(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038571
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】除雪具
(51)【国際特許分類】
E04D 15/00 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
E04D15/00 X
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142668
(22)【出願日】2022-09-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】522098091
【氏名又は名称】イーアシスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】弁理士法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 正義
(72)【発明者】
【氏名】辻野 雄人
(57)【要約】
【課題】 地上から効率よく、かつ安全に積雪面に降り積もった雪を除去することができる、耐久性の高い除雪具を提供する。
【解決手段】 除雪具は、雪剥離部と雪掻き戻し部とを備える。雪剥離部は、除雪具を前進させるときに、積雪面(例えば、住宅の屋根など)に積もった雪を積雪面から剥離させることができる。雪掻き戻し部は、雪剥離部の後方に配置され、除雪具を後退させるときに、雪剥離部によって剥離した雪を掻き戻すことができる。雪掻き戻し部は、少なくとも1つの自在変形掻材を有する。少なくとも1つの自在変形掻材は、前進時には雪に対する抵抗力を発生せず、後退時には自在に変形しながら雪に当接して雪に対する抵抗力を発生するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積雪面に降り積もった雪を除去するための除雪具であって、
積雪面から雪を剥離させる雪剥離部と、
前記雪剥離部の後方に配置され、前記雪剥離部によって剥離した雪を掻き戻す雪掻き戻し部と
を備え、
前記雪掻き戻し部は、前進時には雪に対する抵抗力を発生せず、後退時には自在に変形しながら雪に当接して雪に対する抵抗力を発生するように構成された、少なくとも1つの自在変形掻材を有する
ことを特徴とする除雪具。
【請求項2】
前記雪剥離部の上に配置され、積雪面から剥離した雪を切断する雪切断部をさらに備える、請求項1に記載の除雪具。
【請求項3】
少なくとも1つの前記自在変形掻材は、弾性体で形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の除雪具。
【請求項4】
少なくとも1つの前記自在変形掻材は、ループ状の繊維が表面に張り巡らされたパイル生地で形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の除雪具。
【請求項5】
少なくとも1つの前記自在変形掻材は、四角形状の板状体を曲げて対向する一対の辺を重ね合わせるように変形させた形状を有する、請求項3又は請求項4に記載の除雪具。
【請求項6】
前記雪掻き戻し部は、複数の前記自在変形掻材を、重ね合わされた前記一対の辺が互いに位置合わせされるように上下に積層した構成を有することを特徴とする、請求項5に記載の除雪具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根の除雪具に関し、より具体的には、積雪面から剥離、切断された雪を積雪面から掻き落とすための自在変形掻材を有する除雪具に関する。
【背景技術】
【0002】
北海道や東北地方などの降雪地方においては、作業者が屋根に直接登り、スコップなどの除雪道具で雪を崩して地上に落下させることによって除雪作業を行っており、甚大な労力を要し、かつ危険なものであった。
【0003】
屋根に登ることなく安全に雪を降ろすことのできる除雪具が提案されている。 例えば特許文献1に提案される除雪具は、水平板及び垂直板で構成された雪切り体と、その底部の左右方向中央部に設けられた取っ手とを有する。この除雪具は、雪切り体で屋根の雪を切断し、切断された雪塊を、雪切り体の底部に施された滑りシートで滑らせて地上に落下させることができるため、地上にいながら屋根の積雪を除去することができる。
