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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038496
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/81 20060101AFI20240312BHJP
   C07K 7/00 20060101ALI20240312BHJP
   C40B 40/10 20060101ALI20240312BHJP
   C12N 15/15 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C07K14/81
C07K7/00
C40B40/10
C12N15/15 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024010633
(22)【出願日】2024-01-29
(62)【分割の表示】P 2022209538の分割
【原出願日】2013-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2012176208
(32)【優先日】2012-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113583
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 範子
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100167678
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 直浩
(72)【発明者】
【氏名】西宮 大祐
(72)【発明者】
【氏名】橋本 隆二
(57)【要約】
【課題】標的結合ペプチドを提供する。
【解決手段】 ペプチド・ライブラリーに含まれるペプチドと標的分子とを接触させる工
程、標的分子に結合したペプチドを回収する工程、及び、回収されたペプチドを遺伝子組
換えにより調製する工程を含む方法により得られる、標的結合ペプチド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)に記載のアミノ酸配列において、配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列のアミノ酸番号2乃至8及び10乃至14以外の、1個以上5個以下のアミノ酸がアミノ酸置換、欠失、付加および/または挿入してなるアミノ酸配列を有するペプチド:
(i)配列表の配列番号14において第43番塩基チミン乃至第93番チミンからなる塩基配列が配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列で置き換えられてなる塩基配列によりコードされるアミノ酸配列であって、配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列においてX乃至X12がシステイン以外の天然界に存在するアミノ酸であるアミノ酸配列。
【請求項2】
配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列においてX乃至X12がシステイン以外の天然界に存在するアミノ酸であるアミノ酸配列が、配列表の配列番号2乃至9(図12のペプチド番号1、2、6、7、12乃至14および17)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列である、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
ヒト由来のChymotrypsin、ヒト由来のKallikrein、ヒト由来のEGFR又はヒト由来のHER2の内、少なくともいずれか一つの予め決定された標的分子に結合する、請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
予め決定された標的分子がヒト由来のChymotrypsinであることを特徴とする、請求項3に記載のペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド、該ペプチドの誘導体、該ペプチドまたは該誘導体に含まれるペプ
チドに対応するヌクレオチド、ヌクレオチドを含むベクター、該ベクターおよび/または
ヌクレオチドが導入された細胞、該細胞を培養する工程を含んでなるペプチドおよび/ま
たはその誘導体の製造方法、該ペプチドおよび/またはその誘導体を含んでなるペプチド
・ライブラリー、標的分子に結合するペプチドおよび/またはその誘導体の同定方法、標
的分子に結合するペプチドおよび/またはその誘導体の製造方法、被検ペプチドおよび/
またはその誘導体が標的分子に結合するか否かを判定する方法、該ヌクレオチドを含んで
なるヌクレオチド・ライブラリー、該ペプチドもしくはその誘導体、該ヌクレオチド、該
ベクターまたは該細胞を含むことからなる組成物、該ペプチドもしくはその誘導体、該ヌ
クレオチド、該ベクターまたは該細胞を含むことからなる試薬等に関する。
【背景技術】
【0002】
SPINK2(Serine Protease Inhibitor Kazal-
type 2)は、3つのdisulfide bondを有するKazal-type
domainから成る7kDaのタンパク質である。ヒト生体内では精巣や精嚢で発現
しており、trypsin/acrosin inhibitorとして機能している(
非特許文献1)。
【0003】
1991年、Winterらがphage displayを用いた抗体のスクリーニ
ングを報告したことにより、phage displayは完全ヒト型抗体の創製法とし
て、抗体医薬開発に大きな影響を与えた(非特許文献2)。近年ではタンパク質工学の進
歩により、phage displayやribosome displayなどのディ
スプレイ技術を用いて、non-antibody scaffoldの開発が盛んにな
りつつある。Non-antibody scaffoldは、engineering
binding(affinity) proteinなどとも呼ばれ、抗体の可変領
域(CDR)様の結合領域を付与した人工タンパク質のことである。標的となるタンパク
質Xに対する結合性を有し、タンパク質間相互作用が可能な点に加え、生産性や免疫原性
、組織浸潤性などの観点に特長を持っている。Kunitz domain libra
ry(Dyax)(特許文献1)やanticalin(Pieris)などに代表され
るように、科学上または産業上の台頭が望まれているが、その種類は未だ少なく、疾患関
連分子に対する新規なnon-antibody scaffoldの創出が期待されて
いる(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開 US2008/0020394 A1(または日本出願公表 特表2007-524348)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chen T, Lee TR, Liang WG, Chang WS, Lyu PC. (2009) Identification of trypsin-inhibitory site and structure determination of human SPINK2 serine proteinase inhibitor. Proteins. 77(1):209-19.
【非特許文献2】James D. Marks, Hennie R. Hoogenboom, Timothy P. Bonnert, John McCafferty, Andrew D. Griffiths, Greg Winter (1991) By-passing immunization: Human antibodies from V-gene libraries displayed on phage. J Mol Biol. 222(3):581-97.
【非特許文献3】Skerra A. (2007) Alternative non-antibody scaffolds for molecular recognition. Curr Opin Biotechnol. 18:295-304.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、SPINK2およびその改変体について鋭意検討した結果、SPINK2
の内在性の標的以外の分子に対して高い結合活性を示すペプチドを含むライブラリーを作
製し、当該ライブラリーから内在性の標的以外の標的分子に対して高い結合活性を示すペ
プチドを単離すること等により、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、例えば、
(1)
下記(i)または(ii)から選択されるペプチド:
(i)配列表の配列番号14において第43番塩基チミン乃至第93番チミンからなる塩
基配列が配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列で置き換えら
れてなる塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むペプチド;および、
(ii)配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列のアミノ酸番号2乃至8及び10乃
至14以外の、1個以上5個以下のアミノ酸がアミノ酸置換、欠失、付加および/または
挿入してなるアミノ酸配列を有する(i)記載のペプチド、
(2)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて1番目乃至5番目、7番目、9番目および
10番目のXaaが、それぞれ、システインおよびプロリンを除く任意のアミノ酸である
、(1)記載のペプチド、
(3)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて6番目および8番目のXaaが、それぞれ
、システインを除く任意のアミノ酸である、(1)または(2)記載のペプチド、
(4)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて11番目のXaaが、チロシン、セリン、
フェニルアラニン、ロイシンおよびスレオニンからなる群より選択されるアミノ酸である
、(1)乃至(3)のいずれか一つに記載のペプチド、
(5)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて12番目のXaaが、アスパラギン、アス
パラギン酸、ロイシン、リジン、グルタミン、アラニンおよびグルタミン酸からなる群よ
り選択されるアミノ酸である、(1)乃至(4)のいずれか一つに記載のペプチド、
(6)
保存的アミノ酸置換が、疎水性アミノ酸グループ、中性親水性アミノ酸グループ、酸性
アミノ酸グループ、塩基性アミノ酸グループ、主鎖の方角に影響を与えるアミノ酸のグル
ープ、および、芳香族アミノ酸グループから選択されるいずれかのグループ内において行
われることを特徴とする、(1)乃至(5)のいずれか一つに記載のペプチド、
(7)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて1番目のXaaが、アルギニン、メチオニ
ン、ロイシン、トリプトファンおよびセリンからなる群より選択されるアミノ酸である、
(1)乃至(6)のいずれか一つに記載のペプチド、
(8)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて2番目のXaaが、スレオニン、アルギニ
ン、トリプトファンおよびフェニルアラニンからなる群から選択されるアミノ酸である、
(1)乃至(7)のいずれか一つに記載のペプチド、
(9)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて3番目のXaaが、アルギニン、ヒスチジ
ン、トリプトファン、セリンおよびフェニルアラニンからなる群より選択されるアミノ酸
である、(1)乃至(8)のいずれか一つに記載のペプチド、
(10)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて4番目のXaaが、トリプトファン、アル
ギニンおよびロイシンからなる群より選択されるアミノ酸である、(1)乃至(9)のい
ずれか一つに記載のペプチド、
【0008】
(11)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて5番目のXaaが、グリシン、アルギニン
、ロイシン、ヒスチジン、トリプトファン、メチオニンおよびチロシンからなる群から選
択されるアミノ酸である、(1)乃至(10)のいずれか一つに記載のペプチド、
(12)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて6番目のXaaが、アスパラギン、ヒスチ
ジン、プロリン、リジン、トリプトファン、アルギニンおよびアスパラギン酸からなる群
から選択されるアミノ酸である、(1)乃至(11)のいずれか一つに記載のペプチド、
(13)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて7番目のXaaが、アルギニン、フェニル
アラニン、トリプトファン、ロイシン、アラニンおよびグリシンからなる群から選択され
るアミノ酸である、(1)乃至(12)のいずれか一つに記載のペプチド、
(14)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて8番目のXaaが、スレオニン、プロリン
、アスパラギンおよびセリンからなる群から選択されるアミノ酸である、(1)乃至(1
3)のいずれか一つに記載のペプチド、
(15)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて9番目のXaaが、トリプトファン、メチ
オニン、チロシンおよびフェニルアラニンからなる群から選択されるアミノ酸である、(
1)乃至(14)のいずれか一つに記載のペプチド、
(16)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて10番目のXaaが、グルタミン、バリン
、リジン、メチオニン、アラニン、ロイシンおよびアスパラギンからなる群から選択され
るアミノ酸である、(1)乃至(15)のいずれか一つに記載のペプチド、
(17)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて11番目のXaaが、チロシン、フェニル
アラニンおよびロイシンからなる群から選択されるアミノ酸である、(1)乃至(16)
のいずれか一つに記載のペプチド、
(18)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて12番目のXaaがリジンである、(1)
乃至(17)のいずれか一つに記載のペプチド、
(19)
配列表の配列番号2乃至9(図12のペプチド番号1、2、6、7、12乃至14およ
び17)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列を含む、(1)乃至(18)のいずれか
一つに記載のペプチド、
(20)
(1)乃至(19)のいずれか一つに記載のペプチドに化学的修飾および/または生物
学的修飾が施されてなる該ペプチドの誘導体、
【0009】
(21)
下記(i)乃至(iii)のいずれか一つに記載のヌクレオチド:
(i)(1)乃至(19)のいずれか一つに記載のペプチドの有するアミノ酸配列をコー
ドする塩基配列からなるヌクレオチドを含んでなるヌクレオチド;
(ii)(1)乃至(19)のいずれか一つに記載のペプチドの有するアミノ酸配列をコ
ードする塩基配列を含んでなるヌクレオチド;および、
(iii)(1)乃至(19)のいずれか一つに記載のペプチドの有するアミノ酸配列を
コードする塩基配列からなるヌクレオチド、
(22)
(21)記載のヌクレオチドを含んでなるベクター、
(23)
(21)記載のヌクレオチドまたは(22)記載のベクターが導入された細胞、
(24)
下記工程(i)および(ii)を含んでなる(1)乃至(19)のいずれか一つに記載
のペプチドの製造方法:
(i)(23)記載の細胞を培養する工程;および、
(ii)工程(i)で得られた培養物から該ペプチドを回収する工程、
(25)
(1)乃至(19)のいずれか一つに記載のペプチドおよび/または(20)記載のペ
プチドの誘導体を含んでなるペプチド・ライブラリー、
(26)
ペプチドおよび/またはペプチドの誘導体が、(24)記載の工程(i)および(ii
)を含んでなる方法により調製されたものであることを特徴とする、(25)記載のライ
ブラリー、
(27)
ライブラリーにおいて、表現型(phenotype)である該ペプチド又はペプチド
誘導体および該表現型に対応する遺伝型(genotype)であるヌクレオチドが直接
的または間接的にリンクしていることを特徴とする、(25)または(26)記載のライ
ブラリー、
(28)
ヌクレオチドが(21)に記載のヌクレオチドである、(27)に記載のライブラリー

(29)
ファージ・ディスプレイ・ライブラリー、リボゾーム・ディスプレイ・ライブラリー若
しくは核酸ディスプレイ・ライブラリーである、(25)乃至(28)のいずれか一つに
記載のライブラリー、
(30)
下記(i)および(ii)の工程を含んでなる、標的分子に結合する、(1)乃至(1
9)のいずれか一つに記載のペプチドまたは(20)記載のペプチド誘導体の同定方法:
(i)(25)乃至(29)のいずれか一つに記載のライブラリーに含まれるペプチドま
たはペプチド誘導体と該標的分子とを接触させる工程;および、
(ii)該標的分子に結合するペプチドまたはペプチド誘導体を回収する工程、
【0010】
(31)
下記(i)乃至(iii)の工程を含んでなる、標的分子に結合する、(1)乃至(1
9)のいずれか一つに記載のペプチドまたは(20)記載のペプチド誘導体の製造方法:
(i)(25)乃至(29)のいずれか一つに記載のライブラリーに含まれるペプチドま
たはペプチド誘導体と該標的分子とを接触させる工程;および、
(ii)該標的分子に結合するペプチドまたはペプチド誘導体を回収する工程;および、
(iii)前記(ii)において回収された該ペプチドまたはペプチド誘導体に含まれる
、該標的分子に結合するペプチドを化学合成、遺伝子組換えまたはイン・ビトロ翻訳によ
り調製する工程、
(32)
下記(i)および(ii)の工程を含んでなる、(1)乃至(19)のいずれか一つに
記載のペプチドまたは(20)記載のペプチドの誘導体が標的分子に結合するか否かを判
定する方法:
(i)(1)乃至(19)のいずれか一つに記載の被検ペプチドまたは(20)記載の被
検ペプチド誘導体と該標的分子とを接触させる工程;および、
(ii)被検ペプチドまたは被検ペプチド誘導体が該標的分子に結合する場合、該ペプチ
