(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038512
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】がんを治療するための医薬、組み合わせ医薬、医薬組成物、免疫応答性細胞、核酸送達媒体、及び製品
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240312BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240312BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20240312BHJP
C12N 15/24 20060101ALI20240312BHJP
C12N 15/19 20060101ALI20240312BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240312BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240312BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240312BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240312BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20240312BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240312BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20240312BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240312BHJP
C07K 14/52 20060101ALN20240312BHJP
C07K 14/54 20060101ALN20240312BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20240312BHJP
C07K 14/725 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
A61K39/395 E
C12N5/10 ZNA
C12N5/078
C12N15/24
C12N15/19
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
C07K16/28
C12N15/85 Z
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K35/15
A61K35/17
A61K39/395 L
A61K39/395 U
A61K39/395 T
C07K14/52
C07K14/54
C07K19/00
C07K14/725
【審査請求】有
【請求項の数】27
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024014353
(22)【出願日】2024-02-01
(62)【分割の表示】P 2021553665の分割
【原出願日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2019195407
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん医療創生研究事業、「免疫抑制に対する制御機能を有するCAR-T細胞を利用したがん治療法の研究」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】517107531
【氏名又は名称】ノイルイミューン・バイオテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】佐古田 幸美
(72)【発明者】
【氏名】安達 圭志
(57)【要約】
【課題】高い抗がん効果が得られる、がんを治療するための医薬、組み合わせ医薬、医薬組成物、免疫応答性細胞、核酸送達媒体、及び製品を提供する。
【解決手段】例示的な組み合わせ医薬は、(a1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、及びCCL19を発現する免疫応答性細胞又は(a2)インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせ、並びに(b)免疫抑制阻害剤を含み、対象におけるがんを治療するために用いられる。例示的な免疫応答性細胞は、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、並びに
(b)PD-1に対する抗体及びPD-L1に対する抗体の少なくとも一方である免疫抑制阻害剤
を含む、対象におけるがんを治療するための組み合わせ医薬。
【請求項2】
前記免疫応答性細胞と、前記免疫抑制阻害剤とが、異なる時点で別々に投与される、請求項1に記載の組み合わせ医薬。
【請求項3】
インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸が、前記免疫応答性細胞のゲノムに組み込まれているか、又は前記免疫応答性細胞中に存在する1個又は複数個のベクターに一緒に若しくは別個に組み込まれている、請求項1又は請求項2に記載の組み合わせ医薬。
【請求項4】
前記免疫応答性細胞が、前記対象自身に由来する免疫応答性細胞である、請求項1~3のうちいずれか一項に記載の組み合わせ医薬。
【請求項5】
前記免疫応答性細胞が、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、B細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、好中球、好酸球、好塩基球、及び肥満細胞からなる群から選択される、請求項1~4のうちいずれか一項に記載の組み合わせ医薬。
【請求項6】
前記がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子が、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)である、請求項1~5のうちいずれか一項に記載の組み合わせ医薬。
【請求項7】
前記PD-1に対する抗体及び前記PD-L1に対する抗体が、IgGモノクローナル抗体又は抗体断片である、請求項1~6のうちいずれか一項に記載の組み合わせ医薬。
【請求項8】
前記がんが固形がんである、請求項1~7のうちいずれか一項に記載の組み合わせ医薬。
【請求項9】
PD-1に対する抗体及びPD-L1に対する抗体の少なくとも一方である免疫抑制阻害剤と併用されて対象におけるがんを治療するために用いられる医薬であって、
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞を含む、医薬。
【請求項10】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞と併用されて対象におけるがんを治療するために用いられる医薬であって、
PD-1に対する抗体及びPD-L1に対する抗体の少なくとも一方である免疫抑制阻害剤を含む、医薬。
【請求項11】
前記免疫抑制阻害剤と前記免疫応答性細胞とが異なる時点で別々に投与される形態にて用いるための、請求項9又は請求項10に記載の医薬。
【請求項12】
PD-1に対する抗体及びPD-L1に対する抗体の少なくとも一方である免疫抑制阻害剤と併用されることが表示された容器に収容される
請求項9に記載の医薬。
【請求項13】
請求項9に記載の医薬を収容した容器を含む、PD-1に対する抗体及びPD-L1に対する抗体の少なくとも一方である免疫抑制阻害剤と併用されて対象におけるがんを治療するために用いられる、製品。
【請求項14】
(a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、並びに
(b)PD-1に対する抗体及びPD-L1に対する抗体の少なくとも一方である免疫抑制阻害剤
を含む、対象におけるがんを治療するための医薬組成物。
【請求項15】
前記がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子が、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、CCL19、並びにPD-1阻害性ポリペプチド及びPD-L1阻害性ポリペプチドの少なくとも一方の免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現し、
前記免疫抑制阻害性ポリペプチドが、PD-1に対する抗体及びPD-L1に対する抗体の少なくとも一方である、免疫応答性細胞。
【請求項17】
インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸が、前記免疫応答性細胞のゲノムに組み込まれているか、又は前記免疫応答性細胞中に存在する1個又は複数個のベクターに一緒に若しくは別個に組み込まれている、請求項16に記載の免疫応答性細胞。
【請求項18】
免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸が、前記免疫応答性細胞のゲノムに組み込まれているか、又は前記免疫応答性細胞中に存在する、前記1個又は複数個のベクターのうちいずれかと同じであっても異なっていてもよいベクターに組み込まれている、請求項17に記載の免疫応答性細胞。
【請求項19】
前記がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子が、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)である、請求項16~18のうちいずれか一項に記載の免疫応答性細胞。
【請求項20】
前記PD-1に対する抗体及び前記PD-L1に対する抗体が、IgGモノクローナル抗体又は抗体断片である、請求項16~19のうちいずれか一項に記載の免疫応答性細胞。
【請求項21】
ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、B細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、好中球、好酸球、好塩基球、及び肥満細胞からなる群から選択される、請求項16~20のうちいずれか一項に記載の免疫応答性細胞。
【請求項22】
請求項16~21のうちいずれか一項に記載の免疫応答性細胞を含む医薬。
【請求項23】
対象におけるがんを治療するために用いられる、請求項22に記載の医薬。
【請求項24】
前記がんが固形がんである、請求項23に記載の医薬。
【請求項25】
前記免疫応答性細胞が前記対象自身に由来する免疫応答性細胞である、請求項23又は請求項24に記載の医薬。
【請求項26】
免疫応答性細胞へ導入するための、1種又は複数種類の核酸送達組成物であって、
インターロイキン7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、PD-1に対する抗体及びPD-L1に対する抗体の少なくとも一方をコードする核酸、並びにがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を協同して含む、
1種類又は複数種類の核酸送達組成物。
【請求項27】
免疫応答性細胞へ導入するための、1種又は複数種類の核酸送達組成物であって、
インターロイキン7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、並びにPD-1に対する抗体及びPD-L1に対する抗体の少なくとも一方をコードする核酸を協同して含み、
前記免疫応答性細胞はがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子を発現する細胞である、
1種類又は複数種類の核酸送達組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、がんを治療するための医薬、組み合わせ医薬、医薬組成物、免疫応答性細胞、核酸送達媒体、及び製品に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは悪性新生物とも呼ばれ、その治療は医学における大きな目標の1つとなっている。従来、放射線、化学的抗がん剤を用いた治療などが行われてきたが、その効果はがんの種類によっても大きく異なり、全てのがんに対して高い効果が得られるわけではない。
【0003】
遺伝子医療の技術を用いてCAR(キメラ抗原受容体)と呼ばれる特殊なタンパク質を作り出すことができるようT細胞を改変して得られたCAR-T細胞を用いたCAR-T細胞療法が近年開発されている。例えば、再発又は難治性のCD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)、及び再発又は難治性のCD19陽性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対してCAR-T細胞療法が有効であることが示されてきた。国際公開第2017/159736号は、CAR-T細胞などのがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子を発現する免疫担当細胞において、インターロイキン7(IL-7)及びケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド19(CCL19)を発現させて抗腫瘍活性を向上させることを記載している。国際公開第2019/073973号は、核酸送達媒体、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含む、投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強体や投与対象におけるT細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導する誘導剤を記載している。
【0004】
がんの治療においては、抗がん効果の増強や、投与量を減少させることによる副作用の軽減などを目的として、複数の抗がん剤が併用されることが多い。
例えば、特表2018-538339号公報は、CAR-T細胞を用いた治療の有効性を高める観点から、PD-L1に対する抗体と組み合わせてメソテリンに特異的なCARを発現する細胞を投与することを含む、メソテリンの発現と関連する疾患の処置のための組成物及び方法を提供することを記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
抗がん剤の併用は、相乗的な効果をもたらすことがある一方、組み合わせによっては相互に効果を阻害することもあり、有用な併用の組み合わせが探索されている。
以上の状況に鑑みて、本開示は、高い抗がん効果が得られる、がんを治療するための医薬、組み合わせ医薬、医薬組成物、免疫応答性細胞、核酸送達媒体、及び製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の態様を含む。
(a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7(IL-7)及びケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド19(CCL19)を発現する免疫応答性細胞、並びに
(b)免疫抑制阻害剤
を含む、対象におけるがんを治療するための組み合わせ医薬。
【0007】
本開示は以下の態様も含む。
(a)インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせ、並びに
(b)免疫抑制阻害剤
を含む、対象におけるがんを治療するための組み合わせ医薬。
本開示は、さらに以下の態様も含む。
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現する免疫応答性細胞。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、高い抗がん効果が得られる、がんを治療するための医薬、組み合わせ医薬、医薬組成物、免疫応答性細胞、核酸送達媒体、及び製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】実施例に記載の、eGFPを含みIL-7及びCCL19を含まないpMSGVベクター(以下、eGFP-Conv.ベクターとも称する。IL-7-F2A-CCL19-F2A-eGFP DNA断片(配列番号10)を含むpMSGVベクターからIL-7及びCCL19をコードする領域を抜いたベクター)のマップを示す図である。
【
図1B】実施例に記載の、IL-7-F2A-CCL19-F2A-eGFP DNA断片(配列番号10)を含むpMSGVベクター(以下、7×19発現ベクターとも称する)のマップを示す図である。
【
図2】ベクターを導入していないTCR-T細胞(具体的には、ベクターを導入していない、脾臓細胞由来のP815腫瘍抗原P1A特異的なTCRを発現するマウスT細胞。以下、ベクター未導入P1A-TCRT細胞とも称する。また、ベクターの導入の有無に関わらず、P1A特異的なTCRを発現するマウスT細胞をP1A-TCRT細胞と総称する)、eGFP-Conv.ベクターを導入したP1A-TCRT細胞(以下、eGFP発現P1A-TCRT細胞とも称する)、及び7×19発現ベクターを導入したP1A-TCRT細胞(以下、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞とも称する)それぞれにおけるeGFPとCD8の発現量をフローサイトメトリーで計測した結果を示す散布図である。
【
図3A】ベクター未導入P1A-TCRT細胞、eGFP発現P1A-TCRT細胞、及びeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞それぞれにおけるIL-7の発現量をELISAにより測定した結果を示すグラフである。
【
図3B】ベクター未導入P1A-TCRT細胞、eGFP発現P1A-TCRT細胞、及びeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞それぞれにおけるCCL19の発現量をELISAにより測定した結果を示すグラフである。
【
図4】実施例において、DBA/2マウスに肥満細胞腫の細胞(P815)を皮下注入し、該DBA/2マウスを放射線照射した後に、ベクター未導入P1A-TCRT細胞若しくはeGFP発現P1A-TCRT細胞及び/又は抗PD-1モノクローナル抗体を前記DBA/2マウスに投与したときの経過日数と生存率との関係を示すグラフである。
【
図5A】実施例において、DBA/2マウスに肥満細胞腫の細胞(P815)を皮下注入し、該DBA/2マウスを放射線照射した後に、処置を行わなかったときの経過日数と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図5B】実施例において、DBA/2マウスに肥満細胞腫の細胞(P815)を皮下注入し、該DBA/2マウスを放射線照射した後に、抗PD-1モノクローナル抗体を前記DBA/2マウスに投与したときの経過日数と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図5C】実施例において、DBA/2マウスに肥満細胞腫の細胞(P815)を皮下注入し、該DBA/2マウスを放射線照射した後に、eGFP発現P1A-TCRT細胞を前記DBA/2マウスに投与したときの経過日数と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図5D】実施例において、DBA/2マウスに肥満細胞腫の細胞(P815)を皮下注入し、該DBA/2マウスを放射線照射した後に、eGFP発現P1A-TCRT細胞及び抗PD-1モノクローナル抗体を前記DBA/2マウスに投与したときの経過日数と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図5E】実施例において、DBA/2マウスに肥満細胞腫の細胞(P815)を皮下注入し、該DBA/2マウスを放射線照射した後に、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を前記DBA/2マウスに投与したときの経過日数と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図5F】実施例において、DBA/2マウスに肥満細胞腫の細胞(P815)を皮下注入し、該DBA/2マウスを放射線照射した後に、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞及び抗PD-1モノクローナル抗体を前記DBA/2マウスに投与したときの経過日数と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図6A】実施例において、DBA/2マウスに肥満細胞腫の細胞(P815)を皮下注入し、該DBA/2マウスを放射線照射した後に、PD-1遺伝子又はROSA26遺伝子がノックダウン(破壊)されたeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を前記DBA/2マウスに投与し又は投与せず、抗PD-1モノクローナル抗体を前記DBA/2マウスに投与した又はしないときの経過日数と生存率との関係を示すグラフである。
【
図6B】
図6Aの実験において、P1A-TCRT細胞も抗PD-1モノクローナル抗体も投与しなかったときの、経過日数と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図6C】
図6Aの実験において、ROSA26遺伝子がノックダウンされたeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を投与したときの、経過日数と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図6D】
図6Aの実験において、PD-1遺伝子がノックダウンされたeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を投与したときの、経過日数と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図6E】
図6Aの実験において、PD-1遺伝子がノックダウンされたeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞、及び抗PD-1モノクローナル抗体を投与したときの、経過日数と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例において、がん細胞を接種されたDBA/2マウスに、eGFP発現P1A-TCRT細胞又はeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を投与し、完全な腫瘍退縮後にeGFPとCD8の両方を発現しているeGFP発現P1A-TCRT細胞又はeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞が脾臓細胞中に存在するかどうかをCD8及びeGFP発現量をフローサイトメトリーで測定することにより評価したグラフである。
【
図8A】
図7の実験で得られた脾臓細胞中におけるCD8を発現せずeGFPを発現しているT細胞の割合並びにCD8及びeGFPの両方を発現しているT細胞の割合を示すグラフである。
【
図8B】
図7の実験で得られた脾臓細胞中におけるCD8を発現せずeGFPを発現しているT細胞の数並びにCD8及びeGFPの両方を発現しているT細胞の数を示すグラフである。
【
図8C】
図7の実験で得られた脾臓細胞をさらにP815腫瘍細胞と共培養したときの、経過日数とCD8及びeGFPの両方を発現しているT細胞の数との関係を示すグラフである。
【
図8D】
図7の実験で得られた脾臓細胞をさらにP815腫瘍細胞と共培養したときの、経過日数と培養上清中におけるIFN-γ濃度との関係を示すグラフである。
【
図9】
図5Fの実験で完全な腫瘍退縮後にP815腫瘍細胞を再度接種したとき、及びナイーブDBA/2マウスにP815腫瘍細胞を接種したときそれぞれの、経過日数と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図10A】DBA/2マウスにヒトCD20(hCD20)を発現するP815腫瘍細胞(P815-hCD20腫瘍細胞)を接種し、その後にシクロホスファミドを腹腔内投与し、さらにその後に抗hCD20 CAR発現T細胞又は抗hCD20 CAR-IL7/CCL19発現T細胞を静注し又はせず、さらにその後にコントロールIgG又は抗PD-1モノクローナル抗体を投与し又はしなかったときの、時間経過と生存率との関係を示すグラフである。
【
図10B】
図10Aの実験において、CAR-Tの投与も抗体の投与も行わなかったときの時間経過と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図10C】
図10Aの実験において、CAR-Tの投与は行わず、抗PD-1モノクローナル抗体を投与したときの時間経過と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図10D】
図10Aの実験において、抗hCD20 CAR発現T細胞を投与し、抗PD-1抗体を投与したときの時間経過と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図10E】
図10Aの実験において、抗hCD20 CAR-IL7/CCL19発現T細胞を投与し、コントロールIgGを投与したときの時間経過と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図10F】
図10Aの実験において、抗hCD20 CAR-IL7/CCL19発現T細胞を投与し、抗PD-1モノクローナル抗体を投与したときの時間経過と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【
図11A】DBA/2マウスにP815腫瘍細胞を接種し、eGFP発現P1A-TCRT細胞又はeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を7日目に静脈注射した場合における、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の内訳について、c-kit、CD11c、CD3、eGFP、CD4、及びCD8の発現を基に調べた結果を示す散布図である。
【
図11B】
図11Aの実験で得られた免疫細胞の種類毎の細胞数を示すグラフである。
【
図12】実施例で用いた、CAR及び抗マウスPD-1scFvをコードするベクター、並びにCAR、IL-7、CCL19、及び抗マウスPD-1scFvをコードするベクターを表した概念図である。
【
図13】実施例で用いた形質導入していないT細胞及び種々のCAR含有構築物を形質導入したT細胞のフローサイトメトリーで得られた前方散乱-側方散乱を表すグラフ、並びにproteinL-bio及びsav-apcを用いて測定されたCAR発現細胞の割合を示すグラフである。
【
図14】実施例で用いた形質導入していないT細胞及び種々のCAR含有構築物を形質導入したT細胞の培養上清中におけるIL-7及びCCL19の濃度をELISAで測定した結果を示すグラフである。
【
図15】実施例で用いた形質導入していないT細胞及び種々のCAR含有構築物を形質導入したT細胞の培養上清中における抗PD-1抗体の濃度をELISAで測定した結果を示すグラフである。
【
図16】実施例において、DBA/2マウスにヒトCD20を発現するP815細胞を皮下注入し、シクロホスファミドを腹腔内投与した後に、形質導入していないT細胞又は種々のCAR含有構築物を形質導入したT細胞を投与したときの経過日数と生存率との関係を示すグラフ、並びに実験群間のログランク検定によるP値を示す表である。
【
図17】
図16の実験において、各実験群における経過日数と腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、1つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
更に、本開示に記載されている組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する該当する複数の物質の合計量を意味する。
【0012】
また、本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
更に、本開示において、2以上の態様は、矛盾が生じない限り互いに組み合わせてもよい。
【0013】
本開示に係る一態様によれば、(a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7(IL-7)、及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、並びに(b)免疫抑制阻害剤を含む、対象におけるがんを治療するための組み合わせ医薬(以下、「本開示に係る組み合わせ医薬A」とも称する)が提供される。
【0014】
本発明者らは、がん治療方法における有用な抗がん剤の組み合わせを探求した結果、本開示に係る組み合わせ医薬Aによって、極めて高いがん治療効果を得られることを見出した。具体的には、本開示に係る組み合わせ医薬Aにおいては、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞(以下、「本開示に係る免疫応答性細胞A」とも称する)が用いられる。本開示に係る免疫応答性細胞Aと、免疫抑制阻害剤との共投与によって著しく高い相乗効果が得られることは、本発明者らにより初めて見出された事項である。
【0015】
本開示に係る免疫応答性細胞Aの細胞表面上に存在する、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子は、がん細胞に発現しているがん抗原に特異的に結合する。この結合により、前記免疫応答性細胞ががん細胞につなぎとめられる。細胞内シグナル伝達が引き起こされる等の事象のうち1つ以上が生じ、がんに罹患している者(以下、「がん罹患者」とも称する)のがん細胞への攻撃が開始される。なお、本開示において「認識」と「結合」とは互換的に用いられる。
また、がん細胞は免疫応答性細胞ががん細胞を攻撃したり、がん細胞を攻撃する指示を発したりすることを抑制する免疫抑制機構を有しているため、がん罹患者自身の免疫によるがん細胞への攻撃が抑制されている。本開示に係る組み合わせ医薬Aの構成要素の1つである免疫抑制阻害剤は、がん細胞による免疫抑制機構を阻害することで、がん罹患者の免疫系ががん細胞を攻撃することをより容易にすると考えられる。
これらに加えて、本開示に係る免疫応答性細胞AがIL-7及びCCL19も発現していることにより、本開示に係る免疫応答性細胞Aだけではなく、がん罹患者の内因性の免疫応答性細胞もがん細胞の周囲に集積するため、がん細胞をより効果的に攻撃することが可能になると考えられる。
本開示に係る組み合わせ医薬Aは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞と、免疫抑制阻害剤とを含むことによって、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子を発現する免疫応答性細胞、分泌されたIL-7及びCCL19、並びに免疫抑制阻害剤からなる因子の組み合わせによる相乗的な効果を発揮し、このために大きく改善したがん治療効果を奏すると考えられる。この相乗的な効果は、それぞれの因子の個別の効果からは予測することができないほど優れた効果である。
【0016】
例えば、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、及びCCL19を発現する免疫応答性細胞を単独で用いた場合、及び免疫抑制阻害剤を単独で用いた場合には治療困難ながん治療の場合でも、本開示に係る組み合わせ医薬Aを用いれば治療可能となりうる。このことは、後述の本開示に係る免疫応答性細胞Cに関する実験結果から示唆される。また、このような高い治療効果により、細胞の投与量を減らした場合でも治療効果を得ることが可能となり、自家細胞を使用する場合において従来必要とされていた数の免疫応答性細胞を採取できない場合でも、治療効果を得ることが可能になる。このような効果は、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、及びCCL19を発現する免疫応答性細胞の単独投与、あるいは、免疫抑制阻害剤の単独投与からは予測できない効果である。
【0017】
<がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子>
本開示におけるがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子とは、がん抗原に特異的に結合する分子であり、がん抗原に特異的に結合する限りはポリペプチドであっても、アプタマー等の核酸であっても、これら以外の分子であってもよい。ここでがん抗原とは、がん細胞において正常細胞よりも高く発現する、あるいはがん細胞に特異的に発現するタンパク質、糖脂質等の物質を意味し、かかるがん抗原としては、腫瘍関連抗原や癌精巣抗原、血管新生関連抗原、遺伝子変異によるがん新生抗原(ネオアンチゲン)のエピトープペプチドを挙げることができる。
【0018】
細胞表面分子により特異的に認識されるがん抗原の例としては、具体的には、WT1、MART-1、NY-ESO-1、MAGE-A1、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A10、Glypican-3、KIF20A、Survivin、AFP、gp100、MUC1、DLL3、PRSS21、Nectin4、FAP、インテグリンβ7、CT-83(KK-LC-1)、KRAS(変異型、つまりmKRASも含む)、Epha2、PRAME、HA-1、PAP-10、PAP-5、TRP2-1、SART-1、VEGFR1、VEGFR2、NEIL3、MPHOSPH1、DEPDC1、FOXM1、CDH3、TTK、TOMM34、URLC10、KOC1、UBE2T、TOPK、ECT2、メソテリン(MESOTHELIN)、NKG2D、P1A等のタンパク質や、GD2、GM2等の糖脂質を挙げることができる。さらなる例としては、CD20、EGFR(EGFRvIII等)、EGFRvariant、FITC、CD19、CD22、CD33、PSMA、ROR1、c-Met、HER2、CEA、CD7、CD10、CD30、CD34、CD38、CD41、CD44、CD74、CD123、CD133、CD171、CD180、MUC16、CS1(CD319)、IL-13Ra2、BCMA、LewisY、IgG κ鎖、葉酸受容体α、PSCA、EpCAM、CAIX、CDS、CD49f、CD56、CD138、IGF1R、サイトメガロウイルス(CMV)感染細胞抗原、EGP-2、EGP-40、ERB-B2、ERB-B3、ERB-B4、FBP、胎児性アセチルコリン受容体、GD3、HER-2、hTERT、K-軽鎖、LeY、L1細胞接着分子、NKG2Dリガンド、5T4、及びTAG-72も挙げることができるが、これらに限定されない。細胞表面分子として、これら等の細胞表面分子を1種以上含んでいてもよい。これらの抗原の由来生物は、本開示に係る組み合わせ医薬Aによって治療される対象となる生物種とすることができ、例えばヒトである。
