(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003858
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】親水化剤
(51)【国際特許分類】
B41N 3/08 20060101AFI20240109BHJP
G03F 7/38 20060101ALI20240109BHJP
G03F 7/40 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B41N3/08 101
G03F7/38 512
G03F7/40 502
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103164
(22)【出願日】2022-06-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219912
【氏名又は名称】東京インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長幡 大輔
【テーマコード(参考)】
2H114
2H196
【Fターム(参考)】
2H114AA04
2H114DA25
2H114DA27
2H196AA06
2H196GA01
2H196GA60
2H196HA02
2H196JA03
2H196JA04
(57)【要約】
【課題】本発明は、端部の処理加工の有無に関わらず、オフセット印刷版のエッジ汚れが発生しそうな部分だけ、印刷前に親水化剤で処理することで、エッジ汚れの防止ができ、さらに、印刷中にエッジ汚れが発生した際に、当該箇所を拭くことでエッジ汚れが解消するオフセット印刷版用の親水化剤を提供することを目的とする。
【解決手段】エタノールと、水酸化物と、ポリカルボン酸塩と、を含むことを特徴とする親水化剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールと、水酸化物と、ポリカルボン酸塩と、を含むことを特徴とする親水化剤。
【請求項2】
さらに、メタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコールおよびtert-ブチルアルコールのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の親水化剤。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸塩が、クエン酸塩、フタル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、ピメリン酸塩、スベリン酸塩、アゼライン酸塩、セバシン酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、タルトロン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸塩、フマル酸塩、イタコン酸塩、シトラコン酸塩、マレイン酸塩、アクリル酸塩、カルボキシメチルセルロース塩、エチレンジアミン四酢酸塩のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の親水化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷に使用する印刷版用の親水化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷は、印刷版表面に形成された親油性の画像部と親水性の非画像部の表面物性を利用し、印刷版面にインキと湿し水を同時に供給すると、油性のインキが親油性の画像部上に選択的に転移させることを利用したものである。画像部上に転移したインキは、その後ブランケットと呼ばれる中間体に転写され、さらに該中間体から被印刷媒体(紙など)に転写されることで印刷が行われる。
【0003】
上記のようなオフセット印刷版を用いて印刷する場合、通常の枚葉印刷機のように印刷版のサイズよりも小さいサイズの被印刷媒体に印刷においては、印刷版の端部は被印刷媒体の外側となるため印刷品質に影響することはないが、例えば新聞印刷のような輪転機を用いてロール状の被印刷媒体などの印刷版のサイズよりも大きいサイズの被印刷媒体に連続的に印刷する場合には、印刷版の端部も被印刷媒体の内側となり、印刷面となってしまうため、端部に付着したインキが被印刷媒体に転写され、線状の汚れ(エッジ汚れ、額縁汚れともいう)となり、印刷物の商品価値を著しく損なう場合があった。
【0004】