ドまたは被検ペプチド誘導体は陽性であると決定する工程、
(33)
下記(i)乃至(iii)の工程を含んでなる、標的分子に結合する、(1)乃至(1
9)のいずれか一つに記載のペプチドまたは(20)記載のペプチドの誘導体の製造方法

(i)(1)乃至(19)のいずれか一つに記載の被検ペプチドまたは(20)記載の被
検ペプチド誘導体と該標的分子とを接触させる工程;
(ii)被検ペプチドまたは被検ペプチド誘導体が該標的分子に結合する場合、該ペプチ
ドまたは被検ペプチド誘導体は陽性であると決定する工程;および、
(iii)工程(ii)において被検ペプチドまたはペプチド誘導体が陽性と判定された
場合、該ペプチドまたはペプチド誘導体に含まれる、該標的分子に結合するペプチドを、
遺伝子組換えまたはイン・ビトロ翻訳により調製する工程、
(34)
(21)に記載のヌクレオチドを含んでなるヌクレオチド・ライブラリー、
(35)
ヌクレオチドがファージミド、コスミドもしくはプラスミドまたはその断片である、(
34)記載のライブラリー、
(36)
ヌクレオチドが原核もしくは真核細胞内、または、ウイルスDNAまたはRNA上もし
くはウイルス粒子中に存在する、(34)または(35)記載のヌクレオチド・ライブラ
リー、
(37)
(1)乃至(19)のいずれか一つに記載のペプチド、(20)記載のペプチドの誘導
体、(21)記載のヌクレオチド、(22)記載のベクターまたは(23)記載の細胞を
含むことからなる組成物、
(38)
(1)乃至(19)のいずれか一つに記載のペプチド、(20)記載のペプチドの誘導
体、(21)記載のヌクレオチド、(22)記載のベクターまたは(23)記載の細胞を
含むことからなる試薬、
(39)
予め決定された標的分子に結合する、(1)乃至(19)のいずれか一つに記載のペプ
チド、または、(20)記載のペプチドの誘導体、
(40)
標的分子がSPINK2の内在性の標的ではないことを特徴とする、(39)記載のペ
プチドまたはペプチドの誘導体、
【0011】
(41)
標的分子がヒト由来であることを特徴とする、(39)または(40)記載のペプチド
またはペプチドの誘導体、
(42)
内在性の標的がトリプシンおよび/またはアクロシンである、(39)乃至(41)の
いずれか一つに記載のペプチドまたはペプチドの誘導体、
(43)
内在性の標的がトリプシンである、(39)乃至(42)のいずれか一つに記載のペプチ
ドまたはペプチドの誘導体、
(44)
(39)乃至(43)のいずれか一つに記載のペプチドまたはペプチドの誘導体を含むこ
とからなる組成物または試薬、
(45)
下記(i)乃至(iii)の工程を含んでなる、トリプシンおよび/またはアクロシン
以外のセリンプロテアーゼに結合し且つ該セリンプロテアーゼの有する蛋白質分解活性(
ペプチド結合加水分解活性:以下同じ)を阻害する、(1)乃至(19)のいずれか一つ
に記載のペプチドまたは(20)記載のペプチド誘導体の同定方法:
(i)(25)乃至(29)のいずれか一つに記載のライブラリーに含まれるペプチドま
たはペプチド誘導体と該セリンプロテアーゼとを接触させる工程;
(ii)該セリンプロテアーゼに結合するペプチドまたはペプチド誘導体を回収する工程
;、および、
(iii)該ペプチドまたはペプチド誘導体が該セリンプロテアーゼの有する蛋白質分解
活性を阻害する場合、該ペプチドまたはペプチド誘導体を陽性と判定する工程、
(46)
下記(i)乃至(iv)の工程を含んでなる、トリプシンおよび/またはアクロシン以
外のセリンプロテアーゼに結合し且つその蛋白質分解活性を阻害する、(1)乃至(19
)のいずれか一つに記載のペプチドまたは(20)記載のペプチド誘導体の製造方法:
(i)(25)乃至(29)のいずれか一つに記載のライブラリーに含まれるペプチドま
たはペプチド誘導体と該セリンプロテアーゼとを接触させる工程;
(ii)該セリンプロテアーゼに結合するペプチドまたはペプチド誘導体を回収する工程
;および、
(iii)工程(ii)において回収されたペプチドまたはペプチド誘導体が該セリンプ
ロテアーゼの有する蛋白質分解活性を阻害する場合、該ペプチドまたはペプチド誘導体を
陽性と判定する工程;、および、
(iv)工程(iii)において陽性と判定されたペプチドまたはペプチド誘導体に含ま
れる、該セリンプロテアーゼの有する蛋白質分解活性を阻害するペプチドを化学合成、遺
伝子組換えまたはイン・ビトロ翻訳により調製する工程、
(47)
下記(i)および(ii)の工程を含んでなる、(1)乃至(19)のいずれか一つに
記載のペプチドまたは(20)記載のペプチドの誘導体がトリプシンおよび/またはアク
ロシン以外のセリンプロテアーゼの有する蛋白質分解活性(ペプチド結合加水分解活性:
以下同じ)を阻害するか否かを判定する方法:
(i)(1)乃至(19)のいずれか一つに記載の被検ペプチドまたは(20)記載の被
検ペプチド誘導体と該セリンプロテアーゼとを接触させる工程;および、
(ii)該ペプチドまたはペプチド誘導体が該セリンプロテアーゼの有する蛋白質分解活
性を阻害する場合、該ペプチドまたはペプチド誘導体を陽性と判定する工程、
(48)
下記(i)乃至(iii)の工程を含んでなる、トリプシンおよび/またはアクロシン
以外のセリンプロテアーゼの有する蛋白質分解活性を阻害する、(1)乃至(19)のい
ずれか一つに記載のペプチドまたは(20)記載のペプチドの誘導体の製造方法:
(i)(1)乃至(19)のいずれか一つに記載の被検ペプチドまたは(20)記載の被
検ペプチド誘導体と該セリンプロテアーゼとを接触させる工程;
(ii)該ペプチドまたはペプチド誘導体が該セリンプロテアーゼの有する蛋白質分解活
性を阻害する場合、該ペプチドまたはペプチド誘導体を陽性と判定する工程;および、
(iii)工程(ii)において陽性と判定されたペプチドまたはペプチド誘導体に含ま
れる、該セリンプロテアーゼの有する蛋白質分解活性を阻害するペプチドを、遺伝子組換
えまたはイン・ビトロ翻訳により調製する工程、および、
(49)
下記(i)または(ii)から選択されるペプチド:
(i)配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列を含み、且つ下記(ア)乃至(エ)で
あるペプチド;
(ア)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて1番目乃至5番目、7番目、9番目および
10番目のXaaが、それぞれ、システインおよびプロリンを除く任意のアミノ酸である

(イ)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて6番目および8番目のXaaが、それぞれ
、システインを除く任意のアミノ酸である、
(ウ)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて11番目のXaaが、チロシン、セリン、
フェニルアラニン、ロイシンおよびスレオニンからなる群より選択されるアミノ酸である

(エ)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて12番目のXaaが、アスパラギン、アス
パラギン酸、ロイシン、リジン、グルタミン、アラニンおよびグルタミン酸からなる群よ
り選択されるアミノ酸である:
および、
(ii)配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列において、アミノ末端から数えて1
番目乃至12番目のXaa以外の、1個以上5個以下のアミノ酸が保存的アミノ酸置換、
欠失、付加および/または挿入してなるアミノ酸配列を含むペプチド、
(50)
保存的アミノ酸置換が、疎水性アミノ酸グループ、中性親水性アミノ酸グループ、酸性
アミノ酸グループ、塩基性アミノ酸グループ、主鎖の方角に影響を与えるアミノ酸のグル
ープ、および、芳香族アミノ酸グループから選択されるいずれかのグループ内において行
われることを特徴とする、(49)記載のペプチド、
【0012】
(51)
下記(ア)乃至(シ)である、(49)又は(50)に記載のペプチド:
(ア)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて1番目のXaaが、アルギニン、メチオニ
ン、ロイシン、トリプトファンおよびセリンからなる群より選択されるアミノ酸である、
(イ)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて2番目のXaaが、スレオニン、アルギニ
ン、トリプトファンおよびフェニルアラニンからなる群から選択されるアミノ酸である、
(ウ)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて3番目のXaaが、アルギニン、ヒスチジ
ン、トリプトファン、セリンおよびフェニルアラニンからなる群より選択されるアミノ酸
である、
(エ)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて4番目のXaaが、トリプトファン、アル
ギニンおよびロイシンからなる群より選択されるアミノ酸である、
(オ)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて5番目のXaaが、グリシン、アルギニン
、ロイシン、ヒスチジン、トリプトファン、メチオニンおよびチロシンからなる群から選
択されるアミノ酸である、
(カ)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて6番目のXaaが、アスパラギン、ヒスチ
ジン、プロリン、リジン、トリプトファン、アルギニンおよびアスパラギン酸からなる群
から選択されるアミノ酸である、
(キ)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて7番目のXaaが、アルギニン、フェニル
アラニン、トリプトファン、ロイシン、アラニンおよびグリシンからなる群から選択され
るアミノ酸である、
(ク)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて8番目のXaaが、スレオニン、プロリン
、アスパラギンおよびセリンからなる群から選択されるアミノ酸である、
(ケ)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて9番目のXaaが、トリプトファン、メチ
オニン、チロシンおよびフェニルアラニンからなる群から選択されるアミノ酸である、
(コ)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて10番目のXaaが、グルタミン、バリン
、リジン、メチオニン、アラニン、ロイシンおよびアスパラギンからなる群から選択され
るアミノ酸である、
(サ)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて11番目のXaaが、チロシン、フェニル
アラニンおよびロイシンからなる群から選択されるアミノ酸である、
(シ)
配列表の配列番号1のアミノ末端から数えて12番目のXaaがリジンである、
(52)
(49)乃至(51)のいずれか一つに記載のペプチドに化学的修飾および/または生
物学的修飾が施されてなる該ペプチドの誘導体、
(53)
予め決定された標的分子に結合する、(49)乃至(51)のいずれか一つに記載のペ
プチド、または、(52)記載のペプチドの誘導体、
および、
(54)
標的分子がSPINK2の内在性の標的ではないことを特徴とする、(53)記載のペ
プチドまたはペプチドの誘導体、
等に関するがそれらに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、所望の標的分子に結合するペプチドを選抜するのに有用なペプチド・ラ
イブラリーを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】標的分子であるα-chymotrypsinに対するパニングから得られたSPINK2変異体(ポリクローン)をファージに提示し、該標的分子に結合することをELISA法により確認した図。陰性対象の分子としては、BSAを用いた。
図2】標的分子であるplasma kallikreinに対するパニングから得られたSPINK2変異体(ポリクローン)をファージに提示し、該標的分子に結合することをELISA法により確認した図。陰性対象の分子としては、BSAを用いた。
図3】標的分子であるhEGFR/Fcに対するパニングから得られたSPINK2変異体(ポリクローン)をファージに提示し、該標的分子に結合することをELISA法により確認した図。陰性対象の分子としては、BSAを用いた。
図4】標的分子であるhHER2/Fcに対するパニングから得られたSPINK2変異体(ポリクローン)をファージに提示し、該標的分子に結合することをELISA法により確認した図。陰性対象の分子としては、BSAを用いた。
図5】大腸菌で発現精製したα―chymotrypsin結合ペプチド(シングルクローン)の分子状態を還元状態下のSDS-PAGEで分析した図。
図6】大腸菌で発現精製したα―chymotrypsin結合ペプチド(シングルクローン)の分子状態を非還元状態下のSDS-PAGEで分析した図。
図7】大腸菌で発現精製したα-chymotrypsin結合ペプチド8種類の結合親和性をELISA法により定量的に測定した図。
図8】大腸菌で発現精製したα-chymotrypsin結合ペプチド番号2および6(clone2および6)の結合親和性をELISA法により定量的に測定した図。
図9】大腸菌で発現精製したα-chymotrypsin結合ペプチド番号2(clone2)の標的特異性をELISA法により確認した図。
図10】大腸菌で発現精製したα-chymotrypsin結合ペプチド番号6(clone6)の標的特異性をELISA法により確認した図。
図11】大腸菌で発現精製したα-chymotrypsin結合ペプチド番号2および6(clone2および6)のchymotrypsin阻害活性を定量的に測定した図。
図12】SPINK2変異体8種類(α-chymotrypsin結合ペプチド番号1、2、6、7、12乃至14および17)のランダム領域のアミノ酸配列(配列番号2乃至9)。
図13】多様性を伴うペプチドのランダム領域のアミノ酸配列(配列番号1)。アミノ酸番号2乃至8及び10乃至14は任意のアミノ酸を示す。
図14】断片1の塩基配列(配列番号10)
図15-1】pCANTAB 5E の塩基配列(図15-2に続く)
図15-2】pCANTAB 5E の塩基配列(下線部は配列番号11に同じで「断片2」の塩基配列:図15-3に続く)
図15-3】pCANTAB 5E の塩基配列(図15-4に続く)
図15-4】pCANTAB 5E の塩基配列
図16】断片3の塩基配列(配列番号12)
図17】断片5の塩基配列(配列番号13)
図18】SPINK2のアミノ酸配列をコードする塩基配列(配列番号14)
図19図18記載の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列(配列番号15)
図20-1】断片1~断片5を含むPCR用鋳型DNAの塩基配列(配列番号16:図20-2に続く)
図20-2】断片1~断片5を含むPCR用鋳型DNAの塩基配列(配列番号16:続き)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ペプチド、ペプチド誘導体、ペプチド・ライブラリー、ヌクレオチド、ベク
ター、細胞、ペプチドおよび/またはその誘導体の製造方法、所望の性質を有するペプチ
ドおよび/またはその誘導体の同定方法、所望の性質を有するペプチドおよび/またはそ
の誘導体の製造方法、被検ペプチドまたはその誘導体が標的分子に結合するか否かを判定
する方法、ヌクレオチド・ライブラリー、組成物、試薬等を提供する。本発明の様々な態
様について以下に述べるが、本発明の態様はそれらに限定されるものではない。
【0016】
1.ペプチド
本発明はペプチドを提供する。
【0017】
本発明の「ペプチド」は、「ポリペプチド」、「蛋白質」をもその意味に包含する。ま
た、本発明において、かかる「ペプチド」は、「ペプチドの誘導体に含まれるペプチド」
をもその意味に包含する。
【0018】
本発明の一つの態様において、ペプチドは、配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配
列を含む。かかるペプチドに含まれる配列番号1で示されるアミノ酸配列において アミ
ノ末端から数えて1番目乃至12番目のXaaは、それぞれ、任意のアミノ酸であるが、
好適にはシステインを除く任意のアミノ酸である。
【0019】
本発明のより好適な態様において、本発明のペプチドの有するアミノ酸配列に含まれる
、配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列中、アミノ末端から数えて1乃至5番目、
7番目、9番目および10番目のXaa(配列番号1の2乃至6番目、8番目、11番目
および12番目のアミノ酸にそれぞれ相当する)は、システインおよびプロリンを除く任
意のアミノ酸である; アミノ末端から数えて6番目および8番目のXaa(配列番号1
の7番目および10番目のアミノ酸にそれぞれ相当する)は、システインを除く任意のア
ミノ酸である; アミノ末端から数えて11番目のXaa(配列番号1の13番目のアミ
ノ酸に相当する)は、チロシン、セリン、フェニルアラニン、ロイシンおよびスレオニン
からなる群より選択されるアミノ酸である; アミノ末端から数えて12番目のXaa(
配列番号1の14番目のアミノ酸に相当する)は、アスパラギン、アスパラギン酸、ロイ
シン、リジン、グルタミン、アラニンおよびグルタミン酸からなる群より選択されるアミ
ノ酸である; また、アミノ末端から数えて1番目乃至12番目のXaaは、本段落に記
載された各群から選択されるアミノ酸が、保存的アミノ酸置換されたもの(本発明の他の
部分に詳述されている)であってもよい。
【0020】
本発明のより一層好適な態様において、本発明のペプチドの有するアミノ酸配列に含ま
れる、配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列中、アミノ末端から数えて1番目のX
aa(配列番号1の2番目のアミノ酸に相当する)は、アルギニン、メチオニン、ロイシ
ン、トリプトファンおよびセリンからなる群より選択されるアミノ酸である; アミノ末
端から数えて2番目のXaa(配列番号1の3番目のアミノ酸に相当する)は、スレオニ
ン、アルギニン、トリプトファンおよびフェニルアラニンからなる群より選択されるアミ
ノ酸である; アミノ末端から数えて3番目のXaa(配列番号1の4番目のアミノ酸に
相当する)は、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、セリンおよびファニルアラニ
ンからなる群より選択されるアミノ酸である; アミノ末端から数えて4番目のXaa(
配列番号1の5番目のアミノ酸に相当する)は、トリプトファン、アルギニンおよびロイ
