(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038589
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】燃料電池用ガス拡散層基材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20240313BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20240313BHJP
D04H 1/4242 20120101ALI20240313BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240313BHJP
【FI】
H01M4/88 C
H01M4/96 B
H01M4/96 M
D04H1/4242
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142701
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000100780
【氏名又は名称】アイシン化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】本荘 貴英
【テーマコード(参考)】
4L047
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4L047AA03
4L047AB02
4L047BA21
4L047CA02
4L047CB01
4L047CC14
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB03
5H018BB05
5H018BB06
5H018BB17
5H018CC06
5H018DD05
5H018DD06
5H018EE05
5H018EE06
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】ガス拡散性及び導電性を両立する、燃料電池のガス拡散層の形成に用いられ、高い発電性能を有する燃料電池を与えるガス拡散層基材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の燃料電池用ガス拡散層基材製造方法は、いずれも、炭素繊維、黒鉛粒子、有機繊維及び水を含む第1スラリーと、第2スラリーとを用い、第1スラリーを用いて炭素繊維及び有機繊維が、その表面延伸方向にほぼ平行な方向に配向し且つ黒鉛粒子が繊維同士の間に介在する第1含水シートを作製する工程と、第1含水シートの表面に第2スラリーを供給して繊維が3次元方向にランダム配向し且つ黒鉛粒子が繊維同士の間に介在する層を形成させて含水積層シートを作製する工程と、含水積層シートを搾水及び乾燥して複合シートを作製する工程と、複合シートに炭素前駆体樹脂を含浸させて樹脂含浸シートを作製する工程と、樹脂含浸シートを加熱焼成する炭化工程とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維(A1)と、黒鉛粒子(B1)と、後の炭化工程において炭化される有機繊維(C1)と、水とを含む第1スラリーを用いて、第1含水シートを作製する第1含水シート作製工程と、
炭素繊維(A2)と、黒鉛粒子(B2)と、後の炭化工程において炭化される有機繊維(C2)と、水とを含む第2スラリーを、前記第1含水シートの表面に供給して、前記第1含水シートに由来する第1層、及び、該第1層の表面に配された、前記第2スラリーに由来する第2層を備える含水積層シートを作製する含水積層シート作製工程と、
前記含水積層シートを搾水及び乾燥して複合シートを作製する複合シート作製工程と、
前記複合シートに、後の炭化工程において炭化される炭素前駆体樹脂を含浸させて樹脂含浸シートを作製する樹脂含浸工程と、
前記樹脂含浸シートを、非酸化性雰囲気で加熱焼成する炭化工程とを、順次、備え、
前記第1含水シートは、前記炭素繊維(A1)及び前記有機繊維(C1)が、該第1含水シートの表面延伸方向にほぼ平行な方向に配向しており、且つ、前記黒鉛粒子(B1)が繊維同士の間に介在するシートであり、
前記第2層は、前記炭素繊維(A2)及び前記有機繊維(C2)が3次元方向にランダム配向しており、且つ、前記黒鉛粒子(B2)が繊維同士の間に介在する層である、燃料電池用ガス拡散層基材の製造方法。
【請求項2】
前記第1含水シート作製工程において、短網抄紙機又は長網抄紙機が用いられる請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層基材の製造方法。
【請求項3】
前記含水積層シート作製工程において、円網抄紙機が用いられる請求項1又は2に記載の燃料電池用ガス拡散層基材の製造方法。
【請求項4】
前記黒鉛粒子(B1)及び前記黒鉛粒子(B2)の質量比(B1/B2)が、1.2以上である請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層基材の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層基材の製造方法により得られた燃料電池用ガス拡散層基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池のガス拡散層の形成に用いられるガス拡散層基材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の動力源として広く使用されている固体高分子形燃料電池(以下、単に「燃料電池」という)は、複数の燃料電池セルがセパレーターを介して積層して構成され、1つの単セルにおいては、特定イオンを選択的に透過する高分子電解質膜の両面に、白金等の触媒を担持したカーボン等の導電材及びイオン交換樹脂からなる触媒層と、各触媒層の外側に配置する多孔質のガス拡散層とによって構成されるカソード(+)側電極及びアノード(-)側電極が配されて、膜/電極接合体を形成している。そして、この膜/電極接合体を構成するガス拡散層の外側に、燃料ガス(アノードガス)又は酸化ガス(カソードガス)を供給し、かつ、生成ガス及び過剰ガスを排出するガス流路を形成したセパレーターが配されて、膜/電極接合体がセパレーターで挟持されている。
【0003】
上記構成の燃料電池において、単セル電池の電極を構成するガス拡散層は、反応ガスの拡散性を高めるために配されるものである。そして、セパレーターのガス流路から供給された燃料ガス又は酸化ガスをガス拡散層に隣接する触媒層に拡散させる作用(ガス拡散性)を担うことから、ガス透過性だけでなく、電気化学反応のための電子を効率的に移動させる集電機能としての導電性を有する。また、ガス拡散層は、高分子電解質膜及び触媒層を常に最適な湿潤状態に保つ一方で、特に、カソード極のガス拡散層では、フラッディング現象(ガス拡散層の細孔が水で閉塞する現象)を抑制して、発電性能を安定させるために、発電時の水素及び酸素の電気化学的反応によって生成した過剰な反応生成水や結露水を排出させる撥水性(排水性)が必要とされる。