【0019】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子としては、がん抗原を特異的に認識する、細胞表面受容体、人工受容体、接着因子を挙げることができる。がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子は、がん抗原に結合して本開示に係る免疫応答性細胞Aをがん細胞の近傍に配置させる機能のみを果たすものでもよいが、がん治療効果をより上昇させるために、免疫応答性細胞の免疫応答を活性化させるシグナル伝達を細胞内で引き起こす機能も有しているものであってもよい。がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子は、例えば、がん抗原を特異的に認識する抗体又は抗体断片であってもよい。抗体又は抗体断片はIgM、IgD、IgG、IgA、IgE等に限定されるものではなく、Fab、scFv等の低分子抗体であってもよい。
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子としては、がん抗原を特異的に認識するT細胞受容体(TCR)、がん抗原を特異的に認識するキメラ抗原受容体(CAR)等の、細胞表面に発現することによってがんに対する特異的な識別能を細胞に付与する分子を挙げることができる。TCRは上記細胞表面受容体の一例であり、CARは上記人工受容体の一例であり、抗体(Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv等の低分子抗体も含む)は上記接着因子の一例であるともいえる。もちろん、がん抗原を特異的に認識する限りは、接着因子は糖鎖、アプタマー等の、抗体以外の分子であってもよい。これらの細胞表面分子は、がん抗原を特異的に認識し、それによって、本開示に係る免疫応答性細胞Aは、がん細胞周辺に局在することが可能になる。
【0020】
TCRはT細胞の細胞膜上に発現している抗原受容体分子である。TCRはアルファ鎖とベータ鎖、又はガンマ鎖とデルタ鎖からなるヘテロ二量体として存在しており、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合した抗原分子を認識することでT細胞を活性化することが知られている。TCRは、がん抗原を特異的に認識するかぎりアルファ鎖及びベータ鎖からなるヘテロ二量体(アルファ・ベータTCR)であっても、ガンマ鎖及びデルタ鎖からなるヘテロ二量体(ガンマ・デルタTCR)であってもよい。
TCRは内因性のものであっても、外来性のTCR(組換えTCR)であってもよい。内因性のTCRを発現するT細胞及び外来性のTCRを遺伝子導入するT細胞のソースとしては、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、腫瘍所属リンパ節、末梢血リンパ球、胸水中リンパ球、腹水中リンパ球が挙げられるが、これらに限定されない。
所定の抗原結合性を有するTCRを発現するT細胞の分離のための手法としては、密度勾配遠心分離;リセッティング;細胞密度を変える粒子へのカップリング;抗体被覆された磁石ビーズによる磁気分離;アフィニティークロマトグラフィー(例えば、ネガティブセレクションを用いたアフィニティークロマトグラフィー);モノクローナル抗体に連結されるか、又は、モノクローナル抗体との併用で使用される細胞毒性剤(これには、補体及び細胞毒素が含まれるが、これらに限定されない);プレート、チップ等の固体マトリックスに結合された抗体によるパンニング;エルトリエーション;抗原刺激による選択的増殖;MHCと抗原の複合体を利用した分離が挙げられるが、これらに限定されない。
また、特定のTCRを発現するように改変されたトランスジェニックマウス等のトランスジェニック動物も開発されている。
【0021】
CARは、がん細胞の細胞表面抗原を認識する一本鎖抗体と、T細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を融合させた人工的なキメラタンパク質である。CARは、例えば、がん細胞の細胞表面抗原を認識する一本鎖抗体領域、細胞膜貫通領域、及びT細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を含むものであってもよい。本開示に係る組み合わせ医薬Aにおいてがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子がCARである場合、該組み合わせ医薬Aの構成要素として投与される本開示に係る免疫応答性細胞Aの数が、CAR-T細胞を単独で用いる従来の方法において投与されるCAR-T細胞数(通常、1×106個以上)に比べて少なくても、同等以上の効果を奏することが可能である。
【0022】
CARにおける一本鎖抗体(scFv)としては、モノクローナル抗体の抗原結合部位に由来する軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含み、軽鎖可変領域及び重鎖可変領域の間にリンカーペプチドが位置するオリゴ又はポリペプチドを挙げることができる。
目的のがん抗原を認識する一本鎖抗体は、公知の手法により作製することができる。例えば、マウス等に抗原を接種してからリンパ組織を採取して、抗体遺伝子のライブラリーを作製し、抗体ダイレクトクローニングによりがん抗原を認識する抗体をコードする塩基配列を得て、それを基に一本鎖抗体を設計してもよい。あるいは、採取したリンパ組織を用いてハイブリドーマを作製し、がん抗原を認識する抗体をコードするハイブリドーマを同定してモノクローナル抗体を得て、その配列情報を基に一本鎖抗体を設計してもよい。あるいは、健常人のB細胞から作製したナイーブ抗体ライブラリー、がん抗原に対して高い中和活性を示す抗血清をもつがん罹患者由来のB細胞から作製した抗体ライブラリー等を基にして一本鎖抗体のライブラリーを作製し、これをファージディスプレイにより提示させてがん抗原を認識する一本鎖抗体を選抜してもよい。
【0023】
免疫応答性細胞活性化シグナル伝達領域は、前記一本鎖抗体ががん細胞の細胞表面抗原を認識した際に、細胞内にシグナル伝達することが可能な領域であり、CD28、4-1BB(CD137)、GITR、CD27、OX40、HVEM、CD3ζ、及びFc Receptor-associated γchainのうちいずれかの細胞内領域のポリペプチドから選択される少なくとも1種又は2種以上を含んでいてもよく、CD28、4-1BB、及びCD3ζの3種の細胞内領域のポリペプチドを含んでいてもよい。
【0024】
それぞれの細胞内領域のポリペプチドは、2~10アミノ酸からなるオリゴペプチドリンカー又はポリペプチドリンカーを介して連結されていてもよく、かかるリンカー配列として、グリシン-セリン連続配列を挙げることができる。
【0025】
免疫応答性細胞の活性化とは、細胞内でのシグナル伝達又はタンパク質発現の変化の誘導により、免疫応答を開始させることを意味する。例えば、CD3鎖がリガンド結合及び免疫受容体チロシンベースの阻害モチーフ(ITAMs)に応答して集まると、シグナル伝達カスケードが作られる。また、内因性のTCR又は外因性のCARが抗原に結合すると、結合された受容体(例えば、CD4又はCD8、CD3γ/δ/ε/ζ等)の近くで、多くの分子の集合を含む、免疫シナプスの形成が起こり得る。この膜結合シグナル伝達分子の集合によって、CD3鎖内に含有されたITAMモチーフがリン酸化する。このリン酸化は、ひいては免疫応答性細胞活性化経路を開始させ、最終的には、NF-κB及びAP-1などの転写因子を活性化しうる。これら転写因子は、例えばT細胞の全体的な遺伝子発現を惹起し、T細胞が媒介する免疫応答を開始させるために、主な制御性T細胞タンパク質の増殖及び発現のためのIL-2の産生を増加させる。
【0026】
CARにおける細胞膜貫通領域としては、CD8、T細胞受容体のα鎖、β鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、GITRのいずれか由来の細胞膜貫通領域のポリペプチドを挙げることができる。前記細胞膜貫通領域は、例えば、ヒトCD8細胞膜貫通領域のポリペプチドでもよい。かかる細胞膜貫通領域によって、CARがT細胞の細胞膜に固定される。
【0027】
前記細胞膜貫通領域には、任意のオリゴペプチド又はポリペプチドからなり、長さが1~100アミノ酸、より具体的には10~70アミノ酸のヒンジ領域を含んでもよい。ヒンジ領域としては、ヒトCD8のヒンジ領域を挙げることができる。
【0028】
また、がん細胞の細胞表面抗原を認識する一本鎖抗体と細胞膜貫通領域、細胞膜貫通領域と免疫応答性細胞活性化シグナル伝達領域との間には、任意のオリゴペプチド又はポリペプチドからなるスペーサー領域を設けてもよい。スペーサー領域の長さとしては、1~100アミノ酸、より具体的には10~50アミノ酸を挙げることができ、かかるスペーサー領域として、グリシン-セリン連続配列を挙げることができる。
【0029】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子のアミノ酸配列は、例えば哺乳動物由来のアミノ酸配列であり、ヒトに投与した場合の拒絶反応を抑える観点からヒト由来のアミノ酸配列としてもよい。アミノ酸配列は、公知の文献やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)等のデータベースを検索して適宜入手することができる。がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子は、ヒトのTCR、あるいは一本鎖抗体領域がヒト化されているCARであってもよい。
【0030】
なお、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子は、がん抗原の認識が特異的であれば、間接的に認識するものであってもよい。例えば、がん抗原を特異的に認識する抗体等の分子を本開示に係る免疫応答性細胞Aと同時又は連続して対象に投与し、当該抗体等の分子を認識するか、又は抗体等の分子に標識されたタグを認識することで、本開示に係る免疫応答性細胞Aは間接的にがん抗原を特異的に認識し得る。これらの場合、抗体を認識する場合の例としては、細胞表面分子としてCD16等が挙げられ、抗体等の分子に標識するタグの例としては、FITC等が挙げられる。
【0031】
<IL-7>
IL-7は、構造的に骨髄及び胸腺由来のストロマ細胞から生産される約25kDaのサイトカインである。IL-7は、IL-7レセプターを通して造血幹細胞からリンパ前駆細胞への分化を促進するためのシグナルを出し、T細胞、B細胞、及びNK細胞を生じさせる。IL-7のアミノ酸配列は、例えば哺乳動物由来のアミノ酸配列であり、拒絶反応を抑える観点からヒト由来のアミノ酸配列としてもよい。アミノ酸配列は、公知の文献やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)等のデータベースを検索して適宜入手することができる。
【0032】
<CCL19>
ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド19(CCL19)はCCケモカインファミリーに属するサイトカインであり、胸腺及びリンパ節での発現量が多い。CCL19のアミノ酸配列は、例えば哺乳動物由来のアミノ酸配列であり、拒絶反応を抑える観点からヒト由来のアミノ酸配列としてもよい。アミノ酸配列は、公知の文献やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)等のデータベースを検索して適宜入手することができる。
【0033】
<本開示に係る免疫応答性細胞A>
免疫応答性細胞とは、免疫応答に関与する細胞を指す。免疫応答性細胞の例としては、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、B細胞等のリンパ球系細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞等の抗原提示細胞、好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞等の顆粒球が挙げられる。T細胞の例としては、アルファ・ベータT細胞、ガンマ・デルタT細胞、CD8+T細胞、CD4+T細胞、腫瘍浸潤T細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞等が挙げられる。
【0034】
免疫応答性細胞は、血液、骨髄液等の体液や、脾臓、胸腺、リンパ節等の組織、若しくは原発腫瘍、転移性腫瘍、がん性腹水等のがん組織に浸潤する免疫細胞から単離、精製して得ることができ、またiPS細胞、ES細胞等の多能性幹細胞又は造血幹細胞などの体性幹細胞から作製された免疫応答性細胞を用いてもよい。
免疫応答性細胞は、ヒ卜、イヌ、ネコ、ブタ、マウス等の哺乳動物由来のT細胞であってもよく、ヒ卜由来のT細胞であってもよい。
【0035】
本開示に係る免疫応答性細胞Aは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する。ここで、「がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する」とは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19が免疫応答性細胞により産生され、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子の少なくとも一部が細胞表面(細胞外側の細胞表面)に位置し、IL-7及びCCL19が細胞外に分泌されることを指す。
【0036】
本開示に係る免疫応答性細胞Aは、例えば、生体から採取した免疫応答性細胞、又はiPS細胞、ES細胞等の多能性幹細胞若しくは造血幹細胞などの体性幹細胞から誘導した免疫応答性細胞等に、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子、及びCCL19をコードする遺伝子を導入することで得ることができる。あるいは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子(例えばがん抗原を特異的に認識するTCR)を内在的に発現している免疫応答性細胞を生体から採取して、IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子を導入することでも得ることができる。なお、本開示においては、XXをコードする遺伝子なる表現と、XXをコードする核酸なる表現は互換的に用いられる。この場合、核酸は一本鎖でも二本鎖でも、DNAであってもRNAであってもよいが、二本鎖DNAであることが好ましい。
生体から採取した免疫応答性細胞に遺伝子導入する場合、本開示に係る組み合わせ医薬Aにより治療されるがん罹患者自身の(つまり自家の)免疫応答性細胞を採取すれば、拒絶反応を最小化できる。ただし、他家の免疫応答性細胞を使用することを排除するものではない。つまり、本開示に係る免疫応答性細胞Aは、対象自身に由来する免疫応答性細胞であっても、なくてもよい。
【0037】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子、及びCCL19をコードする遺伝子は、それぞれ、本開示に係る免疫応答性細胞Aのゲノム中に存在していても、ゲノム外のベクターに担持されていてもよく、例えば、遺伝子担持の安定性の観点からゲノム中に存在させてもよい。また、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子、及びCCL19をコードする遺伝子は、ゲノム中にまとまって存在していてもよく、ばらばらに(分離して)存在していてもよい。がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子が、例えばαβの二量体又はγδの二量体からなるTCRである場合のようにヘテロ二量体又はヘテロ多量体である場合、ヘテロ二量体又はヘテロ多量体を構成するそれぞれの分子をコードする遺伝子はゲノム中にまとまって存在していてもよく、ばらばらに(分離して)存在していてもよい。
一実施形態においては、IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子は外来性であり、双方が本開示に係る免疫応答性細胞Aのゲノムに組み込まれているか、又は前記免疫応答性細胞A中に存在する1個又は複数個のベクターに一緒に若しくは別個にコードされている。なお、細胞中に各遺伝子が存在しているかどうかは、PCR等公知の手法を用いて容易に確認することができる。本開示において、「外来性」(exogenous)とは、当該遺伝子又は核酸が細胞内に元々存在していた遺伝子又は核酸ではなく、外部から導入された遺伝子又は核酸であることを表す。
【0038】
TCRとしては、すでに、MART1特異的TCR(Cancer Res.54,5265-5268(1994))、MAGE-A3特異的TCR(Anticancer Res.,20,1793-1799(2000))、gp100特異的TCR(J.Immunol.170,2186-2194(2003))、NY-ESO-1特異的TCR(J.Immunol.,174、4415-4423(2005))、WT1特異的TCR(Blood,106,470-476(2005))、MAGE-A1特異的TCR(Int.Immunol.,8,1463-1466(1996))、P1A特異的TCR(Sarma, S., Y. Guo, Y. Guilloux, C. Lee, X.-F. Bai, Y. Liu. 1999. Cytotoxic T lymphocytes to an unmutated tumor antigen P1A: normal development but restrained effector function. J. Exp. Med. 189:811.)、MAGE-A10特異的TCR、AFP特異的TCR、CT-83特異的TCR、KRAS(変異型、つまりmKRASも含む)特異的TCR、MAGE-A4特異的TCR、Epha2特異的TCR、BCMA特異的TCR、5T4特異的TCR、PRAME特異的TCR、HA-1特異的TCR等のTCRが報告されており、それらをコードする核酸配列についても上記各文献に報告されている。がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子がTCRである場合、TCRをコードする遺伝子の塩基配列は、目的の抗原分子を認識し、かつT細胞を活性化することができるかぎり、上記文献に記載のTCRをコードする塩基配列と例えば80%以上、より具体的には85%以上、より具体的には90%以上、より具体的には95%以上、より具体的には98%以上の配列同一性を有する塩基配列であってもよい。本開示において、アミノ酸配列の配列同一性及び塩基配列の配列同一性は、例えばBLAST(登録商標、National Library of Medicine)プログラムを用いてデフォールトパラメータで評価することができる。
あるいは、TCRをコードする遺伝子の塩基配列は、上記文献に記載されたTCRをコードする塩基配列中におけるCDRをコードする塩基配列を維持し、かつCDRをコードする塩基配列以外の領域の塩基配列において、上記文献に記載のTCRをコードする塩基配列における当該領域の塩基配列と60%以上、より具体的には70%以上、より具体的には80%以上、より具体的には90%以上、より具体的には95%以上の配列同一性を有する塩基配列でもよい。
【0039】
もちろんTCRの塩基配列は、TCRの抗原特異性により変動するものであり、所望の抗原に結合するTCRを発現するT細胞を単離して、当該TCRの塩基配列を解析してもよい。例えば、特定の抗原を特異的に認識するTCRをコードする遺伝子の塩基配列は、当技術分野における公知の方法を用いることにより、特定の抗原を用いて誘導された細胞傷害性T細胞(CTL)のTCRサブユニットとしてのアルファ鎖及びベータ鎖をコードする塩基配列を解析することで得ることができる(国際公開第2007/032255号、及びMorgan et al., J Immunol, 171, 3288 (2003))。TCRの塩基配列を解析する際には、PCR法により各鎖をコードする塩基配列を増幅して解析してもよい。PCRプライマーは、例えば、5'側プライマーとしての5'-Rプライマー(5'-gtctaccaggcattcgcttcat-3':配列番号1)、及び3'側プライマーとしての、TCRアルファ鎖C領域に特異的な3-TRa-Cプライマー(5'-tcagctggaccacagccgcagcgt-3':配列番号2)、TCRベータ鎖C1領域に特異的な3-TRb-C1プライマー(5'-tcagaaatcctttctcttgac-3':配列番号3)、又はTCRベータ鎖C2領域に特異的な3-TRbeta-C2プライマー(5'-ctagcctctggaatcctttctctt-3':配列番号4)であってもよいが、これらに限定されない。抗原特異的なTCRは、抗原(例えばペプチド)を提示する標的細胞と高い結合力で結合することができる。また、免疫応答性細胞の種類を適切に選択することにより、抗原ペプチドを提示する標的細胞の効率的な殺傷を媒介することができる。
【0040】
CARをコードする塩基配列としては、CARを構成するポリペプチドをコードする塩基配列であれば特に制限されず、がん細胞の細胞表面抗原を認識する一本鎖抗体、細胞膜貫通領域、及びT細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域のポリペプチドをコードする塩基配列が含まれる。
【0041】
CARにおけるがん細胞の細胞表面抗原に対する一本鎖抗体、細胞膜貫通領域、及び免疫応答性細胞活性化シグナル伝達領域のポリペプチドをコードする塩基配列の情報は、公知の文献やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)などのデータベースを検索して適宜入手することができる。
【0042】
たとえば、免疫応答性細胞活性化シグナル伝達領域におけるCD28、4-1BB、及びCD3ζの細胞膜貫通領域のポリペプチドをコードする塩基配列の情報は、NCBIなどのデータベースを検索して適宜入手することができ、ヒトCD28については、Genbank番号:NM_006139.2(更新日:2014年5月10日)、ヒト4-1BBについては、Genbank番号:NM_001561.5(更新日:2014年3月16日)、ヒトCD3ζについては、Genbank番号:NM_000734.3(更新日:2014年8月12日)として登録されたものを例示することができる。
【0043】
また、ヒトCD8の細胞膜貫通領域のポリペプチドをコードする塩基配列の情報は、NCBI等のデータベースを検索し適宜入手することができ、Genbank番号:NM_001768.6(更新日:2014年5月10日)として登録されたものを例示することができる。
【0044】
さらに、一本鎖抗体のポリペプチドをコードする塩基配列の情報については、標的とする細胞表面抗原を認識するモノクローナル抗体を作製し、かかるモノクローナル抗体のアミノ酸配列をエドマン法などの公知の方法で決定し、かかるアミノ酸配列に基づいて入手することもできる。モノクローナル抗体の作製方法としては、ハイブリドーマを用いて作製する方法や、遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで宿主を形質転換して作製する方法や、トランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで作製する方法を挙げることができる。
【0045】
IL-7をコードする塩基配列及びCCL19をコードする塩基配列の情報は、公知の文献やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)などのデータベースを検索して適宜入手することができる。
【0046】
IL-7をコードする塩基配列は、本開示に係る免疫応答性細胞Aの種類に応じて適宜選択でき、例えば、ヒトIL-7のアミノ酸配列(配列番号5)をコードする塩基配列であってもよく、また、IL-7としての細胞増殖率の亢進作用を有する限り、配列番号5に示す塩基配列と例えば80%以上、より具体的には85%以上、より具体的には90%以上、より具体的には95%以上、より具体的には98%以上の配列同一性を有する塩基配列であってもよい。
【0047】
CCL19をコードする塩基配列は、本開示に係る免疫応答性細胞Aの種類に応じて適宜選択でき、例えば、ヒトCCL19のアミノ酸配列(配列番号6)をコードする塩基配列であってもよく、また、CCL19としてのT細胞遊走作用を有する限り、配列番号6に示す塩基配列と例えば80%以上、より具体的には85%以上、より具体的には90%以上、より具体的には95%以上、より具体的には98%以上の配列同一性を有する塩基配列であってもよい。
【0048】
本開示に係る免疫応答性細胞Aにおいては、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子、及びCCL19をコードする遺伝子は、適切なプロモーターの制御下にあるようにする。
【0049】
本開示に係る免疫応答性細胞Aは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、及びCCL19に加えて、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-23、IL-27、IP-10、CCL1、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL7、CCL8、CCL11、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL4L1、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL16、CXCL17、CX3CL1、XCL1、XCL2、CCL3L1、CCL3L3、CCL4L1、CCL4L2、Flt3L、Interferon-gamma、MIP-1alpha、GM-CSF、M-CSF、TGF-beta、TNF-alpha等の他の免疫機能制御因子を1種以上さらに発現していてもよい。
【0050】
本開示に係る免疫応答性細胞Aの分離のための手法としては、密度勾配遠心分離;リセッティング;細胞密度を変える粒子へのカップリング;抗体被覆された磁石ビーズによる磁気分離;アフィニティークロマトグラフィー(例えば、ネガティブセレクションを用いたアフィニティークロマトグラフィー);モノクローナル抗体に連結されるか、又は、モノクローナル抗体との併用で使用される細胞毒性剤(これには、補体及び細胞毒素が含まれるが、これらに限定されない);プレート、チップ等の固体マトリックスに結合された抗体によるパンニング;エルトリエーション;抗原刺激による選択的増殖;MHCと抗原の複合体を利用した分離が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
免疫応答性細胞ががん抗原を特異的に認識する細胞表面分子を内在的に発現している場合、例えば所定のがん抗原を特異的に認識するTCRを発現しているT細胞を単離する場合には、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子を外部から導入する必要は無いが、一般的には、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子、及びCCL19をコードする遺伝子のうちの1種以上を外部から導入する。
【0052】
免疫応答性細胞に導入するためのがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子を含む核酸、IL-7をコードする遺伝子を含む核酸及びCCL19をコードする遺伝子を含む核酸は、それぞれ、当該分子をコードする塩基配列の情報に基づき、化学合成する方法や、PCRによって増幅する方法等の公知の技術によって作製することができる。なお、コーディング領域におけるコドンは、遺伝子を含む核酸が導入される対象となる免疫応答性細胞における当該遺伝子の発現を最適化するために改変されてもよい。
【0053】
導入の対象となる遺伝子は、それぞれ別々のベクターに担持された状態で導入されても、2種以上の遺伝子を同じベクターに担持した状態で導入してもよい。例えば、IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子を免疫応答性細胞に導入する場合、IL-7をコードする遺伝子とCCL19をコードする遺伝子とは別々のベクターで導入してもよいし、同じベクターに両遺伝子を担持させて導入してもよい。
また、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子を免疫応答性細胞に導入する場合、
(i)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子を、それぞれ別個のベクターに担持させて導入してもよいし、
(ii)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子及びIL-7をコードする遺伝子を同じベクターに担持させ、CCL19をコードする遺伝子を別個のベクターに担持させて導入してもよいし、
(iii)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子を同じベクターに担持させ、IL-7をコードする遺伝子を別個のベクターに担持させて導入してもよいし、
(iv)IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子を同じベクターに担持させ、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子を別個のベクターに担持させて導入してもよいし、
(v)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子を、同じベクターに担持させて導入してもよい。
【0054】
導入効率を考慮して、2種以上の遺伝子を同じベクターに担持した状態で導入させてもよい。この場合は、当該2種以上の遺伝子は、免疫応答性細胞中でまとまって存在することになる。
【0055】
例えば、以下のベクター又はベクター群を使用することができる。
(a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子、及びCCL19をコードする遺伝子を含有するベクター
(b)以下のベクター(b-1)及びベクター(b-2)からなるベクター群:
(b-1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子を含有するベクター;
(b-2)IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子を含有するベクター;
(c)以下のベクター(c-1)及びベクター(c-2)からなるベクター群:
(c-1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子及びIL-7をコードする遺伝子を含有するベクター;
(c-2)CCL19をコードする遺伝子を含有するベクター;
(d)以下のベクター(d-1)及びベクター(d-2)からなるベクター群:
(d-1)IL-7をコードする遺伝子を含有するベクター;
(d-2)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子を含有するベクター;
(e)以下のベクター(e-1)、ベクター(e-2)及びベクター(e-3)からなるベクター群:
(e-1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子を含有するベクター;
(e-2)IL-7をコードする遺伝子を含有するベクター;
(e-3)CCL19をコードする遺伝子を含有するベクター。
【0056】
ベクター群は、遺伝子が冗長(redundant)に含まれるように設計してもよく、例えば上記(c-1)及び(d-2)からなるベクター群を設計してもよい。この場合は、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子は両方のベクターに含まれるが、両ベクターに含まれるがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子は互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0057】
上記のベクターのうち任意のベクターに、又は上記のベクターとは別個のベクターに、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-23、IL-27、IP-10、CCL1、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL7、CCL8、CCL11、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL4L1、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL16、CXCL17、CX3CL1、XCL1、XCL2、CCL3L1、CCL3L3、CCL4L1、CCL4L2、Flt3L、Interferon-gamma、MIP-1alpha、GM-CSF、M-CSF、TGF-beta、TNF-alpha等の1種以上の他の免疫機能制御因子をコードする遺伝子をさらに含有させて、免疫応答性細胞に導入してもよい。
【0058】
遺伝子を担持するベクターを免疫応答性細胞に導入する方法としては特に制限されないが、ウイルス感染法、トランスポゾン法、カルシウムリン酸法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法等の公知の方法が挙げられる。外来遺伝子のゲノムへの導入が可能なウイルス感染法により導入する方法は遺伝子担持の安定性をもたらしうる。