シンからなる群より選択されるアミノ酸である; アミノ末端から数えて5番目のXaa
(配列番号1の6番目のアミノ酸に相当する)は、グルシン、アルギニン、ロイシン、ヒ
スチジン、トリプトファン、メチオニンおよびチロシンからなる群より選択されるアミノ
酸である; アミノ末端から数えて6番目のXaa(配列番号1の7番目のアミノ酸に相
当する)は、アスパラギン、ヒスチジン、プロリン、リジン、トリプトファン、アルギニ
ンおよびアスパラギン酸からなる群から選択されるアミノ酸である; アミノ末端から数
えて7番目のXaa(配列番号1の8番目のアミノ酸に相当する)は、アルギニン、フェ
ニルアラニン、トリプトファン、ロイシン、アラニンおよびグリシンからなる群より選択
されるアミノ酸である; アミノ末端から数えて8番目のXaa(配列番号1の10番目
のアミノ酸に相当する)は、スレオニン、プロリン、アスパラギンおよびセリンからなる
群より選択されるアミノ酸である; アミノ末端から数えて9番目のXaa(配列番号1
の11番目のアミノ酸に相当する)は、トリプトファン、メチオニン、チロシンおよびフ
ェニルアラニンからなる群より選択されるアミノ酸である; アミノ末端から数えて10
番目のXaa(配列番号1の12番目のアミノ酸に相当する)は、グルタミン、バリン、
リジン、メチオニン、アラニン、ロイシンおよびアスパラギンからなる群より選択される
アミノ酸である; アミノ末端から数えて11番目のXaa(配列番号1の13番目のア
ミノ酸に相当する)は、チロシン、フェニルアラニンおよびロイシンからなる群より選択
されるアミノ酸である; アミノ末端から数えて12番目のXaa(配列番号1の14番
目のアミノ酸に相当する)はリジンである; また、アミノ末端から数えて1番目乃至1
2番目のXaaは、本段落に記載された各群から選択されるアミノ酸が、保存的アミノ酸
置換されたもの(本発明の他の部分に詳述されている)であってもよい。
【0021】
さらに、本発明のある好適な態様において、本発明のペプチドは、配列表の配列番号1
で示されるアミノ酸配列に加え、当該アミノ酸配列のアミノ末端側に、直接あるいは1又
は2個以上の任意のアミノ酸を挟んで、配列表の配列番号14の第1番塩基グアニン又は
第4番目塩基シトシン乃至第42番塩基チミンからなる塩基配列によりコードされるアミ
ノ酸配列を、カルボキシル末端側に、直接あるいは1又は2個以上の任意のアミノ酸を挟
んで、配列表の配列番号14の第94番塩基グアニン乃至189番塩基シトシンからなる
塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を、それぞれ含んでいてもよい。かかるペプチ
ドの有するアミノ酸配列においては、配列表の配列番号14の第1番塩基グアニン乃至第
3番塩基チミンによりコードされるアスパラギン酸は、その対応する位置に含まれていな
くてもよい。また、かかるペプチドの有するアミノ酸配列には、さらに他の任意のアミノ
酸配列が含まれていてもよい。そのようなペプチドとしては、例えば、後述する実施例1
において調製されたランダム変異SPINK2ライブラリーに含まれるペプチド、該ライ
ブラリーから実施例3において選別され、ランダム領域のアミノ酸配列が決定されたペプ
チド等を挙げることができるが、それらに限定されるものではない。
【0022】
また、本発明のある態様において、ペプチドの有するアミノ酸配列に含まれる、配列表
の配列番号1で示されるアミノ酸配列のアミノ末端から数えて1番目乃至12番目のXa
a以外のアミノ酸は置換、欠失、付加および/又は挿入されていてもよい。かかるアミノ
酸配列において、配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列または該配列に対応するア
ミノ酸配列のアミノ末端から数えて1番目乃至12番目のXaa以外の、置換、欠失、付
加および/又は挿入されたアミノ酸の数は、1個以上10個以下であればよく、その下限
は1個である。その上限は10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個で
あり、最小1個である。かかるアミノ酸の置換は、好適には保存的アミノ酸置換である。
【0023】
かかるアミノ酸配列において、配列番号1で示されるアミノ酸配列または該配列に対応
するアミノ酸配列のアミノ末端から数えて1番目乃至12番目のXaaは、それぞれ、任
意のアミノ酸であるが、好適にはシステインを除く任意のアミノ酸であり、より好適には
、前記の各群から選択されるアミノ酸であるか、あるいは該アミノ酸が保存的アミノ酸置
換されたものである。
【0024】
「保存的アミノ酸置換(conservative amino acid subs
titution)」とは、機能的に等価または類似のアミノ酸との置換を意味する。ペ
プチドにおける保存的アミノ酸置換は、該ペプチドのアミノ酸配列に静的変化をもたらす
。例えば、同様の極性を有する一つまたは二つ以上のアミノ酸は機能的に等価に作用し、
かかるペプチドのアミノ酸配列に静的変化をもたらす。一般に、あるグループ内の置換は
構造および機能について保存的であると考えることができる。しかしながら、当業者には
自明であるように、特定のアミノ酸残基が果たす役割は当該アミノ酸を含む分子の三次元
構造における意味合いにおいて決定され得る。例えば、システイン残基は、還元型の(チ
オール)フォームと比較してより極性の低い、酸化型の(ジスルフィド)フォームをとる
ことができる。アルギニン側鎖の長い脂肪族の部分は構造的および機能的に重要な特徴を
構成し得る。また、芳香環を含む側鎖(トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン)
はイオン-芳香族相互作用または陽イオン-pi相互作用に寄与し得る。かかる場合にお
いて、これらの側鎖を有するアミノ酸を、酸性または非極性グループに属するアミノ酸と
置換しても、構造的および機能的には保存的であり得る。プロリン、グリシン、システイ
ン(ジスルフィド・フォーム)等の残基は主鎖の立体構造に直接的な効果を与える可能性
があり、しばしば構造的ゆがみなしに置換することはできない。
【0025】
保存的アミノ酸置換は、以下に示すとおり、側鎖の類似性に基づく特異的置換(レーニ
ンジャ、生化学、改訂第2版、1975年刊行、73乃至75頁:L. Lehning
er, Biochemistry, 2nd edition, pp73-75,
Worth Publisher, New York (1975))および典型的置
換を含む。
【0026】
(1)非極性アミノ酸グループ:アラニン(以下、「Ala」または単に「A」と記す)
、バリン(以下、「Val」または単に「V」と記す)、ロイシン(以下、「Leu」ま
たは単に「L」と記す)、イソロイシン(以下、「Ile」または単に「I」と記す)、
プロリン(以下、「Pro」または単に「P」と記す)、フェニルアラニン(「Phe」
または単に「F」と記す)、トリプトファン(以下、「Trp」または単に「W」と記す
)、メチオニン(以下、「Met」または単に「M」と記す)
(2)非荷電極性アミノ酸グループ:グリシン(以下、「Gly」または単に「G」と記
す)、セリン(以下、「Ser」または単に「S」と記す)、スレオニン(以下、「Th
r」または単に「T」と記す)、システイン(以下、「Cys」または単に「C」と記す
)、チロシン(以下、「Tyr」または単に「Y」と記す)、アスパラギン(以下、「A
sn」または単に「N」と記す)、グルタミン(以下、「Gln」または単に「Q」と記
す)
(3)酸性アミノ酸グループ:アスパラギン酸(以下、「Asp」または単に「D」と記
す)、グルタミン酸(以下、「Glu」または単に「E」と記す)
(4)塩基性アミノ酸グループ:リジン(以下、「Lys」または単に「K」と記す)、
アルギニン(以下、「Arg」または単に「R」と記す)、ヒスチジン(以下、「His
」または単に「H」と記す)
【0027】
また、天然界に存在するアミノ酸は、その共通する側鎖の性質に基づいて次のようなグ
ループに分けることができる。
(1)疎水性アミノ酸グループ:ノルロイシン(Norleucine)、Met、Al
a、Val,Leu,Ile
(2)中性親水性アミノ酸グループ:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln
(3)酸性アミノ酸グループ:Asp、Glu
(4)塩基性アミノ酸グループ:His、Lys、Arg
(5)主鎖の方角に影響を与えるアミノ酸のグループ:Gly、Pro
(6)芳香族アミノ酸グループ:Trp、Tyr、Phe
以下に、保存的置換の例を示すが、本発明の保存的アミノ酸置換はこれらに限定される
ものではない。
【0028】
Alaは、例えば、Val,Leu、Ile、Met、ノルロイシン、Pro、Phe
、Trpと置換し得る。
Argは、例えば、Lys、Hisと置換し得る。
Asnは、例えば、Cys、Ser、Thr、Gln、Tyr、Glyと置換し得る。
Aspは、例えば、Gluと置換し得る。
Cysは、例えば、Gly、Ser、Thr、Tyr、Asn、Glnと置換し得る。
Glnは、例えば、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asnと置換し得る。
Gluは、例えば、Aspと置換し得る。
Glyは、例えば、Ser、Cys、Thr、Tyr、Asn、Gln、Pro、As
p、Gluと置換し得る。
Hisは、例えば、Lys、Argと置換し得る。
Ileは、例えば、Leu、Val、Met、Pro、Ala、Phe、Trp、ノル
ロイシンと置換し得る。
Leuは、例えば、ノルロイシン、Ile、Val、Pro、Met、Ala、Phe
、Trp、Metと置換し得る
Lysは、例えば、Arg、Hisと置換し得る。
Metは、例えば、Ala、Val、Leu、Phe、Ile、Pro、Trp、ノル
ロイシンと置換し得る。
ノルロイシンは、例えば、Met、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Phe
、Trpと置換し得る。
Pheは、例えば、Trp、Leu、Val、Ile、Ala、Tyr、Pro、Me
tと置換し得る。
Proは、例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Phe、Trp、Met、Gl
yと置換し得る。
Serは、例えば、Thr、Cys、Asn、Gln、Gly、Tyrと置換し得る。
Thrは、例えば、Val、Ser、Gly、Cys、Tyr、Asn、Glnと置換
し得る。
Trpは、例えば、Tyr、Phe、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Me
tと置換し得る。
Tyrは、例えば、Gly、Cys、Asn、Gln、Trp、Phe、Thr、Se
rと置換し得る。
Valは、例えば、Ile、Leu、Met、Trp、Phe、Ala、ノルロイシン
、Proと置換し得る。
【0029】
かかるアミノ酸から構成されるアミノ酸配列を有する、本発明のペプチドの有するアミ
ノ酸配列に含まれるアミノ酸配列(配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列に対応す
る:ランダム領域)の例としては、以下のものを挙げることができるが、本発明のペプチ
ドの有するアミノ酸配列はこれらに限定されるものではない。
【0030】
CRTRW GNRCT WQYKP VC (配列表の配列番号2: 図12のα-キ
モトリプシン結合ペプチド1番)
CMRHR RHFCT MVYKP VC (配列表の配列番号3: 図12のα-キ
モトリプシン結合ペプチド2番)
CRRWL LPWCT YKYKP VC (配列表の配列番号4: 図12のα-キ
モトリプシン結合ペプチド6番)
CLWRR HKLCP FKFKP VC (配列表の配列番号5: 図12のα-キ
モトリプシン結合ペプチド7番)
CWRSW RWACP YMYKP VC (配列表の配列番号6: 図12のα-キ
モトリプシン結合ペプチド12番)
CWFFR WRWCN WALKP VC (配列表の配列番号7: 図12のα-キ
モトリプシン結合ペプチド13番)
CSTWR MWGCP WLYKP VC (配列表の配列番号8: 図12のα-キ
モトリプシン結合ペプチド14番)
CWRRW YDRCS FNLKP VC (配列表の配列番号9: 図12のα-キ
モトリプシン結合ペプチド17番)
【0031】
本発明において、アミノ酸は、L-アミノ酸、D-アミノ酸、またはその混合物(DL
-アミノ酸)であるが、特に明記しない限りL-アミノ酸を意味する。
【0032】
また、本発明において、アミノ酸は、上記以外のアミノ酸(以下、便宜的に「異常アミ
ノ酸」と総称する。)であってよい。異常アミノ酸としては、例えば、天然のペプチドや
蛋白質において見出されるセレノシステイン、N-ホルミルメチオニン、ピロリジン、ピ
ログルタミン酸、シスチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、チロキシン、O-
ホスホセリン、デスモシン、β-アラニン、サルコシン、オルニチン、クレアチン、γア
ミノ酪酸、オパイン、テアニン、トリコロミン酸、カイニン酸、ドウモイ酸、アクロメリ
ン酸等を挙げることができ、非天然アミノ酸としては、Ac-アミノ酸、Boc-アミノ
酸、Fmoc-アミノ酸、Trt-アミノ酸、Z-アミノ酸等のN末端保護アミノ酸、ア
ミノ酸t-ブチルエステル、ベンジルエステル、シクロヘキシルエステル、フルオレニル
エステル等のC末端保護アミノ酸、ジアミン、ωアミノ酸、βアミノ酸、γアミノ酸、ア
ミノ酸のTic誘導体、アミノフォスフォン酸を含むその他のアミノ酸等を挙げることが
できるが、それらに限定されるものではない。
【0033】
本発明のペプチドは、化学合成、遺伝子組換え、イン・ビトロ翻訳等、ペプチドや蛋白
質を製造する方法として当業者に周知の方法により調製することができる。また、本発明
のライブラリー等から同定または選抜されたペプチドも、それらの方法により調製するこ
とができる。
【0034】
化学合成法としては、例えば、t-ブトキシカルボニル(t-Butoxycarbo
nyl:Boc)法、9-フルオレニルメトキシカルボニル(9-Fluorenylm
ethoxycarbonyl:Fmoc)法等をあげることができるが、それらに限定
されるものではない。Fmoc法は、脱保護条件が温和であり、樹脂からのペプチドの切
り出しが簡便であること等の特長を有している(Fmoc solid phase p
eptide synthesis: a practical approach,
ed. by W. C. Chan, P. D. White Eds., Oxf
ord University Press, New York, 2000.)。
【0035】
本発明において、「ペプチドの誘導体」および「ペプチド誘導体」とは、本発明のペプ
チドに化学的な修飾または生物学的な修飾が施されたものを意味する。化学的な修飾とは
、本発明のペプチド中またはペプチド上において、化学反応、すなわち原子-原子間の結
合の生成若しくは切断により、元のペプチドとは異なる物質に変化させることを意味する
。生物学的修飾とは、本発明のペプチド中またはペプチド上において、生物学的反応、す
なわち生物に由来する蛋白質(酵素、サイトカイン等)、核酸(リボザイム等)、細胞、
組織、器官若しくは非ヒト個体を利用して、またはそれらの直接的または間接的な作用に
より、元のペプチドとは異なる物質を生じさせることを意味する。
【0036】
かかる「誘導体」は、元のペプチドとは異なる物質であれば特に限定されるものではな
いが、例えば、天然に生じる糖鎖または人工的に創出された糖鎖を含むもの、ポリエチレ
ングリコール(PEG)等のポリマーを含むもの、合成化合物または天然化合物を含むも
の、標識されたもの、固相化に必要な部分を含むもの、アミノ末端側にシグナルペプチド
が連結しているもの、精製または単離を行う際に利用するタグを含むもの、ディスプレイ
、パニング、発現等に適したベクターに由来するアミノ酸やアミノ酸配列、フレームシフ
トを回避するため又は制限酵素サイトを導入するために該ペプチドをコードする塩基配列
が改変されることにより生じたアミノ酸やアミノ酸配列、および、表現型であるペプチド
および該表現型に対応する遺伝型が直接的または間接的にリンクしているもの、ならびに
、それらのうち二つ以上を組み合わせたもの等をあげることができる。
【0037】
本発明のペプチド誘導体は、本発明のペプチドを原料として、化学反応、生化学反応、
翻訳後修飾等、ペプチドや蛋白質を化学的または生物学的に修飾する方法として当業者に
周知の方法に供することにより、調製することができる。また、本発明のライブラリー等
から同定または選抜されたペプチドの誘導体も、それらの方法により調製することができ
る。また、所望の翻訳後修飾能を有する細胞を用いた遺伝子組換えによっても、かかる翻
訳後修飾が施された本発明のペプチド誘導体を調製することができる。さらに、イン・ビ
トロ翻訳系に修飾アミノ酸を添加することにより、該修飾アミノ酸を含む本発明のペプチ
ド誘導体を調製することができる。
【0038】
PEG化の方法としては、例えば、ペプチドまたは蛋白質とN-Hydroxysuc
cimide Ester(NHS)-PEGとを反応させる方法等をあげることができ
るが、それに限定されるものではない。
【0039】
本発明のペプチドおよびその誘導体は、好適な態様において、標的分子(本発明の他の
箇所において詳細に記載されている)に結合する。予め決定された標的分子に結合する本
発明のペプチドは、当該標的分子がマーカーとなり得る各種疾患の検査用の試薬等として
有用である。前述のとおり、本発明には、ペプチドの有するアミノ酸配列に含まれる、配
列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列のアミノ末端から数えて1番目乃至12番目の
Xaa以外1乃至数個(数個は1乃至10個の任意に整数個)のアミノ酸が置換、欠失、
付加および/又は挿入されてなるアミノ酸配列を有するペプチドが含まれるが、かかるペ
プチドはその好適な態様において標的分子に結合し、かかる標的分子は予め決定されてい
ることが好ましい。
【0040】
本発明のペプチドおよびその誘導体がとり得る形態としては、例えば、単離された形態
(凍結乾燥標品、溶液等)、他の分子に結合した形態(固相化された形態、融合蛋白質、
異分子との会合体、標的分子と結合した形態等)、他のペプチド等をも含む物理的集合(
本発明のペプチド・ライブラリーを含む)、細胞表面上(大腸菌や酵母の細胞表面上等)
に発現または提示(ディスプレイと同義)された形態(本発明の細胞を含む)、ウイルス
粒子上に発現または提示(ディスプレイと同義)された形態等をあげることができるが、
それらに限定されるものではなく、使用、保存等の目的に適合した形態を任意に選択する
ことができる。
【0041】
2.ヌクレオチド
本発明はヌクレオチドを提供する。
【0042】
本発明において、「ヌクレオチド」は、モノヌクレオチド、オリゴヌクレオチドまたは
