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特開2024-3851観測システム、観測方法およびコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003851
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】観測システム、観測方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01V 5/00 20240101AFI20240109BHJP
   G01N 23/02 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G01V5/00 B
G01N23/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103153
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】竹野 徹
【テーマコード(参考)】
2G001
2G105
【Fターム(参考)】
2G001AA08
2G001BA11
2G001CA08
2G001DA06
2G001FA01
2G001LA20
2G001MA01
2G105AA01
2G105LL02
(57)【要約】
【課題】 観測対象の変化に気付きやすいミューオンを用いた観測技術を提供する。
【解決手段】 観測システムは、観測対象を透過したミューオンを検出する観測用のミューオン検出器と、ミューオンの飛来状況を検出する比較用のミューオン検出器と、観測装置とを備える。観測装置の取得部は、観測用のミューオン検出器の出力データを観測データとして取得し、比較用のミューオン検出器の出力データを比較データとして取得する。解析部は、観測データを用いて、観測用のミューオン検出器により検出された予め定められた観測期間ごとのミューオンの検出数を観測値として算出する。解析部は、比較データを用いて、比較用のミューオン検出器により検出された観測期間ごとのミューオンの検出数を比較値として算出する。出力部は、同じ時期における観測値の変化と比較値の変化を比較する比較情報を含む観測情報を出力する。
【選択図】 図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測対象を透過したミューオンを検出する観測用のミューオン検出器と、
ミューオンの飛来状況を検出する比較用のミューオン検出器と、
前記観測用のミューオン検出器と前記比較用のミューオン検出器とのそれぞれから出力された検出結果を表す出力データを用いて、前記観測対象に関する観測情報を出力する観測装置と
を備え、
前記観測装置は、
前記観測用のミューオン検出器の出力データを観測データとして取得し、前記比較用のミューオン検出器の出力データを比較データとして取得する取得部と、
前記観測データを用いて、前記観測用のミューオン検出器により検出された予め定められた観測期間ごとのミューオンの検出数を観測値として算出し、また、前記比較データを用いて、前記比較用のミューオン検出器により検出された前記観測期間ごとのミューオンの検出数を比較値として算出する解析部と、
同じ時期における前記観測値の変化と前記比較値の変化を比較する比較情報を含む前記観測情報を出力する出力部と
を備える観測システム。
【請求項2】
前記観測装置は、同じ時期における前記観測値の変化と前記比較値の変化を比較し、前記比較値の変化に対する前記観測値の変化が予め定められた注目条件を満たすか否かを判断する比較部をさらに備え、
前記出力部は、前記観測値の変化が前記注目条件を満たす場合には、前記観測値の変化に注目することを促す注目情報を出力する
請求項1に記載の観測システム。
【請求項3】
前記観測装置は、さらに、
前記比較値を用いたミューオンの飛来状況の変動を表す情報を用いて、前記観測値を補正する補正部を備える
請求項1に記載の観測システム。
【請求項4】
前記観測対象は、地中における貯蔵層に貯留されている二酸化炭素である
請求項1に記載の観測システム。
【請求項5】
前記観測対象の互いに異なる領域に関連付けられた複数の前記観測用のミューオン検出器が互いに間隔を介して分散配置されており、
前記観測装置の前記取得部は、それら観測用のミューオン検出器の出力データを、それぞれ、観測データとして取得し、
前記解析部は、取得した前記観測データを用いて、前記観測用のミューオン検出器のそれぞれに関連する前記観測期間ごとの観測値を算出し、
前記出力部は、同じ時期における前記観測用のミューオン検出器それぞれについての前記観測値の変化と、前記比較値の変化とを比較する比較情報を含む前記観測情報を出力する
請求項1に記載の観測システム。
【請求項6】
前記出力部は、同じ時期における前記観測値の変化を表す情報と、前記比較値の変化を表す情報とを表示装置によって同じ画面に並べて表示させるべく、前記表示装置に前記観測情報を出力する請求項1に記載の観測システム。
【請求項7】
前記観測用のミューオン検出器および前記比較用のミューオン検出器は、シンチレーションファイバーを用いて構成されるミューオン検出器である
請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の観測システム。
【請求項8】
コンピュータによって、
観測対象を透過したミューオンを検出する観測用のミューオン検出器から出力された検出結果を表す出力データを観測データとして取得し、
ミューオンの飛来状況を検出する比較用のミューオン検出器から出力された検出結果を表す出力データを比較データとして取得し、
前記観測データを用いて、前記観測用のミューオン検出器により検出された予め定められた観測期間ごとのミューオンの検出数を観測値として算出し、また、前記比較データを用いて、前記比較用のミューオン検出器により検出された前記観測期間ごとのミューオンの検出数を比較値として算出し、
同じ時期における前記観測値の変化と前記比較値の変化を比較する比較情報を含む観測情報を出力する
観測方法。
【請求項9】
観測対象を透過したミューオンを検出する観測用のミューオン検出器から出力された検出結果を表す出力データを観測データとして取得する処理と、
ミューオンの飛来状況を検出する比較用のミューオン検出器から出力された検出結果を表す出力データを比較データとして取得する処理と、
