(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038550
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】混雑確率予測装置及び混雑確率予測方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20240313BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20240313BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
H02J3/00 130
H02J3/38 120
H02J3/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142627
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】只野 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】大原 伸也
(72)【発明者】
【氏名】紺谷 怜央
(72)【発明者】
【氏名】田中 和英
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA01
5G066AA02
5G066HB04
5G066HB06
5G066HB09
5G066JA01
5G066JB03
(57)【要約】
【課題】特に不確実性を考慮したうえで、ノンファーム型接続の発電設備に対する発電制御を容易にする。
【解決手段】本発明の混雑確率予測装置は、電力系統の混雑を予測する混雑確率予測装置であって、現在を基準として所定の日数後の気象に関する気象予測データを取得する気象予測データ入力部と、現在を基準として所定の日数後の電力需要に関する需要データを取得するとともに、現在を基準として所定の日数後の前記電力系統に関する系統データを取得する電力系統データ入力部と、前記気象予測データ、前記需要データ及び前記系統データに基づき、現在を基準として所定の日数後の前記電力系統の混雑箇所及び混雑確率データを予測する系統混雑確率予測部と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の混雑を予測する混雑確率予測装置であって、
現在を基準として所定の日数後の気象に関する気象予測データを取得する気象予測データ入力部と、
現在を基準として所定の日数後の電力需要に関する需要データを取得するとともに、現在を基準として所定の日数後の前記電力系統に関する系統データを取得する電力系統データ入力部と、
前記気象予測データ、前記需要データ及び前記系統データに基づき、現在を基準として所定の日数後の前記電力系統の混雑箇所及び混雑確率データを予測する系統混雑確率予測部と、
を備えることを特徴とする混雑確率予測装置。
【請求項2】
前記気象予測データ及び前記需要データは、
信頼区間幅もしくは分散を含む予測値、又は、確率分布の確率予測値であること、
を特徴とする請求項1に記載の混雑確率予測装置。
【請求項3】
前記混雑確率データは、
前記電力系統の混雑確率、前記電力系統の発電制御量、及び、前記発電制御量の確率分布のうちの少なくとも1つを含むこと、
を特徴とする請求項2に記載の混雑確率予測装置。
【請求項4】
前記系統データは、
運用容量を含む前記電力系統の制約に関するデータであること、
を特徴とする請求項3に記載の混雑確率予測装置。
【請求項5】
前記系統混雑確率予測部は、
前記予測した混雑箇所又は前記予測した混雑確率データを出力すること、
を特徴とする請求項3に記載の混雑確率予測装置。
【請求項6】
前記系統混雑確率予測部は、
前記予測した混雑箇所又は前記予測した混雑確率データに基づき、前記電力系統内の設備の運転計画を作成すること、
を特徴とする請求項3に記載の混雑確率予測装置。
【請求項7】
前記系統混雑確率予測部は、
前記気象予測データ、前記需要データ及び前記系統データに基づき、前記電力系統内の地域ごと又は地点ごとの電力価格を予測すること、
を特徴とする請求項3に記載の混雑確率予測装置。
【請求項8】
前記電力系統データ入力部は、
複数の特定の大口需要家の電力消費計画として前記需要データを取得すること、
を特徴とする請求項3に記載の混雑確率予測装置。
【請求項9】
前記電力系統内の設備は、
発電設備、負荷及び蓄電設備のうち少なくとも1つを含み、
前記系統混雑確率予測部は、
前記発電設備の発電制御量が小さくなるように、前記負荷又は前記蓄電設備の運転計画を作成すること、
を特徴とする請求項6に記載の混雑確率予測装置。
【請求項10】
前記系統混雑確率予測部は、
同一の前記電力系統内に、発電設備、負荷又は蓄電設備を束ねて運用するアグリゲータが複数存在する場合、複数の前記アグリゲータ間で前記運転計画を配分すること、
を特徴とする請求項6に記載の混雑確率予測装置。
【請求項11】
発電事業者又は前記アグリゲータから発電計画を取得する発電計画データ入力部を備え、
前記系統混雑確率予測部は、
前記取得した発電計画に基づき、前記電力系統の混雑箇所及び混雑確率データを予測すること、
を特徴とする請求項10に記載の混雑確率予測装置。
【請求項12】
電力系統の混雑を予測する混雑確率予測装置を用いる混雑確率予測方法であって、
前記混雑確率予測装置の気象予測データ入力部は、
現在を基準として所定の日数後の気象に関する気象予測データを取得し、
前記混雑確率予測装置の電力系統データ入力部は、
現在を基準として所定の日数後の電力需要に関する需要データを取得するとともに、現在を基準として所定の日数後の前記電力系統に関する系統データを取得し、
前記混雑確率予測装置の系統混雑確率予測部は、
前記気象予測データ、前記需要データ及び前記系統データに基づき、現在を基準として所定の日数後の前記電力系統の混雑箇所及び混雑確率データを予測すること、
