(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038242
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ネギ科植物の病害防除方法
(51)【国際特許分類】
A01N 43/60 20060101AFI20240312BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240312BHJP
A01N 43/56 20060101ALI20240312BHJP
A01N 43/10 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
A01N43/60
A01P3/00
A01N43/56 C
A01N43/10 F
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024000066
(22)【出願日】2024-01-04
(62)【分割の表示】P 2019098198の分割
【原出願日】2019-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2018116868
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 会見日 平成30年 4月23日 会見場所 東京コンベンションホール(東京都中央区京橋三丁目1-1 東京スクエアガーデン5F) 発行年月日 平成30年 4月25日 発行者名 日本農民新聞社 農業情報調査会 刊行物名 日刊アグリ・リサーチ 平成30年 4月25日付 第13190号 電子メール版、第9面 発行年月日 平成30年 4月26日 発行者名 化学工業日報社 刊行物名 化学工業日報 平成30年 4月26日付、第5面 開催日 平成30年 5月30日 集会名 日本農薬株式会社 2018年9月期 第2四半期決算説明会 開催場所 東京コンベンションホール(東京都中央区京橋三丁目1番1号 東京スクエアガーデン5階)
(71)【出願人】
【識別番号】000232623
【氏名又は名称】日本農薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 昭
(72)【発明者】
【氏名】山田 麻貴
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴弘
(57)【要約】
【課題】ネギ科植物の栽培において、ネギ病害、特にネギ黒腐菌核病の防除を目的とした省力的施用方法を提供する。
【解決手段】SDHI殺菌剤などネギ病害、特にネギ黒腐菌核病に効果のある病害防除剤を、苗を本圃に移植する前に育苗用プラグトレイへ灌注処理することを特徴とするネギ科植物の病害防除方法、病害防除剤の施用方法および育苗期灌注処理用ネギ科植物病害防除剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネギ科植物を育苗用プラグトレイで育苗し、SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)およびその農薬的に許容される塩から選択される1種または2種以上の病害防除剤を灌注処理した後に、本圃に移植することを特徴とする、ネギ科植物の病害防除方法。
【請求項2】
SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)が、イソピラザム(isopyrazam)、イソフェタミド(isofetamid)、インピルフルキサム(inpyrfluxam)、ピラジフルミド(pyraziflumid)、ピラプロポイン(pyrapropoyne)、フルオピラム(fluopyram)、ペンチオピラド(penthiopyrad)、および、ボスカリド(boscalid)から選択される1種または2種以上である、請求項1に記載のネギ科植物の病害防除方法。
【請求項3】
SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)が、ピラジフルミド(pyraziflumid)、および/または、ペンチオピラド(penthiopyrad)である、請求項1に記載のネギ科植物の病害防除方法。
【請求項4】
灌注処理の時期が、本圃に移植する0~21日前である、請求項1及至3いずれか1項に記載のネギ科植物の病害防除方法。
【請求項5】
ネギ科植物の病害が、黒腐菌核病(Sclerotium cepivorum)または小菌核腐敗病(Botrytis squamosa)である、請求項1及至4いずれか1項に記載のネギ科植物の病害防除方法。
【請求項6】
ネギ科植物が、ネギ(Allium fistulosum)である、請求項1及至5いずれか1項に記載のネギ科植物の病害防除方法。
【請求項7】
ネギ科植物を育苗用プラグトレイで育苗し本圃に移植する前に、SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)およびその農薬的に許容される塩から選択される1種または2種以上の病害防除剤を灌注処理することを特徴とする、病害防除剤の施用方法。
【請求項8】
SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)が、イソピラザム(isopyrazam)、イソフェタミド(isofetamid)、インピルフルキサム(inpyrfluxam)、ピラジフルミド(pyraziflumid)、ピラプロポイン(pyrapropoyne)、フルオピラム(fluopyram)、ペンチオピラド(penthiopyrad)、および、ボスカリド(boscalid)から選択される1種または2種以上である、請求項7に記載の病害防除剤の施用方法。
【請求項9】
SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)が、ピラジフルミド(pyraziflumid)、および/または、ペンチオピラド(penthiopyrad)である、請求項7に記載の病害防除剤の施用方法。
【請求項10】
灌注処理の時期が、本圃に移植する0~21日前である、請求項7及至9いずれか1項に記載の病害防除剤の施用方法。
【請求項11】
ネギ科植物の病害が、黒腐菌核病(Sclerotium cepivorum)または小菌核腐敗病(Botrytis squamosa)である、請求項7及至10いずれか1項に記載の病害防除剤の施用方法。
【請求項12】
ネギ科植物が、ネギ(Allium fistulosum)である、請求項7及至11いずれか1項に記載の病害防除剤の施用方法。
【請求項13】
SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)から選択される少なくとも1種を有効成分とする、育苗用プラグトレイにおける育苗期灌注処理用ネギ科植物病害防除剤。
【請求項14】
SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)が、イソピラザム(isopyrazam)、イソフェタミド(isofetamid)、インピルフルキサム(inpyrfluxam)、ピラジフルミド(pyraziflumid)、ピラプロポイン(pyrapropoyne)、フルオピラム(fluopyram)、ペンチオピラド(penthiopyrad)およびボスカリド(boscalid)から選択される1種または2種以上である、請求項13に記載の育苗期灌注処理用ネギ科植物病害防除剤。
【請求項15】
SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)が、ピラジフルミド(pyraziflumid)、および/または、ペンチオピラド(penthiopyrad)である、請求項14に記載の育苗期灌注処理用ネギ科植物病害防除剤。
【請求項16】
ネギ科植物の病害が、黒腐菌核病(Sclerotium cepivorum)または小菌核腐敗病(Botrytis squamosa)である、請求項13及至15いずれか1項に記載の育苗期灌注処理用ネギ科植物病害防除剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネギ科植物の栽培において、セルトレイなどの育苗用プラグトレイに病害防除剤を灌注処理し、その後本圃へ移植することによる、ネギ科植物の病害、特にネギ黒腐菌核病の省力的防除方法、病害防除剤の施用方法および育苗期灌注処理用ネギ科植物病害防除剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、春および秋冬採りネギ(特に根深ネギ)などのネギ科植物の主要栽培地域で、土壌から感染する黒腐菌核病が多発生して問題となっている。黒腐菌核病の防除については、耕種的、物理的、化学的防除を組み合わせた総合防除法が検討されているが、その組み立てに苦慮している(例えば、非特許文献1を参照)。また、病害防除剤の、本圃移植後の株元灌注処理によりネギ黒腐菌核病の防除対策が報告されているが、広大な圃場への株元灌注処理には多量の病害防除剤と水、および多大な労力が必要な上に、殺菌効果の持続が不十分な場合があり、ネギ苗の移植前に本圃の土壌消毒の併用を要するなどの課題があ
る(例えば、非特許文献2を参照)。
【0003】
一方、多数の農作物、園芸植物などにおいて、栽培の効率化を図るため、セルトレイなどの育苗用プラグトレイにいったん種を撒き、芽を出した苗をある程度まで栽培してから、田畑、庭、山地などの本圃に植え替えて栽培することが行われている。ネギ、タマネギなどのネギ科植物の栽培においても、格子状に分割された育苗用プラグトレイに播種し、栽培した苗を本圃に移植する方法がとられているが(例えば、非特許文献3を参照)、移植時、および/または、移植後に薬剤の散布が必要で、施用した薬剤の残効が短い場合、再々薬剤の散布が必要であった。キャベツ、はくさい、レタス、ブロッコリーなどの葉菜類においては、育苗用プラグトレイでの育苗時に薬剤の灌注処理を行っているが、一般に、育苗用プラグトレイでの育苗時に薬剤の灌注処理を行っても、作物の栽培期間を通じて残効を維持することは難しいため、本圃への移植後も複数回にわたり薬剤処理が依然として必要であり、省力化と長期間の残効性を兼ね備えた防除方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「ネギ黒腐菌核病の総合防除法」、茨城県農業総合センター園芸研究所研究報告 第20号 27-34.、[online]、2013年、[平成30年04月11日検索]、インターネット<URL:https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/enken/hokoku/no20/documents/hiiac20_27_33.pdf>
【非特許文献2】「ねぎの簡易軟白栽培における黒腐菌核病の防除対策」、北海道 上川農業改良普及センター 平成28年度 成績概要書、2016年、[平成30年04月11日検索]、インターネット<URL:http://www.hro.or.jp/list/agricultural/center/kenkyuseika/gaiyosho/29/f2/26.pdf>
【非特許文献3】「288穴セルトレイによるネギの播種・育苗・移植システム」、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター、[online]、2006年10月、[平成30年04月11日検索]、インターネット<URL:http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/288celtrey.pdf>