【0059】
ウイルス感染法としては、ベクターとパッケージングプラスミドをGP2-293細胞(タカラバイオ社製)、Plat-GP細胞(コスモ・バイオ社製)、PG13細胞(ATCC CRL-10686)、PA317細胞(ATCC CRL-9078)等のパッケージング細胞にトランスフェクションして組換えウイルスを作製し、かかる組換えウイルスを免疫応答性細胞に感染させる方法を挙げることができ、Retrovirus packaging Kit Eco(タカラバイオ社製)等の市販のキットを用いて行ってもよい。MSCVレトロウイルス発現システム等を用いれば、外来遺伝子のゲノムへの導入が可能である。
【0060】
また、IL-7をコードする遺伝子、CCL19をコードする遺伝子、及び必要ならがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子のゲノムへの組込みは、公知の遺伝子編集技術を用いて行うこともできる。公知の遺伝子編集技術としては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN(転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ)、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)-Casシステム等のエンドヌクレアーゼを用いる技術が挙げられる。所望により導入される他の外来タンパク質をコードする遺伝子のゲノムへの組込みも、同様の手法により行うことができる。
【0061】
また、これらの遺伝子を免疫応答性細胞のゲノムに組み込む場合には、当該遺伝子を制御する上流プロモーターと共にゲノムの非コード領域等に作動可能に(即ち、当該プロモーターの制御下で発現可能なように)組み込んでもよいし、プロモーター無しに、ゲノム中に既に存在しているプロモーターの下流に作動可能に組み込んでもよい。ゲノム中に既に存在しているプロモーターとしては、TCRα、TCRβのプロモーター等が挙げられる。
【0062】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子、CCL19をコードする遺伝子、及び所望により導入された追加の外来タンパク質をコードする遺伝子のうち2種以上の遺伝子が近接して存在する場合には、それら2種以上の遺伝子を共通のプロモーターの制御下で発現させることもできる。共通のプロモーターの制御下で発現させる場合には、2Aペプチド、IRESペプチド等を使用して、転写及び/又は翻訳を分断してそれぞれのポリペプチドを発現させるようにできる。
【0063】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子のうちの2種以上を担持するベクターを免疫応答性細胞に導入する場合には、該ベクター中における前記2種以上の遺伝子の並び順は特に限定されない。例えば、前記(a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子を含有するベクターにおいては、これら3種の遺伝子の並び順は限定されない。具体的には、上流(5’末端側)から下流(3’末端側)への順に、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子が並ぶ順番であっても、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、CCL19をコードする遺伝子及びIL-7をコードする遺伝子が並ぶ順番であっても、IL-7をコードする遺伝子、CCL19をコードする遺伝子及びがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子が並ぶ順番であっても、IL-7をコードする遺伝子、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子が並ぶ順番であっても、CCL19をコードする遺伝子、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子及びIL-7をコードする遺伝子が並ぶ順番であっても、CCL19をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子及びがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子が並ぶ順番であってもよい。
【0064】
また、上記(b-2)IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子を含有するベクターにおいて、IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子の並び順は特に制限されず、IL-7をコードする遺伝子に対してCCL19をコードする遺伝子が上流に配置されても下流に配置されてもよい。
【0065】
上記(c-1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子及びIL-7をコードする遺伝子を含有するベクターにおいて、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子及びIL-7をコードする遺伝子の並び順は特に制限されず、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子に対してIL-7をコードする遺伝子が上流に配置されても下流に配置されてもよい。
【0066】
上記(d-2)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子を含有するベクターにおいて、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子の並び順は特に制限されず、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子に対してCCL19をコードする遺伝子が上流に配置されても下流に配置されてもよい。
【0067】
なお、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子はそれぞれ別のプロモーターにより転写されてもよく、内部リボソームエントリー部位(IRES:internal ribozyme entry site)又は自己切断型2Aペプチドを使用して一つのプロモーターで転写されてもよい。
【0068】
一つのプロモーターで複数の遺伝子を転写させる場合、それぞれの遺伝子の間の塩基配列は、それぞれの遺伝子を発現し得る限り、任意の塩基配列を含んでもよいが、自己切断型ペプチド(2Aペプチド)又はIRESをコードする塩基配列を含んでもよく、2Aペプチドをコードする塩基配列を含んでもよい。このような塩基配列を用いて複数の遺伝子を連結することにより、それぞれの遺伝子を効率よく発現させることが可能となる。自己切断型ペプチド(2Aペプチド)又はIRESをコードする塩基配列を含みうる遺伝子間の塩基配列は、例えば、IL-7をコードする遺伝子とCCL19をコードする遺伝子との間の塩基配列であってもよく、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子とIL-7をコードする遺伝子との間の塩基配列であってもよく、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子とCCL19をコードする遺伝子との間の塩基配列であってもよく、アルファ・ベータTCRにおけるアルファ鎖をコードする遺伝子とベータ鎖をコードする遺伝子との間の塩基配列であってもよく、ガンマ・デルタTCRにおけるガンマ鎖をコードする遺伝子とデルタ鎖をコードする遺伝子の間の塩基配列であってもよい。つまり、これらの遺伝子間の領域それぞれについて、所望により、自己切断型ペプチド(2Aペプチド)又はIRESをコードする塩基配列を含ませることができる。
【0069】
2Aペプチドとは、ウイルス由来の自己切断型ペプチドであり、例として配列番号7で示されるアミノ酸配列の場合、該アミノ酸配列中のG-P間(C末端から1残基の位置)が小胞体で切断される特徴を有する(Szymczak et al., Expert Opin. Biol. Ther.5(5):627-638(2005))。そのため、2Aペプチドを介してその前後に組み込まれた核酸は、細胞内で互いに独立して発現することとなる。
【0070】
前記2Aペプチドとしては、ピコルナウイルス、ロタウイルス、昆虫ウイルス、アフトウイルス又はトリパノソーマウイルス由来の2Aペプチドであってもよく、配列番号8に示すピコルナウイルス由来の2Aペプチド(F2A)であってもよい。
【0071】
免疫応答性細胞への遺伝子導入に用いられるベクターは直鎖状でも環状でもよく、プラスミド等の非ウイルスベクターでも、ウイルスベクターでも、トランスポゾンによるベクターでもよい。免疫応答性細胞への遺伝子導入に用いられるベクターは、プロモーター、ターミネーター等の制御配列、薬剤耐性遺伝子、レポーター遺伝子等の選択マーカー配列のうち1つ以上を含有していてもよい。免疫応答性細胞への遺伝子導入後も、ベクターに含まれるプロモーターを利用して遺伝子の発現を行わせるようにしてもよい。例えば、ベクター中のプロモーター配列の下流に作動可能にがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子のうち1つ以上を配置することで、当該遺伝子を効率よく転写させることができる。
【0072】
前記プロモーターの例としては、レトロウイルスのLTRプロモーター、SV40初期プロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーター等のウイルス由来プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、Xistプロモーター、β-アクチンプロモーター、RNAポリメラーゼIIプロモーター、ポリペプチド鎖伸長因子遺伝子プロモーター等の哺乳類由来プロモーターを挙げることができる。また、テトラサイクリンによって誘導されるテトラサイクリン応答型プロモーター、インターフェロンによって誘導されるMx1プロモーター等を用いてもよい。特定の物質によって誘導されるプロモーターを用いることによって、プロモーターに転写制御される遺伝子(例えば、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子のうち1つ以上)の発現をがんの治療経過に応じて制御することが可能となる。
【0073】
前記ウイルスベクターの例としては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターを挙げることができる。レトロウイルスベクターとしては、pMSGVベクター(Tamada K. et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2002))、pMSCVベクター(タカラバイオ社製)等を挙げることができる。レトロウイルスベクターを用いれば、導入遺伝子はホスト細胞のゲノムへ取り込まれるため、導入遺伝子を長期間安定に発現することが可能となる。
【0074】
免疫応答性細胞におけるがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19の発現は、フローサイトメトリー、ELISA、ウェスタンブロッティング等により確認することができる。また、これらをコードする遺伝子の導入は、上記のように発現産物を確認するか、あるいはノザンブロッティング、サザンブロッティング、RT-PCR等のPCR等により確認することができる。遺伝子導入に用いるベクターがマーカー遺伝子を含有する場合には、当該発現ベクターに挿入されたマーカー遺伝子の発現を調べることによって遺伝子の導入を確認することができる。
【0075】
また、本開示に係る免疫応答性細胞Aは、アポトーシス誘導を可能とするために、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-TK)、誘導性カスパーゼ9(inducible caspase 9)等の自殺遺伝子をさらに発現してもよい。これらの酵素の遺伝子も、上記と同様の手法により免疫応答性細胞内に(例えば、免疫応答性細胞のゲノムに)導入できる。例えば、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子、及びCCL19をコードする遺伝子のうちの1種以上を担持するベクターに、若しくは該ベクターとは別個のベクターに、自殺遺伝子をコードする核酸を含ませて、免疫応答性細胞に導入してもよい。
【0076】
自殺遺伝子とは、発現することによって直接的に、あるいは二次的に細胞毒性を有する物質を誘導し、自殺遺伝子を発現した細胞を死に至らしめる機能を有する遺伝子を意味する。自殺遺伝子をコードする核酸を免疫応答性細胞に含ませることによって、がんの治療経過に応じて、たとえば腫瘍が消失した場合に自殺遺伝子の機能を活性化する薬剤を投与し、生体内に存在する本開示に係る免疫応答性細胞Aを減少又は除去することができる。
【0077】
自殺遺伝子としては、以下の文献に記載された単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-TK)や誘導性カスパーゼ9(inducible caspase 9)をコードする遺伝子等を挙げることができ、かかる遺伝子の機能を活性化する薬剤としては、前者に対してはガンシクロビル、後者に対しては二量体誘導化合物(chemical induction of dimerization:CID)であるAP1903を挙げることができる(Cooper LJ.,et. al. Cytotherapy. 2006;8(2):105-17.,Jensen M. C. et. al. Biol Blood Marrow Transplant. 2010 Sep;16(9):1245-56., Jones BS. Front Pharmacol.2014 Nov 27;5:254., Minagawa K., Pharmaceuticals (Basel). 2015 May 8;8(2):230-49., Bole-Richard E., Front Pharmacol. 2015 Aug 25;6:174)。
【0078】
<免疫抑制阻害剤>
免疫抑制阻害剤は、免疫応答性細胞活性化の抑制を解除又は低減する物質を指す。免疫応答性細胞活性化の抑制は、例えば、制御性T細胞(Treg)が樹状細胞と結合することによる細胞傷害性T細胞又はヘルパーT細胞と樹状細胞との結合の阻害;TregがTGF-β、IL-10などの抑制性サイトカインやパーフォリン、グランザイムなどの細胞傷害性物質等を分泌することによる細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞等の活性化阻害;PD-1とPD-L1との相互作用、CTLA-4とCD80/CD86との相互作用等による免疫チェックポイントによる細胞傷害性T細胞の活性化抑制などにより生じる。免疫抑制阻害剤は、免疫応答性細胞活性化に対する上記等の抑制を解除し、免疫応答性細胞が活性化することを可能にする物質である。
【0079】
免疫抑制阻害剤の例としては、免疫チェックポイント阻害剤、Treg、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)等の免疫抑制性細胞の浸潤、生存、又は機能を阻害する分子標的薬、CCR4阻害剤、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害剤、プロスタグランジンE2[PGE2]抑制剤、細胞傷害性抗がん剤が挙げられる。免疫抑制阻害剤は、これらの機能を有する限り、抗体であってもよく、例えばIgGモノクローナル抗体又は抗体断片であってもよい。
免疫チェックポイント阻害剤は、典型的にはT細胞の表面に発現する免疫チェックポイント分子を介した免疫抑制機構を解除又は軽減させる物質である。免疫チェックポイント阻害剤は、例えば、免疫チェックポイント分子(例えばPD-1、CTLA-4、BTLA、TIM-3、TIGIT、LAG-3等)又は免疫チェックポイント分子のリガンド(例えばPD-L1、PD-L2、CD80/CD86、Siglec-15等)に結合して、リガンドにより免疫チェックポイント分子からのシグナル伝達が開始されることを阻害することで、免疫応答に対する抑制反応を減少させることができる。
Treg、MDSC等の免疫抑制性細胞の浸潤、生存、又は機能を阻害する分子標的薬は、例えば、チロシンキナーゼを阻害することによって、がん組織内に浸潤してくるTregを減少させ、がん微小環境における免疫抑制を軽減させることができる。
CCR4阻害剤は、ケモカインレセプターCCR4がTregを呼び集める働きを阻害することによって、がん微小環境における免疫抑制を軽減させることができる。
IDO阻害剤は、IDOの酵素活性を阻害する、又はIDOの発現自体を抑制することによりキヌレニンの産生を抑制し、キヌレニンによるTreg活性化を減少させることができる。
PGE2抑制剤は、PGE2がTreg表面にあるプロスタグランジンEP4受容体と結合してTregの免疫抑制作用を上昇させることを抑制することで、がん微小環境における免疫抑制を軽減させることができる。
細胞傷害性抗がん剤は、Treg等の免疫抑制細胞の数を減少させることによって免疫応答に対する抑制を減少させることができる。
【0080】
免疫チェックポイント阻害剤の例としては、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、CTLA-4阻害剤、CD47阻害剤、SIRPα阻害剤、BTLA阻害剤、TIM-3阻害剤、TIGIT阻害剤、LAG-3阻害剤、Siglec-15阻害剤、ガレクチン-9阻害剤等が挙げられる。Treg、MDSC等の免疫抑制性細胞の浸潤、生存、又は機能を阻害する分子標的薬の例としては、ソラフェニブ、スニチニブ等が挙げられる。CCR4阻害剤の例としては、抗CCR4抗体(例えばモガムリズマブ)等が挙げられる。IDO阻害剤の例としては、エパカドスタット等が挙げられる。プロスタグランジンE2[PGE2]抑制剤の例としてはアスピリン等が挙げられる。細胞傷害性抗がん剤の例としては、シクロホスファミド、ゲムシタビン等が挙げられる。
【0081】
免疫抑制阻害剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、PD-L2阻害剤、CTLA-4阻害剤、BTLA(B- and T-lymphocyte attenuator)阻害剤、TIM-3(T-cell immunoglobulin and mucin domain 3)阻害剤、TIGIT(T-cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)阻害剤、LAG-3(Lymphocyte Activation Gene-3)阻害剤、及びSiglec-15阻害剤からなる群から選択される1種以上を含んでいてもよい。
【0082】
本開示に係る組み合わせ医薬Aにおける免疫抑制阻害剤は、免疫チェックポイント阻害剤であってもよく、より具体的にはPD-1阻害剤又はPD-L1阻害剤であってもよく、さらに具体的にはPD-1に対する抗体又はPD-L1に対する抗体であってもよい。PD-1に対する抗体の例としては、Nivolumab(ニボルマブ)、Pembrolizumab(ペムブロリズマブ)、Toripalimab(トリパリマブ)、Cemiplimab-rwlc(セミプリマブ)、Sintilimab(シンチリマブ)等が挙げられる。PD-L1に対する抗体の例としては、Atezolizumab(アテゾリズマブ)、Durvalumab(デュルバルマブ)、Avelumab (アベルマブ)等が挙げられる。CTLA-4に対する抗体の例としては、Ipilimumab(イピリムマブ)等が挙げられる。他にCD47、SIRPαに対する抗体等も挙げられる。
【0083】
本開示に係る組み合わせ医薬Aにおいては、本開示に係る免疫応答性細胞Aによりがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子に加えて、IL-7及びCCL19も発現させ、さらに免疫抑制阻害剤を含むことによって、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子によるがん抑制効果を発揮するだけでなく、IL-7、CCL19及び免疫抑制阻害剤の組み合わせによりがん微小環境における免疫抑制性を低減させ、さらに内因性の細胞傷害性T細胞等もがん細胞周辺に誘導し活性化する効果が得られると考えられる。このため、本開示に係る組み合わせ医薬Aによれば、単に本開示に係る免疫応答性細胞Aを投与し免疫抑制阻害剤は投与しない場合、あるいはがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子を発現するがIL-7及びCCL19は発現しない免疫応答性細胞と免疫抑制阻害剤とを共投与した場合では達成できないような向上したがん治療効果をもたらすことができる。
【0084】
がん治療効果は、例えば哺乳動物、例えばヒトである対象における腫瘍細胞の数の減少、腫瘍のサイズの減少、腫瘍の消滅、腫瘍負荷の減少等により評価することができる。
【0085】
免疫抑制阻害剤は、がん周囲の免疫抑制性の微小環境における免疫応答性細胞一般の働きを活性化するものであるため、本開示に係る免疫応答性細胞Aだけでなく、内因性の免疫応答性細胞のがん細胞攻撃活性を向上させるものである。このため、免疫抑制阻害剤が例えば特定の分子を標的とする免疫チェックポイント阻害剤であったとしても、本開示に係る免疫応答性細胞Aが当該標的の分子を細胞表面に発現している必要は必ずしも無く、標的の分子を発現していても発現していなくてもよい。
【0086】
本開示において、用語「抗体」は、完全な抗体分子のみならず、抗原への結合能を保持する抗体分子の断片をも指しうる。そのような抗体断片も当技術分野において公知であり、インビトロ及びインビボの両方で一般的に用いられている。したがって、本明細書中で用いる場合、用語「抗体」は、完全な免疫グロブリン分子のみならず、公知の抗体機能断片であるF(ab’)2及びFabをも包含する概念を指す。本開示において抗体は、完全な天然抗体、二重特異性抗体、キメラ抗体、Fab、Fab’、一本鎖抗体(scFv)、融合ポリペプチド、及び非従来型の抗体をも包含する。
【0087】
本開示において、一本鎖抗体(scFv)は、VH::VLヘテロダイマーを形成するよう共有結合している免疫グロブリンの重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域の融合タンパク質である。重鎖(VH)及び軽鎖(VL)は、直接結合しているか、又は、VHのN末端とVLのC末端とが、若しくはVHのC末端とVLのN末端とがペプチドリンカーによって結合している。ペプチドリンカーの長さは、例えば、10アミノ酸、15アミノ酸、20アミノ酸、又は25アミノ酸である。ペプチドリンカーは、通常、柔軟性に寄与するグリシン、及び、可溶性に寄与するセリン若しくはスレオニンに富んでいる。定常領域を除去し、かつペプチドリンカーを導入しているにもかかわらず、scFvタンパク質は、元となる免疫グロブリンが有している抗原への結合特異性を維持している。Hustonら(Proc.Nat.Acad.Sci.USA,85:5879-5883, 1988)により記載されているように、scFvは、VHコード配列及びVLコード配列を含む核酸から発現され得る。scFvについては、米国特許第5,091,513号、第5,132,405号、及び第4,956,778号;並びに米国特許公開第20050196754号及び20050196754号も参照することができる。
【0088】
免疫チェックポイント阻害剤としての抗体は、所定の抗原結合性を有していればIgGモノクローナルであっても、Fab断片であっても、scFvであっても、それ以外の抗体又は抗体断片であってもよい。scFvは、例えば、マウスハイブリドーマクローンを作製し、次に完全IgG(又はIgM)をscFvに変換する方法、免疫されたファージディスプレイscFvを作製し、次いでその抗原を用いてライブラリーをスクリーニングする方法、抗原を使用して既製のscFvファージディスプレイライブラリーをスクリーニングしてscFvを直接得る方法等により得ることができる。
【0089】
ヒト以外の動物(例えばマウス)で得た抗体は、ヒトに投与した場合に免疫応答を引き起こす可能性があるため、抗体の不変部の遺伝子をヒト抗体遺伝子に組み換えて作製したキメラ抗体、相補性決定領域(CDR)以外の部分をヒト抗体遺伝子に組み換えて作製したヒト化抗体に改変して用いてもよい。また、マウス等に抗体を産生させるのではなく、ファージディスプレイ、又はヒト抗体を産生する遺伝子改変マウスを用いて、完全ヒト化抗体を得てもよい。
【0090】
<投与用組成物>
本開示に係る組み合わせ医薬Aにおいて、本開示に係る免疫応答性細胞Aを含む投与用組成物(以下、第1の投与用組成物とも称する)は、さらに薬学的に許容される添加剤を含有していてもよく、前記添加剤としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、細胞培養培地、デキストロース、注射用水、グリセロール、エタノール及びこれらの組合せ、安定剤、可溶化剤、界面活性剤、緩衝剤、防腐剤、等張化剤、充填剤、並びに潤滑剤を挙げることができる。
【0091】
本開示に係る組み合わせ医薬Aにおいて、免疫抑制阻害剤を含む投与用組成物(以下、第2の投与用組成物とも称する)は、さらに薬学的に許容される添加剤を含有していてもよく、前記添加剤としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、細胞培養培地、デキストロース、注射用水、グリセロール、エタノール及びこれらの組合せ、安定剤、可溶化剤、界面活性剤、緩衝剤、防腐剤、等張化剤、充填剤、並びに潤滑剤を挙げることができる。
なお、第2の投与用組成物は、第1の投与用組成物と同一の組成物であってもよく、この場合は1つの投与用組成物が本開示に係る免疫応答性細胞Aと免疫抑制阻害剤の両方を含むことになる。
第2の投与用組成物が第1の投与用組成物と別個の組成物である場合は、後述のとおり、第1の投与用組成物と第2の投与用組成物は一緒に投与してもよいし、別々のタイミング(時点)で投与してもよい。つまり、本開示に係る免疫応答性細胞Aと、免疫抑制阻害剤とは、一緒に投与されても、異なる時点で別々に投与されてもよい。
【0092】
第1の投与用組成物に含まれる本開示に係る免疫応答性細胞Aの量は、がんの種類、位置、重症度、治療を受ける対象の年齢、体重及び状態等に応じて適宜調整できるが、一回の投与当たり例えば1×104~1×1011個、より具体的には1×105~1×1010個、より具体的には1×106~1×109個を投与してもよい。また、本開示に係る免疫応答性細胞Aの量は、一回の投与当たり1×106個未満、例えば1×105~5×105個、より具体的には1.5×105~4×105個と少量であってもよい。
上述のとおり、本開示に係る免疫応答性細胞Aを単独で用いた場合、及び免疫抑制阻害剤を単独で用いた場合には治療困難ながん治療の場合でも、本開示に係る組み合わせ医薬Aを用いれば治療可能となりうる。このため、第1の投与用組成物に含まれる本開示に係る免疫応答性細胞Aの量は、本開示に係る免疫応答性細胞Aを単独で同じ量(同じ細胞数)用いた場合には抗がん効果を奏さないほど少量であってもよい。免疫抑制阻害剤との相乗効果により、抗がん効果を奏すことができる量であれば、免疫応答性細胞Aの量の下限値は特に制限されない。
【0093】
第1の投与用組成物は、1日4回、1日3回、1日2回、1日1回、1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、5日おき、週1回、7日おき、8日おき、9日おき、週2回、月1回又は月2回の頻度で投与してもよい。また、投与回数は総計で例えば1回~10回、すなわち、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回又は10回としてもよいが、10回を超える回数投与しても構わない。
【0094】
第2の投与用組成物に含まれる免疫抑制阻害剤の量は、がんの種類、位置、重症度、治療を受ける対象の年齢、体重及び状態等に応じて適宜調整できるが、一回の投与当たりの免疫抑制阻害剤の用量は、例えば、0.1~500mg/kg、より具体的には0.5~250mg/kg、より具体的には1~100mg/kgとすることができる。
【0095】
第2の投与用組成物は、1日4回、1日3回、1日2回、1日1回、1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、5日おき、週1回、7日おき、8日おき、9日おき、週2回、月1回又は月2回の頻度で投与してもよい。また、投与回数は総計で例えば1回~30回、すなわち、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、又は11回~30回としてもよいが、30回を超える回数投与しても構わない。
【0096】
第1の投与用組成物を投与するタイミングと、第2の投与用組成物を投与するタイミングとの関係は特に限定されず、第1の投与用組成物の投与を先に開始してもよいし、第2の投与用組成物の投与を先に開始してもよいし、あるいは第1の投与用組成物と第2の投与用組成物とは同時に投与を開始してもよい。それぞれの投与用組成物の投与回数、投与頻度の間の関係についても特に限定はされない。
【0097】
第1の投与用組成物と第2の投与用組成物とは同一の組成物であってもよく、この場合は、本開示に係る免疫応答性細胞Aと免疫抑制阻害剤の両方を含む医薬組成物(合剤)が提供される。本開示に係る組み合わせ医薬Aにおける第1の投与用組成物と第2の投与用組成物とが異なる組成物である場合、第1の投与用組成物と第2の投与用組成物とは同時に投与されてもよく、別々のタイミングで(つまり間隔を空けて)投与されてもよい。ただし、本開示に係る免疫応答性細胞Aと免疫抑制阻害剤とによる相乗効果を効果的に得る観点からは、第1の投与用組成物を投与するタイミングと第2の投与用組成物を投与するタイミングとの間の間隔(一方の投与用組成物を投与するタイミングと、それと最も時間的に近接しているもう一方の投与用組成物を投与するタイミングとの間の間隔)は、3ヶ月以内であってもよく、2ヶ月以内であってもよく、1ヶ月以内であってもよく、2週間以内であってもよい。前記間隔は、1週間以内であってもよく、3日以内であってもよいが、後述の実施例で示すように本開示に係る免疫応答性細胞Aは生体内で長期間維持されているため、前記間隔を極端に短くする必要は無い。
このように本開示に係る組み合わせ医薬Aにおいては、本開示に係る免疫応答性細胞Aと免疫抑制阻害剤とは独立したタイミング(例えば異なるタイミング)で投与することができるものである。また、本開示において「共投与」及び「併用」の用語は、複数の剤が同一の組成物に含有されて投与される場合、複数の剤が別々の組成物に含有されるが同時に投与される場合、複数の剤が別々の組成物に含有され別々の時点で投与される場合のいずれをも包含する意味で用いられる。
【0098】
上記のとおり、本開示に係る組み合わせ医薬Aは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子を発現する免疫応答性細胞、分泌されたIL-7及びCCL19、並びに免疫抑制阻害剤からなる因子の組み合わせによる相乗的な効果により、驚くべきほどに向上したがん治療効果を奏する。
【0099】
第1の投与用組成物は、当業者に既知の方法を用いて、がんの治療を必要とする対象に投与することができ、例えば、局所注入(カテーテル投与を含む)、全身注入、静脈内注入又は非経口投与(例えば経皮投与、経粘膜投与、より具体的には点鼻、点眼、舌下、坐薬、パッチ等)によって投与することができる。第1の投与用組成物は、取り扱いの観点から、単位投与量の注入可能な形態(溶液、懸濁液、乳濁液)に製剤化されていてもよい。投与方法のより具体的な例としては、静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、動脈内、髄内、心臓内、関節内、滑液嚢内、頭蓋内、髄腔内、及びくも膜下(髄液)への注射を挙げることができる。
【0100】
第2の投与用組成物は、当業者に既知の方法を用いて、がんの治療を必要とする対象に投与することができ、例えば、経口投与、局所注入(カテーテル投与を含む)、全身注入、静脈内注入又は非経口投与(例えば経皮投与、経粘膜投与、より具体的には点鼻、点眼、舌下、坐薬、パッチ等)によって投与することができる。第2の投与用組成物は、取り扱いの観点から、単位投与量の注入可能な形態(溶液、懸濁液、乳濁液)に製剤化されていてもよい。投与方法のより具体的な例としては、静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、動脈内、髄内、心臓内、関節内、滑液嚢内、頭蓋内、髄腔内、及びくも膜下(髄液)への注射を挙げることができる。
【0101】
本開示に係る免疫応答性細胞Aは、元となる免疫応答性細胞又はその前駆体細胞を治療対象の患者から得て、本開示に係る免疫応答性細胞Aとするために必要な遺伝子の導入後に、同じ患者に投与してもよく(自家投与)、又は別の患者に投与してもよい(他家投与)。あるいは、元となる免疫応答性細胞又はその前駆体細胞は、iPS細胞、ES細胞等の多能性幹細胞又は造血幹細胞などの体性幹細胞から作製してもよい。
【0102】
第1の投与用組成物及び第2の投与用組成物は、例えば、所定のpHに緩衝化されていてもよい無菌の液体調製物、例えば、等張水溶液、懸濁液、乳濁液、分散物又は粘性組成物として投与することができる。前記液体調製物は、注射用の液体調製物であってもよい。また、特定の組織との接触時間を長くするために、前記液体調製物を適切な粘度範囲内の粘度を有する粘性組成物の形態としてもよい。液体調製物は、例えば、水、生理食塩水、リン酸塩緩衝化生理食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液状ポリエチレングリコールなど)及びそれらの混合物からなる溶媒又は分散媒を含んでいてもよい。
【0103】
前記液体調製物は、本開示に係る免疫応答性細胞A及び/又は免疫抑制阻害剤を、その他の成分の様々な量とともに、適当量の適切な溶媒に配合することによって調製することができる。前記液体調製物は、好適な担体、希釈剤、又は賦形剤を含んでいてもよい。前記液体調製物はまた、凍結乾燥されていてもよい。液体調製物は、所望の投与経路に依存して、様々な補助物質をさらに含んでいてもよく、補助物質の例としては、湿潤剤、分散剤又は乳化剤(例えば、メチルセルロース)、pH緩衝化剤、ゲル化剤又は粘度増強添加剤、保存剤、矯味矯臭剤、着色剤などが挙げられる。液体調製物中が含みうる成分については、“REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCE”,17版、1985の記載を参照することもできる。