を特徴とする混雑確率予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混雑確率予測装置及び混雑確率予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統においては、ある地域内の需要及び供給のバランスを一致させる必要がある。例えば、特許文献1には、エネルギー運用システムが、現在及び将来の気象状況及び社会環境の状況パターンを含む情報を取得し、これらに基づいて将来のエネルギーの需要量及び発電量を予測し、この予測結果に基づいて管理地域内の需給を制御する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、太陽光発電、風力発電等の再生可能エネルギーの大量導入に伴い、再生可能エネルギーの発電量が多くなった場合、電力系統の送電線、変電設備等の送変電設備を通過する電力量が、送変電設備の運用容量を超える系統混雑が生じる。この系統混雑を回避しつつ再生可能エネルギーの導入を進める手段として、ノンファーム型接続と呼ばれる発電設備の系統接続方法が導入されている。
【0005】
ノンファーム型接続とは、送変電設備の運用容量に空きがなくなった際に、発電出力を抑制することを前提に、電力系統へ発電設備を接続することである。ノンファーム型接続においては、送変電設備の混雑が発生する場合、電力系統の運用者が発電設備に対して発電電力の抑制を指示し、発電設備の運用者は、発電電力を抑制することで系統混雑を回避する。この指示は、発電制御と呼ばれる。
【0006】
発電制御がいつ、どれだけ発生するかは、電力系統に接続する全ての発電設備の発電電力、負荷(又は需要家)の消費電力、及び、電力系統の送変電設備の物理的構成によって決まる。したがって、ノンファーム型接続の発電設備の運用者又は事業者は、発電制御がいつ、どれだけ発生するかを予測することが困難である。その結果、安全サイドを見て発電制御の量(以下、“発電制御量”と呼ぶ)が大きくなる課題があった。
また、気象状況で変動する再生可能エネルギーの影響を受けることによって、発電制御量は、不確実性を伴う。このことが、さらに発電設備の運用計画を困難にしている。
【0007】
しかしながら、特許文献1は、電力の需給バランスのみを考慮しており、電力系統における送変電設備の運用容量等の制約と需給バランスとの関係が時々刻々と変化し、その変化に応じて発電制御を行うことに焦点を合わせていない。ノンファーム型接続の発電設備の運用者又は事業者にとって、特許文献1の技術は、使用しやすいものではない。
そこで、本発明は、特に不確実性を考慮したうえで、ノンファーム型接続の発電設備に対する発電制御を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の混雑確率予測装置は、電力系統の混雑を予測する混雑確率予測装置であって、現在を基準として所定の日数後の気象に関する気象予測データを取得する気象予測データ入力部と、現在を基準として所定の日数後の電力需要に関する需要データを取得するとともに、現在を基準として所定の日数後の前記電力系統に関する系統データを取得する電力系統データ入力部と、前記気象予測データ、前記需要データ及び前記系統データに基づき、現在を基準として所定の日数後の前記電力系統の混雑箇所及び混雑確率データを予測する系統混雑確率予測部と、を備えることを特徴とする。
その他の手段については、発明を実施するための形態のなかで説明する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特に不確実性を考慮したうえで、ノンファーム型接続の発電設備に対する発電制御を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】第1の実施例における処理手順のフローチャートである。
【
図3】ステップS131の詳細のフローチャートである。
【
図4】ステップS132の詳細のフローチャートである。
【
図5】ステップS1324の詳細のフローチャートである。
【
図6】ステップS1325の詳細のフローチャートである。
【
図10】電力系統の構成及び信号の流れを示す図である。
【
図11】第2の実施例における処理手順のフローチャートである。
【
図13A】本発明を適用しない場合の運用における、発電設備の発電出力、負荷の消費電力量、及び、蓄電設備の充電率を時系列で示す図である。
【
図13B】本発明の運転計画を適用した場合の運用における、発電設備の発電出力、負荷の消費電力量、及び、蓄電設備の充電率を時系列で示す図である。
【
図14】第3の実施例における処理手順のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、4つの実施例を図面に沿って説明する。第1の実施例は、混雑確率予測装置が系統混雑の予測結果を配信する例である。第2の実施例は、混雑確率予測装置が電気設備の運転計画を作成する例である。第3の実施例は、混雑確率予測装置が電力価格を算出・出力する例である。第4の実施例は、混雑確率予測装置が発電事業者等から発電計画を取得する例である。
【0012】
〈第1の実施例〉
図1は、第1の実施例の構成を示す図である。混雑確率予測装置1は、ネットワーク2を介して電力系統の運用者3、気象予測会社4、発電事業者51及びアグリゲータ52と接続されている(それぞれのコンピュータと接続されている)。アグリゲータ52は、電力系統に接続されている発電設備、負荷、蓄電設備等を束ねて一体的に管轄・運用する主体であり、自身が管轄・運用する発電設備等に運転計画を送信する主体である(詳細後記)。
【0013】
混雑確率予測装置1は、一般的なコンピュータであり、中央制御装置、入力装置、出力装置、主記憶装置、補助記憶装置、通信装置等を備える(図示せず)。そして、中央制御装置は、プログラムを補助記憶装置から主記憶装置に読み出すことによって、そのプログラムが有する機能を実現する。