ポリヌクレオチドであり、「核酸」、「核酸分子」または「遺伝子」とも呼ばれる。本発
明のヌクレオチドとしては、例えば、DNA、cDNA、RNA、mRNA、cRNA、
プローブ、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、プライマー、ベクター等をあげるこ
とができるが、それらに限定されるものではない。また、本発明のヌクレオチドは、一本
鎖ヌクレオチド、二本鎖ヌクレオチドおよび三本以上のヌクレオチドの会合体のいずれで
あってもよく、DNAおよびRNAからなるハイブリッド一本鎖ヌクレオチド、該ヌクレ
オチドとその相補鎖からなる二本鎖、一本鎖DNAおよび一本鎖RNAからなるハイブリ
ッド二本鎖、二本鎖RNA、分子内に二本鎖構造部分を有し得る一本鎖ヌクレオチド等を
も包含する。さらに、本発明のヌクレオチドは、天然に生じる塩基またはモノヌクレオチ
ド以外の(人工的に創出された)塩基もしくはモノヌクレオチドを一つまたは二つ以上含
んでいてもよい。
【0043】
本発明の好適なヌクレオチドとしては、本発明のペプチドの有するアミノ酸配列をコー
ドする塩基配列からなるヌクレオチドを含んでなるヌクレオチド、本発明のペプチドの有
するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含んでなるヌクレオチド等をあげることができ
る。かかる好適なヌクレオチドは、本発明のペプチドの有するアミノ酸配列をコードする
塩基配列以外の塩基配列および/または非ヌクレオチド部分を含んでいてもよく、化学的
または生物学的な修飾(本発明の他の部分に記載されている)が施されていてもよい。そ
れらはいずれも「ヌクレオチド」に包含される。
【0044】
また、本発明のヌクレオチドは、本発明のペプチドの有するアミノ酸配列をコードする
塩基配列からなるヌクレオチドをも包含する。
【0045】
本発明においては、本発明のペプチドの有するアミノ酸配列が、あるヌクレオチドの塩
基配列の一部または全部によりコードされている場合、かかるヌクレオチドを「(かかる
)ペプチドに対応するヌクレオチド」とよび、かかるペプチドを「(かかる)ヌクレオチ
ドに対応するペプチド」とよぶ。
【0046】
本発明のペプチドに対応するヌクレオチドとしては、例えば、本発明のペプチドの有す
るアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるヌクレオチドを含んでなるヌクレオチド、
本発明のペプチドの有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含んでなるヌクレオチド
、本発明のペプチドの有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるヌクレオチド等
をあげることができるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本発明のヌクレオチドに対応するペプチドとしては、本発明のヌクレオチドの塩基配列
の一部もしくは全部によりコードされるアミノ酸配列からなるペプチドを含んでなるペプ
チド、本発明のヌクレオチドの塩基配列の一部または全部によりコードされるアミノ酸配
列を含んでなるペプチド、本発明のヌクレオチドの塩基配列の一部または全部によりコー
ドされるアミノ酸配列からなるペプチド、それらのペプチドのいずれか一つの誘導体等を
あげることができるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
本発明においては、「表現型に対応する遺伝型」なる表現も「ペプチドに対応するヌク
レオチド」と同じ意味に用いられる。同様に、「遺伝型に対応する表現型」なる表現も「
ヌクレオチドに対応するペプチド」と同じ意味に用いられる。
【0049】
本発明のヌクレオチドの化学的または生物学的な修飾物が本発明のペプチドを含んでい
る場合、かかる修飾物は、前述の本発明の「ペプチドの誘導体」の意味に包含される。
【0050】
本発明のより好適なヌクレオチドとしては、前述の好適なヌクレオチドのうち、標的分
子に結合する本発明のペプチドの有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるヌク
レオチドを含んでなるヌクレオチド、標的分子に結合する本発明のペプチドの有するアミ
ノ酸配列をコードする塩基配列を含んでなるヌクレオチド、標的分子に結合する本発明の
ペプチドの有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるヌクレオチド等をあげるこ
とができる。
【0051】
本発明において、アミノ酸配列をコードする塩基配列を設計するに際しては、各アミノ
酸に対応するコドンを一種または二種以上使用することができる。それゆえ、あるペプチ
ドまたは蛋白質が有する単一のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、複数のバリエーシ
ョンを有し得る。かかるコドンの選択に際しては、該ペプチドに対応する遺伝型、すなわ
ち該塩基配列を含むヌクレオチドが導入される細胞(宿主細胞)のコドン使用(codo
n usage)に応じて適宜コドンを選択したり、複数のコドンの使用の頻度もしくは
割合を適宜調節したりすることができる。例えば、大腸菌を細胞(宿主細胞)として用い
る場合は、大腸菌において使用頻度が高いコドンを使用して塩基配列を設計することがで
きる。
【0052】
本発明のヌクレオチドは、化学合成、遺伝子組換え等、ヌクレオチドを製造する方法と
して当業者に周知の方法により調製することができる。また、本発明のライブラリー等か
ら本発明の同定方法により回収(選抜、濃縮、単離を含む)されたペプチドに対応するヌ
クレオチドも、それらの方法により調製することができる。
【0053】
本発明のヌクレオチドがとり得る形態としては、例えば、単離された形態(凍結乾燥標
品、溶液等)、他の分子に結合した形態(固相化された形態等)、該ヌクレオチドを含む
組換えベクター(本発明のベクター)、該ヌクレオチドまたは該ベクターが導入された細
胞(本発明の細胞)、ウイルスもしくはウイルス粒子に含まれる形態(本発明のベクター
として含まれる形態を含む)、他のヌクレオチド等をも含む物理的集合(本発明のヌクレ
オチド・ライブラリーを含む)等をあげることができるが、それらに限定されるものでは
なく、使用、保存等の目的に適合した形態を任意に選択することができる。
【0054】
3.ベクター
本発明は組換えベクター(以下、単に「ベクター」ともよぶ)を提供する。
【0055】
本発明のベクターは、本発明のヌクレオチドを含み、且つ本発明のヌクレオチドを細胞
、微生物または個体に導入するための手段であれば特に限定されないが、好適には、ファ
ージミド、コスミド、プラスミド等の核酸ベクターをあげることができる。
【0056】
本発明のベクターは、原核細胞または真核細胞に感染するウイルスまたはウイルス性ベ
クターであってもよい。
【0057】
本発明において、「ファージミド」とは、プラスミド複製起点の他に、一本鎖バクテリ
オファージから誘導された第二の複製起点を含む細菌プラスミドを意味する。かかるファ
ージミドを有する細胞は、M13またはそれに類似のヘルパーバクテリオファージによる
重感染において、一本鎖複製モードを介してファージミドを複製することができる。すな
わち、バクテリオファージ被覆タンパク質により被覆された感染性粒子の中に、一本鎖フ
ァージミドDNAがパッケージされる。このようにして、ファージミドDNAを、感染細
菌中にクローン二本鎖DNAプラスミドとして、ファージミドを、重感染した細胞の培養
上清からバクテリオファージ状の粒子として、それぞれ形成することができる。バクテリ
オファージ状の該粒子を、F性線毛を有する細菌にかかるDNAを感染させるために該細
菌中に注入することにより、粒子自体をプラスミドとして再形成することができる。
【0058】

本発明のペプチドに対応するヌクレオチドおよびバクテリオファージ被覆蛋白質(co
at protein)遺伝子を含んで構成される融合遺伝子を該ファージミドに挿入し
て細菌に感染させ、該細胞を培養すれば、かかるペプチドを、該細菌上またはファージ様
粒子上に発現もしくは提示(ディスプレイと同義)させるか、または、該被覆蛋白質との
融合蛋白質としてファージ粒子中もしくは該細菌の培養上清中に産生することができる。
【0059】
例えば、本発明のペプチドに対応するヌクレオチドおよびバクテリオファージ被覆タン
パク質遺伝子gpIIIを含んで構成される融合遺伝子をファージミドに挿入し、M13
またはそれに類似のヘルパーファージとともに大腸菌に重感染させれば、該ペプチドおよ
び該被覆蛋白質を含んで構成される融合蛋白質として、該大腸菌の培養上清中に産生させ
ることができる。かかる融合蛋白質は該ペプチドの誘導体として本発明に包含される。
【0060】
ファージミドの代わりに、環状または非環状の各種ベクター、好適にはウイルスベクタ
ーを用いても、当業者に周知の方法に従って、該ベクターに含まれる本発明のヌクレオチ
ドの塩基配列によりコードされるペプチドを、該ベクターが導入された細胞あるいはウイ
ルス様粒子上に発現もしくは提示(ディスプレイと同義)させるか、または該細胞の培養
上清中に産生することができる。
【0061】
本発明のベクター(組換えベクター)は、遺伝子組換え等当業者に周知の方法により調
製することができる。
【0062】
本発明のベクターがとり得る形態としては、例えば、単離された形態(凍結乾燥標品、
溶液等)、他の分子に結合した形態(固相化された形態等)、細胞に導入された形態(本
発明の組換え細胞を含む)、他のベクター等をも含む物理的集合(本発明のヌクレオチド
・ライブラリーの特定の態様を含む)等をあげることができるが、それらに限定されるも
のではなく、使用、保存等の目的に適合した形態を任意に選択することができる。
【0063】
4.細胞
本発明は、その一つの態様において、組換え細胞(以下、単に「細胞」ともよぶ)を提
供する。
【0064】
本発明の細胞は、本発明のペプチドに対応するヌクレオチドを含み且つ該ペプチドを発
現する細胞である。かかる細胞の宿主細胞としては、真核細胞(株化細胞、初代培養細胞
、継代培養細胞を含む)および原核細胞のいずれであっても特に限定されるものではない
【0065】
原核細胞としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(
Bacillus subtilis)等の細菌細胞をあげることができるが、これらに
限定されるものではない。
【0066】
真核細胞としては、例えば、動物細胞、昆虫細胞、酵母、真菌等をあげることができ、
動物細胞としては、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(グルツマン、セル、23巻、
1981年刊行、175乃至182頁:Gluzman, Y., Cell (198
1), vol.23, pp175-182:アメリカン・タイプ・カルチャー・コレ
クション番号 ATCC CRL-1650)、マウス線維芽細胞NIH3T3(アメリ
カン・タイプ・カルチャー・コレクション番号 ATCC CRL-1658)、チャイ
ニーズ・ハムスター卵巣細胞(Chinese hamster ovary cell
:CHO細胞:アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション番号 ATCC CCL
-61)、CHO細胞のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(ウルラオプとチャシン、プロシー
ディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・ユーエスエー、77巻
、1980年刊行、4126乃至4220頁:Urlaub, G. and Chas
in, L. A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1
980), vol.77, pp4126-4220)等をあげることができるが、こ
れらに限定されるものではない。
【0067】
本発明の細胞は、本発明のヌクレオチドまたはベクターを宿主細胞へ導入することによ
り調製することができるが、好適には、本発明のベクターをトランスフェクション、形質
転換、形質導入等で宿主細胞へ導入することにより調製することができる。
【0068】
本発明の細胞の調製に適用し得るベクターとしては、例えば、かかる原核細胞と適合し
得る種由来のレプリコンすなわち複製起点と、調節配列、転写開始点、(翻訳の)開始コ
ドンと終止コドン等から選択されるものの塩基配列を一つ以上含むプラスミド、コスミド
、ファージミド等をあげることができるが、それらに限定されるものではない。また、か
かるヌクレオチドまたはベクターは、該ベクターまたはヌクレオチドが導入された細胞に
表現形質(表現型)の選択性を付与し得る塩基配列を含んでいてもよい。かかるベクター
またはヌクレオチドを宿主細胞に導入し、得られた細胞を培養することにより、本発明の
ペプチドを発現させることができる。
【0069】
本発明のペプチドの翻訳後修飾に適した宿主細胞も、本発明の細胞として使用すること
ができる。かかる宿主細胞が適用された本発明の細胞は、例えば、本発明のペプチド誘導
体を調製する方法(のある態様)において使用することができる。
【0070】
本発明の細胞がとり得る形態としては、例えば、単離された形態(冷凍標品、凍結乾燥
標品、溶液等)、他の分子に結合した形態(固相化された形態等)、本発明のヌクレオチ
ドまたはベクターが導入された細胞(本発明の細胞に含まれる)、本発明のペプチドが表
面に発現または提示(ディスプレイと同義)されている細胞(本発明の細胞に含まれる)
、他の細胞等をも含む物理的集合(本発明のヌクレオチド・ライブラリーおよびペプチド
・ライブラリーの特定の態様を含む)等をあげることができるが、それらに限定されるも
のではなく、使用、保存等の目的に適合した形態を任意に選択することができる。
【0071】
5.ペプチドの製造方法
本発明は、また他の態様として、本発明のペプチドの製造方法を提供する。
【0072】
本発明のペプチドは、前述のとおり、化学合成、遺伝子組換え、イン・ビトロ翻訳等、
ペプチドや蛋白質を製造する方法として当業者に周知の方法により調製することができる
。また、本発明のライブラリー等から本発明の同定方法により回収(選抜、濃縮、単離を
含む)されたペプチドも、それらの方法により調製することができる。
【0073】
本発明のペプチドの製造方法は、ある態様において、次の工程(1-1)および(1-
2)を含んでなる:
(1-1)本発明のペプチドに対応するヌクレオチドを含み且つ該ペプチド等を発現する
細胞(本発明の細胞)を培養する工程;および、
(1-2)該培養物から該ペプチドを回収する工程。
【0074】
また、本発明のペプチドの製造方法は、他の態様において、次の工程(2-1)および
(2-2)を含んでなる:
(2-1)標的分子に結合する本発明のペプチドのアミノ酸配列を決定する工程;および

(2-2)該アミノ酸配列からなるペプチドを化学合成または遺伝子組換えにより調製す
る工程。
【0075】
さらに、本発明のペプチドの製造方法は、また他の態様において、次の工程(3-1)
および(3-2)を含んでなる:
(3-1)本発明のペプチドに対応する対応するmRNAを調製する工程;および、
(3-2)前記(3-1)で得られたmRNAを鋳型として、イン・ビトロ翻訳により、
該ペプチドを調製する工程。
【0076】
また、これらの製造方法には、事前の工程として、本発明の同定方法を適宜組合せるこ
とができる。すなわち、まず、本発明の同定方法に含まれる工程を実施し、次いで本発明
の製造方法に含まれる工程を実施することができる。本発明のペプチドの製造方法は、そ
のような、本発明の同定方法(の各工程)をさらに含むことからなる方法をも包含する。
【0077】
そのような本発明のペプチドの製造方法は、例えば、次の工程(4-1)乃至(4-3
)を含んでなる:
(4-1)本発明のペプチド・ライブラリーに含まれるペプチドと標的分子とを接触させ
る工程;
(4-2)該標的分子に結合するペプチドを回収する工程;および
(4-3)回収されたペプチドを、化学合成、遺伝子組換えまたはイン・ビトロ翻訳によ
り調製する工程。
【0078】
同様に、これらの製造方法には、事前の工程として、本発明の判定方法を適宜組合せる
ことができる。すなわち、まず、本発明の判定方法に含まれる工程を実施し、次いで本発
明の製造方法に含まれる工程を実施することができる。本発明のペプチド等の製造方法は
、そのような、本発明の判定方法(の各工程)をさらに含むことからなる方法をも包含す
る。
【0079】
そのような本発明のペプチド等の製造方法は、例えば、次の工程(5-1)乃至(5-
3)を含んでなる:
(5-1)本発明の被検ペプチドと標的分子とを接触させる工程;
(5-2)被検ペプチドが該標的分子に結合する場合、該ペプチドは陽性であると決定す
る工程;および、
(5-3)前記(5-2)において被検ペプチドは陽性であると決定された場合、該ペプ
チドを化学合成、遺伝子組換えまたはイン・ビトロ翻訳により調製する工程。
【0080】
さらに、本発明のペプチドの製造方法は、他の態様において、SPINK2の内在性の
標的分子であるトリプシンおよび/またはアクロシン以外の、好適にはトリプシン以外の
標的分子に結合し且つ該標的分子の有する生物活性の一部または全部を活性化もしくは促
進、または、阻害、不活性化もしくは抑制するペプチドを同定する工程を含んでなる。か
かる製造方法は、例えば、次の(6-1)乃至(6-3)または(7-1)乃至(7-3
)の工程を含む:
(6-1)本発明のペプチド・ライブラリーに含まれるペプチドと該標的分子とを接触さ
せる工程;
(6-2)該標的分子に結合するペプチドを回収する工程;、および、
(6-3)該ペプチドが該標的分子の有する生物活性を活性化もしくは促進するか、また
は、該標的分子を刺激する(agonize)場合、該ペプチドを陽性と判定する工程。
(7-1)本発明のペプチド・ライブラリーに含まれるペプチドと該標的分子とを接触さ
せる工程;
(7-2)該標的分子に結合するペプチドを回収する工程;、および、
(7-3)該ペプチドが該標的分子の有する生物活性を阻害、不活性化もしくは抑制する
か、または、該標的分子に拮抗する(antagonize)場合、該ペプチドを陽性と
判定する工程。
【0081】
また、本発明の製造方法は、別の態様において、(6-1)乃至(6-3)または(7
-1)乃至(7-3)の替わりに、例えば、次の(8-1)および(8-2)または(9
-1)または(9-2)を含んでなる:
(8-1)被検ペプチドとトリプシンおよび/またはアクロシン以外の、好適にはトリプ
シン以外の標的分子とを接触させる工程;および、
(8-2)該ペプチドが該標的分子の有する生物活性を活性化もしくは促進するか、また
は、該標的分子を刺激する(agonize)場合、該ペプチドを陽性と判定する工程。
(9-1)被検ペプチドとトリプシンおよび/またはアクロシン以外の、好適にはトリプ
