(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038197
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】アグリカン結合ドメインおよび運搬部分を含むポリペプチド
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20240312BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240312BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240312BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20240312BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240312BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20240312BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C07K16/46
A61P43/00 111
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P19/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
C07K19/00
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023222274
(22)【出願日】2023-12-28
(62)【分割の表示】P 2020563791の分割
【原出願日】2019-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2018103233
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】北村 秀智
(72)【発明者】
【氏名】星野 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】スン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】倉持 太一
(72)【発明者】
【氏名】屠 文杰
(72)【発明者】
【氏名】井川 智之
(72)【発明者】
【氏名】廣庭 奈緒香
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕生
(57)【要約】 (修正有)
【課題】軟骨組織に存在する抗原に結合する抗原結合ドメインを含むポリペプチド、およびその使用を提供する。
【解決手段】軟骨組織中の分子であるアグリカンに結合する特定のアミノ酸配列を有する抗アグリカン抗体、及び、軟骨組織中のアグリカンに結合する抗原結合ドメインと抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制する抑制ドメインを有する運搬部分とを含み、かつ単独で存在する抗原結合ドメインのものより長い半減期を有するポリペプチドである。本発明のポリペプチドは、長期間にわたって所望の物質を軟骨組織に浸透および/または保持させるのに有用である。当該ポリペプチドを製造する方法およびそれをスクリーニングする方法をさらに提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨組織抗原に対する抗原結合ドメインを含むポリペプチド、およびそのポリペプチドの使用に関する。本発明は、軟骨組織抗原に対する結合ドメインと、抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制する抑制ドメインを有する運搬部分とを含み、かつ単独で存在する抗原結合ドメインより長い半減期を有するポリペプチド、当該ポリペプチドの製造方法およびスクリーニング方法、当該ポリペプチドを含む医薬組成物、特定のVL、VH、またはVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得る、軟骨組織抗原に対する結合ドメインの製造方法及びスクリーニング方法、ならびに特定のVL、VH、またはVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得る、軟骨組織抗原に対する結合ドメインを含む融合ポリペプチドのライブラリにさらに関連する。
【背景技術】
【0002】
抗体は血漿中での安定性が高く、有害反応も少ないことから医薬品として注目されている。中でもIgG型の抗体医薬は多数上市されており、現在も数多くの抗体医薬が開発されている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
抗体医薬を用いた癌治療薬として、これまで、CD20に対するリツキサン、EGFRに対するセツキシマブ、HER2に対するハーセプチン等が承認されている(非特許文献3)。これらの抗体分子は、癌細胞に発現している抗原に対して結合し、ADCC活性等によって癌細胞に対する細胞傷害活性を発揮する。こうしたADCC活性等による細胞傷害活性は、治療用抗体の標的細胞に発現する抗原の数に依存することが知られている(非特許文献4)ため、標的となる抗原の発現量が高いことが治療用抗体の効果の観点からは好ましい。しかし、抗原の発現量が高くても、正常組織に抗原が発現していると、正常細胞に対して、ADCC活性等による細胞傷害活性を発揮するため、有害反応が大きな問題となる。そのため、癌治療薬として治療用抗体が標的とする抗原は、癌細胞に特異的に発現していることが好ましい。例えば、癌抗原として知られているEpCAMに対する抗体分子は、癌治療薬として有望と考えられていたが、EpCAM抗原は膵臓にも発現していることが知られており、実際、臨床試験において、抗EpCAM抗体を投与することによって、膵臓に対する細胞傷害活性により膵炎の有害反応がみられることが報告されている(非特許文献5)。
【0004】
ADCC活性による細胞傷害活性を発揮する抗体医薬の成功を受けて、天然型ヒトIgG1のFc領域からN型糖鎖のフコースを除去することによるADCC活性の増強(非特許文献6)、天然型ヒトIgG1のFc領域のアミノ酸置換によりFcγRIIIaへの結合を増強することによるADCC活性の増強(非特許文献7)等によって強力な細胞傷害活性を発揮する第二世代の改良抗体分子が報告されている。上述のNK細胞が介在するADCC活性以外のメカニズムで癌細胞に傷害活性を発揮する抗体医薬として、強力な細胞傷害活性のある薬物とコンジュゲートした抗体を含むAntibody Drug Conjugate(ADC)(非特許文献8)、および、T細胞を癌細胞にリクルートすることによって癌細胞に対する細胞傷害活性を発揮する低分子抗体(非特許文献9)等の、より強力な細胞傷害活性を発揮する改良抗体分子も報告されている。
【0005】
こうしたより強力な細胞傷害活性を発揮する抗体分子は、抗原の発現が多くはない癌細胞に対しても細胞傷害活性を発揮することが出来る一方で、抗原の発現が少ない正常組織に対しても、対癌細胞と同様に細胞傷害活性を発揮する。実際、EGFR抗原に対する天然型ヒトIgG1であるセツキシマブと比較して、CD3とEGFRに対する二重特異性抗体であるEGFR-BiTEはT細胞を癌細胞にリクルートすることによって癌細胞に対して強力な細胞傷害活性を発揮し抗腫瘍効果を発揮することができる。その一方で、EGFRは正常組織においても発現しているため、EGFR-BiTEをカニクイザルに投与した際に深刻な有害反応が現れることも認められている(非特許文献10)。また、癌細胞で高発現しているCD44v6に対する抗体とコンジュゲートしたmertansineを含むADCであるbivatuzumab mertansineは、CD44v6が正常組織においても発現していることから、臨床において重篤な皮膚毒性および肝毒性を引き起こすことが認められている(非特許文献11)。
【0006】
上述のように抗原の発現が少ない癌細胞に対しても強力な細胞傷害活性を発揮することが出来る抗体を用いた場合、標的抗原が極めて癌特異的に発現している必要があるが、ハーセプチンの標的抗原であるHER2、またはセツキシマブの標的抗原であるEGFRは、正常組織にも発現しており、極度に癌特異的に発現している可能性がある癌抗原の数は限られていると考えられる。そのため、癌に対する細胞傷害活性を強化することはできるものの、正常組織に対する細胞傷害作用による有害反応が問題となり得る。
【0007】
また、最近、癌における免疫抑制に寄与しているCTLA4を阻害することによって腫瘍免疫を増強するイプリムマブが、転移性メラノーマに対して全生存期間を延長させることが示された(非特許文献12)。しかしながら、イプリムマブはCTLA4を全身的に阻害するため、腫瘍免疫が増強される一方で、有利には、全身的に免疫が活性化されることによる自己免疫疾患様の重篤な有害反応を示すことが問題となっている(非特許文献13)。
【0008】
一方、癌以外の疾患に対する抗体医薬として、炎症性・自己免疫疾患において炎症性サイトカインを阻害することで治療効果を発揮する抗体医薬が知られている(非特許文献14)。例えばTNFを標的とするレミケードまたはヒュミラ、および、IL-6Rを標的とするアクテムラは、関節リウマチに対して高い治療効果を発揮するが、一方、これらのサイトカインを全身的に中和することにより有害反応として感染症が見られることも知られている(非特許文献15)。
【0009】
変形性関節症(OA)は、高齢者の間で最もよく見られる変形関節疾患である。OAは、65歳を超えた個人の大半に影響を及ぼし、運動障害の主要な筋骨格系の原因である。OA患者は、罹患した関節において軟骨基質分解、骨棘の発生、および慢性疼痛を患っている。軟骨基質の分解およびOAの発症に関与する正確な分子メカニズムはほとんど理解されていないことから、現在、OAに対する疾患修飾薬は存在しない(非特許文献19および非特許文献20)。
【0010】
関節軟骨は、組織液、II型コラーゲン、およびプロテオグリカンで主に構成される。軟骨の約65~80%は組織液である。II型コラーゲンおよびプロテオグリカンはそれぞれ、軟骨湿重量の15~22%および4~7%を占める。アグリカンは、関節軟骨における主要なプロテオグリカンである。この分子は、関節軟骨の適切な機能に重要である。アグリカンは、軟骨に耐荷重特性を授ける水和ゲル構造を与える。アグリカンは、軟骨細胞によって発現されるマルチモジュール分子である。そのコアタンパク質は、3つの球状ドメイン(G1、G2、およびG3)と、グリコサミノグリカン鎖結合のためのG2とG3との間の大きな伸長領域(CS)とで構成される。アグリカン分解が変形性関節症(OA)疾患進行時に生じ、ADAMTSおよびMMPなどのプロテアーゼが分解に関与する(非特許文献21)。
【0011】
第二世代の抗体医薬に適用可能な技術として様々な技術が開発されており、エフェクター機能、抗原結合能、薬物動態、または安定性を向上させる、あるいは、免疫原性リスクを低減させる技術等が報告されているが(非特許文献16)、上記のような有害反応を解決するための、抗体医薬を標的組織に特異的に作用させることを可能とする技術に関する報告は未だ少ない。報告されている技術として、癌組織または炎症性組織のような病変部位で発現するプロテアーゼで切断されるリンカーでマスキングペプチドと抗体をつなぐことで、抗体の抗原結合部位をマスキングペプチドでマスクし、抗体の抗原結合活性を阻害し、このリンカーがプロテアーゼで切断されることでマスクペプチドを解離させ、抗体の抗原結合活性を回復させ、標的の病態組織において抗原に結合することを可能にする方法が挙げられる(非特許文献17、非特許文献18、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開WO2010/081173号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Monoclonal antibody successes in the clinic. Janice M Reichert, Clark J Rosensweig, Laura B Faden & Matthew C Dewitz, Nat. Biotechnol. (2005) 23, 1073 - 1078
【非特許文献2】The therapeutic antibodies market to 2008. Pavlou AK, Belsey MJ., Eur. J. Pharm. Biopharm. (2005) 59 (3), 389-396
【非特許文献3】Monoclonal antibodies: versatile platforms for cancer immunotherapy. Weiner LM, Surana R, Wang S., Nat. Rev. Immunol. (2010) 10 (5), 317-327
【非特許文献4】Differential responses of human tumor cell lines to anti-p185HER2 monoclonal antibodies. Lewis GD, Figari I, Fendly B, Wong WL, Carter P, Gorman C, Shepard HM, Cancer Immunol. Immunotherapy (1993) 37, 255-263
【非特許文献5】ING-1, a monoclonal antibody targeting Ep-CAM in patients with advanced adenocarcinomas. de Bono JS, Tolcher AW, Forero A, Vanhove GF, Takimoto C, Bauer RJ, Hammond LA, Patnaik A, White ML, Shen S, Khazaeli MB, Rowinsky EK, LoBuglio AF, Clin. Cancer Res. (2004) 10 (22), 7555-7565
【非特許文献6】Non-fucosylated therapeutic antibodies as next-generation therapeutic antibodies. Satoh M, Iida S, Shitara K., Expert Opin. Biol. Ther. (2006) 6 (11), 1161-1173
【非特許文献7】Optimizing engagement of the immune system by anti-tumor antibodies: an engineer's perspective. Desjarlais JR, Lazar GA, Zhukovsky EA, Chu SY., Drug Discov. Today (2007) 12 (21-22), 898-910
【非特許文献8】Antibody-drug conjugates: targeted drug delivery for cancer. Alley SC, Okeley NM, Senter PD., Curr. Opin. Chem. Biol. (2010) 14 (4), 529-537
【非特許文献9】BiTE: Teaching antibodies to engage T-cells for cancer therapy. Baeuerle PA, Kufer P, Bargou R., Curr. Opin. Mol. Ther. (2009) 11 (1), 22-30
【非特許文献10】T cell-engaging BiTE antibodies specific for EGFR potently eliminate KRAS- and BRAF-mutated colorectal cancer cells. Lutterbuese R, Raum T, Kischel R, Hoffmann P, Mangold S, Rattel B, Friedrich M, Thomas O, Lorenczewski G, Rau D, Schaller E, Herrmann I, Wolf A, Urbig T, Baeuerle PA, Kufer P., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2010) 107 (28), 12605-12610
【非特許文献11】Phase I trial with the CD44v6-targeting immunoconjugate bivatuzumab mertansine in head and neck squamous cell carcinoma. Riechelmann H, Sauter A, Golze W, Hanft G, Schroen C, Hoermann K, Erhardt T, Gronau S., Oral Oncol. (2008) 44 (9), 823-829
【非特許文献12】Ipilimumab in the treatment of melanoma. Trinh VA, Hwu WJ., Expert Opin. Biol. Ther., (2012) Apr 14 (doi:10.1517/14712598.2012.675325)
【非特許文献13】IPILIMUMAB - A NOVEL IMMUNOMODULATING THERAPY CAUSING AUTOIMMUNE HYPOPHYSITIS: A CASE REPORT AND REVIEW. Juszczak A, Gupta A, Karavitaki N, Middleton MR, Grossman A., Eur. J. Endocrinol. (2012) Apr 10 (doi: 10.1530/EJE-12-0167)
【非特許文献14】The Japanese experience with biologic therapies for rheumatoid arthritis. Takeuchi T, Kameda H., Nat. Rev. Rheumatol. (2010) 6 (11), 644-652
【非特許文献15】Current evidence for the management of rheumatoid arthritis with biological disease-modifying antirheumatic drugs: a systematic literature review informing the EULAR recommendations for the management of RA. Nam JL, Winthrop KL, van Vollenhoven RF, Pavelka K, Valesini G, Hensor EM, Worthy G, Landewe R, Smolen JS, Emery P, Buch MH., Ann. Rheum. Dis. (2010) 69 (6), 976-986
【非特許文献16】Antibody engineering for the development of therapeutic antibodies. Kim SJ, Park Y, Hong HJ., Mol. Cells. (2005) 20 (1), 17-29
【非特許文献17】Tumor-specific activation of an EGFR-targeting probody enhances therapeutic index. Desnoyers LR, Vasiljeva O, Richardson JH, Yang A, Menendez EE, Liang TW, Wong C, Bessette PH, Kamath K, Moore SJ, Sagert JG, Hostetter DR, Han F, Gee J, Flandez J, Markham K, Nguyen M, Krimm M, Wong KR, Liu S, Daugherty PS, West JW, Lowman HB. Sci Transl Med. 2013 Oct 16;5(207):207ra144.
【非特許文献18】Probody therapeutics for targeting antibodies to diseased tissue. Polu KR, Lowman HB. Expert Opin Biol Ther. 2014 Aug;14(8):1049-53.
【非特許文献19】Nature Reviews Disease Primers volume 2, Article number: 16072 (2016)
【非特許文献20】Calcif Tissue Int. 2014 December; 95(6): 495-505
【非特許文献21】Cell Research (2002) 12: 19-32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、軟骨組織に存在する抗原に結合する抗原結合ポリペプチドを提供する。本発明は、軟骨組織における医薬品などの物質の送達および保持のための抗原結合ポリペプチドの使用をさらに提供する。
本発明は、軟骨組織に結合する抗原結合ポリペプチドを保有しかつ抗原結合ポリペプチドをポリペプチドから遊離できる、ポリペプチドをさらに提供する。本発明者らは、上記のような、抗体の抗原結合活性を阻害するマスクペプチドをプロテアーゼ切断により解離させ、抗体の抗原結合活性を回復させる技術は、プロテアーゼによる切断が不可逆であるため、病変部位で切断された抗体が血流を通じて正常組織に分布するおそれがあることから、有害反応を引き起こす可能性があると考えていた。さらに、そのような抗体は高分子量を有することから、軟骨組織の深部に存在する抗原を標的とすることは、通常の抗体には難しいという問題が存在していた。
【0015】
本発明は、このような考えに基づき為されたものである。本発明の目的は、軟骨組織に存在する抗原に結合する抗原結合ポリペプチドを提供することにあり、当該抗原結合ポリペプチドの使用を提供することにもある。本発明のさらなる目的は、有害反応が低減している疾患治療に有用な医薬組成物、およびその有効成分を提供することにある。さらに、本発明の目的は、標的軟骨組織における深部に十分に到達することができる医薬組成物、およびその有効成分を提供することにある。本発明の別の目的は、軟骨組織において長期間にわたって保持される医薬組成物を提供することにある。本発明の別の目的は、当該医薬組成物および当該有効成分についてスクリーニングする方法およびそれらを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
軟骨組織に結合する抗体は、抗原として軟骨組織に存在する分子を用いて製造されている。製造した抗体は、アグリカンのタンパク質切断を効果的に抑制し、これらの抗体がアグリカン-プロテアーゼ相互作用を効果的に妨げることを示唆した。本明細書の実施例25に示すように、軟骨組織に存在する分子に対する抗体は、軟骨組織内の深部に浸透することができ、長期間にわたって保持され得ることも明らかになった。この結果は、抗軟骨抗体が、所望の薬物分子および/またはそれらの機能的抗体を軟骨組織に送達するのに、かつ長期間にわたって軟骨にそれらを保持するのに有用であることを示唆する。
【0017】
本発明者らは、鋭意研究を進め、抗原結合ドメインと、抗原結合ドメインの結合活性を抑制する抑制ドメインを有する運搬部分とを含み、かつ、単独で存在する抗原結合ドメインの半減期より長い半減期を有するポリペプチドを創作した。当該ポリペプチドを用いることで、疾患組織において抗原結合ドメインの抗原結合活性が回復され、疾患組織において抗原結合活性を発揮できると考えられる。また、抗原結合ドメインの抗原結合活性が抑えられた抗原結合ドメインを含むポリペプチドと、抗原結合ドメインの抗原結合活性が回復された抗原結合ドメインを含むポリペプチドの半減期の違いにより、活性化状態の抗原結合ドメインの全身への分布を抑制することが出来る。また、本発明者らは、当該ポリペプチドまたは当該ポリペプチドを含む医薬組成物が、疾患治療に有用であることを見出すとともに、当該ポリペプチドを投与することを含む疾患治療に、当該ポリペプチドまたは当該ポリペプチドを含む医薬組成物が有用であること、および疾患治療のための医薬の製造において当該ポリペプチドが有用であることを見出した。また、本発明者らは、当該ポリペプチドをスクリーニングする方法および製造する方法、特定のVL、VH、またはVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得る、軟骨組織に対する抗原結合ドメインを、製造する方法およびスクリーニングする方法、ならびに特定のVL、VH、またはVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得る、軟骨組織に対する抗原結合ドメインを含む、ライブラリをさらに創作して本発明を完成させた。
【0018】
本発明はこのような知見に基づくものであり、具体的には以下に記載する例示的な実施態様を包含するものである。
(A1)この項目は以下の実施態様を選択的に包含する:
(A1-1)抗原結合ドメインと運搬部分とを含むポリペプチドであって、当該運搬部分は当該抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制する抑制ドメインを有し、当該抗原は軟骨組織に存在する分子である、ポリペプチド。
(A1-2)抗原結合ドメインと運搬部分とを含むポリペプチドであって、当該抗原結合ドメインは、当該抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制する抑制ドメインを有する運搬部分のものより短い血中半減期を有し、かつ当該抗原は軟骨組織に存在する分子である、ポリペプチド。
【0019】
上記項目(A1)(上記の(A-1)および(A-2)の実施態様を包含する)は、以下の実施態様を包含する:
(1-1)軟骨組織中の前記分子の半減期は、1ヶ月以上、2ヶ月以上、6ヶ月以上、1年以上、または5年以上である、(A1-2)に記載のポリペプチド。
(1-2)軟骨組織中の前記分子の相対量(%湿重量)は、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、10%以上、15%以上、または20%以上である、(A1)に記載のポリペプチド。
(1-3)軟骨組織に存在する前記分子は、以下:
1. コラーゲン、
2. プロテオグリカン、
3. 糖タンパク質、
4. 糖鎖、および
5. 他のタンパク質
からなる群より選択される、軟骨組織中の細胞外マトリックスである、(A1)に記載のポリペプチド。
(1-4)前記コラーゲンは、II型コラーゲン(線維性コラーゲン)、III型コラーゲン(線維性コラーゲン)、IV型コラーゲン、V型コラーゲン(線維性コラーゲン)、VI型コラーゲン、IX型コラーゲン、X型コラーゲン、XI型コラーゲン(線維性コラーゲン)、XII型コラーゲン、XIV型コラーゲン、XVI型コラーゲン、XXII型コラーゲン、XXIV型コラーゲン(線維性コラーゲン)、およびXXVII型コラーゲン(線維性コラーゲン)からなる群より選択される、(1-3)に記載のポリペプチド。
(1-5)前記プロテオグリカンは、アグリカン、バーシカン、パールカン、シンデカン、ラブリシン、リンクタンパク質、およびスモールロイシンリッチリピートプロテオグリカン(Small leucine-rich repeat proteoglycan)からなる群より選択される、(1-3)に記載のポリペプチド。
(1-6)前記スモールロイシンリッチリピートプロテオグリカンは、デコリン、バイグリカン、アスポリン、フィブロモジュリン、ルミカン、ケラトカン(Keratocan)、オステオアドヘリン(Osteoadherin)、プロリン/アルギニンリッチ末端ロイシンリッチ反復タンパク質(Proline-/arginine-rich end leucine-rich repeat protein)、エピフィカン(Epiphycan)、ミメカン(Mimecan)、オプチシン(Opticin)、コンドロアドヘリン(Chondroadherin)、およびコンドロアドヘリン様(Chondroadherin-like)からなる群より選択される、(1-5)に記載のポリペプチド。
(1-7)前記糖鎖は、ヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン硫酸(CS)、ケラタン硫酸(KS)、およびデルマタン硫酸(DS)からなる群より選択される、(1-3)に記載のポリペプチド。
(1-8)軟骨組織に存在する前記分子は、トロンボスポンジン、マトリリン、WARP、UCMA、CILP、フィブロネクチン、ラミン、およびニドゲン(Nidgen)からなる群より選択される、軟骨組織中の細胞外マトリックスである、(A1)に記載のポリペプチド。
【0020】
(1-9)前記分子は、ADAMTS4、ADAMTS5、またはMMP-13である、(A1)に記載のポリペプチド。
(1-10)前記抗原結合ドメインは、ADAMTS4、ADAMTS5、またはMMP-13のアグリカンに対する切断活性を抑制する、(1-9)に記載のポリペプチド。
【0021】
(2)この項目は以下の実施態様を選択的に包含する:
(2-1)前記分子は、軟骨組織中の細胞外マトリックスの構成成分である、(A1)に記載のポリペプチド。
(2-2)前記細胞外マトリックスは、アグリカンまたはコラーゲンである、(2-1)に記載のポリペプチド。
【0022】
(3-1)前記抗原結合ドメインは、アグリカン内のエピトープに結合し、前記抗原結合ドメインは、当該エピトープへの結合について、下記の1)~3)からなる群より選択される抗体と競合する、(2)(上記(2-1)および(2-2)の実施態様を包含する)に記載のポリペプチド:
1)配列番号:512のVH配列および配列番号:513のVL配列を含む抗体、
2)配列番号:514のVH配列および配列番号:515のVL配列を含む抗体、および
3)配列番号:516のVH配列および配列番号:517のVL配列を含む抗体。
(3-2)前記抗原結合ドメインは、下記の1)~6)からなる群より選択されるエピトープに結合する、(2)(上記(2-1)および(2-2)の実施態様を包含する)に記載のポリペプチド:
1)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の382番~403番のアミノ酸、
2)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1669番~1690番のアミノ酸、
3)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1838番~1859番のアミノ酸、
4)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1943番~1964番のアミノ酸、
5)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2043番~2064番のアミノ酸、および
6)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2221番~2242番のアミノ酸。
(3-3)前記抗原結合ドメインは、下記の1)からなる群より選択されるエピトープに結合する、(2)(上記(2-1)および(2-2)の実施態様を包含する)に記載のポリペプチド:
1)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の350番~371番、393番~414番、450番~471番、666番~687番、689番~710番、943番~964番、981番~1002番、1000番~1021番、1019番~1040番、1038番~1059番、1057番~1078番、1076番~1097番、1095番~1116番、1114番~1135番、1133番~1154番、1152番~1173番、1171番~1192番、1190番~1211番、1209番~1230番、1228番~1249番、1247番~1268番、1266番~1287番、1285番~1306番、1304番~1325番、1323番~1344番、1342番~1363番、1361番~1382番、1380番~1401番、1399番~1420番、1437番~1458番、1476番~1497番、1514番~1535番、または1575番~1596番のアミノ酸。
【0023】
(4-1)前記抗原結合ドメインは、アグリカン内のエピトープに結合し、前記抗原結合ドメインは、エピトープへの結合について、下記の1)からなる群より選択される抗体と競合する、(1)に記載のポリペプチド:
1)MAB1220(R&D SYSTEMS、モノクローナルマウスIgG2Bクローン#179509)。
(4-2)前記抗原結合ドメインは、下記の1)からなる群より選択されるポリペプチド内のエピトープに結合する、(1)に記載のポリペプチド:
1)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の48番~673番(G1-IGD-G2ドメイン)のアミノ酸。
【0024】
(5-1)前記抗原結合ドメインは、(a)配列番号:512または514のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列、および/または(b)配列番号:513または515のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む、(1)(項目(1)は(1-1)から(4-2)の実施態様のいずれか1つを包含する)に記載のポリペプチド。
(5-2)前記抗原結合ドメインは、(a)配列番号:516のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列、および/または(b)配列番号:517のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む、(1)(項目(1)は(1-1)から(4-2)の実施態様のいずれか1つを包含する)に記載のポリペプチド。
(5-3)前記抗原結合ドメインは、下記の1)~3)から選択される、H鎖CDR1、CDR2、およびCDR3とL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3との組み合わせのいずれか1つを含む、またはそれと機能的に等価な抗体可変領域のH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3とL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3との組み合わせのいずれか1つを含む、(1)(項目(1)は(1-1)から(4-2)の実施態様のいずれか1つを包含する)に記載のポリペプチド:
1)前記抗体可変領域に含まれるH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3は、配列番号:512に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり;かつ前記抗体可変領域に含まれるL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3は、配列番号:513に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一である;
2)前記抗体可変領域に含まれるH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3は、配列番号:514に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり;かつ前記抗体可変領域に含まれるL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3は、配列番号:515に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一である;および
3)前記抗体可変領域に含まれるH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3は、配列番号:516に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり;かつ前記抗体可変領域に含まれるL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3は、配列番号:517に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一である。
(5-4)前記抗原結合ドメインは、下記の1)~3)から選択される抗体可変領域またはそれと機能的に等価な抗体可変領域の、H鎖CDR1、CDR2、およびCDR3とL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3との組み合わせのいずれか1つを含む、(1)(項目(1)は(1-1)から(4-2)の実施態様のいずれか1つを包含する)に記載のポリペプチド:
1)配列番号:512のアミノ酸配列を含む抗体H鎖可変領域;および配列番号:513のアミノ酸配列を含む抗体L鎖可変領域;
2)配列番号:514のアミノ酸配列を含む抗体H鎖可変領域;および配列番号:515のアミノ酸配列を含む抗体L鎖可変領域;および
3)配列番号:516のアミノ酸配列を含む抗体H鎖可変領域;および配列番号:517のアミノ酸配列を含む抗体L鎖可変領域。
【0025】
(A2)前記抗原結合ドメインの分子量は、前記運搬部分のものより小さい、(A1)に記載のポリペプチド。
(A3)この項目は以下の実施態様を選択的に包含する:
(A3-1)前記抗原結合ドメインの前記分子量は、120 kDa以下、100 kDa以下、80 kDa以下、60 kDa以下、40 kDa以下、または20 kDa以下である、(A1)または(A2)に記載のポリペプチド。
(A3-2)前記抗原結合ドメインは、抗体を含む、(A1)または(A2)に記載のポリペプチド。
(A3-3)前記抗体は、F(ab')2、Fab、scFv、VHH、VL、VH、または単ドメイン抗体である、(A3-2)に記載のポリペプチド。
(A4)前記運搬部分はFcRn結合活性を有し、前記抗原結合ドメインはFcRn結合活性を有さないまたは前記運搬部分のFcRn結合活性よりも弱いFcRn結合活性を有する、(A1)から(A3)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A5)前記抗原結合ドメインは前記ポリペプチドから遊離可能であり、前記抗原結合ドメインは前記ポリペプチドから遊離することで、抗原結合活性が遊離前よりも高くなる、(A1)から(A4)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A6)前記抗原結合ドメインと前記運搬部分の前記抑制ドメインが会合することで前記抗原結合ドメインの抗原結合活性が抑制される、(A1)から(A5)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A7)この項目は以下の実施態様を選択的に包含する:
(A7-1)前記ポリペプチドは切断サイトを含み、当該切断サイトが切断されることにより前記抗原結合ドメインが前記ポリペプチドから遊離可能になる、(A5)に記載のポリペプチド。
(A7-2)前記ポリペプチドは切断サイトを含み、当該切断サイトが切断されることにより前記抗原結合ドメインと前記運搬部分の前記抑制ドメインとの会合が解消される、(A6)に記載のポリペプチド。
(A8)この項目は以下の実施態様を選択的に包含する:
(A8-1)前記ポリペプチドにおいて、前記運搬部分のN末端と前記抗原結合ドメインのC末端は、リンカーを介してまたはリンカーを介さずに融合されているか、または前記ポリペプチドにおいて、前記運搬部分のC末端と前記抗原結合ドメインのN末端は、リンカーを介してまたはリンカーを介さずに融合されている、(A7)に記載のポリペプチド。
(A8-2)前記ポリペプチドは、プロテアーゼ切断配列を更に有し、当該切断配列は、前記運搬部分のN末端と前記抗原結合ドメインのC末端との間、前記運搬部分のC末端と前記抗原結合ドメインのN末端との間、前記抗原結合ドメインの配列内、または前記運搬部分の配列内に位置する、(A7)に記載のポリペプチド。
(A9)前記切断サイトはプロテアーゼ切断配列を含む、(A7)に記載のポリペプチド。
(A10)前記プロテアーゼは、標的組織に対して特異的なプロテアーゼである、(A9)に記載のポリペプチド。
(A11)前記標的組織は炎症組織である、(A10)に記載のポリペプチド。
(A12)前記プロテアーゼは、マトリプターゼ、ウロキナーゼ(uPA)、およびメタロプロテイナーゼから選択される少なくとも一つのプロテアーゼである、(A9)に記載のポリペプチド。
(A13)前記プロテアーゼは、MT-SP1、uPA、MMP1、MMP2、MMP3、MMP7、MMP9、MMP13、MMP14、ADAM17、ADAMTS4、およびADAMTS5から選択される少なくとも一つのプロテアーゼである、(A12)に記載のポリペプチド。
(A14)前記プロテアーゼ切断配列は、配列番号:494から選ばれる配列を含む、(A9)に記載のポリペプチド。
(A15)前記プロテアーゼ切断配列の一端に、第一可動リンカーが更に付加されている、(A9)から(A14)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A16)前記プロテアーゼ切断配列の他端に、第二可動リンカーが更に付加されている、(A15)に記載のポリペプチド。
(A17)前記第一可動リンカーは、グリシン-セリンポリマーからなる可動リンカーである、(A15)に記載のポリペプチド。
(A18)前記第二可動リンカーは、グリシン-セリンポリマーからなる可動リンカーである、(A16)に記載のポリペプチド。
(A19)前記抗原結合ドメインは、単ドメイン抗体を含むかまたは単ドメイン抗体であり、前記運搬部分の前記抑制ドメインは当該単ドメイン抗体の抗原結合活性を抑制する、(A1)から(A18)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A20)前記単ドメイン抗体は、VHH、またはそれ単独で抗原結合活性を有するVH、またはそれ単独で抗原結合活性を有するVLである、(A19)に記載のポリペプチド。
(A21)前記抗原結合ドメインは単ドメイン抗体を含み、前記運搬部分の前記抑制ドメインはVHH、または抗体VH、または抗体VLであり、前記単ドメイン抗体は当該VHH、または抗体VH、または抗体VLにより抗原結合活性が抑制される、(A1)から(A20)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A22)前記抗原結合ドメインは単ドメイン抗体を含み、前記運搬部分の前記抑制ドメインはVHH、または抗体VH、または抗体VLであり、前記単ドメイン抗体は当該VHH、または抗体VH、または抗体VLと会合することにより抗原結合活性が抑制される、(A1)から(A21)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A23)前記単ドメイン抗体はVHH、またはそれ単独で抗原結合活性を有するVHであり、前記運搬部分の前記抑制ドメインは抗体VLであり、前記VHH、またはそれ単独で抗原結合活性を有するVHは、前記抗体VLと会合することで抗原結合活性が抑制される、(A19)から(A22)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A24)前記単ドメイン抗体はVHHであり、当該VHHは37番、44番、45番、および47番(すべてKabatナンバリングに従う)のアミノ酸から選ばれる少なくとも一つのポジションにおいてアミノ酸置換されている、(A19)から(A23)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A25)前記単ドメイン抗体はVHHであり、当該VHHは37V、44G、45L、および47W(すべてKabatナンバリングに従う)のアミノ酸から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を含む、(A19)から(A23)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A26)前記単ドメイン抗体はVHHであり、当該VHHはF37V、Y37V、E44G、Q44G、R45L、H45L、G47W、F47W、L47W、T47W、およびS47W(すべてKabatナンバリングに従う)のアミノ酸置換から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸置換を含む、(A19)から(A23)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A27)前記単ドメイン抗体はVHHであり、当該VHHは37番/44番、37番/45番、37番/47番、44番/45番、44番/47番、45番/47番、37番/44番/45番、37番/44番/47番、37番/45番/47番、44番/45番/47番、および37番/44番/45番/47番(すべてKabatナンバリングに従う)から選ばれる少なくとも一組のポジションにおいてアミノ酸置換されている、(A19)から(A23)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A28)前記単ドメイン抗体はVHHであり、当該VHHは37V/44G、37V/45L、37V/47W、44G/45L、44G/47W、45L/47W、37V/44G/45L、37V/44G/47W、37V/45L/47W、44G/45L/47W、および37V/44G/45L/47W(すべてKabatナンバリングに従う)から選ばれる少なくとも一組のアミノ酸を含む、(A19)から(A23)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A29)前記単ドメイン抗体はVHHであり、当該VHHはF37V/R45L、F37V/G47W、R45L/G47W、およびF37V/R45L/G47W(すべてKabatナンバリングに従う)から選ばれる少なくとも一組のアミノ酸置換を含む、(A19)から(A23)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A30)前記単ドメイン抗体はそれ単独で抗原結合活性を有するVLであり、前記運搬部分の前記抑制ドメインは抗体VHであり、前記それ単独で抗原結合活性を有するVLは、前記抗体VHと会合することで抗原結合活性が抑制される、(A19)から(A22)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A31)前記運搬部分はFcRn結合領域を有する、(A1)から(A30)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A32)前記運搬部分は抗体定常領域を含む、(A1)から(A31)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A33)前記運搬部分の抗体定常領域と前記抗原結合ドメインは、リンカーを介して、またはリンカーを介さずに融合されている、(A32)に記載のポリペプチド。
(A34)前記運搬部分は抗体重鎖定常領域を含み、当該抗体重鎖定常領域と前記抗原結合ドメインは、リンカーを介して、またはリンカーを介さずに融合されている、(A32)に記載のポリペプチド。
(A35)前記運搬部分は抗体軽鎖定常領域を含み、当該抗体軽鎖定常領域と前記抗原結合ドメインは、リンカーを介して、またはリンカーを介さずに融合されている、(A32)に記載のポリペプチド。
(A36)前記ポリペプチドにおいて、前記運搬部分の抗体重鎖定常領域のN末端と前記抗原結合ドメインのC末端がリンカーを介してまたはリンカーを介さずに融合されており、前記ポリペプチドはプロテアーゼ切断配列を更に有し、当該プロテアーゼ切断配列は、前記抗原結合ドメインの配列中、または前記抗体重鎖定常領域の122番(EUナンバリング)のアミノ酸より前記抗原結合ドメイン側に位置する、(A34)に記載のポリペプチド。
(A37)前記ポリペプチドにおいて、前記運搬部分の抗体軽鎖定常領域のN末端と前記抗原結合ドメインのC末端がリンカーを介してまたはリンカーを介さずに融合されており、前記ポリペプチドはプロテアーゼ切断配列を更に有し、当該プロテアーゼ切断配列は、前記抗原結合ドメインの配列中、または前記抗体軽鎖定常領域の113番(EUナンバリング)(Kabatナンバリング113番)のアミノ酸より前記抗原結合ドメイン側に位置する、(A35)に記載のポリペプチド。
(A38)前記ポリペプチドにおいて、前記運搬部分の抗体定常領域のN末端と前記抗原結合ドメインのC末端がリンカーを介してまたはリンカーを介さずに融合されており、前記抗原結合ドメインはVHから調製された単ドメイン抗体またはVHHであり、前記ポリペプチドはプロテアーゼ切断配列を更に有し、当該プロテアーゼ切断配列は、前記抗体定常領域の配列中、または前記抗原結合ドメインの単ドメイン抗体の109番(Kabatナンバリング)のアミノ酸より前記抗体定常領域側に位置する、(A33)から(A35)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A39)前記ポリペプチドにおいて、前記運搬部分の抗体定常領域のN末端と前記抗原結合ドメインのC末端がリンカーを介してまたはリンカーを介さずに融合されており、前記ポリペプチドはプロテアーゼ切断配列を更に有し、当該プロテアーゼ切断配列は、前記抗原結合ドメインと前記抗体定常領域の境界付近に位置する、(A33)に記載のポリペプチド。
(A40)前記ポリペプチドにおいて、前記運搬部分の抗体重鎖定常領域のN末端と前記抗原結合ドメインのC末端がリンカーを介してまたはリンカーを介さずに融合されており、前記ポリペプチドはプロテアーゼ切断配列を更に有し、当該プロテアーゼ切断配列は、前記抗原結合ドメインと前記抗体重鎖定常領域の境界付近に位置する、(A34)に記載のポリペプチド。
(A41)前記ポリペプチドにおいて、前記運搬部分の抗体軽鎖定常領域のN末端と前記抗原結合ドメインのC末端がリンカーを介してまたはリンカーを介さずに融合されており、前記ポリペプチドはプロテアーゼ切断配列を更に有し、当該プロテアーゼ切断配列は、前記抗原結合ドメインと前記抗体軽鎖定常領域の境界付近に位置する、(A35)に記載のポリペプチド。
(A42)前記抗原結合ドメインはVHから調製された単ドメイン抗体またはVHHであり、前記プロテアーゼ切断配列は、前記抗原結合ドメインの単ドメイン抗体の109番(Kabatナンバリング)のアミノ酸と前記抗体重鎖定常領域の122番(EUナンバリング)のアミノ酸の間の任意のポジションに位置する、(A40)に記載のポリペプチド。
(A43)前記抗原結合ドメインはVHから調製された単ドメイン抗体またはVHHであり、前記プロテアーゼ切断配列は、前記抗原結合ドメインの単ドメイン抗体の109番(Kabatナンバリング)のアミノ酸と前記抗体軽鎖定常領域の113番(EUナンバリング)(Kabatナンバリング113番)のアミノ酸の間の任意のポジションに位置する、(A41)に記載のポリペプチド。
(A44)前記抗原結合ドメインはVLから調製された単ドメイン抗体であり、前記プロテアーゼ切断配列は、前記抗原結合ドメインの単ドメイン抗体の104番(Kabatナンバリング)のアミノ酸と前記抗体重鎖定常領域の122番(EUナンバリング)のアミノ酸の間の任意のポジションに位置する、(A40)に記載のポリペプチド。
(A45)前記抗原結合ドメインはVLから調製された単ドメイン抗体であり、前記プロテアーゼ切断配列は、前記抗原結合ドメインの単ドメイン抗体の109番(Kabatナンバリング)のアミノ酸と前記抗体軽鎖定常領域の113番(EUナンバリング)(Kabatナンバリング113番)のアミノ酸の間の任意のポジションに位置する、(A41)に記載のポリペプチド。
(A46)前記ポリペプチドの抗体定常領域はIgG抗体定常領域である、(A32)から(A45)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A47)前記ポリペプチドはIgG抗体様分子である、(A1)から(A46)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A48)前記抗原結合ドメインが未遊離の状態において、BLI(Bio-Layer Interferometry)法(Octet)を用いて測定を行うとき、抗原結合ドメインと抗原の結合が見られない、(A1)から(A47)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A49)前記抗原結合ドメインに第2の抗原結合ドメインが更に連結されている、(A1)から(A48)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A50)前記第2の抗原結合ドメインは、前記抗原結合ドメインの抗原結合特異性とは異なる抗原結合特異性を有する、(A49)に記載のポリペプチド。
(A51)前記第2の抗原結合ドメインは第2の単ドメイン抗体を含む、(A49)または(A50)に記載のポリペプチド。
(A52)前記抗原結合ドメインは単ドメイン抗体であり、前記第2の抗原結合ドメインは第2の単ドメイン抗体であり、前記抗原結合ドメインおよび前記第2の抗原結合ドメインは前記ポリペプチドから遊離可能であり、前記抗原結合ドメインおよび前記第2の抗原結合ドメインの遊離状態において、前記単ドメイン抗体と前記第2の単ドメイン抗体とが二重特異性抗原結合分子を形成している、(A51)に記載のポリペプチド。
(A53)前記第2の抗原結合ドメインは、標的抗原としてHER2、GPC3、ADAMTS4、ADAMTS5、IL1R1、BMP7、TGFb1、NGFまたはFGF18に向けられている、(A49)から(A52)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A54)前記第2の抗原結合ドメインの抗原結合活性は、前記ポリペプチドの前記運搬部分と連結することによってもまた抑制されるか、または前記ポリペプチドの前記運搬部分なしでもまた抑制される、(A49)から(A53)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A55)前記ポリペプチドは、前記抗原結合ドメインとは異なる別の抗原結合ドメインを更に有し、当該別の抗原結合ドメインも前記ポリペプチドの前記運搬部分と連結することにより抗原結合活性が抑制される、(A1)から(A54)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(A56)前記別の抗原結合ドメインと、前記抗原結合ドメインとは、抗原結合特異性が異なる、(A55)に記載のポリペプチド。
【0026】
(A57)(A1)から(A56)のいずれか1つに記載のポリペプチドを含む、医薬組成物。
【0027】
本発明は、以下に記載する例示的な実施態様を更に包含するものである。
(B1)(A1)から(A56)のいずれか1つのポリペプチドの有効量を対象に投与する工程を含む、アグリカン介在性の疾患または障害を有する対象を治療する方法。
(B2)(A1)から(A56)のいずれか1つのポリペプチドの有効量を対象に投与する工程を含む、変形性関節症(OA)を有する対象を治療する方法。
(B3)(A1)から(A56)のいずれか1つのポリペプチドの有効量を対象に投与する工程を含む、変形性関節症(OA)において対象の軟骨分解を予防する方法。
(B4)(A1)から(A56)のいずれか1つのポリペプチドの有効量を含む、アグリカン介在性の疾患または障害を有する対象を治療するための医薬組成物。
(B5)(A1)から(A56)のいずれか1つのポリペプチドの有効量を含む、変形性関節症(OA)を有する対象を治療するための医薬組成物。
(B6)(A1)から(A56)のいずれか1つのポリペプチドの有効量を含む、変形性関節症(OA)において対象の軟骨分解を予防するための医薬組成物。
(B7)アグリカン介在性の疾患または障害を有する対象を治療するための医用薬剤の製造における、(A1)から(A56)のいずれか1つのポリペプチドの使用。
(B8)変形性関節症(OA)を有する対象を治療するための医用薬剤の製造における、(A1)から(A56)のいずれか1つのポリペプチドの使用。
(B9)変形性関節症(OA)において対象の軟骨分解を予防するための医用薬剤の製造における、(A1)から(A56)のいずれか1つのポリペプチドの使用。
(B10)アグリカン介在性の疾患または障害を有する対象を治療するのに使用するための、(A1)から(A56)のいずれか1つのポリペプチド。
(B11)変形性関節症(OA)を有する対象を治療するのに使用するための、(A1)から(A56)のいずれか1つのポリペプチド。
(B12)変形性関節症(OA)において対象の軟骨分解を予防するのに使用するための、(A1)から(A56)のいずれか1つのポリペプチド。
【0028】
本発明は、以下に記載する例示的な実施態様を更に包含するものである。
(C1)(A1)から(A56)のいずれか1つに記載のポリペプチドを製造する方法。
(C2)以下の工程:
(a) 軟骨組織に存在する1つまたは複数の抗原に対して結合する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b) (a)工程で取得した抗原結合ドメインの抗原結合活性が運搬部分の抑制ドメインによって抑制されるように、当該抗原結合ドメインと当該運搬部分を連結させてポリペプチド前駆体を形成させる工程;
(c) 前記ポリペプチド前駆体にプロテアーゼ切断配列を導入する工程;
を含む、(C1)に記載の製造方法。
(C3)以下の工程:
(a) 軟骨組織に存在する1つまたは複数の抗原に対して結合する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b) (a)工程で取得した抗原結合ドメインの抗原結合活性が運搬部分の抑制ドメインによって抑制されるように、当該抗原結合ドメインと当該運搬部分を連結させてポリペプチド前駆体を形成させる工程;
(c) 前記抗原結合ドメインと前記運搬部分との境界付近にプロテアーゼ切断配列を導入する工程;
を含む、(C1)に記載の製造方法。
(C4)以下の工程:
(a) 軟骨組織に存在する1つまたは複数の抗原に対して結合する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b) (a)工程で取得した抗原結合ドメインの抗原結合活性が運搬部分の抑制ドメインによって抑制されるように、当該抗原結合ドメインを、プロテアーゼ切断配列を介して当該運搬部分と連結させてポリペプチドを形成させる工程;
を含む、(C1)に記載の製造方法。
(C5)以下の工程:
(d) 前記ポリペプチドまたは前記ポリペプチド前駆体中に組み込まれた前記抗原結合ドメインの前記標的抗原に対する結合活性が、弱められていることまたは失われていることを確認する工程;
を更に含む、(C2)から(C4)のいずれか1つに記載の製造方法。
(C6)以下の工程:
(e) 前記プロテアーゼ切断配列をプロテアーゼで切断することによって前記抗原結合ドメインを遊離させ、遊離した抗原結合ドメインが前記抗原に結合することを確認する工程;
を更に含む、(C2)から(C5)のいずれか1つに記載の製造方法。
(C7)前記ポリペプチドはIgG抗体様分子である、(C1)に記載の製造方法。
(C8)以下の工程:
(a) 軟骨組織に存在する1つまたは複数の抗原に対して結合する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b) (a)工程で取得した抗原結合ドメインの抗原結合活性が抑制されるように、当該抗原結合ドメインをIgG抗体もしくは改変IgG抗体のVHの代わりとしてVLもしくはVHと会合させ、または当該抗原結合ドメインをIgG抗体もしくは改変IgG抗体のVLの代わりとしてVHもしくはVLと会合させることによって、前記抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子前駆体を形成させる工程;
(c) 前記抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子前駆体にプロテアーゼ切断配列を導入する工程;
を含む、(C7)に記載の製造方法。
(C9)以下の工程:
(a) 軟骨組織に存在する1つまたは複数の抗原に結合する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b) (a)工程で取得した抗原結合ドメインの抗原結合活性が抑制されるように、当該抗原結合ドメインをIgG抗体もしくは改変IgG抗体のVHの代わりとしてVLもしくはVHと会合させ、または当該抗原結合ドメインをIgG抗体もしくは改変IgG抗体のVLの代わりとしてVHもしくはVLと会合させることによって、前記抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子前駆体を形成させる工程;
(c) 前記抗原結合ドメインと前記IgG抗体様分子前駆体中の抗体定常領域との境界付近にプロテアーゼ切断配列を導入する工程;
を含む、(C7)に記載の製造方法。
(C10)以下の工程:
(a) 軟骨組織に存在する1つまたは複数の抗原に結合する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b) (a)工程で取得した抗原結合ドメインの抗原結合活性が抑制されるように、当該抗原結合ドメインをIgG抗体VHまたはVLの代わりとして、プロテアーゼ切断配列を介してIgG抗体の重鎖定常領域または軽鎖定常領域と連結させ、前記抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子を形成させる工程;
を含む、(C7)に記載の製造方法。
(C11)以下の工程:
(d) 前記IgG抗体様分子または前記IgG抗体様分子前駆体に導入された前記抗原結合ドメインの前記標的抗原に対する結合活性が、弱められていることまたは失われていることを確認する工程;
を更に含む、(C8)から(C10)のいずれか1つに記載の製造方法。
(C12)以下の工程:
(e) 前記プロテアーゼ切断配列をプロテアーゼを用いて切断することによって前記抗原結合ドメインを遊離させ、遊離した抗原結合ドメインが前記標的抗原に結合することを確認する工程;
を更に含む、(C8)から(C11)のいずれか1つに記載の製造方法。
(C13)以下の工程:
(a) 抗原結合ドメイン中の、抗体VHとの当該抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、または抗原結合ドメイン中の、抗体VLとの当該抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、当該抗原結合ドメインの標的抗原に対する結合活性を保持する改変抗原結合ドメインを調製する工程;
(b) (a)工程で調製した改変抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制するように、当該改変抗原結合ドメインを抗体VHと会合させ、または当該改変抗原結合ドメインを抗体VLと会合させることによって、当該改変抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子前駆体を形成させる工程;
(c) 前記改変抗原結合ドメインが導入されている前記IgG抗体様分子前駆体にプロテアーゼ切断配列を導入する工程;
を含み、当該抗原結合ドメインは、軟骨組織に存在する1つまたは複数の抗原に結合する、(C7)に記載の製造方法。
(C14)以下の工程:
(a) 抗原結合ドメイン中の、抗体VHとの当該抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、または抗原結合ドメイン中の、抗体VLとの当該抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、当該抗原結合ドメインの標的抗原に対する結合活性を保持する改変抗原結合ドメインを調製する工程;
(b) (a)工程で調製した改変抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制するように、当該改変抗原結合ドメインを抗体VHと会合させ、または当該改変抗原結合ドメインを抗体VLと会合させることによって、当該改変抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子前駆体を形成させる工程;
(c) 前記改変抗原結合ドメインと前記IgG抗体様分子前駆体の定常領域との境界付近にプロテアーゼ切断配列を導入する工程;
を含み、当該抗原結合ドメインは、軟骨組織に存在する1つまたは複数の抗原に結合する、(C7)に記載の製造方法。
(C15)以下の工程:
(a) 抗原結合ドメイン中の、抗体VHとの当該抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、または抗原結合ドメイン中の、抗体VLとの当該抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、当該抗原結合ドメインの標的抗原に対する結合活性を保持する改変抗原結合ドメインを調製する工程;
(b) (a)工程で調製した改変抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制するように、当該改変抗原結合ドメインをプロテアーゼ切断配列を介してIgG抗体の重鎖定常領域と連結させ、または当該改変抗原結合ドメインをプロテアーゼ切断配列を介してIgG抗体の軽鎖定常領域と連結させ、当該改変抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子を形成させる工程;
を含み、当該抗原結合ドメインは、軟骨組織に存在する1つまたは複数の抗原に結合する、(C7)に記載の製造方法。
(C16)以下の工程:
(d) 前記IgG抗体様分子に導入されている前記改変抗原結合ドメインまたは前記IgG抗体様分子前駆体に導入されている前記改変抗原結合ドメインの、前記標的抗原に対する結合活性が、弱められていることまたは失われていることを確認する工程;
を更に含む、(C13)から(C15)のいずれか1つに記載の製造方法。
(C17)以下の工程:
(e) 前記プロテアーゼ切断配列をプロテアーゼで切断することによって前記改変抗原結合ドメインを遊離させ、遊離した改変抗原結合ドメインが前記標的抗原に結合することを確認する工程;
を更に含む、(C13)から(C16)のいずれか1つに記載の製造方法。
(C18)前記抗原結合ドメインは、軟骨組織に存在する1つまたは複数の抗原内のエピトープに結合する、(C2)から(C17)のいずれか1つに記載の製造方法。
(C19)軟骨組織中の前記1つまたは複数の抗原の半減期は、1ヶ月以上である、(C1)から(C18)のいずれか1つに記載の製造方法。
(C20)軟骨組織中の前記1つまたは複数の抗原の相対量(%湿重量)は、8%以上である、(C1)から(C19)のいずれか1つに記載の製造方法。
(C21)前記1つまたは複数の抗原は、軟骨組織の細胞外マトリックスの構成成分である、(C1)から(C20)のいずれか1つに記載の製造方法。
(C22)前記1つまたは複数の抗原は、アグリカンおよび/またはコラーゲンからなる群より選択される、(C1)から(C21)のいずれか1つに記載の製造方法。
