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特開2024-38194癌細胞、免疫細胞及び腫瘍微小環境へのシアリダーゼの送達
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038194
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】癌細胞、免疫細胞及び腫瘍微小環境へのシアリダーゼの送達
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20240312BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240312BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20240312BHJP
   A61K 35/765 20150101ALI20240312BHJP
   A61K 35/763 20150101ALI20240312BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240312BHJP
   C12N 15/56 20060101ALN20240312BHJP
   C12N 15/86 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
A61K35/76
A61K35/761
A61K35/765
A61K35/763
A61P35/00
A61K48/00
C12N15/56
C12N15/86 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023222188
(22)【出願日】2023-12-28
(62)【分割の表示】P 2021526410の分割
【原出願日】2019-07-22
(31)【優先権主張番号】62/701,481
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/796,518
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】515257391
【氏名又は名称】アンサン バイオファーマ, インク.
【氏名又は名称原語表記】ANSUN BIOPHARMA, INC.
【住所又は居所原語表記】3030 Callan Road, San Diego, California 92121 (US).
(74)【代理人】
【識別番号】100136630
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 祐啓
(74)【代理人】
【識別番号】100201514
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 悦
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ナンシー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】シアリダーゼの発現のための組換え腫瘍溶解性ウィルスと、癌、特に充実腫瘍の処置におけるその使用とを提供する。
【解決手段】一種以上のヒト又は細菌性シアリダーゼ又はその機能的部分をコードする核酸分子を含む組換え腫瘍溶解性ウィルスを含む組成物が提供される。適した組換え腫瘍溶解性ウィルスは、シアリダーゼをコードする配列か、又はシアリダーゼ活性を持つその一部分を含む発現カセットを腫瘍溶解性ウィルスに挿入することにより、作製が可能である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書及び又は図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
癌は米国において二番目の大きな死因である。近年、免疫チェックポイント阻害剤、キメラ様抗原受容体を持つT細胞、および腫瘍溶解性ウィルスを含め、癌の免疫治療法において大きな進歩が遂げられてきた。
【0002】
腫瘍溶解性ウィルスは、健康な細胞には無害のまま癌細胞に感染し、内部で複製し、最終的には死滅させる自然発生型または遺伝子改変ウィルスである。436人の切除不能段階のIIIB、IIIC、又はIV黒色腫患者に対する腫瘍溶解性単純疱疹ウィルスT-VECの最近終了した第三相治験はその主な目標に合致したことが報告されており、GM-CSFを投与された患者の2.1%に比較してT-VECを投与された患者では16.3%という持続奏功率をあげた。この治験での結果に基づいて、FDAは2015年にT-VECを認可した。
【0003】
アデノウィルス、単純疱疹ウィルス-1、ニューカッスル病ウィルス、レオウィルス、麻疹ウィルス、コックスサッキーウィルス、セネカヴァリーウィルス、及びワクシニアウィルスを含め、少なくとも8つの異なる種由来の腫瘍溶解性ウィルスが、多様な相の臨床治験で検査されてきた。腫瘍溶解性ウィルスは癌患者でよく耐性があることが明白になった。しかし、スタンドアローン処置としての腫瘍溶解性ウィルスの臨床上の利点は限られたままである。腫瘍溶解性ウィルスの安全性に懸念があるために、前臨床及び臨床研究の両者において、高度に弱毒化された腫瘍溶解性ウィルス(天然で無毒性か、あるいは遺伝子操作で弱毒化されたもののいずれでも)しか、用いられてこなかった。腫瘍溶解性ウィルスの安全性が今やよく確立されたため、最大の抗腫瘍効力を持つ腫瘍溶解性ウィルスをデザイン及び検査するときである。強固な腫瘍溶解硬化を持つ腫瘍溶解性ウィルスは豊富な腫瘍抗原を放出することにより、強力な免疫治療効果をもたらすであろう。
【0004】
(要約)
一種以上のヒト又は細菌性シアリダーゼ又はその機能的部分をコードする核酸分子を含む組換え腫瘍溶解性ウィルスを含む組成物がここで提供される。当該腫瘍溶解性ウィルスは、ポックスウィルス、アデノウィルス、疱疹ウィルス又はいずれかの他の適した腫瘍溶解性ウィルスを由来とするであろう。適した組換え腫瘍溶解性ウィルスは、シアリダーゼをコードする配列か、又はシアリダーゼ活性を持つその一部分を含む発現カセットを腫瘍溶解性ウィルスに挿入することにより、作製が可能である。
【0005】
数多くの癌細胞が高度にシアル酸付加されている。ここで解説する組換え腫瘍溶解性ウィルスは、シアリダーゼを腫瘍細胞及び腫瘍細胞環境へ送達することができる。送達されたシアリダーゼは、腫瘍細胞上に存在するシアル酸を減らし、免疫細胞、免疫ベースの治療法や、癌細胞の高シアル酸付加により効果が減衰される他の治療薬による致死に対して腫瘍細胞をより脆弱にすることができる。
【0006】
更に、腫瘍微小環境にシアリダーゼを送達する方法も提供される。腫瘍微小環境中では、シアリダーゼは癌細胞上の末端シアル酸残基を取り除くことで、免疫治療法試薬の進入に対する障壁を減らし、癌細胞への細胞免疫を促進することができる。
【0007】