【0004】
従来、ガス拡散層を形成する基材として、導電性繊維である炭素繊維を含む基材及びその製造方法が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、一方の面側に形成され、炭素繊維を含んだ炭素繊維層と、他方の面側に形成され、炭素繊維層よりも活性炭素繊維を多く含んだ活性炭素繊維層とを積層したことを特徴とする炭素繊維多孔質シートが開示され、このような炭素繊維多孔質シートを製造する方法として、炭素繊維、バインダーを含んで、炭素繊維を十分に分散させて作成した炭素繊維のスラリーと、この炭素繊維よりも表面積の大きな活性炭素繊維、バインダーを含んで、活性炭素繊維を十分に分散させて作成した活性炭素繊維のスラリーとを用意し、抄き網上に順次、少なくとも炭素繊維スラリーと活性炭素繊維スラリーを供給し、抄き出すことにより、シートの一方の面側に炭素繊維層を形成し、他方の面側に炭素繊維層よりも活性炭素繊維を多く含んだ活性炭素繊維層を形成して複数の層を積層して製造することを特徴とする、炭素繊維多孔質シートの製造方法が開示されている。
特許文献2には、炭素繊維及び結着材を含む多孔質の炭素シートであって、一方の表面から他方の表面までの区間において、炭素シートを圧縮下で厚さ方向に6等分して得られる層について、一方の表面を含む層から他方の表面を含む層に向け順に層1、層2、層3、層4、層5、層6としたときに、圧縮下の充填率が最も大きい層が層2であり、層2、層3、層4、層5、層6の圧縮下の充填率の関係が、層2の充填率が最も大きく、層3の充填率が2番目に大きい炭素シートが開示されている。そして、このような炭素シートは、多孔体である炭素繊維抄紙体を作製した後、結着材となる樹脂組成物を、その量が層2において最も多くなるようにして、更に、層2、層3、層4、層5及び層6のうち、層3が2番目に多くなるように含浸させ、次いで、乾燥及び熱処理(炭化)させることにより製造できることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、分散している炭素短繊維を樹脂炭化物で結着した1枚の多孔質炭素シートであって、このシートが細孔モード径の異なる少なくとも2以上の層からなり、細孔モード径が最大である層の細孔モード径をD1、最小である層の細孔モード径をD2としたときに、1.2≦D1/D2≦4であることを特徴とする多孔質炭素シートが開示されており、このような多孔質炭素シートを製造する方法として、炭素短繊維と熱硬化性樹脂を含む前駆体繊維シートを、加熱加圧処理する圧縮工程と、圧縮工程を経た前駆体繊維シートに含まれる熱硬化性樹脂を炭化処理する炭化工程とを有し、圧縮工程において、第1段階として前駆体繊維シートを加熱加圧処理した後、第2段階として第1段階で加熱加圧処理された前駆体繊維シートと加熱加圧処理する前の前駆体繊維シートを積層して更に加熱加圧処理することを特徴とする多孔質炭素シートの製造方法が開示されている。
また、特許文献4には、炭素繊維が互いに絡み合った炭素繊維集積体からなり、この炭素繊維集積体の炭素繊維を結着する炭化物と、炭素繊維集積体の前記炭素繊維間に保持された中位径が40μm~120μmの範囲内にある球状黒鉛及び/または人造黒鉛とを含み、多孔質であるガス拡散層基材が開示されており、このようなガス拡散層基材を製造する方法として、ベースとなる炭素繊維と、後の加熱処理で焼失される有機繊維と、中位径が40μm~120μmの範囲内にある球状黒鉛及び/または人造黒鉛とを共に抄紙することによって集積体を形成する抄紙工程と、抄紙工程で形成された集積体に、炭素前駆体樹脂を含浸させる樹脂含浸工程と、炭素前駆体樹脂が含浸された集積体を乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程で乾燥させた集積体を非酸化性雰囲気で加熱焼成する炭化・黒鉛化工程とを具備するガス拡散層基材の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-238759号公報
【特許文献2】WO2017/69014号公報
【特許文献3】特開2009-234851号公報
【特許文献4】特開2020-87826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ガス拡散性及び導電性を両立する、燃料電池のガス拡散層の形成に用いられるガス拡散層基材を製造する方法であって、高い発電性能を有する燃料電池を与えるガス拡散層基材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、各層における繊維の配向性が互いに異なるように黒鉛粒子含有繊維シート層同士の積層物(含水積層シート)を作製し、これを乾燥して得られた複合シートに、炭素前駆体樹脂を含浸させ、次いで、炭化させると、得られたガス拡散層基材が、燃料電池のガス拡散層の形成に好適であり、上記課題を解決することを見い出した。
【0010】
本発明は、以下に示される。
〔1〕炭素繊維(A1)と、黒鉛粒子(B1)と、後の炭化工程において炭化される有機繊維(C1)と、水とを含む第1スラリーを用いて、第1含水シートを作製する第1含水シート作製工程と、
炭素繊維(A2)と、黒鉛粒子(B2)と、後の炭化工程において炭化される有機繊維(C2)と、水とを含む第2スラリーを、上記第1含水シートの表面に供給して、上記第1含水シートに由来する第1層、及び、該第1層の表面に配された、上記第2スラリーに由来する第2層を備える含水積層シートを作製する含水積層シート作製工程と、
上記含水積層シートを搾水及び乾燥して複合シートを作製する複合シート作製工程と、
上記複合シートに、後の炭化工程において炭化される炭素前駆体樹脂を含浸させて樹脂含浸シートを作製する樹脂含浸工程と、
上記樹脂含浸シートを、非酸化性雰囲気で加熱焼成する炭化工程とを、順次、備え、
上記第1含水シートは、上記炭素繊維(A1)及び上記有機繊維(C1)が、該第1含水シートの表面延伸方向にほぼ平行な方向に配向しており、且つ、上記黒鉛粒子(B1)が繊維同士の間に介在するシートであり、
上記第2層は、上記炭素繊維(A2)及び上記有機繊維(C2)が3次元方向にランダム配向しており、且つ、上記黒鉛粒子(B2)が繊維同士の間に介在する層である、燃料電池用ガス拡散層基材の製造方法。
〔2〕上記第1含水シート作製工程において、短網抄紙機又は長網抄紙機が用いられる上記項〔1〕に記載の燃料電池用ガス拡散層基材の製造方法。
〔3〕上記含水積層シート作製工程において、円網抄紙機が用いられる上記項〔1〕又は〔2〕に記載の燃料電池用ガス拡散層基材の製造方法。
〔4〕上記黒鉛粒子(B1)及び上記黒鉛粒子(B2)の質量比(B1/B2)が、1.2以上である上記項〔1〕に記載の燃料電池用ガス拡散層基材の製造方法。
