(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038140
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ブタトリプシンの変異体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/57 20060101AFI20240312BHJP
C12N 9/76 20060101ALI20240312BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240312BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240312BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240312BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240312BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C12N15/57
C12N9/76 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023220226
(22)【出願日】2023-12-27
(62)【分割の表示】P 2020544428の分割
【原出願日】2019-02-22
(31)【優先権主張番号】18158034.1
(32)【優先日】2018-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】397056695
【氏名又は名称】サノフィ-アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・シュティルガー
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアン・リソム
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア・フェラー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・フォーゲル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ブタトリプシンのポリペプチド変異体、これらの変異体をコードする核酸分子、およびかかる核酸分子を含む宿主細胞を提供する。
【解決手段】ブタトリプシンの変異体であって、特定の配列で表される、天然ブタトリプシンと少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、またはそれからなり、該アミノ酸配列は、前記特定の配列で表される、天然ブタトリプシンのF24、S44、D56、G78、Y131、S172およびW193に対応する1つまたはそれ以上の位置での少なくとも1個またはそれ以上のアミノ酸置換を含有し、但し、該アミノ酸配列は、前記特定の配列による天然ブタトリプシンではないことを条件とし;かつ、該アミノ酸配列は、別の特定の配列によるブタ変異体トリプシンS172Aではないことを条件とする、前記ブタトリプシンの変異体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタトリプシンの変異体であって、
配列番号1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含みまたはそれからなり、
該アミノ酸配列は、配列番号1による天然ブタトリプシンのF24、S44、D56、G78、Y131、S172およびW193に対応する1つまたはそれ以上の位置での少なくとも1個またはそれ以上のアミノ酸置換がある点が配列番号1と異なり;但し、
該アミノ酸配列は、配列番号1による天然ブタトリプシンではないことを条件とし;かつ、
該アミノ酸配列は、配列番号2によるブタ変異体トリプシンS172Aではないことを条件とする、
前記ブタトリプシンの変異体。
【請求項2】
F24に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Asn、Arg、Gln、Ile、Leu、Lys、Met、Ser、Thr、およびValからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;
S44に対応する位置のアミノ酸は、LeuおよびProからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;
D56に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Asn、His、およびTrpからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;
G78に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Glu、Pro、Ser、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;
Y131に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Met、Ser、Thr、Trp、Valからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;
S172に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Cys、およびThrからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;ならびに/または
W193に対応する位置のアミノ酸は、Phe、Ser、Thr、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている、
請求項1に記載のブタトリプシンの変異体。
【請求項3】
前記アミノ酸配列は、配列番号1による天然ブタトリプシンのR99、R107、K125、およびK170に対応する1つまたはそれ以上の位置での少なくとも1個またはそれ以上のアミノ酸置換がある点が配列番号1とはさらに異なる、請求項1または2に記載のブタトリプシンの変異体。
【請求項4】
R99に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Asn、Asp、Glu、Gly、His、Leu、Phe、Thr、Trp、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;
R107に対応する位置のアミノ酸は、Asp、Gly、Pro、Ser、およびThrからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;
K125に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Leu、Ser、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;ならびに/または
K170に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Asn、GlyおよびTyrからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている、
請求項3に記載のブタトリプシンの変異体。
【請求項5】
前記アミノ酸配列は配列番号3であり、ここで、
- Xaa24は、Ala、Asn、Arg、Gln、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、およびValからなる群から選択されるアミノ酸であり;
- Xaa44は、Leu、Pro、およびSerからなる群から選択されるアミノ酸であり;
- Xaa56は、Ala、Asn、Asp、His、およびTrpからなる群から選択されるアミノ酸であり;
- Xaa78は、Ala、Glu、Gly、Pro、Ser、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸であり;
- Xaa99は、Ala、Arg、Asn、Asp、Glu、Gly、His、Leu、Phe、Thr、Trp、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸であり;
- Xaa107は、Arg、Asp、Gly、Pro、Ser、およびThrからなる群から選択されるアミノ酸であり;
- Xaa125は、Ala、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Leu、Lys、Ser、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸であり;
- Xaa131は、Ala、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Met、Ser、Thr、Trp、Tyr、およびValからなる群から選択されるアミノ酸であり;
- Xaa170は、Ala、Asn、Gly、Lys、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸であり;
- Xaa172は、Ala、Cys、Ser、およびThrからなる群から選択されるアミノ酸であり;ならびに/または
- Xaa193は、Phe、Ser、Thr、Trp、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸であり;但し、
配列番号3は、配列番号1によるブタ野生型トリプシンではないことを条件とし;かつ
配列番号3は、配列番号2によるブタ変異体トリプシンS172Aではないことを条件とする、
請求項1~4のいずれか1項に記載のブタトリプシンの変異体。
【請求項6】
前記アミノ酸配列は、