【0104】
また、液体調製物は、液体調製物の安定性及び無菌性を高める様々な添加剤をさらに含んでいてもよく、その例としては、抗菌性保存剤、酸化防止剤、キレート剤、及び緩衝剤などが挙げられる。微生物の作用を防止するために、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン類、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などを使用することができる。液体調製物に使用するビヒクル、希釈剤又は添加剤は、そこに含まれる本開示に係る免疫応答性細胞A及び/又は免疫抑制阻害剤との適合性を有していなければならない。
【0105】
液体調製物は血液と等張性であってもよい。等張性は、塩化ナトリウム、又は他の薬学的に許容され得る浸透圧調節物質(例えば、デキストロース、ホウ酸、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコール、あるいは、他の無機溶質又は有機溶質など)を液体調製物に含有させることで達成することができる。
【0106】
本開示に係る組み合わせ医薬Aは、本開示に係る免疫応答性細胞A及び免疫抑制阻害剤に加えて、さらに他の抗がん剤を含んでいてもよい。他の抗がん剤の例としては、ベンダムスチン、イオスファミド、ダカルバジン等のアルキル化薬、ペントスタチン、フルダラビン、クラドリビン、メソトレキセート、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、エノシタビン等の代謝拮抗薬、リツキシマブ、セツキシマブ、トラスツズマブ等の分子標的薬、イマチニブ、ゲフェチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダサチニブ、スニチニブ、トラメチニブ等のキナーゼ阻害剤、ボルテゾミブ等のプロテアソーム阻害剤、シクロスポリン、タクロリムス等のカルシニューリン阻害薬、イダルビジン、ドキソルビシンマイトマイシンC等の抗がん性抗生物質、イリノテカン、エトポシド等の植物アルカロイド、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン等のプラチナ製剤、タモキシフェン、ビカルダミド等のホルモン療法薬、インターフェロン等の免疫制御薬を挙げることができる。他の抗がん剤は、例えば、アルキル化薬及び代謝拮抗薬のうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0107】
<本開示に係る組み合わせ医薬Aを用いたがんの治療>
本開示に係る組み合わせ医薬Aをがんの治療に用いる場合、治療の対象は例えば任意の哺乳動物でよいが、例えば霊長類の動物であり、より具体的にはヒトであってもよい。治療対象は、愛玩動物又は家畜であってもよく、その例としては、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどが挙げられる。
治療の対象となるがんは、固形がんでも血液がんでもよく、腺がん、扁平上皮がん、腺扁平上皮がん、未分化がん、大細胞がん、小細胞がん、皮膚がん、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、膣がん、子宮頸部がん、子宮がん、肝臓がん、腎臓がん、膵臓がん、脾臓がん、肺がん、気管がん、気管支がん、結腸がん、小腸がん、胃がん、食道がん、胆嚢がん、精巣がん、卵巣がん等のがんや、骨組織、軟骨組織、脂肪組織、筋組織、血管組織及び造血組織のがんのほか、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、骨肉腫、軟部組織肉腫等の肉腫や、肝芽腫、髄芽腫、腎芽腫、神経芽腫、膵芽腫、胸膜肺芽腫、網膜芽腫等の芽腫や、胚細胞腫瘍や、リンパ腫や、白血病を挙げることができる。
本開示に係る組み合わせ医薬Aによればがん微小環境における免疫抑制性を軽減することが可能であるため、治療対象となるがんは血球系のがんに限定されず、固形がんに対しても治療効果を奏する。このため、従来の方法では治療が難しかった固形がんに対しても高い有効性を発揮できる。
【0108】
本開示に係る組み合わせ医薬Aは、がんの確定診断がされる前であっても、対象内におけるがん細胞の存在が疑われる状況においては、対象に予防的に投与してもよい。本開示においては、このような使用形態も、がんの治療のための使用の概念に包含される。
【0109】
<対象におけるがんの治療方法>
本開示に係る一態様によれば、
(a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、並びに
(b)免疫抑制阻害剤
を組み合わせて対象に投与することを含む、対象におけるがんを治療する方法(以下、本開示に係るがんの治療方法Aとも称する)が提供される。
【0110】
ここで、本開示に係るがんの治療方法Aにおける免疫応答性細胞は本開示に係る免疫応答性細胞Aであり、その詳しい構成及び例などについては本開示に係る免疫応答性細胞Aについての上記説明がそのまま当てはまる。また、本開示に係るがんの治療方法Aにおける免疫抑制阻害剤の詳しい構成及び例についても、本開示に係る組み合わせ医薬Aにおける免疫抑制阻害剤についての上記説明がそのまま当てはまる。
【0111】
これに加え、本開示に係るがんの治療方法Aにおける対象、がんの種類、用量、投与スケジュール等の、治療方法の詳細については、前述の本開示に係る組み合わせ医薬Aの説明がそのまま当てはまる。例えば、(a)の免疫応答性細胞と、(b)の免疫抑制阻害剤とは同時に投与されてもよいし、別々の時点で投与されてもよい。また、(a)の免疫応答性細胞と、(b)の免疫抑制阻害剤とは、どちらも治療有効量で投与することができる。
本開示に係るがんの治療方法Aは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、並びに免疫抑制阻害剤からなる因子の組み合わせによる相乗的な効果により、驚くべきほどに向上したがん治療効果を奏する。
【0112】
さらに、本開示によれば、がんを治療するための医薬の製造における、(a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、並びに(b)免疫抑制阻害剤の使用が提供される。この使用においても、免疫応答性細胞、免疫抑制阻害剤、投与用組成物、がんの治療等の詳細については、前述の本開示に係る組み合わせ医薬Aの説明がそのまま当てはまる。
【0113】
加えて、本開示によれば、免疫抑制阻害剤と併用されて対象におけるがんを治療するために用いられる、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞を含む医薬も提供される。本開示に係る免疫応答性細胞Aを含む医薬は、免疫抑制阻害剤と併用されることで、相乗的な効果を生じ、驚くべきほどに向上したがん治療効果を奏する。免疫応答性細胞、免疫抑制阻害剤、投与用組成物、がんの治療等の詳細については、前述の本開示に係る組み合わせ医薬Aの説明がそのまま当てはまる。さらに、免疫抑制阻害剤と併用されて対象におけるがんを治療するために用いられる、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞も提供される。
【0114】
さらに、本開示によれば、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞と併用されて対象におけるがんを治療するために用いられる、免疫抑制阻害剤を含む医薬も提供される。免疫抑制阻害剤を含む医薬は、本開示に係る免疫応答性細胞Aと併用されることで、相乗的な効果を生じ、驚くべきほどに向上したがん治療効果を奏する。免疫応答性細胞、免疫抑制阻害剤、投与用組成物、がんの治療等の詳細については、前述の本開示に係る組み合わせ医薬Aの説明がそのまま当てはまる。さらに、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞と併用されて対象におけるがんを治療するために用いられる、免疫抑制阻害剤も提供される。
【0115】
本開示によれば、免疫抑制阻害剤と併用されることが表示された容器に収容され、かつ、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞を含む医薬も提供される。免疫応答性細胞、免疫抑制阻害剤等の詳細については、前述の本開示に係る組み合わせ医薬Aの説明がそのまま当てはまる。また、医薬の構成の詳細については、前述の第1の投与用組成物の説明がそのまま当てはまる。免疫抑制阻害剤と併用されることが表示された容器は、使用方法の表示が付されたバイアル、静注バッグ、細胞保存用バッグ、点滴用バッグ等の容器であってもよいし、エッペンドルフチューブのような容器であってもよい。このような容器中に、本開示に係る免疫応答性細胞Aを含む医薬は、例えば前述の第1の投与用組成物の説明に記載した状態で収容される。免疫抑制阻害剤と併用されることの表示は、容器のどの面に付されていてもよいが、視認性を考慮して容器の外面に付されていてもよい。また、表示は容器そのものにではなく、1つ又は複数の容器をさらに収納する箱等のケースに付されていてもよい。また、免疫抑制阻害剤と併用されることの表示は、免疫抑制阻害剤と併用されることを明示的に指示している表示に限られず、免疫抑制阻害剤との併用の可能性について言及している任意の表示であってもよい。
【0116】
本開示によれば、免疫抑制阻害剤と併用されることが記載された添付文書と、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞を含む医薬を収容した容器と、を含む製品も提供される。免疫応答性細胞、免疫抑制阻害剤等の詳細については、前述の本開示に係る組み合わせ医薬Aの説明がそのまま当てはまる。また、医薬の構成の詳細については、前述の第1の投与用組成物の説明がそのまま当てはまる。本開示に係る免疫応答性細胞Aを収容した容器は、使用方法の表示が付されたバイアル、静注バッグ、細胞保存用バッグ、点滴用バッグ等の容器であってもよいし、エッペンドルフチューブのような容器であってもよい。このような容器中に、本開示に係る免疫応答性細胞Aを含む医薬は、例えば前述の第1の投与用組成物の説明に記載した状態で収容される。また、添付文書中における免疫抑制阻害剤と併用されることの記載は、免疫抑制阻害剤と併用されることを明示的に指示している記載に限られず、免疫抑制阻害剤との併用の可能性について言及している任意の記載であってもよい。
【0117】
以上説明したとおり、本開示に係る一態様によれば、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、並びに免疫抑制阻害剤の組み合わせによる相乗的な効果により、驚くべきほどに向上したがん治療効果を得ることができる。
【0118】
本開示に係る実施形態には以下のものが含まれる。
<1> (a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、並びに
(b)免疫抑制阻害剤
を含む、対象におけるがんを治療するための組み合わせ医薬。
<2> 前記免疫応答性細胞と、前記免疫抑制阻害剤とが、異なる時点で別々に投与される、<1>に記載の組み合わせ医薬。
<3> インターロイキン7をコードする遺伝子及びCCL19をコードする遺伝子が外来性であり、双方が前記免疫応答性細胞のゲノムに組み込まれているか、又は前記免疫応答性細胞中に存在する1個又は複数個のベクターに一緒に若しくは別個にコードされている、<1>又は<2>に記載の組み合わせ医薬。
<4> 前記がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子が、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)である、<1>~<3>のうちいずれか1つに記載の組み合わせ医薬。
<5> 前記免疫抑制阻害剤が、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、PD-L2阻害剤、CTLA-4阻害剤、BTLA(B- and T-lymphocyte attenuator)阻害剤、TIM-3(T-cell immunoglobulin and mucin domain 3)阻害剤、TIGIT(T-cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)阻害剤、LAG-3(Lymphocyte Activation Gene-3)阻害剤、及びSiglec-15阻害剤からなる群から選択される1種以上を含む、<1>~<4>のうちいずれか1つに記載の組み合わせ医薬。
<6> 前記免疫抑制阻害剤が抗体である、<1>~<5>のうちいずれか1つに記載の組み合わせ医薬。
<7> 前記抗体が、IgGモノクローナル抗体又は抗体断片である、<6>に記載の組み合わせ医薬。
<8> 前記がんが固形がんである、<1>~<7>のうちいずれか1つに記載の組み合わせ医薬。
<9> 前記免疫応答性細胞が、前記対象自身に由来する免疫応答性細胞である、<1>~<8>のうちいずれか1つに記載の組み合わせ医薬。
<10> 前記免疫応答性細胞が、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、及びB細胞等のリンパ球系細胞、単球、マクロファージ、及び樹状細胞等の抗原提示細胞、好中球、好酸球、好塩基球、並びに肥満細胞からなる群から選択される、<1>~<9>のうちいずれか1つに記載の組み合わせ医薬。
<11> 免疫抑制阻害剤と併用されて対象におけるがんを治療するために用いられる、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞を含む医薬。
<12> がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、及びCCL19を発現する免疫応答性細胞と併用されて対象におけるがんを治療するために用いられる、免疫抑制阻害剤を含む医薬。
<13> 前記免疫抑制阻害剤と前記免疫応答性細胞とが異なる時点で別々に投与される形態にて用いるための、<11>又は<12>に記載の医薬。
<14> 免疫抑制阻害剤と併用されることが表示された容器に収容され、かつ、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞を含む医薬。
<15> 免疫抑制阻害剤と併用されることが記載された添付文書と、
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞を含む医薬を収容した容器と、
を含む製品。
<16> (a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、並びに
(b)免疫抑制阻害剤
を含む、対象におけるがんを治療するための医薬組成物。
<17> 前記がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子が、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)である、<16>に記載の医薬組成物。
<18> (a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、並びに
(b)免疫抑制阻害剤
を組み合わせて対象に投与することを含む、対象におけるがんを治療する方法。
<19> がんを治療するための医薬の製造における、(a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、並びに(b)免疫抑制阻害剤の使用が提供される。
【0119】
以下、本開示に係るさらなる態様について説明する。
本開示の一態様によれば、
(a)インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせ、並びに
(b)免疫抑制阻害剤
を含む、対象におけるがんを治療するための組み合わせ医薬(以下、「本開示に係る組み合わせ医薬B」とも称する)が提供される。
【0120】
ここで、組み合わせ医薬Bにおけるインターロイキン7、CCL19、インターロイキン7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害剤の定義、例、アミノ酸配列、塩基配列、好ましい実施形態等の詳細は、本開示に係る免疫応答性細胞A及び本開示に係る組み合わせ医薬Aにおける、インターロイキン7、CCL19、インターロイキン7をコードする遺伝子、CCL19をコードする遺伝子、及び免疫抑制阻害剤の定義、例、アミノ酸配列、塩基配列、好ましい実施形態等の詳細と、それぞれ同様である。
【0121】
また、本開示において「協同して含む」とは、複数の要素(例えば、複数の細胞、複数の核酸送達媒体、又は1つ以上の細胞及び1つ以上の核酸送達媒体)が存在する場合に、含まれる対象として示された物質(例えば特定のポリペプチドをコードする核酸)が、前記複数の要素のうち少なくとも1つには含まれていることを意味し、前記複数の要素の全てが当該物質を含んでいることは必要無い。つまり、「協同して含む」とは、「全体として含む」と表現することもできる。また、「協同して含む」の意味する範囲には、含まれる対象として示された複数の物質の全てが単一の細胞又は核酸送達媒体に含まれる場合も包含され、このような構成も好ましい構成の一つである。
【0122】
このため、本開示に係る組み合わせ医薬Bが、細胞I及び細胞IIを含む場合、細胞Iがインターロイキン7をコードする核酸を含んでCCL19をコードする核酸を含まず、細胞IIがCCL19をコードする核酸を含んでインターロイキン7をコードする核酸を含まない構成であってもよい。同様に、本開示に係る組み合わせ医薬Bが、核酸送達媒体I及び核酸送達媒体IIを含む場合、核酸送達媒体Iがインターロイキン7をコードする核酸を含んでCCL19をコードする核酸を含まず、核酸送達媒体IIがCCL19をコードする核酸を含んでインターロイキン7をコードする核酸を含まない構成であってもよい。
あるいは、本開示に係る組み合わせ医薬Bは、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸の両方を含む単一の細胞又は核酸送達媒体を含んでいてもよい。
【0123】
さらに、「インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせ」における「それらの組み合わせ」とは、1種類又は複数種類の細胞と、1種類又は複数種類の核酸送達媒体との組み合わせであって、インターロイキン7をコードする核酸がそれら1種類又は複数種類の細胞及び1種類又は複数種類の核酸送達媒体のうち少なくとも1つに含まれ、CCL19をコードする核酸がそれら1種類又は複数種類の細胞及び1種類又は複数種類の核酸送達媒体のうち少なくとも1つに含まれている組み合わせを表す。
【0124】
さらに、本開示においてポリペプチドとは、アミノ酸残基がペプチド結合で連結したポリマー一般を示し、いわゆるタンパク質もその例に含まれる。ポリペプチドのアミノ酸残基数は10以上であってもよく、20以上であってもよく、30以上であってもよく、40以上であってもよく、50以上であってもよく、70以上であってもよく、100以上であってもよい。アミノ酸残基数の上限値は特に制限されないが、アミノ酸残基数は10000以下であってもよく、5000以下であってもよく、2000以下であってもよく、1000以下であってもよく、500以下であってもよく、200以下であってもよく、100以下であってもよく、70以下であってもよく、50以下であってもよく、40以下であってもよく、30以下であってもよく、20以下であってもよい。上記の下限値と上限値とは、矛盾の生じない限りにおいて自由に組み合わせて範囲を形成することができる。
【0125】
本開示に係る組み合わせ医薬Bにおいて、細胞とは、含有対象として言及された核酸(例えば、インターロイキン7をコードする核酸及び/又はCCL19をコードする核酸)を発現することが可能な細胞である限りは特に限定されない。細胞は、体内に導入された場合に、がん細胞周辺に集積あるいは浸潤する細胞であることが好ましい。含有対象として言及された核酸が一つの細胞内に2つ以上存在する場合、該細胞内において、それらの核酸は、それぞれ独立に、ゲノムに組み込まれた状態又はプラスミドに担持された状態で含まれていてもよく、あるいは互いに連結されてゲノムに組み込まれた状態又はプラスミドに担持された状態で含まれていてもよい。前記細胞の例としては、免疫応答性細胞、嫌気性菌の細胞、及び間葉系幹細胞(MSC)が挙げられる。
【0126】
本開示に係る組み合わせ医薬Bにおいて、核酸送達媒体とは、含有対象として言及された核酸(例えば、インターロイキン7をコードする核酸及び/又はCCL19をコードする核酸)を細胞に送達して発現させることが可能な核酸送達媒体である限りは特に限定されない。該細胞は、ヒトの細胞であることが好ましく、ヒトの体内の細胞であることがより好ましく、ヒト体内のがん細胞又は免疫応答性細胞であることがさらに好ましい。つまり、核酸送達媒体は、体内に導入された場合に、がん細胞内又は免疫応答性細胞内に核酸を送達する核酸送達媒体であることが好ましい。
前記核酸送達媒体の例としては、ウイルス、リポソーム及びナノ粒子が挙げられる。核酸送達媒体として当業界で知られているものを、常法に従って用いればよい。核酸送達媒体として、ウイルスベクターを用いることも可能である。
含有対象として言及された核酸が2つ以上、一つの核酸送達媒体内に存在する場合、該核酸送達媒体内において、それらの核酸は、それぞれ独立した状態で含まれていてもよく、あるいは互いに連結された状態で含まれていてもよい。
【0127】
がん細胞は免疫応答性細胞ががん細胞を攻撃したり、がん細胞を攻撃する指示を発したりすることを抑制する免疫抑制機構を有しているため、がん罹患者自身の免疫によるがん細胞への攻撃が抑制されている。本開示に係る組み合わせ医薬Bの構成要素の1つである免疫抑制阻害剤は、がん細胞による免疫抑制機構を阻害することで、がん罹患者の免疫系ががん細胞を攻撃することをより容易にすると考えられる。
これらに加えて、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせが、がん組織の近傍でIL-7を発現し、又は細胞(典型的には体内の細胞)に核酸送達してIL-7を発現させ、さらにCCL19を発現し、又は細胞(典型的には体内の細胞)に核酸送達してCCL19を発現させることにより、がん罹患者の内因性の免疫応答性細胞ががん細胞の周囲に集積するため、がん細胞をより効果的に攻撃することが可能になると考えられる。この点から、核酸送達の対象となる細胞は、体内のがん細胞であることが好ましい。
本開示に係る組み合わせ医薬Bは、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせと、免疫抑制阻害剤とを含むことによって、発現したIL-7及びCCL19、並びに免疫抑制阻害剤からなる因子の組み合わせによる相乗的な効果を発揮し、このために大きく改善したがん治療効果を奏すると考えられる。この相乗的な効果は、それぞれの因子の個別の効果からは予測することができないほど優れた効果である。
【0128】
ある実施形態では、組み合わせ医薬Bにおける前記1種類又は複数種類の細胞又は核酸送達媒体は、免役応答性細胞等、がん細胞以外の細胞に核酸を送達する。かかる実施形態では、本開示に係る組み合わせ医薬Bにおける前記1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸をさらに含んでいてもよい。この場合、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含む細胞又は核酸送達媒体は、インターロイキン7をコードする核酸を含んでいてもいなくてもよく、CCL19をコードする核酸を含んでいてもいなくてもよい。つまり、本開示に係る組み合わせ医薬Bにおける前記1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせが、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸をさらに含む場合は、前記1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせは、インターロイキン7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及びがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を協同して(言い換えれば全体として)含んでいればよい。
本開示に係る組み合わせ医薬Bにおける前記1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせが、核酸を送達した細胞において、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をさらに発現させることにより、がん治療効果をいっそう増強しうる。例えば、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を核酸送達媒体に含ませた場合、当該核酸送達媒体を対象に投与して対象の体内のT細胞に前記核酸を導入することによって、当該T細胞において細胞表面分子が発現する。
【0129】
ある実施形態では、組み合わせ医薬Bにおける前記1種類又は複数種類の細胞又は核酸送達媒体は、がん細胞に核酸を送達するために、がん細胞を特異的に認識する分子をその表面に有する。がん細胞を特異的に認識する分子の例及び好ましい実施形態等の詳細については、がん細胞を特異的に認識する細胞表面分子の例及び好ましい実施形態等の詳細と同様である。
組み合わせ医薬Bにおける前記1種類又は複数種類の細胞又は核酸送達媒体が「細胞」の場合、例えば、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を当該細胞に導入し、組み合わせ医薬Bの投与前に培養することによって、その表面にがん抗原を特異的に認識するscFv等を発現させることができる。
組み合わせ医薬Bにおける前記1種類又は複数種類の細胞又は核酸送達媒体が「ウイルス」の場合、例えば、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸をウイルスゲノムに組み込み、適当な細胞にトランスフェクションしてウイルスを産生・増殖させることにより、その表面にがん抗原を特異的に認識するscFv等を発現させることができる。scFv等の抗体はウイルスのエンベロープ又はカプシドに含ませてもよく、例えば、ヘルペスウイルスを用いる場合、ヘルペスウイルスへの侵入を担うエンベロープ糖タンパク質gDを本来の受容体に結合不能とした上で、該エンベロープ糖タンパク質gDにがん抗原を特異的に認識するscFv等の抗体を挿入してもよい。
また、組み合わせ医薬Bにおける前記1種類又は複数種類の細胞又は核酸送達媒体がリポソームやナノ粒子などの場合は、予め、表面にがん細胞を特異的に認識する分子を、公知の方法又はそれに準ずる方法で結合させておくことができる。
【0130】
ここで、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、及びがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸の定義、例、アミノ酸配列、塩基配列、好ましい実施形態等の詳細は、本開示に係る免疫応答性細胞A及び本開示に係る組み合わせ医薬Aにおけるがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、及びがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子の定義、例、アミノ酸配列、塩基配列、好ましい実施形態等の詳細と、それぞれ同様である。
【0131】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸は、免疫応答性細胞に含まれることが好ましい。言い換えれば、本開示に係る組み合わせ医薬Bにおける前記1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含む免疫応答性細胞を含むことが好ましい。該免疫応答性細胞は、インターロイキン7をコードする核酸を含んでいてもいなくてもよく、CCL19をコードする核酸を含んでいてもいなくてもよい。がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子は、がん抗原を特異的に認識するT細胞受容体(TCR)、がん抗原を特異的に認識するキメラ抗原受容体(CAR)等の、細胞表面に発現することによってがんに対する特異的な識別能を細胞に付与する分子であることが好ましい。
このため、ある実施形態では、本開示に係る組み合わせ医薬Bは、CAR-T又はTCR-Tを用いた処置と併用することができるともいえる。
【0132】
一つの実施形態においては、前記インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞を含んでいてもよい。また、免疫抑制阻害剤は、細胞が発現した免疫抑制阻害性ポリペプチドであってもよく、本開示に係る組み合わせ医薬Bは、免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現する細胞を含んでいてもよい。該細胞の例としては、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせにおける細胞の例として後述された細胞が挙げられる。あるいは、本開示に係る組み合わせ医薬Bにおける免疫抑制阻害剤の代わりに、免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を含む核酸送達媒体を含ませることも、本開示に係る実施形態の範疇に含まれる。該核酸送達媒体は、他の核酸を含む核酸送達媒体と同じ核酸送達媒体であっても、別個の核酸送達媒体であってもよい。
このため、本開示のある実施形態によれば、前記免疫抑制阻害剤がポリペプチドであって、前記細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせが、免疫抑制阻害剤ポリペプチドをコードずる核酸をさらに協同して含む。
【0133】
また、本開示に係る組み合わせ医薬Bが、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞と、免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現する細胞とを含む場合、これらは同じ細胞であってもよく、別の細胞であってもよい。がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞と、免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現する細胞とが同じ免疫応答性細胞である場合、本開示に係る組み合わせ医薬Bは、該免疫応答性細胞を含むことにより、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせ、並びに免疫抑制阻害剤を含むといえる。もちろん、免疫抑制阻害剤は、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせとは独立した成分として、本開示に係る組み合わせ医薬Bに含まれていてもよい。言い換えれば、前記1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせにより発現される物質ではなく、別個に加えられた物質として、本開示に係る組み合わせ医薬Bに含まれていてもよい。
【0134】
上記のとおり、本開示に係る組み合わせ医薬Bにおける細胞若しくは核酸送達媒体又はその組み合わせは、免疫応答性細胞、ウイルス、嫌気性菌、リポソーム、間葉系幹細胞(MSC)、及びナノ粒子からなる群から選択される少なくとも1つであってもよく、これらから選ばれる複数を混合して用いてもよい。
【0135】
ここで、免疫応答性細胞は、免疫応答に関与し、含有の対象となる核酸(例えば、インターロイキン7をコードする核酸及び/又はCCL19をコードする核酸)を含んで発現できる細胞であれば特に制限されない。送達対象となる核酸は、免疫応答細胞のゲノムに含まれていても、ゲノム外のベクターに担持されていてもよいが、例えば、遺伝子担持の安定性の観点からゲノム中に含まれていてもよい。前記免疫応答性細胞は、生体から採取された免疫応答性細胞であることが好ましく、例えば、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、B細胞等のリンパ球系細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞等の抗原提示細胞、並びに好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞等の顆粒球が挙げられる。好ましい例としては、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、マウス等の哺乳動物から採取されたT細胞、さらに好ましくはヒトから採取されたT細胞が挙げられる。なお、生体から採取されたT細胞を含む細胞集団を用いる場合、該細胞集団はT細胞以外に他の細胞も含んでいてもよいが、細胞数基準で全細胞数のうちの50%以上、又は60%以上、又は70%以上、又は80%以上、又は90%以上の割合でT細胞を含んでいてもよい。T細胞等の免疫応答性細胞は、例えば、血液、骨髄液等の体液、脾臓、胸腺、リンパ節等の組織、若しくは原発腫瘍、転移性腫瘍、がん性腹水等のがん組織に浸潤する免疫細胞から、免疫応答性細胞を含む細胞集団を採取して得ることができる。細胞集団に含まれるT細胞等の免疫応答性細胞の割合を高めるため、分離した細胞集団を、必要に応じて、定法による単離工程又は精製工程に供してもよい。また、免疫応答性細胞は、ES細胞又はiPS細胞から作製された免疫応答性細胞であってもよい。免疫応答性細胞の例としてのT細胞の例としては、アルファ・ベータT細胞、ガンマ・デルタT細胞、CD8+T細胞、CD4+T細胞、腫瘍浸潤T細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、及びNKT細胞が挙げられる。なお、免疫応答性細胞の由来と、組み合わせ医薬の投与対象とは同じ個体であっても異なる個体であってもよいが、同じ個体であることが好ましい。例えば、投与対象がヒトの場合、免疫応答性細胞は、投与対象としての患者本人から採取した自家細胞であっても、他人から採取した他家細胞であってもよい。すなわち、ドナーとレシピエントは一致しても不一致でもよいが、一致することが好ましい。
