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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038361
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】測距装置及び光走査装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/484 20060101AFI20240312BHJP
   G01S 17/894 20200101ALI20240312BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
G01S7/484
G01S17/894
G02B26/10 104
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024003077
(22)【出願日】2024-01-12
(62)【分割の表示】P 2022099439の分割
【原出願日】2018-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2017188249
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】落合 孝典
(72)【発明者】
【氏名】奧山 健久
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 琢麿
(72)【発明者】
【氏名】奥田 義行
(57)【要約】
【課題】走査軌道が交差する測距点での測距動作の条件を調節することが可能な測距装置を提供する。
【解決手段】
パルス光を出射する光源部と、パルス光によって所定の領域を走査し、所定の領域内の仮想の面を見たときにパルス光の軌跡が交差する交差点を有する光走査部と、パルス光が照射された対象物からの反射光を受光して対象物までの距離を測定する測距部と、反射光についての所定の条件に基づいて、交差点へのパルス光の出射を制御する制御部と、を有する。
【選択図】図5B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス光を出射する光源部と、
前記パルス光によって所定の領域を走査し、前記所定の領域内の仮想の面を見たときに前記パルス光の軌跡が交差する交差点を有する光走査部と、
前記パルス光が照射された対象物からの反射光を受光して前記対象物までの距離を測定する測距部と、
前記反射光についての所定の条件に基づいて、前記交差点への前記パルス光の出射を制御する制御部と、を有することを特徴とする測距装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光走査を行う光走査装置、及び光学的な測距を行う測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、測距装置は、光を対象領域内の物体に照射し、当該物体によって反射された光を検出することで、当該物体までの距離を計測するように構成されている。また、例えば、光スキャナによって当該対象領域の光走査を行うことで、2次元的又は3次元的に測距を行う測距装置が知られている。
【0003】
光走査型の測距装置には、例えば、光走査装置として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーが搭載されている。例えば、当該MEMSミラーには光反射面が設けられ、当該光反射面は2次元的に揺動(振動)する。この光反射面に光を照射することで、当該光反射面によって反射された光によって対象領域を走査することができる。例えば、特許文献1には、光反射面を有する可動部が揺動することで光反射面に入射される光を対象領域内でリサージュ走査できる光走査部を有する光測距装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-053137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光走査型の測距装置においては、走査軌道内の複数の点の各々を測距点とし、当該測距点の各々について測距動作が行われる。ここで、例えばリサージュ曲線に沿った軌道で走査を行う場合などにおいては、走査軌道が交差するような光走査が行われる。この場合、1つの走査周期(測距周期)内において、同一の測距点に対して複数回の測距動作を行う場合が想定される。例えば、当該同一の測距点に対して1回目の測距時に正確な測距結果を得られた場合、2回目の測距動作は不要となる場合がある。
【0006】
