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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003822
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】耐火部材
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
E04B1/94 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103114
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】515046430
【氏名又は名称】株式会社芳賀沼製作
(71)【出願人】
【識別番号】520170852
【氏名又は名称】株式会社日進産業
(74)【代理人】
【識別番号】100126712
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 督生
(72)【発明者】
【氏名】芳賀沼 養一
(72)【発明者】
【氏名】石子 達次郎
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001GA12
2E001HA03
2E001HA14
2E001HB01
2E001HD11
(57)【要約】
【課題】木製建築材に組み合わせできる耐火部材であって、木造建築物の燃焼を遅らせることのできる耐火部材を提供する。
【解決手段】本発明の耐火部材は、木製建築材と組み合わせ可能な耐火部材であって、基材と、前記基材の表面、裏面および側面の少なくとも一部に形成される被覆層と、を備え、前記被覆層は、複数の中空セラミックスと、前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、を有し、前記被覆層は、前記木製基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製建築材と組み合わせ可能な耐火部材であって、
基材と、
前記基材の表面、裏面および側面の少なくとも一部に形成される被覆層と、を備え、
前記被覆層は、
複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、
を有し、
前記被覆層は、前記木製基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、
前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む、耐火部材。
【請求項2】
前記基材は、石膏ボード、金属箔、金属板および樹脂ボードの少なくとも一つを含む、請求項1記載の耐火部材。
【請求項3】
前記金属箔は、アルミニウム箔、鉄箔および銅箔の少なくとも一つを含む、請求項2記載の耐火部材。
【請求項4】
前記基材は、前記木製建築材と直接的もしくは間接的に組み合わせ可能である、請求項2記載の耐火部材。
【請求項5】
前記木製建築材と前記耐火部材が組み合わされる場合には、前記被覆層は、前記木製建築材と接触する場合および非接触する場合の少なくとも一方が生じうる、請求項1記載の耐火部材。
【請求項6】
前記複数の中空セラミックスの粒径は、10μm~150μmである、請求項1記載の耐火部材。
【請求項7】
前記複数の中空セラミックスの平均粒径は、40μmである、請求項6記載の耐火部材。
【請求項8】
前記中空セラミックスは、金属酸化物を含む、請求項1から7のいずれか記載の耐火部材。
【請求項9】
前記金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも一つを含む、請求項8記載の耐火部材。
【請求項10】
前記被覆層は、2種類以上の前記金属酸化物による前記中空セラミックスを含む、請求項9記載の耐火部材。
【請求項11】
前記樹脂バインダーは、アクリル系樹脂である、請求項1記載の耐火部材。
【請求項12】
前記中空セラミックスは、外表面および内部空間を有し、
前記外表面での遠赤外線への変換および前記内部空間での乱反射での遠赤外線の変換の少なくとも一方で、前記木製基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱は、遠赤外線に変換される、請求項1から11のいずれか記載の耐火部材。
【請求項13】
前記複数の中空セラミックスは、前記被覆層において、複数のセラミックス層を形成し、
前記複数のセラミックス層のそれぞれは、加わる熱を変換した遠赤外線を放射する、請求項12記載の耐火部材。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか記載の耐火部材と、木製建築部材とが組み合わされる耐火木製建築部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製建築材に組み合わせて使用されて、その耐火能力を向上させる耐火部材に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な場所において、住宅、店舗、商業施設、公共施設、医療施設などの様々な種類で多くの建築物がある。これらの建築物は、その特性、大きさ、用途、要求スペックなどによって、使用される材料が選択される。特に、建築物の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床などの構造体においては、コンクリート、新建材、木材、あるいはこれらの組み合わせが用いられる。勿論、建築物の基礎部分や、骨格部分などにおいても、コンクリート、新建材、木製部材、あるいはこれらの組み合わせが用いられる。
【0003】
また、コンクリート、新建材、木製部材以外の材料が用いられることもある。
【0004】
最近では、コンクリートだけではなく、柱、梁、外壁、内壁、屋根、床などの構造体に、新建材や木製部材が用いられることが多くなってきている。例えば、木製部材による外壁や床などが構成されることが増えてきている。住宅、店舗、公共施設などにおいては、木製部材により建築された建築物は、環境負荷を低減できるからである。
【0005】
また、居住者や利用者も、木製部材の建築物においては、心身のリラックスを感じることができる。勿論、居住性も高まるメリットがある。木製部材の建築物は、外気温に対する対応性が高い(夏では室内は涼しく、冬では室内は暖かい)、あるいは、室内湿度の適応性が高いといったメリットがある。このため、居住者や利用者の利便性も高まる。
【0006】
