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特開2024-38321軟磁性合金粉及びその製造方法、並びに軟磁性合金粉から作られるコイル部品及びそれを載せた回路基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038321
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】軟磁性合金粉及びその製造方法、並びに軟磁性合金粉から作られるコイル部品及びそれを載せた回路基板
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20240312BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240312BHJP
   H01F 1/33 20060101ALI20240312BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20240312BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20240312BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20240312BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240312BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240312BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240312BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240312BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F1/147 191
H01F1/147
H01F1/33
H01F17/04 F
H01F37/00 A
B22F1/14 650
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
C22C38/00 303T
B22F1/05
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002243
(22)【出願日】2024-01-11
(62)【分割の表示】P 2019207605の分割
【原出願日】2019-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2019036937
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】織茂 洋子
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 伸介
(57)【要約】
【課題】充填率を高くできる軟磁性金属粉を提供する。
【解決手段】構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含む軟磁性合金粉であって、合金粉を構成する各粒子の表面に、構成元素としてSiに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含み、含有するこれらの元素の質量割合が合金部分に比べて高く、かつ質量割合で表したSiの含有量がCr及びAlの合計よりも多い酸化膜を備える軟磁性合金粉とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素としてFe、Si、及びAlを含む軟磁性合金粉であって、
合金粉を構成する各粒子の表面に、
構成元素としてSiに加えてAlを含み、
含有するこれらの元素の質量割合が粒内の合金部分に比べて高く、かつ
質量割合で表したSiの含有量がCr及びAlの合計よりも多い
酸化膜を備え、
前記合金部分の組成が、Siを1~10質量%、Alを0.2~1質量%含有し、残部がFe及び不可避不純物である
ことを特徴とする、軟磁性合金粉。
【請求項2】
比表面積S(m/g)と平均粒径D50(μm)とが、下記式(1)を満たす、請求項1に記載の軟磁性合金粉。
【数1】
【請求項3】
前記酸化膜の最表面におけるSi/Cr質量比又はSi/Al質量比が1~10である、請求項1又は2に記載の軟磁性合金粉。
【請求項4】
構成元素としてFe、Si及びAlを含み、質量割合で表したSiの含有量がCr及びAlの合計よりも多く、Siを1~10質量%、Alを0.2~1質量%含有し、残部がFe及び不可避不純物である軟磁性合金の原料粉を、酸素濃度が5ppm~50ppmの雰囲気中にて、600℃以上の温度で熱処理することを特徴とする、軟磁性合金粉の製造方法。
【請求項5】
構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlを含み、質量割合で表したSiの含有量がCr及びAlの合計よりも多い軟磁性合金の原料粉を構成する粒子の表面に、Si含有化合物を付着させ、酸素濃度が5ppm~500ppmの雰囲気中にて、600℃以上の温度で熱処理することを特徴とする、軟磁性合金粉の製造方法。
【請求項6】
前記原料粉の組成が、Siを1~10質量%、Cr又はAlを合計で0.2~2質量%含有し、残部がFe及び不可避不純物である、請求項5に記載の軟磁性合金粉の製造方法。
【請求項7】
前記原料粉の組成が、Siを1~10質量%、Alを0.2~1質量%含有し、残部がFe及び不可避不純物であり、
前記熱処理雰囲気中の酸素濃度が50ppm以下である、請求項5又は6に記載の軟磁性合金粉の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理を、
原料粉を構成する各粒子の最表面における、質量%で表示したSi、Cr及びAl濃度をそれぞれ[Si原料粉]、[Cr原料粉]及び[Al原料粉]とし、
軟磁性合金粉を構成する各粒子の最表面における、質量%で表示したSi、Cr及びAl
濃度をそれぞれ[Si合金粉]、[Cr合金粉]及び[Al合金粉]とした場合に、
{([Cr合金粉]+[Al合金粉])/([Cr原料粉]+[Al原料粉])}
>([Si合金粉]/[Si原料粉])
となるように行う、請求項4~7のいずれか1項に記載の軟磁性合金粉の製造方法。
【請求項9】
金属導体で構成されたコイル部と、軟磁性合金粒子を含む磁性基体とを含むコイル部品であって、
前記軟磁性合金粒子が、
構成元素としてFe、Si及びAlを含むと共に、
その表面に、
構成元素としてSiに加えてAlを含み、
含有するこれらの元素の質量割合が粒内の合金部分に比べて高く、かつ
質量割合で表したSiの含有量がCr及びAlの合計よりも多い
酸化膜を備え、
前記合金部分の組成が、Siを1~10質量%、Alを0.2~1質量%含有し、Crを含有する場合、Crを0.5~5質量%含有し、残部がFe及び不可避不純物である
ことを特徴とする、コイル部品。
【請求項10】
前記磁性基体が、さらに樹脂を含み、
前記コイル部が、当該磁性基体中に内蔵されてなる、
請求項9に記載のコイル部品。
【請求項11】
前記磁性基体が、さらに樹脂を含み、
前記コイル部が、当該磁性基体に巻き回されてなる、
請求項9に記載のコイル部品。
【請求項12】
前記磁性基体が、前記軟磁性合金粒子同士の前記酸化膜を介した結合により形成されており、
前記コイル部が、当該磁性基体中に内蔵されてなる、
請求項9に記載のコイル部品。
【請求項13】
前記磁性基体が、前記軟磁性合金粒子同士の前記酸化膜を介した結合により形成されており、