従って、このような走査軌道が交差する走査方式の場合、当該交差点に対して行われる測距動作は、他の交差しない測距点に対する測距動作とは異なる条件で行われることが好ましい。例えば、装置に要求される測距処理速度や測距精度などに応じて、1つの測距周期内において行われ得る当該交差点での複数回の測距動作の各々の実行及び非実行を切替えられることが好ましい。
【0007】
また、測距用途に限らず、所定の走査周期内において複数回に亘って重複した点を走査するような走査態様を有する光走査装置においては、その走査位置が重複する点における走査は、他の走査位置での走査とは異なる条件で行われることが好ましい。
【0008】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、走査軌道が交差する測距点での測距動作の条件を調節することが可能な測距装置を提供することを課題の1つとしている。また、本発明は、走査軌道が交差する点での走査動作の条件を調節することが可能な光走査装置を提供することを課題の1つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、パルス光を出射する光源部と、パルス光によって所定の領域を走査し、所定の領域内の仮想の面を見たときにパルス光の軌跡が交差する交差点を有する光走査部と、パルス光が照射された対象物からの反射光を受光して対象物までの距離を測定する測距部と、反射光についての所定の条件に基づいて、交差点へのパルス光の出射を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、請求項7に記載の発明は、光を出射する光源部と、光の照射方向を変化させつつ光によって所定の領域を走査する光走査部と、光が照射された対象物からの反射光を受光する受光部と、光の出射を制御する制御部と、を有し、光走査部は、1つの走査周期中において同一方向に複数回光を出射するように構成され、制御部は、反射光についての所定の条件に基づいて、1つの走査周期中における同一方向への光の照射回数を制御することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1に係る測距装置のブロック図である。
図2A】実施例1に係る測距装置におけるスキャナの上面図である。
図2B】実施例1に係る測距装置におけるスキャナの断面図である。
図3A】実施例1に係る測距装置の模式的な動作説明図である。
図3B】実施例1に係る測距装置の模式的な動作説明図である。
図4】実施例1に係る測距装置のスキャナに印加される駆動信号の波形及び当該スキャナによるパルス光の走査軌跡を示す図である。
図5A】実施例1に係る測距装置の測距点を示す図である。
図5B】実施例1に係る測距装置における測距点でのパルス光の出射構成を示す図である。
図6A】実施例2に係る測距装置における制御部のブロック図である。
図6B】実施例2に係る測距装置における測距点でのパルス光の出射構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例0013】
図1は、実施例1に係る測距装置10のブロック図である。測距装置10は、光学的に対象物までの距離を計測する光測距装置である。図1を用いて、測距装置10の全体構成について説明する。
【0014】
まず、本実施例においては、測距装置10は、光源11A及び光源11Aを駆動する光源駆動回路11Bを含む光源部11を有する。光源11Aは、パルス化されたレーザ光(以下、パルス光と称する)を生成及び出射する。光源駆動回路11Bは、光源11Aがパルス光を出射するための駆動信号を生成し、光源11Aに印加する。
【0015】
測距装置10は、光源部11の光源11Aから出射されたパルス光を用いて測距の対象となる領域(以下、有効走査領域と称する)を含む領域(以下、走査対象領域と称する)を走査する光走査部12を有する。本実施例においては、光走査部12は、当該パルス光を用いて走査対象領域の光走査を実行するスキャナ(光走査手段)12Aと、スキャナ12Aを駆動するスキャナ駆動回路12Bと、を含む。スキャナ駆動回路12Bは、スキャナ12Aを駆動する駆動信号を生成し、スキャナ12Aに印加する。
【0016】
測距装置10は、光走査部12のスキャナ12Aの動作によって得られた光を受光して有効走査領域内に存在する対象物までの距離を測定する測距部13を有する。本実施例においては、測距部13は、パルス光が当該対象物によって反射された光(以下、反射光と称する)を受光して検出する受光部13Aと、受光部13Aが受光した反射光に基づいて測距装置10と当該対象物との間の距離を計測する計測部13Bとを有する。
【0017】
本実施例においては、測距部13は、パルス光内の光パルスの各々が照射された対象物までの測距結果(距離情報)を示す測距データを生成する。例えば、本実施例においては、測距部13は、光走査部12による走査周期毎に当該複数の距離情報を含む1つの測距データを生成する。なお、走査周期とは、走査対象領域に対する走査を繰り返す場合において、任意の時点における走査状態が、その後に再度当該走査状態に戻る時点までの期間をいう。