加えて、木製部材の建築物は、居住者や利用者の精神的なリフレッシュ効果をもたらすことも多い。特に我が国においては、過去から木造建築物が中心であったので、日本人の精神性に高いメリットがある。海外と異なり、木造建築物が、住居、宗教的施設、公共施設、駅舎、学校、居城などの様々な場所において木造建築物が作られてきた。このような地域、分野、国全体での木造建築物に対する尊敬や身近さがある。
【0007】
ここで、コンクリートや新建材などに比較して、木製部材は軽量化できる。建築物の素材である建築部材が軽量化できると、基礎工事や建設工事のコスト低下を図ることができる。加えて工期短縮を図ることができるメリットもある。
【0008】
また、日本の国土の大半が森林であるという実情がある。多くの森林には、当然ながら多くの木があり、木材原料は非常に多くある。しかしながら、日本の森林から木を伐採して木材とすることは、コストの観点から進捗せず、国内の森林資源が有効活用されていない面がある。現実には、国内の建築物や家具などの加工品に使用される木材の大半は、輸入品である。
【0009】
加えて、森林管理のために木材を伐採する必要は定期的にあり、木材資源の国内からの供給も定期的に生じる。加えて、他の目的で伐採されて残った間伐材なども存在している。国内の森林資源や木材は、有効活用されていない事情がある。また、近年の世界環境や市況環境の変化によって、国内外の木材価格差が縮まっており、国内の木材資源を活用することも必要な環境が生まれている。
【0010】
日本の森林資源の活用が進まないと、間伐材の処理、森林の植え替え植樹なども進まない問題がある。結果として、森林管理の循環が生まれないことになり、森林荒廃に繋がってしまう問題がある。
【0011】
日本に潤沢にある森林資源(木材資源)を活用するためにも、木製部材が多種多様な建築物に使用されることが必要となっている。例えば、建築物の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面など構造部に木製部材が使用されればよい。この使用により、住宅、店舗、施設、集合住宅などの建築物が建築される。このような木製部材が使用された住宅、店舗、施設、集合住宅などの建築が広まれば、日本の森林資源(木材資源)の活用が進む。こうして、日本の森林管理が促進されるようになる。
【0012】
このように、多くの建築物に木製建築部材が使用されることが望まれている。
【0013】
しかしながら、木製建築部材は、火災発生時に燃えてしまい火災への対応力や耐久力が弱いと考えられている。火災が発生すると焼失に繋がりやすい、周囲への延焼に繋がりやすいといった懸念がある。このような懸念により、木製建築部材の建築物への使用が広がっていない現状がある。
【0014】
このため、木製部材に耐火能力を持たせる技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2021-38655号公報
【特許文献2】特開2020-118022号公報
【特許文献3】特開2020-146923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1は、荷重支持部2と、荷重支持部2の周囲に被覆された耐火被覆層3と、耐火被覆層3の外側に周設された仕上げ木材層4とを備える木質耐火部材1であって、耐火被覆層3が湿式耐火被覆材からなり、荷重支持部2と耐火被覆層3との間、および、耐火被覆層3と仕上げ木材層4との間に、水分遮断層5が形成されている木質耐火部材を、開示する。
【0017】
特許文献1は、水分遮断シートなどの水分遮断層を設けることで、耐火木材において、水分含浸によるデメリットを防止することを目的としている。
【0018】
しかしながら、特許文献1における耐火被覆層は、ロックウールや白セメントなどの吹き付けによって実現されている。このような素材による被覆層は、耐火能力を高めるために厚みを必要として、重量が大きくなってしまう問題がある。すなわち、木質耐火部材の重量が大きくなる。木質耐火部材のような建築部材が重くなると、基礎工事の規模が大きくなるうえに、建築工事そのものの工程や手間が増加して、建築コストが大きくなる問題がある。建築作業時の安全性低下の不安もある。
【0019】
また、石膏ボードなどと同様に、ロックウールなどの吹き付けでの被覆層は、火災発生時などに、被覆層が燃えるまでの時間を稼ぐことはできるが、一旦、被覆層が燃えてしまうと、一気に木材も燃えてしまう。火災による熱が加わることで、熱上昇するメカニズムが働くからである。
【0020】
特許文献2は、耐火木材10は、木質材からなる角柱状の心材12と、心材12の角部に取り付けられた熱緩衝材14Aと、心材12の外側面側に取り付けられた耐火材18Aと、熱緩衝材14Aに支持され耐火材18A及び熱緩衝材14Aを覆う仕上げ材20と、を有する耐火木材を開示する。
【0021】
特許文献2の技術は、耐火のために複雑な構造を形成する。しかしながら、複雑な形成をする必要があり、加工の手間、加工コストが高くなり、多くの建築物に適さない問題がある。建築コストも高くなり、取り扱いも難しいことで、建築作業が困難となる。
【0022】
また、複雑な形状であることで、建築物において、壁材、床材などには適しにくい問題もある。また、内部に熱緩衝材を備えることで耐火能力を実現している。しかしながら、火災の熱により耐火木材全体の温度上昇がされることには変わらず、耐火木材は、温度上昇で燃えてしまう。
【0023】
特許文献1,2も、木材と異なり燃えにくい素材を一部に取り入れることで、火災での燃焼を弱めることに注力しているだけである。実際には、温度上昇が抑えられなければ、耐火木材が火災時に燃えてしまうことに変わりはない。
【0024】
特許文献3は、複数の単位木材14が接合され、木質材料に対する不燃化、準不燃化又は難燃化の処理を行うための不燃薬剤が含浸された耐火改質木質材料である。単位木材14は、その木口面kが、耐火改質木質材料16の厚み方向の表裏側となるように配置されたものであり、その木口面kから不燃薬剤が注入されて含浸されている耐火改質木材を、開示する。
【0025】
特許文献3は、木材加工時に耐火対応をするために、建築材としてのコストが非常に大きくなる問題がある。また、流通量を確保するのが困難となり、多くの建築物に使用することが難しい問題もある。加えて、木材の特定の部分の利用に偏るので、森林資源の有効活用が困難となる。また、含浸に基づくために、重量が重くなり、建築コストが高くなる問題もある。
【0026】
また、薬剤注入された建築材となっているので、建築物となった後でのガス化影響を住人などが受ける懸念もある。火災時に、何らかの影響のあるガスが生じる懸念もある。
【0027】
従来技術は、(1)重量が重くなって、建築材コストや建築コストを増加させる、(2)建築の手間を生じさせる、(3)火災時の燃焼を遅らせることを実現しにくい、(4)建築材の構造の複雑性による使い勝手の悪さ、などの問題を有している。