前記観測データを用いて、前記観測用のミューオン検出器により検出された予め定められた観測期間ごとのミューオンの検出数を観測値として算出し、また、前記比較データを用いて、前記比較用のミューオン検出器により検出された前記観測期間ごとのミューオンの検出数を比較値として算出する処理と、
同じ時期における前記観測値の変化と前記比較値の変化を比較する比較情報を含む観測情報を出力する処理と
をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素粒子の一つであるミューオンを利用した観測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人類に様々な悪影響を及ぼす地球温暖化が問題視されており、地球温暖化を抑制するための対策が考えられている。その対策の一つとして、地球温暖化の原因の一つである温室効果ガスの代表格である大気中の二酸化炭素を削減すべく、発電所や化学プラントなどで発生した二酸化炭素を回収し、回収した二酸化炭素を貯留するというアイデアがある。このアイデアは、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)とも称される。
【0003】
例えば、二酸化炭素の排出源である発電所や化学プラントなどから排出された二酸化炭素が化学溶剤などをもちいて回収され、回収された二酸化炭素が配管を通って地下数千メートルの貯蔵層に圧入される。貯蔵層とは、砂岩層などの地層であり、二酸化炭素を貯留する隙間があったり、地下水で満たされている帯水層であったりする。貯蔵層に圧入された二酸化炭素は、貯蔵層内の隙間に入り込んだり、貯蔵層における地下水に溶けたりして貯留される。貯蔵層として選ばれる地層は、その上側に、貯蔵層からの二酸化炭素の漏洩を防止する遮蔽層(シール層)として機能する地層が積層されている地層である。
【0004】
なお、特許文献1(国際公開第2020/194577号)には、ミュオグラフィ技術を用いて火山の内部を監視する技術が示されている。特許文献2(特開2011-031154号公報)には、地下水に二酸化炭素を貯留する技術が開示されている。特許文献3(特開2010-197368号公報)には、海底下地層に貯留した二酸化炭素が海底から漏洩していることを、音響トモグラフィー技術を用いて検出する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/194577号
【特許文献2】特開2011-031154号公報
【特許文献3】特開2010-197368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
二酸化炭素を貯蔵層に貯留する技術開発が進められ、実証実験も行われているが、実用化に向けて検討しなければならない課題はまだ残されている。その課題の一つとして、貯蔵層に長期間にわたり安定して二酸化炭素を閉じ込めておけるのかということを観測する必要があるという課題がある。
【0007】
二酸化炭素は、もともと大気中にも存在している物質であるから、貯蔵層に貯留されていた二酸化炭素が大気中に漏洩しても、それが貯蔵層から漏洩したものか、もともと大気中にあったものなのかを見分けるのは難しい。そこで、本発明者は、貯蔵層からの二酸化炭素の漏洩を大気中で観測するのではなく、貯蔵層における二酸化炭素の貯留状態を観測することを考えた。そして、本発明者は、その貯蔵層の二酸化炭素の観測にミューオンを用いることを考えた。
【0008】
ミューオンは、宇宙線由来の素粒子であり、常時飛来している。ミューオンは、例えば火山というような大きな物体を透過することができる高い貫通力を持つが、非常に密度の高い物質の中では原子核に邪魔をされ、透過できるミューオンの数が減少する。つまり、物体の密度が高くなるにつれて、その物体を透過できるミューオンの数(透過数)が減少するという如く、物体の密度に応じてミューオンの透過数が変化する。このため、物体の内部に密度の違いがある場合には、ミューオンが透過する物体の部位の密度に応じてミューオンの透過数に違いが生じる。このような物体の部位によるミューオンの透過数の違いを用いて、物体の内部状態を密度分布により表すことができる。
【0009】
ミューオンを用いて貯蔵層に貯留している二酸化炭素を観測しようとする場合、ミューオンを検出するミューオン検出器が貯蔵層よりも下側の層に設置され、当該ミューオン検出器によって貯蔵層を透過したミューオンが検出される。そして、そのミューオン検出器から出力される出力データを用いた貯蔵層の内部における密度の時間的な変化が、貯蔵層における二酸化炭素の状態変化として観測される。
【0010】
しかしながら、貯蔵層の二酸化炭素というような観測対象にミューオンが飛来してくる単位時間当たりの飛来数(換言すれば、飛来状況)は、ミューオンの元である宇宙線の到来状況の変化や、大気中をミューオンが通る経路の環境変化によって変動する。このため、観測対象の状態(密度)に変化が無いのにも拘わらず、観測対象を透過するミューオンの透過数(以下、単にミューオンの透過数とも称する)も変動してしまう。このようなミューオンの飛来状況の変動に起因したミューオンの透過数の変動が、ミューオン検出器の出力データに基づいて算出される観測結果データ(例えばミューオンの透過数の時間的な変化を表すデータ)に表れてしまう。このようなミューオンの飛来状況の変動がいわゆるノイズとなって、観測結果データに含まれる観測対象の密度の変化を検知し難くするという問題がある。つまり、ミューオンを用いた観測では、観測対象の変化に気付きにくいという問題がある。
【0011】
本発明は上述した課題を解決するために考え出された。すなわち、本発明の主な目的は、観測対象の変化に気付きやすくするミューオンを用いた観測技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の観測システムは、その一態様として、
観測対象を透過したミューオンを検出する観測用のミューオン検出器と、
ミューオンの飛来状況を検出する比較用のミューオン検出器と、
前記観測用のミューオン検出器と前記比較用のミューオン検出器とのそれぞれから出力された検出結果を表す出力データを用いて、前記観測対象に関する観測情報を出力する観測装置と
を備え、
前記観測装置は、
前記観測用のミューオン検出器の出力データを観測データとして取得し、前記比較用のミューオン検出器の出力データを比較データとして取得する取得部と、