前記コイル部が、当該磁性基体に巻き回されてなる、
請求項9に記載のコイル部品。
【請求項14】
請求項9~13のいずれか1項に記載のコイル部品を載せた回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性合金粉及びその製造方法、並びに軟磁性合金粉から作られるコイル部品及びそれを載せた回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大きな電流が通電される用途等のコイル部品には、小型化に加えてさらなる大電流化が求められている。大電流化のためには、電流に対して磁気飽和しにくい磁性材料を用いてコアを構成する必要があることから、磁性材料として、フェライト系に代えて鉄系の金属磁性材料が用いられるようになってきている。
【0003】
特に、小型のコイル部品を形成するためには、粉末状の軟磁性金属材料の充填率を高くすることから、アトマイズ粉が使用されることが多い。これは、アトマイズ粉が、溶融した金属の細流に水や不活性ガス等の流体を吹き付けて飛散・凝固させて得られる粉末であるため、比較的球形状に近い粒子であり、また粒子の大きさが小さいことによる。
【0004】
ところで、粉末状の軟磁性金属材料は、粉末を構成する個々の粒子自体の絶縁抵抗が低いことから、絶縁性を付与する目的で、これを構成する各粒子の表面を絶縁膜で覆って用いられることが多い。
【0005】
軟磁性金属粉を構成する各粒子の表面に絶縁膜を形成する方法としては、粒子表面に皮膜となる材料を付着させる方法が知られている。例えば、特許文献1では、チタンアルコキシド類とシリコンアルコキシド類とを含む処理液で軟磁性金属粉末をコーティングして、これらの重合物からなる皮膜を形成することが報告されている。
【0006】
また、軟磁性金属粉を構成する各粒子の表面に絶縁膜を形成する他の方法としては、粉末表面に酸化処理を施すことが知られている(特許文献2)。
こうした酸化処理の具体的な方法として、平均粒径を100μmとなるように調製したFe-1%Siアトマイズ合金粒子を、窒素ガスに水蒸気を混入して相対湿度100%(常温)とした非常に低い酸素濃度の雰囲気中で450℃にて2時間酸化反応させて、結果として粒子表面に膜厚5nmのSiO酸化膜を形成することが報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-182040号公報
【特許文献2】特許第6439884号公報
【特許文献3】特開2006-49625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、コイル部品は、使用される周波数が高くなる傾向にあることから、これを構成する粉末状の軟磁性金属材料の微粉化が進んでいる。このため、平均粒径が5μm以下といった微粉末が使用されることも増えている。このような微粒子で構成される軟磁性金属粉においても、充填率が高く、また充填率を高くしたことによる絶縁低下を防ぐことが必要となっている。
【0009】
しかし、従来の軟磁性金属粉は、上述したアトマイズ粉であっても、微粉化した場合に凝集し易く、このため、通常の処理では高い充填率を得ることが困難であった。これを補うため、例えば、成形時に高い圧力を掛ける等の特別な処理が必要であり、磁性体の製造に手間がかかる問題があった。さらに、成形時に高い圧力をかけた場合には、軟磁性金属粒子の変形により表面に形成した絶縁膜が破壊され、絶縁性が低下する場合があることも問題であった。
【0010】
そこで本発明は、前述の問題点を解決し、充填率を高くできる軟磁性金属粉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前述の問題点を解決するために種々の検討を行ったところ、軟磁性金属粉の組成を特定のものにするとともに、該金属粉を構成する各粒子の表面に、特定の組成を有する酸化膜を形成することで、該問題点を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の第1の実施形態は、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含む軟磁性合金粉であって、合金粉を構成する各粒子の表面に、構成元素としてSiに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含み、含有するこれらの元素の質量割合が粒内の合金部分に比べて高く、かつ質量割合で表したSiの含有量がCr及びAlの合計よりも多い酸化膜を備えることを特徴とする、軟磁性合金粉である。
【0013】
また、本発明の第2の実施形態は、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含み、質量割合で表したSiの含有量がCr及びAlの合計よりも多い軟磁性合金の原料粉を、酸素濃度が5ppm~500ppmの雰囲気中にて、600℃以上の温度で熱処理することを特徴とする、軟磁性合金粉の製造方法である。
【0014】
また、本発明の第3の実施形態は、金属導体で構成されたコイル部と、軟磁性合金粒子を含む磁性基体とを含むコイル部品であって、前記軟磁性合金粒子が、第1実施形態に係る軟磁性合金粉を構成する軟磁性合金粒子であるコイル部品である。
【0015】
さらに、本発明の第4の実施形態は、第3実施形態に係るコイル部品を載せた回路基板である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、充填率を高くできる軟磁性合金粉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る軟磁性合金粉における粒子形状の例の説明図
図2】本発明の実施形態に係るコンポジットコイル部品の構造例の説明図
図3】本発明の実施形態に係る巻線コイル部品の構造例の説明図((a):全体斜視図、(b):(a)におけるA-A断面図)
図4】本発明の実施形態に係る積層コイル部品の構造例の説明図((a):全体斜視図、(b):(a)におけるB-B断面図)
図5】本発明の実施形態に係る薄膜コイル部品の構造例の説明図
図6】本発明の実施形態に係る軟磁性合金粉(実施例1)及び本発明の要件を満たさない軟磁性合金粉(比較例1)における、各元素の濃度分布の測定結果(実線:実施例1、点線:比較例1)
図7】本発明の実施形態に係る軟磁性合金粉(実施例1)及び本発明の要件を満たさない軟磁性合金粉(比較例1)における、Si/Cr質量比の分布の算出結果(実線:実施例1、点線:比較例1)
図8】本発明の実施形態に係る軟磁性合金粉(実施例1~6)及び本発明の要件を満たさない軟磁性合金粉(比較例1~6)について、比表面積S(m/g)の常用対数及び平均粒径D50(μm)の常用対数の関係を示すグラフ(黒塗りの円-実線:実施例1~6、白抜きの三角形-点線:比較例1~6)
図9】本発明の実施形態に係る軟磁性合金粉(実施例7)における、Si/Al質量比の分布の算出結果(実線:比較例7、点線:原料粉)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0019】
[軟磁性合金粉]
本発明の第1の実施形態に係る軟磁性合金粉(以下、単に「第1実施形態」と記載することがある。)は、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含む。そして、合金粉を構成する各粒子の表面には、構成元素としてSiに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含み、含有するこれらの元素の質量割合が粒内の合金部分に比べて高く、かつ質量割合で表したSiの含有量がCr及びAlの合計よりも多い酸化膜を備える。第1実施形態に係る軟磁性合金粉における粒子形状の例を、図1に模式的に示す。