【0028】
本発明は、これらの課題に鑑み、木製建築材に組み合わせできる耐火部材であって、木造建築物の燃焼を遅らせることのできる耐火部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の耐火部材は、木製建築材と組み合わせ可能な耐火部材であって、
基材と、
前記基材の表面、裏面および側面の少なくとも一部に形成される被覆層と、を備え、
前記被覆層は、
複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、
を有し、
前記被覆層は、前記木製基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、
前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む。
【発明の効果】
【0030】
本発明の耐火部材は、木製建築材と組み合わせて使用することができる。耐火部材は、組み合わされる木製建築材の耐火能力を高めることができる。特に、火災などの燃焼発生からの温度上昇と燃焼速度を遅くすることができる。
【0031】
また、本発明の耐火部材は、種々の基材に薄い被覆層が施されるだけであるので、耐火部材と組み合わされない場合の木製建築材の重量増加を抑制できる。これにより、建築材コスト、建築コスト、建築における手間を低減できる。
【0032】
また、被覆層は、物理的あるいは化学的に耐火を発揮するのではなく、火災などによる熱を、遠赤外線に変換して放射する。これにより、火災などの熱によって建築部材の温度上昇を抑制することができる。この温度上昇の抑制により、火災時の燃焼を遅らせることができ、木造建築物のあるべき耐火能力を高めることができる。
【0033】
このような結果、現実的な耐火能力を持った木造建築物を建築できるようになり、間伐材を始めとした我が国の木材資源の有効活用が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の実施の形態1における耐火部材の斜視図である。
図2】本発明の実施の形態1における被覆層の構造を拡大した状態を示す模式図である。
図3】本発明の実施の形態1における木製建築材に耐火部材が組み合わされた建築構造部材の側面図である。
図4】中空セラミックスが熱を遠赤外線に変換する状態を示す模式図である。
図5】中空セラミックスの接続構造により、複数のセラミックス層を形成している被覆層の模式図である。
図6】中空セラミックスの粒径により形成される複数のセラミックス層を含む被覆層の模式図である。
図7】本発明の実施の形態2における被覆層の模式図である。
図8】本発明の被覆層による遠赤外線変換と放射を示す試験成績書である。
図9】本発明の被覆層による遠赤外線変換と放射を示す試験成績書である。
図10】耐火能力実験を行う状態を示す写真である。
図11】耐火能力実験での、対象物にバーナーにより熱(炎)を付与している燃焼面の温度を測定している写真である。
図12】逆側である非燃焼面の温度を測定している状態を示す写真である。
図13】燃焼実験の実験結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の第1の発明に係る耐火部材は、木製建築材と組み合わせ可能な耐火部材であって、
基材と、
前記基材の表面、裏面および側面の少なくとも一部に形成される被覆層と、を備え、
前記被覆層は、
複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、
を有し、
前記被覆層は、前記木製基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、
前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む。
【0036】
この構成により、耐火部材は加わる熱による温度上昇や燃え尽きるのを抑制し、耐火を実現する。また、基材に被覆層が形成されたユニットであることで、木製建築材に組み合わせが容易で、建築現場での活用も容易である。また、基材のもつ耐火や伝熱などの特性が被覆層による熱放射と相まって、耐火能力が更に高まる。
【0037】
本発明の第2の発明に係る耐火部材では、第1の発明に加えて、石膏ボード、金属箔、金属板および樹脂ボードの少なくとも一つを含む。
【0038】
この構成により、木製建築部材への組み合わせが容易となる。また、いずれも重量増加を抑制できる基材であるので、建築部材の重量増加を抑えて、建築コストを抑える。また、基材の特性による耐火能力が被覆層に追加されるので、耐火能力を更に高めることができる。
【0039】
本発明の第3の発明に係る耐火部材では、第2の発明に加えて、前記金属箔は、アルミニウム箔、鉄箔および銅箔の少なくとも一つを含む。
【0040】
この構成により、耐火能力を高めることができる。また、重量増加を抑えつつ、木製建築材への耐火部材の組み合わせを容易とする。また、金属箔などが、加わった熱を効率的に被覆層に伝導させて、被覆層での遠赤外線への変換放射を促進させて、建築材の温度上昇の抑制を更に促進させることができる。
【0041】
本発明の第4の発明に係る耐火部材では、第2の発明に加えて、前記基材は、前記木製建築材と直接的もしくは間接的に組み合わせ可能である。
【0042】
この構成により、バリエーションある耐火木製建築部材を構成可能である。
【0043】
本発明の第5の発明に係る耐火部材では、第4の発明に加えて、前記木製建築材と前記耐火部材が組み合わされる場合には、前記被覆層は、前記木製建築材と接触する場合および非接触する場合の少なくとも一方が生じうる。
【0044】
この構成により、バリエーションある耐火木製建築部材を構成可能である。
【0045】
本発明の第6の発明に係る耐火部材では、第1の発明に加えて、前記複数の中空セラミックスの粒径は、10μm~150μmである。
【0046】
この構成により、粒径がばらついていることで、様々な成分を含む熱を効率的かつ確実に遠赤外線に変換できる。これにより、耐火能力を高めることができる。
【0047】
本発明の第7の発明に係る耐火部材では、第6の発明に加えて、前記複数の中空セラミックスの平均粒径は、40μmである。
【0048】
この構成により、被覆層の形成を確実に行える。
【0049】
本発明の第8の発明に係る耐火部材では、第1から第7のいずれかの発明に加えて、前記中空セラミックスは、金属酸化物を含む。
【0050】
この構成により、遠赤外線への変換を効率的に行える。
【0051】