配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、配列番号72、配列番号73、配列番号74、配列番号75、配列番号76、配列番号77、配列番号78、配列番号79、配列番号80、配列番号81、配列番号82、配列番号83、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、配列番号89、配列番号90、配列番号91、配列番号92、配列番号93、配列番号94、配列番号95、配列番号96、配列番号97、配列番号98、配列番号99、配列番号100、配列番号101、配列番号102、配列番号103、配列番号104、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、配列番号112、配列番号113、配列番号114、配列番号115、配列番号116、配列番号117、配列番号118、および配列番号119
からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載のブタトリプシンの変異体。
【請求項7】
(i) 前記変異体は、一般式A-Lys-Thr-Arg-Arg-Bを有するペプチドを切断して、少なくとも80%の収率で、一般式A-Lys-Thr-Arg-Argの切断産物を生じることができ、
Aは1個またはそれ以上のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり;かつ
Bは1個またはそれ以上のアミノ酸からなるアミノ酸配列である;かつ/または
(ii) 該変異体は、配列番号2によるブタ変異体トリプシンS172Aと比較して、B32-Arg位のC末端側の位置での、プレプロヒトインスリン、プレプロインスリングラルギン、プレプロインスリンリスプロ、プレプロインスリンアスパルト、またはプレプロインスリングルリジンの切断に対して向上した選択性を呈する、
請求項1~6のいずれか1項に記載のブタトリプシンの変異体。
【請求項8】
核酸分子であって、
- 請求項1~7のいずれか1項に記載のブタトリプシンの変異体、または
- 請求項1~7のいずれか1項に記載のブタトリプシンの変異体のトリプシノーゲン前駆体分子
をコードし、
ベクターに場合により含有されるか、またはゲノムに場合により組み込まれている前記核酸分子。
【請求項9】
宿主細胞であって、請求項8に記載の核酸分子を含有する宿主細胞。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載のブタトリプシンの変異体を産生する方法であって:
請求項9に記載の宿主細胞を培養する工程;および
培養培地からまたは該宿主細胞からブタトリプシンの該変異体のトリプシノーゲン前駆体分子を単離する工程、ならびに
場合により、該トリプシノーゲン前駆体分子を活性化し、それによりブタトリプシンの該変異体を得る工程
を含む前記方法。
【請求項11】
食品成分または飼料成分を製造する方法中で使用するための、
請求項1~7のいずれか1項に記載のブタトリプシンの変異体、または請求項8記載の核酸分子、または請求項9記載の宿主細胞。
【請求項12】
ヒトインスリン、インスリンアナログまたはインスリンの誘導体の産生のための方法における、請求項1~7のいずれか1項に記載のブタトリプシンの変異体の使用。
【請求項13】
インスリンアナログは、インスリンアスパルト、インスリンリスプロ、インスリングルリジン、およびインスリングラルギンからなる群から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
一般式A-Lys-Thr-Arg-Arg-Bを有するタンパク質またはペプチドを切断するための、請求項1~7のいずれか1項に記載のブタトリプシンの変異体の使用であって、
Aは1個またはそれ以上のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり;かつ
Bは1個またはそれ以上のアミノ酸からなるアミノ酸配列である、前記使用。
【請求項15】
切断により、切断産物A-Lys-Thr-Arg-Argを生じる、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
切断により、少なくとも80%の収率で、切断産物A-Lys-Thr-Arg-Argを生じる、請求項15に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブタトリプシンのペプチド変異体に、これら変異体をコードする核酸分子に、およびかかる核酸分子を含む宿主細胞に関する。本発明はまた、インシュリンを産生するための方法におけるこれら変異体の使用にも関する。本発明はさらに、医薬としての、食品成分としての、または飼料成分としてのこれら変異体の使用に、および、食品成分または飼料成分を製造する方法中でのこれら変異体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドペプチダーゼトリプシンは、ヒトインスリン、インスリンアナログの、およびまたインスリン誘導体の製造向けに使用される。ヒトインスリン、インスリンアナログ、またはインスリン誘導体は、トリプシンを使用して酵素加水分解によってプレプロインスリン(PPI)から生成され、この場合、プレ配列およびCペプチドが、それぞれの産物を得るために切断される(
図1を参照されたい)。トリプシンは、ポリペプチド鎖内のArg残基およびLys残基のC末端側で切断するのに特異的である。プレプロヒトインスリンおよびプレプロインスリングラルギンポリペプチド内には、B鎖とCペプチドとの接合部でのB29Lys、B31Arg、およびB32Argを含めて、いくつかのArg残基およびLys残基が存在する。したがって、プレプロヒトインスリンおよびプレプロインスリングラルギンは、B29LysおよびB31ArgおよびB32ArgのC末端側を含めて、Arg残基およびLys残基のC末端側でトリプシンによって切断される。インスリングラルギンの製造の場合、B32Argの後のトリプシン切断により最終的なインスリングラルギンが提供される。B29LysおよびB31Argの後のトリプシン切断によって、副産物desB30-Thr(「des-Thr」)-インスリングラルギンおよびdesB32Arg-インスリングラルギン(「des-Arg」とも呼ばれる)がもたらされる。したがって、インスリングラルギンの製造方法で副産物を除去する必要がある。
【0003】
ヒトインスリンの製造の場合、B31Argの後のトリプシン切断によりB31Arg-ヒトインスリン(「モノ-Arg」とも呼ばれる)が、B32Argの後のトリプシン切断によりB31Arg-B32Arg-ヒトインスリン(「ジ-Arg」とも呼ばれる)が、もたらされる。どちらも前記製造方法の中間体である。その後の製造方法では、これら2つの中間体は両方とも最終的なヒトインスリンに変換される。B29Lysの後のトリプシン切断により、副産物のdesB30-Thr(「des-Thr」)-ヒトインスリンがもたらされる。したがって、ヒトインスリンの製造方法で副産物を除去する必要がある。
【0004】
ヒトインスリンおよびインスリングラルギンの製造の場合、B32Argの後のトリプシン切断により最終的なインスリングラルギンがもたらされ、ヒトインスリンの場合、B32Argの後のトリプシン切断により中間体がもたらされ、これは、後続の工程段階において最終的なヒトインスリンに変換される。
【0005】
desB30-Thr-中間体の望ましくない形成に対処するために、過去の開発により、Arg対LysのC末端側に対する選択性が高いことにより、この誤切断を低減させるブタトリプシン変異体S172Aがもたらされた。ブタトリプシン変異体S172Aは、その全体が参照によって本明細書に組み入れる、特許文献1に記載されている。
【0006】
ここで、発明者らは、トリプシンS172A触媒反応の速度論を注意深く観察したところ、驚くべきことに、誤切断された副産物の形成は、文献に記載されているようなエンド
プロテアーゼとして作用するトリプシンによるPPIの主な誤切断に起因するだけでなく、エキソペプチダーゼとして作用するブタトリプシンならびにその変異体S172Aに内在するサイドアクティビティ(side-activity)にも起因するであろうことを見いだした。エキソペプチダーゼ活性によって、des-Argおよびdes-Thrの形成の下でインスリングラルギンの分解がもたらされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際特許出願WO2007/031187A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の基礎をなす技術上の問題
したがって、先行技術において、サイドアクティビティが低減した、特にエキソペプチダーゼ活性が低減した新規なトリプシン変異体に対するニーズがあった。かかる新規なトリプシン変異体は、PPIの切断において副産物の量を低減し、PPIからインスリン(またはインスリン誘導体)を産生するときに、インスリンおよびインスリン誘導体の収率がより向上するという結果をもたらすであろう。
【0009】
本発明者らは、エキソペプチダーゼ活性の低減を有する、および/またはPPI切断反応において副産物の形成の低減を示す、ブタトリプシンの新規な変異体を製造した。
【0010】
上のあらましは、本発明によって解決される問題すべてを必ずしも説明するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様では、本発明は、
ブタトリプシンの変異体であって、
配列番号1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含みまたはそれからなり、
該アミノ酸配列は、配列番号1による天然ブタトリプシンのF24、S44、D56、G78、Y131、S172およびW193に対応する1つまたはそれ以上の位置での少なくとも1個またはそれ以上のアミノ酸置換がある点が配列番号1と異なり、但し、
該アミノ酸配列は、配列番号1による天然のブタトリプシンではないことを条件とし;かつ、
該アミノ酸配列は、配列番号2によるブタ変異体トリプシンS172Aではないことを条件とする、
前記ブタトリプシンの変異体、
に関する。
【0012】
