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特開2024-38176電池用包装材料用アルミニウム合金箔、電池用包装材料、及び電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038176
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】電池用包装材料用アルミニウム合金箔、電池用包装材料、及び電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/119 20210101AFI20240312BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20240312BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20240312BHJP
   H01M 50/122 20210101ALI20240312BHJP
   H01M 50/129 20210101ALI20240312BHJP
   H01M 50/133 20210101ALI20240312BHJP
   H01M 50/145 20210101ALI20240312BHJP
【FI】
H01M50/119
H01M50/105
H01M50/121
H01M50/122
H01M50/129
H01M50/133
H01M50/145
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023221456
(22)【出願日】2023-12-27
(62)【分割の表示】P 2022187303の分割
【原出願日】2017-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2016255180
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.POLAROID
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】高萩 敦子
(72)【発明者】
【氏名】石飛 達郎
(72)【発明者】
【氏名】初田 千秋
(72)【発明者】
【氏名】小向 款
(72)【発明者】
【氏名】今泉 真代
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電池用包装材料に用いられた場合に、電池用包装材料の成形によってもピンホールやクラックが生じ難く、優れた成形性を発揮することができるアルミニウム合金箔を提供する。
【解決手段】電池用包装材料に用いるためのアルミニウム合金箔1であって、前記アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、前記アルミニウム合金箔の表面から垂直方向に前記アルミニウム合金箔を切断して得られた断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合が10%以上であり、かつ、当該断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶の数平均結晶粒径R(μm)が、下記の式を充足している、アルミニウム合金箔。
数平均結晶粒径R≦0.056X+2.0
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、表面被覆層と、基材層と、アルミニウム合金箔と、熱融着性樹脂層とをこの順に備える積層体から構成され、
前記表面被覆層は、酸化チタンを含み、
前記アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、前記アルミニウム合金箔の表面から垂直方向に前記アルミニウム合金箔を切断して得られた断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合が10%以上であり、かつ、
当該断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶の数平均結晶粒径R(μm)が、下記の式を充足している、電池用包装材料。
数平均結晶粒径R≦0.056X+2.0
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【請求項2】
少なくとも、表面被覆層と、基材層と、アルミニウム合金箔と、熱融着性樹脂層とをこの順に備える積層体から構成され、
前記表面被覆層は、カオリンを含み、
前記アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、前記アルミニウム合金箔の表面から垂直方向に前記アルミニウム合金箔を切断して得られた断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合が10%以上であり、かつ、
当該断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶の数平均結晶粒径R(μm)が、下記の式を充足している、電池用包装材料。
数平均結晶粒径R≦0.056X+2.0
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【請求項3】
少なくとも、表面被覆層と、基材層と、アルミニウム合金箔と、熱融着性樹脂層とをこの順に備える積層体から構成され、
前記表面被覆層は、シリカを含み、
前記アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、前記アルミニウム合金箔の表面から垂直方向に前記アルミニウム合金箔を切断して得られた断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合が10%以上であり、かつ、
当該断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶の数平均結晶粒径R(μm)が、下記の式を充足している、電池用包装材料。
数平均結晶粒径R≦0.056X+2.0
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【請求項4】
少なくとも、表面被覆層と、基材層と、アルミニウム合金箔と、熱融着性樹脂層とをこの順に備える積層体から構成され、
前記表面被覆層は、タルク、シリカ、グラファイト、カオリン、モンモリロイド、モンモリロナイト、合成マイカ、ハイドロタルサイト、シリカゲル、ゼオライト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化セリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸リチウム、安息香酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、アルミナ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ類、高融点ナイロン、架橋アクリル、架橋スチレン、架橋ポリエチレン、ベンゾグアナミン、金、アルミニウム、銅、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも2種を含み、
前記アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、前記アルミニウム合金箔の表面から垂直方向に前記アルミニウム合金箔を切断して得られた断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合が10%以上であり、かつ、
当該断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶の数平均結晶粒径R(μm)が、下記の式を充足している、電池用包装材料。
数平均結晶粒径R≦0.056X+2.0
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【請求項5】
少なくとも、基材層と、アルミニウム合金箔と、接着層と、熱融着性樹脂層とをこの順に備える積層体から構成され、
前記接着層は、酸変性ポリオレフィンと硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物により形成されており、
前記アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、前記アルミニウム合金箔の表面から垂直方向に前記アルミニウム合金箔を切断して得られた断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合が10%以上であり、かつ、
当該断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶の数平均結晶粒径R(μm)が、下記の式を充足している、電池用包装材料。
数平均結晶粒径R≦0.056X+2.0
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【請求項6】
少なくとも、基材層と、アルミニウム合金箔と、接着層と、熱融着性樹脂層とをこの順に備える積層体から構成され、
前記接着層は、酸変性ポリオレフィンと硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物により形成されており、
前記硬化物は、エポキシ系硬化剤、多官能イソシアネート系硬化剤、 カルボジイミド系硬化剤、及びオキサゾリン系硬化剤からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、前記アルミニウム合金箔の表面から垂直方向に前記アルミニウム合金箔を切断して得られた断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合が10%以上であり、かつ、
当該断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶の数平均結晶粒径R(μm)が、下記の式を充足している、電池用包装材料。
数平均結晶粒径R≦0.056X+2.0
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【請求項7】
前記面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合(%)が、下記の式を充足している、請求項1~6のいずれか1項に記載の電池用包装材料。
面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合(%)≧-1.1X+66
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【請求項8】
結晶粒径の標準偏差Stが、下記の式を充足している、請求項1~7のいずれか1項に記載の電池用包装材料。
結晶粒径の標準偏差St≦0.09X+0.5
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【請求項9】
鉄を含有している、請求項1~8のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項10】
前記アルミニウム合金箔の表面に、リン、クロム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む耐酸性皮膜を備えている、請求項1~9のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項11】
前記アルミニウム合金箔の表面に、耐酸性皮膜を備えており、
前記耐酸性皮膜について、飛行時間型2次イオン質量分析法を用いて分析した場合に、Ce+及びCr+の少なくとも一方に由来するピークが検出される、請求項1~9のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項12】
前記アルミニウム合金箔の表面に、リン化合物塩、クロム化合物、フッ素化合物、及びトリアジンチオール化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む耐酸性皮膜を備えている、請求項1~9のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項13】
前記アルミニウム合金箔の表面に、セリウム化合物を含む耐酸性皮膜を備えている、請求項1~9のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項14】