【非特許文献4】The Pesticide Manual 17th Edition(British Crop Production Council、2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ネギ科植物の栽培において、育苗用プラグトレイで育苗されたネギ科植物に、本圃への移植前に病害防除剤を灌注処理することで、ネギ科植物の生育を阻害することなく、早期からネギ病害、特に、近年、難防除病害となっているネギ黒腐菌核病を予防および/または防除し、本圃への移植後もその防除効果を生育期全般に渡って長期間維持する、更には、通常移植前に行われる本圃の土壌消毒を省略可能とする、より省力的、かつ、画期的なネギ科植物の病害防除方法、病害防除剤の施用方法および育苗期灌注処理用ネギ科植物病害防除剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく様々な化合物を用いて鋭意研究を重ねた結果、育苗用プラグトレイを用いたネギ科植物の栽培において、病害防除効果を有する病害防除剤を、苗の移植前に育苗用プラグトレイへ灌注処理することにより、移植後から収穫期に至るまで長期に渡る優れた病害防除効果を発揮し、更には、移植前の本圃の土壌消毒を省略可能とすることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は
[1]ネギ科植物を育苗用プラグトレイで育苗し、SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)、QoI殺菌剤(ユビキノール還元酵素Qo部位阻害剤)、ジカルボキシイミド類殺菌剤、フェニルピロール類殺菌剤、DMI殺菌剤(脱メチル化阻害剤)、MBC(メチルベンゾイミダゾールカーバメート)殺菌剤、2,6-ジニトロアニリン類殺菌剤、アミノピラゾリノン殺菌剤、キノリン系殺菌剤、およびその農薬的に許容される塩から選択される1種または2種以上の病害防除剤を灌注処理した後に、本圃に移植することを特徴とする、ネギ科植物の病害防除方法。
[2]SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)が、イソピラザム(isopyrazam)、イソフェタミド(isofetamid)、インピルフルキサム(inpyrfluxam)、ピラジフルミド(pyraziflumid)、ピラプロポイン(pyrapropoyne)、フルオピラム(fluopyram)、ペンチオピラド(penthiopyrad)、および、ボスカリド(boscalid)から選択される1種または2種以上である、[1]に記載のネギ科植物の病害防除方法。
[3]SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)が、ピラジフルミド(pyraziflumid)、および/または、ペンチオピラド(penthiopyrad)である、[1]に記載のネギ科植物の病害防除方法。
[4]QoI殺菌剤(ユビキノール還元酵素Qo部位阻害剤)が、アゾキシストロビン(azoxystrobin)、ピコキシストロビン(picoxystrobin)、ピラクロストロビン(pyraclostrobin)、および、ピリベンカルブ(pyribencarb)から選択される1種または2種以上である、[1]に記載のネギ科植物の病害防除方法。
[5]ジカルボキシイミド類殺菌剤が、イプロジオン(iprodione)、および/または、プロシミドン(procymidone)である、[1]に記載のネギ科植物の病害防除方法。
[6]フェニルピロール類殺菌剤がフルジオキソニル(fludioxonil)である、[1]に記載のネギ科植物の病害防除方法。
[7]DMI殺菌剤(脱メチル化阻害剤)がシメコナゾール(simeconazole)である、[1]に記載のネギ科植物の病害防除方法。
[8]MBC(メチルベンゾイミダゾールカーバメート)殺菌剤がベノミル(benomyl)、および/または、チオファネートメチル(thiophanate-methyl)である、[1]に記載のネギ科植物の病害防除方法。
[9]2,6-ジニトロアニリン類殺菌剤がフルアジナム(fluazinam)である、[1]に記載のネギ科植物の病害防除方法。
[10]アミノピラゾリノン殺菌剤がフェンピラザミン(fenpyrazamine)である、[1]に記載のネギ科植物の病害防除方法。
[11]キノリン系殺菌剤がイプフルフェノキン(ipflufenoquin) および/または、キノフメリン(quinofumelin)である、[1]に記載のネギ科植物の病害防除方法。
[12]灌注処理の時期が、本圃に移植する0~21日前である、[1]及至[11]いずれか1項に記載のネギ科植物の病害防除方法。
[13]ネギ科植物の病害が、黒腐菌核病(Sclerotium cepivorum)または小菌核腐敗病(Botrytis squamosa)である、[1]及至[12]いずれか1項に記載のネギ科植物の病害防除方法。
[14]ネギ科植物が、ネギ(Allium fistulosum)である、[1]及至[13]いずれか1項に記載のネギ科植物の病害防除方法。
[15]ネギ科植物を育苗用プラグトレイで育苗し本圃に移植する前に、SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)、QoI殺菌剤(ユビキノール還元酵素Qo部位阻害剤)、ジカルボキシイミド類殺菌剤、フェニルピロール類殺菌剤、DMI殺菌剤(脱メチル化阻害剤)、MBC(メチルベンゾイミダゾールカーバメート)殺菌剤、2,6-ジニトロアニリン類殺菌剤、アミノピラゾリノン殺菌剤、キノリン系殺菌剤、およびその農薬的に許容される塩から選択される1種または2種以上の病害防除剤を灌注処理することを特徴とする、病害防除剤の施用方法。