図1の電力系統データ入力部11、気象予測データ入力部12及び系統混雑確率予測部13は、プログラムである。
【0014】
混雑確率予測装置1の電力系統データ入力部11は、発電データ31、需要データ32及び系統データ33を電力系統の運用者3からネットワーク2を介して取得する。
発電データ31は、発電設備の位置及び出力可能な発電設備の定格容量を記憶している。定格容量は、将来の時系列で記憶されていてもよい。
需要データ32は、電力を消費する需要家の位置及び消費電力を記憶している。消費電力は、将来における需要家の電力消費計画として時系列で記憶されていてもよい。需要データ32は、多くの需要家を地域単位でまとめた電力消費計画であってもよいし、複数の特定の大口需要家の電力消費計画であってもよい。
【0015】
さらに、需要データ32は、その値が1つに決まるピンポイント値であってもよいし、信頼区間幅もしくは分散を含む予測値であってもよいし、又は、確率分布の確率予測値であってもよい。例えば、日時、気象データ、過去の需要実績データ等から統計的手法によって、需要データ32の確率分布を予測することができる。
系統データ33は、電力系統を構成する送配電設備の位置情報、トポロジー情報、及び、送電線や変圧器のインピーダンス情報を記憶している。
【0016】
なお、これらのデータはあくまでも一例であり、電力系統データ入力部11が取得するデータは、これらに限定されない。電力系統データ入力部11が行う処理は、完全な自動処理であってもよいし、キーボード等を利用してユーザが入力する手動処理であってもよいし、両者の組合せであってもよい。
【0017】
混雑確率予測装置1の気象予測データ入力部12は、気象予測データ41を気象予測会社4からネットワーク2を介して取得する。
気象予測データ41は、将来における太陽光の日射量、風速、風向、気温、湿度、降水量等の予測値を記憶している。気象予測データ41は、数値予測モデル(気象モデル)、機械学習、統計的手法、又は、これらの組合せによって算出される。気象予測データ41は、地理的な分解能を持つデータであり、例えば、地図をメッシュ状に分割した上で、各メッシュ、又は格子点上でそれぞれ定義される。気象予測データ41は、時間的な分解能を持つデータでもあり、将来の予測値として、現在を基準にして所定の日数後(数日から数カ月後)の予測値を記憶している。
【0018】
また、気象予測データ41は、その値が1つに決まるピンポイント値であってもよいし、信頼区間幅もしくは分散を含む予測値であってもよいし、又は、確率分布の確率予測値であってもよい。確率分布の形状は、特に限定されず、正規分布、左右非対称、多峰性等の任意の形状であってよい。
【0019】
混雑確率予測装置1の系統混雑確率予測部13は、確率的に予測した混雑箇所及び混雑時刻(
図7参照)を、ネットワーク2を介して発電事業者51及びアグリゲータ52に送信(配信)する。さらに、系統混雑確率予測部13は、確率的に予測した発電制御量(
図8参照)を発電事業者51及びアグリゲータ52に送信する。
【0020】
図2は、第1の実施例における処理手順のフローチャートである。
ステップS130において、混雑確率予測装置1の系統混雑確率予測部13は、系統混雑を予測する地域(予測対象地域)及び予測する期間(予測対象期間)をユーザが入力装置を介して入力(選定)するのを受け付ける。予測対象地域及び予測対象期間は、予め定められてもよいし、混雑確率予測の必要がある都度、外部から入力されてもよい。予測対象期間は、通常、現在を起点として所定の日数後の時点を終点とする期間である。
【0021】
ステップS131において、混雑確率予測装置1の電力系統データ入力部11、気象予測データ入力部12及び系統混雑確率予測部13は、入力データの準備を行う。ステップS131の詳細は、
図3において後記する。
ステップS132において、混雑確率予測装置1の電力系統データ入力部11及び系統混雑確率予測部13は発電制御量を算出する。ステップS132の詳細は、
図4、
図5及び
図6において後記する。
【0022】
ステップS133において、混雑確率予測装置1の系統混雑確率予測部13は、混雑箇所、混雑時刻及び発電制御量の確率の出力(送信)を行う。具体的には、系統混雑確率予測部13は、発電事業者51及びアグリゲータ52に対して
図7の混雑確率データ、
図8の電力系統図及び
図9の時系列推移図を出力する。その後、処理手順を終了する。
【0023】
図3は、ステップS131の詳細のフローチャートである。
ステップS1311において、混雑確率予測装置1の電力系統データ入力部11は、風力発電設備、太陽光発電設備等、気象条件によって出力が決定される再生可能エネルギーの座標データ(位置データ)を系統データ33から抽出する。その後、処理は2つに分岐する。
【0024】
ステップS1312において、混雑確率予測装置1の気象予測データ入力部12は、地理的分解能を持つ気象予測データ41から、風力発電設備の座標データと一致する地点又は近傍地点の風速確率データを取得する。ここで取得される風速確率データは、現在を基準として所定の日数後の気象に関する確率データである。
【0025】
ステップS1313において、混雑確率予測装置1の系統混雑確率予測部13は、第1に、風力発電設備の出力及び風速の関係を表すパワーカーブを、任意の装置から取得する。系統混雑確率予測部13は、出力及び風速の過去データに基づく回帰分析等の手法を用いてパワーカーブを作成してもよい。
第2に、系統混雑確率予測部13は、パワーカーブを用いて、風速確率データ(予測値)から取得したパワーカーブに係る風力発電設備の発電量の確率予測値を算出する。
【0026】
ステップS1314において、混雑確率予測装置1の気象予測データ入力部12は、地理的分解能を持つ気象予測データ41から、太陽光発電設備の座標データと一致する地点又は近傍地点の日射量確率データ(予測値)を取得する。ここで取得される日射量確率データもまた、現在を基準として所定の日数後の気象に関する確率データである。