(C23)前記抗原結合ドメインは、エピトープへの結合について、以下からなる群より選択される抗体と競合する、(C2)から(C22)のいずれか1つに記載の製造方法:
1)MAB1220(R&D SYSTEMS、モノクローナルマウスIgG2Bクローン#179509);
2)配列番号:512のVH配列および配列番号:513のVL配列を含む抗体;
3)配列番号:514のVH配列および配列番号:515のVL配列を含む抗体;および
4)配列番号:516のVH配列および配列番号:517のVL配列を含む抗体。
(C24)前記抗原結合ドメインは、下記の1)~6)からなる群より選択されるエピトープに結合する、(C1)から(C23)のいずれか1つに記載の製造方法:
1)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の382番~403番のアミノ酸、
2)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1669番~1690番のアミノ酸、
3)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1838番~1859番のアミノ酸、
4)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1943番~1964番のアミノ酸、
5)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2043番~2064番のアミノ酸、および
6)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2221番~2242番のアミノ酸。
(C25)前記抗原結合ドメインは、単ドメイン抗体またはアンタゴニストを含むか、または単ドメイン抗体またはアンタゴニストである、(C2)から(C24)のいずれか1つに記載の製造方法。
(C26)前記単ドメイン抗体は、それ単独で抗原結合活性を有するVLである、(C25)に記載の製造方法。
(C27)(A1)から(A56)のいずれか1つに記載のポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
(C28)(C27)に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
(C29)(C27)に記載のポリヌクレオチドまたは(C28)に記載のベクターを含む、宿主細胞。
(C30)(C29)に記載の宿主細胞を培養する工程を含む、(A1)から(A56)のいずれか1つに記載のポリペプチドを製造する方法。
(C31)(C1)から(C26)および(C30)のいずれか1つに記載の方法によって製造されるポリペプチド。
【0029】
本発明は、以下に記載する例示的な実施態様を更に包含するものである。
(D1)特定のVLと会合することで、もしくは特定のVHと会合することで、もしくは特定のVHHと会合することで、その抗原結合活性が抑制され得る抗原結合ドメインをスクリーニングする方法であって、当該抗原は、軟骨組織に存在する1つまたは複数の分子である、方法。
(D2)特定のVLと会合することで、その抗原結合活性が抑制され得る抗原結合ドメインをスクリーニングする方法である、(D1)に記載のスクリーニング方法。
(D3)以下の工程:
(a)標的抗原結合活性を有する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b)(a)工程で取得した抗原結合ドメインを特定のVLと会合させる工程;および
(c)(b)工程で特定のVLと会合させた前記抗原結合ドメインの、抗原に対する前記結合活性が、会合前のものと比較して、弱められていることまたは失われていることを確認する工程
を含む、(D2)に記載のスクリーニング方法。
(D4)以下の工程:
(a)抗原結合ドメインを特定のVLと会合させる工程;
(b)(a)工程で特定のVLと会合させた前記抗原結合ドメインが、前記抗原に対する結合活性を有さないかまたは予め決定した値以下の結合活性を有することに基づいて、VLと抗原結合ドメインとの会合体を選択する工程;および
(c)(b)工程で選択した会合体中の前記抗原結合ドメインが、特定のVLと会合した状態でのものより、特定のVLと会合していない状態で前記抗原に対してより強い結合活性を有することを確認する工程
を含む、(D2)に記載のスクリーニング方法。
(D5)特定のVHと会合させることでその抗原結合活性を抑制することができる抗原結合ドメインをスクリーニングする方法である、(D1)に記載のスクリーニング方法。
(D6)以下の工程:
(a)標的抗原結合活性を有する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b)(a)工程で取得した抗原結合ドメインを特定のVHと会合させる工程;および
(c)(b)工程で特定のVHと会合させた前記抗原結合ドメインの、抗原に対する前記結合活性が、会合前のものと比較して、弱められていることまたは失われていることを確認する工程
を含む、(D5)に記載のスクリーニング方法。
(D7)以下の工程:
(a)抗原結合ドメインを特定のVHと会合させる工程;
(b)(a)工程で特定のVHと会合させた前記抗原結合ドメインが、前記抗原に対する結合活性を有さないかまたは予め決定した値以下の結合活性を有することに基づいて、VHと抗原結合ドメインとの会合体を選択する工程;および
(c)(b)工程で選択した会合体中の前記抗原結合ドメインが、特定のVHと会合した状態でのものより、特定のVHと会合していない状態で前記抗原に対してより強い結合活性を有することを確認する工程
を含む、(D5)に記載のスクリーニング方法。
(D8)特定のVHHと会合させることでその抗原結合活性を抑制することができる抗原結合ドメインをスクリーニングする方法である、(D1)に記載のスクリーニング方法。
(D9)以下の工程:
(a)標的抗原結合活性を有する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b)(a)工程で取得した抗原結合ドメインを特定のVHHと会合させる工程;および
(c)(b)工程で特定のVHHと会合させた前記抗原結合ドメインの、抗原に対する前記結合活性が、会合前のものと比較して、弱められていることまたは失われていることを確認する工程
を含む、(D8)に記載のスクリーニング方法。
(D10)以下の工程:
(a)抗原結合ドメインを特定のVHHと会合させる工程;
(b)(a)工程で特定のVHHと会合させた前記抗原結合ドメインが、前記抗原に対する結合活性を有さないかまたは予め決定した値以下の結合活性を有することに基づいて、VHHと抗原結合ドメインとの会合体を選択する工程;
(c)(b)工程で選択した会合体中の前記抗原結合ドメインが、特定のVHHと会合した状態でのものより、特定のVHHと会合していない状態で前記抗原に対してより強い結合活性を有することを確認する工程
を含む、(D8)に記載のスクリーニング方法。
(D11)前記抗原結合ドメインは、単ドメイン抗体またはアンタゴニストを含むか、または単ドメイン抗体またはアンタゴニストである、(D1)から(D10)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(D12)前記単ドメイン抗体は、それ単独で抗原結合活性を有するVLである、(D11)に記載のスクリーニング方法。
(D13)軟骨組織中の前記1つまたは複数の抗原の半減期は、1ヶ月以上である、(D1)から(D12)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(D14)軟骨組織中の前記1つまたは複数の抗原の相対量(%湿重量)は、8%以上である、(D1)から(D13)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(D15)前記1つまたは複数の抗原は、軟骨組織の細胞外マトリックスの構成成分である、(D1)から(D14)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(D16)前記1つまたは複数の分子は、アグリカンおよび/またはコラーゲンからなる群より選択される、(D1)から(D15)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(D17)前記抗原結合ドメインは、エピトープへの結合について、以下からなる群より選択される抗体と競合する、(D1)から(D16)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法:
1)MAB1220(R&D SYSTEMS、モノクローナルマウスIgG2Bクローン#179509);
2)配列番号:512のVH配列および配列番号:513のVL配列を含む抗体;
3)配列番号:514のVH配列および配列番号:515のVL配列を含む抗体;および
4)配列番号:516のVH配列および配列番号:517のVL配列を含む抗体。
(D18)前記抗原結合ドメインは、下記の1)~6)からなる群より選択されるエピトープに結合する、(D1)から(D17)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法:
1)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の382番~403番のアミノ酸、
2)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1669番~1690番のアミノ酸、
3)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1838番~1859番のアミノ酸、
4)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1943番~1964番のアミノ酸、
5)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2043番~2064番のアミノ酸、および
6)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2221番~2242番のアミノ酸。
(D19)以下のための候補を取得するのに使用するための、(D1)から(D18)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法:
(i)アグリカン介在性の疾患または障害を有する対象を治療するため、
(ii)変形性関節症(OA)を有する対象を治療するため、および/または
(iii)変形性関節症(OA)において対象の軟骨分解を予防するため。
【0030】
本発明は、以下に記載する例示的実施態様を更に包含する。
(E1)特定のVLと会合すること、特定のVHと会合すること、または特定のVHHと会合することでその抗原結合活性を抑制することができる抗原結合ドメインを製造する方法であって、当該抗原は軟骨組織に存在する1つまたは複数の分子である、方法。
(E2)特定のVLと会合することでその抗原結合活性を抑制することができる抗原結合ドメインを製造する方法である、(E1)に記載の製造方法。
(E3)以下の工程:
(a)抗原結合ドメイン中の、抗体VLとの当該抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、標的抗原に対する当該抗原結合ドメインの結合活性を保持する改変抗原結合ドメインを調製する工程
を含む、(E2)に記載の製造方法。
(E4)以下の工程:
(b)(a)工程で調製した前記改変抗原結合ドメインをVLと会合させる工程;および
(c)VLと会合させた前記改変抗原結合ドメインの抗原結合活性が、会合前のものと比較して、弱められていることまたは失われていることを確認する工程
を更に含む、(E3)に記載の製造方法。
(E5)特定のVHと会合させることでその抗原結合活性を抑制することができる抗原結合ドメインを製造する方法である、(E1)に記載の製造方法。
(E6)以下の工程:
(a)抗原結合ドメイン中の、抗体VHとの当該抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、標的抗原に対する当該抗原結合ドメインの結合活性を保持する改変抗原結合ドメインを調製する工程
を含む、(E5)に記載の製造方法。
(E7)以下の工程:
(b)(a)工程で調製した前記改変抗原結合ドメインをVHと会合させる工程;および
(c)VHと会合させた前記改変抗原結合ドメインの抗原結合活性が、会合前のものと比較して、弱められていることまたは失われていることを確認する工程
を更に含む、(E6)に記載の製造方法。
(E8)特定のVHHと会合させることでその抗原結合活性を抑制することができる抗原結合ドメインを製造する方法である、(E1)に記載の製造方法。
(E9)以下の工程:
(a)抗原結合ドメイン中の、VHHとの当該抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、標的抗原に対する当該抗原結合ドメインの結合活性を保持する改変抗原結合ドメインを調製する工程
を含む、(E8)に記載の製造方法。
(E10)以下の工程:
(b)(a)工程で調製した前記改変抗原結合ドメインをVHHと会合させる工程;および
(c)VHHと会合させた前記改変抗原結合ドメインの抗原結合活性が、会合前のものと比較して、弱められていることまたは失われていることを確認する工程
を更に含む、(E9)に記載の製造方法。
(E11)前記抗原結合ドメインは、単ドメイン抗体またはアンタゴニストを含むか、または単ドメイン抗体またはアンタゴニストである、(E1)から(E10)のいずれか1つに記載の製造方法。
(E12)前記単ドメイン抗体は、それ単独で抗原結合活性を有するVLである、(E11)に記載の製造方法。
(E13)軟骨組織中の前記1つまたは複数の抗原の半減期は、1ヶ月以上である、(E1)から(E12)のいずれか1つに記載の製造方法。
(E14)軟骨組織中の前記1つまたは複数の抗原の相対量(%湿重量)は、8%以上である、(E1)から(E13)のいずれか1つに記載の製造方法。
(E15)前記1つまたは複数の抗原は、軟骨組織の細胞外マトリックスの構成成分である、(E1)から(E14)のいずれか1つに記載の製造方法。
(E16)前記1つまたは複数の分子は、アグリカンおよび/またはコラーゲンからなる群より選択される、(E1)から(E15)のいずれか1つに記載の製造方法。
(E17)前記抗原結合ドメインは、エピトープへの結合について、以下からなる群より選択される抗体と競合する、(E1)から(E16)のいずれか1つに記載の製造方法:
1)MAB1220(R&D SYSTEMS、モノクローナルマウスIgG2Bクローン#179509);
2)配列番号:512のVH配列および配列番号:513のVL配列を含む抗体;
3)配列番号:514のVH配列および配列番号:515のVL配列を含む抗体;および
4)配列番号:516のVH配列および配列番号:517のVL配列を含む抗体。
(E18)前記抗原結合ドメインは、下記の1)~6)からなる群より選択されるエピトープに結合する、(E1)から(E17)のいずれか1つに記載の製造方法:
1)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の382番~403番のアミノ酸、
2)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1669番~1690番のアミノ酸、
3)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1838番~1859番のアミノ酸、
4)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1943番~1964番のアミノ酸、
5)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2043番~2064番のアミノ酸、および
6)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2221番~2242番のアミノ酸。
【0031】
本発明は、以下に記載する例示的な実施態様を更に包含するものである。
(F1)抗原結合ドメインをそれぞれ第1会合支持ドメインと連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリであって、前記抗原結合ドメインは、特定のVLと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメイン、または特定のVHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメイン、または特定のVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含み、当該抗原は、軟骨組織に存在する1つまたは複数の分子である、ライブラリ。
(F2)前記抗原結合ドメインは、単ドメイン抗体を含むかまたは単ドメイン抗体であり、前記ライブラリ中の融合ポリペプチドの単ドメイン抗体部分は、ラクダ科動物もしくは単ドメイン抗体を産生できる遺伝子が導入されている遺伝子導入動物から取得した単ドメイン抗体もしくはそのヒト化抗体、またはラクダ科動物もしくは単ドメイン抗体を産生できる遺伝子が導入されている遺伝子導入動物を免疫させることで取得した単ドメイン抗体もしくはそのヒト化抗体、またはヒト抗体VHもしくはVLから出発して人工的に調製された単ドメイン抗体を含む、(F1)に記載のライブラリ。
(F3)抗原結合ドメインをそれぞれ第1会合支持ドメインと連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリであって、前記抗原結合ドメインは、特定のVLと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含む、(F1)または(F2)に記載のライブラリ。
(F4)抗原結合ドメインをそれぞれ第1会合支持ドメインと連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリであって、前記抗原結合ドメインは、特定のVHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含むライブラリである、(F1)または(F2)に記載のライブラリ。
(F5)抗原結合ドメインをそれぞれ第1会合支持ドメインと連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリであって、前記抗原結合ドメインは、特定のVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含むライブラリである、(F1)または(F2)に記載のライブラリ。
(F6)前記第1会合支持ドメインは、IgG抗体CH1ドメインまたは抗体軽鎖定常領域を含む、(F1)から(F5)のいずれか1つに記載のライブラリ。
(F7)前記抗原結合ドメインは、単ドメイン抗体またはアンタゴニストを含むか、または単ドメイン抗体またはアンタゴニストである、(F1)から(F6)のいずれか1つに記載のライブラリ。
(F8)前記単ドメイン抗体は、それ単独で抗原結合活性を有するVLである、(F7)に記載のライブラリ。
(F9)軟骨組織中の前記1つまたは複数の抗原の半減期は、1ヶ月以上である、(F1)から(F8)のいずれか1つに記載のライブラリ。
(F10)軟骨組織中の前記1つまたは複数の抗原の相対量(%湿重量)は、8%以上である、(F1)から(F9)のいずれか1つに記載のライブラリ。
(F11)前記1つまたは複数の抗原は、軟骨組織の細胞外マトリックスの構成成分である、(F1)から(F10)のいずれか1つに記載のライブラリ。
(F12)前記1つまたは複数の分子は、アグリカンおよび/またはコラーゲンからなる群より選択される、(F1)から(F11)のいずれか1つに記載のライブラリ。
(F13)前記抗原結合ドメインは、エピトープへの結合について、以下からなる群より選択される抗体と競合する、(F1)から(F12)のいずれか1つに記載のライブラリ:
1)MAB1220(R&D SYSTEMS、モノクローナルマウスIgG2Bクローン#179509);
2)配列番号:512のVH配列および配列番号:513のVL配列を含む抗体;
3)配列番号:514のVH配列および配列番号:515のVL配列を含む抗体;および
4)配列番号:516のVH配列および配列番号:517のVL配列を含む抗体。
(F14)前記抗原結合ドメインは、下記の1)~6)からなる群より選択されるエピトープに結合する、(F1)から(F13)のいずれか1つに記載のライブラリ:
1)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の382番~403番のアミノ酸、
2)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1669番~1690番のアミノ酸、
3)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1838番~1859番のアミノ酸、
4)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1943番~1964番のアミノ酸、
5)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2043番~2064番のアミノ酸、および
6)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2221番~2242番のアミノ酸。
【0032】
本発明は、以下に記載する例示的な実施態様を更に包含するものである。
(G1)(F1)または(F2)に記載のライブラリから、特定のVLと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメイン、または特定のVHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメイン、または特定のVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドをスクリーニングする方法であって、当該抗原は、軟骨組織に存在する1つまたは複数の分子である、方法。
(G2)(F3)に記載のライブラリから、特定のVLと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドをスクリーニングする方法であって、当該抗原は、軟骨組織に存在する1つまたは複数の分子である、方法。
(G3)以下の工程:
(a) 前記ライブラリの融合ポリペプチドをインビトロディスプレイさせる工程;
(b) 特定のVLと第2会合支持ドメインを融合した会合パートナーを用意する工程;
(c) (a)工程でディスプレイされた融合ポリペプチドと(b)工程で用意した会合パートナーとを会合させ、抗原結合ドメインと前記VLが会合する状態で、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下である融合ポリペプチドを選択する工程;
(d) (c)工程に従って選択された融合ポリペプチドから、含まれる抗原結合ドメインと前記VLが会合しない状態で、抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である融合ポリペプチドを選択する工程;
を含む、(G2)に記載のスクリーニング方法。
(G4)前記(b)工程で用意された会合パートナーはプロテアーゼ切断配列を更に含み、前記(d)工程は、プロテアーゼ処理により前記会合パートナーを切断し、前記抗原結合ドメインと前記VLとの会合を解消させることを含む、(G3)に記載のスクリーニング方法。
(G5)前記(b)工程で用意された会合パートナーの前記プロテアーゼ切断配列は、前記特定のVLと前記第2会合支持ドメインとの境界付近に位置する、(G4)に記載のスクリーニング方法。
(G6)前記ライブラリの融合ポリペプチドはプロテアーゼ切断配列を更に含み、前記(d)工程は、プロテアーゼ処理により前記融合ポリペプチドを切断し、前記抗原結合ドメインと前記VLとの会合を解消させることを含む、(G3)に記載のスクリーニング方法。
(G7)前記融合ポリペプチドは第1会合支持ドメインを含み、各融合ポリペプチドに含まれるプロテアーゼ切断配列は、前記抗原結合ドメインと前記第1会合支持ドメインとの境界付近に位置する、(G6)に記載のスクリーニング方法。
(G8)前記(d)工程は、前記(c)工程で選択された融合ポリペプチドの全長もしくは抗原結合ドメインを含む部分を再度インビトロディスプレイさせることを含む、(G3)に記載のスクリーニング方法。
(G9)前記(d)工程は、前記(c)工程で選択された融合ポリペプチドの全長を再度インビトロディスプレイさせ、第2会合支持ドメインのみと会合させた状態で、抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である融合ポリペプチドを選択することを含む、(G3)に記載のスクリーニング方法。
(G10)(F4)に記載のライブラリから、特定のVHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドをスクリーニングする方法であって、当該抗原は、軟骨組織に存在する1つまたは複数の分子である、方法。
(G11)以下の工程:
(a) 前記ライブラリの融合ポリペプチドをインビトロディスプレイさせる工程;
(b) 特定のVHと第2会合支持ドメインを融合した会合パートナーを用意する工程;
(c) (a)工程でディスプレイした融合ポリペプチドと(b)工程で用意した会合パートナーとを会合させ、抗原結合ドメインと前記VHが会合する状態で、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下である融合ポリペプチドを選択する工程;
(d) (c)工程に従って選択された融合ポリペプチドから、含まれる抗原結合ドメインと前記VHが会合しない状態で、抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である融合ポリペプチドを選択する工程;
を含む、(G10)に記載のスクリーニング方法。
(G12)前記(b)工程で用意された会合パートナーはプロテアーゼ切断配列を更に含み、前記(d)工程は、プロテアーゼ処理により前記会合パートナーを切断し、前記抗原結合ドメインと前記VHとの会合を解消させることを含む、(G11)に記載のスクリーニング方法。
(G13)前記(b)工程で用意された会合パートナーの前記プロテアーゼ切断配列は、前記特定のVHと前記第2会合支持ドメインとの境界付近に位置する、(G12)に記載のスクリーニング方法。
(G14)前記ライブラリの融合ポリペプチドはプロテアーゼ切断配列を更に含み、前記(d)工程は、プロテアーゼ処理により前記融合ポリペプチドを切断し、前記抗原結合ドメインと前記VHとの会合を解消させることを含む、(G11)に記載のスクリーニング方法。
(G15)前記融合ポリペプチドは第1会合支持ドメインを含み、各融合ポリペプチドに含まれるプロテアーゼ切断配列は、前記抗原結合ドメインと前記第1会合支持ドメインとの境界付近に位置する、(G14)に記載のスクリーニング方法。
(G16)前記(d)工程は、前記(c)工程で選択された融合ポリペプチドの全長もしくは抗原結合ドメインを含む部分を再度インビトロディスプレイさせることを含む、(G11)に記載のスクリーニング方法。
(G17)前記(d)工程は、前記(c)工程で選択された融合ポリペプチドの全長を再度インビトロディスプレイさせ、第2会合支持ドメインのみと会合させた状態で、抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である融合ポリペプチドを選択することを含む、(G11)に記載のスクリーニング方法。
(G18)(F5)に記載のライブラリから、特定のVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドをスクリーニングする方法であって、当該抗原は、軟骨組織に存在する1つまたは複数の分子である、方法。
(G19)以下の工程:
(a) 前記ライブラリの融合ポリペプチドをインビトロディスプレイさせる工程;
(b) 特定のVHHと第2会合支持ドメインを融合した会合パートナーを用意する工程;
(c) (a)工程でディスプレイした融合ポリペプチドと(b)工程で用意した会合パートナーとを会合させ、抗原結合ドメインと前記特定のVHHが会合する状態で、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下である融合ポリペプチドを選択する工程;
(d) (c)工程に従って選択された融合ポリペプチドから、含まれる抗原結合ドメインと前記VHHが会合しない状態で、抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である融合ポリペプチドを選択する工程;
を含む、(G18)に記載のスクリーニング方法。
(G20)前記(b)工程で用意された会合パートナーはプロテアーゼ切断配列を更に含み、前記(d)工程は、プロテアーゼ処理により前記会合パートナーを切断し、前記抗原結合ドメインと前記VHHとの会合を解消させることを含む、(G19)に記載のスクリーニング方法。
(G21)前記(b)工程で用意された会合パートナーの前記プロテアーゼ切断配列は、前記特定のVHHと前記第2会合支持ドメインとの境界付近に位置する、(G20)に記載のスクリーニング方法。
(G22)前記ライブラリの融合ポリペプチドはプロテアーゼ切断配列を更に含み、前記(d)工程は、プロテアーゼ処理により前記融合ポリペプチドを切断し、前記抗原結合ドメインと前記VHHとの会合を解消させることを含む、(G19)に記載のスクリーニング方法。
(G23)前記融合ポリペプチドは第1会合支持ドメインを含み、各融合ポリペプチドに含まれるプロテアーゼ切断配列は、前記抗原結合ドメインと前記第1会合支持ドメインとの境界付近に位置する、(G22)に記載のスクリーニング方法。
(G24)前記(d)工程は、前記(c)工程で選択された融合ポリペプチドの全長もしくは抗原結合ドメインを含む部分を再度インビトロディスプレイさせることを含む、(G19)に記載のスクリーニング方法。
(G25)前記(d)工程は、前記(c)工程で選択された融合ポリペプチドの全長を再度インビトロディスプレイさせ、第2会合支持ドメインのみと会合させた状態で、抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である融合ポリペプチドを選択することを含む、(G19)に記載のスクリーニング方法。
(G26)前記(b)工程中の会合パートナーを用意する工程は、会合パートナーと融合ポリペプチドを同時にディスプレイさせる工程である、(G3)から(G9)、(G11)から(G17)、(G19)から(G25)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(G27)前記第1会合支持ドメインはIgG抗体CH1ドメインまたは抗体軽鎖定常領域を含む、(G7)から(G9)、(G15)から(G17)、(G23)から(G25)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(G28)前記第2会合支持ドメインはIgG抗体CH1ドメインまたは抗体軽鎖定常領域を含む、(G3)から(G9)、(G11)から(G17)、(G19)から(G25)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(G29)前記第1会合支持ドメインはIgG抗体CH1ドメインを含み、前記第2会合支持ドメインは抗体軽鎖定常領域を含む、(G27)または(G28)に記載のスクリーニング方法。
(G30)前記第1会合支持ドメインは抗体軽鎖定常領域を含み、前記第2会合支持ドメインはIgG抗体CH1ドメインを含む、(G27)または(G28)に記載のスクリーニング方法。
(G31)以下の工程:
(a) 前記ライブラリの融合ポリペプチドをインビトロディスプレイさせる工程;
(b) 特定のVLと第2会合支持ドメインを融合した会合パートナーを用意する工程;
(c) 抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドを選択する工程;
(d) (c)工程に従って選択された融合ポリペプチドと(b)工程で用意した会合パートナーとを会合させ、抗原結合ドメインと前記VLが会合する状態で、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下である融合ポリペプチドを選択する工程;
を含む、(G2)に記載のスクリーニング方法。
(G32)前記(d)工程は、前記(c)工程で選択された融合ポリペプチドを再度インビトロディスプレイさせることを含む、(G31)に記載のスクリーニング方法。
(G33)前記(c)工程は、前記融合ポリペプチドを第2会合支持ドメインのみと会合させることを含む、または第2会合支持ドメインのみと会合させた融合ポリペプチドに含まれる抗原結合ドメインの抗原結合を確認することを含む、(G31)に記載のスクリーニング方法。
(G34)以下の工程:
(a) 前記ライブラリの融合ポリペプチドをインビトロディスプレイさせる工程;
(b) 特定のVHと第2会合支持ドメインを融合した会合パートナーを用意する工程;
(c) 抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドを選択する工程;
(d) (c)工程に従って選択された融合ポリペプチドと(b)工程で用意した会合パートナーとを会合させ、抗原結合ドメインと前記VHが会合する状態で、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下である融合ポリペプチドを選択する工程;
を含む、(G10)に記載のスクリーニング方法。
(G35)前記(d)工程は、前記(c)工程で選択された融合ポリペプチドを再度インビトロディスプレイさせることを含む、(G34)に記載のスクリーニング方法。
(G36)前記(c)工程は、前記融合ポリペプチドを第2会合支持ドメインのみと会合させることを含む、または第2会合支持ドメインのみと会合させた融合ポリペプチドに含まれる抗原結合ドメインの抗原結合を確認することを含む、(G34)に記載のスクリーニング方法。
(G37)以下の工程:
(a) 前記ライブラリの融合ポリペプチドをインビトロディスプレイさせる工程;
(b) 特定のVHHと第2会合支持ドメインを融合した会合パートナーを用意する工程;
(c)抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドを選択する工程;
(d) (c)工程に従って選択された融合ポリペプチドと(b)工程で用意した会合パートナーとを会合させ、抗原結合ドメインと前記VHHが会合する状態で、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下である融合ポリペプチドを選択する工程;
を含む、(G18)に記載のスクリーニング方法。
(G38)前記(d)工程は、前記(c)工程で選択された融合ポリペプチドを再度インビトロディスプレイさせることを含む、(G37)に記載のスクリーニング方法。
(G39)前記(c)工程は、前記融合ポリペプチドを第2会合支持ドメインのみと会合させることを含む、または第2会合支持ドメインのみと会合させた融合ポリペプチドに含まれる抗原結合ドメインの抗原結合を確認することを含む、(G37)に記載のスクリーニング方法。
(G40)前記融合ポリペプチドは第1会合支持ドメインを含み、当該第1会合支持ドメインはIgG抗体CH1ドメインまたは抗体軽鎖定常領域を含む、(G31)から(G39)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(G41)前記第2会合支持ドメインは、IgG抗体CH1ドメインまたは抗体軽鎖定常領域を含む、(G31)から(G40)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(G42)前記(d)工程における融合ポリペプチドと会合パートナーとを会合させる工程は、会合パートナーと融合ポリペプチドを同時にディスプレイさせる工程である、(G31)から(G41)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(G43)前記融合ポリペプチドは第1会合支持ドメインを含み、当該第1会合支持ドメインはIgG抗体CH1ドメインを含み、前記第2会合支持ドメインは抗体軽鎖定常領域を含む、(G31)から(G42)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(G44)前記融合ポリペプチドは第1会合支持ドメインを含み、当該第1会合支持ドメインは抗体軽鎖定常領域を含み、前記第2会合支持ドメインはIgG抗体CH1ドメインを含む、(G31)から(G42)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(G45)前記抗原結合ドメインは、単ドメイン抗体またはアンタゴニストを含むか、または単ドメイン抗体またはアンタゴニストである、(G31)から(G44)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(G46)前記単ドメイン抗体は、それ単独で抗原結合活性を有するVLである、(G45)に記載のスクリーニング方法。
(G47)軟骨組織中の前記1つまたは複数の抗原の半減期は、1ヶ月以上である、(G1)から(G46)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(G48)軟骨組織中の前記1つまたは複数の抗原の相対量(%湿重量)は、8%以上である、(G1)から(G47)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(G49)前記1つまたは複数の抗原は、軟骨組織の細胞外マトリックスの構成成分である、(G1)から(G48)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(G50)前記1つまたは複数の分子は、アグリカンおよび/またはコラーゲンからなる群より選択される、(G1)から(G49)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
(G51)前記抗原結合ドメインは、エピトープへの結合について、以下からなる群より選択される抗体と競合する、(G1)から(G50)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法:
1)MAB1220(R&D SYSTEMS、モノクローナルマウスIgG2Bクローン#179509);
2)配列番号:512のVH配列および配列番号:513のVL配列を含む抗体;
3)配列番号:514のVH配列および配列番号:515のVL配列を含む抗体;および
4)配列番号:516のVH配列および配列番号:517のVL配列を含む抗体。
(G52)前記抗原結合ドメインは、下記の1)~6)からなる群より選択されるエピトープに結合する、(G1)から(G51)のいずれか1つに記載のスクリーニング方法:
1)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の382番~403番のアミノ酸、
2)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1669番~1690番のアミノ酸、
3)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1838番~1859番のアミノ酸、
4)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1943番~1964番のアミノ酸、
5)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2043番~2064番のアミノ酸、および
6)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2221番~2242番のアミノ酸。
【0033】
(H1)この項目は以下の実施態様を選択的に包含する:
(H1-1)アグリカンへの結合について、以下からなる群より選択される抗体と競合する、抗アグリカン抗体:
1)配列番号:512のVH配列および配列番号:513のVL配列を含む抗体、
2)配列番号:514のVH配列および配列番号:515のVL配列を含む抗体、および
3)配列番号:516のVH配列および配列番号:517のVL配列を含む抗体。
(H1-2)下記の1)~2)からなる群より選択されるエピトープに結合する抗アグリカン抗体:
1)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の377番~386番のアミノ酸、
2)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の48番~673番(G1-IGD-G2ドメイン)のアミノ酸。
(H2)この項目は以下の実施態様を選択的に包含する:
(H2-1)前記抗原結合ドメインは、(a)配列番号:512または514のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列、および/または(b)配列番号:513または515のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む、(H1)に記載の抗体。
(H2-2)前記抗原結合ドメインは、(a)配列番号:516のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列、および/または(b)配列番号:517のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む、(H1)に記載の抗体。
(H2-3)前記抗原結合ドメインは、下記の1)~3)から選択される、H鎖CDR1、CDR2、およびCDR3とL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3との組み合わせのいずれか1つを含む、またはそれと機能的に等価な抗体可変領域のH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3とL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3との組み合わせのいずれか1つを含む、(H1)に記載の抗体:
1)前記抗体可変領域に含まれるH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:512に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり;かつ前記抗体可変領域に含まれるL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:513に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一である;
2)前記抗体可変領域に含まれるH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:514に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり;かつ前記抗体可変領域に含まれるL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:515に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一である;および
3)前記抗体可変領域に含まれるH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:516に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり;かつ前記抗体可変領域に含まれるL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:517に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一である。
(H2-4)前記抗原結合ドメインは、下記1)~3)から選択される抗体可変領域、またはそれと機能的に等価な抗体可変領域の、H鎖CDR1、CDR2、およびCDR3とL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3との組み合わせのいずれか1つを含む、(H1)に記載の抗体:
1)配列番号:512のアミノ酸配列を含む抗体H鎖可変領域;および配列番号:513のアミノ酸配列を含む抗体L鎖可変領域;
2)配列番号:514のアミノ酸配列を含む抗体H鎖可変領域;および配列番号:515のアミノ酸配列を含む抗体L鎖可変領域;および
3)配列番号:516のアミノ酸配列を含む抗体H鎖可変領域;および配列番号:517のアミノ酸配列を含む抗体L鎖可変領域。
(H3)(H1)または(H2)に記載の抗体を含む、医薬組成物。
(H4)この項目は以下の実施態様を選択的に包含する:
(H4-1)(H1)または(H2)に記載の抗体の有効量を個体に投与する工程を含む、アグリカン介在性の疾患または障害を有する個体を治療する方法。
(H4-2)(H1)または(H2)に記載の抗体の有効量を個体に投与する工程を含む、変形性関節症(OA)を有する個体を治療する方法。
(H4-3)(H1)または(H2)に記載の抗体の有効量を個体に投与する工程を含む、変形性関節症(OA)において個体の軟骨分解を予防する方法。
【0034】
(I1)軟骨組織に存在する分子に結合する抗体であって、当該分子は可溶性抗原ではなく、当該抗体の分子量は120 kDa以下である、抗体。
(I2)この項目は以下の実施態様を選択的に包含する:
(I2-1)前記抗体の分子量は、100 kDa以下、80 kDa以下、60 kDa以下、40 kDa以下、または20 kDa以下である、(I1)に記載の抗体。
(I2-2)前記抗体は、F(ab')2、Fab、scFv、VHH、VL、VH、または単ドメイン抗体である、(I1)に記載の抗体。
(I2-3)軟骨組織に存在する前記分子は、以下:
1. コラーゲン、
2. プロテオグリカン、
3. 糖タンパク質、
4. 糖鎖、および
5. 他のタンパク質
からなる群より選択される、軟骨組織中の細胞外マトリックスである、(I1)に記載の抗体。
(I2-4)前記コラーゲンは以下:
1-2.II型コラーゲン以外のコラーゲン
1-3.線維性(Firillar)コラーゲン
1-4.疾患非改変(Disease non-modified)コラーゲン
からなる群より選択される、(I2-3)に記載の抗体。
(I2-5)コラーゲンは、II型コラーゲン(線維性コラーゲン)、III型コラーゲン(線維性コラーゲン)、IV型コラーゲン、V型コラーゲン(線維性コラーゲン)、VI型コラーゲン、IX型コラーゲン、X型コラーゲン、XI型コラーゲン(線維性コラーゲン)、XII型コラーゲン、XIV型コラーゲン、XVI型コラーゲン、XXII型コラーゲン、XXIV型コラーゲン(線維性コラーゲン)、およびXXVII型コラーゲン(線維性コラーゲン)からなる群より選択される、(I2-3)に記載の抗体。
(I2-6)プロテオグリカンは、アグリカン、バーシカン、パールカン、シンデカン、ラブリシン、リンクタンパク質、およびスモールロイシンリッチリピートプロテオグリカンからなる群より選択される、(I2-3)に記載の抗体。
(I2-7)前記分子は、アグリカン、バーシカン、パールカン、シンデカン、ラブリシンからなる群より選択されるプロテオグリカンと連結されるタンパク質である、(I1)に記載の抗体。
(I2-8)スモールロイシンリッチリピートプロテオグリカンは、デコリン、バイグリカン、アスポリン、フィブロモジュリン、ルミカン、ケラトカン、オステオアドヘリン(Osteoadherin)、プロリン/アルギニンリッチ末端ロイシンリッチ反復タンパク質、エピフィカン(Epiphycan)、ミメカン(Mimecan)、オプチシン(Opticin)、コンドロアドヘリン(Chondroadherin)、およびコンドロアドヘリン様からなる群より選択される、(I2-6)に記載の抗体。
(I2-9)糖鎖は、ヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン硫酸(CS)、ケラタン硫酸(KS)、およびデルマタン硫酸(DS)からなる群より選択される、(I2-3)に記載の抗体。
(I2-10)軟骨組織に存在する前記分子は、トロンボスポンジン、マトリリン、WARP、UCMA、CILP、フィブロネクチン、ラミン、およびニドゲンからなる群より選択される、軟骨組織中の細胞外マトリックスである、(I1)に記載の抗体。
【0035】
(I3)前記分子は、軟骨組織中の膜抗原または細胞外マトリックスである、(I1)または(I2)に記載の抗体。
(I4)軟骨組織中の前記分子の半減期は、1ヶ月以上、2ヶ月以上、6ヶ月以上、1年以上、または5年以上である、(I1)から(I3)のいずれか1つに記載の抗体。
(I5)軟骨組織中の前記分子の相対量(%湿重量)は、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、10%以上、15%以上、または20%以上である、(I1)から(I3)のいずれか1つに記載の抗体。
(I6)前記分子が軟骨組織中の細胞外マトリックスであり、当該細胞外マトリックスがアグリカンまたはコラーゲンである、(I3)または(I5)のいずれか1つに記載の抗体。
【0036】
(J1)軟骨組織に存在する分子に結合する抗体の軟骨組織内への浸透率を増加させる方法であって、同じ分子に結合する親抗体を、当該分子に対する結合能を実質的に維持または改良しながら、親抗体の分子量を減少させるように改変する工程を含み、当該分子が可溶性抗原ではない、方法。
(J2)前記親抗体は全IgG型抗体である、(J1)に記載の方法。
(J3)この項目は以下の実施態様を選択的に包含する:
(J3-1)前記抗体の分子量は、120 kDa以下、100 kDa以下、80 kDa以下、60 kDa以下、40 kDa以下、または20 kDa以下である、(J1)に記載の方法。
(J3-2)前記抗体は、F(ab')2、Fab、scFv、VHH、VL、VH、または単ドメイン抗体である、(J1)に記載の方法。
(J4)前記分子は、軟骨組織中の膜抗原または細胞外マトリックスである、(J1)から(J3)のいずれか1つに記載の方法。
(J5)軟骨組織中の前記分子の半減期は、1ヶ月以上、2ヶ月以上、6ヶ月以上、1年以上、または5年以上である、(J1)から(J4)のいずれか1つに記載の方法。
(J6)軟骨組織中の前記分子の相対量(%湿重量)は、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、10%以上、15%以上、または20%以上である、(J1)から(J5)のいずれか1つに記載の方法。
(J7)前記分子が軟骨組織中の細胞外マトリックスであり、軟骨組織中の当該細胞外マトリックスがアグリカンまたはコラーゲンである、(J1)から(J6)のいずれか1つに記載の方法。
【0037】
(K1)軟骨組織に存在する分子に結合する、軟骨組織内への浸透率が増加した抗体を製造する方法であって、同じ分子に結合する親抗体を、当該分子に対する結合能を実質的に維持または改良しながら、親抗体の分子量を減少させるように改変する工程を含み、当該分子が可溶性抗原ではない、方法。
(K2)前記親抗体は全IgG型抗体である、(K1)に記載の方法。
(K3)この項目は以下の実施態様を選択的に包含する:
(K3-1)前記抗体の分子量は、120 kDa以下、100 kDa以下、80 kDa以下、60 kDa以下、40 kDa以下、または20 kDa以下である、(K2)に記載の方法。
(K3-2)前記抗体は、F(ab')2、Fab、scFv、VHH、VL、VH、または単ドメイン抗体である、(K2)に記載の方法。
(K4)前記分子は、軟骨組織中の膜抗原または細胞外マトリックスである、(K1)から(K3)のいずれか1つに記載の方法。
(K5)軟骨組織中の前記分子の半減期は、1ヶ月以上、2ヶ月以上、6ヶ月以上、1年以上、または5年以上である、(K1)または(K4)のいずれか1つに記載の方法。
(K6)軟骨組織中の前記分子の相対量(%湿重量)は、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、10%以上、15%以上、または20%以上である、(K1)から(K5)のいずれか1つに記載の方法。
(K7)前記分子が軟骨組織中の細胞外マトリックスであり、軟骨組織中の当該細胞外マトリックスがアグリカンまたはコラーゲンである、(K1)から(K6)のいずれか1つに記載の方法。
【0038】
(L1)軟骨組織に存在する分子に結合する抗体の軟骨組織における保持時間を増加させる方法であって、同じ分子に結合する親抗体を、当該分子に対する結合能を実質的に維持または改良しながら、親抗体の分子量を減少させるように改変する工程を含み、当該分子が可溶性抗原ではない、方法。
(L2)前記親抗体は全IgG型抗体である、(L1)に記載の方法。
(L3)この項目は以下の実施態様を選択的に包含する:
(L3-1)前記抗体の分子量は、120 kDa以下、100 kDa以下、80 kDa以下、60 kDa以下、40 kDa以下、または20 kDa以下である、(L2)に記載の方法。
(L3-2)前記抗体は、F(ab')2、Fab、scFv、VHH、VL、VH、または単ドメイン抗体である、(L2)に記載の方法。
(L4)前記分子は、軟骨組織中の膜抗原または細胞外マトリックスである、(L1)から(L3)のいずれか1つに記載の方法。
(L5)軟骨組織中の前記分子の半減期は、1ヶ月以上、2ヶ月以上、6ヶ月以上、1年以上、または5年以上である、(L1)から(L4)のいずれか1つに記載の方法。
(L6)軟骨組織中の前記分子の相対量(%湿重量)は、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、10%以上、15%以上、または20%以上である、(L1)から(L5)のいずれか1つに記載の方法。
(L7)前記分子が軟骨組織中の細胞外マトリックスであり、軟骨組織中の当該細胞外マトリックスがアグリカンまたはコラーゲンである、(L1)から(L6)のいずれか1つに記載の方法。
【0039】
(M1)軟骨組織に存在する分子に結合する、軟骨組織における保持時間が増加した抗体を製造する方法であって、同じ分子に結合する親抗体を、同分子に対する結合能を実質的に維持または改良しながら、親抗体の分子量を減少させるように改変する工程を含み、当該分子が可溶性抗原ではない、方法。
(M2)前記親抗体は全IgG型抗体である、(M1)に記載の方法。
(M3)この項目は以下の実施態様を選択的に包含する:
(M3-1)前記抗体の分子量は、120 kDa以下、100 kDa以下、80 kDa以下、60 kDa以下、40 kDa以下、または20 kDa以下である、(M1)に記載の方法。
(M3-2)前記抗体は、F(ab')2、Fab、scFv、VHH、VL、VH、または単ドメイン抗体である、(M1)に記載の方法。
(M4)前記分子は、軟骨組織中の膜抗原または細胞外マトリックスである、(M1)から(M3)のいずれか1つに記載の方法。
(M5)軟骨組織中の前記分子の半減期は、1ヶ月以上、2ヶ月以上、6ヶ月以上、1年以上、または5年以上である、(M1)から(M4)のいずれか1つに記載の方法。
(M6)軟骨組織中の前記分子の相対量(%湿重量)は、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、10%以上、15%以上、または20%以上である、(M1)から(M5)のいずれか1つに記載の方法。
(M7)前記分子が軟骨組織中の細胞外マトリックスであり、軟骨組織中の当該細胞外マトリックスがアグリカンまたはコラーゲンである、(M1)から(M6)のいずれか1つに記載の方法。
【0040】
(N1)軟骨組織に存在する分子に結合する能力を有する抗体を用いることによって特徴づけられる、抗体の軟骨組織内への浸透および/または抗体の軟骨組織での保持の方法であって、当該抗体が全IgG型抗体のものを下回る分子量を有し、前記分子が可溶性抗原ではない、方法。
(N2)この項目は以下の実施態様を選択的に包含する:
(N2-1)前記抗体の分子量は、120 kDa以下、100 kDa以下、80 kDa以下、60 kDa以下、40 kDa以下、または20 kDa以下である、(N1)に記載の方法。
(N2-2)前記抗体は、スキャフォールド、F(ab')2、Fab、scFv、VHH、VL、VH、または単ドメイン抗体である、(N1)に記載の方法。
(N3)前記分子は、軟骨組織中の膜抗原または細胞外マトリックスである、(N1)から(N2)のいずれか1つに記載の方法。
(N4)軟骨組織中の前記分子の半減期は、1ヶ月以上、2ヶ月以上、6ヶ月以上、1年以上、または5年以上である、(N1)から(N3)のいずれか1つに記載の方法。
(N5)軟骨組織中の前記分子の相対量(%湿重量)は、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、10%以上、15%以上、または20%以上である、(N1)から(N4)のいずれか1つに記載の方法。
(N6)前記分子が軟骨組織中の細胞外マトリックスであり、軟骨組織中の当該細胞外マトリックスがアグリカンまたはコラーゲンである、(N1)から(N5)のいずれか1つに記載の方法。
【0041】
(O1)以下を含むポリペプチド:
(a)軟骨組織に存在する分子に結合する抗体、および
(b)前記抗体が結合する分子ではない、軟骨組織に存在する分子に結合する抗原結合ドメイン。
(O2)前記(a)の抗体は、ADAMTS4/5活性、NGF活性、またはIL1R1活性を抑制するか、またはBMP7アゴニスト活性、TGFb1アゴニスト活性、またはFGF18アゴニスト活性を増強する抗体である、(O1)に記載のポリペプチド。
(O3)前記(a)の分子および/または前記(b)の分子のいずれかまたは両方は、可溶性抗原ではない、(O1)または(O2)に記載のポリペプチド。
(O4)この項目は以下の実施態様を選択的に包含する:
(O4-1)前記抗体および/または前記抗原結合ドメインの分子量は、120 kDa以下、100 kDa以下、80 kDa以下、60 kDa以下、40 kDa以下、または20 kDa以下である、(O1)から(O3)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(O4-2)前記抗体は、全IgG型抗体、スキャフォールド、F(ab')2、Fab、scFv、VHH、VL、VH、または単ドメイン抗体である、(O1)から(O3)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(O5)前記(a)の分子および/または前記(b)の分子は、軟骨組織中の膜抗原または細胞外マトリックスである、(O1)または(O4)に記載のポリペプチド。
(O6)軟骨組織中の前記分子の半減期は、1ヶ月以上、2ヶ月以上、6ヶ月以上、1年以上、または5年以上である、(O1)から(O5)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(O7)軟骨組織中の前記分子の前記相対量(%湿重量)は、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、10%以上、15%以上、または20%以上である、(O1)から(O6)に記載のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(O8)前記(a)の分子および/または前記(b)の分子は、軟骨組織中の細胞外マトリックスであり、軟骨組織中の当該細胞外マトリックスがアグリカンまたはコラーゲンである、(O5)または(O7)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(O9)前記ポリペプチドは、前記抗原結合ドメインとは異なる別の抗原結合ドメインを更に有する、(O1)から(O8)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(O10)前記ポリペプチドは、(A1)から(A56)のいずれかに記載のポリペプチドでもあり、(i)前記(O1)のポリペプチドの前記(a)の抗体の抗原結合ドメイン、または(ii)前記(O1)のポリペプチドの前記(b)の抗原結合ドメインのいずれかは、前記(A1)のポリペプチドの抗原結合ドメインである、(O1)から(O9)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
【0042】
本発明は、以下の実施態様もまた特に包含するものである。
(1)抗原結合ドメインと運搬部分とを含むポリペプチドであって、当該抗原結合ドメインが、抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制する抑制ドメインを有する運搬部分のものより短い血中半減期を有し、かつ当該抗原が軟骨組織に存在する分子である、ポリペプチド。
(2)軟骨組織における前記分子の半減期が1ヶ月以上である、(1)に記載のポリペプチド。
(3)軟骨組織における前記分子の相対量(%湿重量)が8%以上である、(1)または(2)に記載のポリペプチド。
(4)前記分子が、軟骨組織の細胞外マトリックスの構成成分である、(1)~(3)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(5)前記細胞外マトリックスの構成成分がアグリカンまたはコラーゲンである、(4)に記載のポリペプチド。
(6)前記抗原結合ドメインがアグリカン内のエピトープに結合し、前記抗原結合ドメインが、下記1):
1)MAB1220(R&D SYSTEMS、モノクローナルマウスIgG2Bクローン#179509)
からなる群より選択される抗体と、エピトープへの結合について競合する、(5)に記載のポリペプチド。
(7)前記抗原結合ドメインがアグリカン内のエピトープに結合し、前記抗原結合ドメインが、下記1)~3):
1)配列番号:512のVH配列および配列番号:513のVL配列を含む抗体、
2)配列番号:514のVH配列および配列番号:515のVL配列を含む抗体、および
3)配列番号:516のVH配列および配列番号:517のVL配列を含む抗体
からなる群より選択される抗体と、エピトープへの結合について競合する、(5)に記載のポリペプチド。
(8)前記抗原結合ドメインが、下記1)~6):
1)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の382番~403番のアミノ酸、
2)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1669番~1690番のアミノ酸、
3)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1838番~1859番のアミノ酸、
4)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1943番~1964番のアミノ酸、
5)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2043番~2064番のアミノ酸、および
6)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2221番~2242番のアミノ酸
からなる群より選択されるエピトープに結合する、(5)に記載のポリペプチド。
(9)前記抗原結合ドメインの分子量が120 kDa以下である、(1)~(8)のいずれか1つに記載のポリペプチド。
(10)以下:
1)配列番号:512のVH配列および配列番号:513のVL配列を含む抗体、
2)配列番号:514のVH配列および配列番号:515のVL配列を含む抗体、および
3)配列番号:516のVH配列および配列番号:517のVL配列を含む抗体
からなる群より選択される抗体と、アグリカンへの結合について競合する、抗アグリカン抗体。
(11)(1)~(9)のいずれか1つに記載のポリペプチドまたは(10)に記載の抗体を含む、医薬組成物。
(12)軟骨組織に存在する分子に結合する、軟骨組織内への浸透率が増加した抗体を製造する方法であって、
同じ分子に結合する親抗体を、当該分子に対する結合能を実質的に維持しながら、親抗体の分子量を減少させるように改変する工程
を含み、
当該分子が可溶性抗原ではない、方法。
(13)軟骨組織に存在する分子に結合する、軟骨組織における保持時間が増加した抗体を製造する方法であって、
同じ分子に結合する親抗体を、同分子に対する結合能を実質的に維持しながら、親抗体の分子量を減少させるように改変する工程
を含み、
当該分子が可溶性抗原ではない、方法。
(14)前記親抗体が全抗体である、(12)または(13)に記載の方法。
(15)前記抗体の分子量が120 kDa以下である、(12)~(14)のいずれか1つに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】Probody技術のコンセプトを示す図である。Probodyは、抗体の抗原結合部位をマスクするペプチドを、病変部位で発現するプロテアーゼで切断されるリンカーで抗体とつなぐことで抗体の抗原結合活性を阻害した抗体分子である。
【
図2】Probodyが有害反応を示す可能性のある一原因を示す図である。血中に蓄積した活性化されたProbodyは、正常組織に発現する抗原に結合することで有害反応を発揮する可能性がある。
【
図3】Probodyが有害反応を示す可能性のある一原因を示す図である。Probodyは、リンカーによって結ばれたマスクペプチドが抗原結合部位に結合した状態と解離した状態の平衡状態にあり、解離した状態の分子は抗原に結合することができてしまう。
【
図4】Probodyが有害反応を示す可能性のある一原因を示す図である。マスクペプチドに対する抗薬物抗体(抗マスクペプチド抗体)は、活性化される前のProbodyのマスクペプチドに結合することで、プロテアーゼによる切断が起こらなくてもProbodyを活性化する可能性がある。
【
図5】抗原結合ドメインと運搬部分とを含むポリペプチドのコンセプトを示す図である。(A)抗原結合ドメインと運搬部分が連結された状態のポリペプチドは長い半減期を有し、抗原に結合しない。(B)切断サイトの切断等により抗原結合ドメインが遊離し抗原に結合し、遊離後の抗原結合ドメインは短い半減期を有する。
【
図6】本発明のポリペプチドを製造する方法の一実施態様を示す図である。本実施態様において、目的のポリペプチドはIgG抗体様分子である。(A)標的抗原に結合する抗原結合ドメインを取得する。(B)抗原結合ドメインの抗原結合活性が抑制されるように、抗原結合ドメインをIgG抗体のVHの代わりとしてVLと会合させる。(C)抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子前駆体にプロテアーゼ切断配列を導入する。
【
図7】本発明のポリペプチドの一実施態様を示す図である。本実施態様において、ポリペプチドがIgG抗体様分子であり、IgG抗体の二つの可変領域に相当する部分にそれぞれ抗原結合ドメインを設ける。二つの抗原結合ドメインは同様な抗原結合特異性を持っていても良く、異なる抗原結合特異性を持っていても良い。
【