例えば細胞、又は核酸、たんぱく質、又はベクターなどに用いられる場合の用語「組換え」は、当該細胞、核酸、たんぱく質又はベクターが異種の核酸又はたんぱく質の導入あるいは天然核酸又はたんぱく質の変化により改変されているか、あるいは、当該細胞がそのように改変された細胞由来であることを指す。
【0008】
用語「ウィルス」又は「ウィルス粒子」はウィルス学中でのその平易な通常の意味で用いられており、ウィルスゲノム(例えばDNA、RNA、一本鎖、二本鎖など)、そしてエンベロープウィルス(例えば疱疹ウィルス、ポックスウィルス)の場合には、脂質や、選択的にはホスト細胞膜及び/又はウィルスたんぱく質の成分を含むエンベロープを含むビリオン、ウィルスカプシド、及び関連するたんぱく質を言う。
【0009】
用語「ポックスウィルス」はウィルス学中でのその平易な通常の意味で用いられており、脊椎動物及び無脊椎動物に感染してそれらホスト内の細胞質中で複製することのできるポックスウィルス属のメンバーを言う。いくつかの実施態様では、ポックスウイルス・ビリオンは、直径約200nm、長さで約300nmのサイズを有し、典型的にはDNAの単一の直線状二本鎖セグメントに130-375キロベースのゲノムを持つ。ポックスウィルスという用語には、限定はしないが、ポックスウィルスのすべての属(例えばベータエントモポックスウィルス、ヤタポックスウィルス、セルヴィドポックスウィルス、ガンマエントモポックスウィルス、レポリポックスウィルス、スイポックスウィルス、モルシポックスウィルス、 クロコディリドポックスウィルス、アルファエントモポックスウィルス、カプリポックスウィルス、オルトポックスウィルス、アヴィポックスウィルス、及びパラポックスウィルス)が含まれる。いくつかの実施態様では、当該ポックスウィルスはオルトポックスウィルス(例えば天然痘ウィルス、ワクシニアウィルス、牛痘ウィルス、サル痘ウィルス)、パラポックスウィルス(例えばorf ウィルス、偽牛痘ウィルス、ウシの血疹性口内炎ウィルス)、ヤタポックスウィルス(例えばタナポックスウィルス、ヤバ猿腫瘍ウィルス)又はモルシポックスウィルス(例えば伝染性軟属腫ウイルス)を含む。いくつかの実施態様では、当該ポックスウィルスは、オルトポックスウィルス(例えば牛痘ウィルス株ブライトン、アライグマポックスウィルス株ハーマン、ウサギポックスウィルス株ユトレヒト、ワクシニアウィルス株WR、ワクシニアウィルス株IHD、ワクシニアウィルス株エルストリー、ワクシニアウィルス株CL、ワクシニアウィルス株 レダーレ-コリオアラントイック(原語:Lederle-Chorioallantoic)、又はワクシニアウィルス株AS)である。いくつかの実施態様では、当該ポックスウィルスはパラポックスウィルス(例えばorf ウィルス株NZ2 又は偽牛痘ウィルス株TJS)である。
【0010】
「シアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質」とは、シアリダーゼの触媒ドメイン、あるいは、シアリダーゼの触媒ドメインに実質的に相同ではあるが当該触媒ドメインの由来であるシアリダーゼのアミノ酸配列全体を含まないアミノ酸配列を含む、たんぱく質であり、この場合、シアリダーゼ触媒ドメインは、当該触媒ドメインの由来であるインタクトなシアリダーゼと実質的に同じ活性を維持している。シアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質は、シアリダーゼを由来としないアミノ酸配列を含むことができるが、これは必要ではない。シアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質は、一種以上の他の耕地のたんぱく質のアミノ酸配列を由来とするか、又は実質的に相同であるアミノ酸配列を含むことができ、あるいは、他の耕地のたんぱく質のアミノ酸配列を由来としないか、あるいは実質的に相同でない一種以上のアミノ酸を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、蛍光顕微鏡法によるA549及びMCF細胞上の2,6シアル酸(FITC-SNAで)の検出を示す。A549 及びMCF 細胞を固定し、FITC-SNAと一緒に1時間、37℃でインキュベートしてから蛍光顕微鏡下で撮像すると、FITC-SNA標識された(左側)細胞が明視野細胞(右側)と重なった状態で見えた。
図2図2は、2,6 シアル酸、2,3 シアル酸の効果的な除去と、DAS181処置によるA549細胞のガラクトースの露出とを示す。549をDAS181で2時間、37℃で処置し、染色試薬と一緒に1時間インキュベートしてから蛍光顕微鏡下で撮像すると、腫瘍細胞上のシアル酸が効果的に除去されていることが示された。
図3図3は、DAS185処置でなくDAS181処置によるA549細胞上の2,6シアル酸の効果的な除去を示す。549 をDAS181 で30分間又は2時間、37℃で処置し、FITC-SNA と一緒に1時間インキュベートしてからフローサイトメトリを用いて調べると、腫瘍細胞上で2,6 シアル酸が効果的に除去されていることが示された。
図4図4は、DAS185でなくDAS181によるA549 細胞上の2,3シアル酸の効果的な除去を示す。549 をDAS181で30分間又は2時間、37℃で処置し、 FITC-MALII と一緒に1時間インキュベートしてからフローサイトメトリを用いて調べると、腫瘍細胞上の2,3シアル酸が効果的に除去されていることが示された。
図5図5は、DAS185処置でなくDAS181によりA549細胞上のガラクトースの効果的な露出を示す。A549をDAS181 で30分間又は2時間、37℃で処置し、FITC-PNA と一緒に1時間、インキュベートしてからフローサイトメトリで調べると、腫瘍細胞上のガラクトースが効果的に露出していることが示された。
図6図6は、DAS181処置及びPBMC刺激法がA549-赤血球の増殖に影響を及ぼさないことを示す。A549-赤血球を2k/ウェルになるように一晩播種した後、左側に挙げた試薬を含有する培地を取り換えた。試薬添加後すぐに(0時間)IncuCyte スキャンを開始し、3時間毎の計画とした。A549-赤血球増殖は、核(赤)の計数を分析することで観察される。動的読み取り値は、伝播体DAS181でも又は多様な刺激試薬によっても、PBMCがない状態でA549細胞増殖への影響を何も示していない。
図7図7は、DAS181処置有り又は無しの状態でドナー1から採ったPBMCと同時培養した後のA549赤血球の細胞障害性の検出を示す。これらの結果から、DAS181は、ドナー1由来のPBMCによる抗腫瘍細胞障害性を有意に促進することが示された。A549赤血球を2k/ウェルになるように一晩、播種した後、培地(活性化なし)、CD3+CD28+IL-2 (T 細胞活性化)、又はCD3+CD29+IL-2+IL-15+IL-21 (T 及びNK細胞活性化)の存在下で、 100k/ウェルのドナー1 PBMC (E:T=50:1) と一緒に同時培養した。代表的な画像はIncuCyte でPBMC添加後0時間目及び72時間目で撮られた。