〔5〕上記項〔1〕に記載の燃料電池用ガス拡散層基材の製造方法により得られた燃料電池用ガス拡散層基材。
【発明の効果】
【0011】
本発明の燃料電池用ガス拡散層基材の製造方法によると、ガス拡散性及び導電性を両立し、高い発電性能を有する燃料電池を与えるガス拡散層基材を効率よく製造することができる。特に、含水積層シート作製工程で得られた含水積層シートは、炭素繊維(A1)及び有機繊維(C1)が、その表面延伸方向にほぼ平行な方向に配向しており、且つ、黒鉛粒子(B1)が繊維同士の間に介在する第1含水シートの表面に、第2スラリーを、炭素繊維(A2)及び有機繊維(C2)が3次元方向にランダム配向し、且つ、黒鉛粒子(B2)が繊維同士の間に介在するように積層したものであるため、第1層及び第2層の界面における繊維同士の絡み合いが十分なものとなり、炭化工程後に得られるガス拡散層基材において、その内部を高密度とすることができる。また、抄紙機を用いた含水積層シート作製、複合シート作製、樹脂含浸シート作製及び炭化を連続的に行った場合、燃料電池用ガス拡散層基材をロール状で製造することができるが、流れ方向(MD)の引張強度T1と、それに垂直な方向(TD)の引張強度T2との比(T1/T2)を、例えば、2.0以下に小さくして、ロールトゥロール搬送時における割れ等を抑制することができる。
本発明により得られた燃料電池用ガス拡散層基材をカソード極用ガス拡散層基材として用いて製造された燃料電池は、車両等の輸送用燃料電池、定置用燃料電池等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明により得られる燃料電池用ガス拡散層基材の概略断面図である。
【
図2】〔実施例〕で得られた燃料電池用ガス拡散層基材を厚さ方向に3等分した場合に、材料占有率(但し、空隙部分を除く)を測定する領域を示す説明図であり、第1含水シートに由来する第1層の側から設定された、第1領域F、第2領域S及び第3領域Tを示す図である。
【
図3】本発明により得られる燃料電池用ガス拡散層基材を用いて作製される膜/電極接合体の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の燃料電池用ガス拡散層基材製造方法は、第1含水シート作製工程と、含水積層シート作製工程と、複合シート作製工程と、樹脂含浸工程と、炭化工程とを、順次、備える。尚、本発明の燃料電池用ガス拡散層基材製造方法は、必要により、更に他の工程(後述)を備えることができる。
本発明の燃料電池用ガス拡散層基材製造方法において、含水積層シート作製工程で得られる含水積層シートは、第1層における繊維(炭素繊維及び有機繊維)の配向と、第2層における繊維(炭素繊維及び有機繊維)の配向とが異なるが、その後の工程を経て最終的に得られるガス拡散層基材においては、電子顕微鏡等により繊維の配向の差を確認することができない一方、優れた電池性能が得られる。繊維の配向傾向を考慮せずに黒鉛粒子含有繊維集積体を作製した後、樹脂含浸、炭化等を行う従来、公知の製造方法の場合も、当然ながら、得られるガス拡散層基材において、1面側及び他面側に繊維の配向の差はないが、本発明により得られるガス拡散層基材を用いた場合に比べると、電池性能に劣る。
【0014】
図1は、本発明により得られた燃料電池用ガス拡散層基材1の1例を示す概略断面図であり、この燃料電池用ガス拡散層基材1は、複数の炭素繊維2(炭素繊維(A1)及び炭素繊維(A2)に由来する)、複数の黒鉛粒子4(黒鉛粒子(B1)及び黒鉛粒子(B2)に由来する)、並びに、炭化工程により、第1スラリーに含まれた有機繊維(C1)と、第2スラリーに含まれた有機繊維(C2)と、第1スラリー及び第2スラリーに含まれた炭素前駆体樹脂が炭化されて形成された炭化部6とを含む。
図1の炭化部6は、炭化物で満たされていることを示すものではなく、炭化物が黒鉛粒子同士、又は、炭素繊維及び黒鉛粒子を結着しており、燃料電池用ガス拡散層基材1の1面側から他面側に向かって通気性を有する程度に内部に空隙を有する。
本発明の燃料電池用ガス拡散層基材1は、第1スラリーに含まれた繊維に由来する第1層と、第2スラリーに含まれた繊維に由来する第2層とを含む含水積層シートの乾燥体である複合シートに炭素前駆体樹脂を含浸させた後、加熱焼成させてなる、層8及び層9からなる物品である(
図1参照)。上記のように、電子顕微鏡等により、各層における繊維の配向差を確認しにくく、また、通常、層8及び層9の界面も確認することはできない。
【0015】
本発明により得られる燃料電池用ガス拡散層基材は、燃料電池の製造に用いられるシート状(薄肉板状)の素材であり、例えば、
図3に示される膜/電極接合体10におけるカソード極用ガス拡散層11の形成に用いることができる。特に好ましい態様の膜/電極接合体10は、カソード極用ガス拡散層11、マイクロポーラス層13、触媒層15、電解質層31、触媒層25、マイクロポーラス層23及びアノード極用ガス拡散層21を、順次、備え、カソード極用ガス拡散層11は、
図1の燃料電池用ガス拡散層基材1の第1面1a(第1スラリーに由来する層8側の表面)がマイクロポーラス層13に面するように接合されて形成されたものである。
【0016】
初めに、第1含水シート作製工程で用いられる第1スラリー、及び、含水積層シート作製工程で用いられる第2スラリーについて説明する。
第1スラリーは、炭素繊維(A1)、黒鉛粒子(B1)、有機繊維(C1)及び水を含有する。また、第2スラリーは、炭素繊維(A2)、黒鉛粒子(B2)、有機繊維(C2)及び水を含有する。第1スラリー及び第2スラリーは、他の成分を含有してもよい。
【0017】
炭素繊維(A1)及び炭素繊維(A2)の構成(種類、サイズ等)は、互いに同一でも異なってもよい。これらの炭素繊維は、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ(シングルウォール、ダブルウォール、マルチウォール、カップ積層型等)、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維及びレーヨン系炭素繊維のいずれでもよい。炭素繊維(A1)に含まれる炭素繊維及び炭素繊維(A2)に含まれる炭素繊維は、いずれも、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
【0018】
炭素繊維の平均繊維径は、形成されるガス拡散層のガス拡散性及び排水性の観点から、好ましくは5~15μm、より好ましくは6~8μmである。
炭素繊維の繊維長について、上限は、通常、12mmであり、下限は、通常、2mmである。また、炭素繊維の平均繊維長は、形成されるガス拡散層のガス拡散性及び排水性の観点から、好ましくは2~9mm、より好ましくは3~6mmである。
【0019】