図8】本発明の抗原結合ドメインに、第2の抗原結合ドメインが更に連結されている実施態様を示す図である。この実施態様では、遊離後の抗原結合ドメインと第2の抗原結合ドメインが、二重特異性抗原結合分子を形成する。(A)未遊離状態のポリペプチドを示す図である。抗原結合ドメインの抗原結合活性は抑制されている。(B)抗原結合ドメインと第2の抗原結合ドメインによって形成された二重特異性抗原結合分子の遊離を示す図である。(C)遊離後の二重特異性抗原結合分子の例として、例えばT細胞表面抗原と癌細胞表面抗原に対する二重特異性抗原結合分子を示す図である。
【
図9A】抗原結合ドメインをそれぞれ第1会合支持ドメインと連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリから、特定の抑制ドメインと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドをスクリーニングする方法の一例を示す図である。(1)抗原結合ドメインをそれぞれ第1会合支持ドメインと連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリを示す図である。(2)融合ポリペプチドと会合パートナーが会合する状態で、各抗原結合ドメインの抗原結合活性を確認することを示す図である。この会合状態で、標的抗原に結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下である抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドが選択される。(3)(2)で選択された融合ポリペプチド中の抗原結合ドメインと、会合パートナー中の抑制ドメインとの会合を解消し、抗原結合ドメインの抗原結合活性を確認することを示す図である。この非会合状態で、標的抗原に結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドが選択される。(2')各融合ポリペプチド中の抗原結合ドメインの抗原結合活性を確認することを示す図である。この融合ポリペプチドの単独存在状態で、標的抗原に結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドが選択される。(3')(2')で選択された融合ポリペプチドと会合パートナーが会合する状態で、抗原結合ドメインの抗原結合活性を確認することを示す図である。この会合状態で、標的抗原に結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下である抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドが選択される。
【
図9B】抗原結合ドメインをそれぞれ第1会合支持ドメインと連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリから、特定の抑制ドメインと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドをスクリーニングする方法の、より具体的な一例を示す図である。(1)抗原結合ドメインと第1会合支持ドメインをそれぞれ含む融合ポリペプチドと、抑制ドメインと第2会合支持ドメインの間にプロテアーゼ切断配列が導入されている会合パートナーを同時にディスプレイさせ、Fab様構造を形成させる;(2)そのようにディスプレイされたFab様構造の中から、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下のものを選択する;(3)プロテアーゼにより会合パートナーを切断し、抗原に結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上の抗原結合ドメインを含む断片を選択する。
【
図9C】抗原結合ドメインをそれぞれ第1会合支持ドメインと連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリから、特定の抑制ドメインと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドをスクリーニングする方法の、より具体的な別の例を示す図である。(1)抗原結合ドメインと第1会合支持ドメイン間にプロテアーゼ切断配列を導入されている融合ポリペプチドと、抑制ドメインと第2会合支持ドメインが連結された会合パートナーを同時にディスプレイさせ、Fab様構造を形成させる;(2)そのようにディスプレイされたFab様構造の中から、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下のものを選択する;(3)プロテアーゼにより融合ポリペプチドを切断し、抗原に結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上の抗原結合ドメインを含む断片を選択する。
【
図9D】抗原結合ドメインをそれぞれ第1会合支持ドメインと連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリから、特定の抑制ドメインと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドをスクリーニングする方法の別の例を示す図である。(1)抗原結合ドメインと第1会合支持ドメインをそれぞれ含む融合ポリペプチドと、抑制ドメインと第2会合支持ドメインが連結された会合パートナーとを同時にディスプレイさせ、Fab様構造を形成させ、そのようにディスプレイされたFab様構造の中から、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下のものを選択する;(2)そのように(1)で選択されたFab様構造中の抗原結合ドメインを含む部分を、抑制ドメインを一緒に発現させない形で再度ディスプレイさせ、抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上の断片を選択する。(2')と(2'')は、(2)の中の、抗原結合ドメインを含む部分を、抑制ドメインを同時に発現させない形で再度ディスプレイさせる別の実施態様を示す図である。なお、(1)と、(2)、(2')、または(2'')の順番は、(2)、(2')、または(2'')から(1)でもよく、すなわち、抗原結合ドメインを含む部分を、抑制ドメインを同時に発現させない形でディスプレイさせ、抗原結合活性が一定値以上の断片を選択する。次に、結合が一定以上であった断片を含む抗原結合ドメインと第1会合支持ドメインとをそれぞれ含む融合ポリペプチドと、抑制ドメインと第2会合支持ドメインが連結された会合パートナーとを同時にディスプレイさせ、Fab様構造を形成させ、そのようにディスプレイされたFab様構造の中から、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下のものを選択する。
【
図10】ヒトIgG1の定常領域(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)と融合した抗ヒトIL6R VHH(IL6R90)を含むIL6R90-G1mを様々な軽鎖と会合させて調製した抗体様分子の、ヒトIL6Rに対する結合を評価した結果を示す図である。抗原が固相化されたセンサーと抗体様分子との作用を開始した時間が横軸の開始点である。
【
図11】(A)IL6R90-G1mのVHHと定常領域の境界付近にプロテアーゼ切断配列を挿入することで調製した抗体様分子のモデルを示す図である。(B)調製した各抗体重鎖の名前、アミノ酸配列を挿入した部位、挿入したアミノ酸配列を示す図である。挿入部位を[insert]で示す。
【
図12-1】IL6R90-G1mを、またはIL6R90-G1m のVHHと定常領域の境界付近にプロテアーゼ切断配列を挿入することで調製した抗体様分子を、プロテアーゼ(MT-SP1)処理後に、切断の程度を還元SDS-PAGEで評価した結果を示す図である。プロテアーゼ処理によって生じた2本の新たなバンドのうち、25 kDa以下に生じたバンドがVHHに由来するバンドであり、25~50 kDaの位置に現れたバンドが定常領域に由来するバンドである。
【
図13】IL6R90-G1m、またはIL6R90-G1mのVHHと定常領域の境界付近にプロテアーゼ切断配列を挿入することで調製した抗体様分子、あるいはそれらをプロテアーゼ(MT-SP1)処理した後のサンプルと、ヒトIL6Rとの結合を評価した結果を示す図である。Protease- がプロテアーゼ未処理の抗体様分子と抗原との結合を評価したセンサーグラムであり、Protease+ がプロテアーゼ処理した抗体様分子と抗原との結合を評価したセンサーグラムである。抗原が固相化されたセンサーと抗体様分子との作用を開始する30秒前が横軸の開始点である。
【
図14】ヒトIgG1の定常領域(CH1- ヒンジ-CH2-CH3)に融合した抗ヒトIL6R VHH(20A11)を含む20A11-G1mを様々な軽鎖と会合させて調製した抗体様分子の、ヒトIL6Rに対する結合を評価した結果を示す図である。抗原が固相化されたセンサーと抗体様分子との作用を開始する時間の30秒前が横軸の開始点である。
【
図15】20A11-G1mのヒトIL6Rに対する結合、または20A11のVLとの界面に存在するアミノ酸に変異を導入し、ヒトIgG1の定常領域(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)に融合した当該20A11huを含む20A11hu-G1mを様々な軽鎖と会合させて調製した抗体様分子のヒトIL6Rに対する結合を評価した結果を示す図である。抗原が固相化されたセンサーと抗体様分子との作用を開始する時間の60秒前が横軸の開始点である。
【
図16】20A11-G1mを、または20A11hu-G1mの20A11huと定常領域の境界付近にプロテアーゼ切断配列を挿入して調製した4種類の抗体様分子を、プロテアーゼ(MT-SP1)処理後、切断の程度を還元SDS-PAGEで評価した結果を示す図である。プロテアーゼ処理によって生じた2本の新たなバンドのうち、25 kDa 以下に生じたバンドがVHHに由来するバンドであり、25~50 kDaの位置に現れたバンドが定常領域に由来するバンドである。
【
図17】20A11-G1m、または20A11hu-G1m のVHHと定常領域の境界付近にプロテアーゼ切断配列を挿入することで調製した抗体様分子、あるいはそれらをプロテアーゼ(MT-SP1)処理した後のサンプルと、ヒトIL6Rとの結合を評価した結果を示す図である。Protease- がプロテアーゼ未処理の抗体様分子と抗原との結合を評価したセンサーグラムであり、Protease+ がプロテアーゼ処理した抗体様分子と抗原との結合を評価したセンサーグラムである。抗原が固相化されたセンサーと抗体との作用を開始する60秒前が横軸の開始点である。not testedと記載されたサンプルは未測定であることを示す。
【
図18】抗ヒトCD3 VHHを重鎖可変領域に持ち、VHHと重鎖定常領域の境界付近にプロテアーゼ切断配列を挿入することで調製した抗体様分子をプロテアーゼ(MT-SP1)処理後、還元SDS-PAGEで泳動し、CBBで検出することによって切断の程度を評価した結果を示す図である。プロテアーゼ処理によって生じた2本の新たなバンドのうち、10~15 kDa 付近に生じたバンドがVHHに由来するバンドであり、37kDa付近に生じたバンドが重鎖定常領域に由来するバンドである。
【
図19】抗ヒトCD3 VHHを重鎖可変領域に持ち、VHHと重鎖定常領域の境界付近にプロテアーゼ切断配列を挿入することで調製した抗体様分子をプロテアーゼ(MT-SP1)処理した後のサンプルと、ヒトCD3ed-Fcとの結合を評価した結果を示す図である。Protease- がプロテアーゼ未処理の抗体様分子と抗原との結合を評価したセンサーグラムであり、Protease+ がプロテアーゼ処理した抗体様分子と抗原との結合を評価したセンサーグラムである。抗原が固相化されたセンサーと抗体様分子との作用を開始した30秒前が横軸の開始点である。抗原結合前の結合量(レスポンス)を0とし、抗体を作用させる前の結合量を100としたときの結合を示す。時間は、抗体を作用させる30秒前から表示してある。
【
図20】IL6R90-G1mを重鎖としVk1-39-k0MTを軽鎖として有する分子、またはIL6R90-G1mを重鎖としVk1-39-k0MTを軽鎖として有する分子の軽鎖可変領域と軽鎖定常領域の境界付近にプロテアーゼ切断配列を挿入することで調製した抗体様分子を、プロテアーゼ(MT-SP1)処理後、還元SDS-PAGEで泳動し、CBBで検出することによって切断の程度を評価した結果を示す図である。プロテアーゼ処理によって軽鎖由来の2本のバンドが生じ、軽鎖がプロテアーゼによって切断されている。
【
図21】IL6R90-G1mを重鎖としVk1-39-k0MTを軽鎖として有する分子、またはIL6R90-G1mを重鎖としVk1-39-k0MTを軽鎖として有する分子の軽鎖可変領域と軽鎖定常領域の境界付近にプロテアーゼ切断配列を挿入することで調製した抗体様分子を、プロテアーゼ(MT-SP1)処理した後のサンプルと、ヒトIL6Rとの結合を評価した結果を示す図である。Protease- がプロテアーゼ未処理の抗体様分子と抗原との結合を評価したセンサーグラムであり、Protease+ がプロテアーゼ処理した抗体様分子と抗原との結合を評価したセンサーグラムである。IL6Rに結合することが確認されている抗体(MRA)をポジティブコントロールとして使用した。抗原が固相化されたセンサーと抗体様分子との作用を開始した時が横軸の開始点である。
【
図22】ヒトPlexinA1に結合するVHHが組み込まれたIgG抗体様分子のプロテアーゼ切断を評価したSDS-PAGE結果を示す図である。protease(+)レーンはプロテアーゼ切断処理を行ったサンプルであり、protease(-)レーンはプロテアーゼ切断処理を受けていないネガティブコントロールのサンプルである。
【
図23】ヒトPlexinA1に結合するVHHが組み込まれたIgG抗体様分子からプロテアーゼ切断により遊離したVHHとヒトPlexinA1との結合を評価したOctetセンサーグラムを示す図である。protease + はプロテアーゼ切断処理を行ったサンプルであり、protease - はプロテアーゼ切断処理を受けていないサンプルである。使用したIgG抗体様分子の濃度は図の左側に記載されている。
【
図24】二重特異性VHH-VHH含有ポリペプチドのプロテアーゼ切断を評価したSDS-PAGE結果を示す図である。
【
図25】プロテアーゼ切断前後のルシフェラーゼ活性を示す図である。破線はプロテアーゼ処理無しのサンプル、実線はプロテアーゼ処理有りのサンプルである。
【
図26】プロテアーゼ切断前後のルシフェラーゼ活性を示す図である。破線はプロテアーゼ処理無しのサンプル、実線はプロテアーゼ処理有りのサンプルである。
【
図27】抗ヒトIL6R VHH含有IgG抗体様分子のプロテアーゼによる切断の、SDS-PAGEでの評価を示した図である。
【
図28】軽鎖にプロテアーゼ切断配列を導入されているIgG抗体様分子の、プロテアーゼ切断の評価を示す図である。
【
図29】軽鎖にプロテアーゼ切断配列を導入されているIgG様抗体分子の、プロテアーゼ処理の有無による活性化の程度の評価を示す図である。
【
図30A】重鎖にプロテアーゼ切断配列を導入されているIgG抗体様分子の、プロテアーゼ切断の評価を示す図である。
【
図30B】重鎖にプロテアーゼ切断配列を導入されているIgG抗体様分子の、プロテアーゼ切断の評価を示す図である。プロテアーゼによる切断をassay buffer(MMP Activity Assay Kit (Fluorometric - Green) (ab112146), Component C: Assay Buffer)を用いて実施した。
【
図31A】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図31B】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図31C】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図31D】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図31E】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図31F】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図31G】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図31H】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図31I】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図32A】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図32B】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図32C】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図33A】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図33B】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図33C】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図33D】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図33E】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図34A】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図34B】操作されたMRA抗体をプロテアーゼにより切断した結果を示す図である。
【
図35】ファージによってディスプレイされたVHHの、抗原への結合を示す図である。
【
図36】ADAMTS5処理後の、GRA0124cc-rbIgG抗体およびGRA1013hq-rIgG抗体による、ウサギ組換えアグリカン切断のパーセンテージ阻害を評価した結果を示す図である。
【
図37】ADAMTS5処理後の、GRA1013hq-rIgG抗体による、ヒト組換えアグリカン切断のパーセンテージ阻害を評価した結果を示す図である。
【
図38】ADAMTS5処理後の、GRA0124ccAE02-SG1抗体による、ウサギ組換えアグリカン切断のパーセンテージ阻害を評価した結果を示す図である。
【
図39】ADAMTS5処理後の、GRA0124ccAE02-SG1抗体による、ヒト組換えアグリカン切断のパーセンテージ阻害を評価した結果を示す図である。
【
図40A】低強度レーザーによる、24時間でのウサギ軟骨内への蛍光標識抗体の浸透の結果を示す。
【
図40B】高強度レーザーによる、24時間でのウサギ軟骨内への蛍光標識抗体の浸透の結果を示す。
【
図41】関節内投与後のウサギ関節液における、GRA0124ccAE02-rIgG008-Fab、GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2、GRA0124ccAE02-rIgG008、およびIC17dK-rIgG008の濃度-時間プロファイルを示す。
【
図42】関節内投与後のウサギ関節軟骨における、GRA0124ccAE02-rIgG008-Fab、GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2、GRA0124ccAE02-rIgG008、およびIC17dK-rIgG008の濃度-時間プロファイルを示す。
【
図43】関節内投与後のウサギ関節軟骨における、GRA0124ccAE02-rIgG008-Fab、GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2、GRA0124ccAE02-rIgG008、およびIC17dK-rIgG008の軟骨/関節液濃度比率を示す。
【
図44】関節内投与後のウサギ血漿における、GRA0124ccAE02-rIgG008-Fab、GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2、GRA0124ccAE02-rIgG008、およびIC17dK-rIgG008の濃度-時間プロファイルを示す。
【
図45】hA2R3p.038-G1mISHI01/VK1.39-k0MTおよびhA2R3p.038v1-G1mISHI01/VK1.39-k0MTのプロテアーゼ切断を示す。
【
図46】プロテアーゼ処理による、hA2R3p.038-G1mISHI01/VK1.39-k0MTおよびhA2R3p.038v1-G1mISHI01/VK1.39-k0MTの、ヒトアグリカンG1-IGD-G2ドメインに対する結合特性の変化を示す。
【
図47】軟骨を標的とするタンパク質治療の難しさを図示する。
【
図48】軟骨を標的とするタンパク質治療に対する、本発明のポリペプチドの利点を図示する。
【
図49】2つのドメイン、例えば、標的指向分子と、アゴニストまたはアンタゴニスト分子と、を有する本発明のポリペプチドの作用を図示する。
【
図50】軟骨における抗アグリカン抗体のFab濃度のグラフである。白抜きのバーは初期Fab濃度を表し、黒色バーはインキュベーション6日後のFab濃度を表す。
【
図51】抗アグリカン抗体のFab保持を示すグラフである。
【
図52】ウサギ軟骨外植片培養における、抗アグリカンVHHおよびネガティブコントロールVHHの取り込み量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
実施態様の説明
本発明は、軟骨組織に存在する分子に結合する抗原結合ドメインを含むポリペプチドに関する。本発明の抗体は、軟骨組織のより深部に浸透し、長期間にわたって軟骨組織中に保持することができる(実施例25)。抗軟骨抗体が、所望の薬物および/または機能的抗体自体を軟骨組織に送達するのに、かつ長期間にわたって軟骨中にそれらを保持するのに有用であることが示唆される。
【0045】
本発明はまた、(i)軟骨組織中の分子に結合する抗原結合ドメインと(ii)運搬部分とを含むポリペプチドにも関する。本発明のポリペプチドにおいて、運搬部分は、抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制する抑制ドメインを有する。一実施態様において、抗原結合ドメインは、運搬部分の半減期より短い血中半減期を有する。
【0046】
上記抗原結合ドメインを含むポリペプチドは、上記タンパク質が関与する疾患または障害を治療および/または予防するのに有用である。具体的には、本発明のポリペプチドは、アグリカン介在性の疾患または障害を治療および/または予防するのに有用である。そのような疾患または障害の例には、これらに限定されないが、変形性関節症(OA)、変形性関節症(OA)における軟骨分解、外傷性関節炎、変形椎間板症、顎関節症、および恥骨骨炎が挙げられる。一実施態様において、アグリカン介在性の疾患または障害はアグリカン関連疾患または障害である。
【0047】
本発明のポリペプチドは、疾患組織特異的に発現するプロテアーゼによって設計部位で切断することができる。抗原結合ドメインは、この切断によってポリペプチドから遊離される。そのような遊離抗原結合ドメインは、ドメインの分子量が小さいために、疾患組織の深部に浸透することができる。よって、本発明のポリペプチドは、軟骨組織などの疾患組織の深部に存在する抗原を標的とすることができる。
【0048】
具体的には、軟骨細胞は、II型コラーゲンおよびアグリカンが豊富な軟骨基質によって完全に囲まれている。十分な量の薬物分子を軟骨組織および軟骨細胞に送達するためには、薬物分子の特性を注意深く設計する必要がある。分子サイズがその関節軟骨内への浸透能に影響を与えることが知られている。本明細書の実施例24に示すように、本発明のポリペプチドに含まれる抗原結合ドメインは軟骨組織および軟骨細胞内に十分に浸透することができると考えられる。したがって、本発明のポリペプチドは、変形性関節症を含む骨組織における疾患または障害を治療および/または予防するのに有用である。
【0049】
本発明におけるポリペプチドとは、通常、4アミノ酸程度以上の長さを有するペプチド、およびタンパク質を指す。また、本発明におけるポリペプチドは通常、人工的に設計された配列からなるポリペプチドであるが、特に限定されず、例えば、生物由来のポリペプチドが使用されてもよい。また、本発明におけるポリペプチドは、天然ポリペプチド、あるいは合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等のいずれであってもよい。さらに、上記のポリペプチドの断片もまた、本発明のポリペプチドに含まれる。
【0050】
本明細書において、たとえば、Ala/A、Leu/L、Arg/R、Lys/K、Asn/N、Met/M、Asp/D、Phe/F、Cys/C、Pro/P、Gln/Q、Ser/S、Glu/E、Thr/T、Gly/G、Trp/W、His/H、Tyr/Y、Ile/I、またはVal/Vと表されるように、各アミノ酸は1文字コードまたは3文字コード、またはその両方で表記されている。特定の位置にあるアミノ酸を表現するために、特定の位置を表す数字とアミノ酸の1文字コードまたは3文字コードを併記した表現が適宜使用され得る。例えば、単ドメイン抗体に含まれるアミノ酸である37Vというアミノ酸は、Kabatナンバリングで規定される37位の位置にあるValを表す。
【0051】
ポリペプチドのアミノ酸配列中のアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))、またはOverlap extension PCR等の、当技術分野において公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法として、複数の、当技術分野において公知の方法もまた採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)に相補的なアンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等も好適に用いられる。本明細書においては、改変として置換が挙げられるがこれに限定されない。
【0052】
本明細書において、アミノ酸の改変部位を表す際に用いられる用語「および/または」は、「および」と「または」が適宜組み合わされたあらゆる組合せを含むよう意図される。具体的には、例えば、語句「37番、45番、および/または47番のアミノ酸が置換されている」には、以下のアミノ酸の改変のバリエーションが含まれる;
(a) 37番、(b)45番、(c)47番、(d) 37番および45番、(e) 37番および47番、(f) 45番および47番、ならびに(g) 37番および45番および47番。
【0053】
本明細書において、また、アミノ酸の改変を表す表現として、特定の位置を表す数字の前後に改変前と改変後のアミノ酸の1文字コードまたは3文字コードを併記した表現が適宜使用され得る。例えば、抗体可変領域または単ドメイン抗体に含まれるアミノ酸の置換のために用いられるF37VまたはPhe37Valという改変は、Kabatナンバリングで規定される37位のPheのValへの置換を表す。すなわち、数字はKabatナンバリングで規定されるアミノ酸の位置を表し、その数字の前のアミノ酸の1文字コード又は3文字コードは置換前のアミノ酸、その数字のあとのアミノ酸の1文字コードまたは3文字コードは置換後のアミノ酸を表す。同様に、抗体定常領域に含まれるFc領域にアミノ酸の置換のために用いられるP238AまたはPro238Alaという改変は、EUナンバリングで規定される238位のProのAlaへの置換を表す。すなわち、数字はEUナンバリングで規定されるアミノ酸の位置を表し、その数字の前のアミノ酸の1文字コードまたは3文字コードは置換前のアミノ酸、その数字のあとのアミノ酸の1文字コードまたは3文字コードは置換後のアミノ酸を表す。
【0054】
本明細書で用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、抗体が所望の抗原結合活性を示す限りは、それだけに限定されるものではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、単ドメイン抗体、および抗体断片を含む、種々の抗体構造を包含する。
【0055】
「抗体断片」は、完全抗体が結合する抗原に結合する当該完全抗体の一部分を含む、当該完全抗体以外の分子のことをいう。抗体断片の例は、それだけに限定されるものではないが、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2、ダイアボディ、線状抗体、単鎖抗体分子(例えば、scFv)、および抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。
【0056】
用語「全長抗体」、「完全抗体」、および「全部抗体」は、本明細書では相互に交換可能に用いられ、天然型抗体構造に実質的に類似した構造を有する、または本明細書で定義するFc領域を含む重鎖を有する抗体のことをいう。
【0057】
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体をその抗原へと結合させることに関与する、抗体の重鎖または軽鎖の領域またはドメインのことをいう。抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は、通常、構造的に類似しており、各ドメインは4つの保存されたフレームワーク領域 (FR) および3つの相補性決定領域 (CDR) を含む。(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007) 参照。)1つのVHまたはVLドメインで、抗原結合特異性を与えるに充分であろう。
【0058】
本明細書で用いられる用語「相補性決定領域」または「CDR」は、配列において超可変であり、および/または構造的に定まったループ(「超可変ループ」)を形成し、および/または抗原接触残基(「抗原接触部」)、あるいは抗体の可変ドメインの各領域のことをいう。通常、抗体は6つのCDRを含む:VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)である。本明細書での例示的なCDRは、以下のものを含む:
(a) アミノ酸残基26~32 (L1)、50~52 (L2)、91~96 (L3)、26~32 (H1)、53~55 (H2)、および96~101 (H3)のところで生じる超可変ループ (Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b) アミノ酸残基24~34 (L1)、50~56 (L2)、89~97 (L3)、31~35b (H1)、50~65 (H2)、 および95~102 (H3)のところで生じるCDR (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c) アミノ酸残基27c~36 (L1)、46~55 (L2)、89~96 (L3)、30~35b (H1)、47~58 (H2)、および93~101 (H3) のところで生じる抗原接触部(MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに、
(d) HVRアミノ酸残基46~56 (L2)、47~56 (L2)、48~56 (L2)、49~56 (L2)、26~35 (H1)、26~35b (H1)、49~65 (H2)、93~102 (H3)、および94~102 (H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組合せ。
別段示さない限り、CDR残基および可変ドメイン中の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書では上記のKabatらにしたがって番号付けされる。
【0059】
「フレームワーク」または「FR」は、相補性決定領域 (CDR) 残基以外の、可変ドメイン残基のことをいう。可変ドメインのFRは、4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。それに応じて、CDRおよびFRの配列は、通常次の順序でVH(またはVL)に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0060】
本明細書で用語「定常領域」または「定常ドメイン」は、抗体の可変領域以外の領域またはドメインのことをいう。例えば、IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖から構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、N末端からC末端に向かって、各重鎖は、可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域 (VH) を有し、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む重鎖定常領域(CH)が続く。同様に、N末端からC末端に向かって、各軽鎖は、可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域 (VL) を有し、それに定常軽鎖 (CL) ドメインが続く。天然型抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる、2つのタイプのうちの1つに帰属させられてもよい。
【0061】
本明細書で用語「Fc領域」は、少なくとも定常領域の一部分を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために用いられる。この用語は、天然型配列のFc領域および変異体Fc領域を含む。一実施態様において、ヒトIgG1の重鎖Fc領域は、Cys226から、またはPro230から、重鎖のカルボキシル末端まで延びる。ただし、Fc領域のC末端のリジン (Lys447) またはグリシン‐リジン(Gly446-Lys447)は、存在していてもしていなくてもよい。本明細書では別段特定しない限り、Fc領域または定常領域中のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD 1991 に記載の、EUナンバリングシステム(EUインデックスとも呼ばれる)にしたがう。
【0062】
抗体の「クラス」は、抗体の重鎖に備わる定常ドメインまたは定常領域のタイプのことをいう。抗体には5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMである。このクラスのうちいくつかはサブクラス(アイソタイプ)にさらに分けられてもよい。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2である。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインを、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ぶ。
【0063】
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生された抗体またはヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を用いる非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を備える抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒトの抗原結合残基を含むヒト化抗体を、明確に除外するものである。
【0064】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVLまたはVHフレームワーク配列の選択群において最も共通して生じるアミノ酸残基を示すフレームワークである。通常、ヒト免疫グロブリンVLまたはVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。通常、配列のサブグループは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 91-3242, Bethesda MD (1991), vols. 1-3におけるサブグループである。一態様において、VLについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループκIである。一態様において、VHについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループIIIである。
【0065】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基およびヒトFRからのアミノ酸残基を含む、キメラ抗体のことをいう。ある態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、当該可変領域においては、すべてのもしくは実質的にすべてのHVR(例えばCDR)は非ヒト抗体のものに対応し、かつ、すべてのもしくは実質的にすべてのFRはヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意で、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部分を含んでもよい。抗体(例えば、非ヒト抗体)の「ヒト化された形態」は、ヒト化を経た抗体のことをいう。
本明細書で用いられる用語「超可変領域」または「HVR」は、配列において超可変であり(「相補性決定領域」または「CDR」(complementarity determining region))、および/または構造的に定まったループ(「超可変ループ」)を形成し、および/または抗原接触残基(「抗原接触」)を含む、抗体の可変ドメインの各領域のことをいう。通常、抗体は6つのHVRを含む:VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)である。本明細書での例示的なHVRは、以下のものを含む:
(a) アミノ酸残基26-32 (L1)、50-52 (L2)、91-96 (L3)、26-32 (H1)、53-55 (H2)、および96-101 (H3)のところで生じる超可変ループ (Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b) アミノ酸残基24-34 (L1)、50-56 (L2)、89-97 (L3)、31-35b (H1)、50-65 (H2)、 および95-102 (H3)のところで生じるCDR (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c) アミノ酸残基27c-36 (L1)、46-55 (L2)、89-96 (L3)、30-35b (H1)、47-58 (H2)、および93-101 (H3) のところで生じる抗原接触 (MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに、
(d) HVRアミノ酸残基46-56 (L2)、47-56 (L2)、48-56 (L2)、49-56 (L2)、26-35 (H1)、26-35b (H1)、49-65 (H2)、93-102 (H3)、および94-102 (H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組合せ。
【0066】
本明細書でいう用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体のことをいう。すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、生じ得る変異抗体(例えば、自然に生じる変異を含む変異抗体、またはモノクローナル抗体調製物の製造中に発生する変異抗体。そのような変異体は通常若干量存在している。)を除いて、同一でありおよび/または同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。したがって、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られるものである、という抗体の特徴を示し、何らかの特定の方法による抗体の製造を求めるものと解釈されるべきではない。例えば、本発明にしたがって用いられるモノクローナル抗体は、これらに限定されるものではないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含んだトランスジェニック動物を利用する方法を含む、様々な手法によって作成されてもよい。
【0067】
「裸抗体」は、異種の部分(例えば、細胞傷害部分)または放射性標識にコンジュゲートされていない抗体のことをいう。裸抗体は、薬学的製剤中に存在していてもよい。
【0068】
「天然型抗体」は、天然に生じる様々な構造を伴う免疫グロブリン分子のことをいう。例えば、天然型IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖から構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に向かって、各重鎖は、可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域 (VH) を有し、それに3つの定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)が続く。同様に、N末端からC末端に向かって、各軽鎖は、可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域 (VL) を有し、それに定常軽鎖 (CL) ドメインが続く。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる、2つのタイプのうちの1つに帰属させられてもよい。
【0069】
用語「薬学的製剤」は、その中に含まれた有効成分の生物学的活性が効果を発揮し得るような形態にある調製物であって、かつ製剤が投与される被験体に許容できない程度に毒性のある追加の要素を含んでいない、調製物のことをいう。
【0070】
「薬学的に許容される担体」は、被験体に対して無毒な、薬学的製剤中の有効成分以外の成分のことをいう。薬学的に許容される担体は、これらに限定されるものではないが、緩衝液、賦形剤、安定化剤、または保存剤を含む。1つまたは複数の薬学的に許容される担体が、本発明の組成物に含まれ得る。
【0071】
用語「機能的に等価な」は、等価な機能を保持することを指す。一実施態様において、機能的に等価な抗体可変領域は、少なくとも1つの主要な機能特性、例えば、抗原に対する結合特異性を実質的に共有する。一実施態様において、2つの機能的に等価な抗体可変領域は、抗原について、互いに競合する。好ましい一実施態様において、等価な抗体可変領域は、抗原の実質的に同じエピトープに結合する。さらなるまたは代替の態様において、機能的に等価な抗体可変領域は、参照可変領域のCDRと、(可変領域に含まれる全てのCDRの総アミノ酸配列において)少なくとも75%以上、好ましくは80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上、または98%以上、または99%以上の配列同一性を有するCDRを含む。さらなるまたは代替の態様において、機能的に等価な抗体可変領域は、(可変領域に含まれる全てのCDRの総アミノ酸配列において)10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、1個以下、または1個のアミノ酸が参照可変領域のCDRとは異なっているCDRを含む。
【0072】
本明細書において、「抗原結合ドメイン」は目的とする抗原に結合することのみで制限される。抗原結合ドメインは、目的とする抗原に結合するかぎりどのような構造のドメインも使用され得る。そのようなドメインの例として、それだけに限定するものではないが、例えば、抗体重鎖可変領域(VH)および抗体軽鎖可変領域(VL)、単ドメイン抗体(sdAb)、アンタゴニスト、生体内に存在する細胞膜タンパクであるAvimerに含まれる35アミノ酸程度のAドメインと呼ばれるモジュール(国際公開WO2004/044011、WO2005/040229)、細胞膜に発現する糖タンパク質であるfibronectin由来の、タンパク質結合ドメインである10Fn3ドメインを含むAdnectin(国際公開WO2002/032925)、ProteinAの58アミノ酸から構成される3つのヘリックスの束(bundle)を構成するIgG結合ドメインスキャホールドを含む、Affibody(国際公開WO1995/001937)、33アミノ酸残基構造をそれぞれ有し、ターン、2つの逆並行ヘリックス、およびループのサブユニットが繰り返し積み重なったアンキリン反復(ankyrin repeat:AR)の、分子表面に露出する領域である、DARPins(Designed Ankyrin Repeat proteins)(国際公開WO2002/020565)、好中球ゲラチナーゼ結合リポカリン(neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL))等のリポカリン分子において高度に保存された、バレル構造の片側で中央方向にねじれた8つの逆並行ストランドに接続している4つのループ領域を有する、Anticalin等(国際公開WO2003/029462)、ヤツメウナギ、ヌタウナギなど無顎類の獲得免疫システムに見られる、イムノグロブリンの構造を有さない可変性リンパ球受容体(variable lymphocyte receptor(VLR))のロイシン残基に富んだリピート(leucine-rich-repeat(LRR))モジュールが構成する、馬てい形のおりたたみの内部の並行型シート構造のくぼんだ領域(国際公開WO2008/016854)が挙げられる。
【0073】
本発明の抗原結合ドメインの好適な例として、当該抗原結合ドメインのみで構成される分子で抗原結合機能を発揮出来る抗原結合ドメイン、連結されている他のペプチドから遊離した後に、それ単独で抗原結合機能を発揮できる抗原結合ドメインが挙げられる。そのような抗原結合ドメインの例として、それだけに限定されないが、単ドメイン抗体、scFv、Fv、Fab、Fab'、F(ab')2、およびアンタゴニストが挙げられる。
【0074】
本発明の抗原結合ドメインの好適な例の一つとして、分子量120kDa、100kDa、80kDa、60kDaまたはそれ以下の抗原結合ドメインが挙げられる。そのような抗原結合ドメインの例として、それだけに限定されないが、単ドメイン抗体、scFv、Fab、F(ab')2、およびアンタゴニストが挙げられる。分子量が60kDa以下である抗原結合ドメインは通常、単量体として血中に存在する時、腎臓によるクリアランスが発生する可能性が高い(J Biol Chem. 1988 Oct 15;263(29):15064-70参照)。1つの実施態様において、本明細書の実施例24および25に示されるように、分子量120kDa以下を有する抗原結合ドメインは、軟骨組織において、深く浸透するようである。
別の面から見て、本発明の抗原結合ドメインの好適な例の一つとして、血中半減期が12時間以下の抗原結合ドメインが挙げられる。そのような抗原結合ドメインの例として、それだけに限定されないが、単ドメイン抗体、scFv、Fab、Fab'、およびアンタゴニストが挙げられる。
【0075】
本発明の抗原結合ドメインの好適な例の一つとして、単ドメイン抗体(sdAb)およびアンタゴニストが挙げられる。
【0076】
本明細書で用語「単ドメイン抗体」は、それ単独でそのドメインが抗原結合活性を発揮できるかぎりその構造は限定されない。IgG抗体等で例示される通常の抗体は、VHとVLのペアリングにより可変領域を形成された状態では抗原結合活性を示すのに対し、単ドメイン抗体は他のドメインとペアリングすることなく、それ単独で単ドメイン抗体自身のドメイン構造が抗原結合活性を発揮できることが知られている。単ドメイン抗体は通常、比較的低分子量を有し、単量体の形態で存在する。
【0077】
単ドメイン抗体の例として、それだけに限定されないが、例えば、ラクダ科の動物のVHH、サメのVNARなどの、先天的に軽鎖を欠如する抗原結合分子、および抗体のVHドメインのすべてもしくは一部分または抗体のVLドメインのすべてもしくは一部分を含む抗体断片が挙げられる。抗体のVH/VLドメインのすべてもしくは一部分を含む抗体断片である単ドメイン抗体の例として、それだけに限定されないが、米国特許第6,248,516号B1等に記載されているようなヒト抗体VHまたはヒト抗体VLから出発して人工的に調製された単ドメイン抗体が挙げられる。本発明のいくつかの実施態様において、1つの単ドメイン抗体は3つのCDR(CDR1、CDR2及びCDR3)を有する。
【0078】
単ドメイン抗体は、単ドメイン抗体を産生できる動物から、または単ドメイン抗体を産生できる動物を免疫することにより取得し得る。単ドメイン抗体を産生できる動物の例として、それだけに限定されないが、ラクダ科動物、単ドメイン抗体を産生できる遺伝子が導入されている遺伝子導入動物(transgenic animals)が挙げられる。ラクダ科動物はラクダ、ラマ、アルパカ、ヒトコブラクダおよびグアナコ等を含む。単ドメイン抗体を産生できる遺伝子が導入されている遺伝子導入動物の例として、それだけに限定されないが、国際公開WO2015/143414号、米国特許公開US2011/0123527号A1に記載の遺伝子導入動物が挙げられる。動物から取得した単ドメイン抗体のフレームワーク配列をヒトジャームライン配列あるいはそれに類似した配列に転換することで、ヒト化した単ドメイン抗体を取得することも出来る。ヒト化した単ドメイン抗体(例えば、ヒト化VHH)はまた、本発明の単ドメイン抗体の一実施態様である。
【0079】
また、単ドメイン抗体は、単ドメイン抗体を含むポリペプチドライブラリから、ELISA、パニング等により取得し得る。単ドメイン抗体を含むポリペプチドライブラリの例として、それだけに限定されないが、各種動物若しくはヒトから取得したナイーブ抗体ライブラリ(例:Methods in Molecular Biology 2012 911 (65-78)、Biochimica et Biophysica Acta - Proteins and Proteomics 2006 1764:8 (1307-1319))、各種動物を免疫することで取得した抗体ライブラリ(例:Journal of Applied Microbiology 2014 117:2 (528-536))、および各種動物若しくはヒトの抗体遺伝子より調製した合成抗体ライブラリ(例:Journal of Biomolecular Screening 2016 21:1 (35-43)、Journal of Biological Chemistry 2016 291:24 (12641-12657)、AIDS 2016 30:11 (1691-1701))が挙げられる。
【0080】
一実施態様において、単ドメイン抗体のCDRおよびフレームワークの配列は通常以下の順で表される:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0081】
概して、本発明の単ドメイン抗体は、以下を含むポリペプチドとして定義することができる:
a)(Kabatナンバリングによる11番のアミノ酸残基がL、M、S、V、およびWからなる群より選択され、好ましくはLである)3つの相補性決定領域/配列によって遮られる4つのフレームワーク領域/配列で構成されるアミノ酸配列;および/または
b)(Kabatナンバリングによる37番のアミノ酸残基がF、Y、H、I、L、およびVからなる群より選択され、好ましくはFまたはYである)3つの相補性決定領域/配列によって遮られる4つのフレームワーク領域/配列で構成されるアミノ酸配列;および/または
c)(Kabatナンバリングによる44番のアミノ酸残基がG、E、A、D、Q、R、S、およびLからなる群より選択され、好ましくはG、E、またはQである)3つの相補性決定領域/配列によって遮られる4つのフレームワーク領域/配列で構成されるアミノ酸配列;および/または
d)(Kabatナンバリングによる45番のアミノ酸残基がL、R、C、I、L、P、Q、およびVからなる群より選択され、好ましくはLまたはRである)3つの相補性決定領域/配列によって遮られる4つのフレームワーク領域/配列で構成されるアミノ酸配列;および/または
e)(Kabatナンバリングによる47番のアミノ酸残基がW、L、F、A、G、I、M、R、S、V、およびYからなる群より選択され、好ましくはW、L、F、またはRである)3つの相補性決定領域/配列によって遮られる4つのフレームワーク領域/配列で構成されるアミノ酸配列;および/または
f)(Kabatナンバリングによる83番のアミノ酸残基がR、K、N、E、G、I、M、Q、およびTからなる群より選択され、好ましくはKまたはR、より好ましくはKである)3つの相補性決定領域/配列によって遮られる4つのフレームワーク領域/配列で構成されるアミノ酸配列;および/または
g)(Kabatナンバリングによる84番のアミノ酸残基がP、A、L、R、S、T、D、およびVからなる群より選択され、好ましくはPである)3つの相補性決定領域/配列によって遮られる4つのフレームワーク領域/配列で構成されるアミノ酸配列;および/または
h)(Kabatナンバリングによる103番のアミノ酸残基がW、P、R、およびSからなる群より選択され、好ましくはWである)3つの相補性決定領域/配列によって遮られる4つのフレームワーク領域/配列で構成されるアミノ酸配列;および/または
i)(Kabatナンバリングによる104番のアミノ酸残基がGまたはDであり、好ましくはGである)3つの相補性決定領域/配列によって遮られる4つのフレームワーク領域/配列で構成されるアミノ酸配列;および/または
j)(Kabatナンバリングによる108番のアミノ酸残基がQ、L、およびRからなる群より選択され、好ましくはQまたはLである)3つの相補性決定領域/配列によって遮られる4つのフレームワーク領域/配列で構成されるアミノ酸配列。
【0082】
より具体的には、一実施態様において、本発明の単ドメイン抗体は、下記のk)~m)からなる群より選択される3つの相補性決定領域/配列によって遮られる4つのフレームワーク領域/配列で構成されるアミノ酸配列を含むポリペプチドとして定義することができる:
k)Kabatナンバリングによる43番~46番のアミノ酸残基がKERE(配列番号:540)またはKQRE(配列番号:541)である、
l)Kabatナンバリングによる44番~47番のアミノ酸残基がGLEW(配列番号:542)である、および
m)Kabatナンバリングによる83番~84番のアミノ酸残基がKPまたはEPである。
【0083】
一実施態様において、本明細書における「ヒト化単ドメイン抗体」は、非ヒトのCDRおよびヒトフレームワークからのアミノ酸残基を含むキメラ単ドメイン抗体を指す。一実施態様において、ヒト化単ドメイン抗体において、全てのまたは実質的に全てのCDRは非ヒト抗体のものに対応され得、全てのまたは実質的に全てのフレームワークはヒト抗体のものに対応され得る。ヒト化抗体において、フレームワーク中のアミノ酸残基の一部がヒト抗体のものに対応し得ない場合、実質的に全てのフレームワークがヒト抗体のものに対応され得ると考えられる。例えば、単ドメイン抗体の一実施態様としてVHHがヒト化される場合、フレームワーク中のアミノ酸残基の一部は、ヒト抗体のものに対応しないアミノ酸残基に変換されることが必要とされる(C Vincke, etc., The Journal of Biological Chemistry 284, 3273-3284)。
【0084】
本発明の一実施態様において、単ドメイン抗体は好ましくは、VHH、それ単独で抗原結合活性を有するVH、またはそれ単独で抗原結合活性を有するVLである。本明細書において、別の面から見て、「それ単独で抗原結合活性を有するVH」および「それ単独で抗原結合活性を有するVL」はそれぞれ、「VHから調製された単ドメイン抗体」および「VLから調製された単ドメイン抗体」としても定義することができる。
【0085】
一実施態様において、本発明の抗原結合ドメインは軟骨組織に存在する分子に結合してもよい。さらに、一実施態様において、本発明の抗原結合ドメインは、単ドメイン抗体またはアンタゴニストであってもよい。さらに、一実施態様において、単ドメイン抗体は、VHH、それ単独で抗原結合活性を有するVH、またはそれ単独で抗原結合活性を有するVLであってもよい。したがって、一実施態様において、本発明の抗原結合ドメインは、軟骨組織に存在する分子に結合するかまたはそれを認識し得る、VHH、それ単独で抗原結合活性を有するVH、またはそれ単独で抗原結合活性を有するVLであってもよい。
【0086】
本明細書において、「抗原」は、抗原結合ドメインが結合するエピトープを含むことのみで制限される。抗原の好適な例として、それだけに限定されないが、動物またはヒト由来のペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質が挙げられる。標的組織に起因する疾患を治療するために用いられる抗原の好適な例として、それだけに限定されないが、標的細胞(例:癌細胞および炎症細胞)の表面に発現する分子、標的細胞を含む組織中の他の細胞表面に発現する分子、標的細胞と標的細胞を含む組織に対して免疫学的役割を持つ細胞の表面に発現する分子、ならびに標的細胞を含む組織の間質中に存在する大分子が挙げられる。
【0087】
一実施態様において、抗原は、任意の動物種(例えば、ヒト;または非ヒト動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、サル、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ウマ、ブタ、ウシ、またはラクダ)、または任意の鳥類に由来してもよく;抗原は好ましくは、ヒト、サル、ウサギ、ラット、またはマウスに由来する。
【0088】
本発明のポリペプチドは、軟骨組織に存在する分子に結合する抗原結合ドメインを含む。
【0089】
本発明において、軟骨組織に存在する任意の分子は、本発明で用いられる抗原として例示することができる。ある実施態様において、軟骨組織中でより長い半減期を有する分子は、抗原として好ましい。本明細書において、分子の「半減期」は、組織中に存在する分子の数を半分にまで減少させるのに必要とされる時間を指す。一般に、生体中の組織は恒常性制御下で維持され、組織中の分子の数はほぼ一定に維持される。したがって、組織中の分子の「半減期」の時間は、組織中の既存の分子の半分が代謝によって新たな同じ分子と交換されるのにかかる時間を意味する。一実施態様において、本発明において抗原として用いられる軟骨組織中の分子の半減期は、1ヶ月以上である。好ましくは、分子の半減期は、2ヶ月以上、3ヶ月以上、4ヶ月以上、5ヶ月以上、6ヶ月以上、8ヶ月以上、10ヶ月以上、12ヶ月以上、1年以上、2年以上、3年以上、または5年以上である。
【0090】
一実施態様において、軟骨組織に存在する抗原として用いられる分子の量は、該組織において相対的に高い。本明細書において、分子の「相対量」は、該組織の単位重量当たりの分子の重量を指す。相対量は、%湿重量で決定することができる。例えば、本発明において抗原として用いられる軟骨組織中の分子の%湿重量は、1%以上である。好ましくは、分子の相対量は、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、8%以上、10%以上、12%以上、15%以上、20%以上、または25%以上である。%湿重量を決定する方法の例としては、これらに限定されないが、ジメチルメチレンブルーアッセイ、ヒドロキシプロリンアッセイ、質量分析、およびELISAが挙げられる。
【0091】
一実施態様において、軟骨組織に存在する抗原としてここで用いられる分子の量は、これらに限定されないが、コラーゲン、プロテオグリカン、糖タンパク質、糖鎖、または他のタンパク質であり得る。
【0092】
本明細書において、コラーゲンは、これらに限定されないが、II型コラーゲン(線維性コラーゲン)、III型コラーゲン(線維性コラーゲン)、IV型コラーゲン、V型コラーゲン(線維性コラーゲン)、VI型コラーゲン、IX型コラーゲン、X型コラーゲン、XI型コラーゲン(線維性コラーゲン)、XII型コラーゲン、XIV型コラーゲン、XVI型コラーゲン、XXII型コラーゲン、XXIV型コラーゲン(線維性コラーゲン)、およびXXVII型コラーゲン(線維性コラーゲン)を含む、任意の種類のコラーゲンであり得る。
【0093】
プロテオグリカンは、これらに限定されないが、アグリカン、バーシカン、パールカン、シンデカン、ラブリシン、リンクタンパク質、およびスモールロイシンリッチリピートプロテオグリカンを含む、任意の種類のプロテオグリカンであり得る。プロテオグリカンにはまた、デコリン、バイグリカン、アスポリン、フィブロモジュリン、ルミカン、ケラトカン、オステオアドヘリン、プロリン/アルギニンリッチ末端ロイシンリッチ反復タンパク質、エピフィカン、ミメカン、オプチシン、コンドロアドヘリン、およびコンドロアドヘリン様も含まれる。
【0094】
本発明において抗原として用いられる軟骨組織中の分子には、アグリカン、バーシカン、パールカン、シンデカン、およびラブリシンからなる群より選択されるプロテオグリカンに連結されたタンパク質がさらに含まれる。
【0095】
本発明において抗原として用いられる軟骨組織中の分子はまた、糖鎖であり得る。糖鎖には、これらに限定されないが、ヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン硫酸(CS)、ケラタン硫酸(KS)、およびデルマタン硫酸(DS)が含まれる。
【0096】
本発明において抗原として用いられる軟骨組織中の分子はまた、軟骨組織に存在する細胞外マトリックスであり得る。そのような細胞外マトリックスには、これらに限定されないが、トロンボスポンジン、マトリリン、WARP、UCMA、CILP、フィブロネクチン、ラミン、およびニドゲンを含む、任意の種類の細胞外マトリックスが含まれる。アグリカンおよびコラーゲンは、本発明において抗原として用いられる細胞外マトリックスの好ましい例である。最も好ましくは、アグリカンが抗原として用いられる。
【0097】
アグリカンのNCBI(国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)、米国国立医学図書館(U.S. National Library of Medicine))データベースアクセッション番号を以下に示す:
・ヒトアグリカン、アイソフォーム2:核酸配列 NM_013227.3、アミノ酸配列 NP_037359.3
・ヒトアグリカン、アイソフォーム1:核酸配列 NM_001135.3、アミノ酸配列 NP_001126.3
・マウスアグリカン、アイソフォーム2:核酸配列 NM_007424.3、アミノ酸配列 NP_031450.2
・マウスアグリカン、アイソフォーム1:核酸配列 NM_001361500.1、アミノ酸配列 NP_001348429.1。
本発明において、アグリカンには、アグリカンの任意のアイソフォーム、多型、およびバリアント(アレルバリアントおよびスプライシングバリアントを含む)が含まれる。
【0098】
本発明の抗原結合ドメインは、上記のような分子に結合する活性を有する。そのような結合ドメインは、当技術分野における従来の技術を用いることによって調製することができる。例えば、標的抗原に対する抗原結合ドメインは、抗原に対する抗体を産生させる動物に抗原を免疫して調製することができる。
【0099】
本発明の抗原結合ドメインは、上記のような分子に結合する任意の結合ドメインを包含する。そのような抗原結合ドメインは、上記のような分子に結合する抗体の結合ドメインを包含する。本発明の抗原結合ドメインは、上記のような分子に結合する抗体と、エピトープへの結合について競合する結合ドメインをさらに包含する。例えば、本発明の抗原結合ドメインは、以下に記載される抗体と、結合について競合する:
1)配列番号:512のVH配列および配列番号:513のVL配列を含む抗体、
2)配列番号:514のVH配列および配列番号:515のVL配列を含む抗体、および
3)配列番号:516のVH配列および配列番号:517のVL配列を含む抗体。
【0100】
本発明の抗原結合ドメインはまた、アグリカン内のエピトープに結合する結合ドメインであってもよく、該抗原結合ドメインは、下記の1)~3)からなる群より選択される抗体と、エピトープへの結合について競合する:
1)配列番号:512のVH配列および配列番号:513のVL配列を含む抗体、
2)配列番号:514のVH配列および配列番号:515のVL配列を含む抗体、および
3)配列番号:516のVH配列および配列番号:517のVL配列を含む抗体。
【0101】
一実施態様において、本発明の抗原結合ドメインはまた、
配列番号:509に記載のアミノ酸配列の377番~386番のアミノ酸内のエピトープに結合し、かつ、下記1)からなる群より選択される抗体と、エピトープへの結合について競合する
結合ドメインであってもよい:
1)配列番号:512のVH配列および配列番号:513のVL配列を含む抗体。
【0102】
一実施態様において、本発明の抗原結合ドメインはまた、
配列番号:509に記載のアミノ酸配列の48番~673番のアミノ酸内のエピトープに結合し、かつ、下記1)からなる群より選択される抗体と、エピトープへの結合について競合する
結合ドメインであってもよい:
1)配列番号:514のVH配列および配列番号:515のVL配列を含む抗体。
【0103】
一実施態様において、本発明の抗原結合ドメインはまた、
配列番号:509に記載のアミノ酸配列の48番~673番のアミノ酸内のエピトープに結合し、かつ、下記1)からなる群より選択される抗体と、エピトープへの結合について競合する
結合ドメインであってもよい:
1)配列番号:516のVH配列および配列番号:517のVL配列を含む抗体。
【0104】
抗原結合ドメイン間の競合は、交叉ブロッキングアッセイ等によって検出することができる。競合はまた、ELISA(競合ELISAアッセイ)、蛍光エネルギー移動法(fluorescence energy transfer method:FRET)、および蛍光微量アッセイ技術(fluorometric microvolume assay technology:FMAT(登録商標))などの手段を用いる競合結合アッセイによっても評価することができる。結合の競合はまた、上記のELISAまたはFACSに加えて、放射性標識抗原結合測定法(radiolabeled antigen binding assay:RIA)、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイ、電気化学発光法等の使用によって確認することもできる。競合アッセイの実施態様はまた、本明細書において以下にも詳細に記載される。
【0105】
本発明において、結合についての競合レベルは、競合物質の非存在下で実施される対照試験で得られた結合活性と比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20~50%、より好ましくは少なくとも50%であり得る。互いに競合する抗原結合ドメインは、同じまたは重複するエピトープを有する抗原結合ドメインを指す。互いに高度に競合する抗原結合ドメインは、実質的に同じエピトープを有する抗原結合ドメインを指す。そのような抗原結合ドメインのブロッキングレベルは、例えば、40%以上または45%以上である。