【0004】
また、例えば特許文献2に開示される除雪具も提案されている。この除雪具は、雪の抵抗によって立ち上がる板状部材を備えるものである。この除雪具は、雪切り体を前進させて積雪下部に侵入させ、雪切り体を引き戻すときに立ち上がった板状部材によって雪を堰き止めながら掻き落とすものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3181867号
【特許文献2】実用新案登録第3219842号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のシート付除雪具によると、雪塊を滑落させるための滑落シートとして耐水性と滑走性に優れたプラスチック素材が使用される。一般的には、滑落シートとしてブルーシートなどの軟質シートを使用することが考えられる。しかし、実際の除雪作業において軟質のシートを使用した場合、シート全体を広げた状態を維持することは困難である。例えば、除雪作業中にシートがねじれたり、風によってシートが思わぬ方向にまくれ上がったりすることがある。このような状態は、雪がシート上を滑落するのを妨げることになる。また、縦葺き屋根などのように屋根に突起物がある場合、屋根先端 (地上側)から除雪具を侵入させたときに、シートが突起物に引っ掛かり、破断するおそれがある。加えて、特許文献1に開示されるシート付除雪具は、軒先の面に対して垂直な方向に挿入することが主な使用方法として想定されている。したがって、軒先の面に対して斜めの角度から除雪具を積雪面に挿入すると、シートがまくれて雪が上手く乗らず、雪を滑落させることができない。つまり、従来のシート付除雪具には、挿入する方向や角度が限定されるという課題もある。
【0007】
また、特許文献2に記載の除雪具によると、接続部品(丁番)によって基板に取り付けられた上板(板状部材)が起伏動作を行うことにより、進行時は、上板が畳まれた状態で雪を切り崩し、引き戻すときに上板が立ち上がって切り崩した雪を引き戻すことができる。しかし、屋根の積雪は重量が大きいことが多く、切り崩した雪を引き戻すときには、それ自体は変形しない上板と、それを支持する接続部品とに、相当の過荷重が加わる。引き戻すときの積雪面が上板全体に均等な力で当たることは通常考えられず、したがって、引き戻し時に上板の場所によって荷重に片寄りが生じる。このように、雪を引き戻すときにその抵抗で立ち上がる板状部材が、それ自体は変形しないものである場合には、過荷重や摩耗によって破損しやすく、耐久性に劣る。このことは、除雪具が軒先面に対して斜めに引き戻されるときに、特に問題となる。
【0008】
本発明の目的は、前記した従来の問題を解決し、地上から効率よく、かつ安全に積雪面に降り積もった雪を除去することができる、耐久性の高い除雪具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、積雪面に降り積もった雪を除去するための除雪具を提供する。除雪具は、雪剥離部と雪掻き戻し部とを備える。雪剥離部は、除雪具を前進させるときに、積雪面(例えば、住宅の屋根など)に積もった雪を積雪面から剥離させることができる。雪掻き戻し部は、雪剥離部の後方に配置され、除雪具を後退させるときに、雪剥離部によって剥離した雪を掻き戻すことができる。雪掻き戻し部は、少なくとも1つの自在変形掻材を有する。少なくとも1つの自在変形掻材は、前進時には雪に対する抵抗力を発生せず、後退時には自在に変形しながら雪に当接して雪に対する抵抗力を発生するように構成されている。一実施形態において、除雪具は、雪剥離部の上に配置され、積雪面から剥離した雪を切断する雪切断部をさらに備えることが好ましい。
【0010】
一実施形態において、少なくとも1つの自在変形掻材は、弾性体で形成される。別の実施形態において、少なくとも1つの前記自在変形掻材は、ループ状の繊維が表面に張り巡らされたパイル生地で形成することもできる。
【0011】
一実施形態において、少なくとも1つの自在変形掻材は、四角形状の板状体を曲げて対向する一対の辺を重ね合わせるように変形させた形状を有する。別の実施形態において、雪掻き戻し部は、複数の自在変形掻材を有し、複数の自在変形掻材が、重ね合わされたそれぞれの一対の辺が互いに位置合わせされるように上下に積層した構成を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の除雪具は、前方に、雪剥離プレートと雪切断プレートとを備えているため、効率よく雪を積雪面から剥離し、切断することができる。