少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子が、請求項1~13のいずれか1項に記載の電池用包装材料により形成された包装体中に収容されている、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用包装材料用アルミニウム合金箔、電池用包装材料、及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々なタイプの電池が開発されている。これらの電池において、電極、電解質などにより構成される電池素子は、包装材料などにより封止される必要がある。電池用包装材料としては、金属製の包装材料が多用されている。
【0003】
近年、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、パーソナルコンピュータ、カメラ、携帯電話などの高性能化に伴い、多様な形状を有する電池が求められている。また、電池には、薄型化、軽量化なども求められている。しかしながら、従来多用されている金属製の包装材料では、電池形状の多様化に追従することが困難である。また、金属製であるため、包装材料の軽量化にも限界がある。
【0004】
そこで、多様な形状に加工が容易で、薄型化や軽量化を実現し得る電池用包装材料として、基材層/アルミニウム合金箔/熱融着性樹脂層が順次積層されたフィルム状の電池用包装材料が提案されている。
【0005】
このようなフィルム状の電池用包装材料においては、一般的に、冷間成形により凹部が形成され、当該凹部によって形成された空間に電極や電解液などの電池素子を配し、熱融着性樹脂層同士を熱融着させることにより、電池用包装材料の内部に電池素子が収容された電池が得られる。
【0006】
しかしながら、このような電池用包装材料は、金属製の包装材料に比べて薄く、成形時にピンホールやクラックが生じ易いという欠点がある。
【0007】
成形性が高められたアルミニウム合金箔として、例えば、特許文献1には、質量%で、Fe:1.4%以上2.0%以下、Si:0.15%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し、平均結晶粒径が5μm以下であり、且つ最大結晶粒径/平均結晶粒径比が3.5以下であることを特徴とするアルミニウム合金軟質箔が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-203154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、特許文献1に開示されたような従来のアルミニウム合金箔のように、平均結晶粒径の小さいアルミニウム合金箔を電池用包装材料に用いた場合であっても、成形性を評価したところ、近年求められている高い成形性を発揮できずに、アルミニウム合金箔にピンホールやクラックなどが発生する場合があることを見出した。すなわち、平均結晶粒径の小さいアルミニウム合金箔を用いるだけでは、電池用包装材料に近年求められている高い成形性を十分に発揮できないことが明らかとなった。
【0010】
本発明は、従来技術のこのような問題に鑑みなされた発明である。すなわち、本発明は、電池用包装材料に用いられた場合に、電池用包装材料の成形によってもピンホールやクラックが生じ難く、優れた成形性を発揮することができるアルミニウム合金箔を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、当該アルミニウム合金箔を用いた電池用包装材料、及び当該電池用包装材料を用いた電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、前記アルミニウム合金箔の表面から垂直方向に前記アルミニウム合金箔を切断して得られた断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合が10%以上であり、かつ、当該断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶の数平均結晶粒径R(μm)が、下記の式を充足している、アルミニウム合金箔は、電池用包装材料に用いられることにより、電池用包装材料の成形時にピンホールやクラックが生じ難く、優れた成形性を発揮できることを見出した。
数平均結晶粒径R≦0.056X+2.0
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【0012】
すなわち、本発明者らは、単にアルミニウム合金箔の平均結晶粒径を小さくすれば成形性が向上するのではなく、アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、当該アルミニウム合金箔の表面から垂直方向にアルミニウム合金箔を切断して得られた断面について、当該断面と平行に並んでいるアルミニウムの結晶面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合が10%以上であり、さらに、当該断面から取得される面心立方格子構造の結晶の数平均結晶粒径とアルミニウム合金箔の厚みとが特定の関係にある場合に、電池用包装材料に用いられた際に優れた成形性を発揮することを見出した。
【0013】
なお、前記断面について、当該断面と平行に並んでいる{111}面は、<111>//RDと同義である。ここで、<111>//RDとは、面心立方格子(FCC)構造を含んでいるアルミニウム合金箔の<111>方位が、前記圧延方向(RD)に平行であることを意味している。
【0014】
本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0015】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 電池用包装材料に用いるためのアルミニウム合金箔であって、
前記アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、前記アルミニウム合金箔の表面から垂直方向に前記アルミニウム合金箔を切断して得られた断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合が10%以上であり、かつ、
当該断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶の数平均結晶粒径R(μm)が、下記の式を充足している、電池用包装材料用アルミニウム合金箔。
数平均結晶粒径R≦0.056X+2.0
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
項2. 前記面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合(%)が、下記の式を充足している、項1に記載の電池用包装材料用アルミニウム合金箔。
面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合(%)≧
-1.1X+66
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
項3. 結晶粒径の標準偏差Stが、下記の式を充足している、項1又は2に記載の電池用包装材料用アルミニウム合金箔。
結晶粒径の標準偏差St≦0.09X+0.5
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
項4. 鉄を含有している、項1~3のいずれかに記載の電池用包装材料用アルミニウム合金箔。
項5. 前記アルミニウム合金箔の表面に、リン、クロム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む耐酸性皮膜を備えている、項1~4のいずれかに記載の電池用包装材料用アルミニウム合金箔。
項6. 前記アルミニウム合金箔の表面に、耐酸性皮膜を備えており、
前記耐酸性皮膜について、飛行時間型2次イオン質量分析法を用いて分析した場合に、Ce+及びCr+の少なくとも一方に由来するピークが検出される、項1~4のいずれかに記載の電池用包装材料用アルミニウム合金箔。
項7. 前記アルミニウム合金箔の表面に、リン化合物塩、クロム化合物、フッ素化合物、及びトリアジンチオール化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む耐酸性皮膜を備えている、項1~4のいずれかに記載の電池用包装材料用アルミニウム合金箔。
項8. 前記アルミニウム合金箔の表面に、セリウム化合物を含む耐酸性皮膜を備えている、項1~4のいずれかに記載の電池用包装材料用アルミニウム合金箔。
項9. 少なくとも、基材層と、項1~8のいずれかに記載の電池用包装材料用アルミニウム合金箔と、熱融着性樹脂層とをこの順に備える積層体から構成される、電池用包装材料。
項10. 少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子が、項9に記載の電池用包装材料により形成された包装体中に収容されている、電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電池用包装材料に用いられることにより、電池用包装材料の成形時にピンホールやクラックが生じ難く、優れた成形性を発揮できるアルミニウム合金箔を提供することができる。また、本発明によれば、当該アルミニウム合金箔を用いた電池用包装材料、及び当該電池用包装材料を用いた電池を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るアルミニウム合金箔の模式図(a)及び電池用包装材料の模式図(b)である。
図2】市販のアルミニウム合金箔(東洋アルミ社製のサンホイル)の光沢面を金属顕微鏡で観察して得られた写真である(倍率100倍)。
図3】本発明に係るアルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、当該アルミニウム合金箔の表面から垂直方向に前記アルミニウム合金箔を切断して得られた断面における、面心立方格子構造の結晶面の模式図である。着色されている領域が、{111}面を示している。
図4】本発明に係る電池用包装材料の一例の略図的断面図である。
図5】本発明に係る電池用包装材料の一例の略図的断面図である。
図6】本発明に係る電池用包装材料の一例の略図的断面図である。
図7】本発明に係る電池用包装材料の一例の略図的断面図である。
図8】実施例及び比較例におけるアルミニウム合金箔の厚みX(μm)と、面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合(%)との関係を示すグラフである。
図9】実施例及び比較例におけるアルミニウム合金箔の厚みX(μm)と、数平均結晶粒径(μm)との関係を示すグラフである。
図10】実施例及び比較例におけるアルミニウム合金箔の厚みX(μm)と、結晶粒径の標準偏差との関係を示すグラフである。
図11】実施例及び比較例におけるアルミニウム合金箔の厚みX(μm)と、限界成形深さ(μm)との関係を示すグラフである。
図12】アルミニウム合金箔の断面について、EBSD法による結晶解析を行う方法を説明するための模式図である。
図13】アルミニウム合金箔の断面について、EBSD法による結晶解析を行う方法を説明するための模式図(2次元)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のアルミニウム合金箔は、電池用包装材料に用いられるものである。また、アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、当該アルミニウム合金箔の表面から垂直方向に前記アルミニウム合金箔を切断して得られた断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合(以下、「面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合」を「{111}面の合計面積の割合」と略記することがある)が10%以上であり、かつ、当該断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶の数平均結晶粒径R(μm)が、下記の式を充足していることを特徴としている。
数平均結晶粒径R≦0.056X+2.0
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【0019】
以下、図1~13を参照しながら、本発明のアルミニウム合金箔、当該アルミニウム合金箔を用いた電池用包装材料、及び当該電池用包装材料を用いた電池について、詳述する。
【0020】
なお、本発明において、EBSD(電子線後方散乱回折:Electron BackScattered Diffraction Pattern:EBSD))法とは、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)に搭載される検出器の一つであるEBSD検出器を使用した方法であり、電子線後方散乱回折により派生する菊池パターンをEBSD検出器スクリーンで取り込み、解析することにより、結晶試料の微細な結晶方位を測定する手法である。また、本明細書において、「~」で示される数値範囲は「以上」、「以下」を意味する。例えば、2~15mmとの表記は、2mm以上15mm以下を意味する。