[16]SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)が、イソピラザム(isopyrazam)、イソフェタミド(isofetamid)、インピルフルキサム(inpyrfluxam)、ピラジフルミド(pyraziflumid)、ピラプロポイン(pyrapropoyne)、フルオピラム(fluopyram)、ペンチオピラド(penthiopyrad)、および、ボスカリド(boscalid)から選択される1種または2種以上である、[15]に記載の病害防除剤の施用方法。
[17]SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)が、ピラジフルミド(pyraziflumid)、および/または、ペンチオピラド(penthiopyrad)である、[15]に記載の病害防除剤の施用方法。
[18]QoI殺菌剤(ユビキノール還元酵素Qo部位阻害剤)が、アゾキシストロビン(azoxystrobin)、ピコキシストロビン(picoxystrobin)、ピラクロストロビン(pyraclostrobin)、および、ピリベンカルブ(pyribencarb)から選択される1種または2種以上である、[15]に記載の病害防除剤の施用方法。
[19]ジカルボキシイミド類殺菌剤が、イプロジオン(iprodione)、および/または、プロシミドン(procymidone)である、[15]に記載の病害防除剤の施用方法。
[20]フェニルピロール類殺菌剤が、フルジオキソニル(fludioxonil)である、[15]に記載の病害防除剤の施用方法。
[21]DMI殺菌剤(脱メチル化阻害剤)がシメコナゾール(simeconazole)である、[15]に記載の病害防除剤の施用方法。
[22]MBC(メチルベンゾイミダゾールカーバメート)殺菌剤がベノミル(benomyl)、および/または、チオファネートメチル(thiophanate-methyl)である、[15]に記載の病害防除剤の施用方法。
[23]2,6-ジニトロアニリン類殺菌剤がフルアジナム(fluazinam)である、[15]に記載の病害防除剤の施用方法。
[24]アミノピラゾリノン殺菌剤がフェンピラザミン(fenpyrazamine)である、[15]に記載の病害防除剤の施用方法。
[25]キノリン系殺菌剤がイプフルフェノキン(ipflufenoquin) 、および/または、キノフメリン(quinofumelin)である、[15]に記載の病害防除剤の施用方法。
[26]灌注処理の時期が、本圃に移植する0~21日前である、[15]及至[25]いずれか1項に記載の病害防除剤の施用方法。
[27]ネギ科植物の病害が、黒腐菌核病(Sclerotium cepivorum)または小菌核腐敗病(Botrytis squamosa)である、[15]及至[26]いずれか1項に記載の病害防除剤の施用方法。
[28]ネギ科植物が、ネギ(Allium fistulosum)である、[15]及至[27]いずれか1項に記載の病害防除剤の施用方法。
[29]SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)から選択される少なくとも1種を有効成分とする、育苗用プラグトレイにおける育苗期灌注処理用ネギ科植物病害防除剤。
[30]SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)が、イソピラザム(isopyrazam)、イソフェタミド(isofetamid)、インピルフルキサム(inpyrfluxam)、ピラジフルミド(pyraziflumid)、ピラプロポイン(pyrapropoyne)、フルオピラム(fluopyram)、ペンチオピラド(penthiopyrad)およびボスカリド(boscalid)から選択される1種または2種以上である、[29]に記載の育苗期灌注処理用ネギ科植物病害防除剤。
[31]SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)が、ピラジフルミド(pyraziflumid)、および/または、ペンチオピラド(penthiopyrad)である、[30]に記載の育苗期灌注処理用ネギ科植物病害防除剤。
[32]ネギ科植物の病害が、黒腐菌核病(Sclerotium cepivorum)または小菌核腐敗病(Botrytis squamosa)である、[29]及至[31]いずれか1項に記載の育苗期灌注処理用ネギ科植物病害防除剤。
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ネギ科植物の栽培において、ネギ科植物の生育を阻害することなく、早期からネギ病害、特にネギ黒腐菌核病を予防および/または防除し、本圃への移植後もその防除効果を移植後から収穫期に至るまで長期間維持する、更には、移植前の本圃の土壌消毒を省略可能とする、より省力的、かつ、画期的なネギ科植物の病害防除方法、病害防除剤の施用方法および育苗期灌注処理用ネギ科植物病害防除剤が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における「育苗用プラグトレイ」とは、育苗容器の一種で、収容部が多数の筒状の鉢により形成され、各々の収容部が移植時に分離可能または不可能な集合育苗容器である。収容部は、鉢状の単体育苗容器で構成されており、その材質は、例えば、紙パルプ、合成樹脂、ピートモス、陶器などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。収容部が紙筒により形成され、各々の収容部が移植時に分離可能な集合育苗容器としては、例えば、移植栽培用紙筒連結育苗鉢として販売している「ペーパーポット(登録商標)」(日本甜菜製糖株式会社製)がある。収容部が紙筒により形成され、各々の収容部が連結しており、移植時に必要に応じて分離可能な集合育苗容器としては、例えば、連続育苗移植用集合鉢として販売している「チェーンポット(登録商標)」(日本甜菜製糖株式会社製)がある。収容部が、紙パルプまたは生分解性樹脂により一体成型され、各々の収容部が移植時に分離可能な集合育苗容器としては、例えば、「ナウエルポット(登録商標)」(井関農機株式会社製)がある。育苗用プラグトレイ全体が多少撓んで曲がるように、紙パルプまたは合成樹脂により一体成型され、各々の収容部が移植時に分離不可能な集合育苗容器としては、例えば、プラスチックポット、通称セルトレイがある。以上、「育苗用プラグトレイ」の具体例を例示したが、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。