【0136】
核酸送達媒体としてのウイルスは、送達対象となる核酸(例えば、インターロイキン7をコードする核酸及び/又はCCL19をコードする核酸)を封入でき、がん細胞に感染しうるウイルスであることが好ましく、腫瘍溶解性ウイルスであることがより好ましい。上記腫瘍溶解性ウイルス(oncolytic virus)とは、正常細胞に感染してもほとんど増殖しないが、がん細胞に感染すると増殖し、がん細胞を死滅(がん細胞傷害)させる能力を有するウイルスを意味し、例えばMolecular Therapy、第18巻、第2号、2010年2月、233~234ページに総説されている。腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞に感染してがん細胞を死滅させる能力を有する限り特に限定されないが、その例としては、腫瘍溶解性ワクシニアウイルス、腫瘍溶解性アデノウイルス、腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス、腫瘍溶解性レオウイルス、腫瘍溶解性麻疹ウイルス、腫瘍溶解性ニューカッスル病ウイルス、腫瘍溶解性牛痘ウイルス、腫瘍溶解性ムンプスウイルス、及び腫瘍溶解性コクサッキーウイルスが挙げられる。
【0137】
腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、例えば、Kim MK et al. Science Translational Medicine. 2013 May 15;5(185):185ra63、Heo J, et al. Nature Medicine, 2013 (3):329-36. doi: 10.1038/nm.3089. Epub 2013 Feb 10.、国際公開第2012/094386号に記載のワクシニアウイルスであるが、これに限定されない。腫瘍溶解性アデノウイルスの例としては、Tedcastle A et al. Mol Ther. 2016;24:796-804, Marino N, Illingworth S, Kodialbail P, Patel A, Calderon H, Lear R, Fisher KD, Champion BR, Brown ACN. PLoS One 2017;12(5):e0177810、Freedman JD, et al. EMBO Mol Med 9:1067-1087 (2017)、Lang FF et al., Journal of Clinical Oncology (2018)、James M. et al. The Journal of Oncology, 188(6):2391-7, 2012、特許第3867968号公報及び特許第5574284号公報に記載のアデノウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。また、腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルスの例としては、Mazzacurati et al., Mol Ther, 2015 Jan;23(1):99-107、Hirooka Y, et al. BMC Cancer 2018, 18, 596、Nakatake R, et al. Cancer Sci. 2018 Mar, 109(3);600-610.及びAndtbacka RHI, et al. J Clin Oncol. 2015;33:2780-2788に記載の単純ヘルペスウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。腫瘍溶解性レオウイルスの例としては、Mahalingam, et al, Cancers 2018, 10, 160に記載のレオウイルスが挙げられるが、これに限定されない。腫瘍溶解性ニューカッスル病ウイルスの例としては、Journal of Virology. 2016 Jun; 90(11):5343-5352.に記載のニューカッスル病ウイルスが挙げられるが、これに限定されない。腫瘍溶解性水泡口内炎ウイルス病ウイルスの例としては、Muik A. et al. Cancer Res; 74(13); 3567-78. に記載の水泡口内炎ウイルス病ウイルスが挙げられるが、これに限定されない。腫瘍溶解性ウイルスは、遺伝子改変により付加されたタンパク質発現機能を有しているものもある。当該付加されたタンパク質発現機能により発現されるタンパク質として、送達対象となる核酸にコードされるポリペプチド(例えば、インターロイキン7及び/又はCCL19)を発現させてもよい。
【0138】
「インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせ」における細胞としての嫌気性菌は、含有の対象となる核酸(例えば、インターロイキン7をコードする核酸及び/又はCCL19をコードする核酸)を含んで発現できる嫌気性菌の細胞であれば特に制限されない。嫌気性菌は、がん細胞に集積する能力を有する嫌気性グラム陽性菌であることが好ましく、その例としては、ビフィズス菌等のビフィドバクテリウム属菌、ラクトバシラス属菌、及びリステリア属菌が挙げられる。なお、嫌気性菌は酸素が少ない環境下で生育しやすいことから、がん細胞に集積しやすいことが知られている。嫌気性菌は、本開示に係る組み合わせ医薬Bの投与の対象の体内の細胞に取り込まれることも可能である。
【0139】
核酸送達媒体としてのリポソームは、送達対象となる核酸(例えば、インターロイキン7をコードする核酸及び/又はCCL19をコードする核酸)を封入でき、リン脂質二重膜から構成される脂質ナノカプセルであれば特に制限されない。かかるリポソームは、市販品であってもよく、常法によって合成されたリポソームであってもよい。リポソームは、がん細胞への集積を向上するために、PEG修飾を受ける、あるいはレクチン若しくはタンパク質(例えば抗体)等の標的化プローブ分子を表面に有していてもよい。
【0140】
「インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせ」における細胞としての間葉系幹細胞(MSC)は、含有の対象となる核酸(例えば、インターロイキン7をコードする核酸及び/又はCCL19をコードする核酸)を含んで発現できるMSCであれば特に制限されない。MSCは、がん細胞に集積するMSCであることが好ましい。
【0141】
核酸送達媒体としてのナノ粒子は、送達対象となる核酸(例えば、インターロイキン7をコードする核酸及び/又はCCL19をコードする核酸)をがん細胞に送達できる能力を有し、ナノメートルオーダー、好ましくは直径5~800nmの粒子体であれば特に制限されない。ナノ粒子の例としては、金ナノ粒子等の金属ナノ粒子、及びシリカナノ粒子が挙げられる。かかるナノ粒子は市販品であってもよく、常法によって合成されたナノ粒子であってもよい。ナノ粒子は、例えばEnhanced Permeability and Retention Effect(EPR効果)により、がん細胞に到達しうる。ナノ粒子の材質に応じて、核酸はナノ粒子の表面に結合させる、ナノ粒子内に封入する等の形でナノ粒子に含ませることができる。
【0142】
本開示に係る組み合わせ医薬Bにおいて、それぞれ細胞又は核酸送達媒体に含まれるインターロイキン7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び任意に含まれるがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸は、それぞれプロモーターの下流に作動可能に連結されていることが好ましい。これらの核酸を細胞又は核酸送達媒体に含ませる操作は、常法に従って行えばよい。細胞に核酸を導入する場合には、例えば、エレクトロポレーション法(例えばCytotechnology,3,133(1990)参照)、リン酸カルシウム法(例えば特開平2-227075号公報参照)、リポフェクション法(例えばProc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,84,7413(1987)参照)、及びウイルス感染法から選択される方法を用いて導入を行うことができる。ウイルス感染法は、導入する核酸を含むベクターと、パッケージングプラスミドとを、GP2-293細胞(タカラバイオ社製)、Plat-GP細胞(コスモ・バイオ社製)、PG13細胞(ATCC CRL-10686)、又はPA317細胞(ATCC CRL-9078)といったパッケージング細胞にトランスフェクションして組換えウイルスを作製し、かかる組換えウイルスをT細胞に感染させる方法(例えば国際公開第2017/159736号参照)であってもよい。
【0143】
あるいは、導入対象となる核酸は、公知の遺伝子編集技術を用いて、適切なプロモーターの制御下で発現可能なように、細胞のゲノムに組み込まれてもよい。公知の遺伝子編集術の例としては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN(転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ)、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)-Casシステム等のエンドヌクレアーゼを用いる技術が挙げられる。
【0144】
含有対象となる核酸が細胞に含まれる場合、当該核酸は細胞のゲノムに組み込まれていても、細胞内のベクターに担持されていてもよい。含有対象となる核酸が2つ以上、同じ細胞に含まれている場合には、それらは隣接して細胞のゲノムに組み込まれていてもよいし、別個に細胞のゲノムに組み込まれていてもよいし、同じベクター中に含まれていてもよいし、別個のベクター中に別々に含まれていてもよい。また、含有対象となる核酸のうちいくつかがゲノムに含まれ、残りがベクターに含まれていてもよい。
【0145】
含有対象となる核酸が核酸送達媒体に含まれる場合、当該核酸は単独で含まれていても、ベクターに担持されていてもよい。含有対象となる核酸が2つ以上、同じ核酸送達媒体に含まれている場合には、それらは同じベクター中に含まれていてもよいし、別個のベクター中に別々に含まれていてもよいし、同じウイルス中に含まれていてもよいし、別個のウイルス中に含まれていてもよい。また、別々の核酸は、同じ核酸送達媒体に含まれていても、別々の核酸送達媒体に含まれていてもよい。
【0146】
ベクターは直鎖状でも環状でもよく、プラスミド等の非ウイルスベクターでも、ウイルスベクターでも、トランスポゾンによるベクターでもよい。ベクターは、プロモーター、ターミネーター等の制御配列、薬剤耐性遺伝子、レポーター遺伝子等の選択マーカー配列のうち1つ以上を含有していてもよい。ベクターに含まれるプロモーターを利用して、ベクターに含まれる遺伝子の発現を行わせるようにしてもよい。
【0147】
本開示に係る組み合わせ医薬Bは、IL-7及びCCL19、並びに免疫抑制阻害剤からなる因子の組み合わせによる相乗的な効果により、驚くべきほどに向上したがん治療効果を奏する。該効果は、本開示に係る組み合わせ医薬Bが、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含む細胞又は核酸送達媒体を含む場合により顕著であり、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含む免疫応答性細胞を含む場合にさらに顕著である。
【0148】
本開示に係る組み合わせ医薬Bにおいて、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせを含む投与用組成物(以下、第3の投与用組成物とも称する)は、さらに薬学的に許容される添加剤を含有していてもよく、前記添加剤としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、細胞培養培地、デキストロース、注射用水、グリセロール、エタノール及びこれらの組合せ、安定剤、可溶化剤及び界面活性剤、緩衝剤及び防腐剤、等張化剤、充填剤、並びに潤滑剤を挙げることができる。
【0149】
本開示に係る組み合わせ医薬Aにおける投与組成物についての説明は、第1の投与用組成物を第3の投与用組成物に読み替えて、本開示に係る組み合わせ医薬Bの投与のための投与組成物に適用することができる。例えば、第2の投与用組成物は、第3の投与用組成物と同一の組成物であってもよく、この場合は1つの投与用組成物が前記1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせと、免疫抑制阻害剤の両方を含むことになる。この場合は、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせと、免疫抑制阻害剤の両方を含む医薬組成物(合剤)が提供される。
第2の投与用組成物が第3の投与用組成物と別個の組成物である場合は、第3の投与用組成物と第2の投与用組成物は一緒に投与してもよいし、別々のタイミング(時点)で投与してもよい。
このため、前記細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせと、前記免疫抑制阻害剤とは、異なる時点で別々に投与されてもよい。
ただし、本開示に係る組み合わせ医薬Aにおける投与組成物についての説明における本開示に係る免疫応答性細胞Aの量の記載は、前記1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせが細胞を含む場合における第3の投与用組成物中における細胞量の記載に読み替えて、本開示に係る組み合わせ医薬Bにおける投与組成物の説明に適用するものとする。
【0150】
その他、本開示に係る組み合わせ医薬Aについての説明は、本開示に係る組み合わせ医薬Aを本開示に係る組み合わせ医薬Bと読み替え、本開示に係る免疫応答性細胞A及び「がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞」を、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせに読み替えて、特に矛盾の無い限り、本開示に係る組み合わせ医薬Bに適用できる。これには、治療対象の生物種、個体、疾患の種類、用量、投与スケジュール等、組み合わせ医薬の使用形態についての説明も含まれる。
【0151】
前記1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせが核酸送達媒体を含む場合における第3の投与用組成物中における核酸送達媒体の量は、がんの種類、位置、重症度、治療を受ける対象の年齢、体重及び状態等に応じて適宜調整できるが、送達すべき核酸を治療有効量送達するのに適切な量とすればよい。
【0152】
本開示に係る組み合わせ医薬Aを用いたがんの治療についての説明は、本開示に係る組み合わせ医薬Aを本開示に係る組み合わせ医薬Bと読み替え、本開示に係る免疫応答性細胞A及びがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞を、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせに読み替えて、本開示に係る組み合わせ医薬Bを用いたがんの治療に適用できる。例えば、本開示に係る一態様によれば、
(a)インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせ、並びに
(b)免疫抑制阻害剤
を組み合わせて対象に投与することを含む、対象におけるがんを治療する方法(以下、本開示に係るがんの治療方法Bとも称する)が提供される。
【0153】
同様に、本開示によれば、がんを治療するための医薬の製造における、(a)インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせ、並びに(b)免疫抑制阻害剤の使用が提供される。また、免疫抑制阻害剤と併用されて対象におけるがんを治療するために用いられる、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせを含む医薬も提供される。さらに、免疫抑制阻害剤と併用されて対象におけるがんを治療するために用いられる、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせも提供される。インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせと、免疫抑制阻害剤とは、一緒に投与されても、異なる時点で別々に投与されてもよい。
【0154】
さらに、本開示によれば、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせと併用されて対象におけるがんを治療するために用いられる、免疫抑制阻害剤を含む医薬も提供される。さらに、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせと併用されて対象におけるがんを治療するために用いられる、免疫抑制阻害剤も提供される。
【0155】
本開示によれば、免疫抑制阻害剤と併用されることが表示された容器に収容され、かつ、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせを含む医薬も提供される。容器、表示等の詳細は、上述のとおりである。加えて、免疫抑制阻害剤と併用されることが記載された添付文書と、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせを含む医薬を収容した容器と、を含む製品も提供される。容器、添付文書等の詳細は、上述のとおりである。
【0156】
以上説明したとおり、本開示に係る一態様によれば、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせ、並びに免疫抑制阻害剤の組み合わせによる相乗的な効果により、驚くべきほどに向上したがん治療効果を得ることができる。
【0157】
本開示に係るさらなる態様によれば、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現する免疫応答性細胞(以下、本開示に係る免疫応答性細胞Cとも称する)が提供される。
【0158】
ここで、本開示に係る免疫応答性細胞Cにおける、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、CCL19、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、インターロイキン7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害剤の定義、例、アミノ酸配列、塩基配列、好ましい実施形態等の詳細は、本開示に係る免疫応答性細胞A及び本開示に係る組み合わせ医薬Aにおける、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、CCL19、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、インターロイキン7をコードする遺伝子、CCL19をコードする遺伝子、及び免疫抑制阻害剤の定義、例、アミノ酸配列、塩基配列、好ましい実施形態等の詳細と、それぞれ同様である。
【0159】
本開示に係る免疫応答性細胞Cは、本開示に係る免疫応答性細胞Aがさらに免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現している細胞であると考えることができる。したがって、免疫応答性細胞Aの説明において既に説明済みの事項(がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、及びCCL19についての説明等)については、免疫応答性細胞Aの説明におけるそれらの記載と同様であるので、説明を省略する。
【0160】
免疫抑制阻害性ポリペプチドとは、本開示に係る組み合わせ医薬Aにおける免疫抑制阻害剤の範疇に入る物質のうち、ポリペプチドに該当するものを指す。免疫抑制阻害性ポリペプチドは、免疫応答性細胞活性化の抑制を解除又は低減する。
【0161】
免疫抑制阻害性ポリペプチドの例としては、免疫チェックポイント阻害性ポリペプチド、Treg、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)等の免疫抑制性細胞の浸潤、生存、又は機能を阻害するポリペプチド、CCR4阻害性ポリペプチド、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害性ポリペプチド、プロスタグランジンE2[PGE2]抑制性ポリペプチド、細胞傷害性抗がん性ポリペプチドが挙げられる。免疫抑制阻害性ポリペプチドは、これらの機能を有する限り、抗体であってもよく、例えばIgGモノクローナル抗体又は抗体断片であってもよい。
免疫チェックポイント阻害性ポリペプチドは、典型的にはT細胞の表面に発現する免疫チェックポイント分子を介した免疫抑制機構を解除又は軽減させるポリペプチドである。免疫チェックポイント阻害性ポリペプチドは、例えば、免疫チェックポイント分子(例えばPD-1、CTLA-4、BTLA、TIM-3、TIGIT、LAG-3等)又は免疫チェックポイント分子のリガンド(例えばPD-L1、PD-L2、CD80/CD86、Siglec-15等)に結合して、リガンドにより免疫チェックポイント分子からのシグナル伝達が開始されることを阻害することで、免疫応答に対する抑制反応を減少させることができる。
【0162】
免疫チェックポイント阻害性ポリペプチドの例としては、PD-1阻害性ポリペプチド、PD-L1阻害性ポリペプチド、CTLA-4阻害性ポリペプチド、CD47阻害性ポリペプチド、SIRPα阻害性ポリペプチド、BTLA阻害性ポリペプチド、TIM-3阻害性ポリペプチド、TIGIT阻害性ポリペプチド、LAG-3阻害性ポリペプチド、Siglec-15阻害性ポリペプチド、ガレクチン-9阻害性ポリペプチド等が挙げられる。CCR4阻害性ポリペプチドの例としては、抗CCR4抗体(例えばモガムリズマブ)等が挙げられる。
【0163】
免疫抑制阻害性ポリペプチドは、PD-1阻害性ポリペプチド、PD-L1阻害性ポリペプチド、PD-L2阻害性ポリペプチド、CTLA-4阻害性ポリペプチド、BTLA(B- and T-lymphocyte attenuator)阻害性ポリペプチド、TIM-3(T-cell immunoglobulin and mucin domain 3)阻害性ポリペプチド、TIGIT(T-cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)阻害性ポリペプチド、LAG-3(Lymphocyte Activation Gene-3)阻害性ポリペプチド、及びSiglec-15阻害性ポリペプチドからなる群から選択される1種以上を含んでいてもよい。
【0164】
免疫抑制阻害性ポリペプチドは、免疫チェックポイント阻害性ポリペプチドであってもよく、より具体的にはPD-1阻害性ポリペプチド又はPD-L1阻害性ポリペプチドであってもよく、さらに具体的にはPD-1に対する抗体又はPD-L1に対する抗体であってもよい。PD-1に対する抗体の例としては、Nivolumab(ニボルマブ)、Pembrolizumab(ペムブロリズマブ)、Toripalimab(トリパリマブ)、Cemiplimab-rwlc(セミプリマブ)、Sintilimab(シンチリマブ)等が挙げられる。PD-L1に対する抗体の例としては、Atezolizumab(アテゾリズマブ)、Durvalumab(デュルバルマブ)、Avelumab (アベルマブ)等が挙げられる。CTLA-4に対する抗体の例としては、Ipilimumab(イピリムマブ)等が挙げられる。他にCD47、SIRPαに対する抗体等も挙げられる。
【0165】
抗体は、所定の抗原結合性を有していればIgGモノクローナルであっても、Fab断片であっても、scFvであっても、それ以外の抗体又は抗体断片であってもよい。免疫抑制阻害性ポリペプチドとしての抗PD-1scFvの例としては、配列番号16におけるN末端から数えて592~835位のアミノ酸配列が挙げられ、それをコードする核酸配列の例としては、配列番号15における5’末端から数えて1717番目の残基~2505番目の残基の核酸配列が挙げられる。
【0166】
目的の標的に対する一本鎖抗体(scFv)は、公知の手法により作製することもできる。例えば、マウス等に抗原を接種してからリンパ組織を採取して、抗体遺伝子のライブラリーを作製し、抗体ダイレクトクローニングによりがん抗原を認識する抗体をコードする塩基配列を得て、それを基に一本鎖抗体を設計してもよい。あるいは、採取したリンパ組織を用いてハイブリドーマを作製し、がん抗原を認識する抗体をコードするハイブリドーマを同定してモノクローナル抗体を得て、その配列情報を基に一本鎖抗体を設計してもよい。あるいは、健常人のB細胞から作製したナイーブ抗体ライブラリー、がん抗原に対して高い中和活性を示す抗血清をもつがん罹患者由来のB細胞から作製した抗体ライブラリー等を基にして一本鎖抗体のライブラリーを作製し、これをファージディスプレイにより提示させてがん抗原を認識する一本鎖抗体を選抜してもよい。
【0167】
本開示に係る免疫応答性細胞Cは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現する。ここで、「がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現する」とは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドが免疫応答性細胞により産生され、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子の少なくとも一部が細胞表面(細胞外側の細胞表面)に位置し、IL-7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドが細胞外に分泌されることを指す。
【0168】
がん細胞は免疫応答性細胞ががん細胞を攻撃したり、がん細胞を攻撃する指示を発したりすることを抑制する免疫抑制機構を有しているため、がん罹患者自身の免疫によるがん細胞への攻撃が抑制されている。本開示に係る免疫応答性細胞Cが発現する免疫抑制阻害性ポリペプチドは、がん細胞による免疫抑制機構を阻害することで、がん罹患者の免疫系ががん細胞を攻撃することをより容易にすると考えられる。
これらに加えて、本開示に係る免疫応答性細胞CがIL-7及びCCL19も発現していることにより、本開示に係る免疫応答性細胞Cだけではなく、がん罹患者の内因性の免疫応答性細胞もがん細胞の周囲に集積するため、がん細胞をより効果的に攻撃することが可能になると考えられる。
本開示に係る免疫応答性細胞Cは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現することによって、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子を発現する免疫応答性細胞、分泌されたIL-7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドからなる因子の組み合わせによる相乗的な効果を発揮し、このために大きく改善したがん治療効果を奏すると考えられる。この相乗的な効果は、それぞれの因子の個別の効果からは予測することができないほど優れた効果である。
【0169】
例えば、後述の実施例に示されるとおり、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、及びCCL19を発現するが免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現しない免疫応答性細胞を用いた場合、及びがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子及び免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現するが、インターロイキン7及びCCL19を発現しない免疫応答性細胞を用いた場合には治療困難ながん治療の場合でも、本開示に係る免疫応答性細胞Cを用いれば治療可能となりうる。また、このような高い治療効果により、細胞の投与量を減らした場合でも治療効果を得ることが可能となり、自家細胞を使用する場合において十分な数の免疫応答性細胞を採取できない場合でも、治療効果を得ることが可能になる。このような効果は、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、及びCCL19の共発現、あるいは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子及び免疫抑制阻害性ポリペプチドの共発現からは予測できない効果である。
【0170】
本開示に係る免疫応答性細胞Cは、例えば、生体から採取した免疫応答性細胞、又はiPS細胞、ES細胞等の多能性幹細胞若しくは造血幹細胞などの体性幹細胞から誘導した免疫応答性細胞等に、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を導入することで得ることができる。あるいは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子(例えばがん抗原を特異的に認識するTCR)を内在的に発現している免疫応答性細胞を生体から採取して、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を導入することでも得ることができる。
生体から採取した免疫応答性細胞に核酸導入する場合、本開示に係る免疫応答性細胞Cを含む医薬により治療されるがん罹患者自身の(つまり自家の)免疫応答性細胞を採取すれば、拒絶反応を最小化できる。ただし、他家の免疫応答性細胞を使用することを排除するものではない。つまり、本開示に係る免疫応答性細胞Cは、対象自身に由来する免疫応答性細胞であっても、なくてもよい。
【0171】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸は、それぞれ、本開示に係る免疫応答性細胞Cのゲノム中に存在していても、ゲノム外のベクターに担持されていてもよく、例えば、核酸担持の安定性の観点からゲノム中に存在させてもよい。また、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸は、ゲノム中にまとまって(例えば連結して)存在していてもよく、ばらばらに(分離して)存在していてもよく、あるいはこれらのうち一部のもののみがまとまって(例えば連結して)存在し、他のものはばらばらに(分離して)存在していてもよい。がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子が、例えばαβの二量体又はγδの二量体からなるTCRである場合のようにヘテロ二量体又はヘテロ多量体である場合、ヘテロ二量体又はヘテロ多量体を構成するそれぞれの分子をコードする核酸はゲノム中にまとまって存在していてもよく、ばらばらに(分離して)存在していてもよい。
【0172】
一実施形態においては、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸のうち少なくとも1つは外来性であり、全てが外来性であってもよい。また、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸は、それぞれ独立に、ゲノムに組み込まれていても、ベクターに組み込まれていてもよい。ある実施形態では、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸の全てが、本開示に係る免疫応答性細胞Cのゲノムに組み込まれているか、又は前記免疫応答性細胞C中に存在する1個又は複数個のベクターに一緒に若しくは別個に組み込まれている。別の実施形態では、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸のうち一部は本開示に係る免疫応答性細胞Cのゲノムに組み込まれているが、残りは前記免疫応答性細胞C中に存在する1個又は複数個のベクターに組み込まれている。
ある実施形態においては、免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸は前記免疫応答性細胞のゲノムに組み込まれているか、又は、免疫応答性細胞中に存在する、IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1個又は複数個のベクターのうちいずれかと同じであっても異なっていてもよいベクターに組み込まれている。
なお、細胞中に各核酸が存在しているかどうかは、PCR等公知の手法を用いて容易に確認することができる。
【0173】
免疫抑制阻害性ポリペプチドのアミノ酸配列及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする塩基配列の情報は、公知の文献やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)などのデータベースを検索して適宜入手することができる。
【0174】
免疫応答性細胞ががん抗原を特異的に認識する細胞表面分子を内在的に発現している場合、例えば所定のがん抗原を特異的に認識するTCRを発現しているT細胞を単離する場合には、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を外部から導入する必要は無いが、これ以外の場合は、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドのうちの1種以上を外部から導入する。
【0175】
免疫応答性細胞に導入するためのがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸は、それぞれ、当該分子をコードする塩基配列の情報に基づき、化学合成する方法や、PCRによって増幅する方法等の公知の技術によって作製することができる。なお、コーディング領域におけるコドンは、遺伝子を含む核酸が導入される対象となる免疫応答性細胞における当該遺伝子の発現を最適化するために改変されてもよい。
【0176】
導入の対象となる核酸群の導入は、1つ又は複数の核酸送達媒体に核酸群を含ませて行うことができる。この場合の核酸送達媒体の例としては、前述のウイルス、リポソーム及びナノ粒子が挙げられる。リポソーム及びナノ粒子は、核酸をベクターに含ませた状態で含んでいてもよい。このように、本開示によれば、インターロイキン7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の核酸送達媒体も提供される。免疫応答性細胞ががん抗原を特異的に認識する細胞表面分子を内在的に発現していない場合などは、前記核酸送達媒体は、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸をさらに含んでいてもよい。