シン以外の標的分子とを接触させる工程;および、
(9-2)該ペプチドが該標的分子の有する生物活性を阻害、不活性化もしくは抑制する
か、または、該標的分子に拮抗する(antagonize)場合、該ペプチドを陽性と
判定する工程。
【0082】
(6-1)乃至(6-3)、または、(8-1)および(8-2)等の工程に、(4-
3)または(5-3)等に準じた工程を組み合わせることにより、標的分子の有する生物
活性を活性化もしくは促進するペプチド、または、標的分子を刺激するペプチド(ago
nistic peptide)を製造することができる。同様に、(7-1)乃至(7
-3)、または、(9-1)および(9-2)等の工程に、(4-3)または(5-3)
等に準じた工程を組み合わせることにより、標的分子の有する生物活性を阻害、不活性化
もしくは抑制するペプチド、または、標的分子に拮抗するペプチド(antagonis
tic peptide)を製造することができる。
【0083】
また、本発明はペプチドの誘導体(ペプチド誘導体)の製造方法を提供する。本発明の
ペプチド誘導体は、例えば、該誘導体に含まれるペプチドを上記の方法(ペプチドの製造
方法)により調製した後、化学反応、生化学反応、翻訳後修飾等に供することにより、調
製することができるが、それらに限定されるものではない。
【0084】
上記(2-2)、(3-2)、(4-3)または(5-3)において調製されるペプチ
ドの代わりに、当該ペプチド(X)の有するアミノ酸配列から1もしくは2以上のアミノ
酸又は部分アミノ酸配列が欠失してなるアミノ酸配列を有するペプチド(X’)を調製す
ることもできる。ペプチド(X’)の製造方法も本発明に包含される。かかる方法により
調製されるペプチド(X’)は好適には標的分子に結合する。かかる好適なペプチド(X
’)のアミノ酸配列においては、元のペプチドの有するアミノ酸配列に含まれるが標的分
子との結合に必須ではない1又は2以上のアミノ酸又は部分アミノ酸配列が欠失してもよ
い。
【0085】
本発明のペプチド誘導体の製造方法としては、例えば、上記の(1-1)および(1-
2)、(2-1)および(2-2)、(3-1)および(3-2)、(4-1)乃至(4
-3)、(5-1)乃至(5-3)、(6-1)乃至(6-3)、(7-1)乃至(7-
3)、(8-1)および(8-2)、または、(9-1)および(9-2)等の各工程に
加え、本発明のペプチドを原料として本発明のペプチド誘導体を調製する工程(以下、「
誘導体調製工程」という。)をも含んでなる方法、上記の(2-2)、(3-2)、(4
-3)および(5-3)においてペプチドの代わりにペプチドの誘導体を調製する工程を
含んでなる方法、予めペプチド・ライブラリーにペプチド誘導体を含有させておく方法、
被検ペプチドの替わりに被検ペプチド誘導体を用いる方法等をあげることができるが、そ
れらに限定されるものではない。
【0086】
本発明のペプチド誘導体の製造方法に含まれ得る上記(2-2)、(3-2)、(4-
3)または(5-3)において調製されるペプチド誘導体の代わりに、当該ペプチド誘導
体(Y)の有するアミノ酸配列から1もしくは2以上のアミノ酸又は部分アミノ酸配列が
欠失してなるアミノ酸配列を有するペプチド誘導体(Y’)を調製することもできる。ペ
プチド誘導体(Y’)の製造方法も本発明に包含される。かかる方法により調製されるペ
プチド誘導体(Y’)は好適には標的分子に結合する。かかる好適なペプチド誘導体(Y
’)のアミノ酸配列においては、元のペプチド誘導体の有するアミノ酸配列に含まれるが
標的分子との結合に必須ではない1又は2以上のアミノ酸又は部分アミノ酸配列が欠失し
てもよい。 また、所望の翻訳後修飾能を有する細胞を本発明のペプチドの製造方法にお
いて用いることにより、所望の翻訳後修飾が施されたペプチドとして、本発明のペプチド
誘導体を調製することもできる。かかる場合、例えば、所望の翻訳後修飾能を有する細胞
を、上記工程の(1-1)および(1-2)における細胞として、または、(2-2)、
(4-3)および(5-3)における遺伝子組換えに適用される細胞(または宿主細胞)
として、それぞれ用いることにより、所望の翻訳後修飾が施されたペプチド誘導体を調製
することができるが、本発明の(ペプチド誘導体の製造方法の態様として)ペプチドの翻
訳後修飾体を調製する方法は、それらに限定されるものではない。
【0087】
6.ライブラリー
本発明はライブラリーを提供する。
【0088】
本発明において、「ライブラリー」とは、類似するが、同一ではない分子の物理的集合
(コレクション)を意味する。かかる集合は、例えば、一つの容器中に共存し得るが、異
なる容器あるいは固相支持体上の異なる場所に、グループとしてまたは個々の分子として
、物理的に分離されて存在してもよい。複数のライブラリーが同一の集合に含まれていて
もよい。
【0089】
本発明のライブラリーは、同一ではない本発明のペプチドおよび/またはヌクレオチド
の物理的集合であれば何ら限定されるものではないが、例えば、ファージ・ディスプレイ
・ライブラリー、リボゾーム・ディスプレイ・ライブラリー、核酸ディスプレイ・ライブ
ラリー等をあげることができる。
【0090】
「ファージ・ディスプレイ」とは、繊維状ファージ(filamentous pha
ge)等の被覆蛋白質(coat protein)に外来のペプチドまたは蛋白質を連
結し、融合蛋白質としてファージ様粒子上に発現または提示(ディスプレイと同義)させ
る技術(方法およびそのための手段)を意味する。また、かかる技術を利用した、該ペプ
チドまたは蛋白質に対応するヌクレオチドの回収(選抜、濃縮、単離を含む)も「ファー
ジ・ディスプレイ」の意味に包含される。ファージ・ディスプレイ・ライブラリーは、か
かる技術において使用される、本発明のライブラリーの一態様である。
【0091】
「リボゾーム・ディスプレイ」とは、イン・ビトロ翻訳において、翻訳反応中に形成さ
れる、mRNA-リボソーム-ペプチドまたは蛋白質、の三者を含んでなる複合体として
の形態で、ペプチドまたは蛋白質を発現または提示(ディスプレイと同義)させる技術(
方法およびそのための手段)を意味する。ここで、ペプチドまたは蛋白質は、該mRNA
の翻訳産物である。また、かかる技術による、該ペプチドまたは蛋白質に対応するヌクレ
オチドの回収(選抜、濃縮、単離を含む)も「リボゾーム・ディスプレイ」の意味に包含
される。リボゾーム・ディスプレイ・ライブラリーは、かかる技術において使用される、
本発明のライブラリーの他の一態様である。
【0092】
「核酸ディスプレイ」とは、ヌクレオチド(核酸と同義)と、該ヌクレオチドに対応す
るペプチドまたは蛋白質を含んでなる複合体としての形態で、ペプチドもしくは蛋白質を
発現または提示(ディスプレイと同義)させる技術(方法およびそのための手段)を意味
する(キーフェとスゾスタク、ネイチャー、410巻、715乃至718頁、2001年
刊行:Keefe, A.D and Szostak, J.W., Nature,
vol.410 (2001), pp715-718)。また、かかる技術による、
該ペプチドまたは蛋白質に対応するヌクレオチドの回収(選抜、濃縮、単離を含む)も「
核酸ディスプレイ」の意味にされ包含する。核酸ディスプレイ・ライブラリーは、かかる
技術において使用される、本発明のライブラリーのまた他の一態様である。
【0093】
核酸ディスプレイとしては、例えば、mRNAディスプレイをあげることができるが、
それに限定されるものではない。(Yamaguchi, J. et al., Nu
cleic Acids Research, vol.37, No.16 e108
, pp1-13 (2009))
mRNAディスプレイは、mRNAとその翻訳産物であるペプチドまたは蛋白質が介在
部分を挟んで連結してなる複合体としての形態で、ペプチドまたは蛋白質を提示(ディス
プレイと同義)させる技術である(キーフェとスゾスタク、ネイチャー、410巻、71
5乃至718頁、2001年刊行:Keefe, A.D and Szostak,
J.W., Nature, vol.410 (2001), pp715-718)
【0094】
本発明においては、同一ではない本発明のペプチドおよび/またはヌクレオチドの物理
的集合を含む細胞の物理的集合、微生物(ウイルス、ファージ、ファージ様分子、それら
のいずれかの粒子等を含む)の物理的集合、および、天然に生じるかまたは人工的に創出
されたベクター(ファージミド、コスミド、プラスミド等を含む)の物理的集合、ならび
に、それらの断片の物理的集集合、および、科学的および/または生物学的な修飾物の物
理的集合も、「ライブラリー」の意味に包含される。
【0095】
前述のとおり、本発明において、アミノ酸配列コードする塩基配列を設計するに際して
は、各アミノ酸に対応するコドンを一種または二種以上使用することができる。それゆえ
、あるペプチドまたは蛋白質が有する単一のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、複数
のバリエーションを有し得る。かかるコドンの選択に際しては、該ペプチドに対応する遺
伝型、すなわち該塩基配列を含むヌクレオチドが導入される細胞(宿主細胞)のコドン使
用(codon usage)に応じて適宜コドンを選択したり、複数のコドンの使用の
頻度もしくは割合を適宜調節したりすることができる。よって、本発明のヌクレオチド・
ライブラリーには、単一のアミノ酸配列をコードする塩基配列のヌクレオチドは、複数の
バリエーションを有し得る。すなわち、本発明のヌクレオチド・ライブラリーには、ある
ペプチドの有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むヌクレオチドの物理的集合が
含まれていてもよい。かかる特定のペプチドに対応するヌクレオチドの物理的集合は、そ
れら自体で一つのヌクレオチド・ライブラリーを形成し得る。
【0096】
本発明のライブラリーには、類似するが、同一ではない分子が複数含まれる。ライブラ
リーに含まれる類似分子の種類(の数)のことを「ライブラリーの多様性」という。例え
ば、100種の類似分子からなるライブラリーの多様性は10である。本発明において
、ライブラリーの多様性は、特に限定されるものではないが、その数値が高いほど好まし
い。
【0097】
本発明の同定方法および該同定方法の工程を含むペプチドの製造方法において使用され
るペプチド・ライブラリーの多様性は、1×10以上、2×10以上、5×10
上、1×10以上、2×10以上、5×10以上、1×10以上、2×10
上、5×10以上、1×10以上、2×10以上、5×10以上、1×10
上、2×10以上、5×10以上、1×1010以上、2×1010以上、5×10
10以上、1×1011以上、2×1011以上、5×1011以上、1×1012以上
、2×1012以上、5×1012以上、1×1013以上、2×1013以上、5×1
13以上、1×1014以上、2×1014以上、5×1014以上、1×1015
上、2×1015以上、5×1015以上、1×1016以上、2×1016以上、5×
1016以上、または、1×1017以上である。かかるライブラリーの多様性は、実測
値に限定されるものではなく、理論値であってもよい。
【0098】
7.同定方法
本発明は、標的分子に結合するペプチドおよび/またはペプチド誘導体の同定方法を提
供する。本発明の同定方法は、例えば、前記の工程(4-1)および(4-2)、(6-
1)および(6-2)、(7-1)および(7-2)等を含んでいてもよいが、それらに
限定されない。
【0099】
(1)標的分子
本発明において「標的分子」とは、本発明のペプチドが結合する、ヒトもしくは非ヒト
動物の個体に内在する物質または生体内に取り込まれ得る外因性の物質を意味する。本発
明の標的分子は、好適にはSPINK2の内在性の標的であるトリプシンおよび/または
アクロシン以外の、より好適にはトリプシン以外の分子であり、より一層好適にはヒト由
来のトリプシン以外のヒト由来の分子である。さらにより一層好適には、かかるヒト個体
が罹患し得る疾患の発症もしくは増悪に直接または間接的に関与し得るか、または、かか
る疾患と相関もしくは逆相関を示す、内在するかあるいは外因性の酵素、受容体、該受容
体のリガンド、サイトカイン等の液性因子、その他の生体高分子、シグナル伝達物質、細
胞、病原体、毒素、または、それらのいずれか一つもしくはそれ以上に由来する物質、例
えば、その断片、分解物、代謝産物、加工物等である(以下、「疾患関連標的分子」とい
う)。また、本発明の標的分子は、鉱物、ポリマー、プラスチック、合成低分子化合物等
の非天然物質であってもよい。
【0100】
本発明のある態様として好適な標的分子はトリプシンおよび/またはアクロシン以外の
、より好適にはトリプシン以外のプロテアーゼであり、より一層好適にはセリンプロテア
ーゼである。さらにより一層好適にはエンド型のセリンプロテアーゼであり、エンド型セ
リンプロテアーゼの例としては、キモトリプシンをあげることができる。組織、体液、細
胞等から特定の蛋白質成分を精製、単離する際、かかる成分を含有する画分にそれらのプ
ロテアーゼ阻害剤を添加すれば、かかる成分の分解を低減することができ、それらのプロ
テアーゼ阻害剤は組換型および非組換型の各種蛋白質の製造に有用である。
また、それらのプロテアーゼは好適には疾患関連標的分子である。
【0101】
本発明の標的分子は、本発明のペプチド・ライブラリーから該標的分子に結合するペプ
チド、該標的分子を刺激するペプチドまたは該標的分子に拮抗するペプチドを選抜する際
、被検ペプチドと標的分子に対する結合性または刺激活性もしくは拮抗活性を判定する際
等に使用される。かかる標的分子は、全長分子若しくはその断片、または任意のアミノ酸
、ペプチド、蛋白質、糖鎖、ポリマー、担体等が付加された誘導体であってもよい。また
、かかる標的分子は固相化されていてもよい。
【0102】
(2)標的分子の調製
本発明の標的分子は、疾患に罹患した組織、細胞から単離、精製して、あるいは組織、
細胞等にその全部又は一部が結合又は含まれた形態で、使用することができる。また、本
発明の標的分子は、化学合成、遺伝子組換え、イン・ビトロ翻訳等、ペプチドまたは蛋白
質の製造方法として当業者に周知の方法により調製することができる。このようにして得
られた標的分子から、必要に応じて、前述のような誘導体を調製してもよい。
【0103】
本発明において、ペプチドまたは蛋白質は、イン・ビトロ翻訳、すなわち、かかるペプ
チドまたは蛋白質に対応するDNA、cDNA等のヌクレオチドもしくは該ヌクレオチド
を含むベクターを、転写および翻訳に必要な酵素、基質、エネルギー物質等を含む溶液中
で保温することによりイン・ビトロで所望のペプチドまたは蛋白質を合成する方法、遺伝
子組換え、すなわち、該ヌクレオチド若しくはベクターを原核もしくは真核の細胞(宿主
細胞)へ導入し、得られた組換え細胞を培養した後、該培養物から所望のペプチドまたは
蛋白質を回収する方法、化学合成等により調製することができる。
【0104】
標的分子が細胞膜に存在する蛋白質またはそのドメインである場合、かかる蛋白質また
はドメインの細胞外領域と免疫グロブリン(Ig)の定常領域とが連結してなる融合蛋白
質を適切な宿主-ベクター系において発現させることにより、分泌蛋白質として当該分子
を調製することもできる。
【0105】
標的分子に対応するヌクレオチドは、例えば、発現クローニング法により取得すること
ができるが、これに限定されるものではない。発現クローニング法は、ペプチドまたは蛋
白質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むcDNAの発現ライブラリーを構築し、
かかるcDNAライブラリーを鋳型とし、該cDNAの全長または一部を特異的に増幅す
るプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」という:サイキ他、サイ
エンス、239巻、487乃至489頁、1988年刊行:Saiki, R. K.,
et al., Science (1988), vol.239, pp487-
489)を行うことにより、ペプチドまたは蛋白質に対応するcDNAをクローニングす
る方法である。
【0106】
イン・ビトロ翻訳に適用し得るキットや試薬としては、例えば、ロシュ・ダイアグノス
ティックス社製のラピッドトランスレーションシステム(RTS)等を挙げることができ
る。
【0107】
遺伝子組換えの宿主細胞としては、本発明の細胞を調製するための宿主細胞として適用
可能な原核または真核の細胞を適宜選択することができる。
【0108】
遺伝子組換えにおいて得られた組換え細胞(ヌクレオチドまたはベクターが導入された
細胞)は、当業者に周知の方法に従って培養することができ、該培養物中またはかかる細
胞内に所望のペプチドまたは蛋白質を産生させることができる。
【0109】
かかる培養に用いられる培地は、宿主細胞に応じて慣用されるものから適宜選択するこ
とができる。宿主細胞が大腸菌の場合、例えば、LB培地に必要に応じて、アンピシリン
等の抗生物質やIPTGを添加して培養に供することができる。
【0110】
かかる培養により、組換え細胞の内外に産生された所望のペプチドまたは蛋白質は、そ
の物理的、化学的および/または生物学的性質等を利用した公知の分画手法を適宜組み合
わせることにより、精製および単離することができる。
【0111】
かかる分画手法としては、例えば、塩析、蛋白質沈殿剤による処理、透析、限外濾過、
分子ふるい(ゲル濾過)クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロ
マトグラフィー、アフィニティー・クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、疎水
クロマトグラフィー等をあげることができるが、これらに限定されるものではない。
【0112】
また、ペプチドまたは蛋白質に、予め、精製するために有用な部分を連結または付加さ
せることにより、効率よく所望のペプチドまたは蛋白質を精製することができる。例えば
、予め6残基からなるヒスチジンタグを連結しておくことにより、ニッケル・アフィニテ
ィー・クロマトグラフィーにより効率よく所望のペプチドまたは蛋白質を精製することが
できる。また、予めIgGのFc領域を連結しておくことにより、プロテインA・アフィ
ニティー・クロマトグラフィーにより効率よく所望のペプチドまたは蛋白質を精製するこ
とができる
【0113】
(3)標的分子とペプチドおよび/またはペプチド誘導体との接触
本発明の同定方法は、ペプチドおよび/またはその誘導体と標的分子とを接触させる工
程を含む。ここで、該ペプチドおよび/またはその誘導体は、ペプチド・ライブラリーに
含まれていてもよい。すなわち、本発明の同定方法は、ペプチド・ライブラリーに含まれ
るペプチドおよび/またはその誘導体と標的分子とを接触させる工程を含んでもよい。
【0114】
本発明において「接触させる」とは、二つまたはそれ以上の物質を、当該物質のうち二
つ以上の間で相互作用可能な距離まで接近させることを意味する。かかる相互作用として
は、例えば、共有結合、配位結合、金属-金属間結合、イオン結合、金属結合、水素結合