【0011】
本発明における、育苗に用いる「培土」は、育苗箱や育苗容器に投入して植物を栽培するための支持体を示すものであり、植物が生育しうる材質であればよい。材質は特に限定されないが、例えば、水田土壌、黒土や赤土をはじめとする山土、埴土、砂質土、シルト質土、泥炭土、ローム質土壌などが挙げられる。更に、これらに、赤玉土、ピートモス、バーミキュライト、焼成ゼオライト、合成ゼオライト、ココピート、パーライト、砂、綿、紙、珪藻土、血粉、高分子物質、寒天などのゲル状物質、天然加里鉱石、ヤシガラ、多孔質ケイ酸カルシウム水和物、炭酸カルシウム、籾殻薫炭、活性炭、木炭、木材チップ、活性アルミナ、シリカゲル、ロックウール、グラスウール、バーク、軽石、腐植質、腐葉土、バーク堆肥などを含ませることもできる。また、「ねぎ培土(タキイ種苗株式会社製)」などの市販の苗用培土を用いてもよい。
【0012】
本発明における「灌注処理」とは、ネギ科植物の内部に病害防除剤を浸透移行させるために、土壌表面、土壌中、植物体表面、または植物体内に薬剤を施用し、有害生物を防除する施用方法を示すものである。例えば、株元灌注処理、植溝灌注処理、作条灌注処理、全面土壌灌注処理、植物体の導管部への薬液注入処理、薬液ドリップイリゲーション処理、ケミゲーション処理、育苗箱灌注処理、苗床灌注処理、浸根処理などが挙げられる。ネギ科植物を移植する前、つまり育苗用プラグトレイでの育苗期の後半に、所定の倍数に希釈した薬液を灌注処理することにより、移植後から長期間に渡って防除効果をもたらし、効果が持続する間は本圃での散布作業を省くことが可能となる。育苗用プラグトレイへの灌注処理は、キャベツ・はくさい・ブロッコリー・レタスなどの葉菜類などの「害虫の防除方法」として広く活用されているものの、この害虫防除方法は、育苗期の後半に育苗用プラグトレイへ行うことに加え、薬効期間が短いため本圃へ移植後に2~3回の灌注処理、および/または、散布処理を追加で行うことが通常の処理方法とされている。また、キャベツ・はくさい・ブロッコリー・カブなどのアブラナ科植物に発生する「根こぶ病防除対策」として、育苗用プラグトレイへの灌注処理が提案されているものの、その防除効果は充分ではなく、本圃へ移植後に従来の土壌混和防除方法を実施することが必要とされている。
一方、本発明は、育苗用プラグトレイで育苗したネギ科植物の苗に対して、病害防除剤を灌注処理し、その後本圃に移植することにより、病害防除効果が移植後から収穫期に至るまで長期間にわたり維持されるという、優れた効果を発揮するものである。この本発明の効果は、上記の害虫防除における灌注処理や根こぶ病防除対策からは予測できない格別顕著なものである。
【0013】
本発明における病害防除剤は、ネギ科植物の病害、中でも黒腐菌核病または小菌核腐敗病、特に黒腐菌核病に対して防除効果を有し、灌注処理によって植物体内に取り込まれて長期間の残効性を有するものが好ましい。具体的には、SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)、QoI殺菌剤(ユビキノール還元酵素Qo部位阻害剤)、ジカルボキシイミド類殺菌剤、フェニルピロール類殺菌剤、DMI殺菌剤(脱メチル化阻害剤)、MBC(メチルベンゾイミダゾールカーバメート)殺菌剤、2,6-ジニトロアニリン類殺菌剤、アミノピラゾリノン殺菌剤、キノリン系殺菌剤、および/またはその農薬的に許容され
る塩が挙げられる。
【0014】
SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)として、イソピラザム(isopyrazam)、イソフェタミド(isofetamid)、インピルフルキサム(inpyrfluxam)、ピラジフルミド(pyraziflumid)、ピラプロポイン(pyrapropoyne)、フルオピラム(fluopyram)、ペンチオピラド(penthiopyrad)、ボスカリド(boscalid)が好ましく、QoI殺菌剤(ユビキノール還元酵素Qo部位阻害剤)としては、アゾキシストロビン(azoxystrobin)、ピコキシストロビン(picoxystrobin)、ピラクロストロビン(pyraclostrobin)、ピリベンカルブ(pyribencarb)が好ましく、ジカルボキシイミド類殺菌剤としては、イプロジオン(iprodione)、プロシミドン(procymidone)が好ましく、フェニルピロール類殺菌剤としては、フルジオキソニル(fludioxonil)が好ましく、DMI殺菌剤(脱メチル化阻害剤)としては、シメコナゾール(simeconazole)が好ましく、MBC(メチルベンゾイミダゾールカーバメート)殺菌剤としては、ベノミル(benomyl) 、チオファネートメチル(thiophanate-methyl)が好ましく、2,6-ジニトロアニリン類殺菌剤としては、フルアジナム(fluazinam)が好ましく、アミノピラゾリノン殺菌剤としてはフェンピラザミン(fenpyrazamine)が好ましく、キノリン系殺菌剤としては、イプフルフェノキン(ipflufenoquin)、キノフメリン(quinofumeli