本発明の第9の発明に係る耐火部材では、第8の発明に加えて、前記金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも一つを含む。
【0052】
この構成により、遠赤外線への変換を効率的に行える。
【0053】
本発明の第10の発明に係る耐火部材では、第9の発明に加えて、前記被覆層は、2種類以上の前記金属酸化物による前記中空セラミックスを含む。
【0054】
この構成により、燃焼成分などや燃焼特性に対応して、確実に遠赤外線への変換を実現できる。様々な種類の火災に対応が可能である。
【0055】
本発明の第11の発明に係る耐火部材では、第1の発明に加えて、前記樹脂バインダーは、アクリル系樹脂である。
【0056】
この構成により、被覆層を形成する中空セラミックス同士の接着が確実に行える。
【0057】
本発明の第12の発明に係る耐火部材では、第1の発明に加えて、前記中空セラミックスは、外表面および内部空間を有し、
前記外表面での遠赤外線への変換および前記内部空間での乱反射での遠赤外線の変換の少なくとも一方で、前記木製基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱は、遠赤外線に変換される。
【0058】
この構成により、耐火能力を向上させることができる。
【0059】
本発明の第13の発明に係る耐火部材では、第12の発明に加えて、前記複数の中空セラミックスは、前記被覆層において、複数のセラミックス層を形成し、
前記複数のセラミックス層のそれぞれは、加わる熱を変換した遠赤外線を放射する。
【0060】
この構成により、燃焼成分のそれぞれに対応して遠赤外線に変換できる。
【0061】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0062】
(実施の形態1)
【0063】
(全体概要)
実施の形態1における耐火部材の全体概要について説明する。
【0064】
図1は、本発明の実施の形態1における耐火部材の斜視図である。理解のために、図1は耐火部材の構成を分かりやすくするように示している。なお、耐火部材1の形状は、図1に限られるものではない。
【0065】
耐火部材1は、木製建築材と組み合わせ可能である。木製建築材は、建築物(木造建築物、木造部分を一部に備える建築物)に用いられる。建築物は、例えば、住宅、店舗、施設、集合住宅などである。これらの建築物の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面などに、必要に応じて木製建築材が用いられる。
【0066】
耐火部材1は、これらの様々な部位に用いられる木製建築材に組み合わせ可能である。例えば、外壁や内壁に用いられる木製建築材の外面に組み合わされる。表面、裏面、側面などに組み合わされる。あるいは、柱などに用いられる木製建築材の外周の一部や全部に組み合わされる。
【0067】
あるいは、異なる種類の部位に用いられる木製建築材に複合的に耐火部材が組み合わされてもよい。
【0068】
耐火部材1は、基材2と被覆層3とを備える。被覆層3は、基材2の表面、裏面および側面の少なくとも一部に形成される。図1では、例として、基材2の表面に被覆層3が形成されている状態を示している。
【0069】
基材2は、木製建築材に組み合わされる素材や構造を有している。例えば、壁材や柱などの木製建築材の外周(表面など)に組み合わされる。基材2は、石膏ボード、金属箔、金属板および樹脂ボードの少なくとも一つを含む。石膏ボードや樹脂ボードは、基材2としての構造や形状を有しているとの意味であり、ボードという名称に限定される意図ではない。
【0070】
この基材2の表面などに被覆層3が形成される。
【0071】
被覆層3は、複数の中空セラミックスと中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーとを有する。図2は、本発明の実施の形態1における被覆層の構造を拡大した状態を示す模式図である。被覆層3の構造を分かるようにした状態で示している。
【0072】
被覆層3は、複数の中空セラミックス31と中空セラミックス31同士を接続する樹脂バインダー32を含む。複数の中空セラミックス31同士が、樹脂バインダー32により接続された状態で被覆層3が構成される。また、図2に示されるように、複数の中空セラミックス31は、複数の異なる粒径の中空セラミックス31を含む。粒径が「A」である中空セラミックス31、粒径が「B」である中空セラミックス31など、異なる粒径の中空セラミックス31を含んでいる。
【0073】
樹脂バインダー32は、これら粒径の異なる中空セラミックス31を接続している。
【0074】
被覆層3は、基材2および被覆層3の少なくとも一方に加わる熱を遠赤外線に変換して放射する。図2では、この熱を遠赤外線に変換して放射する状態も示している。
【0075】
火災などが発生すると矢印Y1や矢印Y2などのように、火災による熱が耐火部材1に加わる。耐火部材1は、被覆層3を備えており、この被覆層3は、熱を遠赤外線に変換して放射する。矢印Xは、遠赤外線としての放射を示している。
【0076】
遠赤外線への変換放射によって、火災などによる熱が耐火部材1に加わっても、耐火部材1での温度上昇が抑制される。
【0077】
このように耐火部材1は、石膏ボード、金属箔、金属板および樹脂ボードの少なくとも一つを含む基材2に被覆層3が形成される耐火部材1は、火災などで発生する熱(火災の炎などによる熱)を遠赤外線に変換して放射できる。遠赤外線への変換放射により、加わる熱による温度上昇を抑制できる。すなわち、温度上昇を遅らせることができる。
【0078】
従来技術で説明したように、温度上昇を遅らせることが、建築物の耐火の本質である。
【0079】
耐火部材1が木製建築材に組み合わされることで、火災などが発生しても耐火部材1と組み合わされている木製建築材の温度上昇が抑制されて遅れる。温度上昇が遅れることで、火災発生などでも、木製建築材や建築物の燃え落ちるまでの時間が長くなるので、耐火能力が高まる。消火活動や救助活動が容易となり、住人などの安全性を高めることができる。
【0080】
図3は、本発明の実施の形態1における木製建築材に耐火部材が組み合わされた建築構造部材の側面図である。木製建築材10に耐火部材1が組み合わされている。木製建築材10は、木製建築物あるいは一部が木製である建築物に用いられる。
【0081】
例えば、木製建築材10は、木造建築物の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面など構造部などに用いられる。あるいは、木造を一部とする建築物(木造部分とコンクリートやその他の素材とが混在する建築物)の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面など構造部にも用いられる。
