温で一晩振とうした。次に、SYPRO Rubyを除き、2次元目泳動用ゲルを水で洗浄した後、10%(v/v)メタノール及び7%(v/v)酢酸含有水溶液で30分間振とうした。更に当該水溶液を水に置換し、30分以上振とうした。
【0276】
解析
上記一連の処理を施した2次元目泳動用ゲルをTyphoon9500(GE社製)を使用した蛍
光イメージのスキャンに供した。小麦の身に含まれるタンパク質について、2次元電気泳動の結果を
図1に示す。各図のゲルの写真の左側には、分子量マーカーのバンドが見られ、バンドの位置が特定の分子量(KDa)を示す。
【0277】
実施例2:イムノブロットでの抗原確認
イムノブロットでの抗原確認は、実施例1に記載した手順を「2次元目のSDS-PAGE」まで行った後、以下の「メンブレンへの転写」「イムノブロット」「解析」の操作を行うことにより行った。
【0278】
メンブレンへの転写
メンブレンへの転写は、以下の転写装置及び転写用緩衝液を用いて行った。
転写装置:XCell SureLock Mini-Cell およびXCell IIブロットモジュール(life technologies社製)
転写用緩衝液: NuPAGEトランスファーバッファー(×20)(life technologies社製)をmilliQ水で200倍希釈して使用した。
【0279】
具体的には以下の手順に従って二次元電気泳動ゲル中のタンパク質をメンブレン(PVDF膜)へ転写した。
【0280】
(1)PVDF膜を、100%メタノールに浸漬し、次にmilliQ水に浸漬し、その後、転写用緩衝液に移して、PVDF膜の親水化処理を行った。
【0281】
(2)スポンジ、ろ紙、2次元目のSDS-PAGEが終わったゲル、親水化処理済みPVDF膜、ろ紙、スポンジの順でセットし、転写装置中、30V定電圧で1時間通電した。
【0282】
イムノブロット
メンブレンのイムノブロットを、1次抗体として小麦に対するアレルギーを有する患者(WDEIA症例および発症に運動を必要としない一般的な即時型アレルギー症例)の血清または非小麦アレルギー被験者の血清を用いて行った。
【0283】
メンブレンのイムノブロットは、以下の手順に従って行った。
(1)転写したメンブレンを5%スキムミルク/PBST溶液(非イオン界面活性剤Tween 20を0.1%含むPBSバッファー)中、室温で1時間振とうした。
(2)1次抗体として、4%血清/3%スキムミルク/PBST溶液中、室温で1時間静置した。
(3)PBST溶液で洗浄した(5分×3回)。
(4)2次抗体として抗ヒトIgE-HRP(セイヨウワサビペルオキシダーゼ)を3%スキムミルク/PBST溶液で1000倍に希釈した溶液中、室温で1時間静置した。
(5)PBST溶液で洗浄した(5分×3回)。
(6)Pierce Western Blotting Substrate Plus(Thermo社製)で、5分間静置した。
【0284】
解析
上記一連の処理を施したメンブレンをTyphoon9500(GE社製)を使用した蛍光イメー
ジのスキャンに供した。
【0285】
小麦アレルギー患者の血清を用いたイムノブロットを、対照である非小麦アレルギー被験者の血清を用いたイムノブロットと比較した。小麦に含まれるタンパク質について小麦アレルギー患者の血清を用いたイムノブロットにおいて、非小麦アレルギー被験者の血清を用いた場合とは異なり、かつ公知の小麦アレルゲンタンパク質とは異なる16のスポットが検出された(
図2)。実施例3のアミノ酸配列の解析の結果、スポット11と12及びスポット15と16は同じタンパク質に由来することが判明した。各スポットの等電点については、表1に記載した。
【0286】
実施例3:質量分析および抗原の同定
上記の各スポットを生じる抗原について、質量分析によるアミノ酸配列の同定を行った。
【0287】
具体的には、以下の手順でタンパク質の抽出および質量分析を行った。
(1)小麦について、実施例1及び2の手順に従ってタンパク質抽出、2次元電気泳動及びメンブレン転写を行い、0.008%Direct blue/40%エタノール・10%酢酸で
振とうにより染色した。
(2)その後、40%エタノール・10%酢酸で5分間の処理を3回行って脱色し、水で5分間洗浄後、風乾した。