【0021】
1.アルミニウム合金箔
本発明のアルミニウム合金箔1は、電池用包装材料に用いられる。具体的には、本発明のアルミニウム合金箔は、積層体により構成されたフィルム状の電池用包装材料に用いられ、電池用包装材料の強度向上の他、電池内部に水蒸気、酸素、光などが侵入することを防止するためのバリア層として機能する。本発明のアルミニウム合金箔を用いた電池用包装材料の具体例については後述する。
【0022】
本発明においては、アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、当該アルミニウム合金箔の表面から垂直方向にアルミニウム合金箔を切断して得られた断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合が10%以上となる。ここで、アルミニウム合金箔1の圧延方向とは、アルミニウム合金箔が圧延工程を経て製造される際のRDに対応する。アルミニウム合金箔1の圧延方向(RD)には、図1(a)の模式図に示すように、アルミニウム合金箔1の表面に、いわゆる圧延痕と呼ばれる線状の筋が形成されている。圧延痕は、圧延方向に沿って伸びているため、アルミニウム合金箔1の表面を観察することによって、アルミニウム合金箔1の圧延方向を把握することができる。なお、図1の模式図において、それぞれ、RDはRolling Direction、TDはTransverse Direction、NDはNormal Direction、MDはMachine Directionの略である。参考のため、図1(b)には、電池用包装材料10(例としてアルミニウム合金箔1の一方面に基材層2を有し、他方面に熱融着性樹脂層3を備えるもの)の模式図も併記している。図1(a)に示したアルミニウム合金箔1のRDが、図1(b)に示した電池用包装材料10のMDに対応している。また、図1(a)に示したアルミニウム合金箔1のTDが、図1(b)に示した電池用包装材料10のTDに対応している。さらに、参考のため、図2には市販のアルミニウム合金箔(東洋アルミ社製のサンホイル)の光沢面を金属顕微鏡で観察して得られた写真を示す(倍率100倍)。図2の写真において、黒い線状の筋が圧延痕Tであり、圧延痕Tが圧延方向(RD)に伸びていることが分かる。なお、アルミニウム合金箔の表面の圧延痕は、50~100倍程度に拡大して表面を観察できる装置であれば、金属顕微鏡以外の装置(光学顕微鏡など)を用いて確認することもできる。
【0023】
本発明のアルミニウム合金箔は、面心立方格子構造を有するアルミニウム結晶を含んでおり、本発明においては、当該アルミニウム結晶の面心立方格子構造の{111}面に着目し、アルミニウム結晶の結晶方位を、EBSD法によって解析している。なお、後述の通り、本発明のアルミニウム合金箔は、好ましくは約90質量%以上がアルミニウムにより構成されているが、他の成分の組成によっては、面心立方格子構造とは異なるアルミニウム結晶が、さらに含まれる場合もある。
【0024】
なお、アルミニウム合金箔が面心立方格子構造を有するアルミニウム結晶を含んでいることは、EBSD法によって、アルミニウム合金箔を分析することにより得られた菊池パターンから、簡易的に推測することができる。さらに、アルミニウム合金箔が面心立方格子構造を有するアルミニウム結晶を含んでいることを正確に測定するためには、以下の2種類の方法のうち、いずれかを実施する。アルミニウム合金箔の表面が露出している場合、X線回折装置を使用して構造解析することができる。また、アルミニウム合金箔が樹脂などに覆われており、アルミニウム合金箔の表面が露出していない場合であれば、まず、研磨、ミクロトーム、集束イオンビーム、ブロードイオンビームなどにより、アルミニウム合金箔の厚みが約100nm以下の切片試料を作製する。次に、その切片試料について、透過電子顕微鏡の制限視野回折図形を取得し、解析することで、構造解析することができる。
【0025】
図3に、本発明に係るアルミニウム合金箔の前記断面における、面心立方格子構造の結晶面の模式図を示す。着色されている領域が、{111}面を示している。
【0026】
本発明のアルミニウム合金箔の成形性をより一層効果的に高める観点から、当該{111}面の合計面積の割合としては、好ましくは約20%以上、より好ましくは約30%以上、さらに好ましくは約40%以上、特に好ましくは約50%以上が挙げられる。アルミニウム合金箔においては、当該{111}面が成形時の滑り面となるため、当該面方向の合計面積の割合が大きくなることにより、アルミニウム合金の結晶が滑りやすくなり、成形性が高められる。なお、当該{111}面の合計面積の割合は、前述の断面に対して平行に並んでいる面心立方格子構造の結晶面の合計面積のうち、{111}面の面積の合計割合を意味している。ただし、測定サンプルを試料台に設置する際などには、設置位置に誤差が生じ得るため、「断面に対して平行」には10°程度の誤差が含まれ得る。
【0027】
また、当該{111}面の合計面積の割合の上限値としては、特に制限されず、約100%が挙げられるが、特定方向への延展性に特化し、成形性が低下する可能性が懸念されることから、上限については、例えば、約90%、約80%が挙げられ、下限については、例えば、約25%以上、約29%以上が挙げられる。また、当該{111}面の合計面積の割合の好ましい範囲としては、10~90%程度、10~80%程度、20~90%程度、20~80%程度、25~90%程度、25~80%程度、29~90%程度、29~80%程度、30~90%程度、30~80%程度、40~90%程度、40~80%程度、50~90%程度、50~80%程度が挙げられる。
【0028】
また、本発明においては、アルミニウム合金箔の成形性をより一層効果的に高める観点から、当該{111}面の合計面積の割合(%)が、下記の式を充足していることが好ましい。
{111}面の合計面積の割合(%)≧-1.1X+66
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【0029】
すなわち、アルミニウム合金箔の厚みが小さい場合には、{111}面の合計面積の割合は大きいことが望ましく、アルミニウム合金箔の厚みが小さくなるほど、{111}面の合計面積の割合が成形性に与える影響が大きくなるため、上記の式を充足していることにより、より一層優れた成形性を発揮することが可能となる。
【0030】
また、同様の観点から、当該{111}面の合計面積の割合の上限は、特に限定されないが、例えば、下記の式を充足していることが好ましい。
-1.1X+98≧{111}面の合計面積の割合(%)
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【0031】
さらに、本発明においては、アルミニウム合金箔の圧延方向(RD)とは垂直方向であって、当該アルミニウム合金箔の表面から垂直方向(ND)にアルミニウム合金箔を切断して得られた断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶の数平均結晶粒径Rが、下記の式を充足していることを特徴としている。R値の上限については、例えば4.5程度、4.0程度、3.5程度が挙げられ、下限については、例えば1.0程度、2.0程度、3.0程度が挙げられる。
数平均結晶粒径R≦0.056X+2.0
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【0032】
本発明のアルミニウム合金箔は、前記の{111}面の合計面積の割合を有し、かつ前記の数平均結晶粒径とアルミニウム合金箔の厚みとが、このような特定の関係を備えていることにより、優れた成形性を発揮する。従来のアルミニウム合金箔においては、アルミニウム合金箔の厚みと数平均結晶粒径との関係について考慮されておらず、例えばアルミニウム合金箔の厚みを変更すると、成形性が低下するという問題がある。これに対して、本発明のアルミニウム合金箔においては、前記の数平均結晶粒径とアルミニウム合金箔の厚みとが特定の関係を備えていることにより、アルミニウム合金箔の厚みを変更した場合にも、優れた成形性を発揮することが可能であり、特に、後述のようにアルミニウム合金箔の厚みが薄い場合においても、優れた成形性を発揮することができる。
【0033】
また、面心立方格子構造の結晶の数平均結晶粒径Rの下限としては、特に限定されず、約1μm程度が好ましく、また、例えば、下記の式を充足していることが好ましい。当該下限が、約1μm程度または下記式を充足していることにより、アルミニウム合金箔の耐力が高くなり過ぎず、アルミニウム合金箔が硬くなって成形性が低下することを抑制することができる。
0.056X+0.4≦数平均結晶粒径R
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【0034】
本発明のアルミニウム合金箔の成形性をより一層効果的に高める観点から、前記結晶粒径の標準偏差が、下記の式を充足していることが好ましい。
結晶粒径の標準偏差St≦0.09X+0.5
X=前記アルミニウム合金箔の厚み(μm)
【0035】
すなわち、結晶粒径の標準偏差が小さいことにより、アルミニウム合金箔中の結晶粒の粒径のばらつきが小さく、成形時に滑らかに変形される。そして、アルミニウム合金箔の厚みが小さくなるほど、この標準偏差が成形性に与える影響が大きくなるため、上記の式を充足していることにより、より一層優れた成形性を発揮することが可能となる。
【0036】
また、同様の観点から、結晶粒径の標準偏差の下限としては、特に限定されず、0であることが好ましい。
【0037】
本発明において、アルミニウム合金箔の{111}面の合計面積の割合、数平均結晶粒径、及び結晶粒径の標準偏差は、アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、当該アルミニウム合金箔の表面から垂直方向にアルミニウム合金箔を切断して得られた断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで測定することができる。アルミニウム合金箔の断面について、EBSD法による結晶解析を行う方法を説明するための模式図を図12に示す。図12において、Axis1がND、Axis2がTD、Axis3がRDとなるように、アルミニウム合金箔1のサンプルが設置されており、アルミニウム合金箔1の断面1aに対して、SEMの対物レンズ21から電子線21aを照射して、EBSD検出器20により、Axis3方向から結晶解析を行う。Axis1、Axis2、及びAxis3のそれぞれがなす角は90°であり、アルミニウム合金箔1のサンプルは、Axis1方向に70°傾斜している。即ち、一般的なSEMでは試料は水平に搬送され、電子線は上部からまっすぐ下に照射されるが、本発明においては図13に示すようにアルミニウム合金箔1のサンプルは、Axis1方向に70°傾斜している。具体的な測定条件は、以下の通りである。
【0038】
なお、数平均結晶粒径は、[(測定領域-CI値0.1以下の領域)/結晶の数]で算出された面積を円に仮定した時の直径であり、EBSD法による結晶解析で取得される画像を複数枚連結して、約10000μm2以上とした測定領域に含まれる結晶の数平均結
晶粒径である。なお、CI値については、後述の通りである。
【0039】
また、結晶粒径の標準偏差は、CI値0.1以下の領域を除去後、EBSD法による結晶解析で取得される画像を複数枚連結して、約10000μm2以上とした測定領域に含
まれる結晶の結晶粒径(結晶面積を円に仮定した時の直径)の分布から算出した値である。
【0040】
(測定装置)
ショットキー電界放出走査電子顕微鏡に、EBSD検出器(株式会社TSLソリューションズ製)を搭載した装置を用いる。
【0041】
(前処理)
前処理として、アルミニウム合金箔を、圧延方向(RD)とは垂直方向に切断して、断面を得る。アルミニウム合金箔の圧延方向は、アルミニウム合金箔の光沢面を金属顕微鏡で観察し、線状の圧延痕が伸びる方向である。具体的な手順としては、まず、試料とするアルミニウム合金箔を、トリミング用カミソリで5mm(圧延方向とは垂直方向)×10mm(圧延方向)に切り出した後、樹脂に包埋させる。次に、トリミング用カミソリを用い、アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、アルミニウム合金箔の表面から垂直方向に、アルミニウム合金箔を樹脂と共に切断して、アルミニウム合金箔の断面を露出させる。次に、ミクロトームを用いて、得られた断面をトリミングする。このトリミングにおいては、切断面の機械的歪みを低減させるため、包埋した樹脂とともに、当該断面に対して垂直方向に1mm程度、ミクロトームで切り進める。次に、イオンミリング装置を用いて、当該断面に対して垂直方向にブロードアルゴンビームを照射して、測定断面を作製する。これは、前工程で発生している機械的な結晶構造への破壊が最小限になるよう、精密にアルミニウム合金箔の断面を露出させる作業である。なお、本発明において、アルミニウム合金箔を切断する際の「垂直方向」は、実体顕微鏡下で確認して行うため、10°程度の誤差を含み得る。すなわち、圧延方向に垂直方向とは、圧延方向に80~100°、表面から垂直方向とは、表面に対して80~100°を許容範囲とする。