黒鉛粒子(B1)及び黒鉛粒子(B2)の構成(種類、サイズ等)は、互いに同一でも異なってもよい。これらの黒鉛粒子は、天然黒鉛及び人造黒鉛のいずれでもよい。黒鉛粒子(B1)に含まれる黒鉛粒子及び黒鉛粒子(B2)に含まれる黒鉛粒子は、いずれも、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
黒鉛粒子の形状は、特に限定されず、球状、楕円球状、板状、線状、不定形等とすることができる。また、黒鉛粒子は、一次粒子の凝集体であってもよい。
【0020】
黒鉛粒子が球状の場合、レーザー回折・散乱法によって測定された粒子径は、形成されるガス拡散層のガス拡散性及び排水性の観点から、好ましくは10~200μm、より好ましくは30~70μmである。
【0021】
有機繊維(C1)及び有機繊維(C2)は、互いに同一の構成及び異なる構成のいずれでもよい。これらの有機繊維は、いずれも、後の炭化工程において炭化されるものであればよく、樹脂繊維(ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、アクリル樹脂、アラミド、ポリアセタール、フェノール樹脂、セルロース等に由来するもの)、植物性繊維(木材、綿、竹、麻等に由来するもの)、動物性繊維(羊毛等に由来するもの)等が挙げられる。これらのうち、樹脂繊維を含むことが好ましい。尚、有機繊維を用いると、第1スラリーを用いる第1含水シート作製工程における第1含水シートの製造時、及び、第2スラリーを用いる含水積層シート作製工程における含水積層シートの製造時において、炭素繊維同士、黒鉛粒子同士、又は、炭素繊維及び黒鉛粒子を固定化し、絡み合い性を向上させることができる。また、炭化工程において、樹脂含浸シートが加熱焼成された際には、形成された炭化物が、炭素繊維同士、黒鉛粒子同士、又は、炭素繊維及び黒鉛粒子を結着する一方、焼失跡がガスや水分を透過させる空孔(細孔、気孔)となり、好適な構成のガス拡散層基材を得ることができる。
【0022】
本発明では、複合シート作製工程において、炭素繊維、黒鉛粒子及び一部の樹脂繊維が接着材により結着された構造を有する、好ましい態様の複合シートとするために、有機繊維(C1)及び有機繊維(C2)は、低融点樹脂からなる樹脂繊維(低融点樹脂繊維)と、それより高い融点を有する高融点樹脂からなる樹脂繊維(高融点樹脂繊維)とを併含することが好ましい。この場合、低融点樹脂の融点は、複合シート作製工程において、含水積層シートを搾水して乾燥させる際の温度(以下、「乾燥温度」という)より低く、高融点樹脂の融点は、この乾燥温度より高いことが特に好ましい。本発明において、低融点樹脂としては、炭素繊維及び黒鉛粒子との接着性に優れたポリビニルアルコールが好ましい。また、高融点樹脂としては、アクリル樹脂が好ましい。
樹脂繊維は、モノフィラメント、マルチフィラメント及びフィブリル繊維のいずれでもよい。例えば、アクリル樹脂繊維として、アクリル繊維を叩解してパルプ状にした「アクリルパルプ繊維」と称されるフィブリル繊維を用いることができる。
【0023】
有機繊維の平均繊維径は、得られる含水積層シートの機械的強度の観点から、好ましくは5~20μm、より好ましくは6~8μmである。
上記有機繊維の繊維長について、上限は、通常、15mmであり、下限は、通常、1mmである。また、上記有機繊維の平均繊維長は、好ましくは1~10mm、より好ましくは1~5mmである。
【0024】
上記のように、好ましい態様として、有機繊維(C1)及び有機繊維(C2)は、第1スラリー及び第2スラリーにおいて、いずれも、低融点樹脂繊維及び高融点樹脂繊維を含む。第1スラリーにおける低融点樹脂繊維及び高融点樹脂繊維の含有割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは15~32質量%及び68~85質量%、より好ましくは18~29質量%及び71~82質量%である。また、第2スラリーにおける低融点樹脂繊維及び高融点樹脂繊維の含有割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは12~25質量%及び75~88質量%、より好ましくは14~20質量%及び80~86質量%である。
【0025】
上記のように、本発明に係る第1スラリー及び第2スラリーは、他の成分を含有することができる。他の成分としては、バインダー、有機材料の炭化物、添加剤(凝集剤、粘度調整剤、界面活性剤等)等が挙げられる。
【0026】
バインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアクリロニトリル、セルロース、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、フェノール樹脂、キシレノール樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、澱粉、コーンスターチ等に由来するものとすることができる。
【0027】
本発明において好ましい第1スラリーは、炭素繊維(A1)と、黒鉛粒子(B1)と、低融点樹脂繊維及び高融点樹脂繊維からなる有機繊維(C1)と、水とを含有する。黒鉛粒子(B1)の含有割合は、炭素繊維(A1)の含有量を100質量部とした場合に、好ましくは10~150質量部、より好ましくは30~90質量部である。有機繊維(C1)の含有割合は、炭素繊維(A1)の含有量を100質量部とした場合に、好ましくは4~40質量部、より好ましくは8~24質量部である。水の含有割合は、通常、炭素繊維(A1)、黒鉛粒子(B1)及び有機繊維(C1)の合計の含有割合が、第1スラリーの全量に対して、好ましくは0.001~2%、より好ましくは0.01~0.1%となるように調整されている。
【0028】
また、本発明において好ましい第2スラリーは、炭素繊維(A2)と、黒鉛粒子(B2)と、低融点樹脂繊維及び高融点樹脂繊維からなる有機繊維(C2)と、水とを含有する。黒鉛粒子(B2)の含有割合は、炭素繊維(A2)の含有量を100質量部とした場合に、好ましくは10~50質量部、より好ましくは10~20質量部である。有機繊維(C2)の含有割合は、炭素繊維(A2)の含有量を100質量部とした場合に、好ましくは4~40質量部、より好ましくは8~24質量部である。水の含有割合は、通常、炭素繊維(A2)、黒鉛粒子(B2)及び有機繊維(C2)の合計の含有割合が、第2スラリーの全量に対して、好ましくは0.001~2%、より好ましくは0.01~0.1%となるように調整されている。
【0029】
第1スラリー及び第2スラリーの調製方法は、特に限定されず、例えば、パルパー等の回転式の装置等を用いて、原料を混合する方法とすることができる。
【0030】
第1含水シート作製工程は、炭素繊維(A1)及び有機繊維(C1)が、その表面延伸方向にほぼ平行な方向に配向しており、且つ、黒鉛粒子(B1)が繊維同士の間に介在するシート(第1含水シート)を作製する工程である。本発明においては、ガス拡散層基材の連続的な大量生産が可能であることから、短網抄紙機又は長網抄紙機(以下、これらをまとめて「第1抄紙機」ということがある)を用いて、第1スラリーの抄紙を行うことが好ましい。