n)が好ましい。中でも、SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)が好ましく、特にピラジフルミド(pyraziflumid)、および、ペンチオピラド(penthiopyrad)が好ましい。ピラジフルミドは長期間の病害防除効果に加えて植物成長調節作用を有していることから(例えば、特許文献1を参照)、この作用による収量増も期待できる。これらは単独で用いてもよいし、または2種以上を混合して用いてもよい。これらの病害防除剤は文献記載の公知化合物として(例えば、非特許文献4を参照)、いずれも市販剤を購入することができる。比較的新しい有効成分であるピラジフルミドは国際公開第2007/072999号パンフレットに開示された製造方法で製造することができる。
【0015】
本発明における病害防除剤は、市販製品をそのまま施用してもよく、適宜、病害防除剤の有効成分を単独で製剤化または2種以上を一緒に製剤化して施用することができる。製剤化の際は、有効成分を適当な不活性担体に、または必要に応じて補助剤と一緒に適当な割合に配合して溶解、分離、懸濁、混合、含浸、吸着もしくは付着させて適宜の剤型、例えば、懸濁剤(フロアブル剤)、油性懸濁剤(OD剤)、乳懸濁剤(EW剤)、サスポエマルション(SE剤)、乳剤、液剤、水和剤、顆粒水和剤、粒剤、粉剤、マイクロカプセル剤、カプセル剤、錠剤、ジャンボ剤またはパック剤などに製剤すればよい。適当な場合には、別の剤型を組み合わせ、組み込み、混合してもよい。例えば、練り込み粒剤と含浸粒剤とを混合してもよく、水和剤と顆粒水和剤を混合して錠剤に固めてもよく、懸濁剤と液剤を組み合わせてパック剤などとすることもできる。
【0016】
本発明におけるネギ科植物は、ネギ属に属する植物を意味する。具体的には、例えば、ネギ(Allium fistulosum)、タマネギ(Allium cepa)などを挙げることができる。具体的なネギとしては、例えば、白ねぎ(根深ねぎ・長ねぎ)、青ねぎ(葉ねぎ・万能ねぎ)、九条ねぎ、下仁田ねぎ、赤ねぎ、芽ねぎ、などが挙げられる。また、具体的なタマネギとしては、例えば、黄玉ねぎ、白玉ねぎ、赤玉ねぎ、ミニ玉ねぎなどが挙げられる。更には、あさつき(A.schoenoprasum var. foliosum)、わけぎ(Allium x wakegi)、リーキ(All
ium ampeloprasum L.)などのネギ属にも施用可能である。中でも、本発明におけるネギ科植物としては、ネギ(Allium fistulosum)が好ましい。
【0017】
本発明におけるネギ科植物は、育苗用プラグトレイにおいて、種子または苗から栽培される。育苗用プラグトレイ内の育苗用培土には前述のものを用いるとよい。育苗用プラグトレイにネギ科植物を種子から栽培する場合は、適宜間引きをしながら、通常、約15~30℃の温度範囲で栽培する。ネギ科植物の種子を播種した後、約45~65日間栽培することにより、ネギ科植物における移植用の健苗を得ることができる。移植後のネギ科植物の栽培については、通常の栽培方法(例えば、非特許文献3を参照)に従って行えばよく、格別の操作は必要としない。
【0018】
本発明においては、前記の病害防除剤を含有する製剤をそのまま、または水などで適宜希釈し、もしくは懸濁させた形態で、病害防除効果発現に有効な量を、育苗用プラグトレイ内の苗および/または培土へ灌注処理することにより、所望の病害防除効果を発現させることができる。処理時期としては、育苗用プラグトレイ内の培土へネギ科植物の種子を播種前から、播種後のある程度の日数後など、生育した苗を本圃に移植する前までの期間であれば、いずれの時期に処理しても所望の病害防除効果を得ることができる。上記期間内であれば、ネギ科植物の種類によって適宜最良の時期を選択すればよい。中でも、長期的に病害防除効果を得るためには、育苗用プラグトレイから苗を本圃に移植する、21日前~移植当日の期間内が好ましく、更に移植する14日前~移植当日の期間内が好ましく、特に移植する7日前~移植当日の期間内が好ましい。ここで、本発明における本圃に移植する「0日前」とは、本圃に移植する当日を意味する。詳しくは、育苗用プラグトレイの苗に病害防除剤を灌注処理し、その当日に本圃に移植することを意味するものである。ただし、育苗用プラグトレイの苗に病害防除剤を灌注処理することなく、本圃に移植した当日に、移植した苗に病害防除剤を灌注処理することを意味するものではない。
【0019】
本発明における、育苗用プラグトレイへの病害防除剤の有効成分の施用量は、ネギの種類や生育状況、剤型、または施用のタイミングなど、必要に応じて加減することができ、特に限定されないが、通常、育苗用プラグトレイ1個当たり(総培土量2,500~6,000mL/トレイ、もしくは散布面積で0.14~0.20m2/トレイ)、0.01~10g程度であり、特に、0.05~5g程度が好ましい。例えば、育苗用プラグトレイへのピラジフルミド、またはペンチオピラドの有効成分の施用量としては、育苗用プラグトレイ1個当たり(総培土量2,500~6,000mL/トレイ、もしくは散布面積で0.14~0.20m2/トレイ)、0.01~10g程度であり、0.05~5g程度が好ましく、0.1~3g程度が更に好ましく、0.2~2g程度が特に好ましい。
【0020】
本発明の防除方法で防除可能なネギ科植物の病害としては、萎凋病(Fusarium oxysporum f.sp.cepae)、苗立枯病(Rhizoctonia solani)、萎黄病(Phytoplasma)、黄斑病(Heterosporium allii)、黒腐菌核病(Sclerotium cepivorum)、黒渋病(Mycosphaerella allicina)、黒斑病(Alternaria porri)、小菌核腐敗病(Botrytis squamosa)、さび病(Puccinia allii)、白絹病(Sclerotium rolfsii)、条斑病(Iris yellow spot virus)、灰色かび病(Botrytis spp.)、葉枯病(Pleospora herbarum)、紅色根腐病(Pyrenochaeta terrestris)等が挙げられ、中でも黒腐菌核病(Sclerotium cepivorum)、小菌核腐敗病(Botrytis squamosa)の防除に好適であり、特に黒腐菌核病(Sclerotium cepivorum)の防除に優れている。