このような線状の端部汚れを防止するために、特許文献1には、印刷版の端部がオフセット印刷版表面より下側になるように加工し、さらに、水溶性高分子化合物として大豆多糖類、変性澱粉ならびにリン酸および/またはリン酸塩を含有する不感脂化液が開示され、当該不感脂化液で端部を処理し、インキの付着を抑制するものが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、印刷版の端部を面取り処理加工し、さらにスルホン酸塩を含有する版面保護剤が開示され、当該版面保護剤で印刷版面を処理することで、インキの付着を抑制するものが開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、印刷版の端部を特別な裁断刃を有する裁断機により裁断処理加工し、さらに有機溶剤および水溶性樹脂を含有する液が開示され、当該処理液で印刷版面を処理することで、インキの付着を抑制するものが開示されている。
特許文献4には、印刷版の端部を特定のダレ形状に加工し、さらにアニオン性または非イオン性界面活性剤を含有する処理液が開示され、当該処理液で印刷版の端面から1cm以内の領域を処理することで、エッジ汚れを抑制するものが開示されている。
特許文献5には、印刷版の端部を特定のダレ形状に加工し、さらに当該端部の対向する2辺の側面に一部または全部に撥インク剤を付与することで、エッジ汚れを抑制するものが開示されている。
【0007】
しかし、これらは端部の加工処理が必要で、不感脂化液、版面保護剤または処理液などでの処理をし、当該処理面が印刷版全面あるいは端部面のみであっても、処理後の印刷版を重ねて保管した場合、処理した部分が別の印刷版の裏面に接着する場合がある。
【0008】
この問題を解決するために、特許文献6には、平版印刷版処理装置が提案され、装置内の印刷版を搬送する搬送経路に、印刷版の少なくとも1辺の端部に、親水化剤を含有する処理液を塗布する塗布部を設けることで、印刷版を1枚ずつ搬送しながら、処理液を塗布することができ、さらに乾燥部を備えることで、未乾燥の処理液が他の印刷版に付着することを防止することができるものが開示されている。
【0009】
しかし、上記は処理装置であって、一連の処理によって印刷版を多数保管しておくことにおいては有用であるが、印刷作業において、頻繁に行われる印刷版の交換に対して、処理装置による処理を行ない、印刷版を多数予備として保管しておくことは、作業の効率化を妨げるばかりか、コストアップにつながる。
【0010】
また、印刷作業中に、エッジ汚れが発生した場合、印刷機を一旦停止し、印刷版端部面の当該汚れが発生した箇所を処理液を用いて、拭くことによって解消することがある。しかし、用いる処理液によっては、拭いても汚れが解消しないものもあり、印刷版の交換を余儀なくされる場合もある。また、最近の機上現像処理印刷版によっては、汚れが解消しないものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001-75268号公報
【特許文献2】特開2005-262878号公報
【特許文献3】特開2011-177983号公報
【特許文献4】特開2014-104631号公報
【特許文献5】WO2019/188910号
【特許文献6】WO2016/2477号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、端部の処理加工の有無に関わらず、オフセット印刷版のエッジ汚れが発生しそうな部分だけ、印刷前に親水化剤で処理することで、エッジ汚れの防止ができ、さらに、印刷中にエッジ汚れが発生した際に、当該箇所を拭くことでエッジ汚れが解消するオフセット印刷版用の親水化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意検討した結果、エタノールと、水酸化物と、ポリカルボン酸塩と、を含むことにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明によれば、エタノールと、水酸化物と、ポリカルボン酸塩と、を含むことを特徴とする親水化剤が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、端部の処理加工の有無に関わらず、オフセット印刷版のエッジ汚れが発生しそうな部分だけ、印刷前に親水化剤で処理することで、エッジ汚れの防止ができるオフセット印刷版を提供できる。また、印刷中にエッジ汚れが発生した際に、当該箇所を拭くことでエッジ汚れが解消するオフセット印刷版用の親水化剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0017】
本発明の親水化剤は、エタノールと、水酸化物と、ポリカルボン酸塩と、を含むことが好ましい。
【0018】
本発明の親水化剤は、エタノールを含むことが好ましい。前記エタノールの含有量は、親水化剤全質量に対して、5~80質量%であることが好ましく、15~70質量%であることがより好ましく、30~60質量%であることがさらに好ましい。5質量%より少ないと、版面の非画像部の感光残膜の除去効果が低下することにより、汚れが発生するおそれがある。80質量%を超えると、水酸化物やポリカルボン酸塩が析出する傾向となり、保存安定性が低下するおそれがある。
【0019】
さらに、メタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコールおよびtert-ブチルアルコールのうち少なくとも一つを含むことがより好ましい。なかでも、メタノールがより好ましい。