【0013】
また、本発明の除雪具は、雪剥離プレートの後方に、雪剥離プレート及び雪切断プレートで剥離、切断された雪を掻き戻すための自在変形掻材を備えている。自在変形掻材は、それ自体の形状が自在に変形可能である。そのため、前進する時には分離、切断された雪が自在変形掻材の上に載り、自在変形掻材が雪の重さによって変形し、潰れた自在変形掻材の上を雪が滑るため、除雪具の前進を妨げることがない。一方、後退する時には、自在変形掻材が自在に変形しながら雪に当接し、雪に対する抵抗力を発生させるため、分離、切断された雪を容易に積雪面から滑落させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態による除雪具の斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態による除雪具の分解斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態による除雪具を用いて除雪を行うときの除雪具の動作を示す模式図である。
【
図4】本発明の別の実施形態による除雪具の後方斜視図である。
【
図5】本発明の別の実施形態による雪切断プレートを有する除雪具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を添付図面に従って説明する。
【0016】
(除雪具の構造)
図1は、本発明の一実施形態による除雪具1の斜視図である。
図2は、本発明の一実施形態による除雪具1の分解斜視図である。以下においては、除雪具1を、住宅の屋根に積もった雪を除雪する用途で用いることを前提として説明する。しかしながら、これに限定されるものではなく、本発明に係る除雪具は、積雪面(例えば、自動車のルーフなど)に積もった雪を除雪するいずれの用途でも用いることができる。
【0017】
除雪具1は、積雪面である屋根に降り積もった雪を屋根から剥離させる雪剥離部10と、雪剥離部10の上に配置され、剥離された雪を切断してより小さい雪塊にする雪切断部20と、雪剥離部10及び雪切断部20の後方に配置され、剥離、切断された雪を掻き戻すための雪掻き戻し部50と、除雪具1を操作する長尺柄60とを備える。
【0018】
雪剥離部10は、屋根に対して概ね平行に配置されて使用され、屋根から雪を剥離させるように構成された雪剥離プレート11を有する。雪剥離プレート11は、長方形状の板状体であり、一実施形態においては、限定されるものではないが、例えば、長さ510mm、幅60mm、厚さ5mmとすることができる。雪剥離プレート11は、除雪具1を前進させるときの進行方向前端面が、上縁から下縁にかけて斜め後方に傾斜するように、すなわち前端面の上縁部分が鋭角になるように、形成されていることが好ましい。雪剥離プレート11がこのように形成されることによって、除雪具1は、屋根が横葺き屋根で横はぜがある場合でも容易に乗り越えることができるとともに、屋根からの雪の剥離を容易に行うことができる。
【0019】
雪剥離プレート11の材料は、非金属であることが好ましく、樹脂であることがより好ましく、超高分子ポリエチレンであることが最も好ましい。非金属製の雪剥離プレート11を用いることによって、雪剥離プレート11が屋根に接触した場合でも、屋根材を傷つけることなく除雪作業を行うことができる。
【0020】
本発明に係る除雪具は、屋根から雪を剥離することができる雪剥離部が設けられていれば十分に機能するものであるが、屋根に降り積もった雪は固く締まって重たくなる場合が多いため、より安全かつ容易に除雪作業を行うためには、剥離された雪を切断してより小さい雪塊にすることが好ましい。したがって、本発明に係る除雪具は、雪剥離部に加えて、剥離された雪を切断する雪切断部をさらに備えることが好ましい。除雪具1は、雪剥離部10の上に、雪切断部20を備える。
【0021】
