(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038573
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】光伝送装置、光伝送システム、及びラマン増幅器の制御方法
(51)【国際特許分類】
H04B 10/291 20130101AFI20240313BHJP
H04B 10/077 20130101ALI20240313BHJP
【FI】
H04B10/291
H04B10/077 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142671
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA53
5K102AD01
5K102LA07
5K102LA11
5K102LA23
5K102LA33
5K102LA54
5K102MA03
5K102MB06
5K102PH14
(57)【要約】
【課題】双方向ラマン励起の立ち上げ時にOSCの通信断から自律的に回復する光伝送装置を提供する。
【解決手段】光伝送装置は、信号光及び監視光を送受信する光送受信部と、前記光送受信部の送信端に設けられる前方ラマン増幅器と、前記光送受信部の受信端に設けられる後方ラマン増幅器と、前記後方ラマン増幅器と前記前方ラマン増幅器を制御する制御部と、を有する。前記制御部は、前記前方ラマン増幅器または前記後方ラマン増幅器の立ち上げ時に、光伝送路から受信する監視信号にしたがって前記前方ラマン増幅器または前記後方ラマン増幅器のパワーをオフにし、所定時間の経過後に前記前方ラマン増幅器または前記後方ラマン増幅器のオフ状態を解除する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光及び監視光を送受信する光送受信部と、
前記光送受信部の送信端に設けられる前方ラマン増幅器と、
前記光送受信部の受信端に設けられる後方ラマン増幅器と、
前記後方ラマン増幅器と前記前方ラマン増幅器を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記前方ラマン増幅器または前記後方ラマン増幅器の立ち上げ時に、光伝送路から受信する監視信号にしたがって前記前方ラマン増幅器または前記後方ラマン増幅器のパワーをオフにし、所定時間の経過後に、前記前方ラマン増幅器または前記後方ラマン増幅器のオフ状態を解除する、
光伝送装置。
【請求項2】
前記所定時間は、前記光伝送路を挟んで前記前方ラマン増幅器または前記後方ラマン増幅器と対向するラマン増幅器の光増幅特性の測定に要する時間よりも長い、
請求項1に記載の光伝送装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記光伝送路を挟んで対向する第2の光伝送装置から前記前方ラマン増幅器のシャットダウン指示を受信すると、前記前方ラマン増幅器をシャットダウンしてタイマを起動し、前記タイマの満了により前記前方ラマン増幅器のシャットダウンを解除する、
請求項1に記載の光伝送装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記光伝送路を挟んで対向する第2の光伝送装置から前記後方ラマン増幅器のシャットダウン指示を受信すると、前記後方ラマン増幅器をシャットダウンしてタイマを起動し、前記第2の光伝送装置の前方ラマン励起に起因する雑音パワーまたは受信信号パワーを記録する、
請求項1に記載の光伝送装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記タイマの満了により、前記後方ラマン増幅器のシャットダウンを解除し、前記雑音パワーまたは前記受信信号パワーを前記第2の光伝送装置に通知する、
請求項4に記載の光伝送装置。
【請求項6】
第1前方ラマン増幅器と第1後方ラマン増幅器を有する第1の光伝送装置と、
第2前方ラマン増幅器と第2後方ラマン増幅器を有し、光伝送路により前記第1の光伝送装置に接続された第2の光伝送装置と、
を含み、
前記第1の光伝送装置と前記第2の光伝送装置の間で双方向のラマン励起を立ち上げるときに、前記第1の光伝送装置と前記第2の光伝送装置の一方は、前記光伝送路を介して他方から監視信号を受け取り、前記監視信号で指定されるラマン増幅器をオフにし、所定時間の経過後に、前記ラマン増幅器を自律的にオンにする、
光伝送システム。
【請求項7】
前記所定時間は、前記ラマン増幅器と前記光伝送路を挟んで対向する対向ラマン増幅器の光増幅特性の測定に要する時間よりも長い、
請求項6に記載の光伝送システム。
【請求項8】
前記第2後方ラマン増幅器の光増幅特性の測定時に、前記第1の光伝送装置は、前記第2の光伝送装置から前記第1前方ラマン増幅器のシャットダウン指示を受信し、前記第1前方ラマン増幅器をシャットダウンしてタイマを起動し、前記タイマの満了により前記第1前方ラマン増幅器のシャットダウンを解除する、
請求項6に記載の光伝送システム。
【請求項9】
前記第1前方ラマン増幅器の光増幅特性の測定時に、前記第2の光伝送装置は、前記第1の光伝送装置から前記第2後方ラマン増幅器のシャットダウン指示を受信し、前記第2後方ラマン増幅器をシャットダウンしてタイマを起動し、前記第1前方ラマン増幅器に起因する雑音パワーまたは受信信号パワーを記録する、
請求項6に記載の光伝送システム。
【請求項10】
前記第2の光伝送装置は、前記タイマの満了により、前記第2後方ラマン増幅器のシャットダウンを解除し、前記雑音パワーまたは前記受信信号パワーを前記第1の光伝送装置に通知する、