【0020】
前記メタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコールおよびtert-ブチルアルコールのうち少なくとも一つを含めばよいが、2つ以上を併用してもよい。これらの含有量は、親水化剤全質量に対して、0.5~25質量%であることが好ましく、1.5~15質量%であることがより好ましく、3~10質量%であることがさらに好ましい。0.5質量%より少ないと、版面の非画像部の感光残膜の除去効果が低下することにより、汚れが発生するおそれがある。25質量%を超えると、水酸化物やポリカルボン酸塩が析出する傾向となり、保存安定性が低下するおそれがある。
【0021】
特に、前記エタノールとメタノールとを併用することがより好ましい。エタノールとメタノールとを併用する場合、エタノールとメタノールとの含有割合は、エタノール/メタノール=99/1~50/50であることが好ましく、98/2~70/30であることがより好ましく、96/4~85/15であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明の親水化剤は、水酸化物を含むことが好ましい。
【0023】
前記水酸化物は、下記一般式(1)で、表される水酸基をもつ化合物を挙げることができる。
M(OH)m (1)
(式(1)中、Mは、金属元素を表し、なかでもアルカリ金属またはアルカリ土類金属であることが好ましい。mは、1~4の整数を表す。)
【0024】
前記水酸化物としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH、CuOH、AuOH、Mg(OH)2、Ca(OH)2、Zn(OH)2、Sr(OH)2、Ba(OH)2、Cu(OH)2、Fe(OH)2、Ni(OH)2、Cd(OH)2、Co(OH)2、Pd(OH)2、Al(OH)3、Fe(OH)3、La(OH)3、Cr(OH)3、As(OH)3、In(OH)3、Gd(OH)3、Au(OH)3、Sn(OH)4、Ce(OH)4、Pd(OH)4などが挙げられ、なかでも、KOH、NaOHなどが特に好ましい。これらは、2つ以上を併用してもよい。
【0025】
前記水酸化物の含有量は、親水化剤全質量に対して、0.05~5質量%であることが好ましく、0.1~4質量%であることがより好ましく、1~3質量%であることがさらに好ましい。0.05質量%より少ないと、整面効果が低下することにより、汚れ(地汚れ)が発生するおそれがある。5質量%を超えると、水酸化物が析出する傾向となり、保存安定性が低下するおそれがある。
【0026】
本発明の親水化剤は、ポリカルボン酸塩を含むことが好ましい。ポリカルボン酸塩は、ポリカルボン酸のアルカリ金属との塩、アルカリ土類金属との塩、アンモニウムとの塩、アミンとの塩などが挙げられる。
【0027】
前記ポリカルボン酸としては、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ペンタカルボン酸など、2以上のカルボキシル基を含むカルボン酸や、低分子ポリカルボン酸(単量体ポリカルボン酸)、その無水物、およびそれらの組み合わせ、ならびに高分子ポリカルボン酸、その無水物、その共重合体、およびそれらの組み合わせなどが挙げられる。また、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、エチレンジアミン四酢酸なども含まれる。
【0028】
低分子ポリカルボン酸であるジカルボン酸としては、不飽和脂肪族ジカルボン酸、飽和脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、不飽和環状ジカルボン酸、飽和環状ジカルボン酸、それらのヒドロキシ置換誘導体、ハロ置換誘導体、アルキル置換誘導体、アルコキシ置換誘導体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
具体的には、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、酒石酸、タルトロン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、フタル酸およびこれらの誘導体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
また、低分子ポリカルボン酸であるトリカルボン酸としては、不飽和脂肪族トリカルボン酸、飽和脂肪族トリカルボン酸、芳香族トリカルボン酸、不飽和環状トリカルボン酸、飽和環状トリカルボン酸、それらのヒドロキシ置換誘導体、ハロ置換誘導体、アルキル置換誘導体、アルコキシ置換誘導体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
具体的には、例えば、クエン酸、トリカルバリル酸、1,2,4-ブタントリカルバリル酸、アコニット酸、へミメリト酸、トリメリト酸およびこれらの誘導体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