雪切断部20は、雪剥離プレート11が取り付けられるベースプレート21と、ベースプレート21に立設された雪切断プレート22a、22b、22cを有する。ベースプレート21は、雪剥離プレート11と概ね同じ長さと、雪剥離プレート11より狭い幅とを有する長方形状の板状体である。一実施形態においては、ベースプレート21は、限定されるものではないが、例えば、長さ500mm、幅40mm、厚さ約2.3mmとすることができる。ベースプレート21は、耐久性及び防錆性を考慮して亜鉛メッキを施した鋼板であることが好ましいが、これに限定されるものはなく、使用用途、コスト、重量などを考慮して、適切な材質のものを適宜用いることができる。
【0022】
雪剥離プレート11は、その長さ方向に沿って設けられた複数の孔と、ベースプレート21の長さ方向に沿って設けられた複数の孔とを位置合わせし、例えばボルト及びナットからなる締結部材12を孔に挿通させることによって、ベースプレート21に取り付けられる。ベースプレート21の幅を雪切断プレート11より狭くすることによって、雪切断プレート11の前端部の鋭角に形成された上縁が、ベースプレート11の前端縁から突出するようになっている。
【0023】
本実施形態においては、ベースプレート21の長さ方向両端部分と長さ方向の中央部分とに、それぞれ雪切断プレート22a、22b、22cが設けられる。3つの雪切断プレート22a、22b、22cを設けることによって、雪剥離プレート11で屋根から剥離された雪が、より小さな雪の塊に切断されるため、より効果的に除雪作業を行うことができる。
【0024】
ベースプレート21の長さ方向両端部分に設けられる雪切断プレート22a、22bは、限定されるものではないが、例えば、長さ400mm、幅40mm、厚さ約2.3mmとすることができる。長方向中央部分に設けられる雪切断プレート22cは、限定されるものではないが、例えば、長さ200mm、幅40mm、厚さ約2.3mmとすることができる。本実施形態においては、雪切断プレート22cの長さが、雪切断プレート22a、22bの長さより短くなっているが、これに限定されるものではなく、雪切断プレート22cは雪切断プレート22a、22bと同じ長さであってもよい。雪切断プレート22a、22bの間に雪切断プレート21cがない場合には、雪切断プレート22a、22bによって切断された雪塊が長尺柄60を伝って作業者に直撃するおそれがある。雪切断プレート21cを設けることにより、雪切断プレート22a、22bによって切断された雪塊をさらに分割して、作業者の安全を確保することができる。雪切断プレート22a、22b、22cの材料は、ベースプレート21と同様に、耐久性及び防錆性を考慮して亜鉛メッキを施した鋼板であることが好ましいが、これに限定されるものではなく、使用用途、コスト、重量などを考慮して、適切な材料を適宜用いることができる。
【0025】
本実施形態においては、3つの雪切断プレート22a、22b、22cが、ベースプレート21の長さ方向に等間隔で設けられた構造を有するが、これに限定されるものではない。例えば、ベースプレートの長さ方向中央部には雪切断プレートを設けない構造や、より多くの雪切断プレートを適切な間隔で設けた構造を採用することもできる。それぞれの雪切断プレートの長さが異なる構造や、すべての雪切断プレートが同じ長さである構造を採用することもできる。
【0026】
さらに、
図5(a)~
図5(c)に示されるような構造の雪切断プレートを採用することもできる。
図5(a)の除雪具は、雪切断部20において雪切断プレートをM字形状に配置した構成を有する。この雪切断プレートは、互いに鋭角の角度をなすように組み合わされた部分を有することによって、雪を切断しやすくなる。
図5(b)の除雪具は、雪切断部20において略楕円形状の雪切断プレートを配置した構成を有する。この形状の雪切断プレートは、屋根に積もった雪に侵入しやすい。
図5(c)の除雪具は、ベースプレート21の長さ方向両端部分に設けられる雪切断プレートが、ベースプレート21に平行に突出する複数のプレートを有する構成である。この雪切断プレートは、屋根に積もった雪をさらに小さな雪塊に分割することができる。
【0027】
雪剥離部10及び雪切断部20の後方には、雪掻き戻し部50が設けられる。雪掻き戻し部50は、雪剥離部10によって剥離され、雪切断部20によって切断された雪を掻き戻す機能を持つ。雪掻き戻し部50は、2つの自在変形掻材51a、51bを有する。自在変形掻材51a、51bは、除雪具1が前進する時には、雪に対する抵抗力を発生せず、後退する時には自在に変形しながら雪に当接して雪に対する抵抗力を発生する。