【0106】
一実施態様において、本発明の抗原結合ドメインは、下記のアミノ酸配列のいずれか1つを含むポリペプチドに結合する結合ドメインである:
1)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の382番~403番のアミノ酸、
2)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1669番~1690番のアミノ酸、
3)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1838番~1859番のアミノ酸、
4)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の1943番~1964番のアミノ酸、
5)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2043番~2064番のアミノ酸、および
6)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の2221番~2242番のアミノ酸。
【0107】
一実施態様において、本発明の抗原結合ドメインは、下記のアミノ酸配列のいずれか1つを含むポリペプチドに結合する結合ドメインである:
1)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の350番~371番、393番~414番、450番~471番、666番~687番、689番~710番、943番~964番、981番~1002番、1000番~1021番、1019番~1040番、1038番~1059番、1057番~1078番、1076番~1097番、1095番~1116番、1114番~1135番、1133番~1154番、1152番~1173番、1171番~1192番、1190番~1211番、1209番~1230番、1228番~1249番、1247番~1268番、1266番~1287番、1285番~1306番、1304番~1325番、1323番~1344番、1342番~1363番、1361番~1382番、1380番~1401番、1399番~1420番、1437番~1458番、1476番~1497番、1514番~1535番、または1575番~1596のアミノ酸。
【0108】
一実施態様において、本発明の抗原結合ドメインは、アグリカン内のエピトープに結合する結合ドメインであり、該抗原結合ドメインは、エピトープへの結合について下記の抗体と競合する:
1)MAB1220(R&D SYSTEMS、モノクローナルマウスIgG2Bクローン#179509)。
【0109】
一実施態様において、本発明の抗原結合ドメインは、アグリカン内のエピトープに結合する結合ドメインであり、該抗原結合ドメインは、下記1)からなる群より選択されるポリペプチド内のエピトープへの結合について競合する:
1)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の48番~673番(G1-IGD-G2ドメイン)のアミノ酸。
【0110】
一実施態様において、本発明の抗原結合ドメインは、(a)配列番号:512または514のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列、および/または(b)配列番号:513または515のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む結合ドメインである。
【0111】
一実施態様において、本発明の抗原結合ドメインは、(a)配列番号:516のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列、および/または(b)配列番号:517のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む結合ドメインである。
【0112】
一実施態様において、本発明の抗原結合ドメインは、下記1)~3)から選択される、H鎖CDR1、CDR2、およびCDR3とL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3との組み合わせのいずれか1つを含む、またはそれと機能的に等価な抗体可変領域のH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3とL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3との組み合わせのいずれか1つを含む:
1)前記抗体可変領域に含まれるH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:512に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり;かつ前記抗体可変領域に含まれるL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:513に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一である;
2)前記抗体可変領域に含まれるH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:514に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり;かつ前記抗体可変領域に含まれるL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:515に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一である;および
3)前記抗体可変領域に含まれるH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:516に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり;かつ前記抗体可変領域に含まれるL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:517に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一である。
【0113】
一実施態様において、本発明の抗原結合ドメインは、下記1)~3)から選択される抗体可変領域またはそれと機能的に等価な抗体可変領域の、H鎖CDR1、CDR2、およびCDR3とL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3との組み合わせのいずれか1つを含む:
1)配列番号:512のアミノ酸配列を含む抗体H鎖可変領域;および配列番号:513のアミノ酸配列を含む抗体L鎖可変領域;
2)配列番号:514のアミノ酸配列を含む抗体H鎖可変領域;および配列番号:515のアミノ酸配列を含む抗体L鎖可変領域;および
3)配列番号:516のアミノ酸配列を含む抗体H鎖可変領域;および配列番号:517のアミノ酸配列を含む抗体L鎖可変領域。
【0114】
一実施態様において、抗原は、これらに限定されないが、ADAMTS4、ADAMTS5、およびMMP-13などのプロテアーゼであり得る。一実施態様において、抗原はプロテアーゼであり、かつ結合ドメインはプロテアーゼに結合し、それによってその活性を抑制する。一実施態様において、抗原結合ドメインは、ADAMTS4、ADAMTS5、またはMMP-13に結合する。一実施態様において、結合ドメインは、ADAMTS4、ADAMTS5、またはMMP-13に結合し、それによってそのプロテアーゼ活性を抑制する。具体的な一実施態様において、結合ドメインは、ADAMTS4、ADAMTS5、またはMMP-13に結合し、それによってアグリカンの切断を抑制する。
【0115】
別の実施態様において、抗原結合ドメインは、抗原のタンパク質切断サイトに結合し、それによってプロテアーゼによる抗原の切断を抑制する。一実施態様において、抗原結合ドメインは、ADAMTS4、ADAMTS5、またはMMP-13による抗原の切断を抑制する。具体的な一実施態様において、抗原結合ドメインは、アグリカンに結合し、ADAMTS4、ADAMTS5、またはMMP-13などのプロテアーゼによるアグリカンの切断を抑制する。
【0116】
本発明の抗原結合ドメインは、抗原内のエピトープを認識してもよく、あるいはこれに結合してもよい。抗原中に存在する抗原決定基を意味するエピトープは、本明細書において開示される抗原結合ドメインが結合する抗原上の部位を意味する。よって、例えば、エピトープは、その構造によって定義され得る。また、当該エピトープを認識する抗原結合ドメイン中の抗原に対する結合活性によっても当該エピトープが定義され得る。抗原がペプチド又はポリペプチドである場合には、エピトープを構成するアミノ酸残基によってエピトープを特定することも可能である。また、エピトープが糖鎖である場合には、特定の糖鎖構造によってエピトープを特定することも可能である。
【0117】
線状エピトープは、アミノ酸一次配列が認識されたエピトープを含むエピトープである。線状エピトープには、典型的には、少なくとも3個、および最も普通には少なくとも5個、例えば約8個~約10個、または6個~20個のアミノ酸が固有の配列において含まれる。
【0118】
立体エピトープは、線状エピトープとは対照的に、認識されるエピトープの単一の規定成分以外の成分がアミノ酸の一次配列に含まれるエピトープ(例えば、アミノ酸の一次配列が、必ずしもエピトープを決定する抗体により認識されないエピトープ)である。立体エピトープは、線状エピトープと比べて増加した数のアミノ酸を包含する場合がある。立体エピトープの認識に関して、抗原結合ドメインは、ペプチドまたはタンパク質の三次元構造を認識する。例えば、タンパク質分子が折り畳まれて三次元構造を形成する場合には、立体エピトープを形成するあるアミノ酸および/またはポリペプチド主鎖は、並列となり、抗体がエピトープを認識するのを可能にする。エピトープの立体構造を決定する方法には、X線結晶学、二次元核磁気共鳴分光学並びに部位特異的なスピン標識および電磁常磁性共鳴分光学が含まれるが、これらには限定されない。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology (1996)、第66巻、Morris(編)を参照。
【0119】
エピトープに結合する抗原結合ドメインの構造はパラトープと呼ばれる。エピトープとパラトープの間に作用する、水素結合、静電気力、ファンデルワールス力、疎水結合等により、エピトープとパラトープは安定して結合する。このエピトープとパラトープの間の結合力はアフィニティ(affinity)と呼ばれる。複数の抗原に対して複数の抗原結合ドメインが結合するときの結合力の総和はアビディティ(avidity)と呼ばれる。例えば、複数の抗原結合ドメインを含む抗体(すなわち多価の抗体)が複数のエピトープに結合する際には、アフィニティが相乗的に働くため、アビディティはアフィニティよりも高くなる。
【0120】
特定の実施態様において、本明細書で提供される抗原結合ドメインは、1μM以下、100nM以下、10nM以下、1nM以下、0.1nM以下、0.01nM以下、または0.001nM以下(例えば、10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13M)の解離定数 (Kd) を有する。
【0121】
特定の実施態様において、本明細書において提供されるポリペプチド、抗原結合ドメイン、抗体、VHH、Fab等は6を超えるpIを有し得る。特定の実施態様において、抗原結合ドメインは、7を上回る、例えば、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0またはさらにそれ以上、例えば、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9.0またはさらにそれ以上、例えば、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.7、9.8、または9.9のpIを有し得る。
ある実施態様において、本発明の抗体のpIは、Maurice(proteinsimple)によって測定することができる。さらなる実施態様において、本発明の抗体のpIは、Skoog, B. and Wichman, A. 1986. Calculation of the isoelectric points of polypeptides from the amino acid composition.trends in analytical chemistry, vol.5, No.4に記載の方法によって計算することができる。
【0122】
以下にIL-6Rに対する抗原結合ドメイン、または抗原結合ドメインを含むポリペプチドによるエピトープへの結合を確認する方法が例示されるが、IL-6R以外の抗原(例として、それだけに限定されないが、コラーゲン、プロテオグリカン、より具体的には、アグリカン、グリコプロテイン、糖鎖、および/または他のタンパク質)に対する抗原結合ドメイン、または抗原結合ドメインを含むポリペプチドによるエピトープへの結合を確認する方法も以下の例示に準じて適宜実施され得る。
【0123】
例えば、IL-6Rに対する抗原結合ドメインが、IL-6R分子中に存在する線状エピトープを認識するかどうかは、たとえば次のようにして確認することができる。上記の目的のためにIL-6Rの細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列を含む線状のペプチドが合成される。当該ペプチドは、化学的に合成され得る。あるいは、当該ペプチドは、IL-6RのcDNA中の、細胞外ドメインに相当するアミノ酸配列をコードする領域を利用して、遺伝子工学的手法により得られる。次に、IL-6Rに対する抗原結合ドメインの、細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列を含む線状ペプチドに対するその結合活性が評価される。たとえば、抗原として固定化された線状ペプチドを用いるELISAによって、当該ペプチドに対する当該抗原結合ドメインの結合活性が評価され得る。あるいは、IL-6R発現細胞に対して線状ペプチドが当該抗原結合ドメインの結合を阻害するレベルに基づいて、線状ペプチドに対する結合活性が測定され得る。これらの試験によって、線状ペプチドに対する当該抗原結合ドメインの結合活性が測定され得る。
【0124】
ある実施態様において、本発明の抗原結合ドメインはアグリカンのエピトープに結合し得る。抗原中のエピトープ配列は、当業者に周知のエピトープ分析技術によって入手することができる。ある実施態様において、本発明のエピトープは、アグリカンのG1-IGD-G2ドメイン内に存在し得る。さらに、ある実施態様において、本発明のエピトープは、アグリカンのタンパク質切断サイトに位置し得る。
【0125】
また、IL-6Rに対する抗原結合ドメインが立体エピトープを認識するかどうかは、次のようにして確認され得る。上記の目的のために、IL-6Rを発現する細胞が調製される。例えば、IL-6Rに対する抗原結合ドメインがIL-6R発現細胞に接触した際に当該細胞に強く結合する場合には、IL-6Rに対する抗原結合ドメインによる立体エピトープの認識が確認される。一方で、当該抗原結合ドメインは、IL-6Rの細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列を含む固定化された線状ペプチドに対して、または当該抗原結合ドメインは、(グアニジン等の一般的な変性剤を用いて)変性されたIL-6Rの細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列を含む線状ペプチドに対して、実質的に結合しない。この文脈において、実質的に結合しないとは、ヒトIL-6R発現細胞に対する結合活性の80%以下、通常50%以下、好ましくは30%以下、特に好ましくは15%以下の結合活性を意味する。
【0126】
また、抗原結合ドメインの抗原結合活性を確認する方法として、例えば、放射性標識抗原結合測定法 (radiolabeled antigen binding assay: RIA) によってKd値を測定する方法も挙げられる。一実施態様において、RIAは、目的の抗原結合ドメインおよびその抗原を用いて実施される。例えば、抗原に対する抗原結合ドメインの溶液中での結合アフィニティは、非標識抗原の漸増量系列の存在下で最小濃度の (125I) 標識抗原により抗原結合ドメインを平衡化させ、次いで結合した抗原を抗原結合ドメインでコーティングされたプレートにより捕捉することによって測定される(例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881(1999) を参照のこと)。
【0127】
別の実施態様によれば、Kdは、BIACORE(登録商標)を用いた表面プラズモン共鳴法で測定される。例えば、BIACORE(登録商標)-2000またはBIACORE(登録商標)-3000 (BIAcore, Inc., Piscataway, NJ) を用いる測定法が、およそ10反応単位 (response unit: RU) の抗原が固定されたCM5チップを用いて25℃で実施される。一実施態様において、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ (CM5、BIACORE, Inc.) は、供給元の指示にしたがいN-エチル-N'- (3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミドヒドロクロリド (EDC) およびN-ヒドロキシスクシンイミド (NHS) を用いて活性化される。抗原は、およそ10反応単位 (RU) のタンパク質の結合を達成するよう、5μl/分の流速で注入される前に、10mM酢酸ナトリウム (pH4.8) を用いて5μg/ml(およそ0.2μM)に希釈される。抗原の注入後、未反応基をブロックするために1Mエタノールアミンが注入される。キネティクスの測定のために、25℃、およそ25μl/分の流速で、界面活性剤として0.05%ポリソルベート20(TWEEN-20(商標))を含有するPBS (PBST) 中の、抗原結合ドメインの2倍段階希釈物 (0.78nM~500nM) が注入される。結合速度 (kon) および解離速度 (koff) は、単純な1対1ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)評価ソフトウェアバージョン3.2)を用いて、結合および解離のセンサーグラムを同時にフィッティングすることによって計算される。平衡解離定数 (Kd) は、koff/kon比として計算される。さらに、平衡法解析を用いることで、見かけの解離定数(Kd)を求めることも可能である。これらの方法はBIACORE(登録商標)に付属されているプロトコルを参照のこと。例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881 (1999)およびMethods Enzymol. 2000;323:325-40.を参照のこと。また、表面プラズモン共鳴アッセイにおいて、固相化するタンパク質量、反応に用いるタンパク質量、温度、および溶液組成は当業者であればいかようにも変えられる。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによってオン速度が106M-1s-1を超える場合、オン速度は、分光計(例えばストップフロー式分光光度計 (Aviv Instruments, Inc.) または撹拌キュベットを用いる8000シリーズのSLM-AMINCO(商標)分光光度計 (ThermoSpectronic/Thermo Fisher Scientific Inc.)において測定される、漸増濃度の抗原の存在下でのPBS (pH7.2) 中20nMの抗原結合ドメインの25℃での蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、バンドパス:16nm)の増加または減少を測定する蛍光消光技術を用いることによって決定され得る。
【0128】
更に、抗原結合ドメインの抗原結合活性は、電気化学発光法等、既知の分子間相互作用の測定方法でも測定し得る。
【0129】
IL-6Rに対する抗原結合ドメインの、IL-6R発現細胞に対する結合活性を測定する方法としては、例えば、Antibodies: A Laboratory Manualに記載の方法(Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988) 359-420)が挙げられる。即ち結合活性は、IL-6R発現細胞を抗原として用いるELISAまたはFACS(fluorescence activated cell sorting)の原理に基づいて評価され得る。
【0130】
ELISAフォーマットにおいて、IL-6Rに対する抗原結合ドメインの、IL-6R発現細胞に対する結合活性は、酵素反応によって生成するシグナルレベルを比較することによって定量的に評価される。すなわち、IL-6R発現細胞を固定化したELISAプレートに被験ポリペプチド会合体を加え、細胞に結合した被験抗原結合ドメインが、被験抗原結合ドメインを認識する酵素標識抗体を使用して検出される。あるいはFACSにおいては、被験抗原結合ドメインの希釈系列を調製し、IL-6R発現細胞に対する抗体結合力価(titer)を決定することにより、IL-6R発現細胞に対する被験抗原結合ドメインの結合活性が比較され得る。
【0131】
緩衝液等に懸濁した細胞表面上に発現している抗原に対する被験抗原結合ドメインの結合は、フローサイトメーターを使用することによって検出することができる。フローサイトメーターとしては、例えば、次のような装置が知られている。
FACSCantoTM II
FACSAriaTM
FACSArrayTM
FACSVantageTM SE
FACSCaliburTM (いずれもBD Biosciencesの商品名)
EPICS ALTRA HyPerSort
Cytomics FC 500
EPICS XL-MCL ADC EPICS XL ADC
Cell Lab Quanta / Cell Lab Quanta SC(いずれもBeckman Coulter Inc.の商品名)
【0132】
例えば、IL-6Rに対する抗原結合ドメインの抗原結合活性の測定の好適な方法の一例として、次の方法が挙げられる。まず、被験抗原結合ドメインと反応させたIL-6Rを発現する細胞を、被験抗原結合ドメインを認識するFITC標識した二次抗体で染色する。被験抗原結合ドメインを適宜好適な緩衝液によって希釈することによって、当該抗原結合ドメインが所望の濃度に調製して用いられる。抗原結合ドメインは、例えば、10μg/mlから10 ng/mlまでのいずれかの濃度で使用され得る。次に、FACSCalibur(Becton, Dickinson and Company)を用いて、蛍光強度と細胞数が測定される。当該細胞に対する抗原結合ドメインの結合量は、CELL QUEST Software(Becton, Dickinson and Company)を用いて解析することにより得られた蛍光強度、すなわち幾何平均(Geometric Mean)の値に反映される。すなわち、当該Geometric Meanの値を得ることにより、被験抗原結合ドメインの結合量によって表される被験抗原結合ドメインの結合活性が測定され得る。
【0133】
IL-6Rに対する抗原結合ドメインが、ある抗原結合ドメインとエピトープを共有するかどうかは、同じエピトープに対するこれらの抗原結合ドメイン間の競合によって確認され得る。抗原結合ドメイン間の競合は、交叉ブロッキングアッセイなどによって検出される。例えば競合ELISAアッセイは、好ましい交叉ブロッキングアッセイである。
【0134】
具体的には、交叉ブロッキングアッセイにおいては、マイクロタイタープレートのウェル上にコートしたIL-6Rタンパク質が、候補となる競合抗原結合ドメインの存在下、または非存在下でプレインキュベートされた後に、被験抗原結合ドメインが添加される。ウェル中のIL-6Rタンパク質に結合した被験抗原結合ドメインの量は、同じエピトープへの結合に対して競合する候補となる競合抗原結合ドメインの結合能に間接的に相関している。すなわち同一エピトープに対する競合抗原結合ドメインの親和性が大きくなればなる程、被験抗原結合ドメインのIL-6Rタンパク質をコートしたウェルへの結合活性は低下する。
【0135】
IL-6Rタンパク質を介してウェルに結合した被験抗原結合ドメインの量は、予め抗原結合ドメインを標識しておくことによって、容易に測定され得る。たとえば、ビオチン標識された抗原結合ドメインは、アビジンペルオキシダーゼコンジュゲートと適切な基質を使用することにより測定される。ペルオキシダーゼなどの酵素標識を利用した交叉ブロッキングアッセイは、特に競合ELISAアッセイといわれる。抗原結合ドメインは、検出あるいは測定が可能な他の標識物質で標識され得る。具体的には、放射標識、蛍光標識などが当技術分野において公知である。
【0136】
候補の競合抗原結合ドメイン会合体の非存在下で実施されるコントロール試験において得られる結合活性と比較して、競合抗原結合ドメインが、IL-6Rに対する抗原結合ドメインの結合を少なくとも20%、好ましくは少なくとも20~50%、さらに好ましくは少なくとも50%ブロックできるならば、当該被験抗原結合ドメインは、競合抗原結合ドメインと実質的に同じエピトープに結合するか又は同じエピトープへの結合に対して競合する、抗原結合ドメインである、と決定される。
【0137】
IL-6Rに対する抗原結合ドメインが結合するエピトープの構造が同定されている場合には、被験抗原結合ドメインと対照抗原結合ドメインとがエピトープを共有するかどうかは、当該エピトープを構成するペプチドにアミノ酸変異を導入して調製されたペプチドあるいはポリペプチドに対するこれらの抗原結合ドメインの結合活性を比較することによって評価され得る。
【0138】
こうした結合活性を測定する方法としては、例えば、前記のELISAフォーマットにおいて、変異を導入した線状のペプチドに対する被験抗原結合ドメイン及び対照抗原結合ドメインの結合活性を比較することができる。ELISA以外の方法としては、カラムに結合した当該変異ペプチドに対する結合活性を、当該カラムに被検抗原結合ドメインと対照抗原結合ドメインを流下させた後に溶出液中に溶出される抗原結合ドメインを定量することによっても測定され得る。変異ペプチドを例えばGSTとの融合ペプチドとしてカラムに吸着させる方法は当技術分野において公知である。
【0139】
同定されたエピトープが立体エピトープの場合には、被験抗原結合ドメインと対照抗原結合ドメインとがエピトープを共有するかどうかは、次の方法で評価され得る。まず、IL-6Rを発現する細胞、およびエピトープに変異が導入されたIL-6Rを発現する細胞が調製される。これらの細胞がPBS等の適切な緩衝液に懸濁された細胞懸濁液に対して被験抗原結合ドメインと対照抗原結合ドメインが添加される。次いで、細胞懸濁液が緩衝液で適宜洗浄され、次いで、被験抗原結合ドメインと対照抗原結合ドメインを認識することができるFITC標識された抗体が添加される。標識抗体によって染色された細胞の蛍光強度と細胞数がFACSCalibur(Becton Dickinson and Company)を用いて測定される。被験抗原結合ドメインと対照抗原結合ドメインは好適な緩衝液によって適宜希釈することによって所望の濃度に調製して用いられる。これらの抗原結合ドメインは、例えば、10μg/mlから10 ng/mlまでのいずれかの濃度で使用される。当該細胞に対する標識抗体の結合量は、CELL QUEST Software(Becton Dickinson and Company)を用いて解析することにより得られた蛍光強度、すなわちGeometric Meanの値に反映される。すなわち、当該Geometric Meanの値を得ることにより、標識抗体の結合量によって表される被験抗原結合ドメインと対照抗原結合ドメインの結合活性を測定することができる。
【0140】
同じエピトープに対する抗原結合ドメインと別の抗原結合ドメインの競合は、上記のELISAまたはFACS以外に、放射性標識抗原結合測定法 (radiolabeled antigen binding assay: RIA)、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイ、電気化学発光法等を使用して確認することもできる。
【0141】
本方法において、「変異IL-6R発現細胞に実質的に結合しない」かどうかは、例えば以下の方法によって判断することができる。まず、変異IL-6Rを発現する細胞に対して結合した被験抗原結合ドメインと対照抗原結合ドメインが、標識抗体で染色される。次いで細胞の蛍光強度が検出される。フローサイトメトリーによる蛍光検出にFACSCaliburを用いた場合、得られた蛍光強度はCELL QUEST Softwareを用いて解析され得る。ポリペプチド会合体存在下および非存在下で得られたGeometric Meanの値から、この比較値(ΔGeo-Mean)を下記の式1に基づいて算出することにより、抗原結合ドメインの結合による蛍光強度の増加割合を求めることができる。
【0142】
(式1)
ΔGeo-Mean=Geo-Mean(ポリペプチド会合体存在下)/Geo-Mean(ポリペプチド会合体非存在下)
【0143】
このように解析によって得られる、被験抗原結合ドメインの変異IL-6R発現細胞に対する結合量が反映されたGeometric Mean比較値(変異IL-6R分子についてのΔGeo-Mean値)を、被験抗原結合ドメインのIL-6R発現細胞に対する結合量が反映されたΔGeo-Mean比較値と比較する。この場合において、変異IL-6R発現細胞及びIL-6R発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値を求める際に使用する被験抗原結合ドメインの濃度は同一又は実質的に同一の濃度で調製されることが特に好ましい。IL-6R中のエピトープを認識していることが予め確認された抗原結合ドメインが、対照抗原結合ドメインとして使用される。
【0144】
被験抗原結合ドメインの変異IL-6R発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値が、被験抗原結合ドメインのIL-6R発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値の、少なくとも80%、好ましくは50%、更に好ましくは30%、特に好ましくは15%より小さければ、被験抗原結合ドメインは、「変異IL-6R発現細胞に実質的に結合しない」。Geo-Mean値(Geometric Mean)を求める数式は、CELL QUEST Software User's Guide(BD biosciences)に記載されている。比較値を比較することによってそれが実質的に同等であるとみなし得る場合、被験抗原結合ドメインと対照抗原結合ドメインのエピトープは同一であると評価され得る。
【0145】
本明細書で用語「運搬部分」は、ポリペプチド中の抗原結合ドメイン以外の部分を言う。本発明の運搬部分は通常、アミノ酸により構成されたペプチドまたはポリペプチドであり、具体的な実施態様として、ポリペプチド中の運搬部分は切断サイトを介して抗原結合ドメインと連結されている。本発明の運搬部分は、アミド結合により繋がれた一連のペプチドまたはポリペプチドであっても良く、あるいは、複数のペプチドまたはポリペプチドが、ジスルフィド結合等の共有結合、または水素結合もしくは疎水性相互作用等の非共有結合により形成された複合体であっても良い。
【0146】
本発明の運搬部分は、抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制する抑制ドメインを有する。本明細書において用語「抑制ドメイン」は、抗原結合ドメインの抗原結合活性の抑制によってのみ制限される。抑制ドメインは、使用されるドメインが抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制できるかぎり、どのような構造をも有するドメインであり得る。そのような抑制ドメインの例として、それだけに限定するものではないが、抗体の重鎖可変領域(VH)、抗体の軽鎖可変領域(VL)、プレB細胞レセプター、および単ドメイン抗体が挙げられる。抑制ドメインは、運搬部分の全部を構成しても、運搬部分の一部を構成しても良い。
【0147】
本発明のいくつかの実施態様において、抗原結合ドメインがポリペプチドから遊離することで、抗原結合活性が遊離前より高くなる。言い換えれば、抗原結合ドメインがポリペプチドから遊離していない状態では、抗原結合ドメインの抗原結合活性は抑制ドメインにより抑制されている。抗原結合ドメインの抗原結合活性が抑制ドメインにより抑制されるかどうかは、FACS(fluorescence activated cell sorting)、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)、ECL(electrogenerated chemiluminescence、電気化学発光法)、SPR(Surface Plasmon Resonance、表面プラズモン共鳴)法(Biacore)、BLI(Bio-Layer Interferometry)法(Octet)等の方法によって確認される。本発明のいくつかの実施態様においては、ポリペプチドから遊離していない抗原結合ドメインの結合活性に比べて、ポリペプチドから遊離した抗原結合ドメインの抗原結合活性は、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、200倍、300倍、400倍、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、1000倍、2000倍、または3000倍以上の値となる。本発明のより具体的ないくつかの実施態様においては、前記方法中から選ばれる一つの方法で抗原結合ドメインの抗原結合活性を測定するとき、抗遊離前の抗原結合ドメインと抗原との結合は見られない。
【0148】
本発明のいくつかの態様においては、切断サイトが切断されることによって抗原結合ドメインがポリペプチドから遊離可能になるので、このような態様において、ポリペプチドの切断前後で抗原結合活性を比較することができる。即ち、未切断のポリペプチドを用いて測定した抗原結合活性に比べて、切断後のポリペプチドを用いて測定した抗原結合活性は、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、200倍、300倍、400倍、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、1000倍、2000倍、または3000倍以上の値となる。より具体的ないくつかの実施態様においては、前記方法中から選ばれる一つの方法で抗原結合活性を測定するとき、未切断のポリペプチドの抗原結合ドメインと抗原との結合は見られない。
【0149】
本発明のいくつかの態様においては、切断サイトはプロテアーゼにより切断されるので、このような態様において、ポリペプチドのプロテアーゼ処理前後で抗原結合活性を比較することができる。即ち、プロテアーゼ処理を行っていないポリペプチドを用いて測定した抗原結合活性に比べて、プロテアーゼ処理後のポリペプチドを用いて測定した抗原結合活性は、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、200倍、300倍、400倍、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、1000倍、2000倍、または3000倍以上の値となる。より具体的ないくつかの実施態様においては、前記方法中から選ばれる一つの方法で抗原結合活性を測定するとき、プロテアーゼ未処理のポリペプチドの抗原結合ドメインと抗原との結合が見られない。
【0150】
本発明のいくつかの実施態様において、抗原結合ドメインは、運搬部分のものより短い血中半減期を有する。一態様において、血液中で運搬部分から分離されて存在する抗原結合ドメインの半減期は、本発明のポリペプチドにおいて運搬部分と共に存在する抗原結合ドメインのものより短い。例えば、単独で存在している抗原結合ドメインの血中半減期に比べ、抗原結合ドメインと運搬部分とを含むポリペプチドは、より長い血中半減期を有する。ポリペプチドの半減期をより長くするために、本発明のいくつかの実施態様において、運搬部分はより長い血中半減期を有するように設計されている。そのような実施態様において、運搬部分の血中半減期を延長するアプローチの例として、それだけに限定されないが、運搬部分の分子量が大きいこと、または運搬部分がFcRn結合活性を有すること、または運搬部分がアルブミン結合活性を有すること、または運搬部分がPEG化されていることが挙げられる。本発明のいくつかの実施態様において、運搬部分は抗原結合ドメインより長い血中半減期(言い換えれば、抗原結合ドメインは、運搬部分の血中半減期よりも短い血中半減期)を有する。
【0151】
一実施態様において、血液中で本発明のポリペプチドにおいて運搬部分と共に存在する抗原結合ドメインの半減期は、血液中で運搬部分から分離されて存在する抗原結合ドメインのものより10%以上長い(すなわち、1.1倍以上長い)。一実施態様において、血液中で本発明のポリペプチドにおいて運搬部分と共に存在する抗原結合ドメインの半減期は、血液中で運搬部分から分離されて存在する抗原結合ドメインのものより、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、200%以上、300%以上、500%以上、1000%以上、2000%以上、3000%以上、4000%以上、または5000%以上長い。一実施態様において、血液中で本発明のポリペプチドにおいて運搬部分と共に存在する抗原結合ドメインの半減期は、血液中で運搬部分から分離されて存在する抗原結合ドメインのものより、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、または50倍以上長い。
【0152】
本発明においては、抗原結合ドメイン単独とポリペプチドの半減期、または抗原結合ドメインと運搬部分の血中半減期は、ヒトにおける血中半減期で比較することが好ましい。ヒトでの血中半減期を測定することが困難である場合には、マウス(例えば、正常マウス、ヒト抗原発現トランスジェニックマウス、ヒトFcRn発現トランスジェニックマウス)またはサル(例えば、カニクイザル)での血中半減期をもとに、ヒトでの血中半減期を予測することができる。
【0153】
運搬部分の血中半減期を延長するアプローチの一実施態様として、運搬部分の分子量が大きいことが挙げられる。一実施態様において、運搬部分の血中半減期を抗原結合ドメインの血中半減期より長くすることを提供するアプローチとして、運搬部分の分子量を抗原結合ドメインの分子量より大きくすることが挙げられる。
【0154】
運搬部分の血中半減期を延長するアプローチの一実施態様として、運搬部分にFcRn結合活性を有させることが挙げられる。運搬部分中にFcRn結合領域を設ける方法によって、通常、運搬部分はFcRn結合活性を有することができる。FcRn結合領域とは、FcRnへ結合活性を持つ領域を言い、使用される領域がFcRnへの結合活性を持つ限りどんな構造でも使用可能である。
FcRn結合領域を含む運搬部分は、FcRnのサルベージ経路により細胞内に取り込まれた後に再び血漿中に戻ることが可能である。例えば、IgG分子の血漿中滞留性が比較的長い(消失が遅い)のは、IgG分子のサルベージレセプターとして知られているFcRnが機能しているためである。ピノサイトーシスによってエンドソームに取り込まれたIgG分子は、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム内に発現しているFcRnに結合する。FcRnに結合できなかったIgG分子はライソソームへと進みそこで分解されるが、FcRnへ結合したIgG分子は細胞表面へ移行し血漿中の中性条件下においてFcRnから解離することで再び血漿中に戻る。
FcRn結合領域は、直接FcRnと結合する領域であることが好ましい。FcRn結合領域の好ましい例として、抗体のFc領域を挙げることができる。しかしながら、アルブミンまたはIgGなどのFcRnとの結合能を有するポリペプチドに結合可能な領域は、アルブミンまたはIgGなどを介して間接的にFcRnと結合することが可能であるので、本発明におけるFcRn結合領域はそのようなFcRnとの結合能を有するポリペプチドに結合する領域であってもよい。
【0155】
本発明のFcRn結合領域の、FcRn、特にヒトFcRnに対する結合活性は、前記結合活性の項で述べられているように、当業者公知の方法により測定することが可能であり、条件については当業者が適宜決定することが可能である。ヒトFcRnへの結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、kd(Dissociation rate:解離速度)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度)等として評価され得る。これらは当業者公知の方法で測定され得る。例えばBiacore(GEヘルスケアジャパン社)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等が使用され得る。
【0156】
FcRn結合領域のFcRnに対する結合活性を測定する際の条件は当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。結合活性は、例えば、WO2009/125825に記載されているようにMESバッファー、37℃の条件において測定され得る。また、本発明のFcRn結合領域のFcRnに対する結合活性は当業者公知の方法により測定することが可能であり、例えば、Biacore(GEヘルスケアジャパン社)を用いて測定され得る。FcRn結合領域とFcRnの結合活性の測定は、FcRn結合領域またはFcRn結合領域を含む運搬部分およびFcRnを固定化したチップへ、それぞれFcRnおよびFcRn結合領域またはFcRn結合領域を含む運搬部分をアナライトとして注入することによって評価され得る。
【0157】
測定条件に使用されるpHとして、FcRn結合領域とFcRnとの結合アフィニティは、pH4.0~pH6.5の任意のpHで評価してもよい。好ましくは、FcRn結合領域とヒトFcRnとの結合アフィニティを決定するために、生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH5.8~pH6.0のpHが使用される。測定条件に使用される温度として、FcRn結合領域とFcRnとの結合アフィニティは、10℃~50℃の任意の温度で評価してもよい。好ましくは、FcRn結合領域とヒトFcRnとの結合アフィニティを決定するために、15℃~40℃の温度が使用される。より好ましくは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つなどの、20℃から35℃までの任意の温度もまた、FcRn結合領域とFcRnとの結合アフィニティを決定するために使用される。25℃という温度は本発明の温度の非限定的な一例である。
【0158】
FcRn結合領域の一つの例として、それだけに限定されないが、IgG抗体Fc領域が挙げられる。IgG抗体のFc領域を用いる場合、その種類は限定されず、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4などのFc領域を用いることが可能である。例えば、配列番号:21、22、23、および24で示されるアミノ酸配列から選ばれる一つの配列を含むFc領域を用いることが可能である。
【0159】
天然型IgG抗体のFc領域はもちろん、FcRn結合活性を有する限り、一つまたはそれ以上のアミノ酸が置換された改変Fc領域も使用可能である。
例えば、IgG抗体Fc領域におけるEUナンバリング237番目、238番目、239番目、248番目、250番目、252番目、254番目、255番目、256番目、257番目、258番目、265番目、270番目、286番目、289番目、297番目、298番目、303番目、305番目、307番目、308番目、309番目、311番目、312番目、314番目、315番目、317番目、325番目、332番目、334番目、360番目、376番目、380番目、382番目、384番目、385番目、386番目、387番目、389番目、424番目、428番目、433番目、434番目および436番目から選択される少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を含む改変Fc領域を用いることが可能である。
【0160】
より具体的には、IgG抗体Fc領域における、(全てEUナンバリングに従う)
237番目のGlyをMetに置換するアミノ酸置換、
238番目のProをAlaに置換するアミノ酸置換、
239番目のSerをLysに置換するアミノ酸置換、
248番目のLysをIleに置換するアミノ酸置換、
250番目のThrをAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrに置換するアミノ酸置換、
252番目のMetをPhe、Trp、またはTyrに置換するアミノ酸置換、
254番目のSerをThrに置換するアミノ酸置換、
255番目のArgをGluに置換するアミノ酸置換、
256番目のThrをAsp、Glu、またはGlnに置換するアミノ酸置換、
257番目のProをAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValに置換するアミノ酸置換、
258番目のGluをHisに置換するアミノ酸置換、
265番目のAspをAlaに置換するアミノ酸置換、
270番目のAspをPheに置換するアミノ酸置換、
286番目のAsnをAlaまたはGluに置換するアミノ酸置換、
289番目のThrをHisに置換するアミノ酸置換、
297番目のAsnをAlaに置換するアミノ酸置換、
298番目のSerをGlyに置換するアミノ酸置換、
303番目のValをAlaに置換するアミノ酸置換、
305番目のValをAlaに置換するアミノ酸置換、
307番目のThrをAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrに置換するアミノ酸置換、
308番目のValをAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrに置換するアミノ酸置換、
309番目のLeuまたはValをAla、Asp、Glu、Pro、またはArgに置換するアミノ酸置換、
311番目のGlnをAla、His、またはIleに置換するアミノ酸置換、
312番目のAspをAlaまたはHisに置換するアミノ酸置換、
314番目のLeuをLysまたはArgに置換するアミノ酸置換、
315番目のAsnをAlaまたはHisに置換するアミノ酸置換、
317番目のLysをAlaに置換するアミノ酸置換、
325番目のAsnをGlyに置換するアミノ酸置換、
332番目のIleをValに置換するアミノ酸置換、
334番目のLysをLeuに置換するアミノ酸置換、
360番目のLysをHisに置換するアミノ酸置換、
376番目のAspをAlaに置換するアミノ酸置換、
380番目のGluをAlaに置換するアミノ酸置換、
382番目のGluをAlaに置換するアミノ酸置換、
384番目のAsnまたはSerをAlaに置換するアミノ酸置換、
385番目のGlyをAspまたはHisに置換するアミノ酸置換、
386番目のGlnをProに置換するアミノ酸置換、
387番目のProをGluに置換するアミノ酸置換、
389番目のAsnをAlaまたはSerに置換するアミノ酸置換、
424番目のSerをAlaに置換するアミノ酸置換、
428番目のMetをAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrに置換するアミノ酸置換、
433番目のHisをLysに置換するアミノ酸置換、
434番目のAsnをAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrに置換するアミノ酸置換、および
436番目のTyrまたはPheをHisに置換するアミノ酸置換
から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、改変Fc領域を使用することが可能である。
【0161】
別の面から見れば、IgG抗体Fc領域における、(全てEUナンバリングに従う)
237番目のアミノ酸におけるMet、
238番目のアミノ酸におけるAla、
239番目のアミノ酸におけるLys、
248番目のアミノ酸におけるIle、
250番目のアミノ酸におけるAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyr、
252番目のアミノ酸におけるPhe、Trp、またはTyr、
254番目のアミノ酸におけるThr、
255番目のアミノ酸におけるGlu、
256番目のアミノ酸におけるAsp、Glu、またはGln、
257番目のアミノ酸におけるAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはVal、
258番目のアミノ酸におけるHis、
265番目のアミノ酸におけるAla、
270番目のアミノ酸におけるPhe、
286番目のアミノ酸におけるAlaまたはGlu、
289番目のアミノ酸におけるHis、
297番目のアミノ酸におけるAla、
298番目のアミノ酸におけるGly、
303番目のアミノ酸におけるAla、
305番目のアミノ酸におけるAla、
307番目のアミノ酸におけるAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyr、
308番目のアミノ酸におけるAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThr、
309番目のアミノ酸におけるAla、Asp、Glu、Pro、またはArg、
311番目のアミノ酸におけるAla、His、またはIle、
312番目のアミノ酸におけるAlaまたはHis、
314番目のアミノ酸におけるLysまたはArg、
315番目のアミノ酸におけるAlaまたはHis、
317番目のアミノ酸におけるAla、
325番目のアミノ酸におけるGly、
332番目のアミノ酸におけるVal、
334番目のアミノ酸におけるLeu、
360番目のアミノ酸におけるHis、
376番目のアミノ酸におけるAla、
380番目のアミノ酸におけるAla、
382番目のアミノ酸におけるAla、
384番目のアミノ酸におけるAla、
385番目のアミノ酸におけるAspまたはHis、
386番目のアミノ酸におけるPro、
387番目のアミノ酸におけるGlu、
389番目のアミノ酸におけるAlaまたはSer、
424番目のアミノ酸におけるAla、
428番目のアミノ酸におけるAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyr、
433番目のアミノ酸におけるLys、
434番目のアミノ酸におけるAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyr、および
436番目のアミノ酸におけるHis
から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含むFc領域を使用することは可能である。
【0162】
運搬部分にFcRn結合活性を有させることは、抗原結合ドメインにFcRn結合活性を有させないことを意味するものではない。運搬部分の血中半減期を抗原結合ドメインの血中半減期より長くする実施態様において、抗原結合ドメインがFcRn結合活性を有さないことはもちろん、FcRn結合活性が運搬部分よりも弱ければ、抗原結合ドメインがFcRn結合活性を有していてもよい。
【0163】
一実施態様において、運搬部分の血中半減期を延長する方法には、運搬部分とアルブミンを結合させることが含まれる。アルブミンは腎排泄を受けず、かつFcRn結合活性を有するため、その血中半減期は17~19日と長い(J Clin Invest. 1953 Aug; 32(8): 746-768)。そのためアルブミンと結合しているタンパク質は嵩高くなり、かつ間接的にFcRnと結合することが可能となるため、血中半減期が増加することが報告されている(Antibodies 2015, 4(3), 141-156)。
【0164】
一実施態様において、運搬部分の血中半減期を延長する別の方法には、運搬部分をPEG化することが含まれる。タンパク質をPEG化することでタンパク質を嵩高くし、同時に血中のプロテアーゼによる分解を抑えることで、タンパク質の血中半減期が延長すると考えられている(J Pharm Sci. 2008 Oct;97(10):4167-83)。
【0165】
本発明のいくつかの実施態様において、運搬部分は抗体Fc領域を含む。具体的な実施態様において、運搬部分はヒトIgG抗体のCH2ドメイン及びCH3ドメインを含む。具体的な実施態様において、運搬部分は、ヒトIgG1抗体重鎖Cys226から、またはPro230から、重鎖のカルボキシル末端まで伸びる部分を含む。ただし、Fc領域のC末端のリジン (Lys447) またはグリシン‐リジン(Gly446-Lys447)は、存在していてもしていなくてもよい。
【0166】
本発明のいくつかの実施態様において、運搬部分は抗体定常領域を含む。より好ましい実施態様において、運搬部分はIgG抗体定常領域を含む。より好ましい実施態様において、運搬部分はヒトIgG抗体定常領域を含む。
【0167】
本発明のいくつかの実施態様において、運搬部分は、抗体重鎖定常領域と実質的に類似する構造を有する領域と;ジスルフィド結合等の共有結合、または水素結合もしくは疎水性相互作用等の非共有結合によって当該領域と結合されている、抗体軽鎖と実質に類似する構造を有する領域と、を含む。
【0168】
本明細書において、「抗原結合ドメインと運搬部分とを含むポリペプチド」は、通常、アミド結合により繋がれた一連のポリペプチド、またはアミド結合により繋がれたポリペプチドを複数含むタンパク質である。
【0169】
本発明のいくつかの実施態様において、抗原結合ドメインはポリペプチドから遊離可能であり、抗原結合ドメインがポリペプチドから遊離することで、抗原結合活性が高くなる。本明細書において、用語「遊離」は、ポリペプチドの二つの部分が相互に離れることをいう。抗原結合ドメインがポリペプチドから遊離することは、抗原結合ドメインと運搬部分との間の相互作用が解消されることに起因しうる。ポリペプチドに組み込まれた抗原結合ドメインの抗原結合活性が抑制されるため、抗原結合ドメインがポリペプチドから遊離していることは、対象物の抗原結合活性を測定し、ポリペプチドに組み込まれている抗原結合ドメインの抗原結合活性と比較することで確認することができる。
【0170】
いくつかの実施態様において、ポリペプチドは切断サイトを含んでおり、当該切断サイトが切断されることで、抗原結合ドメインがポリペプチドから遊離する。切断サイトは、例えば酵素によって切断することが出来るか、また還元剤によって還元することが出来るか、または光分解することが出来る。抗原結合ドメインを遊離させることができ、且つ遊離後の抗原結合ドメインの抗原結合活性を失わせなければ、切断サイトがポリペプチド中のどの位置に配置されても良い。抗原結合ドメインを遊離させるための切断サイトとは別に、他の切断サイトがポリペプチドに更に含まれていても良い。本発明の一実施態様において、切断サイトはプロテアーゼ切断配列を含み、プロテアーゼによって切断され得る。
【0171】
本明細書において、用語「切断された」は、プロテアーゼによる切断サイトの改変および/または切断サイトのシステイン-システインジスルフィド結合の還元および/または光活性化後などの後の、抗原結合ドメインと運搬部分が互いに分断された状態をいう。本明細書において、用語「切断されていない」は、プロテアーゼによる切断サイトの切断の非存在下および/または切断サイトのシステイン-システインジスルフィド結合の還元の非存在下および/または光の非存在下などにおける、抗原結合ドメインと運搬部分が連結されている状態をいう。
【0172】
切断サイトの切断は、切断サイト含有ポリペプチドを含む溶液をSDS-PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)に供し、断片の分子量を測定する、もしくは切断前後の分子量の変化を検出することにより検出することができる。
【0173】
切断サイトは、薬剤(すなわち、プロテアーゼ、還元剤、または光)によって、約0.001~1500×104M-1S-1または少なくとも0.001、0.005、0.01、0.05、0.1、0.5、1、2.5、5、7.5、10、15、20、25、50、75、100、125、150、200、250、500、750、1000、1250、もしくは1500×104M-1S-1の速度で特異的に修飾される(切断、還元、または光分解)ことができる。
【0174】
プロテアーゼによる特異的切断には、プロテアーゼと、切断サイトもしくは切断サイトを含む分子との間の接触を行わせる。十分な酵素活性の存在下にある場合、切断サイトを切断することができる。十分な酵素活性とは、切断サイトと接触すると切断をもたらす、酵素の能力をいうことができる。
【0175】
本明細書において、用語「プロテアーゼ」は、ペプチド結合を加水分解するエンドペプチダーゼまたはエキソペプチダーゼなどの酵素、通常はエンドペプチダーゼを言う。本発明に用いられるプロテアーゼは、プロテアーゼ切断配列を切断できることのみによって制限され、その種類は特に限定されない。いくつかの実施態様において、標的組織特異的プロテアーゼが使用される。標的組織特異的プロテアーゼは、例えば、
(1)標的組織にて正常組織より高レベルで発現するプロテアーゼ、
(2)標的組織にて正常組織より高い活性を有するプロテアーゼ、
(3)標的細胞にて正常細胞より高レベルで発現するプロテアーゼ、
(4)標的細胞にて正常細胞より高い活性を有するプロテアーゼ、
のいずれかを指すことができる。
より具体的な実施態様において、癌組織特異的プロテアーゼまたは炎症組織特異的プロテアーゼが使用される。
【0176】
本明細書において用語「標的組織」は、少なくとも一つの標的細胞を含む組織を意味する。本発明のいくつかの実施態様においては、標的組織は癌組織である。本発明のいくつかの実施態様においては、標的組織は炎症組織である。
【0177】
用語「癌組織」とは、少なくとも一つの癌細胞を含む組織を意味する。したがって、例えば癌組織が癌細胞と血管を含んでいることを考慮すると、本発明の範囲において、癌細胞および内皮細胞を含む腫瘤(tumor mass)の形成に寄与するすべての細胞型が含まれる。本明細書において、腫瘤とは、腫瘍組織巣(a foci of tumor tissue)をいう。「腫瘍」という用語は、一般に、良性新生物または悪性新生物を意味するために用いられる。
【0178】
本明細書において、「炎症組織」とは、以下が例示的に挙げられる。
・関節リウマチ、または変形性関節症における、関節組織
・気管支喘息、またはCOPDにおける、肺(肺胞)組織
・炎症性腸疾患、クローン病、または潰瘍性大腸炎における、消化器官組織
・肝臓、腎臓、または肺における線維化症における、線維化組織
・臓器移植における拒絶反応が起こっている、組織
・動脈硬化、または心不全における、血管または心臓(心筋)組織
・メタボリック症候群における、内臓脂肪組織
・アトピー性皮膚炎、およびその他皮膚炎における、皮膚組織
・椎間板ヘルニア、または慢性腰痛における、脊髄神経組織
【0179】
いくつかの種類の標的組織において、特異的に発現するもしくは特異的に活性化されるプロテアーゼまたは標的組織の疾患状態と関連すると考えられるプロテアーゼ(標的組織特異的プロテアーゼ)が知られている。例えば、国際公開WO2013/128194号、国際公開WO2010/081173号、国際公開WO2009/025846号等で癌組織に特異的に発現するプロテアーゼが開示されている。また、J Inflamm (Lond). 2010; 7: 45.、Nat Rev Immunol. 2006 Jul;6(7):541-50.、Nat Rev Drug Discov. 2014 Dec;13(12):904-27.、Respir Res. 2016 Mar 4;17:23.、Dis Model Mech. 2014 Feb;7(2):193-203.、Biochim Biophys Acta. 2012 Jan;1824(1):133-45.で炎症と関連すると考えられるプロテアーゼが開示されている。
【0180】
標的組織にて特異的に発現するプロテアーゼ以外に、標的組織で特異的に活性化されるプロテアーゼも存在する。例えば、プロテアーゼは不活性型で発現し、その後活性型となる場合があり、多くの組織は活性型プロテアーゼを阻害する物質を含み、活性化のプロセスと阻害剤の存在によって活性がコントロールされている(Nat Rev Cancer. 2003 Jul;3(7):489-501)。標的組織において、活性型プロテアーゼが阻害から逃れ、特異的に活性化されることがある。
【0181】
活性型プロテアーゼは、活性化型のプロテアーゼを認識する抗体を用いる方法(PNAS 2013 Jan 2; 110(1): 93-98.)、またはプロテアーゼが認識可能なペプチドを蛍光標識し、切断前は消光(クエンチ)しているが、切断後に発光する方法(Nat Rev Drug Discov. 2010 Sep;9(9):690-701. doi: 10.1038/nrd3053.)を用いる方法を使用することによって測定されうる。
【0182】
一つの視点から、用語「標的組織特異的プロテアーゼ」は、
(i) 標的組織にて正常組織より高レベルで発現するプロテアーゼ、
(ii) 標的組織にて正常組織より高い活性を有するプロテアーゼ、
(iii) 標的細胞にて正常細胞より高レベルで発現するプロテアーゼ、
(iv) 標的細胞にて正常細胞より高い活性を有するプロテアーゼ、
のいずれかを指すことができる。
【0183】
限定して解釈されるものではないが、具体的なプロテアーゼの例としては、システインプロテアーゼ(カテプシンファミリーB、L、Sなどを含む)、アスパルチルプロテアーゼ(カテプシンD、E、K、O等)、セリンプロテアーゼ(マトリプターゼ(MT-SP1を含む)、カテプシンAおよびG、トロンビン、プラスミン、ウロキナーゼ(uPA)、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、エラスターゼ、プロテイナーゼ3、トロンビン、カリクレイン、トリプターゼ、キマーゼを含む)、メタロプロテイナーゼ(膜結合型(MMP14-17およびMMP24-25)および分泌型(MMP1-13およびMMP18-23およびMMP26-28)の両方を含むメタロプロテイナーゼ(MMP1-28)、具体的にはMMP1、MMP2、MMP3、MMP7、MMP9、MMP13、およびMMP14、プロテアーゼのAディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ(ADAM)、具体的にはADAM17、Aディスインテグリンおよびトロンボスポンジンモチーフを有するメタロプロテイナーゼ(ADAMTS(ADAMTS1、ADAMTS2、ADAMTS3、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAMTS6、ADAMTS7、ADAMTS8、ADAMTS9、ADAMTS10、ADAMTS12、ADAMTS13、ADAMTS14、ADAMTS15、ADAMTS16、ADAMTS17、ADAMTS18、ADAMTS19、およびADAMTS20))、具体的にはADAMTS4およびADAMTS5、メプリン(メプリンα(meprin alpha)、メプリンβ(meprin beta))、CD10(CALLA)、ならびに前立腺特異的抗原(PSA)、レグマイン、TMPRSS3、TMPRSS4、ヒト好中球エラスターゼ(HNE)、ベータセクレターゼ(BACE)、線維芽細胞活性化蛋白質アルファ(FAP)、グランザイムB、 グアニジノベンゾアターゼ(GB)、ヘプシン、ネプリライシン、NS3/4A、HCV-NS3/4、カルパイン、ADAMDEC1、レニン、カテプシンC、カテプシンV/L2、カテプシン X/Z/P、クルジパイン、オツバイン2、カリクレイン関連ペプチダーゼ(KLK(KLK3、KLK4、KLK5、KLK6、KLK7、KLK8、KLK10、KLK11、KLK13、およびKLK14))、骨形成タンパク質1(BMP-1)、活性化プロテインC、血液凝固関連プロテアーゼ(第VIIa因子、第IXa因子、第Xa因子、第XIa因子、および第XIIa因子)、HtrA1、ラクトフェリン、マラプシン、PACE4、DESC1、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)、TMPRSS2、カテプシンF、カテプシンH、カテプシンL2、カテプシンO、カテプシンS、グランザイムA、Gepsinカルパイン2、グルタミン酸カルボキシペプチダーゼ2、AMSH-Like Proteases、AMSH、ガンマセクレターゼ、抗プラスミン切断酵素(APCE)、Decysin 1、N-Acetylated Alpha-Linked Acidic Dipeptidase-Like 1(NAALADL1)、フーリン(furin)が挙げられる。
【0184】
別の視点から、標的組織特異的プロテアーゼは、癌組織特異的プロテアーゼまたは炎症組織特異的プロテアーゼを指すことができる。
癌組織特異的プロテアーゼとしては、例えば、国際公開WO2013/128194号、国際公開WO2010/081173号、および国際公開WO2009/025846号等で開示される癌組織に特異的に発現するプロテアーゼが挙げられる。
【0185】
癌組織特異的プロテアーゼの種類について、治療対象の癌組織での発現の特異性が高いほど、有害反応低減効果が得られる。癌組織特異的プロテアーゼは、癌組織における濃度が正常組織における濃度の少なくとも5倍高いことが好ましく、少なくとも10倍高いことがより好ましく、少なくとも100倍高いことがさらに好ましく、少なくとも500倍高いことが特に好ましく、少なくとも1000倍高いことが最も好ましい。また、癌組織特異的プロテアーゼは、癌組織における活性が正常組織における活性の少なくとも2倍高いことが好ましく、少なくとも3倍高いこと、少なくとも4倍高いこと、少なくとも5倍高いこと、または少なくとも10倍高いことがより好ましく、少なくとも100倍高いことがさらに好ましく、少なくとも500倍高いことが特に好ましく、少なくとも1000倍高いことが最も好ましい。
【0186】
癌組織特異的プロテアーゼは、癌細胞の細胞膜に結合している形態でもよく、細胞膜に結合しておらず細胞外に分泌される形態でもよい。癌組織特異的プロテアーゼが癌細胞の細胞膜に結合していない場合、免疫細胞による細胞傷害が癌細胞に特異的であるためには、癌組織特異的プロテアーゼは癌組織の内部または近傍に存在するものであることが好ましい。本明細書で「癌組織の近傍」とは、癌組織特異的プロテアーゼ切断配列が切断されて、抗原結合ドメインが抗原結合活性を発揮する範囲内であることを意味する。ただし、正常細胞への傷害は最小限の範囲であることが好ましい。