短網抄紙機及び長網抄紙機としては、いずれも、従来、公知の抄紙機を用いることができる。抄紙条件は、特に限定されないが、絶乾時の厚さが、好ましくは100~400μm、より好ましくは200~300μmとなるように、又は、絶乾時の目付が、好ましくは10~100g/m2、より好ましくは30~60g/m2となるように第1含水シートを作製する。
【0031】
短網抄紙機を用いる場合、抄紙速度は、好ましくは4~40m/分、より好ましくは7~24m/分である。
長網抄紙機を用いる場合、抄紙速度は、好ましくは4~40m/分、より好ましくは7~24m/分である。
【0032】
第1含水シート作製工程で得られた第1含水シートは、黒鉛粒子を含む繊維集合体の含水物であり、炭素繊維(A1)及び有機繊維(C1)が、第1含水シートの厚さ方向に対してほぼ垂直に、あらゆる方向に配向しており、且つ、黒鉛粒子(B1)が繊維同士の間に介在するシートである。
尚、この後の含水積層シート作製工程では、第1含水シートが用いられるが、第1含水シート作製工程で得られた第1含水シートを、そのまま、用いることができるが、シートの厚さ調整、水分調整等のために、プレスロール等を用いた処理を行って得られた含水シートを用いてもよい。
【0033】
含水積層シート作製工程は、第2スラリーを、第1含水シートの表面に供給して、第1含水シートに由来する第1層の表面に第2層を形成させ、含水積層シートを作製する工程である。本発明においては、第1含水シート作製工程で第1抄紙機を用いた場合に、ガス拡散層基材を連続して大量生産することが可能であることから、円網抄紙機を用いて、第1含水シートの表面で第2スラリーの抄紙を行うことが好ましい。
円網抄紙機としては、従来、公知の抄紙機を用いることができる。抄紙条件は、特に限定されないが、絶乾時の厚さ(総厚)が、好ましくは100~400μm、より好ましくは200~300μmとなるように、又は、含水積層シートを絶乾状態としたときの目付が、好ましくは10~100g/m2、より好ましくは30~60g/m2となるように含水積層シートを作製する。この場合の抄紙速度は、好ましくは4~40m/分、より好ましくは7~24m/分である。
【0034】
含水積層シートを作製するまでに第1スラリー及び第2スラリーを用いるが、含水積層シートにおいて、第1スラリーに由来する、第1層における黒鉛粒子(B1)の含有量と、第2スラリーに由来する、第2層における黒鉛粒子(B2)の含有量との比(B1/B2)が、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.2以上、更に好ましくは1.2~2.0、特に好ましくは1.2~1.6となるように第1スラリー及び第2スラリーを用いる。
【0035】
含水積層シート作製工程で得られた含水積層シートは、黒鉛粒子(B1)を含み、繊維の配向性が小さい第1層と、黒鉛粒子(B2)を含み、第1層に比べて繊維の配向性が大きい第2層とからなる積層物の含水物である。円網抄紙機を用いると、第1層との層間剥離を抑制しつつ、第1層との界面において、第1層を構成する繊維との絡み合い性に優れた第2層を形成することができる。
【0036】
本発明においては、含水積層シート作製工程の後、得られた含水積層シートに対して、必要に応じて、交絡処理を行うことができる。交絡方法としては、機械交絡法(ニードルパンチング法等)、高圧液体噴射法(ウォータージェットパンチング法等)、高圧気体噴射法(スチームジェットパンチング法等)等が挙げられる。
【0037】
次に、複合シート作製工程では、含水積層シートを搾水及び乾燥して、複合シートが作製される。含水積層シートの搾水及び乾燥を行う方法は、いずれも、特に限定されない。搾水は、水を吸引するサクションボックス、圧搾脱水するプレスロール等を用いて行うことができる。その後、搾水後のシートを、例えば、表面が鏡面仕上げされたドラム状のヤンキードライヤーに転移させて加熱することにより乾燥した複合シートを得ることができる。尚、シートの形状、サイズ等によっては、減圧条件下で乾燥させてもよい。乾燥温度の下限は、好ましくは70℃、より好ましくは90℃であり、上限は、通常、160℃である。含水積層シートに含まれる有機繊維が、上記の高融点樹脂繊維及び低融点樹脂繊維を含む場合、好ましくは、上記乾燥温度にて低融点樹脂繊維のみを溶融させて、炭素繊維、黒鉛粒子及び高融点樹脂繊維が結着されてなる複合シートを得ることができる。
絶乾状態の複合シートの場合、目付は、好ましくは20~150g/m2であり、厚さは、好ましくは200~600μmである。
【0038】
含水積層シート作製工程の後、交絡処理を行わなかった場合、複合シート作製工程の後、得られた複合シートに対して、必要に応じて、交絡処理を行うことができる。
【0039】
複合シートに含まれる繊維は多種であり、その長さも様々であるため、乾燥後の複合シートの表面から繊維が突き出て、即ち、毛羽立って、複合シートの表面が平滑でない場合がある。この後の樹脂含浸工程において、炭素前駆体樹脂を用いて包埋することにより平滑な表面を形成することができるが、他の方法として、樹脂含浸工程の前に、複合シートの表面から突き出た繊維を切断若しくは除去する処理、又は、該繊維を複合シートの内部に押し込む処理を行ってもよい。
【0040】
その後、樹脂含浸工程では、炭化工程で炭化可能な炭素前駆体樹脂を複合シートに含浸させ、樹脂含浸シートを作製する。
炭素前駆体樹脂は特に限定されないが、炭素繊維又は有機繊維との濡れ性に優れ、後の炭化工程において導電性の炭化物を形成しやすいことから、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、アラミド樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が好ましい。これらのうち、炭化率が高く、炭化後に優れた導電性物質になることから、フェノール樹脂が特に好ましい。
樹脂含浸工程において、炭素前駆体樹脂は、その性状により、そのまま用いることができるが、複合シートは、黒鉛粒子を含む繊維集積体であるため、繊維同士の間の空隙の全体を、炭素前駆体樹脂で満たしつつ十分に含浸させるために、炭素前駆体樹脂を含む液(以下、「炭素前駆体樹脂含有液」という)を用いることが好ましい。この炭素前駆体樹脂含有液は、液状の炭素前駆体樹脂のみであってよいが、好ましくは、炭素前駆体樹脂を、溶媒に溶解させてなる溶液(樹脂溶液)、及び、分散媒に分散させてなる分散液(樹脂分散液)である。
【0041】
炭素前駆体樹脂含有液を用いる場合、炭素前駆体樹脂含有液に複合シートを浸漬する方法、炭素前駆体樹脂含有液を複合シートに塗布する方法(キスコート法、スプレー法、カーテンコート法、ローラー接触法等)等を適用することができる。これらのうち、炭素前駆体樹脂含有液に複合シートを浸漬する方法が好ましい。