【0018】
また、測距装置10は、測距部13による測距結果を示す情報に対して種々の処理を行う情報処理部14を有する。本実施例においては、情報処理部14は、測距部13によって生成された測距データを2次元又は3次元のマップとして画像化する画像データを生成する画像生成部14Aと、当該画像データを表示する表示部14Bを有する。
【0019】
本実施例においては、画像生成部14Aは、光走査部12の走査周期毎に測距部13が生成した複数の測距データの各々を画像データに変換する。表示部14Bは、これら複数の画像データを時系列に沿って動画として表示する。
【0020】
測距装置10は、光源部11、光走査部12、測距部13及び情報処理部14の動作制御を行う制御部15を有する。本実施例においては、制御部15は、光走査部13から光走査部13の走査状況を示す情報(走査状況情報)を取得して、光走査部13の実際の走査軌道を推定する実走査軌道推定部15Aと、測距部13から測距部13による測距の履歴を取得する測距履歴取得部15Bと、を有する。また、制御部15は、光走査部12の実際の走査軌道及び測距部13の測距履歴に基づいて光源部11の動作制御を行う光源制御部15Cを有する。
【0021】
光源部11、光走査部12、受光部13A及び光源制御部15Cは、本測距装置10において光走査装置を構成している。当該光走査装置が種々の用途に用いられることを考慮した場合、例えば、光源部11が出射する光は、パルス光、すなわちパルス化されたレーザ光である必要はなく、受光部13Aが受光可能(検出可能)な光(電磁波)であればよい。
【0022】
図2Aは、光走査部12のスキャナ12Aの模式的な上面図である。図2Bは、スキャナ12Aの断面図である。図2Bは、図2AのV-V線に沿った断面図である。図2A及び図2Bを用いて、スキャナ12Aの構成例について説明する。
【0023】
本実施例においては、スキャナ12Aは、光(電磁波)を反射させる光反射面24Aを有する光反射膜(ミラー)24を含み、この光反射膜24が2次元的に揺動するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーである。また、本実施例においては、スキャナ12Aは、電磁気的に光反射膜24を揺動させるように構成されている。
【0024】
より具体的には、スキャナ12Aは、固定部(ベース部)21、可動部(揺動部)22、駆動力生成部23及び光反射膜24を有する。また、本実施例においては、スキャナ12Aは、互いに直交する2つの揺動軸(第1及び第2の揺動軸)AX及びAYを中心に光反射膜24が揺動するように構成されている。
【0025】
本実施例においては、固定部21は、固定基板B1及び固定基板B1上に形成された環状の固定枠B2を含む。可動部22は、各々の一端が固定枠B2の内側に固定された一対のトーションバー(第1のトーションバー)TXを含む。一対のトーションバーTXの各々は、少なくとも周方向の弾性を有する棒状の弾性部材からなる。揺動軸AXに沿って整列している。また、可動部22は、外周部側面が一対のトーションバーTXの各々の他端に接続された環状の揺動枠(可動枠)SXを有する。
【0026】
また、可動部22は、各々の一端が可動枠SXの内周部側面に接続され、一対のトーションバーTXに直交する方向(揺動軸AYに沿った方向)に整列した一対のトーションバー(第2のトーションバー)TYと、外周部側面が一対のトーションバーTYの各々の他端に接続された揺動板(可動板)SYと、を有する。一対のトーションバーTYの各々は、少なくとも周方向の弾性を有する棒状の弾性部材からなる。
【0027】
本実施例においては、揺動枠SXは揺動軸AXを中心に揺動し、揺動板SYは揺動軸AX及びAYを中心に揺動する。また、揺動板SY上には光反射膜24が形成されている。従って、光反射膜24の光反射面24Aは、揺動板SYと共に、互いに直交する揺動軸AX及びAYを中心に揺動する。
【0028】
駆動力生成部23は、固定基板B1上に配置された永久磁石MGと、揺動枠SX上において揺動枠SXの外周に沿って引き回された金属配線(第1のコイル)CXと、揺動板SY上において揺動板SYの外周に沿って引き回された金属配線(第2のコイル)CYとを含む。
【0029】
本実施例においては、永久磁石MGは、固定基板B1上における固定枠B2の外側領域に設けられた複数の磁石片からなる。本実施例においては、4つの磁石片が、それぞれ、揺動軸AX及びAYの各々に沿った一対のトーションバーTX及びTYの外側の位置に配置されている。
【0030】