【0021】
本発明における病害防除剤は、防除対象生物、防除適期の拡大のため、或いは薬量の低減をはかる目的で施用場面に応じて他の農業用または園芸用殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、殺菌剤、生物農薬、除草剤、植物成長調節剤、薬害軽減剤、土壌改良剤、肥料などと混合して施用することも可能である。
【実施例0022】
本発明の有用性を以下の実施例において具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0023】
<実施例1>ネギ(Allium fistulosum)の育苗用プラグトレイ灌注処理による黒腐菌核病の防除効果1
播種44日後のネギの入った育苗用プラグトレイ(セルトレイ)に、所定薬量のピラジフルミドを有効成分とするフロアブル(20重量%含有)の所定の希釈液(100倍希釈液)を、本圃に移植する直前に灌注処理(500mL/育苗用プラグトレイ)した。前作で黒腐菌核病害が甚発生した本圃(面積4.0m2(1畝×4.0m))に移植後、約7.5か月後に160株を堀上げ、発病指数別(0:健全、1:葉鞘部にわずかに菌核の着生を認める、2:盤茎部が黒変し、菌核も無数に着生、3:軟化腐敗または枯死)に調査し、発病株率、発病度を算出した。発病度は式1に従って計算し、式2に従って防除価を
算出した。
【0024】
(式1)
発病度 ={Σ(発病指数×発病指数別発病株数)/(3×調査株数)}×100
【0025】
(式2)
防除価(%) =100 -(処理区の発病度/無処理区の発病度)×100
【0026】
<比較例1>ネギの慣行防除(移植後散布処理)による黒腐菌核病の防除効果1
育苗用プラグトレイにて育成した播種44日後のネギ苗を、前作で黒腐菌核病害が甚発生した本圃に移植し、移植44日後および71日後の2回、ピラジフルミドを有効成分とするフロアブル(20重量%含有)の所定の希釈量(2000倍希釈液)を、肩掛け式噴霧器で散布処理(300L/10a)した。実施例1と同様に、7.5か月後に296株を堀上げ、発病指数別(0:健全、1:葉鞘部にわずかに菌核の着生を認める、2:盤茎部が黒変し、菌核も無数に着生、3:軟化腐敗または枯死)に調査し、発病株率、発病度を算出した。実施例1と同様に、発病度は式1に従って計算し、式2に従って防除価を算出した。実施例1、比較例1の防除価の結果を表1に併せ示す。
なお、無処理区は、育苗用プラグトレイにて育成した播種44日後のネギ苗を本圃に移植した後、7.5か月後に156株を堀上げ、発病指数別(0:健全、1:葉鞘部にわずかに菌核の着生を認める、2:盤茎部が黒変し、菌核も無数に着生、3:軟化腐敗または枯死)に調査し、発病株率、発病度を算出した。
【0027】
【0028】
表1の結果より、育苗用プラグトレイへのピラジフルミドの移植前灌注処理は、無処理区および慣行防除である移植後散布処理と比較して、高い防除効果を示すと共に、7.5か月にわたる長期の残効性が認められた。ネギ科植物は、本圃への移植後概略8か月までには収穫されることからも、本発明は、移植後から収穫期に至るまで長期にわたり優れた病害防除効果を発揮することが明らかとなった。
【0029】
<実施例2>ネギ(Allium fistulosum)の育苗用プラグトレイ灌注処理による黒腐菌核病の防除効果2
播種66日後のネギの入った育苗用プラグトレイ(セルトレイ)に、所定薬量のピラジフルミドを有効成分とするフロアブル(20重量%含有)の所定の希釈液(150倍希釈液)を、本圃に移植する直前または移植14日前に灌注処理(500mL/育苗用プラグトレイ)した。前作で黒腐菌核病害が甚発生した本圃(面積0.9m2(0.15m畝×2.0m×3区))に移植後、約5か月後に60株を堀上げ、発病指数別(0:発病無し、1:生育不良、2:菌核の着生が全体の1/4未満、3:菌核の着生が全体の1/4~1/2未満、4:菌核の着生が全体の1/2~3/4未満、5:菌核の着生が全体の3/4以上、6:枯死)に調査し、発病株率、発病度を算出した。発病度は下記式3に従って計算し、上記式2に従って防除価を算出した。
【0030】
(式3)
発病度 ={Σ(発病指数×発病指数別発病株数)/(6×調査株数)}×100
【0031】
<比較例2>ネギの慣行防除(移植後株元灌注)による黒腐菌核病の防除効果2
育苗用プラグトレイにて育成した播種66日後のネギ苗を、前作で黒腐菌核病害が甚発生した本圃に移植し、移植当日または移植31日後に、ピラジフルミドを有効成分とするフロアブル(20重量%含有)の所定の希釈量(250倍希釈液)を、株元灌注処理(300L/10a)した。実施例2と同様に、4か月後に60株を堀上げ、発病指数別(0:発病無し、1:生育不良、2:菌核の着生が全体の1/4未満、3:菌核の着生が全体の1/4~1/2未満、4:菌核の着生が全体の1/2~3/4未満、5:菌核の着生が全体の3/4以上、6:枯死)に調査し、発病株率、発病度を算出した。
実施例2と同様に、発病度は式3に従って計算し、式2に従って防除価を算出した。実施例2、比較例2の防除価の結果を表2に併せ示す。
なお、無処理区は、育苗用プラグトレイにて育成した播種66日後のネギ苗を本圃に移植した後、4か月後に100株を堀上げ、発病指数別(0:発病無し、1:生育不良、2:菌核の着生が全体の1/4未満、3:菌核の着生が全体の1/4~1/2未満、4:菌核の着生が全体の1/2~3/4未満、5:菌核の着生が全体の3/4以上、6:枯死)に調査し、発病株率、発病度を算出した。
【0032】
【0033】