【0020】
本発明者の検討により、従来の軟磁性金属粉では、これを構成する各粒子の表面が、絶縁層の形成ないし自然酸化によって微細な凹凸を有している可能性が見出された。このため、粒子形状が球形であっても、該凹凸に起因する粒子間の大きな摩擦により流動性が不十分となり、高い充填率を得ることが困難であったと考えられる。
これに対し、前述の第1実施形態では、粒子表面の酸化膜がSiに富むことで、ガラスのような微細組織を有する滑らかな表面となり、流動性に優れるものと考えられる。しかも該酸化膜中のCr又はAlの質量割合が合金部分に比べて高いことで、自然酸化が抑制されて酸化膜の構造が保たれるため、環境変化等があっても、この表面状態を維持することができる。
これに加えて、第1実施形態では、前述の特徴を有する酸化膜によって粒子表面の静電気が抑制され、粒子同士が凝集しにくくなることも、流動性に寄与していると考えられる。
【0021】
第1実施形態は、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含む。
軟磁性合金粉における合金部分の組成は、前述した要件を満たすものであれば特に限定されず、例えば、Siは1質量%~10質量%含有され、Crを含有する場合Crは0.5~5質量%含有され、Alを含有する場合Alは0.2~3質量%含有され、残部はFe及び不可避不純物であるものが挙げられる。合金部分でのCr又はAlの偏析を抑制して特に優れた磁気特性を得るためには、Cr又はAlの量は合計で4質量%以下とすることが好ましく、2質量%以下とすることがより好ましい。さらに、合金部分がAlを含む場合には、AlがCrに比べて粒子表面で酸化し易いことから、その含有量を1質量%以下とすることが特に好ましい。なお、合金部分が前記した以外の元素を含むものであってもよいことは言うまでもない。
【0022】
軟磁性合金粉の粒径も特に限定されず、例えば、体積基準で測定した粒度分布から算出される平均粒径(メジアン径(D50))を0.5μm~30μmとすることができる。平均粒径は、1μm~10μmとすることが好ましい。この平均粒径は、例えば、レーザー回折/散乱法を利用した粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0023】
第1実施形態は、合金粉を構成する各粒子の表面に、構成元素としてSiに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含み、含有するこれらの元素の質量割合が粒内の合金部分に比べて高い酸化膜を備える。酸化膜が合金部分よりもSiを多く含むことで、膜自体の絶縁性を高くすることができる。これに加えて、酸化膜表面の平滑性が高くなるため、微細な凹部に起因する絶縁性の低下が生じにくく、薄い厚みで十分な絶縁性が得られると共に、軟磁性合金粉の流動性が向上する。また、酸化膜が合金部分よりもCr又はAlを多く含むことで、合金部分への酸素の到達による合金部分のさらなる酸化が抑制され、膜の安定性が向上する。
このような酸化膜の存在により、第1実施形態を用いた磁性体(コア)、巻線部品、積層部品の絶縁を高くすることができる。
【0024】
ここで、合金部分及び酸化膜における各元素の質量割合は、以下の方法で測定する。X線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ株式会社製 PHI Quantera II)を用いて、軟磁性合金粉を構成する粒子表面における鉄(Fe)、ケイ素(Si)、酸素(O)、クロム(Cr)及びアルミニウム(Al)の含有割合(原子%)の測定と、該粒子表面のスパッタリングとを繰り返すことで、粒子の深さ方向(径方向)における各元素の分布を得る。各元素の含有割合の測定は、X線源として単色化したAlKα線を用い、検出領域を100μmφとして、深さ5nm毎に行う。また、スパッタリングの条件は、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)を用い、印加電圧を2.0kVとし、スパッタ速度を約5nm/min(SiOに換算した値)とする。測定により得られたFeの濃度分布(原子%)において、粒子の表面側から見た際に、測定点間の濃度差が初めて1原子%未満となった該測定点間を、合金部分と酸化膜との境界とする。そして、該境界より浅い領域である酸化膜及びこれより深い領域である合金部分について、各元素の質量割合(mass%)を算出する。なお、軟磁性合金粉の組成が既知である場合には、当該既知の組成に基づいて算出された各元素の質量割合を、合金部分における各元素の質量割合としてもよい。
【0025】
第1実施形態は、酸化膜における質量割合で表したSiの含有量が、Cr及びAlの合計よりも多い。酸化膜がSiに富むことで、ガラスのような微細組織を有する滑らかな表面となり、これを備える粒子で構成された軟磁性合金粉が流動性に優れたものとなる。
酸化膜に存在するSiの割合は、軟磁性合金粉のSiの組成比率を高めたり、熱処理温度を低くしたりすることで、高めることができる。
【0026】
前述の酸化膜は、最表面におけるCr及びAlの合計質量に対するSiの質量の比率(Si/(Cr+Al))が1~10であることが好ましい。前記比率が1以上であると、微細な凹凸がより少ない、より滑らかな表面を有する膜となる。他方、前記比率が10以下であると、過剰な酸化が抑制され、酸化膜は薄くとも、膜の安定性がより向上する。前記比率は、8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。これにより、熱処理を加えるようなことがあっても、この表面状態を維持することができる。
【0027】
ここで、酸化膜の最表面におけるCr及びAlの合計質量に対するSiの質量の比率(Si/(Cr+Al))は、前述した合金部分及び酸化膜における各元素の質量割合の測定において、スパッタリングを行う前に(初回に)測定されたデータから算出する。
【0028】
第1実施形態においては、比表面積S(m2/g)と平均粒径D50(μm)との関係が下記式(1)を満たすことが好ましい。
【0029】
【数1】
【0030】
この式は、比表面積S(m/g)の常用対数と平均粒径D50(μm)の常用対数とが直線関係になるという経験則に基づいて導出されたものである。粉末の比表面積の値は、これを構成する粒子表面の凹凸に加えて、該粒子の粒径の影響も受けるため、比表面積の値が小さい粉末であれば表面の凹凸の少ない滑らかな粒子で構成されているとはいえない。そこで、第1実施形態では、前記式(1)により、比表面積に対する粒子の酸化膜の表面状態の影響と粒径の影響とを分離し、前者の影響で小さな比表面積を有する軟磁性合金粉を、凹凸の少ない滑らかな表面を有するものとしたのである。SとD50との関係が前記式(1)を満たすことで、より流動性に優れる粉末となる。
比表面積S(m/g)は、粒子表面の酸化膜に存在するSiの割合を増やし、酸化膜表面の凹凸を少なくすることで、より小さくすることがでる。表面凹凸の少ない酸化膜によれば、薄い膜厚で絶縁を維持することができるため好ましい。粒子表面の酸化膜に存在するSiの割合は、上述したとおり、軟磁性合金粉のSiの組成比率を高めたり、熱処理温度を低くしたりすることで、高めることができる。具体的には比表面積S(m/g)と平均粒径D50(μm)との関係は、下記式(2)を満たすことがより好ましく、下記式(3)を満たすことがさらに好ましい。
【0031】
【数2】
【0032】
【数3】
【0033】