また、揺動軸AXに沿った方向において互いに対向する2つの磁石片は、互いに反対の極性を示す部分が対向するように配置されている。同様に、揺動軸AYに沿った方向において互いに対向する2つの磁石片は、互いに反対の極性を示す部分が対向するように配置されている。
【0031】
本実施例においては、金属配線CXに電流が流れると、揺動軸AYに沿った方向に並んだ永久磁石MGの2つの磁石片によって生じた磁界との相互作用により、一対のトーションバーTXが周方向にねじれ、揺動枠SXが揺動軸AXを中心に揺動する。同様に、金属配線CYに流れる電流と揺動枠AXに沿った方向に並んだ永久磁石MGの2つの磁石片による磁界とによって一対のトーションバーTYがねじれ、揺動板SYが揺動軸AYを中心に揺動する。
【0032】
金属配線CX及びCYは、スキャナ駆動回路12Bに接続されている。スキャナ駆動回路12Bは、金属配線CX及びCYに電流(駆動信号)を供給する。駆動力生成部23は、当該駆動信号の印加によって、可動部22及び光反射膜24を揺動させる電磁気力を生成する。
【0033】
なお、本実施例においては、光反射膜24は、円板形状を有する。また、光反射膜24の中心軸ACは、揺動軸AX及びAYに直交する位置に設けられている。なお、光反射膜24、揺動枠SX及び揺動板SYは同軸をなすように構成及び配置されている。可動部22及び光反射膜24は、光反射膜24の中心軸ACに関して回転対称に配置されている。
【0034】
図2Bに示すように、本実施例においては、固定部21の固定基板B1は、凹部を有する。また、固定枠B2は、固定基板B1の当該凹部に可動部22を懸架するように固定基板B1に固定されている。また、固定枠B2及び可動部22(揺動枠SX、揺動板SY並びにトーションバーTX及びTY)は、例えば半導体基板を加工することで形成された当該半導体基板の部分である。
【0035】
光反射膜24は、揺動板SYと共に、固定基板B1の凹部に揺動可能に懸架(支持)されている。また、永久磁石MGは、固定基板B1上における凹部の外側に形成されている。また、本実施例においては、トーションバーTX及びTYがねじれることで、固定枠B2の内側において、トーションバーTX及びTYを挟んだ可動部22の両端部が固定基板B1の凹部に向かう方向及び離れる方向に揺動する。また、光反射膜24は、中心軸AC上の1点を揺動中心とし、固定枠B2に対して傾斜するように揺動する。
【0036】
次に、図3A及び図3Bを用いて、測距装置10の動作について説明する。図3A及び図3Bは、光源11A及びスキャナ12Aの模式的な配置例を示す図である。図3Aは、光源11Aから出射されたパルス光L1が対象物OBに照射される際のパルス光L1の進路を模式的に示す図である。また、図3Bは、対象物OBから反射された反射光L3が測距部13の受光部13Aに受光される際の反射光L3の進路を模式的に示す図である。
【0037】
まず、図3Aに示すように、光源11Aは、パルス光L1を生成し、スキャナ12Aの光反射膜24(光反射面24A)に向けて出射する。本実施例においては、光源11Aとスキャナ12Aとの間のパルス光L1の光路上には、ビームスプリッタBSが設けられている。パルス光L1の出射時においては、パルス光L1はビームスプリッタBSを透過し、スキャナ12Aに向けて進む。
【0038】
なお、光源11Aは、光源駆動回路11Bから供給される駆動信号(光源駆動信号)DLに基づいてパルス光L1を生成及び出射する。具体的には、光源11Aは、駆動信号DLに基づいたタイミングで、パルス光L1としてのレーザパルスを出射する。
【0039】
スキャナ12Aの光反射膜24は、パルス光L1を反射させて走査光(測距光)L2を生成し、走査光L2を走査対象となる領域である走査対象領域R0に向けて出射する。走査対象領域R0の走査光L2の光路上に対象物OB(パルス光L1を反射する性質を持った物体又は流体)が存在する場合、走査光L2が対象物OBに照射される。
【0040】
また、スキャナ12Aは、光反射膜24(光反射面24A)が揺動することで、パルス光L1の反射方向を変化させる。より具体的には、スキャナ駆動回路12Bは、光反射膜24がそれぞれ揺動軸AX及びAYの周りを揺動するための駆動信号(第1及び第2のスキャナ駆動信号)DX及びDYを生成する。本実施例においては、駆動信号DX及びDYは、それぞれスキャナ12Aの金属配線CX及びCYに供給される。これによって光反射膜24が揺動し、パルス光L1の反射方向、すなわち走査光L2の出射方向が変化する。
【0041】
なお、走査対象領域R0は、光反射膜24の揺動軸AX及びAYを中心とした揺動可能範囲(走査光L2の方向の可変範囲)に対応する幅及び高さを有し、走査光L2の到達可能距離に対応する奥行を有する仮想の3次元空間である。図3Aにおいては、走査対象領域R0を破線で囲まれた空間として例示した。
【0042】