請求項9に記載の光伝送システム。
【請求項11】
前方ラマン増幅器と後方ラマン増幅器を有する光伝送装置において、
前記前方ラマン増幅器または前記後方ラマン増幅器の立ち上げ時に、光伝送路から受信する監視信号にしたがって前記前方ラマン増幅器または前記後方ラマン増幅器のパワーをオフにし、
所定時間の経過後に、前記光伝送装置で自律的に前記前方ラマン増幅器または前記後方ラマン増幅器のオフ状態を解除する、
ラマン増幅器の制御方法。
【請求項12】
前記所定時間は、前記光伝送路を挟んで前記前方ラマン増幅器または前記後方ラマン増幅器と対向するラマン増幅器の光増幅特性の測定に要する時間よりも長い、
請求項11に記載のラマン増幅器の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光伝送装置、光伝送システム、及びラマン増幅器の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)光伝送システムでは、伝送路光ファイバの光損失による光信号対雑音比(OSNR:Optical Signal to Noise Ratio)の劣化を補償することで、伝送距離と伝送容量の拡大に対処している。OSNRの劣化を補償する技術のひとつに、光ファイバ内で発生する誘導ラマン散乱効果を利用したラマン増幅がある。これまで、信号光パワーが低下する伝送路の下流側から、信号光の伝搬と反対方向に励起光を供給する後方ラマン励起方式が、主に用いられてきた。次世代WDM光伝送では、信号光の伝搬方向と同じ方向に励起光を供給する前方ラマン励起と、後方ラマン励起とを組み合わせた双方向励起方式のラマン増幅が主要技術となると予想される(たとえば、特許文献1参照)。双方向励起方式のラマン増幅により、光伝送路のさらなる高速化と長距離化が期待される。
【0003】
ラマン増幅により、信号光が増幅されると同時に、自然ラマン散乱光も増幅される。増幅された自然ラマン散乱光(ASS:Amplified Spontaneous Raman Scattering)は雑音となって、信号光とともに下流側の光ノードに届く。信号光とASS雑音は区別できないため、立ち上げ時にあらかじめポンプ対雑音比の測定を行い、ある励起光源をオンにしたときのASS雑音の発生量を認識しておく。得られたASS雑音とラマン利得に基づいて雑音補正を正しく行い、信号レベルを制御する。ラマン増幅器の雑音や利得の測定にともなって、上流の光ノードと下流の光ノードの間で、測定に必要な指示や情報の送受信、測定結果の転送などが、光監視チャネル(OSC:Optical Supervisory Channel)を用いて行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-29231号公報
【特許文献2】特開2010-11384号公報
【特許文献3】特開2004-274265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ラマン増幅器の雑音や利得の測定時に、測定対象のラマン増幅器と光伝送路を挟んで対向するラマン増幅器の励起光がオフにされる。たとえば、上流側の前方ラマン増幅器の光増幅特性を測定する際に、下流側の後方ラマン増幅器がオフにされる。これまでは、後方ラマン励起光と前方ラマン励起光のいずれかをオフ、またはパワーダウンしたとしても、光ノード間のOSC通信は確立されていた。しかし、中継なしの光伝送距離の拡張に対する要請が厳しくなっており、光ノード間の伝送路光ファイバの光損失が50dB程度まで増加するケースがあり得る。この場合、ラマン増幅器の立ち上げ時に、上流または下流のラマン増幅器の励起光がオフまたはパワーダウンされると、OSC通信が途切れるという新たな問題が発生する。一般的に、OSC-SFP(Small Form Factor Pluggable)を用いたEthernet通信のハードウエアには、通信の正常性を保つため、遠端障害表示(FEFI:Far-End Fault Indication)機能が実装されている。このFEFI機能により、片側の経路で通信断になると、両方向の経路がリンクダウンする。上流または下流のラマン励起光のオフまたはパワーダウンにより、いずれかの経路でOSC通信が断になると、両方向でOSC通信が不通になる。この問題は、インラインアンプなしでの光伝送距離が長くなるほど、顕著になる。
【0006】
本開示は、双方向ラマン励起の立ち上げ時にOSCの通信断から自律的に回復する光伝送装置を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態において、光伝送装置は、
信号光及び監視光を送受信する光送受信部と、
前記光送受信部の送信端に設けられる前方ラマン増幅器と、
前記光送受信部の受信端に設けられる後方ラマン増幅器と、
前記後方ラマン増幅器と前記前方ラマン増幅器を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記前方ラマン増幅器または前記後方ラマン増幅器の立ち上げ時に、光伝送路から受信する監視信号にしたがって前記前方ラマン増幅器または前記後方ラマン増幅器のパワーをオフにし、所定時間の経過後に、前記前方ラマン増幅器または前記後方ラマン増幅器のオフ状態を解除する。
【発明の効果】
【0008】
ラマン増幅器の立ち上げ時にOSCの通信断から自律的に回復する光伝送装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】光ノード間の伝送距離の拡張に伴って新たに生じる問題を示す図である。