図8図8は、DAS181処置有り又は無しの状態でドナー2から採ったPBMCと同時培養した後のA549赤血球の細胞障害性の検出を示す。これらの結果から、DAS181は、ドナー2由来のPBMCによる抗腫瘍細胞障害性を有意に促進することが示された。A549赤血球を2k/ウェルになるように一晩、播種した後、培地(活性化なし)、CD3+CD28+IL-2 (T 細胞活性化)、又はCD3+CD29+IL-2+IL-15+IL-21 (T 及びNK細胞活性化)の存在下で、 100k/ウェルのドナー1 PBMC (E:T=50:1) と一緒に同時培養した。代表的な画像はIncuCyte でPBMC添加後0時間目及び72時間目で撮られた。
図9図9A-9Cは、DAS181処置有り又は無しの状態でドナー1から採ったPBMCと同時培養した後のA549赤血球の細胞障害性の検出を示す。これらの結果から、DAS181は、ドナー1由来のPBMCによる抗腫瘍細胞障害性を有意に促進することが示された。緑色の線は、DAS181なしの条件を示し、青色の線はDAS-181処置ありの条件を示す。A549-腫瘍赤血球を2k細胞/ウェルになるように96ウェル・プレートに播種した。一晩のインキュベート後、 (A) 培地、(B) CD3/CD28/IL-2、又は (C) CD3/CD28/IL-2/IL-15/IL-21と混合したドナー1由来PBMCを、示したE:T比で各ウェルに加えた。平均時間でDAS 181 (100 nM) を加えた。プレートを3時間毎に計72時間、IncuCyteでスキャンした。増殖はRFP細胞計数を分析することにより観察されている。
図10図10A-10Cは、DAS181処置有り又は無しの状態でドナー2から採ったPBMCと同時培養した後のA549赤血球の細胞障害性の検出を示す。これらの結果から、DAS181は、ドナー2由来のPBMCによる抗腫瘍細胞障害性を有意に促進することが示された。緑色の線は、DAS181なしの条件を示し、青色の線はDAS-181処置ありの条件を示す。A549-腫瘍赤血球を2k細胞/ウェルになるように96ウェル・プレートに播種した。一晩のインキュベート後、 (A) 培地、(B) CD3/CD28/IL-2、又は (C) CD3/CD28/IL-2/IL-15/IL-21と混合したドナー2由来PBMCを、示したE:T比で各ウェルに加えた。平均時間でDAS 181 (100 nM) を加えた。プレートを3時間毎に計72時間、IncuCyteでスキャンした。増殖はRFP細胞計数を分析することにより観察されている。
図11図11は、DAS181は、MTSアッセイで測定すると、ワクシニア・ウィルスによるNK媒介型腫瘍溶解を促進することを示す。* =T-検定、P 値 <0.05は、DAS181 単独でNK細胞媒介型U87腫瘍致死をin vitroで促進したことを示しており、酵素が死んだDAS185の * = T-検定の P 値<0.05と対照的である。
図12図12は、MTS検定で測定したときにDAS181 がワクシニア・ウィルスによるNK媒介型腫瘍致死を増加させることを示す。* = T-検定 P 値 <0.05は、 DAS181がVVによるU87細胞のNK細胞媒介型致死をin vitroで増加させることを示している。
図13図13は、DAS181が、単独で培養された又はVV感染腫瘍細胞に暴露したヒトDC細胞における成熟マーカー(CD80、CD86、HLA)の発現を有意に亢進したことを示す。* = T-検定P 値 <0.05.
図14図14は、DAS181が、THP-1由来マクロファージによるTNF-アルファ産生を有意に亢進したことを示す。* = T-検定P 値 <0.05
図15図15は、DAS181処置が腫瘍溶解性アデノウィルス媒介型腫瘍細胞致死及び成長阻害を促進することを示す。A549腫瘍赤血球を2K 細胞/ウェルになるように96ウェルプレートに播種した。一晩のインキュベート後、DAS181伝播体、腫瘍溶解性アデノウィルス及びDAS181を、示したように添加した。CD3/CD28/IL-2も各ウェルに前に記載した量、添加した。グラフは、DAS181 に腫瘍溶解性アデノウィルスを加えた場合に、腫瘍細胞増殖を効果的に減じたことを示した。
図16図16A-16Bは、DAS181処置がワクシニアウィルスによるPBMC媒介型腫瘍細胞致死を亢進することを示す。A549腫瘍赤血球を2K 細胞/ウェルになるように96ウェルプレートに播種した。一晩のインキュベート後、新鮮なPBMCを10K/ウェル(A) 又は40K/ウェル (B)の密度で加えた。CD3、CD28、IL-2、DAS181、及び腫瘍溶解性アデノウィルスをグラフに示すように添加し、IncuCyteで時間設定したスキャンをした。グラフは、 DAS181に腫瘍溶解性アデノウィルスを加えるとヒトPBMC媒介型腫瘍細胞根絶が劇的に亢進されたことを示した。
図17図17は、シアリダーゼを発現するワクシニアウィルス構築物の一部分の概略図を示す。
図18図18は、シアリダーゼを発現するワクシニアウィルス構築物の特定の要素の配列を示す(DAS181)。
図19図19は、シアリダーゼを発現するワクシニアウィルス構築物の一部分の配列を示す(DAS181)。
図20図20A-20Bは、シアリダーゼ-VVにより発現するDAS181は、シアル酸含有基質に対して in vitro 活性を有することを示す。(A) 0.5 nM、1 nM、及び2 nMでのDAS181活性の標準曲線。(B) シアリダーゼ-VV に感染した1x106 個の細胞は、in vitro の1mlの培地中で0.78nM ‐1.21 nM DAS181に等しいDAS181を発現することを示す。
図21図21は、シアリダーゼ-VVが樹状細胞成熟を亢進することを示す。GM-CSF/IL4 由来ヒトDCをSial-VV又はVV感染U87 腫瘍細胞ライセートと一緒に24時間、培養した。LPSのDAS181をコントロールとして用いた。DC を採集し、CD80、CD86、HLA-DR、及びHLA-ABCに対する抗体で染色した。DC成熟マーカーの発現はフロー解析で判定された。その結果は、Sial-VVはDC成熟を亢進したことを示唆した。* = T-検定 P 値 <0.05
図22図22は、T細胞による シアリダーゼ-VV 誘導型IFN-ガンマ及びIL2の発現を示す。CD3 抗体活性化ヒトT細胞をA594 腫瘍細胞と一緒にSial-VV 又は VV-感染腫瘍細胞ライセートの存在下で24時間、同時培養し、サイトカインIFNr 又はIL-2の発現をELISAで確認した。その結果は、Sial-VV 細胞ライセートが、ヒトT細胞によるIFNr 及びIL2の発現を誘導したことを示唆した。* = T-検定 P 値 <0.05
図23図23は、シアリダーゼ-VVはT細胞媒介型腫瘍細胞溶解活性を促進することを示す。CD3 Ab 活性化ヒトT細胞をSial-VV 又はVV感染A594 腫瘍細胞と一緒に24時間、同時培養し、腫瘍細胞生存率をMTS検定で判定した。その結果は、腫瘍細胞のSial-VV 感染は腫瘍致死を亢進させることを示唆した。* = T-検定P 値 <0.05