【0028】
自在変形掻材51a、51bをより詳細に説明する。自在変形掻材51a、51bは、長方形状の板状の弾性体で形成される。自在変形掻材51a、51bは、それぞれ、板状弾性体を曲げて対向する一対の長辺を重ね合わせるように変形させることによって形成される、横断面が略U字の形状を有する。雪掻き戻し部50は、このような形状の2つの自在変形掻材51a、51bを、重ね合わされた一対の長辺が互いに位置合わせされるように上下に積層することによって構成される。雪掻き戻し部50は、それぞれの一対の長辺近くの一定領域(被挟持部52a、52bという)を雪剥離プレート11と雪切断部20のベースプレート21との間に挟むことによって、固定される。被挟持部52a、52bには、辺に沿って複数の孔が設けられており、この孔に、雪剥離プレート11をベースプレート21に取り付ける締結部材12が挿通される。
【0029】
自在変形掻材51a、51bは、被挟持部52a、52bより後方の本体部53a、53bが、被挟持部52a、52bと本体部53a、53との境界部分を支点として、いずれも上下方向に自在に動くことができるようになっており、例えば、両方とも上方向に立ち上がったり、一方のみが上方向に立ち上がったりすることができる。
【0030】
自在変形掻材51a、51bは、上記のとおりの構成であるため、除雪具1が前進する時には、横断面略U字形状の本体部53a、53bの前方部分が、雪剥離部10によって剥離された雪と屋根との間に入り込。さらに、前進するにつれて本体部53a、53bがその上に載った雪の重量によって潰され、雪は潰れた本体部53a、53bの上を滑る。そのため、自在変形掻材51a、51bは、前進時には雪に対する抵抗力を発生しない。一方、後退する時には、雪が自在変形掻材51aと自在変形掻材51bとの間や自在変形掻材51aの下に入り込み、自在変形掻材51a、51bが被挟持部52a、52bと本体部53a、53bとの境界部分から変形して、両方とも上方向に立ち上がったり一方のみが上方向に立ち上がったりする。そのため、自在変形掻材51a、51bは、雪との当接面積が大きくなり、雪に対する抵抗力を発生する。
【0031】
また、自在変形掻材51a、51bは、それぞれ独立して捩れるように変形することも可能であるため、装置1の後退時に当接する雪面の形状に追従する。したがって、例えば除雪具1が軒先の面に対して斜めに挿入されたときでも、より確実かつ効果的に雪に対する抵抗力を発生させるとともに、除雪具1(より具体的には、雪掻き戻し部50)に対して過度な負荷が加わることがない。
【0032】
雪掻き戻し部50を構成する長方形の板状体の大きさは、限定されるものではなく、除雪を行う場所の広さに応じて種々の大きさのものを用いることができ、例えば、長辺510mm、短辺300mm、厚さ約2mmのものを用いることができる。また、自在変形掻材51a、51bの材料は、低温下での使用時でも自在に変形可能であり、かつ、雪に対して適切な抵抗力を発生させることができるものであれば、特に限定されるものではない。自在変形掻材51a、51bの材料として、例えば、加硫ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどを用いることができる。あるいは、自在変形掻材51a、51bの材料として、一般的に面ファスナと呼ばれるファスナのメス側と同様の構造を有する、ループ状の繊維が表面に張り巡らされた樹脂製のパイル生地を用いてもよい。
【0033】
本実施形態においては、雪掻き戻し部50は、長方形の板状弾性体で形成された横断面略U字形状2つの自在変形掻材51a、51bが上下に積層された構成を有するが、これに限定されるものではなく、例えば、1つの自在変形掻材のみを設けたものや、上下に3つ以上の自在変形掻材を積層させたものであってもよい。また、自在変形掻材を構成する板状弾性体は、正方形であってもよい。2つの自在変形掻材51a、51bは、それぞれ別の材料で形成されてもよい(例えば、自在変形掻材51aが弾性体で形成され、自在変形掻材51bが上述のパイル生地で形成されるなど)。あるいは、
図4(a)に示されるように、ベースプレート21の長さ方向の2ヶ所に、それぞれ2つの自在変形掻材を上下に積層させて取り付けた構成、すなわち、雪掻き戻し部50が4つの自在変形掻材を有する構成とすることもできる。
【0034】