【0082】
このような木製建築材10に耐火部材1が組み合わされる(取り付けられる)。図3のように、例えば、壁材などに使用される木製建築材10の表面に耐火部材1が取り付けられる。接着、接合、接続などの様々な方法により取り付けられる。
【0083】
木製建築材10のみであれば、火災などによる熱が加わると、木製建築材10素材の特性に応じて温度上昇して燃焼する。通常通りに温度上昇して燃え落ちてしまう。
【0084】
これに対して、耐火部材1が取り付けられていることで、木製建築材10に熱が加わっても、加わった熱は遠赤外線に変換されて放射される。図3では、矢印Xのように遠赤外線となって放射されている状態が示されている。耐火部材1がこの役割を果たす。
【0085】
木製建築材10は、この耐火部材1が組み合わされていることで、火災などによる熱の付与があっても、木製建築材10での温度上昇を抑えることができる。結果として、燃え落ちるまでの時間を延ばすことができ、耐火時間を長くできる。耐火時間が長くできれば、火災などでの消火活動や避難活動を容易化できる。
【0086】
耐火部材1が組み合わされた木製建築材10は、木造建築物で火災などが発生したときに、全く燃えないようにするのではなく、燃える時間を遅らせることができる。建築に関する基準などにおいても、木造建築物(およびその周囲)で火災などが発生した場合に、全く燃えないようにするのではなく、燃えるのを遅らせることが重要となっている。例えば、外壁が燃え落ちるのに要する時間を、より長くすることが、木造建築物の安全性基準の一つとなっている。
【0087】
このため、耐火部材1は、火災発生などにおいて、燃えるのを遅らせることができる。このように木製建築材10に耐火部材1が組み合わされることで、耐火木製建築部材が実現できる。耐火部材1の基材2は、素材、形状、厚み、大きさなどにおいて柔軟性を持っている。これにより、様々な特性や用途に対応した耐火木製建築部材を実現できる。
【0088】
これらの結果、間伐材を始めとした森林資源の有効活用が促進される。
【0089】
(基材)
耐火部材1の基材2は、上述の通り石膏ボード、金属箔、金属板および樹脂ボードの少なくとも一つを含む。これらは一例であり、これ以外でもよい。また、基材2は、耐火部材1の基礎部材であり木製建築材10に組み合わされる。このため、基材2は、薄いことが好適であることもある。耐火部材1が木製建築材10に組み合わされる場合に、全体の大きさ、厚み、重量などの増加を低減できるからである。
【0090】
例えば、金属箔や金属板なども、薄いものであることでよい。銅箔、鉄箔、アルミニウム箔などが基材2として用いられれば良い。
【0091】
また、基材2は、組み合わされる木製建築材10の形状や大きさに合わせられていることも好適である。例えば、組み合わされる木製建築材10の形状や大きさが決まっている場合には、基材2もこれに合わせて用意されればよい。この用意された基材2に被覆層3が形成されて、木製建築材10に適応する耐火部材1が用意される。すなわち、カスタマイズされた耐火部材1である。
【0092】
あるいは、適宜決定した大きさや形状での基材2による耐火部材1が既製品として用意されてもよい。このような既製品としての耐火部材1は、木製建築材10の大きさや形状に合わせて組み合わされて使用されればよい。あるいは、場合によっては、耐火部材1が必要な形状や大きさに切断されて使用されればよい。
【0093】
このようにして、耐火部材1は、木製建築材10との組み合わせを可能としている。
【0094】
基材2は、木製建築材10と直接的もしくは間接的に組み合わせ可能である。基材2が木製建築材10と接触する状態である直接的に組み合わされる。あるいは、空気層であったり別の部材を介して間接的に組み合わされたりされる。木製建築材10の特性や、建築物の特性などに応じて、直接的に組み合わされてもよいし、間接的に組み合わされてもよい。
【0095】
また、木製建築材10が建築物において使用される部位や特性に応じて、直接的あるいは間接的に組み合わされてもよい。
【0096】
また、基材2の厚みは適宜決められれば良い。薄いことで、重量増加を軽減することもよい。上述したアルミニウム箔などの金属箔であったり、薄い石膏ボードなどであったりすればよい。勿論、厚みのある者であることを除外しない。
【0097】
木製建築材10と耐火部材1が組み合わされる場合には、被覆層3は、木製建築材10と接触する場合および非接触する場合の少なくとも一方が生じる。
【0098】
図3では、被覆層3が外側に位置しており、耐火部材1が組み合わされると被覆層3は、木製建築材10と非接触状態である。逆に、被覆層3が内側に位置するように耐火部材1が木製建築材10に組み合わされると、被覆層3が木製建築材10に接触する状態となる。
【0099】
被覆層3による遠赤外線への変換と放射の効率に合わせて、適宜決められれば良い。
【0100】
(被覆層)
被覆層3は、上述の通り、複数の中空セラミックス31とこれらを接続する樹脂バインダー32を含む。
【0101】
(中空セラミックスによる遠赤外線変換)
【0102】
被覆層3は、上述の通り、耐火部材1に加わる熱を遠赤外線に変換して放射する。被覆層3は、複数の中空セラミックス31を含む。中空セラミックス31は、内部空間310を有する。内部空間310は、加わる熱を、その内部で乱反射させることで、遠赤外線に変換する。
【0103】
図4は、中空セラミックスが熱を遠赤外線に変換する状態を示す模式図である。図4に示されるように、内部空間310において加わった熱が乱反射する。この乱反射を通じて、熱は、遠赤外線に変換される。変換された遠赤外線は、放射される。
【0104】
このように、被覆層3は、複数の中空セラミックス31を備えることで、熱を遠赤外線に変換できる。
【0105】
また、被覆層3が備える複数の中空セラミックス31は、粒径の異なる中空セラミックス31を含んでいる。粒径が異なることで、中空セラミックス31のそれぞれの内部空間310での乱反射がより多く起こる。また、粒径の異なる中空セラミックス31同士での乱反射も加わり、熱の遠赤外線への変換が、より効果的に生じる。
【0106】
また、加わる熱は、異なる波長の成分を含んでいる。この異なる波長の成分のそれぞれに、粒径の異なる中空セラミックス31が対応する。この対応により、ある粒径の中空セラミックス31は、ある波長の成分の熱を遠赤外線に変換する。別の粒径の中空セラミックス31は、別の波長の成分の熱を遠赤外線に変換する。
【0107】
このように、異なる粒径の中空セラミックス31が含まれていることで、加わる熱を効率的かつ確実に、遠赤外線に変換できる。異なる粒径の中空セラミックス31が含まれていると、異なる波長の成分を有する熱全体を、遠赤外線に変換できる。これにより、耐火部材1に火災などの熱が加わっても、燃焼を遅らせることが、より確実に行える。