(3)目的のスポットをきれいなカッター刃で切り取り、遠心チューブに入れた。50μLのメタノールでメンブレン親水処理後、100μLの水で2回洗浄後遠心除去し、20μLの20mM NH4HCO3・50%アセトニトリルを加えた。
(4)1pmol/μLリシルエンドペプチダーゼ(WAKO)1μLを加え、37℃で60分間静置した後、溶液を新しい遠心チューブに回収した。20μLの20mM NH4HCO3・70%アセトニトリルをメンブレンに加え、室温にて10分間浸し、さらに回収した。0.1%ギ酸、4%アセトニトリル10μLで溶解し、チューブに移した。
(5)回収した溶液を減圧乾燥した後、A液(0.1%ギ酸、4%アセトニトリル溶液)15μlで溶解し、質量分析(ESI-TOF6600, AB Sciex社製)を行った。
(6)質量分析計から得られた質量データに基づくタンパク質の同定は、NCBIをサーチすることで行った。
【0288】
結果
各スポットのアミノ酸配列を検出した、さらに、各スポットについて、質量分析計から得られた質量データをUniprotで解析したところ、各スポットは表1に示すタンパク質であることが同定された。
【0289】
スポット11と12及びスポット15と16は同じタンパク質に由来する。実施例2のイムノブロットでこれらのスポットが別々のスポットとして認識されたのは、アミノ酸配列が同じであっても糖鎖修飾やリン酸基の修飾等の翻訳後修飾により等電点及び/または分子量が変化した、ことによる。翻訳後修飾の違いによってもIgE抗体との結合が認められており、翻訳後修飾の影響がないことを示すものである。
【0290】
実施例4:エピトープの同定
小麦のアレルゲンコンポーネントのエピトープ
小麦のアレルゲンコンポーネントのエピトープについて、以下の手順によりエピトープの同定を行った。
【0291】
(A)小麦エピトープマッピング(1)
小麦のアレルギーコンポーネントとして特定したアミノ酸配列に対応するオーバーラップペプチド(長さ:15アミノ酸)のライブラリーによって、エピトープマッピングを行った。具体的には、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26及び28のアミノ酸配列に基づいてオーバーラップペプチドのライブラリーを調製した。
【0292】
合成する各ペプチドは、10アミノ酸ずつシフトさせた。すなわち各ペプチドは、前のペプチドおよび後のペプチドと、それぞれ5アミノ酸の重複を有する。
【0293】
ペプチドアレイの調製のため、Intavis CelluSpots(商標)技術を使用した。すなわち次の手順、(1)アミノ修飾セルロースディスク上に自動化合成装置(Intavis MultiPep
RS)を用いて目的のペプチドを合成し、(2)前記アミノ修飾セルロースディスクを溶
解させてセルロース結合ペプチド溶液を得て、(3)コーティングを施したスライドガラス上に前記セルロース結合ペプチドをスポットすることにより、ペプチドアレイを調製した。各手順の詳細は以下のとおりである。
【0294】
(1)ペプチドの合成
384ウェル合成プレート中のアミノ修飾セルロースディスク上で、9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)化学反応を利用して、ペプチド合成を段階的に行った。すなわち、Fmoc基がアミノ基に結合したアミノ酸をジメチルホルムアミド(DMF)中のN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)および1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)の溶液で活性化し、前記セルロースディスクに滴下してセルロースディスク上のアミノ基へ前記Fmoc基結合アミノ酸を結合させ(カップリング)、未反応のアミノ基を無水酢酸によりキャッピングしてDMFにより洗浄し、さらにピペリジンで処理してDMFにより洗浄して、セルロースディスク上のアミノ基に結合したアミノ酸のアミノ基からFmoc基を除去した。前記セルロースディスク上のアミノ基に結合したアミノ酸に対して、上記カップリング、キャッピング、およびFmoc基の除去を反復して行うことにより、アミノ末端を伸長させてペプチド合成を行った。
【0295】
(2)アミノ修飾セルロースディスクの溶解