【0042】
炭化工程で加熱焼成させる樹脂含浸シートの乾燥状態は、特に限定されないので、樹脂含浸工程において、複合シートに炭素前駆体樹脂含有液を接触させた場合、液付着シートに熱風を吹き付けたり、液付着シートを高温雰囲気内に載置したり、赤外線ヒーター又はマイクロ波を用いて液付着シートを乾燥する非接触式乾燥法、あるいは、液付着シートを、加熱されたロール、板等に接触させる接触式乾燥法を利用して、溶媒又は分散媒を含まない乾燥した樹脂含浸体を得ることができる。
【0043】
炭素前駆体樹脂含有液を用いずに、複合シートに炭素前駆体樹脂を含浸させる他の方法としては、炭素前駆体樹脂を含む樹脂フィルムを複合シートの表面の少なくとも一部に接触させ、加熱、溶媒噴霧等により炭素前駆体樹脂を溶解させて、複合シートの全体に浸透させる方法等が挙げられる。
【0044】
得られた樹脂含浸シートにおいて、絶乾状態の複合シート及び含浸された炭素前駆体樹脂の合計を100質量%とした場合に、炭素前駆体樹脂の含有割合は、好ましくは10~80質量%、より好ましくは30~60質量%である。
【0045】
本発明においては、樹脂含浸工程により得られた樹脂含浸シートに対して、これを炭化工程に供する前に、厚さ調整等の目的で、必要に応じて、油圧プレス、ホットプレス、ベルトプレス、ロールプレス等を用いた加熱プレスに供することができる。
【0046】
炭化工程は、樹脂含浸シートを非酸化性雰囲気で加熱焼成する工程である。非酸化性雰囲気は、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス、窒素ガス等を含む雰囲気とすることができる。
樹脂含浸シートの加熱温度は、炭素繊維の強度劣化を引き起こさず、有機繊維及び炭素前駆体樹脂の炭化を円滑にするために、好ましくは1800℃~2500℃、より好ましくは1900℃~2200℃である。尚、炭化工程では、上記好ましい炭化温度より低い温度で樹脂含浸シートを加熱処理してから昇温する多段階加熱法を適用してもよい。
また、樹脂含浸シートの加熱時間は、そのサイズによるが、通常、1分間以上である。
【0047】
炭化工程により、複合シートに由来する有機繊維と、樹脂含浸シートに含まれた炭素前駆体樹脂とが炭化され、形成された炭化物により炭素繊維同士、黒鉛粒子同士、又は、炭素繊維及び黒鉛粒子が結着され、燃料電池用ガス拡散層基材を得ることができる。燃料電池の製造部品である膜/電極接合体の作製に用いる燃料電池用ガス拡散層基材は、この炭化工程により得られたものとすることができるが、必要に応じて、表面を平滑化する平滑化工程、表面を撥水化する撥水化工程等を更に備えることができる。
【0048】
撥水化工程では、ガス拡散層基材に撥水性材料の溶液又は分散液に接触させ、その後、必要に応じて、熱処理し、撥水性材料を定着させる方法を適用することができる。
撥水性材料は、好ましくはフッ素樹脂であり、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)等を用いることができる。
【0049】
本発明により得られた燃料電池用ガス拡散層基材は、炭化物を主とする相(炭化部6)、並びに、該相に含まれる炭素繊維2及び黒鉛粒子4により、強固な導電パスを有することとなり、また、炭化物が樹脂に由来するため、ガス拡散層基材は弾力性を有し、燃料電池の製造時に電解質層形成材料又は触媒層形成材料と接合させた際の寸法吸収性が高くなる。更に、
図1の燃料電池用ガス拡散層基材1を、カソード極用ガス拡散層基材として用い、第1スラリーを用いて形成された層8側の表面(第1面1a)をマイクロポーラス層13に面するように接合させてカソード極用ガス拡散層11として、
図3に示される膜/電極接合体10を作製し、これを燃料電池に用いて駆動させた場合、発電時に生成する水を効率よく系外(マイクロポーラス層13が配されていない側のカソード極用ガス拡散層11の外側)に効率よく排水することができ、フラッディングによる発電性能の低下を抑制することができるため、高い発電性能が発揮されるものと思われる。
【0050】
膜/電極接合体を製造する場合には、本発明の燃料電池用ガス拡散層基材を、そのまま、ガス拡散層用電極に適用してよいが、1面側にマイクロポーラス層を形成して得られた積層体(ガス拡散層積層体)を用いることが好ましい。このマイクロポーラス層を備えるガス拡散層積層体を用いて作製した膜/電極接合体を備える燃料電池を駆動させた場合には、水蒸気が凝縮して生じた大きな水滴に起因するフラッディングを抑制することができる。
【0051】
上記マイクロポーラス層は、好ましくは、導電材及び撥水性樹脂を含む、厚さの上限が100μm程度の微多孔層である。
導電材としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維のチョップドファイバー、グラフェン、黒鉛等が挙げられる。
撥水性樹脂としては、上記フッ素樹脂が好ましく用いられる。
【0052】
1面側にマイクロポーラス層を備えるアノード極用ガス拡散層基材(撥水化されていてもよい)と、1面側にマイクロポーラス層を備えるカソード極用ガス拡散層基材(撥水化されていてもよい)と、特定のイオンを選択的に透過する電解質膜(高分子電解質膜)の両面に触媒層を形成させてなる積層体とを用いて、
図3に示す膜/電極接合体10を製造することができ、この膜/電極接合体10と、セパレーター(アノード側及びカソード側)とを用いて燃料電池(単セル)を製造することができる。
【0053】
このような構成の燃料電池において、外部より酸化ガスがカソード側セパレーターの酸化ガス流路に供給されると、この酸化ガス流路に沿って流れる酸化ガスの一部がカソード極用ガス拡散層の内部へ侵入する。侵入しない他の未反応の酸化ガスは、酸化ガス流路に沿って流れ、燃料電池の外部へ排出される。同様に、外部より燃料ガスがアノード側セパレーターの燃料ガス流路に供給されると、この燃料ガス流路に沿って流れる燃料ガスの一部がアノード極用ガス拡散層の内部へ侵入する。侵入しない他の未反応の燃料ガスは、燃料ガス流路に沿って流れ、燃料電池の外部へ排出される。
そして、酸化ガス及び燃料ガスが反応することにより、カソード側セパレーターと、アノード側セパレーターとの間で電力が取り出されることになる。
【実施例0054】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。
【0055】
1.ガス拡散層基材の製造原料
実施例及び比較例で用いた製造原料は、以下の通りである。
【0056】
1-1.炭素繊維
帝人社製カーボンファイバー(繊維長:3mm、繊維径:7μm)を用いた。
【0057】
1-2.有機繊維
(1)樹脂繊維(高融点樹脂繊維)
東洋紡社製アクリルパルプ繊維(繊維長:2mm)を用いた。
(2)樹脂繊維(低融点樹脂繊維)
クラレ社製ビニロン繊維(繊維長:3mm、繊維径:11μm)を用いた。
【0058】
1-3.黒鉛粒子