表2の結果より、育苗用プラグトレイへのピラジフルミドの移植前灌注処理は、無処理区および慣行防除である株元灌注処理と比較して、高い防除効果を示すと共に、5か月にわたる長期の残効性が認められた。特に、本発明の移植前灌注処理は、比較例の株元灌注処理に比べて、1株当たりの薬量が少ないにも関わらず、極めて優れた防除効果を発揮することが確認された。
これらの結果より、本発明は、移植後から収穫期に至るまで長期にわたり優れた病害防除効果を発揮することが明らかとなった。
【0034】
<実施例3>ネギ(Allium fistulosum)の育苗用プラグトレイ灌注処理による黒腐菌核病の防除効果3
播種66日後のネギの入った育苗用プラグトレイ(セルトレイ)に、所定薬量のペンチオピラドを有効成分とするフロアブル(20重量%含有)の所定の希釈液(150倍希釈液)を、本圃に移植する直前または移植14日前に灌注処理(500mL/育苗用プラグトレイ)した。前作で黒腐菌核病害が甚発生した本圃(面積0.9m2(0.15m畝×2.0m×3区))に移植後、約5か月後に60株を堀上げ、発病指数別(0:発病無し、1:生育不良、2:菌核の着生が全体の1/4未満、3:菌核の着生が全体の1/4~1/2未満、4:菌核の着生が全体の1/2~3/4未満、5:菌核の着生が全体の3/4以上、6:枯死)に調査し、発病株率、発病度を算出した。発病度は式3に従って計算し、式2に従って防除価を算出した。
【0035】
<比較例3>ネギの慣行防除(移植後株元灌注)による黒腐菌核病の防除効果3
育苗用プラグトレイにて育成した播種66日後のネギ苗を、前作で黒腐菌核病害が甚発生した本圃に移植し、移植当日または移植31日後に、ペンチオピラドを有効成分とするフロアブル(20重量%含有)の所定の希釈量(250倍希釈液)を、株元灌注処理(300L/10a)した。実施例3と同様に、約4か月後に60株を堀上げ、発病指数別(0:発病無し、1:生育不良、2:菌核の着生が全体の1/4未満、3:菌核の着生が全体の1/4~1/2未満、4:菌核の着生が全体の1/2~3/4未満、5:菌核の着生が全体の3/4以上、6:枯死)に調査し、発病株率、発病度を算出した。
実施例3と同様に、発病度は式3に従って計算し、式2に従って防除価を算出した。実施例3、比較例3の防除価の結果を表3に併せ示す。
なお、無処理区は、育苗用プラグトレイにて育成した播種66日後のネギ苗を本圃に移植した後、4か月後に100株を堀上げ、発病指数別(0:発病無し、1:生育不良、2:菌核の着生が全体の1/4未満、3:菌核の着生が全体の1/4~1/2未満、4:菌核の着生が全体の1/2~3/4未満、5:菌核の着生が全体の3/4以上、6:枯死)に調査し、発病株率、発病度を算出した。
【0036】
【0037】
表3の結果より、育苗用プラグトレイへのペンチオピラドの移植前灌注処理は、無処理区および慣行防除である株元灌注処理と比較して、良好な防除効果を示すことが明らかとなった。特に、本発明の移植前灌注処理は、比較例の株元灌注処理に比べて、1株当たりの薬量
が少ないにも関わらず、優れた防除効果を発揮することが確認された。
これらの結果から、本発明の移植前灌注処理と慣行防除を組み合わせることにより、病害防除回数を低減した省力的防除方法を提供できることが明らかとなった。
【0038】
<実施例4>ネギ(Allium fistulosum)の育苗用プラグトレイ灌注処理による黒腐菌核病の防除効果4
播種66日後のネギの入った育苗用プラグトレイ(セルトレイ)に、所定薬量のイソフェタミドを有効成分とするフロアブル(36重量%含有)の所定の希釈液(150倍希釈液)を、本圃に移植する直前に灌注処理(500mL/育苗用プラグトレイ)した。前作で黒腐菌核病害が甚発生した本圃(面積0.9m2(0.15m畝×2.0m×3区))に移植後、約5か月後に60株を堀上げ、発病指数別(0:発病無し、1:生育不良、2:菌核の着生が全体の1/4未満、3:菌核の着生が全体の1/4~1/2未満、4:菌核の着生が全体の1/2~3/4未満、5:菌核の着生が全体の3/4以上、6:枯死)に調査し、発病株率、発病度を算出した。発病度は式3に従って計算し、式2に従って防除価を算出した。
【0039】
<比較例4>ネギの慣行防除(移植後株元灌注)による黒腐菌核病の防除効果4
育苗用プラグトレイにて育成した播種66日後のネギ苗を、前作で黒腐菌核病害が甚発生した本圃に移植し、移植当日に、イソフェタミドを有効成分とするフロアブル(36重量%含有)の所定の希釈量(250倍希釈液)を、株元灌注処理(300L/10a)した。実施例4と同様に、約4か月後に60株を堀上げ、発病指数別(0:発病無し、1:生育不良、2:菌核の着生が全体の1/4未満、3:菌核の着生が全体の1/4~1/2未満、4:菌核の着生が全体の1/2~3/4未満、5:菌核の着生が全体の3/4以上、6:枯死)に調査し、発病株率、発病度を算出した。
実施例4と同様に、発病度は式3に従って計算し、式2に従って防除価を算出した。実施例4、比較例4の防除価の結果を表4に併せ示す。
なお、無処理区は、育苗用プラグトレイにて育成した播種66日後のネギ苗を本圃に移植した後、4か月後に100株を堀上げ、発病指数別(0:発病無し、1:生育不良、2:菌核の着生が全体の1/4未満、3:菌核の着生が全体の1/4~1/2未満、4:菌核の着生が全体の1/2~3/4未満、5:菌核の着生が全体の3/4以上、6:枯死)に調査し、発病株率、発病度を算出した。
【0040】
【0041】
表4の結果より、育苗用プラグトレイへのイソフェタミドの移植前灌注処理は、無処理区および慣行防除である株元灌注処理と比較して、良好な防除効果を示すことが明らかとなった。特に、本発明の移植前灌注処理は、比較例の株元灌注処理に比べて、1株当たりの薬量が少ないにも関わらず、優れた防除効果を発揮することが確認された。
これらの結果から、本発明の移植前灌注処理と慣行防除を組み合わせることにより、病害防除回数を低減した省力的防除方法を提供できることが明らかとなった。