【0027】
ステップS1315において、混雑確率予測装置1の系統混雑確率予測部13は、第1に、太陽光発電設備の出力及び日射量の関係を表すパワーカーブを、任意の装置から取得する。系統混雑確率予測部13は、出力及び日射量の過去データに基づく回帰分析等の手法を用いてパワーカーブを作成してもよい。
第2に、系統混雑確率予測部13は、パワーカーブを用いて、日射量確率データ(予測値)から取得したパワーカーブに係る太陽光発電設備の発電量の確率予測値を算出する。
【0028】
ステップS1313及びステップS1315が終了した段階で、系統混雑確率予測部13は、予測対象地域における予測対象期間の発電量の確率予測値を時系列で保持していることになる。その後、ステップS132に進む。
【0029】
図4は、ステップS132の詳細のフローチャートである。
ステップS1320において、混雑確率予測装置1の系統混雑確率予測部13は、再生可能エネルギーの発電量の確率予測値及び需要データの確率予測値から、疑似乱数によって標本を抽出する。
ステップS1321において、混雑確率予測装置1の系統混雑確率予測部13は、予測対象期間における予測対象地域内の電力系統の初期潮流断面を、抽出した各標本及び火力、原子力等の従来電源に基づき算出する。初期潮流断面の算出方法は、系統解析に一般的に用いられる潮流計算による。
【0030】
ステップS1322において、系統混雑確率予測部13は、時刻Tに初期値“1”を代入する。時刻Tは、その後、2、3、4、・・・と変化する。後記する処理において、予測対象期間内の時刻Tのそれぞれについて、発電制御量が、その確率予測値として算出されることになる。発電制御量の算出は、例えば、1時間ごとに繰り返し行われる。
【0031】
ステップS1323において、混雑確率予測装置1の電力系統データ入力部11は、時刻Tにおける発電データ31及び需要データ32を取得する。ここで、時刻Tは、現在を基準として所定の日数後の時刻である。
ステップS1324において、系統混雑確率予測部13は、時刻Tにおける系統制約量を算出する。ステップS1324の詳細は、
図5において後記する。
ステップS1325において、系統混雑確率予測部13は、時刻Tにおける需給制約量を算出する。ステップS1325の詳細は、
図6において後記する。
【0032】
ステップS1326において、系統混雑確率予測部13は、時刻Tが予測対象期間の最後の時刻に達したか否かを判断する。具体的には、系統混雑確率予測部13は、時刻Tが予測対象期間の最後の時刻に達した場合(ステップS1326“Yes”)、ステップS1328に進み、それ以外の場合(ステップS1326“No”)、ステップS1327に進む。
【0033】
ステップS1327において、系統混雑確率予測部13は、時刻Tに“1”を加算したうえで、ステップS1323に戻る。
ステップS1328において、系統混雑確率予測部13は、終了判定を行う。具体的には、系統混雑確率予測部13は、任意の繰り返し回数又は任意の繰り返し時間を超過していない場合(ステップS1328“No”)、ステップS1320に戻り、それ以外の場合(ステップS1328“Yes”)、ステップS1329に進む。
【0034】
ステップS1329において、系統混雑確率予測部13は、集計処理を行い、混雑確率データ(
図7)を作成する。集計処理の詳しい内容については、
図7の説明で後記する。
その後、処理はステップS133に移る。前記したように、ステップS133において、系統混雑確率予測部13は、混雑確率データを混雑確率予測装置1の外部に出力する。また、後記するように、混雑確率データは、系統混雑の位置、系統混雑の発生予測時刻、発電制御量、発電制御量の確率分布、系統混雑の発生確率、又は、これらの組合せを含む。
【0035】
図5は、ステップS1324の詳細のフローチャートである(時刻Tにおける系統制約量の算出)。
ステップS1324aにおいて、混雑確率予測装置1の系統混雑確率予測部13は、予測対象地域の電力系統の潮流計算を行い、混雑箇所の有無を特定する。混雑箇所とは、送電線、変電設備等の送配電設備の運用容量を送電電力が超過する箇所である。混雑箇所には、系統混雑が発生する。
【0036】
送配電設備の運用容量は、送配電設備の熱容量によって規定されることに加え、電力系統を安定的に運用するために必要な制約によって決定される。系統混雑確率予測部13は、例えば、電力系統において落雷等の事故が発生した際、電圧安定性、周波数安定性等の観点から、電力系統を安定的に運用するために必要な送電電力の上限値を、運用容量として各送配電設備ごとに規定する。なお、系統データ33(
図1)は、運用容量を含む前記電力系統の制約に関するデータでもある。
【0037】
ステップS1324bにおいて、系統混雑確率予測部13は、混雑箇所があるか否かを判断する。具体的には、系統混雑確率予測部13は、混雑箇所がある場合(ステップS1324b“Yes”)、ステップS1324cに進み、それ以外の場合(ステップS1324b“No”)、ステップS1325に進む。
【0038】
ステップS1324cにおいて、系統混雑確率予測部13は、混雑箇所を抽出する。
ステップS1324dにおいて、系統混雑確率予測部13は、発電予測値から送配電設備の運用容量を減算した結果(正値)である系統制約量ΔPaを算出する。系統制約量ΔPaは、送配電設備に対する過度の負荷の量(過負荷量)であるともいえる。
ステップS1324eにおいて、系統混雑確率予測部13は、ノンファーム型接続を適用している発電設備の出力を時刻TにおいてΔPaだけ低減することを決定する。その後、ステップS1324aに戻る。
【0039】
系統混雑の発生が予測された場合の処理方法は、地域ごとに及び制度の適用時期によって異なる。
図5は、ノンファーム型の接続が適用される発電設備に対する発電制御の処理方法を示している。なお、系統混雑時の処理方法は、この方法に限定されず、他の制度に遵守した方法であっても本発明の効果が得られる。前記したように、ノンファーム型接続とは、送配電設備の運用容量に空き容量がなくなった際に、発電出力を抑制(発電制御)することを前提に、電力系統へ発電設備を接続することである。