前記観測データを用いて、前記観測用のミューオン検出器により検出された予め定められた観測期間ごとのミューオンの検出数を観測値として算出し、また、前記比較データを用いて、前記比較用のミューオン検出器により検出された前記観測期間ごとのミューオンの検出数を比較値として算出する解析部と、
同じ時期における前記観測値の変化と前記比較値の変化を比較する比較情報を含む前記観測情報を出力する出力部と
を備える。
【0013】
また、本発明に係る観測方法は、その一態様として、
コンピュータによって、
観測対象を透過したミューオンを検出する観測用のミューオン検出器から出力された検出結果を表す出力データを観測データとして取得し、
ミューオンの飛来状況を検出する比較用のミューオン検出器から出力された検出結果を表す出力データを比較データとして取得し、
前記観測データを用いて、前記観測用のミューオン検出器により検出された予め定められた観測期間ごとのミューオンの検出数を観測値として算出し、また、前記比較データを用いて、前記比較用のミューオン検出器により検出された前記観測期間ごとのミューオンの検出数を比較値として算出し、
同じ時期における前記観測値の変化と前記比較値の変化を比較する比較情報を含む観測情報を出力する。
【0014】
さらに、本発明に係るコンピュータプログラムは、その一態様として、
観測対象を透過したミューオンを検出する観測用のミューオン検出器から出力された検出結果を表す出力データを観測データとして取得する処理と、
ミューオンの飛来状況を検出する比較用のミューオン検出器から出力された検出結果を表す出力データを比較データとして取得する処理と、
前記観測データを用いて、前記観測用のミューオン検出器により検出された予め定められた観測期間ごとのミューオンの検出数を観測値として算出し、また、前記比較データを用いて、前記比較用のミューオン検出器により検出された前記観測期間ごとのミューオンの検出数を比較値として算出する処理と、
同じ時期における前記観測値の変化と前記比較値の変化を比較する比較情報を含む観測情報を出力する処理と
をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、観測対象の変化に気付きやすくするミューオンを用いた観測技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る第1実施形態の観測システムの構成を説明するイメージ図である。
図2】第1実施形態における観測装置の構成を説明するブロック図である。
図3】記憶装置に格納される観測値や比較値を説明する図である。
図4】観測値や比較値に関する比較情報の一例を表す図である。
図5】観測値や比較値に基づく観測情報の表示態様の一例を表す図である。
図6】第1実施形態における観測装置の動作の一例を説明するフローチャートである。
図7】第2実施形態における観測装置の構成を説明するブロック図である。
図8】第3実施形態における観測装置の構成を説明するブロック図である。
図9】観測装置におけるその他の実施形態を説明するブロック図である。
図10】本発明に係るその他の実施形態の観測システムの構成を説明する図である。
図11】観測装置の動作の別の例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
<第1実施形態>
図1は、本発明に係る第1実施形態の観測システムの構成を説明するイメージ図である。第1実施形態の観測システム1は、地中に貯留されている二酸化炭素の状態を、ミューオンを用いて観測するシステムである。この観測システム1が観測する観測対象である二酸化炭素は、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)技術によって、地中の貯蔵層40としての地層に貯留されているものである。すなわち、排出源30から排出された二酸化炭素が、CCS技術によって、回収装置31により回収され当該回収装置31から貯蔵層40に配管33を通して圧入されて貯留される。観測システム1は、このようなCCS技術によって貯蔵層40に貯留されている二酸化炭素を観測するシステムである。なお、排出源30の具体例としては、発電所や化学プラントなどが挙げられる。排出源30と回収装置31は配管32により接続されており、排出源30から排出された二酸化炭素(CO)は、配管32を通って回収装置31に輸送される。また、貯蔵層40の上側の地層41は、二酸化炭素を貯蔵層40に閉じ込める遮蔽層(シール層)として機能する。さらに、図1の例では、1つの排出源30が表されているが、同じ貯蔵層40に貯留される二酸化炭素を排出する排出源30は、1つとは限らず、複数である場合も考えられる。さらにまた、図1の例では、1つの排出源30が2つの回収装置31に接続されているが、1つの排出源30に接続される回収装置31の数は1つでも、3つ以上であってもよく、その数は限定されない。さらにまた、排出源30や回収装置31が設けられている場所も限定されない。
【0019】
観測システム1は、観測用のミューオン検出器3と、比較用のミューオン検出器4と、観測装置6とを備えている。
【0020】
観測用のミューオン検出器3(以下、単に、ミューオン検出器3とも称する)は、ミューオンを検出する装置である。ミューオン検出器には複数の種類があり、ミューオン検出器3として採用されるミューオン検出器の種類は限定されないが、一例として、シンチレーションファイバーを用いて構成されるミューオン検出器が挙げられる。
【0021】
ミューオン検出器3は、貯蔵層40における二酸化炭素が貯留されている領域を透過したミューオンを検出するために、貯蔵層40の下方側の地層に設置される。ミューオン検出器3を設置する地層に関し、ミューオン検出器3は、貯蔵層40から下方側に離れる程、貯蔵層40を通過したミューオンを検知しにくくなるから、貯蔵層40に近い地層に設置されることが好ましい。また、ミューオン検出器3は、例えば、坑井を掘削する土木技術を用いて作られた坑道を利用して設置される。ミューオン検出器3が設置される地層は、そのような設置工事の行い易さや、設置後の検出器の傾きの心配がないというような設置の安定性が考慮された地層であることが好ましい。このようにミューオン検出器3を設置する際に考慮すべき事項は様々にあり、ミューオン検出器3は、そのような様々な事項を考慮して決定された地層に設置される。
【0022】