次に、図3Bに示すように、本実施例においては、対象物OBによって反射された走査光L2である反射光L3は、光反射膜24(光反射面24A)に戻る。そして、反射光L3は、光反射面24Aによって反射され、ビームスプリッタBSによって分離された後、測距部13の受光部13Aによって受光される(検出される)。例えば、受光部13Aは、反射光L3の強度に基づいた電気信号(受光信号)を生成する。
【0043】
測距部13の計測部13Bは、受光部13Aが受光した反射光L3に基づいて、例えば受光部13Aと対象物OBとの間の距離を計測する。例えば、計測部13Bは、タイムオブフライト法を用いて、対象物OBの測距を行う。このようにして、測距装置10は、所定領域内の対象物に対して測距動作を行う。
【0044】
なお、以下においては、説明上、走査対象領域R0内におけるスキャナ30から所定の距離だけ離れた仮想の面を走査対象面R1と称する場合がある。また、本実施例においては、測距装置10における測距の対象となる有効走査領域は、走査対象領域R0(走査対象面R1)の外縁部分を除いた領域(空間)であり、図3Aには走査対象面R1の外縁部分を除いた内側の領域(有効走査面)R2として例示した。測距装置10の測距動作は、有効走査面R2に向けて出射される走査光L2を用いて行われる。なお、走査対象面R1及び有効走査面R2は、現実に存在するものではなく、走査光L2の出射方向上に存在すると仮定した場合の走査光L2の仮想の被照射面である。
【0045】
情報処理部14の画像生成部14Aは、有効走査領域(有効走査面R2)内に出射されたパルス光L1(走査光L2)の各々についての測距データを取得し、これらの測距データを画素データとした画像データを生成する。
【0046】
図4は、スキャナ駆動回路12Bが生成する駆動信号DX及びDYと、これに基づいたスキャナ12Aの揺動状態の変化及び走査光L2の走査軌道と、の関係を模式的に示す図である。図4を用いて、スキャナ12Aの動作態様及び走査光L2による走査対象領域R0の走査態様について説明する。
【0047】
まず、スキャナ駆動回路12Bが生成する駆動信号DXは、A及びBを定数とし、θを変数としたとき、DX(θ)=Asin(θ+B)の式で示される正弦波の信号である。また、駆動信号DYは、A及びBを定数とし、θを変数としたとき、DY(θ)=Asin(θ+B)の式で示される正弦波の信号である。
【0048】
また、変数θは、駆動信号DXが、スキャナ12AのトーションバーTX、揺動枠SX、トーションバーTY及び揺動板SYの共振周波数に対応する周波数の正弦波となるように設定される。また、変数θは、駆動信号DYが、スキャナ12AのトーションバーTY及び揺動板SYの共振周波数に対応する周波数の正弦波となるように設定される。
【0049】
従って、光反射膜24(揺動板SY)は、揺動軸AXを中心に共振し、かつ揺動軸AYを中心に共振する。従って、図4に示すように、走査対象領域R0の走査対象面R1を見たとき、スキャナ12Aの光反射膜24に反射されたパルス光L1である走査光L2は、リサージュ曲線を描くような軌跡TR(L2)を示す。
【0050】
換言すれば、本実施例においては、スキャナ12A(光走査部12)は、パルス光L1を反射させかつ互いに直交する第1及び第2の揺動軸AX及びAYを中心に揺動する光反射面24Aを有し、リサージュ曲線に従った走査軌跡に沿って走査対象領域R0を走査するように構成されている。
【0051】
次に、図5A及び図5Bを用いて、測距部13が測距する有効走査面R2内の測距ポイントである測距点、すなわち、スキャナ12Aにおける光反射面24Aの揺動位置(揺動角度)とパルス光L1の出射タイミングとの関係について説明する。図5Aは、図4の破線で囲まれた有効走査面R2内の一部の領域R21を拡大して示す図である。
【0052】
まず、図5Aを用いて、有効走査面R2内におけるスキャナ12Aの走査軌道、すなわち走査光L2の軌跡TRについて説明する。有効走査面R2内においては、走査光L2の軌跡TRは、第1の方向DR1に沿った複数の第1の軌跡線(線分)TR1からなる第1の軌跡線群G1と、第1の方向DR1とは異なる第2の方向DR2に沿った複数の第2の軌跡線(線分)TR2からなる第2の軌跡線群G2とからなる。そして、有効走査面R2内には、第1の軌跡線TR1と第2の軌跡線TR2とが交差する(重複する)点が存在する。
【0053】
従って、例えば図5Aに示すように、測距部13が測距を行うポイントである測距点の集合を測距点群MPとしたとき、測距点群MPは、有効走査面R2上における第1及び第2の軌跡線TR1及びTR2が交差する測距点(以下、交差点又は交差測距点と称する場合がある)P1と、第1及び第2の軌跡線TR1及びTR2が交差しない測距点(以下、非交差測距点と称する場合がある)P2とに分類される。
【0054】