【
図2】実施形態の光伝送装置を用いた光伝送システムの模式図である。
【
図3】
図2のプロセッサで実現される制御部の機能ブロック図である。
【
図4】双方向励起ラマン増幅の効果を示す図である。
【
図5】双方向励起方式のラマン増幅器立ち上げのフローチャートである。
【
図6】後方ラマン増幅器の雑音測定シーケンスの模式図である。
【
図8】後方ラマン増幅器のラマン利得測定シーケンスの模式図である。
【
図10】前方ラマン増幅器の雑音測定シーケンスの模式図である。
【
図12】前方ラマン増幅器のラマン利得測定シーケンスの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態の構成と制御方法を述べる前に、
図1を参照して、光ノード間の伝送距離の拡張により生じる新たな技術課題を説明する。光ノードAとBは、光伝送路2及び3により相互に接続されている。光ノードAから光伝送路2を通って光ノードBに向かう経路で、光ノードAが上流側ノード、光ノードBが下流側ノードとなる。光ノードBから光伝送路3を通って光ノードAに向かう経路で、光ノードBが上流側ノード、光ノードAが下流側ノードとなる。光ノードAからBへの伝送に着目して、光ノードAの前方ラマン増幅器(図中で「FwdRaman」と表記)213Aの雑音を、光ノードBで測定するシナリオを考える。
【0011】
前方ラマン増幅器213Aの立ち上げに際して、この前方ラマン増幅器213Aのポンプ対雑音比を知るために、前方ラマン増幅器213Aの雑音を光ノードBで測定する。測定に際して、光ノードAは自局の送信アンプ(図中で「AMPtx」と表記)をシャットダウンし、光ノードBに、後方ラマン増幅器(図中で「BwdRaman」と表記)215Bをシャットダウンするように指示する。このシャットダウンの指示は、OSC信号で光ノードBに送られる。光ノードBは、OSC信号に基づいて後方ラマン増幅器215Bをシャットダウンする。
【0012】
光伝送路2及び3に対する長距離化の要請がそれほど厳しくないときは、後方ラマン増幅器215Bまたは前方ラマン増幅器213AがシャッドダウンまたはパワーダウンされてもOSC信号のパワーは閾値以上に維持され、光ノードBで受信されていた。しかし、光伝送路2及び3の長距離化にともなって光ファイバの光損失が大きくなると、後方ラマン増幅器215BのシャットダウンよりOSC信号のパワーレベルが閾値よりも下がってOSC信号が不通になる。光伝送路2がリンクダウンすると、光ノードBから光ノードAに向かう光伝送路3もリンクダウンする。光ノードBは前方ラマン増幅器213Aの雑音を測定し記録した後に、測定結果を光ノードAに転送することができない。
【0013】
光ノードAは、前方ラマン増幅器213Aの励起光パワーを設定し、測定された雑音量に基づいて励起光パワーを調整することが予定されているが、光ノードBから雑音量を取得できない。また、光ノードBに対して、後方ラマン増幅器215Bのシャットダウンを解除するように指示を送ることもできない。後方ラマン増幅器の立ち上げ時にも、前方ラマン増幅器のシャットダウンまたはパワーダウンにより、OSC通信が不通になる。光伝送路長の拡張に伴うこのようなOSC通信断の問題は、これまで認識されておらず、ラマン増幅器立ち上げ時のOSC通信断に対処する構成は採用されていなかった。
【0014】
実施形態では、光ノードは、ラマン増幅器の立ち上げ時にOSCの通信断の状態から自律的に回復し、双方向ラマン励起の立ち上げを実現する。以下に示す形態は、本開示の技術思想を具現化するための一例であって、開示内容を限定するものではない。各図面に示される構成要素の大きさ、位置関係等は、発明の理解を容易にするために誇張して描かれている場合がある。同一の構成要素または機能に同一の名称または符号を付けて、重複する説明を省略する場合がある。
【0015】
<光伝送装置と光伝送システムの構成>
図2は、実施形態の光伝送装置10A、及び10Bを用いた光伝送システム1の模式図である。光伝送装置10Aと10Bは、光伝送システム1を構成する光ノードとして機能する。光伝送装置10Aと10Bは同じ構成を有し、光伝送路2及び3を介して相互に接続されている。光伝送装置10Aから光伝送路2を介して光伝送装置10Bに向かう経路では、光伝送装置10Aが上流側の装置、光伝送装置10Bが下流側の装置となる。光伝送装置10Bから光伝送路3を介して光伝送装置10Aに向かう経路では、光伝送装置10Bが上流側の装置、光伝送装置10Aが下流側の装置となる。
【0016】
光伝送装置10Aと10Bは同じ構成を有するので、光伝送装置10Aを例にとって装置構成を説明する。光伝送装置10Aは、信号光及び監視光を送受信する光送受信部11Aと、光送受信部11Aの送信端に設けられる前方ラマン増幅器13Aと、光送受信部11Aの受信端に設けられる後方ラマン増幅器15Aと、制御デバイス20Aとを有する。制御デバイス20Aは、前方ラマン増幅器13A、後方ラマン増幅器15A、及び光送受信部11Aに接続されて、光伝送装置10Aの動作全般を制御する。
【0017】
制御デバイス20Aは、プロセッサ201、メモリ202、及び、タイマ203を有する。タイマ203はプロセッサ201の機能によって実現されてもよい。プロセッサ201は、その機能により、前方ラマン増幅器13Aと後方ラマン増幅器15Aの立ち上げを制御する制御部を実現する。制御部の機能構成と、ラマン増幅立ち上げ時の制御動作については、
図3以降を参照して後述する。
【0018】