【0042】
(SEM条件)
EBSD法に用いた走査型電子顕微鏡(SEM)の条件は、以下の通りである。
観察倍率:2000倍(撮影時の観察倍率標準は、Polaroid545とする)
加速電圧:15kV
ワーキングディスタンス:15mm
試料傾斜角度:70°
【0043】
(EBSD条件)
EBSD法による結晶解析の条件は、以下の通りである。
ステップサイズ:200nm
解析条件:
株式会社TSLソリューションズ製結晶方位解析ソフトOIM(Ver7.3)を使用して、以下の解析を実施する。
画像を複数枚連結し、測定領域は約10000μm2以上とする。測定領域の上限については、例えば、約30000μm2以下とする。このとき、アルミニウム合金箔の厚み方向の中心から両端側までを測定領域とし、断面に樹脂が付着している部分や、耐酸性皮膜が存在している部分については、測定領域から除外する。
画像を連結後、極点図を確認する。
極点図の中心が10°以上ずれている場合は、対称性が整うように結晶データを回転させる。なお、その際の参考とする極点図は、XRDでサンプル表面より測定する。またEBSDで表面より極点図を得る場合には、サンプル表面の機械的な結晶構造の影響を取り除くため、サンプル表面の機械研磨、平面ミリング、電界研磨などを実施した後に、広範囲測定を実施する。その後、表面方向より得られた極点図は、目的試料の断面より得られた極点図と同じ方位から得たものと同じになるように90°回転させる。この極点図を参考にする。
株式会社TSLソリューションズ製結晶方位解析ソフトOIM(Ver.7.3)にて定義される信頼性指数(Confidence Index:CI値)CI値が0.1以下のデータは排除して解析を実施する。これにより、試料表裏に存在する前処理に使用した樹脂や、断面に存在している粒界や、アモルファスに基づくデータを排除することができる。
{111}面の合計面積の割合の計算の際、許容角度は15°で解析を実施する。
【0044】
なお、本発明の電池用包装材料が用いられた電池について、アルミニウム合金箔の前記の{111}面の合計面積の割合、数平均結晶粒径、及び結晶粒径の標準偏差を測定する場合、電池の平坦部分から電池用包装材料を切り出して、これらの測定を行うことができる。
【0045】
本発明のアルミニウム合金箔の厚みとしては、特に制限されないが、電池用包装材料に好適に用いる観点からは、好ましくは3~100μm程度が挙げられる。前述の通り、本発明のアルミニウム合金箔は、前記の{111}面の合計面積の割合を有し、かつ、前記の数平均結晶粒径とアルミニウム合金箔の厚みとが、上記特定の関係を備えていることにより、優れた成形性を発揮する。このため、本発明のアルミニウム合金箔の厚みは、例えば約100μm以下、又は約80μm以下、さらには約40μm以下であっても、優れた成形性を発揮することができる。なお、成形に供される電池用包装材料に好適に用いる観点からは、本発明のアルミニウム合金箔の厚みは、例えば、約3μm以上、約5μm以上、約10μm以上、約15μm以上、約20μm以上であることが好ましい。さらに、アルミニウム合金箔の厚みの範囲としては、好ましくは、3~100μm程度、5~100μm程度、10~100μm程度、15~100μm程度、20~100μm程度、3~80μm程度、5~80μm程度、10~80μm程度、15~80μm程度、20~80μm程度、3~40μm程度、5~40μm程度、15~40μm程度、20~40μm程度が挙げられる。本発明のアルミニウム合金箔は優れた成形性を発揮するため、例えば、アルミニウム合金箔の厚みが10~40μm程度、さらには10~20μm程度と非常に薄い場合にも、電池用包装材料に好適に用いることができる。
【0046】
本発明のアルミニウム合金箔は、成形性を高める観点から、鉄を含んでいることが好ましい。鉄の含有量としては、好ましくは0.5~2.0質量%程度、より好ましくは1.2~1.8質量%程度が挙げられる。なお、アルミニウム合金箔層を構成しているアルミニウム合金の組成は、元素分析により同定することができる。また、ICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES)により、アルミニウム合金の組成を定量することができる。
【0047】
アルミニウム合金箔を構成するアルミニウム合金としては、特に制限されないが、優れた成形性を発揮する観点からは、アルミニウム合金中に含まれるアルミニウムの含有量が、90質量%以上であることが好ましい。アルミニウム合金の具体例としては、好ましくは、JIS H4160:1994 A8021H-O、JIS H4160:1994 A8079H-O、JIS H4000:2014 A8021P-O、JIS H4000:2014 A8079P-Oなどに規定された組成を備える軟質アルミニウム合金が挙げられる。
【0048】
前記の特徴を備えるアルミニウム合金箔は、公知の製造方法によって製造することができ、例えば、アルミニウム合金の組成、圧延条件、厚みなどを適宜調整することにより、製造することができる。アルミニウム合金の組成としては、例えば、アルミニウム合金に含まれるアルミニウム以外の金属(例えば、鉄、銅、ニッケル、ケイ素、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、チタンなどの少なくとも1種)の配合の有無、その量を調整する。アルミニウム合金の組成としては、前述した組成が好ましい。
【0049】
また、圧延条件としては、圧延率、加熱温度、加熱時間などの条件を調整する。例えば、アルミニウム金属又はアルミニウム合金鋳塊を500~600℃程度で1~2時間程度均質化処理する工程、熱間圧延する工程、冷間圧延する工程、300~450℃程度で1~10時間程度保持する中間焼鈍の工程、中間焼鈍後から最終圧延までの圧延率を80%以上、より好ましくは90%以上で実施する冷間圧延工程、250~400℃程度で30~100時間程度保持する最終焼鈍工程を含む方法が挙げられる。
【0050】
また、アルミニウム合金箔1は、接着の安定化、溶解や腐食の防止などのために、少なくとも一方の面、好ましくは両面が化成処理されていることが好ましい。ここで、化成処理とは、アルミニウム合金箔の表面に耐酸性皮膜を形成する処理をいう。アルミニウム合金箔の表面に耐酸性皮膜が形成されている場合、アルミニウム合金箔には耐酸性皮膜を含める。化成処理としては、例えば、硝酸クロム、フッ化クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、蓚酸クロム、重リン酸クロム、クロム酸アセチルアセテート、塩化クロム、硫酸カリウムクロムなどのクロム化合物を用いたクロメート処理;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、ポリリン酸などのリン酸化合物を用いたリン酸処理;下記一般式(1)~(4)で表される繰り返し単位を有するアミノ化フェノール重合体を用いた化成処理などが挙げられる。クロム化合物の中でも、クロム酸化合物が好ましい。なお、当該アミノ化フェノール重合体において、下記一般式(1)~(4)で表される繰り返し単位は、1種類単独で含まれていてもよいし、2種類以上の任意の組み合わせであってもよい。
【0051】
【化1】
【0052】
【化2】
【0053】
【化3】
【0054】
【化4】
【0055】
一般式(1)~(4)中、Xは、水素原子、ヒドロキシ基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリル基又はベンジル基を示す。また、R1及びR2は、それぞれ同一又は異なって、ヒドロキシ基、アルキル基、又はヒドロキシアルキル基を示す。一般式(1)~(4)において、X、R1及びR2で示されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基などの炭素数1~4の直鎖又は分枝鎖状アルキル基が挙げられる。また、X、R1及びR2で示されるヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基、1-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシプロピル基、3-ヒドロキシプロピル基、1-ヒドロキシブチル基、2-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、4-ヒドロキシブチル基などのヒドロキシ基が1個置換された炭素数1~4の直鎖又は分枝鎖状アルキル基が挙げられる。一般式(1)~(4)において、X、R1及びR2で示されるアルキル基及びヒドロキシアルキル基は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。一般式(1)~(4)において、Xは、水素原子、ヒドロキシ基又はヒドロキシアルキル基であることが好ましい。一般式(1)~(4)で表される繰り返し単位を有するアミノ化フェノール重合体の数平均分子量は、例えば、500~100万程度であることが好ましく、1000~2万程度であることがより好ましい。
【0056】
また、アルミニウム合金箔1に耐食性を付与する化成処理方法として、リン酸中に、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化スズなどの金属酸化物や硫酸バリウムの微粒子を分散させたものをコーティングし、約150℃以上で焼付け処理を行うことにより、アルミニウム合金箔1の表面に耐食処理層を形成する方法が挙げられる。また、耐食処理層の上には、カチオン性ポリマーを架橋剤で架橋させた樹脂層をさらに形成してもよい。ここで、カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンとカルボン酸を有するポリマーからなるイオン高分子錯体、アクリル主骨格に1級アミンをグラフト重合させた1級アミングラフトアクリル樹脂、ポリアリルアミン又はその誘導体、アミノフェノールなどが挙げられる。これらのカチオン性ポリマーとしては、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、架橋剤としては、例えば、イソシアネート基、グリシジル基、カルボキシル基、及びオキサゾリン基よりなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基を有する化合物、シランカップリング剤などが挙げられる。これらの架橋剤としては、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
また、耐酸性皮膜を具体的に設ける方法としては、例えば、一つの例として、少なくともアルミニウム合金箔の内層側の面を、まず、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、電解酸洗浄法、酸活性化法などの周知の処理方法で脱脂処理を行い、その後脱脂処理面にリン酸クロム塩、リン酸チタン塩、リン酸ジルコニウム塩、リン酸亜鉛塩などのリン酸金属塩及びこれらの金属塩の混合体を主成分とする処理液(水溶液)、あるいは、リン酸非金属塩及びこれらの非金属塩の混合体を主成分とする処理液(水溶液)、あるいは、これらとアクリル系樹脂ないしフェノール系樹脂ないしウレタン系樹脂などの水系合成樹脂との混合物からなる処理液(水溶液)をロールコート法、グラビア印刷法、浸漬法などの周知の塗工法で塗工することにより、耐酸性皮膜を形成することができる。例えば、リン酸クロム塩系処理液で処理した場合は、リン酸クロム、リン酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、フッ化アルミニウムなどからなる耐酸性皮膜となり、リン酸亜鉛塩系処理液で処理した場合は、リン酸亜鉛水和物、リン酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、フッ化アルミニウムなどからなる耐酸性皮膜となる。
【0058】
また、耐酸性皮膜を設ける具体的方法の他の例としては、例えば、少なくともアルミニウム合金箔の内層側の面を、まず、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、電解酸洗浄法、酸活性化法などの周知の処理方法で脱脂処理を行い、その後脱脂処理面に周知の陽極酸化処理を施すことにより、耐酸性皮膜を形成することができる。
【0059】