日本黒鉛工業社製黒鉛粉末「CGB-50」(商品名)を用いた。球状であり、レーザー回折法による平均粒子径d50は50μmである。
【0059】
2.スラリーの調製
表1の配合割合で、上記の炭素繊維、高融点樹脂繊維、低融点樹脂繊維及び黒鉛粒子を、水とともに、パルパーにより混合し、炭素繊維、高融点樹脂繊維、低融点樹脂繊維及び黒鉛粒子の合計に対する黒鉛粒子の含有割合が、それぞれ、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%及び50質量%であるスラリー5種(S1、S2、S3、S4及びS5)を調製した。表1に、各スラリーに含まれる炭素繊維、高融点樹脂繊維、低融点樹脂繊維及び黒鉛粒子の含有割合を示す。尚、スラリー全体に対する、炭素繊維、高融点樹脂繊維、低融点樹脂繊維及び黒鉛粒子の合計量の割合は、0.001~0.1質量%である。
【表1】
【0060】
3.ガス拡散層基材の製造
上記のスラリーS1~S5を用いた連続抄紙によって、ロール状の燃料電池用ガス拡散層基材を製造した。
【0061】
実施例1
第1スラリーとして、スラリーS3を用い、第2スラリーとして、スラリーS1を用いた。
初めに、短網抄紙機を用いて、スラリーS3(第1スラリー)の抄紙を行い、第1含水シートを得た。このとき、第1含水シートの厚さが約250μm、絶乾時の目付が約24g/m2となるように、抄紙速度を7m/分とした。そして、第1含水シートを搬送状態としながら、円網抄紙機を用いて、第1含水シートの表面にスラリーS1(第2スラリー)を供給しつつ抄紙を行い、第1含水シートに由来する第1層と、第2スラリーに由来する第2層とからなる含水積層シートを得た。このとき、含水積層シートの厚さが約200μm、絶乾時の複合シートの目付が約24g/m2となるように、抄紙速度を7m/分とした。
次に、プレスロールを用いて、含水積層シートを、圧力6kgf/cm2で脱水し、更に、ヤンキードライヤーにより130℃で乾燥し、複合シートを得た。
その後、この複合シートに、炭素前駆体樹脂であるフェノール樹脂の溶液をディップコートし、温風乾燥機を用いて、120℃で乾燥させ、複合シート100質量部に対するフェノール樹脂の付着量が25質量部である樹脂含浸シートを得た。そして、ダブルベルトプレスにより加熱プレス(250℃、1分間)を行った。厚さは200μmであった。
次いで、この樹脂含浸シートを、内部温度を2000℃とし、窒素ガス雰囲気とした黒鉛化炉の中で1分間の熱処理を行い、フェノール樹脂、高融点樹脂繊維及び低融点樹脂を炭化させ、黒鉛粒子が内包され、且つ、樹脂等の炭化物が炭素繊維及び黒鉛粒子を結着する黒鉛粒子担持炭素繊維シート(以下、「燃料電池用ガス拡散層基材GD1」という)を得た(表2参照)。得られた燃料電池用ガス拡散層基材GD1の厚さは200μmであった。
【0062】
実施例2
第1スラリーとして、スラリーS3を用い、第2スラリーとして、スラリーS2を用いた。
初めに、実施例1と同様にして、短網抄紙機を用いて、スラリーS3(第1スラリー)の抄紙を行い、厚さ250μmの第1含水シートを得た。そして、第1含水シートを搬送状態としながら、円網抄紙機を用いて、第1含水シートの表面にスラリーS2(第2スラリー)を供給しつつ抄紙を行い、含水積層シートを得た。このとき、含水積層シートの厚さが450μm、絶乾時の複合シートの目付が約48g/m2となるように、抄紙速度を7m/分とした。
次に、実施例1と同様にして、プレスロールを用いた含水積層シートの脱水、及び、ヤンキードライヤーを用いた乾燥を、順次、行い、複合シートを得た。
その後、実施例1と同様にして、黒鉛粒子担持炭素繊維シート(以下、「燃料電池用ガス拡散層基材GD2」という)を得た(表2参照)。得られた燃料電池用ガス拡散層基材GD2の厚さは200μmであった。
【0063】
実施例3
第1スラリーとして、スラリーS5を用い、第2スラリーとして、スラリーS1を用いた。
初めに、短網抄紙機を用いて、スラリーS5(第1スラリー)の抄紙を行い、第1含水シートを得た。このとき、第1含水シートの厚さが約250μm、絶乾時の目付が約24g/m2となるように、抄紙速度を7m/分とした。そして、第1含水シートを搬送状態としながら、円網抄紙機を用いて、第1含水シートの表面にスラリーS1(第2スラリー)を供給しつつ抄紙を行い、第1含水シートに由来する第1層と、第2スラリーに由来する第2層とからなる含水積層シートを得た。このとき、含水積層シートの厚さが約200μm、絶乾時の複合シートの目付が約24g/m2となるように、抄紙速度を7m/分とした。
次に、実施例1と同様にして、プレスロールを用いた含水積層シートの脱水、及び、ヤンキードライヤーを用いた乾燥を、順次、行い、複合シートを得た。
その後、実施例1と同様にして、黒鉛粒子担持炭素繊維シート(以下、「燃料電池用ガス拡散層基材GD3」という)を得た(表2参照)。得られた燃料電池用ガス拡散層基材GD3の厚さは200μmであった。
【0064】
比較例1
短網抄紙機を用いて、スラリーS3(第1スラリー)の抄紙を行い、プレスロールを用いて脱水し、更に、130℃で乾燥し、厚さが250μmである単層シート(以下、「単層シートMS1」という)を得た。次いで、この単層シートMS1に、フェノール樹脂溶液をディップコートし、温風乾燥機を用いて、120℃で乾燥させ、単層シート100質量部に対するフェノール樹脂の付着量が25質量部である樹脂含浸シート(以下、「樹脂含浸シートRS1」という)を得た。
他方、円網抄紙機を用いて、スラリーS1(第2スラリー)の抄紙を行い、プレスロールを用いて脱水し、更に、130℃で乾燥し、厚さが200μmである単層シート(以下、「単層シートMS2」という)を得た。次いで、上記と同様にして、単層シートMS2へのフェノール樹脂溶液の塗布及び乾燥を行い、単層シート100質量部に対するフェノール樹脂の付着量が25質量部である樹脂含浸シート(以下、「樹脂含浸シートRS2」という)を得た。
次に、ダブルベルトプレスを用いて、これらの樹脂含浸シートRS1及びRS2を重ねた状態で、加熱プレス(250℃、1分間)を行い、黒鉛粒子担持炭素繊維シート(以下、「燃料電池用ガス拡散層基材GD11」という)を得た(表2参照)。得られた燃料電池用ガス拡散層基材GD11の厚さは200μmであった。
【0065】
比較例2
第1スラリーとして、スラリーS3を用い、第2スラリーとして、スラリーS1を用いた。
スラリーS3(第1スラリー)の手漉きを行い、厚さが約200μmの第1含水シートを得た。次いで、第1含水シートの表面に、スラリーS1(第2スラリー)の手漉きを行って、含水積層シートを得た。その後、プレスロールを用いて、含水積層シートを、圧力6kgf/cm2で脱水し、更に、ヤンキードライヤーにより乾燥し、厚さが400μmの複合シートを得た。
次に、実施例1と同様の操作を行って、黒鉛粒子担持炭素繊維シート(以下、「燃料電池用ガス拡散層基材GD12」という)を得た(表2参照)。得られた燃料電池用ガス拡散層基材ED1の厚さは200μmであった。