光送受信部11Aは、送信側の構成として、送信アンプ111と、光スプリッタ112と、光モニタ(図中で「PD」と表記)113と、光カプラ14と、OSC送信部115を有する。光送受信部11Aには、異なる波長の信号を扱う複数の光トランシーバが接続されており、複数の波長の光信号が多重されたWDM信号光が送信アンプ111に入射する。送信アンプ111は、たとえばエルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA:Erbium Doped Fiber Amplifier)であり、広い帯域にわたってWDM信号光を増幅する。送信アンプ111で増幅されたWDM信号光の一部は光スプリッタ112で分岐され、光モニタ113に入力される。光モニタ113は、フォトダイオード(PD)等の光検出器でありWDM信号光の光伝送路2への入力パワーを測定する。
【0019】
OSC送信部115は、監視情報を含むOSC信号を生成する。監視情報は、WDM信号光と異なる波長の光を強度変調して生成される。監視光の波長は、WDM信号帯域に隣接して設定され、たとえば、WDM信号帯域の短波長側に設定される。OSC送信部115から出力された監視光は、光カプラ114により、WDM信号を伝送する光ファイバと同じ光ファイバに入力されて、光伝送路2に出力される。
【0020】
前方ラマン増幅器13Aは、励起光源131と光カプラ132を有する。前方ラマン増幅器13Aで光伝送路2に出力されるWDM信号光を増幅することで、光増幅器120の入力レベルが上がり、光増幅器120で発生するASEによるOSNRの劣化が緩和される。
【0021】
励起光源131は、WDM信号の帯域にわたって信号光を増幅するために、異なる波長の複数の光源素子(たとえばi個のレーザ素子、iは2以上の整数)を有する。各光源素子の励起光は、励起波長に応じたストークスシフト量だけ低周波側(長波長側)に、ラマン利得を生じさせる。個々の光源素子の利得のトータルが、前方ラマン増幅器13Aの利得となる。たとえば、1520~1625nmのWDM信号光を増幅するために、励起光源131は、1420~1500nmの範囲に、広い線幅の波長域をもつi個の励起光を出力する。各光源素子から出力された異なる波長の励起光は、たとえばマルチプレクサで合波された後に、光カプラ132でWDM信号光及び監視光に合波されてもよい。励起光は、信号光及び監視光ととともに、光伝送路2に入射し、光ファイバ内で生じる誘導ラマン散乱によりWDM信号光と監視光を増幅する。
【0022】
光伝送装置10Aの受信側では、光伝送装置10Bから光伝送路3で送られてくるWDM信号光と監視光を受信する。光伝送装置10BからのWDM信号光は、光伝送装置10Bの送信アンプ111と前方ラマン増幅器13Bにより、増幅されている。光伝送装置10Aの受信端に設けられた後方ラマン増幅器15Aは、信号光及び監視光の伝搬方向と逆方向に、励起光を光伝送路3に入射する。これにより、信号光及び監視光が光送受信部11Aの受信側に入射する前にラマン増幅されて、OSNRの劣化が抑制される。後方ラマン励起は前方ラマン励起と比較して利得の飽和が起きにくく、光伝送路3の出力端で信号光及び監視光を増幅して、伝搬方向の光損失を平坦化できる。
【0023】
後方ラマン増幅器15Aは、励起光源151と光フィルタ152を有する。励起光源151は、光伝送路3を伝搬するWDM信号の帯域にわたって信号光(及び監視光)を増幅するために、異なる波長の複数の光源素子(たとえばj個のレーザ素子、jは2以上の整数)を有する。励起光源151は、たとえば、1400~1500nmの範囲に発振波長をもつj個のレーザ素子を含む。励起光源131に含まれる光源素子の数iと、励起光源151に含まれる光源素子の数jは、同じであっても異なっていてもよい。励起光源151の各光源素子から出力された光は、マルチプレクサで合波されて光フィルタ152に入射してもよい。光フィルタ152は、励起光を光伝送路3の方向に反射する。励起光は伝搬方向と逆方向に光伝送路2に入射し、光ファイバ内でラマン増幅を生じさせる。
【0024】
後方ラマン励起により増幅された信号光と監視光は、後方ラマン増幅器15Aの光フィルタ152を通過して、光送受信部11Aの受信側に入射する。光送受信部11Aは、受信側の構成として、光フィルタ116と、OSC受信部117と、光スプリッタ118と、光モニタ(図中で「PD」と表記)119と、受信アンプ120を有する。受信側のOSC受信部117と、送信側のOSC送信部115で、OSC処理部110Aが形成される。光フィルタ116で取り出された監視光は、OSC受信部117に供給され、復調されて監視情報が取り出される。光フィルタ116を透過した信号光の一部は光スプリッタ118で分岐され、信号光に含まれている雑音とともに光モニタ119でモニタされる。光スプリッタ118を通過した信号光は、受信アンプ120で増幅される。
【0025】
受信アンプ120はたとえばEDFAであり、ASEが発生するが、WDM信号光は受信アンプ120に入射する前に、ASEと比較して低雑音の後方ラマン増幅器15Aで増幅されており、OSNRの劣化が抑制される。光送受信部11Aの受信側は、異なる波長の信号を扱う複数の光トランシーバの受信側回路に接続されており、受信アンプ120で増幅されたWDM信号光はそれぞれの波長の光信号に分波され、対応する光トランシーバに供給される。
【0026】
光伝送装置10Bの光送受信部11B、前方ラマン増幅器13B、後方ラマン増幅器15B、及び制御デバイス20Bは、上述した光送受信部11A、前方ラマン増幅器13A、後方ラマン増幅器15A、及び制御デバイス20Aと同じ構成を有し、同じ動作を逆方向に行う。
【0027】
<制御部の機能>