以下の説明では核酸群を含むベクターについて説明するが、核酸送達媒体の場合についても、矛盾が無い限り、同様の説明が当てはまる。あるいは、核酸送達媒体は以下に説明するようなベクターを含んでいてもよい。
導入の対象となる核酸は、それぞれ別々のベクターに担持された状態で導入されても、2種以上の核酸を同じベクターに担持した状態で導入してもよい。例えば、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を免疫応答性細胞に導入する場合、IL-7をコードする核酸とCCL19をコードする核酸とは別々のベクターで導入してもよいし、同じベクターに両核酸を担持させて導入してもよい。CCL19をコードする核酸と免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸とは別々のベクターで導入してもよいし、同じベクターに両核酸を担持させて導入してもよい。IL-7をコードする核酸と免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸とは別々のベクターで導入してもよいし、同じベクターに両核酸を担持させて導入してもよい。がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸も導入する場合についての以下に記載の説明も、「がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸」を除くこと以外は同様に、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を導入する場合(言い換えれば、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸の導入が必要無い場合)に適用できる。
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を免疫応答性細胞に導入する場合、
(i)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を、それぞれ別個のベクターに担持させて導入してもよいし、
(ii)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸及びIL-7をコードする核酸を同じベクターに担持させ、CCL19をコードする核酸を別個のベクターに担持させ、免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を別個のさらなるベクターに担持させて導入してもよいし、
(iii)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を同じベクターに担持させ、IL-7をコードする核酸を別個のベクターに担持させ、免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を別個のさらなるベクターに担持させて導入してもよいし、
(iv)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を同じベクターに担持させ、IL-7をコードする核酸を別個のベクターに担持させ、CCL19をコードする核酸を別個のさらなるベクターに担持させて導入してもよいし、
(v)IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を同じベクターに担持させ、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を別個のベクターに担持させ、免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を別個のさらなるベクターに担持させて導入してもよいし、
(vi)IL-7をコードする核酸及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を同じベクターに担持させ、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を別個のベクターに担持させ、CCL19をコードする核酸を別個のさらなるベクターに担持させて導入してもよいし、
(vii)CCL19をコードする核酸及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を同じベクターに担持させ、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を別個のベクターに担持させ、IL-7をコードする核酸を別個のさらなるベクターに担持させて導入してもよいし、
(viii)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸及びIL-7をコードする核酸を同じベクターに担持させ、CCL19をコードする核酸及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を別個のベクターに一緒に担持させて導入してもよいし、
(ix)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を同じベクターに担持させ、IL-7をコードする核酸及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を別個のベクターに一緒に担持させて導入してもよいし、
(x)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を同じベクターに担持させ、IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を別個のベクターに一緒に担持させて導入してもよいし、
(xi)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を同じベクターに担持させ、免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を別個のベクターに担持させて導入してもよいし、
(xii)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を同じベクターに担持させ、CCL19をコードする核酸を別個のベクターに担持させて導入してもよいし、
(xiii)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を同じベクターに担持させ、IL-7をコードする核酸を別個のベクターに担持させて導入してもよいし、
(xiv)IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を同じベクターに担持させ、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を別個のベクターに担持させて導入してもよいし、
(xv)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を、同じベクターに担持させて導入してもよい。
【0177】
導入効率を考慮して、2種以上の核酸を同じベクターに担持した状態で導入させてもよい。この場合は、当該2種以上の核酸は、免疫応答性細胞中でまとまって存在することになる。
【0178】
例えば、以下のベクター又はベクター群を使用することができる。
(f)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を含有するベクター(上記(xv)の場合に相当)
(g)以下のベクター(g-1)及びベクター(g-2)からなるベクター群(上記xivの場合に相当)。
(g-1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含有するベクター
(g-2)IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を含有するベクター
その他の場合についても、同様に適切なベクター群を設計することができる。
【0179】
ベクター群は、核酸が冗長(redundant)に含まれるように設計してもよい。つまり、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸のうちの特定の一つの核酸が、ベクター群に属するベクターのうちの2つ以上に含まれていてもよい。
【0180】
上記のベクターのうち任意のベクターに、又は上記のベクターとは別個のベクターに、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-23、IL-27、IP-10、CCL1、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL7、CCL8、CCL11、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL4L1、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL16、CXCL17、CX3CL1、XCL1、XCL2、CCL3L1、CCL3L3、CCL4L1、CCL4L2、Flt3L、Interferon-gamma、MIP-1alpha、GM-CSF、M-CSF、TGF-beta、TNF-alpha等の1種以上の他の免疫機能制御因子をコードする核酸をさらに含有させて、免疫応答性細胞に導入してもよい。
【0181】
核酸を担持するベクターを免疫応答性細胞に導入する方法としては特に制限されないが、ウイルス感染法、トランスポゾン法、カルシウムリン酸法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法等の公知の方法が挙げられる。外来核酸のゲノムへの導入が可能なウイルス感染法により導入する方法は核酸担持の安定性をもたらしうる。
【0182】
ウイルス感染法としては、ベクターとパッケージングプラスミドをGP2-293細胞(タカラバイオ社製)、Plat-GP細胞(コスモ・バイオ社製)、PG13細胞(ATCC CRL-10686)、PA317細胞(ATCC CRL-9078)等のパッケージング細胞にトランスフェクションして組換えウイルスを作製し、かかる組換えウイルスを免疫応答性細胞に感染させる方法を挙げることができ、Retrovirus packaging Kit Eco(タカラバイオ社製)等の市販のキットを用いて行ってもよい。MSCVレトロウイルス発現システム等を用いれば、外来核酸のゲノムへの導入が可能である。
【0183】
また、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸、及び必要ならがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸のゲノムへの組込みは、公知の遺伝子編集技術を用いて行うこともできる。公知の遺伝子編集技術としては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN(転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ)、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)-Casシステム等のエンドヌクレアーゼを用いる技術が挙げられる。所望により導入される他の外来タンパク質をコードする核酸のゲノムへの組込みも、同様の手法により行うことができる。
【0184】
また、これらの核酸(遺伝子)を免疫応答性細胞のゲノムに組み込む場合には、当該遺伝子を制御する上流プロモーターと共にゲノムの非コード領域等に作動可能に(即ち、当該プロモーターの制御下で発現可能なように)組み込んでもよいし、プロモーター無しに、ゲノム中に既に存在しているプロモーターの下流に作動可能に組み込んでもよい。ゲノム中に既に存在しているプロモーターとしては、TCRα、TCRβのプロモーター等が挙げられる。
【0185】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸、及び所望により導入された追加の外来タンパク質をコードする核酸のうち2種以上の核酸が近接して存在する場合には、それら2種以上の核酸を共通のプロモーターの制御下で発現させることもできる。共通のプロモーターの制御下で発現させる場合には、2Aペプチド、IRESペプチド等を使用して、転写及び/又は翻訳を分断してそれぞれのポリペプチドを発現させるようにできる。
【0186】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸のうちの2種以上を担持するベクターを免疫応答性細胞に導入する場合には、該ベクター中における前記2種以上の核酸の並び順は特に限定されない。例えば、前記(f)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を含有するベクターにおいては、これら4種の核酸の並び順は限定されない。具体的には、上流(5’末端側)から下流(3’末端側)への順に、
(i)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸のうちのいずれか、
(ii)上記4つの核酸のうちの残余(3つ)のうちのいずれか
(iii)上記4つの核酸のうちの残余(2つ)のうちのいずれか、
(iv)上記4つの核酸のうちの最後に残ったもの
で並んでいてもよい。
【0187】
同様に、免疫応答性細胞ががん抗原を特異的に認識する細胞表面分子を内在的に発現している場合に用いることが考えられるIL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を含有するベクターについても、
(i)IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸のうちのいずれか、
(ii)上記3つの核酸のうちの残余(2つ)のうちのいずれか
(iii)上記3つの核酸のうちの最後に残ったもの
の順に並んでいてもよい。
【0188】
なお、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸は、それぞれ別のプロモーターにより転写されてもよく、内部リボソームエントリー部位(IRES:internal ribozyme entry site)又は自己切断型2Aペプチドを使用して一つのプロモーターで転写されてもよい。
【0189】
一つのプロモーターで複数の核酸を転写させる場合、それぞれの核酸の間の塩基配列は、それぞれの核酸を発現し得る限り、任意の塩基配列を含んでもよいが、自己切断型ペプチド(2Aペプチド)又はIRESをコードする塩基配列を含んでもよく、2Aペプチドをコードする塩基配列を含んでもよい。このような塩基配列を用いて複数の核酸を連結することにより、それぞれの核酸を効率よく発現させることが可能となる。自己切断型ペプチド(2Aペプチド)又はIRESをコードする塩基配列を含みうる核酸間の塩基配列は、例えば、IL-7をコードする核酸とCCL19をコードする核酸との間の塩基配列であってもよく、IL-7をコードする核酸と免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸との間の塩基配列であってもよく、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸とIL-7をコードする核酸との間の塩基配列であってもよく、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸とCCL19をコードする核酸との間の塩基配列であってもよく、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸と免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸との間の塩基配列であってもよく、CCL19をコードする核酸と免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸との間の塩基配列であってもよく、アルファ・ベータTCRにおけるアルファ鎖をコードする核酸とベータ鎖をコードする核酸との間の塩基配列であってもよく、ガンマ・デルタTCRにおけるガンマ鎖をコードする核酸とデルタ鎖をコードする核酸の間の塩基配列であってもよい。つまり、これらの核酸間の領域それぞれについて、所望により、自己切断型ペプチド(2Aペプチド)又はIRESをコードする塩基配列を含ませることができる。
【0190】
2Aペプチドとは、ウイルス由来の自己切断型ペプチドであり、その詳細は前述のとおりである。
【0191】
免疫応答性細胞への核酸導入に用いられるベクターは直鎖状でも環状でもよく、プラスミド等の非ウイルスベクターでも、ウイルスベクターでも、トランスポゾンによるベクターでもよい。免疫応答性細胞への核酸導入に用いられるベクターは、プロモーター、ターミネーター等の制御配列、薬剤耐性核酸、レポーター核酸等の選択マーカー配列のうち1つ以上を含有していてもよい。免疫応答性細胞への核酸導入後も、ベクターに含まれるプロモーターを利用して核酸の発現を行わせるようにしてもよい。例えば、ベクター中のプロモーター配列の下流に作動可能にがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸のうち1つ以上を配置することで、当該核酸を効率よく転写させることができる。
【0192】
前記プロモーターの例としては、レトロウイルスのLTRプロモーター、SV40初期プロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーター等のウイルス由来プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、Xistプロモーター、β-アクチンプロモーター、RNAポリメラーゼIIプロモーター、ポリペプチド鎖伸長因子遺伝子プロモーター等の哺乳類由来プロモーターを挙げることができる。また、テトラサイクリンによって誘導されるテトラサイクリン応答型プロモーター、インターフェロンによって誘導されるMx1プロモーター等を用いてもよい。特定の物質によって誘導されるプロモーターを用いることによって、プロモーターに転写制御される遺伝子(例えば、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする遺伝子、IL-7をコードする遺伝子、CCL19をコードする遺伝子、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする遺伝子のうち1つ以上)の発現をがんの治療経過に応じて制御することが可能となる。
【0193】
前記ウイルスベクターの例としては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターを挙げることができる。レトロウイルスベクターとしては、pMSGVベクター(Tamada K. et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2002))、pMSCVベクター(タカラバイオ社製)等を挙げることができる。レトロウイルスベクターを用いれば、導入核酸はホスト細胞のゲノムへ取り込まれるため、導入核酸を長期間安定に発現することが可能となる。
【0194】
免疫応答性細胞におけるがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドの発現は、フローサイトメトリー、ELISA、ウェスタンブロッティング等により確認することができる。また、これらをコードする核酸の導入は、上記のように発現産物を確認するか、あるいはノザンブロッティング、サザンブロッティング、RT-PCR等のPCR等により確認することができる。核酸導入に用いるベクターがマーカー遺伝子を含有する場合には、当該発現ベクターに挿入されたマーカー遺伝子の発現を調べることによって核酸の導入を確認することができる。
【0195】
<本開示に係る免疫応答性細胞Cを含む医薬>
本開示によれば、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現する免疫応答性細胞を含む医薬(以下、「本開示に係る医薬C」とも称する)が提供される。つまり、本開示に係る医薬Cは、本開示に係る免疫応答性細胞Cを含む医薬である。
本開示に係る医薬Cは、さらに薬学的に許容される添加剤を含有していてもよく、前記添加剤としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、細胞培養培地、デキストロース、注射用水、グリセロール、エタノール及びこれらの組合せ、安定剤、可溶化剤、界面活性剤、緩衝剤、防腐剤、等張化剤、充填剤、並びに潤滑剤を挙げることができる。
【0196】
本開示に係る医薬Cに含まれる本開示に係る免疫応答性細胞Cの量は、がんの種類、位置、重症度、治療を受ける対象の年齢、体重及び状態等に応じて適宜調整できるが、一回の投与当たり例えば1×104~1×1011個、より具体的には1×105~1×1010個、より具体的には1×106~1×109個を投与してもよい。また、本開示に係る免疫応答性細胞Cの量は、一回の投与当たり1×106個未満、例えば1×105~5×105個、より具体的には1.5×105~4×105個と少量であってもよい。
上述のとおり、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、及びCCL19を発現するが免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現しない免疫応答性細胞を用いた場合、及びがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子及び免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現するが、インターロイキン7及びCCL19を発現しない免疫応答性細胞を用いた場合には治療困難ながん治療の場合でも、本開示に係る免疫応答性細胞Cを用いれば治療可能となりうる。このため、医薬Cに含まれる本開示に係る免疫応答性細胞Cの量は、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、及びCCL19を発現するが免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現しない免疫応答性細胞を用いた場合、及びがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子及び免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現するが、インターロイキン7及びCCL19を発現しない免疫応答性細胞を用いた場合には抗がん効果を奏さないほど少量であってもよい。免疫応答性細胞Cが抗がん効果を奏すことができる量であれば、免疫応答性細胞Cの量の下限値は特に制限されない。
【0197】
本開示に係る医薬Cは、1日4回、1日3回、1日2回、1日1回、1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、5日おき、週1回、7日おき、8日おき、9日おき、週2回、月1回又は月2回の頻度で投与してもよい。また、投与回数は総計で例えば1回~10回、すなわち、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回又は10回としてもよいが、10回を超える回数投与しても構わない。
【0198】
上記のとおり、本開示に係る医薬Cは、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子を発現する免疫応答性細胞、並びに分泌されたIL-7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ペプチドからなる因子の組み合わせによる相乗的な効果により、驚くべきほどに向上したがん治療効果を奏する。
【0199】
本開示に係る医薬Cは、当業者に既知の方法を用いて、がんの治療を必要とする対象に投与することができ、例えば、局所注入(カテーテル投与を含む)、全身注入、静脈内注入又は非経口投与(例えば経皮投与、経粘膜投与、より具体的には点鼻、点眼、舌下、坐薬、パッチ等)によって投与することができる。本開示に係る医薬Cは、取り扱いの観点から、単位投与量の注入可能な形態(溶液、懸濁液、乳濁液)に製剤化されていてもよい。投与方法のより具体的な例としては、静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、動脈内、髄内、心臓内、関節内、滑液嚢内、頭蓋内、髄腔内、及びくも膜下(髄液)への注射を挙げることができる。
【0200】
本開示に係る免疫応答性細胞Cは、元となる免疫応答性細胞又はその前駆体細胞を治療対象の患者から得て、本開示に係る免疫応答性細胞Cとするために必要な遺伝子の導入後に、同じ患者に投与してもよく(自家投与)、又は別の患者に投与してもよい(他家投与)。あるいは、元となる免疫応答性細胞又はその前駆体細胞は、iPS細胞、ES細胞等の多能性幹細胞又は造血幹細胞などの体性幹細胞から作製してもよい。
【0201】
本開示に係る医薬Cは、例えば、所定のpHに緩衝化されていてもよい無菌の液体調製物、例えば、等張水溶液、懸濁液、乳濁液、分散物又は粘性組成物として投与することができる。前記液体調製物は、注射用の液体調製物であってもよい。また、特定の組織との接触時間を長くするために、前記液体調製物を適切な粘度範囲内の粘度を有する粘性組成物の形態としてもよい。液体調製物は、例えば、水、生理食塩水、リン酸塩緩衝化生理食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液状ポリエチレングリコールなど)及びそれらの混合物からなる溶媒又は分散媒を含んでいてもよい。
【0202】
前記液体調製物は、本開示に係る免疫応答性細胞Cを、その他の成分の様々な量とともに、適当量の適切な溶媒に配合することによって調製することができる。前記液体調製物は、好適な担体、希釈剤、又は賦形剤を含んでいてもよい。前記液体調製物はまた、凍結乾燥されていてもよい。液体調製物は、所望の投与経路に依存して、様々な補助物質をさらに含んでいてもよく、補助物質の例としては、湿潤剤、分散剤又は乳化剤(例えば、メチルセルロース)、pH緩衝化剤、ゲル化剤又は粘度増強添加剤、保存剤、矯味矯臭剤、着色剤などが挙げられる。液体調製物中が含みうる成分については、“REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCE”,17版、1985の記載を参照することもできる。
【0203】
また、液体調製物は、液体調製物の安定性及び無菌性を高める様々な添加剤をさらに含んでいてもよく、その例としては、抗菌性保存剤、酸化防止剤、キレート剤、及び緩衝剤などが挙げられる。微生物の作用を防止するために、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン類、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などを使用することができる。液体調製物に使用するビヒクル、希釈剤又は添加剤は、そこに含まれる本開示に係る免疫応答性細胞Cとの適合性を有していなければならない。
【0204】
液体調製物は血液と等張性であってもよい。等張性は、塩化ナトリウム、又は他の薬学的に許容され得る浸透圧調節物質(例えば、デキストロース、ホウ酸、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコール、あるいは、他の無機溶質又は有機溶質など)を液体調製物に含有させることで達成することができる。
【0205】
本開示に係る医薬Cは、本開示に係る免疫応答性細胞Cに加えて、さらに他の抗がん剤を含んでいてもよい。他の抗がん剤の例としては、ベンダムスチン、イオスファミド、ダカルバジン等のアルキル化薬、ペントスタチン、フルダラビン、クラドリビン、メソトレキセート、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、エノシタビン等の代謝拮抗薬、リツキシマブ、セツキシマブ、トラスツズマブ等の分子標的薬、イマチニブ、ゲフェチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダサチニブ、スニチニブ、トラメチニブ等のキナーゼ阻害剤、ボルテゾミブ等のプロテアソーム阻害剤、シクロスポリン、タクロリムス等のカルシニューリン阻害薬、イダルビジン、ドキソルビシンマイトマイシンC等の抗がん性抗生物質、イリノテカン、エトポシド等の植物アルカロイド、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン等のプラチナ製剤、タモキシフェン、ビカルダミド等のホルモン療法薬、インターフェロン等の免疫制御薬を挙げることができる。他の抗がん剤は、例えば、アルキル化薬及び代謝拮抗薬のうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0206】
<本開示に係る医薬Cを用いたがんの治療>
本開示に係る医薬Cをがんの治療に用いる場合、治療の対象は例えば任意の哺乳動物でよいが、例えば霊長類の動物であり、より具体的にはヒトであってもよい。治療対象は、愛玩動物又は家畜であってもよく、その例としては、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどが挙げられる。
治療の対象となるがんは、固形がんでも血液がんでもよく、腺がん、扁平上皮がん、腺扁平上皮がん、未分化がん、大細胞がん、小細胞がん、皮膚がん、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、膣がん、子宮頸部がん、子宮がん、肝臓がん、腎臓がん、膵臓がん、脾臓がん、肺がん、気管がん、気管支がん、結腸がん、小腸がん、胃がん、食道がん、胆嚢がん、精巣がん、卵巣がん等のがんや、骨組織、軟骨組織、脂肪組織、筋組織、血管組織及び造血組織のがんのほか、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、骨肉腫、軟部組織肉腫等の肉腫や、肝芽腫、髄芽腫、腎芽腫、神経芽腫、膵芽腫、胸膜肺芽腫、網膜芽腫等の芽腫や、胚細胞腫瘍や、リンパ腫や、白血病を挙げることができる。
本開示に係る医薬Cによればがん微小環境における免疫抑制性を軽減することが可能であるため、治療対象となるがんは血球系のがんに限定されず、固形がんに対しても治療効果を奏する。このため、従来の方法では治療が難しかった固形がんに対しても高い有効性を発揮できる。
【0207】
本開示に係る医薬Cは、がんの確定診断がされる前であっても、対象内におけるがん細胞の存在が疑われる状況においては、対象に予防的に投与してもよい。本開示においては、このような使用形態も、がんの治療のための使用の概念に包含される。
【0208】
<対象におけるがんの治療方法>
本開示に係る一態様によれば、
(a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現する免疫応答性細胞を対象に投与することを含む、対象におけるがんを治療する方法(以下、本開示に係るがんの治療方法Cとも称する)が提供される。
【0209】
ここで、本開示に係るがんの治療方法Cにおける免疫応答性細胞は本開示に係る免疫応答性細胞Cであり、その詳しい構成及び例などについては本開示に係る免疫応答性細胞Cについての上記説明がそのまま当てはまる。
【0210】
これに加え、本開示に係るがんの治療方法Cにおける対象、がんの種類、用量、投与スケジュール等の、治療方法の詳細については、前述の本開示に係る医薬Cの説明がそのまま当てはまる。本開示に係る免疫応答性細胞Cは、治療有効量で投与することができる。
本開示に係るがんの治療方法Cは、免疫応答性細胞により発現されるがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドからなる因子の組み合わせによる相乗的な効果により、驚くべきほどに向上したがん治療効果を奏する。
【0211】
さらに、本開示によれば、がんを治療するための医薬の製造における、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現する免疫応答性細胞の使用が提供される。この使用においても、免疫応答性細胞、がんの治療等の詳細については、前述の本開示に係る医薬Cの説明がそのまま当てはまる。
【0212】
加えて、本開示によれば、対象におけるがんを治療するために用いられる、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現する免疫応答性細胞も提供される。
【0213】
本開示に係る医薬Cは、本開示に係る組み合わせ医薬Aの説明において記載したような容器に収容されていてもよい。医薬Cを収容した容器を含む製品も提供される。
【0214】
以上説明したとおり、本開示に係る一態様によれば、る免疫応答性細胞により発現されるがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ペプチドの組み合わせによる相乗的な効果により、驚くべきほどに向上したがん治療効果を得ることができる。
【実施例0215】
以下、実施例に基づいて実施形態をさらに具体的に説明するが、本開示はこれにより何ら限定されるものではない。以下、特に断りのない限り、%及びppmはいずれも質量基準である。
【0216】
[IL-7×CCL19発現ベクターの作製]
マウスIL-7(ストップコドン無し)と、それに続くF2AとマウスCCL19をコードするIL-7-F2A-CCL19 DNA断片(配列番号9)を人工合成した。IL-7、CCL19及びeGFPを発現するベクターを作製するために、合成したIL-7-F2A-CCL19 DNA断片を、F2A-eGFP配列を有するpMSGVレトロウイルス発現ベクター(Tamada k et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2002))のMCSに、制限酵素(NcoI及びEcoRI)処理及びライゲーションにより挿入し、IL-7-F2A-CCL19-F2A-eGFP DNA断片(配列番号10)を含むpMSGVベクター(7×19発現ベクター)を得た。得られたベクターのマップを
図1Bに示す。また、コントロールとしてeGFPを含み、IL-7及びCCL19を含まないpMSGVベクター(eGFP-Conv.ベクター)を作製した。eGFP-Conv.ベクターのマップを