【0040】
系統混雑確率予測部13は、潮流計算結果の潮流の向き等から、ノンファーム型の接続が適用される発電設備のうち系統混雑の原因となるものを特定し、特定したすべての発電設備に対して、系統制約量ΔPaを定格容量等に応じて比例配分する。
特定された発電設備のそれぞれは、配分された系統制約量ΔPaに応じて、出力を抑制(発電制御)される見込みとなる。系統混雑確率予測部13は、この発電制御の処理を混雑箇所が無くなるまで繰り返す。
【0041】
図6は、ステップS1325の詳細のフローチャートである(時刻Tにおける需給制約量の算出)。
ステップS1325aにおいて、混雑確率予測装置1の系統混雑確率予測部13は、予測対象地域の発電予測値が需要予測値を超えるか否かを判断する。具体的には、第1に、系統混雑確率予測部13は、予測対象地域における発電予測値の総和を需要予測量の総和と比較する。
第2に、系統混雑確率予測部13は、発電予測値の総和の方が大きい場合(ステップS1325a“Yes”)、ステップS1325bに進み、それ以外の場合(ステップS1325a“No”)、ステップS1326に進む。
【0042】
ステップS1325bにおいて、系統混雑確率予測部13は、予測対象地域における発電予測値の総和から需要予測量の総和を減算した結果である需給制約量ΔPbを算出する。需給制約量ΔPbは、需要に対する発電超過量であるともいえる。需給制約量ΔPbの具体的な算出方法は、地域及び制度の適用時期によって異なる。
【0043】
ステップS1325cにおいて、系統混雑確率予測部13は、各発電設備の発電制御量ΔPabを算出する。具体的には、第1に、系統混雑確率予測部13は、前記特定したすべての発電設備に対して、需給制約量ΔPbを定格容量等に応じて比例配分する。
第2に、系統混雑確率予測部13は、発電制御量ΔPabを発電設備ごとに算出する。発電制御量ΔPabは、比例配分された系統制約量ΔPa及び比例配分された需給制約量ΔPbの和である。
【0044】
系統混雑確率予測部13は、例えば、優先給電ルールに従い、火力発電設備等を優先的に発電制御し最後に再生可能エネルギーを発電制御する。系統混雑確率予測部13は、優先給電ルールに従って、予測対象地域における発電予測値の総和と需要予測量の総和が一致するまで、発電制御の処理を繰り返し実行する。なお、需給制約時の処理方法は、この優先給電ルールに限定されず、他の制度を遵守した方式であっても、本発明の効果が得られる。
【0045】
図7は、混雑確率データの結果の一例である。ステップS1329において、系統混雑確率予測部13は、ステップS1329の集計処理の結果として混雑確率データ(
図7)を作成し、外部に出力する。混雑確率データにおいては、系統混雑位置欄71に記憶された系統混雑位置に関連付けて、時刻欄72には時刻が、混雑発生有無欄には73混雑発生有無が発電制御量欄74には発電制御量が、頻度欄75には頻度が、発電制御量の確率分布欄76には発電制御量の確率分布が、混雑確率欄77には混雑確率が記憶されている。
【0046】
系統混雑位置欄71の系統混雑位置は、系統混雑が発生する又は発生しない送電線等の位置を一意に特定する識別子(a、b、・・・、z)である。
時刻欄72の時刻は、系統混雑が発生する又は発生しないことが予測される時刻である。
混雑発生有無欄73の混雑発生有無は、その系統混雑位置においてその時刻に系統混雑が発生することを示す“1”、又は、系統混雑が発生しないことを示す“0”のいずれかである。
【0047】
発電制御量欄74の発電制御量は、発電設備に対する発電制御量である。混雑発生有無が“0”である場合、発電制御量も“0”である。発電制御量は、解析値自身であってもよいし、任意の幅を有する解析値のビン平均であってもよい。
頻度欄75の頻度は、充分な回数の繰り返しシミュレーションにおいて、その系統混雑位置においてその時刻にその発電制御量が発生する回数、又は、その系統混雑位置においてその時刻に発電制御量が発生しない回数である。
発電制御量の確率分布欄76の発電制御量の確率分布は、その系統混雑位置においてその時刻にその発電制御量が発生する確率である。
混雑確率欄77の混雑確率は、その系統混雑位置においてその時刻に系統混雑が発生する確率である。
【0048】
図7を見ると、以下のことがわかる。
・系統混雑確率予測部13は、系統混雑位置“a”において時刻“20xx年yy月zz日11時00分”に系統混雑が発生するか否かを模擬するシミュレーションを1000回行った。
・そのうち、系統混雑が発生しなかった回数は“200”であり、系統混雑が発生した回数は“800”であった。
・さらに、この“800”回のうち、発電制御量が“50”MWであった回数は“500”であり、発電制御量が“100”MWであった回数は“300”であった。
【0049】
・したがって、発電制御量の確率分布のうち、発電制御量が“50”MWとなる確率は、500/1000=50%である。発電制御量が“100”MWとなる確率は、300/1000=30%である。発電制御量が“0”MWとなる確率は、200/1000=20%である。
・系統混雑が発生する確率は、50%+30%=80%である。
・因みに、系統混雑確率予測部13は、系統混雑位置“z”において時刻“20xx年yy月zz日23時00分”に系統混雑が発生するか否かを模擬するシミュレーションを1000回行った。その結果、系統混雑は発生しなかった。
【0050】
図8は、混雑箇所を示す電力系統図の一例である。ステップS133において、混雑確率予測装置1の系統混雑確率予測部13は、系統混雑の位置(混雑箇所)、系統混雑の時刻(混雑時刻)及び混雑確率を外部に出力する。