上記「(1)ペプチドの合成」で得られた目的のペプチドが結合したセルロースディスクを96ウェルプレートに移し、アミノ酸の側鎖の脱保護のため、トリフルオロ酢酸(TFA)、ジクロロメタン、トリイソプロピルシラン(TIPS)、および水の側鎖脱保護混合液で処理した。その後、脱保護されたセルロース結合ペプチドを、TFA、ペルフルオロメタンスルホン酸(TFMSA)、TIPS、および水の混合液で溶解し、テトラブチルメチルエーテル(TBME)で沈殿させ、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に再懸濁し、NaCl、クエン酸Na、および水の混合液と混合し、スライドスポット用ペプチド溶液を得た。
【0296】
(3)セルロース結合ペプチド溶液のスポット
上記「(2)アミノ修飾セルロースディスクの溶解」で得られたスライドスポット用ペプチド溶液を、Intavisスライドスポッティングロボットを用いて、Intavis CelluSpots
(商標)スライド上にスポットし、これを乾燥させてペプチドアレイを調製した。
【0297】
前記ペプチドアレイを用いて、抗原抗体反応により小麦アレルギー患者の血清中のIgE抗体が結合するか否かを各ペプチド断片について測定した。測定は以下の手順に従って行った。
(1)ペプチドを、Pierce Protein-Free(PBS)Blocking Buffer(Thermo社製)中で、室温
で1時間振盪した。
(2)2%血清/Pierce Protein-Free(PBS)Blocking Buffer(Thermo社製)
中で、4℃で一晩振盪した。
(3)PBST(非イオン界面活性剤Tween 20を3%含むPBSバッファ
ー)で5分洗浄した(×3回)。
(4)抗ヒトIgE抗体-HRP(1:20,000、Pierce Protein-Fr
ee(PBS)Blocking Buffer(Thermo社製))を添加し、室温で1時間振盪した。
(5)PBSTで5分洗浄した(×3回)。
(6)Pierce ECL Plus Western Blotting Substrate(Thermo社製)を添
加し、室温で5分間振盪した。
(7)Amersham Imager 600を使用して、上記(1)~(6)の処理を施し
たペプチドの化学発光を測定した。
【0298】
上記(7)において測定して得られた画像に対して、ImageQuant TL(GEヘルスケア社)
を用いて化学発光量を数値化した。5名の非小麦アレルギー被験者の血清を使用した結果から得られた画像からそれぞれ数値化された値の中で2番目に高い値をN2nd値とし、49名の患者(WDEIA32例、一般的な小麦即時型アレルギー小児8例、成人9例)の血清を使用した結果から得られた画像から数値化された値からそれぞれペプチドのN2nd値の差をとった値において35,000以上の値を有するペプチドを患者特異的にIgE抗体
と結合したペプチドと判断した。
【0299】
その結果、既知のエピトープを含まない、スポット1-スポット16(スポット11と12及びスポット15と16は同じタンパク質に由来する)に由来するペプチド(配列番号29、131、191、281、346、414、493、562、640、706、776、899、974、1010、1089、1142、1166、1209、1257、1297、1367、1403、1508、1566、1598、1608、1685、1753、1789、1836、1895、1977、2004、2027、2068、2154、2217、2265、2309、2342、2419、2491、2545、2613、2631、2674、2701、2774、2809、2830)に、患者特異的にIgE抗体が結合したことが確認された。
【0300】
(B)小麦エピトープマッピング(2):オーバーラッピング
上記(A)により患者特異的に血清中IgE抗体が結合したペプチドの配列((配列番号29、131、191、281、346、414、493、562、640、706、776、899、974、1010、1089、1142、1166、1209、1257、1297、1367、1403、1508、1566、1598、1608、1685、1753、1789、1836、1895、1977、2004、2027、2068、2154、2217、2265、2309、2342、2419、2491、2545、2613、2631、2674、2701、2774、2809、2830)を基に、当該ペプチドの配列および当該ペプチドの配列を含むアレルギーコンポーネントのアミノ酸配列における当該ペプチドの前後の配列を付加した配列において、オーバーラップペプチド断片(長さ:10アミノ酸)のライブラリーを作成し、エピトープマッピングを行った。