また、ここでは、貯蔵層40における観測領域が予め定められている。その観測領域とは、回収装置31から圧入された二酸化炭素が貯留されると想定される貯蔵層40の領域であり、その場所や広さは、例えば、ミューオン検出器3を利用した観測の目的を考慮して適宜に設定される。観測の目的の例を挙げると、回収装置31から貯蔵層40に二酸化炭素がスムーズに圧入されていることを確認したいという観測の目的や、貯蔵層40に圧入された二酸化炭素の拡散の状況を観測したいという目的が挙げられる。また、観測の目的の別の例としては、二酸化炭素の貯留状態が安定していると想定される貯蔵層40の領域において、二酸化炭素の貯留状態を監視するという観測の目的が挙げられる。上述したような二酸化炭素の圧入状態を確認したいという目的に応じた貯蔵層40の観測領域としては、例えば、回収装置31から貯蔵層40に二酸化炭素を圧入する配管33の出口とその周辺を含む領域が設定される。また、二酸化炭素の拡散状態を確認したいという目的に応じた貯蔵層40の観測領域としては、例えば、配管33の出口とその周辺を含む領域と、当該領域から所定の距離を離れた領域とが設定される。さらに、二酸化炭素の貯留状態を監視するという目的に応じた貯蔵層40の観測領域としては、例えば、上述したと同様の配管33の出口とその周辺を含む領域が設定される。さらにまた、二酸化炭素の貯留状態を監視するという目的に応じた貯蔵層40の観測領域の別の例としては、二酸化炭素が貯留していると想定される領域における互いに間隔を介した複数の部分領域がそれぞれ観測領域として設定されてもよい。ミューオン検出器3は、上述したように設定された観測領域を観測できるように貯蔵層40の下方側の地層に設置される。なお、複数の観測領域が設定されている場合には、それら観測領域にそれぞれ関連付けられる複数のミューオン検出器3が分散配置される。
【0023】
比較用のミューオン検出器4(以下、単に、ミューオン検出器4とも称する)は、ミューオン検出器3と同様のミューオン装置である。このミューオン検出器4は、地上あるいは地上付近におけるミューオンの飛来状況を、観測対象に飛来するミューオンの飛来状況として検出する。ミューオン検出器4の設置位置は、貯蔵層40の上方側であれば特に限定されないが、例えば、観測用のミューオン検出器3の上方側の位置に設置される。また、ミューオン検出器4は、地上に設置されてもよいし、地上における設置スペースの確保が難しいような場合には、貯蔵層40の上方側の地中に設置されてもよい。
【0024】
さらに、貯蔵層40における二酸化炭素の貯留領域に飛来するミューオンの飛来状況は、貯留領域の全領域に亘ってほぼ同様であると考えられる。このため、複数のミューオン検出器3が分散配置される場合であっても、ミューオン検出器4は、1つ設置されていればよく、ミューオン検出器3の設置数よりも少ない数の設置数でよい。なお、もちろん、複数のミューオン検出器3が配置される場合に、ミューオン検出器3の設置数と同数のミューオン検出器4が設置されてもよい。また、ミューオン検出器4は、ミューオン検出器3と同じ種類のミューオン検出器であることが好ましいが、別の種類のミューオン検出器であってもよい。
【0025】
観測装置6は、コンピュータ装置であり、ミューオン検出器3,4と接続され当該ミューオン検出器3,4から出力された出力データを用いて貯蔵層40に貯留されている観測対象である二酸化炭素に関する観測情報を出力する。
【0026】
図2は、観測装置6の構成を説明するブロック図である。観測装置6は、演算装置10と、記憶装置20とを備えている。記憶装置20は、データや、コンピュータプログラム(以下、プログラムとも記す)21を記憶する記憶媒体を備えている。記憶装置には、磁気ディスク装置や、半導体メモリ素子などの複数の種類があり、さらに、半導体メモリ素子には、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの複数の種類があるというように、多数の種類がある。観測装置6が備える記憶装置20の種類は1つに限定されるものではない。コンピュータ装置には複数種の記憶装置が備えられることが多い。ここでは、観測装置6に備えられる記憶装置20の種類や数は限定されず、その説明は省略される。また、観測装置6に複数種の記憶装置20が備えられる場合には、それらをまとめて記憶装置20と記すこととする。また、観測装置6は、外付けの記憶装置(データベース(図示せず))と接続し、当該外付けの記憶装置ともデータなどの読み書きを行う場合も考えられるが、ここでは、外付けの記憶装置とのデータなどの読み書きが行われる場合があっても当該説明は省略することとする。
【0027】
演算装置10は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)などのプロセッサにより構成される。演算装置10は、記憶装置20に記憶されているプログラム21を読み出して実行することにより、プログラム21に基づいた様々な機能を持つことができる。ここでは、演算装置10は、貯蔵層40における二酸化炭素の観測に関わる機能部として、取得部12と、解析部13と、出力部14とを備えている。
【0028】
取得部12は、ミューオン検出器3から出力される検出結果を表す出力データを観測データとして取得し、ミューオン検出器4から出力される検出結果を表す出力データを比較データとして取得する。また、取得部12は、ミューオン検出器3から取得した観測データ、および、ミューオン検出器4から取得した比較データを記憶装置20に格納する。記憶装置20に格納された観測データおよび比較データには、それぞれ、取得した時間を表す時間情報と、データを出力したミューオン検出器3,4を識別する検出器識別情報とが関連付けられている。
【0029】
解析部13は、観測データを用いて、予め定められた観測期間(例えば月単位)ごとのミューオン検出器3によるミューオンの検出数を観測値として算出する。また、解析部13は、比較データを用いて、観測期間(例えば月単位)ごとのミューオン検出器4によるミューオンの検出数を比較値として算出する。このように算出された観測値および比較値は、例えば図3に表されているような観測期間情報と検出器識別情報とが関連付けられて記憶装置20に格納される。観測期間情報とは、関連付けられている観測値や比較値が検出された観測期間を表す情報である。検出器識別情報とは、関連付けられている観測値や比較値の元になった観測データあるいは比較データを出力したミューオン検出器3,4を識別する情報である。なお、図3では、ミューオン検出器3,4が1つずつである場合における観測値と比較値の例が示されているが、ミューオン検出器3やミューオン検出器4が複数である場合には、複数のミューオン検出器3や複数のミューオン検出器4のそれぞれに対応する観測値や比較値が算出されて記憶装置20に格納される。