【0012】
詳細な説明
腫瘍溶解性ウィルス
ワクシニア・ウィルス、コックスサッキー・ウィルス、アデノウィルス、麻疹、ニューカッスル病ウィルス、セネカ・ヴァリー・ウィルス、コックスサッキーA21、水疱性口内炎ウィルス、パルボウィルスH1、レオウィルス、疱疹ウィルス、レンチウィルス、及びポリオウィルス並びにパルボウィルス、ワクシニア・ウィルス・ウェスターン・リザーブ株、GLV-1h68、ACAM2000、及びオンコVEX GFPを含め、多くの腫瘍溶解性ウィルスが入手可能である。これらの腫瘍溶解性ウィルスのゲノムを遺伝子改変して、 シアリダーゼの全部又は触媒部分を含むたんぱく質をコードするヌクレオチド配列を導入することができる。シアリダーゼの全部又は触媒活性部分を含むたんぱく質をコードするヌクレオチド配列は、当該シアリダーゼが感染細胞で発現されるよう、ウィルス発現カセットの制御下に置かれる。
【0013】
水疱性口内炎ウィルス(VSV)
VSVは複数の腫瘍溶解性ウィルス用途に用いられてきた。加えて、VSVは、ワクチン処置(REF 18337377、29998190)を通じてHPV陽性子宮頸部癌を処置する方法としてヒト乳頭腫ウィルス(HPV)の抗原性たんぱく質を発現させるべく、あるいは腫瘍に対する免疫反応を増加させる抗炎症性因子を発現させるべく(REF 12885903)、操作されてきた。付加的な遺伝子をコードするようVSVを操作する多様な方法が解説されている (REF 7753828)。簡単に説明すると、VSV RNA ゲノムを、上流にT7 RNA ポリメラーゼ・プロモータを持つ相補的な二重鎖DNAに逆転写し、VSVゲノム内で遺伝子挿入にとって適した位置(例えばVSV糖たんぱく質(G)をフランクする非コーディング5‘又は3’領域内)を特定する (REF 12885903)。制限酵素消化を、例えばMlu I 及び Nhe Iで行うことで、直線化DNA分子を生じさせることができる。適した制限部位でフランクされた目的の遺伝子をコードするDNA分子から成るインサートをこの直線化したVSVゲノムDNAに連結することができる。得られたDNAをT7ポリメラーゼで転写すると、目的の挿入遺伝子を含有する完全なVSVゲノムRNAが出来上がる。このRNA分子を、例えばトランスフェクション及びインキュベーションなどで哺乳動物細胞に導入すると、目的の遺伝子にコードされたたんぱく質を発現するウィルス子孫ができる。
【0014】
アデノウィルス血清型5(Ad5)
Ad5は、必須E1aウィルス遺伝子の発現を駆動してウィルス複製とRb経路欠陥腫瘍細胞への細胞障害性とを制限する網膜芽細胞腫(Rb)経路欠陥腫瘍特異的転写調節因子であるヒトE2F-1プロモータを含有する(REF 16397056)。腫瘍細胞の特質は、Rb経路の欠陥である。目的の遺伝子のAd5内への操作はAd5ゲノムへの連結を通じてなされる。目的の遺伝子を含有するプラスミドを作成し、例えばAsiSI 及びPacIで消化する。PSF-AD5 (REF シグマ社 OGS268)などのAd5 DNAプラスミドをAsiSI 及び PacI で消化し、組換え細菌性リガーゼで連結するか、又は、Ad5を発現するヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)の作成について報告されているように、REで消化した目的の遺伝子と一緒に寛容性E.coli内に同時トランスフェクトする(REF 16397056)。DNAを回収し、ヒト胚性腎細胞(HEK293)又はHeLaなどの寛容性ホストにトランスフェクトすると、目的の遺伝子を発現するウィルスができる。
【0015】
ワクシニア・ウィルス(VV)
VVの多用な株が、OV治療法のテンプレートとして用いられてきた。一致する特徴はウィルス性チミジンキナーゼ(TK)遺伝子の削除であり、それによりウィルスの生産的複製が、活発に複製する細胞、即ち新生物細胞に依存的になるため、これらのVVは、VVのウェスターン・リザーブ(WR)株を例とする癌細胞の優先的感染性を有することになる(REF 25876464)。ゲノムに目的遺伝子を挿入したVVの作成は、下に詳述する通り、lox部位を用いた相同組換えで達成される。
【0016】
腫瘍溶解性ウィルスによる発現のためのシアリダーゼ活性を持つポリペプチド
当該の組換え腫瘍溶解性ウィルスは、ヒト細胞上のグリカンからシアル酸(N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)を除去することができるシアリダーゼの全部又は触媒部分を含むポリペプチドを発現する。一般的にはNeu4Acは、多種のシアリルトランスフェラーゼのいずれかにより、アルファ2,3、アルファ2,6又はアルファ2,8結合を介してたんぱく質上のグリカンの最後から2番目の糖に結合する。通常のヒトシアリルトランスフェラーゼを表1に要約する。
【0017】
【表1】
【0018】
シアリダーゼ活性を有するポリペプチド内のドメイン
発現されるポリペプチドには、シアリダーゼ又はその触媒部分に加え、選択に応じて、当該たんぱく質の治療的活性に寄与するペプチド又はたんぱく質配列を含めることができる。例えば、当該たんぱく質は、当該たんぱく質と細胞表面との間の相互作用を促進するアンカードメインを含むことができる。該アンカードメイン及びシアリダーゼドメインは、治療的シアリダーゼがシアル酸残基を除去する細胞外活性を呈することができるように、当該たんぱく質が標的細胞膜に結合できる、又は標的細胞膜近傍に結合できるいずれかの適した方法で配置することができる。当該たんぱく質は二つ以上のアンカードメインを有することができる。当該のポリペプチドが二つ以上のアンカードメインを有する場合、当該アンカードメインは、同じであっても、又は異なっていてもよい。当該たんぱく質は二つ以上のシアリダーゼドメインを有していてもよい。化合物が二つ以上のシアリダーゼドメインを有する場合は、当該シアリダーゼドメインは同じ出逢っても、又は異なっていてもよい。当該たんぱく質が複数のアンカードメインを含む場合、当該アンカードメインは(リンカーの有無に関係なく)直列に並んでいても、あるいはシアリダーゼドメインなどの他のドメインと交互に並んでいてもよい。化合物が複数のシアリダーゼドメインを含む場合、当該シアリダーゼドメインは(リンカーの有無に関係なく)直列に並んでいても、あるいは他のドメインと交互に並んでいてもよい。
【0019】
シアリダーゼドメイン
腫瘍溶解性ウィルスが発現するシアリダーゼドメインはアルファ2,3を介して結合したNeu4Acに特異的であっても、アルファ2,6を介して結合したNeu5Acに特異的であってもよく、あるいはアルファ2,3結合又はアルファ2,6結合を介して結合したNeu5Acを切断してもよい。多種のシアリダーゼが表2-5に解説されている。
【0020】