第1の軌跡線TR1に沿って走査する際の交差測距点P1への走査光L2の出射時と、第2の軌跡線TR2に沿って走査する際の交差測距点P1への走査光L2の出射時とでは、光反射面24Aによって反射されたパルス光L1(すなわち走査光L2)の出射方向は同一である。すなわち、リサージュ曲線に沿った走査を行う場合、1つの走査周期中に同一方向への光出射が複数回行われることとなる。なお、非交差測距点P2は、第1の軌跡線TR1上の測距点であるか、又は第2の軌跡線TR2上の測距点である。
【0055】
次に、図5Bは、測距点P(t)の時系列に沿った測距動作について模式的に説明する図である。図5Bには、測距タイミングt、当該タイミングtに対応する測距点P(t)の位置及び種別、並びに制御部15による測距点P(t)毎のパルス光L1の出射及び非出射の切替例が示されている。
【0056】
まず、本実施例においては、光源駆動回路11Bは、光源11Aに対し、所定の時間間隔でパルス光L1を出射するような駆動信号DLを光源20に供給する。従って、光源11Aは、第1及び第2の軌跡線TR1及びTR2上において、所定の間隔で繰り返しパルス光L1を出射するように構成されている。
【0057】
また、例えば図5Bに示すように、タイミングtがタイミングt1~t4及びt5~t7の順で進み、パルス光L1が第1の軌跡線TR1に沿った測距点P(t1)から、測距点P(t2)、測距点P(t3)・・・の順で順次出射された後、第2の軌跡線TR2に沿った測距点P(t5)、測距点P(t6)の順で順次出射される場合を考える。
【0058】
この場合、制御部15は、第1及び第2の軌跡線TR1及びTR2が交差する測距点P1に対しては、時系列的に遅いタイミングt7ではパルス光L1の出射を停止するように光源部11(光源11A及び光源駆動回路11B)を制御する。すなわち、1つの走査周期内において走査光L2が同一の方向に出射される場合には、時系列的に遅いタイミングt7ではパルス光L1は出射されない。
【0059】
具体的には、まず、制御部15の実走査軌道推定部15Aは、光走査部12から、スキャナ12Aの揺動状況を示す情報を取得する。これによって、制御部15は、スキャナ12Aの実際の揺動状況の変化から、有効走査面R2上における走査光L2の実際の走査軌道(例えばリサージュ曲線を特定するパラメータ)を推定する。また、制御部15の測距履歴取得部15Bは、測距部13から、例えば1つの走査周期内における測距点P(t)に向かう走査光L2毎の測距の履歴、本実施例においては交差点P1へのパルス光L1の過去の照射結果の履歴を取得する。
【0060】
そして、例えば図5Bに示すように、制御部15は、タイミングt毎の光反射面24Aの揺動角度を判定(推定)する。また、タイミングt毎の走査光L2の出射方向、すなわち有効走査面R2上における測距点P(t)が交差測距点P1であるか非交差測距点P2であるかを判定する。また、制御部15は、交差測距点P1に対する測距がタイミングt3で既に行われており、タイミングt7で再度重複して行われることをタイミングt6までに判定する。
【0061】
そして、制御部15は、このタイミングt7では測距部13が測距を行わないように、すなわち、光源11Aがパルス光L1を出射しないように光源11Aの動作制御を行う。本実施例においては、制御部15の光源制御部15Cは、光源駆動回路11Bに対し、タイミングt7ではパルス光L1の出射を停止するように光源駆動信号DLを生成させる。
【0062】
このように、本実施例においては、制御部15は、光走査部12の実際の走査軌道と、走査軌跡TRが重複する測距点P(t7)での過去の測距履歴とに基づいて、走査軌跡TRが重複する測距点P(t7)へのタイミングt7でのパルス光L1の出射を制御する(本実施例においては出射を停止する)。
【0063】
これによって、有効走査面R2上の同一の位置の測距点P(t3)及びP(t7)に向かう走査光L2による測距動作が重複して行われること、すなわち不要な測距動作が抑制される。従って、リサージュ曲線に従った軌道で走査を行う光走査型の測距装置10において、その走査軌跡TRが交差する測距点P1での測距動作が最適化される。
【0064】
なお、本実施例における測距装置10の構成は一例に過ぎない。例えば、本実施例においては、光走査部13のスキャナ12Aが電磁気的に光反射面24Aを揺動させるMEMSスキャナであり、走査軌跡TRがリサージュ曲線を描くような走査態様を有する場合について説明した。しかし、光走査部13の構成は一例に過ぎない。
【0065】
例えば、スキャナ12Aの駆動力は電磁気力に限定されず、静電気力であってもよいし、圧電力であってもよい。例えば静電気力によって光反射面24Aを揺動させる場合、駆動力生成部23は、永久磁石MG及び金属配線CX及びCYではなく、それぞれ固定枠B2上、揺動枠SX上及び揺動板SY上において互いに離間して配置された電極対であればよい。また、スキャナ駆動回路12Bは、当該電極に駆動信号DX及びDYとして電圧を印加するように構成されていればよい。