【0301】
合成する各ペプチドは、1アミノ酸ずつシフトさせた。すなわち各ペプチドは、前のペプチドおよび後のペプチドと、それぞれ9アミノ酸の重複を有する。
【0302】
ライブラリーは上記(A)と同様の手順で調製し、上記と同様の手法で患者の血清中のIgE抗体が結合するか否かを各ペプチド断片について測定した。前記(3)セルロース結合ペプチド溶液のスポットの欄に記載の(1)、(4)~(6)のみを行った際の結果から得られた画像からそれぞれ数値化された値をコントロール値とし、患者の血清を使用した結果から得られた画像から数値化された値からそれぞれペプチドのコントロール値の差をとった値においてオーバーラッピングの基礎としたペプチドから得られた値と比較し、1アミノ酸ずつシフトさせたペプチドにより患者のIgE抗体への結合性が喪失あるいは著しく減少したペプチドは、IgE抗体の結合性がないペプチドと判断した。
【0303】
上記(A)と同様に、測定して得られた画像に対して化学発光量を数値化した。前記(3)セルロース結合ペプチド溶液のスポットの欄に記載の(1)、(4)~(6)のみを行った際の結果(2次抗体測定値)から得られた画像から数値化された値をコントロール値とし、患者の血清を使用した結果から得られた画像から数値化された値からそれぞれペプチドのコントロール値の差をとった値において、オーバーラッピングの基礎とした配列(配列番号29、131、191、281、346、414、493、562、640、706、776、899、974、1010、1089、1142、1166、1209、1257、1297、1367、1403、1508、1566、1598、1608、1685、1753、1789、1836、1895、1977、2004、2027、2068、2154、2217、2265、2309、2342、2419、2491、2545、2613、2631、2674、2701、2774、2809、2830)により得られた値を100%としたとき、30%未満はIgE抗体との結合性なし、30%以上50%未満はIgE抗体との結合性は劣るが、IgE抗体との結合性はあり、50%以上70%未満はIgE抗体との結合性は多少劣るが、IgE抗体との結合性あり、70%以上はIgE抗体との結合性に差がないまたはIgE抗体との結合性がよいとして、IgE抗体との結合性が残存したペプチドであると判断した。
【0304】
この解析により、オーバーラッピングの基礎とした配列において、患者のIgE抗体との結合に重要な領域を見出した。
【0305】
(C)小麦エピトープマッピング(3):アラニングリシンスキャン
上記(A)で同定したアミノ酸配列について、アラニングリシンスキャンと呼ばれる手法(非特許文献5)により、アミノ末端側から1アミノ酸ずつアラニン(元のアミノ酸がアラニンの場合はグリシン)に置換したペプチド断片のライブラリーを、上記と同様の手
法で調製し、上記と同様の手法で患者の血清中のIgE抗体が結合するか否かを各ペプチド断片について測定した。アラニングリシン置換により患者のIgE抗体への結合性が喪失あるいは著しく減少した位置のアミノ酸は、本来の抗原性の発現のために重要なアミノ酸、または本来の抗原性の発現に影響するアミノ酸と判断し、患者のIgE抗体への結合性が喪失あるいは著しく減少しなかったアミノ酸は、本来の抗原性の発現のためには重要ではなく、置換が可能なアミノ酸と判断した。
【0306】