シアル酸残基と、基質分子の他の部分との間の二種以上の結合を切断できるシアリダーゼ、特に、アルファ(2,6)-Gal及びアルファ(2,3)-Gal結合の両者を切断できるシアリダーゼを本開示の化合物で用いることができる。含まれるシアリダーゼは、受容体シアル酸Neu5Acアルファ(2,6)-Gal及びNeu5Acアルファ(2,3)-Galを分解できる大型の細菌性シアリダーゼである。例えば、クロストリジウム-ペルフリンゲンス(原語:Clostridium perfringens(Genbank受託番号X87369)、アクチノマイセス-ヴィスコサス(原語:Actinomyces viscosus (GenBankX62276)、アルスロバクター-ウレアファシエンス(原語:Arthrobacter ureafaciens)GenBank (AY934539)、又はミクロモノスポラ-ヴィリディファシエンス(原語:Micromonospora viridifaciens) (Genbank 受託番号D01045) 由来の細菌性シアリダーゼ酵素を用いることができる。本開示の化合物のシアリダーゼドメインは、大型の細菌性シアリダーゼのアミノ酸配列の全部又は一部分を含むこともでき、あるいは、大型の細菌性シアリダーゼのアミノ酸配列の全部又は一部分に実質的に相同なアミノ酸配列を含むこともできる。ある好適な実施態様では、シアリダーゼドメインは、 SEQ ID NO: 1 又は2のものなど、アクチノマイセス-ヴィスコサスにコードされるシアリダーゼ、あるいは、SEQ ID NO: 12に実質的に相同なシアリダーゼ配列を含む。更に別の好適な実施態様では、シアリダーゼドメインはSEQ ID NOのアミノ酸274-666から延びるアクチノマイセス-ヴィスコサスの触媒ドメイン又は実質的に相同な配列を含む。
【0021】
更なるシアリダーゼには、遺伝子NEU2 (SEQ ID NO:8;Genbank 受託番号 Y16535; Monti, E, Preti, Rossi, E., Ballabio, A and Borsani G. (1999) Genomics 57:137-143) 及びNEU4 (SEQ ID NO:9; Genbank 受託番号NM080741; Monti et al. (2002) Neurochem Res 27:646-663)にコードされたものなど、ヒトシアリダーゼがある。本開示の化合物のシアリダーゼドメインは、シアリダーゼのアミノ酸配列の全部又は一部分を含むことも、あるいは、シアリダーゼのアミノ酸配列の全部又は一部分に実質的に相同なアミノ酸配列を含むこともできる。好ましくは、シアリダーゼが天然発生型のシアリダーゼのアミノ酸配列の一部分か、天然発生型のシアリダーゼのアミノ酸配列の一部分に実質的に相同な配列を含む場合、当該部分は、インタクトなシアリダーゼと基本的に同じ活性を含むとよい。本開示は更に、シアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質を包含する。ここで用いられる「シアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質」は、シアリダーゼの触媒ドメインが含むが、該触媒ドメインの由来となった元のシアリダーゼの全アミノ酸配列は含まない。シアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質はシアリダーゼ活性を有する。好ましくは、シアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質は、当該触媒ドメイン配列の由来であるシアリダーゼの活性の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも70%を含むとよい。より好ましくは、シアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質は、当該触媒ドメイン配列の由来であるシアリダーゼの活性の少なくとも90%を含むとよい。
【0022】
シアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質は、限定はしないが付加的なシアリダーゼ配列、他のたんぱく質を由来とする配列、天然発生型のたんぱく質の配列を由来としない配列など、他のアミノ酸配列を含むことができる。付加的なアミノ酸配列は、他の活性の当該触媒ドメインたんぱく質に貢献させる、当該シアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質の発現、プロセッシング、折り畳み、又は安定性を向上させる、あるいは更に、当該たんぱく質の好ましい大きさ又は距離を取らせることを含め、数多くの機能を果たすことができる。
【0023】
好適なシアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質は、A.ヴィスコサスシアリダーゼの触媒ドメインを含むたんぱく質である。好ましくは、A.ヴィスコサスシアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質は、A.ヴィスコサスシアリダーゼ配列 (SEQ ID NO:12)のアミノ酸270-666を含む。好ましくは、A.ヴィスコサスシアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質は、A.ヴィスコサスシアリダーゼ配列 (SEQ ID NO: 12)のアミノ酸270からアミノ酸290までのいずれかで始まり、前記A.ヴィスコサスシアリダーゼ配列 (SEQ ID NO: 12)のアミノ酸665からアミノ酸901までのいずれかで終わるアミノ酸配列を含み、アミノ酸1からアミノ酸269まで伸びるいずれかのA.ヴィスコサスシアリダーゼたんぱく質配列を欠くとよい。
【0024】
いくつかの好適な実施態様では、A.ヴィスコサスシアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質は、A.ヴィスコサスシアリダーゼ配列 (SEQ ID NO: 12) のアミノ酸274-681を含み、他のA.ヴィスコサスシアリダーゼ配列を欠く。いくつかの好適な実施態様では、A.ヴィスコサスシアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質は、A.ヴィスコサスシアリダーゼ配列 (SEQ ID NO: 12) のアミノ酸274-666を含み、いずれか他のA.ヴィスコサスシアリダーゼ配列を欠く。いくつかの好適な実施態様では、A.ヴィスコサスシアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質は、A.ヴィスコサスシアリダーゼ配列(SEQ ID NO: 12) のアミノ酸290-666を含み、いずれか他のA.ヴィスコサスシアリダーゼ配列を欠く。更に他の好適な実施態様では、 A.ヴィスコサスシアリダーゼ触媒ドメインたんぱく質は、A.ヴィスコサスシアリダーゼ配列(SEQ ID NO: 12)のアミノ酸290-681を含み、いずれか他のA.ヴィスコサスシアリダーゼ配列を欠く。
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】
【表5】
【0029】
アンカードメイン