ここで、比表面積Sは、全自動比表面積測定装置(株式会社マウンテック製 Macsorb)により、窒素ガス吸着法を用いて測定・算出する。まず、ヒーター内で測定試料を脱気した後、測定試料に窒素ガスを吸着・脱離させることにより吸着窒素量を測定する。次いで、得られた吸着窒素量から、BET1点法を用いて単分子層吸着量を算出し、この値から、1個の窒素分子が占める面積及びアボガドロ数の値を用いて試料の表面積を導出する。最後に、得られた試料の表面積を該試料の質量で除すことで、粉末の比表面積Sを得る。
【0034】
また、平均粒径D50は、レーザー回折/散乱法を利用した粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製 LA-950)により測定・算出する。まず、湿式フローセル中に分散媒としての水を入れ、事前に十分に解砕した粉末を、適切な検出信号が得られる濃度で該セル中に投入して粒度分布を測定する。次いで、得られた粒度分布におけるメジアン径を算出し、この値を平均粒径D50とする。
【0035】
第1実施形態においては、酸化膜の最表面におけるSiの質量割合が、合金部分の5倍以上であり、かつ酸化膜の最表面におけるCr又はAlの質量割合が、合金部分の3倍以上であることが好ましい。このような質量割合とすることで、より優れた流動性が得られる。
【0036】
また、第1実施形態においては、Si、Cr及びAlのうち、合金部分に含まれる全元素が、酸化膜全体に含有されることが好ましい。これらの元素が酸化膜全体に含有されることは、合金部分の成分の拡散により酸化膜が形成されたことを示すものといえる。該過程を経て酸化膜が形成された軟磁性合金粉は、これを構成する粒子内で、各元素の分布が粒子内部から粒子の外周面に掛けて連続しているため、粒子内部に生じる応力を小さくできる。これにより、粒子自体の透磁率の低下を抑制できる。
【0037】
ここで、Si、Cr及びAlのうち、合金部分に含まれる全元素が、酸化膜全体に含有されることは、上述した合金部分及び酸化膜における各元素の質量割合の測定によって得られる、深さ方向(径方向)の各元素の分布において、酸化膜とされた領域に位置する全測定点で、該各元素が全て検出されることで確認できる。
【0038】
Si、Cr及びAlのうち、合金部分に含まれる全元素が、酸化膜全体に含有される軟磁性合金粒子を得るためには、後述するように、軟磁性合金の原料粉を低酸素雰囲気中(概ね5ppm~500ppm以下)で熱処理することが有効である。このような酸化雰囲気とすることで、急激な酸化反応は抑制される。これにより、Feより酸化し易い元素を選択的に酸化させることができる。特に、Feより酸化し易い元素として、Siの酸化を進めることができる。また、これ以上低い酸素雰囲気とした場合には、同じような酸化反応は得られるものの、熱処理の時間が長時間必要となり、また酸素の供給される範囲が限定的となり易く、粒子同士の接触の有無による酸化反応のバラツキの原因となってしまう。このためにも、前述のような低酸素雰囲気とすることが好ましい。
【0039】
さらに、第1実施形態では、酸化膜の厚みが10nm~50nmであることが好ましい。酸化膜の厚みを10nm以上とすることで、合金部分の微細な凹凸を覆って平滑な表面を形成することができる。また、高い絶縁性を得ることができる。酸化膜の厚みは、20nm以上とすることがより好ましい。このようにすることで、酸化膜表面のSiの比率をより高めることができる。また、磁性体を形成する際に、圧力を掛ける圧縮成形で酸化膜の欠陥が生じた場合であっても、絶縁性を維持することができる。他方、酸化膜の厚みを50nm以下とすることで、膜厚の不均一による粒子表面の平滑性の低下を抑制できる。また、磁性体を形成した際に、高い透磁率が得られる。酸化膜の厚みは、40nm以下とすることがより好ましい。
【0040】
ここで、酸化膜の厚みは、軟磁性合金粉を構成する磁性粒子の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)(日本電子株式会社製 JEM-2100F)にて観察し、粒子内部の合金部分とのコントラスト(明度)の差異により認識される酸化膜について、その厚みを、異なる粒子の10箇所で、倍率500,000倍で測定し、平均値を求めることで算出する。
【0041】
[軟磁性合金粉の製造方法]
本発明の第2実施形態に係る軟磁性合金粉の製造方法(以下、単に「第2実施形態」と記載することがある。)は、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含み、質量割合で表したSiの含有量がCr及びAlの合計よりも多い軟磁性合金の原料粉を、酸素濃度が5ppm~500ppmの雰囲気中にて、600℃以上の温度で熱処理することを特徴とする。
【0042】
第2実施形態で使用する原料粉は、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含み、質量割合で表したSiの含有量がCr及びAlの合計よりも多い。
原料粉がCr又はAlの少なくとも一方を含むことで、後述する熱処理において、酸化膜の過剰な形成を抑制できる。これにより酸化膜の膜厚を安定化することが可能になる。
また、原料粉がCr及びAlの合計よりもSiを多く含むことで、後述する熱処理によって、合金粉を構成する各粒子の表面に形成される酸化膜を、Cr及びAlの合計に対するSiの含有量の質量割合が高いものとすることができ、酸化膜の厚みが薄くても絶縁を確保できる。これに加えて、後述する加熱処理時のCr及びAlの酸化を抑制できるため、酸化膜の厚みを薄くすることもできる。さらに、該酸化膜を微細な凹凸の少ないものとすることができ、流動性に優れる粉末が得られる。
Cr及びAlの合計質量とSiの質量との関係は、両者の比率(Si/(Cr+Al))を2より大きくすることが、Cr若しくはAl、又はFeの酸化を抑制できる点で好ましい。これにより、Feの割合が非常に少なく、Siの割合が高い酸化膜を形成することができる。
【0043】
使用する原料粉の組成としては、前述した要件を満たすものであれば特に限定されず、例えば、Siは1質量%~10質量%含有され、Crを含有する場合Crは0.5~5質量%含有され、Alを含有する場合Alは0.2~3質量%含有され、残部はFe及び不可避不純物であるものが挙げられる。粒子表面に形成される酸化膜を、Cr及びAlの合計に対するSiの含有量の質量割合を高いものとするためには、Cr又はAlの量は合計で4質量%以下とすることが好ましい。また、これにより、凹凸がより少なく滑らかなものとすることができる。これに加えて、合金部分でのSiの酸素との反応に対して、Cr又はAlの酸素との反応を相対的に抑制して特に優れた磁気特性を得るためには、Cr又はAlの量は合計で2質量%以下とすることがより好ましい。さらに、合金部分がAlを含む場合には、AlがCrに比べて粒子表面に拡散し易いことから、その含有量を1質量%以下とすることが特に好ましい。なお、合金部分が前記した以外の元素を含むものであってもよいことは言うまでもない。
【0044】
原料粉の粒径も特に限定されず、例えば、体積基準で測定した粒度分布から算出される平均粒径(メジアン径(D50))を0.5μm~30μmとすることができる。平均粒径は、1μm~10μmとすることが好ましい。この平均粒径は、例えば、レーザー回折/散乱法を利用した粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0045】