上記(A)と同様に、測定して得られた画像に対して、化学発光量を数値化した。2次抗体測定値から得られた画像から数値化された値をコントロール値とし、49名の患者の血清を使用した結果から得られた画像から数値化された値からそれぞれペプチドのコントロール値の差をとった値において、アラニングリシンススキャンの基礎とした配列(配列番号29、131、191、281、346、414、493、562、640、706、776、899、974、1010、1089、1142、1166、1209、1257、1297、1367、1403、1508、1566、1598、1608、1685、1753、1789、1836、1895、1977、2004、2027、2068、2154、2217、2265、2309、2342、2419、2491、2545、2613、2631、2674、2701、2774、2809、2830)により得られた値を100%としたとき、30%未満はIgE抗体との結合性なし、30%以上50%未満はIgE抗体との結合性は劣るが、IgE抗体との結合性はあり、50%以上70%未満はIgE抗体との結合性は多少劣るが、IgE抗体との結合性あり、70%以上はIgE抗体との結合性に差がないまたはIgE抗体との結合性がよいとして、IgE抗体との結合性が残存したペプチドであると判断した。
【0307】
(A)~(C)の結果を解析したところ、アラニングリシンスキャンの基礎とした配列における患者のIgE抗体との結合に重要な領域において、本来の抗原性の発現のために重要な共通配列を見出した。50種類全てのエピトープについて配列を特定し、結果を表2にまとめた。
【0308】
実施例5:エピトープの交差性の確認
上記表2の、小麦の各タンパク質について見出された各エピトープ配列中におけるIgE抗体との結合維持に重要なアミノ酸以外のアミノ酸を、任意のアミノ酸(X)とした鍵配列について、各患者が同時に有するアレルゲン食材に対して同配列を有するタンパク質をNCBIで検索した結果、一例として表2の「交差性確認食物」の列に記載の各食物の配列に含まれるアミノ酸配列がヒットした。
【0309】
表2の「合成配列」、再右列の「配列番号」の列に記載のアミノ酸配列を含むペプチドについて、表2の「交差性確認食物」の列に記載の各食物に対してアレルギーを有する患者のIgE抗体との結合性をELISAにより確認した。ペプチドは、Fmoc法によりN末端側でビオチン化されるように合成した。
【0310】
ELISAは、具体的には以下の手順に従って行った。
【0311】
(1)ビオチン化ペプチドの濃度が10μg/mLとなるようにPBST(0.1%Tween20)で調製した。
【0312】
(2)各ペプチド溶液をストレプトアビジン被覆した384ウェルプレートの各ウェルに20μL添加して、室温で1時間振盪した。溶液を回収後、PBSで5回洗浄した。
【0313】
(3)40μLのPierce Protein-Free(PBS)Blocking Buffer(Thermo社製)を添加して
、室温で1時間振盪した。溶液を除去後、PBSTで5回洗浄した。
【0314】
(4)20μLの2%血清/Canget SignalSolution I (TOYOBO社製)を添加し、室温で1時間振盪した。溶液を除去後、PBSTで5回洗浄した。
【0315】
(5)20μLの二次抗体希釈液(1:10000、Canget SignalSolution II (TOYOBO社製))を添加し、室温で1時間振盪した。溶液を除去後、PBSTで5回洗浄した。
【0316】
(6)20μLの1-Step Ultra TMB-ELISA(Thermo社製)を添加し、室温で15分間振盪した。
【0317】
(7)20μLの2M H2SO4を添加した。450nmの吸光度を測定した。
【0318】
これらのアミノ酸配列を有するペプチドを、実施例4の(A)と同様の手順で調製し、アレルギー患者の血清および非アレルギー被験者の血清中のIgE抗体が結合するか否かを測定した。非アレルギー被験者の血清は2名分を測定してその平均値で割った値を用いた。
【0319】
結果を
図3-6に示す。各図の棒グラフは、「アレルギー患者の吸光度/非アレルギー患者(健常者)の吸光度」である各グラフに記載の食材名は、使用した各合成配列の基礎となるアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む食材名である。
【0320】
図3-6から明らかであるように、図に記載のアミノ酸配列を有する全てのポリペプチドにおいて、非アレルギー被験者の血清中のIgE抗体よりも各アレルギー患者のIgE抗体に対しより高い結合性(「1」より大きい)が示され、これらのポリペプチドの交差性が確認された。このことは、これらのエピトープが小麦以外の抗原との交差性を検出するのに利用できることを示している。さらに、「X」部分が任意のアミノ酸残基をとりうることを裏付ける。