ここで用いられる「細胞外アンカードメイン」又は「アンカードメイン」とは、標的細胞上の外側表面にある、又は外側表面上にある実体、あるいは、標的細胞の外側表面上の近傍にある実体と相互作用するいずれかの成分である。アンカードメインは、本開示の化合物を標的細胞の外側表面上又は外側表面近傍に保持するのに役立つ。細胞外アンカードメインは、好ましくは1)癌細胞の表面上に発現した分子、あるいは、癌細胞の表面上に発現した分子の成分、ドメイン、又はエピトープ、2)癌細胞の表面上に発現した分子に付着した化学的実体、あるいは3)癌細胞周囲の細胞外マトリックスの分子、に結合するとよい。
【0030】
有用なアンカードメインは、細胞膜上に遍在するGAGの一種であるヘパリン/硫酸塩に結合する。数多くのたんぱく質は、ヘパリン/へパラン硫酸塩に特異的に結合するが、これらのたんぱく質のGAG結合配列は同定されている (Meyer, F A, King, M and Gelman, R A. (1975) Biochimica et BiophysicaActa 392: 223-232; Schauer, S. ed., pp 233. Sialic Acids Chemistry, Metabolism and Function. Springer-Verlag, 1982)。例えば、ヒト血小板因子4 (PF4) (SEQ ID NO:2)、ヒトインターロイキン8 (IL8) (SEQ ID NO:3)、ヒト抗スロンビンIII (AT III) (SEQ ID NO:4)、ヒトアポたんぱく質E (ApoE) (SEQ ID NO:5)、ヒトアンギオ関連遊走細胞たんぱく質 (AAMP) (SEQ ID NO:6)、又はヒトアンフィレギュリン (SEQ ID NO:7) のGAG結合配列がヘパリンに対して大変高い親和性を有することが示されている。
【0031】
リンカー
シアリダーゼ又はその触媒ドメインを含むたんぱく質は、選択的に、当該化合物のドメインを接合する1つ以上のポリペプチドリンカーを含むことができる。リンカーは、あるたんぱく質のドメインの最適な距離、又は折り畳みを提供するために用いることができる。リンカーにより接合される、たんぱく質のドメインは、シアリダーゼドメインでも、アンカードメインでも、あるいは、たんぱく質の安定性を高めたり、精製を容易にするなどの付加的な機能を提供するような、当該化合物のいずれか他のドメイン又は成分であってもよい。いくつかの好適なリンカーにはアミノ酸グリシンがある。例えば、nが1-20である配列 (GGGGS (SEQ ID NO:10))を有するリンカーである。
【0032】
実施例
実施例1: DAS181処置により腫瘍細胞上の表面シアル酸が減少する
この研究では、いくつかの腫瘍細胞のシアル酸負荷に対するDAS181の影響を調べた。簡単に説明すると、A549 (ヒト肺胞基底上皮腺癌腫)及びMCF(ヒト乳房上皮腺癌腫)腫瘍細胞に対するα-2,3 及び α-2,6 シアル酸修飾のFAC及び画像ベースの定量を行った。A549及びMCF7 細胞のシアル酸除去後のガラクトース露出はPNA-FITCによるフローサイトメトリ分析及び撮像法を用いて検出された。上で論じたように、それぞれマッキア・アムレンシス・レクチン(原語:Maackia Amurensis Lectin)II (MAL II) 及びサンブカス・ニグラ・レクチン(原語:Sambucus Nigra Lectin) (SNA)で検出することのできる二つのシアル酸は、α-2,3 結合又はα-2,6 結合により最後から2番目の糖に最もよく付着している。加えて、表面のガラクトース(例えばシアル酸除去後に露出するガラクトース)はピーナッツ・アグルチニン(原語:Peanut Agglutinin)(PNA)を用いて検出することができる。
【0033】
図1は、A549及びMCF細胞上の2,6シアル酸のFITC-SNAの蛍光撮像法による検出を示す。
【0034】
A549細胞を多様な濃度のDAS181で処置した後に染色して、2,6結合シアル酸(FITC-SNA)、2,3 結合シアル酸 (FITC-MALII) 又はガラクトース (FITC-PNA)を撮像した。図2Aに見られるように、DAS181 は2,3 及び2,6 結合シアル酸の両者を効果的に除去してガラクトースを露出させた。
【0035】
対照的に、Y348F変異のためにシアリダーゼ活性のないDAS181異型であるDAS185は、2,6結合シアル酸又は2,3 結合シアル酸を除去することができなかった。図3に示すように、A549 細胞をDAS185と一緒にインキュベートしても、表面の2,3結合シアル酸には実質的に何の影響もなかったが、一方、DAS181は表面の2,3 結合シアル酸を濃度依存的に減少させた。同様に、A549 細胞をDAS185と一緒にインキュベートしても、表面の2,6結合シアル酸には実質的に何の影響もなかったが、一方、 DAS181は表面の2,6結合シアル酸を濃度依存的に減少させた(図4)。これらの結果と一致するように、A549細胞をDAS185と一緒にインキュベートしても、表面のガラクトースには実質的に何の影響もなかったが、一方、DAS181 は表面のガラクトースを濃度依存的に増加させた。
【0036】
実施例2:DAS181処置はPDMC媒介型腫瘍細胞致死を増加させる
A549細胞を赤色蛍光たんぱく質で遺伝子標識した(A549-赤色)。新鮮なヒトPMBCを採集し、多様なサイトカイン及び抗体の組み合わせで刺激して、エフェクターT細胞(CD3、CD38 及びIL-2)又は、場合によっては、T 細胞及びNK細胞(CD3、CD28、IL-15 及び IL-21)を活性化させた。次に、活性化PBMCを、DAS181(100nM)に暴露してあったA549-赤色細胞と一緒に同時培養した。PBMCによる腫瘍細胞致死を生存細胞撮像とInucuCyteによる定量で観察した。細胞培地を採集し、ELISAで分析して、PBMCによるサイトカイン産生を評価した。
【0037】
図6は、PBMCを刺激するために用いられる処置も、PBMCを刺激するために用いられる処置とDAS181との組合せのいずれも、A549-赤色細胞増殖に影響を与えないことを示す。
【0038】
図7は、DAS181は、賦形剤のみのコントロールに比較して、PBMC(ドナー1)により媒介された、T細胞媒介型及びNK細胞媒介型の両者により媒介された腫瘍細胞障害性を有意に増加させることを示す。同様な結果は、異なるドナー(ドナー2:図8)由来のPBMCを用いても観察された。図9及び図10は、それぞれ図7及び図8であらわされたデータの定量を表す。
【0039】
実施例3: 腫瘍溶解性ワクシニアウィルス及びDAS181による、腫瘍細胞のNK細胞媒介型致死
この研究では、NK細胞媒介型致死に対する腫瘍溶解性ワクシニアウィルス(ウェスターン・リザーブ)及びDAS181に対する影響が調べられた。シアリダーゼ活性を欠く異型たんぱく質であるDAS185がコントロールとして用いられた。
【0040】