【0030】
また、解析部13は、同じ時期における観測値の変化と比較値の変化を比較する比較情報を生成する。比較情報は、同じ時期における観測値の変化と比較値の変化を比較することができれば、その情報の態様は特に限定されないが、その一例としては、次のような情報が考えられる。例えば、観測期間ごとの観測値や比較値について、図4に表されるような変化率が比較情報として解析部13によって生成される。その観測期間ごとの観測値や比較値の変化率は、例えば、1つ前の観測期間の観測値や比較値に対する変化率(倍率)が考えられる。また、その変化率は、予め定められた時間を遡った期間(例えば直近の1年間や3カ月間)における観測値や比較値の平均値に対する変化率であってもよい。このように変化率の算出手法は、同じ時期における観測値の変化と比較値の変化を比較することができる変化率を算出できればよく、予め定めた適宜な算出手法が採用されてよい。解析部13は、生成した比較情報を記憶装置20に格納する。記憶装置20に格納されている比較情報には、対応する観測期間情報および検出器識別情報が関連付けられている。
【0031】
出力部14は、解析部13により生成された比較情報を含む観測情報を生成し、この観測情報を予め定められた出力先に出力する。例えば、観測装置6は、表示装置(ディスプレイ)7と入力装置8に接続されている。表示装置7は情報を文字や画像によって画面に表示する装置である。入力装置8は、情報を観測装置6に入力する装置であり、キーボードやタッチパネルやマウスなどである。ここで、ユーザによる入力装置8の操作によって、観測結果の表示要求が観測装置6に入力されたとする。観測結果の表示要求とは、貯蔵層40の観測領域における二酸化炭素の観測結果を表示装置7に表示することを要求する指示である。この観測結果の表示要求には、例えば、表示対象の観測期間を表す情報が関連付けられている。観測装置6の出力部14は、観測結果の表示要求を受け取ると、その表示要求に関連付けられている表示対象の観測期間に対応するミューオン検出器3,4に関する比較情報(変化率)を記憶装置20から読み出す。そして、出力部14は、読み出した比較情報と、当該比較情報に対応する観測期間識別情報および検出器識別情報とを含む観測情報を生成する。出力部14は、生成した観測情報を、予め定められた出力先である表示装置7に画面表示させる。つまり、この場合には、出力部14は、表示装置7の画面表示を制御する表示制御機能をも備える。観測情報を表示装置7に表示させる表示フォーマットが予め観測装置6に与えられており、出力部14は、観測情報および表示フォーマットを用いて表示装置7の動作を制御することによって、観測情報を表示装置7の画面に表示させる。
【0032】
図5は、出力部14によって表示装置7に画面表示された観測情報の表示態様例を表す図である。図5の例では、観測データに基づく観測値の時間的な変化を表す比較情報(図5における符号Pが付されている変化率)と、比較データに基づく比較値の時間的な変化を表す比較情報(符号Sが付されている変化率)とが同じ画面に、時期の情報の位置を揃えて並べて配置されている。このような表示装置7の表示態様は、同じ時期における観測値の時間的な変化の傾向と、比較値の時間的な変化の傾向との比較を容易にする。同じ時期における観測値の時間的な変化の傾向と、比較値の時間的な変化の傾向とを例えば観測者(以下、ユーザとも称する)が見比べて、観測値の時間的な変化の傾向が、比較値の時間的な変化の傾向と異なると判断した場合には、観測対象に何らかの変化があったと推定される。例えば、比較値の時間的な変化の傾向に比べて、観測値が明らかに低下している傾向があると判断された場合には、貯蔵層40の観測領域の密度が高くなっている、つまり、観測対象である二酸化炭素が貯蔵層40の観測領域に圧入されていることが確認される。また、例えば、比較値の時間的な変化の傾向に比べて、観測値が明らかに増加している傾向があると判断された場合には、貯蔵層40の観測領域の密度が低くなっている、つまり、貯蔵層40の観測領域の二酸化炭素が減少している可能性があると判断される。この場合、貯蔵層40からの二酸化炭素の漏洩が懸念される。
【0033】
このように、同じ時期における観測値の変化と比較値の変化とを同じ画面で比較できることによって、ユーザは、ミューオンの飛来状況の変化に起因した観測値の変化ではなく、観測対象(例えば二酸化炭素)の変化による観測値の変化に気付きやすくなる。
【0034】
さらに、観測装置6は、観測期間ごとの観測値や比較値の表示を要求する指令を受け付ける構成を備えていてもよい。この場合には、そのような指令が観測装置6に入力された場合には、出力部14は、その指令に関連付けられている表示対象の観測期間に対応する観測値や比較値を記憶装置20が読み出す。そして、出力部14は、読み出した観測値や比較値を予め定められた表示フォーマットを利用して、表示装置7の画面に表示させる。観測値や比較値の表示態様としては、観測期間ごとの観測値や比較値を時系列に並べて表示する表の態様であってもよいし、横軸を時間とし縦軸を観測値や比較値とするグラフの態様であってもよい。
【0035】
出力部14が観測情報を出力する出力先は、表示装置7に限定されず、例えば、情報通信網を介して接続されている別のコンピュータ装置や情報通信装置(スマートフォン、タブレット端末など)であってもよい。このような場合には、例えば、別のコンピュータ装置や情報通信装置から情報通信網を介して観測値や比較値の表示要求を観測装置6が受け、これに応じて出力部14が観測情報を、表示要求を発信したコンピュータ装置や情報通信装置に返信する。なお、ミューオン検出器3やミューオン検出器4が複数である場合には、それらミューオン検出器3やミューオン検出器4のそれぞれについての観測情報が生成され、出力部14によって出力される。
【0036】
観測装置6は上述したように構成されている。次に、観測装置6における貯蔵層40の二酸化炭素の観測に係る動作の一例を、図6を用いて説明する。図6は、観測装置6における貯蔵層40の二酸化炭素の観測に係る動作の一例を表すフローチャートである。
【0037】