前記ポリカルボン酸塩の例としては、クエン酸塩、フタル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、ピメリン酸塩、スベリン酸塩、アゼライン酸塩、セバシン酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、タルトロン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸塩、フマル酸塩、イタコン酸塩、シトラコン酸塩、マレイン酸塩、アクリル酸塩、カルボキシメチルセルロース塩、エチレンジアミン四酢酸塩のうち少なくとも一つであることが好ましく、クエン酸塩、フタル酸塩がより好ましい。
【0031】
また、アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム、セシウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムなどが挙げられる。
【0032】
本発明の親水化剤に含まれるポリカルボン酸塩としては、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸二カリウム、アジピン酸アンモニウム、セバシン酸アンモニウム、フタル酸二アンモニウム、シュウ酸カリウム一水和物、二シュウ酸三水素カリウム二水和物、シュウ酸ナトリウムなどが挙げられ、なかでも、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸二カリウムが特に好ましい。
【0033】
前記ポリカルボン酸塩の含有量は、親水化剤全質量に対して、0.01~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましく、0.2~2質量%であることがさらに好ましい。0.01質量%より少ないと、整面効果が低下することにより、汚れ(地汚れ)が発生するおそれがある。5質量%を超えると、ポリカルボン酸塩が析出する傾向となり、保存安定性が低下するおそれがある。
【0034】
本発明の親水化剤は、水を含むことが好ましい。前記水は、特に制限はなく、水道水、井水、蒸留水、イオン交換水、純水などを用いることができる。なかでも、蒸留水、イオン交換水、純水を使用することがより好ましい。
【0035】
前記水の含有量は、前記した各成分の残余であるが、親水化剤全質量に対し、0~94.98質量%であることが好ましく、10~80質量%であることがより好ましく、30~70質量%であることがさらに好ましい。10質量%より少ないと、水酸化物やポリカルボン酸塩が析出する傾向となり、保存安定性が低下するおそれがある。94.98質量%を超えると、版面の非画像部の感光残膜の除去効果が低下することにより、汚れが発生するおそれがある。
【0036】
本発明の親水化剤は、その他の成分として、非イオン性界面活性剤を含んでもよい。非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシプロピレン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類などのほか、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレン共重合体をアルキルエーテル化、アルキルフェニルエーテル化、脂肪酸エステル化、ソルビタン脂肪酸エステル化した活性剤などを挙げることができる。なかでも、特にポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ジアルキルスルホコハク酸エステル類が好ましく、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルがより好ましい。これらは、2つ以上を併用してもよい。
【0037】
本発明のオフセット印刷版原版の処理方法は、支持体上に画像記録層を有するオフセット印刷版原版を画像露光した後、オフセット印刷版原版の版面の端部から1cm以内の領域に前記親水化剤による処理をする方法であることが好ましい。
露光済みのオフセット印刷版(単に、オフセット印刷版ともいう)には、画像部となる露光された画像記録層と非画像部となる未露光の画像記録層があり、非画像部は、オフセット印刷版の版面の端部も含まれる。この版面の端部は、前述したように印刷中に汚れ(エッジ汚れ)が発生することがあり、先行文献に記載されているような端部の加工処理と処理液などによる処理を組み合わせることで、この汚れを抑制している。
本発明の処理方法は、前記端部の加工処理の有無にかかわらず、画像露光後に版面の端部から1cm以内の領域を前記親水化剤で処理をする方法であって、このことで、汚れの発生を抑制できる。また、親水化剤で処理をしていないオフセット印刷版を使用し、印刷中に汚れが発生した場合であっても、該当部分に親水化剤を塗布することで汚れが解消できるという効果もある。