また、耐酸性皮膜の他の一例としては、リン酸塩系、クロム酸系の皮膜が挙げられる。リン酸塩系としては、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸マンガン、リン酸カルシウム、リン酸クロムなどが挙げられ、クロム酸系としては、クロム酸クロメートなどが挙げられる。
【0060】
また、耐酸性皮膜の他の一例としては、リン化合物(例えばリン酸塩)、クロム化合物(例えばクロム酸塩)、フッ素化合物(フッ化物)、トリアジンチオール化合物などの耐酸性皮膜を形成することによって、エンボス成形時のアルミニウムと基材層との間のデラミネーション防止、電解質と水分とによる反応で生成するフッ化水素により、アルミニウム表面の溶解、腐食、特にアルミニウムの表面に存在する酸化アルミニウムが溶解、腐食することを防止し、かつ、アルミニウム表面の接着性(濡れ性)を向上させ、ヒートシール時の基材層とアルミニウムとのデラミネーション防止、エンボスタイプにおいてはプレス成形時の基材層とアルミニウムとのデラミネーション防止の効果を示す。耐酸性皮膜を形成する物質のなかでも、フェノール樹脂、フッ化クロム(III)化合物、リン酸の3成分から構成された水溶液をアルミニウム表面に塗布し、乾燥焼付けの処理が良好である。
【0061】
また、耐酸性皮膜は、酸化セリウムと、リン酸又はリン酸塩と、アニオン性ポリマーと、該アニオン性ポリマーを架橋させる架橋剤とを有する層を含み、前記リン酸又はリン酸塩が、前記酸化セリウム100質量部に対して、1~100質量部程度配合されていてもよい。耐酸性皮膜が、カチオン性ポリマー及び該カチオン性ポリマーを架橋させる架橋剤を有する層をさらに含む多層構造であることが好ましい。
【0062】
さらに、前記アニオン性ポリマーが、ポリ(メタ)アクリル酸又はその塩、あるいは(メタ)アクリル酸又はその塩を主成分とする共重合体であることが好ましい。また、前記架橋剤が、イソシアネート基、グリシジル基、カルボキシル基、オキサゾリン基のいずれかの官能基を有する化合物とシランカップリング剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0063】
また、前記リン酸又はリン酸塩が、縮合リン酸又は縮合リン酸塩であることが好ましい。
【0064】
化成処理は、1種類の化成処理のみを行ってもよいし、2種類以上の化成処理を組み合わせて行ってもよい。さらに、これらの化成処理は、1種の化合物を単独で使用して行ってもよく、また2種以上の化合物を組み合わせて使用して行ってもよい。化成処理の中でも、クロメート処理や、クロム化合物、リン酸化合物、及びアミノ化フェノール重合体を組み合わせた化成処理などが好ましい。
【0065】
耐酸性皮膜の具体例としては、リン酸塩、クロム酸塩、フッ化物、及びトリアジンチオールのうち少なくとも1種を含むものが挙げられる。また、セリウム化合物を含む耐酸性皮膜も好ましい。セリウム化合物としては、酸化セリウムが好ましい。
【0066】
また、耐酸性皮膜の具体例としては、リン酸塩系皮膜、クロム酸塩系皮膜、フッ化物系皮膜、トリアジンチオール化合物皮膜なども挙げられる。耐酸性皮膜としては、これらのうち1種類であってもよいし、複数種類の組み合わせであってもよい。さらに、耐酸性皮膜としては、アルミニウム合金箔の化成処理面を脱脂処理した後に、リン酸金属塩と水系合成樹脂との混合物からなる処理液、又はリン酸非金属塩と水系合成樹脂との混合物からなる処理液で形成されたものであってもよい。
【0067】
なお、耐酸性皮膜の組成の分析は、例えば、電池用包装材料において、アルミニウム合金箔に積層されている熱融着性樹脂層、接着剤層などを物理的に剥離し、飛行時間型2次イオン質量分析法を用いて行うことができる。飛行時間型2次イオン質量分析法を用いた耐酸性皮膜の組成の分析により、例えば、Ce+及びCr+の少なくとも一方に由来するピークが検出される。
【0068】
アルミニウム合金箔の表面に、リン、クロム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む耐酸性皮膜を備えていることが好ましい。なお、電池用包装材料のアルミニウム合金箔の表面の耐酸性被膜中に、リン、クロム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素が含まれることは、X線光電子分光を用いて確認することができる。具体的には、まず、電池用包装材料において、アルミニウム合金箔に積層されている熱融着性樹脂層、接着剤層などを物理的に剥離する。次に、アルミニウム合金箔を電気炉に入れ、300℃程度で30分間程度放置して、アルミニウム合金箔の表面に存在している有機成分を除去する。その後、アルミニウム合金箔の表面のX線光電子分光を用いて、これら元素が含まれることを確認する。
【0069】
化成処理においてアルミニウム合金箔1の表面に形成させる耐酸性皮膜の量については、特に制限されないが、例えば、上記のクロメート処理を行う場合であれば、アルミニウム合金箔1の表面1m2当たり、クロム化合物がクロム換算で0.5~50mg程度、好ましくは1.0~40mg程度、リン化合物がリン換算で0.5~50mg程度、好ましくは1.0~40mg程度、及びアミノ化フェノール重合体が1.0~200mg程度、好ましくは5.0~150mg程度の割合で含有されていることが望ましい。
【0070】
耐酸性皮膜の厚みとしては、特に制限されないが、皮膜の凝集力や、アルミニウム合金箔や熱融着性樹脂層との密着力の観点から、好ましくは1nm~10μm程度、より好ましくは1~100nm程度、さらに好ましくは1~50nm程度が挙げられる。なお、耐酸性皮膜の厚みは、透過電子顕微鏡による観察、又は、透過電子顕微鏡による観察と、エネルギー分散型X線分光法もしくは電子線エネルギー損失分光法との組み合わせによって測定することができる。
【0071】
化成処理は、耐酸性皮膜の形成に使用する化合物を含む溶液を、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、浸漬法などによって、アルミニウム合金箔の表面に塗布した後に、アルミニウム合金箔の温度が70~200℃程度になるように加熱することにより行われる。また、アルミニウム合金箔に化成処理を施す前に、予めアルミニウム合金箔を、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、電解酸洗浄法などによる脱脂処理に供してもよい。このように脱脂処理を行うことにより、アルミニウム合金箔の表面の化成処理をより効率的に行うことが可能となる。
【0072】
後述の通り、本発明のアルミニウム合金箔は、本発明の電池用包装材料に好適に用いることができる。すなわち、本発明のアルミニウム合金箔は、少なくとも、基材層と、アルミニウム合金箔と、熱融着性樹脂層とをこの順に備える積層体から構成される電池用包装材料における、アルミニウム合金箔として、好適に使用することができる。
【0073】
2.電池用包装材料
積層構造
本発明の電池用包装材料は、図4に示すように、少なくとも、基材層2、アルミニウム合金箔1、及び熱融着性樹脂層3をこの順に備えた積層体から構成される。本発明の電池用包装材料において、基材層2が最外層側になり、熱融着性樹脂層3は最内層になる。即ち、電池の組み立て時に、電池素子の周縁に位置する熱融着性樹脂層3同士が熱融着して電池素子を密封することにより、電池素子が封止される。
【0074】
本発明の電池用包装材料は、図5に示すように、基材層2とアルミニウム合金箔1との間に、これらの接着性を高める目的で、必要に応じて接着剤層4を備えていてもよい。また、図6に示すように、アルミニウム合金箔1と熱融着性樹脂層3との間に、これらの接着性を高める目的で、必要に応じて接着層5を備えていてもよい。また、図7に示すように、基材層2の外側(熱融着性樹脂層3とは反対側)には、必要に応じて表面被覆層6などが設けられていてもよい。
【0075】
本発明の電池用包装材料を構成する積層体の厚みとしては、特に制限されないが、積層体の厚みを可能な限り薄くしつつ、高い成形性を発揮する観点からは、好ましくは約160μm以下、より好ましくは35~155μm程度、さらに好ましくは45~120μm程度が挙げられる。本発明の電池用包装材料を構成する積層体の厚みが、例えば約160μm以下と薄い場合にも、本発明によれば、優れた成形性を発揮し得る。このため、本発明の電池用包装材料は、電池のエネルギー密度の向上に寄与することができる。
【0076】
電池用包装材料を形成する各層
[基材層2]
本発明の電池用包装材料において、基材層2は最外層側に位置する層である。基材層2を形成する素材については、絶縁性を備えるものであることを限度として特に制限されるものではない。基材層2を形成する素材としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、珪素樹脂、フェノール樹脂、及びこれらの混合物や共重合物などの樹脂フィルムが挙げられる。これらの中でも、好ましくはポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂が挙げられ、より好ましくは2軸延伸ポリエステル樹脂、2軸延伸ポリアミド樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネートなどが挙げられる。また、ポリアミド樹脂としては、具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6とナイロン66との共重合体、ナイロン6,10、ポリアミドMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)などが挙げられる。
【0077】
基材層2は、1層の樹脂フィルムから形成されていてもよいが、耐ピンホール性や絶縁性を向上させるために、2層以上の樹脂フィルムで形成されていてもよい。具体的には、ポリエステルフィルムとナイロンフィルムとを積層させた多層構造、ナイロンフィルムを複数層積層させた多層構造、ポリエステルフィルムを複数層積層させた多層構造などが挙げられる。基材層2が多層構造である場合、2軸延伸ナイロンフィルムと2軸延伸ポリエステルフィルムの積層体、2軸延伸ナイロンフィルムを複数積層させた積層体、2軸延伸ポリエステルフィルムを複数積層させた積層体が好ましい。例えば、基材層2を2層の樹脂フィルムから形成する場合、ポリエステル樹脂とポリエステル樹脂を積層する構成、ポリアミド樹脂とポリアミド樹脂を積層する構成、又はポリエステル樹脂とポリアミド樹脂を積層する構成にすることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを積層する構成、ナイロンとナイロンを積層する構成、又はポリエチレンテレフタレートとナイロンを積層する構成にすることがより好ましい。また、ポリエステル樹脂は、例えば電解液が表面に付着した際に変色し難いことなどから、当該積層構成においては、ポリエステル樹脂が最外層に位置するように基材層2を積層することが好ましい。基材層2を多層構造とする場合、各層の厚みとして、好ましくは2~25μm程度が挙げられる。
【0078】
基材層2を多層の樹脂フィルムで形成する場合、2以上の樹脂フィルムは、接着剤又は接着性樹脂などの接着成分を介して積層させればよく、使用される接着成分の種類や量などについては、後述する接着剤層4の場合と同様である。なお、2層以上の樹脂フィルムを積層させる方法としては、特に制限されず、公知方法が採用でき、例えばドライラミネート法、サンドイッチラミネート法などが挙げられ、好ましくはドライラミネート法が挙げられる。ドライラミネート法により積層させる場合には、接着層としてウレタン系接着剤を用いることが好ましい。このとき、接着層の厚みとしては、例えば2~5μm程度が挙げられる。
【0079】
本発明において、電池用包装材料の成形性を高める観点からは、基材層2の表面には、滑剤が存在していることが好ましい。滑剤としては、特に制限されないが、好ましくはアミド系滑剤が挙げられる。アミド系滑剤の具体例としては、例えば、飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、置換アミド、メチロールアミド、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミドなどが挙げられる。飽和脂肪酸アミドの具体例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドなどが挙げられる。不飽和脂肪酸アミドの具体例としては、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどが挙げられる。置換アミドの具体例としては、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミドなどが挙げられる。また、メチロールアミドの具体例としては、メチロールステアリン酸アミドなどが挙げられる。飽和脂肪酸ビスアミドの具体例としては、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、N,N'-ジステアリルアジピン酸アミド、N,N'-ジステアリルセバシン酸アミドなどが挙げられる。不飽和脂肪酸ビスアミドの具体例としては、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N'-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N'-ジオレイルセバシン酸アミドなどが挙げられる。脂肪酸エステルアミドの具体例としては、ステアロアミドエチルステアレートなどが挙げられる。また、芳香族系ビスアミドの具体例としては、m-キシリレンビスステアリン酸アミド、m-キシリレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N'-ジステアリルイソフタル酸アミドなどが挙げられる。滑剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0080】