第2実施形態では、原料粉を、酸素濃度が5ppm~500ppmの雰囲気中で熱処理する。熱処理雰囲気中の酸素濃度を5ppm以上とすることで、原料粉を構成する個々の粒子表面が酸化され、滑らかな表面を有する酸化膜が十分な厚みで形成される。他方、熱処理雰囲気中の酸素濃度を500ppm以下とすることで、Cr及びAlの過度の酸化が抑制され、原料粉を構成する個々の粒子表面にSiに富む滑らかな酸化膜が形成されて、流動性に優れる軟磁性合金粉が得られると共に、該合金粉から製造される磁性体が磁気特性に優れたものとなる。熱処理雰囲気中の酸素濃度は、400ppm以下とすることが好ましく、300ppm以下とすることがより好ましい。また、原料粉がAlを含む場合には、AlがCrに比べて酸化し易いことから、熱処理雰囲気中の酸素濃度を50ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0046】
熱処理温度は、600℃以上とする。熱処理温度を600℃以上とすることで、原料粉を構成する個々の粒子の表面にSi、Cr及びAlの各元素が十分に拡散し、表面が滑らかで安定性の高い酸化膜を形成することができる。熱処理温度は、700℃以上が好ましく、750℃以上がより好ましい。熱処理温度の上限は特に限定されないが、Feの酸化、並びにCr及びAlの過度の酸化を抑制して磁気特性に優れた磁性体を得る点で、900℃以下とすることが好ましく、850℃以下とすることがより好ましく、800℃以下とすることがさらに好ましい。特に、Siの酸化を進めつつ、Feの酸化を抑制できる点から、700℃より高く、850℃より低い温度が好ましい。この場合、絶縁性を確保しつつ、最も酸化膜を薄くすることができる。
【0047】
熱処理温度での保持時間は特に限定されないが、酸化膜を十分な厚みとする点からは、30分以上とすることが好ましく、1時間以上とすることがより好ましい。他方、熱処理を短時間で終わらせて生産性を向上する点からは、熱処理時間を5時間以下とすることが好ましく、3時間以下とすることがより好ましい。
【0048】
第2実施形態によれば、軟磁性合金粉を構成する各粒子の最表面において、含有するSi、Cr及びAlの濃度が熱処理前に比べて増加する。このとき、軟磁性合金原料粉を構成する各粒子の最表面における、質量%で表示したSi、Cr及びAl濃度をそれぞれ[Si原料粉]、[Cr原料粉]及び[Al原料粉]とし、軟磁性合金粉を構成する各粒子の最表面における、質量%で表示したSi、Cr及びAl濃度をそれぞれ[Si合金粉]、[Cr合金粉]及び[Al合金粉]とした場合に、{([Cr合金粉]+[Al合金粉])/[Cr原料粉]+[Al原料粉])}>([Si合金粉]/[Si原料粉])となるように、すなわち、熱処理による粒子最表面のCrとAlの合量の増加割合が、Siの増加割合よりも大きくなるように、熱処理を行うことが好ましい。このように熱処理を行うことで、より安定性の高い酸化膜を備えた軟磁性合金粉を得ることができる。
【0049】
ここで、原料粉及び軟磁性合金粉を構成する粒子の最表面における各元素の濃度は、上述したX線光電子分光分析装置による粒子最表面の分析結果とする。
【0050】
第2実施形態における熱処理は、バッチ処理であってもフロー処理であってもよい。フロー処理の例としては、軟磁性合金の原料粉を入れた複数の耐熱容器をトンネル炉中に断続的ないし連続的に投入し、所定の雰囲気及び温度に保持した領域を所定の時間で通過させる方法が挙げられる。
【0051】
第2実施形態では、前記熱処理に先立って、前記軟磁性合金の原料粉を構成する粒子の表面に、Si含有化合物を付着させてもよい。Si含有化合物の付着により、熱処理した際にSiに富む酸化膜が厚く形成されるため、磁性体を形成した際に隣接する軟磁性合金粒子間の絶縁性が向上し、コアロスを低減できる。
使用するSi含有化合物の種類及びその付着方法は特に限定されないが、原料粉の分散液にテトラエトキシシラン(TEOS)を含む溶液を混合・撹拌した後、固液分離及び乾燥を行う方法が、Si含有化合物を均一に付着でき、熱処理によって滑らかな表面の粒子が得られる点で好ましい。
【0052】
上述した第1実施形態及び第2実施形態によれば、図1に例示するような粒子形状を有する、流動性に優れる軟磁性合金粉が得られる。該軟磁性合金粉は、ハンドリング性に優れることに加えて、嵩密度が大きいため、これを成形して磁性体を製造する際の充填率を高めることができる。また、前記軟磁性合金粉は、表面積が小さいため、樹脂等のバインダと混合した混合物の粘度が低く抑えられ、成形性に優れる混合物とすることができる。さらに、前記軟磁性合金粉の小さな表面積は、プレス成形時の優れた圧力伝達性にもつながることから、プレス圧力を低くでき、特に内部導体を有するコイル部品における導体の損傷防止に有効である。
軟磁性金属粉から製造されるコイル部品のうち、いわゆるコンポジットコイル部品、すなわちコイル部と、該コイル部が埋設されたコア部とを有し、該コア部が軟磁性金属粉と樹脂とを含むものは、第1実施形態及び第2実施形態による前述のメリットが大きいため、磁気特性、耐久性及び信頼性に優れた部品となり、部品の小型化も可能である。また、このようなコイル部品を載せた回路基板の高性能化及び小型化も可能である。そこで、本発明の好ましい態様としてのコイル部品及び回路基板について、第3実施形態及び第4実施形態として以下にそれぞれ説明する。
【0053】
[コイル部品]
本発明の第3実施形態に係るコイル部品(以下、単に「第3実施形態」と記載することがある。)は、金属導体で構成されたコイル部と、軟磁性合金粒子を含む磁性基体とを含むコイル部品であって、前記軟磁性合金粒子が、第1実施形態に係る軟磁性合金粉を構成する軟磁性合金粒子であることを特徴とする。
【0054】
コイル部の配置については、磁性基体中に埋設されていてもよい。また、磁性基体の周囲に巻回されていてもよい。
【0055】
磁性基体は、第1実施形態に係る軟磁性合金粉を構成する軟磁性合金粒子を含有する。この軟磁性合金粒子は、図1に例示するような形状を有し、前述したように、磁性基体中に高い充填率で存在することができる。
磁性基体の構造については、軟磁性合金粒子に加えて樹脂を含有し、当該樹脂の作用で保形されるものでもよい。また、軟磁性合金粒子同士の前記酸化膜を介した結合により保形されるものでもよい。
【0056】
第3実施形態としては、図2に示すようなコンポジットコイル部品、図3に示すような巻線コイル部品、図4に示すような積層コイル部品及び図5に示すような薄膜コイル部品などが例示される。
【0057】
第3実施形態の製法としては、例えばコンポジットコイル部品の場合、典型的には、軟磁性合金粉と樹脂とを混合して混合物を調製した後、予め空心コイルを配置した金型等の成形型に該混合物を投入し、プレス成形した後、樹脂を硬化させて得られる。
使用する軟磁性合金粉については、上述したため説明を省略する。
使用する樹脂は、軟磁性金属粉の粒子同士を接着して成形及び保形できるものであれば、その種類に制限はなく、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂等の各種樹脂が使用できる。樹脂の使用量も制限されず、例えば軟磁性合金粉100質量部に対して1~10質量部とすることができる。第3実施形態では、流動性に優れる軟磁性合金粉の使用により、樹脂の使用量を低減して軟磁性合金粉の割合を多くすることができるため、樹脂の使用量は軟磁性合金粉100質量部に対して3質量部以下とすることが好ましい。
【0058】
軟磁性合金粉と樹脂との混合及び成形型への混合物の投入方法についても制限はなく、両者を混練した流動状態の混合物を成形型に投入する方法の他、表面に樹脂をコーティングした軟磁性合金の造粒粉を成形型に投入する方法等を採用できる。また、前記混合物の成形型への投入と後述するプレス成形とを合わせて行う方法として、シート状に成形した前記混合物をプレスにより成形型中に導入する方法を採用してもよい。
【0059】
プレス成形の温度及び圧力についても制限されず、型内に配置された空心コイルの材質及び形状、投入された軟磁性金属粉の流動性、並びに投入された樹脂の種類及び量等に応じて適宜決定すればよい。
樹脂の硬化温度についても、使用する樹脂に応じて適宜決定すればよい。