図3は、制御デバイス20Aのプロセッサ201で実現される制御部200の機能ブロック図である。制御部200は、前方ラマン制御部205、後方ラマン制御部206、送信アンプ制御部207、受信アンプ制御部208、及びタイマ制御部209を有する。前方ラマン制御部205は、前方ラマン増幅器13Aの励起光源131の励起パワーを設定し、各光源素子のオン・オフ動作や、励起比率を制御する。特に、上流(たとえば光伝送装置10A)のパワー情報と、下流(たとえば光伝送装置10B)のパワー情報とに基づき、下流側でWDM帯域にわたって平坦なラマン利得スペクトルが得られるように、前方ラマン増幅器13Aの励起パワーと励起比率を制御する。
【0028】
後方ラマン制御部206は、後方ラマン増幅器15Aの励起光源151の励起パワーを設定し、各光源素子のオン・オフ動作や、励起比率を制御する。特に、上流(たとえば光伝送装置10B)のパワー情報と、下流(たとえば光伝送装置10A)のパワー情報とに基づいて、下流側でWDM帯域にわたって平坦なラマン利得スペクトルが得られるように、後方ラマン増幅器15Aの励起パワーと励起比率を制御する。
【0029】
送信アンプ制御部207は、送信アンプ111の利得を設定し、送信アンプ111をシャットダウンするタイミングを制御する。受信アンプ制御部208は、受信アンプ120の利得を設定し、シャットダウンのタイミングを制御する。タイマ制御部209は、前方ラマン増幅器13Aがオフ、またはパワーダウンされたタイミングで、タイマ203をアクティブにする。一定時間経過後にタイマ203が満了すると、タイマ制御部209は、前方ラマン制御部205にタイムアップを通知する。タイムアップ情報を受けて、前方ラマン制御部205は前方ラマン増幅器13Aをオン、またはパワーアップする。タイマ制御部209はまた、後方ラマン増幅器15Aがオフまたはパワーダウンされたタイミングで、タイマ203をアクティブにし、タイマ203が満了したときに、タイムアップ情報を後方ラマン制御部206に通知する。タイムアップ情報を受けて、後方ラマン制御部206は後方ラマン増幅器15Aをオン、またはパワーアップする。
【0030】
図4は、双方向励起ラマン増幅による効果を示す図である。横方向の矢印は伝搬方向を表し、縦軸は信号光パワーを示す。伝搬路の入力端に入射した信号光のパワーは、前方ラマン励起により増幅される。その後、伝送路を進むにつれて、伝送路の光損失により信号光のパワーは低下する。伝送路の出力端の手前で、後方ラマン励起により、信号光のパワーは再度増加する。これにより、伝送路光ファイバの伝搬方向に対する損失特性を平坦化し、OSNRを改善して伝送距離を拡張することができる。
【0031】
ラマン増幅を行わないときは、伝送路の伝搬とともに信号光のパワーは低下する。後方ラマン増幅のみの場合、出力端の近傍で信号光パワーはある程度回復するので、伝送距離がそれほど長くない場合はOSNRを改善できる。しかし、伝送路が長距離化したときは光損失が大きくなり、OSNRの改善効果が不十分である。実施形態では、双方向ラマン励起を採用しつつ、ラマン増幅器立ち上げ時のシャットダウンによるOSC通信断を、自律的に回復させる。
【0032】
<双方向励起方式のラマン増幅器の立ち上げ処理>
図5は、双方向励起方式のラマン増幅器の立ち上げのフローチャートである。まず、スパンロスの大きさやネットワーク構成に応じた立ち上げ条件を決定する(S11)。たとえば、ラマン増幅器の励起光がオフ、または低パワーであってもOSC通信が確立できるかどうかにより、立ち上げ条件を決定する。ここでは、伝送路長が拡張されており、伝送路を挟んで対向する前方ラマン増幅器13Aと後方ラマン増幅器15B(あるいは前方ラマン増幅器13Bと後方ラマン増幅器15A)の両方がオンしていないとOSC通信できない場合を想定する。
【0033】
光伝送装置10Aを上流ノード、光伝送装置10Bを下流ノードとして、前方ラマン増幅器13Aと後方ラマン増幅器15BのそれぞれのASS雑音とラマン利得を測定する。後方ラマン増幅器15BのASS雑音を、光伝送装置10Bで測定する(S12)。このとき、光伝送装置10Aの送信アンプ111と前方ラマン増幅器13Aはオフにされる。前方ラマン増幅器13Aがオフにされるタイミングで、光伝送装置10Aのタイマ203が起動され、一定時間経過後、タイムアップにより、オフにされていた前方ラマン励起光はオンにされる。後方ラマン増幅器15Bの励起光源151に含まれる複数の光源素子のASS雑音が順次測定される都度、前方ラマン増幅器13Aのオフと、オフ状態からの回復が繰り返される。前方ラマン増幅器13Aの回復用にタイマ203に設定されている時間は、対向する後方ラマン増幅器15Bの励起光源151の各光源素子の雑音測定に要する時間よりも長い。
【0034】
後方ラマン増幅器15Bのラマン利得を、光伝送装置10Bで測定する(S13)。ラマン利得は、後方ラマン励起による信号光パワーの増加分から後方ラマン増幅器15BのASS雑音を引き算して求められる。このとき、光伝送装置10Aの前方ラマン増幅器13Aはオフにされる。前方ラマン励起がオフにされるタイミングで、光伝送装置10Aのタイマ203が起動され、一定時間経過後、タイムアップにより前方ラマン励起はオンにされる。後方ラマン増幅器15Bの励起光源151に含まれる複数の光源素子のラマン利得が順次測定される都度、前方ラマン増幅器13Aのオフと、オフ状態からの回復が繰り返される。前方ラマン増幅器13Aの回復用にタイマ203に設定されている時間は、対向する後方ラマン増幅器15Bの励起光源151の各光源素子の利得測定に要する時間よりも長い。
【0035】