【0108】
また、中空セラミックス31は、その表面での熱の変換により遠赤外線を生み出して、これを放射するメカニズムも発揮する。熱が加わると、中空セラミックス31の表面が、これを遠赤外線に変換する。これにより、被覆層3は、加わる熱を次々と遠赤外線に変換して放射できる。これにより、耐火部材1に火災などの熱が加わっても、燃焼を遅らせることができる。
【0109】
この点から、被覆層3が異なる粒径の中空セラミックス31を含むことが好適である。異なる粒径の中空セラミックス31が含まれることで、被覆層3における中空セラミックス31の重点密度が高まる。大きな粒径の中空セラミックス31同士の間にできる隙間に、中程度あるいは小さな粒径の中空セラミックス31が入り込むからである。
【0110】
この結果、被覆層3が含む中空セラミックス31の個数密度が高まる。
【0111】
個数密度が高まれば、含まれる中空セラミックス31全体の表面積が増加する。上述の通り、中空セラミックス31は、その表面で熱を遠赤外線に変換する。この表面全体の表面積が増加することで、遠赤外線への変換量が多くなる。この増加によって、加わる熱を遠赤外線に変換することでの耐火能力が更に高まる。
このように、被覆層3が異なる粒径の中空セラミックス31を含むことは、熱を遠赤外線に変換することの能力向上に寄与する。
【0112】
ここで、複数の中空セラミックス31の粒径は、10μm~150μmであることも好適である。また、平均粒径が40μmであることも好適である。
【0113】
中空セラミックス31の粒径が、このような広い範囲であることで、加わる熱を、確実かつ効率的に遠赤外線に変換できる。熱によっては、含まれる波長も様々であるが、中空セラミックス31の粒径が、このような広い範囲でばらついていることは、どのような波長の熱や成分に対しても、遠赤外線への変換が可能となるからである。
【0114】
また、平均粒径が40μmであることで、被覆層3の形成が容易となる。被覆層3は、中空セラミックス31および樹脂バインダー32を含む塗料が、基材2の表面などに塗布されることで形成されることもある。この場合に、中空セラミックス31の平均粒径が40μmであることで、塗布などが容易となるメリットがある。また、適切な厚みの被覆層3が形成できるメリットもある。
【0115】
中空セラミックス31は、金属酸化物を含むことも好適である。このような金属酸化物を含むことで、熱を遠赤外線に効率的に変換できる。ここで、金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも一つを含む。
【0116】
これらの金属酸化物を含むことで、中空セラミックス31は、熱を効率的かつ確実に遠赤外線に変換できる。金属酸化物は、内部空間310での乱反射を促進しつつ、乱反射の過程で遠赤外線を生じさせる。このように、金属酸化物を含む中空セラミックス31が含まれる被覆層3は、耐火部材1に付与される熱を、効率的かつ確実に遠赤外線に変換できる。
【0117】
樹脂バインダー32は、中空セラミックス31同士を接続する。接続することで、被覆層3が一つの層として形成できる。ここで、樹脂バインダー32は、アクリル系樹脂であることも好適である。アクリル系樹脂であることで、樹脂バインダー32による中空セラミックス31同士をより確実に接続できる。
【0118】
また、アクリル系樹脂であることで、被覆層3の軽量化も図ることができる。
【0119】
このようにして形成された被覆層3は、加わる熱を遠赤外線に変換して放射できる。この機能は、加わる熱が、耐火部材1にとどまって蓄積されて行くことを抑制できる。
【0120】
このような被覆層3による遠赤外線変換の放射により、耐火部材1に加わる熱による温度上昇を抑制可能である。抑制可能であることで、火災などでの燃焼を抑制でき、燃焼を遅らせることができる。この遅らせるおことで、木造建築物に要求される耐火性能を実現できる。
【0121】
(複数の中空セラミックス層)
【0122】
複数の中空セラミックス31は、その接続により生じる構成や粒径によって、被覆層3の中に、複数のセラミックス層を形成できる。図5は、中空セラミックスの接続構造により、複数のセラミックス層を形成している被覆層の模式図である。図5では、被覆層3は、第1セラミックス層311と第2セラミックス層312とを備える構成を有している。
【0123】
複数のセラミックス層のそれぞれは、加わる熱を変換した遠赤外線を放射する。図5に示されるように、第1セラミックス層311は、遠赤外線を放射し、合わせて第2セラミックス層312も、遠赤外線を放射する。それぞれのセラミックス層が遠赤外線を放射する態様を備える。
【0124】
被覆層3を形成する際に、例えば被覆層3の原料となる塗材を基材2の表面などに塗布する。このとき、塗材の塗布を複数回に分けることで、図5のような複数のセラミックス層を形成することができる。
【0125】
被覆層3が複数のセラミックス層を備えることで、それぞれのセラミックス層での遠赤外線の変換と放射が行われる。第1セラミックス層311での遠赤外線の変換と放射、および、第2セラミックス層312での遠赤外線の変換と放射がそれぞれで行われる。このそれぞれで行われることで、より効率的な遠赤外線への変換が行われる。
【0126】
特に、セラミックス層のそれぞれで遠赤外線への変換が行われると、空間的に異なる場所での遠赤外線変換が行われる。これにより、多くの中空セラミックス31全体が遠赤外線変換に活用される。
【0127】
また、セラミックス層のそれぞれで遠赤外線放射が行われると、多面的かつ多重的な遠赤外線放射が行われる。これにより、耐火部材1に熱が付与される場合でも、より多くの熱が遠赤外線となって放射される。結果として、燃焼を遅らせることができる。
【0128】
また、耐火部材1に熱が加わり被覆層3が次第に燃え落ちる場合でも、残ったセラミックス層がその機能を維持できる。これにより、より長い間、加わる熱を遠赤外線として放射する機能が維持されて、耐火部材1の燃焼を遅らせることができる。すなわち、耐火部材1が組み合わされた耐火木製建築部材の燃焼を遅らせて、建築物の燃焼を遅くできる。建築物の耐火能力を高めることができる。
【0129】
また、被覆層3の複数のセラミックス層は、中空セラミックス31の粒径によって形成されてもよい。図6は、中空セラミックスの粒径により形成される複数のセラミックス層を含む被覆層の模式図である。
【0130】
例えば、ある粒径の中空セラミックス31を含む塗材を塗布し、次に、別の粒径の中空セラミックス31を含む塗材を塗布し、更に別の粒径の中空セラミックス31を含む塗材を塗布することを繰り返せば、図6のような、粒径の異なる複数のセラミックス層を形成できる。