【0060】
第3実施形態に係る磁性基体は、軟磁性合金粉と樹脂との混合物をプレス成形した後、得られた成形体を樹脂の硬化温度より高い温度で熱処理して形成してもよい。この場合、熱処理によって樹脂が分解すると共に、軟磁性合金粒子表面の酸化膜が成長し、当該酸化膜により軟磁性合金粒子同士が結合する。なお、熱処理により樹脂成分はほぼ分解さされるが、部分的に炭素は残っていてもよい。
【0061】
このようにして得られた磁性基体に巻線を行えば、巻線コイル部品を得ることができる。巻線コイル部品も第3実施形態のコイル部品の1つの例である。
【0062】
また、コイル部品が積層コイル部品である場合には、シート法を利用して製造することができる。シート法の手順としては、まず、軟磁性合金粉と樹脂とを混合して混合物を調製した後、これをドクターブレード法などでシート状に塗工し、これを裁断した後、レーザーなどで所定の位置にヴィアホールを作成し、所定の位置に内部パターンを印刷する。次いで、これらシートを所定の順序で積層し、熱圧着して積層体を得る。次いで、必要に応じ、当該積層体を、ダイシング機やレーザー切断機等の切断機を用いて、個々の部品のサイズに切断する。最後に、当該積層体を熱処理し、積層コイル部品を得る。積層コイル部品も第3実施形態のコイル部品の1つの例である。
【0063】
さらに、コイル部品が薄膜コイル部品である場合には、フォトリソグラフィが採用できる。薄膜コイル部品も第3実施形態の1つの例である。
【0064】
以上例示した製法の他、コイル部品の形状等に応じた公知の製法が採用できることは言うまでもない。
【0065】
前述した第3実施形態の例であるコンポジットコイル部品は、軟磁性金属粉として、流動性に優れるものを用いているため、軟磁性金属の充填率を高めて透磁率の高いコアが得られる。これにより、同じインダクタンスを得るのに必要な素子体積を小さくできるため、コイル部品を小型化できる。また、第3実施形態の例であるコンポジットコイル部品は、製造時に低いプレス圧力で成形可能となることから、内部に埋め込まれた空心コイルが損傷しにくくなり、耐久性及び信頼性が向上する。
【0066】
[回路基板]
本発明の第4実施形態に係る回路基板(以下、単に「第4実施形態」と記載することがある。)は、第3実施形態に係るコイル部品を載せた回路基板である。
回路基板の構造等は限定されず、目的に応じたものを採用すればよい。
第4実施形態は、第3実施形態に係るコイル部品を使用することで、高性能化及び小型化が可能である。
【実施例0067】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
(軟磁性合金粉の製造)
まず、Fe-3.5Si-1.5Cr(数値は質量百分率を示す)の組成を有する、平均粒径4.0μmの軟磁性合金の原料粉を、ジルコニア製の容器に入れ、真空熱処理炉内に配置した。
次に、炉内を排気して酸素濃度を100ppmとした後、昇温速度5℃/minで700℃まで昇温し、1時間保持して熱処理を行い、室温まで炉冷して、実施例1に係る軟磁性合金粉を得た。
【0069】
(軟磁性合金粉における元素分布の測定)
得られた軟磁性合金粉について、上述した方法により、合金部分及び酸化膜における各元素の質量割合を測定したところ、図6に実線で示す濃度分布が得られ、合金粉を構成する各粒子の表面に、合金部分に比べてSi及びCrの質量割合が高い酸化膜を備えることが確認された。また、得られた濃度分布からSi/Cr質量比の分布を算出したところ、図7に実線で示す結果が得られた。粒子の最表面におけるSi/Cr質量比は、3.62であった。
この図6の実線から判るように、酸化膜は、粒子の内側(合金部分側)から外側に向かって、Oの含有量の増加と共に、Crの含有量が連続して増加し始めた。また、Siの含有量は、Crの含有量が増加し始める領域より内側から連続して増加し始めている。このようにCrの存在が、合金部分の過剰な酸化を抑制し、結果として、酸化膜を薄くすることを可能としている。また、CrよりSiの含有量が多いことが、絶縁性を高くすることを可能としている。これはCrの酸化物よりもSiの酸化物の方が絶縁抵抗が高いことによる。ここでは、酸化膜全体にわたって、CrよりSiの含有量が多くなっている。また、Cr及びSiは、酸化膜全体にわたって存在している。また、この酸化膜は、合金部分から外側に向かってFeの含有量が連続して減少している。このことも、酸化膜の絶縁性が高く、かつ表面の凹凸が小さいことにつながっている。さらに、Cr、Si及びFeの連続した分布から、この酸化膜は合金部分との密着性が高いことが判り、結果として圧力などによって生じ易い破損を防ぐことができる。
【0070】
(軟磁性合金粉の比表面積及び平均粒径の測定)
得られた軟磁性合金粉について、上述した方法で比表面積S及び平均粒径D50を測定したところ、S=0.45m/g及びD50=4.0μmとなった。
【0071】
(軟磁性合金粉の流動性評価)
得られた軟磁性合金粉の流動性を、タップ密度dにより評価した。タップ密度の測定は、目盛り付きのガラス製シリンダーに所定質量の軟磁性合金粉を投入し、タッピングと粉末の充填高さ(かさ)の読み取りによるかさ密度の算出とを繰り返し、タップ回数10回あたりのかさ密度の変化が5%以下になったときの値をタップ密度とした。得られたタップ密度は4.5g/cmであった。
【0072】
(磁性体の特性評価)
得られた軟磁性合金粉を磁性体とした際の特性を、トロイダルコイルの比透磁率、並びに円板状試料の体積抵抗率及び絶縁破壊電圧により評価した。
【0073】
評価用のトロイダルコイルは、以下の手順で作製した。まず、軟磁性合金粉を、1.2質量%のアクリル系バインダとともに撹拌混合し、成形用材料を調製した。次いで、この成形用材料を、外径8mm、内径4mmのトロイダルに対応する成形空間を有する金型に投入し、8t/cmの圧力で一軸加圧成形して厚さ1.3mmの成形体を得た。次いで、得られた成形体を150℃の恒温槽中に1時間入れてバインダを硬化させた後、過熱水蒸気炉により300℃に加熱して、熱分解によりバインダを除去した。次いで、石英炉にて、酸素濃度800ppmの雰囲気中、800℃で1時間の熱処理を行い、トロイダル状のコアを得た。最後に、得られたトロイダル状のコアに、直径0.3mmのウレタン被覆銅線からなるコイルを20ターン巻回して評価用試料とした。
【0074】
得られた評価用試料について、測定装置としてLクロムメーター(アジレントテクノロジー社製 4285A)を用い、周波数10MHzにて比透磁率の測定を行った。得られた比透磁率は25であった。
【0075】
評価用の円板状試料は、以下の手順で作製した。まず、軟磁性合金粉を、1.2質量%のアクリル系バインダとともに撹拌混合し、成形用材料を調製した。次いで、この成形用材料を、内径7mmの円板状の成形空間を有する金型に投入し、8t/cmの圧力で一軸加圧成形して厚さ0.5mm~0.8mmの成形体を得た。次いで、得られた成形体を150℃の恒温槽中に1時間入れてバインダを硬化させた後、過熱水蒸気炉により300℃に加熱して、熱分解によりバインダを除去した。次いで、石英炉にて、酸素濃度800ppmの雰囲気中、800℃で1時間の熱処理を行い、円板状の試料を得た。最後に、得られた円板状の試料の両面全体にスパッタリングによりAu膜を形成することで評価用試料とした。
【0076】
得られた評価用試料について、JIS-K6911に準じて体積抵抗率を測定した。試料の両面に形成されたAu膜を電極とし、該電極間に、電界強度が60V/cmとなるように電圧を印加して抵抗値を測定し、該抵抗値から体積抵抗率を算出した。評価用試料の体積抵抗率は103MΩ・cmであった。
【0077】