、ファンデルワールス結合等(以下、「化学結合」という。)、クーロン力による結合、
イオン間相互作用、水素結合、双極子相互作用、ファンデルワールス力等の静電的相互作
用に基づく相互作用(以下、「分子間力」という。)、その他の相互作用、電荷移動相互
作用、渡環相互作用、疎水相互作用、ペプチドと生体分子との会合等を挙げることができ
るが、それらに限定されるものではない。本発明において「二つまたはそれ以上の物質」
とは、標的分子および被検物質を含んでいれば、特に限定されるものではない。被検物質
としては、標的分子に結合する物質であれば特に限定されるものではないが、例えば、本
発明のペプチド、該ペプチドの誘導体、それらのいずれかが固相化された担体、それらの
いずれかが発現もしくは提示(ディスプレイと同義)された細胞、ウイルス粒子またはウ
イルス様粒子(ファージ、ファージミドを含む)等をあげることができる。かかる被検物
質は、ファージ・ディスプレイ、リボゾーム・ディスプレイ、核酸ディスプレイ等により
、真核または原核の細胞表面上に、ウイルス粒子またはウイルス様粒子上に、あるいはリ
ボゾームまたは核酸にリンクした形で、発現または提示(ディスプレイと同義)されてい
てもよい。
【0115】
(4)選抜
本発明の同定方法は所望の性質を有するペプチドおよび/またはペプチド誘導体、好適
には標的分子に結合するペプチドおよび/またはペプチド誘導体を選抜する工程を含む。
【0116】
本発明において「結合」とは、ある条件の下において、二つまたはそれ以上の物質が、
それらの間で相互作用(本発明の他の部分に記載されている)が生じ得る程度に、互いに
近接しているか、あるいは会合した状態になることを意味する。
【0117】
本発明においては、ある条件の下で、標的分子と被検物質とを接触させ、次いで該標的
分子に非特異的に吸着した被検物質および該標的分子に結合又は吸着しなかった被検物質
を、被検物質を含む画分から除去した後も、該画分中に被検物質が存在していれば、かか
る被検物質は該標的分子に「結合」すると解することができる。
【0118】
二つまたはそれ以上の物質の間に単なる非特異的な吸着しか生じていない場合、それら
の物質の間に「結合」は生じていないと解することができる。また、二つまたはそれ以上
の物質を接触させても、それらの間で相互作用(本発明の他の部分に記載されている)が
生じ得る程度に、互いに近接しないか、あるいは会合した状態にならない場合、それらの
物質の間に「結合」は生じていないと解することができる。
【0119】
抗体と抗原の「結合」を測定する方法としては、フローサイトメトリー等により測定を
行う蛍光抗体法(直接法、間接法)、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ
(均一法、不均一法)、ELISA、ELISPOT等が広く使用されている。これらの
方法において、被検抗体および抗原を本発明のペプチドまたはその誘導体および標的分子
に置き換えれば、抗体と抗原の「結合」の測定と同様に、ペプチドまたはその誘導体と標
的分子の「結合」の有無を測定することができる。
【0120】
また、「結合」の有無は、結合活性または親和性の指標を測定することにより、決定す
ることができる。結合親和性の指標としては、解離定数、結合定数等をあげることができ
る。
【0121】
以下で表される化学平衡状態にある分子AおよびAに結合する物質Bの化学的解離につ
いて、
【0122】
【化1】
【0123】
解離定数(dissociation constant:Kd)は次の式により算出す
ることができる:

Kd=[A][B]/[AB]

ここで[A]、[B]および[AB]は、A、BおよびAB(会合体)の濃度をそれぞれ
意味する。Kdは解離したAおよびBと解離していないABとの比を意味するものであり
、Kdの逆数は結合定数(Ka)である。
【0124】
本発明において用いられる「解離定数(dissociation constant
)」は、主に、ある標的分子に結合するためのペプチドおよび/またはペプチド誘導体の
平衡(equilibrium)解離定数を意味する。
【0125】
本発明において、解離定数は、解離した物質(ペプチド、ペプチド誘導体、標的分子等
)および解離していない物質(ペプチドおよび/またはペプチド誘導体-標的分子会合体
等)の濃度を測定することにより、算出することができる。解離定数の測定-算出方法と
しては、当業者に周知の方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、表面プラ
ズモン共鳴を用いた方法、等温滴定カロリメトリー法等をあげることができる。
【0126】
表面プラズモン共鳴を用いた方法においては、標的分子とそれに結合するペプチドおよ
び/またはその誘導体の相互作用を、次のとおり測定-算出することができる:複数のペ
プチド濃度において、表面プラズモン共鳴により、一連の結合・解離反応を検出する;得
られた一連の結合・解離反応を解析する;得られた各種速度定数から解離定数を算出する
【0127】
表面プラズモン共鳴の測定-算出システムとしては、例えば、ビアコア(Biacor
e)・システム(GE Healthcare社)等をあげることができるが、これに限
定されるものではない。ビアコア・システムを用いた場合の手順は次の通りである:ビア
コア・システムのセンサーチップ上に標的分子をアミンカップリングで固定化する;複数
のペプチド濃度において、該標的分子とペプチドとを接触させる;両者の相互作用を表面
プラズモン共鳴により検出する;一連の結合・解離反応を、横軸を時間とし、縦軸を結合
量(RU)とする、センサーグラムとして描き出す;複数のペプチド濃度で描き出された
センサーグラムから、BIAevaluationソフトウェア(GE Healthc
are社製)を用いて、1:1 ラングミュアーモデルにフィッティングさせ、各種速度
パラメーターを算出する;各種速度パラメーターから解離定数を算出する。
【0128】
等温滴定カロリメトリー法においては、標的分子とそれに結合するペプチドおよび/ま
たはその誘導体の相互作用を、次のとおり測定-算出することができる:標的分子を含む
溶液にペプチド溶液を滴下する(逆でも可);相互作用により発生した熱量を測定し、結
合等温線を描く;結合等温線から解離定数(K)、反応の結合比(N)、エンタルピー
変化(ΔH)、エントロピー変化(ΔS)が得られる。
【0129】
分子間相互作用に伴う微小な熱変化(発熱変化もしくは吸熱変化)をダイレクトに測定
するシステムとしては、例えば、MicroCal・システム(GE Healthca
re社)等をあげることができるが、これに限定されるものではない。MicroCal
・システムを用いた場合の手順は次の通りである:一定温度に保たれたサンプルセルにリ
ガンド溶液を滴定し攪拌する;分子間相互作用により結合量に正比例した熱の発生または
吸収が起こり、サンプルセル中の溶液温度が変化する;セルフィードバックネットワーク
(CFB)がリファレンスセルとの温度差(ΔT)を感知する;ΔTが0になるようにリ
ファレンスセルまたはサンプルセルを加熱する;ΔT=0を保持するために要したフィー
ドバック電力を測定することで、相互作用による発熱量または吸熱量を得る;発生熱量を
縦軸に、標的分子とペプチドのモル比を横軸にとり、結合等温線から解離定数を算出する
【0130】
本発明の同定方法および/または判定方法(後述)においては、例えば、標的分子に対
して100μM以下、50μM以下、20μM以下、10μM以下、5μM以下、2μM
以下、1μM以下、500nM(0.5μM)以下、200nM以下、100nm以下、
50nM以下、20nM以下、10nM以下、5nM以下、2nM以下、1nM以下、5
00pM(0.5nM)以下、200pM以下、100pM以下、50pM以下、20p
M以下、10pM以下、5pM以下、2pM以下、または、1pM以下、の解離定数を示
す被検物質を、標的分子に結合する、すなわち陽性と決定することができるが、解離定数
の基準値、および「結合」の有無を決定する基準はこれらに限定されるものではない。
【0131】
本発明の同定方法において、「選抜」の工程は、標的分子に結合する被検物質を回収す
る工程でもあり、その産物中に標的分子に結合する被検物質が含有されているかまたは濃
縮されていれば、かかる産物は、該標的分子に結合する物質のみからなるもの、および、
該標的分子には結合しない物質が混在しているもののいずれであってもよい。また、かか
る産物中に含有または濃縮された、標的分子に結合する被検物質は、単一のものであって
も、2種以上の混合物であってもよい。
【0132】
本発明の同定方法における選抜工程、すなわち回収工程とは、標的分子に結合する物質
が含まれるかまたは濃縮された画分を回収する工程を意味する。かかる工程は、本発明の
技術分野において当業者に周知の分画-精製方法であれば特に限定されるものではないが
、標的分子に結合した物質と、標的分子には結合しなかった物質および標的分子に非特異
的に吸着した物質とを標的分子(を含む画分)から分離する工程、標的分子に結合した物
質を溶出する(標的分子から分離する)工程等を含んでいてもよい。かかる工程において
は、結合の有無につき解離定数等の判定基準を設けなくてもよい。
【0133】
本発明においては、本発明の同定方法に含まれる「選抜」を「パニング」と呼ぶことが
ある。本発明において、「パニング」とは、本発明のペプチドおよび/またはペプチド誘
導体と標的分子とを接触させ、該標的分子に結合するペプチドおよび/またはペプチド誘
導体を回収(選抜、濃縮、単離を含む)することを意味する。
【0134】
パニングには当業者に周知の方法を適用することができ、例えば、固相パニング法、液
相パニング法をあげることができるが、これに限定されるものではない。固相パニング法
では、例えば、標的分子を固相化し、次いで液相に含まれるペプチドと該標的分子とを接
触させ、次いで標的分子に結合しなかったペプチドおよび非特異的に結合したペプチドを
除去した後、該標的分子に結合したペプチドを選択的に固相(に結合した該標的分子)か
ら分離させることにより、所望の結合活性を有するペプチドを選抜することができるが、
固相パニング法の操作はこれに限定されるものではない。液相パニング法では、例えば、
溶液中でペプチドと該標的分子とを接触させ、次いで標的分子に結合しなかったペプチド
および非特異的に結合したペプチドを除去した後、該標的分子に結合したペプチドを選択
的に該標的から分離させることにより、所望の結合活性を有するペプチドを選抜すること
ができるが、液相パニング法の操作はこれに限定されるものではない。
【0135】
本発明の同定方法において、表現型(phenotype:表現形質と同義)に対応す
る遺伝型(genotype):遺伝形質と同義)がリンクしたライブラリーを用いるこ
とにより、標的分子に結合するペプチド(「ペプチド誘導体に含まれるペプチド」をも含
む)に対応するヌクレオチドを効率よく選抜し、それゆえ該ペプチドを効率よく調製する
ことが可能になる。表現型とそれに対応する遺伝型(以下、単に「表現型と遺伝型」とい
う)のリンクは、直接的および間接的のいずれであってもよい。
【0136】
表現型と遺伝型が「直接的にリンクした」とは、表現型と遺伝型の挙動が一致している
ことを意味する。表現型と遺伝型の間に、他の部分が介在している等、一定の距離があっ
ても、両者の挙動が一致していれば「直接的にリンクした」の意味に包含される。すなわ
ち、両者が物理的に隣接していることは必須ではない。
【0137】
本発明において、表現型と遺伝型の「挙動が一致している」とは、本発明のペプチド、
ヌクレオチド、ベクター、細胞、製造方法、同定方法、判定方法、ペプチド・ライブラリ
ー、ヌクレオチド・ライブラリー、組成物、試薬等の態様おいて、両者の挙動が一致して
いることを意味する。それらの態様において、経時的に、一時的に、ある時点まで、もし
くは、ある時点以降、内的要因、外的要因、それらの組合せもしくはその他の要因により
、「挙動の一致」が全体的または部分的に失われても、「挙動が一致している」の意味に
包含される。
【0138】
表現型と遺伝型が直接的にリンクしたものとしては、例えば、リボゾーム・ディスプレ
イ・ライブラリー、核酸ディスプレイ・ライブラリー、本発明のペプチドに対応するヌク
レオチドが直接的または間接的にリンクしていることを特徴とするペプチドおよび/また
はその誘導体、かかるペプチドおよび/またはその誘導体を含んでなるペプチド・ライブ
ラリー等をあげることができる。
【0139】
表現型と遺伝型が「間接的にリンクした」とは、両者の挙動は必ずしも一致していない
か、または、両者は必ずしも「直接的にリンクし」ていないが、特定の表現型から該表現
型に対応する遺伝型へアクセスできることを意味する。表現型と遺伝型が間接的にリンク
したものとしては、例えば、ファージ・ディスプレイ・ライブラリー、発現クローニング
に用いられるcDNAライブラリー等をあげることができるが、これらに限定されるもの
ではない。
【0140】
ファージ・ディスプレイ・ライブラリー又はcDNAライブラリーに含まれる各クロー
ンにおいて、表現型としてのペプチドまたはその誘導体と、それに対応する遺伝型として
のヌクレオチドの挙動は、必ずしも一致していないが、該ライブラリーに含まれるペプチ
ドおよび/またはその誘導体と標的分子とを接触させ、標的分子に結合しなかったか、ま
たは標的分子に非特異的に吸着したファージ様粒子を除去した後、標的分子に結合したフ
ァージ様粒子を選択的に溶出させること等の工程を経ることにより、標的分子に結合する
ペプチドおよび/またはその誘導体(ファージ様粒子上に発現または提示された)を選抜
することができるとともに、対応する遺伝型、すなわち、かかるペプチドまたはその誘導
体(に含まれるペプチド)に対応するヌクレオチドを精製、単離し、その塩基配列を決定
することができる。このような表現型からそれに対応する遺伝型へのアクセス上のメリッ
トは、ファージ・ディスプレイ等の、表現型と遺伝型が「間接的にリンクした」場合に限
定されるものではなく、「直接的にリンクした」場合にも享受できる。
【0141】
本発明の同定方法に含まれる工程は、2回以上繰り返して行うことができる。とりわけ
、選抜の工程で回収されたペプチドおよび/またはペプチド誘導体から、あらためてペプ
チド・ライブラリーを構築して、接触および選抜の工程を行うことにより、標的分子に結
合するペプチドおよび/またはその誘導体を、より高度に濃縮することが可能となる。そ
れらの操作をさらに繰り返すことにより、標的分子に結合するペプチドおよび/またはそ
の誘導体はより一層高度に濃縮され、最終的にそれらを単離する効率を上げることできる
。さらに、標的分子に結合するペプチドおよび/またはその誘導体がより一層高度に濃縮
されることで、よりアフィニティーの高いバインダーの単離が可能となる。
【0142】
また、標的分子に結合するペプチドおよび/またはその誘導体の高度な濃縮は、本発明
の同定方法に含まれる工程において、標的に結合したペプチドおよび/またはその誘導体
と非特異的に結合したものとをより強力に分離することによっても可能となる。そのよう
な分離方法としては、例えば、非特異的に結合したペプチド等を除去する工程の回数を増
やすことや、非特異的に結合したペプチドの除去に用いる試薬(界面活性剤等)をより強
力なものに変更すること等が挙げられる。
【0143】
本発明のペプチドまたはその誘導体は、単量体、ホモもしくはヘテロの二量体、三量体
、四量体、五量体、六量体、七量体、八量体、または、九個以上の単量体から構成される
多量体、のいずれの形態をもとり得る。
【0144】
標的分子一分子または標的部位一箇所に結合する本発明のペプチドまたはその誘導体の
分子数は、1、2、3、4、5、6、7、8、または9以上のいずれでもよく、かかるぺ
プチドまたはその誘導体は、単量体、ホモもしくはヘテロの二量体、三量体、四量体、五
量体、六量体、七量体、八量体、または、九個以上の単量体から構成される多量体のいず
れの形態で標的分子に結合してもよい。
【0145】
本発明のペプチドまたはその誘導体一分子あたりが結合する標的分子の分子数または標
的部位数は、1、2、3、4、5、6、7、8、または9以上のいずれでもよい。
【0146】
また、本発明は標的分子の有する生物活性の一部又は全部を活性化もしくは促進するか
、または、阻害、不活性化もしくは抑制するペプチドまたはペプチド誘導体を同定する方
法、ならびに、標的分子を刺激するかもしくは拮抗するペプチドまたはペプチド誘導体を
同定する方法を提供する。すなわち、本発明は標的分子の活性化剤、促進剤もしくは刺激
剤(agonist)、または、阻害剤、不活性化剤、抑制剤もしくは拮抗剤(anta
gonist)を同定する方法を提供する。それらの同定方法には、例えば、前記の工程
(6-1)乃至(6-3)、(7-1)乃至(7-3)等を含んでもよいが、それらの工
程を含むものに限定されない。
【0147】
8.組成物
本発明は組成物を提供する。
【0148】
本発明の組成物は、本発明のペプチド、ペプチドの誘導体、ヌクレオチド、ベクターま
たは細胞を含むことからなる。
【0149】
本発明のペプチドまたはその誘導体(本発明の細胞表面上に提示されたものを含む)を
含むことからなる組成物は、該ペプチドまたはその誘導体が結合する標的分子を検出する
ために使用することができる。
【0150】
本発明のヌクレオチド、ベクターまたは細胞を含むことからなる組成物は、該ヌクレオ
チド、該ベクターまたは該細胞に含まれる本発明のヌクレオチドの有する塩基配列により
コードされるアミノ酸配列を有するペプチドを調製するために使用することができる。ま
た、かかる組成物は、該ヌクレオチドを含むヌクレオチド、ベクター、細胞等を検出する
ためにも使用することができる。
【0151】
かかる組成物には、必要に応じて、緩衝剤、塩類、金属、防腐剤、界面活性剤、凍結ま
たは凍結乾燥等の調製方法により本発明のペプチド、ペプチドの誘導体、ヌクレオチド、
ベクターまたは細胞が蒙るダメージを軽減または防止するための物質等を含有せしめるこ
とができる。
【0152】
9.試薬
本発明は試薬を提供する。
【0153】
本発明の試薬は、本発明のペプチド、ペプチドの誘導体、ヌクレオチド、ベクターまた
は細胞を含むことからなる。
【0154】
本発明のペプチドまたはその誘導体を含むことからなる試薬は、該ペプチドまたはその
誘導体が結合する標的分子を検出するために使用することができる。
【0155】
本発明のヌクレオチド、ベクターまたは細胞を含むことからなる試薬は、該ヌクレオチ
ドを含むヌクレオチド、ベクター、細胞等を検出するために使用することができる。
【0156】
本発明の試薬は組成物であってもよい。
かかる試薬を含むキットも、本発明の試薬に包含される。
【0157】
また、本発明のペプチド、ペプチド誘導体、それらが提示された細胞等は、標的分子等
の物質を認識する素子として、かかる物質に対するバイオセンサーに利用することができ
る。
【0158】
10.判定方法
本発明は、被検物質が、標的分子に結合するか否かを判定する方法をも提供する。本発
明の判定方法は、例えば、前記の工程(5-1)および(5-2)等を含んでいてもよい