図7の例では、系統混雑確率予測部13は、予測対象地域における変電所(○)及び送電線(直線)で構成される系統図上に、混雑時刻における混雑箇所(系統混雑位置としての送電線a)を太線で強調表示している。さらに、系統混雑確率予測部13は、混雑箇所に関連付けて、混雑確率“80%”を表示している。混雑箇所及び混雑時刻の出力方法は、
図8の例に限定されず、例えば、送電線が特定できる番号及び混雑時刻とともに、テキストデータとして混雑箇所を出力する方法又はそれ以外の方法であってもよい。
【0051】
図9は、発電制御量の時系列推移図の一例である。ステップS133において、混雑確率予測装置1の系統混雑確率予測部13は、発電制御量の時系列推移図を外部に出力する。
図9の例では、系統混雑確率予測部13は、ある発電設備における発電制御量を、発電制御前の予測出力と、発電制御後の予測出力のうち最も確率が高いものとの差分(棒グラフの白抜き部分の高さ)として時系列で図示する。前記したように、発電制御量は、系統混雑及び電力の需給バランスの両者に起因している(発電制御量ΔPab=ΔPa+ΔPb)。
【0052】
系統混雑確率予測部13は、時間帯ごとに、発電制御後の予測出力のうち最も確率が高いもの(網掛け棒グラフ)、及び、その発電制御前の予測出力に対する比率(%)を表示する。さらに、系統混雑確率予測部13は、この比率が“100%”ではない時間帯ごとに、取り得る発電制御後の予測出力の最大値及び最小値(MW)を“エ形状チャート”で表示する。
【0053】
例えば、9時の時間帯に注目すると、発電制御後の予測出力のうち最も確率が高いものは、240MWであり、この240MWの発電制御前の予測出力300MWに対する比率は、“80%”であった。この“80%”は、確率ではなく、比率である。同時間帯において、発電制御後の予測出力の確率分布は、その“80%”に対応する出力水準240MWを含む、およそ30MWの範囲に分布している。
【0054】
発電制御量の出力方法は、
図9の例に限定されず、例えば、発電設備を特定できる番号及び混雑時刻とともに、テキストデータとして発電制御量を出力する方法又はそれ以外の方法であってもよい。
【0055】
図1に示したように、混雑確率予測装置1は、系統混雑確率を予測し、その予測結果を発電事業者51及びアグリゲータ52に送信する。発電事業者51及びアグリゲータ52は、受信した系統混雑確率の予測結果を、自身が管理する発電設備、負荷、蓄電設備等の運転計画に反映する。この系統混雑確率の予測結果により、発電事業者51及びアグリゲータ52は、系統混雑時に例えば、負荷が消費する電力量を増大する運転計画又は蓄電設備に充電する運転計画を、不確実性を考慮したうえで作成することで、系統混雑時の発電設備の発電制御量を抑制することができる。本発明の効果により、発電設備の所有者・運用者は、不確実性を考慮したうえで、発電制御量が小さくなるように運転計画を立てることが可能となり、再生可能エネルギーの発電電力の有効利用を実現できる。
【0056】
〈第2の実施例〉
第2の実施例においては、第1の実施例における混雑確率予測装置1が、予測した混雑箇所及び発電制御量に基づき、電気設備(直ちに後記)の運転計画を作成する。
【0057】
図10は、電力系統の構成及び信号の流れを示す図である。
図2における再生可能エネルギー発電設備(単に“再エネ”とも呼ばれる)62、負荷63及び蓄電設備64は、アグリゲータ52が管轄する電気設備を構成する。アグリゲータ52は、混雑確率予測装置1から運転計画を受信する。ここで受信される運転計画は、再エネ62、負荷63及び蓄電設備64を含む電気設備全体に係るものである(
図12参照)。アグリゲータ52は、これら電気設備のそれぞれに運転計画を送信する。ここで送信される運転計画は、再エネ62、負荷63及び蓄電設備64のそれぞれに係るもの(個別指令)である。なお、符号61は、変圧設備を示す。
【0058】
電気設備は、受信した運転計画に従って運転する。
図10では、アグリゲータ52が再エネ62、負荷63及び蓄電設備64を管轄する例を示した。しかしながら、アグリゲータ52が管轄する電気設備は、これらに制限されず、この他にも、電力を発電する設備、電力を消費する設備、電力を蓄電・放電する設備の組み合わせであれば、本発明の効果が得られる。
【0059】
図11は、第2の実施例における処理手順のフローチャートである。
図11のステップS130~S132は、
図1のステップS130~S132と同じである。
ステップS134において、混雑確率予測装置1の系統混雑確率予測部13は、電気設備の運転計画を作成する。具体的には、系統混雑確率予測部13は、予測した混雑箇所及び発電制御量に基づき、管轄する電気設備の収益を最大化するように、それぞれの電気設備の運転計画を作成する。系統混雑確率予測部13は、運転計画を作成するために、線形計画法等の最適化アルゴリズムを適用してもよいし、本分野に一般的な技術を適用してもよい。
【0060】
ステップS135において、系統混雑確率予測部13は、電気設備の運転計画(
図12)を電力事業者51及びアグリゲータ52に出力する。
【0061】
系統混雑確率予測部13は、複数の運転計画を作成してもよい。そのうえで、系統混雑確率予測部13は、例えば発電制御量の運転計画値と実績値との差分を閾値として、運転計画を切り替えることも可能である。系統混雑確率予測部13は、シミュレーション等によって閾値を予め決定してもよいし、外部から閾値を受け付け、必要に応じて、変更後の閾値を受け付けてもよい。さらに、系統混雑確率予測部13は、特に再エネ62の発電電力量の運転計画値と実績値との差分を閾値としてもよい。
【0062】
図12は、運転計画の一例を示す図である。系統混雑確率予測部13は、発電制御が発生することが予測される時刻に先立って、再エネ62、負荷63及び蓄電設備64のそれぞれに対し、アグリゲータ52を経由して運転計画を送信する。負荷63に係る運転計画は、例えば、発電制御の発生に合わせて電力を消費するために、予め立上げ動作を実施する旨の指示である。蓄電設備64に係る運転計画は、発電制御の発生に合わせて電力を蓄電するために、予め放電動作を実施する旨の指示である。再エネ62に係る運転計画は、例えば、発電運転をするに際し、発電制御量を低減する(低減幅を最小化する)旨の指示である。