図1Aに示す。なお、配列番号10において、1~462番目の塩基がIL-7(1~75番目の塩基はIL-7のシグナル配列)、463~537番目の塩基がF2A、538~861番目の塩基がCCL19(538~612番目の塩基はCCL19のシグナル配列)、868~942がF2A、946~1662番目の塩基がeGFPをコードする核酸、1663~1665番目の塩基がストップコドンである。また、上記配列番号10の塩基配列に対応するアミノ酸配列を配列番号11に示す。なお、制限酵素NcoIを使用するため、配列番号10における4番目の塩基はチミン(t)からグアニン(g)に(配列番号11における2番目のアミノ酸はフェニルアラニン(F)からバリン(V)に)置換されている。
【0217】
マウスT細胞の形質導入のために、レトロウイルスを作製した。リポフェクタミン3000(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用い、上述の7×19発現ベクター又はeGFP-Conv.ベクターと、pCL-Ecoプラスミド(Imgenex社製)をGP2-293パッケージング細胞株(タカラバイオ社製)にトランスフェクションすることで、7×19発現ベクター又はeGFP-Conv.ベクターを導入したレトロウイルスを作製した。
【0218】
前記GP2-293細胞の培養液としては、10%FCS、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンを加えたDMEMを用いた。また、後述の実施例で用いるT細胞の培養液としては、10%FCS、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、50mMの2-メルカプトエタノールを加えたRPMI-1640を用いた。
【0219】
[P815腫瘍抗原P1Aを特異的に認識するTCR、IL-7、CCL19、及びeGFPを発現するT細胞の作製]
雌雄のDBA/2マウス(6~8週齢)を日本エスエルシー株式会社(静岡県)から購入して実験に用いた。H-2Ld拘束性のP815腫瘍抗原P1Aを特異的に認識するTCRを発現するトランスジェニックマウス(Sarma, S., Y. Guo, Y. Guilloux, C. Lee, X.-F. Bai, Y. Liu. 1999. J. Exp. Med. 189:811-820)をDBA/2マウスと少なくとも10世代戻し交配した。全てのマウスは、病原体フリーな条件で維持した。
戻し交配後のP1Aを特異的に認識するTCRを発現するトランスジェニックマウスから脾臓細胞を採取し、脾臓細胞由来のP815腫瘍抗原P1A特異的なTCRを発現するマウスT細胞(P1A特異的TCR-T細胞;以下、ベクター未導入P1A-TCRT細胞とも称する)を得た。なお、ベクターの導入の有無に関わらず、P1A特異的なTCRを発現するマウスT細胞をP1A-TCRT細胞と総称する。形質導入のため、ベクター未導入P1A-TCRT細胞を、細胞活性化に適切な量のP1Aペプチド(LPYLGWLVF;配列番号12)及びIL-2の存在下で48時間インキュベートして活性化した。48時間のインキュベート後に、培養細胞を回収し、mouse Pan T cell Isolation Kit (Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany製)を用いてネガティブマグネティックソーティングによりベクター未導入P1A-TCRT細胞を濃縮した。単離したベクター未導入P1A-TCRT細胞を、25μg/mlのレトロネクチン(登録商標:タカラバイオ社製)でコートしたプレートに移した。上述で作製した7×19発現ベクター又はeGFP-Conv.ベクターを導入したレトロウイルスを含有する上清を、前記プレート上で活性化された上述のベクター未導入P1A-TCRT細胞(1×106cells/ml)の存在下で混合し、1500rpmで2時間遠心後、6時間培養した。培養液からレトロウイルスを除去するため、T細胞を回収し、洗浄し、IL-2を含有する新しい増殖培養液(RPMI-1640)に移し、さらに2日間培養し、7×19発現ベクターを導入したP1A-TCRT細胞(以下、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞とも称する)を含むP1A-TCRT細胞の集団、又はeGFP-Conv.ベクターを導入したP1A-TCRT細胞(以下、eGFP発現P1A-TCRT細胞とも称する)を含むP1A-TCRT細胞の集団を得た。各発現ベクターの形質導入はサロゲートマーカーとしてeGFPを検出するフローサイトメトリー解析によって確認した。上記のとおり、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞及びeGFP発現P1A-TCRT細胞は、それぞれのP1A-TCRT細胞集団の全体を占めているわけではないが、本明細書中では、記載の簡略化のため、特に明記が無い限りは、当該細胞集団に対する処理を、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞又はeGFP発現P1A-TCRT細胞に対する処理として記載する。
【0220】
[遺伝子導入の確認]
(フローサイトメトリー解析)
eGFP及びCD8の発現レベルは2色フローサイトメトリー解析によって行った。レトロウイルスによる遺伝子の導入を行っていないベクター未導入P1A-TCRT細胞、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞、及びeGFP発現P1A-TCRT細胞をアロフィコシアニン(APC)結合抗CD8モノクローナル抗体(53-6.7、Affymetrix社製)の存在下で培養した。フローサイトメトリーはEC800(ソニー株式会社製)又はBD LSRForetessa X-20(BDバイオサイエンス社製)を用い、データ解析はFlowJo software(Tree Star社製)を用いた。
結果を
図2に散布図として示す。
図2、
図3A及び
図3B中、「Transduction(-)」は遺伝子導入を行わなかったP1A-TCRT細胞(ベクター未導入P1A-TCRT細胞)を表し、「Conv. P1A-T cells」はeGFP発現P1A-TCRT細胞を表し、「7×19 P1A-T cells」はeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を表す。また、
図2中に記載されたパーセントの値は、各領域に存在する細胞数の割合を示している。
図2に示すように、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞及びeGFP発現P1A-TCRT細胞においては、eGFPを発現しているT細胞が70%~80%程度観察され、7×19発現ベクター又はeGFP-Conv.ベクターが成功裏に導入できたことが分かる。
【0221】
(ELISAによる解析)
上記でeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞又はeGFP発現P1A-TCRT細胞を2日間培養した培養上清を回収し、培養上清中のIL-7及びCCL19の濃度を市販のELISAキット(R&D systems社製)を用いて測定した。結果を
図3A及び
図3Bに示す。3連のウエルの平均値と共に標準偏差もグラフには示した。グラフ中の「N.D.」は検出されなかったことを示し、「***」はP値がP<0.001であることを示す。
図3A及び
図3Bに示されるように、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞では、IL-7及びCCL19の発現が確認された。
【0222】
(担がんマウスへの投与による抗がん効果の解析)
0日目に、6~8週齢の雌雄のDBA/2マウスに0.1mlのHBSSで懸濁した5×10
5個のP815マストサイトーマ(肥満細胞腫)を側腹に皮下接種した。なお、P815マストサイトーマは、DBA/2マウスにシンジェニックであり、以降、単にP815細胞、P815腫瘍細胞とも称する。6日目に、マウスをプレコンディショニングのために亜致死量(3-5Gy)の照射を行った。7日目に、マウスを6つの群に分けて、第1群及び第2群にはeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を1×10
6個静脈に投与し、第3群及び第4群にはeGFP発現P1A-TCRT細胞を1×10
6個静脈に投与し、第5群及び第6群にはT細胞の投与を行わなかった(なお、上記のとおり、記載された細胞数は、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞又はeGFP発現P1A-TCRT細胞を含むP1A-TCRT細胞集団中のT細胞の全数である)。また、第2群、第4群及び第6群のマウスについては、さらに、10日目を初回として週1回の頻度で計6回抗PD-1モノクローナル抗体(メルク社製、クローンG4;以下に記載の抗PD-1モノクローナル抗体についても同様)を100μg/個体の量で腹腔内注入した。それぞれのマウスの生存率を解析すると共にマウスの腫瘍体積を週2回測定した。腫瘍体積はデジタルカリパーで測定し、
腫瘍体積=1/2×(腫瘍の長軸長)×(腫瘍の短軸長)
2
として求めた。それぞれのマウスの生存率の解析結果を
図4に、腫瘍体積を測定した結果を
図5A~5Fに示す。データは独立した5回の実験をプールしたものである。
【0223】
図4及び
図5A~5Fにおいて、□は未投与マウス(サンプルサイズ=15匹;上記第5群)、■は抗PD-1モノクローナル抗体のみを投与したマウス(サンプルサイズ=11匹;上記第6群)、△はeGFP発現P1A-TCRT細胞を投与したマウス(サンプルサイズ=17匹;上記第3群)、▲はeGFP発現P1A-TCRT細胞に加えて抗PD-1モノクローナル抗体も投与したマウス(サンプルサイズ=14匹;上記第4群)、○はeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を投与したマウス(サンプルサイズ=24匹;上記第1群)、●はeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞に加えて抗PD-1モノクローナル抗体も投与したマウス(サンプルサイズ=19匹;上記第2群)を表す。
図4及び
図5A~5Fにおいて、横軸は、P815マストサイトーマを皮下接種してからの日数(day)を表す。また、
図5A~5Fには、各群におけるマウスの全個体数(分母)に対する腫瘍拒絶マウスの個体数(分子)も記載した。ログランク検定におけるP値は、△群と○群の間でP=0.0005、▲群と●群の間でP=0.0002、△群と▲群との間でP=0.7284、○群と●群との間でP=0.0253であった。
図4及び
図5A~5Fに示された結果から、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞に加えて抗PD-1モノクローナル抗体も投与したマウス(●)では、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を投与したマウス(○)又はeGFP発現P1A-TCRT細胞に加えて抗PD-1モノクローナル抗体も投与したマウス(▲)では達成できないレベルの生存率の上昇及び固形がんの腫瘍体積増加の抑制を達成できたことが分かる。一方、eGFP発現P1A-TCRT細胞と抗PD-1モノクローナル抗体を投与したマウス(▲)では、高い相乗効果は見られなかった。
【0224】
(PD-1又はROSA26を破壊したP1A-TCRTの作製)
遺伝子編集のため、上記と同様に細胞活性化に適切な量のベクター未導入P1A-TCRT細胞をP1Aペプチド(LPYLGWLVF;配列番号12)及びIL-2の存在下で48時間インキュベートして活性化した。48時間のインキュベート後に、培養細胞を回収し、mouse Pan T cell Isolation Kit (Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)を用いてネガティブマグネティックソーティングによりベクター未導入P1A-TCRT細胞を濃縮した。得られたT細胞をPBSで洗浄し、Buffer R(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)に再懸濁して、TrueCut(登録商標)Cas9タンパク質v2(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)及び遺伝子特異的ガイドRNAから構成されるCas9-RNP複合体と混合した。Cas9-RNP複合体をNeon Transfection System(Invitrogen社製)を用いてT細胞にエレクトロポレーションにより導入した。これにより目的の遺伝子の破壊を行った。さらに、エレクトロポレーション直後に、T細胞をIL-2含有cRPMIに再懸濁し、上記と同様に7×19発現ベクターをレトロウイルスにパッケージングしてT細胞に導入した。なお、マウスPD-1を標的とするガイドRNAは、Okada M, et al. Blockage of Core Fucosylation Reduces Cell-Surface Expression of PD-1 and Promotes Anti-tumor Immune Responses of T Cells. Cell Rep. 2017;20(5):1017-1028を参照して設計し、ガイドRNA部分の配列は5’-UCUGGGCAUGUGGGUCCGGC-3’(配列番号13)であった。また、ガイドRNAの合成はサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社に委託して行った。コントロールとしてガイドRNAをROSA26を標的とする5’-CUCCAGUCUUUCUAGAAGAU-3’(配列番号14)に変えてマウスROSA26の破壊を行った。ROSA26を標的とするガイドRNAはサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社から購入した。
【0225】
(PD-1又はROSA26を破壊したP1A-TCRTの投与実験)
0日目に、6~8週齢の雌雄のDBA/2マウスに0.1mlのHBSSで懸濁した5×10
5個のP815マストサイトーマ(肥満細胞腫)を側腹に皮下接種した。6日目に、マウスをプレコンディショニングのために亜致死量(3-5Gy)の照射を行った。マウスを4つの群に分けて、7日目以降にそれぞれ以下の処置を行った。
第1群:T細胞の投与も抗体の投与も行わなかった。
第2群:7日目に、ROSA26をノックダウンしたeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を1×10
6個静脈に投与した。
第3群:7日目に、PD-1をノックダウンしたeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を含む細胞集団を1×10
6個静脈に投与した。
第4群:7日目に、PD-1をノックダウンしたeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を含む細胞集団を1×10
6個静脈に投与し、さらに、10日目を初回として週1回の頻度で計6回抗PD-1モノクローナル抗体を100μg/個体の量で腹腔内注入した。
なお、上記のとおり、記載された細胞数は、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を含むP1A-TCRT細胞集団中のT細胞の全数である。
その後、それぞれのマウスの生存率を解析すると共にマウスの腫瘍体積を上記のデジタルカリパーを用いた手法により週2回測定した。それぞれのマウスの生存率の解析結果を
図6Aに、腫瘍体積を測定した結果を
図6B~6Eに示す。なお、サンプルサイズはどの群もN=6である。
【0226】
図6A~6Eにおいて、×は未投与マウス(上記第1群)、□はROSA26領域をノックダウンしたeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を投与したマウス(上記第2群)、◇は、PD-1をノックダウンしたeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を投与したマウス(上記第3群)、◆は、PD-1をノックダウンしたeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞に加えて抗PD-1モノクローナル抗体も投与したマウス(上記第4群)を表す。
図6A~6Eにおいて、横軸は、P815マストサイトーマを皮下接種してからの日数(day)を表す。また、
図6B~6Eには、各群におけるマウスの全個体数(分母)に対する腫瘍拒絶マウスの個体数(分子)も記載した。ログランク検定におけるP値は、×群と○群との間でP=0.0454、□群と◇群の間でP=0.0431、◇群と◆群の間でP=0.0402であった。
図6A~6Eに示された結果から、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞に加えて抗PD-1モノクローナル抗体も投与したマウスにより得られるがん治療効果は、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞において単にPD-1をノックダウンした場合に比べてはるかに高いものであることが分かる。このことは、抗PD-1モノクローナル抗体の投与が、単にeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞の免疫応答を促進しているだけでなく、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞によってがん細胞周辺に誘導された内因性の免疫細胞の働きも促進していることを示している。
【0227】
(マウス脾臓におけるP1A-TCRT細胞の維持)
0日目に、6~8週齢の雌雄のDBA/2マウスに0.1mlのHBSSで懸濁した5×105個のP815マストサイトーマ(肥満細胞腫)を側腹に皮下接種した。6日目に、マウスをプレコンディショニングのために亜致死量(3-5Gy)の照射を行った。7日目に、マウスを2つの群に分けて、1つ目の群にはeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を1×106個静脈に投与し、2つ目の群にはeGFP発現P1A-TCRT細胞を1×106個静脈に投与した。腫瘍が完全に退縮したマウス個体を119日目に安楽死させ、脾臓細胞を収集し、計数し、フローサイトメトリーで解析し、脾臓におけるP1A-TCRT細胞の維持について評価した。さらに、脾臓細胞からマグネティックソーティング法を用いてT細胞を単離し、2×106個のT細胞をマイトマイシンCで処理した1×106個のP815細胞と共にインキュベートした。3日後及び5日後に、培養上清を回収しELISAによりIFN-γの濃度を測定した。また、P815細胞との培養期間中におけるP1A-TCRT細胞の数(1ウエル当たり)をフローサイトメトリーで測定した。これらの試験により、脾臓におけるP1A-TCRT細胞の機能について評価した。
サンプルサイズは、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を投与した群については5匹、eGFP発現P1A-TCRT細胞を投与した群については2匹である。
【0228】
収集された脾臓細胞について
図2に示した実験と同様のフローサイトメトリー(ただし、ゲートは4分割ゲートからCD8
-eGFP
+ゲートとCD8
+eGFP
+ゲートを含むカスタムゲートに変更)により、CD8とeGFPの発現について測定した結果を
図7に示す。また、脾臓細胞中におけるCD8を発現せずeGFPを発現している細胞(CD8
-eGFP
+細胞)の割合の平均値を
図8Aに白抜きのバーで、細胞数の平均値を
図8Bに白抜きのバーで示す。また、脾臓細胞中におけるCD8とeGFPのどちらも発現している細胞(CD8
+eGFP
+細胞)の割合の平均値を
図8Aに黒塗りのバーで、細胞数の平均値を
図8Bに黒塗りのバーで示す。
図8A及び
図8Bにおいて、「Conv. P1A-T cells」のデータは値が小さいためにほとんど見えないが、白抜きのバーが黒塗りのバーの左側に位置している。
図7、
図8A及び
図8Bにおいて、「Conv. P1A-T cells」はeGFP発現P1A-TCRT細胞を投与した群を表し、「7×19 P1A-T cells」はeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を投与した群を表す。
図7、
図8A及び
図8Bに示された結果から、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を投与した群では、119日目のマウスにおいても、導入された遺伝子を保持するP1A-TCRT細胞が維持されていることが分かる。なお、
図7中に記載されたパーセントの値は、CD8を発現せずeGFPを発現している細胞(CD8
-eGFP
+細胞)数の割合(eGFP発現P1A-TCRT細胞を投与した群において0.055%、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を投与した群において0.97%)及びCD8とeGFPのどちらも発現している細胞(CD8
+eGFP
+細胞)数の割合(eGFP発現P1A-TCRT細胞を投与した群において0.0068%、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を投与した群において0.47%)を示している。
【0229】
さらに、P815細胞との培養期間中におけるCD8とeGFPのどちらも発現しているP1A-TCRT細胞の数(1ウエル当たり)をフローサイトメトリーで測定した結果を
図8Cに示す。また、培養上清をELISAで測定して得たIFN-γの濃度を
図8Dに示す。
図8C及び
図8Dにおいて、eGFP発現P1A-TCRT細胞を投与した群における結果を各時点における左側のバー(白抜きのバー)で表し、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を投与した群を各時点における右側のバー(黒塗りのバー)で表す。ただし、
図8Cにおいて、eGFP発現P1A-TCRT細胞を投与した群における結果を表す左側のバーは横軸と重なっている(つまり、CD8とeGFPのどちらも発現しているP1A-TCRT細胞の数がほぼ0である)ため、実際には見えない。
図8C及び
図8Dにおいて、結果は、平均値及び標準偏差により示し、「*」はP値がP<0.05であることを、「**」はP<0.01であることを表す。
図8C及び
図8Dに示された結果から、119日目のマウスにおいても、導入された遺伝子を保持するP1A-TCRT細胞の機能が保持されていることが分かる。
【0230】
(がん細胞によるリチャレンジ実験)
0日目に、6~8週齢の雌雄のDBA/2マウスに0.1mlのHBSSで懸濁した5×10
5個のP815細胞を側腹に皮下接種した。6日目に、マウスをプレコンディショニングのために亜致死量(3-5Gy)の照射を行った。7日目に、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を1×10
6個静脈に投与した(なお、上記のとおり、記載された細胞数は、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を含むP1A-TCRT細胞集団におけるT細胞の全数である)。さらに、10日目を初回として週1回の頻度で計6回抗PD-1モノクローナル抗体を100μg/個体の量で腹腔内注入した。腫瘍が完全に退縮した4匹のマウスに対し、117日目に、0.1mlのHBSSで懸濁した5×10
5個のP815マストサイトーマ(肥満細胞腫)を側腹に再度皮下接種した。さらに、コントロールとして、6匹のナイーブDBA/2マウスに0.1mlのHBSSで懸濁した5×10
5個のP815マストサイトーマ(肥満細胞腫)を側腹に皮下接種した。腫瘍が完全に退縮したマウスに対するP815細胞の再接種の日、又はナイーブDBA/2マウスへのP815細胞の接種の日を0日として、マウスの腫瘍体積を測定した結果を20日目まで経過日数と共に
図9に示す。マウスの腫瘍体積は、
図5A~5Fについて記載したとおりデジタルカリパーで測定したが、本実験では平均値及び標準偏差により示す。
【0231】
図9において、×はナイーブDBA/2マウスへのP815細胞の接種の結果を示し、●は腫瘍が完全に退縮したマウスに対するP815細胞の再接種の結果を示す。
図9に示された結果から分かるように、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞と抗PD-1モノクローナル抗体との投与により治癒したマウスは、117日目においても、がん細胞に対する抵抗力を保持していることが分かる。
【0232】
[IL-7及びCCL19を発現するCAR-T細胞の作製]
国際公開第2016/56228号の段落0061~段落0066に記載の方法により、コントロール抗hCD20 CARベクター及びIL-7/CCL19発現-抗hCD20 CARベクターを作製し、DBA/2マウスの脾臓及びリンパ節由来の3×106個の精製したマウスT細胞に導入して抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞又は抗hCD20 CAR発現T細胞を作製した。コントロール抗hCD20 CARベクターは、抗hCD20 CARをコードする核酸を含むベクターであり、IL-7/CCL19発現-抗hCD20 CARベクターは、抗hCD20 CAR-F2A-IL-7-F2A-CCL19をこの順でコードする核酸を含むベクターである。
【0233】
(担がんマウスへの投与による抗がん効果の解析)
0日目に、6~12週齢の雄DBA/2マウスに0.1mlのHBSSで懸濁した5×10
5個のP815-hCD20腫瘍細胞(Nat Biotechnol. 2018;36(4):346-351参照)を側腹に皮下接種した。11日目に、抗がん剤であるシクロホスファミド(CPA、100mg/kg)をマウスの腹腔内に投与した。マウスを5つの群に分けて、以降の処理を以下のとおり行った。
第1群には、CAR発現T細胞も抗体も投与しなかった。
第2群には、抗PD-1モノクローナル抗体を、17日目を初日として4~5日毎に計5回腹腔内投与した。
第3群には、0.25×10
6個の抗hCD20 CAR発現T細胞を14日目に静脈に投与し、17日目を初日として4~5日毎に計5回抗PD-1モノクローナル抗体を100μg/個体の量で腹腔内投与した。
第4群には、0.25×10
6個の抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を14日目に静脈に投与し、17日目を初日として4~5日毎に計5回PD-1を認識しないハムスターコントロールIgG抗体を100μg/個体の量で腹腔内投与した。
第5群には、0.25×10
6個の抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を14日目に静脈に投与し、17日目を初日として4~5日毎に計5回抗PD-1モノクローナル抗体を100μg/個体の量で腹腔内投与した。
それぞれのマウスの生存率を解析すると共にマウスの腫瘍体積を上記のデジタルカリパーを用いた手法により週2回測定した。それぞれのマウスの生存率の解析結果を
図10Aに、70日目までの腫瘍体積を測定した結果を
図10B~10Fに示す。データは独立した2回の実験の結果をプールしたデータを示したものである。
【0234】
図10A~10Fにおいて、×は未投与マウス(サンプルサイズ=10匹;上記第1群)、□は抗PD-1モノクローナル抗体のみを投与したマウス(サンプルサイズ=10匹;上記第2群)、◆は抗hCD20 CAR発現T細胞に加えて抗PD-1モノクローナル抗体も投与したマウス(サンプルサイズ=5匹;上記第3群)、○は抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞に加えてPD-1を認識しないハムスターコントロールIgG抗体も投与したマウス(サンプルサイズ=10匹;上記第4群)、●は抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞に加えて抗PD-1モノクローナル抗体も投与したマウス(サンプルサイズ=10匹;上記第5群)を表す。ただし、
図10B~10Fにおいてはいずれの群もN=5である。
図10A~10Fにおいて、横軸は、P815-hCD20腫瘍細胞を皮下接種してからの日数(day)を表す。また、
図10B~10Fには、各群におけるマウスの全個体数(分母)に対する腫瘍拒絶マウスの個体数(分子)も記載した。ログランク検定におけるP値は、□群と◆群の間でP=0.7293、□群と●群の間でP<0.0001、◆群と●群との間でP<0.0001、○群と●群との間でP<0.0001であった。
【0235】
図10A~10Fに示された結果から、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞に加えて抗PD-1モノクローナル抗体も投与したマウス(●)では、それぞれ単独で投与した場合には十分な抗がん効果が得られない用量を投与した場合であっても、著しく高い生存率及び固形がんの腫瘍体積増加の抑制を達成することができた。一方、抗hCD20 CAR発現T細胞に加えて抗PD-1モノクローナル抗体も投与したマウス(▲)又は抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞に加えてコントロールIgG抗体も投与したマウス(○)ではこのような効果は得られなかった。
また、抗hCD20 CAR発現T細胞の投与量は、上記のとおり0.25×10
6個と少なく、抗PD-1モノクローナル抗体との共投与の場合には少ない細胞数であっても高い効果が得られたことが分かった。
【0236】
(リンパ球の腫瘍組織への浸潤の解析)
0日目に、DBA/2マウスにP815腫瘍細胞を接種し、eGFP発現P1A-TCRT細胞又はeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を7日目に静脈注射した。なお、これらの細胞は、注射前に、eGFP陽性細胞の割合が95%超となるまで純度を上げておいた。腫瘍細胞を採取し、シングル細胞懸濁液へと調製し、12日目に、細胞数を計測すると共に、c-kit、eGFP、CD11c、CD3、CD4及びCD8の発現についてフローサイトメトリー解析により調べた。
図11Aには、代表的なドットプロットを示す。非腫瘍細胞と同定されたc-kit陰性細胞の割合(左上のパネル)、c-kit陰性細胞集団における、CD-3陰性/CD11c陽性である樹状細胞の割合(右上のパネル)、並びにCD-3陽性/eGFP陰性である内在性T細胞の割合及びCD3-陽性/eGFP陽性である注射されたP1A-TCRT細胞の割合を示す(中央のパネル)。
図11Aにおいて、「Conv. P1A-T cells」はeGFP発現P1A-TCRT細胞を投与した群を表し、「7×19 P1A-T cells」はeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を投与した群を表す。内在性T細胞集団におけるCD-4陽性細胞又はCD8陽性細胞の割合(左下のパネル)及び注射されたP1A-TCRT細胞の割合を示す(右下のパネル)。
図11Bには、P815腫瘍細胞1×10
5個あたりの各種腫瘍浸潤リンパ球の細胞数を、平均値及び標準偏差(SD)により示す(n=5)。DCは樹状細胞を表し、Endogenous Tは内在性T細胞を表し、P1A-TはP1A-TCRT細胞を表す。白抜きのバーは、eGFP発現P1A-TCRT細胞で処理されたマウス中における腫瘍浸潤リンパ球サブセットを示し、黒塗りのバーはeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞で処理されたマウス中における腫瘍浸潤リンパ球サブセットを示す。
*はP<0.05を表し、
**はP<0.01を表し、
***はP<0.001を表す。
【0237】
なお、P815腫瘍細胞から腫瘍浸潤リンパ球を分離するために、P815マストサイトーマで高度に陽性であり、樹状細胞及びT細胞では陽性度の低いことが知られているc-kit染色を用いた。
図11A及び
図11Bの結果からは、まず、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞を注射されたマウスにおけるc-kit陰性の腫瘍浸潤リンパ球の割合は、eGFP発現P1A-TCRT細胞を注射されたマウスにおけるc-kit陰性の腫瘍浸潤リンパ球の割合よりも高いことが分かる。c-kit陰性腫瘍浸潤リンパ球のサブセットにおいて、CD3陰性/CD11c陽性である樹状細胞の割合も
図11Aに示す。
図11Aにはさらに、CD3陽性/eGFP陰性である内在性T細胞のサブセット、及びCD3陽性/eGFP陽性の注射されたP1A-TCRT細胞若しくはP1A-7×19TCRT細胞のサブセットにおけるCD4及びCD8の発現割合も示す。CD4/CD8染色についてのさらなる解析により、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞で処理されたマウス中における腫瘍浸潤樹状細胞、CD-4陽性及びCD8陽性内在性T細胞、並びにCD8陽性P1A-T細胞の数は、eGFP発現P1A-TCRT細胞で処理されたマウス中におけるそれらの数よりも顕著に多かった。このことは
図11Bに示される。
図11Bにおいて白抜きのバー(eGFP発現P1A-TCRT細胞で処理されたマウス中における腫瘍浸潤リンパ球サブセット)と比べて黒塗りのバー(eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞で処理されたマウス中における腫瘍浸潤リンパ球サブセット)において、DC(樹状細胞)、EngogenousT(内在性T細胞)、及び注射されたP1A-TCRT細胞若しくはP1A-7×19TCRT細胞のいずれについても細胞数が多いことが示されている。これらの結果は、eGFP発現P1A-7×19TCRT細胞による処理における内在性T細胞の役割が重要であることを裏付けるものである。このことは、抗PD-1モノクローナル抗体とeGFP発現P1A-TCRT細胞ではなく、抗PD-1モノクローナル抗体とeGFP発現P1A-7×19TCRT細胞との組み合わせにより相乗的な効果が得られたことと合致している。
【0238】
(抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現ベクターの作製)
配列番号15の核酸配列を有する構築物を、NcoIサイト及びSalIサイトを用いてpMSGVレトロウイルス発現ベクター(Tamada k et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2002))に導入して抗hCD20scFv CAR及び抗mPD-1scFvを含むpMSGVベクター(以降、抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現ベクターとも称する)を作製した。得られたベクターの配置図をconventional CAR-PD-1 scFvとして