が、それらに限定されない。
【0159】
本発明の判定方法には、本発明の同定方法に含まれる工程と同一または適宜改変した工
程を使用することができる。ただし、かかる判定方法に供する被検物質は、ライブラリー
等の集合に含まれていなくてもよい。例えば、判定方法に供する被検ペプチドまたは被検
ペプチド誘導体は、ペプチド・ライブラリーに含まれるペプチドまたはペプチド誘導体に
限定されるものではなく、他のペプチドから分離された単一のペプチドまたはペプチド誘
導体、それらを含む混合物等であってもよい。すなわち、本発明の同定方法は、主として
、被検物質の物理的集合から所望の性質を有するものを選抜する方法として適しているの
に対して、本発明の判定方法は、特定の被検物質が所望の性質を有しているか否かを調べ
るための検定方法としても適している。
【0160】
本発明の判定方法において、例えば、被検物質が標的分子に結合するか否かを決定する
工程においては、解離定数等親和性の指標に関する条件を充たしているか否かを判定の基
準とすることができる。また、本発明の同定方法と同じ選抜工程において被検物質が標的
分子に結合する物質として回収されれば、該被検物質を陽性と判定することができる。
【0161】
また、本発明は、被検物質が標的分子の有する生物活性の一部又は全部を活性化もしく
は促進、または、阻害、不活性化もしくは抑制するか否かを判定する方法、ならびに、被
検物質が標的分子を刺激する(agonize)か否かまたは標的分子と拮抗する(an
tagonize)か否かを判定する方法をも提供する。そのような本発明の判定方法は
、例えば、前記の工程(8-1)および(8-2)、(9-1)および(9-2)等を含
んでいてもよいが、それらに限定されない。
【実施例0162】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の技
術的範囲をなんら限定するものではない。本発明の実施例で用いるプラスミド、制限酵素
、DNA修飾酵素等は市販のものであり、常法に従って使用することができる。また、D
NAのクローニング、ポリヌクレオチド配列の決定、宿主細胞の形質転換、形質転換細胞
の培養、得られる培養物からの酵素の採取、精製等に用いた操作についても当業者によく
知られているものであるか、文献等により容易に知ることのできるものである。
【0163】
[実施例1]
(1-1)ランダム変異SPINK2ライブラリーの作製
ランダム変異SPINK2ライブラリーをファージに提示するため、ファージミドベク
ターを構築した。まず、tTH terminatorを含む領域を合成して「断片1(
配列番号10)」とし、lac operatorを含むpCANTAB 5E(GE
healthcare)の2097から2232までの領域(配列番号11)を合成して
「断片2」とした。SD配列およびphoAシグナルペプチドを含む配列(配列番号12
)を「断片3」として、ファージコート蛋白質(gene III)はpCANTAB
5E由来の配列を「断片4」として、さらに、Ipp terminatorを含む領域
は「断片5(配列番号13)」として合成した。「断片1」~「断片5」を鋳型として、
下記プライマー1および2、ならびにKOD-plus-(TOYOBO:DNAポリメ
ラーゼ、緩衝液、基質等から構成される)を用いたオーバーラップエクステンションPC
R法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 160秒)×30cycle)を行
った。
プライマー1:5’-AAAAAACGCGTCTGCGGCCGCATAGGGTAG
CGAAAACCT-3’
プライマー2:5’-AAAAAGGCGCCATTCGCCATTCAGGCTGCG
CAACTGTTGG-3’
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、W
izard SV Gel and PCR Clean-Up System(Pro
mega)によりDNAを調製した。調製したDNA断片およびpCANTAB 5Eを
制限酵素AflIII(NEB)およびNarI(NEB)で37℃で1時間以上処理し
、アガロースゲル電気泳動後に、所望のDNA断片を切り出し、Wizard SV G
el and PCR Clean-Up Systemにより精製した。精製した断片
を、T4 DNA Ligase(NEB)を用いて、16℃で一晩反応させることで、
ligation反応を実施した。Ligation溶液は、大腸菌JM109(TOY
OBO)に添加し、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒の熱処理後、さらに氷上
で5分間静置し、0.1mg/mlアンピシリンを含む2-YTプレートに播種後、37
℃で一晩静置培養することで、大腸菌の形質転換を実施した。翌日、形質転換した大腸菌
を、0.1mg/mlアンピシリンを含むTerrific Broth培地(Invi
trogen)に植菌し、37℃で一晩培養後、QIAprep 96 Turbo M
iniprep Kit(Qiagen)を用いてプラスミドDNAを回収し(以下、「
miniprep処理」という)、配列解析を実施することで目的のベクターが構築され
たことを確認し、「ファージミドベクターpPR3」と命名した。
ファージミドベクターpPR3は(1-2)で構築したファージミドベクターpPR3
_SPINK2(WT)の代わりに、(1-3)以降の実施例において使用することがで
きる。
【0164】
(1-2)ファージミドベクターpPR3_SPINK2(WT)の構築
ランダム変異SPINK2ライブラリーをファージに提示するため、ファージミドベク
ターを構築した。まず、tTH terminatorを含む領域を「断片1(配列番号
10)」とし、lac operatorを含むpCANTAB 5E(GE heal
thcare)の2099から2232までの領域(配列番号11のヌクレオチド番号3
から136まで)を「断片2」とした。SD配列ならびにphoAシグナルペプチドおよ
び野生型SPINK2、すなわちSPINK2(WT)のアミノ酸配列をコードする塩基
配列を含む配列(配列番号12)を「断片3」、pCANTAB 5Eに基くファージコ
ート蛋白質(gene III)を含む配列(配列番号16のヌクレオチド番号600か
ら1848まで)を「断片4」として、さらに、Ipp terminatorを含む領
域は「断片5(配列番号13)」とした。「断片1」~「断片5」を含む塩基配列(配列
番号16)を有するDNAを鋳型として、下記プライマー1および2、ならびにKOD-
plus-(TOYOBO:DNAポリメラーゼ、緩衝液、基質等から構成される)を用
いたオーバーラップエクステンションPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、6
8℃ 160秒)×30cycle)を行った。
プライマー1’:5’-AAAAGAAGAGCGCCCAATACGCAAACCGC
CTCTCC-3’
プライマー2’:5’-AAAAAGAATTCATTAAACGGCAGACAAAA
AAAATGTCGC-3’
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、W
izard SV Gel and PCR Clean-Up System(Pro
mega)によりDNAを調製した。調製したDNA断片およびpCANTAB 5Eを
制限酵素SapI(NEB)およびEcoRI(NEB)で37℃で1時間以上処理し、
アガロースゲル電気泳動後に、所望のDNA断片を切り出し、Wizard SV Ge
l and PCR Clean-Up Systemにより精製した。精製した断片を
、T4 DNA Ligase(NEB)を用いて、16℃で一晩反応させることで、l
igation反応を実施した。Ligation溶液は、大腸菌JM109(TOYO
BO)に添加し、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒の熱処理後、さらに氷上で
5分間静置し、0.1mg/mlアンピシリンを含む2-YTプレートに播種後、37℃
で一晩静置培養することで、大腸菌の形質転換を実施した。翌日、形質転換した大腸菌を
、0.1mg/mlアンピシリンを含むTerrific Broth培地(Invit
rogen)に植菌し、37℃で一晩培養後、QIAprep 96 Turbo Mi
niprep Kit(Qiagen)を用いてプラスミドDNAを回収し(以下、「m
iniprep処理」という)、配列解析を実施することで目的のベクターが構築された
ことを確認した。さらに、構築したベクターは制限酵素EcoRIを用いて37℃で1時
間以上処理し、Klenow処理後にT4 DNA Ligase(NEB)を用いて、
16℃で1時間ligation反応させ、大腸菌JM109へ形質転換した。形質転換
された大腸菌を培養した後に、miniprep処理し、得られたDNAの配列解析を実
施することで構築したベクターを、「ファージミドベクターpPR3_SPINK2(W
T)」と命名し、以下の実施例に供した。
【0165】
(1-3)ファージミドベクターpPR3_stuffer_TEVの構築
次に、ファージミドベクターpPR3_SPINK2(WT)に、TEV prote
ase切断配列およびstufferを挿入した。TEV protease切断配列を
作製するため、下記プライマー3および4、ならびにKOD-plus-を用いたオーバ
ーラップエクステンションPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 10
秒)×30cycle)を行った。
プライマー3:5’-GCGGCCGCATAGGGTAGCGAAAACCTGTAT
TTTCAGAG-3’
プライマー4:5’-GCTAAACAACTTTCAACGGTgctaccGCTC
TGAAAATACAGG-3’
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、W
izard SV Gel and PCR Clean-Up SystemによりD
NAを調製し、「断片6」とした。(1-2)で構築したpPR3_SPINK2(WT
)を鋳型として、下記プライマー5および6、ならびにKOD-plus-を用いたPC
R法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 30秒)×30cycle)を実施
することで、ファージコート蛋白質(gene III)を増幅した。
プライマー5:5’-ACCGTTGAAAGTTGTTTAGCAAAACCC-3’
プライマー6:5’-CATTAAAGCCAGAATGGAAAGCGCAGTC-3

さらに、増幅したDNA断片を鋳型として、下記プライマーαおよびβならびにKOD
-plus-を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 45秒)
×30cycle)を行った。
プライマーα :5’-AACACGCGTCTGCGGCCGCATAGGGTAGC
-3’
プライマーβ :5’-AACGGATCCTCATTAAAGCCAGAATGGAA
AG-3’
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、W
izard SV Gel and PCR Clean-Up SystemによりD
NAを調製した。調製したDNA断片および(1-2)で構築したpPR3_SPINK
2(WT)を制限酵素MluI(NEB)およびBamHI(NEB)で37℃で1時間
以上処理し、アガロースゲル電気泳動後に、所望のDNA断片を切り出し、Wizard
SV Gel and PCR Clean-Up Systemにより精製した。精
製した断片を、T4 DNA Ligaseを用いて、16℃で一晩反応させることで、
ligation反応を実施し、大腸菌JM109を形質転換した。形質転換された大腸
菌を培養した後に、miniprep処理し、得られたDNAの配列解析を実施した。構
築したベクターを、「ファージミドベクターpPR3_TEV」と命名した。尚、操作は
(1-1)に記載の方法に準じて行った。
構築したファージミドベクターpPR3_TEVおよびpcDNA3.1(+)(In
vitrogen)を制限酵素EcoRI(NEB)およびMluI(NEB)で37℃
で1時間以上処理し、アガロースゲル電気泳動後に、所望のDNA断片を切り出し、Wi
zard SV Gel and PCR Clean-Up Systemにより精製
した。精製した断片を、T4 DNA Ligaseを用いて、16℃で一晩反応させる
ことで、ligation反応を実施し、大腸菌JM109を形質転換した。形質転換さ
れた大腸菌を培養した後に、miniprep処理し、得られたDNAの配列解析を実施
して「ファージミドベクターpPR3_stuffer_TEV」と命名した。尚、操作
は(1-2)に記載の方法に準じて行った。
【0166】
(1-4)ランダム変異SPINK2ファージミドベクターの作製
変異を導入しないSPINK2領域を増幅するため、ヒトSPINK2のアミノ酸配列
をコードする塩基配列(配列番号14)を鋳型として、下記プライマー7および8、なら
びにKOD-plus-を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃
10秒)×30cycle)を行った。
プライマー7:5’-GGTAGCGATATGAGCACCTATGC-3’
プライマー8:5’-GCACGGACCATTGCGAATA-3’
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、W
izard SV Gel and PCR Clean-Up SystemによりD
NAを調製した。調製したDNA断片をInsert Aとした。
次に、ランダム領域(配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列に対応する領域)を
含むSPINK2オリゴヌクレオチドを合成した。
5’-GC AAA TAT CGT ACC CCG AAT TGT UUU UU
U UUU UUU UUU VVV UUU TGT VVV UUU UUU WW
W XXX CCG GTT GGT AGC GAT ATG-3’
UUU、VVV、WWWおよびXXXはA、T、G、Cの中から選択される任意の塩基
を表す。
UUUには、Cys、Proを除く18種のアミノ酸(Ala、Glu、Gln、As
p、Asn、His、Trp、Arg、Lys、Val、Leu、Ile、Phe、Ty
r、Ser、Met、Gly、Thr)をコードするコドンが含まれている。
VVVには、Cysを除く19種のアミノ酸(Ala、Glu、Gln、Asp、As
n、His、Trp、Arg、Lys、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Se
r、Met、Gly、Thr、Pro)をコードするコドンが含まれている。
WWWには、Tyr、Ser、Phe、Leu、Thrをコードするコドンが含まれて
いる。
XXXには、Asn、Asp、Leu、Lys、Gln、Ala、Gluをコードする
コドンが含まれている。
Insert AおよびSPINK2オリゴヌクレオチドを鋳型として、下記プライマ
ー9および10、ならびにPfuUltra II Fusion HS DNA Po
lymerase(Agilent)を用いたPCR法((95℃ 20秒、55℃ 2
0秒、72℃ 30秒)×10cycle)を行った。
プライマー9:5’-GTTTGGTCTGTTTAGCAAATATCGTACCCC
GAATTGT-3’
プライマー10:5’-GCACGGACCATTGCGAATA-3’
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、W
izard SV Gel and PCR Clean-Up SystemによりD
NAを調製した。調製したDNA断片をInsery Bとした。さらに、Insert
Bを鋳型として、下記プライマー11および12、ならびにPfuUltra II
Fusion HS DNA Polymeraseを用いたPCR法((95℃ 20
秒、55℃ 20秒、72℃ 30秒)×10cycle)を行った。
プライマー11:5’-AAAGAATTCTGATCCGCAGTTTGGTCTGT
TTAGCAAATAATCGT-3’
プライマー12:5’-AAAGGCGCGCCGCACGGACCATTGCGAAT
AATTTTAAT-3’
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、W
izard SV Gel and PCR Clean-Up SystemによりD
NAを調製した。調製したDNA断片をInsert Cとした。Insert Cを制
限酵素EcoRI(NEB)およびAscI(NEB)で、ファージミドベクターpPR
3_stuffer_TEVをEcoRI(TAKARA)およびMluI(TAKAR
A)を用いて、それぞれ37℃で5時間以上処理し、Insert CをWizard
SV Gel and PCR Clean-Up Systemを用いることで精製し
、phagemid vectorをアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDN
A断片を切り出し、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up
System(Promega)により精製した。精製した断片を、T4 DNA Li
gase(NEB)を用いて、16℃で一晩反応させることで、ligation反応を
実施した。翌日、65℃で10分熱処理を行い、Amicon-Ultra(30k:M
illipore)により、DNAの脱塩を実施した。
【0167】
(1-5)ランダム変異SPINK2ファージミドベクターを有する大腸菌XL1-Bl
ueの作製
次に、形質転換に用いるコンピテントセルを調製した。前日に37℃で一晩、2-YT
培地(Invitrogen)を用いて培養したXL1-Blue(Stratagen
e)を2-YT培地に植菌し、37℃で数時間培養した。氷冷後、遠心分離(3,000
g、10分、4℃)によりペレットを回収し、滅菌水で懸濁した後、遠心を行った。さら
に、10%グリセロールでペレットを懸濁した後遠心分離し、再度、10%グリセロール
による懸濁した後遠心分離を行った。最後に、ペレットを10%グリセロールで懸濁して
、コンピテントセルとした。
(1-4)で調製したDNAとコンピテントセルを用いて、エレクトロポレーション(
1.97kV、186μF)により、形質転換を実施した。その後、SOC培地を用いて
、37℃で1時間、振とう培養を行い、0.1mg/mlアンピシリン(和光純薬工業)
および2%グルコース(nacalai tesque)を含む2-YTプレートにプレ
ーティングし、30℃で静置培養した。翌日、1%グルコースおよび15%グリセロール