【0187】
別の視点から、癌組織特異的プロテアーゼは、
(i) 癌組織にて正常組織より高レベルで発現するプロテアーゼ、
(ii) 癌組織にて正常組織より高い活性を有するプロテアーゼ、
(iii) 癌細胞にて正常細胞より高レベルで発現するプロテアーゼ、
(iv) 癌細胞にて正常細胞より高い活性を有するプロテアーゼ、
のいずれかである。
【0188】
癌組織特異的プロテアーゼは、1種単独でもよく、2種以上が組み合せられてもよい。癌組織特異的プロテアーゼの種類数は、治療対象の癌種を考慮して、当業者が適宜設定することができる。
【0189】
以上の観点から、癌組織特異的プロテアーゼとしては、上記例示したプロテアーゼの中でも、セリンプロテアーゼおよびメタロプロテイナーゼが好ましく、マトリプターゼ(MT-SP1を含む)、ウロキナーゼ(uPA)、またはメタロプロテイナーゼがより好ましく、MT-SP1、uPA、MMP2、またはMMP9が更に好ましい。
【0190】
炎症組織特異的プロテアーゼの種類について、治療対象の炎症組織での発現の特異性が高いほど、有害反応低減効果が得られる。炎症組織特異的プロテアーゼは、炎症組織における濃度が正常組織における濃度の少なくとも5倍高いことが好ましく、少なくとも10倍高いことがより好ましく、少なくとも100倍高いことがさらに好ましく、少なくとも500倍高いことが特に好ましく、少なくとも1000倍高いことが最も好ましい。また、炎症組織特異的プロテアーゼは、炎症組織における活性が正常組織における活性の少なくとも2倍高いことが好ましく、少なくとも3倍高いこと、少なくとも4倍高いこと、少なくとも5倍高いこと、または少なくとも10倍高いことがより好ましく、少なくとも100倍高いことがさらに好ましく、少なくとも500倍高いことが特に好ましく、少なくとも1000倍高いことが最も好ましい。
【0191】
炎症組織特異的プロテアーゼは、炎症細胞の細胞膜に結合している形態でもよく、または細胞膜に結合しておらず細胞外に分泌される形態でもよい。炎症組織特異的プロテアーゼが炎症細胞の細胞膜に結合していない場合、免疫細胞による細胞傷害が炎症細胞に特異的であるためには、炎症組織特異的プロテアーゼは炎症組織の内部または近傍に存在するものであることが好ましい。本明細書で「炎症組織の近傍」とは、炎症組織特異的プロテアーゼ切断配列が切断されて、抗原結合ドメインが抗原結合活性を発揮する範囲内であることを意味する。ただし、正常細胞への傷害は最小限の範囲であることが好ましい。
【0192】
別の視点から、炎症組織特異的プロテアーゼは、
(i) 炎症組織にて正常組織より高レベルで発現するプロテアーゼ、
(ii) 炎症組織にて正常組織より高い活性を有するプロテアーゼ、
(iii) 炎症細胞にて正常細胞より高レベルで発現するプロテアーゼ、
(iv) 炎症細胞にて正常細胞より高い活性を有するプロテアーゼ、
のいずれかである。
【0193】
炎症組織特異的プロテアーゼは、1種単独でもよく、2種以上が組み合せられてもよい。炎症組織特異的プロテアーゼの種類数は、治療対象の病状を考慮して、当業者が適宜設定することができる。
【0194】
以上の観点から、炎症組織特異的プロテアーゼとしては、上記例示したプロテアーゼの中でも、メタロプロテイナーゼが好ましく、メタロプロテイナーゼの中でも、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAM17、MMP2、MMP7、MMP9、MMP13、またはMMP14がより好ましい。
【0195】
プロテアーゼ切断配列は、水溶液中でポリペプチドが標的組織特異的プロテアーゼによって加水分解を受ける際に、該標的組織特異的プロテアーゼにより特異的に認識される特定のアミノ酸配列である。
【0196】
プロテアーゼ切断配列は、有害反応低減の視点から、治療対象の標的組織もしくは細胞においてより特異的に発現している、または治療対象の標的組織もしくは細胞においてより特異的に活性化されている標的組織特異的プロテアーゼにより、高い特異性で加水分解されるアミノ酸配列であることが好ましい。
【0197】
具体的なプロテアーゼ切断配列の例としては、国際公開WO2013/128194号、国際公開WO2010/081173号、および国際公開WO2009/025846号で開示されている上記で例示した癌組織に特異的に発現するプロテアーゼ、炎症組織特異的プロテアーゼ等によって特異的に加水分解される標的配列が挙げられる。既知のプロテアーゼによって特異的に加水分解される標的配列に、適切なアミノ酸変異を導入する等、人工的に改変した配列も使用できる。また、プロテアーゼ切断配列は、Nature Biotechnology 19, 661 - 667 (2001)に記載のような、当業者公知の方法で同定したものを用いてもよい。
【0198】
更に、天然に存在するプロテアーゼ切断配列を用いても良い。例えば、TGFβがプロテアーゼの切断を受けることで潜在型に変化するように、プロテアーゼの切断を受けることでその分子形が変わるタンパク質中のプロテアーゼ切断を受ける配列を使用することもできる。
【0199】
プロテアーゼ切断配列の例として、それだけに限定されないが、国際公開WO2015/116933号、国際公開WO2015/048329号、国際公開WO2016/118629号、国際公開WO2016/179257号、国際公開WO2016/179285号、国際公開WO2016/179335号、国際公開WO2016/179003号、国際公開WO2016/046778号、国際公開WO2016/014974号、米国特許公開US2016/0289324号、米国特許公開US2016/0311903号、PNAS (2000) 97: 7754-7759.、Biochemical Journal (2010) 426: 219-228.、およびBeilstein J Nanotechnol. (2016) 7: 364-373.中で開示された配列を用いることができる。
【0200】
プロテアーゼ切断配列は、上述のように、好適な標的組織特異的プロテアーゼより特異的に加水分解されるアミノ酸配列であることがより好ましい。標的組織特異的プロテアーゼにより特異的に加水分解されるアミノ酸配列の中でも、以下のアミノ酸配列を含む配列が好ましい。
LSGRSDNH(配列番号:12、MT-SP1、またはuPAにより切断可能)
PLALAG(配列番号:25、MMP2、またはMMP9により切断可能)
VPLSLTMG(配列番号:26、MMP7により切断可能)
プロテアーゼ切断配列として、以下の配列のいずれかを用いることもできる。
TSTSGRSANPRG(配列番号:74、MT-SP1、またはuPAにより切断可能)
ISSGLLSGRSDNH(配列番号:75、MT-SP1、またはuPAにより切断可能)
AVGLLAPPGGLSGRSDNH(配列番号:76、MT-SP1、またはuPAにより切断可能)
GAGVPMSMRGGAG(配列番号:77、MMP1により切断可能)
GAGIPVSLRSGAG(配列番号:78、MMP2により切断可能)
GPLGIAGQ(配列番号:79、MMP2により切断可能)
GGPLGMLSQS(配列番号:80、MMP2により切断可能)
PLGLWA(配列番号:81、MMP2により切断可能)
GAGRPFSMIMGAG(配列番号:82、MMP3により切断可能)
GAGVPLSLTMGAG(配列番号:83、MMP7により切断可能)
GAGVPLSLYSGAG(配列番号:84、MMP9により切断可能)
AANLRN(配列番号:85、MMP11により切断可能)
AQAYVK(配列番号:86、MMP11により切断可能)
AANYMR(配列番号:87、MMP11により切断可能)
AAALTR(配列番号:88、MMP11により切断可能)
AQNLMR(配列番号:89、MMP11により切断可能)
AANYTK(配列番号:90、MMP11により切断可能)
GAGPQGLAGQRGIVAG(配列番号:91、MMP13により切断可能)
PRFKIIGG(配列番号:92、proウロキナーゼにより切断可能)
PRFRIIGG(配列番号:93、proウロキナーゼにより切断可能)
GAGSGRSAG(配列番号:94、uPAにより切断可能)
SGRSA(配列番号:95、uPAにより切断可能)
GSGRSA(配列番号:96、uPAにより切断可能)
SGKSA(配列番号:97、uPAにより切断可能)
SGRSS(配列番号:98、uPAにより切断可能)
SGRRA(配列番号:99、uPAにより切断可能)
SGRNA(配列番号:100、uPAにより切断可能)
SGRKA(配列番号:101、uPAにより切断可能)
QRGRSA(配列番号:102、tPAにより切断可能)
GAGSLLKSRMVPNFNAG(配列番号:103、カテプシンBにより切断可能)
TQGAAA(配列番号:104、カテプシンBにより切断可能)
GAAAAA(配列番号:105、カテプシンBにより切断可能)
GAGAAG(配列番号:106、カテプシンBにより切断可能)
AAAAAG(配列番号:107、カテプシンBにより切断可能)
LCGAAI(配列番号:108、カテプシンBにより切断可能)
FAQALG(配列番号:109、カテプシンBにより切断可能)
LLQANP(配列番号:110、カテプシンBにより切断可能)
LAAANP(配列番号:111、カテプシンBにより切断可能)
LYGAQF(配列番号:112、カテプシンBにより切断可能)
LSQAQG(配列番号:113、カテプシンBにより切断可能)
ASAASG(配列番号:114、カテプシンBにより切断可能)
FLGASL(配列番号:115、カテプシンBにより切断可能)
AYGATG(配列番号:116、カテプシンBにより切断可能)
LAQATG(配列番号:117、カテプシンBにより切断可能)
GAGSGVVIATVIVITAG(配列番号:118、カテプシンLにより切断可能)
APMAEGGG(配列番号:119、メプリンα、またはメプリンβにより切断可能)
EAQGDKII(配列番号:120、メプリンα、またはメプリンβにより切断可能)
LAFSDAGP(配列番号:121、メプリンα、またはメプリンβにより切断可能)
YVADAPK(配列番号:122、メプリンα、またはメプリンβにより切断可能)
RRRRR(配列番号:123、フーリンにより切断可能)
RRRRRR(配列番号:124、フーリンにより切断可能)
GQSSRHRRAL(配列番号:125、フーリンにより切断可能)
SSRHRRALD(配列番号:126)
RKSSIIIRMRDVVL(配列番号:127、プラスミノーゲン(Plasminogen)により切断可能)
SSSFDKGKYKKGDDA(配列番号:128、スタフィロキナーゼ(Staphylokinase)により切断可能)
SSSFDKGKYKRGDDA(配列番号:129、スタフィロキナーゼにより切断可能)
IEGR(配列番号:130、第Xa因子(Factor Xa)により切断可能)
IDGR(配列番号:131、第Xa因子により切断可能)
GGSIDGR(配列番号:132、第Xa因子により切断可能)
GPQGIAGQ(配列番号:133、コラゲナーゼ(Collagenase)により切断可能)
GPQGLLGA(配列番号:134、コラゲナーゼにより切断可能)
GIAGQ(配列番号:135、コラゲナーゼにより切断可能)
GPLGIAG(配列番号:136、コラゲナーゼにより切断可能)
GPEGLRVG(配列番号:137、コラゲナーゼにより切断可能)
YGAGLGVV(配列番号:138、コラゲナーゼにより切断可能)
AGLGVVER(配列番号:139、コラゲナーゼにより切断可能)
AGLGISST(配列番号:140、コラゲナーゼにより切断可能)
EPQALAMS(配列番号:141、コラゲナーゼにより切断可能)
QALAMSAI(配列番号:142、コラゲナーゼにより切断可能)
AAYHLVSQ(配列番号:143、コラゲナーゼにより切断可能)
MDAFLESS(配列番号:144、コラゲナーゼにより切断可能)
ESLPVVAV(配列番号:145、コラゲナーゼにより切断可能)
SAPAVESE(配列番号:146、コラゲナーゼにより切断可能)
DVAQFVLT(配列番号:147、コラゲナーゼにより切断可能)
VAQFVLTE(配列番号:148、コラゲナーゼにより切断可能)
AQFVLTEG(配列番号:149、コラゲナーゼにより切断可能)
PVQPIGPQ(配列番号:150、コラゲナーゼにより切断可能)
LVPRGS(配列番号:151、トロンビン(Thrombin)により切断可能)
TSTSGRSANPRG(配列番号:178、uPA、またはMT-SP1により切断可能)および
GPPGPQGLAGQRGIVGL(配列番号:536、MMP13により切断可能)。
【0201】
本発明の一実施態様において、プロテアーゼ切断配列のどちらか一端または両端に、可動リンカーを更に付加している。プロテアーゼ切断配列の一端の可動リンカーを第一可動リンカーと呼称することが出来、他端の可動リンカーを第二可動リンカーと呼称することが出来る。特定の実施形態では、プロテアーゼ切断配列と可動リンカーは以下の式のうちの一つを含む。
(プロテアーゼ切断配列)
(第一可動リンカー)-(プロテアーゼ切断配列)
(プロテアーゼ切断配列)-(第二可動リンカー)
(第一可動リンカー)-(プロテアーゼ切断配列)-(第二可動リンカー)
【0202】
本実施態様における可動リンカーはペプチドリンカーが好ましい。第一可動リンカーおよび第二可動リンカーは、それぞれ独立かつ任意的に存在し、それぞれが少なくとも1つのフレキシブルアミノ酸(Glyなど)を含む同一または異なる可動リンカーである。可動リンカーには、例えば、プロテアーゼ切断配列が所望のプロテアーゼアクセス性を得られるのに十分な数の残基(Arg、Ile、Gln、Glu、Cys、Tyr、Trp、Thr、Val、His、Phe、Pro、Met、Lys、Gly、Ser、Asp、Asn、Alaなどから任意に選択されるアミノ酸、特にGly、Ser、Asp、Asn、およびAla、ことさらGlyおよびSer、特にGlyなど)が含まれる。
【0203】
プロテアーゼ切断配列の両端で使用するのに適した可動リンカーは通常、プロテアーゼ切断配列へのプロテアーゼのアクセスを向上させ、プロテアーゼの切断効率を上昇させる、可動リンカーである。好適な可動リンカーは容易に選択可能であり、1アミノ酸(Glyなど)から20アミノ酸、2アミノ酸から15アミノ酸、あるいは、4アミノ酸から10アミノ酸、5アミノ酸から9アミノ酸、6アミノ酸から8アミノ酸、または7アミノ酸から8アミノ酸を含む、3アミノ酸から12アミノ酸など、異なる長さのうちから好適なものを選択できる。本発明のいくつかの実施態様においては、可動リンカーは1から7アミノ酸のペプチドリンカーである。
【0204】
可動リンカーの例として、それだけに限定されないが、グリシンポリマー(G)n、グリシン-セリンポリマー(例えば、(GS)n、(GSGGS:配列番号:27)nおよび(GGGS:配列番号:28)nを含み、nは少なくとも1の整数である)、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、および従来技術において周知の他の可動リンカーが挙げられる。
【0205】
このうちグリシンおよびグリシン-セリンポリマーが注目されているが、これらのアミノ酸が比較的構造化されておらず、成分間の中性テザーとして機能しやすいことがその理由である。
【0206】
グリシン-セリンポリマーからなる可動リンカーの例として、それだけに限定されないが、
Ser
Gly Ser(GS)
Ser Gly(SG)
Gly Gly Ser(GGS)
Gly Ser Gly(GSG)
Ser Gly Gly(SGG)
Gly Ser Ser(GSS)
Ser Ser Gly(SSG)
Ser Gly Ser(SGS)
Gly Gly Gly Ser(GGGS、配列番号:28)
Gly Gly Ser Gly(GGSG、配列番号:29)
Gly Ser Gly Gly(GSGG、配列番号:46)
Ser Gly Gly Gly(SGGG、配列番号:47)
Gly Ser Ser Gly(GSSG、配列番号:48)
Gly Gly Gly Gly Ser(GGGGS、配列番号:49)
Gly Gly Gly Ser Gly(GGGSG、配列番号:33)
Gly Gly Ser Gly Gly(GGSGG、配列番号:30)
Gly Ser Gly Gly Gly(GSGGG、配列番号:32)
Gly Ser Gly Gly Ser(GSGGS、配列番号:27)
Ser Gly Gly Gly Gly(SGGGG、配列番号:51)
Gly Ser Ser Gly Gly(GSSGG、配列番号:52)
Gly Ser Gly Ser Gly(GSGSG、配列番号:31)
Ser Gly Gly Ser Gly(SGGSG、配列番号:53)
Gly Ser Ser Ser Gly(GSSSG、配列番号:34)
Gly Gly Gly Gly Gly Ser(GGGGGS、配列番号:50)
Ser Gly Gly Gly Gly Gly(SGGGGG、配列番号:54)
Gly Gly Gly Gly Gly Gly Ser(GGGGGGS、配列番号:55)
Ser Gly Gly Gly Gly Gly Gly(SGGGGGG、配列番号:56)
(Gly Gly Gly Gly Ser(GGGGS、配列番号:49))n
(Ser Gly Gly Gly Gly(SGGGG、配列番号:51))n
が挙げられる。
【0207】
本明細書における「会合」とは、例えば、2以上のポリペプチド領域が相互作用する状態を指すと言うことができる。一般的に、対象となるポリペプチド領域の間に、疎水結合、水素結合、またはイオン結合等が作られ、会合体が形成される。よく見る会合の一つの例として、天然型抗体を代表とする抗体は、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)が両者間の非共有結合等によりペアリング構造を保持することが知られている。
【0208】
本発明のいくつかの実施態様において、運搬部分の抑制ドメインは抗原結合ドメインと会合する。抑制ドメインは運搬部分の一部を構成しても、または運搬部分の全部を構成しても良い。別の視点から、運搬部分中の、抗原結合ドメインと会合する部分を、抑制ドメインと規定することも出来る。
【0209】
より具体的な実施態様において、抗原結合ドメインと、VLもしくはVHもしくはVHHである抑制ドメインが、抗体VHと抗体VLのような会合、または抗体VHと抗体VHのようなもしくは抗体VLと抗体VLのような会合を形成する。更に具体的な実施態様において、抗原結合ドメインと、VLもしくはVHもしくはVHHである抑制ドメインが、抗体VHと抗体VLのような会合を形成し、このように当該会合が形成された状態においては、抑制ドメインが、抗原結合ドメインと抗原の結合を立体構造的に阻害すること、または抗原結合ドメインの抗原結合部位の立体構造を変化させることで、当該抗原結合ドメインの抗原結合活性が当該VLもしくはVHもしくはVHHにより抑制される。抗原結合ドメインとしてVHHを使用する実施態様においては、VHHの主たる抗原結合部位であるCDR3またはその近傍の部位が抑制ドメインと会合する界面に存在すると、抑制ドメインによりVHHと抗原の結合が立体構造的に阻害されると考えられる。
【0210】
抑制ドメインと抗原結合ドメインの会合は、例えば切断サイトを切断することにより解消可能である。会合の解消は、例えば、2以上のポリペプチド領域の相互作用状態が解消されることと換言することができる。2以上のポリペプチド領域の相互作用が全部解消されても良く、または2以上のポリペプチド領域の相互作用の中の一部が解消されても良い。
【0211】
本明細書における「界面」とは、通常、2つの領域が会合または相互作用する際の面を指し、界面を形成するアミノ酸残基は、通常、その会合に供される各ポリペプチド領域に含まれる1つまたは複数のアミノ酸残基であって、より好ましくは、会合の際に互いに接近し相互作用に関与するアミノ酸残基を言う。該相互作用には、具体的には、会合の際に互いに接近するアミノ酸残基間の、水素結合、静電的相互作用、または塩橋形成等の、非共有結合が含まれる。
【0212】
本明細書における「界面を形成するアミノ酸残基」とは、詳述すれば、界面を構成するポリペプチド領域に含まれるアミノ酸残基を言う。界面を構成するポリペプチド領域とは、一例を示せば、抗体、リガンド、アンタゴニスト、レセプター、基質等において、その分子内または分子間において選択的な結合を担うポリペプチド領域を指す。抗体におけるそのようなポリペプチド領域の具体的な例には、重鎖可変領域および軽鎖可変領域等を挙げることができ、本発明のいくつかの実施態様においては、そのようなポリペプチド領域として、抗原結合ドメインおよび抑制ドメインを挙げることができる。
【0213】
界面を形成するアミノ酸残基の例として、それだけに限定されないが、会合の際に互いに接近するアミノ酸残基が挙げられる。会合の際に互いに接近するアミノ酸残基は、例えば、ポリペプチドの立体構造を解析し、該ポリペプチドの会合の際に界面を形成するポリペプチド領域のアミノ酸配列を調べることにより見出すことができる。
【0214】
本発明のいくつかの実施態様において、抗原結合ドメインと抑制ドメインの会合を促進するために、抗原結合ドメイン中の会合に関与するアミノ酸残基、または抑制ドメイン中の会合に関与するアミノ酸残基を改変することが出来る。更に具体的な実施態様として、抗原結合ドメイン中の、抑制ドメインとの界面を形成するアミノ酸残基、または抑制ドメイン中の、抗原結合ドメインとの界面を形成するアミノ酸残基を改変することが出来る。好ましい実施態様において、界面を形成するアミノ酸残基は、界面を形成する2残基以上のアミノ酸残基が異種の電荷となるように該界面にアミノ酸残基の変異を導入する方法によって改変され得る。異種の電荷となるようなアミノ酸残基の改変は、正の電荷を有するアミノ酸残基から負の電荷を有するアミノ酸残基または電荷を有しないアミノ酸残基への改変、負の電荷を有するアミノ酸残基から正の電荷を有するアミノ酸残基または電荷を有しないアミノ酸残基への改変、および電荷を有しないアミノ酸残基から正または負の電荷を有するアミノ酸残基への改変を含む。そのようなアミノ酸改変は、会合を促進させることを目的として実施され、会合促進の目的が達成できる限り、アミノ酸改変の位置、またはアミノ酸の種類は限定されない。改変の例として、置換が挙げられるが、これに限定されない。
【0215】
本発明のいくつかの実施態様において、抗原結合ドメインであるVHHが、抑制ドメインであるVLと会合している。VHH中の、VLとの会合に関与するアミノ酸残基の例として、VHHとVLの界面を形成するアミノ酸残基を指すことが出来る。VHH中の、VLとの会合に関与するアミノ酸残基の例として、それだけに限定されないが、37位、44位、45位、および47位のアミノ酸残基が挙げられる(J. Mol. Biol. (2005) 350, 112-125.)。VHHとVLの会合が促進されることにより、VHHの活性が抑制される。同様に、VL中の、VHHとの会合に関与するアミノ酸残基の例として、VHHとVLの界面を形成するアミノ酸残基を指すことが出来る。
【0216】
VHHとVLの会合を促進するために、VHH中の、VLとの会合に関与するアミノ酸残基を改変することが出来る。このようなアミノ酸置換の例として、それだけに限定されないが、F37V、Y37V、E44G、Q44G、R45L、H45L、G47W、F47W、L47W、T47W、または/およびS47Wが挙げられる。VHH中の各残基に対して改変をせず、最初から37V、44G、45L、または/および47Wのアミノ酸残基を有するVHHを使用することも出来る。
VHHとVLの会合を促進する目的が達成できる限り、VHHのアミノ酸ではなく、VL中の、VHHとの会合に関与するアミノ酸残基を改変することが可能であり、VHHとVLの両方にアミノ酸改変を導入することも可能である。
【0217】
本発明の別のいくつかの実施態様において、抗原結合ドメインとしてVHHを使用し、抑制ドメインとしてVHまたはVHHを使用し、抗原結合ドメインと抑制ドメインを互いに会合させることが出来る。抗原結合ドメインであるVHHと、抑制ドメインであるVHまたはVHHとの会合を促進するために、抗原結合ドメインであるVHH中の、抑制ドメインであるVHまたはVHHとの会合に関与するアミノ酸残基を特定しかつ改変することができる。また、抑制ドメインであるVHまたはVHH中の、抗原結合ドメインであるVHHとの会合に関与するアミノ酸残基を特定しかつ改変することができる。
【0218】
VHH以外の抗原結合ドメインを使用する場合、同じように、抗原結合ドメインもしくは抑制ドメイン中の、会合に関与するアミノ酸残基を特定しかつ改変することが出来る。
【0219】
本発明のいくつかの実施態様において、運搬部分および抗原結合ドメインは融合されている。融合タンパク質における運搬部分および抗原結合ドメインの順番は限定されない。運搬部分のN末端は、リンカーの有無にかかわらず抗原結合ドメインのC末端に連結することができる、あるいは、運搬部分のC末端は、リンカーの有無にかかわらず抗原結合ドメインのN末端に連結することができる。
【0220】
本発明のいくつかの実施態様において、運搬部分と抗原結合ドメインはリンカーを介して融合されている。より具体的な実施態様において、運搬部分と抗原結合ドメインは、切断サイトを含むリンカーを介して融合されている。別の具体的な実施態様において、運搬部分と抗原結合ドメインは、リンカーを介して融合されており、このように形成された融合タンパク質には切断サイトが含まれている。
【0221】
本発明の別の実施態様において、運搬部分と抗原結合ドメインはリンカーを介さず融合されている。より具体的な実施態様において、運搬部分のN末端アミノ酸と抗原結合ドメインのC末端アミノ酸の間でアミノ結合を形成させ、融合タンパク質を形成させる。形成された融合タンパク質には切断サイトが含まれている。特定の実施態様においては、運搬部分のN末端の1アミノ酸~数アミノ酸または/および抗原結合ドメインのC末端の1アミノ酸~数アミノ酸を改変し、運搬部分のN末端と抗原結合ドメインのC末端を融合させ、融合位置附近に切断サイトを形成させる。より具体的に、例えば、抗原結合ドメインのC末端の4個のアミノ酸をLSGR配列に変え、運搬部分のN末端の4個のアミノ酸をSDNH配列に変えて、切断サイトを形成させることが出来る。
【0222】
本発明のいくつかの実施態様において、運搬部分と抗原結合ドメインとを含むポリペプチドの切断サイトは、プロテアーゼ切断配列を含む。プロテアーゼによる切断によって抗原結合ドメインを遊離させ、且つ遊離後の抗原結合ドメインの抗原結合活性を失わせない限り、プロテアーゼ切断配列は、ポリペプチドのどの部分に配置しても良い。切断配列は、例えば、運搬部分のN末端と抗原結合ドメインのC末端との間、運搬部分のC末端と抗原結合ドメインのN末端との間、抗原結合ドメインの配列内、または運搬部分の配列内に位置し得る。
【0223】
本発明のいくつかの実施態様において、運搬部分は抗体定常領域を含み、当該抗体定常領域のN末端と抗原結合ドメインのC末端がリンカーを介してまたはリンカーを介さずに融合されている。
【0224】
特定の実施態様において、プロテアーゼ切断配列は運搬部分に含まれる抗体定常領域内に位置する。この場合、プロテアーゼ切断配列は、プロテアーゼによる切断によって抗原結合ドメインを遊離させられるように抗体定常領域内に位置すれば良い。具体的な実施態様において、プロテアーゼ切断配列は運搬部分に含まれる抗体重鎖定常領域内に位置し、より具体的には、抗体重鎖定常領域中の140番(EUナンバリング)アミノ酸より抗原結合ドメイン側、好ましくは、抗体重鎖定常領域中の122番(EUナンバリング)アミノ酸より抗原結合ドメイン側に位置する。別の具体的な実施態様において、プロテアーゼ切断配列は運搬部分に含まれる抗体軽鎖定常領域内に位置し、より具体的には、抗体軽鎖定常領域中の130番(EUナンバリング)(Kabatナンバリング130番)アミノ酸より抗原結合ドメイン側、好ましくは、抗体軽鎖定常領域中の113番(EUナンバリング)(Kabatナンバリング113番)アミノ酸より抗原結合ドメイン側に位置する。
【0225】
本発明のいくつかの実施態様において、抗原結合ドメインは単ドメイン抗体であり、当該単ドメイン抗体のC末端と運搬部分のN末端がリンカーを介してまたはリンカーを介さずに融合されている。
【0226】
特定の実施態様において、プロテアーゼ切断配列は抗原結合ドメイン内に位置する。より具体的な実施態様において、抗原結合ドメインは単ドメイン抗体であり、単ドメイン抗体はVHから調製された単ドメイン抗体またはVHHであり、プロテアーゼ切断配列は当該単ドメイン抗体の35b番(Kabatナンバリング)アミノ酸より運搬部分側、好ましくは、当該単ドメイン抗体の95番(Kabatナンバリング)アミノ酸より運搬部分側、より好ましくは、当該単ドメイン抗体の109番(Kabatナンバリング)アミノ酸より運搬部分側に位置する。別の具体的な実施態様において、抗原結合ドメインは単ドメイン抗体であり、単ドメイン抗体はVLから調製された単ドメイン抗体であり、プロテアーゼ切断配列は当該単ドメイン抗体の32番(Kabatナンバリング)アミノ酸より運搬部分側、好ましくは、当該単ドメイン抗体の91番(Kabatナンバリング)アミノ酸より運搬部分側、より好ましくは、当該単ドメイン抗体の104番(Kabatナンバリング)アミノ酸より運搬部分側に位置する。
【0227】
本発明のいくつかの実施態様において、運搬部分は抗体定常領域を含み、抗原結合ドメインは単ドメイン抗体であり、当該抗体定常領域と当該単ドメイン抗体がリンカーを介してまたはリンカーを介さずに融合されている。より具体的な実施態様において、抗体定常領域のN末端と当該単ドメイン抗体のC末端がリンカーを介してまたはリンカーを介さずに融合されている。別の具体的な実施態様において、抗体定常領域のC末端と当該単ドメイン抗体のN末端がリンカーを介してまたはリンカーを介さずに融合されている。
【0228】
特定の実施態様において、プロテアーゼ切断配列は運搬部分に含まれる抗体定常領域内に位置する。より具体的な実施態様において、プロテアーゼ切断配列は、抗体重鎖定常領域中の140番(EUナンバリング)アミノ酸より抗原結合ドメイン側、好ましくは、抗体重鎖定常領域中の122番(EUナンバリング)アミノ酸より抗原結合ドメイン側に位置する。別の具体的な実施態様において、プロテアーゼ切断配列は抗体軽鎖定常領域中の130番(EUナンバリング)(Kabatナンバリング130番)アミノ酸より抗原結合ドメイン側、好ましくは、抗体軽鎖定常領域中の113番(EUナンバリング)(Kabatナンバリング113番)アミノ酸より抗原結合ドメイン側に位置する。
【0229】
特定の実施態様において、プロテアーゼ切断配列は抗原結合ドメイン内に位置する。より具体的な実施態様において、抗原結合ドメインは単ドメイン抗体であり、単ドメイン抗体はVHから調製された単ドメイン抗体またはVHHであり、プロテアーゼ切断配列は当該単ドメイン抗体の35b番(Kabatナンバリング)アミノ酸より抗体定常領域側、好ましくは、当該単ドメイン抗体の95番(Kabatナンバリング)アミノ酸より抗体定常領域側、より好ましくは、当該単ドメイン抗体の109番(Kabatナンバリング)アミノ酸より抗体定常領域側に位置する。別の具体的な実施態様において、抗原結合ドメインは単ドメイン抗体であり、単ドメイン抗体はVLから調製された単ドメイン抗体であり、プロテアーゼ切断配列は当該単ドメイン抗体の32番(Kabatナンバリング)アミノ酸より抗体定常領域側、好ましくは、当該単ドメイン抗体の91番(Kabatナンバリング)アミノ酸より抗体定常領域側、より好ましくは、当該単ドメイン抗体の104番(Kabatナンバリング)アミノ酸より抗体定常領域側に位置する。
【0230】
特定の実施態様において、プロテアーゼ切断配列は、抗原結合ドメインと運搬部分の境界付近に位置する。語句「抗原結合ドメインと運搬部分の境界付近」とは、抗原結合ドメインと運搬部分が連結されている部位の前後で、抗原結合ドメインの二次構造に大きく影響しない部分を言う。
【0231】
より具体的な実施態様において、抗原結合ドメインは運搬部分中に含まれている抗体定常領域と連結されており、プロテアーゼ切断配列は抗原結合ドメインと抗体定常領域の境界付近に位置する。語句「抗原結合ドメインと抗体定常領域の境界付近」は、抗原結合ドメインと抗体重鎖定常領域の境界付近、または抗原結合ドメインと抗体軽鎖定常領域の境界付近を指すことができる。抗原結合ドメインが単ドメイン抗体であり、当該単ドメイン抗体がVHから調製された単ドメイン抗体またはVHHであり、抗体重鎖定常領域と繋がれている場合、語句「抗原結合ドメインと抗体定常領域の境界付近」とは、単ドメイン抗体の101番(Kabatナンバリング)のアミノ酸から、抗体重鎖定常領域の140番(EUナンバリング)のアミノ酸の間を指すことができ、好ましくは単ドメイン抗体の109番(Kabatナンバリング)のアミノ酸から、抗体重鎖定常領域の122番(EUナンバリング)のアミノ酸の間を指すことが出来る。抗原結合ドメインが単ドメイン抗体であり、当該単ドメイン抗体がVHから調製された単ドメイン抗体またはVHHであり、抗体軽鎖定常領域と繋がれている場合、語句「抗原結合ドメインと抗体軽鎖定常領域の境界付近」とは、単ドメイン抗体の101番(Kabatナンバリング)のアミノ酸から、抗体軽鎖定常領域の130番(EUナンバリング)(Kabatナンバリング130番)のアミノ酸の間を指すことができ、好ましくは単ドメイン抗体の109番(Kabatナンバリング)のアミノ酸から、抗体軽鎖定常領域の113番(EUナンバリング)(Kabatナンバリング113番)のアミノ酸の間を指すことが出来る。抗原結合ドメインが単ドメイン抗体であり、当該単ドメイン抗体がVLから調製された単ドメイン抗体である場合、語句「抗原結合ドメインと抗体定常領域の境界付近」とは、単ドメイン抗体の96番(Kabatナンバリング)のアミノ酸から、抗体定常領域の所定の位置の間、好ましくは単ドメイン抗体の104番(Kabatナンバリング)のアミノ酸から、抗体定常領域の所定の位置の間である。
【0232】
本発明のいくつかの実施態様において、ポリペプチドはIgG抗体様分子である。このような実施態様の例として、それだけに限定されないが、運搬部分がIgG抗体定常領域を含み、抗原結合ドメインがIgG抗体または改変IgG抗体のVHに取って代わり、VLまたはVHにより抗原結合活性が抑制される実施態様;運搬部分がIgG抗体定常領域を含み、抗原結合ドメインがIgG抗体または改変IgG抗体のVLに取って代わり、VHまたはVLにより抗原結合活性が抑制される実施態様;運搬部分がIgG抗体定常領域を含み、抗原結合ドメインがIgG抗体または改変IgG抗体のVHおよびVLのうちの一方に取って代わり、抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制する別の抗原結合ドメインがIgG抗体または改変IgG抗体の他方のドメインに取って代わる実施態様等が挙げられる。
【0233】
本明細書で用いられる用語「IgG抗体様分子」および「改変IgG抗体」は、IgG抗体のような定常ドメインまたは定常領域の構造と実質的に類似する部分と、IgG抗体のような可変ドメインまたは可変領域の構造と実質的に類似する部分とを有し、IgG抗体と実質的に類似した立体構造を持つ分子を定義するために用いられる。ただし、本明細書において、「IgG抗体様分子」および「改変IgG抗体」は、IgG抗体と類似する構造を保持していても、抗原結合活性を発揮しても発揮しなくてもよい。用語「IgG抗体-様分子」、「IgG-抗体様分子」、および「IgG-抗体-様分子」は、本明細書では相互に交換可能に用いられる。
【0234】
本発明のいくつかの実施態様において、以下の種類の抗体が「改変IgG抗体」として例示される:
(i)IgG抗体にあるようなH鎖可変ドメインまたはH鎖可変領域が、L鎖可変ドメインまたはL鎖可変領域に置換されている「改変IgG抗体」、
(ii)IgG抗体にあるようなL鎖可変ドメインまたはL鎖可変領域が、H鎖可変ドメインまたはH鎖可変領域に置換されている「改変IgG抗体」、
(iii)IgG抗体にあるようなH鎖定常ドメインまたはH鎖定常領域が、L鎖定常ドメインまたはL鎖定常領域に置換されている「改変IgG抗体」、
(iv)IgG抗体にあるようなL鎖定常ドメインまたはL鎖定常領域が、H鎖定常ドメインまたはH鎖定常領域に置換されている「改変IgG抗体」、
(v)上記(i)および(ii)で定義される特徴を有する「改変IgG抗体」、
(vi)上記(i)および(iii)で定義される特徴を有する「改変IgG抗体」、
(vii)上記(i)および(iv)で定義される特徴を有する「改変IgG抗体」、
(viii)上記(ii)および(iii)で定義される特徴を有する「改変IgG抗体」、
(ix)上記(ii)および(iv)で定義される特徴を有する「改変IgG抗体」、
(x)上記(iii)および(iv)で定義される特徴を有する「改変IgG抗体」、
(xi)上記(i)、(ii)および(iii)で定義される特徴を有する「改変IgG抗体」、
(xii)上記(i)、(ii)および(iv)で定義される特徴を有する「改変IgG抗体」、
(xiii)上記(i)、(iii)および(iv)で定義される特徴を有する「改変IgG抗体」、および
(xiv)上記(ii)、(iii)および(iv)で定義される特徴を有する「改変IgG抗体」。
【0235】
ポリペプチドは、1つまたは複数の抗原結合ドメインを含み得る。1つまたは複数の抑制ドメインは、複数の抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制し得る。複数の抗原結合ドメインがそれぞれ抑制ドメインと会合を形成していても良い。複数の抗原結合ドメインがそれぞれ運搬部分と融合していても良い。複数の抗原結合ドメインがそれぞれポリペプチドから遊離することが可能であっても良い。複数の抗原結合ドメインを遊離させるための切断サイトは、抗原結合ドメインの数と対応する複数の切断サイトであっても良い。
【0236】
ポリペプチドがIgG抗体様分子である場合、
図7に示されたような、IgG抗体の二つの可変領域に相当する部分に抗原結合ドメインをそれぞれ設けてもよく、このような実施態様は、本発明に触れた当業者であれば理解できるであろう。その両腕に組み込まれた抗原結合ドメインは、同様の抗原結合特異性を持っていてもよく、あるいは異なる抗原結合特異性を持っていてもよく、このような実施態様は、本発明に触れた当業者であれば当然理解できるであろう。これらの実施態様が、本発明の範囲内に包含されることは明らかである。
【0237】
本発明のいくつかの実施態様において、抗原結合ドメインが第2の抗原結合ドメインと更に連結されている。第2の抗原結合ドメインの例として、それだけに限定されないが、単ドメイン抗体、抗体断片、アンタゴニスト、生体内に存在する細胞膜タンパクであるAvimerに含まれる35アミノ酸程度のAドメインと呼ばれるモジュール(国際公開WO2004/044011、WO2005/040229)、細胞膜に発現する糖タンパク質であるfibronectin由来の、タンパク質結合ドメインである10Fn3ドメインを含むAdnectin(国際公開WO2002/032925)、ProteinAの58アミノ酸から構成される3つのヘリックスの束(bundle)を構成するIgG結合ドメインスキャホールドを含む、Affibody(国際公開WO1995/001937)、33アミノ酸残基構造をそれぞれ有し、ターン、2つの逆並行ヘリックス、およびループのサブユニットが繰り返し積み重なったアンキリン反復(ankyrin repeat:AR)の、分子表面に露出する領域である、DARPins(Designed Ankyrin Repeat proteins)(国際公開WO2002/020565)、好中球ゲラチナーゼ結合リポカリン(neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL))等のリポカリン分子において高度に保存された、バレル構造の片側で中央方向にねじれた8つの逆並行ストランドに接続している4つのループ領域を有する、Anticalin(国際公開WO2003/029462)、ヤツメウナギまたはヌタウナギなど無顎類の獲得免疫システムに見られる、イムノグロブリンの構造を有さない可変性リンパ球受容体(variable lymphocyte receptor(VLR))のロイシン残基に富んだリピート(leucine-rich-repeat(LRR))モジュールが構成する、馬てい形のおりたたみの内部の並行型シート構造のくぼんだ領域(国際公開WO2008/016854)、が挙げられる。好ましい実施態様においては、第2の抗原結合ドメインは、前記抗原結合ドメインとは異なる抗原結合特異性を有する。好ましい実施態様においては、連結された抗原結合ドメインと第2の抗原結合ドメインの分子量は120kDa、100kDa、80kDa、60kDa、またはそれ以下である。
【0238】
より具体的ないくつかの実施態様において、抗原結合ドメインと第2の抗原結合ドメインは、抗原結合特異性が異なる、単ドメイン抗体であり、連結された抗原結合ドメインと第2の抗原結合ドメインはポリペプチドから遊離可能であり、遊離後の抗原結合ドメインと第2の抗原結合ドメインが二重特異性抗原結合分子を形成している。このような二重特異性抗原結合分子の例として、それだけに限定されないが、標的細胞表面抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインと、免疫細胞表面抗原に特異的に結合する第2の抗原結合ドメインとを有する、二重特異性抗原結合分子、同じ抗原の異なるサブユニットに結合する、抗原結合ドメインと第2の抗原結合ドメインとを有する、二重特異性抗原結合分子、同じ抗原中の異なるエピトープに結合する、抗原結合ドメインと第2の抗原結合ドメインとを有する、二重特異性抗原結合分子、が挙げられる。このような二重特異性抗原結合分子は、標的細胞に起因する疾患の治療において、免疫細胞を標的細胞の近傍にまでリクルーティングすることができ、したがって有用であると考えられる。
【0239】
第2の抗原結合ドメインの抗原結合活性は、運搬部分により抑制されていても、運搬部分により抑制されていなくても良い。また、第2の抗原結合ドメインは、運搬部分の一部構造と会合を形成していても、形成していなくても良い。特に、抗原結合ドメインと第2の抗原結合ドメインが抗原結合特異性において異なっている場合、例えば、
図8に示すように、第2の抗原結合ドメインの抗原結合活性が抑制されていなくても、また第2の抗原結合ドメインが運搬部分の一部構造と会合していなくても、遊離しない状態における抗原結合ドメインは、抗原結合ドメインの抗原結合活性を発揮することが出来ず、第2の抗原結合ドメインに連結された抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子は、二重特異的に2種類の抗原に結合する機能を発揮できない。
【0240】
図8において、抗原結合ドメインが第2の抗原結合ドメインと更に連結されている、一つの例示的形態を示している。
【0241】
本明細書において、用語「特異性」とは、特異的に結合する分子の一方が、その1つまたは複数の結合する相手方の分子以外の分子に対しては実質的に結合しない性質をいう。抗原結合ドメインが、特定の抗原中に含まれるエピトープに特異性を有する場合にも、この用語が用いられる。抗原結合ドメインが、ある抗原中に含まれる複数のエピトープのうち特定のエピトープに対して特異性を有する場合にも、この用語が用いられる。この文脈において、用語「実質的に結合しない」とは、結合活性の項で記載される方法に準じて決定され、かつ、前記結合する相手方以外の分子に対する特異的結合分子の結合活性が、前記結合する相手方の分子に対する結合活性の、80%以下、通常50%以下、好ましくは30%以下、特に好ましくは15%以下の結合活性であることをいう。
【0242】
本発明のポリペプチドの分子量は限定されない。例えば、本発明のポリペプチドの分子量は150 kDa以下である。好ましくは、本発明のポリペプチドの分子量は、145 kDa以下、140 kDa以下、135 kDa以下、130 kDa以下、120 kDa以下、100 kDa以下、80 kDa以下、60 kDa以下、50 kDa以下、40 kDa以下、30 kDa以下、または20 kDa以下である。本発明のポリペプチドに含まれる抗原結合ドメインの分子量は、例えば、100 kDa以下、80 kDa以下、60 kDa以下、50 kDa以下、40 kDa以下、30 kDa以下、20 kDa以下、または15 kDa以下である。
【0243】
本発明のポリペプチドの種類は、特に限定されない。例えば、本発明のポリペプチドは、これらに限定されないが、ヒト抗体、ヒト化抗体、モノクローナル抗体、ネイキッド抗体、天然型抗体、および単ドメイン抗体を含む、任意の種類の抗体であり得る。特に、小型の抗体が好ましい場合がある。例えば、本発明のポリペプチドは、これらに限定されないが、Fab、scFv、VHH、VL、VH、または単ドメイン抗体であり得る。
【0244】
また本発明は、本発明のポリペプチドおよび薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物(薬剤)に関する。
【0245】
本明細書で用いられる「治療」(および、その文法上の派生語、例えば「治療する」、「治療すること」)は、治療される個体の自然経過を改変することを企図した臨床的介入を意味し、予防のため、および臨床的病態の経過の間、の両方で実施され得る。治療の望ましい効果は、それだけに限定されるものではないが、疾患の発生または再発の防止、症状の軽減、疾患による任意の直接的または間接的な病理的影響の減弱、転移の防止、疾患の進行速度の低減、疾患状態の回復または緩和、および寛解または改善された予後、を含む。いくつかの実施態様において、本発明のポリペプチドは、疾患の発症を遅らせる、または疾患の進行を遅くするために用いられる。
【0246】
本発明において医薬組成物とは、通常、疾患の治療もしくは予防、あるいは検査もしくは診断のための薬剤をいう。本発明において、「ポリペプチド含む医薬組成物」との用語は、「ポリペプチドを治療対象に投与することを含む、疾患を治療する方法」と言い換えることも可能であるし、「疾患を治療するための医薬の製造におけるポリペプチドの使用」と言い換えることも可能である。また、「ポリペプチドを含む医薬組成物」との用語を、「疾患を治療するためのポリペプチドの使用」と言い換えることも可能である。
【0247】
本発明の医薬組成物は、当業者公知の方法を用いて製剤化され得る。例えば、医薬組成物は、水もしくはその他の任意の薬学的に許容される液体を用いる、無菌性溶液又は懸濁液の注射剤の形で、非経口的に使用され得る。医薬組成物は、例えば、ポリペプチドを、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水もしくは生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化され得る。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な容量が得られるように設定される。
【0248】
注射のための無菌組成物は、注射用蒸留水などのビヒクルを用いて通常の製剤実施にしたがって製剤化され得る。注射用の水溶液の例としては、生理食塩水、ブドウ糖またはその他の補助剤(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適切な溶解補助剤、例えば、アルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、または非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO-50等)が、前記水溶液と併用され得る。
【0249】
油性液の例としては、ゴマ油および大豆油が挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/またはベンジルアルコールもまた、油性液と併用され得る。油性液は、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤と配合され得る。調製された注射液は通常、適切なアンプルに充填される。
【0250】
本発明の医薬組成物は、好ましくは非経口経路により投与される。例えば、注射剤型、関節内投与剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、または経皮投与剤型の組成物が投与される。医薬組成物は、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、または皮下注射により、全身または局部的に投与され得る。
【0251】
投与方法は、患者の年齢および症状により、適宜選択され得る。ポリペプチドを含有する医薬組成物の投与量は、例えば、一回につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲に設定され得る。または、ポリペプチドを含有する医薬組成物の投与量は、例えば、患者あたり0.001~100000 mgの投与量が設定され得るが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量及び投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量及び投与方法を設定することが可能である。本発明のポリペプチドを投与される(適用される)対象は、実質的に任意の動物であってよく、例えば、ヒト、ウサギ、サル、マウス、ラット、ブタ、イヌ等を含む。
【0252】
本発明の医薬組成物は、軟骨組織に薬物を送達するのに、かつ長期間にわたって組織中に薬物を保持するのに有用である。例えば、本発明の医薬組成物は、アグリカン介在性の疾患または障害を治療および/または予防するのに有用である。本発明の医薬組成物はまた、変形性関節症(OA)、軟骨分解、および/または軟骨マトリックス分解を治療および/または予防するのにも有用である。本発明の医薬組成物は、前記疾患または障害を治療および/または予防するのに有効な量で対象に投与される。有効量は、当業者に周知の日常的な実験によって決定することができる。
【0253】
また、本発明は、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含むポリペプチドを製造する方法にも関する。
【0254】
本発明のポリペプチドを製造する一つの方法は、抗原結合活性を有する抗原結合ドメインを取得すること;当該抗原結合ドメインの抗原結合活性が抑制ドメインにより抑制されるように、抗原結合ドメインと運搬部分を連結させてポリペプチド前駆体を形成させること;当該ポリペプチド前駆体に切断サイトを更に挿入すること、もしくは当該ポリペプチド前駆体の一部を切断サイトに改変すること、を含む方法である。ポリペプチド前駆体に切断サイトを導入できるのであれば、切断サイトを導入する方法は、切断サイトの挿入とポリペプチド前駆体の一部の改変の、どちらでも良い。あるいは、両方の手段を合わせて、ポリペプチド前駆体に改変サイトを導入することも出来、このような実施態様は、本明細書に触れた当業者であれば明らかであり、本発明の範囲内に包含される。
【0255】
本発明のポリペプチドを製造する他の方法は、抗原結合活性を有する抗原結合ドメインを取得すること;当該抗原結合ドメインの抗原結合活性が抑制ドメインにより抑制されるように、切断サイトを介して抗原結合ドメインと運搬部分を連結させてポリペプチドを形成させること、を含む方法である。切断サイトを介して抗原結合ドメインと運搬部分を連結させる場合、抗原結合ドメインと運搬部分の間に切断サイトが挟まれても良く、あるいは、抗原結合ドメインの一部または/および運搬部分の一部を改変して切断サイトの一部として使用されても良い。
【0256】
ポリペプチドを製造する方法を、以下に記載する。本発明の1つの実施態様において、抗原結合ドメインは、好ましくは、それ単独で抗原結合活性を有するVLである。さらに、本発明の1つの実施態様において、抗原は、好ましくは軟骨組織中の成分であり、さらに好ましくは、アグリカンなどの細胞外マトリックスの成分である。
【0257】
本発明の一実施態様において、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含むポリペプチドを製造する方法は、以下の工程:
(a) 標的抗原に結合する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b) (a)工程で取得した抗原結合ドメインの抗原結合活性が運搬部分の抑制ドメインに抑制されるように、当該抗原結合ドメインと当該運搬部分を連結させてポリペプチド前駆体を形成させる工程;および
(c) 前記ポリペプチド前駆体中にプロテアーゼ切断配列を導入する工程;
を含む、製造方法である。
【0258】
本発明の一実施態様において、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含むポリペプチドを製造する方法は、以下の工程:
(a) 標的抗原に結合する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b) (a)工程で取得した抗原結合ドメインの抗原結合活性が運搬部分の抑制ドメインに抑制されるように、当該抗原結合ドメインと当該運搬部分を連結させてポリペプチド前駆体を形成させる工程;および
(c) 前記抗原結合ドメインと前記運搬部分との境界付近にプロテアーゼ切断配列を導入する工程;
を含む、製造方法である。
【0259】
本発明の一実施態様において、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含むポリペプチドを製造する方法は、以下の工程:
(a) 標的抗原に結合する抗原結合ドメインを取得する工程;および
(b) (a)工程で取得した抗原結合ドメインの抗原結合活性が運搬部分の抑制ドメインに抑制されるように、当該抗原結合ドメインを、プロテアーゼ切断配列を介して当該運搬部分と連結させてポリペプチドを形成させる工程;
を含む、製造方法である。
【0260】
特定の実施態様において、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含むポリペプチドを製造する方法は、以下の工程:
(d) 前記ポリペプチドまたは前記ポリペプチド前駆体中に組み込まれた前記抗原結合ドメインの前記標的抗原に対する結合活性が、弱められていることまたは失われていることを確認する工程;
を更に含む、製造方法である。
本発明において、語句「結合活性が弱められ」ているとは、連結前と比較して標的抗原に対する結合活性が減少していることを意味し、この減少の程度は問わない。
【0261】
特定の実施態様において、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含むポリペプチドを製造する方法は、以下の工程:
(e) 前記プロテアーゼ切断配列をプロテアーゼで切断することによって前記抗原結合ドメインを遊離させ、遊離した抗原結合ドメインが抗原に結合することを確認する工程;
を更に含む、製造方法である。
【0262】
本発明の一実施態様において、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含みIgG抗体様分子であるポリペプチドを製造する方法は、以下の工程:
(a) 標的抗原に結合する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b) (a)工程で取得した抗原結合ドメインの抗原結合活性が抑制されるように、当該抗原結合ドメインをIgG抗体または改変IgG抗体のVHの代わりとしてVLまたはVHと会合させ、または当該抗原結合ドメインをIgG抗体または改変IgG抗体のVLの代わりとしてVHまたはVLと会合させることによって、前記抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子前駆体を形成させる工程;および
(c) 前記抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子前駆体中にプロテアーゼ切断配列を導入する工程;
を含む、製造方法である。
【0263】
本発明の一実施態様において、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含みIgG抗体様分子であるポリペプチドを製造する方法は、以下の工程:
(a) 標的抗原に結合する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b) (a)工程で取得した抗原結合ドメインの抗原結合活性が抑制されるように、当該抗原結合ドメインをIgG抗体または改変IgG抗体のVHの代わりとしてVLまたはVHと会合させ、または当該抗原結合ドメインをIgG抗体または改変IgG抗体のVLの代わりとしてVHまたはVLと会合させることによって、前記抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子前駆体を形成させる工程;および
(c) 前記抗原結合ドメインと前記IgG抗体様分子前駆体中の抗体定常領域との境界付近にプロテアーゼ切断配列を導入する工程;
を含む、製造方法である。
【0264】
本発明の一実施態様において、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含みIgG抗体様分子であるポリペプチドを製造する方法は、以下の工程:
(a) 標的抗原に結合する抗原結合ドメインを取得する工程;および
(b) (a)工程で取得した抗原結合ドメインの抗原結合活性が抑制されるように、当該抗原結合ドメインをIgG抗体VHまたはVLの代わりとして、プロテアーゼ切断配列を介してIgG抗体の重鎖定常領域または軽鎖定常領域と連結させ、前記抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子を形成させる工程;
を含む、製造方法である。
【0265】
特定の実施態様において、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインを含みIgG抗体様分子であるポリペプチドを製造する方法は、以下の工程:
(d) 前記IgG抗体様分子または前記IgG抗体様分子前駆体に導入されている抗原結合ドメインの前記標的抗原に対する結合活性が、弱められていることまたは失われていることを確認する工程;
を更に含む、製造方法である。
本発明において、語句「結合活性が弱められ」ているとは、会合前または連結前と比較して標的抗原に対する結合活性が減少していることを意味し、この減少の程度は問わない。
【0266】
特定の実施態様において、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含みIgG抗体様分子であるポリペプチドを製造する方法は、以下の工程:
(e) 前記プロテアーゼ切断配列をプロテアーゼで切断することによって前記抗原結合ドメインを遊離させ、遊離した抗原結合ドメインが前記標的抗原に結合することを確認する工程;
を更に含む、製造方法である。
【0267】
抑制ドメインとしてVH、VL、またはVHHを使用する場合、抗原結合ドメインの抗原結合活性を運搬部分の抑制ドメインで抑制させる方法には、抗原結合ドメインとVH、VL、またはVHHを会合させる方法が含まれる。用意した抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制するVH、VL、またはVHHは、既知のVH、VL、またはVHHを当該抗原結合ドメインと会合させ、会合前後の抗原結合ドメインの抗原結合活性を比較することでスクリーニングできる。
【0268】
抗原結合ドメインの抗原結合活性を特定のVH、VL、またはVHHで抑制させる別の方法では、抗原結合ドメイン中の、VH、VL、またはVHHとの会合に関与しているアミノ酸残基を置換して会合を促進すること、またはあるアミノ酸残基が最初から会合を促進できるアミノ酸である抗原結合ドメインを使用することにより、会合前後の抗原結合活性の差が所望のレベルにある抗原結合ドメイン/抑制ドメインペアを用意することもできる。
【0269】
本発明の一実施態様において、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含むIgG抗体様分子であるポリペプチドを製造する方法は、以下の工程:
(a) 抗原結合ドメイン中の、抗体VHとの抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、または抗原結合ドメイン中の、抗体VLとの抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、当該抗原結合ドメインの標的抗原に対する結合活性を保持する改変抗原結合ドメインを調製する工程;
(b) (a)工程で調製した改変抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制するように、当該改変抗原結合ドメインを抗体VHと会合させ、または当該改変抗原結合ドメインを抗体VLと会合させることによって、当該改変抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子前駆体を形成させる工程;および
(c) 前記改変抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子前駆体中にプロテアーゼ切断配列を導入する工程;
を含む、製造方法である。
【0270】
本発明の一実施態様において、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含みIgG抗体様分子であるポリペプチドを製造する方法は、以下の工程:
(a)抗原結合ドメイン中の、抗体VHとの抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、または抗原結合ドメイン中の、抗体VLとの抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、当該抗原結合ドメインの標的抗原に対する結合活性を保持する改変抗原結合ドメインを調製する工程;
(b) (a)工程で調製した改変抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制するように、当該改変抗原結合ドメインを抗体VHと会合させ、または当該改変抗原結合ドメインを抗体VLと会合させることによって、当該改変抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子前駆体を形成させる工程;および
(c) 前記改変抗原結合ドメインと前記IgG抗体様分子前駆体の定常領域との境界付近にプロテアーゼ切断配列を導入する工程;
を含む、製造方法である。
【0271】
本発明の一実施態様において、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含みIgG抗体様分子であるポリペプチドを製造する方法は、以下の工程:
(a)抗原結合ドメイン中の、抗体VHとの抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、または抗原結合ドメイン中の、抗体VLとの抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、当該抗原結合ドメインの標的抗原に対する結合活性を保持する改変抗原結合ドメインを調製する工程;および
(b) (a)工程で調製した改変抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制するように、当該改変抗原結合ドメインをプロテアーゼ切断配列を介してIgG抗体の重鎖定常領域と連結させ、または当該改変抗原結合ドメインをプロテアーゼ切断配列を介してIgG抗体の軽鎖定常領域と連結させ、当該改変抗原結合ドメインが導入されているIgG抗体様分子を形成させる工程;
を含む、製造方法である。
【0272】
特定の実施態様において、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含みIgG抗体様分子であるポリペプチドを製造する方法は、以下の工程:
(d) 前記IgG抗体様分子または前記IgG抗体様分子前駆体に導入されている前記改変抗原結合ドメインの前記標的抗原に対する結合活性が、弱められていることまたは失われていることを確認する工程;
を更に含む、製造方法である。
本発明において、語句「結合活性が弱められ」ているとは、会合前または連結前と比較して標的抗原に対する結合活性が減少していることを意味し、この減少の程度は問わない。
【0273】
特定の実施態様において、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含みIgG抗体様分子であるポリペプチドを製造する方法は、以下の工程:
(e) 前記プロテアーゼ切断配列をプロテアーゼで切断することによって前記改変抗原結合ドメインを遊離させ、遊離した改変抗原結合ドメインが前記標的抗原に結合することを確認する工程;
を更に含む、製造方法である。
【0274】
また、本発明は、抑制ドメインを有する運搬部分と抗原結合ドメインとを含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドにも関する。
【0275】
本発明のポリヌクレオチドは、通常、適当なベクターで担持(に挿入)され、宿主細胞へ移入される。該ベクターが挿入した核酸を安定に保持することができれば、該ベクターは特に制限されず、例えば、宿主として大腸菌(E. coli)を用いる場合は、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましいが、市販の種々のベクターを利用することができる。本発明のポリペプチドを産生する目的のためにベクターを用いる場合には、発現ベクターが特に有用である。発現ベクターが、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、または生物個体内で、ポリペプチドの発現を可能にするのであれば、発現ベクターは特に制限されない。発現ベクターは、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))が好ましい。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0276】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。ポリペプチドを発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス(Streotococcus)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、大腸菌、ストレプトミセス(Streptomyces)、および枯草菌(Bacillus subtilis))、真菌細胞(例:酵母、およびアスペルギルス(Aspergillus))、昆虫細胞(例:ドロソフィラ(Drosophila)S2、およびスポドプテラ(Spodoptera)SF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、およびBowes メラノーマ細胞)および植物細胞を挙げることができる。宿主細胞へのベクターの移入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクタミン法(GIBCO-BRL/Thermo Fisher ScientificInc.製)、またはマイクロインジェクション法などの当技術分野において公知の方法で行うことが可能である。
【0277】