第2の態様では、本発明は、第1の態様に記載のブタトリプシンの変異体をコードする核酸分子に関する。
【0013】
第3の態様では、本発明は、第2の態様に記載の核酸分子を含有する宿主細胞に関する。
【0014】
第4の態様では、本発明は、第1の態様に記載のブタトリプシンの変異体を産生する方法であって:
第3の態様に記載の宿主細胞を培養する工程、および培養培地からまたは該宿主細胞からブタトリプシンの該変異体を単離する工程
を含む前記方法に関する。
【0015】
第5の態様では、本発明は、医薬として使用するための、食品成分として使用するための、飼料成分として使用するための、または食品成分もしくは飼料成分を製造する方法中で使用するための、第1の態様に記載のブタトリプシンの変異体、または第2の態様に記載の核酸分子、または第3の態様に記載の宿主細胞に関する。
【0016】
第6の態様では、本発明は、ヒトインスリン、インスリンアナログまたはインスリンの誘導体の産生のための方法における、第1の態様に記載のブタトリプシンの変異体の使用に関する。
【0017】
第7の態様では、本発明は、一般式A-Lys-Thr-Arg-Arg-Bを有するタンパク質またはペプチドを切断するための、第1の態様に記載のブタトリプシンの変異体の使用であって、
Aは1個またはそれ以上のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり;かつ
Bは1個またはそれ以上のアミノ酸からなるアミノ酸配列である、前記使用に関する。
【0018】
第8の態様では、本発明は、第1の態様に記載のブタトリプシンの変異体または第2の態様に記載の核酸分子または第3の態様に記載の宿主細胞を含む組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ヒトインスリンおよびインスリングラルギンのプレプロインスリンについて主要なトリプシン切断部位のスキームを示す図である。塗り潰し三角形は産物を生じる切断部位を表し、塗り潰しではない三角形は副産物を生じる切断部位を表す。プレプロインスリンのジスルフィド結合は表示されていない。
【
図2】トリプシン変異体S172A(配列番号2)によるプレプロインスリングラルギンの切断を示す図である。図に、インスリングラルギンの形成の時間依存性の経過、ならびに、最も顕著な切断副産物B31Arg-インスリングラルギン(インスリングラルギンB鎖の31位の後の切断、図中、「des-Arg」と略す)およびdesB30Thrインスリングラルギン(インスリングラルギンB鎖の29位の後の切断、図中、「des-Thr」と略す)の形成を示す。
【
図3】トリプシン変異体S172A(配列番号2)のエキソペプチダーゼ活性の例として、トリプシン変異体S172Aによるインスリングラルギンの切断を示す図である。図に、インスリングラルギンの時間依存性の減少、ならびに、主要な産物B32-desArg-インスリングラルギン(インスリングラルギンB鎖の31位の後の切断、図中、「des-Arg」と略す)の形成および少量の副産物B30-desThrインスリングラルギン(インスリングラルギンB鎖の29位の後の切断、図中、「des-Thr」と略す)の形成を示す。
【
図4】最適化されたトリプシン変異体による切断の例として、トリプシン変異体no.105(配列番号105)によるプレプロインスリングラルギンの切断を示す図である。図に、インスリングラルギンの形成の時間依存性の経過、ならびに最も顕著な切断副産物B31Arg-インスリングラルギン(インスリングラルギンB鎖の31位の後の切断、図中、「des-Arg」と略す)およびdesB30Thrインスリングラルギン(インスリングラルギンB鎖の29位の後の切断、図中、「des-Thr」と略す)の形成の減少を、示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
本発明を以下に詳細に説明するが、本発明は、本明細書に記載した特定の方法論、プロ
トコルおよび試薬に限定されるものではなく、それらは変更可能であることを理解されたい。また、本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とするものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定するものではないことも理解されたい。他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0021】
本発明の実施には、特に示さないかぎり、当技術分野の文献で説明されている化学的、生化学的、分子生物学的、免疫学的、および組換えDNAに関する従来の技法が用いられる。
【0022】
本明細書および後出の特許請求の範囲の全体を通して、文脈上別段の指示がない限り「含む(comprise)」という単語、ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変形は、述べられたメンバー、整数もしくは工程またはメンバー、整数もしくは工程の群の包含を意味するが、任意の他のメンバー、整数もしくは工程またはメンバー、整数もしくは工程の群の排除を意味しないものとする、但し、一部の実施態様では、かかる他のメンバー、整数もしくは工程またはメンバー、整数もしくは工程の群が排除される場合もある、すなわち、本発明の主題は、述べられたメンバー、整数もしくは工程またはメンバー、整数もしくは工程の群を包含することにある。本発明を記載する文脈において(特に、特許請求の範囲の文脈において)使用される「a」および「an」および「the」という用語および同様の参照は、本明細書では、特に断りのない限り、または文脈により明確に矛楯しない限り、単数および複数の両方をカバーすると解釈されるべきである。本明細書で値の範囲の列挙は、範囲内に入る個別の値それぞれを個々に言及する略記法として機能することを単に意図している。特に断りのない限り、本明細書では、個々の値それぞれは、あたかもそれが本明細書に個々に挙げられたかのように、本明細書に組み入れる。本明細書に記載された全ての方法は、本明細書において特に断りのない限りまたは文脈により明確に矛楯しない限り、適当な任意の順序で実施することができる。本明細書で提供される任意のおよび全ての実施例または例示的言い回し(例えば、「~のような」)の使用は、本発明を単により良く例示することを意図するものであり、主張しない限り本発明の範囲に制限を課すものではない。本明細書中の言い回しは、本発明の実施にとって不可欠な請求項には記載されていない任意の要素を指示するものと解釈されるべきではない。
【0023】
本明細書の本文の全体を通して、幾つかの文書(例えば、特許、特許出願、科学刊行物、製造者の仕様書、指示書、GenBank Accession Number配列登録等)が引用されている。本明細書中のいかなるものも、本発明が先行発明を理由としてかかる開示に先行しないと認めるものとして、解されるべきではない。本明細書で引用される文書の幾つかは、「参照によって組入れる」または「その全体を参照によって組入れる」ものとして特徴付けられる。そのように組入れた文献の定義または教示と、本明細書に記載した定義または教示との間に矛盾がある場合、本明細書の本文が優先される。
【0024】
配列:本明細書において言及される全ての配列は、その内容全体および開示とともに本明細書の一部をなす添付の配列表において開示されている。
【0025】
核酸分子、(ポリ)ペプチド、宿主細胞等のような、生物学的材料と関連付けて使用される場合、「天然の」という用語は、自然界に見られ、人によって操作されていない材料を指す。
【0026】
本明細書で使用する場合「アミノ酸」または「アミノ酸残基」という用語は、いずれも、その構造がそのような立体異性体形態を可能にする場合はそのD立体異性体およびL立
体異性体である、天然のアミノ酸、非天然アミノ酸、アミノ酸アナログおよび天然のアミノ酸と同様の様式で機能するアミノ酸模倣体を指す。アミノ酸は、本明細書において、それらの名前、それらの一般的に知られる3文字記号またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより勧告の1文字記号のいずれかによって言及される。
【0027】
アミノ酸と関連付けて使用する場合、「天然の」という用語は、従来の20個のアミノ酸(すなわち、アラニン(A)、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、イソロイシン(I)、リジン(K)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、プロリン(P)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)、トリプトファン(W)およびチロシン(Y))、ならびにセレノシステイン、ピロリジン(PYL)、およびピロリン-カルボキシリジン(PCL)を指す。「天然のアミノ酸」および「コード可能な(codable)アミノ酸」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0028】
本明細書で使用する場合、「非天然アミノ酸」という用語は、天然でコードされていない、または任意の生物の遺伝コードにおいて見られない、アミノ酸を指すことを意味する。
本明細書で使用する場合、「アミノ酸アナログ」という用語は、天然のアミノ酸と同じ基本化学構造を有する化合物を指す。
本明細書で使用する場合、「アミノ酸模倣体」という用語は、アミノ酸の一般的な化学構造と異なるが、天然のアミノ酸と同様の様式で機能する構造を有する化合物を指す。
【0029】
「ペプチド」という用語は、本明細書で使用する場合、ペプチド結合によって共有結合で連結された、例えば、2個以上、または3個以上、または4個以上、または6個以上、または8個以上、または9個以上、または10個以上、または13個以上、または16個以上、または21個以上のアミノ酸を含む、任意の長さのアミノ酸のポリマー形態を指す。「ポリペプチド」という用語は、大きなペプチド、特に100個を超えるアミノ酸残基を有するペプチドを指す。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書では互換的に使用される。本出願は、本明細書で開示のいくつかのペプチドおよびポリペプチドについてアミノ酸配列情報を提供する。本明細書では、アミノ酸配列を、ペプチドまたはポリペプチドのアミノ末端(左側)からカルボキシ末端(右側)まで提示する。