図12に示す。配列番号15の核酸配列において、5’末端から数えて、1番目~57番目のヌクレオチドはリーダー配列をコードする核酸配列に相当し、58番目~375番目のヌクレオチドは抗hCD20scFv軽鎖をコードする核酸配列に相当し、376番目~420番目のヌクレオチドはリンカーをコードする核酸配列に相当し、421番目~783番目のヌクレオチドは抗hCD20scFv重鎖をコードする核酸配列に相当し、793番目~1635番目のヌクレオチドは膜通過ドメイン及び細胞質ドメインをコードする核酸配列に相当し、1642番目のヌクレオチド~1716番目のヌクレオチドは2Aペプチドをコードする核酸配列に相当し、1717番目~1773番目のヌクレオチドはリーダー配列をコードする核酸配列に相当し、1774番目~2106番目のヌクレオチドは抗mPD-1scFv軽鎖をコードする核酸配列に相当し、2107番目~2151番目のヌクレオチドはリンカー配列をコードする核酸配列に相当し、2152番目~2505番目のヌクレオチドは抗mPD-1scFv重鎖をコードする核酸配列に相当し、2506番目~2529番目のヌクレオチドはFLAGタグをコードする核酸配列に相当し、2539番目~2556番目のヌクレオチドはHisタグをコードする核酸配列に相当する。なお、抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現ベクター及び後述の抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現ベクターにおいて、2Aペプチドとしては、口蹄疫ウイルスの2Aペプチド(F2Aペプチドとも称する)を用いた。2Aペプチドを遺伝子間に挿入することで、複数のポリペプチドを同時に発現することを可能にしている。また、上記のとおり、抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現ベクター及び後述の抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現ベクターは、FLAGタグ及びHisタグ(His×6)の配列を含んでいる。
【0239】
配列番号15の核酸配列がコードするアミノ酸配列を配列番号16に示す。配列番号16において、N末端から数えて、1~545位のアミノ酸配列は抗hCD20 CARのアミノ酸配列であり、548~572位のアミノ酸配列は2Aペプチドのアミノ酸配列であり、592~702位のアミノ酸配列は、抗mPD-1 VLのアミノ酸配列であり、703~717位のアミノ酸配列はリンカーのアミノ酸配列であり、718~835位のアミノ酸配列は抗mPD-1 VHのアミノ酸配列であり、836~843位のアミノ酸配列はFLAGタグのアミノ酸配列であり、847~852位のアミノ酸配列はHisタグのアミノ酸配列である。
【0240】
(抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現ベクターの作製)
配列番号17の核酸配列を有する構築物を、NcoIサイト及びSalIサイトを用いてpMSGVレトロウイルス発現ベクター(Tamada k et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2002))に導入して抗hCD20scFv CAR、mIL-7、mCCL19、及び抗mPD-1scFvを含むpMSGVベクターを作製した(以降、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現ベクターとも称する)。得られたベクターの配置図を
図12に7×19CAR-PD-1 scFvとして示す。配列番号17の核酸配列において、5’末端から数えて、1番目~57番目のヌクレオチドはリーダー配列をコードする核酸配列に相当し、58番目~375番目のヌクレオチドは抗hCD20scFv軽鎖をコードする核酸配列に相当し、376番目~420番目のヌクレオチドはリンカーをコードする核酸配列に相当し、421番目~783番目のヌクレオチドは抗hCD20scFv重鎖をコードする核酸配列に相当し、792番目~1038番目のヌクレオチドはマウスCD8をコードする核酸配列に相当し、1039番目~1161番目のヌクレオチドはマウスCD28をコードする核酸配列に相当し、1162番目~1296番目のヌクレオチドはマウス4-1BBをコードする核酸配列に相当し、1297番目~1635番目のヌクレオチドはマウスCD3ζをコードする核酸配列に相当し、1642番目~1716番目のヌクレオチドは2Aペプチドをコードする核酸配列に相当し、1720番目~1794番目のヌクレオチドはmIL-7のリーダー配列をコードする核酸配列に相当し、1720番目~2181番目のヌクレオチドはmIL-7をコードする核酸配列に相当し、2182番目~2256番目のヌクレオチドは2Aペプチドをコードする核酸配列に相当し、2257番目~2331番目のアミノ酸配列はmCCL19のリーダー配列をコードするアミノ酸配列に相当し、2257番目~2580番目のヌクレオチドはmCCL19をコードする核酸配列に相当し、2584番目~2658番目のヌクレオチドは2Aペプチドをコードする核酸配列に相当し、2659番目~2715番目のヌクレオチドはリーダー配列をコードする核酸配列に相当し、2716番目~3048番目のヌクレオチドは抗mPD-1scFv軽鎖をコードする核酸配列に相当し、3049番目~3093番目のヌクレオチドはリンカー配列をコードする核酸配列に相当し、3094番目~3447番目のヌクレオチドは抗mPD-1scFv重鎖をコードする核酸配列に相当し、3448番目~3471番目のヌクレオチドはFLAGタグをコードする核酸配列に相当し、3480番目~3497番目のヌクレオチドはHisタグをコードする核酸配列に相当する。
【0241】
配列番号17の核酸配列がコードするアミノ酸配列を配列番号18に示す。配列番号18において、N末端から数えて、1~261位のアミノ酸配列は抗hCD20 scFvのアミノ酸配列であり、265~346位の配列はmCD8のアミノ酸配列であり、347~387位のアミノ酸配列はmCD28のアミノ酸配列であり、388~432位のアミノ酸配列はm4-1BBのアミノ酸配列であり、433~545位のアミノ酸配列はmCD3のアミノ酸配列であり、548~572位のアミノ酸配列は2Aペプチドのアミノ酸配列であり、574~727位のアミノ酸配列はmIL-7のアミノ酸配列であり、728~752位のアミノ酸配列は2Aペプチドのアミノ酸配列であり、753~860位のアミノ酸配列はmCCL19のアミノ酸配列であり、862~886位のアミノ酸配列は2Aペプチドのアミノ酸配列であり、906~1016位のアミノ酸配列は、抗mPD-1 VLのアミノ酸配列であり、1017~1031位のアミノ酸配列はリンカーのアミノ酸配列であり、1032~1149位のアミノ酸配列は抗mPD-1 VHのアミノ酸配列であり、1150~1157位のアミノ酸配列はFLAGタグのアミノ酸配列であり、1161~1166位のアミノ酸配列はHisタグのアミノ酸配列である。
【0242】
(抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現ベクター、又は抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現ベクターを導入したレトロウイルスの作製)
マウスT細胞の形質導入のために、レトロウイルスベクターを作製した。GP2-293パッケージング細胞(タカラバイオ社製)に、リポフェクタミン(登録商標)2000又は3000(ライフテクノロジー社製)を用い、上述の抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現ベクター又は抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現ベクターと、pCL-Ecoレトロウイルスパッケージングプラスミド(Imgenex社製)をトランスフェクションし、抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現ベクター又は抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現ベクターを導入したレトロウイルスを作製した。トランスフェクションから48時間後に前記レトロウイルスを含有する上清を回収した。
【0243】
前記GP2-293細胞の培養液としては、10%FCS、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを加えたDMEMを用いた。また、後述の実施例で用いるT細胞の培養液としては、10%FCS、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシン、50mMの2-メルカプトエタノール、2mMのL-グルタミンを加えたRPMI-1640を用いた。
【0244】
また、同様にして、抗PD-1 scFvをコードする核酸配列を含まないこと以外は抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現ベクターと同様の発現ベクター(以下、抗hCD20 CAR発現ベクターとも称する)、及び、抗PD-1 scFvをコードする核酸配列を含まないこと以外は抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現ベクターと同様の発現ベクター(以下、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現ベクターとも称する)も作製し、それを用いてレトロウイルスベクターを同様に作製した。
【0245】
(マウスT細胞の形質導入)
マウスT細胞の形質導入のため、脾臓及びリンパ節由来の精製したマウスT細胞を、固層化した抗CD3モノクローナル抗体(3μg/ml)、抗CD28モノクローナル抗体(1μg/ml)、IL-2(100IU/ml)で48時間活性化した。次に、上述で作製した抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現ベクター、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現ベクター、抗hCD20 CAR発現ベクター、又は抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現ベクターを導入したレトロウイルスを含有する上清を、25μg/mlのレトロネクチン(登録商標:タカラバイオ社製)でコートしたプレートで活性化させた上述のマウスT細胞(1×106cells/ml)と混合し、1500rpmで2時間遠心後、IL-2(100IU/ml)の存在下で6時間培養した。培養液からレトロウイルスを除去するため、マウスT細胞を回収し、IL-2(100IU/ml)を含有する新しい増殖培養液(RPMI)に移し、さらに42時間培養し、抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現ベクターを導入したマウスT細胞(以下、抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現T細胞とも称する)、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現ベクターを導入したマウスT細胞(以下、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞とも称する)、抗hCD20 CAR発現ベクターを導入したマウスT細胞(以下、抗hCD20 CAR発現T細胞とも称する)、又は抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現ベクターを導入したマウスT細胞(以下、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞とも称する)を得た。
【0246】
CAR発現を検出するために、形質導入していないT細胞(
図13中ではuninf.と表記)又は種々の上記CARをコードするレトロウイルスベクターを形質導入したT細胞を、ビオチン化した組換えprotein L(proteinL-bioとも表記する)で染色し、続いてアロフィコシアニンを結合させたストレプトアビジン(sav-apcとも表記する)で染色した。CARの発現レベルをフローサイトメトリーで解析した。結果を
図13に示す。
【0247】
図13以降の図面において、uninf.は形質導入していないT細胞を、conv.は抗hCD20 CAR発現T細胞を、conv./PD-1は抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現T細胞を、7×19は抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を、7×19/PD-1は抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞を表す。
図13中の各T細胞のデータにおいて、左側はFSC-SSCプロットであり、右側はアロフィコシアニン染色の陽性度(横軸)と細胞カウント(縦軸)を示すグラフである。また、右側のグラフ中に示されたヒストグラムは、染色で陽性だった細胞の割合(%)を表す。
図13に示されるように、形質導入していないT細胞以外の、CARをコードするレトロウイルスベクターで形質導入されたT細胞は、CARを期待通りに発現していることが分かる。
【0248】
各種CAR-T細胞を実験に使用する前に、IL-7の濃度及びCCL19の濃度をELISAキットにより測定した。具体的には、形質転換していないT細胞、抗hCD20 CAR発現T細胞、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞、抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現T細胞、又は抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞を2日間培養した培養上清を回収し、培養上清中のIL-7及びCCL19の濃度を市販のELISAキット(R&D systems社製)を用いて測定した。結果を
図14に示す。
図14には、3連のウエルの平均値と共に標準偏差もグラフには示した。なお、各グラフ中で、データは、左側から、形質転換していないT細胞(uninf.)、抗hCD20 CAR発現T細胞(conv.)、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞(7×19)、抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現T細胞(conv./PD-1)、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞(7×19/PD-1)、及び培地のみ(培養液にT細胞を含ませなかった場合に同様の処理をして得られたデータ)の順で並んでいる。
図14に示されるように、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞(7×19)及び抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞(7×19/PD-1)の場合に、IL-7及びCCL19の発現が見られた。
【0249】
各種CAR-T細胞を実験に使用する前に、抗mPD-1scFv(PD-1scFvとも称する)の濃度を2種類のELISAキットにより測定した。具体的には、形質転換していないT細胞、抗hCD20 CAR発現T細胞、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞、抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現T細胞、又は抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞を2日間培養した培養上清を回収し、培養上清中のIL-7及びCCL19の濃度をELISAにより測定した。ELISAでは、マウスPD-1とイムノグロブリンFc部分からなる組換え融合タンパク質をウエル中に固定してPD-1scFvを捕捉し、抗FLAGタグ又は抗6×Hisタグを検出に用いた。結果を
図15に示す。
図15には、3連のウエルの平均値と共に標準偏差もグラフには示した。なお、各グラフ中で、データは、左側から、形質転換していないT細胞(uninf.)、抗hCD20 CAR発現T細胞(conv.)、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞(7×19)、抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現T細胞(conv./PD-1)、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞(7×19/PD-1)、及び培地のみ(培養液にT細胞を含ませなかった場合に同様の処理をして得られたデータ)の順で並んでいる。
図15に示されるように、抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現T細胞(conv./PD-1)及び抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞(7×19/PD-1)の場合に、抗PD-1scFvの発現が見られた。
【0250】
(担がんマウスへの投与による抗がん効果の解析)
0日目に、6~12週齢の雄DBA/2マウスに0.1mlのHBSSで懸濁した5×10
5個のP815-hCD20腫瘍細胞(Nat Biotechnol. 2018;36(4):346-351参照)を側腹に皮下接種した。11日目に、抗がん剤であるシクロホスファミド(CPA、100mg/kg)をマウスの腹腔内に投与した。マウスを5つの群に分けて、以降の処理を以下のとおり行った。
第1群には、いかなるCAR発現T細胞も投与しなかった。
第2群には、0.25×10
6個の抗hCD20 CAR発現T細胞を14日目に静脈に投与した。
第3群には、0.25×10
6個の抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を14日目に静脈に投与した。
第4群には、0.25×10
6個の抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現T細胞を14日目に静脈に投与した。
第5群には、0.25×10
6個の抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞を14日目に静脈に投与した。
それぞれのマウスの生存率を解析すると共にマウスの腫瘍体積を上記のデジタルカリパーを用いた手法により週2回測定した。それぞれのマウスの生存率の解析結果を
図16に、70日目までの腫瘍体積を測定した結果を
図17に示す。
図17において、最初の14日間の腫瘍体積は各グラフの右側に拡大して示した。
【0251】
図17において、cpa onlyは、第1群(シクロホスファミド投与は行ったものの、CAR発現T細胞の投与は行わなかった)を表す。
図17においてはいずれの群もN=10である。
図17において、横軸は、P815-hCD20腫瘍細胞を皮下接種してからの日数(day)を表す。マウスの生存時間について、各群の間のログランク検定の結果を、P値の値で、
図16の下側の表に示す。
【0252】
図16に示された結果から、本開示に係る免疫応答性細胞Cに該当する抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞を用いることで、P815-hCD20を有するマウスの生存時間が顕著に増加していることが分かる。特に、抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現T細胞を用いた場合や抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を用いた場合でも試験期間中にほとんどのマウスが死亡しているのに対して、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞では98日経過後でも50%のマウスが生存していることは特筆すべきことである。このことから、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、及びCCL19を発現するが免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現しない免疫応答性細胞を用いた場合、及びがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子及び免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現するが、インターロイキン7及びCCL19を発現しない免疫応答性細胞を用いた場合には治療困難ながん治療の場合でも、本開示に係る免疫応答性細胞Cを用いれば治療可能となりうることが分かる。また、P値から、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞による治療効果は、他の各群で得られた結果とは統計的に明らかに差異がある、高い治療効果であることが分かる。
【0253】
図15に記載の、抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現T細胞による抗PD-1scFvの発現量と、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞による抗PD-1scFvの発現量との比較から分かるように、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞は、導入遺伝子の数が多くヌクレオチド長が長いために、導入及び発現における不利を被ることを考慮すると、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞による上記の治療効果は驚くべきものであることが理解される。
【0254】
また、
図17に示された結果から、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19-抗PD-1抗体発現T細胞が投与されたマウスでは、腫瘍体積の増加自体が抑えられていることが理解できる。この腫瘍体積増加の抑制は、CAR発現T細胞を投与しなかった場合(cpa only)及び抗hCD20 CAR発現T細胞を投与した場合(conv.)と比較して顕著なだけではなく、抗hCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与した場合及び抗hCD20 CAR-抗PD-1抗体発現T細胞を投与した場合と比較しても顕著なものである。
また、抗hCD20 CAR発現T細胞の投与量は、上記のとおり0.25×10
6個と少なく、少ない細胞数であっても高い効果が得られたことが分かった。
【0255】
以上のとおり、実施例により、本開示の種々の態様に係る組み合わせ医薬及び免疫応答性細胞により、がん細胞に対する高い治療効果が得られることが示された。
【0256】
本開示の例示的な実施形態は、以下の実施形態も含む。
<1>
(a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、並びに
(b)免疫抑制阻害剤
を含む、対象におけるがんを治療するための組み合わせ医薬。
<2> 前記免疫応答性細胞と、前記免疫抑制阻害剤とが、異なる時点で別々に投与される、<1>に記載の組み合わせ医薬。
<3> インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸が、前記免疫応答性細胞のゲノムに組み込まれているか、又は前記免疫応答性細胞中に存在する1個又は複数個のベクターに一緒に若しくは別個に組み込まれている、<1>又は<2>に記載の組み合わせ医薬。
<4> 前記免疫応答性細胞が、前記対象自身に由来する免疫応答性細胞である、<1>~<3>のうちいずれか1つに記載の組み合わせ医薬。
<5> 前記免疫応答性細胞が、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、及びB細胞等のリンパ球系細胞、単球、マクロファージ、及び樹状細胞等の抗原提示細胞、好中球、好酸球、好塩基球、並びに肥満細胞からなる群から選択される、<1>~<4>のうちいずれか1つに記載の組み合わせ医薬。
<6>
(a)インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせ、並びに
(b)免疫抑制阻害剤
を含む、対象におけるがんを治療するための組み合わせ医薬。
<7> 前記1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせが、免疫応答性細胞、ウイルス、嫌気性菌、リポソーム、間葉系幹細胞(MSC)、及びナノ粒子から選択される少なくとも1種を含む、<6>に記載の組み合わせ医薬。
<8> 前記1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせが、がん抗原を特異的に認識する分子を表面に有する、<6>又は<7>に記載の組み合わせ医薬。
<9> 前記1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせが、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸をさらに含み、前記がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子が、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)である、<6>又は<7>に記載の組み合わせ医薬。
<10> 前記免疫抑制阻害剤がポリペプチドであって、前記細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせは、免疫抑制阻害剤ポリペプチドをコードずる核酸をさらに協同して含む<6>~<9>のうちいずれか1つに記載の組み合わせ医薬。
<11> 前記細胞若しくは核酸送達媒体又はそれらの組み合わせと、前記免疫抑制阻害剤とが、異なる時点で別々に投与される、<6>~<9>のうちいずれか1つに記載の組み合わせ医薬。
<12> 前記がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子が、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)である、<1>~<5>のうちいずれか1つに記載の組み合わせ医薬。
<13> 前記免疫抑制阻害剤が、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、PD-L2阻害剤、CTLA-4阻害剤、BTLA(B- and T-lymphocyte attenuator)阻害剤、TIM-3(T-cell immunoglobulin and mucin domain 3)阻害剤、TIGIT(T-cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)阻害剤、LAG-3(Lymphocyte Activation Gene-3)阻害剤、及びSiglec-15阻害剤からなる群から選択される1種以上を含む、<1>~<12>のうちいずれか1つに記載の組み合わせ医薬。
<14> 前記免疫抑制阻害剤が抗体である、<1>~<13>のうちいずれか1つに記載の組み合わせ医薬。
<15> 前記抗体が、IgGモノクローナル抗体又は抗体断片である、<14>に記載の組み合わせ医薬。
<16> 前記がんが固形がんである、<1>~<15>のうちいずれか1つに記載の組み合わせ医薬。
<17> 免疫抑制阻害剤と併用されて対象におけるがんを治療するために用いられる、(i)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、又は(ii)インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体若しくはそれらの組み合わせ、を含む医薬。
<18>
(i)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、又は(ii)インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体若しくはそれらの組み合わせ、と併用されて対象におけるがんを治療するために用いられる、免疫抑制阻害剤を含む医薬。
<19> 前記免疫抑制阻害剤と前記免疫応答性細胞又は前記1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体若しくはそれらの組み合わせとが異なる時点で別々に投与される形態にて用いるための、<17>又は<18>に記載の医薬。
<20> 免疫抑制阻害剤と併用されることが表示された容器に収容され、かつ、(i)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、又は(ii)インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体若しくはそれらの組み合わせ、を含む医薬。
<21>
免疫抑制阻害剤と併用されることが記載された添付文書と、
(i)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、又は(ii)インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体若しくはそれらの組み合わせ、を含む医薬を収容した容器と、
を含む製品。
<22>
(a)(i)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7及びCCL19を発現する免疫応答性細胞、又は(ii)インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の細胞若しくは核酸送達媒体若しくはそれらの組み合わせ、並びに
(b)免疫抑制阻害剤
を含む、対象におけるがんを治療するための医薬組成物。
<23> 前記がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子が、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)である、<22>に記載の医薬組成物。
<24> がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7、CCL19、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドを発現する免疫応答性細胞。
<25> インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸が、前記免疫応答性細胞のゲノムに組み込まれているか、又は前記免疫応答性細胞中に存在する1個又は複数個のベクターに一緒に若しくは別個に組み込まれている、<24>に記載の免疫応答性細胞。
<26> 免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸が、前記免疫応答性細胞のゲノムに組み込まれているか、又は前記免疫応答性細胞中に存在する、前記1個又は複数個のベクターのうちいずれかと同じであっても異なっていてもよいベクターに組み込まれている、<25>に記載の免疫応答性細胞。
<27> 前記がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子が、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)である、<24>~<26>のうちいずれか1つに記載の免疫応答性細胞。
<28> 前記免疫抑制阻害性ポリペプチドが、PD-1阻害性ポリペプチド、PD-L1阻害性ポリペプチド、PD-L2阻害性ポリペプチド、CTLA-4阻害性ポリペプチド、BTLA(B- and T-lymphocyte attenuator)阻害性ポリペプチド、TIM-3(T-cell immunoglobulin and mucin domain 3)阻害性ポリペプチド、TIGIT(T-cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)阻害性ポリペプチド、LAG-3(Lymphocyte Activation Gene-3)阻害性ポリペプチド、及びSiglec-15阻害性ポリペプチドからなる群から選択される1種以上を含む、<24>~<27>のうちいずれか1つに記載の免疫応答性細胞。
<29> 前記免疫抑制阻害性ポリペプチドが抗体である、<24>~<28>のうちいずれか1つに記載の免疫応答性細胞。
<30> 前記抗体が、IgGモノクローナル抗体又は抗体断片である、<29>に記載の免疫応答性細胞。
<31> T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、及びB細胞等のリンパ球系細胞、単球、マクロファージ、及び樹状細胞等の抗原提示細胞、好中球、好酸球、好塩基球、並びに肥満細胞からなる群から選択される、<24>~<30>のうちいずれか1つに記載の免疫応答性細胞。
<32> <24>~<31>のうちいずれか1つに記載の免疫応答性細胞を含む医薬。
<33> 対象におけるがんを治療するために用いられる、<32>に記載の医薬。
<34> 前記がんが固形がんである、<33>に記載の医薬。
<35> 前記免疫応答性細胞が前記対象自身に由来する免疫応答性細胞である、<33>又は<34>に記載の医薬。
<36> インターロイキン7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、及び免疫抑制阻害性ポリペプチドをコードする核酸を協同して含む1種類又は複数種類の核酸送達媒体。
<37> がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸をさらに含む、<36>に記載の核酸送達媒体。
【0257】
本願は2019年10月28日出願の日本国特許出願2019-195407からの優先権を主張し、日本国特許出願2019-195407の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。