【0063】
結局、系統混雑確率予測部13は、再エネ62が発電出力を抑制せざるを得ない場合、充分な準備期間を与えたうえで、可能な限り発電出力を吸収する運転計画を負荷62及び蓄電設備64に送信し、再エネ62に対する発電制御を最小化する。
【0064】
図12を見ると、以下のことがわかる。
(1)混雑確率予測装置1は、系統混雑が混雑時刻において発生すること、つまり、再エネ62に対する発電制御を行う必要があることを事前に予測している。一般に、混雑時刻は、現在を基準として所定の日数後(数日又は数か月後)の時点である。
(2)混雑確率予測装置1は、混雑時刻の2日前に、このことを予測している。つまり、
図12の例では、混雑時刻は、現在より2日後の時刻である。
【0065】
(3)混雑確率予測装置1は、以下の内容の運転計画を、アグリゲータ52を介して負荷63に送信する。
(3-1)混雑時刻の1日前までは、負荷63は、停止する。
(3-2)混雑時刻の24時間前~直前には、負荷63は、立ち上げ(準備)をする。
(3-3)混雑時刻には、負荷63は、消費電力を増加させたうえで運転する。
【0066】
(4)混雑確率予測装置1は、以下の内容の運転計画を、アグリゲータ52を介して蓄電設備64に送信する。
(4-1)混雑時刻の2時間前までは、蓄電設備64は、放電する。
(4-2)混雑時刻の1時間前~直前には、蓄電設備64は、充電する。
(4-3)混雑時刻には、蓄電設備64は、充電する。
【0067】
(5)混雑確率予測装置1は、以下の内容の運転計画を、アグリゲータ52を介して再エネ62に送信する。
(5-1)混雑時刻の直前までは、再エネ62は、通常の発電運転を行う。
(5-2)混雑時刻には、再エネ62は、発電制御量を低減(最小化)したうえで発電運転を行う。
【0068】
図12で明らかなように、運転計画には、系統混雑確率予測部13が予測した混雑箇所、混雑時刻及び発電制御量が反映されている。
【0069】
図13は、本発明の効果を説明する図である。
図13Aは、本発明を適用しない場合の運用における、発電設備の発電出力、負荷の消費電力量、及び、蓄電設備64の充電率を時系列で示す図である。
図13Bは、本発明の運転計画を適用した場合の運用における、発電設備の発電出力、負荷の消費電力量、及び、蓄電設備64の充電率を時系列で示す図である。
【0070】
これらの
図13A及び
図13Bにおいて、再エネ62の発電電力の使途は、負荷63による消費(斜線ハッチング部分)、蓄電設備64による蓄電(縦線ハッチング部分)、及び、電力系統への出力(網掛け部分)のいずれかである。ここでの“電力系統への出力”は、運転計画の対象となる負荷以外の負荷による消費、又は、他の電力系統への流出を意味する。
【0071】
図13Aを見ると、以下のことがわかる。
・負荷63は、一定の運転を続けており、その消費電力は一定である。
・蓄電設備64は、再エネ62の発電電力が増加する時刻(“1時間前”)までは運転を停止している(放電も蓄電もしない)。
・再エネ62の発電電力が増加する時刻(“1時間前”)において、蓄電設備64が充電を開始し電力系統へ出力する発電電力を減少させることで電力系統の混雑を緩和する。
・しかしながら、蓄電設備64が充電できる電力量に制限があり、充電率が100%付近になると充電を停止せざるを得ない。このため、系統混雑により送電できない電力が発生する場合、“発電制御発生”の時刻以降、再エネ62の発電電力を抑制(発電制御)する必要がある。
【0072】
図12Bを見ると、以下のことがわかる。
・将来における系統混雑に備えて、負荷63は、運転時刻をシフトする。つまり再エネ62の発電電力が増加し系統混雑が発生し得る時刻(“1時間前”)以降にのみ、集中的に電力を消費することで、再エネ62の発電制御を回避する。
・将来における系統混雑時の充電に備えて、蓄電設備64は予め(“1日前~1時間前”)放電することで、充電率を低減させておく。
・再エネ62の発電電力が増加し系統混雑が発生し得る時刻(“1時間前”以降)において、蓄電設備64が充電を開始し、再エネ62の発電制御を回避する。
【0073】
図12及び
図13から明らかなように、混雑確率予測装置1の系統混雑確率予測部13は、発電設備に対する発電制御量が小さくなるように、つまり、発電電力の抑制量が小さくなるように、負荷又は蓄電設備に対する運転計画を作成する。
【0074】
第2の実施例の効果として、再エネ62の発電制御量が低減され、二酸化炭素の排出量が小さい再生可能エネルギーの有効利用が可能となる。また、電力を消費する負荷63を持つ需要家は、再エネ62の発電電力を購入する方が小売り事業者を介して電力を購入する場合と比較して買電費用が安くなる場合があり、買電費用を最小化することができる。また、蓄電設備64を運用する事業者は、蓄電設備64を効率的に運用することで、自身の収益を最大化することができる。
【0075】
〈第3の実施例〉
第3の実施例においては、第1の実施例における混雑確率予測装置1が、気象予測データ41、需要データ32及び系統データ33から電力価格を算出し、出力する。
【0076】
電力系統の混雑管理方法として、ゾーン制、ノーダル制等の市場主導型の方法が存在する。これらは、地域ごと又は地点ごとに電力価格に差をつけて、混雑を解消する方法である。具体的には、混雑が発生する地域又は地点では、電力価格を下げることにより、発電に必要な費用が高い発電設備は、電力の市場取引において契約を成立(約定)させることができなくなり、結果的に発電が抑制される。一方、混雑が発生していない地域又は地点では、電力価格を上げることにより、発電設備の発電出力の増加を促し、市場取引で契約する量が増加し、混雑が発生した地域又は地点において抑制された電力を代替的に消費する。このような市場を介した価格シグナルによって、系統混雑を解消することができる。