【0038】
前記処理方法は、現像処理を製版時に行わない機上現像型(無処理型)のオフセット印刷原版に利用できる。機上現像とは、露光済みのオフセット印刷版をそのまま印刷機に装着し、版胴を回転しながら湿し水と印刷インキを供給することで、湿し水を浸透・膨潤させた版の非画像部(感光残膜)を、印刷インキのタック力を利用して剥がし、湿し水で洗い落として除去する処理(現像処理)を行い、引き続き印刷を行うものである。
【0039】
また、別の実施形態である本発明のオフセット印刷版原版の処理方法は、支持体上に画像記録層を有するオフセット印刷版原版を画像露光し、前記露光後、現像液で現像処理をし、オフセット印刷版の版面の端部から1cm以内の領域に前記親水化剤による処理をする方法であることが好ましい。
【0040】
当該処理方法は、現像処理を製版時に行う従来型のオフセット印刷版原版に利用できる。すなわち、従来のPS版やCTP版といわれるオフセット印刷版原版であり、現像処理の後、水洗処理や、リンス液による処理、アラビアガムやでんぷん誘導体などを含む不感脂液による処理などの製版工程を経た後に、前記親水化剤による処理を利用できるものである。
【0041】
本発明のオフセット印刷版原版の処理方法は、親水化剤を版面の端部から1cm以内の領域に接触する方法であれば、いずれでもよく、例えば、ローラーによる塗布、ウエスやスポンジによる塗布、スキージやスクレーパなどによる塗布などが挙げられ、なかでも、作業が容易で、スムーズに行なうことができることから、スポンジによる塗布が好ましい。スポンジによる塗布は、前記親水化剤を十分な量を取り、前記版面の端部から1cm以内の領域上に伸ばしながら、塗布し、これを万遍なく行なうことが好ましい。さらに適宜水を加えて、場合によってはきれいなスポンジなどで、余分な現像液および非画像部の余分な感光残膜を拭き取ってもよい。
【0042】
本発明のオフセット印刷版の製造方法は、支持体上に画像記録層を有するオフセット印刷版原版を準備する工程と、画像露光する工程と、前記露光工程後に、オフセット印刷版の版面の端部から1cm以内の領域に前記親水化剤による処理工程と、前記処理工程後、印刷機に装着し、湿し水および/または印刷インキにより現像処理工程と、を有することが好ましい。
【0043】
前記支持体上に画像記録層を有するオフセット印刷版原版を準備する工程は、通常に行われる製版工程である画像部と非画像部を形成する画像記録層を形成した印刷版原版を準備する工程であれば、いずれでもよい。
【0044】
前記画像露光する工程は、通常に行われる製版工程である画像部となる露光する画像記録層と非画像部となる未露光の画像記録層を露光する工程であれば、いずれでもよい。
【0045】
前記オフセット印刷版の版面の端部から1cm以内の領域に前記親水化剤による処理工程は、前記露光工程後に行われる工程であり、版面の非画像部となる版面の端部から1cm以内の画像記録層に前記親水化剤を接触する工程であれば、いずれでもよく、例えば、ローラーによる塗布工程、ウエスやスポンジによる塗布工程、スキージやスクレーパなどによる塗布工程などが挙げられ、なかでも、作業が容易で、スムーズに行なうことができることから、スポンジによる塗布工程が好ましい。スポンジによる塗布工程は、前記親水化剤を十分な量を取り、前記版面の端部から1cm以内の領域上に伸ばしながら、塗布し、これを万遍なく行なう工程であることが好ましい。さらに適宜水を加えて、場合によってはきれいなスポンジなどで、非画像部の余分な感光残膜を拭き取る工程を含んでもよい。
【0046】
前記印刷機に装着し、湿し水および/または印刷インキによる現像処理工程は、前記親水化剤による処理工程後に行われる工程であり、印刷機に装着し、版胴を回転しながら湿し水および/または印刷インキを供給し、湿し水を浸透・膨潤させた版の非画像部(感光残膜)を、湿し水で洗い落として除去する、あるいは印刷インキのタック力を利用して剥がし、湿し水で洗い落として除去する現像処理をする工程(機上現像処理工程)であれば、いずれでもよい。
【0047】
また、別の実施形態である本発明のオフセット印刷版の製造方法は、支持体上に画像記録層を有するオフセット印刷版原版を準備する工程と、画像露光する工程と、前記露光工程後、現像液による現像処理工程と、前記現像工程後、オフセット印刷版原版の版面の端部から1cm以内の領域に前記親水化剤による処理工程と、を有することが好ましい。
【0048】
当該製造方法は、現像処理工程を製版時に行う従来型のオフセット印刷版原版に利用できる。すなわち、従来のPS版やCTP版といわれるオフセット印刷版原版であり、現像処理工程の後、水洗処理や、リンス液による処理、アラビアガムやでんぷん誘導体などを含む不感脂液による処理などの製版工程を経た後に、前記親水化剤による処理工程を利用できるものである。
【0049】
以下、参考形態の例を付記する。
(1)エタノールと、水酸化物と、ポリカルボン酸塩、および残分として水と、を含むことを特徴とする親水化剤。