宿主細胞において発現したポリペプチドを小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを目的のポリペプチドに組み込むことができる。当該シグナルは目的のポリペプチドに対して内因性であってもよいし、異種シグナルであってもよい。
【0278】
上記製造方法におけるポリペプチドの回収は、本発明のポリペプチドが培地に分泌される場合は、培地の回収によって実施する。本発明のポリペプチドが細胞内に産生される場合は、その細胞をまず溶解し、その後にポリペプチドを回収する。
【0279】
組換え細胞培養物から本発明のポリペプチドを回収し精製するためには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィーを含めた、当技術分野において公知の方法を用いることができる。
【0280】
本発明のいつくかの実施態様において、抗原結合ドメインの抗原結合活性は、特定のVLと会合することで、もしくは特定のVHと会合することで、もしくは特定のVHHと会合することで抑制され得る。
【0281】
本発明はまた、そのような抗原結合ドメインについてスクリーニングする方法にも関する。本発明の一実施態様において、抗原結合ドメインは好ましくはそれ単独で抗原結合活性を有するVLである。さらに、本発明の一実施態様において、抗原は、好ましくは軟骨組織中の構成成分、より好ましくはアグリカンなどの細胞外マトリックスの構成成分である。
【0282】
本発明のスクリーニング方法は、医薬品の候補物質についてスクリーニングするために用いられ得る。本発明のスクリーニング方法が、例えば、これらに限定されないが、標的抗原として、軟骨組織中の構成成分、好ましくはアグリカンなどの、軟骨組織中の細胞外マトリックスの構成成分に対して実施される場合、得られる抗原結合ドメインは、標的抗原が介在する疾患または障害の治療および/または予防のための候補であり得る。したがって、本発明は、標的抗原が介在する疾患または障害の治療および/または予防のための候補物質についてスクリーニングする方法を提供する。
【0283】
抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制するVL、VH、またはVHHとして、配列既知のVL、VH、またはVHH、例えば配列がIMGTまたはKabatデータベースに登録されているVL、VH、またはVHHを使用することが出来る。また、新たにヒト抗体ライブラリ等から同定したVL、VH、またはVHHの配列も使用できる。これらの配列を組み合わせてタンパク質を調製し、前記の方法を用いて結合活性を測定することで、抗原結合ドメインの結合活性を抑制するVL、VH、またはVHHを選定することができる。
【0284】
本発明のいくつかの実施態様において、抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制するVL、VH、またはVHHとして、ヒト抗体ジャームライン配列を有するVL、VH、またはVHHを使用できる。例えば、抑制ドメインとしてVLを使用する場合、カッパ鎖のフレームワーク配列を有するVL、またはラムダ鎖のフレームワーク配列を有するVLを使用することができる。また、カッパ鎖のフレームワーク配列とラムダ鎖のフレームワーク配列を組み合わせたフレームワーク配列などの、改変されたフレームワーク配列を有するVLを使用することもできる。
【0285】
一実施態様において、本発明は、以下の工程:
(a) 標的抗原結合活性を有する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b) (a)工程で取得した抗原結合ドメインを特定のVLと会合させる工程;および
(c) (b)工程で特定のVLと会合させた前記抗原結合ドメインの前記抗原に対する結合活性が、弱められていることまたは失われていることを確認する工程;
を含む、特定のVLと会合することでその抗原結合活性が抑制され得る抗原結合ドメインをスクリーニングする方法を提供する。
本発明において、語句「結合活性が弱められ」ているとは、会合前と比較して標的抗原に対する結合活性が減少していることを意味し、この減少の程度は問わない。
【0286】
一実施態様において、本発明は、以下の工程:
(a) 標的抗原結合活性を有する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b) (a)工程で取得した抗原結合ドメインを特定のVHと会合させる工程;および
(c) (b)工程で特定のVHと会合させた前記抗原結合ドメインの前記抗原に対する結合活性が、弱められていることまたは失われていることを確認する工程;
を含む、特定のVHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得る抗原結合ドメインをスクリーニングする方法を提供する。
本発明において、語句「結合活性が弱められ」ているとは、会合前と比較して標的抗原に対する結合活性が減少していることを意味し、この減少の程度は問わない。
【0287】
一実施態様において、本発明は、以下の工程:
(a) 標的抗原結合活性を有する抗原結合ドメインを取得する工程;
(b) (a)工程で取得した抗原結合ドメインを特定のVHHと会合させる工程;および
(c) (b)工程で特定のVHHと会合させた前記抗原結合ドメインの前記抗原に対する結合活性が、弱められていることまたは失われていることを確認する工程;
を含む、特定のVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得る抗原結合ドメインをスクリーニングする方法を提供する。
本発明において、語句「結合活性が弱められ」ているとは、会合前と比較して標的抗原に対する結合活性が減少していることを意味し、この減少の程度は問わない。
【0288】
抗原結合ドメインと特定のVL、VH、またはVHHを会合させる方法の例として、完全抗体、Fab、Fab'、またはF(ab’)2等、VHおよびVLの両方を含む抗体または抗体断片中の、VHおよびVLのうちの一方の配列の代わりに抗原結合ドメインの配列を有する分子を設計し、当該配列を有するポリペプチドを発現させる方法が挙げられる。
【0289】
また、本発明は、特定のVLと会合することで、もしくは特定のVHと会合することで、もしくは特定のVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制される抗原結合ドメインをスクリーニングすることに加え、抗原結合ドメインと特定のVL、VH、もしくはVHHとの会合を促進することで、抗原結合ドメインと特定のVLとの会合を促進することで、もしくは抗原結合ドメインと特定のVHとの会合を促進することで、もしくは抗原結合ドメインと特定のVHHとの会合を促進することでその抗原結合活性が抑制される抗原結合ドメインを製造する方法にも関する。
【0290】
一実施態様において、本発明は、以下の工程:
(a)抗原結合ドメイン中の、抗体VLとの抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、当該抗原結合ドメインの標的抗原に対する結合活性を保持する改変抗原結合ドメインを調製する工程;
を含む、特定のVLと会合することでその抗原結合活性が抑制される抗原結合ドメインを製造する方法を提供する。
【0291】
特定の実施態様において、本発明は、以下の工程:
(b) (a)工程で調製された改変抗原結合ドメインを特定のVLと会合させる工程;および
(c) 当該VLと会合させた前記改変抗原結合ドメインの抗原結合活性が、弱められていることまたは失われていることを確認する工程;
を更に含む、特定のVLと会合することでその抗原結合活性が抑制される抗原結合ドメインを製造する方法を提供する。
本発明において、語句「結合活性が弱められ」ているとは、会合前と比較して標的抗原に対する結合活性が減少していることを意味し、この減少の程度は問わない。
【0292】
一実施態様において、本発明は、以下の工程:
(a)抗原結合ドメイン中の、抗体VHとの抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、当該抗原結合ドメインの標的抗原に対する結合活性を保持する改変抗原結合ドメインを調製する工程;
を含む、特定のVHと会合することでその抗原結合活性が抑制される抗原結合ドメインを製造する方法を提供する。
【0293】
特定の実施態様において、本発明は、以下の工程:
(b) (a)工程で調製された改変抗原結合ドメインを特定のVHと会合させる工程;および
(c) 当該VHと会合させた前記改変抗原結合ドメインの抗原結合活性が、弱められていることまたは失われていることを確認する工程;
を更に含む、特定のVHと会合することでその抗原結合活性が抑制される抗原結合ドメインを製造する方法を提供する。
本発明において、語句「結合活性が弱められ」ているとは、会合前と比較して標的抗原に対する結合活性が減少していることを意味し、この減少の程度は問わない。
【0294】
一実施態様において、本発明は、以下の工程:
(a)抗原結合ドメイン中の、VHHとの抗原結合ドメインの会合に関与するアミノ酸残基を置換し、当該抗原結合ドメインの標的抗原に対する結合活性を保持する改変抗原結合ドメインを調製する工程;
を含む、特定のVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制される抗原結合ドメインを製造する方法を提供する。
【0295】
特定の実施態様において、本発明は、以下の工程:
(b) (a)工程で調製された改変抗原結合ドメインを特定のVHHと会合させる工程;および
(c) 当該VHHと会合させた前記改変抗原結合ドメインの抗原結合活性が、弱められていることまたは失われていることを確認する工程;
を更に含む、特定のVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制される抗原結合ドメインを製造する方法を提供する。
本発明において、語句「結合活性が弱められ」ているとは、会合前と比較して標的抗原に対する結合活性が減少していることを意味し、この減少の程度は問わない。
【0296】
抗原結合ドメインを特定のVL、VH、またはVHHと会合させる工程は、完全抗体、Fab、Fab'、F(ab’)2等、VHおよびVLの両方を含む抗体または抗体断片中の、VHおよびVLのうちの一方の配列の代わりに抗原結合ドメインの配列を有する分子を設計し、当該配列を有するポリペプチドを発現させる方法により行われる。
【0297】
本発明のある実施態様によれば、本発明の特定のVL、VH、またはVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインは、抗原結合ドメインと第1会合支持ドメインをそれぞれ連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリから取得され得る。
【0298】
本明細書における「ライブラリ」の実施態様として、特定のVL、VH、またはVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを効率的に取得できるライブラリを提供することが出来る。
【0299】
本明細書において「ライブラリ」とは異なる配列を有する複数の融合ポリペプチド、またはこれらの融合ポリペプチドをコードする核酸若しくはポリヌクレオチドのセットをいう。ライブラリ中に含まれる複数の融合ポリペプチドは、単一の配列ではなく、互いに配列の異なる、融合ポリペプチドである。
【0300】
本明細書においては、「互いに配列の異なる複数の融合ポリペプチド」における「互いに配列の異なる」との用語は、ライブラリ中の個々の融合ポリペプチドが異なる配列を有することを意味する。より好ましくは、この用語は、ライブラリ中の個々の融合ポリペプチドの抗原結合ドメイン部分が異なる配列を有することを意味する。すなわち、ライブラリにおける異なる配列の数には、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数が反映され、「ライブラリサイズ」とも称される。通常のファージディスプレイライブラリは106から1012であり、リボゾームディスプレイ法等の当技術分野において公知の技術を適用することによってライブラリサイズを1014まで拡大することが可能である。しかしながら、ファージライブラリのパニング選択時に使用されるファージ粒子の実際の数は、通常、ライブラリサイズよりも10~10,000倍大きい。この過剰倍数は、「ライブラリ当量数」とも呼ばれ、同じアミノ酸配列を有し得る個々のクローンが10~10,000存在することを表す。よって本発明における「互いに配列の異なる」との用語は、ライブラリ当量数が除外されたライブラリ中の個々のポリペプチドが異なる配列を有すること、より具体的には、ライブラリが、106~1014分子、好ましくは107~1012分子の、互いに配列の異なるポリペプチドを有することを意味する。
【0301】
本発明の、複数の融合ポリペプチドから主としてなるライブラリにおける「複数の」との用語は、例えば本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド分子、ベクターまたはウイルスの、通常、その物質の2つ以上の種類の集合を指す。例えば、ある2つ以上の物質が特定の形質に関して互いに異なるならば、これは、その物質には2種類以上であることを意味する。例としては、アミノ酸配列中の特定のアミノ酸位置で観察される変異体アミノ酸が挙げられ得る。例えば、表面に露出した非常に多様なアミノ酸位置の特定の変異体アミノ酸以外が実質的に同じ、好ましくは同一の配列である、本発明の2つ以上のポリペプチドは、本発明の複数のポリペプチドとみなされる。他の例では、表面に露出した非常に多様なアミノ酸位置の特定の変異体アミノ酸をコードする塩基以外が実質的に同じ、好ましくは同一の配列である、本発明の2つ以上のポリヌクレオチド分子は、本発明の複数のポリヌクレオチド分子とみなされる。
【0302】
結合活性を指標とする融合ポリペプチドをスクリーニングする方法として、ファージベクターを利用したパニング法も好適に用いられる。各抗原結合ドメインをコードする遺伝子と、IgG抗体CH1ドメインもしくは軽鎖定常領域をコードする遺伝子は、適当な形態で連結することによって融合ポリペプチドを形成することができる。このように形成され融合ポリペプチドをコードする遺伝子をファージベクターに挿入することにより、融合ポリペプチドを表面に発現するファージが取得され得る。このファージと所望の抗原との接触の後に、抗原に結合したファージを回収することによって、目的の結合活性を有する融合ポリペプチドをコードするDNAが回収され得る。この操作を必要に応じて繰り返すことにより、所望の結合活性を有する融合ポリペプチドが濃縮され得る。
【0303】
ファージディスプレイ法以外にも、ライブラリを用いて、パニングにより融合ポリペプチドを取得する技術として、無細胞翻訳系を使用する技術、細胞またはウイルス表面に融合ポリペプチドを提示するまたはディスプレイする技術、エマルジョンを使用する技術等が知られている。例えば、無細胞翻訳系を使用する技術としては、終止コドンの除去等によりリボゾームを介してmRNAと翻訳されたタンパク質との複合体を形成させるリボゾームディスプレイ法、ピューロマイシン等の化合物を用いて遺伝子配列と翻訳されたタンパク質を共有結合させる、cDNAディスプレイ法もしくはmRNAディスプレイ法、または、核酸に対する結合タンパク質を用いて遺伝子と翻訳されたタンパク質との複合体を形成させるCISディスプレイ法が使用され得る。例えば、細胞またはウイルス表面に融合ポリペプチドを提示するまたはディスプレイする技術としては、ファージディスプレイ法以外にも、大腸菌ディスプレイ法、グラム陽性菌ディスプレイ法、酵母ディスプレイ法、哺乳類細胞ディスプレイ法、またはウイルスディスプレイ法等が使用され得る。例えば、エマルジョンを使用する技術としては、遺伝子及び翻訳関連分子を内包するエマルジョンを使用する、インビトロウイルスディスプレイ法が使用され得る。これらの方法は当技術分野において既知である(Nat Biotechnol. 2000 Dec;18(12):1287-92、Nucleic Acids Res. 2006;34(19):e127、Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Mar 2;101(9):2806-10、Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Jun 22;101(25):9193-8、Protein Eng Des Sel. 2008 Apr;21(4):247-55、Proc Natl Acad Sci U S A. 2000 Sep 26;97(20):10701-5、MAbs. 2010 Sep-Oct;2(5):508-18、Methods Mol Biol. 2012;911:183-98)。
【0304】
抗原結合ドメインと第1会合支持ドメインとをそれぞれ連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリから、目的とする抗原結合ドメインを取得する方法として、抑制ドメインと第2会合支持ドメインとを連結させた会合パートナーを使用することができる。
【0305】
本明細書において「第1会合支持ドメイン」、および「第2会合支持ドメイン」とは、互いに疎水結合、水素結合、またはイオン結合等の結合で相互作用し、会合体を形成できるドメインを言う。第1会合支持ドメインおよび第2会合支持ドメインの好適な例として、それだけに限定されないが、抗体の軽鎖定常領域(CL)および重鎖定常領域のCH1ドメインが挙げられる。
【0306】
第1会合支持ドメインと第2会合支持ドメインは互いに相互作用が可能であり、抗原結合ドメインと抑制ドメインとの会合性の程度に関わらず、融合ポリペプチドと会合パートナーは会合を形成できる。
【0307】
本発明の別の実施態様において、抗原結合ドメインとIgG抗体軽鎖定常領域とを連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリであって、前記抗原結合ドメイン中には、特定のVL、VH、またはVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含むライブラリ、及び特定のVL、VH、またはVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを当該ライブラリからスクリーニングする方法が提供される。
【0308】
具体的な実施態様では、
図9Aの(1)(2)(3)、
図9B、および
図9Cに示すように、
(1)抗原結合ドメインと第1会合支持ドメインとをそれぞれ連結させた融合ポリペプチドを、ファージディスプレイ等のディスプレイ法でファージ等の表面にディスプレイさせる;
(2)抑制ドメインと第2会合支持ドメインとを連結させた会合パートナーを用意し、融合ポリペプチドと会合パートナーを会合させる。この融合ポリペプチドと会合パートナーとが会合している状態において、標的抗原に結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下の融合ポリペプチドを選択する;
(3)(2)で選択した融合ポリペプチド中の抗原結合ドメインと、会合パートナー中の抑制ドメインとの会合を解消させ、抗原結合ドメインが抑制ドメインと会合しない状態で、標的抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である融合ポリペプチドを選択する。
【0309】
この文脈において、例えば、抗原結合ドメインと抑制ドメインとの会合を解消する方法として、
図9Bに示す、抑制ドメインと第2会合支持ドメインの境界付近で会合パートナーを切断する方法、または、
図9Cに示す、抗原結合ドメインと第1会合支持ドメインの境界付近で融合ポリペプチドを切断する方法等を使用し得る。
【0310】
本発明の更なる実施態様においては、
図9A~
図9Cで示される、抗原結合ドメインと抑制ドメインの会合解消状態および非解消状態における抗原結合ドメインの結合活性の違いを比較する代わりに、
図9Dで示されるように、抗原結合ドメインと抑制ドメインを同時発現させるとき、および抑制ドメインを同時に発現させない状態で抗原結合ドメインを発現させるときの、抗原結合ドメインの結合活性の違いを比較することを含む方法が提供される。
【0311】
図9D(1)で示されるように、抗原結合ドメインと抑制ドメインを同時に発現させて会合を形成させ、当該状態において、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下である抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドを選択し、
図9D(2)、(2')、および(2'')で示されるように、抑制ドメインを同時に発現させない状態で抗原結合ドメインを発現させ、当該状態において、抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドを選択することで、抗原結合ドメインと第1会合支持ドメインをそれぞれ連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリから、特定の抑制ドメイン、例えばVH、VL、またはVHH、と会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインをスクリーニングすることが可能である。あるいは、抑制ドメインを同時に発現させない状態で抗原結合ドメインを発現させ、当該状態において、抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である抗原結合ドメインを含むポリペプチドを選択し、その後抗原結合ドメインと抑制ドメインを同時に発現させて会合を形成させ、当該状態において、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下である抗原結合ドメインを含むポリペプチドを選択する方法でも、抗原結合ドメインと第1会合支持ドメインをそれぞれ連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリから、特定の抑制ドメイン、例えばVH、VL、またはVHH、と会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインをスクリーニングすることが可能である。また、
図9D(2)、(2')、および(2'')で示されるような、抑制ドメインを同時に発現させない状態で抗原結合ドメインを発現させ(抗原結合ドメインのみを発現させる、または抗原結合ドメインと第1会合支持ドメインとを含む融合ポリペプチドのみを発現させる、または抗原結合ドメインと第1会合ドメインとを含む融合ポリペプチドを第2会合支持ドメインのみと会合させる)、当該状態において、抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドを選択し、選択された融合ポリペプチドから、
図9D(1)で示されるような、抗原結合ドメインと抑制ドメインを同時に発現させて会合を形成させ、当該状態において、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下である抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドを選択することでも、抗原結合ドメインと第1会合支持ドメインをそれぞれ連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリから、特定の抑制ドメイン、例えばVH、VL、またはVHH、と会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインをスクリーニングすることが可能である。
【0312】
「抗原結合活性が一定値以下」とは、例えば、本願明細書で例示される方法で抗原結合活性を測定した時、一定の基準を下回る抗原結合活性を指すことができる。「抗原結合活性が一定値以上」とは、同様に、例えば、本願明細書で例示される方法で抗原結合活性を測定した時、一定の基準を上回る抗原結合活性を指すことができる。抗原結合活性が一定値以上である融合ポリペプチドは、抗原結合活性が一定値以下である融合ポリペプチドより抗原に強く結合する。
【0313】
上記(3)で選択した融合ポリペプチドは、抑制ドメインと会合する状態で抗原結合活性がなくもしくは弱く、抑制ドメインと会合しない状態で抗原結合活性がある(強い)抗原結合ドメインを含む。このような方法で選択した融合ポリペプチドの配列を解析すれば、その中に含まれる抗原結合ドメインの配列も解明でき、当該抗原結合ドメインを製造できる。
【0314】
融合ポリペプチドおよび会合パートナーを使用して、目的とする抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドをスクリーニングする方法に重要なのは、抗原結合ドメインの、抑制ドメインと会合状態および非会合状態での抗原結合活性を比較することである。
図9A(2')および(3')に示すように、ディスプレイされた融合ポリペプチドの抗原結合活性を先に確認し、抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である融合ポリペプチドを選択してから、それらの選択された融合ポリペプチドと会合パートナーと会合させ、会合状態下で、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下である融合ポリペプチドを選択する方法でも、目的とする抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドを取得し得る。
【0315】
以下、第1会合支持ドメインとしてIgG抗体CH1ドメインを使用し、第2会合支持ドメインとしてIgG抗体CLを使用するいくつかの実施態様について説明する。
【0316】
抗原結合ドメインとIgG抗体CH1ドメインとをそれぞれ連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリから、目的とする抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドをスクリーニングすることができる。
【0317】
本発明のいくつかの実施態様において、抗原結合ドメインとIgG抗体CH1ドメインとをそれぞれ連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリであって、前記抗原結合ドメイン中には、特定のVL、VH、またはVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含むライブラリ、及び当該ライブラリから、特定のVL、VH、またはVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドをスクリーニングする方法が提供される。
【0318】
本発明の特定の実施態様において、抗原結合ドメインとIgG抗体CH1ドメインとをそれぞれ連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリから、特定のVLと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドをスクリーニングする方法が提供される。具体的には、本発明は、以下の工程:
(a) 本発明のライブラリの融合ポリペプチドをインビトロディスプレイさせる工程;
(b) 特定のVLとIgG抗体軽鎖定常領域とを融合した会合パートナーを用意する工程;
(c) (a)工程でディスプレイされた融合ポリペプチドと、(b)工程で用意した会合パートナーとを会合させ、抗原結合ドメインと前記VLが会合する状態で、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下である融合ポリペプチドを選択する工程;および
(d) (c)工程で選択された融合ポリペプチドに含まれる抗原結合ドメインが前記VLと会合しない状態で抗原と結合する、もしくは抗原結合活性が一定値以上である融合ポリペプチドを選択する工程;
を含む、抗原結合ドメインをスクリーニングする方法を提供する。
【0319】
前記(b)工程で用意された会合パートナーはプロテアーゼ切断配列を更に含み、この場合、前記(d)工程では、プロテアーゼ処理により、前記抗原結合ドメインと前記VLとの会合を解消させ、抗原結合ドメインとVLが会合しない状態で抗原結合ドメインの抗原結合活性を確認することが可能である。会合パートナー中のプロテアーゼ切断配列は、切断によって抗原結合ドメインとVLとの会合が解消される限り、その位置は限定されない。プロテアーゼ切断配列の位置の例として、例えば、会合パートナーのVLとIgG抗体軽鎖定常領域の境界付近、好ましくは、VLの96番(Kabatナンバリング)アミノ酸から抗体軽鎖定常領域の130番(EUナンバリング)(Kabatナンバリング130番)アミノ酸の間の任意の位置、より好ましくは、VLの104番(Kabatナンバリング)アミノ酸から抗体軽鎖定常領域の113番(EUナンバリング)(Kabatナンバリング113番)アミノ酸の間の任意の位置、に位置することが可能である。
【0320】
プロテアーゼ切断配列を含む会合パートナーを使用する代わりに、ライブラリ中の融合ポリペプチドにプロテアーゼ切断配列を導入し、融合ポリペプチドがプロテアーゼに切断されることで抗原結合ドメインとVLとの会合を解消させることが可能である。各融合ポリペプチド中のプロテアーゼ切断配列は、切断によって抗原結合ドメインとVLとの会合が解消され、且つ切断後も抗原結合ドメインの抗原結合活性が保持される限り、その位置は限定されない。プロテアーゼ切断配列の位置の例として、例えば、融合ポリペプチド中の抗原結合ドメインとIgG抗体CH1ドメインの境界付近に位置することが可能である。
【0321】
前記(d)工程では、(c)工程で選択した融合ポリペプチドの全長もしくは抗原結合ドメインを含む部分を再度ディスプレイさせ、抗原結合ドメインとVLが会合しない状態で抗原結合ドメインの抗原結合活性を確認することが可能である。
【0322】
本発明の特定の実施態様において、抗原結合ドメインとIgG抗体軽鎖定常領域をそれぞれ連結させた融合ポリペプチドを複数含むライブラリから、特定のVHと会合することでその抗原結合活性が抑制され得るもしくは失われ得る抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドをスクリーニングする方法が提供される。具体的には、本発明は、以下の工程:
(a) 本発明のライブラリの融合ポリペプチドをインビトロディスプレイさせる工程;
(b) 特定のVHとIgG抗体CH1ドメインを融合した会合パートナーを用意する工程;
(c) (a)工程でディスプレイされた融合ポリペプチドと、(b)工程で用意した会合パートナーとを会合させ、抗原結合ドメインと前記VHが会合する状態で、抗原と結合しないもしくは抗原結合活性が一定値以下である融合ポリペプチドを選択する工程;および
(d) (c)工程で選択された融合ポリペプチドに含まれる抗原結合ドメインが前記VHと会合しない状態で、抗原と結合するもしくは抗原結合活性が一定値以上である融合ポリペプチドを選択する工程;
を含む、抗原結合ドメインを含む融合ポリペプチドをスクリーニングする方法を提供する。
【0323】
前記(b)工程で用意された会合パートナーはプロテアーゼ切断配列を更に含み、この場合、前記(d)工程では、プロテアーゼ処理により前記抗原結合ドメインと前記VHとの会合を解消させ、抗原結合ドメインとVHが会合しない状態で抗原結合ドメインの抗原結合活性を確認することが可能である。会合パートナー中のプロテアーゼ切断配列は、切断によって抗原結合ドメインとVHとの会合が解消される限り、その位置は限定されない。プロテアーゼ切断配列の位置の例として、例えば、会合パートナーのVHとIgG抗体CH1ドメインの境界付近、好ましくは、VHの101番(Kabatナンバリング)アミノ酸から抗体重鎖定常領域の140番(EUナンバリング)アミノ酸の間の任意の位置、更に好ましくは、VHの109番(Kabatナンバリング)アミノ酸から抗体重鎖定常領域の122番(EUナンバリング)アミノ酸の間の任意の位置に位置することが可能である。
【0324】
プロテアーゼ切断配列を含む会合パートナーを使用する代わりに、ライブラリ中の融合ポリペプチドにプロテアーゼ切断配列を導入し、融合ポリペプチドがプロテアーゼに切断されることで抗原結合ドメインとVHとの会合を解消させることも可能である。各融合ポリペプチド中のプロテアーゼ切断配列は、切断によって抗原結合ドメインとVHとの会合が解消され、且つ切断後も抗原結合ドメインの抗原結合活性が保持される限り、その位置は限定されない。プロテアーゼ切断配列の位置の例として、例えば、融合ポリペプチド中の抗原結合ドメインとIgG抗体軽鎖定常領域の境界付近に位置することが可能である。
【0325】
前記(d)工程では、(c)工程で選択した融合ポリペプチドの全長もしくは抗原結合ドメインを含む部分を再度ディスプレイさせ、抗原結合ドメインとVHが会合しない状態で抗原結合ドメインの抗原結合活性を確認することが可能である。
【0326】
本発明に記載する各アミノ酸配列に含まれるアミノ酸は、翻訳後に修飾(例えば、N末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である)を受ける場合もあるが、そのようにアミノ酸配列が翻訳後修飾されたアミノ酸を含む場合であっても当然のことながら本発明に記載するアミノ酸配列に含まれる。
【0327】
本発明はまた、アグリカンに結合する抗体にも関する。本明細書の実施例に示されるように、抗アグリカン抗体は、軟骨組織のより深部に浸透し、長期間にわたって軟骨組織に保持することができる。抗アグリカン抗体はまた、アグリカンのタンパク質切断を抑制することもできる。本発明の抗アグリカン抗体は、軟骨組織に薬物分子を送達し、長期間にわたって軟骨中に保持する担体として有用である。本発明の抗アグリカン抗体はまた、アグリカンの分解を効果的に妨げる医薬品としても有用である。
【0328】
特定の一実施態様において、本発明の抗アグリカン抗体は、以下からなる群より選択される抗体と、アグリカンへの結合について競合する、抗アグリカン抗体である:
1)配列番号:512のVH配列および配列番号:513のVL配列を含む抗体、
2)配列番号:514のVH配列および配列番号:515のVL配列を含む抗体、および
3)配列番号:516のVH配列および配列番号:517のVL配列を含む抗体。
【0329】
上述のように、抗原結合ドメイン間の競合は、交叉ブロッキングアッセイ等によって検出することができる。本発明において、結合の競合レベルは、競合物質の非存在下で実施される対照試験で得られた結合活性と比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20~50%、より好ましくは少なくとも50%であり得る。
【0330】
一実施態様において、本発明の抗アグリカン抗体は、下記1)~2)からなる群より選択されるエピトープに結合する抗アグリカン抗体である:
1)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の377番~386番のアミノ酸、
2)配列番号:509に記載のアミノ酸配列の48番~673番(G1-IGD-G2ドメイン)のアミノ酸。
【0331】
一実施態様において、本発明の抗アグリカン抗体は、
配列番号:509に記載のアミノ酸配列の377番~386番のアミノ酸内のエピトープに結合し、かつ、下記1)からなる群より選択される抗体と、エピトープへの結合について競合する
抗アグリカン抗体である:
1)配列番号:512のVH配列および配列番号:513のVL配列を含む抗体。
【0332】
一実施態様において、本発明の抗アグリカン抗体は、
配列番号:509に記載のアミノ酸配列の48番~673番のアミノ酸内のエピトープに結合し、かつ、下記1)からなる群より選択される抗体と、エピトープへの結合について競合する
抗アグリカン抗体である:
1)配列番号:514のVH配列および配列番号:515のVL配列を含む抗体。
【0333】
一実施態様において、本発明の抗アグリカン抗体は、
配列番号:509に記載のアミノ酸配列の48番~673番のアミノ酸内のエピトープに結合し、かつ、下記1)からなる群より選択される抗体と、エピトープへの結合について競合する
抗アグリカン抗体である:
1)配列番号:516のVH配列および配列番号:517のVL配列を含む抗体。
【0334】
これらの抗体は、抗原として上に示されたアミノ酸配列またはその部分アミノ酸配列を含むポリペプチドを用いて抗体を製造することによって得ることができる。
【0335】
さらに一実施態様において、本発明の抗体は、抗原結合ドメインのアミノ酸配列が本明細書の実施例に記載される抗体のものと同一性が非常に高い1つまたは複数の抗原結合ドメインを含む抗体である。例えば、本発明の抗体は、(a)配列番号:512または514のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列、および/または(b)配列番号:513または515のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む抗体である。例えば、本発明の抗体は、(a)配列番号:516のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列、および/または(b)配列番号:517のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む抗体である。例えば、本発明の抗体は、下記1)~3)から選択される、H鎖CDR1、CDR2、およびCDR3とL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3との組み合わせのいずれか1つを含む、またはそれと機能的に等価な抗体可変領域のH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3とL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3との組み合わせのいずれか1つを含む:
1)前記抗体可変領域に含まれるH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:512に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり;かつ前記抗体可変領域に含まれるL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:513に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一である;
2)前記抗体可変領域に含まれるH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:514に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり;かつ前記抗体可変領域に含まれるL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:515に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一である;および
3)前記抗体可変領域に含まれるH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:516に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり;かつ前記抗体可変領域に含まれるL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、配列番号:517に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3領域のアミノ酸配列と同一である。
【0336】
さらに一実施態様において、本発明の抗体は、下記1)~3)から選択される抗体可変領域、またはそれと機能的に等価な抗体可変領域の、H鎖CDR1、CDR2、およびCDR3とL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3との組み合わせのいずれか1つを含む:
1)配列番号:512のアミノ酸配列を含む抗体H鎖可変領域;および配列番号:513のアミノ酸配列を含む抗体L鎖可変領域;
2)配列番号:514のアミノ酸配列を含む抗体H鎖可変領域;および配列番号:515のアミノ酸配列を含む抗体L鎖可変領域;および
3)配列番号:516のアミノ酸配列を含む抗体H鎖可変領域;および配列番号:517のアミノ酸配列を含む抗体L鎖可変領域。
【0337】
本発明はまた、上記の本発明のポリペプチドまたは抗体を含む医薬組成物にも関する。本発明はまた、上記の本発明のポリペプチドまたは抗体の有効量を対象に投与する工程を含む、アグリカン介在性の疾患または障害を有する対象を治療する方法にも関する。本発明はまた、上記の本発明のポリペプチドまたは抗体の有効量を対象に投与する工程を含む、変形性関節症(OA)を有する対象を治療する方法にも関する。本発明はまた、上記の本発明のポリペプチドまたは抗体の有効量を対象に投与する工程を含む、変形性関節症(OA)において対象の軟骨分解を予防する方法にも関する。
【0338】
さらに一実施態様において、本発明は、軟骨組織に存在する分子に結合する抗体にも関し、ここで該分子は可溶性抗原ではない。本発明の抗体は、軟骨組織のより深い領域に浸透するのに、かつ長期間にわたって軟骨組織中に保持するのに有用である。抗体の分子量は特に限定されない。好ましくは、抗体の分子量は、120 kDa以下、100 kDa以下、80 kDa以下、60 kDa以下、40 kDa以下、または20 kDa以下である。抗体は、これらに限定されないが、F(ab')2、Fab、scFv、VHH、VL、VH、または単ドメイン抗体を含む、任意の種類の抗体であり得る。
【0339】
本発明の抗体が結合する抗原は、特に限定されない。好ましくは、抗原は、これらに限定されないが、コラーゲン、プロテオグリカン、糖タンパク質、糖鎖、および他のタンパク質を含む、軟骨組織における細胞外マトリックスである。II型コラーゲン以外のコラーゲンは、抗体の抗原として好ましい。線維性コラーゲンもまた、抗原として好ましい。
【0340】
好ましい抗原の例としては、これらに限定されないが、II型コラーゲン(線維性コラーゲン)、III型コラーゲン(線維性コラーゲン)、IV型コラーゲン、V型コラーゲン(線維性コラーゲン)、VI型コラーゲン、IX型コラーゲン、X型コラーゲン、XI型コラーゲン(線維性コラーゲン)、XII型コラーゲン、XIV型コラーゲン、XVI型コラーゲン、XXII型コラーゲン、XXIV型コラーゲン(線維性コラーゲン)、およびXXVII型コラーゲン(線維性コラーゲン)が挙げられる。好ましい抗原プロテオグリカンの例としては、これらに限定されないが、アグリカン、バーシカン、パールカン、シンデカン、ラブリシン、リンクタンパク質、およびスモールロイシンリッチリピートプロテオグリカンが挙げられる。アグリカン、バーシカン、パールカン、シンデカン、ラブリシンからなる群より選択されるプロテオグリカンと連結されるタンパク質は、本発明における好ましい抗原でもある。好ましい抗原プロテオグリカンのさらなる例としては、これらに限定されないが、デコリン、バイグリカン、アスポリン、フィブロモジュリン、ルミカン、ケラトカン、オステオアドヘリン、プロリン/アルギニンリッチ末端ロイシンリッチ反復タンパク質、エピフィカン、ミメカン、オプチシン、コンドロアドヘリン、およびコンドロアドヘリン様が挙げられる。好ましい抗原糖鎖の例としては、これらに限定されないが、ヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン硫酸(CS)、ケラタン硫酸(KS)、およびデルマタン硫酸(DS)が挙げられる。好ましい抗原の例としては、トロンボスポンジン、マトリリン、WARP、UCMA、CILP、フィブロネクチン、ラミン、およびニドゲンなどの軟骨組織における細胞外マトリックスがさらに挙げられる。
【0341】
好ましい抗原分子の例としては、軟骨組織における膜抗原または細胞外マトリックスもまた挙げられる。分子の半減期は、上述のように限定されない。好ましくは、軟骨組織における分子の半減期は、1ヶ月以上、2ヶ月以上、6ヶ月以上、1年以上、または5年以上である。軟骨組織における分子の相対量(%湿重量)は、例えば、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、10%以上、15%以上、または20%以上であり得る。抗原分子の特定の例は、アグリカンおよびコラーゲンである。アグリカンは、本発明において最も好ましい抗原分子の1つである。
【0342】
一実施態様において、本発明は、上記の本発明の抗体を用いることによって特徴づけられる、抗体の軟骨組織内への浸透および/または軟骨組織中での保持の方法に関する。一実施態様において、本発明は、上記の本発明の抗体を用いることによって特徴づけられる、抗体の軟骨組織内への浸透および/または軟骨組織中での保持での使用のための医薬組成物に関する。本発明の抗体は、軟骨内に浸透する優れた能力を有する。本発明の抗体は、長期間にわたって軟骨組織中に保持する能力も有する。本発明の抗体は、所望の分子を軟骨組織抗体に送達するのに有用である。任意の所望の分子は、架橋結合、抗原抗体結合、融合タンパク質調製等の従来の技術を用いて抗体によって運搬され得る。前記方法で用いられる抗体は限定されない。上述のように、抗体の分子量は好ましくは、全IgG型抗体のものを下回る。例えば、抗体の分子量は、80 kDa以下、60 kDa以下、40 kDa以下、または20 kDa以下を下回る。抗体の種類もまた限定されない。例えば、抗体は、F(ab')2、Fab、scFv、VHH、VL、VH、または単ドメイン抗体である。
【0343】
本発明はさらに、軟骨組織に存在する分子に結合する抗体の軟骨組織内への浸透率を増加させる方法であって、同じ分子に結合する親抗体を、当該分子に対する結合能を実質的に維持しながら、親抗体の分子量を減少させるように改変する工程を含む、方法に関する。本発明の別の実施態様は、軟骨組織に存在する分子に結合する、軟骨組織内への浸透率が増加した抗体を製造する方法であって、同じ分子に結合する親抗体を、当該分子に対する結合能を実質的に維持しながら、親抗体の分子量を減少させるように改変する工程を含む、方法である。本発明の別の実施態様は、軟骨組織に存在する分子に結合する、軟骨組織内への浸透率が増加した医薬組成物を製造する方法であって、同じ分子に結合する親抗体を、当該分子に対する結合能を実質的に維持しながら、親抗体の分子量を減少させるように改変する工程を含む、方法である。本発明のさらに別の実施態様は、軟骨組織に存在する分子に結合する抗体の軟骨組織における保持時間を増加させる方法であって、同じ分子に結合する親抗体を、当該分子に対する結合能を実質的に維持しながら、親抗体の分子量を減少させるように改変する工程を含む、方法である。本発明の別の実施態様は、軟骨組織において発現される分子に結合する、軟骨組織における保持時間が増加した抗体を製造する方法であって、同じ分子に結合する親抗体を、同分子に対する結合能を実質的に維持しながら、親抗体の分子量を減少させるように改変する工程を含む、方法である。本発明の別の実施態様は、軟骨組織において発現される分子に結合する、軟骨組織における保持時間が増加した医薬組成物を製造する方法であって、同じ分子に結合する親抗体を、同分子に対する結合能を実質的に維持しながら、親抗体の分子量を減少させるように改変する工程を含む、方法である。
【0344】
分子に結合する抗体(例えば、Fab)の軟骨組織における保持能力は、例えば以下のように、測定することができる。
アグリカンに結合するFabの保持能力を評価するために、Fabを軟骨へ1日曝露した後の6日間にわたる軟骨中の残存Fab濃度。軟骨内での初期Fab濃度を1日Fabとインキュベーションした後に直ちに評価する。軟骨中の残存Fab濃度を評価するために、軟骨を1日インキュベーションした後に冷PBSで洗浄し、続いて新鮮な培地中で6日間インキュベーションする。3つの軟骨が各実験で用いられ得る。Fab保持能力を、軟骨内での初期濃度と残存濃度との間でのFab軟骨濃度の比較によって評価する。収集した軟骨を低pH緩衝液(10 mMクエン酸-HCl pH3、150 mM NaClおよび1% Tween 20)中で溶解し、次いで、Retsch MM400ホモジナイザーでホモジナイズする。Fab濃度は、プレート上にコーティングした抗ヒトIgG(Fab特異的、Sigma)および検出抗体としてSULFOタグ標識抗ヒトIgG(H+L、Novus)によるECLIAによって定量化される。Fab保持は以下の式によって決定される。
[Fab保持]=[インキュベーション6日後のFab濃度]/[初期Fab濃度]
特定の実施態様において、本明細書において提供されるポリペプチド、抗原結合ドメイン、抗体、VHH、Fab等は、0.01、0.03、0.05、0.1、0.2、0.3 0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9またはさらにそれ以上を上回る軟骨内での保持能力(上述の[Fab保持])を有し得る。
ある特定の実施態様において、本明細書において提供されるポリペプチド、抗原結合ドメイン、抗体、VHH、Fab等の軟骨内での保持能力(上述の[Fab保持])は、それぞれ下記1)~14)からなる群より選択される参照抗体のものと同じであるか、またはそれを上回る。
1) GRA1013hzqz-SG1 Fab、
2) GRA0105gg-SG1 Fab、
3) GRA0124cc-SG1 Fab、
4) GRA0124c0626c0544-SG1 Fab、
5) GRA0124c0626c0694-SG1 Fab、
6) GRA0124c0626c0951-SG1 Fab、
7) GRA0124c1075c0952-SG1 Fab、
8) GRA0124ccAE02-SG1/SK2 Fab、
9) GRA0124ccAE02-SG1265/SK2 Fab、
10) GRA0124ccAE02-SG1286/SK2 Fab、
11) GRA0124ccAE02-SG1/SK2021 Fab、
12) GRA0124ccAE02-SG1265/SK2021 Fab、
13) GRA0124ccAE02-SG1286/SK2025 Fab、および
14) GRA0124ccAE02-SG1265/SK2027 Fab。
さらなる実施態様において、上述の保持能力を有する本明細書において提供されるポリペプチド、抗原結合ドメイン、抗体、VHH、Fab等は好ましくは、1.1、1.2、1.3、1.5、2.0、5.0、7.0、10.0、15.0、20.0またはさらにそれ以上を上回る、ネガティブコントロールVHH(SD_RSV191D3-GSHIS/VLn-CLn(配列番号:545)またはSD_RSV191D3-HISFLAG/VLn-CLn(配列番号:546))に対する、それ自体の下で述べる取り込みの比率(nmol/g軟骨)(次の段落を参照)を有し得る。
【0345】
分子に結合する抗体の軟骨組織における浸透能力は、例えば、以下のように測定することができる。
抗体の浸透能力を評価するために、抗体の軟骨浸透をウサギ軟骨においてエクスビボで行うことができる。ウサギ大腿骨顆部から打ち抜いた2mmの軟骨板をこの実験で用いる。AF488(Life Technologies、A20181)標識抗体を、10%ウシ胎仔血清および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で希釈した後に、7μMの最終濃度で個々の軟骨に添加する。抗体で処理したウサギ軟骨を37℃で24時間インキュベートし、その後、PBSで2回洗浄する。クライオブロック内に軟骨を個別に包埋し、切片をガラススライド上に乗せ、DAPIで対比染色する。10×拡大率での共焦点顕微鏡(Nikon A1+)を用いて、スライドをX-Y面で画像化する。488 nmレーザーを用いてAF488色素を励起させ、DAPIを405 nmレーザーによって励起させる。レーザー出力および光電子増倍管(PMT)の設定を、高強度画像を取得する場合のものを除き、サンプル間で一定に保ち、レーザー出力をわずかに調整する。
抗体(例えばVHH等)の浸透能力を評価するために、VHHおよびネガティブコントロールVHH(抗RSV VHH)の取り込みを、白色ウサギ軟骨(Kbl:JW、オス、15週齢)から取得したウサギ軟骨外植片培養を用いて評価し、軟骨内へのVHH浸透を明らかにする。関心対象の抗原に結合するVHH、およびネガティブコントロールVHHを、0.5および5 nmol/mLの濃度でウサギ軟骨外植片培養に適用する。24時間後、培地を除去し、軟骨をリン酸緩衝食塩水で洗浄し、次いで軟骨を収集する。その後、軟骨板を0.3 M酢酸緩衝液(Wako)で溶解し、ホモジナイザー(Yasui Kikai)によってホモジナイズする。ホモジネートの遠心分離後、上清を1 M Tris-HCl(Dojindo)およびPBS-T(Sigma Alfrich)によって希釈する。軟骨板におけるVHHの濃度を、コーティング用にアグリカンタンパク質またはRSVタンパク質、および検出用に抗アルパカ抗体を用いる電気化学発光免疫測定法(electro chemiluminescence immunoassay:(ECLIA))によって測定する。
特定の実施態様において、本明細書において提供される抗体(例えばVHH等)は、1.1、1.2、1.3、1.5、2.0、5.0、7.0、10.0、15.0、20.0またはさらにそれ以上を上回る、ネガティブコントロールVHH(SD_RSV191D3-GSHIS/VLn-CLn(配列番号:545)またはSD_RSV191D3-HISFLAG/VLn-CLn(配列番号:546))に対する、それ自体の前述の取り込みの比率(nmol/g軟骨)を有し得る。
【0346】
好ましい本発明の抗体の特性および軟骨組織に存在する分子は、上記のものと同じである。好ましい実施態様において、親抗体は全IgG型抗体であり、より小さな分子量を有する抗体、例えば、80 kDa以下、60 kDa以下、40 kDa以下、または20 kDa以下の分子量を有する抗体が得られ得る。例えば、得られる抗体は、F(ab')2、Fab、scFv、VHH、VL、VH、または単ドメイン抗体である。
【0347】
好ましい実施態様において、抗原分子は、上述のように軟骨組織における膜抗原または軟骨組織における細胞外マトリックスである。軟骨組織における分子の半減期は限定されず、好ましくは、1ヶ月以上、2ヶ月以上、6ヶ月以上、1年以上、または5年以上である。軟骨組織における分子の相対量(%湿重量)は、例えば、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、10%以上、15%以上、または20%以上であり得る。抗原分子の特定の例はアグリカンおよびコラーゲンである。アグリカンは、本発明における最も好ましい抗原分子の1つである。
【0348】
本発明は、軟骨組織内に浸透するのに、かつ/または軟骨組織において保持するのに使用するための本発明のポリペプチドにも関し、ここで、該ポリペプチドは、軟骨組織に存在する分子への結合能を有し、かつ該ポリペプチドは、全IgG型抗体ものよりも低い分子量を有し;例えば、該ポリペプチドは、80 kDa以下、60 kDa以下、40 kDa以下、または20 kDa以下の分子量を有する。
【0349】
本発明は、以下を含むポリペプチドにさらに関する:
(a)軟骨組織に存在する分子に結合する抗体、および
(b)当該抗体が結合する分子ではない、軟骨組織に存在する分子に結合する抗原結合ドメイン。
上記ポリペプチドは、軟骨組織における2つの異なる部位に結合する二重特異性結合特性を有する。これらの2つの結合部位は、軟骨組織における同じ分子に位置し得る;あるいは、2つの結合部位は軟骨組織における異なる分子に位置してもよい。
【0350】
一実施態様において、(a)の抗体は、ADAMTS4/5活性、NGF活性、もしくはIL1R1活性を抑制する、またはBMP7アゴニスト活性、TGFb1アゴニスト活性、もしくはFGF18アゴニスト活性を増強する抗体である。一実施態様において、(a)の分子または(b)の分子のいずれかは可溶性抗原ではない。別の実施態様において、(a)の分子および(b)の分子のどちらも、可溶性抗原ではない。ポリペプチドの分子量は限定されず、例えば、120 kDa以下、100 kDa以下、80 kDa以下、60 kDa以下、50 kDa以下、40 kDa以下、30 kDa以下、または20 kDa以下である。抗体の種類もまた、特に限定されない。例えば、抗体は、これらに限定されないが、全IgG型抗体、F(ab')2、Fab、scFv、VHH、VL、VH、または単ドメイン抗体であり得る。(a)および/または(b)で言及される好ましい抗原分子の例は、これらに限定されないが、軟骨組織における膜抗原または細胞外マトリックスであり得る。(a)および/または(b)で言及される分子の半減期は限定されず、好ましくは、1ヶ月以上、2ヶ月以上、6ヶ月以上、1年以上、または5年以上である。(a)および/または(b)で言及される分子の相対量(%湿重量)は、例えば、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、10%以上、15%以上、または20%以上であってもよい。(a)および/または(b)で言及される分子の特定の例はアグリカンおよびコラーゲンである。
【0351】
一実施態様において、本発明の上記のポリペプチドは、軟骨組織に機能的抗体を送達するのに、かつ長期間にわたって軟骨にそれらを保持するのに有用である。
【0352】
本明細書に記載の1又は複数の実施態様を任意に組み合わせたものも、当業者の技術常識に基づいて技術的に矛盾しない限り、本発明に含まれることが当業者には当然に理解される。
【実施例0353】
以下は、本発明の方法および組成物の実施例である。上述の一般的な記載に照らし、種々の他の実施態様が実施され得ることが、理解されるであろう。
【0354】
実施例1 既存のプロテアーゼ活性化抗体の課題
癌組織または炎症性組織などの病変部位で発現するプロテアーゼで切断されることによって、初めて抗原結合活性を発揮する抗体を作製する方法が報告されている。Probodyと呼ばれる同抗体は、
図1に示すように抗体の抗原結合部位をマスクするペプチドを、病変部位で発現するプロテアーゼで切断されるリンカーで抗体とつなぐことで、その抗原結合活性を阻害した抗体分子である(非特許文献18)。構成要素であるリンカーが標的の病態部位において発現するプロテアーゼによって切断されることでProbodyからマスクペプチドが解離し、その抗原結合活性が回復した抗体分子が生成され、標的の病態組織において抗原に結合することが可能となる。
Probodyは上述のようなメカニズムにより標的の病態部位で選択的に抗原に結合することで治療可能域(therapeutic window)を拡大することが出来ると考えられる。しかしながら、Probodyに関して、プロテアーゼによる抗体の切断は不可逆的であるため、病態部位で切断された抗体は、病態部位から再び血中に戻ることが可能であり、抗体が血流に乗って正常組織に分布し、正常組織に発現する抗原に結合する可能性があると考えられる。プロテアーゼで活性化されたProbodyは、活性化前のProbodyのようにFc領域を保有するため長い血中滞留性を保有する。そのため、病態部位に発現するプロテアーゼで活性化された抗体は長く血中に滞留する可能性がある。病態部位で発現が上昇しているプロテアーゼであっても、正常組織にも低いレベルでは発現しており、病態部位で産生された遊離型プロテアーゼが血中に漏出していることもあるため(The Chinese-German Journal of Clinical Oncology Jun. 2004, Vol. 3, No. 2 P78-P80)、そのような遊離型プロテアーゼでProbodyは活性化されうる。そのため、Probodyは病態部位以外でも活性化される可能性が考えられ、そのように活性化されたProbodyも同様に長く血中に滞留する。このように病態部位、正常組織、血中において継続的にProbodyは活性化され、活性化されたProbodyは長い血中滞留性を有すると、血中に蓄積する可能性がある。血中に蓄積した活性化されたProbodyは正常組織に発現する抗原に結合することで有害反応を発揮する可能性がある(
図2)。
Probodyはリンカーによって抗体と連結されたマスクペプチドによってその抗原結合活性が阻害されてはいるが、完全に阻害されているわけではない。Probodyは、リンカーによって連結されたマスクペプチドが抗原結合部位に結合した状態とマスクペプチドが解離した状態の平衡状態にあり、解離した状態の分子は抗原に結合することができる(
図3)。実際、非特許文献17に記載されている抗EGFR Probodyは、プロテアーゼによるリンカーの切断の前でもEGFRに対する結合活性を有する。プロテアーゼによるリンカーの切断により結合活性において30~100倍の上昇がみられるが、活性化される前のProbodyが、活性化されたProbodyの1/30~1/100の結合活性を有することから、活性化される前のProbodyが高い濃度で存在すると、正常組織に発現する抗原に結合することで有害反応を発揮する可能性がある。
Probodyは抗体の抗原結合部位をマスクするために人工的なペプチドを使用する。この人工的なペプチドは天然ヒト蛋白質に存在しない配列を有するため、ヒトにおいて免疫原性を有する可能性がある。そのような免疫原性は抗薬物抗体を誘導することで、抗体医薬の作用を減じることが知られている(Blood. 2016 Mar 31;127(13):1633-41.)。
Probodyに対する抗薬物抗体として、抗体とマスクペプチドの複合体(活性化される前のProbody)に対する抗薬物抗体、マスクペプチドが解離した抗体(活性化されたProbody)に対する抗薬物抗体、マスクペプチド(活性化されたProbodyから解離したマスクペプチド)に対する抗薬物抗体などが考えられる。このうち、マスクペプチドに対する抗薬物抗体(抗マスクペプチド抗体)は、活性化される前のProbodyのマスクペプチドに結合することで、プロテアーゼによる切断が起こらなくてもProbodyを活性化する可能性がある(
図4)。抗マスクペプチド抗体によって活性化されたProbodyは正常組織に発現する抗原に結合することで有害反応を発揮する可能性がある。
【0355】
実施例2 単ドメイン抗体を含むプロテアーゼ活性化ポリペプチドのコンセプト
実施例1に示したようにProbody技術には以下の課題がある。
1. プロテアーゼによる切断で活性化されたProbodyが長い血中滞留性を有する
2. プロテアーゼによる切断前のProbodyであっても抗原に対する結合活性を有する
3. マスクペプチドが人工的な非ヒト配列であり、抗マスクペプチド抗体を誘導しうる
本発明者らは、これらの課題を解決した、病態部位で活性を発揮する抗体医薬を提供するためには以下の条件を満たすことが有用であると考えた。
1. プロテアーゼによる切断で活性化された抗原結合ドメインが短い血中半減期を有する
2. プロテアーゼによる切断前の分子の抗原結合活性を最少化する
3. 人工的な非ヒト配列を有するマスクペプチドを使用しない
本発明者らは、上記条件を満たすポリペプチドの一例として
図5に示す分子を考案した。抗原結合ドメインと運搬部分とが連結されたポリペプチドは長い半減期を有し、抗原結合ドメインの抗原結合活性が抑制されているため抗原に結合しない(A)。抗原結合ドメインが遊離すると、このように遊離した抗原結合ドメインはその抗原結合活性が回復し、半減期も短い(B)。
図5に示すポリペプチドは様々なバリエーションを有するが、IgG抗体様分子を使用する場合、
図6に例示されるような製造方法でポリペプチドを製造することが可能である。まず標的の抗原に結合する単ドメイン抗体(例:VHあるいはVHH)を取得する(A)。得られた単ドメイン抗体を、ジャームライン配列を有するIgG抗体のVHとVLのうちの一方と入れ替えて、VHとVLのうちの他方と会合させ、IgG抗体様分子を形成させる(B)。IgG抗体様分子中にプロテアーゼ切断配列を導入する(C)。導入位置の例として、導入した単ドメイン抗体(VHあるいはVHH)と定常領域(CH1またはCL)との境界付近の位置が挙げられる。
単ドメイン抗体は単独で存在する場合には抗原結合活性を有するが、VL、VH、またはVHH等と可変領域を形成するとその抗原結合活性を失う。VLまたはVHはジャームライン配列を有する天然のヒト抗体配列であることから免疫原性のリスクは低く、同VL、またはVHを認識する抗薬物抗体が誘導される可能性は極めて低い。VHHを使用して単ドメイン抗体と可変領域を形成する場合、VHHをヒト化することによって、免疫原性のリスクを低減し、同ヒト化VHHを認識する抗薬物抗体が誘導される可能性を低下させられる。IgG抗体様分子に挿入されたプロテアーゼ切断配列がプロテアーゼで切断されることによって、単ドメイン抗体が遊離する。遊離した単ドメイン抗体は抗原結合活性を有する。プロテアーゼによる切断前のIgG抗体様分子は一般的なIgG分子と類似する構造であることから長い血中滞留性を有するのに対して、プロテアーゼによる切断で遊離した単ドメイン抗体は、Fc領域を保有せず、分子量が約13kDa程度であることから腎排泄により速やかに消失する。実際、全長IgGの半減期は2~3週間程度であるのに対して(Blood. 2016 Mar 31;127(13):1633-41.)、単ドメイン抗体の半減期は約2時間である(Antibodies 2015, 4(3), 141-156)。そのため、プロテアーゼにより活性化された抗原結合分子は血中半減期が短く、正常組織の抗原に結合する可能性は低くなる。
単ドメイン抗体がVLの場合は、プロテアーゼ切断配列を、例えばVLとCLの境界付近に導入することで、上記のような同様のコンセプトを達成可能である。
【0356】
実施例3 IL6Rに結合するVHHを使用したプロテアーゼ活性化ポリペプチドの調製
3-1 IL6Rに結合するVHHを組み込んだポリペプチドの調製
国際公開WO2010/115998号に記載されている、ヒトIL6Rに対して結合および中和活性を有するVHHであるIL6R90(配列番号:1)をヒトIgG1の定常領域(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)に融合したものを含む、IL6R90-G1m(配列番号:2)をコードする発現ベクターを当業者公知の方法で調製した。
ヒトジャームライン配列を有する様々なサブクラスの軽鎖(可変領域-定常領域)としてVK1-39-k0MT(配列番号:3)、VK2-28-k0MT(配列番号:4)、VK3-20-k0MT(配列番号:5)、VL1-40-lamL(配列番号:6)、VL1-44-lamL(配列番号:7)、VL2-14-lamL(配列番号:8)、VL3-21-lamL(配列番号:9)、k0(配列番号:10)、およびlamL(配列番号:11)をコードする発現ベクターを当業者公知の方法で調製した。
IgG抗体様分子であるIL6R90-G1m/VK1-39-k0MT(重鎖配列番号:2、軽鎖配列番号:3)、IL6R90-G1m/VK2-28-k0MT(重鎖配列番号:2、軽鎖配列番号:4)、IL6R90-G1m/VK3-20-k0MT(重鎖配列番号;2、軽鎖配列番号:5)、IL6R90-G1m/VL1-40-lamL(重鎖配列番号:2、軽鎖配列番号:6)、IL6R90-G1m/VL1-44-lamL(重鎖配列番号:2、軽鎖配列番号:7)、IL6R90-G1m/VL2-14-lamL(重鎖配列番号:2、軽鎖配列番号:8)、IL6R90-G1m/VL3-21-lamL(重鎖配列番号:2、軽鎖配列番号:9)、IL6R90-G1m/k0(重鎖配列番号:2、軽鎖配列番号:10)、およびIL6R90-G1m/lamL(重鎖配列番号:2、軽鎖配列番号:11)を当業者公知の方法でFreeStyle293細胞 (Invitrogen社)を用いた一過性発現により発現し、プロテインAを用いた当業者公知の方法により精製を行った。