【0131】
図6では、一例として、第1セラミックス層311、第2セラミックス層312、第3セラミックス層313が形成されている。それぞれのセラミックス層は、中空セラミックス31の粒径の相違により形成されている。
【0132】
第1セラミックス層311、第2セラミックス層312、第3セラミックス層313のそれぞれは、耐火部材1に加わる熱を、遠赤外線に変換して放射する。この状態は、図6に示される通りである。
【0133】
中空セラミックス31の粒径が異なることで形成される複数のセラミックス層のそれぞれは、加わる熱が含む異なる波長成分のそれぞれに対応した遠赤外線変換を行える。これにより、第1セラミックス層311は、ある波長成分(あるいは温度成分)の熱を遠赤外線に変換して放射する。第2セラミックス層312は、別の波長成分(あるいは温度成分)の熱を遠赤外線に変換して放射する。第3セラミックス層313は、更に別の波長成分(あるいは温度成分)の熱を遠赤外線に変換して放射する。
【0134】
また、図7のように、被覆層3において複数のセラミックス層が形成されてもよい。図7は、本発明の実施の形態2における被覆層の模式図である。被覆層3においては、異なる粒径の中空セラミックス31が含まれる。この異なる粒径の中空セラミックス31であるが、主となる粒径の中空セラミックス31の粒径違いによって、図7のように複数のセラミックス層が形成される。
【0135】
図7では、複数のセラミックス層のそれぞれは、異なる粒径の中空セラミックス層31を含む。ただ、第1セラミックス層311は、小さな粒径の中空セラミックス31を中心としたセラミックス層であり、第2セラミックス層312は、中くらいの粒径の中空セラミックス31を中心としたセラミックス層であり、第3セラミックス層313は、大きな粒径の中空セラミックス31を中心としたセラミックス層である。
【0136】
このように、セラミックス層には異なる粒径の中空セラミックス31が含まれるが、主となる粒径によって、複数のセラミックス層が形成される。この複数のセラミック層のそれぞれが、熱を遠赤外線に変換して放射する。この放射により、耐火部材1の燃焼を遅らせることができる。
【0137】
このように、加わる熱が含む種々の成分のそれぞれに対応して遠赤外線に変換して放射できる。これにより、被覆層3は、耐火部材1に加わる熱を、確実かつ満遍なく遠赤外線に変換して放射できる。結果として、熱による燃焼を遅らせることが、よりできるようになる。
【0138】
また、上述した通り、複数のセラミックス層が存在することで、いずれかのセラミックス層が燃焼しても、残りのセラミックス層がその機能を維持できる。これにより、より長い時間において、燃焼を遅らせることができる。
【0139】
(異なる金属酸化物の中空セラミックスが含まれること)
【0140】
中空セラミックス31は、金属酸化物を含む。更に、金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも一つを含む。
【0141】
ここで、被覆層3を構成する中空セラミックス31が、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも2以上の種類の金属酸化物を含むことも好適である。
【0142】
異なる2種以上の種類の金属酸化物による中空セラミックス31が、被覆層3に含まれることで、それぞれの中空セラミックス31が、加わる熱の異なる成分(波長成分や温度成分など)のそれぞれに対応して遠赤外線への変換を行える。ある金属酸化物の中空セラミックス31は、ある成分の熱を遠赤外線に変換し、別の種類の金属酸化物の中空セラミックス31は、別の成分の熱を遠赤外線に変換する。
【0143】
このように、複数の種類の金属酸化物による中空セラミックス31が被覆層3を構成することで、加わる熱を、満遍なくかつ確実に遠赤外線に変換できる。この変換後の遠赤外線が放射されて、熱による燃焼を確実に遅らせることができる。
【0144】
(被覆層の厚み)
(被覆層3の塗布形成での観点からの厚み)
【0145】
被覆層3は、基材2の表面等に被覆剤である塗材が塗布されることで形成される。この塗布される塗材の量は、基材2の単位面積あたりにおいて、次の範囲であることが好ましい。
塗布される塗材の重量 150g~280g/m
【0146】
基材2の表面などに、単位面積当たりにこの範囲の重量の塗材が塗布されて被覆層3が形成されることが好ましい(被覆層3は、塗材が塗布されて乾燥されることで形成される)。すなわち、被覆層3の厚みは、この単位面積あたりに塗布される塗材の重量によって定義される。
【0147】
被覆層3がこの定義によりその厚みが設定されることで、燃焼を遅らせるのに十分な遠赤外線への変換・放射が実現される。また、厚すぎる場合には、中空セラミックス31に含まれる空気が保温効果を有する。このため、被覆層3の厚みがこれ以上厚くなると、この保温効果の総量が大きくなり過ぎて、建築物内部の居住性などを損なう可能性がある。
【0148】
これらのことから、上述のような重量の下限と上限とが設定されることでもよい。
【0149】
(乾燥後に形成される被覆層の観点からの厚み)
上述の単位面積当たりの重量で塗布された塗材が乾燥すると、被覆層の厚みは、154μm以上291μm以下となる。このような観点で厚みを定義することも好適である。。この厚みにより、耐火性として十分なレベルを担保できる。154μmよりも薄いと、燃焼を遅らせるのに十分な遠赤外線への変換と放射が不十分となる。291μmより厚いと、コスト面でのデメリットや変換された遠赤外線の放射がされにくくなるなどのデメリットがある。
【0150】
よって、この厚みの範囲であることが好適である。
【0151】
なお、中空セラミックス31に含まれる空気が保温効果を有する。このため、被覆層3の厚みがこれ以上厚くなると、この保温効果の総量が大きくなり過ぎて、建築物内部の居住性などを損なう可能性がある。
【0152】
このため、被覆層の厚みは、この程度であることが好ましい。
【0153】
特に、塗材を塗布することで被覆層3を形成する場合には、適切な量の塗材を塗布することが必要である。この必要な量の塗布から、上記の厚みに繋がる。
【0154】
以上のような耐火木材1が木製建築材10に組み合わされて、耐火木製建築部材が実現される。これが用いられて建築物(木造、あるいは一部が木ぞ)が建築される。
【0155】
本発明の耐火部材1は、金属箔などの基材2に被覆層3が形成されている構造なので、建築物の様々な部位に適用できる。また、被覆層3による熱変換と放射に加えて、基材2の耐熱効果なども加わって、木製建築材10での耐火能力を更に高めることにも効果がある。
【0156】