(和光純薬工業)を含む2-YT溶液を用いてコロニーを回収し、-80℃で保存した。
また、エレクトロポレーション後の培養液の一部は採取し、段階希釈後にプレーティング
し、静置培養した。翌日、コロニー数を測定することで、ライブラリーサイズを見積もり
、構築されたライブラリーのサイズは1.2×1010程度であることを確認した。
【0168】
(1-6)ランダム変異SPINK2ファージライブラリーの構築
(1-5)で構築した大腸菌コロニー群を、0.1mg/mlアンピシリンおよび1%
グルコースを含む2-YT培地に植菌し、OD600nm=0.3の大腸菌懸濁液を調製
した。37℃で振とう培養を行うことで、OD600nm=0.5になるまで培養し、充
分量のhelperphage VCSM13(Stratagene)を加えて、37
℃で30分間静置し、さらに、37℃で30分間振とう培養を実施した。その後、氷上で
30分間静置し、遠心分離(3,000g、20分、4℃)により、ペレットを回収し、
0.1mg/mlアンピシリン、30μg/mlカナマイシン(nacalai tes
que)、0.25mM IPTG(和光純薬工業)を含む2-YT培地で懸濁し、22
℃で一晩、振とう培養を実施した。
翌日、遠心分離(9,000g、20分、4℃)により培養上清を回収し、20% P
olyethylene Glycol 6000(nacalai tesque)お
よび2.5M NaCl(和光純薬工業)溶液を1/4量添加し、4℃で30分間静置す
ることで、ファージ粒子を沈殿させた(以下、「PEG沈殿」と呼ぶ)。PEG沈殿およ
び遠心分離(9,000g、30分、4℃)を2回繰り返し、沈殿したファージをPBS
に懸濁することで、ランダム変異SPINK2ファージライブラリーを調製した。
作製したファージ溶液を大腸菌XL1-Blueに感染させ、0.1mg/mlアンピ
シリンおよび1%グルコースを含む2-YTプレートに播種し、形成したコロニー数を測
定した。ファージライブラリーの力価は、1.8×1013 phage/mlであった
【0169】
[実施例2]
標的分子に結合するSPINK2変異体の選別
(2-1)液相パニング法
EZ-Link NHS-Chromogenic Biotin Reagent(
Thermo)を用いて、付属の説明書に従い、(2-4)に記載の標的蛋白質をビオチ
ン化した。
ビオチン化標的蛋白質は、SPINK2変異体提示ファージと混合して1~12時間反
応させた。反応後、Dynabeads M-280 Streptavidin(In
vitrogen)(以下、単に「ビーズ」と呼ぶ)を加えることでビオチン化標的蛋白
質をビーズに結合させ、0.05%Tweenを含むPBS(以下、「PBS-T」と呼
ぶ)で所定の回数洗浄した後、AcTEVTM Protease(Invitroge
n)で30分間反応させることで、ビーズ表面のビオチン化標的蛋白質に結合したSPI
NK2変異体提示ファージを回収した。回収したファージは、大腸菌XL1-Blueに
感染させ、0.1mg/mlアンピシリンおよび1%グルコースを含む2-YTプレート
に播種し、30℃で一晩培養した。尚、液相パニングの第一ラウンドには、ランダム変異
SPINK2ファージライブラリーを、第二ラウンド以降には、前ラウンドで得られた大
腸菌コロニー群から調製したファージを使用した。
【0170】
(2-2)固相パニング法
Nunc Maxisorp flat-bottom 96 well plate
(Nunc)に一定量の標的蛋白質を添加し、4℃で一晩静置することで、プレートへの
固定化を実施した。また、Pierce NHS-Activated Agarose
Dry Resin(Thermo)に一定量の標的蛋白質を添加し、付属の説明書に
従い、アガロースへの固定化を実施した。
標的蛋白質を固定化したプレートまたはアガロースは、SPINK2変異体提示ファー
ジと混合して1~12時間反応させた。反応後、ビーズを加えることでビオチン化標的蛋
白質をビーズに結合させ、PBS-Tで所定の回数洗浄した後、AcTEVTM Pro
tease(Invitrogen)で30分間反応させることで、ビーズ表面のビオチ
ン化標的蛋白質に結合したSPINK2変異体提示ファージを回収した。回収したファー
ジは、大腸菌XL1-Blueに感染させ、0.1mg/mlアンピシリンおよび1%グ
ルコースを含む2-YTプレートに播種し、30℃で一晩培養した。尚、固相パニングの
第一ラウンドには、ランダム変異SPINK2ファージライブラリーを、第二ラウンド以
降には、前ラウンドで得られた大腸菌コロニー群から調製したファージを使用した。
【0171】
(2-3)ファージの調製
パニング後に得られた大腸菌コロニー群を、0.1mg/mlアンピシリンおよび1%
グルコースを含む2-YT培地に植菌し、OD600nm=0.3の大腸菌懸濁液を調製
した。37℃で振とう培養を行うことで、OD600nm=0.5になるまで培養し、充
分量のhelperphage VCSM13(Stratagene)を加えて、37
℃で30分間静置し、さらに、37℃で30分間振とう培養を実施した。その後、氷上で
30分間静置し、遠心分離(3,000g、20分、4℃)により、ペレットを回収し、
0.1mg/mlアンピシリン、30μg/mlカナマイシン(nacalai tes
que)、0.25mM IPTG(和光純薬工業)を含む2-YT培地で懸濁し、22
℃で一晩、振とう培養を実施した。翌日、遠心分離により培養上清を回収し、PEG沈殿
および遠心分離を2回繰り返すことで、次ラウンドで使用するファージ溶液を調製した。
【0172】
(2-4)標的分子に結合するSPINK2変異体の選別
下記4種類のいずれか一つを標的蛋白質として、液相または固相パニングを3~5ラウ
ンド実施した。
・Chymotrypsin(Worthington)
・Recombinant Human Plasma Kallikrein(R&D
systems)
・Recombinant Human EGFR/Fc(R&D systems:以
下、「EGFR/Fc」と呼ぶ)
・Recombinant Human ErbB2/Fc(R&D systems:
以下、「HER2/Fc」と呼ぶ)
【0173】
(2-5)SPINK2変異体(ポリクローン)の標的蛋白質への結合性評価
(2-3)に記載の方法に従い、パニング後の大腸菌群からSPINK2変異体提示フ
ァージを調製した。
Nunc Maxisorp flat-bottom 96 well plate
(Nunc)に、(2-4)に記載の標的蛋白質、および、ネガティブコントロールとし
てIgG-Free,Protease-Free Bovine Serum Alu
bmin(Jackson ImmunoResearch Laboratories
:以下、「BSA」と呼ぶ)を添加し、4℃で一晩静置することで、96 well p
lateのコーティングを行った。次に、パニング後の大腸菌群から調製したSPINK
2変異体提示ファージをサンプルとして添加し、室温で1時間静置した。その後、サンプ
ルを除き、PBS-Tで洗浄した後、HRP/Anti-M13 Monoclonal
Conjugate(GE Healthcare)を添加し、室温で1時間静置した
。その後、HRP/Anti-M13 Monoclonal Conjugateを除
き、PBS-Tで洗浄した後、POD基質A.B.T.S.キット(nacalai)を
用いて発色させ、測定波長405nmの吸光度を測定した。サンプルおよびHRP/An
ti-M13 Monoclonal Conjugateの希釈にはPBS-Tを用い
た。
結果を図1図4に示す。各標的蛋白質に対するパニングにより、ランダム変異SPI
NK2ライブラリーから標的特異的な結合性を示すSPINK2変異体(ポリクローン)
が濃縮されたことが、ELISA法により確認された。
【0174】
[実施例3]
α-chymotrypsin結合ペプチド(シングルクローン)の評価
(3-1)pET 32a(改変)の構築
pIRES Puro3(Clontech)を鋳型として、下記プライマー13およ
び14、ならびにKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 1
5秒、60℃ 30秒、68℃ 30秒)×30cycle)を行った。
5’-AAAGGATCCGCGAATTCATGACCGAGTACAAGCCCAC
-3’
5’-AAACTCGAGTTATGCGGCCGCTCAGGCACCGGGCTTG
CGG-3’
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、W
izard SV Gel and PCR Clean-Up System(Pro
mega)によりDNAを調製した。調製したDNA断片およびpET 32a(+)(
Novagen)をそれぞれ制限酵素BamHI(TAKARA)およびXhoI(TA
KARA)を用いて、37℃で1時間以上処理し、アガロースゲル電気泳動後に、所望の
DNA断片を切り出し、Wizard SV Gel and PCR Clean-U
p System(Promega)により精製した。精製した断片を、T4 DNA
Ligaseを用いて、16℃で一晩反応させることで、ligation反応を実施し
、大腸菌JM109を形質転換した。形質転換された大腸菌を培養した後に、minip
repおよび配列解析を実施することで、「pET 32a(改変)」を構築した。尚、
操作は(1-2)に記載の方法に準じて行った。
【0175】
(3-2)α-chymotrypsin結合ペプチドの大腸菌Origami B(D
E3)での発現精製
QIAGEN Plasmid Midi Kit(Qiagen)を用いて、付属の
説明書に従い、パニング後の大腸菌群からphagemid vectorを回収した。
回収したベクターおよびpET 32a(改変)を、制限酵素EcoRI(TAKARA
)およびNotI(TAKARA)を用いて、37℃で1時間以上処理し、アガロースゲ
ル電気泳動後に、所望のDNA断片を切り出し、Wizard SV Gel and
PCR Clean-Up System(Promega)により精製した。精製した
断片を、T4 DNA Ligase(NEB)を用いて、16℃で一晩反応させること
で、ligation反応を行い、大腸菌JM109の形質転換を実施した。尚、操作は
(1-2)に記載の方法に準じて行った。Miniprepにより回収したプラスミドで
、大腸菌Origami B(DE3)(Novagen)を形質転換し、0.1mg/
mlアンピシリンを含む2-YTプレートに播種した。
次に、0.1mg/mlアンピシリンを含む2-YT培地にコロニーを植菌し、37℃
で一晩培養後、その一部を再度0.1mg/mlアンピシリンを含む2-YT培地に植菌
し、OD600nm=1ぐらいまで培養した。その後、IPTG(最終濃度1mM)を加
え、16℃で一晩培養することで、発現誘導を実施した。翌日、遠心分離(3,000g
、20分、4℃)により集菌後、BugBuster Master Mix(Nova
gen)を添加し、室温で20分攪拌した。遠心分離(10,000g、20分、4℃)
により回収した上清に、TALON Metal Affinity Resin(TA
KARA)を加え、4℃で1時間以上攪拌することで、当該ResinにHis tag
融合目的蛋白質を吸着させた。リン酸ナトリウム緩衝液(50mM Sodium Ph
osphate、300mM NaCl、pH7.4)でResinを数回洗浄した後、
溶出液(50mM Sodium Phosphate、300mM NaCl、150
mM imidazol、pH7.4)を添加することでHis tag融合蛋白質を回
収した。さらに、Thrombin cleavage capture kit(No
vagen)を用いてThioredoxin tagを切断し、TALONに添加する
ことでThioredoin tagを除去した。最後に、Amicon-Ultra(
3k)を用いて、目的蛋白質の濃縮およびPBSへの置換を実施した。調製した目的蛋白
質(SPINK2変異体)を、還元および非還元状態でSDS-PAGEに供することで
、分子状態の解析を試みた。
結果を図5および6に示す。全てのクローンは、還元および非還元状態で単一バンドを
示したことから、発現精製した目的蛋白質の分子状態は、モノマー体が主成分であること
が確認された。
【0176】
(3-3)大腸菌で発現精製したα-chymotrypsin結合ペプチドの標的結合
親和性の評価
(3-2)で調製したSPINK2変異体(α-chymotrypsin bind
er)の標的結合特異性を確認するため、ELISA法による評価を実施した。Nunc
Maxisorp flat-bottom 96 well plateに、標的蛋
白質chymotrypsonを添加し、4℃で一晩静置することで、96 well
plateのコーティングを行った。次に、(3-2)で調製したSPINK2変異体を
サンプルとして添加し、室温で1時間静置した。その後、サンプルを除き、PBS-Tで
洗浄した後、S-Tag Antibody Affinity Purified H
RP conjugated(BETHYL)を添加し、室温で1時間静置した。その後
、検出抗体溶液を除き、PBS-Tで洗浄した後、POD基質A.B.T.S.キットを
用いて発色させ、測定波長405nmの吸光度を測定した。サンプルおよびS-Tag
Antibody Affinity Purified HRP conjugate
dの希釈にはPBS-Tを用いた。
結果を図7および8に示す。大腸菌で調製したSPINK2変異体は、全てが標的に対
して結合性を有していた。また、ELISAはsigmoid曲線を示したことから、E
LISAで検出されたシグナル強度の最低値および最大反応より、最大反応の50%を示
す濃度、すなわちEC50を算出し、ペプチド番号2(clone2)の結合活性値EC
50は18.3nM、ペプチド番号6(clone6)のEC50は17.8nMである
ことが確認された。
【0177】
(3-4)大腸菌で発現精製したα-chymotrypsin結合ペプチドの標的特異
性の評価
Nunc Maxisorp flat-bottom 96 well plate
に、標的蛋白質chymotrypsinおよびネガティブコントロールtrypsin
(PIERCE)を添加し、4℃で一晩静置することで、96 well plateの
コーティングを行った。次に、(3-2)で調製したSPINK2変異体をサンプルとし
て添加し、室温で1時間静置した。その後、サンプルを除き、PBS-Tで洗浄した後、
S-Tag Antibody Affinity Purified HRP con
jugatedを添加し、室温で1時間静置した。その後、検出抗体溶液を除き、PBS
-Tで洗浄した後、POD基質A.B.T.S.キットを用いて発色させ、測定波長40
5nmの吸光度を測定した。サンプルおよびS-Tag Antibody Affin
ity Purified HRP conjugatedの希釈にはPBS-Tを用い
た。
結果を図9および10に示す。ペプチド番号2および6(clone2および6)は、
trypsinに対しては全く反応性を示さなかったが、標的蛋白質であるchymot
rypsinには強い反応を示したことから、標的特異的な結合を有することが見出され
た。
【0178】
(3-5)大腸菌で発現精製したα-chymotrypsin結合ペプチドのchym
otrypsin阻害活性評価
標的蛋白質chymotrypsinに関して、(3-2)で調製したSPINK2変
異体およびPierce Quantitative Protease Assay
Kitを用いて、阻害活性を定量した。操作は、付属の説明書に従い、実施した。
結果を図11に示す。ペプチド番号2および6(clone2および6)はともに阻害
活性を示し、それぞれのIC50は、815nM、374nMであった。
【0179】
(3-6)α-chymotrypsin結合ペプチドの配列解析
(3-3)でchymotrypsinに対して結合性を示したSPINK2変異体(
α-chymotrypsin結合ペプチド)の配列解析を実施した。各SPINK2変
異体で形質転換された大腸菌Origami B(DE3)を、0.1mg/mlアンピ
シリンを含む2-YT培地を用いて37℃で一晩培養し、翌日、QIAprep 96
Turbo Miniprep Kitを用いて培養物からプラスミドDNAを回収した
。該プラスミドDNAを鋳型とし、次の塩基配列を有するプライマー15:
5’-GTTCTGGTTCTGGCCATATGCACCATC-3’
を用いて、塩基配列を解析した。
ランダム化領域(ランダム領域)の解析結果を図12に示す。全てのSPINK2変異
体のランダム化領域は、異なる塩基配列を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明のペプチド・ライブラリーは、各種標的分子に結合するペプチドの探索に使用す
ることができ、検査薬、診断薬等の研究に有用である。また、予め決定された標的分子に
結合するペプチドは検査薬、診断薬等として有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0181】
配列表の配列番号1 - 多様性を伴うペプチドのランダム領域(図13
配列表の配列番号2 - キモトリプシン結合ペプチドのランダム領域(図12:ペプチ
ド番号1)
配列表の配列番号3 - キモトリプシン結合ペプチドのランダム領域(図12:ペプチ
ド番号2)
配列表の配列番号4 - キモトリプシン結合ペプチドのランダム領域((図12:ペプ
チド番号6)
配列表の配列番号5 - キモトリプシン結合ペプチドのランダム領域((図12:ペプ
チド番号7)
配列表の配列番号6 - キモトリプシン結合ペプチドのランダム領域((図12:ペプ
チド番号12)
配列表の配列番号7 - キモトリプシン結合ペプチドのランダム領域((図12:ペプ
チド番号13)
配列表の配列番号8 - キモトリプシン結合ペプチドのランダム領域((図12:ペプ
チド番号14)
配列表の配列番号9 - キモトリプシン結合ペプチドのランダム領域((図12:ペプ
チド番号17)
配列表の配列番号10 - 断片1(図14
配列表の配列番号11 - 断片2(図15中の下線部)
配列表の配列番号12 - 断片3(図16
配列表の配列番号13 - 断片5(図17
配列表の配列番号14 - SPINK2のアミノ酸配列をコードする塩基配列(図18

配列表の配列番号15 - 配列表の配列番号14で示される塩基配列がコードするアミ
ノ酸配列
配列表の配列番号16 - 断片1~断片5を含むPCR用鋳型DNAの塩基配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15-1】
図15-2】
図15-3】
図15-4】
図16
図17
図18
図19
図20-1】
図20-2】
【配列表】
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