基材層2表面に滑剤が存在する場合、その存在量としては、特に制限されないが、温度24℃、相対湿度60%環境において、好ましくは約3mg/m2以上、より好ましくは4~15mg/m2程度、さらに好ましくは5~14mg/m2程度が挙げられる。
【0081】
基材層2の中には、滑剤が含まれていてもよい。また、基材層2の表面に存在する滑剤は、基材層2を構成する樹脂に含まれる滑剤を滲出させたものであってもよいし、基材層2の表面に滑剤を塗布したものであってもよい。
【0082】
成形性をより高める観点から、本発明の電池用包装材料の基材層2側表面の動摩擦係数としては、好ましくは約0.5以下、より好ましくは約0.3以下、さらに好ましくは約0.2以下が挙げられる。また、当該動摩擦係数の下限は、約0.01が挙げられる。また、当該動摩擦係数の好ましい範囲としては、0.01~0.5程度、0.01~0.3程度、0.01~0.2程度が挙げられる。なお、当該動摩擦係数は、JIS K7125:1999に規定された方法に準拠して測定された値である。
【0083】
基材層2の厚みについては、基材層としての機能を発揮すれば特に制限されないが、例えば、3~50μm程度、好ましくは10~35μm程度が挙げられる。
【0084】
[接着剤層4]
本発明の電池用包装材料において、接着剤層4は、基材層2とアルミニウム合金箔1を強固に接着させるために、必要に応じて、これらの間に設けられる層である。
【0085】
接着剤層4は、基材層2とアルミニウム合金箔1とを接着可能である接着剤によって形成される。接着剤層4の形成に使用される接着剤は、2液硬化型接着剤であってもよく、また1液硬化型接着剤であってもよい。更に、接着剤層4の形成に使用される接着剤の接着機構についても、特に制限されず、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型などのいずれであってもよい。
【0086】
接着剤層4の形成に使用できる接着成分としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、共重合ポリエステルなどのポリエステル系樹脂;ポリエーテル系接着剤;ポリウレタン系接着剤;エポキシ系樹脂;フェノール樹脂系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ポリアミドなどのポリアミド系樹脂;ポリオレフィン、カルボン酸変性ポリオレフィン、金属変性ポリオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂;セルロース系接着剤;(メタ)アクリル系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリカーボネート;尿素樹脂、メラミン樹脂などのアミノ樹脂;クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴムなどのゴム;シリコーン系樹脂などが挙げられる。これらの接着成分は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの接着成分の中でも、好ましくはポリウレタン系接着剤が挙げられる。
【0087】
また、接着剤層4は、着色剤を含んでいてもよい。接着剤層4が着色剤を含んでいることにより、電池用包装材料を着色することができる。着色剤としては、顔料、染料などの公知のものが使用できる。また、着色剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0088】
例えば、無機系の顔料の具体例としては、好ましくはカーボンブラック、酸化チタンなどが挙げられる。また、有機系の顔料の具体例としては、好ましくはアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、縮合多環系顔料などが挙げられる。アゾ系顔料としては、ウォッチングレッド、カーミン6Cなどの溶性顔料;モノアゾイエロー、ジスアゾイエロー、ピラゾロンオレンジ、ピラゾロンレッド、パーマネントレッド等の不溶性アゾ顔料が挙げられ、フタロシアニン系顔料としては、銅フタロシアニン顔料、無金属フタロシアニン顔料としての青系顔料や緑系顔料が挙げられ、縮合多環系顔料としては、ジオキサジンバイオレット、キナクリドンバイオレットなどが挙げられる。また、顔料としては、パール顔料や、蛍光顔料なども使用できる。
【0089】
着色剤の中でも、例えば電池用包装材料の外観を黒色とするためには、カーボンブラックが好ましい。
【0090】
顔料の平均粒子径としては、特に制限されず、例えば、0.05~5μm程度、好ましくは0.08~2μm程度が挙げられる。なお、顔料の平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定されたメジアン径とする。
【0091】
接着剤層4における顔料の含有量としては、電池用包装材料が着色されれば特に制限されず、例えば5~60質量%程度が挙げられる。
【0092】
接着剤層4の厚みについては、接着層としての機能を発揮すれば特に制限されないが、例えば、1~10μm程度、好ましくは2~5μm程度が挙げられる。
【0093】
[アルミニウム合金箔1]
電池用包装材料において、アルミニウム合金箔1は、電池用包装材料の強度向上の他、電池内部に水蒸気、酸素、光などが侵入することを防止する機能を有する層である。本発明において、アルミニウム合金箔1としては、前述の本発明のアルミニウム合金箔1を用いることができる。本発明のアルミニウム合金箔1の詳細については、前述の通りである。
【0094】
本発明の電池用包装材料においては、前述した本発明のアルミニウム合金箔が使用されているため、優れた成形性を備えている。なお、アルミニウム合金箔1の厚みXは、電池用包装材料中に積層された状態であっても、電池用包装材料の断面を観察することによって、測定することができる。また、アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、前記アルミニウム合金箔の表面から垂直方向に前記アルミニウム合金箔を切断して得られる断面についてのEBSD法による結晶解析も、電池用包装材料にアルミニウム合金箔が積層された状態であっても行うことができる。具体的な測定条件は、前述の(前処理)として、電池用包装材料を樹脂に包埋し、アルミニウム合金箔の圧延方向(RD)とは垂直方向であって、アルミニウム合金箔の表面から垂直方向(ND)に電池用包装材料を切断して、アルミニウム合金箔の断面を得ること以外は、前述のアルミニウム合金箔1についての解析条件と同様である。
【0095】
[接着層5]
本発明の電池用包装材料において、接着層5は、アルミニウム合金箔1と熱融着性樹脂層3を強固に接着させるために、必要に応じて、これらの間に設けられる層である。
【0096】
接着層5は、アルミニウム合金箔1と熱融着性樹脂層3とを接着可能である樹脂によって形成される。接着層5の形成に使用される樹脂としては、その接着機構、接着剤成分の種類などは、接着剤層4で例示した接着剤と同様のものが使用できる。また、接着層5の形成に使用される樹脂としては、後述の熱融着性樹脂層3で例示したポリオレフィン、環状ポリオレフィン、カルボン酸変性ポリオレフィン、カルボン酸変性環状ポリオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂も使用できる。アルミニウム合金箔1と熱融着性樹脂層3との密着性に優れる観点から、ポリオレフィンとしては、カルボン酸変性ポリオレフィンが好ましく、カルボン酸変性ポリプロピレンが特に好ましい。すなわち、接着層5を構成している樹脂は、ポリオレフィン骨格を含んでいてもよく、ポリオレフィン骨格を含んでいることが好ましい。接着層5を構成している樹脂がポリオレフィン骨格を含むことは、例えば、赤外分光法、ガスクロマトグラフィー質量分析法などにより分析可能であり、分析方法は特に問わない。例えば、赤外分光法にて無水マレイン酸変性ポリオレフィンを測定すると、波数1760cm-1付近と波数1780cm-1付近に無水マレイン酸由来のピークが検出される。
【0097】
さらに、電池用包装材料の厚みを薄くしつつ、良好な接着性を有する電池用包装材料とする観点からは、接着層5は、酸変性ポリオレフィンと硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物であってもよい。酸変性ポリオレフィンとしては、好ましくは、熱融着性樹脂層3で例示するカルボン酸変性ポリオレフィン、カルボン酸変性環状ポリオレフィンと同じものが例示できる。
【0098】
また、硬化剤としては、酸変性ポリオレフィンを硬化させるものであれば、特に限定されない。硬化剤としては、例えば、エポキシ系硬化剤、多官能イソシアネート系硬化剤、カルボジイミド系硬化剤、オキサゾリン系硬化剤などが挙げられる。
【0099】
エポキシ系硬化剤は、少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物であれば、特に限定されない。エポキシ系硬化剤としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテルなどのエポキシ樹脂が挙げられる。
【0100】
多官能イソシアネート系硬化剤は、2つ以上のイソシアネート基を有する化合物であれば、特に限定されない。多官能イソシアネート系硬化剤の具体例としては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、これらをポリマー化やヌレート化したもの、これらの混合物や他ポリマーとの共重合物などが挙げられる。
【0101】
カルボジイミド系硬化剤は、カルボジイミド基(-N=C=N-)を少なくとも1つ有する化合物であれば、特に限定されない。カルボジイミド系硬化剤としては、カルボジイミド基を少なくとも2つ以上有するポリカルボジイミド化合物が好ましい。
【0102】
オキサゾリン系硬化剤は、オキサゾリン骨格を有する化合物であれば、特に限定されない。オキサゾリン系硬化剤としては、具体的には、日本触媒社製のエポクロスシリーズなどが挙げられる。
【0103】
接着層5によるアルミニウム合金箔1と熱融着性樹脂層3との密着性を高めるなどの観点から、硬化剤は、2種類以上の化合物により構成されていてもよい。
【0104】
接着層5を形成する樹脂組成物における硬化剤の含有量は、0.1~50質量%程度の範囲にあることが好ましく、0.1~30質量%程度の範囲にあることがより好ましく、0.1~10質量%程度の範囲にあることがさらに好ましい。
【0105】
接着層5の厚みについては、接着層としての機能を発揮すれば特に制限されないが、接着剤層4で例示した接着剤を用いる場合であれば、好ましくは2~10μm程度、より好ましくは2~5μm程度が挙げられる。また、熱融着性樹脂層3で例示した樹脂を用いる場合であれば、好ましくは2~50μm程度、より好ましくは10~40μm程度が挙げられる。また、酸変性ポリオレフィンと硬化剤との硬化物である場合であれば、好ましくは約30μm以下、より好ましくは0.1~20μm程度、さらに好ましくは0.5~5μm程度挙げられる。なお、接着層5が酸変性ポリオレフィンと硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物である場合、当該樹脂組成物を塗布し、加熱などにより硬化させることにより、接着層5を形成することができる。
【0106】
[熱融着性樹脂層3]
本発明の電池用包装材料において、熱融着性樹脂層3は、最内層に該当し、電池の組み立て時に熱融着性樹脂層同士が熱溶着して電池素子を密封する層である。
【0107】