(2)さらに、メタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコールおよびtert-ブチルアルコールのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする(1)に記載の親水化剤。
(3)前記エタノールとメタノールとの含有割合が、エタノール/メタノール=99/1~50/50であることを特徴とする(2)に記載の親水化剤。
(4)前記ポリカルボン酸塩が、クエン酸塩、フタル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、ピメリン酸塩、スベリン酸塩、アゼライン酸塩、セバシン酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、タルトロン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸塩、フマル酸塩、イタコン酸塩、シトラコン酸塩、マレイン酸うち少なくとも一つを含むことを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の親水化剤。
(5)前記ポリカルボン酸塩が、クエン酸塩、フタル酸塩のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の親水化剤。
(6)前記水酸化物が、一般式(I)で、表される水酸基をもつ化合物であることを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の親水化剤。
M(OH)m (I)
(式(I)中、Mは、金属元素を表し、なかでもアルカリ金属またはアルカリ土類金属であることが好ましい。mは、1~4の整数を表す。)
(7)支持体上に画像記録層を有するオフセット印刷版原版を画像露光した後、オフセット印刷版原版の版面の端部から1cm以内の領域に(1)~(6)のいずれかに記載の親水化剤による処理をすることを特徴とするオフセット印刷版原版の処理方法。
(8)支持体上に画像記録層を有するオフセット印刷版原版を画像露光し、前記露光後、現像液で現像処理をし、オフセット印刷版原版の版面の端部から1cm以内の領域に(1)~(6)のいずれかに記載の親水化剤による処理をすることを特徴とするオフセット印刷版原版の処理方法。
(9)支持体上に画像記録層を有するオフセット印刷版原版を画像露光し、前記露光後、オフセット印刷版原版の版面の端部から1cm以内の領域に(1)~(6)のいずれかに記載の親水化剤による処理をし、その後印刷機に装着し、印刷インキおよび/または湿し水により現像処理をすることを特徴とするオフセット印刷版原版の処理方法。
(10)支持体上に画像記録層を有するオフセット印刷版原版を準備する工程と、
画像露光する工程と、
前記露光工程後に、オフセット印刷版原版の版面の端部から1cm以内の領域に(1)~(6)のいずれかに記載の親水化剤による処理工程と、を有することを特徴とするオフセット印刷版原版の製造方法。
(11)支持体上に画像記録層を有するオフセット印刷版原版を準備する工程と、
画像露光する工程と、
前記露光工程後に、オフセット印刷版原版の版面の端部から1cm以内の領域に(1)~(6)のいずれかに記載の親水化剤による処理工程と、
前記処理工程後、印刷機に装着し、湿し水および/または印刷インキにより現像処理工程と、を有することを特徴とするオフセット印刷版の製造方法。
(12)支持体上に画像記録層を有するオフセット印刷版原版を準備する工程と、
画像露光する工程と、
前記露光工程後、現像液による現像処理工程と、
前記現像工程後、オフセット印刷版原版の版面の端部から1cm以内の領域に(1)~(6)のいずれかに記載の親水化剤による処理工程と、を有することを特徴とするオフセット印刷版の製造方法。
【実施例0050】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を示す。
【0051】
[親水化剤の作製]
<実施例1>
ネオコールC(日本アルコール販売(株)製)50g、水酸化カリウム2g、クエン酸水素二アンモニウム1g、フタル酸水素カリウム1g、イオン交換水46gを添加し、攪拌して、親水化剤1を作製した。同様に、表1~表3の処方にしたがって、親水化剤2~24を作製した。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
使用した材料は、次のものである。
ネオコールC:エタノール83.5%、メタノール3.5%、ノルマルプロピルアルコール6.5%、水6.5%を含む混合アルコール、日本アルコール販売(株)製
ネオコールR7:エタノール86.2%、メタノール2.6%、イソプロピルアルコール1.5%、ノルマルプロピルアルコール9.5%、水0.2%を含む混合アルコール、日本アルコール販売(株)製
ネオコールME:エタノール80.4%、メタノール11.8%、水7.8%を含む混合アルコール、日本アルコール販売(株)製
ネオコールCP:エタノール82.5%、イソプロピルアルコール13.6%、水3.9%を含む混合アルコール、日本アルコール販売(株)製