後方ラマン増幅器15BのASS雑音とラマン利得の測定が完了すると、取得された雑音情報に基づいて、励起光源151の励起光により伝送路でラマン増幅が起こることにより発生する雑音が補正される。また、励起光源151のj個の光源素子の励起光パワーの設定値が調整される。これにより、後方ラマン励起の立ち上げが完了する。
【0036】
前方ラマン増幅器13AのASS雑音を、光伝送装置10Bで測定する(S14)。このとき、光伝送装置10Aの送信アンプ111と、光伝送装置10Bの後方ラマン増幅器15Bはオフにされる。後方ラマン励起がオフにされるタイミングで、光伝送装置10Bのタイマ203が起動され、一定時間経過後、タイムアップにより後方ラマン励起はオンにされる。前方ラマン増幅器13Aの励起光源131に含まれる複数の光源素子のASS雑音が順次測定される都度、後方ラマン増幅器15Bのオフと、オフ状態からの回復が繰り返される。後方ラマン増幅器15Bの回復用にタイマ203に設定されている時間は、対向する前方ラマン増幅器13Aの励起光源131の各光源素子の雑音測定に要する時間よりも長い。
【0037】
前方ラマン増幅器13Aのラマン利得を、光伝送装置10Bで測定する(S15)。このとき、光伝送装置10Bの後方ラマン増幅器15Bはオフにされる。後方ラマン励起がオフにされるタイミングで、光伝送装置10Bのタイマ203が起動され、一定時間経過後、タイムアップにより後方方ラマン励起はオンにされる。前方ラマン増幅器13Aの励起光源131に含まれる複数の光源素子の励起光によるラマン利得が順次測定される都度、後方ラマン増幅器15Bのオフと、オフ状態からの回復が繰り返される。後方ラマン増幅器15Bの回復用にタイマ203に設定されている時間は、対向する前方ラマン増幅器13Aの励起光源131の各光源素子の利得測定に要する時間よりも長い。
【0038】
前方ラマン増幅器13AのASS雑音とラマン利得の測定が完了すると、取得された雑音情報から、励起光源131のi個の光源素子の励起光パワーの設定値が補正され、前方ラマン励起の立ち上げが完了する。
【0039】
前方ラマン励起と後方ラマン励起の立ち上げが完了すると、前方ラマン増幅器13Aと後方ラマン増幅器15Bの双方をオンにして、光伝送装置10Aの送信アンプ111と、光伝送装置10Bの受信アンプ120を立ち上げる(S16)。これにより、立ち上げ処理が終了し、信号疎通状態になる。
【0040】
実施形態の双方向ラマン立ち上げでは、前方ラマン増幅器13Aと後方ラマン増幅器15Bの雑音と利得の測定に際して、いずれかのラマン増幅器がオフにされる都度、所定時間経過後に自律的にオフ状態から回復する。OSC通信が遮断される時間は必要最小限に抑えられ、ラマン立ち上げに必要な情報の送受信はOSCを介して滞りなく行われる。
【0041】
<後方ラマン励起の雑音測定>
図6は、後方ラマン増幅器の雑音測定シーケンスの模式図、
図7は、
図6の動作のフローチャートである。光伝送装置10Aを上流ノード、光伝送装置10Bを下流ノードとして、光伝送路2における後方ラマン励起のASS雑音を測定する。光伝送路3における後方ラマン励起のASS雑音測定は、光伝送路2での後方ラマン励起の雑音測定と動作が逆になるだけで、同じ処理である。
図6では、光伝送装置10Aと10Bの構成は簡略化されているが、
図2に示したように、前方ラマン増幅器13Aと後方ラマン増幅器15Aは制御線により制御デバイス20Aと接続されている。同様に、前方ラマン増幅器13Bと後方ラマン増幅器15Bは、制御線により制御デバイス20Bと接続されている。
【0042】
後方ラマン増幅器15Bの雑音を測定する光伝送装置10Bは、光伝送装置10Aに対して、送信アンプ111のシャットダウンを指示する(S31)。具体的には、光伝送装置10Bの制御デバイス20Bは、OSC処理部110Bに、シャットダウン指示を含むOSC監視信号の生成と送信を指示する。OSC送信部115は、シャットダウン指示を含むOSC監視信号を生成し、光伝送路3で監視信号を送信する。光伝送装置10AのOSC処理部110Aは、シャットダウン指示を含む監視信号を復調し、復調した情報を制御デバイス20Aに供給する。制御デバイス20Aは、シャットダウン指示にしたがって送信アンプ111をシャットダウンする(S21)。この処理は、
図6の動作(1)に対応する。
【0043】
光伝送装置10Bは、光伝送装置10Aに対して、前方ラマン増幅器13Aをシャットダウンするように指示する(S32)。このシャットダウン指示もOSCで送信される。送信アンプ111のシャットダウン指示(S31)と、前方ラマン増幅器13Aのシャットダウン指示(S32)は同時に行われてもよい。光伝送装置10Aの制御デバイス20Aは、シャットダウン指示にしたがって前方ラマン増幅器13Aをシャットダウンし、タイマを起動する(S22)。この処理は、
図6の動作(2)に対応する。前方ラマン増幅器13Aがシャットダウンされた時点で、光伝送装置10Aと10Bの間のOSC通信は不通になる。
【0044】
光伝送装置10Bの制御デバイス20Bは、後方ラマン増幅器15Bの励起光源151の各光源素子の励起光のパワーを設定し(S33)、後方ラマン励起の雑音光を測定する(S34)。後方ラマン励起の雑音光は、後方ラマン増幅器15Bの内部に設けられた光検出器で検出されてもよいし、光送受信部11Bの光モニタ119を利用してもよい。j個の光源素子のすべてについて雑音光の測定が完了するまで(S35でYES)、S33とS34を繰り返して、後方ラマンの雑音プロファイルを作成する。この処理は、
図6の動作(3)、(4)、及び(5)に対応する。
【0045】
光伝送装置10Aの制御デバイス20Aは、タイマに設定された時間の経過を待ち(S23)、タイムアップとともに前方ラマン増幅器13Aをオンにする(S26)。この処理は、