簡単に説明すると、腫瘍細胞 (U87-GFP)を96ウェル組織培養プレートに1ウェル(100ul)当り5x104 個の細胞になるようにDMEMに入れてプレートし、一晩、37℃でインキュベートした。2日目にこの細胞をウシ胎児無血清培地に入れたVVで2時間、MOI 0.5、1、又は 2 で感染させ、その後1nM DAS181 又は1 mM DAS185に暴露した。次に腫瘍細胞を精製済みNK細胞とエフェクター:腫瘍 (E:T) = 1:1, 5:1, 10:1の比になるように混合した。ノイラミニダーゼ/シアリダーゼのバックグラウンドを減らすために、2% FBSを添加した培地でこの細胞を培養した。24時間後、腫瘍致死をMTS 検定 (96ウェル・プレート)で測定し、細胞培地を採集した。IFNガンマの発現をELISAで測定した。この研究の結果を図11及び図12に示すが、同図において、不活性なDAS181は腫瘍溶解性ワクシニアウィルスによる腫瘍細胞致死を増加させたが不活性なDAS185はさせなかったことが伺える。
【0041】
実施例4: 腫瘍細胞の存在下におけるDC成熟及び抗原提示活性に対するDAS181の影響
この研究では、単球由来樹状細胞へのDAS181の影響を調べた。シアリダーゼ活性を欠く異型たんぱく質であるDAS185はコントロールとして用いられた。
【0042】
簡単に説明すると、単球由来樹状細胞(DC)は、5x106 個の接着 PBMC を、100 ng/ml のGM-CSF 及び50 ng/ml のIL-4を添加した3mlの培地に再懸濁させることにより調製された。48時間後、100 ng/mlのGM-CSF 及び50 ng/ml の IL-4を添加した2 ml の新鮮培地を各ウェルに加えた。更に72時間後、腫瘍細胞 (U87-GFP) をDMEMに入れて24-ウェルプレートにプレートした。この腫瘍細胞を、FBS無培地に入れた多様なMOIのVVに2時間、感染させた。1nMの DAS181又はDAS185の存在下で培養したDCを 腫瘍細胞と 1:1 の腫瘍細胞:DC比で混合した。次に、樹状細胞成熟(CD86、CD80、MHC-II、MHC-Iの発現)及び炎症性サイトカイン (TNF-アルファ) 産生をそれぞれフローサイトメトリ及びELISAで測定及び定量した。
【0043】
図13に見られるように、DAS181は、細胞を単独で培養したか、又はワクシニアウィルス感染腫瘍細胞と一緒に培養したかに関係なく、樹状細胞成熟マーカーの発現を有意に亢進した。
【0044】
この研究の結果は、DAS181への暴露は樹状細胞によるTNF-アルファ分泌を増加させたことを示す(図14)。
【0045】
実施例5: DAS181は免疫細胞の不在下で腫瘍溶解性アデノウィルス腫瘍細胞致死を増加させる
A549細胞を赤色蛍光たんぱく質で遺伝子標識した(A549-赤色)。腫瘍細胞の増殖と、腫瘍溶解性アデノウィルス(Ad5)による致死を、DAS181の存在下及び不在下で生存細胞撮像及びIncuCyteによる定量で観察した。細胞培地を採集してPBMCによるサイトカイン産生のELISA測定に向けた。図15に示すように、DAS181は、腫瘍溶解性アデノウィルス媒介型腫瘍細胞致死及び成長阻害を増加させた。
【0046】
実施例6: DAS181はPBMCの存在下で腫瘍溶解性アデノウィルス腫瘍細胞致死を増加させる
A549細胞を赤色蛍光たんぱく質で遺伝子標識した(A549-赤色)。新鮮なヒトPMBCを採集し、適したサイトカイン及び抗体の組み合わせで刺激してエフェクターT細胞を活性化させた。次に活性化PBMCを、腫瘍溶解性アデノウィルス(Ad5)有り又は無しでDAS181で処置してあったA549-赤色細胞と一緒に同時培養した。PBMCによる腫瘍細胞致死を生存細胞撮像及びIncuCyteによる定量で観察した。細胞培地を採集してPBMCによるサイトカイン産生のELISA測定に向けた。図16に示すように、DAS181は、PBMCの存在下で腫瘍溶解性アデノウィルスと一緒に存在する腫瘍細胞致死を有意に増加させた。
【0047】
実施例7: DAS181を発現する腫瘍溶解性ウィルスの構築及び特徴づけ
DAS181の発現のためにデザインされた構築物を17に概略的に示す。
【0048】
DAS181を発現する組換えVVを作製するために、pSEM-1 ベクターを改変して、DAS181をコードする配列や、GFPたんぱく質をコードする配列をフランクする同じ方向の二つのloxP部位 (pSEM-1-TK-DAS181-GFP)を含めた。腫瘍組織内に発現を制限するために、DAS181発現は、F17R後期プロモータの転写制御下にある。当該構築物の成分及び一部の配列を図18及び図19に示す。
【0049】
ウェスタン・リザーブVVを親ウィルスとして用いた。DAS181を発現するVV は、pSEM-1-TK-DAS181-GFPをウェスタン・リザーブVVのTK遺伝子内に組み換えることで、VV-DAS181が作製された。
【0050】
組換えウィルスは以下のように作製された。
【0051】
トランスフェクション:
CV-1 細胞を6ウェルプレートにDMEM-10% FBS/ウェル中、5x105 個の細胞/2 mlになるように播種し、一晩成長させる。ウィルスストックをDMEM/2% FBSで MOI 0.05に希釈することで親VV ウィルス(1 ml/ウェル) を調製する。CV-1ウェルから培地を取り除き、すぐにVVを加え、1-2時間、培養する。CV-1 細胞はこの時点で 60-80% コンフルエントであるはずである。1.5 ml の試験管でトランスフェクション混合液。各トランスフェクションのために、9 ul のジェネジュースを91 ul の無血清DMEMで希釈し、室温で5分間、インキュベートする。ピペットを2又は3回、出し入れすることで3ug のpSEM-1-TK-DAS181-GFP DNA をやさしく加える。室温に15分間放置する。CV-1ウェルからVVウィルスを吸引し、細胞を2 ml の無血清DMEMで洗う。2 ml のDMEM-2% FBS を加え、DNA-ジェネジュース溶液を一滴一滴、加える。37°C で48-72 時間、又は、細胞すべてが円形化するまでインキュベートする。繰り返しピペッティングして細胞を回収する。回収した細胞をまずドライアイス/エタノール槽内に配置し、その後37℃の水槽中で解凍してボルテックスすることによる、回収した細胞の反復的な凍結-解凍を通じて細胞からウィルスを放出させる。該凍結-解凍サイクルを三回、繰り返す。細胞ライセートは-80℃で保存することができる。
【0052】
プラークの分離:
CV-1 細胞を6ウェルプレートにDMEM-10% FBS/ウェル中、5x105 個の細胞/2 mlになるように播種し、一晩、成長させる。細胞ライセートを加えるとCV-1細胞は 60-80% コンフルエントであるはずである。懸濁液中の物質が分散するまで、30秒間の4サイクル、超音波コンバーター・プローブを付けた音波ディスメンブレータを用いて氷上で細胞ライセートを音波処理する。DMEM-2% FBSに細胞ライセートを入れて10倍の連続希釈液を作製する。1ウェル当り1 mlの細胞ライセート-培地を 希釈度10-2、10-3、10-4で加え、37℃でインキュベートする。ピペットの先端を用いて、よく分離されたGFP+ プラークを選ぶ。ピペットの先端を僅かに揺らしてプラーク中の細胞を引き剥がす。0.5 mlのDMEM 培地を含有するマイクロ遠心管に静かに移す。凍結-解凍を三回行って、音波処理する。プラーク分離物の同じプロセスを3-5回、繰り返す。