まず、観測装置6の取得部12が、ミューオン検出器3から出力された観測データと、ミューオン検出器4から出力された比較データとを取得する(ステップ101)。取得部12は、観測データおよび比較データのそれぞれに、取得した時間を表す時間情報と、データを出力したミューオン検出器3,4を識別する検出器識別情報とを関連付け、これら観測データと比較データを記憶装置20に格納する。
【0038】
然る後に、解析部13は、今回の観測期間(例えば月単位)におけるデータを取得できたか否かを判断する(ステップ102)。これにより、解析部13が、観測期間におけるデータを取得できていない、つまり、観測期間の途中であると判断した場合には、取得部12が観測データと比較データの取得を引き続き行う。一方、解析部13は、観測期間におけるデータを取得できた、つまり、次の観測期間になったと判断した場合には、直近の観測期間に取得された観測データに基づいた観測値および比較データに基づいた比較値を算出する(ステップ103)。つまり、解析部13は、直近の観測期間においてミューオン検出器3によって検出された観測対象を透過したミューオンの検出数を観測値して算出する。また、解析部13は、直近の観測期間においてミューオン検出器4によって検出されたミューオンの検出数を比較値して算出する。解析部13は、算出した観測値と比較値に、観測期間情報と検出器識別情報を関連付け、これら観測値と比較値を記憶装置20に格納する。
【0039】
さらに、解析部13は、同じ時期における観測値の変化と比較値の変化を比較する比較情報(例えば変化率)を生成する(ステップ104)。そして、解析部13は、観測期間情報と検出器識別情報を関連付けて比較情報を記憶装置20に格納する。
【0040】
その後、演算装置10は観測対象の観測を終了するか否かを判断する(ステップ105)。例えば、ユーザが入力装置8を操作して観測を終了させる指示を観測装置6に入力したことを検知した場合には、演算装置10は観測対象の観測を終了する。そのような指示を受けていない場合には、演算装置10は、観測対象の観測を終了しない、つまり、観測を継続すると判断し、ステップ101以降の動作を繰り返す。このような観測装置6の演算装置10の動作によって、観測対象を観測した結果に関わる情報が記憶装置20に蓄積されていく。
【0041】
一方では、観測装置6は、例えば、入力装置8の操作による観測結果の表示要求を受信した場合には、表示要求に関連付けられている表示対象の観測期間に対応する観測情報を出力部14によって生成し、表示装置7に表示させる。
【0042】
第1実施形態の観測システム1は、上述したように、貯蔵層40に貯留されている観測対象である二酸化炭素を観測する観測用のミューオン検出器3を設けるだけでなく、ミューオンの飛来状況を検出する比較用のミューオン検出器4をも設けている。そして、観測装置6は、ミューオン検出器3の観測データに基づく観測値の変化と、ミューオン検出器4の比較データに基づく比較値の変化とを比較する比較情報を含む観測情報を出力する構成を備えている。このため、ユーザは、その観測情報を用いて、観測値の変化と比較値の変化とを比較できるから、ミューオンの飛来状況の変化に起因した観測値の変化ではなく、観測対象(例えば二酸化炭素)の変化による観測値の変化に気付きやすくなる。つまり、観測システム1は、ミューオンを用いた観測において、ミューオンの飛来状況の変化に起因した観測分析への悪影響が軽減され、観測対象(貯蔵層40の二酸化炭素)の変化を見つけやすくなるため、観測の成果が得られやすくなるという効果を奏することができる。すなわち、観測システム1は、観測対象の変化に気付きやすいという効果を奏することができる。
【0043】
なお、第1実施形態では、比較情報として、観測値や比較値の変化率を例に挙げたが、例えば、比較情報は、観測値や比較値そのものであってもよい。つまり、一つ前の観測期間の観測値や比較値に比べて観測値や比較値が増加しているか減少しているかというような値の増減傾向だけを比較する場合には、比較情報として観測値や比較値そのものが用いられてもよい。
【0044】
<第2実施形態>
以下に、本発明に係る第2実施形態を説明する。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態の説明で用いた名称と同じ名称部分には同一符号を付し、その共通部分の重複説明は省略する。
【0045】
図7は、第2実施形態の観測システム1における観測装置6の構成を説明するブロック図である。第2実施形態では、観測装置6の演算装置10は、第1実施形態の構成に加えて、図7に表される比較部15をさらに備えている。
【0046】
比較部15は、観測値の変化と、比較値の変化とを比較することによって、ユーザに注目してもらいたい現象を検知する機能を備えている。すなわち、比較値の変化に比べて観測値が予め定められた誤差範囲を超えて大きく変化している場合には、観測値の変化には、ミューオンの飛来状況の変動以外の要因の変化が含まれていると考えられる。そのミューオンの飛来状況の変動以外の要因による観測値の変化とは、観測対象の変化によるものであると考えられる。これにより、そのような比較値の変化と異なる観測値の大きな変化が見られる現象は、ユーザに注目してもらいたい現象である。このようなことを考慮し、比較部15は、次のような機能を備えている。
【0047】
すなわち、比較部15は、同じ観測期間における観測値の変化と比較値の変化を比較する。例えば、観測値の変化や比較値の変化として、第1実施形態の説明で述べた観測値の比較情報(変化率)と、比較値の比較情報(変化率)とが比較される。比較部15がそのような比較を行うタイミングの一例としては、比較値や観測値の比較情報が生成されたタイミングが挙げられる。なお、複数のミューオン検出器3が備えられている場合には、それぞれのミューオン検出器3における観測値の変化がそれぞれ比較値の変化と比較される。また、複数のミューオン検出器4が備えられている場合には、例えば、それらミューオン検出器4の比較値の変化(比較情報(変化率))の平均値が比較値の変化として用いられる。
【0048】
比較部15は、比較値の変化と観測値の変化との比較により、比較値の変化に対する観測値の変化が予め定められた注目条件を満たすか否かを判断する。注目条件としては、例えば、前述したような、比較値の変化に比べて観測値が予め定められた誤差範囲よりも大きく変化しているという条件である。
【0049】
さらに、比較部15は、比較結果の情報、つまり、比較値の変化と比較した観測値の変化が注目条件を満たしているか否かを表す情報を記憶装置20に格納する。記憶装置20に格納されている比較結果の情報には、比較した観測値の変化の情報(つまり、比較情報(変化率))と、観測期間情報とが関連付けられている。