本発明の熱融着性樹脂層3に使用される樹脂成分については、熱溶着可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィンなどが挙げられる。すなわち、熱融着性樹脂層3を構成している樹脂は、ポリオレフィン骨格を含んでいてもよく、ポリオレフィン骨格を含んでいることが好ましい。熱融着性樹脂層3を構成している樹脂がポリオレフィン骨格を含むことは、例えば、赤外分光法、ガスクロマトグラフィー質量分析法などにより分析可能であり、分析方法は特に問わない。例えば、赤外分光法にて無水マレイン酸変性ポリオレフィンを測定すると、波数1760cm-1付近と波数1780cm-1付近に無水マレイン酸由来のピークが検出される。ただし、酸変性度が低いとピークが小さくなり検出されない場合がある。その場合は核磁気共鳴分光法にて分析可能である。
【0108】
ポリオレフィンとしては、具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンなどのポリエチレン;ホモポリプロピレン、ポリプロピレンのブロックコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのブロックコポリマー)、ポリプロピレンのランダムコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのランダムコポリマー)などのポリプロピレン;エチレン-ブテン-プロピレンのターポリマーなどが挙げられる。これらのポリオレフィンの中でも、好ましくはポリエチレン及びポリプロピレンが挙げられ、より好ましくはポリプロピレンが挙げられる。
【0109】
ポリオレフィンは、環状ポリオレフィンであってもよい。環状ポリオレフィンは、オレフィンと環状モノマーとの共重合体であり、環状ポリオレフィンの構成モノマーであるオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、4-メチル-1-ペンテン、ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。また、環状ポリオレフィンの構成モノマーである環状モノマーとしては、例えば、ノルボルネンなどの環状アルケン;具体的には、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ノルボルナジエンなどの環状ジエンなどが挙げられる。また、スチレンも構成モノマーとして挙げられる。これらの中でも、好ましくは環状アルケン、更に好ましくはノルボルネンが挙げられる。
【0110】
酸変性ポリオレフィンとは、上記のポリオレフィンをカルボン酸などでブロック重合又はグラフト重合することにより変性したポリマーである。変性に使用されるカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
【0111】
酸変性ポリオレフィンは、酸変性環状ポリオレフィンであってもよい。酸変性環状ポリオレフィンとは、環状ポリオレフィンを構成するモノマーの一部を、α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物に代えて共重合することにより、或いは環状ポリオレフィンに対してα,β-不飽和カルボン酸又はその無水物をブロック重合又はグラフト重合することにより得られるポリマーである。酸変性される環状ポリオレフィンについては、前記と同様である。また、変性に使用されるカルボン酸としては、酸変性シクロオレフィンコポリマーの変性に使用されるものと同様である。
【0112】
これらの樹脂成分の中でも、好ましくはポリオレフィン;更に好ましくはプロピレンコポリマーが挙げられる。プロピレンコポリマーとしては、エチレン-プロピレンコポリマー、プロピレン-ブテンコポリマー、エチレン-プロピレン-ブテンコポリマーなどのプロピレンと他のオレフィンとのコポリマーなどが挙げられる。ポリプロピレンに含まれるプロピレン単位の割合は、電池用包装材料の絶縁性や耐久性をより高める観点から、50~100モル%程度とすることが好ましく、80~100モル%程度とすることがより好ましい。また、ポリエチレンに含まれるエチレン単位の割合は、電池用包装材料の絶縁性や耐久性をより高める観点から、50~100モル%程度とすることが好ましく、80~100モル%程度とすることがより好ましい。エチレンコポリマー及びプロピレンコポリマーは、それぞれ、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーのいずれであってもよく、ランダムプロピレンコポリマーが好ましい。
【0113】
本発明の熱融着性樹脂層3は、ポリプロピレンを有することが好ましく、ポリプロピレンにより形成された層を有することが好ましい。熱融着性樹脂層3は、1種の樹脂成分単独で形成してもよく、また2種以上の樹脂成分を組み合わせたブレンドポリマーにより形成してもよい。更に、熱融着性樹脂層3は、1層のみで成されていてもよいが、同一又は異なる樹脂成分によって2層以上で形成されていてもよい。
【0114】
本発明において、電池用包装材料の成形性を向上させる観点から、熱融着性樹脂層3の表面には、滑剤が存在していることが好ましい。滑剤としては、特に制限されず、公知の滑剤を用いることができ、例えば、上記の基材層2で例示したものなどが挙げられる。滑剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。熱融着性樹脂層3の表面における滑剤の存在量としては、特に制限されず、電池用包装用材料の成形性を高める観点からは、温度24℃、相対湿度60%環境において、好ましくは10~50mg/m2程度、さらに好ましくは15~40mg/m2程度が挙げられる。
【0115】
熱融着性樹脂層3の中には、滑剤が含まれていてもよい。また、熱融着性樹脂層3の表面に存在する滑剤は、熱融着性樹脂層3を構成する樹脂に含まれる滑剤を滲出させたものであってもよいし、熱融着性樹脂層3の表面に滑剤を塗布したものであってもよい。
【0116】
成形性をより高める観点から、本発明の電池用包装材料の熱融着性樹脂層3側表面の動摩擦係数としては、好ましくは0.5約以下、より好ましくは約0.3以下、さらに好ましくは約0.2以下が挙げられる。また、当該動摩擦係数の下限は、約0.01が挙げられる。また、当該動摩擦係数の好ましい範囲としては、0.01~0.5程度、0.01~0.3程度、0.01~0.2程度が挙げられる。なお、当該動摩擦係数は、JIS K7125:1999に規定された方法に準拠して測定された値である。
【0117】
また、本発明の熱融着性樹脂層3の厚みとしては、熱融着性樹脂層としての機能を発揮すれば特に制限されないが、成形性を高める観点からは、例えば、10~40μm程度、好ましくは15~40μm程度が挙げられる。
【0118】
[表面被覆層6]
本発明の電池用包装材料においては、意匠性、耐電解液性、耐擦過性、成形性の向上などを目的として、必要に応じて、基材層2の上(基材層2のアルミニウム合金箔1とは反対側)に、必要に応じて、表面被覆層6を設けてもよい。表面被覆層6は、電池を組み立てた時に、最外層に位置する層である。
【0119】
表面被覆層6は、例えば、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などにより形成することができる。表面被覆層6は、これらの中でも、2液硬化型樹脂により形成することが好ましい。表面被覆層6を形成する2液硬化型樹脂としては、例えば、2液硬化型ウレタン樹脂、2液硬化型ポリエステル樹脂、2液硬化型エポキシ樹脂などが挙げられる。また、表面被覆層6には、添加剤を配合してもよい。
【0120】
添加剤としては、例えば、粒径が0.5nm~5μm程度の微粒子が挙げられる。添加剤の材質については、特に制限されないが、例えば、金属、金属酸化物、無機物、有機物などが挙げられる。また、添加剤の形状についても、特に制限されないが、例えば、球状、繊維状、板状、不定形、バルーン状などが挙げられる。添加剤として、具体的には、タルク、シリカ、グラファイト、カオリン、モンモリロイド、モンモリロナイト、合成マイカ、ハイドロタルサイト、シリカゲル、ゼオライト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化セリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸リチウム、安息香酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、アルミナ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ類、高融点ナイロン、架橋アクリル、架橋スチレン、架橋ポリエチレン、ベンゾグアナミン、金、アルミニウム、銅、ニッケルなどが挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの添加剤の中でも、分散安定性やコストなどの観点から、好ましくはシリカ、硫酸バリウム、酸化チタンが挙げられる。また、添加剤には、表面に絶縁処理、高分散性処理などの各種表面処理を施しておいてもよい。
【0121】
表面被覆層6を形成する方法としては、特に制限されないが、例えば、表面被覆層6を形成する2液硬化型樹脂を基材層2の一方の表面に塗布する方法が挙げられる。添加剤を配合する場合には、2液硬化型樹脂に添加剤を添加して混合した後、塗布すればよい。
【0122】
表面被覆層6中の添加剤の含有量としては、特に制限されないが、好ましくは0.05~1.0質量%程度、より好ましくは0.1~0.5質量%程度が挙げられる。
【0123】
表面被覆層6の厚みとしては、表面被覆層6としての上記の機能を発揮すれば特に制限されないが、例えば、0.5~10μm程度、好ましくは1~5μm程度が挙げられる。
【0124】
3.電池用包装材料の製造方法
本発明の電池用包装材料の製造方法については、所定の組成の各層を積層させた積層体が得られる限り、特に制限されず、少なくとも、基材層と、アルミニウム合金箔と、熱融着性樹脂層とがこの順に備えた積層体を得る積層工程を備えており、アルミニウム合金箔として、本発明のアルミニウム合金箔を用いる方法を採用することができる。
【0125】
本発明の電池用包装材料の製造方法の一例としては、以下の通りである。まず、基材層2、接着剤層4、アルミニウム合金箔1をこの順に備えた積層体(以下、「積層体A」と表記することもある)を形成する。積層体Aの形成は、具体的には、基材層2又は必要に応じて表面が化成処理されたアルミニウム合金箔1に接着剤層4の形成に使用される接着剤を、押出し法、グラビアコート法、ロールコート法などの塗布方法で塗布・乾燥した後に、当該アルミニウム合金箔1又は基材層2を積層させて接着剤層4を硬化させるドライラミネート法によって行うことができる。
【0126】
次いで、積層体Aのアルミニウム合金箔1上に、接着層5及び熱融着性樹脂層3をこの順になるように積層させる。例えば、(1)積層体Aのアルミニウム合金箔1上に、接着層5及び熱融着性樹脂層3を共押出しすることにより積層する方法(共押出しラミネート法)、(2)別途、接着層5と熱融着性樹脂層3が積層した積層体を形成し、これを積層体Aのアルミニウム合金箔1上にサーマルラミネート法により積層する方法、(3)積層体Aのアルミニウム合金箔1上に、接着層5を形成させるための接着剤を押出し法や溶液コーティングし、高温で乾燥さらには焼き付ける方法などにより積層させ、この接着層5上に予めシート状に製膜した熱融着性樹脂層3をサーマルラミネート法により積層する方法、(4)積層体Aのアルミニウム合金箔1と、予めシート状に製膜した熱融着性樹脂層3との間に、溶融させた接着層5を流し込みながら、接着層5を介して積層体Aと熱融着性樹脂層3を貼り合せる方法(サンドイッチラミネート法)などが挙げられる。
【0127】
表面被覆層を設ける場合には、基材層2のアルミニウム合金箔1とは反対側の表面に、表面被覆層を積層する。表面被覆層は、例えば表面被覆層を形成する上記の樹脂を基材層2の表面に塗布することに形成することができる。なお、基材層2の表面にアルミニウム合金箔1を積層する工程と、基材層2の表面に表面被覆層を積層する工程の順番は、特に制限されない。例えば、基材層2の表面に表面被覆層を形成した後、基材層2の表面被覆層とは反対側の表面にアルミニウム合金箔1を形成してもよい。
【0128】
基材層2又は熱融着性樹脂層3の表面に滑剤を存在させる方法としては、特に制限されず、例えば、基材層2又は熱融着性樹脂層3を構成する樹脂に滑剤を配合し、必要に応じて滑剤を表面に滲出させる方法や、基材層2又は熱融着性樹脂層3の表面に滑剤を塗布する方法などが挙げられる。
【0129】
上記のようにして、必要に応じて設けられる表面被覆層6、基材層2、必要に応じて設けられる接着剤層4、必要に応じて表面が化成処理されたアルミニウム合金箔1、接着層5、熱融着性樹脂層3をこの順に備えた積層体が形成されるが、接着剤層4及び必要に応じて設けられる接着層5の接着性を強固にするために、更に、熱ロール接触式、熱風式、近赤外線式又は遠赤外線式などの加熱処理に供してもよい。このような加熱処理の条件としては、例えば150~250℃程度で1~5分間程度が挙げられる。
【0130】
本発明の電池用包装材料において、積層体を構成する各層は、必要に応じて、製膜性、積層化加工、最終製品2次加工(パウチ化、エンボス成形)適性などを向上又は安定化するために、コロナ処理、ブラスト処理、酸化処理、オゾン処理などの表面活性化処理を施していてもよい。