【0357】
3-2 ヒトIL6Rに結合するVHHを組み込んだポリペプチドのIL6R結合評価
IL6R90-G1m/VK1-39-k0MT、IL6R90-G1m/VK2-28-k0MT、IL6R90-G1m/VK3-20-k0MT、IL6R90-G1m/VL1-40-lamL、IL6R90-G1m/VL1-44-lamL、IL6R90-G1m/VL2-14-lamL、IL6R90-G1m/VL3-21-lamL、IL6R90-G1m/k0、およびIL6R90-G1m/lamLの、ヒトIL6Rに対する結合活性を以下の方法で評価した。
抗原として用いた組み換えヒトIL6Rは以下のように調製した。J. Immunol. 152, 4958-4968 (1994)で報告されているN末端側1番目から357番目のアミノ酸配列からなる可溶型ヒトIL-6R(以下、hsIL-6R、IL6RあるいはIL-6Rとも呼ぶ)のCHO定常発現株を当業者公知の方法で構築し、培養し、hsIL-6Rを発現させた。得られた培養上清から、Blue Sepharose 6 FFカラムクロマトグラフィー、およびゲルろ過カラムクロマトグラフィーの2工程によりhsIL-6Rを精製した。最終工程においてメインピークとして溶出した画分を最終精製品として用いた。
各分子とhsIL6Rの結合評価を、OctetHTX (Pall ForteBio社) を用いて行った。具体的には、Biosensor / Protein A (ProA) (Pall ForteBio社, 18-5013 ) に各分子を結合させ、hsIL-6Rを作用させたのちに、30℃における結合を評価した。OctetHTXを用いて測定した継時的な結合量を表すセンサーグラムを
図10に示した。VLが欠損したIL6R90-G1m/k0およびIL6R90-G1m/lamLは、hsIL-6Rに結合したが、VLと可変領域を形成したIL6R90-G1m/VK1-39-k0MT、IL6R90-G1m/VK2-28-k0MT、IL6R90-G1m/VK3-20-k0MT、IL6R90-G1m/VL1-40-lamL、IL6R90-G1m/VL1-44-lamL、およびIL6R90-G1m/VL2-14-lamLは、hsIL-6Rと結合することができないことが示された。このことから、ヒトIL6Rに対して結合活性を有するVHHをVLと会合させて可変領域を形成することで、そのIL6R結合活性を失わせることが出来ることが見いだされた。
【0358】
3-3 IL6Rに結合するVHHを組み込んだポリペプチドへのプロテアーゼ切断配列の導入
抗ヒトIL6R VHHであるIL6R90とCH1の境界付近にプロテアーゼ切断配列を挿入した。癌特異的に発現しているウロキナーゼ(uPA)およびMT-SP1で切断されることが報告されている配列であるペプチド配列A(配列番号:12)を、IL6R90とCH1の境界付近の3か所にグリシン-セリンリンカーの有りまたは無しで挿入した、
図11に示す6種類の重鎖を設計した。IL6R90H1001(配列番号:13)、IL6R90H1002(配列番号:14)、IL6R90H1003(配列番号:15)、IL6R90H1004(配列番号:16)、IL6R90H1005(配列番号:17)、およびIL6R90H1006(配列番号:18)をコードする発現ベクターを当業者公知の方法で調製した。
これらの重鎖と、軽鎖としてVK1-39-k0MT(配列番号:3)を用いて、IgG抗体様分子であるIL6R90H1001/VK1-39-k0MT(重鎖配列番号:13、軽鎖配列番号:3)、IL6R90H1002/VK1-39-k0MT(重鎖配列番号:14、軽鎖配列番号:3)、IL6R90H1003/VK1-39-k0MT(重鎖配列番号:15、軽鎖配列番号:3)、IL6R90H1004/VK1-39-k0MT(重鎖配列番号:16、軽鎖配列番号:3)、IL6R90H1005/VK1-39-k0MT(重鎖配列番号:17、軽鎖配列番号:3)、およびIL6R90H1006/VK1-39-k0MT(重鎖配列番号:18、軽鎖配列番号:3)を当業者公知の方法でFreeStyle293細胞 (Invitrogen社)を用いた一過性発現により発現し、プロテインAを用いた当業者公知の方法により精製を行った。
【0359】
3-4 プロテアーゼ切断配列を導入されているポリペプチドのプロテアーゼ切断による活性化
IL6R90H1001/VK1-39-k0MT、IL6R90H1002/VK1-39-k0MT、IL6R90H1003/VK1-39-k0MT、IL6R90H1004/VK1-39-k0MT、IL6R90H1005/VK1-39-k0MT、およびIL6R90H1006/VK1-39-k0MTをプロテアーゼにより切断し、IL6Rへの結合活性を有するVHHが遊離するかどうかを検証した。
可溶型ヒトIL6Rは当業者公知の方法で調製した。調製した可溶型ヒトIL6Rを当業者公知の方法でビオチン化した。
可溶型ヒトIL-6R(hsIL-6Rあるいは可溶型ヒトIL6Rとも呼ぶ、配列番号:35)のC末端にビオチンを付加する目的で、hsIL-6Rをコードする遺伝子断片の下流に、ビオチンリガーゼによってビオチンが付加される特異的な配列(AviTag配列、配列番号:36)をコードする遺伝子断片を、リンカーをコードする遺伝子断片を介して、連結させた。AviTag配列と連結されたhsIL-6Rを含むタンパク質(hsIL6R-Avitag、配列番号:37)をコードする遺伝子断片を動物細胞発現用ベクターに組み込み、構築されたプラスミドベクターを293Fectin (Invitrogen社)を用いてFreeStyle293細胞 (Invitrogen社)へ導入した。このとき、細胞に、EBNA1(配列番号:57)発現のための遺伝子およびビオチンリガーゼ(BirA、配列番号:58)発現のための遺伝子を同時に導入し、hsIL-6R-Avitagをビオチン標識する目的でビオチンをさらに添加した。前述の手順に従って遺伝子が導入された細胞を、37℃、8% CO
2で培養し、目的のタンパク質( hsIL-6R-BAP1 )を培養上清中に分泌させた。この細胞培養液を0.22μmボトルトップフィルターでろ過し、培養上清を得た。
メーカーのプロトコルに従いHiTrap NHS-activated HP (GEヘルスケアジャパン社)に、抗ヒトIL-6R抗体を固定化したカラム(抗ヒトIL-6R抗体カラム)を調製した。TBSで平衡化した抗ヒトIL-6R抗体カラムに培養上清をアプライし、吸着したhsIL-6Rを2 M Arginine (pH4.0)で溶出させた。次に、TBSで平衡化されたSoftLink Avidin カラム(Promega社)に、同緩衝液で希釈した抗ヒトIL-6R抗体カラムからの溶出液をアプライし、5 mM ビオチン, 50 mM Tris-HCl(pH8.0)および2 M Arginine(pH4.0)でhsIL-6R-BAP1を溶出した。この溶出液を、Superdex200(GEヘルスケアジャパン社)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーによって、hsIL-6R-BAP1の会合体を除去し、バッファーがD-PBSおよび0.05% CHAPSに交換された精製hsIL-6R-BAP1を得た。
プロテアーゼとしてリコンビナントヒトマトリプターゼ/ST14 触媒ドメイン (R&D Systems, Inc., 3946-SE-010 ) を用い、プロテアーゼ12.5nM、各IgG抗体様分子 100ug/mLを、PBS中、37℃の条件下で20時間反応させたのちに、プロテアーゼによる切断を還元SDS-PAGEによって評価した結果を
図12に示す。その結果、IL6R90H1002/VK1-39-k0MT、IL6R90H1004/VK1-39-k0MT、IL6R90H1005/VK1-39-k0MT、およびIL6R90H1006/VK1-39-k0MTにおいて、プロテアーゼ切断配列がVHHと重鎖定常領域の境界付近でプロテアーゼによって切断されることが確認された。
次に、プロテアーゼ処理によって遊離したVHHとIL6Rの結合評価を、OctetHTX (Pall ForteBio社) を用いて行った。具体的には、ストレプトアビジンセンサー(Pall ForteBio社, 18-5021 ) に hsIL-6R-BAP1 を結合させ、切断した各IgG抗体様分子を作用させて、30℃における結合を評価した。OctetHTXで測定した継時的な結合量を表すセンサーグラムを
図13に示す。その結果、IL6R90H1002/VK1-39-k0MT、IL6R90H1004/VK1-39-k0MT、IL6R90H1005/VK1-39-k0MT、およびIL6R90H1006/VK1-39-k0MTにおいて結合が確認された。IL6R90-G1m/k0、およびIL6R90-G1m/lamLは2価で、avidityで結合するのに対して、遊離したVHHはaffinityで結合するため、プロテアーゼ処理したIL6R90H1002/VK1-39-k0MT、IL6R90H1004/VK1-39-k0MT、IL6R90H1005/VK1-39-k0MT、およびIL6R90H1006/VK1-39-k0MTは、IL6R90-G1m/k0、およびIL6R90-G1m/lamLと比較して、IL6Rからの早い解離速度を示した。また、VHHは、IL6R90-G1m/k0、およびIL6R90-G1m/lamLと比較して分子量が小さいため、その結合量が低かった。
これらの結果から、IL6R90H1002/VK1-39-k0MT、IL6R90H1004/VK1-39-k0MT、IL6R90H1005/VK1-39-k0MT、またはIL6R90H1006/VK1-39-k0MTは、そのままではIL6Rに対して結合活性を示さないが、プロテアーゼ処理によりVHHと重鎖定常領域の境界付近に挿入したペプチド配列Aが切断され、その結果としてVHHドメインが遊離し、遊離したVHHはIL6Rに対して結合することができることが確認された。このことから実施例2に記載されたコンセプトの分子を実際に調製することが出来たと言える。
【0360】
実施例4 改変による、IL6Rに結合するVHHを利用したプロテアーゼ活性化ポリペプチドの調製
4-1 IL6Rに結合するVHHを組み込んだポリペプチドのIL6R結合評価
国際公開WO2010/115998号に記載されている、IL6Rに対して結合および中和活性を有するVHHである20A11(配列番号:19)を、実施例3と同様の方法でヒトIgG1の定常領域(CH1- ヒンジ-CH2-CH3)に融合したものを含む、20A11-G1m(配列番号:38)をコードする発現ベクターを当業者公知の方法で調製した。
この重鎖と、軽鎖としてVK1-39-k0MT(配列番号:3)、VK2-28-k0MT(配列番号:4)、VK3-20-k0MT(配列番号:5)、VL1-40-lamL(配列番号:6)、VL1-44-lamL(配列番号:7)、VL2-14-lamL(配列番号:8)、およびVL3-21-lamL(配列番号:9)とを用いて、実施例3と同様の方法でポリペプチド20A11-G1m/VK1-39-k0MT、20A11-G1m/VK2-28-k0MT、20A11-G1m/VK3-20-k0MT、20A11-G1m/VL1-40-lamL、20A11-G1m/VL1-44-lamL、20A11-G1m/VL2-14-lamL、および20A11-G1m/VL3-21-lamLの発現および精製を行った。
実施例3と同様の方法で、得られた20A11-G1m/VK1-39-k0MT(重鎖配列番号:38、軽鎖配列番号:3)、20A11-G1m/VK2-28-k0MT(重鎖配列番号:38、軽鎖配列番号:4)、20A11-G1m/VK3-20-k0MT(重鎖配列番号:38、軽鎖配列番号:5)、20A11-G1m/VL1-40-lamL(重鎖配列番号:38、軽鎖配列番号:6)、20A11-G1m/VL1-44-lamL(重鎖配列番号:38、軽鎖配列番号:7)、20A11-G1m/VL2-14-lamL(重鎖配列番号:38、軽鎖配列番号:8)、および20A11-G1m/VL3-21-lamL(重鎖配列番号:38、軽鎖配列番号:9)のIL6Rに対する結合を評価した結果を
図14に示す。その結果、本実施例で使用した軽鎖の中で、ヒトジャームラインIgG1の定常領域(CH1- ヒンジ-CH2-CH3)と融合させた20A11を含む重鎖と会合することで、20A11のIL6R結合活性を抑制するものはなかった。
この理由として、20A11と本実施例で使用したVLが安定な可変領域を形成しなかったことが考えられた。
【0361】
4-2 抗原結合が失われないVHHを組み込んだポリペプチドにおける、VHHとVLとの界面部位へのアミノ酸改変の導入
20A11とVLとの安定な可変領域を形成させるために、20A11とVLとの界面に存在するアミノ酸に変異を導入した。20A11に対して37番目のFをVに(F37V)、45番目のRをLに、および47番目のGをWに(すべてKabatナンバリングによる)置換する変異を導入した20A11hu(配列番号:20)を、実施例3と同様の方法でヒトIgG1の定常領域(CH1- ヒンジ-CH2-CH3)に融合したものを含む、20A11hu-G1m(配列番号:39)をコードする発現ベクターを当業者公知の方法で調製した。
この重鎖と、軽鎖としてVK1-39-k0MT(配列番号:3)、VK2-28-k0MT(配列番号:4)、VK3-20-k0MT(配列番号:5)、VL1-40-lamL(配列番号:6)、VL1-44-lamL(配列番号:7)、VL2-14-lamL(配列番号:8)、およびVL3-21-lamL(配列番号:9)とを用いて、ポリペプチド20A11hu-G1m/VK1-39-k0MT(重鎖配列番号:39、軽鎖配列番号:3)、20A11hu-G1m/VK2-28-k0MT(重鎖配列番号:39、軽鎖配列番号:4)、20A11hu-G1m/VK3-20-k0MT(重鎖配列番号:39、軽鎖配列番号:5)、20A11hu-G1m/VL1-40-lamL(重鎖配列番号:39、軽鎖配列番号:6)、20A11hu-G1m/VL1-44-lamL(重鎖配列番号:39、軽鎖配列番号:7)、20A11hu-G1m/VL2-14-lamL(重鎖配列番号:39、軽鎖配列番号:8)、および20A11hu-G1m/VL3-21-lamL(重鎖配列番号:39、軽鎖配列番号:9)の発現および精製を実施例3と同様の方法で行った。
【0362】
4-3 VHHとVLとの界面部位へのアミノ酸改変を含むVHHを組み込んだポリペプチドのIL6R結合評価
得られた20A11hu-G1m/VK1-39-k0MT、20A11hu-G1m/VK2-28-k0MT、20A11hu-G1m/VK3-20-k0MT、20A11hu-G1m/VL1-40-lamL、20A11hu-G1m/VL1-44-lamL、20A11hu-G1m/VL2-14-lamL、および20A11hu-G1m/VL3-21-lamLの、30℃または25℃におけるIL6Rに対する結合を実施例3と同様の方法で評価した結果を
図15に示す。
その結果、20A11hu-G1m/VK1-39-k0MT、20A11hu-G1m/VK2-28-k0MT、20A11hu-G1m/VK3-20-k0MT、20A11hu-G1m/VL1-40-lamL、20A11hu-G1m/VL1-44-lamL、および20A11hu-G1m/VL2-14-lamLは、IL6Rと結合することができないことが示された。
これらの結果から、VHHとVLの界面部位に存在するアミノ酸を、37V、45L、および47W(Kabatナンバリング)にして20A11を20A11huに改変することで、実施例3で使用したVLと会合させてもIL6R結合活性を失わなかったVHH20A11に、VLと安定な可変領域を形成させることができ、かつIL6R結合活性を失わせることができることが示された。
【0363】
4-4 VHHとVLとの界面部位でのアミノ酸改変を含む、VHHを組み込んだポリペプチドへのプロテアーゼ切断配列の導入
20A11huとCH1との境界付近に、プロテアーゼ切断配列(配列番号:12)、または可動リンカーと連結されたプロテアーゼ切断配列(配列番号:44)が挿入されるように、重鎖20A11huH1001(配列番号:40)、20A11huH1002(配列番号:41)、20A11huH1004(配列番号:42)、および20A11huH1006(配列番号:43)を実施例3と同様の方法で調製した。
これらの重鎖と、軽鎖としてVK1-39-k0MT(配列番号:3)とを用いて、ポリペプチド20A11huH1001/VK1-39-k0MT(重鎖配列番号:40、軽鎖配列番号:3)、20A11huH1002/VK1-39-k0MT(重鎖配列番号:41、軽鎖配列番号:3)、20A11huH1004/VK1-39-k0MT(重鎖配列番号:42、軽鎖配列番号:3)、および20A11huH1006/VK1-39-k0MT(重鎖配列番号:43、軽鎖配列番号:3)の発現および精製を実施例3と同様の方法で行った。
【0364】
4-5 プロテアーゼ切断配列を導入されているポリペプチドのプロテアーゼ切断による活性化
20A11huH1001/VK1-39-k0MT、20A11huH1002/VK1-39-k0MT、20A11huH1004/VK1-39-k0MT、および20A11huH1006/VK1-39-k0MTを、実施例3と同様の方法でプロテアーゼにより切断し、切断の程度を還元SDS-PAGEによって評価した結果を
図16に示す。
その結果、20A11huH1002/VK1-39-k0MT、20A11huH1004/VK1-39-k0MT、および20A11huH1006/VK1-39-k0MTにおいて、VHHとCH1の境界付近がプロテアーゼによる切断を受けることが確認された。
次に、プロテアーゼ処理によって遊離したVHHとIL6Rの、30℃または25℃における結合評価を実施例3と同様の方法で行った。Octetのセンサーグラムを
図17に示す。
その結果、プロテアーゼ処理によってVHHとCH1の境界付近が切断を受けることが確認された20A11huH1002/VK1-39-k0MT、20A11huH1004/VK1-39-k0MT、および20A11huH1006/VK1-39-k0MTにおいて、IL6Rへの結合が確認された。
これらの結果から、VHHを組み込んだポリペプチドにおいて、特定のVLと会合させる際に直ちに抗原結合活性が失われない場合でも、VHHとVLとの界面に存在するアミノ酸に会合促進の変異を導入することで抗原結合活性を失わせることができることが確認された。
この結果から、実施例3のようにあらかじめ得られているVHHを軽鎖と組み合わせる方法以外に、軽鎖との会合に関与する置換アミノ酸を含むVHHを軽鎖と組み合わせる方法によっても、実施例2に記載されたコンセプトの分子を調製できることが結論づけられた。
【0365】
実施例5 免疫アルパカ由来VHHを利用したプロテアーゼ活性化ポリペプチドの調製
5-1 免疫アルパカ由来VHHの取得
当業者公知の方法でIL6R、CD3、またはPlexinA1をアルパカに免疫し、4及び8週後にPBMCを回収した。回収したPBMCからJ. Immunol. Methods (2007) 324, 13に記載の方法を参考にVHH遺伝子を増幅した。増幅したVHH遺伝子断片は、gene3遺伝子と接続してファージミドベクターに挿入した。VHH断片が挿入されたファージミドベクターを大腸菌にエレクトロポレーション法で移入し、当業者既知の方法でVHHをディスプレイするファージを得た。得られたファージは、ELISA法で、IL6R、CD3、またはPlexinA1に対する結合を評価し、結合するクローンの配列を当業者公知の方法で解析して、抗原に結合するVHHを同定した。
【0366】
5-2 CD3に結合するVHHの濃縮
実施例5-1で構築されたVHHライブラリからヒトCD3に結合するVHHを同定した。抗原として、ヒトCD3ε及びヒトCD3δをヒト抗体定常領域に連結したものを含むビオチン標識されたタンパク質(ヒトCD3ed-Fc)を用いて、ヒトCD3に対して結合能をもつVHHクローンの濃縮を行った。ヒトCD3ed-Fcは以下のように調製された。配列番号:59で示すアミノ酸配列をコードする遺伝子と、配列番号:60で示すアミノ酸配列をコードする遺伝子と、BirA(配列番号:58)をコードする遺伝子とを有する動物細胞発現ベクターをFreeStyle293細胞(Invitrogen社)に移入した。移入後L-ビオチンを加えてビオチン化を培養液中で実施し、細胞培養はプロトコルに従って37℃で振とう培養によって実施した。4~5日後に上清を回収した。上清からProteinAカラム(Eshmuno A (Merck KGaA))を用いて、抗体の定常領域が融合しているタンパク質を得た。さらにCD3εδヘテロダイマーのみを取得する目的で、Anti-FLAG M2カラムを用いて、抗体の定常領域が融合しているCD3εδヘテロダイマー(ヒトCD3ed-Fcと呼ぶ)の分画を分離した。引き続き、ゲル濾過クロマトグラフィー(Superdex200、GEヘルスケアジャパン社)を実施して、目的のCD3εδヘテロダイマー(ヒトCD3ed-Fcと呼ぶ)の分画を得た。
構築されたファージディスプレイ用ファージミドを保持した大腸菌からファージ産生が行われた。ファージ産生が行われた大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加することによって沈殿させたファージの集団を、その後TBSにて希釈することによってファージライブラリ液が得られた。次に、ファージライブラリ液に、BSAの終濃度が4%となるようにBSAが添加された。パニングは、磁気ビーズに固定化した抗原を用いる、一般的なパニング方法を参照して実施された(J. Immunol. Methods. (2008) 332 (1-2), 2-9、J. Immunol. Methods. (2001) 247 (1-2), 191-203、Biotechnol. Prog. (2002) 18 (2) 212-20、およびMol. Cell Proteomics (2003) 2 (2), 61-9)。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(FG beads NeutrAvidin)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads MyOne Streptavidin T1)が用いられた。
具体的には、調製されたファージライブラリ液に100 pmolのビオチン標識抗原を加え、当該ファージライブラリ液を室温にて60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を、磁気ビーズと、室温にて15分間結合させた。ビーズは0.5 mLのTBST(0.1%Tween20を含有するTBS, TBSはTaKaRa Bio Inc.製)にて2回洗浄された後、0.5 mLのTBSでさらに1回洗浄された。その後、0.5 mLの1 mg/mLのトリプシンが加えられ、ビーズは室温で15分懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液が、対数増殖期(OD600が0.4~0.5)にある20 mLの大腸菌株ER2738に添加された。37℃で1時間、緩やかに攪拌しながら上記大腸菌の培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は、225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養上清からファージを回収することによって、ファージライブラリ液が調製された。このサイクルをパニングと呼び、全部で2回繰り返した。2回目のパニングでは、ビーズの洗浄はTBSTで3回、続けてTBSで2回行われた。また、ヒトCD3ed-Fcをファージを接触させる時には、4 nmolのヒトFcが加えられた。
【0367】
5-3 CD3に結合するVHHを組み込んだプロテアーゼ活性化IgG抗体様分子の調製
実施例5-1または5-2で得られた、ヒトCD3に対する各結合クローンのVHH配列(表1)をコードするヌクレオチド配列を、実施例3に記載の方法で、プロテアーゼ切断サイトおよび定常領域をコードするヌクレオチド配列に接続し、得られたものを動物細胞発現ベクターに挿入し、IgG抗体様分子の重鎖として使用した。
【0368】
【0369】
以下表2で示すプロテアーゼ活性化IgG抗体様分子を、当業者公知の方法でFreeStyle293細胞 (Invitrogen社)を用いた一過性発現により発現し、プロテインAを用いた当業者公知の方法により精製を行った。
【0370】
【0371】
5-4 プロテアーゼ活性化IgG抗体様分子のプロテアーゼ切断による活性化
実施例5-3で調製したIgG抗体様分子を実施例3と同様の方法でプロテアーゼにより切断し、切断の程度を還元SDS-PAGEによって評価した結果を
図18に示す。プロテアーゼ濃度は25 nMで実施し、測定にはOctetRED (Pall ForteBio社)を用いた。
その結果、IgG抗体様分子は、プロテアーゼ切断配列において、プロテアーゼによる切断を受けることが確認された。
次に、プロテアーゼ処理によって遊離したVHHとCD3の結合評価を実施例3と同様の方法で行った。Octetのセンサーグラムを
図19に示す。
その結果、IgG抗体様分子bC3edL1R1N160H01-G1mISHI01/VK1-39-k0MT、bC3edL1R1N161H01-G1mISHI01/VK1-39-k0MT、およびbC3edL1R1N164H01-G1mISHI01/VK1-39-k0MTは、プロテアーゼ処理前には抗原結合を示さないのに対し、プロテアーゼ処理後には抗原結合が確認された。表1に記載されたVHHと同様な方法で得られた、CD3分子に対して結合する複数のVHH分子もまた用いて、表2に記載されたIgG抗体様分子と同様なプロテアーゼ切断サイトを含むIgG様分子を調製した結果、プロテアーゼ処理によって抗原結合が確認された。これらの結果から、実施例3および4で示されたポリペプチド以外にも、プロテアーゼ処理によってプロテアーゼ切断配列が切断され、抗原結合ドメインが遊離し、遊離した抗原結合ドメインが抗原に結合することができる、プロテアーゼ切断配列が導入されているIgG抗体様分子が示された。
【0372】
実施例6 軽鎖にプロテアーゼ切断配列が導入されているポリペプチド
実施例3と同様の方法で、各位置にプロテアーゼ切断配列が導入されている軽鎖VK1-39P-2-Pk0MT(配列番号:67)、VK1-39P-1-Pk0MT(配列番号:68)、VK1-39P-Pk0MT(配列番号:69)、VK1-39P+2-Pk0MT(配列番号:70)、VK1-39P+3-Pk0MT(配列番号:71)、VK1-39P+4-Pk0MT(配列番号:72)、及びVK1-39P+5-Pk0MT(配列番号:73)を調製した。
これらの軽鎖と、重鎖としてIL6R90-G1m(配列番号:2)とを用いたIgG抗体様分子の発現および精製を実施例3と同様の方法で行った。プロテアーゼ濃度は25 nMで実施した。切断配列を導入されていないIgG抗体様分子としてIL6R90-G1m/VK1-39-k0MT(重鎖配列番号:2、軽鎖配列番号:3)を用いた。
続いて、調製したIgG抗体様分子を実施例3と同様の方法でプロテアーゼにより切断し、切断の程度を還元SDS-PAGEによって評価した結果を
図20に示す。その結果、VK1-39P+2-Pk0MT(配列番号:70)、VK1-39P+3-Pk0MT(配列番号:71)、VK1-39P+4-Pk0MT(配列番号:72)、及びVK1-39P+5-Pk0MT(配列番号:73)は、プロテアーゼ切断配列においてプロテアーゼによる切断を受けることが確認された。プロテアーゼ処理によって露出したVHHとIL6Rの結合評価を、実施例3と同様の方法でさらに行った。Octetのセンサーグラムを
図21に示す。その結果、軽鎖に切断配列を導入した場合にも、プロテアーゼ処理によって結合が認められ、軽鎖をプロテアーゼで切断することによって抗原結合ドメインが露出し抗原結合能を示すように軽鎖にプロテアーゼ切断配列が導入されている、プロテアーゼ活性化ポリペプチドを取得可能なことが示された。
【0373】
実施例7 抗原結合ドメインを有する重鎖とプロテアーゼ切断配列が導入されている軽鎖とを含むライブラリ、及び当該ライブラリからの、ファージディスプレイ法による、プロテアーゼ活性化ポリペプチドの取得
実施例6で確認されたように、プロテアーゼ活性化ポリペプチドの軽鎖にプロテアーゼ切断配列を導入した場合であっても、軽鎖切断後に抗原結合ドメインが露出し、抗原に結合する。
そこで、単ドメイン抗体等の抗原結合ドメインを含む重鎖と、プロテアーゼ切断配列を導入されている軽鎖とをファージミドに組み込み、ファージによって提示させる。異なる種類の抗原結合ドメインを含む複数のファージディスプレイ用ファージミドが構築され、それらのファージミドを保持した大腸菌からファージ産生が行われる。ファージ産生の後に、大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加することによってファージの集団を沈殿させ、次いでTBSで希釈することによってファージライブラリ液が得られる。ファージライブラリ液に、BSAの終濃度が4%となるようにBSAが添加される。
上記のように調製されたファージライブラリからプロテアーゼ活性化ポリペプチドをパニングにより取得する。パニングは、磁気ビーズに固定化した抗原を用いる、一般的なパニング方法を参照して実施される(J. Immunol. Methods. (2008) 332 (1-2), 2-9、J. Immunol. Methods. (2001) 247 (1-2), 191-203、Biotechnol. Prog. (2002) 18 (2) 212-20、およびMol. Cell Proteomics (2003) 2 (2), 61-9)。プロテアーゼ添加前は、抗原が固定されている磁気ビーズに結合しなかったファージを回収し、プロテアーゼ添加後は、抗原が固定されている磁気ビーズに結合したファージを回収する。使用磁気ビーズは、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated、FG beads NeutrAvidin)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)である。回収したファージから、前項に記載されたファージELISAで、抗原と結合するクローンを選定しても良く、あるいは抗体遺伝子を動物発現用ベクターへサブクローニングを行って動物細胞を用いて発現し、プロテアーゼ処理前後の結合活性を比較して、結合クローンを選定する。
【0374】
実施例8 抗原結合ドメインを有する重鎖と軽鎖とを含むライブラリ、及び当該ライブラリからの、ファージディスプレイ法による、軽鎖によってその抗原結合能が制御される重鎖の取得
実施例3で確認されたように、軽鎖の会合によって抗原結合ドメインを含む重鎖の抗原結合能が制御される。そこで、軽鎖と会合した時に抗原結合能を失い、重鎖のみを、または重鎖と軽鎖定常領域とを組み合わせて提示した時に抗原結合能を示す重鎖を、ファージディスプレイ法により取得する。
単ドメイン抗体等の抗原結合ドメインを含む重鎖をファージミドに組み込み、ファージによって提示させる。異なる種類の抗原結合ドメインを含む複数のファージディスプレイ用ファージミドが構築され、それらのファージミドを保持した大腸菌からファージ産生が行われる。ファージ産生の後に、大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加することによって、ファージの集団を沈殿させ、次いで、TBSで希釈することによってファージライブラリ液が得られる。ファージライブラリ液に、BSAの終濃度が4%となるようにBSAが添加される。
上記のように調製されたファージライブラリから、重鎖のみまたは重鎖と軽鎖定常領域とを組み合わせて提示しているときに抗原結合能を示し、重鎖が軽鎖可変領域と会合した時に抗原結合能が失われる重鎖をパニングにより取得する。パニングは、実施例5に記載された、磁気ビーズに固定化した抗原を用いるパニング方法を参照して実施する。重鎖をまたは重鎖と軽鎖定常領域とをディスプレイしたファージライブラリから、抗原が固定されている磁気ビーズに結合したファージを回収する。回収したファージを大腸菌に感染させ、軽鎖を発現するヘルパーファージを用いて重鎖と軽鎖とをディスプレイするファージを産生する。ファージ産生の後に、大腸菌の培養液から、上述の方法で抗原結合ドメインを含む重鎖と軽鎖をディスプレイしたファージが得られる。重鎖と軽鎖とをディスプレイしたファージの集団から、抗原が固定されている磁気ビーズに結合しないファージを回収する。
図9Dに示されたようにパニングは、抗原が固定されている磁気ビーズに結合する、重鎖のみをまたは重鎖と軽鎖定常領域とを組み合わせてディスプレイしたファージ集団の回収、および抗原が固定されている磁気ビーズに結合しない、重鎖と軽鎖とをディスプレイしたファージ集団の回収の順序を入れ替えて実施することもある。ヘルパーファージを用いて軽鎖を発現する方法以外に、通常通り、同じファージミドに、軽鎖をコードする領域と重鎖をコードする領域とを組み込み、パニングごとに軽鎖定常領域のみあるいは軽鎖全長をコードする遺伝子を組み込んで用いることもある。
回収したファージから、前項に記載されたファージELISAで、抗原と結合するクローンを選定しても良く、あるいは抗体遺伝子を動物発現用ベクターへサブクローニングを行って動物細胞を用いて発現し、プロテアーゼ処理前後の結合活性を比較して、結合クローンを選定する。
【0375】
実施例9 ファージディスプレイ法を用いて、軽鎖によってその抗原結合能が制御されるVHHの取得、及びそのVHHを含むIgG抗体様分子の調製
実施例3で、重鎖にVHの代わりとして含まれるVHHの抗原結合能が、軽鎖との会合によって制御されることが確認された。そこで、特定の軽鎖と会合した時にはその抗原結合能を失い、重鎖のみをまたは重鎖と軽鎖定常領域とを組み合わせて提示した時、即ち軽鎖可変領域と会合していない時には抗原結合能を示すVHHを、免疫アルパカPBMC由来のVHHとCH1を連結したものをディスプレイさせたファージライブラリから取得し、当該VHHを含むIgG抗体様分子を調製した。
【0376】
9-1 軽鎖発現ユニットを組み込んだ軽鎖発現ヘルパーファージの構築
国際公開公報WO2015/046554号に記載の方法に基づき、ヘルパーファージのゲノムに、プロモーター、シグナル配列、抗体軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域の遺伝子、または軽鎖定常領域の遺伝子などを組み込むことにより、軽鎖発現ヘルパーファージの構築を行った。本ヘルパーファージが感染した大腸菌は、抗体軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域、または軽鎖定常領域のみの発現が可能となる。
具体的には国際公開公報WO2015/046554号に記載の方法で構築したヘルパーファージM13KO7TCからゲノムを抽出し、軽鎖発現ユニットをこのゲノムに導入した。導入する軽鎖遺伝子として、軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域(VK1-39-k0MTdC、配列番号:152)をコードする遺伝子、または軽鎖定常領域(k0MTdC、配列番号: 153)をコードする遺伝子を用いた。lacプロモーター - pelBシグナル配列 - 軽鎖遺伝子を上記方法でM13KO7TC/SacIへ挿入し、大腸菌株ER2738へエレクトロポレーション法により移入した。
得られた大腸菌を培養し、培養上清に2.5 M NaCl/10%PEGを添加してPEG沈殿法によりヘルパーファージを精製した。得られたヘルパーファージM13KO7TC-Vk1-39-k0MTdC及びM13KO7TC-k0MTdCのタイターを一般的なプラーク形成法にて確認した。
【0377】
9-2 VHH-CH1分子を複数含むライブラリの調製
当業者公知の方法で、ヒトIL6Rの細胞外ドメイン、ヒトCD3εγヘテロダイマー、サルCD3εγヘテロダイマー及びヒトPlexinA1の細胞ドメインの4種類の免疫原を用いて、アルパカに免疫し、4週間後にPBMCを回収した。CD3εγヘテロダイマーはJournal of Molecular Biology (2000) 302:899-916.を参考に調製した。回収したPBMCからJ. Immunol. Methods (2007) 324, 13に記載の方法を参考にVHH遺伝子を増幅した。増幅したVHH遺伝子断片は、CH1-gene3遺伝子と接続してファージミドベクターに挿入し、VHHとCH1を連結させたVHH-CH1分子を複数含むライブラリを調製した。
【0378】
9-3 VHH-CH1/全長軽鎖、またはVHH-CH1/軽鎖定常領域をディスプレイするファージ集団の作製方法
VHH-CH1をコードする遺伝子が挿入されたファージミドベクターを大腸菌にエレクトロポレーション法で移入し、得られた大腸菌を培養し、実施例9-1で調製したヘルパーファージM13KO7TC-Vk1-39-k0MTdCを感染させることで、ファージミドベクターから発現するVHH-CH1とヘルパーファージから発現する全長軽鎖がFab構造を形成し、VHH-CH1をコードする遺伝子が含まれるファージミドの表面に、VHH-CH1/全長軽鎖(VHH-CH1/Vk1-39-k0MTdC)をディスプレイするファージ集団を調製できる。また、VHH-CH1をコードする遺伝子が挿入されたファージミドベクターが導入されている大腸菌を培養し、実施例9-1で調製したヘルパーファージM13KO7TC-k0MTdCを感染させることで、ファージミドベクターから発現するVHH-CH1とヘルパーファージから発現する軽鎖定常領域がVHH-CH1とCLが会合した構造を形成し、VHH-CH1/軽鎖定常領域(VHH-CH1/k0MTdC)をディスプレイするファージ集団を調製できる。培養上清に2.5 M NaCl/10% PEGを添加してPEG沈殿法によりファージを精製できる。得られたファージのタイターを一般的なプラーク形成法にて確認できる。
【0379】
9-4 VHH-CH1ファージライブラリからの、軽鎖可変領域との会合でその抗原結合が阻害され、軽鎖可変領域がないときに抗原結合能を示すPlexinA1 VHHを含むVHH-CH1の取得
実施例9-2で調製されたVHH-CH1ライブラリから、軽鎖可変領域との会合でその抗原結合が阻害され、軽鎖可変領域がないときに抗原結合能を示すVHHを含むVHH-CH1をパニングにより取得した。
使用した抗原は、参考実施例で作製した、ビオチン標識されたヒトPlexinA1であった。
パニング方法として、以下のステップ:
(1)実施例9-2で調製されたVHH-CH1ファージライブラリに対し、実施例9-3の方法でVHH-CH1/軽鎖定常領域(VHH-CH1/k0MTdC)をディスプレイするファージ集団を産生し、この集団から、抗原が固定されている磁気ビーズに結合したファージを回収する
(2)回収したファージから、実施例9-3の方法で、VHH-CH1/全長軽鎖(VHH-CH1/Vk1-39-k0MTdC)をディスプレイするファージ集団を産生し、この集団から、抗原が固定されている磁気ビーズに結合しないファージを回収する;
(3)回収したファージは、ステップ(1)と(2)に繰り返し供し、所望のファージを回収する;
に沿って行った。
パニングの結果、軽鎖Vk1-39-k0MTdCとの会合によってそのPlexinA1に対する結合が阻害され、軽鎖可変領域がないときにPlexinA1に対する結合能を示すVHH-CH1分子を複数個選択できた。
別のパニング方法として、以下のステップ:
(1)実施例9-2で調製されたVHH-CH1ファージライブラリから、実施例9-3の方法で、VHH-CH1/軽鎖定常領域(VHH-CH1/k0MTdC)をディスプレイするファージ集団を産生し、このファージ集団から、抗原が固定されている磁気ビーズに結合したファージを回収する;
(2)回収したファージから、実施例9-3の方法で、VHH-CH1/全長軽鎖(VHH-CH1/Vk1-39-k0MTdC)をディスプレイするファージ集団を産生し、このファージ集団から、抗原が固定されている磁気ビーズに結合しないファージを回収し、回収したファージから、抗軽鎖抗体 (EY Laboratories, Inc., Cat. BAT-2107-2)が固定された磁気ビーズに結合するファージを更に回収する;
(3)回収したファージは、ステップ(1)と(2)に繰り返し供し、所望のファージを回収する;
に沿って行った。
パニングの結果、軽鎖Vk1-39-k0MTdCとの会合によってそのPlexinA1に対する結合が阻害され、軽鎖可変領域がないときにPlexinA1に対する結合能を示すVHH-CH1分子を複数個選択できた。
こうしてパニングにより選択されたVHH-CH1中のVHHは、IgG抗体様分子の調製に使用できる。
【0380】
9-5 PlexinA1に結合するVHHを組み込んだプロテアーゼ活性化IgG抗体様分子の調製
実施例9-4で選択された各VHH-CH1分子に含まれるVHHをコードするヌクレオチド配列を実施例3に記載の方法で、プロテアーゼ切断サイトおよび重鎖定常領域をコードするヌクレオチド配列に接続して得られたものをIgG抗体様分子の重鎖として使用し、全長軽鎖VK1-39-k0MT(配列番号:3)と組み合わせた。このIgG抗体様分子を、当業者公知の方法でFreeStyle293細胞 (Invitrogen社)を用いた一過性発現により発現し、プロテインAを用いた当業者公知の方法により精製を行った。
調製されたIgG抗体様分子は表3に示す。
【0381】
【0382】
9-6 プロテアーゼ活性化IgG抗体様分子のプロテアーゼ切断による活性化
実施例9-4で調製したIgG抗体様分子を実施例3と同様の方法でプロテアーゼにより切断し、切断の程度を還元SDS-PAGEによって評価した結果を
図22に示す。プロテアーゼ濃度は25 nMで実施した。
その結果、調製した各IgG抗体様分子は、プロテアーゼ切断配列において、プロテアーゼによる切断を受けることが確認された。
次に、プロテアーゼ処理によって遊離したVHHとヒトPlexinA1の結合評価を実施例3と同様の方法で行った。Octetのセンサーグラムを
図23に示す。
その結果、調製した各IgG抗体様分子は、プロテアーゼ処理前には抗原結合を示さなかったのに対し、プロテアーゼ処理後には遊離VHHの抗原結合が確認された。
【0383】
実施例10 二重特異性VHH-VHH含有ポリペプチド
10-1 癌抗原とCD3とに結合する二重特異性VHH-VHH、及び二重特異性VHH-VHH含有ポリペプチドの調製
図8に示されたように、プロテアーゼによって活性化される抗原結合ドメインは第2の抗原結合ドメインと二重特異性抗原結合分子を形成してもよい。
ヒトグリピカン3を認識するVHH HN3(配列番号:159)と、CD3を認識するVHH G03(配列番号:160)とを、グリシンとセリンで構成されるリンカーを介して接続し、二重特異性VHH-VHH HN3G03を調製した。プロテアーゼ切断配列を介して、配列番号:161に示す抗体重鎖定常領域をさらに接続し、得られた二重特異性VHH-VHH含有重鎖HN3G03-cF760mnHIF(配列番号:162)を動物発現用ベクターに挿入した。
Her2を認識するVHH HerF07(配列番号:163)と、CD3を認識するVHH G03(配列番号:160)とを、グリシンとセリンで構成されるリンカーを介して接続し、二重特異性VHH-VHH HerF07G03を調製した。プロテアーゼ切断配列を介して、配列番号:161に示す抗体重鎖定常領域をさらに接続し、得られた二重特異性VHH-VHH含有重鎖HerF07G03-cF760mnHIF(配列番号:164)を動物発現用ベクターに挿入した。
それぞれの二重特異性VHH-VHH含有重鎖を、軽鎖VK1.39-k0MT(配列番号:3)と、ヒンジ領域からC末端までのヒト定常領域配列VHn-Kn010dGK(配列番号:166)の挿入をそれぞれ有する動物発現用ベクターと共にExpi293細胞(Life technologies社)に導入し、二重特異性VHH-VHH含有ポリペプチドを発現した。その後、当業者公知の方法でMonoSpin ProA 96ウェルプレートタイプ (GL sciences Inc., Cat No.:7510-11312)を用いて二重特異性VHH-VHH含有ポリペプチドを精製した。二重特異性VHH-VHH HN3G03を含むポリペプチドはHN3G03-cF760mnHIF/VHn-Kn010dGK/VK1.39-k0MTであり、二重特異性VHH-VHH HerF07G03を含むポリペプチドはHerF07G03-cF760mnHIF/VHn-Kn010dGK/VK1.39-k0MTである。
プロテアーゼ処理として、精製した各二重特異性VHH-VHH含有ポリペプチド 40μgに(終濃度25nMとなるように)uPA(Recombinant Human u-Plasminogen Activator、R&D systems, Inc.)を加え20時間以上37℃で保温した。プロテアーゼを処理しないサンプルは、プロテアーゼの代わりにPBSをプロテーゼの量と同じ量加えたのち、保温した。プロテアーゼ切断を実施した二重特異性VHH-VHH含有ポリペプチドが目的通り切断を受けているかを還元SDS-PAGEで確認した結果を
図24に示す。
図24に示す通り、プロテアーゼ切断によって二重特異性VHH-VHHが分子全体から切り離されたことが示唆された。
【0384】
10-2 GPC3およびCD3に対する、二重特異性VHH-VHH含有ポリペプチドのプロテアーゼ切断によるCD3活性化評価
CD3へのアゴニスト活性はJurkat-NFAT レポーター細胞(NFAT luc2_jurkat cell)を用いて評価された。Jurkat-NFATレポーター細胞は、CD3を発現しているヒト急性T細胞性白血病由来細胞にNFAT応答エレメントとルシフェラーゼ (luc2P) が融合している細胞株であり、CD3の下流のシグナルが活性化するとルシフェラーゼが発現する。GPC3に基づく抗体のために用いた標的細胞は、ヒト肝がん由来細胞株のSK-HEP-1にヒトGPC3を強制発現させて樹立したSK-pca60細胞株であった。White-bottomed, 96-well assay plate (Costar, 3917)の各ウェルに、標的細胞とエフェクター細胞をそれぞれ1.25E+04 細胞/ウェル、7.50E+04細胞/ウェル加え、当該ウェルに、プロテアーゼ処理有りもしくはプロテアーゼ処理無しのHN3G03-cF760mnHIF/VHn-Kn010dGK/VK1.39-k0MTを、終濃度1, 10, 100nMで添加した。5% CO
2存在下で37℃、 24時間インキュベートしたのち、ルシフェラーゼ酵素活性をBio-Glo luciferase assay system (Promega社、G7940) を使用して添付のプロトコルに従って発光強度として測定した。検出には2104 EnVisionを使用した。その結果を
図25に示す。プロテアーゼ処理無しのサンプルの場合ルシフェラーゼ活性の上昇がみられなかったのに対して、プロテアーゼ処理有りのHN3G03-cF760mnHIF/VHn-Kn010dGK/VK1.39-k0MTではルシフェラーゼ活性の上昇が示された。すなわち、プロテアーゼ処理有りのHN3G03-cF760mnHIF/VHn-Kn010dGK/VK1.39-k0MT の場合、CD3に対するアゴニスト活性を有することが確認でき、プロテアーゼ切断によってHN3G03-cF760mnHIF/VHn-Kn010dGK/VK1.39-k0MTから、GPC3およびCD3に対する二重特異性VHH-VHHが遊離され、未切断時には阻害されていたCD3結合活性を発揮した。
【0385】
10-3 Her2およびCD3に対する、二重特異性VHH-VHH含有ポリペプチドのプロテアーゼ切断によるCD3活性化評価
CD3に対するアゴニスト活性はJurkat-NFAT レポーター細胞(NFAT luc2_jurkat cell)を用いて評価された。Jurkat-NFATレポーター細胞(エフェクター細胞)は、CD3を発現しているヒト急性T細胞性白血病由来細胞にNFAT応答エレメントとルシフェラーゼ (luc2P) が融合している細胞株であり、CD3の下流のシグナルが活性化するとルシフェラーゼが発現する。使用した標的細胞は、LS1034細胞株であった。White-bottomed, 96-well assay plate (Costar, 3917)の各ウェルに、標的細胞とエフェクター細胞をそれぞれ2.50E+04細胞/ウェル、7.50E+04細胞/ウェル加え、当該ウェルに、プロテアーゼ処理有りもしくはプロテアーゼ処理無しのHerF07G03-cF760mnHIF/VHn-Kn010dGK/VK1.39-k0MTを、終濃度0.01, 0.1, 1nMで添加した。5% CO
2存在下で37℃、24時間インキュベートしたのち、ルシフェラーゼ酵素活性をBio-Glo luciferase assay system (Promega社、G7940) を使用して添付のプロトコルに従って発光強度として測定した。検出には2104 EnVisionを使用した。その結果を
図26に示す。プロテアーゼ処理無しのサンプルの場合ルシフェラーゼ活性の上昇がみられなかったのに対して、プロテアーゼ処理有りのHerF07G03-cF760mnHIF/VHn-Kn010dGK/VK1.39-k0MTではルシフェラーゼ活性の上昇が示された。すなわち、プロテアーゼ処理有りのHerF07G03-cF760mnHIF/VHn-Kn010dGK/VK1.39-k0MTの場合、CD3に対するアゴニスト活性を有することが確認でき、プロテアーゼ切断によってHerF07G03-cF760mnHIF/VHn-Kn010dGK/VK1.39-k0MTから、Her2およびCD3に対する二重特異性VHH-VHHが遊離し、未切断時には阻害されていたCD3結合活性を発揮した。
【0386】
実施例11 VHHを組み込んだポリペプチドへのプロテアーゼ切断サイトの導入
11-1 IL6Rに結合するVHHを組み込んだポリペプチドへのプロテアーゼ切断配列の導入
国際公開WO2010/115998号に記載されている、ヒトIL6Rに対して結合および中和活性を有するVHHであるIL6R90(配列番号:1)をヒトIgG1の定常領域(CH1- ヒンジ-CH2-CH3)に融合したものを含む、IL6R90-G1T4(配列番号:167)をコードする発現ベクターを当業者公知の方法で調製した。IgG抗体様分子であるIL6R90-G1T4/VK1-39-k0MT(重鎖配列番号:167、軽鎖配列番号:3)を当業者公知の方法でFreeStyle293細胞 (Invitrogen社) もしくはExpi293細胞 (Life technologies社) を用いた一過性発現により発現し、プロテインAを用いた当業者公知の方法により精製を行った。
IL6R90-G1T4/VK1-39-k0MTの重鎖のVHHとCH1の境界付近に、配列番号:178で示すプロテアーゼ切断配列を挿入し、プロテアーゼ切断配列が導入されているVHH含有重鎖IL6R90.12aa-G1T4(配列番号:189)を調製した。IL6R90.12aa-G1T4発現ベクターを、当業者公知の方法で調製した。
IL6R90.12aa-G1T4と配列番号:3で示す軽鎖を組み合わせて、VHHとCH1の境界付近にプロテアーゼ切断配列を導入されているIgG1抗体様分子IL6R90.12aa-G1T4/VK1-39-k0MTを当業者公知の方法でFreeStyle293細胞 (Invitrogen社) もしくはExpi293細胞 (Life technologies社)を用いた一過性発現により発現し、プロテインAを用いた当業者公知の方法により精製を行った。
【0387】
11-2 プロテアーゼ切断配列がその重鎖領域に導入されている、抗ヒトIL6R VHH含有IgG抗体様分子のプロテアーゼによる切断の評価
実施例11-1で調製したIgG抗体様分子がプロテアーゼにより切断されるどうかを検証した。プロテアーゼとしてリコンビナントヒトマトリプターゼ/ST14 触媒ドメイン( MT-SP1 ) ( R&D Systems,Inc., 3946-SE-010 ) を用い、プロテアーゼ 10nM、抗体 50μg/mLを、PBS中、37℃の条件下で20時間反応させたのちに、プロテアーゼによる切断を還元SDS-PAGEによって評価した結果を
図27に示す。その結果、IgG抗体様分子IL6R90.12aaは、プロテアーゼ処理によって37kDa付近に新たなバンドが生じた。即ち、IgG抗体様分子は、VHHとCH1の境界付近に挿入された、プロテアーゼ切断配列(配列番号:178)でプロテアーゼによる切断を受けることが確認された。また、配列番号:178で示すプロテアーゼ切断配列がIgG抗体に組み込まれているときに、類似する方法でヒトuPAおよびマウスuPAによって切断されることも確認された。
【0388】
実施例12 プロテアーゼ切断配列がその軽鎖に導入されているIgG抗体様分子の、プロテアーゼ切断による活性化の程度の評価
国際公開WO2010/115998号に記載されている、ヒトIL6Rに対して結合および中和活性を有するVHHであるIL6R75(配列番号:190)をヒトIgG1の定常領域(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)に融合したものを含む、IL6R75-G1m(配列番号:191)をコードする発現ベクターを当業者公知の方法で調製した。実施例4-2と同様の方法でVHHとVLの界面部位へアミノ酸改変を導入したIL6R75hu-G1m(配列番号:192)を調製した。プロテアーゼ切断配列を組み込んだ軽鎖VK1-39P+4-Pk0MT(配列番号:72)と、重鎖としてIL6R90-G1m(配列番号:2)、20A11hu-G1m(配列番号:39)、およびIL6R75hu-G1m(配列番号:192)を用いたIgG抗体様分子IL6R90-G1m/ VK1-39P+4-Pk0MT(重鎖配列番号:2、軽鎖配列番号:72)、20A11hu-G1m/ K1-39P+4-Pk0MT(重鎖配列番号:39、軽鎖配列番号:72)、およびIL6R75hu-G1m/ VK1-39P+4-Pk0MT(重鎖配列番号:192、軽鎖配列番号:72)の発現および精製を実施例3と同様の方法により行った。
IL6R90-G1m/VK1-39P+4-Pk0MT、20A11hu-G1m/VK1-39P+4-Pk0MT、およびIL6R75hu-G1m/VK1-39P+4-Pk0MTを実施例3と同様の方法でプロテアーゼにより切断し、切断の程度を評価した結果を
図28に示す。具体的には、プロテアーゼとしてリコンビナントヒトマトリプターゼ/ST14 触媒ドメイン ( R&D Systems, Inc., 3946-SE-010 ) を用い、プロテアーゼ50nM、および各IgG抗体様分子 50μg/mLを、PBS中、37℃の条件下で20時間反応させたのちに、プロテアーゼによる切断を還元SDS-PAGEによって評価した。その結果、IL6R90-G1m/VK1-39P+4-Pk0MT、20A11hu-G1m/VK1-39P+4-Pk0MT、およびIL6R75hu-G1m/VK1-39P+4-Pk0MTは、VLとCLの境界付近がプロテアーゼによる切断を受けることが確認された。
次に、プロテアーゼ処理によって露出したVHHとIL6Rの結合をELISAで評価した。具体的には、ストレプトアビジン・コート384ウェルプレート ( Greiner Bio-One GmBH, 781990 ) に実施例3で使用した hsIL-6R-BAP1 を固定し、切断した各IgG抗体様分子を室温で結合させた。30分間の反応後、HRP標識抗ヒトIgG抗体 ( Sigma-Aldrich Co. LLC, SAB3701362-2MG ) を室温で10分間作用させ、それをTMB Chromogen Solution ( Life Technologies社, 002023 ) と反応させた。室温で30分反応させた後、硫酸で反応を停止させ、Synergy HTX マルチモードリーダー(BioTek Instruments, Inc.)を用いて450nmでの吸光度を測定した。抗原を固定したウェルとしなかったウェルの吸光度の比を算出し、S/N比として使用した。ELISAのS/N比(平均値)を縦軸、各IgG抗体様分子の濃度を横軸にプロットし、結果を
図29に示す。この結果から、プロテアーゼ処理された、その軽鎖に切断配列が導入されているIgG抗体様分子20A11hu-G1m/VK1-39P+4-Pk0MTは、プロテアーゼ未処理のIgG抗体様分子と比べてIL6Rへの結合活性が10倍以上になり、プロテアーゼ処理されたIgG抗体様分子IL6R90-G1m/VK1-39P+4-Pk0MTは、プロテアーゼ未処理のもののIL6Rへの結合活性の1000倍以上となったことが示された。
【0389】
実施例13 多様なプロテアーゼ切断配列が導入されているIgG抗体様分子の調製と評価
13-1 多様なプロテアーゼ切断配列が導入されているポリペプチドの調製
ウロキナーゼまたはマトリプターゼ以外のプロテアーゼのための認識配列を用いて、実施例3と同様の方法でIgG抗体様分子を調製した。IL6R90-G1mの可変領域と定常領域の境界付近に、MMP-2、MMP-7、MMP-9、またはMMP-13で切断されることが知られている各種ペプチド配列をそれぞれ挿入し、かつそれらの切断配列の近傍に、グリシン-セリンポリマーからなる可動リンカーを含むペプチド配列を挿入した。挿入した配列は表4に示す。
【0390】
【0391】
これら配列がIL6R90-G1mの可変領域と定常領域の境界付近に挿入されるように、重鎖を設計した。重鎖改変体である6R90EIVHEMP2.1-6R90EICHEMP2.1G1m(配列番号:165)、6R90EIVHEMP2.2-6R90EICHEMP2.2G1m(配列番号:202)、 6R90EIVHEMP2.3-6R90EICHEMP2.3G1m(配列番号:203)、 6R90EIVHEMP2.4-6R90EICHEMP2.4G1m(配列番号:204)、6R90EIVHEMP7.1-6R90EICHEMP7.1G1m(配列番号:205)、6R90EIVHEMP7.2-6R90EICHEMP7.2G1m(配列番号:206)、6R90EIVHEMP13-6R90EICHEMP13G1m(配列番号:207)、6R90EIVHEG4SMP2MP9G4S-6R90EICHEG4SMP2MP9G4SG1m(配列番号:196)、6R90EIVHEG4SMP2.2G4S-6R90EIVHEG4SMP2.2G4SG1m(配列番号:197)、および6R90EIVHEG4SMP9G4S-6R90EIVHEG4SMP9G4SG1m(配列番号:198)をコードする発現ベクターを当業者公知の方法で調製した。
これらの重鎖改変体と軽鎖を組み合わせて、重鎖の可変領域と定常領域の境界付近にプロテアーゼ切断配列が導入されているIgG抗体様分子を表5に示す。これらのIgG抗体様分子を当業者公知の方法でFreeStyle293細胞 (Invitrogen社) もしくはExpi293細胞 (Life technologies社)を用いた一過性発現により発現し、プロテインAを用いた当業者公知の方法により精製を行った。
【0392】
【0393】
13-2 多様なプロテアーゼ切断配列が導入されているIgG抗体様分子のプロテアーゼによる切断の評価
実施例13-1で調製したIgG抗体様分子がプロテアーゼにより切断されるどうかを検証した。プロテアーゼとしてリコンビナントヒトMMP-2(R&D Systems, Inc., 902-MP-010 )、リコンビナントヒトMMP-7( R&D Systems, Inc., 907-MP-010)、リコンビナントヒトMMP-9(R&D Systems, Inc., 911-MP-010 )、またはリコンビナントヒトMMP-13(R&D Systems, Inc., 511-MM-010)を用いた。MMP-2、MMP-7、MMP-9、およびMMP-13は、それぞれ1 MMP-アミノフェニル水銀アセタート(APMA; Abcam PLC, ab112146 ) と混ぜ、37℃で1または24時間活性化させてから使用した。プロテアーゼ 50 nM、100 nM、または 500 nM、およびIgG抗体様分子50μg/mLまたは100μg/mLは、PBS中、または 20 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 5 mM CaCl
2(pH 7.2)(以下、Trisと呼ぶ)中、37℃の条件下で20時間反応させた後に、プロテアーゼによる切断を還元SDS-PAGEによって評価した結果を
図30Aおよび
図30Bに示す。
図30Bではプロテアーゼによる切断をassay buffer(MMP Activity Assay Kit (Fluorometric - Green) (ab112146), Component C: Assay Buffer)を用いて実施した。
その結果、MMP-2では6R90EIVHEMP2.1-6R90EICHEMP2.1G1m/VK1-39-k0MT, 6R90EIVHEMP2.2-6R90EICHEMP2.2G1m/VK1-39-k0MT, 6R90EIVHEMP2.3-6R90EICHEMP2.3G1m/VK1-39-k0MT, 6R90EIVHEMP2.4-6R90EICHEMP2.4G1m/VK1-39-k0MT,6R90EIVHEG4SMP2MP9G4S-6R90EICHEG4SMP2MP9G4SG1m/VK1-39-k0MT、および6R90EIVHEG4SMP2.2G4S-6R90EICHEG4SMP2.2G4SG1m/VK1-39-k0MTが、MMP-7では6R90EIVHEMP7.1-6R90EICHEMP7.1G1m/VK1-39-k0MT、および6R90EIVHEMP7.2-6R90EICHEMP7.2G1m/VK1-39-k0MTが、MMP-9では6R90EIVHEG4SMP2MP9G4S-6R90EICHEG4SMP2MP9G4SG1m/VK1-39-k0MT、および6R90EIVHEG4SMP9G4S-6R90EICHEG4SMP9G4SG1m/VK1-39-k0MTが、MMP-13では6R90EIVHEMP13-6R90EICHEMP13G1m/VK1-39-k0MTが、切断されることが確認された。
【0394】
実施例14 重鎖の多様な位置にプロテアーゼ切断配列が導入されている抗体の評価
14-1 重鎖の多様な位置にプロテアーゼ切断配列が導入されている抗体の調製
ウロキナーゼ(uPA)およびマトリプターゼ(MT-SP1)によって切断可能と報告されているペプチド配列B(配列番号:210)を、MRA重鎖可変領域(MRAH; 配列番号:211)内のさまざまな位置のそれぞれに挿入し、表6に示される操作されたMRA重鎖可変領域を調製した。これらの操作されたMRA重鎖可変領域をそれぞれMRA重鎖定常領域(G1T4; 配列番号:212)に連結し、操作されたMRA重鎖を調製した。当業者に公知の方法によって、対応する遺伝子発現ベクターを調製した。さらに、ペプチド配列B(配列番号:210)を、MRA重鎖定常領域(G1T4; 配列番号:212)内のさまざまな位置のそれぞれに挿入し、表7に示される操作されたMRA重鎖定常領域を調製した。これらの操作されたMRA重鎖定常領域をそれぞれMRA重鎖可変領域(MRAH; 配列番号:211)に連結し、操作されたMRA重鎖を調製した。当業者に公知の方法によって、対応する遺伝子発現ベクターを調製した。表6および7はまた、調製した操作されたMRA重鎖可変領域および操作されたMRA重鎖定常領域におけるプロテアーゼ切断配列挿入位置も示す。表6では、挿入配列は、抗体重鎖可変領域における記載位置(Kabatナンバリング)に隣接する定常領域側に位置した。表7では、挿入配列は、抗体重鎖定常領域における記載位置(EUナンバリング)に隣接する可変領域側に位置した。
【0395】
【0396】
【0397】
表8に示す操作されたMRA抗体を、当業者に公知の方法によって、MRA軽鎖との組み合わせで前記のように調製された操作されたMRA重鎖を用い、かつFreeStyle 293細胞(Invitrogen社)またはExpi293細胞(Life Technologies社)を用いる一過性発現によって発現し、プロテインAを用いる当業者に公知の方法によって精製した。
【0398】
【0399】
14-2 その抗体重鎖中にプロテアーゼ切断配列が導入されている抗ヒトIL6R中和抗体のプロテアーゼ切断の評価
実施例14-1で調製した操作されたMRA抗体がプロテアーゼにより切断されるかどうかを検証した。プロテアーゼとして、組換えヒトマトリプターゼ/ST14触媒ドメイン(ヒトMT-SP1、hMT-SP1)(R&D Systems, Inc.、3946-SE-010)を用いた。10 nMプロテアーゼおよび50 μg/mLの各抗体を、PBS中で37℃の条件下で20時間反応させ、その後、還元SDS-PAGEを行った。結果を
図31A、31B、31C、31D、31E、31F、31G、31H、31I、32A、32B、および32Cに示す。プロテアーゼ処理した操作されたMRA抗体は、その重鎖で切断を受け、プロテアーゼで処理しなかった操作されたMRA抗体の重鎖のものより小さな分子量の位置で重鎖のバンドを生じた(図中、バンドはMT-SP1(-)レーンの50 kDa付近に現れている)。この結果から、実施例14-1において調製された操作されたMRA抗体がhMT-SP1によって切断されていることが確認された。
【0400】
実施例15 軽鎖の多様な位置にプロテアーゼ切断配列が導入されている抗体の評価
15-1 軽鎖の多様な位置にプロテアーゼ切断配列が導入されている抗体の調製
ウロキナーゼ(uPA)およびマトリプターゼ(MT-SP1)によって切断可能と報告されているペプチド配列B(配列番号:210)を、MRA軽鎖可変領域(MRAL; 配列番号:280)内のさまざまな位置のそれぞれに挿入し、表9に示される操作されたMRA軽鎖可変領域を調製した。これらの操作されたMRA軽鎖可変領域をそれぞれMRA軽鎖定常領域(k0; 配列番号:281)に連結し、操作されたMRA軽鎖を調製した。当業者に公知の方法によって、対応する遺伝子発現ベクターを調製した。さらに、ペプチド配列B(配列番号:210)をMRA軽鎖定常領域(k0; 配列番号:281)内のさまざまな位置のそれぞれに挿入し、表10に示される操作されたMRA軽鎖定常領域を調製した。これらの操作されたMRA軽鎖定常領域をそれぞれMRA軽鎖可変領域(MRAL; 配列番号:280)に連結し、操作されたMRA軽鎖を調製した。当業者に公知の方法によって、対応する遺伝子発現ベクターを調製した。表9および10はまた、調製した操作されたMRA軽鎖可変領域および操作されたMRA軽鎖定常領域におけるプロテアーゼ切断配列挿入位置も示す。表9では、挿入配列は、抗体軽鎖可変領域における記載されたアミノ酸位置(Kabatナンバリング)に隣接する定常領域側に位置した。表10では、挿入配列は、抗体軽鎖定常領域における記載されたアミノ酸位置(EUナンバリング)に隣接する可変領域側に位置した。
【0401】
【0402】
【0403】
表11に示す操作されたMRA抗体を、当業者に公知の方法によって、MRA重鎖との組み合わせで前記のように調製された操作されたMRA軽鎖を用い、かつFreeStyle 293細胞(Invitrogen社)またはExpi293細胞(Life Technologies社)を用いる一過性発現によって発現し、プロテインAを用いる当業者に公知の方法によって精製した。
【0404】
【0405】
15-2 その抗体軽鎖可変領域中にプロテアーゼ切断配列が導入されている抗ヒトIL6R中和抗体のプロテアーゼ切断の評価