【0050】
第2実施形態では、出力部14は、第1実施形態で説明した機能に加えて、さらに、比較部15によって観測値の変化が注目条件を満たしていると判断された場合に、注目情報を出力する機能を備えている。注目情報は、ユーザ(観測者)に、観測値の変化に注目することを促す情報であり、例えば、注目して欲しい観測期間を表す情報を含む。注目情報の出力先としては、例えば、表示装置7や、観測装置6と情報通信網を介して接続されているコンピュータ装置や情報通信装置が挙げられる。注目情報が表示装置7に出力される場合には、出力部14による表示装置7の表示制御動作によって、予め定められた表示形態でもって注目情報が表示装置7に表示される。例えば、図5に表されるような観測情報が表示されている画面において、注目して欲しい観測期間のグラフ部分の色が目立つ色に変更されると共に、注目して欲しい旨のメッセージが表示される。また、出力部14がコンピュータ装置や情報通信装置に注目情報を出力する手法には複数の手法があり、ここでは、特に限定されないが、例えば、電子メールを利用して注目情報が出力(送信)される。この場合における注目情報は、例えば、注目して欲しい旨のメッセージ、および、注目して欲しい観測期間を表す文字情報を含む。
【0051】
第2実施形態の観測システム1の構成は、上述した観測装置6の構成以外は第1実施形態の観測システム1と同様である。
【0052】
第2実施形態の観測システム1においては、第1実施形態の観測システム1と同様の構成を備えていることから、第1実施形態の観測システム1と同様の効果を奏することができる。さらに、第2実施形態の観測システム1の観測装置6は、比較部15を備え、比較部15によって、注目して欲しい観測値の変化を検知でき、さらに、その観測値の変化に注目することをユーザに促すことができる構成を備えている。このため、第2実施形態における観測システム1は、ユーザが観測対象の変化に、より気付きやすくなるという効果を奏することができる。
【0053】
<第3実施形態>
以下に、本発明に係る第3実施形態を説明する。なお、第3実施形態の説明において、第1や第2の実施形態の説明で使用した名称と同一名称部分には同一符号を付し、その共通部分の重複説明は省略する。
【0054】
図8は、第3実施形態の観測システム1における観測装置6の構成を説明するブロック図である。第3実施形態では、観測装置6の演算装置10は、第1又は第2の実施形態の構成に加えて、図8に表される補正部16をさらに備えている。補正部16は、比較値を用いたミューオンの飛来状況の変動を表す情報を用いて、観測値を補正する機能を持つ。
【0055】
すなわち、観測値は、観測対象の変化に応じて変化するだけでなく、ミューオンの飛来状況の変動によっても変化する。このため、観測値は、そのままでは、観測対象の時間的な変化を観測するモニタリングには活用しづらい。そこで、第3実施形態では、補正部16が、比較値を利用して、ミューオンの飛来状況の変動を抑制する方向に観測値を補正する。これにより、観測値は、補正前に比べて、観測対象の観測に活用しやすいものになる。
【0056】
ここで、補正部16による観測値の補正手法の一具体例を述べる。観測値の補正に用いる補正用参考情報、つまり、比較値を用いたミューオンの飛来状況の変動を表す情報としては、例えば、基準値に対する比較値(ミューオン検出器4により検出される観測期間ごとのミューオンの検出数)のずれ量を表す情報が挙げられる。ここでの基準値は、ユーザ(観測者)が知見に基づき設定した値であってもよいし、予め定められた期間(例えば1年間)における比較値を用いた統計処理により算出された値(例えば平均値)であってもよいというように、基準値の設定方法は限定されない。
【0057】
補正部16は、観測期間ごとに、基準値に対する比較値のずれ量を算出し、当該ずれ量を表す情報である補正用参考情報を生成する。補正用参考情報の一例としては、観測期間ごとに、比較値は基準値に比べて○○%高い数値、あるいは、△△%低い数値であるというような情報が挙げられる。
【0058】
そして、補正部16は、そのような補正用参考情報を用いて、例えば補正対象の観測値を○○%下げるというような補正、つまり、ミューオンの飛来状況の変動を抑制する方向の補正を観測値に行う。補正部16は、補正後の観測値を、例えば、補正前の観測値に関連付けた状態で記憶装置20に格納する。
【0059】
出力部14は、入力装置8の操作によって補正後の観測値を表示する要求が入力されたことを検知した場合には、その要求に応じて、例えば、観測期間と補正後の観測値との関係を表すグラフや表の態様でもって、表示装置7に補正後の観測値を表示させる。また、出力部14は、情報通信網を介して接続されているコンピュータ装置や情報通信装置から、補正後の観測値を要求する指令を受けた場合には、その要求に応じた補正後の観測値を返信(出力)してもよい。
【0060】
第3実施形態の観測システム1は、第1又は第2の実施形態と同様の構成を備えていることから、第1又は第2の実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、第3実施形態では、観測装置6は補正部16を備え、補正部16によって、ミューオンの飛来状況の変動を抑制する方向に観測値を補正できる。この補正は、観測値に含まれる、ミューオンの飛来状況の変動に起因したノイズ成分を低減する補正であると言い換えることができる。このため、補正後の観測値を利用することによって、ミューオンの飛来状況の変動の影響が軽減できた状態で、観測対象の観測・分析への観測値の活用が可能となる。例えば、観測期間が異なる補正後の観測値を比較することによって、例えば、観測期間Aでの観測対象の状態と、観測期間Bでの観測対象の状態とに差異が見られるか否かというような分析を行うことが可能となる。すなわち、観測装置6は、観測対象の分析に活用しやすい観測値を提供できる。
【0061】
<その他の実施形態>
本発明は第1~第3の実施形態に限定されるものではなく、様々な実施の態様を採り得る。例えば、観測システム1は、第1~第3の実施形態で説明した構成に加えて、貯蔵層40に貯留されている二酸化炭素の漏洩箇所を推定する機能を備えていてもよい。すなわち、この場合には、複数の観測用のミューオン検出器3が、それぞれ、貯蔵層40における互いに異なる観測領域を透過したミューオンを検出するように、互いに間隔を介して設置される。また、観測装置6は、機能部として、図9に表されるような漏洩検知部17を備える。なお、図9では、記憶装置20や、観測装置6における取得部12と解析部13と出力部14などの機能部の図示が省略されている。