別の実施形態においては、自在変形掻材の材料として、上述と同様の、ループ状の繊維が表面に張り巡らされた樹脂製のパイル生地を用いることもできる。この実施形態では、
図4(b)に示されるように、例えばキャンプ用テントに用いられるターポリン生地で作製されたベースの上に矩形のパイル生地を取り付けて自在変形掻材とし、ベースの一方の端部を雪剥離プレート11と雪切断部20のベースプレート21との間に挟んで固定することによって、雪掻き戻し部50を構成することができる。この雪掻き戻し部50は、装置1の後退時に、自在変形掻材のパイル生地が有するループ状の繊維が抵抗となって、挟持部分から後方の雪に接触した部分が変形して屈曲し、その屈曲した形状が維持され、雪に対する抵抗力を発生して、その結果、雪を掻き戻すことができる。
【0035】
さらに別の実施形態においては、雪掻き戻し部50として、自在に変形可能であり、かつ、雪に対して適切な抵抗力を発生させる少なくとも1つの板状体を、曲げることなく用いた構成を採用することもできる。板状体は、例えば、加硫ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどを用いることができる。例えば、
図4(c)に示されるように、大きさの異なる3枚の長方形状の自在変形掻材を大きさ順に積層し、一方の長辺近傍の領域を雪剥離プレート11とベースプレート21との間に挟んで固定することによって、雪掻き戻し部50を構成することができる。3つの自在変形掻材は、挟持部分から後方の部分が上下方向に自在に動いたり、変形して屈曲したりするようになっており、装置1の後退時に、例えば、いずれも上下同じ方向に動いたり又は屈曲したり、幾つかが互いに逆方向に動いたり又は屈曲したりすることによって、雪に対する抵抗力を発生させる。
【0036】
また、
図4(d)に示されるように、ベースプレート21の長さ方向の3ヶ所に、それぞれ3つの長方形状の自在変形掻材を上下に積層させて取り付けた構成、すなわち、雪掻き戻し部50が6つの自在変形掻材を有する構成とすることもできる。これらに自在変形掻材もまた、装置1の後退時に、自在に動いたり屈曲したりすることによって、雪に対する抵抗力を発生させる。
【0037】
長尺柄60は、雪切断部20に設けられた長尺柄固定部30によって取り付けられることが好ましい。長尺柄固定部30は、内部が中空であり、ベースプレート21の上面の中央部に設けられた嵩上げ立設片40の上に設けられる。長尺柄60は、一方の端部を長尺柄固定部30の中空内部に挿入することによって固定される。なお、本実施形態においては、雪切断プレート22cは、長尺柄固定部30の上に取り付けられている。雪切断部20の幅方向中央部分において、ベースプレート21の上方に、除雪具1の操作部である長尺柄60を取り付けることによって、長尺柄60の垂直方向の操作性が向上する。
【0038】
長尺柄60は、非使用時にコンパクトに収納できるように、長尺柄固定部30に着脱可能に固定されることが好ましく、複数の部分60a、60bに切断できるように構成されることが好ましい。
【0039】
(除雪具の使用方法)
次に、除雪具1の使用方法を、作用効果とともに説明する。
図3は、除雪を行うときの除雪具1の動作を示す模式図である。
【0040】
図3(a)は、除雪具1を前進させるときの状態を示している。除雪具1を屋根に沿って矢印Aの方向に前進させることによって、雪剥離プレート11が屋根から雪を剥離させる。剥離した雪は、次に雪切断プレート22a、22b、22cによって切断される(なお、
図3には、雪切断プレート22bのみが示されている)。除雪具1をさらに前進させると、自在変形掻材51a、51bの本体部53a、53bの前方部分が、剥離、切断された雪と屋根との間に入り込む。そのまま前進するにつれて、剥離、切断された雪が本体部53a、53bの上に載り、本体部53a、53bは、雪の重量によって潰される。雪が、潰れた本体部53a、53bの上を滑るため、除雪具1が前進する際に、自在変形掻材51a、51bは、雪に対する抵抗力を発生しない。したがって、大きな抵抗力を受けることなく雪を分離、切断しながら、除雪具1を前進させることができる。
【0041】
必要な場所まで前進させた後、次に、