【0066】
比較例3
短網抄紙機を用いて、スラリーS4の抄紙を行い、含水シートを得た。このとき、含水シートの厚さが約450μm、絶乾時の目付が約48g/m2となるように、抄紙速度を7m/分とした。
次に、実施例1と同様にして、プレスロールを用いた含水シートの脱水、及び、ヤンキードライヤーを用いた乾燥を、順次、行い、単層シートを得た。
その後、実施例1と同様にして、黒鉛粒子担持炭素繊維シート(以下、「燃料電池用ガス拡散層基材GD13」という)を得た(表2参照)。得られた燃料電池用ガス拡散層基材GD13の厚さは200μmであった。
【0067】
比較例4
円網抄紙機を用いて、スラリーS4の抄紙を行い、含水シートを得た。このとき、含水シートの厚さが約400μm、絶乾時の目付が約48g/m2となるように、抄紙速度を7m/分とした。
次に、実施例1と同様にして、プレスロールを用いた含水シートの脱水、及び、ヤンキードライヤーを用いた乾燥を、順次、行い、単層シートを得た。
その後、実施例1と同様にして、黒鉛粒子担持炭素繊維シート(以下、「燃料電池用ガス拡散層基材GD14」という)を得た(表2参照)。得られた燃料電池用ガス拡散層基材GD14の厚さは200μmであった。
【0068】
4.ガス拡散層基材の評価
上記の燃料電池用ガス拡散層基材GD1~GD3及びGD11~GD14の評価を行った。その結果を表2に併記した。
【0069】
4-1.燃料電池用ガス拡散層基材における材料の充填性評価
得られた燃料電池用ガス拡散層基材を厚さ方向に垂直に切断し、厚さ方向に均等に3分割して、第1領域F、第2領域S及び第3領域Tを設定し、各領域における材料の充填率を、リガク社製高分解能X線顕微鏡「nano3DX」(型式名)を用いて、測定した。尚、第1領域F及び第3領域Tは、それぞれ、第1スラリーに含まれた炭素繊維及び黒鉛粒子と、炭化工程後の炭化物との組み合わせ(J1)、並びに、第2スラリーに含まれた炭素繊維及び黒鉛粒子と、炭化工程後の炭化物との組み合わせ(J2)を主とする。また、第2領域Sは、これらの組み合わせ(J1)及び(J2)に由来する。
断面画像(2次元観察画像)を撮影し、第1領域F、第2領域S及び第3領域Tの各領域における材料の存在部及び非存在部を解析するために、画像処理ソフトにより、閾値128で2値化し、材料存在部である白色部分の面積割合を「充填率」とした。従って、第1領域F、第2領域S及び第3領域Tにおける充填率を、それぞれ、AF、AS及びATとした。
【0070】
4-2.引張強度及び搬送耐性
上記のように、ロール状の燃料電池用ガス拡散層基材を製造したため、引張強度の測定用の試験片(サイズ:15mm×100mm)として、流れ方向(MD)及びそれに垂直な方向(TD)の2つの試験片を準備して、JIS P 8113に準ずる方法により、引張強度を測定した。
そして、MD方向の引張強度及びTD方向の引張強度を、それぞれ、T1及びT2としたときのT1/T2比を算出し、下記基準で搬送耐性を評価した。
〇:T1/T2≦2
×:T1/T2>2
【0071】
4-3.電池特性
上記の燃料電池用ガス拡散層基材GD1~GD3及びGD11~GD14を、以下の方法で加工して、カソード極用撥水化ガス拡散層基材を作製し、その後、得られたカソード極用撥水化ガス拡散層基材の1面側に、マイクロポーラス層を形成させ、カソード極用ガス拡散層積層体を作製した。
【0072】
燃料電池用ガス拡散層基材の両面側に厚さ40μmのポリエチレンフィルムを配置し、面圧1.5MPaで加圧することにより、炭素繊維の遊離毛羽を除去した。次いで、このフィルム積層体を、旭硝子社製PTFEディスパージョンに含浸させ、200℃で熱処理することにより、カソード極用ガス拡散層基材の100質量部に対してPTFEが10質量部(目付量:0.45mg/cm2)展着されてなるカソード極用撥水化ガス拡散層基材を得た。
次いで、得られたカソード極用撥水化ガス拡散層基材の表面に、マイクロポーラス層形成用ペーストを塗工、乾燥させることにより、マイクロポーラス層を備えるカソード極用ガス拡散層積層体を作製した。
【0073】
また、以下の方法で、アノード極用撥水化ガス拡散層積層体を作製した。
上記の炭素繊維、高融点樹脂繊維、低融点樹脂繊維、黒鉛粒子及び水を含むスラリーを抄紙に供し、その後、樹脂を含浸させ、2000℃で熱処理して得られたアノード極用ガス拡散層基材の表面を、上記と同様の撥水処理に供してアノード極用撥水化ガス拡散層基材とし、次いで、得られたアノード極用撥水化ガス拡散層基材の1面側に、マイクロポーラス層形成用ペーストを塗工、乾燥させることによりマイクロポーラス層を備えるアノード極用撥水化ガス拡散層積層体を作製した。
【0074】
次に、得られたカソード極用撥水化ガス拡散層積層体と、アノード極用撥水化ガス拡散層積層体と、Nafion(登録商標)シリーズの電解質膜「NRE-212」(商品名)からなる電解質層31の両面に、50質量%Pt/Cからなり、Pt担持量が0.5mg/cm
2である触媒層15,25を備える燃料電池用電極膜とを用いて、
図3に示す膜/電極接合体10を製造した。この膜/電極接合体10は、撥水処理されたカソード極用撥水化ガス拡散層基材に由来するカソード極用ガス拡散層11と、マイクロポーラス層13と、触媒層15と、電解質層31と、触媒層25と、マイクロポーラス層23と、アノード極用ガス拡散層21とを、順次、備える。
その後、この膜/電極接合体10を、セパレーター、集電板等と用いて、JARI標準セルを作製し、これを燃料電池評価用単セルに組み込み、エノア社製燃料電池評価装置を用いて、40℃、2A/cm
2において発電させたときの電圧を測定した。比較例3における電圧値(0.60V)を参考に、以下の基準で電池性能を判定した(表2参照)。
◎:電圧値が0.63V以上であった。
〇:電圧値が0.61V以上0.63V未満であった。
△:電圧値が0.59V以上0.61V未満であった。
×:電圧値が0.59V未満であった。
【0075】
【0076】
表2から、以下のことが分かる。
実施例1~3は、本発明に係る製造方法の例であり、得られた燃料電池用ガス拡散層基材の流れ方向の引張強度T1及びそれに垂直な方向の引張強度T2のいずれも高く、且つ、T1/T2が2未満であり、搬送性が良好であった。また、これらの燃料電池用ガス拡散層基材を用いてカソード極用燃料電池用ガス拡散層を形成させて得られた燃料電池の電池性能は比較例に比べて非常に良好であった。
【0077】
尚、本発明においては、上記の具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
本発明により得られる燃料電池用ガス拡散層基材は、燃料電池に含まれる膜/電極接合体を構成するカソード極用ガス拡散層を形成する素材として好適である。従って、このようなカソード極用ガス拡散層を備える燃料電池は、高い発電性能を備え、車両等の輸送用燃料電池、定置用燃料電池等に用いることができる。