【0131】
4.電池用包装材料の用途
本発明の電池用包装材料は、正極、負極、電解質などの電池素子を密封して収容するための包装材料として使用される。
【0132】
具体的には、少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子を、本発明の電池用包装材料で、前記正極及び負極の各々に接続された金属端子が外側に突出させた状態で、電池素子の周縁にフランジ部(熱融着性樹脂層同士が接触する領域)が形成できるようにして被覆し、前記フランジ部の熱融着性樹脂層同士をヒートシールして密封させることによって、電池用包装材料を使用した電池が提供される。なお、本発明の電池用包装材料を用いて電池素子を収容する場合、本発明の電池用包装材料の熱融着性樹脂部分が内側(電池素子と接する面)になるようにして用いられる。
【0133】
本発明の電池用包装材料は、一次電池、二次電池のいずれに使用してもよいが、好ましくは二次電池である。本発明の電池用包装材料が適用される二次電池の種類については、特に制限されず、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、鉛蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・鉄蓄電池、ニッケル・亜鉛蓄電池、酸化銀・亜鉛蓄電池、金属空気電池、多価カチオン電池、コンデンサー、キャパシターなどが挙げられる。これらの二次電池の中でも、本発明の電池用包装材料の好適な適用対象として、リチウムイオン電池及びリチウムイオンポリマー電池が挙げられる。
【実施例0134】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0135】
実施例1~7及び比較例1~4
基材層を構成する樹脂フィルムとして、2軸延伸ナイロンフィルム(厚み25μm)を用いた。2軸延伸ナイロンフィルムの片面には、コロナ処理が施されている。2軸延伸ナイロンフィルムのコロナ処理が施されていない面に、滑剤としてエルカ酸アミドを塗布した(塗布量は10mg/m2)。一方、2軸延伸ナイロンフィルムのコロナ処理が施され
ている面に、ポリエステルポリオール系の主剤と芳香族イソシアネート系の硬化剤の2液型ウレタン接着剤からなる接着剤層を硬化後の厚みが3μmとなるように塗布した。次に、表1に記載の特性を有する各アルミニウム合金箔を用意し、基材層の接着剤層側とアルミニウム合金箔の化成処理面とを積層して、加圧加熱貼合した後、エージング処理を実施することにより、2軸延伸ナイロンフィルム/接着剤層/アルミニウム合金箔が順に積層された積層体を作製した。なお、アルミニウム合金箔の化成処理はフェノール樹脂、フッ化クロム化合物、及びリン酸からなる処理液をクロムの塗工量が10mg/m2(乾燥質量)となるように、ロールコート法によりアルミニウム合金箔の両面に塗布し、焼付けることによって行った。なお、実施例1~7及び比較例1~4のアルミニウム合金箔は、それぞれ、組成、圧延条件などを調整して、前述の公知の方法により製造され、数平均結晶粒径などの表1に示す特性の異なるものである。
【0136】
また、別途、接着層を構成する酸変性ポリプロピレン樹脂(不飽和カルボン酸でグラフト変性した不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン)と熱融着性樹脂層を構成するポリプロピレン(ランダムコポリマー)とを共押出しすることにより、厚さ20μmの接着層と、厚さ20μmの熱融着性樹脂層からなる2層共押出フィルムを作製した。次に、上記の2軸延伸ナイロンフィルム/接着剤層/アルミニウム合金箔からなる積層体のアルミニウム合金箔側に、前記で作製した2層共押出フィルムの接着層が接するように重ね合わせ、加熱することにより、基材層(2軸延伸ナイロンフィルム)/接着剤層/アルミニウム合金箔/接着層/熱融着性樹脂層が順に積層された積層体を得た。得られた積層体を一旦冷却した後に、熱処理を施して、各電池用包装材料を得た。
【0137】
<{111}面の合計面積の割合、数平均結晶粒径、及び結晶粒径の標準偏差の測定>
上記で用いた各アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向の断面について、EBSD法による結晶解析を行い、アルミニウム合金箔の{111}面の合計面積の割合、数平均結晶粒径、及び結晶粒径の標準偏差を測定した。測定条件の詳細は、以下の通りである。測定結果を表1に示す。なお、数平均結晶粒径の測定に際して、参考のため、最大結晶粒径を測定したところ、実施例1のアルミニウム合金箔の最大結晶粒径は8.6μm、比較例3のアルミニウム合金箔の最大結晶粒径は12.5μmであった。数平均結晶粒径は、[(測定領域-CI値0.1以下の領域)/結晶の数]で算出された面積を円に仮定した時の直径であり、EBSD法による結晶解析で取得される画像を複数枚連結して、約10000μm2以上とした測定領域に含まれる結晶の数平均結晶粒径である。また、最大結晶粒径は、結晶の形状を円と仮定し、当該測定領域に含まれる結晶のうち、最大のものについて測定した値である。結晶粒径の標準偏差は、CI値0.1以下の領域を除去後、EBSD法による結晶解析で取得される画像を複数枚連結して、約10000μm2以上とした測定領域に含まれる結晶の結晶粒径(結晶面積を円に仮定した時の直径)の分布から算出した。
【0138】
(測定装置)
ショットキー電界放出走査電子顕微鏡に、EBSD検出器(株式会社TSLソリューションズ製)を搭載した装置を用いる。
【0139】
(前処理)
前処理として、アルミニウム合金箔を、圧延方向(RD)とは垂直方向に切断して、断面を得る。アルミニウム合金箔の圧延方向は、アルミニウム合金箔の光沢面を金属顕微鏡で観察し、線状の圧延痕が伸びる方向である。具体的な手順としては、まず、試料とするアルミニウム合金箔を、トリミング用カミソリで5mm(圧延方向とは垂直方向)×10mm(圧延方向)に切り出した後、樹脂に包埋させた。次に、トリミング用カミソリを用い、アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、アルミニウム合金箔の表面から垂直方向に、アルミニウム合金箔を樹脂と共に切断して、アルミニウム合金箔の断面を露出させた。次に、ミクロトーム(ライカマイクロシステムズ社製のウルトラミクロトーム)を用いて、得られた断面をトリミングする。このトリミングにおいては、断面形状の機械的歪みを低減するため、包埋した樹脂とともに、当該断面に対して垂直方向に1mm程度、ミクロトームで切り進めた。次に、イオンミリング装置(日立ハイテクノロジーズ社製)を用い、飛び出し幅50μm、電圧6kV、4時間の条件で、当該断面に対して垂直方向にブロードアルゴンビームを照射して、測定断面を作製した。これは、前工程で発生している機械的な結晶構造への破壊が最小限になるよう、精密にアルミニウム合金箔の断面を露出させる作業である。
【0140】
(SEM条件)
EBSD法に用いた走査型電子顕微鏡(SEM)の条件は、以下の通りである。
観察倍率:2000倍(撮影時の観察倍率標準は、Polaroid545とする)
加速電圧:15kV
ワーキングディスタンス:15mm
試料傾斜角度:70°
【0141】
(EBSD条件)
EBSD法による結晶解析の条件は、以下の通りである。
ステップサイズ:200nm
解析条件:
株式会社TSLソリューションズ製結晶方位解析ソフトOIM(Ver.7.3)を使用して、以下の解析を実施した。
画像を複数枚連結し、測定領域は約10000μm2以上とした。このとき、アルミニウム合金箔の厚み方向の中心から両端側までを測定領域とし、断面に樹脂が付着している部分や、耐酸性皮膜が存在している部分については、測定領域から除外した。
画像を連結後、極点図を確認した。
株式会社TSLソリューションズ製結晶方位解析ソフトOIMにて定義される信頼性指数(Confidence Index:CI値)CI値が0.1以下のデータは排除して解析を実施した。
{111}面の合計面積の割合の計算の際、許容角度は15°で解析を実施した。
【0142】
実施例1~7及び比較例1~4のアルミニウム合金箔の厚みX(μm)と、{111}面の合計面積の割合(%)との関係を示すグラフを図8に示す。図8には、{111}面の合計面積の割合(%)=-1.1X+66の参考直線が引いてある。なお、図8図11において、〇は実施例、△は比較例の結果である。
【0143】
また、実施例1~7及び比較例1~4のアルミニウム合金箔の厚みX(μm)と、数平均結晶粒径R(μm)との関係を示すグラフを図9に示す。図9には、数平均結晶粒径R=0.056X+2.0の参考直線が引いてある。
【0144】
実施例1~7及び比較例1~4のアルミニウム合金箔の厚みX(μm)と、結晶粒径の標準偏差との関係を示すグラフを図10に示す。図10には、結晶粒径の標準偏差St=0.09X+0.5の参考直線が引いてある。
【0145】
<限界成形深さの測定>
上記で得られた各電池用包装材料を裁断して、150mm(TD)×100mm(MD)の短冊片を作製し、各電池用包装材料について、10個ずつ試験サンプルを用意した。なお、電池用包装材料のMDが、アルミニウム合金箔の圧延方向(RD)に対応し、電池用包装材料のTDが、アルミニウム合金箔のTDに対応する。また、MD及びRDに同一平面垂直方向が、TDとなる。アルミニウム合金箔の圧延方向は、アルミニウム合金箔の圧延痕によって確認することができる。金型は、30mm(MD)×50mm(TD)の矩形状の雄型と、この雄型とのクリアランスが0.5mmの雌型からなるストレート金型を用いた。雄型側に熱融着性樹脂層側が位置するように、雌型上に上記試験サンプルを載置した。各電池用包装材料の試験サンプル10個ずつについて、それぞれ、所定の成形深さとなるように、当該試験サンプルを0.1MPaの面圧で押えて、冷間成形(引き込み1段成形)した。冷間成形後の試験サンプルについて、暗室の中にてペンライトで光を当てて、光の透過によって、アルミニウム合金箔にピンホールやクラックが生じているか否かを確認した。アルミニウム合金箔にピンホール、クラックが10個の試験サンプル全てにおいて発生しない最も深い成形深さをAmm、アルミニウム合金箔にピンホールなどが発生した最も浅い成形深さにおいてピンホールなどが発生した試験サンプルの数をB個とし、以下の式により算出される値を電池用包装材料の限界成形深さとした。結果を表1に示す。
限界成形深さ=Amm+(0.5mm/10個)×(10個-B個)
【0146】
<成形性の評価>
実施例1~7及び比較例1~4の各電池用包装材料の限界成形深さと、アルミニウム合金箔の厚みX(μm)との関係を図11のグラフにプロットした。限界成形深さは、アルミニウム合金箔の厚みによって変化するため、厚みに依存しない成形性を評価するために、成形深さに以下の2つの基準を設けた。なお、以下の基準2の参考基準線を図11に示した。
基準1:成形深さ(mm)=アルミニウム合金箔の厚みX(μm)×0.14+2
基準2:成形深さ(mm)=アルミニウム合金箔の厚みX(μm)×0.12+2
これらの基準1,2に基づき、実施例1~7及び比較例1~4の各電池用包装材料の成形性を以下の基準により評価した。結果を表1に示す。
a:限界成形深さ(mm)≧アルミニウム合金箔の厚みX(μm)×0.14+2
b:アルミニウム合金箔の厚みX(μm)×0.14+2>限界成形深さ(mm)≧アルミニウム合金箔の厚みX(μm)×0.12+2
c:アルミニウム合金箔の厚みX(μm)×0.12+2>限界成形深さ(mm)
【0147】
【表1】
【0148】
表1に示される結果から、前記アルミニウム合金箔の圧延方向とは垂直方向であって、前記アルミニウム合金箔の表面から垂直方向に前記アルミニウム合金箔を切断して得られた断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶面の合計面積に占める{111}面の合計面積の割合が10%以上であり、かつ、当該断面について、EBSD法による結晶解析を行うことで取得される、面心立方格子構造の結晶の数平均結晶粒径Rが、「数平均結晶粒径R≦0.056X+2.0」の条件を充足している実施例1~7のアルミニウム合金箔を用いた電池用包装材料は、いずれも成形性に優れることが分かる。
一方、{111}面の合計面積の割合が10%以上であるものの、当該数平均結晶粒径Rが、「数平均結晶粒径R≦0.056X+2.0」の条件を充足しない比較例1~4の電池用包装材料は、いずれも実施例に比して成形性に劣っていた。
【符号の説明】
【0149】
1…アルミニウム合金箔
1a…断面
2…基材層
3…熱融着性樹脂層
4…接着剤層
5…接着層
6…表面被覆層
10…電池用包装材料
T…圧延痕
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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