図6の動作(6)に対応する。前方ラマン増幅器13Aがオンになったことで、光伝送装置10Aと10Bの間のOSC通信は復旧する。光伝送装置10Aと10Bは、それぞれのOSC処理部110A及び110Bで、OSCの復旧を確認する(S25及びS26)。OSCの復旧は、監視光のパワーレベル、または監視パケットの有効性を確認することで確認される。この処理は、
図6の動作(7)に対応する。
【0046】
このように、後方ラマン励起の雑音測定時に、前方ラマン増幅器13Aがオフ状態になる時間を必要最小限にとどめ、OSC通信を速やかに回復させて、双方向ラマン励起の立ち上げ動作を滞りなく実行する。
【0047】
<後方ラマン励起の利得測定>
図8は、後方ラマン増幅器の利得測定シーケンスの模式図、
図9は、
図8の動作のフローチャートである。光伝送装置10Aを上流ノード、光伝送装置10Bを下流ノードとして、光伝送路2における後方ラマン励起のラマン利得を測定する。
図8で、光伝送装置10Aと10Bの構成は簡略化されているが、前方ラマン増幅器13Aと後方ラマン増幅器15Aは、制御線で制御デバイス20Aと接続され、前方ラマン増幅器13Bと後方ラマン増幅器15Bは、制御線で制御デバイス20Bと接続されている。
【0048】
後方ラマン増幅器15Bの利得を測定する光伝送装置10Bは、光伝送装置10Aに対して、送信アンプ111のシャットダウン解除を指示する(S51)。このシャットダウン解除指示はOSCで送られる。光伝送装置10AのOSC処理部110Aは、シャットダウン解除の指示を含む監視信号を復調し、復調結果を制御デバイス20Aに供給する。制御デバイス20Aはシャットダウン解除指示にしたがって、送信アンプ111のシャットダウンを解除する(S21)。この処理は、
図8の動作(11)に対応する。
【0049】
光伝送装置10Aは、WDM信号光の送信パワー情報を光伝送装置10Bに転送する(S42)。この処理は、
図8の動作(12)に対応する。光伝送装置10Bの制御デバイス20Bは、受け取った送信パワー情報をメモリ202に記録する(S52)。制御デバイス20Bは、OSC処理部110Bを介して、光伝送装置10Aに前方ラマン増幅器13Aのシャットダウン指示を送る(S32)。光伝送装置10Aの制御デバイス20Aは、シャットダウン指示にしたがって前方ラマン増幅器13Aをシャットダウンし、タイマを起動する(S43)。この処理は、
図8の動作(13)に対応する。
【0050】
光伝送装置10Bの制御デバイス20Bは、後方ラマン増幅器15Bの励起光源151の各光源素子の励起光パワーを設定し(S54)、後方ラマン励起の利得を測定する(S55)。すべての光源素子について利得の測定が完了するまで(S56でYES)、S54とS55を繰り返して、後方ラマンの利得プロファイルを作成する。これらの処理は、
図8の動作(14)、(15)、及び(16)に対応する。
【0051】
一方、光伝送装置10Aの制御デバイス20Aは、タイマに設定された時間だけ待機し(S44)、タイムアップにより前方ラマン増幅器13Aをオンにする(S45)。この処理は、
図8の動作(17)に対応する。前方ラマン増幅器13Aのシャットダウン解除により、光伝送装置10Aと10Bの間のOSC通信が回復する。光伝送装置10Aと10Bは、OSCの復旧を確認する(S46及びS57)。この処理は、
図8の動作(18)に対応する。
【0052】
このように、後方ラマン励起の利得測定時に、前方ラマン増幅器がオフにされる時間を必要最小限にし、OSC通信を速やかに回復させて、双方向ラマン励起の立ち上げ動作を滞りなく実行する。
【0053】
<前方ラマン励起の雑音測定>
図10は、前方ラマン増幅器の雑音測定シーケンスの模式図、
図11は、
図10の動作のフローチャートである。光伝送装置10Aを上流ノード、光伝送装置10Bを下流ノードとして、光伝送路2における前方ラマン励起のASS雑音を測定する。光伝送路3における前方ラマン励起のASS雑音測定は、光伝送路2での前方ラマン励起の雑音測定と動作が逆になるだけで、同じ処理である。
図10で、光伝送装置10Aと10Bの構成は簡略化されているが、前方ラマン増幅器13Aと後方ラマン増幅器15Aは、制御線で制御デバイス20Aと接続され、前方ラマン増幅器13Bと後方ラマン増幅器15Bは、制御線で制御デバイス20Bと接続されている。
【0054】
光伝送装置10Aの制御デバイス20Aは、送信アンプ111をシャットダウンし(S61)、OSC処理部110Aを介して、光伝送装置10Bに後方ラマン増幅器15Bのシャットダウン指示を送る(S62)。後方ラマン増幅器15Bのシャットダウン指示に、前方ラマン励起起因の雑音測定開始の指示が含まれていてもよい。これらの処理は、
図10の動作(31)及び(32a)に対応する。シャットダウン指示の送信と同時、またはこれと前後して、前方ラマン増幅器13Aの励起光源131の各光源素子の励起光パワーを設定する(S63)。
【0055】
光伝送装置10Bの制御デバイス20Bは、OSC処理部110Bからシャットダウン指示を受け取ると、後方ラマン増幅器15Bのシャットダウンを実行し、タイマを起動する(S71)。この処理は、
図10の動作(32b)に対応する。この段階で、後方ラマン励起がオフになり、OSC通信は不通になる。
【0056】
光伝送装置10Bは、前方ラマン励起に起因する雑音パワーを記録して(S72)、タイムアップを待つ(S73)。この処理は、