実施例15-1で調製した操作されたMRA抗体がプロテアーゼにより切断されるかどうかを検証した。プロテアーゼとして、組換えヒトマトリプターゼ/ST14触媒ドメイン(MT-SP1)(R&D Systems, Inc.、3946-SE-010)を用いた。10 nMプロテアーゼおよび50 μg/mLの各抗体を、PBS中で37℃の条件下で20時間反応させ、その後、還元SDS-PAGEを行った。結果を
図33A、33B、33C、33D、33E、34A、および34Bに示す。プロテアーゼ処理した操作されたMRA抗体は、その軽鎖で切断を受け、プロテアーゼで処理しなかった操作されたMRA抗体の軽鎖のものより小さな分子量を有する位置で軽鎖のバンドを生じた(図中、バンドはMT-SP1(-)レーンの25 kDa付近に現れている)。
【0406】
実施例16 アルパカに対する免疫化
KLHコンジュゲートアグリカンペプチド(hAg2KL、hAg3KL、oAg2KL、およびhAg3KL)の混合物をアルパカに皮下で免疫した。100μgの各ペプチドを、0週目にフロイント完全アジュバントと一緒に投与した。次いで、100μgの各ペプチドを、隔週で合計4回フロイント不完全アジュバントと一緒に投与した。抗原の初回投与から5週、7週、または9週後に、PBMCを末梢血から単離した。ペプチドの配列を表12に示した。
【0407】
【0408】
実施例17 ファージディスプレイによる抗アグリカン抗体の特定
17-1 パニング用の抗原
表13に記載されたパニング用のペプチドを合成し、ビオチンにより修飾した。Flagタグを有するヒトアグリカンG1-IGD-G2ドメインを、製造者のプロトコール(ThermoSCIENTIFIC, Cat No.21329)にしたがってNHS-PEG4-ビオチンで標識した。
【0409】
【0410】
17-2 ファージディスプレイ構築およびパニング
アルパカ由来のVHH cDNAを、J.Immunol Methods (2017)324,13に記載される以前の方法にしたがって、収集したPBMCから回収した。増幅したVHH cDNA断片をファージミドベクター内に挿入し、ファージディスプレイのためにgene 3 proteinに連結した。構築したファージミドをエレクトロポレーション法によって大腸菌内に移入し、VHHライブラリ断片が導入されている大腸菌を調製した。
【0411】
当業者に公知の方法によって、ファージディスプレイ用の構築されたファージミドが導入されている大腸菌からファージを産生した。ヘルパーファージ感染およびインキュベーション後に、ファージを産生した大腸菌の培養上清に2.5 M NaCl/10% PEGを加え、そのようにして沈殿させたファージのプールをTBSで希釈し、ファージライブラリ液を得た。
【0412】
次に、BSA(最終濃度:4%)をファージライブラリ液に加えた。磁気ビーズに固定化した抗原を用いる一般的なパニング方法(J. Immunol. Methods. (2008) 332 (1-2), 2-9; J. Immunol. Methods. (2001) 247 (1-2), 191-203; Biotechnol. Prog. (2002) 18 (2) 212-20; およびMol. Cell Proteomics (2003) 2 (2), 61-9)を参照して、パニング方法を実施した。用いられた磁気ビーズは、NeutrAvidinコートビーズ(HM-NeutrAvidinビーズ、TAMAGAWA SEIKI CO.,LTD、TAB8848N3171)またはストレプトアビジンコートビーズ(Dynabeads MyOne Streptavidin T1、Invitrogen、65602)であった。具体的には、調製されたファージライブラリ液に、100 pmolの、Flagタグを有するビオチン標識ヒトアグリカンG1-IGD-G2ドメインまたはビオチン-ウサギアグリカンG1-IGD-G2-3×Flagを加え、それによってファージライブラリ液と室温にて60分間接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズの添加後、抗原ファージ複合体を室温にて15分間、磁気ビーズに結合させた。ペプチド抗原については、500 pmolのペプチド混合物をBSAでブロッキングされた磁気ビーズ溶液の上に30分間加えた。ペプチド結合ビーズをTBST(0.1% Tween20を含有するTBS)で3回洗浄し、次いで室温にて60分間ファージライブラリ液と接触させた。抗原とファージの接触後、ビーズをTBST(0.1% Tween 20を含有するTBS;TBSはTakara Bio Inc.から入手可能である)で3回洗浄し、次いで1 mLのTBSで2回、さらに洗浄した。5 μLの100 μg/mLトリプシンの添加後、ビーズを室温にて15分間懸濁し、その直後に、磁気スタンドを用いてビーズを分離し、ファージ溶液を回収した。回収したファージ溶液を、対数増殖期(OD600:0.4~0.5)にある10 mLの大腸菌株ER2738に加えた。37℃にて1時間、菌株を緩やかに攪拌培養を行うことによって、大腸菌株をファージで感染させた。感染させた大腸菌を225 mm×225 mmのプレートに播種した。次に、播種した大腸菌の培養液からファージを回収し、ファージライブラリ液を調製した。抗原に対するパニングを複数回繰り返した。濃縮されたクローンの配列を当業者の方法によって分析し、クローンの抗原結合を以下のようにファージ上にディスプレイされるVHHによって分析した。
【0413】
ファージ含有培養上清を、通常の方法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)にしたがって、上記の方法によって得られた大腸菌の各単一コロニーから回収し、以下の手法によりELISAに供した:
384ウェルプレートクリア 蓋無し マキシソープ処理 非滅菌PS(Thermo Scientific, 464718)を4℃にて一晩、20 μLの2.5 μg/mLのストレプトアビジン(Thermo SCIENTIFIC, 21125)でコーティングした。プレートの各ウェルをTBST(0.1% Tween20を含有するTBS)で洗浄し、過剰量のストレプトアビジンを除去した。ストレプトアビジンコートプレート、またはマイクロプレート 384ウェル PS 平底 クリア ストレプトアビジンコート、5枚/BAG(greiner bio-one、Item No.:781990)を、4℃にて一晩または室温にて1時間、10 μLのビオチン標識抗原(hAg2bi、hAg3bi、oAg2bi、oAg3bi、Flagタグを有するビオチン標識ヒトアグリカンG1-IGD-G2ドメイン、またはビオチン-ウサギアグリカンG1-IGD-G2-3×Flag)で、またはコーティングされていない対照としてPBSで、コーティングした。プレートの各ウェルをTBSTで洗浄し、未結合の抗原を除去した。次いで、ウェルを80 μL のTBS中の2%スキムミルクで1時間以上ブロックした。TBS中の2%スキムミルクの除去後、調製した培養上清を各ウェルに加え、プレートを室温にて1時間静置し、ファージディスプレイされたVHHを各ウェルに含まれる抗原に結合させた。各ウェルをTBSTで洗浄し、次いで、スキムミルク(最終濃度:2%)を含有するTBSで希釈したHRPコンジュゲート抗M13抗体(GE Healthcare、27-9421-01)を各ウェルに加えた。プレートを1時間インキュベートした。TBSTで洗浄した後、TMB single solution(ZYMED Laboratories, Inc.)をウェルに加えた。各ウェルにおける溶液の発色反応を、硫酸の添加によって終了させた。次いで、発色を450 nmでの吸光度に基づきアッセイした。
【0414】
天然型ウサギアグリカンに対する結合をELISAによって決定した。384ウェルプレート クリア 蓋無し マキシソープ処理 非滅菌PS(Thermo Scientific, 464718)を4℃にて一晩、10 μLの25 pmol/mLの天然型ウサギアグリカンで、またはコーティングされていない対照としてPBSで、コーティングした。プレートの各ウェルをTBST(0.1% Tween20を含有するTBS)で洗浄し、未結合の抗原を除去した。次いで、ウェルを80 μLのTBS中の2%スキムミルクで1時間以上ブロックした。TBS中の2%スキムミルクの除去後、調製した培養上清を各ウェルに加え、プレートを室温にて1時間静置し、ファージディスプレイされたVHHを各ウェルに含まれる抗原に結合させた。各ウェルをTBSTで洗浄し、次いで、スキムミルク(最終濃度:2%)を含有するTBSで希釈したHRPコンジュゲート抗M13抗体(GE Healthcare、27-9421-01)を各ウェルに加えた。プレートを1時間インキュベートした。TBSTで洗浄した後、TMB single solution(ZYMED Laboratories, Inc.)をウェルに加えた。各ウェルにおける溶液の発色反応を、硫酸の添加によって終了させた。次いで、発色を450 nmでの吸光度に基づきアッセイした。
【0415】
S/N比を以下のように計算した:
S/N=(抗原コーティングウェルの450 nm吸光度)/(コーティングしていない対照ウェルの450 nm吸光度)
結果を
図35に示す。
図35に示すように、ファージディスプレイされた抗体は、ヒト組換えアグリカン、ウサギ組換えアグリカン、天然型ウサギアグリカン、および/またはペプチドに結合した。結合活性を示すクローンは、評価されるさらに多数のライブラリのメンバーから選択することができる。
【0416】
17-3 抗アグリカン抗体の抗原結合
実施例17-2から選択されたVHH cDNAまたはcDNAプールを、重鎖定常領域(Fc領域)と融合させた哺乳類細胞発現ベクターにクローニングし、抗原に対するその結合活性を評価した。当業者の方法によって、表14に示すFc領域を有するVHHをExpi293細胞によって発現させた。抗原結合をELISAによって評価した。
【0417】
【0418】
マイクロプレート 384ウェル PS 平底 クリア ストレプトアビジンコート、5枚/BAG(greiner bio-one、Item No.:781990)を、室温にて1時間超、10 μLのビオチン標識抗原(hAg2bi、hAg3bi、oAg2bi、oAg3bi、Flagタグを有するビオチン標識ヒトアグリカンG1-IGD-G2ドメイン、またはビオチン-ウサギアグリカンG1-IGD-G2-3×Flag)で、またはコーティングされていない対照としてPBSで、コーティングした。プレートの各ウェルをTBST(0.1%Tween20を含有するTBS)で洗浄し、未結合の抗原を除去した。次いで、ウェルを80 μL のブロッキング緩衝液(0.1% Tween20、0.5% BSA、およびBlock ACE を含有するTBS)で1時間以上ブロックした。ブロッキング緩衝液の除去後、ヒトFc領域を有するVHHを各ウェルに加え、プレートを室温にて1時間以上静置し、ヒトFc領域を有するVHHを、各ウェルに含まれる抗原に結合させた。各ウェルをTBSTで洗浄し、次いで、ブロッキング緩衝液で希釈したHRPコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG抗体(Invitrogen, AHI0304)を各ウェルに加えた。プレートを1時間インキュベートした。TBSTで洗浄した後、TMB single solution(ZYMED Laboratories, Inc.)をウェルに加えた。各ウェルにおける溶液の発色反応を、硫酸の添加によって終了させた。次いで、発色を450 nmでの吸光度に基づきアッセイした。
【0419】
天然型ウサギアグリカンに対する結合をELISAによって決定した。384ウェルプレート クリア 蓋無し マキシソープ処理 非滅菌PS(Thermo Scientific, 464718)を4℃にて一晩、10 μLの10 nMの天然型ウサギアグリカンで、またはコーティングされていない対照としてPBSで、コーティングした。プレートの各ウェルをTBST(0.1% Tween20を含有するTBS)で洗浄し、未結合の抗原を除去した。次いで、ウェルを80 μLのTBS中のブロッキング緩衝液(0.1% Tween20、0.5% BSA、およびBlock ACE を含有するTBS)で1時間以上ブロックした。ブロッキング緩衝液の除去後、ヒトFc領域を有するVHHを各ウェルに加え、プレートを室温にて1時間以上静置し、ヒトFc領域を有するVHHを、各ウェルに含まれる抗原に結合させた。各ウェルをTBSTで洗浄し、次いで、ブロッキング緩衝液で希釈したHRPコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG抗体(Invitrogen、AHI0304)を各ウェルに加えた。プレートを1時間インキュベートした。TBSTで洗浄した後、TMB single solution(ZYMED Laboratories, Inc.)をウェルに加えた。各ウェルにおける溶液の発色反応を、硫酸の添加によって終了させた。次いで、発色を450 nmでの吸光度に基づきアッセイした。
【0420】
S/N比を以下のように計算した:
S/N=(抗原コーティングウェルの450 nm吸光度)/(コーティングしていない対照ウェルの450 nm吸光度)
ELISAの結果を下記の表15に示す。抗体のS/N比が2を上回る場合、クローンはこのアッセイにおいて抗原結合物であると考えられる。ELISAの結果から、ヒトアグリカンおよび/またはウサギアグリカンを有する抗体を特定することができた。
【0421】
【0422】
pH 7.4での抗体の結合アフィニティを、Biacore T200機器(GE Healthcare)を用いて25℃にて確認した。組換えプロテインG(CALBIOCHEM)を、アミンカップリングキット(GE Healthcare)を用いてCM3センサーチップの全てのフローセルの上に固定化した。抗体および分析物を緩衝液(20 mM ACES、150 mM NaCl、0.05% Tween 20、pH 7.4)中で調製した。各抗体をプロテインGによりセンサー表面上に捕捉した。ヒトG1G2の各分析物を0nMおよび500 nMで注入し、その後、解離させた。センサー表面を25 mM NaOHおよび10 mMグリシン-HCl pH 1.5により各サイクルで再生した。
【0423】
実施例18 免疫原調製
そのC末端上にFcタグを有するキメラアグリカンG1(マウス)-IGD(ウサギ)-G2(マウス)ドメイン(キメラアグリカンG1-IGD-G2-Fc)(配列番号:530)を、FreeStyle293F細胞株(Thermo Fisher)を用いて一過性に発現させた。キメラアグリカンG1-IGD-G2-Fcを発現する馴化培地を、 HiTrap MabSelect SuReカラム(GE healthcare)を用いて精製した。キメラアグリカンG1-IGD-G2-Fcを含有する画分を収集し、続いて、1×D-PBSで平衡化したSuperdex 200ゲルろ過カラム(GE healthcare)に供した。次いで、キメラアグリカンG1-IGD-G2-Fcを含有する画分をプールし、-80℃で保管した。
【0424】
そのC末端上にFcタグを有するウサギアグリカンIGDドメイン(ウサギアグリカンIGD-Fc)(配列番号:532)およびFcタグを有するウサギアグリカンG1-IGD-G2ドメイン(ウサギアグリカンG1-IGD-G2-Fc)(配列番号:531)を、キメラアグリカンG1-IGD-G2-Fcと同じ方法を用いて発現させかつ精製した。
【0425】
そのC末端上にFlagタグを有するヒトアグリカンG1-IGD-G2ドメイン(ヒトアグリカンG1-IGD-G2-Flag、ヒトアグリカンG1G2 flag、ヒトG1G2)(配列番号:534)を、FreeStyle293F細胞株(Thermo Fisher)を用いて一過性に発現させた。ヒトアグリカンG1-IGD-G2-Flagを発現する馴化培地をHiTrap Q HPカラム(GE healthcare)にアプライした。ヒトアグリカンG1-IGD-G2-Flagを含有する画分を収集し、続いて1×D-PBSで平衡化したSuperdex 200ゲルろ過カラム(GE healthcare)に供した。次いで、ヒトアグリカンG1-IGD-G2-Flagを含有する画分をプールし、-80℃で保管した。
【0426】
ウサギの膝、大腿骨頭、肘、および肩の軟骨組織を収集し、小片に刻み、抽出緩衝液 [4 Mグアニジン-HCl、50 mM Tris-HCl、pH 8.0、10 mM EDTA、10 mM NEM、1 mM PMSF、およびcOmplete(商標)プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)]と混合した。天然型ウサギアグリカンを、凍結/融解を3回繰り返し、続いて4℃で一晩攪拌することによって、抽出した。次いで、混合物を遠心分離し、天然型アグリカンを含有する上清を収集し、-80℃で保管した。
【0427】
そのC末端上に3つの直列に並んだFlagタグおよびそのN末端上にAviタグを有するウサギアグリカンG1-IGD-G2ドメイン(配列番号:535)を、FreeStyle293F細胞株(Thermo Fisher)を用いて一過性に発現させた。Aviタグのインビボビオチン化のために、BirA酵素(配列番号:539)を細胞培養培地において0.1 mMビオチンの存在下で同時発現させた。ビオチン-ウサギアグリカンG1-IGD-G2-3×Flag(ビオチン化Avi-ウサギアグリカンG1-IGD-G2-3×FLAG、Avi RbG1G2 3FLAG、ウサギアグリカン Avi RbG1G2 3Flag、ビオチン-ウサギアグリカンG1-IGD-G2-3×Flag、Avi-ウサギアグリカンG1-IGD-G2-3×FLAG)を発現する馴化培地をHiTrap Q HPカラム(GE healthcare)にアプライした。ビオチン-ウサギアグリカンG1-IGD-G2-3×Flagを含有する画分を収集し、続いて、1×D-PBSで平衡化したSuperdex 200ゲルろ過カラム(GE healthcare)に供した。次いで、ビオチン-ウサギアグリカンG1-IGD-G2-3×Flagを含有する画分をプールし、-80℃で保管した。
【0428】
C末端に1つのFlagタグを有するウサギアグリカンG1-IGD-G2ドメイン(ウサギアグリカンG1-IGD-G2-FLAG)(配列番号:533)を、FreeStyle293F細胞株(Thermo Fisher)を用いて一過性に発現させた。C末端に1つのFlagタグを有するウサギアグリカンG1-IGD-G2ドメインを発現する馴化培地を、抗Flag M2アフィニティレジン(Sigma)を充填したカラムにアプライし、Flagペプチド(Sigma)で溶出した。C末端に1つのFlagタグを有するウサギアグリカンG1-IGD-G2ドメインを含有する画分を収集し、続いて、HiTrap Q HPカラム(GE healthcare)に供した。C末端に1つのFlagタグを有するウサギアグリカンG1-IGD-G2ドメインを含有する画分を収集し、続いて、1×D-PBSで平衡化したSuperdex 200ゲルろ過カラム(GE healthcare)に供した。次いで、C末端に1つのFlagタグを有するウサギアグリカンG1-IGD-G2ドメインを含有する画分をプールし、-80℃で保管した。
【0429】
実施例19 抗アグリカン抗体の作製
ウサギおよびマウスにおいて、以下に記載されるようなさまざまな免疫原を用いて抗アグリカン抗体の作製を行った。
【0430】
19.1 組換えアグリカンタンパク質によるウサギ免疫
最初に、100 μgの組換えウサギ G1-IGD-G2-Fcを、3匹のNZWウサギの皮内に免疫した。初回免疫の2週間後、同じ免疫原のさらに5回の週1回投与を与えた(50 μg/用量/ウサギ)。最終免疫の1週間後に、免疫したウサギから脾臓および血液を収集した。B細胞選別のために、抗原特異的B細胞を、ウサギアグリカンG1-IGD-G2-FLAG、Avi-ウサギアグリカンG1-IGD-G2-3×FLAG、またはウサギアグリカンIGD-Fc(ビオチン化またはAlexa Fluor 488標識)で染色し、Fcコンジュゲートした無関係なタンパク質で染色することによって非特異的Fc結合B細胞を除去した。WO2016098356A1に記載されるように、選別したB細胞をプレーティングし、培養した。7~12日培養した後に、B細胞培養上清をさらなる分析のために収集し、細胞ペレットを凍結保存した。
【0431】
19.2 合成アグリカンペプチドによるウサギ免疫
最初に、100 μgのKLHコンジュゲートウサギアグリカンペプチド混合物(等量のペプチド1~4を一緒に混合、表16、GenScript)を、3匹のNZWウサギの皮内に免疫した。初回免疫の2週間後、同じ免疫原のさらに5回の週1回投与を与えた(50 μg/用量/ウサギ)。最終免疫の1週間後に、免疫したウサギから脾臓および血液を収集した。抗原特異的B細胞をビオチン化Avi-ウサギアグリカンG1-IGD-G2-3×FLAGで染色し、FCMセルソーター(FACS aria III、BD)で選別した。上記のように、選別したB細胞をプレーティングし、培養した。7~12日培養した後に、B細胞培養上清をさらなる分析のために収集し、細胞ペレットを凍結保存した。
【0432】
【0433】
19.3 組換えアグリカンタンパク質によるマウス免疫
最初に、100μgのキメラアグリカンG1-IGD-G2-Fcを、6匹のBalb/cマウスの皮下に免疫した。初回免疫の2週間後、同じ免疫原のさらに5回の週1回投与を与えた(50 μg/用量/マウス)。最終免疫の1週間後に、免疫したマウスから脾臓および血液を収集した。B細胞をFcコンジュゲートされた無関係のタンパク質とプレインキュベートし、Fc結合物を除去した。アグリカン特異的B細胞をビオチン化Avi-ウサギアグリカンG1-IGD-G2-3×FLAGおよびAlexa Fluor 488標識ウサギアグリカンIGD-Fcで染色し、上記のように、選別およびプレーティングした。12~14日培養した後に、B細胞培養上清をさらなる分析のために収集し、細胞ペレットを凍結保存した。
【0434】
19.4 B細胞スクリーニングおよび抗体遺伝子クローニング
B細胞上清中の抗体の、組換えウサギアグリカンG1-IGD-G2-FLAG、ビオチン化Avi-ウサギアグリカンG1-IGD-G2-3×FLAG、ウサギアグリカンIGD-Fc、および軟骨から抽出した天然型ウサギアグリカンへの結合を、ELISAアッセイを用いて評価した。遺伝子クローニングのために、特異的結合物を特定および選択した。
【0435】
ZR-96 Quick-RNAキット(ZYMO RESEARCH)を用いることによって、対応する細胞ペレットからRNAを抽出した。それらの重鎖および軽鎖可変領域のDNAを逆転写PCRによって増幅し、それぞれ重鎖定常領域 rbIgG配列(配列番号:518)を有する発現ベクター、および軽鎖定常領域 rbIgK配列(配列番号:519)またはrbIgK2(配列番号:529)を含有する発現ベクターにクローニングした。製造者の説明書(Thermo Fisher)にしたがって、組換え抗体をFreeStyle 293F細胞において一過性に発現させ、プロテインAカートリッジを有するAssayMAP Bravoプラットフォーム(Agilent)を用いて精製した。あるいは、組換え抗体を発現する馴化培地を、プロテインA(GE Healthcare)により精製されるアフィニティクロマトグラフィーに適用し、PBS、TBS、またはHis緩衝液(20 mMヒスチジン、150 mM NaCl、pH6.0)で溶出した。サイズ排除クロマトグラフィーをさらに実行し、高分子量および/または低分子量の成分を除去した。ウサギB細胞に由来する抗体をGRA0022からGRA0130と名付け、マウスB細胞に由来する抗体をGRA1012からGRA1025と名付けた。抗体の定常領域を、必要に応じて、ヒト重鎖定常領域SG1(配列番号:520)およびヒト軽鎖定常領域SK1(配列番号:521)またはSK2(配列番号:522)に変更した。さらなる特性解析のための抗体の名前を表17に示した。
【0436】
【0437】
実施例20 抗アグリカン抗体の特性解析
20.1 Biacore分析
pH 7.4での抗体の結合アフィニティを、Biacore T200機器(GE Healthcare)を用いて37℃にて決定した。組換えプロテインA/G(Pierce)を、アミンカップリングキット(GE Healthcare)を用いてCM4センサーチップの全てのフローセルの上に固定化した。抗体および分析物を緩衝液(20 mMリン酸ナトリウム、150 mM NaCl、0.05% Tween 20、0.005% NaN3、pH 7.4)中で調製した。各抗体を、プロテインA/Gによりセンサー表面上に捕捉した。抗体捕捉レベルは200レゾナンスユニット(RU)を目標とした。ヒトG1G2およびAvi RbG1G2 3Flagの各分析物を250 nMおよび1000 nMで注入し、その後、解離させた。センサー表面を10 mMグリシン-HCl pH 1.5により各サイクルで再生した。表18に示すように、Biacore T200 Evaluationソフトウェア、version 2.0(GE Healthcare)を用いてデータを処理しかつ1:1結合モデルに適合させることにより、結合アフィニティを決定した。
【0438】
【表18】
*適合は二相性の相互作用のためには良好ではなかった。
【0439】
20.2 ADAMTS5介在性ウサギアグリカン切断に対する阻害活性
ADAMTS5介在性ウサギアグリカン切断に対するGRA0124cc-rbIgGおよびGRA1013hq-rIgGの阻害活性を、ELISAによって評価した。5 μg/mLの抗FLAG M2抗体(Sigma、F1804)をリン酸緩衝食塩水(PBS)中で調製し、384ウェルNunc Maxisorpプレート(NUNC、464718)に固定化した。プレートを4℃で一晩静置した。384ウェルコートプレートを、プレート洗浄機を用いて1ウェル当たり100 μLのPBS-Tween20で4回洗浄した。プレートを最終洗浄時に吸い取り乾燥した(blotted dry)後に、ブロッキング緩衝液(Tween 20、0.5%ウシ血清アルブミンおよびBlock Aceを伴うTris緩衝食塩水)を添加し、37℃で1時間インキュベートした。先に述べたように、プレートを洗浄および吸い取り乾燥し、組換えウサギアグリカンAvi RbG1G2 3Flagを0.05 μg/mLの最終濃度でウェルに加えた。プレートを室温にて1時間インキュベートした後に、プレートを洗浄および吸い取り乾燥した。段階希釈抗体またはTIMP3を調製し、各々のウェルに加えた。プレートを37℃で1.5時間インキュベートした。ADAMTS5(R&D systems、2198-AD)を0.625 μg/mLの最終濃度でウェルに加えた。次いで、プレートを37℃で2時間インキュベートした後に、プレートを再び洗浄および吸い取り乾燥した。次いで、ストレプトアビジン-HRP(Pierce、21130)を0.1 μg/mLで加え、室温にて1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、吸い取り乾燥し、ABTS基質(KPL、50-66-06)を30分間の発色のために加えた。光学密度を405 nmでmultiskanプレートリーダー(ThermoScientific)によって測定した。ウサギアグリカンAvi RbG1G2 3FlagはN末端にビオチンを有することから、未切断アグリカンで高いODが検出された。
図36に示すように、GRA0124cc-rbIgGおよびGRA1013hq-rIgG抗体はADAMTS5介在性ウサギアグリカン切断を阻害した。
【0440】
20.3 ADAMTS5介在性ヒトアグリカン切断に対する阻害活性
ADAMTS5介在性ヒトアグリカン切断に対するGRA1013hq-rIgGの阻害活性を、ELISAによって評価した。5 μg/mLのGRA0105gg-rbIgG抗体をPBS中で調製し、384ウェルNunc Maxisorpプレートに固定化した。プレートを4℃で一晩静置した。384ウェルコートプレートを、プレート洗浄機を用いて1ウェル当たり100 μLのPBS-Tween20で4回洗浄した。プレートを最終洗浄時に吸い取り乾燥した後に、ブロッキング緩衝液を添加し、37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄および吸い取り乾燥し、組換えヒトアグリカンG1G2-Flagを1 μg/mLの最終濃度でウェルに加えた。プレートを室温にて1時間インキュベートした後に、プレートを洗浄および吸い取り乾燥した。段階希釈抗体またはTIMP3を調製し、各々のウェルに加えた。プレートを室温にて1.5時間インキュベートした。次いで、ADAMTS5を0.03 μg/mLの最終濃度でウェルに加えた。次いで、プレートを37℃で2時間インキュベートした後に、プレートを再び洗浄および吸い取り乾燥した。次いで、抗ARGSアグリカンネオエピトープ抗体(R&D systems、MAB64891)を10 μg/mLでウェルに加え、室温にて1時間インキュベートし、切断アグリカンを検出した。プレートを洗浄し、吸い取り乾燥し、0.4 μg/mLウサギ抗マウス IgG HRP二次抗体(Thermo、61-6520)をウェルに加えた。プレートを室温にて1時間インキュベートした。最終洗浄を実施し、ABTS基質を30分間の発色のために加えた。光学密度を405 nmでmultiskanプレートリーダーによって測定した。
図37に示すように、GRA1013hq-rIgGはADAMTS5介在性ヒトアグリカン切断を阻害した。
【0441】
実施例21 抗アグリカン抗体の抗体エンジニアリング
GRA0124ccの結合アフィニティを増加させるために、1,000を上回る改変体を作製し、25℃および/または37℃での結合アフィニティの評価を、Biacore T200または4000機器(GE Healthcare)を用いて行った。抗体のスクリーニングを複数ラウンド行い、ヒトおよびウサギアグリカンに対する結合能を評価した後に、重鎖および軽鎖の可変領域としてそれぞれGRA0124Hc0626および GRA0124Lc0544からなるGRA0124ccAE02を選択した。
さらなる特性解析のために、GRA0124ccAE02を、ヒト定常領域、改変ヒト定常領域、ウサギ定常領域、または改変ウサギ定常領域と連結した。IC17dK抗体をネガティブコントロールとして作製した。作製した抗体のリストを表19に示す。
【0442】
【0443】
実施例22 操作された抗体の特性解析
22.1 Biacore分析
GRA0124ccAE02-rIgGの結合アフィニティを、実施例20に示すようにBiacoreで評価した。結果を表20に示す。
【0444】
【0445】
22.2 ADAMTS5介在性ウサギアグリカン切断に対する阻害活性
ADAMTS5介在性ウサギアグリカン切断に対するGRA124ccAE02-SG1抗体の阻害活性を、アイソタイプ対照としてIC17dK-SG1を用いて、ELISAによって評価した。5 μg/mLのGRA0105gg-rbIgG抗体をPBS中で調製し、384ウェルNunc Maxisorpプレートに固定化した。プレートを4℃で一晩静置した。384ウェルコートプレートを、プレート洗浄機を用いて1ウェル当たり100 μLのPBS-Tween20で4回洗浄した。プレートを最終洗浄時に吸い取り乾燥した後に、ブロッキングを添加し、37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄および吸い取り乾燥し、組換えウサギアグリカンAvi RbG1G2 3Flagを0.1 μg/mLの最終濃度でウェルに加えた。プレートを37℃にて1時間インキュベートした後に、プレートを洗浄および吸い取り乾燥した。段階希釈抗体またはTIMP3を調製し、各々のウェルに加えた。プレートを37℃にて1.5時間インキュベートした。ADAMTS5を0.15 μg/mLの最終濃度でウェルに加えた。次いで、プレートを37℃で2時間インキュベートした後に、プレートを再び洗浄および吸い取り乾燥した。次いで、HRP標識抗ARGSアグリカンネオエピトープ抗体を10 μg/mLで加え、室温にて1時間インキュベートし、切断アグリカンを検出した。プレートを洗浄し、吸い取り乾燥し、ABTS基質を30分間の発色のために加えた。光学密度を405 nmでMultiskan(商標)プレートリーダーによって測定した。
図38に示すように、GRA124ccAE02-SG1はADAMTS5介在性ウサギアグリカン切断を阻害した。
【0446】
22.3 ADAMTS5介在性ヒトアグリカン切断に対する阻害活性
ADAMTS5媒介性ヒトアグリカン切断に対するGRA124ccAE02-SG1の阻害活性を、実施例20.3と同じように、ELISAによって評価した。
図39に示すように、GRA0124ccAE02-SG1はADAMTS5介在性ヒトアグリカン切断を阻害した。
【0447】
実施例23 Fab、F(ab')2およびVHH分子の調製
23.1 GRA0124ccAE02-rIgG008-Fab切断および精製
精製した組換えGRA0124ccAE02-rIgG008を、10 mM Tris pH 8緩衝液中で、エンドプロテアーゼLysC酵素(New England Biolabs, Cat. P8109S)によって、25℃にて16時間切断した。切断後、反応混合物をプロテインAアフィニティクロマトグラフィーに供し、GRA0124ccAE02-rIgG008-Fabを有するフロースルーを収集および濃縮した。濃縮したGRA0124ccAE02-rIgG008-Fab断片を、予め平衡化したSuperdex 200カラムを用いるサイズ排除クロマトグラフィーによってさらに精製した。GRA0124ccAE02-rIgG008-Fabを含有する画分を濃縮し、-80℃で保管した。
【0448】
23.2 GRA0124ccAE02-rIgG008- F(ab')
2
切断および精製
精製した組換えGRA0124ccAE02-rIgG008を、50 mMリン酸ナトリウム、150 mM NaCl pH 6.6緩衝液中で、FabRICATOR LE酵素(A0-FR8-050)によって、37℃にて2時間切断した。切断後、反応混合物をプロテインAアフィニティクロマトグラフィーに供し、GRA0124ccAE02-rIgG008-F(ab')2を有するフロースルーを収集および濃縮した。濃縮したGRA0124ccAE02-rIgG008-F(ab')2断片を、予め平衡化したSuperdex 200カラムを用いてサイズ排除クロマトグラフィーによってさらに精製した。GRA0124ccAE02-rIgG008-F(ab')2を含有する画分を濃縮し、-80℃で保管した。
【0449】
23.3 GRA0124ccAE02-Fab、IC17dk-Fab切断および精製
精製した組換えGRA0124ccAE02-SG1、IC17dk-SGを、10 mM Tris pH 8緩衝液中で、エンドプロテアーゼ LysC酵素(New England Biolabs, Cat. P8109S)によって、35℃で30分間切断した。切断後、反応混合物をプロテインAアフィニティクロマトグラフィーに供し、Fab断片を有するフロースルーを収集および濃縮した。濃縮したGRA0124ccAE02-FabおよびIC17dk-Fabを、予め平衡化したSuperdex 200カラムを用いるサイズ排除クロマトグラフィーによってさらに精製した。GRA0124ccAE02- FabおよびIC17dk-Fabを含有する画分を濃縮し、-80℃で保管した。
【0450】
23.4 GRA0124ccAE02-F(ab')
2
切断および精製
精製した組換えGRA0124ccAE02-SG1を、50 mMリン酸ナトリウム、150 mM NaCl pH 6.6緩衝液中で、FabRICATOR LE酵素(A0-FR8-050)によって、37℃にて30分間切断した。切断後、反応混合物をプロテインAアフィニティクロマトグラフィーに供し、GRA0124ccAE02-F(ab')2を有するフロースルーを収集および濃縮した。濃縮したGRA0124ccAE02-F(ab')2を、予め平衡化したSuperdex 200カラムを用いるサイズ排除クロマトグラフィーによってさらに精製した。GRA0124ccAE02-F(ab')2を含有する画分を濃縮し、-80℃で保管した。
【0451】
23.5 PDL1104D2精製
組換えPDL1104D2(配列番号:526)を、製造者の説明書(Thermo Fisher)にしたがってFreeStyle 293F細胞において一過性に発現させ、プロテインA(GE Healthcare)アフィニティクロマトグラフィーによって精製し、PBS、TBS、またはHis緩衝液(20 mMヒスチジン、150 mM NaCl、pH6.0)で溶出した。サイズ排除クロマトグラフィーをさらに行い、高分子量および/または低分子量の成分を除去した。
【0452】
実施例24 軟骨浸透のインビトロ評価
抗体の軟骨浸透をウサギ軟骨においてエクスビボで試験した。ウサギ大腿骨顆部から打ち抜いた2mm軟骨板をこの試験で用いた。AF488(Life Technologies, A20181)標識抗体を、10%ウシ胎仔血清および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で希釈した後に、7μMの最終濃度で個々の軟骨に添加した。抗体処理したウサギ軟骨を37℃で24時間インキュベートし、その後、PBSで2回洗浄した。軟骨をクライオブロック内に個別に包埋し、切片をガラススライド上に乗せ、DAPIで対比染色した。スライドを、10×拡大率での共焦点顕微鏡(Nikon A1+)を用いてX-Y面で画像化した。488 nmレーザーを用いてAF488色素を励起させ、DAPIを405 nmレーザーによって励起させた。レーザー出力および光電子増倍管(PMT)の設定を、高強度画像を取得する場合のものを除き、サンプル間で一定に保ち、レーザー出力をわずかに調整した。
図40Aおよび
図40Bに示すように、より小さなサイズの抗体は、従来の抗体と比較してより浸透することができた。
【0453】
実施例25 軟骨浸透および保持のインビボ評価
25.1 ウサギ関節における関節液からの抗体の消失の評価
関節液、軟骨および血漿における抗アグリカン抗体およびネガティブコントロール抗体の薬物動態を、白色ウサギ(Kbl:JW、オス、15週齢)を用いて評価し、関節液からの消失および移動可能性、および軟骨での保持を決定した。
【0454】
抗アグリカン抗体(GRA0124ccAE02-rIgG008-Fab、GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2、およびGRA0124ccAE02-rIgG008)およびネガティブコントロール抗体(IC17dK-rIgG008)を、関節内注射を介して8 nmol/関節の用量で各ウサギに投与した。関節液を関節内注射後5分~48時間収集した。関節から関節液を収集するために、10 mg/mLのTRITC-デキストラン(Sigma Aldrich)を含有する200 μLのリン酸緩衝食塩水をウサギ関節に注入し、脚部を屈曲させた後に、関節から希釈関節液を取得した。希釈比率をTRITC-デキストランの蛍光強度によって計算し、抗体の濃度を計算するために用いた。関節液における抗体の濃度を、組換えアグリカンコートプレート、および検出抗体としてSULFOタグ標識抗ウサギポリクローナル抗体(MSD)を用いる電気化学発光免疫測定法(ECLIA)によって測定した。
【0455】
得られた結果を
図41に示す。全ての抗体は、投与後5分で30~70 nmol/mLの範囲の濃度を示した。投与後48時間で、全ての抗体の濃度は1 nmol/mLを下回り、類似した濃度-時間プロファイルを示した。表21に示すように、半減期はそれぞれ、GRA0124ccAE02-rIgG008-Fabで17.3時間、GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2で9.69時間、GRA0124ccAE02-rIgG008で16.8時間、およびIC17dK-rIgG008で14.4時間であった。総クリアランスはそれぞれ、GRA0124ccAE02-rIgG008-Fabで0.0814 mL/時、GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2で0.0346 mL/時、GRA0124ccAE02-rIgG008で0.0453 mL/時、およびIC17dK-rIgG008で0.0484 mL/時であった。半減期および総クリアランスでは抗体間で有意差は認められなかった。
【0456】
【0457】
表21は、関節内投与後のウサギ関節液における、GRA0124ccAE02-rIgG008-Fab、GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2、GRA0124ccAE02-rIgG008、およびIC17dK-rIgG008の半減期(T1/2)および総クリアランスを示す。
【0458】
25.2 ウサギ関節軟骨における浸透および保持の評価
軟骨における薬物動態プロファイルを評価し、抗体の浸透および保持を決定した。実施例25.1に記載の、抗体が投与されたウサギから収集した、大腿骨顆部および脛骨プラトーから軟骨を掻き取った。次いで、20 mgの軟骨片を0.3 M酢酸緩衝液(Wako)中で溶解し、ホモジナイザー(Yasui Kikai)でホモジナイズした。ホモジネートの遠心分離後、上清を1 M Tris-HCl(Dojindo)およびPBS-T(Sigma Aldrich)によって希釈した。軟骨における抗体の濃度を、実施例25.1に記載の類似の定量アッセイを用いるECLIAによって希釈したホモジネートを測定することによって決定した。
【0459】
結果を
図42に示す。投与後5分では、GRA0124ccAE02-rIgG008-Fabの濃度が最高であり、その後GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2、GRA0124ccAE02-rIgG008が続き、IC17dK-rIgG008が最低であった。表22に示すように、48時間までの曲線下面積(AUC)は、GRA0124ccAE02-rIgG008-Fabで192 nmol*h/mL、GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2で51.7 nmol*h/mL、GRA0124ccAE02-rIgG008で7.63 nmol*h/mL、およびIC17dK-rIgG008で0.334 nmol*h/mLであった。GRA0124ccAE02-rIgG008-Fabは最高曝露を示し、GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2およびGRA0124ccAE02-rIgG008は、IC17dK-rIgG008よりも高い曝露を示した。
【0460】
半減期は、IC17dK-rIgG008で22.0時間であり、これは抗体間で最も短かった。GRA0124ccAE02-rIgG008およびGRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2はそれぞれ、40.5時間および68.2時間を示し、これらはネガティブコントロール抗体より長かった。この試験期間においてGRA0124ccAE02-rIgG008-Fabの低下は認められず、このことは、GRA0124ccAE02-rIgG008-Fabが、IC17dK-rIgG008、GRA0124ccAE02-rIgG008およびGRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2よりもゆっくりと消失することを示唆する。
【0461】
図43は、関節液と比較した軟骨における濃度の比率を示す(軟骨/SF比率)。IC17dK-rIgG008の軟骨/SF比率は48時間で0.0069であったが、GRA0124ccAE02-rIgG008の軟骨/SF比率は0.18であった。GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2およびGRA0124ccAE02-rIgG008-Fabの比率はそれぞれ、5.6および31に増加した。
【0462】
上記結果は、アグリカンに結合しかつより小さなサイズを有する分子は、軟骨への浸透および軟骨での保持に優れていることを示唆する。
【0463】
表22は、関節内投与後のウサギ関節軟骨における、GRA0124ccAE02-rIgG008-Fab、GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2、GRA0124ccAE02-rIgG008、およびIC17dK-rIgG008の曲線下面積(AUC)および半減期を示す。GRA0124ccAE02-rIgG008-Fabでは、濃度の低下が終了段階で観察されなかったことから、半減期を正確に決定できなかった。
【0464】
【0465】
25.3 関節内投与後の全身曝露の評価
関節内投与後の全身曝露を、投与後の血漿中の抗体の濃度を測定することによって評価した。実施例25.1に記載の、抗体を投与されたウサギから血液を収集し、遠心分離により血漿を取得した。血漿中の抗体の濃度を、実施例25.1に記載の、類似の定量アッセイを用いるECLIAによって測定した。
結果を
図44に示す。GRA0124ccAE02-rIgG008-Fab、GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2、およびGRA0124ccAE02-rIgG008の濃度は、全ての時点でIC17dK-rIgG008より低かった。AUCはそれぞれ、GRA0124ccAE02-rIgG008-Fabで0.0118 nmol*h/mL、GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2で0.0304 nmol*h/mL、およびGRA0124ccAE02-rIgG008で0.0709 nmol*h/mLであるのに対して、IC17dK-rIgG008では0.889 nmol*h/mLであった。
これは、より小さな分子量を有する抗アグリカン抗体は、ネガティブコントロール抗体より低い全身曝露を有することを示唆する。
【0466】
表23は、関節内投与後のウサギ血漿における、GRA0124ccAE02-rIgG008-Fab、GRA0124ccAE02-rIgG012-F(ab')2、GRA0124ccAE02-rIgG008、およびIC17dK-rIgG008の曲線下面積(AUC)および半減期を示す。
【0467】
【0468】
実施例26 ヒト組換えアグリカンに結合する単ドメイン抗体を含むプロテアーゼ活性化ポリペプチド
26-1 ヒト組換えアグリカンに結合するVHHを組み込んだポリペプチドへのプロテアーゼ切断配列の導入およびアグリカンに対するIgG抗体様分子の調製
プロテアーゼ活性化IgG抗体様分子を構築するために、プロテアーゼ切断配列(配列番号:494)を抗ヒトアグリカンVHH(hA2R3p.038(配列番号:501))と重鎖定常領域(CH1領域)との間の境界付近に挿入した。
hA2R3p.038-G1mISHI01(配列番号:492)およびVK1.39-k0MT(配列番号:3)をコードする発現ベクターを当業者に公知の方法によって調製した。VHHおよびVLの会合を増強するために、実施例4に記載の変異をhA2R3p.038-G1mISHI01に導入し、hA2R3p.038v1-G1mISHI01(配列番号:493)を作製した。下記の表24に示すプロテアーゼ活性化IgG抗体様分子を、当業者に公知の方法によってExpi 293細胞(Invitrogen社)を用いる一過性発現によって発現させ、プロテインAを用いる当業者に公知の方法によって精製した。
【0469】
【0470】
26-2 プロテアーゼ切断によるプロテアーゼ切断配列が導入されているポリペプチドの活性化
hA2R3p.038-G1mISHI01/VK1.39-k0MTおよびhA2R3p.038v1-G1mISHI01/VK1.39-k0MTが、プロテアーゼ切断によって、ヒト組換えアグリカンに対する結合活性を有するVHHを遊離するかどうかを評価した。
プロテアーゼとして、組換えヒトマトリプターゼ/ST14触媒ドメイン(R&D Systems, Inc.、3946-SE-010)を用いた。12.5 nMプロテアーゼおよび100μg/mLの各IgG抗体様分子を、37℃の条件下でPBS中で15時間反応させた。次いで、プロテアーゼによる切断を還元SDS-PAGEによって評価した。結果を
図45に示す。結果として、VHHと重鎖定常領域との間の境界付近のプロテアーゼ切断配列のプロテアーゼ切断が、hA2R3p.038-G1mISHI01/VK1.39-k0MTおよびhA2R3p.038v1-G1mISHI01/VK1.39-k0MTにおいて確認された。
【0471】
次に、プロテアーゼ処理により遊離したVHHのヒトアグリカン結合評価を、Octet RED(Pall ForteBio社)を用いて行った。具体的には、実施例17で調製した、Flagタグを有するビオチン標識ヒトアグリカンG1-IGD-G2ドメインをストレプトアビジンセンサー(Pall ForteBio社、18-5021)に結合させ、次いで、各プロテアーゼ処理IgG抗体様分子またはプロテアーゼ未処理IgG抗体様分子をその上に作用させ、その後、27℃にて結合を評価した。Octet REDを用いて測定される連続反応を示すセンサーグラムを
図46に示す。結果として、hA2R3p.038-G1mISHI01/VK1.39-k0MTは、プロテアーゼで処理しなかった場合でさえ抗原に結合し、プロテアーゼの処理後、結合反応はプロテアーゼ未処理の条件より低かった。その一方で、プロテアーゼ処理したhA2R3p.038v1-G1mISHI01/VK1.39-k0MTは、プロテアーゼ未処理hA2R3p.038v1-G1mISHI01/VK1.39-k0MTより多くビオチン化ヒトアグリカンに結合した。これらの結果は、VHH hA2R3p.038は、VLと会合することによってそのヒトアグリカン結合活性を失わず、VLと安定な可変領域を形成することができ、VHHとVLとの間の界面部位に存在するアミノ酸を37V、45L、および47W(Kabatナンバリング)に変換し、それによってhA2R3p.038をhA2R3p.038v1に変化させることによって、そのアグリカン結合活性を喪失し得ることを実証した。これらの結果から、実施例2に記載のコンセプトに一致する分子もまた、アルパカ免疫から得られたVHHと軽鎖を組み合わせる方法に加えて、軽鎖との会合に関与する置換アミノ酸を含有するVHHと軽鎖を組み合わせる方法によっても調製できると結論付けられた。さらに、実施例2に記載のコンセプトに一致する分子は実際に、アグリカン結合分子の場合にも調製することができると結論付けられた。
【0472】
26-3 軟骨保持および軟骨浸透を有する単ドメイン抗体を含むプロテアーゼ活性化ポリペプチドのコンセプト
現在多数の会社が、変形性関節症、関節リウマチ、変性椎間板症、骨格異形成症、離断性骨軟骨炎、および軟骨外傷性障害を含む軟骨疾患のタンパク質治療剤を開発しようとしている。しかしながら、軟骨の独特の構造および構成成分を考慮すると、薬物分子の特性は、軟骨組織および/または軟骨細胞内に十分な量の薬物分子を送達するように設計されるべきである。しかしながら、軟骨向けの現在のタンパク質治療剤は、軟骨内に送達されるのに以下の複数の困難を有し得る(
図47):
1)分子のサイズは軟骨内への浸透に影響を及ぼすことから、全IgG分子は軟骨内に効率的に浸透することができない。それは、OAなどの軟骨疾患を治療するための抗体薬の不十分な治療効果をもたらす可能性がある。
2)低分子量を有するポリペプチドは、長期間にわたって血漿中で保持することができず、それは、IgG形式での抗体薬よりも高い頻度で投与される可能性がある。
3)従来の抗体は、抗原が軟骨以外にも存在する場合には、軟骨だけではなく全身的に、抗原に結合する。それは、抗原への結合により副作用および/または短い半減期を引き起こすと考えられる。
これらの点を考慮すると、軟骨疾患向けの望ましい治療剤は以下の特性を有するべきである:
1)十分な有効性を実証するために、軟骨内に浸透する能力およびそこで効率的に保持される能力を有する薬物分子。
2)血漿中で長い半減期を有しているが、標的抗原に全身的には結合しない薬物分子。
上に示した実施例では、単ドメイン抗体を含むプロテアーゼ活性化ポリペプチドによって、抗原結合が、VLドメインを会合させることによって抑制され、プロテアーゼが存在する場合に疾患部位でのプロテアーゼ消化によって、抗原結合分子がIgG抗体様分子から遊離するときに、抗原結合が取り戻されることが確認された。実施例25に示すように、抗アグリカン抗体は、特に、抗体がF(ab')2およびFabなどのより小さなサイズを有する場合に、効率的に軟骨に浸透しかつ保持することができた。さらに、実施例24では、単ドメイン抗体は軟骨内へのより優れた浸透をインビトロで示した。
これらのデータから、本発明における単ドメイン抗体を含むプロテアーゼ活性化ポリペプチドは、
図48に示されるように軟骨障害を治療するのに適した分子である。
1)単ドメイン抗体を含むプロテアーゼ活性化ポリペプチドは、IgGのリサイクリング受容体であるFcRn結合が理由で長い半減期を有し、かつ全身的抗原結合を最小化することが予想される。
2)疾患部位でのプロテアーゼ消化後、低分子量を有する抗原結合ドメインが、効率的に、IgG抗体様分子から遊離され、軟骨内に浸透でき、抗原に結合でき、かつ軟骨中に保持される。
3)単ドメイン抗体が循環内に遊離されると、抗原結合ドメインは、循環から急速に除去され、局所部位内で特異的に作用する。
さらに、抗原結合ドメインがアグリカンなどのECM構成成分結合活性を有する場合、抗原結合ドメインは軟骨内に保持され得る。
図49に図示するような、軟骨に存在する分子に結合する、標的指向ドメインとアゴニストまたはアンタゴニスト分子とを含む複数の抗原結合ドメインの浸透および保持を考慮すると、アゴニストまたはアンタゴニストを有する遊離した抗原結合ドメインは、効率的に軟骨内に浸透し、そこで長期にわたって保持され得る。
【0473】
実施例27 抗体およびFabの調製
27-1 抗体
前記の実施例は、種々のエピトープおよび種々のアフィニティを有する抗体を説明した。さまざまな評価のための抗体の概要を表25に示す。アフィニティ測定のための全長抗体を、前記の実施例と同じ方法によって調製した。
【0474】
【0475】
27-2 抗体発現およびFab切断および精製
製造者の説明書にしたがって、Expi 293-F細胞およびExpifectamine 293(Life technologies)を用いて、組換え抗体を一過性に発現させた。組換え抗体を発現する馴化培地をプロテインA(GE Healthcare)アフィニティクロマトグラフィーに適用し、PBS緩衝液で溶出した。製造者の説明書にしたがって、固定化FabaLACTICA酵素(Genovis AB)を用いて、溶出液をFab切断にさらに供した。切断後、Fcおよび未切断IgGをProAアフィニティクロマトグラフィーによって除去した。Fab断片を含有するフロースルーを濃縮し、予め平衡化したSuperdex 200カラムを用いるサイズ排除クロマトグラフィーによってさらに精製した。単量体Fab断片を含有する画分を濃縮し、-80℃で保管した。
【0476】
実施例28 抗アグリカン抗体の特性解析
28-1 Biacore分析
pH 7.4での抗体の結合アフィニティを、実施例20にしたがって、Biacore T200機器(GE Healthcare)を用いて37℃にて決定した。抗ヒト IgG(Fc)抗体を、ヒト抗体捕捉キット(GE Healthcare)を用いてCM4センサーチップの全てのフローセルの上に固定化した。プロテインA/Gを、アミンカップリングキット(GE Healthcare)を用いてCM4またはC1センサーチップの全てのフローセルの上に固定化した。抗体および分析物を緩衝液(50 mMリン酸ナトリウム、150 mM NaCl、0.02% Tween 20、0.005% NaN3、pH 7.4、または20 mMリン酸ナトリウム、150 mM NaCl、0.05% Tween20、0.005% NaN3、pH 7.4)中で調製した。各抗体を抗ヒト IgG(Fc)抗体またはプロテインA/Gによってセンサー表面上で捕捉した。抗体捕捉レベルは200レゾナンスユニット(RU)を目標とした。Avi RbG1G2 3Flagの各分析物を125~1000 nMで注入し、その後解離させた。センサー表面を3 M MgCl2または10 mMグリシン-HCl、pH 1.5により各サイクルで再生した。表26に示すように、Biacore T200 Evaluationソフトウェア、version 2.0(GE Healthcare)を用いてデータを処理しかつ1:1結合モデルに適合させることにより、結合アフィニティを決定した。
【0477】
【0478】
28-2 軟骨浸透/保持についてFabドメインのpI測定
軟骨浸透/保持アッセイについて抗体のpIを、製造者の説明書にしたがってMaurice(proteinsimple)によって測定した。測定したpIを表27に示した。
【0479】
【0480】
実施例29 ウサギ関節軟骨を用いる保持についてのエクスビボ評価
アグリカンに結合するFabの保持能力を評価するために、3.5μg/mLのFabを軟骨へ1日曝露した後に6日間にわたって軟骨中の残存Fab濃度を評価した。ウサギ大腿骨顆部から打ち抜いた2mm軟骨板をこの試験において用いた。軟骨内での初期Fab濃度を、1日Fabとインキュベーションした後に直ちに評価した。軟骨中の残存Fab濃度を評価するために、軟骨を1日インキュベーションした後に冷PBSで洗浄し、続いて新鮮な培地中で6日間インキュベーションした。3つの軟骨を各実験で用いた。Fab保持能力を、軟骨内での初期濃度と残存濃度との間でのFab軟骨濃度の比較によって評価した。収集した軟骨を低pH緩衝液(10 mMクエン酸-HCl pH3、150 mM NaClおよび1% Tween 20)中で溶解し、次いで、Retsch MM400ホモジナイザーでホモジナイズした。プレート上にコーティングした抗ヒトIgG(Fab特異的、Sigma)および検出抗体としてSULFOタグ標識抗ヒトIgG(H+L、Novus)によるECLIAによって、Fab濃度を定量化した。初期Fab濃度およびインキュベーション6日後の濃度を
図50に示す。全ての試験した抗アグリカン抗体の初期Fab濃度は、軟骨での濃度が検出されなかったネガティブコントロール、IC17-SG1 Fabと同様であるかそれよりも高かった(軟骨片を500 μLの溶解緩衝液で溶解した場合、定量下限は0.63 ng/mLであった)。
以下の式によって決定されたFab保持を
図51に示す。
(Fab保持)=(インキュベーション6日後のFab濃度)/(初期Fab濃度)
【0481】
実施例30 ウサギ外植片培養におけるVHHの取り込みの評価
抗アグリカン VHHおよびネガティブコントロール VHH(抗RSV VHH)の取り込みを、白色ウサギ軟骨(Kbl:JW、オス、15週齢)から取得したウサギ軟骨外植片培養を用いて評価し、軟骨内へのVHH浸透を明らかにした。
全VHH、SD_oA2R2#041un-GSHIS/VLn-CLn(配列番号:543)、SD_oA2R2#041un-GSHISFLAG/VLn-CLn(配列番号:544)、SD_RSV191D3-GSHIS/VLn-CLn(配列番号:545)、およびSD_RSV191D3-HISFLAG/VLn-CLn(配列番号:546)を、Expi293細胞によって発現させ、当業者に公知の方法によって、Hisタグアフィニティクロマトグラフィー、その後ゲルろ過クロマトグラフィーによって精製した。
抗アグリカンVHH、SD_oA2R2#041un-GSHIS/VLn-CLn(配列番号:543)およびSD_oA2R2#041un-GSHISFLAG/VLn-CLn(配列番号:544)、ならびにネガティブコントロール VHH、SD_RSV191D3-GSHIS/VLn-CLn(配列番号:545)およびSD_RSV191D3-HISFLAG/VLn-CLn(配列番号:546)を、0.5および5 nmol/mLの濃度でウサギ軟骨外植片培養に適用した。24時間後、培地を除去し、軟骨をリン酸緩衝食塩水によって洗浄し、次いで軟骨を収集した。その後、軟骨板を0.3 M酢酸緩衝液(Wako)によって溶解し、ホモジナイザー(Yasui Kikai)によってホモジナイズした。ホモジネートの遠心分離後、上清を1 M Tris-HCl(Dojindo)およびPBS-T(Sigma Alfrich)によって希釈した。軟骨板におけるVHHの濃度を、コーティング用にアグリカンタンパク質またはRSVタンパク質、および検出用に抗アルパカ抗体を用いる電気化学発光免疫測定法(ECLIA)によって測定した。
得られた結果を
図52に示す。全ての抗体において、5 nmol/mLの濃度での軟骨内への取り込みは、0.5 nmol/mLのものよりも高い取り込み量を示した。タグ修飾にかかわらず、SD_oA2R2#041un-GSHIS/VLn-CLnおよびSD_oA2R2#041un-GSHISFLAG/VLn-CLnのどちらもそれぞれ、SD_RSV191D3-GSHIS/VLn-CLnおよびSD_RSV191D3-HISFLAG/VLn-CLnと比較して、軟骨において、より高い取り込み量を示した。抗アグリカン抗体の可変領域(VH:GRA0124Hc0626、VL:GRA0124Lc0544)を含有するFabドメインは、SD_RSV191D3-HISFLAG/VLn-CLnと比較して、同じ条件で、より高い濃度であった(データは示さず)。
この現象は、アグリカン結合VHHを含有する1つまたは複数の抗アグリカンVHHが
図48および49に示される全IgGから遊離されると、1つまたは複数のVHHは、非結合対照または全IgGより優れて軟骨内に浸透することを示唆した。
図50および
図51に示すように、アグリカンに結合するFabドメインは、ネガティブコントロール分子のものより効率的な軟骨浸透および保持を示した。これに加えて、
図42にも示すように、Fabドメインは全IgGより優れた浸透および保持を示した。浸透および保持の態様において、FabドメインまたはVHHは、軟骨疾患の治療にとって利点があるということを考慮すべきである。しかしながら、Fabドメイン単独または単ドメイン抗体単独は、短い半減期を有することが公知である。軟骨浸透および保持の効率が高い、インビボでの長期の持続期間または半減期を達成するために、FabまたはVHHなどの抗アグリカン抗原結合ドメインと、Fc領域またはアルブミン結合ドメインなどの半減期延長ドメインとを有し、続いてプロテアーゼ消化部位を有する分子を構築することができる。Fabまたは単ドメイン抗体とFc領域との結合の場合には、プロテアーゼ消化配列(プロテアーゼで切断可能な配列)は、ヒンジ領域における226番(EUナンバリング)のCysのN末端に挿入され、「単離された」Fabドメインまたは単ドメイン抗体を効果的に作製することができる。挿入または改変または変異に好ましい位置は、201番~228番(EUナンバリング)であると考えられる。挿入または改変または変異により好ましい位置は、201番~226番(EUナンバリング)であると考えられる。抗原結合活性を有するFabドメインまたは単ドメイン抗体の作製が達成される限り、任意の位置を選択することができる。アルブミンおよびアルブミン結合ドメインが半減期の延長に用いられる場合、アルブミンによってもたらされる付加的な分子量が理由で、アルブミンを持つアルブミン結合ドメインを有する抗原結合ドメインは、抗原結合ドメイン単独と比較して軟骨内への浸透を低下させる場合がある。プロテアーゼ切断可能配列を有するアルブミン結合ドメインを含む抗アグリカン抗原結合ドメインコンジュゲートが設計される場合、プロテアーゼ切断可能配列に好ましい位置は、抗アグリカン結合ドメインとアルブミン結合ドメインとの間であると考えられる。
【0482】
参考実施例1 ビオチン化プレキシンA1の調製
ビオチン化プレキシンA1(ビオチン標識されたヒトPlexinA1とも呼ぶ)は当業者公知の方法で調製した。具体的には、プレキシンA1の細胞外領域をコードする遺伝子断片の下流に、ビオチンリガーゼによってビオチン化される特異的な配列(AviTag配列、配列番号:36)をコードする遺伝子断片と、FLAGタグ配列(配列番号:199、DYKDDDDK)をコードする遺伝子断片とを、グリシンとセリンで構成されるリンカーをコードする遺伝子断片を介して連結した。プレキシンA1とAviTag配列およびFLAGタグ配列が連結されたものを含むタンパク質(配列番号:200)をコードする遺伝子断片を動物細胞発現用ベクターに組み込み、構築されたプラスミドベクターを、293フェクチン(Invitrogen社)を用いてFreeStyle293細胞 (Invitrogen社)に移入した。このときEBNA1(配列番号:57)を発現するための遺伝子およびビオチンリガーゼ(BirA、配列番号:201)を発現するための遺伝子を同時に細胞に導入し、プレキシンA1をビオチン標識する目的で、ビオチンをさらに添加した。前述の手順に従って遺伝子が導入された細胞を37℃、8% CO2で培養し、目的のタンパク質(ビオチン化プレキシンA1)を培養上清中に分泌させた。この細胞培養液を0.22μmボトルトップフィルターでろ過し、培養上清を得た。
Anti FLAG M2 agarose (Sigma-Aldrich Co. LLC, #A2220)をカラムに詰めて、FLAGカラムを調製した。FLAGカラムをあらかじめD-PBS(-)で平衡化し、培養上清をそこにアプライして、ビオチン化プレキシンA1をカラムに結合させた。続いて、D-PBS(-)に溶解したFLAG ペプチドを用いて、ビオチン化プレキシンA1を溶出した。この溶出液を、HiLoad 26/600 Superdex 200 pg, 320mL (GEヘルスケアジャパン社, 28-9893-36)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーによって、会合体を除去して、精製ビオチン化プレキシンA1を得た。
【0483】
前述の発明の実施態様は、明確な理解を助ける目的のもと、実例および例示を用いて詳細に記載したが、本明細書における記載および例示は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本明細書で引用したすべての特許文献および科学文献の開示は、その全体にわたって、参照により明示的に本明細書に組み入れられる。
抗原結合ドメインと、抗原結合ドメインのものより長い血中半減期を有しかつ抗原結合ドメインの結合活性を抑制する抑制ドメインを有する運搬部分とを含む、本発明のポリペプチド、ならびに当該ポリペプチドを含む医薬組成物は、抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制したまま、抗原結合ドメインを血中で運搬できる。また、本発明のポリペプチドを使用することで、抗原結合ドメインの抗原結合活性を疾患部位で特異的に発揮させることが出来る。さらに、抗原結合ドメインは、抗原結合活性を発揮時は、運搬時よりも短い半減期を有するので、全身的に作用する恐れが減少する。したがって、本発明のポリペプチドおよび医薬組成物は、疾患の治療に極めて有用である。
抗原結合ドメインの一例として、特定のVL、VH、またはVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制される単ドメイン抗体をスクリーニングまたは製造することで、本発明のポリペプチドを効率よく製造することが可能である。さらに、本発明のポリペプチドに使用できる抗原結合ドメインの一例として、特定のVL、VH、またはVHHと会合することでその抗原結合活性が抑制される単ドメイン抗体を含むライブラリを用いれば、本発明のポリペプチドを調製するときに必要とする抗原結合ドメインを、効率よく取得することが可能である。