【0030】
本明細書で使用する場合、(ポリ)ペプチドの「変異体」とは、そのアミノ酸配列における1個またはそれ以上のアミノ酸改変置換がある点が、対応する参照(ポリ)ペプチドと異なる(ポリ)ペプチドを指す。一実施形態では、「変異体」は、参照(ポリ)ペプチドの1つまたはそれ以上の生物活性を維持する。参照(ポリ)ペプチドは、野生型(ポリ)ペプチドまたは天然ではない(ポリ)ペプチドとすることができる。「変異体(variant)」および「変異型(mutant)」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0031】
本明細書で使用する場合、「ブタトリプシンの変異体」という用語は、そのアミノ酸配列における1個またはそれ以上のアミノ酸改変置換がある点が、配列番号1に示される野生型ブタトリプシンと異なるポリペプチドを指す。「ブタトリプシンの変異体」という用語は、1個またはそれ以上のアミノ酸交換置換がある点が、配列番号1に示される野生型ブタトリプシンと異なるポリペプチドを特に指す。本発明によれば、「ブタトリプシンの変異体」は、参照トリプシン(例えば、配列番号1による野生型ブタトリプシンまたは配列番号2によるトリプシン変異体S172A)のエンド型プロテアーゼ活性と同様のエンド型プロテアーゼ活性を呈するが、「ブタトリプシンの変異体」と参照トリプシンとのエ
ンド型プロテアーゼ活性は、ある特定の切断部位に対するそれらの選択性の点で違うとすることができる。
【0032】
「アミノ酸改変」という用語は、アミノ酸交換、アミノ酸欠失、およびアミノ酸付加を包含する。「アミノ酸交換」および「アミノ酸置換」という用語は、本明細書では互換的に使用される。「アミノ酸欠失」という用語は、N末端切断、内部欠失、およびC末端切断を包含する。「アミノ酸付加」という用語は、N末端付加、アミノ酸挿入、およびC末端付加を包含する。
【0033】
「Xaa24」という表現(およびXaa44、Xaa56、Xaa78等のような同様の表現)は、所与のアミノ酸配列の24位(またはそれぞれ44、56、78等)での可変アミノ酸を指す。本出願と共に供給される配列表には、可変アミノ酸の位置と共に一タンパク質配列、すなわち配列番号3が含有されている。配列番号3によるタンパク質配列内の可変アミノ酸の位置は、アミノ酸Xaa(3文字のコード形式)によって示される。この例において数字24は、この可変位置が配列番号3によるタンパク質配列の24番目のアミノ酸であることを示す。同様に、Xaa44という表現は、配列番号3の44番目の位置が可変アミノの位置であること等を示し、以下同様である。
【0034】
本明細書で使用する場合、「ヒトインスリン」という用語は、その構造および特性が良く知られているヒトホルモンを指す。ヒトインスリンは、2つのペプチド鎖(A鎖およびB鎖)を有し、2つのペプチド鎖はシステイン残基、すなわちA鎖とB鎖との間でジスルフィド架橋によって連結している。A鎖は、アミノ酸21個のペプチドであり、B鎖はアミノ酸30個のペプチドであり、2つの鎖は、3つのジスルフィド架橋:第1は、A鎖の6位と11位とのシステイン間;第2は、A鎖の7位のシステインとB鎖の7位のシステインとの間;および第3は、A鎖の20位のシステインとB鎖の19位のシステインとの間、によって連結している。
【0035】
本明細書で使用する場合、「インスリンの誘導体」および「インスリン誘導体」という用語は、天然のインスリンの構造から、例えばヒトインスリンの構造から誘導することが形式上可能である分子構造を有するペプチドを指し、この場合、1個またはそれ以上の有機置換基(例えば脂肪酸)が1個またはそれ以上のアミノ酸に結合している。場合により、天然のインスリン中に存在する1個またはそれ以上のアミノ酸が、欠失されている、および/もしくはコード可能でない(non-codable)アミノ酸を含めて他のアミノ酸に置き換えられている、または、コード可能でないものを含めてアミノ酸が天然のインスリンに付加されている。インスリンの誘導体の例には、それには限定されないが、以下が含まれる:
(i).「インスリンデテミル」、これは、B30位のC末端トレオニンが取り外され、かつB29位のリジンのイプシロン-アミノ官能基に脂肪酸残基(ミリスチン酸残基)が付着されているという点でヒトインスリンと異なる。
(ii).「インスリンデグルデク」、これは、最後のアミノ酸がB鎖から欠失されているという点で、かつBLys29からヘキサデカン二酸までグルタミルリンクが付加されていることにより、ヒトインスリンと異なる。
【0036】
本明細書で使用する場合、「インスリンのアナログ」および「インスリンアナログ」という用語は、天然のインスリン中に存在する少なくとも1個のアミノ酸残基を欠失するおよび/もしくは交換することによって、ならびに/または少なくとも1個のアミノ酸残基を付加することによって、天然のインスリンの構造から、例えばヒトインスリンの構造から誘導することが形式的に可能な分子構造を有するペプチドのことを指す。付加および/または交換されたアミノ酸残基は、コード可能なアミノ酸残基であっても、別の天然の残基であっても、まったくの合成アミノ酸残基のいずれであってもよい。インスリンのアナ
ログの例には、それらに限定されないが、以下が含まれる:
(i).「インスリンアスパルト」は、プロリンであるヒトインスリン中のアミノ酸B28(すなわちヒトインスリンのB鎖中の28番のアミノ酸)を、アスパラギン酸で置き換えるように組換えDNA技術により創出される;
(ii).「インスリンリスプロ」は、ヒトインスリンのB鎖のC末端上の最後から2番目のリジン残基とプロリン残基とが逆転するように組換えDNA技術により創出される(ヒトインスリン:B28Pro-B29Lys;インスリンリスプロ:B28Lys-B29Pro);
(iii).「インスリングルリジン」は、B3位のアミノ酸アスパラギンをリジンで置き換え、かつB29位のリジンをグルタミン酸で置き換えるという点でヒトインスリンと異なる;
(iv).「インスリングラルギン」は、A21位のアスパラギンをグリシンで置き換え、かつB鎖をカルボキシ末端で2個のアルギニンによって伸長しているという点でヒトインスリンと異なる。
【0037】
本明細書で使用する場合、「収率」という用語は、トリプシン切断後に得られる、結果として生じる産物(すなわち、インスリンまたはインスリン誘導体またはインスリンアナログ)とトリプシン切断前のプレプロインスリン(またはプレプロインスリン誘導体またはプレプロインスリンアナログ)との比を指す。収率は、所望の切断部位で切断するトリプシン変異体の選択性によっておよびそのエキソヌクレアーゼ活性によって左右される。所望の切断部位のみで切断するトリプシン変異体の選択性が高いほど、そのエキソヌクレアーゼ活性が低いほど、収率は高くなる。
【0038】
例えば、「インスリングラルギンの収率」または「B31Arg-B32Arg-ヒトインスリンの収率」とは、トリプシン切断後に得られる、結果として生じるインスリングラルギンまたはB31Arg-B32Arg-ヒトインスリンと、トリプシン切断前の、それぞれ、プレプロインスリングラルギンまたはヒトプレプロインスリンとの比を指す。「インスリングラルギンの収率」および「B31Arg-B32Arg-ヒトインスリンの収率」は、B32Argの後のみを切断するトリプシン変異体の選択性によっておよびそのエキソヌクレアーゼ活性によって、左右される。B32Argの後のみで切断するトリプシン変異体の選択性が高く、そのエキソヌクレアーゼ活性が低いほど、収率は高くなる。
【0039】
本明細書で使用する場合、「選択性の向上」という用語は、参照トリプシンと比較して、望ましくない切断部位ではより低い程度までに、所望の切断部位ではより高い程度までに切断するトリプシン変異体の特性を指す。選択性の向上によって、望まれない副産物の形成が低減することになる。参照トリプシンは、例えば、配列番号1による野生型ブタトリプシンまたは配列番号2によるトリプシン変異体S172Aとすることができる。
【0040】
2つのアミノ酸配列間の「配列同一性」とは、配列間において同一であるアミノ酸の百分率を示す。比較のための配列の最適化アラインメントは、手作業以外に、Smith and Waterman、1981、Adv.App.Math.2、482~489頁(参照によって本明細書に組入れる)の局所的相同性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch、1970、J.Mol.Biol.48、443~453頁(参照によって本明細書に組入れる)の局所的相同性アルゴリズムによって、Pearson and Lipman、1988、Proc.Natl Acad.Sci.USA 85、2444~2448頁(参照によって本明細書に組入れる)の類似検索方法によって、またはこれらのアルゴリズムを使用するコンピュータプログラム(Wisconsin Genetics Software PackageのGAP、BESTFIT、FASTA、BLASTP、BLASTN、およびTFASTA、Gene
tics Computer Group、575 Science Drive、Madison、Wis.)によって、作製することができる。
【0041】
本発明の文脈において、特に明記しない限り、修飾配列とそれが由来する配列との間の配列同一性の程度は一般に、非修飾配列の全長に対して算出される。どちらの配列も修飾配列ではない実施形態では、特に明記しない限り、配列同一性の程度は、参照配列として定義された配列の全長に対して算出される。どちらの配列も参照配列とみなすことができない実施形態では、特に明記しない限り、配列同一性の程度は、2つの配列のうちのより長い方に対して算出される。
【0042】
本発明の一部の実施形態による「核酸分子」とは、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)である。本発明による核酸分子は、一本鎖または二本鎖である分子の形態とすることができる;かつ、直鎖状であっても、共有結合で閉じて環を形成してもよい。