また、得られた評価用試料の絶縁破壊電圧は、試料の両面に形成されたAu膜を電極とし、該電極間に電圧を印加して電流値を測定することで行った。印加電圧を徐々に上げて電流値を測定し、該電流値から算出される電流密度が0.01A/cmとなった電圧から算出される電界強度を破壊電圧とした。評価用試料の絶縁破壊電圧は0.0047MV/cmであった。
【0078】
[比較例1]
実施例1で用いた軟磁性合金の原料粉を、比較例1に係る軟磁性合金粉とした。
【0079】
該軟磁性合金粉について、実施例1と同様の方法で、合金部分及び酸化膜における各元素の質量割合を測定したところ、図6に点線で示す濃度分布が得られた。酸化膜では、Siの質量割合は合金部分に比べて高くなっているが、Crの質量割合は合金部分と同程度であった。
また、得られた濃度分布からSi/Cr質量比の分布を算出したところ、図7に点線で示す結果が得られた。粒子の最表面におけるSi/Cr質量比は、10.40であった。図7における実施例1(実線)と比較例1(点線)との対比から、熱処理によって粒子表面のSi/Cr質量比が好ましい範囲となったことが判る。
【0080】
また、この軟磁性合金粉について、実施例1と同様の方法で、比表面積S、平均粒径D50及びタップ密度dを測定したところ、S=0.58m/g、D50=4.0μm
及びd=3.7g/cmとなった。
さらに、この軟磁性合金粉を磁性体とした際の特性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、比透磁率が22、体積抵抗率が0.2MΩ・cm、絶縁破壊電圧が0.0018MV/cmとなった。
【0081】
[実施例2]
平均粒径2.2μmの原料粉を使用すると共に、熱処理雰囲気の酸素濃度を5ppmとした以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る軟磁性合金粉を得た。
得られた軟磁性合金粉について、実施例1と同様の方法で、合金部分及び酸化膜における各元素の質量割合を測定したところ、実施例1と同様の濃度分布を示した。
また、得られた軟磁性合金粉について、実施例1と同様の方法で、比表面積S、平均粒径D50及びタップ密度dを測定したところ、S=0.80m/g、D50=2.2μm及びd=3.9g/cmとなった。
さらに、得られた軟磁性合金粉を磁性体とした際の特性として、比透磁率及び体積抵抗率を実施例1と同様の方法で評価したところ、比透磁率が22、体積抵抗率が100MΩ・cmとなった。
【0082】
(酸化物の厚みの測定)
本実施例では、得られた軟磁性合金粉について、上述した方法で酸化膜の厚みを測定した。得られた酸化膜の厚みは30nmであった。
【0083】
(磁性体における充填性評価)
本実施例では、前述の評価に加えて、得られた軟磁性合金粉の磁性体における充填性を、円板状試料の充填率及びドラムコア状試料の軸部に対する鍔部の密度比により評価した。
【0084】
円板状試料は、実施例1における円板状試料と同様の方法で作製した。
得られた円板状試料について、外径及び厚さを測定して体積(実測体積)を算出した。また、円板状試料の作製に用いた軟磁性合金粉について、ピクノメーター法により真密度を測定し、該真密度の値で前記円板状試料の質量を除することで、円板状試料中の軟磁性合金粉が充填率100体積%の磁性体を形成した場合の体積(理想体積)を算出した。そして、該理想体積を前記実測体積で除することにより、充填率を算出した。得られた充填率は、80.5体積%であった。
【0085】
ドラムコア状試料は、成形に使用する金型を、軸部成形用空間と鍔部成形用空間とを有するものに変更した以外は、円板状試料と同様の手順で作製し、軸部のサイズが1.6mm×1.0mm×1.0mmで、鍔部の厚みが0.25mmのドラムコア状試料を得た。
【0086】
得られたドラムコア状試料の軸部に対する鍔部の密度比は、該試料の軸部及び鍔部のそれぞれから測定用試料を採集し、定容積膨張法により各試料の体積を測定すると共に、該各試料の質量を測定し、これらの測定値から各部の密度を算出して比を取ることで算出した。今回の試料では、鍔部と軸部とは同種材料であるから、密度比が充填率の比に相当する。得られた密度比は0.93であった。
【0087】
[比較例2]
実施例2で用いた軟磁性合金の原料粉を、比較例2に係る軟磁性合金粉とした。
該軟磁性合金粉について、実施例1と同様の方法で、合金部分及び酸化膜における各元素の質量割合を測定したところ、比較例1と同様の濃度分布を示した。
また、この軟磁性合金粉について、実施例1と同様の方法で、比表面積S、平均粒径D50及びタップ密度dを測定したところ、S=1.01m/g、D50=2.2μm
及びd=3.2g/cmとなった。
さらに、この軟磁性合金粉を磁性体とした際の特性として、比透磁率及び体積抵抗率を実施例1と同様の方法で評価したところ、比透磁率が16、体積抵抗率が0.5MΩ・cmとなった。
【0088】
本比較例に係る軟磁性合金粉における酸化膜の厚みを、実施例2と同様の方法で測定したところ、2nmであった。
また、軟磁性合金粉の磁性体における充填性を、実施例2と同様の方法で評価したところ、充填率が78.8体積%、密度比が0.90であった。
【0089】
[実施例3~6]
粒径の異なる原料粉を使用した以外は実施例1と同様にして、実施例3~6に係る軟磁性合金粉を得た。
得られた軟磁性合金粉について、実施例1と同様の方法で、合金部分及び酸化膜における各元素の質量割合を測定したところ、いずれの例についても実施例1と同様の濃度分布を示した。
また、得られた軟磁性合金粉について、実施例1と同様の方法で、比表面積S、平均粒径D50及びタップ密度dTを測定した。得られた結果をまとめて表1に示す。
【0090】
[比較例3~6]
粒径が異なる以外は比較例1と同様の軟磁性合金粉を準備し、比較例3~6に係る軟磁性合金粉とした。
該各軟磁性合金粉について、実施例1と同様の方法で、合金部分及び酸化膜における各元素の質量割合を測定したところ、いずれの例についても比較例1と同様の濃度分布を示した。
また、これらの軟磁性合金粉について、実施例1と同様の方法で、比表面積S、平均粒径D50及びタップ密度を測定した。得られた結果をまとめて表1に示す。
【0091】
実施例1~6及び比較例1~6に係る軟磁性合金粉の比表面積S、平均粒径D50及びタップ密度dの測定結果をまとめて表1に示す。また、これらの実施例及び比較例について、比表面積Sの常用対数を縦軸に、平均粒径D50の常用対数を横軸にとったグラフを図8に示す。図8では、黒塗りの円及び実線が実施例を、白抜きの三角形及び点線が比較例を、それぞれ示している。
【0092】
【表1】
【0093】
表1から、実施例に係る軟磁性合金粉は、同じ平均粒径D50を有する比較例よりも比表面積Sが小さく、かつタップ密度dが大きくなっていることが判る。この結果からは、各実施例に係る軟磁性合金粉は、これを構成する各粒子の表面に存在する酸化膜が、含有するSi、Cr及びAlの質量割合が合金部分に比べて高く、かつ質量割合で表したSiの含有量がCr及びAlの合計よりも多いものであることにより、粒子表面が凹凸の少ない滑らかな状態となっており、これにより、該酸化膜を有さない同じ粒径の軟磁性合金粉よりも流動性に優れるものとなっていると考えられる。
比表面積Sと平均粒径D50との関係を整理した図8では、各実施例(黒塗りの円)及び比較例(白抜きの三角形)が、それぞれ同一の直線上にあり、実施例に係る直線(実線)の方程式がlog(S)=-0.98{log(D50)}+0.2455、比較例に係る直線(点線)の方程式がlog(S)=-0.9812{log(D50)}+0.3491となった。この結果から、同様の処理が施され同様の表面状態を有する軟磁性合金粉の測定結果は、同一直線上に載るといえる。また、前記各直線は、いずれも傾きが-0.98であり、かつ実施例の直線が比較例のものよりも下側に位置していることから見て、粒子表面の滑らかさはグラフの切片に現れ、これが小さいほど表面が滑らかで流動性に優れる粉末であると考えられる。これらのことから、より流動性に優れる軟磁性合金粉を得るためには、比表面積Sの常用対数と平均粒径D50の常用対数とをプロットした場合に、傾きが-0.98の直線うち、切片がより小さいものの上に載る粉末とすればよいと考えられる。