ソルミックスAP7 :エタノール85.597%、イソプロピルアルコール4.9%、ノルマルプロピルアルコール9.5%、水0.03%を含む混合アルコール、日本アルコール販売(株)製
水酸化カリウム:富士フイルム和光純薬(株)製
クエン酸水素二アンモニウム:富山薬品工業(株)製
フタル酸水素カリウム:富山薬品工業(株)製
【0056】
親水化剤について、保存安定性、汚れ耐性、洗浄性を評価し、表4に示した。
なお、従来参考例として、新聞CTP用フィニッシングガム(商品名:HN-GV、富士フイルム(株)製)を使用した。当該ガム液は、主に、変性澱粉、アラビアガム、ベンジルアルコール、他澱粉類、水を含むものである(SDSの記載による)。
【0057】
[保存安定性]
作製した親水化剤を、200mlのガラス瓶に取り、冷蔵庫で1週間静置したときの各親水化剤の状態を目視にて観察し、評価した。親水化剤の状態について、沈殿や結晶の析出がみられないものが、保存安定性が良好と判断した。沈殿や結晶の析出について、○:作製直後と変化がない、△:わずかに沈殿や結晶の析出がみられる(実用上問題ない)、×:沈殿や結晶の析出が多くみられる、の3段階で評価した。保存安定性が「×」の評価だったものは、よく振蕩して、均一に混合した状態にして、以下の評価を行なった。
【0058】
[汚れ耐性]
露光済みのオフセット印刷版原版(SONORA NX2、コダック合同会社製)を、親水化剤で処理をせず、印刷適性評価機(MHIソリューションテクノロジーズ(株)製)に装着し、新聞用インキとしてニューズメジャークロマ墨(東京インキ(株)製)、および湿し水として中性エッチ液PF-5(1%設定、東京インキ(株)製)を用いて、機上現像処理を行った後、印刷スピード800rpmで、印刷を行ない、印刷中に印刷適性評価機のミクロカメラにて版面を観察し、エッジ汚れの発生が確認できた時点で、印刷適性評価機を一旦停止し、印刷版を取り外し、当該エッジ汚れ箇所部(版面の端部から1cm以内の領域)を作製した親水化剤をしみ込ませたスポンジで塗布して親水化処理を行った。再度、印刷適性評価機に印刷版を装着し、同印刷スピードにて印刷を再開し、再びミクロカメラにて版面の観察により、エッジ汚れの有無を確認し、汚れ耐性を評価した。
印刷再開後、エッジ汚れが再度観察されないものが、汚れ耐性が良好と判断した。
汚れ耐性について、◎:印刷再開後、エッジ汚れがまったく発生しない、○:印刷再開後、15分以上20分未満で、エッジ汚れが発生する、△:印刷再開後、5分以上15分未満で、エッジ汚れが発生する(実用レベル)、×:印刷再開後、5分未満で、エッジ汚れが発生する、の4段階で評価した。
【0059】
[洗浄性]
露光済みのオフセット印刷版原版(SONORA NX2、厚み0.3mm、コダック合同会社製)を、親水化剤などで処理をせず、印刷適性評価機(MHIソリューションテクノロジーズ株式会社製)に装着し、新聞用インキとしてニューズメジャークロマ墨(東京インキ(株)製)、および湿し水として中性エッチ液PF-5(1%設定、東京インキ(株)製)を用いて、機上現像処理を行った後、印刷スピード800rpmで、印刷を行ない、印刷中に印刷適性評価機のミクロカメラにて版面を観察し、エッジ汚れの発生が確認できた時点で、印刷適性評価機を一旦停止し、印刷版を取り外し、当該エッジ汚れ箇所部(版面の端部から1cm以内の領域)を作製した親水化剤をしみ込ませたスポンジで塗布して洗浄した。その後、RIテスターで、洗浄したエッジ部を含む印刷版に、上記同墨インキを1.2cc/m2で展色し、すぐに水が入ったバットに浸漬し、エッジ部に展色した墨インキが剥離する状態を目視で観察し、洗浄性を評価した。
エッジ部の墨インキが剥離するものが、洗浄性が良好と判断した。
洗浄性について、◎:エッジ部に展色した墨インキが完全に剥離する、○:エッジ部に展色した墨インキがほぼ完全に剥離する、△:エッジ部に展色した墨インキがやや残るが剥離する(実用レベル)、×:エッジ部に展色した墨インキが剥離しない、の4段階で評価した。
【0060】
【0061】
表4より、実施例1~16の親水化剤は、保存安定性、汚れ耐性、および洗浄性について良好であることが明確である。比較例1の水酸化物およびポリカルボン酸塩を含まない親水化剤は、汚れ耐性および洗浄性が劣ることが明確である。比較例2のポリカルボン酸塩を含まない親水化剤、比較例3~5の水酸化物を含まない親水化剤も汚れ耐性、および洗浄性が劣ることが明確である。水酸化物を含まない比較例4~5はポリカルボン酸塩の添加量を多くしても、効果が出ないことが明確である。比較例6~8のエタノールを含まない親水化剤も、汚れ耐性、および洗浄性が劣ることが明確である。従来参考例のガム液を用いても、汚れ耐性、および洗浄性が劣ることが明確である。
さらに、メタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコールおよびtert-ブチルアルコールのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の親水化剤。