図10の動作(33)に対応する。前方ラマン励起に起因する雑音は、光送受信部11Bの光モニタ119で測定されてもよい。所定時間が経過してタイムアップすると、制御デバイス20Bは後方ラマン増幅器15Bのシャットダウンを解除する(S74)。この処理は、
図10の動作(34)に対応する。これにより、光伝送装置10Aと10Bの間のOSC通信は回復する。
【0057】
光伝送装置10AのOSC処理部110Aと、光伝送装置10BのOSC処理部110Bは、それぞれOSCの復旧を確認する(S64及びS75)。この処理は、
図10の動作(35)に対応する。OSCの復旧により、光伝送装置10Bは、前方ラマン励起に起因する雑音情報を光伝送装置10Aに転送する(S76)。この処理は、
図10の動作(36)に対応する。
【0058】
光伝送装置10Aの制御デバイス20Aは、前方ラマン励起に起因する雑音情報を取得すると(S65)、励起光源131の各光源素子の雑音を補正して、励起光パワーを調整する。すべての光源素子の雑音補正とパワー調整が完了するまで(S66でYES)、S63とS65を繰り返す。これらの処理は、
図10の動作(37)、及び(38)に対応する。このように、前方ラマン励起の雑音測定時に、後方ラマン増幅器15Bがオフ状態になる時間を必要最小限にし、OSC通信を速やかに回復させて、双方向ラマン励起の立ち上げ動作を滞りなく実行する。
【0059】
<前方ラマン励起の利得測定>
図12は、前方ラマン増幅器の利得測定シーケンスの模式図、
図13は、
図12の動作のフローチャートである。光伝送装置10Aを上流ノード、光伝送装置10Bを下流ノードとして、光伝送路2における前方ラマン励起のラマン利得を測定する。
図12で、光伝送装置10Aと10Bの構成は簡略化されているが、前方ラマン増幅器13Aと後方ラマン増幅器15Aは、制御線で制御デバイス20Aと接続され、前方ラマン増幅器13Bと後方ラマン増幅器15Bは、制御線で制御デバイス20Bと接続されている。
【0060】
光伝送装置10Aは、送信アンプ111のシャットダウンを解除し(S81)、WDM信号光の送信パワーを記録してWDM信号を送信する(S82)。これらの処理は、
図12の動作(41)、(42)に対応する。光伝送装置10Aの制御デバイス20Aは、OSC処理部110Aを介して、光伝送装置10Bに後方ラマン増幅器15Bのシャットダウン指示を送る(S83)。この処理は、
図12の動作(43a)に対応する。シャットダウン指示の送信と同時またはこれと前後して、前方ラマン増幅器13Aの励起光源131の各光源素子のパワーを設定する(S84)。
【0061】
光伝送装置10Bの制御デバイス20Bは、シャットダウン指示にしたがって後方ラマン増幅器15Bをシャットダウンし、タイマを起動する(S91)。この処理は、
図12の動作(43b)に対応する。この時点で、光伝送装置10Aと10Bの間のOSC通信は不通になる。光伝送装置10Bは、先に受信していたWDM信号光の受信パワーを記録し(S92)、タイマに設定された時間だけ待機する(S93)。タイムアップにより、制御デバイス20Bは後方ラマン増幅器15Bのシャットダウンを解除する(S94)。これらの処理は、
図12の動作(44)、(45)に対応する。
【0062】
後方ラマン増幅器15Bのシャットダウンの解除により、OSC通信は復旧する。光伝送装置10Aと10Bの間でOSC復旧を確認する(S85及びS95)。この処理は、
図12の動作(46)に対応する。光伝送装置10Bは、測定した信号受信パワーを光伝送装置10Aに転送する(S96)。この処理は、
図12の動作(47)に対応する。光伝送装置10Aは、光伝送装置10Bでの受信パワーに基づいて、励起光源131の各光源素子の利得を計算し(S86)、励起光パワーを調整する(S84)。すべての光源素子について利得の計算と励起光パワーの調整が完了するまで(S87でYES)、S84とS86を繰り返す。これらの処理は、
図12の動作(48)、(49)に対応する。
【0063】
このように、前方ラマン励起の利得測定時に、後方ラマン増幅器15Bがオフ状態になる時間を必要最小限にし、OSC通信を速やかに回復させて、双方向ラマン励起の立ち上げ動作を滞りなく実行する。
【0064】
上記で、特定の構成と手法に基づいて本開示を説明したが、本開示は上記の構成例と動作例に限定されない。本開示の構成と手法は、後方ラマン励起と前方ラマン励起のいずれか一方のパワーが低下してOSC通信が不通になる場合にも適用可能である。この適用例では、OSC監視光のパワーレベルが一定レベルよりも低くなったときに、所定時間経過後に自動的にパワーアップする構成にしてもよい。ラマン増幅器の増幅特性の測定は、ASS雑音とラマン利得に限定されず、誘導ラマン散乱に基づくその他の光増幅特性を測定してもよい。制御デバイス内にタイマを設けるかわりに、プロセッサの機能でタイマ機能を実現してもよいし、ラマン増幅器の内部にタイマを設けてもよい。いずれの構成でも、光伝送路を挟んで対向する2つのラマン増幅器のいずれかがシャットダウンまたはパワーダウンされた状態を、解除することができる。光伝送路長が拡張されても、双方向ラマン励起の立ち上げにおいて、OSC通信断の状態から自律的に回復し、立ち上げに必要な情報の送受信を滞りなく実行できる。
【符号の説明】
【0065】
1 光伝送システム
2、3 光伝送路
10A、10B 光伝送装置
11A、11B 光送受信部
13A、13B 前方ラマン増幅器
15A、15B 後方ラマン増幅器
110A、110B OSC処理部
111 送信アンプ
115 OSC送信部
117 OSC受信部
120 受信アンプ
131、151 励起光源
20A、20B 制御デバイス
201 プロセッサ
202 メモリ
203 タイマ