【0043】
「DNA」という用語は、デオキシリボヌクレオチド残基を含む分子、およびデオキシリボヌクレオチド残基で完全にまたは実質的に構成された分子に関する。「デオキシリボヌクレオチド」は、ベータ-D-リボフラノシル基の2’位でのヒドロキシル基を欠くヌクレオチドに関する。「DNA」という用語は、部分的または完全に精製されたDNAのような単離DNA、本質的に純粋なDNA、合成DNA、および遺伝子組換えにより生じたDNAを含み、1個またはそれ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換、および/または改変置換がある点が天然のDNAと異なる修飾DNAも含む。そのような改変には、DNAの末端へまたは内部にのような、例えば、DNAの1個またはそれ以上のヌクレオチドでの、非ヌクレオチド材料の付加が含まれる。DNA分子におけるヌクレオチドはまた、例えば、非天然のヌクレオチドまたは化学的に合成されたヌクレオチドのような非標準ヌクレオチドも含むことができる。これらの改変DNAは、アナログまたは天然のDNAのアナログと呼ぶことができる。ヌクレオチドと関連付けて使用する場合、「天然の」という用語は、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)、およびウラシル(U)の各塩基を指す。
【0044】
「RNA」という用語は、リボヌクレオチド残基を含む分子、および、リボヌクレオチド残基で完全にまたは実質的に構成された分子に関する。「リボヌクレオチド」は、ベータ-D-リボフラノシル基の2’位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関する。「RNA」という用語は、部分的または完全に精製されたRNAのような単離RNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、および遺伝子組換えにより生じたRNAを含み、1個またはそれ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換、および/または改変置換がある点が天然のRNAと異なる修飾RNAも含む。そのような改変には、RNAの末端へまたは内部にのような、例えば、RNAの1個またはそれ以上のヌクレオチドでの、非ヌクレオチド材料の付加が含まれる。RNA分子におけるヌクレオチドはまた、非天然のヌクレオチドまたは化学的に合成されたヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドのような非標準ヌクレオチドも含むことができる。これらの改変RNAは、アナログまたは天然のRNAのアナログと呼ぶことができる。本発明によれば、「RNA」とは、一本鎖RNAまたは二本鎖RNAを指す。一実施形態では、RNAは、mRNA、例えば、in vitro転写RNA(IVT RNA)または合成RNAである。RNAはまた、例えば、RNAの安定性(例えば、半減期)を向上する1つまたはそれ以上の修飾によって、修飾することができる。かかる修飾は、当業者であれば知っており、これには、例えば、5’-キャップまたは5’キャップアナログが含まれる。
【0045】
本発明による核酸分子を、ベクター中に含有せしめる/含めることができる。「ベクター」という用語には、本明細書で使用する場合、プラスミドベクター、コスミドベクター
、ラムダファージのようなファージベクター、アデノウイルスベクターもしくはバキュロウイルスベクターのようなウイルスベクター、またはバクテリア人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、もしくはP1人工染色体(PAC)のような人工染色体ベクターを含めて、当業者であれば知っている全てのベクターが含まれる。前記ベクターには、発現ベクターならびにクローニングベクターが含まれる。発現ベクターは、プラスミドならびにウイルスベクターを含み、一般的に、特定の宿主生物(例えば、細菌、酵母、植物、昆虫、または哺乳動物)において、またはin vitro発現系において、作動可能に連結されたコード配列の発現に必要な所望のコード配列と適当なDNA配列とを含有する。クローニングベクターは一般に、ある特定の所望のDNA断片を操作および増幅するのに使用されるが、所望のDNA断片の発現に必要な機能的配列を欠いてもよい。
【0046】
あるいは、本発明による核酸分子は、ゲノムに、例えば、宿主細胞のゲノムに組み込まれていてもよい。特定の核酸分子をゲノムに組み込む手段および方法は、当業者であれば知っている。
【0047】
「細胞」または「宿主細胞」という用語は一般には、無傷細胞、すなわち、酵素、細胞小器官、または遺伝物質のような、その正常な細胞内成分を放出していない、無傷膜を有する細胞に関する。無傷細胞は一般には、生存細胞、すなわち、その正常な代謝機能を行うことができる、生きた細胞である。本明細書で使用する場合、前記用語は、外因性核酸で形質移入または形質転換されている任意の細胞に関する。一部の実施形態では、外因性核酸で形質移入または形質転換され、レシピエントに導入された場合、細胞は、レシピエントにおいて当該核酸を発現することができる。「細胞」という用語には、細菌細胞のような原核細胞、および酵母細胞、真菌細胞、または哺乳動物細胞のような真核生物細胞が含まれる。細菌細胞には、大腸菌(Escherichia coli)、プロテウス属(Proteus)、およびシュードモナス属(Pseudomonas)の各株のようなグラム陰性細菌株、ならびにバチルス属(Bacillus)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、ブドウ球菌属(Staphylococcus)、およびラクトコッカス属(Lactococcus)の各株のようなグラム陽性細菌株、からの細胞が含まれる。真菌細胞には、トリコデルマ属(Trichoderma)、ニューロスポーラ属(Neurospor)、およびアスペルギルス属(Aspergillus)の種からの細胞が含まれる。酵母細胞には、サッカロマイセス属(Saccharomyces)の種(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)の種(例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe))、ピキア属(Pichia)の種(例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)およびピキア・メタノリカ(Pichia
methanolica))、コマガタエラ属(Komagataella)の種(例えば、コマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)およびコマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii))およびハンゼヌラ属(Hansenula)の種、からの細胞が含まれる。哺乳動物細胞には、例えば、CHO細胞、BHK細胞、HeLa細胞、COS細胞、HEK293等が含まれる。両生類細胞、昆虫細胞、植物細胞、および異種タンパク質の発現向けに当技術分野において使用される任意の他の細胞も、使用することができる。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギ、および霊長類からの細胞のような、哺乳動物細胞は養子移植に特に適している。これらの細胞は、多くの組織型から誘導することができ、これらには、初代細胞および免疫系の細胞のような細胞株、特に樹枝状細胞およびT細胞のような抗原提示細胞、造血幹細胞および間充織幹細胞のような幹細胞、ならびにその他の細胞型が含まれる。抗原提示細胞とは、その表面上の主要組織適合遺伝子複合体との関連において抗原を呈する細胞である。T細胞は、そのT細胞受容体(TCR)を使用して、この複合体を認識することができる。「細胞」または「宿主細胞」は、単離されているか、組織または生物、特に「
非ヒトの生物」の一部分である。
【0048】
「非ヒトの生物」という用語には、本明細書で使用する場合、非ヒト霊長類またはその他の動物、特に、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、もしくはげっ歯類、例えば、マウス、ラット、モルモットおよびハムスターのような哺乳動物が含まれることを意味する。
【0049】
「医薬」という用語は、本明細書で使用する場合、治療法において、すなわち、疾患および障害の処置において使用される、物質/組成物を指す。
【0050】
本発明によれば、「疾患または障害」という用語は、任意の病理学的状態または不健康な状態を指す。
【0051】
「処置する」とは、疾患または障害を予防または排除するために;対象の疾患および障害を停止または鈍化させるために;対象において新たな疾患または障害の発生を阻害するまたは鈍化させるために;疾患または障害を現在有しているまたは以前に有していた対象において症状の頻度もしくは重度および/または再発を減少するために;および/または、対象の寿命を延長する、すなわち延ばすために、化合物もしくは組成物または化合物もしくは組成物の組合せを対象に投与することを意味する。
【0052】
特に、「疾患または障害の処置すること/処置」という用語には、治すこと、期間を短縮すること、改善すること、予防すること、進行もしくは悪化を減速させることもしくは阻害すること、または疾患もしくは障害もしくはそれらの症状の発症を予防することもしくは遅延させることが含まれる。
【0053】
「対象」という用語は、本発明によれば、処置のための対象、特に罹患対象(「患者」とも呼ばれる)を意味し、これには、ヒト、非ヒト霊長類、またはその他の動物、特に、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、もしくはげっ歯類、例えば、マウス、ラット、モルモット、およびハムスターのような哺乳動物が含まれる。一実施形態では、対象/患者は、ヒトである。
【0054】