【0094】
[比較例7]
比較例2に係る軟磁性合金粉を、大気中にて750℃で1時間熱処理して、比較例7に係る軟磁性合金粉を得た。
得られた軟磁性合金粉について、実施例1と同様の方法で合金部分及び酸化膜における各元素の質量割合を測定したところ、酸化膜中に最も多く含まれる元素はCrであることが確認された。
この軟磁性合金粉を磁性体とした際の特性として、比透磁率及び体積抵抗率を実施例1と同様の方法で評価したところ、比透磁率が11、体積抵抗率が2MΩ・cmとなった。
また、得られた軟磁性合金粉について、酸化膜の厚みを実施例2と同様の方法で測定したところ、100nmであった。
さらに、軟磁性合金粉の磁性体における充填性を、実施例2と同様の方法で評価したところ、充填率が77.1体積%、密度比が0.88であった。
【0095】
実施例1,2及び比較例1,2,7について、軟磁性合金粉から作製した磁性体の比透磁率、体積抵抗率及び絶縁破壊電圧の測定結果を、まとめて表2に示す。また、実施例2及び比較例2,7について、軟磁性合金粉を構成する粒子表面の酸化膜の厚み、平板状試料における軟磁性合金粉の充填率及びドラムコア状試料における軸部と鍔部との密度比の測定結果を、まとめて表3に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
表2から、流動性に優れる軟磁性合金粉で作製した実施例の磁性体は、比較例のものに比べて磁気特性及び絶縁性に優れることが判る。特に、表3を含めた実施例2と比較例7との対比からは、実施例において粒子表面に形成される酸化膜は、小さな厚みで優れた絶縁性を発揮することが判る。
また、表3から、流動性に優れる実施例の軟磁性合金粉は、比較例のものに比べて軟磁性合金粒子が均一に、かつ高密度で充填された磁性体を作製できることが判る。このことから、本発明の軟磁性合金粉は、コイル部をコア部に埋設したコンポジットコイル部品とした際に、軟磁性合金粒子が均一に、かつ高密度で充填された、磁気特性に優れるコイル部品になるといえる。
【0099】
[実施例7]
軟磁性合金粉の原料粉として、Fe-3.5Si―0.5Al(数値は質量百分率を示す)の組成を有する、平均粒径5.0μmのものを用い、熱処理雰囲気の酸素濃度を50ppmとした以外は実施例1と同様にして、実施例7に係る軟磁性合金粉を得た。
【0100】
得られた軟磁性合金粉について、実施例1と同様の方法により、合金部分及び酸化膜における各元素の質量割合を測定したところ、実施例1と同様の濃度分布が得られ、合金粉を構成する各粒子の表面に、合金部分に比べてSi及びAlの質量割合が高い酸化膜を備えることが確認された。また、得られた濃度分布からSi/Al質量比の分布を算出したところ、図9に実線で示す結果が得られた。図中には、比較のため、熱処理前の原料粉におけるSi/Al質量比の分布も点線で示す。この結果から、熱処理によって粒子表面のSi/Al質量比が好ましい範囲となったことが判る。熱処理後の粒子の最表面におけるSi/Al質量比は、3.13であった。
【0101】
また、この軟磁性合金粉について、実施例1と同様の方法で、比表面積S、平均粒径D50及びタップ密度dを測定したところ、S=0.49m/g、D50=5.0μm及びd=4.6g/cmとなった。
比表面積Sと平均粒径D50との関係が、上記式(1)を満たすことから、本実施例に係る軟磁性合金粉は、凹凸の少ない滑らかな表面を有する粒子で構成されているといえる。また、前記タップ密度dが、熱処理を行わなかったもの(d=4.0g/cm
に比べて大きいことから、本実施例に係る軟磁性合金粉は、流動性に優れるものといえる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、流動性に優れる軟磁性合金粉が提供される。該軟磁性合金粉は、磁性体の製造工程における搬送や金型への充填が容易であり、また樹脂とのなじみも良好であるため、ハンドリングが容易である点で本発明は有用なものである。また、本発明の好ましい形態によれば、軟磁性合金粉を高い充填率で含むコイル部品を、低い成形圧力で形成することができるため、磁気特性、耐久性及び信頼性の高いコイル部品が提供され、またコイル部品及びこれを載せた回路基板の小型化が可能となる点でも、本発明は有用なものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-01-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属導体で構成されたコイル部と、軟磁性合金粒子を含む磁性基体とを含むコイル部品であって、
前記軟磁性合金粒子が、
構成元素としてFe、Si並びにCr又はAlの少なくとも一方を含
質量割合で表したSiの含有量がCr及びAlの合計よりも多く、
その表面に、
構成元素としてSiを含み、
含有するSiの質量割合が粒内の合金部分に比べて高く
量割合で表したSiの含有量がCr及びAlの合計よりも多く、
前記軟磁性合金粒子の内側から外側に向かって、Siの含有量が連続して増加し、
かつ
前記軟磁性合金粒子の内側から外側に向かって、Feの含有量が連続して減少する
酸化膜を備え、
前記合金部分の組成が、Siを1~10質量%含有し、Crを含有する場合、Crを0.5~5質量%含有し、Alを含有する場合、Alを0.2~3質量%含有し、残部がFe及び不可避不純物である
ことを特徴とする、コイル部品。
【請求項2】
前記酸化膜が、構成元素として、Siに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含む、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記酸化膜が、構成元素として、Siに加えてCrを含む、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記酸化膜が、構成元素として、Siに加えてAlを含む、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記酸化膜が、構成元素として、Siに加えてCr及びAlを含む、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記磁性基体が、さらに樹脂又は炭素を含み、
前記コイル部が、当該磁性基体中に内蔵されてなる、
請求項1~5のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記磁性基体が、さらに樹脂又は炭素を含み、
前記コイル部が、当該磁性基体に巻き回されてなる、
請求項1~5のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記磁性基体が、前記軟磁性合金粒子同士の前記酸化膜を介した結合により形成されており、
前記コイル部が、当該磁性基体中に内蔵されてなる、
請求項1~5のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記磁性基体が、前記軟磁性合金粒子同士の前記酸化膜を介した結合により形成されており、
前記コイル部が、当該磁性基体に巻き回されてなる、
請求項1~5のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のコイル部品を載せた回路基板。