【0066】
また、スキャナ12A(光走査部12)は、リサージュ曲線に従った軌道で走査対象領域R0を走査する場合に限定されない。例えば、走査周期毎(画像データのフレーム毎)に走査軌道が異なっていてもよい。光走査部12は、交差する走査軌跡TRに沿ってパルス光L1(走査光L2)によって走査対象領域R0(有効走査面R2)を走査するように構成されていればよい。
【0067】
また、本実施例においては、制御部15は、走査軌跡TRが測距点P1に向けてパルス光L1を出射するタイミングt3及びt7のうち、遅いタイミングt7でのパルス光L1の出射を停止するように光源部11を制御する場合について説明した。しかし、制御部15は、当該タイミングt3及びt7のうちの早いタイミングt3でのパルス光L1の出射を停止する制御を行ってもよい。
【0068】
また、本実施例においては、制御部15の光源制御部15Cが光源部11の制御を行うに際し、光走査部12の走査状況(すなわち走査中における実際の走査軌跡TR又は走査光L2の出射方向)及び測距部14による測距履歴を考慮する場合について説明した。これによって、正確に走査軌跡TRが重複する測距点及びその測距タイミングを把握し、正確に当該タイミングでのパルス光L1の出射制御を行うことができる。しかし、制御部15による光源部11の制御条件はこれに限定されない。
【0069】
例えば、想定の範囲内の使用環境(温度や湿度、動作時間など)であれば、光走査部12による走査光L2の走査軌跡TRは、設計上の軌跡と同様の軌跡をたどることが想定される。従って、予め走査軌跡TR及び走査軌跡TRが交差する測距点P1を特定することができる。従って、制御部15は、例えば初期設定として、当該走査軌跡TRが重複することが分かっている走査光L2の出射タイミングでの測距点P1へのパルス光L1の出射を停止するように構成されていてもよい。
【0070】
このように、本実施例においては、測距装置10は、パルス光L1を出射する光源部11と、パルス光L1によって所定の領域(走査対象領域R0)を走査し、当該所定の領域内の仮想の面(有効走査面R2)を見たときにパルス光L1の軌跡TRが交差する交差点P1を有する光走査部12と、当該交差点P1へのパルス光L1の出射及び非出射を切替える制御部15と、を有する。従って、走査軌道が交差する測距点P1での測距動作の条件を調節することが可能な測距装置10を提供することができる。
【実施例0071】
図6Aは、実施例2に係る測距装置10Aの制御部16のブロック図である。測距装置10Aは、制御部16の構成を除いては、測距装置10と同様の構成を有する。本実施例においては、制御部16は、制御部15と同様に、実走査軌道推定部15A及び測距履歴取得部15Bを有する。
【0072】
本実施例においては、制御部16は、測距部13から取得した測距履歴に基づいて、各測距点P(t)での測距尤度を判定する測距尤度判定部16Aと、当該測距尤度に基づいて、1つの走査周期内で走査軌跡TRが重複する測距点P1へのパルス光L1の出射を制御する光源制御部16Bとを有する。
【0073】
測距尤度判定部16Aは、例えば、測距部13の受光部13Aから、対象物OBからの反射光L3の受光結果(受光信号)に関する情報を取得する。そして、測距尤度判定部16Aは、当該反射光L3の受光結果に基づいて、各測距点P(t)での測距結果の尤度を判定する。例えば、測距尤度判定部16Aは、各測距点P(t)での測距結果を所定の尤度レベル(例えば高尤度又は低尤度など)に分類する。
【0074】
制御部15は、測距尤度判定部16Aが判定した測距点P(t)毎の測距尤度に基づいて、走査軌跡TRが重複する測距点P1への光源部11によるパルス光L1の出射制御を行う。
【0075】
図6Bは、測距タイミングt、当該タイミングtに対応する測距点P(t)の位置及び種別、並びに制御部16による測距点P(t)毎のパルス光L1の出射及び非出射の切替例を示す図である。
【0076】
図6Bに示すように、制御部16の測距尤度判定部16Aは、第1及び第2の軌跡線TR1及びTR2が交差するタイミングt3での測距点P(t3)に対する測距結果に基づいて、測距点P(t3)の測距尤度を判定する。そして、例えば、当該タイミングt3での測距点P(t3)に対する測距尤度が低いと判定された場合、光源制御部16Bは、当該測距点P(t3)を次に通るタイミングであるタイミングt7において、再度測距を行うために、光源部11に対してパルス光L1を出射させる制御を行う。一方、タイミングt3での測距点P(t3)に対する測距尤度が所定のレベルよりも高かった場合、再度測距を行う必要がないため、光源部11に対してパルス光L1を出射させない制御を行う。これによって、得られる測距データの精度が向上し、高精度な測距結果を得ることができる。