本発明による「組成物」は、本発明のブタトリプシンの変異体(本明細書では「活性剤」とも呼ばれる)の有効量を含有する。本発明による組成物は、(a)製造方法において、特にペプチドを製造する製造方法において、特にヒトインスリン、インスリン誘導体および/またはインスリンアナログを製造する製造方法において;(b)食品成分として;(c)飼料成分として、(d)または食品成分もしくは飼料成分を製造する方法中で使用するために、使用することができる。本発明による組成物はまた、疾患または障害の処置に使用することができ、したがって、医薬組成物とすることができる。
【0055】
本発明による「医薬組成物」は、所望の反応または所望の効果を生みだすために、本発明のブタトリプシンの変異体、核酸分子または宿主細胞(本明細書では「活性剤」とも呼ばれる)の治療有効量を含有する。本発明による医薬組成物は、少なくとも1つの他の活性剤をさらに含むことができる。
一実施形態では、組成物は均一な剤形で提供され、それ自体既知の方法で製造することができる。組成物は、例えば、溶液または懸濁液の形態とすることができる。
【0056】
組成物または医薬組成物は、1つまたはそれ以上の賦形剤をさらに含むことができる。医薬組成物に関する一実施形態では、1つまたはそれ以上の賦形剤はすべて薬学的に許容されるものである。本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される」とは、哺乳動物またはヒトによって生理学的に忍容性が良好であることを指す。特に、これは、動物および
より具体的にはヒトにおいて使用するために、連邦政府、もしくは州政府の管理機関によって承認されているか、または米国薬局方もしくは他の一般に認められる薬局方において掲載されていることを意味する。
【0057】
本発明による組成物または医薬組成物は、様々な活性剤および賦形剤(例えば、希釈剤および/または担体)が互いに混ざった組成物の形態で存在してもよいし、活性剤が部分的または完全に異なる形態で存在している配合製剤の形態を取ってもよい。そのような組合わせまたは配合製剤の例は、キットオブパーツ(kit-of-parts)である。
【0058】
文脈が他に明記していない限り、「活性剤」および「有効成分」という用語は、本発明のブタトリプシンの変異体、本発明の核酸分子、および本発明の宿主細胞を指す。「活性剤」および「有効成分」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0059】
「担体」という用語は、適用を容易にし、増強しまたは可能にするために活性剤が組み合わされている、天然性または合成性の有機成分または無機成分を指す。本発明によれば、「担体」という用語にはまた、1つまたはそれ以上の適合性のある固体充填剤もしくは液体充填剤、希釈剤、アジュバント、賦形剤、ビヒクル、または被包物質(encapsulating substance)が含まれる。このような担体は、食塩水および油のような、これには石油起源のもの、動物起源のもの、植物起源のもの、もしくは合成起源のもの、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等が含まれるが、滅菌液体とすることができる。食塩水ならびに水性のデキストロース溶液およびグリセロール溶液も、液体担体として用いることができる。適切な賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等が含まれる。組成物または医薬組成物は、必要に応じて、微量の湿潤剤もしくは乳化剤、または、pH緩衝剤も含有することができる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、徐放性製剤等の形態を取ることができる。組成物または医薬組成物は、トリグリセリドのような伝統的な結合剤および担体を用いて、坐剤として製剤化することができる。本発明の化合物は、中性または塩の形態として製剤化することができる。薬学的に許容される塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等から誘導されるもののような、遊離アミノ基で形成される塩、および、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第2鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等から誘導されるもののような、遊離カルボキシル基で形成される塩が含まれる。かかる組成物は、適量の担体と一緒に、一部の実施形態では精製された形態で、有効量の化合物を含有することになる。製剤は投与の様式に合うものでなければならない。
【0060】
「賦形剤」という用語には、本明細書で使用する場合、活性剤ではないが組成物中または医薬組成物中に存在してもよい全ての物質、例えば、塩、結合剤(例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、トレハロース、ソルビトール、マンニトール)、担体、潤滑剤、増粘剤、表面活性剤、防腐剤(例えば、抗酸化剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、システイン、メチオニン、パラベン、チメロサール)、乳化剤、バッファ物質、香味剤、または着色剤が含まれることを意図する。
【0061】
塩を本発明に含めるが、これはまた、薬学的に許容される塩とすることができる。この種の塩または薬学的に許容される塩は、限定されるものではないが、以下の酸から製造されるものを含む:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸等。塩または薬学的に許容される塩はまた、ナ
トリウム塩、カリウム塩、またはカルシウム塩のような、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩として製造することもできる。塩を添加して、イオン強度または張性を調整することができる。
【0062】
本発明による組成物にまたは医薬組成物に使用するのに適したバッファ物質には、酢酸の塩、クエン酸の塩、ホウ酸の塩、およびリン酸の塩が含まれる。
【0063】
組成物または医薬組成物はまた、適当な希釈剤で復元される安定な凍結乾燥製品として製剤化することもできるが、これは、場合により、上で定義した1つまたはそれ以上の賦形剤を含む。
【0064】
本明細書で記載の活性剤および医薬組成物は、治療有効量で投与することができる。「治療有効量」とは、一実施形態では許容できない副作用を引き起こすことなく、単独でまたはさらなる用量と一緒で、所望の治療反応または所望の治療効果を達成する量を指す。特定の疾患または特定の状態の処置の場合、所望の反応とは、疾患の経過の阻害に関するものである。これは、疾患の進行を減速させること、および、特に疾患の進行を中断させることまたは好転させることを含む。疾患または状態の処置における所望の反応とはまた、前記疾患または前記状態の発症の遅延または発症の予防とすることができる。本明細書に記載の薬剤および組成物の有効量は、処置すべき状態、疾患の重度、対象の個々のパラメータ(年齢、生理的状態、サイズおよび体重を含めて)、処置の持続期間、付随する療法のタイプ(もしあるなら)、投与の特定の経路、ならびに同様の因子によって左右されるであろう。したがって、本明細書に記載の薬剤の投与される用量は、いくつかのかかるパラメータに左右されてもよい。対象における反応が、初回用量で十分でない場合、より高い用量(または、より局所的である、異なる投与経路によって行われる、効果的により高い用量)を使用することもできる。
【0065】
本明細書で使用する場合、「キットオブパーツ(要するに:キット)」という用語は、1個またはそれ以上の容器と、場合によりデータ媒体とを含む製造品を指す。前記1個またはそれ以上の容器は、上述した薬剤(試薬)の1つまたはそれ以上を収納することができる。キットには、例えば、希釈剤、バッファ、およびさらなる試薬を含有する追加の容器を含めることができる。前記データ媒体は、非電子的データ媒体、例えば、情報リーフレット、情報シート、バーコードもしくはアクセスコードのようなグラフィックデータ媒体、または、コンパクトディスク(CD)、デジタル多用途ディスク(DVD)、マイクロチップ、もしくは別の半導体系の電子データ媒体のような電子データ媒体とすることができる。アクセスコードは、データベース、例えば、インターネットデータベース、集中データベース、分散データベースへのアクセスを可能にする。前記データ媒体は、本発明の活性剤の使用のための取扱説明書を含む場合もある。例えば、データ媒体は、(a)製造方法において、特にペプチドを製造する製造方法において、特にヒトインスリン、インスリン誘導体および/またはインスリンアナログを製造する製造方法において;(b)食品成分として;(c)飼料成分として、(d)または食品成分もしくは飼料成分を製造する方法中で使用するために、活性剤の使用のための取扱説明書を含む場合もある。
【0066】
本明細書で使用する場合、「プレプロインスリン」という用語または「PPI」という略語は、プレ配列とこれにB鎖、CペプチドおよびA鎖が続いている、N末端部分から始まる単鎖インスリン前駆体を指す(
図1を参照されたい)。
【0067】
発明の実施形態
以下の項では、本発明のある特定の要素について説明する。これらの要素は、特定の実施形態と共に列挙されるが、追加の実施形態を創出するために任意の様式でおよび任意の数で組み合わせることができるということを理解されたい。様々に説明される実施例およ
び実施形態は、明確に説明された実施形態のみに本発明を限定すると解釈すべきではない。この説明は、明確に説明される実施形態を任意数の開示された要素と組み合わせる実施形態を、支持および包含すると理解されたい。さらに、本出願における全ての説明された要素の任意の入替えおよび組合せは、文脈において明記されない限り、本出願の説明によって開示されたものと見なされるべきである。
【0068】
第1の態様では、本発明は、
ブタトリプシンの変異体であって、
配列番号1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含みまたはそれからなり、