【0062】
ここでは、複数のミューオン検出器3が設置されていることから、観測装置6における解析部13は、前述したように、複数のミューオン検出器3のそれぞれに関連する観測値を算出する。さらに、解析部13は、観測値を用いて、複数のミューオン検出器3のそれぞれに関連する観測値の比較情報を生成する。なお、解析部13は、この場合においても、前述したようにミューオン検出器4に関連する比較値を算出し、比較値の比較情報を生成する。
【0063】
漏洩検知部17は、観測値の比較情報と比較値の比較情報を用いて、貯蔵層40における複数の観測領域のそれぞれについて、貯留している二酸化炭素が漏洩しているか虞があるか否かを判断する。すなわち、本来ならば貯蔵層40における二酸化炭素の貯留状態は安定しているべきところ、二酸化炭素の漏洩が生じている観測領域にあっては、観測値が連続的に上昇し、かつ、比較値の変化よりも観測値の上昇傾向が予め定められた許容範囲よりも大きくなると想定される。このことから、漏洩検知部17は、そのような観測値の変化を検知した場合には、その観測値に関連する観測領域において二酸化炭素の漏洩が疑われると判断する。つまり、漏洩検知部17は、観測領域ごとに、関連する観測値の比較情報と比較値の比較情報を用いて、観測値が予め定められた期間(例えば半年間)に亘り連続的に上昇し、かつ、比較値の変化よりも観測値の上昇変化が予め定められた許容範囲よりも大きいか否かを判断する。そして、漏洩検知部17は、そのような観測値があると判断した場合には、当該観測値に関連する貯蔵層40における観測領域に、二酸化炭素の漏洩の疑いがある領域であると判断する。さらに、漏洩検知部17は、漏洩の疑いがあることを報知する漏洩報知情報を生成する。漏洩報知情報は、二酸化炭素の漏洩の疑いのある観測領域を表す情報(関連するミューオン検出器3の検出器識別情報など)を含む。さらに、漏洩報知情報は、その判断の根拠となった観測値の情報をも含んでいてもよい。
【0064】
出力部14は、漏洩報知情報を予め定められた出力先に出力する。例えば、出力部14は、漏洩報知情報を、予め定められた表示態様でもって表示装置7に表示させる。また、出力部14は、予め定められた出力先であるコンピュータ装置や情報通信装置に、漏洩報知情報を送信してもよい。
【0065】
第1~第3の実施形態では、貯蔵層40に貯留されている二酸化炭素を観測対象とした観測システムを例にして説明しているが、本発明に係る観測システムは、ミューオンを利用して観測可能である他の観測対象の観測にも適用可能である。例えば、本発明に係る観測システムは、地中の原油や天然ガスの観測や、山腹の地中における雨水の浸透具合の観測や、風力発電などの大型の設備や、橋やダムや堤防などの構造物の劣化診断に係る観測などに適用可能である。
【0066】
図10は、本発明に係る観測システムのその他の実施形態を説明する図である。この観測システム50は、ミューオンを利用して観測対象を観測するシステムであり、観測用のミューオン検出器52と、比較用のミューオン検出器53と、観測装置54とを備えている。観測用のミューオン検出器52は、観測対象を透過したミューオンを検出する。比較用のミューオン検出器53は、ミューオンの飛来状況を検出する。
【0067】
観測装置54は、観測用のミューオン検出器52と比較用のミューオン検出器53とのそれぞれから出力された検出結果を表す出力データを用いて、観測対象に関する観測情報を出力する装置である。観測装置54は、例えばコンピュータ装置であり、機能部として、取得部56と、解析部57と、出力部58とを備えている。
【0068】
取得部56は、観測用のミューオン検出器52の出力データを観測データとして取得し、比較用のミューオン検出器53の出力データを比較データとして取得する。解析部57は、観測データを用いて、観測用のミューオン検出器52により検出された予め定められた観測期間ごとのミューオンの検出数を観測値として算出する。また、解析部57は、比較データを用いて、比較用のミューオン検出器53により検出された観測期間ごとのミューオンの検出数を比較値として算出する。出力部58は、同じ時期における観測値の変化と比較値の変化を比較する比較情報を含む観測情報を出力する。
【0069】
次に、観測装置54を構成するコンピュータ装置における観測対象の観測に係る動作の一例を説明する。図11は、観測装置54における観測対象の観測に係る動作の一例を説明するフローチャートである。
【0070】
例えば、観測装置54の取得部56は、観測用のミューオン検出器52の出力データを観測データとして取得し、比較用のミューオン検出器53の出力データを比較データとして取得する(ステップ201)。然る後に、解析部57は、観測データを用いて、観測用のミューオン検出器52により検出された観測期間ごとのミューオンの検出数を観測値として算出する。また、解析部57は、比較データを用いて、比較用のミューオン検出器53により検出された観測期間ごとのミューオンの検出数を比較値として算出する(ステップ202)。そして、出力部58は、同じ時期における観測値の変化と比較値の変化を比較する比較情報を含む観測情報を出力する(ステップ203)。
【0071】
上述したような観測システム50は、観測用のミューオン検出器52だけでなく、比較用のミューオン検出器53を備え、同じ時期における観測値の変化と比較値の変化を比較できる観測情報を出力する機能を備えている。比較値の変化によってミューオンの飛来状況の変動が分かることから、観測値の変化と比較値の変化を比較することによって、観測値の変化が、ミューオンの飛来状況の変動に因るものであるのか否かの判断が容易となる。このため、観測システム50は、観測値の変化によって観測対象の変化に気付きやすいミューオンを用いた観測技術を提供できるという効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0072】
1,50 観測システム
3,52 観測用のミューオン検出器
4,53 比較用のミューオン検出器
6,54 観測装置
12,56 取得部
13,57 解析部
14,58 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11