【0077】
このように、測距装置10Aの制御部16は、交差測距点P1における過去の測距時の測距尤度に基づいて、この交差測距点P1を通る次のタイミング(タイミングt7)で再度パルス光L1を出射するか否かを決定する。すなわち、測距装置10Aは、交差測距点P1での不要な測距動作は回避し、測距結果の尤度が低い測距点P(t)については再度(複数回)の測距動作を行うように構成されている。従って、動作時の処理負荷を抑えつつ、高精度な測距動作を行うことが可能な測距装置10Aを提供することができる。
【0078】
なお、本実施例においては、制御部16が測距尤度判定部16Aを有し、交差測距点P1での測距尤度に基づいて当該交差測距点P1での次の測距動作(パルス光L1の出射)の実行及び非実行を切替える場合について説明した。しかし、制御部16が交差測距点P1でのパルス光L1の出射切替を行う条件は、過去の測距時の測距尤度に限定されない。
【0079】
例えば、制御部16は、交差測距点P1を測距するタイミングの前のタイミングに測距した非交差測距点P2の測距データ、測距尤度などに基づいて、当該交差測距点P1での光源部11によるパルス光L1での出射制御を行ってもよい。
【0080】
例えば、交差測距点P1である測距点P(t7)でのパルス光L1の出射又は非出射を決定する場合、過去(タイミングt3)の測距時の測距尤度が低い場合であっても、その直前のタイミング(タイミングt6)での非交差測距点P2である測距点P(t6)の測距尤度が高くかつ交差測距点P(t7)での測距情報が推定できる場合には再度の測距を行う必要がない場合がある。この場合、制御部16は、過去の測距時の測距尤度が低い場合であっても、制御部16は、交差測距点P1ではパルス光L1を出射しないように光源部11を制御してもよい。
【0081】
また、例えば、制御部16は、交差測距点P1を含む走査対象領域R0内の一部領域に向けて所定時間内に出射されたパルス光L1の総光量に基づいて、交差測距点P1へのパルス光L1の出射を制御してもよい。例えば、制御部16は、当該交差測距点P1を含む一部領域内に向けて所定時間内に出射されたパルス光L1の回数に基づいて、光源部11によるパルス光L1の出射制御を行ってもよい。これは、当該所定領域内での不要な(過剰な)回数の測距動作を回避することを考慮することに加え、当該所定時間内にパルス光L1が同一方向に集中して出射されることでパルス光L1が人体などの生物の健康に悪影響を与えることを考慮する条件である。
【0082】
具体的には、例えば、所定領域に向けて過剰な強度及び回数でパルス光L1が出射され続けることで、日本工業規格(JIS)に規定されているクラス1のレーザ強度の上限値が無視できなくなる場合が想定される。制御部16は、この安全上の制限を設けて光源部11の出射制御を行ってもよい。
【0083】
この場合、例えば、制御部16は、測距履歴取得部15Bから、走査対象領域R0内又は走査対象領域R0内の測距点P(t7)を含む一部領域におけるパルス光L1の出射回数及び出射強度に関する情報を取得すればよく、また、これに基づいて光源制御部16Bはタイミングt7でのパルス光L1の出射及び非出射を切替えればよい。
【0084】
また、例えば測距尤度などによってタイミングt7において再度測距を行うことが好ましい場合には、制御部16の光源制御部16Bは、タイミングt7でのパルス光L1の出射強度を下げるように光源部11を制御すればよい。すなわち、制御部16は、パルス光L1の出射及び非出射を切替えるのみならず、パルス光L1の出射強度を調節するように光源部11を制御してもよい。
【0085】
このように、測距装置10Aの制御部16は、種々の条件を考慮し、光走査部12の走査軌跡TRが交差する測距点P1へのパルス光L1の出射及び非出射の切替及び出射強度の制御を行う。従って、走査軌道が交差する測距点P1での測距動作の条件を調節することが可能な測距装置10Aを提供することができる。
【0086】
上記したように、測距装置10及び10Aは、パルス光L1を出射する光源部11と、パルス光L1によって、交差する走査軌跡TRに沿って所定の領域(走査対象領域R0)を走査する光走査部12と、反射光L3についての所定の条件に基づいて、当該所定の領域における走査軌跡TRが重複する測距点P1へのパルス光L1の出射を制御する制御部15と、を有する。従って、走査軌道が交差する測距点P1での測距動作の条件を調節することが可能な測距装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0087】
10、10A 測距装置
11 光源部
12 光走査部
13 測距部
15、16 制御部
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B