該アミノ酸配列は、配列番号1による天然ブタトリプシンのF24、S44、D56、G78、Y131、S172およびW193に対応する1つまたはそれ以上の位置での少なくとも1個またはそれ以上のアミノ酸置換がある点が配列番号1と異なり、但し、
該アミノ酸配列は、配列番号1による天然のブタトリプシンではないことを条件とし;かつ、
該アミノ酸配列は、配列番号2によるブタ変異体トリプシンS172Aではないことを条件とする、
前記ブタトリプシンの変異体、
を対象とする。
【0069】
第1の態様の一実施形態では、
F24に対応する位置のアミノ酸はAsp、Glu、もしくはGlyで置換されていない;
S44に対応する位置のアミノ酸はTyrで置換されていない;
Y131に対応する位置のアミノ酸はLysもしくはProで置換されていない;および/または
W193に対応する位置のアミノ酸はAsnもしくはCysで置換されていない。
【0070】
第1の態様の一実施形態では、
F24に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Asn、Arg、Gln、Ile、Leu、Lys、Met、Ser、Thr、およびValからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;
S44に対応する位置のアミノ酸は、LeuおよびProからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;
D56に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Asn、His、およびTrpからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;
G78に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Glu、Pro、Ser、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;
Y131に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Met、Ser、Thr、Trp、およびValからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;
S172に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Cys、およびThrからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;ならびに/または
W193に対応する位置のアミノ酸は、Phe、Ser、Thr、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている。
【0071】
第1の態様のさらなる実施形態では、
F24に対応する位置のアミノ酸はArgで置換されている;
S44に対応する位置のアミノ酸はProで置換されている;
D56に対応する位置のアミノ酸はHisで置換されている;
G78に対応する位置のアミノ酸はProで置換されている;
Y131に対応する位置のアミノ酸はMetで置換されている;
S172に対応する位置のアミノ酸をAlaで置換されている;および/または
W193に対応する位置のアミノ酸はSerで置換されている。
【0072】
第1の態様の一実施形態では、該アミノ酸配列は、配列番号1による天然ブタトリプシンのR99、R107、K125、およびK170に対応する1つまたはそれ以上の位置での少なくとも1個またはそれ以上のアミノ酸置換がある点が配列番号1とはさらに異なる。
【0073】
第1の態様の一実施形態では、
R107に対応する位置のアミノ酸はProで置換されていない。および/または
K170に対応する位置のアミノ酸は、IleまたはPheで置換されていない。
【0074】
第1の態様のさらなる実施形態では、
R99に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Asn、Asp、Glu、Gly、His、Leu、Phe、Thr、Trp、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;
R107に対応する位置のアミノ酸は、Asp、Gly、Pro、Ser、およびThrからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;
K125に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Leu、Ser、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;ならびに/または
K170に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Asn、GlyおよびTyrからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている。
【0075】
第1の態様のさらなる実施形態では、
R99に対応する位置のアミノ酸は、Ala、His、およびAsnからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;
R107に対応する位置のアミノ酸はThrで置換されている;
K125に対応する位置のアミノ酸は、Ala、Cys、およびSerからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている;ならびに/または
K170に対応する位置のアミノ酸はAlaで置換されている。
【0076】
第1の態様の一実施形態では、該アミノ酸配列は、配列番号1によるブタ野生型トリプシンと、少なくとも91%または少なくとも92%または少なくとも93%または少なくとも94%または少なくとも95%または少なくとも96%または少なくとも97%または少なくともの98%または少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0077】
第1の態様の一実施形態では、該アミノ酸配列は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、または23個のアミノ酸交換置換がある点が、配列番号1によるブタ野生型トリプシンと異なる。
【0078】
第1の態様の一実施形態では、該アミノ酸配列は配列番号3であり、ここで、
Xaa24は、Ala、Asn、Arg、Gln、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、およびValからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa44は、Leu、Pro、およびSerからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa56は、Ala、Asn、Asp、His、およびTrpからなる群から選択さ
れるアミノ酸であり;
Xaa78は、Ala、Glu、Gly、Pro、Ser、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa99は、Ala、Arg、Asn、Asp、Glu、Gly、His、Leu、Phe、Thr、Trp、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa107は、Arg、Asp、Gly、Pro、Ser、およびThrからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa125は、Ala、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Leu、Lys、Ser、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa131は、Ala、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Met、Ser、Thr、Trp、Tyr、およびValからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa170は、Ala、Asn、Gly、Lys、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa172は、Ala、Cys、Ser、およびThrからなる群から選択されるアミノ酸であり;ならびに/または
Xaa193は、Phe、Ser、Thr、Trp、およびTyrからなる群から選択されるアミノ酸であり;但し、
配列番号3は、配列番号1によるブタ野生型トリプシンではないことを条件とし;かつ
配列番号3は、配列番号2によるブタ変異体トリプシンS172Aではないことを条件とする。
【0079】
第1の態様のさらなる実施形態では、該アミノ酸配列は配列番号3であり、ここで、
Xaa24は、PheおよびArgからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa44は、SerおよびProからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa56は、AspおよびHisからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa78は、GlyおよびProからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa99は、Ala、Arg、His、およびAsnからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa107は、ArgおよびThrからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa125は、Ala、Cys、LysおよびSerからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa131は、MetおよびTyrからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa170は、AlaおよびLysからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Xaa172は、AlaおよびSerからなる群から選択されるアミノ酸であり;ならびに/または