また、基材2は、金属箔や石膏ボードなどの様々な種類のものを選択できる。これにより、耐熱効果や熱伝導低下など、それぞれの基材2の特性と相性の良い建築物の部位を対応させることができる。結果として、建築物の種類や建築物全体での複合的な構造により、耐火能力の向上を図ることができる。
【0157】
また、被覆層3だけの場合に比較して、基材2があることでの基材2の特性による耐火能力のさらなる向上も可能である。基材2の熱伝導力で、熱が被覆層3に適切に伝わって、熱の遠赤外線変換の効率が向上する。あるいは、基材2そのものの耐火能力が追加される。あるいは、基材2の断熱能力の追加により温度上昇を抑制することもある。
【0158】
基材2の様々な特性と、組み合わされる木製建築材10の部位や種類によって、耐火部材1による耐火能力はバリエーションと能力を高めることができる。また、基材2にすでに被覆層3が形成された耐火部材1で提供されることで、建築現場での作業工程の簡略化や簡素化が図られる。これにより、建築コストや手間を軽減できる。
【0159】
例えばある部位においては石膏ボードを基材2とした耐火部材1が組み合わされ、別の部位においては金属箔を基材2とした耐火部材1が組み合わされる。これらは、組み合わせのやりやすさに基づいていたり、耐火性能と他の性能との組み合わせの適切さに基づいていたりする。
【0160】
また耐火部材1は、基材2と被覆層3で形成されるので、木製建築材10と組み合わされても厚みや重量増加させることを抑えることができる。結果として、建築コストの増加も抑制できる。
【0161】
(実施の形態2)
次に実施の形態2について説明する。実施の形態2では、耐火部材の耐火能力の実験結果について説明する。
【0162】
(遠赤外線放射の確認実験)
まず、発明者は被覆層が熱をくわえられると遠赤外線を放射することの確認実験を、公的研究機関(島根県産業技術センター)にて行った。この実験において、試験成績書を受領しており、図8図9において示す。図8図9は、本発明の被覆層による遠赤外線変換と放射を示す試験成績書である。
【0163】
図8図9において「ガイナ」と記載されているものが、ある種類の被覆層を示す。
【0164】
測定機器:日本電子株式会社製 本体JTR―WINSPEC100および赤外線測定ユニットIR-IRR200
【0165】
測定方法:測定機器を用いて遠赤外線放射の放射率を測定した。
【0166】
この測定に基づいて、被覆層による熱を加えた場合の遠赤外線放射の状態を確認した。遠赤外線の波長域(一般的には3μm~1000μm)に含まれる5.0μm~22.5μmの波長域での積分放射率が94.6%と非常に高いことが確認された。トルマリンなどの遠赤外線変換能力が知られている素材に匹敵する。このように、公的研究機関での試験成績書においても、被覆層による熱の遠赤外線変換の能力や効率が確認された。
【0167】
(耐火能力の確認)
本発明の耐火部材が、耐火能力を向上させていることについての確認実験を行った。実験は、(1)木製板材、(2)木製板材に被覆層を備えた板材、(3)木製板材にアルミニウム箔(基材の一例)と被覆層を備えた板材((3)は本発明の一形態)の3種類について、一方の面から炎を当てて、逆の面での時間経過における温度上昇を計測することで行った(燃え落ちたら、その時点で測定終了)。これら(1)~(3)が実験における対象物である。
【0168】
図10は、耐火能力実験を行う状態を示す写真である。図11は、耐火能力実験での、対象物にバーナーにより熱(炎)を付与している燃焼面の温度を測定している写真である。図12は、逆側である非燃焼面の温度を測定している状態を示す写真である。
【0169】
図10図11のように、対象物(上述した(1)~(3))を固定してセットする。一方の面から、ガスバーナーで火を当てる。つまり一方の面は燃焼面となる。燃焼面に火を当て続けることで、対象物の温度は上がっていき、燃焼させられる。この燃焼の進行による温度上昇は、逆側の面である非燃焼面にも伝わっていく。
【0170】
図11に示すように、燃焼面においては、一例として954℃の熱が付与されていることが分かる。このような熱の付与により、対象物は、燃焼が進む。対象物の内部に熱が伝わって、逆側の非燃焼面の温度も上がっていく。図12は、この非燃焼面の温度上昇の測定をしている様子を示す。30分間の燃焼による温度上昇を測定し、燃え落ちた場合にはそこで燃焼を終了させた。
【0171】
図13は、燃焼実験の実験結果のグラフである。
【0172】
木製板材だけの対象物(1)、木製板材に被覆層を備えた対象物(2)、木製板材+アルミニウム箔(本発明の基材)+被覆層を備えた対象物(3)のそれぞれの時間経過に応じた温度上昇の結果を、図13のグラフは示している。上述の通り、対象物(3)が、本発明の耐火部材を木製板材に組み合わせたものである。すなわち、本発明の耐火部材を木製板材に組み合わせて、他の対象物(1)、(2)に比較した耐火能力を確認した。
【0173】
ここでは、本発明の耐火部材を木製板材に組み合わせた場合(すなわち、木造建築物に耐火部材を適用する場合)が、何も組み合わせない対象物(1)、被覆層だけを組み合わせた対象物(2)に対して優位性が高いことを確認した。
【0174】
図13のグラフに示されるように、対象物(1)の木製板材だけの場合には、12分程度で燃え落ちた。対象物(2)の木製板材と被覆層の場合には、25分弱で燃え落ちた。これに対して、本発明の耐火部材を組み合わせた対象物(3)は、30分経っても燃え落ちない。加えて、非燃焼面の温度上昇も100℃程度で抑えられている。他の対象物(1)、(2)は、150℃から200℃程度まで上昇してしまっている。
【0175】
燃え落ちるとの点からも温度上昇の点からも、本発明の耐火部材を木製板材に組み合わせると、他の場合よりも高い耐火能力を示すことが確認された。燃え落ちるまでの時間が長い、温度上昇が抑制されている、ということは、木造建築物で火災が発生しても、避難の時間を十分に確保できる。すなわち、耐火基準に対応する耐火能力を備えていることになる。
【0176】
このように、図13のグラフにおける実験結果からも本発明の耐火部材の耐火能力が確認された。特に木製建築材と組み合わされた場合の耐火能力の高さが確認された。
【0177】
以上、実施の形態1~2で説明された耐火木製建築部材は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0178】
1 耐火部材
2 基材
3 被覆層
10 木製建築材
31 中空セラミックス
32 樹脂バインダー
310 内部空間
311 第1セラミックス層
312 第2セラミックス層
313 第3セラミックス層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13