【0053】
ウィルス増幅
CV-1 細胞を 5x105 個の細胞/2ml DMEM-10% FBS/ウェルになるように播種し、一晩、6-ウェルプレートで成長させる。本実験を開始する際にはCV-1 はコンフルエントであるはずである。250 ul のプラーク・ライセート/1ml DMEM-2% FBSで1ウェルを感染させ、37℃で2時間、インキュベートする。プラークライセートを取り除き、2 mlの新鮮な DMEM-2% FBSを加え、細胞が円形化するまで48-72 時間、インキュベートする。ピペット吸引を繰り返すことで細胞を収集し、凍結-解凍を三回、行い、音波処理する。細胞ライセートの半分を4ml のDMEM-2%FBS に入れて加え、75-CM2 フラスコ内でCV-1細胞を感染させ、2時間後、ウィルスを取り除き、12 ml のDMEM-2%FBS を加え、(細胞が円形化するまで) 48-72 時間、培養する。細胞を回収し、5分間1800 Gで遠心して沈降させ、上清を廃棄して1 mlのDMEM-2.5% FBSに再懸濁させる。
【0054】
ウィルス価測定:
CV-1 細胞を 5x105 個の細胞/2ml DMEM-10% FBS/ウェルになるように播種し、一晩、6-ウェルプレートで成長させる。ウィルス・ストック用に、ウィルスをDMEM-2% FBSで希釈して 50 ul のウィルス/4950 ul のDMEM-2% FBS (A、10-2)、500ul A/4500ul 培地 (B、10-3)、及び500 ul B/4500 ul 培地(C、10-4)、10-7 乃至10-10 とする。培地を取り除き、PBSで1回、洗浄し、細胞に 1ml のウィルスを複式にして感染させる。該細胞を1時間、インキュベートし、プレートを10分毎に揺動する。1時間後、ウィルスを取り除いて2 ml のDMEM-10% FBSを加え、48時間、インキュベートする。培地を取り除き、20%のエタノールに入れた1 ml の0.1% 結晶性バイオレットを15分間、室温で加える。培地を取り除き、室温で24時間、乾燥させる。プラークを計数し、1ml当りのプラーク形成単位 (pfu) で表す。
【0055】
VV-RAS181によるDAS181発現の検出:
CV-1 細胞に VV-DAS181をMOI 0.2で感染させる。48時間後、 CV-1 細胞を採集した。DNA をウィザードSVゲノミックDAN 精製システムを用いて抽出し、DAS181 PCR 増幅のテンプレートとして用いた。PCR は標準的なPCRプロトコール及びプライマー配列(SialF: GGCGACCACCCACAGGCAACACCAGCACCTGCCCCA 及びSialR: CCGGTTGCGCCTATTCTTGCCGTTCTTGCCGCC)を用いて行われた。予想されたPCR 産物 (1251 bp) が見出された。
【0056】
実施例8:ワクシニアウィルスの発現するDAS181はin vitroで活性である
CV-1 細胞を6ウェルプレートにプレートした。該細胞をMOI 0.1 又はMOI 1のシアリダーゼ-VV又はコントロールVV で形質導入した。24時間後、トランスフェクトした細胞を採集し、単個細胞懸濁液をPBS で3x106/500 ulになるように作製した。たんぱく質抽出用に細胞ライセートをシグマ社の哺乳動物細胞溶解キットを用いて調製し (Sigma、MCL1-1KT)、上清を採集した。シアリダーゼ (DAS181)活性はノイラミニダーゼ検定キット(Abcam、ab138888)をメーカーの指示に従って用いて測定された。1 nM、2 nM、及び10 nMのAS181をコントロールのVV-細胞ライセートに加え、標準曲線を作成した。シアリダーゼ-VV を感染させた1×106個の細胞が、1mlの培地中0.78nM-1.21 nM のDAS181に等しいDAS181発現する。図20に示すように、該DAS181 はin vitroでシアリダーゼ活性を有する。
【0057】
実施例9: ワクシニアウィルス-シアリダーゼは樹状細胞成熟を促進する
シアリダーゼ-VVがDC活性化及び成熟を促進できるかを判定するために、接着性ヒトPBMC を5x106 細胞になるように100 ng/ml のGM-CSF 及び50 ng/ml の IL-4 を添加した 3 ml の培地に再懸濁させ、次に、6ウェルプレートで、1ウェル当り同じ濃度のGM-CSF及びIL-4を添加した新鮮な2mlの培地中で培養した。48時間後、該細胞をシアリダーゼ-VV 感染腫瘍細胞ライセート、VV-感染腫瘍細胞ライセート、合成DAS181たんぱく質を加えたVV-感染腫瘍細胞ライセート、又はLPS(陽性コントロール)の存在下で培養した。更に24時間後、CD86、CD80、MHC-II、MHC-I の発現をフローサイトメトリで判定した。図21に示すように、シアリダーゼ-VVは、樹状細胞活性化及び成熟を示すマーカーの発現を促進する。
【0058】
実施例10:シアリダーゼ-VVはTリンパ球媒介型サイトカイン産生及び腫瘍溶解活性を亢進する
DAS181がIFN-ガンマ(IFNr) 及びIL-2 発現を誘導することによりヒトT細胞を活性化できるかを評価するために、10 ug/ml のCD3抗体を加えることでヒトPBMCを活性化し、48時間毎にIL-2を加えることで増殖を更に刺激した。15日目に、2.5% FBSに入れたMOI 0.5、1、又は2のVVに腫瘍細胞 (A549) を2時間、感染させた。活性化T細胞を1 ug/mlのCD3抗体の存在下で5:1 又は10:1 のエフェクター:標的比になるように該培養株に加えた。更に24時間後、腫瘍細胞障害性を測定し、サイトカインアレイ向けに細胞培地を収集した。図22に見られるように、シアリダーゼ-VVは、CD3活性化T細胞によるIL2 及びIFN-ガンマ発現をVVよりも有意に大きく誘導する。 加えて、図23に見られるように、シアリダーゼ-VVはVVよりも強い抗腫瘍応答を5:1のE:Tで惹起する。
【0059】
いくつかのシアリダーゼの配列
配列表
【0060】
いくつかの実施態様をここで示し、解説してきたが、当業者であれば、このような実施態様は例示としてのみ提供されたことは明白であろう。今や、数多くの変形、変更及び置換が、本開示から逸脱することなく当業者には想到されよう。ここで解説した開示の実施態様への多用な代替案を本開示の実施に当たって用いてもよいことは理解されるはずである。以下の請求の範囲は、本開示の範囲を定義すること、そして、これらの請求の範囲内の方法及び構造は並びにそれらの均等物はこれらに網羅されることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
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【外国語明細書】