【0077】
図14は、第3の実施例の処理手順のフローチャートである。第3の実施例においては、混雑確率予測装置1の系統混雑確率予測部13は、市場主導型の混雑管理方法に対応する形態として、第1の実施例におけるステップS132及びS133に代替して、ステップS136において電力価格を算出する。そのうえで、系統混雑確率予測部13は、ステップS137において電力価格を電力事業者51及びアグリゲータ52に出力する。つまり、系統混雑確率予測部13は、地域ごと又は地点ごとの電力価格を予測する。系統混雑確率予測部13は、例えば、予測した発電制御量が大きいほど、当該地域又は地点における電力価格を低く予測する。系統混雑確率予測部13は、電力価格の予測方法として一般的に用いられるゾーン制又はノーダル制の予測方法を利用してもよい。
【0078】
なお、
図14のステップS131(ステップS1311)において、電力系統データ入力部11は、需要データ32も取得する。系統混雑確率予測部13は、発電予測値を需要データ32と比較して電力価格を算出することもできる。
【0079】
発電事業者51及びアグリゲータ52は、混雑確率予測装置1から電力価格の予測値を取得し、自身が管理する発電設備、負荷、蓄電設備等の運転計画に電力価格の予測値を反映する。第3の実施例の効果として、市場主導型の混雑管理の形態であっても、電気設備の所有者・運用者は、発電制御量が小さくなるように運転計画を立てることが可能となり、再生可能エネルギーの発電電力の有効利用を実現できる。
【0080】
〈第4の実施例〉
第4の実施例においては、第1の実施例における混雑確率予測装置1が、発電事業者51及びアグリゲータ52から発電計画を取得し、それを発電制御量の算出に利用する。
【0081】
図15は、第4の実施例の構成を示す図である。第4の実施例においては、第1の実施例と同様に、発電事業者51a及びアグリゲータ52aは、発電制御量の予測値を、ネットワーク2を介して混雑確率予測装置1から取得する。第4の実施例においては、それに加え、混雑確率予測装置1は、プログラムとして発電計画データ入力部14を備える。発電計画データ入力部14は、他の発電事業者51b及び他のアグリゲータ52bから発電計画を取得する。
【0082】
混雑確率予測装置1の発電計画データ入力部14は、
図2のステップS132において、潮流計算により混雑箇所を抽出し発電制御量を算出する際に、発電事業者51b及びアグリゲータ52bから取得した発電計画を利用する。発電事業者51b及びアグリゲータ52bが作成する発電計画を利用することで、電力系統の運用者3が公開する発電データ31のみを利用する場合に比して、潮流計算の精度が向上し、発電制御量の予測精度が向上する。
【0083】
なお、
図15においては、発電制御量の予測値を取得(受信)する発電事業者51a及びアグリゲータ52a、並びに、発電計画を送信する発電事業者51b及びアグリゲータ52bが別々に存在している。しかしながら、1つの発電事業者51又は1つのアグリゲータ52が発電制御量の予測値を受信し、かつ、発電計画を送信する形態であっても、本発明の効果は実現できる。本発明の効果により、電気設備の所有者・運用者は、発電制御量が小さくなるように運転計画を作成することが可能となり、再生可能エネルギーの発電電力の有効利用を実現できる。
【0084】
同一の電力系統内に複数のアグリゲータ52が存在する場合、混雑確率予測装置1の系統混雑確率予測部13は、作成した1つの運転計画を所定の規則に従って、複数のアグリゲータ間で配分してもよい。例えば、運転計画における発電制御量がxである場合、系統混雑確率予測部13は、各アグリゲータが管轄する再エネ62の定格容量に応じて、各アグリゲータにxを配分してもよい。また、系統混雑確率予測部13は、各アグリゲータが管轄する負荷63の個数又は規模に応じて、立上げの準備をすべき負荷の個数又は消費量を各アグリゲータ52に配分してもよい。さらに、系統混雑確率予測部13は、各アグリゲータが管轄する蓄電設備64の個数又は規模に応じて、放電・蓄電すべき蓄電設備の個数又は放電量・蓄電量を各アグリゲータ52に配分してもよい。より一般的には、系統混雑確率予測部13は、複数のアグリゲータ間で運転計画を配分してもよい。
【0085】
本実施例の混雑確率予測装置は、以下の効果を奏する。
(1)混雑確率予測装置は、不確実性を考慮したうえで、ノンファーム型接続を適用する電力系統の混雑箇所及び混雑確率データを予測することができる。
(2)混雑確率予測装置は、ピンポイントの又は確率的な気象予測データ及び需要データを使用することができる。
(3)混雑確率予測装置は、電力系統の混雑確率、電力系統の発電制御量、及び、発電制御量の確率分布を予測することができる。
(4)混雑確率予測装置は、運用容量を含む電力系統の制約に基づき、電力系統の混雑箇所及び混雑確率データを予測することができる。
(5)混雑確率予測装置は、予測した混雑箇所及び混雑確率データをアグリゲータ等に出力することができる。
(6)混雑確率予測装置は、運転計画を作成することができる。
【0086】
(7)混雑確率予測装置は、電力価格を予測することができる。
(8)混雑確率予測装置は、大口需要家の電力消費計画として需要データを取得することができる。
(9)混雑確率予測装置は、発電設備、負荷及び蓄電設備の運転計画を作成することができる。
(10)混雑確率予測装置は、運転計画を複数のアグリゲータ間で配分することができる。
(11)混雑確率予測装置は、アグリゲータ等から発電計画を取得することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 混雑確率予測装置
2 ネットワーク
3 電力系統の運用者
4 気象予測会社
11 電力系統データ入力部
12 気象予測データ入力部
13 系統混雑確率予測部
14 発電計画データ入力部
51 発電事業者
52 アグリゲータ
62 再生可能エネルギー(再エネ)
63 負荷
64 蓄電システム