Xaa193は、SerおよびTrpからなる群から選択されるアミノ酸であり;但し、
配列番号3は、配列番号1によるブタ野生型トリプシンではないことを条件とし;かつ
配列番号3は、配列番号2によるブタ変異体トリプシンS172Aではないことを条件とする。
【0080】
第1の態様の一実施形態では、該アミノ酸配列は、配列番号4~119からなる群から選択される。一実施形態では、該アミノ酸配列は、配列番号89、配列番号90、配列番号91、配列番号92、配列番号93、配列番号94、配列番号95、配列番号96、配列番号97、および配列番号98からなる群から選択される。
【0081】
第1の態様の一実施形態では、該変異体は、一般式A-Lys-Thr-Arg-Arg-Bを有するペプチドを切断して、少なくとも80%の収率(例えば、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少な
くとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)で、一般式A-Lys-Thr-Arg-Argの切断産物を生じることができ、
Aは1個またはそれ以上のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり;かつ
Bは1個またはそれ以上のアミノ酸からなるアミノ酸配列である。
【0082】
第1の態様のさらなる実施形態では、Aは、1~105個の間のアミノ酸(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、または105個のアミノ酸))からなるアミノ酸配列であり、Bは、1~105個の間のアミノ酸(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、または105個のアミノ酸)からなるアミノ酸配列である。
【0083】
第1の態様の一実施形態では、該変異体は、配列番号2によるブタ変異体トリプシンS172Aと比較して、B32-Arg位のC末端側の位置での、プレプロヒトインスリン、プレプロインスリングラルギン、プレプロインスリンリスプロ、プレプロインスリンアスパルト、またはプレプロプロインスリングルリジンの切断に対して選択性の向上を呈する。
【0084】
本発明の第1の態様の一部の実施形態では、ブタトリプシンの変異体は凍結乾燥されている。
【0085】
第2の態様では、本発明は、核酸分子であって、
- 本発明の第1の態様で定義したブタトリプシンの変異体;または
- 本発明の第1の態様で定義したブタトリプシンの変異体のトリプシノーゲン前駆体分子、
をコードする核酸分子を対象とする。
【0086】
第2の態様の一実施形態では、該核酸分子はベクターに含有されるか、またはゲノムに組み込まれている。
【0087】
第3の態様では、本発明は、宿主細胞であって、第2の態様で定義した核酸分子を含有する宿主細胞を対象とする。一実施形態では、宿主細胞は組換え宿主細胞である。
【0088】
第4の態様では、本発明は、本発明のブタトリプシンの変異体を産生する方法であって:
第3の態様に記載の宿主細胞を培養する工程;および
培養培地からまたは該宿主細胞からブタトリプシンの該変異体のトリプシノーゲン前駆体分子を単離する工程
を含む方法を、対象とする。
【0089】
第4の態様の一実施形態では、方法は、さらなる工程:
トリプシノーゲン前駆体分子を活性化し、それによりブタトリプシンの該変異体を得る工程
を含む。
【0090】
トリプシノーゲン前駆体分子の活性化は、化学的または酵素的に行うことができる。例えば、自己活性化が起こるようにpHを調整することができる。別の例では、プロテアーゼ(例えばエンテロキナーゼ)を添加して、トリプシノーゲンを酵素的に活性化することができる。
【0091】
第5の態様では、本発明は、医薬として使用するための;
食品成分として使用するための;飼料成分として使用するための、または食品成分もしくは飼料成分を製造する方法中で使用するための、
本発明のブタトリプシンの変異体、または本発明の核酸分子、または本発明の宿主細胞を対象とする。
【0092】
第5の態様の一実施形態は、食品成分として使用するための;飼料成分として使用するための、または食品成分もしくは飼料成分を製造する方法中で使用するための、本発明のブタトリプシンの変異体を対象とする。
【0093】
第5の態様の一実施形態では、医薬は、腫脹(特に、外傷によって引き起こされる腫脹)、炎症(特に、外傷によって引き起こされる炎症)、血栓性静脈炎、脊椎関節炎(activated arthrosis)、消化酵素の欠乏症(例えば、膵不全によって引き起こされる)、および/または消化器障害の処置で使用するためのものである。
【0094】
言い換えると、本発明は、腫脹(特に外傷によって引き起こされる腫脹)、炎症(特に外傷によって引き起こされる炎症)、血栓性静脈炎、脊椎関節炎、消化酵素の欠乏症(例えば膵不全によって引き起こされる)、および/または消化器障害の処置において使用するための、本発明のブタトリプシンの変異体または本発明の核酸分子または本発明の宿主細胞を、対象とする。
【0095】
食品成分として、飼料成分として、または製造方法中での用法に関連して、第5の態様は、以下のように代替的に言い表すことができる:
食品成分としての本発明のブタトリプシンの変異体の使用。
飼料成分としての本発明のブタトリプシンの変異体の使用。
食品成分または飼料成分の製造方法における本発明のブタトリプシンの変異体の使用。
【0096】
第6の態様では、本発明は、ヒトインスリン、インスリンアナログまたはインスリンの誘導体の産生方法における、本発明のブタトリプシンの変異体の使用を対象とする。
【0097】
第6の態様は、ヒトインスリン、インスリンアナログまたはインスリンの誘導体を産生するためのin vitro方法およびin vivo方法の両方での本発明のブタトリプシンの変異体の使用を包含する。
【0098】
in vivo方法での用法に関連して、第6の態様は、以下のように代替的に言い表すことができる:
ヒトインスリン、インスリンアナログまたはインスリンの誘導体のin vivo産生における使用のための第1の態様に記載のブタトリプシンの変異体。
第6の態様の一実施形態では、インスリンアナログは、インスリンアスパルト、インスリンリスプロ、インスリングルリジン、およびインスリングラルギンからなる群から選択される。
【0099】
第7の態様では、本発明は、一般式A-Lys-Thr-Arg-Arg-Bを有する
タンパク質またはペプチドを切断するための、本発明のブタトリプシンの変異体の使用であって、
Aは1個またはそれ以上のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり;かつ
Bは1個またはそれ以上のアミノ酸からなるアミノ酸配列である、前記使用を対象とする。
【0100】
第7の態様のさらなる実施形態では、Aは、1~105個の間のアミノ酸(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、または105個のアミノ酸))からなるアミノ酸配列であり、Bは、1~105個の間のアミノ酸(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、または105個のアミノ酸)からなるアミノ酸配列である。
【0101】
第7の態様の一実施形態では、切断により、切断産物A-Lys-Thr-Arg-Argを生じる。第7の態様のさらなる実施形態では、切断により、少なくとも80%の収率(例えば、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)で、切断産物A-Lys-Thr-Arg-Argを生じる。
【0102】
第8の態様では、本発明は、本発明のブタトリプシンの変異体または本発明の核酸分子または本発明の宿主細胞を含む組成物を対象とする。
【0103】
第8の態様の一実施形態では、組成物は、賦形剤および/または少なくとも1つの他の活性剤をさらに含む。
【0104】
第8の態様の一部の実施形態では、組成物は医薬組成物である。
【0105】
第8の態様の一部の実施形態では、組成物または医薬組成物は凍結乾燥されている。
【0106】
本発明はまた、本発明のブタトリプシンの変異体(または本発明の核酸分子または本発明の宿主細胞)と少なくとも1つの他の有効医薬成分との組合わせを提供する。一実施形態では、本発明のブタトリプシンの変異体と少なくとも1つの他の有効医薬成分との組合わせは、患者への有効医薬成分の別々の投与によって、または複数の有効医薬成分が1つの医薬組成物中に存在する、組合せ製品の形態での、いずれかによって、適用することができる。別々に投与する場合、投与は任意の順序で同時に行っても順次に行ってもよい。所望の組合せ治療効果を達成する目的で、本発明の活性剤および他の有効医薬成分の量ならびに投与の相対的タイミングが選択されることになる。組合わせの投与は、(1)すべての有効医薬成分を含む単一の医薬組成物;または(2)それぞれが有効医薬成分のうちのすくなくとも1つを含む個別の医薬組成物、で付随的であってもよい。あるいは、組合わせを、順次に別々に投与することができ、この場合、一方の治療剤を最初に投与し、他方を2番目に投与し、逆もまた然りである。そのような順次投与は、時間的に接近していても時間的に離れていてもよい。
【実施例0107】
以下の実施例は、本発明の化合物、組成物および方法の作製および使用方法に関して完全な開示および説明を当業者にもたらすために提示するものであり、添付の特許請求の範囲によって示される本発明の範囲をいかようにも限定することを意図するものではない。使用する数値(例えば、量、温度等)に関連して正確を期すように努めたが、多少の実験的誤差および偏差を考慮すべきである。別段の指示がない限り、部は質量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。