図3(b)に示されるように、除雪具1を屋根に沿って矢印Bの方向に後退させる。後退させると、剥離、切断された雪の一部が、自在変形掻材51aと自在変形掻材51bとの間に入り込む。入り込んだ雪によって、自在変形掻材51bは、被挟持部52bと本体部53bとの境界部分から変形して本体部53bが上方に立ち上がる。あるいは、剥離、切断された雪の一部が、自在変形掻材51aの下に入り込み、入り込んだ雪によって、自在変形掻材51a、51bが、被挟持部52a、52bと本体部53a、53bとの境界部分から変形し、本体部53a、53bが両方とも上方に立ち上がることもある。そのため、除雪具1が後退する際には、自在変形掻材51bが雪に対する抵抗力を発生させる。したがって、分離、切断された雪を容易に掻き戻し、屋根上から雪を滑落させることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 除雪具
10 雪剥離部
11 雪剥離プレート
20 雪切断部
21 ベースプレート
22a、22b、22c 雪切断プレート
30 長尺柄固定部
40 嵩上げ立設片
50 雪掻き戻し部
51a、51b 自在変形掻材
52a、52b 被挟持部
53a、53b 本体部
60 長尺柄
【手続補正書】
【提出日】2022-11-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積雪面に降り積もった雪を除去するための除雪具であって、
積雪面から雪を剥離させる雪剥離部と、
前記雪剥離部の上に配置され、積雪面から剥離した雪を切断する雪切断部と、
前記雪切断部の後方に配置され、前記雪剥離部によって剥離した雪を掻き戻す雪掻き戻し部と
を備え、
前記雪掻き戻し部は、前進時には雪に対する抵抗力を発生せず、後退時には自在に変形しながら雪に当接して雪に対する抵抗力を発生するように構成された、少なくとも1つの自在変形掻材を有する
ことを特徴とする除雪具。
【請求項2】
少なくとも1つの前記自在変形掻材は、弾性体で形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の除雪具。
【請求項3】
少なくとも1つの前記自在変形掻材は、ループ状の繊維が表面に張り巡らされたパイル生地で形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の除雪具。
【請求項4】
少なくとも1つの前記自由変形掻材は、板状体を横断面が略U字形状を有するように曲げることによって形成されたものであることを特徴とする、請求項2又は請求項3に記載の除雪具。
【請求項5】
少なくとも1つの前記自在変形掻材は、四角形状の板状体を曲げて対向する一対の辺を重ね合わせるように変形させた形状を有する、請求項2又は請求項3に記載の除雪具。
【請求項6】
前記雪掻き戻し部は、複数の前記自在変形掻材を上下に積層した構成を有することを特徴とする、請求項4又は請求項5に記載の除雪具。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積雪面に降り積もった雪を除去するための除雪具であって、
積雪面から雪を剥離させる雪剥離部と、
前記雪剥離部の上に配置され、積雪面から剥離した雪を切断する雪切断部と、
前記雪切断部の後方に配置され、前記雪剥離部によって剥離した雪を掻き戻す雪掻き戻し部と
を備え、
前記雪掻き戻し部は、前進時には雪に対する抵抗力を発生せず、後退時には自在に変形しながら雪に当接して雪に対する抵抗力を発生するように構成された、少なくとも1つの自在変形掻材を有する
ことを特徴とする除雪具。
【請求項2】
少なくとも1つの前記自在変形掻材は、弾性体で形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の除雪具。
【請求項3】
少なくとも1つの前記自在変形掻材は、ループ状の繊維が表面に張り巡らされたパイル生地で形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の除雪具。
【請求項4】
少なくとも1つの前記自在変形掻材は、板状体を横断面が略U字形状を有するように曲げることによって形成されたものであることを特徴とする、請求項2又は請求項3に記載の除雪具。
【請求項5】
少なくとも1つの前記自在変形掻材は、四角形状の板状体を曲げて対向する一対の辺を重ね合わせるように変形させた形状を有する、請求項2又は請求項3に記載の除雪具。